幻肢痛の治療法とは?セルフケアや新たな技術による治し方も紹介
公開日: 2024.06.19更新日: 2024.10.28
失ったはずの腕や脚が痛むのはどうして?
幻肢痛に効果的な治療法はあるの?
この記事に辿り着いたあなたは、幻肢痛に悩んでおり、なんとかして痛みを和らげたいと感じているのではないでしょうか。
幻肢痛の治療法には「薬物療法」や「鏡療法」などの選択肢があり、複数の方法を組み合わせて治療を進めることもあります。ご自身の状態に合った治療法を試すことが大切です。
本記事では、幻肢痛でよく用いられる治療法やセルフケア、そして新しい治療法について解説します。幻肢痛に悩んでいる、また幻肢痛に苦しむ方の力になりたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
幻肢痛に対する4つの治療法
幻肢痛(げんしつう)とは、事故や病気で四肢を切断したあと、失ったはずの腕や足に痛み・しびれを感じる現象です。四肢の切断によって脳内にある身体の地図が書き換わり、認識と感覚の不一致が生じて起こるといわれています。
幻肢痛の一般的な治療方法は、以下の4つです。
- 薬物療法
- 鏡療法
- 電気刺激療法
- リハビリテーション
ひとつの治療法で痛みが緩和され、一定の効果が得られる場合もありますが、さまざまな方法を組み合わせて治療を進めていくケースが多いです。
本章を参考に、幻肢痛における治療法の選択肢を知っておきましょう。
薬物療法
薬物療法では、以下のような種類の薬を使用します。
- 鎮痛薬
- 抗けいれん薬
- 抗うつ薬
- 抗てんかん薬
- 抗不整脈薬
オピオイド系鎮痛薬(モルヒネやドラマドール)が使われるケースもありますが、依存や乱用のリスクが高く副作用も懸念されるため、使用は慎重におこなうべきだと考えられています。
また、局所療法として、カプサイシンクリームの塗布やリドカインスプレーの噴霧などがおこなわれる場合があります。
いずれにしても、薬物療法は作用と副作用のバランスを考え投与するのが望ましいため、主治医と十分コミュニケーションを取りましょう。
鏡療法
鏡療法は、ミラーセラピーとも呼ばれている方法です。
健常な四肢を幻肢があるかのように鏡に映します。健常な四肢を動かすと、鏡にも同様に映るため、あたかも幻肢を動かしていると錯覚するのです。
これを繰り返すうちに、「幻肢が思った通りに動いている」と脳が認識するようになります。知覚と運動の情報伝達が脳内で再構築され、幻肢痛が軽減していきます。
具体的な方法は以下のとおりです。
1. 身体の正面中央付近に適切な大きさの鏡を設置します。
2. 切断部位が見えないようにし、健常肢が鏡に映るように調整します。
3. 鏡に映った健常肢の像がちょうど幻肢の位置と重なるようにします。
4. 健常肢側から鏡を見ると、幻肢があるかのように鏡に映ります。
5. その状態で健常肢でさまざまな動きをし、鏡の像を集中して見ます。
鏡療法をおこなう時間は決められていませんが、15分~30分程度おこなうのが一般的です。ただし、疲労状況や集中できる時間を考慮して、調整しましょう。
電気刺激療法
電気刺激療法には、3つの種類があります。
- 脊髄刺激
- 視床刺激
- 大脳皮質刺激
脊髄刺激を与えると、痛みが脳に伝わりにくくなります。刺激を与えると、痛みの伝達を抑制する物質が増加するため、神経の興奮を抑制して痛みの緩和につながるのです。
また、大脳皮質にある一時運動野や視床へ電気刺激を与えても、幻肢痛を和らげるケースが報告されています。刺激を与える部位は、切断部位や神経の残っている部分によって治療方法が異なります。
リハビリテーション
義肢や装具には、失った機能や役割を補うだけでなく、幻肢痛を和らげる効果があります。
義肢や装具の装着は、鏡療法と同様に脳に失った四肢を認識させるため、義肢の装着が日常的になると幻肢痛も消失していく場合が多いです。
ただし、幻肢痛がひどく、義肢や装具の装着ができない場合もあります。リハビリは、医師をはじめ、理学療法士や義肢装具士など、医療者と相談しながら進めていきましょう。幻肢痛は、常に一定に感じているわけではなく、突然襲われる場合もあります。
寝ていても飛び起きてしまうような突然の痛みに襲われたり、失った手足が締め付けられるように感じたり、痙攣している、幻肢がねじれる、しみるなど、感じ方や程度はさまざまです。
数年で幻肢痛がなくなる方もいれば、長年痛みに苦しめられる方もいます。そのため治療法の選択は、医師をはじめとするさまざまな医療者と相談し、それぞれの痛みの程度やライフスタイルに合わせた継続できる治療法の選択が必要でしょう。
幻肢痛治療経験者の中には、治療に成功し、徐々に痛みが緩和され消失した方もたくさんいます。
「なるべく痛みではなく、他に意識が向くようにしていると徐々に痛みが引いた」「義足をつけてリハビリを続けていると幻肢痛が緩和した」など、幻肢痛はすぐになくすことはできませんが、治療を続け徐々に痛みから解放された方は多くいます。
しかし、長年幻肢痛に悩まされているケースもあります。幻肢痛の治療は、根気強く治療を続けていくモチベーションが必要です。
幻肢痛のセルフケア方法2つ
幻肢痛のセルフケアをする方法として、以下2つが挙げられます。
- ストレスをコントロールする
- 家族・支援者によるサポートを受ける
本章で幻肢痛のセルフケア方法を知り、医療機関での治療以外にできることがないか検討してみましょう。
ストレスをコントロールする
適切なストレス管理で痛みを和らげることもできます。
幻肢痛患者は、痛みによって、不安や怒り、恐れなど、さまざま感情が入り混じっている心理状態です。慢性的なストレスは、痛みを過敏に感じさせるため、幻肢痛が悪化する原因にもつながります。
自分でできるストレスのコントロール方法は、以下の通りです。
- 趣味に没頭する
- 散歩をする
- 映画やドラマを見る
- 好きな物を食べる
- お風呂にゆっくりつかる
- 規則的な睡眠をとる
- 香りを楽しむ
- 声を出して笑う
- 日光を浴びる
過度な運動などの幻肢痛が悪化するようなものは避け、まずは自分ができそうなものから始めてみましょう。暴飲暴食、過度な飲酒・喫煙などはかえって体調不良や睡眠不足の原因となり、痛みの悪化を招くため注意が必要です。
家族・支援者によるサポートを受ける
ストレス管理は本人だけでなく、周囲からのサポートが必要になるケースもあります。
なるべくストレスを抱え込まず、周りの人の力を借りながらうまくコントロールすることが大切です。
家族・支援者ができるサポートは、以下の通りです。
- 痛みが一番のストレスなら、残存した方の腕や足を軽くマッサージしてもらう
- リハビリがストレスなら、リハビリのやり方やメニューを主治医と相談する
- 生活の不自由さがストレスなら、補助グッズの使用や利用できる支援の導入を検討する
まずは自分がストレスに感じていることは何かを、家族やサポートしてくれる人に話して理解してもらう必要があります。
また、精神的に不安定になっている場合は、心療内科・精神科の受診やカウンセリングを受けることなども検討しましょう。
新たな技術を用いた幻肢痛の治し方2選
四肢の一部を失った方が、幻肢痛を乗り越え、生活の再構築をしていくのは、とても困難な道のりでしょう。
幻肢痛には、従来先述したような4つの治療法が用いられていますが、IT技術の進化に伴い、以下2つのような新しい治療法も登場しています。
- VR技術による「遠隔セラピー」
- BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」
体験を行う交流会もあるため、積極的に参加することで新たな発見があるかもしれません。お住まいの地域での開催がないか調べてみましょう。
VR技術による「遠隔セラピー」
VR空間のなかで、失った四肢を補間し、脳を錯覚させるセラピーも開発されています。幻肢痛を感じる患者とセラピストが一緒にVR空間の中に入り、手足を動かすイメージを共有する手法です。
3Dを利用したリアルな空間なので、実際にリハビリをしているような雰囲気が味わえます。
さらに、VR空間でセラピーを行うため、セラピストが近くにいなくても、いつでもどこでも実施が可能です。
鏡療法は切断部位によって有効でない場合もありますが、VR技術による遠隔セラピーならばより多くのケースに対応できます。
BCI(ブレインコンピューターインターフェイス)による「脳のトレーニング」
BCIによる「脳のトレーニング」では、脳活動を計測し、得られた計測信号から脳情報を読み解き、それに基づいて架空の手足の映像をオンラインで動かします。
架空の手足を動かすことで、脳の変化を促し、新しい感覚を得られたり、治療につながっていくことを目的としたものです。
この訓練を3日間行うことで、訓練後5日間の痛みが30%以上減弱した調査結果もあります。
まとめ|自分に適した幻肢痛の治療法を検討しよう
本記事では、幻肢痛の治療法とセルフケアの方法について詳しく解説しました。
治療の際には、失った部位や痛みの状態に合わせた方法を選択する必要があります。
また、IT技術を活かし、リアルに失った四肢を感じられるような遠隔セラピーやBCIによるトレーニングといった新しい治療法も開発されています。日々情報収集をおこないながら、自分に合った治療法を見つけましょう。
当院「リペアセルクリニック」は、幹細胞の働きを活かし、本来の機能ができなくなった臓器や骨などを修復する「再生医療」を扱うクリニックです。再生医療には、膝や腰の痛みを改善させる治療もあります。再生医療に興味を持たれた方は、ぜひ当院のホームページをご覧ください。
参考文献一覧
(文献1)
住谷昌彦 幻肢の感覚表象と幻肢痛 バイオメカニズム学会誌Vol. 39,No.2(2015)
(文献2)
インタビュー「最先端の幻肢痛治療に見る、「脳のリプログラミング」の可能性」
(文献3)
UTokyo バーチャルリアリティー治療で緩和される幻肢痛の特徴
(文献4)
住谷昌彦、宮内哲ほか 幻肢痛の脳内メカニズム 日本ペインクリニック学会誌Vol.17No.1 2017
(文献5)
UTokyo 失った手足の痛みを感じる仕組み
(文献6)
日本ペインクリニック学会 「神経障害制疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」
(文献7)
緒方徹、住谷昌彦「幻肢痛の機序と対応」Jpn J Rehabil Med 2018;55:384-387
(文献8)
ミラーセラピーについて | 脳梗塞集中リハビリセンター │ 社会医療法人 生長会
(文献9)
大内田裕 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年
(文献10)
片山容一、笠井正彦 「幻肢・幻肢痛を通してみる身体知覚」2017年
(文献11)
落合芙美子 日本義肢装具学会誌「義肢装具に対するチームアプローチ」日本義肢装具学会誌Vol.13 No.2 1997
(文献12)
幻肢痛VR遠隔多人数セラピーシステム|JDP