股関節の関節唇損傷から回復する方法とは?リハビリテーションや予防方法についても解説
公開日: 2024.10.11更新日: 2024.10.17
股関節の関節唇損傷により、今後の競技人生を不安に思っているアスリートはいるのではないでしょうか。関節唇損傷は、痛みや炎症が収まっても股関節の安定性は低下したままであるため、再発のリスクがあり、リハビリテーションが重要です。
そのため、この記事では競技復帰のための適切なリハビリテーションや再発しないための予防法を解説します。関節唇損傷から早く復帰したいと考えている方はぜひご覧ください。
目次
股関節の関節唇損傷とは
関節唇損傷とは、関節の周りに付着している軟骨である「関節唇」が損傷することです。関節唇は、肩や股関節に存在し、関節の安定性やスムーズな動作・衝撃吸収のために不可欠です。股関節の関節唇は、骨盤側の股関節を取り囲むように付着しており、大腿骨を包み込む形状です。
股関節唇は以下の図のように付着しています。
股関節唇は、動作時の大腿骨頭の安定化や脚を着いた時の衝撃吸収などに働きます。関節唇には神経があるため、発症時には痛みを感じます。
股関節唇損傷の原因
股関節唇損傷の原因は、主に以下の3つがあります。
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スポーツでは、主にサッカー、ゴルフ、ランニングなどが原因で股関節唇損傷を発症することがあります。例えば、サッカーの蹴る動作でのフォロースルーやランニングの着地時など、股関節に大きな負荷がかかるときです。
外傷では、交通事故で股関節脱臼を発症し、関節唇損傷が併発する場合があります。股関節の形状は骨盤側のくぼみが大腿骨頭をほとんど包み込んでいるため、脱臼時には関節唇も一緒に損傷しやすいからです。
先天的な要因としては、臼蓋形成不全・大腿臼蓋インピンジメント症候群などがあります。これらは先天的な形態異常により関節唇に負荷がかかりやすくなってしまう為です。
股関節唇損傷の症状
股関節の関節唇損傷の症状は、代表的なもので3つあります。
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股関節を深く曲げる時に、関節唇が挟み込まれるため痛みが出現します。また、関節唇損傷による股関節の安定性低下は、長時間の立位や歩行での衝撃吸収機能を減少させるため痛みの症状が現れやすいです。さらに、股関節のスムーズな動きが阻害されるため、股関節のつまり感・ロッキングの症状が出現し、動作時に股関節がぐらつく・抜けるような感じがして股関節が動かせなくなります。
股関節唇損傷の診断
股関節唇損傷は、X線、CT、MRIを用いて診断されます。以下に3つの検査方法とその特徴を紹介します。
検査方法 | 特徴 |
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X線検査 | 寛骨臼や大腿骨の変形を評価できます。また、骨折がないかも確認可能です。 |
CT検査 | 3次元の骨画像を抽出でき、寛骨臼や大腿骨頭の変形などを詳細に調べられます。 |
MRI検査 | 股関節唇の損傷の有無を評価できます。しかし、通常のMRIでは詳細な評価は難しく、特殊なMRI検査が行われます。 |
関節唇損傷には、骨折が併発している可能性がある場合はX線・CT検査を実施し、MRI検査で関節唇損傷の有無を検査します。
股関節唇損傷の治療
股関節唇損傷の治療は、保存療法と手術療法の選択肢があります。どちらを適用するかは、症状の重症度によって異なりますが、一般的には保存療法が選択されることが多数です。保存療法では、安静・薬物療法・リハビリテーションが実施され、手術療法では、股関節鏡視下手術、大腿骨と下前腸骨棘の骨棘切除が行われます。それぞれ下記で詳しく解説します。
保存療法
保存療法では、安静や消炎鎮痛剤の投与、局所麻酔やステロイド注射により、痛みや炎症をコントロールします。その後、リハビリテーションで股関節や体幹の強化により、動作時の股関節の安定性向上や股関節唇への負担を減らします。もし、保存療法で疼痛の軽減が見られない場合は、症状が進行している可能性があるため手術療法を検討します
対象となる人は、疼痛が自制内で、引っかかりの症状がない方が多数です。一方、選手生命にかかわるスポーツ選手や痛みが強く日常生活に大きな支障がある方では手術療法も検討されます。
手術療法
手術療法は、痛みがかなり強い場合やスポーツ選手など選手生命に関わる場合に検討されます。主に、股関節鏡視下手術と骨棘の切除の2つの方法が用いられます。以下で詳しく解説します。
股関節鏡視下手術
股関節鏡視下手術では、臀部から大腿の側面に穴を空け、内視鏡で観察しながら手術します。関節包を切開し、内視鏡で関節唇、軟骨、大腿骨頭の状態を観察します。関節唇が十分残っている場合は、関節唇修復術を行います。一方、関節唇が欠損している場合や縫合不能な断裂では関節唇再建術を行います。以下に手術方法とその特徴を表で紹介します。
特徴 | |
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関節唇修復術 | 損傷している関節唇を寛骨臼から一旦はがし、正しい形にして固定します。 |
関節唇再建術 | 関節唇の除去後、大腿から腸脛靭帯を採取し、関節唇の代わりに固定します。 |
大腿骨と下前腸骨棘の骨棘切除
先天的な形態異常により、大腿骨頭の変形や下前腸骨棘の骨棘がみられる場合は骨を切除します。これらの変形は、股関節運動時に関節唇へストレスを与えやすく、変形性股関節症など他の股関節疾患にもつながりやすいです。変形は小さいことが多く、CT検査では見逃されることもあるため特殊な方法が用いられます。
手術療法と保存療法のメリット・デメリット
手術療法・保存療法の両者にメリットやデメリットが存在します 手術療法は、関節唇損傷の程度が大きい場合、保存療法で症状が改善されなかった場合に実施されます。一方、保存療法は損傷程度が小さい場合に適用されます。これらはどちらにもメリット・デメリットがあるため、下記の表で解説します。
メリット | デメリット | |
手術療法 | 関節唇の修復・再建が可能 短期間での復帰が可能 |
約数十万円と高額な費用がかかる 身体への侵襲がある |
保存療法 | 身体への侵襲がない 通院での治療が可能 |
復帰まで時間がかかる 関節唇自体が修復するわけではないため、再発の可能性がある |
保存療法は、普通に生活するには問題ないことが多いです。一方で、スポーツ選手など、今後も激しく股関節を使う方では手術療法で修復するのが望ましいです。
治療後の日常生活での注意点
治療後の日常生活で注意する点は以下の4つがあります。
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これらは「股関節を深く曲げてしまう」「股関節に過剰な負荷がかかる」ため避けたい動作です。深く曲げると関節唇が股関節に挟み込まれて損傷する危険性があります。また、立ち上がる際には股関節に負荷がかかるため手すりを用いて負担を軽減することが望ましいです。
日常生活に復帰するまでの期間
日常生活への復帰は、個人差がありますが保存療法では約3カ月、手術療法では約2〜3週間程度になります。保存療法では、痛みを引き起こさない動作や日常生活の仕方を覚えるのが大切です。日常生活に復帰してから痛みを再発したという声もあり、適切な動作の獲得が求められます。
一方、手術療法では、手術・入院は3日ほどで、その後のリハビリテーションが2〜3週間必要です。手術後に関節の癒着や可動域制限を引き起こさないように、術後早期からリハビリテーションを実施するのが大切です。
競技復帰までの期間
競技復帰までの期間は、競技レベル・怪我の重症度、実施した治療方法などで異なりますが、約3〜6ヶ月程かかります。特に、日常生活とは異なり、スポーツでは負荷のかかる動作・瞬発的な動作が必要になるため、より股関節の安定化・柔軟性に着目した運動療法や競技特異的なリハビリテーションが必要です。
股関節唇損傷のリハビリテーション
関節唇損傷では股関節の安定性や衝撃吸収能力が低下します。そのため、股関節の安定性を高める筋トレや股関節の柔軟性を高めるストレッチが大切です。以下で詳しく解説します。
股関節の安定性を高める筋トレ
股関節の安定性では、臀部にある複数の筋肉が協調的に働くことが大切です。例えば、股関節の安定性に関与する筋肉は、上記画像の外旋六筋、中殿筋、小殿筋などがあります。筋力だけ高めても動作のなかで応用できなければ、再び関節唇損傷を発症してしまいます。以下に、具体的な筋トレを紹介します。
外旋筋群の筋トレ
外旋筋群はお尻の深いところにある筋肉で、大腿骨頭を安定させる役割があり、股関節のスムーズな運動で重要です。外旋筋は複数の筋肉があり、協調的に働くことで動作時でも大腿骨頭を安定させます。具体的なトレーニングのやり方を以下に記載します。
<やり方>
- 横を向いて床に寝転ぶ
- 股関節を45°、膝関節を90°程度曲げる
- 両足の踵を付けたまま上側の膝を開く
膝を開くときに骨盤が背中側に倒れないように意識しましょう。
中殿筋・小殿筋の筋トレ
中殿筋はお尻の側面についている筋肉で、片足立ちなどで特に働く筋肉です。中殿筋を鍛えることでスポーツでの方向転換動作や片脚立位での動作の安定性を高められます。一方、小殿筋も股関節の安定性を高めるのに大切で、片脚立位で良く働きます。具体的なトレーニングのやり方を以下に記載します。
<やり方>
- 横になって寝転ぶ
- 下側の脚を少し曲げて身体を安定させる
- 上側の脚を上後方へ上げる
上側の膝は伸ばした状態で行い、上後方へ動かすことでより中殿筋・小殿筋を鍛えられます。
股関節の柔軟性を高めるストレッチ
股関節の柔軟性は、スポーツなどで衝撃を吸収するために大切です。柔軟性が低下していると、股関節や膝などに過剰な負荷がかかりやすくなります。特に、殿筋・ハムストリングスのストレッチが大切です。
殿部のストレッチ
殿筋には、大殿筋・中殿筋・外旋筋群などがありますが、それぞれジャンプの着地や方向転換動作で重要な筋肉です。ストレッチにより柔軟性を高めることで、股関節の動きがスムーズになり、傷害予防やパフォーマンスの向上に繋がります。具体的なストレッチのやり方を以下に記載します。
<やり方>
- 椅子に姿勢よく座る
- 片脚の足首を反対の太ももに乗せる
- そのまま身体を前に倒す
ハムストリングスのストレッチ
ハムストリングスは、半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋の3つの筋肉で構成されます。ダッシュや方向転換などスポーツの多くの場面で使う筋肉です。また、陸上やサッカーなどのスポーツで肉離れしやすい部位でもあるため、ハムストリングスのストレッチは怪我の予防に欠かせません。具体的なストレッチのやり方を以下に紹介します。
<やり方>
- 仰向けで寝転ぶ
- 片脚の股関節を90度に曲げる
- もも裏を両手で抱えて膝を伸ばす
膝を伸ばすときに股関節を90度に保ったまま行うとハムストリングスが伸張されやすく効果的です。
股関節唇損傷を予防するには
予防のためには「股関節の柔軟性向上」「股関節の安定性強化」が必要です。股関節への負担を減らすために日常動作を改善したり、股関節周囲筋を鍛えることで安定性を強化します。また、スポーツではあらゆる方向から様々な力が瞬間的に加わります。そのため、競技特異的なトレーニングにより股関節周囲筋を動作の中で活用する訓練を実施しましょう。
適切なリハビリテーションにより競技復帰を目指しましょう
股関節唇損傷により、股関節の安定性低下・衝撃吸収能力の低下などスポーツに支障が出ます。関節唇自体は自然治癒することはないため、手術により修復するか保存療法で痛みと炎症を抑える方法を実施します。そのため、臀部の筋肉を強化したりハムストリングスの柔軟性を高めるなど、筋肉で股関節の安定性を補う必要があります。
また、スポーツに復帰する際には競技特異的な動作練習が欠かせません。復帰を急ぐと再発の可能性もあるため、焦らずじっくりリハビリテーションを行いましょう。