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ALSの初期症状(肩こり・筋肉のびくつき・痛み)を現役医師が解説

「最近、肩こりがひどくてつらい」
「ふくらはぎが重だるくて動きにくい」
これらの一見ありふれた症状は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状として挙げられます。
ALSはごく軽い身体の違和感から始まることもあり、日常生活でよくある症状のため、見過ごされやすい点が特徴です。
本記事では、ALSについて現役医師が詳しく解説します。
- ALSの初期症状
- ALSが発症する原因
- ALSの治療法(進行の抑え方)
本記事の最後には、ALSに関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の概要 | 詳細 |
---|---|
ALSの病気の詳細 | 運動神経が障害されることにより、筋肉が徐々にやせ細り、力が入らなくなる進行性の神経疾患 |
ALSの初期症状 | 手足が不自由になる、筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがある、左右どちらかから始まることが多い |
ALS発症からの余命 | 発症から3〜4年が一般的、個人差が大きく10年以上生存する例もあり |
ALSになりやすい人 | 50~70歳代に多く、男性にやや多い、家族歴がある場合は遺伝性の可能性 |
ALSの完治の有無 | 完治は困難、進行を遅らせる薬や症状緩和の治療、生活の質向上をめざす治療が中心 |
進行しても残る機能 | 視力・聴力・感覚は保たれる、目や排尿排便の筋肉は初期には障害されにくい |
治療薬 | リルゾール、エダラボン、トフェルセンなど |
支持療法 | リハビリテーション、栄養管理、呼吸補助 |
今後の治療開発 | 遺伝子治療、再生医療、医療機器開発など研究進行中 |
ALSは、運動神経が障害されることで筋肉が萎縮し、動かしにくくなる進行性の神経疾患です。初期症状には手足の使いにくさや筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがあり、左右いずれかから始まることが多いです。
余命は発症から3〜4年が一般的ですが、進行には個人差があり、10年以上生存される方もいます。発症しやすいのは50~70歳代の男性で、家族歴がある場合は遺伝性の可能性も考えられます。
現在、ALSを完治させる治療法はありません。しかし、進行を遅らせる薬やリハビリ、栄養管理、呼吸補助などで生活の質を保つ治療が行われています。今後の治療法の進展が期待されます。
ALSの初期症状
初期症状 | 詳細 |
---|---|
筋萎縮 | 指先や足先の力が入りにくくなり、日常動作に支障をきたす。徐々に筋肉が痩せてくる |
筋肉のびくつき(線維束性収縮) | 静止時に筋肉がピクピクと動く。とくに手足に多く、意識しなくても動くのが特徴 |
筋肉のこわばりや痙攣 | 関節まわりが固まり、身体が動かしにくくなる。痙攣を伴う場合もある |
筋肉の疲れやすさと脱力感 | 軽い運動でも疲れやすく、動作の途中で力が抜ける感覚がある |
肩こりや関節に違和感がある | 筋力低下による姿勢の崩れや負担で、肩や関節に違和感や重だるさを覚えることがある |
ALSの初期症状は、筋力低下や筋萎縮、筋肉のびくつき、こわばりや痙攣、疲労感や脱力感、肩こりや関節の違和感など多岐にわたります。これらは運動神経の障害によって現れ、最初は身体の一部に限局していても、徐々に全身へ広がっていきます。
ALSは進行が止まらない、比較的早く進む神経疾患です。個人差はありますが、複数の症状が同時に現れる場合や進行が早い型も存在します。初期症状が気になる場合は、早めの受診が重要です。
筋力低下と筋萎縮
症状 | 原因 |
---|---|
筋力低下 | 運動神経細胞の障害による筋肉への命令の伝達不全 |
筋萎縮 | 筋肉への刺激減少による使用機会の減少と筋肉量の低下 |
症状の始まり方 | 手足などの一部の筋肉から進行する局所発症 |
進行の特徴 | 筋力の低下と筋萎縮が広がり、全身の運動機能が次第に障害される特徴 |
日常生活への影響 | 細かい作業や歩行困難、生活動作の制限の拡大 |
ALSでは、運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が障害されることで、筋肉を動かす命令が届かなくなります。そのため、筋肉が使われにくくなり、力が入りにくくなる筋力低下が起こります。
筋肉が十分に刺激を受けない状態が続くことで筋萎縮が生じ、このような症状は手足などの限られた部位から始まり、やがて全身へと広がるのが特徴です。進行に伴い、歩行や食事などの日常動作が難しくなり、生活の質にも大きく影響を与えます。筋力低下と筋萎縮は、ALSの初期から見られる大切なサインです。
筋肉のびくつき(線維束性収縮)
項目 | 詳細 |
---|---|
運動ニューロンの障害 | ALSで運動ニューロンが徐々に壊れていき、筋肉に動くための命令が届かなくなる現象 |
筋力低下の仕組み | 運動ニューロンからの信号が途絶え、筋肉が動かせなくなり、物を持つ・歩くなどが困難になる状態 |
筋萎縮の仕組み | 筋肉が使われない状態が続き、筋肉のボリュームが減り、見た目にも細くなる現象 |
具体的な症状 | 初期は手や足で力が入りにくい、細かい作業がしづらい、歩きにくいなどが現れる |
進行と影響 | 筋力低下や筋萎縮が全身に広がり、日常生活に大きな影響が及ぶ |
ALSでは、初期症状として筋肉のびくつき(線維束性収縮)がみられることがあります。これは皮膚の上から確認できるような、小さな筋肉のピクつきや細かな動きです。
原因は筋肉自体の異常ではなく、筋肉を動かす運動神経が障害されることによって起こります。運動ニューロンが壊れ始めると、一部の筋線維が異常に興奮し、自発的に動くようになるのが特徴です。
線維束性収縮は、筋力低下や筋萎縮に先行して現れることがありますが、ストレスや疲労などでも一時的に起こることがあるため、これだけでALSとは限りません。
ALSではこのびくつきが長く続き、次第に筋力低下や萎縮へと進行します。気になる症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。
筋肉のこわばりや痙攣
項目 | 詳細 |
---|---|
運動ニューロン障害 | 上位・下位運動ニューロンの変性による筋肉への信号制御の崩壊 |
筋肉のこわばり(硬直・痙性) | 上位運動ニューロンの抑制信号消失による筋肉の緊張状態の持続 |
筋肉の痙攣(びくつき・痙性) | 下位運動ニューロンの過剰興奮による自発的収縮・ピクつき現象 |
症状の現れ方 | 四肢や体幹にこわばりや痙攣が生じ、違和感や動作の困難を伴う場合もある |
日常生活への影響 | 歩行や身体の動きの制限、就寝時の不快感や睡眠障害などの誘発 |
(文献4)
ALSでは、脳や脊髄の上位・下位運動ニューロンが進行性に障害され、筋肉への正常な制御信号が途絶します。筋肉のこわばり(痙性硬直)は、上位運動ニューロンから筋肉への抑制信号が失われることで起こり、筋肉が緊張状態に陥るためです。
一方、痙攣やびくつき(線維束性収縮)は、下位運動ニューロンの異常興奮により、筋線維が意図せず自発的に短時間収縮する現象です。これらは小規模なピクつきから筋痙攣として自覚されることもあります。
こうした症状はALSの初期から四肢や体幹に広がりやすく歩行や動作を困難にし、夜間には痙攣による不快感や睡眠障害を引き起こすこともあります。
こわばり・痙攣は、筋力低下や筋萎縮と並行して進行するALS特有の経過であり、気になる症状がある場合は、早期に医療機関を受診して適切な検査と対策を受けることが重要です。
筋肉の疲労感と脱力感
症状 | 詳細 |
---|---|
筋肉の疲労感 | 運動神経からの信号が弱まり、筋肉の活動効率が低下し、少しの動作でも疲れやすくなる現象 |
筋肉の脱力感 | 筋肉が十分に使われなくなり、力が入りにくくなり、物を持つ・歩くなどの動作が難しくなる状態 |
筋肉の萎縮や硬直 | 筋肉が使われないことでやせ細り、硬直も進行し、疲労感や脱力感をさらに強める要因 |
症状の広がり | 初期は身体の一部で始まり、進行とともに全身へ広がる特徴 |
(文献2)
ALSでは、脳や脊髄の運動神経が障害されることで、筋肉に司令がうまく伝わらなくなります。そのため筋肉の活動効率が低下し、日常の動作でもすぐに疲れやすくなるのが筋肉の疲労感の正体です。
筋肉が使われなくなると、力が入りにくくなり、脱力感として自覚されます。さらに、筋肉の萎縮や硬直も進行し、これらの症状を強める要因となります。
ALSの初期症状は体の一部から始まり、進行とともに全身へ広がるのが特徴です。進行スピードには個人差がありますが、症状が止まることなく進行するため、早めの受診と対応が重要です。
肩こりや関節に痛みを感じる
ALSの初期には、肩こりや関節の違和感、筋肉痛を感じることがあります。これらの症状は、運動神経の障害によって筋肉や関節に余分な負担がかかることで起こるのが特徴です。
筋力が低下すると、使われなくなった筋肉の代わりに他の筋肉や関節に負担がかかり、その結果、肩こりや違和感が生じます。さらに、筋肉が意図せず動いたり、つったりする痙攣も、不快感の原因です。
筋肉の萎縮が進むと動きがぎこちなくなり、無意識に体の一部に力が入り続けることで、肩や関節への負担が増します。また、筋肉を必要以上に使いすぎたり、逆に動かさなくなることでも痛みが起こることがあります。
これらの症状は、年齢による変化や他の病気と区別がつきにくいため、長く続く場合は早めに医療機関を受診してください。
ALSが発症する原因
原因 | 詳細 |
---|---|
遺伝子異常 | 一部のALSは遺伝によるもので、特定の遺伝子の変化が神経細胞に影響を与える |
酸化ストレス | 体内で過剰に発生した活性酸素が神経細胞を傷つけ、機能を低下させると考えられている |
グルタミン酸毒性 | 神経伝達物質のグルタミン酸が過剰に働き、神経細胞に負担をかけて壊してしまう |
ミトコンドリア機能不全 | 細胞内のエネルギーをつくる働きが弱くなり、神経細胞が生きていく力を失っていく |
タンパク質の異常な蓄積(凝集) | 本来分解されるべきたんぱく質が細胞内に溜まり、神経の働きを妨げる |
ALSの発症要因は複数あり、現在も研究が進められています。中でも、神経細胞を守る働きが弱まることが重要な要因です。
たとえば、遺伝子の異常、活性酸素による酸化ストレス、神経伝達物質の過剰な作用などが重なり、運動神経が徐々に壊れていきます。さらに、エネルギーをつくるミトコンドリアの機能低下や、異常なたんぱく質の蓄積も神経細胞を障害します。
これらの要因は単独ではなく、複数が同時に進行することが多いため、早期の対応が必要です。症状に気づいた段階で医師に相談することが、進行を遅らせるための第一歩となります。
以下の記事では、ALSの原因になる可能性のある食べ物について詳しく解説しています。
遺伝子異常
ALSの発症には多くの要因が関与しますが、中でも遺伝子異常は明確な原因のひとつです。全体の約5%を占める家族性ALSでは、家族内で複数人が発症し、これまでに30種類以上の原因遺伝子が報告されています。(文献2)(文献5)
代表的な遺伝子には、SOD1、C9orf72、TARDBP、FUSなどがあります。異常なたんぱく質の蓄積や、細胞保護機能の喪失により、運動神経が障害され、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れるのが特徴です。
家族歴のない孤発性ALSにも、感受性遺伝子や環境要因が複雑に関与していると考えられています。
酸化ストレス
原因 | 詳細 |
---|---|
酸化ストレス | 活性酸素やフリーラジカルが過剰になり、運動神経細胞のDNAやタンパク質、脂質などを傷つける |
SOD1遺伝子異常 | SOD1酵素の異常で活性酸素の分解がうまくいかず、酸化ストレスが高まる |
ミトコンドリア障害 | 酸化ストレスがミトコンドリアの機能を損ない、神経細胞のエネルギー産生が低下する |
環境因子 | 化学物質や重金属、喫煙・飲酒などの生活習慣も酸化ストレスを増やしALSリスクに関与 |
ALSの発症原因として酸化ストレスが挙げられるのは、活性酸素などの有害な物質が運動神経細胞を傷つけ、DNAやたんぱく質、脂質に障害を与えるためです。
とくにSOD1遺伝子に異常があると、活性酸素を分解する酵素の働きが低下し、酸化ストレスが強まります。また、酸化ストレスはミトコンドリアの機能を妨げ、神経細胞がエネルギーを十分に作れなくなります。
さらに、化学物質や喫煙などの環境因子も酸化ストレスを高め、ALSの発症や進行に影響を与える原因です。こうした要因が重なり合うことで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。
グルタミン酸毒性
原因 | 詳細 |
---|---|
グルタミン酸毒性 | 神経伝達物質グルタミン酸が過剰に働き、運動ニューロンを過剰に刺激し続けることで細胞死を引き起こす現象 |
興奮性毒性 | グルタミン酸の過剰によって運動ニューロン内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞障害や死滅を招く |
再取り込み障害 | グルタミン酸を回収する機能が低下し、シナプスにグルタミン酸が残りやすくなり神経細胞へのダメージが続く |
ALSの症状発現 | 運動ニューロンの死滅が積み重なり、筋力低下や筋萎縮などALSの初期症状が現れる |
(文献2)
ALSの発症要因のひとつに、グルタミン酸毒性があります。神経伝達に重要なグルタミン酸が、ALSでは再取り込み機能の低下によってシナプスに過剰に蓄積し、運動神経細胞を過剰に刺激することで障害を引き起こします。こうした仕組みが、ALSの発症に関わる要因です。
その結果、運動ニューロンが過剰に興奮し、細胞内にカルシウムイオンが大量に流入して神経細胞が死滅します。この神経障害が進行することで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。
ミトコンドリア機能不全
原因 | 詳細 |
---|---|
エネルギー産生の低下 | ミトコンドリア機能が低下すると神経細胞のエネルギー(ATP)不足が起き、運動神経細胞が弱まる |
活性酸素種(酸化ストレス)の増加 | ミトコンドリア障害で活性酸素が増え、細胞内のDNAやタンパク質、脂質が損傷しやすくなる |
異常タンパク質の蓄積・除去障害 | ALS関連遺伝子異常でミトコンドリア内に異常タンパク質が蓄積し、機能がさらに悪化する |
カルシウムイオン調節異常 | ミトコンドリア機能不全でカルシウム調節が乱れ、神経細胞に有害な影響が及ぶ |
ミトコンドリア機能不全では、神経細胞に必要なエネルギーの産生が低下し、細胞の機能が著しく低下します。さらに、障害を受けたミトコンドリアでは活性酸素が増加し、たんぱく質やDNAが傷つきやすくなります。
ALSでは、異常なたんぱく質がミトコンドリアに蓄積しやすく、傷んだミトコンドリアが適切に除去されずにいると細胞への負担がさらに大きくなります。
また、ミトコンドリアはカルシウム濃度の調節にも関わっており、機能が乱れると神経細胞の働きが崩れ、その結果、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れます。
タンパク質の異常な蓄積(凝集)
原因・現象 | 詳細 |
---|---|
神経細胞の機能障害 | 異常なたんぱく質が細胞内に溜まり、本来の働きを妨げる状態 |
細胞死の誘発 | 凝集体が細胞内のバランスを崩し、神経細胞がストレスを受けて死滅しやすくなる状態 |
TDP-43の異常移動 | 通常は細胞核にあるTDP-43が細胞質に漏れ出て凝集し、神経細胞を障害する状態 |
(文献8)
本来、細胞内のたんぱく質は決まった形と役割を保っていますが、異常なたんぱく質が蓄積すると、神経細胞の働きが妨げられます。ALSでは、TDP-43というたんぱく質が本来あるべき細胞核から細胞質に移動し、異常な凝集体を作ることが多くの患者で確認されています。(文献8)
細胞内のバランス(プロテオスタシス)が崩れることで、神経細胞全体の機能も維持できなくなり、こうした変化が進行すると、筋力低下や筋萎縮といったALSの初期症状が現れるため、定期的な診察が不可欠です。
ALSの治療法(進行の抑え方)
治療法 | 詳細 | 注意点 |
---|---|---|
薬物療法 | リルゾールやエダラボンなどが進行を遅らせる目的で使用される | 根本的な治療ではなく、効果に個人差がある |
対症療法 | 呼吸補助、栄養管理、筋肉のこわばりや不安への対処 | 症状に応じた調整が必要で、定期的な評価が求められる |
手術療法 | PEG(胃ろう)や気管切開など、摂食や呼吸機能を補助する目的の処置 | タイミングや本人の意思を尊重し、生活の質とのバランスを考慮する必要がある |
再生医療 | 幹細胞治療は、手術や薬物療法に比べて副作用などのリスクが少ないとされている | 一部の医療機関で実施されており、検証段階 |
現在の医学では、ALSを根本的に治す治療法は確立されていません。
治療法はあくまでも完治ではなく、進行を遅らせたり症状を緩和したりすることで、生活の質を保つことを目的としています。治療法は症状に応じて選択され、医師と相談の上で実施されます。
薬物療法
項目 | 内容 |
---|---|
有効な理由 | 病態(グルタミン酸毒性・酸化ストレス)に直接作用し、進行を抑制する効果 |
主な薬剤 | リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミン |
対応のポイント | 診断後はできるだけ早期に開始し、対症療法と組み合わせて実施 |
ALSは進行性の病気ですが、薬物療法によって進行を遅らせることが可能です。主にグルタミン酸毒性や酸化ストレスといった神経細胞を傷つける仕組みに働きかける薬剤が使われます。
リルゾールやエダラボンは、ALSの進行抑制や生存期間の延長に有効とされています。高用量メコバラミンも、早期かつ軽症の患者に効果がある薬剤です。
これらの薬は、呼吸補助や栄養管理、リハビリなどの対症療法と併用することが重要です。治療の効果を高めるためには、診断後できるだけ早い段階での開始が推奨されます。
対症療法
症状 | 対応方法 |
---|---|
呼吸障害 | 非侵襲的換気療法(NIV)、人工呼吸器の使用による呼吸の補助 |
嚥下障害・栄養障害 | 胃瘻(いろう)による経管栄養、体重減少の予防と予後の改善 |
身体の違和感・筋肉のつっぱり(痙縮) | 筋弛緩薬、漢方薬(芍薬甘草湯)、理学療法やマッサージによる緩和 |
よだれ・むせ込み | 抗コリン薬、三環系抗うつ薬、吸引装置、必要に応じた喉頭摘出術の検討 |
不眠・精神的な不調 | 睡眠導入薬、抗うつ薬、カウンセリング、呼吸補助療法による根本対応 |
情動の不安定さ・認知症状 | 三環系抗うつ薬、SSRI、非薬物療法の活用、社会参加支援や生活の質の維持 |
ALSの対症療法は、ただ延命を目指すだけでなく、日々の苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を保つための重要な治療です。
ALSでは、呼吸困難や嚥下障害、筋肉のこわばり、精神的な不調など、症状が人によって異なります。それぞれの症状に応じた対処が重要で、呼吸補助にはNIVや人工呼吸器、嚥下障害には胃瘻による栄養管理が行われます。
筋肉のこわばりには薬や理学療法、精神的な症状には薬物療法やカウンセリングが効果的です。多方面からの支援を組み合わせることで、患者自身が少しでも不自由のない生活を続けられるようサポートします。
手術療法
手術療法 | 詳細 |
---|---|
気管切開・人工呼吸器装着 | 呼吸筋の低下に対応し、呼吸不全や窒息のリスクを回避する処置 |
胃瘻(いろう)造設術 | 嚥下障害により経口摂取が難しくなった際の栄養補給の手段 |
合併症への外科的対応 | がんなどの他疾患を合併した際に実施される手術(例:がん切除、腹腔鏡手術など) |
ALSは根本的に完治する手術はありませんが、病状に応じた手術療法は生活の質(QOL)を保つ上で重要です。呼吸が苦しくなった場合は気管切開や人工呼吸器で呼吸を補助し、嚥下が難しくなった場合は胃瘻を造設し、栄養補給を補助します。
また、がんなど他の病気を併発した際には全身状態や希望に応じて外科的治療も検討され、必要に応じて適切な時期に実施されます。手術後は多職種によるケアやリハビリが不可欠です。
再生医療
取り組み内容 | 詳細 |
---|---|
神経細胞の再生 | iPS細胞や幹細胞を用いた新たな神経細胞の作製と機能回復の試み |
病態モデルの構築 | 患者由来のiPS細胞を使ったALSの病態再現とメカニズム解明 |
創薬の促進 | iPS細胞モデルによる新薬開発や既存薬の効果検証(ドラッグリポジショニング) |
個別化医療の実現 | 患者自身の細胞を使った治療により、免疫拒絶の回避と比較的低リスクな治療の提供 |
幹細胞を使った治療法 | 乳歯や骨髄由来の幹細胞による神経保護や炎症抑制の試み |
(文献13)
ALSの新たな治療法として、神経の働きを回復させる再生医療が注目されています。自身の細胞から作ったiPS細胞や幹細胞を使い、傷ついた神経を修復したり、病気の進行を遅らせたりすることを目指しています。
最近では、患者の細胞をもとに病気の特徴を再現し、個別化された治療薬を探す研究も進行中です。幹細胞には、神経を守ったり体内の炎症をおさえる効果も期待されています。再生医療による治療はまだ研究段階にありますが、ALSの進行を抑える有力な手段になると期待されています。
以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。
ALSの初期症状が疑われたら早めの受診を
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、肩こりや筋肉のびくつき、手足の脱力感など、日常でもよくある症状から始まることがあります。とくに、腕や足が動かしにくい、階段の上り下りがしづらい、言葉が話しにくい、食べ物が飲み込みにくいといった症状が続く場合は早急に医療機関を受診しましょう。
ALSの初期症状でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、ALSに関する些細なお悩みにも真剣に耳を傾け、丁寧にアドバイスさせていただきます。
ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。
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ALSの初期症状に関するよくある質問
ALSの初期症状がある場合はどの診療科を受診すれば良いですか?
ALSが疑われる場合は、脳神経内科の受診が基本です。手足の筋力低下や筋肉の収縮、話しにくさ、飲み込みにくさなどの症状が1か月以上続く場合は、早急に検査と診断を受ける必要があります。
初期症状によっては整形外科や耳鼻咽喉科を先に受診することもありますが、ALSの確定診断には脳神経内科での評価が必要です。症状が改善しない、または他の診療科で原因がはっきりしない場合は、迷わず脳神経内科を受診してください。
ALS診断後の気分の変化は病気の影響ですか?
ALSと診断された後に気分が落ち込んだり不安を感じたりするのは、病気そのものと心理的ショックの両面が関係しています。
一部の患者では、感情のコントロールや性格に変化をきたす前頭側頭型認知症(FTD)を伴うことがあり、無気力や感情の起伏、こだわりが強くなるといった症状が見られます。また、ALSは進行性の難病のため、診断を受けたショックや将来への不安から、抑うつ状態になる方も少なくありません。
こうした精神的な変化に対しては、早めに医師や専門スタッフへ相談し、必要に応じて精神科医やカウンセラーの支援を受けることが大切です。適切なサポートを受けることで、気持ちが少しずつ整い、生活の質を保つことが期待できます。
ALSと診断後の将来不安への対処法を教えてください
ALSと診断された後の将来への不安には、いくつかの対処法があります。まずは、症状の変化について相談できる環境を整えることが重要です。また、ALSへの理解を深めることで、不安を軽減する助けになります。
専門のカウンセラーによる心理的サポートも有効で、感情の整理やストレスの緩和につながるでしょう。家族や友人、患者会とのつながりを持つことで、孤独を感じにくくなります。こうした支えを活用しながら、ひとりで抱え込まずに過ごすことが大切です。
当院「リペアセルクリニック」は、症状への不安で押しつぶされそうなときも、患者様に寄り添い、少しでも前向きな日々を送れるよう、サポートいたします。不安をひとりで抱え込まず、ご相談ください。
ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。
ALSと診断されましたが支援制度や保険制度は利用できますか?
ALSと診断された場合、さまざまな公的支援や保険制度を利用できます。以下の内容がALSで利用できる主な支援制度です。
制度名 | 内容 |
---|---|
指定難病医療費助成制度 | 治療費の自己負担を軽減(所得に応じて上限あり) |
身体障害者手帳 | 医療費助成、福祉サービス、税の減免、交通機関の割引など |
障害者福祉サービス | 介護・生活支援、補装具の給付、訪問介護などのサービスが利用可能 |
介護保険 | 40歳以上のALS患者は介護保険サービスの利用が可能(特定疾病として対象) |
各支援は自己申請が必要なため、医療機関や保健所、市区町村の福祉窓口に早めに相談し、手続きを進めましょう。
参考資料
日本神経学会事務局「神経内科の主な病気」一般社団法人 日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/index.html(最終アクセス:2025年06月15日)
公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/52?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日)
兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター
https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05.html(最終アクセス:2025年06月15日)
公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状」健康長寿ネット,2019年2月7日
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/genin.html(最終アクセス:2025年06月15日)
QLife「筋萎縮性側索硬化症」遺伝性疾患プラス, 2020年5月1日
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株式会社メディカルノート「筋萎縮性側索硬化症」MedicalNote
https://medicalnote.jp/diseases/%E7%AD%8B%E8%90%8E%E7%B8%AE%E6%80%A7%E5%81%B4%E7%B4%A2%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87(最終アクセス:2025年06月15日)
鈴木陽一.「ADSに対する生活支援機器筋萎縮性索硬化症の疾患の特徴」『日本義肢装具学会誌』, pp.1-7, 2023年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/39/4/39_272/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年06月15日)
「ALS/FTD の原因となる凝集体形成機構を解明 ~神経細胞の毒となるタンパク質凝集を抑制する薬剤などの研究発展に期待~」『北海道大学』, pp.1-5,2024年
https://www.amed.go.jp/news/seika/files/000129135.pdf(最終アクセス:2025年06月15日)
阿部 康二.「ALS の臨床,病態と治療」『認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン』, pp.1-8, 2012年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/26/3/26_270/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日)
祖父江 元.「ラジカットによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」『田辺三菱製薬』, pp.1-16
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国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST「日本臨床麻酔学会誌」J-STAGE, 2015年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/35/7/35_711/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年06月15日)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞を用いて筋萎縮性側索硬化症の新規病態を発見―早期治療標的への応用に期待―」AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構, 2019年7月2日
https://www.amed.go.jp/news/release_20190702-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日)