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「痛風と診断されたけど、納豆が好きで食べるのをやめられない」「納豆は体にいいと聞くけど、痛風の人には危険なのかな?」 痛風と診断された患者様の中には、納豆が好きでも食べるのを控えている方が多いのではないでしょうか。納豆にはプリン体が含まれているため、尿酸値を上げてしまうのではないかと不安に思う気持ちもありますよね。しかし、納豆の適切な食べ方を理解することで、痛風の方も納豆の健康効果を活かすことができるのです。 本記事では、納豆の栄養価や痛風への影響、適切な食べ方などについて、医療の観点からわかりやすく解説していきます。痛風患者様が納豆を安心して取り入れられるよう、食事療法の手助けとなれば幸いです。 納豆とは?その栄養と健康効果 納豆は、大豆を発酵させて作られる日本の伝統食品です。発酵の過程で、大豆の栄養価がさらに高まるとともに、独特の粘り気と風味が生まれます。納豆には、良質なタンパク質をはじめ、食物繊維、ビタミンK、ビタミンB群、鉄分、カルシウムなど、さまざまな栄養素が豊富に含まれています。 とくに注目したいのが、納豆菌が生み出すナットウキナーゼという酵素です。この酵素には、血液の流れを改善する働きがあるとされ、心血管系の健康維持に役立つ可能性が示唆されています。ただし、その効果には個人差があり、さらなる研究が必要とされている点にも留意が必要です。 納豆の栄養成分と健康効果について、もう少し詳しく見ていきましょう。 納豆の基本情報と栄養成分 納豆は、発酵食品の中でもとくに栄養価が高いことで知られています。大豆を発酵させる過程で、大豆に含まれるタンパク質や食物繊維が分解されて、体内で吸収されやすい形に変化します。また、発酵によってビタミンKやビタミンB2などの微量栄養素も生成されます。 納豆は、以下のような良質な栄養素を多く含んでいる発酵食品です。 栄養素 説明 タンパク質 良質な植物性タンパク質の宝庫です。必須アミノ酸をバランスよく含んでおり、筋肉や臓器の維持に欠かせない栄養素です。また、大豆タンパク質には、血中コレステロールを下げる働きもあるとされています。 食物繊維 不溶性と水溶性の両方の食物繊維を含んでいます。不溶性食物繊維は、便のかさを増して排便を促す効果があり、水溶性食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなって腸内環境を整える働きがあります。 ビタミンK ビタミンKの優れた供給源です。ビタミンKは、血液の凝固に関与するほか、骨の健康維持にも重要な役割を果たしています。特に、骨粗鬆症の予防に効果が期待されています。 ビタミンB2 ビタミンB2(リボフラビン)やナイアシンなどのビタミンB群が含まれています。これらは、エネルギー代謝や神経機能の維持に関わる重要な栄養素です。 鉄分 植物性食品の中では比較的鉄分が豊富な部類に入ります。鉄分は、赤血球の形成や酸素運搬に欠かせないミネラルです。 カルシウム 骨や歯の主要な構成成分であり、骨密度の維持に不可欠なミネラルです。 他にも、ビタミンCやカリウム、葉酸なども含まれています。 このように、納豆は多岐にわたる栄養素を含み、さまざまな健康効果が期待できる食品なのです。では、そのような納豆と痛風の関係について、次の章で詳しく解説していきましょう。 納豆がもたらす健康上の利点 納豆にはさまざまな健康面での利点が期待されています。 主な健康上の利点が期待される点は以下のとおりです。 健康上の利点 説明 血栓予防 ナットウキナーゼの働きにより、血液の流れを改善する可能性がある 骨密度の維持 ビタミンKやカルシウムが骨の健康維持に役立つ可能性がある 整腸作用 食物繊維が腸内環境を整え、便通を改善する働きが期待できる 更年期障害の緩和 大豆イソフラボンがホルモンバランスを調整し、更年期症状を和らげる可能性がある 納豆に含まれるナットウキナーゼには、血栓予防の効果があると考えられています。血栓は、血管内で血液が固まることで生じる問題で、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患の原因となりやすいです。 また、納豆に含まれるビタミンKやカルシウムは、骨密度の維持に役立つ可能性があります。骨密度が低下すると、骨粗鬆症のリスクが高まるでしょう。また、納豆に含まれる食物繊維は、腸内環境を整え、便秘の改善に役立つことが期待されています。 さらに、大豆イソフラボンには、女性ホルモンのバランスを整える作用があるため、更年期障害の緩和にも効果があるかもしれません。 ただし、納豆の健康効果には個人差があり、すべての人に同じ効果があるとは限りません。また、納豆は発酵食品特有の独特な風味や粘り気があるため、好みが分かれる食品でもあります。 そのため、無理に食べるのではなく、自分の嗜好に合わせて取り入れていくのがよいでしょう。また、大豆アレルギーの方やワルファリンなどの抗凝固薬を服用中の方は、納豆に含まれるビタミンKの影響で薬の効果が弱まる可能性があるため、医師に相談してから摂取することが大切です。 痛風と食事:納豆が尿酸値に与える影響 痛風患者にとって、食事管理による尿酸値のコントロールはとても重要です。納豆は健康的な食品として知られていますが、尿酸値にはどのような影響を与えるのでしょうか?ここでは、納豆と尿酸値の関係について説明します。 納豆と尿酸値の関係 納豆に含まれるプリン体の量は、他の肉類や魚介類と比べると比較的少ないことがわかっています。納豆100gあたりのプリン体含有量は約45mgで、高プリン食品の基準である200mgを大きく下回ります。つまり、適量の納豆であれば、プリン体の摂取量としては問題ない範囲といえるでしょう。 食品 プリン体含有量(mg/100g) 納豆 約45mg 高プリン食品の基準 200mg以上 (例:レバー類、ビールなど) プリン体含有量と痛風に対する影響 プリン体は、アデニンとグアニンという2つの物質の総称で、核酸を構成する成分の一部です。プリン体は、食品に含まれているだけでなく、体内でも合成されます。 プリン体を多く含む食品としては、レバーや肝臓、魚卵、干しシイタケ、ビールなどが知られています。一方、比較的プリン体が少ない食品としては、卵、乳製品、果物、野菜などが挙げられます。 プリン体は、体内で代謝されて尿酸になります。尿酸は、腎臓でろ過されて尿中に排泄されるのですが、尿酸の生成量が多すぎたり、排泄が滞ったりすると、血中の尿酸値が上昇してしまいます。血中尿酸値が高い状態が長く続くと、尿酸の結晶が関節などに沈着し、痛風発作を引き起こすリスクが高まるのです。 痛風発作とは、尿酸の結晶が関節に蓄積することで引き起こされる急性の炎症反応です。典型的には、足の親指の付け根の関節に激しい痛みや腫れ、発赤が現れます。この痛みは突然始まり、非常に強烈で、患部に触れることさえ困難になることがあります。発作は数日から1週間ほど続き、その後徐々に症状が和らいでいきます。 だからといって、プリン体を含む食品を完全に避ける必要はありません。大切なのは、適量を心がけることです。日本痛風・核酸代謝学会のガイドラインでは、痛風患者様のプリン体摂取量の目安を1日あたり400mg以下としています。納豆なら、1パック(40〜50g)に含まれるプリン体量は約25〜32mg程度で、この目安の範囲内に十分収まるでしょう。 ただし、納豆にもプリン体が含まれている以上、摂取量には注意が必要です。とくに痛風発作を頻発する方や重症の高尿酸血症の方は、医師や管理栄養士の指導のもと、納豆の摂取量を調整することが大切です。 また、納豆に含まれるビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素は、尿酸値の低下に直接的な効果はありませんが、健康な体づくりを支える重要な役割を果たしています。バランスの取れた食生活の一部として、納豆を適量取り入れることは、痛風患者様にもおすすめできます。 痛風患者のための納豆の安全な食べ方 痛風患者も納豆の健康効果を手軽に得られますが、適切な食べ方を心がけて取り入れていく必要があります。 ここでは、納豆を食べる際の注意点と、痛風患者向けのおいしい納豆レシピを紹介します。 納豆を食べる際の注意点 痛風患者にとって、食事管理は重要です。納豆は比較的プリン体が少ない食品ですが、適切な摂取量を守ることが大切です。以下のポイントを参考にしてください。 注意点 説明 1日の摂取量は1パック(40~50g)程度に抑える 前述の通り、納豆のプリン体含有量は比較的少ないとはいえ、摂り過ぎは禁物です。1日1パック程度を目安に、適量を心がけましょう。 他の高プリン食品との組み合わせに注意する レバーや魚卵など、プリン体を多く含む食品と納豆を同時に食べると、プリン体の摂取量が増えてしまいます。バランスを考えて、組み合わせを工夫しましょう。 アルコールと一緒に摂取するのは避ける アルコールは、尿酸の排泄を妨げる作用があります。特にビールは、プリン体も多く含むため、納豆と一緒に摂取するのは避けましょう。 体調や尿酸値の変化に気を配り、適宜摂取量を調整する 定期的に尿酸値を測定し、自分の体の変化を観察することが大切です。もし尿酸値が上昇傾向にあるようなら、納豆の摂取量を一時的に減らすなどの対応が必要かもしれません。 また、納豆の粘り気を活かした料理を工夫することで、野菜などの食物繊維も一緒に摂取できます。たとえば、納豆サラダ、納豆巻き、冷奴などがおすすめです。 痛風の食事療法では、プリン体の摂取制限とともに、バランスの取れた栄養摂取が重要です。主食、主菜、副菜をバランスよく組み合わせ、食物繊維や低脂肪のたんぱく質を積極的に取り入れましょう。また、十分な水分補給も忘れずに。 納豆は、適量を守れば、痛風患者様にも有益な食品の一つといえるでしょう。ただし、症状や体質には個人差がありますので、かかりつけ医や管理栄養士に相談しながら、自分に合った食べ方を見つけていくことが大切です。 痛風患者向けの納豆レシピ 納豆は、そのままでも十分においしく食べられますが、他の食材と組み合わせることで、さらに多彩な味わいを楽しむことができます。ここでは、痛風の人でも安心して食べられる、納豆を使ったレシピの一例を表にまとめました。 レシピ 特徴 プリン体含有量の目安 納豆とアボカドのサラダ アボカドに含まれる不飽和脂肪酸は、心血管系の健康に良いとされています。納豆と組み合わせることで、タンパク質と食物繊維、良質な脂肪がバランスよく摂れます 納豆1パック分 (約45mg) 納豆と野菜のスープ 納豆を溶き卵でとじて、野菜スープに加えるレシピ。体を温める効果があり、タンパク質と食物繊維を手軽に摂取できます 納豆 1/2パック分 (約20~25mg) 納豆とトマトのパスタ トマトに含まれるリコピンは、強力な抗酸化作用を持つカロテノイドの一種です。納豆に含まれるイソフラボンも抗酸化作用を持つため、両者を組み合わせることで、相乗的に活性酸素を除去し、細胞の酸化ストレスを軽減することが期待できます。また、トマトはビタミンCやカリウムも豊富に含むため、免疫機能の向上や血圧の調整にも役立つでしょう 納豆1パック分 (約45mg) 納豆と野菜のチャーハン 納豆に含まれるビタミンB群は、炭水化物や脂質のエネルギー代謝を助ける働きがあります。ビタミンEは抗酸化作用を持ち、細胞の老化を防ぐ効果が期待できます 納豆1パック分 (約45mg) 納豆とキムチのビビンバ風 納豆とキムチはともに発酵食品であり、善玉菌が豊富に含まれています。これらの菌は、腸内環境を整え、免疫機能を高める効果が期待できます。また、キムチに含まれるカプサイシンには、代謝を上げる効果があるとされ、ダイエットにも役立つ可能性があります 納豆1パック分 (約45mg) 納豆とオクラの和え物 オクラのねばねば成分は、納豆の粘り気と相性抜群。食物繊維やビタミンも豊富に含まれています 納豆1パック分 (約45mg) 納豆とトマトのブルスケッタ トマトに含まれるリコピンと納豆のイソフラボンの組み合わせは、強力な抗酸化作用が期待できます。また、トマトに含まれるビタミンCは、コラーゲンの生成を助け、肌の健康維持に役立ちます 納豆1パック分 (約45mg) 納豆と豆腐のハンバーグ 大豆製品同士の組み合わせで、良質なタンパク質が摂れるヘルシーなハンバーグ。野菜を添えれば、バランスの取れた一皿になります 納豆1パック分 (約45mg) これらはあくまで一例ですが、納豆の持つ栄養価を活かしつつ、プリン体に気を付けた組み合わせを工夫することで、痛風患者様でも納豆を楽しむことができるはずです。 他の食品との組み合わせ 納豆を痛風対策の食事に取り入れる際は、他の食品とのバランスを考えることが大切です。適切な食品を組み合わせることで、尿酸値を抑えながら健康的な食生活を送ることができるでしょう。 納豆を健康的に食べるための食品マッチング 納豆と組み合わせるとよい食品には、以下のようなものがあります。 食品 効果 野菜 尿酸排泄を促進するビタミンCが豊富 低脂肪乳製品 カルシウムが尿酸の排泄を助ける 果物 クエン酸が尿のpHを上げ、尿酸の溶解度を高める 全粒穀物 食物繊維が豊富で腸内環境を整える これらの食品を積極的に取り入れることで、痛風対策として効果的な食事法を実践できる可能性があります。 たとえば、納豆とトマトのサラダは、ビタミンCとイソフラボンを同時に摂取できる料理です。また、納豆と刻んだ野菜を混ぜて食べると、食物繊維やさまざまなビタミンを一緒に摂取することが可能です。 さらに、納豆と豆腐を組み合わせた料理は、大豆たんぱく質を効率的に摂取できます。このように、適切な食品と組み合わせることで、栄養バランスが取れたおいしい料理を作ることができるでしょう。 以下は、痛風患者向けの1日の食事プラン例です。納豆を適量取り入れつつ、プリン体の少ない食品を中心に構成しています。 食事 メニュー 朝食 ・納豆1パック ・野菜サラダ ・低脂肪ヨーグルト 昼食 ・鶏胸肉のグリル ・玄米 ・野菜スープ 夕食 ・豆腐ステーキ ・野菜の煮物 ・味噌汁 間食 ・果物 ・ナッツ類 この食事プランを参考に、個人の好みや栄養状態に合わせて調整を加えることで、痛風患者でも健康的でおいしく楽しめるような食生活を送ることができます。 ただし、痛風の症状や重症度には個人差があるため、納豆の摂取量や食事計画については、医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合ったものを見つけていくことが大切です。 尿酸値を抑える食事法と納豆の役割 痛風患者に推奨される食事法の基本は、プリン体の摂取制限と、バランスの取れた食生活です。適量の納豆は、この食事法の中で以下のような重要な役割を果たします。 役割 説明 タンパク質源 良質な植物性タンパク質を提供する 食物繊維の供給源 腸内環境を整え、尿酸の排泄を促す 大豆イソフラボンの供給 抗酸化作用と炎症抑制効果が期待できる このように、納豆は健康的なタンパク源となるだけでなく、食物繊維やイソフラボンの供給源としても優れています。上手に他の食品と組み合わせることで、痛風患者でも満足度の高い食生活を実現できるかもしれません。 納豆に限らず、さまざまな食品を上手に組み合わせてバランスを取ることが、痛風対策の食事で大切なポイントです。定期的な検査で尿酸値をチェックし、体調の変化に気を配りながら、無理のない範囲で食生活の改善を続けていきましょう。 納豆は適量を守れば、痛風患者にとっても有益になる可能性の高い食品です。他の食品とのバランスを考え、健康的な食事を心がけましょう。ただし、個人差があるため、定期的な尿酸値のチェックと医師や栄養士の指導を受けながら、自分に合った食事管理を行うことが重要です。 まとめ:納豆を含めた痛風対策の食事計画を! 痛風患者にとって、納豆は適量を守れば食べられる健康的な食品の一つです。 ただし、納豆にもプリン体が含まれていることを意識し、適切な量を心がけて低プリン体の食事を習慣化する必要があります。 ・納豆は適量なら痛風患者様も安心して食べられる ・ただし、プリン体に注意し、バランスの取れた食事を心がける ・納豆の栄養を活かしつつ、医師や管理栄養士の指導を仰ぐ 痛風と診断されたからといって、好きな食べ物をすべて諦める必要はありません。納豆のもつ栄養価を理解し、適切な食べ方を実践することで、痛風の症状改善と予防につなげていきましょう。 まずは、自分の食生活を見直すことからはじめてみませんか?1日3食、バランスの取れた食事を心がけ、間食や夜食を控えめにします。食べ過ぎや飲み過ぎに注意し、ゆっくりよく噛んで食べる習慣を身につけましょう。 また、定期的な運動も大切です。激しい運動は控えめにして、ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣を持ちましょう。 日々の食事は、尿酸値コントロールの鍵を握っています。納豆を味方につけながら、バランスの取れた食生活を目指していきましょう。ご不明な点がありましたら、かかりつけ医や管理栄養士にご相談ください。 参考文献一覧 MSD マニュアルプロフェッショナル版,痛風 千葉県栄養士会,痛風の予防と食事 東京都立病院機構."高尿酸血症・痛風とは" 順天堂大学医学部附属順天堂医院栄養部,高尿酸血症・痛風の食事療法 e-ヘルスネット,アルコールと高尿酸血症・痛風 e-ヘルスネット,高尿酸血症 e-ヘルスネット,高尿酸血症の食事 日本生活習慣病予防協会,高尿酸血症/痛風 日本生活習慣病予防協会,生活習慣病の調査・統計-高尿酸血症,痛風 e-ヘルスネット,プリン体 沢井製薬株式会社,高尿酸血症状・痛風ハンドブック 日本脂質栄養学会,レシピ紹介 全国納豆協同組合連合会 納豆PRセンター,納豆の健康効果 e-ヘルスネット,腸内細菌と健康 e-ヘルスネット,食物繊維の必要性と健康
2024.10.16 -
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肺がんは日本でも多くの人々が診断される病気の一つで、部位別のがんの罹患数では大腸がんに次ぐ2位、部位別がん死亡数では男女合わせて1位となっています。 この記事では、肺がんの概要から治療法について解説していきます。また、後半では肺がんの手術方法、手術後の合併症・後遺症について挙げ、その治療法や対処法にも触れています。後遺症に対する再生医療の可能性についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。 この記事を読んで分かること ・肺がんの概要 ・肺がんの治療法 ・肺がんの手術方法 ・手術後の合併症、後遺症とその治療法や対処法 ・後遺症に対する再生医療の可能性 肺がんとは 肺がんは、肺に発生する悪性腫瘍です。何らかの原因で遺伝子に傷がつき、細胞が異常に増殖してあちこちに移動してしまうものを「がん細胞」といいます。そのがん細胞が肺から始まり、増殖したものを指します。 出典:Lung Cancer: Types, Stages, Symptoms, Diagnosis & Treatment 肺がんの原因 肺がんの原因の約7割は喫煙とされています。タバコを吸ったことがない人に比べ、吸っている人の肺がんリスクは4倍以上になると言われています。また、直接吸っていなくても、副流煙を吸うことにより肺がんのリスクが高まることも知られています。 それ以外の原因として、遺伝、大気汚染、アスベストなどの有害化学物質などが知られています。 肺がんの症状 肺がんの初期では多くの場合無症状であり、早期に発見することはなかなか難しい がん です。進行に応じて咳や痰、息切れなどがみられることがあります。 肺がんに特徴的とまではいえない症状がほとんどですが、痰に血が混じる(血痰)場合には肺がんが疑わしい可能性が高まりますので、早めに医療機関を受診していただくことをおすすめします。 それ以外にも極端な体重低下や肩の痛み、しゃっくりなど、がんの進行によって様々な症状を引き起こします。また、肺がんが転移した場所の症状が出ることがあり、脳転移による頭痛、手足の麻痺、めまい、吐き気、骨転移による痛みなどがあります。 肺がんの検査 肺がんの検査といっても、肺がんを見つけるための検査、肺がんであることを確定させたり、肺がんの種類を調べる検査、治療方針を決めるために必要な検査など様々なものがあります。 肺がんを見つけるための検査 肺がんを見つけるための検査としては、画像検査が一般的です。胸部レントゲン検査や胸部CT検査が挙げられます。 レントゲン検査は、健診や人間ドックなどでも幅広く使用されている基本的な検査です。 CTではレントゲンよりも画像で得られる情報量が豊富で、より小さな病変も見つけることが可能となります。一方レントゲンよりも放射線被ばく量が多くなることがデメリットとなります。 その他、肺がんの転移を調べるのに有用なMRI検査、シンチグラフィー、PET検査などがあります。 また、血液検査の中で腫瘍マーカーと呼ばれるものがあり、この腫瘍マーカーを調べて数値が異常値を示す場合には肺がんを疑います。ただし、このマーカーは他のがんや病気でも上昇することがあるため、この検査のみで肺がんを診断することはできず、あくまで他の検査と合わせて総合的に判断するための材料となります。 肺がんの確定診断、治療法の検討に有用な検査 肺がんであることを確定させるには、がん細胞がいることを確認する必要があります。そのためには、痰に混じったがん細胞を見つける方法(喀痰細胞診検査)や、病変を内視鏡やCTなどで確認して組織に直接針を指して細胞を採取して確認する方法(組織診検査)があります。この組織を詳しく調べることで、がん細胞の存在の有無だけでなく、どういった種類の肺がんかを見分けることが可能です。 また、そのがんの種類によっては遺伝子検査を追加で行い、さらにそのがんの遺伝子変異について詳しく調べることがあります。これは、ある特定の遺伝子変異が見つかった場合、その変異に特異的に効く分子標的薬と呼ばれる治療薬を使うことで、治療効果が期待できるためです。 肺がんの治療法 肺がんの治療方法の主なものとして、手術、いわゆる抗がん剤を用いた化学療法、放射線療法があり、これらを組み合わせて行います。 ・手術 ・抗がん剤を用いた化学療法 ・放射線療法 この治療を決める上で重要なのが、肺がんの組織型と病期です。 まず肺がんの組織型ですが、小細胞肺がん(SCLC)と非小細胞肺がん(NSCLC)の二つに大別されます。 小細胞肺がん(SCLC) 小細胞肺がんは進行が非常に早く、発見された際にはすでに転移してしまっているケースが多く、化学療法や放射線療法を組み合わせて治療を行います。 非小細胞肺がん(NSCLC) 非小細胞肺がんでは、小細胞肺がんに比べると進行速度は遅いため、早期で発見されるケースもあります。 肺がんの病期と治療法について 病期(ステージ)は 、 Ⅰ期(ⅠA、ⅠB):肺内に腫瘍が限局していて、リンパ節転移がないもの Ⅱ期(ⅡA、ⅡB):肺内に限局しているが大きいもの。もしくは同じ側の肺門部リンパ節に転移がみられるもの Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC):病変と同じ側の縦隔リンパ節にも転移がみられるもの。または肺外のリンパ節にも転移が生じているもの Ⅳ期(ⅣA、ⅣB):肺から離れた臓器に転移がみられるもの に分類されます。非小細胞肺がんの場合、病期によって治療法が異なります。 ⅠA期では、手術のみを行います。 ⅠBからⅢB期までは手術を行い術後に化学療法を行うのが一般的です。 ⅢA、ⅢB期で手術が不可能な場合には、放射線治療と化学療法を併用した治療法を検討します。 Ⅳ期の場合では、まず遺伝子検査によって特定の遺伝子変異の有無を確認し、有効な分子標的薬があればそれによる薬物療法を検討します。有効な遺伝子変異がない場合には、抗がん剤を用いた化学療法を選択します。ただし、これはあくまでも基本的な方針のため、一律にこのように決まるとは限りません。実際には患者さんごとの状態や事情なども考慮して治療を決定していきます。 肺がんの3つの手術方法 ここでは、肺がんの手術方法について具体的に解説していきます。肺がんの手術方法は、切除範囲とがんの進行度や位置、患者さん自身の状態などによって異なってきます。 1)肺葉切除術 肺がんの手術で最も標準とされる手術方法で、肺の一葉を切除する手術です。肺は右側に三つ、左側に二つの葉に分かれており、がんが存在する肺葉を切除します。多くの場合には近くにあるリンパ節も一緒に切除します。肋骨の間から胸部に切開を入れ、がんを含む肺の葉を取り除きます。 2)区域切除術・楔状切除術 区域切除術は、小型の肺がんに対して、肺葉よりも一部の区域だけを切除する方法です。近年検診などで肺がんが早期で見つかるケースが増えており、それに伴い適応が増えてきている手術方法となります。胸腔鏡を使用して小さな皮膚切開で手術が行えるようになり、患者さん自身の身体の負担軽減を図ることができます。また、区域切除よりもさらに小さな部分を切除する楔状切除術という方法もあります。 3)肺全摘術 片肺を摘出する方法で、病変が一側の肺に広がっており、かつ中心まで及んでいる場合に選択されます。片肺を摘出すると肺や心臓の機能低下につながる可能性があるため、体力が低下している方、もともと呼吸機能が低下している方には選択が難しい方法です。 肺がんの手術後の合併症とその対処法 肺がん手術後の合併症は、手術の方法や、患者さん自身の体質などによっても異なりますが、一般的に想定される主な術後合併症とその対処法について挙げていきます。 肺胞瘻(はいほうろう) 肺を切除した箇所から空気が漏れる合併症です。肺がんの手術の中では約5%程度と比較的頻度が高い合併症です。通常であれば手術により肺の一部が取り除かれるため、呼吸機能が低下することがあります。 <対処法> 多くの場合自然に改善しますが、まれに治らないケースがあります。その場合には薬剤を用いて空気の漏れを止める胸膜癒着術や、再手術が必要になることがあります。 気管支断端瘻(きかんしだんたんろう) 一般的な肺がんの手術では、肺と気管支の一部も切除します。その切断した気管支を切ったところから空気が漏れてしまう合併症です。 <対処法> 起こりうる可能性は極めてまれですが、起こってしまった場合には重篤になるため、緊急手術によって閉鎖したりする必要があります。 術後肺炎 手術後に肺炎が生じ、咳、発熱、呼吸困難などがみられることがあります。 <対処法> 抗生剤を投与して治療を行います。 膿胸(のうきょう) 手術した側の肺の胸腔内に膿がたまる合併症です。膿による発熱や、感染が全身にまわると敗血症をきたすおそれもあります。 <対処法> 膿が少量であれば、胸に小さな穴を開けてそこから洗浄して膿を排除します。小さな穴からの洗浄で不十分な場合には、手術によって洗浄が必要となることもあります。いずれの場合でも抗生剤を併用して治療する必要があります。 乳び胸(にゅうびきょう) 手術の際に、胸管とよばれる太いリンパ管が傷つき、胸腔内にリンパ液が漏れてしまう合併症です。 <対処法> 症状が軽度であれば食事を制限してリンパ液の成分である脂肪分の吸収を抑制することで改善する可能性がありますが、場合によっては再手術で漏れを塞ぐこともあります。 肺動脈血栓塞栓症 手術中や手術後など、ベッドに長期間横になって下肢を動かさない状態になると、足の静脈がうっ滞して血栓が作られます。その血栓が、立ったり歩き始めた際に肺の血管に移動して詰まることで起こる合併症で、いわゆるエコノミークラス症候群として知られています。発生頻度は高くないものの、生じた場合には重篤で死亡する危険性もある合併症です。 <対処法> 血栓が作られるのを予防することが大切で、手術中や術後歩けるようになるまでストッキングを装着したり、下肢のマッサージを行うフットポンプを着用します。また血栓が生じてしまい、肺に詰まってしまうリスクが高い場合には、血液をサラサラにする抗凝固薬を投与して治療します。 反回神経麻痺 反回神経と呼ばれる神経が肺の近くを走行しているため、手術中に反回神経を傷めてしまったりすると、反回神経麻痺を起こす可能性があります。この神経の障害によって、声のかすれ(嗄声)や飲み込みにくさが出る場合があります。 <対処法> 反回神経麻痺は一時的な症状であることが多く、通常数ヶ月程度で改善しますが、まれに回復しないケースもあります。 術後の後遺症に対する治療法や対処法 ここでは、肺がんの手術後に後遺症として残ってしまう可能性のある症状や状態について、その対処法も含めて挙げていきます。 呼吸のしにくさ、息苦しさ 肺がん手術後は、肺を切除したことにより肺活量が低下し、うまく呼吸できなくなったり、労作時の息切れ、息苦しさが残る可能性があります。 <対処法> 呼吸リハビリテーションを行って改善を促すなどの方法があります。理学療法士の指導のもと、呼吸筋を鍛えるリハビリを行います。 声のかすれ、飲み込みにくさ 合併症の項目でも解説した、反回神経麻痺によって生じる可能性のある症状です。反回神経麻痺の影響で、声帯が動かしにくくなってしまうことで生じます。数ヶ月以上経っても、症状が改善しない場合がまれにあります。 <対処法> 声のかすれが重度の場合や飲み込みにくさが強い場合には、麻痺した声帯を移動させる等、手術による治療法があります。 治療後で後遺症が残ってしまったら:再生医療について 肺がんの手術後に後遺症に対する治療法として、再生医療の可能性についてお話します。 再生医療とは、「幹細胞」と呼ばれる様々な細胞に分化することができる細胞を活用して行う治療です。幹細胞を培養して増やし、それを点滴や患部に直接注射することで損傷した組織の修復や再生を促すことを狙いとする治療法で、現在その効果が期待されています。中でも、術後の神経損傷に対する再生医療が注目されており、肺がんの手術後の合併症・後遺症である反回神経麻痺への改善効果が期待されています。 当院は国内では数少ない再生医療を提供できる施設の1つです。患者さん自身の脂肪から幹細胞を採取、培養し、点滴する「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応やアレルギーを生じにくく、安全性が高い方法です。 術後の後遺症でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 肺がんについてよくあるQ&A Q:新型タバコ(電子・加熱式)は肺がんの原因になりますか? A:新型タバコは紙巻タバコに比べて害が少ないと思われがちです。しかし実際には、含まれるニコチンの量は紙巻タバコと同等もしくはそれ以上であることもあり、タールも7割程度と言われています。従って、それ以外にも約70種類の発がん物質が含まれていると言われており、新型タバコも同様に肺がんのリスクとなります。 Q:肺がんを予防する方法はありますか? A:肺がんを完全に予防できる方法は現時点でありませんが、肺がんになるリスクを減らすことはできます。まず、肺がんの最も多い原因である喫煙をしている場合には禁煙をしてください。また、受動喫煙によっても肺がんのリスクがあがりますので、タバコの煙を避けるなども大切です。最も重要なのは肺がんの早期発見です。予防でできることは限られますが、定期的に健康診断などで胸部のレントゲン検査など、画像検査を受けるようにしてください。肺がんが見つかったとしても大きくなる前に早期に発見できれば、その分根治の可能性が見込めます。。 まとめ:肺がんの治療法やその合併症・後遺症に再生医療の可能性 今回は肺がんについて、その原因から治療まで幅広く取り上げ、治療の柱である手術についてや、その合併症も含めて詳しく解説していきました。 また、術後の後遺症やその後遺症に対する再生医療の可能性も含めて取り扱っています。実際に肺がんになってしまいこれから治療を受けられる方、肺がんの治療後の後遺症に悩まれている方、肺がんについての詳しい情報を知りたい方々にとって、有益な情報源となれば幸いです。 参考文献 ・Lung Cancer: Types, Stages, Symptoms, Diagnosis & Treatment ・呼吸器外科 | 国立がん研究センター 中央病院 ・肺がん:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] ・Lung Cancer: Types, Stages, Symptoms, Diagnosis & Treatment
2024.09.23 -
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「痛風と診断されたけど、どのような食事をすればいいの?」「家族の食事にも配慮しないと…」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 痛風の予防やコントロールには、適切な食事を摂ることが重要です。しかし、具体的にどのような食材を選び、どうバランスを取ればよいのかわからない方も少なくありません。 今回は、痛風対策に効果的な食事法について詳しく解説します。尿酸値を下げる食材の選び方、避けるべき食品、一日の食事プランなどについても紹介しています。 痛風の悪化を防ぎつつ、ご家族の健康も考えた食生活を送る参考になれば幸いです。 痛風と食事の関係 痛風の発症や悪化には、日頃の食生活も大きく影響しています。とくに、プリン体を多く含む食品の過剰摂取は要注意です。ここでは、痛風と食事の関係について解説いたします。 痛風発症と食生活の因果関係 痛風は、体内で作られた尿酸という物質が、腎臓から十分に排出されないために血液中に蓄積し、発症します。尿酸は、プリン体という物質が体内で分解されることで生成されます。 食事から多く摂取すると尿酸の生成量がさらに増加してしまいます。つまり、プリン体を多く含む食品を取りすぎると、尿酸の生成が増え、痛風発作のリスクが高くなるのです。 健康な成人男性の尿酸の1日生成量は約1,000mgといわれています。プリン体の摂取量が多いと、この尿酸の生成量がさらに増加してしまいます。そして、血液中の尿酸値が1dLあたり7.0mg以上になると、痛風発作のリスクが上昇しやすいのです。 つまり、普段の食生活が痛風の発症と深く関係しているといえます。 痛風悪化のリスクを高める食品 痛風のリスクを高める代表的な食品は、以下の通りです。 肉類(とくにレバー、内臓肉など) 魚介類(とくにイワシ、サンマ、カツオなど) ビールなどのアルコール飲料 果糖の多い清涼飲料水 前述の食品に多く含まれるプリン体が体内で分解されると、尿酸が生成されます。たとえば、レバー100gあたりのプリン体含有量は約400mgで、他の食品と比較すると高い値です。また、アルコールは尿酸の排泄を妨げる作用があるため、痛風のリスクを高めます。ビール1缶(350ml)を飲むと、血中尿酸値が約0.5mg/dL上昇すると言われています。 さらに、果糖は他の糖類と比べて尿酸値を上昇させる作用が強いとされています。したがって、痛風の方は、これらの食品の摂取を控えることが重要です。 痛風の予防のためには、バランスの取れた食事を心がけ、プリン体の過剰摂取を避けることが大切です。プリン体を多く含む食品を控えめにし、十分な水分を摂取して尿酸を排出しやすくすることが有効です。また、適度な運動を行うと、体重管理や代謝の改善につながり、痛風のリスクを下げることができるでしょう。 痛風に良い食材とは? 痛風の食事療法では、プリン体の摂取を控えることが大切ですが、すべての食品を制限する必要はありません。痛風患者さんでも比較的食べてもよいとされる食材があります。これらの食材は、プリン体が少なく、痛風の改善に役立つ栄養素が豊富に含まれています。ここでは、そのような食材について紹介します。 尿酸値を下げる食材の選び方 痛風対策の食事では、プリン体の少ない食材を中心に選ぶことが大切です。具体的には、野菜類、果物類、低脂肪乳製品、全粒穀物などが推奨されます。これらの食材を中心とした食事は、尿酸値を下げ、痛風発作のリスクを減らすのに役立ちます。 推奨される食品とその理由 以下の表は、痛風の方に推奨される食品とその理由です。 食品 理由 含有量の例 ・キウイフルーツ ・オレンジ ・さくらんぼ ビタミンCが豊富で、尿酸の排泄を促進 100g当たりのビタミンC含有量 ・キウイフルーツ約90mg ・オレンジ約50mg ・さくらんぼ約10mg 低脂肪乳製品 ・プリン体が少なく、カルシウムが豊富 ・カルシウムは尿酸の排泄を促進 100g当たりのカルシウム含有量 ・低脂肪牛乳約120mg ・ヨーグルト約110mg 全粒穀物 ・ビタミンB群が豊富で、プリン体代謝を助ける ・食物繊維が豊富で、便通を改善 玄米100g当たりのビタミンB1含有量:約0.4mg 大豆製品 ・プリン体含有量が低く、尿酸値を上げにくい ・良質なタンパク源で、動物性タンパク質の代替に適している ・イソフラボンが豊富で、抗酸化作用がある ・木綿豆腐100g当たりのプリン体含有量:約6mg ・納豆50g当たりのプリン体含有量:約約18〜22.5mg 注意:納豆は栄養価が高いですが、プリン体含有量も無視できません。適量を守りましょう これらの食品を上手に取り入れることで、痛風患者さんでも栄養バランスの取れた食生活を送ることができます。ただし、どのような食品でも食べ過ぎは避けるべきです。個人差があるため、医師や管理栄養士との相談の上、自分に合った食事療法の実践が大切です。 痛風に悪い食品を避ける方法 痛風の予防と管理には、プリン体の多い食品を避けることが欠かせません。プリン体含有量が100gあたり200mg以上の食品は、とくに痛風のリスクを高める可能性があります。ここでは、制限が必要な食品と、その代替案について見ていきます。 プリン体が多い食品の一覧と代替案 以下の表は、プリン体を多く含む食品と、その代替案をまとめたものです。痛風患者は、これらの高プリン体食品を控え、代わりに低プリン体の食材の選択を意識するのが大切です。 高プリン体食品 プリン体含有量 (mg/100g) 低プリン体の代替案 レバー 300-600 大豆製品(豆腐、納豆など) イカ、タコ 200-300 白身魚(タラ、カレイなど) カツオ、マグロ 200-400 青背魚(サバ、アジなど) 鶏肉の皮 200-300 鶏むね肉(皮なし) ビール 10-20 (100ml当たり) ノンアルコールビール 前述した食品を控える代わりに、大豆製品、白身魚、野菜中心の食事に切り替えるのがよいでしょう。 大豆製品は良質なタンパク質源で、プリン体が少なく、豆腐100gあたりのプリン体含有量は約50mgです。また、野菜は尿酸値を下げる働きがあるビタミンCが豊富に含まれています。 アルコールと痛風の関係 アルコールは尿酸の排泄を阻害し、体内の尿酸を増加させます。とくにビールは、アルコールに加えてプリン体も含むため、尿酸値を上昇させる作用が強いのです。ビール大瓶1本(633ml)には約100-200mgのプリン体が含まれており、これは高プリン体食品とされる量です。 痛風患者は可能な限りアルコールを控え、どうしても飲む場合は、ビールではなく、ワインや焼酎などのプリン体を含まない酒を選び、適量(1日平均純アルコール20g程度)を心がけましょう。 実践!痛風対策のための一日の食事プラン ここでは、痛風患者におすすめの一日の食事プランを紹介します。家族の健康も考慮しながら、バランスの取れた食事を心がけましょう。 朝食:痛風に優しいメニューの提案 忙しい朝でも、簡単に作れて栄養バランスの取れたメニューを選ぶと続けやすいでしょう。 メニュー 材料 全粒粉トースト+野菜スープ 全粒粉パン、野菜(お好みで)、コンソメなど オートミール+低脂肪ヨーグルト+フルーツ オートミール、低脂肪ヨーグルト、お好みのフルーツ 豆乳スムージー+ビタミンCの多い果物 豆乳、バナナ、ビタミンCの多い果物(キウイ、オレンジ、イチゴなど) 朝の忙しい時間帯でも、これらのメニューなら短時間で準備できるでしょう。全粒粉トーストと野菜スープ、オートミールとヨーグルト、豆乳スムージーなど、痛風の方に適したメニューといえます。 昼食と夕食:家族も喜ぶ健康的な選択 家族みんなで楽しめるような、バランスのよい食事の例を紹介します。 メニュー 材料 茶わん蒸し+野菜サラダ+玄米ご飯 卵、だし汁(干ししいたけや玉ねぎなど)、野菜(レタス、きゅうり、トマト、にんじん、ブロッコリーなど)、玄米など 豆腐ハンバーグ+蒸し野菜+キノコスープ 豆腐、ひき肉、野菜、キノコ、だし汁など さわらの塩焼き+野菜炒め+もずく酢 さわら、野菜、もずく、酢など 低プリン体の食材を使った、栄養バランスの取れたメニューを揃えました。茶わん蒸しや豆腐ハンバーグなど、家族みんなが喜ぶ献立でしょう。 痛風の方も、おいしく食事を楽しみながら、健康管理がしやすいです。 家族の好みに合わせつつ、プリン体の少ない食材を使ったメニューを心がけましょう。 表に挙げたメニューは、プリン体が比較的少なく、痛風患者に適していると考えられます。しかし、個人差があるため、自分の尿酸値や体調に合わせて、医師や管理栄養士に相談しながら、食事プランを調整することが大切です。 痛風の食事療法は、バランスの取れた食生活が基本です。毎日の食事で、プリン体の少ない食材を選び、野菜や果物、低脂肪乳製品などを積極的に取り入れることで、尿酸値をコントロールしつつ、家族みんなで健康的な食卓を囲むことができるでしょう。 食生活の習慣改善とその効果 痛風の予防と管理には、継続的な食生活の改善が欠かせません。ここでは、食事の管理がもたらす長期的な効果と、合わせて実践したい生活習慣の改善策を紹介します。 食事の管理がもたらす長期的な健康効果 適切な食事療法を継続することで、以下のような長期的な健康効果が期待できます。 健康効果 詳細 尿酸値の低下 プリン体の摂取量を1日400mg以下に抑えると、尿酸値が低下する可能性があり、痛風発作のリスクを減少させる可能性がある 尿酸排泄の促進 十分な水分摂取により、尿酸の排泄を促すことができる。また、ビタミンCには尿酸排泄を促進する可能性がある 腎機能の保護 高尿酸血症が長期間続くと、腎臓に負担がかかり、腎機能が低下する可能性がある。適切な食事療法により尿酸値をコントロールすることで、腎機能の保護につながる可能性がある 尿路結石の予防 高尿酸血症は尿路結石の危険因子の一つである。十分な水分摂取と適切な食事療法により、尿路結石のリスクを下げやすい 腎臓病と尿路結石は、痛風患者にとって重要な合併症であり、食事療法はこれらの予防にも役立ちます。 ただし、腎臓病や尿路結石がある場合の具体的な食事指導は、病状に応じて個別に行う必要があります。医師や管理栄養士と相談しながら、適切な食事療法を実践することが大切です。 痛風予防のための追加の生活改善策 食事療法と合わせて、以下のような生活習慣の改善策を実践することが重要です。 生活習慣 改善策 運動不足 1回30分以上の中等度の運動(早歩きなど)を週5回、または1回20分以上の高強度の運動を週3回行うことを目標とする。適度な運動は尿酸値を下げ、血行を促進する効果が期待できる 喫煙 禁煙する。喫煙は尿酸値を上昇させる要因の一つであり、禁煙により尿酸値が0.5~1.0mg/dL程度の低下が期待できる 肥満 BMIを25未満に維持することを目標に、適正体重の維持に努める。肥満は尿酸値を上昇させる要因の一つである まとめ・生活全般を見直して痛風対策を! 生活全般を見直し、健康的な習慣を身につけていきましょう。 痛風の予防と管理に食事が果たす役割は非常に大きいといえます。プリン体の多い食品を控え、尿酸値を下げる食材を積極的に取り入れましょう。 そして家族の健康も考慮しながら、バランスの取れた食生活を実践することです。これらを継続的に行うことで、痛風の悪化を防ぎ、健やかな毎日を送ることができるはずです。 50歳をすぎると、痛風のリスクが高まります。仕事や家庭の責任を果たしながら、自分の健康管理を怠りがちになることもあるでしょう。しかし、食生活の改善は、あなたの健康を守る確かな一歩となります。専門家のアドバイスを参考に、家族の理解と協力を得ながら、無理のない範囲で食事の改善に取り組んでいきましょう。 痛風と向き合う日々は決して楽ではないかもしれません。しかし、正しい食の選択を心がけることが、あなたの健康を守る確かな一歩となるでしょう。ご家族の健康も考えながら、バランスの取れた食生活を実践していきましょう。 参考文献一覧 千葉県栄養士会,健康を考える皆さまへ,痛風の予防と食事 東京都立病院機構,高尿酸血症・痛風の食事,高尿酸血症・痛風とは 順天堂大学医学部附属順天堂医院栄養部,高尿酸血症・痛風の食事療法 e-ヘルスネット,アルコールと高尿酸血症・痛風 e-ヘルスネット,高尿酸血症 e-ヘルスネット,高尿酸血症の食事 日本生活習慣病予防協会,生活習慣病,高尿酸血症/痛風 日本生活習慣病予防協会,生活習慣病の調査・統計,高尿酸血症/痛風 e-ヘルスネット,プリン体
2024.09.09 -
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甲状腺にできる悪性のしこりが「甲状腺がん」です。甲状腺がんは組織型による違いがあるものの、いずれの場合も治療の基本となるのは手術による甲状腺切除やリンパ節郭清であり、そこに放射線や化学療法、ホルモン療法を組み合わせていくこともあります。 この記事では、こうした甲状腺がんの治療に伴う合併症や後遺症をとりあげて詳しく説明をしていきます。また、後遺症に対する再生医療の可能性についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。 この記事を読んで分かること ・甲状腺がんについて ・甲状腺がんの治療に伴う合併症や後遺症の種類 ・甲状腺がんの後遺症に対する再生医療 甲状腺がんとは 甲状腺は、頸部にあるホルモンを分泌する臓器です。ちょうど喉仏(のどぼとけ)の下あたりに位置する部位に存在しており、主に甲状腺ホルモン(TSH)という物質を血液中に分泌して体の代謝バランスを調節する役割を担っています。その甲状腺にできる悪性のしこりを、「甲状腺がん」と呼びます。 出典:甲状腺がんについて:[国立がん研究センター がん情報サービス] 甲状腺がんは組織型別に分類され、主なものに、 1)乳頭がん 2)濾胞がん 3)髄様がん 4)未分化がん があります。それぞれ解説していきます。 1)乳頭がん 乳頭がんは、甲状腺がんの中で最も頻度が多い組織型で、約9割近くを占めます。 基本的には進行がゆっくりで、多くの場合予後が良好とされていますが、一部に多臓器への転移をするなど悪性度が高いものもあります。 治療は基本的に手術で甲状腺を切除し、周囲のリンパ節を郭清する方法をとることが多いです。 がんの大きさによって甲状腺の切除範囲は変わります。予後の良い乳頭がんの場合には手術のみで、放射線や化学療法は不要となることが多いです。 2)濾胞(ろほう)がん 濾胞がんは甲状腺がんの中で約5%を占め、乳頭がんに次いで多い腫瘍です。 乳頭がんと比較して、リンパ節転移が少ない一方で、血行性に遠隔臓器の肺や骨に転移することがあります。 治療はやはり手術による甲状腺の摘出を基本とし、遠隔転移がある場合には放射性ヨウ素内服療法を追加で行います。 3)髄様(ずいよう)がん 髄様がんは、甲状腺がんの中では遺伝性の可能性を考慮する組織型です。 この癌の中には、RET遺伝子と呼ばれるがん遺伝子の突然変異によって生じることが知られており、そのうち約8割で副腎に発生する褐色細胞腫を合併します。 この褐色細胞腫を合併している髄様がんの場合には、まず褐色細胞腫の治療を優先します。それ以外の場合には、甲状腺切除およびリンパ節郭清を行います。 4)未分化がん 甲状腺がんの中で最も悪性度が高く、急速に進行し多臓器に浸潤、転移する組織型です。 積極的な治療法としては手術や放射線治療・化学療法を組み合わせて行いますが、予後は極めて不良であるため、緩和的な治療も重要な選択肢となりえます。 甲状腺がん治療に伴う合併症や後遺症の種類は?その治療法についても解説 甲状腺がんの治療は手術による甲状腺の一部切除、または全摘出が基本となります。 ここでは主に、甲状腺がんの手術に関連する合併症、それに対する治療を解説していきます。 また、後遺症については、生じた合併症が治癒しない状態、永続的に治療を要する状態のことを指しています。各合併症の項目の中で後遺症として残るケースについても説明を加えています。 反回神経麻痺 反回神経は甲状腺の裏を走行している神経で、声帯を動かす筋肉を支配しています。すなわち、声を出すために非常に重要な神経です。 反回神経は左右に1本ずつあり、どちらか一方が障害を受けると声帯がうまく動かなくなり、声がかすれます。これを反回神経麻痺といいます。 反回神経は非常に細く繊細な神経であるため、手術の際に直接少し触れただけでも麻痺が起こってしまう可能性がありますが、ほとんどの場合には一時的で半年以内には改善してきます。しかし一部まれに、永続的な反回神経麻痺となってしまうことがありかすれ声が治らず後遺症として残ることがあります。 また左右両方の反回神経が障害を受けてしまうと、声が出ないばかりか呼吸ができなくなってしまい、命に関わる事態となります。 <反回神経麻痺の治療法> 反回神経麻痺によりかすれ声が改善しない場合には、声帯自体を手術することでかすれ声を改善させる方法があります。また、両側の反回神経麻痺により呼吸がうまくできない場合には、気管切開といって喉仏の下辺りに空気の通り道を作る必要があります。 甲状腺機能低下症 甲状腺がんの手術では甲状腺自体を摘出する必要があります。そのため、特に甲状腺を半分以上摘出した場合には、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンが低下してしまう可能性があります。甲状腺ホルモンが低い状態では、代謝バランスが低下して体調を崩しやすくなったりします。この状態を、甲状腺機能低下症といいます。 <甲状腺機能低下症の治療法> 治療法として、甲状腺ホルモン剤を内服して補充することが必要になります。基本的には一生涯飲み続ける必要があるものになります。 副甲状腺機能低下症 副甲状腺は甲状腺の裏にくっついており、左右2個ずつ存在する臓器です。非常に小さな臓器ですが、副甲状腺ホルモンという物質を分泌して血液中のカルシウムやリン濃度を調節する働きがあります。甲状腺がんの手術で甲状腺を摘出する際に副甲状腺も一緒に摘出されたり、副甲状腺を栄養する血流の低下などにより、術後に副甲状腺機能低下症を起こす可能性があります。 副甲状腺機能低下によって副甲状腺ホルモンが不足すると、血液中のカルシウム濃度が低下し、手や口のしびれやけいれんを引き起こすテタニーと呼ばれる症状が生じる可能性があります。 <副甲状腺機能低下症の治療法> 治療法として、カルシウム製剤の内服と、カルシウムの吸収を促すビタミンD を補充します。副甲状腺をすべて摘出した場合には一生飲み続ける必要がありますが、副甲状腺を少しでも温存できている場合には、次第に正常化して補充が不要になることも多いです。 乳糜漏(にゅうびろう) 甲状腺がんの手術で側頸部のリンパ節郭清を行う場合に生じる可能性のある合併症です。リンパ管からリンパ液が漏れてきて止まりにくくなってしまっている状態です。 <乳糜漏の治療法> ほとんどの場合、一時的な安静、圧迫で自然に止まりますが、中には再手術で漏れている場所を閉じる必要があるケースも認められます。 術後後遺症に対する再生医療について 最後に、甲状腺がん術後の後遺症に対する再生医療の可能性についてお話します。 再生医療では、「幹細胞」と呼ばれる様々な細胞に分化することができる細胞を活用します。この幹細胞を培養して増やし、その幹細胞を点滴や患部に直接注射することで損傷した組織の修復や再生を促すことが狙いです。中でも術後の神経損傷に対する再生医療が注目されており、甲状腺がんの手術後の合併症・後遺症である反回神経麻痺への改善効果が期待されています。 当院は国内では数少ない再生医療を提供できる施設の1つです。患者さん自身の脂肪から幹細胞を採取、培養し、点滴する「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応やアレルギーを生じにくく、安全性が高い方法です。 甲状腺がん治療の後遺症にお困りの方で「治療を考えたい」「話を聞きたい」という方は、ぜひお問合せください。 甲状腺がんについてよくあるご質問 Q:喫煙や飲酒は甲状腺がんにかかりやすい原因になりますか? A:これまでの研究からは、喫煙や飲酒によって甲状腺がんのリスクが増えるという結果はありません。一方、体重増加や肥満は甲状腺がんのリスクとなる報告はいくつかみられています。 Q:甲状腺がん自体で痛みが出ることはありますか? A:甲状腺がんの大部分では痛みがでることはなく、首のしこりや違和感として気づかれ、それを契機にがんが発見されるケースが多くあります。 まとめ:甲状腺がん術後の合併症・後遺症、その治療法について解説 今回は甲状腺がんの大きな治療の柱である手術に伴う合併症・後遺症について詳しく解説をし、再生医療の可能性も含めた治療法についてお伝えさせていただきました。 大変な思いをされて甲状腺がんの治療を終えた後もなお、後遺症に悩まされ続けている方々、甲状腺がんについて詳しい情報を知りたい方々にとって、有益な情報源となれれば幸いです。 参考文献 ・甲状腺がんについて:[国立がん研究センター がん情報サービス] ・甲状腺がん|がんに関する情報|がん研有明病院
2024.09.03 -
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乳がんと言われたけど、手術の傷って痛いの?」 「乳がん治療後に痛みがあって困っている」 こんなお悩みはありませんか? 乳がんの治療には手術・薬物療法・放射線療法などがあります。主にその広がりや転移により治療法が選択されます。 治療の後遺症で痛みに悩む患者さんは少なくありません。たとえば、術後長期間にわたって慢性的に続く痛みは「乳房切除後疼痛症候群」と呼ばれます。薬物療法による副作用でも痛みが残ることがあります。適切な対応を行わないと日常生活に支障をきたしてしまいます。 「せっかくがんの治療をしたのに、痛くて毎日の生活を楽しめない。」 そんな事態を避けるために、乳がんの治療とその後遺症、特に痛みについて詳しく理解することが大切です。今まさに悩んでいる方、これから治療を受ける上で心配な方は、本記事をご参考にされてください。 後遺症の痛みの治療に行き詰まったら、再生医療も一つの選択肢です。以下で詳しく解説していきます。 この記事を読んで分かること ・乳がんのステージ分類と治療方法 ・乳がん手術後の後遺症の種類 ・術後後遺症についてよくあるQ&A ・後遺症に対する再生医療の可能性 乳がんのステージと治療法 まずはじめに、乳がんのステージ分類と、ステージに合わせた外科手術や化学療法などの治療法について解説していきます。 乳がんのステージ分類について 乳がんはその進行の度合いにより、0期からⅣ期までのステージに分類されます。 ステージを決定するのは、がんの大きさや広がり・リンパ節転移の有無・遠隔転移の有無といった要素です。なお、遠隔転移とは他の臓器への転移のことで、乳がんが転移しやすいのは骨・肝臓・肺・脳などです。 以下に各ステージについて解説します。 <乳がんのステージ分類> 遠隔転移(他の臓器への転移)がない場合 → 0〜Ⅲ期のいずれか 0期 ・非浸潤がん(乳がんが、発生した場所にとどまっており、広がったり転移を起こしていたりしない状態) Ⅰ期 ・がんの大きさが2cm以下+リンパ節転移をしていない ⅡA期 ・がんの大きさが2cm以下+腋窩リンパ節に転移がある(リンパ節は固定されておらず動く) ・がんの大きさが2cm以上5cm以下+リンパ節転移がない ⅡB ・がんの大きさが2cm以上5cm以下+腋窩リンパ節に転移がある(リンパ節は固定されておらず動く) ・がんの大きさが5cm以上+リンパ節転移がない ⅢA期 ・がんの大きさが5cm以下+腋窩リンパ節に転移がある(リンパ節は固定されているか、リンパ節同士が癒着している) ・がんの大きさが5cm以下+腋窩リンパ節に転移がない+内胸リンパ節に転移がある ・がんの大きさが5cm以上+腋窩リンパ節あるいは内胸リンパ節のどちらか一方に転移がある ⅢB期 ・がんが胸壁に固定されている ・がんが皮膚に食い込んでいたり、皮膚から出ていたりする ・炎症性乳がん(乳房が腫れたり赤くなったりといった炎症を伴う乳がん) ⅢC期 ・腋窩リンパ節と内胸リンパ節のどちらにも転移がある ・鎖骨の上あるいは下のリンパ節に転移している 遠隔転移(他の臓器への転移)がある場合 →Ⅳ期 乳がんの治療について 乳がんの治療は外科的手術・放射線治療・化学療法(薬物治療)の3つを組み合わせて行います。 これから紹介するのはあくまでも標準療法です。実際には患者さんの状態や希望にあわせて臨機応変に治療が行われます。治療を受ける際には、担当の医師としっかり話をした上で治療を選びましょう。 <0期からⅢA期の治療について> 0期からⅢA期の乳がんでは、治療の中心は手術です。 がんのサイズや広がり方で、乳房の切除範囲が異なります。 がんが小さければ乳房部分切除術が可能です。最近では、早期のがんはラジオ波で焼いたり、内視鏡の手術で切除したりという方法も徐々に広まってきています。 一方、大きい場合や広がりが大きい場合は、乳房全切除術を行わなければなりません。リンパ節への転移が疑われれば、その部位のリンパ節も切除します。また、状況に応じて放射線療法を行なったり、手術の前や後に薬物療法を行ったりすることもあります。患者さんのご希望に応じて、乳房再建術を検討します。 <ⅢB期からⅣ期の治療について> ⅢB期からⅣ期の場合の中心は薬物療法です。患者さんの体の状態や希望・がんの性質など様々な要因を加味して治療薬を選びます。 乳がんの薬物療法で使う薬には一般的な抗がん剤のほか、ホルモン療法薬や分子標的薬と呼ばれる薬もあります。分子標的薬とは、がん細胞に特有の遺伝子・タンパクなどをターゲットにした治療薬のことです。 治療の効果・症状の経過次第で手術や放射線療法が追加されることもあります。 <再発した場合の治療について> 再発した乳がんの場合には、その再発部位により治療法が異なります。 手術を受けた側の乳房やその周囲の皮膚、リンパ節に発生する局所領域の再発では、治癒を目指して手術でがんを切除します。必要に応じて放射線療法や薬物療法を併用します。 手術で切除するのが難しいような局所再発や、他の臓器への遠隔再発では、薬物療法を中心に行います。 <緩和ケアについて> がんの患者さんは緩和ケアを受けることができます。緩和ケアは、がんで苦しんでいる人たちが、できるだけ穏やかに生活できるように助けるためのケアです。 緩和ケア=終末期というイメージがあるかもしれません。しかし、実はがんと診断されてからいつでも緩和ケアを受けることができます。 がんに伴うつらい症状を和らげるだけでなく、気持ちの落ち込みや不安を軽くしたり、生活での困りごとに対処したり、人生の意味についての悩みにも対応します。 患者さんとその家族が抱えるいろいろな苦しみに対して、身体的、精神的、社会的な面から全体的に支援するのが緩和ケアなのです。 乳がん治療後の慢性的な痛み...これって後遺症? どんな治療にも合併症が起こり得ます。ときに、治療後長期間に渡って後遺症に煩わされることもあります。ここからは乳がん治療の合併症とその対処方法について詳しく見ていきましょう。 術後に痛む「乳房切除後疼痛症候群(PMPS)」 乳房切除後疼痛症候群(PMPS)は、乳がんの手術後に乳房、胸部、腋窩、上腕にかけて起こる慢性的な痛みです。 PMPS は、手術で肋間上腕神経などの神経が損傷されることで起こる神経障害性疼痛に分類されます。 PMPS の主な症状は、火傷をした後のようなひりつく痛みやびりびりした痛みです。 痛みとともに、何かが挟まっているような違和感を覚える方も多くいます。下着がすこし擦れただけでも強い痛みを感じるという方もいるのです。 これらの症状は仕事や日常生活に支障をきたしたり、うつ病・適応障害などの精神障害と関与したりする可能性があります。 治療の中心は薬物療法です。一般的な痛み止めはあまり効果がありません。神経の痛みを抑える薬・抗うつ薬・抗けいれん薬などが処方されます。また、痛みで関節や筋肉が動かせなくなり、日常生活に影響が出ている方はリハビリも必要です。心理的な因子や症状の精神面での影響を評価してサポートすることも考慮されます。 乳がんの転移による「骨の痛み」 乳がん治療後の痛みは、ほかにもあります。 乳がんの転移が多い場所の一つは骨です。転移が起こった骨は、骨折をしやすくなります。治療後も、骨折の痛みが残ってしまう可能性があります。 また、抗がん剤治療による副作用も少なくありません。一部の抗がん剤では末梢神経障害を起こします。手や足のびりびりした痛み・しびれが起こると、長期間持続することもあります。 術後の合併症「リンパ浮腫」 術後の合併症で多いリンパ浮腫は通常痛みを伴いません。しかし、急激に腫れたり感染を合併したりすると痛みが起こります。 このように、がんの治療後の痛みは様々です。痛みの原因を探り、対応していく必要があります。 乳がん治療の後遺症についてのQ &A Q:乳がん手術後、ずっと痛みが続きます。いつよくなるのでしょうか? A:乳房切除後疼痛症候群において、症状が改善するまでは長い時間がかかる可能性があります。例えば、国内の報告では、術後9年経過後も21%、およそ5人に1人が痛みを抱えていると言われています。自然に良くなると思わず、早めに受診をすることをご検討ください。 Q:乳がん手術後の痛みを何科に相談したら良いかわかりません。どこに行ったらいいのでしょうか? A:麻酔科やペインクリニックなどで相談すると良いでしょう。お近くにそういった医療機関がない、どこに行ったら良いかわからない場合は、主治医やかかりつけ医に相談することをお勧めします。必要に応じて専門の病院・クリニックなどを紹介してもらうことができます。 まとめ・乳がんの治療と手術後の痛みや後遺症について 乳がんはその進行の度合いにより、治療は手術や薬物療法など多岐にわたります。そのため、後遺症の痛みの原因も様々です。 これから治療を受ける方は、ご自身の治療内容についての説明をよく聞いてどのようなことに気をつけるべきかしっかり理解しましょう。後遺症に悩まされている方は、一人で抱え込まずに主治医に相談してみてください。 後遺症の症状は、適切な治療で痛みが和らぐこともあります。ただし、神経障害性の痛みなど、治りにくいものも少なくありません。 後遺症の痛みの治療に行き詰まったら、再生医療も一つの選択肢です。一般的に神経の障害は治らないとされています。しかし、幹細胞治療とよばれる再生医療では、神経の修復ができるかもしれません。 当院では、幹細胞治療を提供しています。実際に乳がん治療の後遺症の痛みにお困りの方の治療実績もあります。「治療を考えたい」「話を聞きたい」という方は、ぜひお問合せください。 参考文献 小島圭子. Practice of Pain Management 5(3): 164-168, 2014. 国立がん研究センター プレスリリース. 早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法による切らない治療が薬事承認・保険適用を取得先進医療制度下で実施した医師主導特定臨床研究の成果を活用. 国立がん研究センター. がん情報サービス. 乳がん 治療. 日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン 2022年版. 日本乳癌学会. 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2023年版.
2024.08.28 -
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我が国で3番目に多いがんに当たる「胃がん」ですが、術後はダンピング症候群や下痢、栄養障害、胆石症、骨粗鬆症など様々な後遺症がついてきます。 症状に応じて食事療法や栄養補助食品の使用、手術などで対応しますが、長く続く痛みや長期的ながん予防には再生医療が有効です。 この記事では、胃がんの症状や原因、診断や治療法の他、術後の後遺症の種類や後遺症に対する対処法、また、再生医療の可能性について詳しく解説していきます。 ・胃がんの症状、原因、診断、治療法 ・術後の後遺症の種類 ・術後の後遺症に対する対処法 ・長く続く術後の痛みに「再生医療」の可能性 胃がんの手術をこれから受ける予定で術後について不安がある方、また術後後遺症でお悩みの方はぜひご参考にされてください。 胃がんについて 胃の内壁に当たる粘膜の細胞ががん化することによって胃がんが発生します。 胃がんの症状 初期は無症状であることが多く、進行すると吐き気や嘔吐、貧血によるふらつき、吐血、腹痛などの症状が現れます。 初期 ・無症状 進行すると ・吐き気や嘔吐 ・貧血によるふらつき ・吐血 ・腹痛 など このような症状を自覚する場合は、すぐに病院にかかりましょう。 胃がんの原因 胃がんの発生原因として、以下のものが挙げられます。 ・ヘリコバクター・ピロリ菌感染 ・高塩分食 ・喫煙 ・ストレス ・アルコール ・刺激物 【胃がんの原因に関するQ&A】 Q . 胃がんの罹患者数や死亡率は他のがんと比べてどれくらい多いの? A . 2019年の部位別がん罹患数をみてみると、男性における胃がんは前立腺がん、大腸がんに次いで3番目に多く、女性の胃がんは乳がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に多くなっています。 2022年の部位別がん死亡数をみると、胃がんは肺がん、大腸がんに次いで3番目に多く、男女別に見てみると男性では3番目、女性では5番目に多いという結果でした。 Q . 若年者に多くて進行も早い胃がんの種類があるって本当? A . 胃がんは内視鏡やX線の所見によって、以下のような肉眼的分類に分けられます。 ・表在型(0型) ・腫瘤型(1型) ・潰瘍限局型(2型) ・潰瘍浸潤型(3型) ・びまん浸潤型(4型) このうち、びまん浸潤型(4型)にあたるスキルス性胃がんは、胃の壁が硬く、厚くなるタイプの進行胃がんであり、若年者や女性に多い上に腹膜への転移が多くみられます。 胃がんの診断 胃がんの診断には、胃内視鏡検査(胃カメラ)やその際に採取した組織の病理診断、血液検査、CT検査、胃X線検査などを用いて、総合的に判断します。 胃がんの治療法 胃がんの治療法には、内視鏡治療や外科的手術、化学療法、放射線療法があり、がんの進行度(ステージ)に応じて適切なものが選択されます。 これらの治療法のうち、外科的手術によって胃を一部、ないし全て切除することによって「胃切除後症候群」と呼ばれる後遺症が発生します。 後遺症については次の事項で詳しく解説していきます。 胃がんの術後後遺症の種類とその対処法 胃切除後症候群には様々なものがあるため、主なものをそれぞれ説明していきます。また、後遺症ごとに治療法や対処法を紹介していきます。 ①ダンピング症候群 胃を切除すると、当然食べ物を貯留できる容積が減り、それとともに胃酸の分泌が減ります。結果的に通常よりも濃度の濃い食べ物が急速に腸内へ流れ込み、これがダンピング症候群を発生させます。 食後すぐに現れる動悸や立ちくらみ、めまい、悪心、発汗を早期ダンピング症候群と呼び、食後2~3時間後に現れる疲労感や発汗、動悸、立ちくらみ、めまい、失神、手指の震えなどを後期ダンピング症候群と呼びます。 ダンビング症候群に有効な対処法は? 多くの食べ物が一気に腸管へ流れるのを阻止するために、食事の摂り方を以下のように工夫することが必要です。 ・1時間以上かけて少しずつゆっくり食事を取る ・1回の食事量を少なくする代わりに食事回数を1日5~6回に増やす ・よく噛んでから飲み込む ・食事中の水分摂取を減らす ②貧血 胃酸の分泌が減ることで胃からの鉄の吸収が阻害され、胃の切除から数ヶ月で鉄欠乏性貧血に陥ります。さらに数年経つと、ビタミンB12の吸収に必要な胃壁細胞からの内因子が減り、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血が起こります。 貧血に有効な対処法は? 鉄剤の経口投与やビタミンB12の注射などによって不足している栄養分を補います。 ③消化・吸収不良(体重減少) 胃酸の減少やそれによる消化酵素活性の低下、そして手術の際の迷走神経切除による消化管運動の低下は、消化・吸収不良を引き起こし、体重減少にもつながります。 消化・吸収不良(体重減少)に有効な対処法は? 栄養分を補おうとたくさん食べようとするとダンピング症候群を悪化させてしまうため、栄養士や医師へ相談しながら時間をかけて徐々に食事量を安定させていきましょう。少ない量で栄養を多く摂り入れたい場合、栄養補助食品を利用するのもよいでしょう。 ④骨粗鬆症(骨粗しょう症) 胃の切除によって胃酸の減少や腸内細菌叢の変化が起こり、結果としてカルシウムの吸収が悪くなり、骨が脆弱化します。 骨粗鬆症に有効な対処法は? 骨密度を上げる薬剤やカルシウム剤、ビタミンD製剤の薬物療法が有効です。 ⑤胆石症・胆嚢炎 胃切除後は胆嚢の動きが悪くなるため、胆石を生じやすくなります。胃切除後の患者さんのうち、2~3割程度と結構な頻度でみられます。 胆石症・胆嚢炎に有効な対処法は? 胆石があっても無症状であれば経過観察でよいですが、胆嚢炎や胆石発作を起こした場合には治療が必要です。根本的治療は外科的な胆嚢摘出術となり、医療施設によっては胃切除術の際に予防的に胆嚢摘出術も一緒に行うこともあります。 長く続く術後の痛みに再生医療が効果的?! 胃がんのみならず、体に切開を入れる外科的手術において、術後時間が経っても傷跡が痛む、またその周囲のしびれを自覚することがあります。3ヶ月以上継続する場合、遷延性術後痛である可能性があり、注意が必要です。 原因は複雑で、手術による神経障害に精神的・心理的因子や遺伝的素因、環境・社会的因子も絡み合い、検査をしてもわからないので原因不明とされてしまうこともあります。従来の治療では末梢神経の回復は難しいとされていましたが、再生医療ならば回復の可能性があります。 再生医療は、失われた身体の組織を再生する能力、つまり自然治癒力を利用した最先端医療です。当院で行う再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”というもので、患者さんから採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻します。 ちなみに幹細胞とは、さまざまな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再度生み出して補充する機能を持つ細胞のことをいいます。自分自身の細胞から作り出したものを用いるため、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 長期の痛みは身体的にも精神的にも患者さんを蝕み、鬱(うつ)に近い状態になる方もいます。痛みやしびれが改善するとできることが増え、活発になることで精神的・社会的にも患者さんの満足度が上がります。 ▼実際に当院では、乳がん術後の化学療法で末梢神経が障害され、長い間足のしびれと原因不明の胃腸症状・倦怠感に悩まされていた患者さんが、幹細胞治療によって改善した症例を経験しています。 手術や化学療法による末梢神経障害に悩まれている方は、ぜひ当院の再生医療に関するホームページをご覧ください。 追記:がんを予防できる免疫細胞療法ってなに? 再生医療には様々な種類がありますが、その中のNK(ナチュラルキラー)細胞免疫療法はがんの予防に有効とされています。自己の血液中にある免疫細胞の一種、NK細胞と呼ばれるものを血液から採取し、培養後に点滴でまた体内に戻す治療です。手術や化学療法、放射線療法と併用することでがんの予防をより強固にできるでしょう。 気になる方は当院の免疫療法に関するホームページをご覧ください。 まとめ・胃がんの術後後遺症の種類と対処法を徹底解説 胃がんの初期は無症状のため、腹痛や嘔吐などの症状が出た時には手術が必要な状態になっていることも少なくありません。しかし、胃を切除すると、胃切除後症候群と呼ばれる後遺症を生じます。 ダンピング症候群や消化・吸収不良、貧血など様々な症状を呈し、不足する栄養素の投与や食事の摂り方を工夫することで改善を目指します。 これらの後遺症とは別に傷口が長く痛む遷延性術後痛を生じることもあり、手術による末梢神経障害や精神的因子などが複雑に絡み合う病態です。 再生医療は、末梢神経障害を根本的に治療できる手立てとして注目されており、今後ますます普及していくことが予想されます。 気になる方はぜひ一度当院へご相談ください。 参考文献一覧 公益財団法人 日本対がん協会 ホームページ 伊東久勝, ほか. 「遷延性術後痛の対策」日本ペインクリニック学会誌Vol.25, No.4, 2018.
2024.08.22 -
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大腸がんは日本で頻度の多いがんの1つです。部位別のがんの罹患数では、男性で肺がんに次ぐ2位、女性で乳がんに次ぐ2位となっています。 また死亡者数も男性で3番目、女性で最も多いがんとなっています。 この記事では、大腸がんの概要や治療法について解説していきます。また、大腸がんの術後の合併症・後遺症についても特に詳しく解説しながら、その治療法や対処法にも触れています。後遺症に対する再生医療の可能性についても紹介しています。 ・大腸がんの概要や治療法 ・大腸がんの術後の合併症と後遺症 ・大腸がんの治療法や対処法 ・後遺症に対する再生医療の可能性 ぜひ最後までお読みいただければと思います。 大腸がんとは 大腸がんは、大腸(結腸および直腸)に発生する悪性腫瘍です。大腸がんは生活習慣との関わりが深く、特に食生活の欧米化が関与していると言われており、日本でもその発症率が増加しています。 大腸がんの発症は多くの場合、腺腫と呼ばれる良性のポリープから始まり、これが数年かけて悪性化することでがんが発生します。早期発見・早期治療が極めて重要であり、定期的な検査が推奨されます。 大腸がんの病期(ステージ) 大腸がんの病期(ステージ)は、がんの進行度を示すもので、治療方針を決定する上で非常に大切です。大腸がんの病期は、大きく分けて以下のように分類されます。 0期:がんが大腸の粘膜層に留まっている状態で、最も早期の段階 Ⅰ期:がんが大腸の固有筋層に留まっているもの Ⅱ期:がんが固有層を超えて浸潤しているもの Ⅲ期:がんのリンパ節転移を認めるもの Ⅳ期:がんの他 臓器への転移を認めるもの 実際にはがんの深達度をさらに細かく分類し、それによりⅡ期以降はⅡa、Ⅱb、Ⅱc、Ⅲa、Ⅲb、Ⅲc、Ⅳa、Ⅳb、Ⅳcに分けられています。 大腸がんの病期に応じた治療法の選択 大腸がんには様々な治療法がありますが、主には病期によってその選択が異なります。 0期からⅠ期 0期からⅠ期の浸潤が軽度のものであれば、内視鏡治療が選択されます。これは内視鏡を用いて、大腸がんを腸管の内側から切除する方法であり、早期の大腸がんにのみ適応可能な治療法です。 Ⅰ期〜Ⅲ期 Ⅰ期〜Ⅲ期、すなわちがんの深達度が深くて内視鏡では取り切れないようなもの、リンパ節転移のあるものについては、開腹手術もしくは腹腔鏡手術による切除が検討されます。また、Ⅲ期や再発リスクの高いⅡ期の場合には、術後に抗がん剤による補助化学療法を考慮します。 Ⅳ期 Ⅳ期の場合には、原発巣のがんが切除可能な場合には手術を検討します。一方切除ができない場合には、抗がん剤治療や放射線治療などを組み合わせた治療を検討することになります。 これらはあくまでも標準的な考え方であり、実際には患者さんごとの状態に合わせて具体的な治療法が検討、選択されていきます。 大腸がんの手術治療について ここでは大腸がんの実際の手術治療について、詳しく解説をしていきます。 内視鏡治療 大腸内視鏡を用いて大腸の内側からがんを切除する方法になります。基本的にがんの深達度が浅いものかつリンパ節転移が認めないものに対して選択される方法です。具体的な切除の方法には以下のようなものがあります。 内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー) 大腸がんの中でも、腸管から盛り上がっており、キノコのように茎があるような病変に対して行われる方法です。内視鏡の先端から細い輪っかを形成したワイヤー(スネア)を出し、病変に引っ掛けるようにして茎を切り取ります。 内視鏡的粘膜切除術(EMR) 病変があまり盛り上がっていないかつ、2cm未満の病変に対して行われる方法です。病変の下の粘膜下にまず生理食塩水を注入して、病変自体を盛り上がらせた状態にします。そこにスネアをかけて、周囲の正常な粘膜を含めた状態で切り取ります。 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) EMRで切除が難しい大きな病変に対して行われる方法です。病変の粘膜下に生理食塩水を注入し、浮き上がらせた病変の周りを高周波ナイフで切り取っていきます。 開腹手術 内視鏡での切除が困難な深達度の深いがんや、リンパ節転移を認める場合などに選択されます。大腸がんといっても、肛門に近い直腸のがんなのか、それより遠い結腸のがんなのかで手術方法が異なってきます。 結腸がんの場合 がんの周囲の腸管やリンパ節も含めて切除する必要があります。結腸の場所によってS状結腸切除、横行結腸切除、回盲部切除など様々な術式があります。がんを含む腸管を切除したあとは、きりとった断端の腸管同士をつなぎ合わせたり、つなぎ合わせるのが困難な場合には人工肛門(ストーマ)を作る手術を行う必要があります。 直腸がんの場合 直腸は肛門につながる部分であり、周囲には膀胱、男性の場合には前立腺、女性の場合には子宮・卵巣などの臓器が近くにあり、それらの調節を担う自律神経も存在します。したがってがんの切除に加え、自律神経機能の温存も考えながら手術を行います。 比較的早期の直腸がんであれば、がんとその周囲の組織を切り取る局所切除術を選択します。腸管として切除する必要がある場合には、腸管の切り口を直腸と縫い合わせて再建する必要があり、前方切除術という術式になります。肛門に近い直腸がんの場合には、肛門を一緒に切除する必要があるため、人工肛門(ストーマ)を作ることになります。肛門括約筋を温存できる場合には、括約筋間直腸切除術(ISR)という方法で、人工肛門を避けることができる場合がありますが、再発率が高くなったり、排便しにくくなるといったことも報告されています。 腹腔鏡手術・ロボット支援手術 腹腔鏡手術は、数カ所の小さな傷からお腹の中に腹腔鏡というカメラを挿入し、モニターを見ながら手術する方法です。開腹手術に比べて傷が少なく、患者さん自身への体への負担が少ないことがメリットです。また、同じような形で、ロボットアームを用いて手術するロボット支援手術という方法もあります。いずれの場合でも技術的に熟練を要するため行える施設は限られていますが、近年増えてきている手術法です。 大腸がんの手術の合併症とその対処法 大腸がんの手術には、いくつかの合併症が発生する可能性があります。以下に主な合併症とその対処法を紹介します。 ・感染症 手術部位の感染症は、どの手術でも起こり得るリスクです。大腸がんの手術の場合には腹部の傷からの感染や、腹腔内の感染などが考えられます。対処法として、感染を防ぐために必ず手術前後に抗生物質の投与を行います。しかしそれでも感染が起こってしまうことがあり、その場合には抗生物質の投与を継続したり、感染に対して外科的治療(洗浄、ドレナージなど)が考慮されることもあります。 ・排便障害 手術の影響で腸の動きが不規則になり、下痢や便秘になったりすることがあります。また、肛門括約筋が影響する部分に関わるような直腸がんの手術ですと、便意を感じにくくなったり、便を出しにくくなったりすることがあります。整腸剤や便を柔らかくする下剤などを組み合わせて、排便のコントロールを促していきます。 ・腸閉塞(イレウス) 術後の影響で腸管がくっついてねじれて しまったり、腸の動きがわるくなってしまうことで排泄物の通りが悪くなってしまった状態です。これを防ぐためには、術後早期に歩行を始めることや、腸の動きを促す薬の使用が有効です。手術から年単位で時間が経過してからも起こる可能性があります。ねじれによる腸閉塞が発生して腸管の血流が悪くなってしまった場合には絞扼性イレウスという重篤な病態となり、緊急手術が必要となることもあります。 ・縫合不全 腸を縫合した部分がうまくつながらず、腹腔内に腸液や排泄物が漏れてしまうことがあります。これが縫合不全という状態です。放置すると腹膜炎をきたして重篤になってしまう可能性もあるため、再手術が必要となります。 ・排尿障害 大腸がんの手術の中でも、特に直腸がんの手術では、排尿を調節する自律神経に影響を及ぼしてしまうことがあり、術後に尿意が感じにくくなったり、残尿感が残ったりなどの症状が残る場合があります。多くの場合、内服薬で改善が得られますが、場合によっては尿が自力では全く出せなくなってしまう状態(尿閉)になってしまい、尿道に細い管を通して排尿させる処置(導尿)が必要となる場合もあります。 ・性機能障害 特に直腸がんの手術では、直腸周囲の自律神経へ影響を及ぼす可能性があります。この自律神経は性機能に関係するものもあり、男性では術後に勃起不全(ED)や射精障害をきたしたり、女性では性交渉の際に痛みを感じたりなどの影響をきたすことがあります。服薬による治療の選択肢がありますが、自律神経自体にダメージある場合には効果が限定的ともいわれています。 大腸がんの治療後の後遺症について 術後の合併症の中でも、特に自律神経にかかわる合併症である排尿障害や性機能障害は、なかなか改善が得られず後遺症として残ってしまうこともあります。特に性機能障害は、デリケートな問題であるためなかなか相談ができず、お一人で悩まれたままにしてしまっているケースも多いと考えられます。非常に重要な問題ですので、現在そういった後遺症に悩まれている方は、まずは担当医や泌尿器科などにぜひ相談をしてみてください。 大腸がん治療後の後遺症に対する再生医療の可能性について 大腸がんの手術後の後遺症に対する治療法として、再生医療の可能性についてお話します。 再生医療とは、「幹細胞」と呼ばれる様々な細胞に分化することができる細胞を活用して行う治療です。幹細胞を培養して増やし、それを点滴や患部に直接注射することで損傷した組織の修復や再生を促すことを狙いとする治療法で、現在その効果が期待されています。中でも、術後の神経損傷に対する再生医療が注目されており、大腸がんの手術後の合併症・後遺症である自律神経障害による排尿障害、性機能障害への改善効果が期待されています。 当院は国内では数少ない再生医療を提供できる施設の1つです。患者さん自身の脂肪から幹細胞を採取、培養し、点滴する「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応やアレルギーを生じにくく、安全性が高い方法です。 大腸がんについてよくある質問と回答 Q:人工肛門(ストーマ)を造設することになりました。管理していくのが不安です。臭わないかなども気になります。詳しく教えて下さい。 A:人工肛門(ストーマ)は腸管をお腹から出して、そこから排泄させるようにつくるものです。手術によって、一時的にストーマを作って後ほど閉鎖することもあれば、生涯ストーマとなることもあります。ストーマは肛門のように括約筋がないため、排泄物をためたりすることができず、ストーマの周囲をパウチで覆ってそこに便を溜め、溜まったら処理して新しいパウチに交換します。最初は大変と感じるかもしれませんが、徐々に管理に慣れていくと思います。臭いについてもパウチでしっかりと覆われていれば大丈夫です。ストーマにあったサイズのパウチを選択することが重要です。 出典:Colon cancer - Diagnosis and treatment - Mayo Clinic Q:大腸がんの手術後に気をつけることはありますか? A:まずは排便習慣の変化に注意が必要です。便秘や下痢などが起こりやすくなっている可能性がありますので、まずは自身の排便習慣をチェックして、主治医に相談してみるのが良いかと思います。 排便に関わることとして、食事は術後はなるべく消化の良いものを摂ることが重要です。食物繊維が多い食べ物などは腸の動きを滞らせる原因になりうるため、避けたほうがよいです。また、ガスが出やすい炭酸飲料や、刺激の強い辛い食べ物なども控えたほうが良いでしょう。手術1−2ヶ月程度で腸管の動きが戻ってきますので、経過をみて食事内容についても医師と相談されてみるとよいかと思います。 まとめ・大腸がんの治療法やその合併症、後遺症について 今回は大腸がんについて、その概要と治療の柱である手術について、またその合併症や後遺症についても詳しく解説していきました。 また、直腸がんの術後に起こり得る後遺症である排尿障害や性機能障害について、それらに対する再生医療の可能性も含めて紹介をさせていただいています。これから大腸がんの治療を受けられる方や、実際に治療を受けて後遺症に悩まれている方も多くいらっしゃるかと思います。そういった方々にとって、今回の記事が有益な情報源となれれば幸いです。 参考文献 ・大腸:[国立がん研究センター がん統計] ・大腸がん(結腸がん・直腸がん):[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] ・Colon Cancer Treatment – NCI ・Colon cancer - Diagnosis and treatment - Mayo Clinic
2024.08.19 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「関節リウマチってどのような病気?」「関節の痛みや腫れが続いているけど、どうすればいいの?」 このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 関節リウマチは、関節の炎症と痛みを主な特徴とする慢性的な自己免疫疾患です。適切な治療を受けなければ、関節の変形や機能障害が進行し、日常生活に支障をきたす恐れがあるでしょう。 今回は、関節リウマチの症状や診断基準、最新の治療法に加えて、日常生活での管理方法について詳しく解説します。この記事が、関節リウマチと診断され症状に悩んだり、適切な治療法を探したりするあなたの助けになれば幸いです。 関節リウマチとは? 関節リウマチは、免疫システムの異常により、自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。 関節の炎症が慢性的に続き、痛みやこわばり、腫れなどの症状が現れます。病状が進行すると、関節の変形や機能低下を引き起こし、日常生活の質(QOL:quality of life)に大きく関わってきます。 QOLとは、個人が日常生活において感じる身体的、心理的、社会的な幸福感や満足感を表わす概念です。関節リウマチによる関節の痛みや変形は、日常的な動作に支障をきたし、社会活動への参加を制限するなど、QOLを低下させる可能性があります。 疾患の概要と一般的な症状 関節リウマチは、関節滑膜の炎症を主体とする全身性の自己免疫疾患です。この疾患の特徴は以下のとおりです。 ・炎症が慢性的に持続することで、軟骨や骨の破壊が進行する ・関節の変形や機能障害を引き起こす 関節リウマチの一般的な症状は、関節の症状と全身症状に分けられます。関節の症状には以下のようなものがあります。 ・痛み ・腫れ ・熱感 ・こわばり これらの症状は、とくに手足の小さな関節から始まるケースがほとんどです。 また、全身症状として以下のような症状をともなう場合もあります。 ・倦怠感 ・微熱 ・体重減少 前述のように、関節リウマチは関節の症状だけでなく、全身に影響を及ぼす可能性もある疾患です。 リウマチが体に及ぼす影響 関節リウマチは、関節の炎症と破壊を引き起こすだけでなく、全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす可能性があります。 影響 理由 慢性的な炎症反応 関節リウマチでは、免疫システムの異常により、関節だけでなく全身で炎症反応が起こっています。 この炎症反応が長期間続くことで、関節以外の臓器や組織にも影響が及ぶ場合があります。 炎症性物質の全身への拡散 関節の炎症によって生じた炎症性物質(サイトカインなど)が血液を介して全身に拡散します。 これらの炎症性物質が他の臓器や組織に作用し、炎症や損傷を引き起こす可能性があります。 免疫システムの異常による臓器障害 関節リウマチでは、自己免疫反応によって関節が攻撃されますが、この異常な免疫反応が他の臓器にも影響を及ぼすことがあります。 例えば、血管や肺、心臓などの組織に対する自己抗体が生じ、これらの臓器に炎症や損傷が起こる可能性があります。 全身性の炎症による動脈硬化の促進 慢性的な炎症状態は、動脈硬化の進行を促進します。 動脈硬化が進むと、心臓病や脳卒中などの心血管疾患のリスクが高まります。 症状の詳細 関節リウマチの症状は多様で、その現れ方や重症度には個人差があります。また、同じ人でも症状は時期によって変動することがあります。 典型的な症状とその変動性 関節リウマチの代表的な症状は、以下のようなものがあります。 症状 特徴 関節の痛み、腫れ、熱感、こわばり 特に、手や手首、足、膝などの関節に多く見られます。 症状は左右対称に現れることが多いです。 朝のこわばり 朝起きた時に関節のこわばりを感じ、動かしにくいことがあります。 このこわばりが1時間以上続くことが特徴です。 これらの症状は、日内変動を示すことがあります。つまり、一日の中で症状が変化したり、日によって症状の強さが異なったりする場合がほとんどです。 また、症状は悪化と改善を繰り返すことがあり、症状が一時的に良くなったからといって、油断せずに継続的な観察と治療が必要です。 症状の初期識別とその重要性 関節リウマチの早期発見と治療開始は、関節の損傷の進行を抑え、長期的な予後を改善するために非常に重要です。 初期症状は軽度で一時的なものから始まるケースがほとんどです。 しかし、以下のような症状が数週間以上続く場合は、慢性関節リウマチの可能性を考えて、早めに医師に相談しましょう。 ・手足の小さな関節の腫れや痛み ・朝のこわばりが1時間以上続く これらの症状を見逃さず、早期に診断し治療を開始することで、症状の進行を抑え、日常生活動作の維持や生活の質の向上が期待できるでしょう。 診断基準の解説 関節リウマチの診断は、症状や身体所見、血液検査、画像検査などを総合的に評価して行われます。早期診断と適切な治療開始のために、分類基準が作成されています。 リウマチ診断のための基準とプロセス 米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で策定した分類基準では、以下の項目を評価します。 ・影響を受けた関節の数(大きな関節と小さな関節の数) ・血液検査の結果(リウマトイド因子や抗環状シトルリン化ペプチド抗体の有無) ・炎症の指標(CRP値や赤血球沈降速度) ・症状の持続期間(6週間以上) これらの項目に基づいてスコアを計算し、一定以上のスコアになると関節リウマチと診断されます。診断の過程では、問診、身体診察、血液検査、画像検査(X線やMRIなど)を組み合わせて総合的に評価します。 診断における挑戦と注意点 早期の関節リウマチでは、典型的な症状や血液検査の異常が見られないことがあり、診断が難しい場合もあります。 また、他の関節疾患との区別も重要です。専門医は、豊富な経験をもとに総合的に判断します。 診断後も、定期的に患者の状態をモニタリングし、治療方針を適宜見直すことが必要です。 また症状や検査結果の変化を見逃さず、適切な治療を続けることが重要です。 現代の治療法 関節リウマチの治療は、炎症を抑えて症状を和らげたり、病気の進行を防いだりするのを目的とします。早期に診断し、治療をはじめることが大切です。 治療には以下の方法があります。 ・薬物療法 ・非薬物療法 それぞれについて解説します。 薬物療法:DMARDs、生物学的製剤、ステロイド 関節リウマチの治療では、いくつかの種類の薬が使用されます。それぞれの薬には特徴があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。 以下の表は、関節リウマチの治療で使われる主な薬の種類と、その特徴をまとめたものです。 薬剤の種類 具体的な薬 特徴と効果 抗リウマチ薬(DMARDs) メトトレキサート(MTX) レフルノミド、サラゾスルファピリジンなど ・第一選択薬 ・炎症と関節損傷を抑える効果が期待される ・MTXが不十分な場合に追加される場合がある 生物学的製剤 TNF阻害薬、IL-6阻害薬など ・炎症を引き起こす物質をブロックし、抗炎症効果を発揮 ステロイド薬 プレドニゾロンなど ・急な炎症時に短期間使用される ・炎症を速やかに抑える効果が期待される これらの薬剤を適切に組み合わせることで、関節リウマチの症状管理と関節の損傷抑制が期待できます。 非薬物療法:物理療法、運動療法、生活習慣の調整 関節リウマチの治療では、薬物療法と並行して、薬を使わない治療法も大切な役割を果たします。非薬物療法は、関節の健康を維持し、日常生活の質を向上させるために重要です。以下の表に各治療法の内容、目的、説明をまとめました。 非薬物療法の種類 内容(例) 目的 説明 運動療法 ・水中での運動 ・ストレッチ ・軽い負荷を使った筋力トレーニング ・関節の動きの維持 ・筋力の維持 ・過度な負担を避ける 水中運動は関節に負担をかけずに運動ができるため用いられます。ストレッチや軽い筋力トレーニングも、関節の柔軟性と筋力を維持するために重要です。 物理療法 ・温熱療法 ・寒冷療法 ・光線療法 ・水治療 ・その他 ・関節の痛みの軽減 ・関節の腫れの軽減 関節の痛みや腫れを軽減し、症状の緩和が期待できます。 作業療法 ・日常動作の練習 ・職場復帰のための訓練 ・日常生活の改善 ・社会復帰の促進 ・手指の過度な負担を避ける 日常生活の動作を練習することで、自立した生活を送るためのサポートを行います。状況によっては職場復帰のための訓練も含まれます。 装具療法 ・頸椎カラー ・手関節装具 ・足関節サポーター ・傷んだ関節の保護 ・変形の予防 ・痛みの軽減 頸椎カラーや手関節装具、足関節サポーターなどを使用することで、関節を保護し、変形や痛みを軽減しやすくします。 生活習慣の工夫 ・疲労のコントロール ・関節に負担をかけない生活 ・適度な体重の維持 ・バランスの取れた食事 ・禁煙 ・症状の改善 ・全身状態の改善 疲労管理や適切な体重の維持、バランスの取れた食事、禁煙などの生活習慣の改善は、症状の改善と全身状態の向上に期待できます。 これらの非薬物療法を適切に組み合わせることで、関節リウマチの症状を上手にコントロールし、日常生活の質を高めることが期待できます。人によって状況は異なるため、専門家の指導を受けながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。 日常生活での管理とサポート 関節リウマチは、日常生活にさまざまな影響を及ぼします。症状のコントロールと合併症の予防のために、日常生活での適切な管理とサポートが重要です。 日常生活での調整と自己管理のヒント 関節リウマチとうまく付き合っていくには、日常生活での工夫が重要です。関節への負担を減らすために、以下のようなことを心がけてみましょう。 ・関節に負担をかけない動作を心がける ・自助具を活用する ・疲れをためすぎないよう、休息と活動のバランスを取る ・適度な運動を行い、関節の機能を維持する(ただし、やりすぎは禁物) ・バランスの取れた食事を心がける ・禁煙する ・ストレス対処法を身につける 患者サポートと地域リソースの活用 疾患と向き合っていくには、周りの人のサポートがとても大切です。 ・家族や友人に病気のことを理解してもらい、協力を求める ・同じ病気の人と交流し、情報交換や精神的な支え合いをする ・患者会や支援団体に参加し、さまざまな情報やサポートを得る ・医療ソーシャルワーカーや看護師から、利用できる社会資源の情報を得る ・訪問看護やリハビリ、介護サービスなどを上手に活用する まとめと次のステップ 関節リウマチは、適切なケアと上手な病気との付き合い方で、充実した生活を送ることができます。早期発見と早期治療が大切であり、患者さん自身が積極的に病気の管理にかかわることも重要です。 持続可能な管理戦略と医療チームとの連携 関節リウマチの管理は長期戦です。医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、さまざまな専門家からなる医療チームと連携しながら、自分に合った管理方法を見つけていきましょう。 ステップ 内容 1 定期的な通院と検査を続ける 2 治療方針を医療チームと相談しながら調整する 3 体調の変化や副作用、生活上の問題を医療者に伝える 4 セルフマネジメントのスキルを身につけ、主体的に病気と向き合う 情報更新と自己啓発の重要性 医学は日々進歩しており、関節リウマチの治療法も新しい選択肢が増えています。信頼できる情報源から最新の情報を得ることで、自分に合った治療法を見つけやすくなります。 ・主治医や看護師から、新しい治療法や臨床試験について情報を得る ・患者会や講演会に参加し、他の患者さんの経験や専門家の意見を聞く ・関節リウマチの専門団体が発行するパンフレットやWebサイトで、最新の治療ガイドラインをチェックする 関節リウマチと診断されたからといって、諦める必要はありません。適切な治療と生活管理によって、症状をコントロールしやすいでしょう。 ・定期的に通院し、病気の活動性をモニタリングする ・処方された薬は指示通りに服用し、副作用があれば医師に報告する ・疲労を管理し、関節に負担をかけない生活を心がける ・適度な運動とバランスの取れた食事で、全身の健康を維持する また、日常生活での工夫も大切です。 ・困難な作業は家族や友人に助けを求める ・関節に負担のかかる動作を避け、自助具を活用する ・患者会に参加し、同じ病気を持つ人と情報交換やサポートし合う 症状和らげたり、病気の進行を遅らせたりするには、医療チームとの連携と自己管理が重要です。あなたに合った方法を見つけ、必要な調整を行いながら、できる限り自分らしい生活を送ることを目指しましょう。 参考文献一覧 一般社団法人日本リウマチ学会.“関節リウマチ(RA)”.日本リウマチ学会ホームページ 厚生労働省.“第6章関節リウマチ” 厚生労働省.“内科的治療法“ 公益財団法人日本リウマチ財団.“関節リウマチの治療 – リハビリテーション”.リウマチ情報センター.2022-09 公益財団法人日本リウマチ財団.“初めから起こる症状”.リウマチ情報センター.2022-10 公益財団法人日本リウマチ財団.“中期以降の症状”.リウマチ情報センター.2022-10 公益財団法人日本リウマチ財団.“関節リウマチの診断”.リウマチ情報センター.2022-10
2024.07.22 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
血友病は、一生付き合っていかなければいけない疾患です。 しかし、出血のリスクがあっても、しっかりコントロールできていれば、血友病ではない方と同じような生活を送ることも可能です。適切な治療と予防策で、関節の機能を維持し、生活の質を向上させることができます。 ところが、血友病性関節症を発症してしまうと、痛みや腫れをともない、日常生活にも影響を及ぼします。 今回の記事では、血友病性関節症の基礎知識や症状、治療などについて詳しく解説します。生活の中でできる対策も紹介しますので、血友病性関節症に対し不安を抱いている方は、ぜひ、最後までお読みください。血友病性関節症の知識を深めて、不安や心配事が少ない生活を送りましょう。 血友病性関節症とは? 血友病性関節症とは、血友病患者が関節内で出血を繰り返し起こした場合に発症します。血友病の特徴的な合併症です。ここでは、血友病性関節症の症状や診断、疾患が関節に与える影響について解説します。 症状と診断 関節内出血を起こすと、以下のような症状があらわれます。 ・関節の痛み ・腫れ ・熱感 ・こわばり ・違和感 ・動きの悪さ ・重い感じ 関節内は狭いため、少しの出血でも症状があらわれる場合が多いです。血友病性関節症の診断は、関節の状態を検査し評価して診断します。血友病性関節症を疑う場合、以下のような4つの検査をおこないます。 ・触診 ・レントゲン検査 ・MRI検査 ・超音波(エコー)検査 触診では、関節の可動域や変形を確認します。レントゲン検査では、骨の状況は評価できますが、出血の状況までは把握できません。レントゲン検査で、明らかな所見があらわれる頃には、骨破壊が進んでいる状況と考えられます。MRI検査は、骨だけでなく軟骨やじん帯、滑膜の肥厚など、関節内部を詳しく評価できます。 ただし、MRI検査は撮影に30分ほど時間がかかります。その間、静止していなければならないため、小さな子どもには難しい検査といえるでしょう。エコー検査では、パワードップラー法を用いると、血液の観察をおこない滑膜炎の評価も可能です。これら4つの検査を組み合わせて、関節の状態を評価し診断します。 疾患が関節に与える影響 血友病は、出血を起こしやすい病気です。出血を起こしやすい部位として最も多い関節が、足関節だとされています。 次いで、肘関節、膝関節が出血頻度が高い傾向です。関節内に出血を起こすと、滑膜が働いて、関節内に溜まった血液を取り除こうとします。 しかし、出血が繰り返されると滑膜の働きが追いつかなくなり、滑膜の増殖と炎症を引き起こします。増殖した滑膜は、脆弱で細い血管が多いために出血しやすい状態です。出血を繰り返すと、滑膜の増殖や炎症も繰り返し生じます。 その結果、関節の軟骨を攻撃し、軟骨の破壊や骨の変形を引き起こすのです。 血友病性関節症の治療 血友病の長期的な治療目標として、血友病性関節症を発症しない、進行させないを目標として治療方針を決めていきます。 現在の治療オプション 現在、血友病性関節症の治療の選択肢は、以下の通りです。 ・定期補充療法 ・予備的補充療法 ・出血時補充療法(オンデマンド療法) 基本的にこの3つの治療方法を組み合わせ、状況によって使い分けます。 <定期補充療法> 定期的に血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血予防のため、「週に2回」や「5日に1回」など、決められたタイミングで注射をおこないます。使用する製剤の種類や血友病の重症度で注射のタイミングは医師が判断します。 医師の指示通り、忘れず注射しましょう。 <予備的補充療法> 足に負担がかかる予定の前に事前に血液凝固因子製剤を投与しておく方法です。スポーツや出張、遠足、旅行などが予定されている場合、事前に注射をおこないます。血液凝固因子製剤は、効果が持続する時間が短くて12時間程度です。 そのため、予定があるその日の朝に注射しておくとよいでしょう。 <出血時補充療法(オンデマンド療法)> 出血したときに血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血時には、できるだけ早く血液凝固因子製剤を投与します。 また、出血の応急処置時に必要な4つの処置(RICE)をおこないましょう。RICEとは、処置方法の頭文字を取ったものです。ここでは、関節内出血をした場合の処置のポイントについて紹介します。 頭文字 処置方法 処置のポイント R (Rest) 安静 • 横になり、出血した部位を動かさないようにし安静にする。 I(Ice) 冷却 • 氷のうで20~30分持続的に出血部位を冷やす。 • 消炎作用がある湿布や冷却シートでもよい。 • 冷やし過ぎに注意する。 C (Compressi on) 圧迫 • 関節内の出血の場合、包帯やサポーターを使用し固定する。 E(Elevation) 挙上 • 出血部位を心臓より高い位置まで上げる。 関節内出血の治療以外に、直接関節内にヒアルロン酸やステロイドを注入する方法もあります。 しかし、感染や出血のリスクをともなうため、メリットが上回る場合のみおこなわれる方法です。 新しい治療法と臨床試験 血友病性関節症の新しい治療法として、「自己骨髄間葉系幹細胞輸注術」と呼ばれる治療法の研究や臨床試験が進められています。この治療で使用される「間葉系幹細胞」とは、骨や血管、心臓の筋肉などに分化することができる幹細胞です。 移植までは以下のような流れでおこなわれます。 事前に採血をおこない血清を準備 骨盤から間葉系幹細胞が含まれる骨髄液を採取 間葉系幹細胞を培養 移植前日に、関節内の滑膜組織を切除し移植環境を整える 間葉系幹細胞が多く含まれている血清を関節内に注入 関節内へ移植をした間葉系幹細胞が、関節軟骨への再生が期待されています。現在は膝関節での臨床試験がおこなわれていますが、今後はその他の関節や適応できる年齢を広げて研究が進められています。 関節保護のための戦略 血友病性関節症は、関節内の出血を繰り返し、関節の骨や軟骨を破壊します。 そのため、破壊され続けると、血友病患者は将来的に人工関節を入れる可能性が高くなります。人工関節は10年~15年で入れ替えが必要です。 早い段階で人工関節を入れると、その後に何度か入れ替えの手術が必要になります。人工関節を入れるまでの期間を延ばせれば、手術回数も少なくなります。そのため、日常の中でできる関節の保護や関節の健康を保つ運動、予防策など、関節のケアが重要です。 日常活動での関節保護テクニック 日常活動の中で、出血を起こさないために関節保護はとても大切です。関節保護には以下のようなポイントがあります。 ・血液凝固因子製剤の投与 ・定期健診 ・出血後の対応 ・適度な運動 患者の状態や生活スタイルを考慮して、血液凝固因子製剤の投与量や間隔を決めていきます。 そのためには、定期的に検査をおこない、関節の評価も必要なため、定期検診は欠かさず行きましょう。また、関節の保護には出血後の対応や管理も重要です。出血があった場合や出血した可能性がある場合には、血液凝固因子製剤を投与し、RICE処置をおこないます。 しかし、出血が治まり痛みや腫れなどの症状が消失すれば、適度な運動をして筋力をつけていくことも大切です。 関節の健康を保つ運動と予防策 関節の健康を保つためには、適度な運動が必要です。血友病患者は、「出血したらどうしよう」と不安な気持ちを抱えています。 しかし、出血を起こさないようにと安静にばかりしていると、筋力が衰え、筋肉の委縮を引き起こします。また、そのように筋肉が健康な発達をしていない関節は出血しやすい傾向です。 出血や症状が治まっているときには、出血の予防策を十分にしてから適度な負荷をかけ、運動をおこないましょう。出血予防は、血液凝固因子製剤の予備的補充投与をしてから運動をします。 運動は内容によっては、出血リスクが高いものがあります。水泳やアクアビクス、サイクリング、筋トレなどは、比較的負荷が少なく出血リスクが少ない傾向です。 しかし、ラグビーやレスリング、ボクシングなどは負荷が高く、出血リスクも高くなります。サッカーや野球、バスケットボールなどのスポーツは、運動強度に幅があるため、自己判断は難しいでしょう。 また、負荷が少なく出血リスクが少ない運動でも、血友病の重症度や関節の可動域、出血コントロールの状況など、人によりさまざまです。そのため、運動を始める際には、必ず整形外科医や理学療法士と、どの程度の運動から取り組むか相談してからおこないましょう。 生活の質を向上させるための日常生活での調整 血友病性関節症では、出血の予防だけでなく、食事やストレスなどさまざまな面でも調整が必要です。どのようなことに注意や意識をして生活をするか、生活の質を向上させるポイントを紹介します。 食生活と栄養 食事は、規則正しく栄養バランスを考えた食事をするよう心がけましょう。肥満は、関節や骨に大きな負担をかけます。 適切な体重を維持するよう、食べ過ぎに注意し、適度な運動を取り入れましょう。急なダイエットも関節には負担がかかるため、体重のコントロールについて、主治医と相談すると安心です。また、血友病患者は骨粗しょう症になる傾向があります。カルシウムやビタミンDの摂取、日光浴をおこない、骨粗しょう症の予防をしましょう。 ストレス管理と精神的健康のサポート 血友病性関節症の患者は、日常生活の中でも気を付けることや制限があり、ストレスを感じる場面が多いでしょう。一般的に、ストレスが溜まっているサインは以下のような症状があらわれます。 ・イライラしやすく怒りっぽくなる ・食欲がなくなる ・気分が落ち込みやる気が起きない ・寝つきが悪くなり夜間に目が覚める ストレスをうまく発散し、ため込まないことがポイントです。ストレスによる症状がある場合、まずは、主治医に相談してみましょう。必要であれば、心療内科やカウンセリングを受け、精神的に安定して過ごすことが大切です。血友病患者には、血友病患者にしかわからない悩みや不安もあります。ほかの血友病患者との繋がりをもってみると、悩みが共有でき不安が解消できるかもしれません。 患者と家族への支援 血友病患者には血友病患者にしかわからない、悩みや不安があるでしょう。家族もまた同じです。そのような方々の集まりに参加してみてはどうでしょうか。さまざまな年齢の血友病患者とのコミュニケーションは、悩みや不安が共有でき、有意義な情報交換の場となるでしょう。 コミュニティリソースとサポートグループ 血友病患者が利用できる、コミュニティリソースやサポートグループは、以下のようなものがあります。 血友病友の会(ヘモフィリア友の会) 世界血友病連盟(WFH) 血友病患者のためのオープンチャット さまざまなコミュニティリソースやサポートグループがあります。血友病友の会(ヘモフィリア友の会)は、加盟する患者会が全国にあります。また、世界血友病連盟は、世界の血友病患者のコミュニティです。 海外在住の方には、心強い情報源となるでしょう。血友病患者のためのオープンチャットもあります。匿名で参加できるため、身近な人にできない相談事も気軽にできるところが利点です。 ただし、オープンチャットは誰でも参加できるものなので、情報の信憑性には注意が必要です。 長期的な健康管理の重要性 血友病は、長く付き合っていく病気であり、血友病性関節症はその後の生活の質(QOL)を大きく左右します。そのため、長期的な健康管理が非常に重要です。 無理をしたり、出血の管理をおろそかにすれば、関節内の出血が繰り返され、人工関節をいれなければならなくなります。人工関節の入れ替えをする回数を減らすためにも、人工関節にするのはできるだけ遅い方がいいでしょう。 また、出血を恐れ、安静にばかりしていても、骨や筋肉が衰えていきます。肥満になれば、関節への負担も大きくなります。出血しないよう血液凝固因子製剤の投与を忘れずにおこない、負荷が高くなる予定があれば、予備投与しておくなど対策が大切です。 長期的に健康管理をおこなうことで、血友病性関節症の発症を遅らせたり、発症しても進行させないようにしたりできるでしょう。 結論 血友病性関節症は、血友病患者にとっては身近であり心配な合併症です。しかし、血液凝固因子製剤の投与や出血時の適切な対応をおこなえば、骨破壊を抑え、血友病性関節症の発症や進行を遅らせることができるでしょう。 血友病性関節症は、適切な治療と予防策をおこなえば関節の機能を維持して、生活の質を向上させることが可能です。普段との違いや関節の違和感などがある場合は、早めに受診しておくと安心です。なにかあれば、まずは主治医に相談しましょう。 参考文献一覧 血友病性関節症診療のポイント-病態から治療・ケアまで 血友病ハンドブック 血友病性関節症を防ぐ5つのポイント 血友病性関節症への挑戦 関節の検査と評価の最新情報 血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発 血友病患者における運動とスポーツ 患者中心医療の可能性:患者会の現在と将来
2024.07.10 -
- 肝疾患
- 内科疾患
アルコール性肝炎は、過剰な飲酒によって引き起こされる肝臓の病気です。アルコール性肝障害(アルコール性肝疾患)の中でも、特に肝臓の炎症が強い病態で、時に命に関わることもあります。また、症状が落ち着いた後もお酒を飲み続けてしまうと、長期的に肝硬変につながりかねません。 この記事では、 ・アルコールと肝臓の病気について ・アルコール性肝炎とその治療 ・肝硬変への進行を防ぐ最新の治療法 を中心に詳しく説明していきます。 飲酒による肝臓へのダメージが心配な方、アルコール性肝障害と診断を受けた方はぜひお読みください。 アルコール性肝炎の原因や症状に関しては以下の記事で解説しておりますので、そちらをご参照ください。 飲酒と肝臓の関係 肝臓は多くの働きをしていますが、アルコールの代謝もそのうちの一つです。体内に取り込まれたアルコールの代謝の過程で、アセトアルデヒドという有害物質が生成されます。アセトアルデヒドは酵素の働きにより無害な物質になり、最終的には体外に排出されます。しかし、アルコールの過剰摂取を続けると、アセトアルデヒドが肝臓の細胞にダメージを与えます。 過剰なアルコール摂取は腸内の細菌バランスを崩すことでも肝臓に悪影響を与えます。腸内には多くの細菌が存在し、これらが食物の消化や免疫力の維持に重要な役割を果たしているのです。しかし、アルコールを大量に飲むと、このバランスが崩れ、腸の壁が弱くなります。その結果、本来吸収されないはずの有害な物質が腸から血液を介して肝臓に届き、炎症を引き起こすのです。 このように、アルコールは肝臓に多大な負担をかけ、さまざまな肝臓の病気を引き起こす原因となります。 アルコール性肝障害になりやすい人 一般的に、女性は男性よりも少ない量のアルコールで肝障害を起こしやすく、進行も早い傾向があります。 また、アセトアルデヒドを代謝するALDH2という酵素がうまく働かない人は、アルコールの分解が遅くなり、アセトアルデヒドが体内にたまりやすくなります。ALDH2がうまく働かない人は、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなったり、気持ち悪くなったりするフラッシング反応が見られることが多いです。 アセトアルデヒドの代謝が遅れるため、肝臓に大きなダメージを与え、アルコールによる肝障害を引き起こすリスクが高まります。 アルコール性肝障害の分類における位置付けは? アルコール性肝炎は「アルコール性肝障害(アルコール性肝疾患)」と呼ばれる病態のなかの一つの状態です。慢性的な経過の中で起こる、急激な肝臓の炎症という位置付けです。 アルコール性肝障害とは、過剰なアルコールの摂取により肝臓が障害を受けた状態全般を指す言葉です。 一般的には5年以上にわたって純アルコールあたり60g以上を常習的に飲むと「過剰」と考えられます。ただし、女性やALDH2がうまく働かない人はこの3分の2程度の飲酒量でも過剰となります。 お酒をやめると肝機能の検査値は改善すること、ウイルスや自己免疫疾患など他の肝障害をきたす要素が否定的であることもポイントです。 アルコール性肝障害には次のような疾患が含まれています。 アルコール性肝障害の分類 ・アルコール性脂肪肝 アルコールにより肝臓の30%以上に脂肪が溜まってしまっている状態。 ・アルコール性肝線維症 アルコールにより肝臓に線維組織が出現し始めているが、炎症や肝細胞のダメージは軽度である状態。 ・アルコール性肝硬変 アルコールによるダメージが重なり、肝細胞が繰り返し再生を繰り返して線維化し硬くなっている状態。 ・アルコール性肝炎 アルコールの過剰摂取により肝細胞の変性・壊死が強く出ている状態 ・アルコール性肝がん アルコールによるダメージを肝臓が受けている状況下に肝がんができており、他の原因が除外できている状態。 慢性的に過剰飲酒を続けると、脂肪肝→肝線維症→肝硬変と順番に進行していく可能性があります。アルコール性肝炎ではこの慢性経過とは別に、酒量の増加などをきっかけにして肝臓に強い炎症が起こります。 背景の肝臓の組織が軽度の脂肪肝であっても進行した肝硬変であっても、肝細胞が変性や壊死を起こしていればアルコール性肝炎と考えます。 つまり、もともとアルコールによる肝臓の障害がある方が、さらに過剰飲酒することで肝臓に強い炎症とダメージが起こってしまっているのがアルコール性肝炎なのです。 アルコール性肝炎の検査と診断 確実に診断をつけるのであれば、肝生検を行う必要があります。 肝生検 肝細胞が著明にふくらみ変性していたり、壊死していたりする様子が認められます。また、マロリー小体という特徴的な構造物や多数の炎症細胞の浸潤が認められることも多いです。特徴的な病理組織が認められれば、確定診断に至ります。しかし、全身状態の悪い方の肝生検は時に高いリスクを伴うため、すべての患者さんにできる検査ではありません。 血液検査・画像検査 肝生検ができない場合は、病歴や血液検査・画像検査から診断を行います。飲酒の状況や、黄疸などの症状を確認し、血液検査でASTやALTなどの肝酵素値を測定します。また、超音波検査やCTなどの画像にて肝臓の腫れなどを確認することも重要です。これらの検査結果を総合してアルコール性肝炎として矛盾がなければ臨床的診断となります。 アルコール性肝炎の治療と予後 アルコール性肝炎と診断されたら、以下のような治療法が検討されます。 断酒する アルコール性肝炎と診断されたら、まず断酒をする必要があります。しかし、アルコール性肝炎になるほどの飲酒をされている患者さんでは、お酒を断つことが非常に難しい場合も多いです。アルコールの離脱症状として、手が震えたり強い不安が出たり幻覚が見えたりすることもあります。そのため、内科と精神科で協力して治療を行うことも多くあります。 点滴や栄養療法 また、アルコール性肝炎の患者さんは、水分や様々な栄養素が不足した状態にあるため、点滴や栄養療法が必要です。 中等症から重症の場合は、「ステロイド」と呼ばれる炎症を抑える薬を併用します。さらに重症のアルコール性肝炎の場合、炎症を起こす白血球を取り除く治療、毒素を吸着する血液浄化療法など高度の治療を行います。 急性期の予後 アルコール性肝炎の急性期の予後は、飲酒をやめた後の肝臓の状態により異なります。飲酒をやめても肝臓の腫れが引かない場合は生命予後不良であることが多いです。肝性脳症・肺炎・急性腎不全・消化管出血など内臓の合併症がある患者さんも、命に関わることが多いです。 予後不良と考えられる方、重症度の高い方は積極的な治療が必要です。 治療後の肝硬変への進展予防 アルコール性肝炎から回復したあとに重要なのは、断酒を継続することです。お酒を断つことで、再発を防ぐだけでなく、肝硬変への進展も予防することができます。 たとえアルコール性肝炎から回復しても、また飲酒を再開してしまうと肝臓へのダメージは蓄積されます。アルコールによるダメージにより、肝臓に線維組織がたまっていきます。肝硬変への進行を予防するためには、禁酒を続けることが重要です。 しかし、アルコールには依存性があります。これまで過度の飲酒をしてきた方が断酒をするのは難しいケースが多いのです。 どうしても断酒できない場合は、精神科の受診も選択肢です。 アルコール依存の専門外来では、カウンセリングのほか、飲酒により不快な症状を起こす薬や飲酒欲求を軽減する薬が処方されることもあります。また、家族など身近な人のサポートも重要です。アルコール依存症の自助グループの活動に参加する方法もあります。 今、お酒がやめられないことに悩んでいるのであれば、主治医・医療スタッフ・家族などと相談しながら、ご自身に合った方法をみつけるのが良いでしょう。 アルコール性肝疾患治療の最前線 これまでの治療では、一度アルコールでダメージを受けてしまった肝臓は元に戻らないと考えられていました。しかし、「再生医療」の進歩によって、この考えが変わる可能性があります。 肝硬変の再生医療には万能細胞の「幹細胞」を使用します。幹細胞を点滴で投与すると、損傷した肝組織に働きかけて再生と修復を促します。 これにより、改善方法がなかった肝臓の線維化が改善される可能性が出てきました。 とはいえ、再生医療はまだ発展途上です。使用する幹細胞の採取方法も、培養技術の質も医療機関ごとに異なっています。再生医療を希望する方は、より良い治療を受けられる医療機関を自ら選ぶ必要があります。 まとめ・アルコール性肝炎の治療と再生医療という選択 アルコール性肝炎は、アルコールの過剰摂取によって肝臓に重大なダメージを与える病気です。飲酒歴や診察・各種検査を総合的に判断して診断されます。治療の大原則は飲酒をやめることです。 一度アルコール性肝炎をきたした後は、断酒を継続することが重要です。肝硬変になるのを防ぎ、健康的な生活を送りましょう。 ダメージを受けた肝臓の治療を考えたいのであれば、再生医療が選択肢になるでしょう。 もし、再生医療による肝臓の治療に興味があるのであれば、当院での治療をご検討ください。 当院では、ご自身の脂肪細胞から幹細胞を採取します。培養も患者さん本人の血清を利用します。そのため、アレルギーや感染症などの有害事象の心配を極力減らすことが可能です。 さらに当院の細胞培養室は国内トップレベルです。一般的に行われている凍結による保存・輸送を行わないため、途中で死んでしまう幹細胞を減らすことができます。結果、より多くの幹細胞をフレッシュな状態で投与できます。 当院の再生医療について、もっと詳しく知りたいという方は、一度カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。 参考文献 アルコール医学生物学研究会. アルコール性肝障害診断基準 厚生労働省. e-ヘルスネット. アルコールと肝臓病 厚生労働省.e-ヘルスネット.アルコール性肝炎と非アルコール性脂肪性肝炎 アルコール医学生物学研究会. アルコール性肝障害診断基準. 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター. アルコール性肝障害. 厚生労働省. e-ヘルスネット - アルコール依存症への対応. 吉原達也, 笹栗俊之. 福岡醫學雜誌. 103 (4): 82-90, 2012. 江口暁子, 岩佐元雄. 日本消化器病学会雑誌 119(1): 23-29, 2022. 池嶋健一. 肝臓 59(7): 342-350, 2018.
2024.07.09 -
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最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 ・四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) ・感覚障害(主に温痛覚低下) ・膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|Neurology Journals 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=9S4zTtodY-k このように、脊髄梗塞では「確立された治療法」と呼べる治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再度生み出してわれた細胞を再生・修復する機能を持つ細胞のことをいいます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 ・脊髄動脈の疾患 ・栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 参考文献一覧 Qureshi A, Afzal M, et.al. A Population-Based Study of the Incidence of Acute Spinal Cord Infarction. J Vasc Interv 2017; 9: 44–48. Robertson C, Brown Jr R, et al. Recovery after spinal cord infarcts: long-term outcome in 115 patients. Neurology. 2012;78:114-121. 河原木剛, 木下隼人ほか.当院で経験した脊髄梗塞 10 例の検討. 東日本整災会誌. 2022;34:94-102. Maria Khoueiry, Hussein Moussa, et al. Spinal cord infarction in a young adult: What is the culprit? J Spinal Cord Med. 2021;44:1015-1018. 熊谷文宏, 加藤諒大ほか. 脳梗塞・脊髄梗塞を発症後、再生医療を実施し集中的リハビリテーションを実施した1例. 第53回日本理学療法学術大会 抄録集.O-S-1-4. Yamazaki K, Yamabori M, et al. Clinical Trials of Stem Cell Treatment for Spinal Cord Injury. Int J Mol Sci. 2020; 21: 3994. ▼こちらも併せてお読みください。
2024.07.02 -
- 肝疾患
- 内科疾患
アルコール性肝炎の初期症状を見逃すな!原因や症状を徹底解説 長期のアルコール多飲が引き起こすアルコール性肝炎ですが、重症化すると救命率が下がるため、早期発見が大切です。 多量飲酒後の食欲不振や発熱、倦怠感、右上腹部痛、黄疸が出たら要注意です。 この記事では主にアルコール性肝炎の原因や症状に的を当て、説明していきます。 アルコール性肝炎の原因とは 長期にわたり常習的にアルコールを大量に摂取することで生じる肝疾患の総称を、アルコール性肝疾患といいます。 これらのアルコール性肝疾患が起きる原因は、長期の多量飲酒によって肝臓がダメージを受けることです。 アルコール代謝の中で生じる毒素や炎症物質が肝細胞を損傷するほか、肝臓の脂肪化や栄養の偏りも肝機能低下 を助長させるのです。 アルコール性肝疾患には、具体的に以下のようなものが挙げられます。 ・アルコール性肝炎 ・脂肪肝 ・肝線維症 ・肝硬変 ・肝細胞がん この中でアルコール性肝炎は、炎症が特に強い状態となります。 アルコール摂取が肝臓の許容量を超え、アルコール性脂肪肝になり、その状態でさらに飲酒を継続するとアルコール性肝炎が引き起こされます。 脂肪肝と肝炎が混在する状態を、アルコール性脂肪性肝炎と呼びます。重症型になると死に至ることもあるため、早期発見・早期治療・継続的な断酒が大切になります。 また、アルコール性肝炎の診断を受けた時点で多量飲酒が習慣化されている人は、すでにアルコール依存症になっている可能性があります。その場合は、休肝日を設けたり飲酒量を少なくするのではなく、完全に断酒する方法を考えていかなくてはなりません。 担当医師から専門の医師に紹介してもらい、必要に応じて入院診療を受け、さらに自助グループやデイケアなどで継続的な断酒のサポートを受けましょう。禁酒により一旦肝炎が改善しても、飲酒を再開すれば肝硬変に至るかもしれません。一時的な肝炎の改善だけでなく、病気の再燃や肝硬変の予防のため、長期的な努力が必要です。 アルコールの分解過程 肝臓は様々な働きを持つとても重要な臓器です。その働きの一つが解毒であり、アルコールも分解してくれます。 お酒を飲むと、胃や腸管などの消化器官がアルコール成分を吸収し、血管を通って肝臓に届けられます。アルコールはエタノールという成分になりますが、このエタノールはまず肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によって酸化され、アセトアルデヒドという物質に分解されます。 アセトアルデヒドとは、二日酔いの原因となる物質です。これが体内に蓄積することで、吐き気やめまいなどの症状が出現します。 続いて肝臓内では、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によってアセトアルデヒドは酢酸に分解され、酢酸は血流に乗って全身に送られます。 酢酸は筋肉や脂肪組織でエネルギー代謝を受け、最終的に水や二酸化炭素となります。こうして水は尿へ、二酸化炭素は呼気として体外に排出されるのです。 しかし、必ずしも1回で全てのアルコールが分解できるわけではありません。分解できずに残ったアルコールは、体内を巡って肝臓に戻り、分解できるまで同じ過程を繰り返します。 どれくらいの飲酒量なら許容されるのか? どれくらいのお酒なら健康被害を出さずに飲めるのかについては、人種や性別、遺伝子などが関係しているため、個人差があります。 上記のアルコール分解過程で必要なALDHには1型と2型があり、2型はアセトアルデヒド濃度が低いうちから働くため、この酵素が多い人間が“お酒に強い人”となります。 しかし、日本人の4割以上はこの2型が低活性型で、さらに日本人の4 %はこれが全く機能しない不活性型であるとされています1)。 お酒を飲むとすぐ気持ち悪くなってしまう“お酒が合わない人”というのは、これが原因かもしれません。 性差に関しては、女性のアルコールを分解する能力は男性の2/3 程度しかなく1)、一般的に女性は男性よりも酔いやすいとされます。 厚生労働省が提唱する適切な飲酒量は、純アルコールで1日あたり約20 gまでとなっています2)。 また、日本人を対象にしたある研究では、アルコール量の摂取が1日あたり23 g/d以下の男女では死亡率(全死因を含む)が12~20 % 減少したと報告されています3)。 【アルコール約20 gの換算表】 お酒の種類 量 アルコール度数 アルコール量 ビール 中瓶1本 (500ml) 5 % 20 g ワイン グラス2杯 (240 ml) 12 % 24 g 日本酒 1合 (180 ml) 15 % 22 g 焼酎 半合 (90 ml) 35 % 25 g ウィスキー ダブル (60 ml) 43 % 20 g 上記の換算表を用いて、飲みすぎないように注意しつつ、休肝日を設けて肝臓を労ってあげましょう。 お酒に強くなったら肝臓も強くなる? 最初はお酒に弱くても、飲み続ければ強くなると言われたことはありませんか?実はそれ、事実なのです! 上記のアルコール分解過程で示したADHやALDHの他に、ミクロソームエタノール酸化酵素(MEOS)というものがエタノール分解に関わっています。 MEOSはアルコール摂取によって活性化する特性があるため、“お酒を飲めばお酒に強くなる”という現象が起きます。 しかし、だからと言って肝臓の負担が減るわけではありません。飲酒量や飲酒の頻度が増えれば増えるほど、肝臓はダメージを受け、肝障害へと繋がります。他者にお酒を勧められようとも、自分の身を守れるのは自分だけです。必要な時には断るなり、誰かに相談するなりして、適切な飲酒量を守りましょう。 アルコール性肝炎の症状とは 肝臓は別名“沈黙の臓器”と呼ばれ、重症化するまで気が付かないのが怖いところです。 脂肪肝のうちは多くの場合症状はありませんが、肝腫大はみられることがあります。それがアルコール性肝炎に進行すると、以下のような症状が現れます。 ・食欲不振 ・体重減少 ・嘔気、嘔吐 ・腹部膨満 ・腹痛 ・発熱 ・倦怠感、疲労感 ・黄疸 アルコール依存症に陥っている場合、飲酒によって空腹を感じず、栄養失調になっていることが多いです。 さらに、肝炎が重症化すると、禁酒しても症状が改善せず、以下のような重篤な症状が現れるようになります。 ・腹水 ・肝性脳症 (行動異常、性格の変化) ・食道、胃静脈瘤 ・消化管出血(吐血、血便) ・腎不全 ・肺炎 重症型アルコール性肝炎になってしまうと死に至ることもあり、注意が必要です! 上記の症状を自覚したら、すぐに消化器内科を受診しましょう。大事に至る前にお酒をやめ、早期に治療を受けることが大切です。 アルコール性肝炎の検査方法 1. 血液検査 血液検査では、肝臓の機能を測る値(AST/ALT, γ-GTP)が高いだけでなく、高脂血症や白血球の増加、ビリルビンの上昇、アルブミンの低下、プロトロンビン(PT)時間の延長、高乳酸決症を認めます。 また、アルコール性肝炎ではALTと比してASTが高くなるのも特徴です。採血項目に関する説明は下記をご覧ください。 AST : 肝臓や心筋、骨格筋に含まれる酵素。炎症の指標となる。 ALT : 主に肝臓にある酵素。炎症の指標となる。 γ-GTP : 主に胆道に含まれる酵素。 ビリルビン:古い赤血球の破壊時に生成され、肝臓から胆汁を通じて排出される。 アルブミン:肝臓で生成されるタンパク質。 PT : 肝臓で生成される凝固因子(血液を固めるタンパク質)の一つ。 乳酸:肝臓での代謝によりエネルギー源に変換される物質。 2. 画像検査 エコー(超音波)検査やCT検査、MRI検査を行い、肝臓の状態を画像的に評価します。 検診などでも行われるエコー検査ですが、アルコール性肝炎では肝臓の腫大や肝辺縁の鈍化、肝臓が明るく見えるbright liver等の脂肪肝に特徴的な所見を認めます。 エコー検査はアルコール性脂肪肝を確認する際には有用ですが、肝炎の重症度を確認するには至りません。 その点、CT検査やMRI検査では脂肪化の程度や重症度までしっかり確認できます。 3. 肝生検 肝生検とは、エコーで肝臓の位置を確認後、消毒や局所麻酔を行い、生検針で肝臓を穿刺し、採取した組織を病理学的に診断する方法です。 特徴的な所見として、肝細胞の風船化や壊死、炎症細胞の浸潤、マロリー体と呼ばれる肝細胞の脂肪化に伴って現れるタンパク質などがみられます。 4. 飲酒習慣のスクリーニングテスト AUDITと呼ばれる飲酒関連の問題をスクリーニングするテストがあります。 飲酒量や頻度などを質問形式で問われ、問題飲酒の重症度を判定していきます。 病院に行かずとも、インターネット上で気軽にアクセスできるので、気になった方は試してみてください。 まとめ・アルコール性肝炎は早期発見が大切! アルコール性肝炎の原因や症状について理解することができましたでしょうか? 基本的には長期に渡る過剰な飲酒が原因となりますが、アルコール分解能が低い人では多量飲酒とはいかない量でもアルコール性肝炎を発症し得ます。肝臓の腫大や右上腹部痛、黄疸、発熱がみられたらすぐに消化器内科の診察を受けましょう。 一時的な断酒や肝炎の治療で病状が回復しても、飲酒を再開すれば肝炎の再燃や肝硬変への移行につながります。アルコール依存症になっている場合は、必ず専門の医療機関にかかり、時間をかけながらでも断酒に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 林田真梨子,木下健司.飲酒と健康―アルコール体質検査と飲酒の功罪―.醸協.2014;109:2-10. 厚生労働省ホームページ Lin Y, Kikuchi S, et al. Alcohol Consumption and Mortality among Middle-aged and Elderly Japanese Men and Women. Ann Epidemiol. 2005;15:590-597. ▼こちらもあわせてお読みください。
2024.06.25