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「最近、肩こりがひどくてつらい」 「ふくらはぎが重だるくて動きにくい」 これらの一見ありふれた症状は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の初期症状として挙げられます。 ALSはごく軽い身体の違和感から始まることもあり、日常生活でよくある症状のため、見過ごされやすい点が特徴です。 本記事では、ALSについて現役医師が詳しく解説します。 ALSの初期症状 ALSが発症する原因 ALSの治療法(進行の抑え方) 本記事の最後には、ALSに関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは ALS(筋萎縮性側索硬化症)の概要 詳細 ALSの病気の詳細 運動神経が障害されることにより、筋肉が徐々にやせ細り、力が入らなくなる進行性の神経疾患 ALSの初期症状 手足が不自由になる、筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがある、左右どちらかから始まることが多い ALS発症からの余命 発症から3〜4年が一般的、個人差が大きく10年以上生存する例もあり ALSになりやすい人 50~70歳代に多く、男性にやや多い、家族歴がある場合は遺伝性の可能性 ALSの完治の有無 完治は困難、進行を遅らせる薬や症状緩和の治療、生活の質向上をめざす治療が中心 進行しても残る機能 視力・聴力・感覚は保たれる、目や排尿排便の筋肉は初期には障害されにくい 治療薬 リルゾール、エダラボン、トフェルセンなど 支持療法 リハビリテーション、栄養管理、呼吸補助 今後の治療開発 遺伝子治療、再生医療、医療機器開発など研究進行中 (文献1)(文献2) ALSは、運動神経が障害されることで筋肉が萎縮し、動かしにくくなる進行性の神経疾患です。初期症状には手足の使いにくさや筋肉の収縮、話しにくい、飲み込みにくさがあり、左右いずれかから始まることが多いです。 余命は発症から3〜4年が一般的ですが、進行には個人差があり、10年以上生存される方もいます。発症しやすいのは50~70歳代の男性で、家族歴がある場合は遺伝性の可能性も考えられます。 現在、ALSを完治させる治療法はありません。しかし、進行を遅らせる薬やリハビリ、栄養管理、呼吸補助などで生活の質を保つ治療が行われています。今後の治療法の進展が期待されます。 ALSの初期症状 初期症状 詳細 筋萎縮 指先や足先の力が入りにくくなり、日常動作に支障をきたす。徐々に筋肉が痩せてくる 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 静止時に筋肉がピクピクと動く。とくに手足に多く、意識しなくても動くのが特徴 筋肉のこわばりや痙攣 関節まわりが固まり、身体が動かしにくくなる。痙攣を伴う場合もある 筋肉の疲れやすさと脱力感 軽い運動でも疲れやすく、動作の途中で力が抜ける感覚がある 肩こりや関節に違和感がある 筋力低下による姿勢の崩れや負担で、肩や関節に違和感や重だるさを覚えることがある ALSの初期症状は、筋力低下や筋萎縮、筋肉のびくつき、こわばりや痙攣、疲労感や脱力感、肩こりや関節の違和感など多岐にわたります。これらは運動神経の障害によって現れ、最初は身体の一部に限局していても、徐々に全身へ広がっていきます。 ALSは進行が止まらない、比較的早く進む神経疾患です。個人差はありますが、複数の症状が同時に現れる場合や進行が早い型も存在します。初期症状が気になる場合は、早めの受診が重要です。 筋力低下と筋萎縮 症状 原因 筋力低下 運動神経細胞の障害による筋肉への命令の伝達不全 筋萎縮 筋肉への刺激減少による使用機会の減少と筋肉量の低下 症状の始まり方 手足などの一部の筋肉から進行する局所発症 進行の特徴 筋力の低下と筋萎縮が広がり、全身の運動機能が次第に障害される特徴 日常生活への影響 細かい作業や歩行困難、生活動作の制限の拡大 (文献3)(文献4) ALSでは、運動をつかさどる神経細胞(運動ニューロン)が障害されることで、筋肉を動かす命令が届かなくなります。そのため、筋肉が使われにくくなり、力が入りにくくなる筋力低下が起こります。 筋肉が十分に刺激を受けない状態が続くことで筋萎縮が生じ、このような症状は手足などの限られた部位から始まり、やがて全身へと広がるのが特徴です。進行に伴い、歩行や食事などの日常動作が難しくなり、生活の質にも大きく影響を与えます。筋力低下と筋萎縮は、ALSの初期から見られる大切なサインです。 筋肉のびくつき(線維束性収縮) 項目 詳細 運動ニューロンの障害 ALSで運動ニューロンが徐々に壊れていき、筋肉に動くための命令が届かなくなる現象 筋力低下の仕組み 運動ニューロンからの信号が途絶え、筋肉が動かせなくなり、物を持つ・歩くなどが困難になる状態 筋萎縮の仕組み 筋肉が使われない状態が続き、筋肉のボリュームが減り、見た目にも細くなる現象 具体的な症状 初期は手や足で力が入りにくい、細かい作業がしづらい、歩きにくいなどが現れる 進行と影響 筋力低下や筋萎縮が全身に広がり、日常生活に大きな影響が及ぶ ALSでは、初期症状として筋肉のびくつき(線維束性収縮)がみられることがあります。これは皮膚の上から確認できるような、小さな筋肉のピクつきや細かな動きです。 原因は筋肉自体の異常ではなく、筋肉を動かす運動神経が障害されることによって起こります。運動ニューロンが壊れ始めると、一部の筋線維が異常に興奮し、自発的に動くようになるのが特徴です。 線維束性収縮は、筋力低下や筋萎縮に先行して現れることがありますが、ストレスや疲労などでも一時的に起こることがあるため、これだけでALSとは限りません。 ALSではこのびくつきが長く続き、次第に筋力低下や萎縮へと進行します。気になる症状がある場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 筋肉のこわばりや痙攣 項目 詳細 運動ニューロン障害 上位・下位運動ニューロンの変性による筋肉への信号制御の崩壊 筋肉のこわばり(硬直・痙性) 上位運動ニューロンの抑制信号消失による筋肉の緊張状態の持続 筋肉の痙攣(びくつき・痙性) 下位運動ニューロンの過剰興奮による自発的収縮・ピクつき現象 症状の現れ方 四肢や体幹にこわばりや痙攣が生じ、違和感や動作の困難を伴う場合もある 日常生活への影響 歩行や身体の動きの制限、就寝時の不快感や睡眠障害などの誘発 (文献4) ALSでは、脳や脊髄の上位・下位運動ニューロンが進行性に障害され、筋肉への正常な制御信号が途絶します。筋肉のこわばり(痙性硬直)は、上位運動ニューロンから筋肉への抑制信号が失われることで起こり、筋肉が緊張状態に陥るためです。 一方、痙攣やびくつき(線維束性収縮)は、下位運動ニューロンの異常興奮により、筋線維が意図せず自発的に短時間収縮する現象です。これらは小規模なピクつきから筋痙攣として自覚されることもあります。 こうした症状はALSの初期から四肢や体幹に広がりやすく歩行や動作を困難にし、夜間には痙攣による不快感や睡眠障害を引き起こすこともあります。 こわばり・痙攣は、筋力低下や筋萎縮と並行して進行するALS特有の経過であり、気になる症状がある場合は、早期に医療機関を受診して適切な検査と対策を受けることが重要です。 筋肉の疲労感と脱力感 症状 詳細 筋肉の疲労感 運動神経からの信号が弱まり、筋肉の活動効率が低下し、少しの動作でも疲れやすくなる現象 筋肉の脱力感 筋肉が十分に使われなくなり、力が入りにくくなり、物を持つ・歩くなどの動作が難しくなる状態 筋肉の萎縮や硬直 筋肉が使われないことでやせ細り、硬直も進行し、疲労感や脱力感をさらに強める要因 症状の広がり 初期は身体の一部で始まり、進行とともに全身へ広がる特徴 (文献2) ALSでは、脳や脊髄の運動神経が障害されることで、筋肉に司令がうまく伝わらなくなります。そのため筋肉の活動効率が低下し、日常の動作でもすぐに疲れやすくなるのが筋肉の疲労感の正体です。 筋肉が使われなくなると、力が入りにくくなり、脱力感として自覚されます。さらに、筋肉の萎縮や硬直も進行し、これらの症状を強める要因となります。 ALSの初期症状は体の一部から始まり、進行とともに全身へ広がるのが特徴です。進行スピードには個人差がありますが、症状が止まることなく進行するため、早めの受診と対応が重要です。 肩こりや関節に痛みを感じる ALSの初期には、肩こりや関節の違和感、筋肉痛を感じることがあります。これらの症状は、運動神経の障害によって筋肉や関節に余分な負担がかかることで起こるのが特徴です。 筋力が低下すると、使われなくなった筋肉の代わりに他の筋肉や関節に負担がかかり、その結果、肩こりや違和感が生じます。さらに、筋肉が意図せず動いたり、つったりする痙攣も、不快感の原因です。 筋肉の萎縮が進むと動きがぎこちなくなり、無意識に体の一部に力が入り続けることで、肩や関節への負担が増します。また、筋肉を必要以上に使いすぎたり、逆に動かさなくなることでも痛みが起こることがあります。 これらの症状は、年齢による変化や他の病気と区別がつきにくいため、長く続く場合は早めに医療機関を受診してください。 ALSが発症する原因 原因 詳細 遺伝子異常 一部のALSは遺伝によるもので、特定の遺伝子の変化が神経細胞に影響を与える 酸化ストレス 体内で過剰に発生した活性酸素が神経細胞を傷つけ、機能を低下させると考えられている グルタミン酸毒性 神経伝達物質のグルタミン酸が過剰に働き、神経細胞に負担をかけて壊してしまう ミトコンドリア機能不全 細胞内のエネルギーをつくる働きが弱くなり、神経細胞が生きていく力を失っていく タンパク質の異常な蓄積(凝集) 本来分解されるべきたんぱく質が細胞内に溜まり、神経の働きを妨げる ALSの発症要因は複数あり、現在も研究が進められています。中でも、神経細胞を守る働きが弱まることが重要な要因です。 たとえば、遺伝子の異常、活性酸素による酸化ストレス、神経伝達物質の過剰な作用などが重なり、運動神経が徐々に壊れていきます。さらに、エネルギーをつくるミトコンドリアの機能低下や、異常なたんぱく質の蓄積も神経細胞を障害します。 これらの要因は単独ではなく、複数が同時に進行することが多いため、早期の対応が必要です。症状に気づいた段階で医師に相談することが、進行を遅らせるための第一歩となります。 以下の記事では、ALSの原因になる可能性のある食べ物について詳しく解説しています。 遺伝子異常 ALSの発症には多くの要因が関与しますが、中でも遺伝子異常は明確な原因のひとつです。全体の約5%を占める家族性ALSでは、家族内で複数人が発症し、これまでに30種類以上の原因遺伝子が報告されています。(文献2)(文献5) 代表的な遺伝子には、SOD1、C9orf72、TARDBP、FUSなどがあります。異常なたんぱく質の蓄積や、細胞保護機能の喪失により、運動神経が障害され、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れるのが特徴です。 家族歴のない孤発性ALSにも、感受性遺伝子や環境要因が複雑に関与していると考えられています。 酸化ストレス 原因 詳細 酸化ストレス 活性酸素やフリーラジカルが過剰になり、運動神経細胞のDNAやタンパク質、脂質などを傷つける SOD1遺伝子異常 SOD1酵素の異常で活性酸素の分解がうまくいかず、酸化ストレスが高まる ミトコンドリア障害 酸化ストレスがミトコンドリアの機能を損ない、神経細胞のエネルギー産生が低下する 環境因子 化学物質や重金属、喫煙・飲酒などの生活習慣も酸化ストレスを増やしALSリスクに関与 (文献2)(文献6) ALSの発症原因として酸化ストレスが挙げられるのは、活性酸素などの有害な物質が運動神経細胞を傷つけ、DNAやたんぱく質、脂質に障害を与えるためです。 とくにSOD1遺伝子に異常があると、活性酸素を分解する酵素の働きが低下し、酸化ストレスが強まります。また、酸化ストレスはミトコンドリアの機能を妨げ、神経細胞がエネルギーを十分に作れなくなります。 さらに、化学物質や喫煙などの環境因子も酸化ストレスを高め、ALSの発症や進行に影響を与える原因です。こうした要因が重なり合うことで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 グルタミン酸毒性 原因 詳細 グルタミン酸毒性 神経伝達物質グルタミン酸が過剰に働き、運動ニューロンを過剰に刺激し続けることで細胞死を引き起こす現象 興奮性毒性 グルタミン酸の過剰によって運動ニューロン内にカルシウムイオンが大量に流入し、細胞障害や死滅を招く 再取り込み障害 グルタミン酸を回収する機能が低下し、シナプスにグルタミン酸が残りやすくなり神経細胞へのダメージが続く ALSの症状発現 運動ニューロンの死滅が積み重なり、筋力低下や筋萎縮などALSの初期症状が現れる (文献2) ALSの発症要因のひとつに、グルタミン酸毒性があります。神経伝達に重要なグルタミン酸が、ALSでは再取り込み機能の低下によってシナプスに過剰に蓄積し、運動神経細胞を過剰に刺激することで障害を引き起こします。こうした仕組みが、ALSの発症に関わる要因です。 その結果、運動ニューロンが過剰に興奮し、細胞内にカルシウムイオンが大量に流入して神経細胞が死滅します。この神経障害が進行することで、筋力低下や筋萎縮などの初期症状が現れます。 ミトコンドリア機能不全 原因 詳細 エネルギー産生の低下 ミトコンドリア機能が低下すると神経細胞のエネルギー(ATP)不足が起き、運動神経細胞が弱まる 活性酸素種(酸化ストレス)の増加 ミトコンドリア障害で活性酸素が増え、細胞内のDNAやタンパク質、脂質が損傷しやすくなる 異常タンパク質の蓄積・除去障害 ALS関連遺伝子異常でミトコンドリア内に異常タンパク質が蓄積し、機能がさらに悪化する カルシウムイオン調節異常 ミトコンドリア機能不全でカルシウム調節が乱れ、神経細胞に有害な影響が及ぶ (文献2)(文献7) ミトコンドリア機能不全では、神経細胞に必要なエネルギーの産生が低下し、細胞の機能が著しく低下します。さらに、障害を受けたミトコンドリアでは活性酸素が増加し、たんぱく質やDNAが傷つきやすくなります。 ALSでは、異常なたんぱく質がミトコンドリアに蓄積しやすく、傷んだミトコンドリアが適切に除去されずにいると細胞への負担がさらに大きくなります。 また、ミトコンドリアはカルシウム濃度の調節にも関わっており、機能が乱れると神経細胞の働きが崩れ、その結果、筋力低下や筋萎縮といった初期症状が現れます。 タンパク質の異常な蓄積(凝集) 原因・現象 詳細 神経細胞の機能障害 異常なたんぱく質が細胞内に溜まり、本来の働きを妨げる状態 細胞死の誘発 凝集体が細胞内のバランスを崩し、神経細胞がストレスを受けて死滅しやすくなる状態 TDP-43の異常移動 通常は細胞核にあるTDP-43が細胞質に漏れ出て凝集し、神経細胞を障害する状態 (文献8) 本来、細胞内のたんぱく質は決まった形と役割を保っていますが、異常なたんぱく質が蓄積すると、神経細胞の働きが妨げられます。ALSでは、TDP-43というたんぱく質が本来あるべき細胞核から細胞質に移動し、異常な凝集体を作ることが多くの患者で確認されています。(文献8) 細胞内のバランス(プロテオスタシス)が崩れることで、神経細胞全体の機能も維持できなくなり、こうした変化が進行すると、筋力低下や筋萎縮といったALSの初期症状が現れるため、定期的な診察が不可欠です。 ALSの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 薬物療法 リルゾールやエダラボンなどが進行を遅らせる目的で使用される 根本的な治療ではなく、効果に個人差がある 対症療法 呼吸補助、栄養管理、筋肉のこわばりや不安への対処 症状に応じた調整が必要で、定期的な評価が求められる 手術療法 PEG(胃ろう)や気管切開など、摂食や呼吸機能を補助する目的の処置 タイミングや本人の意思を尊重し、生活の質とのバランスを考慮する必要がある 再生医療 幹細胞治療は、手術や薬物療法に比べて副作用などのリスクが少ないとされている 一部の医療機関で実施されており、検証段階 現在の医学では、ALSを根本的に治す治療法は確立されていません。 治療法はあくまでも完治ではなく、進行を遅らせたり症状を緩和したりすることで、生活の質を保つことを目的としています。治療法は症状に応じて選択され、医師と相談の上で実施されます。 薬物療法 項目 内容 有効な理由 病態(グルタミン酸毒性・酸化ストレス)に直接作用し、進行を抑制する効果 主な薬剤 リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミン 対応のポイント 診断後はできるだけ早期に開始し、対症療法と組み合わせて実施 (文献2)(文献9)(文献10) ALSは進行性の病気ですが、薬物療法によって進行を遅らせることが可能です。主にグルタミン酸毒性や酸化ストレスといった神経細胞を傷つける仕組みに働きかける薬剤が使われます。 リルゾールやエダラボンは、ALSの進行抑制や生存期間の延長に有効とされています。高用量メコバラミンも、早期かつ軽症の患者に効果がある薬剤です。 これらの薬は、呼吸補助や栄養管理、リハビリなどの対症療法と併用することが重要です。治療の効果を高めるためには、診断後できるだけ早い段階での開始が推奨されます。 対症療法 症状 対応方法 呼吸障害 非侵襲的換気療法(NIV)、人工呼吸器の使用による呼吸の補助 嚥下障害・栄養障害 胃瘻(いろう)による経管栄養、体重減少の予防と予後の改善 身体の違和感・筋肉のつっぱり(痙縮) 筋弛緩薬、漢方薬(芍薬甘草湯)、理学療法やマッサージによる緩和 よだれ・むせ込み 抗コリン薬、三環系抗うつ薬、吸引装置、必要に応じた喉頭摘出術の検討 不眠・精神的な不調 睡眠導入薬、抗うつ薬、カウンセリング、呼吸補助療法による根本対応 情動の不安定さ・認知症状 三環系抗うつ薬、SSRI、非薬物療法の活用、社会参加支援や生活の質の維持 ALSの対症療法は、ただ延命を目指すだけでなく、日々の苦痛を軽減し、生活の質(QOL)を保つための重要な治療です。 ALSでは、呼吸困難や嚥下障害、筋肉のこわばり、精神的な不調など、症状が人によって異なります。それぞれの症状に応じた対処が重要で、呼吸補助にはNIVや人工呼吸器、嚥下障害には胃瘻による栄養管理が行われます。 筋肉のこわばりには薬や理学療法、精神的な症状には薬物療法やカウンセリングが効果的です。多方面からの支援を組み合わせることで、患者自身が少しでも不自由のない生活を続けられるようサポートします。 手術療法 手術療法 詳細 気管切開・人工呼吸器装着 呼吸筋の低下に対応し、呼吸不全や窒息のリスクを回避する処置 胃瘻(いろう)造設術 嚥下障害により経口摂取が難しくなった際の栄養補給の手段 合併症への外科的対応 がんなどの他疾患を合併した際に実施される手術(例:がん切除、腹腔鏡手術など) (文献11)(文献12) ALSは根本的に完治する手術はありませんが、病状に応じた手術療法は生活の質(QOL)を保つ上で重要です。呼吸が苦しくなった場合は気管切開や人工呼吸器で呼吸を補助し、嚥下が難しくなった場合は胃瘻を造設し、栄養補給を補助します。 また、がんなど他の病気を併発した際には全身状態や希望に応じて外科的治療も検討され、必要に応じて適切な時期に実施されます。手術後は多職種によるケアやリハビリが不可欠です。 再生医療 取り組み内容 詳細 神経細胞の再生 iPS細胞や幹細胞を用いた新たな神経細胞の作製と機能回復の試み 病態モデルの構築 患者由来のiPS細胞を使ったALSの病態再現とメカニズム解明 創薬の促進 iPS細胞モデルによる新薬開発や既存薬の効果検証(ドラッグリポジショニング) 個別化医療の実現 患者自身の細胞を使った治療により、免疫拒絶の回避と比較的低リスクな治療の提供 幹細胞を使った治療法 乳歯や骨髄由来の幹細胞による神経保護や炎症抑制の試み (文献13) ALSの新たな治療法として、神経の働きを回復させる再生医療が注目されています。自身の細胞から作ったiPS細胞や幹細胞を使い、傷ついた神経を修復したり、病気の進行を遅らせたりすることを目指しています。 最近では、患者の細胞をもとに病気の特徴を再現し、個別化された治療薬を探す研究も進行中です。幹細胞には、神経を守ったり体内の炎症をおさえる効果も期待されています。再生医療による治療はまだ研究段階にありますが、ALSの進行を抑える有力な手段になると期待されています。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ALSの初期症状が疑われたら早めの受診を ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、肩こりや筋肉のびくつき、手足の脱力感など、日常でもよくある症状から始まることがあります。とくに、腕や足が動かしにくい、階段の上り下りがしづらい、言葉が話しにくい、食べ物が飲み込みにくいといった症状が続く場合は早急に医療機関を受診しましょう。 ALSの初期症状でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、ALSに関する些細なお悩みにも真剣に耳を傾け、丁寧にアドバイスさせていただきます。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 ALSの初期症状に関するよくある質問 ALSの初期症状がある場合はどの診療科を受診すれば良いですか? ALSが疑われる場合は、脳神経内科の受診が基本です。手足の筋力低下や筋肉の収縮、話しにくさ、飲み込みにくさなどの症状が1か月以上続く場合は、早急に検査と診断を受ける必要があります。 初期症状によっては整形外科や耳鼻咽喉科を先に受診することもありますが、ALSの確定診断には脳神経内科での評価が必要です。症状が改善しない、または他の診療科で原因がはっきりしない場合は、迷わず脳神経内科を受診してください。 ALS診断後の気分の変化は病気の影響ですか? ALSと診断された後に気分が落ち込んだり不安を感じたりするのは、病気そのものと心理的ショックの両面が関係しています。 一部の患者では、感情のコントロールや性格に変化をきたす前頭側頭型認知症(FTD)を伴うことがあり、無気力や感情の起伏、こだわりが強くなるといった症状が見られます。また、ALSは進行性の難病のため、診断を受けたショックや将来への不安から、抑うつ状態になる方も少なくありません。 こうした精神的な変化に対しては、早めに医師や専門スタッフへ相談し、必要に応じて精神科医やカウンセラーの支援を受けることが大切です。適切なサポートを受けることで、気持ちが少しずつ整い、生活の質を保つことが期待できます。 ALSと診断後の将来不安への対処法を教えてください ALSと診断された後の将来への不安には、いくつかの対処法があります。まずは、症状の変化について相談できる環境を整えることが重要です。また、ALSへの理解を深めることで、不安を軽減する助けになります。 専門のカウンセラーによる心理的サポートも有効で、感情の整理やストレスの緩和につながるでしょう。家族や友人、患者会とのつながりを持つことで、孤独を感じにくくなります。こうした支えを活用しながら、ひとりで抱え込まずに過ごすことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」は、症状への不安で押しつぶされそうなときも、患者様に寄り添い、少しでも前向きな日々を送れるよう、サポートいたします。不安をひとりで抱え込まず、ご相談ください。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。 ALSと診断されましたが支援制度や保険制度は利用できますか? ALSと診断された場合、さまざまな公的支援や保険制度を利用できます。以下の内容がALSで利用できる主な支援制度です。 制度名 内容 指定難病医療費助成制度 治療費の自己負担を軽減(所得に応じて上限あり) 身体障害者手帳 医療費助成、福祉サービス、税の減免、交通機関の割引など 障害者福祉サービス 介護・生活支援、補装具の給付、訪問介護などのサービスが利用可能 介護保険 40歳以上のALS患者は介護保険サービスの利用が可能(特定疾病として対象) 各支援は自己申請が必要なため、医療機関や保健所、市区町村の福祉窓口に早めに相談し、手続きを進めましょう。 参考資料 (文献1) 日本神経学会事務局「神経内科の主な病気」一般社団法人 日本神経学会 https://www.neurology-jp.org/index.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献2) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/52?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日) (文献3) 兵庫県難病相談センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」兵庫県難病相談センター https://agmc.hyogo.jp/nanbyo/ncurable_disease/disease05.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献4) 公益財団法人長寿科学振興財団「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状」健康長寿ネット,2019年2月7日 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/als/genin.html(最終アクセス:2025年06月15日) (文献5) QLife「筋萎縮性側索硬化症」遺伝性疾患プラス, 2020年5月1日 https://genetics.qlife.jp/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献6) 株式会社メディカルノート「筋萎縮性側索硬化症」MedicalNote https://medicalnote.jp/diseases/%E7%AD%8B%E8%90%8E%E7%B8%AE%E6%80%A7%E5%81%B4%E7%B4%A2%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87(最終アクセス:2025年06月15日) (文献7) 鈴木陽一.「ADSに対する生活支援機器筋萎縮性索硬化症の疾患の特徴」『日本義肢装具学会誌』, pp.1-7, 2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/39/4/39_272/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年06月15日) (文献8) 「ALS/FTD の原因となる凝集体形成機構を解明 ~神経細胞の毒となるタンパク質凝集を抑制する薬剤などの研究発展に期待~」『北海道大学』, pp.1-5,2024年 https://www.amed.go.jp/news/seika/files/000129135.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献9) 阿部 康二.「ALS の臨床,病態と治療」『認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン』, pp.1-8, 2012年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/26/3/26_270/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献10) 祖父江 元.「ラジカットによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療を受けられる患者さんとご家族の方へ」『田辺三菱製薬』, pp.1-16 https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400315/6eba6676-657f-43cb-a9ad-b00dd4a8b6e6/400315_1190401A1023_03_002RMPm.pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献11) 牛久保美津子ほか.「国内における過去12年間の筋萎縮性側索硬化症とがんの併存症例報告の検討」『がんと ALS の併存症例報告の文献検討』, pp.1-7,2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/72/4/72_407/_pdf(最終アクセス:2025年06月15日) (文献12) 国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST「日本臨床麻酔学会誌」J-STAGE, 2015年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/35/7/35_711/_article/-char/ja/(最終アクセス:2025年06月15日) (文献13) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞を用いて筋萎縮性側索硬化症の新規病態を発見―早期治療標的への応用に期待―」AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構, 2019年7月2日 https://www.amed.go.jp/news/release_20190702-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月15日)
2025.06.29 -
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「最近、疲れやすくなった気がする」 「筋肉のこわばりを感じる」 筋ジストロフィーは難病指定されており、一般的には子どもに多い疾患ですが、大人になってから発症するケースもあります。放置すれば徐々に日常生活に支障をきたす恐れもある重大な疾患です。 本記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて医師が詳しく解説します。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 筋ジストロフィーは難病指定されており、完治が難しい疾患ですが、早期発見と適切な治療の継続で、進行を抑制できる疾患です。本記事の最後には、大人になってから発症する筋ジストロフィーに関する質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーにおける「大人になってからの発症」について 筋ジストロフィーは子どもに多い病気と思われがちですが、大人になってから症状が現れる遅発性タイプも存在します。中でも筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)は、成人期に最も多く見られるタイプで、軽い筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)が年齢とともに進行して発症に気づくケースが多くあります。 発症後の平均寿命は約55歳とされ、ここ20年で大きな改善はみられていません。(文献1) 呼吸不全や心臓の伝導障害などが主な合併症となるため、早期からの適切な管理が重要となります。高齢で発症する場合は、筋力低下などの症状が目立たず、白内障や糖尿病といった合併症が先に現れることもあり、診断が遅れることがあります。 進行のスピードには個人差があり、緩やかに進行する例が多い一方で、合併症によって急激に悪化するケースもあります。定期的な経過観察と医師による適切な対応が不可欠です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの前兆 前兆 詳細 見分けるポイント 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 手足や首の筋肉が弱くなり、動かしづらくなる。強く握った手がすぐに開かないこともある 階段の上り下りや立ち上がりがつらい、手足に力が入りにくい 多臓器への影響 心臓・呼吸・内分泌など筋肉以外の臓器にも症状が現れる 息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などがみられる 外見上の変化 前頭部の脱毛→まぶたが下がる→筋肉の萎縮 顔や体つきの変化を家族や周囲から指摘される、鏡で気づくことが多い 疲労感が抜けにくくなる 少し動いただけでも強い疲れやだるさが残り、休んでも回復しない 日常生活で疲れやすくなり、休んでも疲労感が抜けない 大人になってから発症する筋ジストロフィーでは、いくつか特徴的な前兆が見られます。主な症状は、手足や首の筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア)で、階段の上り下りや立ち上がりが難しくなるなどの異変が起こります。 また、心臓や呼吸器、内分泌など多臓器に影響が及び、息切れ、不整脈、白内障、糖尿病、認知機能の低下などの合併症が現れることもあります。 さらに、顔や手足の筋肉が萎縮する、まぶたが下がる、前頭部の脱毛といった外見の変化や、少しの動作でも強い疲労感が残り、休んでも回復しないといった症状も特徴です。これらの症状が続く場合は、早急に医療機関を受診してください。 以下の記事では、筋ジストロフィーの初期症状について詳しく解説しています。 筋力低下や筋肉のこわばり(ミオトニア) 前兆 詳細 日常生活での気づき方 筋力低下 手足や首などの筋力が低下し、動作が困難になる傾向 ペットボトルのふたが開けにくい、細かい作業がしづらい、階段の昇り降りが大変、つまずきやすい、転びやすい、じっと立っているのがつらい、首が疲れやすい 筋肉のこわばり(ミオトニア) 筋肉を動かした後に力が抜けにくく、こわばりや硬さが残る現象 強く手を握った後すぐに手を開けない、寒い朝に手足がこわばる、固いものが噛みにくい、運動後に筋肉が硬く感じる、手足を動かした後に力が抜けない (文献2)(文献3) 手足や首の筋肉が徐々に弱くなり、力が入りにくくなるのが特徴です。とくにミオトニアと呼ばれる現象では、手を強く握った後にすぐに開けなくなるなど、筋肉がこわばり動作の遅れが生じます。 こうした症状は日常の細かな動作で気づくことが多く、進行すると転倒や物が持ちにくくなるなどの問題が現れます。軽い症状でも進行性の可能性があるため、気になる違和感がある場合は早期受診が必要です。 多臓器への影響 臓器・系統 前兆・症状例 注意点・見分けるポイント 心臓 不整脈、心不全、動悸、息切れ、めまい 定期的な心電図・心エコー検査、突然死リスク 呼吸器 呼吸筋の弱化、睡眠時無呼吸、日中の過眠 呼吸機能低下、呼吸不全、肺炎リスク、早期の呼吸機能評価 消化器 便秘、下痢、胃食道逆流、嚥下障害 誤嚥性肺炎リスク、食後すぐ横にならない、食事姿勢の工夫 内分泌・代謝 耐糖能異常、糖尿病、高脂血症、脂肪肝、肥満 血糖・脂質検査、食事管理 中枢神経 認知機能低下、性格変化、日中の過眠 周囲の観察と支援、本人の自覚が乏しいことに注意 眼・耳 白内障、眼瞼下垂、難聴 視力・聴力低下時は早めに眼科・耳鼻科受診 生殖機能 不妊症、月経異常 生殖に関する相談は医療機関へ (文献1)(文献4) 筋ジストロフィーは筋肉だけでなく、心臓や呼吸器、消化器、内分泌、中枢神経、眼や耳、生殖機能など全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす病気です。初期の症状は動悸や息切れ、便秘や下痢、認知機能の低下、視力や聴力の変化など、加齢や他の病気と間違われやすいものが多く見られます。 これらの症状が複数重なる場合や、徐々に進行する場合は、早急に医師へ相談しましょう。定期的な検査や医師のサポートを受けることで、症状の進行を抑え、生活の質を維持できる可能性があります。気になる症状がある方は、遠慮せず医療機関を受診しましょう。 外見上の変化 外見上の変化 具体的な症状例 日常生活での気づき方 顔つきの変化 額の生え際の後退(前頭部禿頭)、まぶたの下がり(眼瞼下垂)、顔下半分の筋肉のやせ、表情の乏しさ 顔がやせてきた、まぶたが重い、表情が乏しいと指摘される 目や口の動きの変化 目を強く閉じてもまつげが隠れない、白目が見える(閉眼困難)、口笛が吹けない、口から物がこぼれる 鏡での違和感、口周りの動作がしづらい 体型や姿勢の変化 肩や腕、太ももの筋肉のやせ、背骨の曲がり(脊柱変形)、姿勢が悪くなる 身体のバランスが崩れやすい、姿勢の変化を家族に指摘される その他のサイン 顔や体の筋肉のやせ、まぶたの下がり、表情の乏しさが加齢以外で進行 鏡での変化や周囲からの指摘はサインとなる (文献1)(文献5) 筋ジストロフィーでは筋肉の萎縮や仮性肥大が起こり、外見にも変化が現れることがあります。ふくらはぎが太く見える、肩や背中の筋肉が痩せて姿勢が変わるといった特徴は、進行のサインの可能性もあります。 こうした体型の変化は加齢によるものと混同されがちですが、筋疾患の可能性も視野に入れることが大切です。日常生活で違和感を感じたり、人から指摘されたりした場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 疲労感が抜けにくくなる 主な原因 内容 睡眠障害と日中の過眠 睡眠時無呼吸症候群、呼吸調節障害による熟眠感の低下と日中の強い眠気 呼吸機能の低下と低酸素血症 呼吸筋の弱化による酸素不足と日常動作での著しい疲労感 中枢神経の障害 認知機能の低下、抑うつ傾向、意欲低下による精神的な倦怠感 内分泌・代謝異常 耐糖能異常や甲状腺機能低下によるエネルギー代謝の低下と慢性疲労 疲労感が前兆となる理由 明確な筋症状よりも先行して現れる、なんとなく疲れやすい、休んでも回復しない自覚症状 (文献2) 筋ジストロフィーでは、運動後の疲れが取れにくい、日中に強い倦怠感が続くといった慢性的な疲労感が初期症状として現れることがあります。これは、筋肉の再生能力が低下し、日常の動作でも体に負担が蓄積しやすくなるためです。 さらに、睡眠障害や過度な日中の眠気(過眠)、呼吸機能の低下による低酸素血症、中枢神経系の障害、内分泌・代謝異常など、複数の要因が重なることで疲労感はより強くなります。 これらの疲労感は、筋力低下や筋肉のこわばりといった明らかな症状よりも先に現れることもあります。疲労感が長く続く場合は、早期受診で評価を受けましょう。症状の進行を抑制し、生活の質の担保に繋がります。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの原因 原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 親から受け継いだ遺伝子や体内で生じた異常により、筋肉の正常な働きが損なわれる DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 遺伝子の特定部分(例:CTG配列)が異常に繰り返されることで発症。筋強直性ジストロフィーに多い 突然変異による発症 家族歴がなくても、遺伝子に新たな変異が起きて発症する場合がある 筋ジストロフィーの発症には、遺伝子の異常が深く関与しています。大人になってから発症する場合でも、多くは遺伝的な要因や突然変異が原因です。家族歴がなくても発症することがあり、診断には遺伝子検査が重要な役割を果たします。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋ジストロフィーは遺伝性の疾患であり、遺伝の形式には常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性遺伝などがあり、病型によって異なるのが特徴です。筋強直性ジストロフィーは常染色体優性遺伝形式で、親のどちらかが変異遺伝子を持っている場合、子どもに50%の確率で遺伝します。 また、親に遺伝子異常がなくても、精子や卵子の形成時、あるいは受精後の細胞分裂中に突然変異が起こり、新たに発症するケースも少なくありません。 筋ジストロフィーでは、筋肉の構造や機能を支えるタンパク質を作る遺伝子に変異が生じることで、筋細胞が壊れやすくなり、筋力低下や多臓器障害が進行します。筋強直性ジストロフィーでは特定の遺伝子配列が異常に繰り返されるリピート拡大が原因となり、筋肉だけでなく心臓や内分泌系など全身に影響が及びます。 遺伝子異常による症状は、早期の診断と適切な管理が極めて重要であり、医師の診察を受けることが推奨されます。 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 項目 内容 原因 DNA配列の異常な繰り返し(リピート伸長) 具体例 筋強直性ジストロフィーではDMPK遺伝子内のCTGリピートが数百~数千回に伸長 病気発症の仕組み CTGリピートの伸長でDMPK遺伝子の働きが乱れ、異常なRNAが細胞内に蓄積。他のタンパク質と結合し核内に閉じ込める 症状の多様性 筋肉だけでなく心臓、脳、内分泌など多臓器に症状が現れる 世代間の特徴 世代を重ねるごとにリピートがさらに伸長し、子や孫でより重症化する傾向(表現促進現象) 年齢とともに進行する可能性 リピート伸長は年齢とともに進行し、中年以降で症状が現れることもある (文献6)(文献7) 大人で発症する筋ジストロフィーの中でも、筋強直性ジストロフィーは、DNAの一部にあるCTG配列が異常に繰り返されること(リピート伸長)が原因です。 本来は数回程度の繰り返しであるはずの配列が、数百〜数千回にも増えることで遺伝子の働きが乱れます。その結果、異常なRNAが細胞にたまり、他の重要なタンパク質の働きも妨げられ、筋肉や心臓、脳など複数の臓器に障害が起こります。 この異常は世代を重ねるごとに増加し、子や孫の世代でより重症化することがあり、年齢とともに進行する可能性もあるため、早期に遺伝子検査を受けて適切な管理を行うことが重要です。 突然変異による発症 筋ジストロフィーは遺伝性の病気ですが、家族に同じ病気の人がいなくても発症するケースがあります。これは、突然変異によるもので、体内で偶然、遺伝子に異常が生じることが原因です。 突然変異は、精子や卵子がつくられる過程や、受精後の細胞分裂の際に、遺伝子のコピーにミスが起こることで発生します。また、化学物質や紫外線、ウイルスなど、外部からの影響で遺伝子が傷つくこともあります。 筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子は非常に大きく、とくに変異が起こりやすい遺伝子のひとつです。実際、デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは約4割が突然変異による発症とされており、他のタイプでも家族歴のない発症が多く見られます。(文献8) このように、遺伝的な背景がなくても発症する可能性は十分にあるため、気になる症状があれば専門医への相談が重要です。 大人になってから発症する筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法 詳細 注意点 保存療法(対症療法) リハビリや理学療法、呼吸管理、栄養管理、生活指導などで症状の進行を遅らせ、生活の質を保つ 根本的な治療ではなく、症状の緩和や進行抑制が目的。定期的な評価と多職種連携が重要 薬物療法 ステロイドや心不全・不整脈治療薬、抗菌薬(例:エリスロマイシン)、エクソンスキップ薬などの投与 副作用や適応の確認が必要。新薬や治験薬は医師の指導のもと使用する。個々の症状に応じた選択が必要 手術療法 呼吸補助のための気管切開、関節拘縮や側弯症に対する整形外科的手術など 手術の適応や時期は慎重な判断が必要。全身状態やリスクを十分に評価 再生医療 幹細胞治療や遺伝子治療 適応条件を医師と相談する 現在の医学では、筋ジストロフィーを根本から完治する治療法はありません。筋ジストロフィーの治療は、完治ではなく、進行を遅らせて生活の質を保つことが目的です。 リハビリや呼吸・栄養管理などの保存療法を中心に、必要に応じて薬物療法(ステロイドや心不全治療薬など)や手術が行われます。治療は、症状に応じた多角的なケアが大切です。副作用や適応には注意し、治療は医師や専門スタッフと連携しながら進めていきます。 保存療法(対症療法) 治療法 詳細 注意点 身体機能の維持と拘縮予防 リハビリテーション、ストレッチ、関節可動域訓練、装具の使用、姿勢保持訓練 無理のない範囲で継続、専門家の指導が必要 合併症の管理と予防 呼吸リハビリ、人工呼吸器の使用、心臓検査・薬物、嚥下訓練、栄養管理、骨折予防 定期的な検査と早期対応、合併症のサインに注意 生活の質の維持と精神的支援 福祉サービスの利用、住宅改修、自助具の活用、就労・教育支援、カウンセリング、患者会参加 社会的サポートの活用、心のケアも大切 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーは、根本的な治療法はまだありませんが、保存療法(対症療法)によって進行を緩やかにし、生活の質を維持することが大切です。 リハビリや装具の活用で身体機能を保ち、呼吸や心臓、栄養などの合併症を予防・管理します。また、福祉サービスやカウンセリングなど社会的・精神的なサポートも重要です。患者の状態に合わせて、医療スタッフやご家族と協力しながらケアを続けることが、日常生活をしっかり送るためのポイントです。 薬物療法 薬剤・治療法 効果 ポイント ステロイド薬 筋肉の炎症や壊れやすさの軽減、筋力低下の進行抑制、歩行期間や呼吸機能の維持 筋肉のダメージを抑え、自立した生活期間を延長 新規治療薬(エクソンスキッピング薬、ビルトラルセン) ジストロフィン産生促進、運動機能低下の抑制、一部の遺伝子型に有効 遺伝子異常に応じた治療 エリスロマイシン(筋強直性ジストロフィー) 遺伝子のスプライシング異常の改善、筋障害指標(CK値)の低下、病気進行の抑制 病気の本態に直接作用し、進行抑制や症状改善が期待 (文献8)(文献10) デュシェンヌ型などでは、ステロイド薬が病気の進行を抑える目的で使用されます。心機能や呼吸機能の低下に対しては、心不全治療薬や気管支拡張薬などを症状に応じて併用します。 薬の効果と副作用を確認するために、定期的な診察と検査が欠かせません。体調の変化や副作用が疑われる場合は、早めに医師へ相談することが大切です。 手術療法 手術療法の種類 詳細・目的 注意点・ポイント 脊柱側弯症の矯正手術 背骨の曲がりをまっすぐに矯正し、座位の安定や呼吸機能の悪化を防ぐ 麻酔や手術リスクが高いため、全身状態や適切な時期の判断が重要 関節拘縮・変形に対する手術 固まった関節の可動域を回復し、装具や車椅子の利用をしやすくする 身体への負担が大きいため、慎重な適応判断が必要 嚥下障害に対する手術 胃ろう造設術などで十分な栄養摂取を可能にする 栄養状態や感染予防への配慮が必要 眼瞼下垂に対する手術 まぶたを上げて視界を確保し、日常生活の不便を軽減 術後の経過観察が必要 (文献11) 手術療法は、筋ジストロフィーによる重度の変形や機能障害を改善し、呼吸機能や日常生活の質を守るために有効です。たとえば、背骨の曲がり(脊柱側弯症)を矯正する手術は座りやすさや呼吸機能の維持に役立ち、関節の拘縮解除術は装具や車椅子の利用をしやすくします。 また、飲み込みが難しい場合の胃ろう造設術や、まぶたが下がる場合の眼瞼下垂手術も生活の質向上に貢献します。ただし、筋ジストロフィー患者は麻酔や手術後の合併症リスクが高いため、十分な全身管理と医師による慎重な判断が必要です。 再生医療 特徴 詳細・具体例 注意点・課題 筋肉の再生促進 幹細胞や筋前駆細胞の移植による筋肉の修復・再生 移植細胞の生着率向上が課題 遺伝子の修復 iPS細胞を使い、遺伝子異常を修復後に筋肉細胞へ分化・移植 腫瘍化リスクへの対策が必要 免疫系の調整 幹細胞による炎症抑制や免疫反応の調整 長期的な効果や副作用の検証が必要 具体的な治療アプローチ 筋前駆細胞移植、iPS細胞治療、メソアンジオブラスト(MABs)療法など 現在は臨床試験・研究段階 (文献12) 再生医療は、大人の筋ジストロフィーに対する新たな治療法として注目されています。幹細胞やiPS細胞を使って、筋肉の修復や遺伝子異常の改善を目指し、筋力低下や炎症による損傷の進行を抑える効果が期待されています。 ただし、現時点では実施している医療機関が限られているため、対応可能な医療機関で適応を含め医師への相談が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 大人になってからの筋ジストロフィーは進行の抑制がカギ 現在の医学では、筋ジストロフィーに対する根本的な治療法はありません。しかし、早期の対応によって進行を遅らせることが可能です。 運動や栄養、生活動作を見直し、医師の指導のもとでケアを継続することで、生活の質を維持しやすくなります。症状が軽いうちから診断とサポートを受けることが、今後の選択肢を広げる第一歩となります。 筋ジストロフィーの症状に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関するご相談に丁寧に対応し、必要に応じて再生医療も選択肢のひとつとしてご案内しています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 大人になってからの筋ジストロフィーに関するよくある質問 筋ジストロフィーは仕事や生活に影響しますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であり、症状に応じた生活の工夫や支援が必要になります。 定期的な診察やリハビリ、福祉用具の活用などにより、変化に応じた改善を目指していく必要があります。不安や疑問があるときは、一人で悩まず、専門の医療機関や支援団体に相談しましょう。 筋ジストロフィーの影響によるうつ病や不安障害のリスクはありますか? 筋ジストロフィーは進行性の病気であるため、将来への不安や喪失感から、うつ病や不安障害を発症するリスクがあります。 精神的な負担が長期化しやすいため、身体面だけでなく心のケアも重要です。必要に応じて心理的評価やカウンセリングを行い、早期の対応が望まれます。 また、日本筋ジストロフィー協会などの支援団体を活用することで、同じ立場の方との交流や相談が精神的な支えになります。気になる症状がある方は早めの相談が大切です。(文献13) 症状の進行が怖くて毎日不安で仕方ありません 不安を感じるのは自然なことです。大切なのは、一人で抱え込まず、信頼できる医療機関や支援機関に相談することです。筋ジストロフィーの進行には個人差があり、正しい情報と適切な支援を受けることで、不安は少しずつ和らいでいきます。不安を感じたときこそ、相談を始める大切なタイミングです。 日本筋ジストロフィー協会では、同じ病気を経験した方との交流や、専門家による心理サポートを受けられます。ピアカウンセリングや相談窓口を活用することで、気持ちを整理し、前向きに過ごすための支えとなります。(文献13) リペアセルクリニックでも、症状に対する不安や心配事について丁寧にご相談をお受けしています。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 筋ジストロフィーの患者が受けられる支援制度にはどんなものがありますか? 筋ジストロフィーは指定難病に該当し、医療費助成を受けられる場合があります。また、障害者手帳の取得によって、通院支援、就労支援、介護サービス、住宅改修助成など幅広い制度が利用可能です。地域の保健所や福祉窓口に相談することで、必要な支援につながる情報が得られます。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/718(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「筋強直性ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 筋強直性ジストロフィー患者会「この病気とは」筋強直性ジストロフィー患者会 https://dm-family.net/whatsdm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「DM 筋強直性ジストロフィー」神経筋疾患ポータルサイト https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/dm.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」MD Clinical Station https://mdcst.jp/md/fshd/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 石垣景子.「筋強直性ジストロフィーの先天型と遺伝」『筋強直性ジストロフィー』, pp.1-7 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/59/2/59_59.144/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 笹川 昇.「筋強直性ジストロフィーの分子機構解明」『東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系』, pp.1-4, 2000年 https://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/001/b096.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 著者名,著者名.「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLife「筋ジストロフィーとその最新治療、専門医がわかりやすく解説!」遺伝疾患プラス, 2023年10月2日 https://genetics.qlife.jp/interviews/dr-takeda-20231002(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2022年1月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E7%AD%8B%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) 文部科学省「筋ジストロフィーに対する幹細胞移植治療の開発」 https://www.jst.go.jp/saisei-nw/stemcellproject/kobetsu/kadai03-02-01.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 一般社団法人日本筋トロフィー協会, 一般社団法人日本筋トロフィー協会 https://www.jmda.or.jp/what-jmda/(最終アクセス:2025年06月23日)
2025.06.29 -
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「最近、子どもがよく転ぶようになった」 「以前より疲れやすく感じるようになった」 その症状は、筋ジストロフィーの初期症状かもしれません。医師にそう言われても、病名を聞いても状況が把握できず、不安に感じる方も多いでしょう。自分の子どもが筋ジストロフィーと診断された際に不安を感じるのは自然です。 早期発見と適切な受診判断が、その後の生活や支援体制を整える第一歩となります。お子さまやご自身の症状に不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。 筋ジストロフィーとは 項目 内容 病気の特徴 筋肉が徐々に壊れ、力が入らなくなる進行性の筋肉の病気 原因 筋肉機能に関わる遺伝子に異常が起こる遺伝性疾患 発症の仕方 遺伝によるものと突然変異によるもの 主な症状 筋力低下、歩行困難、呼吸や心臓の障害 治療法 進行を遅らせる薬やリハビリなどの対症療法 完治の可否 現時点では完治が難しい病気 寿命への影響 心臓や呼吸への影響による生命予後の変化 受診すべき科 神経内科、小児神経科、整形外科などの専門科 成人の発症 子どもだけでなく大人でも発症するタイプの存在 (文献1)(文献2) 筋ジストロフィーは、筋肉が徐々に弱くなる進行性の疾患です。遺伝子の異常により、筋肉を支えるたんぱく質が作られず、壊れやすくなるのが特徴です。筋ジストロフィーは進行に伴い、筋力低下や運動機能障害がみられるようになります。 筋ジストロフィーは主に小児期に発症し、歩行や立ち上がりが困難になることがあります。症状の現れ方や進行の速さはタイプによって異なり、早期発見と適切な対応が重要です。現在の医学では完治が難しく、進行を遅らせる薬やリハビリといった対症療法が中心です。 筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病に認定されており、成人後に発症するタイプもあるため、年齢にかかわらず早急に医療機関を受診することが大切です。(文献1) 以下の記事では、大人になってから発症する筋ジストロフィーについて詳しく解説しています。 筋ジストロフィーの初期症状 初期症状 詳細 歩行異常・転倒しやすい 階段の昇降が難しくなる。頻繁につまずく、転倒が増える 筋力低下・疲れやすい 少しの運動で疲れやすくなる。階段の上り下りや走る動作が困難になる 筋肉の変化 ふくらはぎが不自然に盛り上がるなど、筋肉の見た目が変わる。実際には筋力が低下している 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 首すわりや寝返り、歩行の開始が遅い。発達の節目でつまずきやすい その他の症状 側弯症、呼吸の浅さ、心機能の異常、嚥下機能の低下など、筋力以外の全身症状が現れることがある 筋ジストロフィーの初期症状は、病型や年齢によって異なりますが、共通して筋力低下や運動発達の遅れが目立ちます。子どもの場合、よく転ぶ、階段の昇り降りが苦手、ふくらはぎの肥大傾向が見られるなど、成長の個人差と区別がつきにくいのが特徴です。 進行すると、筋肉の硬直や関節の可動域制限に加え、疲れやすさも見られるようになります。これらのサインが現れた場合、早急に医療機関を受診することが大切です。 歩行異常・転倒しやすい 症状 詳細 アヒル歩行 腰を左右に揺らすような歩き方。股関節まわりの筋力低下による歩行障害 つま先歩き かかとを地面につけずにつま先で歩く傾向。ふくらはぎの筋肉のアンバランス 頻繁な転倒 平地や階段などで転びやすくなる。脚や体幹の筋力低下によるバランス障害 走りにくさ 走るのが遅くなったり、すぐ疲れたりする。下肢の筋肉の持久力・瞬発力の低下 ガワーズ徴候 床から立ち上がるときに手を使って太ももを押さえる特徴的な動作。筋力不足の代償動作 筋ジストロフィーでは、太ももや骨盤周辺の筋肉が弱くなり、足を持ち上げにくくなることで歩き方が不安定になります。とくに骨盤周辺の筋肉が初期に影響を受けやすく、アヒル歩行やつま先歩きといった特徴的な歩き方が現れます。 筋肉や関節の硬さが加わることで、動作がぎこちなくなるのが特徴です。また、ガワーズ徴候と呼ばれる、手を使って立ち上がる独特な動作も初期のサインです。 歩行の違和感や頻繁な転倒に気づいたら、早急に医療機関を受診しましょう。放置せず、日常の小さな変化に注意を向けることが、筋ジストロフィーなどの早期発見につながります。 筋力低下・疲れやすい 症状 解説 全身の筋力低下 体幹・股関節・肩甲骨まわりの筋肉から目立ち始める筋力の衰え 腕が上がりにくい 肩より上に腕を上げる動作や、物を持ち上げることが困難になる状態 疲れやすさ 日常動作で息切れしやすく、階段の昇降や活動を避けるようになる傾向 筋力低下の左右差 両側均等ではなく、片側から先に筋力が落ちる場合もある非対称性の症状 (文献3) 筋ジストロフィーの初期には、筋力低下や疲れやすさといった症状が現れます。とくに体幹や股関節、肩まわりの筋肉が弱くなりやすく、立ち上がるときに太ももを手で押して身体を支える、ガワーズ徴候が見られることもあります。 肩の筋力が低下すると、腕が上がりにくくなり、物を持つ動作も困難になります。また、とくに子どもが疲れを訴えて、活動を避けるようになった場合も初期症状のサインです。このような変化は病気の進行と関係している可能性があるため、医療機関への受診が必要です。 筋肉の変化 症状 詳細 偽肥大 ふくらはぎが太く硬く見えるが、筋線維の減少と脂肪・結合組織の置換による変化 筋萎縮 筋肉が細くなり、筋力が低下し見た目にもやせてくる変化 筋肉の硬直 筋肉や関節の動きが硬くなり、動作のぎこちなさや朝のこわばりが出現 翼状肩甲 肩甲骨が浮き上がるように見える変化。肩甲骨周囲の筋力低下による (文献4) 筋ジストロフィーでは、筋肉の一部に見た目の変化が現れることがあります。代表的なのが偽肥大と呼ばれる症状で、ふくらはぎの筋肉が太く盛り上がって見える一方、実際には筋力が低下している状態です。 これは筋線維が壊れ、再生が追いつかないことで、脂肪や結合組織に置き換わるために起こります。見た目は発達しているようでも、触れると硬く弾力がないのが特徴です。また、肩や背中の筋肉が痩せてきたり、左右の筋力バランスが崩れたりすることもあります。 とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ふくらはぎの筋肉が太く見える、偽肥大が目立ち、歩きにくさや転倒と一緒に現れることが多く、病気の進行を示す重要なサインです。 筋肉が硬く弾力に乏しくなるなどの見た目の変化は筋力低下の兆候であり、早期発見につながる大切な手がかりです。違和感を覚えたら、早めに医療機関を受診しましょう。 発達の遅れ(乳幼児期の場合) 症状 詳細 首のすわり・お座りの遅れ 筋力低下による首のすわりや、お座りの安定の遅れ ハイハイ・寝返りの遅れ 筋肉の弱さによるハイハイや寝返りの開始の遅れ 歩行開始の遅れ 1歳半以降まで歩き始めない、歩行が不安定 転びやすさ・立ち上がり困難 歩行時のふらつき、立ち上がりの不安定さ 言葉や知的発達の遅れ 一部病型でみられる言語発達や知的発達の遅れ、てんかんなどの神経症状 フロッピーインファント 先天性筋ジストロフィーでみられる全身の筋緊張低下による、だらりとした状態 (文献4) 乳幼児期に発症するタイプでは、首がすわるのが遅い、寝返りができない、立ち上がりに時間がかかるなど、運動発達の遅れが最初のサインになることがあります。また、他の子どもと比べて歩き始めるのが遅い、転びやすいといった違和感も初期症状のひとつです。 成長の個人差と思われがちですが、このような遅れや症状が継続する場合、筋疾患の可能性も視野に入れて検査を受ける必要があります。 その他の症状 病型名 特徴的な初期症状 具体的な症状例 筋強直性ジストロフィー(DM) ミオトニア(筋強直) 把握ミオトニア、叩打ミオトニア、舌のクローバー状変形 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD) 顔面筋の筋力低下 表情の乏しさ、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくい (文献5) 筋ジストロフィーは病型によって初期症状が異なります。筋強直性ジストロフィーでは、筋肉が収縮後にうまく緩まないミオトニア(筋強直)が特徴です。手を握った後すぐに開けられない、筋肉を叩くと収縮が続く、舌が変形するなどの症状が見られます。 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは、早期から顔の筋肉が弱くなり、笑顔が作りにくい、口笛が吹けない、まぶたが閉じにくいといった症状が現れます。これらの変化は食事の際にむせやすくなるなど、日常生活に影響するため、早急に医療機関を受診しましょう。 筋ジストロフィーの原因 主な原因 詳細 遺伝子の異常(遺伝子変異) 筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が生じることで発症 遺伝形式 親から子へ遺伝する場合があり、X連鎖性遺伝、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝などの形式がある 遺伝子の突然変異 家族歴がなくても、突然新たに遺伝子変異が生じて発症する場合がある 筋ジストロフィーの主な原因は、筋肉の働きに必要な遺伝子に異常があることです。遺伝子に異常が生じることで、筋肉の細胞構造を保つたんぱく質が十分に作られず、筋肉が壊れやすくなります。 異常が起こる遺伝子やその影響の範囲によって、発症年齢や進行の速さ、症状の程度に違いがあります。多くは先天的なものですが、家族歴がない場合でも突然変異として発症するケースもあるのが特徴です。 遺伝子の異常(遺伝子変異) 病型名 関連遺伝子 主な特徴 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンがほとんど作られず、重症で進行が早い筋力低下 ベッカー型筋ジストロフィー(BMD) ジストロフィン遺伝子 ジストロフィンが部分的に作られ、DMDより軽症で進行が緩やか 筋強直性ジストロフィー(DM) DMPK遺伝子 CTGリピートの伸長による多臓器障害を伴う進行性筋疾患 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD) フクチン遺伝子 筋力低下に加え、脳や眼の形成異常を伴う先天性の重度障害 (文献1)(文献4)(文献6) 筋ジストロフィーは、筋肉の働きに関わる遺伝子に変異が起こることで発症します。異常がある遺伝子の種類によって、病型や症状、進行の速さが異なります。代表的なのがジストロフィン遺伝子の変異で、ジストロフィンがほとんど作られない場合は重症のデュシェンヌ型、一部作られる場合は進行の緩やかなベッカー型です。 筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子の異常により筋肉だけでなく心臓や内分泌、脳にも影響が及ぶのが特徴です。また、日本で多く見られる福山型先天性筋ジストロフィーでは、フクチン遺伝子の変異によって筋力低下に加え、脳や眼の異常も見られます(文献7)。遺伝子変異の特定は、診断と治療方針を決める上で重要な手がかりとなります。 遺伝形式 遺伝形式 代表的な病型例 詳細 X連鎖劣性遺伝 デュシェンヌ型、ベッカー型筋ジストロフィー 原因遺伝子がX染色体上に存在。男性は1本のX染色体に異常があると発症。女性は2本のうち1本が正常なら保因者となる 常染色体優性遺伝 筋強直性ジストロフィーの一部、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 常染色体上の遺伝子に変異があり、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症 常染色体劣性遺伝 肢帯型筋ジストロフィーの一部、先天性筋ジストロフィーの一部 常染色体上の両方の遺伝子(父母由来)に異常がある場合に発症。両親が保因者でも1本ずつなら無症状 (文献1)(文献6) 筋ジストロフィーにはいくつかの遺伝形式があり、病型によって遺伝の仕方が異なります。デュシェンヌ型やベッカー型はX連鎖劣性遺伝で、主に男性が発症します。 母親が保因者の場合、子どもに遺伝する可能性がありますが、女性は2本のX染色体のうち1本が正常なら多くは発症しません。筋強直性ジストロフィーや顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの一部は常染色体優性遺伝で、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を受け継ぐだけで発症します。 肢帯型や先天性筋ジストロフィーの一部は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継いだ場合に発症します。家族歴がなくても突然変異によって発症することがあり、遺伝形式に応じてリスクや進行の程度が異なるため、専門医への相談が重要です。 遺伝子の突然変異 原因・メカニズム 詳細 DNA複製時のエラー 細胞分裂中にDNAをコピーする際のミスにより発生する変異 外部要因による損傷 放射線や化学物質などがDNAを傷つけ、その修復時のエラーで生じる変異 自然発生的な化学変化 細胞内で起こる化学反応により、DNAが自然に変化する現象 先天的な変異(遺伝性) 親の卵子や精子にある変異が受精卵に伝わり、全身に影響する変異 新生変異(de novo変異) 受精卵や細胞分裂の過程で新たに発生し、家族歴がなくても発症する場合がある 体細胞モザイク 変異のある細胞とない細胞が混在し、身体の一部にだけ影響する状態 筋ジストロフィーの中には、家族に同じ病歴がないにもかかわらず、本人にだけ発症するケースがあります。このような発症ケースは両親から受け継いだ遺伝子ではなく、胎児の発育過程で突然変異が生じたことが原因です。 遺伝子の突然変異による場合でも、症状や進行の程度は遺伝性のものと変わらないため、医療機関への受診が必要です。 筋ジストロフィーの治療法(進行の抑え方) 治療法(進行の抑え方) 詳細 保存療法 リハビリテーションやストレッチ、装具の使用などで筋力や関節の動きを維持し、合併症を予防 薬物療法 ステロイド薬などで筋力低下や進行を遅らせる。心臓や呼吸機能低下にはそれぞれの症状に応じた薬を使用 手術療法 側弯症や関節拘縮など保存療法で対応できない場合に手術を検討。呼吸や嚥下の補助目的での手術も選択肢 再生医療 手術や薬物療法に比べて副作用が少ない可能性がある近年注目されている治療法 筋ジストロフィーには、現在のところ根本的な治療法は確立されていませんが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることを目的とした治療が行われています。発症の早い段階から適切な治療を始めることで、病気の進行を緩やかにし、日常生活の自立を支えることが期待されます。 保存療法 項目 内容 関節可動域訓練・ストレッチ 関節のこわばりを防ぐための毎日の柔軟体操と家族への指導 低負荷の筋力トレーニング 過度な負荷を避けながら筋肉の萎縮を防ぐ軽めの運動 呼吸リハビリテーション 呼吸筋の維持・強化を目的としたトレーニングや人工呼吸器の活用 補助具・福祉用具の活用 車椅子や自助具を使って日常動作や移動を支援 姿勢管理・側弯症予防 姿勢の調整や体位変換による背骨の変形予防 摂食・嚥下機能のサポート 誤嚥防止のための食事形態の工夫と嚥下訓練 定期検査と合併症への対応 心肺機能の定期検査と薬物・医療対応による合併症の早期発見・治療 (文献8)(文献9) 筋ジストロフィーに対する保存療法は、病気の進行をできるだけ緩やかにし、生活の質(QOL)を保つために欠かせません。関節の動きを保つストレッチや、筋肉に無理のない範囲で行う筋力トレーニングが基本です。 呼吸機能の低下を防ぐためのリハビリや、必要に応じた人工呼吸器の導入も検討されます。また、歩行や日常生活を支えるための補助具、自助具の活用も不可欠です。 姿勢の調整や体位変換で側弯症の予防を行い、食事が困難な場合には嚥下機能のサポートも行います。症状の進行や個々の状態に応じて、医師の指導を受けながら継続的に取り組むことが大切です。 薬物療法 治療法 主な目的・特徴 ステロイド療法(プレドニゾロンなど) 筋細胞の壊れやすさを軽減し、運動・呼吸機能の維持、側弯症の進行予防 HDAC阻害薬(デュヴィザット) 炎症と筋肉減少を軽減。非ステロイドですべてのDMD患者に使用可能。2024年にFDAが承認 エクソンスキッピング療法 特定の遺伝子変異に対し、mRNAを修正し機能的なジストロフィン産生を促す治療法 その他の新規治療薬 筋強直性ジストロフィーなどに対し、スプライシング異常や筋壊死を抑える薬剤の開発進行中 定期評価と副作用管理 運動・呼吸機能、血液検査などによる薬効・副作用のモニタリング 個別化治療の調整 遺伝子変異や体調に応じた薬剤選択と投与量の調整 副作用対策 骨粗鬆症、肥満、感染症などに対する予防策と生活指導 (文献1)(文献10) 筋ジストロフィーにおける薬物療法は、進行を抑え、運動機能や呼吸機能を維持する上で欠かせない治療法です。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)には、ステロイド(プレドニゾロン)による長期療法が標準治療とされ、筋力低下や側弯症の進行を抑えます。 2024年にアメリカFDAが承認した非ステロイド薬デュヴィザット(HDAC阻害薬)は、遺伝子変異の種類に関係なく使用でき、ステロイドとの併用で運動機能の低下を有意に抑える効果が確認されています。(文献10) また、2020年に日本で承認されたエクソンスキッピング療法(ビルトラルセン)は、特定の遺伝子変異に対して機能的なジストロフィンの産生を促し、進行の抑制が期待されています(文献1)。いずれも、筋ジストロフィーの治療に有効な選択肢として位置づけられています。 手術療法 有効な理由 主な手術内容・効果 側弯症の進行抑制と矯正 背骨の曲がりを金属製ロッドなどで矯正し、座位保持や呼吸機能の改善を図る 骨盤の傾き・座位の安定化 側弯症手術により骨盤の傾きを改善し、車椅子やベッドでの安定した姿勢を実現 関節拘縮や変形の改善 固まった関節の動きを回復するための腱延長術などで、日常生活動作や介助のしやすさを向上 嚥下障害への対応 経口摂取が難しい場合に胃ろうを造設し、栄養補給を確保 呼吸補助の整備 重度の呼吸障害に対する気管切開術で、人工呼吸器の使用を容易にし、呼吸を安定させる 麻酔・術後管理の注意 呼吸合併症リスクが高く、医療機関での手術と慎重な管理が必要 (文献11) 筋ジストロフィーの手術療法は、病気そのものを治すものではありませんが、側弯症や関節拘縮などの合併症に対して有効です。とくに側弯症矯正手術は背骨の曲がりを大きく改善し、呼吸や消化機能の低下を防ぎます。 骨盤の傾きや座位の安定性も向上し、日常生活の自立度が高まります。関節拘縮解除、胃ろう造設、気管切開術なども症状に応じて行われ、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の維持・向上が期待できるでしょう。手術は麻酔や呼吸管理のリスクがあるため、医師と相談の上での実施が不可欠です。 再生医療 再生医療の施策 内容 期待される効果 iPS細胞を使った筋前駆細胞の移植 患者自身の細胞から作ったiPS細胞を筋肉の細胞に変えて移植 筋肉機能の回復、免疫拒絶の低減 ゲノム編集技術の応用 iPS細胞の遺伝子を修復し、正常な筋細胞に育てて移植 ジストロフィンの発現、病気の根本的治療の可能性 メソアンジオブラストの移植 血管のまわりの幹細胞を使い、筋肉へと分化させて移植 筋力の維持・向上、筋肉の再生促進 再生医療は、失われた筋肉機能の回復を目指す新しい治療法として注目されています。幹細胞を用いた治療や遺伝子を補うアプローチが期待されており、手術と比べて、感染症や麻酔に伴うリスクが少ない点も利点です。 ただし、すべての症状に適用できるわけではなく、対象となる条件が限られるため、治療の可否については医師と十分に相談する必要があります。また、再生医療は限られた医療機関でのみ実施されているため、事前の確認が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 筋ジストロフィーの初期症状を理解して早めの受診を心がけよう 筋ジストロフィーは進行性の疾患であり、早期発見が将来の生活に大きく影響します。歩き方の違和感、転びやすさ、筋肉の張りや発達の遅れなど、些細な変化が初期症状のサインであることも少なくありません。とくに小児では成長の遅れと誤解されやすいため、筋ジストロフィーの初期症状が少しでも疑われる場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。 筋ジストロフィーの症状にお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、筋ジストロフィーに関する些細なことでもお話を伺います。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 筋ジストロフィーに関するよくある質問 女性が筋ジストロフィーを発症する確率はどのくらいですか? 筋ジストロフィーは多くのタイプがあり、女性にも発症する可能性があります。中でもデュシェンヌ型(DMD)やベッカー型はX染色体劣性遺伝で、主に男性に発症しますが、女性も保因者としてまれに症状が現れます。DMDの女性保因者のうち約2.5〜7.8%が、筋力低下などの症状を示すと報告されています。(文献12) 筋ジストロフィーの患者数については、日本全体の正確な統計はありませんが、有病率は人口10万人あたり約17~20人と推定されています。(文献1) 大人になってから発症した筋ジストロフィーは遺伝するのでしょうか? 成人期に発症する筋ジストロフィーの一部は遺伝性で、常染色体優性や劣性遺伝として家族内に症状が現れることがあります。とくに親に変異遺伝子があると子に約50%の確率で遺伝し、筋強直性ジストロフィーでは、世代を重ねるごとに症状が重くなる表現促進現象も知られています。 一方、家族歴がなくても突然変異によって発症する場合もあり、デュシェンヌ型では約4割が該当します(文献1)。将来の遺伝リスクを正しく理解するためにも、医療機関での遺伝子検査やカウンセリングの受診が推奨されます。 筋ジストロフィーの子どもは学校や進路にどんな影響がありますか? 筋ジストロフィーのあるお子さんは、病状の進行に応じて、通常学級、特別支援学級、または特別支援学校で学べます。通学や授業参加には、疲労への配慮や補助具・車いすの使用など、身体的な支援が必要になる場合があります。 進学や進路選択では、医療的ケアやサポートの必要性を踏まえ、学校や教育委員会と連携して無理のない環境を整えることが大切です。近年では大学や専門学校への進学、在宅就労や遠隔学習といった多様な進路が広がっており、早期からのキャリア教育や進路指導を通じて、お子さんの可能性を広げる支援が求められます。(文献13) 保護者としては、日々の体調管理や心の支えとなることに加え、教育や福祉制度を活用しながら、子どもの意思を尊重した支援を行うことが重要です。 子どもが筋ジストロフィーと診断されたときの心の向き合い方を教えてください 筋ジストロフィーと診断されたお子さんを支える上で、まずはご家族がご自身の感情を受け止めることが大切です。ショックや不安は自然な反応であり、無理に抑え込む必要はありません。 その上で、病気のタイプや進行について正しい情報を医師やカウンセラーから得ることで、今後の見通しが立てやすくなります。医療や福祉の支援、患者会なども積極的に活用し、孤立せず相談できる環境を持つことが大切です。 また、家族全体で協力し合い、お子さんの気持ちに寄り添いながら、前向きに日々を重ねていくことが、最も大きな支えになります。 筋ジストロフィーと診断された場合に利用できる障害者登録や支援制度はありますか? 筋ジストロフィーと診断された場合、身体障害者手帳の取得や障害年金の申請が可能です。 手帳は障害の程度に応じて等級が認定され、医療費助成や補装具支給などの福祉サービスが受けられます。障害年金は、症状の進行に応じて障害基礎年金または障害厚生年金の1級または2級に該当することが多く、生活支援の一助となります。 また、障害者総合支援法や小児慢性特定疾病医療費助成、特別児童扶養手当なども対象になる場合があります。申請には医師の診断書や病歴申立書が必要なため、早めに医療機関や自治体窓口に相談しましょう。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522(最終アクセス:2025年06月14日) (文献2) レジストリと連携した筋強直性ジストロフィーの自然歴およびバイオマーカー研究班「筋強直性ジストロフィーと診断された方へ」専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報 http://dmctg.jp/shindan.html(最終アクセス:2025年06月14日) (文献3) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「筋強直性ジストロフィー」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/dm/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカー型筋ジストロフィー」MSD マニュアル家庭版, 2024年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%8C%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%9E%8B%E7%AD%8B%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC(最終アクセス:2025年06月14日) (文献5) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班「デュシェンヌ型筋ジストロフィーとベッカーFSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」NMDPS 神経筋疾患ポータルサイト, https://nmdportal.ncnp.go.jp/information/fshd.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月14日) (文献6) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」班「病型と治療」MD Clincal Station https://mdcst.jp/md/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献7) 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センタ「対象疾病」小児慢性特定疾病情報センター, 2014年10月1日 https://www.shouman.jp/(最終アクセス:2025年06月14日) (文献8) 「筋ジストロフィー患者さまのためのストレッチ運動と体幹変形の予防について~関節拘縮と変形予防のための手引き~」『国立病院機構刀根山病院 理学療法 2008_9』, pp.1-17, 2008年 https://toneyama.hosp.go.jp/patient/forpatient/pdf/reha-05.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献9) 「4.リハビリテーション」, pp.1-11 https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/dmd_04.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献10) QLIFE「遺伝性疾患プラスデュシェンヌ型筋ジストロフィー、どの遺伝子変異でも使える新たな治療薬をFDAが承認」遺伝性疾患プラス, 2024年5月10日 https://genetics.qlife.jp/news/20240510-w043(最終アクセス:2025年06月14日) (文献11) 「筋強直性ジストロフィーの手⾡・麻酔に関する注意(一般・医療者向け)」, pp.1-4 https://plaza.umin.ac.jp/~DM-CTG/pdf/dmmasuic.pdf(最終アクセス:2025年06月14日) (文献12) Yu Na Cho.& Young-Chul Choi. (2013). Female Carriers of Duchenne Muscular Dystrophy https://www.e-kjgm.org/journal/view.html?uid=180&vmd=Full&utm_source=chatgpt.com&(最終アクセス:2025年06月14日) (文献13) 鈴木 理恵ほか.「Duchenne 型筋ジストロフィー患者の学校生活に関する保護者へのアンケート調査」『脳と発達 2018』, pp.1-8, 2018年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/50/5/50_342/_pdf(最終アクセス:2025年06月14日)
2025.06.29 -
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「健康診断で尿酸値8.0mg/dLという結果が出てしまった」 「尿酸値が高く、痛風の症状に悩んでいる」 健康診断で尿酸値が8.0mg/dL前後と判明し、不安を覚える方も多いでしょう。放置すれば痛風だけでなく、腎障害や高血圧などのリスクが高まります。高尿酸値は早期に原因を把握し、適切な対策をとることが重要です。 本記事では、現役医師が尿酸値と痛風の関係性について、以下の項目を解説します。 尿酸値の基準値|高いとされるライン 尿酸値8.0mg/dLは高い?痛風や受診の必要性をチェック 尿酸値が高い原因 痛風と高尿酸値の治療法 記事の最後に、尿酸値と痛風の関係性に関するよくある質問をまとめています。ぜひ最後までご覧ください。 尿酸値と痛風の関係性 項目 内容 尿酸とは 細胞の新陳代謝やエネルギー代謝で生じる老廃物。通常は尿などで体外へ排出される 高尿酸血症とは 血液中の尿酸濃度が7.0mg/dLを超える状態。自覚症状はほとんどないが、結晶化しやすくなる 痛風とは 関節に蓄積した尿酸結晶を免疫細胞が攻撃し、激しい炎症が起こる病気。発作のピークは24時間後 痛風発作のリスク 尿酸値は7.0mg/dL超でリスクが増え、8.0mg/dL以上で発作が多発し、9.0mg/dL以上で治療が必要 主な合併症 痛風結節、尿路結石、腎機能障害、動脈硬化など (文献1)(文献2) 尿酸は代謝で生じる老廃物で、通常は尿から排出されますが、7.0mg/dLを超えると結晶化して関節に蓄積し、高尿酸血症の原因となります。 尿酸結晶が関節に沈着し、それを白血球が攻撃することで炎症が生じ、痛風発作が生じます。とくに足の親指に多く、再発しやすいのが特徴です。尿酸値が8.0mg/dLを超えると発作リスクが高まり、9.0mg/dL以上で治療が検討されます。 痛風を放置すると結節や尿路結石、腎障害を招く恐れがあり、高尿酸血症は動脈硬化や心血管疾患の原因にもなるため、早期の対応が必要です。 尿酸値の基準値|高いとされるライン 性別 基準値(mg/dL) 主な理由 男性 7.0以下 7.0mg/dLを超えると結晶化しやすくなり、痛風や腎障害のリスクが高まるため、合併症がある場合は治療が検討される 女性 6.0以下 閉経前は尿酸値が上がりにくいが、閉経後は上昇しやすくなる 尿酸値の基準は男性で7.0mg/dL以下、女性で6.0mg/dL以下です。7.0mg/dLを超えると結晶化しやすく、痛風や腎障害のリスクが高まります。 男性は尿酸の排泄量が少ないため、尿酸値が上がりやすく、女性はエストロゲンの作用で排泄されやすいものの、閉経後はその効果が弱まりリスクが増します。 男性の基準値|7.0mg/dL以下 理由 解説 結晶化のリスク上昇 尿酸が水に溶けにくく、7.0mg/dLを超えると結晶化しやすくなる性質 痛風・腎障害の発症リスク 尿酸値上昇により、痛風や尿路結石、腎機能障害のリスクが増加 治療判断の基準値 合併症を有する場合、無症状でも7.0mg/dL以上で治療検討対象となる指標 尿酸値の性差 女性ホルモンによる排泄促進作用の差による男性の尿酸値の上昇傾向 (文献1) 男性の尿酸値は7.0mg/dL以下が基準で、これを超えると高尿酸血症とされ、痛風や腎障害のリスクが高まります。とくに30〜60代の男性は発症しやすいため注意が必要です。(文献3) 女性の基準値|6.0mg/dL以下 理由 解説 尿酸値の傾向差 女性は男性より尿酸値が低くなりやすい傾向 エストロゲンの作用 女性ホルモンによる尿酸排泄の促進作用 痛風リスクの性差 閉経前は痛風・高尿酸血症の発症率が男性より低い背景 閉経後のリスク上昇 エストロゲンの低下により尿酸の排泄が減り、尿酸値の上昇と関連リスクの増加を招く (文献1) 女性の尿酸値は6.0mg/dL以下が基準で、エストロゲンの作用により尿酸が排泄されやすく、閉経前はリスクが低めです。閉経後は尿酸値が上がりやすくなり、痛風のリスクも高まるため、基準を超えた場合は生活習慣の見直しや受診が必要です。 以下の記事では女性の尿酸値の基準値について詳しく解説しています。 尿酸値8.0mg/dLは高い?痛風や受診の必要性をチェック 項目 内容 尿酸値8.0mg/dLの評価 高尿酸血症該当、痛風発作リスク増大、尿酸塩結晶沈着の可能性 痛風発作のリスク 突然の激痛、腫れ・熱感、歩行困難、再発リスク 受診の必要性 痛風発作予防、合併症確認と予防、適切な治療法の検討 受診すべき診療科 内科、リウマチ科、腎臓内科 (文献1) 尿酸値が8.0mg/dLを超えると関節に結晶がたまりやすく、とくに足の親指に痛風発作を起こしやすくなります。放置すると腎臓病や尿路結石などの合併症を招くため、早期の受診と生活習慣の改善が重要です。 以下の記事では高い尿酸値がもたらすリスクについて詳しく解説しています。 尿酸値が高い原因 尿酸値が高い原因 主な理由 プリン体の過剰摂取 プリン体は体内で尿酸に分解され、食品やアルコールからの摂取量により尿酸値が上昇 尿酸の排泄低下(腎機能低下) 腎機能低下により尿酸の排泄が滞り、体内に蓄積しやすくなる 飲酒 アルコールが尿酸の生成を促進し、排泄も妨げる。とくにビールの影響が大きい 肥満・メタボリックシンドローム 脂肪組織やインスリン抵抗性による尿酸生成・排泄低下、過食との関連 ストレスや過度な運動 ATP分解や乳酸の排泄阻害など代謝バランスの乱れによる尿酸値上昇 遺伝的要因 代謝酵素や排泄タンパク質の遺伝的異常が尿酸値に影響、生活習慣と複合して発症 尿酸値の上昇には、食事や飲酒、腎機能、体質など複数の要因が関係しています。 プリン体の多い食品やアルコールの摂取、腎機能の低下、肥満、ストレス、遺伝的要因などが複雑に影響し、高尿酸血症や痛風のリスクを高めます。尿酸値を下げるには、日常生活を見直し、生活習慣を改善することが大切です。 プリン体の過剰摂取 理由 解説 プリン体の尿酸分解 プリン体摂取量増加による体内尿酸生成量の増加 食品ごとの含有量差 魚介・肉類などプリン体多い食品の過剰摂取による尿酸値上昇 アルコールの相乗効果 ビール・日本酒などプリン体含有飲料とアルコールの作用による尿酸値急上昇 (文献3)(文献4) 尿酸値が高くなる原因のひとつがプリン体の過剰摂取です。プリン体は細胞の核に含まれる物質で、分解されると尿酸になります。 プリン体の多い食品を摂りすぎると尿酸が増え、尿酸値が上がりやすくなります。とくにレバー、あん肝、イワシ、カツオ、肉類は注意が必要です。 また、ビールや日本酒などのアルコールはプリン体を含むうえ、アルコール自体も尿酸値を上げる作用があるため、併用によって尿酸値が急上昇するリスクが高まります。 尿酸の排泄低下(腎機能低下) 理由 内容 尿酸の7割は腎臓から排泄 腎機能が低下すると尿酸の排泄が滞り、体内に蓄積しやすくなる 腎機能低下と排泄能力の関連 慢性腎臓病などで尿酸排泄能力が低下し、高尿酸血症を合併しやすい 生活習慣病との関連性 高血圧・糖尿病・脂質異常症などが腎機能を悪化させ、尿酸排泄低下のリスクを高める (文献1)(文献5) 尿酸の約7割は腎臓から排出されますが、腎機能が低下すると排泄が滞り、尿酸が体内に蓄積しやすくなります。 慢性腎臓病や高血圧、糖尿病、脂質異常症は腎機能を悪化させ、尿酸値の上昇につながるため、腎機能の維持と生活習慣病の予防が重要です。 飲酒 理由 解説 アルコールが体内で尿酸生成を促進する アルコールの代謝によりATPが分解され、プリン体が生成されて尿酸に代謝される アルコールが尿酸の体外排泄を妨げる アルコール分解で乳酸生成。乳酸が腎臓での尿酸排泄を阻害 ビールや日本酒はプリン体も比較的多く含む 他のアルコール飲料よりプリン体含有量が多い傾向 アルコールは体内で分解される過程で尿酸の生成を促進し、さらに乳酸の生成によって腎臓からの尿酸排泄も妨げます。 日本人78,153人を対象にした聖路加国際病院の研究(2012〜2021年)では、アルコールの種類によって尿酸値への影響に差があることが示されています。ビール(500mL)は最も尿酸値を上げやすく、男性で+0.14mg/dL、女性で+0.23mg/dLと上昇しました。ワインや焼酎も中程度の影響がありましたが、日本酒は男女ともに上昇幅が小さく、明確な関連は見られませんでした。飲酒は尿酸値に影響しますが、その程度は種類や量によって異なります。(文献6) ただし、どのアルコールも過剰摂取すれば尿酸値を上昇させるため、高尿酸血症や痛風のリスクがある方は飲酒量の管理が重要です。 肥満・メタボリックシンドローム 要因 内容 脂肪組織からの尿酸生成促進物質分泌 内臓脂肪増加でアディポサイトカイン分泌、尿酸生成やインスリン抵抗性を高める 過食によるプリン体摂取・エネルギー過多 肉や魚介類の過剰摂取で尿酸生成増加、エネルギー過多が肥満とインスリン抵抗性を悪化させる メタボリックシンドロームの合併症 高血糖・高血圧・脂質異常症は尿酸の排泄低下や代謝異常を招き、尿酸値の上昇に関与 (文献7) 内臓脂肪が増えると尿酸の生成が促進され、インスリン抵抗性の影響で排泄も低下し、尿酸値が上がりやすくなります。 肉や魚介類の過剰摂取やエネルギー過多は尿酸値を上げる原因です。加えて、高血糖・高血圧・脂質異常症は尿酸値の上昇と密接に関係しています。 そのため、肥満・メタボリックシンドロームの改善には生活習慣の見直しが重要です。 以下の記事では、痛風治療と生活習慣の見直しについて詳しく解説しています。 ストレスや過度な運動 要因 尿酸値が上がる理由 ストレス 自律神経の乱れによる代謝変化で尿酸生成が増加。生活習慣の乱れも影響 過度な運動 ATP分解によるプリン体増加と乳酸生成による排泄阻害が尿酸値を上昇させる (文献4)(文献7) ストレスや過度な運動は尿酸値を一時的に上昇させます。ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、尿酸生成を促進するほか、生活習慣の乱れも影響します。 激しい運動ではプリン体代謝や乳酸の増加により、尿酸が生成されやすく排泄も妨げられるため、適度な運動とストレス管理が大切です。 遺伝的要因 理由・要因 内容 尿酸代謝に関わる遺伝子 酵素や輸送タンパク質の遺伝的異常で尿酸生成増加や排泄低下が起こりやすい 家族歴による発症リスク 両親や兄弟姉妹に痛風・高尿酸血症がいると発症リスクが高くなる 生活習慣との複合的影響 遺伝的体質に加え、食事・飲酒・肥満・ストレスなどの要因が重なると尿酸値上昇リスクが高まる 尿酸値の高さや痛風の発症には、遺伝的な体質が大きく影響します。尿酸の生成や排泄を調整する酵素やタンパク質の働きは遺伝子で決まっており、特定の遺伝子変異があると尿酸が身体にたまりやすくなります。家族に痛風や高尿酸血症の人がいる場合は、そうでない人より発症リスクが高くなる傾向です。 米国の大規模コホート研究のメタアナリシスでも、食事による尿酸値への影響はごくわずかで、ビールや肉類など尿酸値を上げる食品を多く摂っても変動幅は小さいとされています。一方、遺伝的要因は尿酸値の約23.9%(女性では40.3%)の変動を示し、食事よりもはるかに大きな影響を持つことが判明しています。(文献8) 家族歴がある方はとくに生活習慣の改善と定期的な健康診断が大切で発見が遅れないよう注意が必要です。 痛風と高尿酸値の治療法 治療法 概要 食事療法 尿酸の生成を抑え、排泄を促す食生活が重要。プリン体制限や水分摂取が基本です 薬物療法 尿酸値を下げるための薬剤を使用し、痛風発作や合併症の予防を図ります 運動療法・減量 適度な運動と減量により尿酸の排泄が促進され、内臓脂肪の減少が高尿酸血症の改善に寄与します 痛風や高尿酸値の治療には、主に食事療法、薬物療法、運動療法・減量の3つがあります。治療法を組み合わせることが、再発予防と症状の安定につながります。 食事療法 ポイント 内容 プリン体が多い食品を控える レバーや魚卵、干物、イワシ、カツオなどのプリン体が多い食品を控えることで、尿酸の生成を抑えられる 野菜・海藻・乳製品を積極的に摂る 野菜や海藻で尿をアルカリ化し排泄を促進、乳製品で尿酸値低下をサポート 水分をしっかり摂る(1日2L以上目安) 水やお茶を中心に十分な水分補給で尿量を増やし、尿酸の排泄を促進 ビール・日本酒などのお酒は控える アルコールは尿酸生成促進・排泄阻害、とくにビール・日本酒はプリン体も多いため控える 痛風や高尿酸血症の治療には食事療法が有効です。プリン体の多い食品やアルコールを控えることが大切です。野菜・海藻・乳製品の摂取や十分な水分補給は尿酸の排泄を促進します。ビールや日本酒は尿酸値を上げやすいため控えましょう。 以下の記事では、尿酸値と痛風の症状における食事療法について詳しく解説しています。 【関連記事】 尿酸値を下げる食べ物・飲み物【一覧表】プリン体の多い食品も解説 痛風の食事療法とは?食べてはいけないもの一覧やストレスをためない食生活改善のポイント 薬物療法 ポイント 内容 尿酸値を下げる 尿酸生成抑制薬・排泄促進薬で目標値(6.0mg/dL以下)までコントロール 痛風発作の頻度・再発を減らす 尿酸結晶の溶解により発作リスクを大幅減少 合併症リスクの低減 腎障害・尿路結石・動脈硬化などの予防に有効 主な薬剤の種類 尿酸生成抑制薬(アロプリノール等)、尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン等)、分解酵素製剤 (文献4)(文献9)(文献10) 薬物療法は、高尿酸血症や痛風、腎臓病などの合併症リスクがある場合に有効で、必要不可欠な治療手段です。 薬物療法では、尿酸の生成を抑える薬剤や排泄を促す薬剤を用いて、尿酸値を通常6.0mg/dL以下に下げることを目指します。(文献10) 高尿酸血症は多くの合併症を招くため、薬剤による尿酸値の管理が不可欠です。治療は医師の指示に従い実施しましょう。 運動療法・減量 運動療法や減量は痛風や高尿酸血症の予防・改善に有効で、とくに肥満の解消は尿酸の排泄を促し、尿酸値の低下につながります。また、体重を1〜5%減らすだけでも尿酸値の低下が期待できます。(文献1) ウォーキングなどの有酸素運動は代謝を整え、尿酸の排泄を促進しますが、激しい運動は逆効果になることもあるため注意が必要です。 以下の記事では、尿酸値と運動の関係性について詳しく解説しております。 痛風や高尿酸値は放置せず早めに医療機関へ 痛風や高尿酸値は放置すると重症化し、他の症状との併発を招く可能性があります。尿酸値8.0mg/dLは非常に高い数値であり、医療機関での受診と医師の指導が必要な状態です。 また、高尿酸血症は自覚症状がないまま進行するため気づきにくいですが、腎臓へのダメージ(痛風による腎障害)や尿路結石、さらには高血圧・糖尿病・動脈硬化などの生活習慣病とも深く関係しており、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める要因となります。 痛風や高尿酸値でお悩みの方は、重症化する前にぜひ当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、痛風や高尿酸値の改善を目指し、生活習慣の見直しや食事・運動に関する丁寧な指導を行っております。 気になる症状があれば早めにご相談ください。リペアセルクリニックでは、患者様一人ひとりのお話にしっかり耳を傾け、不安や症状に寄り添いながらアドバイスをご提供します。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 尿酸値と痛風に関するよくある質問 尿酸値が高いと必ず痛風になりますか? 尿酸値が高くても必ず痛風になるわけではありませんが、放置すると痛風や腎機能障害のリスクが高まります。 さらに、高尿酸血症は動脈硬化や高血圧、糖尿病などの生活習慣病とも関係があり、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。症状がなくても尿酸値が高めなら、早めに生活習慣を見直し、医師に相談するようにしましょう。 尿酸値は下がっても再び上がることはありますか? 尿酸値は一度下がっても、生活習慣が乱れると再び上がることがあります。たとえば、食事内容の悪化、飲酒量の増加、運動不足、体重増加などが続くと、尿酸値は再上昇しやすくなります。 また、急激なダイエットや過度な無酸素運動も尿酸値を上げる原因となるため注意が必要です。尿酸値を安定して管理するには、食事療法・適度な運動・十分な水分摂取など、日々の生活習慣の継続的な改善が欠かせません。 尿酸値が高いと痛風以外にも病気のリスクはありますか? 尿酸値が高いと、痛風だけでなく腎臓病や尿路結石、心血管疾患、糖尿病など多くの病気のリスクが高まります。 尿酸が腎臓に沈着すると腎機能が低下し、慢性腎臓病や腎不全につながることがあります。尿中の尿酸が結晶化すれば尿路結石を起こし、違和感や排尿障害を引き起こします。 さらに、高尿酸血症は動脈硬化や高血圧、脳卒中、心筋梗塞のリスクを高め、糖尿病や脂質異常症とも関連しています。症状がなくても、尿酸値は早めに管理することが大切です。 参考資料 (文献1) 久留一郎ほか.「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版[2022 年追補版]」『診断と治療社』 pp.1-90, 2019年 https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00476_supplementary.pdf(最終アクセス:2025年06月09日) (文献2) 日本生活習慣病予防協会「高尿酸血症/痛風」日本生活習慣病予防協会 https://seikatsusyukanbyo.com/guide/hyperuricemia.php(最終アクセス:2025年06月09日) (文献3) 公益財団法人 痛風・尿酸財団「健康と病気における尿酸の意義 血清尿酸値の正常値は?」公益財団法人 痛風・尿酸財団 https://www.tufu.or.jp/gout/gout2/61(最終アクセス:2025年06月09日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「痛風」MSD マニュアル家庭版, 2022年 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8-%E9%96%A2%E7%AF%80-%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%97%9B%E9%A2%A8%E3%81%A8%E3%83%94%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%82%8E/%E7%97%9B%E9%A2%A8(最終アクセス:2025年06月09日) (文献5) 市田公美.「遺伝性低尿酸血症」『特集:尿細管疾患の臨床』, pp.1-4, 2011年 https://jsn.or.jp/journal/document/53_2/142-145.pdf(最終アクセス:2025年06月09日) (文献6) Sho Fukui, et al..(2023) Differences in the Association Between Alcoholic Beverage Type and Serum Urate Levels Using Standardized Ethanol Content. JAMA Network Home, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36930152/(最終アクセス:2023年3月17日) (文献7) 山中 寿.「グイッと一杯! でも…」『健康ぷらざ』1030(号), pp.1-1, 2004年 https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/177.pdf(最終アクセス:2025年06月09日) (文献8) Tanya J Major,et al. (2018). CCBYNC Open access Research Evaluation of the diet wide contribution to serum urate levels: meta-analysis of population based cohorts. thebmj, https://www.bmj.com/content/363/bmj.k3951(最終アクセス:2025年06月09日) (文献9) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「痛風の治療に用いられる薬剤」MSD マニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/multimedia/table/%E7%97%9B%E9%A2%A8%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AB%E7%94%A8%E3%81%84%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E8%96%AC%E5%89%A4(最終アクセス:2025年06月09日) (文献10) 大山 博司ほか.「混合型病型に対する尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の少量併用療法」,pp.1-8,2023年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnamtsunyo/47/1/47_35/_pdf(最終アクセス:2025年06月09日)
2025.06.29 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
「熱中症になりやすい人は、どのような体質か」と疑問に思う方もいるでしょう。熱中症になりやすいのは、子どもや高齢者、持病がある方など、体温調整がうまく働きにくい体質や状態にある方たちです。 本記事では、熱中症になりやすい人の特徴や体質に加えて、具体的な予防・対策について解説します。熱中症になりにくい人の共通点や、よくある質問にも回答しているので、ぜひ参考にしてください。 熱中症になりやすい人の特徴 熱中症になりやすい人は、子どもや高齢者、肥満体質の方などです。ここでは、それぞれの特徴を解説するので、参考にしてください。 子ども 子どもは大人より、熱中症になりやすい傾向があります。基礎代謝が高く、体温が上がりやすい体質に加えて、発汗量を調整する汗腺がまだ未発達のため、体内に熱がこもりやすくなっています。 たとえば、夏の公園や校庭などで夢中になって遊んでいると、暑さや体温の変化に気づかず、突然ぐったりしてしまうケースも少なくありません。 また、照り返しによって地面に近いほど気温が高くなるため、外出時はベビーカーに載っている乳幼児にも注意が必要です。 このように、子どもは大人よりも体温調節が苦手なため、夏場や暑い環境ではとくに、熱中症リスクが高まります。 高齢者 高齢者は、熱中症になりやすい人の代表的な例です。加齢に伴い、発汗などの体温調整機能や体内の水分量が低下するためです。水分不足だと、汗をかく量が低下し、余分な体の熱が放出されにくくなります。また、暑さや喉の渇きを感じにくくなることも熱中症のリスクを高める要因です。 室内にいてもクーラーを付けずに過ごしていたり、喉が渇いていないと感じて水分を摂らなかったりする場合があります。こうした状態が続くと、気付かないうちに熱中症になっているケースもあります。 一人暮らしで体調の変化を周囲に伝えにくい場合は、対処が遅れて重症化する恐れもあるため注意が必要です。 肥満の人 肥満体型の方も熱中症になりやすい傾向にあります。皮下脂肪を多いため体内の熱を外へ逃がしにくく、体重が重い分、体を動かす際に多くのエネルギーを消費して熱として溜まりやすくなります。 くわえて、体温を下げるために大量の汗をかくことで、水分不足を起こしやすくなる点も一因です。 たとえば、暑い日に外を歩いているだけでも、体内に熱がこもりやすく、汗の量が増えて脱水症状に陥る可能性もあります。 暑い日は、通気性の良い服装を選んだり、日傘、帽子を使ったりして、体に熱がこもらないように工夫しましょう。 持病がある人 高血圧や糖尿病、腎不全などの持病は、熱中症リスクを高める要因の一つとされています。これらの疾患は、体温調整機能の乱れを起こしやすいリスクがあるためです。さらに、服用している薬によっては、発汗の抑制や利尿作用によって水分が失いやすくなり、熱中症リスクを高めます。 血圧の薬や利尿剤を服用している人は、汗が出にくくなったり、水分が過度に排出されたりして脱水症状を起こすケースもあります。 複数の薬を服用している高齢者の方はとくに注意が必要です。 運動不足や体調不良の人 運動習慣がないと、熱中症になりやすい傾向があります。運動不足によって筋肉量が減ると、心臓に血液を送る働きが低下し、熱が体に溜まりやすくなるためです。 日ごろあまり体を動かしていない人が暑い日に少し外出しただけで、ふらつきや軽い熱中症の症状を起こすケースも少なくありません。 また、寝不足や疲労が蓄積しているときも、熱中症になる可能性が高まります。体調が万全でないと、体温調整機能がいつも通り働かなくなるためです。 たとえば、二日酔いや下痢などで体内の水分が減っている場合には、脱水症状を引き起こしやすくなります。 熱中症になるリスクを下げるためには、運動習慣をつくり体調管理を意識することが大切です。 熱中症の主な原因とリスクを高める要因 熱中症の主な原因とリスクを高める要因には、そのときの環境や作業状況などが関わってきます。以下で、それぞれ見ていきましょう。 環境の要因 熱中症の原因となるのは、環境が大きく関わります。高温多湿や輻射熱、無風といった条件下での作業は体に熱がこもりやすく、発症リスクが高まります。 窓を閉め切った室内でエアコンを使わずに掃除や片づけなどの家事をしていたところ、気付かないうちに体が熱をため込み、めまいや吐き気を感じるケースも少なくありません。 熱中症は気温や湿度だけでなく、風通しの悪さや室内の状況などによっても引き起こされます。暑さを感じにくい場所でも油断をせず、室温や湿度を確認しながら、温度調整や休憩を取り入れることが大切です。 作業時の要因 長時間の屋外での作業や体力的に負担の大きい業務も熱中症リスクを高める要因です。休憩を十分にとれなかったり、水分補給ができない状態が続いたりすると体内に熱が溜まりやすくなります。 さらに、通気性の悪い制服や防護服の着用も注意が必要です。送風機能のある作業着や通気性の良い素材の服を着用するようにしましょう。 個人の要因 個人の体調や体質も、熱中症リスクを高める要因の一つです。屋外作業に慣れておらず、暑熱順化(体が暑さに慣れること)ができていなかったり、二日酔いで水分が不足していたりと原因はさまざまです。 発熱や風邪などの症状があるときは、もともと体温が上がっているため、気温の変化を受けやすくなります。 少しでも体調に違和感を覚えたら、こまめに水分補給をし、無理せず休憩をとることが重要です。 熱中症になりやすい人が講じるべき対策と予防 熱中症になりやすい人は、普段から暑さに負けない体づくりや工夫が求められます。ここでは、講じるべき対策と予防について解説するので、熱中症になりやすい人は、参考にしてください。 暑さに負けない体づくりをする 熱中症を予防するには、暑さに負けない体づくりが欠かせません。適度な運動やバランスのとれた食事、十分な睡眠など、日ごろの体調管理を意識すると、熱中症になりにくい体づくりにつながります。 また、喉が渇いていなくてもこまめに水分補給をしましょう。冷房や扇風機を上手に使い、寝苦しい夜も睡眠環境を整えると、夜間の熱中症予防にもつながります。さらに、質の良い睡眠は体力の回復を促すため、予防にも効果的です。 暑くなる前から無理のない範囲でウォーキングやストレッチなどの軽い運動を取り入れると、体力の維持や暑さへの順応にも効果が期待できます。 暑さに対する工夫をする 暮らしのなかに取り入れられる小さな工夫でも、暑さ対策としては有効です。適度な空調で室温を保ったり、衣服の素材を工夫したりすると熱中症リスクを軽減できます。 麻や綿といった通気性の良い服を選んだり、吸水性や速乾性に優れたインナーを身に付けたりすると汗をかいても快適に過ごせるのでおすすめです。また、外を歩くときはなるべく日傘や帽子を活用し、日陰を歩くようにしましょう。冷却グッズを取り入れるのも、暑さ対策として効果的です。 日々の小さな心がけが、熱中症予防につながります。 こまめな休憩と水分補給をする こまめな休憩と水分補給は熱中症対策には不可欠です。炎天下での屋外作業や高温多湿な環境では、体温が上昇しやすく、大量の汗をかくと体内の水分や塩分が失われやすくなります。 また、暑さが厳しい日は、テレビや天気予報のWebサイトで公開されている「熱中症警戒アラート」や「暑さ指数(WBGT)」も参考にして、活動時間やタイミングを工夫すると効果的です。 こまめに休憩をとり、定期的に水分と塩分を補給しましょう。 熱中症になりにくい人の特徴 熱中症になりにくい人には、日ごろの生活習慣や体の状態に共通点があります。主な特徴は以下のとおりです。 朝食をしっかり摂っている 睡眠時間が安定している 適度な運動を続けていて筋肉量がある 朝ごはんを食べないと、一日のエネルギーが不足し、体温調整機能がうまく働きません。朝食をしっかり摂ると、体内時計が整い外部の環境に順応しやすくなります。 また、睡眠時間が安定している人は、自律神経が整いやすく外気温の変化に適切に反応できます。さらに、筋肉量が多い人は体内の水分保有量が多く、発汗による脱水のリスクが低いため、熱中症を防ぎやすいでしょう。 食事では、夏野菜や果物、豚肉などを取り入れて汗で失われやすい栄養素を補うことも大切です。 熱中症になりやすい人はリスクを把握して備えよう 熱中症になりやすい人は、あらかじめリスクを把握しておきましょう。炎天下での長時間作業や締め切った部屋での家事などは、とくに注意が必要です。また、高血圧や糖尿病などの持病がある方も、体温調整が難しくなるためリスクが高まります。 日ごろから体調管理や適度な運動を心掛け、こまめに水分補給をとり、熱中症になりにくい体づくりを心掛けましょう。 【関連記事】 熱中症で脳梗塞のリスクが高まる?症状の見分け方と予防のポイント5選 熱中症の主な後遺症一覧|原因や治療方法を現役医師が解説 熱中症と「なりやすい」に関するよくある質問 女性は熱中症になりやすいですか? 女性は男性と比べて、熱中症になりやすい傾向があります。理由としては、水分を貯める役割を担う筋肉量が男性よりも少ないためです。 また、月経時には出血とともに水分も失われやすくなります。さらに、更年期による女性ホルモンの変化も一因です。自律神経が乱れやすくなり、体温調整機能がうまく働かず、熱中症のリスクが高まります。 一度熱中症を経験するとなりやすいのはなぜですか? 熱中症は一度経験したからといって、繰り返しなりやすくなるものではありません。しかし、「熱中症になりやすい」と感じている場合は、筋肉量の低下や暑熱順化ができていない可能性があります。 熱中症を防ぐためには、あらかじめ暑さに慣れておくことが大切です。とくに、冷房の効いた室内でデスクワークをしている方は注意してください。無理のない範囲でウォーキングを取り入れたり、一駅分歩いてみたりと、日常のなかで暑さに慣れる工夫をしてみましょう。 熱中症になりやすい時期はいつですか? 熱中症になりやすいのは、7月~8月の気温が高くなる時期です。とくに、真夏日(最高気温が30度以上)に患者数が増え始め、猛暑日(最高気温が35度以上)には急増する傾向があります。 また、梅雨の晴れ間や梅雨明けの蒸し暑い日にも注意が必要です。体が暑さに慣れていない時期は、気温や湿度の変化に対応しづらく、熱中症リスクが高まります。
2025.06.29 -
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「頭がズキズキするけれど、体調不良から起こる頭痛か熱中症のサインかわからない」 「少し休んでも痛みが改善されない」 熱中症が引き起こす頭痛は、疲れや寝不足などと混同されやすいため、受診のタイミングに迷う方もいるでしょう。単なる疲れと見逃されがちですが、放置すると重症化する危険があります。 本記事では、熱中症と頭痛の関係や見分け方を詳しく解説します。すぐに実践できる対処法や、日頃から心掛けたい予防策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。 【重症度別】頭痛症状はどこに当てはまる?熱中症との関係性 熱中症による頭痛は、中等度の症状に該当し、ほかにも吐き気や嘔吐・倦怠感(けんたいかん)などが挙げられます。 熱中症とは日射病や熱射病の総称で、気温が高い環境で運動や仕事などを行った際に体温調節がうまくできなくなり起こる病気です。とくに、成長途中の子どもや、身体機能が低下しやすい高齢者は注意が必要です。 熱中症は、軽度から重度まで複数の症状がみられます。重症度別に症状を解説するので、参考にしてください。 また、熱中症の影響を受けやすいのは、どのような人か知りたい方はこちらの記事もチェックしてください。 軽度 軽度の熱中症は、発汗により体内の水分や塩分などの電解質が失われ始める段階で、主な症状は以下のとおりです。 めまい・立ちくらみ こむら返り 筋肉痛 大量の発汗 体内の水分が失われると血液量が減少し脳へ送られる血液の流れが不安定になるため、急に立ち上がった際にめまいや立ちくらみ(熱失神)を起こす場合があります。 熱中症では、汗とともに失われるのは水分だけでなく、筋肉の正常な収縮に不可欠なナトリウムなどの塩分も含まれます。塩分が欠乏すると、ふくらはぎや足の指、腹部などに痛みを伴うけいれんを指すこむら返り(熱けいれん)が起こるケースも珍しくありません。 軽度の熱中症で「頭痛」が主症状となるのは稀です。ただし、ズキズキと脈打つような激しい痛みではなく、脱水による血流の変化からくる「頭が重い感じ(頭重感)」を訴える場合もあります。 中等度 中等度の熱中症は「熱疲労」ともいわれ、頭痛に加えて以下の全身症状が現れます。 頭痛 気分の不快 吐き気・嘔吐 倦怠感 虚脱感 熱中症による頭痛は、体温の上昇に対処しようと脳の血管が過度に拡張するのが主な原因です。拡張した血管に心臓が血液を送り込むたびにズキズキと脈打つような拍動性の痛みを感じます また、体が熱を逃せるよう消化器系への血流を抑えるため胃腸の働きが低下し、強い吐き気や嘔吐を引き起こすケースも珍しくありません。体はエネルギーを使い果たし、立っていられないほどの倦怠感や虚脱感に襲われます。 集中力や判断力も著しく低下するため、自分自身で的確に対処するのが困難になり始めるのも中等度の特徴です。 中等度の熱中症は、意識がはっきりしていても臓器障害を起こしている場合があります。重症化すると命の危険につながるため、自己判断で様子を見ないよう注意してください。 重度 重度の熱中症は「熱射病」と呼ばれ、体温が上がりすぎたために以下の症状が現れます。 高体温 けいれん 意識障害 手足の運動障害 重度では体温調節を司る中枢機能が失われ、体温が40度を超えると発汗しなくなり体表に激しい熱感が残るのが特徴です。 重度の熱中症では高体温により、熱に弱い神経細胞が直接的なダメージを受けます。その結果、全身のけいれんや昏睡状態を引き起こす場合があります。 重度では頭痛を訴えていた中等度の段階とは異なり、痛みを感じたり、伝えたりする行動自体ができないほど、中枢神経系が深刻な影響を受けているといえます。 熱中症で起こる頭痛の特徴 熱中症が引き起こす頭痛には、日常的な片頭痛や風邪などの頭痛とは性質が異なり、以下の特徴があります。 拍動性の痛みを感じる 倦怠感・吐き気・嘔吐などを伴う なかでも特徴的なのは、心臓の拍動に合わせてズキズキと脈打つ拍動性の痛みです。頭全体が締め付けられるように感じたり、ガンガンと響くような重い痛みを伴ったりする場合も少なくありません。 頭痛だけが単独で現れるのは珍しく、倦怠感・吐き気・嘔吐など、全身状態の悪化を示す症状が伴う点も大きな特徴です。 上記の特徴が見られた際は、熱中症を疑い速やかな対応が求められます。 熱中症による頭痛の見分け方 熱中症による頭痛か否かを見分けるには、以下の状況と身体の変化を確認することが重要です。 状況 全身症状 ・高温多湿の場所に長時間いた ・激しい運動や屋外作業をしていた ・水分が十分に足りていなかった ・体温上昇や発汗の異常、脱水症状がみられる ・めまいや吐き気、倦怠感が伴う ・涼しい場所での安静や水分補給で症状が改善する 炎天下や蒸し暑い屋内で活動したあとに頭痛が出現した場合、まずは熱中症を疑います。 熱中症による頭痛は、ズキズキとした拍動性の痛みとして現れる場合が多く、体温が上昇して異常な発汗がみられる、全身に脱水の兆候が同時にみられます。また、めまいや吐き気・強い疲労感を伴うケースも多いため、全身症状の条件がそろえば熱中症が引き起こされる可能性が高まるでしょう。 涼しい場所で休み、水分とともに塩分などの電解質を補給して症状が和らぐようであれば、熱中症が原因であると考えられます。 ただし、重度では安静や補水でも改善しないケースがあるため、症状が徐々に悪化していく場合や症状が改善しない場合は、迷わず医療機関を受診してください。 熱中症の症状で頭痛が起きた際の対処法3選 熱中症による頭痛が発症した場合、迅速かつ的確な対応が症状の悪化を防ぐ鍵となります。ここでは、頭痛が起きた際の具体的な対処法を紹介します。 自己判断で放置してしまうと重症化する危険もあるため、理解を深めておきましょう。 涼しい場所へ移動する まずは、体温を上げる環境から離れるのが最優先です。屋外にいる場合は、直射日光を避けられる日陰や、可能であれば冷房が効いた室内や車内へ速やかに避難してください。 室内で発症した場合でも、窓を閉め切った暑い部屋から、風通しの良い涼しい部屋へ移動します。 自力で移動できる場合でも、めまいや立ちくらみ、一時的な失神によるふらつき・転倒を起こす可能性があるため、注意してゆっくり移動しましょう。自力で移動できない場合、周囲に人がいるなら協力を仰ぎ、迅速に安全な場所へ避難するのが大切です。 体を冷やす 涼しい場所へ移動したら、次は積極的に体を冷やす処置を行います。 ベルトやネクタイ、体に密着する衣服を緩めて、風通しを良くしてください。濡らしたタオルやハンカチを体に当てて、うちわや扇子などであおぎ、体温を下げます。 冷やす際は保冷剤や氷のう・冷えたペットボトルなどにハンカチを巻き、以下の部位に当てましょう。 首筋 わきの下 足の付け根 上記のような太い血管が皮膚の近くを通っている場所を冷やすと、効率的に全身の血液を冷やせて効果的です。 水分・塩分を補給する 脱水と電解質の不足が熱中症を引き起こすため、水分とともに塩分などの電解質の補給が欠かせません。 スポーツドリンクや経口補水液が望ましいですが、無ければ水でも良いのでゆっくり飲みます。一度に大量の水分を摂ると胃腸に負担がかかるため、こまめに少しずつ摂取すると良いでしょう。 ただし、吐き気や嘔吐を伴う場合は、無理に飲まないでください。また、意識がはっきりしない人に無理矢理飲ませると、誤って気道に水分が流れ込む可能性があるため、注意が必要です。 熱中症による頭痛症状が現れた際の受診目安 熱中症によって頭痛症状が引き起こされた際の受診目安は、以下のとおりです。 応急処置をしても改善がみられない 自力で水分を摂れない 嘔吐を繰り返している 意識障害がある 頭痛が軽度であり水分補給や休息によって速やかに軽快するなら、自宅で経過をみても問題ありません。 ただし、涼しい場所へ移動し十分に水分・塩分を補給しても改善がみられない場合や、症状が悪化する際は医療機関の受診が必要です。とくに、水分を自力で摂取できない、嘔吐を繰り返してしまう場合は、点滴での水分・電解質の補給が必要になる可能性があります。 呼びかけへの反応がおかしい、ろれつが回らない、けいれんを起こすなどの意識障害の兆候が見られる際は、救急車の要請を検討してください。 熱中症によって頭痛が生じた際、自己判断で様子を見るだけでは危険な場合もあるため、注意しましょう。 受診するかお悩みの際は、ぜひご相談ください。 熱中症による頭痛の予防法 熱中症による頭痛の予防法は、以下のとおりです。 高温多湿の環境では無理せずこまめに休憩する 服装に注意する こまめに水分・塩分を補給する 高温多湿の環境では無理な運動や長時間の外出を避け、適切に休憩を取り入れるのが基本です。睡眠不足や風邪など、体調が優れない場合は気温が高くなる日中の外出は控えましょう。 また、日差しを直接浴びないよう帽子や日傘を活用し、通気性の良い淡い色の服装を心がけると体温の上昇を抑えられます。 熱中症予防には、こまめな水分・塩分補給も欠かせません。喉の渇きを感じる前から水分や電解質を補うと、脱水を未然に防げます。とくに、大量の発汗が予想される場合には、スポーツドリンクや経口補水液の利用が効果的です。 ほかにも、十分な睡眠と食事を取って体調を整え、暑さに耐えられる体づくりも大切です。自分の体調や周囲の気温変化に注意を払い、早めの予防行動を意識できると、頭痛を含む熱中症の発症を大きく減らせます。 熱中症による長引く頭痛は当院へご相談ください 熱中症が引き起こす頭痛は中等度の症状であり、ズキズキとした拍動性の痛みや倦怠感・吐き気などを伴うのが特徴です。 熱中症による頭痛が疑われる場合は、涼しい場へ移動し体を冷やして適切な水分・塩分の補給が対処法の基本です。 ただし、対処法を行っても症状が改善しない場合は、重症化している可能性があります。また、症状が続く際は後遺症も考えられるため、自己判断で経過をみるのではなく、当院にご相談ください。 熱中症は稀に後遺症を残すケースがあります。後遺症については、こちらの記事で詳しく紹介しているので、参考にしてください。 熱中症と頭痛に関するよくある質問 熱中症で夜になってから頭痛を起こすことはある? 熱中症による頭痛は、日中の高温環境で受けたダメージが蓄積され、時間をおいて症状として現れるケースがあるのも事実です。 とくに、日中の屋外活動後、体温が高い状態で水分補給が不十分だった場合、夕方から夜にかけて頭痛や倦怠感が出るケースは珍しくありません。 軽度の熱中症でも、体が脱水状態に傾くと遅れて頭痛を起こす場合があるため、夜間でも症状が強ければ油断せず、水分・塩分の補給や体を冷やし、必要に応じて医療機関を受診しましょう。 熱中症で頭痛薬を飲んでしまった場合の対処法は? 既に頭痛薬を飲んでしまった場合は、体調変化に注意しつつ熱中症への基本的な対処を行ってください。 熱中症による頭痛に対して、自己判断で頭痛薬を飲むのは推奨されません。薬で頭痛を抑えても、原因である脱水や高体温は改善されず、かえって症状の悪化に気づきにくくなる危険があるためです。 また、一部の解熱鎮痛薬は、脱水状態の腎臓に負担をかける可能性もあります。熱中症に対する対処法を実施したあとも症状が改善しない場合は、医療機関を受診し、どの薬を飲んだか必ず医師へ伝えましょう。
2025.06.29 -
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「熱中症に後遺症はあるのか」「熱中症の後遺症にはどのような症状があるのか」 上記のように、熱中症の後遺症について気になっている方もいるでしょう。熱中症は、回復後に後遺症を起こす可能性があり、なかには重篤な症状を引き起こすケースも存在します。 本記事では、熱中症の後遺症を詳しく解説していきます。後遺症が起こる原因や防ぐポイントも紹介しているので、熱中症後の体調不良に悩んでいたり、気になっていたりする方はぜひご覧ください。 熱中症の主な後遺症一覧 熱中症は、重症化すると命に関わるだけでなく、回復後に後遺症を起こす可能性があります。熱中症の主な後遺症は、以下があげられます。 頭痛 食欲不振や倦怠感 めまい 臓器の障害 高次脳機能障害 日常生活に影響を及ぼす症状はもちろん、重篤な症状を引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。熱中症の後遺症について詳しく見ていきましょう。 頭痛 熱中症から回復した後も、慢性的な頭痛に悩まされるケースがあります。頭痛を起こす原因としては、熱中症によって脳の血管が一時的に収縮したり、脱水による影響が残ったりがあげられます。 とくに、頭痛が長く続いたり、頻繁に発生したりする場合は、単なる体調不良と片付けてしまうケースも少なくありません。熱中症の後に、日常生活に支障をきたすほどの頭痛が生じる場合は、医療機関を受診し、医師から診断と治療を受けましょう。 食欲不振や倦怠感 熱中症の後遺症として、食欲不振や強い倦怠感もあげられます。熱中症によって体内の水分や電解質のバランスが崩れ、自律神経に影響が出るためです。 食欲がない状態が続くと、栄養不足に陥り、さらに倦怠感が悪化する悪循環に陥るケースもあります。熱中症後に、食欲不振や倦怠感が生じる際は、無理せず消化の良いものを摂取し、十分な休息をとりましょう。症状が長引く場合は、医療機関で相談してください。 めまい 熱中症の症状の1つであるめまいが、回復後も後遺症として続くケースがあります。熱中症による脱水や脳への血流不足が原因で、三半規管や脳の機能に一時的な障害が残る可能性があるためです。 立ちくらみやフワフワとした浮遊感が続くものまで、症状はさまざまです。めまいが続く場合は転倒のリスクも高まるため、回復しない際は医療機関の受診を検討しましょう。 臓器の障害 重度の熱中症の場合、体温が異常に上昇すると、肝臓や腎臓などの臓器にダメージが及ぶ可能性があります。たとえば、腎臓機能が低下して急性腎不全になったり、肝臓の細胞が破壊されたりするケースもあります。 臓器障害は、熱中症からの回復後も持続的な影響を及ぼす可能性があり、定期的な検査や治療が必要になるケースもあるでしょう。永久的な機能障害が残るリスクもあるため、重症熱中症の既往がある方は、医療機関での定期的な検査が必要です。 高次脳機能障害 熱中症で重篤な後遺症の1つが、高次脳機能障害です。熱中症により、脳へ血流が行き届かなくなることが原因です。精神状態の変化や神経過敏、けいれん発作などの中枢神経障害による症状が起こります。 高次脳機能障害も臓器の障害と同様、早い段階で処置を受けないと、永久的にダメージが残るリスクがあるため、注意が必要です。 熱中症の後遺症が起こる原因 熱中症は、体温が異常に上昇すると脳がダメージを受け、後遺症を起こします。高温状態が数分続くだけで神経細胞にダメージが生じ、長時間にわたると回復困難な後遺症が残ってしまうのです。 ここでは、熱中症の後遺症が起こる原因を3つ解説していきます。 ホルモンが過剰に生成される 熱中症により体温が異常に上昇すると、体は生命維持のために防御反応を起こします。防御反応を起こす際、「サイトカイン」と呼ばれる生理活性物質が過剰に生成されます。サイトカインは、炎症反応を調整する重要な役割を持つタンパク質です。 通常サイトカインは体を保つ上で重要な役割を持っていますが、過剰に生成されるとバランスが崩れ、さまざまな不調を引き起こす原因となります。サイトカインによって炎症が悪化し、脳や臓器などにも異常をきたします。 血栓が生じる 重度の熱中症で体温が上昇すると、体内で血栓(けっせん)ができやすくなるリスクが高まります。体温が約42℃を超えると、卵の白身が加熱によって固まるように、血液や細胞を構成するタンパク質も性質が変化し、固まりやすくなります。 結果、血液中のタンパク質が凝固しやすくなり、血栓を形成する原因となります。 また、大量の発汗による水分不足で血液がドロドロになるのも血栓が生じる原因です。血液がドロドロになり血流が悪化すると、血小板が集まりやすくなって血栓が形成され、結果として脳に影響を及ぼします。 血栓が血管に詰まると、脳に血液が届かない「脳梗塞」を引き起こします。 動脈硬化を起こす 熱中症によって体が暑さにさらされると、血管内皮細胞がダメージを受けます。その結果、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞を引き起こす可能性が高まります。動脈硬化を起こすと、血管内の壁が厚くなるため血液の通り道が狭くなり、脳に十分な酸素が行き渡らなくなることで、脳梗塞を引き起こすのです。 動脈硬化から脳梗塞を発症すると、脳の一部が損傷するため、後遺症の1つである高次脳機能障害を引き起こす原因になります。 熱中症の後遺症における治療方法 熱中症の後遺症に対する治療は、症状の程度によってアプローチが異なります。めまいや倦怠感など比較的軽度な症状の場合、十分な休息と水分・塩分補給が基本となります。経口補水液などで体内の電解質バランスを整えることが大切です。必要に応じて、頭痛や吐き気などの症状を和らげるため、投薬治療が行われるケースもあります。 一方、脳機能への影響など重度な後遺症に関しては、現時点では根本的な治療法は確立されていません。ただし、症状の改善や機能回復を目指すため、継続的なリハビリテーションは可能です。理学療法や認知機能訓練など、専門家によるアプローチを通じて、失われた機能の回復を目指します。 また、近年では再生療法による後遺症の治療も提供されています。リペアセルクリニックでも再生療法を提供しているため、気になる方はぜひご相談ください。 いずれのケースでも、症状が長引く場合は自己判断せず、速やかに医療機関を受診し、専門医の診断のもと適切な治療を開始するのが重要です。 熱中症の後遺症を防ぐポイント 熱中症の後遺症は、長期にわたり生活に影響を及ぼす可能性があります。後遺症を起こさないためには、熱中症を予防するのが大切です。もし熱中症になったとしても、重症化を阻止すれば、重篤な後遺症のリスクを軽減できます。 ここでは、熱中症の後遺症を防ぐポイントを2つ紹介します。 熱中症を予防する 熱中症の後遺症を根本的に防ぐためには、熱中症そのものにならないことが大切です。具体的には、以下の予防策があげられます こまめな水分・塩分補給をする 暑さを避ける 吸収性や速乾性に優れた衣服を着用する 気温が高い時期は、のどが渇いていなくても定期的に水分を摂りましょう。とくに汗をたくさんかくときは、スポーツドリンクや経口補水液などで塩分やミネラルも補給するのが大切です。 吸湿性や速乾性に優れた素材の服を選んだり、日傘や帽子を着用したりするのも熱中症対策に効果的です。暑さによる体調不良が疑われる場合は、無理をせず涼しい場所で涼みましょう。 熱中症の重症化を阻止する 万が一熱中症になってしまった場合でも、症状の重症化を速やかに阻止すると、後遺症のリスクを軽減できます。熱中症後に、めまいや倦怠感、頭痛などを感じた際は、速やかに医療機関を受診しましょう。 「ただの体調不良かもしれない」「様子を見れば治るはず」と考えて放置していると、後遺症のリスクが高まるため、注意が必要です。些細な体調不良でも放置せず、念のため医療機関を受診するのが大切です。 熱中症の後遺症でお悩みの方は当院へご相談ください 熱中症の後遺症として、頭痛や食欲不振、めまいなどがあげられます。重篤な後遺症だと、臓器の障害や高次脳機能障害などを引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。熱中症になると、ホルモンが過剰に生成されたり、血栓が生じたりすると、後遺症を引き起こします。 熱中症の後遺症を防ぐには、そもそも熱中症にならないことが大切です。気温の高い日は、こまめに水分や塩分補給をしたり、通気性の良い衣服を身に着けたりして対策しましょう。 頭痛やめまいなど体調不良を感じた際は、無理はせず休憩を取ってください。 リペアセルクリニックでは、熱中症の後遺症に対する再生医療を提供しています。熱中症の後遺症が疑われる方や、治療法を探している方は、ぜひ一度リペアセルクリニックのメール相談やカウンセリングにてご相談ください。
2025.06.29 -
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「健康診断で不整脈の疑いがあると指摘された」 「病院を受診した方がよいのだろうが、怖い気持ちもある」 「不整脈に良い食べ物があるなら、まずはそれを試してみたい」 不整脈を患っている方の中には、このように考えている人もいるでしょう。 不整脈の治癒に効果のある食べ物や飲み物は存在します。一方で、摂りすぎると不整脈を悪化させてしまう食品も複数あるため、食事の管理は非常に大切です。 本記事では、不整脈と食事の関係について紹介します。食事での注意に加えて、病院受診の目安についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 不整脈に良い食べ物・飲み物一覧 不整脈を良くするためには、心臓の筋肉に良い食事や、不整脈の原因のひとつでもあるストレスを軽減する食事を摂ることが大切です。 不整脈に効果のある栄養素や、その栄養が多く含まれる食品を紹介します。 カリウムが多く含まれているもの カリウムは、人体に必要なミネラルの1つです。 ナトリウムを排出する働きがあるため、摂りすぎた塩分を調節する役目を担っています。 細胞や神経、筋肉が正常に機能するためにも必要な物質で、心臓の筋肉(心筋)の収縮にも関与しています。 カリウムの濃度が低下するとこういった働きに影響がでるほか、不整脈を起こすリスクも上がります。不整脈のほかにも脱力感、食欲不振などを起こす可能性があるため、積極的にとるようにしましょう。 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、カリウムの目標摂取量は男性3,000mg/日、女性は2,000mg/日です。(文献1) カリウムが多い食品として、 バナナ(1本につき454mg) ほうれん草1/4束(生で621mg茹でて311mg) 干し芋(2枚588mg) などがあります。 ただし、カリウム濃度が高くなりすぎても不整脈を招くことがあるため、食べ過ぎないようにしましょう。 マグネシウムが多く含まれているもの マグネシウムは筋肉の収縮や神経情報の伝達、体温・血圧の調整に役立ちます。 心臓の筋肉が収縮するにはカルシウムも必要な要素になります。マグネシウムはカルシウムと競合することで、心臓の収縮をちょうど良い強さに調整しているのです。 また、マグネシウムは心臓の拍動を穏やかにし、不整脈の発生を防ぐ働きもあります。 マグネシウムの1日の推奨平均摂取量は男性で約350mg、女性で約300mgとされています。(文献1) マグネシウムは以下の食べ物などに多く含まれています。 乾燥カットわかめ(1人分10gにつき460mg) 殻付きあさり(10個あたり100mg) 納豆(1個につき100mg) ノンカフェイン飲料 カフェインが含まれていない飲み物は、心拍への刺激が少ないため、不整脈が気になる方にとってはおすすめです。 寝る前にコーヒーやアルコールを飲む人は、ノンカフェイン飲料に切り替えると睡眠の質が高まり、不整脈のリスクの1つであるストレス軽減につながります。 ノンカフェインの飲み物としては、麦茶やルイボスティー、黒豆茶、小豆茶、白湯などがあげられます。 嗜好品としてコーヒーが好きな人は味が似ているデカフェをコーヒーの代用として飲むのもおすすめです。 スーパーやデパート、コンビニなどで購入できます。自分の好きな味を模索するのも良いでしょう。 不整脈のために避けたい食べ物・飲み物 不整脈を良くするためには、摂取量を減らすべき食べ物・飲み物を理解し食事の調整を行うことが重要です。 以下で紹介している避けたい食べ物・飲み物は、過度な摂取を控えれば食べても問題はありません。 塩分が多い食品 塩分を過剰に摂ってしまうと、心臓で「アルドステロン」と呼ばれるホルモンが作られやすくなります。 アルドステロンは、心臓の筋肉を硬くしたり、不整脈を誘発することが知られています。 また、塩分そのものが、心臓の正常な電気のリズムを乱す原因となり、不整脈が起こりやすい状態を作り出します。 塩分を摂りすぎると、体内の塩分濃度を下げるために血液中の水の量が増えます。その結果血液量が増加すると、心臓への負担が増えてしまい血管にも強い圧力がかかってしまうのです。 1日の適正な食塩摂取量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。 塩分の多い食品は以下の通りです。 カップ麺などの超加工品 ハム、ソーセージなどの加工食品 パスタ料理(ミートソースやカルボナーラなどの味の濃いソース) 漬物 塩魚(塩鮭、塩さばなど) 重要なのは、1日当たりの適正量を守ることです。極端な塩分制限は心身のストレスになる可能性があるため控えましょう。 動物性脂肪が多い食品 脂質の摂り過ぎは肥満や生活習慣病の原因となります。とくに動物性脂肪が多い食品は飽和脂肪酸が多く含まれており、血中コレステロールの増加や、心筋梗塞などの循環器疾患のリスクを高めてしまいます。 肥満および心疾患は、不整脈を引き起こす大きな原因になります。動物性脂肪が多い食品は食べ過ぎないように心がけましょう。 動物性脂肪は 脂身の多い肉 乳製品、バターやラードを多用した料理(菓子パンや洋菓子など) などに多く含まれています。 カフェイン飲料 カフェインは心臓を直接刺激して心拍数を増やし、心臓の収縮力を高める作用があります。アドレナリンのような興奮物質(カテコールアミン)の放出を促すためであるといわれています。 適量であれば不整脈の原因にはなりませんが、一日の推奨摂取量を越えると心臓の細胞に直接働きかけ、電気活動を乱してしまうことがあります。 その結果、頻脈(心拍が速くなること)、心室細動(命に関わる危険な不整脈)を引き起こすリスクが高まってしまうのです。 日本においては、カフェインの1日摂取量の目安は示されていませんが、カナダ保健省では健康な成人の場合最大400mg/1日(コーヒーをマグカップ3杯)までと設定しています。(文献2) エナジードリンクやコーヒーの多量摂取は控えましょう。 アルコール アルコールの多量摂取は心筋細胞の損傷や、自律神経を不安定にするため注意が必要です。 大量のアルコールを摂取すると、心臓に急性の電気的変化を引き起こし、心房細動と呼ばれる不整脈の発症リスクを高めてしまいます。 適切な飲酒量は、1日あたりの平均純アルコール量で男性は40g未満、女性は20g未満とされています。 純アルコール20gとは、日本酒1合、ビール500ml、缶チューハイ350ml程度の量です。 不整脈に良い食べ物を無理なく生活に取り入れる工夫 不整脈に良い食べ物を新たに取り入れることが難しいと感じる人もいるでしょう。 不整脈に良い食事習慣を長く続けるためには、少しずつ取り入れることが大切です。 普段の朝食にカリウムが豊富なバナナやマグネシウムが含まれる納豆をプラスする。 漬物を食べる量を今までより減らす。 寝る前に飲むものをノンカフェインのお茶や白湯に切り替える。 習慣としてコーヒーを飲んでいる人はノンカフェインのコーヒーに変える。 調味料を減塩タイプのものに変える。 普段の生活の中で少しずつ取り入れ、無理なく食生活を変えていきましょう。 不整脈予防・改善にはバランスの良い食事と治療が大切 不整脈に良いものを食べることから始める食生活の改善は、生活習慣病予防の観点から見ても非常に大切なことです。 不整脈の症状を改善するためには「カリウム」「マグネシウム」を食事の中で取り入れましょう。 一方で、「カフェイン」「塩分」「動物性油脂」「アルコール」は過剰に摂取すると不整脈のリスクを高めます。 心室細動と呼ばれる不整脈を引き起こすこともあり、命の危険に及ぶ場合もあります。 食生活を変えてもあまり効果を感じない、症状が長期化するといった場合は、ほかの原因も考えられます。 必要に応じて医療機関を受診しましょう。 不整脈の現状を正しく知り、食生活の改善や必要な治療といった適切な対処を行うことが症状を良くする第一歩です。 不整脈に良い食べ物に関するよくある質問 不整脈に良い飲み物の中にトマトジュースは含まれますか? トマトはカリウム量が多く(1個当たり315mg)、トマトジュースには200mlあたり546mgのカリウムが含まれています。 トマトジュースは生のトマトよりカリウム量が多いので、1日1パック程度にとどめましょう。 慢性の腎臓病がある方は、カリウムを摂り過ぎると高カリウム血症を引き起こす可能性があるため、トマトジュースは控えてください。 カリウム濃度が高すぎても不整脈が起こりやすくなってしまうため、適量を見極めることが重要です。 また、普段塩分を摂りすぎている方は減塩タイプのトマトジュースを摂りましょう。 不整脈に効くサプリメントはありますか? 不整脈に直接作用するサプリメントはありません。 カリウムやマグネシウムなど、不整脈に良い栄養を補うサプリメントは市販されています。 しかし、サプリメントは足りない栄養素を補助するものであり、サプリメントを過剰摂取すると体に悪影響を及ぼす可能性があります。 マグネシウムのサプリメントの過剰摂取は下痢や吐き気、カリウムの過剰摂取は不整脈や心電図異常、四肢のしびれなどを引き起こす可能性があります。 サプリメントの摂取を希望される方は、医師や薬剤師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年)策定検討会報告書」 2024年 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf(最終アクセス:2025年6月26日) (文献2) 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html(最終アクセス:2025年6月26日)
2025.06.29 -
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「最近ストレスがたまっている」 「脈が飛ぶ感覚が頻繁に起こる。これはストレスによる不整脈ではないか」 「病院では異常なしといわれたが、やはり不安である」 不整脈の症状がある方の中には、このような不安を抱えている方もいるでしょう。 不整脈は心疾患が原因で起こることもありますが、「とくに異常なし」「ストレスが原因」と診断されることもよくあります。 明確な原因が見つからないと「具体的にはどのように治せばいいのか」「良くなっているのかどうかわからない」といった悩みが発生し、さらに不整脈を悪化させてしまう可能性もあります。 本記事では、ストレス性不整脈の治し方を解説します。 ストレスが心臓に与える影響や、早急に受診すべきタイミングも紹介しています。ぜひ最後までご覧ください。 ストレスと不整脈の関係性 不整脈が起こる原因として、ストレスは強く関係しています。 この項目ではストレスがどうして心臓に影響を与えるのか、そのメカニズムを説明します。また、心疾患が原因となる不整脈とのちがいについても解説します。 ストレスが心臓に与える影響 強いストレスは自律神経の乱れにつながり、不整脈を引き起こす原因となります。 自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経系によって構成されています。 ストレスを受けると、活発時や緊張時に優位になる交感神経が働き、心拍数や脈拍が多くなってしまいます。 通常の状態であれば副交感神経優位に切り替わり、心拍数は正常値に戻っていきますが、強いストレス状態が続き交感神経が働き続けると、心臓に負担がかかってしまいます。 その結果、不整脈、心臓の違和感、胸の痛みといった症状を引き起こしてしまうのです。 不整脈は頻脈(脈が速くなる)や期外収縮(胸が痛い、不快感を感じる)といった比較的軽度なものがほとんどです。 しかし、放置すると心不全や脳梗塞といった重篤な疾患を発症する場合もあるため注意が必要です。 ストレス性不整脈と心疾患による不整脈の違い ストレス性不整脈と心疾患による不整脈の違いを症状だけで見極めるのは非常に難しいです。 ストレスを解消しても不整脈が治らない場合、原因が違う場所にある可能性も考えられます。 いずれにせよ放置は危険なので、まずは専門の医師に相談を行いましょう。 ストレス性不整脈 ストレス性不整脈の場合、精神的・身体的なストレスが引き金となり、自律神経のバランスが崩れることで発症します。代表的なものは「期外収縮」で、正常な拍動の間に不規則な拍動が現れます。気づかない方も多い症状です。 ストレス性不整脈の場合、原因となっているストレスを解消したり、生活習慣を改善すれば症状が緩和されることがほとんどです。 心疾患による不整脈 心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、心不全といった心疾患が原因で引き起こされる不整脈もあります。 心疾患による不整脈は長期間続く傾向にあり、動悸や息切れ、めまい、失神といった合併症状を伴うこともあります。 治療は重症度によっても変わりますが、薬物療法やカテーテルアブレーション、ペースメーカーの植込みなど、専門的な医療介入が必要となる場合もあります。 ストレス性不整脈の治し方 ストレスが原因で起きている不整脈の場合、原因であるストレスを解消しない限り完全に治ることはありません。不整脈が治らないことへの焦りや不安がさらに症状を悪化させることもあります。 ストレス性不整脈を治すポイントは、「ストレスをためこまない」「生活習慣を見直す」「睡眠の質を向上する」ことです。 それぞれ詳しく解説していきます。 ストレスをためこまない工夫をする 日々のストレスをためこまないため、日常生活での工夫が大切です。深呼吸や瞑想、ヨガなど、意識的にリラックスできる時間を作ると、副交感神経が働きやすくなります。 仕事や家事が忙しく常に慌ただしい生活を送っている方は、日々のやらなくてはいけないことから少し離れる時間を作ってみてください。 例えば、読書や旅行など自分の好きなことに没頭したり、ウォーキングや散歩など体を動かしたりすることでストレスの軽減につながります。 また、日記をつけたり、そのとき感じた感情をメモに書き留めておくと、心の中が整理され不安や焦燥感が軽減されることもあります。 それでもストレスが減らない、人間関係がストレスの原因になっている場合は、家族や友人、必要に応じて心理カウンセラーや医師などの専門家に相談してみましょう。 人と対話をすると、自分でも思いがけない感情を言葉にできることがあります。そういった対話の中で見つけた感情こそ、ストレス緩和の糸口になるかもしれません。 生活習慣を見直す ストレスと上手に付き合うためには、毎日の生活習慣をととのえることが大切です。 とくに重要視されるのは「食事」「運動」「睡眠」です。それぞれの気を付けるべきポイントをまとめました。 栄養バランスの良い食事 栄養バランスの良い食事は心臓疾患の予防になります。 無理な食事制限などは行う必要はありませんが、ジュースなど砂糖が多く含まれる食品、スナック菓子やカップ麺といった超加工食品は減らしましょう。 一方で野菜や魚、肉、大豆などの良質なたんぱく質を多く取り入れてください。 また、主食は精製されていないものを取り入れてみると効果が高まります。 普段食べている白米や白いパンは、「精製」という処理を経ています。精製を行うことで、原材料に本来含まれていた繊維質、ビタミンB、ミネラルといった心疾患の予防に有効な栄養素が失われてしまうのです。 主食を玄米や全粒粉を使ったパンなどに切り替えてみるのも良いかもしれません。 適度な運動 日常生活の中で無理のない範囲で体を動かすことが推奨されています。 運動習慣がない方や不整脈による症状がつらい方は、医師と相談のうえで軽いランニングやサイクリング、ウォーキングや散歩などから始めてみてください。 身体を動かすことに慣れ、医師の許可も出た場合は筋力トレーニングもおすすめです。いきなり高負荷の運動は避け、腕立て伏せやスクワットなど手軽に始められる自重トレーニングからはじめましょう。 ウォーミングアップとクールダウンの時間、水分補給は欠かさず行ってください。 筋力トレーニングは心理的ストレスの改善にも有効です。筋力トレーニングを行うことによって分泌される神経伝達物質が気分を安定させることがさまざまな研究で証明されています。 アルコールやカフェインの摂取を控える アルコールやカフェインの過度な摂取は、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。 適量を守り、規則正しい生活を送りましょう。 成人の1日当たりの適正飲酒量は純アルコールで約20g程度です。 ビールだと500ml、缶チューハイで350ml、ワインで200ml程度に換算されます。 また、喫煙はストレスに関係なく心臓や血管への負担を増やします。 喫煙をしている方は自分が一日あたり何本吸っているのかを理解し、できる限り禁煙を目指しましょう。 睡眠の質を高める 睡眠の質を高めることは、食事や運動と同様に心身の健康を保つ上で非常に重要です。 スマートフォンやパソコンは体内時計に影響を及ぼすブルーライトが発せられているため、就寝前の使用は控えることが望ましいです。 また、寝室環境の整備も睡眠の質を向上するために必要です。寝室や寝床の中は静かで暗い環境を保ちましょう。季節にもよりますが、室温は13~29度、湿度は40~60%程度が適切だといわれています。 また、就寝前の時間の使い方も重要です。就寝90分ほど前に、ぬるめのお風呂につかると身体が温まり眠りやすくなります。そのほか、好きな音楽を聴く、軽い読書をするといった自分がリラックスできることを取り入れることも望ましいです。 寝酒はかえって眠りを悪化させる可能性があります。適量以上の飲酒はできる限り避けましょう。 医療機関を受診すべき不整脈のサイン 不整脈の症状を感じた場合、早急に専門の医師を受診しましょう。 不整脈は突然死のリスクもあります。放置してしまうと血栓の発生や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まります。 不整脈の症状が続いている、もしくは頻度が増えている 胸痛や息切れ、めまいなどの症状が伴う もともと心疾患がある これらに該当する場合は早急に医療機関にかかり、適切な治療を受ける必要があります。 上記に該当しないものの、健康診断で「精密検査が必要」と言われた方も、早急に受診しましょう。 【緊急性のない場合】ストレス性を含む不整脈の対処法 期外収縮など緊急性の低い不整脈の場合でも、はやく治療したい方もいるでしょう。ストレス性の不整脈だと診断された場合、病院では日常生活指導を受けられます。 もし、それだけでは不安な場合、医師と相談の上、抗不整脈薬の内服や、カテーテルアブレーション治療を受ける選択肢もあります。 カテーテルアブレーションとは、足の付け根の静脈から細いカテーテル(管)を心臓まで送り込み、不整脈の発生源となる部位にカテーテルの先端を当てて、高周波電流で焼灼する手術です。 カテーテルが不整脈発生部位に届くようであれば、この治療を受けることができます。 ストレス性不整脈はセルフケアと適切な医療でコントロールしよう 不整脈は心疾患が原因で起こる場合、ストレスが原因で起こる場合で大きく2つに分かれます。 ストレスが原因であったり、一過性の場合は、生活習慣を見直すことで症状が改善される可能性があります。食生活の見直しや日常的な運動、睡眠をしっかり取り、健康な体づくりを心がけましょう。 ストレスが多い生活をしている自覚がある方は、ストレスをためないよう生活を工夫したり、人に相談するなどして抱えているストレスを減らす必要があります。 それでも不安が残る場合には、医療機関を受診して適切な治療を受ける方法もあります。専門の医師に相談し、ストレス性不整脈の軽減に努めましょう。 ストレス性不整脈に関するよくある質問 不整脈の症状で脈が飛ぶ場合すぐに病院で治療すべきですか? 一拍だけ脈が飛ぶ、一瞬胸がドキッとするといった症状の主な原因は「期外収縮」であることが多いです。 心臓に電気を送る部分である洞結節と呼ばれる部位とは別の場所から、やや早いタイミングで心臓に電気が流れることにより起こります。 期外収縮は年齢や体質、ストレスの影響などで起こることが多い症状だといわれています。 持病で心疾患を患っている、脈が飛ぶ以外の症状がある場合は急ぎ病院にかかる必要がありますが、心当たりがない場合は急いで治療する必要はありません。 一方、症状が長期間で起こっている場合や不安が強い場合は、一度精密検査を受けるべきでしょう。 動悸を抑える薬はありますか? 市販薬では存在しません。 動悸を抑える「抗不整脈薬」はありますが、医師が処方する必要があります。 不整脈や息切れに効果があるとされる市販薬はありますが、あくまで一時的に症状を緩和するのみで、不整脈に直接作用するものではありません。 一時的に症状が治まったために病院受診が遅れると、知らず知らずのうちに悪化する可能性もあります。薬を内服したい場合は、医療機関を受診しましょう。
2025.06.29 -
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「高齢の親を病院に連れて行ったら低カリウム血症と診断されました」 「低カリウム血症って何ですか?どんな治療が必要なのでしょうか?」 このような疑問をお持ちの方もいるでしょう。 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が正常値より低くなった状態です。 高齢者が低カリウム血症になる主な原因は、食事量の減少や薬の副作用などが挙げられます。 本記事では、高齢者が低カリウム血症になる主な原因や症状、治療法についてわかりやすく解説します。入院が必要になるケースや、入院にかかる費用も紹介しているので、参考にしてみてください。 高齢者が低カリウム血症になりやすい4つの原因 低カリウム血症は、以下のような高齢者の身体的変化や生活習慣の変化が原因で発症しやすくなります。 食事量の減少 薬の副作用 消化器疾患の影響 ホルモンの過剰分泌 順番に見ていきましょう。 食事量の減少 高齢者では、加齢による嚥下機能の低下や嗅覚・味覚の機能低下といった身体的変化により食欲がなくなる方も多いです。食欲がなくなれば、当然ながら食事量が減少します。 カリウムは食材に含まれる栄養素です。そのため、食事量が減少すると、カリウムの摂取量も減り、カリウム不足に陥りやすいです。 薬の副作用 低カリウム血症は、薬の副作用が原因で発症するケースもあります。 低カリウム血症の原因として注意すべきなのが、利尿作用のある薬です。カリウムは尿や汗とともに体外に排出される性質があります。そのため、利尿作用のある薬を摂取すると、体内でカリウム不足が起こりやすいです。 例えば、心不全の治療には利尿薬がよく処方されます。(文献1) 心不全では、心臓のポンプ機能が低下して血液をうまく送り出せなくなり、体内に水分が溜まりやすくなります。そのため、利尿薬を服用して余分な水分を排出し、うっ血の改善を図るのです。 また、高血圧の治療にも利尿薬が使用されます。(文献2)体内の不要な水分を尿として排出すれば、血圧を下げる効果があるからです。 高齢者は加齢とともに、心不全や高血圧といった病気にかかりやすく、薬が処方される機会も増えます。利尿作用の薬を服用している場合は、低カリウム血症のリスクも高まることを理解しておきましょう。 消化器疾患の影響 低カリウム血症の原因として、消化器感染症が影響する場合もあります。消化器感染症には、嘔吐や下痢といった症状を伴うケースが多いです。 嘔吐や下痢により体内のカリウムが失われるため、低カリウム血症を引き起こしやすくなります。 嘔吐や下痢を起こす代表的な疾患として、胃腸炎や食中毒が挙げられます。 高齢者になると免疫力が低下して、下痢や嘔吐の症状が長引くケースも少なくありません。その結果、体内のカリウム不足が深刻化する可能性があるのです。 ホルモンの過剰分泌 アルドステロンというホルモンの過剰分泌が原因で、低カリウム血症を発症することがあります。 アルドステロンとは、体内の水分を調整する働きのあるホルモンです。(文献3) 副腎からアルドステロンが過剰につくられる病気は「原発性アルドステロン症」と呼ばれ、水分の調整機能の乱れからカリウム不足につながります。 高血圧患者のおよそ5〜15%が原発性アルドステロン症という報告もあります。(文献4) 高齢者は血管の弾力性が低下して、高血圧になりやすいです。そのため、原発性アルドステロン症を発症する機会も増えて低カリウム血症のリスクが高まります。 高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状 ここでは、高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状について解説します。 主な症状は以下の3つです。 筋肉のだるさ・こわばり 不整脈 息苦しさ 低カリウム血症の症状は、加齢による身体変化と捉えて見過ごされやすいです。 早期治療につなげられるよう、症状の理解を深めましょう。 筋肉のだるさ・こわばり 筋肉のだるさ・こわばりは、低カリウム血症の症状の1つです。カリウムは、筋肉を収縮させる役割を担っています。そのため、体内のカリウムが不足していると、筋肉機能に異常が生じます。 だるさ以外にも、以下のような症状が現れます。 筋肉痛 つっぱり感 力がぬける感じ 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 高齢者は、加齢による筋肉の衰えとして、筋肉異常の変化を見過ごしがちです。 筋肉のだるさやこわばりは、転倒による怪我につながりやすいので、早期治療で症状の改善を図りましょう。 不整脈 低カリウム血症になると、不整脈の症状も現れる場合があります。 カリウムは、心臓の収縮やリズムの維持に役割を果たしています。よって、カリウムが不足すると、正常な心臓の動きを保てなくなり不整脈を誘発してしまうのです。 不整脈は加齢とともに増加する病気です。(文献5) 加齢に伴う老人性不整脈か、低カリウム血症による不整脈かによって、治療方針が変わってきます。不整脈になったら、発症した原因を特定して適切な治療を進めていく姿勢が大切です。 息苦しさ 低カリウム血症では、息苦しさも症状として現れます。 カリウムは呼吸筋を動かす機能に関与しているため、体内のカリウムが不足すれば、呼吸がうまくできなくなるのです。 重篤な場合は、呼吸筋障害による呼吸不全を引き起こします。(文献6) 呼吸不全は生命に関わる危険性を高めます。ただの息切れだろうと軽く考えずに、低カリウム血症の可能性も念頭に置いて早期受診を心がけましょう。 高齢者が低カリウム血症になったときの治療法 高齢者が低カリウム血症になったときの治療法は、症状の程度や発症した原因によって決まります。 ここでは代表的な以下3つの治療法を解説します。 食事やサプリメントでカリウムを補う 点滴や薬でカリウムを摂取する 薬の服用を中断する ご自身の状況に合った治療法を探してみてください。 食事やサプリメントでカリウムを補う 軽度の低カリウム血症であれば、食事やサプリメントで不足したカリウムを補えます。 以下の表は、カリウムが多く含まれる食品の一部を紹介したものです。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 ほうれん草 690 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 特にカリウム含有量が多いのは、刻み昆布です。刻み昆布は乾燥させて商品化されているものが多く「すき昆布」の料理で良く使われる食品です。 また、ほうれん草や納豆にもカリウムが多く含まれます。カリウムが不足しているときは、ほうれん草の和え物を作ったり、食後のデザートにバナナを食べたりすると良いでしょう。 ドラッグストアで販売されているサプリメントで、カリウムを補給する方法もあります。サプリメントを使用する際は、容量・用法・用途を守り、医師や薬剤師に相談してから服用しましょう。 なお、カリウムは脳梗塞の予防や再発防止につながる栄養素でもあります。以下の記事では、脳梗塞の方向けに理想の食事を紹介しているのであわせてご覧ください。 薬や注射でカリウムを摂取する 通院している方は、カリウムの内服薬による治療を受けます。他の疾患との兼ね合いで内服が困難な方や、症状が重い方は、カリウムを注射で投与します。 注射は、カリウム製剤を血中に直接投与するため、体内に速やかに吸収されます。また、量を調整できるため、医師の判断のもと、足りないカリウムを効果的に補えます。 薬の服用を中断する 薬の影響で低カリウム血症になった場合は、薬の服用を中断する場合があります。 利尿作用のある薬は、尿とともにカリウムが流れてしまうため、服用に配慮が必要な薬剤です。 以下は、利尿作用のある薬が処方される病気や症状とその効果です。 疾患 利尿作用による効果 高血圧症 排尿によって体液量を減らすことで血圧を下げる効果がある 心不全・腎疾患による浮腫 余分な水分を排出して浮腫を改善する効果がある(文献7) 参考:高血圧治療における利尿薬の用量について|厚生労働省 担当医との相談のもと、持病と低カリウム血症の両方を考慮した治療方針を決定しましょう。 高齢者が低カリウム血症になる原因を知って適切な治療を受けよう 食事量が減少する傾向にある高齢者は、日頃からカリウム不足にならない食生活への配慮が必要です。また、持病の治療で利尿作用のある薬を飲んでいる方は、カリウムが失われる機会が多いため、服薬の継続については医師と相談しましょう。 低カリウム血症には、筋肉のだるさや息苦しさといった、加齢と混同しやすい症状が現れます。症状を見逃すと、状態が悪化してしまうリスクがあるため、本記事を参考に、低カリウム血症の判断力向上に役立ててみてください。 また、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。 高齢者の低カリウム血症に関するよくある質問 低カリウム血症は治る病気ですか? 頻繁な排尿や大量の下痢といった、一時的なカリウム不足の状態であれば、早期治療で回復が見込めます。症状の長期化や重篤化している場合は、長期的な治療が必要になるケースもあります。 低カリウム血症で入院することはありますか? カリウム値が大幅に低下したり、症状が悪化したりした場合は、入院する可能性があります。 国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが公表している、低カリウムの重症度(グレード)を示した定義表では、カリウム値が3.0-2.5mEq/Lの場合を「入院を要する」と定義しています。(文献8) 低カリウム血症で入院する場合の期間や費用を教えてください 入院期間は症状の程度によって異なりますが、症状が軽度の方は数日〜1週間程度で退院できたという報告があります。 低カリウム血症における入院費用を提示する病院の情報は確認できなかったため、各病院に問い合わせをお願いします。 なお、公益財団法人生命保険文化センターの調査結果によると、入院1日あたりの入院費用は平均約20,700円です。(文献9) 参考文献 (文献1) 絹川 真太郎「慢性心不全の薬物治療」日本内科学会雑誌109巻2号 P207〜214 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_207/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献2) 国立循環器病センター高血圧腎臓内科 河野雄平 「高血圧治療における利尿薬の用量について」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1022-11c.pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献3) 長瀬 美樹,藤田 敏郎ら「3)アルドステロンと生活習慣病」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献4) 西川 哲男,大村 昌夫ら「2)高血圧症患者の 5~15% は原発性アルドステロン症?」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献5) 森 拓也「老人性不整脈」日農医誌62巻2号 136〜143項 2016.7 P136〜143 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/2/65_136/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献6) 吉田 雄一,柴田 洋孝ら「低カリウム血症と内分泌疾患」日本内科学会雑誌 109 巻 4 号 P718〜726 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/4/109_718/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献7) 木村玄次郎「9.利尿薬を使い分ける」日本内科学会雑誌 第102巻 第 9 号・平成25年 9 月10日 P2413〜2417 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/9/102_2413/_pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献8) 国立がん研究センター日本臨床腫瘍研究グループ「共用基準範囲対応CTCAE v5.0 Grade定義表」P1〜6 https://jcog.jp/assets/ChgJCOG_kyouyoukijunchi-CTCAE_50_20190905.pdf (最終アクセス2025年6月22日) (文献9) 公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査/直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」 https://www.jili.or.jp/research/chousa/8946.html (最終アクセス2025年6月22日)
2025.06.29 -
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「低カリウム血症って本当に治るの?」 「入院が必要なほど重い病気なのか知りたい」 血液検査の結果をきっかけにカリウム不足と言われ、不安になる方も多くいます。 結論から言えば、低カリウム血症の多くは、原因を見極めて適切な治療を受ければ回復が見込める病気です。 とはいえ、放置すると重症化し、入院や深刻な合併症につながるリスクもあります。本記事では、低カリウム血症はどのような病気で、どのように治療すれば治るのかについて解説します。 初期症状や原因、入院の基準や入院期間の目安を紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 【結論】低カリウム血症の完治は可能 低カリウム血症は早期発見と早期治療により治る疾患です。 また、カリウムは嘔吐・下痢によっても体外に流れ出てしまいます。そのため、体調不良で嘔吐・下痢が続き一時的なカリウム不足の状態であれば、早期治療で回復が見込めます。 なお、低カリウム血症と似ている症状でギランバレー症候群があります。ギランバレー症候群の詳しい症状や原因については以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。 低カリウム血症を早く治すためのポイント 低カリウム血症の早期回復には、以下2つの要素を取り入れることで効果的な治療が可能です。 初期症状の段階から治療を始める 原因を特定する 低カリウム血症を早く治すためのポイントを見ていきましょう。 初期症状の段階から治療を始める 初期症状での治療開始が、低カリウム血症の早期回復につながります。 初期症状にも含まれる低カリウム血症の主な症状は以下のとおりです。 筋肉痛 手足のだるさ 筋肉のこわばり 手足の力が抜ける感じ 心臓のリズムが乱れる(不整脈) 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 初期症状を見逃してしまうと、呼吸不全や筋肉の麻痺などの重篤な合併症につながるリスクもありますので、早めに医療機関を受診しましょう。 原因を特定する 症状の原因を特定すると、早い段階で適切な処置をおこなえるため低カリウム血症を早く治せます。 原因を特定せずに自己判断で間違ったケアを進めてしまうと、症状をさらに悪化させてしまうケースもあります。 低カリウム血症を発症する主な原因は以下のとおりです。 下痢や嘔吐 薬の副作用 食事の偏りや絶食ダイエット 加齢 副腎疾患 自身の症状にあてはまる原因がないか特定していきましょう。 下痢や嘔吐 下痢や嘔吐で消化管から急激なカリウムが喪失します。 胃腸炎による下痢では、体内水分や電解質(カリウム)が失われるためです。 下痢や嘔吐による低カリウム血症は、水分とカリウムの同時補給で改善できます。また、経口補水液の使用により、入院せずに外来治療で回復も可能です。 とはいえ、症状が続く場合は早めに受診して、適切な補液治療を受けましょう。 薬の副作用 利尿薬やステロイド薬が腎臓からのカリウム排泄を増加させます。 利尿薬では服用開始から数週間で血清カリウム値が低下する場合もあります。しかし、薬剤による低カリウム血症は、薬の調整により速やかに改善可能です。 自己判断で薬を中止せず、医師と相談して薬の変更や減量をおこなうことで、副作用を回避できます。 食事の偏りや絶食ダイエット 極端な食事制限によりカリウム摂取量が不足し、体内貯蔵量が枯渇します。 1日のカリウム摂取量は成人男性では2,500mg、成人女性で2,000mgが必要とされています。(文献1) 栄養を意識した正しい食生活により、低カリウム血症は改善可能です。野菜や果物を意識的に摂取しバランスの良い食事を心がけて、健康的なダイエットをおこないましょう。 加齢 加齢により腎機能が低下し、カリウムの調節能力が弱くなります。65歳以上では腎機能が低下するとされています。(文献2) 定期的な血液検査により、早期発見と予防的治療が可能です。年齢に応じた健康管理を続けて、元気な毎日を過ごしていきましょう。 【関連記事】 血圧の正常値とは?内科医師が詳しく解説! 高齢者が低カリウム血症を発症する原因は?症状や治療法を医師が解説 副腎疾患 副腎からのホルモン分泌異常がカリウムバランスを崩します。 クッシング症候群などの疾患では、アルドステロンが増えることで腎臓に働きかけ、カリウムを体の外に出してしまいます。 このような場合でも、薬によって血圧やカリウムの値を整えることが可能です。 専門の医師と連携しながら治療を進めれば、改善が期待できるでしょう。 低カリウム血症の代表的な治療法 低カリウム血症の治療法は、発症原因や症状の程度に応じて異なります。 代表的な治療法は以下のとおりです。 カリウム量が多い食事を摂る サプリメントや内服薬を飲む 点滴を打つ 重症度や原因疾患の種類によっては入院治療する 自身の体の状態に適した治療法を医師と相談して決めていきましょう。 カリウム量が多い食事を摂る カリウム豊富な食事により、軽度の低カリウム血症は自然に改善されます。 以下は、カリウムが豊富に含まれる食材の一例です。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 カリウムの多い食品としては野菜や果物、大豆や海藻類などがあります。意識してカリウム量が高い食事を摂取すれば、低カリウム血症の症状改善が期待できるでしょう。 サプリメントや内服薬を飲む 中等度の低カリウム血症に対しては、医師の指導のもとで薬物療法が効果的です。 たとえば、内服薬には塩化カリウムを含む飲み薬や、カリウムの排出を抑えるカリウム保持性利尿薬などが使われます。 また、ドラッグストアで購入できるサプリメントで補う方法もあります。服用を始める前に、必ず医師や薬剤師に相談し、使用量や飲み方を守りましょう。 注射を打つ 注射は、カリウム製剤を直接血管へ入れる方法です。注射は、体内への吸収が早い特長があり、不足している量に応じて細かく調整できるため、効率的にカリウムを補給できます。 特に、血中のカリウム濃度が2.5mEq/L未満の場合、命に関わる危険な状態です。この際、緊急処置として注射を打つ治療が進められます。 重症度や原因疾患の種類によっては入院治療する カリウム値が大幅に低下したり、症状が悪化したりした場合は、入院する可能性があります。 以下は、国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが公表している、低カリウムの重症度(グレード)を示した定義表の一部です。 Grade 血清カリウム値 症状 治療 1 3.0mEq/L以上 なし なし 2 3.0mEq/L以上 ある 必要 3 3.0~2.5mEq/L ある 入院を要する 4 2.5mEq/L以下 ある 生命を脅かす 出典:JCOG共用基準範囲」に基づくGrade 定義|日本臨床腫瘍研究グループ カリウム値が3.0-2.5mEq/Lの場合を「入院を要する」と定義しています。入院により根本原因の精密検査と専門的治療も同時に実施できます。 低カリウム血症の初期症状を見逃さず早期受診を心がけよう 低カリウム血症は筋力の低下やだるさなど、一見よくある症状から始まるケースが多い病気です。しかし、初期サインを見逃さずに早めに対処すれば、外来治療のみでの改善も期待できます。 症状が続いたり、なんとなく体調がすぐれなかったりする場合は、自己判断せず医療機関に相談しましょう。 また、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 低カリウム血症は治るのか?に関するよくある質問 低カリウム血症を治すためにおすすめの食事を教えてください カリウムは、野菜や果物、豆類に多く含まれます。 以下の表は、カリウムが多く含まれる食品の一部を紹介したものです。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) 刻み昆布 8,200 ほうれん草 690 納豆 690 バナナ 360 木綿豆腐 110 参考:食品成分データベース|文部科学省 カリウムを豊富に含む食品の中でも、特に含有量が多いのが刻み昆布です。「すき昆布」の煮物を食べると、効率良くカリウムを摂取できます。 また、ほうれん草の副菜を食事に取り入れたり、デザートとしてバナナを選んだりするのもカリウム補給におすすめです。 低カリウム血症の治療で入院になった場合の期間と費用の目安を教えてください 入院の期間は症状の重さによって異なりますが、軽い場合は数日から1週間ほどで退院できた例もあります。 低カリウム血症に特化した入院費用の目安は公表されていないため、詳しく知りたい方は直接医療機関に問い合わせてみてください。 なお、公益財団法人生命保険文化センターの調査によれば、入院1日あたりの平均費用は約20,700円とされています。(文献3) 参考文献 (文献1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準」,2020年 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf (最終アクセス2025年6月16日) (文献2) 日本老年医学会雑誌「高齢者の慢性腎臓病(CKD)」,2014年 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_5_385.pdf (最終アクセス2025年6月16日) (文献3) 公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査/直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」 https://www.jili.or.jp/research/chousa/8946.html (最終アクセス2025年6月16日)
2025.06.29 -
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「手足がだるい」「筋肉がこわばる」などの症状が続いている場合は、低カリウム血症を発症している可能性があります。 カリウムは筋肉や神経、心臓の働きに関わる重要なミネラルです。血中濃度が下がりカリウムの量が減ると体にさまざまな不調を引き起こします。 重症化すると不整脈による胸痛や呼吸困難、さらには命に関わる合併症に至ることもあるため、決して軽視できない状態です。 本記事では、低カリウム血症の主な症状や原因に加え、治療法や入院の基準・期間、再発予防のポイントまでを詳しく解説します。 現在、症状に心当たりがある方や、家族の体調に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。 【重症度別】低カリウム血症の主な症状 低カリウム血症の症状は血清カリウム値によって異なります。 ここでは、重症度に応じた主な症状を以下の2つに分けて解説します。 軽度〜中等度の場合 重症化した場合 それぞれの段階で現れる症状の違いを把握して、早期発見につなげましょう。 軽度〜中等度の場合 軽度から中等度の低カリウム血症では、主に以下の症状が現れます。 筋肉痛 手足のだるさ 筋肉のこわばり 手足の力が抜ける感じ 心臓のリズムが乱れる(不整脈) 参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省 具体的には、階段を上る際に息切れしやすくなったり、重いものを持ち上げにくくなったりします。 これらの症状のサインが出た場合はカリウム不足の可能性があるため、放置しないで適切な治療を行うことが大切です。 なお、低カリウム血症と似たような症状でギランバレー症候群という病気があります。ギランバレー症候群の症状や原因については以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。 重症化した場合 低カリウム血症が重症化した場合の代表的な症状は、以下のとおりです。(文献1) 胸痛 息苦しさ 意識障害 血清カリウム値が2.5mEq/L未満になると、四肢麻痺や呼吸筋麻痺といった重篤な症状を引き起す可能性があります。(文献2)命に関わる危険性が高い状態なので、症状が現れたらすぐに医療機関を受診してください。 低カリウム血症の原因 低カリウム血症の主な発症原因は以下の3つです。 薬の副作用 食事や生活習慣 慢性疾患や体の機能低下 これらの複数の原因が重なって低カリウム血症を発症する場合もあります。ご自身が該当する原因を特定し、治療方針を考える姿勢が大切です。 薬の副作用 特定の薬剤の使用が低カリウム血症を引き起こす原因の一つです。 体内のカリウムバランスを崩しやすい薬剤は以下のとおりです。 利尿薬 尿と一緒にカリウムを放出 ステロイド薬 インスリンの作用による細胞外から細胞内へのカリウムの取り込み インスリン アルドステロン作用によるカリウムの排泄促進 参考:電解質異常低カリウム血症|特定非営利活動法人日本集中治療教育研究会看護部会 服用中の薬剤について医師と相談し、定期的な血液検査でカリウム値をチェックしましょう。 以下の記事では利尿薬の効果や副作用に触れているので、あわせてご覧ください。 食事や生活習慣 偏った食事や不適切な生活習慣が低カリウム血症の発症リスクを高めます。 極端なダイエットや偏食により、カリウムを含む食品の摂取量が不足するためです。 たとえば以下の行動が、体内のカリウム喪失を促進します。 野菜や果物を避けた食事 加工食品中心の食生活 過度な飲酒 嘔吐を繰り返す摂食障害 バランスの取れた食事と規則正しい生活習慣を心がけることが予防の基本となります。 慢性疾患や体の機能低下 腎臓や消化器系の慢性疾患が低カリウム血症の背景にあります。 慢性腎不全や副腎機能亢進症などの疾患では、カリウムの調節機能が低下するためです。 原発性アルドステロン症では過剰なホルモン分泌によりカリウムが失われます。(文献3) 慢性的な下痢や嘔吐を伴う消化器疾患も同様の問題を引き起こします。 基礎疾患の適切な管理と並行して、カリウム値の定期的なモニタリングが重要です。 低カリウム血症の治療法 低カリウム血症の治療は重症度に応じて段階的に行われ、適切な方法選択が大切です。 主な治療法は以下のとおりです。 カリウムが豊富な食品を摂取する サプリメントや飲み薬で補給する 注射薬で補給する 症状や血液検査の結果に基づいた治療法を選択していきましょう。 カリウムが豊富な食品を摂取する 食生活の改善によりカリウムが豊富な食品を摂取することで、低カリウム血症の治療につながります。 以下は、カリウムが豊富に含まれる食材の一例です。 食品名(100g当) カリウム量(単位:mg) アボカド 590 バナナ 360 ほうれん草 690 納豆 690 木綿豆腐 110 刻み昆布 8,200 参考:食品成分データベース|文部科学省 毎日の食事にこれらの食品を意識的に取り入れて、自然な形でのカリウム補給を目指しましょう。 サプリメントや飲み薬で補給する 中等度の低カリウム血症では、医師の処方による薬物療法が効果的です。 経口カリウム製剤やカリウム保持性利尿薬により、効率的にカリウム値を改善できます。代表的な薬剤は、塩化カリウム徐放錠やK.C.L. エリキシル® (塩化カリウム)などです。 ドラッグストアで買えるサプリメントでカリウムを補う方法もあります。 ただし、カリウムのとり過ぎは体に負担をかけるおそれがあるため、使用前に医師や薬剤師に相談し、決められた量と使い方を守りましょう。 注射薬で補給する 注射によるカリウム補給は、カリウムを血管に直接入れる方法で、体内にすばやく吸収されるのが特徴です。必要な量を細かく調整できるため、医師の判断により効率よく不足分を補えます。 血液中のカリウム値が2.5mEq/L未満の場合や、心電図に異常が出ている場合は、緊急の対応が必要になり、注射薬の投与が検討されます。 低カリウム血症の入院基準と入院期間 低カリウム血症の入院判断は血清カリウム値と症状の重篤度により決定されます。 国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが示している重症度の目安では、血液中のカリウム濃度が3.0〜2.5mEq/Lの場合、「入院が必要なレベル」と定義しています。(文献4) カリウム濃度の数値だけでなく、四肢の麻痺や呼吸困難などの重篤な症状がある場合も緊急入院の対象です。 入院期間は症状の程度によって異なりますが、症状が軽度の方は数日〜1週間程度で退院できたという報告があります。重度の場合は、長期的入院が必要となる可能性があります。 低カリウム血症の症状が出たら早めに受診を心がけよう 筋肉の異常や動悸、脱力感などが続く場合は、体内のカリウム不足が影響しているかもしれません。 低カリウム血症の症状は日頃の疲れや加齢による体調不良と似ているため、見逃されやすいケースが多いです。そのため、不調が続くときは低カリウム血症を疑う視点を持ち、早めに専門機関を受診することが大切です。 なお、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。 これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 低カリウム血症や症状に関するよくある質問 低カリウム血症は治療すれば治りますか? 低カリウム血症は適切な治療により改善できる疾患です。 軽度から中等度の場合、食事療法や内服薬により数日から数週間で正常値に回復します。ただし、原因となる基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行う必要があります。 治療後も定期的な検査により再発を防ぎ、長期的な健康管理を続けていく意識が大切です。 低カリウム血症の治療期間はどれくらいですか? 治療期間は重症度と原因により大きく異なります。 軽度の場合、食事療法や経口薬により短期間での改善が多く見られます。ただし、中等度~重症例や慢性疾患が原因の場合は、入院治療や長期的な管理が必要になる場合もあります。 個人差があるため、医師と相談しながら治療計画を立て、焦らずに治療を継続していきましょう。 低カリウム血症は高齢者が発症しやすいですか? 高齢者は若年者と比較して低カリウム血症を発症するリスクが高い傾向にあります。 加齢により腎機能が低下し、カリウムの調節能力が衰えたり、高血圧・心疾患の治療で利尿薬を服用する機会が多かったりするためです。 また、食事摂取量の減少や消化吸収能力の低下も影響を与えます。 高齢の方は定期的な血液検査と適切な食事管理により、予防と早期発見に努めることが重要です。 参考文献 (文献1) 千葉大学医学部附属病院薬剤部横山威一郎「総論・検査値評価のコツ」2025年3月13日 掲載 https://www.ho.chiba-u.ac.jp/pharmacy/No26_20250313.pdf (最終アクセス2025年6月18日) (文献2) Richard A Oram,Timothy J McDonaldほか「Investigating hypokalaemia」, BMJ 2013; 347: f5137 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24065427/ (最終アクセス2025年6月18日) (文献3) 難病情報センター13 内分泌疾患「原発性アルドステロン症」 https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/kenkyuhan_pdf2014/gaiyo031.pdf (最終アクセス2025年6月15日) (文献4) 国立がん研究センター日本臨床腫瘍研究グループ「共用基準範囲対応CTCAE v5.0 Grade定義表」P1〜6 https://jcog.jp/assets/ChgJCOG_kyouyoukijunchi-CTCAE_50_20190905.pdf (最終アクセス2025年6月15日)
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