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脊髄損傷の原因と対策|レベル別の症状と治療法を解説

脊髄損傷は、交通事故、転倒、スポーツでのけがなど日常生活のさまざまな場面で発症する可能性があります。
脊椎は身体の中心を支える重要な部分です。その内側の脊髄を損傷すると、運動機能や感覚に深刻な影響を及ぼし、日常生活に大きな制約が生じます。(文献1)また、症状は損傷部位によって異なります。
この記事では、脊髄損傷の原因と予防方法、損傷レベルごとの症状や治療法について詳しく解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
脊髄損傷の原因
脊髄損傷の原因は以下の2通りに分けられます。
- 原因が脊髄そのものにある場合(内的要因)
- 原因が脊髄の外にある場合(外的要因)
それぞれ解説します。
原因が脊髄そのものにある場合(内的要因)
脊髄損傷の内的要因とは、脊髄そのものに問題が生じて損傷が起こるケースを指します。
これには病気や体内の異常が関係することが多く、外傷がないにもかかわらず神経機能が低下することがあります。主な要因は以下の通りです。
症名 | 詳細 |
---|---|
脊髄梗塞 |
脊髄を流れる血管が詰まり、神経細胞が壊死する疾患です。動脈硬化や血栓が原因となることがあります。 |
脊髄出血 | 血管が破れ、脊髄内に出血が起こった状態です。高血圧や血管の異常が関係します。 |
感染症 | 細菌やウイルスが脊髄に感染し、炎症を引き起こします。脊髄炎や結核性脊椎炎が代表例です。 |
ビタミンB12欠乏 | ビタミンB12が不足すると神経の機能が低下し、しびれや歩行障害が現れることがあります。 |
脊髄腫瘍 | 脊髄やその周囲に腫瘍が発生し、圧迫によって神経が損傷します。 |
椎間板ヘルニア | 脊椎のクッションである椎間板が突出し、脊髄を圧迫することで損傷を引き起こします。加齢や姿勢の影響を受けやすいです。 |
上記のような内的要因が脊髄損傷の原因になります。一概に内的要因での脊髄損傷といっても症状や要因はさまざまです。心当たりがあればすぐに病院へ行きましょう。
原因が脊髄の外にある場合(外的要因)
脊髄損傷は、脊髄自体に異常がなくても、外部からの強い衝撃によって発症する場合があります。以下が代表的な外的要因です。
- 交通事故(自動車、バイク、自転車の衝突や転倒)
- 転倒・転落(階段や浴室での転倒、高齢者の転倒事故)
- スポーツ関連の事故(ラグビー、柔道、体操、スキーなどの接触や転倒)
- 労働災害(建設現場や工場での事故)
- 高所からの落下・落下物の下敷きになる(足場からの転落、建築資材の落下)
これらの外傷によって、脊柱が強く曲がったり圧迫されたりすると、脊髄が損傷されやすいです。
外的な衝撃が軽微であっても、既に脊椎疾患がある場合、脊髄損傷が発症する場合があります。たとえば、脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症の患者様は、わずかな転倒でも脊髄が圧迫され、麻痺などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
放射線治療を受けたことがある人は、骨がもろくなり、小さな衝撃でも骨折しやすいです。
これらの外的要因による脊髄損傷は、適切な予防によりリスクを軽減できます。安全対策を徹底し、事故を未然に防ぐことが大切です。
脊髄損傷を発症した人の原因別の割合
脊髄損傷の主な原因は、以下の表の通りです。交通事故、転落、転倒の順に多く、とくに日本では高齢化が進んだ結果、高齢者の転倒による受傷が増えています。(文献3)
原因 | 割合(%) |
---|---|
交通事故 | 43.7% |
高所転落 | 28.9% |
転倒 | 12.9% |
打撲・下敷き | 5.5% |
スポーツ | 5.4% |
自殺企図 | 1.7% |
その他 | 1.9% |
交通事故は比較的若い人に多く、バイクや自動車の運転中の衝突事故が大きな要因です。一方、高所転落は高所作業や建設現場などの労働環境で発生しやすく、労働災害としての事例もあります。
脊髄損傷のリスクは年齢や生活環境によって異なります。事故を防ぐためには、交通ルールの遵守、安全対策の徹底、転倒予防の工夫が重要です。
脊髄損傷の症状をレベル(高位)別に紹介
脊髄損傷は、完全損傷と不完全損傷の2種類に分類されます。
完全損傷では、損傷部位より下の運動機能や感覚が完全に失われ、不完全損傷では、部分的に機能が残ることがあります。不完全損傷の分類は、以下の通りです。(文献2)
不完全損傷の分類 | 症状の傾向 |
---|---|
中心性脊髄損傷 | 上肢の麻痺が強く、下肢の影響が少ない |
Brown Sequard(ブラウン セカール)症候群 | 片側の運動麻痺+反対側の痛覚・温度覚消失 |
前脊髄症候群 | 運動機能と痛覚・温度覚が失われるが、触覚は保たれる |
後脊髄症候群 | 触覚・振動覚・位置覚が失われるが、運動機能は比較的保たれる |
また、損傷高位レベルによって以下のような症状が出現します。
損傷高位レベル | 主な症状 |
---|---|
頸椎損傷(C1~C8) | ・全身麻痺や呼吸困難(C1~C4) ・手指の一部が動く(C5~C8) |
胸椎損傷(T1~T12) | 下半身麻痺、体幹のバランス低下、排尿排便障害 |
腰椎損傷(L1~L5) | 歩行困難、膀胱直腸障害、感覚障害 |
仙椎損傷(S1~S5) | 軽度の感覚障害や排尿排便の調整機能低下 |
上記のように、損傷高位レベル別で症状は異なります。
脊髄損傷とともに合併症のリスクが高まる点に注意
脊髄損傷のリスクの一つとして合併症があります。損傷の部位や重症度によって影響が異なり、適切な管理が必要です。脊髄損傷で発症しやすい合併症は以下の通りです。(文献3)
合併症 | 症状 |
---|---|
呼吸器合併症 | 頚椎損傷による呼吸筋の麻痺で呼吸不全を引き起こします。頚髄C4損傷では自発呼吸が困難になり、人工呼吸器が必要になります。 |
循環器合併症 | 血圧調節機能の低下による低血圧や深部静脈血栓症のリスクが増加します。また、起立性低血圧で車いす移乗時に意識消失を起こすことがあります。 |
消化器合併症 | 腸の蠕動運動低下による便秘や腸閉塞のリスクがあります。また、長期臥床により重度の便秘を発症し摘便が必要になります。 |
泌尿器合併症 | 排尿機能障害により尿路感染や腎機能障害を起こしやすいです。尿カテーテル管理中に膀胱炎を繰り返し、腎盂腎炎を発症することもあります。 |
褥瘡(床ずれ) | 圧迫により皮膚が壊死しやすく、感染症のリスクが高まります。長時間の同じ姿勢により仙骨部に深部褥瘡を発症することもあります。 |
上記の合併症を防ぐためには適切な体位変換、リハビリ、感染予防がポイントです。
脊髄損傷の治療法を目的別に解説
脊髄損傷の治療は、その原因および目的によって多岐にわたります。
- 原因に対する治療
- 救命のための治療
- 障害の影響を減らすための治療
それぞれ詳しく解説します。
原因に対する治療
脊髄損傷の治療は、原因に応じたアプローチが必要です。脊髄感染症やビタミン欠乏、腫瘍が関与している場合、それぞれに適した治療を行います。
感染症なら抗生物質、ビタミン欠乏なら栄養補給、腫瘍なら放射線療法や手術を検討します。
椎間板ヘルニア、血腫、膿瘍などが脊髄を圧迫している場合、手術で原因を除去することが一般的です。たとえば、腰椎椎間板ヘルニアなら突出した髄核を摘出し、神経の圧迫を軽減します。
硬膜外血腫なら血液を排出し、脊髄の機能を回復させます。脊髄膿瘍では感染源の除去と抗菌薬の投与を組み合わせることが重要です。
救命のための治療
頸髄などの頭に近い部位で脊髄損傷が起きると、呼吸や血液循環を制御する神経が損傷され、生命の維持が困難になります。たとえば、頸髄の上部が損傷すると、自発呼吸ができなくなり、窒息のリスクが高まります。
このような場合、治療よりも先に人工心肺や人工呼吸器を使用し、呼吸と循環を維持することが必要です。
血圧が低下し、臓器への血流が不足すると、多臓器不全を引き起こす可能性があります。輸液や昇圧剤の投与で血圧を管理するのが一般的です。
後遺症・障害の影響を減らすための治療
脊髄損傷では、最大限の治療を行っても後遺症が出ることがあります。その場合に重要なのが、リハビリテーションを中心とした治療です。
リハビリを行うことで、障害を受けた機能をほかの機能で補えます。たとえば、手足の麻痺がある場合、残された筋力を強化する訓練を行い、車椅子操作や介助を受けながら自立した生活を目指します。また、失われた感覚を補うために、音声認識技術や福祉機器の活用も有効です。
行政や医療のサポートを利用すれば、事故前に近い生活レベルを取り戻せる可能性があります。住宅のバリアフリー改修や補助金制度の利用などを組み合わせることで、日常生活の負担を減らせます。
脊髄損傷の後遺症に対する治療「再生医療」について
脊髄損傷による後遺症は、手足の麻痺やしびれ、歩行障害など深刻な影響を及ぼします。
万が一、手術後に後遺症が残ってしまった場合には、再生医療である幹細胞治療が選択肢の一つです。幹細胞は損傷した神経の修復を促すため、症状の改善が期待できます。
たとえば、手足のしびれが続く患者様に幹細胞を投与すると、損傷した神経を修復可能です。リハビリと併用することで、可動域の拡大や筋力の回復につながる可能性もあります。
脊髄損傷を予防するために意識すること
脊髄損傷を防ぐためには、けがを避けることが基本です。(文献3)たとえば、高所での作業時は安全帯の着用や周囲の確認を徹底、階段の昇降時には手すりを使い、歩行中は滑りやすい場所を避けるなどして転倒のリスクを減らしましょう。
高齢者の場合、非骨傷性頚髄損傷のリスクがあります。これは骨折を伴わない頸髄損傷で、頸椎の変形が原因です。定期的な検診で頸椎の変形を早期に発見し、適切な治療を受けることが大切です。骨密度の低下を防ぐためには、カルシウムやビタミンDの摂取、適度な運動を心がけましょう。
そして、安全な生活環境を整えることも、脊髄損傷の予防につながります。
まとめ|脊髄損傷の原因に即した適切な方法で治療しましょう
今回の記事では脊髄損傷とその症状および治療法について解説しました。
脊髄損傷の原因や症状は多岐にわたります。交通事故やスポーツ外傷、高所からの転落などの外傷性損傷だけでなく、腫瘍や感染症によるものもあります。
症状の程度も異なり、軽度のしびれから四肢の麻痺まで幅広いです。そのため、各症例に合わせた治療が重要となります。
当院リペアセルクリニックでは、幹細胞治療を用いた再生医療で脊髄損傷の治療をサポートしています。従来の治療で十分な改善が見られず、再生医療を検討されたい場合はリペアセルクリニックへご相談ください。
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参考文献
(文献1)
公益社団法人日本整形外科学会「脊髄損傷」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spinal_cord_injury.html
(最終アクセス:2025年3月20日)
文献2
一般社団法人日本脊髄外科学会「脊髄損傷」
https://www.neurospine.jp/original62.html
(最終アクセス:2025年3月20日)
文献3
独立行政法人労働健康安全機構「脊椎・脊髄損傷」
https://www.research.johas.go.jp/sekizui/
(最終アクセス:2025年3月20日)