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【医師監修】野球選手が肩関節唇損傷を発症しやすい理由とは?手術や復帰目安について解説

「投球時に肩に違和感がある」
「スイング動作で痛みを感じる」
野球選手に多く見られる肩関節唇損傷は、放置するとプレーに支障をきたすおそれがあります。痛みがなくても不安定感が続く場合、復帰時期の判断は難しくなります。多くの選手が「手術を受けるべきか」「リハビリで復帰できるか」で悩みますが、治療法は損傷の程度や競技レベルによって異なります。
本記事では、現役医師が肩関節唇損傷を発症しやすい理由と手術や復帰目安について詳しく解説します。
記事の最後には、肩関節唇損傷で悩む野球選手からよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
野球選手が肩関節唇損傷を発症しやすい理由
| 理由 | 詳細 |
|---|---|
| 投球動作・フォームの乱れ | 運動連鎖の崩れによる肩関節への過剰負荷 |
| 外傷・脱臼の既往 | 関節の不安定化による再損傷リスクの増大 |
| 上腕二頭筋腱への牽引ストレス | 投球時の牽引力集中による関節唇への慢性刺激 |
肩関節唇損傷は、投球やスイングなどで肩を酷使する野球選手に多くみられる障害です。肩関節は可動域が広い一方で構造的に不安定なため、繰り返しの投球動作によって関節内に摩耗や牽引ストレスが蓄積しやすい特徴があります。
とくに投手では、フォームの乱れや筋力バランスの崩れが関節唇への負担をさらに増大させます。加えて、外傷や脱臼の既往がある場合には関節の安定性が低下し、損傷リスクが一層高まります。これらの要因が重なることで、プレー中に肩の違和感や引っかかり感を訴える選手が少なくありません。
投球動作・フォームの乱れ
| 理由 | 状況・特徴 | 影響 |
|---|---|---|
| 運動連鎖の破綻 | 下半身や体幹の動きが使えず、肩だけで投げる状態 | 肩関節への負担集中、関節唇への過度なストレス |
| 肘下がりの投球フォーム | 肘が極端に下がった投球姿勢 | 上方関節唇へのせん断力増大、損傷リスク上昇 |
| 身体の開きの早さ | 上半身が早く打者側に向く動作 | 肩関節唇損傷リスクの増加、制球の不安定 |
| リリースポイントのばらつき | ボールを離す位置の不安定さ | 肩関節への負荷不均一、特定部位へのストレス集中 |
| 疲労時のフォーム崩れ | 連投や試合後半での下半身・体幹機能低下 | 下肢・体幹が使えず肩主導となる代償動作 |
| 柔軟性不足 | 肩・肩甲骨・胸椎・股関節などの可動域制限 | 無理な代償動作、関節唇への負担増大 |
| 成長期の身体変化 | 身長や重心の変化によるフォーム不適合 | 成長に伴う体格変化にフォームが追随できず負担が増加 |
投球フォームの乱れは、肩関節へ過剰な回旋力や牽引力を生じさせ、関節唇に微細な損傷を蓄積させる原因となります。リリース時の肘下がりや体幹の回転不足は、上腕骨頭が前方へずれやすくなり、関節唇への圧迫ストレスを増大させます。
また、肩甲骨周囲筋の筋力低下や柔軟性の不足も肩の安定性を損なう要因です。これらのフォームの乱れは一過性ではなく、疲労や過度なトレーニングによって慢性化しやすいため、投球動作の分析とリハビリによるフォーム修正が欠かせません。
外傷・脱臼の既往
| 内容 | 詳細 |
|---|---|
| 再発リスクの上昇 | 損傷部位の完全回復が難しく、再負荷による再損傷や症状悪化の可能性 |
| 二次的な変化や二次損傷の恐れ | 関節の不安定性や機能低下による腱板・靱帯への過剰負担、他組織損傷の誘発 |
| 外傷や脱臼の既往によるリスク増大 | 外傷や脱臼による構造的ダメージによる安定性低下、再発のリスク上昇 |
| 慢性的な肩痛や可動域制限の継続 | 関節機能の低下や可動域制限による日常生活・競技動作への支障 |
(文献1)
肩の脱臼や亜脱臼を経験した野球選手では、関節唇や関節包などの支持組織が損傷し、肩の安定性が低下していることがあります。
そのままプレーを続けると、再脱臼や関節唇の更なる損傷を招くため、外傷歴のある選手は痛みがなくても医療機関で画像検査を受け、関節の状態を確認することが大切です。
肩関節唇損傷の既往は再発や二次損傷のリスクを高めるため、適切な治療と定期的なフォローアップが必要です。予防には肩の柔軟性維持と筋力強化を心がけ、異変を感じた場合は早めに医師へ相談しましょう。
上腕二頭筋腱への牽引ストレス
肩関節唇の上方(SLAP領域)には上腕二頭筋腱が付着しており、この腱に加わる繰り返しの牽引ストレスが関節唇損傷の主な原因とされています。
投球動作では、コッキング期やフォロースルー期に上腕二頭筋腱と関節唇に強い張力が生じ、関節唇の剥離や裂傷を引き起こすことがあります。
とくに肩関節唇損傷は、この付着部への過度な牽引力が関与する代表的な損傷です。上腕二頭筋腱と関節唇は肩関節の安定を支える一体の構造として機能しているため、腱への負荷は関節唇損傷の進行や再発にも影響します。そのため、適切なフォーム指導と肩周囲筋のバランス強化が欠かせません。
肩関節唇損傷を発症した野球選手の復帰率・時期の目安
| 研究(発表年) | 対象・治療法 | 復帰率(RTS) | 成績レベル・復帰レベル(RPP) | 復帰までの期間 | 主な特徴・補足 |
|---|---|---|---|---|---|
| Paul et al.(2025) | プロ野球選手(SLAP修復) | 投手82.4%、野手80.6% | 投打ともに成績低下なし | 約9〜11カ月(投手280日、野手327日) | 手術後も高い復帰率。パフォーマンスの維持も確認 |
| Lack et al.(総説) | SLAP修復・上腕二頭筋手術 | 投手40〜80%、野手76.3〜91.3% | – | – | 投手よりも野手の復帰率が高い傾向。治療法により差あり |
| Fedoriw et al.(2014) | プロ野球選手(手術/非手術比較) |
手術:投手48%、野手85% 非手術:投手40% |
手術:投手7%、野手54% 非手術:投手22% |
– | 投手は復帰しても元のレベルに戻る割合が低い傾向 |
| Castle et al.(2023) | MLB選手(肩関節唇修復) | 投手48%、野手85% | 投手7%前後 | – | 投手は成績復帰が難しい傾向。手術後も再発・成績低下例あり |
| 非手術リハビリ(総説) | 保存的リハビリ治療 | 全体53.7%、完遂者78% | 全体42.6%、完遂者72% | 約6カ月以内 | 手術なしでも一定の回復が可能。軽症例では有効 |
| 他レビュー(複数報告) | オーバーヘッド動作選手全般 | 約50〜60%(とくに投手で低下) | – | – | 投手では成功率がやや低く、復帰まで時間を要する傾向 |
(文献2)(文献3)(文献4)(文献5)(文献6)(文献7)(文献8)
肩関節唇損傷を発症した野球選手の競技復帰率(RTS)は、全体でおよそ70〜85%と報告されています。なかでも投手は40〜80%と幅があるのが特徴です。これらは、投球動作に特有の肩への負担が影響していると考えられます。
一方、野手では75〜90%と比較的高い復帰率が示されています。復帰までの期間は平均9〜11カ月(約280〜330日)とされ、リハビリを含めた長期的な治療計画が必要です。
保存療法を選択した場合、約6カ月以内に復帰できる例もありますが、再発や再手術のリスクも残るため、段階的な復帰と医師の指導のもとでのリハビリが必要です。
以下の記事では肩関節唇損傷のテストについて詳しく解説しています。
野球選手の肩関節唇損傷における手術が必要なケース
| 手術が必要なケース | 詳細 |
|---|---|
| 保存療法で効果が乏しい場合 | リハビリや薬物治療を続けても痛みや可動域制限が改善しない状態 |
| 損傷範囲が広く不安定な場合 | 肩関節唇が大きく裂け、関節の安定性が失われている状態 |
| 高い競技レベルと早期復帰を目指す場合 | プロ・競技選手として高負荷の投球動作を必要とするケース |
| 合併損傷を伴う場合 | 腱板損傷や上腕二頭筋腱の損傷を同時に認める状態 |
肩関節唇損傷では、保存療法を行っても痛みや可動域制限が改善しない場合や、損傷範囲が広く関節の安定性が失われている場合に手術が検討されます。
とくにプロ選手など高い競技レベルでの早期復帰を目指すケースでは、機能回復を優先して手術が選択されることがあります。また、腱板損傷や上腕二頭筋腱損傷などを合併している場合は、関節機能の維持や再発防止のために外科的治療が有効です。
保存療法で効果が乏しい場合
| 保存療法で効果が乏しい理由 | 詳細 |
|---|---|
| 損傷度が大きすぎる・進行しているため | 関節唇が大きく断裂・剥離し、周囲組織も損傷している状態 |
| 負荷が肩にかかるため | 投球動作によるねじれ・牽引・摩擦などの過大ストレス |
| 肩に他の異常が一緒にあることが多いため | 回旋筋腱板損傷や関節包のゆるみ(弛緩)、インピンジメントの併発 |
| 診断や治療方針が不確か・リハビリが十分でなかった可能性 | 原因特定の誤りやリハビリ不足による改善不良 |
| 予後を悪くする因子がもともとあるため | 過去の損傷歴、可動域制限、筋力低下、年齢・競技レベルの影響 |
| 痛みや制限が長く続くと身体が変わるため | 筋萎縮や拘縮による可動性低下・機能不全 |
| 野球選手には特別なレベルが求められる | 全力投球・実戦復帰レベルまでの回復困難 |
保存療法では関節唇自体を修復することは難しく、周囲の筋力を強化して肩を支える治療となります。そのため、リハビリを続けても肩の不安定感や投球時の違和感が改善しない場合は、手術を検討します。
投球時の違和感が続き、MRIで関節唇の剥離が確認された場合、手術による修復が有効です。
損傷範囲が広く不安定な場合
| 手術が必要な理由 | 詳細 |
|---|---|
| 関節唇が大きく剥がれていると肩関節の安定性が著しく低下する | 関節唇の断裂・剥離による関節不安定性と脱臼リスクの増大 |
| 繰り返す脱臼や亜脱臼を防止するため | 関節包や靱帯への再損傷防止のための解剖学的修復 |
| 重度の損傷では自然治癒が望めず症状の慢性化を防げない | 広範な断裂による慢性疼痛・機能障害の持続 |
| スポーツ特性と年齢を考慮した早期の手術適応 | 若年投手における肩の安定性維持と競技力確保 |
関節唇の損傷範囲が広く、肩関節の安定性が低下している場合は、手術による修復が推奨されます。
損傷が大きいと関節唇が本来の役割を果たせず、不安定感や脱臼を繰り返す原因となります。保存療法では改善が難しく、自然治癒も期待できません。そのため、関節鏡視下で関節唇を縫合し、安定化を図ることが重要です。
とくに投手など肩への負荷が大きい選手では、早期の手術により関節の安定性を回復し、再発防止と競技復帰を目指します。手術による修復は、肩の正常な機能を取り戻し、長期的なパフォーマンス維持にもつながります。
高い競技レベルと早期復帰を目指す場合
| 手術が必要になる理由(求められるレベルが非常に厳しいため) | 詳細 |
|---|---|
| 競技レベルで求められる肩機能の高さ | 投球速度・回転数・マウンドでの安定性を維持する肩機能の確保 |
| 日常生活レベルでは不十分な回復目標 | 全力投球レベルへの回復に必要な構造補強・修復 |
| 耐久性・反復ストレスへの対応 | シーズン中の反復投球による過大負荷への抵抗性維持 |
| 回復許容度・リスク許容度の低さ | 微細な不安定性や違和感が成績低下につながる競技特性 |
| 構造的限界・不可逆的変化の進行 | 軟部組織の変性・線維化による柔軟性・安定性の低下 |
| 診断・治療の精度の重要性 | わずかなずれやアンバランスがパフォーマンスに影響する特性 |
| 合併障害・複雑病変の併発 | 回旋筋損傷やインピンジメントなどの多部位損傷 |
| 手術後の復帰率・成功率の限界 | SLAP修復後の復帰率50〜70%、エリート復帰率7%前後の報告 |
プロや大学レベルなど高負荷な投球を求められる選手では、機能回復を優先して手術を選択する場合があります。
ただし、SLAP修復後の投球動作を伴う選手の復帰率はおおむね50〜70%と報告されており、全員が元のレベルまで戻れるわけではありません。(文献12)
とくにエリートやプロレベルでの復帰・成績維持は難しく、エリート水準まで回復できた選手は約7%にとどまるとの報告もあります。(文献13)
そのため、術後は安定した可動域の獲得と競技特性に応じた段階的リハビリが重要です。
合併損傷を伴う場合
| 手術が必要な理由(合併損傷を伴う場合) | 詳細 |
|---|---|
| 損傷が関節唇単独でなく複合的であるため症状が重い | 腱板断裂・靱帯損傷・関節内遊離体などを伴う複合損傷 |
| 肩の安定性や可動性に対する影響が大きいため | 不安定性や可動域制限の進行による関節変形リスク |
| スポーツ復帰のためには包括的な修復が必要 | 合併損傷も含めた機能回復による競技パフォーマンス維持 |
| 保存療法では症状の改善や再発予防が不十分 | 痛みや不安定感の残存による再発・機能低下のリスク |
(文献14)
腱板損傷や上腕二頭筋腱損傷などの合併損傷を伴う肩関節唇損傷では、関節の安定性が大きく低下し、保存療法での改善は困難です。そのため、関節唇の修復と同時に腱板や靱帯の損傷を関節鏡下で包括的に修復し、機能回復と再発予防を図ります。とくに損傷範囲が広い場合や脱臼を繰り返す場合は、手術による安定化が不可欠です。
また、高い競技レベルでの早期復帰を目指す選手では、肩にかかる負荷が大きく、不安定感や疼痛が残るとパフォーマンスに直結して影響するため、より積極的な外科的介入が求められます。適切な手術と段階的なリハビリにより、安定性と可動域が確保された肩を再構築し、早期の競技復帰を支援します。
肩関節唇損傷に合併しやすい腱板断裂に対しては、再生医療が治療法の選択肢となるケースがあります。肩の腱板断裂に対する再生医療の治療例については、以下の症例記事をご覧ください。
【野球選手向け】肩関節唇損傷のリハビリ方法
| リハビリ方法 | 詳細 |
|---|---|
| 保護期|術後0週目〜6週目 | 肩関節の安静保持と痛み・炎症のコントロール、装具による可動域制限 |
| 中等度保護期|術後7週目〜12週目 | 他動運動から自動運動への移行と軽度の可動域拡大、肩周囲筋の再教育 |
| 機能回復期|術後13週目〜20週目 | 筋力強化と肩甲骨・体幹連動性の改善、日常動作での安定性向上 |
| 高度強化期|術後21〜26週 | 投球動作に近い負荷トレーニングと肩周囲筋群の持久力強化 |
| 競技復帰期|術後6カ月〜9カ月 | 段階的な投球プログラム再開とフォーム修正、実戦復帰に向けた最終調整 |
(文献14)
肩関節唇損傷の術後リハビリは、肩の安定性と機能を段階的に回復させることが目的です。術後0〜6週は安静と炎症の抑制、7〜12週で可動域の拡大、13〜20週で筋力と体幹の連動性向上を図ります。
21〜26週には投球動作に近い負荷を加え、6〜9カ月を目安に投球を再開し、フォーム修正と再発予防を行いながら実戦復帰を目指します。
以下の記事では、肩関節唇損傷のリハビリ方法について詳しく解説しています。
保護期|術後0週目〜6週目
| フェーズ I(保護期) | 詳細 |
|---|---|
| この時期の目的 | 関節唇や縫合部の保護、炎症・腫れ・痛みの抑制、可動域の維持 |
| 行う運動・ケア | スリング着用による肩の保護、手首・肘・手の軽運動、肩の受動運動(前方挙上90°・外旋30〜40°)、肩甲骨の可動運動、冷却と軽圧迫による炎症管理 |
| 避けること | 肩の自力運動や抵抗運動、物を持ち上げる・押す・引く動作、上腕二頭筋に負担をかける動作、無理な外旋・後方引き・外転動作 |
| 次のステップに進む目安 | 肩の前方挙上90°・外旋30〜40°の可動確保、痛みや腫れの軽減 |
(文献14)
術後0〜6週の保護期は、修復した関節唇や縫合部を守りながら炎症や痛みを抑えることが目的です。この時期はスリングを着用し、肩を安静に保ちます。手首や肘の軽い運動、セラピストによる他動運動で可動域を維持し、肩甲骨の動きを保つことが重要です。
一方で、肩を自力で動かす動作、物を持ち上げる動作、上腕二頭筋に負担をかける動作は避ける必要があります。痛みや腫れが落ち着き、肩を前方に90°、外旋30〜40°まで動かせるようになれば、次の段階へ進みます。
中等度保護期|術後7週目〜12週目
| フェーズ II(中等度保護期) | 詳細 |
|---|---|
| この時期の目的 | 肩関節可動域の拡大、筋力回復への準備、肩甲骨と体幹の安定性強化 |
| 行う運動・ケア | 受動運動から補助運動・自動運動への移行、ゴムバンドを用いた軽い抵抗トレーニング、肩甲骨・体幹安定化トレーニング、リズミック安定化による感覚向上 |
| 避けること | 外旋・外転方向への強い負荷、外転+外旋動作、全力投球やスピードをつけた動作 |
| 次のステップに進む目安 | 正常範囲に近い可動域の回復、痛みのない軽負荷運動の実施、肩甲骨・ローテーターカフの安定性改善 |
(文献14)
術後7〜12週の中等度保護期は、肩の可動域を広げながら筋力回復の準備を進める時期です。受動運動から補助付き運動、自力での運動へと段階的に移行し、ゴムバンドを用いた軽い抵抗トレーニングで肩周囲の筋肉を鍛えます。さらに、肩甲骨や体幹の安定性を高めるトレーニングを行い、投球動作に必要なバランス感覚を養います。
一方で、外旋や外転など強い負荷をかける動作や全力投球は避け、痛みのない範囲で可動域を回復させることが重要です。
機能回復期|術後13週目〜20週目
| フェーズ III(機能回復期) | 詳細 |
|---|---|
| この時期の目的 | 軽い投球動作の導入、全方向への肩の安定化、スポーツ動作への移行準備 |
| 行う運動・ケア | 全方向への自動運動(AROM)の拡大、ゴムバンドやウエイトによる段階的抵抗トレーニング、肩甲骨・体幹の持続トレーニング、プライオメトリック運動の導入、投球フォームの模倣と軽いキャッチボール準備 |
| 避けること | 全力投球や強負荷のオーバーヘッド動作、痛みや違和感のある無理な運動 |
| 次のステップに進む目安 | ほぼ正常な可動域の回復、抵抗負荷での無痛運動、十分な筋力・安定性の獲得による投球動作再開 |
(文献14)
術後13〜20週の機能回復期は、スポーツ動作への移行を目的とした重要な段階です。肩の可動域を広げながら、抵抗トレーニングで筋力を強化し、肩甲骨や体幹の安定性を高めつつ軽い投球やフォーム練習で実戦復帰に備えます。
この時期は全力投球を避け、痛みや違和感があれば運動を中止し、次の強化期への準備とします。
高度強化期|術後21〜26週
| フェーズ IV(高度強化期) | 詳細 |
|---|---|
| この時期の目的 | 肩の筋力・瞬発力の強化、動作スピードへの適応、競技動作への移行 |
| 行う運動・ケア | 片腕でのプライオメトリック運動、肩回旋筋のスピードトレーニング、投球フォームの確認と補正、段階的なインターバル投球プログラムの実施 |
| 避けること | 全力投球への急な移行、痛みや違和感を無視した無理な投球 |
| 次のステップに進む目安 | 筋力と安定性の左右差の改善、内旋・外旋筋力バランスの回復、無痛での投球動作の実施、インターバル投球プログラムの完遂 |
(文献14)
術後21〜26週の高度強化期は、肩の筋力と瞬発力を高め、実戦に近い動作を取り戻す重要な段階です。メディシンボールやゴムバンドを使った片腕のプライオメトリック運動や、肩の回旋筋を素早く動かすトレーニングで動作スピードを高めます。
投球フォームを修正しながら段階的にインターバル投球を進め、スピードと強度を回復させます。全力投球を控えて筋力バランスと安定性を整えることが競技復帰の鍵です。
競技復帰期|術後6カ月〜9カ月
| フェーズ V(競技復帰期) | 詳細 |
|---|---|
| この時期の目的 | 全力投球の再開、実戦復帰、肩の筋力・可動域・安定性の維持、再発予防の習慣化 |
| 行う運動・ケア | マウンドでの全力投球、野手の実戦動作練習、打者を想定した投球や守備・送球練習、筋力と安定性を保つ維持トレーニング(ウエイト・バンド運動) |
| 避けること | 痛みや不安定感のある状態での全力投球、急激な練習量・強度の増加、登板間隔を詰めすぎる過負荷 |
| 復帰の判断基準 | 健側と同等の可動域・筋力、段階的投球での無痛、医師・理学療法士・コーチの総合判断による競技参加許可 |
(文献14)
術後6〜9カ月以降の競技復帰期は、全力投球を再開し実戦に戻る最終段階です。投手はマウンドでの投球、野手は守備や送球を含む実戦動作を取り入れ、実戦感覚を取り戻します。同時に、筋力・可動域・安定性を維持するためのトレーニングを継続し、再発を防ぐことが重要です。
ただし、痛みや不安定感がある場合は無理をせず、練習量や強度を段階的に調整します。肩の状態が健側と同等に回復し、医療チームとコーチが復帰を認めた段階で、競技復帰となります。
【野球選手向け】肩関節唇損傷の再発予防方法
| 再発予防方法 | 詳細 |
|---|---|
| 筋力・柔軟性の維持と身体機能の向上 | 肩関節周囲筋・体幹・下半身の強化による動的安定化と柔軟性保持、神経筋協調性・固有受容感覚の向上による再損傷防止 |
| 投球量の管理とフォームの改善 | 投球回数・登板間隔の適正化と、肩への負担を抑える正しいフォーム習得による関節唇へのストレス軽減 |
| 段階的復帰と身体の変化への早期対応 | リハビリ進行に応じた段階的復帰計画の実施と、痛み・違和感・疲労など身体サインへの早期対応による再発防止 |
一度損傷した肩関節唇は再発のリスクが高く、復帰後も継続的なケアが重要です。肩や体幹、下半身の筋力と柔軟性を維持し、全身の連動性を高めることで再発を防ぎます。
また、投球量の管理やフォームの改善により、肩への負担を最小限に抑えることが大切です。リハビリ後も段階的な負荷調整と身体の変化への早期対応を心がけ、日常的なメンテナンスで長く競技を続けられる身体を保ちましょう。
筋力・柔軟性の維持と身体機能の向上
| 再発予防のポイント | 詳細 |
|---|---|
| 肩関節周囲筋による動的安定化 | 回旋筋腱板の強化による上腕骨頭の安定保持と関節唇への負担軽減 |
| 肩甲骨周囲筋による土台の安定化 | 前鋸筋・僧帽筋などの機能向上による肩甲骨の安定化と力の伝達効率化 |
| 体幹・下半身筋力による全身連動 | 投球動作におけるエネルギー伝達と肩への負担分散 |
| 筋力バランスの維持 | 外旋・内旋筋のバランス(理想比3:4)による肩前方不安定性の防止 |
| 柔軟性による負荷分散 | 適切な可動域確保による肩関節唇へのストレス軽減 |
| 肩甲胸郭関節と胸椎の可動性 | 肩甲骨と胸郭の滑らかな連動による肩の可動効率向上 |
| 下半身・体幹の柔軟性維持 | 投球時の運動連鎖の改善と上半身への負担軽減 |
| 左右差の調整 | 利き腕・非利き腕の柔軟性バランス維持による再損傷リスクの軽減 |
| 固有受容感覚の改善 | 不安定面でのトレーニングによる肩位置感覚の再教育と制御力向上 |
| 神経筋協調性の向上 | 投球連動動作での正確な筋活動タイミングの再構築 |
| 疲労耐性の向上 | 筋持久力向上によるフォーム維持と過負荷防止 |
| 継続的トレーニングの実践 | 年間を通じた筋力・柔軟性・身体機能の維持管理と再発予防 |
肩関節唇損傷の再発を防ぐには、筋力・柔軟性・身体機能の維持が欠かせません。とくに回旋筋腱板や肩甲骨周囲筋を中心とした肩の安定性の確保、体幹や下半身の筋力による全身の連動性向上が重要です。
また、可動域の維持と左右差の調整で負担を分散し、固有受容感覚や神経筋協調性を高めることで再発リスクを軽減します。疲労耐性の向上と継続的なトレーニングにより、肩の安定性と競技パフォーマンスを長期的に守ることが大切です。
投球量の管理とフォームの改善
投球量の管理とフォームの改善は、肩関節唇損傷の再発予防に極めて重要です。まず、過剰使用(オーバーユース)ストレスの抑制が基本であり、投球回数や強度が増えるほど関節唇への微小損傷リスクが高まります。
過負荷を避けるため、球数・登板間隔の管理は再発予防の基盤です。たとえば、1試合75球超・シーズン600球超で肩肘障害リスクが上昇するとの報告があります。(文献15)
また、ASMIの推奨でも日次の球数制限と休息日の設定が示されています。(文献16)
加えて、動作バイオメカニクスの健全性維持も重要です。肩関節の軌道異常や軸偏位は関節唇(ラブラム)損傷と関連しており、正しいフォームを習得することで可動性と安定性のバランスを保ち、肩への過剰なストレスを防止できます。(文献17)
段階的復帰と身体の変化への早期対応
肩関節唇損傷からの復帰では、治癒期間を守りながら段階的に負荷を高めることが、再発防止のために大切です。術後は関節唇・縫合部が脆弱なため、過負荷を避けつつ段階的リハビリで関節包・腱板などを徐々に強化し、身体の適応時間を確保します。
実際、SLAP修復後のリハビリは複数フェーズにわかれ、軽い抵抗運動から反復運動、プライオメトリクス、投球動作へと進行します。(文献18)
また、投球導入時期にストレスを軽減するのも重要です。いきなり全力投球を行うと肩や肘に過大な負担がかかります。
ARTHROSCOPIC SLAP REPAIR CLINICAL PRACTICE GUIDELINEの資料では、術後12〜16週で軽い投球を開始し、6〜8か月で競技復帰を目指す段階的プロセスが推奨されています。(文献19)
肩関節唇損傷でお悩みの野球選手は当院へご相談ください
肩関節唇損傷は、早期の診断と段階的なリハビリテーションにより、野球選手でも競技復帰が十分に期待できる疾患です。ただし、復帰までの期間は損傷の程度や選手個々の競技レベルによって異なります。
治療やリハビリには時間を要しますが、焦らず段階的に進めることが重要です。諦めずに継続することで、競技への復帰を目指せます。
改善が難しい肩関節唇損傷についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、肩関節唇損傷に対して再生医療を用いた治療もご提案しています。再生医療は、損傷した組織の修復を促すことで、従来の治療では難しかった箇所へのアプローチが期待できる治療法です。選手の状態に応じて適応を慎重に判断します。
ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。
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肩関節唇損傷で悩む野球選手からよくある質問
復帰する際のリスクや再手術率はどのくらいですか?
肩関節唇(SLAP)損傷修復後の競技復帰率(RTS:Return to Sport)は、およそ60〜80%と報告されています。(文献12)
たとえば、あるシステマティックレビューでは69.6%の選手が競技に復帰したとされています。(文献12)
別のシステマティックレビューでは、再手術率については、SLAP修復後で3〜15%です。(文献20)
また、別の報告ではSLAP修復の再手術率は約12%であり、上腕二頭筋腱固定術(BT)では約6%と、より低い傾向が示されています。(文献21)
なお、これらの数値は再発率ではなく、再手術が必要となった症例の割合を示しています。復帰後に以前と同等のパフォーマンスを維持できるかは個人差があり、術後のリハビリや肩への負担管理が不可欠です。
中学生・高校生でも手術が必要になりますか?
中学生や高校生などの思春期年代でも、肩関節唇(SLAP)損傷に対して手術が行われるケースがあります。18歳未満の患者1,349例を調査した研究では、約83.8%がSLAP修復手術を受けていました。(文献22)
ただし、若年者ではまずリハビリなどの保存療法を優先し、改善がみられない場合に手術を検討するのが一般的です。手術を行った例では、競技復帰率や症状改善が良好だったとの報告もあります。(文献23)
肩関節唇損傷を経験したプロ野球選手は誰ですか?
肩関節唇損傷は、プロ野球選手の間でも発症が報告されています。発症が報告されているのは以下の選手です。
- 谷岡竜平(元読売ジャイアンツ投手)
- 福原忍(元阪神タイガース投手)
- 由規(元東京ヤクルトスワローズ投手)
- 小久保裕紀(元福岡ダイエーホークス、元ソフトバンクホークス内野手)
- 斎藤佑樹(元北海道日本ハムファイターズ投手)
肩関節唇損傷は引退に至る例もあるため、競技レベルを問わず適切な治療が欠かせません。
参考文献
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POST-OP MANAGEMENT OF SLAP REPAIR & BICEPS TENODESIS/TENOTOMY
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Disabled Throwing Shoulder: 2021 Update: Part 2—Pathomechanics and Treatment|Arthtscopy
POST-OP MANAGEMENT OF SLAP REPAIR & BICEPS TENODESIS/TENOTOMY
ARTHROSCOPIC SLAP REPAIR CLINICAL PRACTICE GUIDELINE
Repair versus biceps tenodesis for the slap tears: A systematic review|Sage Journals Home
SLAP TEARS IN THE PEDIATRIC PATIENT: WHO IS TREATING THEM AND WHERE?|PMC PubMed Central
Return to Play in Adolescent Baseball Players After SLAP Repair|PMC PubMed Central













