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- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
大腿骨頭壊死における禁忌とは?やってはいけないこと はじめに 大腿骨頭壊死は、股関節の一部である大腿骨頭が血流障害によって、壊死してしまう病気です。外傷やアルコール、ステロイドの使用など様々な原因があります。なかには特に原因のない特発性もあり、指定難病にもなっています。 今回は、大腿骨頭壊死と診断されたら、どのようなことに気を付ければよいのか、またどのような生活を送るべきなのかについて詳しく解説します。症状の進行を防ぐために、是非参考にしてください。 大腿骨頭壊死になってしまったら 大腿骨頭壊死は、年間2000~3000人が発症する病気です。「壊死」という病名は、なんだか恐ろしく、将来歩けなくなってしまうかも?と思われる方もいるでしょう。ですが、適切な治療やリハビリを行うことで、進行を遅らせたり、日常生活に支障なく戻れたりする可能性が非常に高い病気です。正しい知識を持って行動することが大切です。 1 . 原因を知る まずは、大腿骨頭壊死の原因がなんであるかを知ることが大切です。前述の通り、全く原因がない場合もありますが、アルコールやステロイドなど原因と疑われるものがある場合は、減らしたりやめたりすることができないか、検討してみましょう。ただし、ステロイドはもともとの病気のコントロールに必要不可欠な場合が多いので、処方している主治医ともよく相談してから判断してください。 2 . 進行度を知る また、大腿骨頭壊死がどのくらい進行していて、壊死がどんな場所にあるかも重要なポイントです。壊死が発症初期であれば、体重をかけずに経過を見ることで壊死部が修復する可能性もあります。こちらも主治医とよく話し合い、治療の方針をしっかりと理解することが大切です。 3 . 治療を検討する どうしても痛みが強い場合や、壊死が進行してしまった場合は人工関節に変える手術を行うことが多いです。ただし、若年で人工関節を入れると、人工関節の耐用年数の問題も出てくるため、可能であれば進行させない生活をすることが望ましいといえます。 また近年では、骨や軟骨の再生を促す「再生医療」という選択肢もあります。手術を行う前に検討してみるのもひとつです。 大腿骨頭壊死でやってはいけないこと 大腿骨頭壊死を進行させる一番のリスクは、大腿骨頭にかかる負荷が増大することです。 大腿骨頭は股関節を形成している部分であるため、立ったり歩いたりすると直接体重を受けてしまいます。そのため、1本杖や松葉杖を使用して、過度な負担がかからないようにすることが必要です。 禁忌!これをやったら壊死が進行してしまう?危険な行動とは 大腿骨頭壊死を発症した場合、激しい運動や階段昇降、重量物の運搬、長時間の立ち仕事など、股関節に持続的に強い負荷がかかることは避けるべきでしょう。また、体重が増えてしまうことにも注意です。体重が増えると、増えた体重分、股関節にかかる負担が大きくなります。 また、壊死は股関節の前方に発生することが多いため、しゃがみこむ動作や、前屈動作など股関節を曲げる姿勢をとると、壊死部に負担がかかりやすいです。そのような姿勢もなるべく避けましょう。 そして、アルコールとタバコは絶対にやめましょう。 アルコールはそれ自体が、大腿骨頭壊死の原因となることがわかっています。また、骨密度を低下させる可能性もあるため、壊死で弱った骨をさらに弱くしてしまいます。 タバコも大腿骨頭壊死のリスクといわれています。さらにタバコは血行を悪化させ、骨壊死を加速させるリスクも指摘されており、絶対にやめましょう。 大腿骨頭壊死の禁忌事項 ・激しい運動や階段昇降 ・重量物の運搬 ・長時間の立ち仕事 ・股関節に持続的に強い負荷がかかること ・体重増加 ・しゃがみこむ動作 ・前屈動作など股関節を曲げる姿勢 ・飲酒 ・喫煙 一番は、全く股関節に体重をかけないことですが、そのように生活するのはなかなか難しいものです。少なくとも、股関節に持続的に強い負荷がかかること、飲酒や喫煙は避けましょう。 どんな生活をしたらいいの? では具体的にはどのような生活がいいのでしょうか。以下の3点に気をつけて生活しましょう。 1 . ベッドや椅子を使用し、洋式の生活を心がける まず、股関節を深く曲げこむ動作が多い、こたつや布団、和式トイレなどの日本式の生活は、股関節に非常に負担がかかります。なるべくベッドや椅子を使用し洋式の生活にすることを心がけましょう。 2 . お風呂に浸かるなどし身体を温めて血行を良くする 大腿骨頭壊死は血流障害によって起こります。体を温めることは血行を良くすることにつながるため、お風呂に入るなど体を冷やさないように心がけることも大切です。 3 . 鎮痛剤の使用しながら安静期間を設ける 痛みが生じている場合は、無理をせず、鎮痛薬を適宜使用しながら安静の期間を設けることも必要です。 ただし、我慢しすぎて手術の時期を逃してはいけません。整形外科医の定期的な診察を受けつつ、これらの生活スタイルを工夫していきましょう。 大腿骨頭壊死についてよくあるQ&A Q:遺伝的に大腿骨頭壊死になりやすい人はいますか? 現在の研究では、大腿骨頭壊死が遺伝的に引き起こされることは確認されていません。ただし、ステロイド性の骨頭壊死に関しては、骨頭壊死を引き起こす遺伝子がある可能性までは研究でわかっており、今後さらなる研究が望まれます。 Q:どのくらいのステロイドを使うと大腿骨頭壊死になりやすいですか? 明確な危険量は分かっていませんが、内服開始から骨壊死が発生するまでの期間で、一日平均約15㎎を超える場合は、骨頭壊死のリスクが高まるといわれています。これはプレドニゾロンというステロイドに換算した値ですので、実際に自分がどのような薬をどのくらい使用しているか気になる方は、主治医に確認してみてください。 まとめ・大腿骨頭壊死における禁忌とは│やってはいけないこと 今回は大腿骨頭壊死になってしまったら、どのようなことに注意をすべきかに焦点を当てて解説しました。大腿骨頭壊死は、患者さんの生活習慣や行動が、その後の進行や症状を大きく左右する病気のひとつです。病気に対する理解と自己管理が、大腿骨頭壊死とうまく向き合うポイントとなります。ご自身の病状をしっかりと把握し、進行予防に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.146 監修:医師 坂本貞範
2023.09.21 -
- 脳卒中
- 頭部、その他疾患
橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! はじめに 橋出血という病気を聞いたことがあるでしょうか。橋は「きょう」と読み、脳の重要な部分である脳幹の一部です。橋が障害されると、命に関わる深刻な状態を引き起こします。橋出血は、脳卒中のひとつで、非常に予後が悪いといわれています。 今回は、橋出血の初期症状の特徴や治療法、予後など、是非知っておいてほしい点について詳しく解説します。 橋出血(pontine hemorrhage)は脳卒中のひとつ 橋出血について解説する前に、まずは脳卒中についてお話します。 脳卒中には大きく分けて、脳梗塞と脳出血の2つのタイプがあります。「橋出血」は、脳出血の一つの病態で、脳出血全体の5〜10%といわれています。 脳出血は高血圧などにより、脳の血管が破れて脳組織内に血液が流れだすことによって起こります。これは、どちらも脳の機能に重大な影響を与え、重篤な場合は命に関わることもあります。 一方、脳梗塞は血栓や動脈硬化などにより血管が詰まり、脳組織への血流が停止することにより起こります。 橋出血の初期症状 脳出血は突然脳の血管が破れて発症するため、前兆や予兆がないことも多いです。ですが、初期症状を知っておくことで、早期治療が可能となり、出血の拡大を防ぐことができます。 橋出血の場合は、以下のような症状が起こります。 ・何となく受け答えが悪い(意識障害) ・強い頭痛が続く ・手足がうまく動かせない ・体の片方だけ感覚が鈍い このような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。 橋出血の診断 橋出血は、脳幹の一部である橋(pons)で出血が起こる病態です。脳幹は、生命の維持に重要な役割を果たしている部位で、意識・呼吸・循環をつかさどっています。脳幹の中で出血が起こる場合、橋動脈から出血することが最も多いといわれています。 橋出血は、CTで診断することができます。橋出血は出血部位と大きさにより、中心部橋出血と部分的橋出血に分類されます。中心部橋出血は出血の範囲が広いため予後が悪く、数時間から数日で命を落とす可能性が高いです。部分的橋出血の場合は、早期の治療を行えば、比較的予後が良好な場合もあります。 橋出血の症状 橋出血の症状は、出血の部位や大きさによっても異なりますが、瞳孔の変化と四肢麻痺が特徴的です。 瞳孔の変化 瞳孔とは、目の真ん中にある「黒目」のさらに中心にある黒い部分のことです。瞳孔は目の中に入る光の量を調整しているため、まぶしい時には縮小し、暗い時には拡大します。橋には、瞳孔の大きさを調整するための神経が通っています。このため、橋出血によりこの神経が影響を受けると、極端に瞳孔が収縮します。両側瞳孔の高度縮小はpinpoint pupilともよばれ、橋出血に特徴的な所見です。 四肢麻痺 また、橋には体の運動機能を担う神経も通っています。その部分を巻き込んで出血が起こると、手足の麻痺が出現します。広い範囲で出血が起こった場合は、両側の四肢麻痺が発生します。出血量が少なければ片側の麻痺に留まるか、運動は保たれて感覚のみ麻痺する場合もあります。 瞳孔の変化や麻痺は、橋出血で特徴的ですが、他にも意識障害や視覚障害、言語障害、呼吸障害など、様々な症状が出現する可能性があります。少しでもこれらの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。 橋出血の治療と予後 脳出血の最も多い原因は、高血圧であり、脳出血を起こしてしまった場合は、血圧を下げて安定させることが重要です。これは、血圧を下げることによって、さらなる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。 脳出血では、血種除去といって、出血によって生じた血種を外科的に取り除く手術が行われることがありますが、橋は脳の深部にあり、正常な組織を傷つけずに到達するのが困難のため基本的には手術は行いません。そのため、血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴などを使用した保存療法がおこなわれます。 出血範囲が広い橋出血(中心性橋出血)では、予後は非常に悪く、出血してから数時間で命を落とす場合もあります。出血の範囲によっては、軽度の麻痺が残る場合もありますが、予後は比較的良好で、日常生活に戻ることができる方もいます。しかし、運動麻痺や感覚麻痺など何らかの障害を残す可能性はあり、急性期の治療が終わった後は、リハビリテーションを長い時間かけて行う必要があります。 橋出血にならないためにできること 橋出血のみならず、脳出血の最も多い原因は高血圧です。高血圧は一般的な病気であり、多くの人が指摘されたことがあるのではないでしょうか。 高血圧は、他の生活習慣病と同じく、食事、運動が基本的な治療です。特に塩分の摂りすぎには注意した方が良いでしょう。 血圧が高い状態が続いている場合は、投薬治療が必要な場合もありますので、医師に相談してください。 まとめ・橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! 今回は橋出血について解説しました。 橋出血は一度起こしてしまうと、命に関わる非常に危険な病気です。起こしてから治療するのではなく、予防をすることがなによりも大切です。高血圧や生活習慣病にならないよう、日々の生活習慣に気を配り、自己の体調にしっかりと目を向けるようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.145 監修:医師 坂本貞範
2023.09.18 -
- 膝の慢性障害
- ひざ関節
膝蓋大腿関節症は膝の皿が痛い症状が特徴!原因、治療法について 膝周辺の痛みを起こす病気に「膝蓋大腿関節症」というものがあります。この病気はスポーツをしている方や膝のケガをした方、中高年の方で起こりえます。 この記事では膝蓋大腿関節症の症状、原因、治療法について解説していきます。膝の痛みでお困りの方はぜひ参考にしてみてください。 膝蓋大腿関節症とは 膝には大腿骨と脛骨でつくられる膝関節と、大腿骨と膝蓋骨(膝の皿の骨)でつくられる膝蓋大腿関節の2つの関節があります。膝蓋大腿関節は「しつがいだいたい関節」と読み、膝の皿の骨である膝蓋骨と大腿骨との間で障害が起こり、痛みを起こす病気です。膝蓋骨はpatella、大腿骨はfemurと英語で表記するためpf関節とも呼びます。 通常、膝蓋骨と大腿骨が接触している部分は骨の表面に軟骨があり摩擦がほとんどありません。そのため、膝蓋骨は膝を屈伸する時に滑らかに動きます。しかし、膝蓋大腿関節にずれや炎症が起きたり、軟骨がすり減ってしまうと痛みを起こしてしまい、そのような状態を膝蓋大腿関節症と呼びます。 膝蓋大腿関節症の症状 膝蓋大腿関節症の主な症状は膝のお皿の痛みで、膝を伸ばすとき痛みを感じることが多いです。ケガなどによって膝蓋骨の脱臼や不安定症などがある場合には、膝の皿の横の痛みや、膝のお皿の周りの痛みを感じることもあります。 また、膝のお皿の下が痛い場合もありますが、そのような場合にはジャンパー膝や膝蓋腱炎と呼ばれるバレーボールやバスケットボールなどのジャンプするスポーツをする方に多い膝蓋骨に付着する腱の炎症が原因のこともあります。 膝蓋大腿関節症の主な原因 原因は主に「膝蓋骨の不安定性」と「加齢」による変化です。 健康な方では、膝蓋骨は大腿骨の表面の溝にうまくはまりこみ、溝の中を滑るように動きます。膝蓋骨の不安定症とは、膝蓋骨がこの大腿骨の溝から外れやすくなってしまう症状です。生まれついての骨の形や、足がX脚になっている方では、蓋骨の脱臼・亜脱臼が起こりやすくなります。そのような状態を放置していると、膝蓋骨と大腿骨がぶつかることで、徐々に軟骨がすり減っていきます。 また、加齢も原因の1つです。中高年の女性に多く、加齢によって膝関節の軟骨が摩耗していくと、骨同士がぶつかり痛みを生じてしまいます。 膝蓋大腿関節症の診断方法 診断は身体診察と画像診断により行います。 身体診察 身体診察では視診、触診、痛みを誘発するテストなどを行います。 膝関節の診察では可動域と触診による痛みの部位の確認をまず行います。膝蓋大腿関節症では多くの場合、膝関節の前方や膝皿の痛み(膝蓋骨周辺)が主訴です。 また診察では「patella griding test(膝蓋骨圧迫テスト)」を行います。 patella griding test(膝蓋骨圧迫テスト) 膝蓋骨を上から圧迫して左右に動かすことによって、皿裏に痛み(膝蓋骨の裏側)が誘発されます。 膝蓋骨の不安定症の診察は膝関節を伸ばして、膝蓋骨を外側に押し付けるようにします。 この手技で膝蓋骨が外れるような感じがあれば、不安定症があると判断されます。 画像診断 画像診断では、レントゲン撮影により膝蓋骨の形や位置、大腿骨の溝の形、変形の程度を確認します。 関節の隙間の広さで変形の程度を判断しますが、関節の隙間が少なくなっており、骨棘(こつきょく)という余分な骨ができている場合には、膝蓋大腿関節症があると判断されます。症状が進行すると、関節の隙間がなくなり、骨同士が接触してしまいます。 また、骨の形状を3次元的に判断するためにはCT撮影が有効であり、軟骨・靭帯の状態の評価にはMRIが有用です。 膝蓋大腿関節症の治療法 治療は大きく保存療法と手術療法に分けられます。 保存療法 まず、保存治療について解説します。 加齢が原因の場合 加齢による膝蓋大腿関節症の保存治療では、患部を安静にして、正座や階段などの痛みがでる動作を控えるようにします。 また、膝の裏にタオルや枕をおいて膝関節を伸ばしたり、座っている状態から膝を伸ばす、寝ている状態で足を上げる、痛みの範囲でスクワットをするなどの大腿四頭筋の筋力訓練が有効です。さらに、鎮痛薬や湿布、外用剤などを使用することによって、痛みを軽減することができます。 また、ヒアルロン酸や痛み止めの関節内注射も行われることがあります。これらの治療で痛みが改善せず、日常生活に支障がでる場合には手術が選択されます。 膝蓋骨の不安定症が原因の場合 膝蓋骨の不安定症が原因の膝蓋大腿関節症の場合は、初回の脱臼で大きな骨折がなければ保存的に治療します。保存治療ではサポーターを使用して膝蓋骨が脱臼しないようにしながら、膝関節の可動域訓練、筋力訓練を行います。3ヶ月程度、保存治療をしても痛みや不安定感が残る場合には手術治療が行われる場合があります。 手術療法 次に手術治療について解説します。 加齢が原因の場合 加齢による軟骨損傷が原因の膝蓋大腿関節症では、主に人工関節手術が行われます。 摩耗した軟骨は自然に回復することはないので、傷んだ部分を切除して、金属に置き換え、軟骨の代わりのプラスチックを挿入することで痛みが軽減されます。 膝蓋大腿関節だけではなく、脛骨側の軟骨も傷んでいる場合が多いので、人工膝関節全置換術が行われることが一般的です。人工膝関節全置換術の場合は、治療期間はおおむね2〜4週間程度で、痛みが軽減して、膝の曲がりもよくなり、長期的にも成績が安定しています。 最近では傷んだ部分だけを手術する人工膝関節部分置換術が導入されている施設もあります。部分置換術は主に大腿脛骨関節の内側に行われることが多いのですが、膝蓋大腿関節だけが障害されている場合には膝蓋大腿関節置換術という方法もあります。しかし、手術の適応はまだしっかりと決まっておらず、長期的な成績も不明な部分が多いので、方針について担当医とよく相談することが必要です。 膝蓋骨の不安定症が原因の場合 膝蓋骨の不安定症が原因の膝蓋大腿関節症では、膝蓋腱が脛骨に付く位置を移動させたり、膝蓋骨の内側の靭帯を修復して脱臼を予防させる手術などが行われます。 このように、様々な治療法がありますが、ご自身の状態によって方針は変わってきます。信頼できる医師、病院を見つけて、主治医とよく相談し、納得できる治療を受けることが大切です。 また手術以外にも、リハビリテーションも重要です。リハビリ体制が整っているかどうかも病院選びの参考にしてみてください。 まとめ・膝蓋大腿関節症は膝の皿が痛い症状が特徴!原因、治療法について 膝蓋大腿関節症は加齢や膝蓋骨の不安定性によって、膝の皿の裏に痛みを生じる病気です。膝を曲げ伸ばしするときの痛みが多く、身体診察と画像検査によって診断されます。 治療方針は膝蓋骨の不安定性と軟骨の摩耗の程度、年齢などによって変わってきます。保存治療としてお薬、リハビリ、注射などがあり、改善しない時には手術治療の方法もあります。早めに治療をすることで、症状が早くよくなったり、悪化することを防ぐことができるので膝のお皿に痛みや違和感があり、なかなか良くならない方は早めに専門医に診察をしてもらうようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.151 監修:医師 坂本貞範
2023.09.14 -
- 靭帯損傷
- ひざ関節
後十字靭帯断裂の症状と治療法について医師が詳しく解説 後十字靭帯断裂という怪我をご存じですか? 後十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ重要な靭帯で、膝の裏側にあります。靭帯断裂というと、スポーツで起きるイメージを持たれるかもしれませんが、後十字靭帯断裂はスポーツだけでなく転倒や交通事故でも起こります。 今回は、後十字靭帯断裂について、症状や診断方法、治療や手術費用などについても詳しく解説します。 後十字靭帯とは 後十字靭帯は、大腿骨の内側顆と呼ばれる膝の内側の部分を起始とし、後方外側に向かってのび、脛骨の顆間隆起の後外方に停止します。 「後」十字靭帯という名前がついていることからわかるように、私たちの膝には「前」十字靭帯も存在します。膝の中でこの2つが十字型に見えることから、こう呼ばれています。 この前十字靭帯と後十字靭帯がともに機能することで、私たちの膝は安定して動かすことができます。 後十字靭帯は、前十字靭帯よりも太さと強度があり、特に脛骨(すねの骨)が後ろに脱臼しないように保持する働きをしています。また、膝をひねる動作が安定して行えるよう支える役目も担っています。 後十字靭帯断裂の原因 後十字靭帯断裂は、主に膝を曲げた状態で強く地面に打ち付けることによって発生します。交通事故でダッシュボードに膝を強く打ち付ける、転倒して膝から転ぶなどが典型的な受傷機転です。 スポーツでは、ラグビーやアメフトなどのコンタクトスポーツでの受傷が多いです。 後十字靭帯断裂の症状 多くの場合、膝を打ちつけているため、膝のお皿の下に擦り傷などの外傷があることが多いです。 関節内に、少量の血が溜まる場合もあります。靭帯のみでなく、後ろの関節包(関節を包んでいる袋、関節の安定性に寄与している)も損傷している場合には、膝後方に皮下出血があり、注意が必要です。 膝窩部(膝裏)の痛みや、膝を曲げると痛いという症状を訴える方もいます。 後十字靭帯は、一部の損傷のみにとどまることもありますが、完全に断裂し、膝の不安定性が強い場合は、階段の上り下りや、しゃがみ込み時に膝がグラグラする感覚があります。 放置するとどうなる? 膝が不安定な状態のまま日常生活を送ると、大腿骨と脛骨の動きが通常よりも大きくなり、その分、膝全体にストレスがかかります。この状態が長期間続くことによって、膝の軟骨や半月板などが徐々に損傷を受けます。 そのままさらに放置すると、膝が変形してしまい、痛みを伴いながら、極端なO脚やX脚になってしまう可能性があります。(変形性膝関節症) 後十字靭帯断裂の診断 後十字靭帯断裂を疑う外傷があった場合、身体診察と画像検査によって診断します。 徒手検査 まずは身体診察を行い、膝関節の不安定性がないかどうかをチェックします。 特に有名なものに、「後方引き出しテスト」とよばれる検査があります。 後方引き出しテスト 1. 寝た状態で膝を曲げる 2. 医師がすねの骨(脛骨)を後ろに押していく その際に、後十字靭帯が機能していないと、脛骨が後ろに落ち込んでしまうような感覚があります。 画像検査 画像診断は、レントゲンとMRIで行うことが多いです。 靭帯自体はMRIでないと評価できませんが、合併する骨折を見逃さないためにも、レントゲンでの評価も必要です。MRIでは、靱帯が完全に断裂しているのか、部分的に損傷しているのかを評価することができます。 また、半月板や側副靱帯など他部位の損傷が合併しているかどうかについてもMRIで評価します。 後十字靭帯断裂の治療 後十字靭帯の機能は、保存的治療でも比較的に良好に回復すると言われており、保存療法が選択されることが多いです。 保存療法 保存療法の場合は、膝関節の安定性を補助するための装具を2カ月程度使用します。また、膝の安定性を高めるためにはリハビリも欠かせません。 受傷から1,2週の急性期は、腫脹や痛みがある時期なので、ある程度痛みが引いてくるまでは負担をかけないように松葉杖などを使用します。痛みのない範囲で、早期から関節可動域訓練やストレッチなどは開始します。 その後、3週間程度経過すると、徐々に膝が動かせるようになり、筋力トレーニングやランニングなど、装具を着用したまま行えるようになります。 スポーツ復帰までどのくらい? 筋力トレーニングによって、筋力が8割程度戻ってくればスポーツ復帰となりますが、少なくとも3ヶ月程度はかかります。 ただし、保存療法を行っても、膝の不安定性が強い場合や、不安定感でスポーツなどへの復帰が傷害される場合は、再建術などの手術が検討されます。 手術療法 手術は全身麻酔で行われる場合が多いです。 切れた靱帯同士を縫合するのは難しく、強度も不十分であるため、もも裏の筋肉(ハムストリング)の一部を採取し、靱帯のように形成して移植します。 入院期間とスポーツ復帰まで 手術後は装具を使用して膝を固定します。体重をかけていいのは、術後3週間程度してからになります。入院期間は病院によって様々ですが、体重をかけられるようになることまで入院している場合が多いです。 退院後も、通院でリハビリテーションを行い、術後6ヶ月でランニングを許可し、術後10〜12ヶ月でスポーツ復帰が目安となります。 手術はどのくらい費用がかかる? かかる費用は、入院期間や処置の内容によっても前後しますが、50万前後となることが多いです。装具や通院なども含めると、さらに金額は上がってきます。 基本的には高額療養費制度の適応となりますので、自己負担は軽減されます。高額療養費制度に関しては、ご加入の健康保険窓口で問い合わせてください。 まとめ・後十字靭帯断裂の症状と治療法について医師が詳しく解説 今回は、後十字靭帯断裂について詳しく解説しました。 後十字靭帯は私たちの膝を安定させるのに非常に重要な役割を果たしています。当初は軽い症状でも、放置すると日常生活に支障が出る場合も珍しくありません。少しでも違和感を感じた場合は、早期に専門医を受診してください。 No.S150 監修:医師 加藤 秀一
2023.09.11 -
- 関節リウマチ
- 膝部、その他疾患
- ひざ関節
リウマチによる膝の関節炎とは?症状と治療について医師が解説 関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり、痛みや腫れを起こす病気です。進行すると関節の変形や機能の障害を残してしまいます。 関節リウマチでは膝の痛み、膝の腫れも非常に多い症状の1つです。膝が痛いときは、変形性膝関節症で年のせいと思うかもしれませんが、もし関節リウマチだった場合に放置していると、悪化してしまう可能性もあります。 この記事では関節リウマチによる膝関節炎の症状や治療法について解説していきます。膝の痛みでお困りの方はぜひ参考にしてみてください。 関節炎、関節リウマチとは 関節炎とは様々な原因で関節に炎症を起こしている状態の総称であり、関節リウマチは関節炎を起こす病気の1つです。 関節リウマチでは、自分の体を細菌やウイルスから守る免疫の異常によって関節の滑膜に炎症が起こり、痛みや腫れを起こしてしまいます。関節リウマチは無治療のままで放置してしまうと、関節が変形したり、痛みだすなど、機能的な障害をきたしてしまいます。 関節リウマチの主な原因 関節リウマチの多くは40-60歳代ごろの中高年の女性に発症します。正確な原因はまだ明らかになっていませんが、自己免疫疾患と考えられており、自分の組織に対して攻撃する抗体が作られてしまい、関節内の滑膜という組織にリンパ系の細胞が集まって炎症性の物質が作られることが原因と考えられています。 発症には遺伝的な要因や喫煙、歯周病などが関連しているとわかっています。発症すると関節炎によって痛みや腫れを起こし、進行すると関節の変形を生じてしまうため、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の症状 関節リウマチで多い症状は手や足の指の腫れ、痛み、朝のこわばりなどです。また、膝関節で滑膜が増殖して、炎症を起こすと膝関節炎をきたしてしまいます。 膝関節炎の主な症状は、膝が腫れる、膝に水が溜まる、歩く時や階段での痛み、膝が曲がらないなどです。膝の痛みは膝裏に起こることが多く、曲げ伸ばしの時に音が生じることもあります。 また、炎症が強い場合には安静にしていても激痛を感じたり、歩けないくらいの痛みを生じる場合もあります。 膝関節炎、放っておくとどうなる? 膝関節炎を放置しておくと、関節の軟骨がなくなってしまい、徐々に関節の変形が進んでいきます。その結果、徐々に膝の曲げ伸ばしが難しくなり、骨同士がぶつかることによって痛みが悪化してしまいます。関節の変形を生じさせないためにも、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の診断方法 診断は問診、身体診察と血液検査、画像検査などを組み合わせて総合的に行います。これは関節が腫れて、痛む病気は複数あり、検査だけで関節リウマチと診断できない場合があるからです。そのため、関節リウマチの診断基準を使用して診断を行います。 現在では2010年に米国、欧州リウマチ学会が合同で発表した分類基準を使用することが一般的です。 この基準では、 ①症状がある関節の数 ②症状が続いている期間 ③血液検査での炎症反応の数値 ④血液検査でのリウマトイド因子や抗CCP抗体の数値 これらの4項目についてそれぞれ点数をつけ、合計して6点以上であれば関節リウマチと診断します。 血液検査では、リウマトイド因子や抗CCP抗体が重要で、多くの関節リウマチで陽性になります。しかし、両方とも陰性でも関節リウマチである場合や、陽性でも関節リウマチではない場合もあります。また、炎症反応は活動性を反映する指標ですが、リウマチ以外でも上昇することがあります。 画像検査は診断基準には含まれませんが、単純レントゲン写真では骨びらんという、骨の透亮像がみられる場合があります。また関節エコーやMRI検査も滑膜炎の範囲、程度を評価するのに有用です。 リウマチによる膝関節の治療法 治療の基本は、薬物治療です。リウマチと診断した早期から、抗リウマチ薬を開始します。また、痛みの程度に応じて炎症を抑えるステロイドや、鎮痛薬を併用します。 お薬を開始しても膝関節炎の症状が続く場合にはサポーターを使用したり、膝関節に注射をする方法があります。しかし、膝関節炎が治まらず、関節の変形や破壊が進行した場合には、人工関節置換術などの手術治療が行われます。 抗リウマチ薬の種類 抗リウマチ薬には複数の種類があります、日本リウマチ学会による2020年のガイドラインから代表的なお薬を紹介します。 第一段階ではメトトレキサートが推奨されます。世界中で使用されている薬剤で有効性が高いことから関節リウマチ治療の第一選択となっています。 メトトレキサートに複数の抗リウマチ薬を併用しても炎症が治らない場合には第二段階の治療として、生物学的製剤やJAK阻害薬というお薬が使用されます。バイオテクノロジーを用いて製造されたお薬で、非常に効果が高いのですが、同時に自己免疫を抑える作用があるため、専門医に処方してもらうことが必要です。 ・メトトレキサート ・生物学的製剤 ・JAK阻害薬 関節リウマチはこれまで治療が難しく、関節の変形が進行してしまう患者さんも多かったのですが、現在では薬剤の種類も多くなっており、効果が高いお薬もあるため、適切に治療することで症状を抑えることが可能になってきています。 まとめ・リウマチによる膝の関節炎とは?症状と治療について医師が解説 関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり、痛みや腫れを起こす病気です。進行すると関節の変形や機能の障害を残してしまいます。 関節リウマチによって膝関節炎が起きている場合は、放置してしまうと関節の変形、破壊が進行してしまい、人工関節手術が必要になることもあります。そのため、早期に発見、治療することが大事な病気です。 早めに治療をすることで、悪化を防ぐことができるので、膝に痛みがあり、なかなかよくならない方は早めに病院を受診するようにしましょう。 No.S151 監修:医師 加藤 秀一
2023.09.10 -
- 靭帯損傷
- ひざ関節
後十字靭帯損傷の症状と原因、治療法について 後十字靭帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)とは、膝の関節内にある後十字靭帯の損傷をいいます。主に車の事故やバイク事故、ラグビーなどのコンタクトスポーツで他人と衝突することで生じます。 今回の記事では、後十字靭帯損傷の原因や症状、そして治療方法について解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。 後十字靭帯損傷とは? 後十字靭帯は、膝関節の中で前十字靭帯とともに関節を強固に連結している靱帯です。 大腿骨(太ももの骨)の内側と、脛骨(すねの骨)の中央を繋ぎ、前十字靭帯と十字のかたちに交差して膝関節を支えています。普段は膝関節のひねる動作を支えたり、脛骨が後ろにずれないように支えるように働いたりしています。 後十字靭帯損傷は、膝裏にあたる位置にある靭帯損傷のことであり、後十字靭帯が一部あるいは完全に断裂した状態を指します。 後十字靭帯損傷の原因 スポーツ外傷や交通事故などで、脛骨上端に、前から後ろへ向く大きな力が加わることで、後十字靭帯が損傷することが多いとされています。 具体的には、以下のような受傷機転が考えられます。 交通事故 ダッシュボード損傷とも言われ、車が急停車しダッシュボードに膝(脛骨の上端部)をぶつけることによって起こります。 転倒 膝を90°曲げた状態で転倒すると脛骨が後ろへ押し込まれるため受傷します。 コンタクトスポーツ(ラグビーなど) 膝下にタックルを受けることで、後十字靭帯を損傷することがあります。 後十字靭帯損傷の症状 後十字靭帯損傷の症状を解説します。 急性期(受傷後3週間くらい) 膝の痛みと可動域制限がみられますが、歩ける場合が多いです。しばらくすると腫れ(関節内血腫)が目立ってくる場合もあります。膝窩部の皮下出血を認めることもあります。 どこが痛いかの部位は、膝の裏となります。また、脛骨に後方へのストレスをかけると、膝窩部に激痛がみられます。 急性期を過ぎると 痛み、腫れ、可動域制限はいずれも軽快してきます。しかしこの頃になると損傷部位によっては膝の不安定感が徐々に目立ってくることがあります。これは下り坂やひねり動作の際にはっきりすることが多いです。 慢性期の症例(受傷から時間がたった場合) 慢性期では、前十字靭帯損傷と比べると膝の機能障害は軽度ですが、脛骨の後方ストレスへの不安定感を歩行やスポーツ活動時に認めます。 また、慢性期では、関節軟骨変性のため膝蓋大腿関節や内側の関節裂隙に圧痛を認めることもあります。また、仰臥位で膝関節屈曲90°とすると、脛骨近位端が後方へ移動している落ち込み徴候(サギングサイン)を認めます。 不安定感があるままに放置しておくと新たに半月(板)損傷や軟骨損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れ(水腫)が出現するおそれもあります。 後十字靭帯損傷の診断方法 脛骨の後方ストレスへの不安定性の証明とMRI画像での後十字靭帯断裂を証明することで、後十字靭帯損傷を診断することができます。 また、レントゲン写真では骨折の有無についても確認することができます。 後十字靭帯損傷が見られるかというテストには、sagging(サギング)テストがあります。 sagging(サギング)テスト 仰向けの状態で膝を90度屈曲して踵を持ち上げたときに、左右を比較して、脛骨が落ち込んでいるかどうかを見るテストです。 この際に、脛骨が落ち、関節に窪みが生じていれば、後十字靱帯断裂を疑います。 後十字靭帯損傷の治療法 後十字靭帯の単独損傷では、大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法が行われます。 膝動揺性抑制装具(サポーター)を装着して早期から痛みの無い範囲で可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。受傷初期は疼痛緩和と安静を兼ねてギプス固定を行うこともあります。 後十字靭帯単独損傷の場合には多少の緩みが残ってもスポーツ活動に支障をきたさないことが多いことから、軽度な症状の場合には先ずは保存療法を試みるようにします。 こうした、後十字靭帯損傷のリハビリ目的の筋トレ中の禁忌として、症状を悪化させる危険性があるので、しゃがみや膝立ち、正座できないことは知っておく必要があります。 慢性期で後方ストレスへの不安定性が強く、日常動作に不自由を感じる例は靭帯再建術を行うべきとされています。 後十字靭帯損傷の完治期間 後十字靱帯損傷の完治までの期間・道のりとしては、ハムストリングスを用いた再建術後の理学療法、術直後には免荷で膝装具0° 固定し等尺性筋収縮運動を行います。 1〜2週間で部分荷重、スクワット運動開始とします。4週間で全荷重、4ヶ月でジョギング、水泳などのスポーツ復帰が可能となります。 ・1〜2週間で部分荷重、スクワット運動開始 ・4週間で全荷重 ・4ヶ月でジョギング、水泳などのスポーツ復帰 このように、全治までには数ヶ月を要します。 後十字靭帯損傷の予後は比較的良好とされています。しかしながら、後十字靭帯損傷が自然治癒するわけではない、ということには注意が必要です。 最近では、早く治すことで早期の競技復帰を望むアスリートの間などで、低侵襲な治療で靭帯組織の修復が期待できる「再生医療」が選択されるケースもあります。 まとめ・後十字靭帯損傷の症状と原因、治療法について 「靭帯が伸びるとどうなるか」という疑問を持った方がいらっしゃるかもしれませんが、靱帯損傷では靭帯の一部あるいは全部が断裂つまり切れてしまうものです。 当院では、自己脂肪由来幹細胞治療やPRP療法を行っています。後十字靭帯損傷後に膝の不安定感があったり、スポーツに早期復帰したいという方のために、膝の靭帯損傷をより早く治すために再生医療を提供しています。ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてください。 No.150 監修:医師 坂本貞範 参考文献 膝の最前線. 理学療法科学 第23巻2号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/2/23_2_335/_pdf 「膝靭帯損傷」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/ligament_injury_of_th_knee.html 膝の最前線. 理学療法科学 第23巻2号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/2/23_2_335/_pdf プライマリケアのための関節のみかた 下肢編(2)―膝(下)[臨床医学講座より] - 医科 - 学術・研究 | 兵庫県保険医協会 http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/101015-070000.php
2023.09.07 -
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外側側副靭帯損傷|症状と原因、治療法について解説! 外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)損傷は、膝の外側にある靭帯がスポーツや交通事故で外傷による損傷する怪我です。 外側側副靱帯損傷は、いくつかある靭帯損傷の中でも、比較的まれな怪我ですが、他の靭帯と一緒に損傷することが多く、場合によっては手術が必要になります。 本記事では、外側側副靱帯の症状や原因について解説し、治療法について詳しく解説します。 外側側副靱帯損傷とは? 膝の関節は太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)とすねの骨である脛骨(けいこつ)、お皿の骨である膝蓋骨(しつがいこつ)からできています。比較的平らな面同士が合わさってできており、安定性に欠くため、大腿骨と脛骨の間を別の組織で補強しています。 靭帯は膝関節を補強する組織の1つで、骨同士を固い組織でつなぎ、膝の安定性を高めています。外側側副靱帯は膝の外側にあり、膝の内側からの衝撃に抵抗する靭帯です。 そのため、膝の内側から強い衝撃が加わると、外側側副靱帯にストレスが加わり、場合によって靭帯が傷ついたり、ちぎれたりして、外側側副靱帯損傷を引き起こします。 単独で損傷することはあまりなく、他の靭帯と同時に損傷する、複合靭帯損傷(ふくごうじんたいそんしょう)として生じることが多いです。 外側側副靱帯損傷の症状や原因 外側側副靱帯は靭帯損傷の中でも比較的めずらしい怪我です。 単独で生じることは少ないですが、外側側副靱帯が損傷している場合の特有の症状や原因があります。 どのような症状や原因があるのかを詳しく解説します。 外側側副靱帯損傷の症状 外側側副靱帯の損傷の症状は、膝の外側の痛みや腫れです。 また、膝から下が内側に傾くような動きが生じると、傷ついた靱帯が伸ばされるため、痛みを生じます。 例えば、あぐらをかいた場合に膝の外側に痛いという状態です。 外側側副靱帯を損傷した状態で放置すると、膝がグラグラするように不安定感が生じます。 外側側副靱帯損傷の原因 外側側副靱帯損傷の原因は大きく分けて、スポーツ中の接触と交通事故に分けられます。 スポーツでは、サッカーやラグビーのタックルや柔道の足払いなどで膝の内側に強い衝撃が加わり、外側側副靱帯が強制的に伸ばされて起こります。 交通事故の場合も、スポーツ同様に膝の外側が無理に伸ばされるような衝撃を受けることで、外側側副靱帯が損傷されるのです。 どちらにせよ強い衝撃が原因となるため、外側側副靱帯が単独で損傷することは少なく、他の靱帯や半月板といった組織の損傷と合わさる場合が少なくありません。 外側側副靱帯損傷の診断 外側側副靱帯が損傷しているかどうかは、以下の方法で診断されます。 ・徒手検査(としゅけんさ) ・画像診断 それぞれの診断について具体的に解説します。 徒手検査 患者を仰向けに寝かせた状態で、膝の内側と足首の外側を持ち、膝から下を内側に動かすように力を入れて、外側側副靱帯にストレスを加える内反(ないはん)ストレステストと呼ばれる検査をします。 内反ストレステストで、痛みや関節が通常より大きく動く不安定性を認めた場合は、外側側副靱帯損傷が疑われます。 膝を軽く曲げた状態と完全に伸ばした状態といった両方の姿勢で検査を行い、膝屈曲位で症状が出た場合は外側側副靱帯の損傷、伸ばした状態で症状が出た場合は、他の靱帯の損傷も疑うことが必要です。 画像診断 外側側副靱帯の損傷はレントゲンでは異常を示しづらく、詳細な診断にはMRIを用います。 MRIだと他の靭帯や半月板などの組織もはっきりと写るため、複合損傷や合併症の確認にも有効です。 外側側副靱帯損傷の治療 外側側副靱帯の損傷の治療方法は手術を行わない保存療法と、手術を行う手術療法に分けられます。 それぞれの治療方法について具体的に解説します。 保存療法 外側側副靱帯のみの損傷で、膝の不安定感が少なく、日常生活に大きな支障がなければ、手術による外科的な治療を行わない保存療法が選択されます。 保存療法には装具療法やリハビリテーションがあります。 装具療法 外側側副靱帯損傷により、膝が不安定になれば、さらなる損傷や膝周辺の痛みを伴うリスクが高まります。 そのため、装具やサポーターを着用して、膝の安定性を高めれば、外側側副靱帯へのストレスを減らすことが可能です。 また、怪我の直後は痛みや腫れが強く、膝へのかかる負担をできる限り減らすため、ギプスによる固定をする場合もあります。 リハビリテーション リハビリテーションでは、膝の安定性を高めるため筋力トレーニングを実施して、膝周辺の筋力を鍛えるトレーニングを実施します。 また、装具などで膝を固定することによる関節の動きの制限を改善するため、ストレッチや関節可動域練習を行います。 手術療法 複合靭帯損傷の場合や膝の不安定性が強い場合は、手術による治療が適応になります。 手術は損傷した靱帯を他の部分の靱帯を使って再建する靱帯再建術が実施されます。 手術後は状態に合わせて段階的なリハビリテーションが必要です。 その後、スポーツ復帰して試合などの通常に戻れるまでは、3〜6カ月の治療期間がかかります。 まとめ・外側側副靭帯損傷|症状と原因、治療法について解説! 外側側副靱帯損傷はあまり頻度の高い怪我ではありませんが、治療をせずに放置すると、膝の痛みや損傷部位の悪化を招く危険性があります。 膝の外側が痛んだり、膝がグラグラするような不安を感じたりした場合は、できるだけ早めに整形外科に受診しましょう。 多くの場合が、スポーツや交通事故での衝突によるものですので、思い当たる出来事がある場合は要注意です。 本記事を参考にいざというときに外側側副靱帯の治療がスムーズに受けられるよう、正しい知識を身につけておきましょう。 No.S149 監修:医師 加藤 秀一
2023.09.04 -
- 靭帯損傷
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腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは?原因と症状、治療法 膝の外側が痛いという症状を引き起こす可能性のある病気の一つに、腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)というものがあります。 今回の記事では、腸脛靭帯炎の原因や症状、そして治療方法について解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。 腸脛靭帯炎とは 腸脛靭帯は、お尻の筋肉である大臀筋(だいでんきん)と大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)から始まって、脛骨(けいこつ;スネの骨で、膝下の2本の骨のうち太い方の骨)の前外側にある膨らみに繋がっています。 腸脛靭帯炎は、主に長時間のランニングを行う競技に頻発し、腸脛靭帯と大腿骨外側の骨の膨らみの間における摩擦障害により発症するスポーツ障害です。ランナーなどのスポーツを行う方に多いことから、ランナーズニー(runners knee)とも呼ばれます。主な症状は、ランニングの際に膝に痛みが出ることや、膝の外側が痛いということです。 腸脛靭帯炎の原因 腸脛靭帯が骨のすぐ上を通るところでは、膝の曲げ伸ばしによって靭帯と骨の摩擦が起きやすく、ランニングなどで過剰に靭帯の曲げ伸ばしを行うと炎症の原因となります。 より詳しく原因を見ていきましょう。 選手側の問題 筋力不足、筋力のアンバランス、骨の成長と筋の伸びとのアンバランス、からだの柔軟性不足などが挙げられます。 また、腸脛靭帯炎の発症要因の一つに内反膝(ないはんしつ:O脚のこと)が挙げられます。内反膝の人は、太ももからすねにかけて内側に曲がっているため、膝の外側を走行している腸脛靭帯が大腿骨外側の出っ張りに擦れやすくなります。そのため、内反膝の人は腸脛靭帯炎を起こしやすくなります。 練習や環境の問題 ランニングの練習や、環境の問題で腸脛靭帯炎が起こります。 オーバートレーニングや選手の体力や技術に合わない練習、不適切な靴、硬すぎたり軟らかすぎたりする練習場などが原因として挙げられます。早いスピードのランニングでは接地時に膝が曲がる角度がより深くなるため、腸脛靭帯の摩擦は少なくなり、腸脛靭帯炎にはなりにくいとされています。 一方、下り坂、ジョギング、不整地、雨の日のランニングでは接地時に膝が曲がる角度が浅くなるため、腸脛靭帯の摩擦が多発すると考えられています。 腸脛靭帯炎の症状 ランニングやジャンプを長時間繰り返すことで、膝に痛みが生じます。 痛みの程度によって、軽症から最重症に分けられます。重症になるにつれ、スポーツを行っていない時にも膝の痛みが生じるようになります。 軽症 スポーツは可能ですが、その後に痛みが生じます。 中等症 スポーツのプレーには支障がないものの、プレー中やプレー後に痛みが生じます。 重症 腸脛靭帯炎が重症な場合には、常に痛みやプレーに支障がでます。 スポーツを行っていない際にも、膝の痛みの症状が出てしまいます。 最重症 腸脛靭帯の断裂が生じます。スポーツ活動の中止をしなくてはなりません。 腸脛靭帯炎の診断 腸脛靭帯炎の診断としては、上記のような症状と、膝の外側にのみ圧痛があれば診断が可能となります。 予防法や治療法としては、スポーツ前にストレッチを十分に行うことが大切です。また、スポーツの後に冷却を15分ほど行うことも効果的です。 医療機関では、レントゲンやMRIなどの画像診断によって診断をつけることもあります。 腸脛靭帯炎の治療法 腸脛靭帯炎(ランナー膝)の治し方としては、保存療法が基本となります。 保存療法 膝の痛みの原因になっている要因を明らかにし、再発を防ぐことが重要になります。痛みが出た際の初期の治療は、まずランニングを中止・軽減することが大切です。 そして次に、原因となるような事項を見直していきます。一般的には、トレーニング方法やシューズの改善、腸脛靭帯のストレッチングで太ももの外側を伸ばすようにすることがあります。 また、大腿骨外側の骨の膨らみにある圧痛部位を局所冷却すること、湿布、消炎鎮痛薬の投与も有効とされています。 再生医療の選択 こうした治療に効果がない場合には、組織再生目的の再生医療として、自己脂肪由来幹細胞治療や、PRP(多血小板血漿)療法が用いられることもあります。再生医療によって幹細胞を培養し、直接関節内に投与することで、炎症を抑え、擦り減った軟骨や傷ついた組織を修復・再生することで痛みを改善することが期待できます。 ランニングなどのスポーツを再開する場合には、スポーツの前にストレッチングを十分におこない、スポーツの後にはアイシングを15分ほどおこないます。貼り薬や塗り薬も効果が期待できます。 もしランナー膝が発症しても軽症や中等症であればスポーツは続けられます。適切なコンディショニングによってそれ以上に悪化させないことが大切です。 まとめ・腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは?原因と症状、治療法 今回の記事では、腸脛靭帯炎の原因や症状、治療法について解説しました。 腸脛靭帯炎の治療法としては、安静やストレッチなどの保存的治療が中心となりますが、そうした方法でも改善がみられない場合には、再生医療も治療法の選択肢となります。 当院では、自己脂肪由来幹細胞治療やPRP療法によって、膝の靭帯損傷をより早く治し、筋力低下などを防ぐための再生医療を提供しています。 ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてくださいね。 No.149 監修:医師 坂本貞範 参考文献 腸脛靭帯炎における臨床的特徴と運動療法成績について|第22回東海北陸理学療法学術大会 https://www.jstage.jst.go.jp/article/thpt/22/0/22_0_38/_pdf/-char/ja 「スポーツによる膝の慢性障害」|公益財団法人 日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/chronic_problem_with_knee_by_spor 腸脛靭帯炎(ランナー膝) | JCHO東京山手メディカルセンター https://yamate.jcho.go.jp/%E8%85%B8%E8%84%9B%E9%9D%AD%E5%B8%AF%E7%82%8E%EF%BC%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BC%E8%86%9D%EF%BC%89/
2023.08.31 -
- 膝部、その他疾患
- ひざ関節
膝関節捻挫の症状と原因、治療法を解説 膝をグキッとひねってしまい「歩くと痛い」「曲げ伸ばしすると痛い」という経験がある方も多いのではないでしょうか? 捻挫というと、足首の怪我を想像される方が多いと思いますが、膝にも捻挫が起こることがあります。 今回は「ぎっくり膝」と呼ばれたり検索されることもある、膝関節捻挫について解説します。膝関節捻挫には、重症な怪我が隠れている場合もありますので、膝を痛めた方はぜひ今回の記事を参考にしてください。 膝関節捻挫の原因 膝の曲げ伸ばしを安定して行うために、重要な働きをしているのが、関節を包む袋である「関節包」と関節を支える組織である「靭帯」です。関節包と靭帯がしっかりと機能しているおかげで、私たちの膝は本来動かない方向へ曲がらないようになっており、体重をかけても安定して歩くことができます。 しかし、運動中や転倒などにより関節が、通常の範囲を越えて動いてしまうことがあります。それよって、この「関節包」や「靭帯」を痛めてしまった状態を捻挫といいます。ただし、「捻挫」は軽症の場合に限ります。損傷が強く、関節が不安定になった場合は捻挫ではなく、靭帯損傷という診断になります。 多くは、スポーツ時に膝をひねったり、相手と接触して転倒してしまったりした際に起こりますが、普段の生活でも階段やちょっとした段差などで、思いがけず膝をひねってしまい受傷することがあります。 膝関節捻挫の症状 受傷直後は痛みが強いですが、機能は比較的保たれている事が多く、その後も痛みを我慢して普通に生活できる方もいます。ですが、徐々に内出血とむくみが出てきて、膝全体が腫れてきます。 膝全体が腫れると、膝を動かす際に痛みが生じます。また、左右を比較すると動かせる範囲が減ってしまう「可動域制限」がでてきます。ひどい場合は痛みで足が地面に付けないこともあります。 ただし、「捻挫」であれば、一時的な症状であり、数日で改善してきます。いつまでたっても痛みが引かない、腫れがひどくなってきたという場合は「靭帯損傷」のレベルまでいっていることがありますので、注意が必要です。 「歩けるけど痛い」、「膝がぐらぐらして不安定」は要注意! 「ただひねっただけだと思って様子を見ていたら、実は靭帯損傷だった。」という方は意外と多いです。 膝には主に4つの重要な靭帯があります。前後方向の安定性を保つ前十字靭帯と後十字靭帯、左右方向の安定性を保つ内側側副靭帯と外側側副靭帯です。これらはバスケやサッカーなどのスポーツはもちろん、転倒などでも痛めることがあります。 歩けるけれども痛みが続くとき、膝がぐらぐらして不安定だと感じるときは、これらの靭帯を痛めていることがあります。また、靭帯を痛めていると関節の中に血が溜まることが多いです。このような場合は自己判断せずに病院を受診しましょう。 また、膝のクッションや安定性を保つ役割をしている組織に、半月板があります。半月板は左右に1つずつありますが、こちらも膝をひねって痛めた際に損傷してしまうことがあります。年を取ると、徐々にすり減って切れやすくなるので、高齢の方はバスのステップなど少しの段差を下りただけでも切れてしまうことがあります。ブチッという感覚がある方もいます。半月板損傷も、病院でMRIなどを撮影しなければわからない怪我です。 捻挫には、このような損傷が隠れている場合がありますので、是非皆さんも知っておいてください。 膝関節捻挫の治療 膝をひねってしまったら、受傷直後は、まずRICE処置を行いましょう。 Rest:安静 Ice:冷やす Compression:圧迫 Elevation:挙上 スポーツはすぐに中止し、歩行もできればしない方が望ましいです。氷や保冷材などを使って膝を冷やしながら、包帯などがあれば圧迫してください。 また、寝ているときは心臓より高い位置に足をあげておくことで、膝が腫れてくるのを予防することができます。その後は、なるべく早期に整形外科医の診察を受けてください。 膝関節捻挫の診断 問診と身体診察で、どのような怪我が疑わしいのか予想がつく場合もあります。基本的には、まずレントゲンで骨折がないかどうか確認します。レントゲンだけではわからない場合は、骨をより詳しく見るためにCT検査を行うこともあります。その後、靭帯損傷や半月板損傷が疑われる場合にはMRI撮影を行うことになります。 レントゲン撮影 → CT検査 → MRI撮影 検査の結果、手術が必要な靭帯損傷などの疑いがなければ保存療法になります。 損傷された関節包や靱帯が修復する期間は、通常3週間前後とされることが多いです。この期間は、激しい運動や重労働などはせず、安静にしていましょう。安静を保つ目的で、一定期間添木や松葉杖などを使用することもあります。 痛みが強い場合は、飲み薬や湿布を処方することもありますが、鎮痛薬は痛みを止めるだけで治ったわけではないので、一番大事なのは膝の安静です。 そのまま通常の生活に戻れる場合は、治療終了となりますが、安静にしていたことによって筋力が低下したり、動きが悪くなることがあります。その際は、リハビリテーションを行い、機能を戻すとともに、次の怪我をしにくくする予防を行うことが大切です。 膝関節捻挫についてのQ&A Q1:膝関節捻挫の予防法はありますか? 運動をされる場合は、適切なストレッチやウォーミングアップが大切です。筋肉の柔軟性を保ち、温めてしっかりと動かせる状態にしてから運動を始めることで、関節に負担がかかりにくくなります。 また、普段から、下肢の筋力が衰えないように意識してトレーニングをしておくことも重要です。さらに、自分の足に合った靴を選ぶことも転倒の予防になります。 Q2:スポーツにはどのくらいで復帰できますか? スポーツ復帰には、痛みがなくなっていることが大前提です。痛みがあるまま再開すると、膝をさらに痛めたり、かばって別の部位の怪我を起こしたりすることがあります。 通常の捻挫であれば2〜3週間で痛みが落ち着いてくることが多いので、軽い運動から再開するように指導します。 膝に過度な負担をかけないよう、自分自身が意識するためにもサポーターなどの補助具を使用することも勧められます。 まとめ・膝関節捻挫の症状と原因、治療法を解説 今回は膝関節捻挫について解説しました。 捻挫は適切な治療を行えば、問題なく日常生活に復帰できる怪我です。その裏に潜む重大な怪我を見逃さないように、適切に医療機関を受診しましょう。 No.S148 監修:医師 加藤 秀一
2023.08.28 -
- 膝部、その他疾患
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離断性骨軟骨炎|膝での症状、原因、治療法について詳しく解説 膝に痛みを起こす原因の1つに、離断性骨軟骨炎があります。若いスポーツ選手に起こることが多く、膝の軟骨の損傷なので、初期のレントゲン写真ではわからない場合もあります。 この記事では膝の離断性骨軟骨炎の症状、原因、治療法について解説していきます。膝の痛みで悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。 離断性骨軟骨炎とは 膝の離断性骨軟骨炎の読み方は“りだんせいこつなんこつえん”であり、膝関節の軟骨が関節内に剥がれ落ちて膝に様々な症状を起こしてしまう病気です。 好発部位は大腿骨の内側が最も多く85%で、外側に15%、膝蓋骨にも稀に起こります。また、外側では円板上半月板がみられることもあります。 離断性骨軟骨の症状 離断性骨軟骨の症状は、病気が発症して初めの段階では傷んだ軟骨は遊離せずに、運動後の不快感や鈍い痛み以外には特に症状はありません。 軟骨の表面に亀裂や変化が生じると痛みも強くなり、スポーツなどに支障を来してしまいます。病気が進行していき、軟骨が剥離してしまうと引っかかる感じや膝のズレ感を自覚します。また、大きな軟骨の欠片が関節内に剥がれ落ちると、膝の中でゴリッと音がする場合があります。 離断性骨軟骨の主な原因 離断性骨軟骨炎は、約2:1の割合で男性に多く、成長期に野球やサッカー、バスケットボールなど運動を行う10代によくみられます。 正確な原因についてはまだ明らかにはされていませんが、成長期のスポーツ選手に起こりやすいことから、繰り返されるストレスや外傷によって軟骨下の骨に負荷がかかる事が原因と考えられています。血流障害によって、骨軟骨片が分離して剥がれ落ちてしまいます。 離断性骨軟骨の診断方法 軟骨の損傷なので初期には通常のレントゲン写真で診断することが難しいことが特徴です。そのため、初期に診断するためにはMRI検査を行い、確定診断をします。病気が進行して、骨軟骨片が分離してくる時期ではレントゲン写真で診断することが可能になってきます。 また、肘の離断性骨軟骨炎はエコーでスクリーニング検査と診断をすることが可能であり、膝の離断性骨軟骨炎についてもエコーでの診断が可能と報告されてきています。 離断性骨軟骨の治療 治療には保存療法、手術療法があります。 保存療法 身長が伸びている発育期で軟骨片が離れていなければ、自然に修復されることを期待して、免荷や膝関節の安静、サポーター(装具)を使用などの保存治療が選択されます。 痛みに対しては鎮痛薬や関節内注射などを行い、レントゲンやMRIで修復されている傾向が見られれば徐々に負荷を上げていきます。一部の骨折では超音波治療による骨癒合までの期間が短縮することから保険適応がありますが、現状では離断性骨軟骨炎に対しては超音波治療の適応はありません。 手術療法 手術治療に関しては、軟骨の修復が長引いている場合や、病気の範囲が大きい場合、発育期以降ではよい適応とされます。 手術治療はマイクロフラクチャー法、整復内固定術、骨軟骨移植術などの方法があります。 マイクロフラクチャー法 骨髄刺激法ともいわれます。膝関節鏡を関節内に入れて、患部の数カ所に小さい穴を開けて出血させて治癒を促進させます。骨髄に含まれる幹細胞が損傷部に誘導されることで修復させることを目的とさせる治療です。比較的小さな範囲の軟骨が損傷されている場合がよい適応です。 整復内固定術 軟骨片が剥離して、遊離している例では整復固定術の適応があります。不安定な骨軟骨片を骨釘や生体吸収性ピンなどを使用して固定します。 骨軟骨移植術 損傷範囲が比較的大きく、遊離した軟骨片の状態が悪く骨癒合を期待できない時に選択されます。大腿骨の体重がかからない部分から円柱状の軟骨片を採取して、損傷した部分に移植する自家骨軟骨柱移植術と採取した正常軟骨を培養して軟骨組織を作成して移植する自家培養軟骨移植術が主な方法です。 このように様々な手術治療法がありますが、いずれの方法も適応、術式については患者さんの状態や希望、術者によって異なってきます。ご自身の状態をしっかりと把握して治療法について、主治医とよく相談し、納得できる治療を受けることが大切です。 また手術だけではなく、その後のしっかりとしたリハビリテーションも治療の上で重要ですので、リハビリ体制が整っているかも病院選びの参考にすることがおすすめです。 まとめ・離断性骨軟骨炎|膝での症状、原因、治療法について詳しく解説 膝離断性骨軟骨炎は10歳代の若いスポーツ選手に起こりやすい病気で、膝関節の軟骨が関節内に剥がれ落ちて、痛みや引っかかりなどの様々な症状を起こしてしまいます。 初期にはレントゲン写真でわからない場合が多いので、MRIでの精密検査が必要です。 治療法は保存治療、手術治療があります。特に手術治療は骨髄刺激法や整復内固定術、骨軟骨柱移植術などの様々な方法がありますが、遊離した軟骨片の大きさや状態などを総合的に判断して決定されます。 膝に違和感や痛みがあるものの、なかなかよくならない方は早めに専門医に診察をしてもらうようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.147 監修:医師 坂本貞範
2023.08.24 -
- 靭帯損傷
- ひざ関節
MCL【内側側副靭帯損傷】の症状と治療法について解説 内側側副(ないそく そくふく)靭帯損傷は、内側側副靭帯という膝の内側の安定性を保っている靭帯が何らかの原因で損傷を受けることです。 今回の記事では、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説します。 内側側副靭帯の役割や損傷の原因 では、まず内側側副靭帯の役割や損傷の原因について解説します。 内側側副靭帯の役割 内側側副靭帯(Medial Collateral Ligament: MCL)は、膝の靭帯の一つであり、内側に位置しています。 膝の関節は太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)と、脛(すね)の骨(脛骨:けいこつ)からなります。 関節の中には、前十字靭帯と後十字靭帯という靭帯があり、関節の外側には内側側副靭帯と、外側側副靭帯という靭帯があります。それぞれ、関節を安定させる働きを担っています。 その中でも、内側側副靭帯は、特に膝の内側の安定性を保つという役割をしています。 内側側副靭帯損傷の原因 スポーツ外傷や、交通事故などで、膝に外反強制(がいはんきょうせい:すねを無理に外側に向けられること)するような大きな力が加わった際に、内側側副靭帯損傷(MCL損傷)が起こりやすいとされています。 内側側副靭帯損傷は、膝の靭帯損傷の中で最も多いとされています。 内側側副靭帯損傷の症状や検査方法 では次に、内側側副靭帯損傷の症状や重症度、検査方法について説明します。 内側側副靭帯損傷の症状①痛みや腫れ 急性期(怪我をしてから3週間頃)に、膝の痛みと可動域制限がみられます。しばらくして腫れ(関節内血腫)が目立ってくることもあります。 急性期が過ぎると、痛みや腫れ、可動域制限は軽快してきます。 内側側副靭帯の損傷の症状②膝の不安定性 この頃になると損傷部位によっては膝の不安定感が徐々に目立ってくることがあります。ひねり動作の際にはっきりすることが多いです。 内側側副靭帯損傷の場合は、すねから下が外へずれてしまうような不安定感が出ます。この状態のまま放置しておくと、新たに半月(板)損傷や軟骨損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れ(水腫)になってしまうこともあります。 内側側副靭帯損傷の重症度 内側側副靭帯損傷は、1〜3度に分類できます。 ・1度 軽症で特に治療を必要としません。 ・2度 中等症で、膝の外反動揺性つまりぐらぐら感を中程度に認めます。 初期治療(ギ プス固定、装具療法など)が重要となります。 ・3度 重症で、膝の外反動揺性が顕著であり、手術を要する場合が多いです。 内側側副靭帯損傷の検査方法 それでは、次に内側側副靱帯の検査方法について解説します。 ストレステスト 診察では膝関節にストレスを加えて緩みの程度を健側と比較します。 ① 外反ストレステスト(valgus stress test) 患者が仰向けになり、膝を伸ばした姿勢と30°膝に曲げた姿勢の2パターンでチェックをします。 医師などの検査者が膝関節の外側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に外反強制力つまりすねを外側に向ける力を加え、膝関節の外反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で外反不安定性があれば、MCL損傷を疑います。 MCL単独損傷では伸展位での不安定性は認めません。 ② 内反ストレステスト(varus stress test) 外反ストレステストとは逆に、医師などの検査者が膝関節の内側に一方の手を置き、他方の手で足関節を持ち膝関節に内反強制力つまりすねを内側に向ける力を加え、膝関節の内反不安定性をみます。 この際、30°屈曲位で内反不安定性があれば、外側側副靱帯損傷を疑います。 画像検査 画像診断ではMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)が有用です。 X線(レントゲン)写真では靭帯は写りませんがMRIでは損傷した靭帯を描出できます。 また、半月(板)損傷合併の有無も同時に評価できます。 内側側副靭帯損傷の治療法 内側側副靭帯損傷の治療法は、損傷の程度や症状に基づいて決められます。 保存的治療 内側側副靭帯の単独靱帯損傷の場合には、手術ではなくリハビリテーション治療による保存的治療が選択されます。 受傷後急性期には、 RICE(安静または短期の固定、冷却、弾力包帯などによる圧迫、患肢の挙上)処置に引き続いて、できるだけ早期から筋力訓練を開始します。 サポーター装着 膝に不安定性がある場合は、損傷靱帯保護の目的で支柱付きのサポーター装用を考慮します。 手術療法 前十字靭帯や半月板との混合損傷や、重症度3度であり保存的治療では治らないことが予想される場合には手術療法が行われます。 内側側副靱帯損傷についてよくある質問 Q1 内側側副靱帯損傷は自然に治りますか? A1 内側側副靱帯損傷は、損傷の程度が軽い場合や部分的な断裂では、尺骨動脈という栄養動脈があるので治癒しやすく保存療法が行いやすいといえます。 しかし完全な断裂など、重症の場合は自然治癒は期待しがたいので、靭帯の再腱術を行うことが必要になります。 Q2 内側側副靱帯損傷の固定期間はどれくらいですか? A2 個人差はありますが、約1〜2週間程度ギプスシーネやニーブレースなどで固定後、靭帯矯正サポーターを装着し、リハビリテーションとして可動域、歩行訓練を行っていきます。 膝装具は一般的には約6週間以上装着します。 膝の可動域と不安定性が、怪我をしていない方の膝と同じレベルまで改善したらスポーツ復帰が可能となります。 まとめ・MCL【内側側副靭帯損傷】の症状と治療法について解説 今回の記事では、内側側副靭帯損傷の症状や治療法について解説しました。 内側側副靱帯損傷が起こると、その治療には数週間を要する場合が多いです。しかしながら、再生医療によって、治療期間や回復までの時間を短くできる可能性があります。 当院では、自己脂肪由来幹細胞治療を行うことで、膝の靭帯損傷をより早く治し、筋力低下などを防ぐための再生医療を提供しています。ご興味のある方は、ぜひ一度当院の無料相談を受けてみてください。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S146 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 膝の最前線|理学療法科学23(2):335−340,2008.p336 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/2/23_2_335/_pdf 「膝靭帯損傷」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/ligament_injury_of_th_knee.htm 膝のスポーツ外傷・障害と装具 東京女子体育大学小出清一|日本技師装具学会誌4(4):291〜295,1988.p292 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/4/4/4_4_291/_pdf/-char/en スポーツ理学療法で必要となる 整形外科徒手検査と徴候|理学療法科学23(2):337−362,2008.p361 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/23/3/23_3_357/_pdf スポーツにおける膝外傷・障害に対する リハビリテーション治療 p1029 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/12/56_56.1027/_pdf
2023.08.21 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
大腿骨頭壊死(難病)とはどんな病気? 大腿骨頭壊死という病名を聞いたことがあるでしょうか。「だいたいこっとうえし」と読み、股関節に起こる血流の障害が原因となる病気です。その中でも特発性と呼ばれるものは、難病に指定されています。 今回は、大腿骨頭壊死について原因や経過、そして治療についても詳しく解説します。 特発性大腿骨頭壊死(ION)とは 特発性大腿骨頭壊死は英語でIdiopathic femoral head necrosisといい、IONと略されることが多いです。 大腿骨頭とは、大腿骨の一番頭側にある股関節を形成する大腿骨の一部分です。この一部の血流が低下して大腿骨頭に血が通わなくなり、骨組織が死んでしまったものを大腿骨頭壊死といいます。外傷や放射線照射など、明らかな壊死の原因があるものを症候性大腿骨頭壊死といい、明らかな原因のないものを特発性大腿骨頭壊死といいます。 明らかな原因がある、症候性の大腿骨頭壊死は、大腿骨頸部骨折後に起こるものが最も多いです。骨折により血管が損傷され、大腿骨頭に血が通わなくなることが原因と考えられています。そのほかは、股関節周囲に放射線照射した後や潜水夫などにおこる減圧症候群のひとつとして見られます。 症候性も特発性も、大腿骨頭に血流がなくなったことによって、骨が壊死します。その結果、体重を受ける骨である大腿骨頭が、徐々につぶれて変形することによって痛みを生じます。 特発性大腿骨頭壊死の3つの原因 特発性大腿骨頭壊死は、さらに3つに分類され、ステロイド治療歴があるものをステロイド性、アルコール多飲歴があるものをアルコール性、まったく原因のないものを狭義の特発性と呼びます。 ・ステロイド性 ・アルコール性 ・特発性 ステロイド投与歴やアルコール多飲歴が壊死発生に深く関与していることは間違いないですが、その機序は現在でも判明していません。 青年・壮年期に発症し、男性では40歳代、女性では30歳代にピークがあります。男性にやや多いと言われています。我が国では、年間2000人から3000人発症していると言われています。 大腿骨頭壊死の症状 では大腿骨頭壊死になると、どのような症状が起こるのでしょうか。 股関節の痛みには注意! 実は、壊死が起こっていても必ずしも症状が起こるわけではありません。発症当初は、自覚症状がないことが多いです。その後、体重がかかることによって壊死に至った部分がつぶれ、痛みをきたします。 発症する際は、股関節痛を自覚することが多く、階段を踏み外した時やバスのステップを下りた際など小さなストレスが股関節にかかった時に、突然痛みが生じる場合が多くみられます。このような痛みは、数週間で軽快し、いったんは痛みが落ち着くことが多いです。 ただし、痛みがなくなったからといって壊死が改善したわけではないため、再び股関節にストレスがかかった場合に疼痛が再燃する可能性があります。 大腿骨頭壊死の治療と予後 大腿骨頭壊死を発症してしまったら、気になるのは治療と予後についてです。 発症してしまったら 壊死部は荷重がかからなければ、数年で修復します。ただし、日常生活で股関節に体重をかけない生活をするのは難しく、徐々に壊死した部分が圧壊してしまいます。 壊死範囲が狭い場合や、体重がかからない部分の壊死ではすぐに手術はせず、日常生活での活動を制限しながら、経過観察を行います。痛みが強い場合や変形が進行している方では、壊死部に体重がかからないようにするための骨切り術や人工股関節置換術を行います。 放置するとどうなる? 痛みを我慢していると、どんどん股関節の変形が生じ、ひどい時には、下肢の長さの左右差がでてくる場合もあります。そうなっても人工関節の手術は可能ですが、手術の難易度が高くなったり、術後のリハビリが大変になったりと、放置してもいいことはありません。できるだけ早期に医師の診察を受け、治療介入を行いましょう。 大腿骨頭壊死についてよくあるQ&A Q:大腿骨頭壊死の診断には、どのような検査が必要ですか? すでに症状が出現している場合は、単純レントゲンでも、骨頭壊死の診断は可能ですが、壊死発症の超早期の場合は、変化がないこともあります。その際はMRIや骨シンチグラムなど詳しい検査を行うことで、特異的な所見を認めることがあります。 Q:難病申請と障害年金の申請は可能ですか? 特発性大腿骨頭壊死は、指定難病になっており、難病申請行うことができます。特発性大腿骨頭壊死と診断され、症状が一定の基準を満たす場合は、医療費の助成を受けることができます。患者様が、各都道府県や指定都市に申請します。 また、症状の程度や治療内容によっては、障害年金を受け取ることができます。どのくらい歩行などの日常生活に支障があるかによって、障害等級がきまります。障害等級は1~3級があり、そのいずれかに当てはまる場合は障害年金の支給適応になります。人工関節などの手術を行った場合は、日常生活に戻れたとしても3級に認定される場合がありますので、特発性大腿骨頭壊死と診断された方は、申請を検討するのがよいでしょう。ただし、厚生年金保険料を納めていない場合は、3級相当の障害年金は支給されませんので、ご注意ください。 まとめ・大腿骨頭壊死(難病)とはどんな病気? 今回は大腿骨頭壊死について解説しました。一度発症してしまうと、治癒まで非常に時間がかかり、手術も必要となる可能性が高い疾患です。ほかの病気でステロイドを使っている場合や、アルコールの多飲歴がある場合は、リスクが高くなりますので、少しでも気になる症状がある場合は、早めに整形外科を受診するようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S145 監修:医師 加藤 秀一
2023.08.17 -
- 脳卒中
- 頭部、その他疾患
橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血(「きょうしゅっけつ」、英語では「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、特に生命予後の悪い疾患の一つです。 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。脳卒中のひとつ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至ることもあるのです。 本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。 橋出血の「橋」とはなにか 橋とは、上にある中脳、下にある延髄と共に、「脳幹」の構成をしている部分です。脳幹には、神経伝達路、神経の中継・分岐地点、自律神経反射中枢、脳幹網様体という4つの構造物があります。 ①神経伝達路 ②神経の中継、分岐地点 ③自律神経反射中枢 ④脳幹網様体 それぞれの構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。 ①神経伝達路としての役割と橋出血 脳幹には神経線維の束が通っており、大脳からの運動神経の伝達、大脳への感覚神経の伝達、脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路の役割を果たしています。 橋出血では、神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。 運動麻痺は出血の部位にもよりますが、特に重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすことがあります。 この四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に、「閉じ込め症候群」があります。意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動が、全てできません。看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うことになります。 また、小脳との連絡がうまくいかなくなると運動失調が起こります。運動失調とは、麻痺がないのに筋肉同士の連携がうまくいかず、動作がスムーズに行えなくなることです。 ②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状 脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、複数の神経核があります。神経核は神経の細胞体の塊です。神経回路の分岐点や中継点となります。 例えば、橋には次の4つの脳神経核があります。 ・三叉神経;主に顔面の感覚を伝える ・外転神経;眼球の運動の一部を支配する ・顔面神経;表情筋など顔面の運動に関わる ・内耳神経;聴覚や平衡感覚を司る 橋出血でこれらが障害を受けると、顔の感覚や運動の障害、眼球運動の障害、聴力障害が起こります。三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。そのため、橋出血では嚥下障害も多く認められます。 ③自律神経中枢と橋出血の症状 自律神経は生命維持の上で必要なことを調整する神経です。私たちは意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールできます。明るさに応じて、瞳孔の大きさを調節することもできます。これらを行う自律神経も、脳幹に中枢があるのです。 橋には呼吸の中枢があるため、橋出血患者さんには呼吸の障害が多く認められます。 また、橋出血では瞳孔の異常を多く認めます。代表的なものは瞳孔の縮小です。自律神経のうち、瞳孔を開く交感神経が障害されるためです。 ④脳幹網様体の役割と橋出血の症状 脳幹の中心から背中側には、網様体と呼ばれる、神経線維の束と神経の細胞体が合わさったものがあります。 網様体には主に3つの役割があります。 ・脳幹内の自律神経中枢と連絡し、生命維持機能を果たす ・筋肉の緊張をコントロールする ・大脳へ刺激を与えて意識を保つ 重症の橋出血では、自律神経に障害が出ることはすでに述べましたが、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。さらに、網様体の損傷により認められるのが意識障害です。重症例では、急激な経過で昏睡状態に陥ってしまいます。 また、徐脳硬直という特徴的な姿勢を認めます。筋緊張の調整ができなくなる結果、手も足も強く伸び切ってしまうという状態です。 また、橋の網様体には眼球の運動の中枢があります。橋出血の際は、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。代表的なものは、眼球の正中固定位です。眼の動きが全くできず、真ん中で固定されます。また、眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められることもあります。 橋出血の二つの原因とそれぞれの治療法 橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の二つが挙げられます。また、原因により治療法が異なります。 それぞれについて解説していきます。 高血圧で起こる橋出血と治療 橋出血の最大の原因は高血圧です。 橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところです。出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になります。 損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。 血管奇形で起こる橋出血と治療 高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管の奇形によるものです。 代表的なものに、海綿状血管腫という血管の塊があります。この奇形を持っている一部の患者さんでは局所的な出血を起こします。出血は少量で、重篤にならないことが多いです。しかし、何度も繰り返すリスクがあります。 この場合は、出血が落ち着いているときに手術が考慮されることもあります。 橋出血についてよくあるQ & A Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか? A , 疑わしい症状があれば、CTを撮影します。脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。なお、血管の奇形の診断はMRI も有用です。近年では脳ドックなどにより、症状がないまま発見されるものも多くあります。 Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか? A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1000人中4〜6人程度です。手術の合併症リスクの方が高く、万人に勧められるものではありません。ただし、一度出血を起こすと、特に2年以内の再出血のリスクが非常に高くなります。その場合も、全員が手術をするわけではありません。 手術のメリットとリスクを天秤にかけて考えます。近年では手術ができない場合に、放射線治療が考慮されることもあります。 まとめ・橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気です。高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.144 監修:医師 坂本貞範 <参考文献> 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 医学書院 標準解剖学 第1版 メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版 中外医学社 イラスト解剖学 第7版 脳卒中診療ガイドライン2021
2023.08.14 -
- 脳卒中
- 頭部、その他疾患
もやもや病による性格変化とは?高次機能障害について解説 もやもや病は脳の重要な動脈が狭くなり、かわりにバイパスとなる細い血管が発達することにより起こる病気です。 細い血管は検査で見るともやもやと煙が立ち上るように見え、この所見が診断基準にも必須の項目となっています。この「もやもや血管」が収縮してしまうと、脳に十分な血液が行き届かなくなります。その結果、意識障害や脱力、てんかん、頭痛などの症状を発作的に繰り返すのです。また、細い血管は詰まったり破れたりしやすいため、脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)を起こしてしまうこともあります。 脳卒中の後遺症というと、麻痺や感覚障害が思い浮かぶかもしれません。しかし、一部の患者さんでは、麻痺などがなくても、生活や仕事に差し障る後遺症を残すことがあります。それは、「高次脳機能障害」です。 本記事では、もやもや病の後遺症としての高次脳機能障害について、どのようなことが起こるのか具体例を交えて解説していきます。 高次脳機能障害とはなにか? 高次脳機能とは、さまざまな情報をもとに、高度で複雑な処理をする脳の機能のことです。 大脳をその機能別に見てみると、運動や感覚などを司るはっきりとした機能がある「一次野」と、それ以外の「連合野」に区分されます。連合野は特に人間で大きく発達した部分で、高次脳機能に関わるところです。情報をもとに考えたり、感じたり、何かの行動に移したりということを可能にしています。 この連合野がなんらかの原因で傷つくとどうなるでしょう。複雑な処理の過程で支障が起こります。 例えば、記憶や行動、物事を実行する能力の障害など、損傷部位に応じて多彩な症状をきたします。その結果、日常生活や社会生活を送る上で制約を受けている状態が「高次脳機能障害」です。 もやもや病と高次脳機能障害 もやもや病では、もやもや血管が詰まったり破れたりすることで、脳卒中をきたします。それだけでなく、明らかな脳卒中のエピソードがなくても、血液の巡りが悪いため、脳にダメージが蓄積されていくリスクもあるのです。 このようにして、脳の連合野にダメージを受けると、高次脳機能障害を認めます。どのような症状が出るかは、障害部位によって変わってきますが、もやもや病では前頭葉の障害が起こることが多いです。 前頭葉の働きと高次脳機能障害 もやもや病で障害を受けやすい前頭葉は、大脳の前の部分に位置します。前頭葉にある、「前頭連合野」は、ヒトで特に発達している部分です。本能や激しい感情の動きをコントロールして、思考力・創造性・社会性を発揮するための機能を果たす役割があります。単に欲求に従うのではなく、状況を見極めて判断し、意味のある行動を起こすという「人間らしさ」に関わる場所なのです。 具体的に前頭連合野の障害による高次脳機能障害の症状を見ていきましょう。 〈前頭連合野の障害による高次脳機能障害の例〉 記憶障害 前頭葉の障害が起こると、特に作業記憶(ワーキングメモリー)が障害されます。作業記憶の障害では、何かを行うときに一時的においておく「記憶の引き出し」が使えません。例えば、聞いたことをすぐ忘れて何度も聞き返す、買い物を頼まれても何を買えばいいか忘れてしまうなどといったことが起こります。 注意障害 注意障害があると、気が散りやすくなり、一つの物事に集中できません。ちょっとした周りの変化が起こるとそちらに気をとられ、動作が止まってしまいます。 社会的行動障害 自分の感情をうまくコントロールできなくなり、突然かっとなり怒りだすなど感情の振れ幅が大きくなります。ギャンブルにのめり込みやすくなるなど、欲求がうまく抑えられません。逆に、人や物事に興味がなく、自発性がなくなることもあります。社会生活を送る上で問題になりやすいです。 遂行機能障害 物事を順序立てて行うことができなくなります。段取りが悪くなり、優先順位をつけることができなくなります。また、臨機応変に行動することができず、ちょっとしたトラブルにも対応することができません。 このように、前頭葉の障害による高次脳機能障害が起こると、無責任で怒りっぽくなったり、意欲や興味がなくなったりと、まるで性格変化をしたようになってしまいます。 もやもや病による高次機能障害についてよくあるQ & A 高次脳機能障害は完治しますか? 脳に傷がある状態なので、完全に治すことは難しいです。しかし、得意なこと、苦手なことを考えた上で工夫をしていくことにより、より生活をしやすいようにしていくことはできます。根気強いリハビリが大切です。 脳卒中による高次脳機能障害があるとき、入院期間はどのくらいになりますか? 脳卒中では一般的に、発症直後の急性期を過ぎたあと、回復期リハビリテーション病棟というところに移ってリハビリを続ける方が多いです。 回復期リハ病棟では、脳血管障害の入院期間は一般的に150日となっています。ただし、高次脳機能障害の合併があると、180日まで入院が可能です。 この期間全部を使っての入院が必要というわけではありません。しかし、高次脳機能障害は麻痺などと違って一見して分かりづらく、周りの理解が得られにくいことが多いです。社会復帰のためのリハビリや環境整備のためにしっかり時間をかけていくことが必要です。 まとめ・もやもや病による性格変化とは?高次機能障害について解説 もやもや病による後遺症のうち、高次脳機能障害は外見では分かりにくいものです。 しかし、社会生活を送る上で大きな支障をきたしてしまいます。苦手なことをカバーするための訓練を行うとともに、周囲が理解し、支援を続けていくことが必要です。当事者や家族のみで悩まず、。 もやもや病の方で上記のような症状があり、日常生活に困っているときは、まずは地域の高次脳機能障害支援のための拠点機関に相談してみる必要があります。 リハビリ科や精神科の病院、地域の保健福祉センターなどが該当します。地域の自治体のホームページなどでも情報提供されていることが多いため、一度専門機関で相談をされることをおすすめします。この記事がご参考になれば幸いです。 No.143 監修:医師 坂本貞範 〈参考文献〉 中川原. BRAIN NURSING. 31(11), 32-34, 2015. 冨永ら.脳卒中の外科. 46 (1), 1-24, 2018. 中村. 日本臨牀 80(増刊号1), 386-390, 2022. 平岡. 日本臨牀 80(増刊号1), 592-596, 2022 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 坂井. 標準解剖学第1版, 医学書院. 2017.
2023.08.10 -
- 脳卒中
- 頭部、その他疾患
もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は脳卒中を引き起こす脳血管の病気です。この病気は長きにわたって、原因不明の難病とされていました。しかし、一部では家族内で複数人のもやもや病患者さんがいることがわかっており、遺伝が関与する可能性が考えられています。 本記事では、家族性に発症するもやもや病について解説していきます。 もやもや病とは もやもや病患者さんでは、内頸動脈終末部という脳の主要な血管が徐々に狭窄を起こします。足りない血液を補うため、代わりに細い血管が多く発達します。MRA(磁気共鳴血管撮影法)や脳血管造影などの画像の検査では、このような細い血管がもやもやとした煙のように描出され、これがもやもや病という名前の由来です。 細い「もやもや血管」のせいで脳は血流不足を起こしやすくなります。脳に血が回らなくなる「脳虚血」の状態になると、再発性の脱力や手足の痺れ、てんかんなどを認めます。また、もやもや血管は高い血圧によるストレスで破れやすいです。そのため、一部の患者さんでは脳出血を起こします。 もやもや病はどんな人に発症する? もやもや病の患者さんは、人口10万人につき3〜10.5人ほどいるとされています。女性患者さんが男性の約2倍ほどです。 小児での発症 発症する年齢は最多が小児期で、5〜10歳頃が多いとされています。 子供の場合は、脳虚血発作を認めることが多いです。発作は、息を大きく早く吸ったり吐いたりする「過呼吸」により誘発されやすくなります。これは、二酸化炭素が減り、脳の血管が収縮しやすくなるためです。例えばハーモニカなどの楽器の演奏や、熱いラーメンをふーふーと冷ますことがリスクになります。また、痛み止めの効かない頭痛や、てんかんを起こすこともあります。 成人での発症 小児期以外で発症が多いのは、30〜40歳の成人です。 大人の場合は、半数は脳虚血の症状をきたしますが、残りの半分程度は脳出血で発症すると言われています。また、MRIの普及により、症状がなくても、脳ドックなどの機会に血管の異常が判明する患者さんも増えてきています。 家族性もやもや病 実は、もやもや病の10〜20%の方で、家族内の発症が認められているのです。そして、家族性もやもや病の一部では、「表現促進現象」を認めることがあります。表現促進現象とは、次の世代にうつるにつれて、発症年齢が早くなり、また、より重症化しやすくなることです。 もやもや病と関連した遺伝子とは? もやもや病は、発症に人種差があることもわかっています。この病気が発見されたのは日本でした。その後の報告でも、東アジアでは他の地域よりも多いことが判明しています。 家族内での発症や人種での違いがあることから、もやもや病の発症には、遺伝的な因子があるのではないかと考えられていました。 そして、近年、「RF213」という遺伝子に「遺伝子多型」があると、もやもや病が発症しやすくなるということが判明しています。 遺伝子多型 私たちの体を構成する細胞は23組46本の遺伝子を持っています。遺伝情報を構成するDNAは、塩基・リン酸・糖という3つの部品からなる「ヌクレオチド」が繋がってできたものです。このうち、塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があります。4種類の塩基の並びで遺伝情報が決まっています。 遺伝情報は、ヒト同士であればほとんどの部分は同一です。しかし、わずかに塩基配列のバリエーションが違う部分があります。この塩基配列の違いを遺伝子多型と呼びます。遺伝子多型があっても、個人間の差がないことも多いです。しかし、一部の遺伝子多型は、個人の特徴を決定づける肌や髪の色の違い、さまざまな体質の違いなどとなって現れます。 RF213遺伝子多型p.R4810K RF213遺伝子は、23ペアのうち17番目の染色体にある遺伝子です。もやもや病の日本人患者さんのRF213遺伝子を調べると、8〜9割もの患者さんにおいて「p .R4810K」という遺伝子多型があることがわかりました。このことから、RNF213遺伝子多型が、もやもや病の発症と大きく関わっていることが推察されます。 しかし、このp .R4810Kという遺伝子多型は、健常な日本人の1〜2%も持っていることがわかっています。つまり、RF213遺伝子多型を持っている人のごく一部がもやもや病を発症しているに過ぎないのです。 現在では、もやもや病の発症には、このような遺伝的な背景に加えて、何かしらのきっかけがあって起こるのではないかと考えられています。 もやもや病の遺伝についてよくあるQ&A Q , もやもや病の患者がいる家系なので子供の発症が心配です。画像検査は何歳からできますか? A ,結論から言うと、何歳から可能かは、お子さんの状況や、病院によって異なってきます。 外来で検査が可能なのはMRAという検査です。磁気を使って脳や血管の状態を調べるため、体への負担は大きくありません。ただし、じっとしていないと撮影は難しいです。狭い機械に入らなければいけないため怖がってしまう子もいます。場合によっては鎮静剤を使って眠った状態で検査をしないといけません。 その一方で、お子さんの場合は、早めに適切な対処をすると予後も良いことがわかっています。検査するかどうか、いつするのかについては病院に相談されることをお勧めします。 Q , もやもや病が心配なので、遺伝子検査はできますか? A , 残念ながら現時点で、RNF213遺伝子の多型を通常の診療で検査することはできません。そもそも、この遺伝子多型を持っているから発症するのではなく、あくまで「もやもや病を起こしやすい」遺伝子多型です。診断は遺伝子の検査ではなく、血管の画像の検査を中心に行います。 まとめ・もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病は一部で家族性に発症を認めます。発症と関連した遺伝子も見つかっています。しかし、絶対に遺伝するわけではなく、発症についてはまだわかっていないことも多い病気です。過剰に遺伝を心配し過ぎる必要はありませんが、気になることは専門医としっかり相談をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S142 監修:医師 加藤 秀一 〈参考文献〉 中川原. Brain Nursing. 31(11): 1064-1066, 2015. Koganebuchi K, et al. Ann Hum Genet. 85(5):166-177, 2021. 公益財団法人循環器病研究振興財団 知っておきたい循環器病あれこれ117 もやもや病…ここまできた診断・治療 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 小児慢性特定疾病情報センター 対象疾病 39.もやもや病. https://www.shouman.jp/disease/details/11_15_039/. 最終閲覧2023年7月5日
2023.08.07 -
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橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は非常に致死率の高い病気です。 かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。 橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。 本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。 橋出血が重症化しやすいのはなぜか? 橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。 血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。 脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。 橋出血の生命予後に関わる症状とは? 重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。 ・発症早期の高度の意識障害 橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 ・四肢麻痺 橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 ・除脳硬直 意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 ・眼球正中位固定 橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 ・対光反射の消失 対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 ・失調性呼吸 脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 ・中枢性過高熱 体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 後遺症の治療について 重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。 例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。 橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。 また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。 後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。 急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。 リハビリの種類 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。 ・理学療法 ・作業療法 ・言語聴覚療法 理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。 作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。 言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。 リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。 では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。 脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。 また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。 麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか 一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。 この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。 まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。 また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.142 監修:医師 坂本貞範 〈参考文献〉 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008. 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014. 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/kekka.pdf (閲覧2023年6月28日). 脳卒中診療ガイドライン2021
2023.08.03 -
- 大腿骨骨頭壊死
- 股関節
骨頭壊死、どんな痛み?症状や予防法とは 骨頭壊死は、大腿骨などの太い骨の先端である骨頭が何らかの原因で壊死してしまう疾患です。 骨頭が壊死しただけでは症状は出ませんが、骨が潰れ、変形が進むと突然の股関節痛などの症状が現れます。 今回の記事では、骨頭壊死の症状や予防法について解説していきます。また、治療法として、再生医療の可能性についても触れていきますので、ぜひ参考にしてください。 骨頭壊死とは? 骨頭壊死(こっとうえし)とは、関節を構成する骨の先端である骨頭に、病気や怪我などが原因となり血液が十分に流れなくなった結果、骨の一部が死んでしまう、つまり壊死してしまうことです。 多くは、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)の上端部、つまり股関節で多くみられるとされています また、大腿骨の下端部の膝関節でも骨頭壊死が起こることがあります。 股関節の大腿骨頭壊死の中でも、脱臼や骨折など、血液の供給が不足するような原因が明らかでない場合に起こるものを、特発性(とくはつせい)大腿骨頭壊死症といいます。 特発性大腿骨頭壊死については、以下のような病期分類があり、骨頭の圧壊(あっかい)、つまり、骨の潰れや変形によって進行度合いが区分されています。 引用) 071 特発性大腿骨頭壊死症 大腿骨頭壊死の原因 大腿骨の骨頭は、股関節内に深くおさまって血管が少ないという特徴があります。そのため、何らかの原因で血流障害が起こると、骨に栄養や酸素などが運ばれなくなり、壊死が起こってしまうのです。 大腿骨頭壊死は、股関節の骨折や股関節の脱臼に引き続いて起こることがあります。 特発性大腿骨頭壊死の場合は、危険因子として、免疫異常の疾患(膠原病)や臓器移植などによるステロイド投与による副作用、アルコール、喫煙が関連していることがわかってきています。 特に、ステロイドやアルコールについては国際的に基準が設けられており、ステロイドやアルコールをある程度の量を摂取した方に起こった大腿骨頭壊死では、ステロイドやアルコールとの関連が考えられます。 大腿骨頭壊死の症状 大腿骨頭壊死になるとどうなるのでしょうか。 実は、壊死があるだけでは痛みなどの症状は出ません。大腿骨頭の壊死が進み、骨が潰れてしまうと、症状が出現します。 自覚症状としては、急に起こる股関節痛や、腰痛、お尻の痛みなどがあります。また、初めの痛みは安静によって数週間で自然治癒することもあるのですが、再び痛みが強くなった場合には、骨の潰れの程度が悪化してしまっていることがあります。 大腿骨頭壊死が起こっていても、初期の段階ではレントゲンでは異常が発見できないため、ステロイド使用歴やアルコールを大量に飲む人に、股関節の痛みがある場合には、MRI検査が望ましいとされています。 骨頭壊死の予防方法と治療法 では、大腿骨頭壊死の予防方法や治療法についてご説明します。 予防方法 上述のように、股関節の大腿骨の骨折や、股関節脱臼などの怪我が骨頭壊死の原因となることがあります。 そのため、スポーツなどの際には、歩きやすい靴を履いたり、適切な防御具などを身につけたりなどして、転倒を防ぐように注意すると良いでしょう。 特発性大腿骨頭壊死の予防としては、お酒の飲みすぎやステロイド剤の使用に注意するということが考えられます。ステロイドによる大腿骨頭壊死の予防法は、現時点では確立されたものはありませんが、今後の研究に期待が持たれるところです。 MRIなどで、骨頭壊死を早期発見し、早期治療を行うことも大切とされています。 アルコールについては、適量を飲むようにすることが重要です。 治療方法 大腿骨頭壊死の治療法は、大腿骨頭壊死の病期や、患者の年齢や活動の活発さ、また片側か両側かによって決まります。 壊死がごく小範囲であれば、自然治癒することも報告されているようです。 また、壊死の範囲が小さく、まだ症状が出ていない場合には、保存療法の適応となります。 つまり、杖などで股関節に負荷がかかるのを防ぎます。 一方、自覚症状があり、大腿骨頭の変形の進行が予想されるときは速やかに手術適応となります。 若い人には自分の関節を残す骨切り術が第一選択となりますが、壊死範囲が大きい場合や骨頭の変形が進んでいる場合には、人工関節置換術などが必要となることもあります。 最近では壊死部の骨再生を促す再生医療の臨床研究もおこなわれています。 骨頭壊死についてよくある質問 Q1. 大腿骨頭壊死では必ず股関節が痛くなるの? A1. 骨壊死が発生した時点では自覚症状はありません。 症状は骨壊死に陥った部分が潰れて大腿骨頭に圧壊が生じたときに出現します。 大腿骨頭壊死症の発生から症状が出現するまでの間には数ヵ月から数年の時間差があります。 必ずしも、股関節が痛くなることばかりではないため注意が必要です。自覚症状としては、比較的急に生じる股関節部痛が特徴的ですが、腰痛、膝痛、殿部痛などで初発する場合もあります。 Q2.大腿骨頭壊死では、必ず手術が必要なの? A2.骨頭壊死の病期によっては、手術が必要となる場合もあります。 一方、再生医療で骨頭壊死を治療するという試みも始まっています。 当院では、エコーや特殊なレントゲン装置、そして特殊な注射針を使用して股関節内の軟骨損傷している部位を精査して、ダイレクトに幹細胞を注入する再生医療を用いた治療を行っています。 また、PRP(多血小板血漿)の併用で、さらなる効果の増強を目指しています。 まとめ・骨頭壊死、どんな痛み?症状や予防法とは 今回は、骨頭壊死の痛みや予防法について述べました。 大腿骨頭壊死が進行し、変形が進むと、人工股関節置換術を選択することが多いとされていますが、再生医療の発達により、治療法の選択肢が広がったとも言えます。 大腿骨頭壊死に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談してみてください。 No.S144 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 MSDマニュアル家庭版_骨壊死 (阻血性骨壊死、無菌性壊死、虚血性骨壊死) 特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71) 071 特発性大腿骨頭壊死症 「特発性大腿骨頭壊死症」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 重篤副作用疾患別マニュアル|厚生労働省
2023.08.01 -
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視床出血による運動失調はなぜ起こるのか?その種類と特徴 視床出血は、脳の中でも脳内のネットワークの中心となる視床という部位で起こる出血のことです。片麻痺や感覚障害、また運動失調の原因ともなります。 この記事では、視床出血でなぜ運動失調が起こるのか、その特徴と治療やリハビリ、また再生医療の可能性についても解説します。 視床出血とは? 視床出血は、脳卒中と総称される脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の中でも、脳の中の視床という部分に起こる出血のことです。 主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。視床と被殻は隣にありますが、視床出血では脳室という部位とも隣接しています。そのため、視床出血と被殻出血との違いの一つに、脳室にまで出血が広がるかどうかという点があります。 視床出血は、その重症度からI〜IIIに分類されています。 その中でも、脳室穿破(せんぱ;脳室という脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるかどうか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類されています。 視床に限局しているものをⅠ、内包に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。 簡単に述べると、出血が大きくなるほど、数字も大きくなる、というイメージで良いかと思います。 視床出血による症状 視床は、脳内のネットワークの中心となる場所で、感覚神経をはじめとするさまざまな神経線維がここを経由しています。 そのため、視床出血によって、以下のような症状がでます。 ・片麻痺 ・瞳孔径の縮小 ・顔面神経麻痺(病変と反対側に起こる) ・知覚障害 ・病変側への共同偏視 ・外転神経麻痺 ・半盲 ・嘔吐 ・運動失調 その他にも視床出血では、失語症や半側空間無視、注意障害などといった高次脳機能障害が起こることもあります。 また、他の脳卒中と同じように、症状が出たばかりの急性期には、嚥下障害も起こり得ます。嚥下運動(飲み込み運動)は大脳から脳幹に至るまでの複雑なネットワークによって成り立っているからです。そのため、視床出血が原因となり嚥下障害が起こる、というメカニズムが考えられています。 視床出血による運動失調、なぜ起こる? 運動失調とは、運動麻痺はないか、あっても軽症で、動作や姿勢保持などの協調運動に起こる障害のことです。 視床出血で失調症状がでるのは、小脳の運動機能調節に重要な経路に、小脳や視床、大脳皮質、橋があるためです。 これらのいずれかかが障害されても、小脳性運動失調を生じるのです。 また、視床出血によって、深部感覚が障害されることが原因とも考えられています。 失調と麻痺の違いとは? 失調と麻痺の違いは、筋力の低下があるかどうかということになります。 視床出血による運動失調の場合は、一般に意識障害や片麻痺も伴うことが多く、協調運動障害や不随意運動や、感覚障害が認められることは少ないとされています。つまり、運動失調症状があっても、それが四肢の麻痺によるものなのか判別がつきにくい、という特徴があると考えられます。 視床出血の種類とその特徴 運動失調の種類には以下のようなものがあります。 参考) 神経メカニズムから捉える失調症状 視床出血での失調症状では、四肢の失調症状や歩行の異常が認められるということになります。 視床出血の治療 視床出血が起こった際の治療は、血圧を下げることが中心となります。視床は脳の深部にあるため、手術適応とはなりにくいのです。 視床出血によって、水頭症と呼ばれる脳室に脳脊髄液がたまる症状になってしまうことがあります。水頭症を放置しておくと、脳ヘルニアという脳の一部が頭蓋骨の外側に飛び出してしまう状態になる危険性があります。こうなると、呼吸障害などが起こり生命に関わるため、シャント術という手術を行い、余分な髄液を脳室から腹腔にまで流すようにします。 視床出血の後遺症とリハビリ 視床出血では、発症後から感覚障害があった場合には、感覚障害の症状が残ったり、逆に半身の痛み(視床痛)が出現したりします。運動失調が残る場合もあります。また、出血が大きい場合には、片麻痺も後遺症として残ることがあります。 視床出血後のリハビリは、作業療法や理学療法が行われます。 作業療法 作業療法では、麻痺している上肢を積極的に使うことで、日常生活に復帰することを目標とします。 理学療法 理学療法では、重り負荷、弾性包帯による圧迫、フレンケル体操、立ち上がりや立位時の荷重負荷練習、視覚誘導によるバランス練習を行い、日常生活を送る上で必要な動作の練習をしていきます。 ・重り負荷 ・弾性包帯による圧迫 ・フレンケル体操 ・立ち上がりや立位時の荷重負荷練習 ・視覚誘導 また、視床出血後には、片麻痺、つまり運動障害と、運動失調症状が同時にある場合があります。 そのため、視床出血後のリハビリの一つに、免荷式(めんかしき)トレッドミルという機械を用い、歩行のリハビリを行っていくものがあります。 これは、体を上から吊るし、ハーネスで体を支えることで、足にかかる体重を調整でき、バランス感覚を鍛えられることを期待しています。 まとめ・視床出血による運動失調はなぜ起こる?その種類と特徴 本記事では、視床出血による運動失調の特徴について解説しました。 視床出血は後遺症が残ってしまう可能性が高い疾患ですが、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせることで、脳神経細胞の修復や身体機能の改善を図っています。 脳卒中後の後遺症に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 No.141 監修:医師 坂本貞範 参考文献 加齢の面からみた脳出血の部位 脳血管障害による脳室内出血症例の臨床的検討一脳室内出血の重症度評価と転帰についてー 脳出血部位と症状 (CM Fisher) 原著視床出血の高次脳機能障害 急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討 運動失調を主徴とした左視床出血の1例 神経メカニズムから捉える失調症状 運動失調に対するアプローチ
2023.07.27 -
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橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 橋という脳の一部に出血が起こった後には、運動失調という後遺症が残ることがあります。 今回は、橋出血後の運動失調とはどのようなものか、そしてどのようなリハビリプログラムがあるのか解説し、最新治療法の一つである、再生医療の可能性にも触れていきます。 ぜひ参考にしてみてくださいね。 橋出血とは?どのような症状が出るの? 橋出血(きょうしゅっけつ)とは、脳幹という脳の一部分の中の橋で起こる出血のことです。 脳幹は、中脳・橋・延髄に分けられますが、構造や機能は脳幹全体が同じようなものとなっています。橋出血は脳出血の中の約10%で、脳幹出血の中では橋出血が多くみられます。そのため、脳幹出血と橋出血が同じような意味で用いられるようです。 橋は大部分の脳神経の出入口であり、運動や感覚をつかさどる神経が通り、睡眠や覚醒、呼吸運動や循環機能などの自律運動をつかさどっている重要な部分です。 そのため、橋出血が起こると、以下のような重篤な症状が生じることがあります。 1)高度の意識障害 2)高熱 3)両側の瞳孔縮小 4)片側・両側の四肢麻痺、異常反射、知覚障害 5)高血圧 6)呼吸異常 7)眼球運動障害 8)運動失調 運動失調は、小脳の障害で現れることが典型的ですが、橋と小脳が連絡繊維を持っているため、橋出血を起こすと運動失調も生じます。 橋出血による運動失調の症状はどんなものがある? それでは、まずは運動失調の分類について解説し、その後橋出血による運動失調についても説明していきます。 運動失調の症状とは 運動失調とは、運動麻痺はない、または軽度であるにもかかわらず、動作や姿勢保持などの協調運動ができなくなるという状態のことです。 運動失調は、起立・歩行時のふらつきといった症状が代表的なものです。 その他にも、手の細かな動作も障害され、字を書くのが下手になったり、水を満たしたコップを持つと手が震えてこぼしてしまったり、またボタンをかけたり箸を使ったり、食事をすることがスムーズに行えなくなります。 また、むせるようになる、呂律が回らなくなるといった症状も出ます。 運動失調障害の分類 運動失調障害は、障害される部位によって、以下の3つに大きく分けられます。 1)小脳性運動失調 2)感覚性運動失調 3)前庭性運動失調 これらの3つは、以下のような特徴を持ちます。 引用)2 神経メカニズムから捉える失調症状 この中でも、先ほども述べたように、橋の出血でも小脳と橋が神経繊維で連絡をしているため、小脳性運動失調をきたすことがあります。 橋出血後のリハビリプログラムについて 橋出血後に、運動失調障害に対するリハビリプログラムをご紹介します。 フレンケル体操 フレンケル体操は、運動失調に対して古くから行われている治療法です。 反復訓練と、その訓練に集中することを基本としています。 身体の動きを目で見ながら、つまり視覚を使いながらの身体の動きのコントロールをします。 そのコントロールを反復して練習することで、協調運動を再びできるようになることを期待しています。 重り負荷での運動 足関節や手関節、または腰部に重りをつけ、固有感覚入力の強化、つまり感覚を強めると、過剰な運動を抑える力が働き、運動失調が軽減するというものです。 弾性緊縛帯 重り負荷での運動と同様の発想です。 上肢・下肢の近位部を弾性包帯で圧迫し、感覚入力の強化をすることで、上下肢の過剰な運動を抑えられ、運動失調が軽減することを目的としています。 固有受容性神経筋促通手技(proprioceptive neuromuscular facilitation:PNF) これは、筋肉や皮膚、関節などにある感覚の受容体を刺激しながら、体を動かしていくという手技です。 治療者(セラピストなど)が患者の関節を交互に動かし、 患者はその抵抗に打ち勝つように、 その関節を常に特定の位置に保つように指示します。 治療の効果の持続性は短時間ですが、毎日反復して行うことで、機能の回復が期待できるという報告もあります。 橋出血による運動失調についてよくある質問 Q1. 運動失調と麻痺の違いは? A1. 何かの運動をしようとする際に障害があるという状態を運動障害といいます。 運動障害には、「運動麻痺」と「運動失調」があります。 運動麻痺は、筋肉そのものや、筋肉に命令を送る大脳皮質や脊髄・末梢神経の障害によって、筋肉を自分の意思で動かせなくなった状態をさします。 一方、運動失調は、運動に関わる筋肉の動きを調整する機能が失われたため、スムーズな運動が難しくなった状態のことをさすという違いがあります。 Q2. リハビリの効果を高めるための方法はあるの? A2. リハビリは確かに失われた機能を改善する効果が期待できますが、一方で橋出血により死んでしまった脳細胞を再生させることは難しいです。 また、発症から時間が経つにつれて、リハビリの効果は現れにくくなることもあります。 一方、自己脂肪由来幹細胞の投与をすることで、脳神経細胞が修復再生し、運動失調からの回復や、リハビリの効果を高める効果も期待できます。 まとめ・橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 今回は、橋出血による運動失調の特徴やリハビリプログラムなどを解説しました。 急性期のみならず、発症から時間がたっている場合でも、再生医療を組み合わせてリハビリを行うことで、運動失調の改善が期待できます。 運動失調に今お悩みの方や、身近で困っている方がいる場合には、ぜひ一度当院の再生医療のご相談を受けてみてくださいね。 No.S140 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 脳の機能と構造 「危ないめまい」, 後頭蓋窩の急性脳血管障害 (その1) 2 神経メカニズムから捉える失調症状 症状|(疾患・用語編) 運動失調症|神経内科の主な病気 失調症の リハビリテーション 4 小脳性運動失調のリハビリテーション 医療―体幹・下肢について―
2023.07.24 -
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脳幹出血による運動失調の特徴とは?なぜ起こるのか 脳幹は意識を保ち、呼吸や循環を調整する役割を果たしています。脳幹出血が起こると、重度の場合は四肢麻痺や呼吸障害・意識障害をきたし、亡くなることもあります。その一方で、一部の方では出血が軽度で済むことがあります。しかし、軽症であっても、日常生活に支障をきたす後遺症を残してしまうことがあります。 脳卒中の後遺症として思い浮かぶものは何でしょうか。一般的には麻痺や感覚の障害、あるいは注意や記憶・遂行能力などにかかわる高次脳機能障害のイメージが強いと思います。 脳幹出血の後遺症でも、顔面神経麻痺や片麻痺(体の左ないし右半身どちらかの麻痺)、感覚障害などをきたします。さらに、「運動失調」に悩まされる方もいます。 今回の記事では、この「運動失調」について、どのような症状が起こるのか、なぜ脳幹出血で起こるのかについても解説していきます。 運動失調とはなにか? 運動失調とは、筋肉同士の連携がうまくいかず、姿勢やバランスを保ったり、動作をスムーズに行ったりすることができない状態を指します。 運動失調は原因により、次のように分けられます。 ・小脳性 小脳は運動のコントロールを行う場所です。協調運動に関与する領域が侵されることで運動失調が起こります。 協調運動とは、動作を行う際に必要な関節・筋肉などを調整しながら活動することです。これができなくなることで、手足の細かい動きの調整ができなくなったり、歩くときにふらついたりなど多彩な症状が出現します。 ・前庭迷路性 バランスをとるための平衡感覚に重要な前庭器官や、そこから情報を伝える神経の障害により起こります。そのため、立ったり歩いたりする際にバランスがとりづらいという症状が目立つようになります。 ・脊髄性 脊髄に障害が起こると、筋肉の伸び縮みの具合や関節の状態についての感覚(深部感覚)が障害されます。その結果、自分の筋肉や関節の状態がうまく把握できず、ふらつきが起こります。一部は視覚情報で補完できるため、目をつぶるとふらつきが強くなり、立っていられなくなるという特徴があります。 ・大脳性 大脳は小脳とともに協調運動に関わります。そのため、小脳性失調と症状が類似しています。 ・その他 末梢神経の障害などによっても運動失調をきたすことがあります。 脳幹出血で運動失調が起こるメカニズムとは 脳幹出血で運動失調が起こるのはなぜでしょうか。 脳幹は小脳の前面にあり、神経線維でつながっています。脳幹出血が起こると小脳との連絡経路に障害が起こります。そのため、脳幹出血では、小脳性失調の症状を認めることがあるのです。 また、脳幹には前庭から情報を受け取る前庭神経核という部分があります。脳幹出血により前庭神経核が障害を受けると、前庭迷路性失調をきたします。 どのような症状が起こるのか 脳幹出血で起こる運動失調では、例えば次のような症状が認められます。 ・体幹失調 体幹のバランスをとることができず、歩くときに足を広く開いて歩くようになります。また手足の動きがバラバラになり、まるで酔っ払っている時のような歩き方になります。体幹失調が強いと、座っている時も状態がぐらぐらと揺れてしまいます。 ・構音失調 話し言葉のリズムが乱れ、音の高さや大きさがバラバラになります。そのため、酔っ払っているときのような呂律の回らない喋り方になります。 ・四肢失調 手足の動きを目的のところで止めることができなくなる測定障害が起こります。結果、目の前に置いてあるものを上手く掴めなくなります。 また、反復拮抗運動障害と言って、素早く反復する動きを繰り返すことが苦手になります。例えば、手首を素早く裏表に返すような動作、「お星様キラキラ」のジェスチャーが上手くできなくなります。 ・眼球失調 目の動きを上手くコントロールできず、ものが二重に見えたり、めまいが起こったりします。 ・企図振戦 振戦とは震えのことです。何かをしようとしたときに手が震えます。特に、目的のものに手が届きそうになったときに震えが強くなります。 ・嚥下障害 ものを飲み込むことは複雑な動作の組み合わせです。運動失調が起こると、噛んだり舌で食べ物を送ったり、喉の筋肉を動かしたりという動きが上手に調整できなくなるとされています。 脳幹出血の運動失調についてよくあるQ&A Q, 運動失調と麻痺の違いは? A, 麻痺とは、医学的には運動麻痺のことを指すことが多いです。脳やそこから伸びる神経の障害により、手や足などの体の部分が自分の意思通りに動かせない状態です。「思ったように力が入らないので動かない」という状況になります。 一方、運動失調とは、運動麻痺がないのにも関わらず、筋肉が協力してうまく働かないことを指します。その結果、姿勢を保ったり、円滑に動作をしたりすることができなくなります。「ふらふらする」「スムーズに動くことができない」という状態です。 脳幹出血では、出血の部位や程度により、この両方がさまざまな程度で起こり得ます。 Q, 運動失調と協調運動障害の違いは? A, 協調運動障害は、運動失調の一つの形と捉えることが多いようです。特に、手足の運動が上手くできないことを協調運動障害と呼ぶことが多いです。 Q, 脳幹出血後の運動失調の治療は? A, 脳幹出血により傷ついてしまった神経を取り替えることはできません。そのため、失われた機能の回復と、残っている機能の維持のためのリハビリテーションが行われます。 リハビリを行う際は、上肢・体幹・下肢など部位ごとに、どのような症状がどの程度あるのかの検査・評価を行い、目標を設定していきます。個々人の目標毎にプログラムを組むため、焦りすぎず、セラピストと相談しながら継続しましょう。 まとめ・脳幹出血による運動失調の特徴とは?なぜ起こるのか 脳幹出血後により運動失調が起こると、回復のためには長期的な訓練が必要になります。これまで無意識下にできていた動作が難しくなり、そのままでは日常生活に大きな影響を及ぼすからです。 目の前のコップをとる、まっすぐ歩くなど、これまで何気なく行っていたことができず辛い思いをされる方も多いです。 リハビリでは、失った機能を取り戻したり、残っている機能を伸ばして補完したりする訓練をしていきます。問題なく生活できるようになるまでには時間がかかりますが、少しずつ確実に継続していくことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S139 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 渡邊裕文. 関西理学. 6:15-19. 2006. 水澤英洋. 日内会誌. 101:669-674.2012. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 望月仁志、宇川義一. Jpn J Rehabil Med 2019;56:88-93 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med 2019;56:105-109
2023.07.20 -
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脳幹出血のリハビリプログラムを詳しく解説|早期のアプローチが大切! 脳幹出血を起こすと、重度の場合は意識障害、呼吸障害、四肢麻痺などをきたします。軽度の出血でも、片麻痺や感覚障害、運動失調、嚥下障害や高次脳機能障害などの後遺症を残します。看護が必要なくなっても、元の生活に戻るまでには長い時間が必要です。少しでも後遺症を軽減し、寝たきり状態を防ぐために、リハビリテーションが重要となります。 リハビリテーションの内容は、発症からの時期により変わってきます。リハビリでは、「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」という3つの時期に分けてプログラムを組みます。脳幹出血の具体的なリハビリテーションを、3つのステージ別に見ていきましょう。 急性期;早期からの介入が大切! 急性期とは、脳幹出血が起こって、まだ完全に状況が落ち着いていない時期を指します。発症から概ね2週間〜1ヶ月程度です。治療と併行しながらリハビリを進めていきます。 まず目指すのは、早い段階でベッドから離れる「早期離床」です。脳幹出血をはじめとした脳卒中では、体の状態に問題がなければ、24〜48時間以内にリハビリ介入をする方が、回復が早いとされています。 最初に行うことは、寝返りや、体を起こして座ることです。可能であれば、立ち上がり、補助具で歩くリハビリに進みます。着替えなどの日常生活に直結する動作を行うセルフケア訓練も開始します。 また、脳幹出血の患者さんでは、ものを飲み込む力が落ちる嚥下障害を伴っている方が多いです。肺炎予防のためにも、早くから嚥下の評価と口腔ケアを開始します。 一方で、重度の脳幹出血例では、呼吸や血液循環の障害を認めます。脳の周りにまで出血して、髄液の流れに影響する水頭症になることもあります。状況が落ち着かないと早期離床はできません。この場合はベッド上でできるリハビリを行います。 例えば、関節が固まらないように動かしていく関節可動域訓練などが該当します。 回復期;リハビリが中心の生活! 急性期から脱して体の状態は安定していますが、後遺症が固まりきっていない時期です。失われた機能を回復し、残っている機能を高める訓練をします。 多くの脳卒中患者さんは「回復期リハビリテーション病棟」というところに移ります。リハビリを専門にしている病院や病棟です。 理学療法士や作業療法士・言語聴覚士といったリハビリスタッフが多くいます。1日最大で3時間のリハビリが可能です。施設によっては、休日も含めてほぼ毎日リハビリを行っているところもあります。 一口に脳幹出血といっても、人により後遺症の内容や程度はさまざまです。症状別のリハビリは急性期から少しずつ始まります。回復期病棟ではそれをさらに掘り下げ、一人一人に合った詳細なリハビリプログラムを組んでいきます。ここでは一例を紹介します。 〈症状別のリハビリの例〉 運動麻痺 筋肉や関節の動きを自分の意思通りに動かせるよう、繰り返し訓練します。麻痺は3〜6ヶ月程で回復が止まってしまいます。症状が固定した後でも、麻痺のない部分でカバーしたり、装具や杖などを利用したりして動く訓練も行なっていきます。 運動失調 筋肉同士の協調性が失われ、運動をスムーズに行えない状態を運動失調といいます。 運動失調のリハビリでは、例えば、目で確認しながら何度も動作の練習をします。重りを使い、固有感覚(身体の位置や力の入れ具合を感じる感覚)を刺激して、運動のコントロールを行う訓練も行います。一つの動作をいくつかに区切って行うことも効果的です。 嚥下障害 急性期に引き続き、嚥下障害へのリハビリも続けます。どのくらいの固さのものが食べられるのか、一口量はどのくらいが適切かなど、詳細な評価を行います。飲み込む力を強化する訓練をしながら、少しずつ食事の形態を調整していきます。 構音障害 呂律が回らない、声の大きさのコントロールがつかないなど、喋りづらさ(構音障害)を抱える方が多いです。正しい発音の練習や、話すスピードを調整する訓練によって、コミュニケーションが取りやすいようにしていきます。 綿密なリハビリテーションを続けながら、自宅への退院、社会復帰に向けた支援も行なっていきます。 生活期(維持期);家に帰った後も重要! 実際の生活に戻った上で、訓練を続けていく時期です。活動度を維持・向上させ、可能な範囲で自立した生活ができるように考えていきます。 リハビリができる施設に通ったり、訪問リハを受けたりすることで、体力や機能の維持・向上を図ります。 また、脳幹出血の最大の要因は高血圧です。運動習慣をつけることは、血圧を下げ、再発防止にも役に立ちます。 脳幹出血のリハビリについてよくあるQ&A Q, どうして急性期と回復期で病院(病棟)が変わるのですか? A, できれば同じところでリハビリを続けたいですよね。でも、場所が変わることにはきちんと理由があります。 発症直後に入院する「急性期病院(病棟)」の目的は、体の状態を落ち着かせることです。リハビリのための時間や人手には制約があります。治療がひと段落すれば、よりリハビリに特化した場所に移る方が良いのです。 次に急性期病棟に入院が必要な方にベッドをあけるためにも、状況が落ち着いてくれば行き先の調整を考え始めます。 Q, どのくらいの期間、入院が必要ですか? 麻痺などの回復が一定の段階に達し、日常生活に必要な動作ができるようになれば退院を考えます。どこまでできるようになるかという目標は患者さん毎に異なります。 ただし、回復期リハ病棟の入院は脳卒中の場合は最大で150日(高次脳機能障害がある場合は180日)までと決まっているため、これを超えることはありません。 まとめ・脳幹出血のリハビリは、早期のアプローチが大切! 脳幹出血後は、早期からアプローチをすることにより、後遺症を軽減し、もとの生活に近い状態に戻ることを目指していきます。とても時間がかかりますが、しっかりとリハビリテーションを続けていきましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.140 監修:医師 坂本貞範 参考文献 標準リハビリテーション医学第4版【電子版】 医学書院. 2023年.東京 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021. 後藤淳. 関西理学.14:1-9.2014. 福岡達之、道免和久. Jpn J Rehabil Med. 56:105-109. 2019. 藤島一紘. ブレインナーシング 39(2): 320-323. 2023.
2023.07.17