橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説
公開日: 2023.08.03更新日: 2024.10.07
目次
橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説
橋出血は非常に致死率の高い病気です。
かつて脳卒中は、日本人の死因の1位でした。しかし、医療技術が進歩するにつれて、脳卒中による死者数は徐々に減少しています。2022年においては死因の第4位でした。
橋出血は、その中でもいまだに生存率が低いとされており、発症すると半分近くの方が亡くなるという報告もあります。
本記事では、致命的になることの多い橋出血の予後の予測、また後遺症の回復について、解説をしていきます。
橋出血が重症化しやすいのはなぜか?
橋出血の最大の原因は高血圧です。高い血圧がかかり続けると、血管が急に破れてしまうことがあります。
血管をホース、血圧を水の勢いと考えてみてください。高血圧による脳出血は、勢いよく水を出しているホースが途中で破れてしまった状態と同じです。破れたところから、水はさらに激しく飛び散るでしょう。
脳は柔らかい組織で、一度出血すると簡単に止血できず、機能が急激に失われていきます。橋は意識や生命維持のための機能のコントロールを行う場所です。そのため、橋出血は死に直結することも少なくありません。
橋出血の生命予後に関わる症状とは?
重症の橋出血で起こる症状には次のようなものがあります。これらの症状は、橋出血において生命予後不良であることを示すものです。
・発症早期の高度の意識障害橋を含む脳幹は大脳へ刺激を与え、意識を保ちます。橋出血によりその刺激ができなくなると、昏睡状態など、高度の意識障害を認めます。 ・四肢麻痺橋は大脳からの運動の伝達経路です。大脳の損傷でも麻痺は起こりますが、基本的には片麻痺(左右どちらかのみの麻痺)です。橋の広い範囲の出血では、運動神経が一気に障害されるので、四肢麻痺を呈します。 ・除脳硬直意識障害下に、痛み刺激を加えると、手足が強く緊張して伸びたような姿勢になります。橋を含む脳幹のダメージにより、筋肉の緊張をコントロールすることができなくなるからです。 ・眼球正中位固定橋には眼球の動きを司る部分があります。この障害により、目が真ん中から動かなくなります。 ・対光反射の消失対光反射とは、瞳孔に光を当てた時、瞳孔の大きさが小さくなることです。この反射の中枢の「動眼神経」は橋の上の中脳にあります。橋出血の範囲が広いと中脳まで影響がおよび、対光反射は消失します。 ・失調性呼吸脳幹の呼吸中枢が障害されるために起こる不規則な呼吸です。リズムも、一回ごとの呼吸の量も、バラバラで、呼吸が止まる直前の状態と考えられます。 ・中枢性過高熱体温の調節中枢は脳幹のすぐ上にある間脳の視床下部というところです。広範な橋出血により、間脳までダメージが広がると、高い熱が出ます。 |
後遺症の治療について
重症にならず命が助かっても、出血で脳が傷つくと、後遺症が残ってしまうケースもあります。
例えば、神経の伝達経路の損傷による片麻痺、感覚障害などです。
橋は小脳という動作のコントロールに重要な部分と密接に関連しているため、運動失調によりふらついたり、動作がスムーズにいかなくなったりする方もいます。
また、物を飲み込む力が弱くなる嚥下障害も、頻度の高い後遺症です。飲み込みに関わる神経の多くは、橋をはじめとする脳幹から、顔・頸などに直接のびているからです。
後遺症のために、すぐに自宅に帰ることができなくなる方も多くいらっしゃいます。そのような場合に行うのが、リハビリテーションです。
急性期(発症直後の体の状態が安定しない時期)からリハビリが始まりますが、それだけでは不充分なことも多いです。そのため、患者さんの多くは、急性期がすぎると回復期病院(病棟)に移動し、集中的にリハビリを受けることになります。
リハビリの種類
理学療法・作業療法・言語聴覚療法の3種類があります。
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理学療法は、基本的な動作能力の回復を目指すリハビリです。
作業療法は日常生活に必要な作業の訓練を行います。同じリハビリでも、理学療法は立つ・歩くなどの基本的な動作、作業療法は着替え・入浴など応用的な動作が主体です。それぞれ、理学療法士・作業療法士という専門のスタッフがいます。
言語聴覚療法の担当は、言語聴覚士というスタッフです。構音障害などコミュニケーションの障害に対してリハビリを行います。また、橋出血に多い嚥下障害へのアプローチも行います。
リハビリの目標と後遺症の回復の見通しについて
リハビリの最終的な目標は、個人個人の後遺症の具合、また退院後の生活環境を踏まえて決定していきます。そして、機能予後、つまり後遺症の回復見通しを勘案しながら、リハビリテーション計画を考えます。
では、回復の見通しはどのように立てるのでしょうか。
脳卒中全般で、発症時の重症度、画像の所見、入院時の日常生活動作(ADL)など、初期の評価からの機能予測についての研究が複数行われています。
また、急性期の回復の具合から、最終的な回復の見通しを立てる方法も模索されています。その中で、最初の1ヶ月での回復具合が大きいほど、最終的に自立した生活につながりやすいことが示されているのです。状態が許せば、早いうちから積極的なリハビリを行なうことは、回復につなげるために非常に重要です。
麻痺が回復するのは発症後どのくらいまでか
一般的に麻痺の回復は、3〜6ヶ月程度までと言われています。そのため、発症して早いうちから、集中的にリハビリに取り組むことが重要です。
この期間を過ぎてしまっても、リハビリを続ける意味がないわけではありません。麻痺の無い側でうまく補ったり、補助具を使ったりする訓練ができます。
まとめ・橋出血の後遺症と予後予測|回復の見通しについて医師が解説
橋出血は現在の医療の進歩をもってしても、いまだに生命予後の悪い病気です。
また、後遺症も残りやすく、回復には時間がかかります。早いうちにリハビリに集中的に取り組むことで、麻痺などの後遺症が軽くなる可能性がありますので、諦めないことが大切です。
この記事がご参考になれば幸いです。
▼以下もご参考ください
橋出血による運動失調の種類とリハビリプログラム
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- 〈参考文献〉
- 奥田佳延 他. Neurosurg Emerg 13:63-71,2008.
- 木村紳一郎 他. 脳卒中の外科. 39: 262-266, 2011.
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- 佐藤栄志. 日本臨牀. 72 (増刊号7): 373-375, 2014.
- 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計の概況. 結果の概要. (閲覧2023年6月28日).
- 脳卒中診療ガイドライン2021