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- 脊椎、その他疾患
肩こり、経験したことがないという方は少ないのではないでしょうか? 実はその原因は、デスクワークや姿勢、運動不足、冷え性、そしてストレスなど、実に多様で、原因によって適切な対処法も異なります。 肩こりは放置すると、頭痛や吐き気などの思わぬ症状を引き起こす可能性も。 本記事では、肩こりの原因とメカニズムを5つに分類し、具体的な症状や、日常生活で簡単に取り入れられる効果的な治療法・予防法まで、医師が詳しく解説します。 肩こりに悩まされている方はもちろん、これから肩こりを予防したいという方も、ぜひご一読ください。 肩こりの原因とメカニズム5選 肩こりは、誰でも身近に経験する可能性が高い症状です。しかし、「肩こり」と一言で言っても、その原因は人それぞれであり、原因によって適切な対処法も異なってきます。 今回は、肩こりの原因とメカニズムを5つご紹介し、具体的な解説を加えながら、読者の皆様がご自身の肩こりの原因を理解し、適切な対策を講じるためのお手伝いをさせていただきます。 デスクワークなど長時間同じ姿勢での作業 現代社会において、デスクワークは多くの人にとって避けられない仕事スタイルとなっています。しかし、長時間同じ姿勢での作業は、肩こりの大きな原因となります。 特にパソコン作業やスマートフォンの操作は、首を前に傾けた姿勢になりがちで、肩や首の筋肉に大きな負担がかかります。 長時間同じ姿勢を続けると、特定の筋肉が緊張し続け、血行不良に陥ります。 肩甲骨は、腕の動きに合わせて上下左右に自由に動く骨です。デスクワークでは、肩甲骨周辺の筋肉や首の後ろの筋肉がどうしても凝ってきます。 例えば、パソコン作業中に画面に集中しすぎると、知らず知らずのうちに肩をすくめた状態になり、僧帽筋と呼ばれる肩の筋肉が過剰に緊張します。 また、キーボード操作に集中すると、腕や手首の筋肉も緊張し、その緊張が肩まで伝わって肩こりを悪化させることもあります。 慢性的な頸部痛の患者を対象とした研究では、肩甲骨を中心とした抵抗運動が、マッサージよりも痛みの軽減、頸部の可動域の改善、僧帽筋の緊張緩和に効果的だったという結果が報告されています。 この研究結果は、同じ姿勢での作業で凝り固まった筋肉を積極的に動かすことの重要性を示唆しています。 つまり、肩甲骨を意識的に動かす体操やストレッチを日常生活に取り入れることで、肩こりの予防や改善に繋がることが期待できます。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 猫背などの姿勢不良 猫背などの姿勢不良も、原因です。正しい姿勢では、頭の重さは背骨全体で支えられています。 しかし、猫背になると頭が体の前方に出てしまい、首や肩の筋肉で頭を支えなければならなくなります。 5kg程度の重さのある頭を、首や肩の筋肉だけで支え続けると想像してみてください。筋肉への負担は相当なものになります。 ストレートネックも姿勢不良の一種です。本来、頸椎(首の骨)は緩やかなカーブを描いていますが、ストレートネックではこのカーブが失われ、まっすぐな状態になっています。 ストレートネックになると、頭が前方に傾きやすく、首や肩の筋肉への負担がさらに増大します。 運動不足 運動不足は、筋肉量の減少や筋力の低下を引き起こします。すると、正しい姿勢を維持することが難しくなり、猫背やストレートネックになりやすくなります。 また、運動不足は血行不良になり、筋肉への酸素供給が不足し、老廃物が蓄積しやすくなります。やはり、肩こりの悪影響となります。 冷え性 冷え性は、末梢血管の収縮を引き起こし、血行不良を招きます。血行不良は、筋肉への酸素供給を阻害し、老廃物の排出を妨げ、肩こりが発生しやすくなります。 特に、女性は男性に比べて筋肉量が少なく、冷えやすい傾向があるため、肩こりに悩まされることが多いです。 ストレス ストレスは、自律神経のバランスを崩し、交感神経を優位にさせます。交感神経が優位になると、筋肉が緊張しやすくなり、肩こりを引き起こします。 また、ストレスは呼吸を浅くし、体内の酸素供給を低下させるため、これも原因となります。 ストレスと肩こりの関係は複雑ですが、精神的な緊張が身体をこわばらせるのは明らかです。 ストレスを軽減するためのリラクセーション法やストレスマネジメント法を身につけることは、肩こりの改善にも繋がります。 例えば、ヨガや瞑想は、心身をリラックスさせ、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。また、ウォーキングなどの軽い運動も、ストレス軽減に効果的です。 日常生活の中で、ご自身に合ったストレス解消法を見つけて実践していくことが大切です。 肩こりの症状と治療法・予防法 肩こりは、あまりにもありふれた症状であるがゆえに、放置されがちです。 しかし、肩こりは放置すると日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、頭痛や吐き気などの他の症状を引き起こす原因にもなり得ます。 初期症状では、肩上部の僧帽筋という筋肉が緊張することで、肩まわりが凝ってきます。 まるで肩に重いリュックサックを背負っているかのような感覚、あるいは首の後ろに鉄板が張り付いているかのような感覚を覚える方もいるかもしれません。 症状が進行すると、首や肩だけでなく、背中全体に硬さや痛み、不快感が広がり、日常生活にも支障をきたすようになります。 例えば、朝起きた時に首が回らない、洗濯物を干すのが辛い、長時間座っているのが苦痛といった具体的な問題が生じます。 さらに、肩こりは肩や首の局所的な症状だけでなく、頭痛、吐き気、めまい、眼精疲労、歯痛などの他の症状を併発したり、誘発したりすることもあります。 腕や指先に痛みやしびれが出る場合もあります。これらの症状は、肩や首の筋肉の緊張が神経や血管を圧迫することで引き起こされると考えられています。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 肩こりの症状(肩の痛み、こり感、重さ、だるさ、頭痛、吐き気など) 肩こりの症状は実に多様で、肩や首の痛み、こり感、重さ、だるさなど、人によって感じ方が異なります。 症状 説明 痛み 肩や首、背中、腕、指先に感じる痛み。鋭い痛み、鈍い痛み、ズキズキする痛みなど、痛みの種類も様々です。 こり感 筋肉が硬く張っている感じ。肩や首を動かそうとすると、まるでゴムが引っ張られるような感覚があるかもしれません。 重さ 肩や首が重く感じる。まるで何キロもの重りが乗っているかのような感覚に襲われる方もいます。 だるさ 肩や首、腕のだるさ。まるで鉛のように重く、動かす気力さえ失せてしまうような感覚です。 頭痛 肩こりに伴う頭痛。緊張型頭痛が多いです。後頭部から首筋にかけて締め付けられるような痛み、あるいは頭全体が重く感じるような痛みなど、様々なタイプの頭痛があります。 吐き気 肩こりのひどい場合に起こる吐き気。ひどい肩こりは自律神経のバランスを崩し、吐き気を引き起こすことがあります。 めまい 肩こりによって引き起こされるめまい。回転性のめまいや、ふわふわとした浮遊感など、様々なタイプのめまいがあります。 眼精疲労 肩こりによって悪化する眼精疲労。目の奥が痛む、目がかすむ、目が乾くなどの症状が現れます。 しびれ 腕や指先に感じるしびれ。まるで針で刺されたようなチクチクとした感覚や、ジンジンとした痺れるような感覚があります。 緊張型頭痛において、頸部の筋骨格系の機能障害が重要な役割を果たしていることが近年の研究で明らかになっています。 つまり、肩こりは単なる肩の症状ではなく、頭痛などの他の症状とも密接に関連しているということです。 ▼めまいの対処法について、併せてお読みください。 ▼頭痛と吐き気が起きたとき、どうしたらいい?併せてお読みください。 肩こりの治療法(薬物療法、物理療法、運動療法、鍼灸治療、マッサージなど) 肩こりの治療法は、大きく分けて薬物療法、物理療法、運動療法、鍼灸治療、マッサージなどがあります。 薬物療法: 筋肉の緊張を和らげる薬や、痛みを軽減する薬、血行を良くするビタミン剤などが処方されます。 薬物療法は、即効性があり、つらい症状を 軽減できるというメリットがあります。 物理療法: 温熱療法、電気療法、牽引療法などがあります。 物理療法は、薬を使わずに身体に直接働きかける治療法で、副作用が少ないというメリットがあります。 運動療法: ストレッチや筋力トレーニングなど、肩甲骨や肩関節の動きを改善する運動を行います。 運動療法は、肩こりの根本的な原因である筋肉の柔軟性や筋力の低下を改善する効果があります。 鍼灸治療: 鍼やお灸でツボを刺激することで筋肉が柔らかくなり、血流も良くなります。 鍼灸治療は、東洋医学に基づいた治療法で、身体の自然治癒力を高める効果があるとされています。 マッサージ: 筋肉を直接もみほぐし、血行を良くします。 マッサージは、筋肉の緊張を和らげ、リラックス効果も期待できます。 肩こりの予防法(ストレッチ、姿勢改善、適度な運動、保温、ストレス管理など) 肩こりの予防には、日常生活における習慣の見直しが重要です。 ストレッチ: 肩や首の筋肉を 、ストレッチすることで、筋肉の柔軟性を保ち、肩をほぐします。 朝起きた時、仕事中、寝る前など、こまめに行うのが効果的です。 姿勢改善: デスクワークなどで長時間同じ姿勢を続ける場合は、こまめに休憩を取り、姿勢を変えるようにしましょう。正しい姿勢を保つことも重要です。 猫背にならないように意識し、顎を引いて背筋を伸ばすようにしましょう。 適度な運動: 適度な運動は、血行を促進し、肩こりを和らげる効果があります。 ウォーキングや水泳など、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。 保温: 体を冷やすと、肩こりが強くなります。特に冬場は、肩や首を冷やさないように注意しましょう。 温かいお風呂に浸かるのも効果的です。 ストレス管理: ストレスは肩こりの大きな原因の一つです。ストレスを溜め込まないように、リラックスする時間を作る、趣味を楽しむなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Corum M, Aydin T, Medin Ceylan C, Kesiktas FN. "The comparative effects of spinal manipulation, myofascial release and exercise in tension-type headache patients with neck pain: A randomized controlled trial." Complementary therapies in clinical practice 43, no. (2021): 101319. Fernández-de-Las-Peñas C, Cook C, Cleland JA, Florencio LL. "The cervical spine in tension type headache." Musculoskeletal science & practice 66, no. (2023): 102780. Park SH, Lee MM. "Effects of Lower Trapezius Strengthening Exercises on Pain, Dysfunction, Posture Alignment, Muscle Thickness and Contraction Rate in Patients with Neck Pain; Randomized Controlled Trial." Medical science monitor : international medical journal of experimental and clinical research 26, no. (2020): e920208. Al-Khazali HM, Krøll LS, Ashina H, Melo-Carrillo A, Burstein R, Amin FM, Ashina S. "Neck pain and headache: Pathophysiology, treatments and future directions." Musculoskeletal science & practice 66, no. (2023): 102804. Kang T, Kim B. "Cervical and scapula-focused resistance exercise program versus trapezius massage in patients with chronic neck pain: A randomized controlled trial." Medicine 101, no. 39 (2022): e30887.
2025.02.09 -
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- 再生治療
- 頚椎椎間板ヘルニア
- 腰椎椎間板ヘルニア
腰や首の痛み、痺れ、悩んでいませんか? それは、背骨のクッションである椎間板が潰れ、神経を圧迫する椎間板ヘルニアかもしれません。 ぎっくり腰のような激しい痛みから、長時間デスクワークによる慢性的な痛みまで、その症状は様々です。 実は、トップアスリートでも椎間板ヘルニアの有病率が高いという報告もあるほど、身近な疾患なのです。 この記事では、椎間板ヘルニアの代表的な症状5選と原因や保存療法・手術療法といった治療法まで、詳しく解説します。 もしかしたら、あなたの痛みや痺れの原因がわかるかもしれません。 https://youtu.be/4AOGsB-m63Y?si=OXYtRw-021UiEI73 椎間板ヘルニアの症状と原因5選 椎間板ヘルニアは、背骨同士のクッションとなる椎間板が、まるで潰れて神経を圧迫するような状態です。腰や首に発症し、多くの人が悩まされています。 この椎間板ヘルニアによって引き起こされる代表的な症状5つと、その原因について、詳しく説明していきます。 ①腰痛:急性期の特徴と慢性期の特徴 腰痛は、椎間板ヘルニアの最も代表的な症状です。 「ぎっくり腰」のように、突然激しい痛みが生じる場合(急性期)と、徐々に痛みが強くなっていく場合(慢性期)があります。 急性期:急性期は、重量物を持った時や、急に体をひねったときなどに起こりやすく、その場で動けなくなるほどの激痛を伴うこともあります。 私の患者さんでも、くしゃみをした瞬間、激痛で動けなくなり救急車で運ばれてきた方がいました。 慢性期:慢性期は、加齢に伴って椎間板がすり減ったり、長時間のデスクワークや悪い姿勢などによって、じわじわと症状が現れることが多いです。 まるで、長年使い続けたクッションが、少しずつへたっていくように、椎間板も徐々に変性していきます。 初期は軽い違和感程度ですが、放っておくと重症化し、日常生活に支障をきたすようになることもあります。 特徴 急性期 慢性期 痛みの始まり方 突然 徐々に 痛みの程度 激しい 軽い~中等度 期間 数日~数週間 数ヶ月~数年 原因 急な動作、重量物を持つ 加齢、長時間のデスクワーク、悪い姿勢など ②下肢の痛みやしびれ:坐骨神経痛との関係性 椎間板ヘルニアは、腰だけでなく、臀部や太ももの後ろから、ふくらはぎ、足先など、下肢にも痛みやしびれを引き起こすことがあります。 これは、飛び出した椎間板が、腰から足にかけて伸びている「坐骨神経」という神経を圧迫するためです。 坐骨神経痛の症状は、おしりから太ももにかけての痛み、ふくらはぎの外側や足の裏のしびれ、足首や足指の動きが悪くなるなどがあります。 これらの症状は、片側の足に現れることが多く、咳やくしゃみをすると痛みが強くなることがあります。 特に、トップアスリートでは、一般人口よりも椎間板ヘルニアの有病率が高いという報告もあります。 これは、脊柱への継続的な圧力と、微小外傷の蓄積が原因と考えられています。アスリートに限らず、普段から、腰の負担を軽減するため、姿勢や運動を心がけることが大切です。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 ③排尿・排便障害:重症例での症状 椎間板ヘルニアが重症化すると、まれに排尿や排便のコントロールが難しくなることがあります。 これは、「馬尾神経」と呼ばれる、膀胱や直腸の働きをコントロールする神経が圧迫されることで起こります。 尿が出にくい、残尿感がある、便が出にくい、便秘になるなどの症状が現れたら、すぐに医療機関を受診してください。 馬尾症候群は、緊急手術が必要な重篤な状態です。 早期発見、早期治療が予後を大きく左右するため、少しでも異変を感じたら、ためらわずに専門医に相談することが重要です。 ④遺伝的要因:家族歴との関連 椎間板ヘルニアは、遺伝的要因が直接的に関係しているという明確なエビデンスは、現在のところありません。 しかし、家族に椎間板ヘルニアになった人がいる場合、椎間板の構造や強度などが似ている可能性があり、将来的に発症するリスクが少し高くなる可能性も考えられます。 ⑤加齢や生活習慣:肥満や喫煙の影響 加齢:加齢は、椎間板ヘルニアの大きなリスク要因の一つです。年齢を重ねると、椎間板の水分が減少すると、もろくなってしまい、ヘルニアになりやすくなります。 これは、乾燥したスポンジがもろくなりやすいのと同じようなイメージです。 肥満:肥満もリスクを高める要因です。過剰な体重は、椎間板に大きな負担をかけるためです。 喫煙:喫煙は、椎間板への血流を悪くし、椎間板の変性を促進するため、間接的にヘルニアのリスクを高める可能性が指摘されています。 日頃から、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙などを心がけることで、椎間板ヘルニアのリスクを軽減することができます。 特に、肥満の方は、適切な減量指導を受けることで、椎間板への負担を軽減し、症状の改善を期待できます。 椎間板ヘルニアの検査と治療法4選 椎間板ヘルニアの検査方法と治療法について、不安を少しでも和らげ、治療に前向きに取り組めるよう、わかりやすく解説します。 検査で何がわかるのか、どんな治療の選択肢があるのか、一緒に見ていきましょう。 画像診断:MRI、CT、レントゲンの役割と使い分け 椎間板ヘルニアの検査には、主にMRI、CT、レントゲンといった画像診断を用います。 それぞれの検査の特徴を、身近なもので例えて説明します。 MRI検査: MRI検査は、強力な磁石と電波を使って体の内部を、まるでゼリーの中身を見るように鮮明に画像化します。 飛び出した椎間板の状態や、神経がどれくらい圧迫されているかを正確に把握できます。特に、神経根症状を伴う腰椎椎間板ヘルニアの診断においては、MRIが不可欠です。 CT検査: CT検査は、X線を使って体の断面を撮影し、輪切りにした野菜のように内部構造を写し出します。 MRI検査ほど鮮明ではありませんが、骨の輪郭をとらえるのが特徴で、椎間板ヘルニアに伴う骨の異常や、ヘルニアの石灰化の有無などを確認するのに役立ちます。 レントゲン検査: レントゲン検査は、X線を使って骨を撮影する、健康診断などでもよく用いられる検査です。 椎間板ヘルニア自体はレントゲンに写りませんが、骨の変形や異常がないかを確認し、他の骨の病気を除外するために用います。 これらの検査を組み合わせて行うことで、より正確な診断が可能になります。 保存療法:薬物療法、理学療法、安静の重要性 椎間板ヘルニアの治療は、まず保存療法から始めます。保存療法は、手術をせずに痛みやしびれなどの症状を和らげることを目的とした治療法です。 薬物療法: 痛みや炎症を抑える薬、神経の働きを助ける薬、筋肉の緊張を緩和する薬などを、患者さんの症状に合わせて処方します。 鎮痛剤は、痛みを感じにくくする効果があり、炎症を抑える薬は、腫れや熱感を抑えることで痛みを軽減します。 神経の働きを助ける薬は、神経の修復を促進し、しびれなどの症状を改善する効果が期待できます。 理学療法: 専門の理学療法士による指導のもと、ストレッチや運動、マッサージなどを行います。 硬くなった筋肉を柔らかくすることで血行を促進し、痛みを軽減する効果があります。 安静: 痛みが強い時期には、安静にすることが重要です。安静にすることで、炎症が治まり、痛みが軽減されます。 しかし、長期間の安静は、筋力低下や体力低下につながるため、医師の指示に従って適切な安静期間と活動量を調整することが大切です。 北米脊椎協会(NASS)のガイドラインでも、適切な安静の重要性が強調されています。 これらの保存療法を6週間から3ヶ月ほど続け、それでも症状が改善しない場合や、症状が悪化する場合には、手術療法を検討します。 手術療法:適応と種類、術後のリハビリテーション 保存療法で効果が得られない場合や、重度の神経麻痺がある場合などには、手術療法を検討します。 手術の主な目的は、飛び出した椎間板を取り除き、神経の圧迫を解消することです。 手術の適応: 排尿・排便に障害が出たり、日常生活に支障が出るほどの神経麻痺がある場合は、緊急手術が必要になることもあります。 特に、馬尾症候群の場合は、24~48時間以内の緊急手術が必須です。それ以外の場合でも、保存療法を数ヶ月試しても症状が改善しない場合は、手術の適応となることがあります。 具体的な適応は、医師が患者さんの症状や検査結果などを総合的に判断します。 手術の種類: 椎間板ヘルニアの手術には、顕微鏡手術、内視鏡手術など、いくつかの種類があります。 顕微鏡手術は、顕微鏡を使って患部を拡大して行うため、より精密な手術が可能です。 内視鏡手術は、小さな傷で行えるため、体への負担が比較的少ないというメリットがあります。 どの手術法が適しているかは、ヘルニアの状態や患者さんの状態によって異なります。 胸椎椎間板ヘルニアのように、稀なケースでは、ヘルニアの位置や石灰化の有無によって、胸腔内切開術や後外側切開術などのアプローチを選択する必要もあります。 術後のリハビリテーション: 手術後は、早期からリハビリテーションを開始することが重要です。 リハビリテーションでは、筋力トレーニングやストレッチ、歩行訓練などを行い、日常生活への復帰を目指します。 手術は体に負担がかかるため、手術のメリットとデメリットをよく理解し、医師と十分に相談した上で、手術を受けるかどうかを判断することが大切です。 しかし、手術をしても、しびれや痛みが残ったり、『手術前よりも後遺症がひどくなった』という方も一定数おられます。 術後の後遺症の場合は、神経は一度損傷すると、戻らないことがあると、医師はよく言います。 そんな方に、リペアセルクリニックでの国内ではほとんど行われていない、脊髄腔内にダイレクトに幹細胞を投与する再生医療を行なっています。詳しくはこちらで説明しています。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 <実際に行った、患者様の声> https://youtu.be/zRaQYBJNrS8?si=dz3vaREdJJnD65HL https://youtu.be/3yN5q8_ATpc?si=YNTbuXIalfV4Z0Me 他の疾患との鑑別:坐骨神経痛、脊柱管狭窄症との違い 椎間板ヘルニアは、坐骨神経痛や脊柱管狭窄症といった他の疾患と症状が似ていることがあります。 坐骨神経痛: 坐骨神経痛は、腰からおしり、太ももの裏側、ふくらはぎにかけて伸びる坐骨神経が圧迫されることで起こる症状です。 椎間板ヘルニアが坐骨神経痛の原因となることもありますが、梨状筋症候群など、他の原因で坐骨神経痛が起こることもあります。 脊柱管狭窄症: 脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る脊髄神経の通り道である脊柱管が狭くなることで、神経が圧迫されて起こる病気です。 加齢に伴う骨や靭帯の変化によって脊柱管が狭くなることが主な原因です。 椎間板ヘルニアと同様に、腰痛や足のしびれ、痛みなどの症状が現れますが、間歇性跛行(しばらく歩くと足が痛くなり、休むと痛みが治まる)といった特徴的な症状がみられることもあります。 これらの疾患は症状が似ているため、必ず、専門医による適切な診断を受けることが大切です。 ▼脊柱管狭窄症について、併せてお読みください。 参考文献 Yamaguchi JT and Hsu WK. "Intervertebral disc herniation in elite athletes." International orthopaedics 43, no. 4 (2019): 833-840. Danazumi MS, Nuhu JM, Ibrahim SU, et al. "Effects of spinal manipulation or mobilization as an adjunct to neurodynamic mobilization for lumbar disc herniation with radiculopathy: a randomized clinical trial." The Journal of manual & manipulative therapy 31, no. 6 (2023): 408-420. Kögl N, Petr O, Löscher W, et al. "Lumbar Disc Herniation—the Significance of Symptom Duration for the Indication for Surgery." Deutsches Arzteblatt international 121, no. 13 (2024): 440-448. Court C, Mansour E and Bouthors C. "Thoracic disc herniation: Surgical treatment." Orthopaedics & traumatology, surgery & research : OTSR 104, no. 1S (2018): S31-S40. "[Guideline for diagnosis, treatment and rehabilitation of lumbar disc herniation]." Zhonghua wai ke za zhi [Chinese journal of surgery] 60, no. 5 (2022): 401-408. van der Windt DA, Simons E, Riphagen II, et al. "Physical examination for lumbar radiculopathy due to disc herniation in patients with low-back pain." The Cochrane database of systematic reviews , no. 2 (2010): CD007431. Kreiner DS, Hwang SW, Easa JE, et al. "An evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of lumbar disc herniation with radiculopathy." The spine journal : official journal of the North American Spine Society 14, no. 1 (2014): 180-91. Zhang AS, Xu A, Ansari K, et al. "Lumbar Disc Herniation: Diagnosis and Management." The American journal of medicine 136, no. 7 (2023): 645-651.
2025.02.09 -
- 脊椎
- その他、整形外科疾患
「魔女の一撃」― ぎっくり腰。 くしゃみや咳といった日常の何気ない動作で、突然、動けないぐらいの腰痛を経験したことはありますか? ぎっくり腰、正式名称「急性腰痛症」は、誰しもが経験する可能性のある身近な腰のトラブルです。 1999年の調査では、約40万人が急性腰痛症を経験したというデータも存在します。 どうしてぎっくり腰になるのか? その答えは、腰への大きな負担、姿勢の悪さ、筋力不足、急な動作、そして加齢による体の変化など、多岐にわたります。 この記事では、原因から治療、そして予防法まで医師の解説を交えながら詳しくご紹介します。 ぎっくり腰の不安を解消し、快適な日常生活を送るためのヒントが満載です。 ぎっくり腰の原因を詳しく解説 ぎっくり腰は、「急性腰痛症」とも呼び、誰しもが経験する可能性のあるありふれた腰のトラブルです。 くしゃみや咳といった何気ない動作、荷物を持ち上げる瞬間など、日常生活のふとした瞬間に激痛に襲われることが特徴です。 「魔女の一撃」と表現されるように、まるで魔法をかけられたかのように突然痛みが生じるため、ぎっくり腰を経験した方はその痛みをよく理解されていることでしょう。 この章では、ぎっくり腰の原因をより深く掘り下げて解説することで、どうしてぎっくり腰が起きるのかをを理解し、効果的な対処法や予防策を身につけるためのお手伝いをさせていただきます。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 ぎっくり腰の主な原因5つ ぎっくり腰の主な原因は、次のようなものがあります。 腰への負担: 重い荷物を持ち上げたり、急に捻るなど腰に大きな負担をかけます。 特に、中腰での作業や前かがみの姿勢で重いものを持ち上げる動作も発症のリスクが高くなります。 姿勢の悪さ: 猫背や反り腰といった姿勢の悪さは、腰への負担を増大させ、ぎっくり腰の発生を助長します。 長時間のパソコン作業やスマホの操作などで、知らず知らずのうちに猫背になっている方も多いのではないでしょうか。 筋力不足: 腹筋や背筋、特に体幹と呼ばれる胴体部分の筋肉が弱いと、腰を支える力が不足してしまいます。 例えば、椅子に座った際に背もたれに寄りかからず、正しい姿勢を維持できるかどうかで、体幹の強さをある程度判断できます。 私の経験では、筋力をつけるとほとんどの方は腰痛はかなり軽減します。 ただ、筋トレを継続するのはなかなかむずかしいですが、行えば必ず効果は感じるでしょう。 急な動作: 突然振り返ったり、勢いよく重いものを持ち上げたりすることは避けましょう。 また、朝の寝起きで体がまだ温まっていない時に、急な動作は危険です。身体を温めるために、朝の準備運動は大切です。 加齢による変化: 年齢を重ねるとともに、骨や筋肉は徐々に衰え、ぎっくり腰のリスクも高まります。 特に、骨粗鬆症は骨を脆くし、骨折しやすくするため注意が必要です。 骨粗鬆症は、閉経後の女性に多く見られますが、男性も年齢が高くなるとともに発症リスクが高まります。 ぎっくり腰になりやすい人の特徴 ぎっくり腰になりやすい人には、以下のような特徴が挙げられます。 デスクワークなどで長時間同じ姿勢で作業をする人: 座り仕事で長時間同じ姿勢を続けると、腰の筋肉は緊張し続け、血行不良に陥ります。 結果として、筋肉や靭帯の柔軟性が低下してしまいます。 1時間に1回程度は立ち上がって軽いストレッチを行うなど、こまめな休憩を挟むようにしましょう。 運動不足の人: 運動不足は筋力の低下を招き、腰痛が出やすくなります。 適度な運動は筋力アップだけでなく、血行促進にも効果的です。 厚生労働省は、1日30分程度のウォーキングなどの運動を推奨しています。 肥満気味の人: 体重の増加は腰への負担を大きくします。 ダイエットは腰痛予防だけでなく、健康全般にとっても重要です。BMI(体格指数)を指標として、自身の適正体重を確認してみましょう。 ストレスをためやすい人: ストレスは自律神経のバランスを崩します。 それが引き金となり腰痛が誘発されます。ストレスをうまく解消する術を見つけることは、心身の健康維持に不可欠です。 冷え性の人: 体が冷えると筋肉が硬くなり、血行が悪化し、ぎっくり腰のリスクが高まります。 特に冬場は、体を冷やさないよう保温に気を配り、温めましょう。カイロや温熱シートを活用するのも有効です。 ▼ぎっくり腰の症状チェックについて、併せてお読みください。 ぎっくり腰と他の腰痛との違い ぎっくり腰は他の腰痛とどう違うのか?最も大きな違いは、症状の現れかたと痛みの強さとなります。 ぎっくり腰は、特定の動作をきっかけに突然、動けないぐらいの腰痛が出るのが特徴です。これが「魔女の一撃」と呼ばれる所以です。 一方、他の腰痛は、急な腰痛ではなく、徐々に痛みが強くなっていく場合が多く見られます。 また、ぎっくり腰は比較的短期間で痛みが治まることが多い一方、他の腰痛は長期間にわたって痛みが続く場合もあります。 基本的に腰痛というものは、進行性の運動麻痺や感覚障害、排尿障害、癌の既往、最近の手術歴、年齢に不相応な外傷などの危険信号がない場合は、保存的治療が第一選択となります。 保存的治療とは、手術を行わず、薬物療法や理学療法などの方法で治療を行うことです。 ぎっくり腰の症状とやってはいけないこと ぎっくり腰は、誰にでも起こりうる身近な症状です。しかし、正しい知識があれば、その対応で腰痛は軽減します。 正しい知識を身につけて、ぎっくり腰の不安を少しでも減らしましょう。 ぎっくり腰の初期症状 ぎっくり腰の初期症状で最も特徴的なのは、急な腰痛です。 この痛みは、くしゃみや咳、重いものを持ち上げた瞬間など、何気ない動作がきっかけで起こることが多く見られます。 痛みの出方は人それそれで、全く身動きが取れなくなるほどの激痛を感じる人もいます。 ぎっくり腰の症状が悪化する場合 ぎっくり腰の症状は、適切な処置を行わないと悪化するケースがあります。 初期の痛みが出た時に、対処を間違えてしまうと、痛みがさらに強まったり、慢性的な腰痛に移行したりする可能性があります。 慢性腰痛に移行すると、痛みが長引くことで日常生活に大きな支障をきたし、精神的な負担も増大させてしまう可能性があります。 また、神経が圧迫されると、下肢へのしびれ、痛みが走ることもあります。 重篤になると、膀胱直腸障害が見られます。世界中で腰痛は主要な障害原因となっており、大きな社会問題となっています。 ぎっくり腰でやってはいけないこと ぎっくり腰になった際に、絶対にやってはいけないことがいくつかあります。 まず、患部を揉んだり、無理にストレッチしたりするのは避けましょう。 また、温めるのも逆効果です。クーリングが必要です。熱いお風呂に長時間浸かるのも避け、シャワーで済ませるようにしましょう。 そして、安静にしすぎるのも良くありません。症状が落ち着けば、無理のない範囲で動きましょう。ウォーキングや軽いストレッチから始めるといいでしょう。 痛みを何度も確認するのも避けるべき行動です。 ぎっくり腰になったら安静にするべき? ぎっくり腰になったら、まず安静にすることが大切です。 とりあえず、安静にすることで、炎症の悪化を防ぎ、痛みの山は超えることができます。 長期間の安静は、筋肉の衰えや関節の硬直を招きますので、適度のストレッチは必要です。 アメリカ理学療法士協会は、症状が落ち着けば、少しずつ体を動かすことを推奨しています。 痛みが強い場合は、医師に相談の上、適切な薬を処方してもらうようにしましょう。 過剰な画像診断、オピオイドの使用、手術は依然として問題となっているため、まずは保存的治療を試みることが推奨されています。 ぎっくり腰の正しい対処法と予防策 ぎっくり腰は、誰しもが経験する可能性のある、非常に身近な症状です。 普段通りの生活を送っていたはずなのに、くしゃみや咳、あるいはちょっとした動作がきっかけで、突然腰に激痛が走る… まさに「魔女の一撃」と表現されるように、予想だにしないタイミングで襲ってくるため、大変恐ろしい経験となるでしょう。 正しい知識があれば、痛みを早期に和らげ、日常生活への復帰を早めることができます。 また、予防策を講じることで、ぎっくり腰の再発を防ぎ、健康な毎日を送ることも可能です。 この章では、ぎっくり腰になった際の正しい対処法と、日頃から心掛けていただきたい予防策について、分かりやすく解説します。 ぎっくり腰の応急処置と治療法 ぎっくり腰になった直後は、強い痛みと不安でパニックになってしまうかもしれません。しかし、落ち着いて適切な応急処置を行うことが重要です。 では、どのように対処すれば良いのでしょうか?ぎっくり腰の応急処置として有効なのは、RICE処置です。 RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったもので、スポーツによる怪我の応急処置として広く知られています。 Rest(安静): 楽な姿勢で安静にします。横になるのが一番ですが、どうしても難しい場合は、椅子に座って安静にすることも可能です。 この時、楽な姿勢を保つことが大切です。 Ice(冷却): 氷水を入れた袋や保冷剤をタオルに包み、患部を冷やします。冷却は炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。 ただし、冷やしすぎると凍傷を起こす可能性があるので、注意が必要です。 Compression(圧迫): 通常、ぎっくり腰で圧迫は行いません。 Elevation(挙上): ぎっくり腰では、挙上は特に必要ありません。 RICE処置を行っても痛みが改善しない場合や、しびれや麻痺などの神経症状が現れた場合は、かかりつけ医に相談しましょう。 ぎっくり腰の治療法には、薬物療法や理学療法などがあります。 医師は、あなたの症状や状態に合わせて最適な治療法を選択します。 深刻な神経症状、腫瘍、骨折、または感染が疑われる場合にのみ、初期の画像診断を行うべきです。 アメリカ理学療法士協会は急性腰痛の管理には、患者の状態に合わせた運動療法が重要であると推奨しています。 保存的治療で改善しない場合は、手術が必要となるケースもありますが、これは稀です。 多くの場合、保存的治療で十分な効果が得られます。 保存的治療とは、手術以外の治療法のことで、薬物療法や理学療法、運動療法などが含まれます。 ▼ぎっくり腰の前兆と対処法について、併せてお読みください。 ぎっくり腰の予防法 ぎっくり腰は再発しやすい症状です。そのため、一度ぎっくり腰になったことがある方は、再発を防ぐための予防策を心掛けることが大切です。 ぎっくり腰の予防には、以下ようになります。 正しい姿勢を保つ: 猫背や反り腰などの悪い姿勢は、腰に負担をかけてしまいます。 日頃から正しい姿勢を意識し、立っている時も座っている時も、背筋を伸ばし、お腹に力を入れるようにしましょう。 デスクワークが多い方は、1時間に1回程度は立ち上がって体を動かすなど、こまめに休憩を取るように心掛けてください。 適度な運動: ウォーキングや水泳など、腰に負担の少ない運動を習慣的に行いましょう。 厚生労働省は、1日30分程度のウォーキングなどの運動を推奨しています。 筋力トレーニング: 腹筋や背筋を鍛えることは、腰を支える力を強化し、ぎっくり腰の予防に繋がります。 特に、体幹と呼ばれる胴体部分の筋肉を鍛えることが重要です。 体幹トレーニングは、専用の器具を使わずに自宅でも簡単に行うことができます。 体重管理: 肥満は腰への負担を増大させるため、適切な体重を維持することも重要です。 バランスの良い食事と適度な運動を心掛けましょう。 急な動作を避ける: 急な動作によって、腰に負担がかかりますので気をつけましょう。 特に、朝の寝起きで体がまだ温まっていない時は、腰の筋肉が固まっているので、ぎっくり腰を起こしやすい環境となります。 体を冷やさない: 体が冷えると、身体が固まっているので、ぎっくり腰のリスクが高まります。 特に冬場は、体を冷やさないよう、温かい服装を心掛け、カイロや温熱シートなどを活用するのもいいでしょう。 このような心がけで、ぎっくり腰を対処し、健康な腰を維持することができます。 ぎっくり腰は、一度経験するとその痛みの辛さが忘れられないものです。日頃から予防を心掛け、健康な毎日を送りましょう。 再生医療の無料相談受付中! リペアセルクリニックは「再生医療」に特化した再生医療専門クリニックです。手術・入院をしない新たな治療【再生医療】を提供しております。 参考文献 Maher C, Underwood M, Buchbinder R. "Non-specific low back pain." Lancet (London, England) 389, no. 10070 (2017): 736-747. George SZ, Fritz JM, Silfies SP, Schneider MJ, Beneciuk JM, Lentz TA, Gilliam JR, Hendren S, Norman KS. "Interventions for the Management of Acute and Chronic Low Back Pain: Revision 2021." The Journal of orthopaedic and sports physical therapy 51, no. 11 (2021): CPG1-CPG60. 機械性腰痛ガイドライン2018
2025.02.03 -
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「帯状疱疹が治ったのに、なぜ痛みが続くの?」「この痛みは一生続くのだろうか…」 このように不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させ、日常生活に支障をきたす可能性があります。しかし、近年の研究によって、その生理学的メカニズムが少しずつ明らかになってきました。 この記事では、帯状疱疹後神経痛のメカニズムについて詳しく解説します。科学的な理解を深めることが、痛みを和らげる希望につながるでしょう。 帯状疱疹後神経痛とは? 帯状疱疹は、子どもの頃に多くの方が感染する水痘(みずぼうそう)と同じウイルスが原因で起こる病気です。水痘が治った後も、ウイルスは体の中の神経の近くに潜んでいます。普段は眠っているこのウイルスが、なんらかのきっかけで再び活動をはじめることを「再活性化」と言います。 再活性化したウイルスは神経に沿って移動し、皮膚で増えることで発疹や水ぶくれを作ります。この時、強い痛みを感じることが多いです。多くの人は数週間で治りますが、中には痛みが長く続く人もいます。これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。 帯状疱疹後神経痛は、痛みのせいで日常生活が送りにくくなることがあります。痛みが生活に与える影響を「QOL(生活の質)の低下」と表現します。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの生活に大きな影響を与える可能性がある、つらい病気なのです。 帯状疱疹後神経痛の診断は、国際的な基準に基づいて行われます。この基準では、帯状疱疹の発疹が治ってから3か月以上続く痛みを「帯状疱疹後神経痛」と定義しています。痛みは、発疹があった場所に限らず、その周辺にも広がることがあります。 また、日本のペインクリニック学会でも、独自の診断基準を作成しています。この基準では、痛みの性質や部位、程度などを詳しく評価することが重要だとされています。 医師は、これらの基準を参考に、患者さんの症状や経過を詳しく調べることで、帯状疱疹後神経痛かどうかを判断します。もし、帯状疱疹にかかった後で、長く続く痛みに悩んでいるなら、専門医に相談してみることをおすすめします。 帯状疱疹後神経痛の生理学的メカニズム 帯状疱疹後神経痛は、体の中で複雑な変化が起こることによって引き起こされます。ここでは、その生理学的なメカニズムについて詳しく解説します。 神経細胞の損傷と再生 帯状疱疹の原因となるウイルスは、子どもの頃にかかる水ぼうそうが治った後も、体の中に潜んでいます。このウイルスは、神経の近くで長い間じっとしています。 ところが、何かのきっかけでウイルスが目覚めると、神経に沿って移動をはじめます。そして、皮膚の中で増えていくことで、発疹や水ぶくれを作るのです。 この時、ウイルスに感染した神経の細胞は、ダメージを受けてしまいます。神経細胞は、脳と体の各部分をつなぐ大切な役割を持っています。痛みを感じると、その信号を脳に伝えるのも神経細胞の仕事です。 しかし、ウイルスに攻撃された神経細胞は、うまく働けなくなってしまうのです。痛みの信号が脳に正しく伝わらなかったり、必要以上に強い痛みを感じてしまったりします。これが、帯状疱疹後神経痛の原因の一つだと考えられています。 神経細胞は傷ついても、少しずつ回復することができます。けれども、完全に元通りになるのはとても難しいのです。一度ダメージを受けた神経細胞は、以前のように痛みの信号を伝えられなくなってしまうこともあるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによる神経細胞へのダメージが原因で起こると考えられています。神経の回復を助け、痛みを和らげる治療法の開発が、今も進められているところです。 痛みの伝達メカニズム 帯状疱疹後神経痛では、傷ついた神経細胞が過敏な状態になっているのが特徴です。そのため、本来なら痛みを感じないような軽い刺激でも、痛みとして脳に伝わってしまうのです。この状態を「アロディニア」と呼んでいます。 さらに、痛みの信号が体の中の神経の通り道で増幅されることで、より強い痛みを感じるようになることもあり得ます。このように、痛みを伝えるしくみに異常が起こることが、帯状疱疹後神経痛が長引く原因の一つと考えられているのです。 帯状疱疹後神経痛の痛みは、「侵害受容器の感作」や「中枢性感作」といった変化が関係していると考えられています。 侵害受容器は、痛みを感じ取る神経の末端にある受容体です。帯状疱疹によって神経が傷つくと、この侵害受容器が過敏になり、本来は痛みを感じない刺激でも痛みを感じるようになってしまいます。 また、痛みの信号が繰り返し脳に伝わることで、脳の痛みに対する反応も敏感になってしまう「中枢性感作」という変化が起こります。その結果、痛みがさらに強く感じられるようになるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛の痛みには、神経のダメージによる末梢での変化と、脳での痛みの処理の変化が関わっていると考えられています。これらのメカニズムを理解することは、効果的な治療法の開発につながると期待されています。 免疫システムの役割 私たちの体には、病気から体を守ってくれる「免疫システム」があります。免疫システムは、ウイルスなどの侵入者から体を守る重要な役割を持っています。 しかし、年をとったり、ストレスを受けたりすると、この免疫システムがうまく働かなくなることがあります。免疫力が下がると、体の中に潜んでいた帯状疱疹のウイルスが、再び活動をはじめてしまうのです。 一方で、帯状疱疹後神経痛が起こる原因の一つに、免疫の反応が過剰になってしまうことが関係しているようです。本来、免疫システムはウイルスから体を守るために働きますが、時には行きすぎた反応を起こしてしまうことがあるのです。 この過剰な免疫反応によって、体の中で炎症を引き起こす物質が増えてしまいます。これらの物質は、神経を傷つけたり、過敏にしたりして、痛みを悪化させてしまう可能性があります。 つまり、帯状疱疹後神経痛は、免疫システムのバランスが崩れることが原因の一つになっていると考えられているのです。免疫力が下がることで、ウイルスが活性化し、また、免疫の反応が過剰になることで、痛みが長引いてしまうのです。 免疫システムを整えることが、帯状疱疹後神経痛の予防や治療に役立つかもしれません。バランスの取れた食事や適度な運動、ストレス管理などが、免疫力を維持するために大切だと言われています。 帯状疱疹後神経痛の影響 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。痛みは日常生活のあらゆる場面で支障をきたし、精神的な健康にも悪影響を及ぼすのです。 日常生活への影響 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの日常生活にさまざまな影響を与えます。 まず、痛みのために十分な睡眠がとれなくなることがよくあります。夜中に痛みで目が覚めてしまったり、痛みが気になって寝付けなかったりするのです。睡眠不足は、日中の活動にも影響を及ぼします。集中力が低下したり、疲れやすくなったりするでしょう。 また、痛みは仕事や家事の効率を下げてしまうことがあります。デスクワークでは、長時間同じ姿勢でいるのがつらくなったり、資料を運ぶのが難しくなったりするかもしれません。家事では、掃除や洗濯など、体を動かす作業が痛みで困難になる場合もあります。 外出時には、衣服が患部に触れることで痛みが増したり、長時間歩くのがつらかったりと、移動そのものが大変になることもあります。公共交通機関の利用や、買い物など、これまであたり前にできていたことが、痛みによって制限されてしまうのです。 趣味や社会活動も、痛みの影響を受けます。スポーツや運動が思うようにできなくなったり、外出が減ったことで人との交流が減ったりするかもしれません。痛みは、人とのコミュニケーションにも影響を及ぼすのです。 さらに、痛みは患者さまの心理状態にも影響を与えます。痛みが続くことで、イライラしたり、落ち込んだりする方もいます。痛みのコントロールができないことへの不安や、先の見えない闘病生活への疲れが、心の負担になるのです。 このように、帯状疱疹後神経痛は、患者さんの日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。仕事、家事、外出、趣味、人間関係、心理状態など、生活のすべての側面で、痛みがつきまとうのです。 しかし、適切な治療とサポートによって、これらの影響を最小限に抑えることができます。医療者と相談しながら、自分に合った痛みのコントロール方法を見つけることが大切です。また、家族や友人、同じ悩みを持つ人たちと支え合うことも、困難を乗り越える大きな力になるでしょう。 精神的健康への影響 長期的に持続する痛みは、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスを崩す可能性があります。これらの物質は気分の調整に重要な役割を果たすため、その不均衡がうつ症状につながる場合があるでしょう。 帯状疱疹後神経痛は、患者さんの精神面にも大きな影響を与えます。慢性的な痛みはストレスを増大させ、不安やうつ症状を引き起こすことがあるのです。 痛みがなかなかコントロールできないことで、将来への不安を感じる患者さんも少なくありません。「このまずっと痛みに苦しむのだろうか」と悲観的になってしまう方もいるでしょう。 また、周囲の人が帯状疱疹後神経痛の痛みを理解してくれないと、患者さんは孤独感を抱えてしまうかもしれません。「自分だけが痛みに苦しんでいる」と感じ、心理的に追い詰められてしまう方もいます。 実際に、50代の女性は帯状疱疹後神経痛のために仕事を辞めざるを得なくなり、経済的な不安から抑うつ状態になってしまったそうです。また、80代の男性は痛みのために家族との関係がぎくしゃくし、孤独感から不眠に悩まされていたと言います。 このように、帯状疱疹後神経痛は患者さんの精神的な負担を大きくし、QOLを著しく低下させる可能性があるのです。痛みに苦しむ患者さんが、周囲の理解とサポートを得られるよう、社会全体で支えていくことが大切だといえるでしょう。 現在の治療法と未来の可能性 帯状疱疹後神経痛の治療には、日本ペインクリニック学会が発表しているガイドラインがあります。 ガイドラインによると、帯状疱疹後神経痛に対する治療法は、薬物療法を中心にさまざまな選択肢があります。現在の主な治療法とその効果について見ていきましょう。また、最新の研究で注目されている新たな治療法や予防法についても触れていきます。 伝統的治療法 帯状疱疹後神経痛の治療には、いくつかの種類の薬が用いられます。 治療法 説明 効果 副作用 三環系抗うつ薬 脳内の神経伝達物質のバランスを整える 痛みを和らげる効果が期待できる 眠気、口の渇きなど 抗てんかん薬(プレガバリン、ガバペンチンなど) 神経の過敏性を抑える 痛みを軽減する めまい、眠気など オピオイド鎮痛薬 脳内の痛みを抑える物質の働きを強める 強い痛みに対して鎮痛効果を発揮 便秘、嘔吐、依存性のリスク リドカインパッチ 患部に直接貼る 局所的に痛みを和らげる 皮膚刺激など 神経ブロック療法 痛みを伝える神経の近くに麻酔薬やステロイドを注射 痛みの伝達を遮断 感染リスク、一時的な神経障害など 経皮的電気神経刺激療法(TENS) 皮膚に電極を貼り、弱い電流を流す 痛みを感じにくくする 皮膚刺激、まれに筋肉の痙攣 まず、三環系抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、痛みを和らげる効果が期待できます。ただし、眠気や口の渇きなどの副作用に注意が必要です。 次に、プレガバリンやガバペンチンなどの抗てんかん薬は、神経の過敏な反応を抑えることで痛みを軽減します。めまいや眠気などの副作用がある場合もありますが、多くの患者さんで効果が見られています。 また、オピオイド鎮痛薬は、強い痛みに対して使用されることがあります。これらの薬は、脳内の痛みを抑える物質の働きを強めることで、鎮痛効果を発揮します。ただし、便秘や吐き気、依存性などの副作用のリスクがあるため、慎重に使用する必要があります。 このほか、リドカインパッチなどの貼り薬を痛みのある部分に直接貼ることで、局所的に痛みを和らげる方法もあります。神経ブロック療法では、痛みを伝える神経の近くに麻酔薬やステロイドを注射し、痛みの伝達を遮断します。 経皮的電気神経刺激療法(TENS)は、皮膚に電極を貼り、弱い電流を流すことで痛みを和らげる治療法です。この方法は、痛みの信号を脳に伝えにくくすることで効果を発揮します。皮膚への刺激感はありますが、大きな副作用は少なく、とくに薬物療法と組み合わせることで効果が期待できます。ただし、効果の程度には個人差があり、すべての患者さんに同じように効くわけではありません。 これらの治療法を組み合わせることで、多くの患者さんである程度の痛みの緩和が得られますが、完全に痛みをなくすことは難しいのが現状です。 最新の研究と将来の治療法 近年、帯状疱疹後神経痛に対する新たな治療法の開発が進んでいます。 治療法 説明 期待される効果 現状 カプサイシン貼付剤 トウガラシの辛み成分を含む貼り薬 痛みを伝える神経終末の感受性を低下させ、鎮痛効果を発揮 研究段階 ボツリヌス毒素注射 ボトックス注射として知られる 痛みに関連する神経伝達物質の放出を抑制し、痛みを和らげる 臨床試験中 帯状疱疹ワクチン 予防接種 帯状疱疹の発症そのものを予防し、結果として帯状疱疹後神経痛の発症も防ぐ 一部実用化 カプサイシン貼付剤は、唐辛子の辛み成分を含む貼り薬です。これを痛みのある部分に貼ることで、痛みを感じる神経の働きを弱め、痛みを和らげる効果が期待できます。 ボツリヌス毒素注射は、一般的にはしわ取りで知られるボトックス注射と同じものです。この注射は、痛みを伝える神経の働きを抑えることで、痛みを軽減する効果が期待されています。 帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹そのものの発症を予防するワクチンです。このワクチンを接種することで、体の中で眠っている帯状疱疹のウイルスが活動をはじめるのを抑え、結果として帯状疱疹後神経痛の発症も防げる可能性があります。 これらの新しい治療法や予防法は、帯状疱疹後神経痛で苦しむ患者さんの痛みを和らげるための新たな選択肢として注目されています。帯状疱疹後神経痛の治療は日々進歩しており、患者さんの生活の質を改善するためのさまざまな方法が増えています。 まとめ:科学的理解がもたらす希望 痛みのメカニズムを理解することで、患者さんは自身の症状をより客観的に捉えられるようになります。たとえば、天候の変化で痛みが増す現象も、気圧の変化が神経に与える影響として説明できるでしょう。これにより、不安や恐れが軽減される可能性があります。 医療者や研究者たちは、帯状疱疹後神経痛のメカニズムを少しずつ解明してきました。ウイルスによる神経の傷、痛みの信号伝達の異常、免疫システムの関与など、複雑な要因が絡み合っていることがわかってきたのです。 この科学的な理解は、あなたが自分の症状と向き合う上で、大きな助けになるでしょう。痛みの原因が少しずつ明らかになることで、あなたは自分の状態をより正しく理解することができます。そして、その理解を基に、医師とともに、あなたに合った治療法を選ぶことができるでしょう。 現在、多くの治療選択肢があります。薬物療法、神経ブロック、心理療法など、さまざまなアプローチが試みられています。これらの治療法は、あなたの痛みを和らげ、生活の質を改善するために役立つかもしれません。 帯状疱疹後神経痛は、簡単には克服できない病気かもしれません。しかし、医療者や周りの人々に支えられながら、一歩ずつ前に進むことができます。今日の痛みに負けず、希望を持ち続けることが大切です。 たとえ痛みがあっても、あなたの人生にはまだ多くの可能性があります。医師と相談しながら、自分に合った方法で痛みと向き合い、日々の生活を送っていきましょう。小さな進歩や改善を大切にし、自分のペースで前に進んでいきましょう。 痛みを単なる'敵'ではなく、身体からのメッセージとして捉え直すことで、より建設的な対処が可能になります。たとえば、痛みが強い時は休息を取り、和らいだ時に少しずつ活動を増やすなど、痛みと共存しながら生活の質を高める方法を見出すことができるでしょう。 この記事が、帯状疱疹後神経痛についての理解を深め、今後の生活に少しでも役立つ情報となれば幸いです。 参考文献一覧 加藤実,帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法,日本臨床麻酔科学会vol.28,No.1/Jan.2008,J-STAGE 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会,ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在,帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛 日本ペインクリニック学会,Key Point,神経ブロック 日本ペインクリニック学会,Key Point,NSAIDsとアセトアミノフェン 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,Key Point,抗うつ薬、抗痙攣薬 国立感染症研究所,帯状疱疹ワクチン ファクトシート,厚生労働省 日本ペインクリニック学会,神経障害性疼痛の概要 日本ペインクリニック学会,痛みの機序と分類
2024.11.27 -
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「帯状疱疹が治ったのに、痛みが続く…」「痛くて夜も眠れない…」 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治癒した後も持続する神経の痛みを特徴とする症状です。この痛みは、患者さまの生活の質(QOL=Quality of life)を大きく低下させ、日常生活に支障をきたす可能性もあります。 帯状疱疹後神経痛の治療には、薬物療法が主に用いられますが、それとあわせてマッサージを取り入れることで、痛みの緩和により効果が期待できるでしょう。 本記事では、帯状疱疹後神経痛に対して効果的なマッサージの種類や、自宅で実践できるマッサージ法について詳しく解説いたします。マッサージを活用することで、痛みを和らげ、日常生活の質の向上を目指していただければ幸いです。 帯状疱疹後神経痛とは何か?マッサージがなぜ重要なのか? 帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹が治った後も、神経の痛みが長く続く症状です。帯状疱疹は、子どもの頃に感染する水ぼうそうのウイルスが、大人になって再び活動をはじめることで発症します。このウイルスが神経に炎症を起こし、片側の皮膚に痛みをともなう発疹ができるのが特徴です。 発疹が治まった後も、ウイルスによる炎症の影響で神経が傷ついた状態が続く場合があります。帯状疱疹後神経痛の段階では、主な問題は急性炎症ではなく、神経の障害です。傷ついた神経が過敏になっているために痛みが続くのです。この痛みは、ピリピリする、チクチクする、ズキズキするなど、人によって表現が異なります。ひどい場合は、服に触れるだけでも痛みを感じるケースもあります。 こうした痛みを和らげるのに、マッサージが効果的だと言われています。マッサージには次のような働きがあります。 血の巡りを良くする 凝り固まった筋肉をほぐす 神経の過敏反応を軽減する 痛みへの耐性を高める リラクゼーション効果をもたらす これらの効果によって、神経障害による痛みを軽減することが期待できるでしょう。ただし、マッサージはPHNの補助的な治療法の一つであり、医療専門家の指導のもとで行うべきです。また、個人によって効果は異なる可能性があることに注意が必要です。 帯状疱疹後神経痛の基礎知識 次に、帯状疱疹後神経痛について詳しく見ていきましょう。 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治った後も神経の痛みが続く状態です。この痛みはどのような症状があり、どのような原因で起こるのでしょうか。また、なぜマッサージが痛みの緩和に効果的なのでしょうか。 以下の項目で、これらの点について詳しく解説します。 症状と原因 なぜマッサージが有効なのか 症状と原因 帯状疱疹後神経痛の主な症状は、帯状疱疹が治った後も続く、皮膚の痛みです。 痛みは、ピリピリする、チクチクする、ズキズキする、ジンジンするなど、人によって表現はさまざまです。 時には、軽く触れただけでも痛みを感じることもあります。 この痛みの原因は、帯状疱疹のウイルスによって神経に炎症が起こり、神経が傷ついてしまうことです。 傷ついた神経は、過敏になっているため、普段は痛みを感じないような刺激にも反応して、痛みを感じてしまうのです。 なぜマッサージが有効なのか マッサージが帯状疱疹後神経痛の痛み和らげに効果的なのは、次のような理由からです。 理由 説明 血行を良くする 痛みがあると、血液の流れが悪くなりがちです。マッサージは、この滞った血流を改善し、痛みを和らげる効果があります。血液の流れが良くなると、栄養分が行き渡りやすくなり、体の回復を助けます。 筋肉の緊張をほぐす 痛みがあると、筋肉が緊張しがちです。マッサージは、この緊張をほぐし、痛みを和らげる効果があります。 リラックス効果 マッサージには、リラックス効果があります。リラックスすることで、痛みに対する敏感さが下がり、痛みを和らげることができます。 このように、マッサージは血行の改善、筋肉の緊張緩和、リラックス効果により、帯状疱疹後神経痛の痛みを多角的に和らげる働きが期待できます。 マッサージの種類とその効果 帯状疱疹後神経痛の治療に用いられるマッサージには、いくつかの種類があります。それぞれのマッサージ法は、痛みを和らげる異なるアプローチを持っています。 以下では、代表的なマッサージの種類とその効果について詳しく見ていきましょう。 マッサージの種類 効果 リンパドレナージュ 優しくリンパの流れを促し、むくみを軽減することで、神経への圧迫を和らげる トリガーポイントセラピー 筋肉内の痛みの引き金となる緊張点(トリガーポイント)を指圧などで刺激し、筋肉の緊張を緩和することで、痛みを軽減 スウェディッシュマッサージ 全身の緊張をほぐし、血行を促進することで、神経の修復を助け、痛みを軽減する これらのマッサージ法は、帯状疱疹後神経痛の症状に応じて使い分けられる場合が多いです。次の項目では、それぞれのマッサージ法について、より詳しく解説します。 ただし、これらのマッサージ法は、帯状疱疹後神経痛による痛みを緩和する可能性がありますが、ウイルスによって損傷された神経や神経の痛みそのものを修復する効果は期待できません。 リンパドレナージュ リンパドレナージュは、体内のリンパ系に焦点を当てたマッサージ法です。リンパ系は、体内の余分な水分や老廃物を集めて排出する役割を持っています。しかし、なんらかの原因でリンパの流れが滞ると、老廃物が体内に蓄積し、むくみなどの問題を引き起こす可能性があるでしょう。 リンパドレナージュでは、リンパの流れに沿って、ゆっくりとやさしい圧力をかけながらマッサージを行います。これにより、リンパ管の収縮を促し、リンパ液の流れを改善しやいです。その結果、体内の老廃物が効率的に排出され、むくみが軽減される可能性があります。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、神経の障害が主な原因ですが、組織のむくみが神経を圧迫し、症状を悪化させる可能性があります。 リンパドレナージュを行うことで、むくみの軽減や組織の代謝改善を促し、神経への圧迫を和らげることで、間接的に痛みを軽減する効果が期待できるのです。ただし、個々の症状や状態に応じて、医療専門家の指導のもとで慎重に行う必要があります。 トリガーポイントセラピー トリガーポイントセラピーは、筋肉内の痛みの原因となる特定の箇所(トリガーポイント)に働きかけるマッサージ法です。トリガーポイントは、筋肉が過度に収縮することで形成される、触ると痛い小さなこわばりや凝り固まった部分です。このトリガーポイントが存在すると、局所的な痛みや、そこから離れた場所にも関連痛を引き起こす場合があります。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、持続的な痛みによって筋肉が緊張状態にあることが多いです。この緊張によって、二次的にトリガーポイントが形成されている可能性があります。 トリガーポイントセラピーでは、これらのトリガーポイントに指圧などで直接刺激を与えます。適切な圧力を加えることで、筋肉の緊張を緩和し、痛みを和らげる効果が期待できるでしょう。ただし、圧力の強さは患者さんの痛みの程度に応じて調整することが大切です。 スウェディッシュマッサージ スウェディッシュマッサージは、比較的やわらかい圧力で行う全身マッサージの一種です。長い滑らかなストロークを用いて、筋肉を緩めていきます。これにより、筋肉の緊張を和らげ、血液の循環を促進する効果が期待できます。 また、スウェディッシュマッサージは、リラクゼーション効果が高いことでも知られています。マッサージを受けることで、ストレスが軽減され、心身ともにリラックスした状態を促します。 帯状疱疹後神経痛の患者さんの場合、痛みによるストレスが症状を悪化させる要因の一つと考えられています。スウェディッシュマッサージによるリラクゼーション効果は、このストレスを軽減し、痛みを感じにくくする可能性があります。 さらに、マッサージによる心地よい刺激は、痛みに意識が集中しすぎないようにする効果も期待できます。 ただし、痛みのある部位に直接強い圧力をかけることは避け、患者さんの症状に合わせて圧力を調整するなど、配慮が必要です。 自宅でできるマッサージテクニック 自宅でのセルフマッサージは、帯状疱疹後神経痛の症状管理に効果的です。 以下では、マッサージを行う上で役立つ道具や準備すると良いもの、簡単に実践できるマッサージ法をご紹介します。 必要な道具と準備 セルフマッサージや介助者によるマッサージを行う際は、以下のような道具を準備しておくとよいでしょう。 道具 用途 マッサージオイルやクリーム 肌の摩擦を減らし、マッサージをスムーズに行うのに役立ちます。 タオル オイルやクリームを拭き取るのに使います。 バスタオル マッサージ中に下に敷いておくと、オイルなどで周りが汚れるのを防げます。 枕やクッション 体を楽な姿勢に保つのに使います。 マッサージをはじめる前に、手を清潔にし、爪を短く切っておくことが大切です。また、お風呂上がりなど、体が温まっている時にマッサージを行うと、より効果的だと言われています。 簡単なセルフマッサージ法 自宅でも簡単にできるセルフマッサージ法には、以下のようなものがあります。 マッサージ方法 手順 円を描くようにマッサージ 痛みのある部分の周りを、指の腹で円を描くようにやさしくマッサージします。痛くない程度の圧で行いましょう。 遠くから近くへのマッサージ 痛みのある部分から少し離れたところを、両手で優しくさすります。徐々に痛みのある部分に近づけていきます。 手のひら全体で温める 痛みのある部分を、手のひら全体で包み込むようにして温めます。 これらのマッサージを1日に2~3回、それぞれ5分ほど行ってみてください。痛みを感じたら、無理せずに中止しましょう。 痛みの場所や程度によっては、1人でのセルフマッサージが難しい場合があります。そのような場合は、家族や介護者の協力を得たり、医療専門家に相談したりすることをおすすめします。また、痛みが強い場合は無理をせず、軽いタッチでの温めるような動作にとどめるなど、個々の状態に合わせて行うことが重要です。 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状管理に役立つ方法の一つですが、必ず医療専門家の指導のもとで行い、痛みに注意しながら実施することが大切です。 マッサージを受ける際の注意点 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状緩和に効果的ですが、状況によっては控えるべき場合もあります。 ここでは、マッサージが推奨されない症状や健康状態、および適切なマッサージの頻度と強度について説明します。 注意すべき症状と状況 以下のような症状や状況では、マッサージは控えめにするか、医師に相談してから行いましょう。 症状や状況 理由 熱がある時 体調が優れない場合、マッサージによって症状が悪化する可能性があります。 皮膚に炎症や傷がある時 マッサージによって皮膚の状態が悪化したり、感染のリスクが高まったりする可能性があります。 痛みが強くてマッサージに耐えられない時 強い痛みがある場合、マッサージによって痛みが増強される可能性があります。 血栓症や出血しやすい病気がある時 マッサージによって血栓が移動したり、出血が起こったりする危険性があります。これは生命に関わる重大な事態を引き起こす可能性があるため、絶対に避けましょう。 帯状疱疹の発疹が出ている時期 発疹部分へのマッサージは、症状を悪化させる可能性があります。 また、妊娠中の方は、念のため医師に相談してからマッサージを受けるようにしましょう。 マッサージの頻度と強度 マッサージを行う際は、適切な頻度と強度を守ることが大切です。 項目 推奨 頻度 1日1~2回、それぞれ10~20分程度が適当です。 強度 痛くない程度の圧から始め、徐々に圧を強めていきます。痛みのある部分は、痛みに合わせて加減しましょう。 マッサージ後に痛みが悪化する場合は、強度を弱めるか、中止してください。毎日続けることで、徐々に効果を感じられるようになりますが、無理はせず、体の調子に合わせて行うことが大切です。 マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状管理に役立つ手法ですが、適切な注意点を守ることが重要です。症状や体調に合わせてマッサージを行い、無理のない範囲で継続することで、痛みの緩和につなげましょう。 ケーススタディと体験談 帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの効果について、実際の研究結果やケーススタディ、患者さんの体験談を紹介します。これらの情報は、マッサージを検討している方にとって参考になるでしょう。 事例 帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの効果を調べた研究について紹介します。 Mallick-Searle らの研究(2016年) この総説論文では、帯状疱疹後神経痛に対するさまざまな治療法について評価しています。とくに、マッサージ療法が痛みの管理に有効である可能性があるとのべています。[1] Yao らの研究(2020年) 60人の患者を対象に、マッサージ療法とプラセボ療法(効果のない治療)を比較しました。その結果、マッサージを受けた患者は痛みが大幅に軽減され、生活の質も向上しました。[2] Lee らの研究(2014年) 58人の患者を対象に、マッサージ療法と通常の薬物療法を比較しました。どちらの治療法でも痛みは軽減されましたが、マッサージを受けた患者の方がより大きな改善が見られました。[3] これらの研究は、帯状疱疹後神経痛に対するマッサージが効果的である可能性を示しています。ただし、これらの研究は比較的小規模であり、さらに大規模で質の高い研究が必要です。また、すべての患者に同じ効果が得られるわけではないため、個人差があることも考慮する必要があるでしょう。 専門家の意見 医療専門家やマッサージセラピストの多くは、帯状疱疹後神経痛の治療におけるマッサージの有用性を認めています。ただし、マッサージは万能ではなく、患者さんの状態に合わせて適切に使用することが重要だと指摘されています。 一般的に、医療機関はマッサージを帯状疱疹後神経痛の補完的な治療法として有用と考える一方で、重症例では医療処置を優先すべきだと考えています。理学療法士は、マッサージが痛みの緩和だけでなく身体機能の改善にも役立つ可能性を指摘する一方で、過度な刺激は逆効果になる可能性があると警告しています。また、マッサージセラピストは、帯状疱疹後神経痛患者へのマッサージでは圧の強さや手技の選択に細心の注意を払う必要があると強調しています。 以上の研究結果や専門家の意見から、マッサージは帯状疱疹後神経痛の症状改善に寄与する可能性があるといえます。ただし、個人差があるため、医療専門家と相談しながら、自分に合った方法で行うことが大切です。 まとめ・帯状疱疹後神経痛に効くマッサージ法 帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによって神経が損傷されることで生じる難治性の疼痛症候群です。マッサージは、損傷した神経そのものを修復する直接的な作用は持たないものの、筋肉の緊張をほぐしたり、ストレスを和らげたりすることで、間接的に痛みの感じ方に影響を与える可能性があります。 ただし、現時点では、帯状疱疹後神経痛に対するマッサージの有効性を明確に示す十分な科学的根拠は乏しいのが現状です。したがって、帯状疱疹後神経痛の患者さんがマッサージを試みる場合は、医師や看護師、理学療法士など医療専門家の指導の下で行うことが重要であり、マッサージはあくまでも医学的治療を補完するものとして位置づけるべきでしょう。 また、マッサージ以外にも、帯状疱疹後神経痛の症状を和らげるためのいくつかの対処法があります。たとえば、刺激の少ない綿や絹の衣類を着用することで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。また、入浴などで体を温めることで、症状が緩和されると感じる方もいらっしゃいます。 帯状疱疹後神経痛と向き合う日々は、身体的にも精神的にも大変な時期かもしれません。しかし、諦めずにさまざまな対処法を試み、自分に合った痛みの管理方法を見つけていくことが大切です。医療専門家と相談しながら、マッサージをはじめとするさまざまなアプローチを組み合わせることで、少しずつでも症状の改善と生活の質の向上につながるでしょう。この記事が、帯状疱疹後神経痛に悩む方々の参考となれば幸いです。 監修:医師 渡久地 政尚 参考文献一覧 加藤実,帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法,日本臨床麻酔科学会vol.28.No,1/Jan.2008,,J-STAGE.2008/6 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会,ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在,帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛 日本ペインクリニック学会,Key Point,神経ブロック 日本ペインクリニック学会,Key Point,NSAIDsとアセトアミノフェン 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,Key Point.抗うつ薬、抗痙攣薬 国立感染症研究所,帯状疱疹ワクチン ファクトシート,厚生労働省 日本ペインクリニック学会,神経障害性疼痛の概要 日本ペインクリニック学会,痛みの機序と分類 真興交易医書出版部”慢性疼痛診療ガイドライン" ^ [1]Mallick-Searle, T., Snodgrass B., Brant J. M,Postherpetic neuralgia: epidemiology, pathophysiology, and pain management pharmacology. Pain Medicine, 2016,.https://doi.org/10.2147/JMDH.S106340 ^[2]Yao, C., Li, G., Shen, W., & Jia, X. (2020). Massage therapy for the treatment of postherpetic neuralgia: A randomized controlled trial. Journal of Integrative Medicine, 18(6), 496-502. ^[3]Lee, G. Y., Gong, H. S., Kim, J. H., & Shin, H. S. (2014). The effect of massage therapy on postherpetic neuralgia: a quasi-randomized controlled trial. Journal of Korean Academy of Nursing, 44(1), 92-101.
2024.11.25 -
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「帯状疱疹が治ったのに痛みが続くのはなぜ?」「どのような薬が効くの?」このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹の後遺症として起こる難治性の痛みです。皮膚の痛みやしびれ、灼熱感などが長期間続き、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 今回は、帯状疱疹後神経痛に効果が期待できるさまざまな治療薬について、その選択肢や効果、副作用などを詳しく紹介します。この記事が、痛みに悩むあなたの治療選択の助けになれば幸いです。 帯状疱疹後神経痛とその一般的な治療法の紹介 帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治った後も、患部の神経に炎症や傷が残ることで起こる長引く痛みのことです。 50歳以上の方にかかりやすく、痛みの強さや続く期間には個人差がありますが、適切な治療をしないと痛みが長引くリスクが高くなります。 痛みをコントロールするには薬の治療が中心となりますが、患者さんの状態に合わせて薬を選ぶことが大切です。 一般的な治療法には以下のようなものがあります。 薬物療法(抗てんかん薬、抗うつ薬、外用薬、オピオイドなど) 神経ブロック注射 漢方薬 電気刺激療法(TENS) 心理療法(カウンセリングなど) リハビリテーション(運動療法、物理療法など) これらの治療法を組み合わせることで、より効果的な痛みの管理が期待できます。 帯状疱疹後神経痛に使われる薬 帯状疱疹後神経痛の治療に用いられる主な薬剤は以下の通りです。 抗ウイルス薬 抗ウイルス薬とは、ウイルスの増殖を抑える薬のことです。帯状疱疹後神経痛の原因となる水痘帯状疱疹ウイルスの活動を抑えることで、神経の損傷を防ぎ、痛みの発症リスクを下げる効果が期待できます。代表的な薬剤としては、アシクロビルやバラシクロビルなどがあります。 抗てんかん薬 抗てんかん薬とは、本来はてんかんの治療に用いられる薬ですが、神経の過剰な興奮を抑える働きがあるため、帯状疱疹後神経痛の治療にも使われます。痛みの信号を伝える神経の活動を抑制することで、痛みを和らげる効果が期待できます。代表的な薬剤としては、ガバペンチンやプレガバリン(リリカ)などがあります。 抗うつ薬 抗うつ薬とは、うつ病の治療に用いられる薬ですが、慢性の痛みに対しても効果があることが知られています。セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを調整することで、痛みの信号を抑制し、痛みを和らげる効果が期待できます。代表的な薬剤としては、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(デュロキセチンなど)があります。 鎮痛薬(オピオイド含む) 鎮痛薬とは、痛みを和らげる薬の総称です。帯状疱疹後神経痛に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの一般的な鎮痛薬が使われることがあります。また、痛みが強い場合には、オピオイド鎮痛薬(トラマドールなど)が処方されることもあります。これらの薬は、痛みの信号を遮断したり、痛みを感じにくくしたりすることで、鎮痛効果を発揮します。 トピカル治療薬 トピカル治療薬とは、患部に直接塗布したり貼付したりする薬のことです。帯状疱疹後神経痛に対しては、リドカインパッチやカプサイシンクリームなどが用いられることがあります。これらの薬は、痛みの信号を局所的に遮断したり、痛みを感じにくくしたりすることで、症状の緩和に役立ちます。 薬物治療の効果と副作用 帯状疱疹後神経痛の治療に用いられる薬物は、痛みの伝達を遮断したり、神経の感受性を調整したりすることで鎮痛効果を発揮します。ただし、薬の効果と同時に、副作用のリスクについても理解しておく必要があります。 各薬の具体的な効果と副作用 薬剤 効果 副作用 抗てんかん薬 神経細胞の興奮を抑制し、鎮痛効果を発揮 眠気、めまい、体重増加など 三環系抗うつ薬・SNRI 痛みの伝達を遮断 口渇、便秘、視力障害など 外用薬 局所的な鎮痛効果 塗布部位の皮膚炎など オピオイド 強力な鎮痛作用 嘔気、便秘、眠気、依存リスクなど これらの薬剤は、それぞれ異なる作用機序を持っていますが、いずれも帯状疱疹後神経痛の痛みを和らげることを目的として使用されます。 抗てんかん薬は、神経の過剰な興奮を抑制することで、痛みの信号伝達を抑えます。三環系抗うつ薬やSNRIは、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを調整し、痛みの伝達を遮断します。外用薬は、患部に直接作用することで局所的な鎮痛効果を発揮します。オピオイドは、強力な鎮痛作用を持っていますが、副作用や依存のリスクが比較的高いため、他の治療法で十分な効果が得られない場合に限って使用されます。 これらの薬剤の使用に際しては、患者さんの状態や痛みの程度、他の合併症の有無などを考慮し、医師が適切な薬剤を選択します。また、定期的なモニタリングを行いながら、効果と副作用のバランスを見極め、必要に応じて薬剤の種類や用量を調整していきます。 副作用については、患者さんによって現れ方や程度が異なるため、医師や薬剤師からの説明を十分に理解し、異変を感じたら速やかに報告することが大切です。 治療薬の選択基準 患者に適した薬の選び方 患者さまに適した薬を選ぶ際のポイントは、以下のとおりです。 考慮すべき要因 具体的な内容 年齢 高齢者では、薬物の代謝・排泄が遅れる傾向があるため、慎重な投与が必要 全身状態 患者さんの全身的な健康状態を評価し、治療薬の選択に反映させる 合併症 腎機能障害や肝機能障害など、合併症の有無や程度を考慮する 他の服用中の薬剤 併用薬との相互作用を確認し、必要に応じて投与量の調整や薬剤の変更を行う 痛みの性質・部位 痛みの性質(灼熱感、チクチク感など)や部位に応じて、適切な薬剤を選択する 治療歴 これまでの治療経過や効果、副作用の情報を参考にする 医師は、これらの要因を総合的に判断し、患者さんに最適な治療薬を選択します。また、定期的なモニタリングを行いながら、効果と副作用のバランスを見極め、必要に応じて投与量の調整や薬剤の変更を行います。 患者さんも、自身の症状や体調の変化を医師に伝え、治療方針について積極的に相談することが大切です。医師と患者さんが協力して、最適な治療薬の選択と調整を行っていくことが、帯状疱疹後神経痛の効果的な管理につながるでしょう。 患者の体験談 薬物治療を受けた患者からの実際のフィードバック 帯状疱疹後神経痛の薬物治療は、患者さまの年齢や症状、合併症の有無、治療歴などを考慮して、医師が適切な薬剤を選択します。 治療効果や副作用の現れ方には個人差がありますが、早期の治療が大切ということが日本ペインクリニック学会のいくつかの研究によってわかっています。 日本ペインクリニック学会の研究において、帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の後に起こる長期的な痛みで、日常生活に大きな影響を与えます。この研究は、PHNを予防するために、神経ブロック(硬膜外ブロック、末梢神経ブロック、交感神経ブロック)が有効かどうかを調べました。 研究の結果は、以下のとおりです。 全体的には、神経ブロックが帯状疱疹後神経痛の予防に有意な効果があるとはいえませんでした。 しかし、帯状疱疹の発症から病院受診までの期間が短いほど、神経ブロックが帯状疱疹後神経痛の予防に効果がある可能性が高くなります。 つまり、この研究では、帯状疱疹の発症から早期に神経ブロックを行うことで、帯状疱疹後神経痛への移行を防ぐ可能性があることがわかっています。(参照:日本ペインクリニック学会."帯状疱疹後神経痛予防のための神経ブロックの有効性") また、日本ペインクリニック学会誌の「当院における帯状疱疹関連痛の疼痛改善に影響を与える要因の後ろ向き研究」において、神経障害性疼痛の治療として推奨されている三環系抗うつ薬、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチン、トラマドール、神経ブロックのうち、いずれかの内服または投与されている方を対象に痛みの改善について研究を行われています。 研究結果より、帯状疱疹にかかって痛みがある患者さまは、できるだけ早く、できれば発症から30日以内に痛みの専門機関を受診することが大切です。 もし30日以内に受診できない場合は、最初にかかった病院で神経障害性の痛みに効く薬(三環系抗うつ薬、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチン、トラマドールなど)を処方してもらったり、神経ブロックを受けたりすることが重要です。 痛みの専門機関を30日以降に受診する場合、最初の病院でこれらの治療を受けていなかった患者さんは、痛みの改善が難しくなる可能性があります。(参照:長谷川 晴子他."当院における帯状疱疹関連痛の疼痛改善に影響を与える要因の後ろ向き研究”.日本ペインクリニック学会誌.2023.30巻4号p.71-78) まとめとアドバイス 患者自身や医師との相談の重要性 帯状疱疹後神経痛の薬物治療では、痛みの程度や生活への影響を医師にしっかりと伝えることが大切です。治療の選択肢や期待される効果、起こり得る副作用について、医師から十分な説明を受けましょう。疑問や不安があれば遠慮なく相談し、納得した上で治療方針を決定していくことが重要です。 また、薬の効果や副作用の現れ方を注意深く観察し、定期的な診察で医師に報告していくことも欠かせません。セルフケアとして、患部を清潔に保ち、ストレスを避け、十分な休養を取ることも痛みの緩和に役立つでしょう。 帯状疱疹後神経痛は、適切な治療を継続することで、多くの場合徐々に改善が見込めます。痛みと向き合う辛さはありますが、諦めずに医師と協力しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。 監修:医師 渡久地 政尚 参考文献一覧 加藤実,帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法,日本臨床麻酔科学会vol.28,No.1/Jan.2008,J-STAGE 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛,第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会,ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在,帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛 日本ペインクリニック学会,Key Point,神経ブロック 日本ペインクリニック学会,Key Point, NSAIDsとアセトアミノフェン 日本ペインクリニック学会,Key Point,オピオイド 日本ペインクリニック学会,Key Point,抗うつ薬、抗痙攣薬
2024.11.22 -
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「ダッシュボード損傷ってどのような症状があるの?」「事故後の治療やリハビリはどうなるの?」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 ダッシュボード損傷は、交通事故の衝撃によって膝や大腿部を打ち付けることで起こる外傷です。激しい痛みや腫れ、歩行困難など、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。 今回は、ダッシュボード損傷の典型的な症状や治療法、リハビリテーションのプロセスなどを詳しく紹介します。この記事が、事故後の不安や痛みに悩むあなたの助けとなり、回復への道筋を示すものになれば幸いです。 ダッシュボード損傷の症状と治療の必要性 ダッシュボード損傷は、交通事故の際、車両の急停止や衝突によって乗員が車内のダッシュボードに膝や大腿部を強打することで生じる外傷を指します。シートベルトを着用していない場合や、エアバッグが正常に作動しなかった場合に発生しやすいとされています。 ダッシュボード損傷の症状は、軽度の打撲から骨折、靭帯損傷まで幅広く、早期の診断と適切な治療が重要です。放置すると、後遺症として長期的な痛みや機能障害を引き起こす可能性もあるでしょう。 適切な治療とリハビリテーションを受けることで、多くの方が回復へと向かうことができるでしょう。そのため、事故直後から適切な医療機関を受診し、専門家の指導のもと、回復に向けた取り組みをはじめることが大切です。 ここでは、ダッシュボード損傷の代表的な症状と、早期治療の重要性について詳しく説明します。 ダッシュボード損傷の典型的な症状とその原因 ダッシュボード損傷の症状は、損傷部位や程度によって異なりますが、以下の例が挙げられます。 膝や大腿部の激しい痛み 損傷部位の腫れや内出血 脚の可動域制限や歩行困難 膝の不安定感やカクカク音 大腿部のしびれや感覚鈍麻 これらの症状は、軟部組織の損傷や骨折、靭帯損傷などが原因で起こります。痛みや腫れが強い場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 早期治療の重要性と放置した場合のリスク ダッシュボード損傷を放置すると、以下のようなリスクがあります。 痛みや機能障害が長期化する 関節の不安定性が残り再受傷しやすくなる 軟骨や靭帯の変性が進行し変形性関節症になる 日常生活動作(ADL)の低下により生活の質(QOL)が下がる このような状態を避けるためにも、早期の診断と治療開始が不可欠です。専門医による適切な評価と、個々の症状に合わせた治療計画の立案が求められます。 また、ダッシュボード損傷の特徴的な点として、膝への直接的な衝撃だけでなく、その力が大腿骨を通じて股関節にまで伝わることがあります。これにより、一見してわかりにくい股関節周辺の損傷が生じる可能性があります。 そのため、膝に明らかな症状がある場合でも、股関節や大腿部全体の痛み、違和感、動きにくさなどにも注意が必要です。このような症状がある場合は、医療機関で股関節を含めた総合的な検査を受けることが重要です。 治療方法の選択と実際 ダッシュボード損傷の治療は、損傷の種類や重症度によって異なります。ここでは、事故直後の応急手当から、病院での治療、リハビリテーションまでを順を追って説明します。 事故直後の応急手当と注意点 事故現場での応急手当では、以下のような処置が行われます。 やるべきこと 具体的な方法例 注意点 動かさない 怪我した部分をそのままの状態で保つ 無理に動かすと症状が悪化する可能性がある 冷やす 氷や冷却シートを使って患部を冷やす 直接皮膚につけず、タオルなどを間に挟む 固定する 骨折の可能性がある場合、板や厚紙で固定 きつく縛りすぎないよう以下のポイントに注意する 指先の色が変わらないか確認する 激しい痛みや痺れがないか確認 指先が少し動かせるか確認 腫れに備えて少し余裕を持たせる これらの処置は痛みや腫れを抑える効果がありますが、あくまで応急処置です。必ず病院で診てもらいましょう。 病院での診断と治療方針の決定 病院では、詳細な問診や身体所見、X線やMRIなどの画像検査を行い、損傷の種類や程度を評価します。これをもとに、以下のような治療方針が立てられます。 診断・治療の段階 内容例 1. 診察 症状の詳しい聞き取り 痛みの場所や程度、動かせる範囲の確認 2. 検査 レントゲン撮影:骨の状態確認 MRI検査:筋肉や靭帯の状態確認(必要に応じて) 3. 治療方針の決定 軽症:安静、痛み止め、湿布 中等度:サポーター使用、リハビリ 重症:手術の検討 治療方針は、患者さんの状態や生活環境などを考慮して、医師と相談の上で決定します。 痛み止めの種類と使用上の注意 ダッシュボード損傷では、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が第一選択となります。これらの薬剤は、炎症を抑えると同時に、痛みを和らげる効果が期待できるでしょう。具体的には、ロキソプロフェンやジクロフェナク、セレコキシブなどがよく使用されます。 また、鎮痛補助薬として、アセトアミノフェン(カロナールなど)やトラマドール(トラマールなど)が用いられることもあります。アセトアミノフェンは純粋な鎮痛効果があり、トラマドールは中程度の痛みに効果があります。 痛み止めの使用に際しては、医師の指示に従い、適切な用量と期間を守ることが大切です。NSAIDsは胃腸障害、アセトアミノフェンは肝機能障害、トラマドールは嘔気やめまいなどの副作用に注意が必要です。自己判断での使用は避け、必ず医師の指導のもとで服用しましょう。 リハビリテーションの目的とアプローチ方法 手術療法の有無にかかわらず、ダッシュボード損傷の回復には、リハビリテーションが欠かせません。理学療法士や作業療法士による専門的なアプローチにより、以下のような効果が期待できるでしょう。 関節可動域の改善と拘縮予防 筋力とバランス能力の向上 歩行や日常生活動作の再獲得 仕事や趣味などの社会活動への復帰支援 リハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて段階的に進められます。時間と労力を要しますが、粘り強く取り組むことが回復への近道となるはずです。 回復過程の段階と各時期のポイント ダッシュボード損傷からの回復は、一朝一夕にはいきません。ここでは、回復過程を段階別に説明し、それぞれの時期に求められるケアのポイントを紹介します。 回復の一般的な目安と個人差 ダッシュボード損傷の回復期間は、損傷の重症度や治療法によって異なりますが、おおよそ以下のような目安が示されています。 軽度の打撲や捻挫:2~4週間 中等度の靭帯損傷:6~8週間 重度の骨折や手術療法後:3~6か月 ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいことに留意が必要です。無理のない範囲で、医師の指示にしたがってリハビリテーションに取り組みましょう。 急性期の安静と炎症コントロール 受傷直後から数日間は、急性期と呼ばれます。この時期は、以下のようなケアが中心となります。 急性期のケア 具体的な内容 安静と患部の保護 患部に負荷をかけない姿勢の保持 必要に応じて固定や装具の使用 冷却療法 アイシングによる炎症と痛みの軽減 15-20分ごとに冷却と休憩を繰り返す 薬物療法 医師の指示に基づく鎮痛剤の使用 炎症を抑えるための薬剤投与 急性期は、損傷の拡大を防ぎ、炎症を抑えることが何よりも大切です。医師の指示に従い、安静を保ちましょう。 回復期の可動域訓練と筋力増強 急性期の症状が落ち着いてくると、回復期に入ります。この時期は、以下のようなアプローチを行います。 回復期のアプローチ 具体的な内容例 可動域訓練 段階的に関節の動きを改善 痛みの範囲内で少しずつ可動域を広げる 筋力増強訓練 軽度の負荷から開始 徐々に負荷を増やしていく 日常生活動作の練習 歩行、階段昇降、座る、立つなどの基本動作 日常生活に必要な動作の再獲得 回復期は、徐々に運動量を増やしていく時期です。痛みに耐えながらも、リハビリテーションに積極的に取り組むことが回復への鍵となるでしょう。 社会復帰期の機能回復と日常生活動作の獲得 ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期に行うケアは以下のとおりです。 目標 具体的な取り組み例 1. 体の機能を元に戻す 歩行や階段の昇降をスムーズに行えるようになる 長時間の座位や立位に耐えられるようになる 2. 仕事や趣味に戻る 仕事に必要な動作ができるようになる スポーツなどの趣味活動を再開する 3. 再発を防ぐ 適切なストレッチや運動を日課にする 正しい姿勢や動作を意識する ダッシュボード損傷から回復し、通常の生活に戻る時期には、上記の目標に取り組みます。この時期は、体の回復だけでなく、心のケアも大切です。医療専門家のアドバイスを受けながら、焦らず少しずつ回復を進めていくことが重要です。 心理面のケアの重要性と方法 ダッシュボード損傷は、身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も大きいものです。事故後のストレスに加え、長期的な療養生活は、患者さんの心身を大きく疲弊させます。 ここでは、心理面のケアの重要性と、その方法について説明します。 カウンセリングの役割と効果 カウンセリングとは、「医療従事者が患者さんの心理的な問題や悩みに耳を傾け、解決に向けて支援すること」を指します。 ダッシュボード損傷の患者さんに対するカウンセリングでは、以下のような点に焦点が当てられます。 事ゆえによる心的外傷への対処 療養生活にともなうストレスの軽減 リハビリテーションへのモチベーション維持 家族や職場との関係調整 カウンセリングは、患者さんの心の安定と回復への意欲を高める上で、重要な役割を果たします。 効果的なカウンセリングのためのコツ 効果的なカウンセリングを行うためには、以下のようなポイントに留意が必要です。 患者さんの訴えに傾聴し共感的な態度で接する 患者さんの感情表出を促し受け止める 回復への見通しを示し希望を与える 患者さんの自主性を尊重し意思決定を支援する 家族や医療チームと連携し社会的サポートを強化する これらのアプローチにより、患者さんは安心感を得て、前向きな気持ちでリハビリテーションに臨むことができるでしょう。 社会復帰に向けた準備と支援 ダッシュボード損傷は、一時的に仕事や社会生活から患者さんを遠ざけてしまいます。しかし、適切な支援があれば、多くの方が元の生活を取り戻すことができます。ここでは、社会復帰に向けた取り組みについて説明します。 利用可能な福祉サービスと申請方法 社会復帰の過程では、以下のような福祉サービスが利用できます。 障害者手帳の取得と各種助成制度の活用 職業評価と職業訓練の実施 ハローワークを通じた就労支援 障害者雇用の支援制度の利用 これらのサービスを上手に活用することで、社会復帰への道筋がより明確になるでしょう。医療ソーシャルワーカーや就労支援員と相談しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。 職場復帰の手順と上手な職場との調整方法 ダッシュボード損傷からの職場復帰には、以下のような課題がともなう可能性があるでしょう。 後遺症による身体的な制限への対応 長期休職にともなう業務スキルの低下 職場の理解と協力体制の構築 復職後のストレスマネジメント これらの課題に対しては、以下のような対策が求められます。 主治医や産業医との連携による復職計画の立案 段階的な職場復帰プログラムの実施 必要に応じた職務内容の調整や配置転換 上司や同僚への情報共有と理解の促進 ストレス対処法の習得と積極的な休養の確保 職場復帰は、患者さんと企業、医療機関が三位一体となって取り組むべき課題です。お互いの立場を尊重しながら、無理のない範囲で歩みを進めていきましょう。 セルフケアの進め方と工夫 ダッシュボード損傷からの回復には、医療機関でのケアだけでなく、患者さん自身の努力も欠かせません。ここでは、セルフケアの重要性と、その具体的な方法について説明します。 回復を促す食事の摂り方 回復期には、以下のような食事の工夫が大切です。 栄養素 役割 具体的な食材 タンパク質 組織の修復促進 鶏肉、魚、豆腐、卵 ビタミンC 免疫力向上、骨・軟骨の形成 みかん、ブロッコリー、パプリカ カルシウム 骨の修復と強化 牛乳、ヨーグルト、小松菜 鉄分 貧血予防、組織の酸素供給 ほうれん草、レバー、赤身肉 食物繊維 便通改善 玄米、野菜、果物 オメガ3脂肪酸 炎症抑制 サバ、アマニ油、クルミ 食事は、体の回復を助ける上で重要な役割を果たします。管理栄養士や医師と相談しながら、自分に合った食事プランを立てましょう。 自宅でできる運動と注意点 医師の許可が出た後は、以下のような運動を心がけましょう。 ストレッチや関節可動域訓練による柔軟性の維持 軽度の有酸素運動による全身持久力の向上 筋力トレーニングによる損傷部位の機能回復 バランス練習による転倒予防 運動は、身体機能の改善だけでなく、ストレス発散にも効果的です。無理のない範囲で、毎日の生活に運動を取り入れていきましょう。 ストレス対策の方法と生活への取り入れ方 ダッシュボード損傷の回復過程では、以下のようなストレス対策が推奨されます。 十分な睡眠時間の確保 趣味や娯楽活動による気分転換 友人や家族との交流による社会的サポートの強化 リラクセーション技法(深呼吸、瞑想など)の習得 必要に応じた医療従事者への相談 ストレスは、回復の妨げになるだけでなく、痛みを増強させる原因にもなります。自分なりのストレス対処法を見つけ、上手に実践していきましょう。 典型的な症例から学ぶ回復のプロセス ここでは、ダッシュボード損傷の典型的な症例を紹介し、回復のプロセスを具体的に説明します。 ダッシュボード外傷による股関節付近の骨(大腿骨頭)骨折からの回復について、医学研究が行われています。 [1] 井手尾医師らの研究(2016年)では、以下のような結果が得られました。 30代の男性4人を約11か月間観察 骨折の状態に応じて手術方法を選択 全員が自分で歩けるまでに回復 深刻な合併症は見られず これらの結果は回復の可能性を示していますが、研究者たちは次の点を指摘しています。 より長期的な観察が必要 さらに多くの患者での研究も必要 この研究から、適切な治療を受ければダッシュボード外傷からの回復が期待できることがわかりました。ただし、個々の状態に合わせた治療と長期的な経過観察が重要です。[1] 交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こるダッシュボード外傷について、医師たちが研究を行っています。 また、[2] 櫛田医師らのグループ(1994年)が行った研究では、このような怪我をした患者さんの回復過程を調査しています。その結果、以下のようなことがわかりました。 怪我の種類によって回復の仕方はさまざまですが、多くの場合で回復が見られました 適切な治療とリハビリを受けることで、回復の可能性が高まります 専門医による継続的な観察と支援が、回復に役立ちます この研究から、ダッシュボード外傷からの回復は十分に可能であることが示されています。ただし、一人ひとりの状態に合わせた治療と、時間をかけた経過観察が大切です。 医療技術の進歩により、今後さらに回復の可能性が高まることが期待されます。怪我をしてしまった場合でも、希望を持って治療に取り組むことが大切です。[2] これらの事例は、ダッシュボード損傷からの回復が可能であることを示しています。適切な医療ケアとリハビリテーション、そして患者さん自身の努力により、多くの方が事故前の生活を取り戻すことができるのです。 まとめ ダッシュボード損傷は、交通事故で膝や股関節を強く打つことで起こる怪我です。 本記事では以下の点について説明しました。 症状 原因 治療方法 回復過程 心理的ケア 社会復帰 事故直後は不安や痛みで圧倒されそうになることもありますが、医療従事者や周囲の支えを受けながら、一つひとつの課題に向き合うことで回復への道が開けていくでしょう。 この記事が、ダッシュボード損傷で悩む方への道しるべとなり、回復への一歩となれば幸いです。 参考文献一覧 ^ [1]井手尾勝、政等裕、安楽喜久、堤康次郎、安藤卓、立石慶和、田原隼、松下紘三,大腿骨頭骨折の治療経験,整形外科と災害外科, 65(3):518-522, 2016. ^ [2]櫛田 学, 吉良 秀秋, 藤樹 宏, 大里 祐治.ダッシュボードインジャリーにおける骨折の特徴と治療.,西日本整形・災害外科学会雑誌, 43(3):1089-1093, 1994. http://up2医学書院.医学大辞典第2版.ダッシュボード損傷.2009-02 今日の整形外科治療指針第8版.後十字靭帯損傷.2021-10 今日の整形外科治療指針第8版.股関節脱臼骨折.2021-10 日本脂質栄養学会.オメガ3脂肪酸と骨力 コツコツ骨ラボ,骨折予防のための栄養摂取とは 厚生労働省."日本人の食事摂取基準(2020年版) 農林水産省,食事バランスガイド 日本整形外科学会,骨折 日本整形外科学会パンフレット 日本リハビリテーション医学会,運動器のリハビリテーション治療
2024.09.18 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
むちうち症は交通事故の衝撃やスポーツ中の激しい体の動きなどにより起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 そこで本記事では、むちうち症の概要や治療方法、セルフケアや精神的なケアについて解説しています。 むちうち症と診断された方はぜひご参考ください。 むちうち症は交通事故の衝撃により起こる疾患です。適切な治療やセルフケアによって症状の軽減が見込めるため、患者さんは正しい知識をもつことが大切です。 むちうち症の概要 はじめに、むちうち症の概要について解説します。 むちうち症とは何か? むちうち症とは、自動車事故やスポーツ中の激しい体の動きなどによって生じるけがの一種です。交通事故の場合、事故の衝撃により頚部が鞭(むち)を打ったようにしなった結果、首の筋肉、脊髄や神経根などの神経、じん帯、頚部の椎間板などが損傷され、事故後に首や背中に痛みが出てしまいます。医学的には「外傷性頚部症候群」「頚椎捻挫」「頚部挫傷」などと呼ばれます。 むちうち症の症状は受傷部位や加わった衝撃の程度によりさまざまですが、頚部や肩、頭などに表れやすいです。よくみられる症状は下記のとおりです。 首や背中、腰の痛み 頭痛 耳鳴り 吐き気 しびれ 肩こり 腕や手のしびれ 腕や手の動かしにくさ 目が見えづらい 倦怠感 不眠 うつ状態 基本的に、これらの症状は受傷後数時間~数日後に自覚されることが多いです。受傷から発症までにタイムラグがある原因として、事故時に多く分泌されるアドレナリンの作用により症状を自覚しにくい、あるいは受傷部位の炎症の増強にともなって痛みが徐々に悪化していくなどの理由が考えられます。 また、むちうち症にはいくつかのタイプがあり、それによっても症状の種類が異なります。 むちうち症の種類 特徴 出現しやすい症状の例 頚椎捻挫型 椎間板やじん帯が損傷している可能性がある 首や肩の痛み、肩の動かしにくさ、肩や腕の重さ 神経根損傷型 腕の感覚を司る神経が椎間板に圧迫される 腕の痛み、知覚異常、しびれ、筋力低下 脊髄損傷型 脊髄が傷つく 手足のしびれ、麻痺、歩行障害、排泄障害 自律神経障害型 (バレー・リュー型) 首の自律神経が障害される 頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、後頭部の痛みなど 症状の発生原因 むちうち症が起こるのは、事故によって「首がしなった後、急激に戻る」のが原因です。後方からの追突事故の場合、ぶつかられた衝撃によって胴体が前方へ出た後、頚部が後ろに反るようにしてしなります。また、正面衝突の場合は胴体が後ろへ突き出し、頚部は前方へしなります。側面からの衝突事故においては、衝突された方向によって首が左右のどちらかにしなります。このように首に不自然な力が加わることで、頚椎を支えているじん帯や神経、結合組織などが損傷してしまうのがむちうち症発症のメカニズムです。 むちうち症の多くは交通事故によるものですが、スキーやローラースケート時の転倒などによっても首のしなりと急激な戻りが発生し、むちうち症を発症することもあります。 むちうち症の治療方法 むちうち症の治療は、正しい診断をもって始まります。事故に遭ったら必ず整形外科を受診し、画像検査、問診など必要な検査を受けましょう。むちうち症と診断されたら、投薬などの治療が始まります。むちうち症の治療では医学的アプローチはもちろんのこと、セルフケアも重要です。ここでは、医学的な治療とセルフケアについてそれぞれ解説します。 医学的アプローチ むちうち症の治療は、受傷部位や組織損傷の程度などによって異なります。痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤を使用し安静にするのが基本です。冷湿布やアイシングによる患部の冷却も炎症を和らげるのに効果的です。 また、必要に応じて頚椎カラーの装着が必要となる方もいます。頚椎カラーの装着方法や装着期間は医師の指示に従いましょう。痛みが回復した後にも頚椎カラーによる固定を続けていると、首の筋肉の拘縮や萎縮の原因となりかえって症状が悪化する可能性があるため注意が必要です。 痛みが緩和されてきたら、徐々に首を動かすリハビリやストレッチを始めます。医師や理学療法士から指示されたストレッチがあれば、無理のない範囲で取り入れていきましょう。場合によっては、病院に通院してリハビリや牽引を行うケースもあります。 家庭でできる対処法 むちうち症は、セルフケアによって症状の悪化予防と改善が期待できる疾患です。 発症後3日~1週間程度の急性期は、首の安静を第一に心がけましょう。この時期に首に無理な力が加わると症状が余計に悪化するため、痛い部分を揉むことやマッサージすること、そして首を無理に動かすのは避けましょう。湿布を貼る場合は、急性期には冷湿布が適しています。 痛みが和らいできたら、入浴や温湿布、首のリハビリにより患部の血流を良くし筋肉をほぐすことがポイントです。リハビリは無理をせず、痛みのない範囲で毎日少しずつ行いましょう。ここでは自宅でできる簡単なリハビリ・ストレッチを3つ紹介します。 ①仰向けに寝てバスタオルを丸めて首の下に置き、リラックスする ②フェイスタオルを首に巻き、両手でタオルを前に引っ張りながら首をゆっくりと後ろに反らす ③正面を向き、首をゆっくりと上下左右に動かす ただし、動きによって痛みが増強した場合は決して無理をせず、安静にしましょう。 むちうち症の後遺症について むちうち症の患者さんのなかには、適切な治療をしても首や背中の痛み、上肢のしびれなどの後遺障害が生じることがあります。後遺障害の症状は人によって異なります。 長期的な影響 むちうち症は、発症時は軽症であっても歳を重ねて数十年後に急に症状が悪化するケースがあります。症状の悪化を迎える頃には、事故の影響以外に加齢による五十肩などの他のトラブルも重なることが予想されるため、むちうち症を発症した際にきちんと根本的な治療をしておきたいところです。万が一受傷からしばらく経過した後に痛みが出てきたら、その時点でもう一度医療機関を受診しましょう。 管理と予防策 むちうち症の後遺症による首の痛みは、首周りの筋肉の過緊張が原因です。こわばった緊張をほぐして動きを良くするために、日頃から首のストレッチや入浴を心がけましょう。 日常生活での調整 むちうち症の症状は、風邪のように数日間で完治することは少ないでしょう。治療期間が数週間から数ヵ月にわたる方もいるため、日常生活における痛みのコントロールや活動量の調整が必要です。 生活スタイルの変更 痛みがある場合は、鎮痛薬の内服や湿布などにより痛みのコントロールを図りましょう。鎮痛薬は、一般的に内服と次の内服の間に一定の時間を空ける必要があり、内服の適切なタイミングを考える必要があります。学校や仕事、家事など日中に活動する場合は、朝に内服しておくと日中の鎮痛効果が期待できます。また、痛みが睡眠に支障を来す場合には、就寝前にも内服しましょう。 湿布薬は種類が多数あるため、刺激感や皮膚の状態を踏まえ自分に合ったものを見つけましょう。湿布を同じ場所に貼り続けると皮膚がかぶれるリスクが高まるため、貼り替えの際は少しずつ場所をずらす、新しい湿布を貼るのは翌日にするなど、工夫が必要です。湿布薬のなかには肌の色に近い色のものもあるため、人目が気になる場合は使用してください。 また、むちうち症の症状のなかでも、頭痛やめまいなどの症状は社会生活に直接的な影響を及ぼすケースがあります。症状が強い時には無理をせず、家族や学校、会社などに事情を説明し、理解を得ることが大切です。在宅ワークであれば症状の程度によって仕事時間を調整できるため、無理なく働ける可能性があります。その際、会社や学校などに医師の診断書を求められることがあります。診断書は保険会社からも提示を求められるため、あらかじめ医師へ記載を依頼しておくとよいでしょう。 支援と専門家の助言 むちうち症は、適切な診断と治療を受け専門家の助言のもとでリハビリをすすめる必要があります。自己流の投薬やリハビリは、効果が得られないばかりかやり方を間違えると症状をさらに悪化させてしまうかもしれません。必ず受診し、医師や理学療法士など専門家に相談しアドバイスを受けながら治療をすすめていきましょう。症状が重いなどの理由で受診が難しい場合は、電話でも相談に応じてもらえる場合があります。 総合的なアドバイスとサポート 最後に、むちうち症の症状の緩和へのヒントと、精神的な健康の維持について解説します。 症状を和らげるためのヒント むちうち症の症状を和らげられる可能性があるものとして、鍼治療や電気治療なども選択肢の一つです。鍼治療には硬くなった筋肉をほぐす作用がありますが、人によっては「合わない」と感じる方や、鍼を刺す刺激が苦手な方もいるため注意が必要です。また、体質や体調などによって治療効果も異なります。 また電気治療も鍼治療と同様に筋肉の過緊張を一時的に緩められます。 いずれにせよこれらの施術には「合う」「合わない」があるため、医師や整骨院などの専門家に相談したうえで利用を検討するようにしましょう。 精神的な健康の維持 むちうち症は風邪のように数日で完治するのは難しく、苦痛な症状やいつ治るかわからない不安などから精神的にも落ち込んでしまう方も少なくありません。 気持ちがふさぎ込んでしまうと苦痛がより強くなってしまうため、痛みの許す範囲で趣味や仕事をしたり、外出したりと気分転換を図るとよいでしょう。痛みが少しでも紛れるような時間を作れるのが理想的です。 参考文献一覧 交通事故による いわゆる“むち打ち損傷”の治療期間は長いのか Whiplash associated disorders: a review of the literature to guide patient information and advice Australian Clinical Guidelines for Health Professionals Managing People with Whiplash-Associated Disorders Guidelines for the management of acute whiplash associated disorders The Treatment of Neck Pain-Associated Disorders and Whiplash-Associated Disorders: A Clinical Practice Guideline
2024.07.30 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「脊髄硬膜外血腫」とは、背骨の中で出血が起きる病気の一種です。(文献1)脊髄を覆う「硬膜」の外側で出血し、激しい痛みが起きるほか、溜まった血が脊髄を圧迫すれば麻痺やしびれなどを引き起こします。 脊髄硬膜外血腫の患者様の中には、後遺症が出て日常生活に不便を感じ、お悩みの方もいるのではないでしょうか。 後遺症は今までリハビリテーションなどの対症療法でのみ治療されていましたが、現在では再生医療も選択可能となり、根治的治療として注目を浴びています。 今回は脊髄硬膜外出血の後遺症や、急性期の治療法と発症後のリハビリテーション、予後についてもお伝えします。また、後遺症の治療法(再生医療)についても解説するのでぜひ参考にしてください。 脊髄硬膜外血腫の主な後遺症 脊髄硬膜外血腫は、溜まった血を取り除くまでに脊髄が傷ついてしまうと、治療後に後遺症が出る可能性があります。 後遺症の症状や程度は、障害部位(頸髄や胸髄、腰髄、仙髄、馬尾)や脊髄へのダメージ具合(部分的か全体的なダメージか)によってさまざまです。 代表的な後遺症を以下にまとめました。 運動障害(麻痺) 感覚障害(温痛覚や振動感覚、位置感覚の障害など) 膀胱直腸障害(尿失禁、頻尿、便秘、頻便など) 呼吸障害 体温調節障害 起立性低血圧 など それぞれ説明していきます。 運動障害(麻痺) 筋肉がうまく動かせなくなるのが運動障害です。具体的には以下の症状が現れます。 手足に力が入らない しびれる まったく動かせない など 出血が起きた部位により、運動障害の範囲は異なります。首のあたりで起きれば両手足の麻痺が、胸や腰の背骨内で起きれば両足の麻痺が出やすいです。 一方で、左右の片方だけに麻痺が起きることもあります。 日常生活での困難は歩けない、座ったり立ったりしていられない、手の細かい動作ができないなどです。 着替えや食事、入浴といった日常生活動作が難しくなり、介助が必要となる場合もあります。リハビリテーションが重要となりますが、どれくらい回復するかは個人差があります。 感覚障害(温痛覚・振動感覚・位置感覚の障害など) 感覚障害とは、以下に示す感覚が鈍くなったり消失したりする障害です。 熱さ・冷たさ 痛み 触覚(触られている感覚) 振動感覚(震えを感じとる感覚) 手足の位置感覚 など 感覚障害も、出血が起きた部位によって範囲が異なります。首のあたりで出血が起きれば両手足に感覚障害が出やすく、胸や腰で起きれば下半身に症状が出ることが多いです。また、左右どちらかだけに症状が出ることもあります。 日常生活では、やけど・けがに気付きにくくなります。歩くときにバランスが取りにくい、箸を使いにくいなどもよくある症状です。 運動障害と同様、リハビリテーションによって回復が見込める場合があります。 膀胱直腸障害(尿失禁・頻尿・便秘・頻便など) 膀胱直腸障害とは、排泄に関する障害です。 排尿に関する症状は以下の通りです。 尿意切迫感 頻尿 尿失禁 排尿困難 残尿感 など また、排便に関する症状として以下が挙げられます。 便秘 排便困難 便失禁 頻便 など 日常生活では、突然の尿意や便意あるいは失禁により、生活に大きな支障をきたすでしょう。 逆に排尿困難や便秘があると、お腹の張りや不快感につながります。外出時のトイレの不安から、活動範囲が狭くなる方も多いです。 症状に応じて自己導尿や排便コントロールを身につけたり、薬の力を借りたりして適切に管理することが大切です。 その他(呼吸障害・体温調節障害・起立性低血圧など) 脊髄硬膜外血腫では、運動・感覚・膀胱直腸障害以外にもさまざまな後遺症の可能性があります。 呼吸障害は、頸椎の上の方で出血が起きた場合の症状です。呼吸に必要な筋肉が麻痺し、人工呼吸器が必要となる場合もあります。 自律神経が障害されれば、体温や血圧の自動調節がうまくいかず、体温調節障害や起立性低血圧などを引き起こします。自律神経への影響が大きくなるのは、胸椎より上で出血が起きた場合です。 筋肉が緊張しすぎる「痙縮」では手足が突っ張ったり、意識しないのに動いてしまったりします。ビリビリとした痛みや刺すような痛みを感じる場合は「神経障害性疼痛」かもしれません。これは神経が傷ついたことで、外傷がない部位でも痛みを感じる症状です。 脊髄硬膜外血腫の治療法 脊髄硬膜外血腫の治療法は、手術をしない保存的治療と、手術による外科的治療に分けられます。どちらを選択するかは、症状の程度や持続時間、出血が止まりにくい要因の有無を考慮して決定します。 保存的治療|症状が軽度の場合 保存的治療では安静を保ち、必要に応じて止血剤や降圧剤を投与します。保存的治療を選択する明確な基準はありません。(文献2)脊髄硬膜外血腫102例を分析した報告では、以下の両方に当てはまれば、保存的治療での回復も期待できるとされています。(文献3) 血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を使っていない 運動機能が完全に麻痺していない 上記の片方だけに当てはまる場合も、保存的治療を選択する場合があります。抗凝固薬を使用中なら、必要に応じて効果を打ち消す薬を投与します。 保存的治療では、注意深い経過観察が重要です。症状の変化を定期的に確認し、保存的治療を続けるか手術に変更するかを判断するのです。 麻痺が出てから15時間以内に症状が回復に向かえば、出血が自然に止まって血腫の吸収が始まり、神経への圧迫がゆるんできていると考えられます。(文献3)この場合は自然に完治する可能性が高いとされます。 外科的治療|症状が重篤な場合 運動機能が完全に麻痺している場合や、神経症状の進行が見られる場合は速やかに外科的治療を検討します。少しでも麻痺が見られれば速やかに手術すべきとの考えもあります。 発症から24時間以内に手術できれば、重度の麻痺から回復できる可能性が高まるとの報告もあり、素早い判断が重要です。(文献3) 脊髄硬膜外血腫の手術では、血腫ができている部分の背骨の一部(椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分)を削り、奥にある血腫を取り除きます。(文献1)手術用の顕微鏡を使って血腫を除去し慎重に止血すれば、脊髄を圧迫する原因はなくなります。 脊髄硬膜外血腫に対するリハビリテーション 初期治療後に残った症状は、リハビリテーションを行いながら改善を目指します。 リハビリテーションとは、病気や怪我の後に社会復帰を目指して行う訓練の総称です。 病気や怪我以前の生活水準を目指し、日常生活を見据えた身体的訓練のほか、不安や無力感などの精神的な障害には心理的訓練、また必要に応じて職業訓練も行われます。 リハビリテーションに携わるスタッフは、医師や看護師に加えて、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのスペシャリストです。 病院で行われることもあれば、リハビリ専門施設で実施されることもあります。 脊髄硬膜外血腫の急性期リハビリ 怪我や病気を患った直後の急性期は、まず全身状態を落ち着かせ、損傷や障害を最低限に抑えるためのリハビリテーションが必要となります。 具体的には、以下の訓練を実施します。(文献5) 頸髄や上位胸髄の損傷による呼吸機能低下に対しては呼吸訓練 手術後にうまく寝返りができない場合には、床ずれ予防のために体位変換訓練 ベッド上で動けない間に関節が固まってしまわぬように関節可動域訓練 全身状態が安定後のリハビリ 全身状態が落ち着いた後は、症状に合わせて積極的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。 脊髄硬膜外出血によって脊髄が大きなダメージを受けた場合は、神経障害などを完全に取り除くのは難しく、後遺症が出ることが多いでしょう。 そのため、早期からのリハビリテーションを通じて、残存した能力を強化し、必要な筋力や柔軟性を取り戻します。 具体的には以下を実施し、合併症を避けて自分で尿路管理できることを目指します。 両下肢の麻痺(対麻痺)の場合には上肢の筋力を高め、プッシュアップ動作を練習し、車椅子の訓練 排尿障害を患っている場合は、腹壁徒手圧迫法や反射誘発、自己導尿法などの指導 脊髄硬膜外血腫の予後 脊髄硬膜外血腫はまれな疾患で、死亡率や予後についての情報も少ないのが現状です。 最初の運動麻痺が軽度の場合や、重度であっても早く血腫を取り除ければ良好に回復する傾向がありますが、確実に回復するかどうかは一概にはいえません。 海外で脊髄硬膜外血腫の報告を1000例以上集めて検討した論文では、死亡が確認された例は7%だったと報告されています。年齢別では40歳以上が9%、40歳未満が4%で、治療法によらず40歳以上では死亡率が有意に高くなると報告されました。(文献8) 後遺症については、初めの症状が軽度であった患者群では、8.5%がわずかな障害を示すのみでした。一方で、初めの症状が重篤だった患者群では、28.3%に軽度の障害が残っています。(文献8) また、日本国内のある病院では、自院で治療を行った16症例を分析しました。この報告では、完全治癒が10例(2回発症し2回とも完全治癒した例を含む)、軽度の運動麻痺が残ったケースが6例、死亡が1例でした。死亡例は、合併していた大動脈解離と腎不全が直接の原因とされています。(文献9) 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症に対する再生医療 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。脊髄硬膜外血腫の手術後に残ってしまったしびれ、麻痺などの後遺症に対する治療として「幹細胞治療」が適応される可能性があります。 当院リペアセルクリニックで行う再生医療「自己脂肪由来幹細胞治療」では、患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応のリスクが極めて低い治療法です。 日本での一般的な幹細胞治療は、点滴によって血液中に幹細胞を注入するものです。しかし、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまいます。 そこで当院では、損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する「脊髄腔内ダイレクト注入療法」を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与します。 幹細胞の培養には時間を要しますが、治療そのものは短時間の簡単な処置で、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症による神経損傷に由来する麻痺やしびれ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施しております。 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症にお悩みの方は、ぜひ一度リペアセルクリニックへお問い合わせください。 まとめ|脊髄硬膜外血腫の後遺症への理解を深めて正しい治療法を選択しましょう 脊髄硬膜外血腫を発症した場合、保存的治療または外科手術により治療を行います。麻痺の程度や、出血しやすい要因を考慮して治療を選択しますが、症状の変化に応じた素早い判断が重要です。 また、後遺症には運動障害や感覚障害、排尿・排便障害などがあります。回復には早期のリハビリテーションによる残存能力の強化や、合併症予防のための訓練が大切です。 さらに、多大なダメージを受けてしまった神経を元に戻す治療がなかった中で、近年になって再生医療が多くの患者様へ提供可能となりました。 当院では入院不要、外来診療のみで再生医療を受けられますので、気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献 (文献1) 日本脊髄外科学会「特発性脊髄硬膜外血腫」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original63.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献2) 中村直人ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の臨床診断と治療方針」『脊髄外科』32(3), pp.306-310, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/32/3/32_306/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献3) 武者芳朗ほか.「急性脊髄硬膜外血腫に対する保存療法の適応と手術移行時期」『脊髄外科』29(3), pp.310-314, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_310/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献4) 西亮祐ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫に対する当院での治療成績の検討」『済生会滋賀県病院医学誌』32, pp.15-20, 2023 https://www.saiseikai-shiga.jp/content/files/about/journal/2023/journal2023_4.pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献5) 日本リハビリテーション医学会「脊髄損傷のリハビリテーション治療」日本リハビリテーション医学会ホームページ https://www.jarm.or.jp/civic/rehabilitation/rehabilitation_03.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献6) 日本脊髄外科学会「脊髄損傷」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original62.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献7) 吉原智仁ほか.「当科で経験した脊髄硬膜外血腫の 3 例」『整形外科と災害外科』65(4), pp.845-848, 2016年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/65/4/65_845/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献8) Maurizio Domenicucci, et al. (2017). Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases.J Neurosurg Spine, 27(2), pp.198–208. https://thejns.org/spine/view/journals/j-neurosurg-spine/27/2/article-p198.xml?tab_body=pdf-27560 (Accessed: 2025-03-21) (文献9) 原直之ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の 16 症例の臨床分析 ―脳卒中との類似点を中心に―」『臨床神経学』54(5), pp.395-402, 2014年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054050395.pdf(最終アクセス:2025年3月21日)
2024.07.23 -
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
脊髄出血という病態を聞き慣れない方もいらっしゃると思います。非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 脊髄出血は脊髄血管障害の一つであり、脊髄の血管奇形や血管腫による脊髄血管、加えて外傷によって引き起こされます。症状としては、痛みや麻痺、感覚障害を生じます。 この記事では、脊髄出血の原因や症状について、さらに詳しく解説しています。 脊髄梗塞については、こちらの記事をご参照ください。 脊髄血管障害【脊髄出血】について まず脊髄とは、脳から背骨の中を腰に向かって走る太い神経のことを言います。 脳からの指令を全身の筋肉に伝えて動かしたり、逆に筋肉や皮膚など末梢からの情報を脳に伝える伝導路としての役割を果たしています。 脳血管障害である脳梗塞や脳出血は聞いたことがあるかと思います。これと同じことが脊髄でも起きることがあり、それを【脊髄血管障害】と呼びます。 脊髄への血管が何らかの原因で閉塞してしまうと脊髄梗塞、脊髄内や脊髄周辺に出血を生じた場合には【脊髄出血】となります。 これらを専門的にみる診療科は、主に脳神経外科となります。 脊椎は上から頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、そして尾椎から成り、それに合わせて脊髄も頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、そしてそれより下の神経は馬尾と呼んでいます。 どのレベルの脊髄が障害されたかによって、出現する神経障害も変わってきます。 脊髄出血の分類 脊髄は3層の膜に覆われており、内側から順に軟膜、くも膜、硬膜となっています。 このうちどこから出血しているかによって、分類が変わります。 脊髄内の出血は髄内出血、軟膜とくも膜の間の出血は脊髄くも膜下出血、くも膜と硬膜の間の出血は脊髄硬膜下出血、そして硬膜よりも外側の出血は脊髄硬膜外出血と呼ばれます。 脊髄出血の頻度や患者背景、出血部位について 脊髄出血は非常に稀な疾患であり、1826年から1997年まで、たった613例しか報告されていません。 その後の医療発展や画像検査技術の向上により、脊髄出血の報告数も増えてきましたが、それでもなお稀な疾患であります。 脊髄出血1010症例を検討した報告では、患者さんの平均年齢は47.97歳(年齢幅:0〜91歳)であり、6割以上が男性でした。 障害部位として多かったのは下位頸髄や下位胸髄であり、病変範囲は2椎体間以上に渡ことが多く、最大で6椎体間分にも広がっていました。 脊髄出血の分類別に見ると、脊髄硬膜外出血の頻度が最も多くなっています。 脊髄出血の原因 下記が主な脊髄出血の原因一覧となります。 脊髄出血の原因の大半を占める 外傷性(交通事故や転落など) 外傷の次に多いのが血管奇形によるもの 脊髄髄内動静脈奇形 傍脊髄動静脈奇形 脊髄海綿状血管腫 傍脊髄動静脈瘻 脊髄硬膜動静脈瘻 その他 硬膜外動静脈瘻 医原性(腰椎穿刺や脊椎麻酔などの合併症) これらの血管奇形は、脈管の発生異常によって起きます。 海綿状血管腫も厳密にいうと腫瘍ではなく、血管奇形です。異常血管の塊が膨らんで海綿状になる病気で、大きくなると脊髄を圧迫したり、また出血することで症状を呈します。 動静脈瘻についてですが、通常は血液が動脈から毛細血管に入り、そこで脊髄やその外側の膜に栄養を届けた後に静脈に流れていきます。 しかし、血管奇形によって毛細血管を介さずに動脈からそのまま静脈に血液が流れてしまうことがあり、これを瘻、あるいはシャントと呼んでいます。 上記原因のほか、稀ですが下記のものも原因として知られています。 脊髄腫瘍 血液疾患 抗血栓薬(血液を固まりにくくする薬剤) 膠原病(全身性自己免疫疾患) 静脈性脊髄梗塞(脊髄静脈の静脈が閉塞する病態) 妊娠後期 抗血栓薬の使用は血栓塞栓症予防に必要な薬剤であり、リスクなしで休薬できるものではありません。 しかし、これに関しては、これ単独ではなく、他の誘因も合わせて脊髄出血を引き起こしていると考える人も少なくありません。 実際には全例で原因が特定されるわけではなく、原因不明のものも中にはあります。 脊髄出血の症状について 出血量が少ないうちは臨床的に症状を認めないこともありますが、神経を圧迫する出血量であれば症状が出現します。 出血は急に起きることが多いため、一般的には突発的に発症します。 しかし、中には症状が徐々に進行するものや、受傷時点から24時間以上、遅いものでは数日経ってから症状を呈した症例もあります。 多くの場合は急激な背部痛の後に、運動障害や感覚障害が現れます。 出血の起きた部位によって運動障害の出る部分が変わってきます。 ●胸椎部での出血の場合… 下肢麻痺、頚椎部ならば下肢に加えて上肢にも麻痺が及ぶことがあります。 出血量が多いほど血液の塊が大きくなるため、症状が重くなる傾向があります。 ●硬膜外や硬膜下での出血場合… ナイフで刺されたような激痛に加え、強い脊髄圧迫症状が出るとされます。 ●くも膜下での出血の場合… 発熱や頭痛、嘔吐などの髄膜炎症状を伴うことがあり、意識障害やけいれんも相まって、脊髄ではなく脳での出血を強く疑われることがあります。 多くの場合には対麻痺といって、両側下肢に対称性に筋力低下を認めます。 横断的に見て脊髄が全体的に圧迫されていると、両側下肢の完全麻痺を生じます。 脊髄が半側だけ、あるいは一部外側だけの障害となると、Brown-Séquard(ブラウン・セカール)症候群となり、特徴的な運動障害と感覚障害を認めます。 具体的には、障害された側の不全麻痺(一部の感覚や運動機能は残る麻痺)と触覚・位置覚・振動覚の消失、そして障害を受けていない側は温痛覚の消失を認めるというものです。 上記のような症状を認めた場合には、緊急手術になる可能性もあります。すぐに脳神経外科のある病院を受診し、検査してもらいましょう。 脊髄出血の検査所見 脊髄出血は早期発見・早期治療が予後を左右します。 検査としてはCT検査やMRI検査を行いますが、MRIの方が得られる脊髄に関する情報を多く得られるため、診断方法としてより有用とされています。MRIにおいて、時間経過とともに血腫の見え方は変わってきます。 さらに、外傷性の脊髄出血では複数の層にまたがって存在する場合があり、そのような状態では診断が難しいこともあります。 他には、血管内に細い管を入れ、そこから造影剤を流すカテーテル検査を行っている施設もあります。利点としては、MRIでは確認しにくい細かい血管もみることができます。 出血の箇所や範囲や治療戦略にも関わってくるため、専門医による的確な診断が必要となります。 脊髄出血の治療 基本的な治療は、手術によって神経への圧迫を除去することになります。 脳神経外科での外科的手術のほかに、放射線科にて血管からカテーテルという細い管を通し、それを用いて出血している血管を塞ぐ血管内治療があります。 後遺症として運動障害や感覚障害が残ってしまった場合、リハビリテーションでの機能回復を目指します。 さらに現代は、再生医療によってダメージを受けた神経を再生、あるいは神経を新生する根本的治療に注目が集まっています。 治療や予後に関する詳細は以下の記事で解説しています。 脊髄出血についてのQ&A Q:脊髄ショックと言われましたがよくなりますか? A:脊髄ショックは一過性と言われており、多くの場合は数時間で回復しますが、中には数週間かかることもあります。ショックから離脱すると、脊髄反射が回復しますが、まだ脳からの制御が完全に伝わるわけではありません。突っ張るような「痙性」が起こります。どこまで回復できるかは、その後の経過次第でしょう。 Q:MRIで脊髄血管奇形があると言われましたが、血管造影検査を勧められています。なぜいくつも検査をするのですか? A:血管の構造の評価や動脈と静脈が短絡した「シャント部」など細かい血管の評価はMRIでは難しいです。そのため、造影剤を用いた脊髄血管造影撮影(カテーテル検査)が行われます。この先の治療方針の決定に繋げるためにも必要な検査です。 まとめ脊髄出血とは?脊髄血管障害の原因や症状 脊髄血管障害の一つである脊髄出血は、脊髄内あるいはその周辺に出血を生じた状態のことを言います。多くは外傷性ですが、次に多いのは脊髄血管奇形によるものとされています。 一般的に症状は突然に見られ、背部痛の後に運動障害や感覚障害を認めますが、中には1日以上経ってから症状が出現する症例もあります。 出血の場所や程度によりますが、早急な治療を行えば回復も見込めます。 ただし、脊髄へのダメージが大きい場合や障害を受けてから時間が経ってしまった場合には、後遺症が残ります。 以前までは後遺症に対しての治療といえばリハビリーテーションのみでしたが、現代では再生医療による根本的治療が可能となり、実際に脊髄障害による長年の症状を改善できた症例も見受けられます。 当院では入院不要で外来のみで再生医療を受けることができます。気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献一覧 Kreppel D, Antoniadis G, et al. Spinal hematoma: a literature survey with meta-analysis of 613 patients. Neurosurg Rev. 2003; 26: 1–49. Domenicucci M, Mancarella C, et al. Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases. J Neurosurg Spine. 2017: 27;198–208. Moriarty H K, Cearbhaill R O, et al. Mr imaging of spinal haematoma: a pictorial review. Br J Radiol. 2019: 92; 20180532. Mashiko R, Noguchi S, et al. Lumbosacral Subdural Hematoma—Case Report—. Neurol Med Chir. 2006; 46: 258–261.
2024.07.16 -
- 幹細胞治療
- 再生治療
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- 脊椎、その他疾患
- 内科疾患
最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) 感覚障害(主に温痛覚低下) 膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|PubMed 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=D-THAJzcRPE このように、脊髄梗塞では確立された治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再生・修復する機能をもちます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 脊髄動脈の疾患 栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 ▼こちらも併せてお読みください。
2024.07.02 -
- 脊髄損傷
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失ったはずの腕や脚が痛むのはどうして? 幻肢痛に効果的な治療法はあるの? この記事に辿り着いたあなたは、幻肢痛に悩んでおり、なんとかして痛みを和らげたいと感じているのではないでしょうか。 幻肢痛の治療法には「薬物療法」や「鏡療法」などの選択肢があり、複数の方法を組み合わせて治療を進めることもあります。ご自身の状態に合った治療法を試すことが大切です。 本記事では、幻肢痛でよく用いられる治療法やセルフケア、そして新しい治療法について解説します。幻肢痛に悩んでいる、また幻肢痛に苦しむ方の力になりたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。 幻肢痛に対する4つの治療法 幻肢痛(げんしつう)とは、事故や病気で四肢を切断したあと、失ったはずの腕や足に痛み・しびれを感じる現象です。四肢の切断によって脳内にある身体の地図が書き換わり、認識と感覚の不一致が生じて起こるといわれています。 幻肢痛の一般的な治療方法は、以下の4つです。 薬物療法 鏡療法 電気刺激療法 リハビリテーション ひとつの治療法で痛みが緩和され、一定の効果が得られる場合もありますが、さまざまな方法を組み合わせて治療を進めていくケースが多いです。 本章を参考に、幻肢痛における治療法の選択肢を知っておきましょう。 薬物療法 薬物療法では、以下のような種類の薬を使用します。 鎮痛薬 抗けいれん薬 抗うつ薬 抗てんかん薬 抗不整脈薬 オピオイド系鎮痛薬(モルヒネやドラマドール)が使われるケースもありますが、依存や乱用のリスクが高く副作用も懸念されるため、使用は慎重におこなうべきだと考えられています。 また、局所療法として、カプサイシンクリームの塗布やリドカインスプレーの噴霧などがおこなわれる場合があります。 いずれにしても、薬物療法は作用と副作用のバランスを考え投与するのが望ましいため、主治医と十分コミュニケーションを取りましょう。 鏡療法 鏡療法は、ミラーセラピーとも呼ばれている方法です。 健常な四肢を幻肢があるかのように鏡に映します。健常な四肢を動かすと、鏡にも同様に映るため、あたかも幻肢を動かしていると錯覚するのです。 これを繰り返すうちに、「幻肢が思った通りに動いている」と脳が認識するようになります。知覚と運動の情報伝達が脳内で再構築され、幻肢痛が軽減していきます。 具体的な方法は以下のとおりです。 1. 身体の正面中央付近に適切な大きさの鏡を設置します。 2. 切断部位が見えないようにし、健常肢が鏡に映るように調整します。 3. 鏡に映った健常肢の像がちょうど幻肢の位置と重なるようにします。 4. 健常肢側から鏡を見ると、幻肢があるかのように鏡に映ります。 5. その状態で健常肢でさまざまな動きをし、鏡の像を集中して見ます。 鏡療法をおこなう時間は決められていませんが、15分~30分程度おこなうのが一般的です。ただし、疲労状況や集中できる時間を考慮して、調整しましょう。 電気刺激療法 電気刺激療法には、3つの種類があります。 脊髄刺激 視床刺激 大脳皮質刺激 脊髄刺激を与えると、痛みが脳に伝わりにくくなります。刺激を与えると、痛みの伝達を抑制する物質が増加するため、神経の興奮を抑制して痛みの緩和につながるのです。 また、大脳皮質にある一時運動野や視床へ電気刺激を与えても、幻肢痛を和らげるケースが報告されています。刺激を与える部位は、切断部位や神経の残っている部分によって治療方法が異なります。 リハビリテーション 義肢や装具には、失った機能や役割を補うだけでなく、幻肢痛を和らげる効果があります。 義肢や装具の装着は、鏡療法と同様に脳に失った四肢を認識させるため、義肢の装着が日常的になると幻肢痛も消失していく場合が多いです。 ただし、幻肢痛がひどく、義肢や装具の装着ができない場合もあります。リハビリは、医師をはじめ、理学療法士や義肢装具士など、医療者と相談しながら進めていきましょう。幻肢痛は、常に一定に感じているわけではなく、突然襲われる場合もあります。 寝ていても飛び起きてしまうような突然の痛みに襲われたり、失った手足が締め付けられるように感じたり、痙攣している、幻肢がねじれる、しみるなど、感じ方や程度はさまざまです。 数年で幻肢痛がなくなる方もいれば、長年痛みに苦しめられる方もいます。そのため治療法の選択は、医師をはじめとするさまざまな医療者と相談し、それぞれの痛みの程度やライフスタイルに合わせた継続できる治療法の選択が必要でしょう。 幻肢痛治療経験者の中には、治療に成功し、徐々に痛みが緩和され消失した方もたくさんいます。 「なるべく痛みではなく、他に意識が向くようにしていると徐々に痛みが引いた」「義足をつけてリハビリを続けていると幻肢痛が緩和した」など、幻肢痛はすぐになくすことはできませんが、治療を続け徐々に痛みから解放された方は多くいます。 しかし、長年幻肢痛に悩まされているケースもあります。幻肢痛の治療は、根気強く治療を続けていくモチベーションが必要です。 幻肢痛のセルフケア方法2つ 幻肢痛のセルフケアをする方法として、以下2つが挙げられます。 ストレスをコントロールする 家族・支援者によるサポートを受ける 本章で幻肢痛のセルフケア方法を知り、医療機関での治療以外にできることがないか検討してみましょう。 ストレスをコントロールする 適切なストレス管理で痛みを和らげることもできます。 幻肢痛患者は、痛みによって、不安や怒り、恐れなど、さまざま感情が入り混じっている心理状態です。慢性的なストレスは、痛みを過敏に感じさせるため、幻肢痛が悪化する原因にもつながります。 自分でできるストレスのコントロール方法は、以下の通りです。 趣味に没頭する 散歩をする 映画やドラマを見る 好きな物を食べる お風呂にゆっくりつかる 規則的な睡眠をとる 香りを楽しむ 声を出して笑う 日光を浴びる 過度な運動などの幻肢痛が悪化するようなものは避け、まずは自分ができそうなものから始めてみましょう。暴飲暴食、過度な飲酒・喫煙などはかえって体調不良や睡眠不足の原因となり、痛みの悪化を招くため注意が必要です。 家族・支援者によるサポートを受ける ストレス管理は本人だけでなく、周囲からのサポートが必要になるケースもあります。 なるべくストレスを抱え込まず、周りの人の力を借りながらうまくコントロールすることが大切です。 家族・支援者ができるサポートは、以下の通りです。 痛みが一番のストレスなら、残存した方の腕や足を軽くマッサージしてもらう リハビリがストレスなら、リハビリのやり方やメニューを主治医と相談する 生活の不自由さがストレスなら、補助グッズの使用や利用できる支援の導入を検討する まずは自分がストレスに感じていることは何かを、家族やサポートしてくれる人に話して理解してもらう必要があります。 また、精神的に不安定になっている場合は、心療内科・精神科の受診やカウンセリングを受けることなども検討しましょう。 新たな技術を用いた幻肢痛の治し方2選 四肢の一部を失った方が、幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をしていくのは、とても困難な道のりでしょう。 幻肢痛には、従来先述したような4つの治療法が用いられていますが、IT技術の進化に伴い、以下2つのような新しい治療法も登場しています。 VR技術による「遠隔セラピー」 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 体験を行う交流会もあるため、積極的に参加することで新たな発見があるかもしれません。お住まいの地域での開催がないか調べてみましょう。 VR技術による「遠隔セラピー」 VR空間のなかで、失った四肢を補間し、脳を錯覚させるセラピーも開発されています。幻肢痛を感じる患者とセラピストが一緒にVR空間の中に入り、手足を動かすイメージを共有する手法です。 3Dを利用したリアルな空間なので、実際にリハビリをしているような雰囲気が味わえます。 さらに、VR空間でセラピーを行うため、セラピストが近くにいなくても、いつでもどこでも実施が可能です。 鏡療法は切断部位によって有効でない場合もありますが、VR技術による遠隔セラピーならばより多くのケースに対応できます。 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 BCIによる「脳のトレーニング」では、脳活動を計測し、得られた計測信号から脳情報を読み解き、それに基づいて架空の手足の映像をオンラインで動かします。 架空の手足を動かすことで、脳の変化を促し、新しい感覚を得られたり、治療につながっていくことを目的としたものです。 この訓練を3日間行うことで、訓練後5日間の痛みが30%以上減弱した調査結果もあります。 まとめ|自分に適した幻肢痛の治療法を検討しよう 本記事では、幻肢痛の治療法とセルフケアの方法について詳しく解説しました。 治療の際には、失った部位や痛みの状態に合わせた方法を選択する必要があります。 また、IT技術を活かし、リアルに失った四肢を感じられるような遠隔セラピーやBCIによるトレーニングといった新しい治療法も開発されています。日々情報収集をおこないながら、自分に合った治療法を見つけましょう。 当院「リペアセルクリニック」は、幹細胞の働きを活かし、本来の機能ができなくなった臓器や骨などを修復する「再生医療」を扱うクリニックです。再生医療には、膝や腰の痛みを改善させる治療もあります。再生医療に興味を持たれた方は、ぜひ当院のホームページをご覧ください。 参考文献一覧 (文献1) 住谷昌彦 幻肢の感覚表象と幻肢痛 バイオメカニズム学会誌Vol. 39,No.2(2015) (文献2) インタビュー「最先端の幻肢痛治療に見る、「脳のリプログラミング」の可能性」 (文献3) UTokyo バーチャルリアリティー治療で緩和される幻肢痛の特徴 (文献4) 住谷昌彦、宮内哲ほか 幻肢痛の脳内メカニズム 日本ペインクリニック学会誌Vol.17No.1 2017 (文献5) UTokyo 失った手足の痛みを感じる仕組み (文献6) 日本ペインクリニック学会 「神経障害制疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」 (文献7) 緒方徹、住谷昌彦「幻肢痛の機序と対応」Jpn J Rehabil Med 2018;55:384-387 (文献8) ミラーセラピーについて | 脳梗塞集中リハビリセンター │ 社会医療法人 生長会 (文献9) 大内田裕 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献10) 片山容一、笠井正彦 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献11) 落合芙美子 日本義肢装具学会誌「義肢装具に対するチームアプローチ」日本義肢装具学会誌Vol.13 No.2 1997 (文献12) 幻肢痛VR遠隔多人数セラピーシステム|JDP (文献13) 事故で失った幻の手の痛みが脳活動を変える訓練により軽減 - ResOU
2024.06.19