肘頭滑液包炎とは?肘が腫れてブヨブヨ痛い症状・治療法について現役医師が解説
公開日: 2022.07.18更新日: 2024.11.06
肘頭の滑液包に炎症が起こった状態である肘頭滑液包炎をご存じでしょうか?
肘を頻繁に使って酷使したり、感染症が原因で起こる病気です。
肘の痛みや腫れが生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。
「肘の皮膚がブヨブヨしている」
「これは何の病気なのか」
このように思う方は多いのではないでしょうか。
結論から言うと、これは肘頭滑液包炎(ちゅうとうかつえきほうえん)に見られる症状です。
皮膚がブヨブヨするなら、発症しているかもしれません。
今回は肘頭滑液包炎の具体的な症状や原因、治療法などを、医師の目線で解説します。
目次
肘頭滑液包炎とは?肘が腫れてブヨブヨ痛い症状について
肘頭滑液包炎は、肘の後方にある「滑液包」で起こる炎症のことを示します。
滑液包は、関節と皮膚の間に存在し、本来なら、摩擦を軽減する役割を果たすものです。
肘頭滑液包炎の発症時の特徴として、肘の皮膚がブヨブヨになる点が挙げられます。
もちろん炎症が起こっているので、多くの場合、痛みを感じるでしょう。
皮膚がブヨブヨに感じたり、動かすと痛む症状は、肘頭滑液包炎である可能性が高いです。
もし症状を確認したら、皮膚科や整形外科、リハビリテーション科などで診てもらう必要があります。
肘の解剖
肘頭滑液包炎を理解するために必要な、肘の解剖を簡単にご説明します。
まず肘頭は、肘の先端の尖った部分です。
わたしたちが机に肘をつくときに、机に接しているところが肘頭になります。
この肘の先端である肘頭と皮膚の間には、滑液包と呼ばれる液体に満たされた薄い袋があります。
滑液包は肩、腰、膝、踵などの関節の近くにもあり、骨、筋肉、腱のクッションになります。
肘の滑液包は、皮膚が肘頭の骨の上をスムーズにスライドする動きを助けます。
肘頭滑液包炎は、肘頭の滑液包に炎症が起こった状態です。
続けて、肘頭滑液包炎の症状や原因、そして治療法を説明します。
肘頭滑液包炎の主な症状
滑液包が炎症を起こすと、まず痛みを伴うようになります。
炎症を起こした滑液包からの痛みは、突然起こることもありますし、時間をかけて徐々に悪化していくこともあります。
また最初は肘を動かしたときに痛みを感じますが、進行するとじっとしていても痛みを感じるようになります。
また肘の関節の周りに腫れや発赤が生じます。感染症が原因となっている場合は、局所に熱感を伴うこと、また発熱することもあります。
痛みや腫れなどの症状に加えて、肘頭滑液包炎が悪化すると、肘を使うことが困難になります。
慣れた日常生活の動作も、痛みのために辛くなるかもしれません。
また上述のように、肘の皮膚が腫れてブヨブヨになる現象が起こります。
これは、滑液包内に、滑液という液体が異常に分泌されることが原因です。
また液体がウイルス感染して、膿がたまるというケースも少なくありません。
肘頭滑液包炎の3つの原因
肘頭滑液包炎を発症する原因は、大きく分けて3つ挙げられます。
- ・肘の過度な使用や炎症
- ・細菌感染
- ・外傷による刺激
特にスポーツや力仕事による疲れやけがが原因で、発症する方が多いです。それぞれ詳しく解説します。
肘の過度な使用や炎症
まず、以下のような肘の過度な使用によって、肘頭滑液包炎になることがあります。
- ・日常生活での反復運動による摩擦(ガーデニング、DIYなど)
- ・オーバートレーニングや運動動作の反復(ボールを投げるなど)
- ・姿勢の悪化
たとえばテニスやゴルフなど、同じような肘の動きを何度も繰り返すスポーツは、発症の原因になりがちです。
もちろん日常生活での反復運動も、肘頭滑液包炎の原因になりえます。
また「肘つき」のような姿勢の悪さによって、発症するケースもあるでしょう。
細菌感染
細菌汚染が原因で、発症する可能性もあります。
肘に擦り傷や切り傷があると、細菌が侵入することがあります。
そして滑液包がそれに感染し、肘頭滑液包炎になるかもしれません。
厳密には「感染性滑液包炎」と呼びます。
外傷による刺激
外傷による刺激で、肘頭滑液包炎を発症することもあります。
たとえば物が当たる、転倒して肘をついてしまう、打撃を加えられるなどすると、滑液包に負担がかかります。
あまりにも刺激が強い、何度も繰り返されるなどすると、肘頭滑液包炎になる可能性が出てくるでしょう。
特にスポーツに参加していると、肘にダメージを受けることが多いです。
アスリートやその保護者は、外傷による刺激で発症するパターンを知り、対策しておいたほうが良いでしょう。
肘頭滑液包炎の治療法
肘頭滑液包炎の治療は、感染症が原因か、そうでないかでわかれます。
感染症による肘頭滑液包炎の治療法
感染症が原因である場合、抗菌薬による治療は必須です。
通常は1週間程度、黄色ブドウ球菌に有効な抗菌薬を飲む必要があります。
症状が良くなっても、体内に残っている病原菌を確実に除去するために、処方された期間は抗菌薬を服用する必要があります。
感染した滑液をできるだけ除去するために、針を刺して滑液包も吸引することがあります。
吸引した滑液を詳しく調べることで、病原菌がわかることもありますので、診断を目的に吸引する場合もあります。
感染症が原因ではない肘頭滑液包炎の治療法
感染症が原因ではない場合は、自宅でもある程度治療ができます。
まず、運動や仕事で滑液包炎の原因となった腕の動きを避けることは、症状の緩和に役立ちます。
痛みを我慢して仕事をしたり、スポーツをしたりしないようにしましょう。
またNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)は、滑液包炎によって引き起こされる痛みや炎症を軽減するために役立ちます。
装具を利用して肘が動かないように固定すると、症状は改善しやすくなります。三角巾などで手を吊るだけでも構いません。
これらの治療が3~6週間経っても効果がない場合は、滑液包の周りの過剰な液体を吸引すると同時に、炎症を抑えるためにステロイド薬の注射をすることがあります。
感染症が原因ではない肘頭滑液包炎は、3~6週間程度安静にすることで治ることが一般的です。
肘頭滑液包炎は完治が期待できますので、肘に負担をかけずに仕事や学業ができるのであれば、治療中に仕事や学校を休む必要はありません。
なお肘頭滑液包炎は通常問診と診察だけで診断できますが、治療してもなかなかよくならない、あるいは再発を繰り返す場合は、X線やMRIなどを用いての画像検査を行うこともあります。
肘頭滑液包炎の手術
肘頭滑液包炎は、重症化しても手術を必要とすることはまれです。
ただし、症状が非外科的治療に反応しない場合、または抗菌薬を服用しても良くならないほど重度の感染症がある場合、手術が必要な場合があります。
手術では、炎症を起こしている肘の滑液包を切除します。
術後は、肘を固定するための装具が必要になります。回復には1カ月ほどかかります。
肘頭滑液包炎の予防・セルフケアについて
肘頭滑液包炎を予防・セルフケアするには以下の取り組みが有効です。
- ・肘付きなど、肘に負担がかかる姿勢を避ける
- ・スポーツや重労働では、肘サポーターを装着する
- ・定期的に腕を伸ばすなどしてストレッチをする細菌感染を避けるため、外傷を負ったら殺菌して清潔にする
地味な取り組みですが、予防やセルフケアでは有効です。
まとめ|肘頭滑液包炎とは、その症状と原因、治療法
以上、肘頭滑液包炎について、症状や原因、治療法について説明しました。
肘頭滑液包炎を予防する最善の方法は、できるだけ肘を酷使しないことです。
肘を使う激しい運動や活動のあとは、体を休め、回復するための時間を設けましょう。
また仕事や趣味で肘を使うことが多い場合は、肘当てをつけるなどして、保護具を使うと良いでしょう。
もし、それでも中々よくならない肘の痛みがある場合は、早めに整形外科をはじめ、医療機関にご相談されることをおすすめいたします。
No.078
監修:医師 坂本貞範