幻肢痛の全て!原因から治療法、心理的影響まで徹底解説
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幻肢痛の全て!原因から治療法、心理的影響まで徹底解説
幻肢痛(げんしつう)とは、事故や病気で四肢を切断しなければならなくなった方が、切断して失ったはずの腕や足の痛みやしびれを感じる現象です。
別名ファントムペインとも呼ばれる神経障害性疼痛です。
「切断したはずの足が痛くて眠れない」
「失った部分にしびれを感じる」
日常生活がままならないほどの痛みやしびれを感じるケースもあり、幻肢痛は心理的にも大きな負担となります。痛みは、不快で嫌なもののため、早くどうにかしたいと考える人が多いでしょう。
また、痛みに耐える姿を見る家族や周囲の方も、同様の気持ちです。幻肢痛は、四肢を失ったほとんどの方が経験するといわれており、珍しい現象ではありません。脳卒中や脊髄損傷などの運動麻痺でも生じる場合があります。
今回の記事では、幻肢痛の原因や治療法、心理的影響について徹底解説します。幻肢痛に悩まされている本人だけでなく、その方を支える身近な方にも知ってもらいたい内容です。ぜひ、最後までお読みください。
幻肢痛の主な原因は脳内の認識と感覚の不一致
以前は、幻肢痛の原因は心理的なものだと考えられていました。
現在、幻肢痛の主な原因として、脳内にある身体の地図が書き換わってしまうために、脳内の認識と感覚の不一致が起こると考えられています。
切断されてしまったために、あったはずの手足からの感覚が脳へ伝わらなくなります。そのため、脳内の感覚運動をつかさどる部分で認識の不適応を起こすのです。その不適応が、痛みとしてあらわれる原因と考えられています。
なぜ脳内の身体の地図が書き換えられてしまうのか、なぜ脳が不適応を起こしてしまうのか、詳しく解明はされておらず、不明な点がまだまだ多いのが現状です。脳が不適応を起こしてしまう原因を解消するため、鏡療法をもとにVRを使った「バーチャル幻肢」やAIで脳を解析し「脳のリプログラミング」を使った最新の治療法が研究されています。
幻肢痛の治療法の主な4つとは?
現在、一般的におこなわれている幻肢痛の治療方法は、主に4つあります。
- ・薬物療法
- ・鏡療法
- ・電気刺激療法
- ・リハビリテーション
ひとつの治療法で痛みが緩和され、一定の効果が得られる場合もありますが、さまざまな方法を組み合わせて治療を進めていくケースが多いです。
<薬物療法>
薬物療法では、以下のような種類の薬を使用します。
- ・鎮痛薬
- ・抗けいれん薬
- ・抗うつ薬
- ・抗てんかん薬
- ・抗不整脈薬
オピオイド系鎮痛薬(モルヒネやドラマドール)が使われるケースもありますが、依存や乱用のリスクが高く副作用も懸念されるため、使用は慎重におこなうべきだと考えられています。
局所療法として、カプサイシンクリームの塗布やリドカインスプレーの噴霧などがおこなわれる場合があります。
いずれにしても、薬物療法は作用と副作用のバランスを考え投与するのが望ましいため、主治医と十分コミュニケーションを取りましょう。
<鏡療法>
鏡療法は、ミラーセラピーとも呼ばれている方法です。健常な四肢を幻肢があるかのように鏡に映します。健常な四肢を動かすと、鏡にも同様に映るため、あたかも幻肢を動かしていると錯覚するのです。
これを繰り返すうちに、「幻肢が企図どおりに動いている」と脳が認識するようになります。知覚と運動の情報伝達が脳内で再構築され、幻肢痛が軽減していきます。
具体的な方法は以下のとおりです。
- 身体の正面中央付近に適切な大きさの鏡を設置します。
- 切断部位が見えないようにし、健常肢が鏡に映るように調整します。
- 鏡に映った健常肢の像がちょうど幻肢の位置と重なるようにします。
- 健常肢側から鏡を見ると、幻肢があるかのように鏡に映ります。
- その状態で健常肢でさまざまな動きをし、鏡の像を集中して見ます。
鏡療法をおこなう時間は決められていませんが、15分~30分程度おこなうのが一般的です。
ただし、疲労状況や集中できる時間を考慮して、調整しましょう。
<電気刺激療法>
電気刺激療法には、3つの種類があります。
- ・脊髄刺激
- ・視床刺激
- ・大脳皮質刺激
脊髄刺激を与えると、痛みのシナプスが脳に伝わりにくくなります。刺激を与えると、痛みの伝達を抑制する物質が増加するため、神経の興奮を抑制して痛みの緩和につながるのです。
また、大脳皮質にある一時運動野や視床へ電気刺激を与えても、幻肢痛を和らげるケースが報告されています。刺激を与える部位は、切断部位や神経の残っている部分によって治療方法が異なります。
<リハビリテーション>
義肢や装具には、失った機能や役割を補うだけでなく、幻肢痛を和らげる効果があります。個人に合わせて作るため作成には時間がかかり、義肢や装具を使うためにはリハビリが必要です。
義肢や装具の装着は、鏡療法と同様に脳に失った四肢を認識させるため、幻肢痛が和らぐと考えられています。そのため、義肢の装着が日常的になると、幻肢痛は消失していく場合が多いです。
ただし、幻肢痛がひどく、義肢や装具の装着ができない場合もあります。リハビリは、医師をはじめ、理学療法士や義肢装具士など、医療者と相談しながら進めていきましょう。幻肢痛は、常に一定に感じているわけではなく、突然襲われる場合もあります。
寝ていても飛び起きてしまうような突然の痛みに襲われたり、幻肢が締め付けられるように感じたり、痙攣している、幻肢がねじれる、しみるなど、感じ方や程度はさまざまです。
数年で幻肢痛がなくなる方もいれば、長年痛みと闘い苦しめられる方もいます。そのため治療法の選択は、医師をはじめとするさまざまな医療者と相談し、それぞれの痛みの程度やライフスタイルに合わせた継続できる治療法の選択が必要でしょう。
幻肢痛治療経験者の中には、幻肢痛治療に成功し、徐々に痛みが緩和され消失した方もたくさんいます。
「なるべく痛みではなく、他に意識が向くようにしていると徐々に痛みが引いた」
「義足をつけてリハビリを続けていると幻肢痛が緩和した」
幻肢痛はすぐになくすことはできませんが、治療を続け徐々に痛みから解放された経験がある方は多くいます。
しかし、長年幻肢痛に悩まされているケースもあります。幻肢痛の治療には、痛みとの戦いと根気強い治療を続けていくモチベーションが必要です。
幻肢痛と心理的影響
一般的に痛みは不快な感覚であり、その状態は人の心理に大きな影響を与えます。痛みは主観的なものであるため、感じ方はそれぞれで個人差も大きいです。特に、幻肢痛は周囲から十分に理解してもらえない場合も多いでしょう。
幻肢痛患者は、痛みによって、不安や怒り、恐れなど、さまざま感情が入り混じっている心理状態です。
以下の表は、四肢の一部を失った方のニーズです。
自己実現のニーズ | 自尊心のニーズ |
---|---|
四肢切断をしても目標が達成できる。 | 自分の希望や役割があり、社会に適応する。 |
四肢切断をしてもやりたいことができる。 | 四肢の切断で引け目を感じない。 |
愛情のニーズ | 安全のニーズ | 身体的ニーズ |
---|---|---|
家族や社会の一員だと感じられる。 | 自分の立場の保証。 | 断端部の痛みや幻肢痛がない。 |
他人を尊重し、意識を向けられる。 | 収入の確保。 | 食事・排泄・移動などの方法がある |
四肢を切断した方は、ストレスの上手なコントロールと、どのようにしてニーズを満たしていくかが課題となります。ニーズが満たされない状態は、いわゆる我慢をしている状態です。いっぺんにすべてのニーズを満たすことはできませんが、満たされない状態が長く続くと、ストレスが溜まります。うまくストレスをコントロールできなければ、ストレスフルな状態となり、以下のようなさまざまな影響が出やすくなります。
- ・イライラ
- ・憂うつ
- ・集中力や思考力の低下
- ・気分の落ち込み
- ・無気力
- ・自律神経失調症状
慢性的なストレスは、痛みを過敏に感じます。そのため、ストレスが溜まった状態は、幻肢痛の悪化原因です。ストレス管理も幻肢痛のコントロールに影響を与えるため、ストレス管理や周囲からの心理的サポートも重要です。
良い精神状態を保つことで、前向きに治療に取り組む意欲にもなるでしょう。
<自分でできるストレス管理>
自分でできるストレス管理としては、以下のようなものがあります。
- ・趣味に没頭する
- ・散歩をする
- ・映画やドラマを見る
- ・好きな物を食べる
- ・お風呂にゆっくりつかる
幻肢痛が悪化するようなものは避け、まずは自分ができそうなものから始めてみましょう。
<家族や支援者ができる心理的サポート>
自分が一番ストレスになっているものを考えてみましょう。
- ・痛みが一番のストレスなら、痛みを取り除けるよう医師に相談する
- ・リハビリがストレスなら、リハビリのやり方やメニューを相談する
- ・生活の不自由さがストレスなら、補助グッズの使用や利用できる支援の導入を検討する
自分がストレスに感じていることは何かを、家族やサポートしてくれる人に伝えておくことは大切です。
また、精神的な状態によっては、精神科の受診やカウンセリングを受けるなども検討しましょう。
幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をするために
幻肢痛は、四肢を切断したあとにあらわれる、失ったはずの四肢(幻肢)に痛みが生じる現象です。四肢を失った人は、痛みだけでなく、生活の中でさまざまな問題やストレスを抱えている場合が多いです。そのため、家族や周囲のサポートは重要といえます。
また、幻肢痛の治療には、麻酔科や整形外科、精神科、リハビリテーション科など、さまざまな面からの総合的なアプローチが必要です。四肢の一部を失った方が、幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をしていくのは、とても困難な道のりでしょう。
しかし、いきいきとその人らしく生活していくためには、医療関係者だけでなく、さまざまなサポートが必要です。幻肢痛患者の交流会やVRを使った最新治療の体験会なども開かれています。
「つらい幻肢痛を乗り越えた」「今も幻肢痛と戦っている」など、同じ状況の方と交流が持てる場は大きなメリットになるでしょう。