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糖尿病網膜症の視力はメガネで治る?症状や病態に合わせた活用法を現役医師が解説
「糖尿病網膜症の治療を受けているけれど、思っていたほど視力が回復しない」
「いつも視界がぼやけている上に、近くのものが見えにくい」
「メガネを使えば目が良くなるだろうか?」
糖尿病網膜症の方の中には、このような状況に直面している方も少なくありません。
結論からお伝えしますと、糖尿病網膜症の症状はメガネでの改善が困難なものです。
糖尿病網膜症は、目の中の網膜そのものが損傷した状態であり、カメラにたとえるとフィルム自体が傷んでいる状態であるためです。
メガネはあくまでも、日常生活の中で補助的に用いるものと考える方が良いでしょう。
本記事では、糖尿病網膜症で用いられるメガネの種類や症状に応じたメガネの選び方を解説します。メガネ購入補助を含めた公的支援制度についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
糖尿病網膜症で用いられるメガネの種類
糖尿病網膜症で用いられる主なメガネの種類は以下のとおりです。
- 遮光眼鏡
- 拡大鏡
- 単眼鏡
遮光眼鏡
遮光眼鏡(しゃこうめがね)とは、まぶしさを抑えられる、暗くなりにくいなどの特徴を有する医療用のフィルターレンズです。
糖尿病網膜症では、明暗を見分ける力(コントラスト感度)の低下や、まぶしさを訴える症例が多いため遮光眼鏡が有効とされています。
遮光眼鏡はまぶしさの原因になる部分だけを取り除き、それ以外の光は通すため、輪郭がすっきりして快適に感じるケースが多く存在します。
拡大鏡
拡大鏡は、手元が見えにくいときや細かい作業をするとき、文字を読んだり書いたりするときに便利なツールです。拡大倍率は2倍から12.5倍と幅広く、中にはLEDライトで見たいものを照らせるタイプもあります。(文献1)
拡大鏡の種類には、ルーペと呼ばれる手持ち型や、弱視眼鏡とも呼ばれる眼鏡式などがあります。
単眼鏡
単眼鏡(たんがんきょう)は望遠鏡の一種で、バス停の行き先や駅のホーム表示、各種掲示板、店舗の価格表示などを見たいときに便利な補助具です。拡大倍率や使いやすさ、持ちやすさなどを考慮して選びましょう。
単眼鏡は片手で操作するため、眼科や障害者リハビリテーションセンターなどで練習してから使用する場合もあります。
糖尿病網膜症でメガネを活用するためのポイント
糖尿病網膜症の方がメガネを活用するためのポイントは、主に以下の2点です。
- 症状別のポイント
- 病態別のポイント
症状別のポイント
症状別のポイントとしてあげられるものは、主に以下の3点です。
- ぼやけやかすみが強い場合
- 強いまぶしさを感じる場合
- 近くのものが見えにくい場合
ぼやけやかすみが強い場合
糖尿病網膜症では網膜の血管障害のため、ものを見るときにぼやけたりかすんだりします。この場合、適切な度数で矯正するメガネや、コントラストを補うレンズの活用により見え方が改善するケースも少なくありません。
ただし、物を見る中心部である黄斑部にむくみがある場合は、メガネだけで改善しないケースも多いとされます。
強いまぶしさを感じる場合
糖尿病網膜症が進行すると、網膜の損傷や黄斑部のむくみにより、光が過剰にまぶしく感じる場合があります。屋外での強い日差しだけではなく、室内の蛍光灯や車のライトでもまぶしさを感じる場合も少なくありません。
このような場合は遮光眼鏡が有効です。遮光眼鏡は光の波長を選択的にカットするため、まぶしさが軽減されて、見やすくなります。
遮光眼鏡のレンズカラーは複数存在します。眼科を受診した上で、ご自身の症状に合ったカラーを選択しましょう。
近くのものが見えにくい場合
糖尿病網膜症では、黄斑部のむくみや眼内の出血の影響で視力が低下し、近くのものが見えづらくなります。具体的には、細かい文字が読みづらい、手元の作業がしにくい、焦点が合いにくいなどです。
近くのものが見えにくい場合は、拡大鏡や弱視眼鏡などの補助具を併用する場合が多くなります。適切な補助具は症状により異なるため、眼科での診察を受けた上で選びましょう。
病態別のポイント
糖尿病網膜症の病態は大きく3つにわかれます。
- 単純網膜症
- 前増殖網膜症
- 増殖網膜症
いずれの病態においても発症する可能性がある症状が、黄斑浮腫です。
単純網膜症の場合
単純網膜症とは、高血糖が原因で網膜に張り巡らされた毛細血管が障害されて、斑状出血や硬性白斑といった症状が生じている状況です。硬性白斑とは、血液中のタンパク質や脂質が網膜に沈着した状態を指します。黄斑部と呼ばれる物を見る中心部に網膜症が及ばない状態であれば、自覚症状はありません。(文献2)
近視や遠視、乱視といった屈折異常だけの場合であればメガネによる矯正が期待できますが、網膜の血管損傷による視力障害の場合、回復は難しいと言えます。
前増殖網膜症の場合
前増殖網膜症とは、単純網膜症よりも網膜症が進行した段階です。毛細血管が詰まって、網膜の神経細胞に酸素や栄養がいかなくなり、軟性白斑と呼ばれる神経のむくみや静脈の拡張などが生じます。また、網膜の神経細胞に酸素を補うため、新生血管と呼ばれる血管を作る準備が始まりつつある状態です。(文献2)
自覚症状がないケースが多いのですが、黄斑部がむくんでくると見えづらさが生じます。単純網膜症同様、メガネによる矯正が期待できるのは近視や遠視、乱視といった屈折異常に限られます。
増殖網膜症の場合
増殖網膜症とは、網膜症がさらに進行し、新生血管が多く発生する段階です。新生血管はもろく出血しやすいため、眼の中に大きな出血を引き起こします。これは硝子体出血と呼ばれるものです。加えて、繊維状の組織である増殖網が網膜全体を覆い、網膜を引っ張ります。この結果生じる症状が、網膜剥離です。(文献2)
硝子体出血や網膜剥離により、視力低下をはじめとする自覚症状が出現します。この段階では、メガネでの対応が困難であることが多いとされます。
黄斑浮腫がある場合
黄斑浮腫とは、物を見る中心部である黄斑部の毛細血管が障害されて血液中の水分が漏れ出し、むくみが生じている状態です。単純網膜症から増殖網膜症に至るまで、どの病態でも発症する可能性があります。(文献2)
黄斑浮腫は局所性とびまん性に分けられ、びまん性黄斑浮腫では黄斑部の毛細血管が高度に障害されます。
黄斑浮腫がある場合は、メガネを活用しても十分な視力を得られないケースが多い状況です。
糖尿病網膜症におけるメガネを選ぶ前に必要な検査
この章では、糖尿病網膜症のためメガネを選択する前に必要な検査を3種類紹介します。
- 視力およびコントラスト検査
- 視野検査
- 黄斑浮腫に関する検査
視力およびコントラスト検査
糖尿病網膜症では、視力やコントラスト感度(明暗を見分ける力)の低下が起こりやすいため、メガネを選ぶ前にこれらの検査を受けることが重要です。
視力検査では、「どの程度の矯正が必要か」「近くで見るときにどこまで見えるか」「遠くで見る場合にどこまで見えるか」などを確認します。コントラスト検査とは、文字や物体の輪郭がどれだけ認識できるかを調べる検査であり、まぶしさやかすみといった自覚症状がある場合に必要です。
視野検査
視野検査とは、まっすぐ前を見ているときに、上下・左右・前方において、どのくらいの範囲まで見えているかを調べる検査です。動的視野検査と静的視野検査の2種類があり、いずれも片目ずつ行います。
糖尿病網膜症では、出血や浮腫により視野の一部が欠けたり、見える範囲が狭くなったりする場合があります。メガネ選びの前に視野検査が必要な理由は、見えにくい部分を確認するためです。
黄斑浮腫に関する検査
黄斑浮腫に関する検査は、主に以下のとおりです。
- 医師による問診
- 視力検査
- 眼底検査
- 光干渉断層計(OCT)検査
眼底検査では、黄斑とその周辺部(眼底)を眼底鏡や顕微鏡で観察し、カメラで撮影します。OCT検査では、網膜の断面を撮影して黄斑部分の状態を確認します。黄斑周辺に膨らみがあるときは、糖尿病黄斑浮腫の疑いが強い状況です。
糖尿病網膜症に関する公的支援制度
糖尿病網膜症に関する公的支援制度としてあげられるものは、主に以下の3種類です。
- 身体障害者手帳
- 障害年金
- 補装具支給
身体障害者手帳
糖尿病網膜症によって視力や視野に障害が生じている場合、視覚障害があるとして身体障害者手帳が交付されます。視覚障害における手帳の等級は、1級から6級までです。(文献3)
身体障害者手帳が交付されると、医療費の助成や各種福祉サービスなどが利用可能になります。
相談先は、かかりつけ医や市区町村の障害福祉担当窓口、福祉事務所などです。
障害年金
病気やけがによって生活や仕事に支障をきたした場合に受けられる年金で、現役世代の方も対象です。障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があります。(文献4)
障害基礎年金は、以下のいずれかに該当する状況において、法令により定められた障害等級表(1級・2級)に該当する方に支給されるものです。
- 国民年金加入中
- 20歳になる前(年金未加入の期間)
- 60歳以上65歳未満(年金未加入の期間で日本に住んでいる間)
厚生年金加入中に、障害基礎年金の1級または2級に該当する障害を負ったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。
補装具支給
補装具とは、障害を持つ方が日常生活において必要動作を確保するために、損なわれている機能を補完または代替する道具です。視覚障害者のための補装具としては、メガネや盲人安全つえ、義眼などがあります。
補装具支給とは補装具の購入や修理費用のうち、所得に応じた自己負担額から差し引いた分を支給する制度です。
糖尿病網膜症の方はメガネを補助的に活用した上で適切な治療を受けよう
本記事では糖尿病網膜症の方に向けて、メガネ使用に関する内容を解説してきました。
しかし、メガネはあくまでも見えづらさやまぶしさなどを軽減するためのものであり、根本治療にはつながりません。
糖尿病網膜症においては、血糖コントロールを中心にレーザー光凝固術や抗VEGF治療、硝子体手術などの治療が必要です。加えて、網膜症の原因となっている糖尿病の治療も大切です。
糖尿病治療の主な内容は内服治療やインスリン注射などですが、再生医療も選択肢の1つとして考えられます。
リペアセルクリニックでは、糖尿病に対する再生医療にも対応しています。糖尿病でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
糖尿病のお悩みに対する新しい治療法があります。
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糖尿病網膜症とメガネに関するよくある質問
糖尿病網膜症は治りますか?
糖尿病網膜症やそれに伴う視力低下を完全に治すことは難しい状況ですが、適切な治療を続けることで進行を遅らせることは可能です。
食事や内服、インスリン注射などによる血糖コントロールを続けつつ、定期的に眼科を受診して経過を観察していくことが求められます。
糖尿病網膜症の進行を遅らせるための自己管理や治療については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
糖尿病網膜症にサングラスは有効ですか?
サングラスもメガネ同様、糖尿病網膜症の症状改善効果は見込めないものです。
サングラスには、人の目に入る光を均一にカットする役割があります。そのため物を見るために必要な明るさまでカットしてしまい、かえって不便な場合も少なくありません。
サングラスとよく似たものが遮光眼鏡です。遮光眼鏡は、紫外線やまぶしさを感じる光を選択的にカットしているため、サングラスより負担が少ないとされています。
参考文献










