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肝硬変の症状や原因を徹底解説!沈黙の臓器の初期サインとは 肝硬変とは、肝臓に線維組織が増え、硬くなってしまった状態を指します。慢性的な炎症により肝細胞が傷つき修復を繰り返す過程で線維組織が増加することで起こります。 長期に持続的に肝臓にダメージを与える病態があると肝硬変に進行します。その原因はウイルスやアルコール、肥満やメタボリックシドロームなど多岐にわたります。 肝臓は「沈黙の臓器」であり、肝硬変初期までは自覚症状はほとんどありません。 しかし、肝硬変が進行すると、倦怠感・黄疸やむくみ様々な症状が認められます。正常な肝臓が行ってきたタンパク質の合成や不用物・有害物質の代謝・排出ができなくなるために起こるのです。 この記事では以下の内容をご紹介します。 ・肝硬変の原因 ・肝硬変の診断につながる検査 ・肝硬変の初期症状や進行症状 ・肝硬変の予防方法 肝硬変について詳しく知りたい方は、ぜひご参考にされてください。 ▼肝硬変の治療法については以下で詳しく解説しています。 肝硬変の主な原因 従来、肝硬変の最大の原因はウイルス性、特にC型肝炎ウイルスの感染によるものでした。現在でも肝硬変の最大の原因はC型肝炎です。しかし、その割合は徐々に低下してきています。 一方で脂肪性肝炎からの肝硬変は増加傾向です。肝臓に脂肪が貯まる「脂肪肝」が進行すると炎症細胞が集まり、炎症を起こします。これが脂肪性肝炎です。脂肪性肝炎には2つの原因があります。一つは長期・過量のアルコール摂取がかかわる「アルコール性肝炎」です。もう一つはアルコール以外が主な原因の「非アルコール性脂肪性肝」炎です。その他にも自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などがあります。 このように、肝硬変の原因はさまざまです。以下で詳しく解説していきます。 ウイルス性肝炎 B型慢性肝炎 B型肝炎ウイルスは出生時に母子感染を起こすことで、9割以上が持続感染となります。持続感染をした場合は一部の患者さんは慢性肝炎に移行し、そこから肝硬変や肝細胞がんが起こる可能性があります。 近年は治療によりウイルス量を減らし、肝炎を沈静化することができるようになっています。 また、B型肝炎ウイルスを持つ母親から出生した乳児にB型肝炎に対する抗体やワクチンを投与することで母子感染を防ぐ取り組みが行われています。これにより、B型肝炎の母子感染は減少しています。 なお、B型肝炎ウイルスは成人期に性交渉などで感染することもあります。この場合は急性肝炎を起こしますが、多くの方は持続感染に移行することなく治癒します。 C型慢性肝炎 C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。注射器を使い回したり、汚染された器具を使用して入れ墨を掘ったりピアスを開けたりすることなどが感染経路です。母子感染や性行為による感染もありますがB型肝炎ほど多くはありません。 C型肝炎ウイルスに感染すると、7割の方は慢性肝炎となります。慢性肝炎の自覚症状はほとんどありませんが、放置すると肝硬変へと進展していきます。 かつてC型肝炎治療はインターフェロンという注射によるものでした。しかし、インターフェロン治療は副作用が強く、また治療しても効果がない患者さんもいました。 しかし、その後様々な治療法が開発され、現在95%を超える患者さんがウイルスを体内から排除することができるようになったのです。 そのため、C型肝炎による肝硬変の患者さんは今後も減少していくでしょう。 脂肪性肝炎 アルコール性肝炎 一般的に、純アルコール量で60g以上を毎日飲み続けるとアルコール性肝障害をもたらすと言われています。 しかし、代謝には個人差があるので、人によってはこれより少ない量でもアルコール性の脂肪肝をきたすかもしれません。 特に女性やアルコールに弱い体質の方はこの3分の2程度の飲酒量でもアルコール性肝障害となりうると言われています。 純アルコール量(g)は、 摂取量(mL)×アルコール濃度(度数%÷100)×0.8(アルコールの比重) 上記の式で求めることができます。 たとえば、日本酒(アルコール度数15%)1合180mLの純アルコール量は180×15 ÷100×0.8=21.6gとなります。 つまり2〜3合の日本酒を毎日飲むと、アルコール性肝障害になる可能性が高くなるのです。 非アルコール性脂肪性肝炎 過剰な飲酒以外では、肥満・メタボリックシンドロームなども脂肪肝の原因です。最近ではこのようなアルコールと関連のない肝炎が注目されています。 アルコール多飲と関連しない脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディーあるいはナッフルド)と呼びます。 一部のNAFLDの患者さんは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)に分類されます。NASHでは脂肪が沈着するとともに肝臓に炎症が起こるのです。NASHは放置すると肝硬変に至り、肝がんを発症することがあります。 自己免疫疾患 他にも自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎などがあります。 ▼自己免疫性肝炎については以下で詳しく解説しているのでご参照ください。 肝硬変の診断に必要な3つの検査 肝硬変の診断には以下のような検査を行います。 ①肝生検 肝硬変の診断の王道は「肝生検」です。肝臓に細い針を刺して組織を採取し、線維化が進んでいるかを判断します。しかし、肝生検は出血などのリスクがあり、肝硬変が疑われる患者さん全員に行える検査ではありません。 多くの場合、肝硬変の診断は様々な血液検査や画像検査を組み合わせて行います。 ②血液検査 血液検査では、肝臓が合成するアルブミンや、肝臓から排出されるビリルビンなどが肝臓の機能を反映していると考えられています。 また、肝臓の硬さの指標として用いられるのがFib4-indexです。Fib4-indexはAST,ALT,血小板, 年齢から算出される数字です。 ③画像検査 腹部エコー検査やMRIなども参考になります。超音波装置を利用した肝硬度測定であるフィブロスキャンは痛みなく短時間で肝臓の硬さを測定することができる検査です。 これらの検査を総合的に判定し、肝硬変に進行しているかを判断します。それでも診断がはっきりしない場合は肝生検が考慮されるのです。 肝硬変が起こる前に出る初期サイン 肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。それは、肝硬変が起こる前や肝硬変になったばかりの頃はほとんど症状がないからです。そのため分かりやすく初期症状を感じることはほぼありません。 しかし、肝硬変が起こる前の初期サインとして、血液検査での肝障害の指摘をされることがあります。症状がない頃から、AST,ALTなどの肝障害を示す数値が上昇していることが多くあります。 体調に変化がなくても、検査の異常が高度であったり長期に持続したりする場合は、肝硬変の原因になるものがないか専門の肝臓内科で精査を受けましょう。 肝硬変が進むと出る症状 肝硬変がある程度進行して様々な自覚症状が出てしまった状態を「非代償性肝硬変」と言います。倦怠感や易疲労感、食欲不振などと共に、肝臓が正しく機能できていないことによる種々の症状が現れます。 エストロゲン(女性ホルモン)の分解ができなくなるため、次のような症状が起こります。 ・手掌紅斑 手のひら(とくに指の付け根や親指・小指側)が赤くなる ・クモ状血管腫 蜘蛛が足を広げたような血管の集まりで上半身に多くできる ・女性化乳房 男性でも女性の様に乳房が大きくなります また、タンパク質の一種、アルブミンの合成障害が起こります。アルブミンは血管内に水を保持する働きがあるため、低アルブミン血症になると血管外に水が漏れ出します。その結果、起こるのが次の様な症状です。 ・浮腫 足が浮腫む ・腹水 お腹に水がたまり腹部が張ったような感じがする 肝硬変ではビリルビンという物質の処理も難しくなります。寿命を終えた赤血球から生じるビリルビンは肝臓に運ばれ、胆汁という消化液を介して排出されます。肝硬変になると、処理しきれないビリルビンが血中に大量に残ります。その結果、次の様な症状が起こります。 ・黄疸 全身の皮膚や白目が黄色くなる、尿の色が濃くなる ・皮膚の痒み 皮膚に沈着したビリルビンは強い痒みを引き起こします また、出血傾向が起こるのも肝硬変の特徴です。代償的に血流が増えた脾臓により血小板が多く破壊されることや、出血を止める凝固親子の合成が低下するのがその理由です。鼻血が出やすくなったり、歯磨きをしている時に歯茎から血が出てきたりということが起こります。 肝硬変の方は、「こむら返り」(足がつること)も起こりやすいです。こむら返りは就寝中などに起こりやすく、睡眠障害にも関わります。原因として、脱水・電解質異常・糖やアミノ酸の代謝異常などが考えられています。 肝硬変の予防方法 肝硬変の予防は、原因を除去・改善することです。 原因を突き止め、対処することで、肝硬変への進展を予防することができます。 B型肝炎・C型肝炎は治療の進歩により、ウイルスを沈静化させる・体外へ排出するなどの治療が可能になりました。そのため、検査したことがない方はまずはウイルス感染の有無を検査で確認をすることをおすすめします。 節度を守って飲酒をすることも重要です。厚生労働省は、生活習慣病のリスクを高める純アルコール量を男性40g以上、女性20g以上と定義しています。(健康日本21(第三次)より) 肝臓病のみならず、様々な病気を防ぐ意味でも、飲酒量を適切にすることが大切です。 肥満や高血圧・脂質異常・高血糖などの改善も、肝硬変の予防に重要です。食事を見直し、カロリーや塩分などを摂りすぎていないかチェックしましょう。 ・ウイルス感染の有無を検査 ・適度な飲酒量 ・肥満や高血圧・脂質異常・高血糖などの改善 ・食生活の見直し 「肝障害がある」と言われたら、まずは原因を探しましょう。そして解決のためにできることに取り組むことが大切です。 まとめ・肝硬変で症状が出るころには進行の危険! 今回は肝硬変の原因や症状、診断につながる検査や予防法について詳しく解説しました。 ・肝硬変の原因 ・肝硬変の診断につながる検査 ・肝硬変の初期症状や進行症状 ・肝硬変の予防方法 肝硬変の原因は肝炎ウイルス・アルコール・肥満など多岐にわたります。特に、ウイルスによるものが減少している反面、生活習慣が大きな影響を及ぼしていることが注目されています。 沈黙の臓器である肝臓は、症状が出るころには既に肝硬変が進行してしまっていることが多いです。 進行した肝硬変では、特徴的な皮膚症状・黄疸・浮腫や腹水などを起こします。また出血をしやすくなったり、こむら返りが起こりやすくなったりもします。 肝臓を守るために大切なことは、初期サインである肝臓の検査異常に早期に対応し、肝硬変の症状が起こる前に原因への対処をすることです。健康診断などでご自身の「肝障害」がないかをしっかりと確かめ、必要であれば早期の専門科受診を心がけましょう。 参考文献 赤羽たけみ, 吉治仁志. 診断と治療 111(1): 93-98, 2023. 田中康雄. 消化器ナーシング 28(1): 12-17, 2023. 内野康志, 近藤真由子, 大木隆正. 消化器ナーシング 29(3): 214-231, 2024. 日本消化器病学会・日本肝臓病学会. 肝硬変診療ガイドライン2020 (改訂第3版) 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
公開日:2024.10.07 -
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肝硬変で腹水が溜まると余命は長くないって本当? 肝硬変の腹水を根本的に治療する方法はないの? この記事を読んでいるあなたは、肝硬変で腹水の症状が出たときの余命がどのくらいなのか調べているのではないでしょうか。 腹水は肝硬変の中期から末期によくみられる症状であり、「もう先は長くないのではないか」と不安になるかもしれません。 結論からいえば、肝硬変における腹水は「非代償性肝硬変」に突入したサインの可能性があり、余命(中央値)は約2年というデータもあります。医療機関で適切な治療を受けることで、予後を改善できる場合があるため、前向きに治療を受けることが大切です。 本記事では、肝硬変における腹水の症状がある場合の余命年数や、治療法について解説します。 記事を最後まで読めば、肝硬変中期から末期の状況を正しく理解し、今後受けるべき治療法を判断できるでしょう。 肝硬変で腹水が溜まったときの余命は約2年といわれている 腹水とは、腹腔内にあるタンパク質の含まれた液体のことです。 通常、腹水は人間の腹腔内に一定量存在しますが、病気によって過剰生成・排出不良が起こり、溜まってしまうことがあります。 腹水は「非代償性」と呼ばれる中期から末期の肝硬変でみられる症状です。非代償性肝硬変の場合、余命年数は約2年(中央値)ともいわれており、予後が良いとはいえません。(文献1) まずは本章を参考に、肝硬変の重症度や予後についての基礎知識を身につけましょう。 肝硬変には「代償性」と「非代償性」がある 肝硬変は、程度によって「代償性」と「非代償性」に区分されます。 肝硬変の区分 段階 代償性 ・肝硬変の初期 ・肝機能に大きな問題はみられない状態 非代償性 ・肝硬変の中期~末期 ・肝機能に障害が出ている状態 代償性肝硬変は初期段階で、身体症状が現れないことが多く、症状があっても風邪などと見分けがつきにくいのが特徴です。 一方、非代償性肝硬変は中期から末期にあたる段階で、腹水や黄疸、浮腫などの身体症状があらわれるようになります。 肝硬変の症状や原因については、以下の記事もご覧ください。 肝硬変の程度によって生存率に差がある 肝硬変の予後について、以下のようなデータがあります。(文献2) 5年生存率 代償性 72.3% 非代償性 37.9% 10年生存率 代償性 53.3% 非代償性 24.0% 肝硬変の生存率(5年・10年)は、肝硬変の程度によって30%前後の差があります。 腹水などの症状がある非代償性肝硬変の場合、予後は良いとはいえません。 ただ、非代償性肝硬変であっても、適切な治療や肝移植をおこなうことで、改善する見込みもあります。 肝硬変による腹水は治療で改善する可能性がある 肝硬変による腹水は、内科的治療もしくは外科的治療で改善する見込みがあります。 肝硬変で腹水などの症状が発現している場合「非代償」期に突入している可能性が高いと考えられます。つまり、肝硬変の病状が進行し、肝機能を補えないほどの状態まで悪化しているという意味です。 とはいえ、非代償性肝硬変であっても、内科的な治療をおこなえば、腹水の改善がみられることが多くあります。 ただし、難治性腹水で内科的治療に反応しない場合は、外科的な治療をおこなうこともあります。 本章では、肝硬変における腹水の内科的治療・外科的治療について解説します。今自覚している腹水が肝硬変による可能性があると思われた方は、すぐに医療機関に相談しましょう。 また、肝硬変の治療法については以下の記事も参考にしてください。 肝硬変による腹水の内科的治療 非代償性肝硬変による腹水の症状がみられる場合は、内科的治療からおこないます。 具体的な治療法は以下のとおりです。 塩分の制限 利尿薬の処方 アルブミン療法 腎機能に影響する薬剤の制限 以下で詳しく解説します。 塩分の制限 はじめにおこなう内科的治療として、食事療法が挙げられます。とくに腹水の改善には塩分制限が有用で、1日の塩分摂取は5-7gとします。 肝硬変では、ナトリウムが溜まりやすくなるため、塩分の制限が必要です。 実際に塩分制限により、腹水の早期減少や入院期間の短縮、利尿薬の減量が得られたと報告されています。 肝硬変の食事療法については、以下の記事でも詳しく解説していますのでぜひご覧ください。 利尿薬の処方 食事療法のみでは効果が不十分と判断された場合、利尿薬を処方し、尿からのナトリウム排泄を促進する治療をおこないます。 少量からはじめ、効果と合わせて徐々に増量するケースが一般的です。 アルブミン療法 アルブミンとは、主に肝臓で作られている血液中のタンパク質です。 肝機能の低下によりアルブミンの値が低下すると、血管内の血液の浸透圧バランスが乱れ、浮腫や腹水が起こりやすくなります。 非代償性肝硬変によりアルブミンの低下がみられる場合、アルブミン製剤を使用することもあります。 腎機能に影響する薬剤の制限 腹水がある場合、専門医と相談の上で、腎機能に影響する成分が含まれた薬剤の服用を中止することもあります。 たとえば、腎機能を悪くするような痛み止めや血圧を下げる薬は、腹水治療の妨げとなる可能性があります。これらの薬剤を利用している人は、継続の可否について医師に確認しましょう。 肝硬変による腹水の外科的治療 肝硬変における腹水の症状は、内科的治療によって改善できるケースが大半です。しかし、内科的治療への反応が乏しい場合は「難治性腹水」として外科的治療に切り替えることもあります。 ある研究では、難治性腹水の特徴として、腎機能の悪化や交感神経系の亢進、そして腎臓に作用して血圧を上昇させようとする内分泌系の調節機構(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系)の亢進がみられ、さらに門脈圧亢進もその発生に関与しているだろうと報告されています。(文献3) 難治性腹水の治療法は以下のとおりです。 穿刺排液 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 腹腔−静脈シャント術 肝移植 以下で詳しく解説します。 穿刺排液 まず、腹水貯留による腹部膨満感や呼吸困難の改善のため、穿刺排液をおこないます。 基本的には超音波の機械を用いて穿刺できる場所を選択しますが、解剖学的に安全と思われる箇所を狙って刺すこともあります。 居所麻酔をおこなったのち、針を使って穿刺し、管を留置して自然に排液させます。 穿刺の頻度は主に1-2週間ごと、量は1回につき最大でも8Lまでとされています。 また、5L以上の腹水を引く場合には、血液中のタンパク質である「アルブミン」の補充も併せておこなわれます。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 腹水濾過濃縮再静注法(以下、CART)をおこない、血液中のタンパク質を補充することもあります。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)とは、排液した腹水を濾過器や濃縮器にかけて取り出した自己のタンパク質を点滴で体内に戻す方法です。 自分のタンパク質を体内に戻す治療であるため、アルブミン製剤の投与時に生じうるアナフィラキシーショックなどの副作用を回避しやすいのがメリットです。 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 難治性腹水に有用といわれている外科的治療として、「経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)」と呼ばれる血管内治療があげられます。 全身麻酔下で血管内に細い管を挿入し、門脈と肝静脈の間にシャントと呼ばれる短絡路を作成し、門脈圧を下げます。 腹腔−静脈シャント術 また、「腹腔−静脈シャント術」と呼ばれる外科的治療をおこなうこともあります。 腹腔−静脈シャント術とは、皮下を経由して腹腔内と中心静脈をつなぎ、腹水を血管内に還流させる治療法です。 基本的には局所麻酔のみでおこなうことが可能ですが、長時間仰向けの体勢を保てないなどの際には全身麻酔を施すこともあります。 肝移植 難治性腹水が見られる場合、肝移植を実施することもあります。 脳死肝移植だけでなく、生きている人から肝臓の一部をもらう生体肝移植もあります。生体・死体合わせて、2021年と2022年はどちらも約420件の肝移植が施行されました。 肝移植は、非代償性肝硬変の根本的治療をおこなえるのがメリットです。ただし限られた医療機関でしか受けられない上に、待機時間も長いのは問題点といえます。 まとめ|肝硬変の腹水は余命にかかわるため適切な治療を受けよう 本記事では、肝硬変で腹水の症状がある場合の余命や治療法を解説しました。 肝硬変による腹水は、基本的に食事療法などの内科的治療で改善しますが、腹水穿刺や手術療法など外科的治療をおこなうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、肝臓の再生医療として幹細胞治療をおこなっています。約1億個の幹細胞を投与することで、硬くなった肝臓の組織を溶解・修復させ、肝機能を改善させる効果が期待できるでしょう。 肝硬変における腹水の症状に悩んでいる方や、肝移植以外で肝硬変の根本治療を検討している方は、一度当院にご相談ください。 非代償性の肝硬変は予後が良好とはいえませんが、症状の改善に向けて前向きに治療を進めていきましょう。 肝硬変の余命についてよくある質問 肝硬変の終末期の症状は? 肝硬変の終末期では、以下の身体症状がみられます。 黄疸 腹水 胸水 食道胃静脈瘤 浮腫(むくみ) 感染症 など 終末期など重度の肝硬変を根本的に治療するには、ドナー登録の上で肝移植を受ける選択肢があります。 肝硬変で腹水が溜まるとどうなるのでしょうか? 肝硬変で腹水が溜まるのは、中期から末期である「非代償性肝硬変」に入ったサインの可能性があります。 大量の腹水が内臓を圧迫し、食欲不振や嘔吐、便秘などの消化器症状が出ることもあるでしょう。細菌性腹膜炎などの感染症を引き起こす場合もあるため、早めに医療機関での治療を受ける必要があります。 肝硬変による腹水は、利尿剤の投与など内科的治療、または腹水穿刺吸引など外科的治療をおこなうのが一般的です。 参考文献一覧 (文献1) D’Amico G, Garcia-Tsao G, et al. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: A systematic review of 118 studies. J Hepatol. 2006;44:217-231. (文献2) 糸島達也、島田 宜浩ほか.肝硬変の予後-肝表面像による検討-.日本消化器病学会 雑誌.1973;70:42-49. (文献3) 楢原義之,金沢秀典ほか. 肝硬変における難治性腹水臨床像に関する検討. 日門充会誌.2002;8:251-257.
公開日:2024.10.07 -
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女性に多い肝臓の病気|症状・検査・治療法を解説します 「飲酒はほとんどしないし、脂肪肝も肝炎ウイルスの感染も指摘されたことがない。それなのに血液検査で肝臓の数値が高くなっていると言われた。」 それは、もしかしたら自己免疫性肝炎かもしれません。 自己免疫性肝炎は人体のなかで最大の臓器である肝臓に起こる病気で、特に女性に多く認められます。初めは異常に気が付きにくいことも多いです。しかし、放置すると肝硬変・肝不全・肝がんという重大な病態に至ることもあります。 なぜ自己免疫性肝炎は起こるのでしょうか。注意するべき症状はあるのでしょうか。どのような検査が必要で、どんな治療法があるのでしょうか? この記事では、自己免疫性肝炎の原因や疫学、また症状や検査・内科的治療について解説します。 女性に多い自己免疫性肝炎とは(肝障害の原因) 自己免疫性肝炎は、一般的に慢性に進行する肝障害をきたす病気です。 発症は60歳ごろがピークとされ、中年に多いとされています。男女比は1:4.3と、男性よりも女性に多いことがわかっています。日本には3万人強の患者さんがいると推定されています。 自己免疫性肝炎は国の定める指定難病です。一定の重症度を満たす場合は医療費が公費補助の対象となります。 自己免疫性肝炎の原因と合併症 自己免疫性肝炎の原因はまだ完全に明らかになっていません。しかしながら、さまざまな要素から、免疫が自身の身体を攻撃するために起こる「自己免疫疾患」と考えられています。実際に、自己免疫性肝炎では肝臓に免疫細胞が多く集まり炎症をきたしている所見が確認できます。 アルコールを全く摂取しない人でも、ウイルス性肝炎を起こすB型肝炎やC型肝炎の感染がなくても、この病気を発症することがあるのです。 特定の遺伝因子を持つ人が発症しやすいと言われています。しかし、一般的に行われている検診などで発症のしやすさを判定することはできません。また、家族内での発症も多くはないとされています。 自己免疫性肝炎は他の自己免疫疾患との合併が多く認められます。 たとえば下記のような疾患を患っている方は自己免疫性肝炎も発症するリスクが高まります。 〈自己免疫性肝炎に多い合併症の例〉 ・慢性甲状腺炎(橋本病) ・首が腫れる ・無気力になる ・体重が増える ・甲状腺に炎症が起こり機能低下する ・シェーグレン症候群 ・目が乾く ・唾液が出にくく、口が乾燥する疾患 ・関節リウマチ ・手、指などの小関節を中心とした腫れ ・痛み、こわばりなどを起こす疾患 自己免疫性肝炎の症状|セルフチェックは難しい? 残念ながら、「この症状があれば自己免疫性肝炎が疑われる」という特徴的なものはありません。 早期に発見される契機 は、無症状のまま健康診断などで肝障害を指摘されることが多いです。肝臓は別名「沈黙の臓器」と呼ばれています。肝障害は、自分では早期に 気が付きにくいのです。 一方で、急激な経過をたどる場合は以下のような自覚症状を認めること があります。下記の症状は自己免疫性肝炎に特異的ではありませんが、複数のものが該当する時は急激に進む重度の肝障害が起こっている可能性があるため早期に受診しましょう。 〈急性肝炎として発症する場合の症状の例〉 ・全身倦怠感 ・だるい感じがする ・易疲労感 ・ちょっとしたことでつかれやすい ・食欲不振 ・食欲低下のため食事が摂れない ・黄疸 ・全身の皮膚や白眼が黄色くなる ・尿の色が濃くなる また、一部の方は気付かない うちに病状がかなり進行して、肝硬変をきたしていることがあります。 自己免疫性肝炎の診断に必要な検査 様々な検査を行い、総合的に診断をします。 まず、血液検査で肝臓の障害があるか、またその程度を判断します。 ①AST(GOT)/ALT(GPT) ・健康診断でよく見る AST(GOT)/ALT(GPT)の上昇が参考になる所見です。 ・肝臓の機能に何らかの異常がある可能性を示しています。 ②IgG・自己抗体検査 ・免疫の関連の検査としてIgG(免疫の成分である抗体の量を見る検査)。 ・いくつかの自己抗体(自分の体を攻撃する抗体についての検査)も重要です。 ③B型・C型肝炎ウイルス検査 ・肝臓にダメージを与えるB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどの感染の有無 ④画像検査 ・エコー、CTなどの肝臓の画像検査も必須です ・肝障害をきたす脂肪肝などの他疾患の有無、肝臓の硬さ、悪性腫瘍(とくに肝がん)の合併の有無を評価 ⑤肝生検 肝生検とは? ・診断において特に重要なのは肝臓の組織の検査、肝生検です ・肝生検には「経皮的肝生検」と「腹腔鏡下肝生検」」という2つがあります ・多くの場合は体に負担の少ない「経皮的肝生検」が行われます ・経皮的肝生検では実際にエコー下に肝臓を確認しながら、細い針を刺して組織を採取します ・出血などのリスクがある検査で終了後の安静が必要であるため、短期間の入院が必要です 肝生検で採取した組織は特殊な染色を行い、顕微鏡で観察します。 これにより、 ・どこにどのような炎症があるか ・肝細胞のダメージはどうか ・肝臓の硬さ(線維化) ・進行具合 などを確かめることができます。 自己免疫性肝炎で特徴的なのは、インターフェイス肝炎(Interface hepatitis)と呼ばれるものです。 肝臓へ血液を運ぶ肝動脈、門脈や胆汁を運ぶ胆管が集まった「門脈域」に、リンパ球や形質細胞(一部のリンパ球が成熟した細胞)などの炎症細胞が集まります。 周囲の肝細胞を破壊しながら炎症がさらに広がっていく様子が認められます。 このような所見は全例で見られるわけではありませんが、認められれば診断への重要な手掛かりとなります。 肝生検は他の原因を除外し、自己免疫性肝炎の診断を確実にするために重要視されている検査です。 ただし、患者さんの体の状態が悪く、肝生検が安全ではない ケースには行いません。 自己免疫性肝炎の治療法と副作用 治療の基本はステロイドです。 ステロイドは副腎皮質という臓器から分泌されるホルモンをもとにつくられた薬剤です。強力な抗炎症作用や免疫抑制作用をもつため、自己免疫性肝炎をはじめとする様々な自己免疫疾患の治療に用いられています。 プレドニゾロンというステロイドホルモン薬を体重1Kgあたり 0.6mg以上で開始します。例えば50Kgの人は1日あたり30mg以上が開始量です。重症度に応じてもっと多い量を使用することもあります。 開始後は、最低でも2週間程度は初期量の継続が必要です。以降は肝機能の数値(主にALT)を見ながら徐々に減量します。急いで減量・中止すると、再燃のリスクがあるからです。 他に、肝機能の改善を助けるウルソデオキシコール酸が処方されることがありますます 。また、治療困難例やステロイドを多く使えない場合にはという免疫抑制薬がステロイドと併用で用いられることもあります。 最も頻繁に使われるステロイドですが、長期に大量に使用すると様々な副作用をきたします。以下に副作用の例をご紹介します。 〈ステロイドの副作用の例〉 ・感染状態 ・骨粗鬆症 ・食欲亢進 ・高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病の出現や悪化 ・体重増加、肥満 ・躁状態、うつ状態、不眠などの精神神経症状 ・消化管潰瘍 ・緑内障、白内障 副作用がないか適宜検査を行い、予防可能なものには対策をしていきます。気になる症状があれば主治医と相談をしましょう。 日常生活を送る上で気をつけること 日常生活では、栄養バランスの取れた食事をとり間食を控えることが大切です。また、外出時には人混みを避け、手洗い・マスク着用・うがいなどの感染予防行動を徹底しましょう。 注意しておきたいのが、続発性副腎機能不全です。ステロイド薬の内服により引き起こされた副腎皮質ホルモンの不足のことを指します。 生理的な量を超えるホルモンを長期で内服すると、副腎は本来のホルモン分泌を怠るようになります。長期内服者が薬を自己中断してしまうとホルモン不足が起こるかもしれません。また、手術や重症感染症のときにもステロイドの必要量が増えるのに十分量 が分泌できないため、対策が必要です。 副腎皮質機能不全となるとだるさ・脱力感・血圧低下・吐き気・嘔吐・発熱などの症状が認められます。重症になると意識を失ったりショック状態になったりすることもあるのです。 ステロイドを自己判断で減量、 中止をしてしまうと、病状悪化だけでなく命に関わる副腎機能不全をきたすリスクもあります。そのため、必ず医師の指示通りに内服をしてください。 進行するとどうなる?悪化を防ぐために 自己免疫性肝炎の多くは治療が有効である一方、最初は軽症でも放置をすれば命に関わる事態になります。 自己免疫性肝炎を放置すると炎症が沈静化せず、肝臓の線維化が進みます。肝臓の線維化が進行し、 固くなった状態が「肝硬変」です。 肝臓では栄養素の代謝やエネルギー貯蔵、有害物質の分解や解毒などが行われていますが、肝硬変が進むとその機能障害が起こります。肝臓の働きが大きく損なわれてしまった状態を「肝不全」と呼びます。 さらに、肝硬変は肝がんの発生が起こりやすいこともわかっています。肝がんは治療しても再発しやすい厄介ながんです。 肝硬変・肝不全・肝がんへの進行を防ぐのに重要なのは、早期から適切な治療を受けることです。自己免疫性肝炎では、治療により AST,ALT を基準値内に保つことができれば生命予後は良好とされています。 自己免疫性肝炎についてよくある質問 ここまで自己免疫性肝炎について記してまいりましたが実際に患者様からよくお聞きする質問から以下を抜粋いたしました。 Q:自己免疫性肝炎では、最終的にステロイドを止めることはできますか? A:経過によっては中止することが可能ですが、全員ではありません。中止できる場合も、多くの場合は年単位の時間がかかります。 また、中止した場合には再燃をするリスクもあります。減量や中止については個々のケースで大きく異なるので、主治医とよく相談するのが良いでしょう。 Q:原発性胆汁性胆管炎という病気も肝臓の自己免疫疾患と聞きましたが、違いはなんですか? A:どちらも中年以降の女性に多い自己免疫性疾患ですが、障害が起こる部位が異なります。自己免疫性肝炎では、肝細胞の障害が中心です。 原発性胆汁性胆管炎で起こるのは肝臓内の胆汁が通る管(胆管)の破壊です。そのため、胆汁の流れが滞り、ALPやγ-GTPなど胆道系酵素や黄疸 をきたすビリルビン値の上昇が目立ちます。 進行すると黄疸や皮膚のかゆみを生じます。こちらの病気も放置すると肝硬変へ進展します。各種検査で自己免疫性肝炎との鑑別を行いますが、2つの病態が合併していることもあります。 自己免疫性肝炎の症状・診断・治療のまとめ 心配な時は内科受診を! 自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありませんが、時にだるさや黄疸などをきたすことがあります。無症状で発見されることも多いです。 診断は血液検査・画像検査などを総合的に判断して行います。組織の検査は非常に重要とされています。 治療の第一選択薬はステロイドです。副作用も多いですが、対策をしながら長期に使用します。自己免疫性肝炎を放置すると命に関わる「肝硬変」に進展するため、診断を受けたら定期的に通院をして服薬 を続けてください。 健康診断で肝臓の数値が高いと言われた方や、肝臓が悪い時の症状に思い当たることがある方は、まずは医療機関で 精査を受けましょう。 参考文献 厚労省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン2021年 厚労省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 患者さん・家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック第2版 難病情報センター 自己免疫性肝炎 難病情報センター 原発性胆汁性胆管炎 ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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人間ドックなどの検査で急に「肝血管腫疑い」と言われたら、不安になりますよね。 肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性腫瘍です。基本的には消化器内科で診てもらう病態になります。 無症状かつ小さな病変であれば基本的に治療は不要ですが、定期的な検査が推奨されており、万が一有症状になった場合には治療の検討も必要です。 この記事では、皆さんが肝血管腫について正しい知識を得られるよう解説していきます。 肝血管腫とは? 先にも述べましたが、肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性の腫瘍です。肝臓は元々血管が多い臓器のため、血管腫ができやすいとされています。 肝血管腫は、「海綿状血管腫」と「血管内皮種」の2種に大きく分けられますが、ほとんどの症例は前者と診断され、そして臨床上問題を生じるのもほとんど前者となっています。 基本的には無症状のため、昔は剖検で見つかることが多かったのですが、近年の画像診断技術の発展に伴い、他の病気を探すための検査や人間ドックなどで偶然発見されることが多くなりました。基本的には消化器内科で診てもらう病態です。 成人の発生頻度は5%程度とされ、一般的には男性に比べて女性にやや多いと言われています。 肝血管腫の原因やリスク因子 肝血管腫が形成される原因は明らかになっていませんが、先天的な要素が大きいと考えられています。 乳児期に肝血管腫が生じる場合もありますが、通常は自然に消失していきます。 成人になって肝血管腫が発見された女性患者の調査報告では、女性ホルモン補充療法を施行した女性において肝血管腫の増大が見られ、結果として女性ホルモンとの関連が示唆されました。 女性ホルモンが実際にどのように肝血管腫に影響を及ぼしているのかまでは未だはっきりと解明されていませんが、妊娠や女性ホルモン療法は肝血管腫増大のリスクになり得ると考えられています。 ピルの服用が肝血管腫を増大させるかに関してとある研究がなされましたが、そちらでは有意に増大させないとの結果でした。ただし、ピルの長期服用は肝機能障害や肝腫瘍のリスクを上昇させる上、ピルと肝血管腫増大の関連を考える報告があるのも事実です。 肝血管腫の症状 多くの場合は無症状で、特徴的な症状はありません。 腫瘍が大きくなってくると徐々に周囲の臓器を圧迫し、結果として不快感や腹痛、右上腹部の膨満感、嘔気・嘔吐などが引き起こされます。 他の関連症状としては、頻度は少ないものの、発熱や黄疸(皮膚や白眼の黄染)、呼吸困難、心不全なども確認されています。 ・不快感や腹痛 ・右上腹部の膨満感 ・嘔気、嘔吐 ・発熱 ・黄疸(皮膚や白眼の黄染) ・呼吸困難 ・心不全 また、稀ではありますが、巨大血管腫を生じるカサバッハ・メリット症候群という病態があり、出血や多臓器不全で命に関わることがあります。カサバッハ・メリット症候群は基本出生児、あるいは幼少時期に巨大血管腫を生じるものですが、成人になって発症する例もあります。 上記のような症状を認めた際にはすぐに医師の診察を受けましょう。 肝血管腫の診断 無症状のうちは通常血液検査での異常も見られないため、画像的診断が行われます。 主な検査方法として、以下のものが挙げられます。 超音波(エコー)検査 超音波検査とは、体に超音波の出る機械を当て、それぞれの臓器から跳ね返ってきた超音波を画像化する検査です。 腹部超音波検査ではお腹をグッと押される感覚はありますが、被曝や痛みはありません。 低侵襲な検査で肝血管腫を発見するという点では優れますが、肝細胞癌や肝臓への転移癌との鑑別がしにくいという欠点があります。 その場合、造影超音波検査を用いることも可能ですが、患者さんの体格や術者の技量によって左右されてしまうため、通常はCT検査やMRI検査の画像と合わせて総合的に判断されています。 CT(造影コンピュータ断層撮影)検査 CT検査は、ベッドの上に上向きに寝た状態でトンネル状の装置に入り、X線の吸収率の違いを利用して体の断面を画像化する検査法です。 造影剤を使用しない単純CTでは肝血管腫の検出率は低いですが、造影剤を使用した造影CTであれば格段に検出率が上がります。 肝血管腫は他の肝臓癌と比べて血流の流れが遅いため、造影剤を使用すると全体がゆっくり染まるのです。 ただし、過去にアレルギーが出た人や糖尿病薬を服用している人、腎機能障害のある人、授乳中の人などは造影剤を使用する際に注意が必要となります。 該当される方は医師と注意事項に関してご確認ください。 CT検査は断面像が見られるので腫瘍の詳細を知ることができますが、被曝の問題や肝血管腫においては造影剤を使用しなければならない点が欠点となります。 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI検査とは、強力な磁場が発生したトンネル状の機械に入り、ラジオ波を体に当てることで様々な角度から断面像を作り出す検査です。 超音波検査やCT検査同様、必要時には造影剤も使用できます。 造影を含めたMRI検査が肝血管腫の確定診断において最も有用であると言われています。 こちらは被曝の心配なく腫瘍の詳細を知るのに適していますが、狭いトンネルの中に入る必要があるので狭所恐怖症の人には不向きな上、超音波検査やCT検査と比べてコストが高くなるのが難点です。 また、病院にもよりますが他の検査と比較して予約が取りにくいかもしれません。 肝血管腫の治療法や増大予防 治療方針を決定する際に重要なのが以下の点になります。 ・自覚症状 ・血管腫の増大傾向 ・血管腫が原因の合併症 小さな病変かつ無症状であれば、基本的に経過観察のみと考えて良いでしょう。 大きくても増大傾向がなく、かつ無症状であれば経過観察可能と判断される可能性が高いと思われます。 自覚症状があり、かつ大きい肝血管腫を指摘されている場合は、それ以上大きくならないよう、女性ホルモン補充療法やピルの中断が推奨されています。 妊娠に関しては判断が難しいところで、大きな血管腫が発見された場合には妊娠を勧めるべきでないと主張する報告もある一方で、巨大血管腫がありながらも合併症を生じることなく妊娠継続ができたとの報告もあります。 巨大血管腫があるために産婦人科領域の治療について相談したい方や妊娠をご希望の場合には、産婦人科の医師に加え、消化器内科や消化器外科の医師ともよく話し合いましょう。 治療の際には、消化器内科の医師より消化器外科や放射線科の医師へ紹介され、共に適切な治療を検討していきます。 稀ですが、次のような条件下では手術療法やカテーテル治療などの積極的治療が必要とされます。 ・カサバッハ・メリット症候群 ・血管腫の急速な増大 ・血管腫の増大とともに症状の増悪 ・血管腫が原因となった合併症が中等度以上 ・血管腫の破裂 カテーテル治療とは、血管内より血管腫に栄養を送る動脈へアクセスし、挿入した細い管を使って動脈を塞ぐ“肝動脈塞栓術”が施行されます。 肝動脈塞栓術は手術療法と異なり、根本的治療には至らず、多くの場合腫瘍の縮小はみられませんが、症状改善には有効とされています。 また、前段階として一旦肝動脈塞栓術を施行し、全身状態を改善してから手術に臨む症例もあります。 手術療法に関しては、腫瘍が肝臓から引き剥がせると判断された場合は“腫瘍摘出術”が選択され、それが難しい場合には腫瘍を肝臓の一部とともに取り除く“肝切除術”となります。破裂による緊急手術を除いて、手術成績は良好と報告されています。 何らかの理由で上記の治療が行えないと判断された場合には、放射線治療やステロイド治療も考慮されます。どちらも副作用があるため、患者に合わせて放射線量やステロイド量を適切に調整する必要があります。 2024年現在は血管腫を薬で治す研究も進められており、今後新しい治療法が出てくるかもしれません。 肝血管腫の診断が出たら気をつけるべきことは? 肝血管腫と診断された場合、やはり一番気になるのはサイズの変化です。 ある研究において、平均12ヶ月の経過観察を行なった結果を調べたところ、ほとんどの症例でサイズの変化がなかったものの、少数ながら増大する症例もあったのです。肝血管腫は10cmを超えると破裂のリスクが高まり、そして破裂した場合には命に関わります。 お近くのクリニックや内科での定期検査はぜひ行なってください。そしてもし気になるような症状や異変を感じた場合には、すぐ診療してもらいましょう。 無症状であれば、日常生活は基本的に普段通りで構いません。しかし、稀ではあるものの、スポーツの最中にボールが腹部に当たって肝血管腫が破裂した例や、歩行中に足を滑らせて転落した際に肝血管腫が破裂したなどの症例報告はあります。 外傷性破裂を防ぐため、高いところからの転落や腹部に強い衝撃が当たるようなリスクは避けるのが望ましいかと思われます。 まとめ・肝血管腫は定期的な検査を心掛けましょう 当記事の内容で肝血管腫に関する知識は十分得られましたでしょうか?肝血管腫は良性腫瘍であり、基本的には怖い病気ではありません。小さく、無症状なうちは治療も不要です。 しかし、大きくなってくると色々な症状を招くほか、破裂の危険が出てきます。自分の身を守るためにも、定期的な検査を心掛けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献 松井昭義, 小野寺博義ほか. がん・生活習慣病検診における肝血管腫の検出状況について. 人間ドック.2007;22:35-39. Glinkova V, Shevah O, et al. Hepatic haemangiomas: possible association with female sex hormones. Gut. 2004;53:1352-1355. Ozakyol A, Kebapci M. Enhanced growth of hepatic hemangiomatosis in two adults after postmenopausal estrogen replacement therapy. Tohoku J Exp Med. 2006;210:257-261. Gemer O, Moscovici O, et al. Oral contraceptives and liver hemangioma: a case-control study. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;83:1199-1201. Mathieu D, Zafrani ES, et al. Association of focal nodular hyperplasia and hepatic hemangioma. Gastroenterology. 1989; 97: 154–7. Mikami T, Hirata K, et al. Hemobilia caused by a giant benign hemangioma of the liver: report of a case. Surg Today. 1998;28:948–952. Huang SA, Tu HM, et al. Severe hypothyroidism caused by type 3 iodothyronine deiodinase in infantile hemangiomas. N Engl J Med. 2000;343:185-189. Liu X, Yang Z, et al. Fever of Unknown Origin Caused by Giant Hepatic Hemangioma. J Gastrointest Surg. 2018;22:366-367. Smith AA, Nelson M. 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Demircan O, Demiryurek H, et al. Surgical approach to symptomatic giant cavernous hemangioma of the liver. Hepatogastroenterology. 2005;52:183-6. Tait N, Richardson AJ, et al. Hepatic cavernous hemangioma:a 10 year review. Aust N Z J Surg. 1992;62:521-4. 井田勝也,神谷隆,ほか. 鈍的外傷により破裂した肝血管腫の1例. 日臨外医会誌1996;57:155-158. 中山雄介,田村淳ほか. TAEと待機的腫瘍切除術で治療した外傷性肝血管腫破裂の1例.日臨外会誌2010;71:2687- ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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肝嚢胞とは、肝臓の組織に液体がたまって袋状になったものです。 健康診断や人間ドックで発見されるケースが多く、実際に約5人に1人の割合で健康診断の検査項目に含まれる腹部超音波検査で肝嚢胞が見つかるデータもあります。(文献1) そのため、突然の診断に不安をもつ方もいるのではないでしょうか。 肝嚢胞の多くは良性で無症状のケースが多い傾向にあります。しかし、肝嚢胞が大きくなったり、肝嚢胞が炎症を起こしたりすると腹痛や発熱などの症状を引き起こす可能性もあります。症状に応じた適切な治療を選択できるように、肝嚢胞の特徴をよく理解しておきましょう。 本記事では、肝嚢胞の原因や症状などを詳しく解説します。治療法も紹介しているので、肝嚢胞の診断を受けて不安を感じている方は参考にしてみてください。 肝嚢胞(肝のう胞)とは 肝嚢胞とは、肝臓にできる液体がたまった袋状のものを指します。 出典:Liver Cyst Symptoms & Treatment | Nexus Surgical 肝嚢胞の種類は、大きくわけて以下の2つです。 ・孤発性肝嚢胞 ・多発肝嚢胞 「孤発性肝嚢胞」は、肝嚢胞の数が1〜3個程度で単発的に発生する肝嚢胞です。肝嚢胞の大きさが5cm以下程度の小さいものであれば無症状のケースが多くなります。 まれにサイズが5〜10cmを超えるような大きい肝嚢胞もできます。このサイズになると、周りの臓器が圧迫されてお腹が苦しくなったり、腹痛を感じたりする場合があるので覚えておきましょう。ただし、肝臓自体への影響は少なく、血液検査で肝機能の異常が見つかるケースはほとんどありません。 「多発肝嚢胞症」は、肝嚢胞が肝臓に多発する病気です。こちらは孤発性とは異なり、嚢胞の数が増えたり大きくなったりするケースが多く、それによる周囲への圧迫症状が見られやすくなります。また、嚢胞内の感染や出血で炎症を引き起こし発熱や肝機能異常をおよぼす可能性もあります。 肝嚢胞以外の脂肪肝や肝硬変、肝炎といった肝臓の病気には「再生医療」の治療法が効果的です。再生医療とは、人間の自然治癒力を活用し、損傷した肝臓の組織を修復する最新の医療技術です。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 以下の記事では、肝臓の働きや肝臓の病気について解説しています。詳細が気になる方は、参考にしてみてください。 肝嚢胞の原因 肝嚢胞の発生原因は、現時点では明確にわかっていません。 肝嚢胞ができるのは40歳から60歳の女性に多いことから、女性ホルモンの1種であるエストロゲンが関連しているという説があります。 以下の記事では、女性に多い肝臓の病気を解説しています。検査方法や合併症に関する情報も紹介しているので、詳細が気になる方はあわせてご覧ください。 なお、肝嚢胞は、エキノコックスという寄生虫の感染によって肝嚢胞ができるケースがあります。エキノコックスは、キツネやイヌの糞に含まれており、口を介して感染します。(文献2) 肝嚢胞の症状 くりかえしですが、肝嚢胞はほとんどが良性なので、肝嚢胞そのものが体に悪い影響をおよぼす可能性は高くありません。 肝嚢胞が5cm以下ほど小さめのサイズであれば、無症状のケースが大半です。 5〜10cmを超えるような大きいサイズの肝嚢胞になると、周りの臓器を圧迫してお腹が苦しくなったり、腹痛を感じたりする場合があります。 また、嚢胞内の感染や出血で炎症が起これば、発熱や肝機能異常を引き起こす可能性があります。症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 肝嚢胞の検査 冒頭で述べた通り、肝嚢胞は健康診断や人間ドックの腹部超音波検査検診で見つかるケースが多い傾向にあります。つまり、腹部超音波検査検診は肝嚢胞を発見する有効な検査といえるでしょう。 ほかには、腹部CTやMRIによっても確認できます。 CTやMRIでは、嚢胞の壁や嚢胞液の性状を詳しく調べられる検査です。超音波検査で嚢胞の性状が通常と異なっている場合や、嚢胞に対して治療を検討する場合にさらに詳しい情報を得るための検査としておこなわれます。 肝嚢胞の治療法 肝嚢胞は、圧迫症状がなければ治療はおこなわず、経過観察で良いものになります。 肝嚢胞のサイズが大きく圧迫による腹部症状をきたしている場合や、嚢胞内感染などを起こしている場合には治療をおこないます。 治療方法は、注射で嚢胞内の液を吸引して肝嚢胞を縮小させる方法です。超音波で嚢胞を確認しながらおこないます。その後、エタノールを注入して嚢胞内に再び液体がたまらないようにします。 根本的な治療としては、嚢胞を切開、切除する手術です。近年では腹腔鏡による手術もおこなわれ、より体に負担の少ない治療方法が広まっています。 傷付いた肝臓組織を修復する治療法の1つに「再生医療」があります。人間の自然治癒力を活用した治療なので、手術のように身体への大きな負担はありません。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 まとめ|肝嚢胞への理解を深めて適切な対応をとろう 肝嚢胞は多くの場合、無症状で偶然見つかるもので、症状がなければ経過観察で良いものになります。したがって、肝嚢胞と診断されても極端に心配する必要はありません。 しかし、大きい嚢胞では腹痛やお腹の圧迫感の症状が現れることがあるほか、まれにがん化する事例も報告されています。気になる症状があれば早めに専門の医療機関に相談しましょう。 損傷した肝臓組織を修復するなら「再生医療」がおすすめです。本来なら手術しなければいけない状態でも、再生医療で治療できる可能性があります。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 肝嚢胞に関するよくある質問 最後に肝嚢胞に関するよくある質問と回答をまとめます。 肝嚢胞が何センチになったら手術が必要ですか? 手術の必要性を判断する明確なサイズの基準はありません。 嚢胞のサイズよりも、症状の有無や生活への影響が重要な判断材料となります。たとえば、嚢胞が腹部を圧迫して腹痛が生じたり、胃を圧迫して食欲不振になったりするなどです。 注射で肝嚢胞の液体を吸引する治療法もあるので、専門医と相談して自分の状態に合った治療法を選択していくのが良いでしょう。 肝嚢胞になったらどうすればいいの? 肝嚢胞と診断を受けた時点で、担当医に今後の治療方針を相談しましょう。 無症状であれば、定期的な経過観察を推奨される可能性があります。肝嚢胞がほかの臓器を圧迫して圧迫感や痛みを感じる場合は、注射吸引による液体の除去や肝嚢胞を切開・切除する手術などが進められます。 肝嚢胞でがんを発症するリスクはありますか? 肝嚢胞が、がん化した事例も報告されています。(文献3) がんの場合、早期発見が重要になります。体調不良や身体の違和感が長期間続く場合は、迷わず医療機関で検査を受けましょう。 参考文献 文献1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/65/1/65_15-10/_pdf 文献2:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/338-echinococcus-intro.html 文献3:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/68/3/68_3_654/_article/-char/ja/
公開日:2024.11.06 -
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高血圧の薬(降圧薬)は血圧を下げる薬で、多くの種類があります。降圧薬にはどのような違いがあるのかわからず、副作用を心配する方もいるのではないでしょうか。 高血圧の治療では、まずは運動や食事管理などによる生活習慣の見直しによって血圧の改善を図ります。 しかし、それでも難しい場合は降圧薬が使用されます。降圧薬にはそれぞれ作用のメカニズムや副作用が異なるため、服用には注意が必要です。 この記事では、降圧薬の種類やその特徴について専門医が解説します。降圧薬についての正しい情報を身につけて健康な時間をすごせるよう、ぜひ最後までお読みください。 高血圧の薬(降圧薬)を飲む際の基準値 まず前提として、現在のガイドライン上では「最高血圧120mmHg/最低血圧80mmHg未満」を正常血圧としており、これが降圧薬を処方する目安の1つです。 詳細は後述しますが、よく使用される降圧薬には大きく分けて7種類あります。また、複数の種類を組み合わせた配合薬もあります。 近年ではより厳格な血圧管理が重要視されるようになり、130〜139/80〜89mmHgになると、「高値血圧」と呼ぶようになりました。さらに140/90mmHg以上になると「高血圧症」と診断されます。 高血圧の薬(降圧薬)の種類一覧と副作用 主な降圧薬の種類としては、以下の7つです。 ・カルシウム拮抗薬 ・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB) ・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) ・利尿薬 ・β(ベータ)遮断薬 ・α(アルファ)遮断薬 ・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬) ここでは、それぞれの降圧薬の特徴について詳しく解説します。 ①カルシウム拮抗薬:最も多く使われている薬 カルシウム拮抗薬は、末梢の血管を拡張させることで血圧を下げる作用の薬です。副作用が少ないため、現在国内で最も多く処方されている降圧薬です。 高血圧の治療を開始する場合、このカルシウム拮抗薬が第一選択として選ばれることが多い傾向にあります。 副作用としては、以下のような血圧の下がりすぎによる症状があげられます。 ・めまい感 ・動悸 ・頭痛 ・ほてり感 ・顔面紅潮 ・むくみ ・歯茎の肥厚 など ②アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):2番目に多く使われている薬 アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、カルシウム拮抗薬に次いで多く使用されている降圧薬です。アンジオテンシンⅡ受容体は血管等に分布しており、アンジオテンシンという物質が結合して強力な血管収縮作用を持ちます。 ARBによってアンジオテンシンの結合を防ぎ、血管収縮作用を抑えて血圧の低下につながります。 この薬も副作用が少なく使用しやすい薬の一つです。治療の第一選択として使用することもあり、カルシウム拮抗薬でも十分に降圧が得られない場合に併用するケースも少なくありません。 注意すべき副作用として、内服中に血中のカリウムが上昇する可能性がある点です。 腎臓の機能が悪い方が服用する場合、定期的に腎機能やカリウム濃度等をチェックする必要があります。また、妊婦の方や授乳中の方の服用は、赤ちゃんへの悪影響があるため禁忌です。 高血圧と腎臓機能との関係性について、以下の記事でも詳しく解説していますので、興味がある方はこちらもご覧ください。 ③アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とは、ARBと似た名前のとおり、アンジオテンシン系に作用する薬です。 ARBは、アンジオテンシンⅡが結合する受容体に作用する薬です。一方でACE阻害薬はアンジオテンシンⅡ自体の産生を阻害し、血管収縮作用を抑えて血圧を低下させます。 ACE阻害薬の副作用として有名なのが、「空咳(からぜき)」です。これはブラジキニンという物質の増強作用によるもので、とくに日本人を含むアジア人に多いとされています。 この副作用を利用して、咳を誘発させることで誤嚥性肺炎を予防する目的で使用する場合もあります。 ACE阻害薬もARBと同様に、妊婦の方や授乳中の方の服用は禁忌です。 ④利尿薬 利尿薬は、塩分(ナトリウム)を含めた水分を尿として体外に排泄し、血液量を減少させて血圧を下げる薬です。血圧の話でよく「塩分の摂りすぎに注意」と聞きますが、日本人の塩分摂取量は欧米人と比較しても多いことがわかっています。 具体的に欧米人の1日の塩分摂取量は8〜9g程度なのに対し、日本人は1日10g程度とされています。塩分を取りすぎると、浸透圧によって水分が血管の中に引き込まれ、血液量が増加して血圧上昇につながるのです。 利尿薬は、高血圧だけでなく心臓の機能が悪くむくみがある方や、これまで説明した薬の効果が不十分な場合などに併用することがあります。 利尿薬は体内の水分を排泄させる作用があるため、副作用として電解質の異常をきたすことがあります。具体的には低ナトリウム血症や低カリウム血症などがあり、症状としては以下のとおりです。 ・ぼんやり感 ・倦怠感 ・手足の力の入りにくさ など 高尿酸血症や高中性脂肪血症など、代謝系への影響にも注意が必要です。そのほかにも、トイレに行く回数や量が増える点も副作用の1つです。 ⑤β(ベータ)遮断薬 心臓の筋肉に分布する「β受容体」を遮断させて心拍数を減少させたり、心臓の収縮力を抑制したりする作用のある薬です。β(ベータ)遮断薬は、高血圧治療の第一選択になることはあまりありません。 しかし、心筋梗塞の発症後の高血圧症や、交感神経が亢進した状態の病気(状腺機能亢進症など)に合併する高血圧症に対して積極的に使用されます。交感神経の作用で脈が速くなっている場合にも有効で、これまで紹介した降圧薬と併用して使うケースも多い薬です。 気管支喘息などの呼吸器疾患を持っており、吸入を行っている方が使用する場合、作用が変化して症状の悪化を招く危険性があり注意が必要です。 また、薬を急に中断すると狭心症や高血圧発作が起こる危険性があります。β(ベータ)遮断薬を中止する場合は、徐々に減量する必要があります。 ⑥α(アルファ)遮断薬 末梢血管に分布するα1受容体を阻害して交感神経の働きを抑え、血管を拡張させて血圧を下げる作用がある薬です。 交感神経が活性化しやすい早朝に血圧が上昇するタイプの方の場合、寝る前にα遮断薬を飲むことで朝の血圧低下が期待できます。また、褐色細胞腫による高血圧症のコントロールにも使用される薬です。 α遮断薬は自律神経に働きかける薬のため、交感神経の作用を抑えることで以下のような副作用が起こる可能性があります。 ・起立性低血圧 ・めまい ・失神 α遮断薬を服用する場合は少量から開始し、副作用に注意しながら徐々に増やしましょう。 ⑦ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬) ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬)は、体内で産生されるアルドステロンというホルモンの働きを阻害する作用の薬です。 本来アルドステロンは、腎臓に作用して水を体内に吸収させて血液量を増やす働きがあります。これが阻害されると体内に水分が再吸収されなくなり、血液量が減って血圧が低下しやすくなります。 また、心臓保護効果が期待できるため、心不全を合併している方の高血圧症に使用するケースも少なくありません。 MRI拮抗薬は体液バランスを調節する薬のため、電解質異常をきたす可能性があり、高カリウム血症に注意が必要です。とくに糖尿病性腎症や、中等度異常の腎機能障害がある方への使用は禁忌です。 降圧薬の配合剤について 降圧薬の配合材は、これまで紹介した作用機序の異なる種類の薬を組み合わせた治療薬です。 配合薬によって飲む薬の数が減り、飲みやすくなることが最大のメリットといえます。薬が増えるのが嫌な方や、薬が多くて内服が大変な方におすすめです。 現在国内で処方可能な降圧薬の配合剤は、大きく分けて3種類です。 降圧薬の配合剤 詳細 カルシウム拮抗薬+ARB ・ザクラス ・アイミクス ・ミカムロ ・レザルタス ・エックスフォージ など ARB+利尿薬 ・イルトラ ・エカード ・プレミネント ・ミコンビ など カルシウム拮抗薬+ARB+利尿薬 ミカトリオ 配合薬を使用する際は、それぞれの降圧薬の副作用に注意してください。配合薬の場合、名前だけでどの薬が配合されているかがわかりにくいため、注意が必要です。 高血圧の薬(降圧薬)を服用する際の注意点 降圧薬を服用する際は、以下の点に注意しましょう。 ・グレープフルーツなどの柑橘類を避ける ・自己判断で薬を飲むことをやめる ・飲み忘れたときの対応を適切にする ここでは、それぞれの注意点を詳しく解説します。 グレープフルーツなどの柑橘類を避ける まず、降圧薬を服用した際は、グレープフルーツを含んだ柑橘類の摂取は避けてください。グレープフルーツには、フラノクマリン類という成分が含まれています。 この成分には、体内で薬物を分解する酵素の働きを阻害する作用があるとされています。酵素の働きが阻害されることで薬の効果がうまく働かず、かえって副作用のリスクを高める恐れがあるのです。 これは降圧薬だけでなく、コレステロール低下薬や抗不安薬など、さまざまな薬に対して影響があります。薬を服用する際は、柑橘類は意識的に避けましょう。 降圧薬と柑橘類の関係性についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。 自己判断で薬を飲むことをやめる 自己判断で薬を飲むことをやめないでください。一時的に血圧が落ち着くことで、「もう大丈夫だろう」と薬をやめる方もいるでしょう。 しかし、途中で薬の服用をやめると、再び高血圧の状態に戻る可能性が高くなります。薬の減量・中止は自己判断で行わず、必ず医師と相談することが重要です。 また、薬を一生飲み続けないといけないのか心配になる方もいるでしょう。血圧を下げるには薬の服用が重要ですが、中には生活習慣が改善したことで徐々に減量し、降圧薬をやめられた方もいます。そのため、治療が順調であれば、薬を中止できる可能性は十分にあります。 飲み忘れたときの対応を適切にする 降圧薬を飲み忘れたときの対応は、薬の種類によって異なります。そのため、自己判断で飲むことは避け、事前に医師や薬剤師に相談しましょう。 飲み忘れた場合、時間をずらして服用するケースが多いですが、1度に2回分を服用するのは必ず避けましょう。 1度にたくさんの薬を服用すると、効果が効きにくくなったり、副作用が出やすくなったりする恐れがあります。 高血圧の薬(降圧薬)以外に血圧を下げる方法 食事や運動など、生活習慣の見直しをすることで、高血圧の予防や改善が期待できます。降圧薬以外で血圧を下げる方法としては、以下のとおりです。 ・食事の改善 ・運動習慣の改善 ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。 高血圧を改善するための生活習慣(食事・運動)の工夫について、以下の記事でも詳しく解説していますので、興味がある方はご覧ください。 食事の改善 食事の際は、塩分や脂肪などが多く含まれている食べ物の食べすぎは控えましょう。 とくに日本人は、高血圧の原因となりやすい塩分の摂取量が多い傾向にあるとされています。高血圧の方の場合、食塩の摂取量は6g/日未満が推奨されています。 減塩をするための工夫としては、以下のとおりです。 ・香味野菜や香辛料を活用する ・外食や加工品を控える ・食べすぎを控える ・麺類のスープは飲まない また、お酒の飲みすぎも血圧を高める原因の1つです。1日あたりのアルコール摂取量の目安は、男性で20〜30ml、女性で10〜20mlとされています。 アルコール20〜30mlは、お酒で換算すると日本酒1合、ビール中瓶1本に相当します。普段からお酒を飲む方は、この目安を守りましょう。 運動習慣の改善 食生活だけでなく、運動習慣の改善もおすすめです。高血圧を改善するための運動には、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が推奨されています。 運動時は、ややきついと感じる程度の強度でかまいません。激しい運動をすると、かえって血圧が高まる恐れがあるので、軽めの強度を心がけましょう。 運動時間は毎日30分以上、週180分以上が目安です。ただし、いきなり長時間の運動をはじめると体への負担が強くなるので、最初は無理のない範囲で進めてください。 運動の時間をうまくとれない場合は、以下のような工夫をして、普段の生活内での活動量を増やしてみましょう。 ・エレベーターではなく階段を使う ・近い場所は車ではなく歩き・自転車で移動する ・定期的に立って座りっぱなしを防ぐ まとめ|高血圧の薬(降圧薬)は医師と相談しながら正しく服用しよう この記事では、たくさんある降圧薬の作用や特徴について解説しました。高血圧の治療をするためには、降圧薬を正しく継続的に服用することが大切です。 高血圧の治療が順調であれば、降圧薬を途中でやめることもできるでしょう。 また、決して自己判断で薬の服用をやめたり、飲み忘れの際に誤った対応をしたりしないように注意してください。薬の服用の際にわからない点がある場合は、必ず主治医に確認しましょう。 参考文献 American Heart Association News2022.5.23 高血圧治療ガイドライン2019
公開日:2024.11.06 -
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高血圧の落とし穴!慢性腎臓病と生活習慣病の関係を内科医が解説 みなさんは「高血圧」と聞くとどのような印象を持ちますか? 生活習慣病の1つであり、放っておくと血管がボロボロになる、脳卒中や心筋梗塞といった怖い病気を引き起こすということは多くの方がご存じかもしれません。しかし、実は高血圧が腎臓にダメージを与え、じわじわと体を蝕んでいくということは案外知られていません。 健診で「血圧が高いですね」と言われたことがある方、「血圧なんて薬飲めばすぐ下がるだろう」と放置したままの方、いつのまにか腎臓の機能が取り返しのつかないところまで低下しているかもしれません。 今回は身近な病気である高血圧が腎臓にどのような影響を及ぼすのかをご紹介し、明日からの健康な暮らしに役立てていただきたいと思います。 高血圧とは 高血圧とは、一般的に「最高血圧が140mmHg以上もしくは最低血圧が90mmHg以上、またはその両方」である状態を指します。 血圧は変動しやすいため一時的にこの値を上回ることは良くあり、その場合は問題とはなりません。長期間にわたり基準値を超えたままですと、徐々に体への悪影響が出てきます。具体的には、動脈の硬化が進行し、脳卒中や心臓の病気(心筋梗塞)といった重篤な疾患を引き起こします。 高血圧の原因 血圧が上がる主な原因は喫煙や飲酒、肥満、高塩分食の摂取といった生活習慣に関わるものが大半を占めます。 高血圧の治療 高血圧の治療は、日本高血圧学会により作成された「高血圧治療ガイドライン 2019年版(参照)」に基づいて行われています。このガイドラインでは、治療でどのくらいの血圧を維持すべきなのかという降圧目標が定められており「最高血圧130mmHg/最低血圧80mmHg未満」と先ほど示した数値より低い値が目標となっています。 腎臓の働きと慢性腎臓病 腎臓は、体内の水分量を適切な状態に保ち、余計な塩分や水分を尿として体の外へ排出するという役割を担っています。ところがこの尿をつくる機能が徐々に障害されてしまう病気があり、これを慢性腎臓病(CKD)いいます。 具体的には、糸球体濾過量(glomerular filtration rate: GFR)という数値が60mL/min/1.73 m2未満に低下した状態が、3か月持続している方を指します。健康な方の糸球体濾過量は100mL/min/1.73 m2程度ですので、慢性腎臓病の方では正常の60%程度しかないことになります。 日本腎臓学会が作成した「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018(参照)」では国内に1330万人の慢性腎臓病患者が存在すると推定されており、どなたでもなる可能性があります。 高血圧と慢性腎臓病の関係 高血圧がどのようにして腎臓にダメージを与え、そして慢性腎臓病を引き起こすのでしょうか。 血圧が高くなると腎臓では塩分と水分をどんどん排泄しようとして尿がたくさん作られます。しかし、高血圧の状態が持続すると腎臓の負担が増え、作ることができる尿量が徐々に減っていきます。これが腎機能低下と呼ばれる状態で、慢性腎臓病の初期段階です。 その結果、体内の血液中には不要な塩分と水分が残り、さらに血圧が上昇するという悪循環に陥ってしまいます。この「腎臓がダメージを受けることで血圧が上がり、さらに腎臓の機能を低下させる」というサイクルを繰り返し、慢性腎臓病が進行します。 慢性腎臓病の原因 慢性腎臓病の原因には様々なものがありますが、特に高血圧や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病と深く関係しています。また、加齢による腎機能低下も大きな原因の1つです。 ・高血圧 ・脂質異常症 ・糖尿病 ・加齢 慢性腎臓病の症状 慢性腎臓病の初期には自覚症状がないことが多いですが、進行すると息切れや倦怠感、むくみといった症状が現れます。 ・息切れ ・倦怠感 ・むくみ このような症状がみられた場合、自分の腎臓が正常に機能していない状態であるため治療が必要になります。 慢性腎臓病の治療 ここでとても大切なことをお伝えします。残念ながら慢性腎臓病で徐々に低下してしまった腎機能を完全に元に戻す治療法はありません。慢性腎臓病と診断された場合に行う治療には大きく分けて、進行を抑える治療、そして悪化した腎機能を人工的に維持する治療の二つになります。 ①投薬治療 まず、進行を抑える治療ですが、こちらは慢性腎臓病の原因となった生活習慣病に対する投薬治療になります。具体的には、高血圧をお持ちの方であれば降圧薬という薬を内服することが一般的です。 ②腎代替療法 次に、腎機能を人工的に維持する治療ですが、こちらは腎代替療法(血液透析や腹膜透析など)と呼ばれる治療になります。先ほど紹介したような息切れや倦怠感、むくみといった症状を伴う場合にこのような治療が必要になる可能性があります。 慢性腎臓病を予防するには? 慢性腎臓病と診断された場合、低下している腎機能を元の健康な状態に戻すことはほぼ不可能ですので、そもそも慢性腎臓病にならないようにすることが大切になります。 食生活を見直す 慢性腎臓病にはさまざまな原因がありますが、そのなかでも高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は重要な原因とされています。これらの疾患を予防するために最も大切なことは、バランスの取れた食生活を送ることです。 日々の食事では炭水化物、タンパク質、脂質といった三大栄養素が大部分を占めており、現代の日本人は特に、炭水化物や脂質を摂りすぎる傾向にあります。このような食生活を続けてしまうと肥満になり、やがて糖尿病や脂質異常症を発症する恐れがあります。摂取する炭水化物や脂質の割合を減らしつつ、タンパク質をしっかり摂ることを意識しましょう。 さらに、高血圧を防ぐためには、塩分を控えた食事も大切です。高血圧や慢性腎臓病を予防するための適切な塩分量は1日当たり6g未満とされています。 ところが、日本人が1日に摂取している塩分量の平均値は「令和元年 国民健康・栄養調査の概要(参照)」によると、男性が10.9g、女性が9.3gであり、目標値を大きく上回っています。平均すると1日当たり3.3gの減塩が必要となります。 血圧計測でコントロール また、血圧については家庭用の血圧計などを用いることで簡単にチェックすることができるため、日ごろから計測することをおすすめします。日々血圧を意識しつつ、生活習慣の改善だけで下がりきらない場合には内科のある病院を受診し、降圧薬を服用しながら適切な値にコントロールする必要があります。 健康診断を受ける 慢性腎臓病を早期に発見するためには定期的に健康診断を受けることが大切です。 慢性腎臓病の初期段階では、腎機能の低下を生じていても自覚症状がみられない場合がほとんどです。そのため、早期発見のためには健康診断の血液検査で血清クレアチニン値や血中尿素窒素など、腎臓の機能に関わる項目をチェックしましょう。 これらの項目が異常と判定された場合には慢性腎臓病の可能性がありますので、早めに内科を受診し、早期の検査をおすすめします。 まとめ・慢性腎臓病を防ぐために、予防と早期診断が大切! 高血圧の状態が長く続くと徐々に腎臓の機能が下がり慢性腎臓病を発症してしまいますが、早期に発見され適切な治療を行うことで進行を防ぐことができます。まずは高血圧にならないこと、そして健康診断などで腎機能低下を早期に発見し、適切な治療を行うことが大切になります。 ぜひとも健康な生活習慣を心がけ、腎機能低下がみられた際には早期の内科受診をお願いします。 参考文献 エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2018 令和元年 国民健康・栄養調査の概要 高血圧治療ガイドライン 2019年版 ▼こちらもあわせてお読みください。 ▼茗荷谷地域にお住まいの方は「みらいメディカルクリニック」様へのご相談もおすすめです。
公開日:2024.10.07 -
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高血圧の治療において薬は中心的な役割を果たしています。 しかし、その効果は摂取する食品や飲み物によって大きく左右されることがあります。 特に、グレープフルーツが薬の代謝に影響を与えることは広く知られていますが、他にも多くの食品が薬の効果に影響を及ぼす可能性があります。その中でも、今回は高血圧の薬との飲み合わせに注意したい『柑橘類』について、またその訳についても解説していきます。 グレープフルーツと降圧薬を一緒にとってはいけない理由 グレープフルーツと一部の薬を一緒に摂取することは避けるべきとされています。 以下では、グレープフルーツの成分と高血圧の薬剤との相互作用のメカニズム、影響を受ける薬剤のタイプを交えながら解説します。 相互作用の科学的背景 グレープフルーツ及びグレープフルーツジュースに含まれる特定の化学成分(主にフラノクマリン類)が、人体内で薬物を分解する酵素(特にCYP3A4というシトクロムP450酵素)の働きを阻害します。 この酵素は、薬物をより無害な形に分解し、体外へ排出するために重要です。グレープフルーツによるこの酵素の阻害は、薬物の体内での濃度を予期せず増加させることがあり、副作用のリスクを高めることがあります。 グレープフルーツで影響を受ける薬剤 グレープフルーツが影響を及ぼす薬剤には、以下のようなものがあります。 ・高血圧治療薬(例:カルシウムチャネル拮抗薬 フェロジピン) ・コレステロール低下薬(例:スタチン類) ・抗不安薬 ・免疫抑制剤 ・抗アレルギー薬 これらの薬剤は、CYP3A4酵素によって代謝されるため、グレープフルーツやグレープフルーツジュースとの同時摂取は特に注意が必要です。 注意点 グレープフルーツと一部の薬物との間には重要な相互作用が存在します。これは、薬の効果を不当に強化し、副作用のリスクを増大させるため、注意が必要です。健康を守るためにも、薬を服用している場合は、グレープフルーツジュースの摂取に関して医師や薬剤師と相談することが大切です。 グレープフルーツ以外にも注意すべき柑橘類 グレープフルーツ以外にも、高血圧治療薬と相互作用を起こしやすい柑橘類があります。 フラノクマリン類を含む柑橘類は、特定の薬剤、特に高血圧治療に用いられる拮抗薬との相互作用により、その薬剤の血中濃度を意図しないほど高めることが報告されています。 さまざまな柑橘類に含まれるフラノクマリン類の量を調べた研究の結果が以下にあります。 (下表参照) この表での「DHB換算量」とは、簡単にいうと「フラノクマリン類の量がどれくらいか」ということになります。 引用) 酵素免疫測定法による食物・生薬中のフラノクマリン類含量のスクリーニング.医療薬学.2006;32(7):693-699. p696 果汁と果皮でのフラノクマリン類含有量は異なります。 果汁の場合 果汁ではスウィーティー、メロゴールド、バンペイユおよびレッドポメロがグレープフルーツと同程度の結果でした。 そして、フラノクマリンなどの量が増えるとCYP3A4の活性が阻害(働きが妨げられること)される強さの度合いはほぼ比例すると報告されています。 そのため、スウィーティー、メロゴールド、バンペイユおよびレッドポメロはグレープフルーツと同様に、フラノクマリン類による相互作用に注意が必要であると考えられます。ダイダイ、ブンタン(ザボン)についてはやや少ないですが、これらも注意が必要です。 なお、スウィーティーとレッドポメロはすでに生物の体内でもグレープフルーツと同様にCYP3A4の働きを妨げることが報告されていますが、メロゴールドについてはまだ報告されていないとされています。 果皮の場合 また、果皮についてはメロゴールドとスウィーティー、甘夏みかんおよびサワーポメロがグレープフルーツに近い結果でした。さらに、フラノクマリン類は、ほとんどの柑橘類で、果汁よりも果皮の方に数十倍から数千倍多く含まれていることがわかりました。 相互作用の心配が少ない柑橘類 一方で、レモンや日向夏、ネーブルオレンジ、スウィートオレンジ、温州みかん、ポンカン、イヨカン、デコポン、ゆず、カボス、すだち、キンカン、バレンシアオレンジといった柑橘類については、少なくとも果汁にフラノクマリンはほぼ含まれていない(N.D.:未検出)ので、CYP3A4との相互作用の心配は少ないのではないかと考えられます。 しかし前述したように、フラノクマリン類は、ほとんどの柑橘類で果汁よりも果皮の方に数十倍から数千倍多く含まれていることがわかっています。果汁については心配の少ない柑橘類でも、果皮については、注意が必要です。 柑橘類と降圧薬の相互作用 血圧を下げる作用を持つ薬剤(降圧薬)の一群として、『カルシウムチャネル拮抗薬』という種類の薬があります。 なお、その他の降圧薬としては、アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARBs)や、α遮断薬、β遮断薬、利尿薬などがあります。 ・カルシウムチャネル拮抗薬 ・アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARBs) ・α遮断薬 ・β遮断薬 ・利尿薬 カルシウムチャネル拮抗薬は、血管を拡張させることで血圧を下げる働きをします。 しかし、グレープフルーツなどに含まれるフラノクマリン類との相互作用により、これら薬剤の効果が強まり、低血圧やめまい、倦怠感などの副作用を引き起こすリスクが高まる可能性があります。 グレープフルーツとカルシウム拮抗薬の関係 例として、グレープフルーツにより相互作用を受ける主な薬物についてご紹介します。 ・カルシウム拮抗薬(フェロジピン) →高齢者で収縮期血圧、拡張期血圧が低下、心拍数がわずかに上昇 ・カルシウム拮抗薬(二ソルジピン) →収縮期血圧、拡張期血圧が低下、頭痛 柑橘類をとる際の注意点 先ほど述べたように、柑橘類の果汁よりも「果皮」にフラノクマリンが多く含まれていることが分かっています。そのため、果皮の果物漬けや、マーマレードなどの加工食品を食べる際には、十分な注意が必要になると考えられます。 ただし、グレープフルーツ由来のフラノクマリンなどの成分は小腸のCYP3A4に数日間影響を与えます。 そのため、降圧薬を飲む場合には、グレープフルーツジュースで薬を飲むことを避けるだけでは不十分と考えられます。日常生活の中で、グレープフルーツジュースだけでなく、果汁やサワー、マーマレードなどの加工食品を摂取するのは避けた方が良いでしょう。 ミックスフルーツジュースを飲む際も、グレープフルーツが含まれているかどうかを確認する必要があります。 レモンやオレンジ、みかんは問題ないでしょう。 それでもグレープフルーツジュースが飲みたいとき ここまで述べてきたように、CYP3A4で代謝される薬物と、グレープフルーツが相互作用を起こします。ただし、もともとCYP3A4による薬の代謝能ならびにグレープフルーツの影響にはかなりの個人差があるということがわかっています。 そのため、グレープフルーツと薬物との相互作用がほぼ認められない人もいますし、かなり影響が出る人もいます。 そのため、薬とグレープフルーツジュースの飲み合わせについては、専門家と相談し、ご自身の健康をよく観察しながら対応することが大切だと考えられます。 代替となる安全な飲み物や食品 グレープフルーツや特定の柑橘類が持つ特定の薬剤との相互作用は、高血圧治療薬を含むさまざまな薬の効果に影響を及ぼす可能性があります。 しかし、柑橘類にはビタミンCをはじめとする、健康的な食生活にとって大切な食品であるという側面もあります。 そこで、柑橘類のように高血圧の薬との相互作用を避けるため、他のビタミンCが豊富な食品への代替が推奨されます。 ビタミンCは抗酸化作用を持ち、免疫機能のサポートやコラーゲンの生成に必要な栄養素です。 おすすめの代替食品 キウイ:キウイはビタミンCが豊富であり、1個のキウイで1日のビタミンC推奨量のほぼ100%を提供します。また、抗酸化物質、食物繊維、ビタミンKも豊富に含まれています。 赤ピーマン: 野菜の中でも特にビタミンCが豊富で、グレープフルーツや柑橘類を避ける必要がある人にとって優れた選択肢です。サラダや料理の彩りも良くしてくれ、栄養も豊富なためおすすめです。 医師と薬剤師からのアドバイスを参考に判断しよう 薬剤師や医師は、高血圧薬との飲み合わせに関する専門的な知識を持っています。 薬を服用中の患者は、新しい食品やサプリメントを摂取する前に必ず医療の専門家に相談しましょう。 例えば、主治医である血圧の診療に長けている医師や、治療薬に精通した薬剤師などは、自分の状況に合ったアドバイスをくれるでしょう。 高血圧の治療中に、自己判断で、新しいサプリメントなどを飲み始めることはあまり勧められません。 摂取すべきでない食品や飲み物、サプリメントを避けることで、高血圧の治療効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小化できるでしょう。 まとめ・グレープフルーツ以外にも柑橘類には要注意 今回の記事では、グレープフルーツやそれ以外の柑橘類と高血圧治療薬の相互作用について解説しました。 薬との飲み合わせが気になるけど、それでも柑橘が食べたいという時があると思います。上記のように、グレープフルーツ以外にも相互作用を起こしやすい柑橘類もありますが、その心配の少ない柑橘類もあります。しかし、フラノクマリン類は、ほとんどの柑橘類で果汁よりも果皮の方に数十倍から数千倍多く含まれていることがわかっています。果汁については心配の少ない柑橘類でも、果皮については、注意が必要です。柑橘類を選ぶ際には、この記事の内容をご参考にしていただければ幸いです。 こうした知識は、安全な医薬品の使用と健康管理のためにとても重要です。 日々の生活の中で、この情報を念頭に置き、安全に食品と薬を併用できるようにしましょう。 この記事を通じて、高血圧治療薬を服用中の方々が、より安全に、効果的に治療を続けられるよう、日々の食生活における注意点について理解を深めることができれば幸いです。 参考文献 Bailey, D. G., Malcolm, J., Arnold, O., & Spence, J. D. (1998). Grapefruit juice-drug interactions. British Journal of Clinical Pharmacology, 46(2), 101-110. 酵素免疫測定法による食物・生薬中のフラノクマリン類含量のスクリーニング.医療薬学.2006;32(7):693-699. p696 3.高血圧 | 薬事情報センター | 一般社団法人 愛知県薬剤師会 グレープフルーツと薬物の相互作用 - 「 健康食品 」の安全性・有効性情報 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 健康豆知識(果物ジュースと薬の飲み合わせ)公益社団法人日本薬学会 Chambial S, Dwivedi S, Shukla KK, John PJ, Sharma P. Vitamin C in disease prevention and cure: an overview. Indian J Clin Biochem. 2013 Oct;28(4):314-28. ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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高血圧の原因に女性ホルモンの影響が?更年期高血圧と対策 高血圧は生活習慣病の一つとして広く知られています。 しかし、高血圧の裏に別の病気が隠れていることも少なくありません。 思い当たる節がないのになぜか血圧が高いと思ったことは?その高血圧は、更年期によるものかもしれません。 40〜50代の女性が注意すべき更年期高血圧! 更年期は、女性ならば誰しもが通る道です。そして、更年期の変化によって生じる高血圧を『更年期高血圧』と呼びます。 これまで健康診断に引っかかることもなかったのに急に血圧が上がったり、生活習慣には気をつけているのに血圧を測ったら高かった、などということがあれば要注意!高血圧を放置しておくと、心臓病や脳血管障害に繋がることも。だからこそ、病態を理解し、きちんと対策を行うことが大切なのです。 女性ホルモンの減少によって生じる更年期障害 更年期とは、閉経前後それぞれ5年間を合わせた10年間を指します。日本人の平均閉経年齢は50歳とされていますが、早い人では40代前半、遅い人では60歳手前で迎えることもあります。 女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンの2種類があります。更年期になると卵巣機能が低下し、それに伴い女性ホルモンも減少します。このうちエストロゲンの減少が、更年期障害の発症に大きく関わっていると考えられています。ホルモンバランスを保てなくなったことに対して、脳がそれを補おうと必死に身体に様々な命令を送り、それが更年期症状として現れてしまうのです。 加えて、加齢による身体的影響、性格などの心理的影響、そして家庭や仕事によるストレスが複雑に絡み合い、個々の症状に現れてきます。症状が軽度で済む人もいれば、日常生活に支障が出るくらい重い症状を呈する人もいます。軽度の場合は更年期症状、症状が重くなると更年期障害となります。 多岐にわたる更年期症状ですが、高血圧以外には以下のようなものが挙げられます。 ・血管運動に関わる症状(ほてり、のぼせ、発汗、動悸、息切れ、むくみなど) ・精神症状(頭痛、不眠、不安感、イライラ、抑うつ、無気力など) ・消化器症状(便秘、下痢、胃の不快感、胸焼け、吐き気など) ・皮膚症状(かゆみ、湿疹など) ・運動器に関わる症状(肩こり、腰痛、背中の痛み、関節痛など) ・そのほか(疲労感、排尿トラブル、不正出血など) それでは、どうして更年期になると血圧まで影響を受けてしまうのでしょうか? 更年期障害と高血圧の関係性 日常生活の中で、例えば運動中は血圧は上がり、運動後リラックスしている時は血圧が下がります。このように血圧の変動がある中でも、私たちの身体は常に一定の血圧を保持できるよう機能しており、高くなりすぎず、低くなりすぎないように調整されているのです。エストロゲンは、その調整因子の一つであり、血管を広げて血圧を下げる働きをします。よって、このエストロゲンが減少すると、血圧は下がりにくくなってしまうのです。 さらにもう一つ、自律神経の乱れも更年期高血圧に大きく関わる因子です。 自律神経には、交感神経と副交感神経があります。活発な時や緊張状態の時には交感神経が優位となり、血管が収縮して血圧が上昇します。逆に休んでいる時や就寝中は副交感神経が優位となり、血管は拡張して血圧が下がります。このように血圧調整にとても大切な自律神経ですが、女性ホルモン低下に追いつけないことでパニックになった脳は、様々な命令を身体に送る中で、自律神経も乱してしまうのです。自律神経の乱れは血圧変動のみならず、上記に述べたような精神症状や身体症状の原因にもなっています。 このようにエストロゲンの減少と自律神経の乱れは、本来私たちに備わっている血圧調整の歯車を狂わせ、結果的に更年期高血圧を引き起こすのです。 更年期高血圧の特徴とは? 更年期高血圧の特徴は、大きく2つあります。 特徴①40〜50代の女性に生じる まず一つ目の特徴として、更年期に生じる高血圧のため、40〜50代の女性にみられます。 それゆえ、更年期を過ぎると血圧も正常化する人もいます。しかし、加齢とともに血管の老化や自律神経の働きが低下し、更年期高血圧以降もそのまま高血圧に転じてしまう人も多くみられます。 特徴②血圧が不安定になり上がりやすくなる 二つ目の特徴は、血圧が不安定になることです。 不安やイライラなどの精神的な要素も加味され、ちょっとしたことで血圧が上がりやすくなっています。 更年期高血圧に!今日から自分でできる対策 今日からご自身で始められる、更年期高血圧の対策をいくつかご紹介いたします。 血圧の管理 まずは血圧の測定を定期的に行い、その血圧上昇が一時的なものなのか、あるいは血圧が高い状態がずっと続いているのか、そしてどのような時に高くなるのか確かめることが大切です。 ①血圧上昇が一時的なものなのか ②血圧が高い状態がずっと続いているのか ③どのような時に高くなるのか 外出時は精神的・身体的・環境的因子が血圧に影響することも多いため、自宅での血圧測定を推奨します。 定期測定は起床時と就寝前の2回、そしてめまいや動悸など、上記の更年期症状が出た際にも血圧を測定し、血圧の推移とともにどのような状況で血圧が上がったのかを書き留めておくと良いでしょう。自分の状況を把握するだけでなく、医師からの診察の際にも役立ちます。 生活習慣の見直し 次に、生活習慣の見直しも行いましょう。 冒頭で述べたとおり、塩分過多は高血圧の原因として最も多いとされています。また、肥満は動脈硬化を起こし、結果的に高血圧を生じさせます。 近年は特に、インスタント・冷凍食品の改良化や食事のデリバリー事業などが進み、便利な時代となりました。しかし、既製品や外食は塩分量とカロリーが高くなる傾向にあります。減塩調味料の使用や野菜多めの食事を心がけるようにしましょう。 運動習慣を取り入れる 仕事や家事に追われて、なかなか運動の時間をとるのが難しい方もいらっしゃいます。 1日の中で、少し早起きしてウォーキングをしてみる、パソコンで10分のエクササイズ動画を真似してみる、休日にスポーツセンターに行ってみる、一駅分歩いてみる、など小さなことで構いません。 ・ウォーキング ・10分簡易エクササイズ ・休日にスポーツセンターに行く ・一駅分歩いてみる 自分のできる範囲内で何か始めてみましょう。運動するとイライラした気持ちも収まり、身も心もスッキリします。 睡眠時間を十分に取る 睡眠不足は交感神経を刺激し、高血圧を引き起こします。 しかし更年期障害の一つに不眠もあり、夜なかなか寝付けない人もいるかと思います。 就寝時間の2時間前までに食事を摂り終える、布団に入ったらスマートフォンはいじらない、夜にカフェインやお酒は控える、リラックス効果のある香りや音楽をつけてみる、などの工夫をおすすめします。 ・就寝時間の2時間前までに食事を摂り終える ・布団に入ったらスマートフォンはいじらない ・夜にカフェインやお酒は控える ・リラックス効果のある香りや音楽をつける ここまでの対策は自身でできることですが、やはり重症化予防の鍵は早期受診となります。 高血圧を適切に治療しなかった場合、心臓や脳の血管に障害を生じ、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がります。こうならないためにも、適切な治療を受けることが必要です。 循環器内科を受診しましょう 更年期症状の改善に関しては婦人科、高血圧の改善に関しては循環器内科が専門となります。今はオンライン診療やオンライン医療相談も広まってきていますので、コロナ以降病院から足が遠のいた方や忙しい人も医師に気軽に相談できます。気になる方はぜひ調べてみてください。 治療法としては、上記に述べたような生活指導の上、高血圧に対しては降圧薬、更年期症状に対しては漢方薬や抗精神薬の処方、そして必要な場合にはホルモン療法なども検討されます。 どの治療法になるかは、患者さん一人一人に合った方法を医師と相談して決めていくこととなります。 まとめ・高血圧の原因に女性ホルモンの影響が?更年期高血圧と対策 更年期高血圧は、更年期の身体の変化に伴って生じるものです。 更年期を過ぎると血圧が元に戻ることもありますが、多くの場合は加齢の変化と相まって高血圧のままとなります。命を脅かす病気に発展しないよう、血圧のコントロールを行うことが大切です。 毎日の生活習慣を改善し、早期に病院を受診しましょう。このコラムがご参考なれば幸いです。 参考文献 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019. ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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高血圧の予防と改善!高い血圧を下げるには食事・運動・薬でコントロール! 高血圧を放置すると、脳卒中・心疾患・腎臓病など命に関わる病気に発展するリスクがあります。 それにもかかわらず、国内で4300万人と推計されている高血圧罹患者のうち、適切に血圧がコントロールされているのはたった3分の1といわれています。残りの3分の2の方はコントロール不良あるいは未治療、その半数は自分が高血圧であることに気づいてすらいないのです。 高血圧は、気がつかない間に重大な病気を引き起こし得るため「サイレントキラー」とも呼ばれています。 血圧を予防・改善するには何をすれば良いのでしょうか。鍵となるのは、食事や運動の見直しと適切な薬の使用です。 本記事では、高血圧の原因や症状、基準値などの基本的な情報とともに、効果的な対策法を分かりやすく解説していきます。 高血圧の原因:何が血圧を上げるのか 高血圧には、原因別に「二次性高血圧」と「本態性高血圧」の2つがあります。 二次性高血圧 二次性高血圧は、特定の病気が原因で血圧が上昇するケースを指します。 その病気を治療することで、高血圧を改善することが期待できます。 本態性高血圧 本態性高血圧は、複合的な原因で起こる高血圧のことです。 原因として、体質や遺伝的な要素に加え、不適切な食事・肥満・運動不足・喫煙などの生活習慣が関係しています。特に日本人は塩分をとりすぎやすく、血圧上昇に大きな影響があります。血圧を下げるためには減塩をはじめとした生活習慣の改善に取り組むことが必要です。 二つの高血圧のうち、圧倒的に多いのは本態性高血圧です。この記事でも主に本態性高血圧について取り上げていきます。 高血圧診断の基本:血圧の基準値とは 高血圧の診断は、診察室と自宅それぞれの血圧測定で行います。 まず、診察室血圧が【収縮期血圧140/拡張期血圧90mmHg以上】であれば自宅で血圧を測定します。 自宅の血圧が135/85mmHgであれば高血圧の確定診断となります。自宅での血圧が測定できない場合は、診察室の血圧だけでも「高血圧」と考えます。 では、基準値より低ければ正常かというと、そうではありません。 「正常血圧」は、診察室で測った血圧が120/80mmHg未満、自宅で測った血圧が115/75mmHg未満の場合を指します。 高血圧でなくても、正常血圧より高いグレーゾーンがあるのです。 病院での測定値で120〜139/80〜89mmHg、家庭血圧で115〜134/75〜84mmHgの場合が、以下のグレーゾーンに該当します。 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019 高血圧の診断を満たさなくとも、血圧が高くなるにつれて脳卒中や心筋梗塞などの「脳心血管の疾患」が起こりやすいのです。また、グレーゾーンの方は生涯のうちに「高血圧」の基準を満たす可能性も高くなります。たとえ診断に至らなくても、血圧が高めの方は対策をとることをおすすめします。 また、自宅での血圧が高血圧に該当しなくても、診察室血圧のみが高血圧の基準を満たす場合は「白衣高血圧」といいます。白衣高血圧の方は高血圧でない方と比べて、将来的に脳心血管の病気を起こすリスクが高く、要注意です。 自宅血圧測定の方法:計測する時間帯や回数 自宅で血圧を測定することは高血圧の診断に重要ですが、それ以上に治療においても重要です。家庭血圧が降圧治療の一番の指標になるからです。 家庭血圧が正常範囲になることが、高血圧対策が有効と判断する重要な材料になるのです。高血圧と診断されたら、家庭血圧を毎日測って把握することが治療の第一歩になります。 では、家庭で血圧を測定するときのポイントをお伝えします。 家庭血圧測定のポイント 1日の中で血圧を測る時間帯は、朝と夜の両方が基本です。 朝は起きてから1時間以内に測ります。朝ごはんを食べる前、薬を飲む前、トイレに行った後が良いです。測定前に水分を取ることは構いません。夜は寝る前に測定しましょう。 血圧測定時は、1〜2分間じっと落ち着いてから行います。測る前に深呼吸をしてリラックスしましょう。急いで測定すると、正確な血圧が出ないことがあります。 血圧は原則的には、都度2回測定します。2回の結果はどちらとも記録しておきましょう。つまり、朝2回、夜2回、計4回測ります。 ・起床後 1時間以内に2回 ・就寝前 2回 2回測った血圧の値は、平均値で判断します。 高血圧の診断や治療の効果を判断するには、5〜7日間の血圧の平均値を用います。そのため、毎回の血圧測定毎に「高かった」「今日は下がっている」と一喜一憂することはあまり意味がありません。 家庭血圧測定で一番大事なことは、継続することです。ご自身の生活スタイルに合わせて測定時間を調整しましょう。 毎日決まった時間に測定することが望ましいですが、難しい場合は担当医師と相談しましょう。 高血圧の自覚症状:頭痛・肩こりとの関係と潜むリスク 高血圧のみでは自覚症状がないことが多いです。人によっては、血圧が高いと軽度の頭痛や肩こりなどの症状が現れることがあります。 一方で、血圧が急激に高くなることによって危険な状態に陥る場合もあります。それが、「高血圧緊急症」です。脳・心臓・腎臓・大きな血管などに障害をきたし、放置すると命に関わります。多くの場合は180/120mmHg以上の高度の血圧上昇により起こるものです。 高血圧緊急症の例として次のような疾患が含まれます。 〈高血圧緊急症の例〉 ・高血圧性脳症 ・脳卒中 ・急性大動脈解離 ・急性心不全 ・急性心筋梗塞 ・急性腎不全 とくに「高血圧性脳症」は耳慣れない言葉かもしれません。これは急激に血圧が上昇することで、脳の血流が必要以上に増加して脳が浮腫む病気です。 そのまま放置すると脳出血や昏睡状態を引き起こし、命を落とす危険性もあります。急激な血圧上昇に加えて悪化する頭痛・吐き気・嘔吐・視力の障害・意識障害・痙攣などの症状は、緊急で受診をする必要があります。 高血圧対策!生活習慣の見直しで予防・改善 高血圧は生活習慣病であり、生活習慣を見直すことは高血圧の予防・改善の第一歩です。 具体的に改善すべき点の例を以下に挙げます。 〈高血圧対策において見直すべき項目〉 ・塩分を控えめにしているか ・食事の内容は野菜・果物・魚などが中心になっているか ・運動習慣があるか ・適正な体重(BMI 25kg/m2未満)を維持できているか ・お酒を飲み過ぎていないか(エタノールで男性20-30mL/日、女性で10-20mL/日以下) ・タバコを吸っていないか このような項目の1つだけを見直したとしても、一気に10mmHgも20mmHgも血圧が下がるものではありません。2つ、3つと可能な限り複数合わせて取り組むことで、大きな効果をもたらす可能性はあります。 降圧薬を飲んでいる状況でも、生活習慣を改善することで薬を減らすことができるかもしれません。それぞれの項目は互いに関連することも多いため、まずはできることから始めましょう。 食事療法で高い血圧を下げるには 食事で血圧を下げるのに重要な見直しポイントは「減塩」と「食事の内容と量」です。また、「飲酒量のコントロール」も大切です。一つずつ解説していきましょう。 減塩について 減塩については、1日に6g未満を目標にします。 厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査によると日本人の1日の塩分摂取量の推定は10.1gとされています。多くの日本人にとって6g未満の塩分量の食事は、非常に薄味に感じるでしょう。 医療機関では尿検査で1日の塩分量の推定をすることができます。あくまで推定値で誤差はありますが、自分がどのくらいの塩分を取っているかを知る一つの目安になるでしょう。気になる方はかかりつけの病院や最寄りの医療機関で相談してみてください。 減塩のポイントは、出汁やスパイス、お酢などを上手に使うことです。また、漬物やハム・ソーセージなどの加工食品には食塩が多く含まれるためなるべく避けましょう。味噌汁やラーメン・うどんなどの汁は飲み干さないようにしましょう。 食事の内容と量 食事の内容としては、野菜・果物・魚を積極的に摂り、肉類など動物性の脂肪は控えめにすることが重要です。 野菜や果物に多く含まれるカリウムは、塩分に含まれるナトリウムを排出させて血圧を下げることがわかっています。ただし、カリウム摂取については腎臓病の方は制限が必要な場合もあります。通院中の方は主治医の指示に従いましょう。 肉や高脂肪の乳製品などに多く含まれる飽和脂肪酸が過多になると、血中のコレステロールが増え動脈硬化が進み血圧が上がります。一方で魚や多くの植物性油脂・ナッツなどに多く含まれる不飽和脂肪酸は悪玉コレステロールを減らし血圧を下げる効果があります。 そして、どんなに体に良い食事でも食べ過ぎは肥満のもとです。肥満は血圧上昇とも関連するため、腹八分目を心がけましょう。 飲酒量のコントロール 飲酒習慣は血圧を高くします。節酒も血圧を下げるのに有効です。高血圧がある方の飲酒量の目安は1日あたりエタノールで男性20-30mL、女性で10-20mL以下です。 〈1日あたりの飲酒量の目安:男性の場合〉 ・日本酒 1合 ・ビール 中瓶1本 ・焼酎 0.5合 ・ウイスキー ダブル(約60mL) ・ワイン 2杯 ※女性はこの半分を目安にしてください。 運動療法で血圧は下がる?有酸素運動のすすめ 運動は血圧を下げるだけでなく、肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の予防や改善にも効果があります。 おすすめは有酸素運動です。ウォーキングやジョギング、エアロビクス、水泳など、ご自身が楽しいと感じるものが継続しやすいでしょう。 「少しきつい」と感じるくらいの運動強度で、1日30分以上行ってください。 毎日続けるのが難しい場合は、まずは週に1回でも運動習慣を作るところから始めてみてはいがかでしょうか。 薬物療法による高血圧のコントロールについて知ろう 高血圧の薬は様々な作用機序で血圧を下げます。代表的なものは以下の通りです。 〈代表的な降圧薬〉 ・ACE阻害薬、ARB:血圧を上昇させるホルモンの作用を阻害する ・カルシウム拮抗薬:血管を拡張させて血圧を下げる ・利尿薬:余分な水分やナトリウムを体外に排出する ・β遮断薬:交感神経を抑制して心収縮を抑えて血圧を下げる 血圧を下げる薬を内服する上で大切なことがあります。それは、血圧が下がっても自己判断で中止しないことです。 どのような降圧薬であっても、効果はあくまで一時的なものです。飲み始めて血圧が下がったからと内服をやめてしまうと、元の高い血圧に戻ってしまいます。ただし、生活習慣を良くしていくことで徐々に減薬・中止をすることができる方もいます。薬の調整は、運動や食事に気をつけながら、家庭血圧の測定結果をもとに医師と相談して決めましょう。 まとめ・高血圧は食事・運動・薬でコントロール! 本記事では高血圧の原因をはじめとした基本情報と、効果的な対策について説明しました。 高血圧の多くを占める本態性高血圧では、塩分のとりすぎをはじめとした生活習慣が大きく関わっています。症状がないからといって高血圧を放置すると、命に関わる病気を起こしかねません。 血圧が気になるのであれば、まずは定期的な血圧測定を行い日々の血圧がどのくらいかを把握するように努めましょう。 高血圧対策の第一歩は生活習慣を改善することです。一気に運動も食事も改善しようとするのが難しければ、できるところから始めてみましょう。薬をすでに処方されている方は、しっかり続けることもお忘れなく。 本コラムが皆様の健康的な生活に少しでも役立ちますと幸いです。 参考文献 厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査報告 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019 ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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高血圧とストレスの深い関係とは?予防法や改善策を解説します! 高血圧は世界中で数多くの人々が罹患している疾患です 。この病気は、しばしば「サイレントキラー」と呼ばれています。 高血圧自体では症状がほとんどないにもかかわらず、心臓病や脳卒中など、命に関わる病気のリスクを高めるからです。高血圧とストレスの関係は、多くの研究で注目されており、これら二つの間には密接なつながりがあることがわかっています。 本記事では、ストレスと高血圧の関係を深く掘り下げ、予防や改善のために役立つポイントを解説していきます。 高血圧とは何か 高血圧は、血液が血管壁にかかる圧力が通常よりも高い状態を指します。この状態が継続すると、心臓や血管に過剰な負担がかかり、心臓病、脳卒中、腎臓病などの重大な健康問題のリスクが高まります。 血圧は「収縮期血圧」と「拡張期血圧」の二つの数値で表されます。 収縮期血圧(上の数値)は、心臓が収縮して血液を体中に送り出す際の圧力です。拡張期血圧(下の数値)は、心臓が次の収縮に備えて血液で満たされる際の圧力です。 通常、成人の正常な血圧は収縮期が120mmHg未満、拡張期が80mmHg未満とされています。一方、高血圧は、収縮期血圧が130mmHg以上または拡張期血圧が80mmHg以上である状態を指します。 引用) 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)作成委員会 p18 血圧は、測定する場所によって以下のように分けられています。 診察室血圧 医療機関で医療従事者が測定する血圧です。 この環境で高い血圧を示す人は、白衣高血圧の可能性があります。 白衣高血圧は、医療機関での血圧測定時にのみ高血圧の値が出る状態を指します。家庭での測定や、24時間血圧モニタリングでは正常範囲内の血圧値を示すにも関わらず、医療機関で測定すると血圧が上昇する現象です。この現象は、医療環境に対する不安や緊張が原因で起こります。 白衣高血圧自体が直接的な健康リスクを示すわけではありませんが、一部の研究では、白衣高血圧の人が将来的に持続的な高血圧(本態性高血圧)を発症するリスクが高まる可能性が指摘されています。 したがって、白衣高血圧の診断を受けた場合でも、定期的な血圧のモニタリングと、必要に応じたライフスタイルの見直しが推奨されます。 家庭血圧 患者自身が自宅で測定する血圧です。 日常生活における血圧の変動をより正確に把握できる方法とされています。 24時間血圧モニタリング(ABPM: Ambulatory Blood Pressure Monitoring) 24時間持続的に血圧を測定する方法で、患者が通常の日常生活を送りながら測定します。 昼夜の血圧の変動や、睡眠中の血圧を含めた全体的な血圧コントロール状態を評価するのに有用です。 高血圧2つのタイプと原因 高血圧には二つの主なタイプがあります。「一次性高血圧」(原因不明の高血圧)と「二次性高血圧」(特定の原因による高血圧)です。 一次性高血圧 ほとんどの高血圧はこのタイプに該当し、明確な原因は特定されていませんが、遺伝、食生活、生活習慣など複数の要因が関連していると考えられています。 二次性高血圧 何らかの病気や状況が原因で血圧が高くなるケースです。腎臓病、内分泌異常、特定の薬剤の使用などが原因で起こります。 高血圧のリスク要因として考えられること 高血圧のリスクを高める要因には、以下のようなものがあります。 ①年齢 加齢とともに血圧は高くなる傾向にあります。 ③性別 年齢によっては、 男性の方が女性より 高血圧になりやすい時期があります。 ③家族歴 高血圧の方が家族に多い場合、遺伝的要因が関係している可能性があります。 ④不健康な生活習慣 不健康な食事(特に塩分の過剰摂取)、運動不足、肥満、過度のアルコール摂取、喫煙などが高血圧のリスクを高めます。 ⑤ストレス ストレスと緊張も高血圧のリスクを高める重要な因子です。 なぜストレスがかかると血圧が上昇するのか? さて、血圧が上がる原因の一つに、ストレスがあると述べました。 ストレスは、私たちの身体に多方面から影響を及ぼします。その影響の一つとして、身体の自律神経系を活性化させることで心拍数と血圧を一時的に上昇させることが知られています。 これは、身体が直面した脅威に対処するための「戦うか逃げるか」の反応として機能し、短期間であれば自然な生理現象とみなされます。しかし、この反応は短期的なものに留まらず、ストレスが慢性化すると、高血圧を引き起こす原因となり得ます。 慢性的なストレスは、心拍数と血圧の持続的な上昇を引き起こし、高血圧につながる恐れがあります。加えて、ストレスが多い環境にいると、健康に良くない食生活や運動不足など、高血圧につながる他のリスク要因が増えがちです 。 不健康な生活習慣は、さらに血圧に悪影響を及ぼし、悪循環を生むことになります。 ストレスは交感神経を刺激し、一時的な心拍数と血圧の上昇を引き起こすだけでなく、長期間にわたるストレスの影響で高血圧症を引き起こす可能性があることが分かります。 そして、慢性的なストレスが不健康な生活習慣へと導くこともあり、さらに血圧に悪影響を及ぼす可能性があるのです。したがって、ストレス管理は血圧コントロールの観点からも非常に重要であると言えます。 高血圧を引き起こす主なストレス源 職場や家庭内でのストレスは、高血圧の主な原因の一つとして広く認識されています。 職場での過剰な負担や、期限の迫ったプロジェクト、職場内での対人関係の問題などが、ストレスレベルを高める主な要因となるのです。これらのストレスは、交感神経系を刺激し、心拍数の増加や血管の狭窄を引き起こし、結果的に血圧を上昇させる可能性があります。 家庭環境も、ストレスの大きな源となり得ます。家族間の不和、経済的な問題、子育てや介護などの責任は、個人のストレスレベルを大幅に高めることがあります。家庭内でのストレスは、しばしば外部には見えにくいため、解決されずに長期化することがあります。 このようなストレス状態が続くと、心身の健康に悪影響を及ぼします。特に血圧に関しては、その数値を大幅に高めるリスクになります。 さらに、職場と家庭の双方からのストレスは、不健康な生活習慣につながってしまうことがあります。過剰なストレスは、不安や抑うつといった精神的な問題を引き起こすことがあり、これが不健康な食事、運動不足、過度のアルコール摂取や喫煙など、高血圧に直結する生活習慣へつながるのです。 したがって、職場や家庭内でのストレス管理は、血圧を健康的なレベルに保つために、 極めて重要です。 血圧測定時にストレスの影響で血圧は変動するのか 病院や自宅で測定した血圧が正常でも、職場や家庭のストレスにさらされている昼間の時間帯の血圧が高くなることがあります。具体的には、135/85mm/Hg以上の場合、昼間高血圧と定義されています。 精神的・身体的なストレスは血圧に影響を与えることが知られています。 健康診断の際や病院での血圧は正常でも、ストレス状況にある職場で測定した血圧が高い「職場高血圧」は、肥満の方や高血圧の方が家族にいる方に多いという特徴があります。 高血圧の治療 -生活指導や薬物療法 - 高血圧治療は、患者のライフスタイルの見直しと薬物療法を組み合わせていきます。 ①ライフスタイルの改善 高血圧治療においては、生活習慣の改善が重要となります。例えば、食生活、運動習慣、禁煙、ストレス管理など、日々の生活習慣を見直していきます。 具体的には、塩分の過剰摂取を避け、果物や野菜を豊富に含むバランスの取れた食事を心がけ、規則正しい運動を行うことが推奨されます。 具体的な食塩摂取量は、「健康日本21(第三次) 」の目標値では7g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。 成人男性・・・7.5g未満 成人女性・・・6.5g未満 また、日本高血圧学会では、高血圧患者における減塩目標を1日6g未満にすることが勧められています。 禁煙や適度なアルコール摂取、良好な睡眠習慣、効果的なストレスマネジメントが血圧管理に役立ちます。 ②薬物療法 生活習慣の改善だけでは血圧がコントロールできない場合、薬物療法が検討されます。 血圧降下薬には、ACE阻害薬、アンギオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)、カルシウムチャネルブロッカー、利尿薬、βブロッカーなどがあります。 患者の状態や既往症などを医師が総合的に判断することによって、こうした薬剤は個別に処方されます。 ストレスによる高血圧の予防法 - 生活習慣の改善 - 上記で述べたように、ストレスは高血圧と深い関係があります。そこで、ストレスに上手く対処することが血圧の上昇を防ぐために重要となります。 ここでは、ストレスへの対処法と改善策を詳しくご紹介します。 規則正しい運動 軽い有酸素運動は、ストレスを軽減し、血圧を低下させるのに役立ちます。週に数回、歩行やジョギング、水泳などを行うことをお勧めします。 バランスの取れた食事 塩分の摂取量を控えめにし、果物、野菜、全粒穀物を豊富に含む食事を心掛けてください。これらは血圧を健康的なレベルに保つのに役立ちます。 十分な睡眠 良質な睡眠はストレスレベルを低下させることができます。毎晩7〜8時間の睡眠を目指しましょう。 禁煙と節度ある飲酒 喫煙と過度の飲酒は血圧に悪影響を及ぼします。これらの習慣を控えることで、血圧の管理に役立ちます。 深呼吸や瞑想 深呼吸や瞑想は、ストレスを感じたときに交感神経の活動を鎮め、リラックス効果を促進します。日常生活にこれらの練習を取り入れることで、ストレスレベルを下げることができます。 趣味や興味の追求 好きな活動や趣味に時間を割くことで、心のリフレッシュが可能となり、ストレス軽減につながります。 社会的サポート 友人や家族との良好な関係は、ストレスの軽減に非常に重要です。信頼できる人と感情を共有することで、ストレスを効果的に管理できます。 ストレスに上手く対処することが、血圧の上昇を防ぐために重要です。日常生活にぜひ取り入れてみましょう。 まとめ・高血圧とストレスの深い関係とは?予防法や改善策を解説! 高血圧とストレスは、現代社会において無視できない健康問題です。しかし、適切なストレス管理、健康的な生活習慣、そして必要に応じて医療機関を受診し、治療を受けることによって、これらのリスクを大幅に軽減することが可能です。 生活の中で意識的にリラックスする時間を作り、バランスの取れた食事と定期的な運動を心がけましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献 高血圧 | e-ヘルスネット(厚生労働省) 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)作成委員会 p18 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)作成委員会 p15 高血圧:診断と治療の進歩 トピックスI.診断と病態 1.本態性高血圧の成因.日本内科学会雑誌.2007;96(1):4-8. 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)作成委員会 p21 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)作成委員会 p22 健康日本21(第三次) 厚生労働省 国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針 p28 ▼こちらもあわせてお読みください。
公開日:2024.10.07 -
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- 関節リウマチ
- 膝部、その他疾患
関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり、痛みや腫れを起こす病気です。 進行すると関節の変形や機能の障害を残してしまいます。 関節リウマチでは膝の痛み、膝の腫れも多い症状です。 膝が痛いとき、変形性膝関節症と考え「年のせいでは?」と悩んでいる方もいるでしょう。 もし関節リウマチだった場合に放置していると、悪化してしまう可能性もあります。 この記事では関節リウマチによる膝関節炎の症状や治療法について解説していきます。 膝の痛みでお困りの方はぜひ参考にしてみてください。 膝の関節炎とリウマチの違い 関節炎とリウマチの違いは、大きく分けると以下の通りです。 関節炎 さまざまな原因で関節に起こる炎症の総称 リウマチ 関節炎を起こしている症状の1つ たとえば関節リウマチでは、自分の体を細菌やウイルスから守る免疫の異常によって関節の滑膜に炎症が起こります。 関節リウマチが起こると痛みや腫れを感じるでしょう。 関節リウマチは無治療のままで放置してしまうと、関節が変形など機能的な障害をきたすので注意しましょう。 以下の記事では関節炎の1つ「化膿性関節炎」について解説しています。 治療法や再発予防もまとめたので、具体的な症状なども把握しておきたい方は、ぜひご覧ください。 リウマチが発症する主な原因や症状 関節炎とリウマチの違いが理解できても「気づかないうちに痛みを感じるようになった」方もいるでしょう。 ここからは、リウマチになる主な原因と症状を順番に解説していきます。 関節リウマチの主な原因 関節リウマチの多くは40〜60歳代頃の中高年女性に発症します。 正確な原因はまだ明らかになっていませんが、自己免疫疾患とも言えるでしょう。 自分の組織に対して攻撃する抗体が作られてしまい、関節内の滑膜にリンパ系の細胞が集まって炎症性の物質が作られるのが原因とも考えられています。 【リウマチの発症が疑われるサイン】 ・起床時に関節部分がこわばっているように感じる ・関節が腫れている ・関節が熱っぽい ・力が入りにくい ・日常生活の作業が上手くいかない ・家族にリウマチの患者がいる など 上記の症状が感じられる方はリウマチになっている可能性があるので、しっかり検査しておきましょう。 発症には遺伝的な要因や喫煙、歯周病などが関連しているとわかっています。 発症すると関節炎によって痛みや腫れを起こし、進行すると関節の変形を生じてしまうため、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の症状 関節リウマチで多い症状は手や足の指の腫れ、痛み、朝のこわばりなどです。 膝関節で滑膜が増殖して炎症を起こすと膝関節炎をきたしてしまいます。 膝関節炎の主な症状は以下の通りです。 ・膝が腫れる ・膝に水が溜まる ・歩くときや階段での痛みを感じる ・膝が曲がらない など 膝の痛みは膝裏に起こるケースが多く、曲げ伸ばしのときに音が生じた経験もあるでしょう。 炎症が強い場合には安静にしていても歩けないくらいの激痛が生じる場合もあるので注意してください。 なお、リウマチはあくまで関節炎の1つなので、以下の表で似ている症状をまとめました。 病名 主な症状 膠原病(こうげんびょう) 関節に痛みを感じたり血管症などの症状がある 線維筋痛症 手足の関節だけでなく筋肉に激痛を感じるケースがある 比較的女性が発症しやすい 関節炎とリウマチの違いについてだけでなく、細かい症状の違いや治療法などが気になる方は、以下の記事で詳しく解説していきます。 膝関節炎を放置するリスク 膝の関節炎を放置しておくと、関節の軟骨がなくなってしまうだけでなく、徐々に関節の変形が進んでいきます。 日常生活を送る上で「多少の痛みだから」と放置しすぎてしまうと、膝の曲げ伸ばしが難しくなるので注意してください。 骨同士のぶつかりだけで痛みを感じる可能性もあるので、症状が悪化してしまいます。 関節の変形を生じさせないためにも、早期の発見と治療が大切です。 リウマチによる膝関節炎の診断方法 リウマチの診断は問診、身体診察と血液検査、画像検査などを組み合わせて総合的に行います。関節が腫れて、痛む病気は複数あり、検査だけで関節リウマチと診断できない場合があるからです。 関節リウマチの診断基準を使用して診断を行うので、専門家である医師の診断が必須となります。 現在では2010年に米国、欧州リウマチ学会が合同で発表した分類基準を使用するケースが大半です。(文献1) 以下の4項目についてそれぞれ点数をつけ、合計して6点以上であれば関節リウマチと診断します。 診断基準 ①症状がある関節の数 ②症状が続いている期間 ③血液検査での炎症反応の数値 ④血液検査でのリウマトイド因子や抗CCP抗体の数値 血液検査では、リウマトイド因子や抗CCP抗体が重要で、多くの関節リウマチで陽性になります。 しかし、両方とも陰性でも関節リウマチと診断されたり、陽性でも関節リウマチではなかったりもします。 炎症反応は活動性を反映する指標ですが、リウマチ以外でも上昇する可能性もあるので診断結果は要チェックです。 画像検査は診断基準には含まれませんが、単純レントゲン写真では「骨びらん」と呼ばれる骨の透亮像がみられる場合があります。 関節エコーやMRI検査も滑膜炎の範囲、程度を評価するのに有用です。 リウマチによる膝関節の治療法 リウマチによる膝関節の治療法は、日常生活で応急処置をする方法はもちろん、専門医から薬を処方してもらう方法などがあります。 ここからは、自宅でできる応急処置から薬物治療などの治療法を解説していきます。 体や関節を保温する 膝の関節炎だけでなく、体の関節が動かしにくいと感じた場合、患部を保温すると効果が期待できます。 冬場はもちろん、夏場の冷房があたるのも避け、長袖や長ズボンを着用しておくのがおすすめです。 患部を保温しておくと関節部分の血液がよく流れ、こわばりなどを症状を軽減する効果が期待できるのです。 関節が腫れている場合は炎症が起きている可能性があるので、保温以外の治療法を選択する必要があります。 以下の記事では、関節リウマチの初期症状や治療を詳しくまとめているので、あわせてご覧ください。 食事や姿勢などの私生活を見直す 関節リウマチの患者様は、食生活だけでなく姿勢改善などを普段から実施してもらうのがおすすめです。 症状を悪化させないためにも、以下のポイントには要注意です。 ・砂糖や加工食品を摂取しすぎない ・激しい運動を控える ・首に負担をかけない ・同じ姿勢を長時間とる ・重いものを持つ ・正座をする ・喫煙をする ・ストレスを溜める など 詳しい改善項目は、以下の記事でまとめているので、ぜひ参考にしてください。 専門医から抗リウマチ薬を処方してもらう リウマチの治療法は基本的に薬物治療です。 リウマチと診断した早期から、抗リウマチ薬を開始し、痛みの程度に応じて炎症を抑えるステロイドや、鎮痛薬を併用します。 薬物治療を開始しても膝関節炎の症状が続く場合にはサポーターを使用したり、膝関節に注射をしたりする方法があります。 日本リウマチ学会による2020年のガイドラインから代表的なお薬を以下の一覧でまとめました。(文献2) 抗リウマチ薬 メトトレキサート(第一段階) 生物学的製剤やJAK阻害薬(第二段階) 関節リウマチはこれまで治療が難しく、関節の変形が進行してしまう患者様も多かったのですが、現在では薬剤の種類も多くなっています。 効果が高いお薬もあるため、適切に治療すれば症状を抑えられます。 しかし、膝の関節炎が治まらず、関節の変形や破壊が進行した場合、人工関節置換術などの手術治療が行われるので不安に感じている方もいるでしょう。 膝の痛みは現在、⼿術をしなくても治療できる時代になっているので、気になる方は気軽にお問い合わせください。 まとめ・関節炎とリウマチの違いを把握して適切な治療を行おう! 関節リウマチによる膝関節炎は、日常生活に大きな影響を与える深刻な疾患です。 膝の痛みや腫れを放置すると、関節の変形や機能障害が進行し、歩行困難や日常生活の質の低下を招く恐れがあります。 しかし、早期発見と適切な治療を行えば、症状の進行を抑え生活の質を維持できます。 関節リウマチの診断には、問診や身体診察、血液検査、画像検査が用いられるので、専門医による診断が必須です。 リウマトイド因子や抗CCP抗体の検査結果が重要な診断指標となり、診断基準に基づいて総合的に判断されます。 自己判断で治療を中断したり放置したりせず、定期的な診察と検査を受けるよう心がけましょう。 日常生活では関節に負担をかけないように注意し、適度な運動やストレッチを取り入れるのも大切です。 関節リウマチの早期発見と適切な治療を通じて、健康的で快適な生活を維持しましょう。
公開日:2024.11.06