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グロインペイン症候群の治し方を解説【医師監修】

「サッカーの練習中に足のつけ根が痛くなってきた…」「ランニングで股関節まわりに違和感があるけど、病院に行くほどなのかな?」
このようなお悩みを持たれている方もいらっしゃることでしょう。足のつけ根の痛みをそのうち治るだろうと我慢すると、半年以上プレーできなくなるケースもあります。
グロインペイン症候群は、適切な対処で早期回復が期待できる症状です。
この記事では、グロインペイン症候群の治し方について、自分でできるチェック方法から症状レベル別ケアまで説明します。
本記事を読むと今日から取れる行動がわかることと、病院に行くか迷わないようになりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
グロインペイン症候群の治し方|セルフケアと治療法
グロインペイン症候群の治療は、症状の段階に応じて段階的にアプローチが重要です。
運動してもそこまで気にならない軽い痛みの場合は、1~2週間で症状が落ち着くことがあります。
中程度の痛みであれば、1〜2カ月ほど継続的な治療が必要です。この場合はまずは安静にして様子をみましょう。
そして、痛みが軽減されれば水中でのウォーキングや、軽いジョギングなど専門医と相談しながら段階的に運動を再開していく方法が効果的です。
一方で、症状が重く、慢性的に痛みが継続するような場合は、治療が数カ月以上続くことが考えられますので、病院での診察をおすすめします。
初期段階のセルフケア
痛みが軽いうちに始めたいのが、自宅でできるセルフケアです。
ストレッチがおすすめで、動きながら反動をつけてストレッチする動的ストレッチと、筋肉を伸ばした状態で反動をつけず一定時間保持する静的ストレッチがあります。
動的ストレッチは、動きながら反動をつけて行うストレッチで、運動前のウォーミングアップに適しています。股関節を大きく回したり、足を前後に振るような動きが代表的です。
静的ストレッチは、筋肉を伸ばした状態で反動をつけず、一定時間保持するストレッチです。運動後のクールダウンや就寝前に行うと効果的なストレッチです。
股関節まわりの筋力トレーニングも効果的です。お腹まわりの体幹筋を鍛えることで、股関節への負担を軽減できます。
プランクやサイドプランクなどの簡単な体幹トレーニングから始めて、徐々に負荷を上げていきましょう。
ただし、痛みが強いときは無理をせず、まずは安静にすることが大切です。
医療機関での治療法
グロインペイン症候群の治療法は主に保存療法です。
まず痛みのある部分を安静にして、湿布や飲み薬で炎症を抑えます。症状が落ち着いてきたら、股関節周りの筋肉を柔らかくするストレッチと、弱くなった筋肉を鍛える運動療法を行います。とくに太ももの内側やお腹の奥の筋肉を強化することが重要です。
理学療法士の指導のもと、正しいフォームでの運動や動作の改善も行います。
これらの保存療法で多くの場合改善しますが、効果が不十分な時は注射治療や手術を検討することもあります。完治には数ヶ月かかるため、焦らず継続することが大切です。
グロインペイン症候群の応急ケア
足のつけ根の強い痛みで練習を止めざるを得ないとき、まず頼りになるのがテーピングとサポーターです。
テープは内ももと股関節をやさしく固定して動きを制御し、痛みを一時的に減らします。
貼る位置は腸腰筋と内転筋に沿わせるのが基本で、テープを軽く引っぱりながら2本平行に貼ると動きやすさを保ちつつ負担を分散できます。
市販の腰・股関節サポーターでも痛みの緩和に効果的です。
しかし、どちらの方法も治療ではなく「あくまで痛みを抑える道具」である点を忘れずに。
2週間使っても痛みが引かない場合は、治療法を見直すサインです。
テーピングで痛みを和らげる手順
テーピングは、太ももの内側を走る筋肉に沿って貼るだけで効果が変わります。正しいテーピングの手順をみていきましょう。
正しいテーピングの手順
- 肌を清潔にして、毛があれば剃っておきます
- 鼠径部(足のつけ根)から3cm下の位置にテープの端を固定します
- テープを軽く伸ばしながら、太ももの内側に沿って貼ります
- 2枚目は1枚目に半分重なるように平行に重ねて貼ります
- 貼ったあとは手で軽くこすって密着させると剝がれにくくなります
テーピングをするときは、強く引っ張りすぎないように注意しましょう。
皮膚が弱い方は、事前にアンダーラップ(肌を保護するテープ)を巻いてからテーピングを行うことをおすすめします。
サポーターの選び方と使い方
グロインペイン症候群は痛みの範囲が広いため、サポーターを選ぶときは、股関節をぐるりと覆う幅広タイプがおすすめです。
締め付けが強すぎると血行を妨げるので、立ったまま深呼吸して苦しくない程度のフィット感を基準にしましょう。
サポーター選びのチェックポイントとしては、以下の通りです。
- 素材:通気性の良いメッシュ素材
- サイズ:腰まわりのサイズを正確に測定
- 固定力:適度な圧迫感があるもの
- 着脱:ベルクロタイプで調整しやすいもの
- 洗濯:家庭で洗えるタイプ
運動中はもちろん、通勤・通学時の長時間歩行にも有効で、痛みを感じた瞬間に着脱できるのがメリットです。
サポーターは股関節だけでなく、腰や骨盤も同時にサポートしてくれるため、体のバランスを整える効果も期待できますが、大切なのはサポーター自体が治療になるわけではなく、あくまで炎症が強い期間の補助である点です。
長期間の使用は筋力低下を招く可能性もあるため、症状が改善したら徐々に使用時間を減らしていきましょう。
痛みが続く場合は無理せず医療機関へ
テーピングやサポーターだけで痛みが2週間以上続く場合、あるいは夜間にズキズキして眠れない場合は、保存療法だけでは追いつかない可能性があります。
整形外科や整骨院では電気治療や筋膜リリース、カテーテル治療などさまざまな治療法が行われていますが、必要に応じて再生医療を加えることで回復を早める方法も今後選択肢に入るでしょう。
治療期間は症状の程度で変わりますが、軽症なら1~2カ月、重症でも数カ月が目安とされています。
早期の専門的な治療により、慢性化を防げます。
グロインペイン症候群の再発予防策
グロインペイン症候群は一度治っても、根本的な原因を解決しなければ再発しやすい疾患です。
再発を防ぐためには、日常生活や運動習慣を見直すことが必要です。再発予防のポイントを以下の表にまとめました。
ポイント | 説明 |
---|---|
1.股関節の柔軟性を保つ | 毎日のストレッチで股関節まわりの筋肉を柔らかく保ちます |
2.体幹筋力の強化 | お腹まわりの筋肉を鍛えることで、股関節への負担を軽減します |
3.運動前後のウォーミングアップ・クールダウン | 急激な負荷を避けるため、準備運動と整理運動を欠かさず行います |
4.適切な運動量の調整 | 疲労が蓄積しないよう、練習量や強度を調整します |
5.生活習慣の改善 | 十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事で、体の回復力を高めます |
とくに重要なのは、股関節まわりの筋肉バランスを整えることです。内ももの筋肉(内転筋群)とお尻の筋肉(臀筋群)の筋力バランスが悪いと、股関節に過度な負担がかかります。専門的な筋力測定を受けて、自分の弱い部分を把握しましょう。
また、運動フォームの見直しも大切です。サッカーのキックやランニングの着地動作など、競技特有の動作を正しく行うことで、股関節への負担を最小限に抑えられます。
コーチや指導者に動作チェックをしてもらい、適切なフォームを身につけましょう。
グロインペイン症候群の基礎知識|原因と症状
グロインペイン症候群とは、サッカーやランニングで起こりやすい、足のつけ根や恥骨まわりの痛みの総称です。
初めはダッシュやキックでズキッとする程度ですが、症状が進むと歩くだけでも痛むようになってしまいます。
病院ではX線検査やMRI検査で骨や筋肉のケガを除外し、簡単な触診などで原因を特定します。
早めに原因をはっきりさせることが、治療を長引かせないコツです。
グロインペイン症候群の原因
内ももとお尻の筋肉のアンバランス、骨盤が片側にねじれるクセなどが要因ですが、スポーツ特有の動作の使いすぎにより引き起こされます。
たとえば、サッカー選手はキックの繰り返し、ランナーは片脚着地の負荷が痛みを招きます。以下の表を確認し、原因を把握しましょう。
原因となる要素 | 説明 |
---|---|
1.筋力のアンバランス | 内転筋群(内もも)と外転筋群(お尻)の筋力差が大きい |
2.柔軟性の低下 | 股関節まわりの筋肉が硬くなり、可動域が制限される |
3.体幹筋力の不足 | 腹筋や背筋が弱く、骨盤が不安定になる |
4.オーバーユース | 過度な練習により、筋肉や腱に疲労が蓄積する |
5.フォームの問題 | 間違った動作により、特定の部位に負荷が集中する |
とくにサッカーでは、利き足の多用やキック時の股関節の動きによって、鼠径部に圧力がかかってしまうため、罹患者が多いことで知られています。
また、人工芝や硬いグラウンドでのプレーは、足への衝撃が強く、股関節への負担も増大するため、注意が必要です。
年齢的には、10代後半から30代前半で多く見られます。
グロインペイン症候群の症状
グロインペイン症候群の症状は、段階的に進行する特徴があります。
初期段階では運動時のみに痛みを感じますが、症状が進行すると日常生活にも支障をきたすようになります。
以下のようなイメージでご自身の症状を把握し、治療に役立てましょう。
段階 | 程度 | 症状 |
---|---|---|
第1段階 | 軽度 |
・激しい運動時のみ痛みを感じる ・運動後は痛みが治まる ・歩行や階段昇降は問題なし |
第2段階 | 中等度 |
・軽い運動でも痛みを感じる ・運動後も痛みが残る ・朝起きたときに違和感がある |
第3段階 | 重度 |
・安静時にも痛みがある ・歩行時に痛みを感じる ・夜間痛で眠れないことがある |
痛みの場所は、鼠径部(足のつけ根)から始まり、内もも、恥骨部へと広がることがあります。(文献1)
また、片側だけでなく、両側に症状が現れることもあるため、どこで、どのような症状になるかは範囲が広いのがグロインペイン症候群の特徴でもあります。
グロインペイン症候群でやってはいけないNG習慣
早く良くなりたい気持ちから、かえって悪化させてしまう行動も少なくありません。
たとえば、痛みを我慢して練習を続けたり、強すぎるストレッチを無理やり行ったりするのは逆効果です。
避けるべきNG行動の例
事例 | 理由 |
---|---|
1.痛みを我慢して運動を続ける | 炎症が悪化し、治療期間が長引く原因となります |
2.強すぎるストレッチ | 筋肉や腱を傷つけ、症状を悪化させる可能性があります |
3.自己判断での湿布の長期使用 | 皮膚トラブルを起こしたり、根本的な治療を遅らせたりします |
4.マッサージの強すぎる刺激 | 炎症部位を刺激し、痛みが増強します |
5.完全な安静 | 症状にあわせた適度な動きは必要です。まったく動かないと筋力低下を招きます |
とくに危険なのは、痛み止めを飲んで練習を続けることです。
痛みは体からの警告信号であり、それを薬でごまかして運動を続けると、より深刻な損傷を引き起こす可能性があるため、避けてください。
ただし、軽度の症状では完全安静も逆効果です。痛みを悪化させない範囲での軽い活動は、血流促進や筋力維持に有効です。
症状に合わせた判断が必要なため、医療機関を受診して医師の指示に従いましょう。
まとめ|グロインペイン症候群は適切なケア・治療で回復を目指そう
グロインペイン症候群の改善には、原因を知って、まずは安静にした上で段階的に運動を再開する流れが欠かせません。
とくに、2週間以上休んでも痛みが残る、または夜寝ているときも痛むといった場合は、専門の病院を受診すべきタイミングです。
早期の適切な治療により、慢性化を防ぐことで競技へ早期復帰できます。治し方を把握した上で、ご自身の症状の段階に応じた適切な治療を選択をしましょう。
当院では、再生医療を活用した治療で競技への本格復帰をサポートしています。
一人ひとりの症状や競技レベルに合わせた治療計画を立て、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療により、競技への早期復帰が目指せます。まずはお気軽にご相談ください。
参考文献
(文献1)
日本スポーツ整形外科学会(JSOA)「スポーツ損傷シリーズ 11.鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)」2023年
https://jsoa.or.jp/content/images/2023/05/s11.pdf (最終アクセス:2025年5月25日)