肝硬変で腹水が溜まっているときの余命はどれくらい?予後や治療方法を解説
肝硬変で腹水が溜まると余命は長くないって本当?
肝硬変の腹水を根本的に治療する方法はないの?
この記事を読んでいるあなたは、肝硬変で腹水の症状が出たときの余命がどのくらいなのか調べているのではないでしょうか。
腹水は肝硬変の中期から末期によくみられる症状であり、「もう先は長くないのではないか」と不安になるかもしれません。
結論からいえば、肝硬変における腹水は「非代償性肝硬変」に突入したサインの可能性があり、余命(中央値)は約2年というデータもあります。医療機関で適切な治療を受けることで、予後を改善できる場合があるため、前向きに治療を受けることが大切です。
本記事では、肝硬変における腹水の症状がある場合の余命年数や、治療法について解説します。
記事を最後まで読めば、肝硬変中期から末期の状況を正しく理解し、今後受けるべき治療法を判断できるでしょう。
目次
肝硬変で腹水が溜まったときの余命は約2年といわれている
腹水とは、腹腔内にあるタンパク質の含まれた液体のことです。
通常、腹水は人間の腹腔内に一定量存在しますが、病気によって過剰生成・排出不良が起こり、溜まってしまうことがあります。
腹水は「非代償性」と呼ばれる中期から末期の肝硬変でみられる症状です。非代償性肝硬変の場合、余命年数は約2年(中央値)ともいわれており、予後が良いとはいえません。(文献1)
まずは本章を参考に、肝硬変の重症度や予後についての基礎知識を身につけましょう。
肝硬変には「代償性」と「非代償性」がある
肝硬変は、程度によって「代償性」と「非代償性」に区分されます。
肝硬変の区分 | 段階 |
代償性 | ・肝硬変の初期 ・肝機能に大きな問題はみられない状態 |
非代償性 | ・肝硬変の中期~末期 ・肝機能に障害が出ている状態 |
代償性肝硬変は初期段階で、身体症状が現れないことが多く、症状があっても風邪などと見分けがつきにくいのが特徴です。
一方、非代償性肝硬変は中期から末期にあたる段階で、腹水や黄疸、浮腫などの身体症状があらわれるようになります。
肝硬変の症状や原因については、以下の記事もご覧ください。
肝硬変の程度によって生存率に差がある
肝硬変の予後について、以下のようなデータがあります。(文献2)
5年生存率 | 代償性 |
72.3% |
非代償性 |
37.9% |
|
10年生存率 | 代償性 |
53.3% |
非代償性 |
24.0% |
肝硬変の生存率(5年・10年)は、肝硬変の程度によって30%前後の差があります。
腹水などの症状がある非代償性肝硬変の場合、予後は良いとはいえません。
ただ、非代償性肝硬変であっても、適切な治療や肝移植をおこなうことで、改善する見込みもあります。
肝硬変による腹水は治療で改善する可能性がある
肝硬変による腹水は、内科的治療もしくは外科的治療で改善する見込みがあります。
肝硬変で腹水などの症状が発現している場合「非代償」期に突入している可能性が高いと考えられます。つまり、肝硬変の病状が進行し、肝機能を補えないほどの状態まで悪化しているという意味です。
とはいえ、非代償性肝硬変であっても、内科的な治療をおこなえば、腹水の改善がみられることが多くあります。
ただし、難治性腹水で内科的治療に反応しない場合は、外科的な治療をおこなうこともあります。
本章では、肝硬変における腹水の内科的治療・外科的治療について解説します。今自覚している腹水が肝硬変による可能性があると思われた方は、すぐに医療機関に相談しましょう。
また、肝硬変の治療法については以下の記事も参考にしてください。
肝硬変による腹水の内科的治療
非代償性肝硬変による腹水の症状がみられる場合は、内科的治療からおこないます。
具体的な治療法は以下のとおりです。
- 塩分の制限
- 利尿薬の処方
- アルブミン療法
- 腎機能に影響する薬剤の制限
- 以下で詳しく解説します。
塩分の制限
はじめにおこなう内科的治療として、食事療法が挙げられます。とくに腹水の改善には塩分制限が有用で、1日の塩分摂取は5-7gとします。
肝硬変では、ナトリウムが溜まりやすくなるため、塩分の制限が必要です。
実際に塩分制限により、腹水の早期減少や入院期間の短縮、利尿薬の減量が得られたと報告されています。
肝硬変の食事療法については、以下の記事でも詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
利尿薬の処方
食事療法のみでは効果が不十分と判断された場合、利尿薬を処方し、尿からのナトリウム排泄を促進する治療をおこないます。
少量からはじめ、効果と合わせて徐々に増量するケースが一般的です。
アルブミン療法
アルブミンとは、主に肝臓で作られている血液中のタンパク質です。
肝機能の低下によりアルブミンの値が低下すると、血管内の血液の浸透圧バランスが乱れ、浮腫や腹水が起こりやすくなります。
非代償性肝硬変によりアルブミンの低下がみられる場合、アルブミン製剤を使用することもあります。
腎機能に影響する薬剤の制限
腹水がある場合、専門医と相談の上で、腎機能に影響する成分が含まれた薬剤の服用を中止することもあります。
たとえば、腎機能を悪くするような痛み止めや血圧を下げる薬は、腹水治療の妨げとなる可能性があります。これらの薬剤を利用している人は、継続の可否について医師に確認しましょう。
肝硬変による腹水の外科的治療
肝硬変における腹水の症状は、内科的治療によって改善できるケースが大半です。しかし、内科的治療への反応が乏しい場合は「難治性腹水」として外科的治療に切り替えることもあります。
ある研究では、難治性腹水の特徴として、腎機能の悪化や交感神経系の亢進、そして腎臓に作用して血圧を上昇させようとする内分泌系の調節機構(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系)の亢進がみられ、さらに門脈圧亢進もその発生に関与しているだろうと報告されています。(文献3)
難治性腹水の治療法は以下のとおりです。
- 穿刺排液
- 腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充
- 経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)
- 腹腔−静脈シャント術
- 肝移植
以下で詳しく解説します。
穿刺排液
まず、腹水貯留による腹部膨満感や呼吸困難の改善のため、穿刺排液をおこないます。
基本的には超音波の機械を用いて穿刺できる場所を選択しますが、解剖学的に安全と思われる箇所を狙って刺すこともあります。
居所麻酔をおこなったのち、針を使って穿刺し、管を留置して自然に排液させます。
穿刺の頻度は主に1-2週間ごと、量は1回につき最大でも8Lまでとされています。
また、5L以上の腹水を引く場合には、血液中のタンパク質である「アルブミン」の補充も併せておこなわれます。
腹水濾過濃縮再静注法(CART)によるタンパク質の補充
腹水濾過濃縮再静注法(以下、CART)をおこない、血液中のタンパク質を補充することもあります。
腹水濾過濃縮再静注法(CART)とは、排液した腹水を濾過器や濃縮器にかけて取り出した自己のタンパク質を点滴で体内に戻す方法です。
自分のタンパク質を体内に戻す治療であるため、アルブミン製剤の投与時に生じうるアナフィラキシーショックなどの副作用を回避しやすいのがメリットです。
経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)
難治性腹水に有用といわれている外科的治療として、「経頸静脈肝内門脈大循環シャント(以下TIPS)」と呼ばれる血管内治療があげられます。
全身麻酔下で血管内に細い管を挿入し、門脈と肝静脈の間にシャントと呼ばれる短絡路を作成し、門脈圧を下げます。
腹腔−静脈シャント術
また、「腹腔−静脈シャント術」と呼ばれる外科的治療をおこなうこともあります。
腹腔−静脈シャント術とは、皮下を経由して腹腔内と中心静脈をつなぎ、腹水を血管内に還流させる治療法です。
基本的には局所麻酔のみでおこなうことが可能ですが、長時間仰向けの体勢を保てないなどの際には全身麻酔を施すこともあります。
肝移植
難治性腹水が見られる場合、肝移植を実施することもあります。
脳死肝移植だけでなく、生きている人から肝臓の一部をもらう生体肝移植もあります。生体・死体合わせて、2021年と2022年はどちらも約420件の肝移植が施行されました。
肝移植は、非代償性肝硬変の根本的治療をおこなえるのがメリットです。ただし限られた医療機関でしか受けられない上に、待機時間も長いのは問題点といえます。
まとめ|肝硬変の腹水は余命にかかわるため適切な治療を受けよう
本記事では、肝硬変で腹水の症状がある場合の余命や治療法を解説しました。
肝硬変による腹水は、基本的に食事療法などの内科的治療で改善しますが、腹水穿刺や手術療法など外科的治療をおこなうこともあります。
当院「リペアセルクリニック」では、肝臓の再生医療として幹細胞治療をおこなっています。約1億個の幹細胞を投与することで、硬くなった肝臓の組織を溶解・修復させ、肝機能を改善させる効果が期待できるでしょう。
肝硬変における腹水の症状に悩んでいる方や、肝移植以外で肝硬変の根本治療を検討している方は、一度当院にご相談ください。
非代償性の肝硬変は予後が良好とはいえませんが、症状の改善に向けて前向きに治療を進めていきましょう。
肝硬変の余命についてよくある質問
肝硬変の終末期の症状は?
肝硬変の終末期では、以下の身体症状がみられます。
- 黄疸
- 腹水
- 胸水
- 食道胃静脈瘤
- 浮腫(むくみ)
- 感染症 など
終末期など重度の肝硬変を根本的に治療するには、ドナー登録の上で肝移植を受ける選択肢があります。
肝硬変で腹水が溜まるとどうなるのでしょうか?
肝硬変で腹水が溜まるのは、中期から末期である「非代償性肝硬変」に入ったサインの可能性があります。
大量の腹水が内臓を圧迫し、食欲不振や嘔吐、便秘などの消化器症状が出ることもあるでしょう。細菌性腹膜炎などの感染症を引き起こす場合もあるため、早めに医療機関での治療を受ける必要があります。
肝硬変による腹水は、利尿剤の投与など内科的治療、または腹水穿刺吸引など外科的治療をおこなうのが一般的です。
監修:医師 渡久地 政尚
参考文献一覧
(文献1)
D’Amico G, Garcia-Tsao G, et al. Natural history and prognostic indicators of survival in cirrhosis: A systematic review of 118 studies. J Hepatol. 2006;44:217-231.
(文献2)
糸島達也、島田 宜浩ほか.肝硬変の予後-肝表面像による検討-.日本消化器病学会 雑誌.1973;70:42-49.
(文献3)
楢原義之,金沢秀典ほか. 肝硬変における難治性腹水臨床像に関する検討. 日門充会誌.2002;8:251-257.