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「健康診断で心電図に異常があると指摘された」 「ときどき動悸がする」 「親も不整脈で治療していたため、自分も不整脈になったのではないか」 このような不安をお持ちの方も多いことでしょう。 心臓は電気的興奮により動き、全身に血液を送るポンプの役割を果たします。不整脈とは、電気的興奮のリズムや心拍数が一定しない状態を指します。 不整脈の原因は複数あるため、「不整脈になりやすい人の特徴」と一言であらわすことは難しいものです。不整脈の種類も複数あり、問題なく普通の生活を送れるものから、命に関わるものまでさまざまです。 本記事では、不整脈になりやすい方の特徴について、体質や生活習慣などの観点から説明します。 主な予防方法も解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 不整脈になりやすい人の特徴は主に5つ 不整脈になりやすい人の特徴は、主に以下の5つです。 加齢 肥満 生活習慣 疾患および薬の影響 遺伝 加齢 年齢を重ねると、不整脈が生じやすくなります。原因は、刺激伝導系および周辺組織の老化です。 心筋と呼ばれる心臓の筋肉は、適切なタイミングで一定に動くための電気信号システムが備わっています。これが刺激伝導系です。 しかし、年齢を重ねると、刺激伝導系および周辺組織が衰えたり硬くなったりします。そのため、心臓内で電気信号がうまく伝わらないことが増えてしまい、不整脈が生じやすくなるのです。(文献1) 一般的には、60歳以上になると不整脈が増えるといわれています。(文献2) しかし、不整脈のうち期外収縮と呼ばれるものは、30代を過ぎる頃からほとんどの方に認められます。(文献3) 期外収縮とは、不整脈の中でもよく見られるタイプで、一定のタイミングから若干外れた心臓の収縮により発生するものです。 肥満 肥満は高血圧や糖尿病といった生活習慣病を引き起こす原因の1つです。生活習慣病により不整脈が生じやすくなるだけではなく、肥満そのものが、不整脈の大きな要因であると示されています。 イギリスの文献においても、「体重を減らすことが不整脈の予防や改善につながる」と記されています。(文献4) 生活習慣 不整脈の原因としてあげられる主な生活習慣は以下のとおりです。 睡眠不足 疲労 ストレスの蓄積 カフェインの過剰摂取 喫煙 過度の飲酒 これらの生活習慣により活性化されるのが、自律神経の1つである交感神経です。 交感神経が活性化されると、日中に不整脈が起こりやすくなります。もう1つの自律神経である副交感神経が活性化されると、就寝中に不整脈が発生しやすくなります。(文献5) 睡眠不足や疲労、ストレスの蓄積などは、自律神経の乱れや不整脈そのものを引き起こしやすい生活習慣です。 不整脈とストレスの関係は以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 過度の飲酒習慣は、発作性の心房細動と関連があるとされています。 心房細動とは、心臓上部の心房が1分間に400~600回も不規則に動く不整脈です。発作性心房細動は、短時間だけ発生して元に戻るものを指します。(文献6) 心房細動は、心臓が不規則に動くために血流が悪くなり、血栓が生じやすい不整脈です。心房にできた血栓が全身を流れると、脳の血管を詰まらせる原因になります。その結果生じる疾患が脳梗塞であり、心疾患が由来であるため「心原性脳梗塞」と呼ばれます。 心原性脳梗塞に関しては、以下の記事をご参照ください。 疾患および薬の影響 不整脈の原因の中でも比較的多いものは、狭心症や心筋梗塞、心臓弁膜症、心不全、先天性心疾患といった心臓疾患です。 心臓疾患以外に加えて、甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症も、不整脈を引き起こす原因の1つです。 甲状腺機能低下症は徐脈性不整脈、甲状腺機能亢進症は頻脈性不整脈(心拍数の増加)と関連があるといわれています。 徐脈性不整脈は心拍数が減少するもので、以下のような種類があります。 洞不全症候群 房室ブロック 徐脈性心房細動 頻脈性不整脈とは心拍数が増加するもので、主なものは以下のとおりです。 発作性上室性頻拍 心房細動 心房粗動 心室頻拍 心室細動 風邪薬や抗うつ薬、心疾患の薬によって不整脈が生じる場合もあります。不整脈と診断された方で、該当する薬を内服されている方は、必ず担当医師に伝えましょう。 遺伝 心臓の電気的な活動をつかさどる遺伝子の変異により起こる不整脈の総称が、遺伝性不整脈です。 主な遺伝性不整脈としては、以下のようなものがあげられます。 先天性QT延長症候群 ブルガダ症候群 カテコラミン誘発多形性心室頻拍 QT短縮症候群 早期再分極症候群 遺伝性不整脈は、無症状のこともありますが、心室頻拍や心室細動といった命に関わる可能性もあります。 突然死の原因になるケースもあるため、適切な診断・治療が求められる不整脈です。 命に関わる不整脈 不整脈の中には、命に関わるものも存在します。 代表的なものは以下の3つです。 心室細動 心室頻拍 完全房室ブロック 心室細動 心室細動とは、心臓の下部である心室が非常に早く不規則に興奮して、小刻みに震えてしまう状態です。この状況では、心臓が拍動しなくなるため、全身に血液を送れなくなります。 全身に血液を送り出せなくなるため脳の血流も低下し、めまいや失神を起こし、意識を失います。迅速な救命処置や治療を行わないと命に関わる、最も危険な不整脈です。 心室頻拍 心室頻拍とは、心室が速く脈を打ち過ぎて血圧がほとんど出なくなる不整脈です。症状としては、強い動悸や胸痛、めまい、失神などがあげられます。 心室頻拍の大部分は重度の心疾患を抱えている方に発生し、心室細動を引き起こす場合もあります。 完全房室ブロック 房室ブロックと呼ばれる不整脈の中で最も重症なものです。 房室ブロックとは、心房からの電気信号を心室に伝える房室結節での連絡が途絶えてしまい、心室の脈がなくなるものです。房室ブロックはⅠ度からⅢ度に分類されており、完全房室ブロックと呼ばれるⅢ度は、房室結節での連絡が完全に途絶えています。(文献7) このまま放置すると心停止に至る可能性があるうえ、脈を速くする有効な内服薬がないためペースメーカー埋め込み手術が必要です。 不整脈にならないために気をつけること 不整脈にならないために気をつけると良い3つのポイントを以下に示しました。 食生活の見直し 適度な運動 持病の管理 食生活の見直し 食生活の見直しは、不整脈予防にとっても大切なものです。 バランスの良い食事を心がけましょう。具体的には、以下の3点がまんべんなくそろっている食事です。 主食(ご飯やパン、麺類など炭水化物の供給源) 主菜(肉や魚、卵などタンパク質の供給源) 副菜(野菜や果物、きのこ類などビタミンやミネラル、食物繊維の供給源) 不整脈に良い食べ物としては、バナナやほうれん草などのカリウムが多いもの、海藻類や豆類などマグネシウムが多いものがあげられます。 不整脈に悪い食べものとしては、塩分や動物性脂肪が多い食品などがあげられます。カフェイン飲料の過剰摂取も好ましくありません。 不整脈と食生活の関係は、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 適度な運動 ウォーキングや水泳など、中程度の運動30分を週2.5時間以上行うことで、心血管疾患の予防や不整脈抑制の効果があるとされています。ただし、運動習慣がない方が急に運動したり、既に心疾患がある方が運動したりすると、不整脈が引き起こされる可能性があります。 運動習慣がない方、既に心疾患がある方は、運動を始める前に医師に相談しましょう。 アメリカの論文では、体重を10%減少させた方や体重減を維持させた方は、減らなかった方より、不整脈が起きない確率が6倍も高くなったとのデータが示されています。論文上では、体重減少により重症の心房細動が軽症になったケースも示されていました。(文献8) 同じ論文では、飲酒の習慣がある心房細動患者が禁酒したことで、不整脈の再発が大幅に減ったとの研究結果が示されています。加えて、禁煙が心房細動の予防戦略として強く推奨されています。 持病の管理 心疾患をはじめ、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある方は、医師から指示を受けた薬の内服を続けて、治療を継続しましょう。 血圧の管理は、不整脈予防に効果的といわれています。 不整脈が繰り返し発生している方や、動悸・息切れといった症状がある方は、必ず医師に相談してください。 不整脈になりやすい人の特徴を理解して予防に努めよう 不整脈になりやすい方の特徴としては、「高齢である」「家族歴がある」「心疾患や高血圧、糖尿病などがある」といったことがあげられます。また、肥満や喫煙、飲酒といった生活習慣も関係するといわれています。 これらの特徴に少しでも当てはまる方は、生活習慣の改善や疾患の管理などできる範囲で不整脈の予防に努めましょう。 中には命にかかわる不整脈もあるため、強い胸痛や動悸、呼吸困難などの症状が出た場合は、早急に病院を受診してください。症状がない場合でも、心電図検査で異常を指摘された方は、ホルター心電図や運動負荷心電図、心臓エコーなどの詳しい検査を受けることが望ましいでしょう。 現在不整脈でお悩みの方は、当院へお気軽にご相談ください。メール相談やオンラインカウンセリングも実施しております。 参考文献 (文献1) 森拓也.「老人性不整脈」『日本農村医学会雑誌』65(2), pp.136-143, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/2/65_136/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献2) 独立行政法人国立病院機構岩国医療センター「不整脈とは?」独立行政法人国立病院機構岩国医療センターホームページ https://iwakuni.hosp.go.jp/junkanki-ab-huseimyaku.html(最終アクセス:2025年6月22日) (文献3) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター「不整脈」国立研究開発法人国立循環器病研究センターホームページ, 2023年09月22日 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/arrhythmia/(最終アクセス:2025年6月22日) (文献4) Kiran Haresh Kumar Patel, et al.(2022).Obesity as a risk factor for cardiac arrhythmias.BMJ Medicine, 1, pp.1-13. https://bmjmedicine.bmj.com/content/bmjmed/1/1/e000308.full.pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献5) 渡部智紀.「自律神経と不整脈」『自律神経』56(4), pp.221-223, 2019 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/56/4/56_221/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献6) 日本不整脈外科研究会「不整脈とは 心房細動」日本不整脈外科研究会ホームページ https://plaza.umin.ac.jp/~arrhythm/arrhythmia/atrium/index.html(最終アクセス:2025年6月22日) (文献7) 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター「房室ブロック」独立行政法人国立病院機構大阪医療センターホームページ https://osaka.hosp.go.jp/department/cvm/kakushikkan/fuseimyaku/ba/boushitsu/index.html(最終アクセス:2025年6月22日) (文献8) Mina K. Chung, et al. (2020).Lifestyle and Risk Factor Modification for Reduction of Atrial Fibrillation: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation, 141(16) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32148086/(最終アクセス:2025年6月22日)
2025.06.29 -
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健康診断で「貧血気味」と言われたけれど、自覚症状もないし放っておいて大丈夫……そう思っていませんか? 実は、貧血には数値だけではわからない危険が潜んでいます。とくに女性に多い「隠れ貧血」は、基準値内でも体調不良を引き起こすことがあるのです。 本記事では、貧血の数値の見方や基準、症状がなくても注意すべき理由、受診のタイミング、そしてよくある誤解までをわかりやすく解説します。 血液検査における貧血の基準値 貧血の診断は血液検査の結果を基に行われ、複数の検査項目を総合的に評価すると正確な判断が可能です。ヘモグロビン値をはじめとする各種検査項目には、年齢や性別による基準値が設定されており、数値を理解すると自分の健康状態を把握できます。 以下では、貧血の診断に重要な各検査項目の基準値と、意味について詳しく解説します。 ヘモグロビン(Hb) ヘモグロビンは赤血球に含まれる鉄を含有したタンパク質で、体内で酸素を運搬する重要な役割を担っています。ヘモグロビンの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 13.1~16.6g/dL 女性 12.1~14.6g/dL (文献1) ヘモグロビンは、個人差を考慮した判断が重要です。ヘモグロビン濃度には個人差があるため、普段の数値と比較し、急に2g/dL以上の減少が見られた場合は、基準値内であっても貧血状態が疑われることがあります。(文献2) 緊急性の高い貧血として、7~8g/dLを下回った場合は早急な検査や対応が必要です。(文献2) この数値まで低下すると、日常生活に重大な支障をきたし、心臓や他の臓器への負担も大きくなるため、迅速な処置が求められます。定期的な血液検査で自分の基準値を把握し、数値の変化に注意すれば、貧血の早期発見と適切な治療につながります。 ヘマトクリット(Ht) ヘマトクリットは血液全体に対する血球成分の体積の占める割合を示す検査値です。血球成分の約95%が赤血球によって構成されているため、実質的には血液中の赤血球の占める割合を表す重要な指標となります。(文献2)ヘマトクリットの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 38.5~48.9% 女性 35.5~43.9% (文献1) ヘマトクリット値は年齢や性別によって基準値が異なり、女性の方が男性よりもやや低い傾向です。これは月経による鉄分の損失や、男性ホルモンの影響による赤血球産生の違いが関係しています。定期的な血液検査でヘマトクリット値を確認し、ヘモグロビン値と合わせて総合的に貧血の状態の評価が重要です。 赤血球数(RBC) 赤血球数は血液1μl中に含まれる赤血球の数を示す検査値です。赤血球は酸素を全身に運搬する重要な役割を担っているため、その数の増減は体の酸素運搬能力に直接影響します。赤血球数の基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 400~539×10⁶/μl 女性 360~489×10⁶/μl (文献1) 男性の方が女性よりも赤血球数が多い傾向にあります。これは男性ホルモンが赤血球産生を促進することや、女性では月経による鉄分の損失が関係しています。 MCV(平均赤血球容積) MCV(平均赤血球容積)は赤血球の大きさを表す重要な指標です。この数値により、貧血の原因を特定する手がかりを得られます。MCVの基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 82.7~101.6 fl 女性 79.0~100.0 fl (文献1) MCVの数値は貧血の分類において極めて重要で、治療方針の決定にも大きく影響します。MCV値が低い小球性貧血の場合は鉄剤の補充、MCV値が高い大球性貧血の場合はビタミンB12や葉酸の補給が主な治療となります。正常範囲内であっても、ほかの検査値と組み合わせることで、より詳細な貧血の状態の把握が可能です。 MCH / MCHC(赤血球中のヘモグロビン量・濃度) MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)とMCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビンの量と濃度を示す検査値です。 MCH基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 28.0~34.6 pg 女性 26.3~34.3 pg (文献1) MCHC基準値の目安は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 31.6~36.6% 女性 30.7~36.6% (文献1) 数値が低下している場合は、鉄欠乏性貧血や慢性疾患による貧血の可能性が考えられます。 フェリチン(貯蔵鉄) フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、主に肝臓、脾臓、骨髄などに存在します。血中のフェリチン値は体内の鉄貯蔵量を直接反映するため、鉄欠乏や鉄過剰の診断において極めて重要な指標です。 ヘモグロビン値が正常でもフェリチン値が低い場合は、隠れ貧血や鉄欠乏状態の可能性があります。これは体内の鉄の貯蔵が枯渇し始めている状態で、早期の対策が必要です。逆にフェリチン値が異常に高い場合は、鉄過剰症や炎症性疾患の可能性も考えられます。フェリチンの基準値は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 13~277 ng/ml 女性 5~152 ng/ml (文献1) フェリチン値は貧血の早期発見や治療効果の判定に有用で、鉄剤投与の必要性を判断する重要な検査項目です。 血清鉄(Fe) 血清鉄は血液中に存在する鉄分を測定した値で、体内の鉄の代謝や貯蔵状態を反映する重要な検査項目です。血液中の鉄は主にトランスフェリンというタンパク質と結合して運搬されており、この値により現在の鉄の利用状況を把握できます。血清鉄の基準値は以下のとおりです。 対象 基準値 男性 54~181 μg/dL 女性 43~172 μg/dL (文献3) 血清鉄値が低い場合は鉄欠乏性貧血の可能性が高く、高い場合は鉄過剰症や溶血性貧血などが考えられます。ただし、炎症性疾患や感染症では血清鉄が低下する場合があるため、ほかの炎症マーカーと併せて総合的な評価が必要です。 【貧血のタイプ別】数値の見方 貧血にはさまざまなタイプがあり、それぞれ検査数値に特徴的なパターンが現れます。以下では主要な貧血のタイプごとに、典型的な検査値の変化パターンを解説します。 鉄欠乏性貧血の特徴 鉄欠乏性貧血では以下のような検査値の変化が見られます。 Hb(ヘモグロビン:低下) MCV(平均赤血球容積:低下) MCH(平均赤血球ヘモグロビン量:低下) フェリチン(貯蔵鉄:低下) TIBC(総鉄結合能:上昇) これらの数値パターンは、鉄不足により赤血球が小さく色の薄い状態になることを示しています。フェリチンの低下は体内の鉄貯蔵量の枯渇を、TIBCの上昇は体が鉄を取り込もうとしている状態です。 悪性貧血(ビタミンB12欠乏)の特徴 ビタミンB12欠乏による悪性貧血では以下の特徴が見られます。 Hb(ヘモグロビン:低下) MCV(平均赤血球容積:上昇) 葉酸(葉酸:低下) ビタミンB12(ビタミンB12:低下) ビタミンB12や葉酸の不足により赤血球が正常よりも大きくなる特徴があります。これらの栄養素はDNA合成に必要なため、不足すると細胞分裂が正常に行われず、大きな赤血球が作られてしまいます。 慢性疾患に伴う貧血の特徴 慢性疾患に伴う貧血は、ほぼすべての感染症や炎症、悪性腫瘍で起こる可能性があります。自己免疫性疾患、心不全や腎疾患でも発生しやすい貧血です。 この貧血の特徴は、基礎疾患による慢性炎症が鉄の利用を阻害することにあります。フェリチンは正常または高値を示すことが多く、これは炎症により鉄が細胞内に取り込まれるものの、ヘモグロビン合成に利用されにくくなるためです。根本的な原因疾患の治療がもっとも重要で、単純な鉄剤補充では改善しにくいのが特徴です。 【要注意】隠れ貧血について 「隠れ貧血」は一般的な血液検査では見つかりにくい貧血の前段階で、ヘモグロビン値が正常範囲内でも体内の鉄貯蔵量が不足している状態です。自覚症状がないことも多く、見過ごされやすいため注意が必要です。早期発見には特定の検査項目に注目し、総合的な評価が重要になります。 フェリチンの重要性 フェリチンは体に蓄えられた鉄分の量を示す最も重要な指標です。ヘモグロビン値が正常範囲内であっても、フェリチン値が低い場合は体内鉄が枯渇し始めている可能性があります。これは、隠れ貧血や潜在性鉄欠乏と呼ばれる状態で、将来的に明らかな貧血に進行するリスクです。 フェリチン値が15ng/mL以下の場合は「隠れ貧血」のリスクが高いとされています。(文献4)一般的な基準値内であっても、この数値を下回ると体内の鉄貯蔵量が危険なレベルまで低下していることを示します。 女性では月経による鉄分の損失があるため、男性よりも注意深い観察が必要です。フェリチン値の定期的なチェックにより、症状が現れる前の早期段階で鉄欠乏を発見し、適切な対策を講じられます。 TIBC・UIBCもチェック 総鉄結合能(TIBC)は、トランスフェリン(鉄を運ぶためのタンパク質)に結合可能な鉄量の総量を示し、不飽和鉄結合能(UIBC)は鉄と結合していないトランスフェリンの量を表します。これらの検査値は鉄欠乏状態をより詳細に評価するために重要な指標です。 TIBCの基準値は300〜360μg/dLで、鉄欠乏においてTIBCは増加する傾向があります。(文献5)これは体が鉄不足を感知し、より多くの鉄を取り込もうとする代償反応です。トランスフェリン飽和率(血清鉄/TIBC×100)も鉄欠乏の評価に用いられ、16%以下で鉄欠乏と考えられます。(文献5) 数値を総合的に評価すれば、フェリチン値だけでは判断しきれない微細な鉄代謝の異常を発見できます。隠れ貧血の早期発見には、複数の検査項目を組み合わせた包括的な評価が不可欠です。 貧血と数値の関係性を理解して適切に対処しよう 体調の違和感は貧血のサインかもしれません。疲れやすさ、めまい、息切れなどの症状は日常的によくある不調として見過ごされがちですが、実は体が発しているサインの可能性があります。血液検査の数値も大切ですが、日々の不調を見逃さないことが何より重要です。 数値が正常範囲内であっても、普段と比べて明らかな体調の変化がある場合は、隠れ貧血や他の健康問題が潜んでいる可能性があります。自分の体の声に耳を傾け、小さな変化にも注意を払うことが早期発見につながります。 効果的な貧血対策には、医療機関での専門的な検査と食事・生活改善の両輪が不可欠です。正確な診断に基づいた適切な治療と、栄養バランスの取れた食事や規則正しい生活習慣の改善を組み合わせることで、根本的な解決が期待できます。 貧血の症状でお悩みの方や、検査数値に不安がある方は、ぜひリペアセルクリニックにご相談ください。当院では豊富な経験を持つ医師が、診断と治療をします。隠れ貧血の早期発見から個別の栄養指導、生活習慣の改善までサポートいたします。LINEにてお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 公立学校共済組合 近畿中央病院「血液検査基準一覧表」公立学校共済組合 近畿中央病院 臨床検査科 https://www.kich.itami.hyogo.jp/wp-content/uploads/2020/11/rk1.pdf (最終アクセス:2025年6月10日) 文献2 こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科「貧血はどのように見極める?貧血のタイプと検査」こころみクリニック上野御徒町 内科・血液内科・糖尿病内科ホームページ https://ueno-okachimachi-cocoromi-cl.jp/knowledge/anemia-test/ (最終アクセス:2025年6月10日) 文献3 国立循環器病研究センター「主な血液検査の基準値一覧」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20210816_kizyuntiitiran_sougoukenshitu.pdf (最終アクセス:2025年6月10日) 文献4 医学書院「あなたも見逃している!? “隠れ貧血”」医学書院ホームページ https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_04 (最終アクセス:2025年6月10日) 文献5 まえだクリニック「鉄欠乏性貧血の診断について」まえだクリニックホームページ、2023年11月22日 https://maeda.clinic/blog/20231122_diagnosis-of-iron-deficiency/ (最終アクセス:2025年6月10日)
2025.06.29 -
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「立ちくらみがして、そのまま倒れてしまった」「急に視界が暗くなって意識が遠のいた」 そんな経験に心当たりはありませんか?とくに女性に多い貧血は、放っておくと日常生活に支障をきたすばかりか、転倒やケガなどの事故にもつながりかねません。 本記事では、貧血で倒れてしまう原因や前兆となるサイン、倒れそうになったときの対処法、そして受診すべきタイミングについて、わかりやすく解説します。「また倒れたらどうしよう」といった不安を少しでも軽くできるよう、ぜひ参考にしてください。 貧血で倒れる原因 貧血による失神や倒れる症状には、さまざまな原因があります。もっとも多い鉄欠乏性貧血から、血圧の変化による起立性低血圧、さらには重篤な疾患に伴う貧血まで、背景はさまざまです。原因を理解すると、適切な対処と予防が可能になります。 鉄欠乏性貧血 日本で最も多くみられる貧血は鉄欠乏性貧血です。以下は検査項目における体内鉄分量の平均的な数値になります。 検査項目 数値 ヘモグロビン 2g(男性)、1.5g(女性) フェリチン 1g(男性)、0.6g(女性) ヘモジデリン 300mg ミオグロビン 200mg 組織酵素(ヘム鉄および非ヘム鉄) 150mg トランスフェリン 3mg (文献1) 鉄欠乏性貧血の主な原因は以下のとおりです。 単純な鉄の摂取不足 過多月経や慢性出血 腸の吸収不全 男性の場合:胃・十二指腸潰瘍、大腸がんなど消化器系の出血が中心 鉄欠乏性貧血はとくに女性に多く、症状は以下のとおりです。 動悸・息切れ めまい・立ちくらみ 耳鳴り 疲れやすさ 頭が重い感覚 顔色が青白い 集中力の低下 女性は月経による鉄分の損失が多いため、とくに注意が必要です。症状が続く場合は医療機関での検査をおすすめします。 起立性低血圧(脳貧血) 起立性低血圧は脳貧血や立ちくらみとも呼ばれ、血液の異常ではなく血圧の急激な低下が原因で起こります。症状は以下のようなタイミングで現れることが多いです。 朝の急な立ち上がり時 長時間の立位後 座位や臥位から急に立ち上がった際 起立性低血圧になりやすい人の特徴として、以下の要因が考えられます。 長時間立ちっぱなしの状況が多い 低血圧体質 睡眠不足が続いている 水分不足状態 特定の薬を服用中(降圧薬など) 対策としては、急な体位変換を避け、ゆっくりと立ち上がることが重要です。十分な水分摂取と適度な休息を心がけ、症状が頻繁に起こる場合は医師に相談しましょう。薬剤性の可能性もあるため、服用中の薬についても医師へ伝えることが大切です。 その他の疾患 慢性疾患やその他の疾患に伴う貧血は、基礎疾患の炎症や代謝異常により引き起こされる二次性の貧血です。原因となる主な疾患は以下のとおりです。 心不全 慢性腎臓病 全身性自己免疫疾患(関節リウマチ、SLEなど) 感染症(慢性感染症) がん(悪性腫瘍) 二次性の貧血は原疾患の治療が重要で、鉄剤の補充だけでは改善しにくいのが特徴です。基礎疾患による慢性炎症が鉄の利用を阻害するため、根本的な原因疾患の管理が必要となります。 中高年以降で原因不明の貧血が続く場合は、隠れた慢性疾患の可能性も考慮し、総合的な検査が重要です。 貧血で倒れる前のサイン 貧血では、倒れる際に前兆となるサインがあります。 感覚系の異常として、回転性のめまいやふらつき、体のバランス感覚の低下が現れます。「キーン」「ボーッ」といった耳鳴りにより外の音が遠く感じられたり、目の前が真っ暗になる、視野にちらつきが見えるなどの視覚異常も要注意です。 循環器系の症状では、心臓がバクバクする動悸や息切れ、呼吸が浅くなる症状が見られます。急に全身が冷えて冷や汗をかき、顔色が悪くなる顔面蒼白も典型的なサインです。 その他の症状として、おなかがムカムカする吐き気や腹部不快感、血の気が引くような手足の冷感や脱力感があります。集中できない、頭がフワフワするといった意識の朦朧や頭重感も現れます。 これらの症状が現れたら、すぐに座ったり横になったりすることが重要です。無理をせず、症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。 貧血で倒れそうになったときの対処法 貧血の症状が現れて倒れそうになった際は、冷静に適切な対処が重要です。無理して動き続けると症状が悪化し、転倒や怪我のリスクが高まります。以下の手順に沿って、段階的に対応しましょう。 安全確保する まず最優先に行うべきは安全な場所の確保です。立っていると転倒の危険があるため、無理をせずその場でしゃがんだり、可能であれば横になったりして安全な体勢を取りましょう。 階段や道路、電車のホームなど危険な場所にいる場合は、周囲の人に助けを求めながら安全な場所への移動が大切です。頭を打つような転倒を避けるため、壁や手すりがある場所でゆっくりと体勢を低くしましょう。 一人でいる場合でも、慌てずに周囲の状況を確認し、転倒リスクの少ない場所で休息を取ることを心がけてください。安全確保は何よりも優先されるべきです。 服を緩める 安全な体勢が確保できたら、次に血流の改善を図りましょう。ベルトやネクタイ、襟元のボタンなど、体を締め付けている衣類をゆるめることで血行を促進し、症状の緩和につながります。 首周りや腹部を締め付けているものは、血液循環や呼吸を妨げる可能性があるため優先的に緩めましょう。靴のひもやブーツなども、きつく感じる場合は緩めてください。 可能であれば静かで人の少ない場所に移動し、安静に過ごすことが重要です。騒がしい環境は症状を悪化させる可能性があるため、落ち着いて休める環境を確保しましょう。リラックスした状態で休息を取ると、徐々に症状の改善が期待できます。 水分や糖分を補給する 意識がはっきりしている場合は、適切な水分や糖分補給をしましょう。脱水が貧血症状を悪化させる場合があるため、水やスポーツドリンクの摂取が効果的です。糖分不足も症状に関係する場合があるので、飴やジュースなども有効です。 ただし、意識がもうろうとしている場合は絶対に飲食させてはいけません。誤嚥の危険があり、窒息や肺炎のリスクが高まります。無理に口に含ませることは避けてください。 意識が戻らない、けいれんが起こる、呼吸困難などの重篤な症状が見られる場合は、迷わず119番通報をしましょう。これらは緊急事態のサインであり、専門的な医療処置が必要です。軽視せず、適切な判断を心がけてください。 貧血で倒れた場合の受診目安 貧血による失神や倒れるなどの症状が起きた場合、その後の対応が重要です。軽微な症状であっても、背景に重大な疾患が隠れている可能性があるため、受診の必要性を正しく見極める必要があります。以下の基準を参考に、適切な医療機関への相談を検討しましょう。 受診が必要なケースは 緊急性の高い場合は、以下のような症状がみられます。 繰り返し倒れる 失神の時間が長い けいれんがあった 頭を打った 呼吸が乱れている 意識がはっきりしない など このような状況では即座に医療機関を受診してください。 日常生活への影響が大きい場合も受診の目安となります。仕事や学校生活に支障をきたすような症状が継続する場合は、その時点で病院の受診が必要です。 貧血の原因は鉄欠乏症だけでなく、がんなどの重大な疾患が潜んでいる可能性もあります。とくに中高年で急に貧血症状が現れた場合や、通常の鉄分補給で改善しない場合は、詳しい検査が必要です。軽視せず早期の受診を心がけましょう。 何科に受診するのか 貧血症状で医療機関を受診する際は、まず内科がおすすめです。内科では血液検査や基本的な診察を通じて、貧血の原因を特定し、適切な治療方針を決定できます。 年齢や性別による選択肢として、子どもの場合は小児科、女性の場合は産婦人科でも対応可能です。女性の貧血は月経過多や婦人科疾患が原因となる場合が多いため、産婦人科での相談も良いでしょう。 受診科に迷った場合は、まずかかりつけの医療機関に相談をおすすめします。症状に応じて適切な診療科を案内してもらえます。 貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血で倒れないための予防策 貧血による失神や倒れる症状を予防するには、日常生活での対策が重要です。食事や水分摂取、生活習慣の改善を通じて、体の状態を整えることで貧血リスクを大幅に軽減できます。以下のポイントを意識して、継続的な予防に取り組みましょう。 食事の見直し 基本的な食習慣の改善として、バランスの良い食事を1日3回規則正しく摂取しましょう。よく噛んで食べることで消化吸収を促進し、栄養素の効率的な利用につながります。 鉄分を多く含む食品(レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜など)を積極的に摂取しましょう。同時にタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)やビタミン類(とくにビタミンC、B12、葉酸)も重要です。ビタミンCは鉄の吸収を促進するため、一緒に摂ることが効果的です。 18歳以上の鉄の食事摂取基準(1日あたり)は以下のとおりです。 成人男性:7.0mg 成人女性:6.0mg(月経あり:10.5mg)(文献2) 注意点として、コーヒーや紅茶の飲みすぎは鉄の吸収を阻害するため控えめにし、食事と時間をずらしての摂取がおすすめです。 水分と塩分の適切な摂取 起立性低血圧の予防には、とくに朝の水分補給が重要です。起床時は血液が濃縮されているため、コップ1杯の水を飲むと血液循環を改善できます。立ち上がる際は急に動かず、ゆっくりと段階的に体勢を変えましょう。 夏場や運動時は発汗により脱水が進みやすいため、こまめな水分補給が必要です。スポーツドリンクなどで適度な塩分も同時摂取が効果的です。 食事後は消化のために血液が胃腸に集中し、起立性低血圧になりやすくなります。食後は急な立ち上がりを避け、ゆっくりとした動作を心がけてください。日常的に十分な水分摂取を維持すると、血液循環の改善と貧血症状の予防につながります。 睡眠・ストレス・運動習慣を整える 自律神経の安定が脳貧血予防のポイントです。質の良い睡眠を確保し、規則正しい生活リズムを維持すると、自律神経のバランスが整い、血圧や心拍数の調整機能が正常に働きます。 適度な運動も効果的で、軽いウォーキングやストレッチなどの有酸素運動は血液循環を改善し、心肺機能を向上させます。激しい運動は避け、継続可能な範囲で行いましょう。 ストレス管理では、リラックスや趣味の時間を作ると、心身の緊張が和らぎます。慢性的なストレスは自律神経の乱れを引き起こし、貧血症状を悪化させる可能性があります。深呼吸や瞑想、軽いヨガなども自律神経の安定に役立つでしょう。 生活習慣を総合的に改善すると、貧血による失神リスクを大幅に軽減できます。 貧血で倒れる頻度が多い方は放置厳禁! 頻繁に倒れる症状が続く場合は、背景に重大な疾患が隠れている可能性があります。鉄欠乏性貧血以外にも、慢性疾患や悪性腫瘍による貧血、血液疾患などが原因となることがあるため、繰り返す症状は必ず医療機関で詳しい検査を受けてください。 貧血の原因や症状は一人ひとり異なるため、個々の状況に応じた適切な治療が必要です。自己判断による対処では根本的な解決にならず、症状の悪化や合併症のリスクもあります。専門的な診断と治療を受けることで、効果的な改善が期待できます。 貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 参考文献 文献1 MSDマニュアル プロフェッショナル版「鉄欠乏性貧血」MSDマニュアル プロフェッショナル版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E8%B5%A4%E8%A1%80%E7%90%83%E7%94%A3%E7%94%9F%E4%BD%8E%E4%B8%8B%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%B2%A7%E8%A1%80/%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80(最終アクセス:2025年6月9日) 文献2 厚生労働省「鉄の食事摂取基準(mg/日)」厚生労働省ホームぺージ https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4aq.pdf(最終アクセス:2025年6月9日)
2025.06.29 -
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「ふくらはぎが張っている」 「脚が赤く腫れてきた気がする」 脚やふくらはぎの違和感を加齢や疲労だと考えていませんか。その症状、血栓性静脈炎と呼ばれる静脈の異常が関係しているかもしれません。 血栓性静脈炎は静脈に血のかたまり(血栓)ができ、炎症が起こる状態です。放置すると血栓が肺などに移動し、命に関わる合併症を引き起こす恐れがあります。本記事では以下について解説します。 血栓性静脈炎の症状 血栓性静脈炎の原因 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 血栓性静脈炎の治療法 血栓性静脈炎の再発防止策 記事の最後には、血栓性静脈炎に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 血栓性静脈炎とは 血栓性静脈炎とは、静脈の中に血栓(血のかたまり)ができ、その部分に炎症が生じる病気です。とくにふくらはぎなどの下肢に多くみられ、腫れや熱感、赤みなどの症状を引き起こします。発症の原因としては、長時間同じ姿勢でいることや、血流が滞る生活習慣、基礎疾患などが挙げられます。 血栓が肺に流れ込むと、肺塞栓症と呼ばれる重大な合併症を招く恐れがあるため、早期の対応が必要です。血栓性静脈炎は軽い症状で始まることが多く、見逃されやすい特徴があります。脚の腫れや熱感などを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎の症状 病気の概要 静脈の壁に炎症が起こり、血の塊(血栓)ができる 発症しやすい部位 とくに脚の静脈に多く見られますが、腕などにも起こることがある 主な種類 主な種類 血栓性静脈炎には、皮膚の浅い部分に起こる比較的軽症の表在性血栓性静脈炎と、筋肉内の深い静脈にできて重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類がある 代表的な症状 患部の違和感・腫れ・赤み・熱感・しこりなどが見られる 原因 血液が固まりやすい状態、血流の停滞、血管の損傷などが関係している 放置した場合のリスク 深部静脈血栓症や肺塞栓症に進行すると命に関わる可能性がある (文献1) 血栓性静脈炎の代表的な症状は、ふくらはぎや脚の腫れ、皮膚の赤み、熱感、押したときの硬さなどです。初期には違和感や張りを感じる程度のこともありますが、時間の経過とともに患部が熱をもち、歩行時に重さを感じるようになることもあります。 血栓性静脈炎には軽症が多い表在性と、重症化しやすい深部静脈血栓症(DVT)の2種類があります。DVTは気づかないうちに進行し、肺塞栓など命に関わる合併症を引き起こすこともあるため、早期に医療機関で診断と治療を受けることが大切です。 血栓性静脈炎の原因 原因 概要 血管の病気(ベーチェット病・バージャー病) 血管に炎症を起こす病気により、血管が傷つき血栓ができやすくなります。とくに喫煙者や持病がある方は注意が必要 血流の滞り(うっ滞) 長時間同じ姿勢や運動不足により血流が滞ると、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の損傷 血管の内側が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 加齢による影響 年齢とともに血管が硬くなり血流が悪化し、血栓ができやすくなる 血栓性静脈炎の発症には、複数の要因が関与しています。とくに静脈の血流が滞りやすい状況、血管が傷つき、血液が固まりやすくなると、血栓性静脈炎のリスクが高まります。 ベーチェット病やバージャー病などの血管に関する病気 要因 詳細 血管の炎症 ベーチェット病やバージャー病では血管の壁に炎症が起こり、血管が傷つくことで血栓ができやすくなる 免疫異常 自己免疫の異常により免疫が血管を攻撃し、血栓形成が助長される 血流の特徴 静脈は血流が遅いため、血栓ができやすく、炎症によってそのリスクがさらに高まる 喫煙との関連 バージャー病は喫煙者に多く、血管の閉塞や炎症を引き起こしやすくなる (文献2) ベーチェット病やバージャー病は血管に炎症を起こし、血管内が傷つくことで血栓ができやすくなります。とくに静脈は血流が遅いため、血栓が生じやすい状態です。 ベーチェット病は免疫異常により血管が攻撃され、バージャー病は喫煙と深く関係し、手足の血管に炎症や閉塞を起こします。これらの病気がある方は、足の腫れや赤みに早く気づくことが大切です。 静脈血流のうっ滞 原因 概要 血液成分の接触時間が長くなる 血流が遅くなると血液成分が静脈壁に長く接触し、凝固しやすくなる 凝固因子の蓄積 血液が滞ると凝固因子が流されずにたまり、血栓ができやすくなる 血管内皮細胞の機能低下 血流が悪いと血管内皮の働きが低下し、血栓を防ぐ力が弱まる 長時間の不動(旅行・手術後など) 足を動かさない時間が長いと血液が滞り、血栓ができやすくなる 下肢静脈瘤 静脈の弁が壊れやすくなり、血液が逆流・滞留して血栓ができやすくなる ギプス固定 筋肉が動かせないことで静脈の血流が悪化し、血栓のリスクが高まる 肥満・妊娠 腹部が圧迫され、足からの血流が悪くなり血栓の原因になる (文献3)(文献4) 血栓性静脈炎は、血流の滞り(うっ滞)によっても発症しやすくなります。とくに長時間のデスクワーク、飛行機や車での長距離移動、運動不足などで引き起こされます。 血流が滞ると血液が一カ所にとどまりやすくなり、血栓ができるリスクが高まります。エコノミークラス症候群のように、長時間足を動かさない状態も原因の一つです。とくに加齢や下肢静脈瘤がある方は、血液が心臓に戻りにくく、リスクがさらに増します。違和感があれば、早めの受診と生活習慣の見直しが大切です。 血管内皮細胞の障害 項目 概要 損傷による影響 内皮細胞が傷つくと血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなる 損傷の原因 喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などが原因になる 予防のポイント 生活習慣の改善と基礎疾患の管理が内皮細胞を守る鍵となる (文献5)(文献6) 血管内皮細胞は、血管の内側を覆い、血流を保ちつつ血栓の予防に重要な役割を果たしています。しかし、喫煙や高血圧、糖尿病、感染症、外傷、カテーテルの留置などにより内皮細胞が傷つくと、血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい状態になります。 血栓が静脈内にできると血栓性静脈炎を引き起こす可能性があり、とくに深部静脈に生じた場合は命に関わる合併症につながることもあります。内皮細胞を守るには、生活習慣の見直しと持病の適切な管理が大切です。 加齢に伴うもの 加齢による変化 血栓性静脈炎との関係 血管内皮細胞の機能低下 内皮細胞の抗血栓作用が低下し、血液が固まりやすくなる 静脈弁の機能低下 血液の逆流や停滞が起こり、静脈うっ滞が血栓の原因になる 血液凝固系の変化 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる 活動量の低下 ふくらはぎの筋肉のポンプ作用が弱まり、血液が滞りやすくなる 基礎疾患の増加 疾患による血管への影響や凝固異常が血栓形成を助長する (文献7) 加齢により血管内皮細胞の働きが低下し、血栓を防ぐ機能が弱まると同時に、血液が固まりやすくなる変化も起こります。加齢により静脈弁や筋肉の働きが弱まると血流が滞りやすくなり、血栓ができやすくなります。さらに、高血圧や糖尿病といった病気のリスクも高まることで、血栓のリスクが一層増加します。 とくに高齢者は、加齢による感覚の鈍化や持病との区別がつきにくいため、初期症状に気づきにくく、発見が遅れてしまうケースも少なくありません。ふくらはぎの腫れや赤みなどの違和感が出た場合はすぐに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎における受診すべき診療科 受診するべき診療科 受診の目安 特徴 皮膚科 皮膚が赤く腫れ、浅い血管がミミズ腫れのように見える場合 皮膚の見た目の異常が中心であり、軽症ならここで十分対応可能 血管外科・心臓血管外科 下肢が強く腫れている、再発を繰り返している、深部静脈が疑われる場合 エコー検査や抗凝固療法など、治療が必要なときに行われる 内科・総合内科 症状の原因がわからない、高齢者や持病が多く全身の管理が必要な場合 最初の相談窓口として適切 皮膚の赤みや軽い腫れといった症状がある場合は皮膚科で対応可能です。しかし、腫れが強い場合や血栓が深部に及ぶ可能性がある場合は、血管外科や心臓血管外科といった専門診療科の受診が推奨されます。 また、症状の判断が難しいときや持病が多い方は、まず内科や総合内科を受診し、医師に相談するのがおすすめです。受診先に迷った場合は、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて適切な診療科へつなげてもらうのも方法です。 血栓性静脈炎の治療法 治療法 対象となる状態 治療の内容 特徴 保存療法 軽度の血栓性静脈炎、初期段階 安静・脚の挙上・弾性ストッキング・冷却など 身体への負担が少なく、自宅でも実施可能 薬物療法 炎症や血栓が進行している場合 抗炎症薬で炎症軽減、抗凝固薬で血栓形成予防 再発予防にも有効で、長期的な継続が重要 手術療法 重度または再発を繰り返す場合 血栓除去術やバイパス術で血流回復 侵襲が大きいため慎重な判断が必要 再生医療 既存治療で効果が乏しい、血管損傷が広範囲な場合 幹細胞などを用いた血管修復の研究的治療 保険外治療で実施施設が限られる 血栓性静脈炎の治療は、症状の程度や進行状態によって方針が異なります。治療の目標は、血流を回復させて血栓の拡大や移動を防ぐことです。 保存療法 対処法 目的 効果的な活用方法 注意点 安静 炎症の悪化を防ぎ、違和感を軽減する 無理のない範囲で日常生活を送りつつ、患肢を休ませる 活動の範囲は医師と相談が必要 挙上 静脈の血流を促進し、腫れを軽減する 寝るときや座るときにクッションで足を高く保つ 長時間の同じ姿勢は避け、適度な動きも必要 弾性ストッキング 血流改善・腫れ予防・血栓拡大の防止 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で着用する 着用時間や圧迫度合いは個別に調整が必要 湿布(NSAIDs) 患部の炎症と違和感を軽減する 医師・薬剤師の指導に従って使用し、貼付時間を守る かぶれや副作用に注意し、皮膚に異常があれば中止する (文献8) 保存療法は軽度の血栓性静脈炎に用いられる治療で、安静や脚の挙上、弾性ストッキングの着用、湿布などで血流を改善し炎症を抑えます。自己判断で行わず、医師の指示に従い、違和感があればすぐに相談しましょう。 薬物療法 薬の種類 作用・目的 使用されるケース 注意点 抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリン・DOAC) 血液が固まるのを防ぎ、血栓の拡大や新規形成を防ぐ 深部静脈血栓症(DVT)の治療、表在性でも進行リスクが高い場合に使用 出血リスクあり。医師の指示を守る。定期的な検査が必要な薬もある 血栓溶解薬(tPAなど) すでにできた血栓を溶かす 肺塞栓症など重症例で、発症初期に限定的に使用される 出血のリスクが高く、入院下で慎重に使用される NSAIDs(内服・湿布) 炎症や違和感を抑える。血栓を直接溶かす作用はない 表在性血栓性静脈炎での腫れや違和感の緩和に使用 胃腸障害や皮膚のかぶれに注意。長期使用は医師の指導が必要 (文献9) 血栓性静脈炎の薬物療法では、抗炎症薬や抗凝固薬が使用されます。抗炎症薬は炎症による腫れや赤みを軽減し、抗凝固薬は血液を固まりにくくする作用があり、新たな血栓の形成を防ぐために使用されます。 中には血栓を溶かす作用のある薬剤(血栓溶解薬)が用いられることもありますが、使用には出血のリスクを伴うため、慎重な判断が必要です。薬物治療は医師の指導に基づいて継続的に行われます。薬の量を自己判断で変えたり中止したりすると、効果が下がるだけでなく副作用のリスクが高まるため注意が必要です。 手術療法 手術法 有効な理由 手術の概要 注意点 血栓除去術(血栓摘出術) 巨大な血栓で血流が遮断されている場合、迅速な血流回復を目指す 静脈を切開し、血栓を直接取り除く手術。麻酔下で行われる 出血や感染のリスク、再発の可能性がある 下大静脈フィルター留置術 肺塞栓のリスクが高いが抗凝固薬が使えない場合に、血栓の肺移動を防止する カテーテルで下大静脈にフィルターを設置し、血栓を物理的に捕捉します フィルター自体が血栓の原因になる可能性があり、長期留置はリスクになる 静脈瘤手術 繰り返す表在性血栓性静脈炎の原因である静脈瘤を取り除くことで再発を予防する 静脈を切除、閉鎖、焼灼、注入など方法は多岐に渡る 急性炎症時は避け、落ち着いてから手術を行う、方法により侵襲度も異なる (文献10)(文献11)(文献12) 重度の血栓性静脈炎や再発を繰り返す場合には、手術療法が選択肢となることがあります。血栓除去術やバイパス手術などが代表的で、主な目的は血流を回復させて患部への負担を軽減できます。 手術療法を受けた後も、血栓の再発を防ぐためには、薬物療法や弾性ストッキングの使用を継続しましょう。ただし、手術は体への負担が大きいため、保存療法や薬による治療で十分な効果が得られない場合に限り検討されます。手術の実施にあたっては、出血や感染などのリスクもあるため、医師と十分に相談した上で判断する必要があります。 再生医療 再生医療は、幹細胞などを用いて損傷した血管細胞を修復・再生させることで、血管の機能を回復させ、症状の改善や再発の予防を目指します。通常の治療で効果が得られなかった場合や、血管のダメージが広範囲に及ぶ場合に、新たな選択肢として検討される治療法です。 再生医療は、新たな血管をつくる力を活用し、体内に血流の通り道(バイパス)を形成することで、血流の改善が期待できます。注意点としては、適用できる医療機関が限られているため、事前に実施しているかの有無を確認する必要があります。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 血栓性静脈炎の再発を防止するには 予防法 内容 生活習慣の改善 禁煙を徹底し、脂肪の多い食事を見直す。青魚・海藻・野菜などを取り入れ、ストレスや過度な飲酒も控える 適度な運動の実施 ウォーキングやストレッチ、かかとの上げ下げなどを日常的に取り入れ、長時間同じ姿勢を避ける 弾性ストッキングの着用 医師の指導のもとで適切な圧のストッキングを選び、朝から夜まで装着する 水分補給を怠らない 水や麦茶などでこまめに水分をとり、脱水を防ぐ 血栓性静脈炎は、一度治療を終えても再発の可能性があるため、日常生活での予防が大切です。 生活習慣を改善する 項目 対策 血液の凝固能の正常化 水分をこまめにとり、栄養バランスの良い食事で血液を固まりにくくする 静脈血流の改善 軽い運動や姿勢の工夫、体重管理によって下肢の血流を促進する 血管内皮細胞の健康維持 禁煙と抗酸化成分の多い食事、適度な運動で血管を健康に保つ 基礎疾患の管理 高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切にコントロールして血栓のリスクを下げる 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、禁煙や食生活の改善が欠かせません。タバコは血流を悪化させ、血栓のリスクを高めるため控えましょう。 動物性脂肪を減らし、青魚や野菜など血液をサラサラに保つ食品を取り入れることも効果的です。過度な飲酒やストレスも血管に悪影響を与えるため、日常生活の中で無理なく見直していくことが予防につながります。 以下の記事では生活習慣の改善について詳しく解説しています。 適度な運動を取り入れる 静脈の血流を促すには、無理のない範囲で定期的に体を動かすことが大切です。とくに、ウォーキングや軽いストレッチ、かかとの上げ下げ運動など、下半身の筋肉を使う運動が効果的です。また、血管の健康を保ち、血液がサラサラになることで再発リスクを減らします。 運動は医師の指導を受けた上で、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。 以下の記事では有酸素運動のほかに高血圧の予防や改善方法について詳しく解説しています。 弾性ストッキングを着用する 項目 要点 静脈の拡張抑制と血流 適切な圧迫で静脈の拡張を防ぎ、血流を促進して血栓のリスクを低下させる 静脈弁の機能サポート 弁の働きを補い、血液の逆流を防ぐことで血液の滞りを軽減する 腫れの軽減と血栓予防 余分な水分を戻し腫れを軽減、血管への負担を減らす 着用時の注意点 医師の指示に従い、適切なサイズと方法で毎日清潔に着用する 弾性ストッキングは、足に一定の圧をかけて血液の流れを補助する医療用の靴下です。ふくらはぎから足首にかけて圧力を加えることで、静脈内の血液が滞るのを防ぎます。使用する際は、医師の指導のもと適切な弾性ストッキングを選ぶ必要があります。 市販の弾性ストッキングを自己判断で使うと、かえって症状が悪化する恐れがあります。医師の指示に従い使用しましょう。 水分補給を怠らない 血栓性静脈炎の再発を防ぐには、日ごろからこまめな水分補給が大切です。体の水分が不足すると血液が濃くなり、流れが悪くなることで血栓ができやすくなります。 また、血管の内側を守る血管内皮細胞の働きも低下しやすくなり、血液の流れがさらに悪くなる原因になります。水分をしっかりとることで、血液がサラサラに保たれ、血栓ができにくい状態が維持されます。 なお、コーヒーやアルコールなど利尿作用のある飲み物は逆効果になるため、水や麦茶などを選びましょう。日常の小さな意識が、再発の予防につながります。 血栓性静脈炎の疑いがある方は早急に医療機関の受診を 脚に腫れや赤み、熱っぽさを感じたとき、それが血栓性静脈炎におけるサインの可能性があります。その症状を放置してしまうと血栓が移動して肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすため、早急の医療機関への受診が必要です。 ふくらはぎにしこりのような感触がある、押すと硬さを感じるといった場合は要注意です。症状が軽いうちに受診すれば、保存的な治療で改善が見込めるケースもあります。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた血栓性静脈炎の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 血栓性静脈炎に関するよくある質問 血栓性静脈炎は自然に治りますか? 表在性の軽い血栓性静脈炎は自然に治ることもありますが、すべてが自然治癒するわけではありません。深部に広がるリスクや強い症状がある場合は、命に関わる合併症を防ぐためにも、早めに医療機関を受診しましょう。 血栓性静脈炎は再発しやすいですか? 血栓性静脈炎は、原因となる静脈瘤や血液の凝固異常、血管の損傷が残ると再発しやすくなります。再発予防には、原因疾患の治療、薬や弾性ストッキングの継続使用、生活習慣の改善、定期的な経過観察が重要です。 血栓性静脈炎は重症化するとどうなりますか? 血栓性静脈炎が重症化すると、血栓が深部静脈に進展し、肺に移動して肺塞栓症を引き起こす恐れがあります。突然の息切れや胸の違和感、呼吸困難、場合によっては意識消失やショックなど命に関わる状態になることもあります。 慢性的な腫れや色素沈着などの後遺症が出るケースもあるので、早期に医療機関を受診しましょう。 参考資料 (文献1) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「表在静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%A8%E5%9C%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) 重松宏ほか.「血管型ベーチェット病の診療ガイドライン案」『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)分担研究報告書』, pp.1-18 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911043B_upload/201911043B202005290902054150008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「慢性静脈不全症および静脈炎後症候群」MSD マニュアル プロフェッショナル版,2022年9月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%9D%99%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%9D%99%E8%84%88%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%9D%99%E8%84%88%E7%82%8E%E5%BE%8C%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 伊藤 正明.「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に 関するガイドライン(2017年改訂版)」, pp.1-93, 2018年3月23日 https://js-phlebology.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/JCS2017.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 川﨑富夫.「DVT の病態と臨床 ―DVT の診断,治療について―」『血栓止血の臨床─研修医のために II』, pp.1-4, 2008 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/19/1/19_1_18/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 丸山征郎.「血管内皮細胞障害と血栓」『第42回 河口湖心臓討論会』, pp.1-7 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/2/41_204/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 金子 寛ほか.「四肢静脈血栓症の原因について」, pp.1-6,2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/12/3/12_12-3-257/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 「弾性ストッキング関連資料」『日本製脈学会 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会作成(第1版)』, pp.1-20 https://js-phlebology.jp/disaster/wp-content/uploads/2020/11/stockings_hokenshi.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「深部静脈血栓症」MSD マニュアル 家庭版,2023年12月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%B7%B1%E9%83%A8%E9%9D%99%E8%84%88%E8%A1%80%E6%A0%93%E7%97%87(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 大谷 真二ほか.「大伏在静脈の静脈瘤に合併した上行性血栓性静脈炎の 2 手術例」, pp.1-5, 2005年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/16/2/16_16-2-129/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) 山田 典一,中野 赳.「深部静脈血栓症:血栓溶解療法,下大静脈フィルター留置」, pp.1-8, 2009年 https://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/04/4903_10.pdf最終アクセス:2025年5月10日) (文献12) 荒名 克彦ほか.「上行性血栓性性脈炎3例の経験」, pp.1-4, 2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jca/54/3/54_13-00041/_pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
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「最近、足が妙に重だるい」 「ふくらはぎに違和感がある」 その症状は閉塞性動脈硬化症のサインかもしれません。このサインを放置すると症状が悪化し、最悪の場合は壊死や足の切断につながるかもしれません。 本記事では、閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法や足に現れる具体的なサインについて、わかりやすく解説します。あわせて、重症度の目安や症状に応じた治療法についてもわかりやすく解説します。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェック|1つでも当てはまる場合は要注意 チェック項目 詳細説明 タバコを吸う 喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進める 血糖値が高いと診断された 糖尿病は血管をもろくし、動脈硬化の大きな要因 コレステロール・中性脂肪が高いと診断された 脂質が血管内にたまり、血流を妨げる 高血圧と診断された 血圧が高いと血管に負担がかかり、動脈硬化が進行する 過去に心筋梗塞を起こした 血管障害の既往があり、他の動脈にも影響する恐れがある 過去に脳卒中を起こした 一度脳卒中を起こすと動脈硬化を発症しやすい傾向がある 家族に心筋梗塞や脳卒中の人がいる 遺伝的に動脈硬化を発症しやすい傾向がある 閉経している 女性ホルモンの低下により、血管の柔軟性が失われやすくなる 透析を受けている 透析によって血管に負担がかかり、動脈硬化が進行しやすくなる 65歳以上である 加齢に伴い血管は硬くなりやすくなる 肥満体型である 生活習慣病のリスクが高く、動脈硬化を招く 閉塞性動脈硬化症は、動脈が徐々に細くなり血流が悪化する病気です。とくに足の血管に障害が出ると、歩行時のだるさやしびれといった症状が現れます。 初期の段階では自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行しているケースも少なくありません。そのため、早い段階で閉塞性動脈硬化症に気づくには自分でできるセルフチェックを行うことが不可欠です。 1つでもセルフチェック項目に当てはまる場合は要注意です。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症の初期症状について詳しく解説しています。 タバコを吸う タバコが及ぼす影響 リスクとメカニズム 血管の収縮を引き起こす ニコチンなどにより血管が狭くなり、血流が悪化 血管内皮細胞を傷つける 血管内面が損傷し、動脈硬化の原因となるプラークがたまりやすくなる LDLコレステロールの酸化 酸化されたLDLコレステロールが血管壁に沈着しやすくなる 血小板の凝集促進 血液が固まりやすくなり、血栓形成のリスクが高まる HDLコレステロールの減少 善玉コレステロールが減り、血管の修復力が低下 血管壁の慢性的炎症 炎症により動脈硬化が進行 (文献1)(文献2) タバコは血管に多面的な悪影響を与え、閉塞性動脈硬化症の大きなリスク因子となります。喫煙により血管が収縮し、内皮細胞が損傷を受けることで、動脈硬化が進行しやすくなります。 また、血液が固まりやすくなり血栓のリスクも高まるため、喫煙歴のある方は足の違和感や冷えといった小さなサインも見逃さず、早めの受診が大切です。 血糖値が高いと診断されたことがある 高血糖は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。血流が悪化すると足先まで血液が届きにくくなり、冷えやしびれを感じることがあります。 糖尿病の方は神経障害を伴いやすく、足の異常に気づきにくいため要注意です。血糖値がやや高めと診断された方も、足の症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。 コレステロールや中性脂肪が高いと診断されたことがある 項目 概要 プラークの形成 悪玉コレステロールや中性脂肪が血管にたまり、プラークと呼ばれる塊を作り、血管を狭くする 血管の壁が弱る コレステロールが血管の内側にダメージを与え、血管がもろくなる 酸化LDLの影響 悪玉コレステロールが酸化すると、血管に炎症を起こして、さらに詰まりやすくなる 善玉コレステロールの働き低下 善玉コレステロールが少ないと、血管の掃除がうまくできず、脂質がたまりやすくなる 血栓ができやすくなる 傷ついた血管には血のかたまり(血栓)ができやすくなり、詰まりの原因になる 血管が硬くなる 血管に脂質がたまると、血管の弾力が失われ、血流が悪化する (文献3) コレステロールや中性脂肪が高い状態が続くと、血管の内側に脂質がたまり、血管が狭くなって血流が悪くなります。とくにLDLコレステロール(悪玉)が多いと動脈硬化が進み、血栓ができやすくなります。 逆に、HDLコレステロール(善玉)が少ないと、余分な脂質を回収できずリスクがさらに高まります。足の冷えやしびれ、歩きにくさを感じる方は、閉塞性動脈硬化症の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。 高血圧と診断されたことがある 高血圧は血管に強い圧力がかかる状態が続き、血管の内側を傷つけます。そこに脂質などがたまり、プラークができて血管が狭くなり、動脈硬化を引き起こします。とくに足の血管は細くて傷つきやすいため、冷えやしびれを引き起こしやすくなります。 高血圧と診断されたことがあり、冷えやしびれの症状が続く場合、閉塞性動脈硬化症の疑いがあるため、早急に医療機関を受診しましょう。 過去に心筋梗塞を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 心筋梗塞は全身の動脈硬化が進んでいる恐れがある 共通する生活習慣や病気 両者には高血圧や糖尿病など共通のリスク因子がある 血管の機能が低下している可能性 血管内の機能が弱まっており、足の血管も詰まりやすくなっている 血栓ができやすい状態 血栓ができやすい体質になっており、足の血管にも詰まりのリスクがある 慢性的な炎症の影響 慢性的な炎症が全身に及び、足の動脈硬化を進める可能性がある (文献4) 心筋梗塞を経験した方は、すでに全身の血管に動脈硬化が広がっている可能性があります。心臓だけでなく、足の血管にも同じような詰まりや変化が起きていることが考えられます。動脈硬化は一部の血管だけでなく、全身に影響する病気です。 そのため、足のしびれや冷えなどの違和感がある場合、単なる疲れではなく血管の詰まりによる症状の可能性も考えられます。再発を防ぐためにも、足の血流チェックを早めに受けることが大切です。 過去に脳卒中を起こしたことがある 観点 解説 全身の動脈硬化の可能性 脳の血管に問題が起きた方は、足など他の血管でも動脈硬化が進んでいる可能性がある 共通の危険因子がある 脳卒中と閉塞性動脈硬化症は、生活習慣病や喫煙など共通のリスク要因で起こる 血管の働きが弱っている 脳卒中を経験した方は、血管の内側の機能が低下している可能性がある 血栓ができやすい状態 脳の血管にできた血栓と同じように、足の血管にも詰まりが起こるリスクがある 慢性的な炎症の影響 脳卒中後は、体の中で炎症が続いており、それが足の血管にも悪影響を及ぼすことがある (文献5) 脳卒中(とくに脳梗塞)は、脳の血管が動脈硬化によって詰まることで起こる病気です。脳卒中を経験された方は、すでに全身の血管に動脈硬化が進行している可能性があり、足の血管も例外ではありません。 そのため、閉塞性動脈硬化症のリスクも高くなる恐れがあります。また、脳卒中と閉塞性動脈硬化症には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの共通する危険因子があります。足の冷えやしびれは、動脈の詰まりのサインかもしれません。気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした人がいる 観点 解説 遺伝の影響 コレステロールや血圧が高くなりやすい体質が、家族で受け継がれていることがある 生活習慣の共通性 家族内で似た食事や運動習慣は、動脈硬化を起こす傾向が強くなる 若いうちからの発症リスク 家族に若くして発症した人がいると、自分も早く発症するリスクが高まる可能性がある 血管が弱い体質の可能性 血管の構造や性質に遺伝的な傾向があり、動脈硬化を起こしやすいことがある リスクの見落としに注意 家族に心筋梗塞や脳卒中の方がいる場合は、自分もリスクがあると考え、早めの対策が重要です (文献6) 家族に心筋梗塞や脳卒中を起こした方がいる場合、自分も動脈硬化を起こしやすい体質を持っている可能性があります。 高血圧や脂質異常、糖尿病などのリスク因子は遺伝しやすく、生活習慣も似ていることが多いため、同じような病気を発症するリスクがあります。とくに家族に若くして発症した人がいる場合は、注意が必要です。 閉経している 観点 解説 女性ホルモンの減少 閉経でエストロゲンが減り、血管を守る働きが弱くなる 脂質のバランスが変わる 悪玉コレステロールや中性脂肪が増え、動脈硬化が進みやすくなる 血圧が上がりやすくなる 血管が収縮し、血圧が上がりやすくなる 血管の働きが低下する 血管の内側の機能が落ち、詰まりやすくなる (文献7) エストロゲンには血管をしなやかに保つ働きがありますが、閉経後はその分泌が減り、血管が硬くなりやすくなります。 コレステロールもたまりやすくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。閉経後に体調の変化を感じたら、足の冷えやしびれなどにも注意し、異変があれば早めに医療機関を受診しましょう。 透析を受けている 観点 解説 血管に負担がかかっている 高血圧や糖尿病などの合併症により、血管が常にダメージを受けやすい状態 血管が硬くなりやすい カルシウムなどの影響で血管に石のような物質がたまり、硬くなりやすくなる 体にサビがたまりやすい 老廃物がうまく排出されず、酸化ストレスが血管に悪影響を与える 炎症が起こりやすい 体の中で炎症が続きやすく、それが血管を傷つける原因になる 血管の働きが弱くなる 血管の内側の細胞がうまく働かなくなり、詰まりやすくなる 透析の影響そのもの 透析中の体内環境の変化も、血管に負担をかけやすい要因 (文献8)(文献9) 透析を受けている方は、老廃物が体にたまりやすく、カルシウムやリンの代謝異常により血管が硬く狭くなりやすくなります。さらに、糖尿病や高血圧の併発も多く、動脈硬化を進行させる原因です。 透析中に足の冷えやしびれを感じたら、血流障害の可能性があります。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。 65歳以上である 観点 解説 血管の老化 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が起こりやすくなる 生活習慣病が増加する 高血圧や糖尿病など、動脈硬化の原因になる病気にかかりやすくなる 血管の調整機能が低下 血管を広げたり縮めたりする働きが弱まり、詰まりやすくなる 酸化ストレスがたまりやすい 長年の代謝活動で体内に有害物質がたまり、血管に悪影響を与える 血管の修復力が低下 傷ついた血管を元に戻す力が弱くなり、動脈硬化が進みやすくなる (文献10) 加齢とともに動脈の壁は硬くなり、血管の内腔も狭くなります。とくに65歳を超えると、血管の老化が進みやすく、血流が滞ることで足に冷えやしびれなどの異常が現れやすくなります。 65歳以上の方は、足の冷えやしびれを感じるようであれば、手遅れになる前に早めに医療機関を受診しましょう。 肥満体型である 肥満体型の方は、動脈硬化を進めるさまざまなリスクを抱えています。肥満は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を引き起こしやすく、血管に大きな負担をかけます。 さらに、インスリンの働きが低下して血糖や脂質のバランスが乱れやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。加えて、脂肪細胞から分泌される炎症物質が血管を傷つけ、悪玉コレステロールの増加や善玉コレステロールの減少も進行を助長します。血圧も上がりやすくなるため、注意が必要です。 【セルフチェックとあわせて確認】閉塞性動脈硬化症の重症度と治療法 重症度 症状・状態 詳細 治療法の概要 Ⅰ度|冷感やしびれがある重症度 足先に冷えや軽いしびれがあるが、歩行には支障がない状態 血流の低下による軽度の末梢循環障害 生活習慣の改善(食事・運動・禁煙)と薬物療法(抗血小板薬、血圧・脂質のコントロール) Ⅱ度|長距離が歩けない 歩行中に足がだるくなり、休むと症状が軽くなる(間欠性跛行) 歩行による酸素不足に伴う下肢筋肉の循環障害 運動療法と薬物療法の併用、必要に応じてカテーテル治療や生活習慣の見直し Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 夜間や横になっているときにも足先に違和感が生じる・ヒリヒリする 安静時にも続く深刻な血流不足による末梢虚血 血管再建(バルーン・ステント・バイパス)、創傷ケア、感染管理 Ⅳ度|潰瘍や壊疽がある 皮膚が黒ずむ、潰瘍ができる、足先が腐りはじめるなどの末期状態 血流途絶による組織壊死および感染リスクの高い状態 外科的血行再建や壊死部の切除、重症時は切断、全身管理を含む包括的治療 閉塞性動脈硬化症は、足の血管が徐々に狭くなり血流が悪くなる病気です。初期(Ⅰ度)は冷えやしびれなど軽い症状ですが、進行すると歩行が困難になり(Ⅱ度)、さらに進むと安静時にも違和感が現れます(Ⅲ度)。 末期(Ⅳ度)では潰瘍や壊死が起き、非常に重篤な状態です。生活習慣の改善や適切な治療を継続すれば、重症化や足の切断リスクを減らせます。 以下の記事では、閉塞性動脈硬化症におけるマッサージについて詳しく解説しております。 Ⅰ度|冷感やしびれがある 項目 内容 症状の特徴 自覚症状はほとんどなく、健康診断や検査で偶然見つかることが多い状態 よくある症状 足先の冷えや軽いしびれ、皮膚の蒼白、足の脈が弱くなることがある 日常生活への影響 日常生活に支障はなく、多くの場合は無症状で気づかれにくい段階 治療法 禁煙や減塩、運動などの生活習慣改善と、必要に応じた薬物治療が行われる 注意点 初期でも放置せず、早めの対策が進行を防ぐ重要なポイント (文献11) Ⅰ度は閉塞性動脈硬化症の初期段階で、足先に冷たさや軽いしびれを感じる状態です。しびれや冷えは血管の内腔が少し狭くなり、血液の流れが悪化しているサインです。 歩行障害はないものの、足の皮膚が乾燥したり、爪の伸びが遅くなったりするケースもあり、血流の低下が進んでいる状態です。この段階で異変に気づければ、進行を防げます。 少しでも違和感を覚えたら、まずは循環器内科などでチェックを受けることをおすすめします。 Ⅰ度の治療法 項目 内容 治療の目的 動脈硬化の進行抑制と将来的な重症化の予防 治療の基本方針 生活習慣の改善と予防的薬物療法の併用 生活習慣の見直し 禁煙の徹底、適度な有酸素運動、減塩・低脂質の食事 薬物療法(予防目的) 抗血小板薬による血栓予防、スタチンによる脂質管理、ARB/ACE阻害薬による血管保護 生活習慣病の管理 糖尿病、高血圧、脂質異常症の安定化と定期的な内科受診 Ⅰ度の特徴 歩行時の違和感や強い症状がなく、検査で血流低下を指摘されることが多い段階 発見のきっかけ 健康診断や動脈硬化検査中の偶発的な発見 Ⅰ度の段階では、生活習慣の見直しと薬物療法が中心です。禁煙や塩分・脂質の摂取制限、適度な運動を通じて血管への負担を減らします。 血液の流れを良くする抗血小板薬や、血圧・コレステロールを下げる薬も併用されることがあります。自覚症状が軽いからといって油断せず、医師の指導のもとで早めに予防策を始めることが大切です。 Ⅱ度|長距離が歩けない 項目 内容 症状の特徴 歩行中にふくらはぎや太ももに違和感・だるさが出る間欠性跛行 具体的な状態 一定の距離を歩いた後に違和感やしびれが出て、立ち止まって休むと軽減する状態 歩行距離の変化 歩ける距離が徐々に短くなり、途中で休憩が必要になる状態 その他の症状 足の冷感やしびれの頻度や強さが増し、足の脈が弱くなるか触れなくなる状態 診断の手がかり 違和感が出る歩行距離の短縮と間欠性跛行の出現 重症度の目安 歩行可能距離によって進行度を評価する段階 治療法 生活習慣の見直し、有酸素運動を取り入れた運動療法、血流改善を目的とした薬物療法、必要に応じたカテーテル治療 (文献11) Ⅱ度では、一定の距離を歩くとふくらはぎにだるさやしびれが出て、立ち止まると症状が和らぐ間欠跛行が現れます。この状態は、運動に伴う酸素不足が足の筋肉に起きているためで、足の動脈が狭くなっている証拠です。 Ⅱ度の症状では、日常生活に支障が出始め、買い物や散歩など、歩くことが負担に感じる場面が多くなります。血流障害はまだ一定の回復が見込める段階であり、適切な対処により改善が期待できる状態です。 以下の記事では、間欠跛行について詳しく解説しています。 Ⅱ度の治療法 項目 内容 治療の目的 違和感の軽減、歩行距離の延長、重症化の防止、生活の質の維持、心血管疾患のリスク低減 治療の基本方針 生活習慣の改善を土台とした多角的な治療アプローチ 生活習慣の改善 禁煙の徹底、減塩・低脂質・糖質管理の食事、継続可能な有酸素運動の実施 歩行療法の導入 違和感が出たら休み、治ったら再開する反復歩行による血流改善 薬物療法 抗血小板薬による血栓予防、血管拡張薬・血流改善薬による間欠性跛行の軽減 血管内治療(必要時) バルーンによる血管拡張、ステント留置による血流確保と再狭窄防止 重要なポイント 医師との連携による個別治療計画の作成と定期的な経過観察の実施 Ⅱ度では、運動療法と薬物療法を組み合わせて治療を行います。ウォーキングにより血流の新たな経路が作られ、足の血行が改善されます。 さらに、抗血小板薬や血管拡張薬を使用し、血液の流れをスムーズに保ちます。あわせて、食事内容の見直しや禁煙、血圧の管理を継続し、症状の悪化を防ぐことが期待されます。 Ⅲ度|安静時に違和感が現れる 項目 内容 症状の特徴 安静時でも足に違和感が出る(とくに夜間や就寝時に強くなる) 違和感が出る部位 足先・かかと・すねなどに、焼けるような・締めつけるような違和感がある 姿勢による変化 足を下げる(椅子に座る、ベッドから足を下ろす)と違和感が軽くなる 冷感・しびれ 足の冷たさやしびれが強くなり、常に感じるようになる 皮膚の変化 皮膚が白っぽく乾燥し光沢が出る、毛が抜ける、爪が厚くなる・変形する 傷の治りにくさ 小さな傷が治りにくく、悪化すると潰瘍や壊死の原因になる可能性がある 足の脈拍 足の動脈の脈が弱くなる、またはまったく触れなくなる 病気の段階 重症な状態(重症下肢虚血:CLI)であり、早急な治療が必要 治療の目的 違和感の軽減・血流の改善・足の切断を避けるための救肢治療 (文献11) Ⅲ度になると、歩いていなくても足先にしびれや冷感、ヒリヒリした違和感が続くようになります。Ⅲ度では血流が極度に悪化している状態であり、安静にしていても筋肉や皮膚に必要な酸素が届かなくなっているサインです。 Ⅲ度の状態は非常に重篤であり、安静にしていても足に強い違和感が現れる段階です。下肢の血流が著しく低下し、組織が酸素不足に陥っている状態といえます。 放置すれば皮膚潰瘍や壊死に進行し、足の切断に至る可能性もあります。そのため、医療機関の早急な受診が必要です。 Ⅲ度の治療法 項目 内容 治療の目標 足の違和感を和げて血流を改善し、足の切断を防ぎながら、生活の質を保ち、心筋梗塞や脳卒中も予防する 生活習慣の改善 血圧・血糖・コレステロールの管理。禁煙、バランスの取れた食事、体重管理の徹底 薬物療法 血液をさらさらにする薬や血管拡張薬の使用を行いつつ、必要に応じた鎮痛薬の併用 血行再建治療 カテーテル治療による血管の拡張や、バイパス手術による血流の確保 疼痛管理・QOL維持 足の位置調整、皮膚・爪のケア、鎮痛薬の活用による不快感の軽減と生活の質の向上 Ⅲ度では、薬や運動だけでの対応が難しくなることも多く、血管の再建が必要となる場合があります。カテーテルを用いた血管拡張術(バルーン療法やステント留置)や、バイパス手術が検討される状態です。同時に、皮膚の状態によっては創傷ケアや感染管理も併せて行います。 放置すれば症状が急激に悪化するため、速やかに必要な治療方針を決めることが重要な段階です。 Ⅳ度|皮膚に潰瘍ができたり足先が腐ったりする 分類 解説 皮膚潰瘍 足先やかかと、指先などに潰瘍ができる状態であり、血流障害により小さな傷も治りにくく、感染を起こしやすい 壊疽(腐敗) 足先や指先が黒色や紫色に変色し、組織が死滅していく状態であり、酸素と血液の供給が完全に途絶える 激しい安静時痛 安静にしていても激しい違和感が続き、鎮痛薬でも効果が乏しいことがある 感染症の合併 潰瘍や壊疽部位から細菌感染が広がり、蜂窩織炎や敗血症など全身性の重篤な感染症を引き起こす危険がある 冷感と感覚麻痺 足が極端に冷たくなり、感覚が鈍くなるか麻痺する状態。神経への血流も止まっている可能性が高い 脈拍の消失 足の動脈の脈拍が触れず、血流がほぼ完全に停止している状態 重要なポイント 足の切断を回避が困難な段階であり、命に関わる可能性もあるため、速やかな診断と緊急治療が必要 (文献11) 閉塞性動脈硬化症のⅣ度は末期の状態で、足に潰瘍や壊死が起こり、感染や足の切断の危険が非常に高まります。足の変色や治りにくい傷などが見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。 Ⅳ度の治療法 治療項目 内容 治療の目的 感染の制御、違和感の緩和、血流改善による救肢、QOLと生命予後の改善 血流の回復(カテーテル治療) 動脈を内側から広げて血流を回復する治療法 血流の回復(バイパス手術) 血流の新しい通り道を外科的に作る手術 感染の管理と創傷 抗生物質の投与、壊死組織の除去(デブリードマン)、創傷管理(陰圧療法など)、フットケア 切断(最終手段) 血流改善や感染制御が困難な場合に実施され、足趾や膝下など、可能な限り小範囲に留める 再生医療(一部施設) 幹細胞移植などで血管新生を促す治療 重要なポイント 救肢には早期対応と多職種による集学的治療が不可欠 Ⅳ度の治療では、壊死した組織を除去し、足をできる限り温存するために血行再建術(カテーテル治療やバイパス手術)が行われます。 血流の改善が困難な場合や感染が重度な場合には、足指や膝下の一部を切断する処置が必要になるケースもあります。切断は壊死や感染の拡大を防ぎ、命を守るための最終手段です。 近年では、再生医療を活用した新たな治療法も注目されています。自家幹細胞の移植によって血流の回復を図る方法で、重度のCLI(重症下肢虚血)患者に対し、標準治療が困難な場合に選択肢として検討されます。再生医療の実施には専門的な判断が必要なため、対応している医療機関で医師とよく相談した上で進めることが大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックの再生医療について詳しく解説しております。 閉塞性動脈硬化症のセルフチェックで早めの受診を心がけよう 閉塞性動脈硬化症は、足の冷感や違和感など軽い症状から始まり、放置すると歩行障害や壊死に進行する可能性があります。初期の段階で気づき、適切に対処すれば進行を防止できます。 セルフチェックで1つでも当てはまる項目がある方、または足の異変を感じている方は、早めに医療機関で血管の状態を確認しましょう。 当院リペアセルクリニックでは、再生医療を用いた閉塞性動脈硬化症の治療を行っております。症状にお悩みの方は、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月11日) (文献2) 「喫煙と動脈硬化の関係」『一般財団法人 京浜保健衛生協会』, pp.1-4 https://www.keihin.or.jp/wpkeihin/wp-content/uploads/2023/08/2023%E5%B9%B48%E6%9C%88%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%B8%AB%E4%BE%BF%E3%82%8A.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献3) 岡村 智教.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」, pp.1-214, 2022年 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献4) 磯部 光章ほか.「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」『日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン』, pp.1-22, 2018年 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献5) 「閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio-Sclerosis Obliterans)」, pp.1-15, https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/doumyakukoukashou.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献6) 尾崎 浩一.「閉塞性動脈硬化症感受性遺伝子の同定と機能解析 」, pp.1-3 https://www.astellas-foundation.or.jp/pdf/research/23/h23_10_ozaki.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献7) 高橋 一広.「エストロゲンと血管」『日本生殖内分泌学会雑誌』, pp.1-5, 2013年 https://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献8) 赤松 眞ほか .「血液透析患者における閉塞性動脈硬化症の診断と治療」, pp.1-8, https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/18-3/18-3_9.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献9) 新城 孝道.「透析患者の下肢閉塞性動脈硬化症に対する薬物療法とフットケア」, pp.1-7, 2004年 https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/20-1/20-1_5.pdf(最終アクセス:2025年5月11日) (文献10) 植山さゆりほか.「下肢閉塞性動脈硬化症バイパス手術後の 二人暮らし高齢男性患者と配偶者の在宅での日常生活体験」『老年看護学』25(2), pp.1-9, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/25/2/25_89/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月11日) (文献11) 東 信良.「2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン」『日本循環器学会 / 日本血管外科学会合同ガイドライン』, pp.1-160, 2022年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf(最終アクセス:2025年5月11日)
2025.05.30 -
- 内科疾患、その他
- 内科疾患
- その他、整形外科疾患
「ふくらはぎが重だるく感じることが増えた」 「歩いていると途中で立ち止まることが多い」 足のだるさは、年齢や疲れのせいと考えがちですが、実は閉塞性動脈硬化症と呼ばれる血管の病気が原因かもしれません。症状が進行すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、最悪の場合、足が壊死してしまう恐れがあります。 本記事では、閉塞性動脈硬化症の症状とともに以下について解説します。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 閉塞性動脈硬化症の原因 閉塞性動脈硬化症の診療科 閉塞性動脈硬化症の治療法 閉塞性動脈硬化症は、早期発見と適切な治療により改善が期待できます。本記事では詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。 閉塞性動脈硬化症とは 閉塞性動脈硬化症とは足の血管に動脈硬化が起こり、血液の流れが悪くなる病気です。足の動脈が徐々に細くなり、十分な血液が届かなくなることでさまざまな症状を引き起こします。 主な原因としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣が引き金となり、血管が硬く、狭くなることで進行します。閉塞性動脈硬化症は進行すると血液の流れは悪化し、皮膚の色が変化したりただれたりするのが特徴です。重症化すると足の組織が壊死し、切断の可能性も危惧されます。 原因や症状 概要 足の血管の詰まり 足の動脈が狭くなったり詰まったりする 血流が悪くなる 足への血液の流れが悪くなる 動脈硬化が原因 血管に脂肪が溜まり、それが原因で血管が硬くなって発症 生活習慣が影響 高血圧、糖尿病、喫煙などが影響する 初期症状として歩くと違和感を感じる 運動時に足に違和感が走る(間欠性跛行) 症状が悪化する 違和感がひどくなり、安静時でも症状が出るようになる 傷が治りにくくなる 小さな傷も治りにくくなる 皮膚の色が変わる 足の皮膚が青紫色になる(チアノーゼ) 皮膚がただれる 潰瘍(かいよう)ができる 壊死が起こる 足の組織が腐ってしまう 切断のリスク 足を切断しなければならないこともある (文献1) 足の血流障害は全身の動脈硬化のサインでもあり、少しでも足に違和感が出た場合は、手遅れになる前に医療機関を受診しましょう。 閉塞性動脈硬化症の初期症状 症状の種類 概要 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 歩行中にふくらはぎが張る・疲れる・力が入らないが、休むと楽になる 足の冷え・しびれが続く 血流が悪くなることで、足が冷たく感じたり、しびれが続いたりする 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 皮膚の血流が悪く、小さな傷が治らず、色が青白く変化するケースがある 足の脈拍の低下・消失 足先の血流が極端に悪くなり、脈が触れなくなることがある 閉塞性動脈硬化症の初期症状の多くは、年齢や疲れのせいと見過ごされてしまいがちです。しかし、歩いていると違和感や足の冷えやしびれが続く場合は閉塞性動脈硬化症の疑いがあります。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れた場合は、早めの受診が必要です。 以下の記事では、自分でできる閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法について詳しく解説しています。 歩くと足に違和感を覚える(間欠性跛行) 状態 症状の内容 原因のしくみ 歩き始め ふくらはぎや太ももに違和感・しびれ・張り感 運動時に筋肉が酸素不足になり、違和感が出る 少し休むと改善 数分の休憩で症状が和らぐ・消える 筋肉の酸素需要が減り、一時的に血流が追いつく 再び歩くと再発 同じ場所・感覚でまた症状が現れる 血流が根本的に不足しているため繰り返される 進行すると悪化 歩ける距離が短くなり、日常生活に支障 血管の狭窄が進み、血流不足がさらに深刻になる (文献2) 閉塞性動脈硬化症の初期には、歩くと足に違和感やしびれ、重だるさなどが現れます。ふくらはぎや太もも、お尻に症状が出やすく、休むと治まるため、放置されがちです。しかし、症状を放置すると徐々に進行し、足の血管が狭くなり、運動に必要な酸素や栄養が筋肉に届きにくくなります。 血流不足が深刻化する前に、医療機関の受診が大切です。 以下の記事では、間欠跛行の症状について詳しく解説しています。 足の冷え・しびれが続く 症状の特徴 概要 慢性的な冷え 温めても改善せず、常に足が冷たいと感じる しびれの頻度が増加 ピリピリ・ジンジンとしたしびれが続くようになる 安静時にも感じる 座っている時や寝ている時にも症状を感じる 夜間に悪化しやすい 夜になると冷えやしびれが強くなることがある 左右差があることも 片足だけ、または左右で症状の程度が異なる場合がある 他の症状を伴う可能性 足の皮膚の色が悪くなったり、むくみが出ることがある (文献3)(文献4) 気温とは関係なく、片方の足だけ冷たく感じたり、しびれが続く場合、血流障害を引き起こしている可能性があります。閉塞性動脈硬化症では、血流が悪くなって足先に酸素や栄養が届きにくくなり、その影響で神経に異常が起き、しびれや冷えが生じます。 足の冷え・しびれは年齢からくるものだと思われがちですが、足の左右で温度に差や頻度が多い場合は、閉塞性動脈硬化症を疑うべきサインです。重症化すると足が壊死する可能性があるため、早めの医療機関への受診が大切です。 足の傷が治りにくい・色が悪い(蒼白やチアノーゼ) 症状の特徴 説明 小さなキズの治癒遅延 切り傷や擦り傷が通常より治りにくい 感染しやすい 傷口から細菌が入りやすく感染しやすい 皮膚の色が悪い(蒼白) 足を高く上げた時などに皮膚が白っぽく見える 皮膚の色が悪い(チアノーゼ) 皮膚が紫色や暗赤色になることがある 皮膚が薄く、つやがある 皮膚が栄養不足で薄く光沢を帯びる 毛が抜けやすい 足の毛が抜けやすくなる 爪の変形・変色 爪が厚くなる、変形・変色する (文献3) 閉塞性動脈硬化症が進行すると、血流が著しく低下し、足の皮膚や組織への酸素供給が不足します。酸素供給が不足するとちょっとした傷でも治りにくくなり、皮膚の色も悪く見えるようになります。足先が白くなったり、紫がかって見える状態はチアノーゼと呼ばれ、重度の血流不足状態です。 また、皮膚の乾燥や光沢、爪の変形も血流低下のサインであり、進行すると皮膚潰瘍や壊死に至る危険性もあります。チアノーゼは皮膚の色の変化として現れるため、足のしびれや歩行時の違和感よりも気づきやすいのが特徴です。皮膚が紫色や暗赤色に変色している場合は、早急に医療機関を受診してください。 足の脈拍の低下・消失 症状の特徴 説明 脈拍の触れにくさ 足の甲や足首で脈が弱くなったり、触れなくなったりする 左右差がある 片足だけ脈が弱い、または触れない場合がある 冷えやしびれを伴う 脈の変化と一緒に冷えやしびれを感じることが多い 皮膚の色や温度の変化 皮膚が青白くなり、足が冷たく感じることがある 運動後の変化 運動後に脈がさらに触れにくくなる場合がある 自己チェックの限界 自分で確認できても正確な判断は難しく、医師の検査が重要 (文献3) 足の甲や足首の脈が触れにくくなる、あるいはまったく触れなくなるのも、閉塞性動脈硬化症のサインです。足の動脈の詰まりが進行すると、足首や足の甲で触れる脈拍が弱くなったり、ほとんど感じられなくなったりするケースがあります。 足の脈拍の変化は自分ではわかりにくいため、医師の診察や超音波検査が必要です。とくに左右の脈に差がある場合や片足だけ脈が感じにくい場合は、動脈の詰まりが疑われます。早めに対応すれば血流を改善でき、重篤な合併症を防止できる可能性があります。 閉塞性動脈硬化症の原因 原因 なぜ関係するのか 防止策 具体的な説明 加齢 年齢とともに血管が硬くなり、動脈硬化が進行しやすくなる 血管をいたわる生活を心がける 食事の塩分や脂質を控え、適度な運動や定期的な健康診断を習慣にする 糖尿病 高血糖が血管の内側を傷つけ、血管が詰まりやすくなる 血糖値のコントロールが重要 食事療法・運動療法・内服治療などで血糖を安定させ、合併症の予防につなげる 脂質異常症 LDLコレステロールが血管にたまり、プラークとなって血流を妨げる 脂質管理と生活習慣の改善 動物性脂肪を控えた食事と、必要に応じたコレステロール低下薬の服用 喫煙 タバコに含まれる成分が血管を傷つけ、血流を悪くする 禁煙が最大の予防 禁煙外来の活用や代替品(ニコチンパッチなど)を利用して、段階的に習慣を断ち切る 閉塞性動脈硬化症は、動脈の内側にコレステロールなどの脂質がたまり、血管が狭くなる動脈硬化が原因で起こります。動脈硬化が引き起こされる原因は以下の4つです。 加齢 糖尿病 脂質異常症(高コレステロール血症など) 喫煙 以下では、閉塞性動脈硬化症の原因を詳しく解説します。 加齢 加齢に伴う変化 対策・予防方法 血管内皮細胞の機能低下 抗酸化作用のある食品をとる(野菜・果物)、定期的な検査を受ける 血管壁の弾力性の低下 ウォーキングなどの有酸素運動で血管の柔軟性を維持 酸化ストレスの増加 禁煙やバランスの良い食事で活性酸素を抑える 炎症反応の亢進 規則正しい生活・ストレス管理やEPAやDHAを含む食品 生活習慣病のリスク増加 高血圧・糖尿病・脂質異常症をきちんと治療・管理する (文献3)(文献5) 年を重ねると血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進みやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症を発症し、軽い動作でも足に違和感が出ることがあります。 年齢とともに血管は弱くなりますが、運動や食生活を見直すことで健康を保てます。足の冷えやしびれが気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 糖尿病 影響の種類 概要 血管を傷つけやすい 高血糖が続くと血管の内壁が傷つきやすくなる 動脈硬化を促進 脂肪が血管壁にたまりやすく、動脈硬化が進行しやすい 末梢血管が障害されやすい 足先など細い血管が多い部分で血流障害が起こりやすい 神経障害を合併しやすい 足の感覚が鈍くなり、違和感に気づきにくくなる 小さな傷に気づきにくく、治りにくい 小さな傷に気づかず、治りにくくなることで悪化しやすい 感染症のリスクが高い 免疫力が低下し、傷口からの感染症リスクが高まる 血管の石灰化が起こりやすい 血管にカルシウムがたまり、血管が硬くなりやすい 他の危険因子を合併しやすい 高血圧や脂質異常症を併発しやすく、動脈硬化が進みやすい (文献6)(文献7) 血糖値が高い状態が続くと、血管の内側が傷つき、脂質や血小板がたまりやすくなります。脂質や血小板がたまると血管が詰まりやすくなります。糖尿病では神経障害も起こりやすく、足のしびれや違和感に気づきにくいため、とくに注意が必要です。 血管と神経の障害が重なると、傷の治りが遅くなり、感染が悪化しやすくなります。その結果、閉塞性動脈硬化症のリスクが高まります。糖尿病の方は、足の違和感や傷に気を配り、異常があれば早急に医療機関を受診しましょう。 脂質異常症(高コレステロール血症など) 影響の種類 概要 血管壁への脂質沈着 悪玉コレステロールが血管の内壁にたまりやすくなる プラーク形成の促進 たまった脂質がプラークを作り、血管を狭める 初期症状の発現を早める可能性 動脈硬化が早く進み、若いうちから症状が出ることがある 症状の悪化を加速 血流がさらに悪化し、違和感や歩行障害が進行する 他の危険因子との相乗効果 高血圧や糖尿病などと合併しやすく、リスクがさらに高まる 血管内皮機能の障害 血管の柔軟性が低下し、血栓ができやすくなる (文献8)(文献9) 血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、動脈の内壁に脂質が沈着し、プラークと呼ばれる塊ができやすくなります。プラークは血管を狭め、血流を妨げる原因です。 とくにLDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、動脈硬化が進行しやすくなり、閉塞性動脈硬化症を引き起こしやすくなります。脂質異常症は自覚症状がほとんどないため、健康診断で指摘された場合は放置せず、食生活の見直しや適切な治療を行うことが大切です。 喫煙 喫煙が与える影響 概要 血管の内側が傷つく タバコの有害物質が血管内皮細胞を傷つけ、血管機能が低下 動脈硬化が進みやすくなる コレステロールなどが沈着しやすくなり、血管が狭くなる 血管が収縮して血流が悪くなる ニコチンの作用で血管が細くなり、足の血流が悪化する 血液がドロドロになる 喫煙により血液の粘り気が増し、流れにくくなる 血栓ができやすくなる 血のかたまり(血栓)ができやすくなり、血管を詰まらせる 症状が早く現れる可能性が高くなる 非喫煙者より若い年齢で冷えやしびれなどの症状が出やすい 症状が急速に悪化しやすくなる 歩ける距離が短くなる、安静時にも違和感が出てくるなど悪化が早い 治療の効果が出にくくなる 薬や治療の効果が弱まり、改善しにくくなる (文献10) タバコに含まれる有害物質は血管の内側を傷つけ、炎症や動脈硬化を進行させます。とくにニコチンは血管を収縮させ、足の血流を悪化させる原因です。 そのため、喫煙者は非喫煙者より閉塞性動脈硬化症の発症リスクが約3〜5倍高く、若年で発症する傾向もあります。動脈硬化の予防や治療には禁煙が不可欠です。(文献11) 閉塞性動脈硬化症は何科を受診するべき? 診療科名 役割・特徴 受診の目安 循環器内科 血流や動脈硬化の評価・管理が可能。動脈の状態を総合的に診断 足の冷え・しびれ・歩行時の違和感などがある場合に最優先で受診 血管外科 動脈の狭窄・閉塞に対する検査・手術(カテーテル治療など)に対応 検査や手術が必要な場合、循環器内科から紹介されることも多い 内科(かかりつけ医) 必要に応じて専門科へ紹介してもらえる 専門科がない場合にまず相談。早期の受診・紹介が重要 整形外科(注意) 神経や筋肉の疾患が専門。血流の問題を見落とす可能性あり しびれや違和感で来院しても、血流障害が見逃されることがある 皮膚科(注意) 皮膚の異常は診られるが、血流の異常に気づかれにくいことがある 足の傷で受診しても、原因が血流障害と判断されにくい 閉塞性動脈硬化症が疑われる場合は、まず循環器内科または血管外科の受診が推奨されます。循環器内科または血管外科では、血管の状態を詳しく調べる検査や適切な治療方針の判断ができます。 とくに足が冷たい、足の色が悪いといった症状がある場合は、末梢動脈疾患の可能性があるため、早期受診が大切です。 どこを受診すべきか迷う場合は、内科やかかりつけ医に相談しましょう。初期診察で必要性があれば、専門科への紹介を受けられます。症状を放置すると潰瘍や壊死など重症化する恐れがあるため、異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。 「どの診療科に行けば良いのかわからない」とお悩みの方は、お気軽にリペアセルクリニックへご相談ください。当院では、どんな小さなお悩みにも丁寧に耳を傾け、患者様一人ひとりに寄り添った治療のご提案をいたします。「メール相談」や「オンラインカウンセリング」もご利用いただけますので、ご不安なことがあればいつでもご相談ください。 閉塞性動脈硬化症の治療法 治療法 内容 適しているケース 注意点・ポイント 保存療法 ウォーキングや生活習慣の見直し 初期の症状がある方 運動を継続が大切。禁煙や減塩も効果的 薬物療法 抗血小板薬や高血圧・糖尿病の治療薬 軽度から中等度の症状がある方 医師の指示に従って服薬を継続が重要 手術療法 カテーテル治療やバイパス手術 血管の詰まりが進行し、日常生活に支障がある方 術式は症状によって異なるため、専門医とよく相談する 再生医療 幹細胞などを用いて血管の再生を促す治療 他の治療が難しく、重症の状態にある方 保険が適用されない場合があり、限られた施設で実施されている 閉塞性動脈硬化症の治療は、症状の進行度や原因となる病気の有無によって異なります。 保存療法 薬物療法 手術療法 再生医療 閉塞性動脈硬化症の治療法は医師の診断と指導のもと行われます。治療法について解説します。 保存療法 取り組み内容 概要 禁煙 最も重要な改善点。喫煙は血管を傷つけ動脈硬化を進行させるため、禁煙が必須 食事の見直し 塩分や脂質を控えた食事で動脈硬化の進行を抑える 適度な運動 ウォーキングなどの軽めの有酸素運動が血流改善に効果的 体重・血圧・血糖・脂質の管理 生活習慣病の管理を通じて、血管への負担を減らし、病気の進行を防ぐ (文献12) 保存療法とは、薬や手術を用いず、生活習慣の改善などで進行を抑える治療法です。代表的なのが運動療法であり、ウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行い、血流の改善を促します。また、運動だけでなく、生活習慣の見直しも大切です。 禁煙や高カロリーな食事を控えるなど、動脈硬化の進行を抑える上で基本となります。保存療法は、医師の指導のもとで行うことが大切です。運動や食事制限は無理のない範囲で続け、少しでも違和感があれば、すぐに医師に相談しましょう。 以下の記事では、下肢閉塞性動脈硬化症でやってはいけないマッサージ方法について詳しく解説しています。 薬物療法 治癒カテゴリー 薬剤例 効果の概要 抗血小板薬 アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール 血小板の凝集を抑え血栓を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも有効 血管拡張薬 シロスタゾール、プロスタグランジン製剤 血管を広げて血流を改善し、歩行距離の延長や冷え・しびれに有効 プロスタグランジン製剤 プロスタグランジンE1製剤(注射・点滴) 末梢血流を改善し、潰瘍や壊死などの重症症状を緩和・治癒促進 脂質異常症治療薬 スタチン(ロスバスタチン、アトルバスタチンなど) LDLコレステロールを下げて動脈硬化を予防。心血管リスクの低減にもつながる 高血圧治療薬 ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、β遮断薬 血圧を下げて血管の負担を軽減し、動脈硬化の進行を抑える 糖尿病治療薬 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬 血糖管理に加え血管保護作用もあり、心血管リスクの抑制に貢献 (文献13)(文献14) 閉塞性動脈硬化症の薬物療法は、病気の進行を抑え、症状を和らげるために行います。抗血小板薬は血栓を防ぎ、血流を保つのに役立ちます。 高血圧や糖尿病、脂質異常症がある場合は、それぞれの治療薬も併用します。薬は根本的な治療ではなく、進行を止めることが目的です。薬剤は医師の指示のもと、継続しての服用が大切です。 手術療法 治療法 手術方法 効果・特徴 適応病変 バイパス手術(外科的血行再建術) 閉塞部位の上下をつなぎ、静脈や人工血管で血流のバイパスを作る 長い範囲の血管閉塞に効果があり、歩行距離の改善や潰瘍の治癒、さらには足の切断を回避できる可能性がある 長い範囲の閉塞や血管内治療が難しい場合に向いている 血管内治療(カテーテル治療) カテーテルで血管を内側から広げ、必要に応じてステントを入れる 早期に血流改善が期待でき、違和感や冷えの症状が軽減しやすい 比較的短い範囲の狭窄・閉塞に対して有効 閉塞性動脈硬化症が進行し、薬や運動では十分な改善が見込めない場合、手術療法が検討されます。とくに足の血管が高度に狭くなったり詰まったりしている場合、血液の流れを回復させるには物理的な処置が必要です。 代表的なのがカテーテル治療で、狭くなった血管内に細い管を入れ、バルーンで広げ、金属製のステントを留置する方法です。より重度の場合には、詰まった血管を迂回するバイパス手術を行います。 手術療法は誰にでも適応できるわけではなく、血管や全身の状態を見て慎重に判断する必要があります。また、カテーテル治療後の再狭窄やバイパス手術後の感染などのリスクもあるため、医師とよく相談し、メリットとリスクを理解した上で治療を選ぶことが大切です。 再生医療 再生医療は、薬や手術で改善が難しい場合に検討されます。再生医療は患者自身の細胞を使用し、新たな血管の形成を促す治療です。 再生医療は比較的新しい治療アプローチであり、一部では保険適用外となりますが、重症例における有効性が報告されており現在も研究が進められています。名古屋大学大学院の報告によると、血管内治療やバイパス手術が難しい末期の患者でも、再生医療によって血流が改善し、足の切断を回避できたケースが確認されています。(文献13) また、京都府立医科大学附属病院の資料によると、バージャー病に対する再生医療では、足の切断を1年後・3年後ともに95.5%の確率で回避できたことが示されています。(文献15) 再生医療は限られた医療機関での実施となるため、事前に取り扱いのある医療機関への受診が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 閉塞性動脈硬化症の初期症状が現れたらすぐに医療機関を受診しよう 閉塞性動脈硬化症の初期症状は見過ごされやすいですが、放置すると壊死を起こし、最悪の場合は足の切断に至ることもあります。 違和感を覚えた場合は、速やかに医療機関を受診してください。また、動脈硬化は全身に起こるため、足の症状だけでなく心臓病や脳卒中といった重篤な病気につながる可能性もあります。 当院リペアセルクリニックでは、症状や受診科の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 閉塞性動脈硬化症が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) 玉木 正人ほか.「下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療法の評価とQOL」, pp.1-8, 1995年 https://www.jsvs.org/jsvs/pdf/19950401/jsvs_1995_0401_0083.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「末梢閉塞性動脈疾患」MSD マニュアル 家庭版,2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E9%96%89%E5%A1%9E%E6%80%A7%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献3) 宮田 哲郎,「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015 年改訂版)」『2014年度合同研究班報告』, pp.1-95, 2015年 https://plaza.umin.ac.jp/~jscvs/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/JCS2015_miyata_h.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献4) 「臨床研究の概要をできる限り平易な用語を用いて記載した要旨」pp.1-3 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0723-17c_0022.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献5) 「動脈硬化は怖い病気のはじまり」『一般社団法人 日本動脈硬化学会』, pp.1-4 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/general/pdf/doumyaku_p2023.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献6) 一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病合併症について」一般社団法人日本糖尿病学会,2021年9月2日 https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3(最終アクセス:2025年5月10日) (文献7) 厚生労働省「糖尿病」 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html(最終アクセス:2025年5月10日) (文献8) 寺本 民生.「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス」, pp.1-12, 2014年 https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献9) 「脂質異常症」国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/dyslipidemia/(最終アクセス:2025年5月10日) (文献10) 一般社団法人日本動脈硬化学会「禁煙は動脈硬化予防の第一歩」一般社団法人日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/general/kinen/#:~:text=%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E5%96%AB%E7%85%99%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82&text=%E5%96%AB%E7%85%99%E8%80%85%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E9%9D%9E%E5%96%AB%E7%85%99,%E6%98%8E%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月10日) (文献11) Xu Y, et al. (2024). Smoking as a risk factor for lower extremity peripheral artery disease in women compared to men: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 19(4), pp.e0300963. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300963(最終アクセス:2025年6月6日) (文献12) 林 富貴雄,伊東 春樹.「下肢閉塞性動脈硬化症のリハビリテーション」『『血管病と運動』シリーズ ASO編』, pp.1-8, 2018年 https://www.npo-jhc.org/image/pdf/aso.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献13) 「皮下脂肪由来幹細胞で血管病を治療 -皮下脂肪由来幹細胞を利用した再生医療が下肢切断を救う!-」『皮下脂肪由来間葉系幹細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法〜他施設共同研究〜』, pp.1-5, https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Ang_220714.pdf(最終アクセス:2025年5月10日) (文献14) 横井 宏佳.「閉塞性動脈硬化症(PAD)の薬物療法 〜循環器内科医の立場から〜」日本フットケア学会雑誌, pp.1-4, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/footcare/15/3/15_16/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月10日) (文献15) 真田ほか.「先進医療B 総括報告書に関する評価表(告示旧24)」『第154回先進医療技術審査部会』, pp.1-15, 2023年 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001163753.pdf(最終アクセス:2025年5月10日)
2025.05.30 -
- 関節リウマチ
- 内科疾患
「最近、手や膝が痛むようになってきた」 「更年期の影響だと思っていたが、もしかするとリウマチなのではないか?」 更年期に入り、関節痛に悩まされている方の中には、このような不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。 ご家族にリウマチの方がいる場合は、とくに不安が強いのではないでしょうか。更年期関節痛とリウマチには、発症年齢や関節痛以外の症状などの違いがあります。 本記事では、更年期関節痛とリウマチの違いや治療法、セルフケアについて解説します。両者の違いを理解して適切な治療を受けるためにも、ぜひ最後までご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違い この章では、更年期関節痛とリウマチの違いについて説明します。 更年期関節痛とは 更年期関節痛とは、更年期に伴う身体症状の1つです。 近年になって、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、関節痛や腫れ、しびれが生じることが明らかになりました。エストロゲンには、関節や腱を保護する滑膜の腫れを抑える働きがあります。エストロゲン減少により生じた関節痛や腫れなどが、更年期関節痛と呼ばれます。 主な更年期関節痛は、以下のとおりです。 関節痛の種類 特徴 へバーテン結節 手指の第1関節に症状が現れる ブシャール結節 手指の第2関節に症状が現れる 母指CM関節症 親指の付け根に症状が現れる ばね指 曲げた手指が伸ばしにくくなる ドケルバン病 親指側の手首が痛む 手根管症候群 手のひらが痛んだりしびれたりする 手の関節だけではなく、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる場合もあります。 以下の記事では、ブシャール結節について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 リウマチとは 関節リウマチは自己免疫疾患の1つです。 関節内の滑膜が自分の免疫によって攻撃されたために、手指の関節痛や腫れ、朝のこわばりといった症状が現れます。進行すると関節の変形や破壊が見られるようになります。 免疫システムの異常や、喫煙をはじめとする環境要因、遺伝的要因が発症に関与していると考えられていますが、現時点で原因は特定されていません。 関節リウマチについては以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いを見分けるポイント 更年期関節痛とリウマチの違いを以下に示します。 更年期関節痛 関節リウマチ 発症年齢と性別による違い 40~50代の女性に多い 閉経前後の10年間に発症しやすい 30~50代の女性に多い 60代以上で発症する場合は、性別による差は少ない。 症状による違い 手指以外にも、膝や肩など複数の部分で関節痛が生じる 関節の腫れは見られない、もしくは軽度 更年期が過ぎると自然に軽減する 関節痛以外の症状としては、体のほてり、発汗、動悸、イライラなどが見られる 手指の関節痛が特徴的(膝や足にも症状が出る場合もある) 関節の腫れやこわばり、熱感などが見られる 徐々に進行し、関節の変形や破壊が生じるケースもある 関節痛以外に、微熱や食欲不振、倦怠感などが見られる 更年期関節痛では時間の経過とともに症状が軽減するケースが多い一方で、関節リウマチは症状が徐々に進行する点が大きな違いといえるでしょう。 更年期関節痛の治療とケア方法 更年期関節痛の治療やケア方法は、主に以下のとおりです。 ホルモン補充療法 薬物療法 日常生活におけるセルフケア ホルモン補充療法 更年期で減少したエストロゲンを補充する治療法です。 子宮を摘出された方の場合はエストロゲンのみを補充しますが、それ以外の方は、エストロゲンと黄体ホルモンを併用します。子宮がある方の場合、エストロゲンのみを補充すると、子宮内膜が異常に増殖する「子宮内膜増殖症」のリスクがあるためです。(文献1) 薬物療法 ホルモン剤以外の薬物療法では、アスピリンやロキソニンといった消炎鎮痛剤や漢方薬などが多く用いられます。 関節痛以外の症状がある場合は、向精神薬や自律神経調整薬も処方されます。 日常生活におけるセルフケア 痛みのない範囲でのストレッチやマッサージは、セルフケアとしておすすめです。血行が促進されて、関節が動きやすくなります。ただし、強く痛むときは安静にしましょう。 バランスの良い食事や適度な運動、睡眠などで生活リズムを整えることもセルフケアの1つです。規則正しい生活は、ホルモンバランスを整えることにつながります。(文献2) 食事においては、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンや、ホルモンバランスを整える働きがあるビタミンEなどを積極的に摂りましょう。ビタミンEが多く含まれる食品は、かぼちゃやほうれん草、アーモンドなどです。(文献3)、(文献4) 更年期関節痛のセルフケアについては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 リウマチの治療とケア方法 関節リウマチの治療の中心は薬物療法です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤、JAK阻害薬などが主に用いられるほか、ステロイド剤や非ステロイド性の消炎鎮痛剤が処方される場合もあります。 関節の変形や破壊が進んだ場合は、手術も選択肢に含まれます。 セルフケアとして第一に挙げられるのは禁煙です。それ以外のセルフケアとしては、栄養バランスの良い食事や適度な運動、休息などが挙げられます。 関節リウマチの治療や予防策については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関わらず早めの受診を心がけよう 更年期関節痛とリウマチは原因や発症時期、症状に違いはあるものの、どちらも関節痛が続く疾患です。 更年期関節痛の場合は更年期が終わると徐々に回復しますが、リウマチは進行性であるため、放置しておくと関節の変形や破壊などの症状も現れます。 どちらの場合でも早期発見および、早期治療が大切です。関節痛が続いている方は、整形外科やリウマチ科、婦人科などの医療機関を受診しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節痛でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 更年期関節痛とリウマチの違いに関するよくある質問 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はありますか? 更年期関節痛とリウマチを同時に発症する可能性はあります。 更年期は、女性ホルモンの1つであるエストロゲン減少によりさまざまな心身の症状が発生する時期です。エストロゲンは、免疫系にも影響を与えるホルモンで、炎症を抑える働きがあります。 エストロゲン減少で免疫のバランスが崩れると、リウマチを発症するリスクが高まります。関節痛がある場合は、原因に関わらず、早急に医療機関を受診しましょう。 更年期障害による関節痛はいつまで続きますか? 更年期障害による関節痛は、更年期が終わると徐々に回復に向かいます。しかし、関節痛の原因が更年期ではなくリウマチの可能性もあります。 更年期関節痛とリウマチを同時に発症している場合もあるため、関節痛が続くときは放置せず、早急に医療機関を受診しましょう。 (参考文献) (文献1) 東京医科大学病院 薬剤部「お薬のしおり 更年期障害について」2022年 https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/yakuzai/data/240.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 全国健康保険協会 栃木支部「ホルモンバランスを整えてグッドコンディションを手に入れよう!」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/060911104606.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 公益財団法人中国労働衛生協会「更年期の健康課題」2024年 https://churou-wp.sub.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2024/02/2201f33f600bac8744116a4596d7c057.pdf (最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) 国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所「ビタミンE」「健康食品」の安全性・有効性情報, 2020年11月5日 https://hfnet.nibn.go.jp/vitamin/detail176/#002 (最終アクセス:2025年5月22日)
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「関節リウマチで治療を受けているけれど、最近いつもと違う症状が出てきた」 「関節リウマチの合併症にはどのようなものがあるのだろう?」 関節リウマチの治療を受けている方の中には、合併症に関する不安を抱えている方も多いことでしょう。関節リウマチの合併症には、間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などがあります。 本記事では、関節リウマチの合併症および原因、予防のポイントなどを解説します。合併症に関する疑問や不安解消のきっかけになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの主な合併症 関節リウマチの主な合併症として挙げられる7つの疾患を以下に示します。 間質性肺炎 骨粗しょう症 シェーグレン症候群 貧血 アミロイドーシス 肝機能障害 腎機能障害 間質性肺炎 間質性肺炎とは、肺の間質(肺胞壁および肺胞を支える組織)を中心に炎症をきたす疾患です。炎症が進むと、肺全体が固くなります。 主な症状は、息苦しさや乾いた咳(痰を伴わない咳)などです。 進行すると呼吸不全の状態になるケースもありますが、呼吸不全まで進まない種類の間質性肺炎もあります。 骨粗しょう症 骨粗しょう症とは、骨量の減少や骨質の劣化などが原因で骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。骨粗しょう症の患者数は、全国で約1,280万人といわれています。(文献1) 骨粗しょう症には閉経後骨粗しょう症や続発性骨粗しょう症などの種類があり、関節リウマチ合併症由来のものは、続発性骨粗しょう症に分類されます。 骨粗しょう症自体は、自覚症状を感じにくい疾患です。症状がないまま徐々に骨が弱くなり、腰椎や大腿骨の骨折などを引き起こす可能性があります。 大腿骨の骨折は、歩行困難や寝たきりを引き起こす大きな原因の1つとされています。 骨粗しょう症については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 シェーグレン症候群 シェーグレン症候群は、関節リウマチと同様、自己免疫疾患の1つです。(文献2) 涙腺や唾液腺などの慢性的な炎症が起こり、ドライアイやドライマウス、鼻の乾燥などの症状が現れます。 関節リウマチの合併症は二次性シェーグレン症候群と呼ばれており、他の合併症が見られないものは、一次性シェーグレン症候群と呼ばれます。一次性シェーグレン症候群には、病変が全身に及ぶタイプも存在します。(文献2) 貧血 関節リウマチの方は、慢性的な炎症や抗リウマチ薬の副作用などにより、貧血を合併しやすい状況です。 貧血にはさまざまな種類があり、関節リウマチによるものは、鉄分が足りなくなることで起こる小球性低色素性貧血に分類されます。 関節リウマチと貧血の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 アミロイドーシス アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が、脳や心臓、腎臓、消化管、神経などのさまざまな臓器に付着し、機能障害を起こす疾患です。 アミロイドーシスには、複数の臓器にアミロイドが付着する全身性と、特定の臓器にアミロイドが付着する限局性があります。 また、アミロイドーシスは遺伝性と非遺伝性にわかれており、多くの患者は非遺伝性です。関節リウマチ合併症によるものも、非遺伝性アミロイドーシスに分類されます。 肝機能障害 関節リウマチに合併する肝機能障害の多くは、薬剤性のものです。とくに、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用で肝機能障害が起こりやすいとされています。 リウマチの薬の影響でB型肝炎やC型肝炎のウイルスが活性化し、無症状の方が発症する場合もあります。 自己免疫疾患の一つである関節リウマチでは、他の自己免疫疾患を合併するケースも少なくありません。肝臓疾患としては、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などがあります。 腎機能障害 関節リウマチ合併症としての腎機能障害は、ネフローゼ症候群や腎不全などアミロイドーシスに関係しているものが多い状況です。抗リウマチ薬や消炎鎮痛剤の副作用による腎機能障害もあります。 腎機能障害の症状としては、全身の倦怠感やむくみ、タンパク尿などが挙げられます。 関節リウマチと腎機能障害の関係については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの合併症が生じる原因 関節リウマチの合併症が生じる原因としては、疾患そのものに加えて薬の副作用が挙げられます。 間質性肺炎や骨粗しょう症、シェーグレン症候群などは関節リウマチ由来の合併症であり、肝機能障害は、薬の副作用であることが多い状況です。 腎機能障害には、アミロイドーシスに由来するものや薬の副作用によるものがあります。 関節リウマチの合併症予防と早期発見のポイント 関節リウマチの合併症予防および早期発見のポイントは、主に以下の2つです。 生活管理 定期的な受診 生活管理 関節リウマチ悪化予防のために一番望ましい行動は、禁煙です。(文献3)寝る前や食後の歯磨きや、歯科検診などの歯周病予防も欠かせません。歯周病は関節リウマチ発症や悪化に関係するためです。 貧血や骨粗しょう症といった合併症予防のためには、カルシウムや鉄分の多い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。 関節リウマチは抗リウマチ薬やステロイド剤の影響で、感染症を引き起こしやすいとされています。(文献4)手洗いやうがいといった日頃からの感染予防に加えて、必要に応じて各種予防接種を受けましょう。 定期的な受診 合併症の予防や早期発見のためには、定期的に医療機関を受診し、必要な診察および検査を受けることが大切です。いつもと違う症状があるときは、ためらわずに受診し、主治医へ状況を伝えましょう。 症状がないときに受診や内服を中断すると、関節リウマチそのものが悪化してしまい、合併症のリスクも高まります。自己判断での服薬中断は避けてください。 関節リウマチの薬については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。 関節リウマチで合併症を引き起こさないためにも継続的な治療が大切 関節リウマチの合併症は、疾患そのものによるものから薬の副作用まで多くの種類が存在します。 合併症予防および早期発見・治療のためにも、日頃から薬の内服を続け、いつもと違う症状があれば、速やかに医療機関を受診しましょう。いつもと違う症状を放置しないことが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチおよび合併症についても、お気軽にご相談ください。 関節リウマチの合併症に関するよくある質問 関節リウマチの合併症で亡くなることはありますか? 関節リウマチ合併症の中でも、狭心症や心筋梗塞、脳出血、脳梗塞などの心血管イベントを発症すると、重症の場合亡くなることもあります。(文献5) 関節リウマチは、関節だけではなく血管にも炎症を起こすことがあるため、血管の狭窄や血栓が発生しやすい状況です。そのため心血管イベントにつながる可能性が高いとされています。 合併症の1つである間質性肺炎も、重症化したり急激に悪化したりすると命に関わる場合も少なくありません。(文献6) シェーグレン症候群を治療しないとどうなりますか? シェーグレン症候群を治療しないと、別の病気を発症していることに気づけないリスクがあります。 シェーグレン症候群は現段階では完治が難しいものの、予後は良好とされる疾患です。しかし、経過観察中に間質性肺炎や腎不全、リンパ腫を発症する場合もあります。(文献2)そのため発症後は、定期的な治療や経過観察が必要です。 関節リウマチの合併症で多いのは何ですか? 関節リウマチの合併症はさまざまであるため、どれが一番多いとの断定は難しい状況です。 合併症の1つである間質性肺炎は、関節リウマチ患者の約10~30%に見られています。(文献6) それ以外の合併症としては、肝機能障害や腎機能障害、骨粗しょう症、貧血、シェーグレン症候群、各種感染症などがあります。 (参考文献) (文献1) 公益財団法人 骨粗鬆財団「病気について」 https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/faq/faqabout.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献2) 順天堂大学医学部附属順天堂医院「シェーグレン症候群」膠原病・リウマチ内科 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease03.html(最終アクセス:2025年5月22日) (文献3) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマチ・膠原病を心配したら」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/general/collagen-diseases/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献4) ファイザー株式会社「日常生活の注意点 関節リウマチと感染予防」リウマチeネット https://www.riumachi.jp/life/caution/infectionprevention(最終アクセス:2025年5月22日) (文献5) 公益財団法人日本リウマチ財団「心血管イベント」リウマチ情報センター https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/complications/shinkekkan_event/(最終アクセス:2025年5月22日) (文献6) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「肺炎,間質性肺炎」,2015年6月1日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/ra-complications/ip.html(最終アクセス:2025年5月22日)
2025.05.30 -
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「手の指が腫れていて、こわばる感じがする」 「これは関節リウマチの症状なのだろうか」 「血縁者にリウマチ患者がいるので、遺伝したのではないか」 関節リウマチと思われる症状と遺伝に関して、お悩みの方もいらっしゃることでしょう。 関節リウマチ発症には遺伝的要素もありますが、確実に遺伝するものではありません。環境要因も発症に関係するためです。 本記事では、関節リウマチと遺伝の関係性やその他の要因、予防法などについて解説します。 遺伝に関する疑問が解消できますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチと遺伝の関係 関節リウマチは、自分の免疫が関節の滑膜を攻撃することで関節炎を引き起こす疾患です。 関節リウマチを発症する原因は現在も完全には解明されていません。しかし、関節リウマチを含む自己免疫疾患には遺伝的な背景があるとされています。 親が関節リウマチである場合、子の発症リスクは約3倍になるといった報告もあるほか、患者の三親等以内の血縁者は33.9%の確率で発症するとされています。(文献1)(文献2) 三親等以内とは、子や孫、ひ孫、きょうだい、甥、姪といった範囲です。親や祖父母、曾祖父母、おじ・おばも三親等以内の血縁者に入ります。 一卵性双生児での発症一致率は12~15%程度、二卵性双生児やきょうだい間の発症一致率は2~4%程度とされています。(文献3) しかし、関節リウマチは確実に遺伝する疾患ではありません。遺伝的背景に加えて環境要因も関係するためです。血縁者に関節リウマチ患者がいても発症しない場合がありますし、血縁者に関節リウマチ患者がいない方でも発症するケースがあります。 関節リウマチと遺伝の関係については、下記の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関節リウマチの発症に関わる遺伝子 関節リウマチの発症に関わる遺伝子は、主に以下のとおりです。 HLA PTPN22 PADI4 CCR6 IL2RA TNFAIP3 TYK2 IRF5 IRAK1 CD40 この中でも、関節リウマチ発症に比較的大きな影響を持つのがHLA遺伝子(ヒト白血球抗原遺伝子)です。 HLA遺伝子は、クラスⅠからクラスⅢまでの3領域にわかれます。(文献4)クラスⅡの1つ「HLA-DRB1遺伝子」が関節リウマチと深い関係にあるとの研究結果が示されています。(文献5) 関節リウマチにおける主な検査 関節リウマチにおける主な検査は、血液検査や画像診断などです。 血液検査では免疫反応や炎症反応を調べ、画像診断では関節の炎症や破壊の状況を直接調べます。 関節リウマチの遺伝子検査は一部の民間遺伝子解析サービスで実施されていますが、医療機関で診断に用いられているケースはまれであると考えて良いでしょう。 一部の自己炎症性疾患に対して、遺伝子検査を実施している医療機関もあります。 関節リウマチの検査については、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 【遺伝で諦めない】関節リウマチの予防法 関節リウマチ発症の予防法として考えられるのは、主に以下の3つです。 禁煙 歯周病予防 食生活改善 喫煙および受動喫煙は、関節リウマチ発症に大きな影響を及ぼすとされており、禁煙は大切な予防行動です。 歯周病菌も関節リウマチ発症に関与している可能性が高いとされています。(文献6)そのため、毎日の口腔ケアや定期的な歯科検診といった歯周病予防の実践も、関節リウマチ予防には大切です。 食生活改善のためには、サバやサンマ、鮭などの魚介類や大豆製品を積極的に摂ると良いでしょう。これらの食品には、関節リウマチの発症予防効果があるとされる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。 関節リウマチにとって、望ましくない行動もあります。以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 遺伝の有無にかかわらず関節リウマチの症状がある場合は早めに医療機関を受診しよう 関節リウマチの発症には遺伝的要素も含まれていますが、関節リウマチを遺伝性疾患と断定することは困難です。 関節リウマチ発症には環境要因も関係しているため、血縁者にリウマチ患者がいない場合でも発症するケースがあるためです。 手や指の関節痛や腫れなど、関節リウマチと思われる症状が見られた場合は、遺伝関係の有無に関わらず、早めに医療機関を受診しましょう。まずはかかりつけ医に相談し、リウマチ科や膠原病科、整形外科などにかかることが望ましい流れです。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しております。関節リウマチについて、不安や疑問がある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと遺伝に関するよくある質問 関節リウマチになりやすいのはどのような人ですか? 日本での関節リウマチ患者数は60万人〜100万人程度といわれており、人口の約0.5%から1%が関節リウマチ患者とされています。(文献2) 関節リウマチは女性に多い疾患であり、男女比は1対4程度です。 年齢で見ると、最も多いのは30代から50代とされてきました。しかし近年では、65歳以上で発症する「高齢発症関節リウマチ」も増えています。高齢で発症する場合、男女差は目立たない状況です。 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因とは何ですか? 関節リウマチ発症における遺伝以外の要因として挙げられるものの中で、もっとも関係性が高いものは喫煙です。 喫煙は、関節リウマチの活動性を上昇させて、治療の効果も弱めます。喫煙歴がある方や現在喫煙中の方の場合、男性では2~3倍、女性では1.2~1.3倍程度発症率が高くなるとされています。(文献7) 歯周病も関節リウマチとの関連が注目されている要因です。 歯周病によって、口腔内を含めた体内のタンパク質がシトルリン化される可能性があります。(文献8)タンパク質がシトルリン化された結果作られる物質が、抗CCP抗体です。 抗CCP抗体は関節リウマチ発症に関連するとされています。 参考文献 (文献1) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター 京大リウマチ通信「関節リウマチと遺伝」2024年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/11/83433e4de1a85b5be643adaaefd24e8e.pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献2) 厚生労働省「『リウマチ等対策委員会報告書』について」 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4411&dataType=1&pageNo=1&(最終アクセス:2025年5月21日) (文献3) 山本一彦.「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 1.関節リウマチの遺伝的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2818-2823, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2818/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献4) 藤尾圭志.「関節リウマチのゲノム医療の入り口としてのHLA遺伝子」『臨床リウマチ』33(2), pp.92-98, 2021 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/33/2/33_92/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月21日) (文献5) Kwangwoo Kim, et al.(2016). Imputing Variants in HLA-DR Beta Genes Reveals That HLA-DRB1 Is Solely Associated with Rheumatoid Arthritis and Systemic Lupus Erythematosus.PLOS ONE, 11(2), pp.1-7. https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0150283&type=printable(最終アクセス:2025年5月21日) (文献6) Anna Krutyhołowa, et al. (2022).Host and bacterial factors linking periodontitis and rheumatoid arthritis. Frontiers in Immunology,13,pp.01-17. https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2022.980805/full(最終アクセス:2025年5月21日) (文献7) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日) (文献8) 山本一彦「関節リウマチの発症:遺伝要因と環境要因」『日本温泉気候物理医学会雑誌』77(10), pp.20-21, 2013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/77/1/77_20/_pdf(最終アクセス:2025年5月21日)
2025.05.30 -
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「健康診断の血液検査でリウマチの数値が高いと指摘された」 「リウマチの数値が高い上に、関節が痛んだり腫れたりしている」 「関節リウマチの血液検査の内容を知りたい」 このような疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。 結論から申し上げますと、関節リウマチの血液検査にはさまざまな種類があります。血液検査で異常がなくても関節リウマチと診断される場合も少なくありません。 本記事では関節リウマチの血液検査について詳しく紹介します。 お悩みの症状が関節リウマチに関係しているかの目安がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチにおける血液検査の種類 関節リウマチにおける血液検査の種類は、主に以下の3つです。 免疫に関する検査 炎症に関する検査 その他の血液検査 免疫に関する検査 ここでは免疫に関する検査として、リウマトイド因子と抗CCP抗体、MMP-3について説明します。 リウマトイド因子 リウマトイド因子とは、リウマチの診断および治療に有効な検査値で、一般的な基準値は15IU/ml以下です。(文献1) リウマトイド因子が50や100といった高値を示し、関節症状がある場合、リウマチである可能性が高いとされています。 ただし、関節リウマチ以外でも高値を示すこともあるため、この検査だけでリウマチと確定させることは難しいでしょう。 抗CCP抗体 抗CCP抗体とは、関節リウマチの診断や予後の予測に関する検査値で、一般的な基準値は4.5U/ml未満です。(文献2)、(文献3) 検査値が高く、関節症状がある場合、関節リウマチの可能性がきわめて高いといえるでしょう。他のリウマチ因子とは異なり、リウマチ以外の疾患で高値を示すことはまれであるため、関節リウマチの診断に有効な検査です。 抗CCP抗体の数値が高い場合は、関節リウマチの中でも関節や骨の破壊が進みやすいタイプであることを意味します。 MMP-3 MMP-3は、関節リウマチにより炎症を起こしている滑膜で多く分泌される酵素であり、リウマチによる軟骨破壊の程度をあらわします。 MMP-3 の基準値は、以下のとおりです。 男性:36.9~121.0 ng/ml 女性:17.3~59.7 ng/ml (文献3) 関節リウマチの初期段階から上昇するといわれていますが、関節リウマチ以外の疾患やステロイド内服時でも高値を示す場合もあります。 関節リウマチ以外でMMP-3 が高値を示す疾患として挙げられるのは、全身性エリテマトーデスやリウマチ性多発筋痛症などです。 炎症に関する検査 ここでは炎症に関する検査として、CRPと赤血球沈降速度について説明します。 CRP CRPは、全身の急性炎症を示す指標です。 正常値は0.3mg/dl未満であり、炎症が強いときには10mg/dlを超える場合もあります。(文献3)、(文献4) 炎症や組織の破壊が起きたときに、白血球の仲間であるリンパ球や単球、マクロファージが炎症性サイトカインを分泌します。炎症性サイトカインにより肝臓の細胞が刺激された結果分泌されるタンパク質が、CRPです。 CRP値が高値を示す疾患は、関節リウマチ以外に複数存在します。主な疾患としては、以下のようなものが挙げられます。 肺炎 ウイルス性肝炎 腎盂腎炎 そのため、CRP値のみでの関節リウマチ診断は難しいといえるでしょう。 赤血球沈降速度 赤血球沈降速度は慢性炎症の指標です。 細長いガラス管の中に抗凝固剤(クエン酸)を加えた血液を入れて、1~2時間立てておきます。この間に、赤血球が沈んだ深さを検査値とします。 正常値は以下のとおりです。(文献3) 男性:1時間に10㎜未満 女性:1時間に20㎜未満 炎症が起こっているときは赤血球の沈む速度が速くなり、関節リウマチ患者では50㎜前後といわれています。(文献4) その他の血液検査 その他の血液検査として挙げられるのは、主に以下の4項目です。 貧血検査 肝機能検査 腎機能検査 肺機能検査 貧血検査 関節リウマチ患者は慢性的な炎症が原因で、貧血傾向にあります。これは炎症性サイトカインが原因で鉄分の吸収が抑制されるためです。 抗リウマチ薬(メトトレキサート)の副作用で貧血が出現する場合もあります。 貧血の程度を測るための検査値が、赤血球数やヘモグロビン値、血色素量などです。WHO(世界保健機構)の定義によると、成人男性ではヘモグロビン値13.0g/dl以下、成人女性ではヘモグロビン値12.0g/dl以下が貧血とされます。 貧血に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。 肝機能検査 関節リウマチ患者は、メトトレキサートをはじめとした薬の副作用により肝機能が低下する場合があるため、定期的に検査を実施します。 主な肝機能検査は、AST(別名GOT)やALT(別名GPT)です。医療機関ごとに異なりますが、どちらかの検査値が100U/Lを超えた場合は、内服薬を調整するケースが一般的です。(文献5) B型肝炎およびC型肝炎ウイルス検査を実施するケースもあります。肝炎ウイルスは感染しても無症状のことが多いのですが、リウマチの薬により免疫力が低下して、ウイルスが活性化する場合もあるためです。 関節リウマチと薬の関係については以下の記事でも解説しますので、あわせてご覧ください。 腎機能検査 関節リウマチ患者は薬の副作用により腎機能が低下する場合があるため、血液検査で経過を観察します。 主な腎機能検査は、クレアチニンやeGFRです。基準値は医療機関によって異なりますが、クレアチニン値が高い、もしくはeGFR値が低いと腎機能低下の疑いがあります。 リウマチのコントロールが不良の場合、「アミロイドーシス」と呼ばれる合併症を引き起こす可能性があります。アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれるタンパク質が過剰に作られて、さまざまな臓器に付着した結果起こる疾患の総称です。 腎臓でアミロイドーシスが起きると、ネフローゼ症候群や腎不全を発症する場合があります。 肺機能検査 関節リウマチの合併症および副作用の1つとして、呼吸器疾患があります。重要な呼吸器疾患の1つが間質性肺炎(肺線維症)です。 一般的な肺炎は細菌やウイルス感染により肺に炎症が起こりますが、間質性肺炎は、肺胞の壁に当たる部分(肺胞壁)や肺胞を支える組織に炎症が起きます。その結果、肺全体が固くなります。 間質性肺炎の度合いを表す血液検査の1つが、KL-6です。医療機関ごとに異なりますが、一般的な基準値は500U/ml未満です。KL-6が高い場合は、間質性肺炎の発症もしくは悪化が考えられます。 関節リウマチにおける血液以外の検査 関節リウマチにおける血液検査以外の検査としては、画像検査があります。具体的には、レントゲン検査や超音波検査、MRI検査などです。 レントゲン検査では関節周囲の骨が薄くなる骨粗しょう症や、骨が削られたように欠ける骨びらんなどの状況がわかります。 超音波検査では炎症の状態がリアルタイムに把握できるほか、骨の状況も高感度で確認可能です。 MRI検査では、関節周囲の筋肉や軟骨などの炎症や腫れを確認できます。 血液検査で異常なしでも関節リウマチを発症している場合がある リウマトイド因子や抗CCP抗体などの血液検査が陰性であっても、関節リウマチと診断されるケースがあります。主に挙げられるのが、血清反応陰性関節リウマチとリウマチ性多発筋痛症です。 血清反応陰性関節リウマチの症状や治療法は、一般的な関節リウマチと同様です。血液検査が陰性であるため、超音波検査で関節の腫れや炎症を確認します。 60歳以上で発症する関節リウマチの場合、血清反応陰性例が多いとされています。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は、両肩周囲のこわばりや痛みで発症し、手指や足指の腫れや関節痛が少ないのが特徴的です。(文献6) リウマチ性多発筋痛症は関節リウマチと異なり、少量のステロイド剤が治療に使われます。ステロイド剤の量は患者の状況によって調整します。リウマチ性多発筋痛症も高齢での発症が多い疾患です。 関節リウマチの治療については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 血液検査の理解を深めて関節リウマチの改善に努めよう 関節リウマチにおける血液検査は、免疫や炎症に関する項目に加えて、貧血や肝機能、腎機能、肺機能などに関する項目があります。貧血や肝機能などの検査は、薬の副作用や合併症に関連したものです。 関節リウマチの場合、血液検査だけではなく画像診断も大事な指標です。 また、血液検査で異常なしであってもリウマチを発症しているケースもあります。関節痛や腫れ、変形など、リウマチと思われる症状でお悩みの方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチの方が日常で避けるべき行動について、下記の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。血液検査の結果に疑問や不安をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチと血液検査に関するよくある質問 関節リウマチの有無は検査後にすぐわかるものですか? 関節リウマチの有無は、検査後すぐにわからないことが多いとされています。 血液検査、とくにリウマトイド因子や抗CCP抗体などは検査結果が判明するまでに数日から1週間程度かかるためです。 画像検査においても、レントゲン検査や超音波検査はすぐに結果がわかりますが、MRI検査の場合は結果がわかるまで数日かかることがあります。 これらの状況から見ても、関節リウマチの有無は検査後すぐにはわからないと考えた方が良いでしょう。 関節リウマチの検査は何科を受診すれば良いですか? リウマチ科や膠原病内科、整形外科などのリウマチ専門医がいる科の受診が望ましいでしょう。 近くの医療機関にこれらの診療科がない場合は、かかりつけの内科を受診して、専門医への紹介状を書いてもらうことをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 一般社団法人日本リウマチ学会「リウマトイド因子標準化のガイドライン」一般社団法人日本リウマチ学会ホームページ https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/news110817/(最終アクセス:2025年5月19日) (文献2) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチに関わる血液の検査結果の見方」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2013/01/ra2013011702.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献3) 順天堂越谷病院「膠原病・リウマチの検査」2020年 https://hosp-koshigaya.juntendo.ac.jp/wp-content/uploads/2020/05/49a86a7ddc1e3f5f01e26b8a369af6e8.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献4) Doctors Me 「健康診断の血液検査項目「CRP」 知っておきたい数値の意味」 https://doctors-me.com/column/detail/4886(最終アクセス:2025年5月19日) (文献5) 京都大学医学部附属病院 リウマチセンター「京大リウマチ通信 リウマチで注意する血液データ」2013年 https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2011/05/ra201303.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献6) 桑名正隆.「高齢者における診断・治療の進歩:関節リウマチ」『日本内科学会雑誌』111(3), pp.454-460, 2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/3/111_454/_pdf(最終アクセス:2025年5月19日)
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「関節リウマチと診断されて薬を飲み始めた」 「自分が今飲んでいる薬は、どのような効果があるのだろう」 「リウマチの薬は一生飲み続けるものだろうか」 このような疑問や不安を抱えている方も多く、とくに、関節リウマチと診断されて間もない方にとっては切実な問題です。 本記事では、関節リウマチの薬に関して詳しく解説します。 病気の進行が落ち着く「寛解状態」を目指すためにも、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの薬は主に5種類 関節リウマチの治療で用いられる薬は、主に以下の5種類です。 抗リウマチ薬 生物学的製剤 JAK阻害剤 非ステロイド性消炎鎮痛剤 副腎皮質ステロイド剤 抗リウマチ薬 抗リウマチ薬には、免疫異常や、関節の炎症およびリウマチの活動性を抑制するはたらきがあります。 メトトレキサート 抗リウマチ薬の第一選択肢がメトトレキサートです。一般的に抗リウマチ薬は、効果が出るまで1~2か月程度かかりますが、メトトレキサートは2~3週間程度で効果が出るといわれています。(文献1) メトトレキサートは、1週間に1日もしくは2日だけ内服する薬です。副作用軽減のために、内服日の2日後に葉酸を内服します。 メトトレキサートの副作用として挙げられるのは、口内炎や貧血、肝機能異常、間質性肺炎などです。 メトトレキサート以外の抗リウマチ薬 メトトレキサート以外の主な抗リウマチ薬を以下に示します。 薬剤名 特徴 内服方法 副作用 サラゾスルファピリジン 軽症から中等症の患者に有用 メトトレキサート内服不可の患者に用いられる 内服開始後1~2か月程度で効果が出る 朝食後と夕食後に1錠内服 1錠は250mgもしくは500㎎ 皮疹 かゆみ 発熱 肝機能障害 ブシラミン 日本で開発された抗リウマチ薬 軽症から中等症の患者に有用 内服開始後1~3か月程度で効果が出る 1日50㎎もしくは100㎎から開始 通常は1日100~200mg 消化器症状 皮疹 肝機能障害 腎機能障害 タンパク尿が出た場合は内服中止 タクロリムス 日本で開発された免疫抑制剤の一種 2005年に関節リウマチへの適応が認められた 血中濃度測定が保険適応になっている 夕食後に内服 成人は1回2錠(3㎎) 高齢者は1回1錠(1.5㎎) 腎機能障害 耐糖能異常 下痢 腹痛 (文献1) タクロリムス内服時にグレープフルーツを食べたり、他の薬剤を内服したりすると、血中濃度が必要以上に上昇する場合があります。 生物学的製剤 生物学的製剤とは、生物から産生されるタンパク質を応用して作られた薬の総称です。 関節リウマチは、免疫に関わる物質であるサイトカインが通常より増えて、関節の炎症や破壊が生じる疾患です。 生物学的製剤は、点滴や皮下注射によって、サイトカインおよびサイトカインを産み出す細胞の働きを抑えます。これにより炎症を和らげ、関節痛や腫れなどの症状を軽減させる仕組みです。 サイトカイン産生細胞には、炎症を引き起こすTNF-αや炎症に関与するIL-6などがあります。 主な生物学的製剤を以下に示します。 薬剤名 特徴 投与方法 投与間隔 インフリキシマブ TNF-αに作用する 点滴 4~8週間に1回 エタネルセプト TNF-αに作用する 皮下注射 1週間に2回 アダリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 ゴリムマブ TNF-αに作用する 皮下注射 4週間に1回 セルトリズマブ TNF-αに作用する 皮下注射 2週間に1回 トシリズマブ IL-6に作用する 点滴 4週間に1回 サリルマブ IL-6に作用する 皮下注射 2週間に1回 アバタセプト T細胞に作用する 点滴 4週間に1回 T細胞とは、白血球の仲間であるリンパ球の1つであり、免疫機能をつかさどる細胞です。 生物学的製剤については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 JAK阻害薬 JAK阻害薬は、分子標的型のリウマチ治療薬であり、関節に炎症を起こす分子「JAK」の働きを抑える効果があります。2013年3月にトファシチニブが日本で承認され、同年7月に発売されました。(文献2) 生物学的製剤は注射もしくは点滴での投与ですが、JAK阻害薬は内服可能な薬です。 トファシチニブ以外の主なJAK阻害剤としては、以下のようなものが挙げられます。(文献2) バリシチニブ ベフィシチニブ ウパダシチニブ フィルゴチニブ JAK阻害薬の副作用では、帯状疱疹の発症リスクが高いとされています。加えて、悪性腫瘍や狭心症、心筋梗塞などにも注意が必要です。 JAK阻害薬は費用が高額であるため、医療保険で自己負担3割の方の場合、毎月5万円程度の医療費が発生します。 非ステロイド性消炎鎮痛剤 主な非ステロイド性消炎鎮痛剤は、アスピリンやロキソニン、インドメタシンなどです。プロスタグランジンと呼ばれる、炎症を引き起こす物質の産生を抑えて、関節痛や腫れを軽減させる役割があります。 効き目が速い点が特徴ですが、関節変形を抑える効果は期待できないとされています。 主な副作用は胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍や、腎機能低下などです。 最近では、COX-2阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤が使用可能になりました。(文献3) 副腎皮質ステロイド剤 関節リウマチでは、症例により少量のステロイド剤を用いるケースがあります。主なステロイド剤は、プレドニンやリンデロン、デカドロンなどです。 炎症を抑える作用や免疫抑制作用が強く、はやく効果が出ます。しかし、骨粗しょう症や消化性潰瘍など、副作用も多いこともあり、リウマチ治療においては補助的な役割です。 抗リウマチ薬や生物学的製剤の使用により、ステロイドを減量もしくは中止する例も増えています。 関節リウマチにおける薬物療法の目的 関節リウマチにおける薬物療法の目的は、「症状を抑えること」から「寛解導入」に移行しています。寛解とは、病気の進行が落ち着いている状態です。 現在、関節リウマチ治療の最終ゴールは、以下3点の達成・維持とされています。 臨床的寛解(炎症がほぼ消えた状態) 構造的寛解(関節破壊の進行が抑えられている状態) 機能的寛解(身体機能の低下がみられない状態) 関節リウマチは進行性の疾患であり、進行を止めることは難しいと考えられていました。その考えに変化が生じたのは、2000年前後です。 1999年に抗リウマチ薬の1つであるメトトレキサートが保険適用され、2003年には生物学的製剤が国内で発売開始されました。これらの変化により、関節リウマチの進行を抑えられるようになったのです。 リウマチの薬を飲まないとどうなるのか 副作用が怖い、症状が改善されたなどの理由により、自己判断でリウマチの薬を飲まなくなる方も少なくありません。しかし、自己判断で薬を中止すると、症状が悪化する可能性が高まります。 とくに、メトトレキサートを中心とする抗リウマチ薬のみの治療を受けている場合は、自己判断で中止すべきではありません。内服をやめた場合、症状の悪化率が倍になったという研究データもあります。 日本リウマチ学会による「関節リウマチ治療ガイドライン2014」を要約すると、減薬の優先度は以下のとおりです。 ステロイド 生物学的製剤 抗リウマチ薬 薬を飲むことに不安や疑問がある方は、自己判断で中止せず、必ず主治医に相談しましょう。 関節リウマチの薬について理解した上で治療を受けよう 節リウマチの薬は、免疫に関係して関節の炎症を抑えたり、関節痛や腫れ、変形を軽減したりする効果があります。 関節リウマチは進行性の疾患ですが、新たな薬の開発が進んでいることもあり、寛解を目標にできるようになりました。しかし、寛解を目標にできるのは、指示どおりに薬を内服している場合です。 自己判断で薬を減らしたり止めたりすると、病気に良くない影響を与えます。副作用が不安である、症状が軽減されたなどの理由で、薬の減量や中止を考えている方は必ず主治医に相談しましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。関節リウマチの薬や治療について疑問や不安のある方は、お気軽にお問い合わせください。 関節リウマチの薬に関するよくある質問 関節リウマチの薬が効かず症状が改善されない場合もありますか? 薬物治療の効果が得られないケースもあり、その場合は薬を見直します。 抗リウマチ薬の内服を始めて3か月経過しても効果が不十分であれば、量を増やすか、生物学的製剤に切り替えます。 生物学的製剤を投与する場合も、3~6か月程度の経過観察が必要です。経過観察の結果、効果が不十分と判明したときは、他の生物学的製剤やJAK阻害剤に変更します。 内服・投与治療による効果が見られない場合は、手術療法も選択肢に入ります。 リウマチの治療費が高すぎると感じます。医療費の補助はありますか? 生物学的製剤やJAK阻害剤などは薬代が高いため、医療保険で自己負担3割の方の場合、1か月の医療費が3万円以上になることも少なくありません。(文献4) 医療費を軽減する主な制度が、高額療養費制度です。1か月の医療費が所定の自己負担上限額を超えたときに、加入している医療保険から上限を超えた分が支給されます。 高額療養費制度について詳しく知りたい方は、加入している健康保険組合やお住まいの市区町村役場などにお問い合わせください。通院先の医療機関で確認できる場合もあります。 参考文献 (文献1) 順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病・リウマチ内科「関節リウマチ」 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease01.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献2) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「JAK阻害薬(ジャックそがいやく)」 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/medication/biologics/jak.html(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 公益財団法人日本リウマチ財団 リウマチ情報センター「非ステロイド抗炎症薬(消炎鎮痛薬)」 https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rheuma/dtherapy/nsaids/(最終アクセス:2025年5月16日) (文献4) 松野博明.「医療費を考慮した関節リウマチの治療」『臨床リウマチ』34(4), pp.268-274, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/34/4/34_268/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月16日)
2025.05.30 -
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「手の関節痛やこわばりのために病院を受診したら、関節リウマチと診断された」 「関節リウマチの原因は何だろう」 「なぜ自分が発症したのか知りたい」 このようにお考えの方も多いことでしょう。 関節リウマチは自己免疫疾患の1つですが、原因ははっきりと解明されていません。 本記事では、関節リウマチの原因と考えられる三要素や治療法などについて解説します。関節リウマチの概要がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 関節リウマチの原因 関節リウマチとは、自己免疫疾患や膠原病の1つであり、好発年齢は30代から50代とされています。女性に多く、患者数は男性の約4倍といわれています。 関節リウマチ発症の仕組みは現在もはっきりと解明されておらず、原因不明です。(文献1) その中でも原因として考えられるものは、主に以下の三要素です。 免疫システム 環境要因 遺伝的要因 免疫システム 関節リウマチは自己免疫疾患の1つに含まれます。 体内の免疫システムに異常が起こり、関節中の組織である「滑膜」が免疫細胞によって攻撃され、炎症を起こすことが知られています。(文献2) 関節の炎症を引き起こす物質は、「サイトカイン」と呼ばれる免疫細胞から作られるタンパク質です。サイトカインの中でも、IL-6(インターロイキン6)やTNF-α(腫瘍壊死因子α)の影響が大きく、これらが過剰に生み出されると炎症が悪化します。 炎症の結果起こる症状として挙げられるのが、関節痛や腫れ、朝のこわばりなどです。関節以外の症状としては、微熱や倦怠感などが見られます。 関節リウマチの概要や症状については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 関連記事 関節リウマチの全貌!症状、治療、診断基準まで徹底解説 関節リウマチの初期症状は?チェックリスト付きで現役医師が解説 環境要因 関節リウマチと関連する環境要因は、主に以下のとおりです。 喫煙 ウイルス感染 細菌感染 歯周病 腸内細菌叢 喫煙は多くの研究において、関節リウマチの発症リスクを高め、治療効果を弱める因子であると示されています。(文献3) 遺伝的要因 ヒトの遺伝子の中でも、HLAと呼ばれる「ヒト白血球型抗原」が、関節リウマチの発症に関する代表的なものとされています。 それ以外にも、免疫に関わる遺伝子がリウマチ発症に関係しているとされています。リウマチ発症に関係するといわれる遺伝子は、主に以下のとおりです。 PADI4 CCR6 TNFAIP3 家系調査では、三親等以内に関節リウマチ患者がいる方は、発症率が33.9%との結果が示されました。(文献4)三親等以内とは、自分から見て以下の間柄に該当する方です。 親 祖父母 曾祖父母 おじ・おば 兄弟姉妹 子ども 孫 ひ孫 甥・姪 関節リウマチと遺伝の関係は下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 発症の原因?関節リウマチと各要因の関係性 この章では、関節リウマチと関係があると考えられるストレス、飲酒、性格の3つの要因について解説します。 関節リウマチとストレスの関係性 現時点では、ストレスが関節リウマチ発症の原因である明確なデータは示されていません。 しかし、ストレスは免疫機能の低下を引き起こすため、リウマチ発症に間接的な影響を及ぼすとも考えられます。規則正しい生活を心がけ、十分な休養をとり、身体的ストレスの軽減が大切です。 精神的ストレス軽減のためには、好きなことをする時間をとる、気の許せる友人と話すなど、自分なりのストレス解消法を持つことが大切です。関節リウマチの患者会に参加して、同じ病気を持つ方と気持ちをわかち合うのも1つの方法でしょう。 関節リウマチと飲酒の関係性 現時点では、飲酒が関節リウマチ発症を引き起こす明確なデータは示されていません。 米国の研究結果では、1日のアルコール含有量換算10g未満の飲酒は、関節リウマチの発症リスクを軽減する効果が期待できると示されています。アルコール含有量10g未満とは、少なめのグラスワイン1杯(約120ml)や日本酒0.5合程度です。 ただし、抗リウマチ薬であるメトトレキサートの副作用には、肝機能障害が含まれます。メトトレキサートは通常、1週間に1・2回服用するものですが、内服日は禁酒が望ましいでしょう。 主治医から飲酒を禁止されている方は、その指示を守りましょう。 関節リウマチと性格の関係性 関節リウマチの原因の中に、個人の性格は含まれません。しかし、ストレス耐性が低い方は、小さなことでもストレスをためやすいため、免疫力の低下を招きやすいといわれます。 神経症的傾向がある方は、関節リウマチ発症後、患部の様子を気にして何度も触れることが多く、病状を悪化させやすいといわれています。神経症的傾向とは、ストレスを感じやすく感情の浮き沈みが激しい性格傾向のことです。 我慢強い性格の方は、関節リウマチの症状が出現しても治療を受けずに我慢してしまい、重症化しやすい可能性があります。 関節リウマチの治療方法 関節リウマチの主な治療方法としては、薬物療法と手術療法が挙げられます。 薬物療法 関節リウマチの治療で使われる主な薬は、免疫異常に働きかける抗リウマチ薬と、関節痛を和らげる薬です。抗リウマチ薬の代表が、メトトレキサートです。メトトレキサートを最大限使っても効果が出ない場合は、生物学的抗リウマチ剤を注射します。(文献5) また、炎症性サイトカインの産生を阻害する効果を持つ、JAK阻害剤を内服するケースもあります。くわえて、炎症緩和のため少量のステロイド剤を併用する場合も少なくありません。 関節リウマチの薬に関しては下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 手術療法 関節リウマチで変形した関節を使いすぎると、変形がますます強まり、関節破壊も進みます。関節リウマチで手術対象となるのは、関節破壊が進み、変形や可動域制限が著しくなった場合です。 関節リウマチ患者に対して行われる手術は、主に以下のとおりです。(文献6) 人工関節置換術 頚椎および腰椎の手術 手指の腱断裂再建手術 外反母趾矯正手術 足関節固定術 人工関節置換手術を実施する部位としては、膝や股関節、足、肘、指などが挙げられます。 関節リウマチの悪化を防ぐ5つの生活習慣 関節リウマチの悪化を防ぐために大切な5つの生活習慣を以下に示します。 生活習慣 詳細 禁煙 喫煙は関節リウマチを悪化させる大きな要因であるため、禁煙が望ましい。 バランスの良い食事 関節リウマチの方は貧血や骨粗しょう症になりやすい。鉄分・カルシウム・ビタミンDを中心にバランスの良い食事を心がけよう。 適度な運動 ウォーキングやリウマチ体操などが望ましい。関節可動域の維持もしくは改善、痛みの軽減、筋力維持が期待できる。 適度な休息 関節リウマチは関節だけではなく全身が慢性的に消耗しやすい。疲れたときには、休憩や昼寝などで適度な休息を取ろう。 内服管理 自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、症状の悪化につながる。指示通りに内服し、減量や中止を希望するときは、主治医に必ず相談しよう。 バランスの良い食事については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 原因や治療法を知り関節リウマチの悪化を防ごう 関節リウマチの原因は、免疫システムの異常、環境要因、遺伝的要因の複合的な相互作用によると考えられますが、現時点では完全に解明されていません。 とくに、30代から50代の女性で、関節の腫れや痛み、原因不明の微熱や倦怠感などがある方は、早めに医療機関を受診しましょう。 関節リウマチと診断された場合は、薬物療法を続けつつ、悪化防止の行動につとめることが大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による関節リウマチの治療を実施しております。 以下の記事は、実際の関節リウマチ治療事例です。 関連記事:症例紹介 関節リウマチの症例 メール相談やオンラインカウンセリングも行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター「関節リウマチとは」東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターホームページ, 2023年10月13日 https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/about-rheumatism.html(最終アクセス:2025年5月14日) (文献2) 兵庫医科大学病院「関節リウマチ」兵庫医科大学PRESENTSもっとよく知る!病気ガイド https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/8(最終アクセス:2025年5月14日) (文献3) 川人豊「関節リウマチ(RA):トピックス診断と治療の進歩Ⅰ.病因 2.環境的要因」『日本内科学会雑誌』101(10), pp.2824-2829, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/10/101_2824/_pdf(最終アクセス:2025年5月14日) (文献4) 湯川リウマチ内科クリニック「関節リウマチと遺伝」 https://yukawa-clinic.jp/knowledge/basicknowledge/genetic.html(最終アクセス:2025年6月5日) (文献5) 富山大学附属病院「最新の関節リウマチ治療―関節リウマチ」富山大学附属病院ホームページ https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/amc/topic13/(最終アクセス:2025年5月14日) (文献6) 京都大学医学部附属病院リウマチセンター「関節リウマチの手術について」京都大学医学部附属病院リウマチセンター https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/surgery(最終アクセス:2025年5月14日)
2025.05.30