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脳梗塞の後遺症で性格が変わることは、よく知られている症状の一つです。(文献1) 脳梗塞を発症をする前は穏やかで几帳面な性格だった方が、後遺症で怒りっぽくなったり、だらしなくなったりするケースが散見されます。 脳梗塞の後遺症のわかりやすい症例は麻痺です。一方、外見からは分からない症状もあります。これが高次脳機能障害です。 高次脳機能障害を発症すると性格が変わるだけでなく、記憶に問題が生じたり言語を適切に発せなくなったりとさまざまな症状があらわれます。 本記事では脳梗塞の後遺症が原因で起こる性格の変化や治療法について解説します。 脳梗塞の後遺症によって変化する性格の主な具体例 脳梗塞の後遺症によって変化する性格の主な具体例は以下のとおりです。 易怒性・攻撃性 意欲低下・無関心(アパシー) 感情の不安定さ(感情失禁) 衝動性・自制の欠如 固執性・融通のなさ それぞれについて解説します。 易怒性・攻撃性 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格変化の一つが易怒性(いどせい:怒りっぽくなること)・攻撃性です。 脳梗塞により感情のコントロールを司る脳の前頭前野が損傷されると、感情の抑制が困難となり易怒性・攻撃性が見られる傾向にあります。(文献2) 発症前には気にならなかった些細な出来事が原因でイライラしたり、怒声を発したりするのが特徴です。 脳梗塞を発症した事実を知らない周囲の人からは「単に怒りっぽい人」と認識されて敬遠されるなど、社会生活が困難になるケースもあります。 易怒性・攻撃性がどのような場面で見られるのか原因を特定し、家族やパートナーなどの協力を得て対処する必要があります。 意欲低下・無関心(アパシー) 意欲低下や無関心(アパシー)も、脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化の一つです。 脳梗塞が原因で脳の前頭葉や大脳辺縁系の機能が低下すると、脳内の神経伝達物質の働きが妨げられます。その結果、意欲の低下や無関心状態を引き起こすと考えられています。(文献3) 脳梗塞後に高次脳機能障害と診断された方のおよそ71%に、意欲発動性の低下・アパシーが見られるとの報告も見られます。(文献4) 意欲が低下して何事にも関心を持てなくなると、脳梗塞後のリハビリテーションにも非協力的になり、麻痺やADL(日常生活動作:食事、入浴、着替えなど基本的な生活行為)からの回復が遅延しがちです。 感情の不安定さ(感情失禁) 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化としては、感情の不安定さ(感情失禁)も挙げられます。 感情失禁は、感情の表出が適切にコントロールできない状態です。過剰に泣いたり突然笑いだしたりするケースも少なくありません。(文献5) 脳の前頭葉のなかでも眼窩面の障害により感情失禁を来すと、児戯性や多幸感により些細なことで泣いたり、面白くもないことで笑いだしたりします。 感情失禁は他者とのコミュニケーションを困難にさせるだけでなく、食事中の誤嚥や吹きこぼしのリスクも高めるため早期の対処が求められます。(文献6) 衝動性・自制の欠如 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化としては、衝動性および自制の欠如もよく知られています。 衝動性・自制の欠如も感情のコントロールが困難になる高次脳機能障害の一種で、とくに前頭葉の障害により発症しやすい傾向にあります。 もともと穏やかだった方が急に怒りっぽくなるなどの変化が見られる場合、脳梗塞の後遺症の高次脳機能障害を疑う必要があるでしょう。 衝動性や自制の欠如も他者とのコミュニケーションを阻害する原因の一つで、社会生活を営む上で重大な障壁となりかねません。 本人は自分の性格が変わったことに気付いていないケースが多いため、専門家のアドバイスを得て柔軟に対処する必要があります。 固執性・融通のなさ 固執性や融通のなさも、脳梗塞後の後遺症として多く見られる性格変化の一つです。 脳梗塞の後遺症により固執性や融通のなさを発症すると、一つのことにこだわって他に目が向かず、いつまでたっても同じことを繰り返すのが特徴です。(文献7) 行動だけでなく考え方に関しても固執が見られるようになり、多様な選択肢から適切な解を導き出せなくなります。 環境や状況の変化に対して柔軟に対処できないため、初対面の方とのコミュニケーションもうまく取れません。 固執性や融通のなさを改善していくためにはリハビリテーションはもちろん、安定した環境を整えることも重要です。 脳梗塞の後遺症における性格変化は損傷部位によって異なる 脳梗塞の後遺症によりあらわれる性格の変化や運動機能の低下、言語障害などを総称して高次脳機能障害と呼びます。 どのような変化があらわれるかは脳の損傷部位により異なります。 高次脳機能障害に伴う症状、および脳の損傷部位は以下のとおりです。(文献8) 損傷部位 認知ドメイン 具体的な症状 前頭葉 計画立案・行動・注意力など 注意障害・失行・遂行機能障害・社会的行動障害など 頭頂葉 空間認知・触覚など 半側空間無視・失認など 側頭葉 言語理解・聴覚・記憶など 失語症・記憶障害など 後頭葉 視覚 視野狭窄・視覚失認など 右脳と左脳のどちらに障害を起こしたかによって、あらわれる症状も異なります。 たとえば左脳に障害を起こすと失語症などの言語障害が見られ、右脳の障害を起こすと半側空間無視などの空間認知障害が見られます。 脳梗塞の後遺症に伴う高次脳機能障害において、性格の変化をもたらすのは主に前頭葉の障害です。 前頭葉のなかでも、内側の穹窿面(きゅうりゅうめん)を損傷すると無関心や無感情が見られやすく、下側の眼窩面(がんかめん)を損傷すると感情の不安定さが生じやすくなります。 脳梗塞の後遺症で家族の性格が変わったらどうすべき? 脳梗塞の後遺症で家族の性格が変わった場合、まずは原因を突き止める必要があります。 性格の変化は主に以下2つの原因によりもたらされることを理解しておいてください。 前頭葉の損傷により感情がコントロールできなくなって起こる 注意障害や遂行機能障害に伴い二次的に起こる 感情がコントロールできない方に対しては、本人の意思を尊重し感情の変化が起こりにくい環境を整える必要があります。 注意障害や遂行機能障害が見られる場合は、気が散る原因を取り除いたり、根気強くリハビリテーションに取り組んだりするのが大切なポイントです。 感情がコントロールできない社会的行動障害は、本人も無自覚なケースがほとんどのため、家族やパートナーの方は感情に任せず冷静に対処する必要があります。(文献9) 脳梗塞の後遺症に対する治療法 脳梗塞の後遺症に対する主な治療法は以下のとおりです。 高次脳機能障害に対するリハビリテーション 薬物療法 再生医療 それぞれ解説します。 高次脳機能障害に対するリハビリテーション 脳梗塞の後遺症として多く見られる高次脳機能障害に対しては、以下のリハビリテーションやカウンセリングが行われます。 認知リハビリテーション 認知行動療法(CBT) 行動変容療法 社会技能訓練 心理カウンセリング 認知リハビリテーションは、脳梗塞に伴う高次脳機能障害や認知症を改善する目的で行われます。 記憶力や判断力、注意力などの認知機能を向上させる目的で行われ、ADL(日常生活動作)の向上を目指すのが特徴です。 認知行動療法(CBT)は考え方や行動パターンを変化させる心理療法の一種で、感情のコントロールに役立ちます。 行動変容療法も心理療法の一種で、問題行動の原因となる行動を抑制し、より適切な行動を習得するのが目的です。 社会技能訓練ではコミュニケーション能力を高め、自信をもって生活を送るためのサポートを行います。 心理カウンセリングは高次脳機能障害患者を支援するだけでなく、家族へのサポートも行う点が特徴です。 症状の回復度合いを大きく左右するため、高次脳機能障害に対するリハビリテーションは発症から6カ月以内に開始することが推奨されます。 薬物療法 脳梗塞の後遺症を治療する際に行われる治療の一つが薬物療法です。 高次脳機能障害に伴う感情のコントロールや、うつ病・不安症などの精神症状を軽減し、日常生活の質を向上させる目的で行われます。 用いられる主な医薬品および期待できる効果は以下のとおりです。(文献10) 主な医薬品 期待できる効果 メチルフェニデート・アマンタジン 注意障害・意欲低下を改善する リスぺリドン・ハロペリドール 不安や興奮を抑制する ミルナシプラン・トラゾドン 意欲を向上させる ブロマゼパム・ロラゼパム 不安や緊張、抑うつ状態を緩和する ゾピクロン・ニトラゼパム 睡眠障害を改善する カルバマゼピン・バルプロ酸 易怒性・攻撃性を緩和する 高次脳機能障害に伴う症状を抑制する医薬品だけでなく、脳の神経伝達物質のバランスを整えるために抗うつ薬や抗精神病薬なども用いられます。 再生医療 脳梗塞の後遺症に対する治療法の一つが再生医療です。 再生医療では患者自身の脂肪細胞から抽出した幹細胞を分離して培養し、増殖させたうえで点滴を用いて静脈内に注入します。 患者自身の細胞を用いた治療法のため拒絶反応が起こりにくく、副作用のリスクも低い点が特徴の一つです。 日帰りでも治療が受けられるため、手術を避けたい方にとって適した選択肢となっています。 脳梗塞の後遺症や予防についてお悩みの方は、再生医療に関する以下の記事もご覧ください。 脳梗塞の後遺症による性格変化が気になる方は当院へご相談ください 脳梗塞の後遺症によるご家族やパートナーの性格の変化が気になる方は、当院「リペアセルクリニック」までお気軽にご相談ください。 脳梗塞の発症に伴い前頭葉が損傷されると易怒性や攻撃性、意欲の低下、感情の不安定など社会的行動障害を起こしがちです。 社会的行動障害はご家族やパートナーの方に大きな負担となる上、患者本人が社会生活に復帰する際に障害となります。 脳梗塞の後遺症に対する治療法の一つが再生医療です。再生医療では患者の脂肪細胞から採取した幹細胞を培養・増殖させ、点滴を用いて損傷部位に注入します。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療に関してLINEでの簡易オンライン診断を実施しています。再生医療に興味がある方は、ぜひ一度お試しください。 脳梗塞の後遺症に関してよくある質問 脳梗塞になると顔つきは変わる? 脳梗塞を発症すると顔つきが変わることがあります。 たとえば写真を撮る際に笑顔を作ると片方の口角や頬しか上がらず、顔つきが左右でゆがんで見えるケースがあります。 笑顔を作った際に顔つきが左右で違って見えるのは、脳梗塞を発症する前兆の可能性もあるため注意が必要です。 脳梗塞の後遺症で片麻痺を発症すると、左右いずれかの表情筋がはたらかず、表情を作った際に顔がゆがんで見えやすくなります。 また、脳梗塞の後遺症で意欲低下や無関心(アパシー)状態に陥ると、表情の変化に乏しくなるケースがあります。 脳梗塞後の麻痺が左右どちらかで症状は変わる? 脳梗塞後の麻痺が左右いずれにあらわれるかによって、症状にも変化が見られます。 脳梗塞に伴う麻痺は、損傷した脳と反対側にあらわれます。たとえば脳梗塞に伴い左脳を損傷すれば、麻痺は右半身にあらわれやすいです。 右脳には運動だけでなく空間認知や感情を司る機能があるため、右脳を損傷すると運動機能障害や社会的行動障害(感情のコントロールが難しくなるなど)が見られます。 左脳には言語や論理的思考を司る機能があるため、左脳を損傷すると言語障害や思考能力の低下が起こります。 脳梗塞の後遺症はもやもや病とどう違う? 脳梗塞の後遺症ともやもや病はいずれも脳の血管障害が原因で起こりますが、主に以下の違いがあります。 疾患 原因 症状 治療法 もやもや病 脳血管の狭窄 虚血症状・脳出血 バイパス手術など 脳梗塞 脳血管の閉塞 言語障害・麻痺など 血管拡張術・薬物療法など もやもや病はなんらかの原因により脳の血管が狭くなって(狭窄)血流不足を起こし、細い血管が煙のようなもやもやした見た目に発達する病気です。(文献11) 発症原因や症状、治療法は脳梗塞と異なりますが、脳梗塞の前兆のケースもあるため、頻繁に症状が見られる場合は速やかに医療機関を受診してください。 (文献1) 作業療法士Q&A|一般社団法人日本作業療法士協会 (文献2) 感情はどこから?実は生存をかけて脳が下した判断|日本経済新聞 (文献3) 脳卒中後遺症としての意欲低下について|社会福祉法人さわらび会 (文献4) 社会的行動障害への対応と支援|国立障害者リハビリテーションセンター (文献5) 脳卒中で笑い止まらぬ感情失禁の原因と対処法|ニューロテックメディカル (文献6) 不安な表情の多い高齢者への介護福祉士の関わり|高田短期大学 (文献7) よくある質問|国立障害者リハビリテーションセンター (文献8) 高次脳機能障害のリハビリテーション|慶應義塾大学病院 (文献9) 社会的行動障害とは?行動や感情への影響とリハビリ方法|御所南リハビリテーションクリニック (文献10) 高次脳機能障害とは|沖縄県医師会 (文献11) もやもや病|国立循環器病研究センター
2025.07.31 -
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「メチコバールを服用しているのに、効果を感じない」 「効かないと感じたときの対処法を知りたい」 メチコバールを服用し始めたものの、効果を実感できずに不安を感じている方は少なくありません。とくに末梢神経の異常やしびれに悩んでいる方にとって、回復の兆しが見えない日々はつらいものです。 メチコバールは即効性のある薬ではなく、効果が現れるまでには一定の期間が必要です。本記事では、メチコバールの作用機序や効果が出るまでの期間、効かないと感じたときの対処法を現役医師が詳しく解説します。 メチコバールの効果が出るまでの期間 期間 効果の感じ方 注意点 1〜2週間 効果を強く実感できないケースが多い 継続して様子を見る 2〜4週間 徐々に変化を感じ始める方が多い 効果が少し現れ始める場合も 2〜3カ月 慢性症状の場合は改善までこの期間 継続的な服用が重要 4週間以上続けて変化がない場合 医師に相談 服用を自己判断で中断しない メチコバールは末梢神経障害や脳梗塞後遺症のしびれ、坐骨神経痛などでよく処方されるビタミンB12製剤です。傷ついた神経の修復を助ける作用により、症状の改善が期待できますが、服用後すぐに効果を実感できるとは限りません。 多くの場合、数週間から1カ月程度で徐々に変化を感じ始めることが一般的です。ただし、神経の回復は時間を要し、重症例や慢性症状では2〜3カ月かかるケースもあります。 焦らず継続することが重要です。1〜2週間の服用では効果を実感しづらいこともありますが、自己判断で中止せず、経過を観察することが推奨されます。 以下の記事では、メコバラミン(メチコバール)について詳しく解説しています。 メチコバールが効かないと感じる原因 効かないと感じる原因 詳細 効果が現れるまでに時間がかかる薬であるため 神経修復に数週間〜数カ月かかる特徴 症状や病気の性質により効果が出にくいケースもある 損傷範囲の広さや慢性化、基礎疾患による個人差 併用薬や持病などが効果に影響することも 他の薬剤との相互作用や消化・吸収機能の低下 メチコバールは神経の修復を助ける薬ですが、効果が現れるまでに数週間から数カ月かかることがあります。そのため、すぐに効かないと感じる方も少なくありません。 また、神経の損傷範囲が広い場合や症状が慢性化している場合には、効果が出にくい傾向があります。さらに、糖尿病などの基礎疾患があると、改善が遅れることもあります。くわえて、他の薬との併用や消化・吸収機能の低下によっても、メチコバールの効果が弱まることがあります。 効果が現れるまでに時間がかかる薬であるため メチコバールは、神経の修復を助けるビタミンB12製剤で、効果が現れるまでにある程度時間がかかります。神経の再生は細胞レベルでゆっくり進むため、メチコバールには即効性が期待できません。 また、体内で作用するまでに一定期間を要することも覚えておく必要があります。たとえば、成人が1,500μgを服用した場合、血中濃度のピークは約3時間後に現れ、12週間の継続服用でビタミンB12の濃度が約2〜2.8倍に上昇するとされています。(文献1) さらに、臨床試験でも、1日1,500μgを12週間継続して服用した結果、4週後に血中濃度が約2倍、12週後には約2.8倍に達し、服用中止後も効果が持続したとする報告もあります。また、帯状疱疹後神経痛の研究でも、4週間ほどで違和感やしびれの軽減がみられた例があります。(文献2) したがって、効果が現れなくても、焦らず数週間〜数カ月は続けることが改善への近道です。 症状や病気の性質により効果が出にくいケースもある 症状や病気の性質によって効果が出にくいケース 詳細 関節や筋肉の不調が原因の場合 筋肉や関節の炎症・こわばりによる神経圧迫 中枢神経(脳・脊髄)の障害が原因の場合 脳梗塞や脊髄疾患などによる感覚異常 血流障害や代謝異常による症状の場合 糖尿病・血管障害・ホルモン異常による神経障害 神経の傷が重度の場合 強い損傷・慢性的な神経のダメージ 神経の障害期間が長期に及ぶ場合 長期間にわたり改善しづらくなった神経細胞 メチコバールは末梢神経の修復を助けてしびれや感覚異常を改善する薬剤ですが、すべての神経症状に効果が出るわけではありません。 たとえば、しびれの原因が関節や筋肉の不調、脳や脊髄の障害、血流や代謝の異常など神経以外にある場合は、薬の作用が直接的に効きづらいことがあります。また、神経の損傷が重度であったり、長期間にわたって慢性的なダメージを受けていた場合は、回復が難しく、効果を感じにくくなることがあります。 こうした場合、メチコバールだけで十分な改善が得られないこともあるため、症状が続く場合は自己判断せず、他の原因が隠れていないか医師に相談することが大切です。 併用薬や持病などが効果に影響することも 影響する要因 詳細 一部の併用薬・サプリメント 葉酸やビタミンCの高用量、抗がん剤・抗てんかん薬の一部によるビタミンB12吸収や代謝の低下 ビタミンB12製剤・サプリメント重複 成分摂取過剰による身体への負担 肝臓や腎臓の機能低下 吸収・代謝・排泄の遅延による薬効の低下 その他の持病 体質や疾患による薬の作用変化 メチコバールは多くの薬剤と併用可能ですが、一部の薬剤やサプリメントとの組み合わせでは効果に影響するケースがあります。 高用量の葉酸やビタミンC、抗がん剤や一部の抗てんかん薬は、ビタミンB12の吸収や代謝を妨げる可能性があります。また、市販のビタミンB12製剤やサプリメントと重複して摂取すると、成分が過剰になることがあるため注意が必要です。 さらに、肝臓や腎臓などの持病がある場合、薬の吸収・代謝・排泄に影響が出ることがあり、十分な効果が得られにくくなることもあります。薬の効きが悪いと感じた場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。 メチコバールが効かないと感じたときの対処法 対処法 詳細 服用方法や期間を見直し継続して様子を見る 用法・用量の再確認と1〜2カ月の継続的な服用 医師に相談し症状や経過を具体的に伝える 詳細な症状・経過・服用状況の報告 他の疾患や要因の可能性を評価してもらう 神経障害以外の疾患や合併症の再評価 メチコバールの効果を実感できない場合は、まず服用方法に誤りがないかを確認し、用量や服用期間が適切かを見直すことが重要です。 神経の修復には時間を要するため、自己判断で中止せず、通常は1〜2カ月程度継続して経過を観察することが推奨されます。それでも効果が不十分な場合は、医師に症状や経過を詳しく伝え、薬の見直しや必要な検査について相談しましょう。 また、しびれや感覚異常の原因が他の疾患や合併症に起因している可能性もあるため、総合的な再評価を受け、より適切な治療方針を検討することが推奨されます。 服用方法や期間を見直し継続して様子を見る メチコバールは、傷ついた神経を修復する作用を持つ薬であり、神経のミエリン鞘(神経を覆う膜)や軸索(神経細胞から伸びる突起)の再生を助ける働きがあります。しかしその効果はゆっくりと現れるため、服用初期に目立った変化を感じにくいこともあります。とくに、神経修復には時間がかかるため、効かないと感じても自己判断で中止せず、正しい方法で継続することが大切です。 臨床試験によると、糖尿病性末梢神経障害の患者に対し、メチコバールを1日1500μg、24週間継続投与した研究では、しびれや振動覚、神経伝導速度の有意な改善が確認されています。(文献3) このように、初期に効果が出なくても、継続がその後の改善につながることが報告されています。中断すると蓄積された効果がリセットされる可能性もあるため、医師の指示のもと、根気よく服用を続けることが治療を進める上で重要です。 医師に相談し症状や経過を具体的に伝える メチコバールの効果を感じにくいときは、医師に症状や経過を具体的に伝えることが非常に重要です。しびれがいつから始まったのか、どのように変化しているか、薬剤の服用量や回数、併用薬や持病の有無などを詳しく伝えることで、原因の特定や治療方針の見直しに役立ちます。 とくに、吸収障害や他の医薬品の影響が疑われる場合は、正確な情報が必要です。また、飲み忘れや服用中断の有無を確認することで、不適切な薬剤変更を避けられます。 さらに、貧血や糖尿病、腎機能低下、甲状腺疾患など他の病気が原因の可能性もあるため、検査のきっかけにもなります。医師としっかり話し合うことで信頼関係が深まり、注射への切り替えや用量調整など柔軟な対応も受けやすくなります。 他の疾患や要因の可能性を評価してもらう 対処法の目的 詳細 B12不足の根本原因の確認 悪性貧血、胃切除後、吸収障害、腸疾患などの除外 隠れた慢性疾患の発見 糖尿病、甲状腺異常、自己免疫疾患による神経症状の見極め 他の疾患による神経障害の可能性 腫瘍、神経の圧迫、炎症性疾患などの鑑別 不要な治療の回避と的確な処方判断 原因不明のまま服用を続けるリスクの軽減 メチコバールを服用しても効果が感じられない場合は、神経障害の原因が他にある可能性を考慮することが大切です。ビタミンB12不足の背景には、悪性貧血や胃の手術後の吸収障害、腸疾患などが関係することがあり、薬剤が効かない原因として、体内で十分に吸収されていない可能性があります。 また、糖尿病や甲状腺疾患、自己免疫性疾患など、別の慢性疾患が神経症状の原因のケースもあり、その際は根本的な治療が必要です。さらに、腫瘍や神経圧迫など他の病態が隠れていることもあるため、血液検査や画像検査を通じた評価が重要です。 的確な診断により無駄な服用を避け、より効果的な治療に進むことができます。不安を感じたときは、医師に相談して、必要な検査や再評価を受けましょう。 メチコバールの効果が出るまでの期間を理解して適切な治療を受けよう メチコバールは即効性のある薬ではなく、継続的に神経の再生を促すことで症状の改善を目指す薬です。服用開始から効果を実感するまでの期間は、症状や重症度によって異なります。焦らずに服用を継続し、変化がない場合には医師と相談しながら治療を進めることが重要です。 メチコバールを服用しても効果が感じられない等のお悩みは、当院「リペアセルクリニック」までご相談ください。メチコバールの服用で十分な効果が得られなかった神経症状に対しても、幹細胞などを用いた再生医療によって、損傷した神経の再生や修復を促し、根本的な改善が期待できる可能性があります。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 メチコバールの効果に関するよくある質問 メチコバールの飲み合わせに禁忌はありますか? メチコバールに明確な併用禁忌薬はありません。併用注意とされる薬も報告されていませんが、他の薬やサプリを使用中の方、アレルギー歴のある方は医師・薬剤師に相談が必要です。 葉酸製剤や高用量ビタミンC、一部の抗がん剤・抗てんかん薬はB12の作用に影響する可能性があります。 メチコバールの長期投与は危険でしょうか? メチコバールは副作用が少ない薬剤ですが、効果が実感できないまま長期間服用するのは避けましょう。1カ月続けても効果がなければ医師への相談が必要です。ごく稀に消化器症状や発疹、肝機能異常が出ることもあるため、長期使用時は定期的な検査が重要です。 食事やサプリメントでビタミンB12を摂れば薬は不要ですか? ビタミンB12は通常、肉や魚、卵、乳製品などの食品から十分に摂取できますが、胃の手術後や高齢の方、吸収障害がある方は注意が必要です。 症状がある場合、サプリメントではなく、治療薬であるメチコバールなどが必要になることもあります。自己判断せず、医師に相談しましょう。 子どもや妊娠中でも使えますか? メチコバール(ビタミンB12製剤)は、小児や妊娠・授乳中の方にも医師の判断で処方されることがあります。神経の不調や貧血などに使われ、有効性も比較的高いとされています。(文献3) ただし、自己判断での使用や中止は避け、医師の指示に従う必要があります。ビタミンB12不足が気になる場合は、健診時に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 日本薬局方 メコバラミン錠|キョーリンメディオ株式会社 (文献2) 医療用医薬品 : メチコバール|エーザイ株式会社 (文献3) 「妊娠・授乳と薬」|愛知県薬剤師会「妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班」
2025.07.31 -
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「最近、首がドクドク脈打つような気がする」「家事をしているときふと首が重だるい」 このような首の違和感に、不安を抱えていませんか。とはいえ、症状が軽いと「病院に行くほどではないかも」と受診をためらう方も中にはいるでしょう。 実は、首の血管(頸動脈)に動脈硬化が生じていても、多くは自覚症状がないまま進行します。 とくに、めまいや片側のしびれといった症状があらわれている場合、脳梗塞や動脈硬化などのリスクが高まっている可能性もあり、注意が必要です。 早期に医療機関を受診し、検査を受けることで、動脈硬化の進行を防げる可能性が高まります。 本記事では首の動脈硬化によって起こる症状やチェック方法について詳しく解説します。首の違和感に不安を抱える方は、ぜひご自身の健康チェックにお役立てください。 首の動脈硬化の疑いがある症状 首の動脈硬化は、初期には自覚症状が出にくく、多くの場合ゆっくりと進行します。気がつかないうちに重症化しているケースも少なくありません。 そのため、年齢や不規則な生活リズム、脂質の多い食事など生活習慣にリスクがある方は、症状がなくても一度検査を受けておくと良いでしょう。 ここでは、頸動脈の動脈硬化によって起こりやすい代表的な症状を紹介します。 片側の手足にしびれや脱力感が出る 言葉が出づらくなる ふらつきやめまいが頻繁に起こる 少しでも気になる症状がある方は、ご自身が当てはまっていないかを本章でチェックしてみてください。 片側の手足にしびれや脱力感が出る 首の血管が動脈硬化によって狭くなると、脳に十分な血流が届かなくなり、片側の手足にしびれや脱力感があらわれることがあります。これらの症状は、脳梗塞の前触れ症状として見られる代表的な症状です。 脳神経は体の左右を交差してコントロールしているため、異常がある脳の部位とは反対側の手足に症状が出やすくなります。 また、一時的にしびれや脱力感が消えた場合でも、脳梗塞の前触れと言われている「一過性脳虚血発作(TIA)」の可能性があるため注意が必要です。放置すると本格的な脳梗塞に進行するリスクがあるため、症状が一度おさまっても、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。 言葉が出づらくなる 首の血管が動脈硬化によって狭くなると、脳への血流が一時的に低下し「ろれつが回らない」「言葉がうまく出てこない」といった症状があらわれることがあります。 さらに、脳の言語中枢やその周辺に十分な血液が届かなくなると、発声や会話に異常が生じやすくなります。(文献1) たとえば、次のような兆候が見られる場合は注意が必要です。 会話中に突然「言葉が詰まる」「人に言葉をうまく伝えられなくなる」 「ありがとう」といったような、簡単な言葉が急に出てこなくなる 電話中、突然言葉が出なくなる こうした症状は一時的におさまることもありますが、一過性脳虚血発作(TIA)の可能性もあるため、注意が必要です。少しでも異変を感じたら単なる疲労と軽視せず、早めに専門医を受診しましょう。 ふらつきやめまいが頻繁に起こる 頻繁にふらつきやめまいが起こる場合、首の動脈硬化による血流障害が関係している可能性があります。 とくに以下のような症状が繰り返しあらわれる場合は、注意が必要です。 立ち上がった際にふらつく 歩いている途中にクラッとする 目の前が急に暗くなる これらの症状が目立つ場合は、バランス感覚をつかさどる脳の部分に十分な酸素が届かず、平衡感覚に支障をきたしているおそれがあります。(文献2) めまいやふらつきが頻繁に続くようであれば、早めに専門の医療機関を受診して検査を受けましょう。 首の動脈硬化の症状をセルフチェックする方法 首の動脈硬化は無症状で進行するケースが多いため、セルフチェックでは早期に気が付くのは難しいのが実情です。 しかし、首の血管に違和感がある場合、首の血管が細くなっている、動脈硬化が関わる脳梗塞の初期症状であるなどの可能性もあります。次のような症状が出ていないか、自宅のような落ち着いた場所で確認してみましょう。 頸動脈がポコっと浮き出て見える 拍動が左右で異なる 顔のゆがみがあり、あからさまに左右非対称である ただし、これらの症状があるからといって、必ずしも動脈硬化が原因とは限りません。症状が長引く場合は、別の病気の可能性もあるため、早めに専門医へ相談しましょう。 首の動脈硬化症状が起こる原因 首にある「頸動脈」は、脳へ血液を送る主要な血管です。途中で枝分かれしている部分は、血液の乱流が起こりやすく、コレステロールや脂質の蓄積でできる「プラーク」が形成されやすい構造です。 プラークが血管の分岐部に蓄積すると、血流が妨げられ、動脈硬化が進行しやすくなります。(文献3) さらに放置すると、プラークが大きくなって血管を狭めたり、剥がれたプラークが血流に乗って脳の血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こす可能性があるため注意が必要です。こうしたリスクを防ぐためには、原因を知り、早期に検査や治療を行うことが大切です。 首の動脈硬化が起こる原因として、主に以下の3つが挙げられます。 生活習慣病 喫煙 加齢 これらの要因によって、プラークの肥大化や血管を狭めるリスクが高まります。首の動脈硬化を正しく理解し、日々の生活習慣を見直すきっかけにしてみてください。 生活習慣病 現代でも問題視されている「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」などの生活習慣病は、いずれも自覚症状が出にくく、気づかないうちに動脈硬化へと進行するリスクがあります。 これらの疾患は、血管に負担やダメージを与えるだけでなく、血中のコレステロール値を上昇させる原因にもなります。その結果、プラークができやすくなり、動脈硬化の発症リスクを高めてしまうのです。 そのため、すでに生活習慣病の診断を受けている方は、専門医のもと、原疾患を適切に治療することが大切です。 なかでも糖尿病は、放置すると腎臓病や緑内障などの合併症を引き起こすおそれがあります。初期段階では症状に気づきにくいケースも多いため、血糖値に不安がある方は早めの対策を心がけましょう。 糖尿病の初期症状や予防法について詳しく知りたい方は、以下のコラムもぜひご覧ください。 喫煙 喫煙は、動脈硬化を進行させる大きなリスク要因です。 タバコに含まれるニコチンやタールなどの有害物質は、血管の内壁を傷つけ、血管を収縮させる作用があります。これにより血流が悪化し、動脈硬化が促進されやすくなるのです。(文献4) 実際に、喫煙者は非喫煙者と比べて動脈硬化の進行が早く、脳梗塞のリスクが高いことも研究で明らかになっています。(文献5) そのため、動脈硬化の予防には禁煙が有効です。 しかしながら、意思があってもなかなか禁煙ができない方も多くいます。その場合は禁煙外来を利用し、医師のサポートを受けながら禁煙を目指すことをおすすめします。 加齢 年齢もまた、動脈硬化のリスクを高める避けられない要因です。 加齢とともに、コラーゲンやエラスチンといった血管の壁を構成する成分が変化し、弾力性が徐々に失われることで血管が固くなります。(文献6) 加齢による変化は避けられないものの、生活習慣の改善により動脈硬化のリスク予防に取り組むことは可能です。前述のような生活習慣病リスクをできるだけ抑えることで、加齢による血管の老化スピードを緩やかにできます。 今から健康的な生活を心がけ、血管の健康を保つ生活習慣を取り入れましょう。 首の動脈硬化を予防する方法 首の動脈硬化を予防するには、日々の生活習慣を見直すことが大切です。なかでも、今日から意識できる具体的な対策として、次の2つが挙げられます。 運動習慣をつける 血管プラークを減らす食事を心がける 本章では、これらの習慣を無理なく取り入れるためのポイントをご紹介します。ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。 運動習慣をつける 運動は、血圧やコレステロール値、血糖値などの動脈硬化に関わるさまざまなリスク要因に働きかける効果があります。これらを総合的に改善することで、血管への負担が軽減され、動脈硬化の進行を抑えることが期待できます。 日常生活に取り入れやすい有酸素運動としては、次のようなものがおすすめです。 ウォーキング ジョギング ラジオ体操 階段の上り下り これらを週2〜3回を目安に行うのが理想です。(文献7) また、運動する時間を設けられない場合は「1駅分歩く」「外出の際に少し遠回りする」「歩くスピードを少し上げる」など、普段の動作にひと工夫いれるだけでも効果があります。 無理のない範囲で気持ちよく続けられる方法を見つけて、運動習慣を生活の中に取り入れていきましょう。 血管プラークを減らす食事を心がける 動脈硬化は、血管内にプラーク(脂質の塊)がたまることが原因のひとつとされています。 これを防ぐためには、油分の多い食品を控え、野菜を積極的にとるなど「プラークの蓄積を抑える」食生活を意識することが大切です。 動脈硬化予防に効果的な食生活の例として、以下のような点が挙げられます。 【積極的にとりたい食事の工夫】 食事の工夫 期待される効果 主な食品例 食物繊維を多くとる コレステロールを吸着し、体外へ排出する ごぼう、わかめ、キャベツ 青魚を積極的にとる DHA・EPAが血液をサラサラにし、プラークの蓄積を抑える サバ、イワシ、サンマ 【避けたい食品・控えたい習慣】 食事の工夫 期待される効果 主な食品例 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を控える 悪玉コレステロール(LDL)の増加を防ぐ 肉の脂身、バター、マーガリン 塩分・糖分を控える 血圧上昇や血管ダメージのリスクを軽減する 加工肉、インスタント食品、菓子パン これらの食生活を意識すると、血管プラークの蓄積を抑えて動脈硬化のリスクを軽減できます。ぜひ本記事を参考に、毎日の食事を見直してみてください。 また、脳梗塞の再発予防においても、適切な食事管理が大切です。詳しくは、以下の記事で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。 首の動脈硬化の症状を見逃さず早期に対策をしよう 首の動脈硬化は、初期には自覚症状が少ないものの、進行すると片側の手足のしびれや脱力感、言葉が出づらくなるなどの症状があらわれることがあります。これらの症状は、脳梗塞の前兆である可能性も考えられるため、決して見過ごしてはいけません。 「なんとなく首がドクドクする」「最近よくふらつく」といった軽微な変化も、放置せずセルフチェックを習慣にし、早期に受診するようにしましょう。 脳梗塞は一度発症すると再発リスクが高く、その後は予防的なケアが欠かせません。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による脳梗塞の再発予防を提供しています。メール相談またはオンラインカウンセリングにて、無料相談を受付中です。気になる方はぜひ、当院までご連絡ください。 首の動脈硬化の症状に関してよくある質問 首の動脈硬化の症状が出たら何科を受診すべき? 首の動脈硬化の症状があらわれたら、以下の診療科が適しています。 循環器内科 脳神経外科 脳神経内科 現在通院している病院がある場合は、診療科に関わらず、まずはかかりつけ医に相談するのも良いでしょう。また、近隣にこれらの診療科がない場合は、総合病院を受診し、適切な診療科を紹介してもらう方法もあります。 めまい・視力低下・手足のしびれなどの神経症状がある場合は、とくに注意が必要です。症状を放置せず、できるだけ早く受診しましょう。 動脈硬化の初期症状は? 動脈硬化は首だけでなく、全身の血管に影響を及ぼす病気です。しかし、動脈硬化そのものには自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行しているケースが多くみられます。 動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気を引き起こすおそれがあるため注意が必要です。 脳梗塞や心筋梗塞などの前触れとして、以下のような症状があらわれることがあります。 軽いふらつき 耳鳴り 集中力の低下 ただし、これらの症状は動脈硬化に特有のものではなく、他の原因でも起こりうるため、気になる場合は、医療機関の受診を検討しましょう。 また、血管の状態を調べる検査や、生活習慣病を発見する定期的な健康診断を受けておくことも大切です。自覚症状が少ないからこそ、日ごろの生活習慣を見直しながら、早期発見・早期対策に取り組みましょう。 脳梗塞の前兆についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。 参考文献 文献1 言語機能の局在地図|高次脳機能研究 文献2 脳における平衡機能の統合メカニズム|理学療法学 文献3 頸部血管超音波検査ガイドライン|日本脳神経超音波学会ほか 文献4 喫煙と循環器疾患|厚生労働省 文献5 喫煙本数による脳卒中リスク|ファルマシア 文献6 3.加齢による動脈硬化の分子機序|日本老年医学会雑誌 文献7 《健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023 推奨事項一覧》|厚生労働省
2025.07.31 -
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「生あくびは脳梗塞の前兆?」 「生あくび以外に注意すべき症状はある?」 「病的なあくびであるかどうかの判断方法は?」 睡眠不足や疲労から生じるあくびは生理現象なので問題はありません。しかし、眠気や疲労がないにもかかわらず頻繁に現れる生あくびは、なんらかの病気が隠れている恐れがあるため注意が必要です。 本記事は、生あくびが脳梗塞の前兆であるかどうかをはじめとして以下を解説します。 生あくびとあくびの違い 病的なあくびの見分け方 脳梗塞の前兆の判断方法 脳梗塞以外であくびが現れる病気 「最近とくに眠くない疲れていないのにあくびがよく出る」という方は参考にしてください。 生あくびは脳梗塞の前兆? 脳梗塞の前兆として生あくびが現れることがあるため、注意が必要です。(文献1)生あくびは、脳梗塞によって脳への血流が減少して現れると考えられています。この血流減少が軽度で一時的な場合、一過性脳虚血発作という短時間のみ神経症状が現れる病態となります。 その後、本格的な脳梗塞を発症する恐れがあるため、生あくびなどの特定の症状が消えたからといって安心はできません。あくびと一緒に頭痛やめまい、立ちくらみ、手足のしびれなどの症状が現れている場合は注意が必要です。 生あくびとあくびの違い 生あくびとあくびの違いは以下の通りです。 生あくびとあくびの違い 生あくび 脳の病気によって起こる病的なあくび。脳梗塞や脳出血などなんらかの病気が隠れている場合がある。 あくび 生理現象のあくび。睡眠不足や疲労により脳に酸素が足りていないときに起こる場合が多い。退屈を感じているときに現れることもある。 (文献1) 病的な生あくびと病的ではないあくびの見分け方 病的な生あくびと病的ではないあくびの見分け方は以下の通りです。 生あくびの回数を確認する その他に脳梗塞の前兆が現れていないかを確認する それぞれの詳細を解説します。 生あくびの回数を確認する あくびの回数を確認すれば、病的であるかどうかの判断に役立ちます。実際に15分以内に3回以上のあくびは病的なあくびと定義した研究では、急性脳卒中で入院した161人のうち、69人(42.9%)の患者さまに病的なあくびが見られたと報告があります。(文献1) とはいえ、あくびだけでは生理現象の範囲内であるか、病的であるかの判断は難しいです。生あくびとその他の症状から、病的であるかを判断する必要があります。 その他に脳梗塞の前兆が現れていないかを確認する 脳梗塞の前兆と考えられる症状は多岐にわたります。生あくびと一緒に以下のような症状が現れている、または現れたことがある場合は要注意です。 体調を崩しているわけでもないのに頭痛や頭の重さがある 手足や口のまわりにしびれやふるえがある 目の前が真っ暗になったことがある 意識を失ったことがある めまいや立ちくらみがある フラフラと歩いてしまう ものがゆがんで見える、または二重に見える 文字を書くとゆがんでしまう 舌がもつれて話しにくい 以前よりも物忘れが多くなった (文献2) 以上のような脳梗塞の前兆は、たとえ短時間で消失したとしても、その後に本格的な脳梗塞に移行する恐れがあります。該当する症状が現れた場合は、医療機関を受診しましょう。 【関連記事】 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 脳梗塞の前兆の判断に迷ったときのFAST(ファスト) 脳梗塞の前兆の判断に迷った際は、FAST(Face Arm Speech Time)によるチェック方法があります。以下のような3つの症状で簡潔に脳梗塞であるかを判断する方法です。 FAST 症状 Face(顔の麻痺) 顔の片側が下がる、歪みがある、笑顔を作れない Arm(腕の麻痺) 片腕に力が入らない、両腕を上げたまま維持できない Speech(言語の麻痺) 言葉が出てこない、呂律が回らない (文献3) 脳梗塞は治療が遅れてしまうと命に関わります。該当する場合は速やかに救急車を呼びましょう。 脳梗塞以外であくびが現れる病気 脳梗塞以外であくびが現れる病気には以下のようなものがあります。 脳出血 脳腫瘍 心筋梗塞 睡眠時無呼吸症候群 片頭痛 それぞれの詳細を解説します。 脳出血 脳出血とは、脳の血管が破れて脳内で出血が起きる病気です。脳出血を発症すると生あくびが現れることがあります。(文献4)軽度の脳出血の場合は以下のような症状が現れます。 頭痛 嘔吐 めまい しびれ 軽度の脱力 放置すると重症化する恐れがあるため、医療機関を受診してください。重度になると、脳梗塞と同様に「顔の片側が下がる」「手足が麻痺する」「呂律が回らない」などの症状が現れます。自分や周囲の人にこのような症状が現れている場合は、速やかに救急車を呼びましょう。 脳腫瘍 脳腫瘍とは、脳の細胞や神経、脳を包む膜などから発生する腫瘍です。脳腫瘍でも生あくびが現れることがあります。(文献4)脳腫瘍が発生すると、脳内の圧力が上がっていき以下のような症状が現れます。 頭痛 吐き気 麻痺 しびれ ふらつき 歩行障害 脳腫瘍も早期発見が重要です。該当する症状が現れている場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 心筋梗塞 心筋梗塞とは、心臓の血管が詰まってしまう病気です。心筋梗塞でも生あくびが現れた症例があります。(文献5)心筋梗塞を発症した際は以下のような症状が現れます。 突然、胸を締め付けられるような強い痛み 胸の圧迫感 肩や腕、首などの痛み 男性は冷汗を伴うことが多く、女性は息苦しさや吐き気が現れることがあります。心筋梗塞は治療が遅れると危険な状態になります。該当する症状が現れた際は、速やかに救急車を呼びましょう。 睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に一定間隔で呼吸が止まる病気です。睡眠が浅くなってしまうため、日中にあくびが出るようになります。以下に該当する方は、睡眠時無呼吸症候群の恐れがあります。 夜間のいびきがうるさいと指摘された 夜間に大きないびきが止まったと思ったら、大きな呼吸とともに再びいびきが始まると指摘された 夜間何度も目が覚める 朝起きると頭痛や頭の重さがある 寝起きが悪い 日中の眠気が強い、または居眠りをしてしまう 睡眠時無呼吸症候群の原因で多いのは肥満です。 中には脳梗塞が原因で睡眠時無呼吸症候群を発症する場合もあります。(文献6)気になる症状がある方は医療機関を受診しましょう。 片頭痛 片頭痛とは日常生活に支障のある頭痛を繰り返す病気です。片頭痛の発作が起きる2日ほど前に、予兆としてあくびが現れることがあります。(文献7)この期間を予兆期と言います。 そのほかに予兆期に現れることがある症状は以下の通りです。 気分の変化 無気力感 注意力の欠落 落ち着きのなさ 寒気 光に対する過敏 このような頭痛とは一見関係ないような症状が、片頭痛の予兆として現れます。片頭痛は悪化すると日常生活に支障をきたします。医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。 まとめ|脳梗塞の早期発見のために生あくびが現れたら受診しよう 生あくびが現れている場合、脳になんらかの病気が隠れている恐れがあります。15分以内に3回以上のあくびがあり、その他にも、めまいや手足のしびれ、ふらつきなどの症状が現れている場合は、医療機関を受診してください。 「顔の片側にゆがみがある」「片腕や足に力が入らない」「呂律が回らない」などの症状が現れている場合は、本格的な脳梗塞が起きている恐れがあります。自分または周囲の人に該当する症状が見られる場合は、速やかに救急車を呼びましょう。 参考文献 (文献1) Aslı Aksoy Gündoğdu, et al. (2020)「Pathological Yawning in Patients with Acute Middle Cerebral Artery Infarction: Prognostic Significance and Association with the Infarct Location」『Balkan Med J』37(1), pp.24-28. https://balkanmedicaljournal.org/text.php?lang=en&id=2145(最終アクセス:2025年6月22日) (文献2) 自治医科大学附属さいたま医療センター「どんな人が検査を受けるのでしょうか?」 https://www.jichi.ac.jp/braindock/sub2.htm(最終アクセス:2025年6月22日) (文献3) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年6月22日) (文献4) 北一郎,有田秀穂.「脳内低酸素とあくび反応」『比較生理生化学』18(2), pp.96-101, 2001年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika1990/18/2/18_2_96/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献5) 住吉正孝.「ゴルフ中に心筋梗塞を起こさないために」『順天堂医学』49(3), pp.321-326, 2003年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/49/3/49_321/_pdf(最終アクセス:2025年6月22日) (文献6) 兵庫県医科大学病院「睡眠時無呼吸症候群」 https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/93(最終アクセス:2025年6月22日) (文献7) 永田栄一郎.「片頭痛の予兆期・前兆期,発作末期にみられる随伴症状とその病態」『日本頭痛学会誌』51(1), pp.131-134, 2024年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/51/1/51_131/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月22日)
2025.06.30 -
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「熱中症により脳梗塞のリスクは高まる?」 「脳梗塞と熱中症を見分ける方法は?」 暑い夏に脱水症を引き起こすと熱中症だけでなく脳梗塞のリスクも高めます。水分が失われて血液の流れが悪くなり、血管が詰まりやすくなるためです。 本記事では、熱中症で脳梗塞のリスクが高まるかどうかをはじめとして以下を解説します。 脳梗塞と熱中症の2つの見分け方 脱水症による脳梗塞を予防する5つのポイント 脳梗塞と熱中症の症状の違いや判断に迷ったときのチェック方法を解説しています。適切な判断ができるようになるために、本記事を参考にしてください。 熱中症で脳梗塞のリスクが高まる?脱水に注意が必要 熱中症で脳梗塞のリスクが高まるというよりも、熱中症を発症する過程で生じる脱水症により、脳梗塞のリスクが高まります。 脱水症により脳梗塞を発症しやすくなる流れの一例は以下の通りです。 暑い環境に長期間いることで大量に発汗する 大量に発汗すると体の水分が足りなくなり脱水症になる 脱水症になると血液の流れが悪くなる 血液の流れが悪くなることで血管が詰まりやすくなる その結果、脳梗塞を起こしやすくなる (文献1) 注意すべきは、熱中症と脳梗塞の初期症状は似ている点です。熱中症と脳梗塞では対応方法が異なるため、適切に見分けることが大切です。見分けられるようになるために、熱中症と脳梗塞の症状の違いを理解しましょう。 脳梗塞と熱中症の2つの見分け方 脳梗塞と熱中症の2つの見分け方は以下の通りです。 脳梗塞と熱中症の症状の違いを理解する 迷ったときはFASTで確認する それぞれの詳細を解説します。 1.脳梗塞と熱中症の症状の違いを理解する 脳梗塞と熱中症の症状の違いは以下の通りです。 病名 初期症状 脳梗塞 激しい頭痛がする 片方の手足や顔半分にしびれや麻痺がある 呂律が回らない 言葉が出ない 体のバランスが取れない 物が2つに見える 片方の目が見えない 熱中症 頭痛 めまい 手足の運動障害 意識障害 吐き気 嘔吐 失神 けいれん 全身の脱力 大量の発汗 見分けるポイントは症状が片側に出ているかどうかです。熱中症では、症状が片側だけに出ることはほとんどありません。一方、脳梗塞は麻痺やしびれ、動きにくさが体の片側のみにでることが多いです。(文献1) 2.迷ったときはFAST(ファスト)で確認する 脳梗塞か熱中症かで迷ったときは、FAST(Face Arm Speech Time)で確認してください。FASTとは、以下の3つの症状で脳梗塞であるかを判断する方法です。 FAST 症状 Face(顔の麻痺) 顔の片側が下がる 顔の片側に歪みがある 笑顔を作れない Arm(腕の麻痺) 片腕に力が入らない 両腕を上げたまま維持できない Speech(言語の麻痺) 言葉が出てこない 呂律が回らない いつも通り話せない (文献2) これら3つの症状にTime(発症時刻の確認)を加えたものがFASTです。3つの症状のうち、1つでも該当する場合は脳梗塞の疑いがあります。発症時刻を確認して、すぐに救急車を呼んでください。 脱水症による脳梗塞を予防する5つのポイント 脱水症による脳梗塞を予防する5つのポイントは以下の通りです。 生活習慣病を治療する こまめに水分補給をする 夜間はエアコンを上手に活用する 熱中症が多発する時期を把握する 夜の飲み過ぎは控える それぞれの詳細を解説します。 1.生活習慣病を治療する 脳梗塞を予防するには、生活習慣病の治療が重要です。以下のように生活習慣病が進行すると脳梗塞のリスクが高まるためです。 生活習慣病 脳梗塞のリスクが高くなる理由 高血圧 血圧が高いほど脳梗塞のリスクが高くなる。血圧が高いと脳の血管に負担がかかり、動脈硬化が進行して血管が詰まりやすくなるためである。 糖尿病 糖尿病は動脈硬化を進行させる。加えて血液の流れも悪くなるため脳梗塞のリスクが高くなる。 脂質異常症 脂質異常症を発症していると、血管壁に余分な脂が付着して動脈硬化が進行する。その結果、脳梗塞のリスクが高くなる。 治療を受けてない方は、医療機関を受診して適切な治療を始めましょう。 2.こまめに水分補給をする 脱水症にならないためには、こまめに十分な水分を摂ることが大切です。水分を摂り過ぎると「体がバテる」「汗をかき過ぎる」といった考え方は間違いです。体温を調整するためには、発汗で失った水分と塩分をしっかりと補給しなければなりません。 水分補給のポイントは以下の通りです。 喉が渇く前に水分を補給する アルコール飲料で水分を補給しない 1日1.2L以上の水分を補給する 起床時、入浴前後に水分を補給する 大量に汗をかいた際は塩分も補給する (文献3) 水分補給は水やお茶が最適です。大量に汗をかいた際は、塩分が含まれたスポーツドリンクや経口補水液などが良いでしょう。 3.夜間はエアコンを上手に活用する 暑い夏の夜は就寝中に大量の汗をかきます。その結果、就寝中に脱水症を引き起こし脳梗塞のリスクを高めることがあります。就寝中の脱水症のリスクを下げるために、寝る前にコップ1杯の水を飲むことと、室温などの就寝環境の調整が大切です。 就寝環境を整えるポイントは以下の通りです。 室温が28℃を超えないようにする エアコンの気流が直接人に当たらないようにする 窓から太陽光が直接当たるようにして寝ない 気温が体温よりも高いと扇風機が逆効果になることがある とくに高齢者は体の水分保有量が少なくなっています。加えて、高血圧などにかかっていればさらに脳梗塞のリスクが高まるため注意が必要です。節電のために夏の暑さをがまんしすぎないようにしてください。 4.熱中症が多発する時期を把握する 脱水症を予防するためにも、熱中症が多発する時期を把握しておきましょう。熱中症は、梅雨入り前の5月から発生し始め、梅雨明けの7月下旬から8月上旬に多発し始める傾向です。 また、人は以下のように適切に発汗するために、暑さに慣れるまでの期間が必要です。 暑い環境で運動や作業を始めてから3〜4日経過すると、発汗のために自律神経の反応が良くなってくる 自律神経の反応が良くなることで体温上昇を適切に防げるようになる さらに3〜4週間経過すると汗から無駄に塩分が出なくなる 無駄に塩分が出なくなることでけいれんや塩分欠乏などの症状が起きづらくなる (文献3) 急に暑くなると以上のように体が慣れる間もなく、熱中症が起きやすくなってしまいます。暑くなる時期は「いきなり長時間暑い環境に居ないようにする」など無理をしないで徐々に慣れる工夫をしましょう。 5.夜の飲み過ぎは控える アルコールはどのようなお酒であっても尿量を増やして、体内の水分を尿から排出してしまいます。そのため、お酒は水分補給にはなりません。 とくに夜間の飲み過ぎは注意が必要です。飲み過ぎによって水分が失われた状態で、暑い夜に就寝してしまうと、就寝中に熱中症と脳梗塞のリスクが通常よりも高くなってしまいます。夜間の大量飲酒は控えてください。 まとめ|熱中症対策を徹底して脳梗塞を防ごう 脱水症は血液の流れを悪くして脳梗塞のリスクを高めます。高血圧や脂質異常症などの生活習慣病にかかっている方は、脱水症になった際の脳梗塞のリスクが高くなるため要注意です。 生活習慣病の治療を受けてない方は医療機関を受診して治療を始めてください。また、脳梗塞と熱中症では対応方法が異なるため、適切に見分けることが大切です。迷ったときはFASTで確認しましょう。 すでに脳梗塞の既往がある方も注意が必要です。脳梗塞の再発予防の治療の選択肢として再生医療があります。脳梗塞の再生医療は当院「リペアセルクリニック」でも行っているので、再発予防にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 福祉医療機構「脳梗塞、夏も要注意 脱水原因 熱中症と区別つきにくく 福井赤十字病院 西村医師解説 見分け方は『半身のみ症状』」 https://www.wam.go.jp/newsPublic/sp_public-detail?newsno=2079(最終アクセス:2025年6月22日) (文献2) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年6月22日) (文献3) 環境省「熱中症を防ぐためには」 https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/envman/3-1.pdf(最終アクセス:2025年6月22日)
2025.06.30 -
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「耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れる?」 「耳鳴り以外に注意すべき症状は?」 耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れることがあります。耳鳴りがよく起きる方は、その他の注意すべき前兆や症状を知っておくことが大切です。 本記事では、耳鳴りが脳梗塞の前兆であるかどうかをはじめとして、以下を解説します。 症状を感じにくい隠れ脳梗塞とは? 耳鳴り以外で注意すべき前兆 後遺症として現れる耳鳴り 脳梗塞の検査方法 脳梗塞以外で耳鳴りが現れる脳や耳の病気 注意すべき脳梗塞の前兆や症状をチェックリストにして紹介しています。耳鳴り以外にも気になる症状が現れている方は参考にしてください。 耳鳴りは脳梗塞の前兆? 耳鳴りは脳梗塞の前兆として現れることがあります。(文献1)耳鳴りが現れるのは小脳梗塞を起こしているときです。小脳梗塞を起こすと耳鳴りの他に以下のような症状が現れることがあります。 めまいがする 難聴が起きる バランス感覚が低下する 規則的な運動ができない 呂律が回らない 小脳梗塞の特徴的な症状はめまいや四肢の運動が正常にできなくなるなどです。 症状を感じにくい隠れ脳梗塞とは? 脳梗塞には、症状を感じづらい隠れ脳梗塞があります。正式な病名は、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)です。 無症候性脳梗塞とは、脳の細かい血管が詰まることで起こる脳梗塞です。ほとんど症状を感じられず外から見ても病気と判断できない特徴があります。耳鳴りを訴えていた患者さまを検査したところ無症候性脳梗塞だった症例もあります。(文献3) 症状が感じられないからといって安心はできません。無症候性脳梗塞は、命の危険を伴う本格的な脳梗塞や脳出血に移行するリスクがあるためです。(文献2)無症候性脳梗塞を起こさないためには、高血圧や脂質異常症などにより起こる動脈硬化を予防しなければなりません。 また、加齢も無症候性脳梗塞を引き起こす原因です。定期的に脳ドックなどを受けて早期発見するのが大切です。 耳鳴り以外で注意すべき脳梗塞の前兆【チェックリスト】 以下のような前兆や症状が現れている場合は脳梗塞が起きている可能性があります。 前兆や症状 脳梗塞の疑いがある前兆 風邪を引いているわけでもないのに、頭痛や頭の重さがある 手足や口元がふるえたりしびれたりする 目の前が真っ暗になり意識を失ったことがある まっすぐに歩けないまた転ぶようになった ものがゆがんで見えることがある 文字を書くとゆがむ 舌がもつれて話がしづらいときがある 以前より物忘れが多い 緊急性の高い症状 片方の手足や顔半分にしびれや麻痺が起こる ろれつが回らない、言葉がでない、他人の話が理解できない 立てない、歩けない、体のバランスがとれずフラフラする 今まで経験したことの激しい頭痛が現れる 片目が見えない、ものが2つに見える、視野が半分になる (文献1)(文献4) 脳梗塞の疑いがある前兆は、短時間で消えてしまうためそのまま放置されることが多いです。しかし、前兆が起きたあとは大きな梗塞に移行する場合が多いため放置してはいけません。緊急性の高い症状が1つでも現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。 【関連記事】 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 脳梗塞の後遺症として現れる耳鳴り 耳鳴りは脳梗塞の後遺症として発生する場合があります。(文献5)脳梗塞の後遺症としての耳鳴りの程度は人それぞれで、ほとんど気にならない人もいれば、生活や睡眠の妨げになると訴える人もいます。 耳鳴りのほかにも、めまいや頭痛、しびれなども後遺症として現れることが多いです。耳鳴りの治療には、脳の血管を拡張する脳循環改善薬のほか、ビタミン剤、抗不安薬などが用いられます。 脳梗塞の後遺症の改善や再発予防の選択肢として期待されているのが再生医療です。脳梗塞の再生医療に関して詳細を知りたい方は、こちらを参考にしてください。 脳梗塞の検査方法 脳梗塞の主な検査方法は以下の通りです。 検査方法 詳細 頭部CT検査 X線を用いて脳梗塞が起きていないかを調べる検査。 頭部MRI検査 磁場を用いてCT検査よりも詳細に調べられる検査。発症直後の病巣を発見できることがある。 頭部MRA検査 MRIは脳の組織や形を描写するのに対して、MRAは脳血管を画像化する検査。 血管超音波検査 超音波を用いて脳の血管が詰まっていないか、狭くなっていないかを迅速に調べられる検査。 脳梗塞以外で耳鳴りが現れる脳や耳の病気 耳鳴りが現れることがある主な脳や耳の病気は以下の通りです。 脳出血 片頭痛 突発性難聴 メニエール病 聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう) それぞれの詳細を解説します。 脳出血 脳出血でも耳鳴りが起きることがあります。脳出血とは、脳の血管が破れて脳内で出血が起きることです。脳出血も脳梗塞と同様に発症した際は以下のような症状が現れます。 突然の意識障害 顔や手足の麻痺 言語障害 脳出血は高血圧の患者さまが発症しやすいです。脳出血が疑われる際も、速やかに医療機関を受診して適切な治療を行う必要があります。 片頭痛 片頭痛と耳鳴りは併存する場合があります。片頭痛とは、頭痛により日常生活に支障をきたす病気です。耳鳴りのほかにも吐き気や嘔吐などの症状が現れます。 片頭痛は前兆がないものとあるものに大別されます。前兆がない片頭痛の診断基準は以下の通りです。 前兆がない片頭痛の診断基準 A B~Dを満たす発作が5回以上ある B 頭痛発作の持続時間が4~72時間である ※治療をしていないまた治療の効果が出ていない場合 C 以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす 1.頭痛は片側である 2.「ズキズキ」と脈を打つような頭痛である 3.中等度から重度の頭痛である 4.歩行や階段昇降などの日常動作により頭痛が悪化する。もしくは頭痛が原因で日常動作を避けている D 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす 1.吐き気や嘔吐がある 2.光や音に対して過敏である E ほかに頭痛の診断を受けていない (文献6) 突発性難聴 突発性難聴とは、突然片耳が聞こえなくなる原因不明の難聴です。難聴を発症した際に耳鳴りやめまい、吐き気などを伴うことがあります。 前触れもなく突然に発症したり、朝に目が覚めた際に聞こえなくなっていたりします。突発性難聴は改善と悪化を繰り返す病気です。幅広い年代で発症しますが、50〜60歳代の方がとくに多い傾向です。 発症から1カ月ほどで難聴が固定されてしまう恐れがあります。発症して1〜2週間以内には治療を始めることが重要です。(文献7) メニエール病 メニエール病は、内耳がむくんでしまうことで起きる病気です。片側の耳に、耳鳴りやめまい、難聴、耳閉感といった症状が現れます。病気が進行すると、両側の耳に症状が現れることがあります。 メニエール病は、30〜50歳代の女性に多い傾向です。睡眠不足やストレス、過労、悪天候などが引き金になり症状が現れることが多いです。耳鳴りを伴うことがある小脳梗塞と症状が似ているため、意識障害や麻痺などが現れている場合は、メニエール病ではなく脳梗塞を疑う必要があります。 聴神経腫瘍 聴神経腫瘍とは、耳の奥にできる良性の腫瘍です。初期症状として多いのが耳鳴りや聴力低下です。突然音が聞こえなくなることがあるため、突発性難聴から発見されることもあります。 進行すると以下のような症状が現れます。 顔面の麻痺 顔面のしびれ めまい 歩行障害 飲み込みづらさ 腫瘍は基本的にゆっくりと大きくなりますが、中には増大が早いものもあります。腫瘍が大きくなると命に危険を及ぼすこともあるため早期治療が重要です。 まとめ|耳鳴りとその他の症状も現れている場合は受診しよう 耳鳴りは脳梗塞だけでなくなんらかの病気が隠れている恐れがあります。とくに手足や顔面の麻痺、言語障害、歩行障害、激しい頭痛などが現れている場合速やかに救急車を呼んでください。 耳鳴り以外にも、頭痛や手足のしびれ、ふらつきなどが現れている、または現れた経験がある場合は脳梗塞の前兆の恐れがあります。本格的な脳梗塞に移行する前に一度受診をしましょう。 また、脳梗塞の後遺症の改善や再発予防の選択肢として再生医療があります。脳梗塞の再生医療は当院「リペアセルクリニック」でも行っています。脳梗塞の再発や後遺症にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。 参考文献 (文献1) 自治医科大学附属さいたま医療センター「どんな人が検査を受けるのでしょうか?」 https://www.jichi.ac.jp/braindock/sub2.htm(最終アクセス:2025年6月21日) (文献2) 山口 修平.「無症候性脳梗塞の予後と対策」『脳卒中』26(4)pp.661- 664, 2004年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/26/4/26_4_661/_pdf(最終アクセス:2025年6月21日) (文献3) 西野裕仁ほか.「難聴・耳鳴・眩量患者の内耳道MRI所見の分析」『耳鼻臨床』92(11),pp.1191-1194, 1999年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/92/11/92_11_1191/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月21日) (文献4) 国立循環器病研究センター「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/(最終アクセス:2025年6月21日) (文献5) 加我君孝ほか.「脳梗塞後遺症に伴うめまいに対する塩酸インデロキサ ジン(エレンR)の有効性」『耳鼻咽喉科展望』40(1),pp.132-136, 1997年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo1958/40/1/40_1_132/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年6月21日) (文献6) 日本頭痛学会「一次性頭痛」 https://www.jhsnet.net/kokusai_2019/1-1.pdf(最終アクセス:2025年6月21日) (文献7) 兵庫医科大学病院「突発性難聴」 https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/105(最終アクセス:2025年6月21日)
2025.06.30 -
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「脳梗塞の後遺症で手足が動かしづらくなった」 「筋肉がつっぱってうまく歩けない」 痙縮や麻痺があると、服の着脱や階段の上り下り、立ち上がりといった動作も困難になり、こうした症状により、日常生活の質(QOL)は大きく低下します。このような状態に対して注目されているのがボトックス注射です。 ボトックスは美容だけでなく、医療でも活用されており、痙縮の軽減を目指す選択肢のひとつです。本記事では、脳梗塞の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果や影響について現役医師が詳しく解説します。 脳梗塞後の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果・影響 ボトックスの効果・影響 詳細 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 筋肉の過剰な収縮を抑え、不快なつっぱり感やこわばりの軽減 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 動作しやすい状態の維持による着替え・歩行・排泄などの日常動作の改善 拘縮の予防 関節可動域の維持と筋肉の柔軟性保持による拘縮の進行抑制 脳梗塞後にみられる痙縮は、筋肉が異常に緊張し、手足のつっぱりや動かしにくさを引き起こします。 ボトックス治療は、ボツリヌストキシンを緊張した筋肉に注射し、神経から筋肉への信号を一時的に遮断することで、過剰な収縮を抑えます。これにより筋緊張が緩和され、痙縮によるこわばりや不快感が軽減されます。 ただし、ボトックス治療は脳梗塞そのものを治すものではなく、痙縮の改善やリハビリ効果の向上を目的とした補助的な治療です。 以下の記事では、医療ボトックスについて詳しく解説しています。 筋緊張と痙縮による違和感の軽減 項目 内容 痙縮のメカニズム 脳梗塞に伴う神経障害により筋肉の過度な緊張、関節を動かしにくくなる状態 ボトックスの作用機序 神経から筋肉への伝達物質(アセチルコリン)をブロック、筋肉の過剰な収縮の抑制 筋緊張の緩和 筋肉のつっぱりやこわばりの軽減、関節の可動域拡大 違和感の軽減 動作のしやすさ向上、日常生活の動作(ADL)の改善、リハビリ効果の向上 治療のポイント 効果の持続期間(約3~4カ月)、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献1) 脳梗塞の後遺症として現れる痙縮は、筋肉が自分の意思とは関係なく突っ張り、動かしにくくなる状態です。 ボトックスは、過剰に緊張した筋肉に直接注射することで、神経から筋肉への信号を一時的に遮断し、筋肉の過度な収縮を抑える作用があります。 その結果、手足のつっぱりやこわばりが和らぎ、安静時に感じる不快感や違和感の軽減が期待されます。ボトックスの効果は一時的なため、定期的な治療が必要です。継続して行うことで、痙縮の負担を軽減し、より自然な動作や姿勢の維持につながります。 日常生活動作(ADL)の向上とリハビリテーションの促進 項目 内容 痙縮による日常生活動作(ADL)の制限 手足の動きの制限、食事・着替え・歩行・排泄などの日常生活動作の困難 ボトックスの効果 筋肉の過度な緊張の緩和、手足の動かしやすさの向上 日常生活動作(ADL)の改善 食事、更衣、排泄、入浴、移動など基本動作のしやすさ リハビリテーション効果 筋肉の柔軟性向上、関節の可動域拡大、機能回復の促進 介護負担の軽減 補助動作のしやすさ、介護者の負担軽減、生活の質の向上 治療のポイント 効果の持続期間、副作用や禁忌事項の確認、リハビリとの併用の重要性 (文献2) ボトックス治療によって筋肉の緊張が緩和されると、関節の可動域が広がり、手足が動かしやすくなります。筋緊張を抑えることでこうした動作が改善され、リハビリの効果を引き出しやすくする点でも重要です。 また、着替えや入浴、歩行といった日常生活動作(ADL)が改善され、患者自身の自立度が向上します。筋肉のつっぱりが減ることでリハビリテーションが行いやすくなり、リハビリ効果の向上も期待できます。治療とリハビリを組み合わせることが、生活機能の維持・向上に欠かせません。 拘縮の予防 項目 内容 痙縮と拘縮の関係 脳梗塞後の筋肉の過度な緊張による痙縮、長期間続くことで筋肉や関節の硬化、可動域の制限、拘縮の発生 拘縮による影響 日常生活動作(ADL)の制限、違和感の発生、生活の質の低下 ボトックスの作用機序 筋肉を動かす神経からの伝達物質(アセチルコリン)のブロック、過剰な筋収縮の抑制 筋緊張の緩和 関節の可動域拡大、動作のしやすさ向上、痙縮による違和感や不快感の軽減 拘縮の予防 筋肉の柔軟性維持、関節の可動域保持、リハビリ効果の向上 リハビリとの併用 筋肉の柔軟性維持、機能回復の促進、拘縮予防の強化 痙縮が長期間続くと、筋肉が縮こまった状態で固まり、関節が動かなくなる拘縮へ進行するケースがあります。医療ボトックスは、拘縮の進行を抑えるための手段として有効です。 筋肉の過度な収縮を抑えることで、関節や筋肉が適度に動く状態を保ちやすくなります。その結果、拘縮の発生リスクを軽減できる可能性があります。拘縮を完全に防ぐことはできませんが、進行を遅らせる手段として医療現場で広く活用されている治療法です。 【脳梗塞】ボトックス治療を受ける際の注意点 注意点 詳細 禁忌事項に該当する方は治療不可 特定の持病やアレルギー歴、妊娠・授乳中などに該当する場合の治療制限 効果の持続と再投与の必要性 効果が一時的であり、数カ月ごとの定期的な再注射の必要性 筋力低下や表情の変化 意図しない筋肉への影響による一時的な動かしづらさや見た目の変化 副作用と体調不良のリスク 注射部位の腫れ・違和感、全身倦怠感・軽度の発熱などの一時的な体調変化 医療ボトックス治療を受けるにあたっては、いくつかの注意点があります。禁忌事項に該当する方は治療を受けられず、持病や妊娠中などの条件で制限がかかる場合もあります。 また、効果は一時的で定期的な再投与が必要です。副作用として筋力低下や全身の倦怠感などが現れる可能性があります。そのため、治療を受ける際は、事前に医師の診断が不可欠です。 禁忌事項に該当する方は治療不可 該当する方 起こり得るリスク 主な副作用の内容 妊婦・授乳中の方、妊娠の可能性がある方 胎児・乳児への影響の懸念 使用に関する有効性・影響が明確になっていないためのリスク ボトックスに対してアレルギーがある方 アナフィラキシーの危険性 全身のアレルギー反応 神経筋接合部の疾患をもつ方(例:重症筋無力症など) 筋力低下の悪化 全身性筋肉麻痺、嚥下障害、呼吸困難 筋弛緩剤を内服中の方 筋肉への作用の過剰な増強 筋力低下、嚥下障害、呼吸困難 ボトックス治療は、すべての方が受けられるわけではありません。全身性の筋力低下を引き起こす疾患(重症筋無力症など)がある方や、過去にボトックスに対して強いアレルギー反応を起こした経験がある方は、原則として治療が行えません。 また、妊娠中や授乳中の方も胎児や乳児への影響を考慮し、治療の適応外とされます。治療前には、既往歴や現在の内服薬、体調を医師に漏れなく伝える必要があります。副作用のリスクを避け、適切な治療方針を立てるためにも、事前の問診と診察が非常に重要です。 効果の持続と再投与の必要性 項目 内容 効果の持続期間 注射後2~3日から効果発現、3~4カ月持続 効果減弱後の状態 時間経過とともに効果減弱、再び注射前の筋緊張や痙縮の状態に戻る 再投与の必要性 効果維持のため3~4カ月ごとの定期的な再注射 再投与間隔の注意点 投与間隔が短すぎると抗体産生による効果減弱のリスク ボトックスは一度の注射で効果が長く続く治療ではなく、一般的に効果の持続はおおよそ3〜4カ月程度とされています。効果が薄れてくると、再び痙縮の症状が強くなることがあるため、定期的な再投与が必要です。 治療のタイミングや回数は、症状の強さや部位、日常生活への影響などを考慮し、医師と相談しながら決定されます。また、繰り返しの投与により耐性が形成され、効果が減弱する可能性があります。そのため、毎回の診察で効果や副作用の有無を確認しながら、必要最小限の量で適切な頻度を保つことが大切です。効果の維持には、ボトックス単独ではなくリハビリとの併用が推奨されます。 筋力低下や表情の変化 症状 主な原因 起こり得る影響 過度な筋力低下 注射部位や注入量が適切でない場合 嚥下困難、首や肩・顎まわりの筋力低下 表情の変化 表情筋への過剰な注射、注入位置の不均衡 額や眉間のこわばり、笑顔の不自然さ、左右差の発生 ボトックスは筋肉の動きを一時的に抑えるため、目的以外の筋肉にも影響が及ぶと、思わぬ筋力低下や表情の変化が起こることがあります。腕や手の筋肉に注射した際、力が入りづらくなることがあり、日常の細かな動作に影響を及ぼすこともあります。 顔周りに使用した場合には、表情が作りづらく感じることもあるため、適切な部位選定と投与量の調整が重要です。とくに高齢の方や筋力の低下が進んでいる方では、必要以上の筋弛緩が起きないよう、慎重な治療設計が求められます。 副作用と体調不良のリスク 副作用・リスク 内容 過度な筋力低下や脱力 投与量や注射部位による筋力低下、手足の動かしにくさや全身の脱力感 嚥下障害や呼吸困難 のみ込みづらさや呼吸しにくさ、とくに神経筋疾患や大量投与時の重篤なリスク 注射部位の腫れ・赤み・皮下出血 注射部位の一時的な腫れ、赤み、皮下出血、不快感 全身症状や体調不良 倦怠感、頭痛、めまい、発熱、吐き気、食欲不振などの全身的な体調変化 アレルギー反応 発疹、かゆみ、顔やまぶたの腫れ、呼吸困難、アナフィラキシーショックなど生命に関わる重篤な症状 (文献3)(文献4) ボトックス治療には、注射部位に軽い腫れや内出血、違和感が生じることがあります。また、ごく稀に全身のだるさ、頭重感、軽い発熱などの体調不良を伴う場合があります。 これらの副作用は一時的で自然におさまることが多いものの、症状が強い場合や長引く場合には、速やかに医師へ相談してください。 とくに初回は体の反応が不明なため、当日は激しい運動や長時間の外出を避け、安静に過ごすことが望まれます。持病の有無や他の治療との兼ね合いも考慮が必要なため、体調管理と医師との連携が重要です。 【ボトックス以外】脳梗塞後の痙縮・麻痺を軽減するための治療法 治療法 詳細 注意点 保存療法 ストレッチ・温熱・運動療法による筋緊張の軽減と関節可動域の維持 即効性は乏しく、継続的な取り組みが必要 薬剤療法 筋弛緩薬や抗不安薬による神経伝達の調整と痙縮の緩和 眠気や倦怠感などの副作用に注意が必要 再生医療 幹細胞を用いた神経や筋肉の修復・再生による根本的な機能回復の可能性 対象施設に制限があり、効果や適応に個人差があるため事前確認が必要 痙縮や麻痺の治療には、症状や目的に応じてさまざまな方法があります。ストレッチなどの保存療法から薬による症状の緩和、さらには再生医療による機能回復を目指す方法まで、治療の選択肢は多岐にわたります。それぞれの特徴と注意点に対する理解が大切です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法の種類 目的・効果 主な方法や特徴 持続伸長(ストレッチ) 筋肉や腱の短縮・関節拘縮の予防・改善 徒手ストレッチ、装具使用、段階的ギプス固定(シリアルキャスティング) 装具療法 不良肢位の矯正、関節可動域の保持、動作能力の維持 手足の変形予防や矯正のための装具使用 FES(電気刺激療法) 麻痺筋の活性化、痙縮緩和、随意運動の再建 筋肉への電気刺激による収縮促進、日常生活動作(ADL)向上への活用 振動刺激 筋肉の緊張緩和、ストレッチ・運動訓練の補助 痙縮筋への局所的な振動刺激 姿勢修正・バランス訓練 過度な筋緊張や二次障害の予防、全身の安定性向上 正しい座位・立位姿勢の保持、体幹や四肢のバランス改善 (文献5) 保存療法とは、手術や注射を用いず、日常のケアやリハビリによって症状の軽減を目指す治療法です。脳梗塞後の痙縮や麻痺に対しては、ストレッチや運動療法、温熱療法などが組み合わされます。 ストレッチでは、固くなった筋肉を定期的に伸ばすことで、拘縮の進行を防ぎ、関節の可動域を保ちます。また、温熱療法は血流を促進し、筋肉のこわばりを和らげるのに有効です。 運動療法では、麻痺した部位に刺激を与えながら、筋肉の再学習を促すことで、生活動作の改善を目指します。保存療法は即効性こそありませんが、根気強く続けることで効果が出やすく、ボトックスなど他の治療との併用で相乗効果も期待できます。 薬剤療法 治療法 主な目的・効果 特徴・注意点 中枢性筋弛緩薬(経口薬) 脳や脊髄の神経活動の抑制による全身の筋緊張の緩和 チザニジン・バクロフェンなどを内服、副作用(脱力・眠気)に注意 バクロフェン髄注療法(ITB療法) 脊髄への直接投与による強い痙縮の緩和 少量で高い効果、副作用が少なく重度の痙縮に適応 神経ブロック療法 神経伝達の遮断による筋肉の異常収縮の抑制 フェノールやアルコールを使用、特定の部位に注射 ボツリヌス療法(ボトックス注射) 局所的な筋緊張の緩和と動作の改善 注射による効果は3~4カ月持続、繰り返しの投与が必要 (文献1) 痙縮の症状が強い場合には、内服薬による治療も選択肢です。バクロフェンやチザニジンなどの筋弛緩薬は、脳や脊髄から筋肉への過剰な信号を抑制し、筋肉のつっぱりの緩和に効果を示します。 ジアゼパムなどの抗不安薬は、筋緊張だけでなく精神的な緊張の緩和にも役立ちます。これらの薬剤は、眠気や倦怠感などの副作用が現れることがあるため、医師の管理下での使用が不可欠です。 ボトックス注射や保存療法と組み合わせることで、日常生活の負担軽減やリハビリ効果の向上が期待できます。薬物療法だけに頼らず、複数の治療法を組み合わせて総合的に症状のコントロールを目指すことが重要です。 再生医療 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対する再生医療は、従来の治療では改善が難しかった後遺症に対して、新たな選択肢となる治療法です。 患者自身の骨髄や脂肪から採取した幹細胞を体内に戻すことで、損傷した神経や血管の修復・再生が促され、麻痺や痙縮の改善が期待されます。さらに、幹細胞治療とリハビリとの併用で、より高い回復効果が期待できます。ただし、治療の効果や適応には個人差があるため、医師との相談が重要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 ボトックスでは改善しにくい脳梗塞後の痙縮・麻痺に再生医療というアプローチ ボトックスは痙縮の一時的な緩和に有効ではあるものの、すべての症状に効果はありません。筋肉のこわばりだけでなく、脳や神経の損傷が原因となっている場合には、根本的な改善が難しいこともあります。ただし、ボトックス治療に加えて適切なリハビリや他の治療を継続することで、脳梗塞による後遺症を軽減できる可能性があります。 ボトックス治療を含む脳梗塞後の後遺症についてのお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、脳梗塞後の後遺症に対するアプローチとして、再生医療をご提案することも可能です。 再生医療は、患者自身の幹細胞を使って損傷した神経や組織の再生を促す治療法です。神経機能の回復や関節の可動域改善が期待でき、原因に直接働きかける新たな治療の選択肢として注目されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 脳梗塞によるボトックス治療に関するよくある質問 脳梗塞によるボトックス治療はどの診療科で受けられますか? 脳梗塞によるボトックス治療は、以下の診療科で実施しています。 診療科名 主な特徴と役割 脳神経内科 脳卒中後の痙縮や麻痺に対する薬物療法の専門、ボトックス治療の実施 脳神経外科 脳卒中などの神経障害後の症状に対する治療、ボトックス治療の実施 リハビリテーション科 ボトックス治療と併用したリハビリによる機能回復の支援 受診前には、医療機関のホームページや電話で診療情報を事前に確認しておきましょう。 ボトックス治療後に日常生活にすぐ戻れますか? 脳梗塞後の痙縮や麻痺に対するボトックス治療後は、基本的に当日から日常生活に戻れます。ただし、治療効果を安定させ、副作用を防ぐためにいくつかの注意が必要です。 治療当日は激しい運動を避け、飲酒も控えましょう。アルコールは薬剤の拡散を促す可能性があるため、24〜72時間の間は控えることが推奨されます。また、サウナや長時間の入浴など高温環境は避け、注射部位を揉んだり擦ったりしないようにしましょう。 日常生活の中で少しでも異変を感じた場合は、速やかに医師に相談してください。 ボトックス治療を受けるとリハビリは不要ですか? ボトックスは痙縮を緩和する治療であり、リハビリの代わりになるものではありません。むしろ、ボトックスによって筋肉の過緊張が和らぐことで、リハビリが行いやすくなり、より効果的な訓練が可能になります。 治療後にリハビリを適切に行うことで、関節の動きや筋力の維持・改善を図るなど、生活機能の向上につながります。 ボトックス治療に健康保険は適用されますか? 脳梗塞後の痙縮に対するボトックス治療は、一定の条件を満たすことで健康保険が適用されます。たとえば、診断名が明確で、痙縮によって日常生活に支障があると医師が判断した場合などが該当します。 保険が適用されると、自己負担は通常1〜3割となりますが、治療の内容や施設によって異なるため、事前に確認しておきましょう。また、障害者手帳や特定疾患の医療費助成制度を活用できるケースもあり、経済的な負担を軽減できる可能性があります。 参考資料 (文献1) 最先端の医療をお伝えする活動推進委員会「脳卒中の今」先進医療.net, 2012年3月26日 https://www.senshiniryo.net/stroke_c/01/index.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献2) 医療法人社団永生会「ボツリヌス(ボトックス)療法」医療法人社団永生会 https://www.eisei.or.jp/clinic/eiseiclinic-gairai/botulinum/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月17日) (文献3) 一般社団法人日本小児神経学会「Q35:ボツリヌス(ボトックス)治療の副作用について教えてください。」一般社団法人日本小児神経学会, https://www.childneuro.jp/general/6502/(最終アクセス:2025年06月17日) (文献4) 金久研究所「医療用医薬品 : ボトックス」KEGG, https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058180(最終アクセス:2025年06月17日) (文献5) 松元 秀次.「論最新のリハビリテーション-痙縮のマネジメント-」『2007 年/第 2 回 リハビリテーション科専門医会 学術集会/札幌』巻(号), pp.1-7,2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/45/9/45_9_591/_pdf(最終アクセス:2025年06月17日)
2025.06.29 -
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「外傷性脳出血と診断された」 「外傷性脳出血の治療や後遺症はどうなるのか?」 外傷性脳出血は、転倒や交通事故などで脳内の血管が損傷し、出血を起こす疾患です。脳出血が起きると、頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺など、多岐に渡る症状が現れます。 本記事では、外傷性脳出血について、現役の医師が詳しく解説します。 外傷性脳出血の症状 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 外傷性脳出血の治療法 記事の最後には、外傷性脳出血に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 外傷性脳出血とは 種類 出血部位 主な原因 主な症状 主な治療法 硬膜外血腫 頭蓋骨と硬膜の間 硬膜動脈損傷 意識消失と一時的回復 外科的血腫除去 硬膜下血腫 硬膜とくも膜の間 脳表静脈損傷 頭痛、意識障害、麻痺、認知機能低下 保存的治療、外科的治療 くも膜下出血 くも膜と軟膜の間 脳表血管損傷 激しい頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん 脳圧管理、必要時手術 脳内出血 脳実質内 脳挫傷・血管損傷 意識障害、けいれん、麻痺、言語障害 保存的治療、外科的治療 (文献1)(文献2) 外傷性脳出血とは、転倒や交通事故などの強い衝撃によって、脳の中やその周囲で出血が起こる病気です。脳の血管が傷つくことで出血が広がり、脳を圧迫してさまざまな障害を引き起こします。 外傷性脳出血は高齢者から若い方まで、年齢を問わず発症します。出血の場所や量によって、症状の出方や重さは異なるのが特徴です。診断にはCTやMRIといった画像検査が使われ、早めの発見と対応が重要です。治療は、安静を保つ保存療法から、血腫を外科的に除去する手術療法まで多岐にわたります。 また、治療後には記憶力の低下や感情の変化といった、外見では分かりにくい後遺症が出ることもあります。多くの場合、時間とともに改善しますが、完全に元どおりになるとは限りません。そのため、リハビリを行ったり、生活環境を整えたりといった支援が必要になる可能性もあります。日常生活や社会復帰への影響を理解し、早い段階から適切な対応を進めることが大切です。 外傷性脳出血の症状 症状 詳細 全身症状 頭痛、吐き気、嘔吐、発熱、倦怠感、意識障害、昏睡 局所神経症状 手足の麻痺、しびれ、歩行障害、言語障害、視覚障害 けいれん発作 脳損傷部位を中心に突然起こる筋肉のけいれんや発作 認知機能の低下 記憶力や集中力の低下、判断力の鈍化、見当識障害 外傷性脳出血では、出血の場所や程度によってさまざまな症状が現れます。初期には頭痛、吐き気、意識の混濁など全身的な症状がみられるのが特徴です。一方、出血が特定の部位に限られる場合には、片側の手足の麻痺や言語障害など、局所的な神経症状が現れることがあります。 また、けいれん発作や突然の意識消失がきっかけで受診に至ることもあり、受傷直後に症状が軽くても、時間の経過とともに悪化する場合もあるため、頭部外傷後はわずかな変化にも注意が必要です。 全身症状 原因・機序 具体的な全身症状 詳細 脳幹・視床下部の損傷による自律神経系の乱れ 発熱、頻脈、高血圧、呼吸困難 生命維持機能の中枢損傷による自律神経障害 頭蓋内圧の上昇による脳灌流圧低下と全身への影響 意識障害、けいれん発作、倦怠感 脳血流不足による脳機能低下 炎症反応とサイトカイン放出による全身症状 発熱、倦怠感、食欲不振 脳損傷による炎症反応の全身波及 (文献2) 外傷性脳出血による全身症状には、頭痛、嘔吐、意識の低下、倦怠感などが含まれます。とくに出血量が多い場合や脳圧が上昇している場合には、急激な意識障害を起こすことがあり、命にかかわる可能性もあります。このような症状は、脳全体への影響を反映しているため、局所的な症状と比べて初期に気づきやすいのが特徴です。 ただし、症状が徐々に進行することもあり、外傷直後は元気に見えても、数時間後に急変するケースもあります。そのため、頭部に強い衝撃を受けた場合は、症状の有無にかかわらず、医療機関を受診する必要があります。 局所神経症状 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 詳細 運動・感覚障害 一次運動野・一次体性感覚野・被殻 片麻痺、感覚鈍麻、しびれ 運動や感覚を司る領域の損傷・圧迫による障害 言語障害 ブローカ野・ウェルニッケ野・左被殻 失語症、構音障害 言語中枢の損傷による言葉の理解・発話・発音の障害 視覚障害 一次視覚野・視神経路 視力低下、複視 視覚情報処理領域や経路の損傷による見え方の異常 外傷性脳出血では、出血の部位によって障害される神経機能が異なります。たとえば、脳の左側が損傷すると右半身、右側が損傷すると左半身に麻痺や運動障害が現れます。また、視覚や聴覚、言語機能も影響を受けることがあり、失語症や視野障害などが生じる場合もあります。 これらの症状は出血の場所や深さによって大きく異なり、脳の特定の機能が損なわれているサインです。診断には、神経学的な所見に加え、CTやMRIといった画像検査が重要です。 けいれん発作 理由・機序 詳細 脳組織の損傷による神経興奮の異常 出血周囲の神経細胞が損傷し、電気的興奮性が増加することによる異常な電気信号の発生 血腫周囲の浮腫・炎症による神経伝達異常 血腫の圧迫や炎症反応により神経伝達物質のバランスが崩れ、神経細胞の興奮性が高まる状態 外傷性てんかんの発症 損傷部位が異常な電気活動の焦点となり、持続的な発作を引き起こす状態 発作の分類と発症時期 直後てんかん(24時間以内)、早期てんかん(7日以内)、晩期てんかん(7日以降)に分類される けいれん発作は、外傷性脳出血の急性期または慢性期に現れる可能性がある神経症状のひとつです。出血により脳内の神経回路が異常をきたし、突然の筋肉の収縮や意識消失を伴う発作が起こることがあります。 発作の頻度や重症度によっては、抗てんかん薬による治療が必要になるケースもあります。とくに頭部外傷後の数週間から数か月の間は、けいれん発作のリスクが高まるため、医師の指導と注意深く経過観察を行うことが重要です。 認知機能の低下 原因・メカニズム 具体的な症状 詳細 脳組織の直接損傷 記憶障害、注意力低下、判断力低下 前頭葉・側頭葉・海馬の損傷による認知機能の低下 高次脳機能障害の発症 集中力低下、計画力障害、実行力障害 脳挫傷や出血による高次脳機能障害の出現 慢性的な血腫による圧迫 徐々に進行する記憶障害、性格変化 慢性硬膜下血腫などによる脳の圧迫で認知機能障害が進行 外傷性脳出血により、前頭葉や側頭葉、海馬が損傷されると、記憶力や判断力、集中力などの認知機能が低下することがあります。感情のコントロールが困難になるほか、実行力や計画力の低下、性格の変化など、高次脳機能障害の症状が現れることがあります。 慢性硬膜下血腫のように進行がゆるやかな場合は、異変に気づきにくく発見が遅れることがあり、認知機能の低下は日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期受診と適切なリハビリが重要です。 外傷性脳出血で起こりうる後遺症 起こりうる後遺症 詳細 運動・感覚機能障害 片麻痺や手足のしびれ、筋力低下、歩行障害。触覚や痛覚が鈍くなる、または過敏になることもある 言語・認知機能障害 言葉が出にくい、理解しにくい、会話が難しい失語症。記憶力や判断力、集中力の低下など高次脳機能障害 感覚・知覚障害 視野が欠ける、物が二重に見える(複視)、片側の感覚が鈍くなる、めまいなどの症状 てんかん・発作 繰り返すけいれん発作や意識消失。外傷後に発症しやすく、抗てんかん薬による治療が必要なことが多い 慢性症状(頭痛など) 慢性的な頭痛、倦怠感、吐き気、めまい。症状が長期間続くこともあり、生活の質に影響する場合がある 外傷性脳出血では、治療により出血が止まった後も、脳への損傷が残ることでさまざまな後遺症が現れることがあります。 症状は出血部位や広がりによって異なり、身体の麻痺やしびれ、言語機能の障害、てんかん発作、慢性的な頭痛など多岐にわたります。また、認知機能や感情の変化といった外見からは判断しにくい後遺症が出るのも、外傷性脳出血の特徴です。 以下の記事では、脳出血の後遺症になる確率について詳しく解説しています。 運動・感覚機能障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状 説明 運動麻痺・感覚障害 皮質運動野、感覚野、内包、被殻 片側手足の麻痺、しびれ、感覚鈍麻・過敏 血腫や損傷が運動・感覚を司る領域を圧迫・損傷 平衡機能障害・歩行障害 小脳、前庭系、橋、延髄部 バランス低下、歩行時のふらつき、運動失調 身体のバランスや協調運動を担う部位の障害 嚥下障害 橋、延髄部 飲み込みにくさ、むせ込み、誤嚥 嚥下動作を制御する中枢神経の圧迫・損傷 外傷性脳出血で運動野や感覚野が損傷されると、片麻痺や筋力低下、手足の動かしづらさ、バランス感覚の乱れなどの症状が現れます。 これらの後遺症の程度には個人差がありますが、中等度以上の場合は医師の指導のもとで継続的なリハビリが必要です。リハビリを続けることで脳の可塑性を活かし、機能回復を目指すことが重要です。 言語・認知機能障害 主な障害 原因部位・要因 代表的な症状 詳細 失語 ブローカ野・ウェルニッケ野の損傷 言葉が出にくい、意味が分からない、話がまとまらない 言語の理解や表現を担う中枢神経の損傷による言語機能の障害 構音障害 運動野や神経回路の損傷 滑舌が悪い、発音が不明瞭、言葉が聞き取りにくい 発音や話し方を制御する運動機能の障害による話しにくさ 記憶力・判断力の低下 前頭葉・側頭葉の高次脳野の損傷 物事を覚えられない、判断が鈍くなる、感情のコントロールが困難になる 記憶や判断などの認知機能の低下による日常生活への支障 注意力・実行力の障害 前頭葉の認知機能中枢神経の障害 集中できない、段取りがつかない、行動に一貫性がない 注意や実行機能の障害による社会生活への影響 外傷性脳出血によって、言語の理解や発話に障害が生じることがあります。失語症や構音障害、会話の流暢さの低下などが代表的です。また、認知機能の低下により、記憶力や注意力、判断力に支障をきたすこともあります。 言語・認知機能障害は、日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。後遺症の進行を防ぐため、早期発見と発音や話し方の継続的なリハビリが重要です。回復の程度には個人差がありますが、適切な支援と継続的な取り組みによって、生活の質の向上が期待されます。 感覚・知覚障害 障害の種類 主な原因・部位 具体的な症状(体言止め) 詳細 視覚障害 後頭葉の視覚野、視神経経路、視床 視野欠損、視力低下、物がぼやけて見える 視覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 聴覚障害 側頭葉の聴覚野、聴覚伝達経路 音が聞き取りにくい、耳鳴り 聴覚情報を処理・伝達する部位の損傷・圧迫による障害 嗅覚障害 前頭葉下部、嗅球・嗅索 匂いがわかりにくい、全く感じない 嗅覚を司る領域や神経経路の損傷・圧迫による障 外傷性脳出血では、視覚・聴覚・嗅覚を司る脳の部位が血腫や損傷によって障害され、感覚や知覚の異常が後遺症として現れることがあります。 後頭葉の視覚野が損傷されると視野欠損や視力低下、側頭葉の聴覚野が損傷されると聴力低下や耳鳴りが、嗅球や前頭葉下部の損傷では嗅覚障害が起こります。いずれも感覚情報を処理する中枢神経系の部位や経路の圧迫・損傷が原因であり、早期の診断と適切な対応が重要です。 てんかん・発作 ポイント 詳細 発作の主な原因 脳損傷や出血による神経細胞の異常な電気的興奮 発作の発生時期分類 早期発作(7日以内)、晩期発作(7日以降) 晩期発作の特徴 外傷性てんかんとして長期的な管理が必要 リスク要因 脳皮質への出血、出血量の多さ、高齢 重要な対応 発作リスクを考慮した経過観察と必要に応じた治療 (文献3) 外傷性脳出血後のてんかん発作は、脳の電気的興奮の乱れによって再発性のけいれんとして現れ、発症時期は直後から数か月後までさまざまです。 発作の頻度やタイプに応じて抗てんかん薬が処方され、薬の種類や用量は個別に調整されます。定期的な通院と経過観察により、発作が抑えられれば日常生活への影響は少なくなります。 慢性症状(頭痛など) 原因 詳細 脳組織の損傷と炎症反応 脳損傷による炎症が神経を刺激し、中枢性感作による慢性頭痛の発生 慢性硬膜下血腫の形成 血腫による脳圧迫で頭痛や認知障害などの症状が進行 脳脊髄液の漏れ 低髄液圧症候群による起立時の頭痛、吐き気やめまいの出現 神経障害性疼痛の発生 神経回路の異常で通常は違和感がない刺激でも疼痛が生じる 心理的要因と脳震盪後症候群 不安や抑うつ、ストレスによる頭痛の悪化や長引く脳震盪後症状 (文献4) 外傷性脳出血後に頭痛が長く続く場合、脳の炎症や血腫の圧迫、脳脊髄液の漏れ、神経の過敏化、心理的ストレスなど、複数の要因が関与していることがあります。たとえば、慢性硬膜下血腫では脳が徐々に圧迫され、頭痛や認知障害が生じることがあります。 神経回路の損傷により、軽い刺激でも強い違和感が出る神経障害性疼痛に移行することもあり、症状の進行には注意が必要です。脳震盪後症候群では、頭痛に加えて集中力の低下や倦怠感が持続することがあります。このような症状が続く場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。 外傷性脳出血の治療法 治療法 詳細 保存療法 軽度の出血や症状が安定している場合に選択。点滴や安静、血圧や脳圧の管理、経過観察、リハビリの早期開始が中心 薬物療法 脳圧降下薬や止血薬、抗けいれん薬、抗浮腫薬などを使用し、症状や合併症のコントロールを図る 手術療法 血腫が大きい場合や症状が重い場合に実施。開頭血腫除去術、減圧術、穿頭手術、髄液ドレナージなどで脳圧を下げ血腫を除去 再生医療 損傷した神経や組織の修復を目指す治療。神経再生や機能回復を促す新しい治療法で、リハビリと組み合わせて効果が期待される 外傷性脳出血の治療は、出血の量や部位、症状の程度に応じて異なります。一般的には保存療法から開始されますが、症状の悪化や脳の圧迫が強い場合には手術が検討されます。治療法の選択は、画像検査や症状の進行状況をもとに医師が総合的に判断します。 以下の記事では、脳出血の入院期間や治療法について詳しく解説しています。 保存療法 保存療法が適用されるケース 詳細 出血量が少なく圧迫が軽度 脳内出血が少量で自然吸収が期待でき、手術リスク回避のため保存療法が適用される 全身状態が手術に耐えられない 高齢者や全身状態不安定な患者に対し、安全性を考慮して保存療法が選択される 出血部位が手術困難な場所 脳の深部など手術が難しい部位の出血に対して保存療法が適用される 症状が安定し進行の兆候がない 意識や神経症状が安定し、出血拡大や新症状がない場合に保存療法が適する 定期的な画像検査とモニタリング CTやMRIで出血の吸収状況や新出血の有無を確認し、症状変化に迅速対応が必要 血圧管理の重要性 高血圧は再出血リスクを高めるため、降圧薬使用や生活習慣改善による適切な血圧管理が必須 外傷性脳出血で保存療法が選択されるのは、出血量が少なく脳の圧迫が軽度で自然吸収が見込まれる場合や、手術リスクが高い高齢者・全身状態が不安定な方、手術が難しい部位での出血がある場合です。保存療法は、症状が安定しており進行の兆候がない場合も適応されます。 また、再出血予防のための血圧管理が重要です。状態が安定した段階で理学療法・作業療法・言語療法を開始し、機能回復と合併症の予防を図ります。 薬物療法 治療内容 詳細 血圧コントロール 降圧薬による出血拡大や再出血の予防 脳浮腫の軽減 抗浮腫薬による脳の腫れと頭蓋内圧上昇の抑制 合併症の予防・管理 抗てんかん薬や抗生物質による発作や感染症の予防・管理 モニタリング 血圧や頭蓋内圧などの定期的なチェック 医師の指導遵守 薬の服用は自己判断せず、医師の指示に従うことが重要 (文献2)(文献5) 外傷性脳出血に対する薬物療法は、手術を行わずに症状の安定や再発予防を目指す治療法です。血圧を適切にコントロールして出血の拡大を防ぎ、抗浮腫薬で脳の腫れを抑えます。 さらに、抗てんかん薬や抗生物質によって発作や感染症などの合併症を予防・管理します。薬の種類や量は患者ごとに調整し、血圧や頭蓋内圧などの定期的なモニタリングが大切です。治療薬は、医師の指示に従い、自己判断で中止や増減をしないようにしましょう。 手術療法 ポイント 詳細 血腫の除去 血腫を取り除くことで脳圧を下げる 出血源の止血 出血部位を直接止血し、再出血や症状悪化を防ぐ 脳浮腫の軽減 脳の腫れを手術で軽減し、頭蓋内圧を下げる 手術のリスク 感染症や出血、麻酔合併症、新たな神経障害の可能性 術後管理とリハビリ 集中管理と早期リハビリによる後遺症軽減・機能回復 手術適応の慎重な判断 出血部位・量、全身状態を総合評価し手術の必要性を判断 外傷性脳出血に対する手術療法は、血腫による脳圧の上昇を軽減する治療法です。血腫を除去することで脳への圧迫が軽くなり、意識障害や呼吸・循環の異常を防ぎます。 手術により出血源を直接止血できるため、再出血のリスクを抑えることが可能です。また、脳の腫れを軽減することで神経機能の低下を防ぐ効果もあります。 ただし、手術には感染や出血、麻酔合併症などのリスクが伴うため、出血の部位や量、患者の全身状態をふまえた上で慎重な判断が不可欠です。術後は集中管理により脳の状態を安定させ、リハビリテーションを通じて後遺症の軽減と機能回復を目指します。 再生医療 ポイント 詳細 脳神経細胞の修復・再生 幹細胞の再生能力を利用し、損傷した脳細胞や神経の修復と機能回復を目指す 自己細胞の使用による低リスク 患者自身の細胞を使い、免疫反応や拒絶反応のリスクを低減 リハビリ効果の増強 再生医療とリハビリを併用し、脳機能回復とリハビリ効果の強化を促進 再発予防の可能性 幹細胞が血管の修復や保護に関与し、将来的な脳出血や脳梗塞のリスクを軽減できる可能性があると考えられている 外傷性脳出血に対する再生医療は、損傷した脳神経細胞の修復や再生を目指す治療法です。自己の幹細胞を用いることで免疫反応や拒絶反応のリスクが低く、感染症の心配も少ないのが特徴です。 また、リハビリテーションと併用することで機能回復の促進が期待されるほか、脳血管の保護作用による再発予防の可能性も指摘されています。ただし、効果には年齢や損傷の程度によって差があり、すべての患者に均一な結果が得られるとは限りません。 再生医療を検討する際は、対応可能な医療機関や治療内容を十分に確認した上で判断することが大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しております。 外傷性脳出血における後遺症のお悩みは当院へご相談ください 外傷性脳出血の後遺症は、身体機能だけでなく、日常生活や社会生活にまで影響を及ぼします。回復の程度には個人差があり、日常生活や仕事への復帰に対して不安を抱えている方も少なくありません。 当院「リペアセルクリニック」では、外傷性脳出血による後遺症のお悩みを丁寧にお伺いし、患者様一人ひとりに適した治療法をご提案いたします。なかでも再生医療(幹細胞治療)は、手術を伴わず、感染症や出血のリスクが少ない治療法として近年注目されています。 後遺症に関する些細なお悩みでも当院「リペアセルクリニック」にご相談ください。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で承っておりますので、お気軽にお申し付けください。 外傷性脳出血に関するよくある質問 外傷性脳出血の主な原因は? 外傷性脳出血の主な原因は、交通事故や転倒、転落、スポーツ中の衝突などによる頭部への強い衝撃で、脳内の血管が損傷し出血が生じることです。受傷後は重症化を防ぐため、早めに医療機関を受診しましょう。 外傷性脳出血の死亡率は? 外傷性脳出血の死亡率は、出血の種類や重症度によって大きく異なりますが、とくに急性硬膜下血腫のような重度の出血では予後が非常に厳しいとされています。社会福祉法人 恩賜財団 済生会によると、急性硬膜下血腫に対して手術を行った場合の死亡率は65%に上り、一方で社会復帰できる人はわずか18%と報告されています。(文献6) この数値は、脳の重度な損傷や頭蓋内圧の上昇による神経機能の障害が関係しているためです。 米国のデータでは、重度の外傷性脳損傷のうち25〜33%が死亡し、けがによる死亡の約30%を占めると報告されています。外見上は軽傷でも重篤な内出血を伴うことがあるため、頭部に強い衝撃を受けた場合は早期に医療機関を受診することが重要です。(文献7) 後遺症はどのくらいで回復しますか 後遺症の回復には個人差があり、出血した部位や神経の損傷程度によって回復の経過は大きく異なります。改善には、定期的なリハビリと医師の継続的な評価が重要です。 外傷性脳出血からの職場復帰はできますか? 外傷性脳出血からの職場復帰は可能ですが、出血の部位や後遺症の程度、職種や職場環境によって状況は大きく異なります。 独立行政法人労働者健康安全機構の報告によると、復職率は平均44%(範囲0〜100%)、原職復帰は約42%、配置転換や新規就労を含めると約51%とされています。(文献8) 復職には継続的なリハビリ、職場環境の調整、周囲の理解とサポートが不可欠です。医師と相談しながら、無理のないペースで段階的に進めることが大切です。 参考資料 (文献1) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「外傷性脳内血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2023年7月19日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/traumatic_intracerebral_hematoma/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「外傷性脳損傷(TBI)」MSD マニュアルプロフェッショナル版, 2023年2月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/22-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi/%E5%A4%96%E5%82%B7%E6%80%A7%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7-tbi?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献3) 黒田徹.「脳外科手術,脳卒中,頭部外傷により生じる続発性てんかん~続発性てんかんの進展をいかに予防するか?〜」『ユービーシージャパン株式会社・大塚製薬株式会社』, pp.1-4 https://nara.hosp.go.jp/img/health/igaku04.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献4) 柴田 靖.「頭部外傷による急性頭痛と遷延性頭痛」『(日本頭痛学会誌,51:155―158,2024)』巻(号), pp.1-4 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjho/51/1/51_155/_pdf/-char/ja?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献5) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日) (文献6) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「急性硬膜下血腫」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2020年2月5日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/acute_subdural_hematoma/(最終アクセス:2025年06月13日) (文献7) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「頭部外傷の概要」MSD 家庭版, 2023年3月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/25-%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%A8%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%82%B7%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月13日) (文献8) 豊田 章宏.「脳卒中に罹患した労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル」『平成29年3月独立行政法人 労働者健康安全機構』, pp.1-52, https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/kinrosyashien/pdf/bwt-manual_stroke.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年06月13日)
2025.06.29 -
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「頭皮マッサージは再出血のリスクにつながらないか」 「頭皮マッサージを受けるのはやめるべきなのか」 脳出血を経験したことのある方にとって、血流を刺激する施術には少なからず警戒心があるはずです。とくに美容院や整体で頭皮マッサージを普段から受けている人であれば、なおさら再発に対する不安や疑問があることでしょう。 本記事では、頭皮マッサージと脳出血の関係や以下の内容について医師が詳しく解説します。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 頭皮マッサージがすべての人にリスクがあるとは限りませんが、状態によっては避けるべきケースもあります。記事の最後には、頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 頭皮マッサージと脳出血の関係 リスク要因 対策 高血圧の管理が不十分 血圧コントロールを優先し、安定後に医師の許可を得る 抗凝固薬(血液サラサラ薬)服用中 マッサージ前の出血傾向チェック 脳動脈瘤・血管異常の既往歴 マッサージが禁止となる場合もあるため、自己判断では行わないこと 脳出血発症後3カ月未満 原則マッサージ禁止 頭皮マッサージが脳出血を直接引き起こすことは、医学的にほとんどありません。頭皮マッサージは頭皮表面の血行促進を目的としており、脳内の血管に直接影響を与えるものではないため、通常の強さで行う分には心配いりません。ただし、脳出血を経験されている方は注意が必要です。 出血後間もない時期や血圧が不安定な場合、強い刺激は再出血につながるおそれがあるため、自己判断でマッサージを行うのは避けましょう。 マッサージを希望される場合は、医師の指導のもと、優しい力加減で行うことが大切です。気になることがあれば、遠慮なく医師に相談しましょう。 脳出血後に頭皮マッサージを行う際の禁忌事項 禁忌事項 詳細 強い刺激・圧迫 強い力でのマッサージや頭部への過度な圧力は、デリケートな血管に負担をかけ出血リスクを高める 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 動脈瘤や血管などの異常や脳の腫れ(浮腫)が残っている場合、マッサージで状態悪化や再出血のリスクがある 発症後間もない時期(急性期) 脳出血発症直後は脳の状態が非常に不安定で、マッサージが血圧変動や脳への負担となるため、医師の許可が出るまで実施しない 脳出血後の頭皮マッサージは、誤った方法で行うとリスクを伴う場合があります。再出血などの合併症を防ぐため、強い刺激や頭部の腫れや、血管異常が残っている場合は頭皮マッサージを行ってはいけません。 強い刺激・圧迫 禁忌事項 詳細 脳内血管への影響 脳出血後の脆弱な血管への再出血リスク増加 頭皮毛細血管への影響 頭皮の毛細血管損傷による内出血や炎症発生 感覚障害によるリスク 感覚低下による過度な刺激の継続と皮膚・血管損傷リスク 一般的な頭皮マッサージが直接脳出血を引き起こす可能性は低いと考えられています。脳出血の主な原因は高血圧や脳動脈瘤の破裂などです。 脳出血は血管そのものの状態によるため、頭皮の血行を促す頭皮マッサージで、脳出血が再発する可能性は低いと考えられます。ただし、強い刺激や圧迫を加えると、脳内血管に負担がかかり、再出血のリスクが高まるおそれがあります。 脳出血に限らず、頭皮への強い刺激は血管損傷や炎症を発生させる可能性があるため、控えるようにしましょう。 頭部の腫れや血管異常が残っている場合 項目 説明 脳浮腫 出血周囲の炎症による水分貯留と脳組織の腫れ 頭蓋内圧亢進 脳浮腫による頭蓋骨内圧の上昇と脳血流障害の危険性 頭部のむくみ 外見上のむくみが脳内浮腫の残存を示唆し、マッサージによる圧力変化で悪化リスク 血管異常(動脈瘤・奇形) 脆弱で破裂しやすい血管異常の存在とマッサージによる血流変動での負担増加リスク 回復期の脳組織のデリケートさ 修復途中の脳組織への不必要な刺激による回復阻害や合併症リスクの増加 脳出血後は脳にむくみ(脳浮腫)が生じやすく、脳を圧迫して頭蓋内圧が上昇し、血流障害や脳損傷のリスクが高まります。外見上、頭や顔にむくみがある場合は脳内にも浮腫が残っている可能性があり、頭皮マッサージによる血流やリンパの変化で状態が悪化するケースもあります。 また、脳動脈瘤などの血管異常が残っている場合、わずかな刺激でも再出血の危険性があるため、注意が必要です。脳は回復期に非常にデリケートなため、頭部の腫れや血管異常がある間はマッサージを控え、医師の指示に従うようにしましょう。 発症後間もない時期(急性期) 禁忌事項 理由 再出血リスク 出血部位の血管が脆弱なため、刺激や血流変化で再出血の危険性増加 頭蓋内圧上昇 血流増加による頭蓋内圧の上昇で脳損傷悪化の可能性 血圧変動 マッサージによる血圧変動で再出血リスク増加 脳出血後の急性期(発症から1〜2週間)は、脳や血管が非常に不安定な状態のため、頭皮マッサージを行うと、血管が修復されておらず、再出血のリスクが高まります。 マッサージによって血流や血圧が変動し、結果的に頭蓋内圧が上昇する可能性もあります。急性期のマッサージは禁忌であり、安静と医師の管理のもとで治療を受けるようにしましょう。 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際の注意点 注意点 詳細 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 発熱やだるさ、血圧が高いときなど体調が悪い場合は、マッサージを控える 脳に強い圧迫や刺激を与えない 強い力や圧迫は脳や血管への負担になるため、優しい力加減で実施する 体調に異変を感じたらすぐに中止する 頭痛、めまい、吐き気などの異変を感じた場合は、すぐにマッサージを中止し医師に相談する 脳出血の既往がある方は、体調不良時の頭皮マッサージや脳への強い圧迫は危険です。頭皮マッサージを行う際は自己判断ではなく、医師に相談したうえで実施するようにしましょう。 体調不良時は頭皮マッサージを行わない 理由 解説 全身状態の不安定化 発熱や倦怠感などで体力・免疫力が低下し、血圧や血流の変動が起こりやすい状態 血圧・脳圧の変動リスク 自律神経の乱れやマッサージ刺激による血圧・脳圧の急激な変動 回復力低下による合併症リスク 体調不良時は回復力・抵抗力が落ち、軽微な刺激でも頭痛や吐き気などの合併症が生じやすい状態 症状悪化や見逃しのリスク 体調不良時は体調変化に気づきにくく、症状悪化や異常の見逃しにつながる危険性 熱、頭痛、めまい、吐き気など、体調が優れない時は頭皮マッサージを控えましょう。体調不良時は血圧が不安定になりやすく、再出血や脳圧上昇などのリスクを招く可能性があります。倦怠感や疲労を感じる際も無理はせず、まずは体調の回復を優先しましょう。 脳に強い圧迫や刺激を与えない 理由 説明 再出血リスク 急性期の脆弱な血管への負担増加による再出血の危険性 頭蓋内圧上昇 マッサージ刺激による頭蓋内圧の上昇と脳損傷悪化の可能性 血圧変動による影響 血圧の急激な変動による再出血や脳血管障害のリスク 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを行う際は、脳に強い圧迫や刺激を与えないことが重要です。とくに発症後24〜48時間の急性期は再出血のリスクが非常に高く、この時期に頭部へ刺激が加わると、脆弱な血管に負担がかかり再出血を引き起こす恐れがあります。 再出血は初回より広範囲な脳損傷や重篤な後遺症、生命の危険を伴うこともあります。頭皮マッサージの刺激は頭蓋内圧の上昇や血圧変動を招き、脳損傷や再出血リスクを高める要因です。 頭皮マッサージを行う場合は医師の許可を得て、軽い刺激で短時間にとどめ、体調変化に注意しましょう。また、頭皮マッサージ中に少しでも違和感があれば、すぐに中止し医師に相談してください。 体調に異変を感じたらすぐに中止する 理由 説明 再出血や脳圧上昇の早期察知 頭痛・めまい・吐き気など異変は再出血や脳圧上昇の兆候である可能性 血圧変動による再出血リスク防止 マッサージによる血圧変動が再出血や脳血管障害の引き金となる危険性 神経系への過度な刺激回避 マッサージ刺激による神経系の過剰反応や血流変化による症状悪化の危険性 脳出血の既往がある方は、頭皮マッサージ中や後に頭痛、めまい、吐き気など体調に異変を感じた場合、すぐに中止し、医師に相談する必要があります。これらの症状は再出血や脳圧上昇の兆候の可能性があります。 また、マッサージは血圧変動を引き起こしやすく、その中でも、高血圧や血圧管理が必要な方は再出血リスクが高く危険な状態です。さらに、神経系への過度な刺激も症状悪化の原因となります。異変を感じたら無理せず中止し、必要に応じて速やかに医療機関へ相談しましょう。 再出血を防ぐために気を付けるべきこと 気を付けるべきこと 詳細 血圧と服薬の管理を徹底する 血圧測定とコントロールの継続、降圧薬の指示通りの服用、自己判断での服薬中止や変更の厳禁 健康的な生活習慣を実践する バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、塩分・脂肪控えめ、禁煙・節酒、ストレス管理の徹底 定期的な医師の診察を受ける 定期受診と検査の継続、医師によるリスク評価と指導、症状がなくてもスケジュール通りの受診 再出血を防ぐためには、毎日血圧を測定し、降圧薬を医師の指示通りに服用することが大切です。バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠、禁煙・節酒、ストレス管理も心がけましょう。また、症状がなくても定期的に医師の診察や検査を受け、リスク管理や指導を受けることが重要です。 以下の記事では、脳出血の再発率や血圧管理を含む予防法を詳しく解説しています。 血圧と服薬の管理を徹底する 理由・有効性 解説 高血圧は再出血の最大リスク要因 血圧上昇による脳血管への負担増加と再出血リスクの直結 血圧管理で再出血のリスク大幅低減 毎日の血圧測定と目標値維持による再出血予防効果 服薬管理は血圧安定のカギ 降圧薬の継続服用による血圧コントロールと再出血リスク低減 服薬継続と血圧測定が予防に直結 定期的な血圧測定と指示通りの服薬の継続による再発予防の実証 具体的な管理方法 家庭での血圧測定・記録、降圧薬の毎日服用、自己判断せず医師相談、定期的な診察・検査の実施 (文献1) 脳出血の再出血を防ぐ上で、血圧管理と服薬継続は最も重要なことです。高血圧は再出血の最大リスク要因であり、血圧が高いと脳の血管に大きな負担がかかります。毎日血圧を測定し、医師が目標とする血圧値、130/80mmHg未満(75歳以上では140/90mmHg未満)を維持できるよう努めましょう。 降圧薬は血圧を安定させるために不可欠であり、中断や変更を自己判断で行わず、医師の指示通りに服用することで、再出血予防が期待できます。 健康的な生活習慣を実践する 生活習慣 内容 効果 食事 減塩・栄養バランスの取れた食事 高血圧予防・血管の健康維持 運動 ウォーキングやストレッチの習慣化 血圧低下・ストレス軽減 睡眠 規則正しい生活と十分な睡眠時間 血圧安定・自律神経の調整 禁煙 たばこを控え、禁煙外来の活用 血管収縮の防止・再発リスク低減 節酒 飲酒量を適正に保つよう意識する 血圧の上昇抑制・肝機能保護 ストレス管理 趣味やリラックス法の導入 血圧変動の抑制・心身の安定 (文献2) 脳出血の再発を防ぐためには、健康的な生活習慣の実践が欠かせません。とくに塩分を控えた食事や、軽めの運動習慣は、血圧の安定に大きく寄与します。また、睡眠の質を保つことで自律神経が整い、血圧の変動も抑えられます。喫煙や過度の飲酒は血管に強い負担をかけるため、禁煙や節酒を心がけましょう。 さらに、趣味やリラックス法を取り入れてストレスをコントロールすることで、再出血のリスクを軽減し、健康的な日常を維持しやすくなります。 以下の記事では脳出血の退院後の生活習慣について詳しく解説しています。 定期的な医師の診察を受ける 有効性 解説 血圧管理の徹底 定期的な血圧測定と降圧薬調整による血圧コントロールと再出血リスク低減 再発リスク因子の早期発見と対応 高血圧・糖尿病・高脂血症などリスク因子の早期発見と治療による再発予防 薬物療法の適正な管理 薬剤の効果・副作用の評価と必要に応じた薬剤調整による効果的な治療の実現 脳出血の再発予防には、定期的な医師の診察が不可欠です。診察では血圧や再発リスク因子を細かくチェックし、必要に応じて薬の調整や生活習慣の指導を受けられます。 薬の効果や副作用も定期的に確認することで、状態に合わせた処方が可能です。症状がなくても受診を続けることで、再出血リスクを大きく減らせます。 脳出血後の頭皮マッサージは医師と相談したうえで実施しよう 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを実施する場合は自己判断は避け、医師に相談した上で正しく行うようにしましょう。脳出血は再発すると最悪の場合、命に危険が及ぶ可能性がある病気です。頭皮マッサージだけでなく、生活習慣を見直すなどの再発防止にも努めましょう。 脳出血の後遺症に関するお悩みは、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では脳出血に対する頭皮マッサージに加えて、後遺症や生活習慣の改善についても丁寧にアドバイスいたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 頭皮マッサージと脳出血の関係に関するよくある質問 頭皮マッサージで死亡した事例はありますか? 2025年6月現在、ヘッドマッサージやヘッドスパによる死亡事例は報告されていません。しかし、いくつかの状況下では重篤な健康被害が発生する可能性があるため注意が必要です。 たとえば、美容院で首を後ろに反らせたまま長時間過ごすと、椎骨動脈が圧迫され美容院脳卒中症候群を起こすことがあります。飲酒後は血管が拡張しやすく、マッサージによる刺激で血圧が急変し、脳出血や心筋梗塞のリスクが高まります。 ヘッドスパは脳出血の直接的な原因になりますか? ヘッドスパが脳出血の直接的な原因になることは、まずありません。通常のヘッドスパや頭皮マッサージで脳出血が起こることは極めて稀であり、多少力を入れても脳出血につながるケースは考えにくいとされています。 ただし、美容院で首を後ろに反らせた姿勢が長時間続くなどで、椎骨動脈が圧迫されて脳への血流が低下し、美容院脳卒中症候群と呼ばれる脳卒中を引き起こす可能性があります。 既往症がある方や首への負担が大きい姿勢を長時間続ける場合は体調の変化に気を付けましょう。 頭皮マッサージで血管が切れることはありますか? 通常の頭皮マッサージによって血管が切れることはほとんどありません。ただし、強い力でマッサージを行うと、頭皮の毛細血管が損傷し、炎症や出血を引き起こす可能性があります。また、飲酒後は血管が拡張しているため、マッサージの刺激で血管が破れやすくなるリスクがあるため、注意が必要です。 過去に頭部の外傷や脳出血などの既往がある方は、頭皮マッサージによる再出血が懸念されるため、事前に医師に相談するようにしましょう。 参考資料 (文献1) 佐藤祥一郎.「脳出血の血圧管理」『脳卒中 J-STAGE 早期公開 2018年 2月 27日』, pp.1-5, 2017年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_10605/_pdf(最終アクセス:2025年06月10 日) (文献2) 「Ⅲ.脳出血」 pp.1-51 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_03.pdf(最終アクセス:2025年06月10日)
2025.06.29 -
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「手足に違和感がある」 「アッヘンバッハ症候群は脳梗塞の前兆なのか」 アッヘンバッハ症候群は、指や手のひらなどに突然の違和感やしびれ、紫色の腫れや内出血が現れる病気です。アッヘンバッハ症候群の症状は脳梗塞の前兆と似ており、心配される方も少なくありません。 本記事では、以下について医師が解説します。 アッヘンバッハ症候群とは? アッヘンバッハ症候群と脳梗塞の関係性 アッヘンバッハ症候群の危険性 アッヘンバッハ症候群と似た病気 アッヘンバッハ症候群の治療法 症状の特徴を知ることで、自己判断のリスクを知り、受診の必要性を理解することで、適切な対応につなげましょう。 アッヘンバッハ症候群とは? 項目 内容 主な症状 突然の違和感・しびれ・つっぱり感、紫色の腫れやあざ、血の塊、自然消失、再発可能 発症しやすい人・部位 50代以降の女性、人差し指や中指の中節部・基節部、稀に足の指や足の裏 原因 血管の脆さ、加齢、軽い刺激による毛細血管の出血、血液検査で異常は見られない 治療と経過 治療は不要、自然回復、長引く場合は検査、重い合併症は稀 (文献1) アッヘンバッハ症候群は、外傷や血液の異常がないにもかかわらず、突然、指先や手のひらに違和感やしびれ、つっぱり感が現れ、その部分が紫色に腫れて内出血を起こす病気です。とくに50代以降の女性に多く、指の中節部に発症がよく見られます。 原因ははっきりしていませんが、加齢による血管のもろさや、日常生活での軽い刺激が関係していると考えられています。 多くの場合、数日〜1週間程度で自然に回復し、特別な治療は必要ありません。ただし、症状が繰り返す場合や長引く場合には、他の血管や血液の病気との鑑別が必要になるため、医療機関の受診をおすすめします。 アッヘンバッハ症候群と脳梗塞の関係性 観点 アッヘンバッハ症候群 脳梗塞 主な症状 指先の急激な違和感・しびれ、青紫色の内出血(紫斑) 顔面や手足の片側しびれ・麻痺、言語障害、歩行障害、意識障害 発症速度 数分〜数時間で急に出現 突然発症(数分〜数時間) 発症部位 主に指(示指・中指) 脳内の血管領域により変化(例:片麻痺、構音障害など) 皮膚変色 青紫色の局所的な内出血(皮下出血)を伴う 皮膚変色は伴う場合もある 自然経過 自然治癒、自己限定的 迅速な医療対応が不可欠 鑑別に必要な検査 血液検査・超音波で他疾患除外、通常は不要 CT/MRIなどの画像検査で迅速診断、治療開始が必要 重篤度 良性疾患、生命に関わらない 重篤(後遺症や死亡のリスクあり)、緊急治療対象 全体の影響度 指に限定され、数日〜1週間で自然回復し後遺症ほぼなし 脳の血流途絶により神経障害が残りやすく、生命や機能に重大な影響あり (文献1)(文献2) アッヘンバッハ症候群と脳梗塞はいずれも血管に関係しますが、発症の仕組みや重症度は大きく異なります。アッヘンバッハ症候群は、指先の細い血管が一時的に破れて内出血を起こす病気で、突然、指や手のひらが紫色に腫れたり、しびれやつっぱり感が出たりします。通常は数日〜1週間ほどで自然に回復し、後遺症も残らず、命に関わることはほとんどありません。 一方で、脳梗塞は脳の血管が詰まり、手足のしびれや麻痺など重大な神経障害を引き起こします。両者は症状が似ている場合もあるため、自己判断は禁物です。気になる症状があるときは、早めに医療機関を受診し、正確な診断を受けましょう。 以下の記事では、脳梗塞の症状について詳しく解説しています。 【関連記事】 BAD(脳梗塞)とは?症状や予後・他のタイプとの違いも解説 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 アッヘンバッハ症候群の危険性 危険性の種類 内容 対応のポイント 誤認による精神的ストレス 指先の違和感やしびれ、青紫色の変色から脳梗塞や心筋梗塞などと誤解し、過度な不安に陥るケース 症状の正しい理解と医療機関での確認 他の病気との見分けの難しさ レイノー現象、デジタル動脈閉塞、血管炎、血液凝固異常症、バージャー病など、重大な疾患の可能性 専門医による鑑別診断の重要性 再発への不安と生活の質の低下 発作の再発を恐れることで日常生活や趣味、仕事に支障が出るリスク 再発予防と不安軽減に向けた正しい対処法の実践 (文献1)(文献2) アッヘンバッハ症候群は、指先に突然の違和感や紫斑が現れる良性の病気で、見た目のインパクトはあるものの、多くは数日で自然に回復し、命に関わることも後遺症もほとんどありません。ただし、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気と誤解されやすく、強い不安を感じる方もいます。 また、レイノー現象や血管閉塞、血管炎など重篤な病気と症状が似ているため、医師による鑑別診断が重要です。とくに高血圧や動脈硬化といった持病がある方は注意が必要です。再発や症状の拡大、全身症状がある場合は、単なるアッヘンバッハ症候群でない可能性もあるため、早めの受診を心がけましょう。 アッヘンバッハ症候群と似た病気 病名 主な症状・特徴 主なきっかけ・原因 レイノー現象 寒さやストレスで指先が白→紫→赤と変化。しびれ・違和感・冷感。発作的に繰り返す 寒冷刺激、精神的ストレス 血管炎 発熱、倦怠感、体重減少、皮膚の紫斑、結節、潰瘍、関節痛、むくみ、しびれなど多様な全身症状 自己免疫異常、感染症、薬剤など 単純性紫斑 下肢や腕などに赤紫色~暗褐色のあざ。違和感や腫れはほとんどない 毛細血管の弱さ、体質、加齢、薬剤など 老人性紫斑 前腕や手の甲に違和感を伴わない赤紫色のあざ。数週間で消失し、色素沈着が残ることも 加齢、紫外線曝露、血管の脆弱化、薬剤など 後天性血友病A 皮下・筋肉内・消化管の広範囲な出血。止まりにくく、重篤な貧血や生命の危険も 自己免疫反応(凝固因子への抗体) バージャー病 手足の冷感、しびれ、違和感、潰瘍、壊死。進行すると切断が必要なことも 喫煙(主なリスク因子) アクロシアノーシス 手足の指先が左右対称に持続的に青紫〜赤紫色に変色し、冷たさや軽い腫れ、しびれを伴うことがある 寒冷刺激、精神的ストレス、末梢血流低下 アッヘンバッハ症候群の症状は、他の病気と見間違えやすい特徴があります。過去に脳梗塞や心臓病を経験された方、あるいは生活習慣病をお持ちの方は、自己判断を避け、他の病気の可能性も考慮することで、重大な疾患の早期発見につながります。 レイノー現象 比較表 アッヘンバッハ症候群 レイノー現象 主な症状 指先の紫色のあざ、腫れ、違和感 指先の白→紫→赤の色変化、冷感、しびれ 誘因 とくになし(軽い刺激など) 寒さ、ストレスなど 出血の有無 あり(皮下出血) なし 血流障害 なし 血管収縮あり 原因疾患 基本的に良性 膠原病などが背景にあることも 注意点 見た目が似ており誤解されやすい 繰り返す場合は基礎疾患の検査が必要 (文献1)(文献3) レイノー現象は、寒さやストレスなどの刺激で末梢の血管が一時的に収縮し、指先が白くなった後に紫色や赤色に変色する現象です。 とくに女性に多く、左右対称に手足の指先に起こるのが特徴です。発作は数分から数十分で自然に回復し、温めると軽快します。アッヘンバッハ症候群と同様に色の変化がありますが、レイノー現象では皮下出血や腫れは伴いません。 多くは生理的反応として経過しますが、症状が頻繁に続く場合や関節のこわばり、全身の疲労感を伴う場合は、膠原病の可能性もあるため、医療機関での受診が必要です。 血管炎 比較項目 アッヘンバッハ症候群 血管炎 主な症状 指の紫色のあざ、腫れ、違和感、しびれ、つっぱり感 紫斑、皮下結節、潰瘍、関節痛、しびれ、むくみ、全身症状、多臓器障害 皮膚の変化 指に限局した紫色のあざや腫れ(皮下出血) 赤紫色のあざ、点状出血、結節、潰瘍、網目状の赤み 発症のきっかけ 軽い刺激や日常動作 感染症、薬、膠原病、自己免疫異常など 全身症状の有無 なし あり(発熱、倦怠感、体重減少など) 臓器への影響 基本的になし 腎臓、肺、消化管、神経、脳など多臓器に障害が及ぶ可能性あり 合併症・重症度 良性疾患で合併症は少ない 腎不全、神経障害、失明など重篤な合併症の恐れ 原因疾患の有無 基本的に単独で発症 自己免疫疾患や全身性疾患を背景に持つことが多い (文献1)(文献4) 血管炎は、体内の血管に炎症が起こる病気です。原因は自己免疫反応や感染症などさまざまで、炎症によって血管が傷つくと血流が悪くなり、皮膚に紫斑や赤み、しこり、潰瘍などが現れます。 指先だけでなく、手足全体や体幹にも症状が広がることがあり、発熱や倦怠感、関節の腫れなど全身症状を伴うのが特徴です。アッヘンバッハ症候群は指先に限局し自然に治ることが多いのに対し、血管炎は進行性で放置すると内臓にも影響が及ぶ可能性があります。皮膚の変化に加え、慢性的な体調不良が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。 単純性紫斑 比較項目 アッヘンバッハ症候群 単純性紫斑 主な症状 突然、指などに紫色のあざや腫れ(皮下出血)が現れ、違和感・しびれ・つっぱり感を伴うことが多い 下肢などに打撲の覚えがないまま赤紫〜暗褐色のあざが現れ、違和感や腫れを伴わないのが特徴 好発部位 主に手指(とくに中年以降の女性) 主に下肢(膝から下)、臀部、上腕。若い女性に多い 誘因 軽い刺激や日常動作がきっかけになるが、明らかな外傷はない 明確なきっかけがなく発症しやすく、毛細血管の脆弱性や体質、過労、月経、栄養状態、薬剤の影響などが関与することがある 持続時間 数日〜1週間程度で自然に回復 あざは自然に消える。特別な治療は不要 合併症・危険性 良性で重篤な合併症は少ないが、他の疾患との鑑別が必要 基本的に良性で、全身症状や他の出血はなく、治療は不要で経過観察のみで対応可能 (文献1)(文献5) 単純性紫斑は、皮膚の毛細血管がもろくなり、軽い刺激や加齢によって出血しやすくなる状態です。とくに女性に多く、腕や脚などに突然紫斑が現れますが、違和感やかゆみはほとんどありません。 多くの場合、数日〜1週間ほどで自然に消えるのが特徴です。アッヘンバッハ症候群と同様に見た目の変色が目立ちますが、単純性紫斑は繰り返し出現しやすく、症状の範囲も広がることがあります。 血液検査では異常が見られないことが多く、治療は不要なケースがほとんどですが、高齢者で多発する場合は血管の健康や内出血の原因を確認するため、内科での診察が勧められます。どちらの病気も自然に軽快するケースが多いですが、症状が急に強くなったり広がったりした場合は、早めに医師の診察を受けることが大切です。 老人性紫斑 比較項目 アッヘンバッハ症候群 老人性紫斑 主な症状 突然の手指の違和感・腫れ・紫斑(皮下出血) 前腕や手の甲の赤紫色のあざ 原因 血管の脆弱性・軽微な外力(加齢の影響) 加齢・紫外線曝露・血管の脆弱化 好発部位 手指(とくに示指・中指)、手のひら 前腕、手の甲、顔面 治療法 自然軽快、特別な治療は不要 自然消失、特別な治療は不要 注意点 他疾患との鑑別が必要、再発の可能性もある 他の出血性疾患との鑑別が必要 (文献1)(文献6) 老人性性紫斑は、加齢により皮膚の毛細血管がもろくなることで起こり、前腕や手の甲に違和感のないあざが繰り返し現れます。2〜3週間ほどで自然に消えるのが一般的です。 アッヘンバッハ症候群と同様に皮膚の変色が見られますが、単純性紫斑は広範囲かつ繰り返し起こるのが特徴です。血液検査で異常が見られないことが多く、多くは治療不要ですが、高齢者で頻発する場合は、内出血の背景に病気が隠れていないか確認のために医療機関への受診が推奨されます。 後天性血友病A 比較項目 アッヘンバッハ症候群 後天性血友病A 主な症状 手指の違和感、腫れ、紫斑(皮下出血) 皮下出血、筋肉内出血、消化管出血などが突然発生し、広範囲に及ぶ 原因 血管の脆弱性や軽微な外力によると考えられている 自己免疫反応により第VIII因子への自己抗体が産生され、血液が固まりにくくなる 出血の範囲 限局的(主に手指) 広範囲、深部組織や消化管にも及ぶ 治療の必要性 通常は不要で、数日〜1週間程度で自然に軽快 早急な治療が必要。放置すると重篤な貧血や生命の危険を伴う 予後 良好(自然軽快) 重篤な後遺症や生命の危険があり、早期診断と治療が不可欠 (文献1)(文献7) 紫色のあざが突然現れる症状には、いくつかの原因が考えられます。アッヘンバッハ症候群は、手指に限定して腫れや違和感を伴う皮下出血が起こる一過性の病変で、自然に治まることがほとんどです。 老人性紫斑も加齢により前腕や手の甲に違和感のないあざが繰り返し現れる良性疾患です。しかし、後天性血友病Aは、全身に出血が広がる危険な病気で、血液が固まりにくくなる自己免疫反応が原因です。 皮下や筋肉、内臓にも出血が及び、命に関わることもあるため早期の治療が必要です。見た目が似ていても、原因や重症度は異なるため、出血症状が気になる場合は早めに医療機関を受診しましょう。 バージャー病 比較項目 アッヘンバッハ症候群 バージャー病 主な症状 突然の手指の違和感、腫れ、紫色のあざ(皮下出血) 手足の冷感、しびれ、違和感、潰瘍、壊死。進行すると指や足の切断が必要になることも 原因 明確な原因は不明。加齢に伴う血管の脆弱性や軽微な外力が関与と考えられる 喫煙が主なリスク因子。血管の炎症や血栓形成による血流障害が原因。特定の遺伝的素因も関与 発症年齢・性別 50代以降の女性に多い 20〜40代の男性、とくに喫煙者に多い 治療法 特別な治療は必要なく、数日で自然に軽快することが多い 禁煙が最重要。薬物療法や血行再建手術、重症例では手足の切断が必要な場合も 予後 良好。再発もあるが重篤な合併症は少ない 進行すると手足の切断が必要になることもあり、生活の質(QOL)に大きな影響 注意点 数日で自然軽快。症状が繰り返されることがあり、他疾患との鑑別が必要 症状が似ているため誤診リスクあり。喫煙歴の確認が重要。進行性疾患のため早期診断・治療が必要 (文献1)(文献8)(文献9) バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)は、手足の末梢血管に炎症が起き、血流障害により違和感・しびれ・潰瘍などを引き起こす病気です。とくに喫煙者の若年〜中年男性に多く、皮膚が白や紫に変色することがあり、アッヘンバッハ症候群と見分けがつきにくいこともあります。 ただし、バージャー病は進行性で、放置すると指先が壊死し、切断に至るケースもあります。禁煙が最も重要な対策であり、変色や冷感、しびれが持続する場合は医療機関への受診が必要です。 アクロシアノーシス 比較項目 アッヘンバッハ症候群 アクロシアノーシス 主な症状 突然の違和感、腫れ、紫色のあざ(皮下出血) 持続的な指先の青紫色の変色、冷感 原因 微小血管の破裂による皮下出血 末梢血流の慢性的な低下 誘因 軽微な外力や血管の脆弱性 寒冷刺激、精神的ストレス 経過 数日で自然に軽快 症状は持続的で、とくに寒冷時に悪化 治療法 特別な治療は不要 生活習慣の改善(保温、ストレス管理、禁煙など) (文献1)(文献10) アクロシアノーシスは、手足の先が青紫色に変色し冷たく感じる状態で、寒さやストレスによる末梢血流の低下が原因とされています。症状は左右対称に持続するのが特徴です。 アッヘンバッハ症候群は突然の出血や腫れを伴い、数日で自然に治まるのに対し、アクロシアノーシスでは出血や腫れはなく、寒い季節に悪化する傾向があります。 重篤な病気ではありませんが、膠原病などが隠れていることもあるため、症状が続く場合は内科や皮膚科を受診しましょう。 アッヘンバッハ症候群の治療法 治療法 目的・効果 具体的な対応・内容 注意点 安静・患部の冷却 出血の拡大防止・違和感の軽減・自然治癒促進 安静保持、冷却(15〜20分を目安に繰り返し実施) 過度な冷却は避ける。氷はタオルに包んで使用 薬剤療法 症状の緩和・出血抑制・血管強化による再発予防 止血薬、血管強化薬を医師の判断で処方・服用 症状が軽い場合は薬は不要。自己判断での服用は避ける 食事療法 血管の健康維持・再発防止への寄与 ビタミンC・E、DHA/EPA、タンパク質を含む食品を摂取。減塩も重要 即効性はないため、あくまで補助的な予防策として継続が必要 アッヘンバッハ症候群は、多くの場合で数日〜1週間ほどで自然に軽快し、特別な治療を必要としない良性の病気です。紫斑や腫れは後遺症を残さずに治まりますが、症状が強い場合や繰り返す場合は、患部の安静や冷却が有効です。 まれに血管や全身の病気が隠れていることもあるため、症状が続く場合は医療機関での診察が必要です。血管の健康を保つためには、食生活や生活習慣の見直しが再発予防に有効です。数日たっても改善しない場合や、しびれ・脱力を伴う場合は、他の疾患の可能性もあるため、早めに受診しましょう。 安静・患部の冷却 アッヘンバッハ症候群の初期対応では、患部の安静と冷却が有効です。指先の内出血によって紫斑が生じた場合、動かしすぎると症状が悪化することがあります。 手はできるだけ使わず、心臓より高い位置で保つことで腫れの拡大を防げます。氷や保冷剤をタオルで包んで10〜15分程度冷やすと、血管が収縮し出血を抑える効果が期待できます。 ただし、冷やしすぎは血流を悪化させるため注意が必要です。症状が落ち着くまでは、家事や細かい作業など手に負担のかかる動作を控えるようにしましょう。 薬剤療法 目的 有効な理由 補足・ポイント 症状の緩和 止血薬で出血を抑え、血腫の拡大を防止。血管強化薬で腫れや違和感の軽減 医師が症状や体質に応じて適切に処方 再発予防 血管の耐久性を高め、再発リスクを低減 血管が脆い方は繰り返しやすいため予防が重要 不安の軽減 薬剤療法により不安の軽減や精神的安定につながる 突然の症状に備える手段として有効 アッヘンバッハ症候群は多くの場合自然に回復しますが、症状が強い場合や再発を繰り返す場合には薬剤が用いられることがあります。 出血の拡大を防ぐためにビタミンCなど血管強化作用のある成分を補ったり、腫れや違和感が強いときにはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が処方されることもあります。ただし、これらは対症療法であり根本治療ではありません。 再発や紫斑の拡大がある場合は、他疾患との鑑別を目的とした検査が必要です。自己判断使用は避け、医師の指導を受けましょう。 食事療法 栄養素 期待される効果 主な食品例 ビタミンC 血管の強化、脆弱性の改善 トマト、ピーマン、柑橘類 ビタミンE 抗酸化作用、血行促進、血管の健康維持 アーモンド、植物油、卵 DHA/EPA 血流の改善、血管の柔軟性向上 イワシ、サバ、サンマ タンパク質 血管の構成要素としての役割、健康維持 肉類、魚、卵、大豆製品 血管の健康維持には日頃の食生活が大切です。ビタミンCやE、DHA/EPAなど抗酸化作用のある栄養素を含む食品(柑橘類、ブロッコリー、ナッツ類、青魚など)を意識して摂取することが血管の老化予防に役立ちます。また、高血圧や糖尿病がある方は、塩分・糖分・脂質の摂りすぎに注意が必要です。 体重増加や喫煙は血管に負担をかけるため、生活習慣の改善が再発予防に有効です。症状が続く場合は、他の病気が隠れている可能性もあるため、早めに医療機関を受診しましょう。 アッヘンバッハ症候群と脳梗塞に不安を感じたら医療機関へ アッヘンバッハ症候群は多くが良性ですが、類似の症状に重大な疾患が隠れていることもあります。高血圧や糖尿病、脳梗塞の既往がある方は血管障害の可能性もあるため、症状が長引く、繰り返す、しびれなど神経症状を伴う場合は早めの受診が大切です。 不安を感じている方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。脳梗塞の前兆かどうかを含め、丁寧に診察いたします。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 参考資料 (文献1) 一般社団法人 町田市医師会 「Achenbach(アッヘンバッハ)症候群」一般社団法人 町田市医師会, https://www.machida.tokyo.med.or.jp/?page_id=3300(最終アクセス:2025年06月10日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳卒中の概要」MSDマニュアル家庭版, 2023年6月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月10日) (文献3) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「レイノー症候群」MSDマニュアル家庭版, 2023年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%A8%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E5%8B%95%E8%84%88%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%BC%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4(最終アクセス:2025年06月10日) (文献4) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「血管炎の概要」MSDマニュアル家庭版, 2022年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8-%E9%96%A2%E7%AF%80-%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年06月10日) (文献5) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「単純性紫斑病」MSDマニュアル家庭版, 2023年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/13-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%87%BA%E8%A1%80/%E5%8D%98%E7%B4%94%E6%80%A7%E7%B4%AB%E6%96%91%E7%97%85(最終アクセス:2025年06月10日) (文献6) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「老人性紫斑病」MSDマニュアルプロフェッショナル版, 2023年5月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%87%BA%E8%A1%80/%E8%80%81%E4%BA%BA%E6%80%A7%E7%B4%AB%E6%96%91%E7%97%85(最終アクセス:2025年06月10日) (文献7) 田中一郎ほか.「後天性血友病A診療ガイドライン」, pp.1-30, https://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/ssc01_guidelines.pdf(最終アクセス:2025年06月10日) (文献8) 公益財団法人難病医学研究財団「バージャー病(指定難病47)」難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/170(最終アクセス:2025年06月10日) (文献9) 恩賜財団済生会「バージャー病」恩賜財団済生会 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/buerger_disease/(最終アクセス:2025年06月10日) (文献10) iLiveポータル「アクロシアノーシス」HEALTHY LIFE https://ja.iliveok.com/health/akurosianosisu_110163i15949.html(最終アクセス:2025年06月10日)
2025.06.29 -
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「脳梗塞に使われるメコバラミンとはどんな薬なのか?」 「メコバラミンの副作用が心配」 脳梗塞の後遺症として残るしびれや麻痺に悩む中、処方されたメコバラミンの効果や副作用について、不安を感じていませんか。 メコバラミン(メチコバール)はビタミンB12の一種で、神経の修復を目的に脳梗塞の後遺症に処方されます。本記事では、その有効性や副作用を解説します。 記事の最後にはメコバラミンに関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 脳梗塞に使われるメコバラミン(メチコバール)とは 作用・特徴 内容 神経細胞の修復・再生促進 核酸やたんぱく質の合成を促進し、損傷した神経や軸索の修復・再生をサポート 髄鞘(ミエリン鞘)形成促進 神経伝達を助ける髄鞘の形成を促進し、レシチンの合成もサポート 神経伝導速度の改善 神経伝達を高めることで、しびれや感覚障害、麻痺の改善が期待できる ホモシステイン代謝の正常化 ホモシステインの代謝をサポートし、動脈硬化や脳梗塞の再発予防に役立つ可能性がある 位置づけ・有用性 急性期ではなく、回復期以降のしびれや感覚障害などの後遺症改善を補助する 注意点 重い麻痺を単独で改善する薬ではなく、リハビリと併用して神経修復を支える メコバラミンは、ビタミンB12の一種で、神経の修復や再生を助ける医療用医薬品です。脳梗塞後に生じるしびれや麻痺などの神経障害に対し、神経細胞の核酸やたんぱく質の合成を促進し、軸索や髄鞘の再生を支えることで、症状の改善を補助します。 通常は1日1,500μg(500μg錠を1日3回)を服用し、食前・食後どちらでも服用できます。副作用は少ないとされますが、まれに発疹や消化器症状が現れることがあり、体調に変化があれば医師や薬剤師に相談が必要です。 直射日光や湿気を避け、涼しい場所での保管が推奨されます。メコバラミンは神経修復を補助する薬であり、リハビリなど他の治療と併用することで、より高い効果が期待されます。服用は医師の指導のもとで行いましょう。 脳梗塞後の神経回復に対するメコバラミンの有用性 作用カテゴリー 作用の概要 末梢神経および中枢神経の修復 神経細胞や軸索・髄鞘の再生を促し、末梢・中枢神経の回復を支えて後遺症の改善をサポート 神経伝導速度の改善 髄鞘と軸索の修復により神経伝達が改善され、しびれや麻痺の軽減が期待できる 抗酸化作用・神経保護作用 活性酸素による酸化ストレスから神経を守り、神経細胞の損傷を抑制 リハビリ効果の補助 神経の再生や伝達を支え、リハビリによる運動や感覚の回復効果を後押しする 脳梗塞による後遺症では、神経が損傷を受けることでしびれや麻痺などの症状が現れます。メコバラミンは、損傷を受けた神経の修復を促す作用を持ち、神経障害の改善に役立つとされています。 効果には個人差があるため、症状や体質に応じて医師と相談しながら服用してください。メコバラミンは脳梗塞そのものを治療する薬ではなく、あくまで後遺症の改善や軽減を目的として用いられます。 神経回復を目指すには、メコバラミンの服用だけでなく、リハビリテーションの継続や生活習慣の見直しもあわせて行うことが大切です。 末梢神経および中枢神経の修復促進 作用カテゴリー 作用の概要 核酸・たんぱく質の合成促進 神経の構造維持や再生に必要な核酸・たんぱく質の生成促進 軸索の再生・伸長促進 損傷した神経線維の再生や機能回復の促進 神経細胞体の維持・回復 神経伝達物質を作る細胞体の機能維持と修復 髄鞘の形成・修復促進 電気信号の伝達効率を高める髄鞘の再形成促進 神経細胞内輸送の正常化 神経内のたんぱく質や物質の輸送機能の回復 酸化ストレスの軽減 活性酸素による酸化ダメージの抑制 神経細胞の保護と再生 神経細胞の細胞死の抑制と修復環境の整備 末梢神経・中枢神経への包括的な作用 中枢神経と末梢神経の両方に対する修復作用の発揮 メコバラミンは、神経の修復や再生を助けるビタミンB12の一種です。神経細胞の働きを整え、しびれや軽い神経痛の改善が期待されます。 メコバラミンは根本的な治療薬ではありませんが、脳梗塞後の神経回復においてリハビリとの併用により補助的な効果が期待できます。 神経伝導速度の改善 メコバラミンの働き 具体的な作用 髄鞘(ミエリン鞘)の形成促進・修復 神経線維を絶縁し、電気信号の伝達効率を高める髄鞘の再形成を助け、伝導速度を改善 軸索(神経線維)の修復・再生 損傷した軸索の再生を促し、電気信号が途切れずスムーズに伝わるようサポート 神経細胞の代謝改善・機能維持 エネルギー代謝や神経伝達物質合成を補助し、神経細胞全体の正常な働きを維持 感覚障害の改善 しびれや違和感の軽減、触覚や温痛覚など感覚の正常化を期待 運動機能の回復 神経と筋肉の信号伝達が円滑になり、筋力低下や麻痺の改善に寄与 QOL(生活の質)の向上 日常生活動作が円滑になり、生活の質向上につながる メコバラミンは神経を修復するビタミンB12製剤で、脳梗塞後のしびれや麻痺の改善に用いられる治療薬です。 髄鞘や軸索の再生を促し、神経伝導を整えることで感覚・運動機能の回復を支援します。神経代謝を助け、日常生活の動作向上にもつながります。リハビリとの併用で効果が高まります。 抗酸化作用・神経保護作用 項目 内容 酸化ストレスと神経障害 脳梗塞後、血流再開で発生する活性酸素が神経細胞の膜やDNAを傷つけ、細胞死の原因となる メコバラミンの抗酸化作用 活性酸素の生成を抑え、細胞膜の脂質過酸化を防ぐことで神経細胞の損傷を抑制 神経保護作用のメカニズム 神経細胞の死を抑え、神経成長因子の働きを高めることで、神経の再生や修復をサポートする 期待できる効果 神経細胞の修復を助けることで、脳梗塞後のしびれや感覚障害の改善が期待される 注意点 効果には個人差があるため、医師と相談しながら治療を進めることが大切 メコバラミンは、脳梗塞後の神経回復を支えるビタミンB12製剤です。脳梗塞の後に血流が再開すると、活性酸素と呼ばれる物質が大量に発生し、神経細胞の膜やDNAを傷つけて細胞死を引き起こすことがあります。 メコバラミンは、活性酸素の発生を抑えて神経細胞の損傷を防ぐ抗酸化作用を持ちます。 さらに、神経代謝を支え、神経成長因子の働きを高めることで、修復・再生を助ける神経保護作用により、脳梗塞後のしびれや感覚障害の改善が期待されます。効果には個人差があるため、治療は医師と相談の上で進めることが不可欠です。 リハビリ効果の補助 メコバラミンの働き リハビリ効果への影響 神経細胞の修復・再生促進 損傷した神経の修復や再生を助け、リハビリによる運動・感覚機能の回復をサポート 神経伝導速度の改善 神経伝導が改善されることで、リハビリ中の運動指令が伝わりやすくなり、回復効果が高まる 髄鞘(ミエリン鞘)形成の促進 髄鞘の形成を助けて神経伝達効率を上げ、リハビリによる神経機能の回復を支援 ホモシステイン代謝の正常化 血管の健康を維持し脳梗塞の再発予防に貢献、リハビリの継続性と長期的な回復を後押し 補助的な役割 神経の修復や保護、伝達機能の改善を通じて、リハビリの効果を高め、脳梗塞後の回復を支援 メコバラミンは神経修復を助け、脳梗塞後のリハビリ効果を高める補助薬です。 神経伝導の改善や髄鞘の再形成により運動や感覚の回復を支え、ホモシステイン代謝を整えることで再発予防にも寄与します。 リハビリと併用することで、日常生活の質の向上が期待されます。リハビリを行う際は、自己判断ではなく、医師の指導に従い実施しましょう。 脳梗塞に使われるメコバラミンの副作用 メコバラミンの副作用 内容 過敏症反応 発疹やかゆみ、じんましん、顔の紅潮などは薬に対するアレルギー反応で起こり、稀にアナフィラキシーを引き起こすこともあるため注意が必要 消化器症状 稀に食欲不振や吐き気などの消化器症状が現れることがあり、異常を感じた場合は医師に相談 頭痛・めまい 神経の影響で一時的に頭痛やめまいが起こることがあり、症状が続く場合は医師に相談 肝機能異常(稀に起こる症状) 倦怠感や黄疸、吐き気が出た場合は肝機能異常の可能性があるため、長期服用時には定期的な肝機能検査が必要 その他の症状(熱感・全身倦怠感・不眠など) 血流や神経の働きが高まることで、熱感や倦怠感、不眠が出ることがありますが、体質による差があるため、気になる症状が続く場合は医師に相談 メコバラミンは体質や体調によって、かゆみ・発疹・胃の不快感・下痢・頭痛・めまいなどの副作用が現れることがあります。 稀に肝機能の異常や倦怠感、不眠が出ることもあるため、異変を感じた場合は早めに医師に相談してください。 過敏症反応 要因 概要 注意点 体質的なアレルギー反応 ビタミンB12や代謝産物に対する免疫系の過剰反応 アレルギー体質や類似薬の過敏症歴がある場合の事前相談が必要 製剤中の添加物による反応 乳糖・着色料などの添加物によるアレルギー反応 薬剤過敏症の既往がある方への慎重な投与 継続使用による遅発型反応 初回使用で感作され、後の投与で発疹やかゆみなどが出現 継続使用中の症状発現時には早期受診 メコバラミンを使用する際は、過敏症反応に注意が必要です。体質によっては、ビタミンB12や添加物に対する免疫反応で、発疹・かゆみ・蕁麻疹などの皮膚症状が出ることがあります。 重症例では、呼吸困難や顔の腫れなどアナフィラキシー様反応が起こる可能性もあります。 初回だけでなく、継続使用中に突然発症するケースもあるため、服用前にアレルギー歴を医師に伝えることが重要です。服用中に異変を感じた場合は自己判断は避け、速やかに医療機関を受診しましょう。 消化器症状 症状 詳細 食欲不振 胃での吸収過程で胃の動きが変わり、一時的に食欲が落ちることがある 吐き気・嘔吐 胃酸の分泌が増えて胃粘膜が刺激されることで、吐き気や嘔吐が起こることがある 下痢 腸内環境への影響により、消化管の動きが乱れ、一部の方で下痢が生じることがある メコバラミンは末梢神経障害に有効ですが、まれに食欲不振・吐き気・下痢などの消化器症状が現れることがあります。 発症頻度は0.1〜0.5%未満と低く、多くは軽度で一時的とされます。空腹時の服用を避けるなどで軽減する場合もありますが、症状が続く場合は自己判断は避け医師に相談しましょう。 頭痛・めまい 原因 内容 神経機能の調整による影響 神経細胞修復や再生過程での神経伝達バランス変化による一時的な頭痛・めまいの発現 自律神経への影響 自律神経系の調整による血圧・心拍数変動が頭痛やめまいの原因となる場合あり 個人差による反応 体質や併用薬の影響で頭痛やめまいが生じることがあり、過敏体質の方や他の薬を使っている場合は注意が必要 軽度・一時的な場合の対処 経過観察と症状改善の確認 症状持続時の対処 医師の指導を受けて中止も検討 メコバラミンは神経障害の治療に用いられる薬ですが、まれに頭痛やめまいなどの副作用が生じることがあります。頭痛・めまいは神経修復過程での伝達バランスの変化や、自律神経の調整による血圧・心拍数の変動が原因と考えられます。 体質や体調、他の薬との併用によって症状が出やすくなることもあり、とくに高齢者や持病のある方は注意が必要です。 日常生活に支障がある場合や改善が見られない場合は、自己判断で服用を続けず、異変を感じた場合は、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。記録を残すと診療時の判断に役立ちます。 肝機能異常(稀に起こる症状) 原因・注意点 内容 薬物性肝障害の可能性 薬剤の代謝産物が肝細胞に影響を与え、肝機能異常を引き起こすことがある 個人差による代謝の違い 遺伝的要因や体質によって代謝が異なり、肝臓に過度な負担がかかる場合がある 症状の早期発見 倦怠感、食欲不振、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、かゆみなどの症状出現時の速やかな医師相談 定期的な検査 長期服用時の定期的な肝機能検査の推奨 医師との相談 副作用が疑われる場合の自己判断での中止を避け、医師の指示に従う メコバラミンの服用により、まれに肝機能異常が起こることがあります。薬が肝臓で代謝される際、その代謝産物が肝細胞に影響を与える薬物性肝障害が原因となることがあります。 また、体質や遺伝的要因によって薬の代謝能力に差があり、肝臓に過剰な負担がかかる場合があります。初期は無症状のことが多いですが、倦怠感や黄疸、吐き気、かゆみなどの症状が出た場合は早めの受診が必要です。 とくに長期間服用する場合や他の薬と併用する場合には、定期的な血液検査で肝機能を確認することが大切です。副作用が疑われても自己判断で服用を中止せず、医師に相談した上で対処を受けましょう。 その他の症状(熱感・全身倦怠感・不眠など) 症状 主な原因 備考 全身倦怠感 代謝や神経伝達が活発になることで、一時的に疲労感やエネルギーの消耗がみられる 身体が慣れるまでに時間が必要な場合あり 熱感(ほてり) 血流改善によって末梢血管が拡張し、体質によっては感覚の違いを生じることがある 顔や手足にほてりを感じやすい 不眠 神経が興奮しやすくなり、就寝前の服用で眠れなくなることがある 個人差により感じ方が異なる メコバラミンは、まれに熱感(ほてり)、全身倦怠感、不眠などの副作用が現れることがあります。熱感は血流改善による末梢血管の拡張、倦怠感は代謝や神経活動の一時的な活性化、不眠は神経の興奮が原因と考えられます。 これらは体が薬に慣れる過程で一時的に現れることもありますが、症状が続く場合や生活に支障がある場合は、自己判断で服用を中止せず、医療機関への受診が必要です。 脳梗塞後に用いられるメコバラミン以外の治療法 治療法 内容 抗血小板薬・抗凝固薬 脳梗塞の再発を防ぐ薬剤で、タイプに応じて使い分ける。副作用に注意しながら慎重に管理 リハビリテーション 症状に応じて理学療法、作業療法、言語療法、認知訓練などを早期に組み合わせて行う 栄養療法 神経や筋肉の回復に必要なビタミンB群やたんぱく質などの栄養を補うことで、筋力の維持や免疫力の向上、感染症の予防につながる 再生医療 幹細胞治療などで損傷した脳組織の再生や神経機能の回復を目指す治療法。リハビリと組み合わせることで後遺症改善や日常生活復帰の可能性が広がる 脳梗塞後の回復には、メコバラミンに加え、抗血小板薬・抗凝固薬による再発予防、リハビリによる機能回復、栄養療法による体力や神経機能の維持などが重要です。治療は段階に応じて選択されるため、医師と相談しながら実施しましょう。 抗血小板薬・抗凝固薬 脳梗塞の再発を防ぐには、血液が固まりにくい状態を保つことが大切です。非心原性脳梗塞では、血小板の働きを抑える抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレル・シロスタゾールなど)が使われます。 薬によっては胃の不調や頭痛、肝機能への影響などの副作用があるため注意が必要です。一方、心房細動などが原因の心原性脳塞栓症では、血液を固まりにくくする抗凝固薬(ワルファリンやDOAC)が用いられます。出血のリスクがあるため、定期的な検査と医師の指導のもとで服用を続けることが不可欠です。 リハビリテーション リハビリの種類 目的・内容 期待される効果 理学療法 筋力強化、関節の可動域改善、歩行訓練など 反復運動で脳の再学習を促し、歩行や立ち上がりなどの基本動作の回復を支援 作業療法 着替え、食事、入浴などの日常動作(ADL)の訓練、手先の機能訓練 日常生活に合わせた個別の訓練で、自立と機能回復を目指す 言語療法 発話・言語の回復、嚥下機能の訓練 言語や嚥下の機能を改善し、会話や食事のしやすさを高めていく 認知機能訓練 記憶力、注意力、判断力の訓練 認知機能を活性化し、高次脳機能の回復と生活の質の向上を支援 リハビリ全体の方針 できるだけ早期に開始し、継続が重要 合併症(筋萎縮・関節拘縮)の予防、日常生活への早期復帰、脳の機能再編成の促進 脳梗塞後のリハビリテーションは、失われた機能の回復や再発予防において重要な役割を果たします。損傷を受けた脳の代わりに、他の神経が代償機能を担う脳の可塑性を活かすためには、早期からのリハビリが効果的です。 リハビリでは、筋力や歩行の訓練、着替えや食事などの日常動作の練習、会話や飲み込みの機能回復を行います。症状に合わせたプログラムを続けることで、生活の質を向上させることが期待できます。リハビリは医師と連携し、長期的に取り組む姿勢が大切です。 以下の記事では脳梗塞後のリハビリについて詳しく解説しています。 栄養療法 有効である理由 解説 神経機能の回復を支援する栄養素の補給 ビタミンB群(B1・B6・B12)を含む豚肉や魚、卵、乳製品、緑黄色野菜などを摂ることで、神経の修復や再生を助ける 筋力維持とサルコペニア予防 十分なエネルギーとたんぱく質(肉、魚、大豆製品、卵など)の摂取による筋肉量維持とリハビリ効果の向上 免疫機能の強化と感染症予防 適切な栄養状態による免疫力維持と誤嚥性肺炎など感染症リスクの低減。ビタミンC、亜鉛、良質なたんぱく質の摂取 リハビリテーションの効果を最大化 良好な栄養状態による運動・訓練効果の向上と日常生活動作(ADL)改善。栄養不良時のリハビリ効果の低下防止 脳梗塞後の回復を支える上で、栄養療法は欠かせない要素のひとつです。神経や筋肉の再生にはたんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素が重要であり、ビタミンB群やオメガ3脂肪酸、抗酸化成分の摂取が注目されています。 脳梗塞の再発を防ぐためには、食生活を見直し、高血圧や糖尿病などの病気をコントロールすることが大切です。栄養療法は一時的なものではなく、生活習慣として継続し、医師の指導のもとで行いましょう。 以下の記事では、脳梗塞の予防・再発防止に食べてはいけないものを詳しく解説しています。 再生医療 有効である理由 内容 損傷した脳組織の再生促進 幹細胞投与による神経細胞や血管細胞への分化促進と脳組織の再生 神経機能の回復と後遺症の改善 幹細胞による炎症抑制と神経保護作用、麻痺や感覚障害・言語障害など後遺症の改善 リハビリテーションとの相乗効果 幹細胞治療とリハビリ併用による神経回路再構築と機能回復促進、日常生活復帰の早期化 再生医療は、傷ついた神経を修復し、脳梗塞後の後遺症を改善するための新しい治療法です。幹細胞を使って神経の働きを回復させ、歩きにくさや麻痺、しびれなどの症状を軽くすることが期待されます。 ただし、すべての方に受けられるわけではなく、年齢や身体の状態、発症からの期間などによって判断されます。治療を受けられる医療機関は限られているため、事前に確認し、医師から十分な説明を受けた上での検討が大切です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 メコバラミンで改善しない脳梗塞の後遺症にお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ メコバラミンは脳梗塞の後遺症に有効な治療薬ですが、過敏症反応や頭痛・めまいなどといった副作用が起こる可能性があります。メコバラミンを服用してもしびれや麻痺といった神経症状が十分に改善しない場合、再生医療も選択肢のひとつです。 再生医療は、幹細胞などを活用して損傷した神経を再構築し、機能回復を目指す治療法です。当院「リペアセルクリニック」では、メコバラミンで改善しない脳梗塞の後遺症に対して再生医療(幹細胞治療)を提供しています。 脳梗塞の後遺症に関するお悩みは当院「リペアセルクリニック」にご相談いただけますと幸いです。ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。 脳梗塞に使われるメコバラミンのよくある質問 メコバラミン(メチコバール)における飲み合わせの禁忌はありますか? メコバラミンを服用する際は、一部の薬やサプリメントとの併用に注意が必要です。葉酸製剤や高用量のビタミンCは、ビタミンB12の吸収や代謝に影響を与える可能性があります。 また、抗がん剤や抗てんかん薬の一部でも相互作用が生じることがあります。現在服用中の薬や市販薬、サプリメントがある場合は、自己判断せず、医師や薬剤師に相談してください。 メコバラミン(メチコバール)の服用で血圧上昇しますか? メコバラミンによって血圧が直接上昇する報告は多くありませんが、体質や服用状況によっては一時的に自律神経が変動し、血圧に影響を与える可能性があります。 気になる症状がある場合は、血圧を定期的に測定し、変化が大きいようであれば医師に相談してください。 メコバラミンの服用で効果が出るまでの期間は? メコバラミンは即効性のある薬ではなく、効果が現れるまでに時間がかかります。一般的には、継続して服用することで、数週間から数か月かけて徐々に神経症状の改善が見られることが多いとされています。 とくに、しびれや麻痺などの神経障害は回復に時間がかかるため、途中で判断せず、根気強く治療を続けることが大切です。ただし、まったく改善が見られない場合や症状が悪化する場合には、早めに医師へ相談してください。
2025.06.29 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
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「突然、片側の手足に力が入らなくなった」 「最近呂律が回らず、うまく話せなくなった」 それらの症状は、心原性脳梗塞の可能性があります。心原性脳梗塞は、心臓内で生じた血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせることで発症します。本記事では、心原性脳梗塞について詳しく解説していきます。 心原性脳梗塞の症状 心原性脳梗塞の原因 心原性脳梗塞の治療法 異変を感じた段階で、早期に適切な治療を受けることが大切です。本記事の最後には、心原性脳梗塞に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 心原性脳梗塞の症状 症状 主な症状 特徴・解説 顔面麻痺・手足の痺れ 顔の片側が動かしにくい、手足の力が入らない、感覚が鈍い 片側に出やすく、日常生活への影響が大きい 構音障害 話しにくさ、言葉が出ない、相手の話が理解できない 言語機能の障害によるコミュニケーションの困難 視覚障害 視野が狭くなる、物が二重に見える、片目の視力が低下する 突然の視覚異常による事故や転倒の危険 高次機能障害 記憶力や判断力の低下、注意力の散漫、感情の不安定さ 脳の機能低下による日常動作や思考の変化 心原性脳梗塞は突然発症するケースが多く、本人や周囲が初期症状に気づきにくいこともあります。顔の片側が動かなくなる、手足の痺れ、言葉が出にくい、視界の異常などの症状が現れます。 心原性脳梗塞は、発見が遅れると後遺症のリスクが高まるため、異変を感じた段階で早めに医療機関を受診するのが大切です。 以下の記事では、脳梗塞の症状の対策について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 脳卒中と脳梗塞の違いは?前兆の症状や後遺症をわかりやすく解説 顔面麻痺・手足の痺れ 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、感覚を司る領域への血流が遮断される 障害部位 大脳半球の感覚野(頭頂葉) 痺れの仕組み 神経細胞が酸素不足になり、感覚の信号が伝わらなくなる 出方の特徴 顔・手・足の片側に痺れが出る(障害された脳の反対側に症状が現れる) 麻痺との関係 感覚野と運動野が近く、痺れと麻痺が同時に出ることが多い 重症化しやすい理由 心原性の血栓は大きく、広い範囲で痺れが強く出やすい よく詰まる血管 中大脳動脈(MCA) 脳の一部に血流障害が起こると、身体の左右どちらかに麻痺や痺れが現れるケースがあります。とくに顔の片側がゆがんだり、腕や脚に力が入らないといった症状は、心原性脳梗塞を疑うべきサインです。 顔面麻痺や手足の痺れは前兆なく突然起こることも多く、日常動作に支障をきたすため、早期の診断と対応が必要です。 構音障害 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、言語や発声に関わる部位が障害される 障害される部位 ブローカ野、運動野(顔面領域)、延髄などの脳幹 症状の内容 発音が不明瞭になる、声が出しづらい、言葉が滑らかに出ない 失語症との違い 構音障害は発音の仕方に問題があるのに対し、失語症は言葉の意味を理解したり表現したりする能力に障害が出る状態 構音障害と失語症が併発する可能性 構音障害と失語症が同時に起こるケースもある よくある日常のサイン ろれつが回らない、電話で何を言っているか聞き返される、言葉がつっかえる 構音障害とは、言葉を発する際にうまく発音できない状態です。舌や唇、口の動きがうまくいかず、音を正確に発音できなくなります。 心原性脳梗塞では、このような話しづらさは発症直後に現れることが多く、本人や周囲も異変に気づきやすいのが特徴です。発音に違和感を覚えたり、ろれつが回っていないと指摘されたりした場合は、ためらわず早めに医療機関を受診しましょう。 視覚障害 項目 内容 原因 心臓から飛んだ血栓が、視覚をつかさどる脳の血管を詰まらせる 障害される部位 後頭葉や視神経を支配する動脈(例:後大脳動脈) 代表的な症状 両目の片側の視野が見えない(同名半盲) 一時的な視力障害 数秒~数分間、片目が真っ暗になる感覚(過性黒内障) 物が二重に見える症状 脳幹や小脳が障害されることで起こる複視 空間感覚の異常 距離感がつかみにくくなり、物との位置関係がわかりにくくなる 心原性脳梗塞で視覚をつかさどる脳の部位が障害されると、視野が欠ける、物が二重に見えるなどの異常が突然現れることがあります。 本人が気づかないケースもありますが、まばたきや目の動きに違和感が出ることがあります。視野が狭まるなどの異常が続く場合は、脳の異常も考え、早めに医療機関を受診しましょう。 脳の高次機能障害 主な症状 特徴 記憶障害 新しい情報が覚えられない、過去の記憶を思い出しにくい状態 注意障害 集中力の低下、注意の持続が難しい、気が散りやすい状態 遂行機能障害 計画や段取りの困難、手順通りに行動できない状態 言語障害(失語症) 言葉が出ない、話す・聞く・読む・書くことの困難 社会的行動障害 感情のコントロールの難しさ、衝動的・不適切な行動 心原性脳梗塞では、心臓から流れた血栓が脳の太い血管を塞ぎ、広い範囲の脳組織がダメージを受けることがあります。とくに中大脳動脈が詰まると、記憶や判断、注意、言語、感情などをつかさどる領域が障害され、高次脳機能障害が現れることがあります。 物忘れや段取りの悪さといった症状は、加齢と勘違いされやすいため、見逃されやすいのが特徴です。認知機能の低下に気づいた際には、脳梗塞の可能性も考え、早急に医療機関を受診しましょう。 心原性脳梗塞の原因 原因 内容 心房細動 心臓が不規則に動き、血栓ができやすくなる不整脈 心臓弁膜症 弁の異常により血液の流れが乱れ、血栓ができやすくなる状態 心筋梗塞 心筋の壊死によって心臓の機能が低下し、血栓が発生しやすくなる状態 拡張型心筋症 心臓の筋肉が弱まり、血液が滞って血栓ができやすくなる病気 卵円孔開存 心房の間に残った穴を通して、血栓が脳に流れ込む状態 感染性心内膜炎 心内膜や弁にできた感染性の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせる状態 心原性脳梗塞は、心臓で生じた血栓が血流に乗って脳へ到達し、血管を詰まらせることで発症します。発症の背景には、心房細動や心筋梗塞、心臓弁膜症など、心臓の機能に関わる病気が関係しているケースが多く見られます。 とくに心臓に不整脈や異常を指摘されたことがある方は、脳梗塞のリスクが高まるため注意が必要です。 以下の記事では、脳梗塞になりやすい人の特徴をわかりやすく解説しています。 心房細動・弁膜症 項目 心房細動が原因となる理由 弁膜症が原因となる理由 主な特徴 心房が細かく震える不整脈 心臓の弁が狭くなる・閉じにくくなる病気 血液の流れへの影響 心房の収縮が弱くなり、血液が滞りやすくなる 弁の異常で血液の流れが乱れ、特定部位で血液がよどみやすくなる 血栓ができやすい理由 滞留した血液が固まり、心房内に血栓ができやすくなる 血流の乱れと心房の拡大が血栓形成を促進 とくに血栓ができやすい部位 左心耳(左心房の袋状の部分) 拡大した心房内や人工弁の周辺 脳梗塞が起きる仕組み 心房内の血栓が全身へ流れ、脳の血管を詰まらせる 弁膜症により生じた血栓が血流に乗って脳へ運ばれ、血管を詰まらせる 弁膜症との関連 弁膜症が原因で心房細動を引き起こすこともある 心房細動を合併することで、さらに脳梗塞リスクが高まる 治療や注意点 抗凝固薬の服用が必要になることが多い 人工弁使用時は生涯にわたる抗凝固療法が必要 心房細動は心臓が不規則に動く不整脈で、心房内に血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こします。 高齢者に多い心房細動や弁膜症は自覚しにくく、いずれも脳梗塞のリスクが高いため、心電図や心エコーなどによる定期検査と、循環器内科での継続的な管理が欠かせません。 心筋梗塞・拡張型心筋症 項目 心筋梗塞が原因となる理由 拡張型心筋症が原因となる理由 主な特徴 冠動脈の詰まりによる心筋の壊死 心室の拡大と収縮力の低下 ポンプ機能への影響 心室の動きが悪くなり、血液が滞りやすくなる 心臓の収縮力が弱まり、血液が心室内に滞留しやすくなる 血栓ができやすい部位 壊死した心筋や心室瘤の部分に血液が淀みやすく、血栓が形成されやすい 拡張した心室内で血液がよどみ、血栓ができやすくなる 合併の多い不整脈 心房細動を伴うことがあり、さらに血栓リスクが上昇 心不全や不整脈を伴うことが多く、血栓形成の危険性が高い 脳梗塞が起きる仕組み 心室内の血栓が全身に流れ、脳の血管を詰まらせる 心臓内でできた血栓が脳に流れ込み、血管を詰まらせる 心筋梗塞や拡張型心筋症は、心臓の収縮力が低下し、血液が滞ることで血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こす原因になります。 これらの心疾患は見逃されやすいため、心電図や心エコーなどの検査で異常を早期に見つけ、速やかな対処が大切です。心臓病のある方は、心原性脳梗塞など脳の異常にも注意が必要です。 卵円孔開存 卵円孔開存(PFO)は、胎児期に心房をつないでいた通路が出生後も閉じずに残っている状態です。多くは無症状ですが、まれに静脈の血栓がこの穴を通って脳に流れ、脳梗塞を引き起こすことがあります。 「奇異性脳塞栓症」と呼ばれており、とくに若年者で原因不明の脳梗塞が起きた場合、卵円孔開存(PFO)が関係している可能性があるため、心臓の検査が重要です。再発リスクが高い場合は、経過観察やカテーテルによる閉鎖術が検討されます。 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内膜や弁に細菌が感染する病気です。細菌の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせ、心原性脳梗塞を引き起こすケースがあります。 人工弁や先天性心疾患がある方はリスクが高く、歯科治療や手術がきっかけになる場合もあるのが特徴です。発熱、倦怠感、心雑音が続く場合は早めに医療機関を受診する必要があります。 また、診断には血液検査や心エコー(とくに経食道エコー)が有効で、治療は抗菌薬が中心です。重症例では手術が必要になることもあります。 心原性脳梗塞の治療法 治療法の種類 内容 t-PA静注療法・血管内治療 発症早期に行う血栓溶解薬の投与やカテーテルによる血栓除去 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 血液を固まりにくくし、再発を防ぐための内服治療 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 心房細動や弁膜症などの心疾患に対する薬物治療や手術 リハビリテーション 麻痺や言語障害の回復を目指す理学療法・作業療法・言語療法 再生医療 神経機能の回復を目指した新しい治療法の研究・臨床応用 心原性脳梗塞の治療は、発症直後の血栓除去と再発予防を目的に行われます。 急性期にはt-PAや血管内治療を行い、以降は抗凝固薬で血栓の再発を防ぎます。脳の障害に応じたリハビリも不可欠です。脳と心臓の両面から総合的に治療を進めていきます。 以下の記事では、脳梗塞は治るのかについて詳しく解説しています。 t-PA静注療法・血管内治療 項目 t-PA静注療法 血管内治療 治療内容 血栓を溶かす薬(t-PA)を静脈から投与して血管の再開通を図る カテーテルを使って血栓を直接回収または吸引し、血流を再開させる 主な作用機序 プラスミノーゲンを活性化し、プラスミンが血栓を分解 機械的に血栓を取り除く(ステントリトリーバー・吸引カテーテルなど) 対象となる血栓 比較的小さめの血栓に有効 太く大きな血栓やt-PAが効きにくい血栓に有効 適応されるタイミング 発症から4.5時間以内が目安 発症から6時間以内(条件次第で24時間程度まで適応されることも) 心原性脳梗塞との相性 心臓由来の血栓が溶解できるケースでは有効 心臓由来の大きな血栓を直接除去できるため、心原性脳梗塞に適応しやすい 使用される場面 比較的早期で症状が中等度までの患者に多く使用 血栓が大きい、症状が重い、t-PA単独で効果が不十分な場合に使用 他の治療との併用の可能性 血管内治療と併用するケースあり 必要に応じて局所的にt-PAを併用も可能 治療の目的 脳への血流を早期に再開し、後遺症を軽減 血栓を確実に取り除き、血流を回復し重症化を防ぐ t-PA静注療法は、血栓を溶かす薬剤(アルテプラーゼ)を点滴で投与し、閉塞した脳の血管を再開通させる治療です。発症から4.5時間以内の投与が目安であり、早期の対応が必要となります。(文献1) 血栓が大きい場合は、カテーテルで直接取り除く血管内治療が有効です。これらの治療は脳のダメージを抑えるために行われ、時間と症状の判断が回復を左右します。少しでも異変を感じた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 種類 薬剤 特徴 ワルファリン ワルファリン ビタミンKの働きを抑えて血液を固まりにくくする薬剤。効果の安定には定期的な血液検査(PT-INR)が必要。食事や他の薬との相互作用に注意が必要 直接経口抗凝固薬(DOAC) ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン 凝固因子を直接阻害する新しいタイプの薬剤。定期的な血液検査が原則不要。食事や薬の影響を受けにくく、服用の手軽さが特徴 心原性脳梗塞は、心臓内でできた血栓が血流に乗って脳の血管を塞ぐことで発症します。とくに心房細動などの不整脈があると、心房内に血液が滞り、血栓ができやすくなるのが特徴です。 抗凝固薬は血液の固まりにくさを保つことで、こうした血栓の形成を防ぎ、脳梗塞の発症リスクを約3分の1に減らす効果があると報告されています。(文献2) 抗凝固薬には、ワルファリンと、近年使用が増えているDOAC(直接経口抗凝固薬)があります。DOACは定期的な血液検査が不要で、食事や他の薬の影響を受けにくく、一定の用量で効果が安定しているのが特徴です。このため、服薬の負担が少なく、継続しやすい薬とされています。 ただし、抗凝固薬は中断すると効果がなくなり、再発リスクが高まります。症状が落ち着いても自己判断で中止せず、医師の指示に従って服用を続けることが不可欠です。出血のリスクもあるため、異変を感じたら早急に医師へ相談しましょう。 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 項目 内容 血栓形成の予防 心房細動を適切に管理すると心房内の血流が改善され、血栓の形成を防ぐ効果がある 抗凝固療法の適用 リスク評価(例:CHADS₂スコア)に基づき、ワルファリンやDOACを使用して血栓を予防する 心房細動の根治 カテーテルアブレーションにより、異常な電気信号の発生源を焼灼し、心房細動そのものを治療する 抗不整脈薬の使用 心房細動の発作を抑える薬剤により、発作の頻度や持続を減らす 脳梗塞の再発予防 血栓の原因となる心房細動を抑えることで、心原性脳梗塞の再発リスクを大きく減らせる 心原性脳梗塞の予防や再発防止には、血栓をつくらせないための抗凝固療法だけでなく、根本原因となる心疾患の管理が不可欠です。 心房細動がある場合は、心拍を安定させる薬による治療が基本となり、症状が強い場合は、カテーテルアブレーションといった手術も検討されます。 心筋梗塞や弁膜症が原因であるときは、それぞれに合った専門的な治療が必要です。心臓と脳は深く関わっているため、心臓の病気をしっかり管理することが、脳梗塞の再発を防ぐポイントになります。 リハビリテーション リハビリの種類 対応する症状・目的 内容 理学療法(PT) 手足の麻痺や筋力低下などの運動機能障害 筋力や関節の動きを改善し、寝返り・立ち上がり・歩行など基本動作の回復を目指す訓練 作業療法(OT) 着替えや入浴などの日常生活動作や、記憶・注意力といった高次脳機能の障害 食事や更衣などの日常動作の訓練や、認知リハビリテーションを通じた生活機能の向上 言語療法(ST) 話す・理解する・飲み込むなどの言語障害・嚥下障害 発音・言語理解・読み書きなどの回復訓練により、コミュニケーション能力の改善を図る 心理・社会的支援 病気による不安・うつ・家族の精神的負担 心理士・ソーシャルワーカーによる心理サポートや、社会資源の活用支援 早期リハビリ介入 発症直後からのリハビリ開始による後遺症の軽減と回復促進 急性期からリハビリを始めることで、機能回復と社会復帰の可能性を高める包括的支援 心原性脳梗塞によって生じた後遺症を改善するには、発症後できるだけ早期にリハビリを開始するのが大切です。 手足の麻痺や言語障害、高次機能障害など、それぞれの症状に応じて、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)などを組み合わせて実施します。 リハビリは、脳の回復力が高い早期に始めることで効果が期待できます。再発を防ぎ、日常生活への復帰を目指すことが主な目的です。 再生医療 心原性脳梗塞による神経のダメージに対して、再生医療は有効な治療法のひとつとされています。 自分の身体から採取した幹細胞を使い、損傷を受けた脳の神経細胞の回復を促すことが目的です。治療を希望する場合は、再生医療を扱う医療機関で医師と十分に相談し、適切な判断のもとで進めていくことが大切です。 以下の記事ではリペアセルクリニックで取り扱っている再生医療についてわかりやすく解説しております。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞に対して手術を必要としない再生医療を提案しています。 心原性脳梗塞の症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状を理解し適切な治療で回復を目指そう 心原性脳梗塞は、突然の麻痺や言語障害など、日常生活に大きな支障をもたらす病気です。症状を正しく理解し、早期に治療を受けることで後遺症の軽減や再発予防が期待できます。 手足の突然の麻痺や、ろれつが回らないといった症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞による症状や後遺症に対し、従来のリハビリや治療に加えて、幹細胞を用いた再生医療もひとつの選択肢としてご案内しています。患者様の状態やご希望に応じて、医師と相談の上で治療方法を検討していただけます。 心原性脳梗塞の症状にお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状に関するよくある質問 心原性脳梗塞の予兆としてどのようなものがありますか? 心原性脳梗塞は突然起こることが多いですが、前ぶれとして一過性脳虚血発作(TIA)が現れることがあります。顔や手足の痺れ、言葉のもつれ、一時的な視力障害などが特徴です。 見逃さないためには、FASTチェックが有効です。 F=顔のゆがみ A=両腕が上がるか S=言葉の異常 T=時間が勝負 1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼びましょう。 心原性脳梗塞は再発しますか? 心原性脳梗塞は再発のリスクが高く、心房細動の持続や自己判断による抗凝固薬の中断、生活習慣病の悪化が影響します。 再発を防ぐには、正しい薬の継続服用、定期検査、食事や運動など生活習慣の見直しが大切です。 以下の記事では脳梗塞の予防や再発防止について詳しく解説しています。 心原性脳梗塞の症状に対して家族ができるサポートはありますか? 心原性脳梗塞では、家族のサポートが回復と再発予防において大切です。 異変への早期対応、治療や服薬の支援、リハビリや生活習慣の見直しを共に行うことが求められます。また、不安や抑うつへの心のケアも大切です。 参考資料 (文献1) Patel T. (2009). Should the Window for Intravenous Administration of Tissue Plasminogen Activator in the Treatment of Acute Ischemic Stroke be Extended to 4.5 Hours? The “PRO” Side. Can J Hosp Pharm, 62(3), pp.248–249. https://doi.org/10.4212/cjhp.v62i3.798(最終アクセス:2025年6月6日) (文献2) 平野照之.「日本血栓止血学会サイト お役立ちリンク集」『血戦止血誌』, pp.1-11, 2017年 https://www.jsth.org/publications/pdf/oyakudachi/6-3.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日)
2025.05.30