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片麻痺の亜脱臼における禁忌とは?避けるべき行為やNGの体勢を医師が解説

片麻痺 亜脱臼 禁忌
公開日: 2025.06.29

「片麻痺の影響で肩が外れかけていると言われたけど、普段どんな動きを避ければいいの?」
「介護のときに腕を引っ張ってしまっていないか心配…」

このように不安を抱える方は多いでしょう。

片麻痺のある方は、肩の筋肉の働きが弱まることで、肩関節の亜脱臼が起きやすくなります。そのため、腕を無理に引っ張る・ぶら下げる・肩より高く上げすぎるといった行為は避けるべきです。

これらの禁忌を知らずにいると、痛みが悪化したり、肩の可動域がさらに制限されたりする可能性があります。だからこそ、本人・介護者ともに正しい知識を身につけておきましょう。

本記事では、片麻痺による亜脱臼の原因や避けるべき禁忌行為を解説します。リハビリ方法も紹介しているので、片麻痺の亜脱臼に悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。

片麻痺と亜脱臼の関係性

肩関節の亜脱臼は、ラグビーやバスケなどの接触が多いスポーツでみられやすいケガです。

しかし、スポーツによるケガだけでなく、脳卒中後の後遺症である片麻痺に伴って生じることがあります。とくに、脳卒中を発症して間もない弛緩性麻痺の時期に起こりやすいとされています。

弛緩性麻痺とは、体を動かそうとしても筋肉がうまく働かず、常に脱力して腕がだらりと垂れ下がってしまう状態です。

肩周りの筋肉が緩むと腕の重さを支えきれなくなり、重力によって腕全体が下方向へ引っ張られます。この持続的な力が肩の関節を正常な位置からずらしてしまい、亜脱臼を引き起こすのです。

また、感覚障害や半側空間無視(脳損傷により片側の空間を認識できなくなる症状)があると、麻痺側の肩が体の下敷きになっていても気づかず、亜脱臼につながる場合もあります。ある研究では、片麻痺の患者様の約35%に肩関節亜脱臼が見られたとの報告もあります。(文献1

亜脱臼があるからといって必ずしも痛みが出るわけではありません。実際に、亜脱臼のある方の約50%は痛みを訴えないとの報告もあります。(文献2

その他の脳卒中における後遺症についてはこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

【禁忌】片麻痺の亜脱臼でやってはいけない3つの行為

片麻痺によって亜脱臼が起きている場合、やってはいけない行為は以下の3つです。

  • 腕を高く上げすぎる
  • 腕をぶら下げる
  • 腕を無理に引っ張る

これらの行為に共通しているのは、肩関節や肩周囲の筋肉に負荷がかかる動きである点です。症状を悪化させないために日常生活でこの3つの行為を避けるよう意識しましょう。

腕を高く上げすぎる

麻痺側の腕を肩より高い位置まで無理に上げすぎる行為は避けるべきです。麻痺の影響で肩周りの筋肉が緩み、関節が不安定な状態になっているためです。

この状態で腕を高く上げると、肩関節が前方に引っ張られ、亜脱臼や脱臼を引き起こす危険性が高まります。

しかし、弛緩性麻痺で肩の亜脱臼を起こしている方は、自力で高く腕を上げられません。そのため、腕を高く上げすぎる動作は、介助者が着替えや洗体などを介助する際に注意が必要です。

腕を動かすときは、痛みや違和感のない範囲にとどめましょう。

腕をぶら下げる

麻痺側の腕をだらりとぶら下げたままにしておくことも、亜脱臼を悪化させる原因です。

とくに弛緩性麻痺の場合、腕の重さを支える筋肉が十分に働かず、立ったり座ったりしている間、常に腕の重みで肩関節が下へ引っ張られます。この状態が長く続くと、肩周りの筋肉や靭帯が伸びてしまい、関節のずれが大きくなる可能性があります。

たとえば、以下のような場合は腕が落ちてしまったり、ぶら下がったりしないようにしましょう。

  • 車いすに座っているとき
  • ベッドで横になっているとき

クッションやテーブルの上に腕を置くなど、常に腕を安定した位置に保つ工夫が必要です。

腕を無理に引っ張る

本人だけでなく、家族や介護者の方が麻痺側の腕を無理に引っ張る行為も避けるべきです。

ベッドからの起き上がりや移乗介助の際に、腕をつかんで引っ張ってしまうと、肩関節周囲の組織が伸び、亜脱臼を悪化させる恐れがあります。

介助の際は、肘と手首のあたりを優しく支え、腕全体を肩関節の方へそっと押し込むように意識しながら動かしてください。

また、感覚障害で腕の位置がわかりにくくなっている場合も少なくありません。お腹の上やテーブルの上など、本人の視界に入る場所に腕を置いてあげることで、安心感にもつながります。

片麻痺の亜脱臼に対する4種類のリハビリ

片麻痺に伴う肩関節の亜脱臼に対しては、以下の4種類のリハビリがおこなわれます。

    • ポジショニング
    • 装具療法
    • 電気治療
    • 運動療法

これらの方法を患者様の状態に合わせて組み合わせ、専門家の指導のもとで進めていくのが一般的です。

ポジショニング|腕を正しい位置に置く

ポジショニングは、麻痺側の腕を常に正しい位置に保ち、肩関節に負担をかける禁忌姿勢を避けて関節を保護する基本的なアプローチです。

姿勢ごとのポジショニングのポイントを以下の表にまとめました。

姿勢 ポイント
椅子や車椅子に座っているとき 机やクッションに腕をのせて、だらりと垂れ下がらないようにする
仰向けで寝ているとき 体の横に対して、腕が中央に来るように枕やクッションで高さを調整する
横向きで寝ているとき 抱き枕やタオルなどを使い、腕が体の下敷きになったり、前に落ちたりするのを防ぐ

適切なポジショニングは肩への持続的な負荷を減らすため、亜脱臼の悪化以外に痛みの緩和やむくみの軽減にもつながります。

装具療法|アームスリング固定による疼痛の軽減

装具療法は、三角巾やアームスリングといった装具を用いて、肩関節を安定した位置に固定する方法です。麻痺側の腕が垂れ下がることで生じる亜脱臼の悪化や、それに伴う痛みの増強を防ぐ目的でおこなわれます。

脳卒中治療ガイドライン2021では、スリングは有用な場合もあるものの、その効果は装着している間に限られるとされています。(文献3)長期間の固定は肩や肘を動かす機会を奪うため、関節が硬くなる「拘縮」を招く原因になりかねません。

安易に装具を使用するとリハビリの妨げになる可能性もあるため、自己判断での装着は避けましょう。

理学療法士や作業療法士など専門家の評価のもと、必要な時間や場面を見極めて適切に使用する必要があります。

電気治療|電気刺激による筋の強化

電気治療は、麻痺で動きにくい肩周りの筋肉に電気で刺激を送り、筋肉の収縮を促して再教育を図る治療法です。筋肉の収縮は、肩関節を本来の位置に引き上げる助けとなります。

電気治療では、主に神経筋電気刺激が用いられ、脳卒中治療ガイドライン2021でも、肩関節亜脱臼への神経筋電気刺激は妥当とされています。(文献3

電気治療はリハビリの一環として、他の運動療法と組み合わせて実施されるのが一般的です。

ただし、片麻痺の亜脱臼に対する神経筋電気刺激は、脳卒中の発症から間もない急性期・亜急性期での有用性は示されたものの、発症後6カ月以降の慢性期では明確な差はなかったとの報告もあります。(文献4

運動療法|肩関節周囲の筋力強化

運動療法は、肩関節を支える筋力を強化し、関節の安定性を取り戻すための治療法です。

自動運動(自分で動かす運動)や他動運動(他の人に動かしてもらう運動)を通じて、筋力低下を防ぎ、関節が硬くなる拘縮を予防します。

肩関節を支える筋肉の中でインナーマッスルの1つである回旋筋腱板は、上腕骨を肩甲骨に引き付けて安定させる役割を担います。回旋筋腱板をバランスよく鍛えることは、肩の安定性を高めるために欠かせません。

ただし、無理な運動はかえって肩を痛める原因になりかねません。必ずリハビリの専門家の指導のもと、痛みや違和感のない範囲でおこないましょう。

片麻痺の亜脱臼における禁忌事項を把握して悪化を防ごう

片麻痺の亜脱臼に対して、やってはいけない禁忌事項を理解せずにいると、意図せず亜脱臼を悪化させてしまう危険性があります。とくに感覚障害や半側空間無視がある場合は、本人が異変に気づきにくいため家族や介護者の方の正しい知識と協力が欠かせません。

肩関節を本来あるべき位置に保つためにも、専門家の指導のもとでリハビリに取り組み、日頃から腕の位置に気を配って正しい姿勢を心がけましょう。

運動麻痺のような脳卒中の後遺症に対する治療法として再生医療も選択肢の1つです。

再生医療を提供する当院では、メール相談オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。

片麻痺と亜脱臼に関するよくある質問

片麻痺の亜脱臼は改善しますか

適切なリハビリテーションの継続は、片麻痺の亜脱臼の改善が期待できる方法の1つです。

たとえば、神経筋電気刺激を受けた患者様は、受けなかった場合よりも亜脱臼の程度が小さくなったとの研究報告が存在します。(文献5)また、麻痺からの回復段階が進むにつれて、亜脱臼の改善が見られたとの報告もあります。(文献6

専門家と相談しながら、自分の状態に合ったリハビリに取り組んでいきましょう。

亜脱臼を放置するとどうなりますか

片麻痺に伴う亜脱臼を放置すると、さまざまな問題につながる恐れがあります。

まず、時間の経過とともに関節が固まり、元の位置に戻すのが難しくなると考えられます。また、肩周囲の筋肉に負担がかかり続け、肩を支える重要な腱板の断裂を引き起こす可能性も低くありません。

ある研究では、50歳以上の反復性肩関節脱臼の症例の多くで腱板断裂が合併していたとの報告もあるため、亜脱臼は放置せずに適切な治療を受けましょう。(文献7

【関連記事】
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参考文献

(文献1)
猪飼哲夫,米本恭三ほか 「脳卒中片麻痺患者の肩関節亜脱臼の検討-経時的変化について-」 リハビリテーション医学 29 (7) , pp.569-575 , 1992年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1964/29/7/29_7_569/_pdf
(最終アクセス2025年6月10日)

(文献2)
Leonid Kalichman,Motti Ratmansky 「Underlying pathology and associated factors of hemiplegic shoulder pain」 American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation 90 (9) , pp.768-780 , 2011
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21430513/
(最終アクセス2025年6月10日)

(文献3)
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会「脳卒中ガイドライン2021[改訂2023]」, 2023年
https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf
(最終アクセス2025年6月16日)

(文献4)
Jae-Hyoung Lee,Lucinda L Bakerほか 「Effectiveness of neuromuscular electrical stimulation for management of shoulder subluxation post-stroke: a systematic review with meta-analysis」 Clinical Rehabilitation 31 (11) , pp.1431-1444 , 2017
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28343442/
(最終アクセス2025年6月10日)

(文献5)
Sandra L. Linn,Malcolm H. Granatほか 「Prevention of Shoulder Subluxation After Stroke With Electrical Stimulation」 Stroke 30 (5) , pp.963-968 , 1999
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/01.str.30.5.963
(最終アクセス2025年6月10日)

(文献6)
武富由雄 「脳卒中片麻痺における肩関節の亜脱臼と運動 機能回復段階に関する一考察」 肩関節 16 (2) , pp.218-220 , 1992年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/katakansetsu1977/16/2/16_218/_pdf
(最終アクセス2025年6月10日)

(文献7)
伊崎輝昌,柴田陽三ほか 「腱板断裂を伴う反復性肩関節脱臼に対する治療成績-鏡視下Bankart修復術と鏡視下腱板修復術の併用法-」整形外科と災害外科 58 (2) , pp.188-191 , 2009年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/58/2/58_2_188/_pdf
(最終アクセス2025年6月10日)

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