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【医師監修】脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの違いを解説

「筋肉がやせてきた」「歩き方が変わってきた」
そんな変化をきっかけに「脊髄性筋萎縮症(SMA)」や「筋ジストロフィー」という病名を初めて目にした人も多いのではないでしょうか。
両者は似たような病名ですが、原因も治療法も異なります。
この記事では、脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーの違いや、見分け方のポイントを解説します。
不安な気持ちが少しでも和らぎ「今できること」が見つかるきっかけとなれば幸いです。
目次
脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの原因の違い
脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、どちらも遺伝子の異常によって筋力が低下していく病気ですが「どこに異常があるか」が大きく異なります。
両者の違いは、以下のとおりです。
病名 |
異常が起こる場所 |
---|---|
脊髄性筋萎縮症(SMA) |
筋肉を動かすための神経 |
筋ジストロフィー |
筋肉細胞そのもの |
本章をもとに、両者の原因の違いを理解しておきましょう。
脊髄性筋萎縮症は神経の障害によって起こる
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、遺伝子の異常により筋肉を動かす指令を出す神経に障害が起こり、発症します。
具体的には、脊髄にある「運動神経細胞(脊髄前角細胞)」がうまく働かなくなり、筋肉が使われにくくなってやせていく病気です。
使われない筋肉は少しずつ力を失い、筋力の低下や筋肉の萎縮(やせ細り)を引き起こします。(文献1)
筋ジストロフィーは筋肉そのものが壊れやすくなる
筋ジストロフィーは、遺伝子の異常によって筋肉の細胞が壊れやすくなり、再生が上手くいかなくなる病気です。
その結果、筋肉の変性や壊死が進み、やせて力を失っていきます。
進行すると、筋力の低下や運動機能の障害だけでなく、呼吸や心臓、消化などの内臓機能に影響が及ぶこともあります。(文献2)
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脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの症状の違い
脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、出やすい症状にも違いがあります。
脊髄性筋萎縮症は体幹や手足の筋力低下から始まる
脊髄性筋萎縮症(SMA)はおもに体幹や四肢の筋力低下から始まり、発症時期や進行の速さ、症状の程度はタイプによって異なります。
代表的なタイプは、以下の4種類です。(文献1)
型 |
発症時期 |
主な特徴 |
---|---|---|
I型 |
生後6か月まで |
体幹を自力で動かせず、 支えなしに座るのがむずかしい |
II型 |
生後7か月~1歳半 |
座れるが立てない、歩けない |
III型 |
幼児期、小児期 |
歩行できるが筋力低下が進む |
IV型 |
成人以降 |
ゆっくりと筋力が落ちる |
これらすべてのタイプで共通する症状は、以下の通りです。
- 筋力低下
- 筋萎縮(やせ細り)
- 深部腱反射の減弱や消失
深部腱反射とは、膝の下をゴムハンマーで叩いたときに足がポンと前に出るような、体に備わった自然な反応のことです。
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、このような通常みられる反応が出にくくなる症状がみられます。(文献1)
筋ジストロフィーは転びやすさや歩行困難から気づかれる
筋ジストロフィーは、筋肉のはたらきが弱くなり、日常動作に支障が出る病気です。
筋力の低下や歩きにくさ、姿勢の変化などが徐々に現れ、生活の中で気づかれます。(文献2)(文献3)
タイプによって進行の速さや現れ方は異なりますが、以下のような症状が見られることがあります。
- 転びやすくなる
- 疲れやすくなる
- 関節がかたくなる
- 腕を上げづらくなる
- 心臓の機能に問題が出る
- 階段の上り下りが難しくなる
- 背中や腰が曲がりやすくなる
- 歩いたり走ったりするのが遅くなる
- 食べ物の飲み込み(嚥下)に問題が出る
また、病型によっては、知的障害や発達の遅れ、目・耳の症状など、筋力以外の不調が先に現れることもあります。
代表的な病型は、以下の通りです。
- ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型/ベッカー型)
- 肢帯型筋ジストロフィー
- 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
- エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー
- 眼咽頭筋型筋ジストロフィー
- 福山型先天性筋ジストロフィー
- 筋強直性ジストロフィー
それぞれ症状や発症年齢、遺伝のされ方などが異なります。(文献2)
脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの診断方法の違い
脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーの症状で気になることがあれば、医療機関での検査が必要です。
それぞれの病気に応じた診断方法があります。
脊髄性筋萎縮症の診断方法
脊髄性筋萎縮症(SMA)の診断では、まず症状や筋力の状態などを医師が確認します。
今出ている症状が、他の病気ではないことを確認するためです。
その上で、SMN1という遺伝子に異常があるかどうかを調べる遺伝子検査が行われます。
また、必要に応じて、筋電図検査や血液検査も実施されます。(文献1)
筋ジストロフィーの診断方法
筋ジストロフィーの診断では、進行する筋力の低下や、病気特有の症状・合併症の有無の確認が必要です。
家族の中に同じような病気の人がいないかも確認します。
検査としては、血液検査や筋電図検査、確定診断のために遺伝子検査をします。(文献2)
筋ジストロフィーは、症状の進行具合や治療法などが病型ごとに変わってくるため、早い段階で正確にタイプを見きわめることが重要です。
脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの治療法
どちらの病気も根本的な治療はまだ確立されていません。そのため、症状の進行を抑えるための治療が行われています。
おもな治療法の違いを、以下にまとめました。
脊髄性筋萎縮症(SMA) |
筋ジストロフィー |
|
---|---|---|
基本的な治療方針 |
進行を抑える薬の使用とリハビリ |
進行を緩やかにするケアとリハビリ |
薬による進行抑制 |
可能なケースが増えている |
一部の型のみに限られる |
それぞれの病気の治療法について、順番に見ていきましょう。
脊髄性筋萎縮症の基本的な治療法
脊髄性筋萎縮症(SMA)では、進行を抑える薬の使用や、生活の質を保つためのリハビリが中心となります。
とくにI型では人工呼吸器が必要になることもあり、呼吸の管理が重要です。
また、栄養面のサポートとして、経管栄養が行われるケースもあります。
いずれの場合でも、現在の機能を長く維持できるよう、医師やリハビリテーションスタッフなどさまざまな専門家との連携が大切です。
近年、脊髄性筋萎縮症に対して世界的に治療薬の研究や臨床試験が進められており、日本国内でも3種類の疾患修飾薬(病気の進行を遅らせたり抑えたりする効果が期待できる薬)が承認されています。
今後も治療の選択肢が広がっていくことが期待されます。(文献1)
筋ジストロフィーの基本的な治療法
筋ジストロフィーでは、呼吸機能や体の機能維持のためのリハビリテーションが基本です。
デュシェンヌ型においては、症状の進行をゆるやかにするステロイド治療が行われています。
また、病気のタイプによっては、心臓のペースメーカーや人工呼吸器を使うこともあります。
在宅での療養生活が長くなるケースも多く、定期的な検査や日々のリハビリが大切です。(文献2)
筋ジストロフィーについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
合わせてご覧ください。
再生医療という選択肢もある
近年では、失われた機能の回復を目指す「再生医療」にも注目が集まっています。
幹細胞を使って傷んだ筋肉や神経を修復する研究が進んでおり、今後の新しい治療法として期待されています。
リペアセルクリニックでは、脳梗塞や脊髄損傷などさまざまな疾患の再生医療を提供しています。
気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。
再生医療については、こちらの記事も合わせてご覧ください。
脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーの違いを理解して適切な治療を受けよう
脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、どちらも筋力が低下していく病気ですが、原因や症状、進み方、治療法に違いがあります。
それぞれに合った適切な治療や支援を受けるためには、まず正確な診断が欠かせません。
「筋肉がやせてきた」「最近ふらつく」「家族の病気が気になる」など、小さな変化でも気になることがあれば、ひとりで抱え込まず、できるだけ早く医療機関に相談しましょう。
診断がつくことで、進行を抑える治療や生活のサポートにつながる可能性があります。
当院リペアセルクリニックでは、電話相談やオンラインカウンセリングにも対応しています。
受診を迷っている段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。
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脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーに関するよくある質問
脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーは大人になってから発症することもありますか?
どちらの病気にも「成人型」があり、大人になってから発症するケースがあります。
脊髄性筋萎縮症(SMA)の場合は「IV型」が該当し、成人期以降にゆっくりと筋力の低下が進みます。
症状の進行は比較的緩やかで、日常生活に大きな支障が出にくいことも特徴です。(文献1)
筋ジストロフィーでは「筋強直性ジストロフィー」や「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)」などが成人期に発症しやすいタイプとして知られています。(文献4)(文献5)
これらは、歩行や筋力だけでなく、全身のさまざまな機能に影響を及ぼすこともあります。
大人の筋ジストロフィーについては、こちらの記事でも詳しく解説しているため、ぜひご覧ください。
子どもの場合、筋ジストロフィーの初期症状はどのようなものですか?
筋ジストロフィーの中でも、デュシェンヌ型や顔面肩甲上腕型など一部の病型では、子どものころから以下のような動きの変化がみられることがあります。(文献6)(文献7)
- 転びやすい
- 走るのが苦手
- ふくらはぎが異常に太く見える
- 床から立ち上がるとき、一度四つん這いになり、手で太ももを押して立ち上がる
- 目がしっかり閉じられない
- 腕を上げるのが難しい
日常の中で「あれ?」と思うような動きがあれば、早めに小児科や神経内科で相談してみましょう。
参考文献
筋ジストロフィー(指定難病113):病気の解説|難病情報センター
筋ジストロフィー(指定難病113):概要診断基準等|難病情報センター
筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)|難病情報センター
FSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー|神経筋疾患ポータルサイト