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減圧症の治し方と後遺症の最新治療法!医師が解説!

公開日: 2024.01.22
更新日: 2024.10.07

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減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法を医師が解説

減圧症とは、高圧環境下で血中や組織中に溶解していた窒素などの空気が、急激な減圧により気泡化して起こる疾患です。潜水からの急浮上に伴うものが代表的であるため、「潜水病」と呼ばれることもあります。

軽い関節痛や痒み・発疹などの軽症から、脳障害や脊髄損傷をきたして死に至る重症まで症状は多様です。

本記事では発症直後の応急処置や再圧治療について解説します。後遺症に対する最新治療としての再生医療の可能性についてもご説明していきます。

減圧症の応急処置

減圧症をきたした際、専門的な治療ができる医療機関へ搬送を待つ間にできる応急処置をご紹介します。

もし患者さんに意識がなく、呼吸が止まっている状態であれば、速やかに胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸といった心肺蘇生を行う必要があります。AEDが準備できるのであれば速やかに装着しましょう。

脳の障害をきたすこともある減圧症では、脳圧をあげないために頭を下げる体勢は厳禁です。意識があれば仰向けで休ませましょう。

意識がなく、呼吸のみある状態であれば回復体位(上図)をとります。舌の付け根が喉を塞いだり嘔吐物で窒息をしたりしないために、下顎を突き出して横を向くような体勢にします。

呼吸の有無に関わらず必要なのが高濃度の酸素投与です。酸素には組織の窒素の洗い出し効果があるためです。設備があれば一刻も早く開始してください。

意識があれば水分補給を行いましょう。もし医療系の資格を持つ人がいて器材があれば点滴を行います。また、体を冷やしすぎないように保温に努めてください。回復体位

回復体位 recovery position

 

  • 意識がなく、呼吸が止まっている状態

  • ・胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸で心肺蘇生する
  • 意識がなく、呼吸のみある状態

  • ・回復体位をとる(上図参照)
  • 意識がある場合

  • ・仰向けで休ませる
  • ・水分補給を行う
  • ・器材があれば点滴を行う(医療資格保持者がいる場合)
  • 注意点

  • ・設備があれば呼吸の有無に関わらず高濃度の酸素を投与する
  • ・頭を下げる体勢は厳禁
  • ・体を冷やさないように保温する

なお、再度潜水をして症状軽減をはかる「ふかし」は絶対に行ってはいけません。

ふかしは、空気を使用するため、酸素投与と比較しても窒素の洗い出し効果の効率が悪いためです。再度浮上した時に症状が再燃したり、場合によっては増悪したりするリスクがあります。

減圧症の治療

治療の原則は「再圧治療」です。

  • 再圧治療とは
  • ・治療を受ける人は、専用の治療タンク内に入ります
  • ・タンク内の気圧は水中でかかるくらい高い圧まで上がります
  • ・その中で患者さんは純酸素を吸入します
  • ・高い気圧により気泡は圧縮され、再度血液や組織中に溶け込みます
  • ・その結果、血流の回復が期待できる治療法です

さらに高濃度酸素を投与することで、組織へ効率よく酸素が運ばれてきます。

組織に酸素が届くと、窒素が洗い出されます。窒素は肺へ集まり、体外へ排出されるのです。

一定時間、高い気圧をかけたら、その後はゆっくり減圧行います。こうすることで、再度気泡ができることを防ぎます。

高い気圧をかける時間や減圧については、世界的に標準治療として使用されている「米海軍酸素再圧治療表6」に従って行うことが原則です。

初回で可能な限り症状をなくしてしまうことが重要であるため、経過を見ながら治療時間の調整が行われます。それでも症状が残ってしまった場合は、症状の回復の可能性があるのであれば複数回の再圧治療を行うこともあるのです。

減圧症の後遺症

減圧症により脳や脊髄の障害が起こっても、早期に適切な治療が行われれば症状の消失が期待できます。しかしながら、治療が遅れたり適切な治療がなされなかったりすると後遺症を残す可能性があります。

後遺症の症状は障害部位により多様です。以下に代表的な後遺症をお示しします。

 

  • 内耳障害

  • ・聴覚と平衡感覚に関わる第Ⅷ脳神経の障害です
  • ・基本的には適切な治療で改善します。
  • ・減圧症と気づかずに治療が遅れると耳鳴りやふらつきが残ります
  • 対麻痺

  • ・主に下肢の両側に左右対称に起こる運動麻痺です
  • ・脊髄の障害による後遺症です。
  • 膀胱直腸障害

  • ・脊髄の障害により、排尿や排便のコントロールが困難になります
  • ・尿がうまく出なくなったり、失禁を起こしたりします
  • 感覚障害

  • ・脊髄および脳の障害いずれでも起こる後遺症です
  • ・痺れたり、感覚がわからなくなったりします
  • ・脳障害の後遺症として起こる場合は障害部位と反対側に認められます。
  • ・一方、脊髄の障害の場合は障害された部位より下に両側に起こることが一般的です。
  • 片麻痺

  • ・脳の障害により起こります。
  • ・対麻痺と異なり、片側の手足の運動麻痺です。

これらの後遺症によりダイビングへの復帰が出来なくなるだけでなく、導尿が必要になったり車椅子生活を余儀なくされたりするケースもあるのです。

このような場合にはリハビリを行い、少しでも生活しやすくなるように工夫するより他にありません。

また、急性期の症状は回復して残らずとも、のちに骨壊死を起こすことがあります。減圧症により骨の循環障害が起こることで骨の一部が壊死してしまうのです。

もっとも多いのは大腿骨頭壊死です。発症直後は無症状ですが、徐々に骨頭が潰れていくため股関節痛が起こります。最終的には関節が破壊され、歩行が困難になってしまいます。

骨壊死が起こってしまうと症状の進行を止めることはできず、生活に支障が出れば手術が必要になるのです。

股関節の痛みは⼿術しなくても治療できる時代です。

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減圧症(潜水病)の後遺症は治せるのか?再生医療の可能性について

現在、最新の治療である幹細胞治療がさまざまな分野で注目を浴びています。減圧症の後遺症についても同様のことが言えるでしょう。

幹細胞治療は、「間葉系幹細胞」と呼ばれる色々な細胞に変化できる万能細胞の特性を活かした治療法です。幹細胞を採取して培養を行い、障害部位に投与することで組織の再生を促します。

一般的に回復しないとされていた脳卒中や脊髄損傷により傷ついた神経や、従来手術しかないと考えられてきた変形した関節の治療などが対象です。そのため減圧症の後遺症についても、幹細胞治療が役に立つ可能性があるでしょう。

▼脊髄損傷に対する幹細胞治療についてはこちらの動画をご覧ください。

まとめ・減圧症の治し方と後遺症に対する最新の治療法とは!医師が解説!

減圧症発症後の各段階での治療について解説をしました。

減圧症の後遺症は後の生活に大きな支障を及ぼします。まずは起こさないことが一番です。

不幸にして発症してしまった場合でも、速やかな治療により後遺症が残る可能性を抑えることができます。応急処置のための酸素の準備・心肺蘇生法の習得・搬送先の把握なども、潜水をする上で重要な準備と言えるでしょう。

この記事がご参考になれば幸いです。

▼以下も潜水病に関する情報を記載しています
減圧症による脳障害|症状と後遺症、治療法について

 

参考文献

鈴木 信哉:潜水による障害,再圧治療. 高圧酸素治療法入門第6版. 日本高気圧環境・潜水医学会. 2017; 147-174.
小濱正博. レジデントノート 8(5): 667-674, 2006.
小島泰史, 鈴木信哉, 新関祐美, 小島朗子, 川口宏好, 柳下和慶. 日本渡航医学会誌 13(1): 27-31, 2019.
梅村武寛, 堂籠博. 日本医事新報 (5120): 40-41, 2022.
工藤大介. 日本医事新報 (5062): 78-79, 2021.

 

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