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貧血の数値はどこから危険?血液検査における基準値と体のサインを医師が解説

健康診断で「貧血気味」と言われたけれど、自覚症状もないし放っておいて大丈夫……そう思っていませんか?
実は、貧血には数値だけではわからない危険が潜んでいます。とくに女性に多い「隠れ貧血」は、基準値内でも体調不良を引き起こすことがあるのです。
本記事では、貧血の数値の見方や基準、症状がなくても注意すべき理由、受診のタイミング、そしてよくある誤解までをわかりやすく解説します。
目次
血液検査における貧血の基準値
貧血の診断は血液検査の結果を基に行われ、複数の検査項目を総合的に評価すると正確な判断が可能です。ヘモグロビン値をはじめとする各種検査項目には、年齢や性別による基準値が設定されており、数値を理解すると自分の健康状態を把握できます。
以下では、貧血の診断に重要な各検査項目の基準値と、意味について詳しく解説します。
ヘモグロビン(Hb)
ヘモグロビンは赤血球に含まれる鉄を含有したタンパク質で、体内で酸素を運搬する重要な役割を担っています。ヘモグロビンの基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 13.1~16.6g/dL |
女性 | 12.1~14.6g/dL |
(文献1)
ヘモグロビンは、個人差を考慮した判断が重要です。ヘモグロビン濃度には個人差があるため、普段の数値と比較し、急に2g/dL以上の減少が見られた場合は、基準値内であっても貧血状態が疑われることがあります。(文献2)
緊急性の高い貧血として、7~8g/dLを下回った場合は早急な検査や対応が必要です。(文献2)
この数値まで低下すると、日常生活に重大な支障をきたし、心臓や他の臓器への負担も大きくなるため、迅速な処置が求められます。定期的な血液検査で自分の基準値を把握し、数値の変化に注意すれば、貧血の早期発見と適切な治療につながります。
ヘマトクリット(Ht)
ヘマトクリットは血液全体に対する血球成分の体積の占める割合を示す検査値です。血球成分の約95%が赤血球によって構成されているため、実質的には血液中の赤血球の占める割合を表す重要な指標となります。(文献2)ヘマトクリットの基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 38.5~48.9% |
女性 | 35.5~43.9% |
(文献1)
ヘマトクリット値は年齢や性別によって基準値が異なり、女性の方が男性よりもやや低い傾向です。これは月経による鉄分の損失や、男性ホルモンの影響による赤血球産生の違いが関係しています。定期的な血液検査でヘマトクリット値を確認し、ヘモグロビン値と合わせて総合的に貧血の状態の評価が重要です。
赤血球数(RBC)
赤血球数は血液1μl中に含まれる赤血球の数を示す検査値です。赤血球は酸素を全身に運搬する重要な役割を担っているため、その数の増減は体の酸素運搬能力に直接影響します。赤血球数の基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 400~539×10⁶/μl |
女性 | 360~489×10⁶/μl |
(文献1)
男性の方が女性よりも赤血球数が多い傾向にあります。これは男性ホルモンが赤血球産生を促進することや、女性では月経による鉄分の損失が関係しています。
MCV(平均赤血球容積)
MCV(平均赤血球容積)は赤血球の大きさを表す重要な指標です。この数値により、貧血の原因を特定する手がかりを得られます。MCVの基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 82.7~101.6 fl |
女性 | 79.0~100.0 fl |
(文献1)
MCVの数値は貧血の分類において極めて重要で、治療方針の決定にも大きく影響します。MCV値が低い小球性貧血の場合は鉄剤の補充、MCV値が高い大球性貧血の場合はビタミンB12や葉酸の補給が主な治療となります。正常範囲内であっても、ほかの検査値と組み合わせることで、より詳細な貧血の状態の把握が可能です。
MCH / MCHC(赤血球中のヘモグロビン量・濃度)
MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)とMCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの量と濃度を示す検査値です。
MCH基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 28.0~34.6 pg |
女性 | 26.3~34.3 pg |
(文献1)
MCHC基準値の目安は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
男性 | 31.6~36.6% |
女性 | 30.7~36.6% |
(文献1)
数値が低下している場合は、鉄欠乏性貧血や慢性疾患による貧血の可能性が考えられます。
フェリチン(貯蔵鉄)
フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、主に肝臓、脾臓、骨髄などに存在します。血中のフェリチン値は体内の鉄貯蔵量を直接反映するため、鉄欠乏や鉄過剰の診断において極めて重要な指標です。
ヘモグロビン値が正常でもフェリチン値が低い場合は、隠れ貧血や鉄欠乏状態の可能性があります。これは体内の鉄の貯蔵が枯渇し始めている状態で、早期の対策が必要です。逆にフェリチン値が異常に高い場合は、鉄過剰症や炎症性疾患の可能性も考えられます。フェリチンの基準値は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 13~277 ng/ml |
女性 | 5~152 ng/ml |
(文献1)
フェリチン値は貧血の早期発見や治療効果の判定に有用で、鉄剤投与の必要性を判断する重要な検査項目です。
血清鉄(Fe)
血清鉄は血液中に存在する鉄分を測定した値で、体内の鉄の代謝や貯蔵状態を反映する重要な検査項目です。血液中の鉄は主にトランスフェリンというタンパク質と結合して運搬されており、この値により現在の鉄の利用状況を把握できます。血清鉄の基準値は以下のとおりです。
対象 | 基準値 |
---|---|
男性 | 54~181 μg/dL |
女性 | 43~172 μg/dL |
(文献3)
血清鉄値が低い場合は鉄欠乏性貧血の可能性が高く、高い場合は鉄過剰症や溶血性貧血などが考えられます。ただし、炎症性疾患や感染症では血清鉄が低下する場合があるため、ほかの炎症マーカーと併せて総合的な評価が必要です。
【貧血のタイプ別】数値の見方
貧血にはさまざまなタイプがあり、それぞれ検査数値に特徴的なパターンが現れます。以下では主要な貧血のタイプごとに、典型的な検査値の変化パターンを解説します。
鉄欠乏性貧血の特徴
鉄欠乏性貧血では以下のような検査値の変化が見られます。
- Hb(ヘモグロビン:低下)
- MCV(平均赤血球容積:低下)
- MCH(平均赤血球ヘモグロビン量:低下)
- フェリチン(貯蔵鉄:低下)
- TIBC(総鉄結合能:上昇)
これらの数値パターンは、鉄不足により赤血球が小さく色の薄い状態になることを示しています。フェリチンの低下は体内の鉄貯蔵量の枯渇を、TIBCの上昇は体が鉄を取り込もうとしている状態です。
悪性貧血(ビタミンB12欠乏)の特徴
ビタミンB12欠乏による悪性貧血では以下の特徴が見られます。
- Hb(ヘモグロビン:低下)
- MCV(平均赤血球容積:上昇)
- 葉酸(葉酸:低下)
- ビタミンB12(ビタミンB12:低下)
ビタミンB12や葉酸の不足により赤血球が正常よりも大きくなる特徴があります。これらの栄養素はDNA合成に必要なため、不足すると細胞分裂が正常に行われず、大きな赤血球が作られてしまいます。
慢性疾患に伴う貧血の特徴
慢性疾患に伴う貧血は、ほぼすべての感染症や炎症、悪性腫瘍で起こる可能性があります。自己免疫性疾患、心不全や腎疾患でも発生しやすい貧血です。
この貧血の特徴は、基礎疾患による慢性炎症が鉄の利用を阻害することにあります。フェリチンは正常または高値を示すことが多く、これは炎症により鉄が細胞内に取り込まれるものの、ヘモグロビン合成に利用されにくくなるためです。根本的な原因疾患の治療がもっとも重要で、単純な鉄剤補充では改善しにくいのが特徴です。
【要注意】隠れ貧血について
「隠れ貧血」は一般的な血液検査では見つかりにくい貧血の前段階で、ヘモグロビン値が正常範囲内でも体内の鉄貯蔵量が不足している状態です。自覚症状がないことも多く、見過ごされやすいため注意が必要です。早期発見には特定の検査項目に注目し、総合的な評価が重要になります。
フェリチンの重要性
フェリチンは体に蓄えられた鉄分の量を示す最も重要な指標です。ヘモグロビン値が正常範囲内であっても、フェリチン値が低い場合は体内鉄が枯渇し始めている可能性があります。これは、隠れ貧血や潜在性鉄欠乏と呼ばれる状態で、将来的に明らかな貧血に進行するリスクです。
フェリチン値が15ng/mL以下の場合は「隠れ貧血」のリスクが高いとされています。(文献4)一般的な基準値内であっても、この数値を下回ると体内の鉄貯蔵量が危険なレベルまで低下していることを示します。
女性では月経による鉄分の損失があるため、男性よりも注意深い観察が必要です。フェリチン値の定期的なチェックにより、症状が現れる前の早期段階で鉄欠乏を発見し、適切な対策を講じられます。
TIBC・UIBCもチェック
総鉄結合能(TIBC)は、トランスフェリン(鉄を運ぶためのタンパク質)に結合可能な鉄量の総量を示し、不飽和鉄結合能(UIBC)は鉄と結合していないトランスフェリンの量を表します。これらの検査値は鉄欠乏状態をより詳細に評価するために重要な指標です。
TIBCの基準値は300〜360μg/dLで、鉄欠乏においてTIBCは増加する傾向があります。(文献5)これは体が鉄不足を感知し、より多くの鉄を取り込もうとする代償反応です。トランスフェリン飽和率(血清鉄/TIBC×100)も鉄欠乏の評価に用いられ、16%以下で鉄欠乏と考えられます。(文献5)
数値を総合的に評価すれば、フェリチン値だけでは判断しきれない微細な鉄代謝の異常を発見できます。隠れ貧血の早期発見には、複数の検査項目を組み合わせた包括的な評価が不可欠です。
貧血と数値の関係性を理解して適切に対処しよう
体調の違和感は貧血のサインかもしれません。疲れやすさ、めまい、息切れなどの症状は日常的によくある不調として見過ごされがちですが、実は体が発しているサインの可能性があります。血液検査の数値も大切ですが、日々の不調を見逃さないことが何より重要です。
数値が正常範囲内であっても、普段と比べて明らかな体調の変化がある場合は、隠れ貧血や他の健康問題が潜んでいる可能性があります。自分の体の声に耳を傾け、小さな変化にも注意を払うことが早期発見につながります。
効果的な貧血対策には、医療機関での専門的な検査と食事・生活改善の両輪が不可欠です。正確な診断に基づいた適切な治療と、栄養バランスの取れた食事や規則正しい生活習慣の改善を組み合わせることで、根本的な解決が期待できます。
貧血の症状でお悩みの方や、検査数値に不安がある方は、ぜひリペアセルクリニックにご相談ください。当院では豊富な経験を持つ医師が、診断と治療をします。隠れ貧血の早期発見から個別の栄養指導、生活習慣の改善までサポートいたします。LINEにてお気軽にお問い合わせください。
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参考文献
文献1
公立学校共済組合 近畿中央病院「血液検査基準一覧表」公立学校共済組合 近畿中央病院 臨床検査科
https://www.kich.itami.hyogo.jp/wp-content/uploads/2020/11/rk1.pdf (最終アクセス:2025年6月10日)
文献2
こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科「貧血はどのように見極める?貧血のタイプと検査」こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科ホームページ
https://ueno-okachimachi-cocoromi-cl.jp/knowledge/anemia-test/ (最終アクセス:2025年6月10日)
文献3
国立循環器病研究センター「主な血液検査の基準値一覧」国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20210816_kizyuntiitiran_sougoukenshitu.pdf (最終アクセス:2025年6月10日)
文献4
医学書院「あなたも見逃している!? “隠れ貧血”」医学書院ホームページ
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_04 (最終アクセス:2025年6月10日)
文献5
まえだクリニック「鉄欠乏性貧血の診断について」まえだクリニックホームページ、2023年11月22日
https://maeda.clinic/blog/20231122_diagnosis-of-iron-deficiency/ (最終アクセス:2025年6月10日)