高血圧の薬(降圧薬)の種類と副作用を内科医が解説!注意点から血圧を下げる方法まで
公開日: 2024.05.02更新日: 2024.11.06
高血圧の薬(降圧薬)は血圧を下げる薬で、多くの種類があります。降圧薬にはどのような違いがあるのかわからず、副作用を心配する方もいるのではないでしょうか。
高血圧の治療では、まずは運動や食事管理などによる生活習慣の見直しによって血圧の改善を図ります。
しかし、それでも難しい場合は降圧薬が使用されます。降圧薬にはそれぞれ作用のメカニズムや副作用が異なるため、服用には注意が必要です。
この記事では、降圧薬の種類やその特徴について専門医が解説します。降圧薬についての正しい情報を身につけて健康な時間をすごせるよう、ぜひ最後までお読みください。
目次
高血圧の薬(降圧薬)を飲む際の基準値
まず前提として、現在のガイドライン上では「最高血圧120mmHg/最低血圧80mmHg未満」を正常血圧としており、これが降圧薬を処方する目安の1つです。
詳細は後述しますが、よく使用される降圧薬には大きく分けて7種類あります。また、複数の種類を組み合わせた配合薬もあります。
近年ではより厳格な血圧管理が重要視されるようになり、130〜139/80〜89mmHgになると、「高値血圧」と呼ぶようになりました。さらに140/90mmHg以上になると「高血圧症」と診断されます。
高血圧の薬(降圧薬)の種類一覧と副作用
主な降圧薬の種類としては、以下の7つです。
- ・カルシウム拮抗薬
- ・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
- ・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
- ・利尿薬
- ・β(ベータ)遮断薬
- ・α(アルファ)遮断薬
- ・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬)
ここでは、それぞれの降圧薬の特徴について詳しく解説します。
①カルシウム拮抗薬:最も多く使われている薬
カルシウム拮抗薬は、末梢の血管を拡張させることで血圧を下げる作用の薬です。副作用が少ないため、現在国内で最も多く処方されている降圧薬です。
高血圧の治療を開始する場合、このカルシウム拮抗薬が第一選択として選ばれることが多い傾向にあります。
副作用としては、以下のような血圧の下がりすぎによる症状があげられます。
- ・めまい感
- ・動悸
- ・頭痛
- ・ほてり感
- ・顔面紅潮
- ・むくみ
- ・歯茎の肥厚 など
- ・アダラート
- ・アムロジピン
- ・アムロジン
- ・ノルバスク
- ・ランデル
- ・アテレック
- ・カルブロック
- ・コニール など
②アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):2番目に多く使われている薬
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、カルシウム拮抗薬に次いで多く使用されている降圧薬です。アンジオテンシンⅡ受容体は血管等に分布しており、アンジオテンシンという物質が結合して強力な血管収縮作用を持ちます。
ARBによってアンジオテンシンの結合を防ぎ、血管収縮作用を抑えて血圧の低下につながります。
この薬も副作用が少なく使用しやすい薬の一つです。治療の第一選択として使用することもあり、カルシウム拮抗薬でも十分に降圧が得られない場合に併用するケースも少なくありません。
注意すべき副作用として、内服中に血中のカリウムが上昇する可能性がある点です。
腎臓の機能が悪い方が服用する場合、定期的に腎機能やカリウム濃度等をチェックする必要があります。また、妊婦の方や授乳中の方の服用は、赤ちゃんへの悪影響があるため禁忌です。
- ・オルメテック
- ・オルメサルタン
- ・アジルバ
- ・アジルサルタン
- ・ミカルディス
- ・テルミサルタン など
高血圧と腎臓機能との関係性について、以下の記事でも詳しく解説していますので、興味がある方はこちらもご覧ください。
③アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とは、ARBと似た名前のとおり、アンジオテンシン系に作用する薬です。
ARBは、アンジオテンシンⅡが結合する受容体に作用する薬です。一方でACE阻害薬はアンジオテンシンⅡ自体の産生を阻害し、血管収縮作用を抑えて血圧を低下させます。
ACE阻害薬の副作用として有名なのが、「空咳(からぜき)」です。これはブラジキニンという物質の増強作用によるもので、とくに日本人を含むアジア人に多いとされています。
この副作用を利用して、咳を誘発させることで誤嚥性肺炎を予防する目的で使用する場合もあります。
ACE阻害薬もARBと同様に、妊婦の方や授乳中の方の服用は禁忌です。
- ・レニベース
- ・エナラプリルマレイン酸塩
- ・エースコール
- ・テモカプリル塩酸塩
- ・タナトリル
- ・イミダプリル塩酸塩 など
④利尿薬
利尿薬は、塩分(ナトリウム)を含めた水分を尿として体外に排泄し、血液量を減少させて血圧を下げる薬です。血圧の話でよく「塩分の摂りすぎに注意」と聞きますが、日本人の塩分摂取量は欧米人と比較しても多いことがわかっています。
具体的に欧米人の1日の塩分摂取量は8〜9g程度なのに対し、日本人は1日10g程度とされています。塩分を取りすぎると、浸透圧によって水分が血管の中に引き込まれ、血液量が増加して血圧上昇につながるのです。
利尿薬は、高血圧だけでなく心臓の機能が悪くむくみがある方や、これまで説明した薬の効果が不十分な場合などに併用することがあります。
利尿薬は体内の水分を排泄させる作用があるため、副作用として電解質の異常をきたすことがあります。具体的には低ナトリウム血症や低カリウム血症などがあり、症状としては以下のとおりです。
- ・ぼんやり感
- ・倦怠感
- ・手足の力の入りにくさ など
高尿酸血症や高中性脂肪血症など、代謝系への影響にも注意が必要です。そのほかにも、トイレに行く回数や量が増える点も副作用の1つです。
・ヒドロクロロチアジド
・フルイトラン
・トリクロルメチアジド
・フロセミド
・ラシックス
・アゾセミド
・ダイアート など
⑤β(ベータ)遮断薬
心臓の筋肉に分布する「β受容体」を遮断させて心拍数を減少させたり、心臓の収縮力を抑制したりする作用のある薬です。β(ベータ)遮断薬は、高血圧治療の第一選択になることはあまりありません。
しかし、心筋梗塞の発症後の高血圧症や、交感神経が亢進した状態の病気(状腺機能亢進症など)に合併する高血圧症に対して積極的に使用されます。交感神経の作用で脈が速くなっている場合にも有効で、これまで紹介した降圧薬と併用して使うケースも多い薬です。
気管支喘息などの呼吸器疾患を持っており、吸入を行っている方が使用する場合、作用が変化して症状の悪化を招く危険性があり注意が必要です。
また、薬を急に中断すると狭心症や高血圧発作が起こる危険性があります。β(ベータ)遮断薬を中止する場合は、徐々に減量する必要があります。
- ・インデラル
- ・プロプラノロール
- ・メインテート
- ・ビソプロロール
- ・アーチスト
- ・カルベジロール など
⑥α(アルファ)遮断薬
末梢血管に分布するα1受容体を阻害して交感神経の働きを抑え、血管を拡張させて血圧を下げる作用がある薬です。
交感神経が活性化しやすい早朝に血圧が上昇するタイプの方の場合、寝る前にα遮断薬を飲むことで朝の血圧低下が期待できます。また、褐色細胞腫による高血圧症のコントロールにも使用される薬です。
α遮断薬は自律神経に働きかける薬のため、交感神経の作用を抑えることで以下のような副作用が起こる可能性があります。
- ・起立性低血圧
- ・めまい
- ・失神
α遮断薬を服用する場合は少量から開始し、副作用に注意しながら徐々に増やしましょう。
- ・カルデナリン
- ・ドキサゾシン
- ・ミニプレス
- ・プラゾシン など
⑦ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬)
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬)は、体内で産生されるアルドステロンというホルモンの働きを阻害する作用の薬です。
本来アルドステロンは、腎臓に作用して水を体内に吸収させて血液量を増やす働きがあります。これが阻害されると体内に水分が再吸収されなくなり、血液量が減って血圧が低下しやすくなります。
また、心臓保護効果が期待できるため、心不全を合併している方の高血圧症に使用するケースも少なくありません。
MRI拮抗薬は体液バランスを調節する薬のため、電解質異常をきたす可能性があり、高カリウム血症に注意が必要です。とくに糖尿病性腎症や、中等度異常の腎機能障害がある方への使用は禁忌です。
- ・アルダクトン
- ・スピロノラクトン
- ・セララ
- ・エプレレノン
- ・ミネブロ など
降圧薬の配合剤について
降圧薬の配合材は、これまで紹介した作用機序の異なる種類の薬を組み合わせた治療薬です。
配合薬によって飲む薬の数が減り、飲みやすくなることが最大のメリットといえます。薬が増えるのが嫌な方や、薬が多くて内服が大変な方におすすめです。
現在国内で処方可能な降圧薬の配合剤は、大きく分けて3種類です。
降圧薬の配合剤 |
詳細 |
カルシウム拮抗薬+ARB |
・ザクラス ・アイミクス ・ミカムロ ・レザルタス ・エックスフォージ など |
ARB+利尿薬 |
・イルトラ ・エカード ・プレミネント ・ミコンビ など |
カルシウム拮抗薬+ARB+利尿薬 |
ミカトリオ |
配合薬を使用する際は、それぞれの降圧薬の副作用に注意してください。配合薬の場合、名前だけでどの薬が配合されているかがわかりにくいため、注意が必要です。
高血圧の薬(降圧薬)を服用する際の注意点
降圧薬を服用する際は、以下の点に注意しましょう。
- ・グレープフルーツなどの柑橘類を避ける
- ・自己判断で薬を飲むことをやめる
- ・飲み忘れたときの対応を適切にする
ここでは、それぞれの注意点を詳しく解説します。
グレープフルーツなどの柑橘類を避ける
まず、降圧薬を服用した際は、グレープフルーツを含んだ柑橘類の摂取は避けてください。グレープフルーツには、フラノクマリン類という成分が含まれています。
この成分には、体内で薬物を分解する酵素の働きを阻害する作用があるとされています。酵素の働きが阻害されることで薬の効果がうまく働かず、かえって副作用のリスクを高める恐れがあるのです。
これは降圧薬だけでなく、コレステロール低下薬や抗不安薬など、さまざまな薬に対して影響があります。薬を服用する際は、柑橘類は意識的に避けましょう。
降圧薬と柑橘類の関係性についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
自己判断で薬を飲むことをやめる
自己判断で薬を飲むことをやめないでください。一時的に血圧が落ち着くことで、「もう大丈夫だろう」と薬をやめる方もいるでしょう。
しかし、途中で薬の服用をやめると、再び高血圧の状態に戻る可能性が高くなります。薬の減量・中止は自己判断で行わず、必ず医師と相談することが重要です。
また、薬を一生飲み続けないといけないのか心配になる方もいるでしょう。血圧を下げるには薬の服用が重要ですが、中には生活習慣が改善したことで徐々に減量し、降圧薬をやめられた方もいます。そのため、治療が順調であれば、薬を中止できる可能性は十分にあります。
飲み忘れたときの対応を適切にする
降圧薬を飲み忘れたときの対応は、薬の種類によって異なります。そのため、自己判断で飲むことは避け、事前に医師や薬剤師に相談しましょう。
飲み忘れた場合、時間をずらして服用するケースが多いですが、1度に2回分を服用するのは必ず避けましょう。
1度にたくさんの薬を服用すると、効果が効きにくくなったり、副作用が出やすくなったりする恐れがあります。
高血圧の薬(降圧薬)以外に血圧を下げる方法
食事や運動など、生活習慣の見直しをすることで、高血圧の予防や改善が期待できます。降圧薬以外で血圧を下げる方法としては、以下のとおりです。
- ・食事の改善
- ・運動習慣の改善
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。
高血圧を改善するための生活習慣(食事・運動)の工夫について、以下の記事でも詳しく解説していますので、興味がある方はご覧ください。
食事の改善
食事の際は、塩分や脂肪などが多く含まれている食べ物の食べすぎは控えましょう。
とくに日本人は、高血圧の原因となりやすい塩分の摂取量が多い傾向にあるとされています。高血圧の方の場合、食塩の摂取量は6g/日未満が推奨されています。
減塩をするための工夫としては、以下のとおりです。
- ・香味野菜や香辛料を活用する
- ・外食や加工品を控える
- ・食べすぎを控える
- ・麺類のスープは飲まない
また、お酒の飲みすぎも血圧を高める原因の1つです。1日あたりのアルコール摂取量の目安は、男性で20〜30ml、女性で10〜20mlとされています。
アルコール20〜30mlは、お酒で換算すると日本酒1合、ビール中瓶1本に相当します。普段からお酒を飲む方は、この目安を守りましょう。
運動習慣の改善
食生活だけでなく、運動習慣の改善もおすすめです。高血圧を改善するための運動には、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が推奨されています。
運動時は、ややきついと感じる程度の強度でかまいません。激しい運動をすると、かえって血圧が高まる恐れがあるので、軽めの強度を心がけましょう。
運動時間は毎日30分以上、週180分以上が目安です。ただし、いきなり長時間の運動をはじめると体への負担が強くなるので、最初は無理のない範囲で進めてください。
運動の時間をうまくとれない場合は、以下のような工夫をして、普段の生活内での活動量を増やしてみましょう。
- ・エレベーターではなく階段を使う
- ・近い場所は車ではなく歩き・自転車で移動する
- ・定期的に立って座りっぱなしを防ぐ
まとめ|高血圧の薬(降圧薬)は医師と相談しながら正しく服用しよう
この記事では、たくさんある降圧薬の作用や特徴について解説しました。高血圧の治療をするためには、降圧薬を正しく継続的に服用することが大切です。
高血圧の治療が順調であれば、降圧薬を途中でやめることもできるでしょう。
また、決して自己判断で薬の服用をやめたり、飲み忘れの際に誤った対応をしたりしないように注意してください。薬の服用の際にわからない点がある場合は、必ず主治医に確認しましょう。
参考文献 |