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肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 非代償期肝硬変の治療において、食事療法はとても重要です。 腹水や肝性脳症などの合併症の改善のためには、水分・塩分・糖分・タンパク質を控えた、バランスの良い食事が必要となります。以下で詳しく解説していきます。 https://youtu.be/zA8QdURHEQU?si=sxhDupVHSR8Ekpl7 肝硬変における食事療法の重要さ 肝硬変は、B型・C型肝炎ウィルス感染やアルコール、自己免疫性疾患などが原因となり、慢性的に肝細胞の破壊と再生が繰り返された末、線維化によって硬くなり、肝臓の機能が低下し、進行すると肝癌や肝不全となり、死に至る怖い疾患です。 肝硬変になると低栄養に陥ってしまうことが多く、この低栄養が生命予後に関わってくると報告されています。また、低栄養が問題視される一方で、肥満や過栄養を呈する患者さんもいます。肥満による糖代謝異常は肝臓での発癌率を上げるため、注意が必要です。 身体の状態に合わせた栄養制限や栄養付与を行い、バランスのとれた食事を摂取するのが「食事療法」です。 医療を受けるだけでなく、食事という日常生活の大事な要素を自ら見直すことで、肝硬変症状を改善させたり、進行を食い止められる可能性があります。 この記事では、非代償期肝硬変の食事療法を中心に説明していきます。必要な知識を学び、効果的な食事療法による治療を目指していきましょう。 非代償期肝硬変での栄養スクリーニング 非代償期肝硬変において、食事療法を始める前にまず栄養状態を評価し、どのような栄養介入が必要か検討されます。 肝硬変における重症度は、Child-Pugh分類を用いて判断します。 下記の表に記すように、肝硬変の合併症の程度や採血検査の結果を点数化し、重症度を評価します。 アルブミンはタンパク質量、ビリルビンは肝臓の機能を表す値、そしてプロトロンビン時間は血液を固める能力を示します。 5~6点なら軽度、7~9点は中等度、10~15点をなら重度とみなし、中等度以上は非代償性肝硬変となります。 Child Pugh 分類 判定基準 1点 2点 3点 アルブミン(g/dL) 3.5< 2.8〜3.5 <2.8 ビリルビン(mg/dL) <2.0 2.0〜3.0 3.0< 腹水 なし 軽度 コントロール可能 中等度 コントロール困難 肝性脳症(度) なし 1〜2 3〜4 プロトロンビン時間(秒、延長) (%) <4 (70<) 4〜6 (40〜70) 6< (<40) Child-Pughスコアによる重症度評価を欧州肝臓学会のガイドライン4)を参考に、以下の図にまとめ詳しく解説していきます。 図に登場するサルコペニアですが、これは筋肉量と筋力の低下を意味し、通常は加齢に伴って起こる現象ですが、肝疾患においては栄養状態や代謝異常によって年齢に関係なく起こりうるため、評価する際には年齢制限がありません。 ・中等度肝硬変の場合、次にBMIを評価し、その結果に応じて対応が変わってきます。 ・肥満(30≦)の場合、栄養評価とともに運動や生活習慣などライフスタイルへの介入、さらにサルコペニアの評価を行います。 ・BMIが低体重や肥満の基準に入らない18.5~29.9の場合、タンパク質量や全体の栄養状態を評価したのちに、低栄養リスクがどの程度か判断されます。 ・そしてBMIが低体重(<18.5)を示す場合、重度肝硬変と同様に低栄養リスクは高度となります。 ・低栄養リスクが軽度の患者さんに対しては、年に1回程度のフォローアップで良いとされます。 ・低栄養リスクが中等度の患者さんにおいては、より詳細な栄養評価によって低栄養の有無が判断されます。 ・低栄養リスクが高度の患者さんには、より詳細な栄養評価の他、サルコペニアの評価も同時に行われます。 ・低栄養がなければ年に1回程度のフォローアップとなりますが、低栄養やサルコペニアを認めた際には適切な栄養補給と適切なフォローアップが求められます。 さらに、図には記載されておりませんが、腹水やタンパク質減少による体液貯留を認める場合、身体の水分が適切である体重を密に検討していくこととなります。 非代償期肝硬変が引き起こす身体の変化 代償期には肝臓の機能がまだ保たれているため、合併症は基本的にみられません。 しかし、非代償期になると肝臓の働きが障害され、関連する他の臓器にも影響を及ぼし、全身に以下のような様々な合併症を引き起こします。 ※非代償期肝硬変とは:肝硬変が進行し、本来の肝機能を代償する(果たすことがことできない)ことができず、肝硬変としての症状が現れる状態 代表的な合併症の一例 ・黄疸 ・腹水、浮腫 ・門脈圧亢進症 ・食道静脈瘤 ・消化管出血 ・肝性脳症 ・肝性糖尿病 等 合併症とそれぞれに合った食事療法 代償期の食事療法の基本は主に以下の内容となります。 代償期の食事療法 ・健康的で規則正しい生活 ・バランスの取れた食事 ・便秘の予防 ・年齢や身体活動レベルに見合ったカロリー摂取 ・アルコールを断つ ・生ものは避ける しかし、非代償期では症状に合わせて食事の工夫や調整を加えていかなければなりません。 食事療法で改善を見込める、あるいは悪化を予防できる合併症は、腹水・浮腫や食道静脈瘤、肝性脳症、肝性糖尿病となります。 これらの合併症が起きる機序とその合併症に見合った食事療法をそれぞれみていきましょう。 腹水や浮腫が生じる機序と食事療法 腹水はお腹の中にタンパク質を含んだ液が大量に貯留した状態をいい、浮腫は主に手足のむくみとして現れます。 肝臓はアルブミンと呼ばれるタンパク質を生成する働きを持ちますが、肝機能の低下とともにアルブミンも減少していきます。このアルブミンは血管内に水分を留める役割も担っているため、不足すれば水分は血管外へと漏れ、腹水や浮腫となって現れるのです。 また、体内を循環する血液量が減少すると、それを補おうと腎臓が水分やナトリウムを再吸収するのですが、それが腹水や浮腫を増悪させる原因となります。 腹水や浮腫に対する食事療法のポイント 上記の通り、腎臓での水分・ナトリウム再吸収が腹水や浮腫を悪化させています。 よって、食事療法で重要なのは塩分と水分を控えることです。 塩分は1日5~7g程度に抑えましょう。 具体的には、味噌や醤油などの調味料は減塩にし、かつ使用する量も控えなくてはなりません。塩味の代わりに、酸味や出汁、新鮮な食材そのものの風味を活かすような調理をしましょう。 外食や加工食品はどうしても塩分が多くなりがちなので、自炊が推奨されます。 汁物はスープに塩分が多く含まれるので、スープは飲まない方が良いでしょう。 腹水や浮腫:食事療法のポイント ・塩分は1日5~7g程度に抑える ・味噌や醤油などの調味料は減塩に ・使用量のコントロールをする ・酸味や出汁で塩味を代用する ・外食や加工食品は控え自炊する ・汁物は飲まないようにする 水分コントロールに関しては、すでに利尿薬を内服している方も多いかと思います。 塩分制限や利尿薬だけでは不十分と判断された場合は、身体に見合った水分量を示す体重(ドライウェイト) も参考にしながら、水分制限にも努めましょう。 ドライウェイトの設定には、In Bodyという身体に微弱な電流を流して体内の水分量や筋肉量などを測定する機器を用いたり、医療者が胸部レントゲン画像や浮腫の程度などをみて決定していきます。 食道静脈瘤が生じる機序と食事療法 食道静脈瘤は門脈圧亢進症の影響で生じる合併症です。 門脈は、腸管などの腹部臓器からの血流を集めて肝臓に戻す大きな静脈のことを指します。 肝硬変になると、組織の線維化で肝臓が硬くなり、血流が阻害され、結果として門脈の圧が上昇します。門脈圧亢進で肝臓を通れなくなった血流は、別の血管を通って食道や胃に逆流していきます。そうすると食道表面の静脈がうねって凸凹してコブ状になり、食道静脈瘤となります。 食道静脈瘤に対する食事療法のポイント 食道静脈瘤の治療法として、内視鏡的に血管を縛る方法が一般的です。しかし、食事療法で静脈瘤の破裂を防ぐことはできます。 食道静脈瘤破裂は吐血を引き起こし、時に大量出血で命を脅かす怖い疾患です。 食道は食べ物の通り道になっているので、その表面上にある膨らんだ血管に尖ったものや硬いものが当たると、破裂する可能性が出てきます。 そのため、硬い食べ物や刺激になるような食べ物はなるべく避け、調理する際にはやわらかく仕上げましょう。 例えば、せんべいや小魚のおやつ、ナッツ、骨のある魚、フランスパンなどは硬いので適しません。また、香辛料の多いカレーやコーヒーは刺激が強いので、避けるべきです。 食道静脈瘤:食事療法のポイント ・硬い食べ物や刺激的な食べ物はなるべく避ける ・調理する際にはやわらかく仕上げる ・刺激の多いカレーやコーヒーは避ける 逆に好ましい食品は、茶碗蒸しや麺類(うどんやそうめんなど)、お米、プリン、ヨーグルトなどの消化しやすい柔らかい食べ物です。 肝性脳症が生じる機序と食事療法 タンパク質を消化する際に生成されるアンモニアという毒素は、通常は肝臓で代謝して無毒化し、体外に排出されます。 しかし肝機能が低下するとアンモニアは代謝されなくなり、毒素のまま身体に溜まっていきます。 血液中のアンモニア値が高くなり脳にまで達すると、脳の機能が損なわれ、肝性脳症となって様々な神経症状を引き起こします。 具体的には、性格・行動変化や睡眠障害、意識障害、ひどくなると昏睡状態になります。 肝性脳症に対する食事療法のポイント タンパク質を多く摂取するとアンモニアが生成されてしまうため、タンパク質の制限は肝性脳症の予防や改善につながります。 肉は肝性脳症を引き起こしやすくするので、大豆などの植物性タンパク質をメインに摂りましょう。 また、アンモニアは腸管で生成されるのですが、便秘になると腸管環境が乱れ、悪玉菌が増加します。そうするとアンモニアの増殖が起こり、結果的に肝性脳症も悪化します。よって、便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を積極的に摂ることが推奨されます。 肝性脳症:食事療法のポイント ・大豆などの植物性タンパク質を摂る ・便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を摂る また、肝硬変による低タンパク血症は、アミノ酸製剤で補います。 実は肝臓の他にも筋肉でタンパク質を生成することができるのですが、その際に必要なのが分岐鎖アミノ酸と呼ばれるもので、これは体内で産生できないので外から摂取する必要があるのです。 この分岐鎖アミノ酸製剤は、経口剤の他にも点滴があるので、経口摂取できない方でも大丈夫です。症状が落ち着いていれば、食事でのタンパク質摂取は0.5~1.0g/kg程度可能になるかと思います。上記の食事に気を付けながら摂取しましょう。 肝性糖尿病が生じる機序と食事療法 肝臓は糖代謝においてとても重要な役割を担っています。 腸管で吸収された糖は血流に乗って肝臓に届けられ、そのほとんどはグリコーゲンという物質に変換されたのち、エネルギー源として貯蔵されます。残りの糖は身体を巡り、血糖の維持のため筋肉や脂肪で利用されます。 肝硬変によって肝機能が低下すると、肝臓での糖代謝も障害され、糖がそのまま血液へ流れ込んでしまい、食後高血糖を引き起こします。 慢性的な高血糖はやがて血糖を正常に戻す能力に害を及ぼし、二次性の糖尿病が生じるのです。 肝性糖尿病に対する食事療法のポイント 食後の血糖が急激に上がらないよう、一度に大量に食べることは避け、少量の食事をこまめに摂るほか、時間をかけてゆっくり食べましょう。 また、砂糖の入った菓子類や果物、炭水化物は効率良く糖分が吸収されるため、控えなければなりません。 肝性糖尿病:食事療法のポイント ・少量の食事をこまめに摂る ・時間をかけてゆっくり食べる ・菓子類や果物、炭水化物などの糖分を控える 夜食を食べた方がいい? 前項の肝性糖尿病の機序で述べたように、肝臓は糖分をエネルギー源に変換して貯蔵する役割を持ちます。しかし、肝機能の低下によってエネルギー源への変換ができなくなると、貯蔵もできなくなります。 よって、食事を摂らない就寝中にエネルギーが枯渇し、倦怠感やこむら返りなどの症状を生じることがあるのです。 これを予防するため、肝硬変患者さんには夜食療法が推奨されているのです。 カロリーの摂りすぎは良くないので、朝昼晩の食事を少し減らし、その分を夜食に回すのがポイントです。 大体200kcal程度で、メニューとしては例えば、 ・おにぎり一個+お茶 ・バナナ1本+牛乳 ・フレンチトースト+牛乳 等のすぐに栄養として吸収されるものが理想です。 まとめ・肝硬変の非代償期における食事療法は重要! 当サイトにて非代償期肝硬変での食事療法について知りたい情報は得られましたでしょうか。 低栄養や肥満の進行を食い止め、合併症を改善・予防する上で食事療法はとても重要です。しかし、食事療法を開始する前に、自分の疾患について理解し、知識として身につける必要があります。 さらに、医療者による評価や診断を経て、どのような治療介入が必要か見極める栄養スクリーニングも大切です。その時の症状や栄養状態に合わせて工夫や調整を行う必要があるので、適宜消化器内科の医師や栄養士とも相談しながら効果的な食事療法を目指しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 Enomoto H, Ueno Y,et al. Transition in the etiology of liver cirrhosis in Japan : a nation- wide survey. J Gastroenterol. 2020;55;353-362. Plauth M, Bernal W, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in liver disease. Clin Nutr. 2019;38:485-521. Wu D, Hu D, et al. Glucose-regulated phosphorylation of TET2 by AMPK reveals a pathway linking diabetes to cancer. Nature. 2018;559:637-641. European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practice Guidelines on nutrition in chronic liver disease.J Hepatol. 2019;70:172-193. ▼こちらもあわせてお読みください。
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減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法を医師が解説 減圧症とは、高圧環境下で血中や組織中に溶解していた窒素などの空気が、急激な減圧により気泡化して起こる疾患です。潜水からの急浮上に伴うものが代表的であるため、「潜水病」と呼ばれることもあります。 軽い関節痛や痒み・発疹などの軽症から、脳障害や脊髄損傷をきたして死に至る重症まで症状は多様です。 本記事では発症直後の応急処置や再圧治療について解説します。後遺症に対する最新治療としての再生医療の可能性についてもご説明していきます。 減圧症の応急処置 減圧症をきたした際、専門的な治療ができる医療機関へ搬送を待つ間にできる応急処置をご紹介します。 もし患者さんに意識がなく、呼吸が止まっている状態であれば、速やかに胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸といった心肺蘇生を行う必要があります。AEDが準備できるのであれば速やかに装着しましょう。 脳の障害をきたすこともある減圧症では、脳圧をあげないために頭を下げる体勢は厳禁です。意識があれば仰向けで休ませましょう。 意識がなく、呼吸のみある状態であれば回復体位(上図)をとります。舌の付け根が喉を塞いだり嘔吐物で窒息をしたりしないために、下顎を突き出して横を向くような体勢にします。 呼吸の有無に関わらず必要なのが高濃度の酸素投与です。酸素には組織の窒素の洗い出し効果があるためです。設備があれば一刻も早く開始してください。 意識があれば水分補給を行いましょう。もし医療系の資格を持つ人がいて器材があれば点滴を行います。また、体を冷やしすぎないように保温に努めてください。 回復体位 recovery position 意識がなく、呼吸が止まっている状態 ・胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸で心肺蘇生する 意識がなく、呼吸のみある状態 ・回復体位をとる(上図参照) 意識がある場合 ・仰向けで休ませる ・水分補給を行う ・器材があれば点滴を行う(医療資格保持者がいる場合) 注意点 ・設備があれば呼吸の有無に関わらず高濃度の酸素を投与する ・頭を下げる体勢は厳禁 ・体を冷やさないように保温する なお、再度潜水をして症状軽減をはかる「ふかし」は絶対に行ってはいけません。 ふかしは、空気を使用するため、酸素投与と比較しても窒素の洗い出し効果の効率が悪いためです。再度浮上した時に症状が再燃したり、場合によっては増悪したりするリスクがあります。 減圧症の治療 治療の原則は「再圧治療」です。 再圧治療とは ・治療を受ける人は、専用の治療タンク内に入ります ・タンク内の気圧は水中でかかるくらい高い圧まで上がります ・その中で患者さんは純酸素を吸入します ・高い気圧により気泡は圧縮され、再度血液や組織中に溶け込みます ・その結果、血流の回復が期待できる治療法です さらに高濃度酸素を投与することで、組織へ効率よく酸素が運ばれてきます。 組織に酸素が届くと、窒素が洗い出されます。窒素は肺へ集まり、体外へ排出されるのです。 一定時間、高い気圧をかけたら、その後はゆっくり減圧行います。こうすることで、再度気泡ができることを防ぎます。 高い気圧をかける時間や減圧については、世界的に標準治療として使用されている「米海軍酸素再圧治療表6」に従って行うことが原則です。 初回で可能な限り症状をなくしてしまうことが重要であるため、経過を見ながら治療時間の調整が行われます。それでも症状が残ってしまった場合は、症状の回復の可能性があるのであれば複数回の再圧治療を行うこともあるのです。 減圧症の後遺症 減圧症により脳や脊髄の障害が起こっても、早期に適切な治療が行われれば症状の消失が期待できます。しかしながら、治療が遅れたり適切な治療がなされなかったりすると後遺症を残す可能性があります。 後遺症の症状は障害部位により多様です。以下に代表的な後遺症をお示しします。 内耳障害 ・聴覚と平衡感覚に関わる第Ⅷ脳神経の障害です ・基本的には適切な治療で改善します。 ・減圧症と気づかずに治療が遅れると耳鳴りやふらつきが残ります 対麻痺 ・主に下肢の両側に左右対称に起こる運動麻痺です ・脊髄の障害による後遺症です。 膀胱直腸障害 ・脊髄の障害により、排尿や排便のコントロールが困難になります ・尿がうまく出なくなったり、失禁を起こしたりします 感覚障害 ・脊髄および脳の障害いずれでも起こる後遺症です ・痺れたり、感覚がわからなくなったりします ・脳障害の後遺症として起こる場合は障害部位と反対側に認められます。 ・一方、脊髄の障害の場合は障害された部位より下に両側に起こることが一般的です。 片麻痺 ・脳の障害により起こります。 ・対麻痺と異なり、片側の手足の運動麻痺です。 これらの後遺症によりダイビングへの復帰が出来なくなるだけでなく、導尿が必要になったり車椅子生活を余儀なくされたりするケースもあるのです。 このような場合にはリハビリを行い、少しでも生活しやすくなるように工夫するより他にありません。 また、急性期の症状は回復して残らずとも、のちに骨壊死を起こすことがあります。減圧症により骨の循環障害が起こることで骨の一部が壊死してしまうのです。 もっとも多いのは大腿骨頭壊死です。発症直後は無症状ですが、徐々に骨頭が潰れていくため股関節痛が起こります。最終的には関節が破壊され、歩行が困難になってしまいます。 骨壊死が起こってしまうと症状の進行を止めることはできず、生活に支障が出れば手術が必要になるのです。 減圧症(潜水病)の後遺症は治せるのか?再生医療の可能性について 現在、最新の治療である幹細胞治療がさまざまな分野で注目を浴びています。減圧症の後遺症についても同様のことが言えるでしょう。 幹細胞治療は、「間葉系幹細胞」と呼ばれる色々な細胞に変化できる万能細胞の特性を活かした治療法です。幹細胞を採取して培養を行い、障害部位に投与することで組織の再生を促します。 一般的に回復しないとされていた脳卒中や脊髄損傷により傷ついた神経や、従来手術しかないと考えられてきた変形した関節の治療などが対象です。そのため減圧症の後遺症についても、幹細胞治療が役に立つ可能性があるでしょう。 ▼脊髄損傷に対する幹細胞治療についてはこちらの動画をご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE まとめ・減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法とは!医師が解説! 減圧症発症後の各段階での治療について解説をしました。 減圧症の後遺症は後の生活に大きな支障を及ぼします。まずは起こさないことが一番です。 不幸にして発症してしまった場合でも、速やかな治療により後遺症が残る可能性を抑えることができます。応急処置のための酸素の準備・心肺蘇生法の習得・搬送先の把握なども、潜水をする上で重要な準備と言えるでしょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下も潜水病に関する情報を記載しています 減圧症による脳障害|症状と後遺症、治療法について 参考文献 鈴木 信哉:潜水による障害,再圧治療. 高圧酸素治療法入門第6版. 日本高気圧環境・潜水医学会. 2017; 147-174. 小濱正博. レジデントノート 8(5): 667-674, 2006. 小島泰史, 鈴木信哉, 新関祐美, 小島朗子, 川口宏好, 柳下和慶. 日本渡航医学会誌 13(1): 27-31, 2019. 梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022. 工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021.
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橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! はじめに 橋出血という病気を聞いたことがあるでしょうか。橋は「きょう」と読み、脳の重要な部分である脳幹の一部です。橋が障害されると、命に関わる深刻な状態を引き起こします。橋出血は、脳卒中のひとつで、非常に予後が悪いといわれています。 今回は、橋出血の初期症状の特徴や治療法、予後など、是非知っておいてほしい点について詳しく解説します。 橋出血(pontine hemorrhage)は脳卒中のひとつ 橋出血について解説する前に、まずは脳卒中についてお話します。 脳卒中には大きく分けて、脳梗塞と脳出血の2つのタイプがあります。「橋出血」は、脳出血の一つの病態で、脳出血全体の5〜10%といわれています。 脳出血は高血圧などにより、脳の血管が破れて脳組織内に血液が流れだすことによって起こります。これは、どちらも脳の機能に重大な影響を与え、重篤な場合は命に関わることもあります。 一方、脳梗塞は血栓や動脈硬化などにより血管が詰まり、脳組織への血流が停止することにより起こります。 橋出血の初期症状 脳出血は突然脳の血管が破れて発症するため、前兆や予兆がないことも多いです。ですが、初期症状を知っておくことで、早期治療が可能となり、出血の拡大を防ぐことができます。 橋出血の場合は、以下のような症状が起こります。 ・何となく受け答えが悪い(意識障害) ・強い頭痛が続く ・手足がうまく動かせない ・体の片方だけ感覚が鈍い このような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。 橋出血の診断 橋出血は、脳幹の一部である橋(pons)で出血が起こる病態です。脳幹は、生命の維持に重要な役割を果たしている部位で、意識・呼吸・循環をつかさどっています。脳幹の中で出血が起こる場合、橋動脈から出血することが最も多いといわれています。 橋出血は、CTで診断することができます。橋出血は出血部位と大きさにより、中心部橋出血と部分的橋出血に分類されます。中心部橋出血は出血の範囲が広いため予後が悪く、数時間から数日で命を落とす可能性が高いです。部分的橋出血の場合は、早期の治療を行えば、比較的予後が良好な場合もあります。 橋出血の症状 橋出血の症状は、出血の部位や大きさによっても異なりますが、瞳孔の変化と四肢麻痺が特徴的です。 瞳孔の変化 瞳孔とは、目の真ん中にある「黒目」のさらに中心にある黒い部分のことです。瞳孔は目の中に入る光の量を調整しているため、まぶしい時には縮小し、暗い時には拡大します。橋には、瞳孔の大きさを調整するための神経が通っています。このため、橋出血によりこの神経が影響を受けると、極端に瞳孔が収縮します。両側瞳孔の高度縮小はpinpoint pupilともよばれ、橋出血に特徴的な所見です。 四肢麻痺 また、橋には体の運動機能を担う神経も通っています。その部分を巻き込んで出血が起こると、手足の麻痺が出現します。広い範囲で出血が起こった場合は、両側の四肢麻痺が発生します。出血量が少なければ片側の麻痺に留まるか、運動は保たれて感覚のみ麻痺する場合もあります。 瞳孔の変化や麻痺は、橋出血で特徴的ですが、他にも意識障害や視覚障害、言語障害、呼吸障害など、様々な症状が出現する可能性があります。少しでもこれらの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。 橋出血の治療と予後 脳出血の最も多い原因は、高血圧であり、脳出血を起こしてしまった場合は、血圧を下げて安定させることが重要です。これは、血圧を下げることによって、さらなる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。 脳出血では、血種除去といって、出血によって生じた血種を外科的に取り除く手術が行われることがありますが、橋は脳の深部にあり、正常な組織を傷つけずに到達するのが困難のため基本的には手術は行いません。そのため、血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴などを使用した保存療法がおこなわれます。 出血範囲が広い橋出血(中心性橋出血)では、予後は非常に悪く、出血してから数時間で命を落とす場合もあります。出血の範囲によっては、軽度の麻痺が残る場合もありますが、予後は比較的良好で、日常生活に戻ることができる方もいます。しかし、運動麻痺や感覚麻痺など何らかの障害を残す可能性はあり、急性期の治療が終わった後は、リハビリテーションを長い時間かけて行う必要があります。 橋出血にならないためにできること 橋出血のみならず、脳出血の最も多い原因は高血圧です。高血圧は一般的な病気であり、多くの人が指摘されたことがあるのではないでしょうか。 高血圧は、他の生活習慣病と同じく、食事、運動が基本的な治療です。特に塩分の摂りすぎには注意した方が良いでしょう。 血圧が高い状態が続いている場合は、投薬治療が必要な場合もありますので、医師に相談してください。 まとめ・橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! 今回は橋出血について解説しました。 橋出血は一度起こしてしまうと、命に関わる非常に危険な病気です。起こしてから治療するのではなく、予防をすることがなによりも大切です。高血圧や生活習慣病にならないよう、日々の生活習慣に気を配り、自己の体調にしっかりと目を向けるようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考下さい 橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説
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橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血(「きょうしゅっけつ」、英語では「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、特に生命予後の悪い疾患の一つです。 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。脳卒中のひとつ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至ることもあるのです。 本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。 橋出血の「橋」とはなにか 橋とは、上にある中脳、下にある延髄と共に、「脳幹」の構成をしている部分です。脳幹には、神経伝達路、神経の中継・分岐地点、自律神経反射中枢、脳幹網様体という4つの構造物があります。 ①神経伝達路 ②神経の中継、分岐地点 ③自律神経反射中枢 ④脳幹網様体 それぞれの構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。 ①神経伝達路としての役割と橋出血 脳幹には神経線維の束が通っており、大脳からの運動神経の伝達、大脳への感覚神経の伝達、脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路の役割を果たしています。 橋出血では、神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。 運動麻痺は出血の部位にもよりますが、特に重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすことがあります。 この四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に、「閉じ込め症候群」があります。意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動が、全てできません。看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うことになります。 また、小脳との連絡がうまくいかなくなると運動失調が起こります。運動失調とは、麻痺がないのに筋肉同士の連携がうまくいかず、動作がスムーズに行えなくなることです。 ②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状 脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、複数の神経核があります。神経核は神経の細胞体の塊です。神経回路の分岐点や中継点となります。 例えば、橋には次の4つの脳神経核があります。 ・三叉神経;主に顔面の感覚を伝える ・外転神経;眼球の運動の一部を支配する ・顔面神経;表情筋など顔面の運動に関わる ・内耳神経;聴覚や平衡感覚を司る 橋出血でこれらが障害を受けると、顔の感覚や運動の障害、眼球運動の障害、聴力障害が起こります。三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。そのため、橋出血では嚥下障害も多く認められます。 ③自律神経中枢と橋出血の症状 自律神経は生命維持の上で必要なことを調整する神経です。私たちは意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールできます。明るさに応じて、瞳孔の大きさを調節することもできます。これらを行う自律神経も、脳幹に中枢があるのです。 橋には呼吸の中枢があるため、橋出血患者さんには呼吸の障害が多く認められます。 また、橋出血では瞳孔の異常を多く認めます。代表的なものは瞳孔の縮小です。自律神経のうち、瞳孔を開く交感神経が障害されるためです。 ④脳幹網様体の役割と橋出血の症状 脳幹の中心から背中側には、網様体と呼ばれる、神経線維の束と神経の細胞体が合わさったものがあります。 網様体には主に3つの役割があります。 ・脳幹内の自律神経中枢と連絡し、生命維持機能を果たす ・筋肉の緊張をコントロールする ・大脳へ刺激を与えて意識を保つ 重症の橋出血では、自律神経に障害が出ることはすでに述べましたが、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。さらに、網様体の損傷により認められるのが意識障害です。重症例では、急激な経過で昏睡状態に陥ってしまいます。 また、徐脳硬直という特徴的な姿勢を認めます。筋緊張の調整ができなくなる結果、手も足も強く伸び切ってしまうという状態です。 また、橋の網様体には眼球の運動の中枢があります。橋出血の際は、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。代表的なものは、眼球の正中固定位です。眼の動きが全くできず、真ん中で固定されます。また、眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められることもあります。 橋出血の二つの原因とそれぞれの治療法 橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の二つが挙げられます。また、原因により治療法が異なります。 それぞれについて解説していきます。 高血圧で起こる橋出血と治療 橋出血の最大の原因は高血圧です。 橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところです。出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になります。 損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。 血管奇形で起こる橋出血と治療 高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管の奇形によるものです。 代表的なものに、海綿状血管腫という血管の塊があります。この奇形を持っている一部の患者さんでは局所的な出血を起こします。出血は少量で、重篤にならないことが多いです。しかし、何度も繰り返すリスクがあります。 この場合は、出血が落ち着いているときに手術が考慮されることもあります。 橋出血についてよくあるQ & A Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか? A , 疑わしい症状があれば、CTを撮影します。脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。なお、血管の奇形の診断はMRI も有用です。近年では脳ドックなどにより、症状がないまま発見されるものも多くあります。 Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか? A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1000人中4〜6人程度です。手術の合併症リスクの方が高く、万人に勧められるものではありません。ただし、一度出血を起こすと、特に2年以内の再出血のリスクが非常に高くなります。その場合も、全員が手術をするわけではありません。 手術のメリットとリスクを天秤にかけて考えます。近年では手術ができない場合に、放射線治療が考慮されることもあります。 まとめ・橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気です。 高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考下さい 橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! <参考文献> 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 医学書院 標準解剖学 第1版 メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版 中外医学社 イラスト解剖学 第7版 脳卒中診療ガイドライン2021
最終更新日:2024.10.07 -
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橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は非常に致死率の高い病気です。 かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。 橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。 本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。 橋出血が重症化しやすいのはなぜか? 橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。 血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。 脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。 橋出血の生命予後に関わる症状とは? 重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。 ・発症早期の高度の意識障害 橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 ・四肢麻痺 橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 ・除脳硬直 意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 ・眼球正中位固定 橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 ・対光反射の消失 対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 ・失調性呼吸 脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 ・中枢性過高熱 体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 後遺症の治療について 重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。 例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。 橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。 また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。 後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。 急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。 リハビリの種類 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。 ・理学療法 ・作業療法 ・言語聴覚療法 理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。 作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。 言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。 リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。 では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。 脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。 また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。 麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか 一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。 この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。 まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。 また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考ください 橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 〈参考文献〉 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008. 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014. 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. (閲覧2023年6月28日). 脳卒中診療ガイドライン2021
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視床出血による運動失調はなぜ起こるのか?その種類と特徴 視床出血は、脳の中でも脳内のネットワークの中心となる視床という部位で起こる出血のことです。片麻痺や感覚障害、また運動失調の原因ともなります。 この記事では、視床出血でなぜ運動失調が起こるのか、その特徴と治療やリハビリ、また再生医療の可能性についても解説します。 視床出血とは? 視床出血は、脳卒中と総称される脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の中でも、脳の中の視床という部分に起こる出血のことです。 主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。視床と被殻は隣にありますが、視床出血では脳室という部位とも隣接しています。そのため、視床出血と被殻出血との違いの一つに、脳室にまで出血が広がるかどうかという点があります。 視床出血は、その重症度からI〜IIIに分類されています。 その中でも、脳室穿破(せんぱ;脳室という脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるかどうか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類されています。 視床に限局しているものをⅠ、内包に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。 簡単に述べると、出血が大きくなるほど、数字も大きくなる、というイメージで良いかと思います。 視床出血による症状 視床は、脳内のネットワークの中心となる場所で、感覚神経をはじめとするさまざまな神経線維がここを経由しています。 そのため、視床出血によって、以下のような症状がでます。 ・片麻痺 ・瞳孔径の縮小 ・顔面神経麻痺(病変と反対側に起こる) ・知覚障害 ・病変側への共同偏視 ・外転神経麻痺 ・半盲 ・嘔吐 ・運動失調 その他にも視床出血では、失語症や半側空間無視、注意障害などといった高次脳機能障害が起こることもあります。 また、他の脳卒中と同じように、症状が出たばかりの急性期には、嚥下障害も起こり得ます。嚥下運動(飲み込み運動)は大脳から脳幹に至るまでの複雑なネットワークによって成り立っているからです。そのため、視床出血が原因となり嚥下障害が起こる、というメカニズムが考えられています。 視床出血による運動失調、なぜ起こる? 運動失調とは、運動麻痺はないか、あっても軽症で、動作や姿勢保持などの協調運動に起こる障害のことです。 視床出血で失調症状がでるのは、小脳の運動機能調節に重要な経路に、小脳や視床、大脳皮質、橋があるためです。 これらのいずれかかが障害されても、小脳性運動失調を生じるのです。 また、視床出血によって、深部感覚が障害されることが原因とも考えられています。 失調と麻痺の違いとは? 失調と麻痺の違いは、筋力の低下があるかどうかということになります。 視床出血による運動失調の場合は、一般に意識障害や片麻痺も伴うことが多く、協調運動障害や不随意運動や、感覚障害が認められることは少ないとされています。つまり、運動失調症状があっても、それが四肢の麻痺によるものなのか判別がつきにくい、という特徴があると考えられます。 視床出血の種類とその特徴 運動失調の種類には以下のようなものがあります。 参考) 神経メカニズムから捉える失調症状 視床出血での失調症状では、四肢の失調症状や歩行の異常が認められるということになります。 視床出血の治療 視床出血が起こった際の治療は、血圧を下げることが中心となります。視床は脳の深部にあるため、手術適応とはなりにくいのです。 視床出血によって、水頭症と呼ばれる脳室に脳脊髄液がたまる症状になってしまうことがあります。水頭症を放置しておくと、脳ヘルニアという脳の一部が頭蓋骨の外側に飛び出してしまう状態になる危険性があります。こうなると、呼吸障害などが起こり生命に関わるため、シャント術という手術を行い、余分な髄液を脳室から腹腔にまで流すようにします。 視床出血の後遺症とリハビリ 視床出血では、発症後から感覚障害があった場合には、感覚障害の症状が残ったり、逆に半身の痛み(視床痛)が出現したりします。運動失調が残る場合もあります。また、出血が大きい場合には、片麻痺も後遺症として残ることがあります。 視床出血後のリハビリは、作業療法や理学療法が行われます。 作業療法 作業療法では、麻痺している上肢を積極的に使うことで、日常生活に復帰することを目標とします。 理学療法 理学療法では、重り負荷、弾性包帯による圧迫、フレンケル体操、立ち上がりや立位時の荷重負荷練習、視覚誘導によるバランス練習を行い、日常生活を送る上で必要な動作の練習をしていきます。 ・重り負荷 ・弾性包帯による圧迫 ・フレンケル体操 ・立ち上がりや立位時の荷重負荷練習 ・視覚誘導 また、視床出血後には、片麻痺、つまり運動障害と、運動失調症状が同時にある場合があります。 そのため、視床出血後のリハビリの一つに、免荷式(めんかしき)トレッドミルという機械を用い、歩行のリハビリを行っていくものがあります。 これは、体を上から吊るし、ハーネスで体を支えることで、足にかかる体重を調整でき、バランス感覚を鍛えられることを期待しています。 まとめ・視床出血による運動失調はなぜ起こる?その種類と特徴 本記事では、視床出血による運動失調の特徴について解説しました。 視床出血は後遺症が残ってしまう可能性が高い疾患ですが、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせることで、脳神経細胞の修復や身体機能の改善を図っています。 脳卒中後の後遺症に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 参考文献 加齢の面からみた脳出血の部位 脳血管障害による脳室内出血症例の臨床的検討一脳室内出血の重症度評価と転帰についてー 脳出血部位と症状 (CM Fisher) 原著視床出血の高次脳機能障害 急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討 運動失調を主徴とした左視床出血の1例 神経メカニズムから捉える失調症状 運動失調に対するアプローチ
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橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 橋という脳の一部に出血が起こった後には、運動失調という後遺症が残ることがあります。 今回は、橋出血後の運動失調とはどのようなものか、そしてどのようなリハビリプログラムがあるのか解説し、最新治療法の一つである、再生医療の可能性にも触れていきます。 ぜひ参考にしてみてくださいね。 橋出血とは?どのような症状が出るの? 橋出血(きょうしゅっけつ)とは、脳幹という脳の一部分の中の橋で起こる出血のことです。 脳幹は、中脳・橋・延髄に分けられますが、構造や機能は脳幹全体が同じようなものとなっています。橋出血は脳出血の中の約10%で、脳幹出血の中では橋出血が多くみられます。そのため、脳幹出血と橋出血が同じような意味で用いられるようです。 橋は大部分の脳神経の出入口であり、運動や感覚をつかさどる神経が通り、睡眠や覚醒、呼吸運動や循環機能などの自律運動をつかさどっている重要な部分です。 そのため、橋出血が起こると、以下のような重篤な症状が生じることがあります。 1)高度の意識障害 2)高熱 3)両側の瞳孔縮小 4)片側・両側の四肢麻痺、異常反射、知覚障害 5)高血圧 6)呼吸異常 7)眼球運動障害 8)運動失調 運動失調は、小脳の障害で現れることが典型的ですが、橋と小脳が連絡繊維を持っているため、橋出血を起こすと運動失調も生じます。 橋出血による運動失調の症状はどんなものがある? それでは、まずは運動失調の分類について解説し、その後橋出血による運動失調についても説明していきます。 運動失調の症状とは 運動失調とは、運動麻痺はない、または軽度であるにもかかわらず、動作や姿勢保持などの協調運動ができなくなるという状態のことです。 運動失調は、起立・歩行時のふらつきといった症状が代表的なものです。 その他にも、手の細かな動作も障害され、字を書くのが下手になったり、水を満たしたコップを持つと手が震えてこぼしてしまったり、またボタンをかけたり箸を使ったり、食事をすることがスムーズに行えなくなります。 また、むせるようになる、呂律が回らなくなるといった症状も出ます。 運動失調障害の分類 運動失調障害は、障害される部位によって、以下の3つに大きく分けられます。 1)小脳性運動失調 2)感覚性運動失調 3)前庭性運動失調 これらの3つは、以下のような特徴を持ちます。 引用)2 神経メカニズムから捉える失調症状 この中でも、先ほども述べたように、橋の出血でも小脳と橋が神経繊維で連絡をしているため、小脳性運動失調をきたすことがあります。 橋出血後のリハビリプログラムについて 橋出血後に、運動失調障害に対するリハビリプログラムをご紹介します。 フレンケル体操 フレンケル体操は、運動失調に対して古くから行われている治療法です。 反復訓練と、その訓練に集中することを基本としています。 身体の動きを目で見ながら、つまり視覚を使いながらの身体の動きのコントロールをします。 そのコントロールを反復して練習することで、協調運動を再びできるようになることを期待しています。 重り負荷での運動 足関節や手関節、または腰部に重りをつけ、固有感覚入力の強化、つまり感覚を強めると、過剰な運動を抑える力が働き、運動失調が軽減するというものです。 弾性緊縛帯 重り負荷での運動と同様の発想です。 上肢・下肢の近位部を弾性包帯で圧迫し、感覚入力の強化をすることで、上下肢の過剰な運動を抑えられ、運動失調が軽減することを目的としています。 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) これは、筋肉や皮膚、関節などにある感覚の受容体を刺激しながら、体を動かしていくという手技です。 治療者(セラピストなど)が患者の関節を交互に動かし、 患者はその抵抗に打ち勝つように、 その関節を常に特定の位置に保つように指示します。 治療の効果の持続性は短時間ですが、毎日反復して行うことで、機能の回復が期待できるという報告もあります。 橋出血による運動失調についてよくある質問 Q1. 運動失調と麻痺の違いは? A1. 何かの運動をしようとする際に障害があるという状態を運動障害といいます。 運動障害には、「運動麻痺」と「運動失調」があります。 運動麻痺は、筋肉そのものや、筋肉に命令を送る大脳皮質や脊髄・末梢神経の障害によって、筋肉を自分の意思で動かせなくなった状態をさします。 一方、運動失調は、運動に関わる筋肉の動きを調整する機能が失われたため、スムーズな運動が難しくなった状態のことをさすという違いがあります。 Q2. リハビリの効果を高めるための方法はあるの? A2. リハビリは確かに失われた機能を改善する効果が期待できますが、一方で橋出血により死んでしまった脳細胞を再生させることは難しいです。 また、発症から時間が経つにつれて、リハビリの効果は現れにくくなることもあります。 一方、自己脂肪由来幹細胞の投与をすることで、脳神経細胞が修復再生し、運動失調からの回復や、リハビリの効果を高める効果も期待できます。 まとめ・橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 今回は、橋出血による運動失調の特徴やリハビリプログラムなどを解説しました。 急性期のみならず、発症から時間がたっている場合でも、再生医療を組み合わせてリハビリを行うことで、運動失調の改善が期待できます。 運動失調に今お悩みの方や、身近で困っている方がいる場合には、ぜひ一度当院の再生医療のご相談を受けてみてくださいね。 ▼以下もご参考下さい 橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説 参考文献 脳の機能と構造 「危ないめまい」, 後頭蓋窩の急性脳血管障害 (その1) 2 神経メカニズムから捉える失調症状 症状|(疾患・用語編) 運動失調症|神経内科の主な病気 失調症の リハビリテーション 4 小脳性運動失調のリハビリテーション 医療―体幹・下肢について―
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脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 脳幹は意識を保ち、呼吸や循環を調整する役割を果たしています。脳幹出血が起こると、重度の場合は四肢麻痺や呼吸障害・意識障害をきたし、亡くなることもあります。その一方で、一部の方では出血が軽度で済むことがあります。しかし、軽症であっても、日常生活に支障をきたす後遺症を残してしまうことがあります。 脳卒中の後遺症として思い浮かぶものは何でしょうか。一般的には麻痺や感覚の障害、あるいは注意や記憶・遂行能力などにかかわる高次脳機能障害のイメージが強いと思います。 脳幹出血の後遺症でも、顔面神経麻痺や片麻痺(体の左ないし右半身どちらかの麻痺)、感覚障害などをきたします。さらに、「運動失調」に悩まされる方もいます。 今回の記事では、この「運動失調」について、どのような症状が起こるのか、なぜ脳幹出血で起こるのかについても解説していきます。 運動失調とはなにか? 運動失調とは、筋肉同士の連携がうまくいかず、姿勢やバランスを保ったり、動作をスムーズに行ったりすることができない状態を指します。 運動失調は原因により、次のように分けられます。 ・小脳性 小脳は運動のコントロールを行う場所です。協調運動に関与する領域が侵されることで運動失調が起こります。 協調運動とは、動作を行う際に必要な関節・筋肉などを調整しながら活動することです。これができなくなることで、手足の細かい動きの調整ができなくなったり、歩くときにふらついたりなど多彩な症状が出現します。 ・前庭迷路性 バランスをとるための平衡感覚に重要な前庭器官や、そこから情報を伝える神経の障害により起こります。そのため、立ったり歩いたりする際にバランスがとりづらいという症状が目立つようになります。 ・脊髄性 脊髄に障害が起こると、筋肉の伸び縮みの具合や関節の状態についての感覚(深部感覚)が障害されます。その結果、自分の筋肉や関節の状態がうまく把握できず、ふらつきが起こります。一部は視覚情報で補完できるため、目をつぶるとふらつきが強くなり、立っていられなくなるという特徴があります。 ・大脳性 大脳は小脳とともに協調運動に関わります。そのため、小脳性失調と症状が類似しています。 ・その他 末梢神経の障害などによっても運動失調をきたすことがあります。 脳幹出血で運動失調が起こるメカニズムとは 脳幹出血で運動失調が起こるのはなぜでしょうか。 脳幹は小脳の前面にあり、神経線維でつながっています。脳幹出血が起こると小脳との連絡経路に障害が起こります。そのため、脳幹出血では、小脳性失調の症状を認めることがあるのです。 また、脳幹には前庭から情報を受け取る前庭神経核という部分があります。脳幹出血により前庭神経核が障害を受けると、前庭迷路性失調をきたします。 どのような症状が起こるのか 脳幹出血で起こる運動失調では、例えば次のような症状が認められます。 ・体幹失調 体幹のバランスをとることができず、歩くときに足を広く開いて歩くようになります。また手足の動きがバラバラになり、まるで酔っ払っている時のような歩き方になります。体幹失調が強いと、座っている時も状態がぐらぐらと揺れてしまいます。 ・構音失調 話し言葉のリズムが乱れ、音の高さや大きさがバラバラになります。そのため、酔っ払っているときのような呂律の回らない喋り方になります。 ・四肢失調 手足の動きを目的のところで止めることができなくなる測定障害が起こります。結果、目の前に置いてあるものを上手く掴めなくなります。 また、反復拮抗運動障害と言って、素早く反復する動きを繰り返すことが苦手になります。例えば、手首を素早く裏表に返すような動作、「お星様キラキラ」のジェスチャーが上手くできなくなります。 ・眼球失調 目の動きを上手くコントロールできず、ものが二重に見えたり、めまいが起こったりします。 ・企図振戦 振戦とは震えのことです。何かをしようとしたときに手が震えます。特に、目的のものに手が届きそうになったときに震えが強くなります。 ・嚥下障害 ものを飲み込むことは複雑な動作の組み合わせです。運動失調が起こると、噛んだり舌で食べ物を送ったり、喉の筋肉を動かしたりという動きが上手に調整できなくなるとされています。 脳幹出血の運動失調についてよくあるQ&A Q, 運動失調と麻痺の違いは? A, 麻痺とは、医学的には運動麻痺のことを指すことが多いです。脳やそこから伸びる神経の障害により、手や足などの体の部分が自分の意思通りに動かせない状態です。「思ったように力が入らないので動かない」という状況になります。 一方、運動失調とは、運動麻痺がないのにも関わらず、筋肉が協力してうまく働かないことを指します。その結果、姿勢を保ったり、円滑に動作をしたりすることができなくなります。「ふらふらする」「スムーズに動くことができない」という状態です。 脳幹出血では、出血の部位や程度により、この両方がさまざまな程度で起こり得ます。 Q, 運動失調と協調運動障害の違いは? A, 協調運動障害は、運動失調の一つの形と捉えることが多いようです。特に、手足の運動が上手くできないことを協調運動障害と呼ぶことが多いです。 Q, 脳幹出血後の運動失調の治療は? A, 脳幹出血により傷ついてしまった神経を取り替えることはできません。そのため、失われた機能の回復と、残っている機能の維持のためのリハビリテーションが行われます。 リハビリを行う際は、上肢・体幹・下肢など部位ごとに、どのような症状がどの程度あるのかの検査・評価を行い、目標を設定していきます。個々人の目標毎にプログラムを組むため、焦りすぎず、セラピストと相談しながら継続しましょう。 まとめ・脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 脳幹出血後により運動失調が起こると、回復のためには長期的な訓練が必要になります。これまで無意識下にできていた動作が難しくなり、そのままでは日常生活に大きな影響を及ぼすからです。 目の前のコップをとる、まっすぐ歩くなど、これまで何気なく行っていたことができず辛い思いをされる方も多いです。 リハビリでは、失った機能を取り戻したり、残っている機能を伸ばして補完したりする訓練をしていきます。問題なく生活できるようになるまでには時間がかかりますが、少しずつ確実に継続していくことが大切です。 以上、脳幹出血の後遺症で運動失調の特徴とメカニズムについて記載させていただきました。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考下さい 脳幹出血の原因とは?今すぐ見直せる3つの生活習慣で予防を! 参考文献 渡邊裕文. 関西理学. 6:15-19. 2006. 水澤英洋. 日内会誌. 101:669-674.2012. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 望月仁志、宇川義一. Jpn J Rehabil Med 2019;56:88-93 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med 2019;56:105-109
最終更新日:2024.10.07 -
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脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ! 脳幹出血を起こすと、重度の場合は意識障害、呼吸障害、四肢麻痺などをきたします。軽度の出血でも、片麻痺や感覚障害、運動失調、嚥下障害や高次脳機能障害などの後遺症を残します。看護が必要なくなっても、元の生活に戻るまでには長い時間が必要です。少しでも後遺症を軽減し、寝たきり状態を防ぐために、リハビリテーションが重要となります。 リハビリテーションの内容は、発症からの時期により変わってきます。リハビリでは、「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」という3つの時期に分けてプログラムを組みます。脳幹出血の具体的なリハビリテーションを、3つのステージ別に見ていきましょう。 急性期;早期からの介入が大切! 急性期とは、脳幹出血が起こって、まだ完全に状況が落ち着いていない時期を指します。発症から概ね2週間〜1ヶ月程度です。治療と併行しながらリハビリを進めていきます。 まず目指すのは、早い段階でベッドから離れる「早期離床」です。脳幹出血をはじめとした脳卒中では、体の状態に問題がなければ、24〜48時間以内にリハビリ介入をする方が、回復が早いとされています。 最初に行うことは、寝返りや、体を起こして座ることです。可能であれば、立ち上がり、補助具で歩くリハビリに進みます。着替えなどの日常生活に直結する動作を行うセルフケア訓練も開始します。 また、脳幹出血の患者さんでは、ものを飲み込む力が落ちる嚥下障害を伴っている方が多いです。肺炎予防のためにも、早くから嚥下の評価と口腔ケアを開始します。 一方で、重度の脳幹出血例では、呼吸や血液循環の障害を認めます。脳の周りにまで出血して、髄液の流れに影響する水頭症になることもあります。状況が落ち着かないと早期離床はできません。この場合はベッド上でできるリハビリを行います。 例えば、関節が固まらないように動かしていく関節可動域訓練などが該当します。 回復期;リハビリが中心の生活! 急性期から脱して体の状態は安定していますが、後遺症が固まりきっていない時期です。失われた機能を回復し、残っている機能を高める訓練をします。 多くの脳卒中患者さんは「回復期リハビリテーション病棟」というところに移ります。リハビリを専門にしている病院や病棟です。 理学療法士や作業療法士・言語聴覚士といったリハビリスタッフが多くいます。1日最大で3時間のリハビリが可能です。施設によっては、休日も含めてほぼ毎日リハビリを行っているところもあります。 一口に脳幹出血といっても、人により後遺症の内容や程度はさまざまです。症状別のリハビリは急性期から少しずつ始まります。回復期病棟ではそれをさらに掘り下げ、一人一人に合った詳細なリハビリプログラムを組んでいきます。ここでは一例を紹介します。 〈症状別のリハビリの例〉 運動麻痺 筋肉や関節の動きを自分の意思通りに動かせるよう、繰り返し訓練します。麻痺は3〜6ヶ月程で回復が止まってしまいます。症状が固定した後でも、麻痺のない部分でカバーしたり、装具や杖などを利用したりして動く訓練も行なっていきます。 運動失調 筋肉同士の協調性が失われ、運動をスムーズに行えない状態を運動失調といいます。 運動失調のリハビリでは、例えば、目で確認しながら何度も動作の練習をします。重りを使い、固有感覚(身体の位置や力の入れ具合を感じる感覚)を刺激して、運動のコントロールを行う訓練も行います。一つの動作をいくつかに区切って行うことも効果的です。 嚥下障害 急性期に引き続き、嚥下障害へのリハビリも続けます。どのくらいの固さのものが食べられるのか、一口量はどのくらいが適切かなど、詳細な評価を行います。飲み込む力を強化する訓練をしながら、少しずつ食事の形態を調整していきます。 構音障害 呂律が回らない、声の大きさのコントロールがつかないなど、喋りづらさ(構音障害)を抱える方が多いです。正しい発音の練習や、話すスピードを調整する訓練によって、コミュニケーションが取りやすいようにしていきます。 綿密なリハビリテーションを続けながら、自宅への退院、社会復帰に向けた支援も行なっていきます。 生活期(維持期);家に帰った後も重要! 実際の生活に戻った上で、訓練を続けていく時期です。活動度を維持・向上させ、可能な範囲で自立した生活ができるように考えていきます。 リハビリができる施設に通ったり、訪問リハを受けたりすることで、体力や機能の維持・向上を図ります。 また、脳幹出血の最大の要因は高血圧です。運動習慣をつけることは、血圧を下げ、再発防止にも役に立ちます。 脳幹出血のリハビリについてよくあるQ&A Q, どうして急性期と回復期で病院(病棟)が変わるのですか? A, できれば同じところでリハビリを続けたいですよね。でも、場所が変わることにはきちんと理由があります。 発症直後に入院する「急性期病院(病棟)」の目的は、体の状態を落ち着かせることです。リハビリのための時間や人手には制約があります。治療がひと段落すれば、よりリハビリに特化した場所に移る方が良いのです。 次に急性期病棟に入院が必要な方にベッドをあけるためにも、状況が落ち着いてくれば行き先の調整を考え始めます。 Q, どのくらいの期間、入院が必要ですか? 麻痺などの回復が一定の段階に達し、日常生活に必要な動作ができるようになれば退院を考えます。どこまでできるようになるかという目標は患者さん毎に異なります。 ただし、回復期リハ病棟の入院は脳卒中の場合は最大で150日(高次脳機能障害がある場合は180日)までと決まっているため、これを超えることはありません。 まとめ・脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ 脳幹出血後は、早期からアプローチをすることにより、後遺症を軽減し、もとの生活に近い状態に戻ることを目指していきます。とても時間がかかりますが、しっかりとリハビリテーションを続けていきましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下も参考にされませんか 脳幹出血後の後遺症(麻痺や障害)に「最新の治療法」という選択肢! 参考文献 標準リハビリテーション医学第4版【電子版】 医学書院. 2023年.東京 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med. 56:105-109. 2019. 藤島一紘. ブレインナーシング 39(2): 320-323. 2023.
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脳幹出血の前兆|見逃してはいけないサインと症状 脳出血は、突然に私たちの日常生活を脅かす深刻な疾患です。 その中でも特に重篤とされる脳幹出血は、生命の維持に重要な脳幹部分が関与するため、突然死のリスクも高いといわれています。 ただし、早期に発見し、治療できれば、元の生活に戻ることが可能な場合も存在します。助かるためには、前兆となるサイン!症状を知っておく必要があります。そこで、今回は脳幹出血について、前兆である身体のサインを見逃さないポイントと、その治療について詳しく解説します。脳幹出血についてその前兆、サインについて理解を深めましょう。 脳出血の原因と脳幹の役割 脳出血は、脳内の血管がなんらかの原因で破れることによって起こります。 最も多い原因は高血圧です。高血圧を患っている人は、とても多く、一般的な病気であると思われがちですがきちんとコントロールできていないと脳出血を起こして、命にかかわる可能性があるのです。 脳出血は脳のすべての部位で起こる可能性がありますが、それが脳幹で起こった場合を脳幹出血といいます。 脳幹は私たちの生命活動をつかさどる中枢で、呼吸や心拍の制御、視覚や聴覚といった感覚系、ホルモンの分泌などを担当しています。この部位で出血が起こると、これらの生命活動に大きな影響が及びます。脳幹出血は、全ての脳出血の10%程度を占めており、非常に予後が悪いといわれています。 脳幹出血は、出血量が多ければ四肢麻痺や意識障害などで発症し、突然死を起こすこともありますが、出血量が軽度であれば、歩いて帰ることができるほど予後が良好な場合もあります。ただし、出血量を軽度に抑えるためには、早期発見・早期治療が必要です。 ここからは、脳幹出血の前兆やサインについて詳しく見ていきましょう。 脳幹出血の前兆であるサインを見逃さないで! 脳幹出血の前兆の可能性がある症状として注意が必要なのが、「いびき」と「めまい」、そして「視覚障害」です。 突然の「いびき」と「めまい」に注意! 脳幹は呼吸や血圧を調整する中枢であり、その機能に影響があるといびきが大きくなることがあります。また、脳幹は体のバランスを取る役割もあるため、めまいが生じることもあります。 いびきやめまいはほかの原因でも起こるため、必ずしも脳幹出血のサインというわけではありません。 ただし、普段いびきをかかない人が突然大きないびきをかくようになった場合や、いびきの音が異常に大きくなった場合、めまいが頻繁に起こる場合は注意が必要です。これらは体からの警告サインかもしれません。このような症状がある場合は、早期に医療機関に相談し検査をすることをお勧めします。 「視覚障害」目の異常を見逃さない! 脳幹は視覚情報を処理する経路にも関与しています。そのため、脳幹出血が生じると、以下のような視覚に関連する症状を起こすこともあります。 ・視野が狭くなる ・ものが二重に見える ・光がいつもよりまぶしく見える ・視力の低下 視野が狭くなる、ものが二重に見える、光がいつもよりまぶしく見える、視力が低下するなどの症状が突然起こった際は、注意が必要です。 これらの視覚に関する症状は、特に読書や運転、日常生活の中の細かい作業などで顕著に感じられることがあります。 視覚の症状は、「目」自体に異常があると考える人が多いため、症状を自覚していても脳の病態の発見が遅れがちです。脳出血でも目の症状が起こりうることを覚えておきましょう。 脳幹出血の治療法:なぜ手術をしない? 脳幹出血の治療は、まず血圧を下げて安定させることが重要です。これは、更なる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。入院で絶対安静とし、点滴で高圧薬を持続的に投与します。 他の部位の脳出血では、血腫除去といって、出血で生じた血腫を外科的に取り除く手術を行うことがありますが、脳幹出血では基本的には行いません。これは脳幹が脳の深部、狭い範囲に呼吸中枢など生命維持を担う部分が存在していることが原因です。手術の刺激によって正常な部位を傷つける可能性があり、手術のリスクが非常に高くなります。 そのため、基本的には血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴など保存療法が選択されます。 脳幹出血についてよくあるQ&A Q1 脳幹出血を起こしやすい人はいますか? A. 脳幹出血は高血圧が一番のリスクとなりますが、血管の疾患や脳血管奇形などを持つ人にも起こる可能性があります。 また、以下のような生活習慣も脳出血のリスクを高める要因となります。 ・喫煙 ・過度なアルコール ・運動不足 ・ストレス ・肥満 ・高脂血症 これらの不適切な生活習慣を改めることが、脳出血の予防となります。 Q2 脳幹出血のリハビリテーションにはどんなものがありますか? A. 脳幹出血のリハビリは、どのような症状が出ているかによって患者さんごとにプランが立てられます。大きくは、理学療法、作業療法、言語療法の3つに分けられます。 理学療法 理学療法では、筋力の強化やバランス能力の改善を目指し、歩行練習を行います。 作業療法 作業療法では、食事、着替え、入浴などの日常生活動作の獲得を目指して、細かな動きの訓練を行います。 言語療法 言語療法では、言語障害や嚥下障害の改善を目指します。 また精神的なサポートや心理療法も重要な要素となります。個々の患者さんの病態にあわせて、いろいろな角度からリハビリを行っていきます。 まとめ・脳幹出血の前兆|見逃してはいけないサインと症状 脳幹出血は怖い病気ですが、どんな予兆があるのかという知識を持つことで助かる可能性は高くなります。 いびきやめまい、視覚障害など初期の兆候がある場合は、それを見逃さないことが重要です。自分や身近な人の体をよく観察し、異常を感じたら早期に適切な医療機関を受診するよう心掛けましょう。この記事がご参考になれば幸いです。 ▶万が一、手術後に後遺症が残ってしまった場合には、再生医療である幹細胞治療が適応になります。もし術後の後遺症にお困りであれば、ぜひ一度当院にご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=pSaJBptY3Bc&t=2s ▼こちらも参考に 脳幹出血の回復の見込みとは?回復プロセスについて解説
最終更新日:2024.10.07 -
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脳幹出血の回復の見込みと期間、原因と治療法を解説します 脳幹出血は、脳の中心部にある脳幹に出血を起こす脳卒中の1つです。脳幹は心臓や呼吸、意識などの重要な生命維持機能を担っているため、出血によって四肢麻痺だけではなく、意識不明の重体、寝たきりとなってしまう場合や、死亡にまで至ってしまう可能性もあります。出血によるダメージは重篤な後遺症をもたらす可能性があります。 この記事では、脳幹出血による症状と治療法、回復の見込みや回復のプロセスについて詳しく解説していきます。 脳幹の役割と脳幹出血による障害について 脳幹は脳の中心部に位置し、脳の部位のうち中脳、橋、延髄で構成されています。 脳全体でみると小さな部位ですが、生命活動にとって大切な循環、呼吸、消化液分泌のほか、眼球運動や体温調節、自律神経の中枢を担っています。 そのため、この部位に出血を起こしてしまうと手足の麻痺だけでなく、意識障害や呼吸停止などの重篤な症状を起こす可能性があります。 昏睡状態となり、呼吸停止となった場合には自力で呼吸ができないため、人工呼吸器が必要になったり、処置が遅れた場合には死亡してしまう可能性もあります。そのため、脳幹出血は脳出血の中でも最も重症な部類とされています。 脳幹出血の原因 脳幹出血は、主に動脈硬化が原因で脳幹内の血管が裂けてしまうことで起こります。 動脈硬化の危険因子として、「高血圧、喫煙、肥満、糖尿病、脂質異常症」などがありますので、これらの病気を持っている方は適切に治療を受けることが必要です。 動脈硬化の危険因子 ・高血圧 ・喫煙 ・肥満 ・糖尿病 ・脂質異常症 またそのほかにも、動脈瘤や動静脈奇形、外傷など様々な原因が挙げられます。 脳幹出血の治療 脳幹出血の治療は急性期、慢性期に分けられます。 出血をして直後の急性期には、出血部位を拡大させないための「降圧療法」と「全身管理」がメインとなります。 出血の部位が広く、脳室という部位が拡大して水頭症という状態になっている場合には、圧力を下げるためにドレナージ手術をすることがありますが、他の脳出血のような血腫を除去する手術の適応は一般的にはありません。脳幹は脳の深い位置にあるため、手術の負担が大きく、手術によるメリットが少ないためです。 全身管理としては意識状態が悪く、呼吸がうまくできていない場合には助かるために人工呼吸器が必要になることがあります。人工呼吸を行い、出血による症状が落ち着き、自力で呼吸ができるようになった場合には、人工呼吸器を外すことができる場合もあります。 しかし、自力で呼吸ができない場合には人工呼吸器を外すことができない場合もあり、場合によっては気管切開をしてチューブを留置したままになることもあります。 脳幹出血の回復の見込み 生存、回復率、余命については、脳幹出血の重症度によって、見込みが大きく変わります。 重度の脳幹出血では、回復が難しい場合もありますが、一部の軽度や中等度の症例では、回復が期待できることもあります。 脳幹出血から奇跡の回復を遂げた方もいるので、諦めず治療を行うことが大切です。急性期の治療で全身の状態が安定した後には、リハビリテーションと再出血予防のための内服管理がメインとなります。 生存率と回復率 脳幹出血から回復するためには、発症してから3ヶ月以内の急性期を乗り切るだけでなく、その間に積極的なリハビリテーションを行う必要があります。 まず、脳幹出血の急性期を乗り切るためには、発症時の意識状態がよいことが重要です。回復の見込みは患者さんの状態、重症度など複数の要因が関係しています。一般的に出血の範囲が広く、発症した時の意識状態が悪く、麻痺が重いほど、回復の見込みは低くなります。 また発症してから、病院にくるまでに時間がかかった場合や、リハビリテーションが進まない場合も後遺症が重くなってしまいます。 予後についてはさまざまなデータがありますが、2021年に発表された論文では、以下のように報告している研究があります。 脳幹出血30日以内の生存率 ・意識障害が低く、脳幹出血の出血量が少ない場合の死亡率:2.7%と良好 ・意識障害が高く、出血量が多い場合の生存率はは約70%となり、死亡率は最大で40〜50%に及ぶ そのため、発症時に呼びかけや痛み刺激でも反応しない程度の意識状態(グラスゴー・コーマ・スケール [GCS]にて7点以下が予後不良の目安です)の場合には、残念ながら回復の見込みは低いかもしれません。 本邦から2013年に報告された論文では、脳幹出血を発症した212名の患者のうち、回復に関し以下のように報告されています。 脳幹出血の回復状態 ・良好な回復だった方は13人(6.1%) ・中程度の障害は27人(12.7%) ・重度の障害は27人(12.7%) ・食物状態が23人(10.8%) ・死亡が122人(57.5%) 参照:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 内容的は、亡くなってしまう方が半分以上で植物状態の方も1割いることから、脳幹出血はとても重症な疾患といえます。 見えてくる希望 しかし、脳細胞や神経は障害された部位の再生は困難ですが、神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わることで機能が改善する性質(可塑性)を持っていす。そのため、急性期を乗り切れる見込みがある場合には、諦めずにリハビリテーションを行うことが効果的です。 回復期間と取組について 急性期を過ぎた後の回復期間は、「3〜6ヶ月の回復期」と「6ヶ月以降の生活期」に分けられます。 脳幹出血の後遺症として麻痺がありますが、急性期は関節が固まらないようにリハビリに取り組み、可動域訓練を行います。その後、徐々に麻痺が改善してきたら、自力での訓練を行なっています。 発症して2〜3ヶ月が最も身体機能が回復する時期といわれているため、急性期から回復期にかけて積極的なリハビリを行うことが効果的です。 同時に、回復期では「痙縮 -けいしゅく- 」という手足の筋肉が緊張して突っ張る症状が出現します。痙縮を和らげるためにストレッチや筋弛緩薬で対応していきます。 その後の生活期は、症状が安定した後の維持が目的ですので、装具や筋肉の痙縮を和らげる治療をしながら、日常生活を過ごす環境を調整します。 まとめ・脳幹出血、回復の見込みとその期間、原因と治療法 脳卒中の中でも脳幹出血は重症であり、重篤な後遺症を残すだけではなく、生命に危険が及ぶ可能性があります。 脳幹出血は重症な状態を引き起こし、生存率や回復見込みは症例の重症度によって大きく異なります。回復には、急性期の適切な治療とリハビリテーションが重要であり、患者の意識状態や身体機能の改善に向けた支援が不可欠となります。 回復のカギは、発症後の早期対応と継続的なケアにあります。気にされるであろう回復の見込みについては一般的な予測は困難で、重症度や治療の効果、リハビリテーションの取り組み、個人の状況などを総合的に考慮する必要をご理解ください。 重度の脳幹出血の場合、完全な回復は難しい場合がありますが、諦めずに治療を続けることで回復する可能性もあるため、継続した医療、リハビリなどのサポートを受けながら、最大限の回復を目指すことが重要です。 これらの取組みには、患者だけでなく、家族への情報提供と精神的支援も重要となることを忘れてはなりません。 以上、脳幹出血の治療と回復に関する理解を深めていただくことになり、早期の医療介入と適切なリハビリテーションが患者の生活の質を向上させる一助となることを願います。 この記事がご参考になれば幸いです。 ▼以下もご参考にされませんか 脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期アプローチの大切さ! 参考文献: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8460873/ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0303846712004477 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9995821/ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6940125/
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脳幹出血後の後遺症|麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢! 脳幹出血は、脳の中でも生命活動を司る部分に起こる出血です。脳幹出血が起こった後、生命が助かったとしても、麻痺などの後遺症が残ることもあります。 今回は、脳幹出血後の後遺症に対する最新治療法の一つである、手術なしの治療法「自己脂肪由来幹細胞治療」について解説します。ぜひ参考にしてみてくださいね。 脳幹出血後の麻痺や障害の後遺症にはどのようなものがあるのか? 脳幹出血は、脳幹という脳の中でも呼吸活動を司ったり、血圧を保ったりといった、生命活動にとって根幹となる機能を持つ部位に生じる出血のことです。 脳幹出血に限らず、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の発症には高血圧が関係しています。 脳幹の一部である橋(きょう)という場所で出血が起こると、意識障害や全身の麻痺が起こり、出血が広がると呼吸困難となり、重篤な状態になることがあります。時に、出血量が多い場合には命が助からないという場合もあり得るのです。 また、脳幹出血が起こると、命が助かった時でも後遺症が残ることがあります。 例えば、両手足が動かなくなる四肢麻痺や、呂律が回らなくなる構音障害、食事や水の呑み込みが難しくなる嚥下障害などが挙げられます。 このような脳卒中(脳梗塞、脳出血)の後遺症の場合、リハビリテーションを行い、手や足、飲み込みの機能などの回復をはかっていくことになります。 従来のリハビリに加えて、最近では「自己脂肪由来幹細胞治療」という最新の治療法も登場しました。 脳幹出血後の後遺症に対する「自己脂肪由来・幹細胞治療」とは? 自己脂肪由来幹細胞治療とは、患者さんから採取した脂肪から分離した脂肪由来幹細胞を培養して必要な細胞数まで増殖させ、幹細胞が十分な数になるまで増えたら、患者さんに点滴をして投与する、という再生医療です。 この治療方法は、自己脂肪由来幹細胞が血管成長因子や炎症抑制物質を分泌する性質を利用しています。 再生医療の効果としては、以下の3つがあります。 1. 脳神経細胞の再生により身体機能が回復する 脳幹出血で壊れてしまった脳細胞を、自己脂肪由来幹細胞が修復・再生します。 それによって、麻痺などの後遺症の修復や、痛みや痺れといった症状を和らげる効果が期待できます。 2.脳神経細胞の再生によるリハビリ効果の向上 損傷した脳神経を再生および修復することで、身体機能の回復が期待できます。 そのため、再生医療と並行してリハビリを行うことで、リハビリ効果をより高められることも期待できます。発症後数年経っている場合でも、効果を見込める場合もあります。 3.脳血管の修復による再発予防 今後、脳幹出血を含む脳卒中の原因になる可能性のある傷ついた血管を、予防的に修復します。 それによって、脳血管障害を起こしやすい体質自体の改善につながり、再発を予防する効果もあるのです。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリット では、ここからは自己脂肪由来幹細胞治療のメリットとデメリットについて説明していきます。 自己脂肪由来幹細胞治療のメリット 1. 拒絶反応を引き起こしにくい 自己脂肪由来幹細胞による再生医療の場合は、自分から採取した組織を培養し、投与するというものなので、拒絶反応が起こりにくいという利点があります。 2. 脳幹出血の後遺症の症状に対して根本的な効果が期待できる 自己脂肪由来幹細胞による再生医療では、自己脂肪由来幹細胞による血管の修復、新生効果により、根本的な症状の回復が期待できます。 通常の脳卒中の治療法としては、固まった血を溶かす作用を持つ薬を投与する方法や、手術により固まった血を取り除く方法があります。 しかし、これらの治療法は周囲の脳へのダメージを減らし、症状を安定させてより早くリハビリテーションを開始できるようにすることなどを目的として行われるものなので、根本的な症状の回復はあまり期待できません。 自己脂肪由来幹細胞治療のデメリット 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自費診療となっています。 そのため、高額な治療費が必要になる可能性があるというデメリットもあります。 また、効果には個人差があることにも留意が必要です。 自己脂肪由来幹細胞治療に対するよくある質問 Q1.自己脂肪由来幹細胞治療はどのような病気に対して効果が期待できるの? A1. 自己脂肪由来幹細胞治療は、現在脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)や糖尿病や肝臓疾患、そして肩・膝・股関節の変形性関節症、スポーツ障害、脊髄損傷などに対して行われています。 その他にも、歯周病や、四肢の重症虚血(きょけつ)などに対して臨床研究が行われています。 Q2.自己脂肪由来幹細胞治療はどこで受けられるの? A2. 2023年6月時点で、自己脂肪由来幹細胞治療は自由診療なので、行なっている病院は限られています。 リペアセルクリニックの再生医療は、自己脂肪由来の幹細胞治療を行なっております。独自の技術で細胞を培養しており、輸送時や保存時に幹細胞を冷凍保存しないことによる幹細胞の高い生存率が見込めます。 そして大量の幹細胞を投与できるため治療成績が良好であるという特徴もあります。 治療についてのご相談は、経験豊富な再生医療専門医による医師や、アドバイザーが無料で行なっています。その上で、内容についてご納得して頂いた上で治療を選択することができます。 ご予約は電話や、メール、WEBで可能ですので、治療について悩んでいる方はどうぞお気軽にご相談ください。 ▶リペアセルクリニック「再生医療のご相談、来院予約/治療の流れ」 https://fuelcells.org/flow/ まとめ・脳幹出血後の後遺症|麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢! 今回は脳幹出血の後遺症に対する「最新の治療法」として、自己脂肪由来幹細胞治療による再生医療をご紹介しました。 再生医療による治療を始めるのが早ければ早いほど、良い結果が期待できます。 脳幹出血の後遺症で、ご自身あるいはご家族などがリハビリを受けているような方で、再生医療の治療を受けるかどうか迷っている、あるいは効果について知りたいと考えているのであれば、ぜひ一度当院にご相談くださいね。 以上、脳幹出血後の後遺症である麻痺や障害に「最新の治療法」という選択肢について記しました。参考になれば幸いです。 ▼こちらも参考にされませんか 脳幹出血の後遺症|運動失調の特徴とメカニズム 【参考文献】 右下丘に限局した脳幹出血に伴う聴覚障害の1例 p 177 https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology1968/49/5/49_5_755/_pdf 第1回再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会でご指摘いただいた事項について p3,4 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l0m5-att/2r9852000002l0qx.pdf
最終更新日:2024.10.07