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「ダッシュボード損傷ってどのような症状があるの?」「事故後の治療やリハビリはどうなるの?」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 ダッシュボード損傷は、交通事故の衝撃によって膝や大腿部を打ち付けることで起こる外傷です。激しい痛みや腫れ、歩行困難など、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 今回は、ダッシュボード損傷の典型的な症状や治療法、リハビリテーションのプロセスなどを詳しく紹介します。この記事が、事故後の不安や痛みに悩むあなたの助けとなり、回復への道筋を示すものになれば幸いです。 ダッシュボード損傷の症状と治療の必要性 ダッシュボード損傷は、交通事故の際、車両の急停止や衝突によって乗員が車内のダッシュボードに膝や大腿部を強打することで生じる外傷を指します。シートベルトを着用していない場合や、エアバッグが正常に作動しなかった場合に発生しやすいとされています。 ダッシュボード損傷の症状は、軽度の打撲から骨折、靭帯損傷まで幅広く、早期の診断と適切な治療が重要です。放置すると、後遺症として長期的な痛みや機能障害を引き起こす可能性もあるでしょう。 適切な治療とリハビリテーションを受けることで、多くの方が回復へと向かうことができるでしょう。そのため、事故直後から適切な医療機関を受診し、専門家の指導のもと、回復に向けた取り組みをはじめることが大切です。 ここでは、ダッシュボード損傷の代表的な症状と、早期治療の重要性について詳しく説明します。 ダッシュボード損傷の典型的な症状とその原因 ダッシュボード損傷の症状は、損傷部位や程度によって異なりますが、以下の例が挙げられます。 ・膝や大腿部の激しい痛み ・損傷部位の腫れや内出血 ・脚の可動域制限や歩行困難 ・膝の不安定感やカクカク音 ・大腿部のしびれや感覚鈍麻 これらの症状は、軟部組織の損傷や骨折、靭帯損傷などが原因で起こります。痛みや腫れが強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 早期治療の重要性と放置した場合のリスク ダッシュボード損傷を放置すると、以下のようなリスクがあります。 ・痛みや機能障害が長期化する ・関節の不安定性が残り再受傷しやすくなる ・軟骨や靭帯の変性が進行し変形性関節症になる ・日常生活動作(ADL)の低下により生活の質(QOL)が下がる このような状態を避けるためにも、早期の診断と治療開始が不可欠です。専門医による適切な評価と、個々の症状に合わせた治療計画の立案が求められます。 また、ダッシュボード損傷の特徴的な点として、膝への直接的な衝撃だけでなく、その力が大腿骨を通じて股関節にまで伝わることがあります。これにより、一見してわかりにくい股関節周辺の損傷が生じる可能性があります。 そのため、膝に明らかな症状がある場合でも、股関節や大腿部全体の痛み、違和感、動きにくさなどにも注意が必要です。このような症状がある場合は、医療機関で股関節を含めた総合的な検査を受けることが重要です。 治療方法の選択と実際 ダッシュボード損傷の治療は、損傷の種類や重症度によって異なります。ここでは、事故直後の応急手当から、病院での治療、リハビリテーションまでを順を追って説明します。 事故直後の応急手当と注意点 事故現場での応急手当では、以下のような処置が行われます。 やるべきこと 具体的な方法例 注意点 動かさない 怪我した部分をそのままの状態で保つ 無理に動かすと症状が悪化する可能性がある 冷やす 氷や冷却シートを使って患部を冷やす 直接皮膚につけず、タオルなどを間に挟む 固定する 骨折の可能性がある場合、板や厚紙で固定 きつく縛りすぎないよう以下のポイントに注意する ・指先の色が変わらないか確認する ・激しい痛みや痺れがないか確認 ・指先が少し動かせるか確認 ・腫れに備えて少し余裕を持たせる これらの処置は痛みや腫れを抑える効果がありますが、あくまで応急処置です。必ず病院で診てもらいましょう。 病院での診断と治療方針の決定 病院では、詳細な問診や身体所見、X線やMRIなどの画像検査を行い、損傷の種類や程度を評価します。これをもとに、以下のような治療方針が立てられます。 診断・治療の段階 内容例 1. 診察 • 症状の詳しい聞き取り • 痛みの場所や程度、動かせる範囲の確認 2. 検査 • レントゲン撮影:骨の状態確認 • MRI検査:筋肉や靭帯の状態確認(必要に応じて) 3. 治療方針の決定 • 軽症:安静、痛み止め、湿布 • 中等度:サポーター使用、リハビリ • 重症:手術の検討 治療方針は、患者さんの状態や生活環境などを考慮して、医師と相談の上で決定します。 痛み止めの種類と使用上の注意 ダッシュボード損傷では、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が第一選択となります。これらの薬剤は、炎症を抑えると同時に、痛みを和らげる効果が期待できるでしょう。具体的には、ロキソプロフェンやジクロフェナク、セレコキシブなどがよく使用されます。 また、鎮痛補助薬として、アセトアミノフェン(カロナールなど)やトラマドール(トラマールなど)が用いられることもあります。アセトアミノフェンは純粋な鎮痛効果があり、トラマドールは中程度の痛みに効果があります。 痛み止めの使用に際しては、医師の指示に従い、適切な用量と期間を守ることが大切です。NSAIDsは胃腸障害、アセトアミノフェンは肝機能障害、トラマドールは嘔気やめまいなどの副作用に注意が必要です。自己判断での使用は避け、必ず医師の指導のもとで服用しましょう。 リハビリテーションの目的とアプローチ方法 手術療法の有無にかかわらず、ダッシュボード損傷の回復には、リハビリテーションが欠かせません。理学療法士や作業療法士による専門的なアプローチにより、以下のような効果が期待できるでしょう。 ・関節可動域の改善と拘縮予防 ・筋力とバランス能力の向上 ・歩行や日常生活動作の再獲得 ・仕事や趣味などの社会活動への復帰支援 リハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて段階的に進められます。時間と労力を要しますが、粘り強く取り組むことが回復への近道となるはずです。 回復過程の段階と各時期のポイント ダッシュボード損傷からの回復は、一朝一夕にはいきません。ここでは、回復過程を段階別に説明し、それぞれの時期に求められるケアのポイントを紹介します。 回復の一般的な目安と個人差 ダッシュボード損傷の回復期間は、損傷の重症度や治療法によって異なりますが、おおよそ以下のような目安が示されています。 ・軽度の打撲や捻挫:2~4週間 ・中等度の靭帯損傷:6~8週間 ・重度の骨折や手術療法後:3~6か月 ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいことに留意が必要です。無理のない範囲で、医師の指示にしたがってリハビリテーションに取り組みましょう。 急性期の安静と炎症コントロール 受傷直後から数日間は、急性期と呼ばれます。この時期は、以下のようなケアが中心となります。 急性期のケア 具体的な内容 安静と患部の保護 • 患部に負荷をかけない姿勢の保持 • 必要に応じて固定や装具の使用 冷却療法 • アイシングによる炎症と痛みの軽減 • 15-20分ごとに冷却と休憩を繰り返す 薬物療法 • 医師の指示に基づく鎮痛剤の使用 • 炎症を抑えるための薬剤投与 急性期は、損傷の拡大を防ぎ、炎症を抑えることが何よりも大切です。医師の指示に従い、安静を保ちましょう。 回復期の可動域訓練と筋力増強 急性期の症状が落ち着いてくると、回復期に入ります。この時期は、以下のようなアプローチを行います。 回復期のアプローチ 具体的な内容例 可動域訓練 • 段階的に関節の動きを改善 • 痛みの範囲内で少しずつ可動域を広げる 筋力増強訓練 • 軽度の負荷から開始 • 徐々に負荷を増やしていく 日常生活動作の練習 • 歩行、階段昇降、座る、立つなどの基本動作 • 日常生活に必要な動作の再獲得 回復期は、徐々に運動量を増やしていく時期です。痛みに耐えながらも、リハビリテーションに積極的に取り組むことが回復への鍵となるでしょう。 社会復帰期の機能回復と日常生活動作の獲得 ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期に行うケアは以下のとおりです。 目標 具体的な取り組み例 1. 体の機能を元に戻す • 歩行や階段の昇降をスムーズに行えるようになる • 長時間の座位や立位に耐えられるようになる 2. 仕事や趣味に戻る • 仕事に必要な動作ができるようになる • スポーツなどの趣味活動を再開する 3. 再発を防ぐ • 適切なストレッチや運動を日課にする • 正しい姿勢や動作を意識する ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期には、上記の目標に取り組みます。この時期は、体の回復だけでなく、心のケアも大切です。医療専門家のアドバイスを受けながら、焦らず少しずつ回復を進めていくことが重要です。 心理面のケアの重要性と方法 ダッシュボード損傷は、身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も大きいものです。事故後のストレスに加え、長期的な療養生活は、患者さんの心身を大きく疲弊させます。 ここでは、心理面のケアの重要性と、その方法について説明します。 カウンセリングの役割と効果 カウンセリングとは、「医療従事者が患者さんの心理的な問題や悩みに耳を傾け、解決に向けて支援すること」を指します。 ダッシュボード損傷の患者さんに対するカウンセリングでは、以下のような点に焦点が当てられます。 ・事ゆえによる心的外傷への対処 ・療養生活にともなうストレスの軽減 ・リハビリテーションへのモチベーション維持 ・家族や職場との関係調整 カウンセリングは、患者さんの心の安定と回復への意欲を高める上で、重要な役割を果たします。 効果的なカウンセリングのためのコツ 効果的なカウンセリングを行うためには、以下のようなポイントに留意が必要です。 ・患者さんの訴えに傾聴し共感的な態度で接する ・患者さんの感情表出を促し受け止める ・回復への見通しを示し希望を与える ・患者さんの自主性を尊重し意思決定を支援する ・家族や医療チームと連携し社会的サポートを強化する これらのアプローチにより、患者さんは安心感を得て、前向きな気持ちでリハビリテーションに臨むことができるでしょう。 社会復帰に向けた準備と支援 ダッシュボード損傷は、一時的に仕事や社会生活から患者さんを遠ざけてしまいます。しかし、適切な支援があれば、多くの方が元の生活を取り戻すことができます。ここでは、社会復帰に向けた取り組みについて説明します。 利用可能な福祉サービスと申請方法 社会復帰の過程では、以下のような福祉サービスが利用できます。 ・障害者手帳の取得と各種助成制度の活用 ・職業評価と職業訓練の実施 ・ハローワークを通じた就労支援 ・障害者雇用の支援制度の利用 これらのサービスを上手に活用することで、社会復帰への道筋がより明確になるでしょう。医療ソーシャルワーカーや就労支援員と相談しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。 職場復帰の手順と上手な職場との調整方法 ダッシュボード損傷からの職場復帰には、以下のような課題がともなう可能性があるでしょう。 ・後遺症による身体的な制限への対応 ・長期休職にともなう業務スキルの低下 ・職場の理解と協力体制の構築 ・復職後のストレスマネジメント これらの課題に対しては、以下のような対策が求められます。 ・主治医や産業医との連携による復職計画の立案 ・段階的な職場復帰プログラムの実施 ・必要に応じた職務内容の調整や配置転換 ・上司や同僚への情報共有と理解の促進 ・ストレス対処法の習得と積極的な休養の確保 職場復帰は、患者さんと企業、医療機関が三位一体となって取り組むべき課題です。お互いの立場を尊重しながら、無理のない範囲で歩みを進めていきましょう。 セルフケアの進め方と工夫 ダッシュボード損傷からの回復には、医療機関でのケアだけでなく、患者さん自身の努力も欠かせません。ここでは、セルフケアの重要性と、その具体的な方法について説明します。 回復を促す食事の摂り方 回復期には、以下のような食事の工夫が大切です。 栄養素 役割 具体的な食材 タンパク質 組織の修復促進 鶏肉、魚、豆腐、卵 ビタミンC 免疫力向上、骨・軟骨の形成 みかん、ブロッコリー、パプリカ カルシウム 骨の修復と強化 牛乳、ヨーグルト、小松菜 鉄分 貧血予防、組織の酸素供給 ほうれん草、レバー、赤身肉 食物繊維 便通改善 玄米、野菜、果物 オメガ3脂肪酸 炎症抑制 サバ、アマニ油、クルミ 食事は、体の回復を助ける上で重要な役割を果たします。管理栄養士や医師と相談しながら、自分に合った食事プランを立てましょう。 自宅でできる運動と注意点 医師の許可が出た後は、以下のような運動を心がけましょう。 ・ストレッチや関節可動域訓練による柔軟性の維持 ・軽度の有酸素運動による全身持久力の向上 ・筋力トレーニングによる損傷部位の機能回復 ・バランス練習による転倒予防 運動は、身体機能の改善だけでなく、ストレス発散にも効果的です。無理のない範囲で、毎日の生活に運動を取り入れていきましょう。 ストレス対策の方法と生活への取り入れ方 ダッシュボード損傷の回復過程では、以下のようなストレス対策が推奨されます。 ・十分な睡眠時間の確保 ・趣味や娯楽活動による気分転換 ・友人や家族との交流による社会的サポートの強化 ・リラクセーション技法(深呼吸、瞑想など)の習得 ・必要に応じた医療従事者への相談 ストレスは、回復の妨げになるだけでなく、痛みを増強させる原因にもなります。自分なりのストレス対処法を見つけ、上手に実践していきましょう。 典型的な症例から学ぶ回復のプロセス ここでは、ダッシュボード損傷の典型的な症例を紹介し、回復のプロセスを具体的に説明します。 ダッシュボード外傷による股関節付近の骨(大腿骨頭)骨折からの回復について、医学研究が行われています。 [1] 井手尾医師らの研究(2016年)では、以下のような結果が得られました。 ・30代の男性4人を約11か月間観察 ・骨折の状態に応じて手術方法を選択 ・全員が自分で歩けるまでに回復 ・深刻な合併症は見られず これらの結果は回復の可能性を示していますが、研究者たちは次の点を指摘しています。 ・より長期的な観察が必要 ・さらに多くの患者での研究も必要 この研究から、適切な治療を受ければダッシュボード外傷からの回復が期待できることがわかりました。ただし、個々の状態に合わせた治療と長期的な経過観察が重要です。[1] 交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こるダッシュボード外傷について、医師たちが研究を行っています。 また、[2] 櫛田医師らのグループ(1994年)が行った研究では、このような怪我をした患者さんの回復過程を調査しています。その結果、以下のようなことがわかりました。 ・怪我の種類によって回復の仕方はさまざまですが、多くの場合で回復が見られました ・適切な治療とリハビリを受けることで、回復の可能性が高まります ・専門医による継続的な観察と支援が、回復に役立ちます この研究から、ダッシュボード外傷からの回復は十分に可能であることが示されています。ただし、一人ひとりの状態に合わせた治療と、時間をかけた経過観察が大切です。 医療技術の進歩により、今後さらに回復の可能性が高まることが期待されます。怪我をしてしまった場合でも、希望を持って治療に取り組むことが大切です。[2] これらの事例は、ダッシュボード損傷からの回復が可能であることを示しています。適切な医療ケアとリハビリテーション、そして患者さん自身の努力により、多くの方が事故前の生活を取り戻すことができるのです。 まとめ ダッシュボード損傷は、交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こる怪我です。 本記事では以下の点について説明しました。 ・症状 ・原因 ・治療方法 ・回復過程 ・心理的ケア ・社会復帰 事故直後は不安や痛みで圧倒されそうになることもありますが、医療従事者や周囲の支えを受けながら、一つひとつの課題に向き合うことで回復への道が開けていくでしょう。 この記事が、ダッシュボード損傷で悩む方への道しるべとなり、回復への一歩となれば幸いです。 参考文献一覧 ^ [1]井手尾勝、政等裕、安楽喜久、堤康次郎、安藤卓、立石慶和、田原隼、松下紘三,大腿骨頭骨折の治療経験,整形外科と災害外科, 65(3):518-522, 2016. ^ [2]櫛田 学, 吉良 秀秋, 藤樹 宏, 大里 祐治.ダッシュボードインジャリーにおける骨折の特徴と治療.,西日本整形・災害外科学会雑誌, 43(3):1089-1093, 1994. http://up2医学書院.医学大辞典第2版.ダッシュボード損傷.2009-02 今日の整形外科治療指針第8版.後十字靭帯損傷.2021-10 今日の整形外科治療指針第8版.股関節脱臼骨折.2021-10 日本脂質栄養学会.オメガ3脂肪酸と骨力 コツコツ骨ラボ,骨折予防のための栄養摂取とは 厚生労働省."日本人の食事摂取基準(2020年版) 農林水産省,食事バランスガイド 日本整形外科学会,骨折 日本整形外科学会パンフレット 日本リハビリテーション医学会,運動器のリハビリテーション治療
公開日:2024.10.07 -
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むちうち症は交通事故の衝撃やスポーツ中の激しい体の動きなどにより起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 そこで本記事では、むちうち症の概要や治療方法、セルフケアや精神的なケアについて解説しています。 むちうち症と診断された方はぜひご参考ください。 むちうち症は交通事故の衝撃により起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 むちうち症の概要 はじめに、むちうち症の概要について解説します。 むちうち症とは何か? むちうち症とは、自動車事故やスポーツ中の激しい体の動きなどによって生じるけがの一種です。交通事故の場合、事故の衝撃により頚部が鞭(むち)を打ったようにしなった結果、首の筋肉、脊髄や神経根などの神経、じん帯、頚部の椎間板などが損傷され、事故後に首や背中に痛みが出てしまいます。医学的には「外傷性頚部症候群」「頚椎捻挫」「頚部挫傷」などと呼ばれます。 むちうち症の症状は受傷部位や加わった衝撃の程度によりさまざまですが、頚部や肩、頭などに表れやすいです。よくみられる症状は下記のとおりです。 首や背中、腰の痛み 頭痛 耳鳴り 吐き気 しびれ 肩こり 腕や手のしびれ 腕や手の動かしにくさ 目が見えづらい 倦怠感 不眠 うつ状態 基本的に、これらの症状は受傷後数時間~数日後に自覚されることが多いです。受傷から発症までにタイムラグがある原因として、事故時に多く分泌されるアドレナリンの作用により症状を自覚しにくい、あるいは受傷部位の炎症の増強にともなって痛みが徐々に悪化していくなどの理由が考えられます。 また、むちうち症にはいくつかのタイプがあり、それによっても症状の種類が異なります。 むちうち症の種類 特徴 出現しやすい症状の例 頚椎捻挫型 椎間板やじん帯が損傷している可能性がある 首や肩の痛み、肩の動かしにくさ、肩や腕の重さ 神経根損傷型 腕の感覚を司る神経が椎間板に圧迫される 腕の痛み、知覚異常、しびれ、筋力低下 脊髄損傷型 脊髄が傷つく 手足のしびれ、麻痺、歩行障害、排泄障害 自律神経障害型 (バレー・リュー型) 首の自律神経が障害される 頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、後頭部の痛みなど 症状の発生原因 むちうち症が起こるのは、事故によって「首がしなった後、急激に戻る」のが原因です。後方からの追突事故の場合、ぶつかられた衝撃によって胴体が前方へ出た後、頚部が後ろに反るようにしてしなります。また、正面衝突の場合は胴体が後ろへ突き出し、頚部は前方へしなります。側面からの衝突事故においては、衝突された方向によって首が左右のどちらかにしなります。このように首に不自然な力が加わることで、頚椎を支えているじん帯や神経、結合組織などが損傷してしまうのがむちうち症発症のメカニズムです。 むちうち症の多くは交通事故によるものですが、スキーやローラースケート時の転倒などによっても首のしなりと急激な戻りが発生し、むちうち症を発症することもあります。 むちうち症の治療方法 むちうち症の治療は、正しい診断をもって始まります。事故に遭ったら必ず整形外科を受診し、画像検査、問診など必要な検査を受けましょう。むちうち症と診断されたら、投薬などの治療が始まります。むちうち症の治療では医学的アプローチはもちろんのこと、セルフケアも重要です。ここでは、医学的な治療とセルフケアについてそれぞれ解説します。 医学的アプローチ むちうち症の治療は、受傷部位や組織損傷の程度などによって異なります。痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤を使用し安静にするのが基本です。冷湿布やアイシングによる患部の冷却も炎症を和らげるのに効果的です。 また、必要に応じて頚椎カラーの装着が必要となる方もいます。頚椎カラーの装着方法や装着期間は医師の指示に従いましょう。痛みが回復した後にも頚椎カラーによる固定を続けていると、首の筋肉の拘縮や萎縮の原因となりかえって症状が悪化する可能性があるため注意が必要です。 痛みが緩和されてきたら、徐々に首を動かすリハビリやストレッチを始めます。医師や理学療法士から指示されたストレッチがあれば、無理のない範囲で取り入れていきましょう。場合によっては、病院に通院してリハビリや牽引を行うケースもあります。 家庭でできる対処法 むちうち症は、セルフケアによって症状の悪化予防と改善が期待できる疾患です。 発症後3日~1週間程度の急性期は、首の安静を第一に心がけましょう。この時期に首に無理な力が加わると症状が余計に悪化するため、痛い部分を揉むことやマッサージすること、そして首を無理に動かすのは避けましょう。湿布を貼る場合は、急性期には冷湿布が適しています。 痛みが和らいできたら、入浴や温湿布、首のリハビリにより患部の血流を良くし筋肉をほぐすことがポイントです。リハビリは無理をせず、痛みのない範囲で毎日少しずつ行いましょう。ここでは自宅でできる簡単なリハビリ・ストレッチを3つ紹介します。 ①仰向けに寝てバスタオルを丸めて首の下に置き、リラックスする ②フェイスタオルを首に巻き、両手でタオルを前に引っ張りながら首をゆっくりと後ろに反らす ③正面を向き、首をゆっくりと上下左右に動かす ただし、動きによって痛みが増強した場合は決して無理をせず、安静にしましょう。 むちうち症の後遺症について むちうち症の患者さんのなかには、適切な治療をしても首や背中の痛み、上肢のしびれなどの後遺障害が生じることがあります。後遺障害の症状は人によって異なります。 長期的な影響 むちうち症は、発症時は軽症であっても歳を重ねて数十年後に急に症状が悪化するケースがあります。症状の悪化を迎える頃には、事故の影響以外に加齢による五十肩などの他のトラブルも重なることが予想されるため、むちうち症を発症した際にきちんと根本的な治療をしておきたいところです。万が一受傷からしばらく経過した後に痛みが出てきたら、その時点でもう一度医療機関を受診しましょう。 管理と予防策 むちうち症の後遺症による首の痛みは、首周りの筋肉の過緊張が原因です。こわばった緊張をほぐして動きを良くするために、日頃から首のストレッチや入浴を心がけましょう。 日常生活での調整 むちうち症の症状は、風邪のように数日間で完治することは少ないでしょう。治療期間が数週間から数ヵ月にわたる方もいるため、日常生活における痛みのコントロールや活動量の調整が必要です。 生活スタイルの変更 痛みがある場合は、鎮痛薬の内服や湿布などにより痛みのコントロールを図りましょう。鎮痛薬は、一般的に内服と次の内服の間に一定の時間を空ける必要があり、内服の適切なタイミングを考える必要があります。学校や仕事、家事など日中に活動する場合は、朝に内服しておくと日中の鎮痛効果が期待できます。また、痛みが睡眠に支障を来す場合には、就寝前にも内服しましょう。 湿布薬は種類が多数あるため、刺激感や皮膚の状態を踏まえ自分に合ったものを見つけましょう。湿布を同じ場所に貼り続けると皮膚がかぶれるリスクが高まるため、貼り替えの際は少しずつ場所をずらす、新しい湿布を貼るのは翌日にするなど、工夫が必要です。湿布薬のなかには肌の色に近い色のものもあるため、人目が気になる場合は使用してください。 また、むちうち症の症状のなかでも、頭痛やめまいなどの症状は社会生活に直接的な影響を及ぼすケースがあります。症状が強い時には無理をせず、家族や学校、会社などに事情を説明し、理解を得ることが大切です。在宅ワークであれば症状の程度によって仕事時間を調整できるため、無理なく働ける可能性があります。その際、会社や学校などに医師の診断書を求められることがあります。診断書は保険会社からも提示を求められるため、あらかじめ医師へ記載を依頼しておくとよいでしょう。 支援と専門家の助言 むちうち症は、適切な診断と治療を受け専門家の助言のもとでリハビリをすすめる必要があります。自己流の投薬やリハビリは、効果が得られないばかりかやり方を間違えると症状をさらに悪化させてしまうかもしれません。必ず受診し、医師や理学療法士など専門家に相談しアドバイスを受けながら治療をすすめていきましょう。症状が重いなどの理由で受診が難しい場合は、電話でも相談に応じてもらえる場合があります。 総合的なアドバイスとサポート 最後に、むちうち症の症状の緩和へのヒントと、精神的な健康の維持について解説します。 症状を和らげるためのヒント むちうち症の症状を和らげられる可能性があるものとして、鍼治療や電気治療なども選択肢の一つです。鍼治療には硬くなった筋肉をほぐす作用がありますが、人によっては「合わない」と感じる方や、鍼を刺す刺激が苦手な方もいるため注意が必要です。また、体質や体調などによって治療効果も異なります。 また電気治療も鍼治療と同様に筋肉の過緊張を一時的に緩められます。 いずれにせよこれらの施術には「合う」「合わない」があるため、医師や整骨院などの専門家に相談したうえで利用を検討するようにしましょう。 精神的な健康の維持 むちうち症は風邪のように数日で完治するのは難しく、苦痛な症状やいつ治るかわからない不安などから精神的にも落ち込んでしまう方も少なくありません。 気持ちがふさぎ込んでしまうと苦痛がより強くなってしまうため、痛みの許す範囲で趣味や仕事をしたり、外出したりと気分転換を図るとよいでしょう。痛みが少しでも紛れるような時間を作れるのが理想的です。 参考文献一覧 交通事故による いわゆる“むち打ち損傷”の治療期間は長いのか Whiplash associated disorders: a review of the literature to guide patient information and advice Australian Clinical Guidelines for Health Professionals Managing People with Whiplash-Associated Disorders Guidelines for the management of acute whiplash associated disorders The Treatment of Neck Pain-Associated Disorders and Whiplash-Associated Disorders: A Clinical Practice Guideline
公開日:2024.10.07 -
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脊髄そのものやその周りで出血を「脊髄出血」と呼び、麻痺やしびれなどを引き起こします。 急性期には外科的手術や血管内治療を行うことが多いですが、場合によっては保存的治療が選択されます。 今までは後遺症に対してリハビリテーションなどの対応療法のみでしたが、現在では再生医療も選択可能となり、根治的治療として注目を浴びています。 今回は脊髄出血を引き起こした際にみられる後遺症やその治療法、予後はどうなのか、また術後後遺症が残った場合の治療法「再生医療」についても解説していきます。 脊髄出血の原因や症状については以下の記事で解説しています。 脊髄出血でみられる後遺症 脳から腰に向かって背骨の中を走る太い神経を脊髄と呼びます。脊髄そのものやその周辺に出血をきたすのが、脊髄出血です。 脊髄の圧迫やダメージによって、多くの場合、背部の痛みや麻痺、しびれなどをきたします。 障害部位(頸髄や胸髄、腰髄、仙髄、馬尾)や出血部位(脊髄内やくも膜下、硬膜下、硬膜外)、脊髄へのダメージ具合(部分的か全体的なダメージか)によって症状が異なってきます。 脊髄へのダメージが少ないうちに治療を行うことができれば後遺症を回避、もしくは軽度で済むでしょう。 しかし、治療が遅れてしまった場合や神経へのダメージが大きくなった場合、後遺症を免れることは難しいです。 実際には脳梗塞や脳卒中と似たような症状を呈することもあり、それらに対する治療の後に脊髄出血が判明したという症例も見受けられます。 代表的な後遺症を以下に一覧として示します。 ・運動障害(麻痺) ・感覚障害(温痛覚や振動感覚、位置感覚の障害など) ・膀胱直腸障害(尿失禁、頻尿、便秘、頻便など) ・呼吸障害 ・体温調節障害 ・起立性低血圧 など 脊髄出血の治療法について 脊髄出血の治療ですが、出血部位や症状出現からの時間経過、脊髄損傷の程度、出血原因などによって変わってきます。 積極的治療を行う場合、外科的手術や血管内治療が選択されます。 外科的手術では、椎弓切除や血腫除去による除圧術、出血点がわかる場合には止血術を行うこととなります。 以下では、脊髄出血の治療に関して気になる質問に回答しています。 Q1. 脊椎の構造はどうなっているの? A1. 下記のような構造になっています。 Q2. 椎弓切除術ってなに? A2. 椎弓の一部と黄色靭帯を切除し、脊髄への圧迫を除去する手術になります。ちなみに黄色靭帯は脊髄の背側に位置しています。 Q3. 血管内治療はどんな治療法ですか? A3. 血管内治療とは、いわゆるカテーテル治療のことです。 血管内治療では、血管からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、出血している血管に塞栓物質を流し込んで止血、あるいは予防的に出血原因となりうる異常血管に塞栓物質を流し込むことで血流量を減少させます。 ただし、異常血管の血流を完全に遮断すると脊髄梗塞を生じる可能性があるため、病変を完全に消失させるのは難しいです。 Q4. 外科的手術のリスクはありますか? Q4. 脊髄内に病変がある場合、外科的なアプローチは脊髄そのものを傷つけるリスクがあります。また、硬膜外に位置する異常血管病変では、外科的切開が大量出血を引き起こす可能性があります。 このように外科的手術が困難と予想される症例では、血管内治療が良い適応となります。 現代の医療技術の発展によってMRI検査などの画像処理能力が上がり、積極的治療を行わずに保存療法のみで脊髄出血が改善した症例も見受けられています。薬物治療には効果はなく、放射線治療も治療成績が良くないので、残念ながらこれらは有用な治療法となりません。 初期治療を行なっても残存した症状に対しては、リハビリテーションを行いながら症状改善を目指します。 以前までは根本的治療がないと言われていましたが、近年は再生医療がより身近になり、注目を集めています。リハビリテーションと再生医療については、以下で詳しく説明していきます。 脊髄出血に対するリハビリテーション リハビリテーションとは、病気や怪我の後に社会復帰を目指して行う訓練の総称です。 病気や怪我以前の生活水準を目指し、日常生活を見据えた身体的訓練のほか、不安や無力感といった精神的な障害には心理的訓練、さらに必要に応じて職業訓練も行われます。 リハビリテーションに携わるスタッフは、医師や看護師に加えて、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのスペシャリストとなります。 病院で行われることもあれば、リハビリ専門施設で行うこともあります。 脊椎出血の急性期リハビリ 怪我や病気を患った直後の急性期は、まず全身状態を落ち着かせ、損傷や障害を最低限に抑えるためのリハビリテーションが必要となります。 具体的には、 ・頸髄や上位胸髄の損傷による呼吸機能低下に対しては呼吸訓練 ・手術後にうまく寝返りができない場合には、床ずれ予防のために体位変換訓練 ・ベッド上で動けない間に関節が固まってしまわぬように関節可動域訓練 などを実施します。 全身状態が安定後のリハビリ 全身状態が落ち着いた後は、個々の症状に合わせて積極的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。 脊髄出血によって脊髄が大きなダメージを受けてしまった場合は、神経障害などを完全に取り除くことは難しく、後遺症が残ることが多いでしょう。 そこで早期からのリハビリテーションを通じて、残存能力の強化を行い、それに必要な筋力や柔軟性を身につけていくこととなります。 具体的な例として、 ・両下肢の麻痺(対麻痺)の場合には上肢の筋力を高め、プッシュアップ動作を練習し、車椅子の訓練 ・排尿障害を患っている場合は、腹壁徒手圧迫法や反射誘発、自己導尿法などの指導 などが行われ、合併症を引き起こすことなく自分で尿路管理を行えるよう目指します。 脊髄出血の予後 脊髄出血は稀な疾患であるため情報が少なく、死亡率や予後についての言及は難しいのですが、一般的には症状の発現から除圧までの時間が短ければ短いほど神経回復は良好です。 しかし、どこから出血したかや出血の原因、年齢によっても予後は変わってくるとされています。 脊髄硬膜下血腫に対して手術を実施した59症例を検討したある報告では、術前の状態が重篤なものほど回復が不良で、くも膜下出血(軟膜とくも膜の間の出血)を伴うものは術前状態が悪くて除圧後の臨床成績も悪かったとされています。 脊髄硬膜外血腫を1000例以上の報告を検討した論文では、69症例に対する死亡率の検討がなされました。 その結果、40歳以上と40歳未満の患者群それぞれの死亡率は9%と4%とされ、治療法に関係なく40歳以上では死亡率が有意に高くなると報告されました。 同じ報告で患者さんの長期フォローアップの結果をまとめたところ、初めの症状が軽度であった患者群では8.5%が軽度の障害を示すのみであったのに対し、初めの症状が重篤だった患者群では症状の改善を認めたのは78.4%に止まり、また軽度の障害を示したのは28.3%でした。 脊髄出血の術後後遺症に対する再生医療とは 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した最先端医療です。脊髄損傷の手術後に残ってしまったしびれ、麻痺といった後遺症に対する治療として、「幹細胞治療」が適応になる可能性があります。 当院で行う再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”は、患者さんから採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 ちなみに「幹細胞」とは、さまざまな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再度生み出して補充する機能を持つ細胞のことをいいます。 日本での一般的な幹細胞治療は、点滴によって血液中に幹細胞を注入するものです。しかし、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまいます。 そこで当院では、損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与するため、数多くの幹細胞を目的の神経部位まで直接届かせることが可能です。 この治療は数分のみで簡単な処置で、入院も不要です。点滴治療と組み合わせることによって、より大きな効果を期待できます。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症による神経損傷に由来する麻痺やしびれ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 ▼詳しくは当院の“脊髄損傷の再生医療”に関する動画もご覧ください。 https://youtu.be/9S4zTtodY-k まとめ・脊髄出血の後遺症やその治療法、予後について 脊髄出血を生じた場合、急性期治療としてまず外科的手術や血管内治療を行い、止血や血腫による脊髄圧迫を除圧する必要があります。 どのレベルの脊髄が障害されているか、どの層での出血なのか、そして出血原因が何かによって治療方法が選択され、場合によっては保存療法が選択されることもあります。 後遺症には運動障害や感覚障害、排尿・排便障害などがあり、早期のリハビリテーションによる残存能力の強化や合併症予防のための訓練が大切となります。 多大なダメージを受けてしまった神経を元に戻す治療がなかった中で、近年になって再生医療が多くの人に提供可能となり、根本的治療として注目されています。 実際に当院でも脊髄損傷患者が再生治療を受け、症状が改善した症例が確認できています。 当院では入院不要で外来のみで再生医療を受けることができますので、気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献一覧 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 ホームページ 田島文博ほか. 脊髄損傷者に対するリハビリテーション. 脊髄外科.2016;30:58-67. M Domenicucci, et.al. Nontraumatic acute spinal subdural hematoma: report of five cases and review of the literature. J Neurosurgeon. 1999; 91: 65-73. M Domenicucci, et al. Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases. J Neurosurg Spine. 2017: 27;198–208.
公開日:2024.10.07 -
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脊髄出血という病態を聞き慣れない方もいらっしゃると思います。非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 脊髄出血は脊髄血管障害の一つであり、脊髄の血管奇形や血管腫による脊髄血管、加えて外傷によって引き起こされます。症状としては、痛みや麻痺、感覚障害を生じます。 この記事では、脊髄出血の原因や症状について、さらに詳しく解説しています。 脊髄梗塞については、こちらの記事をご参照ください。 脊髄血管障害【脊髄出血】について まず脊髄とは、脳から背骨の中を腰に向かって走る太い神経のことを言います。 脳からの指令を全身の筋肉に伝えて動かしたり、逆に筋肉や皮膚など末梢からの情報を脳に伝える伝導路としての役割を果たしています。 脳血管障害である脳梗塞や脳出血は聞いたことがあるかと思います。これと同じことが脊髄でも起きることがあり、それを【脊髄血管障害】と呼びます。 脊髄への血管が何らかの原因で閉塞してしまうと脊髄梗塞、脊髄内や脊髄周辺に出血を生じた場合には【脊髄出血】となります。 これらを専門的にみる診療科は、主に脳神経外科となります。 脊椎は上から頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、そして尾椎から成り、それに合わせて脊髄も頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、そしてそれより下の神経は馬尾と呼んでいます。 どのレベルの脊髄が障害されたかによって、出現する神経障害も変わってきます。 脊髄出血の分類 脊髄は3層の膜に覆われており、内側から順に軟膜、くも膜、硬膜となっています。 このうちどこから出血しているかによって、分類が変わります。 脊髄内の出血は髄内出血、軟膜とくも膜の間の出血は脊髄くも膜下出血、くも膜と硬膜の間の出血は脊髄硬膜下出血、そして硬膜よりも外側の出血は脊髄硬膜外出血と呼ばれます。 脊髄出血の頻度や患者背景、出血部位について 脊髄出血は非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 その後の医療発展や画像検査技術の向上により、脊髄出血の報告数も増えてきましたが、それでもなお稀な疾患であります。 脊髄出血1010症例を検討した報告では、患者さんの平均年齢は47.97歳(年齢幅:0〜91歳)であり、6割以上が男性でした。 障害部位として多かったのは下位頸髄や下位胸髄であり、病変範囲は2椎体間以上に渡ことが多く、最大で6椎体間分にも広がっていました。 脊髄出血の分類別に見ると、脊髄硬膜外出血の頻度が最も多くなっています。 脊髄出血の原因 下記が主な脊髄出血の原因一覧となります。 脊髄出血の原因の大半を占める ・外傷性(交通事故や転落など) 外傷の次に多いのが血管奇形によるもの ・脊髄髄内動静脈奇形 ・傍脊髄動静脈奇形 ・脊髄海綿状血管腫 ・傍脊髄動静脈瘻 ・脊髄硬膜動静脈瘻 その他 ・硬膜外動静脈瘻 ・医原性(腰椎穿刺や脊椎麻酔などの合併症) これらの血管奇形は、脈管の発生異常によって起きます。 海綿状血管腫も厳密にいうと腫瘍ではなく、血管奇形です。異常血管の塊が膨らんで海綿状になる病気で、大きくなると脊髄を圧迫したり、また出血することで症状を呈します。 動静脈瘻についてですが、通常は血液が動脈から毛細血管に入り、そこで脊髄やその外側の膜に栄養を届けた後に静脈に流れていきます。 しかし、血管奇形によって毛細血管を介さずに動脈からそのまま静脈に血液が流れてしまうことがあり、これを瘻、あるいはシャントと呼んでいます。 上記原因のほか、稀ですが下記のものも原因として知られています。 ・脊髄腫瘍 ・血液疾患 ・抗血栓薬(血液を固まりにくくする薬剤) ・膠原病(全身性自己免疫疾患) ・静脈性脊髄梗塞(脊髄静脈の静脈が閉塞する病態) ・妊娠後期 抗血栓薬の使用は血栓塞栓症予防に必要な薬剤であり、リスクなしで休薬できるものではありません。 しかし、これに関しては、これ単独ではなく、他の誘因も合わせて脊髄出血を引き起こしていると考える人も少なくありません。 実際には全例で原因が特定されるわけではなく、原因不明のものも中にはあります。 脊髄出血の症状について 出血量が少ないうちは臨床的に症状を認めないこともありますが、神経を圧迫する出血量であれば症状が出現します。 出血は急に起きることが多いため、一般的には突発的に発症します。 しかし、中には症状が徐々に進行するものや、受傷時点から24時間以上、遅いものでは数日経ってから症状を呈した症例もあります。 多くの場合は急激な背部痛の後に、運動障害や感覚障害が現れます。 出血の起きた部位によって運動障害の出る部分が変わってきます。 ●胸椎部での出血の場合… 下肢麻痺、頚椎部ならば下肢に加えて上肢にも麻痺が及ぶことがあります。 出血量が多いほど血液の塊が大きくなるため、症状が重くなる傾向があります。 ●硬膜外や硬膜下での出血場合… ナイフで刺されたような激痛に加え、強い脊髄圧迫症状が出るとされます。 ●くも膜下での出血の場合… 発熱や頭痛、嘔吐などの髄膜炎症状を伴うことがあり、意識障害やけいれんも相まって、脊髄ではなく脳での出血を強く疑われることがあります。 多くの場合には対麻痺といって、両側下肢に対称性に筋力低下を認めます。 横断的に見て脊髄が全体的に圧迫されていると、両側下肢の完全麻痺を生じます。 脊髄が半側だけ、あるいは一部外側だけの障害となると、Brown-Séquard(ブラウン・セカール)症候群となり、特徴的な運動障害と感覚障害を認めます。 具体的には、障害された側の不全麻痺(一部の感覚や運動機能は残る麻痺)と触覚・位置覚・振動覚の消失、そして障害を受けていない側は温痛覚の消失を認めるというものです。 上記のような症状を認めた場合には、緊急手術になる可能性もあります。すぐに脳神経外科のある病院を受診し、検査してもらいましょう。 脊髄出血の検査所見 脊髄出血は早期発見・早期治療が予後を左右します。 検査としてはCT検査やMRI検査を行いますが、MRIの方が得られる脊髄に関する情報を多く得られるため、診断方法としてより有用とされています。MRIにおいて、時間経過とともに血腫の見え方は変わってきます。 さらに、外傷性の脊髄出血では複数の層にまたがって存在する場合があり、そのような状態では診断が難しいこともあります。 他には、血管内に細い管を入れ、そこから造影剤を流すカテーテル検査を行っている施設もあります。利点としては、MRIでは確認しにくい細かい血管もみることができます。 出血の箇所や範囲や治療戦略にも関わってくるため、専門医による的確な診断が必要となります。 脊髄出血の治療 基本的な治療は、手術によって神経への圧迫を除去することになります。 脳神経外科での外科的手術のほかに、放射線科にて血管からカテーテルという細い管を通し、それを用いて出血している血管を塞ぐ血管内治療があります。 後遺症として運動障害や感覚障害が残ってしまった場合、リハビリテーションでの機能回復を目指します。 さらに現代は、再生医療によってダメージを受けた神経を再生、あるいは神経を新生する根本的治療に注目が集まっています。 治療や予後に関する詳細は以下の記事で解説しています。 脊髄出血についてのQ&A Q:脊髄ショックと言われましたがよくなりますか? A:脊髄ショックは一過性と言われており、多くの場合は数時間で回復しますが、中には数週間かかることもあります。ショックから離脱すると、脊髄反射が回復しますが、まだ脳からの制御が完全に伝わるわけではありません。突っ張るような「痙性」が起こります。どこまで回復できるかは、その後の経過次第でしょう。 Q:MRIで脊髄血管奇形があると言われましたが、血管造影検査を勧められています。なぜいくつも検査をするのですか? A:血管の構造の評価や動脈と静脈が短絡した「シャント部」など細かい血管の評価はMRIでは難しいです。そのため、造影剤を用いた脊髄血管造影撮影(カテーテル検査)が行われます。この先の治療方針の決定に繋げるためにも必要な検査です。 まとめ脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因や症状 脊髄血管障害の一つである脊髄出血は、脊髄内あるいはその周辺に出血を生じた状態のことを言います。多くは外傷性ですが、次に多いのは脊髄血管奇形によるものとされています。 一般的に症状は突然に見られ、背部痛の後に運動障害や感覚障害を認めますが、中には1日以上経ってから症状が出現する症例もあります。 出血の場所や程度によりますが、早急な治療を行えば回復も見込めます。 ただし、脊髄へのダメージが大きい場合や障害を受けてから時間が経ってしまった場合には、後遺症が残ります。 以前までは後遺症に対しての治療といえばリハビリーテーションのみでしたが、現代では再生医療による根本的治療が可能となり、実際に脊髄障害による長年の症状を改善できた症例も見受けられます。 当院では入院不要で外来のみで再生医療を受けることができます。気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献一覧 Kreppel D, Antoniadis G, et al. Spinal hematoma: a literature survey with meta-analysis of 613 patients. Neurosurg Rev. 2003; 26: 1–49. Domenicucci M, Mancarella C, et al. Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases. J Neurosurg Spine. 2017: 27;198–208. Moriarty H K, Cearbhaill R O, et al. Mr imaging of spinal haematoma: a pictorial review. Br J Radiol. 2019: 92; 20180532. Mashiko R, Noguchi S, et al. Lumbosacral Subdural Hematoma—Case Report—. Neurol Med Chir. 2006; 46: 258–261.
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最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 ・四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) ・感覚障害(主に温痛覚低下) ・膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|Neurology Journals 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=9S4zTtodY-k このように、脊髄梗塞では「確立された治療法」と呼べる治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再度生み出してわれた細胞を再生・修復する機能を持つ細胞のことをいいます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 ・脊髄動脈の疾患 ・栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 参考文献一覧 Qureshi A, Afzal M, et.al. A Population-Based Study of the Incidence of Acute Spinal Cord Infarction. J Vasc Interv 2017; 9: 44–48. Robertson C, Brown Jr R, et al. Recovery after spinal cord infarcts: long-term outcome in 115 patients. Neurology. 2012;78:114-121. 河原木剛, 木下隼人ほか.当院で経験した脊髄梗塞 10 例の検討. 東日本整災会誌. 2022;34:94-102. Maria Khoueiry, Hussein Moussa, et al. Spinal cord infarction in a young adult: What is the culprit? J Spinal Cord Med. 2021;44:1015-1018. 熊谷文宏, 加藤諒大ほか. 脳梗塞・脊髄梗塞を発症後、再生医療を実施し集中的リハビリテーションを実施した1例. 第53回日本理学療法学術大会 抄録集.O-S-1-4. Yamazaki K, Yamabori M, et al. Clinical Trials of Stem Cell Treatment for Spinal Cord Injury. Int J Mol Sci. 2020; 21: 3994. ▼こちらも併せてお読みください。
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リゾトミーの術後後遺症にお悩みですか?日帰り最新医療のご紹介 「つらい腰痛が良くなると思って受けた治療で、後遺症が残ってしまった…」 そのようなお悩みはありませんか。 リゾトミーは慢性難治性腰痛の原因となる神経の伝達を遮断し、痛みをとる方法です。体への負担は少ないとされていますが、医療行為である以上は合併症のリスクからは逃れることはできません。人によっては後遺症が長期化してしまうこともあり得ます。 この記事では腰痛に対するリゾトミーの詳細と、術後後遺症としての神経損傷について、そして最新の後遺症治療の「再生医療」について解説しています。 リゾトミーとは?高周波熱凝固療法について解説 リゾトミーは英語でrhizotomyと表記されます。主に脊椎の椎間関節の痛みをもたらす脊髄神経後枝内側枝に対する「高周波熱凝固療法」のことです。整形外科、あるいは疼痛を専門に扱う「ペインクリニック」で行われています。 この高周波熱凝固療法の技術は、従来の神経ブロック注射で効果が一時的である慢性難治性疼痛に用いられるものです。リゾトミーにおいては、椎間関節ブロックによって痛みが椎間関節由来だと診断された場合に行われます。 高周波熱凝固療法では、ターゲットの神経のすぐ近くにピンポイントで高周波(ラジオ波)を流す特殊な針を刺します。ラジオ波が神経組織内のイオン分子を高速振動させることで神経組織が高温となり、熱で変性するのです。変性した神経は痛みを伝える機能を失うため、痛みを感じなくなります。 このような治療は、神経の伝達を遮断して痛みが脳に伝わらないようにするため「神経破壊法」と呼ばれています。神経を破壊するというと恐ろしく感じるかもしれませんが、長期に痛みを抑える優れた治療法として広く用いられています。 従来、リゾトミーはX線による透視画像を見ながらターゲットになる神経を探していました。一部の施設では内視鏡の技術を用いたリゾトミーも行われています。この内視鏡とは、坐骨神経痛などを起こす椎間板ヘルニアの手術(PELD手術)で実用化されているものです。内視鏡で直接ターゲットの神経を探すことで、より確実にねらった神経を遮断することができます。日本国内ではまだできる病院やクリニックは少ないですが、今後普及していくかもしれません。 リゾトミーの術後合併症としての神経損傷 リゾトミーの合併症のうち、後々まで問題になりやすいのが神経損傷です。滅多に起こることではありませんが、神経を傷つけてしまうことで、痺れ・痛み・麻痺などが起こります。 傷ついた神経の再生は非常に困難です。確実に治るという治療法はなく、内科的な投薬治療やリハビリテーションを組み合わせて自然に良くなるのを待つことになります。徐々に改善する方もいますが、症状が長期にわたって続く場合も残念ながら存在します。 術後後遺症に再生医療 術後後遺症が良くならない場合の選択肢として、「幹細胞治療」が期待されています。幹細胞治療とは、臓器や器官の機能再生を目的とした再生医療のひとつです。 幹細胞治療では、「幹細胞」と呼ばれる万能細胞を用います。幹細胞は自分自身を複製できる能力(自己複製能)と体の様々な臓器・組織の細胞に変化できる能力(分化能)をもつ細胞のことを指します。 幹細胞治療では幹細胞のもつ分化能を利用しています。傷ついた部位に幹細胞を投与することでその臓器や器官が「再生する力」を引き出しているのです。 これまで、幹細胞治療は多くの疾患への可能性が示唆されてきましたが、神経もその一つです。従来、傷ついた神経組織は回復が非常に困難と考えられていました。しかし、最先端の再生医療では、この神経の修復もできるのではと期待されています。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE 日帰り再生医療の実際 当院では様々な神経損傷に対して幹細胞治療を提供しています。実際の治療の流れを3ステップでご説明します。 ①脂肪採取 診察や各種検査の結果から、幹細胞治療を行うことが決定したら、まずは幹細胞の採取を行います。当院では、患者様ご自身の脂肪から幹細胞を採取しています。お臍の下あたりから、脂肪を米粒2~3粒ほどの少量を採取します。傷は1cmほどと小さく、局所麻酔で可能な上、痛みもほとんどありません。 ②細胞培養・増殖 取り出した脂肪から、幹細胞を取り出して培養していきます。当院の細胞加工室の技術は国内トップクラスです。他施設で用いられる牛などの血清でなく、患者様ご本人の血清を用いた培養をすることで、感染症やアレルギーのリスクを抑えています。輸送や保存の際に幹細胞を凍結しないため、フレッシュで生き生きとした状態で細胞の投与が可能です。 ③患部への投与 4〜6週間かけて幹細胞を培養したら、患者様に投与を行います。当院では点滴だけでなく、「脊髄腔内ダイレクト注射療法」を行なっています。背中から細い針を刺して、幹細胞を脊髄のすぐ近くに直接注入する方法です。直に幹細胞を届けることができるため、神経の再生能力がより高まることが期待されます。投与は局所麻酔下で行い、当日にご帰宅いただけます。 まとめ・リゾトミーの術後後遺症にお悩みですか?日帰り最新医療のご紹介 リゾトミーと術後後遺症、また合併症治療の最先端についてご紹介いたしました。 つらい神経障害の後遺症に対してお困りであれば、幹細胞治療をご検討されてはいかがでしょうか。 当院ではしっかりご納得いただいた上で治療を選んでいただくことを大切にしております。お電話やメールでの無料相談も受け付けております。 気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。 参考文献 伊達久. 医学と薬学. 77(1): 31-37, 2020. 山口忍, 吉村文貴, 松本茂美, 竹中元康, 飯田宏樹. 日本臨床麻酔学会誌. 34(7): 938-946, 2014. 濱口眞輔, 山田哲平. 麻酔 68(9): 959-965, 2019. 奥田泰久. 日本臨床麻酔学会誌 38(5): 622-626, 2018. 金子和生, 田口敏彦. 日本腰痛学会雑誌 12(1):72-76, 2006. 腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版 Chen KT, Kim JS, Huang AP, Lin MH, Chen CM. Current Indications for Spinal Endoscopic Surgery and Potential for Future Expansion. Neurospine. 2023 Mar;20(1):33-42. doi: 10.14245/ns.2346190.095. Epub 2023 Mar 31. PMID: 37016852; PMCID: PMC10080449. 再生医療ポータル 再生医療について 再生医療の現状と展望 ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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慢性腰痛の治療に!Rhizotomy(リゾトミー)とは 「腰の痛みがつらい」「慢性的な腰痛の治し方を知りたい」と思いませんか? 慢性腰痛とは、3ヶ月以上続く腰痛のことです。治るわからない慢性的な痛みは日常生活に支障をきたし、心身ともに大きなストレス をもたらします。 マッサージや 薬でもリハビリでも良くならず、ブロック治療を考えた方や実際に試された方もいるでしょう。 「 ブロック治療の効果ってすぐ切れちゃうんでしょう?」 そう思った方は、椎間関節ブロックの効果が一時的であった場合に考慮される「リゾトミー」について知っておくと良いでしょう。 本記事では、リゾトミーの概要や どのような人に有効なのか、 費用や合併症などについても説明していきます。 リゾトミーってなに? リゾトミー(rhizotomy)とは、腰痛に対して行われる痛みを伝える神経を遮断する治療法で、高周波熱凝固法とも呼ばれます。 高周波熱凝固法は、特定の神経をラジオ波と呼ばれる高周波電流を用いて焼き固める治療です。特に 「リゾトミー(rhizotomy)」と呼ぶ場合は椎間関節の痛みに対して行われる「facet rhizotomy」を指すことが多く、ターゲットとなる神経は腰椎の「椎間関節」を支配する脊髄神経後枝内側枝です。 もともと、腰痛はいわゆる「背骨」の構成要素である椎骨や間に挟まった椎間板、その中を通る脊髄から伸びる神経など様々な要素が関わる病態です。中でも特に椎骨同士が連結する関節である「椎間関節」由来の痛みは腰痛の大きな原因を占めます。日本国内の研究では、腰痛患者の5人に1人は椎間関節性の疼痛であると報告されているのです。 椎間関節由来の痛みに有効なのが、脊髄神経の後枝内側枝に局所麻酔薬を投与する神経ブロック(椎間関節ブロック)です。しかし、局所麻酔薬の効果は一時的で、短期間に繰り返しの投与が必要になることもあります。何度も繰り返してしまう場合、神経自体を変性させてしまうことで痛みの伝達を遮断する方法が用いられます。それがリゾトミーなのです。 リゾトミーにおいて、 痛みを伝える神経だけをピンポイントで変性させるため使われるのは特殊な針です。針の先端部以外は絶縁体で覆われ、針先のみ金属が露出しています。X線透視画像と患者様の症状を確認しながら、この針先をターゲットの神経のすぐ近くに移動します 。そして、針端の金属部分から高周波のラジオ波電流を流します 。 ラジオ波電流は神経組織のイオン分子を高速で振動させ、熱を生じます。こうして高温になった神経の変性が起こり、痛み情報が脳へと伝達されなくなるのです。 リゾトミーが有効なのはどんな人? 腰椎の椎間関節ブロックが一時的に効くが、何度も痛みが繰り返してしまい良くならない人に対して適応があります。リゾトミーは、ピンポイントではあるにせよ神経を変性させてしまう処置です。あらかじめ「特定の椎間関節の痛み」であると診断されていることが前提となります。そのため、腰椎関節ブロックが効くことがわかっている必要があるのです。 リゾトミーの費用は?保険は利くの? リゾトミー(高周波熱凝固法を 用いた腰椎後枝内側枝神経ブロック)の費用は、 公的健康保険の対象です。 手技にかかる費用としては保険点数で340点、つまり3400円が算定されます。1割負担の方では340円、3割負担の方では1020円の窓口負担です。 ただし、各種診察や検査、ほかに処方された薬剤などについての諸費用が加算されるため、実際にはもう少し高額になります。また、保険を使うためにはさまざまな制約があります。 一方、自由診療で行なっている施設もあります。自由診療の場合は健康保険を使用する場合と異なり、制約がありません。自由診療では医療機関側が価格を設定できるため、それぞれ費用が異なります。30~60万円程度が相場ですが、詳細は医療機関にお問い合わせください。 リゾトミーの合併症ってあるの? リゾトミーは比較的安全とされていますが、危険性はゼロではありません。針を血管や神経に刺してしまい出血や神経損傷が起こる、針を刺したところに感染が起こるなどが主 です。熱凝固を行う際に穿刺部の痛みを生じることがあります 。また、体内に埋め込まれた金属があると火傷の恐れがあるため、適応外になります。 たとえばペースメーカーや心臓のステント、手術で用いられる釘などがある場合などが挙げられます。 また、非常に稀な合併症に、脊髄梗塞が挙げられます。脊髄の栄養血管が何らかの理由で虚血に陥ることで起こる合併症です。梗塞を起こした神経が支配する部分が痛み、筋力低下や感覚が障害されます。なぜ起こるのかはわかっていません。過去には頚椎後枝内側枝の熱凝固療法時に脊髄梗塞を起こした例が報告されています。 このような合併症で後々まで問題になりやすいのが神経の障害です。神経が傷つくと、新たな痛みやしびれ・麻痺などの後遺症に悩まされることになります。従来はこれらに対してできることは対症療法のみでした。 しかし、最近では最先端の再生医療である幹細胞治療が神経の障害にも有効である可能性が示されています。幹細胞という万能細胞を投与することで、傷ついた神経の再生を促すのです。幹細胞治療を受けることで、神経障害により不自由になった生活を元どおりに戻すことができる人が増えています。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE ▶こちらの動画でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。 リゾトミーの弱点とは?これからの可能性について リゾトミーは神経を変性させるため、効果は永続的と考えるかもしれません。 実際は、しっかりと焼き切れていないと神経が再生して痛みが繰り返し てしまうため、長期に効果が続くわけではありません。 しかし、新たな手法により、この弱点をカバーできるかもしれません。それはPELD(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy :経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術)という最先端のヘルニア治療で使われる技術を応用した「内視鏡的リゾトミー」です。 PELDでは7mm程度のとても細い筒状の内視鏡を用いてヘルニアの手術を行います。この内視鏡を、リゾトミーで焼く神経を定めるのに使うのが、内視鏡的リゾトミーです。内視鏡で実際に神経を確かめるため、より確実な神経の焼灼ができます。 実際に海外の研究では、椎間関節の内視鏡的リゾトミーは、従来の透視下で行う方法よりも効果がある期間が長かったという報告がされています。日本で内視鏡的リゾトミーを行なっている施設はまだ少ないのが現状ですが、今後普及すればより確実に腰痛を治療することができるようになるでしょう。 慢性腰痛について、気になるQ&A Q:腰痛は温めるのと冷やすのではどちらが良いの? A:慢性腰痛でははっきりとどちらが良いということは分かりません。ただし、急性・亜急性腰痛では温熱療法が痛みの緩和に良い可能性が示されています。ただし、やりすぎは禁物です。皮膚が赤くならない程度にしましょう。 Q:腰痛に対する鍼灸やあん摩・マッサージ・ヨガなどの効果は? A:これらは効果のほどを確かめる研究が難しく、医学的に効果があるかをはっきりと証明することが難しい部分があります。研究の多くは海外からの情報で、日本の実情と異なる可能性も否定できません。そのため、医療者としてこれらの効果に対して言及することは困難です。なお、鍼灸については公的健康保険の対象になることがありますが、医師の同意が必要です。 Q:リゾトミーは内科?整形外科?どこの病院で受けることができるの? A:多くはペインクリニック専門医という痛みの緩和を行う医師が行なっています。また、一部の整形外科でも行なっていることがあります。リゾトミーだけでなく、「高周波熱凝固法」や「ラジオ波焼灼脱神経化」など様々な呼び名で紹介されているため、お探しの際にはご注意ください。 まとめ・慢性腰痛の治療法!Rhizotomy(リゾトミー)とは リゾトミーについて、どのような治療なのか、またリスクや今後の可能性について解説しました。 腰痛の方全員にリゾトミーが必要なわけではありません。しかし、条件が合えば、長く続く辛い腰痛から解放される可能性がある治療と言えるでしょう。 当然ですが、どのような治療法にもリスクは伴います。治療を受ける前にはしっかりとした情報収集と、医師との相談が必要です。 なお、当院ではリゾトミーの術後後遺症に対する幹細胞治療を行っております。術後後遺症でお悩みであれば、まずはカウンセリングを受けてみませんか? 参考文献 福井 晴偉, 大瀬戸 清茂, 塩谷 正弘, 有村 聡美, 多久島 匡登, 大野 健次, 唐沢 秀武, 長沼 芳和. 日本ペインクリニック学会誌. 3(1): 29-33. 1996. 伊達久. 医学と薬学. 77(1): 31-37, 2020. 山口忍, 吉村文貴, 松本茂美, 竹中元康, 飯田宏樹. 日本臨床麻酔学会誌. 34(7): 938-946, 2014. 濱口眞輔, 山田哲平. 麻酔 68(9): 959-965, 2019. 大瀬戸清茂. 日本ペインクリニック学会誌. 16(3): 301-301, 2009. 腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版 全国健康保険協会 はり・きゅう、あん摩・マッサージのかかり方 出沢 明. 臨床整形外科. 58(9): 1167-1172, 2023. Chen KT, Kim JS, Huang AP, Lin MH, Chen CM. Current Indications for Spinal Endoscopic Surgery and Potential for Future Expansion. Neurospine. 2023 Mar;20(1):33-42. doi: 10.14245/ns.2346190.095. Epub 2023 Mar 31. PMID: 37016852; PMCID: PMC10080449. ▼こちらもあわせてお読みください。
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慢性腰痛治療のリゾトミー、メリット・デメリットはある?医師が解説します 「 慢性的な 腰痛にいい治療法はないの?」「痛の治療を知りたい」このような疑問や悩みはありませんか?! 慢性痛に対する治療方法として、「リゾトミー」をご存知でしょうか? しかしリゾトミーについては情報が少なく、具体的な治療について知らない方も多いでしょう。本記事ではリゾトミーの詳細として、適応となる腰痛や治療の方法、メリット・デメリットを解説します。 腰痛の治療方法について気になる方は参考にして頂ければと思います。 リゾトミーとは リゾトミーとは、変形した椎間関節で起こる痛み、神経が過敏状態(痛みが感じやすくなっている)を治療するために行う手術です。この手術は、過敏になっている知覚神経にある枝をラジオ波という高い周波数を発生する熱で焼灼して痛みを軽減させるものです。 リゾトミーの適応 リゾトミーは、長く続く治りにくい腰痛(慢性腰痛:まんせいようつう )に対する治療です。 慢性難治性腰痛はさまざまな原因がありますが、背骨の関節である椎間関節(ついかんかんせつ)の変形により増殖した知覚神経が原因となっている腰痛の場合、リゾトミーが適応になります。 ここでは椎間関節の変形による腰痛と、 リゾトミーの適応となる腰痛について詳しく解説します。 椎間関節とは? 背骨は椎骨(ついこつ)というブロックのような骨 が積み重なってできています。椎骨の背中側には、 関節突起(かんせつとっき)と呼ばれる出っ張りが上下にあります。 積み重なった上下の椎骨にある関節突起が重なってできた関節が、 椎間関節です。 背骨の動きは、この 椎間関節によって作られます。 椎間関節の変形により起こる腰痛 加齢や運動、衝撃などで繰り返し腰に負担がかかると椎間関節に変形が生じます。 椎間関節が変形すると、知覚神経と呼ばれる痛みを感じる神経が過剰に増えてしまいます。知覚神経は感覚神経とも呼ばれ、痛みを感じる神経でもあります。 上記のように知覚神経の過剰な増殖により痛みを感じやすくなってしまう状態が、慢性腰痛の原因の1つです。 知覚過敏による慢性腰痛がリゾトミーの適応 椎間関節の変形により知覚神経が過剰に増えて 、腰痛が慢性化してしまうと、コルセットや薬物療法などの保存療法では改善しない場合があります。 慢性腰痛 に対して、痛みの原因となっている知覚神経へアプローチ して痛みの改善を図るのがリゾトミーによる治療です。 リゾトミーの具体的な方法 リゾトミーとは、痛みに敏感になった知覚神経の枝が、変形した椎間関節に入り込んでいる所に対して、ラジオ波と呼ばれる高周波数で発生する熱を利用して焼いてしまいます。その結果、神経の過敏状態の改善が図られることで、 疼痛が緩和されるのです。 ラジオ波の照射には皮膚を切開する必要はなく、針のような電極を刺してレントゲンで透視しながら患部にあてます。針は鉛筆やボールペンよりも細いため、大きな傷を作ることなく治療が可能です。 もし椎間関節の変形が複数あり、複数箇所にラジオ波の照射が必要な場合でも、局所麻酔で同時に治療できます。局所麻酔下で治療が可能ですので 、短時間かつ日帰りで手術できます。 リゾトミーのメリット リゾトミーは、 保存療法では改善されない難治性の腰痛に対して改善が期待できる点が大きなメリットです。 また治療内容に関しても以下のようなメリットがあります。 メリット ・短時間の治療 ・入院するケースが少ない ・治療による傷が少ない 手術の時間は短く、15分〜30分 程度で終了します。 局所麻酔による手術ですので入院の必要がなく、術後は1時間程度安静にした後、 歩いて帰宅することが可能です。 また、2mm〜5mm程度の大きさの傷(ラジオ波を照射する針を刺すときにできる傷)のみで、皮膚を切開しないため、術後に縫合する必要もありません。 複数箇所行う場合でも、上記の大きさの傷が4箇所程度で済むため体に対する負担の少ない手術です。 リゾトミーのデメリット リゾトミーは保険が適用されない自由診療の治療です。 腰痛に対する自由診療の手術として、他にもPELD(内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術)やMEL(内視鏡下脊柱管拡大術)などの治療方法があります。 どの治療方法も自由診療だと全額自己負担になるため、治療費が高額になります。リゾトミーの治療費の相場はは60万円〜70万円 です。 また、どの病院でも治療が可能なわけではなく、日本では脊柱を専門とする一部の整形外科で実施されています。そのため、リゾトミーに 関する知識や技術を持った医師がいる施設で、自由診療でしか治療を受けられない点はデメリットです。 リゾトミーを受けるためには、治療とに必要な高額な費用 と施対応している医療機関が少ない設を探す手間 が必要な点は理解しておきましょう。 なお、リゾトミーの術後後遺症として以下のようなものがあります。 デメリット ・術後の血腫 ・術部の感染 ・神経損傷/li> ・血栓症 ・自由診療で健康保険の適用外 ・治療費が高額(60~70万円) 術後後遺症として神経損傷による障害が残った場合は、再生医療(幹細胞治療)が適応となります。術後後遺症に対する再生医療(幹細胞治療)についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=GcUDE6GCblE まとめ・リゾトミーは難治性慢性腰痛の治療として自由診療で可能 リゾトミーは、 薬物療法やリハビリなどの保存療法では改善できなかった慢性的な腰痛の改善が期待できる手術です。 この手術は、過敏になった知覚神経をラジオ波で焼灼することで、痛みを軽減させるものです。特に、椎間関節の変形によって引き起こされる腰痛に効果的で、保存療法では改善しない場合に適用されます。 この治療法の大きなメリットは、短時間で済む手術であり、入院の必要がなく、日帰りでの治療が可能な点です。手術自体も皮膚を大きく切開する必要がないため、体への負担が少なく、術後の回復も早いです。 また、リゾトミーは複数箇所に対して同時に治療が可能であり、局所麻酔で行われるため、患者への負担がさらに軽減されます。 一方で、リゾトミーにはデメリットも存在します。まず、保険が適用されない自由診療であるため、治療費が高額になります。治療費の相場は60万円から70万円とされており、全額自己負担です。 また、日本ではこの治療を提供している医療機関が限られているため、適切な施設を探す手間と費用が必要です。さらに、術後に血腫や感染、神経損傷、血栓症などのリスクも存在する点も理解しておくことが必要です。 総じて、リゾトミーは慢性腰痛に悩む患者にとって有効な治療法ですが、その高額な費用と限られた実施医療機関、術後のリスクを考慮する必要があります。 治療を検討する際は、医師と十分に相談し、自分に適した最善の方法を選択することが重要です。 慢性腰痛でお悩みの方は、リゾトミーのメリット、デメリットをよく理解した上で、適切な判断を行うよう心がけましょう。 尚、術後後遺症の治療に対しては、再生医療(幹細胞治療)も適応となるので、詳しくはお問い合わせください。 ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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慢性腰痛にリゾトミーは有効?手術の費用や期間について 慢性腰痛は多くの人が抱える問題であり、その治療方法は多岐にわたります。慢性的な痛みは日常生活に影響を及ぼすことがあり、適切な治療が求められます。 この記事では、慢性腰痛の治療法の一つであるリゾトミー(高周波熱凝固法)の効果や手術費用、治療期間について詳しく解説します。 慢性腰痛とは 慢性腰痛は、一般的に「12週間以上持続する腰痛」のことを指します。 慢性腰痛で多くの場合は、 腰の痛みに対する治療が効かないために慢性化してしまっています。そのため、疼痛を一気に解決するような効果的な治療法が存在しないことが多いとされています。 また、腰痛のための安静や活動制限が続いてしまうと、廃用性に体幹や全身の機能が低下します。この結果、日常生活や職業などの社会参加が障害されることになってしまいます。 慢性腰痛の原因 慢性腰痛の原因はさまざまです。例えば、椎間関節や椎間板、靭帯、筋などの組織が、過度な負荷によって傷ついて しまうことがあります。また、椎間板ヘルニアや、腰椎すべり症、腰椎分離症、変形性脊椎症なども腰痛の原因となります。 その他、慢性腰痛には心因性、つまり心の問題が原因となることもあります。実際に、ストレスによっても腰痛が生じることがわかっています。 慢性腰痛の治し方 慢性腰痛に対しては、マッサージや鍼治療が有効な場合があります。 マッサージは筋肉の緊張を和らげ、鍼治療は身体の特定のポイントを刺激することで痛みを緩和する効果が期待できます。 また、症状に合わせて痛みがある部分を冷やすことで炎症を抑えたり、温めることで血流を促進し筋肉の緊張を和らげたりすることも効果的です。 痛みを和らげるために、運動療法や薬物療法も役立つと考えられます。 リゾトミーの概要と効果 リゾトミーは、慢性腰痛の治療法の一つで、高周波熱凝固法(こうしゅうはねつぎょうこほう)とも呼ばれます。 この手術では、高周波の熱を使って痛みの原因となる神経を焼き切ります。リゾトミーは、特に神経根の圧迫による痛みに対して効果があるとされています。 リゾトミーを行う際には、以下の 手順で行っていきます。 1.患者様の準備 患者様は手術台にうつ伏せになります。医師は、対象となる腰椎の横突起関節(おうとっきかんせつ)の皮膚を洗浄・滅菌します。 2.局所麻酔 局所麻酔薬を注射し、皮膚とその下の組織の痛覚を抑え ます。 3.針の挿入 X線透視下で、皮膚を通して特殊な針を挿入し、腰痛の原因と考えられる細い神経に針先を向けます。 4.テスト 針が正しい位置にあることを確認したら、小さな電流を通して流し ます。そして、神経に近いことを確認し、筋肉のひきつれや痛みの誘発をテストします。 5.高周波焼灼 正しい針の位置を確認した後、高周波エネルギーが針を通して送られ、神経を加熱・焼灼(破壊)し、痛みの信号を遮断します。 6.手術後のケア 針を除去し、挿入部位を包帯で覆います。しばらく経過観察し、その後には帰宅が可能です。 治療の費用と期間 リゾトミー治療の費用は医療施設によって異なるものの、一般的には数十万円程度が相場となっています。治療費用には、手術費用、検査費用、入院費用などが含まれています。 リゾトミー治療は、保険の適応外の自費診療になり、治療費は高額になる場合が多いです 。そのため、リゾトミー治療を受ける患者様は保険の適用条件や具体的な費用について、事前に医療機関に確認することが重要です。 腰痛が治るまでの期間については、手術自体は通常1日で完了しますが、完全な痛みの軽減を実感するまでには個人差があり、数週間から数ヶ月かかることがあります。 治療後は、手術を受けた整形外科病院等へ定期的に通院し、フォローアップやリハビリテーションが必要になることもあります。そのため、医師の指示に従って適切なケアを続けることが大切です。また、治療の効果や安全性に関する最新の情報を確認し、リスクや副作用についても十分に理解しておくことが望ましいです。 リゾトミーのリスクと再生医療 リゾトミーは慢性腰痛の治療法ですが、いくつかのリスクが伴います。 リスクしては、感覚低 、筋力の低下、感染、出血や神経損傷などがあります。これらの症状に対して、再生医療が有望な治療法として注目されています。 再生医療は、損傷した組織や細胞を修復または再生させる技術で、リゾトミーの後遺症を克服する可能性があります。例えば、幹細胞療法は神経損傷の修復や機能回復を目指すもので、今後の研究の進展が期待されています。 まとめ・慢性腰痛にリゾトミーは有効?手術の費用や期間について 慢性腰痛の治療法としてのリゾトミーは、神経根の圧迫による痛みに効果的ではありますが 、リスクも伴います。治療を受ける前には医師としっかりと相談し、利点とリスク を十分に理解することが重要です。 リゾトミー治療には感覚低下や筋力の低下、神経損傷などの後遺症が生じるリスクもありますが、再生医療の進展により神経の修復が期待されています 。リゾトミー治療と再生医療を組み合わせることによって、今後さらに治療法の選択肢が広がることが望まれます 。 参考文献 慢性腰痛の疼痛管理─リハビリテーションの視点で.日本腰痛会誌.2004;10(1): 23-26. No.1 ストレスと腰痛 こころの耳 厚生労働省 Lumbar Facet Syndrome and the Use of Radiofrequency Ablation Technique as an Alternative Therapy: A Systematic Review.Rev Bras Ortop (Sao Paulo). 2023 Apr; 58(2): 199–205. Cohen SP, et al. Regenerative medicine and pain management.StatPearls [Internet].Last Update: January 16, 2023. ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 減圧症は、急激な高気圧から低気圧への移動時に生じる症状の総称です。減圧症は、潜水や高地登山など、急激な気圧の変化が起こる状況で発症することがあります。 この記事では、減圧症対策として、その原因や予防するためのポイントを6つに分け、わかりやすく解説します。 減圧症の原因 減圧症のメカニズムとしては、身体の周囲の気圧が急激に低下することで、体内の血液や組織に溶け込んでいる窒素ガスが血液や皮膚・筋肉・臓器などの組織の中で気泡を作り、血流障害や組織の破壊を引き起こすというものになります。 潜水における減圧症 潜水中に吸い込んだ空気中の窒素は血液や組織に取り込まれますが、水圧が高いところではその量が増えていきます。すると、窒素は急速にそして過剰に血液や組織に溶け込みます。その状態で急速に水面に浮上すると、周囲の水圧が低下するために血管内や組織内で窒素の気泡が形成されます。 この気泡が、血管を詰まらせて血流を阻害したり、組織を破壊したり、炎症反応を引き起こすことで、さまざまな障害や症状を引き起こすのです。 減圧症は潜水後に起こることが多いので、潜水病とも呼ばれます。 減圧症の影響 減圧症では、水面に浮上した後に倦怠感や疲労感、食欲不振、頭痛などの初期症状が現れることがあります。そして、徐々に他のさまざまな症状も現れてきます。 減圧症には、以下の2つのタイプがあります。 症状(Ⅱ型は、Ⅰ 型よりも重症です) ・ Ⅰ型:皮膚や筋肉の症状(ベンズ)のみ ・Ⅱ型:呼吸・循環器症状(チョークス)や中枢神経症状を伴うもの 減圧症では、脊髄損傷も起こりやすいとされています。 その他には、脳障害、呼吸器系の障害(肺塞栓など)、循環器系(心不全や心原性ショックなど)もあります。 また、減圧症の長期的な影響として、減圧性骨壊死という骨の障害もあります。この骨障害は、肩関節や股関節によく起こります。特に、大腿骨頭壊死が起こると、歩行障害などの影響がでたり、重症な場合には手術が必要となることもあります。 減圧症の治療の応急処置としては、100%酸素吸入を行っていきます。そして、専門医療機関では、高気圧酸素療法が行われます。 減圧症の予防ポイント6つ! ダイビング時だけでなく、登山時にも引き起こされることがあります。減圧症を予防するためのポイントを6つに分けて解説します。 ①潜水前の注意 減圧症は、以下に述べるような要因があるとそのリスクが増大します。 以下のようなリスクがないかどうか、潜水前にチェックしておくことが大切です。 ここにあげたようなリスクがある方については、医師に事前に潜水をしてよいか、確認をしておく方がよいでしょう。また、潜水前には、適切な訓練と手順を確実にチェックし、それを守ることが必要です。 リスクを避けるためのチェック項目 ・卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)や心房中隔欠損などの心臓の病気 ・疲労 ・肥満 ・高齢 ②潜水時の注意 急激な深さへの潜水や長時間の潜水は避け、適切な休憩を取りましょう。 また、浮上の速度は15〜30cm/秒を超えないようにします。さらに、水深3~4mの地点で3~5分間の安全停止をすることも、圧力の平衡を保つために推奨されています これに関しては、米国海軍潜水マニュアル(United States Navy Diving Manual)といった正式なガイドラインなどを参考にして、浮上したりすることで減圧症の予防につとめましょう。 ③潜水後の注意 ダイビング後12〜24時間以内は飛行機に乗らないようにしましょう。 潜水活動を行った後に飛行機に乗るような場合には、12〜24時間は海抜0の場所にとどまり、一定期間の休息後が望ましいとされています。 ダイビング後12〜24時間以内に飛行機に乗ると、減圧症のリスクが高まることが知られているのです。 ④高地登山の適切な計画 登山中に急激な標高の変化があると、大気中の酸素濃度が減少し、それによって減圧症が引き起こされることがあります。 登山前には、適切な標高への適応期間を確保し、急激な標高の変化を避けるよう計画しましょう。適切な装備の使用や体調管理も欠かせません。 ⑤十分な水分摂取 どの状況においても、十分な水分摂取が重要です。 水分不足は体調不良を引き起こしやすくなりますので、こまめな水分補給を心掛けましょう。 ⑥専門家のアドバイスを仰ぐ 潜水や高地登山など、特定の状況における活動前には、専門の医師や指導者に相談し、適切なアドバイスを得ることが賢明です。 以上のポイントを守ることで、減圧症のリスクを最小限に抑え、安全にダイビングをしたり登山をしたりすることが可能となるでしょう。 まとめ・減圧症の原因と6つの予防ポイント!わかりやすく解説 今回の記事では、減圧症の原因やメカニズム、予防法について詳細に解説しました。 しかしながら、適切な予防法をとっていても、減圧症による脊髄障害や脳障害によって麻痺などの症状が残ってしまう場合もあります。 こうした減圧症による脊髄損傷に対しては、リハビリテーションを行ったり、場合によってはステロイドなどの薬物治療が行われることが一般的です。しかしながら、こうした方法は根本的な治療法ではありませんでした。 そこで当院では、幹細胞治療として、自分の脂肪から培養した脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。この治療は、幹細胞を脊髄腔内に直接注入するというものです。 今までに、脊髄損傷の症状が改善されたという報告も寄せられており、今後に期待が持てる治療の一つと言えます。 ▼減圧症などで脊髄損傷を起こしてしまった方で、再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=5HxbCexwwbE ▼減圧症のセルフチェックは以下です 減圧症(潜水病)は軽度なら自然治癒も!症状のセルフチェックリストをご紹介 参考文献 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDプロフェッショナル版 素潜り漁中に発症した脳型減圧症の1例.臨床神経学. 2012;1052(10):757-761 潜水時の予防措置および潜水障害の予防 - 22. 外傷と中毒 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 減圧症 - 25. 外傷と中毒 - MSDマニュアル家庭版
公開日:2024.10.07 -
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胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛の違いについて?症状でチェック! 「胸椎椎間板ヘルニア」と「肋間神経痛」の違いはどのような点にあるのでしょうか。いずれも「背中に痛みを生じる」という症状が出るのですが、その他にも多くの違いがあります。 今回の記事では、胸椎椎間板ヘルニアおよび肋間神経痛について解説し、症状の違いについて述べていきます。 胸椎椎間板ヘルニアとは それでは、まずは胸椎椎間板ヘルニアについて解説していきます。 背骨、つまり脊椎は頭の方からおしりの方まで、頚椎、胸椎、腰椎、仙椎の順に積み重なったような構造をしています。そして、胸椎は左右12対の肋骨と背中側で連結している骨となります。 胸椎に限らず、椎体と椎体の間には椎間板というクッションのような役割を果たすものがあります。 胸椎椎間板ヘルニアとは、椎間板の変性や損傷によって、椎間板の外側の部分である繊維輪という構造が破れ、内部のゲル状の物質である髄核(ずいかく)が椎間板の外に漏れ出る状態です。これが脊髄を圧迫することで脊髄圧迫症状が現れます。 胸椎は頚椎や腰椎のように前かがみ、後ろかがみでもほとんど動きません。そして、胸椎椎間板ヘルニアは外傷などの誘因がない場合が多いとされています。 胸椎椎間板ヘルニアの治療 胸椎椎間板ヘルニアで、歩行障害や膀胱直腸障害などの症状が現れている場合には、手術が行われます。薬物治療やリハビリでは、こうした症状を抑えることは難しいです。 肋間神経痛とは 肋間神経痛とは、胸椎椎間板ヘルニアのような病名ではなく、肋間神経という肋骨に沿って走っている神経が何らかの要因で障害を受けたことで突発的に生じた痛みのことを指します。 痛みは身体の片側に起こることが多く、深呼吸や咳、そして身体の向きや位置を変えたりすることでも強くなることがあります。 肋間神経痛の原因の一つとして重要なのが、「帯状疱疹」です。帯状疱疹は「水ぼうそうウイルス」によって起こるのですが、このウイルスは肋間神経の神経節という部分に潜んでおり、免疫力の低下などによって再活性化して起こるものです。帯状疱疹による肋間神経痛は、鋭く激しい痛みが片側の肋骨に沿って現れ、水ぶくれを伴う、赤い発疹もできるという特徴があります。 その他、肋間神経痛は特に原因がわからないものや、胸椎椎間板ヘルニアや側弯症によって脊髄から肋間神経が出る部分を圧迫されることに伴うものがあります。また、肋骨骨折で肋間神経が障害されることでも起こりえます。 さらに、稀ではありますが、肺がんなどの胸部の手術の際に、手術で使った器具が肋間神経を圧迫してしまい、それが術後にも影響を残し肋間神経痛として残存してしまうということもあります。 肋間神経痛の治療 肋間神経痛の治療は、原因がある場合にはその病気の治療をしていきます。一方で、特に原因となるような病気がない場合には、肋間神経ブロックという痛み止めの注射を行ったり、鎮痛薬の内服をしたりなどして症状を抑えることとなります。 胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛の症状の違いをチェック 胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛は、同じように背中や胸部の痛みを引き起こす異なる状態です。しかしながら、以下のような違いがあります。 それでは、それぞれについて詳しく述べていきましょう。 胸椎椎間板ヘルニアの症状 胸椎椎間板ヘルニアでは、背中や胸部の痛みは出ることもあるのですが、疼痛がないこともあります。また、体幹から下半身にかけての筋力低下や感覚の異常を伴うことが主な症状となります。 胸椎椎間板ヘルニアが進行すると、歩行障害や膀胱直腸障害も出現することもあります。 肋間神経痛の症状 肋間神経痛の痛みは通常背中から胸部にかけてみられ、特に身体の片側の肋骨の間の領域で感じられることが多いです。また、呼吸や姿勢を変えることによって症状が悪化することがあります。 帯状疱疹による肋間神経痛では、水ぶくれを伴う特徴的な皮疹が痛みと同じ部位に現れます。 肋間神経痛はしばしば局所的な鋭い痛みで、肋間神経の分布に従います。そして、痛みの範囲が明確な場合が多いです。 痛みの程度、場所 痛み以外の症状 胸椎椎間板ヘルニア ・背中や胸部 ・痛みがないこともある ・下半身にかけての感覚異常 ・進行すると下半身の麻痺が起こることもある 肋間神経痛 ・背中から脇腹、胸部にかけての鋭い痛み ・痛みの範囲は明確なことが多い ・肋間神経痛の原因が帯状疱疹の場合には、皮膚の発疹を伴うこともある まとめ・胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛、どう違う?症状でチェック! 今回は胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛の症状の違いについて述べました。 背中から胸部にかけての痛みを生じる原因として、胸椎椎間板ヘルニアや肋間神経痛があります。厳密には、胸椎椎間板ヘルニアでも髄核が真正面でなく外側に飛び出すと、肋間神経痛の原因になることもありますが、腰椎椎間板ヘルニアより稀とされています。 いずれにしても、症状が続く場合や痛みが激しい場合は、早めに医療専門家に相談することが重要です。 胸椎椎間板ヘルニアによる歩行障害などの下半身の麻痺を治すためには、手術が必要となります。一方で、手術にも神経麻痺のリスクがあります。 当院は、大阪・東京・札幌にある再生医療専門クリニックです。胸椎椎間板ヘルニア術後の脊髄の障害に対しても、脂肪由来間葉系幹細胞治療を行っています。 この治療は、自分の脂肪から培養した幹細胞を脊髄腔内に注射または点滴投与するというものです。今までにも、麻痺の改善がみられたという患者さまからの声が寄せられています。 ▼胸椎椎間板ヘルニアの術後などの麻痺に対しての再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。 https://www.youtube.com/watch?v=4AOGsB-m63Y&t=141s 参考文献 「胸椎椎間板ヘルニア」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる Q8 急に胸が痛くなり続いています。 心臓や肺の病気でしょうか? - 呼吸器Q&A 一般社団法人 日本呼吸器学会 Q11 帯状疱疹とは何ですか? 公益社団法人 日本皮膚科学会 術後合併症について 国立がん研究センター 東病院 ▼胸椎椎間板ヘルニアの治療についてさらに詳しく記しました 胸椎椎間板ヘルニア症状レベルと自然治癒の可能性について
公開日:2024.10.07 -
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「背骨を押すと痛い」「背骨の胸あたりを押すと痛む」部分を胸椎(きょうつい)といいます。首と腰の間にある部分で、胸椎は12個の骨から成り立っており、それぞれが左右12本ずつある肋骨(ろっこつ)とつながっています。 背骨を押すと痛みを感じるとき、ただの疲れや姿勢の問題だと考えられがちですが、実は神経や骨に関連する病気の可能性もあります。 本記事では、背骨に痛みを感じたときに考えられる5つの病気や改善方法などを専門医ができるだけわかりやすく解説します。最後まで読めば、痛みが悪化する前に適切な行動ができるようになるはずです。 背骨(胸椎)を押すと痛い原因 背骨を押すと痛い原因はさまざまですが、姿勢の悪さや筋肉、骨の問題であることがほとんどです。 例えば、主婦や事務労働をする方であれば、背中が丸まったような悪い姿勢(猫背)が主な原因として考えられるほか、年齢に伴う椎間板の老化なども挙げられます。 冒頭でもお伝えしましたが胸椎は肋骨と繋がっています。背中の真ん中あたり、肋骨に近い背骨を押すと、胸椎の後ろにある突起部分(棘突起:きょくとっき)に圧力がかかり、痛みの原因となるのです。 特に胸椎のあたりに痛みがある場合は、神経や筋肉、骨に関わる病気の可能性があります。 背骨(胸椎)を押すと痛いときに考えられる5つの病気 背骨(胸椎)を押すと痛いときに考えられる5つの病気は以下の通りです。 脊椎過敏症 胸椎椎間板ヘルニア 肋間神経痛 強直性脊椎炎 胸椎骨折 各疾患の症状などをできるだけ簡単に説明します。痛みがどの症状に当てはまるのか、チェックしながら読み進めていきましょう。 ①脊椎過敏症(せきついかびんしょう) 背骨を押すと圧痛が生じる病態として、脊椎過敏症があります。この病気の症状としては、背部や棘突起のあたりの痛みや押した際の痛み(圧痛)が出ます。 脊椎過敏症では、背部の痛み以外には特に症状はなく、予後も比較的良好です。この脊椎過敏症は、20歳代の女性、特に事務労働者や主婦に多く、背中が丸まったような悪い姿勢などの原因が あるのではないかと考えられています。数ヶ月から数年の間で自然に治っていくことが普通です。 ②胸椎椎間板ヘルニア(きょうついついかんばんヘルニア) 胸椎椎間板ヘルニアは、胸椎の椎体と椎体との間にあるクッションのような構造である椎間板が変性し、脊椎の外側に飛び出し、脊髄を圧迫する病気です。 胸椎椎間板ヘルニアの症状として、背部痛(背中の痛み)が生じることもあります。その他の症状として、体幹から下半身の感覚が低下することや、筋力低下がみられます。胸椎椎間板ヘルニアは、外傷などの明らかな原因がない場合がほとんどです。 また胸椎椎間板ヘルニアは腰椎や頚椎の椎間板ヘルニアと比べてその頻度は少なく、歩行障害などの症状が現れた場合には手術を要することが多いです。 放置すると重症化の恐れがある胸椎椎間板ヘルニアの概要や症状について、以下の記事でさらに詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。 なお、胸椎椎間板ヘルニアなどの痛みは、手術を必要としない再生医療によって改善が期待できます。興味のある方は、再生医療による回復の事例などを紹介した以下の動画もご覧ください。 ③肋間神経痛(ろっかんしんけいつう) 胸椎椎間板では、椎間板の中にある髄核(ずいかく)という構造が脊髄の真ん中を圧迫するですが、左右方向に髄核が飛び出すと神経根という脊髄から神経が出ていく部分を圧迫することもあります。すると、肋間神経痛の症状が現れます。肋間神経痛の症状としては、背中から胸にかけて、肋骨に沿ったような鋭い痛みが生じるというものです。 なお前述の胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛は、いずれも背中に痛みが出ますが、痛みの場所であったり症状だったりが異なります。 以下の記事で胸椎椎間板ヘルニアと肋間神経痛の違いについて詳しく解説したので、こちらも合わせてご覧ください。 ④強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん) 強直性脊椎炎は、仙腸関節という関節や腰、背中、首の脊椎の靱帯付着部に炎症が生じる病気です。さらに、胸椎の椎間関節にも炎症は起こります。 症状の多くは腰痛やお尻の痛みから始まり、徐々に背中全体や首にまで広がっていきます。症状が進むと、体を曲げ伸ばしすることが難しくなり、前屈みの姿勢となっていきます。体のだるさや疲れやすさ、体重減少、微熱、高熱などの全身の症状がでることもあります。 また、4人に1人の確率で目の病気である虹彩炎(こうさいえん)が起こりますが、早めに眼科治療を受ければ予後は良好です。 ⑤胸椎骨折(きょうついこっせつ) 骨粗鬆症や、腫瘍が骨に転移した際に、背骨が圧迫骨折をきたすことがあります。この場合にも、圧痛や体動時痛といった症状が生じることがあります。 骨折の程度によっては、脊髄損傷をきたすこともあり、胸椎と腰椎の移行部に骨折が生じた場合には、両下肢の麻痺症状などを引き起こす可能性もあります。 骨折の原因が骨粗鬆症などで軽度の圧迫骨折を来している際には、安静と簡易コルセットなどの外固定をすることで、3〜4週間でほとんどの症状が改善するとされています。 転移性骨腫瘍が原因である場合には、癌そのものに対する化学療法やホルモン治療が行われます。骨転移による痛みが強い場合には、放射線治療が有効な場合もあります。骨破壊が進行しており、脊髄への圧迫がみられるような際には、脊椎固定術も行われます。 脊髄の損傷は手術しなくても治療できる時代です。 背骨(胸椎)を押して痛いときの改善方法 背骨(胸椎)を押して痛いときの改善方法として以下の3つが挙げられます。 医療機関を受診する 正しい姿勢を意識する 普段の姿勢やストレッチなどで痛みを緩和できるかもしれませんが、まずは専門医の診断を受けることをおすすめします。 医療機関を受診する 前述してきたとおり、背骨の胸のあたりにある「胸椎」を押して痛い場合にはさまざまな原因があります。脊椎過敏症のように、胸椎を押したときの痛み以外に特に症状がなく、治療をしなくても自然に改善していくこともあります。 一方で、胸椎椎間板ヘルニアなどは、下半身の筋力低下や感覚低下といった神経症状がみられます。こうした場合、基本的には手術が必要となりますので、早めに整形外科などの専門医療機関を受診することをお勧めします。 背骨(胸椎)を押して痛いときは、自己判断せずに医療機関に相談しましょう。当院「リペアセルクリニック」では、胸椎の痛みなどに関する再生医療や幹細胞治療を得意としていますので、まずはお気軽にご相談ください。 正しい姿勢を意識する 正しい姿勢は背骨にかかる負担を減らすことができます。特に猫背は背骨に負担がかかるので、背筋を適切に伸ばした状態をキープするようにしましょう。 日常の中で特に猫背になりやすい体制として、以下の3つが挙げられます。 スマホを操作するとき デスクワークをするとき 寝るとき 日常生活には背骨への負担がかかる場面が多くあるので、上記を参考にできることからはじめていきましょう。 まとめ|背骨(胸椎)に痛みを感じたらすぐに受診を! 本記事では、背骨(胸椎)を押して痛い原因や5つの病気、治療などについて解説しました。 胸椎椎間板ヘルニアなどの神経を圧迫する疾患では、治療が遅れると脊髄の神経が傷つき、麻痺が完全に治らない場合もあります。現在の医療では、一度傷ついた神経細胞を完全に修復することは難しいですが、当院は自己脂肪由来幹細胞を用いた再生医療を、脊髄損傷にも応用しています。 背骨(胸椎)を押して痛い病気の中には、後々まで症状が残る場合もあるため、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。 再生医療に少しでもご興味のある方は、当院「リペアセルクリニック」までご相談ください。 背骨(胸椎)の痛みに関するよくある質問 Q.背骨(胸椎)が痛むときにストレッチをしても大丈夫ですか? A.痛みや症状によってはストレッチを避けて安静にするのが良いです。 例えば、胸椎自体の痛みがある場合は、骨折や脊椎炎などが考えられ、このような場合はストレッチは避けるのが無難です。 また、胸椎椎間板ヘルニアの場合は、ヘルニアを押し戻すような効果として、猫のポーズが有効な場合があります。 このように、自己判断でストレッチをすると症状を悪化させてしまいかねませんので、医療機関を受診しましょう。 なお、胸椎椎間板ヘルニアの痛みを予防するストレッチについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。 参考文献 胸背部痛.日内会誌.2010;99:1686-1689. 脊椎過敏症 (medicina 14巻13号) | 医書.jp 胸椎(せなか)の症状一覧 - 日本整形外科学会 強直性脊椎炎(指定難病271) - 難病情報センター 「脊椎椎体骨折」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「転移性脊椎腫瘍」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
公開日:2024.10.23