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- 腰椎椎間板ヘルニア
- 脊椎
バスケットボールの練習中や試合前に突然激しい腰痛に襲われ、「もうバスケができないのでは」という不安を抱えていませんか。 腰椎椎間板ヘルニアと診断されても、適切な治療とリハビリテーションにより、多くの選手が競技復帰を果たしています。 この記事では、バスケットボールという競技特有のヘルニア発症メカニズム、症状の詳細、治療法、そして段階的な復帰プロセスまで詳しく解説します。 あなたの不安を解消し、コート復帰への具体的な道筋を示します。 なぜバスケはヘルニアを招きやすいのか?原因となる動作 バスケットボールは椎間板ヘルニアの発症リスクが高いスポーツとして知られています。 日本整形外科学会のデータによると、スポーツ関連の腰椎損傷において、バスケットボールは上位にランクされており、NCAA大学バスケットボールの2009年から2014年までの統計では、男子で79件、女子で45件の腰椎脊椎損傷が報告されています(文献1)。 この高い発症率の背景には、バスケット特有の動作パターンが深く関係しています。 ジャンプ動作と着地衝撃 ジャンプをすると、背骨のクッション役である椎間板に大きな力が加わります。 とくにリバウンドやシュート後にひざが十分曲がらずに着地をすると、衝撃がまっすぐ腰へ伝わり、椎間板を傷めやすくなります。 さらに、着地と同時に体が前へ傾いたりねじれたりすると、「押しつぶす力」に「ひねり」が加わり、椎間板への負担が一段と増します。(文献2) 前かがみディフェンスと回旋負荷 ディフェンスで腰を低く構え、前かがみの姿勢をとりますが、この際に背中が丸まった姿勢だと腰に慢性的に負担がかかります。 さらに、カッティングやピボットのように急に方向を変える動きでは、片足を軸に体がねじれるため、椎間板に「ひねり」のストレスが加わります。 シュート動作では体を伸ばしながらひねるので、「押しつぶす力」と「ひねり」が同時にかかり、腰への負担が大きくなります。 また、シュートフェイントの動きもしますが、フェイントのように急停止する動作も腰への負担が大きいです。 成長期のプレイヤーは骨や椎間板がまだ完全に強くなりきっていないうえ、急に身長が伸びると体の適応が追いつかず、こうした負担に弱い点にも注意が必要です。 バスケによって起こるヘルニアの症状 バスケットボールではジャンプ・着地や急な切り返しで腰に大きな力がかかるため、突然「ズキッ」と強い腰痛が出るケースが目立ちます。ここではヘルニアの進行度別の症状と、ヘルニア発症後の休養期間の目安について説明します。(文献3) これらに加え、前かがみになったり咳・くしゃみをすると痛みが強くなるのもヘルニア症状の特徴です。 軽度の症状 発症直後は腰からお尻、太もも裏、ふくらはぎ、足先まで電気が走るような痛みやしびれが広がります。 咳やくしゃみ、前かがみ動作で一時的に痛みが強くなるものの、歩行も可能です。 この段階では、まず安静を保つことが大切です。同時に、睡眠環境の改善や日常生活の見直しを行い、腰への負担を軽減して症状の悪化を防ぎましょう。 中等度の症状 発症から数週間ほどで、神経圧迫が続くと筋力低下が現れます。 足首を上げにくいとつまずきやすくなり、つま先立ちもできなくなるため、ジャンプ力が大幅に落ちます。 歩行では患部をかばうための歩き方が目立ち、ジャンプや急ターンは痛みでできなくなってしまいます。(文献3) 重度の症状 重度のヘルニアになると、単なる腰痛や足のしびれを超えて、より深刻な症状が現れます。 尿が出にくい・残尿感・便漏れといった排泄障害、股の感覚消失、両脚の強い麻痺などが起こります。これらは「馬尾症候群」と呼ばれ、飛び出した椎間板が腰の奥の太い神経束を圧迫する緊急事態です。 可能な限り早急な手術が必要で、一般的に24~48時間以内の手術が推奨されています。手術が遅れると後遺症のリスクが高まります。 こうした重症例では3~6カ月以上の長いリハビリが必要になり、再びコートに立てるかどうかは個々の回復状況を見ながら慎重に判断されます。 ヘルニアの症状が出たらバスケは何日休む? 休養期間は症状の程度によって幅があります。一般的な目安は次のとおりです。 症状 休養期間 軽度の症状(日常生活は可能) 約1~2週間の安静 中等度の症状(練習に支障をきたすレベル) 約1~3カ月の安静 重度の症状(歩行が困難・安静にしていても痛みがある) 約3~6カ月の長期休養 復帰の判断は自身で行わず、必ず医師の判断を仰いで競技復帰しましょう。 痛みが残る状態で無理に復帰すると再発のリスクが高まるため、焦らず治療とリハビリに専念しましょう。 バスケで発症したヘルニアの治療法について 椎間板ヘルニアの治療は、症状の重さに応じて段階的に進めるのが基本です。軽度から中等度の症状ではまず手術をしない保存療法から開始します。 そして、保存療法で効果がない場合や、重度の神経症状がある場合に手術を検討します。 近年では再生医療といった治療法も選択肢に加わり、とくにスポーツ選手の早期復帰を目指す治療として活用されています。 治療法の決定には、症状の重さ・年齢・競技レベル・復帰の緊急度などを総合的に判断することが重要です。 ヘルニア初期の保存療法 保存療法では以下のような方法を組み合わせて症状の改善を図ります。 治療法 解説 薬物療法 消炎鎮痛薬(NSAIDs)で神経の腫れを抑え、足の痛みやしびれには神経痛専用の薬(プレガバリンなど)を使用します。筋肉の緊張には筋弛緩薬を短期間併用することもあります。 ブロック注射 痛みが強い場合、硬膜外腔へのステロイド注射(神経ブロック)で一時的に痛みを緩和させます。ただし効果は一過性で、長期的な改善効果は限定的です。 理学療法(リハビリ) 症状に合わせて段階的に進めます。急性期は安静にしてコルセットで腰を保護。痛みが軽減したらストレッチや筋力トレーニングを開始します。慢性期は体幹筋強化や正しい動作の指導を行います。 コルセットの活用 腰部コルセットで腰椎を安定化させると痛みの軽減に役立ちます。ただし長期間の装着は筋力低下を招くため、痛みが強い初期に限定して使用し、症状が和らいだら外します。 外科手術での治療 手術が必要となる場合は大きく2つのケースに分けられます。 手術が必要なケース 説明 手術が必要な場合(緊急手術) 膀胱や直腸の障害、高度な運動麻痺、馬尾症候群など重篤な神経症状が現れた場合です。これらは時間との勝負であり、速やかに手術による神経圧迫の除去が必要です。(文献4) 手術を検討する場合 発症から3カ月間の保存療法でも効果がない、競技者など早期社会復帰が強く求められる、あるいは患者本人が手術を希望する場合などです。 再生医療の可能性 再生医療は、主に幹細胞治療とPRP療法(多血小板血しょう療法)があります。 まず、幹細胞治療とは、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を採取して培養し、増やした幹細胞を椎間板に注射する治療法です。 そして、PRP療法は患者さま自身の血液から血小板を高濃度に抽出し、成長因子を含む血しょうを患部に注射する治療法です。 臨床研究が進んでおり、腰痛軽減や機能改善が報告されつつありますが、効果には個人差があり、すべての患者様に同様の結果が得られるわけではありません。 再生医療について詳しくは、当院「リペアセルクリニック」へお問い合わせください。患者様の症状や状況にあわせたご提案をいたします。 ヘルニアからのバスケ復帰ロードマップ 安全かつ確実にコートに戻るためには、段階的に復帰プログラムを進めることが重要です。 復帰プロセスの期間や内容は人によって大きく異なり、年齢・症状の重さ・治療法・競技レベルによって調整が必要なので、専門医やコーチとの密な連携は欠かせません。 焦って復帰すると再発リスクが高まるため、専門医と相談しながら慎重に判断しましょう。 フェーズ別セルフケアのポイント セルフケアのポイントを、急性期(発症~2週間)・回復期(2週間~3カ月)・復帰期(3カ月~6カ月)のフェーズ別にそれぞれ解説します。 急性期(発症~2週間)のセルフケア まず炎症を抑えることが最優先です。この時期は安静を基本とし、発症後はしっかり休養してください。 回復期(2週間~3カ月) 痛みが落ち着いてきたら、徐々に身体機能の回復トレーニングを開始します。 以下の基本エクササイズと日常動作の工夫で、腰への負担を減らしながら筋力と柔軟性を取り戻していきます。 【基本エクササイズ】 エクササイズ 手順 ドローイン 仰向けで膝を立てて腹式呼吸をし行います。息を吐きながらお腹をへこませ、その状態で10秒キープ(呼吸は止めない)。 これを5回1セットで1日3セット実施し、腹横筋(インナーマッスル)を鍛えます。 キャット&ドッグ 四つん這いになり、息を吐きながら背中を丸め(猫のポーズ)、吸いながら背中を反らせる(牛のポーズ)。 ゆっくり10回繰り返し×2セット行います。背骨と周囲筋の柔軟性を高め、血流を促進します。 【日常動作の工夫】 動作 工夫する点 座る姿勢 椅子に座る際は深く腰掛け、背もたれに背中を預けます。 足裏を床にしっかりつけ、膝と股関節がそれぞれ直角になる高さの椅子を使いましょう。 立ち上がり動作 椅子から立つときは一旦軽く前かがみになり、上半身の重心を足の真上に移してから立ち上がります。 腰だけでなく太ももの力を使うことで腰への負担を軽減できます。 物の持ち上げ 床にあるボールや重い荷物を取るときは、背中を丸めず膝を曲げて腰を落とす(スクワット動作)ようにします。 背筋を伸ばした状態で太ももの筋力を使い、ゆっくり持ち上げましょう。 復帰期(3カ月~6カ月) 3カ月目以降は、競技復帰に向けた本格的なトレーニングに入ります。段階的に負荷と運動強度を高めましょう。あくまで目安となりますが、復帰に向けた準備を以下のステージ別に行います。 ステージ 説明 ステージ1(基礎体力回復) 長時間の運動に耐えられる体力を戻す段階です。痛みが出ない範囲でウォーキングを行います。 水中ウォーキングやエアロバイクも有効です。腰への衝撃が少ないメニューで持久力を養います。 ステージ2(基本動作回復) ジョギングなど直線方向の軽いランニングを開始します。徐々に距離とスピードを上げ、ボールハンドリングやパス・シュートなどの基本ドリルも再開します。 急激な方向転換や激しいジャンプは避け、軽い切り返し動作までに留めます。 ステージ3(専門動作練習) バスケット特有の動きを集中的に練習します。軽めのジャンプから始め、着地フォームを確認・矯正しながら練習を行います。 ディフェンス時の低姿勢や方向転換のステップワークも練習し、痛みなく実施できるか確認します。徐々に通常強度に近いアジリティドリルも加えます。 ステージ4(実戦復帰) チーム練習への部分参加から始め、非接触メニュー(セットプレーの確認やシューティング練習など)をこなします。 問題なければ対人練習(1対1や5対5)に進み、最終的に試合形式のプレーに復帰します。コンタクトプレーで痛みや不安がなければ、公式戦出場が許可されます。 各ステージの移行は、痛みが出ないこと・動作がスムーズに行えること・専門医や理学療法士と問題がないか確認しながら慎重に行います。段階を飛ばさず着実にこなすことで、復帰後のパフォーマンス低下や再発を防げます。 再発率を抑える体幹メニュー ヘルニア再発予防には体幹(コア)強化が最も重要な要素です。 段階的な体幹トレーニングプログラムを継続して、再発を防ぎましょう。 主に推奨されるトレーニングメニューとして、ドローインやプランク、バードドッグが腰に負担をかけずにできる筋トレメニューです。 以下の記事でヘルニアの際におすすめの筋トレメニューを紹介してますので、気になる方はぜひ参考にしてください。 まとめ|バスケでヘルニアになっても復帰は可能 バスケ選手の腰椎椎間板ヘルニアでも、適切な治療とリハビリをすれば高い確率でコートに戻れます。 大切なのは早期に正確な診断を受け、症状に合った最善の治療法を選択することです。 近年は再生医療という新たな選択肢もあります。 復帰を成功させるポイントは、段階的な復帰プロセスを守ること、継続的な体幹強化トレーニングを怠らないこと、そして再発予防の取り組みを続けることです。 これらによって長期的に競技を続けることが可能となります。ヘルニアと診断されても決してあきらめる必要はありません。 専門医と連携した計画的な治療とリハビリで、確実にコートに復帰しましょう。 ヘルニアに対する再生医療について詳細は、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) Staysniak M, et al."Epidemiology of Lumbar Spine Injuries in Men's and Women's National Collegiate Athletic Association Basketball Athletes"American Journal of Sports Medicine, 47(2),pp.428-434, 2019年 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6823986/ (最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) Bisseling RW, et al."Biomechanical factors associated with injury during landing in netball players"Clinical Journal of Sport Medicine, 18(2), pp.115-121, 2008年. https://journals.lww.com/cjsportsmed/Abstract/2008/03000/Biomechanical_Factors_Associated_With_Injury.3.aspx (最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) Nachemson AL."Disc pressure measurements"Spine, 6(1), pp.93-97, 1981年. https://journals.lww.com/spinejournal/Abstract/1981/01000/Disc_Pressure_Measurements.17.aspx (最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) 日本整形外科学会「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021」2021年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/wp-content/plugins/pdfjs-viewer-shortcode/pdfjs/web/viewer.php?file=https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00645.pdf&dButton=false&pButton=false&oButton=false&sButton=true#zoom=auto&pagemode=none&_wpnonce=3b871a512b (最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「リリカを飲み始めてから太ってしまった...」「薬を減らしたいけれど、痛みが戻るのも怖い」 このようなお悩みを抱えている方は多くいらっしゃいます。 ヘルニアの痛みから解放されたいと始めた薬物療法で、体重増加という新たな悩みが生まれてしまうのはとても辛いものです。 とくにデスクワークが中心の生活をされている方にとって、体重増加は腰椎への負担をさらに増やし、痛みの悪化につながる可能性もあります。 しかし、適切な知識と対策を身に付けることで、薬の効果を維持しながら体重をコントロールしていくことは十分可能です。 本記事では、ヘルニア治療薬で体重が増える仕組みから、副作用を抑える服薬のコツ、日常でできるセルフケア方法までを解説します。 また、薬に頼りすぎない治療選択肢として、 再生医療も紹介します。 ぜひ最後までご覧いただき、痛みのない生活と理想的な体重管理を両立させるためのヒントを見つけてください。 ヘルニア治療薬で太る理由 ヘルニア治療に使われるプレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)などの薬物は、神経の過剰な興奮を抑制して痛みを和らげます。 しかし、これらの薬には体重増加の副作用があることが知られています。 また、痛みによる活動量の減少も体重増加に大きく関与しており、これらの要因が複合的に作用し、治療開始後に体重が増えやすい状態が生まれてしまいます。 薬の副作用でむくみが増加する プレガバリンやミロガバリンなどのガバペンチノイド系薬剤は、むくみと体重増加が副作用として報告されています(文献1・文献2)。 具体的なメカニズムはまだ解明途中ですが、体内の水分バランスが変化して水分をため込みやすくなることが一因と考えられ、手足や顔がむくんだ結果、体重計の数値が上がるケースがあります。 加えて、軽い眠気や倦怠感といった副作用が日中の活動量を減らし、消費カロリーの不足が体重増加を加速させます(文献3)。 デスクワーク中心の生活ではもともと消費カロリーが少ないため、このような複合要因により、治療開始後数週間〜数カ月で体重が増えることがあります。 塩分を控えた食事と軽い有酸素運動を早期に取り入れると、これらの副作用を緩和しやすくなります。 痛みによる運動量減少と代謝の低下 ヘルニアによる痛みがあると、無意識のうちに体を動かすことを避けるようになります。階段の昇降を控えたり、散歩の頻度を減らしたりすると、日常的な消費カロリーが大幅に減少します。 さらに、運動不足が継続すると筋肉量が落ちて、基礎代謝率が低下してしまうことにも注意が必要です。 基礎代謝とは、じっとしていても心臓を動かしたり体温を保ったりするために使われるエネルギーのことで、1日に消費するカロリーの約6割を占めています。 筋肉量が減少すると、この基礎代謝が低下し、同じ食事量でも太りやすい体質へと変化してしまいます。 とくに、痛みを避けて長期間にわたって安静にしていると、筋肉の萎縮が進行し、代謝効率が著しく悪化します。 この状態では、薬物の副作用と相まって、より急速な体重増加が起こる可能性があります。 また、運動不足は血液の流れを悪くし、むくみの症状をさらに悪化させることがあります。 痛みの程度に応じて、水中歩行やストレッチなどの体の負担が少ない運動を取り入れることで、代謝の低下を最小限に抑えられます。 ヘルニア薬で太る悩みを解決|副作用を抑える服薬のコツ ヘルニア治療薬による体重増加は、適切な服薬管理により大幅に軽減できます。薬物の特性を理解し、個人の体質に合わせた服用方法を見つけることが重要です。 ここでは、体重増加リスクの現れ方と、副作用を和らげる具体的な服薬マネジメント方法について詳しく解説します。 体重増加リスクの現れ方 リリカ(プレガバリン)とタリージェ(ミロガバリン)は、どちらも神経の過剰な興奮を鎮めるガバペンチノイド系の薬物ですが、体重増加の現れ方には個人差があります。 一般的に、服用量が増えるほどむくみや食欲亢進などの副作用が現れやすくなることは両薬剤に共通しています。 また、同じ用量を服用していても、体重変化の幅には大きな個人差が見られます。 これは、もともとの代謝率、水分保持能力、食欲調節機能の違いが影響しているためです。 そして、生活習慣や併用している他の薬物も体重変化に大きく関与します。 体重増加以外にも、手足のむくみ、眠気、めまい、集中力の低下などの症状が同時に現れることがあります。これらの症状が強く現れる場合は、薬物が体質に合っていない可能性があります。 とくに、服用開始後に急激な体重増加やひどいむくみが現れた場合は、早めに医師に相談が重要です。 逆に、軽度のむくみや1kg程度の体重増加であれば、生活習慣の調整により改善できる場合が多くあります。 副作用を和らげる服薬マネジメント 薬物による副作用を最小限に抑えるためには、段階的な用量調整が最も効果的です。 初回投与時は最小有効量から開始し、痛みの改善状況を見ながら緩やかに増量していくことで、体が薬物に慣れる時間を確保できます。 リリカの場合、1日75mgから開始し、週単位で75mgずつ増量していく方法が推奨されています。(文献4) 急激な増量は副作用のリスクを高めるため、痛みが強くても焦らずに段階的な調整が大切です。 眠気やめまいが気になる場合は、夕食後や就寝前に服用することで、日中の活動への影響を最小限に抑えられます。 また、1日の服用回数を分割すると、血中濃度の急激な変化を避け、副作用の軽減につながります。 食欲増進に対しては、食事の回数を増やして1回あたりの量を減らす方法が効果的です。血糖値の急上昇を避けることで、過度な食欲を抑制できます。 体重増加が気になる場合でも、自己判断で薬を急に中止するのは避けてください。突然の中止により離脱症状や痛みの再燃が起こる可能性があります。 医師と相談しながら、生活習慣の改善と並行して薬物調整を行うことが、効果的な治療継続につながります。 ヘルニア薬で太るのを防ぐセルフケア方法 薬物治療を継続しながら体重増加を防ぐためには、日常生活でのセルフケアが欠かせません。 痛みがある状態でも実践できる具体的な対策を身に付けることで、薬の効果を維持しながら理想的な体重管理を実現できます。 減塩+低GIの食事 ヘルニア治療薬による体重増加を防ぐためには、塩分制限と血糖値コントロールを組み合わせた食事管理が効果的です。 塩分の過剰摂取は体内の水分保持を促進し、薬物によるむくみを悪化させる主要因となります。 この対策として、1日の塩分摂取量を6g以下に制限すると、余分な水分の蓄積を大幅に減らせます。(文献5) 加工食品やインスタント食品には隠れた塩分が多く含まれているため、なるべく避けるようにしましょう。 一方、低GI(グリセミック・インデックス)食品の選択は、血糖値の急上昇を防ぎ、インスリン分泌を安定させることで脂肪の蓄積を抑制します。 白米の代わりに玄米や雑穀米を選ぶ、白いパンよりも全粒粉パンを選ぶなど、精製度の低い炭水化物を意識的に取り入れてください。 野菜類は基本的に低GI食品であり、食物繊維が豊富なため満腹感も得やすく、総摂取カロリーの削減にも寄与します。 タンパク質源としては、鶏胸肉や白身魚、豆腐などの低脂肪・高タンパク食品を選ぶことで、筋肉量の維持と代謝向上を図れます。 食事のタイミングも重要で、1日3食を規則正しく摂取し、間食は低GIのナッツ類や無糖ヨーグルトをおすすめします。 夜遅い時間帯の食事は代謝効率が悪く、体重増加につながりやすいため、夕食は就寝3時間前までに済ませるようにしましょう。 痛みを避けた有酸素運動 ヘルニアによる痛みがある状態でも実施できる有酸素運動として、水中歩行やウォーキングが効果的です。 水中歩行は、水の浮力により腰椎への負荷を大幅に軽減しながら、全身の筋肉を使った有酸素運動を行えます。浮力で関節へのストレスが軽くなるため、痛みを悪化させずに全身運動ができます。 プールが使えない場合はウォーキングに置き換えましょう。 ウォーキングは血流を促して炎症を鎮めたり、体幹を自然に使うことで腰椎を安定させたりと、多くのメリットがあります。 背筋を伸ばし、かかとから着地してつま先で蹴り出すフォームを意識し、呼吸が少し弾む程度のペースで20〜30分を目標にウォーキングしてみましょう。 腰を守りながら有酸素運動の効果を得られます。 ヘルニア薬に頼らない治療法「再生医療」について ヘルニア治療の選択肢の一つとしては、再生医療の選択肢もあります。再生医療は、とくにヘルニアの後遺症にお悩みの方に知っていただきたい治療法です。 当院「リペアセルクリニック」では、損傷した脊髄付近に直接注射で幹細胞を届ける治療を行っております。ヘルニア薬に頼らない治療法をお探しの方にとっても、選択肢の一つとなります。 当院では、検査結果や生活状況を踏まえ、再生医療を含む複数の選択肢を説明した上で治療計画をご提案いたします。どうぞお気軽にご相談ください。 まとめ|薬の副作用と体重増加を同時に克服し、痛みのない生活へ ヘルニア治療薬による体重増加は、薬物の作用機序を理解し、適切な対策を講じることで十分にコントロール可能です。 まず重要なのは、副作用リスクを正しく認識し、医師と連携しながら服薬を行うことです。 段階的な用量調整と服用時間の工夫により、治療効果を維持しながら副作用を最小限に抑えられます。 次に、日常生活でのセルフケアとして、減塩・低GI食事と痛みを避けた有酸素運動を継続的に実践することが、体重管理の鍵となります。 これらの対策は治療開始と同時に始めることで、より高い効果を期待できます。 薬の副作用が気になる場合や十分な痛み緩和が得られない場合は、再生医療も選択肢として検討できます。 当院の公式ラインでは、無料オンライン診断を行っておりますので、お気軽にお試しください。 ヘルニアの薬で太ることに関してよくある質問 プレガバリン(リリカ)を減量したら体重は戻る? プレガバリンの減量により体重が元に戻るかどうかは、体重増加の原因によって異なります。 薬物によるむくみが主な原因の場合、適切な減量により比較的短期間で改善が期待できます。 段階的に薬物を減らしながら、同時に塩分制限や軽い運動を並行して行うことで、余分な水分が徐々に排出され、1〜2カ月程度で元の体重に近づくことが多く見られます。 一方、食欲増進により実際に脂肪が蓄積した場合は、より長期的な取り組みが必要になります。 この場合でも、薬物減量と並行して食事療法と運動療法を継続することで、緩やかながら確実に体重減少を図れます。 重要なのは、急な薬の服用中止は避け、医師の指導のもとで計画的に減量を進めることです。 また、体重が戻る過程で一時的に痛みが再燃する可能性もあるため、生活習慣の改善や他の治療法との併用を検討してみましょう。 体重が増えたら受診すべき? 薬物治療開始後の体重増加については、その程度と期間により受診の必要性が異なります。 治療開始から急激な体重増加がある場合や、手足のひどいむくみが続く場合は、速やかに受診をおすすめします。 これらの症状は薬物の用量調整や種類変更により改善できる可能性があります。 また、体重増加により腰痛が悪化している場合も、治療方針の見直しが必要になる可能性があります。 定期的な体重測定を行い、変化を記録しておくことで、医師との相談がより具体的で効果的になります。 早めの相談により、薬物治療の中断を防ぎ、症状管理もしやすくなることが期待できます。 薬を飲み続けると体重は増え続けますか? 体重は投与開始の数週〜数カ月で増え、その後は増加ペースが落ち着く方もいれば、長期投与でさらに増える方もいるため個人差があります。 また、運動不足や高カロリー食が続けば、薬の影響とは別に脂肪が増える可能性がある点にも注意が必要です。 治療を続ける間は、定期的な体重測定と食事・運動の管理を併行し、増え方が気になるときは医師と相談して薬量や生活習慣を見直しましょう。 再生医療で薬をやめられる可能性は? 再生医療による治療は、薬物療法からの脱却を目指す有効な選択肢の一つです。 PRP療法や幹細胞治療により椎間板や周辺組織の炎症が改善されると、痛みの根本原因が軽減され、鎮痛薬の必要量を大幅に減らせる可能性があります。 ただし、効果には個人差があり、ヘルニアの程度や患者様の年齢、症状の持続期間などにより結果は異なります。 薬物に頼らない治療を希望される場合は、専門医との十分な相談をお勧めします。 参考文献 (文献1) 山口政弘ほか.「帯状疱疹後神経痛患者に対するプレガバリン投与の有効性および安全性」『日本ペインクリニック学会誌』17(2), pp.141-148, 2010年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/17/2/17_2_141/_article/-char/ja/ (最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 日本医薬情報センター「タリージェ錠 添付文書」PINS 新医薬品情報シート, 2024年改訂 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068931.pdf (最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) 医薬品医療機器総合機構「タリージェ適正使用ガイド(安全性編)」2024年 https://www.pmda.go.jp/RMP/www/430574/e561f5e0-9533-4e8b-97a9-699b95f21881/430574_1190026F1028_10_006RMPm.pdf (最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) 日本医薬情報センター「リリカカプセル 添付文書」PINS 新医薬品情報シート, 2024年改訂. https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066754.pdf (最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」2020年. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
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むち打ちは、交通事故などによって首に強い衝撃が加わることで生じる外傷です。 しびれや可動域の制限といった後遺症が残ると、日常生活に支障をきたす恐れも。 また、後遺障害の認定を得るのが困難な点も気になります。 本記事では、むち打ちによる後遺障害の特徴と認定のポイント、補償に関する基礎知識を詳しく解説します。 むち打ちの後遺症が気になっている方、万が一に備えて理解を深めたい方は参考にしてみてください。 むち打ちの後遺症とは むち打ちとは、交通事故などによる衝撃で首に大きな負荷がかかった際に発生する症状の総称です。 ケガの治療を続けて効果が認められなくなった段階を「症状固定」といいますが、症状固定後に残ってしまった症状を「後遺症」と呼びます。 以下のような症状が現れるのが一般的です。 首の痛み 可動域の制限 慢性的な肩こり 首周辺の神経や筋肉、靱帯に損傷が及ぶため首の症状が中心となりますが、以下のような症状を伴う場合もあります。 頭痛や吐き気 めまい 手足のしびれ 集中力の低下 睡眠障害 このように後遺症の出現には個人差があるため、適切な診断と継続的なフォローが大切です。 むち打ちについては、以下の記事でも詳しく解説しています。 むち打ちの分類 むち打ちの分類は、損傷部位や症状の違いに基づき5つの型に分かれます。 症状への対処法や治療方針を明確にするためにも、それぞれの特徴を押さえておきましょう。 頚椎捻挫型 筋肉や靱帯が損傷する、むち打ちでもっとも頻度が高いタイプです。 首や肩の違和感、可動域の制限が主な症状で、多くは数週間で症状の軽減がみられます。 神経根症状型 神経の根元が圧迫されて腕のしびれや筋力低下などが見られるタイプです。 一般的に頚椎を後ろへそらせると症状が強くなり、上肢の筋力低下や感覚の障害が生じるケースがあります。 バレー・リュー症状型 めまいや耳鳴り、吐き気などの多彩な症状が現れるとされるタイプです。 従来は自律神経の障害が原因とされてきましたが、発生原因については定説が確立されておらず、心因性の影響も考えられることから現在では医学的な位置づけについて議論が続いています。(文献1) 根症状+バレー・リュー型 前述の神経根と自律神経の障害が同時に見られる複合型です。症状が複雑で、重症化しやすい傾向があります。 脊髄症状型 もっとも重篤になりやすいタイプです。脊髄が損傷を受けることで、手足の麻痺や歩行障害などを引き起こします。 むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイント むち打ちで後遺障害等級を得るには、単に症状が残るだけでは不十分です。 本章では、むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイントを解説します。 後遺障害12級・14級の認定基準のクリア 後遺障害は、以下の第12級13号と第14級9号のいずれかに該当することで認定対象となります。(文献2) 等級 後遺障害 第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 第14級9号 局部に神経症状を残すもの 14級の認定には、自覚症状と医学的説明が必要です。 12級は、自覚症状と医学的説明に加えて画像所見や神経学的検査に基づく他覚的所見が求められます。 6カ月以上の継続治療と適切な通院 後遺障害認定においては少なくとも6カ月以上、首の違和感・しびれなどの症状が継続し治療を受けた履歴が重視されます。 通常、症状固定には3カ月ほどの通院が必要ですが、神経症状の場合は6カ月以上の通院の蓄積が後遺障害認定においては必要です。 また、整形外科などへ事故直後から定期的に通院し、治療計画や経過観察が医師のカルテに記録されていなければなりません。 自己判断で通院を中止した、整骨院のみに通院したといった記録は評価されにくく、認定に不利に働く場合があります。 むち打ちの後遺障害等級に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。 後遺症を証明できる検査の受診 むち打ちの後遺症は外見ではわかりにくいため、以下のような客観的な検査のデータが重要です。 MRI検査:軟部組織や神経の損傷を画像化 神経伝導速度検査(NCS):神経機能の異常を数値で評価 筋電図検査(EMG):神経や筋肉の活動を記録し、損傷カ所を特定 MRIやCTは筋肉や骨の状態を確認でき、神経伝導速度検査ではしびれや神経症状の医学的裏付けが可能です。 後遺障害として認定されるには、画像所見と検査結果が一致している必要があります。 また、他覚的所見として腱反射の異常や可動域制限、触診結果などの記録も必要です。 症状の常時性・一貫性・継続性の明確な伝達 後遺症の認定では、症状の「常時性」「一貫性」「継続性」が重要視されます。 これらが確認できないと、自覚症状が一時的なものであると判断され、等級認定が否定される可能性があるため注意が必要です。 常時性:症状が時間帯や天候にかかわらず、持続的に存在している 一貫性:医師への訴えや診療記録で、同様の症状が継続して述べられている 継続性:初診から認定申請まで、長期間にわたって症状が変化せず続いている これらの証明には毎回の通院時に同じ症状を訴え、診療録に反映してもらわなければなりません。 また、日常生活での困難さを定期的にメモし、医師に伝える習慣を心がけることも大切です。 たとえば「朝起きた瞬間から首がしびれ、日中も不快感が途切れない」、あるいは「症状は常に存在するが、雨の日や長時間のパソコン作業中には症状がより悪くなる」のように伝えましょう。 自覚症状による仕事や生活への影響の主張 むち打ちの後遺障害認定では自覚症状だけでなく、症状が日常生活や業務にどのような影響を与えているかを明確に主張することが求められます。 単なる「首の状態が悪い」「手がしびれる」といった訴えでは、認定の根拠としては不十分です。 具体的には、以下のような実例が有効とされています。 仕事を休んだ日数や早退・遅刻の記録 家事や育児が困難になった内容と頻度 通院のために必要となった介助や移動支援 生活の質(QOL)が低下したと説明できる項目 これらの内容を具体的なエピソードと共に記録し、医師の診断書や陳述書に反映してもらえれば、後遺障害の等級認定に向けた説得力を高められます。 「被害者請求」による申請と追加書類の添付 後遺障害等級の認定申請には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があり、むち打ちのような自覚症状が中心となる場合には被害者請求を選ぶ方が多くなっています。 なぜなら、自ら必要な資料を整えた上で提出できるため、医学的証拠の補強や意図した主張が可能になるからです。 後遺障害の申請方法 事前認定 加害者側の保険会社に手続きを一任する 被害者請求 被害者が自ら手続きを行う 被害者請求を行うには、以下のような書類が必要です。 後遺障害診断書(医師作成) 医療記録・診療報酬明細書 検査画像(MRI・レントゲン等) 通院状況を示す書類 事故証明・診断書・陳述書 上記の資料の内容に不備がないよう医師と連携して準備すれば、後遺障害認定の可能性を高められます。 むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しい理由 むち打ちで後遺症の認定を受けるのは、多くの被害者にとって困難な課題です。 ここでは、むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しいとされる、代表的な4つの理由を解説します。 後遺症による影響を客観的に証明しにくいから むち打ちはレントゲンやMRIなどに異常が映らないケースが多く、自覚症状だけでは後遺障害として証明しにくい点が認定を困難にしている理由の一つです。 たとえば、しびれのような主観的症状は他覚的所見に乏しく、「医学的根拠がない」と見なされる可能性があります。 したがって、画像所見や神経学的検査など可視化できる客観的な資料を揃えて証明することが重要です。 画像所見に基づかない訴えだけでは、後遺症の存在を立証するには不十分となるケースがある点に留意しておきましょう。 交通事故と後遺症の因果関係を証明しにくいから むち打ちは衝撃の強さに比例せずに症状が出る場合があるため、事故との因果関係を疑われやすい点も認定されにくい理由です。 また、発症が事故直後ではなく数日後のケースもあり、「事故によるものとは言えない」と判断される場合もあります。 事故後は症状の有無にかかわらず早期に受診し、医師に事故との関係性を丁寧に説明することが大切です。 また、車にドライブレコーダーを設置するなど、他の証拠も提示できるようにしておくと良いでしょう。 短期間で治療が終わりやすいから むち打ちでは痛みが一時的に軽減することも多く、通院をやめてしまうケースがあります。 しかし、治療期間が短いと後遺症が固定化していると認められにくくなるため、注意しましょう。 後遺障害等級の認定には継続的な治療実績が条件となっており、短期での通院や間欠的な治療では「症状が軽い」と判断される恐れがあるのです。 月数回の安定した通院を最低6カ月以上は続ける必要があり、通院を中断すると症状が改善したとみなされる可能性があります。 症状固定と診断されるまで、医師の指示に従って治療を継続することが推奨されます。 整骨院や接骨院に通院してしまうから 整骨院・接骨院のみの通院では、医師による診断・画像検査・客観的所見が不十分となり、後遺障害等級の申請時に不利になる可能性があります。 柔道整復師による施術は医療行為ではないとみなされ、通院記録に医学的裏付けが乏しいと評価されてしまうのです。 整骨院での施術は、一般的に補助的治療としての扱いにとどまります。 後遺症の医学的証明を得るには、整形外科などの医療機関での治療が前提です。 整骨院と併用する際も、必ず医師の管理下で行うことが望まれます。 むち打ちで後遺症が残った場合の慰謝料・逸失利益 むち打ち後に後遺障害が認定された場合、以下3つの基準によって慰謝料が支払われます。 自賠責保険基準:自動車を運転する人に加入が義務づけられている強制保険で、賠償金がもっとも低い 任意保険基準:任意保険会社が独自に設けている損害賠償の基準で、金額は非公開となっている 弁護士基準:弁護士会の分析による「損害賠償額算定基準」で計算され、もっとも賠償金が高い 損害賠償金、保険金の具体的な金額は以下の通りです。 基準 第12等級 第14等級 自賠責保険基準 94万円 37万円 任意保険基準 非公開で不明だが、自賠責保険に少し上乗せした程度の金額とされている 弁護士基準 290万円 110万円 (文献3) さらに、後遺障害で被害者の方が失ってしまった、将来に渡って得られるはずの利益「後遺障害の逸失利益」も加害者側に請求でき、以下の計算式で算出します。 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 (文献4)(文献5) たとえば、年収450万円の方が第14級の後遺障害を認定されたケースでは、5年分の逸失利益は以下となります。 逸失利益:基礎収入450万円×労働能力喪失率5%×5年分(ライプニッツ係数4.58)=約103万円 なお、上記の金額はあくまで一例であり、実際の算定額は事案ごとに異なります。 まとめ|むち打ちの後遺症に適切に対応しよう むち打ちは一過性の症状にとどまらず、後遺症として長期的に影響が残ることがあります。 特に神経や自律神経が関与するタイプでは、頭痛やめまい、しびれなどが慢性化し、生活や仕事に深刻な支障を及ぼすことも少なくありません。 むち打ちを軽視せず、医師や専門家と連携しながら早期かつ計画的な対応を心がけることが、後悔しないための第一歩となります。 また、後遺障害の認定を受けるためには、医学的証拠の提出や症状の継続性の証明が不可欠です。 本記事の内容を参考に、早期の診断と計画的な対応で不安を取り除いていきましょう。 当院「リペアセルクリニック」ではPRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。再生医療について詳細は、当院へお気軽にご相談ください。 むち打ちの後遺症に関するよくある質問 ここでは、むち打ちの後遺症に関する2つのよくある質問に回答しています。 同様の疑問があるなら、解決しておきましょう。 むち打ちの後遺症が20年後も続く可能性はあるの? むち打ちによる後遺症は、必ずしも短期間で治癒するとは限りません。 個人差が大きく、中には数年から10年以上、さらには20年を経ても症状が続くケースも存在します。 症状が長期化する要因としては、以下のようなケースが考えられます。 事故の衝撃の強さ 初期治療の遅れ 治療の中断 神経への損傷の度合い とくに頑固な神経症状が残ると、慢性的なしびれや可動域制限が継続する可能性があります。 早期の適切な治療と専門医による診断、継続的なフォローアップが重要です。 むち打ちの後遺症の治し方は? むち打ちの診断では、まず問診と視診、触診を行い事故状況や症状の詳細を確認します。 必要に応じてX線やMRI、CTなどの画像診断が追加され、骨や神経の損傷有無を評価します。 治療の初期段階では、安静と鎮痛薬の使用が中心です。症状が強い場合には、頚椎カラーによる固定が用いられることもあります。 ただし、早めに首を積極的に動かす運動療法を取り入れたほうが、頚椎カラーによる固定よりも首の可動域などに改善が見られたとの報告もあります。(文献6) むち打ちの治療に関しては、症状や時期に応じて医師と相談しながら慎重に検討したほうが良いでしょう。 通常は急性期を過ぎると、首や肩の可動域を回復するための温熱療法・電気療法・牽引療法・運動療法といったリハビリが始まります。 検査方法 問診、視診、X線、MRI、CTなど 初期対応 初期対応:安静、鎮痛薬、必要に応じて頚椎カラー リハビリ 温熱療法、電気療法、牽引療法、運動療法 むち打ちの治療期間は、症状の程度や損傷の部位によって大きく異なります。 一般的には、軽症の場合で2〜3週間、中等症で1〜3か月です。ただし、重症になると6か月以上かかることもあります。 初期対応が不適切であったり、自己判断で通院をやめてしまったりすると、症状が慢性化するリスクが高まるため注意が必要です。 とくに治療中は、以下の点に注意する必要があります。 医師の指示に従い、通院と安静を継続すること 不快感が軽減しても無理に動かさないこと 精神的ストレスを避けるよう努めること 上記の点を守ることで、神経の炎症や筋肉の損傷が悪化せず、より早期の回復が見込めます。 症状が軽くても、油断せず継続的な治療と観察が重要です。 参考文献 (文献1) 日野一成.「(超低速度衝突)むち打ち損傷受傷疑義事案に対する一考察 ―工学的知見に対する再評価として―」『自動車技術会論文集』79(1), pp.159-186, 2017年 https://doi.org/10.24746/giiij.79.1_159(最終アクセス:2025年6月11日) (文献2) 国土交通省 「後遺障害等級表」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/common/data/toukyu.pdf(最終アクセス:2025年6月11日) (文献3) アディーレ法律事務所「後遺障害に対する賠償金(慰謝料)の相場と3つの支払基準」 https://www.ko2jiko.com/baishou/(最終アクセス:2025年6月11日) (文献4) 労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/sousitsu.pdf (最終アクセス:2025年6月11日) (文献5) 国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf (最終アクセス:2025年6月11日) (文献6) Mealy K, et al. (1986). Early mobilization of acute whiplash injuries. Br Med J (Clin Res Ed), 292(6521), pp.656-657. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3081211/(最終アクセス:2025年6月23日)
2025.06.30 -
- 脊椎
- 脊柱管狭窄症
- 脊椎、その他疾患
「肩から腕、指先にかけて、しびれやだるさを感じる」 「肩や腕に違和感があり、つらい」 その症状は頸椎椎間孔狭窄症と呼ばれる疾患の可能性があります。頸椎椎間孔狭窄症は、首の神経の通り道が狭くなることで腕や手に異常を引き起こす疾患です。症状が進行すると日常生活に影響が及ぶため、早期の対処が重要です。 本記事では、現役医師が、頸椎椎間孔狭窄症の原因や症状、治療法の全体像をわかりやすく解説します。また、記事の最後には、頸椎椎間孔狭窄症に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 頸椎椎間孔狭窄症とは 症状の分類 主な症状例 特徴や注意点 首・肩・肩甲骨の違和感 首の付け根や肩、肩甲骨周辺の鈍痛や重だるさ 姿勢や動作で悪化しやすい違和感。首の可動域制限や放散痛を伴うことも多い 腕や手のしびれ 指先まで広がる「ジンジン」「ピリピリ」「チクチク」などの感覚異常 神経根ごとに症状の出る場所が異なる。片側性が多く、麻痺感や焼けるような違和感もあり得る 筋力低下・脱力 握力低下、物を落とす、細かい作業の困難 神経の圧迫が続くことで起こる。日常動作に支障が出ることもある 感覚異常 触られても感覚が鈍い、熱さ冷たさがわかりにくい、アロディニア しびれとは異なる、感覚の異常。異痛症を訴えるケースもある 足の症状(稀) 歩行障害、排尿・排便障害、体幹のしびれ 脊髄圧迫を伴う重度例であり、早急な受診が必要 頸椎椎間孔狭窄症は、首の骨(頸椎)の間にある神経の通り道(椎間孔)が狭くなることで、神経が圧迫され、さまざまな症状が生じる疾患です。椎間孔は脊髄から分かれた神経が手や腕へ向かう重要な経路であり、そこが狭くなると、神経の流れが妨げられます。 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による骨や椎間板の変化が主な原因であり、長時間同じ姿勢を続ける習慣も悪化の要因です。足のしびれや排尿障害などがある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。 頸椎椎間孔狭窄症の症状 症状 詳細 首や肩の違和感 神経根の圧迫による神経刺激、周囲組織の炎症や緊張による不快感やこわばり、長時間同じ姿勢や首の動作で悪化 腕や手のしびれ・脱力感 神経根の圧迫によるしびれや感覚異常、筋力低下や脱力感、首の動作や同じ姿勢で悪化 足の症状(稀に発症) 椎間孔や脊柱管の高度な狭窄による脊髄圧迫。足のしびれ、脱力、歩行障害、排尿・排便障害。重症例で発症 頸椎椎間孔狭窄症は、神経根の圧迫により首や肩の違和感や腕のしびれ、筋力低下が生じる疾患です。 まれに脊髄まで圧迫されると、足のしびれやふらつき、排尿・排便障害といった重い症状が出ることがあります。症状が悪化する前に、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 首や肩の違和感 原因 詳細 神経根の圧迫による神経刺激 狭くなった椎間孔で神経根が圧迫され、局所的な違和感や不快感が生じる状態 周囲組織の炎症や緊張 筋肉や靭帯の炎症・緊張によるこわばりや違和感。長時間同じ姿勢や動作によって悪化する傾向 頸椎椎間孔狭窄症では、最初に首や肩に軽いこわばりや違和感を覚えることがあります。この症状は、神経が圧迫されはじめているサインであり、無理な姿勢や長時間の同一姿勢によって悪化しやすい傾向があります。 とくに、振り返る動作や上を向く姿勢で違和感が強まる場合は、神経への負担が強くなっている可能性があるため注意が必要です。気になる症状がある場合は、できるだけ早く医師に相談しましょう。 以下の記事では、右肩(左肩)がズキズキする症状について詳しく解説しています。 腕や手のしびれ・脱力感 症状 詳細 しびれや感覚異常 神経根の圧迫による腕や手のしびれ、チクチク感。感覚の鈍さや違和感の出現 筋力低下や脱力感 圧迫が進行すると腕や手の筋力低下、物を持つ力の低下。細かい作業や動作の困難 違和感の悪化 首を後ろに反らせる、長時間同じ姿勢で症状が悪化 神経の圧迫が進行すると、腕や手にしびれや力の入りにくさが現れます。しびれは片側に出ることが多く、親指から中指、または薬指にかけて広がることもあるのが特徴です。 物を落としやすくなるなど日常動作に支障をきたす場合は、神経の損傷が進行している可能性があるため、症状が続くようであれば、医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、手足のしびれについて詳しく解説しています。 足の症状(稀に発症) 特別なケース 詳細 椎間孔・脊柱管の高度狭窄 神経根だけでなく脊髄自体も圧迫。頸椎脊髄症の合併。足のしびれ、脱力、歩行障害、排尿・排便障害の出現 骨変形や椎間板膨隆の合併 骨棘や椎間板の膨隆で脊髄の通り道(脊柱管)が狭くなり、脊髄自体が圧迫。足の運動・感覚異常、巧緻運動 頸椎椎間孔狭窄症では、神経根の圧迫によって主に腕や手に症状が現れます。しかし、狭窄が高度になり、脊髄を通る脊柱管全体が狭くなると、脊髄そのものが圧迫される、頸椎脊髄症を合併するケースがあります。 このような場合、足のしびれやふらつき、小走りしにくいといった歩行障害に加え、尿が出にくい、頻尿、尿失禁、便秘などの排尿・排便障害が生じることがあります。これらは重症のサインであり、早急な医療機関での受診と精密検査が必要です。 頸椎椎間孔狭窄症の原因 原因 内容 加齢と身体の変性 年齢とともに椎間板の変性や骨の変形、靭帯の肥厚が進行し椎間孔が狭くなる。自然な老化現象で個人差あり 椎間板ヘルニア 椎間板の髄核が外へ飛び出し神経を圧迫。急な首の違和感やしびれ。若年層にも発症しやすい 生活習慣や外的要因 長時間の前傾姿勢、運動不足、重い荷物、交通事故や転倒などによる頸椎への慢性的な負担や外傷 先天的な要因 生まれつき椎間孔が狭い体質。若年でのしびれや脱力の原因。家族歴も考慮し総合的な評価が必要 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による椎間板や骨、靭帯の変性が主な原因です。椎間板ヘルニアや長時間の前傾姿勢、重い荷物の持ち運び、事故などの外傷も発症の一因となります。 また、生まれつき椎間孔が狭い体質の方もおり、若い方でも症状が現れることがあります。どの原因でも、早期発見と適切な治療が重要です。 加齢と身体の変性によるもの 主な要因 内容 椎間板の変性 加齢により椎間板の水分が減少し弾力性が低下。椎間板が潰れて椎間孔が狭くなり、神経根の圧迫を招く 骨棘(こつきょく)の形成 椎間板や関節の摩耗で椎体の縁に骨棘ができ、椎間孔を狭くし神経根を圧迫。違和感やしびれの原因となる 黄色靭帯の肥厚 加齢やストレスで黄色靭帯が厚くなり、椎間孔内に突出。神経根を圧迫し症状を引き起こす 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢により椎間板の変性や骨棘の形成、靭帯の肥厚が進むことで神経の通り道が狭くなり、首や腕に違和感やしびれが生じる疾患です。 これらは中高年に多くみられる自然な変化ですが、姿勢不良や喫煙、首への過度な負担が進行を早めるため、早期の予防と対策が重要です。 椎間板ヘルニア メカニズム・原因 内容 椎間板ヘルニアの発生機序 椎間板の髄核が線維輪を破って飛び出し、神経根を直接圧迫。椎間孔内のスペースが狭くなり症状を誘発 炎症反応の関与 飛び出した髄核による炎症で神経周囲が腫れ、違和感やしびれを助長 よく見られる症状 腕や手のしびれ・違和感、指先の感覚異常や筋力低下、巧緻障害。首を後ろに反らすと症状悪化しやすい 加齢変性との違い 加齢変性は中高年に多く進行は緩徐。骨棘や靭帯肥厚が特徴。椎間板ヘルニアは若年~中年にも発症、急激な症状 椎間板ヘルニアは、椎間板の中心部(髄核)が外に飛び出し、神経根や脊髄を直接圧迫することで、頸椎椎間孔狭窄症と同じような腕や手のしびれ・違和感、筋力低下などの症状を引き起こします。 加齢による変性は進行がゆっくりで中高年に多いのに対し、椎間板ヘルニアは若い方にも起こりやすく、急に強い症状が出るのが特徴です。症状が続く場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。 以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を詳しく解説しています。 生活習慣や外的要因 頸椎椎間孔狭窄症は、加齢による椎間板や骨、靭帯の変性だけでなく、日常生活や仕事、スポーツによる首への負担や外傷、喫煙習慣なども発症の大きな要因です。 交通事故や転倒などの強い衝撃、長時間の悪い姿勢、重い荷物の持ち運び、同じ動作の繰り返しなどは、頸椎にストレスを与え椎間孔の狭窄を進めます。喫煙も椎間板や骨、靭帯の栄養を低下させ、変性を促進します。 これらの生活習慣や外的要因を見直し、適切な姿勢や禁煙を心がけることが予防や進行抑制につながります。症状が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。 先天的な要因 頸椎椎間孔狭窄症は、先天的な要因によっても発症するケースもあります。生まれつき椎間孔が狭い体質の方は、神経の通り道がもともと限られているため、わずかな骨の変形や椎間板の膨らみでも神経が圧迫されやすくなります。 椎骨の形態異常や脊柱の発育異常も、椎間孔の形や大きさに影響を与える要因です。このような先天的な特徴に加え、加齢や外傷、生活習慣の影響が重なることで症状が出やすくなります。とくに若い年代で原因不明のしびれや脱力がある場合は、先天的な狭小化が疑われるため、家族歴も含めた専門的な評価が必要です。 頸椎椎間孔狭窄症の治療法 治療法 詳細 薬物療法 神経の炎症を抑え、違和感やしびれを軽減。消炎鎮痛薬、神経痛治療薬、筋弛緩薬、ビタミン剤などを使用 理学療法(リハビリ) 筋力強化や柔軟性向上、姿勢改善、血流促進を目的にストレッチや運動、温熱療法を実施。症状の緩和と再発防止に有効 神経ブロック注射 神経の違和感や炎症を局所麻酔とステロイドで直接抑制ができ、即効性も見込める 手術療法 保存療法で改善しない場合に検討。神経の圧迫を取り除くため、椎間孔拡大術や椎弓形成術などが行われる 再生医療 幹細胞を用いて神経の修復を促す新しい治療法。手術に比べて身体への負担が少なく、保存療法が無効な場合の選択肢となりうる 頸椎椎間孔狭窄症の治療は段階を追って進められます。まずは薬で炎症や違和感を抑え、リハビリによって筋力や姿勢を整えます。 症状が強い場合には、神経ブロック注射によって一時的に違和感やしびれを緩和できます。これらの保存療法で効果が不十分な場合は、神経の圧迫を取り除く手術の検討が必要です。また、近年では再生医療も、手術以外の新たな選択肢として注目されています。 薬物療法 薬の種類 内容 消炎鎮痛薬(NSAIDs) 違和感や炎症の緩和。ロキソプロフェンやセレコキシブなどの飲み薬や湿布を使用 神経障害性疼痛治療薬 神経痛やしびれの軽減。プレガバリン、デュロキセチンなどを少量から段階的に服用 筋弛緩薬 筋肉の緊張緩和と血流促進。エペリゾンやチザニジンなどを使用 ビタミンB群製剤 神経機能の維持や修復。メコバラミンなどを使用。神経回復をサポート ステロイド薬(内服・注射) 強力な抗炎症作用。急性期の違和感や炎症に短期間使用されることが多い 薬物療法は、頸椎椎間孔狭窄症による違和感やしびれ、筋肉の緊張を和らげるのに有効です。違和感やしびれを緩和するために、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬が処方されます。症状の程度によっては神経の炎症を鎮める治療が行われることもあります。 薬物療法はあくまで一時的な対処であり、根本的な改善にはほかの治療と併用するのが一般的です。副作用や効果の持続性を考慮しながら、医師の指導のもと行われます。 理学療法(リハビリテーション) 目的 内容 筋力の強化・柔軟性向上 首や肩、背中の筋肉を鍛え、柔軟性を高めることで頸椎への負担を軽減。再発予防にも有効 姿勢の改善 正しい姿勢を維持することで椎間孔への圧迫を減らし、神経への負担を軽減 血流の促進 適切な運動や温熱療法で血流を改善し、組織の修復や炎症の軽減を促進 具体的な施策 ストレッチや筋力トレーニング、姿勢指導、温熱療法などを理学療法士が個別にプログラムし指導 (文献1) 首や肩の筋肉を柔軟に保ち、神経への圧迫を軽減するために行われます。ストレッチや軽い運動療法、温熱療法などが組み合わされることが多く、継続することで徐々に症状の緩和が期待できます。 また、正しいリハビリの継続は頸椎椎間孔狭窄症の再発防止にも有効です。個々の症状に応じてプログラムが組まれるため、医師の指導のもとで実施されます。 神経ブロック注射 種類 内容 神経根ブロック 圧迫された神経根の周囲に麻酔薬とステロイドを注射。腕や手の強い違和感やしびれに有効 硬膜外ブロック 脊髄周囲の空間に薬剤を注入。広範囲に作用し、首・肩・腕の広い範囲の症状に対応可能 トリガーポイント注射 筋肉の硬結部に麻酔薬を注射。筋緊張や血行不良による首・肩の違和感を改善するのに有効 神経ブロック注射は、頸椎椎間孔狭窄症による強い違和感やしびれを一時的に緩和する有効な方法です。比較的即効性があり、症状が強い場合に短期的な緩和を目的として実施されます。 ただし、神経ブロック注射は根本的な治療ではないため、繰り返しの使用には限度があり、通常は他の治療と併用して行われます。また、血圧の低下やめまいなどの副作用が起こる可能性もあるため、実施にあたっては医師と十分に相談した上での判断が大切です。 手術療法 手術法 詳細 内視鏡下頚椎椎間孔拡大術(MECF) 小さな切開から内視鏡を用いて椎間孔を拡大し、神経の圧迫を解除。筋肉や骨への負担が少なく、回復が早い 頚椎前方除圧固定術(ACDF) 首の前方から椎間板や骨棘を除去し、神経の圧迫を解除して椎体を固定。神経圧迫の解除と症状改善が期待できる場合に適応 頚椎椎弓形成術 首の後方から椎弓を形成し、脊柱管を拡大して神経の圧迫を解除。脊髄症状がある場合に適応 頸椎椎間孔狭窄症の手術療法は、保存的治療で効果が得られない場合や、症状が重く日常生活に支障がある場合に検討されます。手術は神経の圧迫を直接解除し、症状の改善や進行防止が期待できます。 代表的な方法には、内視鏡下椎間孔拡大術、前方除圧固定術、後方椎弓形成術があり、症状や状態に応じて選択されるのが特徴です。ただし、手術には感染や出血、神経損傷などのリスクもあるため、十分な説明を受けた上で慎重な判断が求められます。 再生医療 有効性の理由 内容 神経の再生と修復を促進 幹細胞を用いて損傷した神経組織の再生・修復を目指す。脊髄腔内ダイレクト注射療法で損傷部位へ直接作用 身体への負担が少ない 注射や点滴が中心で手術に比べて身体への負担が少ない。自分の細胞を使うため拒絶反応のリスクも低減 新たな治療選択肢の提供 手術や保存療法で効果が得られない場合にも適応可能。慢性的な違和感やしびれの改善を目指す新しい選択肢 再生医療は、手術や保存療法で効果が不十分だった場合の選択肢のひとつです。注射や点滴で幹細胞を直接損傷部位に届け、神経の再生・修復を促すことで、症状の改善が期待できます。 低侵襲であり、自家細胞使用により拒絶反応のリスクも小さいのも利点です。ただし、効果には個人差があり、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。 再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、検討する際は事前に対応可能な施設を確認し、治療を希望する場合は医師と十分に相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 頸椎椎間孔狭窄症の再発防止策 再発防止 詳細 日常姿勢の見直し 首への負担を避ける姿勢の工夫と寝具の見直し 過度な負荷を避ける 重い荷物の回避と衝撃予防、柔軟性維持のための運動習慣化 体重管理・生活習慣の改善 適正体重の維持と生活習慣の改善による首への負担軽減 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、正しい姿勢の維持や無理のない動作、適度な運動、体重管理を含む生活習慣の改善が欠かせません。 これらの対策は、自己判断で行うのではなく、医師の指導のもとで実践することが再発防止において大切です。 日常姿勢の見直し 項目 詳細 正しい立ち姿勢の維持 頭をまっすぐ引き上げ、あごを軽く引く。肩の力を抜き、腹部に力を入れて背筋を伸ばす姿勢の意識 正しい座り姿勢の実践 浅く座って背もたれに寄りかかる。膝は股関節よりやや高く、足組みは長時間継続しないこと 長時間の同一姿勢を回避 1時間に1回の休憩とストレッチ。首を前に突き出す姿勢の回避と、適度な姿勢変化の実践 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、日常の姿勢を見直すことが重要です。前かがみや猫背などの悪い姿勢は、頸椎の自然なカーブを崩し、椎間孔を狭めて神経を圧迫しやすくなります。 正しい立ち方や座り方を意識し、長時間同じ姿勢を避けてストレッチを取り入れることで、首への負担を軽減できます。症状の再発を防ぐためにも、姿勢改善を継続し、異変を感じた際は早めに医師へ相談しましょう。 過度な負荷を避ける 頸椎椎間孔狭窄症の改善や再発予防には、首に過度な負荷をかけないことが重要です。椎間孔が狭くなると神経が圧迫され、首や肩、腕に違和感やしびれが生じやすくなります。長時間同じ姿勢を続けると頸椎に負担がかかり、症状の悪化や再発を招く原因となります。 重い物を持つ際は、腰を落として膝を曲げ、首に負担がかからない姿勢を意識しましょう。また、ストレッチや軽い運動を習慣づけることで筋肉や靭帯の柔軟性が保たれ、頸椎への負担軽減につながります。再発防止には、姿勢の見直しを継続し、症状が現れたときは医師に相談しましょう。 体重管理・生活習慣の改善 取り組み 詳細 頸椎への負担軽減 適正体重の維持により、首や肩への物理的な負担を軽減 血流の改善 運動とバランスの取れた食事で血流を促進し、神経や椎間板への栄養供給を改善 筋力の維持・強化 首・肩周辺の筋肉を鍛え、頸椎の安定性を向上させ、姿勢保持力の強化に寄与 姿勢の改善 正しい座り方と長時間同じ姿勢を避ける工夫で、頸椎への継続的な負荷を予防 適度な運動の習慣化 ウォーキングや水中運動など、無理なく継続できる軽めの運動による全身の血流と筋力維持 ストレッチの導入 首や肩甲骨周辺のストレッチで柔軟性を高め、筋肉のこわばりを防止 頸椎椎間孔狭窄症の再発を防ぐには、体重管理と生活習慣の見直しが不可欠です。体重が増えると首への負担が増し、狭窄の進行を助長します。適正体重の維持と正しい姿勢の意識、定期的なストレッチや軽い運動は、頸椎への負担を減らし、血流や神経機能の改善にもつながります。 とくにウォーキングや水中運動は関節に優しく、継続しやすい方法です。無理のない範囲で取り組み、身体の違和感が強い場合は運動を中止し、医療機関を受診しましょう。 頸椎椎間孔狭窄症が疑われる場合は迷わず医療機関へ 腕や手のしびれが続く場合や、首を動かしたときに違和感がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。 頸椎椎間孔狭窄症は、早期に発見すれば適切な治療を開始でき、症状の悪化を防止できます。放置すると悪化し、日常生活に支障をきたす恐れがあるため、注意が必要です。 当院「リペアセルクリニック」では、頸椎椎間孔狭窄症に対して幹細胞を用いた再生医療を提供しています。手術を行わずに症状の改善が期待でき、拒絶反応のリスクが低く、身体への負担が少ない点が特徴です。 頸椎椎間孔狭窄症が疑われる方は、どうぞお気軽にご相談ください。ちょっとしたお悩みや不安にも丁寧に耳を傾け、改善に向けた適切なアドバイスをさせていただきます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。 頸椎椎間孔狭窄症に関するよくある質問 頸椎椎間孔狭窄症は放置するとどうなりますか? 頸椎椎間孔狭窄症は放置すると、しびれが悪化し、腕の動かしにくさや筋力低下が進行する可能性があります。さらに進行すると、歩行困難や排尿障害などを引き起こすこともあり、日常生活に大きな支障が出ることがあります。重症化を防ぐには早期の対処が不可欠です。 頸椎椎間孔狭窄症は自然に治ることはありますか? 頸椎椎間孔狭窄症は、症状の原因や進行度によって適切な対応が異なります。しびれや違和感が長引く、または悪化している場合は、放置せず早めの受診が重要です。 頸椎椎間孔狭窄症の改善に手術は必須ですか? 頸椎椎間孔狭窄症は、多くの場合、薬やリハビリなどの保存療法で改善が見込まれます。手術が必要になるのは、これらの治療で効果が不十分な場合です。ただし、保存療法で十分な効果が得られず、違和感やしびれが続く場合や、筋力低下・歩行障害などの神経症状が進行している場合は、手術が検討されます。 参考資料 (文献1) 森山 知美.「腰部脊柱管狭窄症の椎間孔狭窄が起こる機械的要因を分析し 理学療法を行った1例」『理学療法の科学と研究 Vol. 3 No. 1 2012』, pp.1-4, 2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/srpt/3/1/3_3_27/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年06月11日)
2025.06.29 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
「脊髄損傷でも歩ける可能性はある?」「脊髄損傷で治療を受けていれば歩ける?」 上記のように、脊髄損傷でも歩けるようになるのか気になっている方もいるでしょう。脊髄損傷とは「脊髄」と呼ばれる部分が損傷する状態を指します。 本記事では、脊髄損傷と歩行の関係性を紹介します。レベル別の症状や治療法なども解説しているので、興味がある方はぜひご覧ください。 【結論】脊髄損傷でも歩ける可能性はある 結論からお伝えすると、脊髄損傷になっても歩ける可能性はあります。人間が歩行するには、筋肉がリズミカルに動かなくてはなりません。脊髄が損傷すると、全身の筋肉が協調的に動かなくなってしまいます。 対して、歩行に関するリハビリテーションを続けると、麻痺した筋肉の機能が部分的に回復する可能性があります。軽度の麻痺であれば、適切なリハビリテーションにより歩行機能の回復が期待できるのです。 脊髄損傷と歩行の関係性 脊髄損傷で歩行を再開するには、脊髄損傷の程度により異なります。なかでも、脊髄損傷には、完全損傷と不完全損傷があります。 ここでは、脊髄損傷と歩行の可能性を詳しく見ていきましょう。 完全損傷|歩ける可能性は極めて低い 脊髄損傷のなかでも完全損傷は、脊髄の機能が完全に失われ、歩ける可能性は極めて低い状態を指します。脳からの命令が届かないだけでなく、脳へ命令を送ることもできなくなります。そのため、感覚知覚機能も失われるのが完全損傷の特徴です。 しかし、感覚知覚機能が失われるからといって、痛みを全く感じなくなるわけではありません。怪我をした部位より下の麻痺した部分には、痛みや異常な感覚を覚えます。 不完全損傷|歩ける可能性がある 不完全損傷とは、脊髄の一部の機能が損傷した状態であり、歩ける可能性があります。感覚知覚機能が残った重度の人もいれば、軽度の運動機能が残った状態の人もおり、症状は人によって異なります。 受傷してから6カ月以内に適切なリハビリや治療を受ければ、歩行の回復が見込まれるケースもあるため、できるだけ早めの対処が大切です。 脊髄損傷のレベル別の症状 脊髄損傷はレベル分けがされており、レベルによって症状が異なります。ここでは、脊髄損傷のレベル別の症状を紹介します。 頚髄損傷(C1-C8) 頚髄損傷は、脊髄損傷のなかで最も深刻な症状を引き起こします。C1からC8までレベルがあり、各レベルによって引き起こされる症状は異なります。 レベル 症状 C1〜C4 ・呼吸機能に障害が出る ・全身麻痺に加え、話したり首から下の動きだったりが制限される C5 ・肩と肘の動きは可能だが、手首以外の動きは制限される ・自力での食事は不可能 C6 ・手首の伸展は可能 ・精密な手首の伸展は不可能なものの、日常生活の多くで介助が必要 C7 ・肘の伸展が可能になり、多くの自立が可能 ・精密な動きはできないため、日常タスクの一部で介助が必要 C8 ・手足の一部の動きが可能 ・食事や筆記などが可能になるが、一部は支援が必要 多くのレベルで日常生活の制限を受けるため、介助や支援が必要になります。またリハビリテーションには、個々のニーズに合わせたアプローチが必要不可欠です 胸髄損傷(T1-T12) 胸髄損傷は、胸部にある脊髄が損傷する状態を指します。体幹や下肢の機能に影響を与え、レベルごとの症状は以下の通りです。 レベル 症状 T1-T6 ・上半身の筋力が低下する ・体幹の制御が困難になり、座位を保つのが難しくなる ・長時間座位を維持するには、サポートが必要 T7-T12 ・体幹機能が損なわれ、立位や歩行が困難になる ・車椅子を使用した生活が一般的 胸髄損傷は、リハビリテーションを行い、できるだけ患者が自立した生活を送れるようサポートをします。家族や専門家のサポートが必要不可欠です。 腰髄損傷(L1-S5) 腰髄損傷(仙髄損傷)は、主に下半身に影響をもたらします。レベルごとの症状を見ていきましょう。 レベル 症状 L1-L2 ・腰から下の機能が失われ、歩行困難になる ・下半身に痛みやしびれが生じる可能性もある L3-L5 ・足首の運動に制限がかかるものの、膝の制御が部分的に可能 ・リハビリテーションが必要だが、装具を用いた歩行が可能になるケースもある S1-S5 ・膀胱と直腸の機能に影響を与え、排泄管理が必要 ・足の裏や会陰部の感覚障害がみられる可能性もある リハビリテーションをして、機能回復や生活の質の向上を目指します。 歩けるようになるまでのステップ|脊髄損傷の治療法 脊髄損傷で歩けるようになるには、適切な治療を受けなくてはなりません。適切な治療は、急性期と慢性期によって異なります。 急性期では、脊髄を固定したり、生命維持を優先したりするのが一般的です。一方で、慢性期では症状の程度に応じて、長期的な視点を持ち治療を進めます。それぞれの主な治療法は、以下の通りです。 急性期 慢性期 ・ギプスや装具固定 ・ステロイド治療 ・リハビリテーション ・抗生物質の投与 ・ビタミン剤の投与 ・放射線治療 ・外科手術 脊髄損傷の治療法について詳しく知りたい方は、以下記事もご覧ください。 脊髄損傷で歩けるようになるには再生医療も選択肢のひとつ 脊髄損傷の治療法は、ステロイド治療や放射線治療だけでなく、再生医療も選択肢にあげられます。脊髄損傷の再生医療は、骨髄由来の幹細胞や脂肪由来の幹細胞を使用します。脊髄損傷の治療法をお探しの方は、再生医療も視野に入れてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、脊髄損傷の再生医療を提供しています。詳しくは、以下からお問い合わせください。 脊髄損傷と歩行の関係性を知って治療に挑もう 脊髄損傷は、損傷の程度によっては歩けるようになる可能性があります。受傷後に歩けるようになるには、適切なリハビリテーションや治療を受けることが大切です。また慢性期の治療法は、放射線治療や外科手術があげられますが、近年では再生医療も選択肢の1つになっています。 脊髄損傷の治療法をお探しの方は、再生医療を検討してみてはいかがでしょうか。再生医療に興味がある方は、ぜひ一度リペアセルクリニックにご相談ください。
2025.05.30 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
軽度の脊髄損傷と診断され、「後遺症は残るのか」と不安を抱えている方もいるでしょう。損傷レベルが軽度でも、早期の治療や継続的なケアが回復の程度や後遺症の有無に影響します。 本記事では、軽度の脊髄損傷に関する症状や原因、治療法をわかりやすく解説します。後遺症が出る可能性についても触れているので、ぜひ参考にしてください。 脊髄損傷とは 脊髄損傷とは、脳からの指令を体に伝える脊髄が外傷や病気などで損傷を受けた状態を指します。交通事故や転倒といった外傷が主な原因です。 脊髄は、背骨(脊椎)に保護されるかたちで脳幹の直下からみぞおちの下あたりまで伸びています。脊髄は部位ごとに区別されており、損傷した場所によって症状の現れ方が異なります。 脊髄の部位と損傷した際の主な症状例は以下の通りです。 部位 損傷部位の位置 主な症状の例 頚髄(C) 首のあたり(C1~C8) 両腕と両脚の麻痺(全身麻痺の可能性もある) 呼吸障害の可能性もある 胸髄(T) 首の下~胸のあたり(T1~T12) 下半身麻痺 体幹の感覚障害 腰髄(L) 腰まわり(L1~L5) 両脚の麻痺やしびれ 排泄機能の障害 仙髄(S) お尻の上~尾てい骨あたり(S1~S5) 排泄機能の障害 会陰部の感覚障害 表の通り、損傷部位によって運動機能や感覚、自律神経機能に障害が生じます。上部の脊髄を損傷するほど症状が重くなる傾向があり、損傷の程度によっても体への影響や回復の見込みには差があります。 軽度な脊髄損傷の症状 軽度な脊髄損傷では、しびれや麻痺、運動障害などの症状が現れます。以下でそれぞれの症状について詳しく見ていきましょう。 しびれや麻痺 脊髄損傷した部位により、軽度なしびれや麻痺の症状が出るケースは珍しくありません。脊髄は運動や感覚をつかさどる神経が集中しているため、軽度の損傷でも症状が現れる可能性があります。 基本的な動作はできるものの、細かい作業に支障をきたしたり動きによってはスピードが遅くなったりする場合があります。 しびれや麻痺の程度によっては、仕事や家事などの日常生活に影響を与えるため、適切な対応が重要です。 運動障害 軽度の脊髄損傷では、歩行や手の動きなどに支障をきたすケースもあります。脊髄の損傷により、神経の伝達がうまくいかず、筋肉が正確に動かせなくなるためです。 たとえば、足に力が入りづらく階段の昇り降りでふらついてしまう、体のバランスがとりにくいなどの症状が見られます。 運動機能の低下は見落とされやすいものの、放置すると悪化するリスクがあるため、早期の診断と必要に応じたケアが重要です。 感覚障害 軽度な脊髄損傷でも、触覚や温度、痛みなどの感覚に異常が出るケースも少なくありません。脊髄の損傷によって、感覚の伝達が鈍くなります。 手や足に触れても感覚が弱く感じる、冷たいものや熱いものに気づきにくいといった症状が一例です。 感覚の異常は日常生活のなかでも思わぬケガややけどの原因につながりかねないため、注意しましょう。 自律神経障害 自律神経の働きが乱れることも、軽度な脊髄損傷の症状の一つです。自律神経は、血圧・体温・排泄・発汗など体の機能を無意識に調整しているため、脊髄の損傷でバランスが崩れる可能性があります。 たとえば、異常に汗をかく、身体が冷えやすくなる、排尿の感覚があいまいになるといった症状が現れるケースも珍しくありません。一方で、汗をかきにくくなるケースもあり、体の中に熱がこもって熱中症のような症状が出る場合もあるため注意が必要です。 自律神経の乱れは症状があいまいなため、軽視されやすい傾向にあります。しかし、放置すると慢性的な体調不良につながる恐れがあるため、違和感を覚えたら早めに医療機関を受診しましょう。 脊髄損傷の症状については以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。 軽度な脊髄損傷の原因 軽度な脊髄損傷の原因は、外的要因がほとんどです。脊髄は背骨(脊柱)に守られているものの、転倒や交通事故などで、脊柱の骨折や脱臼により圧迫されたり損傷したりする可能性があります。 交通事故以外にも、高齢者が転倒して腰や背中を強く打った場合やスポーツ中の衝突などで、軽度の脊髄損傷を負うケースも少なくありません。とくに、加齢により骨が弱くなっている場合は、見た目は軽い転倒でも脊髄を損傷している恐れがあるため注意が必要です。 強い痛みがない場合でも、神経が傷ついている可能性があります。軽度なうちに適切な処置を受けるためにも初動が大切です。 脊髄損傷の原因について詳しく知りたい方は、以下の記事でも解説しているので、参考にしてください。 軽度な脊髄損傷の診断方法 軽度な脊髄損傷は、以下の診断方法が一般的です。脊髄損傷は部位や神経への影響によって、症状が異なるため正確な判断が求められます。 診断方法 内容・目的 画像診断 レントゲンやMRI、CTを使って脊髄や周辺の組織がどの程度傷ついているのか詳しく調べる 神経学的検査 電気の刺激で神経の反応や伝達機能を調べる 臨床評価 筋力や反射、皮膚の感覚などをチェックして、脊髄損傷の範囲や程度を確認する これらの検査結果をもとに、損傷部位や重症度レベルを把握し、適した治療や必要に応じてリハビリを実施します。とくに、軽度の脊髄損傷では見落とされやすいため、早期の診断と適切な対応が不可欠です。 脊髄損傷が軽度な場合の治療方法 脊髄損傷が軽度な場合の治療法は、急性期と慢性期によってそれぞれ異なります。とくに、発症直後の対応は、そのあとの回復や後遺症の有無に影響を与えるため、適切な治療が重要です。 以下で、詳しく解説するので参考にしてください。 急性期の治療法 脊髄損傷の急性期とは、発症してから2~3週間程度の期間を指すのが一般的です。急性期は、外的要因からの直接的な損傷(一次損傷)や炎症や腫れ、血流障害といった体内変化(二次損傷)が進行する時期でもあります。 急性期では、二次損傷の進行をできるだけ抑える治療が重要です。軽度の脊髄損傷では、以下の治療が行われます。 治療法 目的 安静 症状の悪化を防ぐ 薬物療法(ステロイド系抗炎症薬など) 炎症や二次損傷を防ぐ コルセットや固定装置の装着 脊髄を安定させ、損傷の拡大を防ぐ 理学療法 運動機能を維持し、合併症のリスクを減らす 急性期の治療は、その後の回復に大きく影響するため重要です。自覚症状が軽くても、早期の対応が後の回復に影響します。 慢性期の治療法 損傷からある程度時間が経過し、急性期を過ぎた後の慢性期では、症状の回復を目的とした治療やリハビリが中心となります。軽度の脊髄損傷でも、違和感やしびれが残る可能性があるため、継続的なケアが必要です。 慢性期に行われる治療法には以下のようなものがあります。 治療法 目的 理学療法 筋力・柔軟性の回復、運動機能の維持のため ビタミン剤の投与 神経の修復に役立つため リハビリは、残存機能を最大限に活かしながら日常生活を取り戻すためには欠かせません。また、神経の修復や再生をサポートする目的で、補助的にビタミン剤を投与するケースもあります。 適切なリハビリと経過観察を続けることが、身体機能の維持と回復には重要です。 脊髄を損傷した場合のリハビリやトレーニングについては、下記の記事を参考にしてください。 脊髄損傷が軽度な場合の後遺症の有無について 脊髄損傷が軽度な場合は、適切な治療とリハビリによって後遺症を残さずに回復するケースがあります。軽度の損傷であれば、神経へのダメージが比較的少ないためです。治療やリハビリを早期に開始できれば、運動や感覚などの機能が回復する可能性があります。 しかし、損傷部位や度合いによっては適切な治療やリハビリを行っても、必ずしも後遺症が出ないとは限りません。 脊髄損傷が軽度であっても、後遺症がまったくないとは言い切れないため、違和感を放置せず早期の対応と継続的な治療が大切です。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脊髄損傷で悩みがあるときはお気軽にご相談ください。 軽度な脊髄損傷は適切な治療とリハビリで回復に期待できる 軽度な脊髄損傷はしびれや麻痺、運動障害が症状として現れる場合があります。違和感を覚えたら放置せずに適切な治療を受けることが大切です。 脊髄損傷が軽度であれば、適切な早期治療とリハビリで回復に期待ができるでしょう。一方で、症状が軽度に思えても、損傷のレベルや部位によって後遺症が出るケースもあります。 早めに医師の診断を受け、継続的なケアを続けることが重要です。リペアセルクリニックでは、脊髄損傷に対する新たな治療選択肢として、幹細胞を用いた再生医療を行っております。軽度な脊髄損傷でお悩みの方はご相談ください。
2025.05.30 -
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脊髄損傷には、急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期があります。急性期は症状回復を左右する重要な期間のため、診断を受けた上で適切な治療が大切です。 とはいえ、急性期は症状が発生したばかりの期間となり、身体的にも精神的にも不安定になりやすいでしょう。不安やストレスを軽減するには、急性期について理解を深めることがポイントです。 この記事では、脊髄損傷急性期とはどのような期間か解説します。症状回復に重要な期間といわれる理由や治療法もまとめているので、ぜひ参考にしてください。 脊髄損傷急性期とは 脊髄損傷急性期(せきずいそんしょうきゅうせいき)とは、脊髄損傷が発生した時期をいいます。ここでは、急性期の期間や、亜急性期(あきゅうせいき)・慢性期(まんせいき)との違いについて解説します。 脊髄損傷で急性期と診断された方は、今後の治療プランを検討するためにもぜひ参考にしてください。 期間 脊髄損傷の急性期とは、脊髄損傷が発生してから2〜3週間ほどの期間をいいます。一般的に脊髄損傷の原因は、内的要因と外的要因の2つです。 内的要因の場合、脊髄自体に問題が生じて損傷が起こります。脊髄梗塞や脊髄出血、椎間板ヘルニアなどが内的要因の原因に該当します。 また、外部から強い衝撃が加わり脊髄を損傷した場合は外的要因です。外的要因には、交通事故や転倒などがあります。ラグビーや柔道などのスポーツも外部要因の一つで、脊髄損傷は幅広い世代が発症する疾患です。急性期は脊髄損傷の回復を左右する期間になるため、迅速かつ適切な治療が重要です。 亜急性期・慢性期との違い 脊髄損傷は急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期に分類され、各期間に適した治療が必要です。各期間には、以下の違いがあります。(文献1) 期間 特徴 主な治療法 急性期 脊髄損傷を発生して間もない時期で、回復を左右する期間 保存療法 リハビリテーション 亜急性期 急性期の炎症が収まり、血管新生や組織修復反応が起こる期間 リハビリテーション 慢性期 神経細胞の活性が低下し、治療への効果が弱くなる期間 リハビリテーション 放射線治療 手術 各期間の特徴から、適切な治療を検討しましょう。 脊髄損傷急性期の症状 脊髄損傷急性期の症状は、多岐にわたります。急性期では脊髄が損傷した直後から身体の異変が起こり、症状が急速に進行するためです。 主な身体の反応には一時損傷と二次損傷があり、双方の違いは以下の通りです。 一時損傷 外力による組織の損傷 二次損傷 一時損傷に続き、損傷が周辺組織に広がり、炎症反応や血液の循環不全による神経細胞の損傷 実際に、急性期には下肢に電気が走るような強い痛みや手足のしびれなどの症状が見られています。(文献2)また、損傷が進行すると運動機能が完全に失われるだけでなく、排せつのコントロールができなくなったり生命にかかわったりするリスクが生じます。 脊髄損傷急性期に正確な診断を受けるべき理由 脊髄損傷の回復には、急性期に二次損傷を抑える治療が重要です。急性期は症状が急速に進行するため、適切な治療を受けなければ周辺細胞が損傷し、神経伝達が低下します。 神経伝達の低下は運動機能が失われる要因となり、まったく動かせない状態に陥るケースも少なくありません。そのため、急性期の診断では以下の点をチェックした上で適切な治療を行います。 損傷の進行状態 影響を受けている神経の特定 脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲の把握が機能回復において重要です。損傷を最小限に抑えるためには、急性期で正確な診断を受ける必要があります。 脊髄損傷急性期の主な治療法 脊髄損傷急性期の治療は、症状回復に影響を与えます。代表的な治療法は、以下の3つです。 保存療法 手術 再生医療 急性期の治療法について理解を深めたい方は、参考にしてください。 保存療法 保存療法は手術以外の方法で、症状を改善する治療法です。脊髄損傷急性期の場合、主に以下の保存療法がおこなわれます。 薬物療法(ステロイド治療) 固定装置の使用 リハビリテーション また、脊髄損傷急性期に不用意に身体を動かすと損傷の拡大や合併症のリスクが生じる可能性があるため、安静が重要です。脊髄を安定させるために、正しい位置や姿勢の維持が必要になります。 一般的にはギブスなどの固定装置を使用して、脊髄を安定させます。適切な安静は炎症が抑えられ、神経組織の修復が進むため症状回復に効果的です。 脊髄損傷の急性期は、生活動作が自分でできない辛さや回復への不安など、精神的なサポートも重要になります。安静は心身のリラックス効果もあるため、回復へ向けて気持ちを前向きにする役割も期待できます。 手術 急性期では一般的に保存療法を行います。しかし、脊髄損傷の原因となる圧迫因子の除去や二次損傷の予防など、症状が悪化する可能性がある場合に手術を行います。 急性期に行う主な術式は、以下の2つです。 術式 内容 除圧術 脊髄や神経根などへの圧力を除去し、神経損傷の抑制と症状緩和を図る 固定術 金属のプレートやネジを使用して脊椎を固定し、自然治癒を促進する 症状の進行状況によって異なりますが、診断から手術を検討するのも手段の一つです。 再生医療 脊髄は脳とつながる太い神経の束で、損傷すると麻痺や感覚障害、自律神経障害などさまざまな障害が生じます。急性期には固定装置の使用やリハビリテーションを実施しますが、再生医療も治療法の一つです。 再生医療の幹細胞治療は、患者自身の細胞を活用する医療技術になります。脊髄損傷の再生医療の場合、骨髄由来と脂肪由来の幹細胞の2つがあります。なかでも、脂肪由来の幹細胞は体への負担が少ない点がメリットです。また、再生医療は入院の必要がなく、日帰りで治療を受けられます。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を行っております。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、脊髄損傷の治療法として再生医療を検討している方はお問い合わせください。 脊髄損傷急性期におけるリハビリテーションの内容 脊髄損傷は、急性期からリハビリテーションの実施が重要です。ここでは、脊髄損傷急性期から行われる代表的なリハビリテーションを3つ解説します。 呼吸訓練 関節可動域訓練 床ずれ予防・離床訓練 回復へ向けたリハビリテーションの内容が知りたい方は、参考にしてください。 呼吸訓練 脊髄損傷は損傷の部位によって、呼吸器官に麻痺が起こります。また、首を損傷した場合、息を吐く力が弱くなり、痰づまりや肺炎を起こすケースも少なくありません。 そのため、急性期では呼吸理学療法がおこなわれます。呼吸理学療法は症状のレベルによって異なりますが、リハビリ内容は以下の通りです。 沈下性肺炎の予防 人工呼吸器管理による短時間自発呼吸の獲得 人工呼吸からの離脱訓練 呼吸訓練には、胸郭を広げるエクササイズや息を吐き切るトレーニングなどがあります。セルフトレーニングもあるため、呼吸力向上へ向けて急性期から行うことが大切です。 関節可動域訓練 関節可動域訓練とは、関節を動かせる範囲を広げるリハビリテーションです。脊髄損傷で麻痺した部分は、関節が硬くなります。関節が硬くなると次第に可動域が狭まり、床ずれや車いすへの移動、起き上がりなど日常生活においてさまざまな支障をきたします。 とくに脊髄損傷では、以下の関節ケアが重要です。 肩関節 股関節 足関節 該当の部位は、車いす操作や立位保持などにも影響を与えます。関節可動域訓練は、全身の機能維持において必要な訓練です。 床ずれ予防・離床訓練 急性期には、床ずれ予防や離床訓練を行います。脊髄損傷急性期では、全身の筋肉の緊張が低下し、床ずれを起こしやすくなるためです。 そのため、早期に体位の変換やクッション選びなどの対策をとる必要があります。また、全身が安定している場合は、ベッドに座った状態を維持する離床訓練の実施が大切です。座れるようになると、食事や排せつ、車いすの使用など日常生活へ戻る訓練を進められます。 症状の回復には、急性期にベッドから起きていられるよう体を慣らすリハビリテーションがポイントです。 脊髄損傷の急性期は回復に影響を与える重要な期間 脊髄損傷急性期は発生してから2〜3週間ほどの期間で、症状回復に影響を与えます。重要な期間となるため、早期に診断を受けて適切な治療を受けることが大切です。 脊髄損傷急性期の主な治療法には、安静やリハビリテーションなどがあります。症状回復を目指せるよう、診断から脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲を把握しましょう。 また、脊髄損傷急性期の治療法の選択肢として、体への負担が少ない再生医療も検討できます。当院リペアセルクリニックでは、脊髄損傷の再生医療を行っています。急性期における適切な治療法を検討中の方は、ぜひお問い合わせください。 脊髄損傷の急性期に関するよくある質問 脊髄損傷の急性期に起こる合併症は何ですか? 脊髄損傷では麻痺以外に、呼吸器合併症や循環器合併症など、さまざまな合併症が発生します。なかでも、急性期では消化器合併症が起こりやすいため注意が必要です。 急性期にはストレス性胃潰瘍や十二指腸潰瘍のほか、胃腸の働き低下により腸閉塞となるケースもあります。いずれも生命にかかわる重要なものばかりなので、早期治療が重要です。 脊髄損傷を発症した場合に回復見込みはありますか? 脊髄損傷は原因や症状、損傷位置によって回復が見込めるか異なります。症状が軽度の場合は、治療次第で回復が見込めます。 しかし、重度の場合は回復の見込みが低く、完治しないケースがほとんどです。脊髄損傷は時期によって治療法が異なるため、早めに診断を受けましょう。 脊髄損傷の急性期における看護のポイントは? 脊髄損傷の急性期では、家族のサポートが重要です。急性期では症状が発生し、身体への異変や生活動作が自分でできない辛さ、回復への期待などから精神面が不安定になりやすい時期といえます。 そのため、周囲からの励ましが生きる希望につながります。不安やストレスを軽減するほか、治療へ積極的な取り組みを促すためのサポートが看護のポイントです。 参考文献 (文献1) 厚生労働省「急性期脊髄損傷の治療を目的とした医薬品等の臨床評価に関するガイドラインについて」独立行政法人 医薬品医療機器総合機構2019年 https://www.pmda.go.jp/files/000230373.pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 松本浩子,泉キヨ子.「脊髄損傷患者の急性期における体験」『日本看護研究学会雑誌』30巻(2号), pp.77-85, 2007年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/30/2/30_20070125006/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
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「中枢神経障害とは何か知りたい」「中枢神経障害の原因や治療法を知りたい」といった疑問を持っている方もいるでしょう。 中枢神経障害は、脳および脊髄の構造または機能に異常が生じる神経疾患です。原因疾患によって適切な治療法が異なるため、中枢神経障害が疑われる場合は、早めに医療機関を受診する必要があります。 今回は、中枢神経障害の初期症状から治療法までわかりやすく解説します。中枢神経障害について理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。 中枢神経障害とは 中枢神経障害とは、中枢神経系を形成する脳または脊髄の構造や機能に異常が生じて発症する神経疾患です。 中枢神経は、身体の動きや感覚、思考、記憶、感情など、あらゆる機能を制御する司令塔の役割を果たしています。そのため、中枢神経系に異常が生じると、障害を受けた部位やその範囲に応じて、さまざまな症状が現れる可能性があります。 なお、中枢神経障害は原因によって症状や治療法が異なるため、早期の診断と適切な治療が重要です。 中枢神経障害の原因と種類 中枢神経障害の原因は、主に以下の5つに分類できます。 原因疾患の特定は、中枢神経障害の適切な診断と治療につながります。以下で、それぞれ詳しく見ていきましょう。 血管性疾患 血管性疾患は、中枢神経障害の原因の一つです。血流が悪くなったり遮断されたりすると、脳や脊髄の神経細胞が損傷を受けます。代表的な血管性疾患は、以下の通りです。 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 身体の麻痺のほか、言語障害・視覚障害・意識障害などが現れる場合があります。 神経変性疾患 神経変性疾患も中枢神経障害の一因になります。神経変性疾患とは、神経細胞が徐々に変性・消失する疾患です。主な神経変性疾患は、以下の通りです。 パーキンソン病 アルツハイマー病 ALS(筋萎縮性側索硬化症) パーキンソン病を発症すると、ドーパミンを生産する神経細胞が減少し、運動障害を引き起こします。また、アルツハイマー病を発症すると、記憶を司る脳の神経細胞が徐々に破壊されることにより、認知機能が低下します。 炎症性疾患 免疫系の異常や感染症によって引き起こされる炎症性疾患も、中枢神経障害の原因の一つです。炎症性疾患の代表例は、以下の通りです。 多発性硬化症 脳炎 多発性硬化症を発症すると、免疫系が神経の保護膜を攻撃し、神経伝達に障害を引き起こします。また、ウイルスや細菌感染による脳の炎症も中枢神経障害の原因になります。 外傷性疾患 外傷性疾患も中枢神経障害の原因の一つです。交通事故やスポーツなど、外部からの物理的な衝撃が中枢神経に影響を与える場合があります。 脊髄損傷 頭部外傷 外傷性疾患による中枢神経障害は回復に時間がかかるほか、重篤な後遺症が残るケースも珍しくありません。 感染性疾患 ウイルスや細菌による感染性疾患によって、中枢神経障害に陥ることもあります。中枢神経障害の原因になる感染疾患は、主に以下の通りです。 髄膜炎 日本脳炎 中枢神経系がウイルスや細菌に感染すると、炎症を引き起こします。感染性疾患による後遺症が深刻化しないよう、適切な治療が必要です。 中枢神経障害の症状 中枢神経障害の症状はダメージを負った部位や程度によってさまざまです。具体的には、主に以下のような症状が現れます。 障害の種類 具体的な症状 主な原因疾患 運動障害 手足の麻痺や震え 手足が動かしにくい 脳卒中 パーキンソン病 感覚障害 視覚や聴覚、触覚に異常を感じる 脳腫瘍 脳卒中 認知機能障害 記憶力の低下 判断力の低下 アルツハイマー病 精神的障害 不安 抑うつ 幻覚 パーキンソン病 アルツハイマー病 なお、原因疾患によって、症状の進行は異なります。症状を改善するためには、それぞれ原因疾患に対する治療が必要です。 中枢神経障害の治療法 中枢神経障害の治療法として、主に以下の選択肢があります。 薬物療法 リハビリテーション 再生医療 中枢神経障害の原因疾患のなかには、根治が難しい疾患も少なくありません。それぞれの治療法について解説するので、医師と相談しながら、適切な治療法を検討してください。 薬物療法 中枢神経障害の治療では、原因疾患に応じて薬物療法が選択されることが多いです。症状に応じて、痛みを軽減するための鎮痛剤や、精神的な不安を抑える精神安定剤のほか、抗てんかん薬や抗うつ薬などが投与されます。 たとえば、神経変性疾患やパーキンソン病、アルツハイマー病などに対しては、症状の進行を遅らせるために薬物療法が選択されるのが一般的です。なお、中枢神経障害の疾患の多くは治療法が確立されておらず、薬物療法は単なる対症療法に留まるとされています。(文献1) リハビリテーション 中枢神経障害において、リハビリテーションは疾患により低下した運動機能や、認知機能の改善を目指す治療法です。 具体的には、理学療法士による運動療法、作業療法士による日常生活動作の訓練、言語聴覚士によるコミュニケーション能力の向上を図る訓練などがおこなわれます。 また、認知機能を維持・向上させるための脳トレーニングや、心理的な支援も中枢神経障害におけるリハビリテーションの一環です。 なお、中枢神経疾患のリハビリテーションは、数週間から数カ月にわたって継続されることが多いです。なかでも、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、進行性の疾患に対しては、リハビリ期間が長期化する場合があります。 再生医療 再生医療も、中枢神経障害の治療における選択肢の一つです。再生医療とは、自然治癒力を最大限に引き出すための医療技術で、幹細胞や血小板の投与によって症状改善を目指す治療法です。 リペアセルクリニックでは、中枢神経障害の原因となる脳梗塞や脳卒中、脊髄損傷に対する再生医療をおこなっています。 当院の幹細胞治療は、少量の脂肪を採取するだけで、十分な量の細胞を培養できる点が特徴です。そのため、身体への負担が少なくて済みます。 再生医療による治療法や具体的な症例について知りたい方は、以下のページをご覧ください。 なお、リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。中枢神経障害の症状でお悩みの方は、ぜひ気軽にご相談ください。 中枢神経障害は原因に合わせて適切な治療法を検討しよう 中枢神経障害とは、脳や脊髄などの中枢神経に異常が生じ、手足のしびれや感覚異常、認知機能の低下といったさまざまな症状を引き起こす疾患です。原因は脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病など多岐にわたり、疾患ごとに治療法が異なります。 中枢神経障害は、早期発見と適切な治療により、症状を改善したり進行を遅らせたりすることが可能です。薬物療法やリハビリテーション、再生医療など、医師の診断のもと適切な治療法を検討しましょう。 中枢神経障害に関するよくある質問 中枢神経障害の診断方法は? 中枢神経障害の診断には、主に以下の検査が用いられます。 MRI(磁気共鳴画像法) CT(コンピュータ断層撮影) 脳波検査 脳脊髄液検査 脳や脊髄の構造や機能を評価するため、一般的に複数の手法を用いて診断されます。 中枢神経障害と末梢神経障害の違いは? 中枢神経障害は、脳や脊髄などの中枢神経系に発生する障害です。 一方で、末梢神経障害は、手足や体幹に伸びる末梢神経に生じる障害のことです。末梢神経障害は、糖尿病や自己免疫疾患などが原因で、手足のしびれや筋力低下といった症状を引き起こします。 中枢神経障害は治る? 中枢神経には再生を阻害する因子が多く存在し、自然に修復されにくいといわれています。(文献2)そのため、中枢神経障害は、原因疾患によって根治が難しい疾患です。 ただし、近年の医療技術の進歩により、リハビリテーションや再生医療を通じて、一定の改善が見込まれる場合もあります。 参考文献 ((文献1) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「中枢神経疾患治療薬の承認審査の現状と DDS への期待」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/5/34_385/_pdf (最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 大阪大学大学院 医学系研究科 分子神経科学「失われた神経回路を取り戻すために」 https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchp1.html (最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
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普段から坐骨神経痛に悩まされていると、夜も痛みのせいで眠れないのではないのでしょうか。実は坐骨神経痛の痛みが和らいだ状態で眠れる寝方はいくつかあります。 本記事では、坐骨神経痛の痛みを和らげる寝方を、妊娠中の場合や眠れない時の対処法とともに徹底解説します。 坐骨神経痛の痛みをなるべく気にせずに眠る方法やポイントを理解して、今夜からでも実践してみてください。 坐骨神経痛が和らぐ3つの寝方 腰の痛みに加えて、お尻から脚に至る範囲でしびれを伴う坐骨神経痛は、日常生活に様々な悪影響を及ぼします。 坐骨神経痛になると、痛みやしびれのあまり夜も熟睡できないことも多いです。 しかし、坐骨神経痛でも寝方を工夫するだけで、少しでも痛みを和らげながら眠れます。 坐骨神経痛の症状が和らぐ寝方を3つ紹介します。 仰向けで膝を立てて寝る 仰向けで寝るときは、膝を立てた状態での就寝をおすすめします。 坐骨神経痛の場合、普通に仰向けで眠るだけでは、腰が前の方に反るとともに敷布団から浮いた状態になる仕組みです。しかし、寝ている間に腰が敷布団から浮いた時、腰からお尻や脚に向かう神経を圧迫して痛みに襲われます。 そこで、仰向けで膝を立てて寝ることで、腰の反りによる神経の圧迫が緩んで痛みを抑えられます。ただ、意識的に膝を立てて寝ると熟睡できないため、立てた膝の裏側にクッションやタオルを置くのがおすすめです。 横向きで両膝の間にクッションを入れる 横向きで眠る際には、膝の間にクッションを入れた状態であれば熟睡が期待できます。 坐骨神経痛の方が横向きの睡眠で痛みが生じるのは、腰のほぼ中心を腰椎が通るのに対し、周辺には筋肉や内臓しかないためです。 横向きになった場合、腰回りの筋肉が一生懸命に体を支えようとします。その結果、骨盤内を通る坐骨神経が筋肉に圧迫されて痛みが強まる仕組みです。 横向きで寝る時、まず痛い部位を上に向けることで、筋肉による神経の圧迫で生じる痛みを抑えられます。加えて、両膝の間にクッションを挟むこともポイントです。挟んだクッションが腰を支えるとともに、足の筋肉が緩む分、痛みが軽減されます。 痛みを悪化させない寝返りの打ち方 寝ているときに寝返りを打つのはごく自然な現象ではあるものの、坐骨神経痛を抱えている方は寝返りの際に痛みに苦しみやすいです。 痛みを悪化させないように寝返りを打つには、まず仰向けの姿勢で両膝を立てます。この際に股関節も深く曲げるのがポイントです。 次に軽く腹筋に力を入れながら、上半身と下半身を同時に動かす形で寝返りを打ちます。 妊娠中の坐骨神経痛の寝方は? 妊娠中の方の場合は、横向きにして、痛みが出やすい側を上にするのが基本です。同時に膝を少しだけ曲げ、両膝の間にクッションなどを挟みます。 なお、寝る際にはお腹周りへの冷えを防ぐことで、坐骨神経痛の症状を緩和できます。また、これから横向きに寝る際には、胎児への影響を考えて一度主治医にもご相談ください。 坐骨神経痛の寝方の注意点 坐骨神経痛でも痛みを抑えながら眠れる方法やポイントを見てきましたが、寝方には注意すべき点もいくつかあります。 うつ伏せは避ける 坐骨神経痛の寝方では、うつ伏せは避けた方が良いのが一般的です。うつ伏せでは、寝る際に腰椎が反った状態になるため、強く痛みが出ます。 しかも、腰椎だけでなく首や背中にも負担がかかるため、坐骨神経痛が悪化するだけでなく首や肩にも痛みが出てくる場合もあります。 痛い方が下に来ないようにする 坐骨神経痛で痛みを感じる部位が下に来ないことも大切です。痛い方を下にした場合、坐骨神経が腰回りの筋肉と寝床とに挟まれるため、強い痛みが生じます。 このため、坐骨神経痛を抱えながらもゆっくり眠りたい方は、痛む部位が上に来るようにするのがおすすめです。 長時間同じ姿勢になるのを防ぐ 他にも長時間同じ姿勢で眠ることも避ける必要があります。寝返りを打たずに同じ姿勢で寝続けていると、特定の部位の筋肉に負荷がかかり続けるためです。 気付いたときに寝返りを打つなどして、極力同じ姿勢の寝方にならないようにします。もし、なかなか寝返りを打てないのであれば、筋トレやストレッチなどで筋肉の柔軟性を高めるのがおすすめです。 なお、坐骨神経痛では同じ寝方だけでなく、起きている間の座りっぱなしなどの同じ姿勢も避けなければなりません。座りっぱなしの場合は、30分に1度は席を離れて体を動かす癖をつけると良いでしょう。 坐骨神経痛の方におすすめの寝具の選び方 坐骨神経痛の症状を和らげるには、寝具の選び方も重要です。 まず、理想的なマットレスを選ぶポイントとして、以下の点が挙げられます。 適度な反発性のある 体圧が分散されやすい 厚みが十分あり、寝返りを打ちやすい 適度な反発性のあるマットレスは、寝ている時も立っている時と同じ姿勢を保つのが特徴です。立っている時の姿勢では、背骨も本来のS字カーブのような形になるため、背骨や腰に負担がかかりません。そのため、坐骨神経痛の方も痛みが軽減された状態で眠れます。 また「体圧が分散されやすい」点も、背中や腰など特定の部位に圧力が集中しにくい分、坐骨神経痛の痛みを感じにくいです。体圧が分散されやすいマットレスは均等に圧力が分散されるため、腰への負担が和らぎます。 さらにマットレスに十分な厚みがあれば、表面が床より高い位置にある分、寝返りを打っても腰にあまり負荷がかかりません。加えて、幅が十分に広ければ安心して寝返りを打てるため、さらに腰への負担を軽減できます。 マットレス以外に、枕も適切なものを選ぶことが大切です。枕も適切な高さで、頭が沈まない程度の硬さがあるものが向いています。高さについては、仰向けで寝たときに目線がやや下を向くものや、横向きになった際に背骨が頭の延長線上に来る程度のものがおすすめです。 坐骨神経痛で寝れないときの対処法 坐骨神経痛を抱えている場合、夜に熟睡できずに困る方もいるかと思います。 もし坐骨神経痛の痛みで眠れないときは、以下の方法をお試しください。 横向き姿勢を試す 横向きで寝る姿勢は、仰向けよりも腰や足への負担を軽くするとされています。なお、この際に痛みを感じる部位を上に向けるのがポイントです。 なお、寝るときに抱き枕やタオルなどを抱えた状態にすると、横向き姿勢を維持するのに役立ちます。 寝る前に水分を取る 坐骨神経痛で寝れないときは、寝る前に十分な水分を取ることも有効な対処法です。実は人は寝ている間に汗をかくため、睡眠中は水分が不足しがちです。 寝ている間に水分が流出すると、筋肉や神経が硬くなります。結果として筋肉が緊張したり、神経が興奮状態になったりするため、痛みやしびれを感じやすくなる仕組みです。 寝る前に水や白湯を飲むことで、夜中の急激な痛みやしびれを抑えられることが期待できます。 体が冷えないようにする 夜間に体を冷やさない工夫も、坐骨神経痛で眠れない対策として重要です。坐骨神経痛を抱えている場合、空調や冬の寒さなどで体が冷えると、血行不良になります。 坐骨神経は周りに多くの血管が張り巡らされているため、冷えの影響で血行不良が起きると、筋肉が硬くなったり緊張したりして痛みを感じやすいです。夏場に部屋を冷やしすぎないようにしたり、冬場はしっかり布団をかけたりする工夫が求められます。 まとめ|坐骨神経痛が和らぐ寝方でしっかり眠ろう 坐骨神経痛の方は、膝を立てた状態の仰向けや、膝の間にクッションを挟みながらの横向きがおすすめの寝方です。両方の寝方は坐骨神経の通る足腰への負担を軽減するため、痛みが和らいだ状態での睡眠が期待できます。 加えて、適切な反発性や厚みのある寝具を選ぶことも、坐骨神経痛の痛みを緩和させながらの睡眠に効果的です。他にも寝る前の水分補給のように、眠れない時の対処法も活かすと良いでしょう。 坐骨神経痛で眠れない方は、本記事で触れた方法で痛みが和らぐ寝方をお試しください。ただし、激しい痛みが続く場合や日常生活に大きな支障がある場合は、医療機関を受診することをおすすめします。 坐骨神経痛の寝方でよくある質問 坐骨神経痛で寝るときにクッションを足に挟むのはなぜ? 坐骨神経痛で寝るときにクッションを足に挟むと、腰への負担を軽減できるとともに、骨盤のゆがみを防げます。加えて、痛む側の足の筋肉が緩む分、より痛みを気にせずに眠りやすいです。 坐骨神経痛が悪化する寝方は? 坐骨神経痛が悪化する寝方の代表例がうつぶせ寝です。うつ伏せの状態で寝ると、腰が反る上に負担がかかってしまいます。 また、長時間同じ姿勢で寝返りを打たない寝方も、腰が圧迫を受けやすいために坐骨神経痛を悪化させやすいです。 坐骨神経痛で夜中に激痛が来るのはなぜ? 坐骨神経痛で夜中に激痛が来るのは、寝ている間に坐骨神経に大きな負担がかかっているためです。特にうつ伏せや寝返りの少ない寝方であれば、坐骨神経や腰回りに負担が集中しやすい分、激痛に悩まされることがあります。 ほかにも夜間の水分不足や冷えによる血行不良でも、激痛に襲われるケースがあるため、注意が必要です。
2025.05.29 -
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転倒などが原因で脊椎圧迫骨折と診断された時、日常生活に向けてどのようなリハビリが行われるのか気になるのではないのでしょうか。 脊椎圧迫骨折のリハビリは骨折直後から始まり、最初はベッド上でもできる簡単なものが行われます。続いて回復の度合いに応じて、歩行訓練などを行っていく流れです。 本記事では、脊椎圧迫骨折のリハビリ方法を、やってはいけないことや病院探しの方法とともに徹底解説します。 脊椎圧迫骨折のリハビリの内容を知っておくと、万が一骨折しても心の準備を済ませた上でリハビリに取り組めます。 【病期別】脊椎圧迫骨折のリハビリ方法 脊椎圧迫骨折の治療は安静が基本ではあるものの、日常生活への復帰を目指すリハビリも並行して進められます。 リハビリは安静にしている時期の筋力低下をなるべく防ぐため、骨折への治療開始直後から始められるケースが多いです。ただし、病期によってリハビリの内容は異なります。 ここでは、急性期・回復期・退院後それぞれのリハビリ内容を紹介します。 急性期リハビリ方法 脊椎圧迫骨折の痛みなどの症状が強く出る急性期は、骨折した後に患部を外側から支えるコルセットの完成を待つ時期です。コルセットの完成までの1週間程度、安静に過ごしながらもベッド上でできる内容でリハビリを進めます。 ベッド上での関節可動域(ROM)訓練 まず、ベッド上での関節可動域(ROM)訓練は、関節を動かせる範囲である関節可動域を維持するための訓練です。ベッドで安静にしてばかりいると、関節を自在に曲げ伸ばしできる範囲が狭くなります。関節可動域が狭くなると、骨折による痛みを感じやすかったり、運動能力が衰えたりするためです。 ベッドでできる関節可動域訓練は、患者様の状態に応じてスタッフに関節を動かしてもらったり、ご自身で関節を動かしたりします。具体的な内容も、ベッドで寝たり座ったりしながらの、手の曲げ伸ばしや足首や足指の運動などです。 腕や足の筋力をつける訓練 急性期のリハビリでは、腕や足の筋力をつける訓練も進めていくのが一般的です。関節可動域訓練よりも数日程度遅れて始まるもので、最初はベッド上でペットボトルの上げ下げや、膝の曲げ伸ばしなどを行います。 日数が経って、当初より痛みが落ち着いてきたら、ベッドから離れる離床訓練も始まる流れです。離床訓練では、まずベッドでの寝返りから起き上がり動作までの一連の動きを訓練します。 回復期リハビリ方法 治療が始まってからある程度症状が落ち着く回復期に入ると、リハビリも日常生活への復帰を目指して本格化するのが一般的です。以前のような日常生活を送れるように、歩行や筋力関係の訓練が行われます。 下半身の筋力の回復訓練 下半身の筋力を回復する訓練は、ベッドで安静にしている間に衰えた脚の部分の筋力を元に戻すために行うものです。 脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症によって骨密度が低下したところに、ちょっとしたつまづきや転倒が原因で起こります。そのため、足腰に筋力を回復させることは、脊椎圧迫骨折の再発を予防する上で欠かせません。 歩く訓練 歩く訓練(歩行訓練)は、回復期のリハビリで最も主要なものです。杖や歩行器を使いながら、歩幅やバランスを意識しつつ訓練を積み重ねていきます。 なお、訓練は平行棒の間を移動する形で進められるのが一般的です。すぐ近くには指導や何かあった場合に備えてリハビリスタッフが付き添います。 体幹を鍛える運動 体幹を鍛える運動も、回復期のリハビリで重要です。回復期の間は、骨折した脊椎がくっつくまでコルセットを装着します。コルセットは骨折から2ヶ月程度は装着するため、その間に体幹の筋力が衰えやすいです。 コルセットが外れた後に日常生活を徐々に再開できるように、歩行訓練や下肢の筋力回復と合わせて、体幹トレーニングを行います。腹筋運動やブリッジなどのストレッチで腹筋や背筋を鍛えたり、柔軟性を高めたりする流れです。 退院後の在宅リハビリ方法 退院した後は、定期的に通院しながら自宅でリハビリを継続します。そのため、自宅でできるリハビリの方法を知っていると、退院後もリハビリを頑張る上での助けになるでしょう。 ドローイン 「ドローイン」は、息を吐きながらお腹をへこませることで体幹を鍛えるエクササイズです。治療が進んでコルセットを外した直後は、体幹が骨折前よりも衰えているため、体幹を鍛え直すのに向いています。 ドローインに取り組むことで、安定した姿勢を維持する腹横筋をはじめとする腰回りの複数の筋肉を鍛えられるため、退院後のリハビリのメニューにおすすめです。 両手上げ 「両手上げ」は、椅子に座った状態で両手をゆっくり上げ下げします。背中の筋肉を鍛えられるのが特徴です。 とくに退院後で、コルセットが外れた段階であれば、じっくりと背中の筋力をつけられます。ただし、肩に痛みを感じる場合は、あまり無理に上げないようにするべきです。 スクワット 退院後のリハビリでは、スクワットもできます。肩幅程度に足を広げた状態で、まっすぐ前を見た状態で膝を曲げては戻すのが特徴です。 なお、膝を曲げる角度は最大で90度程度にしておくと、過度な負担がかかりません。下半身を鍛えられるため、転倒やつまづきによる圧迫骨折の再発を防ぐ上でも役に立ちます。 脊椎圧迫骨折リハビリ中のコルセット着用について 脊椎圧迫骨折の治療・リハビリで欠かせないものが、患部を固定するコルセットの着用です。コルセットは骨がくっつくまでの間はずっと着用する分、どの程度の期間にわたって装着するのかや注意すべき点が気になるかと思います。 脊椎圧迫骨折の治療を行っている間のコルセット着用のポイントは、次のとおりです。 コルセット着用期間の目安 まず、コルセットを着用する期間は、骨折してから2ヶ月程度が一般的とされます。骨折してから骨がくっつくまでの期間が2ヶ月前後とされているためです。ただし、骨折の程度が深刻だったり骨粗鬆症が進行していたりする方などは、着用期間が延びるケースがあります。 なお、コルセットを外すべき時期は、担当医師が痛みの程度や骨の癒合の状況から判断します。 コルセット着用時の注意点 コルセットを着用している間は、寝る時も含めてずっと着けっぱなしです。ただ、痩せている方はコルセットによる皮膚の圧迫で床ずれができる場合があります。もし、床ずれができることに不安を感じるのであれば、医師などと相談の上で眠る時のみ外すのも1つの方法です。 また、コルセットは骨折部位を外側から固定するものですが、体幹をねじる動きはできます。そのため、過度に体をねじりすぎると骨折部位の状態が悪化する点に注意が必要です。 さらに、強い勢いでの椅子への着席も避ける必要があります。着席した瞬間の反動で、再度圧迫骨折に至るケースがあるためです。 脊椎圧迫骨折のリハビリでの禁忌・やってはいけないこと 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際、禁忌(タブー)・やってはいけないこともいくつかあります。前もってやってはいけないことを知っておくと、リハビリの際に意識を払いやすいです。 体を丸めたりねじったりする まず、体を丸めたりねじったりする行為は避ける必要があります。とくに骨が癒合する前の時期にひねるなどした場合、患部の状態が悪化したり、さらに骨折箇所が増えたりしかねません。 治療期間が長引いて、退院の時期も後にずれるため、無理に体をねじるなどしない方が良いでしょう。 重いものを持たない また、脊椎圧迫骨折の治療中は、重い物を持ってはいけません。とくに床に置いてある物をいきなり持ち上げると、背骨に大きな負荷がかかります。 コルセットが外れるまでは、ご家族などに代わりに持ち上げてもらうのがおすすめです。 転倒に注意する さらに、高齢者であれば転倒に注意する必要があります。高齢者は若い年代に比べて足腰の筋力が衰えているため、些細なつまづきや転倒で骨折するケースも多いです。 手すりや杖を使って歩くことや、足元にものを散乱させないことなどと、安全に歩ける工夫が大切です。 脊椎圧迫骨折のリハビリができる病院の探し方 脊椎圧迫骨折してしまった場合、なるべく早めに受診やリハビリのできる病院を探しておく必要があります。 もし、リハビリが可能な病院を探す際には、回復期リハビリテーション病棟を備えた病院を探すのがおすすめです。回復期リハビリテーション病棟は、病気やけがが急性期から回復期に入った患者様向けに、専門スタッフのチームが集中的にリハビリを施す病棟を指します。 回復期リハビリテーション病棟のある病院を探す際に簡単な方法が、「回復期リハビリテーション病棟協会」の公式サイトを調べることです。公式サイトでは都道府県別に専門病棟のある医療機関を探せます。もし、インターネットの扱いが得意ではない方も、各地の協会や医療機関への電話で問い合わせられます。 まとめ|脊椎圧迫骨折のリハビリは無理なく続けよう 脊椎圧迫骨折のリハビリは、骨折直後から徐々に始まります。最初はベッド上での関節可動域訓練や筋力をつける訓練から行い、回復期に入ったところで歩行訓練などに入るのが一般的です。 治療が進んでコルセットを外した後も、自宅などで通院を続けていく必要があります。脊椎圧迫骨折からの回復には筋力を付けていくことが欠かせないため、無理のない範囲で継続していくことが大切です。 脊椎圧迫骨折のリハビリでよくある質問 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリの内容は? 腰椎や脊椎の圧迫骨折で行うリハビリは、骨折して間もない頃はベッド上での関節可動域(ROM)訓練やベッド上でできる簡単なストレッチを中心に行います。 その後、コルセットを装着した後は歩行訓練や下半身の筋力を付ける訓練を通じて、日常生活に復帰していく準備を進める流れです。退院後も自宅でできる筋トレやストレッチ、運動を行います。 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリで行うストレッチとは? 腰椎や脊椎の圧迫骨折のリハビリで行うストレッチで主なものは、次のとおりです。 腹筋運動 ブリッジ(お尻上げ運動):仰向けに寝た後で、両膝を曲げながらお尻を持ち上げる ドローイン:両膝を曲げた仰向けの姿勢から腹筋に力を入れつつ、ゆっくり息を吐く スクワット:まっすぐな姿勢から膝を曲げ伸ばす。曲げ伸ばしの角度は最大でも90度 四つん這いでの下肢伸展:四つん這いの状態から、片足を上げて後ろに伸ばす これらのストレッチや運動は、患者様の回復段階に応じて段階的に取り入れられます。 実施する際は、痛みを感じない範囲で無理をせず、理学療法士などの専門スタッフの指導のもとで行いましょう。 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際の評価項目とは? 脊椎圧迫骨折のリハビリを進める際、「評価項目」に基づいて患者様の状態などを確認・評価します。評価項目の具体的なポイントは、基本的に以下のとおりです。 コミュニケーション:認知症などの精神障害の有無 疼痛(とうつう):痛みの見られる部位や原因 関節可動域や筋力:体幹や股関節の状況。 姿勢 歩行能力:歩行できるかどうかや、歩ける距離・歩行器の必要性 バランス能力:転倒リスクの確認 なお、医療機関によって評価項目の内容が異なることもあります。
2025.05.29 -
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高齢で脊椎圧迫骨折と診断され、今後の治療の方法が気になる方もいるのではないのでしょうか。 高齢者の脊椎圧迫骨折は、当初はコルセットなどを着けて安静にしながら、リハビリに取り組んでいくのが一般的です。ただ、脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症(骨粗しょう症)が関わっているため、日常生活を見直しながら骨を強くする習慣も欠かせません。 本記事では高齢者の脊椎圧迫骨折について、治療方法や期間、予防の方法を解説していきます。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療法 脊椎圧迫骨折の治療は、基本的には安静にすることが大切です。ただし、安静だけでなく、患者さんの状態に応じてさまざまな治療法を組み合わせて行います。 主な治療法には以下のようなものがあります。 保存療法:コルセットやギプスを着用して安静を保つ 薬物療法:鎮痛薬や骨粗鬆症の治療薬による症状緩和 手術療法:骨セメント注入術や固定術による根本的治療 リハビリテーション:筋力維持と機能回復を目的とした訓練 それぞれの治療法について、詳しく解説していきます。 保存療法|コルセットやギプスの着用 保存療法は脊椎圧迫骨折の治療で、最も基本的な手段です。とりわけ高齢者の場合は、体力の負担を抑えながら回復を図れる方法としてよく用いられます。 具体的には、硬めのコルセットやギプスを腰回りに装着することで、脊椎や腰を安定させるものです。脊椎圧迫骨折が起きてから1ヶ月は、骨折部位が不安定な状態で変形もしやすいため、コルセットなどで安定させます。 保存療法では月日が経つ中で、骨折部位が固定するのを待つのがポイントです。同時に痛みも2週間から1ヶ月程度で、次第に収まってきます。ただ、骨折部位の完全な回復までは数ヶ月はかかるため、その間はコルセットなどを装着するのが一般的です。 薬物療法|鎮痛薬や骨粗しょう症の治療薬 続いて薬物療法は、骨折した箇所の痛みが特に強い場合に用いられます。基本的に湿布や飲み薬などの、市販薬や病院で処方された薬物を使用するやり方です。痛みの程度によっては、骨折部位の筋肉の緊張を和らげる目的で、筋弛緩薬も使われます。 加えて、症状が落ち着いて床を離れられる段階に、高齢者の脊椎圧迫骨折の主な要因である骨粗しょう症の治療薬も投与されます。 手術療法|骨セメント注入術や固定術 手術療法は、保存療法で状況が好転しない場合や骨折部位の変形が著しいなどの状況が見られる時に用いられる方法です。手術療法では、つぶれた骨の内部をバルーンで広げた後、骨セメントを注入して骨自体を安定化させる「骨セメント注入術」が活用されます。骨セメント注入術は手術療法でも、患者の体への負担が少ない点も特徴です。 骨セメント注入術以外にも、骨をボルトなどで固定する「固定術」もあります。固定術は骨折箇所が3ヶ月以上見られるなどの深刻な状況で使われる術式です。 リハビリテーション|筋力維持が目的 リハビリテーションは、基本的には骨折や手術の直後から始まります。治療が始まって間もない頃は、ベッドで安静にしていることが大切ではあるものの、安静にしている間は筋力が低下しやすいです。筋力が低下した場合、再度骨折する危険性さえあります。 骨折や手術から1週間は、専門スタッフの指導を受けながらベッドでできるエクササイズを行う流れです。1週間経過してコルセットで骨折部位を固定した後は、歩行訓練やバランス訓練を積極的に行います。 さらにコルセットやギプスを外した後は、足腰の筋力を回復させるための体幹トレーニングを進めていくのが一般的です。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療期間の目安 高齢者が脊椎圧迫骨折してしまった時、具体的にどの程度の期間にわたって治療が必要なのか、気になる方もいるのではないでしょうか。 脊椎圧迫骨折の治療期間は、数週間から数ヶ月程度が目安です。特に最初の1ヶ月は、安静と可能な範囲での筋力回復が欠かせません。順調に治療や回復が進んだ場合は、3~4ヶ月程度で骨折部位が癒合(骨がくっついて治癒)していきます。 ただし、高齢者は若い年代の方よりも骨の修復に時間がかかるため、骨折の状況や程度などによって治療期間が長引く場合もあります。 高齢者の脊椎圧迫骨折の予防法 脊椎圧迫骨折の要因は、骨の量や密度が減ってしまう骨粗しょう症です。そのため、普段から骨を強く丈夫に保つことが、脊椎圧迫骨折の予防につながります。 また、一度脊椎圧迫骨折を経験した方は、再発リスクが高いため、予防対策がより重要です。ここでは、脊椎圧迫骨折の具体的な予防法を解説します。 骨を強くする食生活が大切 脊椎圧迫骨折や骨粗しょう症を防ぐには、まず骨を強くする食生活を意識します。 骨を強くする栄養素には骨を生成するカルシウムや、カルシウムの吸収を促すビタミンD、筋力の強化や骨の形成を助けるたんぱく質などが挙げられます。カルシウムは牛乳やチーズなどの乳製品や、カタクチイワシのような小魚に多く含まれる栄養素です。 またビタミンDは、鮭やサンマなどの魚類や、マイタケやキクラゲなどのキノコ類から多く摂取できます。たんぱく質も肉や魚のほか、納豆や味噌のような大豆食品に多いです。 なお、ビタミンDは、食事以外にも日光を浴びることでも生成されるため、意識的な外出や日光浴もおすすめできます。 適度な運動を取り入れる 骨粗しょう症、ひいては脊椎圧迫骨折を防ぐ上で適度な運動も効果的とされる方法です。 運動は骨に負荷を与えることで、骨密度を高めます。同時に筋力の維持・強化によって足腰が鍛えられ、脊椎への負荷が分散されるため、骨折のリスクを下げる効果も期待できます。 脊椎圧迫骨折の予防に役立つ運動には、ウォーキングが挙げられます。適度な負荷で骨の強化が期待でき、運動習慣がない方でも気軽に始められます。慣れてきたら、ジョギングなどより強度の高い運動に段階的に取り組むのも効果的です。 自宅内の歩行にも注意 脊椎圧迫骨折を予防するには、自宅内での歩行にも注意を払う必要があります。脊椎圧迫骨折を引き起こす人は、骨粗しょう症で骨密度が下がっている分、ちょっとした転倒や尻もちで骨折しやすいためです。 自宅内で歩く際には、段差や滑りやすい床は特に注意すべき箇所です。玄関や階段などにはあらかじめ手すりを設置し、歩く際もつかまるようにすれば転倒による骨折のリスクを下げられます。同時に滑りやすい床には、滑り止めシートやマットを敷くのもおすすめです。 脊椎圧迫骨折の治療でやってはいけないことは? 脊椎圧迫骨折の治療では、やってはいけない行為もいくつかあります。具体的には次のとおりです。 あおむけの状態で寝る:背中への負荷が大きくなるため、横向きの姿勢を推奨。 前かがみになる:骨折した部位に負荷がかかるため。 重い物を持つ:背骨に強い力や負荷がかかる。特に床に置いてあるものの持ち上げは禁忌。 体をひねる・反らす:骨折部位に負荷がかかり悪化の原因となるため。 飲酒・喫煙:骨の強度や密度を弱めるため。 これらの注意点を守ることで、症状の悪化や再発を防ぐことにつながります。不明な点があれば、必ず医師に相談してから行動しましょう。 まとめ|脊椎圧迫骨折は日頃からの予防が大事です 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療は、基本的に保存療法で安静にしながら、運動やリハビリテーションを取り入れていきます。しかし、脊椎圧迫骨折自体は骨粗しょう症が根本的な原因であるため、骨を強くするための食事や運動の改善が重要です。 逆に考えれば、日頃から規則正しい食事や適度な運動を通じて骨粗しょう症を予防すれば、脊椎圧迫骨折のリスクは下げられます。 骨粗しょう症や脊椎圧迫骨折への対策を立てたい方は、日頃の食生活や運動の習慣を見直しましょう。 高齢者の脊椎圧迫骨折の治療に関してよくある質問 高齢者の圧迫骨折は治る? 高齢者の圧迫骨折は、コルセットなどで固定した状態での安静と運動を行うことで、2~3ヶ月程度で治るケースが多いです。 根本的な原因として骨粗しょう症があるため、日常生活の見直しや骨の強化で再発を防止できます。 高齢者の腰椎圧迫骨折の入院期間はどのくらい? 高齢者が腰椎圧迫骨折の手術を目的にした入院期間は、基本的には1週間程度が一般的です。 ただし、まれに合併症を引き起こす場合があり、その際には入院期間が延びることがあります。 なお、退院後も経過の確認のために、定期的な通院が必要です。 高齢者の圧迫骨折は寝たきりになりやすい? 高齢者は圧迫骨折がきっかけで寝たきりになるケースがあります。 骨折によって寝たり起きたりするだけでも痛みに苦しめられるため、体を動かす気力が下がってしまうためです。 痛みを恐れて体を動かさない状態が続くと筋力が低下し、さらに動くことが困難になり、寝たきりになってしまうことがあります。 圧迫骨折は放置するとどうなる? 圧迫骨折を適切に治療せずに放置すると、骨折した骨がつぶれたまま固まってしまい、背中が曲がった状態になることがあります。また、骨がきちんとくっつかずに、長期間痛みが続く場合もあります。 さらに、圧迫骨折を起こす方は骨がもろくなっていることが多いため、他の背骨や別の部位でも骨折を起こしやすいです。このため、一度圧迫骨折を起こした場合は、骨密度の検査や骨粗しょう症の治療を受けることが重要です。
2025.05.29 -
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「スポーツ中に突然腰が痛くなった」「重いものを持ったときに動けなくなった」 そんなときによく言われるのが「ぎっくり腰」です。 この急な腰痛の原因のひとつとして、「筋・筋膜性腰痛」があります。 筋・筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜に強い負担がかかって起こるもので、急性の痛みだけでなく、慢性的な腰のだるさや違和感として現れることもあります。 放置すると慢性化しやすいため、早めの対処が大切です。 この記事では、筋・筋膜性腰痛について、ぎっくり腰との関係や、治療法・予防法などをわかりやすく解説します。 筋・筋膜性腰痛の原因 筋・筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜に強い負担がかかることで起こる腰痛です。 スポーツ選手から座り仕事の方まで幅広く見られる症状で、適切な対処をしないと慢性化する恐れがあります。 主な原因 スポーツ時の過度な腰のひねり、反り、前かがみ 長時間の座り作業や重い物の持ち上げ 座りっぱなしの生活習慣 猫背などの悪い姿勢の継続 筋膜は筋肉を包む薄い膜で、正常時は筋肉の形状維持や力の伝達を担っています。しかし、腰に強い負荷がかかると筋肉や筋膜に損傷が生じ、強い痛みを感じるようになります。 慢性化すると、筋肉の緊張が高まり継続的な痛みとして現れるため、早期の治療が大切です。 筋・筋膜性腰痛の症状と特徴 筋・筋膜性腰痛になったことがない場合、どのような症状や特徴があるのか実感しにくいのではないのでしょうか。 筋・筋膜性腰痛の症状や特徴を前もって知っておくと、早期発見や適切な対処に役立ちます。 筋・筋膜性腰痛はどんな痛み?主な症状 筋・筋膜性腰痛の主な症状は、腰を動かしたときに、腰椎(腰の背骨)に沿って生じる痛みです。 ちょっとした動きで腰に弱い衝撃が加わっても痛みを感じる場合もあります。とくに、中腰での作業や重い物の運搬、スポーツ中の腰をひねる動作などが痛みを引き起こしやすいです。 急性の腰痛であればより強い痛みが発生し、動くことが苦痛に感じるケースもあります。強い痛みは長くて1ヶ月程度で治るものの、痛みが落ち着く前に腰にさらなる負荷をかけると、慢性化のリスクがある点に注意が必要です。 筋・筋膜性腰痛とぎっくり腰の違いと見分け方 筋・筋膜性腰痛とは、腰の筋肉やそれを包む筋膜に負担がかかって起こる痛みのことを指します。この筋・筋膜性腰痛の急性の痛みが、一般的に「ぎっくり腰」と呼ばれることがあります。 つまり、ぎっくり腰は腰の急な強い痛みの症状名で、その原因の一つとして筋・筋膜性腰痛が関係しているのです。 スポーツで急に腰をひねったときや、一気に重い物を持ち上げたときに、突然強い痛みが生じることがあります。これが急性の筋・筋膜性腰痛によって引き起こされる、「ぎっくり腰」の典型的な症状です。 痛みが強くて歩けない時は要注意!他の病気の可能性 筋・筋膜性腰痛の症状が続き、痛みが強すぎて歩けないときは、他の病気の可能性があります。筋・筋膜性腰痛は通常、腰回りの神経や血管に異常は見られません。 しかし、痛みが強くて歩けない上に、短い距離を歩いた後にそれ以上歩くのが困難になるときは、足腰の神経や血管の異常が考えられます。筋・筋膜性腰痛に加えて腰部脊柱管狭窄症も併発している可能性もあり得るため、なるべく早めの医療機関の受診が大切です。 筋・筋膜性腰痛の検査と診断 筋・筋膜性腰痛になった時、行われる検査や診断の内容を知っていると、実際に病院などで治療を受ける際に心の準備ができます。筋・筋膜性腰痛の検査と診断は、医師による診断と各種検査が一般的です。 医師の問診・触診 筋・筋膜性腰痛の症状は、主に医師の問診や触診を通じて診断されます。 担当医師が実際に患部を指で押して痛む場所や痛みの強さを確認したり、患者から症状について聞き取ったりしながら判断する流れです。 レントゲン検査・CT検査・MRI検査 医師の問診や触診とともに、レントゲン検査をはじめとする画像検査も補助的に用いられます。ただし、筋・筋膜性腰痛は筋肉や筋膜で発生しているため、基本的には画像検査から診断できないことも多いです。 レントゲン検査やMRIなどの画像検査では、まず骨や神経に異常がないかを確認します。そして、他の腰関連の疾患の特徴に当てはまらないことを確認しつつ、問診や触診の結果と合わせて最終的に診断する流れです。 ただし、急性の症状の場合はMRI検査によって、筋の損傷が見られるケースがあります。 筋・筋膜性腰痛の治療法 筋・筋膜性腰痛の主な治療法は、薬物療法とリハビリテーション(リハビリ)です。症状の程度や急性・慢性の違いによって、適切な治療方法を選択していきます。 薬物療法 薬物療法は、痛みや炎症を抑える薬剤を使って症状を軽減していく方法です。湿布や塗り薬のような外用薬や、非ステロイド性抗炎症薬のような飲み薬を使うのが一般的です。加えて、痛みや炎症の程度によっては、患部への神経ブロック注射が用いられるケースもあります。 急性期には薬物療法と併せて、患部のアイシング(冷却)を行います。一方、痛みや炎症が落ち着いてきた段階では、電気療法や温熱療法などの物理療法に切り替えていきます。患部を温めることで血行が促されたり、筋肉の緊張が和らいだりする分、症状の緩和や傷ついた患部の修復効果が期待できます。 リハビリテーション リハビリテーションも筋・筋膜性腰痛では一般的な治療方法です。痛みが軽減してきた段階で、腰やお腹の筋力を高めるためのトレーニングやストレッチを行います。 筋・筋膜性腰痛は、筋肉が硬くなることによる血流の悪化が痛みの原因の一つです。このため、運動を通じて血流を促し、筋肉の柔軟性を高めれば症状の改善が期待できます。 リハビリテーションでは、姿勢改善の指導も行われます。猫背のような良くない姿勢や動作の改善を通じて、筋・筋膜性腰痛の原因を根本から取り除いていくためです。 PRP療法 筋・筋膜性腰痛に対しては、再生医療の「PRP(多血小板血漿)療法」という治療選択肢もあります。 これは自身の血液から抽出した血小板を濃縮し、患部に注射する治療法です。とくに早期回復を目指すスポーツ選手をはじめ、趣味やレクリエーションでの運動を続けたい方などに用いられることがあります。 筋・筋膜性腰痛の予防法と再発防止策 筋・筋膜性腰痛は日常生活での過ごし方次第で、予防や再発防止が可能です。筋・筋膜性腰痛を避けるには、以下の方法を意識します。 正しい姿勢と基本動作を身につける 筋・筋膜性腰痛の予防には、正しい姿勢と基本動作が欠かせません。立つ際にはお腹に少し力を入れた状態で、上に引っ張られる状態を意識しながら背筋を伸ばします。 また座る際にも、椅子に深く腰掛けながら、背筋を伸ばすのがポイントです。椅子の高さも重要で、足裏が全体的に床につく程度の高さが理想的です。 逆に猫背や前かがみの姿勢、反り腰は腰への負担を強めるため、避ける必要があります。 筋膜の柔軟性を保つストレッチと運動を行う 筋・筋膜性腰痛の予防には、筋膜の柔軟性を保つストレッチや運動が効果的です。筋膜が硬くなると血流が悪化し痛みを引き起こすため、日常的な運動やストレッチで柔軟性を維持しましょう。 筋・筋膜性腰痛の予防でよく活用されるエクササイズは、以下のとおりです。 起き上がり運動:膝を曲げた状態であおむけになった後、軽く上体を起こしてキープする。 おへそのぞき運動:膝を曲げた状態であおむけになり、おへそをのぞきながらキープ。 うつ伏せから上体起こし:うつぶせの状態から上体を起こしてキープ。 ただし、やりすぎるとかえって症状が悪化するケースもあるため、無理のない範囲で行うことが必要です。加えて、原因によってはストレッチでもあまり効果が見込めない場合もあるため、事前に医師へ相談の上で取り組んでください。 生活習慣の改善とセルフケアに努める 生活習慣の改善やセルフケアも、筋・筋膜性腰痛の予防に役立ちます。筋・筋膜性腰痛は、筋肉や筋膜の働きが衰えているために痛みが生じる症状です。 そこで生活習慣の改善で、筋肉や筋膜の働きを高める必要があります。とくに食生活では、筋肉を生成するたんぱく質や、骨密度の向上を促すカルシウムなどが重要な栄養素です。可能な限り栄養素のバランスが取れた食事を心掛ければ、筋肉・筋膜や骨の働きを回復できます。 まとめ|早期の適切な治療で筋・筋膜性腰痛の改善を目指そう 筋・筋膜性腰痛は、スポーツなどでの無理な姿勢や、座ってばかりの生活での腰の使いすぎが原因の症状です。中でも急性のものは「ぎっくり腰」の主要な原因となり、強い痛みを伴います。 治療では、患部を安静にしつつ薬物を投与したり、リハビリを行ったりするのが一般的です。加えて、姿勢の改善やエクササイズ、食生活を心掛けることで予防効果があるとされています。 筋・筋膜性腰痛は放置すると、別の腰の病気を併発するケースもあります。腰に痛みを感じる時は、無理せずに早めの医療機関の受診が大切です。 筋・筋膜性腰痛に関してよくある質問 筋・筋膜性腰痛はどのくらいで治る? 筋・筋膜性腰痛は、一般的に3週間から3ヶ月程度で治っていくとされています。とくに強い痛みは、安静にしていれば数日程度で収まっていく流れです。 ただ、痛みがあるにもかかわらず適切な治療を受けなかったり、無理して腰に負担をかけ続けたりすると治るまでの期間が長期化します。 筋・筋膜性腰痛が治らないときの対処法は? 筋・筋膜性腰痛の治療はまず、薬物を投与して安静にしつつ様子を見ますが、それでも改善しない時は画像診断で別の原因がないかを見ていくのが一般的です。別の原因が見つかったときには、手術など他の治療法で症状の改善を試みます。 筋・筋膜性腰痛で歩けないほど痛い時はどうすればいい? 筋・筋膜性腰痛で歩けないほど痛い時は、急性の症状であれば安静にしながらアイシングで患部を冷やすのが基本です。ただ、慢性的に歩けないほどに痛い場合は間欠性跛行(かんけつせいはこう)や、腰部脊柱管狭窄症の疑いもあるため、早めに医療機関を受診する必要があります。
2025.05.29