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タチの悪い乳がんとは?トリプルネガティブの特徴と治療法を医師が解説

「タチの悪い乳がんって言われたけど、どういう意味なんだろう」「治るのかどうかが心配」と不安になっていませんか。
医師の一言がずっと引っかかり、ネットで調べている方も多いかもしれません。
タチの悪い乳がんは「トリプルネガティブ型」の乳がんを指していることが多いと考えられます。
”タチの悪い”と表現されるものの、治療法がないわけではありません。この記事では、タチの悪い乳がんの治療法や再発のリスク、手術後の生活などを解説します。
病気への不安が和らぎ、今後の生活をイメージするきっかけとなれば幸いです。
目次
タチの悪い乳がんとされる「トリプルネガティブ型」とは
「タチが悪い」と言われると、治らないのではと怖くなりますよね。
正式な医学用語では「タチが悪い」といった表現は使いませんが、実際に“治りにくいがん”として扱われるタイプの乳がんはあります。それが「トリプルネガティブ乳がん」です。
これは、他のタイプと比べて再発しやすく、生存率が低い傾向にあるため「タチが悪い」と感じる方が多いのです。ただし、だからといって治療ができないわけではありません。早期発見や治療の進歩によって、治療の道はしっかりあります。
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乳がんのサブタイプ
ここでは、トリプルネガティブを含む乳がんの「サブタイプ」について説明します。
サブタイプとは乳がんの性質による分類
がんの分類といえば「ステージⅠ」や「ステージⅡ」などの言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。これはがんがどこまで広がっているか、他の場所への転移があるかといった進行度の話です。
一方、「サブタイプ」とはがんの性質による分類のことを指します。
乳がんは「ホルモンが関係しているのか」や「HER2というたんぱく質があるかどうか」で分けられます。サブタイプごとに効果的な治療法が変わってくるため、最初の診断でしっかり見極めることが大切です。(文献1)
乳がんのサブタイプ一覧
以下が代表的な乳がんのサブタイプです。
サブタイプ分類 |
ホルモン受容体 |
HER2 |
|
---|---|---|---|
ER |
PgR |
||
ルミナルA型 |
陽性 |
陽性 |
陰性 |
ルミナルB型 |
陽性 |
弱陽性・陰性 |
陰性 |
ルミナルB型 |
陽性 |
陽性・陰性 |
陽性 |
HER2型 |
陰性 |
陰性 |
陽性 |
トリプルネガティブ |
陰性 |
陰性 |
陰性 |
ER、PgRは女性ホルモンとの関係をあらわし、HER2は細胞の増殖に関わるタンパク質との関係をあらわします。
トリプルネガティブとは、このER、PgR、HER2がすべて「陰性」である乳がんのことです。
「ネガティブ」と聞くと「よくないこと」というイメージを持つかもしれませんが、単に「検査結果が陰性」という医学的な意味で使われています。(文献2)
【サブタイプ別】乳がんの再発率・生存率
タチの悪い乳がんと言われると、再発のしやすさや今後がんは治るのか、といったことが心配になりますよね。
ここでは、乳がんのサブタイプごとの再発しやすさや、生存率について解説します。
サブタイプ別の再発率
再発とは、治療後に見えなくなったがんが再びあらわれることです。また、治療から5年以内に再発しない人の割合を「5年無再発率」として示すこともあります。
乳がんのサブタイプによって、再発のしやすさはさまざまです。5年無再発率がもっとも高いのは97.2%のルミナルA型、反対にもっとも低いのは79.3%のトリプルネガティブという報告があります。(文献3)
同じ「乳がん」でも、性質によって経過は大きく異なるため、サブタイプに応じた治療と経過観察が大切です。
サブタイプ別の生存率
「5年生存率」とは、診断から5年後に生きている人の割合のことです。再発率と同じく、乳がんのサブタイプごとに、生存率には違いがあります。
たとえば、ルミナルA型は5年生存率が99.4%と高く、10年後でも98.0%とのデータがあります。
一方で、トリプルネガティブは、5年生存率が81.6%、10年生存率が78.3%と、他のサブタイプよりもやや低い傾向です。(文献3)
この違いは、使える薬や治療法の選択肢がサブタイプごとに異なるためだと考えられています。治療法が限られるトリプルネガティブは、化学療法が中心となるため、予後が厳しいと感じることがあるかもしれません。
【タチの悪い乳がん】トリプルネガティブ乳がんの治療は「化学療法」
ここでは、トリプルネガティブ乳がんに使われる「化学療法」について解説します。
- 乳がんの化学療法の特徴
- 化学療法の副作用
化学療法の特徴を知り、治療に備えましょう。
乳がんの化学療法の特徴
化学療法とは、いわゆる「抗がん剤治療」のことを指します。
サブタイプ別の治療方法は、以下の表の通りです。
サブタイプ分類 |
選択される薬物療法 |
---|---|
ルミナルA型 |
ホルモン療法、化学療法 |
ルミナルB型(HER2陰性) |
ホルモン療法、化学療法 |
ルミナルB型(HER2陽性) |
ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法 |
HER2型 |
化学療法、抗HER2療法 |
トリプルネガティブ |
化学療法 |
ホルモン療法やHER2療法が効かないトリプルネガティブ乳がんは、化学療法が主な治療法です。
化学療法を行う目的やタイミングは、以下のとおりです。
- 手術の前にがんを小さくしてから切除しやすくする
- 手術のあとに、体内に残ったがん細胞をなくす
- 手術が難しい進行がんや、再発したがんに対して行う
手術前の薬の効き方を見て、手術後の薬を同じものにするか別の薬に変えるかを決めることがあります。(文献1)
化学療法の副作用
化学療法には、次のような副作用があります。(文献4)(文献5)
- 心筋障害
- 骨髄抑制
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- 脱毛
- 倦怠感
副作用には個人差があり、薬の種類によっても違います。つらさを感じたときは、我慢せず医師や看護師に相談しましょう。
乳がんの手術と後遺症の特徴
乳がんの手術をするかもしれない、と思うと「どんな手術なのか」「後遺症はあるのか」といった心配が出てきますよね。
ここからは、以下の項目に沿って解説します。
- 乳がん手術の特徴
- 乳がん手術の後遺症
ひとつずつみていきましょう。
乳がん手術の特徴
乳がんの手術は、以下の二つに分けられます。
- 腫瘍と周りの乳腺を切除する部分切除
- 乳房全体を切除する全摘術または乳頭乳輪温存乳房切除術
乳がんは進行すると乳房の中に広がりやすいのが特徴です。そのため、がんの範囲が広いと乳房全体を切除する(全摘)選択をするケースもあります。
また、わきの下のリンパ節にがんが転移していれば、リンパ節を含めた広い部分の切除を検討します。(文献6)
乳がん手術の後遺症
乳がんの手術で起こりやすい後遺症には、次のようなものがあります。
- リンパ浮腫:腕がむくんで重い、だるいような感覚
- 乳房切除後疼痛症候群:胸の奥にチクチクした痛みや違和感が残る状態
リンパ浮腫は、手術でリンパ節を切除したことによって起こります。予防には「肌を清潔に保つ」「きつい下着や袖を避ける」「適度に運動する」「重たい荷物を持たない」などが大切です。
もしむくみや動かしづらさを感じたら、リハビリで改善をめざしていきます。重症化すると日常生活に支障が出ることもあるため、腕に違和感があれば早めに医療機関に相談しましょう。(文献7)
乳房切除後疼痛症候群については、こちらの記事も参考にしてください。
乳がんの治療後、痛みなどの後遺症に悩まされ、なかなか改善が見られないこともあります。こうした痛みには、従来の治療では限界があるとされてきました。
その一方で、再生医療という新しい選択肢も注目されています。とくに「幹細胞治療」は、ダメージを受けた神経の修復が期待される方法で、神経障害に対して新たな可能性を広げています。
当院では、この幹細胞治療を導入し、乳がん治療後のつらい痛みでお困りの方にも対応してきました。症状や状態に応じた個別の治療提案が可能ですので、気になる方はぜひご相談ください。
タチの悪い乳がんでも治療の余地はある
「タチの悪い乳がん」と言われると不安になりますよね。
実際には、これはトリプルネガティブ乳がんのことを指している可能性が高く、他のタイプに比べて再発や進行のリスクが高い面はあります。
しかし、治療法がないわけではありません。化学療法を中心に、手術や再発予防のケアまで、できることはたくさんあります。不安をひとりで抱え込まず、信頼できる医療チームと一緒に進んでいくことが大切です。
また、当院では乳がん治療の後遺症による痛みのご相談も受け付けています。気になる方は、「メール相談」または「オンラインカウンセリング」まで、気軽にご相談ください。
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タチの悪い乳がんに関するよくある質問
乳癌トリプルネガティブの余命は何年ですか?
トリプルネガティブ乳がんは、治療が難しいとされるタイプですが、余命は個人によって異なります。
がんの広がり方や、再発があるかどうか、治療にどのように反応するかによって大きく異なります。統計的に生存率がやや低めとのデータはありますが、近年では治療成績も向上しています。
「このがんだから何年」と決めつけず、できる治療を前向きに続けていくことが大切です。
乳がんの治療後はすぐに仕事に復帰できますか?
治療後は、体力が落ちていたり、だるさが残ったりします。
すぐにフルタイムで働くのは難しいケースもあるため、主治医と相談しながら、在宅勤務や時短勤務など、無理のない働き方を選ぶと良いでしょう。焦らず、少しずつ日常を取り戻していけるようサポートを受けてください。
参考文献
(文献1)国立研究開発法人国立がん研究センター「乳がん 治療」がん情報サービス2024年10月22日https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html
(文献2)一般社団法人日本乳癌学会「Q27 病理検査でどのようなことがわかりますか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/40-2/q27/
(文献3)医療法人那覇西会「2023年」那覇西クリニックホームページhttps://www.naha-nishi-clinic.or.jp/about/achievement/1705018379/
(文献4)浅野雅嘉「乳がんの薬物療法」『月刊地域医学』Vol.33 No.1,pp.44-47,2019https://www.jstage.jst.go.jp/article/chiikiigaku/33/1/33_44/_pdf/-char/ja
(文献5)独立行政法人医薬品医療機器総合機構「エピルビシン塩酸塩注射液10mg/5mL「サワイ」/エピルビシン塩酸塩注射液50mg/25mL「サワイ」」2023年10月https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300119_4235404A1067_1_04#HDR_Warnings
(文献6)一般社団法人日本乳癌学会「Q21 どのような場合に腋窩リンパ節郭清が必要でしょうか」患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/40-2/q21/
(文献7)独立行政法人国立病院機構四国がんセンター「乳房の手術を受けられるあなたへ(乳房温存術・乳房切除術)」独立行政法人国立病院機構四国がんセンターホームページhttps://shikoku-cc.hosp.go.jp/hospital/support/clinical_path/mammary_gland/data/manma_kan_231221.pdf