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中心性脊髄損傷とは、主に頚髄の中心部分が傷つくことで腕の麻痺やしびれが現れる脊髄損傷の一つです。転倒や交通事故などが原因で起こりやすく、とくに高齢者に発症するケースが多く見られます。 本記事では、中心性脊髄損傷の症状や原因、診断方法などを解説します。治療期間の目安やよくある質問もまとめているので、ぜひ参考にしてください。 また、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。中心性脊髄損傷について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 中心性脊髄損傷とは 中心性脊髄損傷とは、主に首にあたる頚髄の中心部が損傷し、手足の麻痺やしびれが現れる脊髄損傷の一種です。頚髄の中心部分には上肢の神経が多く通っているため、この部分が傷つくと腕や手の動きに障害が出やすくなります。 脊髄の損傷程度によっては、適切なリハビリの継続により日常生活動作の回復が期待できます。 中心性脊髄損傷は上肢に症状が現れやすい点が特徴です。診断後は早期に治療方針を決定し、継続的にケアを進めることが重要です。 【関連記事】 軽度の脊髄損傷とは|知っておきたい症状・治療法と後遺症の可能性を医師が解説 脊髄損傷急性期とは|症状回復の重要な期間といわれる理由や治療法を医師が解説 中心性脊髄損傷の症状 中心性脊髄損傷の主な症状には、上肢の麻痺や手・指のしびれ、感覚障害などがあります。以下でそれぞれ見ていきましょう。 上肢の麻痺 中心性脊髄損傷では、下肢よりも上肢に麻痺が現れやすい点が特徴です。脊髄は部位ごとに支配する身体の領域が決まっており、頚髄は上肢の機能と深く関わっています。脊髄の中心部が損傷すると、上肢へ向かう神経の伝達が妨げられるため、腕の動作や力の入りにくさが生じやすくなります。 物を持ち上げたり腕を動かしたりといった動きが難しくなり、日常生活に支障が出るケースも少なくありません。上肢の麻痺は中心性脊髄損傷の代表的な症状であり、特徴を把握することが治療やリハビリ方針の判断に役立ちます。 手や指のしびれ 手や指のしびれが生じるのも中心性脊髄損傷の症状の一つです。上肢に向かう感覚の神経は脊髄を通って伝わるため、この部分が傷つくと感覚が鈍くなったりしびれが現れたりします。 また、以下のような動作が困難になり日常生活に支障が出る場合があります。 ボタンを留める 箸を使う 細かな物をつまむ など なお、感覚や巧緻性(細かい動作を行う能力)の変化を確認する方法の一つが「10秒テスト」です。左右の手それぞれで10秒間グーパー動作を繰り返し、回数を測定します。20回を下回る場合、巧緻運動障害の可能性があります。 手や指のしびれの程度を把握することで、適切な治療につなげやすくなるでしょう。 感覚障害 中心性脊髄損傷では、手指を中心に温度や痛みの感じ方が変化し、感覚が鈍くなるケースがあります。感覚に関わる神経は脊髄を通って伝達されるため、損傷があると刺激を正しく受け取りにくくなるのです。 触れたときの感覚が弱くなったり、痛みを感じにくくなったりする変化がみられます。また、損傷の範囲によっては、排尿や排便といった自律的な働きにも影響を及ぼすケースがあります。 感覚が鈍くなるとケガに気づきにくくなるため、日常の動作では注意が必要です。 中心性脊髄損傷の原因 中心性脊髄損傷の原因は以下のとおりです。 転倒 交通事故 加齢に伴う脊柱管の狭窄 スポーツ中の接触や外傷 など 頚髄は衝撃の影響を受けやすく、強い外力が加わると中心部が損傷しやすくなります。転倒や交通事故は幅広い年代でみられる要因の一つです。とくに高齢者は加齢による脊柱管の狭窄があると、損傷が起きやすくなります。また、重い物を持ち上げた際の負荷が引き金になるケースも少なくありません。 外部からの衝撃だけでなく、加齢による頸椎の変化も関与するため、自身の年齢や生活環境に応じたリスクを理解しておくことが重要です。 中心性脊髄損傷の治療期間の目安 中心性脊髄損傷の治療期間は、受傷後おおむね半年〜1年が目安とされています。脊髄の機能は時間の経過とともに安定していき、回復が期待できる期間は限られているためです。 とくに受傷後数カ月〜1年の間は、動作や感覚の改善がみられるケースがありますが、その後は大きな変化が出にくくなります。ただし、年齢や損傷範囲によって回復の経過には個人差があります。 中心性脊髄損傷の診断方法 中心性脊髄損傷の診断方法には、MRIによる画像診断に加えて反射テストや知覚検査などの神経学的検査を実施するのが一般的です。以下で代表的な検査を解説するので、参考にしてください。 MRIによる画像診断 中心性脊髄損傷の診断には、MRIによる画像診断が欠かせません。MRIは脊髄や周囲の構造を詳細に描出でき、損傷の状態を正確に評価できるためです。 脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症(こうじゅんじんたいこっかしょう)の有無を確認できるほか、脊髄内部の信号変化を評価すると、損傷の範囲や重症度を把握できます。また、MRIは脊髄の圧迫や腫れの状態も評価できるため、手術適応を検討する際にも有効です。 MRIによる画像診断で得られる所見は、治療方針を検討する際の重要な情報です。 神経学的検査 神経学的検査では、反射・筋力・感覚の変化を確認し、神経損傷の範囲や程度を評価します。脊髄に損傷があると、反射の異常や筋力低下、感覚の鈍さが生じるため、身体の反応を調べることで影響の度合いが把握できます。 神経学的検査の例を下表にまとめました。 検査名 内容 反射テスト 腱や指を刺激し、反射の強さや異常反射を確認する 徒手筋力テスト 上肢の筋肉を動かす力を6段階で評価する 知覚検査 触覚・温度覚・痛覚の変化を調べる 巧緻性の評価 指先の器用さや細かな動作を確認する 上記のような複数の検査を組み合わせることで、神経の状態を総合的に判断しやすくなります。 中心性脊髄損傷の治療法 中心性脊髄損傷は早期の治療が重要です。主な治療法は、保存療法・手術療法・再生医療の3つで、損傷の程度や治療目的に応じて適切な方法が選ばれます。ここでは、それぞれの治療法を解説するので、ぜひ参考にしてください。 保存療法 中心性脊髄損傷の初期治療では、安静や頸椎の固定、薬物治療などの保存療法が基本です。受傷直後は脊髄への負担を最小限に抑え、炎症や腫れを広げないように管理することが重要です。 また、状態が安定した段階でリハビリを開始し、動作や筋力の改善を図ります。リハビリは機能の維持や改善に有効です。 高齢者においてもリハビリを継続した症例では歩行機能の維持が確認されており、訓練継続の有効性が報告されています。(文献1)受傷直後から適切な保存療法を進めることが大切です。 手術療法 中心性脊髄損傷では、脊柱管の狭窄や骨の変形により神経が圧迫されている場合に手術療法が検討されます。 骨の変形が強い場合や脊柱管が著しく狭窄しているケースでは、脊髄の圧迫を解除するために除圧術や固定術が行われます。ただし、中心性脊髄損傷は保存療法で改善が見られる例も多く、すべての患者に手術が推奨されるわけではありません。 手術療法は、年齢や損傷の範囲、日常生活への影響などを踏まえて慎重に判断されます。医師と相談しながら適切な治療方法を検討することが大切です。 再生医療 再生医療は、中心性脊髄損傷の治療法の一つです。自分の幹細胞を利用することで、身体が本来持つ再生能力を引き出し、炎症の抑制や組織の修復を目指します。 代表的な方法に、自己の幹細胞を用いる「幹細胞治療」や、血液中の成分を活用する「PRP療法」があります。当院では、おへその横からごく少量の脂肪を採取するだけで幹細胞を培養できる治療を採用しており、身体への負担が少ない点が特徴です。 術後の回復が比較的早いとされているため、手術に抵抗がある方や薬では十分な改善が見られない場合の選択肢として検討されます。 幹細胞治療によって頚髄損傷が改善した症例について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。 中心性脊髄損傷は治療とリハビリの早期開始が重要 中心性脊髄損傷は、転倒や交通事故などの衝撃により頚髄の中心部が損傷し、上肢の麻痺やしびれ、感覚障害などが現れる疾患です。高齢者では脊柱管の狭窄が発症の要因になっているケースもあります。回復は受傷後半年から1年間が目安とされており、この期間にどれだけ機能改善を図れるかが重要です。 薬物治療やリハビリを早期に開始し、継続して取り組むことで日常生活への影響を軽減します。医療機関と相談しながら、自分に合った治療法を選択することが大切です。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。中心性脊髄損傷で気になる症状がある方は、ぜひ公式LINEにご登録ください。 中心性脊髄損傷に関するよくある質問 中心性脊髄損傷のリハビリに禁忌事項はありますか? 中心性脊髄損傷のリハビリでは、損傷部位に強い負荷がかかる動作や、頸部に過度な負担がかかる姿勢は避けたほうがよいとされています。また、血流が悪くなるような不自然な姿勢を長時間続けることも控えてください。 リハビリは本人の損傷状態に合わせた強度で進めることが重要です。医師や理学療法士の指導のもとで適切な運動量を調整しながら進めましょう。 中心性脊髄損傷にステロイドは効果がありますか? 脊髄損傷には、衝撃で神経細胞が直接傷つけられる「一次損傷」と、その後に起こる炎症反応によってさらに組織が傷つく「二次損傷」があります。神経機能の回復には二次損傷の予防が大事であり、その予防にステロイドが期待されています。 ただし、ステロイドは副作用が強く、効果にも個人差があるため、必ずしもすべての患者に有効とは限りません。医療者の間でも有効性について意見が分かれる部分があるため、使用には慎重な判断が必要です。 参考文献 (文献1) 中心性頸髄損傷リハビリテーションの実学|日本リハビリテーション医学会 学術集会
2025.12.08 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
腰からお尻、脚全体にかけて痛みを感じる場合、坐骨神経痛の可能性が考えられます。坐骨神経痛は、その名のとおり、坐骨神経と呼ばれる末梢神経に痛みやしびれをきたす状態です。 痛みやしびれを放置すると、日常生活に支障をきたす可能性もあるため、違和感を覚えた際は早めに専門機関を受診しましょう。 本記事では、坐骨神経痛の概要や原因、症状について解説します。治療法や痛みを和らげる方法もまとめているので、坐骨神経痛の疑いがある方はぜひ参考にしてください。 また、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 坐骨神経痛に関する気になる症状が見られる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 坐骨神経痛とは 坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)とは、腰からお尻、太ももから膝にかけて伸びている坐骨神経にあらわれる痛みの症状です。 坐骨神経は、腰椎と仙椎から出る神経根がいくつか集まってできる神経をいいます。 この神経が圧迫や炎症などの障害を受けると、お尻から脚にかけて痛みやしびれが生じます。坐骨神経痛は病名ではなく、こうした症状の総称です。 坐骨神経痛の原因 坐骨神経痛は好発年齢が幅広く、原因もさまざまです。主な原因には、以下の3つが考えられます。 腰部脊柱管狭窄症 腰椎椎間板ヘルニア 梨状筋症候群 ここでは、各症状の特徴を紹介するので、坐骨神経痛の原因が知りたい方はぜひ参考にしてください。 腰部脊柱管狭窄症 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)とは、背中にある神経の通り道が狭くなり、神経を圧迫するときに生じる症状で、坐骨神経痛を発症する原因の1つです。原因はさまざまですが、主に加齢によって脊柱が変形し、神経を圧迫して発症するケースが多い傾向にあります。 腰部脊柱管狭窄症は、お尻から脚全体にかけて痛みやしびれなどの神経症状が生じます。悪化すると歩行が難しくなり、手術が必要になる可能性もあるため、気になる症状が見られた際は早めに医療機関に相談しましょう。 腰椎椎間板ヘルニア 坐骨神経痛は、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアが原因で生じる可能性もあります。腰椎椎間板ヘルニアは、背骨と各骨の間に存在し、クッションの役割を持つ椎間板と呼ばれる部位が圧迫されて痛みやしびれを発症する疾患です。 腰椎とは背骨のことで、5つの骨から成り立っています。ヘルニアは椎間板の飛び出し方によって種類が異なり、以下3つに分類されます。 正中型(せいちゅうがた)ヘルニア 傍正中(ぼうせいちゅう)ヘルニア 外側(がいそく)ヘルニア また、腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルは、軽度から重度までさまざまです。中等度レベル以降は、日常生活に支障をきたす場合があるため、軽度だからといって放置せず重症化する前に治療や改善を図る必要があります。 【関連記事】 腰椎椎間板ヘルニアの症状レベルと種類を医師が解説!手術するべき? 腰椎椎間板ヘルニアと坐骨神経痛の違いを解説|疼痛期間や治し方を紹介 梨状筋症候群 梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん)とは、脊椎の下部にある仙骨や尾骨全面から、太ももの骨の最上部に伸びている筋肉が圧迫されて痛みを発症する神経障害です。腰椎椎間板ヘルニアと症状が似ているため混同されやすいですが、梨状筋症候群では仙腸関節炎や椎間関節障害が原因で発症する報告もあります。(文献1) 梨状筋症候群は、デスクワークや運転など、長時間座っているときやゴルフや草むしりといった中腰で梨状筋に負担がかかる場合に、起こりやすい疾患です。また、梨状筋症候群は腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアに比べると、稀な疾患になります。 MRIやレントゲンなどの検査で見つけることが難しいため、原因がはっきりしない坐骨神経痛の場合は梨状筋症候群が原因の可能性も考えられます。 筋肉の衰え 坐骨神経痛の原因には、下肢筋肉の衰えも考えられます。腰回りやお尻を中心とした足腰の筋肉が衰えると、背骨を支える力が弱まり、坐骨神経に負担をかけるためです。 筋肉は、20歳をピークに1年に1%ずつ減少するといわれています。(文献2)そのため、加齢に伴う筋力低下も、坐骨神経痛の原因の1つです。 なお、足腰の筋力低下はロコモティブシンドロームの原因にもつながります。ロコモティブシンドロームになると、要介護や寝たきりになるリスクが高まるため、日頃から予防を心がけましょう。 坐骨神経痛の症状 坐骨神経痛の症状は人によって異なりますが、主に腰からお尻、脚全体にかけて、痛みやしびれが生じます。主な症状は、以下の通りです。 お尻や脚が痛くて眠れない 長時間立っていられない お尻の痛みにより長時間座り続けていられない 腰を反らすと痛みやしびれが生じる 中腰やかがむと痛みが強くなる 坐骨神経痛は、片肢に症状が出るケースがほとんどです。しかし、なかには両肢に症状が見られる場合もあります。症状が悪化すると日常生活に影響を与えるため、疑いがある方は早めに受診しましょう。 坐骨神経痛でやってはいけないこと 坐骨神経痛の発症や疑いがある場合、下肢に負担をかける動作は避けましょう。無理に負担をかけてしまうと、症状を悪化させる可能性があるためです。 坐骨神経痛でやってはいけないことには、次の行動が挙げられます。 重いものを持ち上げる 激しい運動をする 長時間座る 前屈みや背骨をねじる 体重を増やす など ただし、過度な安静はかえって回復を遅らせることがあるため、痛みの程度に応じて日常生活を送ることが大切です。 症状が強い場合や、どの程度動いてよいかわからない場合は、医師に相談しましょう。 坐骨神経痛の治療法 坐骨神経痛の治療法は、保存療法が一般的です。しかし、症状レベルによって治療法は異なるため、専門医に相談の上、適切な治療を行う必要があります。 坐骨神経痛では、主に次の治療法を行います。 薬物療法 神経ブロック療法 理学療法 認知行動療法 装具療法 手術療法 症状が重度の場合、手術療法が検討される場合もあります。治療には手術療法だけでなく、薬物療法や神経ブロック療法などの選択肢もあるため、自分に合った治療法を検討しましょう。 また、坐骨神経痛に対しては、再生医療が治療法の選択肢となるケースがあります。坐骨神経痛に対する再生医療の治療例については、以下の症例記事をご覧ください。 【関連記事】 坐骨神経痛が死ぬほど痛いときはどうする?痛みの原因や治療法を医師が解説 坐骨神経痛の痛みを和らげるブロック注射とは?効果や費用など医師が解説 坐骨神経痛を和らげる方法 ここでは、坐骨神経痛を和らげる方法を6つ紹介します。 湿布を貼る 市販薬を服用する 温める ツボを押す ストレッチを行う 寝方を変える 痛みの緩和を図りたい方は、ぜひ参考にしてください。 湿布を貼る 坐骨神経痛は、湿布を貼ることで症状の緩和が期待できます。しかし、湿布の貼る場所を間違えると、十分な効果を得られない可能性があるため、適切な位置を理解しておくことが大切です。 坐骨神経痛の痛みを軽減するのに効果的な場所は、以下の位置になります。 腰の下部 梨状筋 太ももの裏側 ふくらはぎ 湿布は、痛みやしびれを感じる部位にあわせて適切な位置に貼りましょう。また、湿布の種類は症状にあったものを選ぶのがポイントです。 市販薬を服用する 坐骨神経痛の痛みを和らげるためには、市販薬を服用するのも専門機関へすぐに行けない場合の対処法になります。坐骨神経痛に用いられる痛み止めは複数あり、その1つにタリージェがあります。 タリージェとは、坐骨神経痛の痛みを和らげるために処方される医薬品の1つです。末梢神経障害や、脊髄疾患による痛みに対して効果が期待できます。 ただし、タリージェは痛みの緩和が目的のため、服用したからといって症状が改善されるわけではありません。また、副作用がある点に留意の上、服用を検討する必要があります。 温める 坐骨神経痛は、患部を温めると痛みの緩和が期待できます。患部を温めることで、血行促進や神経の圧迫緩和などの効果が期待できるためです。 坐骨神経痛の場合、以下の部位を温めましょう。 腰部 お尻 太ももの裏側 温める際は湯船に浸かったり、使い捨てカイロを使ったりして痛みの緩和を図る方法があります。ただし、温めるのが良いのは慢性症状の場合です。発症の初期段階となる急性炎症期には、炎症を抑えるために冷やす必要があります。 ツボを押す 坐骨神経痛の痛みを和らげる方法には、ツボ押しがあります。ツボ押しでは血流や神経、筋肉など、体の働きにアプローチできるためです。 坐骨神経痛に効果的なツボは、以下の8つです。 部位 ツボの位置 お尻 環跳(かんちょう):お尻のやや外側 承扶(しょうふ):お尻の下に位置する横じわ中央部 手部 腰腿点(ようたいてん):手の甲にある人差し指と中指の間、および薬指と小指の間 合谷(ごうこく):親指と人差し指の付け根・親指にぶつかる部分 下肢 委中(いちゅう):膝裏の中央部 陽陵泉(ようりょうせん):膝の外側にある大きな骨の下部分 殷門(いんもん):太もも裏側の中央寄り 金門(きんもん):外くるぶしの後ろ上方・アキレス腱の外側 痛みを感じる部位のツボを押すと、症状緩和が期待できます。 ストレッチを行う ストレッチでは硬くなった筋肉をほぐせるため、神経への圧迫を軽減できます。坐骨神経痛を悪化させないためにも、ストレッチで血流を促すのが重要です。 痛みを和らげる方法には、次のようなストレッチがあります。 ハムストリングのストレッチ 梨状筋のストレッチ お尻のストレッチ ストレッチは体が温まっているときにやると効果的なため、お風呂上りに取り入れるのもおすすめです。ただし、ストレッチ中に痛みやしびれを感じた場合は、すぐに中断しましょう。 寝方を変える 坐骨神経痛により眠れない場合は、寝方を工夫するのが対処法です。症状が和らぐ寝方には、次の3つが挙げられます。 仰向けで膝を立てる 横向きで両膝の間にクッションを入れる 痛みを感じる部位を上に向ける 寝返りを打つ際は、仰向けの姿勢で両膝を立て、股関節を深く曲げるのがポイントです。腹筋に軽く力を入れ、上半身と下半身を同時に動かすと、寝返りで痛みを感じにくくなります。 また、体を冷やすと血行不良により痛みを感じやすいため、体を温めて眠るのも坐骨神経痛の痛みを緩和する方法です。 再生医療は坐骨神経痛の回復が見込めない場合の選択肢 坐骨神経痛の痛みやしびれを放置すると、日常生活に支障を及ぼします。下肢の神経治療には、再生医療も選択肢の1つです。 再生医療では、脂肪由来の幹細胞を用いて治療を行います。幹細胞治療とは、自身の身体から採取した幹細胞を外部で増殖させ、所定の量に達したら再び身体に戻す治療法です。幹細胞を採取する際は、おへその横からごくわずかな脂肪を取るため、身体の負担を最小限に抑えられます。 また、入院・手術を必要とせず日帰りの手術が可能な点も、再生医療の特徴です。ただし、幹細胞治療は幹細胞の培養に1カ月ほどかかります。手術せず治療を受けたい場合に、再生医療はおすすめです。 https://youtu.be/zYow3yFsNgw?si=lKQHoW3B5dgCm2po 坐骨神経痛は放置せず専門機関への受診が重要 坐骨神経痛は、下肢に生じる症状の総称です。好発年齢は幅広く、原因も人によって異なります。症状にはお尻から脚全体にかけての痛みやしびれがあり、悪化すると日常生活に支障をおよぼすため注意が必要です。 坐骨神経痛の疑いがある場合は重いものを持ち上げたり、長時間立ちっぱなしになったりといった行動は避けましょう。また、症状によって適切な治療を受けることが重要なため、痛みを感じた場合は早めに専門機関へ受診するのがおすすめです。 保存療法でも回復が見られない場合は、再生医療を選択するのも手段の1つになります。自分にあった治療方法で、坐骨神経痛の症状回復を目指しましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。坐骨神経痛について気になる症状が見られる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 坐骨神経痛に関するよくある質問 坐骨神経痛は何科を受診すれば良いですか? 下肢に痛みやしびれが生じる場合、整形外科もしくは神経内科を受診しましょう。整形外科では、MRIやX線などを使用して神経の状態を確認した上で、原因を診断します。 また、神経内科の場合は、神経伝導検査や節電図検査などの神経系の検査から坐骨神経の異常や原因を特定します。 坐骨神経痛のときは歩いた方が良いですか? 坐骨神経痛のときは、歩いた方が良い場合と、悪い場合があります。症状が比較的軽度のときや、医師・理学療法士から勧められたときは、歩くなど積極的に体を動かすのがおすすめです。 ただし、歩くだけで痛みが生じるときや、日常生活に支障が出ているときは歩かず適切な治療を検討する必要があります。 坐骨神経痛による足のしびれの治し方はありますか? 坐骨神経痛による足のしびれは、セルフケアで痛みを緩和できる場合があります。主なセルフケアは、以下の3つです。 適度に運動する 正しい姿勢をとる 体を温める 症状に適したセルフケアにより、痛みを緩和できる場合もあるため、足の痛みにお悩みの方はぜひ実践してみてください。 参考文献 (文献1) J-STAGE|梨状筋症候群における発症機転についての考察 (文献2) 労働者健康安全機構|⾻格筋量増やすポイント
2025.11.26 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
「脊髄損傷でも歩ける可能性はある?」「脊髄損傷で治療を受けていれば歩ける?」 上記のように、脊髄損傷でも歩けるようになるのか気になっている方もいるでしょう。脊髄損傷とは「脊髄」と呼ばれる部分が損傷する状態を指します。 本記事では、脊髄損傷と歩行の関係性を紹介します。レベル別の症状や治療法なども解説しているので、興味がある方はぜひご覧ください。 【結論】脊髄損傷でも歩ける可能性はある 結論からお伝えすると、脊髄損傷になっても歩ける可能性はあります。人間が歩行するには、筋肉がリズミカルに動かなくてはなりません。脊髄が損傷すると、全身の筋肉が協調的に動かなくなってしまいます。 対して、歩行に関するリハビリテーションを続けると、麻痺した筋肉の機能が部分的に回復する可能性があります。軽度の麻痺であれば、適切なリハビリテーションにより歩行機能の回復が期待できるのです。 脊髄損傷と歩行の関係性 脊髄損傷で歩行を再開するには、脊髄損傷の程度により異なります。なかでも、脊髄損傷には、完全損傷と不完全損傷があります。 ここでは、脊髄損傷と歩行の可能性を詳しく見ていきましょう。 完全損傷|歩ける可能性は極めて低い 脊髄損傷のなかでも完全損傷は、脊髄の機能が完全に失われ、歩ける可能性は極めて低い状態を指します。脳からの命令が届かないだけでなく、脳へ命令を送ることもできなくなります。そのため、感覚知覚機能も失われるのが完全損傷の特徴です。 しかし、感覚知覚機能が失われるからといって、痛みを全く感じなくなるわけではありません。怪我をした部位より下の麻痺した部分には、痛みや異常な感覚を覚えます。 不完全損傷|歩ける可能性がある 不完全損傷とは、脊髄の一部の機能が損傷した状態であり、歩ける可能性があります。感覚知覚機能が残った重度の人もいれば、軽度の運動機能が残った状態の人もおり、症状は人によって異なります。 受傷してから6カ月以内に適切なリハビリや治療を受ければ、歩行の回復が見込まれるケースもあるため、できるだけ早めの対処が大切です。 頚髄の中心部分の損傷による「中心性脊髄損傷」については、以下の記事が参考になります。 脊髄損傷のレベル別の症状 脊髄損傷はレベル分けがされており、レベルによって症状が異なります。ここでは、脊髄損傷のレベル別の症状を紹介します。 頚髄損傷(C1-C8) 頚髄損傷は、脊髄損傷のなかで最も深刻な症状を引き起こします。C1からC8までレベルがあり、各レベルによって引き起こされる症状は異なります。 レベル 症状 C1〜C4 ・呼吸機能に障害が出る ・全身麻痺に加え、話したり首から下の動きだったりが制限される C5 ・肩と肘の動きは可能だが、手首以外の動きは制限される ・自力での食事は不可能 C6 ・手首の伸展は可能 ・精密な手首の伸展は不可能なものの、日常生活の多くで介助が必要 C7 ・肘の伸展が可能になり、多くの自立が可能 ・精密な動きはできないため、日常タスクの一部で介助が必要 C8 ・手足の一部の動きが可能 ・食事や筆記などが可能になるが、一部は支援が必要 多くのレベルで日常生活の制限を受けるため、介助や支援が必要になります。またリハビリテーションには、個々のニーズに合わせたアプローチが必要不可欠です 胸髄損傷(T1-T12) 胸髄損傷は、胸部にある脊髄が損傷する状態を指します。体幹や下肢の機能に影響を与え、レベルごとの症状は以下の通りです。 レベル 症状 T1-T6 ・上半身の筋力が低下する ・体幹の制御が困難になり、座位を保つのが難しくなる ・長時間座位を維持するには、サポートが必要 T7-T12 ・体幹機能が損なわれ、立位や歩行が困難になる ・車椅子を使用した生活が一般的 胸髄損傷は、リハビリテーションを行い、できるだけ患者が自立した生活を送れるようサポートをします。家族や専門家のサポートが必要不可欠です。 腰髄損傷(L1-S5) 腰髄損傷(仙髄損傷)は、主に下半身に影響をもたらします。レベルごとの症状を見ていきましょう。 レベル 症状 L1-L2 ・腰から下の機能が失われ、歩行困難になる ・下半身に痛みやしびれが生じる可能性もある L3-L5 ・足首の運動に制限がかかるものの、膝の制御が部分的に可能 ・リハビリテーションが必要だが、装具を用いた歩行が可能になるケースもある S1-S5 ・膀胱と直腸の機能に影響を与え、排泄管理が必要 ・足の裏や会陰部の感覚障害がみられる可能性もある リハビリテーションをして、機能回復や生活の質の向上を目指します。 歩けるようになるまでのステップ|脊髄損傷の治療法 脊髄損傷で歩けるようになるには、適切な治療を受けなくてはなりません。適切な治療は、急性期と慢性期によって異なります。 急性期では、脊髄を固定したり、生命維持を優先したりするのが一般的です。一方で、慢性期では症状の程度に応じて、長期的な視点を持ち治療を進めます。それぞれの主な治療法は、以下の通りです。 急性期 慢性期 ・ギプスや装具固定 ・ステロイド治療 ・リハビリテーション ・抗生物質の投与 ・ビタミン剤の投与 ・放射線治療 ・外科手術 脊髄損傷の治療法について詳しく知りたい方は、以下記事もご覧ください。 脊髄損傷で歩けるようになるには再生医療も選択肢のひとつ 脊髄損傷の治療法は、ステロイド治療や放射線治療だけでなく、再生医療も選択肢にあげられます。脊髄損傷の再生医療は、骨髄由来の幹細胞や脂肪由来の幹細胞を使用します。脊髄損傷の治療法をお探しの方は、再生医療も視野に入れてみてはいかがでしょうか。 リペアセルクリニックでは、脊髄損傷の再生医療を提供しています。詳しくは、以下からお問い合わせください。 脊髄損傷と歩行の関係性を知って治療に挑もう 脊髄損傷は、損傷の程度によっては歩けるようになる可能性があります。受傷後に歩けるようになるには、適切なリハビリテーションや治療を受けることが大切です。また慢性期の治療法は、放射線治療や外科手術があげられますが、近年では再生医療も選択肢の1つになっています。 脊髄損傷の治療法をお探しの方は、再生医療を検討してみてはいかがでしょうか。再生医療に興味がある方は、ぜひ一度リペアセルクリニックにご相談ください。
2025.05.30 -
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軽度の脊髄損傷と診断され、「後遺症は残るのか」と不安を抱えている方もいるでしょう。損傷レベルが軽度でも、早期の治療や継続的なケアが回復の程度や後遺症の有無に影響します。 本記事では、軽度の脊髄損傷に関する症状や原因、治療法をわかりやすく解説します。後遺症が出る可能性についても触れているので、ぜひ参考にしてください。 脊髄損傷とは 脊髄損傷とは、脳からの指令を体に伝える脊髄が外傷や病気などで損傷を受けた状態を指します。交通事故や転倒といった外傷が主な原因です。 脊髄は、背骨(脊椎)に保護されるかたちで脳幹の直下からみぞおちの下あたりまで伸びています。脊髄は部位ごとに区別されており、損傷した場所によって症状の現れ方が異なります。 脊髄の部位と損傷した際の主な症状例は以下の通りです。 部位 損傷部位の位置 主な症状の例 頚髄(C) 首のあたり(C1~C8) 両腕と両脚の麻痺(全身麻痺の可能性もある) 呼吸障害の可能性もある 胸髄(T) 首の下~胸のあたり(T1~T12) 下半身麻痺 体幹の感覚障害 腰髄(L) 腰まわり(L1~L5) 両脚の麻痺やしびれ 排泄機能の障害 仙髄(S) お尻の上~尾てい骨あたり(S1~S5) 排泄機能の障害 会陰部の感覚障害 表の通り、損傷部位によって運動機能や感覚、自律神経機能に障害が生じます。上部の脊髄を損傷するほど症状が重くなる傾向があり、損傷の程度によっても体への影響や回復の見込みには差があります。 頚髄の中心部分の損傷による「中心性脊髄損傷」については、以下の記事が参考になります。 軽度な脊髄損傷の症状 軽度な脊髄損傷では、しびれや麻痺、運動障害などの症状が現れます。以下でそれぞれの症状について詳しく見ていきましょう。 しびれや麻痺 脊髄損傷した部位により、軽度なしびれや麻痺の症状が出るケースは珍しくありません。脊髄は運動や感覚をつかさどる神経が集中しているため、軽度の損傷でも症状が現れる可能性があります。 基本的な動作はできるものの、細かい作業に支障をきたしたり動きによってはスピードが遅くなったりする場合があります。 しびれや麻痺の程度によっては、仕事や家事などの日常生活に影響を与えるため、適切な対応が重要です。 運動障害 軽度の脊髄損傷では、歩行や手の動きなどに支障をきたすケースもあります。脊髄の損傷により、神経の伝達がうまくいかず、筋肉が正確に動かせなくなるためです。 たとえば、足に力が入りづらく階段の昇り降りでふらついてしまう、体のバランスがとりにくいなどの症状が見られます。 運動機能の低下は見落とされやすいものの、放置すると悪化するリスクがあるため、早期の診断と必要に応じたケアが重要です。 感覚障害 軽度な脊髄損傷でも、触覚や温度、痛みなどの感覚に異常が出るケースも少なくありません。脊髄の損傷によって、感覚の伝達が鈍くなります。 手や足に触れても感覚が弱く感じる、冷たいものや熱いものに気づきにくいといった症状が一例です。 感覚の異常は日常生活のなかでも思わぬケガややけどの原因につながりかねないため、注意しましょう。 自律神経障害 自律神経の働きが乱れることも、軽度な脊髄損傷の症状の一つです。自律神経は、血圧・体温・排泄・発汗など体の機能を無意識に調整しているため、脊髄の損傷でバランスが崩れる可能性があります。 たとえば、異常に汗をかく、身体が冷えやすくなる、排尿の感覚があいまいになるといった症状が現れるケースも珍しくありません。一方で、汗をかきにくくなるケースもあり、体の中に熱がこもって熱中症のような症状が出る場合もあるため注意が必要です。 自律神経の乱れは症状があいまいなため、軽視されやすい傾向にあります。しかし、放置すると慢性的な体調不良につながる恐れがあるため、違和感を覚えたら早めに医療機関を受診しましょう。 脊髄損傷の症状については以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。 軽度な脊髄損傷の原因 軽度な脊髄損傷の原因は、外的要因がほとんどです。脊髄は背骨(脊柱)に守られているものの、転倒や交通事故などで、脊柱の骨折や脱臼により圧迫されたり損傷したりする可能性があります。 交通事故以外にも、高齢者が転倒して腰や背中を強く打った場合やスポーツ中の衝突などで、軽度の脊髄損傷を負うケースも少なくありません。とくに、加齢により骨が弱くなっている場合は、見た目は軽い転倒でも脊髄を損傷している恐れがあるため注意が必要です。 強い痛みがない場合でも、神経が傷ついている可能性があります。軽度なうちに適切な処置を受けるためにも初動が大切です。 脊髄損傷の原因について詳しく知りたい方は、以下の記事でも解説しているので、参考にしてください。 軽度な脊髄損傷の診断方法 軽度な脊髄損傷は、以下の診断方法が一般的です。脊髄損傷は部位や神経への影響によって、症状が異なるため正確な判断が求められます。 診断方法 内容・目的 画像診断 レントゲンやMRI、CTを使って脊髄や周辺の組織がどの程度傷ついているのか詳しく調べる 神経学的検査 電気の刺激で神経の反応や伝達機能を調べる 臨床評価 筋力や反射、皮膚の感覚などをチェックして、脊髄損傷の範囲や程度を確認する これらの検査結果をもとに、損傷部位や重症度レベルを把握し、適した治療や必要に応じてリハビリを実施します。とくに、軽度の脊髄損傷では見落とされやすいため、早期の診断と適切な対応が不可欠です。 脊髄損傷が軽度な場合の治療方法 脊髄損傷が軽度な場合の治療法は、急性期と慢性期によってそれぞれ異なります。とくに、発症直後の対応は、そのあとの回復や後遺症の有無に影響を与えるため、適切な治療が重要です。 以下で、詳しく解説するので参考にしてください。 急性期の治療法 脊髄損傷の急性期とは、発症してから2~3週間程度の期間を指すのが一般的です。急性期は、外的要因からの直接的な損傷(一次損傷)や炎症や腫れ、血流障害といった体内変化(二次損傷)が進行する時期でもあります。 急性期では、二次損傷の進行をできるだけ抑える治療が重要です。軽度の脊髄損傷では、以下の治療が行われます。 治療法 目的 安静 症状の悪化を防ぐ 薬物療法(ステロイド系抗炎症薬など) 炎症や二次損傷を防ぐ コルセットや固定装置の装着 脊髄を安定させ、損傷の拡大を防ぐ 理学療法 運動機能を維持し、合併症のリスクを減らす 急性期の治療は、その後の回復に大きく影響するため重要です。自覚症状が軽くても、早期の対応が後の回復に影響します。 慢性期の治療法 損傷からある程度時間が経過し、急性期を過ぎた後の慢性期では、症状の回復を目的とした治療やリハビリが中心となります。軽度の脊髄損傷でも、違和感やしびれが残る可能性があるため、継続的なケアが必要です。 慢性期に行われる治療法には以下のようなものがあります。 治療法 目的 理学療法 筋力・柔軟性の回復、運動機能の維持のため ビタミン剤の投与 神経の修復に役立つため リハビリは、残存機能を最大限に活かしながら日常生活を取り戻すためには欠かせません。また、神経の修復や再生をサポートする目的で、補助的にビタミン剤を投与するケースもあります。 適切なリハビリと経過観察を続けることが、身体機能の維持と回復には重要です。 脊髄を損傷した場合のリハビリやトレーニングについては、下記の記事を参考にしてください。 脊髄損傷が軽度な場合の後遺症の有無について 脊髄損傷が軽度な場合は、適切な治療とリハビリによって後遺症を残さずに回復するケースがあります。軽度の損傷であれば、神経へのダメージが比較的少ないためです。治療やリハビリを早期に開始できれば、運動や感覚などの機能が回復する可能性があります。 しかし、損傷部位や度合いによっては適切な治療やリハビリを行っても、必ずしも後遺症が出ないとは限りません。 脊髄損傷が軽度であっても、後遺症がまったくないとは言い切れないため、違和感を放置せず早期の対応と継続的な治療が大切です。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脊髄損傷で悩みがあるときはお気軽にご相談ください。 軽度な脊髄損傷は適切な治療とリハビリで回復に期待できる 軽度な脊髄損傷はしびれや麻痺、運動障害が症状として現れる場合があります。違和感を覚えたら放置せずに適切な治療を受けることが大切です。 脊髄損傷が軽度であれば、適切な早期治療とリハビリで回復に期待ができるでしょう。一方で、症状が軽度に思えても、損傷のレベルや部位によって後遺症が出るケースもあります。 早めに医師の診断を受け、継続的なケアを続けることが重要です。リペアセルクリニックでは、脊髄損傷に対する新たな治療選択肢として、幹細胞を用いた再生医療を行っております。軽度な脊髄損傷でお悩みの方はご相談ください。
2025.05.30 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
脊髄損傷には、急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期があります。急性期は症状回復を左右する重要な期間のため、診断を受けた上で適切な治療が大切です。 とはいえ、急性期は症状が発生したばかりの期間となり、身体的にも精神的にも不安定になりやすいでしょう。不安やストレスを軽減するには、急性期について理解を深めることがポイントです。 この記事では、脊髄損傷急性期とはどのような期間か解説します。症状回復に重要な期間といわれる理由や治療法もまとめているので、ぜひ参考にしてください。 脊髄損傷急性期とは 脊髄損傷急性期(せきずいそんしょうきゅうせいき)とは、脊髄損傷が発生した時期をいいます。ここでは、急性期の期間や、亜急性期(あきゅうせいき)・慢性期(まんせいき)との違いについて解説します。 脊髄損傷で急性期と診断された方は、今後の治療プランを検討するためにもぜひ参考にしてください。 期間 脊髄損傷の急性期とは、脊髄損傷が発生してから2〜3週間ほどの期間をいいます。一般的に脊髄損傷の原因は、内的要因と外的要因の2つです。 内的要因の場合、脊髄自体に問題が生じて損傷が起こります。脊髄梗塞や脊髄出血、椎間板ヘルニアなどが内的要因の原因に該当します。 また、外部から強い衝撃が加わり脊髄を損傷した場合は外的要因です。外的要因には、交通事故や転倒などがあります。ラグビーや柔道などのスポーツも外部要因の一つで、脊髄損傷は幅広い世代が発症する疾患です。急性期は脊髄損傷の回復を左右する期間になるため、迅速かつ適切な治療が重要です。 亜急性期・慢性期との違い 脊髄損傷は急性期・亜急性期・慢性期の3つの時期に分類され、各期間に適した治療が必要です。各期間には、以下の違いがあります。(文献1) 期間 特徴 主な治療法 急性期 脊髄損傷を発生して間もない時期で、回復を左右する期間 保存療法 リハビリテーション 亜急性期 急性期の炎症が収まり、血管新生や組織修復反応が起こる期間 リハビリテーション 慢性期 神経細胞の活性が低下し、治療への効果が弱くなる期間 リハビリテーション 放射線治療 手術 各期間の特徴から、適切な治療を検討しましょう。 脊髄損傷急性期の症状 脊髄損傷急性期の症状は、多岐にわたります。急性期では脊髄が損傷した直後から身体の異変が起こり、症状が急速に進行するためです。 主な身体の反応には一時損傷と二次損傷があり、双方の違いは以下の通りです。 一時損傷 外力による組織の損傷 二次損傷 一時損傷に続き、損傷が周辺組織に広がり、炎症反応や血液の循環不全による神経細胞の損傷 実際に、急性期には下肢に電気が走るような強い痛みや手足のしびれなどの症状が見られています。(文献2)また、損傷が進行すると運動機能が完全に失われるだけでなく、排せつのコントロールができなくなったり生命にかかわったりするリスクが生じます。 脊髄損傷急性期に正確な診断を受けるべき理由 脊髄損傷の回復には、急性期に二次損傷を抑える治療が重要です。急性期は症状が急速に進行するため、適切な治療を受けなければ周辺細胞が損傷し、神経伝達が低下します。 神経伝達の低下は運動機能が失われる要因となり、まったく動かせない状態に陥るケースも少なくありません。そのため、急性期の診断では以下の点をチェックした上で適切な治療を行います。 損傷の進行状態 影響を受けている神経の特定 脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲の把握が機能回復において重要です。損傷を最小限に抑えるためには、急性期で正確な診断を受ける必要があります。 脊髄損傷急性期の主な治療法 脊髄損傷急性期の治療は、症状回復に影響を与えます。代表的な治療法は、以下の3つです。 保存療法 手術 再生医療 急性期の治療法について理解を深めたい方は、参考にしてください。 保存療法 保存療法は手術以外の方法で、症状を改善する治療法です。脊髄損傷急性期の場合、主に以下の保存療法がおこなわれます。 薬物療法(ステロイド治療) 固定装置の使用 リハビリテーション また、脊髄損傷急性期に不用意に身体を動かすと損傷の拡大や合併症のリスクが生じる可能性があるため、安静が重要です。脊髄を安定させるために、正しい位置や姿勢の維持が必要になります。 一般的にはギブスなどの固定装置を使用して、脊髄を安定させます。適切な安静は炎症が抑えられ、神経組織の修復が進むため症状回復に効果的です。 脊髄損傷の急性期は、生活動作が自分でできない辛さや回復への不安など、精神的なサポートも重要になります。安静は心身のリラックス効果もあるため、回復へ向けて気持ちを前向きにする役割も期待できます。 手術 急性期では一般的に保存療法を行います。しかし、脊髄損傷の原因となる圧迫因子の除去や二次損傷の予防など、症状が悪化する可能性がある場合に手術を行います。 急性期に行う主な術式は、以下の2つです。 術式 内容 除圧術 脊髄や神経根などへの圧力を除去し、神経損傷の抑制と症状緩和を図る 固定術 金属のプレートやネジを使用して脊椎を固定し、自然治癒を促進する 症状の進行状況によって異なりますが、診断から手術を検討するのも手段の一つです。 再生医療 脊髄は脳とつながる太い神経の束で、損傷すると麻痺や感覚障害、自律神経障害などさまざまな障害が生じます。急性期には固定装置の使用やリハビリテーションを実施しますが、再生医療も治療法の一つです。 再生医療の幹細胞治療は、患者自身の細胞を活用する医療技術になります。脊髄損傷の再生医療の場合、骨髄由来と脂肪由来の幹細胞の2つがあります。なかでも、脂肪由来の幹細胞は体への負担が少ない点がメリットです。また、再生医療は入院の必要がなく、日帰りで治療を受けられます。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を行っております。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しているので、脊髄損傷の治療法として再生医療を検討している方はお問い合わせください。 脊髄損傷急性期におけるリハビリテーションの内容 脊髄損傷は、急性期からリハビリテーションの実施が重要です。ここでは、脊髄損傷急性期から行われる代表的なリハビリテーションを3つ解説します。 呼吸訓練 関節可動域訓練 床ずれ予防・離床訓練 回復へ向けたリハビリテーションの内容が知りたい方は、参考にしてください。 呼吸訓練 脊髄損傷は損傷の部位によって、呼吸器官に麻痺が起こります。また、首を損傷した場合、息を吐く力が弱くなり、痰づまりや肺炎を起こすケースも少なくありません。 そのため、急性期では呼吸理学療法がおこなわれます。呼吸理学療法は症状のレベルによって異なりますが、リハビリ内容は以下の通りです。 沈下性肺炎の予防 人工呼吸器管理による短時間自発呼吸の獲得 人工呼吸からの離脱訓練 呼吸訓練には、胸郭を広げるエクササイズや息を吐き切るトレーニングなどがあります。セルフトレーニングもあるため、呼吸力向上へ向けて急性期から行うことが大切です。 関節可動域訓練 関節可動域訓練とは、関節を動かせる範囲を広げるリハビリテーションです。脊髄損傷で麻痺した部分は、関節が硬くなります。関節が硬くなると次第に可動域が狭まり、床ずれや車いすへの移動、起き上がりなど日常生活においてさまざまな支障をきたします。 とくに脊髄損傷では、以下の関節ケアが重要です。 肩関節 股関節 足関節 該当の部位は、車いす操作や立位保持などにも影響を与えます。関節可動域訓練は、全身の機能維持において必要な訓練です。 床ずれ予防・離床訓練 急性期には、床ずれ予防や離床訓練を行います。脊髄損傷急性期では、全身の筋肉の緊張が低下し、床ずれを起こしやすくなるためです。 そのため、早期に体位の変換やクッション選びなどの対策をとる必要があります。また、全身が安定している場合は、ベッドに座った状態を維持する離床訓練の実施が大切です。座れるようになると、食事や排せつ、車いすの使用など日常生活へ戻る訓練を進められます。 症状の回復には、急性期にベッドから起きていられるよう体を慣らすリハビリテーションがポイントです。 脊髄損傷の急性期は回復に影響を与える重要な期間 脊髄損傷急性期は発生してから2〜3週間ほどの期間で、症状回復に影響を与えます。重要な期間となるため、早期に診断を受けて適切な治療を受けることが大切です。 脊髄損傷急性期の主な治療法には、安静やリハビリテーションなどがあります。症状回復を目指せるよう、診断から脊髄損傷の種類や程度、影響を受けた範囲を把握しましょう。 また、脊髄損傷急性期の治療法の選択肢として、体への負担が少ない再生医療も検討できます。当院リペアセルクリニックでは、脊髄損傷の再生医療を行っています。急性期における適切な治療法を検討中の方は、ぜひお問い合わせください。 また、頚髄の中心部分の損傷による「中心性脊髄損傷」については、以下の記事が参考になります。 脊髄損傷の急性期に関するよくある質問 脊髄損傷の急性期に起こる合併症は何ですか? 脊髄損傷では麻痺以外に、呼吸器合併症や循環器合併症など、さまざまな合併症が発生します。なかでも、急性期では消化器合併症が起こりやすいため注意が必要です。 急性期にはストレス性胃潰瘍や十二指腸潰瘍のほか、胃腸の働き低下により腸閉塞となるケースもあります。いずれも生命にかかわる重要なものばかりなので、早期治療が重要です。 脊髄損傷を発症した場合に回復見込みはありますか? 脊髄損傷は原因や症状、損傷位置によって回復が見込めるか異なります。症状が軽度の場合は、治療次第で回復が見込めます。 しかし、重度の場合は回復の見込みが低く、完治しないケースがほとんどです。脊髄損傷は時期によって治療法が異なるため、早めに診断を受けましょう。 脊髄損傷の急性期における看護のポイントは? 脊髄損傷の急性期では、家族のサポートが重要です。急性期では症状が発生し、身体への異変や生活動作が自分でできない辛さ、回復への期待などから精神面が不安定になりやすい時期といえます。 そのため、周囲からの励ましが生きる希望につながります。不安やストレスを軽減するほか、治療へ積極的な取り組みを促すためのサポートが看護のポイントです。 参考文献 (文献1) 厚生労働省「急性期脊髄損傷の治療を目的とした医薬品等の臨床評価に関するガイドラインについて」独立行政法人 医薬品医療機器総合機構2019年 https://www.pmda.go.jp/files/000230373.pdf(最終アクセス:2025年5月20日) (文献2) 松本浩子,泉キヨ子.「脊髄損傷患者の急性期における体験」『日本看護研究学会雑誌』30巻(2号), pp.77-85, 2007年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/30/2/30_20070125006/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月20日)
2025.05.30 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
- 脊椎、その他疾患
「脊髄硬膜外血腫」とは、背骨の中で出血が起きる病気の一種です。(文献1)脊髄を覆う「硬膜」の外側で出血し、激しい痛みが起きるほか、溜まった血が脊髄を圧迫すれば麻痺やしびれなどを引き起こします。 脊髄硬膜外血腫の患者様の中には、後遺症が出て日常生活に不便を感じ、お悩みの方もいるのではないでしょうか。 後遺症は今までリハビリテーションなどの対症療法でのみ治療されていましたが、現在では再生医療も選択可能となり、根治的治療として注目を浴びています。 今回は脊髄硬膜外出血の後遺症や、急性期の治療法と発症後のリハビリテーション、予後についてもお伝えします。また、後遺症の治療法(再生医療)についても解説するのでぜひ参考にしてください。 脊髄硬膜外血腫の主な後遺症 脊髄硬膜外血腫は、溜まった血を取り除くまでに脊髄が傷ついてしまうと、治療後に後遺症が出る可能性があります。 後遺症の症状や程度は、障害部位(頸髄や胸髄、腰髄、仙髄、馬尾)や脊髄へのダメージ具合(部分的か全体的なダメージか)によってさまざまです。 代表的な後遺症を以下にまとめました。 運動障害(麻痺) 感覚障害(温痛覚や振動感覚、位置感覚の障害など) 膀胱直腸障害(尿失禁、頻尿、便秘、頻便など) 呼吸障害 体温調節障害 起立性低血圧 など それぞれ説明していきます。 運動障害(麻痺) 筋肉がうまく動かせなくなるのが運動障害です。具体的には以下の症状が現れます。 手足に力が入らない しびれる まったく動かせない など 出血が起きた部位により、運動障害の範囲は異なります。首のあたりで起きれば両手足の麻痺が、胸や腰の背骨内で起きれば両足の麻痺が出やすいです。 一方で、左右の片方だけに麻痺が起きることもあります。 日常生活での困難は歩けない、座ったり立ったりしていられない、手の細かい動作ができないなどです。 着替えや食事、入浴といった日常生活動作が難しくなり、介助が必要となる場合もあります。リハビリテーションが重要となりますが、どれくらい回復するかは個人差があります。 感覚障害(温痛覚・振動感覚・位置感覚の障害など) 感覚障害とは、以下に示す感覚が鈍くなったり消失したりする障害です。 熱さ・冷たさ 痛み 触覚(触られている感覚) 振動感覚(震えを感じとる感覚) 手足の位置感覚 など 感覚障害も、出血が起きた部位によって範囲が異なります。首のあたりで出血が起きれば両手足に感覚障害が出やすく、胸や腰で起きれば下半身に症状が出ることが多いです。また、左右どちらかだけに症状が出ることもあります。 日常生活では、やけど・けがに気付きにくくなります。歩くときにバランスが取りにくい、箸を使いにくいなどもよくある症状です。 運動障害と同様、リハビリテーションによって回復が見込める場合があります。 膀胱直腸障害(尿失禁・頻尿・便秘・頻便など) 膀胱直腸障害とは、排泄に関する障害です。 排尿に関する症状は以下の通りです。 尿意切迫感 頻尿 尿失禁 排尿困難 残尿感 など また、排便に関する症状として以下が挙げられます。 便秘 排便困難 便失禁 頻便 など 日常生活では、突然の尿意や便意あるいは失禁により、生活に大きな支障をきたすでしょう。 逆に排尿困難や便秘があると、お腹の張りや不快感につながります。外出時のトイレの不安から、活動範囲が狭くなる方も多いです。 症状に応じて自己導尿や排便コントロールを身につけたり、薬の力を借りたりして適切に管理することが大切です。 その他(呼吸障害・体温調節障害・起立性低血圧など) 脊髄硬膜外血腫では、運動・感覚・膀胱直腸障害以外にもさまざまな後遺症の可能性があります。 呼吸障害は、頸椎の上の方で出血が起きた場合の症状です。呼吸に必要な筋肉が麻痺し、人工呼吸器が必要となる場合もあります。 自律神経が障害されれば、体温や血圧の自動調節がうまくいかず、体温調節障害や起立性低血圧などを引き起こします。自律神経への影響が大きくなるのは、胸椎より上で出血が起きた場合です。 筋肉が緊張しすぎる「痙縮」では手足が突っ張ったり、意識しないのに動いてしまったりします。ビリビリとした痛みや刺すような痛みを感じる場合は「神経障害性疼痛」かもしれません。これは神経が傷ついたことで、外傷がない部位でも痛みを感じる症状です。 脊髄硬膜外血腫の治療法 脊髄硬膜外血腫の治療法は、手術をしない保存的治療と、手術による外科的治療に分けられます。どちらを選択するかは、症状の程度や持続時間、出血が止まりにくい要因の有無を考慮して決定します。 保存的治療|症状が軽度の場合 保存的治療では安静を保ち、必要に応じて止血剤や降圧剤を投与します。保存的治療を選択する明確な基準はありません。(文献2)脊髄硬膜外血腫102例を分析した報告では、以下の両方に当てはまれば、保存的治療での回復も期待できるとされています。(文献3) 血をサラサラにする薬(抗凝固薬)を使っていない 運動機能が完全に麻痺していない 上記の片方だけに当てはまる場合も、保存的治療を選択する場合があります。抗凝固薬を使用中なら、必要に応じて効果を打ち消す薬を投与します。 保存的治療では、注意深い経過観察が重要です。症状の変化を定期的に確認し、保存的治療を続けるか手術に変更するかを判断するのです。 麻痺が出てから15時間以内に症状が回復に向かえば、出血が自然に止まって血腫の吸収が始まり、神経への圧迫がゆるんできていると考えられます。(文献3)この場合は自然に完治する可能性が高いとされます。 外科的治療|症状が重篤な場合 運動機能が完全に麻痺している場合や、神経症状の進行が見られる場合は速やかに外科的治療を検討します。少しでも麻痺が見られれば速やかに手術すべきとの考えもあります。 発症から24時間以内に手術できれば、重度の麻痺から回復できる可能性が高まるとの報告もあり、素早い判断が重要です。(文献3) 脊髄硬膜外血腫の手術では、血腫ができている部分の背骨の一部(椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分)を削り、奥にある血腫を取り除きます。(文献1)手術用の顕微鏡を使って血腫を除去し慎重に止血すれば、脊髄を圧迫する原因はなくなります。 脊髄硬膜外血腫に対するリハビリテーション 初期治療後に残った症状は、リハビリテーションを行いながら改善を目指します。 リハビリテーションとは、病気や怪我の後に社会復帰を目指して行う訓練の総称です。 病気や怪我以前の生活水準を目指し、日常生活を見据えた身体的訓練のほか、不安や無力感などの精神的な障害には心理的訓練、また必要に応じて職業訓練も行われます。 リハビリテーションに携わるスタッフは、医師や看護師に加えて、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのスペシャリストです。 病院で行われることもあれば、リハビリ専門施設で実施されることもあります。 脊髄硬膜外血腫の急性期リハビリ 怪我や病気を患った直後の急性期は、まず全身状態を落ち着かせ、損傷や障害を最低限に抑えるためのリハビリテーションが必要となります。 具体的には、以下の訓練を実施します。(文献5) 頸髄や上位胸髄の損傷による呼吸機能低下に対しては呼吸訓練 手術後にうまく寝返りができない場合には、床ずれ予防のために体位変換訓練 ベッド上で動けない間に関節が固まってしまわぬように関節可動域訓練 全身状態が安定後のリハビリ 全身状態が落ち着いた後は、症状に合わせて積極的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。 脊髄硬膜外出血によって脊髄が大きなダメージを受けた場合は、神経障害などを完全に取り除くのは難しく、後遺症が出ることが多いでしょう。 そのため、早期からのリハビリテーションを通じて、残存した能力を強化し、必要な筋力や柔軟性を取り戻します。 具体的には以下を実施し、合併症を避けて自分で尿路管理できることを目指します。 両下肢の麻痺(対麻痺)の場合には上肢の筋力を高め、プッシュアップ動作を練習し、車椅子の訓練 排尿障害を患っている場合は、腹壁徒手圧迫法や反射誘発、自己導尿法などの指導 脊髄硬膜外血腫の予後 脊髄硬膜外血腫はまれな疾患で、死亡率や予後についての情報も少ないのが現状です。 最初の運動麻痺が軽度の場合や、重度であっても早く血腫を取り除ければ良好に回復する傾向がありますが、確実に回復するかどうかは一概にはいえません。 海外で脊髄硬膜外血腫の報告を1000例以上集めて検討した論文では、死亡が確認された例は7%だったと報告されています。年齢別では40歳以上が9%、40歳未満が4%で、治療法によらず40歳以上では死亡率が有意に高くなると報告されました。(文献8) 後遺症については、初めの症状が軽度であった患者群では、8.5%がわずかな障害を示すのみでした。一方で、初めの症状が重篤だった患者群では、28.3%に軽度の障害が残っています。(文献8) また、日本国内のある病院では、自院で治療を行った16症例を分析しました。この報告では、完全治癒が10例(2回発症し2回とも完全治癒した例を含む)、軽度の運動麻痺が残ったケースが6例、死亡が1例でした。死亡例は、合併していた大動脈解離と腎不全が直接の原因とされています。(文献9) 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症に対する再生医療 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。脊髄硬膜外血腫の手術後に残ってしまったしびれ、麻痺などの後遺症に対する治療として「幹細胞治療」が適応される可能性があります。 当院リペアセルクリニックで行う再生医療「自己脂肪由来幹細胞治療」では、患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応のリスクが極めて低い治療法です。 日本での一般的な幹細胞治療は、点滴によって血液中に幹細胞を注入するものです。しかし、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまいます。 そこで当院では、損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する「脊髄腔内ダイレクト注入療法」を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与します。 幹細胞の培養には時間を要しますが、治療そのものは短時間の簡単な処置で、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症による神経損傷に由来する麻痺やしびれ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施しております。 脊髄硬膜外血腫の術後後遺症にお悩みの方は、ぜひ一度リペアセルクリニックへお問い合わせください。 まとめ|脊髄硬膜外血腫の後遺症への理解を深めて正しい治療法を選択しましょう 脊髄硬膜外血腫を発症した場合、保存的治療または外科手術により治療を行います。麻痺の程度や、出血しやすい要因を考慮して治療を選択しますが、症状の変化に応じた素早い判断が重要です。 また、後遺症には運動障害や感覚障害、排尿・排便障害などがあります。回復には早期のリハビリテーションによる残存能力の強化や、合併症予防のための訓練が大切です。 さらに、多大なダメージを受けてしまった神経を元に戻す治療がなかった中で、近年になって再生医療が多くの患者様へ提供可能となりました。 当院では入院不要、外来診療のみで再生医療を受けられますので、気になる方はぜひ当院へ一度ご相談ください。 参考文献 (文献1) 日本脊髄外科学会「特発性脊髄硬膜外血腫」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original63.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献2) 中村直人ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の臨床診断と治療方針」『脊髄外科』32(3), pp.306-310, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/32/3/32_306/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献3) 武者芳朗ほか.「急性脊髄硬膜外血腫に対する保存療法の適応と手術移行時期」『脊髄外科』29(3), pp.310-314, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/29/3/29_310/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献4) 西亮祐ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫に対する当院での治療成績の検討」『済生会滋賀県病院医学誌』32, pp.15-20, 2023 https://www.saiseikai-shiga.jp/content/files/about/journal/2023/journal2023_4.pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献5) 日本リハビリテーション医学会「脊髄損傷のリハビリテーション治療」日本リハビリテーション医学会ホームページ https://www.jarm.or.jp/civic/rehabilitation/rehabilitation_03.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献6) 日本脊髄外科学会「脊髄損傷」日本脊髄外科学会ホームページ https://www.neurospine.jp/original62.html(最終アクセス:2025年3月21日) (文献7) 吉原智仁ほか.「当科で経験した脊髄硬膜外血腫の 3 例」『整形外科と災害外科』65(4), pp.845-848, 2016年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/65/4/65_845/_pdf(最終アクセス:2025年3月21日) (文献8) Maurizio Domenicucci, et al. (2017). Spinal epidural hematomas: personal experience and literature review of more than 1000 cases.J Neurosurg Spine, 27(2), pp.198–208. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28574329/ (Accessed: 2025-03-21) (文献9) 原直之ほか.「特発性脊髄硬膜外血腫の 16 症例の臨床分析 ―脳卒中との類似点を中心に―」『臨床神経学』54(5), pp.395-402, 2014年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054050395.pdf(最終アクセス:2025年3月21日)
2024.07.23 -
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失ったはずの腕や脚が痛むのはどうして? 幻肢痛に効果的な治療法はあるの? この記事に辿り着いたあなたは、幻肢痛に悩んでおり、なんとかして痛みを和らげたいと感じているのではないでしょうか。 幻肢痛の治療法には「薬物療法」や「鏡療法」などの選択肢があり、複数の方法を組み合わせて治療を進めることもあります。ご自身の状態に合った治療法を試すことが大切です。 本記事では、幻肢痛でよく用いられる治療法やセルフケア、そして新しい治療法について解説します。幻肢痛に悩んでいる、また幻肢痛に苦しむ方の力になりたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。 幻肢痛に対する4つの治療法 幻肢痛(げんしつう)とは、事故や病気で四肢を切断したあと、失ったはずの腕や足に痛み・しびれを感じる現象です。四肢の切断によって脳内にある身体の地図が書き換わり、認識と感覚の不一致が生じて起こるといわれています。 幻肢痛の一般的な治療方法は、以下の4つです。 薬物療法 鏡療法 電気刺激療法 リハビリテーション ひとつの治療法で痛みが緩和され、一定の効果が得られる場合もありますが、さまざまな方法を組み合わせて治療を進めていくケースが多いです。 本章を参考に、幻肢痛における治療法の選択肢を知っておきましょう。 薬物療法 薬物療法では、以下のような種類の薬を使用します。 鎮痛薬 抗けいれん薬 抗うつ薬 抗てんかん薬 抗不整脈薬 オピオイド系鎮痛薬(モルヒネやドラマドール)が使われるケースもありますが、依存や乱用のリスクが高く副作用も懸念されるため、使用は慎重におこなうべきだと考えられています。 また、局所療法として、カプサイシンクリームの塗布やリドカインスプレーの噴霧などがおこなわれる場合があります。 いずれにしても、薬物療法は作用と副作用のバランスを考え投与するのが望ましいため、主治医と十分コミュニケーションを取りましょう。 鏡療法 鏡療法は、ミラーセラピーとも呼ばれている方法です。 健常な四肢を幻肢があるかのように鏡に映します。健常な四肢を動かすと、鏡にも同様に映るため、あたかも幻肢を動かしていると錯覚するのです。 これを繰り返すうちに、「幻肢が思った通りに動いている」と脳が認識するようになります。知覚と運動の情報伝達が脳内で再構築され、幻肢痛が軽減していきます。 具体的な方法は以下のとおりです。 1. 身体の正面中央付近に適切な大きさの鏡を設置します。 2. 切断部位が見えないようにし、健常肢が鏡に映るように調整します。 3. 鏡に映った健常肢の像がちょうど幻肢の位置と重なるようにします。 4. 健常肢側から鏡を見ると、幻肢があるかのように鏡に映ります。 5. その状態で健常肢でさまざまな動きをし、鏡の像を集中して見ます。 鏡療法をおこなう時間は決められていませんが、15分~30分程度おこなうのが一般的です。ただし、疲労状況や集中できる時間を考慮して、調整しましょう。 電気刺激療法 電気刺激療法には、3つの種類があります。 脊髄刺激 視床刺激 大脳皮質刺激 脊髄刺激を与えると、痛みが脳に伝わりにくくなります。刺激を与えると、痛みの伝達を抑制する物質が増加するため、神経の興奮を抑制して痛みの緩和につながるのです。 また、大脳皮質にある一時運動野や視床へ電気刺激を与えても、幻肢痛を和らげるケースが報告されています。刺激を与える部位は、切断部位や神経の残っている部分によって治療方法が異なります。 リハビリテーション 義肢や装具には、失った機能や役割を補うだけでなく、幻肢痛を和らげる効果があります。 義肢や装具の装着は、鏡療法と同様に脳に失った四肢を認識させるため、義肢の装着が日常的になると幻肢痛も消失していく場合が多いです。 ただし、幻肢痛がひどく、義肢や装具の装着ができない場合もあります。リハビリは、医師をはじめ、理学療法士や義肢装具士など、医療者と相談しながら進めていきましょう。幻肢痛は、常に一定に感じているわけではなく、突然襲われる場合もあります。 寝ていても飛び起きてしまうような突然の痛みに襲われたり、失った手足が締め付けられるように感じたり、痙攣している、幻肢がねじれる、しみるなど、感じ方や程度はさまざまです。 数年で幻肢痛がなくなる方もいれば、長年痛みに苦しめられる方もいます。そのため治療法の選択は、医師をはじめとするさまざまな医療者と相談し、それぞれの痛みの程度やライフスタイルに合わせた継続できる治療法の選択が必要でしょう。 幻肢痛治療経験者の中には、治療に成功し、徐々に痛みが緩和され消失した方もたくさんいます。 「なるべく痛みではなく、他に意識が向くようにしていると徐々に痛みが引いた」「義足をつけてリハビリを続けていると幻肢痛が緩和した」など、幻肢痛はすぐになくすことはできませんが、治療を続け徐々に痛みから解放された方は多くいます。 しかし、長年幻肢痛に悩まされているケースもあります。幻肢痛の治療は、根気強く治療を続けていくモチベーションが必要です。 幻肢痛のセルフケア方法2つ 幻肢痛のセルフケアをする方法として、以下2つが挙げられます。 ストレスをコントロールする 家族・支援者によるサポートを受ける 本章で幻肢痛のセルフケア方法を知り、医療機関での治療以外にできることがないか検討してみましょう。 ストレスをコントロールする 適切なストレス管理で痛みを和らげることもできます。 幻肢痛患者は、痛みによって、不安や怒り、恐れなど、さまざま感情が入り混じっている心理状態です。慢性的なストレスは、痛みを過敏に感じさせるため、幻肢痛が悪化する原因にもつながります。 自分でできるストレスのコントロール方法は、以下の通りです。 趣味に没頭する 散歩をする 映画やドラマを見る 好きな物を食べる お風呂にゆっくりつかる 規則的な睡眠をとる 香りを楽しむ 声を出して笑う 日光を浴びる 過度な運動などの幻肢痛が悪化するようなものは避け、まずは自分ができそうなものから始めてみましょう。暴飲暴食、過度な飲酒・喫煙などはかえって体調不良や睡眠不足の原因となり、痛みの悪化を招くため注意が必要です。 家族・支援者によるサポートを受ける ストレス管理は本人だけでなく、周囲からのサポートが必要になるケースもあります。 なるべくストレスを抱え込まず、周りの人の力を借りながらうまくコントロールすることが大切です。 家族・支援者ができるサポートは、以下の通りです。 痛みが一番のストレスなら、残存した方の腕や足を軽くマッサージしてもらう リハビリがストレスなら、リハビリのやり方やメニューを主治医と相談する 生活の不自由さがストレスなら、補助グッズの使用や利用できる支援の導入を検討する まずは自分がストレスに感じていることは何かを、家族やサポートしてくれる人に話して理解してもらう必要があります。 また、精神的に不安定になっている場合は、心療内科・精神科の受診やカウンセリングを受けることなども検討しましょう。 新たな技術を用いた幻肢痛の治し方2選 四肢の一部を失った方が、幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をしていくのは、とても困難な道のりでしょう。 幻肢痛には、従来先述したような4つの治療法が用いられていますが、IT技術の進化に伴い、以下2つのような新しい治療法も登場しています。 VR技術による「遠隔セラピー」 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 体験を行う交流会もあるため、積極的に参加することで新たな発見があるかもしれません。お住まいの地域での開催がないか調べてみましょう。 VR技術による「遠隔セラピー」 VR空間のなかで、失った四肢を補間し、脳を錯覚させるセラピーも開発されています。幻肢痛を感じる患者とセラピストが一緒にVR空間の中に入り、手足を動かすイメージを共有する手法です。 3Dを利用したリアルな空間なので、実際にリハビリをしているような雰囲気が味わえます。 さらに、VR空間でセラピーを行うため、セラピストが近くにいなくても、いつでもどこでも実施が可能です。 鏡療法は切断部位によって有効でない場合もありますが、VR技術による遠隔セラピーならばより多くのケースに対応できます。 BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」 BCIによる「脳のトレーニング」では、脳活動を計測し、得られた計測信号から脳情報を読み解き、それに基づいて架空の手足の映像をオンラインで動かします。 架空の手足を動かすことで、脳の変化を促し、新しい感覚を得られたり、治療につながっていくことを目的としたものです。 この訓練を3日間行うことで、訓練後5日間の痛みが30%以上減弱した調査結果もあります。 まとめ|自分に適した幻肢痛の治療法を検討しよう 本記事では、幻肢痛の治療法とセルフケアの方法について詳しく解説しました。 治療の際には、失った部位や痛みの状態に合わせた方法を選択する必要があります。 また、IT技術を活かし、リアルに失った四肢を感じられるような遠隔セラピーやBCIによるトレーニングといった新しい治療法も開発されています。日々情報収集をおこないながら、自分に合った治療法を見つけましょう。 当院「リペアセルクリニック」は、幹細胞の働きを活かし、本来の機能ができなくなった臓器や骨などを修復する「再生医療」を扱うクリニックです。再生医療には、膝や腰の痛みを改善させる治療もあります。再生医療に興味を持たれた方は、ぜひ当院のホームページをご覧ください。 参考文献一覧 (文献1) 住谷昌彦 幻肢の感覚表象と幻肢痛 バイオメカニズム学会誌Vol. 39,No.2(2015) (文献2) インタビュー「最先端の幻肢痛治療に見る、「脳のリプログラミング」の可能性」 (文献3) UTokyo バーチャルリアリティー治療で緩和される幻肢痛の特徴 (文献4) 住谷昌彦、宮内哲ほか 幻肢痛の脳内メカニズム 日本ペインクリニック学会誌Vol.17No.1 2017 (文献5) UTokyo 失った手足の痛みを感じる仕組み (文献6) 日本ペインクリニック学会 「神経障害制疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」 (文献7) 緒方徹、住谷昌彦「幻肢痛の機序と対応」Jpn J Rehabil Med 2018;55:384-387 (文献8) ミラーセラピーについて | 脳梗塞集中リハビリセンター │ 社会医療法人 生長会 (文献9) 大内田裕 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献10) 片山容一、笠井正彦 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年 (文献11) 落合芙美子 日本義肢装具学会誌「義肢装具に対するチームアプローチ」日本義肢装具学会誌Vol.13 No.2 1997 (文献12) 幻肢痛VR遠隔多人数セラピーシステム|JDP (文献13) 事故で失った幻の手の痛みが脳活動を変える訓練により軽減 - ResOU
2024.06.19 -
- 脊髄損傷
- 脊椎
NHKの教育番組「おかあさんといっしょ」にて「体操のお兄さん」として活躍した佐藤弘道さんが、2024年、脊髄梗塞による下半身麻痺のため、芸能活動を一時休止すると発表しました。 脊髄梗塞は誰にでも発症する可能性がある疾患です。 とくに背中の痛みや両手足の痺れを感じているなら、すでに初期症状が現れているかもしれません。 本記事では脊髄梗塞の概要や症状、診断方法などを解説します。 脊髄梗塞とはどのような状態? 脊髄とは、脳から腰までの背骨の内部を走る、神経群を指します。 脊髄は、主に脳からの指令を体の各部に伝え、また体が受けた刺激を脳に伝える役割を果たします。 私たちが自由に手足を動かしたり、何かに接触したときに反応したりできるのは、脊髄のはたらきがあるからに他なりません。 脊髄は、いわば「情報伝達の高速道路」のような役割を担っています。そして、高速道路を機能させるためには、酸素と栄養を供給する血液が欠かせません。 しかしなんらかの原因で血管が詰まると、脊髄に対して血液が行き届かなくなり、酸素と栄養も十分に行き渡りません。この状態を脊髄梗塞と呼びます。 脊髄梗塞になると、脊髄は正常に機能しません。 また酸素と栄養の供給が絶たれたことにより、脊髄がダメージを被り、身体に以下のような症状が現れます。 突然の背中の痛み 両手足の痺れ、感覚の喪失 筋力の低下 排泄の障害 症状が重篤な場合は、「歩くのも難しい」状態に陥ります。 脳梗塞のようにただちに生命が危ぶまれるものでないものの、適切な治療と十分なリハビリが必要になるでしょう。 メール相談 オンラインカウンセリング 脊髄梗塞の発生頻度 脊髄梗塞はまれな疾患であり、発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 広い年齢層で症状が見られますが、50〜60代での発症例がとくに多く報告されています。 また性差はありません。男女ともに同程度の可能性での発症がありえます。 参考:日本関東救急医学会|J-STAGE 脊髄梗塞は治るのか?後遺症は? 脊髄梗塞を根本的に治療する方法は、現時点で確立されていません。 一方で早期発見や専門的治療、適切なリハビリにより、症状を緩和したり、機能を回復させることは可能です。 とくにリハビリの効果は高く評価されており、約7割のケースで歩行可能な状態に回復します。 参考:JCHO大阪病院 脊髄梗塞の症状・前兆 脊髄梗塞の前兆として、以下があげられます。 突然の背中の痛み 両側の手足の筋肉の弛緩 両側の感覚の喪失 それぞれ以下で詳しく解説します。 突然の背中の痛み 脊髄梗塞の一般的な症状としては、突然現れる背中の痛みから始まることが多いです。 とくに予兆もなく突然症状が現れるのは、血管の詰まりや破裂を引き起こす病気の特徴です。 脊髄梗塞もこのケースに当てはまり、脊髄を栄養する動脈が詰まったり破裂したりして、突然の痛みの発生へとつながります。 また、症状は背中だけにとどまらないこともあり、肩などにも広がりやすいです。 両側の手足の筋肉の弛緩 両手足の筋肉が弛緩し、力が入らなくなるのも前兆のひとつです。 具体的には以下の症状が現れます。 両足がふらつく 物を強く握れなくなる 症状の進行は急速であり、数時間で歩行が困難になるケースも存在します。 また左右一方ではなく、両手足同時に症状が現れるのも、脊髄梗塞の前兆の特徴です。 両側の感覚の喪失 身体の感覚は脊髄を通して脳へと伝わりますが、この経路にある脊髄が障害されてしまうため、両側の感覚までもが障害を受けてしまいます。 また、脊髄梗塞の感覚障害にはある特徴が見受けられます。 それは、痛覚や温覚を伝える神経経路が主に障害されるため、痛みや温度が感じにくくなります。 その一方で、触覚(触れている感覚)や振動覚(振動を感じる感覚)、また自分の手足がどの位置にあるのかなどの感覚を伝える神経経路は比較的障害を受けない場合もあります。 このように脊髄梗塞では突然の症状に襲われて、これまで経験をしたことがないような背中の痛みや手足の脱力感、感覚の異常を経験します。 後ほど治療法についても詳しく説明しますが、脊髄梗塞に対してはまだまだ確立された治療法がなく、苦しい日々を送っている方がたくさんおられます。 再生医療を専門とするリペアセルクリニックでは、この稀な疾患である脊髄梗塞に対しても治療実績があり、高い効果が得られており、300名以上の脊髄疾患の方が治療に来られています。 通常では点滴により投与される幹細胞治療ですが、当院では国内でも珍しく脊髄腔内へ直接幹細胞を投与しております。 詳しくはこちらの動画をご覧ください。 https://www.youtube.com/watch?v=9S4zTtodY-k メール相談 オンラインカウンセリング 脊髄梗塞の原因とは? 脊髄梗塞の原因にはさまざまな要因が考えられますが、ここでは身体の構造にしたがって原因を分類します。 脊髄動脈の疾患 脊髄は前方と後方の2方向から血液が供給されています。 前方の血管を前脊髄動脈と言い、脊髄の前方3分の2を栄養しています。 そして、後方の血管を後脊髄動脈と言い、脊髄の後方3分の1を栄養しています。 栄養を送る血管の損傷 心臓からつながる動脈には栄養が豊富に含まれています。 そのなかでもとくに太い血管である大動脈の動脈硬化や大動脈解離などが発症すると、脊髄へ送られる栄養が行き届かなくなり、脊髄梗塞が起きてしまいます。 また病気が原因ではなく、手術中の手技により脊髄へ栄養を送る動脈が損傷されてしまい、脊髄梗塞となることも事例もあります。 脊髄梗塞の診断方法 脊髄梗塞の診断は、主に以下二つの検査でおこなわれます。 MRI検査 CT脊髄造影検査 最初にMRI検査を実施します。 脊髄梗塞が疑われる段階では、急性横断性脊髄炎、脱髄疾患、脊髄炎、転移性硬膜外腫瘍などを発症している可能性もあり、正確に疾患名を特定できません。 しかしMRI検査によって、何を発症しているか判断ができます。 MRI検査でも判断が難しい場合は、CT脊髄造影検査をおこない、疾患名を特定します。 脊髄梗塞の治療法やリハビリ、後遺症や予後については以下の記事で詳しく解説しています。 脊髄梗塞の治療法 脊髄梗塞を発症した場合、脊髄や周辺がダメージを被っています。 そのダメージを取り除く根本的な治療法は確立されていません。 したがって根治ではなく、症状の緩和や機能の部分的な回復を目的とした、以下の治療法が用いられます。 リハビリ|地道に筋力や感覚の回復を目指す 血行再建術|手術による血行を回復させる 血栓溶解療法|薬剤注入により血栓を解消する それぞれ以下で解説します。 メール相談 オンラインカウンセリング リハビリ|地道に身体機能を目指す 脊髄梗塞の治療では、身体機能を回復させるためのリハビリが用いられます。 リハビリはほとんどの症例で必要となるでしょう。 とくに運動療法による股関節や膝関節の訓練を重視し、歩行をはじめとした基本的な動作を取り戻すことを目指します。 また食事や入浴、更衣などの日常生活動作を取り戻すリハビリもおこなわれます。 また心理的なサポートを目的としたカウンセリングが用いられるケースもあるでしょう。 脊髄梗塞による症状改善を目指すリハビリは長期にわたるため、精神的な支援が必要だからです。 なお長期的なリハビリは、脊髄梗塞からの回復に対して効果的だとされており、たと例えばJCHO大阪病院は、約7割の人が歩行回復なまでに回復すると述べています。 参考:JCHO大阪病院 血行再建術|手術により血行を回復させる 血行再建術とは、血管が詰まった、閉じた状態を改善し、血流を活発化させるための手術です。 先ほど脊髄梗塞は血管がなんらかの原因で詰まることで発症すると解説しました。 したがって詰まりを放置していると症状が悪化すると考えられ、看過できません。 しかし血行再建術の実施により、詰まりが解消されれば、脊髄に酸素や栄養が十分に行き渡ります。 症状の程度によりますが、手術後の症状の悪化は避けられるでしょう。 また早期に実施できれば脊髄梗塞による症状を軽微な状態でとどめられます。 なお血行再建術だけでは、現在の症状の改善は期待できません。 すでに生じた神経の壊死などを回復する手術ではないからです。 症状の回復は、後述のリハビリにて目指します。 血栓溶解療法|薬剤の注入により血栓を解消する 血栓溶解療法とは、アルテプラーゼなどの特殊な薬剤を血管に注入し、つまりの原因である血栓を溶かす治療法です。 血栓が解消されれば、脊髄梗塞の症状の悪化は避けられるでしょう。 早期に血栓溶解療法を実施できた場合、脊髄梗塞の症状を軽微な状態でとどめられます。 ただし血栓溶解療法が有効なのは、発症から6〜8時間以内とされています。 それ以上経過した場合、症状の改善や治療はリハビリや血行再建術などで図られるでしょう。 まとめ・脊髄梗塞は早期診断・治療が大切 この記事では脊髄梗塞の症状の経過や診断方法、原因などについてまとめました。 記事の中でも触れたように、脊髄梗塞は稀な疾患で、明確な治療方法が確立している病気ではありません。 また、急激な背中の痛みは脊髄梗塞かどうかに関わらず、とても危険な状態であると示す身体からの信号です。 そのような痛みを感じたときには、すぐにお近くの医療機関に連絡するようにしましょう。 メール相談 オンラインカウンセリング 参考文献 脊髄への血流遮断 - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 - MSDマニュアル家庭版 脊髄梗塞 - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 診断に難渋した脊髄梗塞の 1 例 脊髄梗塞 14 例の臨床像および予後の検討 ▼こちらもあわせてご参考ください。
2024.06.14 -
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減圧症とは、潜水や高圧環境から急に浮上・減圧した際に、体内のガスが気泡化して起こる疾患です。 潜水からの急浮上に伴うものが代表的であるため、「潜水病」と呼ばれることもあります。減圧症の症状は、軽い関節痛から、神経障害・麻痺などの重症例までさまざまです。 本記事では、減圧症の治し方や応急処置の手順、再圧治療(高気圧酸素療法)などの基本的な治療法を医師がわかりやすく解説します。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 減圧症について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 減圧症の治し方|応急処置の基本 減圧症が疑われたときに大切なのは、焦らずにできる範囲で正しい応急処置を行うことです。 専門的な治療ができる医療機関へ搬送されるまでの対応で、その後の回復にも大きな差が出ます。 ここでは、意識や呼吸の状態に応じた基本の対処法を紹介します。 意識なし・呼吸なしの場合 意識も呼吸もない場合は、すぐに心肺蘇生(CPR)を始めます。 胸の中央を押す胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し、AED(自動体外式除細動器)があればすぐに使いましょう。脳の障害を防ぐため、頭を下げた姿勢にはしないよう注意します。 救助者が複数いる場合は、圧迫と呼吸を交代しながら続けましょう。 意識なし・呼吸ありの場合 呼吸はあるけれど意識がない場合は、回復体位(上図参照)をとらせます。 これは、舌が喉をふさいだり嘔吐物で窒息したりしないようにする体勢です。下あごを少し前に出し、顔を横に向けて寝かせましょう。 呼吸のリズムや顔色を観察し、変化があればすぐに知らせるようにします。体温が下がらないようにブランケットなどで保温することも大切です。 意識がある場合 意識がある場合は、まず安静にさせます。 頭を下げず、仰向けで横になりましょう。可能であれば酸素を吸わせてください。酸素は体の中に残った窒素を外に出す働きがあり、症状の悪化を防ぎます。 意識がしっかりしていれば、少しずつ水分をとるのも良いですが、むせ込みそうなときは控えます。 応急処置に関する注意点 応急処置の際は、設備がある場合に限り、高濃度の酸素を投与します。 ただし、呼吸がない場合は心肺蘇生を最優先で行います。酸素には体内の窒素を洗い出す働きがあるため、早めの対応が回復に役立ちます。 また、頭を下げる体勢は脳圧を上げる原因になるため避けましょう。体を冷やさず、毛布などでしっかり保温することも大切です。 なお、再度潜水をして症状軽減をはかる「ふかし」は絶対に行ってはいけません。ふかしは窒素の排出効率が悪く、再浮上時に症状が悪化するおそれがあります。 必ず潜水を中止し、救急搬送を優先してください。 減圧症の治療法|医療機関での対応 減圧症の疑いがある場合は、できるだけ早く高気圧治療を行える医療機関を受診することが大切です。 応急処置で症状を落ち着かせても、体の中にはまだ気泡が残っていることがあります。 医療機関では、症状の程度に応じて「再圧治療」や「酸素投与」などの治療が行われます。 ここでは主な治療法を紹介します。 再圧治療(高気圧酸素療法) 減圧症の治療の原則は「再圧治療」です。(文献1) 再圧治療の主な流れは以下の通りです。 1.治療を受ける人は、専用の治療タンク内に入ります 2.タンク内の気圧を水中で受けるほどの高い圧まで上げます 3.純酸素を吸入し、体内の気泡を圧縮して再び血液や組織中に溶かします 4.その結果、血流が改善し、組織への酸素供給が効率的に行われます 高気圧環境で純酸素を吸入すると、血液中の酸素濃度が高まり、体のすみずみまで効率よく酸素が行き渡ります。 酸素が十分に届くことで、体内に残っていた窒素が少しずつ洗い出され、肺を通して体の外へ排出されていきます。 治療では、一定時間高い気圧を維持したあと、ゆっくりと減圧していきます。これは、再び気泡ができるのを防ぐためです。 治療時間や減圧については、世界的に標準治療として使用されている「米海軍酸素再圧治療表6」に従って行うことが原則です。 1回の治療で症状が軽くなることを目指しますが、回復の程度によっては複数回にわたって再圧治療を行うこともあります。 その他の補助療法(酸素投与・輸液など) 再圧治療がすぐに行えない場合や、治療の補助として行われるのが酸素投与と輸液です。 酸素投与は、高濃度の酸素を吸入することで体内の窒素を洗い出し、気泡の縮小や血流の改善を助けます。 特別な装置がなくても、できるだけ早く酸素吸入を始めることが重要です。 また、輸液(点滴)は脱水を防ぎ、血液の流れを保つ目的で行われます。これにより、気泡が血管内で詰まるリスクを軽減し、再圧治療の効果を高めることが期待されます。 そのほかにも、体を温かく保ち、安静を維持することが回復を助ける基本的なケアになります。 減圧症の後遺症と治し方 減圧症では、早期に治療を行えば多くの場合は後遺症を残さず回復できますが、治療が遅れたり重症化したりすると、神経や関節などに障害が残ることがあります。 後遺症は症状の出た部位によって異なり、感覚の鈍さや手足の動かしづらさ、耳鳴り、めまいなどが代表的です。 これらの後遺症は、適切な治療とリハビリを行うことで少しずつ改善が期待できます。再圧治療をはじめ、酸素療法や薬物療法を組み合わせて、損傷した組織の回復を促します。 また、体の状態に合わせた運動療法や生活の見直しも、回復に向けて大切なステップです。 主要な後遺症の種類 減圧症による後遺症は、障害を受けた部位によって症状が大きく異なります。 以下は代表的な5つの後遺症です。 後遺症の種類 特徴 内耳障害 耳鳴りやめまい、平衡感覚の乱れが起こる。 対麻痺 下半身が動かしにくくなる。脊髄の障害による運動機能低下。 膀胱直腸障害 排尿・排便のコントロールが難しくなる。 感覚障害 手足のしびれや感覚の鈍化がみられる。 片麻痺 体の片側に力が入らない、動かしにくいなどの症状。 減圧症後のリハビリと生活管理 減圧症の治療が終わったあとも、体に残る影響を少しずつ回復させるためにリハビリが欠かせません。 筋力低下や感覚の鈍化が残る場合は、医師や理学療法士の指導のもと、関節を動かす訓練や筋力を維持する運動を続けることが大切です。 また、十分な睡眠と栄養、水分補給を意識し、体の回復をサポートしましょう。 潜水を再開する際は、再発を防ぐために無理のない計画を立て、浮上速度や休憩時間を十分にとるよう心がけてください。 さらに、減圧症の急性期を乗り越えても、時間が経ってから骨壊死(とくに大腿骨頭壊死)を発症することがあります。これは、骨の血流障害が原因で一部の骨が壊死し、股関節痛や歩行障害を引き起こすものです。 初期は無症状のことも多く、発見が遅れるケースもあります。 治療後もしばらくは定期的に検査を受け、違和感や痛みを感じたら早めに医療機関を受診しましょう。 後遺症の悪化を防ぐには、適切な経過観察と生活管理が大切です。 減圧症(潜水病)の後遺症は治せるのか?再生医療の可能性について 近年、医療分野では「再生医療」という新しい治療法が進んでいます。 減圧症によって神経や関節などに後遺症が残った場合にも、この再生医療が選択肢のひとつとして検討されるようになってきました。 再生医療では、「幹細胞」と呼ばれる細胞を利用します。 幹細胞には、体内でさまざまな細胞へと変化する「分化能」という能力があり、研究分野ではこの性質を活かして損傷した組織をサポートする取り組みが行われています。 当院で扱う「自己脂肪由来幹細胞治療」は、患者様自身の脂肪から幹細胞を採取・培養し、点滴で体内に戻す方法です。自分の細胞を用いるため、アレルギーや免疫反応を起こしにくいのが特徴です。 また、「PRP(多血小板血漿)療法」という方法もあります。これは、患者様の血液から血小板を抽出し、濃縮して使用するものです。血小板に含まれる成長因子には、炎症を抑える働きがあるとされています。 どちらの治療も入院や手術を必要とせず、日帰りで行うことが可能です。これらの治療法は、減圧症の後遺症によって日常生活に支障がある方にとって、医療の選択肢となります。 実際に適応できるかどうかは、医師による診察と検査の上で判断されます。 ▼脊髄損傷に対する幹細胞治療についてはこちらの動画をご覧ください。 まとめ|減圧症を正しく理解し早期対応で後遺症を防ごう 減圧症は、症状の出方が人によって違い、軽い痛みやしびれから始まることもあります。放っておくと後遺症につながるおそれがあるため、早めの対応がとても大切です。 潜水後に少しでも体の異変を感じたら、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。 また、再発を防ぐためには、潜水の前後で十分な休息と水分補給を心がけることも重要です。正しい知識を持ち、早期に対応することで、後遺症のリスクを大きく減らすことができます。 安全な潜水を続けるためにも、体のサインを見逃さず、適切に対処する意識を持ちましょう。 以下の減圧症の後遺症についての記事もあわせてご覧ください。 参考文献 (文献1) 潜水による障害,再圧治療|高気圧酸素治療法入門第6版
2024.01.22 -
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「最近、ダイビング後に体の不調が気になる……」 「もしかして減圧症かも?でも、どうすれば良いのかわからない……」 ダイビング後の体調不良や、減圧症かもしれないという不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 減圧症は、ダイビングなどで深い位置から浅い位置に急浮上した際に起こる病気です。高圧の環境で血液や組織に溶け込んでいた窒素が気泡となり、さまざまな症状をもたらします。 本記事では、減圧症の原因から症状、有効な治療法まで、専門医が詳しく解説します。正しい知識を身につけて、ダイビングを楽しむための参考にしてください。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。再生医療について詳しくは、公式LINEをご確認ください。 減圧症とは?急激な気圧の変化で起こる疾患 減圧症とは、ダイビングや高所作業など、周囲の圧力が急激に低下する環境で発症する病気です。 体内に溶け込んでいた窒素が圧力の低下により気化し、気泡となって血管や組織を傷つけることで、さまざまな症状を引き起こします。(文献1) 減圧症を引き起こす現象は、ダイバーだけでなく、高所での建設作業員や航空機のパイロット、宇宙飛行士にも起こる可能性があります。 減圧症になるメカニズム 私たちの体は呼吸を通じて酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。空気の約78%を占める窒素は、通常であれば体内で利用されずに排出される気体です。 しかし、水中に深く潜ると水圧によって周囲の圧力が高まるため、気体の液体への溶解度は、その気体の分圧に比例するヘンリーの法則に基づき、高圧下ではより多くの窒素が血液や組織に溶け込むのです。(文献2) 体内に多くの窒素が溶け込んだ状態で急激に浮上すると、体にかかる圧力が一気に下がり、溶け込んでいた窒素が気化して小さな泡を形成します。 形成された窒素の気泡が血流に乗って全身を巡り、血管を塞いだり組織を圧迫して減圧症特有の症状を引き起こすのです。 このメカニズムは、たとえば炭酸飲料のペットボトルの炭酸が吹き出す現象によく似ています。 フタが閉まっている高圧の状態では、炭酸ガスは液体に溶け込んでいますが、フタを開けて圧力が急に下がると、シュワシュワと音を立ててガスが気泡となって一気に飛び出してきます。 炭酸飲料のガスが気泡となって飛び出すのと同じ現象が、体内で起こっているのが減圧症です。 I型減圧症(関節・筋肉症状中心) I型減圧症は、比較的軽症とされ、主に皮膚、関節、筋肉に症状が現れるタイプです。(文献3) ダイバーの間では、体を折り曲げるほどの痛みが出ることからベンズとも呼ばれています。 症状はダイビング後数時間以内に現れることが多いですが、24時間以上経過してから発症するケースもあります。 代表的な症状は、肩、肘、膝などの関節に生じる鈍い痛みです。 関節の痛みは時間とともに増していくことがあり、動かすと悪化してしまうのも特徴です。 また、皮膚に現れる症状としては、かゆみ、発疹などがあります。 軽症とはいえ、関節痛や皮膚の発疹といった症状は、体内で窒素の気泡が形成された明確なサインです。 とくに、皮膚症状がより重篤な神経症状の前兆である可能性も指摘されています。 自己判断でただの筋肉痛やじんましんと片付けず、専門家に相談しましょう。 主な症状 症状が現れる部位 重症度 緊急性 後遺症のリスク 関節痛(ベンズ) 肩、肘、手首、膝などの関節 軽症 低い 低い(早期治療で回復) 筋肉痛・だるさ 全身の筋肉 軽症 低い 低い(早期治療で回復) 皮膚症状 上半身、肩、胸部などのかゆみ、発疹、むくみ 軽症 低い 低い(早期治療で回復) II型減圧症(神経・循環器症状) II型減圧症は、神経系、循環器系、呼吸器系に気泡が影響を及ぼす重篤なタイプです。(文献3) 生命に関わる危険性があり、緊急の治療を必要とします。 とくに頻度が高いのが、脊髄に気泡が詰まる脊髄型減圧症です。 脊髄型減圧症は手足のしびれや麻痺感覚の鈍化、排尿・排便障害などを引き起こします。脳に影響が及べば、意識障害、視覚異常、めまいなどを起こすこともあります。 また、肺の血管に多数の気泡が詰まると、チョークス(呼吸循環器型減圧症)と呼ばれる激しい胸の痛みや咳、呼吸困難に陥り、非常に危険な状態となります。 一度、脊髄のような中枢神経系が損傷を受けると、完全な回復が難しく、後遺症が出る可能性が高まります。 しびれ、めまい、呼吸の苦しさといった症状は、減圧症における最も危険なサインと認識してください。 主な症状 症状が現れる部位 重症度 緊急性 後遺症のリスク 神経症状 脊髄、脳、末梢神経 重症 高い 高い 呼吸器症状 肺(胸の痛み、咳、呼吸困難) 重症 高い 中程度 減圧症の原因 減圧症の主な原因は、水中で起こる急激な圧力の低下です。水圧が高い環境では、体内に窒素が溶け込みます。 急激に浮上して水圧が下がると、この溶け込んでいたガスが気化して気泡となり、血管や組織を塞いでさまざまな症状を引き起こします。 窒素が気泡になるというメカニズムに加え、発症には以下の要因が複合的に影響します。(文献4) 主な要因 なぜリスクとなるのか 急速な浮上 体内の窒素ガスが気化するスピードが速くなり、気泡ができやすくなるため。 潜水深度と時間 深く、長時間潜るほど、体内に溶け込む窒素量が増加するため。 反復潜水 前回の潜水で体内に残った窒素が蓄積されるため。 脱水・疲労・睡眠不足 血行不良を引き起こし、窒素の排出を妨げるため。 肥満 窒素は脂肪組織に溶け込みやすいため。 寒冷 水中で体が冷えると、血管が収縮し血行が悪くなるため。 飲酒・喫煙 脱水症状や血行不良を招くため。 上記の要因は、それぞれが単独で減圧症のリスクを高めるだけでなく、複数組み合わさることでさらに危険性が増します。 たとえば、疲労した状態で深くまで潜り、かつ急いで浮上するようなケースは、減圧症を発症するリスクが極めて高いと言えます。 安全なダイビングのためには、ダイブプランの遵守に加え、体調管理も非常に重要です。 減圧症の症状|どんな症状が現れる? 減圧症の症状は多岐にわたりますが、中でも神経症状はとくに重症度を判断する上で重要です。 症状の現れ方は、気泡が詰まる場所によって大きく変わってきます。 損傷部位によって変わる症状の特徴 脊髄は脳と全身をつなぐ神経の束であり、体の各部位に神経をつないでいるため、気泡が詰まる場所によって症状が異なります。 損傷部位 主な症状・影響範囲 頸髄(首) 腕や足を含む四肢すべてに麻痺やしびれなどの症状が及びます。 胸髄(胸) 主に下半身に影響が及び、両足が麻痺する対麻痺の状態になることがあります。 腰髄(腰) 足のしびれや脱力、排尿・排便障害といった症状が現れやすくなります。 損傷部位の中でも、減圧症では胸髄の下位から腰髄の上位にかけての損傷が最も多いとされています。 症状が現れた場合は、一刻も早く専門の医療機関を受診してください。 軽症・重症の見分け方と後遺症のリスク 症状の重症度は、生活にどれだけ支障が出るかで大まかに判断できます。 軽度のしびれや一時的な筋力低下であれば軽症に分類されることが多いですが、歩行が困難になったり、排尿・排便に異常が出たりした場合は重症と考え、一刻も早く専門医療機関を受診する必要があります。 しかし、どんな症状であっても自己判断で、軽症だから大丈夫と放置してはいけません。 減圧症は早期治療が予後を大きく左右する疾患です。 神経組織は一度損傷すると自然な回復が難しいため、発症後いかに早く治療を開始するかが、その後の人生を左右する鍵となるのです。 減圧症の治療法 減圧症の治療は、時間との勝負です。 症状の発症が疑われた時点ですぐに応急処置を開始し、根本的な治療である高気圧酸素治療へとつなげることが、後遺症のリスクを最小限に抑える上で極めて重要になります。 治療の目的は、体内で気泡化した窒素を排出し、気泡によって酸素不足に陥った組織を回復させることです。治療は段階的に行われ、まずは現場での応急処置、次に専門施設での高気圧酸素治療が中心となります。 自己判断で様子を見たり、医学的根拠のない民間療法に頼ると回復の機会を逃すことになりかねません。症状の重さにかかわらず、必ず専門の医療機関を受診してください。 発症直後の応急処置 減圧症が疑われる症状が現れたら、パニックにならず、まずは安全を確保して応急処置を開始します。 発症直後の応急処置が、その後の治療効果に大きく影響します。 【対応すべきこと】 安静を保つ:水平に寝かせ、体を動かさない 純酸素の吸入:医療用純酸素(100%)を吸入 水分補給:水かスポーツドリンク(カフェイン・アルコール不可) 保温:濡れたウェットスーツを脱がせ、タオルや毛布で保温 緊急連絡:118番/119番に連絡、ダイビング後の減圧症と伝える 医師に情報を伝えるため、発症時刻、ダイビングの深度・時間、症状の詳細をメモしておくと診断・治療に役立ちます。 【やってはいけないこと】 自己判断で放置:軽症に見えても重症化する可能性あり マッサージや激しい運動:窒素の気泡が全身に広がる 入浴やシャワー:血管拡張により症状悪化リスクあり 症状が軽い場合も、自己判断で様子を見るのではなく、必ず専門医療機関を受診してください。 応急処置は搬送までの症状悪化を防ぐためのものであり、適切な治療には医師の診断が必要です。 高気圧酸素治療 減圧症の標準的な治療法が、高気圧酸素治療です。 高気圧酸素治療は、専用の装置の中で2.8気圧程度まで気圧を高めた環境に入り、100%の純酸素を吸入する治療法です。(文献5) この治療は、物理学の法則を利用して減圧症の根本原因にアプローチします。 1.気泡の収縮・溶解(再圧) まず、チャンバー内の気圧を上げることで、体内の気泡を物理的に小さく圧縮し、再び血液や組織に溶け込ませます。これは、水中に深く潜っていくのと同じ状態を人工的に作り出します。 2.窒素の排出と組織への酸素供給 高い圧力下で純酸素を吸入すると、血液中に溶け込む酸素の量が通常の10〜20倍に増加します。これにより、体内の窒素分圧が相対的に下がり、窒素の排出が効率的に行われます。同時に、気泡で血流が滞っていた組織の隅々まで酸素が供給され、細胞の機能回復が強力に促されます。 治療は症状に応じて数時間にわたり、複数回行われることもあります。後遺症を残さないためには、いかに早くこの治療を開始できるかが最も重要です。 減圧症の予防法 減圧症を予防するためには、ダイビングにおける安全ルールを徹底して守ることが最も重要です。 ルールの一つひとつが、科学的根拠に基づいて体への負担を減らすために作られています。 安全なダイビングのためのルールと注意点 減圧症を予防するためには、ダイビングにおける安全ルールを徹底して守ることが重要です。ルールの一つひとつが、科学的根拠に基づいて体への負担を減らすために作られています。 減圧症を予防するために、以下のポイントを必ず守りましょう。 十分な睡眠をとる 疲労を避ける 飲酒後のダイビングは厳禁 ダイビング前後に十分な水分補給 潜水深度、時間、休憩時間を含むダイブプランを作成 万全の体調を整えた上で、事前に潜水深度、休憩時間などを盛り込んだダイブプランをもとにダイビングを楽しみましょう。 潜水中、とくに重要なのが浮上時の行動です。ダイブコンピューターが示す安全な浮上速度を厳守し、急浮上を避けることで、体内の窒素が急激に気泡化するのを防ぎます。 さらに浮上の最後には、減圧症予防の要となる安全停止を水深5メートル付近で最低3分間必ず行い、体内に溶け込んだ窒素を呼吸によって穏やかに排出させましょう。 そして、ダイビング後の行動も予防には欠かせません。体内に残った窒素が、気圧の低い場所で膨張するのを防ぐためです。 ダイビング後、最低でも18時間から24時間は、飛行機への搭乗や登山、峠越えといった高所への移動は避けてください。 まとめ|減圧症は早期治療が大切!症状を感じたら迷わず受診しよう 減圧症は、ダイビングなどの圧力環境の変化によって誰にでも起こりうる疾患です。 正しい知識を持ち、予防策を徹底すればそのリスクを大幅に減らします。ダイブプランの遵守と、日頃からの体調管理を常に心がけてください。 もし万が一、ダイビング後に体に少しでも異変を感じた場合は、軽症だから気のせいだろうと自己判断してはいけません。早期に高気圧酸素治療を受けることで、後遺症のリスクを最小限に抑え、健やかな生活に戻れる可能性が大きく高まります。 症状を感じたら迷わず、直ちに医療機関を受診しましょう。 参考文献 (文献1) 減圧症 – 25. 外傷と中毒 | MSDマニュアル家庭版 (文献2) 減圧症 - 22. 外傷と中毒 | MSDマニュアル プロフェッショナル版 (文献3) 潜水による障害 再圧治療|高気圧酸素治療法入門第6版 (文献4) 減圧症にならない潜り方|日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 vol.45 (文献5) 減圧障害の最新治療|日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 vol.43 No.2
2024.01.18 -
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脊髄損傷は、交通事故、転倒、スポーツでのけがなど日常生活のさまざまな場面で発症する可能性があります。 脊椎は身体の中心を支える重要な部分です。その内側の脊髄を損傷すると、運動機能や感覚に深刻な影響を及ぼし、日常生活に大きな制約が生じます。(文献1)また、症状は損傷部位によって異なります。 この記事では、脊髄損傷の原因と予防方法、損傷レベルごとの症状や治療法について詳しく解説するので、ぜひ最後までご覧ください。 脊髄損傷の原因 脊髄損傷の原因は以下の2通りに分けられます。 原因が脊髄そのものにある場合(内的要因) 原因が脊髄の外にある場合(外的要因) それぞれ解説します。 原因が脊髄そのものにある場合(内的要因) 脊髄損傷の内的要因とは、脊髄そのものに問題が生じて損傷が起こるケースを指します。 これには病気や体内の異常が関係することが多く、外傷がないにもかかわらず神経機能が低下することがあります。主な要因は以下の通りです。 症名 詳細 脊髄梗塞 脊髄を流れる血管が詰まり、神経細胞が壊死する疾患です。動脈硬化や血栓が原因となることがあります。 脊髄出血 血管が破れ、脊髄内に出血が起こった状態です。高血圧や血管の異常が関係します。 感染症 細菌やウイルスが脊髄に感染し、炎症を引き起こします。脊髄炎や結核性脊椎炎が代表例です。 ビタミンB12欠乏 ビタミンB12が不足すると神経の機能が低下し、しびれや歩行障害が現れることがあります。 脊髄腫瘍 脊髄やその周囲に腫瘍が発生し、圧迫によって神経が損傷します。 椎間板ヘルニア 脊椎のクッションである椎間板が突出し、脊髄を圧迫することで損傷を引き起こします。加齢や姿勢の影響を受けやすいです。 上記のような内的要因が脊髄損傷の原因になります。一概に内的要因での脊髄損傷といっても症状や要因はさまざまです。心当たりがあればすぐに病院へ行きましょう。 頚髄の中心部分の損傷による「中心性脊髄損傷」については、以下の記事が参考になります。 原因が脊髄の外にある場合(外的要因) 脊髄損傷は、脊髄自体に異常がなくても、外部からの強い衝撃によって発症する場合があります。以下が代表的な外的要因です。 交通事故(自動車、バイク、自転車の衝突や転倒) 転倒・転落(階段や浴室での転倒、高齢者の転倒事故) スポーツ関連の事故(ラグビー、柔道、体操、スキーなどの接触や転倒) 労働災害(建設現場や工場での事故) 高所からの落下・落下物の下敷きになる(足場からの転落、建築資材の落下) これらの外傷によって、脊柱が強く曲がったり圧迫されたりすると、脊髄が損傷されやすいです。 外的な衝撃が軽微であっても、既に脊椎疾患がある場合、脊髄損傷が発症する場合があります。たとえば、脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症の患者様は、わずかな転倒でも脊髄が圧迫され、麻痺などの重篤な症状を引き起こすことがあります。 放射線治療を受けたことがある人は、骨がもろくなり、小さな衝撃でも骨折しやすいです。 これらの外的要因による脊髄損傷は、適切な予防によりリスクを軽減できます。安全対策を徹底し、事故を未然に防ぐことが大切です。 脊髄損傷を発症した人の原因別の割合 脊髄損傷の主な原因は、以下の表の通りです。交通事故、転落、転倒の順に多く、とくに日本では高齢化が進んだ結果、高齢者の転倒による受傷が増えています。(文献3) 原因 割合(%) 交通事故 43.7% 高所転落 28.9% 転倒 12.9% 打撲・下敷き 5.5% スポーツ 5.4% 自殺企図 1.7% その他 1.9% 交通事故は比較的若い人に多く、バイクや自動車の運転中の衝突事故が大きな要因です。一方、高所転落は高所作業や建設現場などの労働環境で発生しやすく、労働災害としての事例もあります。 脊髄損傷のリスクは年齢や生活環境によって異なります。事故を防ぐためには、交通ルールの遵守、安全対策の徹底、転倒予防の工夫が重要です。 脊髄損傷の症状をレベル(高位)別に紹介 脊髄損傷は、完全損傷と不完全損傷の2種類に分類されます。 完全損傷では、損傷部位より下の運動機能や感覚が完全に失われ、不完全損傷では、部分的に機能が残ることがあります。不完全損傷の分類は、以下の通りです。(文献2) 不完全損傷の分類 症状の傾向 中心性脊髄損傷 上肢の麻痺が強く、下肢の影響が少ない Brown Sequard(ブラウン セカール)症候群 片側の運動麻痺+反対側の痛覚・温度覚消失 前脊髄症候群 運動機能と痛覚・温度覚が失われるが、触覚は保たれる 後脊髄症候群 触覚・振動覚・位置覚が失われるが、運動機能は比較的保たれる また、損傷高位レベルによって以下のような症状が出現します。 損傷高位レベル 主な症状 頸椎損傷(C1~C8) ・全身麻痺や呼吸困難(C1~C4) ・腕や手の一部が動く(C5~C8) 胸椎損傷(T1~T12) 下半身麻痺、体幹のバランス低下、排尿排便障害 腰椎損傷(L1~L5) 歩行困難、膀胱直腸障害、感覚障害 仙椎損傷(S1~S5) 軽度の感覚障害や排尿排便の調整機能低下 上記のように、損傷高位レベル別で症状は異なります。 脊髄損傷とともに合併症のリスクが高まる点に注意 脊髄損傷のリスクの一つとして合併症があります。損傷の部位や重症度によって影響が異なり、適切な管理が必要です。脊髄損傷で発症しやすい合併症は以下の通りです。(文献3) 合併症 症状 呼吸器合併症 頚椎損傷による呼吸筋の麻痺で呼吸不全を引き起こします。頚髄C3以上の損傷では人工呼吸器が必須、C4~C8の損傷でも肋間筋麻痺により呼吸機能が低下します。 循環器合併症 血圧調節機能の低下による低血圧や深部静脈血栓症のリスクが増加します。また、起立性低血圧で車いす移乗時に意識消失を起こすことがあります。 消化器合併症 腸の蠕動運動低下による便秘や腸閉塞のリスクがあります。また、長期臥床により重度の便秘を発症し摘便が必要になります。 泌尿器合併症 排尿機能障害により尿路感染や腎機能障害を起こしやすいです。尿カテーテル管理中に膀胱炎を繰り返し、腎盂腎炎を発症することもあります。 褥瘡(床ずれ) 圧迫により皮膚が壊死しやすく、感染症のリスクが高まります。長時間の同じ姿勢により仙骨部に深部褥瘡を発症することもあります。 上記の合併症を防ぐためには適切な体位変換、リハビリ、感染予防がポイントです。 脊髄損傷の治療法を目的別に解説 脊髄損傷の治療は、その原因および目的によって多岐にわたります。 原因に対する治療 救命のための治療 障害の影響を減らすための治療 それぞれ詳しく解説します。 原因に対する治療 脊髄損傷の治療は、原因に応じたアプローチが必要です。脊髄感染症やビタミン欠乏、腫瘍が関与している場合、それぞれに適した治療を行います。 感染症なら抗生物質、ビタミン欠乏なら栄養補給、腫瘍なら放射線療法や手術を検討します。 椎間板ヘルニア、血腫、膿瘍などが脊髄を圧迫している場合、手術で原因を除去することが一般的です。たとえば、腰椎椎間板ヘルニアなら突出した髄核を摘出し、神経の圧迫を軽減します。 硬膜外血腫なら血液を排出し、脊髄の機能を回復させます。脊髄膿瘍では感染源の除去と抗菌薬の投与を組み合わせることが重要です。 救命のための治療 頸髄などの頭に近い部位で脊髄損傷が起きると、呼吸や血液循環を制御する神経が損傷され、生命の維持が困難になります。たとえば、頸髄の上部が損傷すると、自発呼吸ができなくなり、窒息のリスクが高まります。 このような場合、治療よりも先に人工心肺や人工呼吸器を使用し、呼吸と循環を維持することが必要です。 血圧が低下し、臓器への血流が不足すると、多臓器不全を引き起こす可能性があります。輸液や昇圧剤の投与で血圧を管理するのが一般的です。 後遺症・障害の影響を減らすための治療 脊髄損傷では、最大限の治療を行っても後遺症が出ることがあります。その場合に重要なのが、リハビリテーションを中心とした治療です。 リハビリを行うことで、障害を受けた機能をほかの機能で補えます。たとえば、手足の麻痺がある場合、残された筋力を強化する訓練を行い、車椅子操作や介助を受けながら自立した生活を目指します。また、失われた感覚を補うために、音声認識技術や福祉機器の活用も有効です。 行政や医療のサポートを利用すれば、事故前に近い生活レベルを取り戻せる可能性があります。住宅のバリアフリー改修や補助金制度の利用などを組み合わせることで、日常生活の負担を減らせます。 脊髄損傷の後遺症に対する治療「再生医療」について https://youtu.be/5HxbCexwwbE 脊髄損傷による後遺症は、手足の麻痺やしびれ、歩行障害など深刻な影響を及ぼします。 万が一、後遺症が残ってしまった場合には、再生医療である幹細胞治療が選択肢の一つです。幹細胞は損傷した神経の修復を促すため、症状の改善が期待できます。 たとえば、手足のしびれが続く患者様に幹細胞を投与すると、損傷した神経を修復可能です。リハビリと併用することで、可動域の拡大や筋力の回復につながる可能性もあります。 脊髄損傷を予防するために意識すること 脊髄損傷を防ぐためには、けがを避けることが基本です。(文献3)たとえば、高所での作業時は安全帯の着用や周囲の確認を徹底、階段の昇降時には手すりを使い、歩行中は滑りやすい場所を避けるなどして転倒のリスクを減らしましょう。 高齢者の場合、非骨傷性頸髄損傷のリスクがあります。これは骨折を伴わない頸髄損傷で、頸椎の変形が原因です。定期的な検診で頸椎の変形を早期に発見し、適切な治療を受けることが大切です。骨密度の低下を防ぐためには、カルシウムやビタミンDの摂取、適度な運動を心がけましょう。 そして、安全な生活環境を整えることも、脊髄損傷の予防につながります。 まとめ|脊髄損傷の原因に即した適切な方法で治療しましょう 今回の記事では脊髄損傷とその症状および治療法について解説しました。 脊髄損傷の原因や症状は多岐にわたります。交通事故やスポーツ外傷、高所からの転落などの外傷性損傷だけでなく、腫瘍や感染症によるものもあります。 症状の程度も異なり、軽度のしびれから四肢の麻痺まで幅広いです。そのため、各症例に合わせた治療が重要となります。 当院リペアセルクリニックでは、幹細胞治療を用いた再生医療で脊髄損傷の治療をサポートしています。従来の治療で十分な改善が見られず、再生医療を検討されたい場合はリペアセルクリニックへご相談ください。 参考文献 (文献1) 公益社団法人日本整形外科学会「脊髄損傷」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spinal_cord_injury.html (最終アクセス:2025年3月20日) 文献2 一般社団法人日本脊髄外科学会「脊髄損傷」 https://www.neurospine.jp/original62.html (最終アクセス:2025年3月20日) 文献3 独立行政法人労働健康安全機構「脊椎・脊髄損傷」 https://www.research.johas.go.jp/sekizui/ (最終アクセス:2025年3月20日)
2022.06.24 -
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脊髄損傷を負ったあと「リハビリでどこまで回復できるのか?」「効果的なトレーニング方法は?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか? リハビリは早期に始めるほど効果が高く、適切なトレーニングを継続すれば日常生活の質向上が期待できます。 本記事では、脊髄損傷におけるリハビリやトレーニングについて詳しく解説します。リハビリの回復見込みや注意点も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。 脊髄損傷のリハビリ内容【主な部位へのアプローチポイント】 さっそく、脊髄損傷のリハビリ内容を解説します。脊髄損傷におけるリハビリでは以下の訓練や療法がよくおこなわれます。 可動域訓練 筋力トレーニング 歩行訓練 電気刺激 順番に見ていきましょう。 可動域訓練|全身へのアプローチが可能 脊髄損傷後のリハビリでは、早期から関節の可動域訓練を行います。 脊髄を損傷すると「正常な筋肉」「麻痺がある筋肉」「筋力低下した筋肉」が混在します。その結果、筋肉のバランスが崩れることで拘縮(こうしゅく:関節が固くなり動きが制限される状態)が発生しやすくなるため、早期の訓練開始が重要です。 下部頸髄損傷による拘縮では、肘・膝・足の関節が屈曲位で固定されるだけでなく、全身の柔軟性が低下します。 拘縮が進行すると、座位の維持や寝返り、起き上がり、移乗(車椅子への移動など)にも支障が出るため、可動域訓練は全身の機能維持において欠かせない訓練といえます。 筋力トレーニング|上肢・下肢の筋力強化に有効 脊髄損傷のリハビリを目的とした筋力トレーニングは、麻痺を負った筋肉とのバランスを整えるほか、残存した機能を活用して日常生活を送るために欠かせない取り組みです。 たとえば、呼吸筋を鍛える「バルサルバ法」(バルサルバ手技とは異なる)は、呼吸機能の回復に有効であり、生活の質(QOL)の向上につながります。このトレーニングは、息を止めて腹部に力を入れることで呼吸筋を鍛える方法で、推奨時間は30秒未満です。 適切な筋力トレーニングを継続すれば、上肢・下肢の筋力を維持・向上させ、日常動作の改善を図れます。 歩行訓練|下肢の機能回復に有効 歩行訓練を早期から実施すると、歩行機能の向上だけでなく、身体機能も高まります。 脊髄損傷のリハビリでは「吊り上げ式免荷歩行」がよく採用されます。 これはジャケットを装着して体を上方へ牽引し、体重負荷を軽減しながら安全に歩行訓練をする方法です。 吊り上げ式免荷歩行を実施するメリットは以下の4つです。 早い段階から歩行練習ができる 身体の一部を支え負担を軽減できる 転倒のリスクを減らし安全に訓練できる 歩く動作に近い運動ができ意欲が向上する この方法により、安全性を保ちながら下肢の機能回復を促進します。 電気刺激|指先への細やかなアプローチも可能 機能的電気刺激(FES:functional electric stimulation)では、電気刺激により、麻痺を起こした筋肉を動かすことで身体機能の回復を図るリハビリ手法です。 具体的には、体の表面に装着もしくは体内に埋め込んだ電極から電気信号を送り筋肉を収縮させる方法です。 電気刺激により、歩行や起立動作などの日常生活動作の改善に加え、高位脊髄損傷者では人工呼吸器が不用になった報告があります。動作の向上は脊髄損傷を負った方にとって、リハビリ意欲の向上につながるでしょう。 電気刺激は、手指や手首の動作改善にも有効であり、握力の向上や指先の細かな動作の回復を促します。これにより、食事や着替え、筆記といった日常生活動作の自立支援にも貢献します。 再生医療|脊髄損傷の後遺症に対する新たな治療法 従来の治療法は主にリハビリで、症状が悪化すれば手術を受けるのが一般的でした。 しかし近年、幹細胞を用いた「再生医療」が新たな選択肢として注目されています。 幹細胞には損傷した組織を修復する働きがあり、筋力の回復や歩行の安定、感覚の改善などが期待されています。 点滴や患部に直接注射することで幹細胞が体内に投与され、血液を介して脊髄へ届けられる仕組みです。 再生医療は、手術のように傷跡が残る心配がなく、体への負担が少ない点も大きなメリットです。 「再生医療に興味があるけど具体的なイメージがつかめなくて不安…」という方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 脊髄損傷におけるリハビリの回復見込みは? 脊髄損傷後のリハビリによる回復の見込みは、損傷の程度や種類によって異なります。 脊髄損傷は、大きく分けて以下の2つに分類されます。 分類 症状 完全麻痺 脊髄の神経伝達が完全に断たれた状態で、運動機能や感覚が完全に失われた状態 不全麻痺 脊髄の神経伝達が部分的に残っており、運動機能や感覚の一部が残っている状態 一般的に、完全麻痺の場合、失われた機能の完全な回復は難しいとされています。一方で、不全麻痺の場合は、早期にリハビリを開始して適切な治療を継続すれば、機能回復が期待できます。 リハビリだけでなく、脊髄損傷の後遺症には、再生医療という選択肢もあります。 幹細胞を採取・培養する再生医療は、自己再生能力を持つ幹細胞を利用して、損傷した組織の修復を目指す治療法です。 詳しい治療法については、下記のページをご覧ください。 脊髄損傷のリハビリに関する2つの注意点 脊髄損傷におけるリハビリ時の注意点を2つ解説します。 受傷後すぐは廃用症候群の発症に注意する 脊髄ショックのリスクも念頭に置いておく これらの点を理解した上で、安全なリハビリに取り組みましょう。 受傷後すぐは廃用症候群の発症に注意する 受傷直後は、安静にする必要があるため、ベッド上で過ごす時間が長くなります。 そこで注意したいのが、廃用症候群の発症です。 廃用症候群とは、安静状態が長時間続くことで起こる心身機能のトラブルや疾患の総称です。 たとえば、以下のような症状が現れます。 床ずれ 関節拘縮 尿路結石 起立性低血圧 睡眠覚醒リズム障害 褥瘡(じょくそう:長時間同じ姿勢により身体が圧迫されて皮膚や組織が損傷する状態)を防ぐためには、こまめに体位を変え、圧を分散させるマットやクッションを活用することが必要です。 脊髄ショックのリスクも念頭に置いておく 脊髄損傷のリハビリを進める際には、脊髄ショックのリスクを考慮する必要があります。 脊髄ショックとは、脊髄に損傷を受けた際に、損傷部位だけでなく脊髄全体に影響が及ぶ現象です。 脊髄と脳の連絡が絶たれることで発生し、運動や感覚が麻痺するだけでなく、脊髄反射が完全に消失する特徴があります。 脊髄ショックは通常、1日から2日で急性期を抜けますが、重症の場合は数日から長くて数週間続きます。 その間、体を動かすことができず、安静にして過ごさなくてはなりません。また、回復後も症状が重い場合は、予後が厳しくなる可能性が高くなります。 リハビリを開始する際には、脊髄ショックの発生を念頭に置き、医師の指示に従いながら慎重に治療を進める姿勢が大切です。 まとめ|脊髄損傷におけるリハビリのトレーニングで機能回復を目指そう 脊髄損傷は、体の中枢にある神経が損傷することです。脊髄を損傷すると、損傷した部位や程度により違いがあるものの麻痺が発生します。 損傷する脊髄レベルが高いほど重症度も高くなり、頸髄が横断される形で損傷する完全麻痺では、体を動かせなくなったり、感覚が感じ取れなくなったりします。 脊髄損傷後の主な治療法はリハビリです。リハビリでは、回復・残存した神経機能を日常生活に結び付けるため、体位変換・可動域訓練・筋力トレーニング・歩行訓練・電気刺激などに取り組みます。 また、リハビリで思ったような効果がみられない場合は、「再生医療」も選択肢としてご検討ください。 再生医療は、これまで困難とされていた脊髄の損傷修復や再生を目指す治療法です。 無料のメール相談・オンラインカウンセリングも受け付けていますので「再生医療で脊髄損傷をどうやって治療するの?」と気になる方は当院「リペアセルクリニック」にお気軽にお問い合わせください。 頚髄の中心部分の損傷による「中心性脊髄損傷」については、以下の記事で詳しく解説しています。
2022.03.28







