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脳梗塞の後遺症で寝てばかりになるのはなぜ?原因と家族ができる対応を解説

脳梗塞 後遺症 寝てばかり
公開日: 2025.02.10 更新日: 2026.08.31

「一日中ベッドから起き上がろうとしない」「声をかけても寝てばかりいる」

脳梗塞を発症したご家族の様子に、このような戸惑いを感じてはいないでしょうか。

日中に眠ってばかりいる状態は、本人の気力の問題ではありません。脳の回復に伴う消耗や麻痺した体の疲れやすさ、睡眠のリズムの乱れなど複数の要因が重なって起こります。

本記事では、寝てばかりになる医学的な理由を整理したうえで、そのまま様子を見た場合に起こる変化と家族ができる関わり方を解説します。あわせて脳梗塞の後遺症全体についても取り上げます。

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目次

脳梗塞の後遺症で寝てばかりになる要因

脳梗塞の後に日中も眠って過ごす状態は、単一の理由では説明できません。体の要因と脳そのものの要因、気持ちの要因や薬の要因が絡み合って起こります。

主な要因を整理すると以下の通りです。

要因 何が起きているか 見られやすい様子
脳の回復に伴う消耗 傷ついた脳が働きを補うためにエネルギーを使っている 短い活動で強く疲れる、午後になると座っていられない
体の疲れやすさ 麻痺した体は健常時と異なる筋肉を使って姿勢を保っている 着替えや数分の会話だけで消耗する
睡眠と覚醒のリズムの乱れ 夜間に十分眠れておらず、日中に眠気が出ている 会話の途中で眠る、大きないびき、朝方の頭痛
意欲の低下 感情や自発性に関わる脳の働きが落ちている 声をかければ起きるが自分からは動かない、表情が乏しい
薬の影響 服用中の薬の作用が翌日まで残っている 薬が変わった時期から反応が鈍くなった
体調の変化 感染や脱水、栄養や血糖の状態が悪化している 熱や痛みは出ず、活気の低下だけが現れる

いずれも本人の意志では変えられない要因です。順番に見ていきましょう。

脳の回復にエネルギーが使われている

脳梗塞によって一時的に途切れた神経のつながりは、残った細胞が働きを補うことで少しずつ再編されていきます。発症の直後は、この再編が起こりやすい時期とされています。(文献3

この再編には多くのエネルギーと休息が必要です。傷ついた脳が機能を補うためにフル回転している状態のため、体は自然な防御反応として長い睡眠を求めます。

外から見ると何もしていないように映りますが、体の内側では回復のための作業が進んでいます。

麻痺のある体は動くだけで疲れやすい

片麻痺や感覚の障害がある場合、姿勢を保つことや起き上がることに、健常時とは異なる筋肉や神経の経路が使われます。

同じ動作でも消費するエネルギーが大きくなるため、着替えや洗面、数分の会話といった日常の動作だけで消耗します。

短い活動で強く疲れ、頻繁に横にならざるを得ない状態を易疲労性(いひろうせい)と呼びます。怠けているのではなく、体の使い方が変わったことによる結果です。

睡眠と覚醒のリズムが乱れている

日中の眠気は、夜間に十分な睡眠が取れていないことの裏返しである場合があります。

覚醒のリズムを調整している脳の領域が障害を受けると、日中の覚醒を保つことが難しくなります。夜間の頻尿や麻痺側の姿勢の不快感、関節の痛みなども夜の睡眠を妨げます。

以下のような様子が見られる場合は、夜間の睡眠に問題がある可能性があります。

  • 大きないびきをかいている
  • 眠っている間に呼吸が止まっているように見える
  • 朝方に頭痛を訴える
  • 夜中に何度もトイレに起きている

これらは日中の眠気の原因として治療の対象になる場合があります。気づいた点は主治医に伝えてください。

意欲が出にくくなっている

脳梗塞の後には、自発的に行動を起こす力そのものが低下することがあります。

感情や意欲に関わる脳の回路が損傷を受けると、本人は悲しさやつらさを感じていないにもかかわらず、自分から動き出せなくなります。促されれば指示に従って動けることが多いのが特徴です。

一方で、体の機能を失った経験や心理的な負担から気分が落ち込む状態は別のものです。脳卒中の後に意欲や活動性の低下をきたして脳卒中後うつ病と診断される場合があり、その割合は脳卒中患者の約30%程度と報告されています。(文献2

  自発性が落ちている状態 気分が落ち込んでいる状態
本人の自覚 つらさや困りごとの自覚がほとんどない 落ち込んでいる、つらいという自覚がある
表情・感情 感情が平坦で淡々としている 悲観的な発言、涙もろさ
促したときの反応 促されれば指示に従って動ける 促されても行きたくないと強く拒む
その他の様子 喜怒哀楽が乏しい 眠れない、食欲がない

※ 両方が重なっている場合もあります。判断は医師が行います。

この2つは対応が異なります。自発性の低下には外からの働きかけと生活の組み立てが必要になり、気分の落ち込みには薬物療法やカウンセリングが有効な場合があります。(文献2)どちらなのかを家族が判断する必要はありません。様子を具体的に伝えて、主治医に相談してください。

薬の影響で日中の眠気が出ている

服用している薬の作用が翌日まで残り、日中の眠気として現れる場合があります。

痛み止めや睡眠導入薬、抗不安薬や抗てんかん薬などは、高齢の方では代謝や排泄の働きが落ちているため作用が長引きやすくなります。

薬が変わった時期から反応が鈍くなったという場合は、時期と薬の変更が重なっていないか確認してください。自己判断で中止せず、気づいた点を主治医に伝えることが大切です。

体調の変化が眠気として現れている

高齢の方では、感染や脱水、栄養状態の悪化が起きても熱や痛みといったわかりやすい症状が出ないことがあります。

そのかわりに、活気の低下、一日中ぼんやりして寝ているという形で現れます。

普段と比べて急に眠っている時間が増えた場合は、体調の変化を疑ってください。数日のうちに変化が起きたときは、早めに受診が必要です。

脳梗塞の後遺症で寝てばかりの状態を放置するとどうなるか

回復のために休息が必要である一方、生活の大部分をベッドの上で過ごす状態が固定すると、体を使わないこと自体による機能の低下が進みます。

長期間の安静によって身体の能力が極めて低下した状態は、廃用症候群と呼ばれます。(文献3

問題は、この変化が悪循環を作ることです。動かないことで動けなくなり、動けないことでさらに動かなくなります。

影響を受ける部分 起こる変化 そのまま続いた場合
筋肉・関節 筋肉がやせる、関節が固まる 立つ・歩く力が失われ、着替えや清拭が難しくなる
皮膚・血管 同じ姿勢による圧迫で血行が悪くなる 床ずれができ、感染につながる
心臓・肺 心肺の働きが落ちる、起き上がると血圧が下がる わずかな動きで息切れする、立ちくらみで転倒する
消化管 腸の動きが落ちる 頑固な便秘、食欲の低下、栄養状態の悪化
脳・神経 外からの刺激が減る 昼夜逆転が固定し、認知機能の低下が進む

筋力が落ち関節が固まる

体を使わない状態が続くと、まず下肢の筋肉がやせていきます。立つ、歩くといった動作を支える筋肉から先に落ちるためです。

同時に、動かさない関節の周りの組織が固くなり、動かせる範囲が狭くなる関節拘縮が起こります。

麻痺した側のひじや指が曲がったまま固まると着替えや清拭に大きな支障が出て、介護の負担が一気に増えます。拘縮は進んでから戻すことが難しいため、早い段階での予防が重要です。

皮膚・呼吸・消化のトラブルが起こる

長時間の同じ姿勢は、骨の出っ張った部分の皮膚を圧迫します。血行が悪くなった部分の組織が傷み、床ずれができます。

心臓と肺の働きも同時に落ちるため、わずかな動きで息切れするようになります。起き上がったときに血圧が下がって立ちくらみが起こると、転倒への恐怖からさらに横になる時間が延びます。

腸の動きも落ちるため、便秘や食欲の低下を招きます。飲み込む力が落ちることで、誤嚥性肺炎の危険も高まります。

なお、発症から半年経過しても飲み込みの障害が残る方は約10%と報告されています。(文献2)飲み込みに不安がある場合は、寝たきりを防ぐこととあわせて対応が必要です。

昼夜逆転と認知機能の低下が進む

起き上がって周囲を眺める、人と会話するといった日常的な刺激が減ると、脳の活動レベルが下がります。

日中に眠る時間が増えるほど夜は眠れなくなり、昼夜逆転が固定します。日中の過眠と夜間の不眠は、互いを強め合う関係にあります。

この状態が続くと、見当識の障害や認知機能の低下が進みやすくなります。脳の回復のために必要だった休息が、いつのまにか回復を妨げる要因に変わってしまうことになります。

脳梗塞の後遺症で寝てばかりのときに家族ができること

ここからは、脳梗塞の後遺症で寝てばかりの状態が続いている方をそばで支えるご家族に向けた内容です。

日中に眠っている時間が長い様子を前にすると、起こしたほうがよいのか、そっとしておいたほうがよいのか判断がつきません。無理に起こせば負担をかけ、放っておけば動けなくなるという板挟みになります。

必要なのは、本人の意志に訴えることではありません。疲れやすさを前提にしたうえで、一日の活動の量を組み立て直すことです。

本人にとっては、起きていること自体がエネルギーを使う作業になっています。頑張らせる方向で働きかけても翌日以降の活動量が落ちるだけに終わり、支えるご家族の側も消耗します。

以下では、ご家族が今日から取り入れられる関わり方を5つに分けて解説します。

短い活動と休息を組み合わせる

本人が疲れを感じてから休むのではなく、疲れる前に休息を挟む形にご家族が調整します。

活動の時間は1回あたり20〜30分程度に区切ってください。その合間に10〜15分ほど横になる、目を閉じるといった積極的な休息をはさみます。

限界まで活動してから力尽きるという流れを避けることが目的です。一度使い果たすと回復に時間がかかり、翌日以降の活動量まで落ちます。

達成できる小さな目標を置く

1日の予定は、午前に1〜2回、午後に1回程度の少ないタスクに絞ります。

内容はご家族が一方的に決めるのではなく、本人と一緒に選んでください。そのうえで目標は、確実に達成できる水準まで下げます。

  • 5分間だけ車椅子に座る
  • コップ1杯の水を自分の力で飲む
  • 窓のところまで移動して外を見る

できたという実感を積み重ねることが、動く意欲を取り戻す近道です。達成できない目標を置くと、本人も家族も消耗します。

朝はカーテンを開けて生活リズムを整える

朝一番にカーテンを開けて日光を室内に入れると、本人の体内時計を調整しやすくなります。

日中は、短い時間でもベッドから離れて過ごす機会を作ってください。食事を椅子で取る、テレビを居間で見るといった変化でも効果があります。

夜間の頻尿が睡眠を妨げている場合は、薬を飲む時間の調整で改善する場合があります。主治医にご相談ください。

主治医に相談したほうがよいサイン

以下に当てはまる場合は、様子を見ずに相談してください。

  • 数日のうちに急に眠っている時間が増えた
  • 薬が変わった時期と、反応が鈍くなった時期が重なっている
  • 大きないびきや、眠っている間に呼吸が止まる様子がある
  • 食事の量が明らかに減った、水分をあまり取らない
  • 呼びかけへの反応が以前より弱くなった
  • 皮膚に赤みや傷ができている

とくに、急な変化には体調の悪化が隠れている場合があります。後遺症によるものと決めつけず、確認を取ってください。

家族だけで抱えないための相談先

在宅での介護が続くと、家族の側にも限界が来ます。早い段階で外部の支援につながることが、結果として本人の生活を守ります。

  • 入院中であれば、病院の医療ソーシャルワーカー
  • 退院後であれば、お住まいの地域包括支援センター
  • すでに介護保険を利用している場合は、担当のケアマネジャー

介護保険は65歳以上の方だけの制度ではありません。脳梗塞を含む脳血管疾患は、40歳から64歳の方でも介護保険のサービスを利用できる対象に含まれています。

手続きには時間がかかるため、退院前から相談を始めておくことをおすすめします。訪問でのリハビリテーションなど、自宅で受けられる支援もあります。

脳梗塞の後遺症とは?代表的な6つの症状

脳梗塞後遺症の種類と症状は以下の通りです。

  • 運動麻痺(片麻痺、対麻痺)
  • 感覚障害(しびれ、痛み)
  • 言語障害(失語症)
  • 高次脳機能障害(記憶障害、注意障害)
  • 嚥下障害
  • 排尿障害・排便障害

脳梗塞は、脳の血管が詰まって脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、脳の機能が損なわれる病気です。

一命を取り留めたとしても後遺症が残る可能性があるため、一刻も早い治療開始が重要です。

脳梗塞の後遺症について、以下でさらに詳しく解説します。

運動麻痺(片麻痺、対麻痺)

脳梗塞の後遺症で最も典型的なのが「運動麻痺」です。

脳梗塞で運動機能を司る脳の領域が損なわれると、筋肉へ「動け」という指令が正しく伝わらず、手足が思いどおりに動かせなくなります。

運動麻痺には主に次のような種類があります。

  • 片麻痺:体の片側だけに麻痺が出る
  • 対麻痺:両下肢に麻痺が出る

脳から出た神経線維は途中で交差しているため、脳梗塞では右脳に梗塞が起きると左半身に、左脳に起きると右半身に麻痺が出るのが一般的です。

麻痺の程度は、人によって異なります。動かしにくさや力が入りにくい程度の軽い症状から、腕や足をまったく動かせない重度の症状までさまざまです。

長期間麻痺が続くと、筋肉や関節が硬くなる「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」が起きやすくなり、以下のような二次的な合併症による日常生活への影響が大きくなります。

  • 箸を使う、ボタンを留めるなどの手先の細かい動作が難しくなる
  • 歩行が不安定になり転倒しやすくなる
  • 寝返りや体位変換が自力で難しくなり、床ずれのリスクが高まる
  • 血流やリンパの流れが滞ってむくみが出やすくなる

また、運動麻痺に加えて、筋肉の緊張が異常に高まる「痙縮(けいしゅく)」が起こる場合もあります。

痙縮は、筋肉が常にこわばった状態になって関節の動きが制限されたり、異常な姿勢や痛みを引き起こしたりする状態です。

発症直後に麻痺が重い人ほど将来的に痙縮を合併しやすい傾向があり、痙縮や拘縮が進行すると着替え・移乗・歩行などの動作がさらに困難になり、生活の質(QOL)にも大きな影響を及ぼします。

脳梗塞の合併症については、以下の記事もご覧ください。

感覚障害(しびれ、痛み)

脳梗塞によって皮膚の感覚を司る脳の領域が損傷を受けると、触覚・温度覚・痛覚などの感じ方が変化し、「感じにくくなる」「逆に過敏になる」などの症状が現れます。

なかでも典型的なのは、しびれて感覚が鈍くなる症状です。

手足の先端に起こりやすく、手袋や靴下をはいているような違和感を感じる場合があります。

脳梗塞による感覚障害では、片側だけにしびれや鈍さ、温度・痛覚の異常がみられるのが特徴です。

また、損傷した神経の情報処理が乱れ、刺激に対して過剰に反応して痛みを感じるケースもあります。

痛みの感じ方には個人差があり、ピリピリ・ズキズキ・焼けるような熱さなどさまざまです。

ごく軽い触れただけで強い痛みや不快感が生じる「知覚過敏」や、何も触れていないのにビリビリする「異常感覚」が続く場合もあり、日常生活の負担になりやすいとされています。

感覚障害は安全面にも影響します。たとえば、温度感覚が鈍いと熱いものに触れても気づきにくく、やけどやけがの発見が遅れる恐れがあるのです。

また、触覚が低下すると物を持つときの力加減がつかみにくく、物を落としたり強く握りすぎたりする場合もあります。

さらに、足裏やかかとの感覚が鈍いと、靴ずれや小さな傷に気づかず、床ずれや感染など別のトラブルにつながる危険性もあるため注意が必要です。

言語障害(失語症)

脳梗塞で言語をつかさどる脳の部位(言語中枢)が損傷されると、失語症と呼ばれる言葉の障害が起こるケースがあります。

単に話しにくくなるだけでなく、聞く・話す・読む・書くといった言語全体の働きに影響する可能性があり、日常のコミュニケーションに大きな困難をもたらすのが特徴です。

失語症には、以下のようにいくつかのタイプがあります。

タイプ 特徴
表出性失語 ・自分の考えはあっても、それをうまく言葉にできない
・言葉が出てこない、違う言葉になる、話が途切れ途切れになる
受容性失語 ・相手の話す内容は聞こえていても、その意味が理解しにくい
・質問に対し、的外れな返答になる
混合性失語 ・表出性と受容性の両方に障害が出る
・話す、聞き取るが困難になる

失語症があると、家族や周囲とのやりとりがうまくいかず、買い物や電話といった日常の行動にも支障が出ます。

伝えたい気持ちがあるのに言葉にできないもどかしさから、精神的なストレスを抱える人も多く、周囲の理解とサポートが欠かせません。

高次脳機能障害(記憶障害、注意障害)

高次脳機能障害とは、記憶や注意、思考、判断など日常生活を支える「認知機能」に支障が出る後遺症です。

身体の麻痺とは異なり、外見からはわかりにくいものの、以下のように社会生活や対人関係に影響が出やすい特徴があります。

症状名 主な特徴
記憶障害 ・新しいことを覚えられない
・直前の出来事をすぐ忘れる
・同じ質問を繰り返す
・過去の記憶が曖昧になる
注意障害 ・集中力が続かない
・物音に気を取られやすい
・テレビと会話など複数の刺激に同時対応できない
実行機能障害 ・計画を立てる・順序立てて行動するのが困難になる
・家事の手順を忘れる
・途中で目的を見失う
半側空間無視 ・視覚や意識が片側に偏る
・片側の食事を残す
・壁や障害物に一方の体をぶつける
失行 ・道具の使い方を知っていても実行できない
・服の着方・歯磨きなどの日常動作がうまくできない
失認 ・見えていても物や人を認識できない
・身近な人や物を見分けられない

これらの症状は複数が同時に現れることが多く、外見では分かりにくいです。そのため、本人の悩み・苦労が周囲からは理解されないことも少なくありません。

「怠けている」「性格が変わった」と誤解されやすいため、家族や周囲が障害の特性を正しく理解し、リハビリテーションや生活支援を通じた適切なサポートが大切です。

嚥下障害

嚥下障害とは、食べ物や飲み物を口から胃までスムーズに送り込めなくなる症状です。

以下のように、飲み込みに関わる神経や筋肉の協調が崩れ、発生しやすくなります。

問題点 内容
むせやすくなる 飲み込みの反射が遅れて気管に入りやすくなる
飲み込み残り 食物や水分が口やのどに残りやすくなる
誤嚥(ごえん) 食べ物・飲み物・唾液が気管に入ってしまう
不顕性誤嚥 むせずに誤嚥が起こり、気づかないまま肺炎になるケースがある
誤嚥性肺炎 誤嚥をきっかけに肺に炎症が起き、重症化のリスクもある

誤嚥性肺炎は命に関わるリスクがあるため、次のような対応が重要です。

  • 食事の姿勢(背筋を伸ばし、顎を引いた姿勢)
  • 一口の量を少なめにする
  • とろみや軟らかさなど食事形態の工夫
  • 嚥下機能に合わせた食事指導やリハビリテーション
  • 嚥下訓練や必要に応じて経管栄養の検討

飲み込みに不安がある場合は、医師・言語聴覚士(ST)などに相談しましょう。

排尿障害・排便障害

脳梗塞によって、排尿や排便をコントロールする神経の通り道や中枢が損傷すると、排尿障害や排便障害が起こります。

尿意や便意を感じにくくなったり、逆に頻繁に感じたり、トイレまで我慢できずに失禁してしまったりするケースがあるのです。

また、尿や便が出にくくなり、いきんでも少ししか出ない、残っている感じが続くといった症状が見られる場合もあります。

これらの症状は、外出や仕事、睡眠など日常生活のあらゆる場面に影響し、生活の質を大きく低下させる可能性があります。

失禁への不安から人前に出ることを控えたり、トイレの場所が気になって行動範囲が狭くなったりすることも少なくありません。

排尿・排便障害は、適切な薬物治療やリハビリテーション、生活上の工夫によって軽減が期待できる場合もあるため、恥ずかしさから抱え込まず、主治医や専門スタッフに相談しましょう。

脳梗塞の症状や原因、早めの発見方法については、以下の記事もあわせてお読みください。

脳梗塞で後遺症が残る原因

脳梗塞によって壊れた脳の神経細胞は再生しにくいため、後遺症が残る場合があります。

血流が途絶えた部位の細胞が壊死すると、そこが担っていた運動や言語などの機能が失われ、麻痺やしびれなどの後遺症につながるのです。

一方で、生き残った細胞が代わりに機能を補う「神経可塑性(しんけいかそせい)」により、ある程度の回復は期待できます。

発症の直後は、この神経可塑性がとくに高まる時期とされています。(文献3)早い時期から体を起こし、リハビリテーションを始めることが重視されるのはこのためです。

ただし、完全に元の状態に戻るとは限りません。回復の程度は、損傷の範囲やリハビリテーションの内容によって大きく左右されます。

脳梗塞の後遺症はダメージを受けた部位で異なる

脳梗塞でどのような後遺症が残るかは、「どの部位がダメージを受けたか」によって大きく変わります。

以下のように、脳にはそれぞれ役割をもつ領域があり、損傷部位によって現れやすい症状が異なるのです。

脳の部位 主な役割・症状の例
前頭葉 ・行動・感情・人格などを司る
・感情のコントロールが難しくなる、集中力の低下、計画的な行動が困難になるなど
頭頂葉 ・知覚に関わる
・知覚障害、失行症、失認症、ゲルストマン症候群など
側頭葉 ・聴覚・嗅覚・記憶の中枢
・左側で失語症、右側で失見当識、聴覚性言語障害など
視床 ・感覚の中継点
・反対側の感覚障害(しびれ、感覚低下)、異常感覚、視床痛、意識レベルの低下 など
視床下部 ・自律神経・ホルモンのコントロール
・ホルモン分泌異常、体温調節異常、睡眠障害など
大脳基底核系 ・姿勢保持や運動の調節
・不随意運動、筋緊張の変化など
大脳辺縁 ・情動・記憶に関わる
・てんかん発作、コルサコフ症候群、見当識障害など
小脳 ・平衡・協調運動を司る
・平衡障害、運動失調、測定障害、企図振戦など

このように、同じ脳梗塞でも障害される領域によって、感情の変化から歩行障害まで症状の出方は大きく異なります。

どの部位にダメージがあるかを理解することが、適切なリハビリテーションにつなげる上で重要です。

あわせて、左右のどちら側に起きたかによっても症状の傾向が変わります。脳から出た神経は途中で交差しているため右脳の脳梗塞では左半身に、左脳の脳梗塞では右半身に麻痺が出るのが一般的です。

右脳の脳梗塞で起こりやすい後遺症

右脳に脳梗塞が起きると、左半身の麻痺や感覚の障害が現れます。

右脳は、空間の把握や全体像をとらえる働きを担っています。そのため、麻痺以外に以下のような症状が出やすくなります。

  • 左側にあるものに気づかない(半側空間無視)
  • 食事の左半分を残す、左側の壁や障害物にぶつかる
  • 自分の状態を正しく把握できず、できないことをできると思い込む
  • 感情や状況を読み取ることが難しくなる

右脳の脳梗塞では、本人に困りごとの自覚が乏しい場合があります。無理に動こうとして転倒につながることがあるため、周囲が環境を整えて見守ることが大切です。

左脳の脳梗塞で起こりやすい後遺症

左脳に脳梗塞が起きると、右半身の麻痺や感覚の障害が現れます。

多くの方では、言語をつかさどる中枢が左脳にあります。そのため、左脳の脳梗塞では以下のような症状が加わりやすくなります。

  • 言葉が出てこない、違う言葉になる(失語症)
  • 相手の話す内容の意味が理解しにくい
  • 読む・書くことが難しくなる
  • 計算や順序立てた作業が難しくなる

言葉でのやりとりが難しくなるため意思の疎通に工夫が必要です。短い文でゆっくりと、ひとつずつ伝えることを心がけてください。絵や写真を使う方法も有効です。

伝えたい気持ちがあるのに言葉にできないもどかしさは、本人にとって大きな負担になります。急かさず、答えを待つ姿勢が支えになります。

脳梗塞の後遺症は治るのか|治療とリハビリテーション

脳梗塞の後遺症を完治させるのは難しいですが、症状の軽減は可能です。

脳梗塞後遺症の治療とリハビリテーションには、以下のような方法があります。

  • 薬物療法
  • リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法)
  • 再発予防(生活習慣改善、服薬管理)
  • 再生医療

脳梗塞の後遺症は、患者様一人ひとりの生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。

後遺症によるさまざまな困難を少しでも軽減し、より良い生活を送るためには、適切な治療と地道なリハビリテーションが欠かせません。

以下で、それぞれの治療やリハビリテーションについて詳しく解説します。

薬物療法

脳梗塞の薬物療法は、再発の予防と後遺症の進行防止を目的に行われます。

脳梗塞は再発しやすいため、退院後も長期的な薬の服用が重要です。

以下のような薬の種類から、脳梗塞のタイプや発症時期、合併症の有無などを総合的に判断します。

薬の種類 主な役割・特徴 使用時期の例
血栓溶解薬 血管をふさいでいる血栓を溶かして再開通させる 発症から早期(数時間以内)
抗血小板薬 血小板の凝集を抑え、血栓ができるのを防ぐ 急性期〜退院後の再発予防
抗凝固薬 血液の凝固を抑制し、血栓ができにくい状態にする 心房細動などの合併症がある場合

リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法)

脳梗塞後のリハビリテーションは、後遺症として現れる運動麻痺、感覚障害、言語障害、高次脳機能障害などをできる限り改善し、日常生活の自立度を高めることを目的としています。

脳梗塞の後遺症は個人差が大きいため、画一的な内容ではなく、一人ひとりの状態に応じたオーダーメイドのリハビリテーションプログラムが重要です。

リハビリテーションは、以下のように分けて行われます。

リハビリテーションの種類 目的・内容
理学療法(PT) ・体の動きや基本機能の回復を目指す
・筋力トレーニング、関節可動域訓練、座る・立つ・歩くなどの練習を行い、移動や歩行の再獲得を支援
作業療法(OT) ・日常生活動作(ADL)や生活の質向上を目的とする
・食事・着替え・トイレ・入浴の練習、家事や趣味の再開支援、自宅環境に合わせた調整など
言語療法(ST) ・言語機能や嚥下機能の回復を目指す
・発声・発音の訓練、言葉の理解・表現の練習、嚥下の評価と訓練も行う

リハビリテーションは発症後できるだけ早く始め、急性期・回復期・生活期を通じた継続が望まれます。

リハビリテーションの継続は症状の改善だけでなく、福祉用具や住環境の調整を含めた「その人らしい生活」の再構築のためにも欠かせません。

再発予防(生活習慣改善、服薬管理)

脳梗塞の再発を防ぐためには、生活習慣の見直しと処方された薬を正しく続けることが重要です。

脳梗塞は一度起こると再発リスクが高く、退院後の過ごし方がその後の経過に大きく影響します。

なかでも、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は、脳梗塞の代表的な危険因子です。

生活習慣を改善しないと、再び血管が詰まりやすい状態になってしまうため、以下のように適切に管理しましょう。

    • 食生活の改善:塩分・糖分・脂肪分を控え、野菜・果物・魚を中心にバランスよくとる
    • 運動する習慣:医師の指示に従い、ウォーキングなどの有酸素運動を取り入れる
    • 禁煙:血管の老化・動脈硬化を防ぐため、可能な限り早期の禁煙を目指す
    • 飲酒の節制:飲酒は控えめにし、節度ある範囲にとどめる

さらに、医師から処方された薬は、指示どおりに継続して服用する必要があります。

自己判断で服薬を中断したり、量を減らしたりすると、脳梗塞を含む脳・心血管イベントの再発リスクが高まる恐れがあるため注意してください。

気になる症状が出た場合には、必ず主治医に相談しましょう。

再生医療

寝てばかりの状態が続き、リハビリテーションを続けても回復が止まっていると感じている方もいるかもしれません。動く意欲の底上げにつながる可能性のある選択肢として、再生医療に注目が集まっています。

脳梗塞を発症するとさまざまな障害が残る場合があり、リハビリテーションだけでは回復に限界があるケースも少なくありません。

そこで近年、脳梗塞後遺症に対する新たな治療の選択肢となっているのが「再生医療」です。

人の体には本来、損傷した組織を修復しようとする力が備わっています。その一部を担っているのが「幹細胞」です。

当院「リペアセルクリニック」では、幹細胞がさまざまな種類の細胞に変化する「分化能」という能力を活かし、患者様自身から採取した幹細胞を培養・増殖させて用いる再生医療の「幹細胞治療」を実施しています。

幹細胞はさまざまな細胞に分化する能力と、傷ついた組織の修復をサポートする働きを持つ細胞として知られています。

以下の記事では、脳梗塞の後遺症を幹細胞で治療した症例をご紹介しているので、ぜひご覧ください。

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まとめ|寝てばかりの状態は怠けではない

脳梗塞の後に日中も眠って過ごす状態は、本人の気力の問題ではありません。

脳の回復に伴う消耗や麻痺した体の疲れやすさ、睡眠のリズムの乱れ、意欲の低下や薬の影響といった複数の要因が重なって起こります。

一方で、そのまま様子を見続けると動かないことによる機能の低下が進みます。疲れやすさを前提にしたうえで短い活動と休息を組み合わせ、確実に達成できる小さな目標を置くところから始めてください。

脳梗塞の後遺症には、運動麻痺・感覚障害・言語障害・高次脳機能障害・嚥下障害・排泄障害などさまざまなタイプがあります。

後遺症に対しては、薬物療法や適切なリハビリテーション、生活環境の見直しによって改善や生活の質向上を目指せます。

後遺症を正しく理解し、焦らず継続的に取り組んでいきましょう。

そして、家族だけで抱えないでください。医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターなど、相談できる窓口があります。

当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、脳梗塞の後遺症に対する治療選択肢の一つ、再生医療に関する情報の提供と簡易オンライン診断を実施しています。ぜひ一度ご利用ください。

脳梗塞の後遺症に関するよくある質問

寝てばかりの状態はいつまで続きますか?

期間には大きな個人差があり、一律の目安を示すことはできません。

脳の回復に伴う消耗が主な原因である場合は、回復が進むにつれて起きていられる時間が少しずつ延びていきます。

ただし、動かない期間が長引くほど体力が落ちて起きていられなくなるという別の要因が加わります。期間を待つのではなく、短い活動を積み重ねることで変化を作ってください。

数カ月たっても変化が見られない場合や、いったん改善したあとに再び眠る時間が増えた場合は、主治医にご相談ください。

日中は起こしたほうがよいですか?

生活のリズムを整えるうえで、日中に起きている時間を作ることは大切です。ただし、無理に起こし続けることは逆効果になります。

起こすかどうかではなく、起きている時間に何をするかを組み立ててください。朝はカーテンを開けて光を入れ、食事は椅子で取り短い活動のあとに休息を挟むという流れを作ります。

声をかけても起きない状態や、起きてもすぐに眠ってしまう状態が続く場合は、夜間の睡眠や薬、体調に原因がある可能性があります。関わり方を変えるより先に原因の確認が必要です。

脳梗塞で後遺症なしの確率は?

脳梗塞後に、後遺症がまったく残らない人は決して多くはありません。

国内の大規模な調査では、退院時に「後遺症なし」と判定されたのは全体の13.2%にとどまっていました。文献1

ただし、急性期時点での評価であり、リハビリテーションによって機能が改善する人もいます。

後遺症の程度や回復の可能性は個人差が大きく、一律には語れない点に留意しておきましょう。

脳梗塞の後遺症なしの確率については、以下の記事でも詳しく解説しています。

脳梗塞の後遺症でふらつきが起きる理由は?

脳梗塞の後遺症でふらつきが出るのは、バランスを調整する小脳や脳幹が障害され、姿勢を保つ力が弱くなっているのが一因です。

さらに、視覚や体の感覚情報を脳がうまく統合できず、体の位置感覚がずれてしまう状況も影響します。

下肢の麻痺や体幹筋力の低下、足裏の感覚低下が重なると、歩行が不安定になって転びやすくなるため注意が必要です。

寝ている時間が長くなると、起き上がったときに血圧が下がりやすくなり、ふらつきがさらに強く出ます。

脳梗塞の退院後に気をつけることは?

退院後は、再発を防ぐための生活習慣が大切です。

塩分が多く脂っこい食事を控え、高血圧や動脈硬化の悪化を防ぎましょう。

また、飲酒や喫煙はできるだけ控え、脱水や血栓のリスクを下げる習慣も重要です。

さらに、体力・筋力向上のために、無理のない範囲での運動も欠かせません。

あわせて、退院前に介護保険や訪問でのリハビリテーションについて相談を始めておくことをおすすめします。手続きには時間がかかるためです。

軽い脳梗塞にも後遺症はある?

軽い脳梗塞では治療によって症状が消え、日常生活に支障がない状態まで回復し「治った」と感じる場合があります。

ただし、脳のダメージが完全に元通りになるわけではなく、そのまま放置すると再発や認知機能低下につながる恐れがあるため注意しなければなりません。

軽症であっても、早期受診と再発予防のための服薬、生活習慣の見直し、必要に応じたリハビリテーションの継続が重要です。

参考文献

(文献1)
脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握 報告書 2022年|日本脳卒中データバンク

(文献2)
脳卒中|国立循環器病研究センター

(文献3)
脳血管リハビリテーション科|国立循環器病研究センター