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筋ジストロフィーの初期症状を現役医師が解説|原因や治療法もあわせて紹介

「最近、子どもがよく転ぶようになった」
「以前より疲れやすく感じるようになった」
その症状は、筋ジストロフィーの初期症状かもしれません。医師にそう言われても、病名を聞いても状況が把握できず、不安に感じる方も多いでしょう。自分の子どもが筋ジストロフィーと診断された際に不安を感じるのは自然です。
早期発見と適切な受診判断が、その後の生活や支援体制を整える第一歩となります。お子さまやご自身の症状に不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
筋ジストロフィーとは
項目 | 内容 |
---|---|
病気の特徴 | 筋肉が徐々に壊れ、力が入らなくなる進行性の筋肉の病気 |
原因 | 筋肉機能に関わる遺伝子に異常が起こる遺伝性疾患 |
発症の仕方 | 遺伝によるものと突然変異によるもの |
主な症状 | 筋力低下、歩行困難、呼吸や心臓の障害 |
治療法 | 進行を遅らせる薬やリハビリなどの対症療法 |
完治の可否 | 現時点では完治が難しい病気 |
寿命への影響 | 心臓や呼吸への影響による生命予後の変化 |
受診すべき科 | 神経内科、小児神経科、整形外科などの専門科 |
成人の発症 | 子どもだけでなく大人でも発症するタイプの存在 |
筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に弱くなる進行性の疾患です。遺伝子の異常により、筋肉を支えるたんぱく質が作られず、壊れやすくなるのが特徴です。筋ジストロフィーは進行に伴い、筋力低下や運動機能障害がみられるようになります。
筋ジストロフィーは主に小児期に発症し、歩行や立ち上がりが困難になることがあります。症状の現れ方や進行の速さはタイプによって異なり、早期発見と適切な対応が重要です。現在の医学では完治が難しく、進行を遅らせる薬やリハビリといった対症療法が中心です。
筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病に認定されており、成人後に発症するタイプもあるため、年齢にかかわらず早急に医療機関を受診することが大切です。(文献1)
以下の記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて詳しく解説しています。
筋ジストロフィーの初期症状
初期症状 | 詳細 |
---|---|
歩行異常・転倒しやすい | 階段の昇降が難しくなる。頻繁につまずく、転倒が増える |
筋力低下・疲れやすい | 少しの運動で疲れやすくなる。階段の上り下りや走る動作が困難になる |
筋肉の変化 | ふくらはぎが不自然に盛り上がるなど、筋肉の見た目が変わる。実際には筋力が低下している |
発達の遅れ(乳幼児期の場合) | 首すわりや寝返り、歩行の開始が遅い。発達の節目でつまずきやすい |
その他の症状 | 側弯症、呼吸の浅さ、心機能の異常、嚥下機能の低下など、筋力以外の全身症状が現れることがある |
筋ジストロフィーの初期症状は、病型や年齢によって異なりますが、共通して筋力低下や運動発達の遅れが目立ちます。子どもの場合、よく転ぶ、階段の昇り降りが苦手、ふくらはぎの肥大傾向が見られるなど、成長の個人差と区別がつきにくいのが特徴です。
進行すると、筋肉の硬直や関節の可動域制限に加え、疲れやすさも見られるようになります。これらのサインが現れた場合、早急に医療機関を受診することが大切です。
歩行異常・転倒しやすい
症状 | 詳細 |
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アヒル歩行 | 腰を左右に揺らすような歩き方。股関節まわりの筋力低下による歩行障害 |
つま先歩き | かかとを地面につけずにつま先で歩く傾向。ふくらはぎの筋肉のアンバランス |
頻繁な転倒 | 平地や階段などで転びやすくなる。脚や体幹の筋力低下によるバランス障害 |
走りにくさ | 走るのが遅くなったり、すぐ疲れたりする。下肢の筋肉の持久力・瞬発力の低下 |
ガワーズ徴候 | 床から立ち上がるときに手を使って太ももを押さえる特徴的な動作。筋力不足の代償動作 |
筋ジストロフィーでは、太ももや骨盤周辺の筋肉が弱くなり、足を持ち上げにくくなることで歩き方が不安定になります。とくに骨盤周辺の筋肉が初期に影響を受けやすく、アヒル歩行やつま先歩きといった特徴的な歩き方が現れます。
筋肉や関節の硬さが加わることで、動作がぎこちなくなるのが特徴です。また、ガワーズ徴候と呼ばれる、手を使って立ち上がる独特な動作も初期のサインです。
歩行の違和感や頻繁な転倒に気づいたら、早急に医療機関を受診しましょう。放置せず、日常の小さな変化に注意を向けることが、筋ジストロフィーなどの早期発見につながります。
筋力低下・疲れやすい
症状 | 解説 |
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全身の筋力低下 | 体幹・股関節・肩甲骨まわりの筋肉から目立ち始める筋力の衰え |
腕が上がりにくい | 肩より上に腕を上げる動作や、物を持ち上げることが困難になる状態 |
疲れやすさ | 日常動作で息切れしやすく、階段の昇降や活動を避けるようになる傾向 |
筋力低下の左右差 | 両側均等ではなく、片側から先に筋力が落ちる場合もある非対称性の症状 |
(文献3)
筋ジストロフィーの初期には、筋力低下や疲れやすさといった症状が現れます。とくに体幹や股関節、肩まわりの筋肉が弱くなりやすく、立ち上がるときに太ももを手で押して身体を支える、ガワーズ徴候が見られることもあります。
肩の筋力が低下すると、腕が上がりにくくなり、物を持つ動作も困難になります。また、とくに子どもが疲れを訴えて、活動を避けるようになった場合も初期症状のサインです。このような変化は病気の進行と関係している可能性があるため、医療機関への受診が必要です。
筋肉の変化
症状 | 詳細 |
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偽肥大 | ふくらはぎが太く硬く見えるが、筋線維の減少と脂肪・結合組織の置換による変化 |
筋萎縮 | 筋肉が細くなり、筋力が低下し見た目にもやせてくる変化 |
筋肉の硬直 | 筋肉や関節の動きが硬くなり、動作のぎこちなさや朝のこわばりが出現 |
翼状肩甲 | 肩甲骨が浮き上がるように見える変化。肩甲骨周囲の筋力低下による |
(文献4)
筋ジストロフィーでは、筋肉の一部に見た目の変化が現れることがあります。代表的なのが偽肥大と呼ばれる症状で、ふくらはぎの筋肉が太く盛り上がって見える一方、実際には筋力が低下している状態です。
これは筋線維が壊れ、再生が追いつかないことで、脂肪や結合組織に置き換わるために起こります。見た目は発達しているようでも、触れると硬く弾力がないのが特徴です。また、肩や背中の筋肉が痩せてきたり、左右の筋力バランスが崩れたりすることもあります。
とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ふくらはぎの筋肉が太く見える、偽肥大が目立ち、歩きにくさや転倒と一緒に現れることが多く、病気の進行を示す重要なサインです。
筋肉が硬く弾力に乏しくなるなどの見た目の変化は筋力低下の兆候であり、早期発見につながる大切な手がかりです。違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。
発達の遅れ(乳幼児期の場合)
症状 | 詳細 |
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首のすわり・お座りの遅れ | 筋力低下による首のすわりや、お座りの安定の遅れ |
ハイハイ・寝返りの遅れ | 筋肉の弱さによるハイハイや寝返りの開始の遅れ |
歩行開始の遅れ | 1歳半以降まで歩き始めない、歩行が不安定 |
転びやすさ・立ち上がり困難 | 歩行時のふらつき、立ち上がりの不安定さ |
言葉や知的発達の遅れ | 一部病型でみられる言語発達や知的発達の遅れ、てんかんなどの神経症状 |
フロッピーインファント | 先天性筋ジストロフィーでみられる全身の筋緊張低下による、だらりとした状態 |
(文献4)
乳幼児期に発症するタイプでは、首がすわるのが遅い、寝返りができない、立ち上がりに時間がかかるなど、運動発達の遅れが最初のサインになることがあります。また、他の子どもと比べて歩き始めるのが遅い、転びやすいといった違和感も初期症状のひとつです。
成長の個人差と思われがちですが、このような遅れや症状が継続する場合、筋疾患の可能性も視野に入れて検査を受ける必要があります。
その他の症状
病型名 | 特徴的な初期症状 | 具体的な症状例 |
---|---|---|
筋強直性ジストロフィー(DM) | ミオトニア(筋強直) | 把握ミオトニア、叩打ミオトニア、舌のクローバー状変形 |
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD) | 顔面筋の筋力低下 | 表情の乏しさ、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくい |
(文献5)
筋ジストロフィーは病型によって初期症状が異なります。筋強直性ジストロフィーでは、筋肉が収縮後にうまく緩まないミオトニア(筋強直)が特徴です。手を握った後すぐに開けられない、筋肉を叩くと収縮が続く、舌が変形するなどの症状が見られます。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは、早期から顔の筋肉が弱くなり、笑顔が作りにくい、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくいといった症状が現れます。これらの変化は食事の際にむせやすくなるなど、日常生活に影響するため、早急に医療機関を受診しましょう。
筋ジストロフィーの原因
主な原因 | 詳細 |
---|---|
遺伝子の異常(遺伝子変異) | 筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が生じることで発症 |
遺伝形式 | 親から子へ遺伝する場合があり、X連鎖性遺伝、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝などの形式がある |
遺伝子の突然変異 | 家族歴がなくても、突然新たに遺伝子変異が生じて発症する場合がある |
筋ジストロフィーの主な原因は、筋肉の働きに必要な遺伝子に異常があることです。遺伝子に異常が生じることで、筋肉の細胞構造を保つたんぱく質が十分に作られず、筋肉が壊れやすくなります。
異常が起こる遺伝子やその影響の範囲によって、発症年齢や進行の速さ、症状の程度に違いがあります。多くは先天的なものですが、家族歴がない場合でも突然変異として発症するケースもあるのが特徴です。
遺伝子の異常(遺伝子変異)
病型名 | 関連遺伝子 | 主な特徴 |
---|---|---|
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) | ジストロフィン遺伝子 | ジストロフィンがほとんど作られず、重症で進行が早い筋力低下 |
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD) | ジストロフィン遺伝子 | ジストロフィンが部分的に作られ、DMDより軽症で進行が緩やか |
筋強直性ジストロフィー(DM) | DMPK遺伝子 | CTGリピートの伸長による多臓器障害を伴う進行性筋疾患 |
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD) | フクチン遺伝子 | 筋力低下に加え、脳や眼の形成異常を伴う先天性の重度障害 |
筋ジストロフィーは、筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が起こることで発症します。異常がある遺伝子の種類によって、病型や症状、進行の速さが異なります。代表的なのがジストロフィン遺伝子の変異で、ジストロフィンがほとんど作られない場合は重症のデュシェンヌ型、一部作られる場合は進行の緩やかなベッカー型です。
筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子の異常により筋肉だけでなく心臓や内分泌、脳にも影響が及ぶのが特徴です。また、日本で多く見られる福山型先天性筋ジストロフィーでは、フクチン遺伝子の変異によって筋力低下に加え、脳や眼の異常も見られます(文献7)。遺伝子変異の特定は、診断と治療方針を決める上で重要な手がかりとなります。
遺伝形式
遺伝形式 | 代表的な病型例 | 詳細 |
---|---|---|
X連鎖劣性遺伝 | デュシェンヌ型、ベッカー型筋ジストロフィー | 原因遺伝子がX染色体上に存在。男性は1本のX染色体に異常があると発症。女性は2本のうち1本が正常なら保因者となる |
常染色体優性遺伝 | 筋強直性ジストロフィーの一部、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー | 常染色体上の遺伝子に変異があり、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症 |
常染色体劣性遺伝 | 肢帯型筋ジストロフィーの一部、先天性筋ジストロフィーの一部 | 常染色体上の両方の遺伝子(父母由来)に異常がある場合に発症。両親が保因者でも1本ずつなら無症状 |
筋ジストロフィーにはいくつかの遺伝形式があり、病型によって遺伝の仕方が異なります。デュシェンヌ型やベッカー型はX連鎖劣性遺伝で、主に男性が発症します。
母親が保因者の場合、子どもに遺伝する可能性がありますが、女性は2本のX染色体のうち1本が正常なら多くは発症しません。筋強直性ジストロフィーや顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの一部は常染色体優性遺伝で、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症します。
肢帯型や先天性筋ジストロフィーの一部は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継いだ場合に発症します。家族歴がなくても突然変異によって発症することがあり、遺伝形式に応じてリスクや進行の程度が異なるため、専門医への相談が重要です。
遺伝子の突然変異
原因・メカニズム | 詳細 |
---|---|
DNA複製時のエラー | 細胞分裂中にDNAをコピーする際のミスにより発生する変異 |
外部要因による損傷 | 放射線や化学物質などがDNAを傷つけ、その修復時のエラーで生じる変異 |
自然発生的な化学変化 | 細胞内で起こる化学反応により、DNAが自然に変化する現象 |
先天的な変異(遺伝性) | 親の卵子や精子にある変異が受精卵に伝わり、全身に影響する変異 |
新生変異(de novo変異) | 受精卵や細胞分裂の過程で新たに発生し、家族歴がなくても発症する場合がある |
体細胞モザイク | 変異のある細胞とない細胞が混在し、身体の一部にだけ影響する状態 |
筋ジストロフィーの中には、家族に同じ病歴がないにもかかわらず、本人にだけ発症するケースがあります。このような発症ケースは両親から受け継いだ遺伝子ではなく、胎児の発育過程で突然変異が生じたことが原因です。
遺伝子の突然変異による場合でも、症状や進行の程度は遺伝性のものと変わらないため、医療機関への受診が必要です。
筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方)
治療法(進行の抑え方) | 詳細 |
---|---|
保存療法 | リハビリテーションやストレッチ、装具の使用などで筋力や関節の動きを維持し、合併症を予防 |
薬物療法 | ステロイド薬などで筋力低下や進行を遅らせる。心臓や呼吸機能低下にはそれぞれの症状に応じた薬を使用 |
手術療法 | 側弯症や関節拘縮など保存療法で対応できない場合に手術を検討。呼吸や嚥下の補助目的での手術も選択肢 |
再生医療 | 手術や薬物療法に比べて副作用が少ない可能性がある近年注目されている治療法 |
筋ジストロフィーには、現在のところ根本的な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることを目的とした治療が行われています。発症の早い段階から適切な治療を始めることで、病気の進行を緩やかにし、日常生活の自立を支えることが期待されます。
保存療法
項目 | 内容 |
---|---|
関節可動域訓練・ストレッチ | 関節のこわばりを防ぐための毎日の柔軟体操と家族への指導 |
低負荷の筋力トレーニング | 過度な負荷を避けながら筋肉の萎縮を防ぐ軽めの運動 |
呼吸リハビリテーション | 呼吸筋の維持・強化を目的としたトレーニングや人工呼吸器の活用 |
補助具・福祉用具の活用 | 車椅子や自助具を使って日常動作や移動を支援 |
姿勢管理・側弯症予防 | 姿勢の調整や体位変換による背骨の変形予防 |
摂食・嚥下機能のサポート | 誤嚥防止のための食事形態の工夫と嚥下訓練 |
定期検査と合併症への対応 | 心肺機能の定期検査と薬物・医療対応による合併症の早期発見・治療 |
筋ジストロフィーに対する保存療法は、病気の進行をできるだけ緩やかにし、生活の質(QOL)を保つために欠かせません。関節の動きを保つストレッチや、筋肉に無理のない範囲で行う筋力トレーニングが基本です。
呼吸機能の低下を防ぐためのリハビリや、必要に応じた人工呼吸器の導入も検討されます。また、歩行や日常生活を支えるための補助具、自助具の活用も不可欠です。
姿勢の調整や体位変換で側弯症の予防を行い、食事が困難な場合には嚥下機能のサポートも行います。症状の進行や個々の状態に応じて、医師の指導を受けながら継続的に取り組むことが大切です。
薬物療法
治療法 | 主な目的・特徴 |
---|---|
ステロイド療法(プレドニゾロンなど) | 筋細胞の壊れやすさを軽減し、運動・呼吸機能の維持、側弯症の進行予防 |
HDAC阻害薬(デュヴィザット) | 炎症と筋肉減少を軽減。非ステロイドですべてのDMD患者に使用可能。2024年にFDAが承認 |
エクソンスキッピング療法 | 特定の遺伝子変異に対し、mRNAを修正し機能的なジストロフィン産生を促す治療法 |
その他の新規治療薬 | 筋強直性ジストロフィーなどに対し、スプライシング異常や筋壊死を抑える薬剤の開発進行中 |
定期評価と副作用管理 | 運動・呼吸機能、血液検査などによる薬効・副作用のモニタリング |
個別化治療の調整 | 遺伝子変異や体調に応じた薬剤選択と投与量の調整 |
副作用対策 | 骨粗鬆症、肥満、感染症などに対する予防策と生活指導 |
筋ジストロフィーにおける薬物療法は、進行を抑え、運動機能や呼吸機能を維持する上で欠かせない治療法です。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)には、ステロイド(プレドニゾロン)による長期療法が標準治療とされ、筋力低下や側弯症の進行を抑えます。
2024年にアメリカFDAが承認した非ステロイド薬デュヴィザット(HDAC阻害薬)は、遺伝子変異の種類に関係なく使用でき、ステロイドとの併用で運動機能の低下を有意に抑える効果が確認されています。(文献10)
また、2020年に日本で承認されたエクソンスキッピング療法(ビルトラルセン)は、特定の遺伝子変異に対して機能的なジストロフィンの産生を促し、進行の抑制が期待されています(文献1)。いずれも、筋ジストロフィーの治療に有効な選択肢として位置づけられています。
手術療法
有効な理由 | 主な手術内容・効果 |
---|---|
側弯症の進行抑制と矯正 | 背骨の曲がりを金属製ロッドなどで矯正し、座位保持や呼吸機能の改善を図る |
骨盤の傾き・座位の安定化 | 側弯症手術により骨盤の傾きを改善し、車椅子やベッドでの安定した姿勢を実現 |
関節拘縮や変形の改善 | 固まった関節の動きを回復するための腱延長術などで、日常生活動作や介助のしやすさを向上 |
嚥下障害への対応 | 経口摂取が難しい場合に胃ろうを造設し、栄養補給を確保 |
呼吸補助の整備 | 重度の呼吸障害に対する気管切開術で、人工呼吸器の使用を容易にし、呼吸を安定させる |
麻酔・術後管理の注意 | 呼吸合併症リスクが高く、医療機関での手術と慎重な管理が必要 |
(文献11)
筋ジストロフィーの手術療法は、病気そのものを治すものではありませんが、側弯症や関節拘縮などの合併症に対して有効です。とくに側弯症矯正手術は背骨の曲がりを大きく改善し、呼吸や消化機能の低下を防ぎます。
骨盤の傾きや座位の安定性も向上し、日常生活の自立度が高まります。関節拘縮解除、胃ろう造設、気管切開術なども症状に応じて行われ、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の維持・向上が期待できるでしょう。手術は麻酔や呼吸管理のリスクがあるため、医師と相談の上での実施が不可欠です。
再生医療
再生医療の施策 | 内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
iPS細胞を使った筋前駆細胞の移植 | 患者自身の細胞から作ったiPS細胞を筋肉の細胞に変えて移植 | 筋肉機能の回復、免疫拒絶の低減 |
ゲノム編集技術の応用 | iPS細胞の遺伝子を修復し、正常な筋細胞に育てて移植 | ジストロフィンの発現、病気の根本的治療の可能性 |
メソアンジオブラストの移植 | 血管のまわりの幹細胞を使い、筋肉へと分化させて移植 | 筋力の維持・向上、筋肉の再生促進 |
再生医療は、失われた筋肉機能の回復を目指す新しい治療法として注目されています。幹細胞を用いた治療や遺伝子を補うアプローチが期待されており、手術と比べて、感染症や麻酔に伴うリスクが少ない点も利点です。
ただし、すべての症状に適用できるわけではなく、対象となる条件が限られるため、治療の可否については医師と十分に相談する必要があります。また、再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、事前の確認が必要です。
以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。
筋ジストロフィーの初期症状を理解して早めの受診を心がけよう
筋ジストロフィーは進行性の疾患であり、早期発見が将来の生活に大きく影響します。歩き方の違和感、転びやすさ、筋肉の張りや発達の遅れなど、些細な変化が初期症状のサインであることも少なくありません。とくに小児では成長の遅れと誤解されやすいため、筋ジストロフィーの初期症状が少しでも疑われる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
筋ジストロフィーの症状にお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関する些細なことでもお話を伺います。
ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。
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筋ジストロフィーに関するよくある質問
女性が筋ジストロフィーを発症する確率はどのくらいですか?
筋ジストロフィーは多くのタイプがあり、女性にも発症する可能性があります。中でもデュシェンヌ型(DMD)やベッカー型はX染色体劣性遺伝で、主に男性に発症しますが、女性も保因者としてまれに症状が現れます。DMDの女性保因者のうち約2.5〜7.8%が、筋力低下などの症状を示すと報告されています。(文献12)
筋ジストロフィーの患者数については、日本全体の正確な統計はありませんが、有病率は人口10万人あたり約17~20人と推定されています。(文献1)
大人になってから発症した筋ジストロフィーは遺伝するのでしょうか?
成人期に発症する筋ジストロフィーの一部は遺伝性で、常染色体優性や劣性遺伝として家族内に症状が現れることがあります。とくに親に変異遺伝子があると子に約50%の確率で遺伝し、筋強直性ジストロフィーでは、世代を重ねるごとに症状が重くなる表現促進現象も知られています。
一方、家族歴がなくても突然変異によって発症する場合もあり、デュシェンヌ型では約4割が該当します(文献1)。将来の遺伝リスクを正しく理解するためにも、医療機関での遺伝子検査やカウンセリングの受診が推奨されます。
筋ジストロフィーの子どもは学校や進路にどんな影響がありますか?
筋ジストロフィーのあるお子さんは、病状の進行に応じて、通常学級、特別支援学級、または特別支援学校で学べます。通学や授業参加には、疲労への配慮や補助具・車いすの使用など、身体的な支援が必要になる場合があります。
進学や進路選択では、医療的ケアやサポートの必要性を踏まえ、学校や教育委員会と連携して無理のない環境を整えることが大切です。近年では大学や専門学校への進学、在宅就労や遠隔学習といった多様な進路が広がっており、早期からのキャリア教育や進路指導を通じて、お子さんの可能性を広げる支援が求められます。(文献13)
保護者としては、日々の体調管理や心の支えとなることに加え、教育や福祉制度を活用しながら、子どもの意思を尊重した支援を行うことが重要です。
子どもが筋ジストロフィーと診断されたときの心の向き合い方を教えてください
筋ジストロフィーと診断されたお子さんを支える上で、まずはご家族がご自身の感情を受け止めることが大切です。ショックや不安は自然な反応であり、無理に抑え込む必要はありません。
その上で、病気のタイプや進行について正しい情報を医師やカウンセラーから得ることで、今後の見通しが立てやすくなります。医療や福祉の支援、患者会なども積極的に活用し、孤立せず相談できる環境を持つことが大切です。
また、家族全体で協力し合い、お子さんの気持ちに寄り添いながら、前向きに日々を重ねていくことが、最も大きな支えになります。
筋ジストロフィーと診断された場合に利用できる障害者登録や支援制度はありますか?
筋ジストロフィーと診断された場合、身体障害者手帳の取得や障害年金の申請が可能です。
手帳は障害の程度に応じて等級が認定され、医療費助成や補装具支給などの福祉サービスが受けられます。障害年金は、症状の進行に応じて障害基礎年金または障害厚生年金の1級または2級に該当することが多く、生活支援の一助となります。
また、障害者総合支援法や小児慢性特定疾病医療費助成、特別児童扶養手当なども対象になる場合があります。申請には医師の診断書や病歴申立書が必要なため、早めに医療機関や自治体窓口に相談しましょう。
参考資料
公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113」難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日)
レジストリと連携した筋強直性ジストロフィーの自然歴およびバイオマーカー研究班「筋強直性ジストロフィーと診断された方へ」専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報
http://dmctg.jp/shindan.html(最終アクセス:2025年06月14日)
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「筋強直性ジストロフィー」MD Clincal Station
https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日)
Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアル家庭版, 2024年
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカーFSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」NMDPS 神経筋疾患ポータルサイト,
https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fshd.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日)
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「病型と治療」MD Clincal Station
https://mdcst.jp/md/(最終アクセス:2025年06月14日)
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センタ「対象疾病」小児慢性特定疾病情報センター, 2014年10月1日
https://www.shouman.jp/(最終アクセス:2025年06月14日)
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/50/5/50_342/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日)