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頸椎椎間板ヘルニアの症状と手術後の「しびれ」という後遺症について 頸椎椎間板ヘルニアとは 腰の椎間板ヘルニアは腰痛の原因として有名ですが、首の痛みには「頸椎椎間板ヘルニア」といわれるものがあります。 背骨(脊椎)のうち、首の部分を頸椎と言い、7つの骨からなります。この骨と骨とをつなぐクッションの役割をしている軟骨、座布団のような役割をしているものが「椎間板」といいます。 脊椎の中は脊髄が中心を走り、そこから手足への重要な神経の枝がたくさん出ています。 この椎間板が動くことで首を曲げたり、回すなどの動作ができる訳です。しかし、椎間板に何らかの衝撃が加わるなどすると中にある髄核と言われる組織が本来あるべき位置から外に飛び出してうことを椎間板ヘルニアと呼びます。 一般的に椎間板ヘルニアは、体の後ろ、背中側に向けて飛びだします。 困ったことに飛び出した先にあるのが脊髄という神経の束になり、本来の位置から飛び出してた髄核が脊髄を抑え込んで(圧迫して)しまうことになり、痛みや、しびれなどの症状となるわけです。 首に起こる痛みの原因は大きく二つ ・「筋肉や関節からくる肩こりや、寝違えの痛み」 ・「神経の痛みとして多いのが頸椎椎間板ヘルニア」 頚椎椎間板ヘルニアの原因 頚椎椎間板ヘルニアは、30~50歳代によく見られますので加齢だけが原因とはいえません。 「むち打ち症」などの交通事故がきっかけだったり、高所での作業中に落ちたり、鉄棒から落ちるなど、交通外傷、転落による外傷が原因となって脊髄を損傷し、ヘルニアになる事例があります。 また若い世代ではスポーツで首に負荷がかかる姿勢をとったり、普段あまり使っていない筋肉を鍛えようと運動を急にした時に、突然手足がしびれて力が入りにくくなった、という方もおられます。 頸椎椎間板ヘルニアの診断方法 患者さんの痛み・痺れがどこ領域に出ているか、それらがいつからあるかなどを診察します。 次にMRI検査を行い、ヘルニアがどこで起こっているか、神経の圧迫されている場所を確認します。 MRIは磁場で撮影しますので、CTと違って被曝の心配はありませんが、1時間程度かかる検査ですので、その間は安静を保つ必要があります。また、体内の金属が磁場に反応して発熱しますので、刺青があると火傷する可能性があるので、できません。 また、ステントや人工骨頭などの金属が入っている方は事前の確認が必要です。 頸椎椎間板ヘルニアの治療方法とは 頸椎椎間板ヘルニアにより神経の機能が障害されますので、頸椎椎間板ヘルニアの治療は、脊髄、神経を圧迫している椎間板部分を除去することが基本です。頸椎がぐらぐらして不安定な場合は、神経を圧迫しないよう椎骨を固定することも検討します。 ただ、障害されていた期間が長いほど、また年齢が上がるほど、神経機能が回復する可能性が下がります。そのため、治療の目的は神経を障害するものを除去し、本来の機能を回復する手助けをすること、と言えます。 神経の痛みは手術後に軽減しますが、しびれは改善しにくいことが多いです。また症状が残る人の方が多いようです。 頸椎椎間板ヘルニアの手術後の後遺症である「しびれ」について 体の中の組織のうち、神経組織は回復に最も時間がかかります。 たとえば、皮膚は縫合すれば1~2週間程度でくっつきますし、骨折はギブスをあてがったり、金属プレートで骨どうしを固定することにより、およそ3~4か月程度でくっつきます。 しかし、神経組織の回復は、それよりもさらに時間がかかります。月単位でゆっくりと回復を見せ、手術後1年くらいまでは、何らかの改善がみられます。 さらに、手術前に神経がどのくらいのダメージを受けていたか、という問題もあります。 「交通事故の後遺症で・・・」という話を聞くこともあります。椎間板ヘルニアにも除去して回復できるダメージと、回復できないダメージがあります。 これはヘルニアを除去する前では経験に基づいた話はできますが、正確な予測がしにくい部分であり、手術をしてみないとわかりません。 頸椎椎間板ヘルニアの手術後の「しびれ」は、手術自体が神経そのものを治療するものではなく、圧迫状態にあった神経を圧迫から解放することが目的となるため、長期期間、圧迫状態にあった神経が変化、変性している可能性があり、手術で圧迫を取り除いたとしても神経の障害が治らず残ってしまうために「しびれ」が残ることがあります。 手術は慎重に 首は体の中でも非常に大切な部位です。治療にあたっては専門医を受診しましょう。 そして、大切なのは、自分の状態がどのような重症度なのか、そして検討されている手術により、どれくらい回復が見込まれ、手術そのものの危険性はどれくらいあるのか、ということを主治医からしっかり聞いて、納得してから手術を受けようにしてください。 わからない点や疑問点については主治医に尋ねて、しっかり理解するようにしましょう。 どの診療科に行けばいいのか 首や肩まわりなどの筋肉・関節の痛みというと、整形外科を想像される方が多いかと思います。 ここ20~30年くらいで、日本でも繊細な手術を得意とする「脳神経外科医」が頸椎椎間板ヘルニア手術を行うようになってきました。 「脊髄外科学会」という脊椎や脊髄の手術を扱う医師の学会では、脳神経外科専門医でかつ脊髄外科を専門とする医師が多くおられます。 また最近では整形外科医も顕微鏡を使って血管吻合など繊細な手術を行うようになりました。そのため、脊椎や脊髄の手術は、脳神経外科と整形外科のどちらでも高度なレベルで行われるようになってきました。 脊椎や脊髄の手術に力を入れている専門医がいる病院であれば、脳神経外科と整形外科、どちらでも安心して受診してください。 その他、新しい治療方法として再生医療とういう医療分野での治療方法もあります。これはここで書いたような従来の診療科目とはまったく異なる新たな選択肢になります。 そのため、整形外科や脳神経外科(脊髄外来)では対応できません。通常の医師では再生医療に対する知見がまだまだ乏しいのが本当のところだからです。この分野は、確かな経験と実績を持った再生医療専門医がいるクリニックや医院を探してお尋ねください。 以上、頸椎椎間板ヘルニアの症状と手術後の後遺症「しびれ」についてについて記しました。参考になれば幸いです No.S025 監修:医師 加藤 秀一
2022.07.23 -
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頸椎椎間板ヘルニア!やってはいけないこと 頸椎椎間板ヘルニアを始めとする頸椎疾患は日常診療のなかでも多い病気のひとつとされています。 頸椎疾患自体は、30~50歳代前後の中年層に患者数が多く、時には訳もなく発症するケースもあるものの、その多くは普段の生活の中で悪い姿勢で作業をする、あるいは首に負担のかかりやすいスポーツや運動といったものが主たる原因になっているようです。 頭の重さは、5~6Kgと言われ、要はボーリングの球が首に乗っているようなイメージで考えて頂くといかに首に負担が掛かかイメージ頂けるのではないでしょうか。つまり、普段の生活の中、大きな衝撃が無い場合でもほんの数センチ頭が傾くだけでも大きな負担が首に掛かってしまうのです。 そこで「頸椎椎間板ヘルニア」は、どのような病気なのか、そして、頸椎椎間板ヘルニアを患った人が日常生活において「やってはいけないこと」について解説してまいります。 ・比較的多い疾患 ・30~50歳代前後の中年層に患者数が多い ・首に負担のかかりやすいスポーツや運動 ・突然、わけもなく発症するケース 頸椎椎間板ヘルニアについて 首の骨は「頚椎」と呼ばれ、7つの骨で構成されています。 脊椎領域において、骨と骨の間に「椎間板」と呼ばれるクッションの役割を担っている軟骨が存在しています。いわゆる頸椎椎間板ヘルニアという疾患はその椎間板の一部が本来の正常な位置からずれて後方、背中側に向けて突出してしまう病気をいいます。 特に、頭側に位置する上位頸椎椎間板ヘルニアが発生する原因としては、加齢に伴って、下位頚椎の変形などによって上位頚椎に負荷がかかることで引き起こされると言われています。 本疾患は、若年者から中年層にかけて幅広く発症し、多くは悪い姿勢でデスクワークをする。 あるいは頚部に重い負担や、大きな衝撃がかかる可能性があるラグビーや、アメフト、柔道、レスリング、その他格闘技のほか、スキー、スノーボードなどのウインタースポーツが原因となることもあります。 頸椎椎間板ヘルニアの症状としては、首や肩、そして腕にかけて比較的広範囲に痛みや、しびれが現われたり、食事中に箸が持ちにくくなったり着衣時にボタンがかけづらくなる。 そして歩行時に足がもつれるなどのサインが表れたりします。 実際に、医療機関などで頸椎椎間板ヘルニアの患者さんを診療する際は、手足の感覚や筋力が通常より低下していないか、あるいは四肢の腱反射異常などを観察したうえで、MRI検査(核磁気共鳴装置)で画像を確認し、脊髄の圧迫状態を確認します。 頸部の痛みや、神経領域のしびれ症状が強い例では、頸部の安静保持を心掛けると同時に鎮痛消炎剤の服用、外用薬貼付、そしてひどい場合には、神経ブロックなどを行うことで疼痛を緩和させる治療を行います。 また、これらの保存的な治療策で顕著な症状改善を認めず、手や足の筋力低下が持続して悪化するケース、或いはスムーズに歩けないなどの歩行障害や尿失禁を始めとする排尿障害を合併する場合には根治的な手術治療を検討することも往々にしてあります。 本疾患の原因 ・若年~中年層にかけて幅広く発症(加齢) ・悪い姿勢でのデスクワーク ・頸部に重い負担が掛かる動作(重量のある荷物を持ち上げる) ・頸部に大きな衝撃(ラグビー、柔道、レスリング、格闘技、体操、スキー、スノーボード、転倒、他) 頸椎椎間板ヘルニアのリスク、注意したいこと 前項で触れた通り、頸椎椎間板ヘルニアという病気は、スポーツなどが契機となって発症しやすいと考えられているため、頸部のしびれや痛みなどの症状がみられる場合には、これらスポーツや、運動を一旦中止し、医療機関を受診することを検討しなければなりません。 スポーツに注意しましょう 例えば、アメリカンフットボールやラグビー、格闘技系など激しいコンタクトを要求されるスポーツ選手は特に注意が必要です。 また、体に対して急激で強い外力が頻繁に加わる動作を特徴とする体操選手など、長時間同じような動作を反復することも頚椎椎間板ヘルニアを発症するリスクになります。 注意頂きたいのは、現れた症状が比較的、軽度な場合に「この程度なら…」との自己判断で放置し、そのスポーツや生活を治療することなく続けることです。 そうなると当然ながら症状を悪化させることに繋がります。自然に良くなることはありません。首に痛みを感じたら早めに診察を受け、適切な指導を受けるべきです。 姿勢に注意しましょう 頸椎椎間板ヘルニアを引き起こしやすい例としては、日常的な姿勢の悪さが挙げられます。代表例としては、「そり腰」や腹部に体幹を支える力が入っていない状態の「猫背」が挙げられます。 頸椎椎間板ヘルニアの発症を防止する意味でも、或いは発症後に症状を悪化させないためにも日常生活において背筋を伸ばすなど「正しい姿勢を意識する」ことが大切です。 ・反り腰や猫背にならないように心がけましょう。 確認方法 大きな鏡の前で自身の姿勢を確認したり、壁を後ろに直立し、かかとを壁に付けて自然に立った場合、お尻や肩、頭は壁に軽くでも壁についているか、背中には手のひら1枚分程度の隙間があるか確認しましょう。 ・お尻、肩、頭が壁につかない部分があると姿勢が良くない証拠です ・頭の後頭部が就かない場合は、頸椎に負担が掛かっているといえます 正しい姿勢を知ることで、自分で矯正する意識を持てます。気づいたら背筋を伸ばすなど「正しい姿勢」を目指して姿勢が悪くならないように注意しましょう。 体重管理に注意しましょう 平均的な体重の成人は、上半身の重さが全体重の概ね6割程度といわれいます。 体重が重い肥満傾向の場合は、そのぶん健常者よりも頚椎椎間板にかかる負荷が大きくなります。身長に対して過剰な体重にならないよう注意し、管理することが大切です。 自転車やバイク、自動車など乗り物に注意しましょう すでに頸椎症の疑いや、症状がある場合は、通常の自転車走行であっても、転倒時には急激に首に力が入ってしまうことを考慮するべきです。転倒した場合のリスクを考え、ご不安な方は、自転車走行は控えたほうが良いでしょう。 それでも自転車に乗る場合は、停止時、スグに足が着けるようサドルを調整し、無理のない走行を心がけましょう。 自転車同様、ご注意ください ・バイクも同様:発信や停止では、首に大きな負担が掛かかります。 ・自動車も同様:急発進や急ブレーキは禁物です。首に大きな負担が掛かかります。 自動車の場合、他の方が運転する場合では、乗る前に事情をお話して安全運転をお願いしましょう。特に急発進、急停車に注意が必要です。 これら以外でも重い荷物を持ち上げるなども首に負担が掛かるためご注意ください。 日常生活、普段意識することはなくても首には大きな力が掛かっています。姿勢をただし、何らかの動作が必要な折には、首を意識してください。 以上、乗り物は特にですが、普段の生活においても無理のない、負担のかからないよう意識的に行動することが大切です。 喫煙に注意すべきです ここまで以上、何より注意すべきは喫煙です。 何故なら喫煙は、全身の毛細血管の血流を悪化させて椎間板の劣化が起こりやすくなると考えられているからです。頚椎椎間板ヘルニアを患っているにも関わらず喫煙習慣があるのなら、できるかぎりタバコを吸わないよう、もしくは大幅に減らしましょう。できれば禁煙するといった努力を心がけてください。 ご存知のようにタバコは万病の元とも言われるため、この機会に禁煙されてはいかがでしょうか?最近は電子タバコなどもあり、切り替えながら少しずつでも減らしていければベストですね。 頸椎椎間板ヘルニアやってはいけないこと ・激しいスポーツを避ける ・激しくなくともスポーツを行う際は要注意 ・重い荷物を持つなどの重労働は避ける ・腰を曲げてお辞儀するようにかがまない(首に負担が掛かる) ・猫背、そり腰を避ける(正しい姿勢を知ること) ・太らないこと、体重の増加(体重管理に気を付け、食生活を正す) ・首に負担が掛かるような動作や動き ・自転車、バイクでの転倒、 ・バイク、自動車の急発信 ・スマホを悪い姿勢で見る(首への負担を意識する) ・喫煙に注意(禁煙が望ましい) 頸椎椎間板ヘルニアの予防 ・正しい姿勢を知ること ・正しい姿勢を維持すること ・腹部で体幹を支える意識をもって姿勢を正す まとめ・頸椎椎間板ヘルニアでやってはいけないこと 人間は、誰しも年齢を重ねるにつれて身体には様々な劣化が起こります。そのひとつとして椎間板も加齢で劣えていきます。 頸椎椎間板ヘルニアは、頚部の背骨を構成している骨と骨との間にある椎間板組織が慢性的な負担でに劣化や、外因的な衝撃を受けて正常な位置からずれて突出し、脊髄の神経を圧迫することで発症します。 椎間板が劣化する原因は多種多様であり、いわゆる加齢や肥満、喫煙習慣、悪い姿勢や、激しいスポーツ活動、また普段の生活における環境要因も要因になる可能性があるため、頸椎椎間板ヘルニアの場合は、これらのリスク要因を少しでも回避する努力が必要です。 荷物や、物を持ち上げるのは避けて頂きたいのですが、どうしてもの際には、腰を曲げてかがむのではなく、膝を折ってかがめば首に負担をかけずに持ち上げることができます。 また、スポーツなどでは年齢を重ねてからは激しい動きがある種目は行わない。もしくは可能な限り、リスクを押さえ注意して行うなどの対策を取ってください。首を意識することが大切です。 頸椎椎間板ヘルニアの予防は正しい姿勢を知ることが第一です。リハビリテーションにおいても同じことが言えます。正しい姿勢を取れるように指導を受けることになるからです。 その他、正しい姿勢で散歩したり、泳ぐのが好きな方は、スイミングを取り入れるなどで持続的に無理のない範囲で運動をする習慣を持つことも大切です。現在、本症状でご覧頂いているあなた様には、無理をなされないよう、くれぐれも気を付けてお過ごしください。 以上、頸椎椎間板ヘルニアでやってはいけないことについてご説明させていただきました。今回の記事の情報が少しでも参考になれば幸いです。 ▼こちらもあわせてご覧ください 頸椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアの最新療法幹細胞治療! No.S027 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療の幹細胞治療は、頸椎椎間板ヘルニアなどのしびれ、その他の症状を改善します 再生医療は、ご自身の幹細胞を用いた安全且つ、最新の先端治療です
2022.04.04 -
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頚椎椎間板ヘルニアの辛い症状の種類と、似た病気、検査と治療法 頚椎椎間板ヘルニアとは 背骨の骨と骨をつなぐ役割の組織を椎間板と言います。頚椎椎間板ヘルニアは椎間板組織が脊柱管内に突出または脱出して脊髓や神経根を圧迫し症状をきたす疾患です。 30~50歳代の男性に多く、その発生部位ではC5、C/6(第5頚椎と第6頚椎の間の椎間板で発生)が最も多く、次にC4、C5並びにC6、C7にも多く発症します。(以下の図参照)事故による外傷性や加齢による経年性による変性が機序となることが多く、喫煙も危険因子とされています。 脊柱管横断面で正中型、外側型と傍正中型とヘルニアが飛び出た方向で分類されます。正中ヘルニアは脊髄症、外側型や傍正中型は神経根症や脊髄神経根症(脊髄症と神経根症の合併)をきたすことが多く、画像検査で椎間根ヘルニアを認めても、無症状であることも多いので注意が必要です。 発症原因 ・事故による外傷性 ・加齢による経年性による変性 ・喫煙も危険因子とされている 症状について 頸椎症のほかに、脊髄が圧迫されると脊髄症の症状、神経根が圧追されると神経根症が生じます。 頚椎症 首から肩甲骨にかけて痛みがあり首を動かすに痛みが増強し、安静にすると軽快します。 神経根症(radiculopathy) 上肢への放散痛、知覚障害、しびれ感、脱力感などの症状が生じます。放散痛の領域を詳しく把握することで障害神経根を推測することが可能です。前胸部に放散する疼痛がある狭心症に似た頸性狭心症(cervical angina)と呼ばれる疾患があり、鑑別を必要とします。 脊髄症(myelopathy) ボタンが掛けにくい、著が使いにくい、ボタンを上手く掛けることができない、といった手指巧級運動障害や歩行障害を生じます。痙性歩行により歩容は揺劣となり、階段昇降時には手すりが必要となります。また小走りも難しくなります。 初期は大きなボタンを掛けることはできますが、ワイシャツのような小さいボタンが掛けにくくなります。指または手のひら全体のしびれを訴えることがあり、脊髄の圧迫する部位によってしびれの領域に違いがみられます。進行すると膀胱直腸障害(頻尿、尿勢低下、残尿感、便秘)も自覚するようになります。 身体所見について 頸椎症 頸椎の可動域制限と僧帽筋、棘下筋、棘上筋などに圧痛を生じます。 神経根症 神経根の障害高位に一致した上肢の筋力低下および筋萎縮、感覚障害、深部腱反射の低下が生じます。スパーリングテスト(Spurling test)、ジャクソンテスト(Jackson test)が陽性となることが多いです。 脊髄症 上肢の障害髄節に一致して深部反射が弱くなり、筋力低下が生じることもあります。また錐体路障害により、それ以下の深部反射、ホフマン(Hoffmann)反射、ワルテンベルク(Wartenberg)反射が亢進し、バビンスキー(Babinski)反射、膝・足間代(足クローヌス)も陽性となります。 また小指が閉じることができない指離れ徴候(finger escape sign)がみられ、10秒テスト(手掌を下にしてできるだけ速く、グーパーを繰り返す)では通常20回以下になります。感覚障害は、初期には上肢のみに生じることが多いです。 画像検査について X線像(レントゲン) 椎間板ヘルニアでは一般に椎間板腔狭小化(椎間板と椎間板の間の隙間が狭くなること)や骨棘形成は軽度であることが多いです。高齢者では、骨棘などの変性が著明になると隣接椎間に椎間板ヘルニアが発生することもあります。 MRI(磁気共鳴画像法) 椎間板ヘルニアの局在や、圧迫された脊髄、椎間板変性の度合い、神経根の状態を確認することができます。 脊髄造影(ミエログラフィー) 脳槽・脊髄用の水溶性造影剤をくも膜下腔に注入して、脊髄や神経根を明瞭に描出することができる検査です。脊髄造影後にCTを撮影すると椎間板ヘルニアの局在、神経根や脊髄の圧迫を三次元的にとらえることが可能です。しかし、MRIが導入された現在では、脊髄造影をする機会は減ってきています。 頸椎椎間板ヘルニアと似た症状の病気 疾患によって治療方針が変わってくるため、頸肩腕痛を引き起こす疾患との鑑別が大変重要となります。 肩軟部組織の変性疾患(腱板断裂、凍結肩など) 肩関節の運動痛や肩関節可動域制限を認めれば、頸椎疾患以外と考えます。C5神経根症と腱板断裂は、ともに上腕近位外側の疼痛を訴え、関節の外転ができなくなるので鑑別を必要とします。 C5神経根症では、三角筋や上腕二頭筋で筋力低下を生じることが多いですが、腱板断裂では上腕二頭筋の筋力は通常正常です。 胸郭出口症候群 (thoracic outlet syndrome) 頸肋、中斜角筋、前斜角筋、鎖骨および第1肋骨、小胸筋などにより腕神経叢と鎖骨下動脈が胸郭出口部で圧迫され、上肢の疼痛、しびれ、握力低下、重だるさなどが生じます。 ライトテスト(Wright test)、モーレイテスト(Moley test)、アドソンテスト(Adson test)が陽性となります。胸郭出口症候群の症状は前腕尺側に多いのが特徴です。 肘部管症候群(cubital tunnel syndrome) 尺骨神経の絞扼性神経障害で尺骨神経溝にティネル様徴候(Tinel)がみられます。環指尺側から小指にかけてのしびれや麻痺など感覚障害が生じ、進行すると環指と小指の変形が起きます。 手根管症候群(carpal tunnel syndrome) 正中神経の絞扼性神経障害手根管部でティネル様徴候(Tinel)が陽性になります。母指から環指の痺れや疼痛など生じ、指先の症状は夜間や早朝に強い傾向があります。 母指球筋萎縮が進むと猿手変形が生じます。確定診断には、当該神経の神経伝導速度を測定が必要です。 脊随腫瘍 (spinal cord tumor)、脊椎腫瘍(spiatumor) MRIで容易に確定診断することが可能です。稀に パンコースト(Pancoast)腫瘍により、主に尺骨神経側に神経症状を生じることもあるので注意が必要です。 頚椎椎間板ヘルニアの治療法について 頚椎症状、神経根症、脊髄症に分けて説明します。椎間板ヘルニアは自然吸収されることが多いため、無理に手術を選択すべきではないと考えます。 頚椎症に対する治療 頚椎症状のみで手術療法を行うことはあまりありません。消炎鎮痛剤などの薬物療法、トリガーボイントブロック、ストレッチなどを行います。 神経根症に対する治療 ●保存療法 消炎鎮痛薬などの薬物療法を行います。頸椎カラーを装着して頸部の安静を図ることもあり、痛みが激しい場合には、副腎皮質ステロイドの内服、硬膜外ブロック、神経根ブロック、星状神神経ブロックなどを併用します。ほとんどの症例で、保存療法により2〜3カ月以内に軽快することが多いです。 ●手術療法 保存療法を2〜3カ月続けても効果がない場合や、進行性の麻痺を認めた場合には手術を行います。推間板ヘルニアは脊髄や神経根の前方にあるため、前方除圧固定術(anterior decompression and fusion)を選択することが多いです。 前方除圧固定術は胸鎖乳突筋の内側から進入し、気管と食道を内側によけて椎間板に到達し、当該高位の椎間板やヘルニアを完全に摘出し、椎体間に腸骨から採取した骨や人工物(インプラント)を移植して固定します。 アライメントの維持や移植骨の脱転を予防する目的で、前方にプレートを使用することもあります。神経根症をきたす椎間板ヘルニアは傍正中型あるいは外側型なので、後方から部分椎弓切除と椎間孔切除を行った上でヘルニアを摘出することもあります。 脊髄症に対する治療 ●保存療法 軽度であれば、鎖椎カラーで頸部の安静を図り、椎間板ヘルニアの自然吸収を待ちます。しかし痙性歩行、手指巧緻運動障害により日常生活に支障がある場合や、排尿障害がある場合には、機能障害が永続性となることを避けるために手術を行います。 ●手術療法 脊髄症の場合でも、通常は1椎間での障害で脊髄の前方にヘルニアがあるので、神経根症と同様に前方除圧固定術を選択することが多いです。しかし、椎間板ヘルニアの高位以外でも脊柱管の狭窄がある場合には、後方から椎弓形成術 (laminoplasty)を選択することもあります。 椎弓形成術は脊髄の広範囲な除圧を容易に行うことができ、さらに脊髄を保護する脊柱の後方要素を温存することができます。合併症は比較的少ないですが、頸椎後方伸筋群に侵襲を加えるため、術後に頸部痛をきたしやすいという難点があります。 以上、頚椎椎間板ヘルニアの辛い症状の種類と、似た病気、検査と治療法と題して記させて頂きました。参考になれば幸いです。 監修:院長 坂本貞範
2021.08.05