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むち打ちの後遺症と認定のポイント|分類・治療・慰謝料まで徹底解説

むち打ちは、交通事故などによって首に強い衝撃が加わることで生じる外傷です。
しびれや可動域の制限といった後遺症が残ると、日常生活に支障をきたす恐れも。
また、後遺障害の認定を得るのが困難な点も気になります。
本記事では、むち打ちによる後遺障害の特徴と認定のポイント、補償に関する基礎知識を詳しく解説します。
むち打ちの後遺症が気になっている方、万が一に備えて理解を深めたい方は参考にしてみてください。
目次
むち打ちの後遺症とは
むち打ちとは、交通事故などによる衝撃で首に大きな負荷がかかった際に発生する症状の総称です。
ケガの治療を続けて効果が認められなくなった段階を「症状固定」といいますが、症状固定後に残ってしまった症状を「後遺症」と呼びます。
以下のような症状が現れるのが一般的です。
- 首の痛み
- 可動域の制限
- 慢性的な肩こり
首周辺の神経や筋肉、靱帯に損傷が及ぶため首の症状が中心となりますが、以下のような症状を伴う場合もあります。
- 頭痛や吐き気
- めまい
- 手足のしびれ
- 集中力の低下
- 睡眠障害
このように後遺症の出現には個人差があるため、適切な診断と継続的なフォローが大切です。
むち打ちについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
むち打ちの分類
むち打ちの分類は、損傷部位や症状の違いに基づき5つの型に分かれます。
症状への対処法や治療方針を明確にするためにも、それぞれの特徴を押さえておきましょう。
頚椎捻挫型
筋肉や靱帯が損傷する、むち打ちでもっとも頻度が高いタイプです。
首や肩の違和感、可動域の制限が主な症状で、多くは数週間で症状の軽減がみられます。
神経根症状型
神経の根元が圧迫されて腕のしびれや筋力低下などが見られるタイプです。
一般的に頚椎を後ろへそらせると症状が強くなり、上肢の筋力低下や感覚の障害が生じるケースがあります。
バレー・リュー症状型
めまいや耳鳴り、吐き気などの多彩な症状が現れるとされるタイプです。
従来は自律神経の障害が原因とされてきましたが、発生原因については定説が確立されておらず、心因性の影響も考えられることから現在では医学的な位置づけについて議論が続いています。(文献1)
根症状+バレー・リュー型
前述の神経根と自律神経の障害が同時に見られる複合型です。症状が複雑で、重症化しやすい傾向があります。
脊髄症状型
もっとも重篤になりやすいタイプです。脊髄が損傷を受けることで、手足の麻痺や歩行障害などを引き起こします。
むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイント
むち打ちで後遺障害等級を得るには、単に症状が残るだけでは不十分です。
本章では、むち打ちで後遺症認定を受けるためのポイントを解説します。
後遺障害12級・14級の認定基準のクリア
後遺障害は、以下の第12級13号と第14級9号のいずれかに該当することで認定対象となります。(文献2)
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
14級の認定には、自覚症状と医学的説明が必要です。
12級は、自覚症状と医学的説明に加えて画像所見や神経学的検査に基づく他覚的所見が求められます。
6カ月以上の継続治療と適切な通院
後遺障害認定においては少なくとも6カ月以上、首の違和感・しびれなどの症状が継続し治療を受けた履歴が重視されます。
通常、症状固定には3カ月ほどの通院が必要ですが、神経症状の場合は6カ月以上の通院の蓄積が後遺障害認定においては必要です。
また、整形外科などへ事故直後から定期的に通院し、治療計画や経過観察が医師のカルテに記録されていなければなりません。
自己判断で通院を中止した、整骨院のみに通院したといった記録は評価されにくく、認定に不利に働く場合があります。
むち打ちの後遺障害等級に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。
後遺症を証明できる検査の受診
むち打ちの後遺症は外見ではわかりにくいため、以下のような客観的な検査のデータが重要です。
- MRI検査:軟部組織や神経の損傷を画像化
- 神経伝導速度検査(NCS):神経機能の異常を数値で評価
- 筋電図検査(EMG):神経や筋肉の活動を記録し、損傷カ所を特定
MRIやCTは筋肉や骨の状態を確認でき、神経伝導速度検査ではしびれや神経症状の医学的裏付けが可能です。
後遺障害として認定されるには、画像所見と検査結果が一致している必要があります。
また、他覚的所見として腱反射の異常や可動域制限、触診結果などの記録も必要です。
症状の常時性・一貫性・継続性の明確な伝達
後遺症の認定では、症状の「常時性」「一貫性」「継続性」が重要視されます。
これらが確認できないと、自覚症状が一時的なものであると判断され、等級認定が否定される可能性があるため注意が必要です。
- 常時性:症状が時間帯や天候にかかわらず、持続的に存在している
- 一貫性:医師への訴えや診療記録で、同様の症状が継続して述べられている
- 継続性:初診から認定申請まで、長期間にわたって症状が変化せず続いている
これらの証明には毎回の通院時に同じ症状を訴え、診療録に反映してもらわなければなりません。
また、日常生活での困難さを定期的にメモし、医師に伝える習慣を心がけることも大切です。
たとえば「朝起きた瞬間から首がしびれ、日中も不快感が途切れない」、あるいは「症状は常に存在するが、雨の日や長時間のパソコン作業中には症状がより悪くなる」のように伝えましょう。
自覚症状による仕事や生活への影響の主張
むち打ちの後遺障害認定では自覚症状だけでなく、症状が日常生活や業務にどのような影響を与えているかを明確に主張することが求められます。
単なる「首の状態が悪い」「手がしびれる」といった訴えでは、認定の根拠としては不十分です。
具体的には、以下のような実例が有効とされています。
- 仕事を休んだ日数や早退・遅刻の記録
- 家事や育児が困難になった内容と頻度
- 通院のために必要となった介助や移動支援
- 生活の質(QOL)が低下したと説明できる項目
これらの内容を具体的なエピソードと共に記録し、医師の診断書や陳述書に反映してもらえれば、後遺障害の等級認定に向けた説得力を高められます。
「被害者請求」による申請と追加書類の添付
後遺障害等級の認定申請には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があり、むち打ちのような自覚症状が中心となる場合には被害者請求を選ぶ方が多くなっています。
なぜなら、自ら必要な資料を整えた上で提出できるため、医学的証拠の補強や意図した主張が可能になるからです。
後遺障害の申請方法 | |
---|---|
事前認定 | 加害者側の保険会社に手続きを一任する |
被害者請求 | 被害者が自ら手続きを行う |
被害者請求を行うには、以下のような書類が必要です。
- 後遺障害診断書(医師作成)
- 医療記録・診療報酬明細書
- 検査画像(MRI・レントゲン等)
- 通院状況を示す書類
- 事故証明・診断書・陳述書
上記の資料の内容に不備がないよう医師と連携して準備すれば、後遺障害認定の可能性を高められます。
むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しい理由
むち打ちで後遺症の認定を受けるのは、多くの被害者にとって困難な課題です。
ここでは、むち打ちで後遺症認定を受けるのが難しいとされる、代表的な4つの理由を解説します。
後遺症による影響を客観的に証明しにくいから
むち打ちはレントゲンやMRIなどに異常が映らないケースが多く、自覚症状だけでは後遺障害として証明しにくい点が認定を困難にしている理由の一つです。
たとえば、しびれのような主観的症状は他覚的所見に乏しく、「医学的根拠がない」と見なされる可能性があります。
したがって、画像所見や神経学的検査など可視化できる客観的な資料を揃えて証明することが重要です。
画像所見に基づかない訴えだけでは、後遺症の存在を立証するには不十分となるケースがある点に留意しておきましょう。
交通事故と後遺症の因果関係を証明しにくいから
むち打ちは衝撃の強さに比例せずに症状が出る場合があるため、事故との因果関係を疑われやすい点も認定されにくい理由です。
また、発症が事故直後ではなく数日後のケースもあり、「事故によるものとは言えない」と判断される場合もあります。
事故後は症状の有無にかかわらず早期に受診し、医師に事故との関係性を丁寧に説明することが大切です。
また、車にドライブレコーダーを設置するなど、他の証拠も提示できるようにしておくと良いでしょう。
短期間で治療が終わりやすいから
むち打ちでは痛みが一時的に軽減することも多く、通院をやめてしまうケースがあります。
しかし、治療期間が短いと後遺症が固定化していると認められにくくなるため、注意しましょう。
後遺障害等級の認定には継続的な治療実績が条件となっており、短期での通院や間欠的な治療では「症状が軽い」と判断される恐れがあるのです。
月数回の安定した通院を最低6カ月以上は続ける必要があり、通院を中断すると症状が改善したとみなされる可能性があります。
症状固定と診断されるまで、医師の指示に従って治療を継続することが推奨されます。
整骨院や接骨院に通院してしまうから
整骨院・接骨院のみの通院では、医師による診断・画像検査・客観的所見が不十分となり、後遺障害等級の申請時に不利になる可能性があります。
柔道整復師による施術は医療行為ではないとみなされ、通院記録に医学的裏付けが乏しいと評価されてしまうのです。
整骨院での施術は、一般的に補助的治療としての扱いにとどまります。
後遺症の医学的証明を得るには、整形外科などの医療機関での治療が前提です。
整骨院と併用する際も、必ず医師の管理下で行うことが望まれます。
むち打ちで後遺症が残った場合の慰謝料・逸失利益
むち打ち後に後遺障害が認定された場合、以下3つの基準によって慰謝料が支払われます。
- 自賠責保険基準:自動車を運転する人に加入が義務づけられている強制保険で、賠償金がもっとも低い
- 任意保険基準:任意保険会社が独自に設けている損害賠償の基準で、金額は非公開となっている
- 弁護士基準:弁護士会の分析による「損害賠償額算定基準」で計算され、もっとも賠償金が高い
損害賠償金、保険金の具体的な金額は以下の通りです。
基準 | 第12等級 | 第14等級 |
---|---|---|
自賠責保険基準 | 94万円 | 37万円 |
任意保険基準 | 非公開で不明だが、自賠責保険に少し上乗せした程度の金額とされている | |
弁護士基準 | 290万円 | 110万円 |
(文献3)
さらに、後遺障害で被害者の方が失ってしまった、将来に渡って得られるはずの利益「後遺障害の逸失利益」も加害者側に請求でき、以下の計算式で算出します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 (文献4)(文献5) |
たとえば、年収450万円の方が第14級の後遺障害を認定されたケースでは、5年分の逸失利益は以下となります。
逸失利益:基礎収入450万円×労働能力喪失率5%×5年分(ライプニッツ係数4.58)=約103万円 |
なお、上記の金額はあくまで一例であり、実際の算定額は事案ごとに異なります。
まとめ|むち打ちの後遺症に適切に対応しよう
むち打ちは一過性の症状にとどまらず、後遺症として長期的に影響が残ることがあります。
特に神経や自律神経が関与するタイプでは、頭痛やめまい、しびれなどが慢性化し、生活や仕事に深刻な支障を及ぼすことも少なくありません。
むち打ちを軽視せず、医師や専門家と連携しながら早期かつ計画的な対応を心がけることが、後悔しないための第一歩となります。
また、後遺障害の認定を受けるためには、医学的証拠の提出や症状の継続性の証明が不可欠です。
本記事の内容を参考に、早期の診断と計画的な対応で不安を取り除いていきましょう。
当院「リペアセルクリニック」ではPRP療法や幹細胞治療などの再生医療による治療を行っています。再生医療について詳細は、当院へお気軽にご相談ください。
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むち打ちの後遺症に関するよくある質問
ここでは、むち打ちの後遺症に関する2つのよくある質問に回答しています。
同様の疑問があるなら、解決しておきましょう。
むち打ちの後遺症が20年後も続く可能性はあるの?
むち打ちによる後遺症は、必ずしも短期間で治癒するとは限りません。
個人差が大きく、中には数年から10年以上、さらには20年を経ても症状が続くケースも存在します。
症状が長期化する要因としては、以下のようなケースが考えられます。
- 事故の衝撃の強さ
- 初期治療の遅れ
- 治療の中断
- 神経への損傷の度合い
とくに頑固な神経症状が残ると、慢性的なしびれや可動域制限が継続する可能性があります。
早期の適切な治療と専門医による診断、継続的なフォローアップが重要です。
むち打ちの後遺症の治し方は?
むち打ちの診断では、まず問診と視診、触診を行い事故状況や症状の詳細を確認します。
必要に応じてX線やMRI、CTなどの画像診断が追加され、骨や神経の損傷有無を評価します。
治療の初期段階では、安静と鎮痛薬の使用が中心です。症状が強い場合には、頚椎カラーによる固定が用いられることもあります。
ただし、早めに首を積極的に動かす運動療法を取り入れたほうが、頚椎カラーによる固定よりも首の可動域などに改善が見られたとの報告もあります。(文献6)
むち打ちの治療に関しては、症状や時期に応じて医師と相談しながら慎重に検討したほうが良いでしょう。
通常は急性期を過ぎると、首や肩の可動域を回復するための温熱療法・電気療法・牽引療法・運動療法といったリハビリが始まります。
検査方法 | 問診、視診、X線、MRI、CTなど |
---|---|
初期対応 | 初期対応:安静、鎮痛薬、必要に応じて頚椎カラー |
リハビリ | 温熱療法、電気療法、牽引療法、運動療法 |
むち打ちの治療期間は、症状の程度や損傷の部位によって大きく異なります。
一般的には、軽症の場合で2〜3週間、中等症で1〜3か月です。ただし、重症になると6か月以上かかることもあります。
初期対応が不適切であったり、自己判断で通院をやめてしまったりすると、症状が慢性化するリスクが高まるため注意が必要です。
とくに治療中は、以下の点に注意する必要があります。
- 医師の指示に従い、通院と安静を継続すること
- 不快感が軽減しても無理に動かさないこと
- 精神的ストレスを避けるよう努めること
上記の点を守ることで、神経の炎症や筋肉の損傷が悪化せず、より早期の回復が見込めます。
症状が軽くても、油断せず継続的な治療と観察が重要です。
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参考文献
(文献1)
日野一成.「(超低速度衝突)むち打ち損傷受傷疑義事案に対する一考察 ―工学的知見に対する再評価として―」『自動車技術会論文集』79(1), pp.159-186, 2017年
https://doi.org/10.24746/giiij.79.1_159(最終アクセス:2025年6月11日)
(文献2)
国土交通省 「後遺障害等級表」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/common/data/toukyu.pdf(最終アクセス:2025年6月11日)
(文献3)
アディーレ法律事務所「後遺障害に対する賠償金(慰謝料)の相場と3つの支払基準」
https://www.ko2jiko.com/baishou/(最終アクセス:2025年6月11日)
(文献4)
労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/sousitsu.pdf (最終アクセス:2025年6月11日)
(文献5)
国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf (最終アクセス:2025年6月11日)
(文献6)
Mealy K, et al. (1986). Early mobilization of acute whiplash injuries. Br Med J (Clin Res Ed), 292(6521), pp.656-657.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3081211/(最終アクセス:2025年6月23日)