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PRP療法とAPS療法の違い、期待できる効果と治療法 皆さんは近代になって研究室での実験から、医療の現場で実施されるまでに至った「再生医療」という最先端の医療分野があることを御存知ですか。 いわゆる再生医療とは、怪我や病気によって低下あるいは喪失した生体機能を従来の医療方法ではなく、人為的に加工や培養して作製した細胞や組織などを用いて人体に元来備わっている修復能力を増大させて症状を改善させることが出来る可能性を秘めた未来的な治療方法です。 これは、一昔前ならSFの世界、まともに語っていたなら「夢でも見てるの」かと夢物語にされかねない非現実的な内容でした。このような治療があることや、実際に受けることが可能であることを知る一般人はあまりいません。 それもそのはず現場の医師でさえ詳細を知る方はまだまだ少ないのが現実なんです。 では、どんな治療方法なのか? そもそも私たちの血液中には、赤血球や白血球、あるいは血小板と呼ばれる成分が含まれていることはご存知ですね。それぞれには、特化した役割が存在しています。 その中でも血小板は外傷によって皮膚表面が傷ついた場合や、関節捻挫、あるいは筋肉打撲などで負傷をした際に損傷部位を治癒させる働きを有しています。つまり、自己治癒力です!傷ついたり、痛んだりした組織を自動で修復してしまう!すごい機能です。 このような働きができるのは血小板の中に含まれて、傷んだ組織部位を治す「成長因子」と呼ばれる成分のお陰お陰です。 それが今回、ご紹介するAPS療法の基礎となるものです。 血液中の血小板から濃縮して大量の成長因子を含む「多血小板血漿」は、昨今の再生医療の分野で大変着目されており、英語表記でPlatelet Rich Plasma(略して以下、PRP)と呼称されているものです。 さらに、Autologous Protein Solution(略して以下、APS)を用いた療法は、自己タンパク溶液として、前述したPRPを特殊な過程で更に濃縮したものです。このAPS治療は、目下のところ慢性的な膝関節等の疼痛に対する再生医療という新たな最先端治療として注目されているものなのです。 今回は、再生医療の新人!APS療法について解説していきましょう。 PRPとの違いとAPSの成り立ち 自己多血小板血漿、注入療法とも呼ばれるPRP療法については聞き覚えのない馴染みが薄い治療法に感じられるかもしれませんね。しかし、実のところ海外においては10年以上の使用実績がある方法なのです。 ケガなど、傷ついた部位の修復に作用する血小板に含まれる成長因子を取り出すPRP療法は、私たちがもっている治癒能力や組織の修復能力、再生能力を引き出すという目的があります。 一方で、APS治療は、患者様自身の血液成分から特殊な専用医療機器を用いてAPS成分のみを抽出します。 このAPSの抽出方法は、基本的にPRPそのものを更に遠心分離器を活用して特殊加工することによって、炎症を抑制する役割を有したタンパク質と軟骨を保護して損傷を改善させる「成長因子」を高濃度に抽出したものになります。 このような抽出背景から「APS」は、まさに「次世代型のPRP」とも表現されることがあります。 抽出したAPSを関節内などの疼痛部位に向けて成分を注射することによって関節部の疼痛や炎症の軽減のみならず、軟骨の変性進行や組織破壊を抑制することが期待されるものです。 APS治療は、現在のところではまだ「変形性膝関節症」に痛みなどを対象疾患を限定して使用されている段階ですが、これまでのPRP治療でも難渋していた患部改善にも一定の効果を示すことが徐々に判明してきています。 尚、APS療法では患者さんご自身の血液を基準にして作るために異物免疫反応が引き起こされる可能性は極めて低確率であると考えられています。 また、本治療はPRPと同じく、手技的に採血操作と注射投与だけですので、手術などのように患者さんの身体的な負担も大幅に少なくて済むという特徴があります。 APS療法に期待できる効果や実際の治療法など さて、ここからは変形性膝関節症に対してAPS療法で期待できる効果や実際の治療法などについて紹介しましょう。 ご注意頂きたいのは、APS療法は、再生医療ではありますが自己の血液から抗炎症成分のみを濃縮して抽出したあと、関節内に注射することで関節の軟骨を修復し、再生させるという観点ではなく、膝痛の症状緩和に焦点を当てた特化的治療であることです。 膝の変形性関節症では、疾患が進行することによって「半月板の損傷」や、「靭帯のゆるみ」など膝関節のバランスが崩れることで軟骨がすり減り、膝関節が変形して発症します。 また、変形性膝関節症では膝関節部における変形度の進行に伴って、軟骨がすり減り、半月板が擦り減って傷み、さらには滑膜炎など炎症が起きて膝部に水が溜まることがあります。 従来、治療としては繰り返し鎮痛剤を内服することや、ヒアルロン酸を関節内に注入するなどが代表的な治療法でした。しかし、鎮痛剤を飲み続ける是非や、ヒアルロン酸の効果が期待できなくなった変形性膝関節症の患者様の中には、このAPS治療によって症状が幾ばくかの改善を示すケースがあることが分かってきたのです。 一般的にAPS治療では、投与してからおよそ1週間から1か月程度で患部組織の修復が起こり始めて、だいたい治療してから約2週間から3ヶ月前後までには一定の効果が期待できると言われています。 海外のAPS治療に関する報告例では、APSを一回注射するだけで、最大約24ヶ月間にもわたって痛みに対する改善効果が継続するとの実例も紹介されていました。ただし、これは一例で実際の治療効果や症状が改善する持続期間に関しては、患者さんの疾患の程度、条件によって様々、個人差があり変化することをご理解ください。 また、このAPS治療は、PRPと同じく、患者さん自身の血液を活用して生成するために、通常ではアレルギー反応や免疫学的な拒絶反応は出現しないと考えられている点も良いい面でのポイントです。 APS治療における実際の手順 1)まず約50~60mlの血液を採取 2)厚生労働省が認めている特殊な技術で処理し、血小板成分を濃縮したPRPを抽出 2)精製されたPRP物質をさらに濃縮してAPSを抽出 こうして抽出した後、痛みを自覚されている関節部位に超音波エコー画像を見ながらAPS成分を注射して投与する まとめ・PRP療法とAPS療法の違い、期待できる効果と治療法 従来におけるPRP療法(自己多血小板血漿注入療法)は、患者自身の血液中に含まれる血小板を活用した再生医療です。 そして、昨今特に注目されているAPS治療では、先のPRPを更に濃縮。このAPS成分を患部に注射投与してから平均しておよそ1週間から1か月程度で組織修復が促進されて更には疼痛緩和に繋がる可能性があります。 なおAPS治療を現実的に受けた当日は、入浴や飲酒、あるいは喫煙、また激しい運動やマッサージなどは出来る限り回避するように意識しましょう。 APS注射直後には、個人差はあるものの一時的に痛みや腫脹、発赤などの症状が出ることがありますが、疼痛があるために関節部位を全く動かさないと逆効果になってしまうこともあります。 ここのあたり治療後の行動については、くれぐれも十分に主治医と相談するようにしましょう。また現段階では、このAPS治療は保険適応外であり自費負担になります。 費用は、それぞれの対象医療施設や治療適応となる患部箇所などによって異なりますので、この治療法をもっと知りたい方は私どもほか、専門の外来へお問い合わせされることをお勧めします。 このAPS療法のほかにも再生医療として、私どもが推進する「幹細胞治療」という関節部分の軟骨を自己治癒力を用いて再生させるという正に未来的な治療法も存在し、この分野から目が離せません。 いずれにせよ関節に問題があって、「後は手術しかないと」言われた方は再生医療をご検討されてはいかがでしょうか。私たちは再生医療の幹細胞治療で1,600例を超える豊富な症例を有しています。いつでもご相談ください。 以上、PRP療法とAPS療法との違いや期待できる効果、治療法について記させていただきました。 S008 監修:医師 加藤 秀一 ▼ PRP療法をさらい詳しく PRPを使った再生医療は、人間が持つ自然治癒力を活かして治療する先端医療です
2021.10.20 -
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高位脛骨骨切り術の利点と知っておきたいデメリット 変形性膝関節症の治療方法には、大きく分けて「保存療法」と、「手術療法」の2つがあります。 保存療法にはリハビリテーション、装具療法、薬物療法などがあり、これらを色々と組み合わせることで行われます。そして、手術という選択肢は保存療法で効果が得られない場合に検討することになります。 手術療法の中でも、特に「高位脛骨骨切り術」と呼ばれる手術は、O脚変形のために内側部(内側大腿から脛骨関節)に偏った過重なストレスを、自分の骨を切って少し角度を変える処置が施されるものです。 この手技によって、膝の内側部に過度の負担となっていた外力のベクトルを比較的きれいな軟骨の存在する外側部(外側大腿から脛骨関節)に移動させることが出来ます。 一般的には、手術を受けた結果として通常では脚の形はO脚からX脚に変化します。 この手術治療では、患者さんの膝関節が温存できますので、正座が引き続き可能であり、普段の生活はもとより、スポーツや、農業などの仕事へ復帰出来る方々も多くいらっしゃいます。 一方で、ある程度の入院期間が必要で術後に骨が癒合するまでの間、痛みが多少なりとも続くことや、膝関節部周囲の機能的な回復には、リハビリをしっかりと行うことが必要となってきます。 そこで今回は、高位脛骨骨切り術が適応となる症例や高位脛骨骨切り術について予後に後悔のないように、その利点、メリットとデメリットについて説明していきましょう。 高位脛骨骨切り術が適応となる症例とは? まず過度なスポーツ活動による関節に対して負担の大きな動き、専門的に言うと膝内反モーメント(ひねり)の増大により内側骨端線が早期閉鎖して脛骨内反(O脚)が起こりやすく、普段の生理的なレベルを逸脱した脛骨内反そのものが将来の「変形性膝関節症」の発症リスクとなります。 要は、通常とは違う動き、激しい動き、加重、ひねり、衝撃などが繰り返されることで関節の負担が増えると、同時に関節症のリスクも増えるということです。 後悔先に立たず!激しい運動の前には、ストレッチや準備体操をしっかり行い、終わりには整備体操やストレッチなどを入念に行うなど体に対する十分なケアを忘れず実施しましょう。 加えて申し上げるなら、これら体操やストレッチも自己流ではなく、適切な方法をトレーナーなどから指導を受けて行うべきです。通常では、股関節から足の甲までを一直線に結ぶ線を「荷重線」といいます。 一般的に変形性膝関節症を罹患している方の多くは、この荷重線が膝の内側を通っているので、膝の内側に荷重がかかり過ぎて膝に障害が起こります。高位脛骨骨切り術では、この「荷重線」を膝の中心に近づける手術を行います。 ではどんな方々がこの手術を受ける対象になるのでしょうか 一般的には、高位脛骨骨切り術の適用年齢は、概ね50歳〜75歳までで、変形性膝関節症を認める症例の中でも中程度の変形を呈する方に薦められることが多いです。 若年者でも症状が強いケースであるならば高位脛骨骨切り術を行って、下肢機能軸や脛骨近位の内反角を正常化すべきであるという意見もあります。 また、人工膝関節置換術は、骨と人工の異物を接合する都合上、ゆるみなど再手術が必要になることがあり、そうなれば初回の手術よりも再手術は、手技的に難しくなることがあります。 そのため、再手術のリスクを避けるために65歳よりも若い方にはこの高位脛骨骨切り術が勧められています。 また、変形性膝関節症の症状が中程度までで、まだまだ運動や肉体を使う仕事を続けたいなどの場合を含めて年齢を問わず活動性が高い患者さんには本手術治療を受けることをお勧めします。 高位脛骨骨切り術のメリットとデメリット さてここからは、「高位脛骨骨切り手術」自体の利点と欠点について紹介していきます。 まずは利点、「メリットから」ご説明します 高位脛骨骨切り術では、O脚に変形した脚を、X脚ぎみに矯正して変形性膝関節症の進行を遅らせることが出来る唯一の術式と考えられています。この手術の最大のメリットは、最終手段の人工関節を使わずに「自分の関節を残したまま」で症状を改善することが期待できる点です。 また、比較的侵襲(体への負担)が少ない手術であり、手術後の日常生活に対する制限も少なく、スポーツさえ継続できて、要否はともかく正座が可能になる症例も多く見受けられるため、変形性膝関節症において現在最も推奨される治療法であると言えるでしょう。 しかも、最近の高位脛骨骨切り術は、新しい手術方法が開発された結果、術後早期からの歩行も可能になっています。 入院期間も従来の人工膝関節置換術とほとんど変わらず、およそ4週間~6週間が平均的です。 高位脛骨骨切り術を受けた場合のリハビリは、術後1週間位から徐々に膝に体重をかけ始めて、3週間以内には全体重をかけて歩行訓練を施行します。そして、4週間~5週間程度で安定した歩行、階段の昇降、日常生活動作などをクリアすることで軽快退院の運びとなります。 次に、知っておくべき欠点、「デメリット」に関するお話しです 従来の高位脛骨骨切り術は、骨癒合までの数ヶ月間、手術した足に十分な体重をかけることが出来ず、入院が長期にわたるのが欠点でした。そのため、仕事をお持ちの方にとって復帰に時間が必要なことは大きな欠点でした。 そして、これまでにも高位脛骨骨切り術の処置に伴って腓骨短縮などの合併症や有痛性偽関節(骨がくっつかず、痛みも出る)が引き起こされることが問題としてあります。 また、高位脛骨骨切り術を受けたのちに、骨が癒合するまで多少なりとも膝部の痛みが続くと言われており、実際に術後の痛みが軽快して骨癒合が完了するまでに個人差はあるものの、およそ半年以上は時間がかかるとも伝えられています。 つまり、膝機能がある程度満足が得られるレベルまで回復するためには、気苦労の多いリハビリをコツコツ、しっかり行う必要があると言えるでしょう。 高位脛骨骨切り術のメリットとデメリット/まとめ 変形性膝関節症は慢性疾患であり、骨肉腫などのように、命に関わるといった疾患ではありません。従って、どのような治療法を選択するかは、患者さん一人ひとりが望むゴールによって変わってきます。 例えば、変形性膝関節症を抱える80代の高齢者であっても、「登山や舞踊が長年の生き甲斐なので今後もあきらめずに続けたい」などの目標がある場合には、高位脛骨骨切り術で自分の関節を温存できるようにチャレンジするケースもあります。 高位脛骨骨切り術とは、脚の形をO脚からX脚に変える手術であり、変形性膝関節症によって内側に偏っている過重ストレスを自分の骨を切って角度を変えることによって反対の外側に移動させる治療方法です。 この手術では、術後に多少疼痛は伴うデメリットが挙げられる一方で、自分の関節を温存して機能を維持することができるために術後の日常生活にほとんど制限がない所が大きなメリットと言えます。 いずれにしましても病院等の医療機関を受診され、しっかりご相談されることをおススメします。 今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 S006 監修:医師 加藤 秀一
2021.10.09