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脊髄損傷急性期とは|症状回復の重要な期間といわれる理由や治療法を医師が解説

脊髄損傷には、急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期があります。急性期は症状回復を左右する重要な期間のため、診断を受けた上で適切な治療が大切です。
とはいえ、急性期は症状が発生したばかりの期間となり、身体的にも精神的にも不安定になりやすいでしょう。不安やストレスを軽減するには、急性期について理解を深めることがポイントです。
この記事では、脊髄損傷急性期とはどのような期間か解説します。症状回復に重要な期間といわれる理由や治療法もまとめているので、ぜひ参考にしてください。
目次
脊髄損傷急性期とは
脊髄損傷急性期(せきずいそんしょうきゅうせいき)とは、脊髄損傷が発生した時期をいいます。ここでは、急性期の期間や、亜急性期(あきゅうせいき)・慢性期(まんせいき)との違いについて解説します。
脊髄損傷で急性期と診断された方は、今後の治療プランを検討するためにもぜひ参考にしてください。
期間
脊髄損傷の急性期とは、脊髄損傷が発生してから2〜3週間ほどの期間をいいます。一般的に脊髄損傷の原因は、内的要因と外的要因の2つです。
内的要因の場合、脊髄自体に問題が生じて損傷が起こります。脊髄梗塞や脊髄出血、椎間板ヘルニアなどが内的要因の原因に該当します。
また、外部から強い衝撃が加わり脊髄を損傷した場合は外的要因です。外的要因には、交通事故や転倒などがあります。ラグビーや柔道などのスポーツも外部要因の一つで、脊髄損傷は幅広い世代が発症する疾患です。急性期は脊髄損傷の回復を左右する期間になるため、迅速かつ適切な治療が重要です。
亜急性期・慢性期との違い
脊髄損傷は急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期に分類され、各期間に適した治療が必要です。各期間には、以下の違いがあります。(文献1)
期間 |
特徴 |
主な治療法 |
---|---|---|
急性期 |
脊髄損傷を発生して間もない時期で、回復を左右する期間 |
保存療法 リハビリテーション |
亜急性期 |
急性期の炎症が収まり、血管新生や組織修復反応が起こる期間 |
リハビリテーション |
慢性期 |
神経細胞の活性が低下し、治療への効果が弱くなる期間 |
リハビリテーション 放射線治療 手術 |
各期間の特徴から、適切な治療を検討しましょう。
脊髄損傷急性期の症状
脊髄損傷急性期の症状は、多岐にわたります。急性期では脊髄が損傷した直後から身体の異変が起こり、症状が急速に進行するためです。
主な身体の反応には一時損傷と二次損傷があり、双方の違いは以下の通りです。
一時損傷 |
外力による組織の損傷 |
---|---|
二次損傷 |
一時損傷に続き、損傷が周辺組織に広がり、炎症反応や血液の循環不全による神経細胞の損傷 |
実際に、急性期には下肢に電気が走るような強い痛みや手足のしびれなどの症状が見られています。(文献2)また、損傷が進行すると運動機能が完全に失われるだけでなく、排せつのコントロールができなくなったり生命にかかわったりするリスクが生じます。
脊髄損傷急性期に正確な診断を受けるべき理由
脊髄損傷の回復には、急性期に二次損傷を抑える治療が重要です。急性期は症状が急速に進行するため、適切な治療を受けなければ周辺細胞が損傷し、神経伝達が低下します。
神経伝達の低下は運動機能が失われる要因となり、まったく動かせない状態に陥るケースも少なくありません。そのため、急性期の診断では以下の点をチェックした上で適切な治療を行います。
- 損傷の進行状態
- 影響を受けている神経の特定
脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲の把握が機能回復において重要です。損傷を最小限に抑えるためには、急性期で正確な診断を受ける必要があります。
脊髄損傷急性期の主な治療法
脊髄損傷急性期の治療は、症状回復に影響を与えます。代表的な治療法は、以下の3つです。
- 保存療法
- 手術
- 再生医療
急性期の治療法について理解を深めたい方は、参考にしてください。
保存療法
保存療法は手術以外の方法で、症状を改善する治療法です。脊髄損傷急性期の場合、主に以下の保存療法がおこなわれます。
- 薬物療法(ステロイド治療)
- 固定装置の使用
- リハビリテーション
また、脊髄損傷急性期に不用意に身体を動かすと損傷の拡大や合併症のリスクが生じる可能性があるため、安静が重要です。脊髄を安定させるために、正しい位置や姿勢の維持が必要になります。
一般的にはギブスなどの固定装置を使用して、脊髄を安定させます。適切な安静は炎症が抑えられ、神経組織の修復が進むため症状回復に効果的です。
脊髄損傷の急性期は、生活動作が自分でできない辛さや回復への不安など、精神的なサポートも重要になります。安静は心身のリラックス効果もあるため、回復へ向けて気持ちを前向きにする役割も期待できます。
手術
急性期では一般的に保存療法を行います。しかし、脊髄損傷の原因となる圧迫因子の除去や二次損傷の予防など、症状が悪化する可能性がある場合に手術を行います。
急性期に行う主な術式は、以下の2つです。
術式 |
内容 |
---|---|
除圧術 |
脊髄や神経根などへの圧力を除去し、神経損傷の抑制と症状緩和を図る |
固定術 |
金属のプレートやネジを使用して脊椎を固定し、自然治癒を促進する |
症状の進行状況によって異なりますが、診断から手術を検討するのも手段の一つです。
再生医療
脊髄は脳とつながる太い神経の束で、損傷すると麻痺や感覚障害、自律神経障害などさまざまな障害が生じます。急性期には固定装置の使用やリハビリテーションを実施しますが、再生医療も治療法の一つです。
再生医療の幹細胞治療は、患者自身の細胞を活用する医療技術になります。脊髄損傷の再生医療の場合、骨髄由来と脂肪由来の幹細胞の2つがあります。なかでも、脂肪由来の幹細胞は体への負担が少ない点がメリットです。また、再生医療は入院の必要がなく、日帰りで治療を受けられます。
当院リペアセルクリニックでは、再生医療を行っております。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、脊髄損傷の治療法として再生医療を検討している方はお問い合わせください。
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脊髄損傷急性期におけるリハビリテーションの内容
脊髄損傷は、急性期からリハビリテーションの実施が重要です。ここでは、脊髄損傷急性期から行われる代表的なリハビリテーションを3つ解説します。
- 呼吸訓練
- 関節可動域訓練
- 床ずれ予防・離床訓練
回復へ向けたリハビリテーションの内容が知りたい方は、参考にしてください。
呼吸訓練
脊髄損傷は損傷の部位によって、呼吸器官に麻痺が起こります。また、首を損傷した場合、息を吐く力が弱くなり、痰づまりや肺炎を起こすケースも少なくありません。
そのため、急性期では呼吸理学療法がおこなわれます。呼吸理学療法は症状のレベルによって異なりますが、リハビリ内容は以下の通りです。
- 沈下性肺炎の予防
- 人工呼吸器管理による短時間自発呼吸の獲得
- 人工呼吸からの離脱訓練
呼吸訓練には、胸郭を広げるエクササイズや息を吐き切るトレーニングなどがあります。セルフトレーニングもあるため、呼吸力向上へ向けて急性期から行うことが大切です。
関節可動域訓練
関節可動域訓練とは、関節を動かせる範囲を広げるリハビリテーションです。脊髄損傷で麻痺した部分は、関節が硬くなります。関節が硬くなると次第に可動域が狭まり、床ずれや車いすへの移動、起き上がりなど日常生活においてさまざまな支障をきたします。
とくに脊髄損傷では、以下の関節ケアが重要です。
- 肩関節
- 股関節
- 足関節
該当の部位は、車いす操作や立位保持などにも影響を与えます。関節可動域訓練は、全身の機能維持において必要な訓練です。
床ずれ予防・離床訓練
急性期には、床ずれ予防や離床訓練を行います。脊髄損傷急性期では、全身の筋肉の緊張が低下し、床ずれを起こしやすくなるためです。
そのため、早期に体位の変換やクッション選びなどの対策をとる必要があります。また、全身が安定している場合は、ベッドに座った状態を維持する離床訓練の実施が大切です。座れるようになると、食事や排せつ、車いすの使用など日常生活へ戻る訓練を進められます。
症状の回復には、急性期にベッドから起きていられるよう体を慣らすリハビリテーションがポイントです。
脊髄損傷の急性期は回復に影響を与える重要な期間
脊髄損傷急性期は発生してから2〜3週間ほどの期間で、症状回復に影響を与えます。重要な期間となるため、早期に診断を受けて適切な治療を受けることが大切です。
脊髄損傷急性期の主な治療法には、安静やリハビリテーションなどがあります。症状回復を目指せるよう、診断から脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲を把握しましょう。
また、脊髄損傷急性期の治療法の選択肢として、体への負担が少ない再生医療も検討できます。当院リペアセルクリニックでは、脊髄損傷の再生医療を行っています。急性期における適切な治療法を検討中の方は、ぜひお問い合わせください。

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脊髄損傷の急性期に関するよくある質問
脊髄損傷の急性期に起こる合併症は何ですか?
脊髄損傷では麻痺以外に、呼吸器合併症や循環器合併症など、さまざまな合併症が発生します。なかでも、急性期では消化器合併症が起こりやすいため注意が必要です。
急性期にはストレス性胃潰瘍や十二指腸潰瘍のほか、胃腸の働き低下により腸閉塞となるケースもあります。いずれも生命にかかわる重要なものばかりなので、早期治療が重要です。
脊髄損傷を発症した場合に回復見込みはありますか?
脊髄損傷は原因や症状、損傷位置によって回復が見込めるか異なります。症状が軽度の場合は、治療次第で回復が見込めます。
しかし、重度の場合は回復の見込みが低く、完治しないケースがほとんどです。脊髄損傷は時期によって治療法が異なるため、早めに診断を受けましょう。
脊髄損傷の急性期における看護のポイントは?
脊髄損傷の急性期では、家族のサポートが重要です。急性期では症状が発生し、身体への異変や生活動作が自分でできない辛さ、回復への期待などから精神面が不安定になりやすい時期といえます。
そのため、周囲からの励ましが生きる希望につながります。不安やストレスを軽減するほか、治療へ積極的な取り組みを促すためのサポートが看護のポイントです。
参考文献
厚生労働省「急性期脊髄損傷の治療を目的とした医薬品等の臨床評価に関するガイドラインについて」独立行政法人 医薬品医療機器総合機構2019年
https://www.pmda.go.jp/files/000230373.pdf(最終アクセス:2025年5月20日)
松本浩子,泉キヨ子.「脊髄損傷患者の急性期における体験」『日本看護研究学会雑誌』30巻(2号), pp.77-85, 2007年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/30/2/30_20070125006/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月20日)