-
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
- その他、整形外科疾患
「医療ボトックスの効果を知りたい」 「医療ボトックスを打ち続けると、どうなるのか心配」 医療ボトックスを検討しているものの、「副作用が心配」「一度始めたらやめられなくなるのでは」と不安を感じていませんか。ボトックス治療は主に医療目的で使用され、症状の緩和や生活の質の向上に効果が期待できます。 一方で、「続けるうちに効きにくくなる」「中止すると症状が戻り悪化する」といった情報に不安を感じる方も少なくありません。正しい知識を持ち、自分に合った治療かどうか、慎重に判断しましょう。 本記事では、現役医師が医療ボトックスについて詳しく解説します。 医療ボトックスの効果 医療ボトックスを打ち続けるとどうなるのか 医療ボトックスをやめるとどうなるのか 医療ボトックスの副作用 医療ボトックスの治療期間 本記事の最後には、医療ボトックスに関するよくある相談について回答していきますので、ぜひ最後までご覧ください。 医療ボトックスとは 医療ボトックスは、ボツリヌス菌由来のタンパク質(ボツリヌス・トキシン)を少量注射し、筋肉の過剰な緊張や動きを一時的に抑える治療法です。 主に痙攣、筋肉のこわばり、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなどの症状改善や機能回復を目的として用いられ、美容目的とは異なり、症状によっては健康保険の適用もあります。 効果は通常、注射後1〜2週間で現れ、1〜2カ月でピークに達します。その後、3〜6カ月ほど持続し、徐々に効果が薄れていきます。効果を維持するには、3〜6カ月ごとに注射を継続するのが一般的です。効果の持続期間や治療間隔には個人差があるため、実施前に医師への相談が不可欠です。 以下の記事では、脳梗塞に対してのボトックス効果について詳しく解説しています。 医療ボトックスの効果 期待できる効果 詳細 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 神経伝達の遮断による筋肉の収縮抑制 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 けいれんを起こす筋肉の動きの抑制 多汗症の治療 発汗を促す神経信号の遮断による汗の抑制 顎関節症や歯ぎしりの緩和 咬筋の過活動抑制による顎や歯への負担軽減 医療ボトックスは、過剰に働く筋肉や神経の異常な伝達を一時的に抑えることで、症状を緩和する治療法です。もともとは眼瞼けいれんや斜視などの神経疾患に対して開発されましたが、現在では痙縮、顔面けいれん、多汗症、顎関節症、歯ぎしりなど、幅広い症状に対して効果が認められています。 注射により筋肉や汗腺の働きを抑え、日常生活への支障を軽減することが期待されます。効果は3〜6カ月程度持続します。効果や持続期間には個人差があるため、医師と相談の上で継続的に治療することが重要です。 筋肉の過剰な緊張や痙縮の緩和 適応疾患 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 痙性斜頸 首の筋肉が勝手に収縮し、頭が傾く・ねじれる状態 異常な筋肉の動きを抑制 姿勢の改善、違和感や不快感の軽減 脳性麻痺による運動障害 手足の筋肉がこわばり、動かしにくくなる状態 筋肉の緊張を和らげ、動きをスムーズにする 関節の可動域改善、歩行や手の動作の向上 脳卒中、脳性まひ、脊髄損傷などの後遺症では、筋肉がこわばり、思うように動かせなくなる痙縮(けいしゅく)と呼ばれる症状が現れることがあります。医療ボトックスは、過剰に収縮している筋肉への信号を一時的にブロックすることで筋肉の緊張を緩和する治療法です。 この作用により、関節の動かしやすさが改善し、日常動作がスムーズになるケースもあります。リハビリの効率が高まり、より効果的な訓練が可能となるのも利点のひとつです。また、強い筋緊張によって起こる違和感や変形、皮膚トラブルを防ぐ効果も期待されています。 このような症状に対するボトックスの効果は3〜4カ月ほど続き、時間の経過とともに効果が薄れ、徐々に元の状態に戻ることがあります。 再発を防ぐには、症状に応じて定期的な注射を検討することが大切です。適切なタイミングと用量で継続することで、生活の質の向上が見込めます。 眼瞼けいれん・片側顔面けいれんの改善 疾患名 症状の特徴 ボトックスの作用 期待される効果 眼瞼けいれん まぶたのけいれん、勝手に閉じてしまう状態 眼輪筋の異常収縮の抑制 まぶたの開けやすさの改善、けいれんの軽減 片側顔面けいれん 顔の片側の筋肉のピクピクとした不随意な動き 顔面筋の過剰な緊張やけいれんの抑制 表情のゆがみの軽減、不快感の改善 眼瞼けいれんは、まぶたが無意識にピクピク動いたり、強く閉じてしまう症状で、まぶしさや目の疲れ、視界の遮りを引き起こすことがあります。片側顔面けいれんは、顔の片側にけいれんが生じ、笑ったり話したりすると症状が強まるのが特徴です。いずれも筋肉の異常な収縮が原因とされ、医療ボトックスは有効な治療法です。 けいれんを起こしている筋肉にボトックスを注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に抑え、不随意な動きを一定期間抑える効果があります。 効果は注射後2〜5日で現れ始め、2〜4週間で最大となり、2〜4カ月持続します。症状や筋肉の反応を見ながら、定期的に治療を行うことで、日常生活の不便を大きく軽減できる可能性があります。 多汗症の治療 医療ボトックスは、多汗症の原因となる神経の働きを一時的に抑え、汗の分泌を軽減する治療法です。脇や手のひらなど汗が気になる部位に注射することで、2〜3日後から効果が現れます。 効果は通常4〜9カ月続くため、再発時には定期的な治療が必要です。手術とは異なり、傷跡が残らず日常生活への影響もほとんどありません。発汗を抑えることで、日常の不快感や精神的なストレスの軽減に大きく役立ちます。 顎関節症や歯ぎしりの緩和 症状・効果 ボトックス治療の作用 顎関節症の緩和 咬筋の緊張を抑制し、顎関節への負担軽減。違和感や開口障害、クリック音の改善 歯ぎしり・食いしばりの軽減 無意識の歯ぎしり・食いしばりの減少。歯や顎関節へのダメージ予防 歯の摩耗や補綴物の破損予防 噛む力の抑制による歯のすり減りや詰め物・被せ物の破損リスク低減 顔の輪郭の変化 咬筋のボリューム減少によるエラ張りの改善。フェイスラインのすっきり感 効果の持続 効果は通常3~6カ月持続。時間経過とともに徐々に元の状態へ戻る。定期的な再注射で効果維持 治療の特徴 治療時間は短く、ダウンタイムほとんどなし。個人差あり 顎関節症や歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠中の強い食いしばりや日中の無意識な筋緊張によって、顎やこめかみの違和感、咬筋の発達、歯のすり減りなどを引き起こす症状です。 これらに対して医療ボトックスを用いることで、噛む筋肉である咬筋の過剰な収縮を一時的に抑え、食いしばりや歯ぎしりの頻度や強さを軽減できます。 咬筋の緊張が緩和されることで、顎の違和感や開口障害が改善し、歯や関節への負担も軽減します。効果は3~6カ月程度持続し、筋緊張の軽減によりフェイスラインがすっきりする場合もあります。 治療を受ける際は、目的や副作用を十分に理解し、医師と相談しながら進めることが重要です。 医療ボトックスを打ち続けるとどうなる? 打ち続けると起こりうるリスク 詳細 効果の変化と抗体形成のリスク 抗体の産生により薬剤が効きにくくなる可能性 表情の変化や筋力低下の可能性 周囲の筋肉への影響による違和感や動きの制限 効果の減弱と元の状態への回帰 薬の効果が切れることで症状が再発する可能性 副作用のリスク 内出血・違和感・頭痛・倦怠感などが現れる可能性 医療ボトックスは効果の持続期間が限られているため、症状のコントロールには定期的な注射が必要です。ただし、長期間の治療に対して効果が薄れたり副作用が蓄積されたりすることに不安を感じる方も少なくありません。 実際には、ボトックスは時間とともに体外に排出されるため、成分が身体に蓄積することはありません。ただし、稀に抗体による効果の減弱、または表情の変化・筋力低下などの副作用が起こる可能性があります。そのため、治療は医師と相談の上、適切な間隔と投与量で行うことが求められます。 効果の変化と抗体形成のリスク 医療ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることで、しわやエラ張り、食いしばりなどの改善に用いられます。効果は通常3〜6カ月持続し、薬剤が分解されると徐々に筋肉の動きが戻るのが特徴です。継続的に適切な間隔(目安は3カ月以上)で治療を受けることで、効果が期待できます。筋肉が萎縮することで1回ごとの効果が長く続く場合もあります。 短期間に頻繁な注射を繰り返すと、ボトックスに対する抗体ができて効果が弱まるため、自己判断で注射の間隔を詰めるのは避け、必ず医師の指示に従うことが大切です。また、効果の変化には筋肉の状態や生活習慣も関係するため、定期的に診察を受け、治療間隔や投与量を調整しながら無理のない継続治療を行いましょう。 表情の変化や筋力低下の可能性 ボトックスは、筋肉の動きを一時的に抑えることでしわやたるみを改善しますが、同じ部位に繰り返し注射を行うと、表情筋の動きが制限されやすくなります。笑顔が不自然に見えたり、表情が乏しく感じられたりするのは、筋肉が長期間動かないことで徐々に萎縮し、筋力が落ちるためです。 また、咬筋などの大きな筋肉に繰り返し注射をすると、フェイスラインがすっきりする一方で、噛む力が弱くなるといった筋力低下も起こる可能性があります。額や目元などの部位では、表情のバリエーションが減ることもあります。 ボトックスの効果は3~6カ月程度持続し、回数を重ねることで効果が長く続く傾向がありますが、治療の頻度が高すぎると、副作用や表情の不自然さが目立ちやすくなります。そのため、3〜4カ月以上の間隔を空けることが、自然な表情と筋力を保つためには、重要です。 無理に回数を増やすのではなく、医師と相談の上、適切な量とタイミングで治療を継続することが、健康的で自然な仕上がりを保つポイントです。 効果の減弱と元の状態への回帰 医療ボトックスの効果は通常3〜4カ月程度持続し、時間とともに徐々に消失します。治療を中止すると、抑えられていた筋肉の活動が回復し、もともとの症状が元に戻る可能性があります。 たとえば、痙縮やけいれん、多汗症、食いしばり・歯ぎしりなどが再び現れることがあります。これは、薬の効果が切れて神経と筋肉の伝達が元に戻るためです。中には、再開後すぐに十分な効果が得られにくいケースもありますが、多くは再投与によって症状が再び緩和されます。 一方で、治療を中断しても症状が軽度のまま維持される場合もあるため、無理に継続せず一度経過を観察する選択も可能です。症状の戻り方には個人差があるため、医師と相談しながら、症状の経過に応じて柔軟に治療方針を決めていくことが大切です。 副作用のリスク 副作用の種類 内容と注意点 注射部位の腫れ・内出血・むくみ 針を刺すことで一時的に現れる反応。通常は数日〜1週間で自然に消失 アレルギー反応 発疹、赤み、かゆみ、息苦しさなど。ごく稀に発症し、早めの医師相談が必要 表情の違和感・筋力低下 筋肉の動きが抑制されることで起こる違和感や噛む力の低下。過剰投与でリスク増加 左右差や皮膚のたるみ 筋肉の使い方の偏りや注射の入り方による影響。個人差あり 頭痛・めまい・吐き気 一部の方に起こる全身症状。多くは軽度かつ一時的 嚥下障害・呼吸困難 首や咽頭周囲への注射、大量投与でごく稀に報告される重篤な副作用 医療ボトックスには、副作用のリスクがあります。注射部位に腫れや内出血、赤み、軽い違和感が出ることがありますが、これらは一時的で自然におさまることがほとんどです。まれに、隣接する筋肉に薬剤が拡がることで、意図しない筋力低下や表情の変化が起こることもあります。 また、ボトックスに対してアレルギー反応を示す人もごく少数ながら存在し、息苦しさや発疹などが現れる場合もあります。副作用の有無や治療前後の体調変化に気づいた際は、速やかに医療機関へ相談することが大切です。 医療ボトックスをやめるとどうなる? やめると起こりうる症状 詳細 もとに戻る可能性がある 抑えられていた症状の再発 見た目の変化に対する違和感 シワや輪郭の戻りによる印象の変化 筋肉の活動が再開する けいれんや緊張など筋肉の動きの再出現 医療ボトックスを中止すると、薬の効果が切れるのに伴い、神経と筋肉の伝達が徐々に元の状態へ戻ります。その結果、けいれんや痙縮、過度な発汗、歯ぎしりなど、これまで抑えられていた症状が再発する可能性があります。 ただし、症状が悪化するというよりは、治療前の状態に戻ると考えるのが一般的です。症状の戻り方や強さには個人差があり、すぐに再発する場合もあれば、一定期間は落ち着いた状態が続くこともあります。また、長期間治療を継続していた方ほど、効果が切れた際に見た目や感覚の変化に強い違和感を感じることがあります。 治療を継続するか中止するかは、症状の経過や日常生活への影響を踏まえ、医師と相談しながら柔軟に判断することが大切です。 もとに戻る可能性がある ボトックスは、筋肉にA型ボツリヌストキシンを注射し、神経と筋肉の伝達を一時的に遮断することで、筋肉の動きを抑え、しわ・エラ張り・食いしばりなどの症状を軽減する治療です。 ただし、効果は一時的で、通常3〜6カ月程度で薬剤が分解され、神経伝達が回復します。すると筋肉が再び動き始め、治療前の状態に戻る可能性が高くなります。 元に戻る現象は、ボトックスが筋肉を破壊するのではなく、動きを一時的に抑える仕組みであるためです。たとえばエラボトックスを中止すると、咬筋が再び発達し、エラ張りや食いしばりが戻ることがあります。治療を中止しても症状が悪化したり、老化が進むことはありません。 また、長期間(数年〜十数年)ボトックスを継続したごく一部のケースでは、筋肉の動きが弱まる廃用性萎縮に似た状態が起こることがありますが、非常に稀です。多くの場合は中止により自然回復します。継続治療を希望する場合は、症状や目的に応じて医師と相談し、適切なタイミングと頻度での治療が推奨されます。 見た目の変化に対する違和感 医療ボトックスの効果は3〜6カ月ほどで徐々に消失し、筋肉の動きが元に戻ります。それに伴い、しわやエラの張り、フェイスラインなどが治療前の状態に近づいていきます。 これはボトックスの効果が自然に切れた結果であり、異常ではありません。治療中の若々しく整った見た目に慣れていると、効果が切れて元の状態に戻ったときに老けた印象や疲れた印象を受けやすくなります。見た目が悪化したわけではなく、治療前の状態に戻っただけです。 また、長期間ボトックスを続けていた場合は、筋肉の動きが抑えられていた分、効果が切れたときに違和感を強く感じやすくなります。こうした見た目の変化は副作用ではなく、心理的なギャップによるものです。治療を中止する際は、あらかじめ医師と相談し、必要に応じて他の治療を検討することで、違和感を抑えながら自然な変化に対応できます。 筋肉の活動が再開する 医療ボトックスの効果は一時的で、3〜6カ月ほどで神経と筋肉のつながりが回復し、抑えられていた筋肉の活動が再開します。これは、神経から筋肉への信号をブロックするボトックスの作用が切れ、神経枝が再生するためです。 筋肉の動きが戻ると、けいれんや痙縮、歯ぎしりなどの症状が再び現れることがありますが、これは自然な反応であり異常ではありません。もともと症状が強かった人では、変化に違和感や不安を覚えることもあります。 ボトックスは筋肉を壊す薬ではないため、基本的に機能は元に戻ります。ただし、長期間にわたる連続使用では、まれに筋肉が使われにくくなり、萎縮が見られることもあります。再治療が必要かどうかは、症状や生活への影響を見ながら判断し、医師と相談の上で治療方針を決めることが大切です。 医療ボトックスの副作用 副作用 詳細 局所的な副作用 注射部位の腫れ・赤み・内出血・違和感など 筋力低下や動作の制限 力が入りにくい・動かしづらい感覚の一時的出現 全身的な副作用 頭痛・倦怠感・吐き気・まれにアレルギー反応など 医療ボトックスは高い治療効果が期待できる一方で、副作用の可能性もあります。多くは軽度かつ一時的なもので、注射部位の腫れ、赤み、内出血、違和感などが見られますが、通常は数日以内に自然に改善します。 注射する部位や筋肉の範囲によっては、表情が不自然に感じられたり、噛みにくさ、飲み込みにくさが出ることもあります。さらに、非常にまれではありますが、アレルギー反応、全身のだるさ、頭痛、吐き気などが起こるケースもあるため注意が必要です。これらの症状が現れた場合は、早めに医師へ相談することで適切に対応できます。 また、以下のような方にはボトックス治療は推奨されません。(文献1) 神経筋接合部の障害(例:重症筋無力症)を持つ方 妊娠中または授乳中の女性(影響が十分に明らかになっていないため) 副作用への理解を深め、体調や持病に応じて医師と十分に相談しながら治療を進めることが、医療ボトックスの活用につながります。 局所的な副作用 副作用の種類 主な原因 詳細 腫れ・内出血 注射針の刺激・血管損傷・身体の反応 注射時の物理的刺激による反応。多くは軽度で数日以内に自然に消退する 刺激・違和感 皮膚や筋肉への刺激・注入圧 注射直後に生じやすい一時的な感覚。数時間から数日で改善 赤み・かゆみ・発疹 アレルギー反応や炎症反応 ごく稀に発生する。軽度で短期間の経過が多い 副作用の対策 技術・衛生管理・事前の体調確認 適切な治療とリスク管理で副作用の頻度や重症化を最小限に抑えることが可能 医療ボトックスの局所的な副作用は、注射による物理的な刺激や体の自然な防御反応が原因で起こることがほとんどです。腫れ、内出血、違和感などは一時的な症状であり、通常は数日以内に自然に治まります。まれにかゆみや発疹、赤みが見られることもありますが、これらも軽度で、アレルギー反応としてはごく稀なケースです。 副作用を最小限に抑えるには、施術者の技術や衛生管理、アレルギー歴の確認が不可欠です。副作用が長引く場合や不安を感じた際は、早めに医師へ相談することが重要です。 筋力低下や動作の制限 ボトックスによる筋力低下や動作の制限は、神経から筋肉への信号が一時的に遮断されることで起こります。これは、しわを目立たなくするために筋肉の動きを抑える作用によるものです。 その結果、注射部位の筋肉に力が入りにくくなることがあります。ただし、これらの反応は一時的であり、時間の経過とともに自然に回復します。 これらは薬の効果が持続する2~4カ月間の一時的な変化です。ただし、左右差や違和感が強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 全身的な副作用 副作用の種類 原因・仕組み 特徴・注意点 頭痛 神経伝達の変化・炎症反応・筋緊張バランスの乱れ 多くは軽度で一時的。数日以内に自然に軽快 アレルギー反応 ボツリヌストキシンや添加物への免疫反応 発疹、かゆみ、腫れ。稀にアナフィラキシーなどの重篤反応 呼吸困難・嚥下困難 薬剤の過量・全身への広がり・基礎疾患の影響 重症筋無力症や呼吸器疾患のある方はとくに注意。異常を感じたら早期受診が必要 倦怠感・だるさ 神経や筋肉への作用による一時的な全身的影響 軽度で自然に回復することが多い 心臓への影響 ごく稀に報告される自律神経系や循環器系への影響 不整脈や心不全の既往がある方は慎重な判断が必要 医療ボトックスは主に局所に作用する治療ですが、ごく稀に全身的な副作用が現れることがあります。頭痛や倦怠感は比較的よく見られますが、多くは軽度で数日以内に自然に改善します。 稀にアレルギー反応として発疹やかゆみが出ることがあり、重症の場合はアナフィラキシーを起こす可能性もあるため注意が必要です。また、薬剤が広がることで呼吸や嚥下に関わる筋肉に作用し、呼吸困難や全身の筋力低下を引き起こすことがあります。 とくに、神経筋疾患や呼吸器疾患のある方には慎重な対応が求められます。症状が強く現れたり長引いたりする場合は、速やかに医師へ相談してください。 医療ボトックスの治療期間 項目 内容 効果発現時期 注射後2週間ほどで効果出現。1〜2カ月目にピーク 効果持続期間 通常3〜4カ月持続。その後徐々に消失 治療間隔・頻度 3〜4カ月ごとに年数回の注射が一般的 抗体形成リスク 過度な頻度での投与は抗体形成による効果減弱リスク増加 治療の目的 一時的な症状改善。根本治癒目的ではない 治療計画の調整 症状や目的、個人差に応じて調整。医師との継続的な相談が不可欠 (文献2) 医療ボトックスの効果は、注射後2週間ほどで現れ始め、1〜2カ月目に効果のピークを迎えます。効果は通常3〜4カ月持続し、その後徐々に消失します。症状の改善を継続したい場合は、3〜4カ月ごとに年数回の注射を繰り返すことが一般的です。ボトックスはあくまで一時的な治療であり、根本治癒を目的とするものではありません。効果を持続させるには、長期的な治療と定期的な経過観察が必要です。 治療間隔や期間は、症状や目的、個人差に応じて調整されます。無理のない治療計画を立てるためにも、医師との継続的な相談が重要です。 医療ボトックスで改善しない症状に再生医療という新たな選択肢 医療ボトックスは多くの神経筋疾患や過活動による症状に対して効果が期待できますが、すべての症状に適応するわけではありません。 たとえば、筋肉の損傷が進んでいる場合や、神経に重度の障害がある場合には、ボトックス単独では十分な改善が得られないことがあります。こうしたケースで注目されているのが再生医療です。 再生医療は、自己の幹細胞などを用いて損傷した組織や神経の修復を目指す治療法です。ボトックスでは改善が難しい症状に対して、新たな選択肢として注目されています。ただし、すべての症状が再生医療で改善するわけではなく、治療の適応や効果は症状によって異なります。 医療ボトックスに関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、医療ボトックスに関するご相談に対応しており、症状やご希望に応じて再生医療のご提案も可能です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 医療ボトックスに関するよくある相談 医療ボトックスに関しての相談はどの診療科へするべきでしょうか? 医療ボトックスは、適応となる症状や疾患によって相談先の診療科が異なります。対応する診療科は以下を参考に受診ください。 主な症状・疾患 対応する診療科 顔面けいれん・眼瞼けいれん 神経内科、脳神経外科 手足の痙縮(脳卒中後など) リハビリテーション科、整形外科 多汗症(腋窩・手のひら・足の裏など) 皮膚科、形成外科、耳鼻咽喉科 咬筋の緊張・食いしばり・歯ぎしり 歯科口腔外科、矯正歯科 美容目的(表情じわ、エラ張りなど) 美容皮膚科、美容外科 ボトックス治療を実施しているかどうかは医療機関によって異なるため、事前にホームページや電話で確認するとスムーズです。 医療ボトックスの治療を受ける前に確認すべきポイントはありますか? 医療ボトックスの治療を受ける前に以下の7点をしっかり確認しましょう。 確認項目 内容 1.信頼できる医療機関か 症例数、製剤の種類、衛生管理、アフターケア体制を確認する 2.カウンセリングの内容 希望や不安を伝え、リスクや副作用の説明をしっかり受ける 3.持病や服薬の申告 神経筋疾患、重い心疾患、肝障害がある場合は治療できないことがある 4.妊娠・授乳の有無 妊娠中・授乳中・妊娠希望の方は治療を避ける 5.当日の体調管理 発熱や不調がある日は治療を延期する 6.薬や飲酒の管理 飲酒は控える。抗凝固薬や一部の薬は事前に医師へ申告する 7.治療前の準備 顔のバランスや筋肉の状態を医師が確認してから注射を行う 上記以外にも不安な点がある場合は、医師に事前に相談することが大切です。 医療費控除は適用されますか? 医療ボトックスが医療費控除の対象となるかどうかは、治療目的か美容目的かによって判断されます。医療費控除の対象となるケースとしては、歯ぎしり、食いしばり、顎関節症、多汗症など、医師の診断に基づく治療目的のボトックスは、医療費控除の対象です。確定申告時に、診断書や治療内容が記載された領収書を提出することで、控除を受けられます。 一方、医療費控除の対象外となるケースは、小顔やしわ取り、ガミースマイル改善など、美容を目的とした治療は医療費控除の対象にはなりません。また、医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額(通常10万円)を超えた場合、その超過分が控除されます。 治療目的であることを証明できるよう、診断書や領収書は必ず保管しておきましょう。 参考資料 (文献1) アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス「医療用医薬品 : ボトックスビスタ」 KEGG データベース, 2025年3月 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00056431(最終アクセス:2025年06月16日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/(最終アクセス:2025年06月16日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「若くてもサルコペニアになるって本当?」と疑問をお持ちではないでしょうか。 サルコペニアは高齢者に多い疾患であり、若年層で発症するイメージが湧かない方も多いかもしれません。 サルコペニアは加齢とともに進行するケースが多いものの、20〜30代の若年層でも発症リスクがあります。 進行を防ぐには早めに気がつき、定期的な運動や食事の見直しなど適切な対策を取ることが大切です。 本記事では、若年層のサルコペニアにおける原因やチェック方法、予防策までをわかりやすく解説します。 「サルコペニアかもしれない」と気になる方は、本記事を参考に症状をチェックしてみてください。 若年層のサルコペニアの原因は「生活習慣」にある 前提として筋肉が減少する病気がない場合、若年層でサルコペニアを発症する原因の多くは、日々の生活習慣にあるとされています。 なかでも、次の2つはとくに注意すべきポイントです。 運動不足による筋力低下 筋肉をつくる栄養の不足 ぜひ、現在の生活習慣と照らし合わせて確認してみてください。 原因1. 運動不足による筋力低下 日常的に体を動かす機会が少ないと、筋肉量は徐々に減り、サルコペニアのリスクが高まります。とくに、日頃から運動習慣がない人は注意が必要です。 次のような生活に心当たりがある方は、日常に運動を取り入れてみてください。 休日は家でゆっくり過ごすことが多い 階段よりもエレベーターやエスカレーターを使いがち デスクワーク中心の仕事をしている サルコペニアの進行による歩行困難や寝たきりを防ぐためにも、まずは「体を動かす意識」から始めることが大切です。階段を使う、少し早歩きするなど、日常の中に取り入れやすい行動から始めてみてください。 原因2. 筋肉をつくる栄養の不足 日々の偏食により栄養が不足すると、筋力の低下が進みサルコペニアのリスクが高まります。 なかでも、筋肉の材料となるたんぱく質や、筋肉の合成を助けるビタミン類が不足すると、筋力維持が難しくなります。 筋力を維持するのに必要な栄養素と、それを多く含む食品類の一例は以下の通りです。(文献1)(文献2)(文献3) 栄養素 豊富に含まれる食品類の例 たんぱく質 卵類 肉類 豆類 ビタミンD 魚類 キノコ類 ビタミンB6 肉類 くだもの類 偏食や欠食が続いているのであれば、まずはこれらの食品を1日に1食以上取り入れることから始めてみてください。 若年層でもサルコペニアになりやすい人の特徴 若年層であっても、以下のような特徴がある人はサルコペニアになりやすい傾向があります。 過度な食事制限をしている人 座りっぱなしの生活をしている人 筋肉の少ない痩せ型の人 思い当たる項目があれば、本章を参考に生活習慣を見直してみましょう。 過度な食事制限をしている人 過度な食事制限による無理なダイエットは、脂肪と同時に筋肉も減らしてしまうリスクがあります。また、栄養不足によりサルコペニアのリスクを高めるおそれがあるため、注意が必要です。 とくに次のようなダイエット法はリスクが高いため、避けるようにしましょう。 単品ダイエット 誤った糖質制限ダイエット 絶食ダイエット 野菜や果物のみの食生活 ダイエットは、栄養バランスを意識しながら無理のない方法で行うことが大切です。不安がある場合は、専門家と相談しながら自分に合った健康的なダイエットプランを立ててみてください。 座りっぱなしの生活をしている人 長時間座りっぱなしでいると、下半身の筋肉が使われず、気づかないうちに筋力が低下してしまうことがあります。 デスクワーク中心の方や、長時間車の運転をする仕事に従事している方などはとくに注意が必要です。体を動かさない時間が長くなると筋力が衰えやすくなり、歩行困難や寝たきりの原因にもなりかねません。 こうしたリスクを防ぐためにも、長時間座り続けないようこまめに体を動かすことが大切です。「1時間に1回は立ち上がる」「階段を使用する」「短時間の散歩をする」など、日常の中で無理なくできる工夫を取り入れてみてください。 筋肉の少ない痩せ型の人 細身でも筋肉が少なく脂肪が多い「やせ型体型」の人は、サルコペニア肥満のリスクがあるため注意が必要です。 「サルコペニア肥満」とは、BMIが標準または低体重でありながら体脂肪率が高い状態を指し、見た目では判断が困難です。(文献4) 見た目は細くても、筋肉量と脂肪量のバランスによっては健康リスクが隠れている場合があります。「痩せているから肥満ではない」と決めつけず、体組成計を用いて筋肉量や脂肪量をチェックし、自分の体の状態を正しく把握するようにしましょう。 サルコペニア肥満については、以下の記事で詳しく紹介しています。 若年層のサルコペニアに見られる初期症状 若年層にも見られるサルコペニアの初期症状として、次のような症状があります。 ペットボトルの蓋が開けにくい 転びやすい ふくらはぎが細くなったと感じる 階段を登るのがつらい 手を使わないと立ち上がれない こうした兆候を見過ごしてしまうと、気づいたときにはサルコペニアが進行していることもあります。 そのため、初期のサインを見逃さないことが大切です。少しでも心当たりがある場合は、早めに専門医に相談してみましょう。 若年層のサルコペニアのセルフチェック方法 すぐに実践できるサルコペニアのセルフチェック方法には、以下の3つがあります。 指輪っかテスト 片足立ち 歩行速度 「サルコペニアかもしれない」と感じたら、ぜひ試してみてください。 指輪っかテスト 指輪っかテストとは、ふくらはぎの太さから筋肉量を測る方法です。以下の手順で行ってみてください。(文献5) 両手親指と人差し指で輪をつくる つくった輪で、利き足と反対側のふくらはぎの一番太い部分を囲む 判定の目安は以下のとおりです。 指とふくらはぎの間に大きな隙間がある場合:サルコペニアのリスクが高い 指が届かない、またはぴったりと囲める場合:リスクは比較的低い ただし、指輪っかテストは主に高齢者向けの簡易的なセルフチェック方法のため、若年層のサルコペニアリスクを正確に評価できるかは不明確な部分があります。気になる場合は、日頃の食事や運動習慣を見直すとともに、必要に応じて専門医に相談しましょう。 片足立ち 片足立ちできる時間の測定は、下半身の筋力やバランス能力を確認する方法です。サルコペニア専用の評価項目ではありませんが、自宅での簡単なセルフチェックに役立ちます。やり方は以下のとおりです。 両手を腰に当てる 片足立ちをして立っていられる時間をタイマーで測る 片足立ちが15秒未満しか保てない場合は、サルコペニアの可能性があるため注意が必要です。(文献6) また、片足立ちによるセルフチェックを行う場合は、転倒しないように壁や家具の近くで行うようにしましょう。 歩行速度 筋力が低下すると、普段の歩くスピードにも影響が出ることもあります。サルコペニアの進行により歩行速度が遅くなることは、よくある兆候のひとつです。 日常生活の中で歩行速度を確認する方法として「横断歩道を青信号のうちに渡り切れるか」を目安にするのも一つの手段です。 ただし、実際に試す場合は安全に配慮してください。 若年層のサルコペニアを予防する方法 若年層のサルコペニア予防には、次の2つの方法が効果的です。 筋力トレーニングを定期的に行う たんぱく質を積極的に摂る いずれも手軽に始められる方法なので、自分のペースで今日から少しずつ取り組んでみてください。 筋力トレーニングを定期的に行う 運動不足を自覚している場合は、まずは軽い筋力トレーニングから始めて、定期的に続けてみましょう。 若年層が手軽に始められる筋トレの一例は、以下のとおりです。 スクワット プランク ウォーキング 階段の利用 これらは自宅や日常生活の中で取り入れやすく、続けると筋力維持やサルコペニア予防につながります。運動のハードルを上げすぎず、自分のペースで少しずつ習慣化することを心がけてみてください。 また、サルコペニア予防に効果的な筋力トレーニングは以下の記事にて詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。 たんぱく質を積極的に摂る サルコペニアの前兆があり、栄養不足を自覚している方は「たんぱく質」を十分に摂るよう意識しましょう。 いくら運動をしても、筋肉の材料となるたんぱく質が不足すると、筋肉はなかなかつきません。一方で、たんぱく質を十分に摂取できれば筋肉は効率よくつくられ、サルコペニアの予防にもつながります。 手軽に取り入れやすいたんぱく質が豊富な食材には、以下のようなものがあります。(文献7) 豚肉 卵 鮭 ほたて貝 また、食事から十分にたんぱく質を摂れない場合、プロテインやサプリメントを活用するのもひとつの方法です。日頃からたんぱく質を取り入れた栄養バランスの良い食事を心がけ、サルコペニアの予防に取り組んでみてください。 若年層のサルコペニアは早めの対策で進行を防ごう 本記事で解説したとおり、サルコペニアは若年層でも起こり得る病気です。とくに運動不足・栄養不足など生活習慣が引き金となりサルコペニアのリスクもあります。 早期発見と適切な対策により進行を防ぐことができます。本記事を参考にセルフチェックを行い、生活習慣を見直して若年からサルコペニアの予防に取り組んでみてください。 筋力の低下が進むと、膝や腰などの関節に負担がかかりやすくなり、痛みや動きにくさなど別の症状が生じることもあります。 こうした症状がある場合は、早めに専門医へ相談し、適切な処置を受けることが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや関節の不調に対する再生医療を行っております。現在、メールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受け付け中です。一人で悩まず、気になる方は当院までお気軽にご相談ください。 若年層のサルコペニアに関してよくある質問 病院ではどんな治療をしますか? サルコペニアの治療は、主に「運動療法」と「栄養療法」が有用であるとされており、病院でもこの2つが中心に行われます。(文献4)特効薬は存在しないため、根本的な生活習慣の改善が治療の基本です。 具体的には、専門家のもとで以下のような治療が行われる場合がほとんどです。 治療の種類 治療内容の例 運動療法 治療可能か確認したのち、長期間かけて筋力トレーニングを行う 栄養療法 管理栄養士が個別に栄養指導を行う より詳しい治療については、以下の記事にて解説しています。気になる方は、合わせて参考にしてください。 サルコペニアは何歳から進行しますか? サルコペニアは、30代頃から徐々に進行するリスクがあると言われています。実際に、骨格筋量は30代から毎年1〜2%ずつ減少するとの報告もあるため、若年層でも発症する可能性は否定できません。(文献8) 目立った症状がなくても、日頃から意識的に筋力を維持する食事や運動を心がけ、サルコペニアの予防に取り組んでいきましょう。 参考文献 文献1 厚生労働省 「たんぱく質」e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-044.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献2 厚生労働省 「ビタミンD」eJIM(イージム) https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献3 厚生労働省「ビタミンB6」eJIM(イージム) https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/08.html (最終アクセス:2025年6月17日) 文献4 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」2020年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b (最終アクセス:2025年6月17日) 文献5 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 分担研究報告書「新規考案した3種類の簡易スクリーニング法(指輪っかテスト・ピンチカ・第1-2 指間厚) における筋肉減弱症(サルコペニア)を視野に入れた臨床的有用性の検討 ~継続性の高いコミュニティー健康活動を目指して~」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123011/201217016A/201217016A0006.pdf (最終アクセス:2025年6月17日) 文献6 日本整形外科学会「運動器不安定症」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html (最終アクセス:2025年6月20日) 文献7 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂) 増補2023年」2023年 https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf (最終アクセス:2025年6月17日) 文献8 荒井 秀典.「サルコペニアの科学と臨床 1)サルコペニア診療ガイドライン」『日本内科学会雑誌』107(9), p1697-p.1701, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/9/107_1697/_pdf (最終アクセス:2025年6月17日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「最近つまずきやすくなった」「階段の上り下りがつらい」といった症状で悩んでいませんか。 それは、加齢による筋力の低下からくる「サルコペニア」の初期サインかもしれません。進行すると筋肉がさらに衰え、歩行や立ち上がりなど日常生活に支障をきたすこともあります。 サルコペニアを防ぐには、筋力トレーニングが効果的です。筋肉を定期的に動かすことで進行を抑えられ、結果として健康寿命を延ばすことにもつながります。 この記事では、サルコペニア予防におすすめの筋力トレーニングや注意点、日常生活でできる工夫について解説します。 今日から筋力トレーニングを始め、サルコペニア予防に取り組んでみてください。 サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニング4選 サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニングを4つご紹介します。 椅子スクワット つま先立ち運動 膝の曲げ伸ばし運動 背筋トレーニング 本章を参考に、無理のない範囲で今日からチャレンジしてみてください。 椅子スクワット 椅子スクワットは、下半身を鍛えたいものの、転倒に不安のある方におすすめのトレーニングです。以下の方法を参考に実践してみましょう。 足を肩幅に開いて立ち、椅子の背もたれを両手でつかむ ゆっくりと膝を落とし、しゃがむ 数秒キープしたら、元の立位の姿勢に戻る 数回繰り返す 下半身の筋力低下が気になる方は、ぜひ取り入れてみてください。 つま先立ち運動 つま先立ち運動(ヒールレイズ)は、ふくらはぎの筋肉を鍛えるのに効果的なトレーニングです。以下のステップで行ってみてください。 足を肩幅に開いて立つ 立った状態でかかとを上げる かかとをゆっくりと床に降ろす 1〜3.を10回程度繰り返す 慣れてきたら、片足で行うとさらに効果的です。転倒が心配な方は、壁や椅子の背もたれ、手すりなどに手を添えて行いましょう。 膝の曲げ伸ばし 椅子に座ったまま行える膝の曲げ伸ばし運動です。下半身の筋力を鍛え、膝関節の柔軟性を保つのに効果的です。以下のステップで行ってみましょう。 背筋を伸ばした状態で、椅子に浅く座る 片足の膝をゆっくりと伸ばし、足を前方に上げる 膝が伸びた状態で数秒キープする ゆっくりと膝を曲げらがら足を床に降ろす 反対側の足も同様に、左右交互に10回ずつ行う 長時間のデスクワークの合間や、自宅でテレビを見ているときなど、スキマ時間に始められます。こまめに続けることでより効果が期待できるため、ぜひ今日から取り入れてみてください。 背筋トレーニング サルコペニアを予防するには、背筋を鍛えることも大切です。 タオルを使って自宅で手軽に行える背筋トレーニングをご紹介します。以下の手順で、背筋トレーニングを行ってみましょう。 タオルの両端を持ち、ピンと張る 腕を肩より少し高く上げ、タオルを外側に引っ張るように力を入れる 肘を曲げながら、肩甲骨を寄せるように意識して、腕をゆっくり下ろす 肘を伸ばして再び腕を上げ、2.の姿勢に戻る 2.~4.を10回程度行う 背中の筋肉が衰えてしまうと、姿勢が崩れ、サルコペニアの悪化にもつながってしまいます。(文献1)正しい姿勢を維持するためにも、背筋のトレーニングを日常的に取り入れていきましょう。 サルコペニアに筋力トレーニングが効果的な理由 サルコペニアとは、加齢や生活習慣の影響で体を動かす筋肉量や力が減少する状態です。進行すると筋力の低下により、歩行困難や寝たきりになるリスクも高まります。 サルコペニアの予防には、骨格筋のトレーニングが効果的です。 筋力トレーニングは特別な器具がなくても自宅で行えるものが多く、誰でも今日から始められます。 継続すると、健康寿命を延ばすことにもつながるため、ぜひ日常生活に取り入れてみてください。 さらに筋トレは、サルコペニアだけではなく、将来的なフレイルやロコモティブシンドロームの予防にも有効です。これらの違いや特徴について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。 サルコペニア予防で筋トレをするときの注意点 筋トレをする際には、以下の3つの点に注意が必要です。 こまめに休憩をはさむ 呼吸を止めない 週2~3回ほど定期的に行う トレーニングを始める前に本章の注意点を意識し、無理のない範囲で運動を続けましょう。 こまめに休憩をはさむ 長時間連続で筋力トレーニングをせず、途中でこまめに休憩をはさむことが大切です。疲労や関節への負担を防ぐためにも、体調に合わせてペースを調整しながら取り組みましょう。 たとえば、「20分運動して5分休む」といったリズムがひとつの例です。 運動の強度やその日の体調に応じて、無理のない範囲で柔軟に休憩を取り入れてみてください。 呼吸を止めない 筋トレ中は力む際に息を止めがちですが、常に自然なリズムで呼吸するように意識しましょう。 呼吸を止めて力んでしまうと酸素が不足し、血圧の急上昇や頭痛・吐き気など体調不良を引き起こすおそれがあります。(文献2) 筋トレ中の正しい呼吸法は以下のとおりです。 タイミング 呼吸 力を入れるとき 息を吐く 力を抜くとき 息を吸う このリズムを意識すると、筋トレ中の体への負担を軽減できます。筋トレを行う際は、意識してみてください。 なお、「筋トレ頭痛」の対策方法については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は、あわせてご覧ください。 週2~3回ほど定期的に行う サルコペニアを予防するには、週に2〜3回のペースで筋トレを継続することが効果的です。 筋肉は一度きりの運動では鍛えられません。こまめに運動を重ねることで筋肉に刺激を与えられます。 また、厚労省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」では、成人・高齢者のどちらにも週2〜3回の筋トレを推奨しています。(文献3) 定期的な筋トレは、サルコペニアに加え、座りっぱなしによる代謝低下や筋力低下、糖尿病や高血圧などの合併予防にも効果的です。 忙しい方も1日15〜20分のスキマ時間から始めて、生活の一部に筋トレを取り入れてみてください。 【日常的にできる】筋トレ以外のサルコペニア予防法 忙しくて筋トレの時間が取れない人の場合、日常生活の中に「ながら運動」を取り入れましょう。 サルコペニアを予防するには、時間がなくても、普段から少しずつ体を動かすことが大切です。 活動量が増えることで筋肉に刺激を与えられるため、筋力の低下を防ぐ効果が期待できます。 以下を参考に、毎日の生活に取り入れやすい工夫を実践してみましょう。 エスカレーターやエレベーターではなく、階段を使う 通勤や買い物の際に、敢えて遠回りして歩く いつもより少し早歩きをする これらを意識するだけでも、筋肉を鍛えられ、サルコペニアの予防につながります。 サルコペニア予防には筋力トレーニングを取り入れよう サルコペニアとは、加齢や生活習慣により筋力が低下する状態です。 放置すると、将来的に歩行困難や寝たきりのリスクがあります。 こまめに筋力トレーニングを行うことで筋肉が鍛えられ、サルコペニアの予防につながります。 本記事を参考に、今日からできる運動を実践してみてください。 なお、筋力の衰えが不安な方や、より専門的なケアを希望する方は、専門家に相談するのも一つの選択肢です。 当院「リペアセルクリニック」では、人体に備わる幹細胞を活用した再生医療を提供しています。今なら「メール」または「オンラインカウンセリング」にて無料相談を受け付け中です。 「加齢による体の変化が気になる」「将来に向けて病気予防を始めたい」と感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。 サルコペニアに関する質問 サルコペニアを防ぐ食事は? サルコペニア予防には日頃から栄養バランスの良い食事を意識することが大切です。中でも、筋肉の材料となる「たんぱく質」は意識的に摂取するようにしましょう。 たんぱく質を多く含む食品には、次のようなものがあります。(文献4) 豚肉 牛乳 卵 豆類 さけ・ます類 体重1kgあたり1g/日以上のたんぱく質の摂取が、サルコペニアの予防に効果的であるとされています。たとえば体重60kgの人の場合、1日あたり約60gのたんぱく質の摂取が必要です。(文献5) まずは、こうした食材を毎食の中に1品でも取り入れることから始めてみましょう。 サルコペニアの判断方法は? サルコペニアは「指輪っかテスト」でセルフチェックが可能です。両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。(文献6) その際、指の輪とふくらはぎの間に隙間ができる場合は、サルコペニアのおそれがあります。 ただし「指輪っかテスト」はあくまで目安です。セルフチェックで不安がある場合は、医療機関にて詳しい検査を受けましょう。 参考文献一覧 文献1 厚生労働省 「サルコぺニア」 e‑ヘルスネット, 最終更新日:2024年1月30日 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/exercise/ys-087.html (最終アクセス:2025年6月15日) 文献2 久米 大祐ほか.「間欠的な息止めが運動時の生理応答に及ぼす影響」『体力科学』60(6), pp.641-647, 2011年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/60/6/60_6_641/_pdf (最終アクセス:2025年06月17日) 文献3 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」令和6年1月 https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf (最終アクセス:2025年06月15日) 文献4文部科学省「日本食品標準成分表(八訂) 増補2023年」2023年 https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf (最終アクセス:2025年06月15日) 文献5 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」2020年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b (最終アクセス:2025年6月17日) 文献6 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 分担研究報告書「新規考案した3種類の簡易スクリーニング法(指輪っかテスト・ピンチカ・第1-2 指間厚) における筋肉減弱症(サルコペニア)を視野に入れた臨床的有用性の検討 ~継続性の高いコミュニティー健康活動を目指して~」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123011/201217016A/201217016A0006.pdf (最終アクセス:2025年6月15日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「サルコペニアの治療は何をすればいいの?」「普段から意識すべきことはある?」と疑問をお持ちではないでしょうか。 病院でサルコペニアと診断されたものの、実際どのような治療をするのかイメージが湧かない方も多いかもしれません。 サルコペニアの治療は「運動」と「栄養」を中心に行います。サルコペニアが進行すると転倒や寝たきりの原因になるため、早期に治療を開始することが大切です。 この記事では、現役医師の見解をもとに、サルコペニアの治療法や受診すべき病院、治療薬の現状までわかりやすく解説します。 できることから一歩ずつ行い、将来の健康を守っていきましょう。 サルコペニアの治療法 サルコペニアの治療は、運動と栄養の2本柱で進めていきます。 筋力トレーニングやウォーキングなどの運動 たんぱく質やビタミンなどの栄養素を摂取 今の生活に取り入れられることがないか、ぜひチェックしてみてください。 また、サルコペニア自体についてや要介護や寝たきりを防ぐ生活については、こちらの記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 【関連記事】 要介護や寝たきりを避ける!元気で自立した生活を送るため大切になこと フレイルサルコペニアとは|ロコモとの違いや症状・予防法を医師が解説 運動治療|筋肉の量や機能を維持 サルコペニアの改善において、運動は大切な要素のひとつです。 なかでもよく行われているのが、レジスタンス運動と有酸素運動の組み合わせです。 これらを正しく取り入れることで、筋肉量や身体機能の維持・向上が期待できます。 日常生活に取り入れやすい運動から始める レジスタンス運動は、筋肉に抵抗をかけて鍛えるトレーニング、いわゆる「筋トレ」です。 スクワットや足の上げ下げ、かかと上げなどが代表的で、週2〜3回の頻度で行うと、筋力を保ちやすくなります。(文献1) 一方、有酸素運動は、ウォーキングや軽いジョギングなど、呼吸を意識しながら一定時間続ける運動です。 血流や代謝を促し、筋力だけでなく持久力や全身の機能向上にもつながります。(文献2) どちらも特別な器具や施設がなくても日常生活の中に取り入れやすい点が特徴です。 まずはウォーキングや軽いジョギングなどからスタートし、慣れてきたら筋トレを加えていきましょう。 筋肉の衰えを防ぐ生活習慣・運動については、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。 【関連記事】 介護のリスク!筋肉の衰えが心配な高齢者へ、必要な生活習慣とは サルコペニアの予防に効果的な筋力トレーニング一覧|やり方や注意点を医師が解説 理学療法士の指導の下運動する 運動に不安をもつ方や持病がある方は、理学療法士や医師と相談しながら運動を取り入れましょう。 自己流での運動はケガや悪化の原因になることもあります。 理学療法士や医師の指導のもとで、体の状態に合わせたプログラムを組んでもらうと、より効果的に続けられます。(文献1) 運動を治療として継続していくには、無理なく続けられる環境やサポート体制も大切です。 「自分の状態で何から始めれば良いかわからない」という方こそ、医療機関で相談してみると良いでしょう。 栄養療法|筋力強化を目指す 筋肉を保つには、以下の点を意識しながら必要な栄養をしっかりとることが大切です。 バランスの良い食事とたんぱく質摂取を意識する サプリメントや栄養補助食品も選択肢のひとつ 日々の食事で足りているか、振り返ってみましょう。 バランスの良い食事とたんぱく質摂取を意識する 筋肉の材料となるたんぱく質は、年齢とともに必要量が増えると言われています。 目安は、体重1kgあたり1.0g/日以上です。(文献1) 肉・魚・卵・大豆製品などを1日3食にバランスよく取り入れるよう意識しましょう。 また、ビタミンB群はエネルギー代謝や神経の働きを助け、ビタミンCは膝まわりの筋力や身体機能と関わるという報告があります。(文献3) さらにビタミンDには、筋肉の減少を防ぐはたらきもあるとされています。(文献4) 特定の食品や栄養素にかたよるのではなく、いろいろな食材を組み合わせて、バランスよく食べることが大切です。 食欲がわかないときでも、白ごはんにお味噌汁を添えたり、ヨーグルトを1品足したりして、少しでも品数を増やす工夫をしてみましょう。 サプリメントや栄養補助食品も選択肢のひとつ 「食事だけでは必要な栄養がとれていないかも」と感じるときは、サプリメントや栄養補助食品を使う方法もあります。 実際に、高齢女性を対象とした研究では、アミノ酸のサプリと運動を組み合わせることで、筋力や歩行スピードが改善したとの報告もあります。(文献5) 食事だけで無理なく補えるのが理想ですが、不足を感じるときは、医師や専門家と相談しながら取り入れてみましょう。 サルコペニアの治療薬について 現在のところ、サルコペニアに対して正式に承認された治療薬はありません。 サルコペニアは、2016年にようやく疾患として認められた比較的新しい概念です。 薬の研究や開発は進められているものの、実際に広く使える薬はまだ存在していないのが現状です。(文献6)(文献7) よって、今できるサルコペニア対策として、運動や食事の見直しが大切です。 「薬がないなら何もできない」と思わず、今取り組めることをひとつずつ実践していきましょう。 サルコペニアの治療で受診すべき医療機関 サルコペニアは、以下のような適切な医療機関での相談が大切です。 整形外科・老年科 専門外来 かかりつけ医 自分に合った受診先を確認しておきましょう。 整形外科や老年科 筋肉や骨、関節の不調があるときは、まず整形外科を受診します。 高齢者特有の体調変化が気になる場合は、老年科(老年内科)でも相談できます。(文献8) 「運動機能に不安がある」「筋力の衰えを指摘された」と感じたら、整形外科や老年科で評価を受けてみると今の状態がよりはっきりとわかるでしょう。 サルコペニア外来や長寿サポート外来などの専門外来 病院によっては、サルコペニアやフレイルに特化した外来を設けているところもあります。 これらの専門外来では、医師だけでなく理学療法士や栄養士などがチームとなって治療をサポートしています。 「専門的に診てもらいたい」「生活全体を見直したい」という方は、こうした専門外来のある病院を選ぶのも一つの選択肢です。 かかりつけ医 サルコペニアの疑いがあっても何科を受診すべきか悩んでいる場合、まずは身近なかかりつけ医に相談するのも良いでしょう。 かかりつけ医は、普段の健康状態をよく知っている存在です。 必要に応じて、整形外科や老年科、リハビリテーション科など、専門的な評価や治療ができる医療機関を紹介してもらうことも可能です。 受診するか迷っている段階でも、一人で抱え込まず、かかりつけ医に相談してみましょう。 サルコペニアの治療は早期対応が大切 「年のせいかも」と思って見過ごしてしまう方が少なくありませんが、サルコペニアは放っておくと徐々に進行し、転倒や骨折、寝たきりのリスクを高めてしまいます。 少しの運動でも疲れやすい、ふくらはぎが細くなってきたなどの変化を感じたら、早めに医療機関で相談しましょう。 日常生活に支障が出てからでは、回復に時間がかかることもあります。「まだ大丈夫」と思えるうちにこそ、治療や予防を始めるタイミングです。 筋力の衰えが気になる方は、リペアセルクリニックの「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご活用いただけます。 まずはお気軽にお問い合わせください。 サルコペニアの治療に関するよくある質問 サルコペニアの初期症状はどのようなものですか? 初期症状として多いのは、「ふくらはぎが細くなった」「よくつまずくようになった」「階段の上り下りがつらい」など、日常の小さな変化です。(文献9) たとえば、以下のような症状もサルコペニアの初期症状の可能性があります。 重たい荷物が前より持ちにくい 椅子から立ち上がるのが大変になった 歩く速度が遅くなった気がする 日常の些細なことがサインになっていることも少なくありません。 思い当たることがあれば、我慢せずに一度かかりつけ医へ相談してみてください。 サルコペニアの治療は病院に行った方が良いですか? サルコペニアの治療をするなら、病院に行くことをおすすめします。 サルコペニアは専門的な評価と治療が必要な病気です。 自己流の運動や食事改善だけでは、思うような効果が出にくかったり、逆に体に負担がかかってしまうケースもあります。 専門の治療を行う医療機関では、筋肉量や身体機能を客観的に測定しながら、適切な運動メニューや栄養指導が受けられます。 「まだ軽い症状だから」と放置せず、できるだけ早く専門家に相談し、将来の介護リスクを減らしましょう。 参考文献 (文献1) 荒井 秀典「フレイル・サルコペニア」『日本内科学会雑誌』107(12),pp2444-2450,2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/12/107_2444/_pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献2) 公益財団法人 長寿科学振興財団「トレーニング:有酸素運動とは」健康長寿ネット 2025年2月12日 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/yusanso-undou.html(最終アクセス:2025年6月16日) (文献3) 清水 昭雄,藤島 一郎「高齢者・サルコペニアの栄養療法」『神経治療』39,pp13-17,2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/39/1/39_13/_pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献4) 亀井康富「ビタミンDは筋肉の萎縮を抑制し、高齢者のサルコペニアを予防・改善する」『あたらしいミルクの研究』2019年度 https://nutrition.life.kpu.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/%E4%BA%80%E4%BA%95%E5%85%88%E7%94%9F%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A63_0323.pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献5) Hun Kyung Kim「Effects of exercise and amino acid supplementation on body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women: a randomized controlled trial」『J Am Geriatr Soc』60(1),pp16-23,2012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22142410/(最終アクセス:2025年6月18日) (文献6) 早野元詞「サルコペニアに対する治療薬開発と老化創薬としての事業計画立案」慶応義塾大学 https://www.idp.ori.titech.ac.jp/wp-content/uploads/2021/09/%E6%85%B6%E5%BF%9C%E3%80%80%E6%97%A9%E9%87%8E.pdf(最終アクセス:2025年6月16日) (文献7) 一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版のCQとステートメント」日本サルコペニア・フレイル学会ホームページ https://www.jasf.jp/contents/guidelines.html(最終アクセス:2025年6月16日) (文献8) 東大病院「老年病科」東大病院ホームページ https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/rounen/(最終アクセス:2025年6月16日) (文献9) 公益財団法人 長寿科学振興財団「トレーニング:有酸素運動とは」健康長寿ネット 2023年7月14日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html(最終アクセス:2025年6月16日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「フレイル、サルコペニアって何?」「ロコモとの違いは?」「予防はできるの?」 このような疑問を持って、本記事に辿り着いた方も多いのではないでしょうか。 「フレイル」「サルコペニア」「ロコモ」は、いずれも年齢とともに起こりやすい体の変化を示す言葉です。 最近よくつまずくようになったり会話が減ったりするのは、これらの症状の1つと考えられます。 本記事ではフレイル・サルコペニア・ロコモの症状や違い、予防法などを解説します。 健康寿命を延ばし、いつまでも自分らしく過ごすヒントとしてお役立てください。 フレイル・サルコペニア・ロコモは「年齢に伴う機能低下のサイン」 「フレイル」「サルコペニア」「ロコモ」それぞれの特徴は以下のとおりです。 種類 状態 特徴 フレイル 心身全体の活力が落ちた状態 ・些細なストレスや環境の変化でも体調を崩しやすい ・精神的にも落ち込んだり閉じこもりやすくなったりする サルコペニア 筋肉量と筋力が低下した状態 ・高齢になると起こりやすい ・フレイルの原因にもなる ロコモ(ロコモティブシンドローム) 移動機能にかかわる体の衰え ・歩く、立つ、座るといった日常動作が難しくなる ・進行すると介護リスクが高まる それぞれの違いを知り、自分に必要な対策を検討しましょう。 フレイルは「心身全体の活力が落ちた状態」 フレイルとは、体の衰えに加えて、気力や社会とのつながりも弱くなっている状態を指します。 些細なストレスや環境の変化でも、体調を崩しやすくなるのが特徴です。 体だけでなく、気持ちの落ち込みや閉じこもりがちになる傾向も見られます。 また、フレイルが進行すると転倒や骨折、認知症のリスクが高まることもわかっています。(文献1) サルコペニアは「筋肉量と筋力が低下した状態」 「サルコペニア」は、筋肉の量が減り、握力や歩く力が低下するのが特徴です。 高齢になると誰にでも起こる可能性があり、筋肉の低下により、転倒や骨折、寝たきりにつながることがあります。 サルコペニアはフレイルの原因の一つでもあります。 サルコペニアによる筋力低下を放置すると、日常生活に支障をきたす恐れがあるため、早めの対策が必要です。(文献1) ロコモは「移動機能にかかわる体の衰え」 ロコモティブシンドローム、略して「ロコモ」は、関節や骨、筋肉などの“体を動かす力”に関する衰えです。 歩く、立つ、座るといった基本の動作が難しくなっていくのが特徴で、進行すると寝たきりや要介護状態につながることもあります。(文献2) ロコモティブシンドロームについては、以下の記事もあわせてご覧ください。 フレイルの症状・診断基準 フレイルの具体的な症状や診断基準について解説していきます。 フレイルの症状 フレイルの症状は、体のはたらきだけでなく、気持ちや生活のリズムにも現れます。 次のような変化が見られたら、フレイルのサインかもしれません。(文献3) つまずきやすくなった、歩くのが遅くなった 握力が弱くなった、立ち上がるのに時間がかかる 食事の量が減った、体重が落ちてきた 会話が減った、趣味や外出に消極的になった 疲れやすくなり、気力が続かない 一つひとつは小さな変化でも、重なることで日常生活に影響が出る場合があります。 心当たりがある場合は、早めのチェックや対策を心がけましょう。 フレイルの診断基準 フレイルは、以下のような項目を総合的に見て判断します。 歩く速度や体のバランス 筋力(とくに下半身) 認知機能(物忘れなど) 栄養状態(食欲の低下など) 社会的なつながり(会話や外出の頻度など) 外来では「簡易フレイルインデックス」を使うこともあります。(文献1) 簡易フレイルインデックス 3点以上でフレイル 質問 回答および点数 6ヵ月間で2-3kgの体重減少がありましたか? はい⇒1点 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? はい⇒1点 ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか? いいえ⇒1点 5分前のことが思い出せますか? はい⇒1点 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする。 はい⇒1点 出典:日本内科学会雑誌第107巻第12号|フレイル・サルコペニア 体力だけでなく、心や生活全体を見ることがフレイルの特徴です。 サルコペニアの症状・診断基準 サルコペニアの具体的な症状や診断基準について解説していきます。 サルコペニアの症状 サルコペニアでは、主に次のような変化が現れます。(文献4) ペットボトルのキャップが開けにくくなった 歩くスピードが落ちた 足が細くなってきた、筋肉が落ちた感じがする 椅子から立ち上がるのが大変になった これらの変化は、転倒・骨折や要介護のリスクにもつながるため、早めに気づき、予防することが大切です。 サルコペニアの診断基準 サルコペニアは、主に以下の3つの項目で診断されます。(文献1) 握力:男性28kg未満、女性18kg未満が目安 歩行速度:通常の歩き方で1秒に1.0メートル未満 筋肉量:体組成計などで測定し、基準値以下であるかどうかを確認 簡単にできるセルフチェックとして「指輪っかテスト」もあります。(文献5) <サルコペニアの危険度チェック> 両手の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎを囲んでみましょう。作った輪っかでふくらはぎを囲めるかどうかで、サルコペニアの危険度を推測できます。 結果 サルコペニアの危険度 囲めない 低 ちょうど囲める 中 隙間ができる 高 サルコペニアの危険度が高い場合は、一度医療機関に相談してみることをおすすめします。 フレイル・サルコペニアが気になるときは当院へご相談ください 年齢のせいだと見過ごしてしまう方も多いですが、気づいたときが対策のチャンスです。 筋力や体重の変化、食欲の低下などが見られたときは、医療機関でチェックを受けましょう。 とくに、持病がある方や体調に不安のある方は、無理な運動や食事制限は避け、専門医の指導のもとで改善していくことが大切です。 「リペアセルクリニック」では、筋力・栄養状態の評価から専門的な再生医療まで、個別にサポートしています。 気になることがあれば、早めにご相談ください。 フレイル・サルコペニアの予防は「筋肉・栄養・つながり」が大切 フレイルやサルコペニアの進行を防ぐには、日々の暮らしの中で以下を意識するのがポイントです。 筋肉を落とさないための運動 たんぱく質を中心とした食事 会話や外出などの社会的なつながり 今日からできることを、無理のない範囲で始めてみましょう。 軽めの運動で筋力低下を防ぐ フレイル・サルコペニア予防には、軽めの運動が効果的です。 スクワットや足の上げ下げなどのレジスタンス運動(筋トレ)と、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせるのがおすすめです。 <運動の例> 1日5,000歩以上歩く 負荷のかかる運動を8分以上 (早歩き、社交ダンス、ウェイトトレーニング、水泳など) 無理のない範囲で続けることで、筋肉の維持や転倒予防に役立ちます。(文献1)(文献6) 筋肉の衰えを予防するために、さらに詳しい情報を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。 たんぱく質中心に栄養バランスを整える フレイルやサルコペニアを予防するには、筋肉のもととなる「たんぱく質」を毎日しっかりとることが大切です。 体重1kgあたり1.0g以上が目安とされているため、たとえば体重50kgの方なら1日あたり最低50g程度の摂取が推奨されます。(文献1) また、あわせて筋力の維持に関係するビタミンDの摂取も意識しましょう。(文献7) ビタミンDは、日光浴や、鮭・きのこなどの食品から摂取できます。(文献8) 人や社会とのつながりを意識する 社会との関係が希薄になると、心身の機能低下が進み、フレイルのリスクが高まることがわかっています。 普段から会話や外出を心がけ、地域の行事やイベントに参加すると、フレイルの予防につながります(文献1) 外出が難しい方は、近所の人とあいさつを交わしたり、電話やオンラインを活用したりするのも良いでしょう。できるだけ積極的に社会に参加して「誰かとつながっている」という実感を持つことが大切です。 フレイル・サルコペニアによる衰えを感じたら早めの対策を心がけよう フレイルやサルコペニアは、年齢とともに誰にでも起こりうる変化です。 「歩くのが遅くなった」「疲れやすい」など、ちょっとした変化があれば、生活の見直しを始めましょう。 早めの気づきと対策が、寝たきりや介護のリスクを防ぎ、健康寿命をのばすことにつながります。 気になる症状がある方や、これからの健康に不安を感じている方は、医療機関で一度相談してみましょう。 「まだ大丈夫」ではなく、「今からできることがある」と考えて、一歩踏み出してみてください。 【動画で詳しく知りたい方へ】 ▶ 自分の状態がわかる!簡単チェックテストはこちら フレイル・サルコペニアに関するよくある質問 フレイルやサルコペニアを予防する運動は、どのようなものですか? フレイルやサルコペニアを予防する運動は、激しいものでなくて構いません。 無理のない範囲で身体を動かしたり歩く量を増やしたりすることから始めましょう。とくに、太ももやお尻の筋肉を鍛えると、バランスが安定し転倒防止に役立ちます。 たとえば、椅子に座った状態で片脚ずつゆっくり持ち上げる運動(3秒かけて上げ、3秒かけて下ろす)を、左右10回ずつ行ってみましょう。(文献9) たんぱく質を摂るのが苦手ですが、どのように工夫すれば良いですか? 無理にたくさん食べようとせず、自分に合った方法で取り入れることがポイントです。 朝食にチーズを足したり、ヨーグルトにきなこをかけたりする方法があります。 また、プリンやどら焼きなど、卵や大豆が入ったおやつも、たんぱく質を摂る手段のひとつです。(文献10) 参考文献 (文献1) 荒井 秀典「フレイル・サルコペニア」「日本内科学会雑誌」107(12),pp2444-2450,2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/12/107_2444/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献2) 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「ロコモティブシンドローム(ロコモ)をご存知ですか」国立長寿医療研究センターホームページ https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/11.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献3) 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「フレイルの原因は?」国立長寿医療研究センターホームページ https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/07.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) 中部ろうさい病院「症状/疾患・部位 からさがす」中部ろうさい病院ホームページ https://www.chubuh.johas.go.jp/search_shikkan/list_s/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) 公益社団法人 東京都医師会「フレイル予防」東京都医師会ホームページ https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/d15c89d17a98ba43c6fd25a9c669a638.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献6) 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「活動的に過ごしてフレイル予防」国立長寿医療研究センターホームページ https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/40.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献7) 亀井康富「ビタミンDは筋肉の萎縮を抑制し、高齢者のサルコペニアを予防・改善する」『あたらしいミルクの研究』2019年度 https://nutrition.life.kpu.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/%E4%BA%80%E4%BA%95%E5%85%88%E7%94%9F%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A63_0323.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献8) 厚生労働省「ビタミンD」eJIM 英語版改訂年月(翻訳時):2020年3月24日 https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献9) 公益財団法人 長寿科学振興財団「サルコペニアに対する運動」健康長寿ネット 2021年10月29日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-undo.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献10) 公益財団法人 長寿科学振興財団「サルコペニア予防のための生活習慣」健康長寿ネット 2021年10月29日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-yobo-seikatsu-syukan.html(最終アクセス:2025年6月13日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「体重はあるのに筋力が落ちてきた気がする」 「最近疲れやすくなった」 このように感じている方は、サルコペニア肥満かもしれません。 肥満と筋肉減少が同時に進行する「サルコペニア肥満」になると、日常生活に不便を感じたり、病気のリスクが高まりやすくなったりします。 ただし、早期にリスクに気づいて対策をおこなえば、予防・改善が期待できる状態です。 本記事では、医師の視点からサルコペニア肥満の原因やリスク、予防・改善法を解説します。 「サルコペニア肥満かも」と不安を抱いている方は、セルフチェックで自身のリスクを知ることから始めてみましょう。 サルコペニア肥満とは サルコペニア肥満とは、体脂肪が多い「肥満」に、筋肉量が減少している状態の「サルコペニア」が合併している状態を指します。(文献1) 「肥満」と聞くと太っている人をイメージしがちですが、見た目は普通でも体内では筋肉が減少し、脂肪が多い「隠れ肥満」のようなケースもあります。 そのため、サルコペニア肥満の人がかならずしも太って見えるとは限りません。 筋肉が不足すると、体の基本的な動作にも支障が出やすくなり、次のような不調を感じることがあります。 疲れやすい 歩くときにふらつく 階段を上るのがつらい 重いものが持ちにくい このようにサルコペニア肥満は、見た目では気づきにくいにもかかわらず、日常生活の質を下げる原因となるのです。 サルコペニアについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。 肥満とサルコペニアの関係性|筋肉に与える悪影響 肥満、つまり体の中に脂肪組織が多い状態は筋肉を減らす方向に作用し、サルコペニアの進行を加速させてしまいます。 具体的には、以下の3つのメカニズムが考えられています。 運動不足 筋肉破壊 インスリン抵抗性 ひとつずつ見ていきましょう。 運動不足で筋肉が減少しやすくなる 肥満になると、体を動かすのが億劫になったり、関節に負担がかかったりして、無意識のうちに活動量が減少してしまいます。 筋肉は使用頻度が減ると萎縮し、筋力が低下していきます。 運動不足が続くと筋肉量がみるみる減少し、さらに体を動かすのがつらいと感じるようになるといった悪循環に陥りやすくなります。 筋肉内に脂肪が蓄積して筋力が落ちる 肥満の状態が続くと、全身に脂肪が過剰に蓄積されるだけでなく、筋肉の細胞内や筋肉と筋肉の間にも脂肪が入り込むことがあります。 この筋肉内への脂肪の蓄積は「異所性脂肪(いしょせいしぼう)」と呼ばれており、筋肉の質の低下を招きます。(文献2) 本来はぎっしり詰まっているべき筋肉の繊維の間に脂肪が入り込むことで、筋肉そのものの機能が落ちてしまうイメージです。 これによりインスリンの働きが妨げられたり、体内で炎症が引き起こされたりした結果、筋肉量の減少や筋力の低下が進むと考えられています。 インスリン抵抗性が筋肉の合成を妨げる 肥満は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」を引き起こすことがあります。(文献3) インスリンは、食べたものからエネルギーを身体に吸収させるだけでなく、筋肉の合成にもかかわるホルモンです。(文献4) そのため、肥満によってインスリン抵抗性が生じると筋肉が作られにくく、筋肉量の低下が進む恐れがあります。 サルコペニア肥満が引き起こすリスク サルコペニア肥満は、サルコペニアまたは肥満単体の場合と比べて代謝機能が低下しやすく、健康リスクが高まると言われています。(文献5) 具体的に見ていきましょう。 転倒や骨折のリスクが高まる 筋肉量の減少は、日々生活に欠かせない「動く力」そのものを奪います。 具体的には、以下のような状況です。 階段を上るのが以前よりつらくなった 重いものが持てなくなり買い物が大変になった 歩くスピードが遅くなり、信号を渡りきれないことがある サルコペニア肥満は、バランスを崩して転倒しやすくなる、骨折のリスクを高めるなど、日常生活への支障をきたすケースが多く見られます。 進行すると、一人で買い物に行けなくなる、着替えが困難になるなど、介護が必要な状態につながる危険性も秘めています。 生活習慣病につながりやすくなる 筋肉は、食事から摂った糖を取り込み、エネルギーとして利用する重要な組織です。 筋肉量が少ないと、摂取した糖を効率よく使えなくなり、血液中の糖分が増えて糖尿病のリスクが高まります。(文献6) また、筋肉はエネルギーを多く消費するため、筋肉量が少ないと体のエネルギー消費量である「基礎代謝」が落ち、脂肪が蓄積しやすくなるのも問題です。その結果、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を悪化させる要因にもなります。(文献7) 肥満と相まって、これらの生活習慣病のリスクはさらに増大してしまうのです。 【セルフチェック】サルコペニア肥満のリスクレベル サルコペニア肥満の診断基準は、世界的に統一されたものがなく、自己判断が困難なのが現状です。 しかし、サルコペニア肥満を放置すると将来的なリスクが高まるため、早期の気づきと対策が大切です。 まずは以下のセルフチェック表で、自身のサルコペニア肥満のリスクレベルを知っておきましょう。(文献1)(文献8) サルコペニア肥満と診断するものではありませんので、あくまでも目安としてとらえてください。 チェック内容 方法 サルコペニア肥満を疑う結果 指輪っかテスト ・両手の親指と人差し指で輪っかを作る ・ふくらはぎの一番太い部分を囲む ・隙間ができる場合は筋肉量の減少が疑われる 握力 ・握力計で計測する ・日常生活でチェックする 以下の場合で筋力低下が疑われる <握力の場合> ・男性:28kg未満 ・女性:18kg未満 <日常生活> ・ペットボトルのフタが自力で開けられない ・片足立ちで靴下を履けない 歩行速度 ・日常生活でチェックする 以下の場合で歩行速度の低下が疑われる ・横断歩道が青信号のうちに渡り切れない ・転びやすい、つまずきやすい BMI ・「体重(kg)÷身長(m)2」で計算する ・25以上 体脂肪率 ・体組成計で計測する ・32%以上 腹囲 ・メジャーで簡単に測定できる ・他者に計測してもらうと正確に測れる ・男性:85㎝以上 ・女性:90㎝以上 これらのチェック項目で当てはまるものが複数ある場合、サルコペニア肥満のリスクがあるかもしれません。 医療機関で相談することも検討しましょう。 サルコペニア肥満の予防・解消法 サルコペニア肥満の予防・解消するポイントは、筋肉量を増やして筋力を改善しつつ、体脂肪量の低下を目指すことです。(文献1) 紹介する予防・解消法をいくつか同時におこなうことで、脂肪の減少や筋力の改善に効果が期待できます。(文献9) ぜひ組み合わせて実施してみてください。 筋トレを中心とした運動習慣 筋肉を維持・増加させるためには、筋肉に適度な負荷を与える以下のような筋力トレーニングが効果的です。(文献2) 方法 具体例 筋トレ ・スクワット ・膝伸ばし ・後ろ蹴りだし 有酸素運動 ・ウォーキング ・水泳、アクアビクス ・早歩き ・階段を使用 時間は短時間でも、続けることが大切です。 はじめは10分程度から始め、徐々に時間や回数を増やしていきましょう。 筋肉と代謝を支える食事 筋肉を作るための材料となるタンパク質は、サルコペニア肥満の解消に欠かせません。 ダイエット中でも、タンパク質は不足させないように意識しましょう。 たんぱく質を毎食しっかり摂取する(肉・魚・卵・大豆製品など) 玄米や全粒粉パンなど、血糖値の上がりにくい炭水化物を選ぶ アボカド・ナッツ・青魚など、良質な脂質を適度に取り入れる 野菜や果物からビタミン・ミネラルをしっかり補給する サルコペニア肥満の改善には、バランスの取れた食事に加え、専門家の指導を受けることも重要です。 「この方法で本当にサルコペニア肥満のリスクを下げられる?」と感じたら、当院リペアセルクリニックのメール相談またはオンラインカウンセリングまでお気軽にご相談ください。 サルコペニア肥満を理解してできることから始めよう サルコペニア肥満は、肥満と筋肉の減少が合わさった状態で、見た目では気づきにくいのが特徴です。 早期に気づき適切な対策を始めることで改善できる可能性があります。 まずは自身のリスクを把握し、食事を見直す、体を動かす時間を少し増やすなど、できることから挑戦してみましょう。 「サルコペニア肥満のリスクが高いかもしれない。どうしたら良いの」と一人で悩んでしまうなら、専門家への相談をおすすめします。 当院リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを通じて、あなたの悩みをサポートしています。 自身の健康状態やライフスタイルに合わせた具体的なアドバイスをご提案しますので、ぜひお気軽にご相談ください。 サルコペニア肥満に関するよくある質問 サルコペニア肥満の診断基準はありますか? サルコペニア肥満は、診断基準が確立されていません。(文献1) これは、肥満や腹囲の基準が国によって異なることで、共通の基準を設けるのが難しいことが背景にあります。(文献1) しかし、医療機関での身体組成測定や専門家への相談によって、サルコペニア肥満のリスクを知ることは可能です。 ぜひ一度チェックしてみてください。 サルコペニア肥満は高齢者だけでなく若者もなりますか? サルコペニアと診断されるのは、原則的に65歳以上です。(文献8) ただし、病気をはじめとする何らかの原因によっては、若い方がなる可能性もあります。 また、今は問題なくても、以下のような生活をしている方は将来的にサルコペニア肥満になるリスクが高い可能性があるため、注意が必要です。 デスクワーク中心の仕事であるため運動不足である 加工食品中心の偏った食生活を送っている 無理なダイエットをしている 生活習慣が乱れがちな若い層では、見た目は痩せていても体脂肪が多く筋肉が少ない「隠れ肥満」の状態から、サルコペニア肥満に移行するリスクも考えられます。 「若いから」と油断せず、将来的なリスクを回避するためにも、運動習慣を身につけたりバランスの取れた食事を意識したりと準備しておきましょう。 サルコペニア肥満には症状があらわれますか? サルコペニア肥満は、初期にはっきりとした自覚症状があらわれにくいのが特徴です。 しかし、進行すると「疲れやすい」「つまずきやすくなった」「歩くのが遅くなった」といった身体機能の低下を感じる場合があります。 これらのサインに気づいたら、まずは医療機関で相談し、ほかの病気との区別をつけることが大切です。 サルコペニア肥満が女性に多いのはなぜですか? 男性に比べて女性は筋肉量が少なく脂肪量が多いため、サルコペニア肥満になりやすいと言われています。 しかし、サルコペニアの男女差についてはわかっていないことが多く、一概に「女性が多い」とも言い切れません。 とはいえ、女性の閉経後のホルモンバランスの変化は筋肉量の減少に関連する可能性があると指摘されていることから、早期のサルコペニア肥満対策が重要です。(文献10) 参考文献 (文献1) 若林秀隆「サルコペニア肥満」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/6/58_58.627/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献2) 名古屋大学「高齢者の筋肉内への脂肪蓄積は サルコペニアと運動機能低下に関係する」 https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20170209_htc.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献3) 石川耕,横手幸太郎「脂肪組織機能異常とインスリン抵抗性」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/10/102_2691/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) 下村吉治「運動後の筋タンパク質合成のためのタンパク質・アミノ酸栄養」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/62/1/62_16/_pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) PubMed「Muscle loss and obesity: the health implications of sarcopenia and sarcopenic obesity」 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25913270/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献6) 東京大学大学院医学系研究科「筋肉における新しい糖取り込み調節機構の解明―肥満に伴う 2 型糖尿病の病態解明と治療への応用―」 https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20110302.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献7) 山川佳那子ら「若年成人女性における安静時代謝量及び食事誘発性体熱産生と体組成との関連」 http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3181/1/0100_075_002.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献8) 日本サルコペニア・フレイル学会、国立長寿医療研究センター「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00426.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b(最終アクセス:2025年6月16日) (文献9) 日本肥満症学会「肥満症診療ガイドライン」 https://www.jasso.or.jp/data/magazine/pdf/medicareguide2022_09.pdf(最終アクセス:2025年6月13日) (文献10) 熊本大学「骨格筋の発育と再生メカニズムに性差ありーエストロゲン受容体βの機能的重要性を解明ー」 https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20200821(最終アクセス:2025年6月13日)
2025.06.29 -
- その他、整形外科疾患
「抗がん剤による末梢神経障害は治るのか」「しびれや痛みが続いている」など、不安に感じている方も多いでしょう。抗がん剤による末梢神経障害は、多くのがん患者に現れる副作用の一つです。完治を目指すのは難しいケースもありますが、適切な治療やケアによって日常生活への影響を抑えられます。 今回は、抗がん剤による末梢神経障害の原因や対処法、治療薬について現役医師がわかりやすく解説します。症状の改善を目指している方は、ぜひ参考にしてください。 抗がん剤による末梢神経障害を完全に治すのは難しい 抗がん剤による末梢神経障害は、有効な予防法が確立されておらず、症状を完全に抑えるのが難しい疾患です。(文献1)そのため、症状の進行を抑えたり、日常生活を維持したりするためのケアや対処に努めることが重要です。 なかには、抗がん剤の中止後に症状が改善するケースもあります。一方で、しびれや痛みが長年にわたって残ることも少なくありません。抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、医師との連携や早期対応が大切です。 抗がん剤による末梢神経障害の症状 抗がん剤の副作用によって運動神経や感覚神経、自律神経がダメージを受けると、末梢神経障害として以下のような症状が現れます。(文献2) 神経の種類 主な症状 運動神経 手足の筋力低下 細かい動作の困難 歩行困難 など 感覚神経 手足のしびれや痛み 灼熱感 冷感過敏 感覚麻痺 など 自律神経 起立性低血圧 発汗異常 便秘 排尿障害 など なお、症状の現れ方には個人差があり、日常生活や社会活動に支障をきたすケースも少なくありません。 抗がん剤による末梢神経障害が起こる原因 抗がん剤による末梢神経障害は、薬剤が末梢神経系にダメージを与えることによって生じるとされています。 抗がん剤による末梢神経障害の原因は、すべてが解明されているわけではありませんが、軸索あるいは神経細胞体への影響が考えられます。(文献1)それぞれのメカニズムについて詳しく見ていきましょう。 軸索障害 軸索障害とは、末梢神経の軸索(じくさく)が抗がん剤の攻撃を受けて生じる障害です。 軸索とは、神経細胞から伸びる長い神経線維のことです。次の細胞に情報を伝達するための役割を担っているほか、軸索には栄養素などを運ぶための微小管(びしょうかん)と呼ばれる細胞骨格があります。 抗がん剤のなかには、がん細胞の微小管を攻撃して増殖を抑える薬があります。このとき、軸索の微小菅が攻撃を受けて正常な働きができなくなると、神経の末端に必要な栄養や酵素が届かず、変性の進行につながりかねません。 長い軸索を持つ神経ほど、抗がん剤によるダメージを受けやすいのが特徴です。そのため、足先や手指などの遠位部を中心に、しびれやチクチク感、痛み、感覚鈍麻といった症状が現れやすくなります。 神経細胞体障害 神経細胞体が直接抗がん剤の攻撃を受けて、障害が生じるケースもあります。 神経細胞体とは、神経の中核部分で、タンパク質の合成や代謝、情報処理といった神経の生命維持に欠かせない機能を担っているのが特徴です。 抗がん剤の攻撃によって神経細胞体に障害が起こると、そのほかの部分も二次的にダメージを受け、神経全体の機能が失われやすくなります。 また、細胞体のダメージは神経再生能力の低下を招くとされています。一度損傷を受けると回復までに長期間を要したり、慢性的な神経障害としてしびれや異常感覚、感覚過敏といった症状が残存したりするケースも少なくありません。 そのため、神経細胞体への影響は、末梢神経障害の予後に大きく関与する重要な要素と考えられています。 末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類 末梢神経障害の症状は、抗がん剤の種類や投与量によって個人差があります。 ここでは、末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤の種類をまとめました。 殺細胞性の抗がん剤 殺細胞性の抗がん剤は、化学物質を用いて細胞増殖が盛んながん細胞を死滅または抑制させる薬のことです。殺細胞性の抗がん剤は、主に以下のような種類があります。(文献1) 一般名 商品名 主な症状 パクリタキセル タキソール パクリタキセル 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ パクリタキセル (アルブミン懸濁型) アブラキサン 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ ドセタキセル タキソテール ワンタキソテール ドセタキセル 手足のしびれ 感覚の鈍さ カバジタキセル ジェブタナ 運動のまひ 感覚のまひ 手足のしびれや痛み ビノレルビン ナベルビン ロゼウス 知覚異常 腱反射減弱 対象になるがんの種類によって、ほかにもさまざまな種類の殺細胞性の抗がん剤があります。なお、殺細胞性抗がん剤は正常な細胞にも影響を及ぼすため、副作用の発生頻度が高い薬です。 分子標的型の抗がん剤 分子標的型の抗がん剤は、がん細胞に特異的に存在する分子を狙って、増殖や生存を抑制する薬です。代表的な分子標的型の抗がん剤として、以下のような薬が挙げられます。(文献1) 一般名 商品名 主な症状 ボルテゾミブ ベルケイド 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ 起立性低血圧 便秘 トラスツズマブエムタンシン カドサイラ 手足のしびれや痛み ブレンツキシマブベドチン アドセトリス 運動のまひ 感覚のまひ 手足のしびれや痛み サリドマイド サレドカプセル 手足のしびれや痛み 起立性低血圧 レナリドミド レブラミドカプセル 手足のしびれや痛み 感覚の鈍さ 起立性低血圧 分子標的型の抗がん剤は、正常な細胞には影響しないとされており、副作用の軽減が期待できます。(文献3) 抗がん剤による末梢神経障害は治る?ケアと対処法 抗がん剤による末梢神経障害では、手足のしびれや痛みなどの症状が現れます。日常生活において症状とうまく付き合っていくためには、適切なケアや対処が必要です。 抗がん剤による末梢神経障害の対処法について解説するので、ぜひ参考にしてください。 医師に相談して治療薬を投与する 抗がん剤による末梢神経障害が疑われる場合は、できるだけ早く医師に相談しましょう。 末梢神経障害に対しては、神経障害性疼痛に有効な薬剤による対症療法がおこなわれるのが一般的です。また、抗がん剤による治療中に末梢神経障害が悪化した場合は、原因となる薬剤の投与延期や減量、中止が検討されます。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。抗がん剤治療後に続くしびれや痛みなどでお困りの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 循環を良くする 抗がん剤による末梢神経障害のケアとして、血液の循環を良くするのもポイントです。とくに、末梢部の血流を良くすると、しびれや痛みが軽減する場合があります。 たとえば、入浴時にマッサージをしたり、手を握ったり開いたりする動きを取り入れることで、末梢の血行が促されます。また、無理のない範囲で軽い運動をするのもおすすめです。体調に応じて医師と相談の上、無理のない範囲でマッサージや軽い運動を継続しましょう。 寒冷刺激を避ける 抗がん剤による末梢神経障害は、寒冷刺激によって症状が悪化するケースがあります。とくに、急性の末梢神経障害は、寒冷刺激によって強いしびれや痛みが誘発されるといわれています。 日常生活において以下のような工夫をして、寒冷刺激を避けましょう。 冷たい飲み物を避ける 冬場や冷房の効いた部屋では手袋や靴下で保温する 炊事や洗濯の際はゴム手袋を着用する 皮膚が濡れたときはすぐに水分を拭き取る 冷たい床などに直接座らない 寒冷刺激を避けることは、抗がん剤による末梢神経障害の症状の悪化を防ぐポイントの一つです。 転倒やケガに注意する 抗がん剤による末梢神経障害は、手足のしびれや痛みのほか、筋力やバランス感覚の低下を引き起こす場合があります。そのため、転倒やケガには十分な注意が必要です。 とくに、高齢者の場合、転倒によって骨折すると入院や寝たきりの状態が長期化するリスクもあります。転倒やケガを防ぐためにも、以下のような点を中心に、住環境を見直しましょう。 床に物を置かない コード類をまとめる 滑りにくい靴やスリッパを履く 手すりを設置する 段差を解消する 夜間は足元灯を使用する 神経障害による感覚異常がある場合は、自覚しにくい小さなケガにも注意が必要です。 【症例紹介】末梢神経障害に対する再生医療の可能性 再生医療は、末梢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、幹細胞や血小板の投与によって自然治癒力を最大限に引き出し、症状改善を目指す治療法です。 ここでは、両足の長期的なしびれに悩まされた、80代男性の症例を紹介します。 80代の男性は、40年来の糖尿病患者で、内科主治医から糖尿病性末梢神経障害と診断されていました。薬物療法や食事・運動療法により、血糖値のコントロールはある程度良好でしたが、両足の症状はなかなか改善が見られず、再生医療による治療を決めました。 当院では、根本的なアプローチとして患者様の状態に合わせた幹細胞治療を提供しています。この患者様には1億個の細胞を3回に分けて点滴投与しました。治療前後の状態は、以下の通りです。 治療前の状態 10年以上続く両足のしびれ 知覚鈍麻(感覚の鈍さ) 既存の治療法による効果は限定的 治療後の変化 両足のしびれが大幅に軽減 日常生活の質の向上 健康増進への積極的な姿勢の芽生え 治療に対する前向きな発言 当院の幹細胞治療は、米粒2〜3粒ほどの脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できるため、身体への負担が少ない点が特徴です。 こちらの症例について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。末梢神経障害の治療法でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 抗がん剤による末梢神経障害を治すには早期発見・対処に努めよう 抗がん剤による末梢神経障害の症状は、薬の種類や治療期間によって個人差があり、完治が難しい場合もあります。しかし、早期に症状を発見し、適切な対処をおこなうことで、進行を抑えたり症状を軽減したりできます。 抗がん剤による末梢神経症状の主な対処法は、治療薬の投与や日常的なセルフケアなどです。医師の診断のもと、適切なケアや対処法を組み合わせることで、しびれや痛みといった症状を和らげ、生活の質を保つことにつながります。 抗がん剤治療後に手足にしびれや感覚の鈍さが現れた場合は、早めに信頼できる医師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 静岡県立静岡がんセンター「抗がん剤治療と末梢神経障害」 https://www.scchr.jp/cms/wp-content/uploads/2016/02/sonota_mshinkei.pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院「末梢神経障害 -症状とセルフケアについて- 」 https://www.kchnet.or.jp/kchnet/wp-content/uploads/departments/pdf_chemopamphlet_6.pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献3) 横浜市立大学附属病院 化学療法センター「抗がん剤」 https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/central_section/chemotherapy/anti-cancer_agent.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
- その他、整形外科疾患
「ふくらはぎが重だるく感じることが増えた」 「歩いていると途中で立ち止まることが多い」 足のだるさは、年齢や疲れのせいと考えがちですが、実は閉塞性動脈硬化症と呼ばれる血管の病気が原因かもしれません。症状が進行すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合、足が壊死してしまう恐れがあります。 本記事では、閉塞性動脈硬化症の症状とともに以下について解説します。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 閉塞性動脈硬化症の原因 閉塞性動脈硬化症の診療科 閉塞性動脈硬化症の治療法 閉塞性動脈硬化症は、早期発見と適切な治療により改善が期待できます。本記事では詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 閉塞性動脈硬化症とは 閉塞性動脈硬化症とは足の血管に動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなる病気です。足の動脈が徐々に細くなり、十分な血液が届かなくなることでさまざまな症状を引き起こします。 主な原因としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣が引き金となり、血管が硬く、狭くなることで進行します。閉塞性動脈硬化症は進行すると血液の流れは悪化し、皮膚の色が変化したりただれたりするのが特徴です。重症化すると足の組織が壊死し、切断の可能性も危惧されます。 原因や症状 概要 足の血管の詰まり 足の動脈が狭くなったり詰まったりする 血流が悪くなる 足への血液の流れが悪くなる 動脈硬化が原因 血管に脂肪が溜まり、それが原因で血管が硬くなって発症 生活習慣が影響 高血圧、糖尿病、喫煙などが影響する 初期症状として歩くと違和感を感じる 運動時に足に違和感が走る(間欠性跛行) 症状が悪化する 違和感がひどくなり、安静時でも症状が出るようになる 傷が治りにくくなる 小さな傷も治りにくくなる 皮膚の色が変わる 足の皮膚が青紫色になる(チアノーゼ) 皮膚がただれる 潰瘍(かいよう)ができる 壊死が起こる 足の組織が腐ってしまう 切断のリスク 足を切断しなければならないこともある (文献1) 足の血流障害は全身の動脈硬化のサインでもあり、少しでも足に違和感が出た場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 症状の種類 概要 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 歩行中にふくらはぎが張る・疲れる・力が入らないが、休むと楽になる 足の冷え・しびれが続く 血流が悪くなることで、足が冷たく感じたり、しびれが続いたりする 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 皮膚の血流が悪く、小さな傷が治らず、色が青白く変化するケースがある 足の脈拍の低下・消失 足先の血流が極端に悪くなり、脈が触れなくなることがある 閉塞性動脈硬化症の初期症状の多くは、年齢や疲れのせいと見過ごされてしまいがちです。しかし、歩いていると違和感や足の冷えやしびれが続く場合は閉塞性動脈硬化症の疑いがあります。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れた場合は、早めの受診が必要です。 以下の記事では、自分でできる閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法について詳しく解説しています。 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 状態 症状の内容 原因のしくみ 歩き始め ふくらはぎや太ももに違和感・しびれ・張り感 運動時に筋肉が酸素不足になり、違和感が出る 少し休むと改善 数分の休憩で症状が和らぐ・消える 筋肉の酸素需要が減り、一時的に血流が追いつく 再び歩くと再発 同じ場所・感覚でまた症状が現れる 血流が根本的に不足しているため繰り返される 進行すると悪化 歩ける距離が短くなり、日常生活に支障 血管の狭窄が進み、血流不足がさらに深刻になる (文献2) 閉塞性動脈硬化症の初期には、歩くと足に違和感やしびれ、重だるさなどが現れます。ふくらはぎや太もも、お尻に症状が出やすく、休むと治まるため、放置されがちです。しかし、症状を放置すると徐々に進行し、足の血管が狭くなり、運動に必要な酸素や栄養が筋肉に届きにくくなります。 血流不足が深刻化する前に、医療機関の受診が大切です。 以下の記事では、間欠跛行の症状について詳しく解説しています。 足の冷え・しびれが続く 症状の特徴 概要 慢性的な冷え 温めても改善せず、常に足が冷たいと感じる しびれの頻度が増加 ピリピリ・ジンジンとしたしびれが続くようになる 安静時にも感じる 座っている時や寝ている時にも症状を感じる 夜間に悪化しやすい 夜になると冷えやしびれが強くなることがある 左右差があることも 片足だけ、または左右で症状の程度が異なる場合がある 他の症状を伴う可能性 足の皮膚の色が悪くなったり、むくみが出ることがある (文献3)(文献4) 気温とは関係なく、片方の足だけ冷たく感じたり、しびれが続く場合、血流障害を引き起こしている可能性があります。閉塞性動脈硬化症では、血流が悪くなって足先に酸素や栄養が届きにくくなり、その影響で神経に異常が起き、しびれや冷えが生じます。 足の冷え・しびれは年齢からくるものだと思われがちですが、足の左右で温度に差や頻度が多い場合は、閉塞性動脈硬化症を疑うべきサインです。重症化すると足が壊死する可能性があるため、早めの医療機関への受診が大切です。 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 症状の特徴 説明 小さなキズの治癒遅延 切り傷や擦り傷が通常より治りにくい 感染しやすい 傷口から細菌が入りやすく感染しやすい 皮膚の色が悪い(蒼白) 足を高く上げた時などに皮膚が白っぽく見える 皮膚の色が悪い(チアノーゼ) 皮膚が紫色や暗赤色になることがある 皮膚が薄く、つやがある 皮膚が栄養不足で薄く光沢を帯びる 毛が抜けやすい 足の毛が抜けやすくなる 爪の変形・変色 爪が厚くなる、変形・変色する (文献3) 閉塞性動脈硬化症が進行すると、血流が著しく低下し、足の皮膚や組織への酸素供給が不足します。酸素供給が不足するとちょっとした傷でも治りにくくなり、皮膚の色も悪く見えるようになります。足先が白くなったり、紫がかって見える状態はチアノーゼと呼ばれ、重度の血流不足状態です。 また、皮膚の乾燥や光沢、爪の変形も血流低下のサインであり、進行すると皮膚潰瘍や壊死に至る危険性もあります。チアノーゼは皮膚の色の変化として現れるため、足のしびれや歩行時の違和感よりも気づきやすいのが特徴です。皮膚が紫色や暗赤色に変色している場合は、早急に医療機関を受診してください。 足の脈拍の低下・消失 症状の特徴 説明 脈拍の触れにくさ 足の甲や足首で脈が弱くなったり、触れなくなったりする 左右差がある 片足だけ脈が弱い、または触れない場合がある 冷えやしびれを伴う 脈の変化と一緒に冷えやしびれを感じることが多い 皮膚の色や温度の変化 皮膚が青白くなり、足が冷たく感じることがある 運動後の変化 運動後に脈がさらに触れにくくなる場合がある 自己チェックの限界 自分で確認できても正確な判断は難しく、医師の検査が重要 (文献3) 足の甲や足首の脈が触れにくくなる、あるいはまったく触れなくなるのも、閉塞性動脈硬化症のサインです。足の動脈の詰まりが進行すると、足首や足の甲で触れる脈拍が弱くなったり、ほとんど感じられなくなったりするケースがあります。 足の脈拍の変化は自分ではわかりにくいため、医師の診察や超音波検査が必要です。とくに左右の脈に差がある場合や片足だけ脈が感じにくい場合は、動脈の詰まりが疑われます。早めに対応すれば血流を改善でき、重篤な合併症を防止できる可能性があります。 閉塞性動脈硬化症の原因 原因 なぜ関係するのか 防止策 具体的な説明 加齢 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が進行しやすくなる 血管をいたわる生活を心がける 食事の塩分や脂質を控え、適度な運動や定期的な健康診断を習慣にする 糖尿病 高血糖が血管の内側を傷つけ、血管が詰まりやすくなる 血糖値のコントロールが重要 食事療法・運動療法・内服治療などで血糖を安定させ、合併症の予防につなげる 脂質異常症 LDLコレステロールが血管にたまり、プラークとなって血流を妨げる 脂質管理と生活習慣の改善 動物性脂肪を控えた食事と、必要に応じたコレステロール低下薬の服用 喫煙 タバコに含まれる成分が血管を傷つけ、血流を悪くする 禁煙が最大の予防 禁煙外来の活用や代替品(ニコチンパッチなど)を利用して、段階的に習慣を断ち切る 閉塞性動脈硬化症は、動脈の内側にコレステロールなどの脂質がたまり、血管が狭くなる動脈硬化が原因で起こります。動脈硬化が引き起こされる原因は以下の4つです。 加齢 糖尿病 脂質異常症(高コレステロール血症など) 喫煙 以下では、閉塞性動脈硬化症の原因を詳しく解説します。 加齢 加齢に伴う変化 対策・予防方法 血管内皮細胞の機能低下 抗酸化作用のある食品をとる(野菜・果物)、定期的な検査を受ける 血管壁の弾力性の低下 ウォーキングなどの有酸素運動で血管の柔軟性を維持 酸化ストレスの増加 禁煙やバランスの良い食事で活性酸素を抑える 炎症反応の亢進 規則正しい生活・ストレス管理やEPAやDHAを含む食品 生活習慣病のリスク増加 高血圧・糖尿病・脂質異常症をきちんと治療・管理する (文献3)(文献5) 年を重ねると血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進みやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症を発症し、軽い動作でも足に違和感が出ることがあります。 年齢とともに血管は弱くなりますが、運動や食生活を見直すことで健康を保てます。足の冷えやしびれが気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 糖尿病 影響の種類 概要 血管を傷つけやすい 高血糖が続くと血管の内壁が傷つきやすくなる 動脈硬化を促進 脂肪が血管壁にたまりやすく、動脈硬化が進行しやすい 末梢血管が障害されやすい 足先など細い血管が多い部分で血流障害が起こりやすい 神経障害を合併しやすい 足の感覚が鈍くなり、違和感に気づきにくくなる 小さな傷に気づきにくく、治りにくい 小さな傷に気づかず、治りにくくなることで悪化しやすい 感染症のリスクが高い 免疫力が低下し、傷口からの感染症リスクが高まる 血管の石灰化が起こりやすい 血管にカルシウムがたまり、血管が硬くなりやすい 他の危険因子を合併しやすい 高血圧や脂質異常症を併発しやすく、動脈硬化が進みやすい (文献6)(文献7) 血糖値が高い状態が続くと、血管の内側が傷つき、脂質や血小板がたまりやすくなります。脂質や血小板がたまると血管が詰まりやすくなります。糖尿病では神経障害も起こりやすく、足のしびれや違和感に気づきにくいため、とくに注意が必要です。 血管と神経の障害が重なると、傷の治りが遅くなり、感染が悪化しやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症のリスクが高まります。糖尿病の方は、足の違和感や傷に気を配り、異常があれば早急に医療機関を受診しましょう。 脂質異常症(高コレステロール血症など) 影響の種類 概要 血管壁への脂質沈着 悪玉コレステロールが血管の内壁にたまりやすくなる プラーク形成の促進 たまった脂質がプラークを作り、血管を狭める 初期症状の発現を早める可能性 動脈硬化が早く進み、若いうちから症状が出ることがある 症状の悪化を加速 血流がさらに悪化し、違和感や歩行障害が進行する 他の危険因子との相乗効果 高血圧や糖尿病などと合併しやすく、リスクがさらに高まる 血管内皮機能の障害 血管の柔軟性が低下し、血栓ができやすくなる (文献8)(文献9) 血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、動脈の内壁に脂質が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができやすくなります。プラークは血管を狭め、血流を妨げる原因です。 とくにLDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、動脈硬化が進行しやすくなり、閉塞性動脈硬化症を引き起こしやすくなります。脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘された場合は放置せず、食生活の見直しや適切な治療を行うことが大切です。 喫煙 喫煙が与える影響 概要 血管の内側が傷つく タバコの有害物質が血管内皮細胞を傷つけ、血管機能が低下 動脈硬化が進みやすくなる コレステロールなどが沈着しやすくなり、血管が狭くなる 血管が収縮して血流が悪くなる ニコチンの作用で血管が細くなり、足の血流が悪化する 血液がドロドロになる 喫煙により血液の粘り気が増し、流れにくくなる 血栓ができやすくなる 血のかたまり(血栓)ができやすくなり、血管を詰まらせる 症状が早く現れる可能性が高くなる 非喫煙者より若い年齢で冷えやしびれなどの症状が出やすい 症状が急速に悪化しやすくなる 歩ける距離が短くなる、安静時にも違和感が出てくるなど悪化が早い 治療の効果が出にくくなる 薬や治療の効果が弱まり、改善しにくくなる (文献10) タバコに含まれる有害物質は血管の内側を傷つけ、炎症や動脈硬化を進行させます。とくにニコチンは血管を収縮させ、足の血流を悪化させる原因です。 そのため、喫煙者は非喫煙者より閉塞性動脈硬化症の発症リスクが約3〜5倍高く、若年で発症する傾向もあります。動脈硬化の予防や治療には禁煙が不可欠です。(文献11) 閉塞性動脈硬化症は何科を受診するべき? 診療科名 役割・特徴 受診の目安 循環器内科 血流や動脈硬化の評価・管理が可能。動脈の状態を総合的に診断 足の冷え・しびれ・歩行時の違和感などがある場合に最優先で受診 血管外科 動脈の狭窄・閉塞に対する検査・手術(カテーテル治療など)に対応 検査や手術が必要な場合、循環器内科から紹介されることも多い 内科(かかりつけ医) 必要に応じて専門科へ紹介してもらえる 専門科がない場合にまず相談。早期の受診・紹介が重要 整形外科(注意) 神経や筋肉の疾患が専門。血流の問題を見落とす可能性あり しびれや違和感で来院しても、血流障害が見逃されることがある 皮膚科(注意) 皮膚の異常は診られるが、血流の異常に気づかれにくいことがある 足の傷で受診しても、原因が血流障害と判断されにくい 閉塞性動脈硬化症が疑われる場合は、まず循環器内科または血管外科の受診が推奨されます。循環器内科または血管外科では、血管の状態を詳しく調べる検査や適切な治療方針の判断ができます。 とくに足が冷たい、足の色が悪いといった症状がある場合は、末梢動脈疾患の可能性があるため、早期受診が大切です。 どこを受診すべきか迷う場合は、内科やかかりつけ医に相談しましょう。初期診察で必要性があれば、専門科への紹介を受けられます。症状を放置すると潰瘍や壊死など重症化する恐れがあるため、異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。 「どの診療科に行けば良いのかわからない」とお悩みの方は、お気軽にリペアセルクリニックへご相談ください。当院では、どんな小さなお悩みにも丁寧に耳を傾け、患者様一人ひとりに寄り添った治療のご提案をいたします。「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご利用いただけますので、ご不安なことがあればいつでもご相談ください。 閉塞性動脈硬化症の治療法 治療法 内容 適しているケース 注意点・ポイント 保存療法 ウォーキングや生活習慣の見直し 初期の症状がある方 運動を継続が大切。禁煙や減塩も効果的 薬物療法 抗血小板薬や高血圧・糖尿病の治療薬 軽度から中等度の症状がある方 医師の指示に従って服薬を継続が重要 手術療法 カテーテル治療やバイパス手術 血管の詰まりが進行し、日常生活に支障がある方 術式は症状によって異なるため、専門医とよく相談する 再生医療 幹細胞などを用いて血管の再生を促す治療 他の治療が難しく、重症の状態にある方 保険が適用されない場合があり、限られた施設で実施されている 閉塞性動脈硬化症の治療は、症状の進行度や原因となる病気の有無によって異なります。 保存療法 薬物療法 手術療法 再生医療 閉塞性動脈硬化症の治療法は医師の診断と指導のもと行われます。治療法について解説します。 保存療法 取り組み内容 概要 禁煙 最も重要な改善点。喫煙は血管を傷つけ動脈硬化を進行させるため、禁煙が必須 食事の見直し 塩分や脂質を控えた食事で動脈硬化の進行を抑える 適度な運動 ウォーキングなどの軽めの有酸素運動が血流改善に効果的 体重・血圧・血糖・脂質の管理 生活習慣病の管理を通じて、血管への負担を減らし、病気の進行を防ぐ (文献12) 保存療法とは、薬や手術を用いず、生活習慣の改善などで進行を抑える治療法です。代表的なのが運動療法であり、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行い、血流の改善を促します。また、運動だけでなく、生活習慣の見直しも大切です。 禁煙や高カロリーな食事を控えるなど、動脈硬化の進行を抑える上で基本となります。保存療法は、医師の指導のもとで行うことが大切です。運動や食事制限は無理のない範囲で続け、少しでも違和感があれば、すぐに医師に相談しましょう。 以下の記事では、下肢閉塞性動脈硬化症でやってはいけないマッサージ方法について詳しく解説しています。 薬物療法 治癒カテゴリー 薬剤例 効果の概要 抗血小板薬 アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール 血小板の凝集を抑え血栓を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも有効 血管拡張薬 シロスタゾール、プロスタグランジン製剤 血管を広げて血流を改善し、歩行距離の延長や冷え・しびれに有効 プロスタグランジン製剤 プロスタグランジンE1製剤(注射・点滴) 末梢血流を改善し、潰瘍や壊死などの重症症状を緩和・治癒促進 脂質異常症治療薬 スタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチンなど) LDLコレステロールを下げて動脈硬化を予防。心血管リスクの低減にもつながる 高血圧治療薬 ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、β遮断薬 血圧を下げて血管の負担を軽減し、動脈硬化の進行を抑える 糖尿病治療薬 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬 血糖管理に加え血管保護作用もあり、心血管リスクの抑制に貢献 (文献13)(文献14) 閉塞性動脈硬化症の薬物療法は、病気の進行を抑え、症状を和らげるために行います。抗血小板薬は血栓を防ぎ、血流を保つのに役立ちます。 高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合は、それぞれの治療薬も併用します。薬は根本的な治療ではなく、進行を止めることが目的です。薬剤は医師の指示のもと、継続しての服用が大切です。 手術療法 治療法 手術方法 効果・特徴 適応病変 バイパス手術(外科的血行再建術) 閉塞部位の上下をつなぎ、静脈や人工血管で血流のバイパスを作る 長い範囲の血管閉塞に効果があり、歩行距離の改善や潰瘍の治癒、さらには足の切断を回避できる可能性がある 長い範囲の閉塞や血管内治療が難しい場合に向いている 血管内治療(カテーテル治療) カテーテルで血管を内側から広げ、必要に応じてステントを入れる 早期に血流改善が期待でき、違和感や冷えの症状が軽減しやすい 比較的短い範囲の狭窄・閉塞に対して有効 閉塞性動脈硬化症が進行し、薬や運動では十分な改善が見込めない場合、手術療法が検討されます。とくに足の血管が高度に狭くなったり詰まったりしている場合、血液の流れを回復させるには物理的な処置が必要です。 代表的なのがカテーテル治療で、狭くなった血管内に細い管を入れ、バルーンで広げ、金属製のステントを留置する方法です。より重度の場合には、詰まった血管を迂回するバイパス手術を行います。 手術療法は誰にでも適応できるわけではなく、血管や全身の状態を見て慎重に判断する必要があります。また、カテーテル治療後の再狭窄やバイパス手術後の感染などのリスクもあるため、医師とよく相談し、メリットとリスクを理解した上で治療を選ぶことが大切です。 再生医療 再生医療は、薬や手術で改善が難しい場合に検討されます。再生医療は患者自身の細胞を使用し、新たな血管の形成を促す治療です。 再生医療は比較的新しい治療アプローチであり、一部では保険適用外となりますが、重症例における有効性が報告されており現在も研究が進められています。名古屋大学大学院の報告によると、血管内治療やバイパス手術が難しい末期の患者でも、再生医療によって血流が改善し、足の切断を回避できたケースが確認されています。(文献13) また、京都府立医科大学附属病院の資料によると、バージャー病に対する再生医療では、足の切断を1年後・3年後ともに95.5%の確率で回避できたことが示されています。(文献15) 再生医療は限られた医療機関での実施となるため、事前に取り扱いのある医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れたらすぐに医療機関を受診しよう 閉塞性動脈硬化症の初期症状は見過ごされやすいですが、放置すると壊死を起こし、最悪の場合は足の切断に至ることもあります。 違和感を覚えた場合は、速やかに医療機関を受診してください。また、動脈硬化は全身に起こるため、足の症状だけでなく心臓病や脳卒中といった重篤な病気につながる可能性もあります。 当院リペアセルクリニックでは、症状や受診科の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 閉塞性動脈硬化症が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 玉木 正人ほか.「下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療法の評価とQOL」, pp.1-8, 1995年 https://www.jsvs.org/jsvs/pdf/19950401/jsvs_1995_0401_0083.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「末梢閉塞性動脈疾患」MSD マニュアル 家庭版,2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%96%89%E5%A1%9E%E6%80%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) 宮田 哲郎,「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015 年改訂版)」『2014年度合同研究班報告』, pp.1-95, 2015年 https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/JCS2015_miyata_h.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 「臨床研究の概要をできる限り平易な用語を用いて記載した要旨」pp.1-3 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0723-17c_0022.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 「動脈硬化は怖い病気のはじまり」『一般社団法人 日本動脈硬化学会』, pp.1-4 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/general/pdf/doumyaku_p2023.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病合併症について」一般社団法人日本糖尿病学会,2021年9月2日 https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 厚生労働省「糖尿病」 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 寺本 民生.「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」, pp.1-12, 2014年 https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) 「脂質異常症」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/dyslipidemia/(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82&text=%E5%96%AB%E7%85%99%E8%80%85%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E9%9D%9E%E5%96%AB%E7%85%99,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) Xu Y, et al. (2024). Smoking as a risk factor for lower extremity peripheral artery disease in women compared to men: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 19(4), pp.e0300963. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300963(最終アクセス:2025年6月6日) (文献12) 林 富貴雄,伊東 春樹.「下肢閉塞性動脈硬化症のリハビリテーション」『『血管病と運動』シリーズ ASO編』, pp.1-8, 2018年 https://www.npo-jhc.org/image/pdf/aso.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献13) 「皮下脂肪由来幹細胞で血管病を治療 -皮下脂肪由来幹細胞を利用した再生医療が下肢切断を救う!-」『皮下脂肪由来間葉系幹細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法〜他施設共同研究〜』, pp.1-5, https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Ang_220714.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献14) 横井 宏佳.「閉塞性動脈硬化症(PAD)の薬物療法 〜循環器内科医の立場から〜」日本フットケア学会雑誌, pp.1-4, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/footcare/15/3/15_16/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献15) 真田ほか.「先進医療B 総括報告書に関する評価表(告示旧24)」『第154回先進医療技術審査部会』, pp.1-15, 2023年 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001163753.pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「足の違和感で長く歩けない」 「ふくらはぎが張って立ち止まりたくなる」 その症状を年齢のせいにして、放置していませんか?違和感はあるけれど、休むと和らぐその症状は間欠跛行(かんけつはこう)かもしれません。動き出すと辛くなり、休むと楽になる繰り返しに、不安を覚える方も少なくありません。本記事では、間欠跛行の症状とともに、以下の内容について解説します。 間欠跛行の原因 間欠跛行の治療法 間欠跛行のリハビリ方法 記事の最後には、間欠跛行の症状に関してよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 間欠跛行とは 影響の種類 具体的な内容 外出の制限 違和感が出る距離が短くなり、買い物や散歩などの外出が億劫になる 活動量の低下 違和感を恐れて活動量が減り、筋力や体力が低下する可能性がある 精神的な負担 症状の再発への不安が常にあり、ストレスを感じやすくなる 生活の質の低下 趣味や社会活動が難しくなり、生活の満足度が低下する 間欠跛行(かんけつはこう)とは、一定の距離を歩くと足やふくらはぎにだるさやしびれを感じて歩けなくなり、しばらく休むと再び歩けるようになる症状です。発症の主な原因は神経の圧迫や血流障害で、加齢や生活習慣病と深く関係しています。歩行時の違和感は日によって変動し、一時的な不調と見過ごされやすい点も特徴です。 最初は軽い違和感でも、放置すれば歩行困難や日常生活への支障に発展するため、自己判断はせず、早期の段階で医療機関を受診するのが大切です。 間欠跛行の原因 特徴 神経性間欠跛行(脊柱管狭窄症など) 血管性間欠跛行(閉塞性動脈硬化症など) 原因 加齢による背骨の変形、椎間板の変性などによる腰部神経の圧迫 動脈硬化による足の血管の狭窄や閉塞による血流不足 発症のきっかけ 長時間の歩行、腰を反らす姿勢 歩行 症状の特徴 しびれ、脱力感、違和感 違和感、つっぱり感、冷感、皮膚の色が変化する 違和感が出る箇所 腰、お尻、太もも、ふくらはぎ、足 臀部から足(下肢全体) 悪化させる要因 加齢、不良姿勢、重労働など 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、加齢など 日常生活の注意点 同じ姿勢を続けない、腰に負担のかかる動作を避ける、適切な運動 禁煙、食事療法、適度な運動、足を冷やさない 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性)と閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性)の二つです。症状別に原因を解説します。 脊柱管狭窄症による間欠跛行(神経性) 項目 内容 原因 背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫される 起こりやすい病気 脊柱管狭窄症(とくに腰の部分で起こる) 主な症状 歩くと足がしびれる・力が入らない・つっぱるような感覚がある 症状の悪化 歩いたり立ったりすると悪化しやすい 楽になる姿勢 前かがみになる・座るなどで神経の圧迫がゆるみ、症状が軽くなる 特徴的な行動 自転車には乗れるが、歩くのがつらい 症状の現れ方 両足にしびれや脱力感が出ることが多い 注意点 血管の病気との見分けが難しいため、自己判断せず医療機関を受診する (文献1) 神経性の間欠跛行は、主に脊柱管狭窄症が原因で起こります。加齢などにより背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されることで足にしびれや脱力感が生じ、歩くことが難しくなります。身体を前屈みにすると症状が軽くなり、歩いたり直立すると症状が悪化しやすいのが特徴です。 神経性の間欠跛行は、しびれや脱力感が強く出るのが特徴です。血管性とは異なりますが、症状が似ているため、しばしば混同されます。症状が似ているため、自己判断は避け、整形外科や脳神経外科での画像検査(MRIなど)を受けるようにしましょう。 以下の記事では、脊柱管狭窄症について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行(血管性) 項目 内容 原因 動脈硬化で足の血管が細くなり、血液が十分に流れなくなる 起こりやすい病気 閉塞性動脈硬化症(ASO) 主な症状 歩行時のふくらはぎの重だるさ、締めつけられるような違和感 症状の悪化 歩行を続けると悪化する 楽になる姿勢 姿勢に関係なく、立ち止まると速やかに回復 特徴的な行動 自転車でも歩行時と同様に症状が出ることがある 症状の現れ方 片足に出ることが多い 注意点 放置すると潰瘍・壊死の恐れあり。進行する前に受診が必要 (文献2) 血管性間欠跛行は、閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれる血管の病気が原因で起こります。足の動脈が動脈硬化により狭くなったり詰まったりすると、歩行中に筋肉へ十分な血液が届かなくなります。血液が流れにくくなることで、ふくらはぎなどに違和感が現れるのが特徴です。 閉塞性動脈硬化症による血管性間欠跛行では、一定の距離を歩くと症状が現れますが、立ち止まって休息を取ることで、血流が回復し、再び歩けるようになります。しかし、症状が進行すると歩ける距離がどんどん短くなり、重症化すると、安静にしていても足が辛くなり、冷感や皮膚の色の変化、潰瘍などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。 閉塞性動脈硬化症による間欠跛行は、早期治療に加えて、生活習慣の改善や禁煙が重要です。必要に応じて、薬物療法や血管手術での改善も行われます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症について詳しく解説しています。 間欠跛行が治る可能性について 間欠跛行は、原因に合った治療を受けることで大きく改善し、普段の生活にほとんど支障がない状態まで回復も視野に入ります。運動療法や生活習慣の改善により歩ける距離が伸びれば、生活の質は大きく向上するでしょう。ただし、動脈硬化そのものを完全に元の状態に戻すのは難しく、完治よりも症状管理が治療の中心となります。 治療の目標は症状の完治ではなく、あくまで「改善」であることが大前提です。また、改善に加えて、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を防ぐことも目的です。間欠跛行が改善する可能性を少しでも上げるには、早期の受診と継続的なケアが求められます。 間欠跛行の治療法 治療法 内容 対象となるケース ポイント 保存療法 運動療法(ウォーキングなど)や薬の服用、生活習慣の改善 初期〜中等度の症状 症状を和らげ、症状の進行を防ぐ 手術療法 血管を広げるカテーテル治療や詰まった部分のバイパス手術など 保存療法で効果が不十分な場合や重症例 血流を改善し、歩ける距離を大きく伸ばせる 再生医療 自分の細胞や成分を使って血管の修復や再生をうながす先進的な治療法 他の治療が難しい場合や効果が乏しいケース 一部の施設で実施、効果や適応は限定的 間欠跛行の治療法は以下の3つです。 保存療法 手術療法 再生医療 治療法ごとに適したケースや効果の範囲が異なるため、医師の指示に従う必要があります。間欠跛行の治療法について解説します。 保存療法 治療法 内容 期待される効果・ポイント 運動療法 計画的な歩行訓練、下肢筋力トレーニング、ストレッチなど 側副血行路の発達、酸素利用効率向上、歩行距離の延長 薬物療法 抗血小板薬、血管拡張薬、鎮痛薬など(医師の判断で処方) 血流改善、血栓予防、症状の緩和 生活習慣の改善 禁煙、食事改善、体重・血糖・血圧管理、ストレス・冷え対策 動脈硬化の進行抑制、生活習慣病の改善、薬の効果を引き出す 間欠跛行に対する保存療法は、手術をせずに症状の改善と病気の進行を抑える方法です。運動療法では歩行訓練によって血流を改善し、歩行可能な距離を少しずつ延ばしていきます。薬物療法では、血液をサラサラにしたり血管を広げる薬で症状の軽減を目指します。また、生活習慣を根本から改善するのも動脈硬化を防ぐ上で大切です。 保存療法はすぐに効果が出るものではありませんが、長期的な歩行能力の回復と維持に重要な治療法です。 手術療法 項目 バイパス手術(血管バイパス術) 血栓除去術(血行再建術) 目的 狭くなった血管を迂回して、新たな血液の通り道を作る 詰まった血管から血栓(血のかたまり)を取り除いて血流を再開させる 対象となる状態 慢性的な血流障害(閉塞性動脈硬化症など) 急に血流が止まった場合(急性動脈閉塞など) 使用される血管 自分の静脈(自家血管)または人工血管 既存の血管を利用し、血栓を除去 麻酔・方法 全身または局所麻酔で行い、血管を縫い合わせる 同様に麻酔下で血管を開き、器具で血栓を取り出す 効果 血流の大幅な改善、歩行症状の軽減や重症化の予防 早期の血流回復で壊死や切断リスクを低下、症状の改善が見込める 注意点 感染、出血、再閉塞などの合併症リスクあり 同様に合併症や再閉塞のリスクがあり、術後管理が大切 間欠跛行の症状が進行しており、保存療法で改善が難しい場合は、手術療法が検討されます。代表的なのがバイパス手術で、狭くなった血管を迂回するように新しい通り道を作り、足への血流の改善を目指します。 血栓除去術では、急に詰まった血管を開き、血栓を取り除き、血液の流れを回復させる治療法です。 どちらの治療法も血流を改善し、歩行時の違和感や足の壊死リスクを軽減する効果が期待できます。ただし、保存療法に比べて体への負担が大きく、感染や出血、バイパス血管の詰まりといった合併症のリスクがあり、入院期間も長くなる傾向があります。 手術を検討する際は、医師とよく相談した上で決めることが大切です。 再生医療 原因のタイプ 再生医療のアプローチ 期待される効果 神経性(脊柱管狭窄症) 幹細胞などを用いて、傷ついた神経の修復や炎症の抑制 神経の伝達が改善し、しびれや違和感が軽くなる 血管性(動脈硬化) 新しい毛細血管をつくる(血管新生)よう促す治療を行う 足への血流が改善し、歩くときの違和感が緩和される可能性がある 間欠跛行は、神経の圧迫や血管の詰まりが原因で起こる症状です。再生医療では、身体が本来持つ修復力を利用して神経や血管の機能回復を目指す治療法であり、しびれや違和感の軽減、血流の改善が期待されます。 手術療法と比べ、長期の入院や感染症のリスクが少ないのがメリットです。ただし、再生医療は限られた医療機関でしか行われていないため、対応している施設での受診が必要です。 間欠跛行のリハビリ方法 種類 内容・目的 期待される効果 注意点 ふくらはぎストレッチ かかとを床につけたまま壁に向かって体を倒す 血流改善、筋肉の柔軟性向上 違和感が出る場合は中止 太もも裏のストレッチ 座って片脚を伸ばし、足先に向かって上半身を倒す ハムストリングの柔軟性向上 背中を丸めすぎないよう注意 お尻のストレッチ 仰向けで片膝を胸に引き寄せる 股関節周囲の柔軟性を保ち、神経の圧迫を軽減 無理に力を入れず、深呼吸をしながら行う 股関節前のストレッチ 片膝立ちの姿勢で体を前方に押し出す 血流と可動域の改善 バランスを崩さないよう、壁や椅子で支える 間欠跛行のリハビリでは、ストレッチを中心とした運動療法が症状の改善に非常に効果的です。ふくらはぎや太ももの裏、股関節まわりの柔軟性を高めることで、血流が促進され、症状の改善が期待できます。 実際に、腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行の70代男性が、週1回の理学療法とセルフストレッチを続けた結果、歩行距離が500m未満から3km以上にまで改善した例があります。(文献3) 改善例からもわかる通り、ストレッチは毎日少しずつ無理のない範囲で続けることが大切です。リハビリ中に違和感が出る場合は、すぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行における日常生活で気をつけること 項目 内容 無理に歩きすぎない 違和感を我慢すると悪化のリスクがあるため、無理せず休憩を挟む 姿勢に注意する 神経性の場合は前かがみが楽になることが多い 禁煙・食生活の改善 喫煙や高脂肪食は動脈硬化を進めるため、生活習慣の見直しが重要 血圧・血糖・コレステロール管理 生活習慣病のコントロールで症状の進行を抑える 適度な運動を継続する ウォーキングなど違和感が出ない範囲での運動が予防と改善につながる 足の状態を毎日チェックする 傷や潰瘍ができていないか確認し、早めに対処する 症状の変化があれば受診 一時的に良くなっても、病気が進行している可能性がある 間欠跛行の症状を悪化させないためには、無理に歩いたり、過度な運動は禁物です。違和感を抱えたまま歩くと神経や血管に負担がかかり、症状の悪化につながります。神経や血管に負担をかけないためにも適度な休憩を取りましょう。 また、間欠跛行を悪化させないためには、適度な運動に加え、食生活の改善や禁煙が大切です。とくに喫煙や高コレステロールは動脈硬化の原因になるため注意が必要です。また、足に傷や潰瘍がないか毎日確認し、異常があれば早めに受診しましょう。 間欠跛行が疑われる場合は迷わず医療機関へ 間欠跛行は歩くと辛くなり、休むと楽になるのが症状の特徴です。間欠跛行は休むと楽になるため軽視されがちですが、重症化すると足の壊死や切断を余儀なくされることもあります。 日常生活でわずかでも足に違和感があれば、症状が悪化する前に医療機関を受診しましょう。当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の初期症状にも丁寧に対応し、幹細胞を用いた再生医療で治療をサポートしています。 症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状に関してよくある質問 間欠跛行は何科を受診するべきでしょうか? 初期の段階では原因の特定が難しいため、整形外科の受診をおすすめします。動脈硬化が判明している場合は、循環器内科もしくは、血管外科を受診しましょう。また、間欠跛行を治療できる医療機関の探し方としては、口コミやGoogleマップで評判をチェックするのがおすすめです。 当院リペアセルクリニックでは、間欠跛行の治療も行なっておりますので「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、お気軽にご相談ください。 間欠跛行の症状は自然治癒しますか? 間欠跛行の自然治癒はほとんどありません。原因に応じた治療が必要で、放置すると症状が進行する恐れがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 運動はまったくしてはいけないのでしょうか? 運動は無理のない範囲であれば、問題ありません。ただし、違和感が出た場合はすぐに中止し、医師に相談しましょう。 間欠跛行の症状とがんは関係あるのでしょうか? 間欠跛行の原因は主に脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症による血流障害であり、がんとの直接的な関係性はありません。ただし、がんが神経や血管を圧迫することで似たような症状が出ることもあるので、原因が特定できない場合は精密検査を受ける必要があります。 参考資料 (文献1) 「腰部脊柱管狭窄症」『整形外科シリーズ8』, pp.1-2,2023 https://www.joa.or.jp/public/sick/pdf/MO0013CKA.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献2) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月9日) (文献3) 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 「腰部脊柱管狭窄症の間欠性跛行が改善した一例」J-STAGE,2018年7月16日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/46S1/0/46S1_H2-166_1/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年5月9日)
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
骨粗鬆症は治るのか、将来の健康に対して漠然とした不安を抱いていませんか。加齢とともに骨がもろくなる病気とされ「もう治らないのでは」と心配になる方も多いでしょう。 たしかに、骨粗鬆症は完治が難しい病気です。しかし、適切な治療と生活習慣の見直しによって進行を防げば、骨密度の改善や骨折のリスク軽減に期待できます。 この記事では、医師が骨粗鬆症の治療法や薬の種類、さらに食事や運動による予防法までわかりやすく解説します。 本記事を参考に「完治させる」のではなく「これ以上悪化させない」ことに目を向け、骨粗鬆症の治療や予防に前向きに取り組んでみましょう。 骨粗鬆症の完治は難しいが進行を抑えることは可能 骨粗鬆症の治療目的は、完治ではなく、進行を抑えて骨折を防ぐことです。(文献1) 骨は常に「骨吸収(骨を壊す)」と「骨形成(骨を作る)」を繰り返しています。(文献2)加齢やホルモンバランスの変化で骨を作り変えるリズムが崩れると、骨吸収が優位になり、骨密度が低下していきます。これが骨粗鬆症の本質です。 現在の医学では、一度減少した骨密度を完全に若年時の状態に戻すことは困難です。しかし、薬物療法や食生活・運動習慣の改善を継続すると、骨量の減少を抑えたり、骨密度を高めたりすることも可能です。 骨折リスクを減らして健康寿命を延ばすには、骨粗鬆症の完治を目指すよりも、進行を抑えることが大切です。早期から治療と予防に取り組み、骨の健康を守りましょう。 なお、骨粗鬆症の進行を防ぐには、原因を理解しておくことも重要です。原因については、以下の記事にて詳しく解説しています。気になる方は、あわせて参考にしてください。 骨粗鬆症の進行を防ぐ方法 食事や運動により、骨粗鬆症の進行を防ぐ方法として以下の2つがあります。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、日々の食事や運動が進行防止に大切です。ぜひ本章を参考に、生活習慣を見直してみてください。 カルシウムやビタミンDなど骨を強くする栄養素を摂る 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨の材料となる栄養素を意識的に摂取しましょう。 中でもカルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質は、骨の形成や維持に欠かせません。骨に必要な栄養素が豊富に含まれている食材として、以下のようなものがあります。 栄養素 食材例(文献3) カルシウム 牛乳 えび ビタミンD 鮭 きくらげ ビタミンK ほうれん草 納豆 たんぱく質 卵 豚肉 これらの栄養素を含む食材を、毎日の食事にバランスよく取り入れることが理想です。急に食生活を変えるのが難しい場合は、納豆や牛乳など取り入れやすい1品から始めてみると良いでしょう。 かかと落としやウオーキングで骨に刺激を与える 骨粗鬆症の進行を防ぐには、骨に刺激を与える運動を日常に取り入れることが有効です。 運動で骨に適度な刺激が加わると、骨の形成が促され、骨密度の維持や向上につながります。(文献4)実際に、50代男性に片脚ジャンプを1年間続けてもらったところ、大腿骨の骨密度が上昇したとの研究結果もあります。(文献5) ただし、骨折の経験がある方や高齢者の場合、無理をせずに医師や理学療法士の指導のもとで安全に行うことが大切です。日常生活に無理のない範囲で、継続しやすい運動を取り入れていきましょう。 骨粗鬆症の治療薬について 病院では、骨粗鬆症の進行を抑える薬を使った治療が一般的に行われています。本章では、病院で用いられる主な治療薬の種類と副作用について詳しく解説します。 納得して治療に取り組むためにも、薬の種類や副作用を知っておきましょう。 薬の種類 骨粗鬆症の治療薬は、大きく分けると「骨の吸収を抑える薬」と「骨代謝を調節する薬」の2種類です。また、骨の代謝バランスを整え、穏やかに両方の作用を助けるものもあります。 それぞれの薬は、患者の年齢や骨折歴、骨密度などをもとに、治療の目的に合わせて選択されます。 代表的な薬は以下の通りです。 薬の種類 代表例 骨の吸収を抑える アレンドロン酸(フォサマック®) デノスマブ(プラリア®) 骨を作る力を促す テリパラチド(フォルテオ®) 骨の代謝を調節する エルデカルシトール(エディロール®) 薬によっては、注射薬や週1回、月1回などの服用で済むものもあり、ライフスタイルに合わせて治療薬を選択できます。どの薬が適しているかは個人によって異なるため、定期的に検査を受け、医師と相談しながら治療を続けましょう。 薬の副作用 骨粗鬆症の薬は副作用リスクもあるため、医師の指導を受けながら正しく使用しましょう。 たとえば、ビスホスホネート系のような骨吸収抑制薬では、まれに「あごの骨に異常をきたす(顎骨壊死・がっこつえし)」の副作用が報告されています。(文献1)そのため、歯科治療を受ける際は、事前に歯科医と連携することが推奨されます。また、内服薬では胃もたれや吐き気などの消化器症状が出ることもあるため、服用方法や体調の変化には注意が必要です。 副作用は必ず起こるものではありませんが、適切に対策を取ることで症状の軽減や予防が可能です。副作用が疑われる場合でも、自己判断で薬を中止するとかえって悪化するおそれがあるため、必ず医師の指示を仰いでください。 なお、骨粗鬆症は薬だけに頼るのではなく、食事や運動といった生活習慣の見直しも予防に役立ちます。詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 治療薬にかかる値段の目安 骨粗鬆症の薬には保険が適用されており、多くの場合自己負担は3割です。ただし、薬の種類や投与方法によって費用は異なるため、治療を継続するには経済面の確認も大切です。 たとえば、6カ月に1回の注射薬「デノスマブ(プラリア®)」は、3割負担の場合自己負担額が1回あたり5,000~8,000円程度かかります。 さらに毎日服用が必要な薬でも、月に数千円以上の医療費がかかるケースは珍しくありません。このように、骨粗鬆症の治療には一定の費用がかかるため、経済的な負担を感じる方も多いでしょう。 負担が大きい場合、一定の条件を満たすと「高額療養費制度」という一定金額以上の自己負担額が払い戻される制度を利用できる場合があります。(文献6)費用に不安がある方は、こうした制度を活用すると経済的負担を軽減できるでしょう。 骨粗鬆症は完治を目指すよりも進行を防ぐことが大切 骨粗鬆症の治療目的は完治ではなく、進行を抑えて骨折リスクを減らし、健康寿命をのばすことです。 薬の服用に加え、食事や運動の改善を組み合わせると骨の健康にも良いでしょう。ぜひ本記事を参考に、骨粗鬆症の進行予防に取り組んでみてください。 なお、薬や生活習慣の改善に加え、運動機能の維持も骨粗鬆症対策の一環として重要です。とくに膝や股関節に痛みを抱える方は、日常の運動が制限されてしまうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、膝の痛みや半月板損傷などの運動器疾患に対して比較的新しい治療法「再生医療」をご提案しています。「痛みの少ない治療を検討したい」「手術以外の方法を探している」という方は、ぜひメール相談やオンラインカウンセリングをご利用ください。 骨粗鬆症についてよくある質問 骨粗鬆症はいつまで治療を続ける必要があるの? 骨粗鬆症の治療は長期間に及ぶことが多く、医師の判断に基づいて継続の可否を決めることが大切です。 治療により一時的に骨密度が改善しても、薬の中断により再び骨密度が低下し、骨折リスクが高まる可能性があります。 実際にデノスマブ(プラリア®)による治療を中断した後、急激な骨密度の減少と骨折の発生件数が増えたとの報告もありました。(文献5) 「薬はいつまで続ければ良いのか」と不安になった場合は、自己判断で中断はせず、必ず主治医と相談して今後の治療計画を立てましょう。 骨粗鬆症になったら避けるべきことは? 骨粗鬆症の進行を防ぐには、日常生活での悪習慣を見直すことが重要です。とくに喫煙・過度の飲酒・運動不足は、骨の形成や維持に悪影響を及ぼすリスクがあります。以下に、それぞれの習慣が骨に与える具体的な影響をまとめました。(文献1) 避けるべき生活習慣 骨に与える悪影響 喫煙 骨の材料であるカルシウムの吸収を阻害したり、尿への排出を促したりする 過度の飲酒 カルシウムの吸収を阻害し、骨密度を低下させる 運動不足 骨への刺激が減り、骨の強度が弱くなる まずは「禁煙に挑戦する」「お酒の量を1日1杯までに抑える」「週2回は軽い運動をする」など、無理のない範囲で行動を変えることから始めましょう。 骨粗鬆症の薬には後遺症がありますか? 骨粗鬆症治療薬によって後遺症のような障害が残るケースはごくまれですが、なかには注意すべき副作用も存在します。代表的な例として、以下のようなものが報告されています。 薬の成分の例 重篤な副作用の例 アレンドロン酸(ビスホスホネート系) 顎骨壊死(文献6) デノスマブ 低カルシウム血症(文献7) テリパラチド 骨肉腫(文献8) 定期的な血液検査や歯科受診などにより、重篤な副作用は予防・早期発見が可能です。気になることがある場合は、医師に相談し、治療内容に納得した上で進めていきましょう。 参考文献 文献1 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献2 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献3 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_00001_011.pdf 文献4 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献5 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献6 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「ベネット錠2.5mg 添付文書」2024年3月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400256_3999019F1034_1_29 文献7 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「プラリア皮下注60mgシリンジ 添付文書」2023年11月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/430574_3999435G1023_1_15 文献8 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「フォルテオ皮下注キット600μg 添付文書」2022年10月改訂https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/530471_2439400G1020_1_18
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
骨粗鬆症を放置すると骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。とくに高齢者では、骨折をきっかけに寝たきりになることもあり、見過ごせない問題です。 診断された方の中には「どのような運動をすれば良いのかわからない」「運動しても骨折しないか不安」と感じている方もいるでしょう。 しかし、適度な運動によって骨に刺激を与えることで、骨密度の低下を防ぐ効果があるとされています。骨粗鬆症の発症や進行の予防にもつながるため、運動は食事や薬物療法と同じくらい大切です。 本記事では、骨粗鬆症におすすめの運動方法や頻度、注意点についてわかりやすく解説します。ぜひ本記事を参考に、今日から無理のない範囲で運動を取り入れてみてください。 骨粗鬆症の運動は予防・改善につながる 人の体では、古い骨は壊され、新しい骨をつくる「骨代謝」が繰り返されています。(文献1)運動によって骨に軽い刺激(微細なストレス)を与えると、骨をつくる細胞が活性化され、新しい骨の形成が促進されます。(文献2) その結果、定期的な運動は骨の健康にも良い効果をもたらすのです。 あわせて骨粗鬆症の原因を知ることで、運動の必要性をより深く理解し、継続的な予防につなげやすくなります。原因について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 骨粗鬆症におすすめの運動法|今すぐできる具体例を紹介 骨粗鬆症におすすめの運動は以下の4つです。 かかと落とし ウォーキング 下半身の筋トレ バランス運動 本章で紹介している運動は、骨に適度な刺激を与えて骨密度の低下やバランス感覚の維持につながります。結果として、転倒や骨折のリスクを減らす効果も期待できるでしょう。 本章を参考に、自分に合った運動を今日から少しずつ取り入れてみてください。 かかと落とし かかと落としは、床にかかとを落とす軽い衝撃が骨に適度な刺激を与え、太ももの骨を強化する効果的な運動として注目されています。(文献3)特別な道具を使わず、自宅でテレビを見ながらでもできるため、手軽に取り入れやすいでしょう。 かかと落としのやり方は以下の通りです。 壁や椅子の近くに立ち、足を肩幅に開く ゆっくりつま先立ちになる ストンとかかとを床に落とす 転びそうであれば、手すりや壁に掴まりながら行うのも良いでしょう。1日あたり10〜20回を3セットの実践が理想的であるものの、無理は禁物です。最初は少ない回数から始め、体が慣れたら徐々に増やすようにしましょう。 ウォーキング ウォーキングは骨に適度な負荷をかけながら、全身の健康維持にもつながる運動です。通勤や買い物のついでに実践できるため、日常生活に取り入れやすい運動のひとつです。 歩行時の骨への物理的な刺激が骨密度の維持・向上を促します。歩くことで下半身の筋力が鍛えられるため、転倒による骨折防止にもおすすめです。 1日30分を週3〜5回ほど、通勤や買い物のついでに歩く習慣をつけると続けやすくなります。普段歩く際には、以下を意識してみてください。 背筋を伸ばす 大股で歩く 腕を大きく振る いつもより早歩きする 最初は短時間から始め、徐々に時間を延ばすと無理なく継続できます。ぜひ日常生活の一部に取り入れてみてください。 下半身の筋トレ 下半身を鍛える筋力トレーニングは、骨に適度な刺激を与え、骨粗鬆症の予防に効果があるとされています。筋力アップによって転倒リスクも下がるため、骨折の防止にもつながります。 なかでも太ももやお尻の筋肉は骨盤や大腿骨を支える重要な部位で、筋力強化により骨にかかる負担を分散できます。とくに高齢者では筋肉量の低下が骨折の一因となるため、下半身の筋トレはおすすめです。 効果的なトレーニングとして、スクワット(膝の屈伸運動)やつま先立ちを繰り返すカーフレイズ(ふくらはぎの筋力トレーニング)などが挙げられます。転倒が不安な場合は、必ず椅子や壁を支えにしながら行いましょう。運動に慣れてきたら、無理のない範囲で回数を少しずつ増やしてみてください。 バランス運動 バランス力を鍛える運動は体幹を安定させ、日常生活でのふらつきを減らすのに役立ちます。 骨粗鬆症の方は骨がもろくなっているため、転倒による骨折リスクが高くなります。そのため、バランス感覚を養い、転倒を防ぐことが大切です。 おすすめのバランス運動には、以下のような方法があります。いずれも自宅で手軽にでき、歯磨き中や家事などの隙間時間を使って始められます。 バランス運動の例 具体的な方法 片足立ち 壁や椅子に軽く手を添え、片足を上げて数秒間キープする 体重移動 足を肩幅に開き、ゆっくりと左右に体重を移動させる 上体ひねり運動 椅子に浅く腰掛け、両手を広げてゆっくりと上体を左右にひねる こうした運動を毎日続けると自然に平衡感覚が養われ、転倒への不安も軽減されるでしょう。無理のない範囲で、ぜひこまめに取り組んでみてください。 骨粗鬆症における運動の推奨頻度 骨粗鬆症の予防や改善には、週に2〜3回の運動を習慣にすることが大切です。 定期的な運動は骨に適度な刺激を与え、骨密度や骨質の向上を促します。骨にストレスを与えすぎると疲労やけがの原因になりますが、頻度が少なすぎると効果が出にくくなります。そのため、バランスの取れたペースが重要です。 実際に、週に2〜3回以上の頻度でバランス運動や筋トレを行うと、転倒リスクの低減に効果的であるとされています。(文献4)骨粗鬆症と診断された方は、まずは週に2〜3回のペースで、自分に合った運動から始めてみてください。 骨粗鬆症の運動における注意点 骨粗鬆症の方が運動をする際の注意点は、以下の4つです。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 運動のしすぎと誤ったフォームは避ける 痛みや違和感が出たらすぐに中止する 症状に不安がある場合は事前に医師へ相談する 骨粗鬆症の方にとって、転倒や骨折のリスクを避けながら安全に運動を心がけることが大切です。事前に本章の内容を確認し、けがを防ぎながら安全に運動を取り入れましょう。 急激な動作や転倒リスクの高い運動は避ける 骨粗鬆症では骨がもろくなっており、軽い衝撃でも骨折につながることがあります。さらに、バランス能力が低下していると、転倒による重篤な骨折のリスクも高まります。 骨粗鬆症の方が避けるべき運動や動作の例は以下の通りです。安全性が確保できない運動は、無理に行わないようにしましょう。 急な方向転換を伴う運動(激しいテニスやゴルフなど) 前かがみや体を強くひねる運動 過度に重いダンベルの持ち上げ運動 不安がある場合は、必ず医師や専門家に相談して自分に合った安全な運動を選ぶようにしてください。 運動しすぎと誤ったフォームは避ける 骨粗鬆症の予防に運動は効果的ですが、やりすぎたり誤ったフォームで行ったりすると、かえって体に悪影響を及ぼす恐れもあるため注意が必要です。とくに高齢者は筋力が低下しており、骨や関節にかかる負担が大きくなると、疲労骨折や関節の炎症も起こりやすくなります。 たとえば、長時間の歩行で膝を痛めたり、背中を丸めた姿勢でのウォーキングで腰を痛めたりする場合があります。また、無理な回数のスクワットも膝に負担をかけるため注意が必要です。 運動は理想的な回数や強度よりも、正しいフォームと自分の体調に合わせることが大切です。不安がある場合は、担当の医師や理学療法士などと相談しながら取り組みましょう。 痛みや違和感が出たときは中止する 運動中に痛みや違和感を覚えた場合は、すぐに中止しましょう。 骨粗鬆症の方は骨折のリスクが高く、痛みは骨や関節の損傷、あるいは骨折・捻挫の前兆の可能性もあります。無理に続けるのは避けましょう。 軽い筋肉痛であれば問題ありませんが、鋭い痛みや長引く痛みには注意が必要です。運動中に膝や腰などに強い痛みを感じた場合は、無理せず休憩し、必要に応じて整形外科を受診してください。 症状に不安がある場合は医師に相談する 骨の状態や体力には個人差があり、自分に合わない運動はかえって体を痛めるおそれがあります。医師は骨密度や持病の有無を踏まえて、より安全な運動方法を提案してくれます。不安がある場合は、あらかじめ相談しておくと安心です。 とくに以下に該当する方は、思わぬけがや症状悪化の予防のために事前の相談をおすすめします。 過去に骨折歴がある 歩行時にふらつきがある 他の持病を抱えている 少しでも不安がある方は自己判断せず、医師や理学療法士などの指導を受けながら安全に運動を続けましょう。 骨粗鬆症予防のためにも今日から運動を始めてみよう! 骨粗鬆症の進行を抑えるには、日常的に運動を取り入れることが大切です。骨に適度な刺激を与えることで、骨密度の維持や転倒リスクの軽減が期待できます。自分にとって無理のない運動を今日から始めてみてください。 ただし、骨粗鬆症の方は関節や筋肉が弱くなっていることも多く、運動によって膝や股関節に痛みが出る場合もあります。手術が必要になることもありますが、できるだけ避けたい方には切らずに治療できる「再生医療」もおすすめです。 当院「リペアセルクリニック」では幹細胞を活用した再生医療に対応しており、膝や股関節などの慢性的な痛みに対する治療も行っています。今ならメールまたはオンラインカウンセリングにて無料相談を受付中です。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。 骨粗鬆症の運動に関してよくある質問 骨におすすめの食べ物や飲み物は? 骨を強く保つには、以下のようなカルシウム・ビタミンD・ビタミンKが含まれた食材の摂取がおすすめです。 栄養素 働き 主な食材例(文献8) カルシウム 骨量を維持する(文献5) 魚介類(えびやかに)、牛乳など ビタミンD カルシウムの吸収を補助する(文献6) キノコ類(きくらげ)、魚介類(かつおやいわし)など ビタミンK 骨代謝のバランスを整える(文献7) 緑茶類、藻類(わかめやのり)など 毎日の食事で不足しがちな栄養素を意識して摂取すると、運動とあわせて骨の健康維持が期待できます。ただし、カルシウムやビタミンDは過剰症も報告されているため、摂りすぎには注意しましょう。(文献9) また、こうした栄養管理を通じて、薬に頼らずに骨粗鬆症の予防に取り組めます。詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 かかと落としの効果が出るまでどのくらいかかりますか? かかと落としの効果が現れるまでには、少なくとも数カ月の継続が必要です。 骨の代謝サイクルは約1〜4年とされており、運動による刺激が骨密度に反映されるまでには時間がかかります。(文献1)骨粗鬆症の予防効果を得るには短期間で結果を求めず、日々の習慣として継続的に行うことが大切です。 骨密度が高い人の特徴はなんですか? 骨密度を高く保っている人には、以下のような特徴があります。 日常的に体を動かす習慣がある カルシウムやビタミンを意識して摂っている 栄養バランスの整った食事を心がけている 日頃から階段を使用している 骨密度は20〜30代にかけてピークを迎え、加齢とともに徐々に減少します。(文献4)だからこそ、これらの生活習慣を取り入れ、将来的な骨密度の低下を防ぐことが大切です。 今からでも遅くはありません。運動や食生活を見直し、骨密度の維持・改善に取り組みましょう。 参考文献 文献1 川口浩.「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」『脊髄外科』29巻(3号), p.259-p.266, 2015年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_259/_pdf 文献2 佐藤哲也、小池達也.「運動と骨」『生活衛生』36巻(5号), p.239-p.245, 1992年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/5/36_5_239/_pdf 文献3 藤田 博曉.「骨粗鬆症に対する運動療法」『日本内科学会雑誌』111巻(4号), p765-p771, 2022年.URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/4/111_765/_pdf 文献4 日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」2015年,http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2015_01.pdf 文献5 久保田 恵.「カルシウム摂取による骨折・骨粗鬆症予防のエビデンス」『日本衛生学雑誌』58巻(3合), p.317-p.327, 2003年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh1946/58/3/58_3_317/_pdf 文献6 竹内靖博.「骨・カルシウム代謝異常症におけるビタミンDの役割」『臨床リウマチ』25巻, p.198-p.202, 2013年https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/25/3/25_198/_pdf 文献7 鈴木啓章.「ビタミンKの健康栄養機能に関する最近の知見」『オレオサイエンス』14巻(12号), p.555-p.561, 2014年,https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf/-char/ja 文献8 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から出典」2023年,https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf 文献9 厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書」2024年,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
2025.05.30 -
- その他、整形外科疾患
「骨粗鬆症の予防や改善に効果的な食べ物はある?」と疑問にお持ちの方も多いのではないでしょうか。 骨密度の低下を未然に防ぐため、骨を強くする食材を普段の食事に取り入れたい人もいるかもしれません。 骨粗鬆症は、年齢とともに骨がもろくなり、骨折のリスクが高まる病気です。とくに女性は閉経後に骨密度が急激に低下しやすいため、日々の食事で骨を強く保つことが大切です。 この記事では、骨粗鬆症予防に役立つ食べ物や食事の工夫について、詳しく解説します。 今日から始められる骨ケアの秘訣を見つけてみましょう。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ物は「牛乳・魚・野菜・大豆」 骨を丈夫に保つには、特定の栄養だけでなく、いくつもの栄養素をバランスよくとることが大切です。 特におすすめの食べ物は以下の4種類です。 食べ物の種類 骨粗鬆症の予防効果 牛乳(乳製品) カルシウムが豊富で骨を強くする 魚 ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 野菜 ビタミンKで骨にカルシウムを定着 大豆・卵・海藻 骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 骨粗鬆症の予防に効果的な食べ物を知り、普段の食事に取り入れていきましょう。 牛乳(乳製品)|カルシウムが豊富で骨を強くする 牛乳や乳製品は、骨をつくるカルシウムの代表的な供給源です。 カルシウムは骨や歯をつくる材料として欠かせない栄養素で、筋肉や神経の働きにも関係しています。 不足すると骨がもろくなり、骨粗鬆症のリスクが高まってしまうため積極的に摂りたい食品です。(文献1) たとえば、牛乳1杯(200g)には約220mgのカルシウムが含まれており、1日に必要な量の約1/3を補えます。(文献2) チーズやヨーグルトを組み合わせれば、より摂り入れやすくなります。 毎日コップ1杯の牛乳から、骨の健康を意識してみましょう。 魚|ビタミンDがカルシウムの吸収をサポート 魚に含まれるビタミンDは、カルシウムを体に吸収しやすくする働きがあります。 ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂ってもうまく吸収されず、骨密度が低下してしまいます。(文献1) また、ビタミンDは日光に当たることで体の中で作られますが、年を重ねるとその働きが弱くなってしまうのです。(文献3) そのため、日光に当たる機会が少ない人や高齢者は、食品からビタミンDをしっかり摂りましょう。 とくに、鮭、いわし、さんまなどの脂ののった魚には、ビタミンDが多く含まれています。 焼き魚や缶詰などでも手軽にとれるので、日々の食事に取り入れやすいのもポイントです。 魚を積極的に食べて、カルシウムの力をしっかり活かしましょう。 野菜|ビタミンKで骨にカルシウムを定着 ビタミンKは、カルシウムを骨にとどめるのに欠かせない栄養素です。 カルシウムをしっかりとっても、それが骨に定着しないと骨は強くなりません。 ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するのを助ける働きがあり、骨粗鬆症の予防薬としても活用されています。(文献4) たとえば、小松菜、ほうれん草などの緑の葉物や納豆はビタミンKが豊富です。 おひたしやみそ汁、炒め物などに取り入れやすく、栄養バランスも整います。 日々の健康管理に役立つ野菜は、骨の健康にも役立ちます。 毎日の食事に、少しずつでも取り入れていきましょう。 大豆・卵・海藻|骨の形成と維持に役立つ栄養素が豊富 大豆製品や卵、海藻には、骨をつくるために大切な栄養素が豊富に含まれています。 たとえば、大豆や卵に多く含まれるたんぱく質は、筋肉や皮膚だけでなく、骨の土台になる「コラーゲン」をつくる材料になります。(文献4) また、海藻に多いマグネシウムは、カルシウムと一緒に骨の形成をサポートしてくれる栄養素です。 不足すると骨がもろくなるリスクがあるため、積極的に摂りましょう。(文献1) さらに、大豆に含まれるイソフラボンには、女性ホルモンに似た働きがあります。 女性ホルモンは骨密度の維持を助ける働きがあるため、分泌が低下した閉経後の女性は骨粗鬆症になるリスクが上昇します。そこで、女性ホルモンに似たイソフラボンは、閉経後の骨の健康をゆるやかにサポートできる可能性があるのです。(文献5) 納豆や豆腐、味噌などの大豆製品は、日本人の食生活にもなじみ深く、日々の食事に取り入れやすいのが魅力です。 味噌汁や納豆、卵焼き、ひじきの煮物など、身近な和食メニューの中には、骨の健康を支える要素がたくさんつまっています。 できることから毎日の習慣にしていきましょう。 【過剰摂取に注意】骨粗鬆症で食べてはいけないもの 骨の健康を守るためには、摂取を控えた方が良い食品もあります。 以下の食品は、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げたり、カルシウムの排泄を促進したりするため、注意が必要です。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 ひとつずつ詳しくみていきましょう。 インスタント食品や加工食品|塩分が多い食べ物 インスタントラーメンやスナック菓子、加工食品には塩分が多く含まれています。 塩分を摂りすぎると、尿中にカルシウムが排泄されやすくなり、骨からカルシウムが失われる原因となります。(文献6) 日常的に塩分の摂取量を意識し、減塩を心がけましょう。 コーヒーや紅茶|カフェインを含む飲み物 コーヒーや紅茶、緑茶などに多く含まれるカフェインも、骨の健康に影響を与えるといわれています。 カフェインには、カルシウムの吸収を妨げたり、尿と一緒に排出されやすくしたりする働きがあります。(文献6) そのため、カルシウム不足を引き起こし、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まることがあるのです。 「コーヒーを1日何杯までに抑えるべきか」については、明確な基準はありませんが、1日5杯以上飲むと骨に影響が出るとの報告もあります。(文献7) 骨の健康を守るためにも、飲みすぎには気をつけて、適量を心がけましょう。 お菓子やジュース|糖分が多い食べ物・飲み物 砂糖を多く含むお菓子やジュースは、カルシウムの吸収を妨げる可能性があるといわれています。 (文献8) さらに、これらをとりすぎることで、食事全体のバランスが崩れ、必要な栄養素が足りなくなるおそれもあります。 骨の健康を守るためにも、甘いものは控えめにして、栄養バランスの良い食事を意識しましょう。 骨粗鬆症に必要な栄養素一覧 骨の健康を守るには、栄養がどれくらい必要なのかも知っておきたいところです。 次の表で、必要な量と実際の摂取量を見比べてみましょう。(文献1)(文献9)(文献10)(文献11) <骨粗鬆症予防で大切な栄養素の目標量と平均摂取量> 栄養素 推奨量 平均摂取量(60代女性) カルシウム 656~669mg/日 518mg/日 ビタミンD 9.0μg/日 7.0μg/日 ビタミンK 150μg/日 252μg/日 たんぱく質 50g/日 67.7g/日 マグネシウム 310~320mg/日 252mg/日 ビタミンK、たんぱく質は足りている一方で、ビタミンDやカルシウム、マグネシウムは不足しがちなことがわかります。 日々の食事でこれらの栄養素を意識的に摂取することが大切です。 骨粗鬆症予防におすすめの食べ合わせ5選 毎日の食事に取り入れやすい、骨粗鬆症予防に効果的な食べ合わせをご紹介します。 これらの組み合わせを参考に、できることから始めていきましょう。 ヨーグルト × きな粉 ヨーグルトにきな粉をかけるだけで、カルシウム、たんぱく質、イソフラボンを一度に摂取できます。 腸内環境も整いやすく、骨の健康と合わせて整えたい人にぴったりです。 朝食やおやつにぜひ試してみてください。 ただし、きな粉はむせやすいため、よく混ぜてから食べると良いでしょう。 納豆 × 小松菜 × 味噌汁 納豆と小松菜を味噌汁の具にすると、ビタミンKとたんぱく質、イソフラボンを同時に補給できます。 納豆はご飯にかけるだけではなく、味噌汁の具にしたり、ゆでた葉物野菜と和えてもおいしく食べられます。 無理なく続けるためにも、いろいろな食べ方を楽しんでみてください。 鮭 × 干ししいたけ × オリーブオイル 鮭と干ししいたけをオリーブオイルで炒めたり焼いたりすると、ビタミンDの吸収率がぐんとアップします。 干ししいたけは日光に当てるとビタミンDがさらに増えるため、調理前に30分ほど日干しするのもおすすめです。(文献12) 豆腐 × ひじき 豆腐とひじきを組み合わせることで、マグネシウムとカルシウム、たんぱく質、イソフラボンを補えます。 煮物や白和えなどにすれば、日々の副菜として自然に取り入れやすく、食卓の栄養バランスが整いやすくなります。 チーズ × ブロッコリー × 卵 チーズ、ブロッコリー、卵を使った料理は、カルシウム、ビタミンK、たんぱく質が一皿でとれるメニューです。 たとえば、チーズオムレツにゆでたブロッコリーを添えるだけでもOKです。 彩りも良く、食欲をそそる一品になります。 【骨粗鬆症】食事で補いきれないときは受診も検討 骨に良い食事を意識していても、加齢や女性ホルモンの変化によって、骨密度が下がってしまうことがあります。 骨粗鬆症は、痛みなどの症状が出る前に進行しているケースも多いため、早めに気づくことが大切です。 とくに、腰や背中の痛み、身長の縮み、背中の丸まりが気になっている人は、骨がもろくなっているサインかもしれません。(文献13) 「まだ症状がないから大丈夫」と思っていても、骨密度の検査を受けておくと良いでしょう。 医師のアドバイスを受けながら、薬の力を借りることも予防につながります。 「自分で気をつけるだけでは心配」という方は、一度医療機関で相談してみましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 骨粗鬆症について不安がある方や、どこに相談すれば良いかわからない方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。 乳製品や大豆製品を摂って骨粗鬆症を予防しよう 骨を丈夫に保つためには、毎日の食事でさまざまな栄養素をバランス良くとることが大切です。 年齢を重ねると、カルシウムやたんぱく質などの栄養が不足しやすくなり、骨がもろくなってしまいます。 毎回の食事でしっかり栄養を摂り、骨粗鬆症を予防しましょう。 たとえば、牛乳やヨーグルト、魚、大豆製品、緑黄色野菜などを組み合わせると、カルシウム・ビタミンD・ビタミンK・たんぱく質など、骨の健康に欠かせない栄養素を効率よく摂れます。 無理のない範囲で食事を見直しながら、不安があるときは医師に相談してください。 できることから、骨の健康づくりをはじめてみましょう。 骨粗鬆症の食事に関するよくある質問 骨粗鬆症におすすめの飲み物はありますか? カルシウムやたんぱく質を含む牛乳や豆乳は、骨粗鬆症対策になる飲み物です。 豆乳は毎日飲みやすく、女性にうれしい大豆イソフラボンも摂取できます。 また、小松菜やバナナ、牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをミキサーにかけて作るスムージーは、栄養バランスもよく、骨の健康にもぴったりです。 栄養たっぷりのスムージーを、朝食の一杯として取り入れてみてはいかがでしょうか。 骨粗鬆症にお酢は良くないですか? 「魚の骨が酢でやわらかくなるから、自分の骨もやわらかくなるのでは?」と不安に思う方もいますが、心配はいりません。 酢には、むしろカルシウムの吸収を助けるはたらきがあります。 魚の骨がやわらかくなるのは料理中の変化で、体の中で骨が溶けてしまうわけではありません。(文献7) 酢の物や、魚の酢煮など、食事の中に上手にとり入れていきましょう。 参考文献 (文献1) 「日本人の食事摂取基準(2025年版」策定検討会報告書令和6年10月,https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (文献2) 農林水産省「大切な栄養素カルシウム」みんなの食育,https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics1_05.html (文献3) 厚生労働省「ビタミンD」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html (文献4) 上西一弘「特集/「骨」から考えるリハビリテーション診療一骨粗髭症・脆弱性骨折一骨の健康のための栄養」『MB Med Reha』270,pp59-65,2022,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/%E8%B3%87%E6%96%99%E2%91%A6%E9%AA%A8%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E6%A0%84%E9%A4%8A%E3%80%80MB%20Med%20Reha%20270%2059-65%202022%E3%80%80.pdf (文献5) 石見佳子「大豆イソフラボンの骨代謝調節作用」『日本栄養・食糧学会誌』76(5),PP291-296,2023,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/76/5/76_291/_pdf (文献6) 厚生労働省「カルシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/01.html (文献7) 公益財団法人骨粗鬆症財団「予防について」骨粗鬆症財団ホームページ,https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqprevention.html#Q4 (文献8) 津志田藤二郎ほか「アクティブシニア社会の食品開発指針」2006年9月7日,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2006/063011/200619043A/200619043A0013.pdf (文献9) 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査結果の概要 」,https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf (文献10) 公益財団法人長寿科学振興財団「ビタミンKの働きと1日の摂取量」『健康長寿ネット』2016年7月25日,https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-k.html (文献11) 厚生労働省「マグネシウム」eJIM,https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/13.html#d02 (文献12) 厚生労働省「ケア・スポット 健康経営推進プロジェクト 健康だより9月」安全衛生課 衛生委員会2022年9月,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/member/care-spot/images/2_b.pdf (文献13) 河路 秀巳,伊藤 博元「骨粗鬆症の診断と治療」『日医大医会誌』5(1),pp41-46,2009,https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/5/1/5_1_41/_pdf
2025.05.30