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糖尿病で失明する原因や前兆とは|治療法とあわせて現役医師が解説

「最近目がかすむようになった」
「視界がぼける感じがする」
糖尿病と診断されている中で、このような症状が出てきて「糖尿病で失明する」と聞き、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
実際に、糖尿病の合併症として視力障害が存在します。
しかし、血糖値のコントロールや定期的な眼科受診による経過観察で視力を回復させることや悪化を防止させることは可能です。
本記事では糖尿病と失明の関係や、視力低下への対処法などを紹介します。
視力に対する不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
糖尿病で失明する原因
糖尿病は全身の血管に影響を及ぼす慢性疾患であり、目の組織にも深刻な障害を引き起こします。
失明に至るのも決してまれではなく、進行するまで自覚症状が乏しいため、発見が遅れるケースも少なくありません。
失明を防ぐには、糖尿病が視覚にどのような影響を及ぼすのかを正しく理解することが重要です。
ここでは、糖尿病によって引き起こされる主な失明の原因と、その他の関連疾患について解説します。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、高血糖による網膜の血管障害(糖尿病性細小血管症)によって発症する、糖尿病で失明に至る主な原因の一つです。
進行の程度に応じて、以下の3段階に分類されています。
- 単純糖尿病網膜症:網膜の毛細血管がこぶ状になり、血液や脂質が漏れ出して網膜に付着する
- 増殖前糖尿病網膜症:毛細血管が閉塞し、網膜や神経への血流が不足する
- 増殖糖尿病網膜症:もろい新生血管が破れて出血を起こしたり、網膜剥離が生じたりして、視力が大きく低下する
糖尿病網膜症は失明に至る危険性がある怖い病気であり、少しでも異常を感じたら眼科を受診しましょう。
糖尿病網膜症については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。
視覚障害につながるその他の疾患
糖尿病が原因で視覚障害につながる、その他の疾患については以下の表にまとめました。
疾患名 | 特徴・症状 | 予後 |
---|---|---|
糖尿病視神経症 | 網膜症の有無に関係なく発症する視神経の循環障害。突然の高度な視力障害が現れる。片眼性が多い。 | 不良 |
糖尿病眼球運動障害 | 眼球を動かす筋肉が障害され、物が二重に見える(複視)。 | 良好 |
糖尿病ぶどう膜炎 | ぶどう膜の前部に炎症が起こる。点眼治療で軽快するが、長期化することもある。 | 経過により異なる |
糖尿病角膜症 | 角膜表面が障害され、知覚低下により傷や感染に気づきにくい。涙の分泌も減少傾向。 | 感染などの管理が重要 |
糖尿病黄斑浮腫 | 網膜の中心「黄斑」にむくみが発生し、視力が低下する。 | 治療により改善可能 |
その他の合併症 | 屈折異常や白内障など、糖尿病により発症または悪化する眼疾患。 | 種類により異なる |
糖尿病による失明の前兆
糖尿病網膜症の特徴として、失明の危険がある重大な疾患にもかかわらず、症状が現れにくい点が挙げられます。
高血糖が持続している場合、眼底検査で異常が見られなくても、網膜の毛細血管はすでに損傷を受け始めている場合があるのです。
とくに単純糖尿病網膜症や増殖前糖尿病網膜症では、出血や毛細血管の閉塞が進んでいても、自覚症状が出ないケースがあります。
自覚症状がないまま病状が進行して増殖糖尿病網膜症になると、新生血管や硝子体出血が起こって以下のような症状が現れます。
- 物が見えづらい
- ぼんやりと見える
- 視野に黒い影が見える(飛蚊症)
- 明暗の見え方が鈍くなる
- 視界に光がチカチカする
硝子体出血や網膜剥離が「黄斑」に及ぶと、視力を回復できなくなって失明に至る恐れがあります。
これらの症状が見られた場合は、速やかに眼科を受診しましょう。
また、前兆が現れる前に進行している場合もあるため、自覚症状がなくても年1回の眼科検診が推奨されます。
糖尿病による視力低下への対処法
糖尿病による視力低下を防ぐには、症状が現れる前の段階からの的確な対処が重要です。
視力障害は糖尿病の進行とともに現れる可能性があり、対処が遅れて適切な治療が行われないと、視力が大きく低下するケースがあります。
しかしながら、早期発見と治療を実施すれば重症化を防ぎ、視力の維持または改善を目指すことは可能です。
糖尿病網膜症に対する治療法は進歩しており、状態に応じた適切な対応が視力を守る鍵となります。
ここでは、視力低下への具体的な対処法を2つの側面から詳しく解説します。
早期発見と早期治療
糖尿病網膜症による視力障害を防ぐには、早期発見と早期治療が欠かせません。
米国眼科学会の報告によれば、糖尿病網膜症の患者の約90%が早期に治療を受けることで、重度の視力低下を防げるとしています。(文献1)
ただし、治療の効果を期待できるのは、定期的に眼科検診を受けている場合に限られる点に留意しておきましょう。
アメリカ国立眼科研究所も、血糖コントロールと眼科での適切な治療が失明予防の鍵であると示しています。(文献2)
網膜は一度損傷を受けると元に戻すのが難しいため、治療は回復ではなく進行を抑えるのが目的になります。
したがって、異常が出る前からの検査と治療が極めて重要です。
視力回復につながる主な治療法
糖尿病網膜症による視力障害の進行を抑え、視力の維持・回復を目指す治療法には、以下のような選択肢があります。
- レーザー治療
- 抗VEGF薬注射
- 硝子体手術
レーザー治療は新生血管の発生を防いだり、すでにできた血管を退縮させたりするのが目的です。
「汎網膜光凝固(はんもうまくひかりぎょうこ)」という方法では、酸素が足りない部分の細胞をレーザーで処理し、悪い血管の増えすぎを防ぎます。
視力低下前の予防的治療としても有効で、失明率を低下させる効果が期待できると考えられています。
抗VEGF薬注射は、ものを見るうえで大事な「黄斑」部分が腫れてしまう「黄斑浮腫」という症状に対する治療法です。
目の中に直接注射してむくみを沈める治療法で、見え方の改善が期待されます。
硝子体手術は、目の奥の「硝子体」からの出血やにごりを取り除き、網膜の機能改善を目的とする手術です。
糖尿病による失明を防ぐために必要なこと
糖尿病による失明を防ぐには、眼科での定期的な検査と全身の健康管理が不可欠です。
とくに、眼の自覚症状がない段階から最低でも年1回の眼底検査を受け、主治医の指示に従って治療を進めていきましょう。
定期検査によって網膜の状態を客観的に把握でき、早期の適切な治療で失明のリスクを大きく減らすことが可能です。
さらに、日頃から生活習慣病に注意し、血糖値・血圧・脂質の適切なコントロールも欠かせません。
血糖値・血圧・脂質の数値は糖尿病網膜症の発症・進行に深く関与しており、バランスのとれた健康管理が視力を守る基本となります。
糖尿病の合併症を防ぐ生活習慣病については、以下の記事も参考にしてください。
糖尿病による失明を防ぐためにも自己管理を徹底しよう
糖尿病による失明は、適切な対策により予防可能です。
糖尿病の影響から視力を守るためには、まず血糖・血圧・脂質のコントロールを徹底することが基本となります。
また、眼の自覚症状がなくても、定期的な眼科での検査も大切です。
異常を感じた際には放置せず、すぐに受診することが早期発見・早期治療につながります。
今回の記事を参考に、日常的な自己管理と定期的な検査で大切な視力を守りましょう。
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糖尿病と失明に関するよくある質問
糖尿病網膜症の検査にはどのようなものがありますか?
糖尿病網膜症では、以下のような検査が行われます。
- 屈折検査
- 眼底検査
- 眼圧測定
- 細隙灯顕微鏡検査
糖尿病患者は網膜症と診断されていなくても、年1回の眼科受診が推奨されています。
視力低下や失明を未然に防ぐためにも、定期的に検査を受けましょう。(文献3)
糖尿病による失明は突然起こりますか?
糖尿病による視力低下や失明は通常ゆっくりと進行し、初期には自覚症状がないケースも少なくありません。
進行した網膜症が原因で硝子体出血や網膜剥離が起きると、急激な視力低下に至る場合もあるため注意が必要です。(文献4)
視力が低下すると、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼす上、患者本人のみならず家族への負担も大きくなります。
症状の有無に関わらず、定期的な眼科での検診が大切です。
参考文献
(文献1)
Rodríguez A, et al. (2024). The Role of Early Detection in Preventing Vision Loss from Diabetic Retinopathy. Journal of Diabetic Complications & Medicine, 9(5), pp.1―2.
https://www.hilarispublisher.com/open-access/the-role-of-early-detection-in-preventing-vision-loss-from-diabetic-retinopathy.pdf(最終アクセス:2025年6月23日)
(文献2)
National Eye Institute「Diabetic Retinopathy」
https://www.nei.nih.gov/learn-about-eye-health/eye-conditions-and-diseases/diabetic-retinopathy (最終アクセス:2025年6月23日)
(文献3)
国立国際医療研究センター「網膜症」
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/050/01.html#02 (最終アクセス:2025年6月23日)
(文献4)
公益社団法人 日本眼科医会「糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療― ~運転免許証や仕事を失わないために~」
https://www.gankaikai.or.jp/health/60/index.html (最終アクセス:2025年6月23日)