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高齢者が低カリウム血症を発症する原因は?症状や治療法を医師が解説

「高齢の親を病院に連れて行ったら低カリウム血症と診断されました」
「低カリウム血症って何ですか?どんな治療が必要なのでしょうか?」
このような疑問をお持ちの方もいるでしょう。
低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が正常値より低くなった状態です。
高齢者が低カリウム血症になる主な原因は、食事量の減少や薬の副作用などが挙げられます。
本記事では、高齢者が低カリウム血症になる主な原因や症状、治療法についてわかりやすく解説します。入院が必要になるケースや、入院にかかる費用も紹介しているので、参考にしてみてください。
目次
高齢者が低カリウム血症になりやすい4つの原因
低カリウム血症は、以下のような高齢者の身体的変化や生活習慣の変化が原因で発症しやすくなります。
- 食事量の減少
- 薬の副作用
- 消化器疾患の影響
- ホルモンの過剰分泌
順番に見ていきましょう。
食事量の減少
高齢者では、加齢による嚥下機能の低下や嗅覚・味覚の機能低下といった身体的変化により食欲がなくなる方も多いです。食欲がなくなれば、当然ながら食事量が減少します。
カリウムは食材に含まれる栄養素です。そのため、食事量が減少すると、カリウムの摂取量も減り、カリウム不足に陥りやすいです。
薬の副作用
低カリウム血症は、薬の副作用が原因で発症するケースもあります。
低カリウム血症の原因として注意すべきなのが、利尿作用のある薬です。カリウムは尿や汗とともに体外に排出される性質があります。そのため、利尿作用のある薬を摂取すると、体内でカリウム不足が起こりやすいです。
例えば、心不全の治療には利尿薬がよく処方されます。(文献1)
心不全では、心臓のポンプ機能が低下して血液をうまく送り出せなくなり、体内に水分が溜まりやすくなります。そのため、利尿薬を服用して余分な水分を排出し、うっ血の改善を図るのです。
また、高血圧の治療にも利尿薬が使用されます。(文献2)体内の不要な水分を尿として排出すれば、血圧を下げる効果があるからです。
高齢者は加齢とともに、心不全や高血圧といった病気にかかりやすく、薬が処方される機会も増えます。利尿作用の薬を服用している場合は、低カリウム血症のリスクも高まることを理解しておきましょう。
消化器疾患の影響
低カリウム血症の原因として、消化器感染症が影響する場合もあります。消化器感染症には、嘔吐や下痢といった症状を伴うケースが多いです。
嘔吐や下痢により体内のカリウムが失われるため、低カリウム血症を引き起こしやすくなります。
嘔吐や下痢を起こす代表的な疾患として、胃腸炎や食中毒が挙げられます。
高齢者になると免疫力が低下して、下痢や嘔吐の症状が長引くケースも少なくありません。その結果、体内のカリウム不足が深刻化する可能性があるのです。
ホルモンの過剰分泌
アルドステロンというホルモンの過剰分泌が原因で、低カリウム血症を発症することがあります。
アルドステロンとは、体内の水分を調整する働きのあるホルモンです。(文献3)
副腎からアルドステロンが過剰につくられる病気は「原発性アルドステロン症」と呼ばれ、水分の調整機能の乱れからカリウム不足につながります。
高血圧患者のおよそ5〜15%が原発性アルドステロン症という報告もあります。(文献4)
高齢者は血管の弾力性が低下して、高血圧になりやすいです。そのため、原発性アルドステロン症を発症する機会も増えて低カリウム血症のリスクが高まります。
高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状
ここでは、高齢者が低カリウム血症になったときの主な症状について解説します。
主な症状は以下の3つです。
- 筋肉のだるさ・こわばり
- 不整脈
- 息苦しさ
低カリウム血症の症状は、加齢による身体変化と捉えて見過ごされやすいです。
早期治療につなげられるよう、症状の理解を深めましょう。
筋肉のだるさ・こわばり
筋肉のだるさ・こわばりは、低カリウム血症の症状の1つです。カリウムは、筋肉を収縮させる役割を担っています。そのため、体内のカリウムが不足していると、筋肉機能に異常が生じます。
だるさ以外にも、以下のような症状が現れます。
- 筋肉痛
- つっぱり感
- 力がぬける感じ
参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル低カリウム血症|厚生労働省
高齢者は、加齢による筋肉の衰えとして、筋肉異常の変化を見過ごしがちです。
筋肉のだるさやこわばりは、転倒による怪我につながりやすいので、早期治療で症状の改善を図りましょう。
不整脈
低カリウム血症になると、不整脈の症状も現れる場合があります。
カリウムは、心臓の収縮やリズムの維持に役割を果たしています。よって、カリウムが不足すると、正常な心臓の動きを保てなくなり不整脈を誘発してしまうのです。
不整脈は加齢とともに増加する病気です。(文献5)
加齢に伴う老人性不整脈か、低カリウム血症による不整脈かによって、治療方針が変わってきます。不整脈になったら、発症した原因を特定して適切な治療を進めていく姿勢が大切です。
息苦しさ
低カリウム血症では、息苦しさも症状として現れます。
カリウムは呼吸筋を動かす機能に関与しているため、体内のカリウムが不足すれば、呼吸がうまくできなくなるのです。
重篤な場合は、呼吸筋障害による呼吸不全を引き起こします。(文献6)
呼吸不全は生命に関わる危険性を高めます。ただの息切れだろうと軽く考えずに、低カリウム血症の可能性も念頭に置いて早期受診を心がけましょう。
高齢者が低カリウム血症になったときの治療法
高齢者が低カリウム血症になったときの治療法は、症状の程度や発症した原因によって決まります。
ここでは代表的な以下3つの治療法を解説します。
- 食事やサプリメントでカリウムを補う
- 点滴や薬でカリウムを摂取する
- 薬の服用を中断する
ご自身の状況に合った治療法を探してみてください。
食事やサプリメントでカリウムを補う
軽度の低カリウム血症であれば、食事やサプリメントで不足したカリウムを補えます。
以下の表は、カリウムが多く含まれる食品の一部を紹介したものです。
食品名(100g当) |
カリウム量(単位:mg) |
アボカド |
590 |
バナナ |
360 |
ほうれん草 |
690 |
納豆 |
690 |
木綿豆腐 |
110 |
刻み昆布 |
8,200 |
参考:食品成分データベース|文部科学省
特にカリウム含有量が多いのは、刻み昆布です。刻み昆布は乾燥させて商品化されているものが多く「すき昆布」の料理で良く使われる食品です。
また、ほうれん草や納豆にもカリウムが多く含まれます。カリウムが不足しているときは、ほうれん草の和え物を作ったり、食後のデザートにバナナを食べたりすると良いでしょう。
ドラッグストアで販売されているサプリメントで、カリウムを補給する方法もあります。サプリメントを使用する際は、容量・用法・用途を守り、医師や薬剤師に相談してから服用しましょう。
なお、カリウムは脳梗塞の予防や再発防止につながる栄養素でもあります。以下の記事では、脳梗塞の方向けに理想の食事を紹介しているのであわせてご覧ください。
薬や注射でカリウムを摂取する
通院している方は、カリウムの内服薬による治療を受けます。他の疾患との兼ね合いで内服が困難な方や、症状が重い方は、カリウムを注射で投与します。
注射は、カリウム製剤を血中に直接投与するため、体内に速やかに吸収されます。また、量を調整できるため、医師の判断のもと、足りないカリウムを効果的に補えます。
薬の服用を中断する
薬の影響で低カリウム血症になった場合は、薬の服用を中断する場合があります。
利尿作用のある薬は、尿とともにカリウムが流れてしまうため、服用に配慮が必要な薬剤です。
以下は、利尿作用のある薬が処方される病気や症状とその効果です。
疾患 |
利尿作用による効果 |
高血圧症 |
排尿によって体液量を減らすことで血圧を下げる効果がある |
心不全・腎疾患による浮腫 |
余分な水分を排出して浮腫を改善する効果がある(文献7) |
参考:高血圧治療における利尿薬の用量について|厚生労働省
担当医との相談のもと、持病と低カリウム血症の両方を考慮した治療方針を決定しましょう。
高齢者が低カリウム血症になる原因を知って適切な治療を受けよう
食事量が減少する傾向にある高齢者は、日頃からカリウム不足にならない食生活への配慮が必要です。また、持病の治療で利尿作用のある薬を飲んでいる方は、カリウムが失われる機会が多いため、服薬の継続については医師と相談しましょう。
低カリウム血症には、筋肉のだるさや息苦しさといった、加齢と混同しやすい症状が現れます。症状を見逃すと、状態が悪化してしまうリスクがあるため、本記事を参考に、低カリウム血症の判断力向上に役立ててみてください。
また、高齢の方や生活習慣の乱れがある方は、低カリウム血症以外に糖尿病や肝臓疾患といった他の病気のリスクも高まります。
これらの疾患の治療の選択肢として、再生医療があります。
再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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高齢者の低カリウム血症に関するよくある質問
低カリウム血症は治る病気ですか?
頻繁な排尿や大量の下痢といった、一時的なカリウム不足の状態であれば、早期治療で回復が見込めます。症状の長期化や重篤化している場合は、長期的な治療が必要になるケースもあります。
低カリウム血症で入院することはありますか?
カリウム値が大幅に低下したり、症状が悪化したりした場合は、入院する可能性があります。
国立がん研究センターの日本臨床腫瘍研究グループが公表している、低カリウムの重症度(グレード)を示した定義表では、カリウム値が3.0-2.5mEq/Lの場合を「入院を要する」と定義しています。(文献8)
低カリウム血症で入院する場合の期間や費用を教えてください
入院期間は症状の程度によって異なりますが、症状が軽度の方は数日〜1週間程度で退院できたという報告があります。
低カリウム血症における入院費用を提示する病院の情報は確認できなかったため、各病院に問い合わせをお願いします。
なお、公益財団法人生命保険文化センターの調査結果によると、入院1日あたりの入院費用は平均約20,700円です。(文献9)
参考文献
(文献1)
絹川 真太郎「慢性心不全の薬物治療」日本内科学会雑誌109巻2号 P207〜214
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_207/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献2)
国立循環器病センター高血圧腎臓内科 河野雄平 「高血圧治療における利尿薬の用量について」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1022-11c.pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献3)
長瀬 美樹,藤田 敏郎ら「3)アルドステロンと生活習慣病」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献4)
西川 哲男,大村 昌夫ら「2)高血圧症患者の 5~15% は原発性アルドステロン症?」日本内科学会雑誌 第97巻 臨時増刊号・平成20年 2 月20日
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/Suppl/97_94b/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献5)
森 拓也「老人性不整脈」日農医誌62巻2号 136〜143項 2016.7 P136〜143
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/65/2/65_136/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献6)
吉田 雄一,柴田 洋孝ら「低カリウム血症と内分泌疾患」日本内科学会雑誌 109 巻 4 号 P718〜726
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/4/109_718/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献7)
木村玄次郎「9.利尿薬を使い分ける」日本内科学会雑誌 第102巻 第 9 号・平成25年 9 月10日 P2413〜2417
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/9/102_2413/_pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献8)
国立がん研究センター日本臨床腫瘍研究グループ「共用基準範囲対応CTCAE v5.0 Grade定義表」P1〜6
https://jcog.jp/assets/ChgJCOG_kyouyoukijunchi-CTCAE_50_20190905.pdf
(最終アクセス2025年6月22日)
(文献9)
公益財団法人生命保険文化センター「生活保障に関する調査/直近の入院時の1日あたりの自己負担費用」
https://www.jili.or.jp/research/chousa/8946.html
(最終アクセス2025年6月22日)