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「ふくらはぎや太もも、足先まで広がるジンジンとした痛みやしびれがあり、歩くのもつらい…」 坐骨神経痛に悩む方は、日常動作すら負担に感じる場面が少なくありません。 こうした痛みの緩和が目的の治療法がブロック注射です。 本記事では、「坐骨神経痛とはどのような症状なのか」から「ブロック注射の仕組み・効果・リスク・費用」までをわかりやすくまとめました。 また、ペインクリニックで行える治療や、注射だけに頼らないセルフケア・予防法についても詳しく解説しています。 「一度はブロック注射を試してみたいけれど、痛みや副作用が心配…」「どのくらいの期間・費用がかかるの?」といった不安をお持ちの方はもちろん、すでにブロック注射を受けたけれど思うように改善しなかった方にも役立つ内容です。 坐骨神経痛とは 坐骨神経痛とは、腰からお尻、太もも、ふくらはぎ、足先にかけて伸びている坐骨神経が、なんらかの原因で圧迫・刺激を受けることで起こる症状の総称です。(文献1) 多くの場合、腰やお尻だけでなく、脚の後ろ側全体に痛みやしびれが広がり、日常生活に支障をきたすほど強い症状を感じる方もいます。 坐骨神経痛の症状・原因 坐骨神経痛の主な症状 痛みやしびれが足先まで伝わる 腰やお尻、太ももからふくらはぎ、足にかけてジンジンとした痛みやしびれが広がります。痛みの感じる範囲は個人差がありますが、特定の部位にのみ症状が出る場合や、腰から足にかけて全体的に症状が出る場合もあります。 腰から片脚だけに症状が出る 腰から片脚だけに症状が出るのも特徴の一つ。また、症状のイメージとしては軽い痛みから電気ショックのような激痛が走ることもあります。 動作や姿勢によって痛みが増す 長時間の座位、前かがみの姿勢、重い物を持ち上げる動作などで痛みが強くなるのも特徴。 坐骨神経痛の主な原因 椎間板ヘルニア 椎間板が飛び出し、神経が圧迫されて坐骨神経痛が生じる代表的な原因の一つ。比較的若い世代でも発症しやすい傾向があります。 脊柱管狭窄症 (せきちゅうかんきょうさくしょう) 加齢や骨の変形によって背骨の神経が通るスペース(脊柱管)が狭くなり、神経を圧迫されて発症します。50代以降に多い原因です。(文献2) 下半身の筋肉の衰え お尻を中心とした足腰の筋肉の衰えが坐骨神経に負担をかけ、坐骨神経痛の原因になってしまいます。 坐骨神経痛の症状が辛い方は以下の記事もご覧ください。 ブロック注射による坐骨神経痛治療 ブロック注射(神経ブロック注射)は、坐骨神経痛をはじめとする「神経由来の痛み」に対して大きな効果が期待できる治療法です。 神経やその周辺組織に局所麻酔薬やステロイド薬を注入して、痛みの伝達を遮断し炎症を抑える働きがあります。 注射と聞くと「痛そう」「怖い」などマイナスなイメージを持たれる方もいますが、坐骨神経痛で強い痛みを抱えている方から日常生活を取り戻すための一つの選択肢として注目を集めています。 坐骨神経痛に効く?ブロック注射とは ブロック注射は坐骨神経痛で悩まれている方のみを対象にした治療法ではなく、実はさまざまな種類があります。(文献3) ブロック注射の主な種類 硬膜外ブロック注射 背骨の中の硬膜外腔と呼ばれるスペースに薬液を注入。神経の近くへ薬を届けることで、痛みを和らげるだけでなく腫れや炎症の抑制が期待できます。坐骨神経痛以外にも、腰痛全般の治療に広く用いられる方法です。 神経ブロック注射 特定の神経根(背骨の間から出る神経の根元部分)に対して、直接アプローチする注射です。痛みの原因となっている神経が明確な場合に選択されることが多く、ピンポイントで症状改善が期待できる点が特徴。 星状神経節ブロック注射 「星状神経節(せいじょうしんけいせつ)」は頸部(首)のあたりにある交感神経の集まりです。主に上半身の血流改善や痛覚の緩和を目的として行われ、坐骨神経痛の痛みの軽減が期待できます。 トリガーポイント注射 トリガーポイントとは、筋肉が過度に緊張し硬くなった“しこり”のような部分を指します。このトリガーポイントを局所麻酔薬などで直接注射して緩め、筋肉のこわばりを解消して痛みを和らげます。 ブロック注射のメリットとして、まず即効性が挙げられます。 ブロック注射は痛みの原因となる神経付近へ直接薬液を届けられるため、個人差はあるものの、注射から数時間以内に痛みが軽減されることは大きなメリットでしょう。 また、血流改善や炎症を抑える効果もあり、ブロック注射のメリットはさまざまです。 ブロック注射の効果や持続時間については以下の記事にてまとめておりますので、気になる方はこちらもご覧ください。 また、ブロック注射の注意点は、効果には個人差があること、一度の注射で劇的に改善しない場合もある点です。 そもそも原因疾患を根本的に治す治療法ではないため、リハビリや再発防止の取り組みも行なっていきましょう。ブロック注射を検討している方は、医師との十分な相談のうえでどの種類の注射が適切か、どの程度の効果が見込めるかを確認すると良いでしょう。 ブロック注射の費用・リスク ブロック注射は多くの場合、健康保険の適用範囲内で受けられます。 ただし、注入する薬剤の種類や検査内容によって費用が変動する場合もあるため、医療機関での事前確認が重要です。 費用目安 (3割負担の場合) レントゲンやMRIを行うと、検査費用が追加されます。診察するクリニックによって料金は異なりますが、一般的には5,000円前後になることが多くなります。 副作用 ブロック注射の副作用として、めまい、内出血、感染症が起きる可能性があります。(文献4)(文献5) 基本的には大きな副作用が少なく、安全性が高い(文献6)とされていますが、注射の苦手な方や特定の持病がある方は遠慮なく医師に相談してください。 ペインクリニックでできるブロック注射治療 ペインクリニックとは、「痛みの専門外来」とも呼ばれる診療科で、神経ブロック注射や再生医療、リハビリテーションなど、さまざまな方法を組み合わせながら慢性痛や神経痛の症状を緩和・改善を目的としています。 整形外科や内科などとは異なり、痛みそのものを総合的に診断・治療する点が大きな特徴です。 坐骨神経痛の改善においても、ペインクリニックはブロック注射だけでなく痛みを引き起こしている背景要因(姿勢の不良や生活習慣など)を含めて判断し、多角的なアプローチでサポート。 とくに、痛みが強くリハビリが難しい状態の方や、別の医療機関で十分な効果を実感できなかった方からは、 「ペインクリニックで神経ブロックを受けて症状が落ち着いた」「再生医療と併用して長期的な改善が見込めた」といった声も少なくありません。 ブロック注射と再生医療併用のメリット ブロック注射は神経の痛みを和らげるのが主目的ですが、当クリニックが推進する再生医療(PRP治療、幹細胞治療など)は、損傷した組織の修復・再生を促し、痛みの原因そのものへアプローチする可能性を秘めており、両方を併用して「今ある痛みを抑える」と同時に「将来的な再発リスクを低減する」といった二重の効果が期待できると考えられています。(文献7) リハビリや運動療法への移行がスムーズ 痛みが続いている状態では、リハビリや適切な運動を行うのが難しく、症状がこじれてしまうケースもあります。 ブロック注射で一定の痛みが緩和された状態で再生医療を受けると、患部への負担が軽減され、リハビリを前向きに行いやすくなるメリットがあります。 坐骨神経痛の複合的な原因にも対応可能 坐骨神経痛は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの明確な疾患だけでなく、骨盤や筋肉の歪み・炎症などさまざまな要因が絡み合うことも珍しくありません。 再生医療を取り入れることで、神経だけでなく周辺組織の修復をサポートし、より幅広い症状緩和が見込めます。 ブロック注射の流れと通院の目安 実際にブロック注射を受ける場合、ペインクリニックや整形外科など、医療機関によって多少の違いはあるものの、一般的には以下のような流れで進められます。 初診、カウンセリング まずは問診や必要な検査(レントゲン、MRIなど)で坐骨神経痛の原因を特定します。注射が適切かどうか、どの種類のブロック注射を施術するかを医師と相談しながら決定します。 ブロック注射の実施 透視装置(X線)や超音波ガイドなどを使いながら、目的とする神経の近くに針を進め、局所麻酔薬やステロイド薬を注入します。施術時間は部位や病状にもよりますが、短い場合は10〜15分程度で終わるでしょう。 施術後の安静と経過観察 注射後は、ベッドで数十分ほど安静にしてから症状を確認します。血圧の変動やめまいなどの副作用が起きないか、痛みがどの程度軽減したかを確かめるため、看護師や医師が状態を見守ります。 通院の目安 ブロック注射は1度で効果を実感する方もいますが、必要に応じて数回にわたり実施します。週1回ペースで2〜3回行うケースもあれば、症状や効果の持続性によって間隔を調整する場合もあり、個人差があります。施術後に痛みが大幅に改善した方は、再発予防のためにリハビリや生活習慣の見直しを続けることが重要です。 ブロック注射を受けた方の感想 ブロック注射に対する感想は個人差がありますが、以下のような声がよく聞かれます。なお、あくまで一例であり、すべての方に同様の結果が得られるわけではありません。 ブロック注射自体は比較的安全性の高い治療法とされていますが、施術後すぐに無理をすると痛みが再燃してしまいます。 医師やスタッフの指示を守り、回復ペースに合わせて日常生活をコントロールしていくことが、より良い経過を得るためのポイントです。 ブロック注射だけじゃない!坐骨神経痛セルフケアと予防法 坐骨神経痛の治療法の一つとして、ブロック注射をご紹介致しました。 しかし、坐骨神経痛の辛い痛みを味わうともう再発したくないと考える方もいらっしゃると思います。 そこで、坐骨神経痛の予防法と、ご自身でできるセルフケアについてご紹介します。 坐骨神経痛対策!家庭でできるセルフケア 坐骨神経痛の痛みを和らげるためには、お尻や太もも、腰まわりの筋肉を柔らかく保つことが大切です。 痛みが強くないときに無理のない範囲でストレッチを行いましょう。 坐骨神経痛のストレッチについては、こちらの記事で詳しく解説しておりますので、気になる方は是非チェックしてみてください。 生活習慣の見直しと坐骨神経痛の再発予防 1. 適度な運動習慣を取り入れる 痛みが落ち着いているときにハイキングや水中ウォーキングなどの有酸素運動を取り入れると、下半身の血行が良くなり筋力を維持しやすくなります。(文献8) 筋肉が硬くなるのを防ぎ、坐骨神経周辺の負担を減らすことが期待できますので、最初は短い時間から始め、無理のない範囲で運動量を増やしていくと続けやすいでしょう。 2. 入浴習慣の強化 シャワーで済ませず、湯船にゆっくり浸かる習慣を持つと、筋肉の疲労回復や血行促進に役立ちます。 38〜40℃のぬるめのお湯に10〜15分浸かるだけでも、腰やお尻の筋肉がリラックスし、睡眠の質向上にもつながります。 3. 栄養バランスと体重管理 体重の増加は、腰や下半身への負担を増やす要因になるため、バランスの取れた食事や適正体重の維持が重要です。 タンパク質やビタミン、ミネラルなどを意識的に摂取しましょう。食生活の改善は痛みの予防だけでなく、全身の健康維持にも有効です。 ブロック注射で改善しない坐骨神経痛は当院へご相談ください ブロック注射は、坐骨神経痛の強い痛みを一時的に和らげる手段として有効ですが、原因が複合的であったり、症状が重度化していたりする場合には、注射のみの治療では十分な改善が得られないこともあります。 そうした際には、再生医療をはじめとする多角的なアプローチを行う医療機関への相談を検討してみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、痛みの根本改善を目指すための幹細胞治療やPRP治療など、再生医療を活用した治療も行っています。 ブロック注射で痛みをコントロールしながら、損傷した組織の修復や炎症の鎮静をサポートして長期的な機能回復と再発予防につなげることが期待できます。 「何度もブロック注射を受けたけれど、良くなったり悪くなったりを繰り返している」「痛みが軽減しても、しばらくすると再発してしまう」 そんなお悩みを抱えている方は、ぜひ一度当院へご相談ください。 専門医が丁寧に診断し、お一人おひとりの症状やライフスタイルに合わせた治療プランをご提案します。 坐骨神経痛のつらい痛みから解放されるためにも、どうぞお気軽にご予約・お問い合わせください。 参考文献 (文献1) 日本ペインクリニック学会「治療指針6版第4章」一般社団法人日本ペインクリニック学会HP,https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shishin/6-19.pdf#:~:text=%E7%AD%8B%E3%83%BB%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%EF%BC%8C%E9%96%89%E5%A1%9E%E6%80%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%AE%E8%A1%80%E8%A1%8C%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%8C%E6%8C%99%E3%81%92%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B1%E2%80%923,%E3%81%AE%E5%9C%A7%E8%BF%AB%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%EF%BC%89%EF%BC%8C%E5%89%8D%E8%B6%B3%E6%A0%B9%E7%AE%A1%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%EF%BC%88%E4%B8%8A%E4%B8%8B%E4%BC%B8%E7%AD%8B%E6%94%AF%E5%B8%AF%E9%83%A8%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%B7%B1%E8%85%93%E9%AA%A8%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E5%9C%A7%E8%BF%AB%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%EF%BC%89%EF%BC%8C%E3%83%A2%E3%83%BC%20%E3%83%88%E3%83%B3%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%EF%BC%88%E7%AC%AC%203%EF%BD%9E4%20%E8%B6%BE%E9%96%93%E9%83%A8%E3%81%AE%E6%B7%B1%E6%A8%AA%E4%B8%AD%E8%B6%B3%E9%9D%B1%E5%B8%AF%E9%83%A8%E3%81%A7%E3%81%AE%E5%9B%BA%E6%9C%89%E5%BA%95%E5%81%B4%E6%8C%87%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E5%9C%A7%E8%BF%AB%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%EF%BC%89%E3%81%AA%E3%81%A9%20%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%8C%EF%BC%8C%E3%81%93%E3%82%8C%E3%82%89%E3%82%92%E5%9D%90%E9%AA%A8%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%97%9B%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8B%E5%90%A6%E3%81%8B%E3%81%AF%E8%AD%B0%E8%AB%96%E3%81%AE%E4%BD%99%E5%9C%B0%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%EF%BC%8E%E8%84%8A%E9%AB%84%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE,(最終アクセス2025年2月20日) (文献2) Fairag, M., Kurdi, R., Alkathiry, A., Alghamdi, N., Alshehri, R., Alturkistany, F. O., Almutairi, A., Mansory, M., Alhamed, M., Alzahrani, A., & Alhazmi, A. (2022). Risk Factors, Prevention, and Primary and Secondary Management of Sciatica: An Updated Overview. Cureus, 14(11), e31405.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9743914/#:~:text=systematic%20review%20involving%20eight%20articles,factors%20would%20be%20effective%20against(Accessed: 2025-02-20) (文献3) 日本ペインクリニック学会「治療指針4版第1章ペインクリニックにおける神経ブロック」一般社団法人日本ペインクリニック学会HP,https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide01_07.pdf,(最終アクセス2025年2月20日) (文献4) 伊藤博志,高山瑩,岩間徹,木下朋雄「腰痛と下肢痛に対する神経ブロック療法とトリガーポイント注射の効果」『日本腰痛会誌』7巻(1号),発行年(2001年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/yotsu/7/1/7_1_110/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年2月20日) (文献5) Machado, E. S., Soares, F. P., de Abreu, E. V., de Souza, T. A. C., Meves, R., Grohs, H., Ambach, M. A., Navani, A., de Castro, R. B., Pozza, D. H., & Caldas, J. M. P. (2023). Systematic Review of Platelet-Rich Plasma for Low Back Pain. 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2025.02.28 -
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腰からお尻、足にかけて電気が走るような痛みやしびれ… それ、坐骨神経痛かもしれません。人体で最も太く長い坐骨神経が圧迫されると、痛みやしびれといった不快な症状が現れます。 実は、この坐骨神経痛、坐骨神経痛を放置してしまうと、徐々に歩行に支障をきたすことがあります。 主な原因は椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群などですが、長時間のデスクワークや運動不足も関係していると言われています。 この記事では、医師が効果的なストレッチ方法を解説します。 >>坐骨神経痛をやわらげるストレッチをすぐに見たい方はここをタップ<< 【予備知識】坐骨神経痛の症状と原因 坐骨神経痛は、腰部から臀部、下肢へと続く坐骨神経に圧力がかかったり、刺激されたりすることで、痛みやしびれなどの症状が現れる状態です。 この神経は、人体で最も太く長い神経であり、まるで電線のように腰から足の先まで電気信号を送っています。 しかし、何らかの原因でこの「電線」が圧迫されると、電気がうまく流れなくなり、痛みやしびれなどの不快な症状を引き起こすのです。 症状の特徴:痛みやしびれ、放置するとどうなる? 坐骨神経痛の症状は、人によって様々です。 電気が走るような鋭い痛み、ジンジンするようなしびれ、足の感覚が鈍くなる、といった症状が現れることがあります。 痛みやしびれは、お尻から太もも、ふくらはぎ、すね、そして足の甲や足の裏まで、坐骨神経が通っている場所ならどこにでも現れる可能性があります。 これらの症状は、長時間同じ姿勢を続けていたり、くしゃみや咳などお腹に力が入る動作をした際に悪化することがあります。 症状が重い場合は、歩いたり立ったりすることさえ難しくなることもあります。 坐骨神経痛を放置すると、痛みが慢性化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 また、しびれがずっと残ったり、足に力が入らなくなって歩行が困難になるケースもあります。 特に、腰部脊柱管狭窄症の場合、放置すると排尿障害などの深刻な合併症を引き起こす可能性も懸念されます。 筋力が落ちたり、尿が出にくくなったり、便秘がちになると命に関わるため、我々医師は手術を勧めることになります。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「腰の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 原因:椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群など 坐骨神経痛の原因は様々ですが、代表的なものとして椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群などが挙げられます。 椎間板ヘルニアは、背骨のクッションの役割をしている椎間板の一部が飛び出し、坐骨神経を圧迫することで起こります。 20代に最も多く発症し、次に30~40代に多く見られます。 脊柱管狭窄症は、背骨に存在する神経の通り道である脊柱管が狭くなり、神経を圧迫することで起こります。50歳以上の中高年に多く発症します。 ▼脊柱管狭窄症について、併せてお読みください。 梨状筋症候群は、お尻にある梨状筋という筋肉が坐骨神経を圧迫することで起こります。 その他にも、腰椎すべり症や腫瘍、感染症などが原因となる場合もあります。 ▼梨状筋症候群について、併せてお読みください。 ストレッチが必要!坐骨神経痛になりやすい人の特徴 坐骨神経痛になりやすい人の特徴としては、長時間のデスクワーク、猫背姿勢、運動不足などが挙げられます。 一定の姿勢で長時間座り続けるオフィスワークは、腰に大きな負担をかけ、坐骨神経痛を引き起こしやすくなります。 猫背姿勢も腰への負担を増大させるため、坐骨神経痛のリスクを高めます。運動不足は筋肉を弱らせ、腰を支える力を低下させるため、坐骨神経痛になりやすくなります。 また、冷えや肥満も坐骨神経痛を悪化させる要因となります。 体が冷えると血液の流れが悪化し、筋肉が固くなることで、坐骨神経痛の具合が悪化しやすく、坐骨神経痛の症状を悪化させやすく、注意が必要です。 坐骨神経痛をやわらげるストレッチ3選|効果的な方法と注意点も つらい痛みを何とかしたい、でも手術や薬には頼りたくない、そんな風に考えている方もいるかもしれません。 ご安心ください。ストレッチは、坐骨神経痛からくる症状を改善する効果的な対処法の一つといえます。 適切なストレッチを行うことで、硬くなった筋肉をほぐし、神経への圧迫を軽減することができます。 ここでご紹介するストレッチは、自宅で簡単に行えるものばかりです。ぜひ、試してみてください。 ハムストリングスのストレッチ ハムストリングスは、太ももの裏側にある筋肉です。 この筋肉が硬くなると、骨盤が後ろに傾き、坐骨神経を引っ張ってしまうことがあります。結果として、痛みやしびれといった坐骨神経痛の症状を引き起こすのです。 ハムストリングスの柔軟性を高めることは、体幹の安定性にも繋がります。体幹が安定すると、腰への負担が軽減され、坐骨神経痛の予防にも効果的です。 ハムストリングスのストレッチ①|椅子に座って行う方法 椅子に浅く腰掛け、片方の足を前に伸ばします。 つま先を天井に向け、かかとを床につけたまま、上半身を前に倒していきます。 太ももの裏側に伸びを感じるところで、30秒間キープします。息を止めないように、ゆっくりと呼吸を続けましょう。 反対側の足も同様に行います。 ハムストリングスのストレッチ②|床に仰向けになって行う方法 仰向けになり、片方の足を天井に向けて伸ばします。 伸ばした足の膝を軽く曲げ、タオルやベルトなどを足の裏にかけます。 タオルやベルトを両手で持ち、息を吐きながら、足をゆっくりと自分の方に引き寄せます。 太ももの裏側に伸びを感じるところで、30秒間キープします。この時も、深い呼吸を心がけましょう。 反対側の足も同様に行います。 梨状筋のストレッチ 梨状筋はお尻の奥にある筋肉です。この筋肉が硬くなると、坐骨神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こすことがあります。 梨状筋症候群は、この梨状筋が原因で起こる坐骨神経痛です。 梨状筋のストレッチ①|床に座って行う方法 床に座り、両足を伸ばします。 ストレッチしたい側の足を反対側の太ももの上にのせます。 上半身を前に倒し、お尻の奥に伸びを感じるところで30秒間キープします。 反対側の足も同様に行います。 梨状筋のストレッチ②|椅子に座って行う方法 椅子に座り、ストレッチしたい側の足を反対側の太ももの上にのせます。 上半身をゆっくりと前に倒し、30秒間キープします。 反対側の足も同様に行います。 お尻のストレッチ お尻の筋肉は、人体で最も大きな筋肉の一つである大殿筋をはじめ、中殿筋、小殿筋など複数の筋肉で構成されています。 これらの筋肉は、歩いたり、走ったり、階段を上ったりする際に重要な役割を果たしています。 お尻の筋肉が硬くなると、骨盤の歪みや姿勢が悪くなり、坐骨神経痛を引き起こすことがあります。 お尻のストレッチ|寝て行う方法① 仰向けになり、両膝を立てます。 片方の足を反対側の太ももの上にのせます。 反対側の手で太ももを持ち、胸に引き寄せます。 お尻に伸びを感じるところで、30秒間キープします。 反対側の足も同様に行います。 お尻のストレッチ|寝て行う方法② 仰向けになり、両膝を立てます。 片方の足首を反対側の膝の上に乗せます。 両手で反対側の太ももを抱え、胸の方に引き寄せます。 お尻に伸びを感じるところで、30秒間キープします。 反対側の足も同様に行います。 ストレッチは、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。もし、ストレッチ中に痛みやしびれが増強する場合は、すぐに中止してください。 また、ストレッチの効果を高めるためには、毎日継続して行うことが重要です。1回5~10分程度、1日数回行うのが効果的です。 お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うと、より効果的です。 ストレッチは坐骨神経痛の症状緩和に役立ちますが、根本的な解決にならない場合もあります。 症状が改善しない場合や悪化する場合は、医療機関を受診し、医師の診察を受けるようにしてください。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「腰の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Kim B, Yim J. "Core Stability and Hip Exercises Improve Physical Function and Activity in Patients with Non-Specific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial." The Tohoku journal of experimental medicine 251, no. 3 (2020): 193-206. Deyo RA, Mirza SK. "CLINICAL PRACTICE. Herniated Lumbar Intervertebral Disk." The New England journal of medicine 374, no. 18 (2016): 1763-72. Owen PJ, Miller CT, Mundell NL, Verswijveren SJJM, Tagliaferri SD, Brisby H, Bowe SJ, Belavy DL. "Which specific modes of exercise training are most effective for treating low back pain? Network meta-analysis." British journal of sports medicine 54, no. 21 (2020): 1279-1287.
2025.02.15 -
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突然ですが、手足のしびれや筋力低下を感じたことはありませんか?もしかしたら、それはギラン・バレー症候群の初期症状かもしれません。 聞き慣れない病名かもしれませんが、年間10万人あたり1~2人が発症する身近な病気で、2021年のLancet誌では世界で最も一般的な急性弛緩性麻痺の原因と報告されています。 免疫システムが誤って自分の神経を攻撃してしまうこの病気、実は風邪や下痢といった感染症がきっかけで発症することも。 重症化すると呼吸困難に至るケースもありますが、早期発見・早期治療で後遺症を最小限に抑えることが可能です。 この記事では、ギラン・バレー症候群の症状、原因、治療法、予後まで、詳しく解説します。正しく理解し、もしもの時に備えましょう。 ギラン・バレー症候群を理解する3つのポイント ギラン・バレー症候群は、あまり聞き慣れない病名かもしれません。しかし、誰にでも起こりうる可能性のある病気であり、決して他人事ではありません。 正しい知識を持つことで、早期発見・早期治療につながり、後遺症を最小限に抑えることができるのです。 この章では、ギラン・バレー症候群を理解するための3つのポイントを、わかりやすく丁寧に解説します。 ギラン・バレー症候群とは? ギラン・バレー症候群は、自分の免疫システムが誤って自分の末梢神経を攻撃してしまう自己免疫疾患です。通常、免疫システムは細菌やウイルスなどの外敵から体を守る大切な役割を担っています。 しかし、ギラン・バレー症候群では、この免疫システムが正常に機能せず、味方であるはずの神経を攻撃してしまうのです。 この攻撃によって末梢神経が炎症を起こし、神経を覆うミエリン鞘という部分が損傷を受けたり、神経線維そのものが障害されたりします。 その結果、脳からの指令が筋肉にうまく伝わらなくなり、手足のしびれや筋力低下といった症状が現れます。 ギラン・バレー症候群は、世界中で年間10万人あたり1~2人が発症すると言われており、年齢や性別を問わず、誰にでも起こりうる病気です。 小児から高齢者まで、どの年齢層でも発症の可能性があり、男性にやや多い傾向が見られます。 2021年のLancet誌の報告によれば、ギラン・バレー症候群は世界で最も一般的な急性弛緩性麻痺の原因であり、多くの患者さんが進行性の運動弱化の前に、上気道感染症などの先行感染症を経験するとされています。 ギラン・バレー症候群は、一般的には急速に症状が進行しますが、自然に回復していくことが多いのも特徴です。 多くの患者さんは数ヶ月で回復に向かいますが、約20%の方は1年後も何らかの後遺症が残る可能性があります。また、再発する可能性も2~5%程度存在します。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 ギラン・バレー症候群の原因とメカニズム ギラン・バレー症候群の明確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、多くの場合、風邪や下痢などの感染症がきっかけとなって発症すると考えられています。 例えば、カンピロバクター・ジェジュニという細菌による食中毒が、ギラン・バレー症候群の引き金になることが知られています。 2022年のInternational Journal of Molecular Sciencesに掲載された研究では、ギラン・バレー症候群の約3分の1はカンピロバクター・ジェジュニ感染が原因であると報告されています。 これらの感染症に対して、私たちの体は免疫システムを活性化させ、体内に侵入してきたウイルスや細菌を攻撃します。 しかし、この免疫反応が過剰に起こったり、制御が効かなくなったりすると、本来攻撃すべきでない自分の神経を攻撃してしまうことがあるのです。 これがギラン・バレー症候群の発症メカニズムの一つと考えられています。 具体的には、病原体の表面構造と神経の構成成分が類似している場合、免疫システムがこれらを誤認識し、神経を攻撃してしまう「分子模倣」という現象が関与していると考えられています。 カンピロバクター・ジェジュニ関連のギラン・バレー症候群では、この分子模倣によって引き起こされる自己抗体媒介性免疫プロセスが関与している強力な証拠があるとされています。 ギラン・バレー症候群を引き起こす可能性のある感染症には、カンピロバクター・ジェジュニ以外にも、サイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルス、マイコプラズマ属の細菌、腸管系のウイルスなどが挙げられます。 また、ジカウイルス感染症やCOVID-19の後に発症するケースも報告されています。 さらに、免疫チェックポイント阻害薬という、一部のがん治療薬の副作用として発症するケースもあるため、注意が必要です。 患者さんの約60%で、抗ガングリオシド抗体という物質が血液中に見つかることが知られています。 これは、免疫システムが神経の特定の部分を攻撃している証拠と考えられています。 ギラン・バレー症候群の種類と分類 ギラン・バレー症候群は、大きく分けて「脱髄」が優勢なタイプと、「軸索」が侵されるタイプの2つに分類されます。 脱髄が優勢なタイプ:神経線維を覆っているミエリン鞘という部分が壊れてしまうことで、神経の情報伝達が阻害されます。 代表的なものとして、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)が挙げられます。これはギラン・バレー症候群の中で最も一般的なタイプです。 軸索が侵されるタイプ:神経線維そのものが傷ついてしまうことで、神経の情報伝達が阻害されます。 代表的なものとして、急性運動軸索神経障害(AMAN)が挙げられます。 また、フィッシャー症候群(またはミラー・フィッシャー症候群)と呼ばれるタイプも存在します。 これは、眼球運動障害、体のバランスがとりにくくなる運動失調、腱反射の消失といった症状が見られますが、手足の筋力低下はあまり見られないという特徴があります。 2013年のNeurologic clinics誌に掲載された論文では、このフィッシャー症候群を含め、純粋感覚型変異、自律神経症状の限定的な発現、咽頭・頸部・腕神経叢型パターンなど、他のまれな表現型の変異についても報告されています。 これらの種類によって、症状や経過、予後が異なる場合があるため、正確な診断が重要です。 ギラン・バレー症候群の症状と診断 ギラン・バレー症候群は、初期症状が他の病気と似ていることが多く、診断が難しい場合があります。 風邪のような軽い症状だと安易に考えて放置してしまうと、後遺症が残ってしまう可能性もあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。 この章では、ギラン・バレー症候群の代表的な症状と、どのように診断されるのかについて詳しく解説します。 初期症状:しびれや筋力低下 ギラン・バレー症候群の初期症状は、両手足の指先にしびれやチクチクするような感覚が現れることが多いです。 まるで手袋や靴下を履いているような感覚で、左右対称に症状が現れる点が特徴です。 患者さんの中には、「最初は足が少しジンジンするだけだったのに、数日のうちに両足全体がしびれて、歩くのもつらくなった」と訴える方もいます。 このように、症状の進行は非常に速く、数時間から数日のうちに急速に悪化していく場合もあるため注意が必要です。 また、しびれと同時に、筋力低下も現れ始めます。具体的には、次のような症状が現れることがあります。 ボタンを留める、箸を使うといった細かい動作が難しくなる。 ペットボトルの蓋を開けられない。 文字を書くのが困難になる。 歩行がふらつく。 階段の上り下りが難しくなる。 これらの初期症状は、風邪や疲れなど、他の原因によるものと勘違いしやすいので注意が必要です。 特に、症状が急速に悪化する場合は、ギラン・バレー症候群の可能性を疑い、すぐに医療機関を受診することが大切です。 症状の進行:歩行困難や呼吸麻痺 ギラン・バレー症候群の初期症状が現れてから数日~数週間で、筋力低下はさらに進行し、手足の麻痺へと繋がっていきます。 「最初は足がしびれる程度だったのが、今では杖がないと歩けない」というケースも珍しくありません。 症状が進行すると、歩行が困難になるだけでなく、日常生活における様々な動作に支障をきたすようになります。 例えば、衣服の着脱、食事、洗面、トイレといった動作が一人では行えなくなることもあります。 さらに重症化すると、呼吸に必要な筋肉や、食べ物を飲み込むための筋肉も麻痺し、呼吸困難や嚥下障害を引き起こす可能性があります。 最悪の場合、人工呼吸器の装着や経管栄養が必要となるケースもあり、まさに生命の危険に晒される状態となります。 2015年のPrimary care誌の報告によれば、認識されず、または治療されなかった場合、ギラン・バレー症候群は著しい罹患率と死亡率につながる可能性があります。 診断方法:神経伝導検査や髄液検査 ギラン・バレー症候群の診断は、患者さんの症状や経過、神経学的診察、神経伝導検査、髄液検査などの結果を総合的に判断して行います。 2014年のNature reviews. Neurology誌に掲載された論文では、腰椎穿刺と電気生理学的検査は、診断を裏付け、脱髄型と軸索型のGBSを鑑別するのに役立つと報告されています。 神経伝導検査:神経伝導検査では、神経に電気刺激を与えて、その伝わる速度や反応を測定します。ギラン・バレー症候群では、神経の伝導速度が遅くなったり、反応が弱くなったりするといった異常が見られます。 これは、神経線維を覆っているミエリン鞘という部分が損傷を受けたり、神経線維そのものが障害されていることを示しています。 髄液検査:髄液検査では、腰椎穿刺という方法で採取した髄液を調べます。 ギラン・バレー症候群の特徴的な所見として、髄液中のタンパク質が増加している一方で、細胞数は正常であるという「蛋白細胞解離」が見られます。これは、神経に炎症が起こっていることを示唆する重要な指標です。 ギラン・バレー症候群と類似する疾患との鑑別 ギラン・バレー症候群は、他の神経疾患と症状が似ている場合があり、鑑別が難しいケースもあります。 特に、重症筋無力症、ボツリヌス症、ポリオ、ダニ麻痺症、ウエストナイルウイルス感染症などは、ギラン・バレー症候群と似たような症状を示すことがあります。 これらの疾患とギラン・バレー症候群を鑑別するためには、症状の持続時間や対称性、感覚異常の有無、自律神経症状の有無など、様々な要素を考慮する必要があります。 医師は、これらの要素を詳細に確認することで、正しい診断を下し、適切な治療方針を決定します。 例えば、重症筋無力症は、ギラン・バレー症候群とは異なり、筋力低下が日内変動を示すことが多く、また、眼瞼下垂や複視などの眼症状を伴うことが多いです。 ボツリヌス症は、眼球運動障害や嚥下障害、構音障害などの症状が特徴的で、ギラン・バレー症候群のように四肢の筋力低下が対称性に起こることは少ないです。 このように、それぞれの疾患に特徴的な症状や経過を把握することで、鑑別が可能となります。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 ギラン・バレー症候群の治療法と予後 ギラン・バレー症候群は、適切な治療を行うことで多くの場合回復に向かう病気です。 しかし、重症化すると呼吸困難など生命に関わる危険性もあるため、早期の診断と治療開始が非常に重要です。 ここでは、ギラン・バレー症候群の治療法と予後について、より詳しく解説していきます。 治療方法:免疫グロブリン療法や血漿交換 ギラン・バレー症候群の治療の中心は、免疫グロブリン療法と血漿交換です。 これらの治療は、免疫システムの働きを調整することで、誤って自分の神経を攻撃している状態を鎮め、症状の改善を促します。 2021年のLancet誌の報告によれば、免疫グロブリン療法と血漿交換は同等の効果があり、どちらの治療法も発症早期に開始することが重要であるとされています。 免疫グロブリン療法:免疫グロブリン療法は、健康な人の血液から精製された免疫グロブリンを、点滴で投与する方法です。 免疫グロブリンは、過剰に反応している免疫システムのバランスを整え、神経への攻撃を抑える働きがあります。 点滴による投与のため、入院が必要となるケースが多いです。 副作用として、まれに頭痛、発熱、吐き気、血管痛などがみられることがあります。 これらの副作用は一過性であることがほとんどですが、気になる症状が現れた場合は、速やかに医師に相談することが大切です。 血漿交換:血漿交換は、血液中の液体成分である血漿を専用の機器で取り出し、神経を攻撃している抗体などを含む血漿成分を除去し、代わりに新しい血漿やアルブミン製剤を補充する方法です。 この治療法も入院が必要となります。 副作用としては、血圧の低下、アレルギー反応、出血、血栓塞栓症、低カルシウム血症などがみられることがあります。 免疫グロブリン療法と血漿交換は、どちらも有効な治療法ですが、患者さんの状態やアレルギーの有無、合併症の有無などによって、どちらが適しているかは異なります。 医師とよく相談し、最適な治療法を選択することが重要です。 2014年のNature reviews. Neurology誌に掲載された論文では、静脈内免疫グロブリンと血漿交換は効果的な治療法であることが証明されていると報告されています。 リハビリテーション:機能回復のための運動療法 ギラン・バレー症候群では、筋力低下や麻痺といった症状がみられるため、リハビリテーションも治療の重要な一部です。 リハビリテーションの目的は、低下した身体機能の回復を促し、日常生活への復帰をスムーズにすることです。 リハビリテーションの内容は、患者さんの病状の進行度や年齢、体力、合併症の有無などを考慮して、個別に設定されます。 初期段階で症状が重い時期には、関節の拘縮を防ぐため、関節可動域訓練や寝たきり状態を防ぐための体位変換などが中心となります。 症状が軽快してくると、筋力トレーニングや歩行訓練、日常生活動作訓練など、より積極的な運動療法が開始されます。 理学療法士や作業療法士などの専門家と連携しながら、無理のない範囲でリハビリテーションに取り組むことが大切です。 焦らず、少しずつ身体機能の回復を目指していくことが重要です。 予後:後遺症や再発の可能性 ギラン・バレー症候群の予後は、多くの場合良好で、数ヶ月から1年程度で回復に向かいます。 2015年のPrimary care誌の報告では、多くの症例は後遺症を残さずに回復しますが、そうでない場合は、著しい持続的な衰弱が残る可能性があるとされています。 しかし、患者さんによっては後遺症が残る場合もあり、軽度の筋力低下やしびれ、倦怠感などが挙げられます。また、稀に再発することもあります。 予後は、発症時の症状の重さ、治療への反応、年齢、基礎疾患の有無など、様々な要因によって影響を受けます。 重症例や高齢者の場合、後遺症が残る可能性が高くなる傾向があります。 再発は2~5%程度とされています。再発した場合も、初回と同様の治療が行われます。 最新の治療法と研究 ギラン・バレー症候群の治療法は、現在も研究開発が続けられています。新しい治療薬の開発や、既存の治療法の改良など、様々な研究が行われています。 例えば、補体阻害剤などの新しい治療薬の臨床試験が進行中です。これらの治療薬は、神経へのダメージをさらに軽減する効果が期待されています。 また、国際的な共同研究も盛んに行われており、ギラン・バレー症候群の病態解明や新たな治療法の開発に役立てられています。 2021年のLancet誌の報告では、全てのギラン・バレー症候群患者への治療アクセス改善と、神経損傷の程度を制限できる効果的な疾患修飾療法の開発が必要であるとされています。 ギラン・バレー症候群の日常生活の注意点 ギラン・バレー症候群を発症すると、日常生活に様々な支障が出てきます。症状が落ち着くまでは、無理をせず安静にすることが大切です。 また、日常生活を送る上での工夫も必要になります。 日常生活の注意点: 転倒のリスクを減らすために、手すりや杖などを活用する。 入浴時には、滑り止めマットを敷いたり、浴槽の縁に手すりを取り付けたり、シャワーチェアを使用するなど転倒防止に努める。 トイレには、補助便座や手すりなどを設置する。 衣服は、着脱しやすいものを選ぶ。ボタンやファスナーの代わりに、マジックテープやゴム紐を使用するのも良いでしょう。 食事の際は、介助が必要な場合は家族などに手伝ってもらう。食事内容も、食べやすいように工夫する。 また、精神的なサポートも重要です。不安や恐怖、焦りを感じやすい時期なので、家族や医療従事者と積極的にコミュニケーションをとるようにしましょう。 周囲の理解とサポートが、回復への大きな力となります。 まとめ ギラン・バレー症候群は、末梢神経が自分の免疫システムに攻撃される自己免疫疾患です。 手足のしびれや筋力低下といった症状が現れ、進行すると歩行困難や呼吸麻痺に至ることもあります。 原因は明確には解明されていませんが、感染症がきっかけとなることが多いと考えられています。 治療は免疫グロブリン療法や血漿交換、リハビリテーションなどがあり、多くの場合、数ヶ月から1年で回復に向かいます。 しかし、後遺症が残る場合や再発の可能性もあるので、早期発見・早期治療が大切です。少しでも異変を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。 症状が改善した後も、日常生活で無理をせず、周りのサポートを受けながら、焦らずに回復を目指してくださいね。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Shahrizaila N, Lehmann HC, Kuwabara S. "Guillain-Barré syndrome." Lancet (London, England) 397, no. 10280 (2021): 1214-1228. Finsterer J. "Triggers of Guillain-Barré Syndrome: Campylobacter jejuni Predominates." International journal of molecular sciences 23, no. 22 (2022): . Dimachkie MM, Barohn RJ. "Guillain-Barré syndrome and variants." Neurologic clinics 31, no. 2 (2013): 491-510. van den Berg B, Walgaard C, Drenthen J, Fokke C, Jacobs BC, van Doorn PA. "Guillain-Barré syndrome: pathogenesis, diagnosis, treatment and prognosis." Nature reviews. Neurology 10, no. 8 (2014): 469-82. Ansar V, Valadi N. "Guillain-Barré syndrome." Primary care 42, no. 2 (2015): 189-93. ギラン・バレー症候群ガイドライン2023
2025.02.10 -
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お尻や足に、電気が走るような痛みやしびれを感じたことはありませんか?もしかしたら、それは「梨状筋症候群」のサインかもしれません。 現代社会のデスクワーク中心の生活は、知らず知らずのうちに梨状筋への負担を増大させて、痛みやしびれを引き起こす疾患です。 放置すると慢性化し、日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。 この記事では、セルフチェックの方法、そして具体的な治療法まで、医師が分かりやすく解説します。 つらい痛みやしびれから解放されるための第一歩を、この記事で踏み出してみませんか? 梨状筋症候群の症状と原因5選 お尻や足に痛みやしびれがある場合、梨状筋症候群の可能性があります。 梨状筋症候群は、お尻の奥深くにある梨状筋という筋肉が、坐骨神経を圧迫することで起こる症状です。 痛みやしびれの症状 梨状筋症候群の痛みやしびれは、お尻から太もも、ふくらはぎ、そして時には足先まで広がり、まるで電気が走るようなピリピリとした感覚や、ジーンと響くような感覚、焼けるような痛みなど、症状は人それぞれです。 これらの症状は、長時間座っていたり、股関節を動かしたりすることで悪化し、同じ姿勢を続けていると、さらに症状が強まる場合があります。 このような症状が現れた場合、日常生活にも支障をきたす可能性があります。 症状の種類 感じ方 範囲 具体的な日常生活への影響例 ピリピリする 電気が走るような感覚 お尻から足先まで 靴下の素材がチクチクと感じたり、足先が常に痺れて違和感がある ジーンとする 重いものが乗っているような感覚 お尻からふくらはぎまで ふくらはぎが重だるく、長時間の歩行が困難になる 焼けるような痛み 熱いものが当たっているような感覚 お尻から太ももまで 座っているとお尻から太ももにかけて熱く感じ、落ち着いて座っていられない このような症状は、当初は軽い違和感程度から始まり、徐々に増悪するケースが多いです。 初期の段階では、「少し疲れているだけだろう」と安易に考えてしまいがちですが、放置すると慢性化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性がありますので、早めの対応が重要です。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「腰の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 臀部から太もも、ふくらはぎにかけての痛み 梨状筋症候群では、お尻の奥にある梨状筋が坐骨神経を圧迫することで、臀部から太もも、そしてふくらはぎにかけて痛みを感じることがあります。 梨状筋は、股関節を外側に回す働きをする筋肉です。この筋肉が硬くなったり、腫れたりすることで、近くを通る坐骨神経を圧迫し、症状が出ます。坐骨神経は、人体で最も太い神経であり、腰から足先まで繋がっています。 梨状筋症候群は、比較的まれな疾患であるものの、坐骨神経痛の原因の一つとして無視できない存在です。診断が難しい場合が多く、他の疾患との鑑別が重要になります。 例えば、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症なども坐骨神経痛を引き起こす可能性があるため、これらの疾患との鑑別が必要となります。 かかりつけ医から、『坐骨神経痛の原因は、腰のヘルニアが原因と言われた』とよく外来に来られる患者様がいました。 よく調べてみると、この梨状筋症候群だったということは多々ありました。整形外科医でも、中々判断するのは難しい疾患となります。 ▼椎間板ヘルニアについて、こちらでも分かりやすく解説しています。 長時間座っていると悪化する痛み 梨状筋症候群の痛みは、長時間座っていることで悪化することがあります。 デスクワークや車の運転などで長時間同じ姿勢を続けていると、梨状筋が圧迫され、坐骨神経への刺激が強まります。 特に、足を組んだり、片方に体重をかけたりする姿勢は、梨状筋への負担が大きくなるため、注意が必要です。 こまめに立ち上がったり、ストレッチをしたりすることで、筋の緊張を和らげ、症状をやわらげることができます。 現代社会では、デスクワークやスマートフォンの使用など、長時間座っている機会が増えています。そのため、梨状筋症候群のリスクも高まっていると考えられます。 長時間座っている際には、1時間に1回程度は立ち上がって歩いたり、身体を動かしたりしましょう。 股関節の動きに伴う痛み 梨状筋症候群では、股関節を動かすと痛みが増強することがあります。この梨状筋は、股関節を内側や外側に回したり、曲げ伸ばししたりする際に活躍する筋肉です。 この時に、梨状筋が伸縮し、坐骨神経を刺激します。特に、股関節を外側に回す動きは、梨状筋を強く収縮させるため、痛みを感じやすいです。 階段の上り下りや、足を組む動作など、日常生活での動作でも痛みが出現する可能性があります。 梨状筋症候群のセルフチェックと診断 お尻や足に痛みやしびれがあると、日常生活にも支障が出てつらいですよね。もしかしたら、それは「梨状筋症候群」かもしれません。 梨状筋症候群は、お尻の奥深くにある筋肉「梨状筋」が、近くを通る坐骨神経を圧迫することで起こる病気です。 今回は、梨状筋症候群のセルフチェック方法や医療機関における診断方法について詳しく解説します。 梨状筋症候群のセルフチェック方法 ご自身で梨状筋症候群の可能性をチェックする方法をいくつかご紹介します。これらのセルフチェックは、あくまで梨状筋症候群の疑いがあるかを調べるためのものです。 セルフチェックで陽性反応が出ても、必ずしも梨状筋症候群であるとは限りません。確定診断のためには、医療機関を受診し医師の診察を受けることが重要です。 FAIRテスト(股関節屈曲、外転、内旋テスト)とPace徴候は、梨状筋症候群のセルフチェックとして広く知られています。 FAIRテスト:FAIRテストでは、仰向けに寝て片方の足をもう片方の足の上に組み、上の足の膝を外側に倒していきます。 この時、お尻や太もも、ふくらはぎにかけて痛みやしびれが出たら、梨状筋症候群の可能性があります。 このテストは、梨状筋が緊張・短縮することで坐骨神経が刺激され、神経のインパルスが妨げられることで症状が出現するというメカニズムに基づいています。 Pace徴候:Pace徴候では、痛みのある側の足を組んで座り、そのまま上半身を前に倒します。 お尻や太ももに痛みやしびれが増強する場合、梨状筋症候群の可能性があります。 これらのセルフチェックは、梨状筋の緊張や炎症によって坐骨神経が圧迫されることで生じる痛みやしびれを誘発することで、梨状筋症候群の可能性を探るものです。 しかし、これらの症状は他の疾患でも起こり得るため、鑑別診断が重要です。 例えば、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症も同様の症状を引き起こす可能性があります。 鑑別診断:坐骨神経痛との違い 梨状筋症候群は、坐骨神経痛の一つの原因です。 坐骨神経痛とは、腰からお尻、太ももの裏、ふくらはぎ、足にかけて伸びている坐骨神経が何らかの原因で刺激され、痛みやしびれなどの症状が現れる状態を指します。 梨状筋症候群以外にも、腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腫瘍など、様々な病気が坐骨神経痛を引き起こす可能性があります。 ▼坐骨神経痛を和らげるストレッチについて、併せてお読みください。 梨状筋症候群の治療法と治る期間 ここでは、梨状筋症候群の具体的な治療法と、どれくらいの期間で治るのかについて、詳しく解説します。 どの治療法が自分に合っているのか、不安に思っている方も、ぜひ参考にしてみてください。 梨状筋症候群の治療期間 梨状筋症候群の治療期間は、症状の重さや治療法、そして個人差によって大きく異なります。 多くの場合、保存療法と呼ばれる手術をしない治療で、2ヶ月ぐらい経てば、かなり軽快するという報告があります。 具体的には、初期段階で症状が軽い場合は数週間から数ヶ月で、ほとんどが軽快します。 しかし、症状が重い場合や慢性化している場合は、数ヶ月から半年以上かかる場合もあります。 さらに、日常生活での姿勢や体の使い方が悪ければ、さらに治癒期間は長くなります。 梨状筋症候群は、他の疾患、例えば腰椎椎間板ヘルニアなどと症状が似ている場合があり、誤診される可能性も否定できません。 そのため、医療機関を受診し、医師の診察を受けることが重要です。 保存療法:ストレッチや薬物療法 梨状筋症候群の治療は、多くの場合、保存療法から始めます。 梨状筋症候群は、梨状筋の緊張や炎症が原因で起こることが多いため、保存療法では、主に梨状筋の緊張を和らげ、炎症を抑えることを目的とします。 具体的には、ストレッチ、薬物療法、温熱療法、注射などがあります。 ストレッチ:ストレッチは、梨状筋を伸ばすことで、神経への圧迫を軽減し、症状の改善を図ります。 理学療法士による坐骨神経モビライゼーションや梨状筋リリースといった専門的な手技も有効です。 股関節の屈曲角度が90度以上と90度未満のストレッチ方法があり、症状や身体の状態に合わせて適切な方法を選択することが重要です。 薬物療法:薬物療法では、痛みや炎症を抑える薬を服用します。痛み止めや消炎鎮痛剤など、症状に合わせて医師が適切な薬を処方します。 温熱療法:温熱療法は、温めることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。ホットパックや温湿布などを使用します。 注射療法:注射療法では、梨状筋や坐骨神経周囲に局所麻酔薬やステロイド薬を注射します。 痛みを軽減し、炎症を抑える効果が期待できます。近年では、ボツリヌス毒素注射も効果的であると報告されています。 ボツリヌス毒素は、筋肉の過剰な収縮を抑制する効果があり、梨状筋の緊張を和らげ、坐骨神経への圧迫を軽減します。 手術療法の適応 梨状筋症候群の手術療法は、保存療法を数ヶ月間継続しても症状が改善しない場合や、他の疾患が疑われる場合に検討されます。 しかし、梨状筋症候群で手術が必要となるケースは非常に稀です。 家庭でできるストレッチと注意点 梨状筋症候群の代表的なストレッチとして、仰向けに寝て、片方の足首を反対側の膝の上に乗せ、両手で太ももを抱えてゆっくりと胸に引き寄せる方法があります。この姿勢を30秒ほど維持し、反対側も同様に行います。 ストレッチは無理のない範囲で行いましょう。ストレッチは、朝起きた時やお風呂上がりなどが効果的です。 また、ストレッチだけでなく、日常生活での姿勢や体の使い方にも気を配ることが重要です。 長時間の同じ姿勢を避け、適度な運動を心がけることで、梨状筋症候群の予防や再発防止にも繋がります。 椅子に座っている時に足を組む癖がある方は、梨状筋への負担が大きくなるため、意識的に足を組まないようにしましょう。 また、立ち仕事が多い方は、適度に休憩を取り、股関節周りのストレッチを行うことをおすすめします。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「腰の痛み」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Kirschner JS, Foye PM, Cole JL. "Piriformis syndrome, diagnosis and treatment." Muscle & nerve 40, no. 1 (2009): 10-8. Probst D, Stout A, Hunt D. "Piriformis Syndrome: A Narrative Review of the Anatomy, Diagnosis, and Treatment." PM & R : the journal of injury, function, and rehabilitation 11 Suppl 1, no. (2019): S54-S63. Kim B, Yim J. "Core Stability and Hip Exercises Improve Physical Function and Activity in Patients with Non-Specific Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial." The Tohoku journal of experimental medicine 251, no. 3 (2020): 193-206. Ahmad Siraj S, Dadgal R. "Physiotherapy for Piriformis Syndrome Using Sciatic Nerve Mobilization and Piriformis Release." Cureus 14, no. 12 (2022): e32952.
2025.02.09 -
- 脊椎、その他疾患
肩こり、経験したことがないという方は少ないのではないでしょうか? 実はその原因は、デスクワークや姿勢、運動不足、冷え性、そしてストレスなど、実に多様で、原因によって適切な対処法も異なります。 肩こりは放置すると、頭痛や吐き気などの思わぬ症状を引き起こす可能性も。 本記事では、肩こりの原因とメカニズムを5つに分類し、具体的な症状や、日常生活で簡単に取り入れられる効果的な治療法・予防法まで、医師が詳しく解説します。 肩こりに悩まされている方はもちろん、これから肩こりを予防したいという方も、ぜひご一読ください。 肩こりの原因とメカニズム5選 肩こりは、誰でも身近に経験する可能性が高い症状です。しかし、「肩こり」と一言で言っても、その原因は人それぞれであり、原因によって適切な対処法も異なってきます。 今回は、肩こりの原因とメカニズムを5つご紹介し、具体的な解説を加えながら、読者の皆様がご自身の肩こりの原因を理解し、適切な対策を講じるためのお手伝いをさせていただきます。 デスクワークなど長時間同じ姿勢での作業 現代社会において、デスクワークは多くの人にとって避けられない仕事スタイルとなっています。しかし、長時間同じ姿勢での作業は、肩こりの大きな原因となります。 特にパソコン作業やスマートフォンの操作は、首を前に傾けた姿勢になりがちで、肩や首の筋肉に大きな負担がかかります。 長時間同じ姿勢を続けると、特定の筋肉が緊張し続け、血行不良に陥ります。 肩甲骨は、腕の動きに合わせて上下左右に自由に動く骨です。デスクワークでは、肩甲骨周辺の筋肉や首の後ろの筋肉がどうしても凝ってきます。 例えば、パソコン作業中に画面に集中しすぎると、知らず知らずのうちに肩をすくめた状態になり、僧帽筋と呼ばれる肩の筋肉が過剰に緊張します。 また、キーボード操作に集中すると、腕や手首の筋肉も緊張し、その緊張が肩まで伝わって肩こりを悪化させることもあります。 慢性的な頸部痛の患者を対象とした研究では、肩甲骨を中心とした抵抗運動が、マッサージよりも痛みの軽減、頸部の可動域の改善、僧帽筋の緊張緩和に効果的だったという結果が報告されています。 この研究結果は、同じ姿勢での作業で凝り固まった筋肉を積極的に動かすことの重要性を示唆しています。 つまり、肩甲骨を意識的に動かす体操やストレッチを日常生活に取り入れることで、肩こりの予防や改善に繋がることが期待できます。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 猫背などの姿勢不良 猫背などの姿勢不良も、原因です。正しい姿勢では、頭の重さは背骨全体で支えられています。 しかし、猫背になると頭が体の前方に出てしまい、首や肩の筋肉で頭を支えなければならなくなります。 5kg程度の重さのある頭を、首や肩の筋肉だけで支え続けると想像してみてください。筋肉への負担は相当なものになります。 ストレートネックも姿勢不良の一種です。本来、頸椎(首の骨)は緩やかなカーブを描いていますが、ストレートネックではこのカーブが失われ、まっすぐな状態になっています。 ストレートネックになると、頭が前方に傾きやすく、首や肩の筋肉への負担がさらに増大します。 運動不足 運動不足は、筋肉量の減少や筋力の低下を引き起こします。すると、正しい姿勢を維持することが難しくなり、猫背やストレートネックになりやすくなります。 また、運動不足は血行不良になり、筋肉への酸素供給が不足し、老廃物が蓄積しやすくなります。やはり、肩こりの悪影響となります。 冷え性 冷え性は、末梢血管の収縮を引き起こし、血行不良を招きます。血行不良は、筋肉への酸素供給を阻害し、老廃物の排出を妨げ、肩こりが発生しやすくなります。 特に、女性は男性に比べて筋肉量が少なく、冷えやすい傾向があるため、肩こりに悩まされることが多いです。 ストレス ストレスは、自律神経のバランスを崩し、交感神経を優位にさせます。交感神経が優位になると、筋肉が緊張しやすくなり、肩こりを引き起こします。 また、ストレスは呼吸を浅くし、体内の酸素供給を低下させるため、これも原因となります。 ストレスと肩こりの関係は複雑ですが、精神的な緊張が身体をこわばらせるのは明らかです。 ストレスを軽減するためのリラクセーション法やストレスマネジメント法を身につけることは、肩こりの改善にも繋がります。 例えば、ヨガや瞑想は、心身をリラックスさせ、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。また、ウォーキングなどの軽い運動も、ストレス軽減に効果的です。 日常生活の中で、ご自身に合ったストレス解消法を見つけて実践していくことが大切です。 肩こりの症状と治療法・予防法 肩こりは、あまりにもありふれた症状であるがゆえに、放置されがちです。 しかし、肩こりは放置すると日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、頭痛や吐き気などの他の症状を引き起こす原因にもなり得ます。 初期症状では、肩上部の僧帽筋という筋肉が緊張することで、肩まわりが凝ってきます。 まるで肩に重いリュックサックを背負っているかのような感覚、あるいは首の後ろに鉄板が張り付いているかのような感覚を覚える方もいるかもしれません。 症状が進行すると、首や肩だけでなく、背中全体に硬さや痛み、不快感が広がり、日常生活にも支障をきたすようになります。 例えば、朝起きた時に首が回らない、洗濯物を干すのが辛い、長時間座っているのが苦痛といった具体的な問題が生じます。 さらに、肩こりは肩や首の局所的な症状だけでなく、頭痛、吐き気、めまい、眼精疲労、歯痛などの他の症状を併発したり、誘発したりすることもあります。 腕や指先に痛みやしびれが出る場合もあります。これらの症状は、肩や首の筋肉の緊張が神経や血管を圧迫することで引き起こされると考えられています。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 肩こりの症状(肩の痛み、こり感、重さ、だるさ、頭痛、吐き気など) 肩こりの症状は実に多様で、肩や首の痛み、こり感、重さ、だるさなど、人によって感じ方が異なります。 症状 説明 痛み 肩や首、背中、腕、指先に感じる痛み。鋭い痛み、鈍い痛み、ズキズキする痛みなど、痛みの種類も様々です。 こり感 筋肉が硬く張っている感じ。肩や首を動かそうとすると、まるでゴムが引っ張られるような感覚があるかもしれません。 重さ 肩や首が重く感じる。まるで何キロもの重りが乗っているかのような感覚に襲われる方もいます。 だるさ 肩や首、腕のだるさ。まるで鉛のように重く、動かす気力さえ失せてしまうような感覚です。 頭痛 肩こりに伴う頭痛。緊張型頭痛が多いです。後頭部から首筋にかけて締め付けられるような痛み、あるいは頭全体が重く感じるような痛みなど、様々なタイプの頭痛があります。 吐き気 肩こりのひどい場合に起こる吐き気。ひどい肩こりは自律神経のバランスを崩し、吐き気を引き起こすことがあります。 めまい 肩こりによって引き起こされるめまい。回転性のめまいや、ふわふわとした浮遊感など、様々なタイプのめまいがあります。 眼精疲労 肩こりによって悪化する眼精疲労。目の奥が痛む、目がかすむ、目が乾くなどの症状が現れます。 しびれ 腕や指先に感じるしびれ。まるで針で刺されたようなチクチクとした感覚や、ジンジンとした痺れるような感覚があります。 緊張型頭痛において、頸部の筋骨格系の機能障害が重要な役割を果たしていることが近年の研究で明らかになっています。 つまり、肩こりは単なる肩の症状ではなく、頭痛などの他の症状とも密接に関連しているということです。 ▼めまいの対処法について、併せてお読みください。 ▼頭痛と吐き気が起きたとき、どうしたらいい?併せてお読みください。 肩こりの治療法(薬物療法、物理療法、運動療法、鍼灸治療、マッサージなど) 肩こりの治療法は、大きく分けて薬物療法、物理療法、運動療法、鍼灸治療、マッサージなどがあります。 薬物療法: 筋肉の緊張を和らげる薬や、痛みを軽減する薬、血行を良くするビタミン剤などが処方されます。 薬物療法は、即効性があり、つらい症状を 軽減できるというメリットがあります。 物理療法: 温熱療法、電気療法、牽引療法などがあります。 物理療法は、薬を使わずに身体に直接働きかける治療法で、副作用が少ないというメリットがあります。 運動療法: ストレッチや筋力トレーニングなど、肩甲骨や肩関節の動きを改善する運動を行います。 運動療法は、肩こりの根本的な原因である筋肉の柔軟性や筋力の低下を改善する効果があります。 鍼灸治療: 鍼やお灸でツボを刺激することで筋肉が柔らかくなり、血流も良くなります。 鍼灸治療は、東洋医学に基づいた治療法で、身体の自然治癒力を高める効果があるとされています。 マッサージ: 筋肉を直接もみほぐし、血行を良くします。 マッサージは、筋肉の緊張を和らげ、リラックス効果も期待できます。 肩こりの予防法(ストレッチ、姿勢改善、適度な運動、保温、ストレス管理など) 肩こりの予防には、日常生活における習慣の見直しが重要です。 ストレッチ: 肩や首の筋肉を 、ストレッチすることで、筋肉の柔軟性を保ち、肩をほぐします。 朝起きた時、仕事中、寝る前など、こまめに行うのが効果的です。 姿勢改善: デスクワークなどで長時間同じ姿勢を続ける場合は、こまめに休憩を取り、姿勢を変えるようにしましょう。正しい姿勢を保つことも重要です。 猫背にならないように意識し、顎を引いて背筋を伸ばすようにしましょう。 適度な運動: 適度な運動は、血行を促進し、肩こりを和らげる効果があります。 ウォーキングや水泳など、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。 保温: 体を冷やすと、肩こりが強くなります。特に冬場は、肩や首を冷やさないように注意しましょう。 温かいお風呂に浸かるのも効果的です。 ストレス管理: ストレスは肩こりの大きな原因の一つです。ストレスを溜め込まないように、リラックスする時間を作る、趣味を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Corum M, Aydin T, Medin Ceylan C, Kesiktas FN. "The comparative effects of spinal manipulation, myofascial release and exercise in tension-type headache patients with neck pain: A randomized controlled trial." Complementary therapies in clinical practice 43, no. (2021): 101319. Fernández-de-Las-Peñas C, Cook C, Cleland JA, Florencio LL. "The cervical spine in tension type headache." Musculoskeletal science & practice 66, no. (2023): 102780. Park SH, Lee MM. "Effects of Lower Trapezius Strengthening Exercises on Pain, Dysfunction, Posture Alignment, Muscle Thickness and Contraction Rate in Patients with Neck Pain; Randomized Controlled Trial." Medical science monitor : international medical journal of experimental and clinical research 26, no. (2020): e920208. Al-Khazali HM, Krøll LS, Ashina H, Melo-Carrillo A, Burstein R, Amin FM, Ashina S. "Neck pain and headache: Pathophysiology, treatments and future directions." Musculoskeletal science & practice 66, no. (2023): 102804. Kang T, Kim B. "Cervical and scapula-focused resistance exercise program versus trapezius massage in patients with chronic neck pain: A randomized controlled trial." Medicine 101, no. 39 (2022): e30887.
2025.02.09 -
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「帯状疱疹が治ったのに、なぜ痛みが続くの?」「この痛みは一生続くのだろうか…」 このように不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させ、日常生活に支障をきたす可能性があります。しかし、近年の研究によって、その生理学的メカニズムが少しずつ明らかになってきました。 この記事では、帯状疱疹後神経痛のメカニズムについて詳しく解説します。科学的な理解を深めることが、痛みを和らげる希望につながるでしょう。 帯状疱疹後神経痛とは? 帯状疱疹は、子どもの頃に多くの方が感染する水痘(みずぼうそう)と同じウイルスが原因で起こる病気です。水痘が治った後も、ウイルスは体の中の神経の近くに潜んでいます。普段は眠っているこのウイルスが、なんらかのきっかけで再び活動をはじめることを「再活性化」と言います。 再活性化したウイルスは神経に沿って移動し、皮膚で増えることで発疹や水ぶくれを作ります。この時、強い痛みを感じることが多いです。多くの人は数週間で治りますが、中には痛みが長く続く人もいます。これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。 帯状疱疹後神経痛は、痛みのせいで日常生活が送りにくくなることがあります。痛みが生活に与える影響を「QOL(生活の質)の低下」と表現します。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの生活に大きな影響を与える可能性がある、つらい病気なのです。 帯状疱疹後神経痛の診断は、国際的な基準に基づいて行われます。この基準では、帯状疱疹の発疹が治ってから3か月以上続く痛みを「帯状疱疹後神経痛」と定義しています。痛みは、発疹があった場所に限らず、その周辺にも広がることがあります。 また、日本のペインクリニック学会でも、独自の診断基準を作成しています。この基準では、痛みの性質や部位、程度などを詳しく評価することが重要だとされています。 医師は、これらの基準を参考に、患者さんの症状や経過を詳しく調べることで、帯状疱疹後神経痛かどうかを判断します。もし、帯状疱疹にかかった後で、長く続く痛みに悩んでいるなら、専門医に相談してみることをおすすめします。 帯状疱疹後神経痛の生理学的メカニズム 帯状疱疹後神経痛は、体の中で複雑な変化が起こることによって引き起こされます。ここでは、その生理学的なメカニズムについて詳しく解説します。 神経細胞の損傷と再生 帯状疱疹の原因となるウイルスは、子どもの頃にかかる水ぼうそうが治った後も、体の中に潜んでいます。このウイルスは、神経の近くで長い間じっとしています。 ところが、何かのきっかけでウイルスが目覚めると、神経に沿って移動をはじめます。そして、皮膚の中で増えていくことで、発疹や水ぶくれを作るのです。 この時、ウイルスに感染した神経の細胞は、ダメージを受けてしまいます。神経細胞は、脳と体の各部分をつなぐ大切な役割を持っています。痛みを感じると、その信号を脳に伝えるのも神経細胞の仕事です。 しかし、ウイルスに攻撃された神経細胞は、うまく働けなくなってしまうのです。痛みの信号が脳に正しく伝わらなかったり、必要以上に強い痛みを感じてしまったりします。これが、帯状疱疹後神経痛の原因の一つだと考えられています。 神経細胞は傷ついても、少しずつ回復することができます。けれども、完全に元通りになるのはとても難しいのです。一度ダメージを受けた神経細胞は、以前のように痛みの信号を伝えられなくなってしまうこともあるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによる神経細胞へのダメージが原因で起こると考えられています。神経の回復を助け、痛みを和らげる治療法の開発が、今も進められているところです。 痛みの伝達メカニズム 帯状疱疹後神経痛では、傷ついた神経細胞が過敏な状態になっているのが特徴です。そのため、本来なら痛みを感じないような軽い刺激でも、痛みとして脳に伝わってしまうのです。この状態を「アロディニア」と呼んでいます。 さらに、痛みの信号が体の中の神経の通り道で増幅されることで、より強い痛みを感じるようになることもあり得ます。このように、痛みを伝えるしくみに異常が起こることが、帯状疱疹後神経痛が長引く原因の一つと考えられているのです。 帯状疱疹後神経痛の痛みは、「侵害受容器の感作」や「中枢性感作」といった変化が関係していると考えられています。 侵害受容器は、痛みを感じ取る神経の末端にある受容体です。帯状疱疹によって神経が傷つくと、この侵害受容器が過敏になり、本来は痛みを感じない刺激でも痛みを感じるようになってしまいます。 また、痛みの信号が繰り返し脳に伝わることで、脳の痛みに対する反応も敏感になってしまう「中枢性感作」という変化が起こります。その結果、痛みがさらに強く感じられるようになるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛の痛みには、神経のダメージによる末梢での変化と、脳での痛みの処理の変化が関わっていると考えられています。これらのメカニズムを理解することは、効果的な治療法の開発につながると期待されています。 免疫システムの役割 私たちの体には、病気から体を守ってくれる「免疫システム」があります。免疫システムは、ウイルスなどの侵入者から体を守る重要な役割を持っています。 しかし、年をとったり、ストレスを受けたりすると、この免疫システムがうまく働かなくなることがあります。免疫力が下がると、体の中に潜んでいた帯状疱疹のウイルスが、再び活動をはじめてしまうのです。 一方で、帯状疱疹後神経痛が起こる原因の一つに、免疫の反応が過剰になってしまうことが関係しているようです。本来、免疫システムはウイルスから体を守るために働きますが、時には行きすぎた反応を起こしてしまうことがあるのです。 この過剰な免疫反応によって、体の中で炎症を引き起こす物質が増えてしまいます。これらの物質は、神経を傷つけたり、過敏にしたりして、痛みを悪化させてしまう可能性があります。 つまり、帯状疱疹後神経痛は、免疫システムのバランスが崩れることが原因の一つになっていると考えられているのです。免疫力が下がることで、ウイルスが活性化し、また、免疫の反応が過剰になることで、痛みが長引いてしまうのです。 免疫システムを整えることが、帯状疱疹後神経痛の予防や治療に役立つかもしれません。バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス管理などが、免疫力を維持するために大切だと言われています。 帯状疱疹後神経痛の影響 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。痛みは日常生活のあらゆる場面で支障をきたし、精神的な健康にも悪影響を及ぼすのです。 日常生活への影響 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの日常生活にさまざまな影響を与えます。 まず、痛みのために十分な睡眠がとれなくなることがよくあります。夜中に痛みで目が覚めてしまったり、痛みが気になって寝付けなかったりするのです。睡眠不足は、日中の活動にも影響を及ぼします。集中力が低下したり、疲れやすくなったりするでしょう。 また、痛みは仕事や家事の効率を下げてしまうことがあります。デスクワークでは、長時間同じ姿勢でいるのがつらくなったり、資料を運ぶのが難しくなったりするかもしれません。家事では、掃除や洗濯など、体を動かす作業が痛みで困難になる場合もあります。 外出時には、衣服が患部に触れることで痛みが増したり、長時間歩くのがつらかったりと、移動そのものが大変になることもあります。公共交通機関の利用や、買い物など、これまであたり前にできていたことが、痛みによって制限されてしまうのです。 趣味や社会活動も、痛みの影響を受けます。スポーツや運動が思うようにできなくなったり、外出が減ったことで人との交流が減ったりするかもしれません。痛みは、人とのコミュニケーションにも影響を及ぼすのです。 さらに、痛みは患者さまの心理状態にも影響を与えます。痛みが続くことで、イライラしたり、落ち込んだりする方もいます。痛みのコントロールができないことへの不安や、先の見えない闘病生活への疲れが、心の負担になるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛は、患者さんの日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。仕事、家事、外出、趣味、人間関係、心理状態など、生活のすべての側面で、痛みがつきまとうのです。 しかし、適切な治療とサポートによって、これらの影響を最小限に抑えることができます。医療者と相談しながら、自分に合った痛みのコントロール方法を見つけることが大切です。また、家族や友人、同じ悩みを持つ人たちと支え合うことも、困難を乗り越える大きな力になるでしょう。 精神的健康への影響 長期的に持続する痛みは、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスを崩す可能性があります。これらの物質は気分の調整に重要な役割を果たすため、その不均衡がうつ症状につながる場合があるでしょう。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの精神面にも大きな影響を与えます。慢性的な痛みはストレスを増大させ、不安やうつ症状を引き起こすことがあるのです。 痛みがなかなかコントロールできないことで、将来への不安を感じる患者さんも少なくありません。「このまずっと痛みに苦しむのだろうか」と悲観的になってしまう方もいるでしょう。 また、周囲の人が帯状疱疹後神経痛の痛みを理解してくれないと、患者さんは孤独感を抱えてしまうかもしれません。「自分だけが痛みに苦しんでいる」と感じ、心理的に追い詰められてしまう方もいます。 実際に、50代の女性は帯状疱疹後神経痛のために仕事を辞めざるを得なくなり、経済的な不安から抑うつ状態になってしまったそうです。また、80代の男性は痛みのために家族との関係がぎくしゃくし、孤独感から不眠に悩まされていたと言います。 このように、帯状疱疹後神経痛は患者さんの精神的な負担を大きくし、QOLを著しく低下させる可能性があるのです。痛みに苦しむ患者さんが、周囲の理解とサポートを得られるよう、社会全体で支えていくことが大切だといえるでしょう。 現在の治療法と未来の可能性 帯状疱疹後神経痛の治療には、日本ペインクリニック学会が発表しているガイドラインがあります。 ガイドラインによると、帯状疱疹後神経痛に対する治療法は、薬物療法を中心にさまざまな選択肢があります。現在の主な治療法とその効果について見ていきましょう。また、最新の研究で注目されている新たな治療法や予防法についても触れていきます。 伝統的治療法 帯状疱疹後神経痛の治療には、いくつかの種類の薬が用いられます。 治療法 説明 効果 副作用 三環系抗うつ薬 脳内の神経伝達物質のバランスを整える 痛みを和らげる効果が期待できる 眠気、口の渇きなど 抗てんかん薬(プレガバリン、ガバペンチンなど) 神経の過敏性を抑える 痛みを軽減する めまい、眠気など オピオイド鎮痛薬 脳内の痛みを抑える物質の働きを強める 強い痛みに対して鎮痛効果を発揮 便秘、嘔吐、依存性のリスク リドカインパッチ 患部に直接貼る 局所的に痛みを和らげる 皮膚刺激など 神経ブロック療法 痛みを伝える神経の近くに麻酔薬やステロイドを注射 痛みの伝達を遮断 感染リスク、一時的な神経障害など 経皮的電気神経刺激療法(TENS) 皮膚に電極を貼り、弱い電流を流す 痛みを感じにくくする 皮膚刺激、まれに筋肉の痙攣 まず、三環系抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、痛みを和らげる効果が期待できます。ただし、眠気や口の渇きなどの副作用に注意が必要です。 次に、プレガバリンやガバペンチンなどの抗てんかん薬は、神経の過敏な反応を抑えることで痛みを軽減します。めまいや眠気などの副作用がある場合もありますが、多くの患者さんで効果が見られています。 また、オピオイド鎮痛薬は、強い痛みに対して使用されることがあります。これらの薬は、脳内の痛みを抑える物質の働きを強めることで、鎮痛効果を発揮します。ただし、便秘や吐き気、依存性などの副作用のリスクがあるため、慎重に使用する必要があります。 このほか、リドカインパッチなどの貼り薬を痛みのある部分に直接貼ることで、局所的に痛みを和らげる方法もあります。神経ブロック療法では、痛みを伝える神経の近くに麻酔薬やステロイドを注射し、痛みの伝達を遮断します。 経皮的電気神経刺激療法(TENS)は、皮膚に電極を貼り、弱い電流を流すことで痛みを和らげる治療法です。この方法は、痛みの信号を脳に伝えにくくすることで効果を発揮します。皮膚への刺激感はありますが、大きな副作用は少なく、とくに薬物療法と組み合わせることで効果が期待できます。ただし、効果の程度には個人差があり、すべての患者さんに同じように効くわけではありません。 これらの治療法を組み合わせることで、多くの患者さんである程度の痛みの緩和が得られますが、完全に痛みをなくすことは難しいのが現状です。 最新の研究と将来の治療法 近年、帯状疱疹後神経痛に対する新たな治療法の開発が進んでいます。 治療法 説明 期待される効果 現状 カプサイシン貼付剤 トウガラシの辛み成分を含む貼り薬 痛みを伝える神経終末の感受性を低下させ、鎮痛効果を発揮 研究段階 ボツリヌス毒素注射 ボトックス注射として知られる 痛みに関連する神経伝達物質の放出を抑制し、痛みを和らげる 臨床試験中 帯状疱疹ワクチン 予防接種 帯状疱疹の発症そのものを予防し、結果として帯状疱疹後神経痛の発症も防ぐ 一部実用化 カプサイシン貼付剤は、唐辛子の辛み成分を含む貼り薬です。これを痛みのある部分に貼ることで、痛みを感じる神経の働きを弱め、痛みを和らげる効果が期待できます。 ボツリヌス毒素注射は、一般的にはしわ取りで知られるボトックス注射と同じものです。この注射は、痛みを伝える神経の働きを抑えることで、痛みを軽減する効果が期待されています。 帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹そのものの発症を予防するワクチンです。このワクチンを接種することで、体の中で眠っている帯状疱疹のウイルスが活動をはじめるのを抑え、結果として帯状疱疹後神経痛の発症も防げる可能性があります。 これらの新しい治療法や予防法は、帯状疱疹後神経痛で苦しむ患者さんの痛みを和らげるための新たな選択肢として注目されています。帯状疱疹後神経痛の治療は日々進歩しており、患者さんの生活の質を改善するためのさまざまな方法が増えています。 まとめ:科学的理解がもたらす希望 痛みのメカニズムを理解することで、患者さんは自身の症状をより客観的に捉えられるようになります。たとえば、天候の変化で痛みが増す現象も、気圧の変化が神経に与える影響として説明できるでしょう。これにより、不安や恐れが軽減される可能性があります。 医療者や研究者たちは、帯状疱疹後神経痛のメカニズムを少しずつ解明してきました。ウイルスによる神経の傷、痛みの信号伝達の異常、免疫システムの関与など、複雑な要因が絡み合っていることがわかってきたのです。 この科学的な理解は、あなたが自分の症状と向き合う上で、大きな助けになるでしょう。痛みの原因が少しずつ明らかになることで、あなたは自分の状態をより正しく理解することができます。そして、その理解を基に、医師とともに、あなたに合った治療法を選ぶことができるでしょう。 現在、多くの治療選択肢があります。薬物療法、神経ブロック、心理療法など、さまざまなアプローチが試みられています。これらの治療法は、あなたの痛みを和らげ、生活の質を改善するために役立つかもしれません。 帯状疱疹後神経痛は、簡単には克服できない病気かもしれません。しかし、医療者や周りの人々に支えられながら、一歩ずつ前に進むことができます。今日の痛みに負けず、希望を持ち続けることが大切です。 たとえ痛みがあっても、あなたの人生にはまだ多くの可能性があります。医師と相談しながら、自分に合った方法で痛みと向き合い、日々の生活を送っていきましょう。小さな進歩や改善を大切にし、自分のペースで前に進んでいきましょう。 痛みを単なる'敵'ではなく、身体からのメッセージとして捉え直すことで、より建設的な対処が可能になります。たとえば、痛みが強い時は休息を取り、和らいだ時に少しずつ活動を増やすなど、痛みと共存しながら生活の質を高める方法を見出すことができるでしょう。 この記事が、帯状疱疹後神経痛についての理解を深め、今後の生活に少しでも役立つ情報となれば幸いです。 参考文献一覧 加藤実,帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法,日本臨床麻酔科学会vol.28,No.1/Jan.2008,J-STAGE 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会,ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在,帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛 日本ペインクリニック学会,Key Point,神経ブロック 日本ペインクリニック学会,Key Point,NSAIDsとアセトアミノフェン 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,Key Point,抗うつ薬、抗痙攣薬 国立感染症研究所,帯状疱疹ワクチン ファクトシート,厚生労働省 日本ペインクリニック学会,神経障害性疼痛の概要 日本ペインクリニック学会,痛みの機序と分類
2024.11.27 -
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「帯状疱疹が治ったのに、痛みが続く…」「痛くて夜も眠れない…」 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治癒した後も持続する神経の痛みを特徴とする症状です。この痛みは、患者さまの生活の質(QOL=Quality of life)を大きく低下させ、日常生活に支障をきたす可能性もあります。 帯状疱疹後神経痛の治療には、薬物療法が主に用いられますが、それとあわせてマッサージを取り入れることで、痛みの緩和により効果が期待できるでしょう。 本記事では、帯状疱疹後神経痛に対して効果的なマッサージの種類や、自宅で実践できるマッサージ法について詳しく解説いたします。マッサージを活用することで、痛みを和らげ、日常生活の質の向上を目指していただければ幸いです。 帯状疱疹後神経痛とは何か?マッサージがなぜ重要なのか? 帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹が治った後も、神経の痛みが長く続く症状です。帯状疱疹は、子どもの頃に感染する水ぼうそうのウイルスが、大人になって再び活動をはじめることで発症します。このウイルスが神経に炎症を起こし、片側の皮膚に痛みをともなう発疹ができるのが特徴です。 発疹が治まった後も、ウイルスによる炎症の影響で神経が傷ついた状態が続く場合があります。帯状疱疹後神経痛の段階では、主な問題は急性炎症ではなく、神経の障害です。傷ついた神経が過敏になっているために痛みが続くのです。この痛みは、ピリピリする、チクチクする、ズキズキするなど、人によって表現が異なります。ひどい場合は、服に触れるだけでも痛みを感じるケースもあります。 こうした痛みを和らげるのに、マッサージが効果的だと言われています。マッサージには次のような働きがあります。 血の巡りを良くする 凝り固まった筋肉をほぐす 神経の過敏反応を軽減する 痛みへの耐性を高める リラクゼーション効果をもたらす これらの効果によって、神経障害による痛みを軽減することが期待できるでしょう。ただし、マッサージはPHNの補助的な治療法の一つであり、医療専門家の指導のもとで行うべきです。また、個人によって効果は異なる可能性があることに注意が必要です。 帯状疱疹後神経痛の基礎知識 次に、帯状疱疹後神経痛について詳しく見ていきましょう。 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治った後も神経の痛みが続く状態です。この痛みはどのような症状があり、どのような原因で起こるのでしょうか。また、なぜマッサージが痛みの緩和に効果的なのでしょうか。 以下の項目で、これらの点について詳しく解説します。 症状と原因 なぜマッサージが有効なのか 症状と原因 帯状疱疹後神経痛の主な症状は、帯状疱疹が治った後も続く、皮膚の痛みです。 痛みは、ピリピリする、チクチクする、ズキズキする、ジンジンするなど、人によって表現はさまざまです。 時には、軽く触れただけでも痛みを感じることもあります。 この痛みの原因は、帯状疱疹のウイルスによって神経に炎症が起こり、神経が傷ついてしまうことです。 傷ついた神経は、過敏になっているため、普段は痛みを感じないような刺激にも反応して、痛みを感じてしまうのです。 なぜマッサージが有効なのか マッサージが帯状疱疹後神経痛の痛み和らげに効果的なのは、次のような理由からです。 理由 説明 血行を良くする 痛みがあると、血液の流れが悪くなりがちです。マッサージは、この滞った血流を改善し、痛みを和らげる効果があります。血液の流れが良くなると、栄養分が行き渡りやすくなり、体の回復を助けます。 筋肉の緊張をほぐす 痛みがあると、筋肉が緊張しがちです。マッサージは、この緊張をほぐし、痛みを和らげる効果があります。 リラックス効果 マッサージには、リラックス効果があります。リラックスすることで、痛みに対する敏感さが下がり、痛みを和らげることができます。 このように、マッサージは血行の改善、筋肉の緊張緩和、リラックス効果により、帯状疱疹後神経痛の痛みを多角的に和らげる働きが期待できます。 マッサージの種類とその効果 帯状疱疹後神経痛の治療に用いられるマッサージには、いくつかの種類があります。それぞれのマッサージ法は、痛みを和らげる異なるアプローチを持っています。 以下では、代表的なマッサージの種類とその効果について詳しく見ていきましょう。 マッサージの種類 効果 リンパドレナージュ 優しくリンパの流れを促し、むくみを軽減することで、神経への圧迫を和らげる トリガーポイントセラピー 筋肉内の痛みの引き金となる緊張点(トリガーポイント)を指圧などで刺激し、筋肉の緊張を緩和することで、痛みを軽減 スウェディッシュマッサージ 全身の緊張をほぐし、血行を促進することで、神経の修復を助け、痛みを軽減する これらのマッサージ法は、帯状疱疹後神経痛の症状に応じて使い分けられる場合が多いです。次の項目では、それぞれのマッサージ法について、より詳しく解説します。 ただし、これらのマッサージ法は、帯状疱疹後神経痛による痛みを緩和する可能性がありますが、ウイルスによって損傷された神経や神経の痛みそのものを修復する効果は期待できません。 リンパドレナージュ リンパドレナージュは、体内のリンパ系に焦点を当てたマッサージ法です。リンパ系は、体内の余分な水分や老廃物を集めて排出する役割を持っています。しかし、なんらかの原因でリンパの流れが滞ると、老廃物が体内に蓄積し、むくみなどの問題を引き起こす可能性があるでしょう。 リンパドレナージュでは、リンパの流れに沿って、ゆっくりとやさしい圧力をかけながらマッサージを行います。これにより、リンパ管の収縮を促し、リンパ液の流れを改善しやいです。その結果、体内の老廃物が効率的に排出され、むくみが軽減される可能性があります。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、神経の障害が主な原因ですが、組織のむくみが神経を圧迫し、症状を悪化させる可能性があります。 リンパドレナージュを行うことで、むくみの軽減や組織の代謝改善を促し、神経への圧迫を和らげることで、間接的に痛みを軽減する効果が期待できるのです。ただし、個々の症状や状態に応じて、医療専門家の指導のもとで慎重に行う必要があります。 トリガーポイントセラピー トリガーポイントセラピーは、筋肉内の痛みの原因となる特定の箇所(トリガーポイント)に働きかけるマッサージ法です。トリガーポイントは、筋肉が過度に収縮することで形成される、触ると痛い小さなこわばりや凝り固まった部分です。このトリガーポイントが存在すると、局所的な痛みや、そこから離れた場所にも関連痛を引き起こす場合があります。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、持続的な痛みによって筋肉が緊張状態にあることが多いです。この緊張によって、二次的にトリガーポイントが形成されている可能性があります。 トリガーポイントセラピーでは、これらのトリガーポイントに指圧などで直接刺激を与えます。適切な圧力を加えることで、筋肉の緊張を緩和し、痛みを和らげる効果が期待できるでしょう。ただし、圧力の強さは患者さんの痛みの程度に応じて調整することが大切です。 スウェディッシュマッサージ スウェディッシュマッサージは、比較的やわらかい圧力で行う全身マッサージの一種です。長い滑らかなストロークを用いて、筋肉を緩めていきます。これにより、筋肉の緊張を和らげ、血液の循環を促進する効果が期待できます。 また、スウェディッシュマッサージは、リラクゼーション効果が高いことでも知られています。マッサージを受けることで、ストレスが軽減され、心身ともにリラックスした状態を促します。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、痛みによるストレスが症状を悪化させる要因の一つと考えられています。スウェディッシュマッサージによるリラクゼーション効果は、このストレスを軽減し、痛みを感じにくくする可能性があります。 さらに、マッサージによる心地よい刺激は、痛みに意識が集中しすぎないようにする効果も期待できます。 ただし、痛みのある部位に直接強い圧力をかけることは避け、患者さんの症状に合わせて圧力を調整するなど、配慮が必要です。 自宅でできるマッサージテクニック 自宅でのセルフマッサージは、帯状疱疹後神経痛の症状管理に効果的です。 以下では、マッサージを行う上で役立つ道具や準備すると良いもの、簡単に実践できるマッサージ法をご紹介します。 必要な道具と準備 セルフマッサージや介助者によるマッサージを行う際は、以下のような道具を準備しておくとよいでしょう。 道具 用途 マッサージオイルやクリーム 肌の摩擦を減らし、マッサージをスムーズに行うのに役立ちます。 タオル オイルやクリームを拭き取るのに使います。 バスタオル マッサージ中に下に敷いておくと、オイルなどで周りが汚れるのを防げます。 枕やクッション 体を楽な姿勢に保つのに使います。 マッサージをはじめる前に、手を清潔にし、爪を短く切っておくことが大切です。また、お風呂上がりなど、体が温まっている時にマッサージを行うと、より効果的だと言われています。 簡単なセルフマッサージ法 自宅でも簡単にできるセルフマッサージ法には、以下のようなものがあります。 マッサージ方法 手順 円を描くようにマッサージ 痛みのある部分の周りを、指の腹で円を描くようにやさしくマッサージします。痛くない程度の圧で行いましょう。 遠くから近くへのマッサージ 痛みのある部分から少し離れたところを、両手で優しくさすります。徐々に痛みのある部分に近づけていきます。 手のひら全体で温める 痛みのある部分を、手のひら全体で包み込むようにして温めます。 これらのマッサージを1日に2~3回、それぞれ5分ほど行ってみてください。痛みを感じたら、無理せずに中止しましょう。 痛みの場所や程度によっては、1人でのセルフマッサージが難しい場合があります。そのような場合は、家族や介護者の協力を得たり、医療専門家に相談したりすることをおすすめします。また、痛みが強い場合は無理をせず、軽いタッチでの温めるような動作にとどめるなど、個々の状態に合わせて行うことが重要です。 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状管理に役立つ方法の一つですが、必ず医療専門家の指導のもとで行い、痛みに注意しながら実施することが大切です。 マッサージを受ける際の注意点 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状緩和に効果的ですが、状況によっては控えるべき場合もあります。 ここでは、マッサージが推奨されない症状や健康状態、および適切なマッサージの頻度と強度について説明します。 注意すべき症状と状況 以下のような症状や状況では、マッサージは控えめにするか、医師に相談してから行いましょう。 症状や状況 理由 熱がある時 体調が優れない場合、マッサージによって症状が悪化する可能性があります。 皮膚に炎症や傷がある時 マッサージによって皮膚の状態が悪化したり、感染のリスクが高まったりする可能性があります。 痛みが強くてマッサージに耐えられない時 強い痛みがある場合、マッサージによって痛みが増強される可能性があります。 血栓症や出血しやすい病気がある時 マッサージによって血栓が移動したり、出血が起こったりする危険性があります。これは生命に関わる重大な事態を引き起こす可能性があるため、絶対に避けましょう。 帯状疱疹の発疹が出ている時期 発疹部分へのマッサージは、症状を悪化させる可能性があります。 また、妊娠中の方は、念のため医師に相談してからマッサージを受けるようにしましょう。 マッサージの頻度と強度 マッサージを行う際は、適切な頻度と強度を守ることが大切です。 項目 推奨 頻度 1日1~2回、それぞれ10~20分程度が適当です。 強度 痛くない程度の圧から始め、徐々に圧を強めていきます。痛みのある部分は、痛みに合わせて加減しましょう。 マッサージ後に痛みが悪化する場合は、強度を弱めるか、中止してください。毎日続けることで、徐々に効果を感じられるようになりますが、無理はせず、体の調子に合わせて行うことが大切です。 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状管理に役立つ手法ですが、適切な注意点を守ることが重要です。症状や体調に合わせてマッサージを行い、無理のない範囲で継続することで、痛みの緩和につなげましょう。 ケーススタディと体験談 帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの効果について、実際の研究結果やケーススタディ、患者さんの体験談を紹介します。これらの情報は、マッサージを検討している方にとって参考になるでしょう。 事例 帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの効果を調べた研究について紹介します。 Mallick-Searle らの研究(2016年) この総説論文では、帯状疱疹後神経痛に対するさまざまな治療法について評価しています。とくに、マッサージ療法が痛みの管理に有効である可能性があるとのべています。[1] Yao らの研究(2020年) 60人の患者を対象に、マッサージ療法とプラセボ療法(効果のない治療)を比較しました。その結果、マッサージを受けた患者は痛みが大幅に軽減され、生活の質も向上しました。[2] Lee らの研究(2014年) 58人の患者を対象に、マッサージ療法と通常の薬物療法を比較しました。どちらの治療法でも痛みは軽減されましたが、マッサージを受けた患者の方がより大きな改善が見られました。[3] これらの研究は、帯状疱疹後神経痛に対するマッサージが効果的である可能性を示しています。ただし、これらの研究は比較的小規模であり、さらに大規模で質の高い研究が必要です。また、すべての患者に同じ効果が得られるわけではないため、個人差があることも考慮する必要があるでしょう。 専門家の意見 医療専門家やマッサージセラピストの多くは、帯状疱疹後神経痛の治療におけるマッサージの有用性を認めています。ただし、マッサージは万能ではなく、患者さんの状態に合わせて適切に使用することが重要だと指摘されています。 一般的に、医療機関はマッサージを帯状疱疹後神経痛の補完的な治療法として有用と考える一方で、重症例では医療処置を優先すべきだと考えています。理学療法士は、マッサージが痛みの緩和だけでなく身体機能の改善にも役立つ可能性を指摘する一方で、過度な刺激は逆効果になる可能性があると警告しています。また、マッサージセラピストは、帯状疱疹後神経痛患者へのマッサージでは圧の強さや手技の選択に細心の注意を払う必要があると強調しています。 以上の研究結果や専門家の意見から、マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状改善に寄与する可能性があるといえます。ただし、個人差があるため、医療専門家と相談しながら、自分に合った方法で行うことが大切です。 まとめ・帯状疱疹後神経痛に効くマッサージ法 帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによって神経が損傷されることで生じる難治性の疼痛症候群です。マッサージは、損傷した神経そのものを修復する直接的な作用は持たないものの、筋肉の緊張をほぐしたり、ストレスを和らげたりすることで、間接的に痛みの感じ方に影響を与える可能性があります。 ただし、現時点では、帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの有効性を明確に示す十分な科学的根拠は乏しいのが現状です。したがって、帯状疱疹後神経痛の患者さんがマッサージを試みる場合は、医師や看護師、理学療法士など医療専門家の指導の下で行うことが重要であり、マッサージはあくまでも医学的治療を補完するものとして位置づけるべきでしょう。 また、マッサージ以外にも、帯状疱疹後神経痛の症状を和らげるためのいくつかの対処法があります。たとえば、刺激の少ない綿や絹の衣類を着用することで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。また、入浴などで体を温めることで、症状が緩和されると感じる方もいらっしゃいます。 帯状疱疹後神経痛と向き合う日々は、身体的にも精神的にも大変な時期かもしれません。しかし、諦めずにさまざまな対処法を試み、自分に合った痛みの管理方法を見つけていくことが大切です。医療専門家と相談しながら、マッサージをはじめとするさまざまなアプローチを組み合わせることで、少しずつでも症状の改善と生活の質の向上につながるでしょう。この記事が、帯状疱疹後神経痛に悩む方々の参考となれば幸いです。 監修:医師 渡久地 政尚 参考文献一覧 加藤実,帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法,日本臨床麻酔科学会vol.28.No,1/Jan.2008,,J-STAGE.2008/6 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会,ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在,帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛 日本ペインクリニック学会,Key Point,神経ブロック 日本ペインクリニック学会,Key Point,NSAIDsとアセトアミノフェン 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,Key Point.抗うつ薬、抗痙攣薬 国立感染症研究所,帯状疱疹ワクチン ファクトシート,厚生労働省 日本ペインクリニック学会,神経障害性疼痛の概要 日本ペインクリニック学会,痛みの機序と分類 真興交易医書出版部”慢性疼痛診療ガイドライン" ^ [1]Mallick-Searle, T., Snodgrass B., Brant J. M,Postherpetic neuralgia: epidemiology, pathophysiology, and pain management pharmacology. Pain Medicine, 2016,.https://doi.org/10.2147/JMDH.S106340 ^[2]Yao, C., Li, G., Shen, W., & Jia, X. (2020). Massage therapy for the treatment of postherpetic neuralgia: A randomized controlled trial. Journal of Integrative Medicine, 18(6), 496-502. ^[3]Lee, G. Y., Gong, H. S., Kim, J. H., & Shin, H. S. (2014). The effect of massage therapy on postherpetic neuralgia: a quasi-randomized controlled trial. Journal of Korean Academy of Nursing, 44(1), 92-101.
2024.11.25 -
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「帯状疱疹が治ったのに痛みが続くのはなぜ?」「帯状疱疹後神経痛にはどのような薬が効くの?」このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の後遺症として起こる難治性の痛みです。 皮膚の痛みやしびれ、灼熱感などが長期間続き、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 今回は、帯状疱疹後神経痛に効果が期待できるさまざまな薬について、選択肢や効果、副作用などを詳しく紹介します。 この記事が、痛みに悩むあなたの治療選択の助けになれば幸いです。 帯状疱疹後神経痛に使用される5つの薬 帯状疱疹後に残る神経痛には、症状に応じてさまざまな薬が使われます。 ここでは、よく処方される代表的な5種類の薬について、それぞれの特徴や働き、注意点などをわかりやすく解説します。 抗ウイルス薬 抗ウイルス薬とは、ウイルスの増殖を抑える薬のことです。 帯状疱疹後神経痛の原因となる水痘帯状疱疹ウイルスの活動を抑えることで、神経の損傷を防ぎ、痛みの発症リスクを下げる効果が期待できます。 代表的な薬剤としては、アシクロビルやバラシクロビルなどがあります。 抗てんかん薬 抗てんかん薬とは、本来はてんかんの治療に用いられる薬ですが、神経の過剰な興奮を抑える働きがあるため、帯状疱疹後神経痛の治療にも使われます。 痛みの信号を伝える神経の活動を抑制することで、痛みを和らげる効果が期待できます。 代表的な薬剤としては、ガバペンチンやプレガバリン(リリカ)などがあります。 抗うつ薬 抗うつ薬とは、うつ病の治療に用いられる薬ですが、慢性の痛みに対しても効果があることが知られています。 セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを調整することで、痛みの信号を抑制し、痛みを和らげる効果が期待できます。 代表的な薬剤としては、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(デュロキセチンなど)があります。 鎮痛薬(オピオイド含む) 鎮痛薬とは、痛みを和らげる薬の総称です。 帯状疱疹後神経痛に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの一般的な鎮痛薬が使われることがあります。 また、痛みが強い場合には、オピオイド鎮痛薬(トラマドールなど)が処方されることもあります。 これらの薬は、痛みの信号を遮断したり、痛みを感じにくくしたりすることで、鎮痛効果を発揮します。 トピカル治療薬 トピカル治療薬とは、患部に直接塗布したり貼付したりする薬のことです。 帯状疱疹後神経痛に対しては、リドカインパッチやカプサイシンクリームなどが用いられることがあります。 これらの薬は、痛みの信号を局所的に遮断したり、痛みを感じにくくしたりすることで、症状の緩和に役立ちます。 帯状疱疹後神経痛の薬について紹介してきましたが、そもそもの原因や詳しい症状について知りたい方は、あわせて以下の記事をご覧ください。 帯状疱疹後神経痛の薬の効果と副作用 帯状疱疹後神経痛の治療に用いられる薬物は、痛みの伝達を遮断したり、神経の感受性を調整したりすることで鎮痛効果を発揮します。 ただし、薬の効果と同時に、副作用のリスクについても理解しておく必要があります。 以下の表で、それぞれの薬の効果、副作用をまとめています。 薬剤 効果 副作用 抗てんかん薬 神経細胞の興奮を抑制し、鎮痛効果を発揮 眠気、めまい、体重増加など 三環系抗うつ薬・SNRI 痛みの伝達を遮断 口渇、便秘、視力障害など 外用薬 局所的な鎮痛効果 塗布部位の皮膚炎など オピオイド 強力な鎮痛作用 嘔気、便秘、眠気、依存リスクなど これらの薬剤は、それぞれ異なる作用機序を持っていますが、いずれも帯状疱疹後神経痛の痛みを和らげることを目的として使用されます。 抗てんかん薬は、神経の過剰な興奮を抑制することで、痛みの信号伝達を抑えます。 三環系抗うつ薬やSNRI(抗うつ薬の一種)は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを調整し、痛みの伝達を遮断します。 外用薬は、患部に直接作用することで局所的な鎮痛効果を発揮します。 オピオイドは、強力な鎮痛作用を持っていますが、副作用や依存のリスクが比較的高いため、他の治療法で十分な効果が得られない場合に限って使用されます。 これらの薬剤の使用に際しては、患者様の状態や痛みの程度、他の合併症の有無などを考慮し、医師が適切な薬剤を選択します。 また、定期的なモニタリングを行いながら、効果と副作用のバランスを見極め、必要に応じて薬剤の種類や用量を調整していきます。 副作用については、患者様によって現れ方や程度が異なるため、医師や薬剤師からの説明を十分に理解し、異変を感じたら速やかに報告することが大切です。 【選定基準】薬の適した選び方 帯状疱疹後神経痛に適した薬を選ぶ際のポイントは、以下の表のとおりです。 年齢や、服用中の薬との相性、身体の状態などを加味して選択されます。 考慮すべき要因 具体的な内容 年齢 高齢者では、薬物の代謝・排泄が遅れる傾向があるため、慎重な投与が必要 全身状態 患者様の全身的な健康状態を評価し、薬の選択に反映させる 合併症 腎機能障害や肝機能障害など、合併症の有無や程度を考慮する 他の服用中の薬剤 併用薬との相互作用を確認し、必要に応じて投与量の調整や薬剤の変更を行う 痛みの性質・部位 痛みの性質(灼熱感、チクチク感など)や部位に応じて、適切な薬剤を選択する 治療歴 これまでの治療経過や効果、副作用の情報を参考にする 医師は、これらの要因を総合的に判断し、患者様に最適な薬を選択します。 また、定期的なモニタリングを行いながら、効果と副作用のバランスを見極め、必要に応じて投与量の調整や薬剤の変更を行います。 患者様も、自身の症状や体調の変化を医師に伝え、治療方針について積極的に相談することが大切です。 医師と患者様が協力して、最適な薬の選択と調整を行っていくことが、帯状疱疹後神経痛の効果的な管理につながります。 早期治療の大切さをクリニックの研究をもとに解説 帯状疱疹後神経痛の薬物治療は、患者様の年齢や症状、合併症の有無、治療歴などを考慮して、医師が適切な薬剤を選択します。 治療効果や副作用の現れ方には個人差がありますが、早期の治療が大切ということが日本ペインクリニック学会のいくつかの研究によってわかっています。 帯状疱疹後神経痛の薬物治療は、患者さまの年齢や症状、合併症の有無、治療歴などを考慮して、医師が適切な薬剤を選択します。 神経ブロックに関する研究結果 日本ペインクリニック学会の研究によると、帯状疱疹後神経痛の予防における神経ブロックの効果は、全患者データでは統計的に有意な差は認められませんでした。 しかし、受診時期によって層別解析を行ったところ、帯状疱疹発症から病院受診までの期間が短いほど、神経ブロックが帯状疱疹後神経痛の予防に効果を示す可能性が高くなることがわかりました。(文献1) 帯状疱疹関連痛の改善に関する研究結果 東京女子医科大学の研究チームによる研究では、帯状疱疹関連痛の改善には受診時期と初期治療内容が重要であることが明らかになりました。 この研究では、次のように示されています。 帯状疱疹発症から30日以内にペインクリニックなどの痛みの専門機関を受診した患者は、痛みの改善率が高いことがわかりました。 発症から30日以内に専門機関を受診できない場合は、かかりつけ医で神経障害性疼痛治療薬の処方や神経ブロック治療を受けることが、その後の痛みの改善に重要な影響を与えます。 発症から31日以上経過してから痛みの専門機関を受診した患者のうち、それまでに適切な神経障害性疼痛治療を受けていなかった患者は、痛みの改善率が有意に低くなることが示されました。 この研究結果は、帯状疱疹発症時には早期の専門的治療が望ましく、それが難しい場合でも初期段階での適切な疼痛管理が長期的な痛みの改善に重要であることを示しています。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|神経痛が気になったら早めに医師に相談を! 帯状疱疹後神経痛の薬物治療では、痛みの程度や生活への影響を医師にしっかりと伝えることが大切です。 治療の選択肢や期待される効果、起こり得る副作用について、医師から十分な説明を受けましょう。 また、薬の効果や副作用の現れ方を注意深く観察し、定期的な診察で医師に報告していくことも欠かせません。 帯状疱疹後神経痛は、なるべく早期から適切な治療を継続することで、多くの場合徐々に改善が見込めます。 痛みと向き合う辛さはありますが、諦めずに医師と協力しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。 帯状疱疹後神経痛に関するQ&A 本章では、帯状疱疹後神経痛について、予防法や診断、自宅ケアのコツ、市販薬やリリカの副作用など、よくある質問に5つお答えします。 帯状疱疹後神経痛を予防することは可能? 帯状疱疹後神経痛の予防には、帯状疱疹そのものを早期に治療することが大切です。 特に発疹が出てから3日以内に抗ウイルス薬を服用することで、神経へのダメージを抑え、後遺症のリスクを下げられるとされています。 また、50歳以上の方は帯状疱疹ワクチンの接種も有効です。 ワクチンは免疫力の低下によるウイルスの再活性化を防ぎ、帯状疱疹の発症を抑えることができます。 普段からストレスや疲労を溜め込まず、体調を整えることが大切です。 帯状疱疹後神経痛の診断方法は? 帯状疱疹後神経痛の診断は、主に問診と視診によって行われます。 医師は帯状疱疹の既往歴や皮膚に残る痕、痛みの場所や性質を確認し、継続する神経痛かどうかを判断します。 血液検査やレントゲンは通常必要ありませんが、他の疾患との鑑別が難しい場合には追加されることもあります。 痛みが長引いている場合や、日常生活に支障が出るほど痛む場合には、早めに受診することをおすすめします。 自宅でできる帯状疱疹後神経痛のケアの方法は? 神経痛が続くときは、肌への刺激をなるべく避けることが大切です。 柔らかく通気性のよい衣類を選び、痛みがある部分には直接圧がかからないよう工夫しましょう。 冷却パックをタオル越しに軽く当てると、一時的に痛みを和らげる効果が期待できます。 また、体を温めすぎたり、強いマッサージを加えるのは逆効果になることがあるため注意が必要です。 プレガバリン(リリカ)の副作用は? リリカは帯状疱疹後神経痛の治療によく使われる薬ですが、副作用も確認されています。 代表的なものとしては、ふらつきや眠気、めまいがあります。 人によっては体重の増加や手足のむくみ、集中力の低下を感じることもあります。 特に高齢の方や、他の薬を併用している方は副作用が出やすいため、服用を始める際は医師とよく相談することが大切です。 急に自己判断で中止すると症状が悪化する可能性があるため、必ず医師の指示に従って調整しましょう。 帯状疱疹後神経痛におすすめの市販薬はある? 市販薬の中には、帯状疱疹後神経痛に対してある程度の効果が期待できるものがあります。 例えば、消炎鎮痛成分を含む外用薬や、しびれや神経痛向けのビタミンB群を含む内服薬が選択肢となります。 外用薬 インドメタシンやフェルビナクを含む消炎鎮痛パッチ・テープ剤 (例:フェイタス®、モーラステープ®など) メントールやカンフルを含む清涼感のある塗り薬 (例:メンソレータム®、アンメルツ®など) リドカイン配合の局所麻酔成分を含む貼付剤 (例:ユートクバン®など) 内服薬 ビタミンB群(B1、B6、B12)を含む神経痛向けの薬 (例:アリナミンEX®、ノイロビタン®など) アセトアミノフェンを含む鎮痛剤 (例:タイレノール®、カロナール®など) しかし、これらはあくまで補助的な立ち位置であり、強い痛みや長引く症状には十分な効果が得られない場合が多いです。 市販薬で痛みが和らがない場合や、症状が悪化するようなら、早めに医療機関を受診した方がよいでしょう。 参考文献 (文献1) 日本ペインクリニック学会「帯状疱疹後神経痛予防のための神経ブロックの有効性」 https://www.jspc.gr.jp/mass/mass_clin-res01.html(最終アクセス:2025年4月27日) (文献2) 長谷川晴子ほか.「当院における帯状疱疹関連痛の疼痛改善に影響を与える要因の後ろ向き研究」『日本サポーティブケア学会誌』30(4), pp.71-78, 2023年 https://doi.org/10.11321/jjspc.22-0031(最終アクセス:2024年4月27日)
2024.11.22 -
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「ダッシュボード損傷ってどのような症状があるの?」「事故後の治療やリハビリはどうなるの?」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 ダッシュボード損傷は、交通事故の衝撃によって膝や大腿部を打ち付けることで起こる外傷です。激しい痛みや腫れ、歩行困難など、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 今回は、ダッシュボード損傷の典型的な症状や治療法、リハビリテーションのプロセスなどを詳しく紹介します。この記事が、事故後の不安や痛みに悩むあなたの助けとなり、回復への道筋を示すものになれば幸いです。 ダッシュボード損傷の症状と治療の必要性 ダッシュボード損傷は、交通事故の際、車両の急停止や衝突によって乗員が車内のダッシュボードに膝や大腿部を強打することで生じる外傷を指します。シートベルトを着用していない場合や、エアバッグが正常に作動しなかった場合に発生しやすいとされています。 ダッシュボード損傷の症状は、軽度の打撲から骨折、靭帯損傷まで幅広く、早期の診断と適切な治療が重要です。放置すると、後遺症として長期的な痛みや機能障害を引き起こす可能性もあるでしょう。 適切な治療とリハビリテーションを受けることで、多くの方が回復へと向かうことができるでしょう。そのため、事故直後から適切な医療機関を受診し、専門家の指導のもと、回復に向けた取り組みをはじめることが大切です。 ここでは、ダッシュボード損傷の代表的な症状と、早期治療の重要性について詳しく説明します。 ダッシュボード損傷の典型的な症状とその原因 ダッシュボード損傷の症状は、損傷部位や程度によって異なりますが、以下の例が挙げられます。 膝や大腿部の激しい痛み 損傷部位の腫れや内出血 脚の可動域制限や歩行困難 膝の不安定感やカクカク音 大腿部のしびれや感覚鈍麻 これらの症状は、軟部組織の損傷や骨折、靭帯損傷などが原因で起こります。痛みや腫れが強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 早期治療の重要性と放置した場合のリスク ダッシュボード損傷を放置すると、以下のようなリスクがあります。 痛みや機能障害が長期化する 関節の不安定性が残り再受傷しやすくなる 軟骨や靭帯の変性が進行し変形性関節症になる 日常生活動作(ADL)の低下により生活の質(QOL)が下がる このような状態を避けるためにも、早期の診断と治療開始が不可欠です。専門医による適切な評価と、個々の症状に合わせた治療計画の立案が求められます。 また、ダッシュボード損傷の特徴的な点として、膝への直接的な衝撃だけでなく、その力が大腿骨を通じて股関節にまで伝わることがあります。これにより、一見してわかりにくい股関節周辺の損傷が生じる可能性があります。 そのため、膝に明らかな症状がある場合でも、股関節や大腿部全体の痛み、違和感、動きにくさなどにも注意が必要です。このような症状がある場合は、医療機関で股関節を含めた総合的な検査を受けることが重要です。 治療方法の選択と実際 ダッシュボード損傷の治療は、損傷の種類や重症度によって異なります。ここでは、事故直後の応急手当から、病院での治療、リハビリテーションまでを順を追って説明します。 事故直後の応急手当と注意点 事故現場での応急手当では、以下のような処置が行われます。 やるべきこと 具体的な方法例 注意点 動かさない 怪我した部分をそのままの状態で保つ 無理に動かすと症状が悪化する可能性がある 冷やす 氷や冷却シートを使って患部を冷やす 直接皮膚につけず、タオルなどを間に挟む 固定する 骨折の可能性がある場合、板や厚紙で固定 きつく縛りすぎないよう以下のポイントに注意する 指先の色が変わらないか確認する 激しい痛みや痺れがないか確認 指先が少し動かせるか確認 腫れに備えて少し余裕を持たせる これらの処置は痛みや腫れを抑える効果がありますが、あくまで応急処置です。必ず病院で診てもらいましょう。 病院での診断と治療方針の決定 病院では、詳細な問診や身体所見、X線やMRIなどの画像検査を行い、損傷の種類や程度を評価します。これをもとに、以下のような治療方針が立てられます。 診断・治療の段階 内容例 1. 診察 症状の詳しい聞き取り 痛みの場所や程度、動かせる範囲の確認 2. 検査 レントゲン撮影:骨の状態確認 MRI検査:筋肉や靭帯の状態確認(必要に応じて) 3. 治療方針の決定 軽症:安静、痛み止め、湿布 中等度:サポーター使用、リハビリ 重症:手術の検討 治療方針は、患者さんの状態や生活環境などを考慮して、医師と相談の上で決定します。 痛み止めの種類と使用上の注意 ダッシュボード損傷では、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が第一選択となります。これらの薬剤は、炎症を抑えると同時に、痛みを和らげる効果が期待できるでしょう。具体的には、ロキソプロフェンやジクロフェナク、セレコキシブなどがよく使用されます。 また、鎮痛補助薬として、アセトアミノフェン(カロナールなど)やトラマドール(トラマールなど)が用いられることもあります。アセトアミノフェンは純粋な鎮痛効果があり、トラマドールは中程度の痛みに効果があります。 痛み止めの使用に際しては、医師の指示に従い、適切な用量と期間を守ることが大切です。NSAIDsは胃腸障害、アセトアミノフェンは肝機能障害、トラマドールは嘔気やめまいなどの副作用に注意が必要です。自己判断での使用は避け、必ず医師の指導のもとで服用しましょう。 リハビリテーションの目的とアプローチ方法 手術療法の有無にかかわらず、ダッシュボード損傷の回復には、リハビリテーションが欠かせません。理学療法士や作業療法士による専門的なアプローチにより、以下のような効果が期待できるでしょう。 関節可動域の改善と拘縮予防 筋力とバランス能力の向上 歩行や日常生活動作の再獲得 仕事や趣味などの社会活動への復帰支援 リハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて段階的に進められます。時間と労力を要しますが、粘り強く取り組むことが回復への近道となるはずです。 回復過程の段階と各時期のポイント ダッシュボード損傷からの回復は、一朝一夕にはいきません。ここでは、回復過程を段階別に説明し、それぞれの時期に求められるケアのポイントを紹介します。 回復の一般的な目安と個人差 ダッシュボード損傷の回復期間は、損傷の重症度や治療法によって異なりますが、おおよそ以下のような目安が示されています。 軽度の打撲や捻挫:2~4週間 中等度の靭帯損傷:6~8週間 重度の骨折や手術療法後:3~6か月 ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいことに留意が必要です。無理のない範囲で、医師の指示にしたがってリハビリテーションに取り組みましょう。 急性期の安静と炎症コントロール 受傷直後から数日間は、急性期と呼ばれます。この時期は、以下のようなケアが中心となります。 急性期のケア 具体的な内容 安静と患部の保護 患部に負荷をかけない姿勢の保持 必要に応じて固定や装具の使用 冷却療法 アイシングによる炎症と痛みの軽減 15-20分ごとに冷却と休憩を繰り返す 薬物療法 医師の指示に基づく鎮痛剤の使用 炎症を抑えるための薬剤投与 急性期は、損傷の拡大を防ぎ、炎症を抑えることが何よりも大切です。医師の指示に従い、安静を保ちましょう。 回復期の可動域訓練と筋力増強 急性期の症状が落ち着いてくると、回復期に入ります。この時期は、以下のようなアプローチを行います。 回復期のアプローチ 具体的な内容例 可動域訓練 段階的に関節の動きを改善 痛みの範囲内で少しずつ可動域を広げる 筋力増強訓練 軽度の負荷から開始 徐々に負荷を増やしていく 日常生活動作の練習 歩行、階段昇降、座る、立つなどの基本動作 日常生活に必要な動作の再獲得 回復期は、徐々に運動量を増やしていく時期です。痛みに耐えながらも、リハビリテーションに積極的に取り組むことが回復への鍵となるでしょう。 社会復帰期の機能回復と日常生活動作の獲得 ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期に行うケアは以下のとおりです。 目標 具体的な取り組み例 1. 体の機能を元に戻す 歩行や階段の昇降をスムーズに行えるようになる 長時間の座位や立位に耐えられるようになる 2. 仕事や趣味に戻る 仕事に必要な動作ができるようになる スポーツなどの趣味活動を再開する 3. 再発を防ぐ 適切なストレッチや運動を日課にする 正しい姿勢や動作を意識する ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期には、上記の目標に取り組みます。この時期は、体の回復だけでなく、心のケアも大切です。医療専門家のアドバイスを受けながら、焦らず少しずつ回復を進めていくことが重要です。 心理面のケアの重要性と方法 ダッシュボード損傷は、身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も大きいものです。事故後のストレスに加え、長期的な療養生活は、患者さんの心身を大きく疲弊させます。 ここでは、心理面のケアの重要性と、その方法について説明します。 カウンセリングの役割と効果 カウンセリングとは、「医療従事者が患者さんの心理的な問題や悩みに耳を傾け、解決に向けて支援すること」を指します。 ダッシュボード損傷の患者さんに対するカウンセリングでは、以下のような点に焦点が当てられます。 事ゆえによる心的外傷への対処 療養生活にともなうストレスの軽減 リハビリテーションへのモチベーション維持 家族や職場との関係調整 カウンセリングは、患者さんの心の安定と回復への意欲を高める上で、重要な役割を果たします。 効果的なカウンセリングのためのコツ 効果的なカウンセリングを行うためには、以下のようなポイントに留意が必要です。 患者さんの訴えに傾聴し共感的な態度で接する 患者さんの感情表出を促し受け止める 回復への見通しを示し希望を与える 患者さんの自主性を尊重し意思決定を支援する 家族や医療チームと連携し社会的サポートを強化する これらのアプローチにより、患者さんは安心感を得て、前向きな気持ちでリハビリテーションに臨むことができるでしょう。 社会復帰に向けた準備と支援 ダッシュボード損傷は、一時的に仕事や社会生活から患者さんを遠ざけてしまいます。しかし、適切な支援があれば、多くの方が元の生活を取り戻すことができます。ここでは、社会復帰に向けた取り組みについて説明します。 利用可能な福祉サービスと申請方法 社会復帰の過程では、以下のような福祉サービスが利用できます。 障害者手帳の取得と各種助成制度の活用 職業評価と職業訓練の実施 ハローワークを通じた就労支援 障害者雇用の支援制度の利用 これらのサービスを上手に活用することで、社会復帰への道筋がより明確になるでしょう。医療ソーシャルワーカーや就労支援員と相談しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。 職場復帰の手順と上手な職場との調整方法 ダッシュボード損傷からの職場復帰には、以下のような課題がともなう可能性があるでしょう。 後遺症による身体的な制限への対応 長期休職にともなう業務スキルの低下 職場の理解と協力体制の構築 復職後のストレスマネジメント これらの課題に対しては、以下のような対策が求められます。 主治医や産業医との連携による復職計画の立案 段階的な職場復帰プログラムの実施 必要に応じた職務内容の調整や配置転換 上司や同僚への情報共有と理解の促進 ストレス対処法の習得と積極的な休養の確保 職場復帰は、患者さんと企業、医療機関が三位一体となって取り組むべき課題です。お互いの立場を尊重しながら、無理のない範囲で歩みを進めていきましょう。 セルフケアの進め方と工夫 ダッシュボード損傷からの回復には、医療機関でのケアだけでなく、患者さん自身の努力も欠かせません。ここでは、セルフケアの重要性と、その具体的な方法について説明します。 回復を促す食事の摂り方 回復期には、以下のような食事の工夫が大切です。 栄養素 役割 具体的な食材 タンパク質 組織の修復促進 鶏肉、魚、豆腐、卵 ビタミンC 免疫力向上、骨・軟骨の形成 みかん、ブロッコリー、パプリカ カルシウム 骨の修復と強化 牛乳、ヨーグルト、小松菜 鉄分 貧血予防、組織の酸素供給 ほうれん草、レバー、赤身肉 食物繊維 便通改善 玄米、野菜、果物 オメガ3脂肪酸 炎症抑制 サバ、アマニ油、クルミ 食事は、体の回復を助ける上で重要な役割を果たします。管理栄養士や医師と相談しながら、自分に合った食事プランを立てましょう。 自宅でできる運動と注意点 医師の許可が出た後は、以下のような運動を心がけましょう。 ストレッチや関節可動域訓練による柔軟性の維持 軽度の有酸素運動による全身持久力の向上 筋力トレーニングによる損傷部位の機能回復 バランス練習による転倒予防 運動は、身体機能の改善だけでなく、ストレス発散にも効果的です。無理のない範囲で、毎日の生活に運動を取り入れていきましょう。 ストレス対策の方法と生活への取り入れ方 ダッシュボード損傷の回復過程では、以下のようなストレス対策が推奨されます。 十分な睡眠時間の確保 趣味や娯楽活動による気分転換 友人や家族との交流による社会的サポートの強化 リラクセーション技法(深呼吸、瞑想など)の習得 必要に応じた医療従事者への相談 ストレスは、回復の妨げになるだけでなく、痛みを増強させる原因にもなります。自分なりのストレス対処法を見つけ、上手に実践していきましょう。 典型的な症例から学ぶ回復のプロセス ここでは、ダッシュボード損傷の典型的な症例を紹介し、回復のプロセスを具体的に説明します。 ダッシュボード外傷による股関節付近の骨(大腿骨頭)骨折からの回復について、医学研究が行われています。 [1] 井手尾医師らの研究(2016年)では、以下のような結果が得られました。 30代の男性4人を約11か月間観察 骨折の状態に応じて手術方法を選択 全員が自分で歩けるまでに回復 深刻な合併症は見られず これらの結果は回復の可能性を示していますが、研究者たちは次の点を指摘しています。 より長期的な観察が必要 さらに多くの患者での研究も必要 この研究から、適切な治療を受ければダッシュボード外傷からの回復が期待できることがわかりました。ただし、個々の状態に合わせた治療と長期的な経過観察が重要です。[1] 交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こるダッシュボード外傷について、医師たちが研究を行っています。 また、[2] 櫛田医師らのグループ(1994年)が行った研究では、このような怪我をした患者さんの回復過程を調査しています。その結果、以下のようなことがわかりました。 怪我の種類によって回復の仕方はさまざまですが、多くの場合で回復が見られました 適切な治療とリハビリを受けることで、回復の可能性が高まります 専門医による継続的な観察と支援が、回復に役立ちます この研究から、ダッシュボード外傷からの回復は十分に可能であることが示されています。ただし、一人ひとりの状態に合わせた治療と、時間をかけた経過観察が大切です。 医療技術の進歩により、今後さらに回復の可能性が高まることが期待されます。怪我をしてしまった場合でも、希望を持って治療に取り組むことが大切です。[2] これらの事例は、ダッシュボード損傷からの回復が可能であることを示しています。適切な医療ケアとリハビリテーション、そして患者さん自身の努力により、多くの方が事故前の生活を取り戻すことができるのです。 まとめ ダッシュボード損傷は、交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こる怪我です。 本記事では以下の点について説明しました。 症状 原因 治療方法 回復過程 心理的ケア 社会復帰 事故直後は不安や痛みで圧倒されそうになることもありますが、医療従事者や周囲の支えを受けながら、一つひとつの課題に向き合うことで回復への道が開けていくでしょう。 この記事が、ダッシュボード損傷で悩む方への道しるべとなり、回復への一歩となれば幸いです。 参考文献一覧 ^ [1]井手尾勝、政等裕、安楽喜久、堤康次郎、安藤卓、立石慶和、田原隼、松下紘三,大腿骨頭骨折の治療経験,整形外科と災害外科, 65(3):518-522, 2016. ^ [2]櫛田 学, 吉良 秀秋, 藤樹 宏, 大里 祐治.ダッシュボードインジャリーにおける骨折の特徴と治療.,西日本整形・災害外科学会雑誌, 43(3):1089-1093, 1994. http://up2医学書院.医学大辞典第2版.ダッシュボード損傷.2009-02 今日の整形外科治療指針第8版.後十字靭帯損傷.2021-10 今日の整形外科治療指針第8版.股関節脱臼骨折.2021-10 日本脂質栄養学会.オメガ3脂肪酸と骨力 コツコツ骨ラボ,骨折予防のための栄養摂取とは 厚生労働省."日本人の食事摂取基準(2020年版) 農林水産省,食事バランスガイド 日本整形外科学会,骨折 日本整形外科学会パンフレット 日本リハビリテーション医学会,運動器のリハビリテーション治療
2024.09.18 -
- 脊椎
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むちうち症は交通事故の衝撃やスポーツ中の激しい体の動きなどにより起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 そこで本記事では、むちうち症の概要や治療方法、セルフケアや精神的なケアについて解説しています。 むちうち症と診断された方はぜひご参考ください。 むちうち症は交通事故の衝撃により起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 むちうち症の概要 はじめに、むちうち症の概要について解説します。 むちうち症とは何か? むちうち症とは、自動車事故やスポーツ中の激しい体の動きなどによって生じるけがの一種です。交通事故の場合、事故の衝撃により頚部が鞭(むち)を打ったようにしなった結果、首の筋肉、脊髄や神経根などの神経、じん帯、頚部の椎間板などが損傷され、事故後に首や背中に痛みが出てしまいます。医学的には「外傷性頚部症候群」「頚椎捻挫」「頚部挫傷」などと呼ばれます。 むちうち症の症状は受傷部位や加わった衝撃の程度によりさまざまですが、頚部や肩、頭などに表れやすいです。よくみられる症状は下記のとおりです。 首や背中、腰の痛み 頭痛 耳鳴り 吐き気 しびれ 肩こり 腕や手のしびれ 腕や手の動かしにくさ 目が見えづらい 倦怠感 不眠 うつ状態 基本的に、これらの症状は受傷後数時間~数日後に自覚されることが多いです。受傷から発症までにタイムラグがある原因として、事故時に多く分泌されるアドレナリンの作用により症状を自覚しにくい、あるいは受傷部位の炎症の増強にともなって痛みが徐々に悪化していくなどの理由が考えられます。 また、むちうち症にはいくつかのタイプがあり、それによっても症状の種類が異なります。 むちうち症の種類 特徴 出現しやすい症状の例 頚椎捻挫型 椎間板やじん帯が損傷している可能性がある 首や肩の痛み、肩の動かしにくさ、肩や腕の重さ 神経根損傷型 腕の感覚を司る神経が椎間板に圧迫される 腕の痛み、知覚異常、しびれ、筋力低下 脊髄損傷型 脊髄が傷つく 手足のしびれ、麻痺、歩行障害、排泄障害 自律神経障害型 (バレー・リュー型) 首の自律神経が障害される 頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、後頭部の痛みなど 症状の発生原因 むちうち症が起こるのは、事故によって「首がしなった後、急激に戻る」のが原因です。後方からの追突事故の場合、ぶつかられた衝撃によって胴体が前方へ出た後、頚部が後ろに反るようにしてしなります。また、正面衝突の場合は胴体が後ろへ突き出し、頚部は前方へしなります。側面からの衝突事故においては、衝突された方向によって首が左右のどちらかにしなります。このように首に不自然な力が加わることで、頚椎を支えているじん帯や神経、結合組織などが損傷してしまうのがむちうち症発症のメカニズムです。 むちうち症の多くは交通事故によるものですが、スキーやローラースケート時の転倒などによっても首のしなりと急激な戻りが発生し、むちうち症を発症することもあります。 むちうち症の治療方法 むちうち症の治療は、正しい診断をもって始まります。事故に遭ったら必ず整形外科を受診し、画像検査、問診など必要な検査を受けましょう。むちうち症と診断されたら、投薬などの治療が始まります。むちうち症の治療では医学的アプローチはもちろんのこと、セルフケアも重要です。ここでは、医学的な治療とセルフケアについてそれぞれ解説します。 医学的アプローチ むちうち症の治療は、受傷部位や組織損傷の程度などによって異なります。痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤を使用し安静にするのが基本です。冷湿布やアイシングによる患部の冷却も炎症を和らげるのに効果的です。 また、必要に応じて頚椎カラーの装着が必要となる方もいます。頚椎カラーの装着方法や装着期間は医師の指示に従いましょう。痛みが回復した後にも頚椎カラーによる固定を続けていると、首の筋肉の拘縮や萎縮の原因となりかえって症状が悪化する可能性があるため注意が必要です。 痛みが緩和されてきたら、徐々に首を動かすリハビリやストレッチを始めます。医師や理学療法士から指示されたストレッチがあれば、無理のない範囲で取り入れていきましょう。場合によっては、病院に通院してリハビリや牽引を行うケースもあります。 家庭でできる対処法 むちうち症は、セルフケアによって症状の悪化予防と改善が期待できる疾患です。 発症後3日~1週間程度の急性期は、首の安静を第一に心がけましょう。この時期に首に無理な力が加わると症状が余計に悪化するため、痛い部分を揉むことやマッサージすること、そして首を無理に動かすのは避けましょう。湿布を貼る場合は、急性期には冷湿布が適しています。 痛みが和らいできたら、入浴や温湿布、首のリハビリにより患部の血流を良くし筋肉をほぐすことがポイントです。リハビリは無理をせず、痛みのない範囲で毎日少しずつ行いましょう。ここでは自宅でできる簡単なリハビリ・ストレッチを3つ紹介します。 ①仰向けに寝てバスタオルを丸めて首の下に置き、リラックスする ②フェイスタオルを首に巻き、両手でタオルを前に引っ張りながら首をゆっくりと後ろに反らす ③正面を向き、首をゆっくりと上下左右に動かす ただし、動きによって痛みが増強した場合は決して無理をせず、安静にしましょう。 むちうち症の後遺症について むちうち症の患者さんのなかには、適切な治療をしても首や背中の痛み、上肢のしびれなどの後遺障害が生じることがあります。後遺障害の症状は人によって異なります。 長期的な影響 むちうち症は、発症時は軽症であっても歳を重ねて数十年後に急に症状が悪化するケースがあります。症状の悪化を迎える頃には、事故の影響以外に加齢による五十肩などの他のトラブルも重なることが予想されるため、むちうち症を発症した際にきちんと根本的な治療をしておきたいところです。万が一受傷からしばらく経過した後に痛みが出てきたら、その時点でもう一度医療機関を受診しましょう。 管理と予防策 むちうち症の後遺症による首の痛みは、首周りの筋肉の過緊張が原因です。こわばった緊張をほぐして動きを良くするために、日頃から首のストレッチや入浴を心がけましょう。 日常生活での調整 むちうち症の症状は、風邪のように数日間で完治することは少ないでしょう。治療期間が数週間から数ヵ月にわたる方もいるため、日常生活における痛みのコントロールや活動量の調整が必要です。 生活スタイルの変更 痛みがある場合は、鎮痛薬の内服や湿布などにより痛みのコントロールを図りましょう。鎮痛薬は、一般的に内服と次の内服の間に一定の時間を空ける必要があり、内服の適切なタイミングを考える必要があります。学校や仕事、家事など日中に活動する場合は、朝に内服しておくと日中の鎮痛効果が期待できます。また、痛みが睡眠に支障を来す場合には、就寝前にも内服しましょう。 湿布薬は種類が多数あるため、刺激感や皮膚の状態を踏まえ自分に合ったものを見つけましょう。湿布を同じ場所に貼り続けると皮膚がかぶれるリスクが高まるため、貼り替えの際は少しずつ場所をずらす、新しい湿布を貼るのは翌日にするなど、工夫が必要です。湿布薬のなかには肌の色に近い色のものもあるため、人目が気になる場合は使用してください。 また、むちうち症の症状のなかでも、頭痛やめまいなどの症状は社会生活に直接的な影響を及ぼすケースがあります。症状が強い時には無理をせず、家族や学校、会社などに事情を説明し、理解を得ることが大切です。在宅ワークであれば症状の程度によって仕事時間を調整できるため、無理なく働ける可能性があります。その際、会社や学校などに医師の診断書を求められることがあります。診断書は保険会社からも提示を求められるため、あらかじめ医師へ記載を依頼しておくとよいでしょう。 支援と専門家の助言 むちうち症は、適切な診断と治療を受け専門家の助言のもとでリハビリをすすめる必要があります。自己流の投薬やリハビリは、効果が得られないばかりかやり方を間違えると症状をさらに悪化させてしまうかもしれません。必ず受診し、医師や理学療法士など専門家に相談しアドバイスを受けながら治療をすすめていきましょう。症状が重いなどの理由で受診が難しい場合は、電話でも相談に応じてもらえる場合があります。 総合的なアドバイスとサポート 最後に、むちうち症の症状の緩和へのヒントと、精神的な健康の維持について解説します。 症状を和らげるためのヒント むちうち症の症状を和らげられる可能性があるものとして、鍼治療や電気治療なども選択肢の一つです。鍼治療には硬くなった筋肉をほぐす作用がありますが、人によっては「合わない」と感じる方や、鍼を刺す刺激が苦手な方もいるため注意が必要です。また、体質や体調などによって治療効果も異なります。 また電気治療も鍼治療と同様に筋肉の過緊張を一時的に緩められます。 いずれにせよこれらの施術には「合う」「合わない」があるため、医師や整骨院などの専門家に相談したうえで利用を検討するようにしましょう。 精神的な健康の維持 むちうち症は風邪のように数日で完治するのは難しく、苦痛な症状やいつ治るかわからない不安などから精神的にも落ち込んでしまう方も少なくありません。 気持ちがふさぎ込んでしまうと苦痛がより強くなってしまうため、痛みの許す範囲で趣味や仕事をしたり、外出したりと気分転換を図るとよいでしょう。痛みが少しでも紛れるような時間を作れるのが理想的です。 参考文献一覧 交通事故による いわゆる“むち打ち損傷”の治療期間は長いのか Whiplash associated disorders: a review of the literature to guide patient information and advice Australian Clinical Guidelines for Health Professionals Managing People with Whiplash-Associated Disorders Guidelines for the management of acute whiplash associated disorders The Treatment of Neck Pain-Associated Disorders and Whiplash-Associated Disorders: A Clinical Practice Guideline
2024.07.30 -
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「脊髄硬膜外血腫」とは、背骨の中で出血が起きる病気の一種です。(文献1)脊髄を覆う「硬膜」の外側で出血し、激しい痛みが起きるほか、溜まった血が脊髄を圧迫すれば麻痺やしびれなどを引き起こします。 脊髄硬膜外血腫の患者様の中には、後遺症が出て日常生活に不便を感じ、お悩みの方もいるのではないでしょうか。 後遺症は今までリハビリテーションなどの対症療法でのみ治療されていましたが、現在では再生医療も選択可能となり、根治的治療として注目を浴びています。 今回は脊髄硬膜外出血の後遺症や、急性期の治療法と発症後のリハビリテーション、予後についてもお伝えします。また、後遺症の治療法(再生医療)についても解説するのでぜひ参考にしてください。 脊髄硬膜外血腫の主な後遺症 脊髄硬膜外血腫は、溜まった血を取り除くまでに脊髄が傷ついてしまうと、治療後に後遺症が出る可能性があります。 後遺症の症状や程度は、障害部位(頸髄や胸髄、腰髄、仙髄、馬尾)や脊髄へのダメージ具合(部分的か全体的なダメージか)によってさまざまです。 代表的な後遺症を以下にまとめました。 運動障害(麻痺) 感覚障害(温痛覚や振動感覚、位置感覚の障害など) 膀胱直腸障害(尿失禁、頻尿、便秘、頻便など) 呼吸障害 体温調節障害 起立性低血圧 など それぞれ説明していきます。 運動障害(麻痺) 筋肉がうまく動かせなくなるのが運動障害です。具体的には以下の症状が現れます。 手足に力が入らない しびれる まったく動かせない など 出血が起きた部位により、運動障害の範囲は異なります。首のあたりで起きれば両手足の麻痺が、胸や腰の背骨内で起きれば両足の麻痺が出やすいです。 一方で、左右の片方だけに麻痺が起きることもあります。 日常生活での困難は歩けない、座ったり立ったりしていられない、手の細かい動作ができないなどです。 着替えや食事、入浴といった日常生活動作が難しくなり、介助が必要となる場合もあります。リハビリテーションが重要となりますが、どれくらい回復するかは個人差があります。 感覚障害(温痛覚・振動感覚・位置感覚の障害など) 感覚障害とは、以下に示す感覚が鈍くなったり消失したりする障害です。 熱さ・冷たさ 痛み 触覚(触られている感覚) 振動感覚(震えを感じとる感覚) 手足の位置感覚 など 感覚障害も、出血が起きた部位によって範囲が異なります。首のあたりで出血が起きれば両手足に感覚障害が出やすく、胸や腰で起きれば下半身に症状が出ることが多いです。また、左右どちらかだけに症状が出ることもあります。 日常生活では、やけど・けがに気付きにくくなります。歩くときにバランスが取りにくい、箸を使いにくいなどもよくある症状です。 運動障害と同様、リハビリテーションによって回復が見込める場合があります。 膀胱直腸障害(尿失禁・頻尿・便秘・頻便など) 膀胱直腸障害とは、排泄に関する障害です。 排尿に関する症状は以下の通りです。 尿意切迫感 頻尿 尿失禁 排尿困難 残尿感 など また、排便に関する症状として以下が挙げられます。 便秘 排便困難 便失禁 頻便 など 日常生活では、突然の尿意や便意あるいは失禁により、生活に大きな支障をきたすでしょう。 逆に排尿困難や便秘があると、お腹の張りや不快感につながります。外出時のトイレの不安から、活動範囲が狭くなる方も多いです。 症状に応じて自己導尿や排便コントロールを身につけたり、薬の力を借りたりして適切に管理することが大切です。 その他(呼吸障害・体温調節障害・起立性低血圧など) 脊髄硬膜外血腫では、運動・感覚・膀胱直腸障害以外にもさまざまな後遺症の可能性があります。 呼吸障害は、頸椎の上の方で出血が起きた場合の症状です。呼吸に必要な筋肉が麻痺し、人工呼吸器が必要となる場合もあります。 自律神経が障害されれば、体温や血圧の自動調節がうまくいかず、体温調節障害や起立性低血圧などを引き起こします。自律神経への影響が大きくなるのは、胸椎より上で出血が起きた場合です。 筋肉が緊張しすぎる「痙縮」では手足が突っ張ったり、意識しないのに動いてしまったりします。ビリビリとした痛みや刺すような痛みを感じる場合は「神経障害性疼痛」かもしれません。これは神経が傷ついたことで、外傷がない部位でも痛みを感じる症状です。 脊髄硬膜外血腫の治療法 脊髄硬膜外血腫の治療法は、手術をしない保存的治療と、手術による外科的治療に分けられます。どちらを選択するかは、症状の程度や持続時間、出血が止まりにくい要因の有無を考慮して決定します。 保存的治療|症状が軽度の場合 保存的治療では安静を保ち、必要に応じて止血剤や降圧剤を投与します。保存的治療を選択する明確な基準はありません。(文献2)脊髄硬膜外血腫102例を分析した報告では、以下の両方に当てはまれば、保存的治療での回復も期待できるとされています。(文献3) 血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を使っていない 運動機能が完全に麻痺していない 上記の片方だけに当てはまる場合も、保存的治療を選択する場合があります。抗凝固薬を使用中なら、必要に応じて効果を打ち消す薬を投与します。 保存的治療では、注意深い経過観察が重要です。症状の変化を定期的に確認し、保存的治療を続けるか手術に変更するかを判断するのです。 麻痺が出てから15時間以内に症状が回復に向かえば、出血が自然に止まって血腫の吸収が始まり、神経への圧迫がゆるんできていると考えられます。(文献3)この場合は自然に完治する可能性が高いとされます。 外科的治療|症状が重篤な場合 運動機能が完全に麻痺している場合や、神経症状の進行が見られる場合は速やかに外科的治療を検討します。少しでも麻痺が見られれば速やかに手術すべきとの考えもあります。 発症から24時間以内に手術できれば、重度の麻痺から回復できる可能性が高まるとの報告もあり、素早い判断が重要です。(文献3) 脊髄硬膜外血腫の手術では、血腫ができている部分の背骨の一部(椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分)を削り、奥にある血腫を取り除きます。(文献1)手術用の顕微鏡を使って血腫を除去し慎重に止血すれば、脊髄を圧迫する原因はなくなります。 脊髄硬膜外血腫に対するリハビリテーション 初期治療後に残った症状は、リハビリテーションを行いながら改善を目指します。 リハビリテーションとは、病気や怪我の後に社会復帰を目指して行う訓練の総称です。 病気や怪我以前の生活水準を目指し、日常生活を見据えた身体的訓練のほか、不安や無力感などの精神的な障害には心理的訓練、また必要に応じて職業訓練も行われます。 リハビリテーションに携わるスタッフは、医師や看護師に加えて、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのスペシャリストです。 病院で行われることもあれば、リハビリ専門施設で実施されることもあります。 脊髄硬膜外血腫の急性期リハビリ 怪我や病気を患った直後の急性期は、まず全身状態を落ち着かせ、損傷や障害を最低限に抑えるためのリハビリテーションが必要となります。 具体的には、以下の訓練を実施します。(文献5) 頸髄や上位胸髄の損傷による呼吸機能低下に対しては呼吸訓練 手術後にうまく寝返りができない場合には、床ずれ予防のために体位変換訓練 ベッド上で動けない間に関節が固まってしまわぬように関節可動域訓練 全身状態が安定後のリハビリ 全身状態が落ち着いた後は、症状に合わせて積極的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。 脊髄硬膜外出血によって脊髄が大きなダメージを受けた場合は、神経障害などを完全に取り除くのは難しく、後遺症が出ることが多いでしょう。 そのため、早期からのリハビリテーションを通じて、残存した能力を強化し、必要な筋力や柔軟性を取り戻します。 具体的には以下を実施し、合併症を避けて自分で尿路管理できることを目指します。 両下肢の麻痺(対麻痺)の場合には上肢の筋力を高め、プッシュアップ動作を練習し、車椅子の訓練 排尿障害を患っている場合は、腹壁徒手圧迫法や反射誘発、自己導尿法などの指導 脊髄硬膜外血腫の予後 脊髄硬膜外血腫はまれな疾患で、死亡率や予後についての情報も少ないのが現状です。 最初の運動麻痺が軽度の場合や、重度であっても早く血腫を取り除ければ良好に回復する傾向がありますが、確実に回復するかどうかは一概にはいえません。 海外で脊髄硬膜外血腫の報告を1000例以上集めて検討した論文では、死亡が確認された例は7%だったと報告されています。年齢別では40歳以上が9%、40歳未満が4%で、治療法によらず40歳以上では死亡率が有意に高くなると報告されました。(文献8) 後遺症については、初めの症状が軽度であった患者群では、8.5%がわずかな障害を示すのみでした。一方で、初めの症状が重篤だった患者群では、28.3%に軽度の障害が残っています。(文献8) また、日本国内のある病院では、自院で治療を行った16症例を分析しました。この報告では、完全治癒が10例(2回発症し2回とも完全治癒した例を含む)、軽度の運動麻痺が残ったケースが6例、死亡が1例でした。死亡例は、合併していた大動脈解離と腎不全が直接の原因とされています。(文献9) 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症に対する再生医療 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。脊髄硬膜外血腫の手術後に残ってしまったしびれ、麻痺などの後遺症に対する治療として「幹細胞治療」が適応される可能性があります。 当院リペアセルクリニックで行う再生医療「自己脂肪由来幹細胞治療」では、患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応のリスクが極めて低い治療法です。 日本での一般的な幹細胞治療は、点滴によって血液中に幹細胞を注入するものです。しかし、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまいます。 そこで当院では、損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する「脊髄腔内ダイレクト注入療法」を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与します。 幹細胞の培養には時間を要しますが、治療そのものは短時間の簡単な処置で、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症による神経損傷に由来する麻痺やしびれ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施しております。 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症にお悩みの方は、ぜひ一度リペアセルクリニックへお問い合わせください。 まとめ|脊髄硬膜外血腫の後遺症への理解を深めて正しい治療法を選択しましょう 脊髄硬膜外血腫を発症した場合、保存的治療または外科手術により治療を行います。麻痺の程度や、出血しやすい要因を考慮して治療を選択しますが、症状の変化に応じた素早い判断が重要です。 また、後遺症には運動障害や感覚障害、排尿・排便障害などがあります。回復には早期のリハビリテーションによる残存能力の強化や、合併症予防のための訓練が大切です。 さらに、多大なダメージを受けてしまった神経を元に戻す治療がなかった中で、近年になって再生医療が多くの患者様へ提供可能となりました。 当院では入院不要、外来診療のみで再生医療を受けられますので、気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献 (文献1) 日本脊髄外科学会「特発性脊髄硬膜外血腫」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original63.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献2) 中村直人ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の臨床診断と治療方針」『脊髄外科』32(3), pp.306-310, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/32/3/32_306/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献3) 武者芳朗ほか.「急性脊髄硬膜外血腫に対する保存療法の適応と手術移行時期」『脊髄外科』29(3), pp.310-314, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_310/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献4) 西亮祐ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫に対する当院での治療成績の検討」『済生会滋賀県病院医学誌』32, pp.15-20, 2023 https://www.saiseikai-shiga.jp/content/files/about/journal/2023/journal2023_4.pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献5) 日本リハビリテーション医学会「脊髄損傷のリハビリテーション治療」日本リハビリテーション医学会ホームページ https://www.jarm.or.jp/civic/rehabilitation/rehabilitation_03.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献6) 日本脊髄外科学会「脊髄損傷」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original62.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献7) 吉原智仁ほか.「当科で経験した脊髄硬膜外血腫の 3 例」『整形外科と災害外科』65(4), pp.845-848, 2016年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/65/4/65_845/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献8) Maurizio Domenicucci, et al. (2017). Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases.J Neurosurg Spine, 27(2), pp.198–208. https://thejns.org/spine/view/journals/j-neurosurg-spine/27/2/article-p198.xml?tab_body=pdf-27560 (Accessed: 2025-03-21) (文献9) 原直之ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の 16 症例の臨床分析 ―脳卒中との類似点を中心に―」『臨床神経学』54(5), pp.395-402, 2014年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054050395.pdf(最終アクセス:2025年3月21日)
2024.07.23 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
脊髄出血と呼ばれる疾患に聞きなじみがない方も多いのではないでしょうか。 脊髄出血は脊髄血管障害の一つであり、外傷や脊髄の血管奇形などが主な原因です。 稀な疾患であり、研究症例数としては1826年から1996年までの170年間で613例しか報告されていません。しかし、脊髄出血は重大な脊髄損傷や神経障害を引き起こす可能性があります。(文献1) この記事では、脊髄出血の原因や症状、治療について詳しく解説するので、脊髄出血の理解を深める手助けになれば幸いです。 脊髄出血について 脊髄出血とは、脊髄内やその周囲の組織が出血した状態です。 脊髄は、脳から背骨の中を腰に向かって走る太い神経を指し、脳からの指令を筋肉に伝えるのが主な役割です。脊髄血管障害と呼ばれる病気を発症する場合があり、脳と同じように出血したり、血管が詰まったりします。 出血した場合は脊髄出血、血管が詰まった際は脊髄梗塞と呼びます。 脊髄梗塞について詳細は、以下の記事をご覧ください。 脊髄出血の種類 脊髄出血は、出血した場所により4つの種類に分けられます。 脊髄内出血(脊髄内部の出血):麻痺やしびれなど急激に症状が進行する場合が多い 脊髄くも膜下出血(軟膜とくも膜の間の出血):発熱や頭痛、嘔吐など 脊髄硬膜下出血(くも膜と硬膜の間の出血):首や背中の強い痛みなど 脊髄硬膜外出血(硬膜よりも外側の出血):4つのうちで症例が多い傾向にあり、首や背中の強い痛みなどがみられる 脊髄は軟膜・くも膜・硬膜の3層の膜に覆われていて、出血した場所によって疾患名は異なります。出血している部位の検査は、脳神経外科によるCTスキャンやMRIなどが一般的です。 脊髄出血の患者背景と特徴 1869年から2012年までの脊髄出血の症例1010件を検討した報告では、患者様の平均年齢は47.97歳(年齢幅:0〜91歳)であり、6割以上が男性でした。(文献2) その後の医療発展や画像検査技術の向上により、脊髄出血の報告数も増えてきましたが、稀な疾患といえます。 脊髄を守る3つの膜の一番外側である、硬膜よりも外側の出血(脊髄硬膜外出血)が最も多い傾向にあります。出血が多い部位は、首の下方や胸の下方です。 また、出血は背骨の2つ以上に渡っていることが多く、最大で6つに広がるケースがみられました。そのため、出血が広がる前に医療機関で適切な治療を受けるのが重要です。 脊髄出血の原因 脊髄出血の主な原因は以下のとおりです。 外傷:交通事故や転落など 血管奇形:動脈や静脈、リンパ管などが異常に発生する 硬膜外動静脈瘻:動脈と静脈が硬膜の中でつながる 医療行為による合併症:髄液組成を調べる腰椎穿刺や脊椎麻酔など 脊髄腫瘍:脊髄やその周囲で腫瘍が発生し、脊髄を圧迫する 抗血栓薬:血液を固まりにくくする薬の服用 脊髄出血の原因は、交通事故や転落などによる外傷が一番多いとされています。 また、動脈と静脈がつながる血管の異常や腫瘍の発生、血液を固まりにくくする薬も原因に挙げられます。血液を固まりにくくする薬は、血栓や梗塞の予防に必要なので自分の判断で服薬を止めず、不安があれば医師に相談しましょう。 脊髄出血の症状 脊髄出血によって神経が圧迫されると、以下の症状を引き起こします。 首や背中の強い痛み 身体を動かしにくくなる(運動障害) 温度や痛みを感じない、しびれを感じる(感覚障害) 出血は急に起きることが多いので突発的に発症するのが一般的ですが、24時間~数日経ってから症状が現れることもあります。 また、出血した部位によって麻痺が及ぶ範囲が以下のように異なる場合があります。 胸部の脊髄が出血:股関節からつま先までの麻痺 首の脊髄が出血:下半身に加えて、肩から手の指まで麻痺 出血量が多いほど血液の塊が大きくなり、症状が重くなる傾向があるので、上記のような症状がみられる方は早急に医療機関を受診しましょう。 脊髄出血の診断 脊髄出血の診断には、以下の検査を用いるのが一般的です。 CT:骨の損傷を調べる MRI:脊髄の出血や血のかたまり(血腫)を調べる 血管造影検査:血管を詳しく調べる 脊髄出血の検査はMRIが一般的で、出血や血のかたまりである血腫がないか調べます。 複数の層にまたがって出血している際は、MRIより詳しく調べられる血管造影検査を行います。血管造影検査とは、太ももの付け根の血管から細い管を入れ、造影剤を流して撮影する検査です。 出血量が多く疾患が早く進行した場合、麻痺や強い痛みなど日常生活に深刻な影響を与えるリスクが高まります。適切な診断を受けて回復の可能性を高めるには、正確な検査を受けることが重要です。 脊髄出血の治療 脊髄出血の治療について、以下の表にまとめました。 治療の種類 治療の内容 適用される条件 外科的治療 神経への圧迫を取り除く 血管内治療 身体に麻痺症状がある 保存的治療 安静 止血剤(血液を固める薬)の投与 降圧剤(血圧を下げる薬)の投与 血液をサラサラにする薬を服用していない 身体の麻痺症状がない 脊髄出血は、出血の原因や部位、出血によって治療の方法が異なります。そして、急を要する場合が多い疾患です。 脊髄出血では外科的手術を行うことが多く、特に麻痺症状が重篤な場合は早期の手術が重要です。不全麻痺の場合は48時間以内、完全麻痺の場合は36時間以内の治療で回復の見込みが高まるとされています。 手術では、背骨の一部を削り神経への圧迫を取り除くのが一般的です。血管の奇形が見られる際は、血管からカテーテルと呼ばれる細い管を通して出血している血管を塞ぐ血管内治療を行います。 一方、血液をサラサラにする薬を服用しておらず身体の麻痺症状もない場合は、薬物療法などの手術しない保存的療法を行うことがあります。 脊髄出血の詳しい治療や症状の見通しについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。 脊髄出血の後遺症 脊髄出血の主な後遺症は以下の通りです。 運動麻痺:身体の麻痺やしびれ 感覚障害:痛みや温度などの感覚低下 膀胱直腸障害:排尿や排便に支障が出る 出血の量が多かったり、血腫(血管外に血液が漏れて固まった状態)による圧迫が強かったりすると、脊髄が損傷して身体の麻痺やしびれ、痛みや温度などの感覚低下を引き起こします。後遺症は脊髄が損傷した部位によって異なりますが、首や胸の部分の脊髄が損傷すると下半身が麻痺する場合もあります。 発症から早期に適切な治療を受けるほど回復の可能性が高くなるため、脊髄出血が疑われる場合は一刻も早く治療を受けることが大切です。 脊髄出血のリハビリ 脊髄出血のリハビリは、時期によって異なります。 急性期:可動域の訓練や呼吸筋の強化 回復期:寝返りや起き上がりなどの動作訓練 慢性期:日常生活の動作の訓練や精神的なケア 脊髄は一度損傷すると、組織の再生はほとんど見込めません。そのため、脊髄出血のリハビリの主な目的は残っている機能の維持や強化です。 脊髄出血を発症した直後の急性期では、寝たきりの防止や後遺症の軽減のためできるだけ早い時期からリハビリを始めます。麻痺によって動けない関節が固まらないように可動域の訓練をしたり、体位交換やエアマットの使用などで床ずれを予防したりします。 状態が落ち着いた回復期以降は、症状に合わせて寝返りや車いすに乗る動作、日常生活の動作などを練習します。 まとめ|脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因や症状 脊髄出血は、脊髄内やその周辺に出血が生じた状態を指します。原因の多くは外傷ですが、脊髄の血管奇形も考えられます。脊髄出血の症状は突然に見られ、背中の痛みの後に運動障害や感覚障害を引き起こすのが一般的です。 出血の場所や程度によりますが、発症してから早急に治療を受けると回復する可能性があります。ただし、脊髄へのダメージが大きい場合や障害を受けてから時間が経ってしまった場合は、身体の麻痺や感覚の低下などの後遺症が出るリスクが高まります。 損傷した脊髄は、自然回復がほとんど期待できません。そのため、脊髄出血の後遺症には、残っている機能の維持や強化が目的のリハビリが一般的です。 医学分野ではさまざまな治療アプローチが研究されており、再生医療もその一つです。脊髄出血の後遺症にお悩みの方は、再生医療を提供している当院「リペアセルクリニック」までお気軽にご相談ください。 脊髄出血についてよくある質問 脊髄ショックと言われましたがよくなりますか? 脊髄ショックの回復には、数日から数週間かかる場合が一般的です。 脊髄ショックとは、重度の脊髄損傷が見られた際、一時的に脊髄が機能不全を起こし、反射反応が無かったり、筋肉が緩んだ状態になったりします。身体の麻痺やしびれの評価は、脊髄ショックを離脱した後に行います。 脊髄出血はなぜいくつも検査するのですか? 脊髄出血では、CTで骨の損傷を調べたり、MRIで出血の状態を調べます。 出血が複数の層にまたがっている際や、血管の奇形が疑われる場合は、MRIよりも詳しく血管を調べるために血管造影検査を行います。血管造影検査とは、太ももの付け根や腕の血管から、カテーテルと呼ばれる細い管を入れ、造影剤を流して撮影する検査です。また、血管が細くなっている場所まで進み、血管の中から押し広げて血流を正常にしたり、塞栓物質と呼ばれる血管をふさぐ物質を注入して止血したりする治療ができます。 脊髄出血は、早期に適切な治療を受けると、後遺症が軽減する可能性があります。良好な予後のためにも、検査を受けて出血の状態を正しく把握しましょう。 参考文献 (文献1) Springer Nature Link「脊髄血腫:613人の患者のメタアナリシスによる文献調査」Springer Nature Linkホームページ,2003年1月1日 https://link.springer.com/article/10.1007/s10143-002-0224-y (最終アクセス:2025年5月8日) (文献2) Journal of Neurosurgery Publishing Group「脊髄硬膜外血腫:1000例以上の個人的経験と文献レビュー」Journal of Neurosurgery Publishing Groupホームページ,2017年6月2日 https://thejns.org/spine/view/journals/j-neurosurg-spine/27/2/article-p198.xml?tab_body=pdf-27560 (最終アクセス:2025年5月8日)
2024.07.16