甲状腺がんはどんな病気?治療後の合併症や後遺症について詳しく解説
公開日: 2024.09.03更新日: 2024.10.07
甲状腺にできる悪性のしこりが「甲状腺がん」です。甲状腺がんは組織型による違いがあるものの、いずれの場合も治療の基本となるのは手術による甲状腺切除やリンパ節郭清であり、そこに放射線や化学療法、ホルモン療法を組み合わせていくこともあります。
この記事では、こうした甲状腺がんの治療に伴う合併症や後遺症をとりあげて詳しく説明をしていきます。また、後遺症に対する再生医療の可能性についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
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目次
甲状腺がんとは
甲状腺は、頸部にあるホルモンを分泌する臓器です。ちょうど喉仏(のどぼとけ)の下あたりに位置する部位に存在しており、主に甲状腺ホルモン(TSH)という物質を血液中に分泌して体の代謝バランスを調節する役割を担っています。その甲状腺にできる悪性のしこりを、「甲状腺がん」と呼びます。
甲状腺がんは組織型別に分類され、主なものに、
- 1)乳頭がん
- 2)濾胞がん
- 3)髄様がん
- 4)未分化がん
があります。それぞれ解説していきます。
1)乳頭がん
乳頭がんは、甲状腺がんの中で最も頻度が多い組織型で、約9割近くを占めます。
基本的には進行がゆっくりで、多くの場合予後が良好とされていますが、一部に多臓器への転移をするなど悪性度が高いものもあります。
治療は基本的に手術で甲状腺を切除し、周囲のリンパ節を郭清する方法をとることが多いです。
がんの大きさによって甲状腺の切除範囲は変わります。予後の良い乳頭がんの場合には手術のみで、放射線や化学療法は不要となることが多いです。
2)濾胞(ろほう)がん
濾胞がんは甲状腺がんの中で約5%を占め、乳頭がんに次いで多い腫瘍です。
乳頭がんと比較して、リンパ節転移が少ない一方で、血行性に遠隔臓器の肺や骨に転移することがあります。
治療はやはり手術による甲状腺の摘出を基本とし、遠隔転移がある場合には放射性ヨウ素内服療法を追加で行います。
3)髄様(ずいよう)がん
髄様がんは、甲状腺がんの中では遺伝性の可能性を考慮する組織型です。
この癌の中には、RET遺伝子と呼ばれるがん遺伝子の突然変異によって生じることが知られており、そのうち約8割で副腎に発生する褐色細胞腫を合併します。
この褐色細胞腫を合併している髄様がんの場合には、まず褐色細胞腫の治療を優先します。それ以外の場合には、甲状腺切除およびリンパ節郭清を行います。
4)未分化がん
甲状腺がんの中で最も悪性度が高く、急速に進行し多臓器に浸潤、転移する組織型です。
積極的な治療法としては手術や放射線治療・化学療法を組み合わせて行いますが、予後は極めて不良であるため、緩和的な治療も重要な選択肢となりえます。
甲状腺がん治療に伴う合併症や後遺症の種類は?その治療法についても解説
甲状腺がんの治療は手術による甲状腺の一部切除、または全摘出が基本となります。
ここでは主に、甲状腺がんの手術に関連する合併症、それに対する治療を解説していきます。
また、後遺症については、生じた合併症が治癒しない状態、永続的に治療を要する状態のことを指しています。各合併症の項目の中で後遺症として残るケースについても説明を加えています。
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反回神経麻痺
- 反回神経は甲状腺の裏を走行している神経で、声帯を動かす筋肉を支配しています。すなわち、声を出すために非常に重要な神経です。
- 反回神経は左右に1本ずつあり、どちらか一方が障害を受けると声帯がうまく動かなくなり、声がかすれます。これを反回神経麻痺といいます。
- 反回神経は非常に細く繊細な神経であるため、手術の際に直接少し触れただけでも麻痺が起こってしまう可能性がありますが、ほとんどの場合には一時的で半年以内には改善してきます。しかし一部まれに、永続的な反回神経麻痺となってしまうことがありかすれ声が治らず後遺症として残ることがあります。
- また左右両方の反回神経が障害を受けてしまうと、声が出ないばかりか呼吸ができなくなってしまい、命に関わる事態となります。
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<反回神経麻痺の治療法>
反回神経麻痺によりかすれ声が改善しない場合には、声帯自体を手術することでかすれ声を改善させる方法があります。また、両側の反回神経麻痺により呼吸がうまくできない場合には、気管切開といって喉仏の下辺りに空気の通り道を作る必要があります。
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甲状腺機能低下症
- 甲状腺がんの手術では甲状腺自体を摘出する必要があります。そのため、特に甲状腺を半分以上摘出した場合には、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンが低下してしまう可能性があります。甲状腺ホルモンが低い状態では、代謝バランスが低下して体調を崩しやすくなったりします。この状態を、甲状腺機能低下症といいます。
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<甲状腺機能低下症の治療法>
- 治療法として、甲状腺ホルモン剤を内服して補充することが必要になります。基本的には一生涯飲み続ける必要があるものになります。
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副甲状腺機能低下症
- 副甲状腺は甲状腺の裏にくっついており、左右2個ずつ存在する臓器です。非常に小さな臓器ですが、副甲状腺ホルモンという物質を分泌して血液中のカルシウムやリン濃度を調節する働きがあります。甲状腺がんの手術で甲状腺を摘出する際に副甲状腺も一緒に摘出されたり、副甲状腺を栄養する血流の低下などにより、術後に副甲状腺機能低下症を起こす可能性があります。
- 副甲状腺機能低下によって副甲状腺ホルモンが不足すると、血液中のカルシウム濃度が低下し、手や口のしびれやけいれんを引き起こすテタニーと呼ばれる症状が生じる可能性があります。
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<副甲状腺機能低下症の治療法>
治療法として、カルシウム製剤の内服と、カルシウムの吸収を促すビタミンD を補充します。副甲状腺をすべて摘出した場合には一生飲み続ける必要がありますが、副甲状腺を少しでも温存できている場合には、次第に正常化して補充が不要になることも多いです。
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乳糜漏(にゅうびろう)
- 甲状腺がんの手術で側頸部のリンパ節郭清を行う場合に生じる可能性のある合併症です。リンパ管からリンパ液が漏れてきて止まりにくくなってしまっている状態です。
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<乳糜漏の治療法>
ほとんどの場合、一時的な安静、圧迫で自然に止まりますが、中には再手術で漏れている場所を閉じる必要があるケースも認められます。
術後後遺症に対する再生医療について
最後に、甲状腺がん術後の後遺症に対する再生医療の可能性についてお話します。
再生医療では、「幹細胞」と呼ばれる様々な細胞に分化することができる細胞を活用します。この幹細胞を培養して増やし、その幹細胞を点滴や患部に直接注射することで損傷した組織の修復や再生を促すことが狙いです。中でも術後の神経損傷に対する再生医療が注目されており、甲状腺がんの手術後の合併症・後遺症である反回神経麻痺への改善効果が期待されています。
当院は国内では数少ない再生医療を提供できる施設の1つです。患者さん自身の脂肪から幹細胞を採取、培養し、点滴する「自己脂肪由来幹細胞治療」を行っています。自分自身の細胞を用いるため、拒絶反応やアレルギーを生じにくく、安全性が高い方法です。
甲状腺がん治療の後遺症にお困りの方で「治療を考えたい」「話を聞きたい」という方は、ぜひお問合せください。
甲状腺がんについてよくあるご質問
Q:喫煙や飲酒は甲状腺がんにかかりやすい原因になりますか?
A:これまでの研究からは、喫煙や飲酒によって甲状腺がんのリスクが増えるという結果はありません。一方、体重増加や肥満は甲状腺がんのリスクとなる報告はいくつかみられています。
Q:甲状腺がん自体で痛みが出ることはありますか?
A:甲状腺がんの大部分では痛みがでることはなく、首のしこりや違和感として気づかれ、それを契機にがんが発見されるケースが多くあります。
まとめ:甲状腺がん術後の合併症・後遺症、その治療法について解説
今回は甲状腺がんの大きな治療の柱である手術に伴う合併症・後遺症について詳しく解説をし、再生医療の可能性も含めた治療法についてお伝えさせていただきました。
大変な思いをされて甲状腺がんの治療を終えた後もなお、後遺症に悩まされ続けている方々、甲状腺がんについて詳しい情報を知りたい方々にとって、有益な情報源となれれば幸いです。
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