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腱板損傷(腱板断裂)でやってはいけない動作や運動 肩に激しい痛みを起こす腱板損傷(腱板断裂)は、日常生活の動作を繰り返すことでも発症することがあります。 発症初期は安静を保つことが重要ですが、日常生活の動作が原因となることもあるため、どのような動作が原因となるのかを知り、そしてどのような動作を避けることが安静を保つことになるのか、知っておくことが重要です。 この記事では、腱板損傷を発症したときにやってはいけない、避けるべき動作にどのようなものがあるのか、ご説明いたします。 腱板損傷とは? 腱板は、実はわたしたちの肩のなかで最もよく損傷を受ける部位です。 肩甲骨と上腕骨をつないでいる筋肉の腱からなる腱板は、腕をあげる動作によって肩甲骨の一部である肩峰と上腕骨頭の間に挟まれてしまうという、解剖学的特徴があります。そのため、外傷だけでなく使いすぎることで磨耗を起こし、損傷されることがあります。 腱板が損傷されると、通常腕の力が入らなくなり、特に腕を上げようとしたときに痛みを引き起こします。また夜に激しく痛み、痛みのために眠れなくなってしまうこともあります。 急性期は肩や腕を使わないように安静にすることが最善です。なお併発する炎症を抑えるために、ステロイド薬を注射することもあります。 ただし、外傷によって腱板損傷を起こした場合や保存的な治療でなかなか改善しない場合は、受傷してから6週間以内を目処に、手術で修復することを考慮することがあります。 腱板損傷後にやってはいけないこと 基本的に損傷直後は肩周囲の安静を保つべきです。通常は三角巾を用い、腕の動きそのものを最小限にするように配慮します。安静は急性期における対処法ですが、急性期が過ぎた後も、できる限り避けた方が良い動作があります。そこで次に、腱板損傷後に避けるべき動作をご紹介します。 頭上で重りを持ち上げる 腱板損傷を発症した後、特に発症初期は、頭上に手を持っていく動作、また頭上で重りを持ち上げる動作(重い荷物を上げたり、高所から下すような動作)を伴う運動や動作は控えた方が良いでしょう。 ボールを投げるような動きや、ジムでバーベルを頭の上に持ち上げるなどのウェイトトレーニングは、しばらく行わないようにすることです。これらの動きは、肩に過度のストレスを与えるだけでなく、損傷した部位にさらなる傷害と痛みを引き起こす可能性があります。 したがって、腱板損傷後はオーバーヘッドでボールを投げること、特に重いボールを上半身の力に頼って投げることや、水泳、特にクロールや背泳のように、頭上に右手を持ってきて力を入れて引き下げるようなストロークを避ける必要があります。 首の後ろで腕を動かす動作 バーベルやバーなどを、頭や首の後ろで上下させる運動も避けるべき動作のひとつです。この運動は、腱板に過度の負担をかけ、さらなる肩の問題や慢性的な痛みを引き起こす危険性があります。 この動作の問題は、肩の「外旋」にあります。 頭や首の後ろで上下させる運動では、肩をしっかりと外旋させる必要がありますが、これは肩にとって非常に負担のかかるポジションです。この動きをすると、関節を構成する組織をさらに損傷してしまい、治癒までの時間が非常に長くなってしまうことにもつながります。 上半身の力を使って重いものを持ち上げること 別名アップライトローと呼ばれる動作のことです。 アップライトローはジムでよく見かけるエクササイズのひとつですが、このエクササイズのメカニズムを見れば、なぜこの動作が腱板損傷後に避けるべき動作であるか、理解できるでしょう。 アップライトローは、上半身を起こした状態で肩を開き、両手に持ったバーベルなどの重りを首元まで引き上げ、持ち上げる動作です。 このエクササイズの問題は、腕を置かなければならない位置にあります。この位置は、「内旋」と呼ばれます。アップライトローをするために腕を挙上させると、腱板が肩の骨に挟まれます。これは腱板損傷を引き起こす原因となる動作そのものでもあります。 肩を後方に回した位置で行う上腕に負荷のかかる運動 ベンチディップスとも呼ばれるエクササイズが該当します。 具体的には、椅子などに両手をついた状態で腰を座面よりも低い位置まで落とし、肩を後方に回した状態で、主に二の腕に相当する上腕三頭筋に負荷をかける運動です。 ベンチディップスは、腰を落としすぎて上腕が肩と平行な位置になる以上になってしまうと、肩関節に過度に負荷がかかります。肘を開きすぎても閉じすぎても、上腕三頭筋に負荷がかかるため、腱板損傷後には避けるべき動作のひとつです。 まとめ・腱板損傷(腱板断裂)でやってはいけない動作や運動 腱板損傷について簡単にご説明し、さらに腱板損傷後に避けるべき動作、やってはいけないことをご説明しました。 腱板損傷後は、時間が経てば肩の炎症は徐々に落ち着いていきます。外傷後や症状がなかなか改善しない場合は、どうしても手術が必要となる場合もありますが、しっかりと安静を保つことができ、保存的治療に反応すれば、完治も期待できます。 術後も含め、治療の一貫でリハビリを行うこともありますので、もし避けるべき動作について詳しく知りたい場合は、リハビリの機会などを活用して相談してみることをお勧めいたします。 No.S080 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療で腱板断裂・損傷を治療する 腱板断裂・損傷を再生医療により症状を改善することができます
2022.06.09 -
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石灰沈着性腱板炎とは、その原因と症状、治療法について 石灰沈着性腱炎という症状をご存知でしょうか。 これは筋肉や腱にカルシウムが沈着することで起こる病です。部位的には体のどこにでも起こる可能性がありますが、通常は「肩の腱板」で起こることが多くり、そのために石灰沈着性腱板炎と呼ばれます。 腱板は、上腕を肩につなぐ筋肉と腱の集まりです。この部分にカルシウムが蓄積すると、腕の可動域が制限されるだけでなく、激しい痛みも生じるようになります。 石灰沈着性腱板炎の原因や危険因子 石灰沈着性腱板炎は、肩が痛む場合の最も一般的な原因のひとつです。 石灰沈着性腱板炎が発症する原因は、腱板へのカルシウムの沈着ですが、このカルシウムとはリン酸カルシウムであり、リン酸カルシウムが結晶化することで、症状が発現します。ただ、なぜリン酸カルシウムの沈着が起こるかは、実のところ、まだよく分かっていません。 リン酸カルシウムの結晶は、初めはどろっとしたミルク状なのですが、次第に固まりだして歯磨き粉状になり、最終的には硬く、そして大きくなっていきます。 なお、リン酸カルシウムの沈着は、遺伝的素因や糖尿病などの代謝性疾患などに伴うことが知られています。またバスケットボールやテニスのようなスポーツをする人や、日常的に腕を上げ下げして重いもの持ち上げる仕事をする人に多く見られる病気です。 発症年齢は、一般的に40~60歳の成人に見られ、男性よりも女性の方が罹患しやすいと言われています。 石灰沈着性腱板炎の症状 石灰沈着性腱板炎になると肩の痛みがひどいために腕を動かせなかったり、眠れないという人もいます。その反面、約3分の1の方で、目立った症状を感じなていないという場合があります。 痛みを感じる場合は、夜間突然に激しい肩の痛みを感じることが多いと言われています。肩の前面または背面から腕にかけて痛みを感じることが多く、痛みは突然やってくることもあれば、徐々に増していくこともあります。 悪化すると痛みで腕を動かせない、髪をとかすとか、洗濯物を干すなどの腕を上げる動作で痛みを伴うこともあります。なお、発症後4週間程度強烈な痛みが続く急性型、運動時痛が6か月以上続く慢性型などがあります。 ・急性型 ・慢性型 石灰沈着性腱板炎の診断 異常な肩の痛みや持続的な肩の痛みを自覚した場合に、疑われます。 診察では、腕を上げたり、腕を回したりして、可動域の制限を確認します。診察の後、カルシウムの沈着やその他の異常がないか調べるために、画像検査を行います。 通常は肩のX線検査により、石灰化した沈着物を明らかにすることができます。最近は、超音波検査を利用することもあり、X線検査では見逃された小さな沈着物を見つけ出すこともあります。 石灰化した沈着物の大きさや場所を正確に評価するためにCT検査をすることもありますし、腱板断裂が合併していないか確認するためにMRI検査をすることもあります。 診断ではいずれか或いは複合的に行われる ・レントゲン検査 ・超音波エコー ・CT検査 ・MRI検査 石灰沈着性腱板炎の治療法 多くの場合、石灰沈着性腱板炎は手術をせずに治療することができます。軽度の場合、薬物療法と理学療法を組み合わせたり、非外科的処置な処置を行ったりします。 薬物療法 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、治療の第一選択薬と考えられています。また痛みや、腫れを和らげるために、肩にステロイドと局所麻酔薬の注射を行うこともあります。 非外科的処置 急性期に、ミルク状のリン酸カルシウムを吸引することもあります。 肩に局所麻酔を施した後に腱板まで針を刺し、固まる前のリン酸カルシウムを手動で吸引し、除去することができます。針を正しい位置に誘導するために、超音波で確認しながら行うこともあります。 手術 約10%の人が、リン酸カルシウムの沈着物を除去するために手術を受けます。特に慢性型で日常生活に支障をきたすほどの痛みが続いている方は、手術が必要となります。 手術では、関節鏡手術が好んで使われています。術後は1週間以内に通常の機能に戻る人もいれば、痛みが続いて活動が制限される場合もあります。 理学療法 痛みに十分対処したのち、中等度または重度の症例では、可動域を回復させるために理学療法が必要となります。 手術をしない場合は、肩の動きを回復するために穏やかなリハビリテーションを行うことになります。振り子のように腕をわずかに振るリハビリがよく行われます。時間をかけて、アイソメトリック運動や軽い負荷をかけた運動などを行うこともあります。 なお手術後の回復には、個人差があります。場合によっては、完全な回復に3ヶ月以上かかることもあります。そこで手術後のリハビリテーションが必要となります。 石灰沈着性腱板炎の予後 石灰沈着性腱板炎は、痛みを伴うこともありますが、早期に治癒する可能性が高いです。最終的には自然消滅しますが、治療せずに放置すると、合併症を引き起こす可能性があります。この合併症には、腱板断裂や四十肩などを含みます。 まとめ・石灰沈着性腱板炎とは、その原因と症状、治療法について 以上、石灰沈着性腱板炎の原因や危険因子、症状や治療法などについて説明をいたしました。 腱板断裂や四十肩とも症状が似ているため、十分に認識されていないこともあります。もし、肩の痛みがなかなか治らない、肩の痛みの原因を知りたいなど、肩の痛みにお悩みの方は、ぜひ医療機関を受診されることをお勧めします。 No.058 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療で肩の痛みを治療する 肩に起こる痛みや病気を再生医療により改善することができます
2022.06.06 -
- 肩
腕を上げると肩関節が痛む五十肩(四十肩)!その症状と治療法について詳しく解説 五十肩について、そもそも「五十肩(四十肩)」という言葉は、正式な病名ではなく、ぎっくり腰などと同様に日常会話で用いられる俗称です。 五十肩(四十肩)になると、肩甲骨と上腕骨で構成されている肩関節部に痛み症状が出現するため、腕を色々な方向に挙上するような動作が難しくなり、特に肩関節を外側に回旋させる際には強い疼痛※を自覚することになります。 この状態になると、ただ肩に痛みがあるだけでなく、普段なら簡単に行えるような動作が難しくなり、日常生活に支障をきたして不便を感じる場合も少なからず存在します。 今回は、この「五十肩(四十肩)」とはどのような病気なのか、その原因、症状、治療方法などに関する情報を中心に詳しく解説していきます。 ※疼痛:医学用語で「痛み」のこと 五十肩(四十肩)の原因 五十肩(四十肩)は、肩関節にある腱板組織が損傷して関節包領域まで炎症が広がることによって発症すると考えられています。 その背景には、加齢に伴って筋肉や腱などの筋骨格系組織における柔軟性や伸展性が失われて健常に動作できなくなることが原因と考えられていますが、実際には本疾患の明確な原因は判明していないところが本当です。 一般的に五十肩(四十肩)は、「肩関節周囲炎」と言われることが多いのですが、詳細には腱板組織に炎症が起こる「腱板炎」や、上腕二頭筋の一部に炎症が認められる「上腕二頭筋長頭腱炎」、あるいは腱板疎部と呼ばれる肩前方部位に炎症が惹起される「腱板疎部炎」も含まれています。 五十肩(俗称)の正式な病名 ・肩関節周囲炎 ・腱板炎 ・上腕二頭筋長頭腱炎 ・腱板疎部炎 五十肩(四十肩)の症状 五十肩(四十肩)における典型的な症状としては、肩関節や上腕部を真上に挙上(上げる)する、腕を背中に回す、肩を開いて回旋させるときに全方向への動作で痛みが出て、可動域が制限されることを自覚します。 特に初期段階から肩の痛みが出現しやすいのが肩の前方部に位置する腱板疎部と呼ばれる部位であり、五十肩(四十肩)を罹患した直後では肩関節の前方部分に疼痛症状を自覚するケースが多いと言われています。 また、五十肩(四十肩)では「炎症期、凍結期、回復期」とい3段階の順で症状が変動していくと考えられており、最初は強い炎症に伴う痛み症状を認めたのちに肩関節の拘縮症状が引き起こされ、次第にその拘縮具合も軽快していくとされています。 一方で、このような3段階にわたるといった典型的な症状様式に進行していくケースは必ずしも多くないとも推察されます。 個々の事例によって初期から痛みが強くない場合もあれば、強度の拘縮所見を呈して日常生活に支障をきたす場合もあります。また、特に対策を行わずとも自然に、数ヶ月の単位で症状が改善する場合があったり、その反対に年単位で症状に苦悩されるといったケースもあります。 症状は様々 ・初期から痛みが強くない場合 ・強度の拘縮所見を呈して日常生活に支障をきたす場合 ・自然に数ヶ月単位で症状が改善する場合 ・年単位で症状に苦悩される場合 五十肩(四十肩)の治療、治し方 ここからは、「五十肩(四十肩)に対する治療」「治し方」について解説してまいります。 まずは、肩関節部の強い痛みによって夜も眠れない、或いはほとんど肩を動かせない状態と判断された場合には、その強い炎症を鎮めるために消炎鎮痛剤などの薬物を服用することをお勧めすることになります。 具体的には、炎症を抑える作用があるステロイドを主に肩関節内に関節注射として投与する、あるいは副作用がそれほど強くない非ステロイド系の消炎鎮痛剤を飲み薬として投薬することが多いです。 肩関節部の強い炎症がある程度落ち着いて痛みといった症状が比較的改善された段階になり、肩関節の可動域制限が認められた場合、肩が拘縮した状態を改善させるために、リハビリテーションを実践することになります。 これらのリハビリテーション加療を実施しても、どうしても可動域が改善せずに疼痛症状がしつこく付きまとってくる場合には、関節鏡下授動術と呼ばれる内視鏡を用いた比較的低侵襲な手術を検討することになります。 肩関節部の可動域が悪化している原因は炎症に伴って癒着して肥厚した関節包であると考えられていますから、関節包の状態を実際に観察しながら電気メスで患部を切開することで、術後には肩関節の可動域がほぼ正常範囲まで改善することが期待されます。 五十肩の治療 ・痛み:炎症を抑える関節内注射や、消炎鎮痛剤の服用 ・痛みが治まればリハビリの実施 ・リハビリで改善しない場合、手術が選択肢となる まとめ・腕を上げると肩関節が痛む五十肩(四十肩)!その症状と治療法について詳しく解説 今回は、五十肩(四十肩)とはどのような病気なのか、五十肩を発症すると多くの場合、痛くて、ある一定の限度以上に上げることができなくなります。そんな場合の原因、症状、治療方法や治し方について詳しく解説してきました。 一般的に、年齢を重ねるごとに誰しも肩関節が昔のようにスムーズに動作できなくなり、関節痛を覚えることがあるかと思いますが、このような症状を呈する状態を「五十肩(四十肩)」と呼んでいます。 本状態における特徴的な所見として、肩関節部の痛みと共に肩を挙上する、あるいは水平に保つ動作をするのが困難となるため、洗濯物が干しづらくなる、もしくは背中のファスナーが開けられないなど日常生活に支障が出現します。 もしも、普段の生活で肩を動かした際に痛みを覚える、以前のようにスムーズに腕を背中側に回せない、肩が挙上しにくいなどの症状を自覚している人は、症状が悪化する前に専門医療機関を受診して相談するように心がけましょう。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 No.056 監修:医師 坂本貞範 ▼ 肩の再生医療 五十肩、四十肩は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます (50肩、40肩)
2022.05.25 -
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- 腰
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MRI検査と検査を受ける際の注意点について MRI検査は、強力な磁気を利用して身体の断面や血管を撮影する装置で、そこから得られた画像を基にして病気の診断を行える検査方法です。 近年では、人間ドック等でも使用する機会が増えてきたので一般的になりつつあるMRI検査ですが、人によっては検査を受けることが難しい場合があります。 本記事ではMRI検査でできるこの内容や、注意点について解説してまいります。MRIを用いた検査を受けることを予定している方で、本記事で記したMRI検査の注意事項に当てはまる人は、必ず検査の前に担当の医師に申告するなどご相談されることをおススメします。 MRI検査とは MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断)検査とは、強力な磁場を発生させるトンネルのような装置の中で、身体の内部の断面を様々な方向から撮影する検査です。 MRI検査は、ベッドに横たわり検査が始まるとベッドが自動で動いてトンネルのような装置の中に入っていきます。磁場が発生するときは工事現場のような大きな音がするため、ヘッドホンや耳栓をして検査を行う場合もあります。 MRI検査でわかること MRI検査は、全身の疾患について調べることができるのですが、特に四肢(両手、両足)、関節軟部組織の疾患や脊椎、脳について高い検査能力を有しています。骨や、その周辺の軟骨の状況も精査できるほか、脳を含む頭部や骨盤内の臓器などを検査する際に使われます。 また、MRI検査と同じように身体の内部を撮影する検査としてCT検査というものがあります。MRI検査と同様にトンネルに入って行うもので装置の見た目も似通っているのですが大きな違いがあります。 それは、「CT検査は放射線を使った検査」ですが、「MRI検査は、磁場と電波を使った検査」です。そのため、放射線を使わないMRI検査の方が身体への負担が少ないと考えられます。 検査原理 得意な部位 MRI検査 磁場と電波 整形外科の主な症状 腱板損傷、腱板断裂、関節損傷、靭帯損傷、半月板損傷、頸椎症、胸椎・腰椎ヘルニア、頸椎ヘルニア、脊髄腫瘍、骨軟部腫瘍、その他。 脊髄、関節、脳、骨盤腔内臓器 ※関節軟部組織の描出が得意 CT検査 放射線 骨、脳、肺、腹部 MRI検査の所要時間 MRI検査の所要時間は、20~45分と、CT検査(10~15分)に比べて少し長い時間がかかります。身体を動かすと画質が落ちてしまうため、検査中はなるべく身体を動かさずにいることが重要です。 また、MRI検査の結果が出るまでの期間は、即日すぐに出る場合もあれば、は7~10日間ほどかかる場合もあります。医療機関によって変わるためご確認ください。 MRI検査で注意事項 MRI検査は、強力な磁石と電磁波を使用します。そのため、MRIの検査室内には、金属類の持ち込みは一切禁止されていて、金属類、例えばファスナーやチャック、金属製のボタンなどが付いた服装では受けることができません。 また、女性の方はホック付きのブラジャーも着用できない可能性があるため注意が必要です。その他、バッグはもちろん、携帯電話や腕時計、財布といった貴重品、身に付けているアクセサリーなどの金属類はすべて取り外すことが必要です。ヘアーピンなども忘れがちですので注意してください。 医療機関では、MRI検査時に検査着に着替える場合が多いため、なるべく金属が付いておらず着替えやすい服装で来院するとスムーズに検査を受けることが可能です。 金属が付いていなくても昨今の発熱系素材の下着なども注意が必要です。ちなみに入れ歯は外し、インプラントも素材によっては難しい場合があります。 身に着けてはいけないもの、注意が必要なもの ・ファスナー、金属ボタンのついた衣類 ・メイク、マニキュア(アイシャドウ、マスカラ、ネイルアートに注意) ・入れ歯、(インプラントは事前相談が必要です) ・腕時計、メガネ、ペアピン等のアクセサリー類 ・コンタクトレンズ(事前相談が必要です) ・コルセット系の下着、ホックが付いた下着・衣類 ・金属のついている服や下着など ・発熱保温機能付の衣料(ヒートテック等) ・その他、事前に注意事項をしっかり理解しましょう MRI検査の注意事項 MRI検査は、強力な磁石や電波を使うため、火傷などの事故が起こらないよう十分気を付けなければなりません。人によっては、身体の状態や状況によってMRI検査を受けることが難しいと判断されることがあります。 次の項目に当てはまる人はMRI検査を受けることが出来ない場合があるため注意が必要です。 ・体内に金属(インプラント、ペースメーカーなど)を埋め込んでいる人 手術などで体内に金属、プレートやボルトを埋め込んでいる人は、MRI検査で使用する磁石と金属が反応して検査画像の乱れや火傷の原因となる可能性があります。 次のような金属を体内に埋め込んだ症歴がある場合は、検査を受ける前に必ず申告し、MRI検査可能であるか確認しておきましょう。また、治療を受けた病院等にて、金属の種類を事前に確認を求められることがあります。 ・心臓ペースメーカー ・骨折で体内に金属が入っている ・脳動脈クリップ ・血管ステント挿入 ・人工内耳、人工中耳 ・脳深部刺激装置 ・入れ墨、アートメイク ・リフトアップを金糸で行った場合 ・妊娠中、または妊娠の可能性 ・金属片が飛び散る職場での勤務 ・閉所恐怖症の方 ※上記でもチタンを用いていたり、その他できる場合もあります。 刺青やアートメイクをしている 刺青や、タトゥーで検査ができないことを不思議に思われるかもしれません。実は、刺青やタトゥーの色素には、鉄などの金属が含まれている場合があるためで、MRI検査の強力な磁石と反応すると火傷を引き起こす可能性があるからです。 アートメイクの場合も、使用される金属の量は僅かですが、ごくまれに刺青と同様に検査画像の乱れや、火傷を引き起こす可能性があるため同じく注意が必要となります。 刺青やアートメイクをしている人は、MRI検査を受ける前に必ず担当医師に申告しましょう。 閉所恐怖症/狭い所が苦手な人 MRI検査は、狭いトンネルのような空間の中で行われるため、狭い所が苦手な人や閉所恐怖症の人は事前に申し出ておきましょう。特にMRIはの検査時間は、長いと40分ほど必要になるため、こういった症状をお持ちの方は注意が必要です。 狭い所が苦手であることを伝えておけば、医療機関によってMRI機器の明るさを調整したりできる場合や、検査機関によってはオープン型のMRIを使用できる場合もあります。 また、我慢できない場合は、検査員に知らせるためにスイッチなども案内されますので気持ちを楽にしてお受けください。MRI検査について不安なことがあれば、ちょっとしたことであっても検査を行う前に医療機関に相談しておくと安心です。 メイクや、コンタクトレンズにも火傷の危険性 先ほどアートメイクに注意が必要としましたが、通常のメイクであっても注意が必要です。メイクをしたままMRI検査を受けることには、大きなリスクが伴います。 アイシャドーやマスカラ、アイラインなどの化粧品は、種類によっては金属が含まれている場合があるため、検査画像の乱れや火傷を引き起こす恐れがあります。 正しく安全に検査を終えられるように、MRI検査が始まる前までにメイクを落としておきましょう。 また、コンタクトレンズ(特にカラーコンタクトレンズ)には鉄成分が含まれている場合があるため、コンタクトレンズをつけたままMRI検査を受けた場合も検査画像への影響や火傷の危険があります。 コンタクトレンズを使用している人はMRI検査の前に外しておくか、検査の日は眼鏡をかけて来院し、検査中は眼鏡を外すといった対応を行うと安心です。 まとめ・MRI検査と検査を受ける際の注意点について MRI検査は造影剤は、被ばくの危険性がないため、CT検査よりも身体に負担の少ない検査であると言われています。しかし、体内金属を埋め込んでいる人や刺青をしている人は危険が伴うため検査が受けられない場合があることを知っておきましょう。 また、メイクをしたままやコンタクトレンズを付けたままの状態でMRI検査を受けることにも大きなリスクが伴いますので、事前に必ずMRI検査における注意事項を確認しておきましょう。 今回は、MRI検査についてと、検査を受ける際の注意点を記しました。参考して頂ければ幸いです。 No.S073 監修:医師 加藤 秀一
2022.04.18 -
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腱板断裂とは!その原因や症状、治療法について 腱板断裂とは、上腕骨と肩甲骨をつないでいる腱組織が断裂して切れてしまう状態を指しています。肩に強い痛みを自覚するところは、いわゆる「四十肩や五十肩」に類似していますが、それらの疾患は自然に軽快することが多い一方で、腱板断裂という病気は肩に力が入りにくく、痛みが長期的に継続することが認められるために適切に治療する必要があります。 今回は、腱板断裂とはどのような病気なのか、その原因、症状、治療方法などに関する情報を中心に詳しく解説してまいります。 腱板断裂の原因 一般的に肩の痛みを引き起こす疾患には色々なものがありますが、整形外科領域で広く知られている代表的な病気に「腱板断裂」が挙げられます。 腱板断裂では腱板の老化などが影響して中高年の方々が多く罹患することが知られており、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの腱から構成される腱板が断裂することで肩の痛みを自覚します。 本疾患は腱板組織が年齢を重ねるごとに脆くなってくるために発症するパターンが最も多く、それ以外にも外傷によるものが半数、あるいは肩の使いすぎが原因となっている症例も少なからず存在します。 外傷では、転んで肩を強打したケースのみならず手を軽く突いただけでも肩関節部に相対的な負担がかかって腱板部が損傷、あるいは断裂を引き起こすことがあります。 そして、例えば野球のピッチャーが投球動作を繰り返す、力仕事に長年従事されてきた人なども肩関節のオーバーユース(使いすぎ)によって比較的、腱板損傷を発症する例が多くあります。 腱板断裂、原因の一例 ・加齢 ・使いすぎ ・外傷(外的な衝撃) ・スポーツ いずれもオーバーユース(使いすぎ)が原因 腱板断裂の症状 40歳以上の男性で特に右肩に発生しやすい腱板断裂は、運動時における肩の痛みや夜間痛を訴えやすいのですが、肩の挙上(腕を上げる動作)自体は可能であることが多いとされています。 一般的に、本疾患が四十肩や五十肩と異なる点としては、肩関節が拘縮して関節部の動きが固くなることあり、肩関節を挙上しようとすると力が入りにくい、あるいは挙上時に肩の部分がジョリジョリという風に軋轢音が聞こえるということもあります。 腱板断裂は通常では肩関節に存在する腱板組織が裂けて起こりますが、ほとんどの場合、断裂を引き起こした初期の段階では断裂部の範囲は小さいと考えられています。 ところが、症状を放置すると次第に断裂部が大きくなることで病状が悪化して日常生活に支障をきたしていく、症状として進行してしまうことがあるので十分に注意を払う必要があります。 ▼こちらも併せてご覧ください 腱板損傷の判断で使う評価テストとは? 腱板断裂の治療方法 1.保存療法 腱板断裂では、診断が遅れてしまうと症状が進行したり、改善が難しくなってしまうことがあるため、肩を痛めたと自覚した際には、早期に整形外科をはじめとした医療機関の受診に踏み切ることが重要です。 一般的に、外傷によって腱板断裂を認めた際には、三角巾で数週間安静を保持することで断裂部そのものが完全に修復治癒することはないものの約7割は、症状が軽快すると考えられています。 仮に腱板断裂に加えて肩関節周囲炎を合併し、強い夜間痛を認めた場合には、炎症を抑制する副腎皮質ホルモンと鎮痛作用を有する麻酔剤を肩峰下滑液包に局所的に注射して症状推移を経過観察します。 腱板を構成する腱組織すべてが一気に断裂することはほとんど無いと言われていますので、断裂部以外の健常に残っている腱板機能を活性化させて強靭化することは重要であり、このような腱板機能をリハビリ訓練する手段は有効です。 また、ストレッチ運動で腱板断裂が完全に治癒することは期待できませんが、関節の可動域を良好にする、あるいは腱板周囲の筋肉群の緊張を和らげて肩の痛みを軽減させる効果があります。 2.手術療法 万が一、保存的な療法で肩関節部における痛みといった症状と運動機能の障害が改善しない場合には、関節鏡視下手術や直視下手術などの根治的治療策が考慮されます。 前者の関節鏡視下手術の方がより低侵襲(身体的に少ない負担)で患者さんに優しく、術後の痛みが少ないと考えられていますが、大きな断裂になると、それでは縫合処置が困難であることも指摘されていますので、後者の直視下手術を選択する場合があります。 腱板断裂に関しては治療後再断裂のリスクも懸念されています。これは縫合した糸が筋肉や腱板と擦れることで引き起こされます。もしも再断裂を起こすと損傷範囲が大きくなり、修復がさらに難しくなるだけでなく、もう一度手術を受けなくてはいけないという精神的な苦痛も与えることになりますので、術後の再発防止には慎重に取り組む必要があります。 再断裂防止にはいずれの手術や加療を選択したとしても、術後は約1か月間にわたる患部固定が必要です。術後の固定には患部へのストレスを軽減させる装具を使用します。装具は脱着が可能ですが、基本的には患部を動かさないために装具を装着して生活しますので、日常生活動作に大きく制限がかかります。 さらに固定期間が1ヶ月に及びますと、関節周囲の組織に癒着が起こり、肩が動かしにくくなる「関節拘縮」が生じることも多いです。関節拘縮を防ぐためには、数か月に及ぶ肩関節部の機能訓練、リハビリを継続することが最善です。 3.手術に代わる新たな治療法(手術がしたくない、入院を避けたい) このように手術による治療は、慎重かつ根気強くリハビリをしなければならないため、術後しばらくの間安静が取れない方やリハビリの時間が作れない方、仕事や家事で手を使わなければいけない方などにとってはハードルの高い治療とも言えます。 ところが近年、手術を受けなくとも腱板断裂を修復する幹細胞治療といわれる再生医療があります。幹細胞とは体の様々な組織に分化することができる細胞であり、腱板も例外ではないです。もともと腱板は血流が乏しく組織的にも脆いにも関わらず、腕を動かすと腱板は引っ張られるため、損傷した箇所を広げようとする力が働きます。このような状態では腱板はなかなか自然に治癒しませんが、幹細胞の力を使えば断裂した腱板を修復することが可能です。 幹細胞を使った再生医療であれば、糸で縫い合わせるような治療ではなく注射による治療のため、再断裂のリスクが極めて少ないです。一方手術をした場合では、わずか数年でも再断裂が多くみられますので、この点において再生医療のメリットは大きいといえます。 しかも幹細胞による治療であれば、再断裂のリスクが少ないため術後のような長期間の固定が必要ありませんので、痛みが出ない範囲であれば日常生活に制限はありません。再生医療においてもリハビリに取り組むことは重要ですが、拘縮を引き起こす治療方法ではないため、術後のように緻密な計画に沿ったリハビリを必要としないのもメリットの1つです。 もちろん手術を受けてしっかりとリハビリに取り組めば、上記のような後遺症があったとしても7割近い満足度があります。ところが再生医療では手術の後遺症を引き起こす恐れが少なく、高い除痛効果や可動域の改善もみられるため、9割近い満足度があるといわれています。 手術後の腱板断裂にも再生医療が効果大! 実は腱板損傷に対する再生医療では、手術を受けた後の場合であっても効果が発揮されます。先述しましたように手術で腱板を縫い合わせると、縫合した部分から再び断裂を引き起こす割合が高く、せっかく手術を受けても腱板の断裂部分が小〜中等度であれば10〜30%、断裂部分が大きいと40〜60%の確率で再断裂が発生します。 そのため再断裂を回避するには、手術よりも再生医療の方がリスクの少ない選択と言えますが、術後の再断裂の予防としても再生医療は効果を発揮します。もし腱板断裂の手術を受けたけれど、再断裂を起こさないように更なる修復を望むのであれば、手術後に再生医療を併用すると再断裂の確率を抑えることができます。 さらに再生医療を併用することで、術後に発生する疼痛の抑制も期待でき、計画通りにリハビリを進めやすくなります。 このように手術療法のデメリットを受けることなく腱板断裂を修復できる治療法として、そして手術療法のデメリットをフォローできる治療法としても、「幹細胞治療による再生医療」が注目を集めいています。 まとめ・腱板断裂とは!その原因や症状、治療法について 今回は腱板断裂とはどのような病気なのか、その原因、症状、治療方法などについて詳しく解説してきました。腱板断裂という病気は、肩のインナーマッスルである4種類の腱板筋群の腱組織が断裂して切れてしまう状態を意味しています。 主に上腕骨と肩甲骨を接合している腱組織が切れてしまう本疾患では、肩を挙上する際に力が入りにくくなる、あるいは肩関節面で軋轢音を聴取することがありますので、何らかの自覚症状がある方は自己診断せずに専門の医療機関などで的確な診断を受けることが重要です。 医療機関で腱板断裂と診断された方は、医師の判断を受けて保存療法や手術療法、あるいは近年新たな治療選択として注目されている再生医療など様々な治療アプローチに従い、症状の改善を目指しましょう。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 ▼こちらも併せてご覧ください 腱板損傷の治療に効果を発揮するリハビリの方法 No.S071 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療で腱板損傷を治療する 腱板損傷は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます
2022.04.14 -
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関節症で用いるステロイド薬、その効果とデメリット ステロイドという薬、名前をご存知の方も多いことでしょう。「変形性膝関節症」や、「変形性股関節症」をはじめ肩関節などの各種の関節症に対する保存療法(薬物療法)で用いられるメジャーな薬です。 ご存知の方は、痛みに効く薬として必要性は理解できるが、デメリットである副作用が気になる!?という後ろ向きなイメージをお持ちの方もおられることでしょう。そこで今回は、関節症の痛みに対して用いられることが多いステロイド薬を、その効果とデメリットといった観点からご説明いたします。 関節症|ステロイド薬を使う第一の効果は「鎮痛効果」 ステロイド薬を使用する効果として良い点は、「鎮痛効果」、「痛みの緩和」という効果です。 関節症の発症した初期には保存療法がおこなわれます。保存療法(薬物療法)は、各種関節症の初期におこなわれることが多い治療法の一つで、痛みを緩和させる目的があります。 ステロイド薬を用いるのは、その鎮痛効果で痛みから来る生活上の不自由を少なくするためと、運動療法による治療効果を高めるためです。 運動療法を行う上で痛みがあると、その部位を守ろうとするあまり、他の筋肉や組織に力が入いり、他の部位まで痛める結果になりかねません。また痛みがあると効果的な運動療法も難しくなるため、保存療法を有効に進めるためには、ステロイド薬で痛みを下げることが必要になるのです。 関節症|ステロイド薬の第二の効果は「抗炎症作用」 ステロイド薬には、痛みの原因である炎症を和らげる抗炎症作用があります。痛みの原因物質の産生を抑え、鎮痛(痛みを抑える)効果を期待することができます。 そのため各種の関節症の保存療法では、初期の段階ではステロイド薬を痛みを緩和しながら、炎症を防ぎ、リハビリ等の運動療法の効果を上げる目的で用います。問題は、ステロイド薬には、副作用の可能性があることです。 ステロイド薬のデメリット ステロイド薬の副作用 ステロイドという名前に悪いイメージがあるのは、この副作用を聞き及ぶことがあるからでしょうか。ステロイド薬の副作用のひとつに、「骨が脆くなる」というものがあります。そのため、事前の骨の検査や年齢によっては、ステロイド治療を行えない場合があります。 ステロイド薬が変形性膝関節症や、変形性股関節症、肩の関節症などの痛みに対して鎮痛、消炎という改善効果が得られますが、デメリットを過大評価すると使用をためらってしまいがちです。。 そこで、ステロイド薬を使用することによって考えられる実際のデメリットについて知っておくことがステロイド治療に対する判断の一助となり、医師の診断、意見を理解するために必要です。 長期使用を回避 ステロイド薬は、関節症の痛みで困っている場合に高い鎮痛効果が期待できます。とはいえ長期間、継続した使用はおすすめしません。なぜならステロイド薬には以下のような副作用があるためです。短期でも大量に使用したり、長期での使用は避けましょう。 骨が脆くなる ステロイド薬を長期間、或いは短期間に多くの投与された場合、これが原因となって股関節の「大腿骨頭」、肩関節の「上腕骨頭」、「膝関節」の骨への血流が阻害されることで骨の組織が壊死してしまう病気の危険性があります。 短期的に大量に用いたり、長期的に使用することで骨の代謝やホルモンの産生に影響を与えます。骨を脆くする危険性があり、「大腿骨骨頭壊死」「上腕骨頭壊死」「膝関節骨壊死」という困難な症状を招くことも考えられます。 このような可能性がありますが、ステロイドの使用にあっては、病院、医療機関等で医師の管理の下で治療を用うようにすることで必要以上に怖がる必要はないでしょう。 骨粗鬆症のリスク ステロイド薬は、短期に多くの投与を受けたり、或いは長期間使用した場合に骨の代謝や、ホルモンの代謝に影響を与えかねません。そのため、「骨粗鬆症」を引き起こす可能性があり注意が必要です。 感染症になりやすい ステロイド薬は、免疫を抑制するため、長期間、関節内に投与を行うと「化膿性関節炎」になる危険性があります。関節炎になってしまった場合、抗生物質の内服での治療や、重症化した場合は、関節内の洗浄が必要になります。 ご注意!ステロイド薬は、根本治療にはならない ステロイド治療は、痛みの改善や、炎症を鎮めることには効果が期待できますが、軟骨のすり減り等、関節の状態を修復する効果はありません。 そのため、痛みを緩和させつつ、状況を見ることはできますが骨の変形や軟骨の修復といったことは期待できません。また病気の進行を止めることなどの根本的な治療を目的としたものではありません。 たとえば変形性関節症は、進行する病気です。 つまり、変形性関節症の人がステロイド治療をおこなっても最終的には手術が必要となる可能性があります。しかし、近年、手術や入院を避けられる再生医療という治療方法が発達し、軟骨を再生するなど、これまで手術しかなかった治療方法に革命を起こしている例はあります。 関節症に対するステロイド薬での治療 関節症でのステロイド治療は、内服薬と注射があり、内服薬で痛み対する効果が感じづらくなっ場合に関節内にステロイド薬を直接注射します。 ステロイドを関節に注射することにより、抗炎症作用が効果を発揮し、痛みを改善します。ただし、何度も申しますが長期的な使用、短期の大量投与は、副作用のリスクがあります。 また、関節症の症状が進行するとステロイドの効き目が減少し、そうなると外科的治療として手術の選択を迫られることになります。これまでは手術以外の治療法は無かったのですが近年、「再生医療」という分野が発達してまいりました。 再生医療の「幹細胞治療」という方法なら、すり減った軟骨そのものを再生させる効果を期待することができます。今後は治療の選択肢に入って来ることでしょう。 まとめ・関節症で用いるステロイド薬、その効果とデメリット ステロイド薬は、内服や、痛む関節に直接注射する方法があります。 ステロイド薬には鎮痛効果と、抗炎症作用というように炎症を鎮めることで痛みを緩和させる効果があります。ただし、ステロイド薬は、問題のある部位を修復できるなどの根本的な問題を解決することはできません。 ステロイドに後ろ向きなイメージがあるのは、そのメリットの反対の部分、骨を脆くして、特発性ステロイド性骨壊死症である、「大腿骨骨頭壊死」をはじめとして、「上腕骨頭壊死」、「膝関節骨壊死」という危険性があることや、骨粗鬆症、感染症などのリスクがあるからでしょう。 ステロイド薬には、メリットの反面、副作用があるため短期的な大量投与や、それ以外でも長期的なステロイドでの治療は避けるべきです。 ただ、治療に際しては病院をはじめとした医療機関を利用することで今回記したようなデメリットは回避することができるはずです。ステロイドの特性を知った上でメリットのある治療に用いて頂ければと思います。 以上、関節症で用いるステロイド薬のメリットとデメリットに関する情報を記事に致しました。ご参考になれば幸いです。 No.0049 監修:院長 坂本貞範
2022.04.01 -
- ひざ
- 股関節
- 肩
- 腰
何故?膝や肩、股関節の関節痛を診断するのにMRI検査をお願いするのか? 長時間の立ち仕事、座ったままのオフィスワークはもちろん、日頃から運動やスポーツをよくされる方にとって、首や肩はもちろん、腰や膝の痛みは日々の大きな悩みです。これらの痛みについて、その原因をつきとめるためには画像による情報をもとにした診断がとても重要です。 中でも膝や腰の痛みについて判断する際には、画像検査の中でもMRIを使っての検査が重視されます。今回は、膝や腰、股関節など深刻な関節痛の診断にMRI検査を使う理由についてみていきます。 1、画像検査について 診察時の画像検査として、誰もがご存知のレントゲン検査に加えて、CT検査、MRI検査という画像診断の方法があります。それぞれの長所・短所があるのでご説明させて頂きます。 1)レントゲン検査 レントゲン検査は、多くの方にとってなじみのある放射線の一種であるエックス線を用いた検査方法です。短時間で簡単に行えますし、苦痛もほとんどないため、まずはレントゲンを撮る病院が多いかと思います。 レントゲン検査は、骨の状態、部分を詳しく見るのに適しています。たとえば骨折や、骨の変形などがその代表です。しかし、筋肉・軟骨・神経などの骨より柔らかい組織を撮影することができません。 また最近はデジタル化の影響で線量が格段に少なくなっているため通常の検査であれば問題はありません。ただ、放射線を用いる検査ですので、何度も繰り返して検索を行うなどの場合は被曝の可能性については気になるところです。 2)CT検査 (Computed Tomography) CT検査は、レントゲンと同じエックス線を用います。このエックス線をあらゆる方向から照射することで体の輪切りした画像を撮影することが可能にするものです。レントゲンと違って体の内部まで輪切りにした状態で確認ができます。 輪切り画像を重ね合わせて他の断面の画像を構築したり、三次元(3D)の立体画像で確認することもできる検査です。レントゲン検査よりもさらに詳しく骨の状態を評価することが可能ですが、レントゲンと同じく筋肉・軟骨・神経などの骨より柔らかい組織については判断しにくいことがあります。 3)MRI検査(Magnetic Resonance Imaging) MRI検査とは、大きな磁石(磁場)を利用して体の内部を画像化する検査です。レントゲン検査や、CT検査ではわからない筋肉や神経などの柔らかい組織を写し出すことを得意としています。また、何より放射線を使用しないため被曝も無く、患者さんの人体に無害な検査という点で優れています。 ただ、装置自体が大きく、とても高価なため、大学病院をはじめとした一部の施設にしか配置されていません。また、検査に際しては、筒状の装置の中で30分程度は検査時間として、じっと我慢する必要があります。 狭い筒の中で閉じ込められるため、(閉所恐怖症)がネックとなります。また機械の作動音が大きく、それが我慢できないという方もおられます。もちろん具合が悪くなったら係員に知らせるためのボタンなどがありますので安心してください。 その他の注意としては、MRI検査は、誰でもできる訳であはありません。仕組みとして非常に強力な磁石を用いた装置であることから、体内に金属があると検査できないことがあります。 整形外科等の骨折の手術等でボルトや、プレートなどが入っていたり、特に心臓にペースメーカーを入れている方は、MRI検査に対応したペースメーカーでなければ撮影することができません。これはペースメーカーに付属の手帳で詳細が案内されているはずですのでご確認ください。 また、歯科インプラントはチタンでできていますし、心臓や脳血管のステントも大丈夫なことが多いのですが年のため、主治医にご相談ください。 ただし、注意が必要なのは刺青です。 最近はファッションで手軽に刺青を入れる方が増えてきました。実はこの刺青の色素に金属成分が含まれることがあります。色素の金属がMRI検査により熱を持ち、火傷にいたる可能性があります。そのため注意が必要です。 2、腰が痛い場合のMRI検査 腰痛の原因は様々ですが、MRI検査でわかるのは、軟骨の変形や神経の圧迫などです。 腰にある筋肉が肉離れを起こしたような状態であるギックリ腰や、腰の筋肉の疲労からくる筋・筋膜性腰痛症はMRI検査では異常がわかりません。 一方、椎間板ヘルニアではMRI検査が重要です。腰の骨(腰椎)には椎間板と呼ばれる円盤状の軟骨部分があります。この部分が外に出てきたのが椎間板ヘルニアという訳です。 神経が圧迫されると、腰、お尻、下肢にまで痛みやしびれが出ることがありますが、椎間板が出ていても神経を圧迫しなければ、痛みはありません。この椎間板の飛び出てきた様子をMRI検査を用いることで確認することができ、診察に当って正確な診断が行えます。 3、膝が痛い場合のMRI検査 膝の痛みには、交通事故、スポーツによる外傷、運動のやりすぎ、中年以降に慢性的に起きるものなどがあります。外傷による代表的なものとして、膝半月板損傷および膝靱帯損傷、変形性膝関節症があります。 MRI検査による画像情報なら半月板、膝軟骨、ひざの靭帯が、どのように痛んでいるのかなどの疾患を正確に知ることができ、これらの症状の診断には欠かせません。 特に変形性膝関節症の場合は、レントゲン検査では骨の外観しか判断できないところ、MRI検査によれば骨の中の状態まで把握できるため、医師は骨の内部にまで損傷がおよんでいないか確認することができます。 1)膝半月板損傷 膝関節のすき間には、内・外側それぞれに半月板と呼ばれる三日月型の軟骨(膝半月板)があり、膝にかかる衝撃を分散させています。例えばスポーツ等で強く膝を捻ったときに損傷することが多く見られたりします。 損傷直後には、強い痛みと共に腫れたり、関節内に血液が溜まる事があります。しばらくして痛みが和らいでも、膝の中で引っかかる様な感じや動きにくい感じが続いたりします。 2)靱帯損傷 膝を支えるため、膝には内・外側の側副靱帯および前・後十字靱帯の計4つの膝靱帯があります。半月板の損傷と同じように、スポーツ等で膝を捻った時や交通外傷で発生する事が多くあります。 強い膝の痛みと共に皮下や関節内に出血が生じます。膝関節が不安定になることが一番の問題であり、膝のくずれや持続する痛みでスポーツが出来なくなることもよくあります。これら靭帯の状態を確認する上でもMRI検査を用いた検査が一番わかりやすい検査となります。 もし、上記のうちに気になる症状があれば、早めに専門医院の受診をお勧めいたします。その際にMRI検査での精査を勧められることがあるかもしれません。その折のご参考としていただけると幸いです。 以上、「膝や腰、股関節の関節痛の診断でMRI検査を行うわけ」について記させていただきました。 s002 監修:医師 加藤 秀一 ▼こちらも合わせてご覧ください MRI検査についてと、検査を受ける際の注意点
2022.03.30 -
- 肩
- 腱板損傷
- インピンジメント症候群
肩の痛み!肩が痛い症状で疑うべき肩の病気とは 肩の痛みは、肩関節疾患を抱えた患者さんの自覚症状として最も多いと言われています。肩が痛む患者さんを診察する際には、いつから、どのような動作で、どこが、どう痛むかなど具体的に詳しく問診したうえで診察や検査を進めます。 その上で疼痛といった症状の原因となる疾患を診断し、確実な治療に結び付けることが大切になります。そこで、今回は、肩の痛みで疑うべき疾患とは何なのか、それらの病気に対する検査および治療方法などに関する情報を中心に詳しく解説してまいります。 肩の痛みで疑うべき肩の病気 一般的に肩の痛みを引き起こす関連疾患は整形外科でも色々な可能性が挙げられますが、広く知られている代表的な病気は、「肩関節周囲炎(別名:五十肩)」、「肩蜂下インピンジメント症候群」、「腱板断裂」といた3つの病気です。 肩関節周囲炎 肩関節周囲炎という疾患は、40~60歳代の中高年齢層でよく経験されるいわゆる五十肩(四十肩)と呼ばれている状態のことを指しており、この病気は特に誘因になるような契機がないものの、肩の痛みといた症状が出現して知らぬ間に肩を挙げることができないといった可動域制限を認めます。 肩蜂下インピンジメント症候群 肩蜂下インピンジメント症候群では、日常生活で頻繁に肩関節を動作させることで肩甲骨の先端部に位置している肩峰と腱板の間に存在している肩峰下滑液包が炎症を引き起こすことによって強い肩の痛みを生じる状態を意味しています。 インピンジメント症候群には、肩峰と棘上筋間で肩峰下包が挟まれるエクスターナル型、あるいは棘上筋の関節包面が後上方関節唇と衝突するインターナル型の2種類があり、野球の投球動作やテニスのサーブ動作などオーバーハンドスポーツ競技者で多く認められます。 腱板断裂 腱板断裂という疾患は、中高年齢層の方に罹患率が高く、加齢と同時に喫煙、外傷、スポーツなどの要因によって発症することが知られており、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉腱から構成される腱板が断裂することで肩の痛みを引き起こします。 肩の痛みで代表的な病名 ・肩関節周囲炎(別名:五十肩または四十肩) ・肩蜂下インピンジメント症候群 ・腱板断裂 肩の痛みで疑うべき病気に対する診断と検査方法 肩関節周囲炎の診断と検査 肩関節部を構成する軟部組織におこる炎症に伴う痛みといった症状や、運動制限を特徴とする肩関節周囲炎は自然治癒すると思われがちですが、実際のところは放置すると痛みや拘縮が強くなり症状が慢性化することが多いため、早期的に診断することが重要です。 病院などの医療機関では、専門医による問診、画像検査、可動域を測定することなどを実施して肩関節周囲炎を診断できることが多いです。 一般的には、本疾患ではレントゲン検査上で異常所見を認めないとされており、個々の患者さんの経過や状況に応じて肩関節部の軟部組織状態を精密に評価するために関節造影検査やMRI検査をあわせて実施するケースもあります。 肩蜂下インピンジメント症候群の診断と検査 肩蜂下インピンジメント症候群に対する検査は、問診や肩関節部におけるテスト法、MRI検査、超音波検査などが有効的とされております。 特に、超音波検査を実施することで肩峰下滑液包と腱板の腫脹、腱板断裂の有無を調べることが出来ますし、肩を外転する際に腱板や滑液包の肩峰下への滑動状態やすべり具合を判定することが可能となります。 腱板断裂の診断と検査 腱板断裂においては、診断が遅れてしまうと治療による症状改善が難しくなってしまう可能性があり、早期発見および早期治療が重要な鍵になります。 実際の診察場面では、肩の痛みの場所や症状、肩がどのような動きで痛みを感じるのか確認する外転テスト、ドロップアームテストなどを施行すると共に、レントゲン検査、MRI画像検査などを実行されることが多いです。 これらの画像的な精密検査によって肩関節部の腱板断裂以外の石灰性腱板炎を始めとする疾患との鑑別も可能となります。 肩の痛みと病気、その治療方法 研究によると肩の痛みといった症状が改善することで身体的側面から健康に関連する生活の質(Quality Of Life)が向上する可能性があることが示されています。 肩の痛みに対する治療は、一般的に個々の症例における年齢、職業、生活環境などの要素や患者さん自身の希望を検討したうえで決定することになります。 肩関節周囲炎の治療 肩関節周囲炎に対する治療方法は、まず痛みを自覚している炎症期においては三角巾を用いて上肢を安静に保つ、あるいは消炎鎮痛薬を服用することが考慮されます。 また、症状が比較的強いときには肩関節の患部内に局所麻酔薬を注入して、癒着した関節包組織を開大させる手技法も症状改善に有用であると考えられています。 そして、肩の痛みがある程度軽減して肩部の動作制限が症状の主体である拘縮期においては、リハビリテーションを中心とした関節可動域の訓練を実施します。 万が一これらの保存治療でも奏功しない難治例に対しては、全身麻酔下で鏡視下関節包切離術などの根治的外科的処置が実施される場合もあります。 肩蜂下インピンジメント症候群 肩蜂下インピンジメント症候群では、肩の痛み症状を呈している直接の原因とされてる関節包などの拘縮度を解消するためのストレッチング、あるいは上腕骨頭が上方に向かないようにするためのインナーマッスルを中心とした筋力増強トレーニングが実践されます。 仮に痛みが非常に強い場合や前述した運動療法が著効しないケースでは、滑液包内に炎症を抑制する作用を有する副腎皮質ステロイド剤を注入することもあります。 そして、副腎皮質ステロイド剤の注入を頻回に繰り返しても肩の痛み症状が継続される際には、関節鏡視下に関節包切離処置や肩峰下除圧術などが実施されることになります。 腱板断裂 腱板断裂に対する有用な治療方法としては薬物療法や理学療法が知られています。 特に、加齢に伴う腱の変性による腱板断裂を認める際には、まず保存療法が行われることがほとんどであり、非ステロイド性抗炎症薬を内服あるいは外用する、そして副腎皮質ステロイド剤を関節内注入することを検討します。 また、患部を温熱療法で温める、ストレッチやトレーニングによって肩関節部の可動域を広げて筋力強化に繋げる理学療法もお勧めされます。 若年者における外傷に伴う腱板断裂やスポーツによって引き起こされた断裂病変に対しては、肩峰下除圧術や腱板修復術が実践されることもあります。 まとめ・肩の痛み!肩が痛い症状で疑うべき肩の病気とは 今回は肩の痛みで疑うべき病気とは何なのか、それらの病気に対する検査および治療方法などについて詳しく解説してきました。 「肩が痛い」、「肩が挙上できない」などの症状を自覚して日常生活においてお困りの方は、専門の医療機関などで早期的に診察や検査を受けて、保存療法や手術療法など様々な治療アプローチによって症状改善を図るように心がけましょう。 また、これら整形外科的な治療以外にも「再生医療」という新しい治療法も注目を得ています。興味があれば以下のリンクからご参照ください。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 No.S057 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療で肩の痛みを治療できることをご存知ですか 肩の痛みは、再生医療により手術や入院を避けて改善することができます
2022.03.16 -
- 肩
- インピンジメント症候群
インピンジメント症候群とは、その原因、症状と治療法 インピンジメント症候群とは、肩を使う動作の途中で痛みを感じたり、引っかかるような違和感を感じて、それ以上に動かせなくなる症状を起こす障害です。この「インピンジメント」とは、聞きなれない言葉ですが「衝撃、衝突、挟まる」といった意味になります。 なぜこの症状に衝撃や衝突、挟まるといった言葉が使われているかというと、その症状が肩の関節を上げたり、動かそうとした際に、関節が骨や筋肉と衝突を起こすような衝撃があることに由来しているようです。 今回は、この舌を噛みそうな名前の「インピンジメント症候群」についてお話しましょう。 インピンジメント症候群はスポーツが原因になることが多いスポーツ障害 インピンジメント症候群とは、肩のインナーマッスル(肩関節の周りを取り囲み肩を支えている腱板)が骨の屋根にあたって突っかかったり、挟まったりすることで痛みが起こり、うまく動かせなくなるといった症状の総称です。 これは肩が使われると肩峰や靱帯に上腕骨頭が衝突や、摩擦が起こることによって腱板が挟まれ、肩峰の下にある腱板を保護している滑液が入った袋、「肩峰下滑液包(肩関節の保護や動きを滑らかにしています)」に炎症が起こり、肩が痛むようになるものです。 インピンジメント症候群と深く関わっているのがスポーツです。特に多いのが野球で、ピッチングなどで肩を酷使すると投球障害が起こりやすくなります。その他にも肩をよく使うテニスなども発症しやすいスポーツ障害の一つです。 このようにインピンジメント症候群は、繰り返し肩関節を刺激することで肩に痛みが起こる疾患です。野球ならボールを投げる時、テニスならサーブやスマッシュを打つ時です。どちらも長時間にわたって何度も肩を使います。 同じ理由でバドミントンやバレーボールもインピンジメント症候群になりやすいスポーツと言えます。バドミントンならスマッシュ、バレーボールならサーブとスパイクなどが、肩関節に負担がかかる動作になります。 主な症状 野球の投球動作で起こることが多い ・腕を肩より上で動かしたときの運動痛 ・腕の上げ下げ、腕を上げる場合、下げる際に痛みがでる ・腕を上げていく時に、ある角度までくると痛みや、ひっかかる感じがあり上げられなくなる ・夜間痛がある インピンジメント症候群を発症しやすいスポーツ ・野球 ・テニス ・バドミントン ・ゴルフ ・バレーボール ・やり投げ等、肩関節を使う競技に多い インピンジメント症候群は、日常生活上の動作が原因にもなる インピンジメント症候群は、一般的にスポーツ障害ですが、あながちスポーツだけが原因ではありません。日常生活でもインピンジメント症候群になりやすい動作についてご説明します。 インピンジメント症候群は、スポーツで肩を使うことに近い動作、肩を使うことが多い仕事などで発症することがあります。例えば荷物などを高い所に上げたり、高い場所から下ろしたりする動作です。このような動作を日常的に繰り返していると肩を痛めることがあります。 荷物などを高い所に上げる時は、腕が肩より上になり、肩に負担が掛かかり、高い所の物を下す時も同様に肩に負担が掛かります。これを繰り返していると、肩を酷使するスポーツ選手と同様の状態になります。 このように特に肩を使うようなスポーツをやっていない場合でも、仕事や普段の生活で頻繁に腕を上げ下げすることがあれば、それはインピンジメント症候群になる可能性があるため注意が必要です。 インピンジメント症候群は加齢も原因になる! 実は、インピンジメント症候群は、加齢にも関わりがあります。私達は年を取ると骨がもろくなっていきます。肩関節も同じです。加齢によって、肩の高くなっている部分(肩峰(けんぽう)といいます)の下に骨の棘(骨棘(こつきょく:尖った突起物))ができ、加齢ととともに大きくなることで腕の上げ下げの際に骨同士が衝突(インピンジメント)するようになります。 この状態になると、肩そのものの動きがスムーズではなくなります。肩の骨の出っ張りが摩擦・衝突しやすくなり、インピンジメント症候群になるのです。 インピンジメント症候群の治療 インピンジメント症候群で痛みを発症した場合は、痛みを感じる動きを行わないことが大切です。その上で痛みには、痛み止めの薬物療法や痛み止めの注射、そしてヒアルロン酸の局所注射することがあります。その後は、ストレッチをはじめとしたリハビリを行うことになります。 2~3か月程度リハビリテーションを繰り返しても症状が改善しない、改善が乏しいという場合は、関節鏡視下で手術をすることも検討されるでしょう。 ・肩の安静 ・リハビリテーション(ストレッチ) ・痛み止め(薬物療法) ・痛みの改善(ヒアルロン酸、ステロイドの局所注射) ・手術(関節鏡視下が主流) まとめ・インピンジメント症候群とは、その原因、症状と治療法 インピンジメント症候群は、肩を酷使するスポーツ障害ですが、その他にも日常生活の動作や、仕事上での動き、また加齢でも発症します。特に肩を使った運動をしていなくても、仕事や日常生活の中で腕を振ったり上げたりする動作が多い場合は、十分インピンジメント症候群になる可能性があります。 また、年を取るとより症状が出やすくなります。スポーツをしていなくても、肩の痛みや違和感、肩の動きに異変を感じたら早めに対策するようにしましょう。 いずれにしても、スポーツの前後にストレッチなどを取り入れて肩の手入れを行うようにすることで症状の発生を予防する意識も不可欠です。以上、スポーツ障害|肩のインピンジメント症候群の原因について解説しました。 No.S043 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療で肩の痛みを治療する 肩の痛みは、再生医療なら手術や入院をせずに症状を改善することができます
2022.02.25 -
- ひざ
- 股関節
- 肩
- スポーツ医療
- 美容
- 肘
- 腰
- 手
- 健康
コラーゲンのサプリやドリンクは、関節に良い効果を与えてくれるのか 近年、CMなどでよく見かけるサプリメントや、ドリンクとしてのコラーゲン!このような摂取方法で本当に効果があるのでしょうか?コラーゲンは美容的に注目されていますが、実は体にとっても非常に大切な栄養素です。 そこで本記事では、コラーゲンを摂取することで体にどのような効果があり、またどのような働きをしているのか解説していきます。関節に違和感があったり、痛みを感じられている方でコラーゲンのサプリメントやドリンクの摂取をお考えの場合は、ぜひ参考にしてみてください。 コラーゲンについて コラーゲンと聞くと、肌に良いイメージを持たれる方もいるのではないでしょうか。しかし、コラーゲンの働きは皮膚だけではありません。そもそもコラーゲンとは何かをみていきましょう。 コラーゲンとは コラーゲンとは、人間の体に存在するタンパク質の一種です。タンパク質は人間の筋肉や臓器など体のさまざまなところに分布されています。また、タンパク質は三大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質)の一つとして数えられ、人間の体に必要なエネルギー源にもなっています。 コラーゲンは体内のタンパク質のうち約30%を占めていて、皮膚や骨、血管などに多く含まれています。組織の部位ごとに分類され、繊維性コラーゲンや基底膜コラーゲン、短鎖コラーゲンなど、現在分かっているものだけでも29種類あります。 コラーゲンのはたらき 肌に良いイメージがあるコラーゲンは、皮膚の約70%がコラーゲンでできていると言われていて、肌に弾力とハリを与える働きをしています。 コラーゲンは皮膚だけではなく、骨や関節、腱、靭帯などにも存在し、強度や柔軟性を保つ機能があります。骨の中にコラーゲンがあることでクッション性が加わり、骨にしなやかさを与え、転んだときなどの強い衝撃から守っています。 また、関節の部分にもコラーゲンが存在し、骨と骨の摩擦による擦り減りから骨が傷つくのを防ぐ役割もしています。このようにコラーゲンは骨や関節にも密接に関わっています。 加齢による体内のコラーゲンの減少 コラーゲンは健康の維持に欠かせないものですが、年齢とともに減少していきます。加齢に伴って細胞の数が減ったり、衰えたりすることでコラーゲンの合成力が衰えてしまうためです。 また、紫外線による影響で皮膚のコラーゲンが減少することが分かっており、シワやたるみなどの原因になっています。では、コラーゲンを摂取した場合に、減少したコラーゲンを補うことができるのでしょうか。 コラーゲンを飲むことで効果は期待できるのか 日本整形外科学会によれば、直接関節にヒアルロン酸を注射した場合には科学的データに基づいて、有効性が認められているとされています。 しかし、食べ物などの口からの摂取の場合は有効性が確認できる科学的データはないとし、効果が期待できないと結論づけています。ですが、まったく効かないというデータもないため、悩ましいですね。 参考資料:サプリメントの効果について|公益法人日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/about/supplement.html 希望の星!低分子コラーゲン(コラーゲンペプチド) 食べ物からの摂取でコラーゲンの有効性が認めれられていないとされているものの、最近の研究では低分子コラーゲンを摂取することでコラーゲンを作る材料になったり、コラーゲンの生成量を増やしたりすることが期待できることが分かってきました。 低分子コラーゲンとはコラーゲンタンパク質を小さくしたものを言います。低分子化したものは、コラーゲンペプチドともよばれ粒子が細かく、腸壁で吸収され血液を通って皮膚や骨、関節など全身に行き渡ります。 サプリメントの種類と成分 コラーゲンペプチドはサプリメントとして錠剤やパウダー、ドリンクに配合されており種類もさまざまあります。 サプリメントのコラーゲンの成分には主に動物性由来と魚由来があり、動物性由来であれば、牛や豚、鶏などの皮から抽出したもの、魚由来は魚皮や魚鱗から抽出したものが原料となっています。 注意!コラーゲンとアレルギーの関係性 サプリメントの原料になっている牛や豚、鶏、魚などが原因でアレルギー反応を起こす可能性があります。アナフィラキシーを起こした事例も報告されているため、サプリメントなどでコラーゲンを摂取する際は十分に注意が必要です。 特に鶏や卵にアレルギーがある方は、鶏が原料になっているコラーゲンは避けた方が良いでしょう。 コラーゲン・トリペプチドの効果 コラーゲン・トリペプチドとはコラーゲンの最小単位で、その大きさは一般的なコラーゲンサプリメントの20分の1から50分の1の大きさと言われています。 そのため小腸から直接そのままの形で吸収されることが分かっています。最近の研究では関節や骨など体内でコラーゲンが不足しているところに、効率よく届くことが期待できるという報告がされています。 関節や骨への具体的効果について 関節 傷ついた関節の治療の際、患者さんがコラーゲンペプチドのサプリメントを摂取したところ、関節の修復が早いという結果の報告されています。また、変形性膝関節症の症状の改善にも効果があることも分かってきました。 骨 骨を丈夫にするにはカルシウムのイメージが強いですが、カルシウムだけでは強度な骨は作れません。 骨の約30%がコラーゲンできていると言われ、コラーゲントリペプチドを摂取することでコラーゲンの生成を助ける働きがあることが分かっています。 まとめ・コラーゲンのサプリやドリンクは関節に良い効果を与えてくれるのか これまではコラーゲンを食べ物で摂取しても、体の中でアミノ酸としてバラバラに分解されて吸収されてしまうため効果がないと考えられてきました。 しかし、小さな分子のコラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)であれば腸壁から吸収され血液を通って、体の中のコラーゲンが不足しているところへ効率よく届くということが分かってきています。 そのため、コラーゲンのサプリやドリンクを購入する場合は「低分子コラーゲン」、「コラーゲンペプチド」との表記があるものが良いかもしれません。いずれにしてもコラーゲンの効果には個人差があり、短期ではなく、長期で考える必要があります。 関節のために体内のコラーゲンをキープしたいと摂取する場合は、毎日の食生活に取り入れ、長期的な視点で取り組みましょう。コラーゲンが関節や健康の維持に役立つと良いですね。 以上、コラーゲンのサプリやドリンクは関節に効果があるのかについて記させて頂きました。 No.S041 監修:医師 加藤 秀一
2022.02.16 -
- 肘
- 関節リウマチ
- ひざ
- 股関節
- 肩
- 手
人工関節置換術で知っておきたい手術の安全性と危険性 股関節、膝関節、肘関節、指関節、足関節における関節疾患の多くは比較的ゆっくりと症状が進行するため、本人は症状に苦しんでいるにもかかわらず、ただ単に年齢によるものというだけで見過ごされてしまうことが往々にしてあります。 ところが、知らず知らずのうちに病気の進行が悪化してしまうと、関節患部に強い痛みや熱感を自覚して、日常生活において歩く、座る、投げる、持つ、立つなどの基本的な動作能力が低下して必要な動きが制限されてくる恐れがあることをご存知でしょうか。 このような関節の症状が出たのちに、保存療法等、種々の治療を繰り返しても元には戻りにくく、徐々に症状は進行します。そして、最終的に提案されるのが手術療法になります。 人工関節置換術 この手術が「人工関節置換術」として知られているものです。この手術は、読んで字のごとく、疾患によって悪くなって異常がある関節部分を取り除いたのちに、人工の関節に置き換える手術です。 例えば変形性膝関節症や、関節リウマチなど膝関節疾患を治療する際には、その代表的な手術療法のひとつとして人工膝関節置換術が挙げられるという具合です。 人工関節の置換術が可能な部位は膝関節や股関節、肩関節、手関節、手指関節、足関節、肘関節となっていて、置換える人工関節そのものも年々進歩しています。 材料的には主としてチタン合金、コバルトクロム合金、セラミック、ポリエチレンなどで構成されています。 人工関節置換術は、関節の疾患がもとになって起こっている疼痛の原因となっている部分を取り除くことを主眼としているため、他の治療法と違って、患者さんの慢性的症状である痛みを和らげる効果を期待するものです。 そこで今回は、そのような人工関節の手術に関して知っておきたい安全性と危険性について解説したいと思います。 人工関節置換術 治療可能部位 材料 膝関節や股関節、肩関節、手関節、手指関節、足関節、肘関節 チタン合金、コバルトクロム合金、セラミック、ポリエチレン 人工関節の手術|安全性について 人工関節置換術という手術療法は、各種の関節症、例えば変形性関節症や関節リウマチを患われている患者様に対して関節の痛みを緩和して日常生活をより快適に送れる事を目的とする治療手段として普及しています。 今や各種の関節症に対する人口関節置換手術でのアプローチは年間に約20万例前後という件数が報告されるまでになりました。このように比較的メジャーになってきた人工関節の手術は、術式としては確立されていて、置換える人工物の素材も進歩を遂げています。 ただし、手術を安全に確実に実践するためには、当たり前のことながら整形外科の専門医を始めとして、医療従事者の専門性が問われ、人工関節の特性や、軟骨などの組織が破綻するメカニズムに対する知識が不可欠です。 これら関節の再建方法などについて熟知している専門性が大切であり、これまでの経験、知見、熟練の度合いが手術に影響するとされています。 また、人工関節置換術においては、言うまでもありませんが手術そのものの安全性を高く施行するだけでなく、術前や術後における全身管理や、術後の安定した段階で早期に、個人に沿ったリハビリテーションを計画し、適切に行えることが非常に重要です。 これらの人工関節手術を安心して受けるためには、術後の体制、いわゆる人工関節の緩み、異物感染、関節脱臼やインプラント周囲組織の骨折を含めた様々な合併症が起こった際に迅速かつ、確実に対応できる医療体制の存在、あり方が必要不可欠です。 また術後のリハビリテーションに関しては、術前に担当の看護師や理学療法士などのリハビリの専門部門が積極的に患者さんに接触し、術後の早期に状態を見極めながら関節機能を中心とした全身状態の改善を目指さなければなりません。 万が一にもリハビリテーションが予定とは異なり順調に進まない時には、自宅への退院とは別途、リハビリ専門施設へ転院するような連携調整、あるいは自宅退院後の各種生活支援についてメディカルソーシャルワーカーに相談する必要があるでしょう。 このように「人工関節の安全性」は、専門性、術前、術後、リハビリなどをすべて含めて判断すべきだと考えます。 安全性は、総合的に判断 ・専門医(経験、知見、習熟度) ・術前の全身管理 ・術後の対応、フォロー ・リハビリ計画 人工関節の手術|危険性について 人工関節置換術は、疼痛症状を緩和して関節の機能の回復を望める手術である一方、関節以外の他手術と同様に一般的なリスクとして、全身麻酔に伴う合併症や、深部静脈血栓症および肺塞栓症の発症、あるいは輸血に関する問題点などがあります。 また、人工物や手術部分の感染、患部周辺の血管や骨組織、神経などの二次的な損傷、あるいは手術中における予測不能なことがが引き起こされる懸念も考えられます。 そして、人工関節手術の術直後においては傷口の疼痛が非常に強いことが懸念されており、関節部の機能回復を阻害するのみならず、手術を受けた患者さんの満足度とも直接的に関連すると言われています。 他にも心配なのは、人工関節の耐久性です。人工物ですので永久に使えるものではないからです。いつまで使えるかということに関しては、患者さん自身の生活背景などの使い方にもよりますが概ね15年前後であると考えられています。 人生100歳時代の現代、耐久性という面から、将来に人工関節を入れかえるため、再手術の可能性があることを知っておくべきです。その際は、年齢的にも術式的にも、あらゆる面で最初より、難しさがが増す可能性があります。 従来、人工関節置換術は、およそ60歳以上の高齢者を中心に適応がある手術とされてきましたが、近年では個々の価値観やクオリティ・オブ・ライフ/QOL(*)が尊重される時代となり、2回目の手術を勘案して50歳前後でもより快適な人生を過ごすために本手術を選択される方もいらっしゃいます。 (*)クオリティ・オブ・ライフ/QOL 治療を受ける患者さんの肉体的なことはもちろん、精神的なことや社会的、そして経済的など、すべてを含んだ生活の質を指す言葉です。 今回の場合では手術そのものや、その後の副作用などでリハビリを行っても手術前と同じようには生活できなくなる危険性あります。 そのことを理解した上で手術の利点と危険性に関して医師とよく相談し、リハビリも含めた治療内容全般にわたって理解するようにしましょう。そして、家族や周りの理解や、協力を得られるよう相談し、慎重に決定されることをお勧めします。 最後に手術を選択した場合の入院期間について、概ね1か月は最低必要で、年齢的なものや、術後の状態により2か月~必要な場合もあるため、日程的な融通が必要な手術です。 今回は、人工関節への置換手術について不安を感じておられる方への術前のアドバイスとして記してまいりましたが、治療法としては、「再生医療」という先端医療分野があることも知っておきましょう。 その特徴は、手術も入院も不要という治療方法で自分の自己治癒力を引き出す最先端医療です。興味がある方は、お問い合わせください。いずれにしましても先生と話し合って、聞きたいことを聞き、納得して進んでください。 まとめ・人工関節置換術で知っておきたい手術の安全性と危険性について 股関節や膝関節は、下半身の体重を支えながら日常生活で立つ、歩くなどの基本的動作を実践するうえで極めて重要な関節です。肩関節や肘関節が障害を受けると荷物が持てないなど非常に支障をきたして日常生活が大変不便になります。 その意味でも日々の健康を保ち快適な暮らしを送り続けるためにも、関節に負担の少ない優しい生活を過ごすように意識しましょう。 仮に関節症の疾患で、人工関節置換術を勧められた場合は、選択肢としてこちらの記事で記したような将来の再手術の可能性、手術そのものの危険性や、入院期間が長くなるといった手術であること知ったうえで臨んでください。 リスクは、どのような手術であっても伴うものです。ただ、上手くいけば関節の痛みが緩和されて、関節の機能が元通りに再生されるのみならず、普段の歩き方や、身体のバランスを整備することが可能な治療法です。 これからの時代、健康寿命を延伸して自分らしい快適な生活を営むためにも、関節疾患は、放置することなく、治療方法について整形外科の専門医もしくは専門院を受診して相談されるこをお勧めします。 安全性 ・術式としては確立 ・多様な部位に対応 ・素材の進歩 危険性/リスクを理解 ・クオリティ オブ ライフ ・専門医の相談、納得感 ・家族の理解、支え ・人工関節の耐久性 → 年齢から再手術の可能性を念頭に ・長期入院 → 1か月~2か月 ・リハビリ → 長期計画 ・手術としての危険性(合併症、その他) ・手術部位の疼痛 以上、人工関節手術に関する安全性と危険性について記しました。今回の記事、情報が少しでも参考になれば幸いです。 No.S022 監修:医師 加藤 秀一
2021.12.20 -
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PRP療法とAPS療法の違い、期待できる効果と治療法 皆さんは近代になって研究室での実験から、医療の現場で実施されるまでに至った「再生医療」という最先端の医療分野があることを御存知ですか。 いわゆる再生医療とは、怪我や病気によって低下あるいは喪失した生体機能を従来の医療方法ではなく、人為的に加工や培養して作製した細胞や組織などを用いて人体に元来備わっている修復能力を増大させて症状を改善させることが出来る可能性を秘めた未来的な治療方法です。 これは、一昔前ならSFの世界、まともに語っていたなら「夢でも見てるの」かと夢物語にされかねない非現実的な内容でした。このような治療があることや、実際に受けることが可能であることを知る一般人はあまりいません。 それもそのはず現場の医師でさえ詳細を知る方はまだまだ少ないのが現実なんです。 では、どんな治療方法なのか? そもそも私たちの血液中には、赤血球や白血球、あるいは血小板と呼ばれる成分が含まれていることはご存知ですね。それぞれには、特化した役割が存在しています。 その中でも血小板は外傷によって皮膚表面が傷ついた場合や、関節捻挫、あるいは筋肉打撲などで負傷をした際に損傷部位を治癒させる働きを有しています。つまり、自己治癒力です!傷ついたり、痛んだりした組織を自動で修復してしまう!すごい機能です。 このような働きができるのは血小板の中に含まれて、傷んだ組織部位を治す「成長因子」と呼ばれる成分のお陰お陰です。 それが今回、ご紹介するAPS療法の基礎となるものです。 血液中の血小板から濃縮して大量の成長因子を含む「多血小板血漿」は、昨今の再生医療の分野で大変着目されており、英語表記でPlatelet Rich Plasma(略して以下、PRP)と呼称されているものです。 さらに、Autologous Protein Solution(略して以下、APS)を用いた療法は、自己タンパク溶液として、前述したPRPを特殊な過程で更に濃縮したものです。このAPS治療は、目下のところ慢性的な膝関節等の疼痛に対する再生医療という新たな最先端治療として注目されているものなのです。 今回は、再生医療の新人!APS療法について解説していきましょう。 PRPとの違いとAPSの成り立ち 自己多血小板血漿、注入療法とも呼ばれるPRP療法については聞き覚えのない馴染みが薄い治療法に感じられるかもしれませんね。しかし、実のところ海外においては10年以上の使用実績がある方法なのです。 ケガなど、傷ついた部位の修復に作用する血小板に含まれる成長因子を取り出すPRP療法は、私たちがもっている治癒能力や組織の修復能力、再生能力を引き出すという目的があります。 一方で、APS治療は、患者様自身の血液成分から特殊な専用医療機器を用いてAPS成分のみを抽出します。 このAPSの抽出方法は、基本的にPRPそのものを更に遠心分離器を活用して特殊加工することによって、炎症を抑制する役割を有したタンパク質と軟骨を保護して損傷を改善させる「成長因子」を高濃度に抽出したものになります。 このような抽出背景から「APS」は、まさに「次世代型のPRP」とも表現されることがあります。 抽出したAPSを関節内などの疼痛部位に向けて成分を注射することによって関節部の疼痛や炎症の軽減のみならず、軟骨の変性進行や組織破壊を抑制することが期待されるものです。 APS治療は、現在のところではまだ「変形性膝関節症」に痛みなどを対象疾患を限定して使用されている段階ですが、これまでのPRP治療でも難渋していた患部改善にも一定の効果を示すことが徐々に判明してきています。 尚、APS療法では患者さんご自身の血液を基準にして作るために異物免疫反応が引き起こされる可能性は極めて低確率であると考えられています。 また、本治療はPRPと同じく、手技的に採血操作と注射投与だけですので、手術などのように患者さんの身体的な負担も大幅に少なくて済むという特徴があります。 APS療法に期待できる効果や実際の治療法など さて、ここからは変形性膝関節症に対してAPS療法で期待できる効果や実際の治療法などについて紹介しましょう。 ご注意頂きたいのは、APS療法は、再生医療ではありますが自己の血液から抗炎症成分のみを濃縮して抽出したあと、関節内に注射することで関節の軟骨を修復し、再生させるという観点ではなく、膝痛の症状緩和に焦点を当てた特化的治療であることです。 膝の変形性関節症では、疾患が進行することによって「半月板の損傷」や、「靭帯のゆるみ」など膝関節のバランスが崩れることで軟骨がすり減り、膝関節が変形して発症します。 また、変形性膝関節症では膝関節部における変形度の進行に伴って、軟骨がすり減り、半月板が擦り減って傷み、さらには滑膜炎など炎症が起きて膝部に水が溜まることがあります。 従来、治療としては繰り返し鎮痛剤を内服することや、ヒアルロン酸を関節内に注入するなどが代表的な治療法でした。しかし、鎮痛剤を飲み続ける是非や、ヒアルロン酸の効果が期待できなくなった変形性膝関節症の患者様の中には、このAPS治療によって症状が幾ばくかの改善を示すケースがあることが分かってきたのです。 一般的にAPS治療では、投与してからおよそ1週間から1か月程度で患部組織の修復が起こり始めて、だいたい治療してから約2週間から3ヶ月前後までには一定の効果が期待できると言われています。 海外のAPS治療に関する報告例では、APSを一回注射するだけで、最大約24ヶ月間にもわたって痛みに対する改善効果が継続するとの実例も紹介されていました。ただし、これは一例で実際の治療効果や症状が改善する持続期間に関しては、患者さんの疾患の程度、条件によって様々、個人差があり変化することをご理解ください。 また、このAPS治療は、PRPと同じく、患者さん自身の血液を活用して生成するために、通常ではアレルギー反応や免疫学的な拒絶反応は出現しないと考えられている点も良いい面でのポイントです。 APS治療における実際の手順 1)まず約50~60mlの血液を採取 2)厚生労働省が認めている特殊な技術で処理し、血小板成分を濃縮したPRPを抽出 2)精製されたPRP物質をさらに濃縮してAPSを抽出 こうして抽出した後、痛みを自覚されている関節部位に超音波エコー画像を見ながらAPS成分を注射して投与する まとめ・PRP療法とAPS療法の違い、期待できる効果と治療法 従来におけるPRP療法(自己多血小板血漿注入療法)は、患者自身の血液中に含まれる血小板を活用した再生医療です。 そして、昨今特に注目されているAPS治療では、先のPRPを更に濃縮。このAPS成分を患部に注射投与してから平均しておよそ1週間から1か月程度で組織修復が促進されて更には疼痛緩和に繋がる可能性があります。 なおAPS治療を現実的に受けた当日は、入浴や飲酒、あるいは喫煙、また激しい運動やマッサージなどは出来る限り回避するように意識しましょう。 APS注射直後には、個人差はあるものの一時的に痛みや腫脹、発赤などの症状が出ることがありますが、疼痛があるために関節部位を全く動かさないと逆効果になってしまうこともあります。 ここのあたり治療後の行動については、くれぐれも十分に主治医と相談するようにしましょう。また現段階では、このAPS治療は保険適応外であり自費負担になります。 費用は、それぞれの対象医療施設や治療適応となる患部箇所などによって異なりますので、この治療法をもっと知りたい方は私どもほか、専門の外来へお問い合わせされることをお勧めします。 このAPS療法のほかにも再生医療として、私どもが推進する「幹細胞治療」という関節部分の軟骨を自己治癒力を用いて再生させるという正に未来的な治療法も存在し、この分野から目が離せません。 いずれにせよ関節に問題があって、「後は手術しかないと」言われた方は再生医療をご検討されてはいかがでしょうか。私たちは再生医療の幹細胞治療で1,600例を超える豊富な症例を有しています。いつでもご相談ください。 以上、PRP療法とAPS療法との違いや期待できる効果、治療法について記させていただきました。 S008 監修:医師 加藤 秀一 ▼ PRP療法をさらい詳しく PRPを使った再生医療は、人間が持つ自然治癒力を活かして治療する先端医療です
2021.10.20