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「健康診断で脂質異常症を指摘されたけれど、とくに症状もないし……」 「最近、手足がしびれることがある。もしかして何かの病気と関係があるのかな?」 このように、健康診断の結果や気になっている手足のしびれに関して、不安に思われている方もいらっしゃることでしょう。 実は、脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことは、あまりありません。 しかし、だからといって安心はできません。 脂質異常症を放置していると、動脈硬化や糖尿病といった深刻な病気につながり、それが原因でしびれが現れることがあるのです。 本記事では、脂質異常症がどのようにして手足のしびれに関わるのか、そのメカニズムを専門医が詳しく解説します。 あわせて、ご自身でできる生活習慣の改善方法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂質異常症が関連する「しびれ」のお悩みを今すぐ解消したい・再生医療に興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 脂質異常症でしびれる?基礎知識から症状まで専門医が解説 脂質異常症と診断されても、多くの場合、自覚症状がないため軽く考えてしまうかもしれません。 しかし、この病気は静かに進行し、重大な合併症を引き起こす可能性があります。 まずは脂質異常症とはどのような病気なのか、そしてなぜ「しびれ」と結びつけて考えられがちなのか、基本的な知識から確認していきましょう。 脂質異常症の定義と種類 脂質異常症とは、血液の中に含まれる脂質、具体的には「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が基準値より多い状態や、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールが基準値より少ない状態を指します。 血液中の脂質は、細胞膜やホルモンの材料になるなど、体にとって不可欠なものですが、そのバランスが崩れることが問題なのです。 主な種類は以下の3つのタイプに分けられます。(文献1) 脂質異常症のタイプ 説明 高LDLコレステロール血症 「悪玉」コレステロールが多い状態。増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化の原因になります。 低HDLコレステロール血症 「善玉」コレステロールが少ない状態。善玉コレステロールは余分なコレステロールを回収する働きがあるため、少ないと動脈硬化が進みやすくなります。 高トリグリセライド血症 中性脂肪が多い状態。これも動脈硬化の要因となるほか、急性膵炎のリスクを高めることがあります。 これらの診断基準となる具体的な数値は、健康診断の結果などで確認できます。 ご自身の数値を把握し、どのタイプに当てはまるかを知ることが大切です。 なぜ「しびれ」が直接的な症状ではないのか? 「脂質異常症が原因で手足がしびれる」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、結論からいうと、脂質異常症そのものが神経に直接作用して「しびれ」を引き起こすことは、ほとんどありません。 では、なぜ「しびれ」と脂質異常症が結びつけて考えられるのでしょうか。 その背景には、脂質異常症が引き起こす動脈硬化が大きく関係しています。 動脈硬化によって血管が硬く、狭くなると、手足の末端まで十分な血液が届きにくくなります。 この血流の悪化が、結果として神経に栄養や酸素を十分に供給できなくなり、しびれが感じられることがあるのです。 つまり、「脂質異常症→動脈硬化→血流障害→しびれ」という流れで症状が現れることはありますが、「脂質異常症 → しびれ」という直接的な関係ではないことを理解することが重要です。 そのため、「しびれ」を感じる場合、その裏には単なる血行不良だけでなく、脂質異常症がもたらす血管の深刻な変化が隠れている可能性を考える必要があります。 脂質異常症の一般的な自覚症状 脂質異常症が「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれる最大の理由は、病気がかなり進行するまで、ほとんど自覚できる症状が現れない点にあります。 痛みやかゆみ、倦怠感のようなわかりやすいサインがないため、健康診断で数値を指摘されても、つい放置してしまいがちです。 しかし、症状がないからといって、体の中で問題が起きていないわけではありません。 水面下で動脈硬化が静かに進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こすリスクをはらんでいます。 まれに、脂質異常症が重症化した場合や、遺伝的な要因が強い家族性高コレステロール血症などでは、特徴的な身体的サインが現れることがあります。 黄色腫(おうしょくしゅ): コレステロールが皮膚の下にたまってできる、黄色いできものや膨らみです。目のまぶたや、肘、膝、お尻などに見られることがあります。 アキレス腱黄色腫(けんおうしょくしゅ): アキレス腱が太く、硬くなります。これもコレステロールが沈着することによって起こります。 これらの症状は、脂質異常症がかなり進行しているサインかもしれません。 しかし、このような症状が現れる前に、定期的な健康診断で血液の数値をチェックし、異常があれば早期に対策を始めることがなによりも重要です。 脂質異常症がしびれの症状を引き起こすメカニズム 脂質異常症自体がしびれの原因になることは稀ですが、放置すると引き起こされるさまざまな合併症が、間接的に「しびれ」の症状をもたらすことがあります。 ここでは、その代表的なメカニズムを3つの観点から詳しく解説します。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 糖尿病性神経障害としびれの関係 その他の合併症としびれの関係 ご自身の「しびれ」が、どのような体の変化によって起きているのかを理解する手がかりにしてください。 動脈硬化による血流障害としびれの関係 脂質異常症の最も深刻な影響の一つが、動脈硬化を促進してしまうことです。 動脈硬化とは、血管が弾力性を失い、硬く、もろくなってしまう状態を指します。 血液中に増えすぎた悪玉コレステロール(LDL)は、血管の内壁に入り込んで酸化され、プラークと呼ばれるお粥のような塊を形成します。 このプラークが血管の内側を狭くし、血液の流れを妨げるのです。 とくに、手や足の先にあるような細い血管(末梢血管)では、この影響が顕著に現れます。 動脈硬化によって血流が悪くなると、末梢の神経細胞に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなります。 その結果、神経が正常に機能できなくなり、「ジンジンする」「ピリピリする」といった「しびれ」や、足先が冷たく感じるといった症状が現れます。 さらに動脈硬化が進行すると、閉塞性動脈硬化症(ASO)という病気に至ることもあります。 この病気では、歩くと足が痛くなり、休むと楽になる特徴的な症状(間歇性跛行)が現れ、重症化すると足の組織が壊死してしまう危険性もあります。 糖尿病性神経障害としびれの関係 脂質異常症と糖尿病は、生活習慣の乱れという共通の土台を持つため、非常に密接な関係にあり、併発しやすいことが知られています。(文献2) 脂質異常症を放置していると、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性という状態を引き起こし、糖尿病の発症リスクを高める可能性があります。 そして、糖尿病の三大合併症の一つとして知られるのが糖尿病性神経障害です。 これは、糖尿病による高血糖の状態が長く続くことで、全身の神経、とくに手足の末梢神経がダメージを受ける病気です。 高血糖は、以下の2つのメカニズムで神経障害を引き起こし、しびれの原因となります。 神経細胞への直接的なダメージ:血液中の過剰な糖が、神経細胞内で代謝される過程でソルビトールという物質に変わり、これが神経細胞内に蓄積して神経の働きを妨げます。 神経への血流障害:高血糖は、神経に栄養を送る細い血管の動脈硬化も促進します。これにより血流が悪化し、神経細胞が酸欠・栄養不足に陥り、機能が低下します。 この糖尿病性神経障害によるしびれは、多くの場合、足の裏や指先から始まり、徐々に体の中心に向かって広がっていく特徴があります。 その他の合併症としびれの関係 動脈硬化や糖尿病のほかにも、脂質異常症が関与すると、しびれを引き起こす可能性のある病気が存在します。 例えば、甲状腺機能低下症もその一つです。 甲状腺ホルモンは全身の代謝をコントロールする重要なホルモンですが、このホルモンの分泌が低下すると、脂質代謝にも異常が生じ、脂質異常症を悪化させることがあります。 同時に、甲状腺機能低下症では、体のむくみ(粘液水腫)が神経を圧迫したり、神経そのものの働きが鈍くなることで、しびれや感覚の低下といった症状が現れることがあります。 また、肝臓は脂質代謝の中心的な役割を担う臓器です。 そのため、脂肪肝や肝硬変など、肝機能に障害が生じると脂質異常症を招きやすくなります。 肝機能の低下が進行すると、体内の毒素が十分に処理されなくなり、神経に悪影響を及ぼしてしびれを感じることもあります。 このように、脂質異常症は単独の問題ではなく、体のさまざまな機能と関連しあっています。 そのためしびれの症状がある場合は、こうした他の病気が隠れていないか多角的に原因を探ることが大切です。 脂質異常症改善のための生活習慣の見直しと実践方法 脂質異常症の治療の基本は生活習慣の改善です。 日々の少しの心がけが、血液中の脂質のバランスを整え、将来の大きな病気を防ぐことにつながります。 ここでは、すぐに始められる実践的な方法を3つの柱に分けてご紹介します。 食生活の改善ポイント 効果的な運動習慣の取り入れ方 禁煙・節酒の重要性 忙しい毎日の中でも無理なく続けられるヒントを見つけて、健康な体を取り戻しましょう。 食生活の改善ポイント 脂質異常症を改善するための第一歩は、毎日の食事を見直すことです。 とくに意識したいのは、摂取する「油の種類」と「食物繊維」です。 まず、「控えるべき油」と「積極的に摂りたい油」を知りましょう。(文献3) 油の種類 解説 控えるべき油 飽和脂肪酸:肉の脂身、バター、ラード、生クリームなどに多く含まれます。悪玉コレステロール(LDL)を増やす原因。 トランス脂肪酸:マーガリン、ショートニングなどを使用するお菓子やパン、揚げ物などに含まれます。悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロール(HDL)を減らす原因。 積極的に摂りたい油 不飽和脂肪酸:青魚(サバ、イワシ、アジなど)に含まれるEPAやDHA、オリーブオイルやナッツ類に含まれるオレイン酸などが代表的です。これらは中性脂肪を減らしたり、悪玉コレステロールを減らしたりする働きが期待できます。 次に、コレステロールの吸収を穏やかにする「食物繊維」を十分に摂ることが大切です。 食物繊維 解説 水溶性食物繊維 海藻、きのこ、こんにゃく、大麦などに豊富です。腸内でコレステロールの吸収を妨げる働きがあります。 不溶性食物繊維 野菜、豆類、きのこ類に多く含まれます。便通を促し、腸内環境を整えます。 まずは、食事の最初に野菜や海藻のサラダ、きのこのスープなどを一品加えることから始めてみてはいかがでしょうか。 効果的な運動習慣の取り入れ方 食事改善と並行した定期的な運動は、脂質異常症の改善に効果的です。中性脂肪を減らし、善玉コレステロール(HDL)を増やす直接的な効果が期待できます。 特に推奨されるのは、ウォーキングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動です。 体脂肪をエネルギーとして燃焼し、脂質代謝を改善します。少し汗ばむ強度で1回30分以上が目標です。 まずは階段の利用や一駅分のウォーキングなど、日常で体を動かす機会を増やしましょう。 有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせると、さらに効果が高まります。筋肉量増加により基礎代謝が上がり、エネルギー消費しやすい体質になります。 無理のない範囲で週3回以上が理想です。(文献4) 禁煙・節酒の重要性 食事や運動と同じくらい、あるいはそれ以上に脂質異常症の改善と合併症予防に重要なのが、禁煙と節酒です。(文献5) 禁煙について タバコの有害物質は血管内壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。また善玉コレステロール(HDL)を減らし、悪玉コレステロール(LDL)を酸化させて血管壁への蓄積を促します。 脂質異常症患者の喫煙は動脈硬化リスクを著しく高めるため、自力での禁煙が困難な場合は禁煙外来の利用を検討しましょう。 節酒について 過度の飲酒は肝臓での中性脂肪合成を促進し、高トリグリセライド血症の直接の原因となります。 高カロリーなおつまみも脂質異常症を悪化させるため、食べすぎには注意が必要です。 厚生労働省が示す適度な飲酒量は1日あたり純アルコール約20gです。これはビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス1杯弱に相当します。 飲まない日を設けて、肝臓を休ませるのも大切です。 脂質異常症の症状|しびれへの再生医療のアプローチ 脂質異常症が進行し、動脈硬化によって手足の血流が悪化して「しびれ」などの症状が現れた場合、生活習慣の改善や薬物療法と並行して、新たな治療の選択肢が検討されることがあります。 その一つが「再生医療」という治療法です。 再生医療は、患者様自身の幹細胞や血液を使う治療法で、入院や手術を伴わないのが特徴です。 当院「リペアセルクリニック」では、幹細胞を用いた再生医療を提供しております。 公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しているので、ぜひご登録ください。 脂質異常症の症状でしびれを感じたら医療機関へ 今回は、手足のしびれと脂質異常症の関係について解説しました。 脂質異常症そのものが直接「しびれ」を引き起こすことはまれである一方、放置すると動脈硬化や糖尿病といった合併症につながり、結果として「しびれ」が現れる可能性があります。 このように自覚症状がないまま進行することが多いため、健康診断での数値チェックと、症状が出る前からの生活習慣の改善が非常に重要です。 もし、あなたが健康診断で脂質異常症を指摘されており、かつ手足のしびれにお悩みであれば、それは体からの危険信号かもしれません。 自己判断で放置せず、なるべく早く専門の医療機関を受診して原因を調べてもらいましょう。しびれの症状は、時として重篤な病気のサインである可能性もあります。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療に関する情報発信や簡易オンライン診断を実施しています。お悩みの症状がある方は、ぜひ一度ご登録ください。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献2) 糖尿病診療ガイドライン2024|日本糖尿病学会 (文献3) 日本人の食事摂取基準2020年版|厚生労働省 (文献4) 健康づくりのための身体活動基準2023|厚生労働省 (文献5) 喫煙・飲酒とHDLコレステロールの関連解析|J-MICC研究
2025.07.30 -
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「健康診断で脂質の数値を指摘されたけれど、脂質異常症と高脂血症って何が違うの?」「放っておくとどうなるのか不安」 健康診断の結果を見て、不安を感じた方もいらっしゃることでしょう。 脂質異常症と高脂血症は、よく混同されがちな言葉ですが、近年、医療の現場では「脂質異常症」が正式な病名として使われています。 以前の「高脂血症」よりも対象となる病態が広がったため、名称が変更されました。 脂質異常症は自覚症状がないまま動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を引き起こす可能性があります。 だからこそ、症状がなくても早めに正しい知識を得て対策を始めることが大切です。 本記事では、脂質異常症と高脂血症の違い、原因や基準値、ご自身でできる予防・治療法、そして再生医療までを解説します。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症と高脂血症の違いとは? 「脂質異常症」と「高脂血症」、どちらも血液中の脂質に関する言葉ですが、この二つの違いをご存知でしょうか。 結論、現在では「脂質異常症」が正式な診断名で、「高脂血症」は古い呼び方です。 以前は、血液中のコレステロールや中性脂肪といった脂質が、基準値よりも「高い」状態をまとめて「高脂血症」と呼んでいました。 しかし、研究が進むにつれて、脂質の中でも「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」のように、基準値より「低い」ことが体に悪影響を及ぼす脂質があることがわかってきました。(文献1) そこで2007年に日本動脈硬化学会が診断名を変更し、脂質の量が基準値から外れた状態をすべて含める形で「脂質異常症」という名称が使われるようになったのです。 以下の表で、脂質異常症と高脂血症の違いを整理してみましょう。 脂質の種類 脂質異常症 (現在の診断名) 高脂血症(以前の考え方) HDLコレステロール (善玉) 低いことが問題 (基準に含まず) LDLコレステロール (悪玉) 高いことが問題 高いことが問題 トリグリセライド (中性脂肪) 高いことが問題 高いことが問題 このように、高脂血症の悪玉コレステロールや中性脂肪が高い状態に善玉コレステロールが低い状態も含むものを脂質異常症と呼びます。 より広い範囲の異常を捉えるための、より的確な診断名なのです。 脂質異常症(高脂血症)の種類とそれぞれの基準値 脂質異常症は、血液検査によって「どの脂質の数値が基準から外れているか」が確認され、主に3つのタイプに分けられます。 ご自身の健康診断の結果と見比べながら、どのタイプに当てはまる可能性があるのかを確認してみましょう。 ここでは、以下の3つのタイプについて、それぞれの特徴と日本動脈硬化学会が定めている診断基準値を解説していきます。(文献2) 高LDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症 高トリグリセライド(中性脂肪)血症 これらの基準値は、あくまで診断のための目安です。 他の病気(糖尿病や高血圧など)の有無やご家族の病歴などによって、治療を開始すべき目標値は一人ひとり異なりますので、正確な診断については必ず専門医にご相談ください。 高LDLコレステロール血症 高LDLコレステロール血症は、血液中の悪玉コレステロールが基準値よりも多い状態です。 増えすぎたLDLコレステロールは血管の壁に入り込み、動脈硬化を進行させる「プラーク」というコブを形成します。これが心筋梗塞や脳梗塞の直接的な引き金となるため、注意が必要です。 診断基準は、空腹時の採血でLDLコレステロール値が140mg/dL以上とされています。 主な原因としては、肉の脂身やバターといった動物性の脂肪(飽和脂肪酸)の多い食事、運動不足、遺伝的な体質などが挙げられます。 低HDLコレステロール血症 低HDLコレステロール血症は、血管の余分なコレステロールを回収して肝臓に運び戻す善玉コレステロールが基準値よりも少ない状態です。 これが少ないと血管の掃除が行き届かなくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。 診断基準となる数値は、空腹時の採血でHDLコレステロール値が40mg/dL未満の場合です。 主な原因には喫煙、運動不足、内臓脂肪型の肥満などが挙げられ、生活習慣の見直しが重要となります。 高トリグリセライド血症(中性脂肪) 高トリグリセライド血症とは、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)が基準値よりも多い状態を指します。 中性脂肪はエネルギー源ですが、過剰になると内臓脂肪として蓄積され、動脈硬化を強力に促進します。 診断基準は、空腹時の採血でトリグリセライド値が150mg/dL以上です。 主な原因は、ご飯やパンなどの糖質の多い食事、アルコールの飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足といった生活習慣にあります。 脂質異常症を放置するリスクとは?動脈硬化と関連疾患 「とくに症状もないし、数値が少し高いだけ」と、脂質異常症を軽視するのは非常に危険です。 この病気は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま、血管の老化である動脈硬化を静かに進行させます。 動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどが溜まってプラークを作り、血管を硬く、狭くしてしまう状態です。 このプラークが破れると、そこに血の塊(血栓)ができて血管を完全に塞いでしまい、命に関わる深刻な病気を引き起こすのです。 動脈硬化が原因で起こる代表的な病気には、以下のようなものがあります。 影響を受ける場所 主な病名 心臓 狭心症、心筋梗塞 脳 脳梗塞、脳出血 足の血管 閉塞性動脈硬化症(痛み、しびれ) 腎臓の血管 腎機能の低下 これらの病気は、発症すると生活の質を著しく低下させてしまいます。 健康診断で脂質異常症を指摘されたら、それは体からの重要なサインだと受け止め、早期に対策を始めることが何よりも大切です。 脂質異常症(高脂血症)の治療法 脂質異常症の治療の最終目標は、単に数値を下げることではなく、動脈硬化の進行を食い止め、将来の心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気を予防することにあります。 治療の基本となるのは、病気の根本原因である生活習慣の見直しです。具体的には、以下の3つが治療の柱となります。(文献3) 食事療法 運動療法 薬物療法 まずは食事や運動の改善から始め、それでも数値が十分に改善しない場合や、リスクが非常に高い場合には薬物療法を並行して行います。 どの治療法を選択するかは、患者様一人ひとりの状態に合わせて医師が総合的に判断します。 食事療法|コレステロールを下げる食生活のポイント 脂質異常症の改善において、毎日の食事を見直すことは治療の基本であり、健康な血管を取り戻すための第一歩です。以下のポイントを意識して、できることから始めてみましょう。 【控えるべき食品】 肉の脂身やバターに多い飽和脂肪酸 マーガリンや加工食品に含まれるトランス脂肪酸 ご飯やパン、お菓子などの糖質 アルコール 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし、糖質やアルコールのとりすぎは中性脂肪の増加につながります。 【積極的に摂りたい食品】 野菜、海藻、きのこ類に含まれる食物繊維 青魚、オリーブオイルなどに含まれる不飽和脂肪酸 食物繊維はコレステロールの吸収を抑え、不飽和脂肪酸は血中の脂質バランスを整えてくれます。 これらのポイントを参考に、まずは1日1食からでも、食生活を見直してみましょう。 運動療法|脂質異常症改善に効果的な運動の種類と方法 食事療法とあわせて行いたいのが、脂質異常症の改善に大きな効果をもたらす運動療法です。運動には、善玉(HDL)コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす直接的なメリットがあります。 効果的なのは、ウォーキングや軽いジョギング、水泳といった有酸素運動です。これらの運動を、ややきついと感じるくらいの強度で、1回30分以上、週に3日以上続けることが目標です。 一度に30分が難しければ、10分を3回に分けても構いません。大切なのは無理なく続けることです。一駅手前で歩くなど、生活の中に少しずつ運動を取り入れることから始めてみましょう。(文献5) ただし、心臓や膝に持病のある方は、運動を始める前に必ず医師に相談してください。 薬物療法|脂質を下げる薬の種類と作用 食事療法や運動療法を続けても脂質の数値が目標まで改善しない場合や、心筋梗塞などのリスクが元々高いと判断された場合には、生活習慣の改善とあわせて薬物療法を検討します。(文献4) 薬はあくまで治療の補助であり、自己判断での中断はせず、必ず医師の指示に従いましょう。 脂質異常症の治療に主に使われる薬には、以下の種類があります。 薬の種類 作用の概要 スタチン系薬剤 肝臓でのコレステロール合成を抑える、最も基本的な薬です。 フィブラート系薬剤 肝臓での中性脂肪の合成を抑え、分解を促します。 EPA・DHA製剤 青魚の油の成分で、中性脂肪の合成を穏やかに抑えます。 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ) 小腸でのコレステロールの吸収を妨げます。 どの薬にも副作用の可能性があります。筋肉の痛みや脱力感、肝機能障害などがみられることもありますので、服用中に気になる症状があれば、速やかに主治医に相談してください。 また、脂質異常症の薬については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、気になる方はご確認ください。 脂質異常症(高脂血症)の予防法|今日からできる生活習慣の改善 脂質異常症は、生活習慣の見直しで予防・改善が可能です。将来の深刻な病気を防ぐため、以下の点を心がけましょう。 予防のポイント 具体的な方法 食生活の改善 食物繊維(野菜・海藻)や青魚を積極的に摂り、肉の脂身や糖分、アルコールは控えることが大切です。 運動習慣と禁煙 ウォーキングなどの有酸素運動を週3日以上続けましょう。また、動脈硬化の大きな原因となる喫煙はやめることが重要です。 定期的な健康診断 自覚症状がない病気のため、年に一度は健康診断で血液の状態を確認し、早期発見に努めましょう。 一つひとつの小さな積み重ねが、10年後、20年後のあなたの健康を守る大きな力となります。今日からできることから、ぜひ始めてみてください。 脂質異常症(高脂血症)は早期発見と継続的な対策が重要 本記事では、脂質異常症と高脂血症の違いから、リスク、治療法、予防法について解説しました。 脂質異常症は、悪玉コレステロールが高い状態だけでなく、善玉コレステロールが低い状態も含む広範囲な異常を指します。 この状態を放置すると、自覚症状がないまま動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中の引き金となりかねません。 脂質異常症は「サイレントキラー」と呼ばれ、症状が出た時には病状が進行している場合が多いため、食事や運動などの生活習慣改善が重要です。 症状がないからと油断せず、年1回は健康診断を受けて数値を把握しましょう。 脂質の異常を指摘されたら、それは体からの重要なサインです。異常を放置せず、早めに専門医を受診し、継続的な対策を始めることが大切です。 参考文献 (文献1) 脂質異常症(高脂血症)|日本医師会 健康の森 (文献2) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版|日本動脈硬化学会 (文献3) 脂質異常症|厚生労働省 e-ヘルスネット (文献4) 脂質異常症治療のエッセンス|日本医師会編 (文献5) 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023|厚生労働省
2025.07.30 -
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脂質異常症は、自覚症状がないため、知らず知らずのうちに進行してしまう疾患です。 しかし、そのまま放っておくと動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などといった重篤な病気につながる可能性があります。 その一方で「どの薬を選べば良いのか」「副作用が心配」といった声も多く聞かれるのが現状です。 本記事では、脂質異常症の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、服用期間、そして薬に頼らない選択肢まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後まで読んで、脂質異常症薬への理解を深めましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脂質異常症に関連する「しびれ」などの症状についてお悩みの方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脂質異常症とは?その診断基準と薬の必要性 まず脂質異常症がどのような状態を指すのか、その診断基準について解説します。 そして、なぜ早期の診断と適切な治療が重要なのか、放置した場合のリスクについても詳しくお伝えします。 ご自身の健康状態を正しく理解し、適切な治療につなげるための参考にしてください。 脂質異常症の診断基準について 脂質異常症とは、一定の基準値よりもLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が高い、または、HDL(善玉)コレステロールが低い状態です。 脂質異常症の診断では、まず採血による血液検査でLDLコレステロール値とHDLコレステロール値、中性脂肪値の測定から行います。 採血前日は、高脂肪食や高カロリー食を控え、禁酒し、12時間以上の絶食を行った状態の採血が必要です。 これらの値が下記いずれかに該当すると「脂質異常症」と診断されます。(文献1) LDL(悪玉)コレステロール値が140 mg/dL以上の場合 なお、LDLコレステロールが120〜139mg/dLは境界域といわれ、糖尿病や高血圧の合併がある場合は治療が必要となることがあります。 HDL(善玉)コレステロール値が 40 mg/dL未満の場合 中性脂肪が150 mg/dL以上の場合 ただし、単に数値が基準を超えればすぐに投薬するわけではありません。 診断の際には、年齢・性別・既往歴(心筋梗塞や脳卒中の経験)、家族歴(家族性高コレステロール血症の疑い)、喫煙歴、高血圧や糖尿病などの合併症も総合的に評価します。 この基準値に応じて、薬物治療のタイミングや方法が決まるので、ご自身の目標値については、医師にご相談ください。 脂質異常症治療薬の必要性と放置するリスク 脂質異常症は、自覚症状がないため、健康診断などで発見されることが多いです。 治療せずに放置すると、HDLコレステロールの減少やLDLコレステロールの増加により、動脈の壁に脂肪の塊(プラーク)を作ってこびりつき、その結果、動脈硬化になります。 動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳卒中や脳梗塞などの重篤な病気になるリスクが高まります。 脂質異常症の薬について|主要な薬剤の種類 脂質異常症の治療には、主に以下の薬が使われます。 薬剤の種類 主な効果・特徴 スタチン系製剤 血液中のLDLコレステロール値を低下させる 1日1回の経口投与 PCSK9阻害薬 (エボロクマブ) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常2週間に1回または1カ月に1回投与 自宅での自己注射が可能 siRNA薬 (インクリシラン) 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤でLDLコレステロール値が十分に低下しない場合や、家族性高コレステロール血症、スタチン不耐の患者に使われる 皮下注射で、通常6カ月に1回投与 医療機関でのみ投与 ベムペド酸 血液中のLDLコレステロール値を低下させる スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に使われる 1日1回の経口薬 その他の脂質改善薬 エゼチミブ(小腸でのコレステロール吸収を阻害する薬) フィブラート系製剤 EPA製剤 陰イオン交換樹脂 スタチン系製剤 スタチン系製剤は、肝臓でコレステロールが作られる際に働く「HMG-CoA還元酵素」という酵素の働きを阻害し、体内のコレステロール合成を抑えます。 その結果、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが減少し、動脈硬化の進行を抑える効果が期待できます。 スタチン系製剤の特徴は、その種類や服用量によってコレステロールを下げる効果の強さが異なることです。 大きく分けて「スタンダードスタチン」と、スタンダードスタチンより作用が強い「ストロングスタチン」の2種類があります。 どの種類や量を使うかは、患者様の検査結果や病気のリスク、副作用の出方などによって、医師が総合的に判断します。 これらのスタチン系製剤の多くは、1日1回の服用が可能な経口薬です。 主な副作用には、以下の症状が挙げられます。 筋肉痛や筋力低下 消化器症状(胃の不快感、吐き気、便秘) 発疹 肝機能障害 少しでも体の異変を感じたら、自己判断で薬の服用を中止せず、速やかに医師に相談してください。 PCSK9阻害薬 PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤の服用が難しい場合、スタチン系製剤と併用で検討される薬剤です。 肝臓で作られるPCSK9タンパク質の働きを阻害することで、血管からLDLを肝臓に取り込む受け皿であるLDL受容体を増加させます。この作用によって、血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げられます。(文献2) PCSK9阻害薬は、スタチン系製剤では⼗分に LDLコレステロール値が低下しない方や家族性⾼コレステロール⾎症の方、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患を経験し、再発予防が必要な方に有効な治療薬です。 日本で現在使用されているPCSK9阻害薬には、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)などがあります。 投与は皮下注射で投与され、通常は2週間に1回、または月に1回の頻度で投与されます。 自宅での自己注射が可能なため、通院の負担を軽減できます。 副作用には、疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。副作用が出たら速やかに医師に相談してください。 siRNA薬(インクリシラン) siRNA薬は、肝臓で産生される特定のタンパク質、PCSK9の生成を抑えることでコレステロールを低下させる薬剤です。 siRNA薬はこのPCSK9の数を減らすことで、血液中のLDLコレステロール値を下げる効果を発揮します。 以下のような患者様にsiRNA薬は有効な治療薬とされています。 スタチン系製剤だけではLDLコレステロール値が十分に低下しない方 家族性高コレステロール血症の方 すでに心臓や脳の動脈硬化疾患をお持ちでコレステロール管理が不十分な方 siRNA薬は、皮下注射で投与され、成人には初回に300mgを投与し、その後3カ月に2回目の投与を行います。 それ以降は6カ月ごとに定期的に投与されます。この薬はPCSK9阻害薬と違い、医療機関でのみ投与可能なため、自己管理による投与忘れの心配はありません。 siRNA薬の副作用には、注射した部位に疼痛、紅斑、発疹などの反応を引き起こす可能性があります。 副作用が出た場合は、速やかに医師に相談してください。 ベムペド酸 ベムペド酸は、スタチン系製剤で副作用が出たり、LDLコレステロール値の低下が不十分な場合に処方されることがある薬剤です。 作用としては、肝臓に存在するATPクエン酸リアーゼという酵素を阻害し、コレステロールの合成を抑制します。 この酵素は肝臓に多く存在する酵素で、肝臓のコレステロール合成が減ることで、血中のLDLコレステロールが下がる効果が期待できます。 1日1回の経口薬で、日本では2024年11月26日に大塚製薬が製造販売承認申請を行っており、承認されれば処方される可能性があります。(文献3) ベムペド酸の副作用には、痛風・胆石症の発症率の上昇、血清クレアチニン・尿酸・肝酵素レベルが上昇する可能性があります。 その他の脂質改善薬(エゼチミブ、フィブラート製剤、EPA製剤、陰イオン交換樹脂) 脂質異常症の治療には、これまでにご紹介したスタチン系製剤やPCSK9阻害薬、siRNA薬以外にも、患者様の状態や脂質のタイプに合わせて、様々な薬剤が用いられます。 ここでは、その他の脂質改善薬について、その作用と特徴を解説します。 エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害剤) エゼチミブは、小腸におけるコレステロールの吸収を阻害します。 その結果、血液中のLDLコレステロールや総コレステロールの濃度が低下する薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤を服用できない人の治療にも使用されますが、スタチン併用でLDLコレステロール値を下げることが報告されています。 エゼチミブの主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐)などがあります。 このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。 フィブラート系製剤 フィブラート系製剤は、中性脂肪を下げる働きがあり、LDLコレステロールを減少させるとともに、HDL(善玉)コレステロールを増やす効果も期待できる薬で、1日1回の経口服用薬です。 スタチン系製剤と併用すると副作用として、筋肉の細胞が破壊される横紋筋融解症などの症状が起こるリスクが高まります。そのため、治療上併用する場合は医師の指導のもとでの服用が重要です。 EPA製剤(イコサペント酸エチル) EPA製剤は、血液中の中性脂肪を低下させ、血行を改善する効果があります。 EPA製剤には、サプリメントとして市販されているものと、高脂血症治療薬として処方される医療用医薬品の2種類ありますが、高脂血症治療薬として処方されるものは医師の診断と処方箋が必要です。 EPA製剤の主な副作用には、発疹や消化器症状(下痢、腹部の不快感、吐き気、嘔吐)などが報告されています。 陰イオン交換樹脂 陰イオン交換樹脂は、腸内で胆汁酸と結合して体外に排出させることで、血中コレステロール値を低下させる効果を持つ薬剤です。 スタチン系製剤が使用できない症例や併用薬として処方されてます。 陰イオン交換樹脂の主な副作用には、発疹や消化器症状(便秘、下痢、食欲不振、吐き気)があります。 飲み合わせや服用時の注意点 脂質異常症薬と他の薬や食品との飲み合わせや、日常生活で気を付けるべき点について解説します。 スタチン系製剤(アトルバスタチンとリピトール)+グレープフルーツジュース グレープフルーツに含まれる成分が薬の分解を妨げ、血中濃度が高くなり、薬の効果が強くなりすぎてしまう可能性があります。(文献4) グレープフルーツジュースの影響は、数日間におよぶこともあるといわれているため、薬を服用している間はグレープフルーツジュースを飲まないように注意しましょう。 同じ柑橘系の果物でも、みかんやオレンジは一緒に食べても影響を与えないと言われています。 スタチン系製剤+フィブラート系製剤 中性脂肪を下げる目的で併用されることがありますが、筋肉障害のリスクがやや高まります。(文献6) クレアチンキナーゼ(CK:筋肉の損傷を示す検査値)測定を定期的に行い、異常があれば片方を減量・中止することもあります。 EPA製剤+抗凝固薬 EPA製剤には血液をサラサラにする作用があり、抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用中の方は出血傾向があるので注意が必要です。出血を伴う医療行為(抜歯、外科手術など)を行う場合には医師に相談しましょう。 胆汁酸吸着樹脂と他の経口薬 胆汁酸吸着樹脂は、他の薬剤の吸収を遅延・阻害する可能性があるため、服用時間を2時間以上空ける必要があります。 服用する薬剤の種類や量によっては、さらに時間を長く空ける場合もあるため、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。 脂質異常症の薬は一生飲み続ける?服用期間と中断の可能性 脂質異常症の薬は、多くの場合、長期的に服用を続けることが推奨されます。 しかし、必ずしも一生飲み続けなければならないわけではありません。 服用期間の目安は、患者様お一人おひとりの病状やリスク、生活習慣の改善状況によって異なります。 また、脂質異常症の原因は、家族性高コレステロール血症など遺伝的な要因を除き、食生活の偏りや運動不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、他の疾患(糖尿病や肥満など)だといわれています。 治療の基本は生活習慣の見直しであり、薬を服用している間も食事・運動・減量・禁煙といった取り組みが欠かせません。こうした改善が進めば、薬の減量や将来的な服薬中止につながる可能性もあります。 重要なポイントとして、血液検査の結果、コレステロール値が改善しても自己判断で服用を中止しないでください。 事例をあげると、フランスの研究では、75歳以上の高齢者が予防のために服用していたスタチンを中止した場合と、継続した場合で比べると、中止した時の方が心血管イベントによる入院リスクが増加したことがわかっています。(文献5) 脂質異常症の薬に関するお悩み事はためらわずに医師へご相談ください ここまで脂質異常症と薬の治療について紹介しました。 コレステロールの数値や薬について、疑問や不安が生まれるのは当然のことです。 脂質異常症は、放置すると心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気につながる可能性があるため、生活習慣の改善が非常に重要です。 一方で、薬による治療も大切です。LDL(悪玉)コレステロールを下げる薬、中性脂肪を下げる薬など、薬によって効果や特徴は異なりますが、医師は患者様を診断し処方する薬を選定します。 飲み合わせによってはさらに悪化する可能性もあるため、事前に医師にどのような薬を服用しているか伝え、副作用が起きるような場合も医師に早く相談しましょう。 脂質異常症の治療は、一人で抱え込むものではありません。 不安を抱えたまま治療を続けるのは精神的な負担にもなりますので、小さなことでもためらわず、医師に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版|一般社団法人日本動脈硬化学会 (文献2) レパーサ皮下注140 mgペン 添付文書|PMDA (文献3) 高コレステロール血症治療薬「ベムペド酸」製造販売承認申請について|大塚製薬 (文献4) 薬物間相互作用―グレープフルーツジュースとスタチン|日本臨床薬理学会誌 (文献5) Statin discontinuation and cardiovascular events in 75-year-olds|European Heart Journal (文献6) Incidence of hospitalized rhabdomyolysis with statin-fibrate therapy|PubMed
2025.07.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
最近お腹が出てきた、ズボンがきつくなったという悩みの裏に脂肪肝が隠れているかもしれません。 肝臓に脂肪がたまる脂肪肝は、健康診断で初めて異常に気づく人も多く、日本では成人の3人に1人が該当する「国民病」となっています。 近年では食生活の欧米化や、在宅ワークの増加による運動不足によって、さらに発症リスクが高まっています。 この記事では、脂肪肝によってお腹が出るメカニズムをわかりやすく解説し、今日からできる対策や治療法まで、実践的な情報をお届けします。 放置すると肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝を、正しい知識で予防・改善していきましょう。 脂肪肝でお腹が出る?肥満との関係について 脂肪肝とお腹の出方には密接な関係がありますが、すべての脂肪肝患者にお腹の膨満が見られるわけではありません。 非アルコール性脂肪肝の場合、食べ過ぎや運動不足による肥満が主な原因です。(文献1) 体内の余ったエネルギーが脂肪として肝臓と内臓に蓄積され、結果的にお腹周りが膨らんでいきます。 実際に、全体の肥満者のうち約80%に脂肪肝が合併しているといわれており、非アルコール性脂肪肝と肥満には相関がみられます。 一方、アルコール性脂肪肝では痩せ型の方にも多く見られるため、お腹が出ていないから脂肪肝ではないと思われることも多いですが、脂肪肝が隠れていることがあるため注意が必要です。 見た目が標準体型でも「隠れ脂肪肝」として、肝臓に脂肪が蓄積している可能性があります。 内臓脂肪と肝脂肪の悪循環 余ったカロリーはまず内臓脂肪や肝臓の脂肪として蓄えられやすく、皮下脂肪にも広がります。 肝臓に脂肪が増えると血糖や中性脂肪が上がりやすくなります。これにより、肝臓に脂肪がたまりやすくなる悪循環が始まります。(文献2) 順天堂大学の研究では、非肥満でも脂肪肝があると筋肉の代謝が低下しやすいことを示しました。(文献3) つまり脂肪肝は内臓脂肪とは別に全身の代謝バランスを崩す要因にもなり得ます。 この流れが続くと、基礎代謝(安静時でも消費するエネルギー)が下がり、同じ食事量でも体重が増えやすい体になります。早めの生活習慣改善で悪循環を断ち切ることが重要です。 アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝について 脂肪肝はアルコール性脂肪肝(AFLD)と非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)の2つのタイプに分けられます。 アルコール性脂肪肝(AFLD)は、過度な飲酒が原因で発症します。 長期にわたり男性で1日平均60g、女性で40g以上の純アルコールを摂取すると発症リスクが高まります。 60gはアルコール度数5%のビール500ml缶なら3本分の量です。 お酒を飲むと、肝臓でアルコールを分解する過程で中性脂肪を合成してしまいます。 中性脂肪は体質によっては、血液中に溜まるため体型に出ない方もいます。そのため、比較的痩せ型の方でも発症する特徴があります。 日本人の主要な脂肪肝タイプである非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD/MASLD)になる原因は、「飲み過ぎ」ではなく「食べ過ぎ」です。 国内報告では有病率が男性41%、女性17.7%とされており、近年の食生活の変化やデスクワークの増加により患者数が急増しています。 BMI25以上の肥満の方では、腹囲が増えている場合は非アルコール性脂肪肝の可能性があります。 この病型では内臓脂肪の蓄積と密接に関連しており、腹囲の増大が顕著に現れます。 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の約80~90%は単純性脂肪肝で、肝硬変や肝がんのような重篤な病気に進行するリスクは低いとされています。 しかし、約10~20%は炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行し、将来的に肝硬変や肝がんのリスクが高まる可能性があります。早めに対策を行いましょう。 脂肪肝でお腹が出たら?食事と運動療法で改善 脂肪肝によるお腹の膨満は、適切な食事療法と運動療法により改善が期待できます。 治療の基本原則は、体重の7〜10%減量を推奨しています。(文献4) 半年で体重の5%程度のペースで進めると肝機能の数値であるAST・ALTが改善しやすいとの報告もありますので、急激な減量は避け、無理のない範囲で行いましょう。(文献5) 脂肪肝でお腹が出る主要因は総カロリー過多ですが、とくに果糖のとり過ぎは肝脂肪を増やしやすいと指摘されています。(文献2) 運動療法では、毎日30分程度の歩行など有酸素運動を中心に行いましょう。 運動時間の目安ですが、週に150 分以上でも効果があるものの、週に250 分運動することで肝脂肪や炎症の一層の改善が報告されています。(文献4) 通勤時の一駅歩く習慣や階段利用などの工夫により、忙しい会社員でも継続可能な運動習慣を身につけられます。 食事での改善ポイント 近年、低糖質食による肝脂肪の改善例も報告されていますが、あくまで基本となるのは食事全体のカロリーと栄養のバランスを整えることです。(文献2) まず主食(白ごはん、パン、麺類)を1割減らすことから始めましょう。代わりに玄米や雑穀米に変更し、野菜や海藻類を増やして食物繊維を確保します。 とくに果糖は肝臓で中性脂肪に変わりやすいため、果物は1日1/2個程度に制限し、清涼飲料水は避けることが大切です。 推奨する食事パターンは以下の通りです。 朝食:必ず摂取し、血糖値の急上昇を防ぐ 昼食:定食スタイルで栄養バランスを重視 夕食:就寝3時間前までに済ませ、軽めに抑える アルコールについては、男性で純アルコール60g/日未満、女性で40g/日未満に制限し、週2日以上の休肝日を設けることが推奨されます。 アルコール性脂肪肝の場合、2-4週間の禁酒で改善効果が現れると報告されています。まずは2週間の禁酒をやってみることをおすすめします。(文献6) 筋トレと有酸素運動の黄金比 有酸素運動と筋トレの併用が肝脂肪減少には効果的と報告されています(文献5)。 有酸素運動では、ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどを週5日、まずは1日30分以上実施しましょう。1日30分であれば、通勤時の一駅歩く習慣や、昼休みの散歩を取り入れることで、忙しい会社員でも実践可能です。 筋力トレーニングは週2〜3日実施を推奨しています。(文献4) 筋肉量の増加は基礎代謝の改善につながり、脂肪肝改善に役立つためです。自宅でできるスクワットや腕立て伏せ、片足立ちなどから始め、徐々に負荷を増やしていきましょう。 重要な点は、仮に体重減少がなくても運動を継続すれば脂肪肝改善効果があることです。(文献4) 体重が変わらなくても落ち込まず、まずは3カ月の運動継続で肝機能数値の改善を目指しましょう。 脂肪肝の検査と再生医療について 脂肪肝は「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の病気のため、自覚症状がほとんどありません。 しかし、血液検査や画像検査を組み合わせると、症状が出る前に脂肪肝を見つけられる場合があります。 健康診断で肝機能の異常を指摘された場合は、必ず精密検査を受け、専門医による適切な診断と治療方針の決定を受けましょう。 脂肪肝の治療には、再生医療という選択肢もあります。進行した脂肪肝に対する治療の可能性が広がっています。 血液検査と再生医療について、それぞれ詳しく解説します。 血液検査 脂肪肝かどうかを調べる最初の手がかりは、採血で測るALTとASTという酵素です。 ALTは肝臓の細胞に多く、多くの施設で30〜40IU/L未満が目安とされますが、日本人を対象とした大規模研究では、正常上限値は男性29IU/L以下、女性23IU/L以下とされています」(文献7) ALTの軽い上昇でも脂肪がたまり始めている場合があるため、健康診断で要再検査と出たら放置しないことが大切です。 ASTは心臓や筋肉にも含まれる酵素ですが、ALTよりも高い場合はアルコールの影響が疑われます。ただし、確定には他の検査結果も総合的に判断する必要があります。(文献8) 再生医療 生活習慣の見直しでは追いつかないほど肝臓が硬くなる線維化が進むと、肝硬変に至ることがあります。 このような進行例に対しても再生医療が治療の選択肢となります。 再生医療の幹細胞治療は、患者様自身の脂肪組織から採取した幹細胞を培養し、点滴により全身に投与する治療法です。 再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 自宅で続ける脂肪肝チェックと再発予防 脂肪肝の改善後も、継続的なセルフモニタリングと予防策の実践により、再発を防げます。 日々の体重管理では、毎朝同じ時間・同じ条件で測定し、スマートフォンアプリで記録することで変化を視覚的に把握できます。 腹囲測定も重要です。男性85cm以上、女性90cm以上でメタボリックシンドロームの疑いがあるため、おへその高さで月1回測定しましょう。 生活習慣では、主食の1割減量、週2日以上の休肝日、1日30分以上の歩行を基本とし、無理のない範囲での継続が重要です。 また、年1回の健康診断での血液検査を行い、専門医に肝機能の数値を客観的に診断してもらいましょう。 まとめ|お腹が出たら注意!脂肪肝は日々の習慣の見直しが重要 脂肪肝によるお腹の膨満は、単純な肥満ではなく、複雑な代謝異常が引き起こす医学的な病態です。 近年では、在宅勤務の増加や食事の欧米化により発症リスクが高まっていますが、適切な食事療法と運動療法により確実に改善できる疾患でもあります。 食事習慣の改善と、運動習慣の定着を目標に、継続的な取り組みを行っていきましょう。早期発見のためには、健康診断を受け、血液検査の数字を確認することが重要です。 進行例に対しては、再生医療という新しい治療法もあります。 放置すれば肝硬変や肝がんへの進行リスクもある脂肪肝ですが、今の自分の状態を正しく知り、適切な対策を講じることで健康な肝臓を取り戻せます。 当院「リペアセルクリニック」では、専門医による診察から再生医療まで、一人ひとりの状態に応じた治療を提供しています。 まずは公式LINEのオンライン診断からお試しください。一度自分の体と向き合ってみましょう。 脂肪肝に関してよくある質問 脂肪肝が進むとどうなる?放置のリスク 脂肪肝を放置すると、段階的に深刻な病態へ進行する可能性があります。 初期の脂肪肝から脂肪肝炎(NASH)へ進行すると、肝臓に慢性的な炎症が起こり、徐々に肝臓がかたくなる「線維化」が始まります。 さらに進行すると「肝硬変」となり、肝がんを発症するリスクが生じてしまいます。 脂肪肝は自覚症状がほとんどないため、気づいたときには既に進行しているケースも多く見られます。 健康診断でALT・ASTの上昇を指摘された段階での早期対応が、将来の重篤な合併症を予防する鍵となります。 初期段階で発見し、生活習慣の改善に取り組みましょう。 脂肪肝は女性に多い? 脂肪肝は一般に男性で多く見つかりますが、女性でも決してまれではありません。 女性ホルモンは脂肪を皮下に優先してため込むため、閉経前は脂肪肝が起こりにくい傾向ですが、閉経後にはホルモンが急減し脂肪のつき方が男性型へ変わり、発症リスクが一気に上昇します。 また、細身でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の女性は年齢を問わず注意が必要です。 顔のむくみやおならは脂肪肝のサイン? 脂肪肝は「沈黙の臓器」といわれる肝臓の病気のため、初期にははっきりした症状がほとんど出ません。 ただ肝機能が落ち始めると、だるさや軽い不調など体の各所に細かな変化が現れることがあります。 顔や手足がむくみやすくなるのは、肝臓で作られるアルブミンというたんぱく質が不足し、水分が血管の外に漏れやすくなるためと考えられています。 一方、腸内環境が乱れるとガスがたまりやすくなり、おならのにおいが強くなるため、食事習慣の乱れが腸内環境の乱れと脂肪肝につながっている可能性はあります。 他のサインとしては、慢性的な疲労感、集中力低下、肩こり、ぼんやり感、軽い腹部の張りなどが挙げられますが、これらの症状は他の疾患でも見られるため、身体に異常があった場合は早めに専門医への相談を検討してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)の診療ガイドライン2020年版」2020年 https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/nafldnash2020_add.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 太田嗣人.「肥満・インスリン抵抗性がもたらす肝の炎症」『日本内科学会雑誌』109(1), pp.19-26, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/1/109_19/_pdf(最終アクセス:2025年6月27日) (文献3) 門脇聡ほか「非肥満者では内臓脂肪の蓄積よりも脂肪肝が筋肉の代謝障害と強く関連する」順天堂大学研究報告, 2019年 https://www.juntendo.ac.jp/assets/NewsRelease20190614.pdf(最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) 日本肝臓学会「脂肪性肝疾患患者に対する肝臓リハビリテーション指針」日本肝臓学会ホームページ https://www.jsh.or.jp/medical/committeeactivity/shakaihoken/fatty.html(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Koutoukidis D A, et al. (2021). The effect of the magnitude of weight loss on non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis. Metabolism, 115, 154455.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33259835/ (最終アクセス:2025年6月28日) (文献6) Clevelandclinic「How Long Does It Take Your Liver to Detox From Alcohol?」Health Essentials, 2023年2月28日 https://health.clevelandclinic.org/detox-liver-from-alcohol(最終アクセス:2025年6月28日) (文献7) Tanaka K, Hyogo H, Ono M ほか.「Upper limit of normal serum alanine aminotransferase levels in Japanese subjects」Hepatology Research 44(12), pp.1196-1207, 2014年 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24372862/(最終アクセス:2025年6月28日) (文献8) Giannini E, & Testa R. (2013). The De Ritis ratio: the test of time. Digestive and Liver Disease, 45(3), e1–e2. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3866949/ (最終アクセス:2025年6月28日)
2025.06.30 -
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「健康診断で肝臓の数値が少し高いですね」と医師に言われて、不安になっていませんか。 「でも薬はまだ出されなかったし大丈夫かな」と思っていても、実は脂肪肝が進んでいるかもしれません。 忙しい毎日の中で病院に通う時間がなかなか取れないときでも、適切なサプリメントを活用することで肝臓の健康をサポートできる可能性があります。 本記事では、脂肪肝の栄養管理に役立つサプリメントについて、専門医の視点から詳しく解説します。 サプリメントの選び方から使い方、さらには生活習慣の改善方法まで、あなたが知りたい情報を網羅的にお伝えします。 ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割であり、根本的な改善には生活習慣の見直しが欠かせません。 万が一、数値の改善が見られない場合には、専門的な治療法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 脂肪肝とサプリの基礎知識 脂肪肝は、食べすぎや運動不足などが原因で肝臓に脂肪がたまった状態のことです。 サプリメントは、あくまで補助的な役割として肝臓の働きを助けたり、脂肪がたまりにくくなるようにサポートしたりする効果が期待されています。 まずは脂肪肝がどうして起こるのか。基本的な仕組みを理解しましょう。 肝細胞に脂がたまる仕組み 肝臓に脂肪がたまる主な原因は、エネルギーのバランスが崩れることにあります。 食べすぎや運動不足により、体内で使われなかったエネルギーが中性脂肪に変わって肝臓に蓄積されていきます。(文献1) 正常な肝臓では、全肝細胞の30%未満が脂肪ですが、全肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積すると脂肪肝と診断されます。 この状態になると、肝臓本来の機能である解毒作用や代謝機能が低下し始め、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があります。 また、アルコールの摂取も肝臓での脂肪合成を促進する要因の一つです。 アルコールが分解される過程で生成される物質が、脂肪の分解を抑制させてしまうのです。 脂肪肝の初期段階では自覚症状がほとんどないため、多くの方が気づかないうちに進行してしまいます。 健康診断で肝機能の数値が基準値を上回った場合は、脂肪肝の可能性を疑いましょう。 サプリで期待できる三つの作用 脂肪肝に対してサプリメントに期待できる作用は、大きく分けて三つあります。 余分な脂を分解して外に出す 肝細胞をサビから守る 炎症をしずめる 余分な脂を分解して外に出す 余分な脂を分解して外に出す作用がある成分として、オメガ3脂肪酸とスルフォラファンがあります。 オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)には肝臓で脂肪をエネルギーに変える「β酸化」を高め、肝内脂肪を減らすことが臨床試験で確認されています。(文献8) また、スルフォラファンは脂肪を作る酵素を抑え、溜まりにくくする性質があります。これら2つの成分を効果的に組み合わせると、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせる可能性があります。(文献10) 肝細胞をサビから守る 肝細胞をサビから守るアスタキサンチンは、ビタミンEより強い抗酸化力で「身体のサビ」となる活性酸素を減らし、肝臓の炎症や繊維化を抑えます。(文献2)(文献9) また、シリマリンは肝臓の機能を測る数値であるALT・ASTを下げた臨床報告があります。 (文献3) アスタキサンチンとシリマリンをうまく取り入れ、サビにくい肝細胞を手に入れましょう。 炎症をしずめる サプリメントには、肝臓の炎症をしずめる効果もあります。 炎症をしずめる代表例として、オメガ3は炎症性の物質であるサイトカインを減らす作用が報告されています。(文献8) また、アスタキサンチンにも肝臓での炎症反応を弱める働きが確認されています。 (文献2)(文献9) ただし、これらの作用はあくまで食事や運動などの基本的な生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的に発揮されます。 サプリメントだけに頼るのではなく、総合的なアプローチが重要であることを理解しておきましょう。 脂肪肝の栄養管理に使用されるサプリ・成分5選 脂肪肝の栄養管理において注目されている5つの成分をご紹介します。 それぞれの成分には独自の特徴と効果があり、あなたの生活スタイルや体質に合わせて選択することが大切です。 以下の成分について、その特徴と期待できる効果、どのような方に適しているかを詳しく解説します。 スルフォラファン オメガ3脂肪酸 シリマリン アスタキサンチン オルニチン スルフォラファン スルフォラファンは、ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)に豊富に含まれる天然の化合物です。 この成分の最大の特徴は、強力な抗酸化作用と解毒酵素の活性化にあります。 肝臓は体内の解毒を担っているため、この機能をサポートするスルフォラファンは脂肪肝の改善に役立つとされています。 また、肝細胞を酸化ストレスから守る働きも確認されており、脂肪肝の悪化を遅らせると報告されています。(文献10) とくに、偏った食事で野菜不足が気になる人にとっては、不足分を補う選択肢になります。 外食が多く野菜不足が気になる方にとって、手軽に摂取できるサプリメントです。 オメガ3脂肪酸 オメガ3脂肪酸は、青魚に多く含まれる必須脂肪酸で、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表的です。 オメガ3脂肪酸は、EPA・DHAは体内にあるPPAR-αというスイッチを入れ、脂肪を作る酵素を抑えつつ、脂肪を分解する作用があると研究で示されています。(文献8) これにより、肝臓に溜まった余分な脂肪を効率的に減らせると考えられています。 さらに、EPA・DHAは中性脂肪を約10〜30%下げるという研究結果があります。(文献8) そのため、有効に摂取すれば脂肪肝の根本的な改善につながる可能性があります。 これらの効果から、脂っこい食事を好む方や、魚を食べる機会が少ない方に適した成分といえるでしょう。 現代の食生活では肉類の摂取が多くなりがちで、相対的にオメガ3脂肪酸が不足しやすい傾向にあります。 不足する栄養素はサプリメントで補って、脂肪酸のバランスを整えましょう。 シリマリン シリマリンは、マリアアザミ(ミルクシスル)という植物の種子から抽出される天然成分です。 この成分は、肝機能サポートのサプリメントとして広く利用されています。(文献3) シリマリンの主な作用は、肝細胞の再生を助け、肝臓を有害物質から保護することです。(文献12) また、抗炎症作用により肝臓内の炎症を抑制し、脂肪肝の進行を遅らせる効果も期待されています。(文献12) 長期的な肝臓の健康維持を考えている方や、お酒を飲む機会が多い方におすすめの成分です。 シリマリンは副作用として、まれに胃腸の不調を引き起こすことがあります。 一般的な摂取目安は製品表示に従い、医師の指示を優先して服用しましょう。 アスタキサンチン アスタキサンチンは、鮭やエビ、カニなどに含まれる赤い色素成分で、強力な抗酸化作用を持っています。 脂肪肝の状態では、肝細胞内で活性酸素が増加し、細胞にダメージを与えてしまいます。 アスタキサンチンは、これらの有害な活性酸素を効率的に除去し、肝細胞を酸化ストレスから保護します。 また、炎症を抑制する作用もあり、脂肪肝に伴う肝臓の炎症を軽減する効果が期待されています。(文献9) 金沢大学の研究では、マウス実験で高コレステロールの餌を与えた群と、高コレステロールの餌にアスタキサンチンを混ぜて与えた群を比較したところ、アスタキサンチンを混ぜた群がAST・ALTの上昇を抑えた報告もありました。(文献2) オルニチン オルニチンは、しじみに豊富に含まれるアミノ酸の一種で、アンモニアを尿素に変えるサイクルのカギとなるアミノ酸で、解毒を支えます。(文献4) アンモニアは体内で発生する有毒な物質で、適切に処理されないと疲労感や集中力の低下を引き起こします。 脂肪肝の状態では、アンモニアの処理能力にも影響が出ることがありますが、オルニチンを補給することで解毒機能をサポートできます。 また、成長ホルモンの分泌を促進する作用もあり、肝機能の修復を助ける可能性があります。 肝臓の負担を軽減することで、脂肪肝の改善にも間接的に寄与すると考えられています。 脂肪肝でサプリを使用するリスクと使い方 サプリメントは健康食品として手軽に利用できる一方で、正しい方法で使わないと体に悪影響を与える可能性があります。 とくに肝臓に関するサプリメントは、使い方を間違えると肝臓に負担をかけてしまうことがあるため、注意深く使用する必要があります。 本章では、サプリメントを活用するために知っておきたい重要なポイントについて解説します。 肝障害報告の多い成分 サプリメントの中には、成分によっては過剰摂取や体質に合わない場合に肝障害を引き起こす可能性があります。 とくに注意が必要なのは、ウコン(クルクミン)を含む製品です。 ウコンは肝臓に良いとされる一方で、大量摂取により肝障害を起こした事例が報告されています。(文献5) これには複数の要因があり、ウコンの効能が肝臓の負担となり引き起こされる事例もあれば、ウコンに含まれる鉄分が肝臓に蓄積しやすく、酸化ストレスを増加させる事例もあります。 また、茶葉から抽出される成分も、まれに肝障害を引き起こすことがあります。 通常の飲み物として摂取する分には問題ありませんが、濃縮された形でのサプリメント摂取には注意が必要です。 これらの成分を含むサプリメントを使用する際は、まず少量から始めて体調の変化を注意深く観察することが大切です。 肝機能に不安がある方は、使用前に医師に相談することをおすすめします。 薬とサプリの併用は医師に相談する 現在、薬を服用している方は、サプリメントとの併用について必ず医師に相談してください。 薬やサプリメントの成分が肝臓に損傷を起こし、肝機能に影響を及ぼす可能性があるからです。(文献6) サプリメントと薬を同時に飲むと、出血・低血糖・低血圧・薬効増減などの思わぬ副作用が起こることがあります。 とくにワルファリンなどの抗凝固薬、糖尿病薬、高血圧薬、そして肝臓で代謝される薬を使っている人は要注意です。 必ず医師や薬剤師に飲んでいる薬やサプリメントを全部伝え、併用の可否とモニタリング方法を相談しましょう。 副作用が出たらすぐに使用を中止する サプリメントを使用していて体調不良を感じた場合は、すぐに使用を中止してください。 副作用の症状としては、腹痛、下痢、吐き気、頭痛、発疹、かゆみなどがあります。 肝臓に関連する症状である、疲労感の増強、食欲不振、黄疸(皮膚が黄色くなる)、尿の色が濃くなるなどが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 これらの症状は肝機能の低下を示している可能性があります。 また、アレルギー反応として呼吸困難や全身の発疹が現れた場合は、緊急性が高いため直ちに医療機関を受診する必要があります。 副作用が疑われる場合は、使用していたサプリメントの製品名や成分、使用期間、摂取量などの情報を医師に正確に伝えることが大切です。 これらの情報は、原因の特定と適切な治療につながります。 サプリメントは「天然」や「自然由来」と表示されていても、すべての人に安全とは限りません。 体質や体調により、予期しない反応が起こる可能性があることを理解しておきましょう。 サプリだけでは不十分|生活習慣の改善が脂肪肝治療の基本 サプリメントは脂肪肝の改善をサポートする有用なツールですが、それだけに頼っていては根本的な解決には至りません。 脂肪肝治療の基本は、食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。 食事面では、カロリーの過剰摂取を避け、バランスの取れた栄養摂取を心がけることが重要です。 とくに糖質や脂質の摂取量をコントロールし、野菜や魚を中心とした食事に切り替えることで、肝臓への脂肪蓄積を減らせます。 また、コーヒーに含まれるクロロゲン酸は脂肪酸の酸化を促し、カフェインはエネルギー消費を高める作用が示唆されています。 ある観察研究では1日2〜3杯のコーヒー習慣が脂肪肝や線維化リスクを下げると報告されています。(文献7) 運動については、30分〜60分程度の有酸素運動を週3〜4回行うことが推奨されています。 ウォーキングや水泳などの軽い運動でも十分効果があり、無理なく続けられる運動を選択することが大切です。 これらの生活習慣の改善と併せてサプリメントを活用することで、より効果的な脂肪肝の改善が期待できます。 サプリメントは補助的な役割として位置づけ、基本的な生活習慣の見直しを最優先に取り組むことをおすすめします。 また、定期的な健康診断でASTやALTのような血液検査の数値をモニタリングし、改善の程度を客観的に評価することも重要です。 脂肪肝の再生医療 生活習慣の見直しやサプリメントによる栄養管理の他に、再生医療(幹細胞治療)の選択肢があります。 再生医療は、からだが本来もつ修復力を利用して、傷んだ臓器の働きを取り戻すことを目指す先進的な方法です。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に対する再生医療として幹細胞治療を行っています。 自己細胞を使うため拒絶反応が起こりにくく、通院で受けられるのが特徴です。 脂肪肝に対する再生医療について、詳しくは以下をご覧ください。 まとめ|自分で気づきにくい脂肪肝はすぐに相談を! 脂肪肝は初期段階では自覚症状がほとんどなく、多くの方が気づかないうちに進行してしまう疾患です。 しかし、放置すると肝炎や肝硬変といった深刻な状態に進行する可能性があるため、早期の対策が重要です。 本記事でご紹介したサプリメントは、脂肪肝の栄養管理において有用な選択肢の一つですが、あくまで補助的な役割であることを理解しておきましょう。 根本的な改善には、食事療法と運動療法による生活習慣の見直しが不可欠です。 サプリメントを選ぶ際は、ご自身の生活スタイルや体質に合った成分を選択し、安全性を最優先に考慮してください。 また、現在服用している薬がある方は、必ず医師に相談してから使用を開始しましょう。 もし生活習慣の改善やサプリメントによる対策を継続しても数値の改善が見られない場合は、専門医による詳しい検査や治療を受けることをおすすめします。 当院「リペアセルクリニック」では、脂肪肝に関する無料相談を承っているので、お気軽にご相談ください。患者様一人ひとりの状態に応じた治療法をご提案します。 あなたの肝臓の健康を守るために、今すぐできることから始めてみませんか。 参考文献 (文献1) 沢井製薬株式会社「本当はコワイ脂肪肝」サワイ健康推進課, 2014年12月 https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/201412.html(最終アクセス:2025年06月24日 (文献2) 金沢大学「サケやカニ由来の赤い色素『アスタキサンチン』にNASHの予防・抑制作用があることを発見!」2015年頃 https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/32091/(最終アクセス:2025年06月24日) (文献3) 科学技術振興機構「J-GLOBAL学術論文データベース」2010年頃 https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201002214886689414(最終アクセス:2025年06月24日) (文献4) 協和発酵バイオ株式会社「オルニチンのはたらきと効果-02」 https://www.kyowahakko-bio-healthcare.jp/healthcare/ornithine/effect02.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献5) 東邦大学医療センター大森病院検査部「ウコンと肝障害について」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column_079.html(最終アクセス:2025年06月24日) (文献6) Merck & Co., Inc.「薬による肝臓の損傷」MSDマニュアル(家庭版), 2020年1月 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(2021). Sulforaphane Attenuates Nonalcoholic Fatty Liver Disease by Inhibiting Hepatic Steatosis and Apoptosis. Nutrients, 14(1), pp.76. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35010950/(最終アクセス:2025年6月24日)
2025.06.30 -
- 肝疾患
- 内科疾患
「健診で脂肪肝と言われたけれど、薬で治療できるのだろうか?」 このような疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか。 脂肪肝は痛みや自覚症状がほとんどないため、つい放置してしまいがちな病気です。 しかし、そのまま放っておくと肝臓がかたくなり、肝炎や肝硬変といった重篤な病気につながる可能性があります。(文献1) 最近では、飲み薬や注射などさまざまな治療選択肢が広がっており、早期に適切な治療を始めることで肝臓の状態をしっかりと改善が期待できます。 本記事では、脂肪肝の薬物治療について詳しく解説いたします。 薬の種類や効果、副作用のリスク、市販薬との違い、そして治療を受ける際の注意点まで、専門医の視点からお伝えします。 ぜひ記事を最後までご覧いただき、脂肪肝治療への理解を深めてください。 脂肪肝の薬の種類 脂肪肝の治療では、主に以下の薬が使用されます。 抗酸化剤(ビタミンE) 糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など) 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) 脂質異常症治療薬(スタチン系) その他の補助的治療薬 これらの薬は主に、肝臓を保護したり炎症を抑えたりするためのものです。 それぞれ異なる機能で肝臓の改善に働きかけますが、どの薬が適しているかは患者様の症状や併存疾患によって決まります。 次に、それぞれの薬について詳しく見ていきましょう。 抗酸化剤(ビタミンE) ビタミンEは、肝臓の炎症や酸化ストレスを軽減する強力な抗酸化剤として脂肪肝治療の補助として使用されることがあります。 主な働きは、肝細胞を傷つける活性酸素を除去し、炎症を引き起こすサイトカインという物質を抑制することです。(文献2) 肝酵素(ALT、AST)の低下、肝臓の炎症軽減、インスリン感受性の改善といった効果が見られた例があります。 ただし、副作用のリスクも理解しておく必要があります。 高用量での長期使用では、死亡率の増加や出血性脳卒中のリスクが報告されています。(文献3) そのため、糖尿病を合併していない患者様で、肝生検でNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が確認された場合に限定して、抗酸化剤(ビタミンE)の使用が推奨されています。 使用する際は必ず医師の指導のもとで適切な用量を守ることが重要です。 GLP-1受容体作動薬 GLP-1受容体作動薬は、もともと糖尿病治療薬として開発された薬ですが、脂肪肝の改善効果も報告されています。 この薬の作用メカニズムは、血糖値に応じてインスリンの分泌を促進し、食欲を抑制して体重減少を促すことです。(文献4) 代表的な薬剤には、リラグルチド(ビクトーザ)やセマグルチド(オゼンピック)があります。 この薬の特徴は、主に体重減少を介した改善が示唆されており、肝脂肪への直接作用は検証中です。 副作用としては、下痢や便秘、吐き気や嘔吐もあるため、定期的な診察が必要です。 SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖再吸収を阻害することで血糖値を下げる糖尿病治療薬です。脂肪肝の改善効果も注目されています。 代表的な薬剤には、エンパグリフロジン(ジャディアンス)、ダパグリフロジン(フォシーガ)、カナグリフロジン(カナグル)などがあります。 台湾で行われた大規模な研究では、糖尿病患者における脂肪肝の発症率が有意に低下することが報告されています。(文献5) 副作用としては、多尿・口渇などが挙げられます。 とくに高齢者では脱水のリスクが高まるため、十分な水分摂取と定期的な検査が必要です。 肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸) ウルソデオキシコール酸は、もともと胆石症の治療に使用されてきた薬です。肝細胞を保護する効果があることから脂肪肝治療にも応用されています。 この薬は親水性胆汁酸と呼ばれる物質で、肝細胞の膜を安定化し、炎症やアポトーシス(細胞死)を抑制する働きがあります。(文献6) ただし、単独での治療効果は限定的であることがわかっており、生活習慣の改善や他の薬剤との併用でより効果的とされています。 副作用は軽度の下痢や胃部の不快感がありますが、間質性肺炎の重大な副作用がまれにあるため、異常が認められた場合は専門医に相談しましょう。 推奨用量は通常、成人1回あたり50mgを1日3回経口投与します。 スタチン系薬剤 スタチン系薬剤は、コレステロールを下げる薬として広く使用されていますが、脂肪肝の改善にも多面的な効果を発揮することがわかってきました。 代表的な薬剤には、アトルバスタチン(リピトール)、ロスバスタチン(クレストール)、シンバスタチン(リポバス)などがあります。 この薬の作用は、HMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロール合成を抑制するだけでなく、抗炎症作用、抗線維化作用、抗酸化作用も併せ持つことです。(文献7) 大規模な研究では、脂肪肝患者における心臓や血管で起こる重大なトラブルを68%減少させた報告もあります。 副作用としては、筋肉痛、肝酵素上昇、まれに横紋筋融解症などが挙げられます。 脂肪肝は市販薬やサプリで改善できる?処方薬との違い 「病院に行く前に、まずは市販薬やサプリメントで様子を見たい」と考える方も多いでしょう。 確かに、ドラッグストアやインターネットで手軽に購入できる肝機能改善をうたった商品は数多く存在します。 しかし、処方薬と市販品には大きな違いがあることを理解しておく必要があります。 最も重要な違いは、医学的根拠(臨床試験データ)の量と質です。 処方薬は大規模試験を経て承認されることが多く、標準化された用量設定と品質管理が保証されています。 一方、市販のサプリメントは高品質な臨床試験による裏付けが限定的で、製品間の品質や体への吸収されやすさ等にばらつきがあります。 自己判断での使用には重大なリスクも伴います。 適切な診断なしでの自己治療は、以下の危険性があります。 本当の病気を見逃す(診断遅れ) 他の薬剤との相互作用 不適切な用量により効果がなかったり、副作用が出る これらの危険性があるため、まずは専門医の診断を受けることが大切です。 脂肪肝で薬を服用する際の注意点 脂肪肝の薬物治療を成功させるためには、いくつかの重要な注意点があります。 まず理解していただきたいのは、薬だけでは根本的な改善は難しいという点です。 脂肪肝治療の基本は生活習慣の改善であり、薬物療法はあくまでサポート役として位置づけられています。 薬を服用する際は、必ず医師の指示に従い、定期的な検査を受けながら治療を続けましょう。 脂肪肝は生活習慣の改善が治療の基本 以下の食事、運動、そして薬との相乗効果を確認し、脂肪肝の改善をしましょう。 食事 肝脂肪を有意に減らす選択肢として、日本肝臓学会ガイドラインでは、オリーブオイル・魚・ナッツ・全粒穀物を中心とした、地中海食パターンと適度なカロリー制限が挙げられています。 赤身肉や加工肉を控え、タンパク質は魚類や豆類から摂取しましょう。 運動 運動療法は複数の研究で脂肪肝への効果が認められています。 具体的には「中~高強度有酸素運動(30–60分×週3–4)」を推奨し、体重が減らなくても肝脂肪と炎症が改善すると報告されています。 そのため、体重も一つの大切な指標ではありますが、体重が減らないからと運動を辞めずに、継続することが大切です。 副作用に注意!症状が出たら必ず医師に相談 治療薬を継続して使用するためには、副作用への適切な対応が欠かせません。 どの薬にも副作用のリスクがあるため、症状が現れた場合は自己判断せず、必ず医師に相談しましょう。 薬剤 代表的副作用と頻度 早期対応のポイント ビタミンE 出血性脳卒中 高用量を避け、出血傾向のある人は使用しない GLP-1受容体作動薬 吐き気・下痢 初期は少量から開始し、症状が続けば用量調整 SGLT2阻害薬 尿路/性器感染症、脱水 水分摂取を促し、高齢者・腎機能低下例は慎重投与 スタチン 筋痛、クレアチンキナーゼ上昇、横紋筋融解症 筋肉痛+褐色尿が出たら直ちに受診 副作用が現れた場合の対応方法も覚えておきましょう。 軽微な症状であっても、まずは医師への報告が大切です。 症状の程度に応じて、用量調整、投与方法の変更、代替薬への切り替えなどの対応が検討されます。 定期的な検査も継続管理の重要な要素です。健康診断や病院で定期検査を受け、診断結果を元に医師に相談しましょう。 薬物相互作用にも注意が必要で、他の薬やサプリメントを併用する場合は必ず医師に伝えてください。 脂肪肝の薬と再生医療という治療選択肢 脂肪肝治療の柱はあくまで食事・運動と既存薬ですが、治療には再生医療という選択肢もあります。 再生医療には、幹細胞治療とPRP療法の二つがあります。 幹細胞治療では、患者様から採取した幹細胞を培養し、患部に投与します。 PRP療法は、血液に含まれる血小板を濃縮した液体を作製し、注射する治療法です。 肝臓疾患に対する再生医療について詳しくは、以下をご覧ください。 まとめ|脂肪肝治療は薬と生活習慣の改善で回復を目指そう 脂肪肝は、早期に気づいて適切な治療をすれば改善が期待できる病気です。 現在はビタミンE、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、ウルソデオキシコール酸、スタチン系薬など複数の薬が検討されており、炎症や脂肪蓄積を抑える報告結果もあります。 ただし、薬だけに依存せず、食事と運動を基盤に改善を目指すことが治療成功のカギです。 地中海食を参考にカロリーと糖質を抑え、中~高強度の有酸素運動を30から60分、週3〜4日のペースで行い、肝脂肪と炎症を改善していきましょう。 治療には、再生医療の選択肢もあります。 再生医療の詳細については、当院「リペアセルクリニック」へお問い合わせください。 脂肪肝の薬に関してよくある質問 薬の副作用が心配だけど大丈夫? 脂肪肝の治療のみを対象とした薬はまだないため、脂肪肝と関連する薬を使用した際の回答となりますが、副作用が起きることもあります。 薬ごとの副作用の重さの違いは、ビタミンEだと高用量を長期に服用した場合に全死亡率や出血性脳卒中のリスクがわずかに上昇するとの報告があります。 一方、GLP-1受容体作動薬の嘔気・下痢、SGLT2阻害薬の尿路/性器感染症は多くが軽度で、用量調整や水分補給で対処可能です。 また、副作用の重さは薬の違いだけでなく、体質によっても個人差がある点にも注意してください。 軽い症状でも自己判断は避け、すぐに医師へ報告し、検査値を定期的にチェックして副作用を早期発見・対応しましょう。 薬代はいくらぐらいかかる? 脂肪肝の治療だけを対象とした保険適用薬は現在ありません。そのため、薬が高額になる可能性がある点は注意が必要です。 ただし、本記事で紹介した薬で、糖尿病などの合併症が見られた場合は保険適用となる可能性もありますので、必ず確認しましょう。 費用は薬剤・投与量で変わるため、診断時に医師と具体的に相談してください。 どのタイミングで病院に行けばいい? 健診で脂肪肝を指摘されたら症状がなくても一度専門医を受診するのが重要です。 とくに40歳以上で体重増加が続く方や、家族歴に肝疾患がある方は早期受診が推奨されます。 脂肪肝は自覚症状が出にくく、放置すると肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあります。 早期診断・治療で重篤化を防げる可能性が高まるため、不安を感じたら遠慮なく医療機関に相談してください。 参考文献 (文献1) 日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」2020年 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/nafld.html (最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) Nagashimada, M., & Ota, T. (2019). Role of vitamin E in nonalcoholic fatty liver disease. IUBMB Life, 71(4), pp.516-522. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30592129/最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) Miller, E. R., et al. (2016). Vitamin E and Non-alcoholic Fatty Liver Disease. PMC, 4984672. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4984672/ (最終アクセス:2025年6月24日) (文献4) Newsome, P. N., et al. (2021). A Placebo-Controlled Trial of Subcutaneous Semaglutide in Nonalcoholic Steatohepatitis. New England Journal of Medicine, 384(12), pp.1113-1124. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33185364/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献5) Wei, Q., et al. (2024). Non-alcoholic fatty liver disease risk with GLP-1 receptor agonists and SGLT-2 inhibitors in type 2 diabetes: a nationwide nested case–control study. Cardiovascular Diabetology, 23(1), pp.1-12. https://cardiab.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12933-024-02461-2 (最終アクセス:2025年6月24日) (文献6) Zhang, J., Wang, X., Shen, Y., et al. (2020). Ursodeoxycholic Acid in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical and Experimental Gastroenterology, 13, 251-264. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32595039/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献7) Boutari, C., et al. (2024). A Systematic Review of Statins for the Treatment of Nonalcoholic Steatohepatitis: Safety, Efficacy, and Mechanism of Action. Molecules, 29(8), pp.1859. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38675679/ (最終アクセス:2025年6月24日)
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「最近目がかすむようになった」 「視界がぼやける感じがする」 糖尿病と診断されている中で、このような症状が出てきて「糖尿病で失明する」と聞き、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。 実際に、糖尿病の合併症として視力障害が存在します。 しかし、血糖値のコントロールや定期的な眼科受診による経過観察で視力を回復させることや悪化を防止させることは可能です。 本記事では糖尿病と失明の関係や、視力低下への対処法などを紹介します。 視力に対する不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。 糖尿病で失明する原因 糖尿病は全身の血管に影響を及ぼす慢性疾患であり、目の組織にも深刻な障害を引き起こします。 失明に至るのも決してまれではなく、進行するまで自覚症状が乏しいため、発見が遅れるケースも少なくありません。 失明を防ぐには、糖尿病が視覚にどのような影響を及ぼすのかを正しく理解することが重要です。 ここでは、糖尿病によって引き起こされる主な失明の原因と、その他の関連疾患について解説します。 糖尿病網膜症 糖尿病網膜症は、高血糖による網膜の血管障害(糖尿病性細小血管症)によって発症する、糖尿病で失明に至る主な原因の一つです。 進行の程度に応じて、以下の3段階に分類されています。 単純糖尿病網膜症:網膜の毛細血管がこぶ状になり、血液や脂質が漏れ出して網膜に付着する 増殖前糖尿病網膜症:毛細血管が閉塞し、網膜や神経への血流が不足する 増殖糖尿病網膜症:もろい新生血管が破れて出血を起こしたり、網膜剥離が生じたりして、視力が大きく低下する 糖尿病網膜症は失明に至る危険性がある怖い病気であり、少しでも異常を感じたら眼科を受診しましょう。 糖尿病網膜症については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。 視覚障害につながるその他の疾患 糖尿病が原因で視覚障害につながる、その他の疾患については以下の表にまとめました。 疾患名 特徴・症状 予後 糖尿病視神経症 網膜症の有無に関係なく発症する視神経の循環障害。突然の高度な視力障害が現れる。片眼性が多い。 不良 糖尿病眼球運動障害 眼球を動かす筋肉が障害され、物が二重に見える(複視)。 良好 糖尿病ぶどう膜炎 ぶどう膜の前部に炎症が起こる。点眼治療で軽快するが、長期化することもある。 経過により異なる 糖尿病角膜症 角膜表面が障害され、知覚低下により傷や感染に気づきにくい。涙の分泌も減少傾向。 感染などの管理が重要 糖尿病黄斑浮腫 網膜の中心「黄斑」にむくみが発生し、視力が低下する。 治療により改善可能 その他の合併症 屈折異常や白内障など、糖尿病により発症または悪化する眼疾患。 種類により異なる 糖尿病による失明の前兆 糖尿病網膜症の特徴として、失明の危険がある重大な疾患にもかかわらず、症状が現れにくい点が挙げられます。 高血糖が持続している場合、眼底検査で異常が見られなくても、網膜の毛細血管はすでに損傷を受け始めている場合があるのです。 とくに単純糖尿病網膜症や増殖前糖尿病網膜症では、出血や毛細血管の閉塞が進んでいても、自覚症状が出ないケースがあります。 自覚症状がないまま病状が進行して増殖糖尿病網膜症になると、新生血管や硝子体出血が起こって以下のような症状が現れます。 物が見えづらい ぼんやりと見える 視野に黒い影が見える(飛蚊症) 明暗の見え方が鈍くなる 視界に光がチカチカする 硝子体出血や網膜剥離が「黄斑」に及ぶと、視力を回復できなくなって失明に至る恐れがあります。 これらの症状が見られた場合は、速やかに眼科を受診しましょう。 また、前兆が現れる前に進行している場合もあるため、自覚症状がなくても年1回の眼科検診が推奨されます。 糖尿病による視力低下への対処法 糖尿病による視力低下を防ぐには、症状が現れる前の段階からの的確な対処が重要です。 視力障害は糖尿病の進行とともに現れる可能性があり、対処が遅れて適切な治療が行われないと、視力が大きく低下するケースがあります。 しかしながら、早期発見と治療を実施すれば重症化を防ぎ、視力の維持または改善を目指すことは可能です。 糖尿病網膜症に対する治療法は進歩しており、状態に応じた適切な対応が視力を守る鍵となります。 ここでは、視力低下への具体的な対処法を2つの側面から詳しく解説します。 早期発見と早期治療 糖尿病網膜症による視力障害を防ぐには、早期発見と早期治療が欠かせません。 米国眼科学会の報告によれば、糖尿病網膜症の患者の約90%が早期に治療を受けることで、重度の視力低下を防げるとしています。(文献1) ただし、治療の効果を期待できるのは、定期的に眼科検診を受けている場合に限られる点に留意しておきましょう。 アメリカ国立眼科研究所も、血糖コントロールと眼科での適切な治療が失明予防の鍵であると示しています。(文献2) 網膜は一度損傷を受けると元に戻すのが難しいため、治療は回復ではなく進行を抑えるのが目的になります。 したがって、異常が出る前からの検査と治療が極めて重要です。 視力回復につながる主な治療法 糖尿病網膜症による視力障害の進行を抑え、視力の維持・回復を目指す治療法には、以下のような選択肢があります。 レーザー治療 抗VEGF薬注射 硝子体手術 レーザー治療は新生血管の発生を防いだり、すでにできた血管を退縮させたりするのが目的です。 「汎網膜光凝固(はんもうまくひかりぎょうこ)」という方法では、酸素が足りない部分の細胞をレーザーで処理し、悪い血管の増えすぎを防ぎます。 視力低下前の予防的治療としても有効で、失明率を低下させる効果が期待できると考えられています。 抗VEGF薬注射は、ものを見るうえで大事な「黄斑」部分が腫れてしまう「黄斑浮腫」という症状に対する治療法です。 目の中に直接注射してむくみを沈める治療法で、見え方の改善が期待されます。 硝子体手術は、目の奥の「硝子体」からの出血やにごりを取り除き、網膜の機能改善を目的とする手術です。 糖尿病による失明を防ぐために必要なこと 糖尿病による失明を防ぐには、眼科での定期的な検査と全身の健康管理が不可欠です。 とくに、眼の自覚症状がない段階から最低でも年1回の眼底検査を受け、主治医の指示に従って治療を進めていきましょう。 定期検査によって網膜の状態を客観的に把握でき、早期の適切な治療で失明のリスクを大きく減らすことが可能です。 さらに、日頃から生活習慣病に注意し、血糖値・血圧・脂質の適切なコントロールも欠かせません。 血糖値・血圧・脂質の数値は糖尿病網膜症の発症・進行に深く関与しており、バランスのとれた健康管理が視力を守る基本となります。 糖尿病の合併症を防ぐ生活習慣病については、以下の記事も参考にしてください。 糖尿病による失明を防ぐためにも自己管理を徹底しよう 糖尿病による失明は、適切な対策により予防可能です。 糖尿病の影響から視力を守るためには、まず血糖・血圧・脂質のコントロールを徹底することが基本となります。 また、眼の自覚症状がなくても、定期的な眼科での検査も大切です。 異常を感じた際には放置せず、すぐに受診することが早期発見・早期治療につながります。 今回の記事を参考に、日常的な自己管理と定期的な検査で大切な視力を守りましょう。 リペアセルクリニックでは、糖尿病に対する再生医療にも対応しています。 公式LINEでは、無料オンライン診断を実施しているので、糖尿病治療中で視力低下や失明に関する不安を抱えている方はご相談ください。 糖尿病と失明に関するよくある質問 糖尿病網膜症の検査にはどのようなものがありますか? 糖尿病網膜症では、以下のような検査が行われます。 屈折検査 眼底検査 眼圧測定 細隙灯顕微鏡検査 糖尿病患者は網膜症と診断されていなくても、年1回の眼科受診が推奨されています。 視力低下や失明を未然に防ぐためにも、定期的に検査を受けましょう。(文献3) 糖尿病による失明は突然起こりますか? 糖尿病による視力低下や失明は通常ゆっくりと進行し、初期には自覚症状がないケースも少なくありません。 進行した網膜症が原因で硝子体出血や網膜剥離が起きると、急激な視力低下に至る場合もあるため注意が必要です。(文献4) 視力が低下すると、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼす上、患者本人のみならず家族への負担も大きくなります。 症状の有無に関わらず、定期的な眼科での検診が大切です。 参考文献 (文献1) Rodríguez A, et al. (2024). The Role of Early Detection in Preventing Vision Loss from Diabetic Retinopathy. Journal of Diabetic Complications & Medicine, 9(5), pp.1―2. (文献2) National Eye Institute「Diabetic Retinopathy」 (文献3) 国立国際医療研究センター「網膜症」 (文献4) 公益社団法人 日本眼科医会「糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療― ~運転免許証や仕事を失わないために~」
2025.06.30 -
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「糖尿病の治療を続けて数年たつが、最近目がかすむようになった」 「糖尿病網膜症があるのではないか」 「糖尿病網膜症は治るのだろうか」 糖尿病治療中の方で、このような状況になっている方も多いことでしょう。 糖尿病網膜症は合併症の1つで、進行すると視力低下や失明のリスクがあります。 完全に治すことは難しい状況ですが、早期発見早期治療により、進行を抑えることは可能です。 本記事では、糖尿病網膜症の治療について解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。 糖尿病網膜症の完治は難しいが進行の抑制は可能 糖尿病網膜症は、糖尿病による高血糖が長期間続くことで、目の網膜にある細い血管が損傷を受ける合併症の一つです。 出血やむくみ、さらには異常な新生血管の増殖を引き起こし、視力低下や最悪の場合は失明に至るケースもあります。 また、進行しても自覚症状の乏しいケースが少なくありません。 一度低下した視力を完全に回復させるのは難しいものの、定期的な眼科検診と早期の治療によって進行を食い止め、視力を保つことは可能です。 糖尿病にかかっているのであれば、糖尿病網膜症のリスクを常に意識し、適切に管理するよう心がけていきましょう。 糖尿病が原因の失明に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。 糖尿病網膜症の治療方法 糖尿病網膜症の治療は、進行の度合いや症状に応じてさまざまな選択肢があります。とくに初期段階では、適切な治療によって視力低下の抑制や合併症の予防が可能です。 ここでは、糖尿病網膜症の主な治療方法について解説します。 レーザー光凝固術 レーザー光凝固術(ひかりぎょうこじゅつ)とは、糖尿病網膜症の進行を抑えるために行われる治療法です。 新生血管の発生予防や退縮、黄斑のむくみ抑制を目指す治療で、主に以下の3種類があります。 直接光凝固 格子状網膜光凝固 汎網膜凝固 直接光凝固は、新生血管や毛細血管瘤の病変そのものにレーザーを当て焼き固める方法です。出血や浮腫の進行を止めたり、新たな出血を予防したりするために利用されます。 格子状網膜光凝固は、網膜のむくみに対して格子状にレーザーを照射する方法です。むくんだ部分の水分を吸収させて黄斑の腫れを軽減したり、視力低下の進行を抑えたりなどに効果が期待できます。 汎網膜凝固は、網膜全体にレーザーを施すことで新生血管の発生を抑制するのが特徴です。酸素不足によってできる新生血管の減少・抑制を目的としています。 抗VEGF治療 抗VEGF治療は、黄斑のむくみや新生血管の発生に関与するVEGF(血管内皮増殖因子)の作用を抑制する治療法です。抗VEGF薬を眼球内に注射し、視力低下やモノのゆがみといった症状の抑制を目指します。 注射は外来で短時間で終了し、初回の注射後は経過を観察しながら追加治療が行われるのが一般的です。 ただし、硝子体注射の傷口から細菌が入り込むと「眼内炎」という感染症を起こすリスクがあります。 頻度はまれではあるものの、重篤な視力障害を引き起こす可能性があるため、硝子体注射前後の抗生剤点眼や消毒などを行う必要があります。 硝子体手術 硝子体手術は糖尿病網膜症が進行し、網膜剥離や硝子体出血が生じた際に行われる外科的治療法です。 硝子体とは水晶体と網膜の間にある透明な組織で、コラーゲン繊維と水から構成されています。 手術によって出血や混濁を起こした硝子体を取り除き、視力の回復や網膜の機能維持を目指します。 レーザー治療が無効だったケースや、重度の合併症がある場合に適応されるのが一般的です。 広く利用されている手術方法ですが、顕微鏡下での細かい操作が必要など高度なレベルの手術となるほか、合併症が起こるケースがあります。 糖尿病網膜症の分類 糖尿病網膜症は進行度に応じていくつかの段階に分類されており、治療方針や予後の見通しも段階ごとに異なります。 初期にはほとんど自覚症状がない場合が多いものの、進行すると視力の低下や失明の危険性も高まるため、各段階の特徴を正しく理解しておきましょう。 ここでは、糖尿病網膜症の代表的な3つの分類について解説します。 単純糖尿病網膜症 単純糖尿病網膜症は、網膜の毛細血管が高血糖の影響でもろくなり、小さな出血や毛細血管瘤が生じる初期段階の病態です。 血管からタンパク質や脂肪が漏れ出し、硬性白斑(白い斑点)として網膜に沈着するケースもあります。 また、自覚症状はほとんどなく、気づかないうちに進行するケースも少なくありません。 ただし、血糖コントロールを適切に行えば、症状の進行を防ぐことが可能な段階です。 詳しい網膜の状態を調べるべく眼底の血管造影検査を行う場合もありますが、進行を防ぐためには早期発見と生活習慣の見直しが重要となります。 増殖前糖尿病網膜症 増殖前糖尿病網膜症は毛細血管の障害が進行し、広範囲にわたって血流が途絶える状態です。 網膜に酸素や栄養が届かなくなると体が新たな血管を作ろうと反応しますが、この過程で神経のむくみや静脈の拡張が生じます。 視界のかすみやぼやけといった自覚症状が現れる場合もありますが、無症状のケースも少なくありません。 治療方法は、網膜光凝固術を採用するのが一般的です。 増殖糖尿病網膜症 増殖糖尿病網膜症は、糖尿病網膜症が進行したもっとも重症な段階です。 新生血管が網膜や硝子体に向かって伸びてきますが、新生血管は非常にもろく、破れると硝子体出血を引き起こす恐れがあります。 結果、飛蚊症や急激な視力低下が生じるケースがあるほか、網膜表面に「増殖膜」と呼ばれる膜ができて網膜剥離を引き起こす場合もあります。 また、年齢が若いほど進行が早いとされており、注意しなければなりません。 糖尿病網膜症が進行した段階では手術が必要となりますが、手術が成功しても視力が日常生活に支障がないレベルまで回復しないことがあります。 視力を保つために必要な自己管理 糖尿病網膜症による視力低下を防ぐためには医療機関での治療だけでなく、日常生活における自己管理が重要な役割を果たします。 血糖・血圧・脂質のコントロールに加えて定期的に眼科を受診し、重症化の予防と早期発見につなげていくことが大切です。 では、視力を維持するために実践すべき自己管理のポイントを詳しく見ていきましょう。 血糖・血圧・脂質の管理を徹底する 糖尿病網膜症の発症や進行を抑えるには、血糖・血圧・脂質の3つの項目をバランスよく管理することが重要です。 とくに、血糖コントロールの目安であるヘモグロビンA1cを7%未満に保つように推奨されています。 また、高血圧はとくに収縮期血圧との関連が深く、進行リスクを高める因子です。 さらに、脂質異常症の適切な治療も網膜症の進行抑制に良好な影響を与えるとされています。 血糖値だけでなく、血圧や脂質の管理にも注力しながら視力を保つように自己管理を徹底しましょう。(文献1) 定期的に眼科を受診する 糖尿病網膜症の早期発見と進行防止には、定期的な眼科受診が欠かせません。 2型糖尿病患者の約30%は、診断時すでに網膜症を発症しているという報告があり、耐糖能異常の段階でも網膜症が認められる場合があります。 したがって、2型糖尿病と診断されたら直ちに眼科を受診することが重要ですが、受診頻度としては以下が目安です。 網膜症がない場合:年1回 単純網膜症:6カ月ごと 増殖前糖尿病網膜症:2カ月ごと 増殖期糖尿病網膜症:月1回の検査 (文献2) ただし、上記はあくまで目安です。 患者によって病態や症状は異なるため、実際の受診頻度は眼科医の判断に従いましょう。 まとめ|糖尿病網膜症のポイントは早期発見と継続治療 糖尿病網膜症は、重症化すると視力の著しい低下や失明を招く恐れのある重大な合併症です。しかしながら、早期に発見し適切な治療を行えば、進行を抑えながら視力を保つ効果が期待できます。 糖尿病と診断された段階から定期的に眼科を受診し、状態を継続的に管理していくことが重要です。 また、血糖値に加えて血圧や脂質のコントロールも、進行予防において欠かせません。日々の生活習慣を見直しながら、継続的な治療と管理を徹底していきましょう。 リペアセルクリニックでは、糖尿病に対する再生医療にも対応しています。 公式LINEでは、無料オンライン診断を実施しているので、糖尿病でお悩みの方は一度ご相談ください。 糖尿病網膜症に関するよくある質問 糖尿病患者の失明率はどのくらいですか? 公益社団法人日本眼科医会によれば、糖尿病網膜症が重症化して失明に至る、あるいは失明の危機にある糖尿病患者は全体の約20%と報告されています。(文献3) 糖尿病における眼の合併症がいかに深刻であるかを示しており、失明を防ぐためには血糖・血圧・脂質の適切な管理と、定期的な眼科受診による早期発見と治療が重要です。 糖尿病網膜症は失明原因の何位ですか? 2019年に岡山大学学術研究院が行った全国調査によると、糖尿病網膜症は視覚障害の原因として第3位に位置づけられています。(文献4) なお、第1位は緑内障、第2位は網膜色素変性症です。 視覚障害と失明は完全に同義ではありませんが、糖尿病網膜症は視力障害や失明と密接に関連します。 進行を防ぐためには早期発見と継続的な治療が重要であり、定期的な眼科受診が欠かせません。 参考文献 (文献1) 一般社団法人日本糖尿病学会「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」 https://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66 (最終アクセス:2025年6月23日) (文献2) 日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1 版)」 https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/diabetic_retinopathy.pdf (最終アクセス:2025年6月23日) (文献3) 公益社団法人日本眼科医会「糖尿病で失明しないために」 https://www.gankaikai.or.jp/health/35/index.html (最終アクセス:2025年6月23日) (文献4) 岡山大学「視覚障害の原因疾患の全国調査:第1位の緑内障の割合が40%超〜2018年の視覚障害認定基準改正の影響が判明〜」 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1082.html?utm_source=chatgpt.com (最終アクセス:2025年6月23日)
2025.06.30 -
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「血液のがん」と聞いて、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。 目に見える腫瘍を形成せず症状が分かりづらいため、正しい理解と早期発見が極めて重要です。 本記事では、血液がんの基礎知識から種類別の特徴・原因・症状・治療法、さらには生存率や罹患割合といったデータまで、信頼性の高い情報に基づいて詳しく解説します。 血液がんと診断された方やご家族の不安を少しでも軽減したい方は、参考にしてください。 血液がんの種類一覧表 血液がんの主な種類と症状を表にまとめました。 それぞれの発症する原因や症状、治療については種類をクリックして詳細をご覧ください。 血液がんの種類 主な症状 白血病 発熱・倦怠感・出血・感染症・リンパ節の腫れ 悪性リンパ腫 発熱・倦怠感・寝汗・体重減少・リンパ節の腫れ 多発性骨髄腫 骨の痛み・腰痛・免疫機能の低下・貧血・高カルシウム血症 白血病とは 白血病とは、血液をつくる細胞に異常が起こり、正常な血液が作れなくなる病気です。 本来なら、血液のもとになる細胞(造血幹細胞)は成長して赤血球や白血球などになりますが、白血病ではその細胞が異常なまま増え続けてしまいます。 その結果、体に必要な正常な血液が足りなくなり、貧血や感染にかかりやすくなるなど、さまざまな症状があらわれます。 白血病は、以下のように急性・慢性に分類されています。 急性骨髄性白血病(AML) 急性リンパ性白血病(ALL) 慢性骨髄性白血病(CML) 慢性リンパ性白血病(CLL) 白血病の原因 白血病の原因は未だ完全には解明されておらず、明確な原因を特定できないケースが一般的です。 たとえば、以下のような多因子が関与しているとされています。 放射線やベンゼンなどの化学物質への長期曝露 遺伝的要因や先天性疾患(ダウン症など) がん化の引き金となる染色体異常 既存の血液疾患 これらの要因が複合的に作用し、造血細胞ががん化すると考えられています。 白血病の症状 白血病では、がん化した未熟な血液細胞が正常な働きを阻害し、さまざまな症状が現れます。 血液をつくる働きが弱まる「造血障害」、がん細胞が他の臓器に広がる「臓器浸潤」、そして体全体に影響する「全身症状」の3つに分けてご紹介します。 <造血障害による症状> 貧血症状:赤血球減少による疲労感・息切・顔色不良・倦怠感・めまい・動悸 出血傾向:血小板減少による、あざや鼻血、歯茎出血 免疫低下:正常な白血球が不足による、発熱・咳・口内炎・感染症 <臓器浸潤による症状> 肝臓・脾臓・リンパ節が腫大 中枢神経(脳・脊髄)や皮膚への浸潤で関連症状(頭痛、神経症状、皮疹など) 播種性血管内凝固症候群を合併して出血 <全身症状> 発熱、倦怠感、体重減少、食欲不振、不明熱 上記のような症状があるケースでは、血液検査や骨髄検査によって白血病かどうかを医師が診断します。 白血病の治療 白血病の治療法は種類や病期などさまざまな要因で異なり、複数の治療アプローチの検討が必要です。 以下に代表的な治療法の特徴をまとめました。 化学療法 急性白血病の標準治療。抗がん剤を計画的に投与します。 分子標的療法 慢性骨髄性白血病には、がん細胞の増殖を抑える薬(イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬)が使われます。 造血幹細胞移植 再発リスクが高い型や完全寛解に至らない場合、ドナーからの同種移植が検討されます。(年齢・体力・適合性を総合判断) 治療方針は、以下の内容に応じて専門医が判断します。 病型 リスク分類 患者の全身状態 年齢 合併症の有無 遺伝子異常の有無 急性の白血病の場合は、速やかな集中治療が必要です。 慢性白血病は、長期管理と治療開始のタイミングの調整がポイントになります。 悪性リンパ腫とは 悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球ががん化し、リンパ節や全身の臓器に腫瘤を形成する血液がんの一種です。 なかでも、リンパ球が異常に増える「非ホジキンリンパ腫」は悪性リンパ腫の約90%を占め、とくに高齢者に多く見られます。 リンパ節にしこりができる「ホジキンリンパ腫」は、若年層にも発症しやすい傾向があります。 悪性リンパ腫の原因 悪性リンパ腫は、リンパ球という血液の細胞に遺伝子の異常が起こり、リンパ球が死なずに増えすぎてしまうのが発症の原因です。 歳をとったり、体に炎症が長く続いたり、放射線をたくさん浴びたりすると、異常が起きやすくなるケースがあります。 また、以下のような特定のウイルスや菌に感染することで発症する場合もあります。 HTLV-1 ピロリ菌 また、免疫力が弱い人や自己免疫の病気がある人もなりやすく、悪性リンパ腫にかかる可能性が高まるとされています。 悪性リンパ腫の症状 悪性リンパ腫では、はじめに「痛みのないしこり」が体にできるのが特徴です。 とくに、以下の部分にしこりができます。 首 わきの下 足のつけ根 また、病気が進んでくると、以下のような症状も現れます。 38度以上の熱が続く 体がだるくなる 食べているのに体重が減る 夜にたくさん汗をかく さらに進行すると、がんが肺や気道を圧迫して息苦しさを感じたり、脳や神経に広がって手足が動かしにくくなったり、意識がぼんやりすることもあります。 また、肝臓や肺に広がった場合には、肌や目が黄色くなる黄疸(おうだん)や呼吸がしづらいといった症状が出るケースもあります。 悪性リンパ腫の治療 悪性リンパ腫は病型や病期、患者の状態、悪性度、臓器浸潤の状況などによって適した治療法が異なります。 以下に、代表的な治療法をまとめました。 化学療法(標準治療) 抗がん剤を使用する、悪性リンパ腫の中心となる治療法 放射線療法 病気の広がりが少ない場合、化学療法に加えて行う放射線を利用した治療法 造血幹細胞移植 自分自身や他人から健康な血液のもとになる細胞(幹細胞)を移植する治療法 CAR-T療法(細胞療法) 患者自身の免疫細胞(T細胞)に特別な働きを持たせて、がん細胞だけを攻撃させる治療法 分子標的療法・免疫療法 薬剤の点滴などにより、がん細胞の特定の部分だけを狙って攻撃する治療法 支持療法 吐き気をおさえたり、感染症を防いだりするための予防的治療法 上記の治療法を状態に合わせて選択し、さまざまな治療法も組み合わせながらトータルで治療戦略を採ることが重要です。 多発性骨髄腫とは 多発性骨髄腫は、体の中で抗体(ばい菌から体を守る物質)を作る「形質細胞」が、がん化して増えてしまう血液のがんの一つです。 がん化した細胞が「Mタンパク」と呼ばれる異常なタンパク質をたくさん作り、正常な血液の働きを邪魔するようになります。 多発性骨髄腫の原因 多発性骨髄腫のはっきりした原因は、まだよくわかっておりません。 形質細胞の中で遺伝子に異常が起こったり、染色体(細胞の中にある遺伝情報)が入れ替わったりすることで発症すると考えられています。 また、放射線や化学物質などに長くさらされると、発症するリスクが高くなります。 多発性骨髄腫の症状 病気が進むと、以下のような症状が現れます。 貧血:赤血球が減って体がだるくなったり、息切れや動悸がしたりする 骨のトラブル:背中や腰の骨が弱くなり、痛みが出たり、骨折したりする 腎臓の障害:異常なタンパク質が腎臓にダメージを与えて、腎臓の働きが悪くなる カルシウムの異常:血液中のカルシウムが増えすぎて、のどが渇きや便秘、吐き気、ひどいときは意識がもうろうとする 病気かどうかは、血液検査や骨の検査などで医師が診断します。 骨の痛みや腎臓の障害は日常生活に大きな影響を与えるため、早めに見つけて治療を始めることが重要です。 多発性骨髄腫の治療 多発性骨髄腫は、さまざまなタイプのがん細胞が体の中に広がる性質があります。 ひとつの治療だけではなく、いくつかの方法を組み合わせてコントロールしていくことが大切です。 ここでは、代表的な治療法を紹介します。 経過観察 症状がなく内臓などに影響が出ていない初期の段階では、しばらく様子を見る場合があります。 化学療法 初期治療や再発時に用いられる抗がん剤治療です。 症状緩和療法 骨がもろくなって痛みが出る骨病変や貧血になった場合は、症状を緩和する薬物療法や輸血治療を行います。 薬物療法 患者の状態に合わせて、免疫を調整する薬やがん細胞を分解する働きのある薬を組み合わせます。 自家末梢血幹細胞移植 65歳以下または臓器機能が良好な患者に対し、生存期間の延長を目指す治療法です。いったん自分の血液のもとになる細胞を取り出して保存しておき、治療のあとに細胞を戻します。 QOL支援を含む維持療法 薬の量をコントロールしながら、生活の質を保つケアを行う治療法です。 新規治療・臨床試験 再発すると治りにくいタイプの骨髄腫に対する新薬開発など、新しい治療法の研究も進んでいます。 多発性骨髄腫は無症候の早期段階では経過観察が基本ですが、症状や臓器障害が現れた場合は薬物療法、もしくは必要に応じて移植を併用します。 【種類別】血液がんの余命・生存率 血液がんの種類別の5年相対生存率から余命を見てみましょう。 国立研究開発法人国立がん研究センターの「最新がん統計」(文献1)によると、以下の通りとなっています。 血液がんの種類 男性の5年相対生存率 女性の5年相対生存率 白血病 43.4% 44.9% 悪性リンパ腫 66.4% 68.6% 多発性骨髄腫 41.9% 43.6% ただし、上記はあくまでデータ上の統計です。 白血病は進行が早い病型もあり、治療を受けない場合には急速に悪化するケースもあります。(文献2) また、100種類以上の病型がある悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、数年単位で進行する病型から数日で進行する悪性度の高い病型まで、患者によって再発率や予後はさまざまです。(文献3)(文献4) まとめ|血液がんの種類別の違いを知っておこう 血液がんは、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫といった複数の疾患を含む総称であり、それぞれに異なる特徴・原因・症状・治療法があります。 現代の標準治療と新規療法の組み合わせにより、長期生存や生活の質の維持が可能となってきていますが、なにより速やかな診断と早期の治療開始が大切です。 当院「リペアセルクリニック」では、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。 再生医療について疑問があれば、お気軽にご相談ください。 血液がんの種類に関するよくある質問 血液がんの種類別の罹患割合は? 国立がん研究センターの統計によれば、全がんに占める血液がんの罹患割合は約7~8%程度です。 白血病は約1.8%、悪性リンパ腫は約4.2%、多発性骨髄腫は約1.0%と報告されています。(文献1) 血液がんで珍しい種類は? 慢性骨髄性白血病(CML)は、日本では年間10万人あたり約1.5人と罹患率が低く、白血病全体の約20%に留まる希少ながんです。 初期は無症状の例が多く、健康診断などで偶然発見されるケースが約85%を占め、自覚症状が乏しいことで知られています。(文献5) 血液がんの初期症状は種類によって違う? 血液がんの初期症状は、種類によって以下のような特徴があります。 急性白血病:発熱・倦怠感・出血傾向といった全身症状が急速に出現するケースが多い リンパ腫:痛みを伴わないリンパ節腫脹が初期に現れ、B症状(発熱・体重減少・夜間発汗)が見られる 多発性骨髄腫:初期は無症状が多く、進行すると骨痛や貧血、高カルシウム血症が出ることがある 種類ごとの症状の違いに着目し、気になる症状があれば早めに医療機関で専門医に相談しましょう。 高齢者が発症しやすい血液がんは? 多発性骨髄腫は、高齢者に多く見られる血液がんです。 骨髄中の形質細胞ががん化して骨折・貧血・腎障害などを引き起こしやすく、高齢者では発症率と重症化のリスクが高まる傾向があるとされています。(文献6) 血液のがんと言われたら、どうしたらいい? 血液がんの診断を受けたら、まず血液内科専門医による正確な診断と病期評価(血液検査、画像検査、生検など)を受けてください。 その上で、治療方針(化学療法・免疫療法・移植・支持療法など)を専門医と相談し決定しましょう。 また、治療中や治療後も定期的なフォローアップと生活支援体制の整った医療機関で継続的にケアを受けることが大切です。 正確な情報を得ながら、自分に合った治療や支援体制を整えていきましょう。 参考文献 (文献1) 国立研究開発法人国立がん研究センター「最新がん統計」 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年6月17日) (文献2) ユビー病気のQ&A「急性骨髄性白血病の場合、治療した時と治療しなかった時の予後はどうなりますか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/p_nryf-eta(最終アクセス:2025年6月17日) (文献3) ユビー病気のQ&A「寛解後の再発率や余命は(生存率)はどのくらいですか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/29ntt-g_47(最終アクセス:2025年6月17日) (文献4) ユビー病気のQ&A「多発性骨髄腫の余命はどれくらいですか?」 https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/8ob0jwqk3bv(最終アクセス:2025年6月17日) (文献5) 順天堂大学医学部附属順天堂医院血液內科「慢性骨髄性白血病」 https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/ketsuekinaika/disease/disease07.html(最終アクセス:2025年6月17日) (文献6) 国立がん研究センター「多発性骨髄腫の原因・症状について」 https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/multiplemyeloma/001/index.html(最終アクセス:2025年6月17日)
2025.06.30 -
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尿毒症は腎機能が著しく低下することで起こる深刻な病態です。 「症状に気づいたときには既に進行していた」というケースも多く、早期の発見と適切な対応が重要になります。 本記事では、尿毒症の基本知識から症状の見分け方、治療法、日常生活でできる予防策までわかりやすく解説します。 腎機能に不安をお持ちの方やご家族の方は、ぜひ参考にしてください。 尿毒症とは?腎機能低下で起こる危険な状態 尿毒症とは、腎機能が著しく低下した危険な状態です。通常であれば尿として排出されるはずの老廃物や毒素が体内に蓄積され、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。 尿毒症の症状は多岐にわたり、意識障害や呼吸困難、心不全など重篤なものも含まれます。 腎機能の低下が進行する中で異常に気づかず放置した場合、命に関わるリスクも高まるため、早期に対応することが極めて重要です。 尿毒症の原因 尿毒症の主な原因には、以下のような疾患があります。 慢性腎臓病 糖尿病性腎症 高血圧性腎障害 急性腎障害 長期の薬剤使用 疾患が進行すると腎臓への血流が低下し、糸球体(腎臓で血液をろ過する小さな毛細血管の束)と呼ばれるろ過装置が損傷され、老廃物の排出能力が低下していきます。 腎臓の損傷は通常、時間をかけて徐々に進行しますが、気づいたときには重度の腎不全に至っているケースも少なくありません。 上記の疾患や状況によって腎機能が損なわれると、尿毒症の発症リスクが高まります。 日頃から生活習慣病を適切に管理し、尿毒症の予防につなげていきましょう。 尿毒症の症状 ここでは、尿毒症の症状と初期と末期にわけてそれぞれ解説します。 初期症状 尿毒症は症状が現れずに進行することが多いため、初期段階での体調の変化を見逃さないことが大切です。 とくに、以下のようなサインに注意しましょう。 全身の倦怠感 食欲の低下 吐き気や嘔吐 頭痛や集中力の低下 皮膚のかゆみ これらの症状は、一般的な体調不良と区別がつきにくいのが難点です。 慢性的に続く場合や複数が重なる場合には、腎機能の検査を受けましょう。 末期症状 尿毒症が進行して末期になると、体内に蓄積した毒素が神経系へ影響を及ぼし、錯乱やけいれん、昏睡などの神経症状が現れやすくなります。 また、腎機能の低下により体内の水分バランスが崩れ、体液が過剰に貯留する恐れもあります。 結果として、肺に水がたまる「肺水腫」が発生して呼吸困難や重度のむくみを伴うと、緊急の治療が必要なケースもあるため注意が必要です。 尿毒症の診断基準 尿毒症の診断には、腎機能の指標となる血液検査の数値が重要です。とくに、以下の項目が基準として用いられます。 血清クレアチニン値 筋肉から出る老廃物の血液中の濃度 正常値:男性0.65~1.07mg/dL、女性0.46~0.79mg/dL 血中尿素窒素 タンパク質が分解された時に出る老廃物の血液中の濃度 正常値:8~20mg/dL eGFR 腎臓のろ過能力を数値化したもの 60未満で慢性腎臓病、15未満で透析が必要な段階 上記の値が異常で、かつ自覚症状が認められる場合に尿毒症と診断されます。 血清クレアチニン値と血中尿素窒素の値が上昇し、eGFRが大きく低下しているときには、腎機能が著しく低下している状態です。 さらに、症状の評価には神経症状や消化器症状、呼吸器症状などの有無も考慮され、総合的な診断が行われます。 とくに、eGFR(推定糸球体ろ過量)は腎機能の評価において重要な指標の一つです。 病期の診断と食事・運動療法の決定に用いられており、eGFRが30mL/分/1.73m²未満(正常値の約30%未満)の場合は活動制限が厳しくなります。(文献1) 尿毒症の治療方法 尿毒症の治療は、腎機能のさらなる悪化を防ぎつつ、体内に蓄積した毒素を除去するのが目的です。 では、詳しく見ていきましょう。 生活習慣の改善 尿毒症の進行を抑えるには、日常生活の中で腎臓にかかる負担を減らす工夫が欠かせません。 具体的には、以下のような生活習慣の見直しが推奨されます。 適切な水分摂取 脱水を防ぎ、腎臓のろ過機能を維持するために重要です。ただし、心不全やむくみがある場合は医師の指示に従いましょう。 有酸素運動の継続 軽度の運動は血圧と血糖のコントロールに寄与し、腎機能の維持を促進します。 禁煙・節酒 腎血流への悪影響を避けるため、喫煙と過度な飲酒は避けるべきです。 体重管理 肥満は腎臓に余分な負担をかけるため、適正体重の維持が求められます。 これらの生活習慣は、腎機能の維持や尿毒症の進行予防に大きな関連性があります。 継続的に実践し、長期的な健康維持につなげていきましょう。 食事療法 尿毒症の進行を抑えるうえで、食事療法は極めて重要な役割を果たします。 腎臓の負担を軽減するため、以下のような食事管理が基本です。 たんぱく質の制限 過剰なたんぱく質摂取は老廃物を増やすため、適量を守る必要があります。 塩分の制限 高血圧を悪化させると腎機能を低下させる要因となるため、1日6g未満が推奨されます。(文献2) カリウムとリンの管理 血中濃度のバランスが崩れると不整脈や骨疾患を引き起こすため、野菜や乳製品などの摂取量に注意が必要です。 たとえば、納豆はカリウムやリンを多く含むため、腎機能が低下している方は医師の指導に従って摂取量を調整する必要があります。 薬物療法 尿毒症の治療において、薬物療法は症状の緩和や合併症の予防に役立ちます。 腎機能の低下にともって多様な身体機能に障害が現れるため、それぞれの症状に対応した薬剤の使用が必要です。主に、以下のような薬が用いられます。 高カリウム血症に対する薬 ポリスチレンスルホン酸カルシウムなどのカリウム排泄促進剤 高リン血症対策 リン吸着薬(セベラマーなど)により血中リン濃度を調整 貧血治療 エリスロポエチン製剤や鉄剤 代謝性アシドーシス補正 炭酸水素ナトリウムの投与で血液のpHを正常化 浮腫や高血圧への対応 利尿薬や降圧薬の併用 薬剤は症状の進行を抑えるほか、透析導入までの期間を延ばす目的でも使用されます。 ただし、腎機能に応じた適正な用量調整が必要であり、医師の管理のもとでの投与が不可欠です。 透析 腎機能が著しく低下し、日常生活に支障をきたす状態になると、透析療法の導入が検討されます。 透析には主に以下2つの方法があります。(文献3) 血液透析(HD) 週2~3回、1回4時間程度の頻度。血液を体外に取り出し、人工膜を使って老廃物や余分な水分を除去 腹膜透析(PD) 自宅で行える方法。腹腔内に透析液を注入し、腹膜を介して老廃物を交換 なお、透析の導入時期はeGFRが10未満、もしくは以下のような症状が見られたときが目安となります。 食欲不振や体重減少 高度なむくみや息切れ 神経症状(混乱、けいれんなど) 透析は腎臓の代替手段であり、尿毒症の進行による命に関わる症状を回避するために不可欠な治療法です。 患者の生活スタイルや身体状態に応じて、医師と相談しながら選択しましょう。 尿毒症を予防するための早期発見ポイント 尿毒症は腎機能が著しく低下して顕在化する病態ですが、実際には初期段階で体のさまざまな部位に兆候が現れるケースがあります。 以下のような日常生活の中で感じるわずかな変化にも注意を払い、腎機能の健康を保つための第一歩としましょう。 むくみ(浮腫)が起こっていないか 腎機能が低下すると、体内の余分な水分を十分に排出できなくなり、手足や顔、足首まわりにむくみが現れる場合があります。 靴下の跡がいつまでも残る、指で押すとへこみが戻りにくいなどの症状は、浮腫の典型的なサインです。 むくみが日常的に見られるなら、腎機能の検査を受けましょう。 尿量が低下していないか 腎臓の機能が低下すると尿を十分に作れなくなり、1日の尿量が減少する場合があります。 排尿の回数が減る、トイレに行っても少量しか出ないといった変化は、体内に老廃物や水分が蓄積されている状態かもしれません。 そのまま放置すると尿毒素の濃度が上昇して尿毒症のリスクが高まるため、日常的に排尿量を意識することが大切です。 夜間尿が頻繁になっていないか 夜間に何度も目が覚めてトイレに行くようになった場合、腎機能の低下による尿濃縮能力の低下が考えられます。 通常、夜間は尿量が少なくなりますが、腎臓の働きが悪くなるとこの調節ができず、頻繁に排尿したくなるのです。 高齢者に見られやすい症状ではありますが、腎疾患の初期症状としても重要であり、回数が増えていると感じたら検査を受けましょう。 頻尿が増えていないか 日中にトイレに行く回数が明らかに増えたなら、腎機能の異常が疑われます。 腎臓が適切に尿を濃縮・調整できなくなると尿量が増えたり、排尿の感覚が不安定になったりするので注視しましょう。 一般的に、日中8回以上を頻尿とすることが多いですが(文献4)、個人差があるため一概に1日に何回以上の排尿回数が異常とはいえません。(文献5) 急な尿意が増加している場合は、腎機能検査を受けるきっかけとして捉えるべきです。 体にだるさがないか 倦怠感や体の重さは、尿毒症の初期段階で現れる代表的な全身症状です。 腎機能が低下すると老廃物の排出が不十分となり、血液中に毒素が蓄積されて体の代謝が乱れ、疲労感が強くなります。 十分に休息をとっても改善しないだるさが続くなら、単なる疲労ではなく腎機能低下のサインかもしれません。 貧血になっていないか 腎臓は赤血球をつくるホルモンを分泌する役割を持っています。 腎機能が低下するとホルモンが不足し、腎性貧血(腎臓から分泌されるホルモン不足による貧血)を引き起こすことがあるのです。 息切れや動悸、顔色の悪さ、疲れやすさといった症状が見られる場合は、貧血の有無を確認するためにも受診しましょう。 体がかゆくないか 腎機能の低下によって体内に尿毒素が蓄積すると、皮膚に刺激を与えて原因不明のかゆみを引き起こすケースがあります。 とくに背中や腕、下肢にかゆみを感じる場合、乾燥とは異なる内部要因が関与しているかもしれません。 皮膚の症状は見落とされがちですが、腎機能の異常を示すシグナルになるため、持続的なかゆみには注意が必要です。 まとめ|腎機能の保護を意識した生活を心がけましょう 尿毒症は、腎機能が著しく低下して全身に深刻な影響を及ぼす疾患です。 原因となる慢性腎臓病や糖尿病、高血圧の適切な管理、そして日常生活における食事や運動、水分摂取の見直しが尿毒症の予防に役立つ可能性があります。 倦怠感・むくみ・排尿の変化など、初期のサインを見逃さず、早期に医療機関を受診することが重要です。 腎臓を守る意識を持ち、日々の生活を丁寧に過ごしていきましょう。 当院「リペアセルクリニック」では、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。 再生医療について疑問があれば、お気軽にご相談ください。 尿毒症に関するよくある質問 ここでは、尿毒症に関して多くの方が抱く疑問に対して回答しています。 正しい知識を得て、早期対応や適切な治療選択に役立ててください。 尿毒症は余命に関わりますか? 尿毒症は、進行すると生命に関わる重大な状態に陥る可能性があります。 腎臓が老廃物を排出できなくなると体内に毒素が蓄積し、脳や心臓を含む重要な臓器に影響を及ぼすのです。 そのまま放置すれば、命に直結する危険性がある点に留意しておきましょう。 高齢者が尿毒症になった場合の注意点は? 高齢者が尿毒症を発症するケースでは、脱水や感染症に対する抵抗力の低下、認知機能の変化など特有のリスクが存在します。 体の水分量や電解質バランスの調整が難しくなりやすいため、透析治療や薬物療法の管理に注意が必要です。 また、高齢者は自覚症状が出にくく、発見が遅れることも少なくありません。 定期的な血液検査と家族の観察が重要であり、医療スタッフと密に連携しながらきめ細やかな対応が求められます。 尿毒症は治りますか? 尿毒症自体は進行性の腎不全の結果として生じるため、完治が難しい面があります。 ただし、早期の治療開始により、症状の進行を抑える効果は期待できます。 とくに、糖尿病や高血圧などの原因となる疾患の適切な管理が重要です。 また、透析や薬物療法で体内の毒素を除去すれば、日常生活への影響を軽減できる場合があります 尿毒症は苦しさを感じますか? 尿毒症の症状には、頭痛・吐き気・倦怠感・呼吸困難・意識障害などがありますが、苦しさの感じ方は患者によって異なるため一概にはいえません。 一般的に、進行するにつれて体調の悪化を強く感じるようになります。 とくに末期になると、神経症状や肺水腫による呼吸困難などが出現し、生活の質が著しく低下します。 尿毒症は苦しさを伴う疾患と認識したうえで、早期に対応していきましょう。 尿毒症と糖尿病に関連性はありますか? 糖尿病は、尿毒症を引き起こす一般的な原因の一つです。 長期間にわたって血糖コントロールが不十分な状態が続くと、腎臓の血管が損傷を受けて「糖尿病性腎症」を発症します。 疾患が進行すると腎機能が著しく低下し、最終的に尿毒症に至るケースがあるため注意が必要です。 犬や猫が尿毒症になる原因・症状は? 一般的な獣医学的知見に基づくと、犬や猫も人間と同様に腎機能が低下すると尿毒症を発症する場合があります。(文献6) 犬は慢性腎不全や中毒性物質の摂取が原因となるケースがあり、症状としては食欲不振、元気消失、嘔吐、口臭などが見られます。 猫の場合は慢性腎臓病が主な原因で、進行すると脱水、体重減少、貧血、痙攣などが現れます。 治療には食事療法や輸液、投薬などが行われますが、やはり早期発見が重篤化を防ぐ鍵です。 参考文献 (文献1) 日本腎臓学会「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」 https://jsn.or.jp/jsn_new/iryou/free/kousei/pdf/39_1.pdf (最終アクセス:2025年6月13日) (文献2) 日本高血圧学会「減塩・栄養委員会」 https://www.jpnsh.jp/com_salt.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献3) 国立循環器病研究センター「腎不全」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/renal-failure/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「頻尿の原因は?」 https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/23.html(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) 日本排尿機能学会「尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~」 https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年6月13日) (文献6) 動物医療センター赤坂「犬と猫の慢性腎臓病」 https://amc-akasaka.com/clinicalcases.php?eid=00007(最終アクセス:2025年6月13日)
2025.06.30 -
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鉄剤を飲んでも胃がムカムカする、なかなか効いている実感がないと感じていませんか。そんな悩みを抱える貧血の方には、体への負担を抑えながら効率的に鉄分を補える「点滴治療」が選ばれるケースもあります。 本記事では、貧血に対する点滴治療の内容やメリット、受けられる条件、服薬との違いまでをわかりやすく解説します。 貧血の点滴とは 貧血の点滴は、主に鉄欠乏性貧血に対して行われる治療法です。食事療法や内服薬だけでは思うように数値が上がらない時や、胃腸が弱くて鉄剤が飲みにくい時などに選択されます。 点滴治療の良いところは、何といっても効率の良さです。口から摂る鉄分は胃腸での吸収に時間がかかりますが、点滴なら血管に直接投与するので、短期間でしっかりと鉄分を体に届けられます。 内服薬で胃もたれや消化器症状を起こしやすい人にとっても、体への負担が少ない治療方法と言えるでしょう。 貧血の点滴の種類 鉄分が不足している場合、食事や飲み薬だけでは改善が難しい場合があります。 そのようなときに用いられるのが「鉄剤の点滴」です。胃腸障害がある方や、内服で効果が出にくい方に有効とされています。 ここでは、現在よく使われている2種類の鉄剤点滴「フェインジェクト」と「モノヴァー」について、それぞれの特徴やメリット・注意点をご紹介します。 フェインジェクト フェインジェクトは、高濃度の鉄を含む比較的新しいタイプの静脈注射薬で、1回の点滴で500mg(週1回)、最大3回(3週間)で合計1,500mgまで鉄分を補給できるのが特長です。(文献1)従来の鉄剤に比べて副作用が少なく、鉄欠乏性貧血の改善を短期間で目指せます。 項目 詳細 投与量・スケジュール 1回500mg、週1回投与、最大3回(3週間)で合計1,500mgまで 投与時間 希釈なし:5分以上で血管内注射 希釈あり:6分以上で点滴 通院回数 最大3回(週1回ペース) 適応対象 経口鉄剤が困難または不適当な場合 主な特徴 ・週1回の投与で効果が期待できる ・通院回数が少ない ・投与時間が短い (文献1) 内服薬による胃の不快感や吐き気などの副作用に悩まされていた方にも選ばれやすい治療法です。 ただし、まれに発疹や関節痛、重篤なアナフィラキシーなどの副作用が報告されているため、アレルギー歴のある方は必ず医師に伝えましょう。安全に治療を受けるためには、医師の指示に従う必要があります。 モノヴァー モノヴァーは、長年にわたり多くの医療現場で使用されている実績ある鉄剤の点滴薬です。鉄欠乏性貧血の治療において信頼性が高く、比較的安定した効果が期待できます。 項目 詳細 投与量・スケジュール 週1回1000mg(体重50kg未満は20mg/kg)を上限 または週2回500mgを上限 投与時間 週1回(1000mg):15分以上で点滴 週2回(500mg):2分以上で血管内注射 総投与量上限 2000mg(体重50kg未満は1000mg) 投与期間 最大2週間(週1回なら計2回、週2回なら計4回) 主な特徴 ・海外で長期使用実績あり(40ヵ国以上) ・慎重な経過観察が可能 ・投与方法の選択肢が多い (文献2) 鉄分の補給を内服薬ではまかないきれない場合や、経過を見ながら慎重に治療を進めたい方に向いています。 ただし、アレルギー反応(アナフィラキシー)のリスクがあるため、医師の管理のもとで慎重に使用されなければなりません。妊娠中の方には原則として使用を避ける場合もあるため、治療前に医師との十分な相談が必要です。 貧血の点滴治療が向いている人 貧血の治療ではまず鉄剤の内服が基本となりますが、体質や症状によっては点滴による治療がより適している場合もあります。 貧血の点滴治療が向いている人は以下のとおりです。 胃の不快感や吐き気、便秘などの副作用が強い人 鉄欠乏が進行していて、今すぐに鉄分を補う必要がある人 出血による急激な鉄不足がある人 胃切除や吸収不良症候群など鉄が上手く吸収できない人 医師の診断のもと、体調やライフスタイルに合わせて、最適な治療法を選びましょう。 貧血の点滴のメリット・デメリット 貧血治療において、鉄剤の点滴は内服薬に比べて早く効果を得られる方法として注目されています。 しかし、すべての人にとって最適な治療法とは限らず、メリットがある一方で注意すべきデメリットも存在します。 項目 メリット デメリット 効果・即効性 ・血管内に直接投与 ・短期間で効果実感・消化管吸収を待たない ・即効性とリスクは表裏一体 ・効果が出すぎる場合あり 副作用・安全性 ・胃腸への刺激なし ・消化器症状の心配なし ・発疹、関節痛などの軽度反応 ・まれに重篤なアレルギー反応 ・医療機関での管理必須 利便性・負担 ・通院回数が少ない ・時間的負担軽減 ・投与中の観察が必要 ・医療機関への通院必須 適用範囲 ・胃腸が弱い方も使用可能 ・重度貧血に有効 ・妊婦や基礎疾患者は要注意 ・費用負担が高い ここでは、貧血点滴の主な利点とリスクについて詳しくご紹介します。 貧血の点滴のメリット 鉄剤の点滴治療には、内服薬では得られにくい即効性といった大きなメリットがあります。経口摂取では消化管での吸収が必要ですが、点滴は鉄を直接血管内に投与するため、速やかに全身に行き渡ります。 胃腸への刺激が少ないため、鉄剤内服による胃痛・吐き気・便秘などの副作用に悩んでいる方にも使用可能です。 フェインジェクトのような高濃度鉄剤では、1回の投与で必要量をまかなえることもあり、通院回数を抑えられる点も利便性が高いポイントです。時間的な負担が少なく、短期間で効果を実感したい方にとって、点滴治療は有効な治療方法といえるでしょう。 貧血の点滴のデメリット 一方で、鉄剤の点滴には副作用のリスクが伴います。 代表的なものとしては、発疹、関節痛、吐き気などの軽度な反応から、まれにアナフィラキシーのような重篤なアレルギー反応が生じるケースも報告されています。そのため、点滴治療は医療機関での適切な管理のもとで行わなければなりません。 点滴中や直後に体調の変化がないか観察する必要があり、一定の時間が必要です。 妊婦や基礎疾患のある方など、使用に慎重を要する場合もあるため、事前に医師と十分な相談をしましょう。 即効性と引き換えにリスクも伴うため、メリットとデメリットを理解した上で治療方針を選ぶ必要があります。 貧血の点滴を受けるまでの流れ 貧血の点滴は、即効性のある治療法ですが、誰でもすぐに受けられるわけではありません。 まずは医師の診察と血液検査を受け、必要性をしっかり判断した上で、以下の流れで治療が行われます。 医療機関で血液検査をする 医師が点滴が必要か判断する 点滴をする 効果の観察 ここでは、点滴治療を希望する場合にどのようなステップを踏むのか、順を追ってわかりやすくご説明します。 1.医療機関で血液検査をする 点滴治療の前には、まず血液検査で貧血の有無とその重症度、種類を確認します。 主に調べるのはヘモグロビン(Hb)、フェリチン(体内に蓄えられた鉄の量)、血清鉄、TIBC(総鉄結合能)、MCV(赤血球の平均容積)などの項目です。 ヘモグロビンが正常値でも、フェリチンが低い「隠れ貧血」の場合もあり、健康診断では見落とされやすいため、詳しい血液検査が重要です。 検査データをもとに、鉄分が不足しているかどうか、点滴が必要かを判断します。自覚症状があまりなくても、疲れやすさや立ちくらみが続く場合は、早めの検査がおすすめです。 6月執筆予定「貧血 数値」 2.医師が点滴が必要か判断する 血液検査の結果が出たら、医師が数値と患者様の症状、体質、既往歴などをふまえて治療方針を決定します。 点滴が選ばれるのは、内服薬によって強い吐き気や胃痛などの副作用が出た場合や、重度の鉄欠乏で迅速な補正が必要な場合です。胃の切除や吸収障害などで経口鉄剤が効きにくい人も対象になります。 点滴治療には「フェインジェクト」と「モノヴァー」の2種類がありますが、どちらが適しているかは、患者様の体質や症状、治療の緊急度などを総合的に判断して医師が選びます。希望がある場合は、診察時に遠慮なく相談してみましょう。 3.点滴をする 点滴は、処置室または点滴室で医療スタッフが行います。使用する薬剤により所要時間は異なり、フェインジェクトであれば約6分、モノヴァーは15分以上かけてゆっくりと投与します。(文献3)(文献4) 点滴中はリクライニングチェアやベッドでリラックスして過ごすことが多く、初回や体調に不安がある場合は、医師がそばで様子を観察する場合もあります。副作用の予防のため、点滴後も数分〜数十分安静にして経過観察するケースが一般的です。 まれにアレルギー反応が出ることもあるため、初回はとくに注意深く見守られます。点滴当日は、できるだけ時間に余裕をもって受診すると安心です。 4.効果の観察 点滴後は、治療の効果を確認するため、一定期間ごとに再度血液検査をします。 数日から数週間後にヘモグロビン値やフェリチン値がどのように変化したかを確認し、改善が見られれば治療の効果があったと判断されます。疲労感、立ちくらみ、動悸など自覚症状の変化も大切な評価ポイントです。 必要に応じて追加の点滴をする場合や、他の治療法への切り替えを検討する場合もあります。鉄の貯蔵量が回復していない場合は、定期的な点滴が必要になるケースもあるでしょう。 無理なく通える頻度での治療の継続が、根本的な改善につながります。 貧血の点滴は医師と相談をしよう 貧血の点滴治療は、鉄分を効率よく補給できる即効性の高い方法ですが、すべての方に必要なわけではありません。内服薬が合わない方や、重度の貧血で早く改善したい方にとっては、有効な治療法となります。 ただし、点滴には副作用のリスクや費用負担も伴うため、安易に自己判断せず、必ず医師と相談した上で治療方針を決めましょう。 「疲れが取れない」「立ちくらみが続く」「動悸がする」などの症状がある場合、貧血が原因の可能性もあります。また、健康診断で異常がないと言われた場合でも、詳しい血液検査を受けると「隠れ貧血」が見つかるケースもあります。 症状の原因を明らかにするためにも、早めに医療機関を受診しましょう。貧血でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血の点滴に関するよくある質問 フェインジェクトとモノヴァーはどちらが安全? 副作用のリスクがより少ないとされているのは、比較的新しい薬剤であるフェインジェクトです。 従来のモノヴァーと比べてアレルギー反応の頻度が低いといった報告もあり、体への負担が軽減されている点が評価されています。 ただし、どちらもまれにアナフィラキシーなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、安全性は医師の判断と適切な管理のもとで点滴します。 どの点滴を使用するかは自分で選べますか? 基本的には、血液検査の結果や体調、アレルギー歴、既往症などをもとに、医師が患者様に適した薬剤を判断します。希望があれば診察時に伝えることは可能ですが、安全性や効果の面から、自己判断ではなく医師のアドバイスに従うことが大切です。 ご不安な点は、遠慮せずご当院「リペアセルクリニック」へお気軽にお問い合わせください。 貧血の点滴にかかる時間は?日帰りできる? 基本的に貧血の点滴は日帰りで受けられます。 フェインジェクトであれば6分〜、モノヴァーは15分以上かけた投与が一般的です。(文献3)(文献4)初回は副作用の確認のため、少し長めに時間を確保しておくと安心です。 貧血の点滴は保険適用ですか?料金の目安を知りたい 鉄剤の点滴は、医師が治療の必要性を認めた場合、健康保険が適用されます。 自己負担割合が3割の方であれば、血液検査も含めて点滴1回あたりの自己負担額はおおよそ3,000円〜5,000円程度になることが多いです。(文献5) ただし、使用する薬剤や医療機関によっても差があるため、事前に受付や医師へ確認するのがおすすめです。自由診療で受ける場合は全額自己負担となり、費用は大きく異なります。 参考文献 (文献1) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「フェインジェクト静注500㎎」2023年8月 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3222404A1021_1_04/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献2) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「モノヴァー静注500mg/モノヴァー静注1000mg」2022年3月 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3222404A1021_1_04/(最終アクセス:2025年6月24日) (文献3) ふくろう訪問クリニック「貧血を1回の点滴で治療できます。」2023年5月31日 https://fukurou.fukuoka.jp/column/790/(最終アクセス:2025年6月13日) (文献4) ELSEVIER「フェインジェクト静注500mg」 https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=68048(最終アクセス:2025年6月13日) (文献5) 新宿駅前クリニック「貧血」 https://www.shinjuku-cli.com/naika/service_13.html(最終アクセス:2025年6月13日)
2025.06.30 -
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「最近、疲れやすい」「立ちくらみやめまいが増えた」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。これらの症状は単なる疲労やストレスと思われがちですが、実は貧血が原因の可能性があります。 さらに、貧血の背景には胃がんや腎不全、子宮筋腫などの重大な病気が隠れている場合もあるため、軽視してはいけません。 この記事では、貧血の原因となりうる病気や症状のチェックリスト、受診の目安などを解説します。貧血の症状が気になる方は、ぜひ参考にしてください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しています。 再生医療について興味がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 貧血の原因は病気?なぜ自分が貧血になるのかを理解しよう 貧血の主な原因と、それに関連する主な病気は以下の通りです。 貧血の主な原因 主な病気・病態 栄養不足 鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血 出血 胃潰瘍・胃がん・子宮筋腫 血液を作る力の低下 再生不良性貧血・慢性腎不全・白血病 自身の貧血が病気のサインではないかと不安に感じる方は、貧血の原因を知り、日常生活での対策や医療機関での検査につなげましょう。 栄養不足が原因の貧血 栄養不足は貧血の大きな原因の一つで、不足する栄養素によって主に以下の2種類に分けられます。 種類 鉄欠乏性貧血 巨赤芽球性貧血 概要 鉄分不足により身体に酸素が行き渡りにくくなる貧血 ビタミンB12や葉酸不足で、正常な赤血球を作れなくなる貧血 主な要因 月経 妊娠・出産 胃潰瘍 痔 胃の摘出手術 偏った食事 アルコールの過剰摂取 主な症状 疲れやすさ 息切れ 顔色の不良 爪の変形(端が反る) 疲労感 しびれ ふらつき 息切れ 対策 血液検査で確認 鉄剤の内服 食生活の見直しも大切 血液検査や内視鏡検査で確認 ビタミンB12や葉酸の補給 原因が病気の場合は治療も 鉄欠乏性貧血は栄養不足が原因と考えがちですが、背景に病気が隠れている可能性があるため注意が必要です。 出血によって起こる貧血 出血は貧血の重要な原因の一つです。体内で継続的に出血が起こると、血液中の鉄分が失われ、やがて鉄欠乏性貧血を引き起こします。 とくに慢性的な出血は自覚症状が少ないことが多く、気づかないうちに貧血が進行してしまう場合があります。以下のような病気・病態では慢性的な出血が起こりやすいため注意が必要です。 項目 月経過多子宮筋腫・子宮内膜症 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 胃がん・大腸がん 主な症状 月経の出血量が多い 強い生理痛 動悸や息切れ みぞおちの痛み 胃の痛み 黒色便 倦怠感 胃の痛み 黒色便 受診すべき科 婦人科 消化器内科 消化器内科 注意ポイント 月経量が増加すると体内の鉄が不足し鉄欠乏性貧血を引き起こす場合がある 自覚症状が少なくても慢性的に出血している場合がある 初期は症状が乏しい 貧血と共に上記に該当する症状がある方は、早めに専門医に相談して血液検査や必要な検査を受けましょう。 血液をつくる働きが低下して起こる貧血 骨髄や臓器の機能低下によって赤血球が十分につくられないタイプの貧血もあります。 血液をつくる働きが低下して起こる貧血は、以下の通りです。 病気 特徴 ポイント 再生不良性貧血 骨髄が血液成分を十分に作れなくなる 赤血球・白血球・血小板の数が減少する 感染症や出血リスクが高い 早期治療が必要 白血病 血液のがんの一種 白血球が異常に増え続ける 血液のがんの一種 白血球が異常に増え続ける 多発性骨髄腫 骨髄でがん化した細胞が増える 血液の正常な機能が妨げられる骨の内部にあり血液を作る場所(骨髄)でがん化した細胞が増える 高齢者に多い 貧血の症状以外に感染症やむくみなどが現れる 腎性貧血 腎臓の機能が落ち、赤血球を十分に作れなくなる 慢性腎臓病の人はとくに注意 症状がゆるやかに進行する病気もあり、疲れやすさや息切れを見過ごすことも少なくありません。 慢性的な疲労や息切れが続く方、腎臓の病気を抱えている方、健康診断の数値が気になる方は早めに医療機関で相談することも大切です。 そもそも貧血は病気なの? 貧血は病気ではありません。貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンが不足し、体に必要な酸素や栄養が十分に届かない状態を指します。病名ではなく症状の状態名であり、疲れやすさ、めまい、立ちくらみなどが主な症状です。 血液検査でヘモグロビン値や赤血球数を調べることで診断できます。自身が貧血かどうか知りたい方や気になる症状がある方は、血液検査を受けて適切な治療や生活の改善につなげましょう。 貧血の症状チェックリスト 貧血は初期段階では気づきにくいこともありますが、体はさまざまなサインを出しています。 以下のチェックリストで、ご自身の症状を確認してみましょう。 疲れやすい・倦怠感がある 顔色が悪いと言われる 動悸や息切れがする めまい・立ちくらみがある 爪がスプーンのように反っている 症状を確認し、早めの受診や日常生活での改善行動に役立てましょう。 以下の記事では、貧血の症状や貧血で倒れる原因などを解説していますので、あわせてご覧ください。 【関連記事】 貧血の症状一覧|原因や治療法についても医師が詳しく解説 貧血で倒れるのはなぜ?原因・対処法や病院に行くべきタイミングを医師が解説 貧血の受診目安 貧血の受診目安は、以下の通りです。 慢性的な立ちくらみや息切れ 経血量が多い日には、ナプキンやタンポンを1~3時間ごとに取り替える 血液検査でヘモグロビン値が男性は13g/dL未満、女性は12g/dL未満(文献1) 貧血は消化管の異常が隠れている場合もあるため、必要に応じて消化管の検査を受けるのが重要です。 また、慢性的な月経過多は本人が異常に気づきにくい傾向にあります。自身の月経量を振り返って確認してみましょう。 血液検査でヘモグロビンや赤血球数などの数値が低い場合は、早めに内科や婦人科、消化器科を受診しましょう。 貧血の予防法 疲れやすさや立ちくらみ、めまいに対して食事や生活習慣で改善できるのか疑問を抱く方は多いのではないでしょうか。 日常生活で無理なく取り入れられる貧血予防の方法を、症状やライフスタイルに寄り添いながらわかりやすく解説します。 鉄分を効率よく摂る食品と組み合わせ 鉄分を効率よく摂れる食品は、下記の通りです。 豚レバー あさりの水煮缶 牛もも肉(赤身) 小松菜 ほうれん草 納豆 また、鉄分を摂るときは、ビタミンCを含む食材や動物性たんぱく質と一緒に食べると、より吸収が良くなります。(文献2)(文献3)ビタミンCはパプリカやピーマン、ゴーヤ、ブロッコリーなどに多く含まれ、たんぱく質は鶏ささみや豚ロース、豚ももなどから効率よく摂取できます。 一方で、コーヒーや緑茶に含まれるタンニンという成分が鉄の吸収を妨げる可能性があるため、鉄分を多く含む食事の前後30分程度は控えましょう。 食事で鉄分を補っても疲れやめまいが続く場合は、別の病気が隠れている恐れがあるため、早めに血液検査を受けましょう。医師と相談して原因を特定できれば、適切な対策につながります。 生活リズムの見直し 貧血改善には、鉄分やビタミンの摂取だけでなく、生活習慣の見直しも重要です。 以下のポイントを意識しましょう。 禁煙する:喫煙は鉄の吸収を阻害し、貧血になりやすい 十分な睡眠を確保:睡眠が足りていないと鉄の吸収がうまくいかず、貧血を招く一因となる 軽い運動やストレッチを取り入れる:内臓の働きが整い、鉄の吸収効率が上がるほか、赤血球の生成も促されやすくなる 趣味や休息の時間を作る:ストレスがたまると鉄分の吸収が下がる恐れがある 食事から鉄分やビタミンを補うだけでなく、睡眠・運動・ストレス管理といった日々の生活習慣を整えることが、貧血改善には欠かせません。生活習慣の中で、できることから1つずつ見直してみましょう。 貧血と病気の関係を正しく理解して早めの対処をしよう 「疲れやすい」「めまいがする」といった症状は、単なる体調不良ではなく体からの重要なサインかもしれません。症状チェックで当てはまる項目があれば、まずは血液検査を受けて原因を確かめましょう。 貧血は、胃がんや大腸がんなど重大な病気の前触れの可能性があります。食事や生活習慣の見直しに加え、定期健診で早めに発見・対処することが健康維持につながります。 気になる症状がある方は、早めに内科や産婦人科へご相談ください。 また、当院「リペアセルクリニック」では、がんの再発予防や免疫力のサポートを目的とした免疫細胞療法を行っています。免疫細胞療法について詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。 貧血の病気に関してよくある質問 男性が貧血になる原因は? 男性が貧血になる主な原因は、以下のとおりです。 胃潰瘍や胃がんなどによる消化管からの出血 栄養不足 慢性疾患(腎臓病やがん)による赤血球の減少など 中高年の男性では、自覚のない慢性的な出血が背景にあるケースが多く、貧血が重大な病気のサインの場合もあります。倦怠感や息切れが続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 貧血が続くとどんな病気になる? 貧血が続くと、全身の酸素供給が不足した状態が長引き、慢性的な疲労感や集中力の低下、息切れ、動悸などが悪化していきます。 重度になると日常生活に支障をきたすだけでなく、心臓や脳に負担がかかり、心不全やめまい・失神を引き起こすリスクもあります。原因となる病気の発見が遅れることにもつながるため、早期の検査と治療が大切です。 貧血に良い食べ物は? 貧血に良い食べ物には、鉄分・ビタミンB12・葉酸など、赤血球の生成を助ける栄養素を含むものがあります。たとえば、以下のような食品が効果的です。 赤身の肉やレバー(鉄分が豊富で吸収率も高い) あさりやかきなどの貝類(ヘム鉄を多く含む) ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品(植物性鉄分・葉酸が豊富) 卵や乳製品(ビタミンB12を含む) 柑橘類やブロッコリー(鉄の吸収を助けるビタミンCが豊富) バランスの良い食事とあわせて、必要に応じて鉄剤の補給も検討しましょう。 参考文献 (文献1) 貧血について|国立研究開発法人国立がん研究センター (文献2) ビタミンC|厚生労働省eJIM (文献3) 鉄の吸収に関する研究|J-Stage
2025.06.30