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- 内科疾患
血友病は、一生付き合っていかなければいけない疾患です。 しかし、出血のリスクがあっても、しっかりコントロールできていれば、血友病ではない方と同じような生活を送ることも可能です。適切な治療と予防策で、関節の機能を維持し、生活の質を向上させることができます。 ところが、血友病性関節症を発症してしまうと、痛みや腫れをともない、日常生活にも影響を及ぼします。 今回の記事では、血友病性関節症の基礎知識や症状、治療などについて詳しく解説します。生活の中でできる対策も紹介しますので、血友病性関節症に対し不安を抱いている方は、ぜひ、最後までお読みください。血友病性関節症の知識を深めて、不安や心配事が少ない生活を送りましょう。 血友病性関節症とは? 血友病性関節症とは、血友病患者が関節内で出血を繰り返し起こした場合に発症します。血友病の特徴的な合併症です。ここでは、血友病性関節症の症状や診断、疾患が関節に与える影響について解説します。 症状と診断 関節内出血を起こすと、以下のような症状があらわれます。 関節の痛み 腫れ 熱感 こわばり 違和感 動きの悪さ 重い感じ 関節内は狭いため、少しの出血でも症状があらわれる場合が多いです。血友病性関節症の診断は、関節の状態を検査し評価して診断します。血友病性関節症を疑う場合、以下のような4つの検査をおこないます。 触診 レントゲン検査 MRI検査 超音波(エコー)検査 触診では、関節の可動域や変形を確認します。レントゲン検査では、骨の状況は評価できますが、出血の状況までは把握できません。レントゲン検査で、明らかな所見があらわれる頃には、骨破壊が進んでいる状況と考えられます。MRI検査は、骨だけでなく軟骨やじん帯、滑膜の肥厚など、関節内部を詳しく評価できます。 ただし、MRI検査は撮影に30分ほど時間がかかります。その間、静止していなければならないため、小さな子どもには難しい検査といえるでしょう。エコー検査では、パワードップラー法を用いると、血液の観察をおこない滑膜炎の評価も可能です。これら4つの検査を組み合わせて、関節の状態を評価し診断します。 疾患が関節に与える影響 血友病は、出血を起こしやすい病気です。出血を起こしやすい部位として最も多い関節が、足関節だとされています。 次いで、肘関節、膝関節が出血頻度が高い傾向です。関節内に出血を起こすと、滑膜が働いて、関節内に溜まった血液を取り除こうとします。 しかし、出血が繰り返されると滑膜の働きが追いつかなくなり、滑膜の増殖と炎症を引き起こします。増殖した滑膜は、脆弱で細い血管が多いために出血しやすい状態です。出血を繰り返すと、滑膜の増殖や炎症も繰り返し生じます。 その結果、関節の軟骨を攻撃し、軟骨の破壊や骨の変形を引き起こすのです。 血友病性関節症の治療 血友病の長期的な治療目標として、血友病性関節症を発症しない、進行させないを目標として治療方針を決めていきます。 現在の治療オプション 現在、血友病性関節症の治療の選択肢は、以下の通りです。 定期補充療法 予備的補充療法 出血時補充療法(オンデマンド療法) 基本的にこの3つの治療方法を組み合わせ、状況によって使い分けます。 <定期補充療法> 定期的に血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血予防のため、「週に2回」や「5日に1回」など、決められたタイミングで注射をおこないます。使用する製剤の種類や血友病の重症度で注射のタイミングは医師が判断します。 医師の指示通り、忘れず注射しましょう。 <予備的補充療法> 足に負担がかかる予定の前に事前に血液凝固因子製剤を投与しておく方法です。スポーツや出張、遠足、旅行などが予定されている場合、事前に注射をおこないます。血液凝固因子製剤は、効果が持続する時間が短くて12時間程度です。 そのため、予定があるその日の朝に注射しておくとよいでしょう。 <出血時補充療法(オンデマンド療法)> 出血したときに血液凝固因子製剤を投与する方法です。出血時には、できるだけ早く血液凝固因子製剤を投与します。 また、出血の応急処置時に必要な4つの処置(RICE)をおこないましょう。RICEとは、処置方法の頭文字を取ったものです。ここでは、関節内出血をした場合の処置のポイントについて紹介します。 頭文字 処置方法 処置のポイント R (Rest) 安静 • 横になり、出血した部位を動かさないようにし安静にする。 I(Ice) 冷却 • 氷のうで20~30分持続的に出血部位を冷やす。 • 消炎作用がある湿布や冷却シートでもよい。 • 冷やし過ぎに注意する。 C (Compressi on) 圧迫 • 関節内の出血の場合、包帯やサポーターを使用し固定する。 E(Elevation) 挙上 • 出血部位を心臓より高い位置まで上げる。 関節内出血の治療以外に、直接関節内にヒアルロン酸やステロイドを注入する方法もあります。 しかし、感染や出血のリスクをともなうため、メリットが上回る場合のみおこなわれる方法です。 新しい治療法と臨床試験 血友病性関節症の新しい治療法として、「自己骨髄間葉系幹細胞輸注術」と呼ばれる治療法の研究や臨床試験が進められています。この治療で使用される「間葉系幹細胞」とは、骨や血管、心臓の筋肉などに分化することができる幹細胞です。 移植までは以下のような流れでおこなわれます。 事前に採血をおこない血清を準備 骨盤から間葉系幹細胞が含まれる骨髄液を採取 間葉系幹細胞を培養 移植前日に、関節内の滑膜組織を切除し移植環境を整える 間葉系幹細胞が多く含まれている血清を関節内に注入 関節内へ移植をした間葉系幹細胞が、関節軟骨への再生が期待されています。現在は膝関節での臨床試験がおこなわれていますが、今後はその他の関節や適応できる年齢を広げて研究が進められています。 関節保護のための戦略 血友病性関節症は、関節内の出血を繰り返し、関節の骨や軟骨を破壊します。 そのため、破壊され続けると、血友病患者は将来的に人工関節を入れる可能性が高くなります。人工関節は10年~15年で入れ替えが必要です。 早い段階で人工関節を入れると、その後に何度か入れ替えの手術が必要になります。人工関節を入れるまでの期間を延ばせれば、手術回数も少なくなります。そのため、日常の中でできる関節の保護や関節の健康を保つ運動、予防策など、関節のケアが重要です。 日常活動での関節保護テクニック 日常活動の中で、出血を起こさないために関節保護はとても大切です。関節保護には以下のようなポイントがあります。 血液凝固因子製剤の投与 定期健診 出血後の対応 適度な運動 患者の状態や生活スタイルを考慮して、血液凝固因子製剤の投与量や間隔を決めていきます。 そのためには、定期的に検査をおこない、関節の評価も必要なため、定期検診は欠かさず行きましょう。また、関節の保護には出血後の対応や管理も重要です。出血があった場合や出血した可能性がある場合には、血液凝固因子製剤を投与し、RICE処置をおこないます。 しかし、出血が治まり痛みや腫れなどの症状が消失すれば、適度な運動をして筋力をつけていくことも大切です。 関節の健康を保つ運動と予防策 関節の健康を保つためには、適度な運動が必要です。血友病患者は、「出血したらどうしよう」と不安な気持ちを抱えています。 しかし、出血を起こさないようにと安静にばかりしていると、筋力が衰え、筋肉の委縮を引き起こします。また、そのように筋肉が健康な発達をしていない関節は出血しやすい傾向です。 出血や症状が治まっているときには、出血の予防策を十分にしてから適度な負荷をかけ、運動をおこないましょう。出血予防は、血液凝固因子製剤の予備的補充投与をしてから運動をします。 運動は内容によっては、出血リスクが高いものがあります。水泳やアクアビクス、サイクリング、筋トレなどは、比較的負荷が少なく出血リスクが少ない傾向です。 しかし、ラグビーやレスリング、ボクシングなどは負荷が高く、出血リスクも高くなります。サッカーや野球、バスケットボールなどのスポーツは、運動強度に幅があるため、自己判断は難しいでしょう。 また、負荷が少なく出血リスクが少ない運動でも、血友病の重症度や関節の可動域、出血コントロールの状況など、人によりさまざまです。そのため、運動を始める際には、必ず整形外科医や理学療法士と、どの程度の運動から取り組むか相談してからおこないましょう。 生活の質を向上させるための日常生活での調整 血友病性関節症では、出血の予防だけでなく、食事やストレスなどさまざまな面でも調整が必要です。どのようなことに注意や意識をして生活をするか、生活の質を向上させるポイントを紹介します。 食生活と栄養 食事は、規則正しく栄養バランスを考えた食事をするよう心がけましょう。肥満は、関節や骨に大きな負担をかけます。 適切な体重を維持するよう、食べ過ぎに注意し、適度な運動を取り入れましょう。急なダイエットも関節には負担がかかるため、体重のコントロールについて、主治医と相談すると安心です。また、血友病患者は骨粗しょう症になる傾向があります。カルシウムやビタミンDの摂取、日光浴をおこない、骨粗しょう症の予防をしましょう。 ストレス管理と精神的健康のサポート 血友病性関節症の患者は、日常生活の中でも気を付けることや制限があり、ストレスを感じる場面が多いでしょう。一般的に、ストレスが溜まっているサインは以下のような症状があらわれます。 イライラしやすく怒りっぽくなる 食欲がなくなる 気分が落ち込みやる気が起きない 寝つきが悪くなり夜間に目が覚める ストレスをうまく発散し、ため込まないことがポイントです。ストレスによる症状がある場合、まずは、主治医に相談してみましょう。必要であれば、心療内科やカウンセリングを受け、精神的に安定して過ごすことが大切です。血友病患者には、血友病患者にしかわからない悩みや不安もあります。ほかの血友病患者との繋がりをもってみると、悩みが共有でき不安が解消できるかもしれません。 患者と家族への支援 血友病患者には血友病患者にしかわからない、悩みや不安があるでしょう。家族もまた同じです。そのような方々の集まりに参加してみてはどうでしょうか。さまざまな年齢の血友病患者とのコミュニケーションは、悩みや不安が共有でき、有意義な情報交換の場となるでしょう。 コミュニティリソースとサポートグループ 血友病患者が利用できる、コミュニティリソースやサポートグループは、以下のようなものがあります。 血友病友の会(ヘモフィリア友の会) 世界血友病連盟(WFH) 血友病患者のためのオープンチャット さまざまなコミュニティリソースやサポートグループがあります。血友病友の会(ヘモフィリア友の会)は、加盟する患者会が全国にあります。また、世界血友病連盟は、世界の血友病患者のコミュニティです。 海外在住の方には、心強い情報源となるでしょう。血友病患者のためのオープンチャットもあります。匿名で参加できるため、身近な人にできない相談事も気軽にできるところが利点です。 ただし、オープンチャットは誰でも参加できるものなので、情報の信憑性には注意が必要です。 長期的な健康管理の重要性 血友病は、長く付き合っていく病気であり、血友病性関節症はその後の生活の質(QOL)を大きく左右します。そのため、長期的な健康管理が非常に重要です。 無理をしたり、出血の管理をおろそかにすれば、関節内の出血が繰り返され、人工関節をいれなければならなくなります。人工関節の入れ替えをする回数を減らすためにも、人工関節にするのはできるだけ遅い方がいいでしょう。 また、出血を恐れ、安静にばかりしていても、骨や筋肉が衰えていきます。肥満になれば、関節への負担も大きくなります。出血しないよう血液凝固因子製剤の投与を忘れずにおこない、負荷が高くなる予定があれば、予備投与しておくなど対策が大切です。 長期的に健康管理をおこなうことで、血友病性関節症の発症を遅らせたり、発症しても進行させないようにしたりできるでしょう。 結論 血友病性関節症は、血友病患者にとっては身近であり心配な合併症です。しかし、血液凝固因子製剤の投与や出血時の適切な対応をおこなえば、骨破壊を抑え、血友病性関節症の発症や進行を遅らせることができるでしょう。 血友病性関節症は、適切な治療と予防策をおこなえば関節の機能を維持して、生活の質を向上させることが可能です。普段との違いや関節の違和感などがある場合は、早めに受診しておくと安心です。なにかあれば、まずは主治医に相談しましょう。 参考文献一覧 血友病性関節症診療のポイント-病態から治療・ケアまで 血友病ハンドブック 血友病性関節症を防ぐ5つのポイント 血友病性関節症への挑戦 関節の検査と評価の最新情報 血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発 血友病患者における運動とスポーツ 患者中心医療の可能性:患者会の現在と将来
2024.07.10 -
- 肝疾患
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アルコール性肝炎は、過剰な飲酒によって引き起こされる肝臓の病気です。アルコール性肝障害(アルコール性肝疾患)の中でも、特に肝臓の炎症が強い病態で、時に命に関わることもあります。また、症状が落ち着いた後もお酒を飲み続けてしまうと、長期的に肝硬変につながりかねません。 この記事では、 アルコールと肝臓の病気について アルコール性肝炎とその治療 肝硬変への進行を防ぐ最新の治療法 を中心に詳しく説明していきます。 飲酒による肝臓へのダメージが心配な方、アルコール性肝障害と診断を受けた方はぜひお読みください。 アルコール性肝炎の原因や症状に関しては以下の記事で解説しておりますので、そちらをご参照ください。 飲酒と肝臓の関係 肝臓は多くの働きをしていますが、アルコールの代謝もそのうちの一つです。体内に取り込まれたアルコールの代謝の過程で、アセトアルデヒドという有害物質が生成されます。アセトアルデヒドは酵素の働きにより無害な物質になり、最終的には体外に排出されます。しかし、アルコールの過剰摂取を続けると、アセトアルデヒドが肝臓の細胞にダメージを与えます。 過剰なアルコール摂取は腸内の細菌バランスを崩すことでも肝臓に悪影響を与えます。腸内には多くの細菌が存在し、これらが食物の消化や免疫力の維持に重要な役割を果たしているのです。しかし、アルコールを大量に飲むと、このバランスが崩れ、腸の壁が弱くなります。その結果、本来吸収されないはずの有害な物質が腸から血液を介して肝臓に届き、炎症を引き起こすのです。 このように、アルコールは肝臓に多大な負担をかけ、さまざまな肝臓の病気を引き起こす原因となります。 アルコール性肝障害になりやすい人 一般的に、女性は男性よりも少ない量のアルコールで肝障害を起こしやすく、進行も早い傾向があります。 また、アセトアルデヒドを代謝するALDH2という酵素がうまく働かない人は、アルコールの分解が遅くなり、アセトアルデヒドが体内にたまりやすくなります。ALDH2がうまく働かない人は、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなったり、気持ち悪くなったりするフラッシング反応が見られることが多いです。 アセトアルデヒドの代謝が遅れるため、肝臓に大きなダメージを与え、アルコールによる肝障害を引き起こすリスクが高まります。 アルコール性肝障害の分類における位置付けは? アルコール性肝炎は「アルコール性肝障害(アルコール性肝疾患)」と呼ばれる病態のなかの一つの状態です。慢性的な経過の中で起こる、急激な肝臓の炎症という位置付けです。 アルコール性肝障害とは、過剰なアルコールの摂取により肝臓が障害を受けた状態全般を指す言葉です。 一般的には5年以上にわたって純アルコールあたり60g以上を常習的に飲むと「過剰」と考えられます。ただし、女性やALDH2がうまく働かない人はこの3分の2程度の飲酒量でも過剰となります。 お酒をやめると肝機能の検査値は改善すること、ウイルスや自己免疫疾患など他の肝障害をきたす要素が否定的であることもポイントです。 アルコール性肝障害には次のような疾患が含まれています。 アルコール性肝障害の分類 アルコール性脂肪肝 アルコールにより肝臓の30%以上に脂肪が溜まってしまっている状態。 アルコール性肝線維症 アルコールにより肝臓に線維組織が出現し始めているが、炎症や肝細胞のダメージは軽度である状態。 アルコール性肝硬変 アルコールによるダメージが重なり、肝細胞が繰り返し再生を繰り返して線維化し硬くなっている状態。 アルコール性肝炎 アルコールの過剰摂取により肝細胞の変性・壊死が強く出ている状態 アルコール性肝がん アルコールによるダメージを肝臓が受けている状況下に肝がんができており、他の原因が除外できている状態。 慢性的に過剰飲酒を続けると、脂肪肝→肝線維症→肝硬変と順番に進行していく可能性があります。アルコール性肝炎ではこの慢性経過とは別に、酒量の増加などをきっかけにして肝臓に強い炎症が起こります。 背景の肝臓の組織が軽度の脂肪肝であっても進行した肝硬変であっても、肝細胞が変性や壊死を起こしていればアルコール性肝炎と考えます。 つまり、もともとアルコールによる肝臓の障害がある方が、さらに過剰飲酒することで肝臓に強い炎症とダメージが起こってしまっているのがアルコール性肝炎なのです。 アルコール性肝炎の検査と診断 確実に診断をつけるのであれば、肝生検を行う必要があります。 肝生検 肝細胞が著明にふくらみ変性していたり、壊死していたりする様子が認められます。また、マロリー小体という特徴的な構造物や多数の炎症細胞の浸潤が認められることも多いです。特徴的な病理組織が認められれば、確定診断に至ります。しかし、全身状態の悪い方の肝生検は時に高いリスクを伴うため、すべての患者さんにできる検査ではありません。 血液検査・画像検査 肝生検ができない場合は、病歴や血液検査・画像検査から診断を行います。飲酒の状況や、黄疸などの症状を確認し、血液検査でASTやALTなどの肝酵素値を測定します。また、超音波検査やCTなどの画像にて肝臓の腫れなどを確認することも重要です。これらの検査結果を総合してアルコール性肝炎として矛盾がなければ臨床的診断となります。 アルコール性肝炎の治療と予後 アルコール性肝炎と診断されたら、以下のような治療法が検討されます。 断酒する アルコール性肝炎と診断されたら、まず断酒をする必要があります。しかし、アルコール性肝炎になるほどの飲酒をされている患者さんでは、お酒を断つことが非常に難しい場合も多いです。アルコールの離脱症状として、手が震えたり強い不安が出たり幻覚が見えたりすることもあります。そのため、内科と精神科で協力して治療を行うことも多くあります。 点滴や栄養療法 また、アルコール性肝炎の患者さんは、水分や様々な栄養素が不足した状態にあるため、点滴や栄養療法が必要です。 中等症から重症の場合は、「ステロイド」と呼ばれる炎症を抑える薬を併用します。さらに重症のアルコール性肝炎の場合、炎症を起こす白血球を取り除く治療、毒素を吸着する血液浄化療法など高度の治療を行います。 急性期の予後 アルコール性肝炎の急性期の予後は、飲酒をやめた後の肝臓の状態により異なります。飲酒をやめても肝臓の腫れが引かない場合は生命予後不良であることが多いです。肝性脳症・肺炎・急性腎不全・消化管出血など内臓の合併症がある患者さんも、命に関わることが多いです。 予後不良と考えられる方、重症度の高い方は積極的な治療が必要です。 治療後の肝硬変への進展予防 アルコール性肝炎から回復したあとに重要なのは、断酒を継続することです。お酒を断つことで、再発を防ぐだけでなく、肝硬変への進展も予防することができます。 たとえアルコール性肝炎から回復しても、また飲酒を再開してしまうと肝臓へのダメージは蓄積されます。アルコールによるダメージにより、肝臓に線維組織がたまっていきます。肝硬変への進行を予防するためには、禁酒を続けることが重要です。 しかし、アルコールには依存性があります。これまで過度の飲酒をしてきた方が断酒をするのは難しいケースが多いのです。 どうしても断酒できない場合は、精神科の受診も選択肢です。 アルコール依存の専門外来では、カウンセリングのほか、飲酒により不快な症状を起こす薬や飲酒欲求を軽減する薬が処方されることもあります。また、家族など身近な人のサポートも重要です。アルコール依存症の自助グループの活動に参加する方法もあります。 今、お酒がやめられないことに悩んでいるのであれば、主治医・医療スタッフ・家族などと相談しながら、ご自身に合った方法をみつけるのが良いでしょう。 アルコール性肝疾患治療の最前線 これまでの治療では、一度アルコールでダメージを受けてしまった肝臓は元に戻らないと考えられていました。しかし、「再生医療」の進歩によって、この考えが変わる可能性があります。 肝硬変の再生医療には万能細胞の「幹細胞」を使用します。幹細胞を点滴で投与すると、損傷した肝組織に働きかけて再生と修復を促します。 これにより、改善方法がなかった肝臓の線維化が改善される可能性が出てきました。 とはいえ、再生医療はまだ発展途上です。使用する幹細胞の採取方法も、培養技術の質も医療機関ごとに異なっています。再生医療を希望する方は、より良い治療を受けられる医療機関を自ら選ぶ必要があります。 まとめ・アルコール性肝炎の治療と再生医療という選択 アルコール性肝炎は、アルコールの過剰摂取によって肝臓に重大なダメージを与える病気です。飲酒歴や診察・各種検査を総合的に判断して診断されます。治療の大原則は飲酒をやめることです。 一度アルコール性肝炎をきたした後は、断酒を継続することが重要です。肝硬変になるのを防ぎ、健康的な生活を送りましょう。 ダメージを受けた肝臓の治療を考えたいのであれば、再生医療が選択肢になるでしょう。 もし、再生医療による肝臓の治療に興味があるのであれば、当院での治療をご検討ください。 当院では、ご自身の脂肪細胞から幹細胞を採取します。培養も患者さん本人の血清を利用します。そのため、アレルギーや感染症などの有害事象の心配を極力減らすことが可能です。 さらに当院の細胞培養室は国内トップレベルです。一般的に行われている凍結による保存・輸送を行わないため、途中で死んでしまう幹細胞を減らすことができます。結果、より多くの幹細胞をフレッシュな状態で投与できます。 当院の再生医療について、もっと詳しく知りたいという方は、一度カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。 参考文献 アルコール医学生物学研究会. アルコール性肝障害診断基準 厚生労働省. e-ヘルスネット. アルコールと肝臓病 厚生労働省.e-ヘルスネット.アルコール性肝炎と非アルコール性脂肪性肝炎 アルコール医学生物学研究会. アルコール性肝障害診断基準. 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター. アルコール性肝障害. 厚生労働省. e-ヘルスネット - アルコール依存症への対応. 吉原達也, 笹栗俊之. 福岡醫學雜誌. 103 (4): 82-90, 2012. 江口暁子, 岩佐元雄. 日本消化器病学会雑誌 119(1): 23-29, 2022. 池嶋健一. 肝臓 59(7): 342-350, 2018.
2024.07.09 -
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最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。 後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。 脊髄梗塞の症状や原因については以下の記事で詳しく解説しています。 【予備知識】脊髄梗塞の発生率・好発年齢・性差情報 ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。 脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。 また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。 参考:A case of spinal cord infarction which was difficult to diagnose しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。 脊髄梗塞は治るのか? 結論から言うと、脊髄梗塞を完全に治すことは困難です。現在のガイドラインでは、完治までの治療方法は確立されていません。 したがって、脊髄梗塞の後遺症に対するリハビリテーションを正しくおこなうことが症状改善に有効とされています。 脊髄梗塞の後遺症について 脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁・残尿・便秘・便失禁など)がみられます。 四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など) 感覚障害(主に温痛覚低下) 膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など) これらの症状に関しては入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもありますが、麻痺などは後遺症として残ることもあります。 歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。 出典:Recovery after spinal cord infarcts Long-term outcome in 115 patients|Neurology Journals 同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。 症状が重度である場合の予後はあまり良くありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に関しては症状が改善する傾向にあり、予後が比較的良好とされています。 【原因別】脊髄梗塞の治療方法 原因 治療方法 大動脈解離 手術 / 脳脊髄液ドレナージ(1) / ステロイド投与 / ナロキソン投与(2) 結節性多発大動脈炎 ステロイド投与 外傷 手術 動脈硬化・血栓 抗凝固薬 / 抗血小板薬(3) 医原性(手術の合併症) 脳脊髄液ドレナージ / ステロイド投与 / ナロキソン投与 (1)背中から脊髄腔へチューブを挿入し脊髄液を排出する方法 (2)脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬 (3)血を固まりにくくする薬剤 比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。 脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。 たとえ例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその、原因に対する治療がメインとなります。 一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。 脊髄梗塞に対するリハビリテーション 脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため一般的には支持療法が中心となります。 支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたものでリハビリテーションも含まれます。 リハビリテーションとは、一人ひとりの状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。 リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。 リハビリテーションの流れ ①何ができて何ができないのかを評価 ②作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行う 日常生活において必要な動作が行えるよう訓練メニューを考案・提供します。 脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人に対して検討を行った結果、5人がリハビリテーションで自立歩行が可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった報告もあります。 時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としても重要です。 再生医療が脊髄梗塞に有用! https://www.youtube.com/watch?v=D-THAJzcRPE このように、脊髄梗塞では確立された治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療が脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。 再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。 再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した医療です。 当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”です。患者様から採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻す治療法となっています。 幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再生・修復する機能をもちます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。 日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。 そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”と呼ばれる方法を採用しています。注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法で点滴治療と組み合わせることにより、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。 実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。 脊髄梗塞に関するQ &A この項目では、脊髄梗塞に関するQ &Aを紹介します。 多くの方が抱えているお悩み(質問)に対して、医者の目線から簡潔に回答しているのでご確認ください。 脊髄梗塞の主な原因は? 脊髄梗塞の主な原因は以下のとおりです。 脊髄動脈の疾患 栄養を送る血管の損傷 詳細な原因については以下の関連記事で紹介しているのでぜひご確認いただき、症状改善の一助として活用ください。 脊髄梗塞の診断は時間を要する? そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。 発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してからの診断が多いです。 また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。 ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。 まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説 脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。 原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみです。その後以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。 しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。 脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応となる可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。 ▼こちらも併せてお読みください。
2024.07.02 -
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アルコール性肝炎の初期症状を見逃すな!原因や症状を徹底解説 長期のアルコール多飲が引き起こすアルコール性肝炎ですが、重症化すると救命率が下がるため、早期発見が大切です。 多量飲酒後の食欲不振や発熱、倦怠感、右上腹部痛、黄疸が出たら要注意です。 この記事では主にアルコール性肝炎の原因や症状に的を当て、説明していきます。 アルコール性肝炎の原因とは 長期にわたり常習的にアルコールを大量に摂取することで生じる肝疾患の総称を、アルコール性肝疾患といいます。 これらのアルコール性肝疾患が起きる原因は、長期の多量飲酒によって肝臓がダメージを受けることです。 アルコール代謝の中で生じる毒素や炎症物質が肝細胞を損傷するほか、肝臓の脂肪化や栄養の偏りも肝機能低下 を助長させるのです。 アルコール性肝疾患には、具体的に以下のようなものが挙げられます。 アルコール性肝炎 脂肪肝 肝線維症 肝硬変 肝細胞がん この中でアルコール性肝炎は、炎症が特に強い状態となります。 アルコール摂取が肝臓の許容量を超え、アルコール性脂肪肝になり、その状態でさらに飲酒を継続するとアルコール性肝炎が引き起こされます。 脂肪肝と肝炎が混在する状態を、アルコール性脂肪性肝炎と呼びます。重症型になると死に至ることもあるため、早期発見・早期治療・継続的な断酒が大切になります。 また、アルコール性肝炎の診断を受けた時点で多量飲酒が習慣化されている人は、すでにアルコール依存症になっている可能性があります。その場合は、休肝日を設けたり飲酒量を少なくするのではなく、完全に断酒する方法を考えていかなくてはなりません。 担当医師から専門の医師に紹介してもらい、必要に応じて入院診療を受け、さらに自助グループやデイケアなどで継続的な断酒のサポートを受けましょう。禁酒により一旦肝炎が改善しても、飲酒を再開すれば肝硬変に至るかもしれません。一時的な肝炎の改善だけでなく、病気の再燃や肝硬変の予防のため、長期的な努力が必要です。 アルコールの分解過程 肝臓は様々な働きを持つとても重要な臓器です。その働きの一つが解毒であり、アルコールも分解してくれます。 お酒を飲むと、胃や腸管などの消化器官がアルコール成分を吸収し、血管を通って肝臓に届けられます。アルコールはエタノールという成分になりますが、このエタノールはまず肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によって酸化され、アセトアルデヒドという物質に分解されます。 アセトアルデヒドとは、二日酔いの原因となる物質です。これが体内に蓄積することで、吐き気やめまいなどの症状が出現します。 続いて肝臓内では、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によってアセトアルデヒドは酢酸に分解され、酢酸は血流に乗って全身に送られます。 酢酸は筋肉や脂肪組織でエネルギー代謝を受け、最終的に水や二酸化炭素となります。こうして水は尿へ、二酸化炭素は呼気として体外に排出されるのです。 しかし、必ずしも1回で全てのアルコールが分解できるわけではありません。分解できずに残ったアルコールは、体内を巡って肝臓に戻り、分解できるまで同じ過程を繰り返します。 どれくらいの飲酒量なら許容されるのか? どれくらいのお酒なら健康被害を出さずに飲めるのかについては、人種や性別、遺伝子などが関係しているため、個人差があります。 上記のアルコール分解過程で必要なALDHには1型と2型があり、2型はアセトアルデヒド濃度が低いうちから働くため、この酵素が多い人間が“お酒に強い人”となります。 しかし、日本人の4割以上はこの2型が低活性型で、さらに日本人の4 %はこれが全く機能しない不活性型であるとされています1)。 お酒を飲むとすぐ気持ち悪くなってしまう“お酒が合わない人”というのは、これが原因かもしれません。 性差に関しては、女性のアルコールを分解する能力は男性の2/3 程度しかなく1)、一般的に女性は男性よりも酔いやすいとされます。 厚生労働省が提唱する適切な飲酒量は、純アルコールで1日あたり約20 gまでとなっています2)。 また、日本人を対象にしたある研究では、アルコール量の摂取が1日あたり23 g/d以下の男女では死亡率(全死因を含む)が12~20 % 減少したと報告されています3)。 【アルコール約20 gの換算表】 お酒の種類 量 アルコール度数 アルコール量 ビール 中瓶1本 (500ml) 5 % 20 g ワイン グラス2杯 (240 ml) 12 % 24 g 日本酒 1合 (180 ml) 15 % 22 g 焼酎 半合 (90 ml) 35 % 25 g ウィスキー ダブル (60 ml) 43 % 20 g 上記の換算表を用いて、飲みすぎないように注意しつつ、休肝日を設けて肝臓を労ってあげましょう。 お酒に強くなったら肝臓も強くなる? 最初はお酒に弱くても、飲み続ければ強くなると言われたことはありませんか?実はそれ、事実なのです! 上記のアルコール分解過程で示したADHやALDHの他に、ミクロソームエタノール酸化酵素(MEOS)というものがエタノール分解に関わっています。 MEOSはアルコール摂取によって活性化する特性があるため、“お酒を飲めばお酒に強くなる”という現象が起きます。 しかし、だからと言って肝臓の負担が減るわけではありません。飲酒量や飲酒の頻度が増えれば増えるほど、肝臓はダメージを受け、肝障害へと繋がります。他者にお酒を勧められようとも、自分の身を守れるのは自分だけです。必要な時には断るなり、誰かに相談するなりして、適切な飲酒量を守りましょう。 アルコール性肝炎の症状とは 肝臓は別名“沈黙の臓器”と呼ばれ、重症化するまで気が付かないのが怖いところです。 脂肪肝のうちは多くの場合症状はありませんが、肝腫大はみられることがあります。それがアルコール性肝炎に進行すると、以下のような症状が現れます。 食欲不振 体重減少 嘔気、嘔吐 腹部膨満 腹痛 発熱 倦怠感、疲労感 黄疸 アルコール依存症に陥っている場合、飲酒によって空腹を感じず、栄養失調になっていることが多いです。 さらに、肝炎が重症化すると、禁酒しても症状が改善せず、以下のような重篤な症状が現れるようになります。 腹水 肝性脳症 (行動異常、性格の変化) 食道、胃静脈瘤 消化管出血(吐血、血便) 腎不全 肺炎 重症型アルコール性肝炎になってしまうと死に至ることもあり、注意が必要です! 上記の症状を自覚したら、すぐに消化器内科を受診しましょう。大事に至る前にお酒をやめ、早期に治療を受けることが大切です。 アルコール性肝炎の検査方法 1. 血液検査 血液検査では、肝臓の機能を測る値(AST/ALT, γ-GTP)が高いだけでなく、高脂血症や白血球の増加、ビリルビンの上昇、アルブミンの低下、プロトロンビン(PT)時間の延長、高乳酸決症を認めます。 また、アルコール性肝炎ではALTと比してASTが高くなるのも特徴です。採血項目に関する説明は下記をご覧ください。 AST : 肝臓や心筋、骨格筋に含まれる酵素。炎症の指標となる。 ALT : 主に肝臓にある酵素。炎症の指標となる。 γ-GTP : 主に胆道に含まれる酵素。 ビリルビン:古い赤血球の破壊時に生成され、肝臓から胆汁を通じて排出される。 アルブミン:肝臓で生成されるタンパク質。 PT : 肝臓で生成される凝固因子(血液を固めるタンパク質)の一つ。 乳酸:肝臓での代謝によりエネルギー源に変換される物質。 2. 画像検査 エコー(超音波)検査やCT検査、MRI検査を行い、肝臓の状態を画像的に評価します。 検診などでも行われるエコー検査ですが、アルコール性肝炎では肝臓の腫大や肝辺縁の鈍化、肝臓が明るく見えるbright liver等の脂肪肝に特徴的な所見を認めます。 エコー検査はアルコール性脂肪肝を確認する際には有用ですが、肝炎の重症度を確認するには至りません。 その点、CT検査やMRI検査では脂肪化の程度や重症度までしっかり確認できます。 3. 肝生検 肝生検とは、エコーで肝臓の位置を確認後、消毒や局所麻酔を行い、生検針で肝臓を穿刺し、採取した組織を病理学的に診断する方法です。 特徴的な所見として、肝細胞の風船化や壊死、炎症細胞の浸潤、マロリー体と呼ばれる肝細胞の脂肪化に伴って現れるタンパク質などがみられます。 4. 飲酒習慣のスクリーニングテスト AUDITと呼ばれる飲酒関連の問題をスクリーニングするテストがあります。 飲酒量や頻度などを質問形式で問われ、問題飲酒の重症度を判定していきます。 病院に行かずとも、インターネット上で気軽にアクセスできるので、気になった方は試してみてください。 まとめ・アルコール性肝炎は早期発見が大切! アルコール性肝炎の原因や症状について理解することができましたでしょうか? 基本的には長期に渡る過剰な飲酒が原因となりますが、アルコール分解能が低い人では多量飲酒とはいかない量でもアルコール性肝炎を発症し得ます。肝臓の腫大や右上腹部痛、黄疸、発熱がみられたらすぐに消化器内科の診察を受けましょう。 一時的な断酒や肝炎の治療で病状が回復しても、飲酒を再開すれば肝炎の再燃や肝硬変への移行につながります。アルコール依存症になっている場合は、必ず専門の医療機関にかかり、時間をかけながらでも断酒に努めましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 林田真梨子,木下健司.飲酒と健康―アルコール体質検査と飲酒の功罪―.醸協.2014;109:2-10. 厚生労働省ホームページ Lin Y, Kikuchi S, et al. Alcohol Consumption and Mortality among Middle-aged and Elderly Japanese Men and Women. Ann Epidemiol. 2005;15:590-597. ▼こちらもあわせてお読みください。
2024.06.25 -
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帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の合併症の中で最も頻度が高いと言われています。「触れただけで痛みを感じる」「ピリピリと電気が走るような痛みが続く」などの症状が現れるため、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 この記事では、帯状疱疹後神経痛や治療法などについて説明しています。 病院で行う治療はもちろん、自分でできるケア方法についても説明していますので、自分に合った痛みの緩和方法を見つけ、生活の質を下げないようにしていきましょう。 帯状疱疹後神経痛とはどんな病気か 帯状疱疹について 帯状疱疹とは、水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる病気です。はじめて水痘帯状疱疹ウイルスに感染した場合、水ぼうそうという病気で発症します。 このウイルス、実はとても厄介であり、水ぼうそうが治ったあともウイルスが体の中から消えることはありません。神経節と呼ばれる神経細胞が集まっている部分に身を潜め、再び活発になる機会をうかがっています。このとき、症状が現れることはありません。 そして、加齢や疲労、ストレスなどで免疫力が下がると、潜んでいたウイルスが表に出てきてしまい、帯状疱疹を発症します。そのため、水ぼうそうに一度でもかかった人は、帯状疱疹を発症する可能性があります。 年齢を重ねると発症しやすいと言われている病気ですが、若い人でも免疫力が下がれば発症することがあります。 帯状疱疹の症状は、ピリピリとした痛みや小さな水ぶくれ(水疱)、皮膚の赤みなどです。皮膚の症状が出てからすぐに治療を開始することが望ましく、早めに病院を受診する必要があります。治療は抗ウイルス薬の投与です。また、痛みがあれば鎮痛剤を服用することもあります。 帯状疱疹後神経痛について 帯状疱疹後神経痛とは、帯状疱疹を発症した後、皮膚の症状が治まったにもかかわらず痛みが残ってしまう病気です。 帯状疱疹の合併症の中で1番多いと言われています。合併しやすい人は、高齢者や女性、帯状疱疹を発症している時に痛みが強かった人などです。 帯状疱疹後神経痛の原因は、水痘帯状疱疹ウイルスが活性化した時に神経が傷つけられることで発症すると考えられています。そのため、痛みを感じやすくなったり、神経の過剰な興奮によって痛みが現れたりすることがあります。 帯状疱疹後神経痛の症状は、下記の通りです。 持続的な痛みがある ヒリヒリと焼けるような痛みがある ピリピリと電気が走るような痛みがある 触れるだけで痛みを感じることがある(アロディニア) 痛みがある部分の皮膚の感覚が鈍くなる 痛みの程度は人によって違います。そのため、痛みによって眠りが浅くなったり、動くと衣服が擦れて痛かったりと、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 痛みは1ヶ月~2ヶ月程度で治まってくることが多いですが、長い場合は1年以上続くこともあります。また、高齢であればあるほど痛みが続きやすいと言われています。 治療の概要について 帯状疱疹後神経痛の治療はさまざまです。以下、治療の概要について説明します。 薬物療法について 主な治療は薬物療法です。 帯状疱疹後神経痛を合併した方は、帯状疱疹を発症した段階から痛みが強い方が多いです。よって、引き続き痛みを抑える薬を服用します。また、抗うつ薬や抗てんかん薬の服用も開始します。 薬の効果は人によって異なります。比較的早い段階で痛みが取れたという人もいれば、なかなか痛みが緩和されないという人もいます。そのため、痛みの程度を聞きつつ、どの程度まで痛みを緩和させるかを医師と相談しながら決める必要があります。 その他の治療法について 薬物療法を行っても痛みが持続している場合は、ほかの治療法を検討する必要があります。 例えば、神経ブロック注射や脊髄刺激療法などがあります。 その他にも、さまざまな治療がありますが、人によって治療の効果の現れ方や持続期間が異なります。そのため、自分に合った最適な治療法を選択することが大切です。 自宅でできる痛みのケアを行う必要性 帯状疱疹後神経痛は神経へのダメージが大きいと、改善に時間がかかることがあります。また、痛みは個々によって程度や感じ方が違うので、治療によって完全に痛みを取り除くことは難しい方も多いです。 そのため、自宅でできる痛みのケアを行いつつ、できるだけ生活の質を下げないようにすることが大切です。 帯状疱疹後神経痛のよりよい治療を選択するために 帯状疱疹後神経痛の治療法について 治療の基本は薬物療法です。しかし、薬だけでは痛みが緩和されないことも多く、さまざまな治療法を組み合わせる必要があります。 主な治療法をご紹介します。 薬物療法 神経ブロック注射 脊髄刺激療法(SCS) イオントフォレーシス 低出力レーザー照射療法 運動療法 〈薬物療法〉 痛みや神経の興奮を薬でコントロールする治療です。 帯状疱疹後神経痛は神経の痛みであり、適切な薬を医師に処方してもらう必要があります。 主に使われる薬は、以下の通りです。 抗うつ薬 抗てんかん薬 神経障害疼痛に用いる鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 帯状疱疹後神経痛の痛みに対し、使われる薬は効果や副作用などのバランスによって第一選択薬、第二選択薬、第三選択薬と分かれています。 まずは、抗うつ薬や抗てんかん薬、神経障害に用いる鎮痛薬の服用で様子をみます。痛みの緩和がはかれない場合は徐々に選択範囲を広げ、より強い鎮痛効果を示す薬を使用します。とくに、オピオイド鎮痛薬は効果が強い薬です。オピオイド鎮痛薬以外の薬では痛みの緩和ができない場合に使用され、適応条件もあります。注意点として、腎機能が悪い人には使用できません。 〈神経ブロック注射〉 痛みを感じる神経やその周囲に局所麻酔薬を注射する治療です。 痛い部位がはっきりと分かっている場合は、注射後すぐに効果を実感できます。また、飲む薬とは違って直接的に痛みに効くため、より痛みの緩和につながります。 神経ブロック注射の持続効果は、人によって異なります。1日しか効かないという人もいれば、数日効果が持続する人もいます。しかし、早めに神経ブロックを行うと、治療の効果が高まると言われています。 入院の必要はなく、外来で行えます。 注意点として、血をサラサラにする薬(ワーファリン、バイアスピリンなど)を使用している場合は、針を刺したときに出血が止まらないことがあるため、行えないことがあります。 〈脊髄刺激療法(SCS)〉 脊髄に微弱な電流を与え、脳に伝わる痛みを妨げる治療法です。 通常、体に痛みを感じると神経を通じて痛みの信号が脊髄から脳に伝わります。この神経路に微弱な電流を流すと脳に痛みが伝わりにくく、痛みの緩和につながります。 体の中に脊髄刺激リードと刺激発生装置を埋め込む手術が必要になるため、入院が必要です。手術は局所麻酔で行われ、1回の入院期間もそこまで長くありません。 〈イオントフォレーシス〉 薬をより深い部分に浸透させて痛みを和らげる治療です。 局所麻酔薬を浸透させたパットを痛みのある部分に貼り付け、微弱の電流を流します。電流によって薬がイオン化すると皮膚の深い部分へと浸透し、痛みを和らげます。 皮膚表面だけではなく、神経を伝達する深い部分にまで薬が浸透するため、脳に痛みを伝えにくくする効果もあります。 治療時間は15分程度であり、外来で行えます。また、痛みを伴わない治療であり、注射に抵抗のある人にも行えます。 一度の治療で痛みを和らげることは難しく、根気よく治療を続けることが必要です。 〈低出力レーザー照射療法〉 痛みがある部分にレーザーを当て、痛みを和らげる治療法です。 レーザーによって血行がよくなると痛みを感じにくくなります。また、痛みによって興奮している気持ちを落ちつける効果もあります。 痛みを伴わない治療であり、注射に抵抗のある人にも行えます。 痛みがより強い人に対し、通常の治療に追加して行うことが多いです。 〈運動療法〉 痛みによって過度に活動が制限された場合に行われます。 痛みに対するストレッチやエクササイズを理学療法士などと一緒に行います。痛みの軽減に加えて痛みへの恐怖も取り除き、活動の幅を広げます。 副作用と対処法について 治療方法 副作用 対処法 鎮痛剤 薬によって副作用が異なります。 オピオイド鎮痛薬の場合、吐き気や便秘、眠気などが現れます。 薬を処方された時に副作用を確認し、症状が出た場合はすぐに医師に相談しましょう。 薬が効きすぎている場合もあるため、医師と相談しながら薬のコントロールを行います。 神経ブロック注射 副作用は、飲み薬と比べて少ないですが、下記のようなものが現れることがあります。 注射部位の痛みや出血、感染 投与する薬に対するアレルギー 注射部位に異常があったり治療後の体調不良が現れたりした場合は、すぐに医師に相談しましょう。 イオントフォレーシス 副作用はほとんどありません。 ー 脊髄刺激療法 (SCS) 脊髄刺激リードと刺激発生装置は、HI調理器などの強い電磁波や金属探知機や盗難防止装置に反応することがあります。電源が切り替わったり、刺激を強く感じてしまうため、注意が必要です。 体に刺激装置を埋め込むため、使用方法によっては破損ややけどのリスクがあります。 HI調理器や金属探知機などを使用する場合は、できるだけ距離を取ったり一時的に電源を切るなどの対応が必要です。 また、刺激装置に強い衝撃を与えないようにしましょう。特に埋め込み手術直後は装置が動きやすく、注意が必要です。 低出力レーザー照射療法 副作用はほぼありませんが、照射部位の乾燥や軽度のかゆみが現れることがあります。 皮膚の症状が現れたら、医師に相談しましょう。 治療における経済的負担について さまざまな治療がありますが、保険で行えるものと保険適応外のものがあります。 薬物療法や神経ブロック、脊髄刺激療法は、保険適応されます。一方、レーザー治療、イオントフォレーシスは比較的新しい治療法であり、保険適応外になります。 保険適応外の治療法は、金銭的な負担が大きくなりやすいのが現状です。医師とも相談しながら金銭的な面も含めて、最適な治療法を選択する必要があります。 生活の質の向上と痛みの管理について 帯状疱疹後神経痛の痛みをより和らげるために、日常生活でも工夫が必要になります。 日常生活での工夫 自分でできる日常生活での工夫は以下の通りです。 体を温める、冷やさない 痛みのある部位を刺激しない 痛み以外のことを考える 生活リズムを整える 〈体を温める、冷やさない〉 体を温めると血行がよくなり、痛みが軽くなることがあります。温かい湯船にゆっくりつかり、全身を温めましょう。入浴はリラックス効果も期待できるため、おすすめです。 また、患部にホットタオルを当てることも有効です。ただし、感覚が鈍くなっていることもあるので、熱くなりすぎないよう注意しましょう。 〈患部を刺激しない〉 患部への刺激は、痛みの悪化につながります。チクチクとした素材や金属などが付いている服は着用しないようにしましょう。服は肌に優しい素材を選び、装飾が付いていないシンプルなものを選ぶと刺激が少なくなります。 それでも服がこすれて痛い場合は、さらしや包帯を巻く方法もあります。注意点として、さらしなどがずれてしまうと刺激の原因となります。きつめに巻き、緩んだら締めなおすようにしましょう。 〈痛み以外のことを考える〉 痛みは精神面との関連が深く、帯状疱疹後神経痛の患者さんは不安や抑うつ傾向の方が多いと言われています。 そのため、痛みのことを考え続けるのではなく、自分の好きな仕事や趣味などを積極的に取り入れ、痛み以外のことを考える時間を作りましょう。 また、痛みを回避しようと行動を制限してしまい、活動の幅が狭くなることが多いです。痛みに対する恐怖や不安を抱えている方がいるかもしれませんが、じっとしていることで筋肉が固まり、痛みを感じる原因となります。少しでも痛み以外のことを考えられるよう、外の空気を感じながら散歩することもおすすめです。 〈生活リズムを整える〉 帯状疱疹後神経痛の痛みは、疲労やストレス、睡眠不足などで悪化しやすいと言われています。日頃から規則正しい生活を送り、免疫力が低下しないよう体の調子を整えましょう。しんどいと感じたら、すぐに休息を取れるようにしておくことも大切です。 心理的サポートの重要性 帯状疱疹後神経痛の患者の中には不安などを抱えている方が多くいます。 痛みを感じ続けると何をするにも億劫になり、気持ちが塞ぎ込みやすくなります。また、痛みばかり考えていると精神的に辛くなり、精神疾患を発症する恐れもあります。 ペインクリニックでは、メンタルケアを含めた治療を行っています。もし精神的な辛さを感じているのであれば、一般的なクリニックではなくペインクリニックの受診もおすすめです。 痛みと向き合いながら最適な治療を選択しよう 帯状疱疹後神経痛は痛みは、感じ方や程度が個々によって違います。そのため、治療の効果や副作用などを踏まえ、自分にとって最適な治療法を選ぶことが大切です。 また、治療とともに自宅でできる痛みのケアも実施し、日常生活への支障を最小限にしましょう。 参考文献一覧 日本ペインクリニック学会.”ⅢーA帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛”|第3章 各疾患・痛みに対するペインクリニック治療指針p095ー100 日本ペインクリニック学会.”神経ブロック”|日本ペインクリニック学会 日本定位・機能神経外科学会.”脊髄刺激療法(SCS)”|日本定位・機能神経外科学会 日本臨床麻酔科学会vol.28.”帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法”|J-STAGE.2008/6 日本臨床麻酔科学会vol.28.”帯状疱疹後神経痛の多面的治療はここまで進んでいる”|J-STAGE.2008/6 日本ペインクリニック学会.”オピオイド”|日本ペインクリニック学会 日本ペインクリニック学会誌.”帯状疱疹後神経痛患者の精神・心理的評価”|J-STAGE.2007 日本ペインクリニック学会誌.”帯状疱疹後神経痛で自殺を企図した1症例”|J-STAGE.2012
2024.06.24 -
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肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 非代償期肝硬変の治療において、食事療法はとても重要です。 腹水や肝性脳症などの合併症の改善のためには、水分・塩分・糖分・タンパク質を控えた、バランスの良い食事が必要となります。以下で詳しく解説していきます。 https://youtu.be/zA8QdURHEQU?si=sxhDupVHSR8Ekpl7 肝硬変における食事療法の重要さ 肝硬変は、B型・C型肝炎ウィルス感染やアルコール、自己免疫性疾患などが原因となり、慢性的に肝細胞の破壊と再生が繰り返された末、線維化によって硬くなり、肝臓の機能が低下し、進行すると肝癌や肝不全となり、死に至る怖い疾患です。 肝硬変になると低栄養に陥ってしまうことが多く、この低栄養が生命予後に関わってくると報告されています。また、低栄養が問題視される一方で、肥満や過栄養を呈する患者さんもいます。肥満による糖代謝異常は肝臓での発癌率を上げるため、注意が必要です。 身体の状態に合わせた栄養制限や栄養付与を行い、バランスのとれた食事を摂取するのが「食事療法」です。 医療を受けるだけでなく、食事という日常生活の大事な要素を自ら見直すことで、肝硬変症状を改善させたり、進行を食い止められる可能性があります。 この記事では、非代償期肝硬変の食事療法を中心に説明していきます。必要な知識を学び、効果的な食事療法による治療を目指していきましょう。 非代償期肝硬変での栄養スクリーニング 非代償期肝硬変において、食事療法を始める前にまず栄養状態を評価し、どのような栄養介入が必要か検討されます。 肝硬変における重症度は、Child-Pugh分類を用いて判断します。 下記の表に記すように、肝硬変の合併症の程度や採血検査の結果を点数化し、重症度を評価します。 アルブミンはタンパク質量、ビリルビンは肝臓の機能を表す値、そしてプロトロンビン時間は血液を固める能力を示します。 5~6点なら軽度、7~9点は中等度、10~15点をなら重度とみなし、中等度以上は非代償性肝硬変となります。 Child Pugh 分類 判定基準 1点 2点 3点 アルブミン(g/dL) 3.5< 2.8〜3.5 <2.8 ビリルビン(mg/dL) <2.0 2.0〜3.0 3.0< 腹水 なし 軽度 コントロール可能 中等度 コントロール困難 肝性脳症(度) なし 1〜2 3〜4 プロトロンビン時間(秒、延長) (%) <4 (70<) 4〜6 (40〜70) 6< (<40) Child-Pughスコアによる重症度評価を欧州肝臓学会のガイドライン4)を参考に、以下の図にまとめ詳しく解説していきます。 図に登場するサルコペニアですが、これは筋肉量と筋力の低下を意味し、通常は加齢に伴って起こる現象ですが、肝疾患においては栄養状態や代謝異常によって年齢に関係なく起こりうるため、評価する際には年齢制限がありません。 中等度肝硬変の場合、次にBMIを評価し、その結果に応じて対応が変わってきます。 肥満(30≦)の場合、栄養評価とともに運動や生活習慣などライフスタイルへの介入、さらにサルコペニアの評価を行います。 BMIが低体重や肥満の基準に入らない18.5~29.9の場合、タンパク質量や全体の栄養状態を評価したのちに、低栄養リスクがどの程度か判断されます。 そしてBMIが低体重(<18.5)を示す場合、重度肝硬変と同様に低栄養リスクは高度となります。 低栄養リスクが軽度の患者さんに対しては、年に1回程度のフォローアップで良いとされます。 低栄養リスクが中等度の患者さんにおいては、より詳細な栄養評価によって低栄養の有無が判断されます。 低栄養リスクが高度の患者さんには、より詳細な栄養評価の他、サルコペニアの評価も同時に行われます。 低栄養がなければ年に1回程度のフォローアップとなりますが、低栄養やサルコペニアを認めた際には適切な栄養補給と適切なフォローアップが求められます。 さらに、図には記載されておりませんが、腹水やタンパク質減少による体液貯留を認める場合、身体の水分が適切である体重を密に検討していくこととなります。 非代償期肝硬変が引き起こす身体の変化 代償期には肝臓の機能がまだ保たれているため、合併症は基本的にみられません。 しかし、非代償期になると肝臓の働きが障害され、関連する他の臓器にも影響を及ぼし、全身に以下のような様々な合併症を引き起こします。 ※非代償期肝硬変とは:肝硬変が進行し、本来の肝機能を代償する(果たすことがことできない)ことができず、肝硬変としての症状が現れる状態 代表的な合併症の一例 黄疸 腹水、浮腫 門脈圧亢進症 食道静脈瘤 消化管出血 肝性脳症 肝性糖尿病 等 合併症とそれぞれに合った食事療法 代償期の食事療法の基本は主に以下の内容となります。 代償期の食事療法 健康的で規則正しい生活 バランスの取れた食事 便秘の予防 年齢や身体活動レベルに見合ったカロリー摂取 アルコールを断つ 生ものは避ける しかし、非代償期では症状に合わせて食事の工夫や調整を加えていかなければなりません。 食事療法で改善を見込める、あるいは悪化を予防できる合併症は、腹水・浮腫や食道静脈瘤、肝性脳症、肝性糖尿病となります。 これらの合併症が起きる機序とその合併症に見合った食事療法をそれぞれみていきましょう。 腹水や浮腫が生じる機序と食事療法 腹水はお腹の中にタンパク質を含んだ液が大量に貯留した状態をいい、浮腫は主に手足のむくみとして現れます。 肝臓はアルブミンと呼ばれるタンパク質を生成する働きを持ちますが、肝機能の低下とともにアルブミンも減少していきます。このアルブミンは血管内に水分を留める役割も担っているため、不足すれば水分は血管外へと漏れ、腹水や浮腫となって現れるのです。 また、体内を循環する血液量が減少すると、それを補おうと腎臓が水分やナトリウムを再吸収するのですが、それが腹水や浮腫を増悪させる原因となります。 腹水や浮腫に対する食事療法のポイント 上記の通り、腎臓での水分・ナトリウム再吸収が腹水や浮腫を悪化させています。 よって、食事療法で重要なのは塩分と水分を控えることです。 塩分は1日5~7g程度に抑えましょう。 具体的には、味噌や醤油などの調味料は減塩にし、かつ使用する量も控えなくてはなりません。塩味の代わりに、酸味や出汁、新鮮な食材そのものの風味を活かすような調理をしましょう。 外食や加工食品はどうしても塩分が多くなりがちなので、自炊が推奨されます。 汁物はスープに塩分が多く含まれるので、スープは飲まない方が良いでしょう。 腹水や浮腫:食事療法のポイント 塩分は1日5~7g程度に抑える 味噌や醤油などの調味料は減塩に 使用量のコントロールをする 酸味や出汁で塩味を代用する 外食や加工食品は控え自炊する 汁物は飲まないようにする 水分コントロールに関しては、すでに利尿薬を内服している方も多いかと思います。 塩分制限や利尿薬だけでは不十分と判断された場合は、身体に見合った水分量を示す体重(ドライウェイト) も参考にしながら、水分制限にも努めましょう。 ドライウェイトの設定には、In Bodyという身体に微弱な電流を流して体内の水分量や筋肉量などを測定する機器を用いたり、医療者が胸部レントゲン画像や浮腫の程度などをみて決定していきます。 食道静脈瘤が生じる機序と食事療法 食道静脈瘤は門脈圧亢進症の影響で生じる合併症です。 門脈は、腸管などの腹部臓器からの血流を集めて肝臓に戻す大きな静脈のことを指します。 肝硬変になると、組織の線維化で肝臓が硬くなり、血流が阻害され、結果として門脈の圧が上昇します。門脈圧亢進で肝臓を通れなくなった血流は、別の血管を通って食道や胃に逆流していきます。そうすると食道表面の静脈がうねって凸凹してコブ状になり、食道静脈瘤となります。 食道静脈瘤に対する食事療法のポイント 食道静脈瘤の治療法として、内視鏡的に血管を縛る方法が一般的です。しかし、食事療法で静脈瘤の破裂を防ぐことはできます。 食道静脈瘤破裂は吐血を引き起こし、時に大量出血で命を脅かす怖い疾患です。 食道は食べ物の通り道になっているので、その表面上にある膨らんだ血管に尖ったものや硬いものが当たると、破裂する可能性が出てきます。 そのため、硬い食べ物や刺激になるような食べ物はなるべく避け、調理する際にはやわらかく仕上げましょう。 例えば、せんべいや小魚のおやつ、ナッツ、骨のある魚、フランスパンなどは硬いので適しません。また、香辛料の多いカレーやコーヒーは刺激が強いので、避けるべきです。 食道静脈瘤:食事療法のポイント 硬い食べ物や刺激的な食べ物はなるべく避ける 調理する際にはやわらかく仕上げる 刺激の多いカレーやコーヒーは避ける 逆に好ましい食品は、茶碗蒸しや麺類(うどんやそうめんなど)、お米、プリン、ヨーグルトなどの消化しやすい柔らかい食べ物です。 肝性脳症が生じる機序と食事療法 タンパク質を消化する際に生成されるアンモニアという毒素は、通常は肝臓で代謝して無毒化し、体外に排出されます。 しかし肝機能が低下するとアンモニアは代謝されなくなり、毒素のまま身体に溜まっていきます。 血液中のアンモニア値が高くなり脳にまで達すると、脳の機能が損なわれ、肝性脳症となって様々な神経症状を引き起こします。 具体的には、性格・行動変化や睡眠障害、意識障害、ひどくなると昏睡状態になります。 肝性脳症に対する食事療法のポイント タンパク質を多く摂取するとアンモニアが生成されてしまうため、タンパク質の制限は肝性脳症の予防や改善につながります。 肉は肝性脳症を引き起こしやすくするので、大豆などの植物性タンパク質をメインに摂りましょう。 また、アンモニアは腸管で生成されるのですが、便秘になると腸管環境が乱れ、悪玉菌が増加します。そうするとアンモニアの増殖が起こり、結果的に肝性脳症も悪化します。よって、便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を積極的に摂ることが推奨されます。 肝性脳症:食事療法のポイント 大豆などの植物性タンパク質を摂る 便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を摂る また、肝硬変による低タンパク血症は、アミノ酸製剤で補います。 実は肝臓の他にも筋肉でタンパク質を生成することができるのですが、その際に必要なのが分岐鎖アミノ酸と呼ばれるもので、これは体内で産生できないので外から摂取する必要があるのです。 この分岐鎖アミノ酸製剤は、経口剤の他にも点滴があるので、経口摂取できない方でも大丈夫です。症状が落ち着いていれば、食事でのタンパク質摂取は0.5~1.0g/kg程度可能になるかと思います。上記の食事に気を付けながら摂取しましょう。 肝性糖尿病が生じる機序と食事療法 肝臓は糖代謝においてとても重要な役割を担っています。 腸管で吸収された糖は血流に乗って肝臓に届けられ、そのほとんどはグリコーゲンという物質に変換されたのち、エネルギー源として貯蔵されます。残りの糖は身体を巡り、血糖の維持のため筋肉や脂肪で利用されます。 肝硬変によって肝機能が低下すると、肝臓での糖代謝も障害され、糖がそのまま血液へ流れ込んでしまい、食後高血糖を引き起こします。 慢性的な高血糖はやがて血糖を正常に戻す能力に害を及ぼし、二次性の糖尿病が生じるのです。 肝性糖尿病に対する食事療法のポイント 食後の血糖が急激に上がらないよう、一度に大量に食べることは避け、少量の食事をこまめに摂るほか、時間をかけてゆっくり食べましょう。 また、砂糖の入った菓子類や果物、炭水化物は効率良く糖分が吸収されるため、控えなければなりません。 肝性糖尿病:食事療法のポイント 少量の食事をこまめに摂る 時間をかけてゆっくり食べる 菓子類や果物、炭水化物などの糖分を控える 夜食を食べた方がいい? 前項の肝性糖尿病の機序で述べたように、肝臓は糖分をエネルギー源に変換して貯蔵する役割を持ちます。しかし、肝機能の低下によってエネルギー源への変換ができなくなると、貯蔵もできなくなります。 よって、食事を摂らない就寝中にエネルギーが枯渇し、倦怠感やこむら返りなどの症状を生じることがあるのです。 これを予防するため、肝硬変患者さんには夜食療法が推奨されているのです。 カロリーの摂りすぎは良くないので、朝昼晩の食事を少し減らし、その分を夜食に回すのがポイントです。 大体200kcal程度で、メニューとしては例えば、 おにぎり一個+お茶 バナナ1本+牛乳 フレンチトースト+牛乳 等のすぐに栄養として吸収されるものが理想です。 まとめ・肝硬変の非代償期における食事療法は重要! 当サイトにて非代償期肝硬変での食事療法について知りたい情報は得られましたでしょうか。 低栄養や肥満の進行を食い止め、合併症を改善・予防する上で食事療法はとても重要です。しかし、食事療法を開始する前に、自分の疾患について理解し、知識として身につける必要があります。 さらに、医療者による評価や診断を経て、どのような治療介入が必要か見極める栄養スクリーニングも大切です。その時の症状や栄養状態に合わせて工夫や調整を行う必要があるので、適宜消化器内科の医師や栄養士とも相談しながら効果的な食事療法を目指しましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 参考文献一覧 Enomoto H, Ueno Y,et al. Transition in the etiology of liver cirrhosis in Japan : a nation- wide survey. J Gastroenterol. 2020;55;353-362. Plauth M, Bernal W, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in liver disease. Clin Nutr. 2019;38:485-521. Wu D, Hu D, et al. Glucose-regulated phosphorylation of TET2 by AMPK reveals a pathway linking diabetes to cancer. Nature. 2018;559:637-641. European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practice Guidelines on nutrition in chronic liver disease.J Hepatol. 2019;70:172-193. ▼こちらもあわせてお読みください。
2024.06.18 -
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「肝硬変の疑いがあって、今後の治療が気になる」 「改善させるには肝移植しかないの?」などと、悩んでいませんか。 肝臓の慢性的な炎症により、肝臓が線維化して硬くなる疾患である肝硬変は、代謝や血液の循環動態に大きな影響を及ぼします。 症状の進行だけでなく、合併症のリスクも見逃せないポイントです。そこで肝移植を検討している方もいるのではないでしょうか。しかし、肝硬変の方で移植が受けられるのはごく一部です。 本記事では、肝硬変と診断されたときに知っておきたい治療法や合併症について解説します。 「肝硬変が治る可能性がある」とも言われている再生医療についても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。 【基礎知識】肝硬変の概要 肝硬変とは肝臓の慢性的な疾患であり、肝細胞が破壊され、線維組織が増えた結果、肝臓が硬くなった状態です。 肝硬変は、肝臓の組織が徐々に硬化するため、肝臓の機能を果たすのが難しくなるだけでなく、生命に重大な影響を及ぼす可能性があります。 ここからは肝硬変の症状と発症の原因について詳しく解説していきます。 肝硬変の症状 肝硬変の症状は、主に黄疸、腹水、倦怠感、むくみ、さらには精神的な混乱などの症状があります。 ただし肝硬変は、初期段階では無症状であるケースが多く、セルフチェックで異変に気付ける方は少ないのが実情です。 患者様によっては食欲不振や疲労感などがあらわれますが、多くの場合で症状を感じる中期・末期まで進行してからの発見になってしまいます。 そもそも肝硬変の症状は、肝臓の機能低下に伴う体内の代謝異常や血流の変化によって引き起こされます。 肝硬変が進行して肝性脳症を発症した場合、命に危険を及ぼす可能性があります。腹部の張りや頻尿など、少しでも違和感があれば早めに医師に相談しましょう。 肝硬変が発症する原因 肝硬変が発症する原因は、慢性肝炎ウイルス感染(とくにB型およびC型肝炎)、アルコールの過剰摂取、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、および自己免疫性肝疾患などです。 これらの要因が長期間にわたり肝臓に負担をかけた結果、肝臓の構造が変化し、肝硬変へと進行するのです。 肝硬変が発症するリスクは、上記の要因が組み合わさると、さらに発症する可能性を高めてしまいます。 たとえば、アルコールの摂取量が多い方が慢性肝炎ウイルス感染に発症した場合、肝硬変発症のリスクを高める結果になります。 免疫力も関係するため、50代以降の方は定期的な受診をしておくのがおすすめです。 なお、以下の記事でも肝硬変について触れております。 肝硬変の症状や原因を、より詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。 肝硬変の治療法 肝硬変の治療法は主に、薬物療法や食事療法、肝移植があげられます。 ここからはそれぞれの治療法と肝移植の種類、リスクについて解説していきます。 薬物療法 肝硬変の薬物療法は肝硬変の症状や合併症を管理するために用いられます。 主に以下の症状に対して治療をおこないます。 症状 治療法(使用する薬の種類) 皮膚のかゆみ ナルフラフィン塩酸塩 こむら返り 芍薬甘草湯、カルニチン 血小板減少 ルストロンボパグ ただし薬物療法は、肝硬変の進行を遅らせて症状を緩和させるのが主な治療の目的です。 肝硬変で腹水が溜まっている方は、以下の記事も参考にしてください。 食事療法を含めた生活習慣の改善 肝硬変の方は、日頃の食事や生活習慣を改善するのも、おすすめの治療法です。 たとえば、以下のような食生活を心がけてみてください。 症状 食生活の改善ポイント 腹水・むくみ 塩分を控え、適度な水分制限が必要。水分不足や脱水に注意。 食道静脈瘤 刺激物、硬い食物を避け、よく咀嚼する。 糖尿病 一度に大量に食べない。砂糖や果物を控える。炭水化物の多い食事に注意。 肝性脳症 たんぱく質を控え、食物繊維を摂る。 上記の食生活へと改善しつつ、適度な運動習慣を取り入れて改善していきましょう。 肝硬変の食事療法については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。 肝移植 肝硬変が進行し、多くの合併症が起こり他の治療法が効果を示さない場合、肝移植を検討し始めます。 ダメージを受けた肝臓を取り除き、健康な肝臓に置き換え、機能を回復させるための治療法です。ただし、肝移植を受けられるかどうかは、患者様の健康状態や肝硬変の原因などの要因に依存します。 ここからは肝移植の種類やリスクについて深掘りしていきます。 移植の種類 肝硬変の治療で肝移植には「生体肝移植」と「脳死肝移植」の2種類あります。 それぞれ移植の特徴や注意点などは以下の通りです。 移植の種類 概要 メリット デメリット 生体肝移植 健康なドナー(主に配偶者や家族など)の肝臓の一部を患者様に移植する方法 移植までの待機時間が少ない ドナーの体にもメスをいれる必要がある 脳死肝移植 脳死状態となり臓器提供の意思を示した方から肝臓を提供してもらう方法 肝臓全体を移植できる 待機時間が長くなる可能性があり、病状が進行するリスクがある いずれの肝移植にも手術が必要であり、危険性が伴うのは忘れないようにしましょう。 肝移植のリスク 肝移植では、全身麻酔による合併症の可能性や肝臓を取り除く際に周囲の臓器を損傷するリスクがあります。 また、移植後は拒絶反応を防ぐために、免疫抑制剤を服用し続ける必要があります。 さらに肝移植は、すべての肝硬変の患者様が受けられるわけではありません。肝硬変の原因や患者様の全体的な健康状態などに基づいて、適応が判断されます。適応基準を満たさない場合は、症状を緩和する治療を続けます。 肝移植は最終的な治療手段として、肝硬変の患者様の命を救う可能性があるため、適応の有無は慎重な判断が必要です。 合併症別に見る肝硬変の治療法 肝臓は解毒・代謝など体にとって重要な役割を果たしていますが、肝硬変になるとその働きが落ちます。 肝硬変が進行すると肝臓に流れ込む「門脈」と呼ばれる血管の圧が上がるため、血流に大きな変化を及ぼします。 ここからは肝硬変に起こりやすい合併症とその治療法について、それぞれ解説していきます。 肝性脳症 肝性脳症とは、肝硬変により代謝できなくなったアンモニアなどの毒素による脳の機能障害です。 肝性脳症による症状は異常行動や意識障害などがあります。なかでも特徴的な症状のひとつに「羽ばたき振戦」があります。その検査方法は以下の通りです。 羽ばたき振戦の検査方法 ①手のひらを下にしたまま腕を前に伸ばす ②そこから手首を90度立てて手のひらを正面に見せる様にする 羽ばたき振戦があると、手のひらを正面にしたままキープできず、羽ばたいているように手が細かく震えるのです。 肝性脳症には便秘・脱水・体内のアミノ酸バランスの異常・栄養素の不足などが影響していると考えられます。これらの誘因を除去し、不足している栄養素を補うのが治療で重要なポイントです。 患者様の栄養状態を把握し、適切な栄養管理をしつつ、以下の薬物療法をおこないます。 種類 概要 非吸収性合成二糖類 便秘を改善したり、腸内のpHを調整したりする効果がある。 分子鎖アミノ酸製剤(BCAA) アミノ酸バランスを整え、肝性脳症を改善させる。 腸管非吸収性抗菌薬 腸内でアンモニアを産生する菌の増殖を抑制する。 亜鉛製剤 不足している亜鉛を補うことで症状を改善させる。 カルニチン製剤 肝硬変の方が不足しがちなカルニチンを補充して効果を発揮させる。 食道胃静脈瘤 食道胃静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)は血液を肝臓に流す「門脈」の血圧が肝硬変により、上昇し、発生する合併症です。 門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしんしょう)により門脈を介した血流が滞ると、相対的に他への血流を増やさなければなりません。 その結果、食道や胃などの静脈に血流が増えて血管は拡張し、瘤(こぶ)のようになります。 基本的には無症状でも胃カメラをしなければ発見できません。しかし、とても破れやすく、消化管出血をきたします。 以下で治療の種類と具体的な内容を解説するので、参考にしてください。 治療の種類 治療内容 EIS(内視鏡的硬化療法) 内視鏡下に静脈瘤に硬化剤を注入する。 EVL(内視鏡的食道静脈瘤結紮術) 内視鏡に専用の輪ゴムを装着して静脈瘤を結紮(血管をしばって血行をとめる方法)。 CA法(内視鏡的シアノアクリレート系組織接着剤注入法) X線透視装置と内視鏡を用いて、造影剤と組織接着剤を混ぜ、静脈瘤に注入し硬化させる。 SB-tube 鼻からチューブを挿入し、2つのバルーンを膨らませ、圧迫止血をおこなう。 BRTO(バルーン下逆行性経静脈的塞栓術) 足の付け根の静脈からカテーテルを進め、硬化剤とバルーンで静脈瘤の血流を遮断して硬化させる。 静脈瘤の形や場所・患者様の状態・肝機能の程度・医療機関の状況などにより選択されます。 肝腎症候群 肝硬変により体をめぐる血液のボリュームが低下し、腎臓への血流が悪くなり腎機能障害が起こった状態が「肝腎症候群」です。 腹水を伴う、進行した肝硬変に起こります。腎機能は血液検査の「クレアチニン」と呼ばれる項目で判断します。 クレアチニンが1.5mg/dL以上を超えるのが診断条件の1つです。 脱水やショック、薬剤による腎障害や腎臓そのものの異常がないなど、いくつかの項目をみたすと診断が確定します。 急速に進む1型と緩徐に進行する2型に分類され、1型はとくに病気のその後の状態が悪くなることが多いです。 治療では、血液内に水分を引き寄せるアルブミンと呼ばれる血液製剤を投与したり、血圧を上げる薬を一時的に使用したりします。 肝肺症候群 肝肺症候群とは、肝硬変が原因で肺のガス交換に異常をきたし、血中の酸素濃度が低くなった状態です。 肝硬変により血管拡張物質が代謝されなくなった結果、肺の血管が拡張します。 肺の血液量が増え、酸素の供給が間に合わなくなるだけでなく、動脈と静脈にシャントと呼ばれる異常な交通ができます。 シャントでは動脈血と静脈血が混じり合い、血中の酸素濃度が低くなるので注意が必要です。 肝肺症候群の特徴的な症状は、座ったり立ったりしたとき、息苦しさを感じる症状が出ます。診断は特殊な心エコーなどの画像検査で肺のシャントを証明します。 肺高血圧症 肝硬変による門脈圧亢進症に伴う血流の変化は肺の動脈にも影響を及ぼします。心臓から肺へ伸びる肺動脈圧が上昇した状態が「肺高血圧」です。 肺へ血液を送る心臓の右側の部屋(右心系)に負担がかかり、やがて心不全へと至ります。息苦しさ、足のむくみ、動悸、失神などが主な症状です。 レントゲンや心電図、心エコーなどで右心系の負荷がかかっていないかを確認します。治療は肺動脈を拡張させる薬剤を使用します。 肝硬変が進行し、肝臓の機能が保てなくなる「肝不全」では、これらの合併症により他の臓器にも影響を及ぼすだけではありません。 連鎖的に他の臓器への機能不全が起こると、命への影響もあるため注意が必要です。 肝がん 肝硬変と診断された方は、定期的な腹部エコーなどの画像検査をおこない、がんではないか、経過観察をおこなうのが重要です。 がんがあるときに高値になりやすい血液検査の「腫瘍マーカー」も参考になります。最終的な診断は生検と呼ばれる組織を針などで取り、顕微鏡で観察する必要があります。 肝がんの主な治療法は、以下の通りです。 手術や一般的な抗がん剤を使用する 体表から特殊な針をがんに刺して焼く がんの近くまで直接的に抗がん剤を注入する がんの栄養血管を詰める がんの治療は、その大きさ・数・肝硬変の程度や患者様の状態によりさまざまです。 肝硬変は治る時代!?再生医療の可能性について 肝硬変になると、従来の治療法では線維化した肝臓が元に戻ることは難しいとされてきました。しかし、再生医療の進展により、この常識が変わりつつあります。 肝硬変に対する再生医療では「幹細胞」を活用する方法が注目されています。幹細胞は、多様な細胞に分化する能力を持つ細胞であり、これを培養して点滴で投与することにより、肝細胞の修復および再生を促進することができます。 幹細胞は、損傷した肝組織に作用し、肝細胞の再生と修復をサポートします。肝硬変に対する再生医療により、従来は肝移植しか選択肢がなかった肝臓の線維化が改善する可能性が期待されています。 なお、現時点では肝臓に対する再生医療は医療保険の適用外ですが、その治療法は新しい選択肢として注目されています。 当院「リペアセルクリニック」では、患者様の脂肪細胞から幹細胞を採取し、培養後に点滴による治療を行っています。 また、当院独自の細胞培養技術により、冷凍保存を経ずに幹細胞の輸送・保存が可能であり、フレッシュな幹細胞を使用した治療を実現しています。 ▼こちらの動画で当院の幹細胞治療について詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。 肝硬変の治療でお悩みの方は当院へ気軽にご相談ください 本記事では、肝硬変の治療法について解説しました。 全身に起こる多様な合併症や肝がんは、命にかかわる合併症です。肝硬変そのものの治療としては薬物療法や食事治療に加え、症状の緩和が必要になります。 しかし、薬物療法では線維化の進行を止められません。 肝移植も検討されますが、可能な方は限られます。肝硬変に対する再生医療では線維化が進んでしまった肝臓を回復させる可能性のある治療です。 当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。 再生医療を含め、肝硬変の治療法が気になる方は気軽にご連絡ください。 \まずは当院にお問い合わせください/
2024.06.11 -
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「最近夜中によく足がつって目が覚める。何かの病気なのだろうか」 「こむら返りは肝臓が悪いサインって本当?」 この記事を読んでいる方は、こむら返りの原因が肝臓にあるという噂を耳にして不安になっているのではないでしょうか。 こむら返りは、肝臓の健康状態と深く関係している可能性があります。 肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ肝硬変などの疾患でも初期段階では自覚症状が出にくいのが特徴です。ただし、こむら返りは肝臓の疾患のサインかもしれません。 この記事では、こむら返りと肝臓の関係性について詳しく解説するとともに、肝硬変の初期サインや予防法についても医師監修のもとご紹介します。 こむら返りに対する理解が深まり健康管理にも役立つはずですので、ぜひ最後までご覧ください。 また、当院「リペアセルクリニック」では肝臓治療の再生医療が受けられる数少ない医療機関の1つです。 気になる症状がある方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にご相談ください。 こむら返りの原因が肝臓にある3つの理由 夜間に突然襲う「こむら返り」ですが、肝臓の不調が関与している可能性があります。 肝臓が筋肉の働きや栄養バランスに与える影響は大きく、無視できません。 本章では肝臓がこむら返りの原因となる3つの理由について詳しく解説します。 肝臓の機能低下が筋肉に影響する 肝硬変の進行によって筋肉のけいれんや痛みを引き起こす 肝臓の病気で電解質バランスが崩れる それぞれ詳しく紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。 肝臓の機能低下が筋肉に影響する 肝硬変などで肝臓の機能が低下すると、エネルギーを蓄える力が弱まります。 不足したエネルギーを補おうと、体は筋肉を分解し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)などのタンパク質を消費するのです。 この影響で、加齢に伴い筋力が低下する疾患「サルコペニア」が起こる可能性もあります。 さらに、筋肉量が減ると筋肉の働きが低下し、こむら返りのリスクが高まります。 肝硬変の進行によって筋肉のけいれんや痛みを引き起こす 肝硬変が進行すると、こむら返りのような痛みを伴う筋肉のけいれんが生じる場合があります。 これは、肝臓の機能低下によって代謝が乱れることが原因の一つとされています。 肝臓が正常に働かなくなると、筋肉内の代謝バランスが崩れ、けいれんや痛みを引き起こす恐れがあるのです。(文献1) 肝臓の病気で電解質バランスが崩れる 肝硬変患者では、脱水や電解質異常がこむら返りを引き起こす要因と考えられています。 肝臓の機能が低下すると、体内の水分バランスや電解質の調整が難しくなるためです。 この影響で筋肉の正常な働きが妨げられ、こむら返りが起こりやすくなる可能性があります。 また、これらの要因が複雑に絡み合い、肝臓の不調がこむら返りの原因となるケースもあります。 こむら返りの主な原因とは? こむら返りは、さまざまな原因で引き起こされます。 ここでは、こむら返りの主な原因として以下の3つのポイントに分けて解説します。 脱水症状 ミネラル不足 過剰な運動や筋疲労 原因を理解し、こむら返りの予防や改善に役立ててください。 脱水症状 脱水症状は、こむら返りの大きな原因の一つです。 体内の水分が不足すると、筋肉の正常な収縮が妨げられ「けいれん」が起こりやすくなります。 また、汗を多くかく夏場や運動中はとくに注意が必要です。 水分だけでなく、電解質を含む飲み物を摂ることで予防が期待できるため、適切な水分補給を心がけて、こむら返りのリスクを減らしましょう。(文献2) ミネラル不足 ミネラルの不足も、こむら返りを引き起こす要因の1つです。 とくにカルシウム、マグネシウム、カリウムといったミネラルは、筋肉の弛緩や収縮を調整する役割を持っています。 そのため、これらが不足すると筋肉が過剰に収縮しやすくなります。 ミネラルは、バランスの取れた食事から摂取可能です。 たとえば、カルシウムは牛乳や乳製品、小魚などに多く含まれており、マグネシウムは、海藻類やナッツ類、豆類などに多く含まれています。 過剰な運動や筋疲労 運動のしすぎや筋肉の過度な疲労も、こむら返りの原因になります。 筋肉が疲れると、収縮と弛緩のバランスが崩れて「けいれん」が起きやすくなるためです。 また、運動後にストレッチをしないと、筋肉が硬直し「こむら返り」を招くケースもあります。 運動前後の準備運動やストレッチによって筋肉の負担を軽減できるため、意識して取り入れてみましょう。 肝硬変の主な原因とは? 肝硬変はさまざまな原因で引き起こされる病気です。 ウイルス性肝炎 脂肪性肝炎 自己免疫疾患 ここでは上記3つの要因について詳しく解説いたします。 肝臓の健康を守るための知識として参考にしてください。 ウイルス性肝炎 ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスへの感染が原因で引き起こされる肝臓の炎症です。 日本ではB型とC型肝炎ウイルスが主な原因で、血液や体液を介して感染します。 以前は輸血や医療器具の使い回しが多かったですが、現在は性交渉や母子感染が主な感染経路です。 また、ウイルス性肝炎は急性肝炎と慢性肝炎に分けられます。 急性肝炎は症状が軽く自然に治るケースもありますが、慢性化すると肝臓の炎症が続き、肝硬変へ進行するリスクが高まります。(文献3) 脂肪性肝炎 脂肪性肝炎は、肝臓に脂肪が溜まり炎症を引き起こす状態を指します。 原因にはアルコール性と非アルコール性の2種類があります。 アルコール性脂肪性肝炎は、長期間の過剰な飲酒が原因で発症します。 純アルコール量で1日60g以上の摂取がリスクとなりますが、体質や性別によっては少ない量でも肝障害を引き起こす可能性があります。とくに女性やアルコールに弱い人は注意が必要です。 たとえば、日本酒1合(180mL、アルコール度数15%)の純アルコール量は21.6gで、2〜3合を毎日飲むと肝障害のリスクが高まります。 一方、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は飲酒以外が原因で発症する脂肪性肝炎です。 肥満やメタボリックシンドロームが主な要因で、近年増加傾向にあります。 アルコールに関係なく脂肪が肝臓に蓄積し、さらに炎症を伴うと「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と分類されます。 NASHは放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性もあるため注意が必要です。 自己免疫疾患 自己免疫疾患も肝硬変の原因として知られている要因の1つです。 自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、免疫が誤って自分の肝臓を攻撃することで発症します。 これらの病気は進行がゆっくりで初期症状がわかりにくいですが、治療を怠ると肝硬変に進行する可能性があります。 肝硬変の治療法や合併症については以下の記事でも詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。 肝硬変の初期サインは「血液検査による肝障害の指摘」 肝臓は、肝硬変が始まる段階や初期の頃にはほとんど症状が現れないため「沈黙の臓器」と呼ばれています。 したがって、肝臓の病気に関して自分で初期症状を感じ取るのは難しいと言えるでしょう。 しかし、ASTやALTなど肝臓の異常を示す数値が上昇している場合、肝硬変の初期サインとして血液検査で肝障害が指摘される場合があります。 よって、症状がなくても血液検査で肝臓に関する数値が高い場合は、肝硬変の原因を調べるために肝臓内科の受診をおすすめします。 \まずは当院にお問い合わせください/ 肝硬変とこむら返りの予防対策3選 こむら返りや肝硬変は、日々の生活習慣と大きく関わっています。 本章では、肝硬変とこむら返りの予防に効果的な対策を3つご紹介します。 肝臓に優しい食事と生活習慣の改善 こむら返りを和らげるストレッチ方法 水分補給と電解質バランスを整える 本章を参考に、健康的な毎日を送るための知識としてに役立てていきましょう。 肝臓に優しい食事と生活習慣の改善 肝臓は、食事や生活習慣の影響を受けやすい臓器です。 肝臓の健康を維持するためには、バランスの取れた食事を心がけて暴飲暴食を避けましょう。 とくに、脂肪分の多い食事や過度な飲酒は、肝臓に負担をかけるため控えめにするのがおすすめです。 また、睡眠不足や運動不足は、肝臓の機能低下を招く可能性があるため十分な睡眠と適度な運動も大切です。 規則正しい生活を心がけ、肝臓の健康を守りましょう。 肝硬変の食事療法についてはこちらの記事も参考にご覧ください。 こむら返りを和らげるストレッチ方法 こむら返りを予防するためには、日頃からふくらはぎのストレッチを行うのが効果的です。 ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、血行を促進する効果があります。 たとえば、壁に手をついてアキレス腱を伸ばすストレッチや、床に座ってつま先を身体の方に引き寄せるストレッチなどがあります。 これらのストレッチを、毎日数回行うことで、こむら返りを予防できるでしょう。 水分補給と電解質バランスを整える こむら返りの原因の一つに、脱水症状や電解質バランスの乱れがあります。 汗をかいた際や運動後などは、とくに水分補給を心がけましょう。 また、水分補給には、水やお茶だけでなく、スポーツドリンクなども有効です。 スポーツドリンクには、電解質が含まれているため、体内の電解質バランスを整えるのに役立ちます。 肝硬変の診断に必要な3つの検査 肝硬変を正確に診断するためには、以下の3つの検査が重要です。 それぞれの特徴を表にまとめました。 検査名 検査の目的 特徴 肝生検 肝臓組織を採取し、炎症や線維化の進行を確認 正確な診断が可能だが、身体への負担がある 血液検査 肝酵素値やアルブミン値などで肝機能を評価 初期診断に適し、定期的に実施しやすい 画像検査 超音波やCTで肝臓の形状や異常を視覚的に確認 腫瘍や進行度の把握に有効 それぞれの特徴と役割を理解し、必要に応じて専門医の相談を検討しましょう。 1.肝生検 肝生検は、肝臓の状態を直接確認できる検査です。 細い針を肝臓に刺して組織を採取し、顕微鏡で観察して肝硬変の確定診断を行います。 検査自体は短時間で終わりますが、入院が必要となる場合もあります。 また、まれに出血や合併症が起こる可能性もあるため、医師とよく相談してから検査を受けるようにしましょう。 2.血液検査 血液検査では、肝臓の炎症や機能の状態を調べられます。 肝機能検査では、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなどの数値を測定し、数値が高い場合は、肝臓に炎症が起こっている可能性があります。 また、アルブミンやビリルビンなどの数値も、肝臓の機能を評価する上で重要な指標です。 血液検査は、肝硬変の疑いがある場合に行われる一般的な検査です。 採血だけで済むため、身体への負担も少なく受けられます。 3.画像検査 画像検査とは、肝臓の大きさや形、腫瘍の有無などの確認ができる検査です。 超音波検査、CT検査、MRI検査など、さまざまな画像検査があります。 それぞれの検査方法によって、得られる情報が異なるため、医師が症状や状態に合わせて適切な検査を選択します。 また、肝臓がんの早期発見にもつながるため、心配な方は定期的に検査を受けるようにしましょう。 肝臓治療の再生医療については、以下からご確認いただけます。 新しい肝臓の治療法に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。 まとめ|こむら返りが頻繁に起きたら肝硬変の初期サインを疑ってみよう こむら返りが頻発して発生するのは、単なる筋肉の問題ではないかもしれません。 肝臓の機能低下や肝硬変が隠れている可能性があります。 そのため、症状が続く場合は早めに医療機関で検査を受けましょう。 生活習慣の見直しや定期的な健康チェックが、肝臓の健康を守る重要なポイントとなります。 また、当院「リペアセルクリニック」では肝臓(脂肪肝・肝硬変・肝炎)の再生医療・幹細胞治療を提供しています。 肝機能の治療に不安がある方は、まずはお気軽に「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ こむら返りと肝臓に関するよくある質問 こむら返りはアルコールが原因の可能性もありますか? 過剰なアルコール摂取は、肝臓に大きな負担をかけます。 肝臓が正常に働かなくなると、筋肉の代謝バランスが崩れ、こむら返りが起こりやすくなる可能性があります。 そのため、毎日の飲酒量を見直し、肝臓の負担を軽減することが大切です。 肝臓が悪いと手や爪にどんな症状が出ますか? 肝臓の不調は、手や爪にも現れる場合があります。 手のひらが赤くなる「手掌紅斑」や、爪の色が白っぽくなる「白色爪」は、肝臓の病気で見られる典型的な症状です。 こうしたサインを見逃さず、早めに医師に相談しましょう。 また、当院「リペアセルクリニック」では肝硬変・肝炎に対し手術を伴わない「再生医療」を提案しています。 治療に不安がある方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にてお気軽にご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 参考文献 (文献1) 日本消化器病学会,日本肝臓学会.「肝硬変診療ガイドライン2020|日本消化器病学会ガイドライン」 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/kankouhen2020_re.pdf (文献2) 下呂市「脱水とこむら返り」 https://www.city.gero.lg.jp/uploaded/attachment/7541.pdf (文献3) MSDマニュアル家庭版「肝硬変」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/04-%E8%82%9D%E8%87%93%E3%81%A8%E8%83%86%E5%9A%A2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%82%9D%E8%87%93%E3%81%AE%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E5%8C%96%E3%81%A8%E8%82%9D%E7%A1%AC%E5%A4%89/%E8%82%9D%E7%A1%AC%E5%A4%89
2024.06.04 -
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肝硬変で腹水が溜まると余命は長くないって本当? 肝硬変の腹水を根本的に治療する方法はないの? この記事を読んでいるあなたは、肝硬変で腹水の症状が出たときの余命がどのくらいなのか調べているのではないでしょうか。 腹水は肝硬変の中期から末期によくみられる症状であり、「もう先は長くないのではないか」と不安になるかもしれません。 結論からいえば、肝硬変における腹水は「非代償性肝硬変」に突入したサインの可能性があり、余命(中央値)は約2年というデータもあります。医療機関で適切な治療を受けることで、予後を改善できる場合があるため、前向きに治療を受けることが大切です。 本記事では、肝硬変における腹水の症状がある場合の余命年数や、治療法について解説します。 記事を最後まで読めば、肝硬変中期から末期の状況を正しく理解し、今後受けるべき治療法を判断できるでしょう。 肝硬変で腹水が溜まったときの余命は約2年といわれている 腹水とは、腹腔内にあるタンパク質の含まれた液体のことです。 通常、腹水は人間の腹腔内に一定量存在しますが、病気によって過剰生成・排出不良が起こり、溜まってしまうことがあります。 腹水は「非代償性」と呼ばれる中期から末期の肝硬変でみられる症状です。非代償性肝硬変の場合、余命年数は約2年(中央値)ともいわれており、予後が良いとはいえません。(文献1) まずは本章を参考に、肝硬変の重症度や予後についての基礎知識を身につけましょう。 肝硬変には「代償性」と「非代償性」がある 肝硬変は、程度によって「代償性」と「非代償性」に区分されます。 肝硬変の区分 段階 代償性 ・肝硬変の初期 ・肝機能に大きな問題はみられない状態 非代償性 ・肝硬変の中期~末期 ・肝機能に障害が出ている状態 代償性肝硬変は初期段階で、身体症状が現れないことが多く、症状があっても風邪などと見分けがつきにくいのが特徴です。 一方、非代償性肝硬変は中期から末期にあたる段階で、腹水や黄疸、浮腫などの身体症状があらわれるようになります。 肝硬変の症状や原因については、以下の記事もご覧ください。 肝硬変の程度によって生存率に差がある 肝硬変の予後について、以下のようなデータがあります。(文献2) 5年生存率 代償性 72.3% 非代償性 37.9% 10年生存率 代償性 53.3% 非代償性 24.0% 肝硬変の生存率(5年・10年)は、肝硬変の程度によって30%前後の差があります。 腹水などの症状がある非代償性肝硬変の場合、予後は良いとはいえません。 ただ、非代償性肝硬変であっても、適切な治療や肝移植をおこなうことで、改善する見込みもあります。 肝硬変による腹水は治療で改善する可能性がある 肝硬変による腹水は、内科的治療もしくは外科的治療で改善する見込みがあります。 肝硬変で腹水などの症状が発現している場合「非代償」期に突入している可能性が高いと考えられます。つまり、肝硬変の病状が進行し、肝機能を補えないほどの状態まで悪化しているという意味です。 とはいえ、非代償性肝硬変であっても、内科的な治療をおこなえば、腹水の改善がみられることが多くあります。 ただし、難治性腹水で内科的治療に反応しない場合は、外科的な治療をおこなうこともあります。 本章では、肝硬変における腹水の内科的治療・外科的治療について解説します。今自覚している腹水が肝硬変による可能性があると思われた方は、すぐに医療機関に相談しましょう。 また、肝硬変の治療法については以下の記事も参考にしてください。 肝硬変による腹水の内科的治療 非代償性肝硬変による腹水の症状がみられる場合は、内科的治療からおこないます。 具体的な治療法は以下のとおりです。 塩分の制限 利尿薬の処方 アルブミン療法 腎機能に影響する薬剤の制限 以下で詳しく解説します。 塩分の制限 はじめにおこなう内科的治療として、食事療法が挙げられます。とくに腹水の改善には塩分制限が有用で、1日の塩分摂取は5-7gとします。 肝硬変では、ナトリウムが溜まりやすくなるため、塩分の制限が必要です。 実際に塩分制限により、腹水の早期減少や入院期間の短縮、利尿薬の減量が得られたと報告されています。 肝硬変の食事療法については、以下の記事でも詳しく解説していますのでぜひご覧ください。 利尿薬の処方 食事療法のみでは効果が不十分と判断された場合、利尿薬を処方し、尿からのナトリウム排泄を促進する治療をおこないます。 少量からはじめ、効果と合わせて徐々に増量するケースが一般的です。 アルブミン療法 アルブミンとは、主に肝臓で作られている血液中のタンパク質です。 肝機能の低下によりアルブミンの値が低下すると、血管内の血液の浸透圧バランスが乱れ、浮腫や腹水が起こりやすくなります。 非代償性肝硬変によりアルブミンの低下がみられる場合、アルブミン製剤を使用することもあります。 腎機能に影響する薬剤の制限 腹水がある場合、専門医と相談の上で、腎機能に影響する成分が含まれた薬剤の服用を中止することもあります。 たとえば、腎機能を悪くするような痛み止めや血圧を下げる薬は、腹水治療の妨げとなる可能性があります。これらの薬剤を利用している人は、継続の可否について医師に確認しましょう。 肝硬変による腹水の外科的治療 肝硬変における腹水の症状は、内科的治療によって改善できるケースが大半です。しかし、内科的治療への反応が乏しい場合は「難治性腹水」として外科的治療に切り替えることもあります。 ある研究では、難治性腹水の特徴として、腎機能の悪化や交感神経系の亢進、そして腎臓に作用して血圧を上昇させようとする内分泌系の調節機構(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系)の亢進がみられ、さらに門脈圧亢進もその発生に関与しているだろうと報告されています。(文献3) 難治性腹水の治療法は以下のとおりです。 穿刺排液 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 腹腔−静脈シャント術 肝移植 以下で詳しく解説します。 穿刺排液 まず、腹水貯留による腹部膨満感や呼吸困難の改善のため、穿刺排液をおこないます。 基本的には超音波の機械を用いて穿刺できる場所を選択しますが、解剖学的に安全と思われる箇所を狙って刺すこともあります。 居所麻酔をおこなったのち、針を使って穿刺し、管を留置して自然に排液させます。 穿刺の頻度は主に1-2週間ごと、量は1回につき最大でも8Lまでとされています。 また、5L以上の腹水を引く場合には、血液中のタンパク質である「アルブミン」の補充も併せておこなわれます。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充 腹水濾過濃縮再静注法(以下、CART)をおこない、血液中のタンパク質を補充することもあります。 腹水濾過濃縮再静注法(CART)とは、排液した腹水を濾過器や濃縮器にかけて取り出した自己のタンパク質を点滴で体内に戻す方法です。 自分のタンパク質を体内に戻す治療であるため、アルブミン製剤の投与時に生じうるアナフィラキシーショックなどの副作用を回避しやすいのがメリットです。 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS) 難治性腹水に有用といわれている外科的治療として、「経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)」と呼ばれる血管内治療があげられます。 全身麻酔下で血管内に細い管を挿入し、門脈と肝静脈の間にシャントと呼ばれる短絡路を作成し、門脈圧を下げます。 腹腔−静脈シャント術 また、「腹腔−静脈シャント術」と呼ばれる外科的治療をおこなうこともあります。 腹腔−静脈シャント術とは、皮下を経由して腹腔内と中心静脈をつなぎ、腹水を血管内に還流させる治療法です。 基本的には局所麻酔のみでおこなうことが可能ですが、長時間仰向けの体勢を保てないなどの際には全身麻酔を施すこともあります。 肝移植 難治性腹水が見られる場合、肝移植を実施することもあります。 脳死肝移植だけでなく、生きている人から肝臓の一部をもらう生体肝移植もあります。生体・死体合わせて、2021年と2022年はどちらも約420件の肝移植が施行されました。 肝移植は、非代償性肝硬変の根本的治療をおこなえるのがメリットです。ただし限られた医療機関でしか受けられない上に、待機時間も長いのは問題点といえます。 肝硬変の根本的な治療が期待できる再生医療について 繊維化した肝臓が元に戻らないとされていた肝硬変ですが、根本的な治療が期待できる治療方法として「再生医療」が注目されています。 再生医療とは、体が持つ再生能力を利用し、損なわれた臓器や生体組織の修復・再生させる医療技術のことです。 当院(リペアセルクリニック)では、患者さまの幹細胞を採取・培養し、投与することで損なわれた肝臓を再生させることが期待できます。 治療成績に個人差はありますが、従来の治療方法と異なり肝硬変の根本的な治療が期待できる治療方法です。 当院(リペアセルクリニック)では、肝硬変を含む肝臓疾患にお困りの方を対象に無料相談を実施しているため、ぜひご相談ください。 \まずは当院にお問い合わせください/ まとめ|肝硬変の腹水は余命にかかわるため適切な治療を受けよう 本記事では、肝硬変で腹水の症状がある場合の余命や治療法を解説しました。 肝硬変による腹水は、基本的に食事療法などの内科的治療で改善しますが、腹水穿刺や手術療法など外科的治療をおこなうこともあります。 当院「リペアセルクリニック」では、肝臓の再生医療として幹細胞治療をおこなっています。約1億個の幹細胞を投与することで、硬くなった肝臓の組織を溶解・修復させ、肝機能を改善させる効果が期待できるでしょう。 肝硬変における腹水の症状に悩んでいる方や、肝移植以外で肝硬変の根本治療を検討している方は、一度当院にご相談ください。 非代償性の肝硬変は予後が良好とはいえませんが、症状の改善に向けて前向きに治療を進めていきましょう。 肝硬変の余命についてよくある質問 肝硬変の終末期の症状は? 肝硬変の終末期では、以下の身体症状がみられます。 黄疸 腹水 胸水 食道胃静脈瘤 浮腫(むくみ) 感染症 など 終末期など重度の肝硬変を根本的に治療するには、ドナー登録の上で肝移植を受ける選択肢があります。 肝硬変で腹水が溜まるとどうなるのでしょうか? 肝硬変で腹水が溜まるのは、中期から末期である「非代償性肝硬変」に入ったサインの可能性があります。 大量の腹水が内臓を圧迫し、食欲不振や嘔吐、便秘などの消化器症状が出ることもあるでしょう。細菌性腹膜炎などの感染症を引き起こす場合もあるため、早めに医療機関での治療を受ける必要があります。 肝硬変による腹水は、利尿剤の投与など内科的治療、または腹水穿刺吸引など外科的治療をおこなうのが一般的です。 参考文献一覧 (文献1) D’Amico G, Garcia-Tsao G, et al. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: A systematic review of 118 studies. J Hepatol. 2006;44:217-231. (文献2) 糸島達也、島田 宜浩ほか.肝硬変の予後-肝表面像による検討-.日本消化器病学会 雑誌.1973;70:42-49. (文献3) 楢原義之,金沢秀典ほか. 肝硬変における難治性腹水臨床像に関する検討. 日門充会誌.2002;8:251-257.
2024.05.28 -
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「肝臓の病気である自己免疫性肝炎の症状は?」 「自己免疫性肝炎は女性に多いの?」 自己免疫性肝炎は、体のなかで最大の臓器である肝臓に起こる病気で、とくに女性に多く認められます。 初期症状では、異常に気づきにくい場合も多いです。しかし、放置すると肝硬変や肝不全、肝がんなどの重大な病態にいたる可能性もあります。 自己免疫性肝炎の原因や症状、診断に必要な検査、治療方法を解説します。 肝臓の症状悪化を防ぐには早期治療が重要です。肝臓の病気などに不安を感じておられる方は、ぜひ医療機関に訪れて医師からの診断をあおいでみてください。 女性に多い自己免疫性肝炎とは【肝臓の病気】 自己免疫性肝炎(じこめんえきせいかんえん)は、一般的に慢性に進行する肝障害をきたす病気です。 発症は60歳ごろがピークとされ、中年に多いとされています。 男女比は1:4.3と、男性よりも女性に多い傾向があり、日本では約3万人強の患者さまがいると推定されています。 自己免疫性肝炎は、国が定める指定難病です。一定の重症度を満たす場合は、医療費が公費補助の対象となります。 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の原因 自己免疫性肝炎の原因は、まだ完全に明らかになっていません。しかし、さまざまな要素から、免疫が自身の体を攻撃する場合に起こる「自己免疫疾患」と考えられています。 実際に自己免疫性肝炎では、肝臓に免疫細胞が多く集まり、炎症をきたしている所見が確認できます。 ただ、アルコールをまったく摂取しない人や、ウイルス性肝炎を起こすB型肝炎、C型肝炎の感染がなくても病気が発症する場合もあるのです。 たとえば、特定の遺伝因子を持つ人が発症しやすいといわれています。しかし、一般的に行われている検診などでは、発症のしやすさを判定できません。 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の合併症 自己免疫性肝炎は、ほかの自己免疫疾患との合併が多く認められます。 たとえば、以下のような疾患を患っている方は、自己免疫性肝炎を発症するリスクが高まります。 【自己免疫性肝炎に多い合併症の例】 慢性甲状腺炎(橋本病) 首が腫れる 無気力になる 体重が増える 甲状腺に炎症が起こり機能低下する シェーグレン症候群 目が乾く 唾液が出にくく、口が乾燥する疾患 関節リウマチ 手、指などの小関節を中心とした腫れ 痛み、こわばりなどを起こす疾患 肝臓の病気である自己免疫性肝炎の症状 残念ながら「〇〇の症状があれば、自己免疫性肝炎が疑われる」など、特徴的なものはありません。 早期に発見されるきっかけは、無症状のまま健康診断などで肝障害を指摘される場合が多いです。 肝臓は別名「沈黙の臓器」と呼ばれています。そのため、肝障害は早期の段階で病気に気づきにくいのです。 一方で、急激な経過をたどる場合は、以下のような自覚症状を認める場合があります。 以下の症状は、自己免疫性肝炎に特異的ではありませんが、複数のものが該当するときは、急激に進む重度の肝障害が起こっている可能性があるため、早期に受診しましょう。 【急性肝炎として発症する場合の症状の例】 全身倦怠感 だるい感じがする ちょっとしたことで疲れやすい 食欲不振 食欲低下のため食事が摂れない 黄疸 全身の皮膚や白眼が黄色くなる 尿の色が濃くなる 一部の方は、気づかないうちに病状がかなり進行して、肝硬変をきたしている場合があります。 肝臓の病気や自己免疫性肝炎の診断に必要な検査 肝臓の病気や自己免疫性肝炎を調べるときは、さまざまな検査を行って総合的に診断します。 まずは血液検査で肝臓の障害があるか、障害の程度を含めて判断する流れが一般的です。 AST(GOT)・ALT(GPT)の数値検査 IgG・自己抗体検査 B型・C型肝炎ウイルス検査 画像検査 肝生検 AST(GOT)・ALT(GPT)の数値検査 健康診断でよく見る AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇が参考になる所見です。 数値が高いときは、肝臓の機能になんらかの異常がある可能性を示しています。 ちなみに、AST(GOT)とは「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」と呼ばれる酵素です。ASTは細胞がダメージを受けると、血液中に酵素が放出されます。 また、ALT(GPT)は「アラニンアミノトランスフェラーゼ」と呼ばれる酵素です。主に肝臓に存在しており、肝細胞が破壊されると血液中に放出されます。 IgG・自己抗体検査 免疫関連の検査として、IgG(免疫の成分である抗体の量を見る検査)を行います。 いくつかの自己抗体(自分の体を攻撃する抗体についての検査)も重要です。 B型・C型肝炎ウイルス検査 肝臓にダメージを与えるB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなど、感染の有無を調べます。 画像検査 エコー、CTなど、肝臓の画像検査も必須です。 肝障害をきたす脂肪肝など、他疾患の有無、肝臓の硬さ、悪性腫瘍(とくに肝がん)における合併の有無を評価します。 肝生検 診断においてとくに重要なのは、肝臓の組織の検査、肝生検です。 肝生検には「経皮的肝生検」と「腹腔鏡下肝生検」の2つがあります。 基本的には、体に負担の少ない「経皮的肝生検」が行われる場合が多いです。経皮的肝生検では、実際にエコー下で肝臓を確認しながら、細い針を刺して組織を採取します。 出血などのリスクがある検査で、終了後の安静が求められるので短期間の入院が必要です。 肝生検で採取した組織は特殊な染色を行い、顕微鏡で観察します。検査により、以下の内容を確かめられます。 どこにどのような炎症があるか 肝細胞のダメージはどうか 肝臓の硬さ(線維化) 進行具合 自己免疫性肝炎で特徴的なのは、インターフェイス肝炎(Interface hepatitis)と呼ばれるものです。 肝臓へ血液を運ぶ肝動脈、門脈や胆汁を運ぶ胆管が集まった「門脈域」に、リンパ球や形質細胞(一部のリンパ球が成熟した細胞)などの炎症細胞が集まります。 周囲の肝細胞を破壊しながら、炎症がさらに広がっていく様子が認められるのです。このような所見は全例で見られるわけではありませんが、認められれば診断への重要な手がかりとなります。 肝生検はほかの原因を除外し、自己免疫性肝炎の診断を確実にするために重要な検査です。ただ、患者さまの体の状態が悪く、肝生検をしないほうが良いケースには行いません。 自己免疫性肝炎の病気における治療法【副作用も解説】 自己免疫性肝炎の治療は、基本的にステロイドを使います。ステロイドは副腎皮質から分泌されるホルモンをもとにつくられた薬剤です。 強力な抗炎症作用や免疫抑制作用をもっており、自己免疫性肝炎を始め、さまざまな自己免疫疾患の治療に使われています。 治療における流れは以下のとおりです。 【自己免疫性肝炎の治療における流れ】 プレドニゾロンのステロイドホルモン薬を、体重1Kgあたり0.6mg以上で開始 (例)50Kgの人は1日あたり30mg以上が開始量 ※重症度に応じてもっと多い量を使用する場合もあります 開始後は、最低でも2週間程度は初期量の継続が必要です。 以降は肝機能の数値(主にALT)を見ながら少しずつ減量します。急いで減量や中止をすると、再燃のリスクがあるからです。 ほかには、肝機能の改善を助けるウルソデオキシコール酸が処方される場合があります。 また、治療困難例やステロイドを多く使えない場合には、免疫抑制薬をステロイドと併用で使うときもあります。 ただ、長期で大量に使用すると、以下のようにさまざまな副作用をきたすので注意が必要です。 【ステロイドの副作用の例】 感染状態 骨粗鬆症 食欲亢進 高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病の出現や悪化 体重増加、肥満 躁状態、うつ状態、不眠などの精神神経症状 消化管潰瘍 緑内障、白内障 など 副作用がないか適宜検査を行い、予防可能なものには対策をしていきます。気になる症状があれば主治医と相談しましょう。 また、肝臓に関わる病気では、治療方法のひとつに再生医療がございます。 症状に悩まれておられる方は、ぜひ当院のメールや電話からご相談ください。 自己免疫性肝炎の病気で日常生活を送るときの注意点 日常生活では栄養バランスの取れた食事をとり、間食を控えるのが大切です。また、外出時は人混みを避けて手洗いやマスク着用、うがいなどの感染予防行動を徹底しましょう。 注意しておきたいのが、続発性副腎機能不全です。ステロイド薬の内服により、引き起こされた副腎皮質ホルモンの不足を指します。 生理的な量を超えるホルモンを長期で内服すると、副腎は本来のホルモン分泌を怠るようになります。 そのため、長期内服者が薬を自己判断で中断してしまうと、ホルモン不足が起こるかもしれません。副腎皮質機能不全となると、以下のような症状が出てきます。 【副腎皮質機能不全の症状例】 だるさ 脱力感 血圧低下 吐き気 嘔吐 発熱 など また、重症になると意識を失ったり、ショック状態になったりする場合もあります。 ステロイドを自己判断で減量や中止してしまうと、病状悪化だけでなく、命に関わる副腎機能不全をきたすリスクもあるので、必ず医師の指示通りに内服しましょう。 自己免疫性肝炎の病気は進行するの?【肝臓の症状悪化を防ぐには早期治療】 自己免疫性肝炎の多くは治療が有効である一方、最初は軽症でも放置をすれば命に関わる事態になります。 自己免疫性肝炎を放置すると炎症が沈静化せず、肝臓の線維化が進みます。肝臓の線維化が進行して固くなった状態が「肝硬変」です。 肝臓では栄養素の代謝やエネルギー貯蔵、有害物質の分解や解毒などが行われていますが、肝硬変が進むと機能障害が起こります。 肝臓の働きが大きく損なわれてしまった状態を「肝不全」と呼びます。さらに、肝硬変は肝がんの発生が起こりやすく、肝がんは治療しても再発しやすい厄介ながんです。 肝硬変・肝不全・肝がんへの進行を防ぐには、早期から適切な治療を受けるのが重要です。自己免疫性肝炎では、治療によりASTやALTの数値を基準値内に保てれば、生命予後は良好とされています。 肝硬変の症状や原因については、以下の記事もあわせてご確認ください。 肝臓の症状や自己免疫性肝炎の病気が心配な女性は内科を受診しよう 自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありませんが、ときにだるさや黄疸などをきたす場合があります。また、無症状で発見される場合も多いです。 診断は血液検査や画像検査などを行い、総合的に判断して行います。とくに組織の検査は非常に重要とされています。 治療の第一選択薬はステロイドです。副作用も多いですが、対策をしながら長期的に使用します。 自己免疫性肝炎を放置すると命に関わる「肝硬変」に進展するため、診断を受けたら定期的に通院をして服薬を続けましょう。 健康診断で肝臓の数値が高いと言われた方や、肝臓が悪いときの症状に思い当たる節がある方は、まずは医療機関で検査を受けてみてください。 また、肝臓に関わる病気については、治療方法のひとつとして再生医療があります。肝臓の病気に関わる症状に悩まれておられる方は、ぜひ当院のメールや電話からご相談ください。 女性に多い肝臓の病気や自己免疫性肝炎の症状についてよくある質問 実際に患者さまからよくお聞きする質問や、肝臓の病気に関わるQ&Aをまとめています。 Q.自己免疫性肝炎の病気では、最終的にステロイドを止められますか? A.経過によっては中止が可能ですが、全員ではありません。中止できるときも、多くの場合は年単位の時間がかかります。 また、中止した場合には再燃するリスクもあります。減量や中止については個々のケースで大きく異なるので、主治医とよく相談するのが良いでしょう。 Q.原発性胆汁性胆管炎の病気も肝臓の自己免疫疾患と聞きましたが、違いはなんですか? A.どちらも中年以降の女性に多い自己免疫性疾患ですが、障害が起こる部位が異なります。 自己免疫性肝炎では、肝細胞の障害が中心です。原発性胆汁性胆管炎で起こるのは、肝臓内の胆汁が通る管(胆管)の破壊です。 そのため、胆汁の流れが滞り、ALPやγ-GTPなど、胆道系酵素や黄疸をきたすビリルビン値の上昇が目立ちます。進行すると黄疸や皮膚のかゆみを生じます。 また、病気を放置すると肝硬変へ進展するので、必ず医療機関での治療が必要です。 各種検査で自己免疫性肝炎との鑑別を行いますが、2つの病態が合併している場合もあります。 Q.アルコールを飲む機会が多いと肝臓の病気になりますか? A.アルコールを飲む量や本人の体調によっては、肝臓の病気になる可能性があります。 とくに長期間にわたり、アルコールの大量摂取を行うと、肝臓に大きなダメージを与えてしまうからです。 実際に、厚生労働省の情報でも、アルコールの飲みすぎは脂肪肝やアルコール性肝炎など、肝臓病につながりやすいと指摘しています。 日頃からお酒を飲まれる方で、肝臓への負担が気になる方は、アルコール性肝炎の初期症状などを解説している以下の記事もあわせて参考にしてみてください。 Q.肝臓の病気があるときに食べてはいけないものはありますか? A.糖質や脂質が多く含まれているような食べ物は避けましょう。 たとえば、以下の食べ物が例にあげられます。 ・糖質が多いもの:ジュース類、駄菓子、果物 など ・脂質が多いもの:揚げ物、肉の脂身、ドレッシング など 肝臓をいたわる食事の例を知りたい方は、以下の記事も参考になります。 Q.肝臓に血管腫があるときはどうすれば良いですか? A.肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になった際にできる良性腫瘍です。 小さな病変かつ無症状であれば、基本的に経過観察のみと考えて良いでしょう。 大きくても増大傾向がなく、かつ無症状であれば経過観察可能と判断される可能性が高いと思われます。 また、肝臓に血管腫があるときは、医療機関での定期検査を行いましょう。気になるような症状や異変を感じた場合には、すぐ診療してもらうのが大切です。 以下の関連記事で詳細を解説しているので、あわせて参考にしてみてください。 Q.脂肪肝を改善するにはどうすれば良いですか? A.生活習慣や食事などの改善が必要です。 脂肪肝になった原因によって、以下のように改善方法は変わります。 アルコールが原因の場合:アルコール摂取量を減らす 肥満などが原因の場合:運動して減量、食事量を調整する また、脂肪肝を指摘されたときは、放置せずに早めに医療機関を受診して治療を行うのが重要です。 脂肪肝の改善に関わる詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。 Q.肝疾患の相談などができる支援機関はありますか? A.以下の支援機関で、肝疾患に関わる情報提供や相談を行っています。 ・肝炎情報センター:情報の提供 ・肝疾患相談支援センター:相談など 参考文献 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン2021年 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 患者さん・家族のための自己免疫性肝炎(AIH)ガイドブック第2版 難病情報センター 自己免疫性肝炎 難病情報センター|原発性胆汁性胆管炎 厚生労働省|e-ヘルスネット「アルコールと肝臓病」 厚生労働省|事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン 参考資料 肝疾患に関する留意事項
2024.05.21 -
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人間ドックなどの検査で「肝血管腫疑い」と言われたら、不安になりますよね。 肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性腫瘍で、無症状かつ小さな病変であれば治療は基本的に不要です。 ただし、定期的な検査が推奨されており、万が一腹痛や吐き気、呼吸困難などの症状になった場合には積極的な治療を検討する必要があります。 この記事では、肝血管腫の症状や原因、診断後の気をつけることについて、正しい知識を得られるよう解説していきます。 肝血管腫とは? 肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になったことでできる良性の腫瘍です。肝臓は元々血管が多い臓器であるため、血管腫ができやすいとされています。 肝血管腫は「海綿状血管腫」と「血管内皮種」の2種類に大きく分けられますが、海綿状血管腫と診断されることがほとんどです。そして、臨床上問題を生じるのも海綿状血管腫が多い傾向です。 基本的には無症状のため、昔は剖検(ぼうけん:病死した患者の遺体を解剖して調べること)で見つかることが多かったのですが、近年の画像診断技術の発展に伴い、他の病気を探すための検査や人間ドックなどで偶然発見されることが多くなりました。基本的には消化器内科で診てもらう病態です。 成人の発生頻度は5%程度で、一般的には女性のほうが男性に比べてやや多いといわれています。 その他女性に多い肝臓の病気については、下記の記事も合わせてご覧ください。 肝血管腫の原因 肝血管腫が形成される原因は明らかになっていませんが、先天的な要素が大きいと考えられています。乳児期に肝血管腫が生じる場合もありますが、通常は自然に消失していきます。 成人になって肝血管腫が発見された女性患者の調査報告では、女性ホルモン補充療法を施行したことにより肝血管腫の増大が見られ、結果として女性ホルモンとの関連が示唆されました。 女性ホルモンが実際にどのように肝血管腫に影響を及ぼしているかまでは未だはっきりと解明されていませんが、妊娠や女性ホルモン療法は肝血管腫増大のリスクになり得ると考えられています。 なお、ピルの服用が肝血管腫を増大させるかに関する研究もなされましたが、そちらでは有意に増大させないとの結果でした。ただし、ピルの長期服用は肝機能障害や肝腫瘍のリスクを上昇させる上、ピルと肝血管腫増大の関連を考える報告があるのも事実です。 肝血管腫の症状 肝血管腫は、多くの場合は無症状で、特徴的な症状はありません。ただし、腫瘍が大きくなってくると徐々に周囲の臓器を圧迫し、結果として不快感や腹痛、右上腹部の膨満感、嘔気・嘔吐などが引き起こされます。 他の関連症状としては、頻度は少ないものの、発熱や黄疸(皮膚や白眼の黄染)、呼吸困難、心不全なども確認されています。 不快感や腹痛 右上腹部の膨満感 嘔き気、嘔吐 発熱 黄疸(皮膚や白眼の黄染) 呼吸困難 心不全 また、稀に巨大血管腫を生じる「カサバッハ・メリット症候群」という病態があり、出血や多臓器不全で命に関わることがあります。カサバッハ・メリット症候群は基本的に出生児あるいは幼少時期に生じるものですが、成人になって発症する例もあります。 上記のような症状を認めた際にはすぐに医師の診察を受けましょう。 \まずは当院にお問い合わせください/ 肝血管腫の検査・診断の方法 肝血管腫は、無症状のうちは血液検査での異常も見られません。そのため、肝血管腫が疑われる場合は画像的診断が行われます。主な検査方法として、以下が挙げられます。 超音波(エコー)検査 CT(造影コンピュータ断層撮影)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 超音波(エコー)検査 超音波検査とは、体に超音波の出る機械を当て、それぞれの臓器から跳ね返ってきた超音波を画像化する検査です。 腹部超音波検査ではお腹をグッと押される感覚はありますが、被曝の恐れや痛みはありません。 低侵襲な検査で肝血管腫を発見するという点では優れますが、肝細胞癌や肝臓への転移癌と鑑別しにくいといった欠点があります。 造影超音波検査を用いることも可能ですが、患者さんの体格や術者の技量によって左右されてしまうため、通常はCT検査やMRI検査の画像と合わせて総合的に判断されています。 CT(造影コンピュータ断層撮影)検査 CT検査とは、ベッドの上に仰向けに寝た状態でトンネル状の装置に入り、X線の吸収率の違いを利用して体の断面を画像化する検査法です。 造影剤を使用しない単純CTでは肝血管腫の検出率は低いですが、造影剤を使用した造影CTであれば格段に検出率が上がります。肝血管腫は他の肝臓癌と比べて血流の流れが遅いため、造影剤を使用すると全体がゆっくり染まるのです。 ただし、過去に造影剤によるアレルギーが出た人や糖尿病薬を服用している人、腎機能障害のある人、授乳中の人などは造影剤を使用する際に注意が必要となります。 該当される方は医師にご確認ください。 CT検査は断面像が見られるため腫瘍の詳細がわかる点では優れていますが、被曝の問題や造影剤を使用しなければならない点は欠点となります。 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI検査とは、強力な磁場が発生したトンネル状の機械に入り、ラジオ波を体に当てることでさまざまな角度から断面像を作り出す検査です。超音波検査やCT検査同様、必要時には造影剤も使用できます。 造影を含めたMRI検査が肝血管腫の確定診断において最も有用であると言われています。 MRI検査は被曝の心配なく腫瘍の詳細を知るには適していますが、狭いトンネルの中に入る必要があるので狭所恐怖症の人には不向きなである点や、超音波検査やCT検査と比べてコストが高くなる点が難点です。 また、病院によっては他の検査と比較して予約が取りにくい場合もあるでしょう。 肝血管腫の治療法 肝血管腫は、自覚症状や血管腫の増大傾向、血管腫が原因の合併症などに応じて、以下の治療法が選択されます。 経過観察のケース カテーテル治療が必要なケース 手術療法が必要なケース 経過観察のケース 小さな病変かつ無症状であれば、基本的に経過観察のみと考えて良いでしょう。大きくても増大傾向がなく、かつ無症状であれば経過観察可能と判断される可能性が高いと思われます。 ただし、自覚症状があり、かつ大きい肝血管腫を指摘されている場合は、それ以上大きくならないよう、女性ホルモン補充療法やピルの中断が推奨されています。 妊娠に関しては判断が難しいところで、大きな血管腫が発見された場合には妊娠を勧めるべきでないと主張する報告もある一方で、巨大血管腫がありながらも合併症を生じることなく妊娠継続ができたとの報告もあります。 巨大血管腫があるために産婦人科領域の治療について相談したい方や妊娠をご希望の場合には、産婦人科の医師に加え、消化器内科や消化器外科の医師ともよく話し合いましょう。治療の際には、消化器内科の医師より消化器外科や放射線科の医師へ紹介され、適切な治療を検討していきます。 カテーテル治療が必要なケース 次のような条件下では、カテーテル治療や手術療法といった積極的治療が必要とされます。 カサバッハ・メリット症候群 血管腫の急速な増大 血管腫の増大とともに症状の増悪 血管腫が原因となった合併症が中等度以上 血管腫の破裂 カテーテル治療とは、血管内より血管腫に栄養を送る動脈へアクセスし、挿入した細い管を使って動脈を塞ぐ“肝動脈塞栓術”のことです。 肝動脈塞栓術は手術療法と異なり、根本的治療には至らず、多くの場合腫瘍の縮小はみられませんが、症状改善には有効とされています。 また、前段階として一旦肝動脈塞栓術を施行し、全身状態が改善されてから手術に臨む症例もあります。 手術療法が必要なケース 肝臓から腫瘍を引き剥がせると判断された場合は“腫瘍摘出術”が選択され、腫瘍摘出術が難しい場合には腫瘍を肝臓の一部とともに取り除く“肝切除術”が選択されます。 報告されている肝血管腫の手術成績は、破裂による緊急手術を除いて良好です。 なんらかの理由で手術療法が行えないと判断された場合には、放射線治療やステロイド治療も考慮されます。どちらも副作用があるため、患者に合わせて放射線量やステロイド量の適切な調整が必要です。 2024年現在は血管腫を薬で治す研究も進められており、今後の新しい治療法が期待されています。 肝血管腫の診断が出たら気をつけるべきこと 肝血管腫と診断された場合は、お近くのクリニックや内科での定期検査を必ず受けてください。そしてもし気になるような症状や異変を感じた場合には、すぐ診療してもらいましょう。 定期検診では、血管腫のサイズの変化に注目することが大切です。 ある研究において平均12カ月の経過観察を行った結果、ほとんどの症例でサイズの変化がなかったものの、少数ながら増大する症例もありました。肝血管腫は10cmを超えると破裂のリスクが高まり、そして破裂した場合には命に関わります。 日常生活においては、無症状であれば、基本的に普段通りで構いません。しかし、スポーツの最中にボールが腹部に当たって肝血管腫が破裂した例や、歩行中に足を滑らせて転落した際に肝血管腫が破裂した例などの症例報告が稀にあります。 外傷性破裂を防ぐため、高いところからの転落や腹部に強い衝撃が当たるようなリスクは避けましょう。 まとめ|肝血管腫は定期的に検査をしましょう 肝血管腫は良性腫瘍であり、基本的には怖い病気ではありません。小さく、無症状なうちは治療も不要です。 しかし、大きくなってくるといろいろな症状を招くほか、破裂の危険が出てきます。自分の身を守るためにも、定期的な検査を心掛けましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 \まずは当院にお問い合わせください/ 肝血管腫に関するよくある質問 肝血管腫は癌の可能性はありますか? 肝血管腫は良性の腫瘍であるため、癌になる可能性はほとんどありません。ただし、見つかった肝血管腫が20mmを超える腫瘍である場合や、腫瘍が短期間で大きくなった場合は、肝血管腫ではなく肝臓癌であった可能性があります。 肝血管腫が見つかった場合は、半年に一度は定期検査を受けることがおすすめです。 参考文献 松井昭義, 小野寺博義ほか. がん・生活習慣病検診における肝血管腫の検出状況について. 人間ドック.2007;22:35-39. Glinkova V, Shevah O, et al. Hepatic haemangiomas: possible association with female sex hormones. Gut. 2004;53:1352-1355. Ozakyol A, Kebapci M. Enhanced growth of hepatic hemangiomatosis in two adults after postmenopausal estrogen replacement therapy. Tohoku J Exp Med. 2006;210:257-261. Gemer O, Moscovici O, et al. Oral contraceptives and liver hemangioma: a case-control study. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;83:1199-1201. Mathieu D, Zafrani ES, et al. Association of focal nodular hyperplasia and hepatic hemangioma. Gastroenterology. 1989; 97: 154–7. Mikami T, Hirata K, et al. Hemobilia caused by a giant benign hemangioma of the liver: report of a case. Surg Today. 1998;28:948–952. Huang SA, Tu HM, et al. Severe hypothyroidism caused by type 3 iodothyronine deiodinase in infantile hemangiomas. N Engl J Med. 2000;343:185-189. Liu X, Yang Z, et al. Fever of Unknown Origin Caused by Giant Hepatic Hemangioma. J Gastrointest Surg. 2018;22:366-367. Smith AA, Nelson M. 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2024.05.16 -
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肝嚢胞とは、肝臓の組織に液体がたまって袋状になったものです。 健康診断や人間ドックで発見されるケースが多く、実際に約5人に1人の割合で健康診断の検査項目に含まれる腹部超音波検査で肝嚢胞が見つかるデータもあります。(文献1) そのため、突然の診断に不安をもつ方もいるのではないでしょうか。 肝嚢胞の多くは良性で無症状のケースが多い傾向にあります。しかし、肝嚢胞が大きくなったり、肝嚢胞が炎症を起こしたりすると腹痛や発熱などの症状を引き起こす可能性もあります。症状に応じた適切な治療を選択できるように、肝嚢胞の特徴をよく理解しておきましょう。 本記事では、肝嚢胞の原因や症状などを詳しく解説します。治療法も紹介しているので、肝嚢胞の診断を受けて不安を感じている方は参考にしてみてください。 肝嚢胞(肝のう胞)とは 肝嚢胞とは、肝臓にできる液体がたまった袋状のものを指します。 出典:Liver Cyst Symptoms & Treatment | Nexus Surgical 肝嚢胞の種類は、大きくわけて以下の2つです。 ・孤発性肝嚢胞 ・多発肝嚢胞 「孤発性肝嚢胞」は、肝嚢胞の数が1〜3個程度で単発的に発生する肝嚢胞です。肝嚢胞の大きさが5cm以下程度の小さいものであれば無症状のケースが多くなります。 まれにサイズが5〜10cmを超えるような大きい肝嚢胞もできます。このサイズになると、周りの臓器が圧迫されてお腹が苦しくなったり、腹痛を感じたりする場合があるので覚えておきましょう。ただし、肝臓自体への影響は少なく、血液検査で肝機能の異常が見つかるケースはほとんどありません。 「多発肝嚢胞症」は、肝嚢胞が肝臓に多発する病気です。こちらは孤発性とは異なり、嚢胞の数が増えたり大きくなったりするケースが多く、それによる周囲への圧迫症状が見られやすくなります。また、嚢胞内の感染や出血で炎症を引き起こし発熱や肝機能異常をおよぼす可能性もあります。 肝嚢胞以外の脂肪肝や肝硬変、肝炎といった肝臓の病気には「再生医療」の治療法が効果的です。再生医療とは、人間の自然治癒力を活用し、損傷した肝臓の組織を修復する最新の医療技術です。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 以下の記事では、肝臓の働きや肝臓の病気について解説しています。詳細が気になる方は、参考にしてみてください。 肝嚢胞の原因 肝嚢胞の発生原因は、現時点では明確にわかっていません。 肝嚢胞ができるのは40歳から60歳の女性に多いことから、女性ホルモンの1種であるエストロゲンが関連しているという説があります。 以下の記事では、女性に多い肝臓の病気を解説しています。検査方法や合併症に関する情報も紹介しているので、詳細が気になる方はあわせてご覧ください。 なお、肝嚢胞は、エキノコックスという寄生虫の感染によって肝嚢胞ができるケースがあります。エキノコックスは、キツネやイヌの糞に含まれており、口を介して感染します。(文献2) 肝嚢胞の症状 くりかえしですが、肝嚢胞はほとんどが良性なので、肝嚢胞そのものが体に悪い影響をおよぼす可能性は高くありません。 肝嚢胞が5cm以下ほど小さめのサイズであれば、無症状のケースが大半です。 5〜10cmを超えるような大きいサイズの肝嚢胞になると、周りの臓器を圧迫してお腹が苦しくなったり、腹痛を感じたりする場合があります。 また、嚢胞内の感染や出血で炎症が起これば、発熱や肝機能異常を引き起こす可能性があります。症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 肝嚢胞の検査 冒頭で述べた通り、肝嚢胞は健康診断や人間ドックの腹部超音波検査検診で見つかるケースが多い傾向にあります。つまり、腹部超音波検査検診は肝嚢胞を発見する有効な検査といえるでしょう。 ほかには、腹部CTやMRIによっても確認できます。 CTやMRIでは、嚢胞の壁や嚢胞液の性状を詳しく調べられる検査です。超音波検査で嚢胞の性状が通常と異なっている場合や、嚢胞に対して治療を検討する場合にさらに詳しい情報を得るための検査としておこなわれます。 肝嚢胞の治療法 肝嚢胞は、圧迫症状がなければ治療はおこなわず、経過観察で良いものになります。 肝嚢胞のサイズが大きく圧迫による腹部症状をきたしている場合や、嚢胞内感染などを起こしている場合には治療をおこないます。 治療方法は、注射で嚢胞内の液を吸引して肝嚢胞を縮小させる方法です。超音波で嚢胞を確認しながらおこないます。その後、エタノールを注入して嚢胞内に再び液体がたまらないようにします。 根本的な治療としては、嚢胞を切開、切除する手術です。近年では腹腔鏡による手術もおこなわれ、より体に負担の少ない治療方法が広まっています。 傷付いた肝臓組織を修復する治療法の1つに「再生医療」があります。人間の自然治癒力を活用した治療なので、手術のように身体への大きな負担はありません。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 まとめ|肝嚢胞への理解を深めて適切な対応をとろう 肝嚢胞は多くの場合、無症状で偶然見つかるもので、症状がなければ経過観察で良いものになります。したがって、肝嚢胞と診断されても極端に心配する必要はありません。 しかし、大きい嚢胞では腹痛やお腹の圧迫感の症状が現れることがあるほか、まれにがん化する事例も報告されています。気になる症状があれば早めに専門の医療機関に相談しましょう。 損傷した肝臓組織を修復するなら「再生医療」がおすすめです。本来なら手術しなければいけない状態でも、再生医療で治療できる可能性があります。 詳しい治療方法や効果が気になる方は、再生医療専門の『リペアセルクリニック』にお気軽にお問い合わせください。 肝嚢胞に関するよくある質問 最後に肝嚢胞に関するよくある質問と回答をまとめます。 肝嚢胞が何センチになったら手術が必要ですか? 手術の必要性を判断する明確なサイズの基準はありません。 嚢胞のサイズよりも、症状の有無や生活への影響が重要な判断材料となります。たとえば、嚢胞が腹部を圧迫して腹痛が生じたり、胃を圧迫して食欲不振になったりするなどです。 注射で肝嚢胞の液体を吸引する治療法もあるので、専門医と相談して自分の状態に合った治療法を選択していくのが良いでしょう。 肝嚢胞になったらどうすればいいの? 肝嚢胞と診断を受けた時点で、担当医に今後の治療方針を相談しましょう。 無症状であれば、定期的な経過観察を推奨される可能性があります。肝嚢胞がほかの臓器を圧迫して圧迫感や痛みを感じる場合は、注射吸引による液体の除去や肝嚢胞を切開・切除する手術などが進められます。 肝嚢胞でがんを発症するリスクはありますか? 肝嚢胞が、がん化した事例も報告されています。(文献3) がんの場合、早期発見が重要になります。体調不良や身体の違和感が長期間続く場合は、迷わず医療機関で検査を受けましょう。 参考文献 文献1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/65/1/65_15-10/_pdf 文献2:https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/338-echinococcus-intro.html 文献3:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/68/3/68_3_654/_article/-char/ja/
2024.05.09