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肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 

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肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 

非代償期肝硬変の治療において、食事療法はとても重要です。

腹水や肝性脳症などの合併症の改善のためには、水分・塩分・糖分・タンパク質を控えた、バランスの良い食事が必要となります。以下で詳しく解説していきます。

肝硬変における食事療法の重要さ

肝硬変は、B型・C型肝炎ウィルス感染やアルコール、自己免疫性疾患などが原因となり、慢性的に肝細胞の破壊と再生が繰り返された末、線維化によって硬くなり、肝臓の機能が低下し、進行すると肝癌や肝不全となり、死に至る怖い疾患です。

肝硬変になると低栄養に陥ってしまうことが多く、この低栄養が生命予後に関わってくると報告されています。また、低栄養が問題視される一方で、肥満や過栄養を呈する患者さんもいます。肥満による糖代謝異常は肝臓での発癌率を上げるため、注意が必要です。

身体の状態に合わせた栄養制限や栄養付与を行い、バランスのとれた食事を摂取するのが「食事療法」です。

医療を受けるだけでなく、食事という日常生活の大事な要素を自ら見直すことで、肝硬変症状を改善させたり、進行を食い止められる可能性があります。

この記事では、非代償期肝硬変の食事療法を中心に説明していきます。必要な知識を学び、効果的な食事療法による治療を目指していきましょう。

非代償期肝硬変での栄養スクリーニング

非代償期肝硬変において、食事療法を始める前にまず栄養状態を評価し、どのような栄養介入が必要か検討されます。

肝硬変における重症度は、Child-Pugh分類を用いて判断します。

下記の表に記すように、肝硬変の合併症の程度や採血検査の結果を点数化し、重症度を評価します。

アルブミンはタンパク質量、ビリルビンは肝臓の機能を表す値、そしてプロトロンビン時間は血液を固める能力を示します。

5~6点なら軽度、7~9点は中等度、10~15点をなら重度とみなし、中等度以上は非代償性肝硬変となります。

Child Pugh 分類

判定基準

1点

2点

3点

アルブミン(g/dL)

3.5<

2.8〜3.5

<2.8

ビリルビン(mg/dL)

<2.0

2.0〜3.0

3.0<

腹水

なし

軽度

コントロール可能

中等度

コントロール困難

肝性脳症(度)

なし

1〜2

3〜4

プロトロンビン時間(秒、延長)

(%)

<4

(70<)

4〜6

(40〜70)

6<

(<40)

 

Child-Pughスコアによる重症度評価を欧州肝臓学会のガイドライン4)を参考に、以下の図にまとめ詳しく解説していきます。

図に登場するサルコペニアですが、これは筋肉量と筋力の低下を意味し、通常は加齢に伴って起こる現象ですが、肝疾患においては栄養状態や代謝異常によって年齢に関係なく起こりうるため、評価する際には年齢制限がありません。

栄養スクリーニング

  • 中等度肝硬変の場合、次にBMIを評価し、その結果に応じて対応が変わってきます。
  • 肥満(30≦)の場合、栄養評価とともに運動や生活習慣などライフスタイルへの介入、さらにサルコペニアの評価を行います。
  • ・BMIが低体重や肥満の基準に入らない18.5~29.9の場合、タンパク質量や全体の栄養状態を評価したのちに、低栄養リスクがどの程度か判断されます。
  • ・そしてBMIが低体重(<18.5)を示す場合、重度肝硬変と同様に低栄養リスクは高度となります。
  •  
  • 低栄養リスクが軽度の患者さんに対しては、年に1回程度のフォローアップで良いとされます。
  • 低栄養リスクが中等度の患者さんにおいては、より詳細な栄養評価によって低栄養の有無が判断されます。
  • 低栄養リスクが高度の患者さんには、より詳細な栄養評価の他、サルコペニアの評価も同時に行われます。
  • ・低栄養がなければ年に1回程度のフォローアップとなりますが、低栄養やサルコペニアを認めた際には適切な栄養補給と適切なフォローアップが求められます。

さらに、図には記載されておりませんが、腹水やタンパク質減少による体液貯留を認める場合、身体の水分が適切である体重を密に検討していくこととなります。

肝硬変の食事療法|非代償期における食事の注意点 

非代償期肝硬変が引き起こす身体の変化

代償期には肝臓の機能がまだ保たれているため、合併症は基本的にみられません。

しかし、非代償期になると肝臓の働きが障害され、関連する他の臓器にも影響を及ぼし、全身に以下のような様々な合併症を引き起こします。

※非代償期肝硬変とは:肝硬変が進行し、本来の肝機能を代償する(果たすことがことできない)ことができず、肝硬変としての症状が現れる状態

  • 代表的な合併症の一例

  • ・黄疸
  • ・腹水、浮腫
  • ・門脈圧亢進症
  • ・食道静脈瘤
  • ・消化管出血
  • ・肝性脳症
  • ・肝性糖尿病 等

合併症とそれぞれに合った食事療法

代償期の食事療法の基本は主に以下の内容となります。

  • 代償期の食事療法

  • ・健康的で規則正しい生活
  • ・バランスの取れた食事
  • ・便秘の予防
  • ・年齢や身体活動レベルに見合ったカロリー摂取
  • ・アルコールを断つ
  • ・生ものは避ける

しかし、非代償期では症状に合わせて食事の工夫や調整を加えていかなければなりません。

食事療法で改善を見込める、あるいは悪化を予防できる合併症は、腹水・浮腫や食道静脈瘤、肝性脳症、肝性糖尿病となります。

これらの合併症が起きる機序とその合併症に見合った食事療法をそれぞれみていきましょう。

腹水や浮腫が生じる機序と食事療法

腹水はお腹の中にタンパク質を含んだ液が大量に貯留した状態をいい、浮腫は主に手足のむくみとして現れます。

肝臓はアルブミンと呼ばれるタンパク質を生成する働きを持ちますが、肝機能の低下とともにアルブミンも減少していきます。このアルブミンは血管内に水分を留める役割も担っているため、不足すれば水分は血管外へと漏れ、腹水や浮腫となって現れるのです。

また、体内を循環する血液量が減少すると、それを補おうと腎臓が水分やナトリウムを再吸収するのですが、それが腹水や浮腫を増悪させる原因となります。

腹水や浮腫に対する食事療法のポイント

上記の通り、腎臓での水分・ナトリウム再吸収が腹水や浮腫を悪化させています。

よって、食事療法で重要なのは塩分と水分を控えることです。

塩分は1日5~7g程度に抑えましょう。

具体的には、味噌や醤油などの調味料は減塩にし、かつ使用する量も控えなくてはなりません。塩味の代わりに、酸味や出汁、新鮮な食材そのものの風味を活かすような調理をしましょう。

外食や加工食品はどうしても塩分が多くなりがちなので、自炊が推奨されます。

汁物はスープに塩分が多く含まれるので、スープは飲まない方が良いでしょう。

  • 腹水や浮腫:食事療法のポイント

  • ・塩分は1日5~7g程度に抑える
  • ・味噌や醤油などの調味料は減塩に
  • ・使用量のコントロールをする
  • ・酸味や出汁で塩味を代用する
  • ・外食や加工食品は控え自炊する
  • ・汁物は飲まないようにする

水分コントロールに関しては、すでに利尿薬を内服している方も多いかと思います。

塩分制限や利尿薬だけでは不十分と判断された場合は、身体に見合った水分量を示す体重(ドライウェイト) も参考にしながら、水分制限にも努めましょう。

ドライウェイトの設定には、In Bodyという身体に微弱な電流を流して体内の水分量や筋肉量などを測定する機器を用いたり、医療者が胸部レントゲン画像や浮腫の程度などをみて決定していきます。

食道静脈瘤が生じる機序と食事療法

食道静脈瘤は門脈圧亢進症の影響で生じる合併症です。

門脈は、腸管などの腹部臓器からの血流を集めて肝臓に戻す大きな静脈のことを指します。

肝硬変になると、組織の線維化で肝臓が硬くなり、血流が阻害され、結果として門脈の圧が上昇します。門脈圧亢進で肝臓を通れなくなった血流は、別の血管を通って食道や胃に逆流していきます。そうすると食道表面の静脈がうねって凸凹してコブ状になり、食道静脈瘤となります。

食道静脈瘤に対する食事療法のポイント

食道静脈瘤の治療法として、内視鏡的に血管を縛る方法が一般的です。しかし、食事療法で静脈瘤の破裂を防ぐことはできます。

食道静脈瘤破裂は吐血を引き起こし、時に大量出血で命を脅かす怖い疾患です。

食道は食べ物の通り道になっているので、その表面上にある膨らんだ血管に尖ったものや硬いものが当たると、破裂する可能性が出てきます。

そのため、硬い食べ物や刺激になるような食べ物はなるべく避け、調理する際にはやわらかく仕上げましょう。

例えば、せんべいや小魚のおやつ、ナッツ、骨のある魚、フランスパンなどは硬いので適しません。また、香辛料の多いカレーやコーヒーは刺激が強いので、避けるべきです。

  • 食道静脈瘤:食事療法のポイント

  • ・硬い食べ物や刺激的な食べ物はなるべく避ける
  • ・調理する際にはやわらかく仕上げる
  • ・刺激の多いカレーやコーヒーは避ける

逆に好ましい食品は、茶碗蒸しや麺類(うどんやそうめんなど)、お米、プリン、ヨーグルトなどの消化しやすい柔らかい食べ物です。

肝性脳症が生じる機序と食事療法

タンパク質を消化する際に生成されるアンモニアという毒素は、通常は肝臓で代謝して無毒化し、体外に排出されます。

しかし肝機能が低下するとアンモニアは代謝されなくなり、毒素のまま身体に溜まっていきます。

血液中のアンモニア値が高くなり脳にまで達すると、脳の機能が損なわれ、肝性脳症となって様々な神経症状を引き起こします。

具体的には、性格・行動変化や睡眠障害、意識障害、ひどくなると昏睡状態になります。

肝性脳症に対する食事療法のポイント

タンパク質を多く摂取するとアンモニアが生成されてしまうため、タンパク質の制限は肝性脳症の予防や改善につながります。

肉は肝性脳症を引き起こしやすくするので、大豆などの植物性タンパク質をメインに摂りましょう。

また、アンモニアは腸管で生成されるのですが、便秘になると腸管環境が乱れ、悪玉菌が増加します。そうするとアンモニアの増殖が起こり、結果的に肝性脳症も悪化します。よって、便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を積極的に摂ることが推奨されます。

  • 肝性脳症:食事療法のポイント

  • ・大豆などの植物性タンパク質を摂る
  • ・便秘を防ぐためキノコなどの食物繊維を摂る

また、肝硬変による低タンパク血症は、アミノ酸製剤で補います。

実は肝臓の他にも筋肉でタンパク質を生成することができるのですが、その際に必要なのが分岐鎖アミノ酸と呼ばれるもので、これは体内で産生できないので外から摂取する必要があるのです。

この分岐鎖アミノ酸製剤は、経口剤の他にも点滴があるので、経口摂取できない方でも大丈夫です。症状が落ち着いていれば、食事でのタンパク質摂取は0.5~1.0g/kg程度可能になるかと思います。上記の食事に気を付けながら摂取しましょう。

肝性糖尿病が生じる機序と食事療法

肝臓は糖代謝においてとても重要な役割を担っています。

腸管で吸収された糖は血流に乗って肝臓に届けられ、そのほとんどはグリコーゲンという物質に変換されたのち、エネルギー源として貯蔵されます。残りの糖は身体を巡り、血糖の維持のため筋肉や脂肪で利用されます。

肝硬変によって肝機能が低下すると、肝臓での糖代謝も障害され、糖がそのまま血液へ流れ込んでしまい、食後高血糖を引き起こします。

慢性的な高血糖はやがて血糖を正常に戻す能力に害を及ぼし、二次性の糖尿病が生じるのです。

肝性糖尿病に対する食事療法のポイント

食後の血糖が急激に上がらないよう、一度に大量に食べることは避け、少量の食事をこまめに摂るほか、時間をかけてゆっくり食べましょう。

また、砂糖の入った菓子類や果物、炭水化物は効率良く糖分が吸収されるため、控えなければなりません。

  • 肝性糖尿病:食事療法のポイント

  • ・少量の食事をこまめに摂る
  • ・時間をかけてゆっくり食べる
  • ・菓子類や果物、炭水化物などの糖分を控える

夜食を食べた方がいい?

前項の肝性糖尿病の機序で述べたように、肝臓は糖分をエネルギー源に変換して貯蔵する役割を持ちます。しかし、肝機能の低下によってエネルギー源への変換ができなくなると、貯蔵もできなくなります。

よって、食事を摂らない就寝中にエネルギーが枯渇し、倦怠感やこむら返りなどの症状を生じることがあるのです。

これを予防するため、肝硬変患者さんには夜食療法が推奨されているのです。

カロリーの摂りすぎは良くないので、朝昼晩の食事を少し減らし、その分を夜食に回すのがポイントです。

大体200kcal程度で、メニューとしては例えば、

  • ・おにぎり一個+お茶
  • ・バナナ1本+牛乳
  • ・フレンチトースト+牛乳

等のすぐに栄養として吸収されるものが理想です。

まとめ・肝硬変の非代償期における食事療法は重要!

当サイトにて非代償期肝硬変での食事療法について知りたい情報は得られましたでしょうか。

低栄養や肥満の進行を食い止め、合併症を改善・予防する上で食事療法はとても重要です。しかし、食事療法を開始する前に、自分の疾患について理解し、知識として身につける必要があります。

さらに、医療者による評価や診断を経て、どのような治療介入が必要か見極める栄養スクリーニングも大切です。その時の症状や栄養状態に合わせて工夫や調整を行う必要があるので、適宜消化器内科の医師や栄養士とも相談しながら効果的な食事療法を目指しましょう。

この記事がご参考になれば幸いです。

参考文献一覧

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