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インフルエンザ後遺症とは|原因・症状・治療法を現役医師が解説

「インフルエンザが治ったはずなのに、咳や倦怠感が続いている」
このような不安をお持ちの方もいるでしょう。
もしかしたらインフルエンザ後遺症かもしれません。インフルエンザ後遺症は、ウイルスが体内からいなくなった後も、さまざまな症状が体に残る状態を指します。
この記事では、インフルエンザ後遺症の原因や症状、合併症やコロナ後遺症との違いについて詳しく解説します。
また、セルフケアの方法や治療法についても紹介します。ぜひ最後までご覧いただき、インフルエンザ後遺症への理解を深めてください。
目次
インフルエンザ後遺症とは?
インフルエンザ後遺症とは、インフルエンザの急性期症状が治まった後も、4週間以上にわたって倦怠感、咳、関節痛といった症状が続く状態の総称です。
ウイルスが体から排除された後に症状が現れたり、長引いたりする点が特徴です。中には慢性疲労症候群の診断基準に該当する方も報告されています。(文献1)
インフルエンザの合併症との違い
インフルエンザ後遺症と合併症は、以下の点が異なります。
タイミング | 症状 | 治療法 | |
合併症 | 発熱がある急性期 |
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後遺症 | 解熱した回復期 |
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合併症の代表例であるインフルエンザ脳症は、国内で年間100例以上報告されており、後遺症が出る割合も決して低くありません。致死率が約15%、後遺症率が約25%との報告もあります。(文献2)
また、合併症が重度だった症例ほど後遺症を長引かせるリスクが高いとする研究報告もあります。(文献3)
コロナウイルス後遺症との違い
インフルエンザ後遺症とコロナウイルス後遺症は、リスクの程度や症状の傾向に違いがあります。
名古屋工業大学の平田晃正教授らの研究グループによると、インフルエンザ感染後に咳や頭痛で医療機関を受診するリスクは、感染していない人と比べて1.8倍程度との結果です。
一方、新型コロナウイルス感染後に咳で受診するリスクは、感染していない人と比べて8.20倍とインフルエンザよりも高い結果が見られました。(文献4)
症状としては、コロナウイルス後遺症では多臓器にわたる全身性の症状が目立つ傾向にあります。一方で、インフルエンザ後遺症は主に呼吸器や疲労が中心です。
コロナウイルス後遺症については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
【関連記事】
コロナ後遺症はいつまで続く?倦怠感や症状について現役医師が解説
コロナの後遺症を劇的に改善させる方法を再生医療医が解説
また、コロナウイルス後遺症に対する治療法として、再生医療があります。
再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。
インフルエンザ後遺症の主な原因
インフルエンザ後遺症を引き起こす原因は1つではなく、主に以下の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
- 免疫機能の過剰な反応の残存
- ウイルスによる気道粘膜の損傷
- 二次的な細菌感染の併発
- 高熱などによる自律神経の乱れ
- 感染に伴う精神的なストレス
インフルエンザウイルスに対抗するために活性化した免疫が、ウイルス排除後も活動を続け、炎症を引き起こす物質を放出し続けることで、倦怠感や疲労感につながります。
また、ウイルスで傷ついた気道の粘膜は再生に時間を要するため、咳が出やすい状態が長引く可能性があります。隔離生活などによる不安やストレスが、抑うつ症状を誘発する場合もあります。
【一覧】インフルエンザ後遺症の主な症状
インフルエンザ後遺症では、さまざまな症状が現れます。主な症状を以下の表にまとめました。
系統 | 主な症状 |
呼吸器系 | 乾いた咳、息切れ、声枯れ |
全身症状 | 倦怠感、微熱、関節痛、寝汗 |
神経・感覚 | 頭痛、めまい、集中力の低下、嗅覚・味覚の低下 |
耳鼻科系 | 副鼻腔炎に伴う鼻水・顔面痛、耳の閉塞感 |
精神面 | 不眠、気分の落ち込み(発熱による睡眠リズムの乱れが誘因) |
これらの症状は、いずれか1つだけが現れるよりも、複数の症状が重なって現れることが少なくありません。
たとえば、長引く咳に加えて強い倦怠感が続いたり、頭痛と集中力の低下が同時に見られたりするケースです。症状が改善しない、あるいは悪化するような場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
インフルエンザ後遺症の治療法
インフルエンザ後遺症の症状は、多くの場合、時間の経過とともに自然と落ち着いていきます。しかし、症状が長引いたり、悪化したりするケースは少なくありません。
インフルエンザ後遺症に対する治療は以下のような方法が挙げられます。
- 対症療法
- 薬物療法
- 生活習慣の見直し
1つずつ解説していきます。
対症療法
インフルエンザ後遺症の治療は、現れているつらい症状を和らげる対症療法が基本です。体の疲労感や関節の痛みに対しては、電気療法や理学療法士による手技療法などがおこなわれます。
倦怠感や微熱が続く場合は、無理をせず十分な休息を取り、水分と栄養をしっかりと補給するのが最優先です。必要に応じて、解熱鎮痛薬が処方されることもあります。
鼻水や顔の痛みなど、副鼻腔炎や中耳炎が疑われる際は、耳鼻咽喉科で鼻の洗浄やネブライザー治療といった処置を追加します。
症状によって治療方法が異なるため、病院受診時に医師に困っている症状を正しく伝えましょう。
薬物療法
症状を和らげるための薬物療法も選択肢の1つです。急性期を過ぎてもウイルスの増殖が続いていると医師が判断した場合には、抗インフルエンザ薬の投与期間を延長する場合があります。
長引く鼻水や咳に対しては、症状を抑えるために抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが処方されます。咳が止まらず咳喘息のような状態に移行したケースでは、気管支を広げる吸入β2刺激薬や炎症を抑える吸入ステロイド薬を数週間にわたって使用する場合も少なくありません。
これらの治療で十分な改善が見られない場合には、別系統の薬を追加で検討されるケースもあります。
また、コロナウイルス後遺症の症例に対してですが、漢方薬が慢性疲労・食欲不振を緩和したとの報告もあります。(文献5)
生活習慣の見直し
インフルエンザ後遺症から回復するには、薬による治療だけでなく、日々の生活習慣の見直しも必要です。まずは、十分な休養を取り、体に負担をかけないようにしましょう。
タンパク質やビタミンなどを含むバランスの良い食事を心がけ、睡眠は7時間以上確保すると、自律神経の働きを整える効果が期待されます。
体力が少し戻ってきたら、軽いストレッチや腹式呼吸といった呼吸リハビリを取り入れるのも、呼吸筋の疲労感を和らげるのに役立ちます。アルコールや喫煙は炎症を長引かせるリスクがあるため、症状が落ち着くまでは控えましょう。
インフルエンザにおける後遺症の理解を深めて適切な治療を進めよう
インフルエンザ後遺症は、決して珍しいものではなく、誰にでも起こりうる症状です。治ったはずのインフルエンザの後に続く咳や倦怠感は気のせいではありません。
後遺症の原因は1つではなく、免疫の過剰な反応や自律神経の乱れなど、さまざまな要因が絡み合って生じます。症状の現れ方は人それぞれであり、呼吸器症状から精神的な不調まで多岐にわたります。
つらい症状が続く場合は、自己判断で放置せず、かかりつけ医や専門の医療機関に相談しましょう。
インフルエンザ後遺症に関するよくある質問
インフルエンザ後遺症の症状はいつまで続きますか?
インフルエンザ自体の発熱やのどの痛みといった症状は、通常1週間程度で落ち着きます。しかし、その後に出てくる後遺症がいつまで続くかについては、以下の要素によって異なるため一概にはいえません。
- 症状の種類
- 本人の回復力
- 治療方法
とくに倦怠感や睡眠障害といった症状は、免疫力の低下や日々のストレスなどが影響して長引く傾向があります。
咳に関しては、もし8週間以上続くようであれば「慢性咳嗽」と診断されます。(文献6)症状が長引く場合は、一度医療機関を受診してみましょう。
インフルエンザ後遺症は大人と子どもどちらも発症しますか?
インフルエンザ後遺症は、年齢に関わらず大人も子どもも発症する可能性があります。とくに、まだ免疫機能が十分に発達していない子どもは、大人に比べてウイルス感染の影響を受けやすく、後遺症につながりやすいと考えられています。
また、高齢の方は、肺炎や心筋炎といった重い合併症を発症しやすく、その治療が終わった後も息切れなどの呼吸器症状が長く残ってしまうケースが少なくありません。
予防接種は、インフルエンザの重症化を防ぐだけでなく、後遺症の発生リスクを減らす効果が期待されます。
参考文献
(文献1)
インフルエンザ感染後に発症した慢性疲労症候群に漢方治療が有効であった1例|日本東洋医学雑誌
(文献2)
インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究(総括研究報告書)|厚生労働科学研究成果データベース
(文献3)
The post‐infection outcomes of influenza and acute respiratory infection in patients above 50 years of age in Japan: an observational study|National Library of Medicine
(文献4)
新型コロナ インフルより“後遺症”リスク高い 名古屋工業大|NHK
(文献5)
Course of General Fatigue in Patients with Post-COVID-19 Conditions Who Were Prescribed Hochuekkito: A Single-Center Exploratory Pilot Study|Multidisciplinary Digital Publishing Institute