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肩関節唇損傷に効果的な治療方法とは?リハビリテーションや予防方法についても解説

肩関節唇の損傷は、野球やテニスのような腕を上から振り下ろすオーバーヘッドスポーツで起こりやすい疾患です。
肩関節唇損傷から回復して競技が継続できるか、将来的に症状は改善するのか不安に思っている方はいるのではないでしょうか。適切な治療により症状は改善し、リハビリテーションにより肩関節の安定化を図ることで競技復帰も望めます。
この記事では、肩関節唇損傷のリハビリテーションや再発予防の方法について解説します。怪我から早く競技復帰したいと考えている方は、ぜひご覧ください。
当院「リペアセルクリニック」では、肩関節への再生医療を行っています。肩関節唇損傷にも有効な場合がありますので、気になる方はお気軽に当院へご相談ください。
目次
肩関節唇損傷とリハビリ方法
肩関節唇損傷とは、肩関節を安定させる機能をもつ関節唇の損傷です。原因となるのは、オーバーヘッドスポーツ、肩の過剰な使用、脱臼などです。とくに、野球やテニスなど投球動作を伴うスポーツをしている人は、上方の関節唇を損傷しやすい傾向があります。上方関節唇には上腕二頭筋につながる腱が付着しており、投球動作による負荷がかかりやすいのです。
肩関節唇損傷の主な症状は、肩の痛み、不安定感、可動域制限などです。安静により痛みは治まることが多いですが、肩の不安定感を軽減するにはリハビリテーションが欠かせません。具体的には関節可動域訓練や筋力トレーニング、肩に負担をかけない動作の習得などを行います。また、関節唇は再生しないため、重症例では手術が必要です。
肩関節唇損傷のタイプ
肩関節唇損傷は、大きく二つのタイプに分けられます。
一つめはBankert(バンカート)損傷です。前下方の関節唇を損傷するタイプで、肩関節の不安定さを感じやすいのが特徴です。肩関節の脱臼に伴って起きることも多く、繰り返す場合は手術が必要となります。(文献1)
二つめはSLAP(スラップ)損傷です。上方の関節唇を損傷するタイプで、オーバーヘッドスポーツで起きやすいです。Bankert損傷と比べ、リハビリテーションで症状が改善する場合も多い特徴があります。(文献2)
SLAP損傷は、損傷の程度に応じてさらに4タイプに分類されます。(文献3)
タイプⅠ | 上方関節唇に毛羽立ちが見られるが、関節窩から剥がれてはいない |
タイプⅡ | 上方関節唇および上腕二頭筋付着部が関節窩から剥がれている |
タイプⅢ | 上方関節唇のバケツ柄断裂を認めるが、上腕二頭筋付着部は損傷していない |
タイプⅣ | 上方関節唇のバケツ柄断裂が上腕二頭筋長頭腱にも及んでいる |
肩関節唇損傷の検査方法
肩関節唇損傷の検査方法は、身体診察や画像検査です。身体診察では医師が患者様の肩を回したり、腕に力を入れてもらったりして、肩の痛みや引っかかり感が起きるかテストします。
画像検査はレントゲンやMRIを行います。レントゲン検査では、脱臼に伴う骨の欠けや、肩関節の不安定化による変形といった骨の異常を確認可能です。MRI検査では、レントゲンに写らない関節唇の剥離や断裂の状態、炎症の有無などをチェックします。
しかし、画像検査では診断が難しいケースも存在します。この場合は、関節鏡手術の際に関節唇を直接見て、初めて正確な診断が可能です。
肩関節唇損傷の治療方法
肩関節唇損傷の治療は、保存療法と手術療法に大別されます。
保存療法で最初に行うのは、痛みを抑えるための鎮痛薬の投与や安静の確保です。痛みが治まれば、肩関節の安定性を高めるためのリハビリテーションを行います。
手術療法では、主に関節鏡を用いて、関節唇の修復や再建を行います。術後は早期からのリハビリテーションが大切です。保存療法と手術療法のメリット・デメリットを以下にまとめました。
治療法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
保存療法 |
|
|
手術療法 |
|
(目安:約30万円) |
それぞれの具体的な治療内容を見ていきましょう。
保存療法
軽症例では保存療法を実施する場合が多いです。保存療法では、薬物療法やリハビリテーションを行います。具体的には以下で解説します。
薬物療法
発症直後で痛みが強い場合には、ロキソニンやボルタレンなどの消炎鎮痛薬の内服やヒアルロン酸の関節内注入を行い安静にします。それでも痛みが軽減しない場合はステロイドを注射します。そして、痛みや炎症が落ち着いてきたらリハビリテーションを開始する流れです。ただ、可動域訓練やリラクゼーションは拘縮予防のために多少痛みがあっても実施する場合があります。
リハビリテーション
リハビリテーションでは、肩関節周囲のリラクゼーション・可動域の改善・筋力強化を行います。(文献4)
肩関節唇損傷では、肩後面の組織が硬い場合が多いため、後面の組織を中心にリラクゼーションを実施します。また、痛みにより筋肉が反射的に緊張しやすく、可動域制限になりやすいため可動域訓練が大切です。
さらに、肩関節の安定性を高めるために腱板筋群の筋力強化を行います。テニスや野球の投球動作では、腱板筋群に大きな負荷がかかるため、負荷に耐えられるように筋力強化が必要です。
手術療法
手術療法は、重症例や脱臼を繰り返してしまう方に適用されます。主流となっているのは全身麻酔下での関節鏡手術です。皮膚に小さな穴を3カ所ほど開け、関節鏡(カメラ)や手術器具を挿入して行います。
入院は数日〜10日間程度であり、術後2〜3週間はリハビリ以外では装具で肩関節を固定します。手術方法はさまざまですが、代表的な手術方法を2つ紹介します。
鏡視下デブリードマン
鏡視下デブリードマンは、関節唇の損傷部分を取り除く手術です。(文献5)関節鏡で確認しながら、関節唇の毛羽立った部分や、伸びたり剥がれたりして挟まれそうな部分を除去します。これにより、痛みや引っかかりといった症状の軽減が期待できます。
鏡視下関節唇修復術
鏡視下関節唇修復術は、アンカーと呼ばれる糸のついたビスを使って、関節唇を元の位置に縫い合わせる方法です。上腕骨頭への処置を同時に行うこともあり、以下の3つの術式が代表的です。(文献1)(文献6)
手術方法 | 内容 | 適応するケース |
---|---|---|
バンカート法 | アンカーを肩甲骨に打ち込み、関節唇を縫合 | 関節唇が剥がれている基本的なケース |
ブリストウ法 | アンカーでの固定に加え、肩甲骨の一部を移植して縫合 | より強い固定が必要なケース |
レンプリサージ法 | 上腕骨頭のへこみ部分にアンカーを打ち込み、関節包・腱板を縫い込む | 脱臼により上腕骨頭にへこみができているケース(バンカート法と併用可能) |
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肩関節唇の損傷を治療した後の注意点
保存療法では、関節唇自体が治るわけではないため肩関節の緩さが少なからず残りやすいです。そのため、肩関節を過度に動かすと脱臼や再び症状を再発する可能性があり、肩のリハビリテーションをしっかり行うのが大切になります。
一方、手術療法では、範囲は狭いものの関節包など深部への侵襲があるため、組織が癒着して可動域が制限されないように術後早期からリハビリテーションが必要です。1カ月ほどリハビリを行うと通常の生活レベルに戻れますが、スポーツ復帰には3〜6カ月必要です。
肩関節唇損傷のリハビリ方法
肩関節唇損傷のリハビリテーションは、スポーツに復帰するために重要です。手術を受けた場合の復帰までの期間や、具体的なリハビリテーション内容を以下に紹介します。
1.術後~1カ月(炎症管理)
術後初期では、痛みや炎症が残存しているため、まずは安静や消炎鎮痛薬により改善を図ります。夜間に肩を動かさないように、術後2週間ほどは装具を着用します。ただ、癒着予防のためにリハビリは手術翌日から開始する場合が多いです。この時期にたくさん筋トレしてしまうとより悪化してしまうため運動量や負荷には注意です。
2.術後1カ月~2カ月(可動域向上・筋力強化)
この時期では、とくにテニスや野球の投球動作で必要な肩関節外旋・外転可動域の向上を目指します。可動域が狭いと肩関節に負担がかかりやすいです。また、スポーツ復帰を目指す場合、全身の心肺機能を戻すのも大切なので、有酸素運動など持久力トレーニングも実施します。肩の筋力トレーニングは低負荷から実施し、段階的に難易度を上げていきましょう。
3.術後2カ月~3カ月(動作練習)
筋力トレーニングの負荷を上げつつ、スポーツに特化した動作練習を行っていきます。スポーツ中には、予測不能な外力が加わる場合や瞬発的な動作が多いため、素早い動作にも対応できる身体づくりが大切です。とくに、受傷のきっかけとなった動作を入念にチェックし、再発を防止しましょう。
肩関節唇損傷の再発を予防する方法
肩関節唇損傷の再発を予防するには、腱板筋群のトレーニングや肩後面のストレッチが大切です。(文献4)
以下に具体的な内容を解説します。
腱板筋群のトレーニング
腱板筋群は、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋で構成されており、肩関節の安定化に必須の筋群です。投球動作の繰り返しにより、腱板筋群は大きなストレスを受けるため、これらの筋群が弱化しやすくなります。そのため、練習時間の制限や投球動作の回数制限を設けて練習しましょう。具体的な腱板筋群のトレーニングを以下に記載します。
<やり方>
- イスに座り、わきをしめて肘を90度に曲げる
- わきをしめたまま腕を外に開く
負荷はチューブなどを用いて行い、低負荷・高回数で実施します。腱板筋は小さい筋肉であり、負荷が高いと間違った動作になってしまうため気をつけましょう。
肩後面のストレッチ
テニスや野球などの投球動作を頻繁に行うスポーツでは、肩後面の棘下筋・大円筋・小円筋・三角筋が硬くなりやすいです。すると、上腕骨頭の動きがぎこちなくなり、腱板筋群が作用しづらくなります。結果、肩関節への負担が増加します。そのため、肩後面のストレッチにより肩の滑らかな動きを獲得するのが大切です。具体的なストレッチの方法を以下に記載します。
<やり方>
- 両手の甲を脇腹につけます
- 肘を前方に向けるように閉じていきます
- 肩の後面が伸びているのを意識します
肩をすくめたり体幹だけを回したりしないように、肩後面が伸張されているのを意識して実施しましょう。
肩関節唇を損傷した際の治療・リハビリ・再発防止に関するQ&A
ここでは肩関節唇損傷に関するよくある質問に回答します。
肩関節唇を損傷した際に放置するのはNG?
痛みや違和感を自己判断で放置するのはやめましょう。痛いからと安静にしすぎると、肩関節がだんだん固まってしまうことがあります(拘縮)。安静が必要な場合もある一方、多少の痛みがあっても可動域訓練やリラクゼーションを行った方が良い場合もあるのです。
また、痛みが落ち着いたからといって以前と同じように肩を使えば、再び関節唇を損傷したり、肩関節を脱臼したりするかもしれません。必ず医師の判断のもとで治療を受けましょう。
肩関節唇損傷のリハビリ期間はどれくらい必要ですか?
手術を受けた場合のリハビリ期間は、日常生活レベルに戻るまでに1カ月、スポーツへの復帰までに3〜6カ月が目安です。
また手術をせずに保存療法を行う場合は、スポーツに復帰するまで短くて2〜3カ月、長くて6カ月ほどが目安です。ただし、保存療法でよくならない場合は、手術が必要になることもあります。
なお、実際のリハビリ期間には個人差があります。リハビリが不十分だと再発の可能性が高まるので、焦らず進めていきましょう。
肩関節の手術後に痛みが出た場合は再生医療を適用できますか?
手術の種類によって異なりますが、関節唇損傷や腱板断裂の手術であれば、術後に再生医療を適用可能です。また、腱板断裂で縫合術を受けた場合は、術後に幹細胞治療を受けることで再断裂を予防できます。
再生医療とは、患者様から採取した幹細胞や血小板を活用する治療法の一つです。
幹細胞には、さまざまな細胞に分化する性質があります。また、血小板には止血に関与するほか、成長因子を含んでいることが知られています。
競技を継続できるように肩関節のケアを行いましょう
肩関節唇損傷は、テニスや野球などオーバーヘッドスポーツで発症しやすい疾患です。関節唇は、肩の安定化に欠かせない組織であり、再生もしないためリハビリテーションによる訓練が大切になります。
また、投球フォームによっては肩後面の組織が硬くなりやすいことや腱板筋群が弱化しやすいため、入念にトレーニングやストレッチを行います。スポーツの実施前後で行うことで肩の柔軟性や筋力を保てるでしょう。
今回ご紹介したストレッチや筋力トレーニングにより、可動域向上・筋力向上を目指せるため、再発予防のためにも毎日ケアしましょう。
なお、肩関節唇損傷は再生医療で治療できる場合があります。再生医療は手術の必要がなく、患者様への負担が少ない治療方法です。気になる方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にご相談ください。
参考文献
(文献1)
独立行政法人国立病院機構 霞ヶ浦医療センター「反復性肩関節脱臼(はんぷくせいかたかんせつだっきゅう)」霞ヶ浦医療センターホームページhttps://kasumigaura.hosp.go.jp/section/seikei_hanpukukatakansetudakyu.html(最終アクセス:2025年2月20日)
(文献2)
独立行政法人国立病院機構 霞ヶ浦医療センター「投球障害肩(とうきゅうしょうがいかた)~主に思春期以降~」霞ヶ浦医療センターホームページhttps://kasumigaura.hosp.go.jp/section/seikei_toukyusyougaikata.html(最終アクセス:2025年2月20日)
(文献3)
Zahab S. Ahsan, et al. (2016). The Snyder Classification of Superior Labrum Anterior and Posterior (SLAP) Lesions. Clinical Orthopaedics and Related Research, 474(9), 2075–2078.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4965366/(最終アクセス:2025年2月20日)
(文献4)
原正文.「投球障害肩のリハビリテーション治療」『日本リハビリテーション医学会誌』55(6), pp.495-501, 2018年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/55/6/55_55.495/_pdf(最終アクセス:2025年2月20日)
(文献5)
保刈成ほか.「上方関節唇損傷に対する鏡視下デブリードマンの術後成績の検討」『肩関節』21(2), pp.321-325, 1997年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/katakansetsu1977/21/2/21_321/_pdf(最終アクセス:2025年2月20日)
(文献6)
地方独立行政法人 芦屋中央病院「反復性肩関節脱臼に対する鏡視下手術」芦屋中央病院ホームページ
https://www.ashiya-central-hospital.jp/wp-content/uploads/2019/03/6cfeb048e18c00d509db2dac9e315fba.pdf(最終アクセス:2025年2月20日)
監修者

坂本 貞範 (医療法人美喜有会 理事長)
Sadanori Sakamoto
再生医療抗加齢学会 理事
再生医療の可能性に確信をもって治療をおこなう。
「できなくなったことを、再びできるように」を信条に
患者の笑顔を守り続ける。