高血圧の薬(降圧薬)その種類と効果、副作用とは?内科医が解説
高血圧の薬(降圧薬)は血圧を下げる薬のことを指します。高血圧は、まずは運動や塩分制限などによる生活習慣の見直しによって血圧の改善を図ったり、動脈硬化の予防が重要ですが、それでも難しい場合には降圧薬を使用します。
たくさんの種類があるため、実際に降圧薬を飲んでいらっしゃる方の中には、一体どういった違いがあるのか分からずに「ほんとうに飲んでいて大丈夫だろうか?」「何か悪い作用があるのではないか?」と心配になってしまうこともあるかと思います。
薬にはそれぞれ特徴とする作用と副作用があります。
この記事では、降圧薬について、種類ごとにその特徴を専門医が解説していきます。降圧薬についての正しい情報を身につけて健康な時間をすごせるよう、ぜひ最後までお読み下さい。
目次
降圧薬|主な7種類と副作用や注意点
よく使用される降圧薬の種類は大きく分けて7種類。数種類を組み合わせた配合薬もあります 。
まず前提として、現在のガイドライン上では120/80mmHg未満を正常血圧としており、これを1つの目安として薬を処方しています。
最近ではより厳格な血圧管理が重要視されるようになり、血圧130〜139/80〜89mmHgになると、「高値血圧」と呼ぶようになりました。これより高くなり140/90mmHg以上になると「高血圧症」と診断します。
①カルシウム拮抗薬:最も多く使われている薬
末梢の血管を拡張させることで血圧を下げる作用の薬です。現在国内で最も多く処方されている降圧薬です。その理由はなんといっても、確実な血圧降下作用と、副作用が少なく安全に使いやすい薬であることです。
医師側にとっても副作用が少ないことは処方のしやすさにつながり、高血圧の治療を開始する場合には、このカルシウム拮抗薬が第一選択として選ばれることが非常に多くなります。
主なカルシウム拮抗薬の商品名(後発品含む)
カルシウム拮抗薬の副作用や注意点副作用は、基本的に血圧を下げる作用によるものと考えることができます。したがって、血圧が下がりすぎてしまうことが原因で生じるめまい感や、動悸、頭痛、ほてり感、顔面紅潮、浮腫などがあります。また、歯茎が肥厚してしまう副作用もまれながら報告されています。
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②アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):2番目に多く使われている薬
カルシウム拮抗薬に次いで多く使用されている降圧薬です。アンジオテンシンⅡ受容体は血管等に分布しており、アンジオテンシンという物質が結合することで強力な血管収縮作用を持ちます。ARBはこの受容体に結合することで、アンジオテンシンの結合を防ぎ、血管収縮作用を抑えることで血圧を低下させる作用を持ちます。この薬も副作用が少なく使用しやすい薬の一つです。治療の第一選択として使用することもありますし、カルシウム拮抗薬でも十分に降圧が得られない場合に上乗せして使うことも一般的です。
主なARBの商品名(後発品含む)
ARBの副作用や注意点カルシウム拮抗薬と同様に副作用は非常に少ない薬ですが、内服中に血中のカリウムが上昇することがあります。腎臓の機能が悪い方の場合には、定期的に腎機能やカリウム濃度等をチェックする必要があります。 また、妊婦の方や授乳中の方の服用は、赤ちゃんへの悪影響があるため禁忌です。
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③アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
ARBと似た名前の通り、アンジオテンシン系に作用する薬です。ARBはアンジオテンシンⅡが結合する受容体に作用する薬でしたが、ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡ自体の産生を阻害することで血管収縮作用を抑え血圧を低下させます。
主なACE阻害薬の商品名(後発品含む)
ACE阻害薬の副作用や注意点ACE阻害薬の有名な副作用として空咳があります。これはブラジキニンという物質の増強作用によるもので、特に日本人を含むアジア人に多いとされています。この副作用を逆手にとり、咳を誘発させることで誤嚥性肺炎を予防する目的で使用する場合もあります。 このACE阻害薬もARBと同様に、妊婦の方や授乳中の方の服用は禁忌となります。
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④利尿薬
血圧の話でよく “塩分の摂りすぎに注意”と聞きますが、実際に日本人の塩分摂取量は、欧米人と比較しても多いことが分かっています。
具体的には、欧米人は1日8-9g程度なのに対し、日本人の塩分摂取量が1日10g程度です。さらに、日本人は白人に比べて食塩感受性が高いことが分かっており、塩分を取りすぎるとそれだけ体内に塩分(ナトリウム)が溜まり、その浸透圧によって水分が血管の中に引き込まれることで血液量が増加して血圧が上昇しやすくなる傾向があります。
利尿薬は、ナトリウムを含めて水分を尿として体外に排泄させることで、血管の中のボリュームを減少させて血圧を下げる作用を持ちます。高血圧に加えて心臓の機能が悪く体にむくみがある方や、これまで説明した薬でも効果が不十分な場合などに利尿薬を上乗せして使ったりします。利尿薬の中でもさらに作用に細かな違いがありますが、ここでは一括りに説明します。
主な利尿薬の商品名(後発品含む)
利尿薬の副作用や注意点体内の水分を排泄させる作用があるため、主に電解質の異常をきたすことがあります。 具体的には、低ナトリウム血症、低カリウム血症などがあり、自覚症状ではぼんやり感や倦怠感、手足の力の入りにくさ等として感じる場合があります。また、高尿酸血症、高中性脂肪血症などの代謝系への影響にも注意が必要となります。またトイレに行く回数や量が増える点も副作用として考える必要があります。
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⑤β(ベータ)遮断薬
心臓の筋肉に分布するβ受容体を遮断することで心拍数を減少させたり、心臓の収縮力を抑制することで血圧を下げる作用を持っています。最初から高血圧治療の第一選択とはなりにくいものの、心筋梗塞を発症した後の高血圧症や、交感神経が亢進している状態の病気(状腺機能亢進症など)に合併する高血圧症に積極的に使用されます。交感神経の作用で脈が速くなっている場合にも有効です。これまで紹介した降圧薬と併用して使うケースも多い薬です。
主なβ遮断薬の商品名(後発品含む)
β遮断薬の副作用や注意点自律神経に作用し、副交感神経優位になる薬です。気管支喘息などの呼吸器疾患を持っていて、吸入を行っている方などの場合には、正反対の作用の薬になるため症状の悪化を招く危険性があり注意が必要です。また、急に薬を中断したりすると狭心症や高血圧発作がおきる危険性があるため、中止する場合には徐々に減量していく必要があるのが注意点です。
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⑥α(アルファ)遮断薬
末梢の血管に分布するα1受容体を阻害することで交感神経の作用を抑え、末梢血管を拡張させて血圧を下げる作用の薬です。高血圧の中でも、交感神経が活性化しやすい早朝に血圧が上昇しやすい高血圧の方の場合には、前日の寝る前にこの種類の薬を飲むことで朝の血圧上昇を抑える効果があります。また、褐色細胞腫による高血圧症のコントロールにも使用される薬です。
主なα遮断薬の商品名(後発品含む)
α遮断薬の副作用や注意点この薬も自律神経に作用する薬であり、交感神経の作用を抑えることで起立性低血圧が起こったり、それに伴うめまいや失神をきたす可能性があります。したがってこの種類の薬を導入する場合には少量から開始し、副作用に注意しながら徐々に増量していくようにします。
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⑦ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRI拮抗薬)
体内で産生されるアルドステロンというホルモンの働きを阻害する作用の薬です。本来アルドステロンは、腎臓に作用して水を体内に吸収させて、血液量を増やす働きを持っています。これが阻害されることで、体内に水分が再吸収されなくなり、血液量が減って血圧を下げる効果があります。心不全や心筋梗塞後の心臓保護効果があり、心不全を合併している方の高血圧症に対して使用するケースがあります。
主なMRI拮抗薬の商品名(後発品含む)
MRI拮抗薬の副作用や注意点体液バランスを調節する薬であるため、電解質異常をきたす可能性があり、高カリウム血症に注意が必要です。特に糖尿病性腎症や中等度異常の腎機能障害がある方への使用は禁忌となっています。
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降圧薬の配合剤について
これまで紹介した作用機序の異なる種類の薬を組み合わせた治療薬になります。配合薬によって飲む薬の数が減り飲みやすくなることが最大のメリットになります。薬が増えること自体が嫌であったり、他の種類の薬も多く内服が大変であったりする患者さんにはよいことだと思います。
現在国内で処方可能な降圧薬の配合剤は大きく分けて3種類です。
カルシウム拮抗薬+ARB
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ARB+利尿薬
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カルシウム拮抗薬+ARB+利尿薬ミカトリオ |
配合薬の副作用はそれぞれ配合されている成分の副作用になります。配合薬の場合、名前だけでどの薬が配合されているかがわかりにくくなっているため、薬の配合されている量などには注意が必要です。
まとめ・降圧薬の分類と副作用、飲む際の注意点
たくさんある降圧薬を作用によって分類して解説していきました。血圧の薬は基本的には飲み続けることが大切ですので、お読みくださった方の中でもしご自身が降圧薬を内服されている場合、薬に対する正しい理解をつけていただくことで不安感などが解消されるきっかけになれば幸いです。それでも良くわからない場合には、ご自身の担当医の先生の診察時に、疑問点を聞いて確認してみると良いでしょう。
No.6
監修:医師 渡久地 政尚
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