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減圧症による脳障害:その症状と後遺症に対する治療法 ダイバーや潜水を仕事にしている方にとって気をつけなければいけない減圧症。重症になると脳障害を起こすことはご存知でしょうか。 減圧症による脳障害は適切な治療で回復することが多いです。しかし、一部の患者さんでは治療を行っても後遺症が残ってしまいます。後遺症はダイビングや潜水作業のみならず日常生活にも支障をきたす可能性がああります。 本記事では減圧症による脳障害で起こる症状、およびその「後遺症と治療法について解説」していきます。ぜひ最後までお読みください。 減圧症とは 血液や組織に出現した気泡が血液の流れを阻害したり、直接的に組織・臓器にダメージを与えたりするのが減圧症のメカニズムです。 高い圧のかかる場所では窒素などの気体が血液や組織中に溶解してしまいます。低い圧の場所に移動すると、これらの気体が溶けきれなくなります。これが減圧症の原因となる気泡です。 体にかかる圧が急激に減少する場合に起こることが「減圧症」という名前の理由です。代表的なケースは潜水から急浮上するときであるため、「潜水病」とも呼ばれます。 減圧症の重症症状 減圧症は重症度別に軽症のⅠ型と重症のⅡ型の2つに分けられます。 Ⅰ型では肘や肩などを中心とした関節痛、皮膚の発赤や痒み、疲労感などの軽い症状が多くみられます。 一方、重症度の高いⅡ型では次のような重篤な症状を認め、時に命にも関わります。 脳の損傷 頭痛・意識障害・痙攣・片麻痺 脊髄の障害 四肢麻痺・排尿障害 内耳の障害 めまい・吐き気 肺の障害 呼吸困難・咳 なお、同様に急激な減圧により起こる動脈ガス塞栓症という病気もあります。こちらは圧変化により肺の一部が破れ、その気泡が血液内に入り臓器血管を閉塞してしまうことで起こるものです。肺が破れる気胸などとともに心筋梗塞や脳梗塞をきたします。 動脈ガス塞栓症は減圧症との区別がつきにくく、同時に起こることもあるため注意が必要です。治療方針は一緒であるため、とくに重症例では動脈ガス塞栓症も合併している可能性を念頭に置きます。 減圧症による脳障害の症状 気泡が脳実質に障害を起こしたり、脳の小さな血管の血流障害を起こしたりすることで脳障害をきたします。 症状は障害を受けた脳の部位により多種多様です。 例えば、次のようなものが挙げられます。 ・記憶障害 ・ふらつき(失調) ・まぶたや指の震え ・片麻痺症状 ・いつもと異なる異常な言動 ・意識障害 通常の脳梗塞と異なり、早期に適切な治療を行えば症状を残さずに回復する可能性があります。しかしながら広範囲のダメージを受けてしまうと、後遺症が残り、最悪の場合は死に至ることすらあります。 減圧症が起こった場合の治療 減圧症発症時は、100%の酸素投与とともに、全身状態を落ち着けることが必要です。全身状態により、輸液・昇圧薬投与・人工呼吸など必要な処置を行います。 同時に、発症の早いうちに再圧療法が必要です。治療ができる医療施設は限られているため、専門施設へ紹介をされて搬送されることになります。 再圧療法とは、高い濃度の酸素と高い圧をかけることができる特殊な装置を用いる治療です。気泡を再び血液や組織中に溶け込ませるとともに、酸素を投与して血流障害が起こっている組織の回復を目指すものです。 基本的には初回の治療で完治を目指すことが原則です。ただし、神経症状が残ってしまった場合は追加治療を行います。 後遺症の可能性と治療について 前述のように、一般的な脳梗塞と違って適切な治療で症状が改善することが多いです。しかし、脳の広範囲にダメージが起こった場合や適切な治療時期を逃してしまった場合などは、障害を残すことがあります。 麻痺や失調・高次脳機能障害などが固定化してしまった場合は、リハビリテーションを行う必要があります。時間をかけて徐々に機能回復できる場合もありますが、不便さが残る可能性も高いです。 減圧症について気になるQ & A Q:減圧症を起こさないために注意すべきことは? 潜水当日の体調不良は減圧症のリスクを高めるといわれています。体調を万全に整えておきましょう。 急激な浮上を行ったり、1日に何回も潜ったりすると窒素が気泡化しやすくなるため、手順を守って過剰に潜ることは避けるべきです。 また、潜水直後に飛行機に乗ることは危険です。上空は圧が低いので、より減圧症が発症するリスクが高くなるからです。 Q: 減圧症と減圧障害の違いはなんですか? 減圧症は圧の急激な変化により窒素などの気泡が生じて組織障害をきたす疾患です。減圧障害とは、減圧症と動脈ガス塞栓症の2つの状態を合わせたものです。 とくに脳障害をはじめとした重症例ではこの2つの病態の鑑別が難しいことも多くあります。また、基本的な初期対応も同じです。そのため、近年では2つを合わせた「減圧障害」の呼び方がより一般化してきています。 まとめ・減圧症による脳障害:その症状と後遺症に対する治療法 減圧症の脳障害は重篤で、後遺症が残ってしまう可能性もあります。ひとたび後遺症が残ると、根気強いリハビリが必要です。 ダイビングや潜水に関わるお仕事をされている場合はしっかりと減圧手順を守るとともに、「おかしいな」と思ったらすぐに受診をしましょう。 なお、当院では最新治療の一つとして注目されている幹細胞治療を用いて、脳卒中など脳の障害による後遺症の治療を行っています。減圧症による脳障害の後遺症でお困りであれば、再生医療専門の当院にぜひ一度ご相談ください。 No.167 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 高谷陽一. 医学のあゆみ 276(4): 291-294, 2021. 梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022. 工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021. 日本高気圧環境・潜水医学会. 減圧症に対する高気圧酸素治療(再圧治療)と大気圧下酸素吸入. 2018年9月28日 土居浩, 朝本俊司, 荒井好範. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2020; 55: 26-33. 鈴木直子.柳下和慶, 外川誠一郎, 山見信夫, 岡崎史紘, 芝山正治, 椎塚詰仁, 山本和雄, 眞野喜洋. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2012; 50: 1-9. 合志 清隆, 森松 嘉孝, 玉木 英樹, 村田 幸雄, 合志 勝子, 石竹 達也, 井上 治. 医学のあゆみ 263(3): 261-262, 2017. 小濱正博 レジデントノート 8(5): 667-674, 2006.
最終更新日:2024.02.12 -
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減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法!医師が解説 減圧症とは、高圧環境下で血中や組織中に溶解していた窒素などの空気が、急激な減圧により気泡化して起こる疾患です。潜水からの急浮上に伴うものが代表的であるため、「潜水病」と呼ばれることもあります。 軽い関節痛や痒み・発疹などの軽症から、脳障害や脊髄損傷をきたして死に至る重症まで症状は多様です。 本記事では発症直後の応急処置や再圧治療について解説します。後遺症に対する最新治療としての再生医療の可能性についてもご説明していきます。 減圧症の応急処置 減圧症をきたした際、専門的な治療ができる医療機関へ搬送を待つ間にできる応急処置をご紹介します。 もし患者さんに意識がなく、呼吸が止まっている状態であれば、速やかに胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸といった心肺蘇生を行う必要があります。AEDが準備できるのであれば速やかに装着しましょう。 脳の障害をきたすこともある減圧症では、脳圧をあげないために頭を下げる体勢は厳禁です。意識があれば仰向けで休ませましょう。 意識がなく、呼吸のみある状態であれば回復体位(上図)をとります。舌の付け根が喉を塞いだり嘔吐物で窒息をしたりしないために、下顎を突き出して横を向くような体勢にします。 呼吸の有無に関わらず必要なのが高濃度の酸素投与です。酸素には組織の窒素の洗い出し効果があるためです。設備があれば一刻も早く開始してください。 意識があれば水分補給を行いましょう。もし医療系の資格を持つ人がいて器材があれば点滴を行います。また、体を冷やしすぎないように保温に努めてください。 意識がなく、呼吸が止まっている状態 ・胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸で心肺蘇生する 意識がなく、呼吸のみある状態 ・回復体位をとる(上図参照) 意識がある場合 ・仰向けで休ませる ・水分補給を行う ・器材があれば点滴を行う(医療資格保持者がいる場合) 注意点 ・設備があれば呼吸の有無に関わらず高濃度の酸素を投与する ・頭を下げる体勢は厳禁 ・体を冷やしすぎないように保温する なお、再度潜水をして症状軽減をはかる「ふかし」は絶対に行ってはいけません。ふかしは空気を使用するため、酸素投与と比較しても窒素の洗い出し効果の効率が悪いためです。再度浮上した時に症状が再燃したり、場合によっては増悪したりするリスクもあります。 減圧症の治療 治療の原則は「再圧治療」です。 再圧治療とは 治療を受ける人は、専用の治療タンク内に入ります。タンク内の気圧は水中でかかるくらい高い圧まで上がります。その中で患者さんは純酸素を吸入します。 高い気圧により気泡は圧縮され、再度血液や組織中に溶け込みます。その結果、血流の回復が期待できる治療法です。 さらに高濃度酸素を投与することで、組織へ効率よく酸素が運ばれてきます。組織に酸素が届くと、窒素が洗い出されます。窒素は肺へ集まり、体外へ排出されるのです。 一定時間、高い気圧をかけたら、その後はゆっくり減圧行います。こうすることで、再度気泡ができることを防ぎます。 高い気圧をかける時間や減圧については、世界的に標準治療として使用されている「米海軍酸素再圧治療表6」に従って行うことが原則です。 初回で可能な限り症状をなくしてしまうことが重要であるため、経過を見ながら治療時間の調整が行われます。それでも症状が残ってしまった場合は、症状の回復の可能性があるのであれば複数回の再圧治療を行うこともあるのです。 減圧症の後遺症 減圧症により脳や脊髄の障害が起こっても、早期に適切な治療が行われれば症状の消失が期待できます。しかしながら、治療が遅れたり適切な治療がなされなかったりすると後遺症を残す可能性があります。 後遺症の症状は障害部位により多様です。以下に代表的な後遺症をお示しします。 内耳障害 聴覚と平衡感覚に関わる第Ⅷ脳神経の障害です。基本的には適切な治療で改善します。しかし、減圧症と気づかずに治療が遅れると耳鳴りやふらつきが残ります。 対麻痺 主に下肢の両側に左右対称に起こる運動麻痺です。脊髄の障害による後遺症です。 膀胱直腸障害 脊髄の障害により、排尿や排便のコントロールが困難になります。尿がうまく出なくなったり、失禁を起こしたりします。 感覚障害 脊髄および脳の障害いずれでも起こる後遺症です。痺れたり、感覚がわからなくなったりします。脳障害の後遺症として起こる場合は障害部位と反対側に認められます。一方、脊髄の障害の場合は障害された部位より下に両側に起こることが一般的です。 片麻痺 脳の障害により起こります。対麻痺と異なり、片側の手足の運動麻痺です。 これらの後遺症によりダイビングへの復帰が出来なくなるだけでなく、導尿が必要になったり車椅子生活を余儀なくされたりするケースもあるのです。このような場合にはリハビリを行い、少しでも生活しやすくなるように工夫するより他にありません。 また、急性期の症状は回復して残らずとも、のちに骨壊死を起こすことがあります。減圧症により骨の循環障害が起こることで骨の一部が壊死してしまうのです。 もっとも多いのは大腿骨頭壊死です。発症直後は無症状ですが、徐々に骨頭が潰れていくため股関節痛が起こります。最終的には関節が破壊され、歩行が困難になってしまいます。 骨壊死が起こってしまうと症状の進行を止めることはできず、生活に支障が出れば手術が必要になるのです。 後遺症は治せるのか?再生医療の可能性について 現在、最新の治療である幹細胞治療がさまざまな分野で注目を浴びています。減圧症の後遺症についても同様のことが言えるでしょう。 幹細胞治療は、「間葉系幹細胞」と呼ばれる色々な細胞に変化できる万能細胞の特性を活かした治療法です。幹細胞を採取して培養を行い、障害部位に投与することで組織の再生を促します。 一般的に回復しないとされていた脳卒中や脊髄損傷により傷ついた神経や、従来手術しかないと考えられてきた変形した関節の治療などが対象です。そのため減圧症の後遺症についても、幹細胞治療が役に立つ可能性があるでしょう。 ▼脊髄損傷に対する幹細胞治療についてはこちらの動画をご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE まとめ・減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法とは!医師が解説! 減圧症発症後の各段階での治療について解説をしました。 減圧症の後遺症は後の生活に大きな支障を及ぼします。まずは起こさないことが一番です。 不幸にして発症してしまった場合でも、速やかな治療により後遺症が残る可能性を抑えることができます。応急処置のための酸素の準備・心肺蘇生法の習得・搬送先の把握なども、潜水をする上で重要な準備と言えるでしょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.167 監修:医師 坂本貞範 参考文献 鈴木 信哉:潜水による障害,再圧治療. 高圧酸素治療法入門第6版. 日本高気圧環境・潜水医学会. 2017; 147-174. 小濱正博. レジデントノート 8(5): 667-674, 2006. 小島泰史, 鈴木信哉, 新関祐美, 小島朗子, 川口宏好, 柳下和慶. 日本渡航医学会誌 13(1): 27-31, 2019. 梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022. 工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021.
最終更新日:2024.03.25 -
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減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 減圧症は、急激な高気圧から低気圧への移動時に生じる症状の総称です。減圧症は、潜水や高地登山など、急激な気圧の変化が起こる状況で発症することがあります。 この記事では、減圧症対策として、その原因や予防するためのポイントを6つに分け、わかりやすく解説します。 減圧症の原因 減圧症のメカニズムとしては、身体の周囲の気圧が急激に低下することで、体内の血液や組織に溶け込んでいる窒素ガスが血液や皮膚・筋肉・臓器などの組織の中で気泡を作り、血流障害や組織の破壊を引き起こすというものになります。 以下は、減圧症の主な原因です。 潜水における減圧症 潜水中に吸い込んだ空気中の窒素は血液や組織に取り込まれますが、水圧が高いところではその量が増えていきます。すると、窒素は急速にそして過剰に血液や組織に溶け込みます。その状態で急速に水面に浮上すると、周囲の水圧が低下するために血管内や組織内で窒素の気泡が形成されます。この気泡が、血管を詰まらせて血流を阻害したり、組織を破壊したり、炎症反応を引き起こすことで、さまざまな障害や症状を引き起こすのです。 減圧症は潜水後に起こることが多いので、潜水病とも呼ばれます。 減圧症の影響 減圧症では、水面に浮上した後に倦怠感や疲労感、食欲不振、頭痛などの初期症状が現れることがあります。そして、徐々に他のさまざまな症状も現れてきます。 減圧症には、以下の2つのタイプがあります。 ・ Ⅰ型:皮膚や筋肉の症状(ベンズ)のみ ・Ⅱ型:呼吸・循環器症状(チョークス)や中枢神経症状を伴うもの Ⅱ型は、Ⅰ 型よりも重症です。 減圧症では、脊髄損傷も起こりやすいとされています。その他には、脳障害、呼吸器系の障害(肺塞栓など)、循環器系(心不全や心原性ショックなど)もあります。 また、減圧症の長期的な影響として、減圧性骨壊死という骨の障害もあります。この骨障害は、肩関節や股関節によく起こります。特に、大腿骨頭壊死が起こると、歩行障害などの影響がでたり、重症な場合には手術が必要となることもあります。 減圧症の治療の応急処置としては、100%酸素吸入を行っていきます。そして、専門医療機関では、高気圧酸素療法が行われます。 減圧症の予防ポイント6つ! ダイビング時だけでなく、登山時にも引き起こされることがあります。減圧症を予防するためのポイントを6つに分けて解説します。 ①潜水前の注意 減圧症は、以下に述べるような要因があるとそのリスクが増大します。 ・卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)や心房中隔欠損などの心臓の病気 ・疲労 ・肥満 ・高齢 このようなリスクがないかどうか、潜水前にチェックしておくことが大切です。 ここにあげたようなリスクがある方については、医師に事前に潜水をしてよいか、確認をしておく方がよいでしょう。また、潜水前には、適切な訓練と手順を確実にチェックし、それを守ることが必要です。 ②潜水時の注意 急激な深さへの潜水や長時間の潜水は避け、適切な休憩を取りましょう。 また、浮上の速度は15〜30cm/秒を超えないようにします。さらに、水深3~4mの地点で3~5分間の安全停止をすることも、圧力の平衡を保つために推奨されています これに関しては、米国海軍潜水マニュアル(United States Navy Diving Manual)といった正式なガイドラインなどを参考にして、浮上したりすることで減圧症の予防につとめましょう。 ③潜水後の注意 ダイビング後12〜24時間以内は飛行機に乗らないようにしましょう。 潜水活動を行った後に飛行機に乗るような場合には、12〜24時間は海抜0の場所にとどまり、一定期間の休息後が望ましいとされています。 ダイビング後12〜24時間以内に飛行機に乗ると、減圧症のリスクが高まることが知られているのです。 ④高地登山の適切な計画 登山中に急激な標高の変化があると、大気中の酸素濃度が減少し、それによって減圧症が引き起こされることがあります。 登山前には、適切な標高への適応期間を確保し、急激な標高の変化を避けるよう計画しましょう。適切な装備の使用や体調管理も欠かせません。 ⑤十分な水分摂取 どの状況においても、十分な水分摂取が重要です。 水分不足は体調不良を引き起こしやすくなりますので、こまめな水分補給を心掛けましょう。 ⑥専門家のアドバイスを仰ぐ 潜水や高地登山など、特定の状況における活動前には、専門の医師や指導者に相談し、適切なアドバイスを得ることが賢明です。 以上のポイントを守ることで、減圧症のリスクを最小限に抑え、安全にダイビングをしたり登山をしたりすることが可能となるでしょう。 まとめ・減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 今回の記事では、減圧症の原因やメカニズム、予防法について詳細に解説しました。 しかしながら、適切な予防法をとっていても、減圧症による脊髄障害や脳障害によって麻痺などの症状が残ってしまう場合もあります。 こうした減圧症による脊髄損傷に対しては、リハビリテーションを行ったり、場合によってはステロイドなどの薬物治療が行われることが一般的です。しかしながら、こうした方法は根本的な治療法ではありませんでした。 そこで当院では、幹細胞治療として、自分の脂肪から培養した脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。この治療は、幹細胞を脊髄腔内に直接注入するというものです。 今までに、脊髄損傷の症状が改善されたという報告も寄せられており、今後に期待が持てる治療の一つと言えます。 ▼減圧症などで脊髄損傷を起こしてしまった方で、再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE No.166 監修:医師 坂本貞範 参考文献 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDプロフェッショナル版 素潜り漁中に発症した脳型減圧症の1例.臨床神経学. 2012;1052(10):757-761 潜水時の予防措置および潜水障害の予防 - 22. 外傷と中毒 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDマニュアル家庭版
最終更新日:2024.03.25 -
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減圧症(潜水病)は軽度なら自然治癒も!症状のセルフチェックリストをご紹介 潜水病、または減圧症は、潜水中に急激な水圧の変化にさらされた際に発生する症状です。軽度の場合、自然治癒が見込まれることがあります。ただし、症状をきちんと知って早期に対応することが重要です。 今回の記事では、軽度の減圧症の症状と、そのチェック方法、また重症な減圧症症状について解説していきます。 減圧症とは 減圧症は、減圧障害(decompression illness)の一つです。 減圧障害は、ダイビングなどで急激な気圧環境の変化により体液中に増加した溶解ガスが、代謝されない不活化ガスとして組織や血管内で気泡化した結果、組織障害や循環障害をおこす減圧症(decompression sickness,DCS)と、減圧により生じた肺胞障害をきたし、肺胞ガスが血液に流入し塞栓症をおこす動脈ガス塞栓症(arterial gas embolism,AGE)に分類されています。 なお、減圧症は潜水後に発症することが多いために、潜水病と呼ばれることもあります。関節痛や筋肉痛、めまい、意識障害といった症状が代表的なものです。 減圧症は、軽度な症状を呈するI型減圧症、重症のII型減圧症の二つがあります。ここから、それぞれについて述べていきます。 潜水病|軽度の場合、その症状とチェックリスト それでは、軽度の潜水病の症状についてより詳しく解説していきます。 軽度の潜水病では、以下のチェックリストに記載したような症状が現れます。ご自分でチェックいただけ、その際の対応方法 ☑症状セルフチェックリスト ▢関節や筋肉の痛み ▢皮膚発疹やかゆみ ▢疲労感 ▢吐き気や頭痛 ▢注意力散漫 これらの症状が現れた場合、以下のように対応していきます。 1. 症状の把握:上記の症状が自身に当てはまるか確認します。 2. 早期対応:症状が出たら、すぐに潜水を中断し、水の中から上がります。 3. 酸素の供給:酸素を吸入することが症状の軽減や悪化予防に役立ちます。 4. 医療機関への連絡:症状が持続する場合は、すぐに医療機関に連絡し、専門医の診断・治療を受けるようにします。 ダイバーや潜水士などが皮膚のかゆみや発疹、疲労だけを訴えている場合は、フェイスマスクを着用し、100%の酸素を吸うことが応急処置として推奨されています。 減圧症の初期対応が他の救急疾患と異なる点は、この100%酸素療法が勧められていることです。軽度の場合はこれらの対応で改善することが期待されます。 一方、重症な場合には次に述べるような問題が起こります。 重症の減圧症の症状 重度の減圧症になると、呼吸・循環器症状や脳障害や脊髄損傷による中枢神経症状を伴います。これらは、脳型減圧症や脊髄型減圧症とも呼ばれます。 脳型減圧症 脳型減圧症による神経障害の発症機序としては、減圧後に血管内あるいは組織内に生じた気泡により血流障害、または直接的な組織障害が生じることが原因とされています。その詳細はまだ明らかではない部分もあります。 脳型減圧症になると、脳卒中に似ている症状が現れます。つまり、減圧症の症状の一つとして脳の中で気泡が出来てしまう場合に、頭痛、錯乱、発話困難、複視といった症状も出てくるのです。 脊髄型減圧症 脊髄型減圧症は、II型減圧症の中で最も多いとされています。 脊髄型減圧症の症状としては、腕や脚にしびれや痛み、筋力の低下、またはこれらが組み合わさったものがあります。これらの痛みやしびれなどは、放置しておくと数時間で治らない麻痺にまで進行してしまう場合があります。 また、脊髄損傷と同様に、排尿や排便が制御できなくなる、膀胱直腸障害が現れることもあります。腹痛や背部痛も症状として挙げられます。 呼吸器の減圧症 チョークス(呼吸器の減圧症)はまれなのですが、深刻な症状が現れます。 この肺の症状として、具体的には息切れや胸痛、咳嗽などがあります。こうした症状は、肺水腫(はいすいしゅ)といって、肺が水浸しになり、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなる現象が起こってしまうことから生じます。 また、肺の血管に多量の気泡による塞栓(そくせん)が生じるために、細かな血管などが詰まってしまい、その結果血液を身体に十分に届けることが出来なくなってしまい、死亡につながることもあります。 減圧性骨壊死 減圧症の長期的な症状として、減圧性骨壊死があります。 この骨壊死は気圧が高い場所に長時間滞在したり、短い間隔で潜水したりすることにより起こってしまうことがあります。 骨壊死が起こる部位としては、肩関節面や股関節面などがあります。減圧性大腿骨頭壊死が起こると、生活の質が下がる原因となり、場合によっては手術が必要となることもあります。 減圧症の治療 減圧症の治療は、まずは100%酸素投与が基本となります。また、脱水に陥っていることが多いため、口から飲める場合には経口補水液を飲ませます。もし飲水が難しい場合には、点滴で輸液といって水分や電解質を補う治療をしていきます。 そして、専門の医療機関で高圧酸素療法を行っていきます。 減圧症を疑う場合には、早急に治療を開始することが大切になります。もしも重症の減圧症の症状が出てしまい、潜水後に意識障害や呼吸困難に陥っている場合や、心肺停止に陥った場合には、心臓マッサージや人工呼吸などの救急対応をすることも必要です。 まとめ・減圧症(潜水病)軽度なら自然治癒も!症状をセルフチェックする! 今回の記事では、減圧症の症状について、軽度なものから重症なものまで詳細に解説しました。 軽度な症状のチェックリストに当てはまる場合には、早めに酸素吸入を行うと軽度の症状であれば治ることもあるのですが、重症の場合には完全には麻痺などの症状が治らない場合もあります。 こうした減圧症による脊髄損傷に対しては、これまで根本的な治療法がありませんでした。そこで当院では、自分の脂肪から培養した脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。この治療は、幹細胞を脊髄に直接注入するというものです。今までに、脊髄損傷の症状が改善されたという報告も複数いただいています。 減圧症などで脊髄損傷を起こしてしまった方で、再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 No.165 監修:医師 坂本貞範 参考文献 素潜り漁中に発症した脳型減圧症の1例.臨床神経学. 2012;1052(10):757-761 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDプロフェッショナル版 減圧障害の最善の対処法は何か? -初期対応の酸素吸入と高圧酸素治療 について-J UOEH(産業医科大学雑誌).2021;43(2):243-254 スポーツダイビングによる脊髄型減圧症の1例.リハビリテーション医学.2006;43:454-459. p454 比較的若年の潜水漁漁師にみられた 減圧性骨壊死.産衛誌.2017; 59(2): 59-62
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もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)とは|その症状と治療法について はじめに もやもや病という病名を聞いたことがあるでしょうか?正式には、「ウィリス動脈輪閉塞症」といい、脳の血管が閉塞もしくは狭窄することによって引き起こされる脳に起こる疾患です。もやもや病には、脳の血液供給の大事な一部を担う、内頚動脈や中大脳動脈とよばれる血管が関与しています。 この記事では、もやもや病の病態や症状、治療などについて詳しく解説します。もやもや病について正しく理解を深めましょう。 もやもや病とは? もやもや病は、脳に血液を送るための重要な血管である「内頚動脈」が、狭くなったり詰まったりすることで起こる疾患です。このようになると足りない血液を補おうと、細い血管が脳内に異常に発達していきます。画像検査では、この細い血管がまるで「もやもやした煙」のように見えます。これが「もやもや病」という名前の由来です。 もやもや病は、10歳以下の小児で症状が現れる場合と、30〜40歳代の成人で現れる場合の2つのパターンが多く見られます。 ウィリス動脈輪の構成について まず、もやもや病の原因となる、ウィリス動脈輪について解説します。 ウィリス動脈輪は、脳内に形成されている血管経路であり、その名の通り、輪になっています。内頚動脈と椎骨・脳底動脈という重要な血管から流れた血液を脳内に供給するため、重要な役割を担っています。その一部が閉塞もしくは狭窄すると、脳の特定の部位への血流が不足してしまうため、非常に重要な血管経路です。 もやもや病では、このウィリス動脈輪のなかで、内頚動脈から中大脳動脈・前大脳動脈が分岐する部分に狭窄が起きます。どうしてその部分が狭窄してしまうのかは、はっきりとはわかっていません。 ウィリス動脈輪の狭窄が起こることで、中大脳動脈や前大脳動脈から供給を受けている脳細胞への血流が低下します。私たちの体は、この血流を補おうとして、小さな新しい血管(側副血行路)を形成します。この側副血行路が、MRIや血管造影で、もやもやとした陰影として見られるため、もやもや病と呼ばれるようになりました。 もやもや病の症状|もやもや病は何が危険? ここからはもやもや病の症状について詳しく解説していきます。 もやもや病で形成された側副血行路は、細い血管であるため不足した脳への血流を十分には補うことができません。 小児では、熱いものをフーフーと冷ましたり、楽器を吹いたりした際に症状を発症することが多いです。これは、過呼吸になることで、脳の血管が収縮し、血流を十分に送ることができなくなるからです。そうすると、一時的に脳への血流が不足し、脱力発作やけいれん、意識障害などを引き起こします。 小児の症状 ・脱力発作 ・けいれん ・意識障害 成人でも、小児と同じように一時的な脳虚血の症状で発症することもあります。具体的には、手足がしびれる、うまく手足を動かせない、言葉が出にくいなどがあげられます。 成人の症状 ・手足がしびれる ・うまく手足を動かせない ・言葉が出にくい しかし、もっと怖いのは一時的な症状ではなく、「脳梗塞」や「脳出血」を起こしてしまう可能性があるということです。 成人では、ウィリス動脈輪のうち閉塞していない椎骨・脳底動脈への血流が増え、その負荷によって椎骨・脳底動脈に動脈瘤が形成されるケースがあります。その動脈瘤が破裂してしまうと、脳出血やクモ膜下出血を突然発症する可能性があるのです。これらは成人のもやもや病の発症パターンの半分を占めます。 また、細く脆いもやもや血管が閉塞してしまうと、脳梗塞を引き起こします。小児のように一過性の虚血発作であればよいですが、そのまま血流が回復せず脳細胞が死んでしまうと、長期的に続く麻痺や機能障害を残していまいます。 もやもや病の危険性 ・脳梗塞 ・脳出血 ・くも膜下出血 もやもや病の治療と予後について もやもや病は、患者さんの年齢やどんな症状で発症したか、また症状の重さなどによって、治療法や予後が異なります。症状が軽度である場合は、小児では、慎重な経過観察を行いながら、内科的な薬物療法などを行う場合が多いです。 また、脳血流を改善させるための手術もあります。浅側頭動脈という頭蓋骨の外側にある血管と中大脳動脈を直接吻合する血行再建手術です。バイパス術ともよばれます。この手術を行うことで、脳梗塞や脳出血のリスクを減らすことができます。 ただし、脳梗塞や脳出血で発症してしまうと、重篤な後遺症を残す可能性もあります。後遺症が残った場合には、リハビリテーションを重点的に行い、併せてこれ以上脳出血や脳梗塞を繰り返さないように、薬物療法を行います。 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)についてのQ&A Q . どのような検査をすればわかりますか?人間ドックで調べられますか? A . 血管造影という造影剤を用いた方法でもわかりますが、最近はMRAと呼ばれる造影剤を使わない検査で、もやもや血管を確認することができます。 MRAはMRIの一種で、電磁波を当てて脳の血管を立体画像として書き出すことができる検査です。通常の人間ドックでは行われない場合もありますので、心配な場合は脳ドックを受けることをおすすめします。 Q . もやもや病になりやすい人はいますか? A . もやもや病は日本を含む、東アジア諸国に多いといわれています。 また、15〜20%の方では血のつながった家族に、もやもや病の方がいて、遺伝する可能性があるといわれているため、家族にもやもや病の人がいる方は、脳ドックなど受けてみるのがいいでしょう。 まとめ・もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)とは|その症状と治療法について 今回は、もやもや病について解説しました。 脳梗塞や脳出血で発症した場合は、命に関わる可能性がある非常に怖い病気です。ですが、早期発見できれば、重篤な後遺症を残さず社会復帰できる可能性も高くなります。 どのような症状が危険信号なのかを知っておくことで予防できますので、是非みなさんも、もやもや病についてご理解頂ければ幸いです。 No.S141 監修:医師 加藤 秀一 ▼モヤモヤ病については、以下もご参考にしていただけます もやもや病による性格変化とは?高次機能障害について解説
最終更新日:2024.04.02 -
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もやもや病の症状、大人と子どもでの違いや注意すべきポイント もやもや病とは、脳の重要な血管である内頸動脈が細くなり、代わりにもやもやとした異常な血管が増える病気です。大人と子どもでは、もやもや病の症状の出方やタイプ、そして注意点が異なります。 この記事では、もやもや病の大人と子どもの違いや注意すべきポイントについて述べていきます。 もやもや病とは? もやもや病は、脳の血管に生じる病気で、脳の中の内頸動脈という重要な血管の終末部が徐々に細くなっていきます。人口10万人あたり3〜10.5人程度いると考えられており、日本人に多く見られます。 脳血管は脳に酸素や栄養を供給していますが、血管が細くなるにつれて脳の血流が足りなくなり、その足りなくなった血流を補うために、周囲に異常な血管(もやもや血管)が網のように出現します。このため、もやもや病では、脳血流不足による脳の虚血(きょけつ)や、異常に発達した細い血管が切れることでの脳出血が起こります。 もやもや病の原因ははっきりしていませんが、ある特定の遺伝子を持つ方で発症しやすい傾向があるようです。 もやもや病の症状は大人と子どもでは異なる?注意すべきポイントは? もやもや病の症状は大きく分けると、脳虚血(脳血流が不足すること)、脳出血となります。その他にも、頭痛やけいれんといった症状がでることもあります。 さらに大人と子どもでは、もやもや病の症状の出方やタイプ、そして注意点が異なります。 子どもの症状 子どもの場合は、脳虚血症状がほとんどで、脳出血はまれとされています。 脳虚血症状としては、手足が動かしづらい、言葉がうまく出ない、手足や顔面が痺れる、などの症状が急に起こります。 特に、子どものもやもや病では、呼吸が激しくなること(過呼吸:かこきゅう)によって、この発作が起こりやすくなることが知られています。過呼吸となる場面としては、うどんなどの熱い食べ物を「フーフー」と吹く、リコーダーや鍵盤ハーモニカを吹く、または歌を歌ったり、大笑いしたりすること、激しく泣くことなどがあります。 こうした行動などによる一過性脳虚血発作は、自然に治りますが、脳梗塞の前触れなので、軽視してはなりません。特に、小さな子どもほど進行が早く、脳梗塞になる危険性が高いので、注意が必要です。 大人の症状 一方、大人の場合は、脳の血流不足を補うための側副血行路が破れて出血する、脳出血が起こることが多いです。 脳出血は、もやもや病による死亡や後遺症の最大の原因とされています。 もやもや病の検査や治療法は? ここでは、もやもや病の検査や治療法について解説します。 もやもや病の検査 もやもや病かどうかを検査する方法としては、MRI(磁気共鳴画像診断)・MRA(磁気共鳴血管造影)、脳血管造影検査(カテーテル検査)、脳血流検査、の3つが代表的です。 検査方法 ・MRI(磁気共鳴画像診断)、MRA(磁気共鳴血管造影) ・脳血管造影検査(カテーテル検査) ・脳血流検査 いずれの検査も、安静にして行う必要があるので、小さな子どもの場合には、眠たくなる薬を使う場合が多いです。 もやもや病の治療 もやもや病の治療の目的は、脳梗塞や脳出血を防ぐこととなります。 治療法としては、薬による治療と、脳血流量を増やすためのバイパス手術があります。 薬による治療 ・薬による治療は、抗血小板薬で血液が固まるのを防ぐ方法があるが効果に限界。 バイパス手術 ・バイパス治療については、虚血型もやもや病の場合に、脳梗塞を予防する効果が認められています。 ・バイパスの治療には、頭皮の血管を脳血管に直接つなぎ合わせる「直接バイパス」 ・頭皮に血管をつけたまま血流豊富な組織として脳の表面に接触させて、新たな血管が生えるのを待つ「間接バイパス」 ・これらを組み合わせる手術があります。 ・大人の手術では、「直接バイパス」のみ、または間接と直接を組み合わせた「複合血行再建術」が行われます。 ・子どもの手術は、「間接バイパス」のみ、 もしくは「複合血行再建術」が行われ予後の改善効果がそれぞれ報告されています。 もやもや病についてよくある質問 Q1 「もやもや病」の人はすべて手術をするのですか? A1 症状が多発していない患者さんの場合は、すぐに手術をする必要はありません。 しかし、脳虚血症状がすでにある人や、脳血流検査での血流低下が認められる方、あるいは過去に頭蓋内出血の既往がある方に対しては手術を勧めるのが一般的です。 また、子どもの場合は、将来の脳虚血や出血予防のために、手術適応は広く考えられています。 これらの観点を元に、もやもや病の経験豊富な医師が的確な検査や年齢、患者さんの状況を総合的に検討・判断して手術適応が決まります。 Q2 子どもの「もやもや病」の予後はどのようになっていますか? A2 子どものもやもや病の場合は、ほとんどが脳虚血発作なので、大きな脳梗塞が起こる前に、バイパス手術を受けることができれば、その後脳梗塞を発症することは少ないとされています。 社会生活については、8割以上の子どもたちが通常の生活を送ることができます。一方、2割弱は普通学級への就学困難、もしくはその後の就職が困難になってしまうようです。 診断が遅れ、手術治療を受ける時点ですでに脳梗塞が起こってしまっていると、その後の社会生活に支障が出てしまう可能性がありますので、早期診断と適切なタイミングでのバイパス手術がとても重要です。 まとめ・もやもや病の症状、大人と子どもでの違いや注意すべきポイント 今回は、子ども・大人のもやもや病の違いについて解説しました。 脳梗塞や脳出血をきたす前に、もやもや病の診断・治療を受けることが大切です。脳梗塞や脳出血後の後遺症に対しては、機能回復のためのリハビリテーションが行われますが、再生医療を組み合わせることで、身体機能の改善効果の向上が期待できます。 この記事がもやもや病の大人と子どもの違いについての理解を深めるのに役立てば幸いです。 No.S143 監修:医師 加藤 秀一 参考文献 もやもや病…ここまできた診断・治療 日本小児神経外科学会|小児もやもや病 ▼もやもや病の情報、以下も参考にされませんか もやもや病がまねく脳梗塞のリスク因子と予防策について解説
最終更新日:2024.04.04 -
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橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! はじめに 橋出血という病気を聞いたことがあるでしょうか。橋は「きょう」と読み、脳の重要な部分である脳幹の一部です。橋が障害されると、命に関わる深刻な状態を引き起こします。橋出血は、脳卒中のひとつで、非常に予後が悪いといわれています。 今回は、橋出血の初期症状の特徴や治療法、予後など、是非知っておいてほしい点について詳しく解説します。 橋出血(pontine hemorrhage)は脳卒中のひとつ 橋出血について解説する前に、まずは脳卒中についてお話します。 脳卒中には大きく分けて、脳梗塞と脳出血の2つのタイプがあります。「橋出血」は、脳出血の一つの病態で、脳出血全体の5〜10%といわれています。 脳出血は高血圧などにより、脳の血管が破れて脳組織内に血液が流れだすことによって起こります。これは、どちらも脳の機能に重大な影響を与え、重篤な場合は命に関わることもあります。 一方、脳梗塞は血栓や動脈硬化などにより血管が詰まり、脳組織への血流が停止することにより起こります。 橋出血の初期症状 脳出血は突然脳の血管が破れて発症するため、前兆や予兆がないことも多いです。ですが、初期症状を知っておくことで、早期治療が可能となり、出血の拡大を防ぐことができます。 橋出血の場合は、以下のような症状が起こります。 ・何となく受け答えが悪い(意識障害) ・強い頭痛が続く ・手足がうまく動かせない ・体の片方だけ感覚が鈍い このような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。 橋出血の診断 橋出血は、脳幹の一部である橋(pons)で出血が起こる病態です。脳幹は、生命の維持に重要な役割を果たしている部位で、意識・呼吸・循環をつかさどっています。脳幹の中で出血が起こる場合、橋動脈から出血することが最も多いといわれています。 橋出血は、CTで診断することができます。橋出血は出血部位と大きさにより、中心部橋出血と部分的橋出血に分類されます。中心部橋出血は出血の範囲が広いため予後が悪く、数時間から数日で命を落とす可能性が高いです。部分的橋出血の場合は、早期の治療を行えば、比較的予後が良好な場合もあります。 橋出血の症状 橋出血の症状は、出血の部位や大きさによっても異なりますが、瞳孔の変化と四肢麻痺が特徴的です。 瞳孔の変化 瞳孔とは、目の真ん中にある「黒目」のさらに中心にある黒い部分のことです。瞳孔は目の中に入る光の量を調整しているため、まぶしい時には縮小し、暗い時には拡大します。橋には、瞳孔の大きさを調整するための神経が通っています。このため、橋出血によりこの神経が影響を受けると、極端に瞳孔が収縮します。両側瞳孔の高度縮小はpinpoint pupilともよばれ、橋出血に特徴的な所見です。 四肢麻痺 また、橋には体の運動機能を担う神経も通っています。その部分を巻き込んで出血が起こると、手足の麻痺が出現します。広い範囲で出血が起こった場合は、両側の四肢麻痺が発生します。出血量が少なければ片側の麻痺に留まるか、運動は保たれて感覚のみ麻痺する場合もあります。 瞳孔の変化や麻痺は、橋出血で特徴的ですが、他にも意識障害や視覚障害、言語障害、呼吸障害など、様々な症状が出現する可能性があります。少しでもこれらの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。 橋出血の治療と予後 脳出血の最も多い原因は、高血圧であり、脳出血を起こしてしまった場合は、血圧を下げて安定させることが重要です。これは、血圧を下げることによって、さらなる出血を防ぎ、脳組織へのダメージを最小限に抑えるためです。 脳出血では、血種除去といって、出血によって生じた血種を外科的に取り除く手術が行われることがありますが、橋は脳の深部にあり、正常な組織を傷つけずに到達するのが困難のため基本的には手術は行いません。そのため、血圧コントロールや脳の浮腫み予防の点滴などを使用した保存療法がおこなわれます。 出血範囲が広い橋出血(中心性橋出血)では、予後は非常に悪く、出血してから数時間で命を落とす場合もあります。出血の範囲によっては、軽度の麻痺が残る場合もありますが、予後は比較的良好で、日常生活に戻ることができる方もいます。しかし、運動麻痺や感覚麻痺など何らかの障害を残す可能性はあり、急性期の治療が終わった後は、リハビリテーションを長い時間かけて行う必要があります。 橋出血にならないためにできること 橋出血のみならず、脳出血の最も多い原因は高血圧です。高血圧は一般的な病気であり、多くの人が指摘されたことがあるのではないでしょうか。 高血圧は、他の生活習慣病と同じく、食事、運動が基本的な治療です。特に塩分の摂りすぎには注意した方が良いでしょう。 血圧が高い状態が続いている場合は、投薬治療が必要な場合もありますので、医師に相談してください。 まとめ・橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! 今回は橋出血について解説しました。 橋出血は一度起こしてしまうと、命に関わる非常に危険な病気です。起こしてから治療するのではなく、予防をすることがなによりも大切です。高血圧や生活習慣病にならないよう、日々の生活習慣に気を配り、自己の体調にしっかりと目を向けるようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.145 監修:医師 坂本貞範 ▼以下もご参考下さい 橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説
最終更新日:2024.02.09 -
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橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血(「きょうしゅっけつ」、英語では「pontine hemorrhage」)は、脳卒中の中でも、特に生命予後の悪い疾患の一つです。 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった、脳の血管が詰まったり破れたりする病気を総称して「脳卒中」と呼びます。脳卒中のひとつ「橋出血」の重症例では、意識・呼吸障害、四肢麻痺などをきたし、急激な経過で死に至ることもあるのです。 本記事では、橋出血の症状・原因や治療について詳しく解説をしていきます。 橋出血の「橋」とはなにか 橋とは、上にある中脳、下にある延髄と共に、「脳幹」の構成をしている部分です。脳幹には、神経伝達路、神経の中継・分岐地点、自律神経反射中枢、脳幹網様体という4つの構造物があります。 ①神経伝達路 ②神経の中継、分岐地点 ③自律神経反射中枢 ④脳幹網様体 それぞれの構造の役割とともに、橋出血による症状について見ていきましょう。 ①神経伝達路としての役割と橋出血 脳幹には神経線維の束が通っており、大脳からの運動神経の伝達、大脳への感覚神経の伝達、脳幹の真後ろにある小脳との連絡経路の役割を果たしています。 橋出血では、神経の伝導路が障害されるため、運動麻痺や感覚障害が起こるのです。 運動麻痺は出血の部位にもよりますが、特に重症例では両方の手・足ともに動かなくなる四肢麻痺をきたすことがあります。 この四肢麻痺と顔の麻痺まで加わる特殊な形に、「閉じ込め症候群」があります。意識や感覚は保たれますが、まばたきと一部の目の動き以外の運動が、全てできません。看護・介護を行う人とのコミュニケーションは、眼の動きのみで行うことになります。 また、小脳との連絡がうまくいかなくなると運動失調が起こります。運動失調とは、麻痺がないのに筋肉同士の連携がうまくいかず、動作がスムーズに行えなくなることです。 ②神経の分岐・中継地点の役割と橋出血の症状 脳幹には、脳から直接伸びる末梢神経である脳神経核をはじめ、複数の神経核があります。神経核は神経の細胞体の塊です。神経回路の分岐点や中継点となります。 例えば、橋には次の4つの脳神経核があります。 ・三叉神経;主に顔面の感覚を伝える ・外転神経;眼球の運動の一部を支配する ・顔面神経;表情筋など顔面の運動に関わる ・内耳神経;聴覚や平衡感覚を司る 橋出血でこれらが障害を受けると、顔の感覚や運動の障害、眼球運動の障害、聴力障害が起こります。三叉神経や顔面神経は舌の動きや感覚などにも関わる神経です。そのため、橋出血では嚥下障害も多く認められます。 ③自律神経中枢と橋出血の症状 自律神経は生命維持の上で必要なことを調整する神経です。私たちは意識せずとも呼吸をし、心拍数をコントロールできます。明るさに応じて、瞳孔の大きさを調節することもできます。これらを行う自律神経も、脳幹に中枢があるのです。 橋には呼吸の中枢があるため、橋出血患者さんには呼吸の障害が多く認められます。 また、橋出血では瞳孔の異常を多く認めます。代表的なものは瞳孔の縮小です。自律神経のうち、瞳孔を開く交感神経が障害されるためです。 ④脳幹網様体の役割と橋出血の症状 脳幹の中心から背中側には、網様体と呼ばれる、神経線維の束と神経の細胞体が合わさったものがあります。 網様体には主に3つの役割があります。 ・脳幹内の自律神経中枢と連絡し、生命維持機能を果たす ・筋肉の緊張をコントロールする ・大脳へ刺激を与えて意識を保つ 重症の橋出血では、自律神経に障害が出ることはすでに述べましたが、網様体の障害でも呼吸・循環障害をきたします。さらに、網様体の損傷により認められるのが意識障害です。重症例では、急激な経過で昏睡状態に陥ってしまいます。 また、徐脳硬直という特徴的な姿勢を認めます。筋緊張の調整ができなくなる結果、手も足も強く伸び切ってしまうという状態です。 また、橋の網様体には眼球の運動の中枢があります。橋出血の際は、出血部位や程度により、さまざまな眼の動きの異常が認められます。代表的なものは、眼球の正中固定位です。眼の動きが全くできず、真ん中で固定されます。また、眼球が真下に急に動き、ゆっくり真ん中に戻ってくる「眼球浮き運動」が認められることもあります。 橋出血の二つの原因とそれぞれの治療法 橋出血の原因として、高血圧と血管奇形の二つが挙げられます。また、原因により治療法が異なります。 それぞれについて解説していきます。 高血圧で起こる橋出血と治療 橋出血の最大の原因は高血圧です。 橋への栄養動脈が、高い圧により破綻してしまいます。橋は小さい中に重要な構造物が詰まっているところです。出血が一気に広がり損傷が起こると、短時間で致命的になります。 損傷を受けた脳幹の回復は難しく、手術は基本的には行いません。可能な限り血圧を下げ、呼吸や循環などの生命維持のサポートをするのが治療の中心です。 血管奇形で起こる橋出血と治療 高血圧性の橋出血よりも若い方に多いのが、脳の血管の奇形によるものです。 代表的なものに、海綿状血管腫という血管の塊があります。この奇形を持っている一部の患者さんでは局所的な出血を起こします。出血は少量で、重篤にならないことが多いです。しかし、何度も繰り返すリスクがあります。 この場合は、出血が落ち着いているときに手術が考慮されることもあります。 橋出血についてよくあるQ & A Q , 橋出血の検査はどのようなものがありますか? A , 疑わしい症状があれば、CTを撮影します。脳は灰色に映りますが、出血がある部分は白くなります。なお、血管の奇形の診断はMRI も有用です。近年では脳ドックなどにより、症状がないまま発見されるものも多くあります。 Q , 海綿状血管腫は必ず手術が必要ですか? A , 症状のない海綿状血管腫が出血を起こすのは、年間で1000人中4〜6人程度です。手術の合併症リスクの方が高く、万人に勧められるものではありません。ただし、一度出血を起こすと、特に2年以内の再出血のリスクが非常に高くなります。その場合も、全員が手術をするわけではありません。 手術のメリットとリスクを天秤にかけて考えます。近年では手術ができない場合に、放射線治療が考慮されることもあります。 まとめ・橋出血とは?症状、原因、治療法を医師が分かりやすく解説! 橋出血は、重症例では命にかかわりかねない恐ろしい病気です。 高血圧は重症の橋出血のリスクになるため、しっかりと治療を受けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.144 監修:医師 坂本貞範 ▼以下もご参考下さい 橋出血の初期症状やその特徴とは?医師が詳しく解説! <参考文献> 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 茂木陽介, 川俣貴一. 日本臨牀. 80(増刊号2): 320-324, 2022. 医学書院 標準解剖学 第1版 メディックメディア 病気がみえるvol7. 脳・神経 第1版 中外医学社 イラスト解剖学 第7版 脳卒中診療ガイドライン2021
最終更新日:2024.02.09 -
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もやもや病の後遺症による性格変化とは?高次機能障害について解説 もやもや病は、脳の重要な動脈が狭くなり、そのかわりにバイパスとなる細い血管が発達することにより起こる病気です。 細い血管は検査で見ると「もやもやと煙が立ち上るよう」に見え、この所見が診断基準にも必須の項目となっています。この「もやもや血管」が収縮してしまうと、脳に十分な血液が行き届かなくなります。その結果、意識障害や脱力、てんかん、頭痛などの症状を発作的に繰り返すのです。 また、細い血管は詰まったり破れたりしやすいため、脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)を起こしてしまうこともあります。脳卒中の後遺症というと、麻痺や感覚障害が思い浮かぶかもしれません。しかし、一部の患者さんでは、麻痺などがなくても、生活や仕事に差し障る後遺症を残すことがあります。それが「高次脳機能障害」です。 本記事では、「もやもや病の後遺症」としての高次脳機能障害について、どのようなことが起こるのか具体例を交えて解説していきます。 高次脳機能障害とは? 「高次脳機能」とは、さまざまな情報をもとに、高度で複雑な処理をする脳の機能のことです。 大脳をその機能別に見てみると、運動や感覚などを司るはっきりとした機能がある「一次野」と、それ以外の「連合野」に区分されます。連合野は特に人間で大きく発達した部分で、高次脳機能に関わるところです。情報をもとに考えたり、感じたり、何かの行動に移したりということを可能にしています。 この連合野がなんらかの原因で傷つくとどうなるでしょう。複雑な処理の過程で支障が起こります。例えば、記憶や行動、物事を実行する能力の障害など、損傷部位に応じて多彩な症状をきたします。その結果、日常生活や社会生活を送る上で制約を受けている状態が「高次脳機能障害」です。 もやもや病と高次脳機能障害 もやもや病は、もやもや血管が詰まったり破れたりすることで、脳卒中をきたします。それだけでなく、明らかな脳卒中のエピソードがなくても、血液の巡りが悪いため、脳にダメージが蓄積されていくリスクもあるのです。このようにして、脳の連合野にダメージを受けると、高次脳機能障害を認めます。 どのような症状が出るかは、障害部位によって変わってきますが、もやもや病では「前頭葉の障害」が起こることが多いです。 前頭葉の働きと高次脳機能障害 もやもや病で障害を受けやすい前頭葉は、大脳の前の部分に位置します。前頭葉にある、「前頭連合野」は、ヒトで特に発達している部分です。本能や激しい感情の動きをコントロールして、思考力・創造性・社会性を発揮するための機能を果たす役割があります。単に欲求に従うのではなく、状況を見極めて判断し、意味のある行動を起こすという「人間らしさ」に関わる場所なのです。 具体的に前頭連合野の障害による高次脳機能障害の症状を見ていきましょう。 〈前頭連合野の障害による高次脳機能障害の例〉 記憶障害 ・作業記憶(ワーキングメモリー)が障害されます。 ・作業記憶の障害は、何かを行うときに一時的においておく「記憶の引き出し」が使えません。 ・聞いたことをすぐ忘れて何度も聞き返す。 ・買い物を頼まれても何を買えばいいか忘れてしまう。 注意障害 ・注意障害があると、気が散りやすくなり、一つの物事に集中できません。 ・ちょっとした周りの変化が起こるとそちらに気をとられ、動作が止まってしまいます。 社会的行動障害 ・自分の感情をうまくコントロールできなくなります ・突然かっとなり怒りだすなど感情の振れ幅が大きくなります。 ・ギャンブルにのめり込みやすくなるなど、欲求がうまく抑えられません。 ・逆に、人や物事に興味がなく、自発性がなくなることもあり社会生活上で問題になります。 遂行機能障害 ・物事を順序立てて行うことができなくなります。 ・段取りが悪くなり、優先順位をつけることができなくなります。 ・臨機応変に行動することができず、ちょっとしたトラブルにも対応することができません。 このように、前頭葉の障害による高次脳機能障害が起こると、無責任で怒りっぽくなったり、意欲や興味がなくなったりと、まるで性格変化をしたようになってしまいます。 もやもや病による高次機能障害についてよくあるQ & A Q1.高次脳機能障害は完治しますか? 脳に傷がある状態なので、完全に治すことは難しいです。しかし、得意なこと、苦手なことを考えた上で工夫をしていくことにより、より生活をしやすいようにしていくことはできます。根気強いリハビリが大切です。 Q2.脳卒中による高次脳機能障害があるとき、入院期間はどのくらいになりますか? 脳卒中では一般的に、発症直後の急性期を過ぎたあと、回復期リハビリテーション病棟というところに移ってリハビリを続ける方が多いです。回復期リハ病棟では、脳血管障害の入院期間は一般的に150日となっています。ただし、高次脳機能障害の合併があると、180日まで入院が可能です。 この期間全部を使っての入院が必要というわけではありません。しかし、高次脳機能障害は麻痺などと違って一見して分かりづらく、周りの理解が得られにくいことが多いです。社会復帰のためのリハビリや環境整備のためにしっかり時間をかけていくことが必要です。 まとめ・もやもや病の後遺症、性格変化とは?高次機能障害について もやもや病による後遺症のうち、高次脳機能障害は外見では分かりにくいものです。 しかし、社会生活を送る上で大きな支障をきたしてしまいます。苦手なことをカバーするための訓練を行うとともに、周囲が理解し、支援を続けていくことが必要です。当事者や家族のみで悩まず、。 もやもや病の方で上記のような症状があり、日常生活に困っているときは、まずは地域の高次脳機能障害支援のための拠点機関に相談してみる必要があります。 リハビリ科や精神科の病院、地域の保健福祉センターなどが該当します。地域の自治体のホームページなどでも情報提供されていることが多いため、一度専門機関で相談をされることをおすすめします。この記事がご参考になれば幸いです。 No.143 監修:医師 坂本貞範 ▼もやもや病の後遺症については以下でも解説しています もやもや病による後遺症|社会復帰や運転への影響について 〈参考文献〉 中川原. BRAIN NURSING. 31(11), 32-34, 2015. 冨永ら.脳卒中の外科. 46 (1), 1-24, 2018. 中村. 日本臨牀 80(増刊号1), 386-390, 2022. 平岡. 日本臨牀 80(増刊号1), 592-596, 2022 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 坂井. 標準解剖学第1版, 医学書院. 2017.
最終更新日:2024.04.02 -
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もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は脳卒中を引き起こす脳血管の病気です。この病気は長きにわたって、原因不明の難病とされていました。しかし、一部では家族内で複数人のもやもや病患者さんがいることがわかっており、遺伝が関与する可能性が考えられています。 本記事では、家族性に発症するもやもや病について解説していきます。 もやもや病とは もやもや病患者さんでは、内頸動脈終末部という脳の主要な血管が徐々に狭窄を起こします。足りない血液を補うため、代わりに細い血管が多く発達します。MRA(磁気共鳴血管撮影法)や脳血管造影などの画像の検査では、このような細い血管がもやもやとした煙のように描出され、これがもやもや病という名前の由来です。 細い「もやもや血管」のせいで脳は血流不足を起こしやすくなります。脳に血が回らなくなる「脳虚血」の状態になると、再発性の脱力や手足の痺れ、てんかんなどを認めます。また、もやもや血管は高い血圧によるストレスで破れやすいです。そのため、一部の患者さんでは脳出血を起こします。 もやもや病はどんな人に発症する? もやもや病の患者さんは、人口10万人につき3〜10.5人ほどいるとされています。女性患者さんが男性の約2倍ほどです。 小児での発症 発症する年齢は最多が小児期で、5〜10歳頃が多いとされています。 子供の場合は、脳虚血発作を認めることが多いです。発作は、息を大きく早く吸ったり吐いたりする「過呼吸」により誘発されやすくなります。これは、二酸化炭素が減り、脳の血管が収縮しやすくなるためです。例えばハーモニカなどの楽器の演奏や、熱いラーメンをふーふーと冷ますことがリスクになります。また、痛み止めの効かない頭痛や、てんかんを起こすこともあります。 成人での発症 小児期以外で発症が多いのは、30〜40歳の成人です。 大人の場合は、半数は脳虚血の症状をきたしますが、残りの半分程度は脳出血で発症すると言われています。また、MRIの普及により、症状がなくても、脳ドックなどの機会に血管の異常が判明する患者さんも増えてきています。 家族性もやもや病 実は、もやもや病の10〜20%の方で、家族内の発症が認められているのです。そして、家族性もやもや病の一部では、「表現促進現象」を認めることがあります。表現促進現象とは、次の世代にうつるにつれて、発症年齢が早くなり、また、より重症化しやすくなることです。 もやもや病と関連した遺伝子とは? もやもや病は、発症に人種差があることもわかっています。この病気が発見されたのは日本でした。その後の報告でも、東アジアでは他の地域よりも多いことが判明しています。 家族内での発症や人種での違いがあることから、もやもや病の発症には、遺伝的な因子があるのではないかと考えられていました。 そして、近年、「RF213」という遺伝子に「遺伝子多型」があると、もやもや病が発症しやすくなるということが判明しています。 遺伝子多型 私たちの体を構成する細胞は23組46本の遺伝子を持っています。遺伝情報を構成するDNAは、塩基・リン酸・糖という3つの部品からなる「ヌクレオチド」が繋がってできたものです。このうち、塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類があります。4種類の塩基の並びで遺伝情報が決まっています。 遺伝情報は、ヒト同士であればほとんどの部分は同一です。しかし、わずかに塩基配列のバリエーションが違う部分があります。この塩基配列の違いを遺伝子多型と呼びます。遺伝子多型があっても、個人間の差がないことも多いです。しかし、一部の遺伝子多型は、個人の特徴を決定づける肌や髪の色の違い、さまざまな体質の違いなどとなって現れます。 RF213遺伝子多型p.R4810K RF213遺伝子は、23ペアのうち17番目の染色体にある遺伝子です。もやもや病の日本人患者さんのRF213遺伝子を調べると、8〜9割もの患者さんにおいて「p .R4810K」という遺伝子多型があることがわかりました。このことから、RNF213遺伝子多型が、もやもや病の発症と大きく関わっていることが推察されます。 しかし、このp .R4810Kという遺伝子多型は、健常な日本人の1〜2%も持っていることがわかっています。つまり、RF213遺伝子多型を持っている人のごく一部がもやもや病を発症しているに過ぎないのです。 現在では、もやもや病の発症には、このような遺伝的な背景に加えて、何かしらのきっかけがあって起こるのではないかと考えられています。 もやもや病の遺伝についてよくあるQ&A Q , もやもや病の患者がいる家系なので子供の発症が心配です。画像検査は何歳からできますか? A ,結論から言うと、何歳から可能かは、お子さんの状況や、病院によって異なってきます。 外来で検査が可能なのはMRAという検査です。磁気を使って脳や血管の状態を調べるため、体への負担は大きくありません。ただし、じっとしていないと撮影は難しいです。狭い機械に入らなければいけないため怖がってしまう子もいます。場合によっては鎮静剤を使って眠った状態で検査をしないといけません。 その一方で、お子さんの場合は、早めに適切な対処をすると予後も良いことがわかっています。検査するかどうか、いつするのかについては病院に相談されることをお勧めします。 Q , もやもや病が心配なので、遺伝子検査はできますか? A , 残念ながら現時点で、RNF213遺伝子の多型を通常の診療で検査することはできません。そもそも、この遺伝子多型を持っているから発症するのではなく、あくまで「もやもや病を起こしやすい」遺伝子多型です。診断は遺伝子の検査ではなく、血管の画像の検査を中心に行います。 まとめ・もやもや病は遺伝するのか?家族性もやもや病、遺伝との関係 もやもや病は一部で家族性に発症を認めます。発症と関連した遺伝子も見つかっています。しかし、絶対に遺伝するわけではなく、発症についてはまだわかっていないことも多い病気です。過剰に遺伝を心配し過ぎる必要はありませんが、気になることは専門医としっかり相談をしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.S142 監修:医師 加藤 秀一 〈参考文献〉 中川原. Brain Nursing. 31(11): 1064-1066, 2015. Koganebuchi K, et al. Ann Hum Genet. 85(5):166-177, 2021. 公益財団法人循環器病研究振興財団 知っておきたい循環器病あれこれ117 もやもや病…ここまできた診断・治療 難病情報センター.病気の解説(一般利用者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/47.最終閲覧2023年7月3日. 難病情報センター.診断・治療指針(医療従事者向け) もやもや病(指定難病22).https://www.nanbyou.or.jp/entry/209.最終閲覧2023年7月3日 小児慢性特定疾病情報センター 対象疾病 39.もやもや病. https://www.shouman.jp/disease/details/11_15_039/. 最終閲覧2023年7月5日 ▼モヤモヤ病の原因など、以下のページも参考にされませんか もやもや病と言われたら|原因・治療法について医師が解説
最終更新日:2024.04.04 -
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橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は非常に致死率の高い病気です。 かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。 橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。 本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。 橋出血が重症化しやすいのはなぜか? 橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。 血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。 脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。 橋出血の生命予後に関わる症状とは? 重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。 ・発症早期の高度の意識障害 橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 ・四肢麻痺 橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 ・除脳硬直 意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 ・眼球正中位固定 橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 ・対光反射の消失 対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 ・失調性呼吸 脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 ・中枢性過高熱 体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 後遺症の治療について 重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。 例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。 橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。 また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。 後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。 急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。 リハビリの種類 理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。 ・理学療法 ・作業療法 ・言語聴覚療法 理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。 作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。 言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。 リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。 では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。 脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。 また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。 麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか 一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。 この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。 まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説 橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。 また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.142 監修:医師 坂本貞範 ▼以下もご参考ください 橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム 〈参考文献〉 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008. 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011. 東登志夫. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 364-368, 2014. 古谷一英. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 369-372, 2014. 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014. 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. (閲覧2023年6月28日). 脳卒中診療ガイドライン2021
最終更新日:2024.02.09 -
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視床出血による運動失調はなぜ起こるのか?その種類と特徴 視床出血は、脳の中でも脳内のネットワークの中心となる視床という部位で起こる出血のことです。片麻痺や感覚障害、また運動失調の原因ともなります。 この記事では、視床出血でなぜ運動失調が起こるのか、その特徴と治療やリハビリ、また再生医療の可能性についても解説します。 視床出血とは? 視床出血は、脳卒中と総称される脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の中でも、脳の中の視床という部分に起こる出血のことです。 主な原因は高血圧で、脳出血の中では、被殻(ひかく)出血の次に視床出血の頻度が高いとされています。視床と被殻は隣にありますが、視床出血では脳室という部位とも隣接しています。そのため、視床出血と被殻出血との違いの一つに、脳室にまで出血が広がるかどうかという点があります。 視床出血は、その重症度からI〜IIIに分類されています。 その中でも、脳室穿破(せんぱ;脳室という脳脊髄液がある部分まで出血が及んでいるかどうか)の有無で「無=a」「有=b」とさらに細かく分類されています。 視床に限局しているものをⅠ、内包に進展したものをⅡ、視床下部または中脳に進展したものをⅢとしています。 簡単に述べると、出血が大きくなるほど、数字も大きくなる、というイメージで良いかと思います。 視床出血による症状 視床は、脳内のネットワークの中心となる場所で、感覚神経をはじめとするさまざまな神経線維がここを経由しています。 そのため、視床出血によって、以下のような症状がでます。 ・片麻痺 ・瞳孔径の縮小 ・顔面神経麻痺(病変と反対側に起こる) ・知覚障害 ・病変側への共同偏視 ・外転神経麻痺 ・半盲 ・嘔吐 ・運動失調 その他にも視床出血では、失語症や半側空間無視、注意障害などといった高次脳機能障害が起こることもあります。 また、他の脳卒中と同じように、症状が出たばかりの急性期には、嚥下障害も起こり得ます。嚥下運動(飲み込み運動)は大脳から脳幹に至るまでの複雑なネットワークによって成り立っているからです。そのため、視床出血が原因となり嚥下障害が起こる、というメカニズムが考えられています。 視床出血による運動失調、なぜ起こる? 運動失調とは、運動麻痺はないか、あっても軽症で、動作や姿勢保持などの協調運動に起こる障害のことです。 視床出血で失調症状がでるのは、小脳の運動機能調節に重要な経路に、小脳や視床、大脳皮質、橋があるためです。 これらのいずれかかが障害されても、小脳性運動失調を生じるのです。 また、視床出血によって、深部感覚が障害されることが原因とも考えられています。 失調と麻痺の違いとは? 失調と麻痺の違いは、筋力の低下があるかどうかということになります。 視床出血による運動失調の場合は、一般に意識障害や片麻痺も伴うことが多く、協調運動障害や不随意運動や、感覚障害が認められることは少ないとされています。つまり、運動失調症状があっても、それが四肢の麻痺によるものなのか判別がつきにくい、という特徴があると考えられます。 視床出血の種類とその特徴 運動失調の種類には以下のようなものがあります。 参考) 神経メカニズムから捉える失調症状 視床出血での失調症状では、四肢の失調症状や歩行の異常が認められるということになります。 視床出血の治療 視床出血が起こった際の治療は、血圧を下げることが中心となります。視床は脳の深部にあるため、手術適応とはなりにくいのです。 視床出血によって、水頭症と呼ばれる脳室に脳脊髄液がたまる症状になってしまうことがあります。水頭症を放置しておくと、脳ヘルニアという脳の一部が頭蓋骨の外側に飛び出してしまう状態になる危険性があります。こうなると、呼吸障害などが起こり生命に関わるため、シャント術という手術を行い、余分な髄液を脳室から腹腔にまで流すようにします。 視床出血の後遺症とリハビリ 視床出血では、発症後から感覚障害があった場合には、感覚障害の症状が残ったり、逆に半身の痛み(視床痛)が出現したりします。運動失調が残る場合もあります。また、出血が大きい場合には、片麻痺も後遺症として残ることがあります。 視床出血後のリハビリは、作業療法や理学療法が行われます。 作業療法 作業療法では、麻痺している上肢を積極的に使うことで、日常生活に復帰することを目標とします。 理学療法 理学療法では、重り負荷、弾性包帯による圧迫、フレンケル体操、立ち上がりや立位時の荷重負荷練習、視覚誘導によるバランス練習を行い、日常生活を送る上で必要な動作の練習をしていきます。 ・重り負荷 ・弾性包帯による圧迫 ・フレンケル体操 ・立ち上がりや立位時の荷重負荷練習 ・視覚誘導 また、視床出血後には、片麻痺、つまり運動障害と、運動失調症状が同時にある場合があります。 そのため、視床出血後のリハビリの一つに、免荷式(めんかしき)トレッドミルという機械を用い、歩行のリハビリを行っていくものがあります。 これは、体を上から吊るし、ハーネスで体を支えることで、足にかかる体重を調整でき、バランス感覚を鍛えられることを期待しています。 まとめ・視床出血による運動失調はなぜ起こる?その種類と特徴 本記事では、視床出血による運動失調の特徴について解説しました。 視床出血は後遺症が残ってしまう可能性が高い疾患ですが、当院ではリハビリに再生医療を組み合わせることで、脳神経細胞の修復や身体機能の改善を図っています。 脳卒中後の後遺症に対しての再生医療にご興味がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 No.141 監修:医師 坂本貞範 参考文献 加齢の面からみた脳出血の部位 脳血管障害による脳室内出血症例の臨床的検討一脳室内出血の重症度評価と転帰についてー 脳出血部位と症状 (CM Fisher) 原著視床出血の高次脳機能障害 急性期脳出血における摂食・嚥下障害の検討 運動失調を主徴とした左視床出血の1例 神経メカニズムから捉える失調症状 運動失調に対するアプローチ
最終更新日:2023.12.26