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目や口が開けづらい、または字が書きづらいといった症状が見られ、ジストニアを疑う方もいるでしょう。ジストニア症状の判別は、医師の診断が必要です。 また、ジストニアといっても局所性や全身性、心因性などさまざまな種類があります。症状回復には、原因を踏まえた上で、適切な治療を行うことが大切です。 本記事では、ジストニア症状を種類別に解説します。主な治療法も紹介するので、眼瞼けいれんや書痙などに悩む方はぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 ジストニアについて気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ジストニア症状とは ジストニア症状とは、自分の意志とは関係なく筋肉がこわばってしまい、姿勢や運動に異常をきたす不随運動疾患です。発症の原因は解明されていませんが、主に脳からの指令に障害が起こっている可能性が考えられています。 ジストニアが発症する部位は、手や足、首などさまざまです。また、種類によって引き起こされる症状や現れるタイミングは異なります。 ジストニア症状の診断は症状や身体診察の結果に基づいて判断されるため、疑いがある場合は早めに専門機関を受診しましょう。 イップス・てんかんとの違い ジストニア症状と類似するイップスやてんかんには、以下の違いがあります。 イップス ゴルフや野球などのスポーツにおいて、無意識に筋肉がこわばって思うようなプレーが急にできなくなる運動疾患 てんかん 大脳の電気的な興奮が発生する場所によって繰り返し引き起こされる慢性疾患 イップスを発症する主な要因は、プレッシャーなどによる心因的ストレスです。医学的な病名ではないため、局所性ジストニアの一種と考えられる場合もあります。 対して、てんかんは脳疾患に分類されています。似た症状が見られるものの、運動疾患に分類されるジストニアとは定義や発症のメカニズムなどが異なるため、正確な診断が必要です。 ジストニアの主な初期症状 ジストニアは発症する筋肉の部位によって、異なる症状を引き起こすものの、くねらせた動きやねじれが特徴です。 主な初期症状は、以下の通りです。 目や口が開けづらい 字が書きづらい 首や肩が勝手に傾く 話す際に舌が出る 歩行中に足や身体が曲がる 発症パターンのなかには、字を書くときなど特定の動作をするときだけに現れるケースもあります。ジストニア症状は局所的に発症するほか、病状の進行によって全身に出る場合もあります。 ただし、筋肉のこわばりやつっぱりなどの症状では、ジストニアとは判断するのが難しい点に注意が必要です。不随意運動や姿勢異常が見られた場合は、専門機関を受診しましょう。 【種類別】ジストニアの症状と原因 ジストニアは、種類によって症状や発症の原因が異なります。主な種類は、以下の6つです。 局所性ジストニア 分節性ジストニア 全身性ジストニア 心因性ジストニア 薬剤性ジストニア 遺伝性ジストニア それぞれの症状や原因を解説するので、参考にしてください。 局所性ジストニア 局所性ジストニアでは、手や足など身体における1つの部位に症状が見られます。成人で発症したジストニアの多くは、局所性ジストニアといわれています。(文献1) 局所性ジストニアの主な症状は、以下の通りです。 眼瞼けいれん れん縮性斜頸 けいれん性発声障害 書痙 局所性ジストニア症状は、同じ動作を長期間繰り返し行う場合に発症する可能性があります。そのため、音楽家や漫画家、美容師など特定の職業の方が発症するケースも見られます。 分節性ジストニア 分節性ジストニアでは、頸部と体幹や頭頚部2か所など、隣接する2つ以上の部位に症状が見られます。主な症状は、以下のように局所性ジストニアと同じです。 眼瞼けいれん れん縮性斜頸 けいれん性発声障害 書痙 分節性ジストニアの場合、眼瞼けいれんのほか、隣接する下顎や頸部などに症状が見られる場合があります。 全身性ジストニア 全身性ジストニアは、体幹とその他2部位以上に症状が見られます。好発年齢は小児から青年期といわれており、成人で発症した場合の原因は明らかになっていません。全身性ジストニアの原因は、遺伝やほかの疾患による続発、薬剤の使用などです。 全身性ジストニアでは、主に次の症状が見られます。 身体がねじれたような姿勢になる 上を向くように首を反らせるなど身体が反り返った姿勢になる 足関節が内側に曲がる 眼瞼けいれんを引き起こす ジストニア症状が長期間続くと、骨や関節が変形する可能性もあります。また症状が悪化した場合、呼吸障害や嚥下性肺炎などを発症するケースも珍しくありません。 心因性ジストニア 心因性ジストニアは、ストレスが原因で脳神経細胞に異常をきたして、不随意運動を引き起こします。原因は明確になっていませんが、精神的ストレスのかかる環境にいる人に発症しやすい傾向にあります。 主な症状は、以下の通りです。 眼瞼けいれん れん縮性斜頸 身体の歪み けいれん性発声障害 書痙 ジストニア症状は、ストレスや疲労によって悪化する可能性があります。悪化を防ぐためにも、原因を理解した上で適切な治療を受けることが大切です。 薬剤性ジストニア 薬剤性ジストニアは、次の3つに分類され、発症原因もそれぞれ異なります。 種類 特徴 急性ジストニア 薬物服用開始によって急性発症する 若年層では体幹が中心・高齢層では頭頚部疾患が多い傾向にある 遅発性ジストニア 長期間の薬物使用や減量・中止によって発症する 若年層では下肢発症・発症年齢が上がるほど上肢に症状が現れる傾向にある 薬物性離脱症候群 薬物の急激な減量・中止によって発症する 主に小児に多い傾向にある 症状は、次のようにほかのジストニアと同様です。 眼瞼けいれん れん縮性斜頸 身体のねじれ・反り返り けいれん性発声障害 書痙 中枢神経に作用する薬物を服用している、もしくは服用歴がある場合は薬物性ジストニアの可能性が考えられます。 遺伝性ジストニア 遺伝性ジストニアは、遺伝によって引き起こされます。ただし、遺伝子ジストニアは遺伝子を持っていても発症しない可能性があります。 遺伝性ジストニアの主な原因は、以下のように局所性から全身性までさまざまです。 眼瞼けいれん れん縮性斜頸 身体のねじれ・反り返り けいれん性発声障害 書痙 小児発症が多い傾向にあるため、家族でジストニアの発症歴がある場合は診断を検討するのがおすすめです。 ジストニアの症状は治る?主な治療法 ジストニアは不随運動疾患ですが、脳の病気でもあるため、完治は難しいといわれています。しかし、適切な治療により、症状の回復が期待できます。 ジストニア症状の主な治療法は、以下の3つです。 薬物治療 ボツリヌス治療 手術治療 治療内容について、以下で解説するので参考にしてください。 薬物治療 一般的に、全身性ジストニア症状では薬物治療が行われます。薬物治療では、局所注射もしくは経口で投与するケースが一般的です。 全身性ジストニア症状の場合、主に抗コリン薬が使用されます。抗コリン薬では、神経から送られる特定の信号を遮断し、けいれんを減らす作用が期待できます。 抗コリン作用を持つ薬は、以下の通りです。 トリヘキシフェニジル カルバマゼピン バクロフェン ベンツトロピン 薬物治療で効果が見られない場合、脳深部刺激療法を行うケースもあります。 ボツリヌス治療 局所性ジストニアでは、ボツリヌス治療を行うのが一般的です。ボツリヌス治療とは、筋肉の緊張を和らげるボツリヌス製剤を局所注射する治療法です。筋肉内への投与により、筋肉の緊張を和らげ、神経の働きを抑えます。 ボツリヌス治療によって、日常生活動作を行いやすくするほか、関節の変形防止や筋肉のつっぱりによる痛み緩和などの効果が期待できます。 眼瞼けいれんやけいれん性発声障害、書痙などではボツリヌス治療が用いられるケースがほとんどです。ボツリヌス治療は、効果が徐々に弱くなるため、3〜4カ月毎に治療する必要があります。 手術治療 薬物療法やボツリヌス治療で症状回復が見られない場合は、手術治療を行います。ジストニア症状の代表的な手術と特徴は、以下の3つです。 術式 特徴 脳深部刺激術 脳の深部に電気刺激を行い、脳神経回路を調整して症状を改善する 高周波凝固手術 治療部位に電極を挿入し電気刺激を行い、症状を改善する バクロフェン髄腔内投与療法 バクロフェンが入ったポンプを腹部に埋め込み、カテーテルを通じて薬を投与して症状を改善する 手術を行う場合、いずれも1〜2週間ほどの入院や通院が必要になります。症状回復が見られない場合は、手術を検討するのも手段の1つです。 ジストニアの症状における再生医療の可能性 再生医療とは、患者自身の脂肪組織から幹細胞を分離・培養し、静脈内投与により組織修復や機能回復を目指す治療法です。幹細胞を採取する際は、おへその横からごくわずかな脂肪を取るため、身体の負担を最小限に抑えられます。 また、入院が不要な点も再生医療の特徴です。ジストニアの治療で効果が現れずお悩みの場合は、再生医療を検討するのも手段の1つです。当院では、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けておりますので、治療法について知りたい方はお気軽にお問い合わせください。 ジストニアの症状判別は医師の診断が必要 ジストニアの症状は、原因や発症する部位によって異なります。症状や身体診察の結果に基づいて判断されるため、思い当たる症状が見られた場合は専門機関への受診を検討しましょう。 ジストニア症状は、原因や種類によって治療法が異なります。適切な治療を行うためにも、原因の把握が大切です。 万が一症状の回復が見込めない場合は、改善策として再生医療を検討するのもおすすめです。ジストニアの症状を理解し、早期対策を図りましょう。 ジストニアと症状に関するよくある質問 ジストニアはどんな人がなりやすいですか? ジストニアは、同じ動作を繰り返している人がなりやすい疾患です。具体的には、ピアノなどの楽器を演奏している、ハサミの操作を繰り返すなどの職業の人が発症する場合もあります。そのため、音楽家や美容師、スポーツ選手などはジストニアになる可能性が考えられます。 ジストニアは死亡の要因になりますか? ジストニアは、症状が進行すると稀に呼吸不全などを引き起こす可能性があります。実際に、全身性ジストニアを発症し、嚥下性肺炎で死亡した事例もあります。(文献2) そのため、ジストニア症状が見られた際は放置せず、専門機関を受診しましょう。 心因性ジストニアは何科を受診すればよいですか? 心因性ジストニアの場合、心療内科を受診しましょう。不安定な精神状態の場合、治療効果が得られにくい可能性もあるためです。(文献3)心身ストレスが原因の場合、心理療法により症状が緩和するケースも考えられるため、心療内科の受診を検討してみてください。 参考文献 (文献1) ジストニア診療ガイドライン2018|南江堂 (文献2) J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター|進行性の全身性ジストニアを呈し嚥下性肺炎で死亡した80歳女性剖検例 (文献3) 目崎 高広|ジストニアの病態と治療
2025.07.31 -
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思うように力が出ない 休んでも疲れが取れない トレーニング量を増やしたものの、思ったような結果につながらず不安に感じる方もいるでしょう。 オーバートレーニング症候群とは、過剰なトレーニングによって心身に不調が生じ、パフォーマンスが低下してしまう状態を指します。 症状は軽度の疲労感から精神的な不調まで多岐にわたり、対処が遅れると回復に長期間を要するため注意が必要です。 今回は、オーバートレーニング症候群の重症度別の症状や原因、治し方について詳しく解説します。症状のチェックリストも紹介するので、オーバートレーニング症候群が疑われる方は、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 オーバートレーニング症候群について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 オーバートレーニング症候群の症状【重症度別】 オーバートレーニング症候群とは、過剰なトレーニングによる疲労が十分に回復しないまま蓄積し、慢性的なパフォーマンス低下や体調不良を引き起こす状態です。 単なる「疲れ」や一時的な「スランプ」とは異なり、自律神経のバランスまで乱れてしまうのが特徴です。 オーバートレーニング症候群の症状は、進行度に応じて異なります。ここでは、症状を3段階に分けて詳しく解説します。 軽症|パフォーマンスの低下 軽症の場合、オーバートレーニング症候群によって運動時のパフォーマンスは下がりますが、明らかな体調不良は感じません。運動後の回復に時間がかかり、翌日まで疲れが残るケースもみられます。 症状の具体例は以下のとおりです。 以前は問題がなかったランニング距離で息が上がる 記録が伸びない 運動時の集中力が続かない この時期は「練習不足かもしれない」と誤解しがちですが、実際には疲労の蓄積が原因である可能性が高いです。全力で取り組もうとしても身体がついてこず、以前よりすぐに息が上がる場面も増えてしまいます。 軽症の段階で十分な休養を取れば比較的早く回復できるため、無理に続けず身体の変化に気づくことが大切です。「最近、調子が戻らない」と感じた時点で、トレーニング量を見直しましょう。 中等症|疲労症状 中等症に進行すると、体が慢性的に疲れた状態となり、運動中だけでなく日常生活にも明らかな支障が出始めます。 症状の具体例は以下を参考にしてください。 十分な睡眠をとっても疲れが抜けない 朝起きた瞬間から身体が鉛のように重く感じる 軽いジョギングでも息切れする 立ちくらみや動悸が起こる回数が増える 中等症では、運動だけでなく生活全体の質が低下しやすくなります。自律神経のバランスが乱れ、回復力そのものが低下しているため、トレーニングを続けると悪化しやすい点が特徴です。 「体調がいつもと違う」と感じる程度ではなく、「治りにくい疲れ」に変化している場合は早急な休養が必要です。中等症はそのまま放置すると重症化する可能性が高いため、症状が現れている方は、迷わず休養を確保しましょう。 重症|精神・心理症状 オーバートレーニング症候群が重症化すると、身体だけでなく心にも負担が積み重なり、精神的な不調が強く現れます。 具体的な症状は、以下のとおりです。 気分の落ち込み 不眠 食欲不振 集中力の低下 運動へのモチベーション低下 日常生活にも影響が及ぶため、仕事や学業などに対する意欲や集中力が低下し、人間関係に支障をきたすケースも珍しくありません。 オーバートレーニング症候群が重症化した場合、無理に運動を続けると回復に長い時間がかかるため注意が必要です。重症の症状を放置せず、医師や専門家による適切なアプローチによって回復に努めるのが大切です。 オーバートレーニング症候群の原因 オーバートレーニング症候群の原因は、単に「運動量が多い」だけではありません。 原因は単一ではなく、トレーニング内容の急激な変化や生活習慣、精神状態などが複雑に絡み合い発症します。ここでは、発症の引き金となる主な4つの原因を解説するので、参考にしてください。 トレーニングによる負荷の増加 オーバートレーニング症候群の主な原因は、身体の適応能力を超えたトレーニングによる負荷の増加です。 「大会が近いから」と練習量を急激に増やしたり、十分な準備期間を経ずに高強度のメニューを取り入れたりすることが引き金となります。 トレーニングの強度や量、頻度が同時に高まる状況はとくに危険です。身体は徐々に負荷へ適応するため、急激な変化には対応しきれません。 結果として、筋肉や関節、神経系へのダメージが修復不能なレベルまで疲労が蓄積し、パフォーマンス低下を招いてしまいます。 休養・睡眠不足 運動と同じくらい重要である「回復」がおろそかになるのも、オーバートレーニング症候群の原因です。 休養日を設けずに連日トレーニングを行ったり、睡眠時間が不足したりすると、身体は修復の機会を失います。とくに、睡眠中は傷ついた組織を修復する成長ホルモンが分泌される貴重な時間です。 睡眠不足は肉体的な疲労回復を遅らせるだけでなく、自律神経の乱れにも直結します。 「休養もトレーニングの一部」である意識が欠如し、焦りから休息を犠牲にする行為は、オーバートレーニング症候群を招きます。 栄養不足 消費エネルギーに対して摂取エネルギーが不足している状態は、発症リスクを高める原因の1つです。運動で大量のエネルギーを消費しているにもかかわらず、食事量が足りていなければ、身体の回復は追いつきません。 とくに、筋肉の修復に必要なタンパク質や、エネルギー源である糖質が不足すると不調を感じやすくなります。タンパク質や糖質が不足すると、身体は自らの筋肉を分解してエネルギーを産生します。 また、極端なダイエットや偏った食事制限も、回復に必要なビタミンやミネラルの欠乏を招き、疲労を蓄積させます。 精神的ストレス オーバートレーニング症候群の原因として見落とされがちなのが、精神的なストレスです。脳が感じるストレスは、自律神経系や内分泌系を通じて身体機能に悪影響を及ぼします。 「絶対に記録を出さなければならない」というプレッシャーや、職場・人間関係でのトラブルなどが重なると、身体的な負荷がそれほど高くなくても発症するケースがあります。 真面目で責任感が強い性格の方ほど、精神的な不調を我慢して運動で発散しようとしますが、かえって心身の許容量を超え、症状を悪化させる場合も珍しくありません。 オーバートレーニング症候群の治し方 オーバートレーニング症候群を治すには、体と心の回復を優先する必要があります。具体的には、無理な運動を控えて十分な休養を確保するのが大切です。 ここでは、オーバートレーニング症候群の回復に欠かせない3つの方法について具体的に解説するので、参考にしてください。 当院では、公式LINEにて簡易カウンセリングを実施しておりますので、お気軽にご相談ください。 休養の確保 休養は、オーバートレーニング症候群の改善において最も重要な要素です。身体は運動後に回復しながら強くなるため、休みを十分に取らなければ疲労が蓄積し、症状が長引きます。 軽い不調を感じた段階で強度を下げるか、一時的にトレーニングを休む判断が必要です。実際に、数カ月間競技活動から離れて休養を確保するだけで、回復が得られる場合もあります。(文献1) ただし、症状によっては、まったく身体を動かさないと逆効果になるケースも考えられるため「どの程度の休養が必要か」「軽度のトレーニングであれば続けても問題がないか」など、医師やトレーナーと相談しながら治療しましょう。 また、睡眠の質を高める工夫も欠かせません。就寝前のスマートフォン操作を控えたり、ぬるめのお湯に浸かったりして、副交感神経を優位にする環境を整えてください。身体が修復モードに入る夜間に、深く質の高い眠りを確保するのが重要です。 ストレス管理 オーバートレーニング症候群を治すには、身体的な疲労だけでなく、精神的なストレスを取り除くのも重要です。背景に心理的要因や環境適応などの問題があると、休養だけでは回復しにくいといわれています。(文献1) 真面目な性格の方ほど「早く治さなきゃ」「仲間に置いていかれる」と自分を追い込みがちですが、焦りが新たなストレスとなり、回復を妨げてしまいます。まずはトレーニングの記録や数値へのこだわりを一旦捨て、心身を解放するのが大切です。 精神的ストレスはオーバートレーニング症候群の原因の1つであり、症状を悪化させる要因にもなります。気分の落ち込みが続いたり、やる気がでない状態が長引いたりする場合は、精神科医やスポーツ心理士に相談してみてください。カウンセリングのほか、必要に応じて薬物療法を受けるのもおすすめです。 早期回復のためにも、心の状態を軽視せず、症状に合わせた専門的なサポートを受けましょう。 バランスの良い食事 オーバートレーニング症候群を治すためには、バランスの良い食事が欠かせません。食事を通して必要な栄養素を補うと、疲労の回復や免疫力向上の助けになります。具体的には、以下の栄養素を意識的に摂取しましょう。 栄養素 効果 ビタミンB群 エネルギー代謝を助ける 疲労回復をサポートする ビタミンC 疲労を引き起こす活性酸素を抑える 摂取量により、抗酸化作用が見られる 豚肉や大豆製品などに多く含まれるビタミンB群は、エネルギー代謝を助けて疲労回復を強力に促す働きがあります。また、レモンやグレープフルーツなどに含まれるビタミンCには、疲労の原因を除去し、疲労回復に役立つといわれています。 食欲が落ちている場合は、うどんや雑炊など消化の良いものを少量ずつ回数に分けて食べるなど、胃腸への負担を減らす工夫も大切です。無理なダイエットや偏食は避け、1日3食しっかり食べ、身体の回復機能を内側からサポートしましょう。 オーバートレーニング症候群のチェックリスト オーバートレーニング症候群を早期に発見するには、日々の体調や気分の変化に注意するのが大切です。オーバートレーニング症候群が疑われる場合は、以下の項目に該当するかセルフチェックしてみましょう。 最近トレーニングの強度を上げた 練習しているのに成績が上がらない 軽いジョギングでも疲れるようになった トレーニング後の筋肉痛が長く続くようになった 睡眠の質が低下し、熟睡できた感じがしない 起床直後の心拍数が普段より増加している トレーニングのやる気が出ない 食欲が低下した 気分が落ち込みやすくなった 毎日運動しないと不安を感じる 運動していないときでも疲労感がある 頭痛や立ちくらみが頻繁に起こる 貧血や感染症などが原因ではないにもかかわらず、複数の症状が該当する場合は、オーバートレーニング症候群が疑われます。 また、身体の不調を感じたときは、心拍数や血圧をチェックしてみるのもおすすめです。 疲労症状が強まると起床時の心拍数が増加するため、起床直後の心拍数をチェックすることで疲労状態を把握しやすくなります。起床直後の心拍数が1分あたり10回以上増えている場合は、オーバートレーニング症候群を疑いましょう。 上記の症状が2週間以上続く場合は、単なる疲れではない可能性があります。自己判断で放置せず、専門医へ相談してください。 オーバートレーニング症候群かもと感じたら早めに受診しよう オーバートレーニング症候群は運動熱心な方ほど陥りやすく、トレーニング量と回復のバランスが崩れると発症します。放置すると重症化する可能性があるので注意が必要です。 「疲れ方がいつもと違う」「運動していなくても疲労感が続いている」と感じたら、休養したりトレーニングを軽くしたりして対応しましょう。 オーバートレーニング症候群は、軽症であれば比較的早く回復できますが、重症化すると復帰に時間がかかります。早期発見するには、セルフチェックリストを活用しながら、身体と心のサインを見逃さないのが大切です。 自己判断で放置せず、症状に応じて早めに医療機関を受診しましょう。 オーバートレーニング症候群に関するよくある質問 オーバートレーニング症候群の診断方法は? オーバートレーニング症候群は、一般的には以下の指標を総合的に判断して診断されます。 安静時心拍数の増加 安静時血圧の上昇 運動後血圧の回復の遅れ 競技成績の低下 オーバートレーニング症候群には明確な検査法が確立されていません。医師による問診や身体所見、血液検査などを用いて総合的に診断されます。 オーバートレーニング症候群は一般人でも発症する? オーバートレーニング症候群は、プロのアスリートだけでなく、健康維持を目的に運動している一般の方や学生でも発症します。 オーバートレーニング症候群を発症するのは、スポーツ選手や部活動をしている学生だけではありません。 とくに、急に運動強度を上げた方や、仕事や家庭のストレスが多い中でトレーニングを続けている方は、発症しやすくなるため注意が必要です。 運動は健康の維持に欠かせない習慣ですが、過剰なトレーニングは逆効果になる可能性があるため注意しましょう。 オーバートレーニング症候群はどのくらいで治る? オーバートレーニング症候群は、軽症・中等症であれば1〜3カ月程度での回復が期待できます。しかし、重症化すると半年〜1年かかるケースもあり、長期にわたる休養と治療が必要です。 治癒にかかる期間は、症状の重症度や発症からの期間、休養への取り組み方によって大きく異なります。 重症化を防ぐためにも、自己判断で無理を重ねず、医師や専門家のアドバイスを受けましょう。 オーバートレーニング症候群は何科を受診すれば良い? オーバートレーニング症候群が疑われる場合は、スポーツ内科の受診がおすすめです。 ただし、地域によってはスポーツ内科の専門外来がないケースも考えられます。スポーツ内科が近くにない場合、症状に応じて整形外科や一般内科、婦人科などを受診しましょう。 目安として、2週間程度運動を控えても症状が改善されない場合は、早めに医療機関を受診してください。 オーバートレーニング症候群とうつ(鬱)の関係性は? オーバートレーニング症候群は、身体的な疲労だけでなく精神面にも強い影響を及ぼす点が特徴で、うつ症状と似た状態が現れることがあります。 慢性的な疲労が続くと自律神経のバランスが崩れ、気分が落ち込みやすく、意欲低下や集中力の低下が目立つようになります。症状が進むと、運動への興味が失われたり、日常生活に支障が出るケースもあるため注意が必要です。 ただし、うつ病と完全に同じ病態ではないため、適切な診断とケアを受けるのが重要です。 参考文献 文献1 Vol. 31 No. 3, 2023.「オーバートレーニング症候群:理解と対応」|日本臨床スポーツ医学会誌 https://www.rinspo.jp/journal/2020/files/31-3/376-378.pdf
2025.07.31 -
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インフルエンザが治ったはずなのに咳や倦怠感が続いているという方は、ウイルスが体内からいなくなっても後遺症が出ている可能性があります。 この記事では、インフルエンザにおける後遺症の原因や症状、合併症について詳しく解説します。 また、セルフケアの方法や治療法についても紹介しているので、ぜひインフルエンザ後遺症を治すための参考にしてください。 長期間続く倦怠感など、インフルエンザの後遺症でお悩みの方は再生医療による治療も選択肢の一つです。 \インフルエンザの後遺症に有効な再生医療とは/ 再生医療は、患者さま自身の細胞や血液を用いて人間の持つ自然治癒力を向上させることで、インフルエンザの長引く後遺症の改善が期待できます。 【こんな方は再生医療をご検討ください】 インフルエンザの後遺症で身体がだるい 長引く後遺症に悩まされている インフルエンザが治った後も後遺症に悩まされている方は、新たな治療選択肢として再生医療が有効です。 具体的な治療法については、当院(リペアセルクリニック)で無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひご相談ください。 ▼インフルエンザの後遺症治療に注目の再生医療について無料相談! >>(こちらをクリックして)今すぐ電話してみる インフルエンザに後遺症はある?どんな症状が出るのか インフルエンザ後遺症とは、インフルエンザの急性期症状が治まった後も、4週間以上にわたって倦怠感、咳、関節痛といった症状が続く状態の総称です。 ウイルスが体から排除された後に症状が現れたり、長引いたりする点が特徴です。中には慢性疲労症候群の診断基準に該当する方も報告されています。(文献1) インフルエンザの合併症との違い インフルエンザ後遺症と合併症は、以下の点が異なります。 タイミング 症状 治療法 合併症 発熱がある急性期 肺炎症状 インフルエンザ脳症 抗ウイルス薬 集中治療 後遺症 解熱した回復期 倦怠感 呼吸器症状 対症療法 生活指導 合併症の代表例であるインフルエンザ脳症は、国内で年間100例以上報告されており、後遺症が出る割合も決して低くありません。致死率が約15%、後遺症率が約25%との報告もあります。(文献2) また、合併症が重度だった症例ほど後遺症を長引かせるリスクが高いとする研究報告もあります。(文献3) コロナウイルス後遺症との違い インフルエンザ後遺症とコロナウイルス後遺症は、リスクの程度や症状の傾向に違いがあります。 名古屋工業大学の平田晃正教授らの研究グループによると、インフルエンザ感染後に咳や頭痛で医療機関を受診するリスクは、感染していない人と比べて1.8倍程度との結果です。 一方、新型コロナウイルス感染後に咳で受診するリスクは、感染していない人と比べて8.20倍とインフルエンザよりも高い結果が見られました。(文献4) 症状としては、コロナウイルス後遺症では多臓器にわたる全身性の症状が目立つ傾向にあります。一方で、インフルエンザ後遺症は主に呼吸器や疲労が中心です。 コロナウイルス後遺症については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。 【関連記事】 コロナ後遺症はいつまで続く?倦怠感や症状について現役医師が解説 コロナの後遺症を劇的に改善させる方法を再生医療医が解説 また、コロナウイルス後遺症に対する治療法として、再生医療があります。 具体的な治療法については、当院(リペアセルクリニック)で無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひご相談ください。 ▼インフルエンザの後遺症治療に注目の再生医療について無料相談! >>(こちらをクリックして)今すぐ電話してみる インフルエンザ後遺症の主な原因 インフルエンザ後遺症を引き起こす原因は1つではなく、主に以下の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。 免疫機能の過剰な反応の残存 ウイルスによる気道粘膜の損傷 二次的な細菌感染の併発 高熱などによる自律神経の乱れ 隔離生活に伴う精神的なストレス インフルエンザウイルスに対抗するために活性化した免疫がウイルス排除後も活動を続け、炎症を引き起こす物質を放出し続けることで倦怠感や疲労感につながります。 また、ウイルスで傷ついた気道の粘膜は再生に時間を要するため、咳が出やすい状態が長引く可能性があります。 近年の再生医療は、患者さま自身の細胞や血液を用いて人間の持つ自然治癒力を向上させることで、インフルエンザの後遺症による炎症抑制や症状改善が期待できます。 長引くインフルエンザの症状にお悩みの方は、当院リペアセルクリニックにご相談ください。 ▼インフルエンザの後遺症治療に注目の再生医療について無料相談! >>(こちらをクリックして)今すぐ電話してみる インフルエンザの主な後遺症一覧 インフルエンザ後遺症では、主に以下のようなさまざまな症状が現れます。 系統 主な症状 呼吸器系 乾いた咳、息切れ、声枯れ 全身症状 倦怠感、微熱、関節痛、寝汗 神経・感覚 頭痛、めまい、集中力の低下、嗅覚・味覚の低下 耳鼻科系 副鼻腔炎に伴う鼻水・顔面痛、耳の閉塞感 精神面 不眠、気分の落ち込み(発熱による睡眠リズムの乱れが誘因) これらの症状は、いずれか1つだけが現れるよりも、複数の症状が重なって現れることが少なくありません。 例えば、長引く咳に加えて強い倦怠感が続いたり、頭痛と集中力の低下が同時に見られたりするケースです。 症状が改善しない、あるいは悪化するような場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。 長期間続く倦怠感など、インフルエンザの後遺症でお悩みの方は先端医療の一つである再生医療による治療をご検討ください。 \こんな方は再生医療をご検討ください/ インフルエンザの後遺症を早く治したい 長引く後遺症に悩まされている 現在受けている治療で期待した効果が得られていない 再生医療は、患者さま自身の細胞や血液を用いて人間の持つ自然治癒力を向上させることで、インフルエンザの後遺症改善が期待できます。 具体的な治療法については、当院(リペアセルクリニック)で無料カウンセリングを行っておりますので、ぜひご相談ください。 ▼インフルエンザの後遺症治療に注目の再生医療について無料相談! >>(こちらをクリックして)今すぐ電話してみる インフルエンザ後遺症の治療法 インフルエンザ後遺症の症状は、多くの場合、時間の経過とともに自然と落ち着いていきます。しかし、症状が長引いたり、悪化したりするケースは少なくありません。 インフルエンザ後遺症に対する治療は以下のような方法が挙げられます。 対症療法 薬物療法 生活習慣の見直し 1つずつ解説していきます。 対症療法 インフルエンザ後遺症の治療は、現れているつらい症状を和らげる対症療法が基本です。 倦怠感や微熱が続く場合は、無理をせず十分な休息を取り、水分と栄養をしっかりと補給するのが最優先です。必要に応じて、解熱鎮痛薬が処方されることもあります。 関節痛や筋肉痛が続く場合は、消炎鎮痛剤の使用や、症状に応じた適切な治療が検討されます。 鼻水や顔の痛みなど、副鼻腔炎や中耳炎が疑われる際は、耳鼻咽喉科で鼻の洗浄やネブライザー治療といった処置を追加します。 薬物療法 症状を和らげるための薬物療法も選択肢の1つです。急性期を過ぎてもウイルスの増殖が続いていると医師が判断した場合には、抗インフルエンザ薬の投与期間を延長する場合があります。 長引く鼻水や咳に対しては、症状を抑えるために抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などが処方されます。咳が止まらず咳喘息のような状態に移行したケースでは、気管支を広げる吸入β2刺激薬や炎症を抑える吸入ステロイド薬を数週間にわたって使用する場合も少なくありません。 これらの治療で十分な改善が見られない場合には、別系統の薬を追加で検討されるケースもあります。 また、コロナウイルス後遺症の症例に対してですが、漢方薬が慢性疲労・食欲不振を緩和したとの報告もあります。(文献5) 生活習慣の見直し インフルエンザ後遺症から回復するには、薬による治療だけでなく、日々の生活習慣の見直しも必要です。まずは、十分な休養を取り、体に負担をかけないようにしましょう。 タンパク質やビタミンなどを含むバランスの良い食事を心がけ、睡眠は7時間以上確保すると、自律神経の働きを整える効果が期待されます。 体力が少し戻ってきたら、軽いストレッチや腹式呼吸といった呼吸リハビリを取り入れるのも、呼吸筋の疲労感を和らげるのに役立ちます。アルコールや喫煙は炎症を長引かせるリスクがあるため、症状が落ち着くまでは控えましょう。 インフルエンザ後遺症に関するよくある質問 インフルエンザ後遺症に関するよくある質問と回答を紹介します。 インフルエンザ後遺症の症状はいつまで続きますか? インフルエンザ後遺症は大人と子どもどちらも発症しますか? インフルエンザが治った後も後遺症に悩まされている方は、ぜひ参考にしてください インフルエンザ後遺症の症状はいつまで続きますか? インフルエンザ自体の発熱やのどの痛みといった症状は、通常1週間程度で落ち着きます。しかし、その後に出てくる後遺症がいつまで続くかについては、以下の要素によって異なるため一概にはいえません。 症状の種類 本人の回復力 治療方法 とくに倦怠感や睡眠障害といった症状は、免疫力の低下や日々のストレスなどが影響して長引く傾向があります。 咳に関しては、もし8週間以上続くようであれば「慢性咳嗽」と診断されます。(文献6)症状が長引く場合は、一度医療機関を受診してみましょう。 インフルエンザ後遺症は大人と子どもどちらも発症しますか? インフルエンザ後遺症は、年齢に関わらず大人も子どもも発症する可能性があります。とくに、まだ免疫機能が十分に発達していない子どもは、大人に比べてウイルス感染の影響を受けやすく、後遺症につながりやすいと考えられています。 また、高齢の方は、肺炎や心筋炎といった重い合併症を発症しやすく、その治療が終わった後も息切れなどの呼吸器症状が長く残ってしまうケースが少なくありません。 予防接種は、インフルエンザの重症化を防ぐだけでなく、後遺症の発生リスクを減らす効果が期待されます。 まとめ|インフルエンザ後遺症の理解を深めて適切な治療を進めよう インフルエンザが治った後にも、倦怠感、咳、関節痛といった症状が後遺症として現れている可能性があります。 免疫の過剰反応や自律神経の乱れなど、さまざまな要因が絡み合って生じます。 呼吸器症状から精神的な不調まで多岐にわたるため、つらい症状が長引いている場合は、かかりつけ医や専門の医療機関に相談しましょう。 また、インフルエンザの後遺症を早く治したい方は、再生医療による治療も選択肢の一つです。 再生医療は、患者さま自身の細胞や血液を用いて人間の持つ自然治癒力を向上させることで、炎症抑制や症状の改善が期待できます。 \こんな方は再生医療をご検討ください/ インフルエンザの後遺症を早く治したい 長引く後遺症に悩まされている 現在受けている治療で期待した効果が得られていない インフルエンザが治った後も後遺症に悩まされている方は、新たな治療選択肢としてご検討ください。 「具体的な治療法を知りたい」「後遺症を早く治したい」という方は、ぜひ当院リペアセルクリニックにご相談ください。 ▼インフルエンザの後遺症を治したい方はご連絡ください! >>(こちらをクリックして)今すぐ電話してみる 参考文献 (文献1) インフルエンザ感染後に発症した慢性疲労症候群に漢方治療が有効であった1例|日本東洋医学雑誌 (文献2) インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学及び病態に関する研究(総括研究報告書)|厚生労働科学研究成果データベース (文献3) The post‐infection outcomes of influenza and acute respiratory infection in patients above 50 years of age in Japan: an observational study|National Library of Medicine (文献4) 新型コロナ インフルより“後遺症”リスク高い 名古屋工業大|NHK (文献5) Course of General Fatigue in Patients with Post-COVID-19 Conditions Who Were Prescribed Hochuekkito: A Single-Center Exploratory Pilot Study|Multidisciplinary Digital Publishing Institute (文献6) 咳嗽に関するガイドライン(第2版)|日本呼吸器学会
2025.07.31 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病は症状が進行していくと、失明といった重大な合併症を発症する場合があります。しかも痛みなく進行するため、前兆に気づくことが視力を守るためには必要です。 本記事では、糖尿病で失明を招く具体的な前兆サイン、進行の仕組み、予防法や治療法まで専門的にわかりやすく解説します。糖尿病の失明が気になる方は、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病による失明の前兆症状 糖尿病は血糖値が高い状態が続くことで全身の血管を傷つけ、目の奥にある網膜の血管も傷つけられます。これにより「糖尿病網膜症」を発症し、進行すると失明につながることもあります。初期は自覚症状が少なく気づきにくいですが、以下のようなサインが現れたら注意が必要です。 かすみ目・視界のぼやけ 網膜の血流が悪化し、ピントが合いにくくなる 暗い所で見えにくい 網膜の細胞がうまく働かず、薄暗い場所で視界が悪くなる 飛蚊症や黒い点が増えた 硝子体出血や網膜剥離の兆候で、視界に糸くずや黒い点が浮かぶように見える 視野が欠ける・ゆがむ 網膜や黄斑部のむくみ、出血などで、見える範囲が狭くなったり歪んで見えることがある 急激な視力低下 網膜剥離や大きな出血など、失明に直結する深刻な状態 糖尿病網膜症の症状を放置すると、進行して回復が難しくなる場合があります。少しでも「おかしいな」と感じたら早めに眼科を受診し、専門的な検査を受けましょう。 【失明の前兆】糖尿病網膜症の進行と症状 糖尿病網膜症は血糖値が高い状態が続くことで網膜の血管が障害され、段階的に進行します。初期から末期にかけて症状も変化し、最終的には失明のリスクが高まります。 初期|単純糖尿病網膜症 糖尿病網膜症の初期段階は「単純糖尿病網膜症」と呼ばれ、自覚症状がほとんどないのが特徴です。自分では見え方に変化を感じにくいため、気づかないまま進行してしまいます。 初期の症状は以下のとおりです。 点状出血 硬性白斑 網膜浮腫 網膜内の細い血管が高血糖の影響で傷つき、血液や脂質が漏れ出すことで起こります。網膜浮腫によるむくみが進むと視力への影響が出ることもあります。初期段階では血糖値を適切に管理し、食事療法や運動療法、薬物療法を徹底すれば進行を防ぐことが可能です。 眼科での定期的な検査により、わずかな変化を早期に発見し、適切な治療を行うことが大切です。 中期|増殖前糖尿病網膜症 増殖前糖尿病網膜症は糖尿病網膜症の中期段階で、血管障害が進み、より深刻な変化が現れます。多くの場合、この段階でも自覚症状はほとんどなく、異変を感じることはまれです。 中期の症状は以下のとおりです。 軟性白斑 網膜内細小血管異常 軟性白斑は網膜の酸素不足を示すサインで、網膜内細小血管異常は血流が阻害されていることを意味します。進行を抑える治療としては、レーザー光凝固で異常血管を封じ込めたり、抗VEGF薬注射やステロイド注射でむくみを軽減したりします。 進行を防ぐためには、血糖管理を継続し、眼科での定期検診を受けることが不可欠です。 末期|増殖糖尿病網膜症 糖尿病網膜症がさらに進行し末期になると「増殖糖尿病網膜症」と呼ばれ、失明の危険性が非常に高くなります。高血糖により網膜が酸素不足になると、新生血管が異常に増殖し、さまざまな深刻な合併症を引き起こします。 末期の症状は以下のとおりです。 硝子体出血 新生血管の増殖 急激な視力低下 牽引性網膜剥離 新生血管は非常にもろく破綻しやすいため、硝子体出血により視界が急に真っ暗になることもあります。瘢痕組織が網膜を引っ張り牽引性網膜剥離を起こすと、急速な視力喪失が生じます。 治療にはレーザー治療(汎網膜光凝固術)や硝子体手術などが必要です。進行を防ぐには、早期の診断と治療、血糖管理、そして眼科での定期的なフォローが不可欠です。視力を守るため、少しでも異変を感じたらすぐに受診しましょう。 【前兆症状を防ぐ】糖尿病で失明しないための予防法 糖尿病による失明を防ぐためには、毎日の管理と定期的な検査が欠かせません。以下のポイントを意識して予防に取り組みましょう。 血糖コントロール:血糖値を適切に管理し、網膜へのダメージを防ぐ 血圧・脂質管理:高血圧や脂質異常症を改善し、血管障害を予防する 有酸素運動:ウォーキングなどを習慣にし、血糖値や血圧を安定させる 食事の管理:バランスの良い食事でカロリー・糖質をコントロールする 定期的な眼底検査:自覚症状がなくても早期発見のために検査を欠かさない 日々意識して実践すると、糖尿病網膜症の進行を抑え、失明のリスクを大きく減らせます。医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った計画を立て、無理なく続けることが大切です。 失明の前兆段階で適用される糖尿病網膜症の治療法 糖尿病網膜症は進行度に応じてさまざまな治療法があります。失明リスクが高まる前兆段階で適切な治療を受ければ、糖尿病網膜症の進行を抑えることが期待できます。以下は主な治療法です。 血糖コントロール レーザー光凝固術 硝子体手術 抗VEGF療法 再生医療 血糖コントロール 糖尿病網膜症の進行を防ぐためのもっとも基本的な治療は、血糖コントロールです。血糖値が高い状態が続くと、網膜の血管が傷つき、病変が進行しやすくなります。糖尿病治療ではインスリン療法や内服薬を活用し、血糖値を適正範囲に維持することを目指します。食事療法や運動療法を組み合わせ、血糖変動の抑制が非常に大切です。 生活習慣の見直しも欠かせません。バランスの良い食事、適度な運動、規則正しい生活を続ければ全身の血管障害を予防できます。医師や栄養士と相談しながら無理なく継続しましょう。 定期的な血液検査や通院を通じて経過をしっかり管理すれば、合併症の早期発見や治療につながります。ご自身の健康状態を理解し、専門医と二人三脚で取り組むことが大切です。 レーザー光凝固術 レーザー光凝固術は、糖尿病網膜症の進行を抑えるための標準的な治療法です。網膜が酸素不足になると、異常な新生血管が増殖しやすくなり、出血や網膜剥離を引き起こす危険性が高まります。レーザー光凝固術では網膜の虚血部分にレーザーを照射し、組織を凝固させることで酸素需要を抑え、新生血管の発生を予防します。 レーザー光凝固術により、視力低下の進行を抑えられます。ただし、レーザー治療は進行を完全に止めるものではなく、血糖コントロールや定期検診と組み合わせて総合的に管理する必要があります。 早期発見と適切なタイミングでの治療が、視力を守るための大切なポイントです。治療の際は専門医が丁寧に説明を行い、患者様の不安を取り除きながら進めます。 硝子体手術 硝子体手術は、進行した糖尿病網膜症による重篤な合併症に対する治療法です。網膜剥離や硝子体出血が発生した場合、レーザー光凝固術だけでは十分な効果が得られなかった場合に実施されます。 手術では、目の中にある濁った硝子体を除去し、出血や瘢痕を取り除いた上で、網膜を正しい位置に再付着させる処置を行います。急激な視力低下を改善し、さらなる失明を防ぐことを目指します。術後のケアや経過観察も重要になるため、定期的な受診は必要です。 手術の適応やタイミングは患者様一人ひとりの眼の状態に合わせて慎重に判断します。不安な点や疑問があれば担当医に相談してみましょう。 抗VEGF療法 抗VEGF療法は、糖尿病網膜症によって生じる黄斑浮腫を抑制するための治療法です。VEGF(血管内皮増殖因子)は新生血管の増殖を促進し、血管の透過性を高めて黄斑部にむくみを生じさせます。抗VEGF薬を眼内に注射するとVEGFの働きを抑えられるため、むくみが軽減でき視力の維持につながります。 治療は一度で終わるものではなく、症状に応じて繰り返しの注射が必要な場合も多いです。黄斑浮腫は視力低下の大きな原因となるため、早期治療が非常に重要です。眼科専門医が患者様の眼の状態を詳しく評価し、適切な治療計画を立てながら進めます。 再生医療 糖尿病網膜症に対する新たな治療アプローチの一環として、再生医療があります。患者様ご自身の脂肪組織から採取した細胞を培養し、身体に戻す治療法です。当院では再生医療に関する情報や現状をご説明し、患者様に合った治療をご案内しています。 ご関心のある方は、まずはお気軽にご相談ください。ご不明点や不安な点についても丁寧にお話をさせていただきます。 糖尿病による失明を防ぐためにも前兆を見逃さず早期に医療機関を受診しよう 糖尿病網膜症は初期には自覚症状がほとんどなく進行し、気づいたときには重度になっていることも珍しくありません。失明を防ぐには、血糖値のコントロールをしっかり行った上で、内科での定期受診の継続が必要です。目の状態を把握するために眼科の定期受診も欠かせません。視界のかすみやぼやけ、見え方の違和感など、わずかな前兆を見逃さないようにしましょう。 「気になる症状があるけれど受診して良いのかな」と迷わずに、早めに専門医を受診すれば、進行を抑える治療につなげることが可能です。当院でも、糖尿病と目の健康に関する再生医療についてのご相談を受け付けておりますので、どうぞお気軽にご連絡ください。 糖尿病による失明の前兆についてよくある質問 糖尿病網膜症は痛みがなくても進行しますか? 糖尿病網膜症は網膜の血管が傷つき変化していく病気ですが、網膜には痛覚がないため、進行していても痛みを感じることはありません。そのため患者様自身が異変に気づかず、病気がかなり進行してから初めて自覚症状が出るケースも多いのが特徴です。 ただし、飛蚊症(視界に黒い点や糸くずが見える)、視野の一部が欠ける、ゆがんで見えるなど、痛みの代わりに現れる前兆症状が出る場合もあります。症状を見逃さず、少しでも見え方に異変を感じたら早めに眼科を受診しましょう。定期的な検査での早期発見が失明を防ぐポイントです。 糖尿病は血糖値が下がればよくなりますか? 糖尿病網膜症は、血糖値が高い状態が続くことで網膜の血管にダメージを与え、進行していく病気です。血糖値を下げることで傷んだ血管を元に戻すことはできませんが、進行を抑えることは可能です。 血糖コントロールをしっかり行えば、新たな血管障害を防ぎ、既存の病変の悪化を抑えられます。内科での治療を継続し、食事療法や運動療法を取り入れることが重要です。網膜症の進行度に応じた眼科での治療や定期検査を併用し、視力を守るための総合的な管理をしましょう。
2025.07.31 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病性腎症と診断されると、「何を食べたら良いの?」「献立をどう考えれば良いの?」と戸惑う方も多いでしょう。 腎症は腎機能の低下が進むと、やがて透析が必要になるリスクがあります。しかし、早い段階から食事を管理することで進行を抑え、腎臓を守ることが可能です。 本記事では、糖尿病性腎症のリスクを理解した上で「なぜ食事療法が必要なのか」、そして「具体的に何をどう食べれば良いのか」まで、わかりやすく解説します。 日々の献立作りのコツや外食・コンビニを利用する際の工夫も紹介します。今日から実践できる食事管理のポイントをぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病性腎症について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病性腎症の食事の具体的な献立例 糖尿病性腎症では、たんぱく質や塩分を控えつつ栄養バランスを整えることが大切です。 ここから、朝食、昼食、夕食それぞれの具体的な献立例とレシピをご紹介します。 朝食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/25 180g(1パック) みそ汁(麩・ねぎ) ・みそ 10g ・だし汁 130cc ・麩 2g ・ねぎ 25g かんぴょうの炒め煮 ・かんぴょう 5g ・にんじん 20g ・ごま油 3g ・砂糖 3g ・しょうゆ 4g ・だし汁 30cc くだもの(オレンジ) ・オレンジ 50g(1/3個) 味付のり・紅茶 ・紅茶 1パック+粉飴40g ・味付のり 2g(1袋) (文献1) このメニューの栄養は、586kcal、たんぱく質18.8g、塩分2.0gでした。(文献1) 昼食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/10 180g(1パック) チキンカツ ・鶏もも皮なし 70g ・こしょう 少々 ・小麦粉 3g ・生パン粉 10g ・油 9g ・キャベツ 20g ・レモン 10g ・パセリ 2g ・ソース 5cc 海草サラダ ・サラダ用海草 25g ・きゅうり 20g ・ミニトマト 1個 ・ドレッシング 10g さやえんどうの和風ソテー ・さやえんどう 20g ・エリンギ 30g ・生しいたけ 10g ・油 3g ・塩 0.3g ・こしょう 少々 ・しょうゆ 2g (文献1) チキンカツの作り方は以下のとおりです。 鶏肉を観音開きにし、こしょうを振って下味をつける。 小麦粉を水で溶いた衣をくぐらせ、次にパン粉をまぶす。 油でカラリと揚げたら、皿に千切りキャベツを添えて盛り付ける。 仕上げにレモンとパセリを飾る。 このメニューの栄養は、586kcal、たんぱく質18.8g、塩分2.0gでした。(文献1) 夕食の献立例 メニュー 材料 ごはん ・低たんぱくごはん1/10 180g(1パック) さわらの照焼 ・さわら 40g ・しょうゆ 2g ・みりん 3g ・料理酒 1g ・油 1g ・しその葉 1g(1枚) ・甘酢生姜漬 10g かぼちゃの含め煮 ・かぼちゃ 60g ・生しいたけ 20g(1枚) ・砂糖 3g ・みりん 3g ・しょうゆ 3g ・だし汁 20cc マヨネーズ和え(もやし・にんじん) ・もやし 50g ・にんじん 10g ・マヨネーズ 15g ・しょうゆ 3g ・からし 少々 マクトン入り胡麻豆腐 ・マクトンゼロパウダー 20g ・黒すりごま 1.5g ・水 50cc ・粉寒天 0.4g(1/10袋) ・生姜 2g ・しょうゆ 3cc (文献1) マクトン入り胡麻豆腐の作り方は以下のとおりです。 鍋に水と粉寒天を入れて混ぜながら加熱し、寒天をしっかり溶かす。 寒天が完全に溶けたら、さらに2~3分ほど煮詰めて火を止める。 火を止めたら、マクトンパウダーと黒すりごまを加え、よく混ぜながら粗熱を取る。 粗熱が取れたタイミングで型に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める(熱いままだと層が分かれてしまうので注意する)。 型から取り出して器に盛り付け、おろし生姜を添え、しょうゆをかけていただく。 マクトンゼロパウダーは、消化吸収が良く速やかにエネルギーになる粉末油脂です。たんぱく質0gで高エネルギー(100gあたり789kcal)。どんな料理にも手軽に使え、効率的なエネルギー補給に便利です。 このメニューの栄養は、736kcal、たんぱく質12.8g、塩分2.1gでした。(文献1) 糖尿病性腎症は食事管理が重要!献立が必要な理由 糖尿病性腎症の食事療法の最大の目的は、腎不全への進行防止です。 腎臓は血液中の老廃物を排出する重要な役割を担いますが、糖尿病によって徐々にダメージを受け、機能が低下していきます。とくにたんぱく質を多く摂ると腎臓への負担が増えるため、摂取量を適切に制限し、塩分やエネルギー、カリウム、リンなども管理していかなければなりません。 食事管理を怠ると腎症が進行し、最終的には透析治療が必要になる可能性もあります。食事療法は患者様の腎症の進行度や年齢、体格、合併症の有無などによって内容が変わるため、自己判断で行うのは危険です。 医師や管理栄養士と相談しながら個別に献立を立てると、無理なく続けられ、腎機能をできるだけ長く保てます。 糖尿病性腎症の食事療法・献立のポイント 糖尿病性腎症の食事管理は、腎機能を守り進行を遅らせるための大切な治療のひとつです。 以下に、献立を考える上で知っておきたい栄養管理のポイントを解説します。 1日のエネルギー量の目安 糖尿病性腎症の食事療法では、過剰な栄養不足や肥満を防ぐために適正なエネルギー摂取が大切です。 目安は「標準体重1kgあたり約35kcal」ですが、年齢や活動量によって28〜40kcal程度と幅があります。(文献1) エネルギーが不足すると体内のたんぱく質が分解されて腎臓に負担をかける恐れがあるため、十分に確保することが重要です。 糖尿病の血糖管理を両立させるためにも、炭水化物や脂質の質と量を調整しながら、主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせる工夫が必要です。 たんぱく質を制限する 腎臓の負担を減らすため、たんぱく質は「標準体重1kgあたり0.6~0.8g」に制限されるのが一般的です。(文献1) 制限量は、尿たんぱくの排泄量や血清クレアチニン値など腎症の進行度、栄養状態によって変わります。過剰なたんぱく質摂取は腎臓を酷使し、腎機能悪化を早めるリスクがあるため、食材の種類や量を慎重に選ぶ必要があります。 ただし過度な制限は栄養不良を招く恐れがあるため、低たんぱくごはんなどの特殊食品を利用したり調理法を工夫したり、美味しく無理なく続けられることが大切です。 医師や管理栄養士と連携して、自分に合った目標量を決めましょう。 塩分を制限する 高血圧や浮腫を予防・改善するために塩分制限は欠かせません。目標は1日6~7g未満ですが、高血圧やむくみが強い場合は5g以下に制限されることもあります。(文献1) 塩分の摂りすぎは血圧を上げ、腎臓の血管を痛め、病気の進行を加速させる原因になります。 以下は塩分制限のポイントです。 減塩調味料の活用 だしや香辛料、酢などを使って風味を工夫する 外食や加工食品は塩分が多いため、成分表示を確認して選ぶ 毎日の食事を楽しみながら、無理なく続けることが大切です。 水分・カリウム・リンの摂り方 腎症が進行すると、水分やカリウム、リンの制限が必要になる場合があります。 水分はむくみや尿量を考慮して調整し、心不全の予防や血圧管理にもつながります。 カリウムは高くなりすぎると不整脈などの危険があるため、野菜や果物の種類や調理法(ゆでこぼしなど)で含有量を減らす工夫が必要です。 リンは骨からカルシウムを奪い骨粗しょう症を招くリスクがあるため、乳製品や加工食品などリンが多い食品の量を調整します。 必ず医師や管理栄養士と相談し、体調に合った食事を心がけましょう。 糖尿病性腎症に適した食材選びと調理の工夫 糖尿病性腎症の食事療法では、たんぱく質や塩分を抑えつつ満足感を得られる工夫が欠かせません。 治療用の低たんぱくごはんや調味料などを上手に取り入れると、制限内でエネルギーをしっかり確保できます。少ないたんぱく質を多く見せるために、薄切りやみじん切りにしてかさを増やしたり、味付けや盛り付けを工夫したりすることも大切です。 3食のうち1食はおかずがなくても食べられるメニューを用意し、たんぱく質量を調整する方法も有効です。 家族と同じ献立でも主菜を減らし副菜を増やすなど、うまく調整して無理なく続けることで腎機能を長く守りましょう。 外食・コンビニ・宅配弁当の選び方 糖尿病性腎症の食事療法では、自炊が理想ですが、忙しい日常では外食やコンビニ、宅配弁当を利用する機会も少なくありません。 ここからは、腎臓への負担を抑えつつ上手に選ぶコツを紹介します。 外食時の注意点 外食では塩分やたんぱく質が多くなりがちなので、自分で調節する意識が大切です。醤油やタレ、ドレッシングは別添えでもらい、使う量を減らすなどの工夫をしましょう。 カリウムやリンが多い食材を避けるため、サラダのドレッシング、乳製品、加工食品などにも注意が必要です。 主菜は肉より魚を選ぶと脂質やリンを抑えられ、腎臓への負担軽減につながります。麺類や丼ものは汁を残す、単品ではなく定食を選び副菜を増やすなど、組み合わせ方の意識も大切です。 栄養成分表示があるお店では、たんぱく質や塩分量を確認しながらメニューを決める習慣をつけ、外食を楽しみながら食事療法を続けましょう。 コンビニ利用のコツ コンビニ食でも栄養バランスの意識が大切です。おにぎりだけ、菓子パンだけなど主食に偏らず、主菜・副菜を組み合わせて選びましょう。 サラダや煮物、焼き魚、ゆで卵などをプラスしてたんぱく質量を調整し、塩分やリンを抑えます。サンドイッチやおにぎり、ハンバーガーなどは中身の具材をチェックし、ハムやチーズなどリンや塩分が多いものは控えめにします。 以下の項目は注意するポイントです。 減塩表示の商品を選ぶ 飲み物は無糖のお茶や水を選ぶ 成分表示を確認してエネルギーやたんぱく質量を把握する 管理栄養士と相談しながら自分に合った選び方を身につけましょう。 宅配弁当や冷凍食の利用 自炊が難しい日や忙しいときには、腎臓病食や糖尿病食に対応した宅配弁当や冷凍食品を上手に活用するのもおすすめです。 塩分、たんぱく質、糖質などがあらかじめ管理されており、栄養バランスを整えやすいのが魅力です。自分で計算する負担を減らしつつ、適切な制限を守れるため、食事療法を無理なく続けられます。 最近はメニューの種類も豊富で、飽きずに続けられる工夫がされています。定期配送や単品購入などサービス形態も多様なので、生活スタイルや体調に合わせて選びましょう。 糖尿病性腎症には再生医療の選択肢 糖尿病性腎症に対しては、自分の脂肪から採取・培養した幹細胞を体内に投与する「再生医療」も新たな治療選択肢の一つです。患者様自身の細胞を使用するため、拒絶反応のリスクが低いのが特徴です。 しかし、糖尿病性腎症の進行を抑えるには、何よりも血糖管理が欠かせません。食事療法や薬物療法と組み合わせることで、より総合的な治療が可能になります。 将来の腎不全や透析を避けるために、再生医療についても検討してみましょう。詳しい内容は、以下をご覧ください。 糖尿病性腎症の食事の献立はできることから始めよう 糖尿病性腎症の食事療法は、腎臓を守り進行を遅らせるために自分で取り組める治療法です。 しかし「完璧にやらなければ」と思いすぎるとストレスになり、続けるのが難しくなります。減塩や主菜の量を調整するなど、できることから少しずつ始めましょう。 治療用食品を活用したり、家族と同じメニューを工夫するなど、日常生活に取り入れやすい方法の選択も大切です。頑張りすぎず、続けやすい工夫を取り入れながら、医師や管理栄養士と相談し、自分に合ったペースで無理なく進めることが腎機能を長く守るポイントです。 食事管理とともに再生医療による治療をご検討の際は、ぜひ当クリニックにご相談ください。あなたに合ったサポートをご提案します。 糖尿病性腎症の食事の献立におけるよくある質問 果物は食べて良いですか? 果物はビタミンや食物繊維が豊富ですが、糖分を多く含むたみ血糖値が上がりやすいため、食べすぎには注意が必要です。腎症が進行すると、果物に多く含まれるカリウムを制限する必要が出てくる場合もあります。 缶詰の果物を利用する場合はシロップをしっかり切るなどの工夫も大切です。自分に適した量や種類は、医師や管理栄養士と相談しながら確認してください。 たんぱく質を減らすと栄養不足になりませんか? たんぱく質の制限は腎臓への負担を減らす大切な治療法です。しかし過度な制限で栄養不足にならないよう、代わりに十分なエネルギーを確保して筋肉量を維持することが重要です。 低たんぱくごはんや治療用食品を活用し、主食・副菜の組み合わせを工夫するとバランスを整えられます。管理栄養士の指導を受けながら取り組みましょう。 人工甘味料は大丈夫ですか? 一般に認可されている人工甘味料は安全性が確認されており、血糖値を上げにくいため糖尿病患者様でも上手に活用できます。飲み物やデザートに取り入れれば、甘みを楽しみながら血糖管理をしやすくなります。 ただし、商品によって甘味料の種類や量が異なるため、気になる場合は医師や管理栄養士に相談しましょう。 参考文献 文献1 栄養部|茨城県厚生連 JAとりで総合医療センター
2025.07.30 -
- 糖尿病
- 内科疾患
糖尿病性神経障害は、足のしびれや痛み、感覚低下などを引き起こし、進行すると潰瘍や切断といった重大な合併症を招く恐れがあります。 しかし、早期発見と適切な治療によって進行を抑え、生活の質を守ることが可能です。 本記事では、糖尿病性神経障害の原因や症状、治療法までをわかりやすく解説します。気になる症状がある方はぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 糖尿病性神経障害について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 糖尿病性神経障害とは?早期治療が必要な疾患 糖尿病性神経障害とは、高血糖状態が長期間続くことで神経が障害を受ける、糖尿病の代表的な合併症の一つです。以下のような障害があります。 感覚障害 しびれ、痛み、感覚鈍麻 運動障害 筋力低下、歩行障害 自律神経障害 立ちくらみ、発汗異常、胃腸運動の乱れ 糖尿病性神経障害には3つの障害があり、左右対称性に足先から進行するのが特徴です。 原因としては、高血糖によりソルビトールといった物質が神経内に蓄積し、神経のむくみや血流障害を引き起こすことが挙げられます。 進行性の疾患であり、放置すると重度の感覚障害や潰瘍、壊疽(えそ:組織の死滅)のリスクが高まるため、早期の診断と治療が重要です。 糖尿病性神経障害の早期治療が必要な理由 糖尿病性神経障害は進行性で、放置すると深刻な合併症を引き起こす危険があります。 早期に診断し治療を始めることで、合併症を予防し、生活の質を守ることが大切です。 合併症のリスクがある 糖尿病性神経障害が進行すると、感覚が鈍くなり小さな傷にも気づきにくく、足潰瘍や感染、壊疽を引き起こすことがあります。 進行後は治りにくく、最終的に切断を余儀なくされる深刻なケースも少なくありません。 自律神経障害による起立性低血圧は、ふらつきやめまいを生じ、転倒による骨折や頭部外傷など高齢者ではとくに危険です。心拍数や血圧を調節する自律神経が障害されると、不整脈や血圧変動が起こり、心臓突然死のリスクも増加します。 合併症のリスクを防ぐためには、神経障害を早期に発見し、適切な治療と管理を行うことが重要です。 患者様自身も日常的な足の観察やセルフケアを心がけることが大切です。 症状の進行を抑えられる 糖尿病性神経障害の進行を抑える最大のポイントは、血糖値の適切な管理です。 高血糖状態が長期間続くと神経へのダメージが進行し、症状が悪化してしまいます。しかし、食事療法、運動療法、薬物療法などで血糖をコントロールし続けることで、神経障害の進行を遅らせたり軽減したりできる可能性があります。 痛みやしびれなどの症状に対する治療薬の使用、生活習慣の改善、足のケア指導などを組み合わせると、患者様のQOL(生活の質)を守れます。 早期に医療機関を受診し、医師や看護師、栄養士などの専門チームと連携した治療が必要です。 糖尿病性神経障害の治療法 糖尿病性神経障害の治療は、血糖管理を基本に痛みの軽減や機能維持を目指す多角的なアプローチが必要です。治療法には、以下の5つがあります。 薬物療法 脊髄(脳)刺激療法 フットケア リハビリテーション 再生医療 患者様一人ひとりに合わせた治療計画を立てることが大切です。 薬物療法 糖尿病性神経障害に伴う痛みの軽減や生活の質の改善を目的に、薬物療法が広く行われます。痛みの程度や体の状態に合わせて薬剤を使い分け、症状を緩和します。 以下のような薬剤が用いられる場合が多いです。 薬の種類 薬剤の例 オピオイド トラマドール、オキシコドンなど Ca²⁺チャネルα2δリガンド リリカ(プレガバリン)、タリージェ(ミロガバリン)など 抗けいれん薬 ガバペンチンなど 抗うつ薬 デュロキセチン、アミトリプチリンなど 痛みの軽減が目標ですが、対症療法として神経ブロックやリハビリテーションの組み合わせも有効です。患者様の症状や副作用のリスクを考慮しながら、医師が最適な治療法を提案します。 脊髄(脳)刺激療法 脊髄(脳)刺激療法は、電気刺激によって痛みの神経伝達を調整する先進的な治療法です。手術で脊髄近くに電極を留置し、刺激装置で電流を流すことで痛みを抑えます。慢性的な神経障害性疼痛が薬や神経ブロックで十分改善しない場合に検討される選択肢です。 脊髄(脳)刺激療法は、神経障害性疼痛の重症例に対し有効性が認められており、生活の質を大きく向上させる可能性があります。試験刺激を行い効果を確認した上で、本格的に装置を植え込むか判断します。 費用や適応条件も含め、医師と慎重に相談しながら治療計画を立てましょう。 フットケア 糖尿病性神経障害では、感覚低下により足の小さな傷や感染に気づきにくくなります。毎日欠かさず足を観察し、赤みや水疱、水虫、爪の変形がないか確認します。靴はサイズが合った通気性の良いものを選び、インソールで足の負担を軽減するのが効果的です。 皮膚を清潔に保つ、乾燥を防ぐ保湿をするなど、セルフケアを続けると重症化を防げます。もし異常を見つけた場合は、早めに受診し適切な処置を受けてください。定期的に専門的なフットケアを受けることも有効です。 神経障害が進むと治りにくい潰瘍や感染につながるため、早期対応と予防の徹底が何より重要です。 リハビリテーション リハビリテーションは、糖尿病性神経障害による筋力低下や転倒リスクを軽減し、日常生活を安全に送るために欠かせません。 有酸素運動や筋力トレーニングを行うと、血流や代謝を改善し、神経機能が維持されます。また、バランス訓練やストレッチは柔軟性を保ち、ふらつきを防ぐ効果があります。 普段から「こまめに動く」ことを意識し、座りっぱなしを避ける意識を持ちましょう。理学療法士による個別指導で、自分に合った安全で無理のない運動プログラムを組めます。 運動療法を続ければ、体力や活動量を維持しながら、痛みやしびれの軽減にもつながります。定期的に評価を受け、運動メニューを見直しながら継続しましょう。 再生医療 再生医療は、患者様自身の脂肪から取り出した幹細胞を培養・増殖させて体に戻す治療法です。 幹細胞には、分化能という他の細胞に変化する能力があります。この能力を生かして、糖尿病に対する治療では点滴で幹細胞を投与し、血管やインシュリンを分泌する膵臓(すいぞう)に幹細胞を届けます。 ただし、幹細胞治療を行っても血糖管理が不十分では十分な効果は得られません。治療の中心はあくまで血糖コントロールであり、その上で再生医療を選択肢の一つとして検討します。 糖尿病に対する再生医療について詳細は以下もご覧ください。 糖尿病性神経障害の受診のタイミング 糖尿病性神経障害は進行性で、早期発見と治療が重要です。症状が軽いうちから受診することで、重症化や合併症を防げます。 以下のような症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。 足先や手先のしびれ、チクチクする痛み 感覚が鈍くなる、熱さや痛みを感じにくい 夜間や安静時に痛みが増す 足の皮膚の変化(赤黒い色、乾燥、ひび割れ、潰瘍) 立ちくらみ、めまい(起立性低血圧) 胃もたれ、下痢や便秘、排尿障害など自律神経の症状 傷や潰瘍が治りにくい、感染を繰り返す このような症状は神経障害の進行を示すサインです。痛みがなくても神経はダメージを受けていることがあります。 小さな変化を見逃さず、早めに専門医に相談し、適切な治療を始めてください。 糖尿病性神経障害だと思ったら早期に受診しよう しびれや痛みは神経障害の初期サインであり、早期発見が病状の進行を抑えるポイントです。 糖尿病の方は自覚症状がなくても神経にダメージが進行している場合があるため注意が必要です。 「こんな症状で受診して良いのかな」と迷わずに、気になる変化があれば早めに医療機関へ相談しましょう。 専門医による診断と適切な治療を受けると、進行を抑え、将来的な足潰瘍や感染、壊疽、切断など深刻な合併症を予防できます。 日常生活での足のセルフチェックや血糖管理も大切で、患者様自身の意識と取り組みが予防につながります。 糖尿病性神経障害は放置せず、医師と一緒に取り組むことが重要です。なかなか良くならずにお悩みの方も、お気軽にお問い合わせください。 糖尿病性神経障害の治療に関してよくある質問 しびれだけで痛みがない場合も治療すべきですか? しびれだけでも進行を抑えるために早期に医療機関を受診し、血糖コントロールや生活習慣の見直し、医師の指導を受けることが大切です。 しびれは神経障害の初期サインで、痛みがなくても進行している可能性があります。 感覚が鈍くなることで小さな傷ややけど、靴擦れなどに気づかず、感染や潰瘍、最悪の場合は壊疽や切断につながるリスクも高まり危険です。痛みがないからといって放置してしまうと、症状は徐々に進行し、取り返しがつかない状態になることもあります。 自覚症状が軽いうちからの治療が、将来的な重症化や合併症を防ぐポイントです。 神経は再生しますか? 糖尿病性神経障害によって傷ついた神経を完全に元通りに再生させることは、現在の医療では非常に難しいです。ただし、血糖コントロールを適切に行うことで新たな神経ダメージを防ぎ、進行を抑えられます。 しびれや痛みなどの症状を緩和する薬物療法、生活指導、リハビリなどを組み合わせた包括的な治療によって、日常生活への支障を減らし、生活の質を保てます。 早期発見と治療継続が、神経障害の進行を防ぎ、患者様が安心して暮らすためには必要です。 何科を受診すれば良いですか? 糖尿病性神経障害が疑われる場合、「こんなことで受診して良いのかな」と遠慮せずに、まずはかかりつけ医に相談が大切です。 専門的な診療を受けたい場合は、内科、糖尿病内科、内分泌代謝科などが基本で、血糖コントロールや神経障害の程度、合併症リスクを総合的に評価してくれます。 早期に専門医を受診すれば、適切な治療計画を立て、進行を抑えられます。当院でも糖尿病性神経障害に関するご相談を受け付けていますので、しびれや痛みなど少しでも気になる症状があれば、お気軽にお問い合わせください。 糖尿病の神経障害は治らない? 糖尿病性神経障害は進行性の病気で、完全に治すことは難しいとされていますが、初期の段階であれば血糖値を厳格にコントロールすると症状の改善や進行抑制が可能です。 血糖管理を中心に、しびれや痛みを和らげる薬物療法、生活習慣の見直し、リハビリテーションなどを組み合わせた包括的な治療を続けると、合併症リスクを減らし、日常生活の質を維持できます。 放置せずに早期に治療を開始し、医師と一緒に継続的に管理していきましょう。
2025.07.30 -
- 内科疾患
- 内科疾患、その他
「健康診断で脂質異常症を指摘されたけれど、とくに症状もないし……」 「最近、手足がしびれることがある。もしかして何かの病気と関係があるのかな?」 このように、健康診断の結果や気になっている手足のしびれに関して、不安に思われている方もいらっしゃることでしょう。 実は、脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことは、あまりありません。 しかし、だからといって安心はできません。 脂質異常症を放置していると、動脈硬化や糖尿病といった深刻な病気につながり、それが原因でしびれが現れることがあるのです。 本記事では、脂質異常症がどのようにして手足のしびれに関わるのか、そのメカニズムを専門医が詳しく解説します。 あわせて、ご自身でできる生活習慣の改善方法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂質異常症が関連する「しびれ」のお悩みを今すぐ解消したい・再生医療に興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 脂質異常症でしびれる?基礎知識から症状まで専門医が解説 脂質異常症と診断されても、多くの場合、自覚症状がないため軽く考えてしまうかもしれません。 しかし、この病気は静かに進行し、重大な合併症を引き起こす可能性があります。 まずは脂質異常症とはどのような病気なのか、そしてなぜ「しびれ」と結びつけて考えられがちなのか、基本的な知識から確認していきましょう。 脂質異常症の定義と種類 脂質異常症とは、血液の中に含まれる脂質、具体的には「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が基準値より多い状態や、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールが基準値より少ない状態を指します。 血液中の脂質は、細胞膜やホルモンの材料になるなど、体にとって不可欠なものですが、そのバランスが崩れることが問題なのです。 主な種類は以下の3つのタイプに分けられます。(文献1) 脂質異常症のタイプ 説明 高LDLコレステロール血症 「悪玉」コレステロールが多い状態。増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化の原因になります。 低HDLコレステロール血症 「善玉」コレステロールが少ない状態。善玉コレステロールは余分なコレステロールを回収する働きがあるため、少ないと動脈硬化が進みやすくなります。 高トリグリセライド血症 中性脂肪が多い状態。これも動脈硬化の要因となるほか、急性膵炎のリスクを高めることがあります。 これらの診断基準となる具体的な数値は、健康診断の結果などで確認できます。 ご自身の数値を把握し、どのタイプに当てはまるかを知ることが大切です。 なぜ「しびれ」が直接的な症状ではないのか? 「脂質異常症が原因で手足がしびれる」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、結論からいうと、脂質異常症そのものが神経に直接作用して「しびれ」を引き起こすことは、ほとんどありません。 では、なぜ「しびれ」と脂質異常症が結びつけて考えられるのでしょうか。 その背景には、脂質異常症が引き起こす動脈硬化が大きく関係しています。 動脈硬化によって血管が硬く、狭くなると、手足の末端まで十分な血液が届きにくくなります。 この血流の悪化が、結果として神経に栄養や酸素を十分に供給できなくなり、しびれが感じられることがあるのです。 つまり、「脂質異常症→動脈硬化→血流障害→しびれ」という流れで症状が現れることはありますが、「脂質異常症 → しびれ」という直接的な関係ではないことを理解することが重要です。 そのため、「しびれ」を感じる場合、その裏には単なる血行不良だけでなく、脂質異常症がもたらす血管の深刻な変化が隠れている可能性を考える必要があります。 脂質異常症の一般的な自覚症状 脂質異常症が「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれる最大の理由は、病気がかなり進行するまで、ほとんど自覚できる症状が現れない点にあります。 痛みやかゆみ、倦怠感のようなわかりやすいサインがないため、健康診断で数値を指摘されても、つい放置してしまいがちです。 しかし、症状がないからといって、体の中で問題が起きていないわけではありません。 水面下で動脈硬化が静かに進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こすリスクをはらんでいます。 まれに、脂質異常症が重症化した場合や、遺伝的な要因が強い家族性高コレステロール血症などでは、特徴的な身体的サインが現れることがあります。 黄色腫(おうしょくしゅ): コレステロールが皮膚の下にたまってできる、黄色いできものや膨らみです。目のまぶたや、肘、膝、お尻などに見られることがあります。 アキレス腱黄色腫(けんおうしょくしゅ): アキレス腱が太く、硬くなります。これもコレステロールが沈着することによって起こります。 これらの症状は、脂質異常症がかなり進行しているサインかもしれません。 しかし、このような症状が現れる前に、定期的な健康診断で血液の数値をチェックし、異常があれば早期に対策を始めることがなによりも重要です。 脂質異常症がしびれの症状を引き起こすメカニズム 脂質異常症自体がしびれの原因になることは稀ですが、放置すると引き起こされるさまざまな合併症が、間接的に「しびれ」の症状をもたらすことがあります。 ここでは、その代表的なメカニズムを3つの観点から詳しく解説します。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 糖尿病性神経障害としびれの関係 その他の合併症としびれの関係 ご自身の「しびれ」が、どのような体の変化によって起きているのかを理解する手がかりにしてください。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 脂質異常症の最も深刻な影響の一つが、動脈硬化を促進してしまうことです。 動脈硬化とは、血管が弾力性を失い、硬く、もろくなってしまう状態を指します。 血液中に増えすぎた悪玉コレステロール(LDL)は、血管の内壁に入り込んで酸化され、プラークと呼ばれるお粥のような塊を形成します。 このプラークが血管の内側を狭くし、血液の流れを妨げるのです。 とくに、手や足の先にあるような細い血管(末梢血管)では、この影響が顕著に現れます。 動脈硬化によって血流が悪くなると、末梢の神経細胞に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなります。 その結果、神経が正常に機能できなくなり、「ジンジンする」「ピリピリする」といった「しびれ」や、足先が冷たく感じるといった症状が現れます。 さらに動脈硬化が進行すると、閉塞性動脈硬化症(ASO)という病気に至ることもあります。 この病気では、歩くと足が痛くなり、休むと楽になる特徴的な症状(間歇性跛行)が現れ、重症化すると足の組織が壊死してしまう危険性もあります。 糖尿病性神経障害としびれの関係 脂質異常症と糖尿病は、生活習慣の乱れという共通の土台を持つため、非常に密接な関係にあり、併発しやすいことが知られています。(文献2) 脂質異常症を放置していると、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性という状態を引き起こし、糖尿病の発症リスクを高める可能性があります。 そして、糖尿病の三大合併症の一つとして知られるのが糖尿病性神経障害です。 これは、糖尿病による高血糖の状態が長く続くことで、全身の神経、とくに手足の末梢神経がダメージを受ける病気です。 高血糖は、以下の2つのメカニズムで神経障害を引き起こし、しびれの原因となります。 神経細胞への直接的なダメージ:血液中の過剰な糖が、神経細胞内で代謝される過程でソルビトールという物質に変わり、これが神経細胞内に蓄積して神経の働きを妨げます。 神経への血流障害:高血糖は、神経に栄養を送る細い血管の動脈硬化も促進します。これにより血流が悪化し、神経細胞が酸欠・栄養不足に陥り、機能が低下します。 この糖尿病性神経障害によるしびれは、多くの場合、足の裏や指先から始まり、徐々に体の中心に向かって広がっていく特徴があります。 その他の合併症としびれの関係 動脈硬化や糖尿病のほかにも、脂質異常症が関与すると、しびれを引き起こす可能性のある病気が存在します。 例えば、甲状腺機能低下症もその一つです。 甲状腺ホルモンは全身の代謝をコントロールする重要なホルモンですが、このホルモンの分泌が低下すると、脂質代謝にも異常が生じ、脂質異常症を悪化させることがあります。 同時に、甲状腺機能低下症では、体のむくみ(粘液水腫)が神経を圧迫したり、神経そのものの働きが鈍くなることで、しびれや感覚の低下といった症状が現れることがあります。 また、肝臓は脂質代謝の中心的な役割を担う臓器です。 そのため、脂肪肝や肝硬変など、肝機能に障害が生じると脂質異常症を招きやすくなります。 肝機能の低下が進行すると、体内の毒素が十分に処理されなくなり、神経に悪影響を及ぼしてしびれを感じることもあります。 このように、脂質異常症は単独の問題ではなく、体のさまざまな機能と関連しあっています。 そのためしびれの症状がある場合は、こうした他の病気が隠れていないか多角的に原因を探ることが大切です。 脂質異常症改善のための生活習慣の見直しと実践方法 脂質異常症の治療の基本は生活習慣の改善です。 日々の少しの心がけが、血液中の脂質のバランスを整え、将来の大きな病気を防ぐことにつながります。 ここでは、すぐに始められる実践的な方法を3つの柱に分けてご紹介します。 食生活の改善ポイント 効果的な運動習慣の取り入れ方 禁煙・節酒の重要性 忙しい毎日の中でも無理なく続けられるヒントを見つけて、健康な体を取り戻しましょう。 食生活の改善ポイント 脂質異常症を改善するための第一歩は、毎日の食事を見直すことです。 とくに意識したいのは、摂取する「油の種類」と「食物繊維」です。 まず、「控えるべき油」と「積極的に摂りたい油」を知りましょう。(文献3) 油の種類 解説 控えるべき油 飽和脂肪酸:肉の脂身、バター、ラード、生クリームなどに多く含まれます。悪玉コレステロール(LDL)を増やす原因。 トランス脂肪酸:マーガリン、ショートニングなどを使用するお菓子やパン、揚げ物などに含まれます。悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らす原因。 積極的に摂りたい油 不飽和脂肪酸:青魚(サバ、イワシ、アジなど)に含まれるEPAやDHA、オリーブオイルやナッツ類に含まれるオレイン酸などが代表的です。これらは中性脂肪を減らしたり、悪玉コレステロールを減らしたりする働きが期待できます。 次に、コレステロールの吸収を穏やかにする「食物繊維」を十分に摂ることが大切です。 食物繊維 解説 水溶性食物繊維 海藻、きのこ、こんにゃく、大麦などに豊富です。腸内でコレステロールの吸収を妨げる働きがあります。 不溶性食物繊維 野菜、豆類、きのこ類に多く含まれます。便通を促し、腸内環境を整えます。 まずは、食事の最初に野菜や海藻のサラダ、きのこのスープなどを一品加えることから始めてみてはいかがでしょうか。 効果的な運動習慣の取り入れ方 食事改善と並行した定期的な運動は、脂質異常症の改善に効果的です。中性脂肪を減らし、善玉コレステロール(HDL)を増やす直接的な効果が期待できます。 特に推奨されるのは、ウォーキングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動です。 体脂肪をエネルギーとして燃焼し、脂質代謝を改善します。少し汗ばむ強度で1回30分以上が目標です。 まずは階段の利用や一駅分のウォーキングなど、日常で体を動かす機会を増やしましょう。 有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせると、さらに効果が高まります。筋肉量増加により基礎代謝が上がり、エネルギー消費しやすい体質になります。 無理のない範囲で週3回以上が理想です。(文献4) 禁煙・節酒の重要性 食事や運動と同じくらい、あるいはそれ以上に脂質異常症の改善と合併症予防に重要なのが、禁煙と節酒です。(文献5) 禁煙について タバコの有害物質は血管内壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。また善玉コレステロール(HDL)を減らし、悪玉コレステロール(LDL)を酸化させて血管壁への蓄積を促します。 脂質異常症患者の喫煙は動脈硬化リスクを著しく高めるため、自力での禁煙が困難な場合は禁煙外来の利用を検討しましょう。 節酒について 過度の飲酒は肝臓での中性脂肪合成を促進し、高トリグリセライド血症の直接の原因となります。 高カロリーなおつまみも脂質異常症を悪化させるため、食べすぎには注意が必要です。 厚生労働省が示す適度な飲酒量は1日あたり純アルコール約20gです。これはビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス1杯弱に相当します。 飲まない日を設けて、肝臓を休ませるのも大切です。 脂質異常症の症状|しびれへの再生医療のアプローチ 脂質異常症が進行し、動脈硬化によって手足の血流が悪化して「しびれ」などの症状が現れた場合、生活習慣の改善や薬物療法と並行して、新たな治療の選択肢が検討されることがあります。 その一つが「再生医療」という治療法です。 再生医療は、患者様自身の幹細胞や血液を使う治療法で、入院や手術を伴わないのが特徴です。 当院「リペアセルクリニック」では、幹細胞を用いた再生医療を提供しております。 公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しているので、ぜひご登録ください。 脂質異常症の症状でしびれを感じたら医療機関へ 今回は、手足のしびれと脂質異常症の関係について解説しました。 脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことはまれである一方、放置すると動脈硬化や糖尿病といった合併症につながり、結果として「しびれ」が現れる可能性があります。 このように自覚症状がないまま進行することが多いため、健康診断での数値チェックと、症状が出る前からの生活習慣の改善が非常に重要です。 もし、あなたが健康診断で脂質異常症を指摘されており、かつ手足のしびれにお悩みであれば、それは体からの危険信号かもしれません。 自己判断で放置せず、なるべく早く専門の医療機関を受診して原因を調べてもらいましょう。しびれの症状は、時として重篤な病気のサインである可能性もあります。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しています。お悩みの症状がある方は、ぜひ一度ご登録ください。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献2) 糖尿病診療ガイドライン2024|日本糖尿病学会 (文献3) 日本人の食事摂取基準2020年版|厚生労働省 (文献4) 健康づくりのための身体活動基準2023|厚生労働省 (文献5) 喫煙・飲酒とHDLコレステロールの関連解析|J-MICC研究
2025.07.30 -
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「健康診断で脂質の数値を指摘されたけれど、脂質異常症と高脂血症って何が違うの?」「放っておくとどうなるのだろう」と、健康診断の結果を見て不安を感じた方も多いのではないでしょうか。 脂質異常症と高脂血症は、よく混同されがちな言葉ですが、近年、医療の現場では「脂質異常症」が正式な病名として使われています。 脂質異常症は、自覚症状がないまま動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を引き起こす可能性があるため注意が必要です。 本記事では、脂質異常症と高脂血症の違いから原因や基準値、予防・治療法、そして再生医療まで解説します。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症と高脂血症の違い【結論:同じ病態の旧称と新称】 脂質異常症と高脂血症は基本的に同じ病態を指しますが、現在では「脂質異常症」が正式な診断名で、「高脂血症」は古い呼び方です。 かつては、血液中のコレステロールや中性脂肪が基準値より高い状態を総称して「高脂血症」と呼んでいました。 しかし、研究が進むにつれて、脂質の中でも「HDLコレステロール(善玉)」のように、基準値より「低い」状態が体に悪影響を及ぼす脂質があることがわかってきました。(文献1) このような脂質の異常を包括的に捉えるべく、2007年に日本動脈硬化学会が診断名を変更し、脂質の量が基準値から外れた状態をすべて含める形で「脂質異常症」という名称が使われるようになったのです。 【比較表】脂質異常症と高脂血症の診断範囲の違い 現在の正式な診断名である「脂質異常症」は、以前使われていた「高脂血症」よりも、より広い異常を対象としています。 以下の表では、脂質異常症と高脂血症の違いを整理しました。 脂質の種類 脂質異常症 (現在の診断名) 高脂血症(以前の考え方) HDLコレステロール (善玉) 低いことが問題 (基準に含まず) LDLコレステロール (悪玉) 高いことが問題 高いことが問題 トリグリセライド (中性脂肪) 高いことが問題 高いことが問題 このように、悪玉コレステロールや中性脂肪の増加に加え、善玉コレステロールの減少も含む状態を脂質異常症と呼びます。 より広い範囲の異常を的確に捉えるべく、高脂血症から脂質異常症へ診断名が変更されたわけです。 なぜ「高脂血症」から「脂質異常症」に名称変更されたのか 診断名が「高脂血症」から「脂質異常症」へ変更された理由は、病態の理解が進み、名称が実態と合わなくなったのが理由です。 以前は、LDLコレステロールや中性脂肪が基準より高い状態のみを問題とする「高脂血症」という名称が一般的でした。しかしその後の研究により、HDLコレステロールが基準より低い状態も、動脈硬化性疾患の重大なリスク因子であることが判明したのです。 したがって、「高脂血症」という表現では、「脂質が高い状態」のみが問題とされているような誤解を招く恐れがありました。このような背景を受け、2007年に日本動脈硬化学会は診断名を「脂質異常症」へと変更したわけです。 現在では、脂質値が高い場合だけでなく、低い場合も含めた異常として明確に捉えられるようになり、より適切な疾患管理と予防の啓発が可能になっています。 脂質異常症(高脂血症)の種類|基準値の違い・主な原因 脂質異常症は、血液中の脂質値が基準範囲から外れることで診断され、血液検査によって主に以下3つのタイプに分類されます。 高LDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症 高トリグリセライド血症(中性脂肪) ここでは、それぞれの特徴と日本動脈硬化学会が定めている診断基準値を解説します。 ご自身の健康診断の結果と見比べながら、どのタイプに当てはまる可能性があるのかを確認してみましょう。 高LDLコレステロール血症 高LDLコレステロール血症とは、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が基準値を超えて多くなった状態を指します。 LDLコレステロールが増加すると、血管の内壁に入り込み「プラーク」と呼ばれる塊を形成し、動脈硬化を進行させるため注意しなければなりません。プラークが破れると、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な疾患を引き起こす危険が高まるのです。 診断の基準は、空腹時の血液検査でLDLコレステロール値が140mg/dL以上とされています。(文献2) 主な原因は、肉の脂身やバターなど動物性脂肪の摂りすぎや慢性的な運動不足、さらには遺伝的な体質などが挙げられます。 低HDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症は、血管内の余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割をもつHDLコレステロール(善玉)が基準より少ない状態です。 HDLコレステロールが不足すると、血管内にコレステロールが蓄積しやすくなり、動脈硬化の進行を抑えにくくなります。 診断基準は、空腹時の採血でHDLコレステロール値が40mg/dL未満の場合です。(文献2) 喫煙習慣、運動不足、内臓脂肪型肥満といった生活習慣が主な要因とされており、生活習慣の改善が治療の基本になります。 高トリグリセライド血症(中性脂肪) 高トリグリセライド血症は、血液中の中性脂肪「トリグリセライド」が基準を上回る状態を指します。 中性脂肪は体のエネルギー源ですが、過剰に蓄積されると内臓脂肪として蓄えられ、動脈硬化のリスクを大きく高める要因となるため注意が必要です。 診断基準では、空腹時の血液検査においてトリグリセライド値が150mg/dL以上が異常とされます。(文献2) 白米やパンなど糖質の多い食事や過度の飲酒、過食、運動不足などが主な原因であり、バランスの取れた食事と生活習慣の見直しが重要です。 脂質異常症を放置するリスクとは?動脈硬化と関連疾患 脂質異常症を「症状がないから問題ない」と軽視することは、重大な疾患につながる危険な行為です。 脂質異常症は、進行しても自覚症状がほとんど現れないため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。血管内にコレステロールが沈着し、プラークと呼ばれる塊を形成して血管を狭くする「動脈硬化」という血管の老化現象を静かに進行させているのです。 プラークが破れると血栓ができ、血流が遮断されて命に関わる疾患を引き起こす恐れがあります。 脂質異常症を放置した結果、動脈硬化を原因として発症する主な疾患には以下のようなものがあります。 影響を受ける場所 主な病名 心臓 狭心症、心筋梗塞 脳 脳梗塞、脳出血 足の血管 閉塞性動脈硬化症(痛み、しびれ) 腎臓の血管 腎機能の低下 これらの疾患は、発症すると命に関わるだけでなく、日常生活にも大きな支障を及ぼします。 健康診断で脂質異常症が指摘された場合は、身体からの重要な警告として真摯に受け止め、早期に生活習慣の改善や対策を始めることが大切です。 脂質異常症(高脂血症)の治療法 脂質異常症の治療において最も重要な目的は、単に検査値を下げるのではなく、動脈硬化の進行を抑制し、将来的な心筋梗塞や脳卒中の予防につなげることです。 治療の基本は、病態の根本にある生活習慣の改善であり、以下の3つのアプローチが柱となります。(文献3) 食事療法 運動療法 薬物療法 まずは食事や運動の改善から開始し、それでも脂質値のコントロールが困難な場合や動脈硬化のリスクが高いと判断される場合には、薬物療法の併用が推奨されます。 では、以下で詳しく見ていきましょう。 食事療法|コレステロールを下げる脂質異常症(高脂血症)に良い食べ物 脂質異常症の管理では、日々の食事内容の見直しが治療の基本です。バランスの取れた食習慣で、血中脂質の改善と動脈硬化の予防につなげていきましょう。 以下では、控えるべき食品と積極的に摂取したい食品の例を挙げましたので、参考にしてみてください。 【控えるべき食品】 肉の脂身やバターなどに多い飽和脂肪酸 マーガリンや加工食品に含まれるトランス脂肪酸 精製された糖質(ご飯、パン、菓子類) アルコール類 飽和脂肪酸とトランス脂肪酸はLDLコレステロール(悪玉)の増加を促進し、過剰な糖質とアルコールは中性脂肪の上昇に関係するため注意が必要です。 【積極的に摂取したい食品】 野菜、海藻、きのこ類に豊富な食物繊維 青魚やオリーブオイルに多く含まれる不飽和脂肪酸 水溶性食物繊維はコレステロールの吸収を抑制し、不飽和脂肪酸は血中脂質のバランスを整える作用があります。無理なく食習慣を改善するためにも、まずは1日1食からの見直しを意識してみましょう。 運動療法|脂質異常症の改善に効果的な運動 運動療法は、食事療法と並んで脂質異常症の改善に欠かせない要素です。有酸素運動には、HDLコレステロール(善玉)の増加とトリグリセライド(中性脂肪)を減少させる効果があります。 以下のように、手軽に始められる運動がおすすめです。 ウォーキング 軽いジョギング 水泳や自転車などの有酸素運動 「ややきつい」と感じる強度で、1回30分以上、週に3日以上を目標にしましょう。 忙しい場合は、10分×3回でも同等の効果が期待できます。たとえば、「一駅分を歩く」「エレベーターではなく階段を使う」など、日常の中に自然な形で運動を取り入れることから始めましょう。(文献5) なお、心臓病や膝関節に既往症がある方は、運動を開始する前に必ず医師の指導を受けてください。 薬物療法|脂質を下げる薬の種類と作用 食事療法や運動療法を継続しても脂質の数値が基準値まで改善しない、あるいは心筋梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクが高いと医師が判断した場合には、薬物療法が検討されます。(文献4) ただし、薬物療法は生活習慣の改善を補助する手段であり、心筋梗塞の既往がある方や糖尿病を合併している方を除き、治療の主軸ではありません。自己判断での服薬中止や調整は避け、必ず医師の指示に従いましょう。 脂質異常症の治療で使用される主な薬剤には、以下の種類があります。 薬の種類 作用の概要 スタチン系薬剤 肝臓でのコレステロール合成を抑える、最も基本的な薬です。 フィブラート系薬剤 肝臓での中性脂肪の合成を抑え、分解を促します。 EPA・DHA製剤 青魚の油の成分で、中性脂肪の合成を穏やかに抑えます。 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ) 小腸でのコレステロールの吸収を妨げます。 なお、いずれの薬剤にも副作用の可能性があり、筋肉の痛み、脱力感、肝機能の異常などが見られるケースがあります。薬を服用している間に体調の変化を感じた場合には、速やかに主治医に相談しましょう。 脂質異常症の薬については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、気になる方は参考にしてみてください。 脂質異常症(高脂血症)の予防法|今日からできる生活習慣の改善 脂質異常症は、将来的な動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中のリスクを高める疾患ですが、発症の多くは日々の生活習慣と密接に関連しています。 とくに、偏った食事や運動不足、喫煙、肥満といった要因は血中脂質の異常を引き起こしやすく、早期からの対策が必要です。 ここでは、今日から始められる4つの具体的な改善策を紹介します。 食事を管理する 脂質異常症の予防には、毎日の食事内容の見直しが欠かせません。 過剰なカロリーや飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の摂取は、LDLコレステロールや中性脂肪を増加させ、動脈硬化のリスクを高めます。 また、糖質やアルコールの摂りすぎも中性脂肪の上昇につながるため、控えめにしましょう。 なかでも、以下の5点が重要です。 カロリー摂取量を適正に保つ 飽和脂肪酸(肉の脂身、バターなど)を控える トランス脂肪酸(マーガリン、加工食品など)を避ける 甘いもの・炭水化物の過剰摂取を控える アルコール摂取を減らす さらに、野菜や海藻、青魚などを積極的に取り入れると、コレステロール吸収の抑制や脂質バランスの改善が期待できます。 身体活動・運動に取り組む 運動不足は、HDLコレステロールの低下や中性脂肪の上昇につながり、脂質異常症の進行要因となるため要注意です。 有酸素運動には、脂質代謝を改善し、心血管疾患のリスクを下げる効果が認められています。ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を「ややきつい」と感じる強度を目安に行いましょう さらに、運動の「質」と「量」をより明確に把握するための指標として、「メッツ(METs)」が役立ちます。メッツは、身体活動の強度を数値化した単位で、安静時のエネルギー消費量を「1メッツ」と定義し、それに対して何倍のエネルギーを消費するかを表します。 たとえば、普通の歩行は約3メッツ、軽いジョギングは約6メッツとされており、活動の強度を客観的に評価する際に有用です。 厚生労働省のガイドライン(2023年案)では、生活習慣病予防のために「週23メッツ・時以上」の身体活動を推奨しています。(文献5)これには、3メッツの活動を週に約8時間、または6メッツの活動を週に約4時間などが該当します。 無理なく減量する 過体重や肥満は、LDLコレステロールや中性脂肪の増加、HDLコレステロールの低下に直結するリスク因子です。 しかし、急激な減量や過度な食事制限は健康を損なう恐れがあるため、無理のないペースでの減量が推奨されます。 実際、無糖尿病の肥満者40人を対象にしたランダム化比較試験では、体重のわずか5%の減少で肝臓や脂肪組織、筋肉のインスリン感受性が大きく改善し、心血管疾患のリスク因子が良好な方向に変化したと報告されています。(文献8) 体重を少し減らすだけでも、脂質代謝に良い影響をもたらす可能性があるため、適切な食事制限と定期的な運動を組み合わせて無理なく体重を管理しましょう。(文献6) 禁煙する 喫煙は、HDLコレステロールを低下させる要因の一つであり、脂質異常症の悪化や動脈硬化の進行に関与します。たとえタバコの本数が少なくても、血管内皮機能に与えるダメージは大きく、予防の観点から禁煙は不可欠です。 各国の合計45本の研究を対象とした大規模なメタ解析では、禁煙によってHDLコレステロールが平均0.06 mmol/L(約2.3 mg/dL)上昇することが確認されました。(文献7) 禁煙は単に肺への負担を減らすだけでなく、脂質代謝の改善にも明確な効果が期待できます。禁煙は、脂質異常症の予防・治療において欠かせない取り組みです。 まとめ|脂質異常症(高脂血症)は早期発見と継続的な対策が重要 脂質異常症は、LDLコレステロール(悪玉)の上昇だけでなく、HDLコレステロール(善玉)の低下や中性脂肪の増加など、血中脂質の広範な異常を指す病態です。 放置すると、血管の老化が静かに進行し、動脈硬化を通じて心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる疾患を引き起こすリスクが高まります。 脂質異常症は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がほとんど現れないまま進行する点に注意が必要です。症状がなくても年に1回は健康診断を受け、自分の脂質値を把握しましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、さまざまな治療に応用されている再生医療に関する情報の提供と簡易オンライン診断を行っています。ぜひご登録いただき、ご利用ください。 脂質異常症(高脂血症)に関するよくある質問 略語の「dL」と「hl」とは何ですか? 「dL」はデシリットル(deciliter)の略です。 1dLは100mLに相当し、血液検査ではコレステロールや中性脂肪などの濃度を「mg/dL(ミリグラム・パー・デシリットル)」で表しています。 一方、「hl」は「hyperlipemia(高脂血症)」の略で、血中脂質の異常(現在の脂質異常症)を指す医療現場での略語です。日本の診断名としては、2007年以降「脂質異常症」という名称が公式に用いられています。 脂質異常症と高コレステロール血症の違いは? 脂質異常症は、LDLコレステロールが高い状態だけでなく、HDLコレステロールが低い状態や中性脂肪が高い状態も含めた総称です。 一方、高コレステロール血症はコレステロールやLDLコレステロールが高い状態を指す名称で、脂質異常症のうち「コレステロール値の高値」に焦点を当てています。 2007年の動脈硬化性疾患予防ガイドラインの改訂で「高脂血症」は「脂質異常症」に名称変更され、より幅広い脂質異常を包括する定義となりました。 脂質異常症(高脂血症)と糖尿病の関係は? 脂質異常症と糖尿病は、いずれも動脈硬化のリスク因子です。両者が合併するとその影響は相乗的になり、動脈硬化の進行がさらに加速します。 糖尿病患者はインスリン抵抗性の影響で中性脂肪が増え、HDLコレステロールが低下しやすくなるため、両疾患の管理を連携して行うことが重要です。 参考文献 (文献1) 脂質異常症(高脂血症)|日本医師会 健康の森 (文献2) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献3) 脂質異常症|厚生労働省 e-ヘルスネット (文献4) 脂質異常症治療のエッセンス|日本医師会編 (文献5) 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023|厚生労働省 (文献6) Effects of Moderate and Subsequent Progressive Weight Loss on Metabolic Function and Adipose Tissue Biology in Humans with Obesity|PubMed (文献7) The effect of quitting smoking on HDL-cholesterol - a review based on within-subject changes|Biomarker Research (文献8) In obese patients, 5 percent weight loss has significant health benefits|WashU Medicine(Washington University School of Medicine in St. Louis)
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脂質異常症は、自覚症状がないため、知らず知らずのうちに進行してしまう疾患です。 しかし、そのまま放っておくと動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などといった重篤な病気につながる可能性があります。 その一方で「どの薬を選べば良いのか」「副作用が心配」といった声も多く聞かれるのが現状です。 本記事では、脂質異常症の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、服用期間、そして薬に頼らない選択肢まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後まで読んで、脂質異常症薬への理解を深めましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症とは?その診断基準と薬の必要性 まず脂質異常症がどのような状態を指すのか、その診断基準について解説します。 そして、なぜ早期の診断と適切な治療が重要なのか、放置した場合のリスクについても詳しくお伝えします。 ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な治療につなげるための参考にしてください。 脂質異常症の診断基準について 脂質異常症とは、一定の基準値よりもLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が高い、または、HDL(善玉)コレステロールが低い状態です。 脂質異常症の診断では、まず採血による血液検査でLDLコレステロール値とHDLコレステロール値、中性脂肪値の測定から行います。 採血前日は、高脂肪食や高カロリー食を控え、禁酒し、12時間以上の絶食を行った状態の採血が必要です。 これらの値が下記いずれかに該当すると「脂質異常症」と診断されます。(文献1) LDL(悪玉)コレステロール値が140 mg/dL以上の場合 なお、LDLコレステロールが120〜139mg/dLは境界域といわれ、糖尿病や高血圧の合併がある場合は治療が必要となることがあります。 HDL(善玉)コレステロール値が 40 mg/dL未満の場合 中性脂肪が150 mg/dL以上の場合 ただし、単に数値が基準を超えればすぐに投薬するわけではありません。 診断の際には、年齢・性別・既往歴(心筋梗塞や脳卒中の経験)、家族歴(家族性高コレステロール血症の疑い)、喫煙歴、高血圧や糖尿病などの合併症も総合的に評価します。 この基準値に応じて、薬物治療のタイミングや方法が決まるので、ご自身の目標値については、医師にご相談ください。 脂質異常症治療薬の必要性と放置するリスク 脂質異常症は、自覚症状がないため、健康診断などで発見されることが多いです。 治療せずに放置すると、HDLコレステロールの減少やLDLコレステロールの増加により、動脈の壁に脂肪の塊(プラーク)を作ってこびりつき、その結果、動脈硬化になります。 動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳卒中や脳梗塞などの重篤な病気になるリスクが高まります。 脂質異常症の薬について|主要な薬剤の種類 脂質異常症の治療には、主に以下の薬が使われます。 薬剤の種類 主な効果・特徴 スタチン系製剤 血液中のLDLコレステロール値を低下させる 1日1回の経口投与 PCSK9阻害薬 (エボロクマブ) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常2週間に1回または1カ月に1回投与 自宅での自己注射が可能 siRNA薬 (インクリシラン) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常6カ月に1回投与 医療機関でのみ投与 ベムペド酸 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に使われる 1日1回の経口薬 その他の脂質改善薬 エゼチミブ(小腸でのコレステロール吸収を阻害する薬) フィブラート系製剤 EPA製剤 陰イオン交換樹脂 スタチン系製剤 スタチン系製剤は、肝臓でコレステロールが作られる際に働く「HMG-CoA還元酵素」という酵素の働きを阻害し、体内のコレステロール合成を抑えます。 その結果、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが減少し、動脈硬化の進行を抑える効果が期待できます。 スタチン系製剤の特徴は、その種類や服用量によってコレステロールを下げる効果の強さが異なることです。 大きく分けて「スタンダードスタチン」と、スタンダードスタチンより作用が強い「ストロングスタチン」の2種類があります。 どの種類や量を使うかは、患者様の検査結果や病気のリスク、副作用の出方などによって、医師が総合的に判断します。 これらのスタチン系製剤の多くは、1日1回の服用が可能な経口薬です。 主な副作用には、以下の症状が挙げられます。 筋肉痛や筋力低下 消化器症状(胃の不快感、吐き気、便秘) 発疹 肝機能障害 少しでも体の異変を感じたら、自己判断で薬の服用を中止せず、速やかに医師に相談してください。 PCSK9阻害薬 PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤の服用が難しい場合、スタチン系製剤と併用で検討される薬剤です。 肝臓で作られるPCSK9タンパク質の働きを阻害することで、血管からLDLを肝臓に取り込む受け皿であるLDL受容体を増加させます。この作用によって、血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げられます。(文献2) PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤では⼗分に LDLコレステロール値が低下しない方や家族性⾼コレステロール⾎症の方、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患を経験し、再発予防が必要な方に有効な治療薬です。 日本で現在使用されているPCSK9阻害薬には、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)などがあります。 投与は皮下注射で投与され、通常は2週間に1回、または月に1回の頻度で投与されます。 自宅での自己注射が可能なため、通院の負担を軽減できます。 副作用には、疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。副作用が出たら速やかに医師に相談してください。 siRNA薬(インクリシラン) siRNA薬は、肝臓で産生される特定のタンパク質、PCSK9の生成を抑えることでコレステロールを低下させる薬剤です。 siRNA薬はこのPCSK9の数を減らすことで、血液中のLDLコレステロール値を下げる効果を発揮します。 以下のような患者様にsiRNA薬は有効な治療薬とされています。 スタチン系製剤だけではLDLコレステロール値が十分に低下しない方 家族性高コレステロール血症の方 すでに心臓や脳の動脈硬化疾患をお持ちでコレステロール管理が不十分な方 siRNA薬は、皮下注射で投与され、成人には初回に300mgを投与し、その後3カ月に2回目の投与を行います。 それ以降は6カ月ごとに定期的に投与されます。この薬はPCSK9阻害薬と違い、医療機関でのみ投与可能なため、自己管理による投与忘れの心配はありません。 siRNA薬の副作用には、注射した部位に疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。 副作用が出た場合は、速やかに医師に相談してください。 ベムペド酸 ベムペド酸は、スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に処方されることがある薬剤です。 作用としては、肝臓に存在するATPクエン酸リアーゼという酵素を阻害し、コレステロールの合成を抑制します。 この酵素は肝臓に多く存在する酵素で、肝臓のコレステロール合成が減ることで、血中のLDLコレステロールが下がる効果が期待できます。 1日1回の経口薬で、日本では2024年11月26日に大塚製薬が製造販売承認申請を行っており、承認されれば処方される可能性があります。(文献3) ベムペド酸の副作用には、痛風・胆石症の発症率の上昇、血清クレアチニン・尿酸・肝酵素レベルが上昇する可能性があります。 その他の脂質改善薬(エゼチミブ、フィブラート製剤、EPA製剤、陰イオン交換樹脂) 脂質異常症の治療には、これまでにご紹介したスタチン系製剤やPCSK9阻害薬、siRNA薬以外にも、患者様の状態や脂質のタイプに合わせて、様々な薬剤が用いられます。 ここでは、その他の脂質改善薬について、その作用と特徴を解説します。 エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害剤) エゼチミブは、小腸におけるコレステロールの吸収を阻害します。 その結果、血液中のLDLコレステロールや総コレステロールの濃度が低下する薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤を服用できない人の治療にも使用されますが、スタチン併用でLDLコレステロール値を下げることが報告されています。 エゼチミブの主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐)などがあります。 このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。 フィブラート系製剤 フィブラート系製剤は、中性脂肪を下げる働きがあり、LDLコレステロールを減少させるとともに、HDL(善玉)コレステロールを増やす効果も期待できる薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤と併用すると副作用として、筋肉の細胞が破壊される横紋筋融解症などの症状が起こるリスクが高まります。そのため、治療上併用する場合は医師の指導のもとでの服用が重要です。 EPA製剤(イコサペント酸エチル) EPA製剤は、血液中の中性脂肪を低下させ、血行を改善する効果があります。 EPA製剤には、サプリメントとして市販されているものと、高脂血症治療薬として処方される医療用医薬品の2種類ありますが、高脂血症治療薬として処方されるものは医師の診断と処方箋が必要です。 EPA製剤の主な副作用には、発疹や消化器症状(下痢、腹部の不快感、吐き気、嘔吐)などが報告されています。 陰イオン交換樹脂 陰イオン交換樹脂は、腸内で胆汁酸と結合して体外に排出させることで、血中コレステロール値を低下させる効果を持つ薬剤です。 スタチン系製剤が使用できない症例や併用薬として処方されてます。 陰イオン交換樹脂の主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、食欲不振、吐き気)があります。 飲み合わせや服用時の注意点 脂質異常症薬と他の薬や食品との飲み合わせや、日常生活で気を付けるべき点について解説します。 スタチン系製剤(アトルバスタチンとリピトール)+グレープフルーツジュース グレープフルーツに含まれる成分が薬の分解を妨げ、血中濃度が高くなり、薬の効果が強くなりすぎてしまう可能性があります。(文献4) グレープフルーツジュースの影響は、数日間におよぶこともあるといわれているため、薬を服用している間はグレープフルーツジュースを飲まないように注意しましょう。 同じ柑橘系の果物でも、みかんやオレンジは一緒に食べても影響を与えないと言われています。 スタチン系製剤+フィブラート系製剤 中性脂肪を下げる目的で併用されることがありますが、筋肉障害のリスクがやや高まります。(文献6) クレアチンキナーゼ(CK:筋肉の損傷を示す検査値)測定を定期的に行い、異常があれば片方を減量・中止することもあります。 EPA製剤+抗凝固薬 EPA製剤には血液をサラサラにする作用があり、抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用中の方は出血傾向があるので注意が必要です。出血を伴う医療行為(抜歯、外科手術など)を行う場合には医師に相談しましょう。 胆汁酸吸着樹脂と他の経口薬 胆汁酸吸着樹脂は、他の薬剤の吸収を遅延・阻害する可能性があるため、服用時間を2時間以上空ける必要があります。 服用する薬剤の種類や量によっては、さらに時間を長く空ける場合もあるため、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。 脂質異常症の薬は一生飲み続ける?服用期間と中断の可能性 脂質異常症の薬は、多くの場合、長期的に服用を続けることが推奨されます。 しかし、必ずしも一生飲み続けなければならないわけではありません。 服用期間の目安は、患者様お一人おひとりの病状やリスク、生活習慣の改善状況によって異なります。 また、脂質異常症の原因は、家族性高コレステロール血症など遺伝的な要因を除き、食生活の偏りや運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、他の疾患(糖尿病や肥満など)だといわれています。 治療の基本は生活習慣の見直しであり、薬を服用している間も食事・運動・減量・禁煙といった取り組みが欠かせません。こうした改善が進めば、薬の減量や将来的な服薬中止につながる可能性もあります。 重要なポイントとして、血液検査の結果、コレステロール値が改善しても自己判断で服用を中止しないでください。 事例をあげると、フランスの研究では、75歳以上の高齢者が予防のために服用していたスタチンを中止した場合と、継続した場合で比べると、中止した時の方が心血管イベントによる入院リスクが増加したことがわかっています。(文献5) 脂質異常症の薬に関するお悩み事はためらわずに医師へご相談ください ここまで脂質異常症と薬の治療について紹介しました。 コレステロールの数値や薬について、疑問や不安が生まれるのは当然のことです。 脂質異常症は、放置すると心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気につながる可能性があるため、生活習慣の改善が非常に重要です。 一方で、薬による治療も大切です。LDL(悪玉)コレステロールを下げる薬、中性脂肪を下げる薬など、薬によって効果や特徴は異なりますが、医師は患者様を診断し処方する薬を選定します。 飲み合わせによってはさらに悪化する可能性もあるため、事前に医師にどのような薬を服用しているか伝え、副作用が起きるような場合も医師に早く相談しましょう。 脂質異常症の治療は、一人で抱え込むものではありません。 不安を抱えたまま治療を続けるのは精神的な負担にもなりますので、小さなことでもためらわず、医師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版|一般社団法人日本動脈硬化学会 (文献2) レパーサ皮下注140 mgペン 添付文書|PMDA (文献3) 高コレステロール血症治療薬「ベムペド酸」製造販売承認申請について|大塚製薬 (文献4) 薬物間相互作用―グレープフルーツジュースとスタチン|日本臨床薬理学会誌 (文献5) Statin discontinuation and cardiovascular events in 75-year-olds|European Heart Journal (文献6) Incidence of hospitalized rhabdomyolysis with statin-fibrate therapy|PubMed
2025.07.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
最近お腹が出てきた、ズボンがきつくなったという悩みの裏に脂肪肝が隠れているかもしれません。 肝臓に脂肪がたまる脂肪肝は、健康診断で初めて異常に気づく人も多く、日本では成人の3人に1人が該当する「国民病」となっています。 近年では食生活の欧米化や、在宅ワークの増加による運動不足によって、さらに発症リスクが高まっています。 この記事では、脂肪肝によってお腹が出るメカニズムをわかりやすく解説し、今日からできる対策や治療法まで、実践的な情報をお届けします。 放置すると肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝を、正しい知識で予防・改善していきましょう。 脂肪肝でお腹が出る?肥満との関係について 脂肪肝とお腹の出方には密接な関係がありますが、すべての脂肪肝患者にお腹の膨満が見られるわけではありません。 非アルコール性脂肪肝の場合、食べ過ぎや運動不足による肥満が主な原因です。(文献1) 体内の余ったエネルギーが脂肪として肝臓と内臓に蓄積され、結果的にお腹周りが膨らんでいきます。 実際に、全体の肥満者のうち約80%に脂肪肝が合併しているといわれており、非アルコール性脂肪肝と肥満には相関がみられます。 一方、アルコール性脂肪肝では痩せ型の方にも多く見られるため、お腹が出ていないから脂肪肝ではないと思われることも多いですが、脂肪肝が隠れていることがあるため注意が必要です。 見た目が標準体型でも「隠れ脂肪肝」として、肝臓に脂肪が蓄積している可能性があります。 内臓脂肪と肝脂肪の悪循環 余ったカロリーはまず内臓脂肪や肝臓の脂肪として蓄えられやすく、皮下脂肪にも広がります。 肝臓に脂肪が増えると血糖や中性脂肪が上がりやすくなります。これにより、肝臓に脂肪がたまりやすくなる悪循環が始まります。(文献2) 順天堂大学の研究では、非肥満でも脂肪肝があると筋肉の代謝が低下しやすいことを示しました。(文献3) つまり脂肪肝は内臓脂肪とは別に全身の代謝バランスを崩す要因にもなり得ます。 この流れが続くと、基礎代謝(安静時でも消費するエネルギー)が下がり、同じ食事量でも体重が増えやすい体になります。早めの生活習慣改善で悪循環を断ち切ることが重要です。 アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝について 脂肪肝はアルコール性脂肪肝(AFLD)と非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)の2つのタイプに分けられます。 アルコール性脂肪肝(AFLD)は、過度な飲酒が原因で発症します。 長期にわたり男性で1日平均60g、女性で40g以上の純アルコールを摂取すると発症リスクが高まります。 60gはアルコール度数5%のビール500ml缶なら3本分の量です。 お酒を飲むと、肝臓でアルコールを分解する過程で中性脂肪を合成してしまいます。 中性脂肪は体質によっては、血液中に溜まるため体型に出ない方もいます。そのため、比較的痩せ型の方でも発症する特徴があります。 日本人の主要な脂肪肝タイプである非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)になる原因は、「飲み過ぎ」ではなく「食べ過ぎ」です。 国内報告では有病率が男性41%、女性17.7%とされており、近年の食生活の変化やデスクワークの増加により患者数が急増しています。 BMI25以上の肥満の方では、腹囲が増えている場合は非アルコール性脂肪肝の可能性があります。 この病型では内臓脂肪の蓄積と密接に関連しており、腹囲の増大が顕著に現れます。 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の約80~90%は単純性脂肪肝で、肝硬変や肝がんのような重篤な病気に進行するリスクは低いとされています。 しかし、約10~20%は炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行し、将来的に肝硬変や肝がんのリスクが高まる可能性があります。早めに対策を行いましょう。 脂肪肝でお腹が出たら?食事と運動療法で改善 脂肪肝によるお腹の膨満は、適切な食事療法と運動療法により改善が期待できます。 治療の基本原則は、体重の7〜10%減量を推奨しています。(文献4) 半年で体重の5%程度のペースで進めると肝機能の数値であるAST・ALTが改善しやすいとの報告もありますので、急激な減量は避け、無理のない範囲で行いましょう。(文献5) 脂肪肝でお腹が出る主要因は総カロリー過多ですが、とくに果糖のとり過ぎは肝脂肪を増やしやすいと指摘されています。(文献2) 運動療法では、毎日30分程度の歩行など有酸素運動を中心に行いましょう。 運動時間の目安ですが、週に150 分以上でも効果があるものの、週に250 分運動することで肝脂肪や炎症の一層の改善が報告されています。(文献4) 通勤時の一駅歩く習慣や階段利用などの工夫により、忙しい会社員でも継続可能な運動習慣を身につけられます。 食事での改善ポイント 近年、低糖質食による肝脂肪の改善例も報告されていますが、あくまで基本となるのは食事全体のカロリーと栄養のバランスを整えることです。(文献2) まず主食(白ごはん、パン、麺類)を1割減らすことから始めましょう。代わりに玄米や雑穀米に変更し、野菜や海藻類を増やして食物繊維を確保します。 とくに果糖は肝臓で中性脂肪に変わりやすいため、果物は1日1/2個程度に制限し、清涼飲料水は避けることが大切です。 推奨する食事パターンは以下の通りです。 朝食:必ず摂取し、血糖値の急上昇を防ぐ 昼食:定食スタイルで栄養バランスを重視 夕食:就寝3時間前までに済ませ、軽めに抑える アルコールについては、男性で純アルコール60g/日未満、女性で40g/日未満に制限し、週2日以上の休肝日を設けることが推奨されます。 アルコール性脂肪肝の場合、2-4週間の禁酒で改善効果が現れると報告されています。まずは2週間の禁酒をやってみることをおすすめします。(文献6) 筋トレと有酸素運動の黄金比 有酸素運動と筋トレの併用が肝脂肪減少には効果的と報告されています(文献5)。 有酸素運動では、ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどを週5日、まずは1日30分以上実施しましょう。1日30分であれば、通勤時の一駅歩く習慣や、昼休みの散歩を取り入れることで、忙しい会社員でも実践可能です。 筋力トレーニングは週2〜3日実施を推奨しています。(文献4) 筋肉量の増加は基礎代謝の改善につながり、脂肪肝改善に役立つためです。自宅でできるスクワットや腕立て伏せ、片足立ちなどから始め、徐々に負荷を増やしていきましょう。 重要な点は、仮に体重減少がなくても運動を継続すれば脂肪肝改善効果があることです。(文献4) 体重が変わらなくても落ち込まず、まずは3カ月の運動継続で肝機能数値の改善を目指しましょう。 脂肪肝の検査と再生医療について 脂肪肝は「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の病気のため、自覚症状がほとんどありません。 しかし、血液検査や画像検査を組み合わせると、症状が出る前に脂肪肝を見つけられる場合があります。 健康診断で肝機能の異常を指摘された場合は、必ず精密検査を受け、専門医による適切な診断と治療方針の決定を受けましょう。 脂肪肝の治療には、再生医療という選択肢もあります。進行した脂肪肝に対する治療の可能性が広がっています。 血液検査と再生医療について、それぞれ詳しく解説します。 血液検査 脂肪肝かどうかを調べる最初の手がかりは、採血で測るALTとASTという酵素です。 ALTは肝臓の細胞に多く、多くの施設で30〜40IU/L未満が目安とされますが、日本人を対象とした大規模研究では、正常上限値は男性29IU/L以下、女性23IU/L以下とされています」(文献7) ALTの軽い上昇でも脂肪がたまり始めている場合があるため、健康診断で要再検査と出たら放置しないことが大切です。 ASTは心臓や筋肉にも含まれる酵素ですが、ALTよりも高い場合はアルコールの影響が疑われます。ただし、確定には他の検査結果も総合的に判断する必要があります。(文献8) 再生医療 生活習慣の見直しでは追いつかないほど肝臓が硬くなる線維化が進むと、肝硬変に至ることがあります。 このような進行例に対しても再生医療が治療の選択肢となります。 再生医療の幹細胞治療は、患者様自身の脂肪組織から採取した幹細胞を培養し、点滴により全身に投与する治療法です。 再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 自宅で続ける脂肪肝チェックと再発予防 脂肪肝の改善後も、継続的なセルフモニタリングと予防策の実践により、再発を防げます。 日々の体重管理では、毎朝同じ時間・同じ条件で測定し、スマートフォンアプリで記録することで変化を視覚的に把握できます。 腹囲測定も重要です。男性85cm以上、女性90cm以上でメタボリックシンドロームの疑いがあるため、おへその高さで月1回測定しましょう。 生活習慣では、主食の1割減量、週2日以上の休肝日、1日30分以上の歩行を基本とし、無理のない範囲での継続が重要です。 また、年1回の健康診断での血液検査を行い、専門医に肝機能の数値を客観的に診断してもらいましょう。 まとめ|お腹が出たら注意!脂肪肝は日々の習慣の見直しが重要 脂肪肝によるお腹の膨満は、単純な肥満ではなく、複雑な代謝異常が引き起こす医学的な病態です。 近年では、在宅勤務の増加や食事の欧米化により発症リスクが高まっていますが、適切な食事療法と運動療法により確実に改善できる疾患でもあります。 食事習慣の改善と、運動習慣の定着を目標に、継続的な取り組みを行っていきましょう。早期発見のためには、健康診断を受け、血液検査の数字を確認することが重要です。 進行例に対しては、再生医療という新しい治療法もあります。 放置すれば肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝ですが、今の自分の状態を正しく知り、適切な対策を講じることで健康な肝臓を取り戻せます。 当院「リペアセルクリニック」では、専門医による診察から再生医療まで、一人ひとりの状態に応じた治療を提供しています。 まずは公式LINEのオンライン診断からお試しください。一度自分の体と向き合ってみましょう。 脂肪肝に関してよくある質問 脂肪肝が進むとどうなる?放置のリスク 脂肪肝を放置すると、段階的に深刻な病態へ進行する可能性があります。 初期の脂肪肝から脂肪肝炎(NASH)へ進行すると、肝臓に慢性的な炎症が起こり、徐々に肝臓がかたくなる「線維化」が始まります。 さらに進行すると「肝硬変」となり、肝がんを発症するリスクが生じてしまいます。 脂肪肝は自覚症状がほとんどないため、気づいたときには既に進行しているケースも多く見られます。 健康診断でALT・ASTの上昇を指摘された段階での早期対応が、将来の重篤な合併症を予防する鍵となります。 初期段階で発見し、生活習慣の改善に取り組みましょう。 脂肪肝は女性に多い? 脂肪肝は一般に男性で多く見つかりますが、女性でも決してまれではありません。 女性ホルモンは脂肪を皮下に優先してため込むため、閉経前は脂肪肝が起こりにくい傾向ですが、閉経後にはホルモンが急減し脂肪のつき方が男性型へ変わり、発症リスクが一気に上昇します。 また、細身でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の女性は年齢を問わず注意が必要です。 顔のむくみやおならは脂肪肝のサイン? 脂肪肝は「沈黙の臓器」といわれる肝臓の病気のため、初期にははっきりした症状がほとんど出ません。 ただ肝機能が落ち始めると、だるさや軽い不調など体の各所に細かな変化が現れることがあります。 顔や手足がむくみやすくなるのは、肝臓で作られるアルブミンというたんぱく質が不足し、水分が血管の外に漏れやすくなるためと考えられています。 一方、腸内環境が乱れるとガスがたまりやすくなり、おならのにおいが強くなるため、食事習慣の乱れが腸内環境の乱れと脂肪肝につながっている可能性はあります。 他のサインとしては、慢性的な疲労感、集中力低下、肩こり、ぼんやり感、軽い腹部の張りなどが挙げられますが、これらの症状は他の疾患でも見られるため、身体に異常があった場合は早めに専門医への相談を検討してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)の診療ガイドライン2020年版」2020年 https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/nafldnash2020_add.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 太田嗣人.「肥満・インスリン抵抗性がもたらす肝の炎症」『日本内科学会雑誌』109(1), pp.19-26, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/1/109_19/_pdf(最終アクセス:2025年6月27日) (文献3) 門脇聡ほか「非肥満者では内臓脂肪の蓄積よりも脂肪肝が筋肉の代謝障害と強く関連する」順天堂大学研究報告, 2019年 https://www.juntendo.ac.jp/assets/NewsRelease20190614.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) 日本肝臓学会「脂肪性肝疾患患者に対する肝臓リハビリテーション指針」日本肝臓学会ホームページ https://www.jsh.or.jp/medical/committeeactivity/shakaihoken/fatty.html(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Koutoukidis D A, et al. (2021). The effect of the magnitude of weight loss on non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis. Metabolism, 115, 154455.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33259835/ (最終アクセス:2025年6月28日) (文献6) Clevelandclinic「How Long Does It Take Your Liver to Detox From Alcohol?」Health Essentials, 2023年2月28日 https://health.clevelandclinic.org/detox-liver-from-alcohol(最終アクセス:2025年6月28日) (文献7) Tanaka K, Hyogo H, Ono M ほか.「Upper limit of normal serum alanine aminotransferase levels in Japanese subjects」Hepatology Research 44(12), pp.1196-1207, 2014年 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24372862/(最終アクセス:2025年6月28日) (文献8) Giannini E, & Testa R. (2013). The De Ritis ratio: the test of time. Digestive and Liver Disease, 45(3), e1–e2. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3866949/ (最終アクセス:2025年6月28日)
2025.06.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
「健康診断で肝臓の数値が少し高いですね」と医師に言われて、不安になっていませんか。 「でも薬はまだ出されなかったし大丈夫かな」と思っていても、実は脂肪肝が進んでいるかもしれません。 忙しい毎日の中で病院に通う時間がなかなか取れないときでも、適切なサプリメントを活用することで肝臓の健康をサポートできる可能性があります。 本記事では、脂肪肝の栄養管理に役立つサプリメントについて、専門医の視点から詳しく解説します。 サプリメントの選び方から使い方、さらには生活習慣の改善方法まで、あなたが知りたい情報を網羅的にお伝えします。 ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割であり、根本的な改善には生活習慣の見直しが欠かせません。 万が一、数値の改善が見られない場合には、専門的な治療法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂肪肝とサプリの基礎知識 脂肪肝は、食べすぎや運動不足などが原因で肝臓に脂肪がたまった状態のことです。 サプリメントは、あくまで補助的な役割として肝臓の働きを助けたり、脂肪がたまりにくくなるようにサポートしたりする効果が期待されています。 まずは脂肪肝がどうして起こるのか。基本的な仕組みを理解しましょう。 肝細胞に脂がたまる仕組み 肝臓に脂肪がたまる主な原因は、エネルギーのバランスが崩れることにあります。 食べすぎや運動不足により、体内で使われなかったエネルギーが中性脂肪に変わって肝臓に蓄積されていきます。(文献1) 正常な肝臓では、全肝細胞の30%未満が脂肪ですが、全肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積すると脂肪肝と診断されます。 この状態になると、肝臓本来の機能である解毒作用や代謝機能が低下し始め、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があります。 また、アルコールの摂取も肝臓での脂肪合成を促進する要因の一つです。 アルコールが分解される過程で生成される物質が、脂肪の分解を抑制させてしまうのです。 脂肪肝の初期段階では自覚症状がほとんどないため、多くの方が気づかないうちに進行してしまいます。 健康診断で肝機能の数値が基準値を上回った場合は、脂肪肝の可能性を疑いましょう。 サプリで期待できる三つの作用 脂肪肝に対してサプリメントに期待できる作用は、大きく分けて三つあります。 余分な脂を分解して外に出す 肝細胞をサビから守る 炎症をしずめる 余分な脂を分解して外に出す 余分な脂を分解して外に出す作用がある成分として、オメガ3脂肪酸とスルフォラファンがあります。 オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)には肝臓で脂肪をエネルギーに変える「β酸化」を高め、肝内脂肪を減らすことが臨床試験で確認されています。(文献8) また、スルフォラファンは脂肪を作る酵素を抑え、溜まりにくくする性質があります。これら2つの成分を効果的に組み合わせると、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせる可能性があります。(文献10) 肝細胞をサビから守る 肝細胞をサビから守るアスタキサンチンは、ビタミンEより強い抗酸化力で「身体のサビ」となる活性酸素を減らし、肝臓の炎症や繊維化を抑えます。(文献2)(文献9) また、シリマリンは肝臓の機能を測る数値であるALT・ASTを下げた臨床報告があります。 (文献3) アスタキサンチンとシリマリンをうまく取り入れ、サビにくい肝細胞を手に入れましょう。 炎症をしずめる サプリメントには、肝臓の炎症をしずめる効果もあります。 炎症をしずめる代表例として、オメガ3は炎症性の物質であるサイトカインを減らす作用が報告されています。(文献8) また、アスタキサンチンにも肝臓での炎症反応を弱める働きが確認されています。 (文献2)(文献9) ただし、これらの作用はあくまで食事や運動などの基本的な生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的に発揮されます。 サプリメントだけに頼るのではなく、総合的なアプローチが重要であることを理解しておきましょう。 脂肪肝の栄養管理に使用されるサプリ・成分5選 脂肪肝の栄養管理において注目されている5つの成分をご紹介します。 それぞれの成分には独自の特徴と効果があり、あなたの生活スタイルや体質に合わせて選択することが大切です。 以下の成分について、その特徴と期待できる効果、どのような方に適しているかを詳しく解説します。 スルフォラファン オメガ3脂肪酸 シリマリン アスタキサンチン オルニチン スルフォラファン スルフォラファンは、ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)に豊富に含まれる天然の化合物です。 この成分の最大の特徴は、強力な抗酸化作用と解毒酵素の活性化にあります。 肝臓は体内の解毒を担っているため、この機能をサポートするスルフォラファンは脂肪肝の改善に役立つとされています。 また、肝細胞を酸化ストレスから守る働きも確認されており、脂肪肝の悪化を遅らせると報告されています。(文献10) とくに、偏った食事で野菜不足が気になる人にとっては、不足分を補う選択肢になります。 外食が多く野菜不足が気になる方にとって、手軽に摂取できるサプリメントです。 オメガ3脂肪酸 オメガ3脂肪酸は、青魚に多く含まれる必須脂肪酸で、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表的です。 オメガ3脂肪酸は、EPA・DHAは体内にあるPPAR-αというスイッチを入れ、脂肪を作る酵素を抑えつつ、脂肪を分解する作用があると研究で示されています。(文献8) これにより、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせると考えられています。 さらに、EPA・DHAは中性脂肪を約10〜30%下げるという研究結果があります。(文献8) そのため、有効に摂取すれば脂肪肝の根本的な改善につながる可能性があります。 これらの効果から、脂っこい食事を好む方や、魚を食べる機会が少ない方に適した成分といえるでしょう。 現代の食生活では肉類の摂取が多くなりがちで、相対的にオメガ3脂肪酸が不足しやすい傾向にあります。 不足する栄養素はサプリメントで補って、脂肪酸のバランスを整えましょう。 シリマリン シリマリンは、マリアアザミ(ミルクシスル)という植物の種子から抽出される天然成分です。 この成分は、肝機能サポートのサプリメントとして広く利用されています。(文献3) シリマリンの主な作用は、肝細胞の再生を助け、肝臓を有害物質から保護することです。(文献12) また、抗炎症作用により肝臓内の炎症を抑制し、脂肪肝の進行を遅らせる効果も期待されています。(文献12) 長期的な肝臓の健康維持を考えている方や、お酒を飲む機会が多い方におすすめの成分です。 シリマリンは副作用として、まれに胃腸の不調を引き起こすことがあります。 一般的な摂取目安は製品表示に従い、医師の指示を優先して服用しましょう。 アスタキサンチン アスタキサンチンは、鮭やエビ、カニなどに含まれる赤い色素成分で、強力な抗酸化作用を持っています。 脂肪肝の状態では、肝細胞内で活性酸素が増加し、細胞にダメージを与えてしまいます。 アスタキサンチンは、これらの有害な活性酸素を効率的に除去し、肝細胞を酸化ストレスから保護します。 また、炎症を抑制する作用もあり、脂肪肝に伴う肝臓の炎症を軽減する効果が期待されています。(文献9) 金沢大学の研究では、マウス実験で高コレステロールの餌を与えた群と、高コレステロールの餌にアスタキサンチンを混ぜて与えた群を比較したところ、アスタキサンチンを混ぜた群がAST・ALTの上昇を抑えた報告もありました。(文献2) オルニチン オルニチンは、しじみに豊富に含まれるアミノ酸の一種で、アンモニアを尿素に変えるサイクルのカギとなるアミノ酸で、解毒を支えます。(文献4) アンモニアは体内で発生する有毒な物質で、適切に処理されないと疲労感や集中力の低下を引き起こします。 脂肪肝の状態では、アンモニアの処理能力にも影響が出ることがありますが、オルニチンを補給することで解毒機能をサポートできます。 また、成長ホルモンの分泌を促進する作用もあり、肝機能の修復を助ける可能性があります。 肝臓の負担を軽減することで、脂肪肝の改善にも間接的に寄与すると考えられています。 脂肪肝でサプリを使用するリスクと使い方 サプリメントは健康食品として手軽に利用できる一方で、正しい方法で使わないと体に悪影響を与える可能性があります。 とくに肝臓に関するサプリメントは、使い方を間違えると肝臓に負担をかけてしまうことがあるため、注意深く使用する必要があります。 本章では、サプリメントを活用するために知っておきたい重要なポイントについて解説します。 肝障害報告の多い成分 サプリメントの中には、成分によっては過剰摂取や体質に合わない場合に肝障害を引き起こす可能性があります。 とくに注意が必要なのは、ウコン(クルクミン)を含む製品です。 ウコンは肝臓に良いとされる一方で、大量摂取により肝障害を起こした事例が報告されています。(文献5) これには複数の要因があり、ウコンの効能が肝臓の負担となり引き起こされる事例もあれば、ウコンに含まれる鉄分が肝臓に蓄積しやすく、酸化ストレスを増加させる事例もあります。 また、茶葉から抽出される成分も、まれに肝障害を引き起こすことがあります。 通常の飲み物として摂取する分には問題ありませんが、濃縮された形でのサプリメント摂取には注意が必要です。 これらの成分を含むサプリメントを使用する際は、まず少量から始めて体調の変化を注意深く観察することが大切です。 肝機能に不安がある方は、使用前に医師に相談することをおすすめします。 薬とサプリの併用は医師に相談する 現在、薬を服用している方は、サプリメントとの併用について必ず医師に相談してください。 薬やサプリメントの成分が肝臓に損傷を起こし、肝機能に影響を及ぼす可能性があるからです。(文献6) サプリメントと薬を同時に飲むと、出血・低血糖・低血圧・薬効増減などの思わぬ副作用が起こることがあります。 とくにワルファリンなどの抗凝固薬、糖尿病薬、高血圧薬、そして肝臓で代謝される薬を使っている人は要注意です。 必ず医師や薬剤師に飲んでいる薬やサプリメントを全部伝え、併用の可否とモニタリング方法を相談しましょう。 副作用が出たらすぐに使用を中止する サプリメントを使用していて体調不良を感じた場合は、すぐに使用を中止してください。 副作用の症状としては、腹痛、下痢、吐き気、頭痛、発疹、かゆみなどがあります。 肝臓に関連する症状である、疲労感の増強、食欲不振、黄疸(皮膚が黄色くなる)、尿の色が濃くなるなどが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 これらの症状は肝機能の低下を示している可能性があります。 また、アレルギー反応として呼吸困難や全身の発疹が現れた場合は、緊急性が高いため直ちに医療機関を受診する必要があります。 副作用が疑われる場合は、使用していたサプリメントの製品名や成分、使用期間、摂取量などの情報を医師に正確に伝えることが大切です。 これらの情報は、原因の特定と適切な治療につながります。 サプリメントは「天然」や「自然由来」と表示されていても、すべての人に安全とは限りません。 体質や体調により、予期しない反応が起こる可能性があることを理解しておきましょう。 サプリだけでは不十分|生活習慣の改善が脂肪肝治療の基本 サプリメントは脂肪肝の改善をサポートする有用なツールですが、それだけに頼っていては根本的な解決には至りません。 脂肪肝治療の基本は、食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。 食事面では、カロリーの過剰摂取を避け、バランスの取れた栄養摂取を心がけることが重要です。 とくに糖質や脂質の摂取量をコントロールし、野菜や魚を中心とした食事に切り替えることで、肝臓への脂肪蓄積を減らせます。 また、コーヒーに含まれるクロロゲン酸は脂肪酸の酸化を促し、カフェインはエネルギー消費を高める作用が示唆されています。 ある観察研究では1日2〜3杯のコーヒー習慣が脂肪肝や線維化リスクを下げると報告されています。(文献7) 運動については、30分〜60分程度の有酸素運動を週3〜4回行うことが推奨されています。 ウォーキングや水泳などの軽い運動でも十分効果があり、無理なく続けられる運動を選択することが大切です。 これらの生活習慣の改善と併せてサプリメントを活用することで、より効果的な脂肪肝の改善が期待できます。 サプリメントは補助的な役割として位置づけ、基本的な生活習慣の見直しを最優先に取り組むことをおすすめします。 また、定期的な健康診断でASTやALTのような血液検査の数値をモニタリングし、改善の程度を客観的に評価することも重要です。 脂肪肝の再生医療 生活習慣の見直しやサプリメントによる栄養管理の他に、再生医療(幹細胞治療)の選択肢があります。 再生医療は、からだが本来もつ修復力を利用して、傷んだ臓器の働きを取り戻すことを目指す先進的な方法です。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に対する再生医療として幹細胞治療を行っています。 自己細胞を使うため拒絶反応が起こりにくく、通院で受けられるのが特徴です。 脂肪肝に対する再生医療について、詳しくは以下をご覧ください。 まとめ|自分で気づきにくい脂肪肝はすぐに相談を! 脂肪肝は初期段階では自覚症状がほとんどなく、多くの方が気づかないうちに進行してしまう疾患です。 しかし、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があるため、早期の対策が重要です。 本記事でご紹介したサプリメントは、脂肪肝の栄養管理において有用な選択肢の一つですが、あくまで補助的な役割であることを理解しておきましょう。 根本的な改善には、食事療法と運動療法による生活習慣の見直しが不可欠です。 サプリメントを選ぶ際は、ご自身の生活スタイルや体質に合った成分を選択し、安全性を最優先に考慮してください。 また、現在服用している薬がある方は、必ず医師に相談してから使用を開始しましょう。 もし生活習慣の改善やサプリメントによる対策を継続しても数値の改善が見られない場合は、専門医による詳しい検査や治療を受けることをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に関する無料相談を承っているので、お気軽にご相談ください。患者様一人ひとりの状態に応じた治療法をご提案します。 あなたの肝臓の健康を守るために、今すぐできることから始めてみませんか。 参考文献 (文献1) 沢井製薬株式会社「本当はコワイ脂肪肝」サワイ健康推進課, 2014年12月 https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/201412.html(最終アクセス:2025年06月24日 (文献2) 金沢大学「サケやカニ由来の赤い色素『アスタキサンチン』にNASHの予防・抑制作用があることを発見!」2015年頃 https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/32091/(最終アクセス:2025年06月24日) (文献3) 科学技術振興機構「J-GLOBAL学術論文データベース」2010年頃 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002214886689414(最終アクセス:2025年06月24日) (文献4) 協和発酵バイオ株式会社「オルニチンのはたらきと効果-02」 https://www.kyowahakko-bio-healthcare.jp/healthcare/ornithine/effect02.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献5) 東邦大学医療センター大森病院検査部「ウコンと肝障害について」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_079.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献6) Merck & Co., Inc.「薬による肝臓の損傷」MSDマニュアル(家庭版), 2020年1月 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(2021). Sulforaphane Attenuates Nonalcoholic Fatty Liver Disease by Inhibiting Hepatic Steatosis and Apoptosis. Nutrients, 14(1), pp.76. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35010950/(最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
「健診で脂肪肝と言われたけれど、薬で治療できるのだろうか?」 このような疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか。 脂肪肝は痛みや自覚症状がほとんどないため、つい放置してしまいがちな病気です。 しかし、そのまま放っておくと肝臓がかたくなり、肝炎や肝硬変といった重篤な病気につながる可能性があります。(文献1) 最近では、飲み薬や注射などさまざまな治療選択肢が広がっており、早期に適切な治療を始めることで肝臓の状態をしっかりと改善が期待できます。 本記事では、脂肪肝の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、市販薬との違い、そして治療を受ける際の注意点まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後までご覧いただき、脂肪肝治療への理解を深めてください。 脂肪肝の薬の種類 脂肪肝の治療では、主に以下の薬が使用されます。 抗酸化剤(ビタミンE) 糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など) 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) 脂質異常症治療薬(スタチン系) その他の補助的治療薬 これらの薬は主に、肝臓を保護したり炎症を抑えたりするためのものです。 それぞれ異なる機能で肝臓の改善に働きかけますが、どの薬が適しているかは患者様の症状や併存疾患によって決まります。 次に、それぞれの薬について詳しく見ていきましょう。 抗酸化剤(ビタミンE) ビタミンEは、肝臓の炎症や酸化ストレスを軽減する強力な抗酸化剤として脂肪肝治療の補助として使用されることがあります。 主な働きは、肝細胞を傷つける活性酸素を除去し、炎症を引き起こすサイトカインという物質を抑制することです。(文献2) 肝酵素(ALT、AST)の低下、肝臓の炎症軽減、インスリン感受性の改善といった効果が見られた例があります。 ただし、副作用のリスクも理解しておく必要があります。 高用量での長期使用では、死亡率の増加や出血性脳卒中のリスクが報告されています。(文献3) そのため、糖尿病を合併していない患者様で、肝生検でNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が確認された場合に限定して、抗酸化剤(ビタミンE)の使用が推奨されています。 使用する際は必ず医師の指導のもとで適切な用量を守ることが重要です。 GLP-1受容体作動薬 GLP-1受容体作動薬は、もともと糖尿病治療薬として開発された薬ですが、脂肪肝の改善効果も報告されています。 この薬の作用メカニズムは、血糖値に応じてインスリンの分泌を促進し、食欲を抑制して体重減少を促すことです。(文献4) 代表的な薬剤には、リラグルチド(ビクトーザ)やセマグルチド(オゼンピック)があります。 この薬の特徴は、主に体重減少を介した改善が示唆されており、肝脂肪への直接作用は検証中です。 副作用としては、下痢や便秘、吐き気や嘔吐もあるため、定期的な診察が必要です。 SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖再吸収を阻害することで血糖値を下げる糖尿病治療薬です。脂肪肝の改善効果も注目されています。 代表的な薬剤には、エンパグリフロジン(ジャディアンス)、ダパグリフロジン(フォシーガ)、カナグリフロジン(カナグル)などがあります。 台湾で行われた大規模な研究では、糖尿病患者における脂肪肝の発症率が有意に低下することが報告されています。(文献5) 副作用としては、多尿・口渇などが挙げられます。 とくに高齢者では脱水のリスクが高まるため、十分な水分摂取と定期的な検査が必要です。 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) ウルソデオキシコール酸は、もともと胆石症の治療に使用されてきた薬です。肝細胞を保護する効果があることから脂肪肝治療にも応用されています。 この薬は親水性胆汁酸と呼ばれる物質で、肝細胞の膜を安定化し、炎症やアポトーシス(細胞死)を抑制する働きがあります。(文献6) ただし、単独での治療効果は限定的であることがわかっており、生活習慣の改善や他の薬剤との併用でより効果的とされています。 副作用は軽度の下痢や胃部の不快感がありますが、間質性肺炎の重大な副作用がまれにあるため、異常が認められた場合は専門医に相談しましょう。 推奨用量は通常、成人1回あたり50mgを1日3回経口投与します。 スタチン系薬剤 スタチン系薬剤は、コレステロールを下げる薬として広く使用されていますが、脂肪肝の改善にも多面的な効果を発揮することがわかってきました。 代表的な薬剤には、アトルバスタチン(リピトール)、ロスバスタチン(クレストール)、シンバスタチン(リポバス)などがあります。 この薬の作用は、HMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロール合成を抑制するだけでなく、抗炎症作用、抗線維化作用、抗酸化作用も併せ持つことです。(文献7) 大規模な研究では、脂肪肝患者における心臓や血管で起こる重大なトラブルを68%減少させた報告もあります。 副作用としては、筋肉痛、肝酵素上昇、まれに横紋筋融解症などが挙げられます。 脂肪肝は市販薬やサプリで改善できる?処方薬との違い 「病院に行く前に、まずは市販薬やサプリメントで様子を見たい」と考える方も多いでしょう。 確かに、ドラッグストアやインターネットで手軽に購入できる肝機能改善をうたった商品は数多く存在します。 しかし、処方薬と市販品には大きな違いがあることを理解しておく必要があります。 最も重要な違いは、医学的根拠(臨床試験データ)の量と質です。 処方薬は大規模試験を経て承認されることが多く、標準化された用量設定と品質管理が保証されています。 一方、市販のサプリメントは高品質な臨床試験による裏付けが限定的で、製品間の品質や体への吸収されやすさ等にばらつきがあります。 自己判断での使用には重大なリスクも伴います。 適切な診断なしでの自己治療は、以下の危険性があります。 本当の病気を見逃す(診断遅れ) 他の薬剤との相互作用 不適切な用量により効果がなかったり、副作用が出る これらの危険性があるため、まずは専門医の診断を受けることが大切です。 脂肪肝で薬を服用する際の注意点 脂肪肝の薬物治療を成功させるためには、いくつかの重要な注意点があります。 まず理解していただきたいのは、薬だけでは根本的な改善は難しいという点です。 脂肪肝治療の基本は生活習慣の改善であり、薬物療法はあくまでサポート役として位置づけられています。 薬を服用する際は、必ず医師の指示に従い、定期的な検査を受けながら治療を続けましょう。 脂肪肝は生活習慣の改善が治療の基本 以下の食事、運動、そして薬との相乗効果を確認し、脂肪肝の改善をしましょう。 食事 肝脂肪を有意に減らす選択肢として、日本肝臓学会ガイドラインでは、オリーブオイル・魚・ナッツ・全粒穀物を中心とした、地中海食パターンと適度なカロリー制限が挙げられています。 赤身肉や加工肉を控え、タンパク質は魚類や豆類から摂取しましょう。 運動 運動療法は複数の研究で脂肪肝への効果が認められています。 具体的には「中~高強度有酸素運動(30–60分×週3–4)」を推奨し、体重が減らなくても肝脂肪と炎症が改善すると報告されています。 そのため、体重も一つの大切な指標ではありますが、体重が減らないからと運動を辞めずに、継続することが大切です。 副作用に注意!症状が出たら必ず医師に相談 治療薬を継続して使用するためには、副作用への適切な対応が欠かせません。 どの薬にも副作用のリスクがあるため、症状が現れた場合は自己判断せず、必ず医師に相談しましょう。 薬剤 代表的副作用と頻度 早期対応のポイント ビタミンE 出血性脳卒中 高用量を避け、出血傾向のある人は使用しない GLP-1受容体作動薬 吐き気・下痢 初期は少量から開始し、症状が続けば用量調整 SGLT2阻害薬 尿路/性器感染症、脱水 水分摂取を促し、高齢者・腎機能低下例は慎重投与 スタチン 筋痛、クレアチンキナーゼ上昇、横紋筋融解症 筋肉痛+褐色尿が出たら直ちに受診 副作用が現れた場合の対応方法も覚えておきましょう。 軽微な症状であっても、まずは医師への報告が大切です。 症状の程度に応じて、用量調整、投与方法の変更、代替薬への切り替えなどの対応が検討されます。 定期的な検査も継続管理の重要な要素です。健康診断や病院で定期検査を受け、診断結果を元に医師に相談しましょう。 薬物相互作用にも注意が必要で、他の薬やサプリメントを併用する場合は必ず医師に伝えてください。 脂肪肝の薬と再生医療という治療選択肢 脂肪肝治療の柱はあくまで食事・運動と既存薬ですが、治療には再生医療という選択肢もあります。 再生医療には、幹細胞治療とPRP療法の二つがあります。 幹細胞治療では、患者様から採取した幹細胞を培養し、患部に投与します。 PRP療法は、血液に含まれる血小板を濃縮した液体を作製し、注射する治療法です。 肝臓疾患に対する再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 まとめ|脂肪肝治療は薬と生活習慣の改善で回復を目指そう 脂肪肝は、早期に気づいて適切な治療をすれば改善が期待できる病気です。 現在はビタミンE、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、ウルソデオキシコール酸、スタチン系薬など複数の薬が検討されており、炎症や脂肪蓄積を抑える報告結果もあります。 ただし、薬だけに依存せず、食事と運動を基盤に改善を目指すことが治療成功のカギです。 地中海食を参考にカロリーと糖質を抑え、中~高強度の有酸素運動を30から60分、週3〜4日のペースで行い、肝脂肪と炎症を改善していきましょう。 治療には、再生医療の選択肢もあります。 再生医療の詳細については、当院「リペアセルクリニック」へお問い合わせください。 脂肪肝の薬に関してよくある質問 薬の副作用が心配だけど大丈夫? 脂肪肝の治療のみを対象とした薬はまだないため、脂肪肝と関連する薬を使用した際の回答となりますが、副作用が起きることもあります。 薬ごとの副作用の重さの違いは、ビタミンEだと高用量を長期に服用した場合に全死亡率や出血性脳卒中のリスクがわずかに上昇するとの報告があります。 一方、GLP-1受容体作動薬の嘔気・下痢、SGLT2阻害薬の尿路/性器感染症は多くが軽度で、用量調整や水分補給で対処可能です。 また、副作用の重さは薬の違いだけでなく、体質によっても個人差がある点にも注意してください。 軽い症状でも自己判断は避け、すぐに医師へ報告し、検査値を定期的にチェックして副作用を早期発見・対応しましょう。 薬代はいくらぐらいかかる? 脂肪肝の治療だけを対象とした保険適用薬は現在ありません。そのため、薬が高額になる可能性がある点は注意が必要です。 ただし、本記事で紹介した薬で、糖尿病などの合併症が見られた場合は保険適用となる可能性もありますので、必ず確認しましょう。 費用は薬剤・投与量で変わるため、診断時に医師と具体的に相談してください。 どのタイミングで病院に行けばいい? 健診で脂肪肝を指摘されたら症状がなくても一度専門医を受診するのが重要です。 とくに40歳以上で体重増加が続く方や、家族歴に肝疾患がある方は早期受診が推奨されます。 脂肪肝は自覚症状が出にくく、放置すると肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあります。 早期診断・治療で重篤化を防げる可能性が高まるため、不安を感じたら遠慮なく医療機関に相談してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」2020年 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/nafld.html (最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) Nagashimada, M., & Ota, T. (2019). Role of vitamin E in nonalcoholic fatty liver disease. IUBMB Life, 71(4), pp.516-522. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30592129/最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) Miller, E. R., et al. (2016). Vitamin E and Non-alcoholic Fatty Liver Disease. PMC, 4984672. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4984672/ (最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) Newsome, P. N., et al. (2021). A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis. New England Journal of Medicine, 384(12), pp.1113-1124. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33185364/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Wei, Q., et al. (2024). Non-alcoholic fatty liver disease risk with GLP-1 receptor agonists and SGLT-2 inhibitors in type 2 diabetes: a nationwide nested case–control study. Cardiovascular Diabetology, 23(1), pp.1-12. https://cardiab.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12933-024-02461-2 (最終アクセス:2025年6月24日) (文献6) Zhang, J., Wang, X., Shen, Y., et al. (2020). Ursodeoxycholic Acid in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical and Experimental Gastroenterology, 13, 251-264. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32595039/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献7) Boutari, C., et al. (2024). A Systematic Review of Statins for the Treatment of Nonalcoholic Steatohepatitis: Safety, Efficacy, and Mechanism of Action. Molecules, 29(8), pp.1859. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38675679/ (最終アクセス:2025年6月24日)
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