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慢性腰痛には手術が有効?治療法ごとの費用・期間・リスクも紹介

慢性腰痛とは、一般的に「12週間以上持続する腰痛」のことです。多くの場合、治療が効かずに慢性化してしまっており、痛みを一気に解決する方法はなかなか見つかりません。
しかし、腰痛によってあまり動けない状態が続くと、体幹や全身の機能が低下していきます。日常生活や仕事への影響が拡大する前に、何とか治したいと考える方は多いでしょう。
腰痛の治療は保存的療法が基本ですが、手術が有効なケースもあります。
この記事では、手術が有効な可能性がある腰痛の種類と、主な手術方法について解説します。また、手術以外の選択肢として再生医療についても紹介しますので、長引く腰痛に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
目次
慢性腰痛の治し方として手術が有効かは症状による
慢性腰痛の治療には、手術以外にもさまざまな保存的治療があります。(文献1)
治療項目 | 詳細 |
---|---|
運動療法 | ・全身を鍛えることで腰が安定する ・腰の負担が軽くなる |
薬物療法 | 内服薬や神経ブロック注射で痛みを軽減する |
物理療法 | マッサージや鍼治療、温熱療法、経皮的電気刺激(TENS)などで痛みの軽減を図る |
腰痛教室 | ・腰痛のメカニズムを知る ・動作上の注意点や腰痛体操といった予防策を学ぶ |
認知行動療法・心理面のケア | ・痛いから何もできない、といった思い込みを解消する ・ストレス対策、カウンセリングなど |
症状によっては、運動療法と心理面のケアを組み合わせれば、手術と同等の効果があるともいわれます。(文献2)手術はあくまで選択肢の一つであることを知っておきましょう。
手術が有効な治療法となる慢性腰痛の原因・症状
手術が有効となりえるのは、神経が圧迫されて腰痛が生じている場合です。(文献2)病名としては以下が挙げられます。
- 椎間板ヘルニア
- 腰椎すべり症
- 腰椎分離症
- 変形性脊椎症 など
こうした病気でも、最初は保存的治療により様子を見ます。しかし、痛みやしびれ、排泄障害などによって日常生活への支障が大きい場合は手術を検討します。
一方で、神経を圧迫する明らかな狭窄やすべり症を伴わない慢性腰痛の場合は、慎重な判断が必要です。少なくとも脊椎固定術については、効果は限定的とされており、積極的には行いません。(文献2)
慢性腰痛における手術での治療方法を紹介
ここでは慢性腰痛の治療で検討される代表的な手術方法を紹介します。
- リゾトミー(高周波熱凝固法)
- 脊椎固定術
- 全内視鏡下脊椎手術
- 再生医療
手術以外の選択肢として再生医療についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
リゾトミー(高周波熱凝固法)
リゾトミーは神経ブロックの一種で、高周波の熱を使って痛みの原因となる神経を焼き切る治療法です。神経を完全に殺すわけではなく、数か月ほどで再生します。
局所麻酔薬による神経ブロックが効くけれど、長持ちせず困っている方に良い適応となります。とくに神経根の圧迫による痛みに対して効果があるとされています。
リゾトミーを行う手順は以下のとおりです。
- 手術台にうつ伏せになっていただき、対象となる腰椎の横突起関節(おうとっきかんせつ)の皮膚を洗浄・滅菌する
- 局所麻酔薬を注射し、皮膚とその下の組織の痛覚を抑える
- X線で確認しながら、腰椎へ特殊な針を挿入し、腰痛の原因と考えられる神経に針先を向ける
- 針に小さな電流を流して、筋肉のひきつれや痛みの誘発をテストし、正しい神経に届いていることを確認する
- 針を通して高周波エネルギーを送り、神経を加熱して焼き切る
- 針を抜き、挿入部位を包帯で覆う
これでリゾトミー治療は終了です。しばらく経過観察した後、その日のうちに帰宅できます。
脊椎固定術
脊椎固定術とは、不安定になったり変形したりしている脊椎を固定する手術です。脊椎をボルトで固定し安定を図る方法(脊椎固定術)と、狭くなった背骨の間にスペーサーを挟んで整える方法(LIF:椎体間固定術)があります。
両者を併用する場合も多く、総称して脊椎固定術と呼ぶこともあります。
神経を圧迫している明らかな狭窄がある場合や、腰椎すべり症により背骨がずれている場合は、脊椎固定術の良い適応です。腰痛の原因が椎間板障害だとわかっている場合は、脊椎固定術で痛みが軽減する可能性があります。(文献3)
脊椎をボルトで固定する手術は、一般的に背中側から行います。狭くなった脊椎にスペーサーを挟む手術は、おなか側から手術する方法(ALIF)、背中側から手術する方法(PLIF・TLIF)、内視鏡を使って脇腹を経由する方法(LLIF)に大きく分けられます。(文献4)
どの方法で手術する場合も、入院して全身麻酔で行うのが一般的です。
全内視鏡下脊椎手術
内視鏡だけで完結する脊椎の手術が、全内視鏡下脊椎手術です。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった一部の慢性腰痛症に適用となります。飛び出している椎間板を切除する手術や、スペーサーを挟んで椎間を広げる手術などが、内視鏡だけで可能です。
内視鏡手術の利点として、傷が小さく痛みも少ない、筋肉や内臓を触ることによる合併症が起きにくい、といった体への負担の少なさが挙げられます。治療内容や病院の対応状況によっては、局所麻酔で手術可能な場合もあります。また、入院期間も短く済むのが一般的です。
なお、過去の手術により癒着が起きている恐れがある場合や、脊椎周辺の靱帯が全体的に硬くなっている場合など、内視鏡では対応できないケースもあります。ただし、たとえば背中からの手術歴がある方に、脇腹経由で再手術できるケースもありますので、主治医とよく相談してみてください。
再生医療
再生医療は手術ではありませんが、保存的治療とも異なります。さまざまな細胞に分化できる幹細胞の性質を活かした、体への負担がの少ない治療法です。入院の必要はなく、日帰りの処置と注射で治療が完結します。
再生医療は、慢性腰痛の手術をどうしても避けたい方や、事情があって手術を受けられない方でも行える可能性があります。また、手術を受けたけれど症状が変わらない方や、再発・悪化した方も検討可能です。
当院「リペアセルクリニック」での再生医療「幹細胞治療」の流れは以下のとおりです。
- 患者様の腹部から、米粒2~3粒程度の脂肪組織を採取する
- 脂肪組織から幹細胞を抽出し、約1カ月間培養する
- 増やした幹細胞を、点滴または脊髄腔内に直接注射して投与する
脊髄腔内への投与は注射により、傷ついた神経の近くに直接幹細胞を届けられます。

腰の痛みは手術しなくても治療できる時代です。
慢性腰痛の手術治療における費用目安・治るまでの期間
慢性腰痛の手術治療の費用感(自己負担額)と、およその入院期間をまとめました。症状や治療内容によって異なるため、あくまで目安とお考えください。
手術の種類 | 費用目安(検査や入院費用も含む) | 入院期間 |
---|---|---|
リゾトミー(高周波熱凝固法) | ・保険診療:数千円 ・自由診療:約30~60万円 |
日帰り可能 |
脊椎固定術 | 約60〜85万円 | 7日~2週間 |
全内視鏡下脊椎手術 | 約25〜40万円 | 5日~7日 |
リゾトミーを保険で行うには条件があるため、自由診療で治療を行う医療機関もあります。
脊椎固定術では一般的に、術後3カ月ほどコルセットの着用が必要です。
どの手術においても、完全な痛みの軽減を実感するまでには個人差があり、数週間から数カ月かかることがあります。治療後は、手術を受けた医療機関へ定期的に通院し、必要なフォローアップを受けたり、リハビリテーションに取り組んだりしましょう。
慢性腰痛に対する各手術のリスク
慢性腰痛の手術にはリスクも伴います。先に紹介した手術の主なリスクについてまとめました。
手術の種類 | 主なリスク |
---|---|
リゾトミー(高周波熱凝固法) | ・感染 ・軽度の熱傷 ・迷走神経反射(血圧低下などの自律神経反応) |
脊椎固定術 | ・一時的な筋力低下や感覚障害(手術中に筋肉に触った場合) ・腎臓、尿管、大腸などの損傷や、動静脈損傷 ・下肢麻痺、下肢知覚鈍麻、排尿排便障害 ・硬膜の損傷、脳脊髄液の漏出 ・髄膜炎 |
全内視鏡下脊椎手術 | ・一時的な筋力低下や感覚障害(手術中に筋肉に触った場合) ・下肢麻痺、下肢知覚鈍麻、排尿排便障害 ・硬膜の損傷、脳脊髄液の漏出 ・髄膜炎 |
リゾトミーは、重い合併症の発現率が0.92%と低く、安全性が高い手術とされています。(文献2)
脊椎固定術と全内視鏡下脊椎手術は、どちらも手術操作に伴う合併症のリスクがあります。長時間にわたり同じ姿勢で手術を受けるため、下になっていた皮膚の損傷や、皮膚の神経麻痺が起きる可能性もゼロではありません。
まとめ|慢性腰痛の治療で手術が有効か気になる場合は専門医へ相談
慢性腰痛の原因が、椎間板ヘルニアや腰椎すべり症などによる神経への圧迫の場合、手術が有効なケースがあります。しかし、手術には多額の費用がかかるほか、さまざまな合併症のリスクも伴います。
慢性腰痛の治療方法は手術だけではありません。運動療法や薬物療法、心理療法といった保存的治療や、再生医療も選択肢となります。慢性腰痛に悩んでいれば、医療機関へ相談しましょう。どの治療が適しているか、医師としっかり相談して治療していくのが大切です。
また、手術をどうしても避けたい方や、手術の結果が思わしくない方は、再生医療が力になれるかもしれません。慢性腰痛の再生医療に興味のある方は、当院へお気軽にご相談ください。
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参考文献
(文献1)
村田淳ほか.「慢性腰痛の疼痛管理─リハビリテーションの視点で」『日本腰痛会誌』10(1), pp.23-26, 2004年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yotsu/10/1/10_1_23/_pdf(最終アクセス:2025年4月19日)
(文献2)
真興交易(株)医書出版部「慢性疼痛診療ガイドライン」2021年
https://www.jhsnet.net/pdf/totsu_guideline_jp.pdf(最終アクセス:2025年4月19日)
(文献3)
一般社団法人 日本腰痛学会「腰痛に関する手術治療」日本腰痛学会ホームページ
https://www.jslsd.jp/medical/surgical-treatment/(最終アクセス:2025年4月19日)
(文献4)
上田茂雄ほか.「側方経路椎体間固定術のメカニズム─手術適応と合併症の回避」『脊髄外科』32(2), pp.143-150, 2018年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/32/2/32_143/_pdf(最終アクセス:2025年4月19日)