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胸郭出口症候群に効果的なツボやストレッチ方法をご紹介 胸郭出口症候群でお悩みではありませんか?スポーツ選手から主婦まで、幅広い年代や分野の人が悩まされている疾患です。 今回は、その胸郭出口症候群に対するストレッチ方法やマッサージ方法、効果的なツボの位置も合わせたセルフケアをご紹介します。 胸郭出口症候群ってなに? 胸郭出口症候群をはじめて聞く方もいらっしゃるかもしれません。腕の動きや感覚を支配する神経(腕神経叢)や、血管(鎖骨下動脈・静脈)が胸郭出口で圧迫されて起こる疾患です。 首から腕に走る神経や血管が、骨や筋肉、腱によって圧迫されることで、手の指先の痺れや、首から腕にかけての痛み、力の入りづらさ、血行不良など様々な症状を引き起こします。 胸郭出口症候群の原因は? 野球やバレーボール、バドミントンなど腕を上から振り下ろすような動作を反復するスポーツ選手が罹患するスポーツ外傷としても知られています。 他にも、なで肩の女性や、重いものを持ち運びする仕事の人にも多く、普段の姿勢や負担のかかる動作が原因となることが多いです。 割合は少ないですが、頚肋といって発達段階で生じる骨の形態異常から神経・血管を圧迫するケースもあります。 胸郭出口症候群になりやすい人の特徴は〇〇な人 胸郭出口症候群になる人の多くは以下のような特徴がみられます。 自分に当てはまるものが一つでもあれば、注意が必要です。 オーバーハンドスポーツをする人 オーバーハンドスポーツとは、野球のピッチングやバレーボールのアタック、バドミントンのスマッシュなど、腕を上に挙げる動作を繰り返すスポーツのことを指します。 腕を上から振り下ろす動作は、肩の前方から前胸部の筋肉を使うことが多いため、それらの筋肉が発達し過ぎて、腕神経叢や鎖骨下動静脈を圧迫する可能性がでてきます。 オーバーワークの人も、カラダのコンディションがついていかず、発症する危険性も上がるため注意が必要です。 なで肩の人 胸郭出口症候群で特徴的な姿勢の一つが「なで肩」です。 なで肩では、鎖骨の位置が下がるため、神経・血管が通る鎖骨と肋骨の間が狭くなり、圧迫を起こしやすくなります。 猫背など姿勢が悪い人 猫背にみられるような背中が曲がった姿勢を長時間とってしまうと、胸の前の筋肉の一つである小胸筋が短縮してしまいます。 その小胸筋は硬くなってしまうと、腕神経叢や鎖骨下動静脈を圧迫してしまう恐れがあります。 小胸筋の柔軟性が低下している状態で胸を張ろうとすると、小胸筋がある脇の下で圧迫が強くなり、症状が酷くなることも多いです。 普段から背中が曲がった姿勢をとってしまう人は、胸郭出口症候群になる可能性も高まります。 胸郭出口症候群は治らない? 神経症状が辛い胸郭出口症候群ですが、症状が長引くことも多く、「治らないんじゃないか?」と心配の声も多く聞かれます。 しかし、胸郭出口症候群は基本的には治る疾患です。日常生活での姿勢や動作習慣の見直し、そしてこれからお伝えする「セルフケア」によって原因を取り除くことができれば、症状の改善が見込めるはずです。 胸郭出口症候群に対するセルフケア 胸郭出口症候群に対するケアの方法で重要なことは、“胸を開ける状態にする”ことです。胸を開けるとは、胸を張ること。 しかし、胸周りの筋肉が硬い状態で胸を張ろうとしても返って逆効果になることもあります。 まずは、首から胸、肩甲骨周りなどの筋肉、関節の柔軟性を出して、胸を張りやすい状態にすることが大切です。 それでは柔軟性改善のために必要な具体的な方法をお伝えします。マッサージに効果的な、東洋医学のツボの位置も合わせてご紹介します。 胸鎖関節のマッサージ ①「兪府(ゆふ)」というツボを押さえる(鎖骨の真下、胸骨の際から指一本分横の位置に取ります) ②手で胸骨と鎖骨の繋ぎ目のところをさするようにマッサージする ③慣れてきたら、同部位を押さえた状態で肩を回す 鎖骨周囲筋のマッサージ ①「欠盆(けつぼん)」というツボを挟むようにつかむ(鎖骨中央のすぐ上、大きくへこんでいる場所にあります) ②少し前屈みになり鎖骨を浮き出させたら、反対の手の親指を鎖骨の下に入れ、その上から人差し指で挟むようにつかむ ③つかみながら周りの筋肉をほぐすようにマッサージする 小胸筋のストレッチ ⓵「中府(ちゅうふ)」というツボの位置を押す(鎖骨の外側端から指一本分下の場所です) ②反対側の手で小胸筋(※)に対して垂直に押す ※鎖骨外側 1 / 3部から 3 ~ 4 横指下の部分をゆっくりと触診します ③押した状態で腕を 20 回ほど前後に振る ④少しずつ位置をずらしながら 5 セット程度行う 無理のない範囲で、様子を見ながら行いましょう。 まとめ・胸郭出口症候群に効果的なツボやストレッチ方法 胸郭出口症候群に対するセルフケアの方法を紹介してきました。 症状の程度は人それぞれであり、セルフケアだけではなかなか改善が難しいケースももちろんあります。 セルフケアを行うと同時に、専門の医療機関でしっかり状態をみてもらい、専門家より適切なアドバイスを受けることが大切です。 気になる症状がある人は、できるだけ早めに受診することを心がけましょう。 No.S108 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.23 -
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鎖骨骨折の手術|入院期間とリハビリメニュー 鎖骨骨折は、骨折全体の約 10%を占めると言われており、非常に頻度の高い骨折です。 年齢も若年層から高齢者まで幅広く、ほとんどが転倒によって引き起こされます。 今回は、鎖骨骨折後の治療方法、特に手術療法について、その期間とリハビリの内容などを交えながらご紹介します。 鎖骨骨折とは? 鎖骨骨折は、頻度の高い骨折の一つで、肩の痛みや機能障害(肩を動かせない等)を呈する疾患です。 自転車走行中の転倒や、スポーツで横から倒れた際に受傷するなどのスポーツ外傷などが多くみられます。 鎖骨骨折の症状 鎖骨骨折の症状は以下です。 ・腕が上がらない ・気分不良 ・吐気、嘔気 ・手の指の感覚障害 ・鎖骨部の腫れ ・鎖骨の連続性の欠如(骨が途中で突出している状態) 鎖骨骨折の受傷直後は、とにかく肩の痛みが強く、自力で動かせないことが多いです。 そのため、反対の手でケガした側の腕をカラダの近くで抑えて来院する方をよく見かけます。 どんな鎖骨骨折が手術の適応になるの? 鎖骨骨折後の治療は大きく「保存療法」と「手術療法」の 2つに分けられます。 ズレが少ない、小さい子どもなどの条件の場合は、保存療法が用いられることが多いです。 一方、ズレや骨折の場所、年齢などによっては手術療法を選択した方が治りが早い場合もあります。 ではどのような場合に手術療法が用いられるのでしょうか。 手術療法が選択されるケースは以下です。 ・骨片同士のズレが大きい ・複雑骨折(開放骨折、骨が皮膚から飛び出るケースなど) ・骨片が多い、3 つ以上 ・神経や血管、靭帯を損傷している可能性がある ・より早く確実に治したい さらに詳しく解説しています。 骨のズレが大きい場合 骨のズレが大きい場合は、手術で固定した方が治りが早く、偽関節になるリスクも抑えられます。また、ズレが大きいと整復が難しい場合もあり、鎖骨の短縮が起こってしまい、肩の運動制限につながる恐れもあります。 このような理由から、ズレが大きい場合にオススメする治療は手術療法です。 骨片が複数ある場合、複雑骨折の場合 骨片(折れた骨のかけら)が複数ある骨折の場合は、きれいな整復が難しいため、手術療法の方が適している場合があります。 また、骨が体外に出てしまうような複雑骨折(解放骨折)の場合は、感染や多量出血により危険な状態に陥る可能性もあるため、できるだけ早めに手術で対応したほうがいいです。 いずれの骨折も、相当な痛みと動きの制限が伴うので、早めに医療機関への受診をしましょう。 烏口鎖骨靭帯が損傷または断裂している場合 鎖骨は、肩甲骨の烏口突起と呼ばれるところに付く靭帯により、下から引っ張られています。この靭帯が烏口鎖骨靭帯といい、鎖骨の浮き上がりを抑えてくれる重要な役割を果たしています。 鎖骨骨折の時に、この烏口鎖骨靭帯が断裂してしまうと、胸に近い側の鎖骨骨片が浮き上がってしまい、折れた骨同士がくっつきにくくなるのです。 その場合は、骨の固定とともに、靭帯の修復まで行う必要があります。 鎖骨骨折の手術方法 手術による治療は一般的なもので、ワイヤーで固定する方法と、プレートで固定する方法の 2 種類があります。 1.ワイヤーによる固定 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html ) 2.プレートによる固定 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html) ワイヤーの場合は、ズレが比較的小さい骨折が適応となり、小さい傷口で済みます。 プレート固定では、傷口は大きくなりますが、ズレが大きい骨折も強固に固定することができ、また靭帯損傷など合併している場合にも用いられることがあります。 プレート固定のデメリットとしては、費用がかかる、固定に使われた金属を取り除くためもう一度手術が必要となる、など何かと負担がかかることがあります。 いずれの治療方法も、保存療法と比較して、より確実に骨癒合が得られるでしょう。 ただ、保存療法よりも費用や身体的、精神的な負担も増えることが多いため、家族や専門医としっかり相談をして、より良い治療法を見つけてください。 鎖骨骨折の手術後の流れ~固定方法や入院期間〜 手術をした後の流れや固定方法、入院期間について解説していきます。 鎖骨骨折後の固定方法 鎖骨骨折の手術後は、基本的に三角巾固定をします。 固定期間は骨の繋がり状況によって変わりますが、順調に行けば 3 〜 4 週間で外すことができます。(プレート固定であればもっと早期に外すことが可能です。) 鎖骨骨折の手術後の入院期間は? 鎖骨骨折の手術後の入院期間は、早くて 2 泊 3 日、長くても 1 〜 2 週間で退院できます。 痛み自体は比較的早く落ち着くため、早期に退院される方が多い印象です。但し、1 人暮らしの高齢者や術後の経過が思わしくなかった場合などはその限りではありません。 自宅に帰って身の回りのことをやる自信が無い人は、遠慮なく医師や看護師に相談しましょう。 力仕事は骨癒合がしっかりしてきた後 手術後、力を入れる動作や体重をかける動作ができるのは、おおよそ 2 〜 3 ヶ月後です。 プレート固定であれば、もっと早めに許可が出る場合があります。 車の運転や力仕事は、3 か月を過ぎた辺りの骨がしっかりした時期より再開することを推奨します 鎖骨骨折の手術後のリハビリテーション 以前は、手術後のリハビリテーションは骨のズレを恐れて慎重に進めることが多かったのです。 しかし、動かさないことによる拘縮(関節が固まってしまった状態)などの後遺症が引き起こされてしまうため、早期に動かすことがスタンダードとなりました。 そのため、プレート固定では術翌日から、ワイヤー固定では 1 〜 2 週間後に肩を動かす訓練を行います。 可動域訓練(関節の動きを広げる運動) 可動域訓練の初めは、患者自身は力を抜き、リハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士)が腕を挙げていく他動運動から始めます。 2 〜 3 週目あたりから、自分で力を入れて動かす自動運動を開始します。 角度は、腕を下ろした状態から 90°(直角、目の前より低い位置)までの間で動かします。 そして、骨の繋がりがしっかりしてきた時に、より腕を挙げていくリハビリを行います。 これらの訓練は、骨の繋がり具合や、骨の転位、手術の方法により変動しますので、自分で勝手に判断しないよう注意が必要です。 【可動域訓練の順序の一例】 ①術後初期は、肩周囲の筋肉のリラクゼーションを中心に行う ②他動運動から開始し、徐々に 90°を目標に挙げていく ③痛みがなく骨癒合もできてきたら、徐々に動かす範囲を広げていく ④他動運動に加え、自分で動かす自動運動を開始する ⑤目標は、ケガをしていない方の肩と同じ範囲まで動かせるようにすること ※いずれのメニューも、代償動作が入らないように、専門のリハビリスタッフ(理学療法士・作業療法士)の指導のもと行います 筋力訓練(力を戻していく運動) 可動域(動かせる範囲)が戻ってきたら、次に力を戻す運動を始めます。 ケガをしてから手術直後は安静期間で固定しているため、どうしても筋力が落ちていきます。 リハビリで大事なことは、焦らずに段階的に筋力を戻す、ということです。 【筋力訓練の順序の一例】 ①ケガをしていない方と手術側の手を握り、一緒に上に挙げていく ②手術側の腕だけで挙げていく(前、外、後ろの順番で行う) ③力が入ってきたら、ペットボトルなど軽い負荷をかけた状態で腕を挙げていく ④弱いバンドや、1 〜 2 キロのダンベルを持った状態で挙げていく ⑤痛みなくしっかり力が入るようになったら( 2 ヶ月ほど)、膝をついた状態での腕立て伏せを行う(慣れてきたらスタンダードな腕立て伏せを行う) ※④以降は患者の力量に合わせて行います 鎖骨骨折の手術前後に気を付けておくべきポイント! 鎖骨はつながりやすい骨折であり、ほとんどの場合スムーズに良好な経過を辿ります。 しかし、手術後早めに無理をしたことで、癒合が遅れたり、痛みがなかなか引かないと訴えたりするケースも少なくありません。 手術後早期はリハビリ以外しっかり固定をしておく 手術後は、基本的に三角巾やアームホルダーで固定(腕を吊るしておく)します。 これは、肩にかかる負担を減らすとともに、腕を極力使わないようにする予防策でもあります。骨の繋がりをしっかり確認し、担当医師より許可が出てから外すようにしましょう。 仕事の復帰や車の運転は 3 ヶ月から 特に力仕事や車の運転といった患部に負担のかかる動作は、手術後 3ヶ月後より始めるようにしましょう。 ただ、プレート固定など強固な固定をした手術の場合、その時期が早まることがあります。しかし、自分で判断せず、担当医師に確認することが大事です。 手術療法は保存療法と比べ費用がかかる 当然ですが、手術療法は保存療法と比べ費用が高くなります。 鎖骨骨折の場合、医療機関にもよりますがおおよそ 15 〜 20 万円の手術代、入院費用、ご飯代、その他諸々の費用がかかります。 高額な医療費に対して、全国健康保険協会の「限度額適用認定証」により費用を抑えることは可能ですが、個室代や入院費用の中には実費負担のものもあります。 いずれにしても、保存療法よりは高額になることが予想されますので、注意が必要です。 ※「限度額適用認定証」は、自分で申請する必要があります。詳しくは、手術を受けられる医療機関でお尋ねください。 鎖骨骨折の手術|入院期間とリハビリメニュー・まとめ 今回は、鎖骨骨折の手術に至るケースや、手術後の経過についてお話ししました。 鎖骨骨折は、骨がくっつきやすく、痛みもすぐ引くことが多いため、早めから患部に負担をかけて動かす方が少なくありません。 「せっかく手術までしたのに・・・」 と、失敗しないように、専門家からの提示された“約束”をしっかり守って過ごしていきましょう。 No.S104 監修:医師 加藤 秀一
2023.01.11 -
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鎖骨骨折中の過ごし方|この痛みはいつまで続くの? 鎖骨骨折の発生要因と症状、治療、注意すべきポイントを紹介していきます。 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会( https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html ) 鎖骨骨折は、どうやって起こるのか? 鎖骨骨折は、交通事故や転倒、スポーツ中などのスポーツ外傷として、鎖骨に対して強い衝撃が加わることで起こるケガです。 骨折全体の 10 〜 15 %程度を占めるということで、骨折の中でもかなり多い骨折と言えます。 よく耳にするのが、自転車に乗っていてバランスを崩し、そのまま肩から落車。そして、鎖骨骨折をしてしまったという話です。 他にも、ラグビーの試合中にタックルを受けて、肩から地面に倒れて骨折するスポーツ外傷など、いずれもコントロール不能な状態で肩を強打し受傷しています。 鎖骨骨折は、転倒した時に肩から落ちてその衝撃が鎖骨に伝わり受傷するパターン(介達外力)と、鎖骨を直接強く打って受傷するパターン(直達外力)があります。 このような鎖骨への力の加わり方の違いは、折れる場所などに影響してくるため、どのような状況で骨折したのか確認することが非常に重要です。 鎖骨骨折の症状 鎖骨骨折の症状で特徴的なものは、骨折部の痛みと腫れ、腕を上に挙げられないなどの運動制限です。 さらに、鎖骨周囲には血管や神経が通っているため、骨折の程度によりそれらの組織を傷つけ、手指がしびれたり動かせなくなる場合もあります。 また、鎖骨は皮膚の上から触れるほど体表にあるため、骨折している場合は簡単に観察できます。 肌を露出することが可能であれば、骨折があるかどうか目で確認してみましょう。 鎖骨骨折した後の対応 次に、鎖骨骨折をしてしまった、もしくは鎖骨骨折が疑われる場合の対処についてお話しします。 鎖骨骨折はすぐに受診を 鎖骨骨折が疑われる場合は、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。 なぜなら、症状の時にも述べましたように、鎖骨の骨片で大事な神経や血管を傷つけている可能性があるからです。その場合は、早急な対処が必要になります。 また、そのまま固定もせずに無理に過ごしていると、折れた箇所がズレてしまい(転移)、骨癒合しにくくなることもあります。そうなると、手術をせざるを得ない状況になるのです。 三角巾を使った固定方法 早急に病院受診をおすすめしましたが、時間帯や日にちによっては専門の医療機関が空いていない場合もあります。 そんな時に使える鎖骨骨折後の応急処置として、三角巾での固定方法をお伝えします。 【三角巾を使った鎖骨骨折の固定方法】 ①怪我した方の手を反対の手で固定してもらいます。(この姿勢が楽だと感じる人が多い) ②三角巾の頂点を骨折側の肘の下に挟み込むようにセットし、一方の端を反対の肩に回します。 ③他方の端を骨折側の脇の下を通すように背中側に回します。そうすると骨折側の腕を包み込むように固定できます。 ④首のところで両端を結び固定します。 ⑤頂点は肘の位置がズレないように結びます。 ⑥もう一つ三角巾を用意し、肘を体幹で固定するように巻くとぶれずに固定できます。 鎖骨骨折後の治療方法 ここまで、鎖骨骨折の発生要因や症状、鎖骨骨折後の対処についてお話ししてきました。それでは実際にどのような治療方法があり、どのような経過をたどるのでしょうか? 治療の方法は大きく2つに分けられます。 一つは、体にメスを入れない保存療法、そしてもう一つは折れた骨同士を癒合させる手術療法です。 今回は、保存療法を中心にご説明します。 骨のずれが少ない場合は 骨のずれが少ない場合は、鎖骨バンド(クラビクルバンド)と呼ばれるサポーターで固定をし、骨が繋がるのを待ちます。 鎖骨バンド(クラビクルバンド) 出典:一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip03.html) 鎖骨骨折の特徴として、胸の中心に近い方の骨片が上に移動し、外側の肩に近い方の骨片が相対的に下に位置することがあります。 そのため、バンドで胸の中心の方の骨片を上から抑えこむことで、そのズレを少なくし、骨を繋がりやすくします。 【保存療法が選択されるケース】 ・単純骨折(骨片が2つ) ・骨片同士のズレが小さい ・骨形成率が早い子ども ・神経や血管、靭帯を損傷していない ・手術に対して抵抗がある 通常であれば、2 〜 3 ヶ月もすれば、ある程度骨癒合します。 ただ、鎖骨バンドを早期に外してしまったり、つけ方が甘かったり、早くから腕を動かし過ぎたりすると、骨が癒合するのが遅れ、遷延治癒(※)となることもあるので注意が必要です。 (※遷延治癒・・・一定期間が経過しても治らない状態) 鎖骨骨折の完治までの期間は? 鎖骨骨折はおよそ全治 3ヶ月と言われています。 また、骨折部自体の痛みは 1ヶ月でかなり軽減し、2ヶ月ごろにはほとんど感じなくなる人も多いです。 腕をしっかり上まで挙げると鎖骨も大きく動くため痛みが出ることもありますが、普段の日常生活ではほとんど痛みはなくなるでしょう。 しかし、ズレが大きい場合、治療内容によっては 3ヶ月より長くかかることがあります。 専門医と相談の上、適切な治療方法を選ぶよう心がけましょう。 鎖骨骨折後に気をつけること 最後に鎖骨骨折後に気を付けるポイントをいくつかご紹介します。 やはり不便な場面は出てきますが、以下の注意点をしっかり守ることが早期治癒に繋がります。 鎖骨骨折後の日常生活ではとにかく腕を挙げないこと 鎖骨は腕(上肢)を動かすための、非常に重要な骨です。鎖骨が動かせなければ、腕はほんの少ししか上がりません。 腕を大きく挙げようとすれば鎖骨は動く、ということです。つまり、鎖骨が折れている状態で腕を大きく動かせば、鎖骨は自ずと動き、ズレようとする力が働くため、強い痛みが出てしまい、さらには骨の癒合を邪魔してしまいます。 そうなると、治りが遅くなり肩の動きが悪くなる後遺症が残る可能性もあります。 また、偽関節ができてしまい、力が入りづらくなることも考えられます。そのため、鎖骨骨折後の早期は手術の有無に関わらず、腕を挙げる行動を控えることが重要です。 鎖骨骨折後は寝方にも注意 鎖骨骨折後の早期は、寝る姿勢にも注意しなければなりません。 基本的に仰向けか患部を上にした横向きで寝ることが推奨されています。その際、骨折した側の腕が動かないようにバンドや三角巾などで固定しておくとよいでしょう。 仰向けで寝る場合は、肘が下に落ち過ぎて肩に負担がかかる場合もありますので、バスタオルを折り畳んだものを骨折側の肘の下に敷いておくと安定感が得られます。 車の運転はいつからいいの? よく聞かれる質問の一つに、「車の運転はいつからしていいのか?」というものがあります。 一人一人骨の繋がり具合や手術の有無によって差があるので一概には言えませんが、腕をしっかり挙げてOKと医師から許可が出た頃から練習をし始めるのがいいでしょう。 運転では、やむを得ず急ハンドルを切る場面が出てくるかもしれませんし、大きいカーブでは腕が上がる動作も加わります。 予測できないハンドル操作が出てくることも考えると、少なくとも1ヶ月半〜2ヶ月程度は我慢した方が良さそうです。 とにかく、鎖骨骨折をしてしまったら、自分で判断せずに専門の医療機関に診てもらい、骨折後や手術後すぐに肩を大きく動かす動作は避けましょう。 骨の繋がり状況は、レントゲンなどによって判断されるので、医師の指示のもと、段階的に動かすよう心がけましょう。 まとめ・鎖骨骨折中の過ごし方|この痛みはいつまで続くの? 今回は、鎖骨骨折について発生要因や症状、治療方法、過ごし方などについてご紹介しました。 骨折の中では頻度が高い鎖骨骨折ですが、その予後は良く、医療機関の指示を守って生活すると大部分は前と同じように動かせるようになります。 鎖骨の骨片で大事な神経や血管を傷つけている可能性もあるため、骨の繋がり状況を確認しながら段階的に治療に取り組むことが完治への一番の近道です。 鎖骨骨折が疑われる場合は、手術をせざるを得ない状況になる前に、自分の判断で無理して我慢せず、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。 No.103 監修:医師 坂本貞範
2023.01.04 -
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鎖骨に痛み、骨折?その外見とは?症状と治療法、後遺症について医師が解説 「事故のあと鎖骨が盛り上がっている気がする」 「転んだあと鎖骨が痛む」 このような場合、もしかすると鎖骨骨折かもしれません。 骨折を放置すると、症状が悪化するばかりか、骨折がずれたままくっついてしまう可能性もあります。 今回は鎖骨骨折について、骨折時の外見や症状、治療法、後遺症について詳しく解説します。 鎖骨骨折の症状は?外見でわかる場合も 鎖骨骨折は全ての骨折のうち約10%を占める比較的頻度の多い骨折です。 交通事故やスポーツなどで腕を後ろにそらしたり、肩を下にしたりして転ぶと、地面についた衝撃が鎖骨に伝わって骨折してしまいます。 また、鎖骨に直接強い衝撃が加わって骨折する場合もあります。体の表面にあり確認しやすい骨なので、外見にもわかりやすい症状がみられる骨折です。 どのような症状があるのか、具体的に紹介します。 皮膚が盛り上がったような外見 鎖骨はS字にカーブした長細い骨で、筋肉など厚みのある組織に覆われていないため、骨折時に外見でわかることも少なくありません。 鎖骨の中央1/3の部分で骨折することが多く、鎖骨の外側は腕の重さなどで下にずれやすく、内側は首の筋肉の力で上にずれやすいという特徴があります。 そのため、骨折により骨がずれてしまうと、鎖骨の内側の部分が飛び出し、皮膚が上に盛り上がったような外見になるのが特徴です。 また鎖骨が浮き上がらないように支えている烏口鎖骨靭帯(うこうさこつじんたい)が損傷した場合も鎖骨をおさえる機能が低下して、鎖骨が浮き上がりやすくなります。 骨がずれて重なってしまうことで、折れた方の肩幅が狭くなったように見える場合もあります。 鎖骨や肩の痛み 鎖骨は胸の中央にある骨(胸骨)や肩甲骨と合わせて関節を作っています。 肩甲骨は腕を上げたりおろしたりといった運動に関わり、肩甲骨と鎖骨でできる関節(肩鎖関節:けんさかんせつ)も、腕の運動に重要な役割を持っています。 そのため、鎖骨の骨折をすると肩を動かす場合に鎖骨に負担がかかり、痛みが生じることがあります。 肩の動きが制限される 前述のように鎖骨は肩の動きと関係するため、鎖骨を骨折すると腕を上げにくかったり、広げにくかったりといった制限がみられます。 腫れやアザができる 骨折による炎症症状で患部が腫れたり熱をもったりします。また、骨折による出血のため、アザがみられることがあります。 血流の障害や痺れ さらに、鎖骨は首の近くにある血管や神経を守る役割も担っています。 事故などで鎖骨に強い衝撃が加わったときに、周辺にある血管や神経も一緒に損傷される場合があります。その場合、血の流れが悪くなる血行障害や神経損傷による手の痺れや痛みといった症状がみられます。 鎖骨骨折の治療法 治療は手術をしない保存療法が基本ですが、骨が大きくずれてしまっている場合は手術を選択することがあります。 それぞれの治療方法について解説します。 手術しない保存療法 第一に選択されるのが、三角巾や鎖骨バンド(クラビクルバンド)と呼ばれる装具をつけて、骨折部が動かないように固定する治療です。 胸を張り、両肩を強く後ろに引いた状態で固定することで、鎖骨の変形を矯正して、骨を正しい位置でくっつけることになります。 入浴時以外はバンドをつけて生活して、入浴の際は骨折している方の手で体を支えない、90°以上の高さに腕を上げないという注意点があります。 固定の期間は4〜6週間が目安ですが、年齢が若いほど骨がくっつくのが早いため、固定期間が短くなりやすいです。 固定により腕を上げる制限がみられた場合は、リハビリで改善を図る場合があります。 骨のずれがひどい場合は手術 骨のずれが大きい場合や骨が砕けてしまうような骨折の場合は、手術が選択されます。 また仕事の都合できるだけ早く社会復帰を希望して、手術を選ぶ場合も少なくありません。手術療法だと、手術した後すぐにリハビリで腕を動かすことができるので、動作が改善しやすいというメットがあります。 手術は針金のようなワイヤーを鎖骨に通したり、プレートで支えたりして体の内側から鎖骨を固定します。 入院期間は手術の方法により異なり、必要に応じてリハビリを行います。 鎖骨骨折の後遺症 骨折した部分のずれがひどいと、元の位置に戻そうとしても十分な位置に戻らず、ずれたまま変形して骨がくっつく場合があります(変形治癒)。 また、鎖骨の外側は平らな形をしており、折れた場合にくっつきにくいという特徴があります。 くっつかずにそのままにしておくと、そこが別々の骨に分離した状態になり、まるで関節ができたようになります(偽関節:ぎかんせつ)。 いずれにしても、このような後遺症があると、痛みが出たり、肩の動きが制限されたりします。そのため、後遺症ができるだけ残らないように、状態に応じた適切な治療の選択が重要になるのです。 まとめ・鎖骨骨折はすぐ受診!適切な治療で後遺症を防ぐ 鎖骨骨折は、外見の特徴もあり痛みも強くなりやすいため、症状がわかりやすい骨折です。 そのため、紹介したような症状がみられた場合は、できるだけ早めに整形外科を受診しましょう。治療をせず放置すると、変形治癒や偽関節になったりといった後遺症が生じる危険性があります。 早めの受診で、適切な診断や正しい治療を受けて、後遺症を防ぐようにしましょう。 この記事がご参考になれば幸いです。 No.099 監修:医師 坂本貞範
2022.12.02 -
- 腱板損傷
- 肩
腱板損傷と腱板断裂の違いをご存知ですか?医師が分かりやすく解説! 放っておくと危ない肩のケガ ここでは、肩のケガの一つである腱板損傷と腱板断裂について、その共通点と、違いについてお話します。 腱板損傷ってどんなもの? 腱板断裂と何がどう違うの? そのような疑問があってこの記事にたどり着かれたのではないでしょうか。ここでは、双方の症状や原因、そして治療に至るまで平易に説明させて頂きました。疑問が解決すれば嬉しく思います。 そんな人はこちらの記事をご参照ください。⇩ 肩の腱板損傷を患った人がやるべきこと 腱板とは? 腱板とは、肩の4つのインナーマッスルが集まったもの(厳密に言うとその4つの筋群の腱部分)で、正式名称は肩回旋筋腱板(ローテーターカフ)です。 インナーマッスルとは、その名の通り内側にある筋肉であり、より骨・関節に近い場所にある筋肉のことを指します。 そんな腱板の大きな役割は、肩関節を安定化させることです。関節が安定すると、アウターマッスル(三角筋など)が働いた時に、より効率よくスムーズに腕を動かすことができます。 腱板損傷の症状と、その原因 腱や靭帯の損傷とは? 筋肉や腱、靭帯はいずれも繊維状の組織が集まってできており、その一部分が傷んでいる状態のことを損傷や炎症と言います。 肩の腱板はその構造や周囲の血流の状態から、一度損傷を起こしてしまうと自然修復が難しく、ひどいものでは手術が必要となるケースもあります。 腱板損傷の症状 腱板の損傷で特徴的なのは就寝時に痛みが出る夜間痛です。また、腕を挙げる途中で痛み、上まで挙げてしまえば痛みが引くといった症状もみられます。 これは、インナーマッスルである腱板が働かなくなってしまい、関節を安定化させられないため、効率よく力を伝えられないために起こるものです。 他にも特徴的な症状がありますので下記をご参照ください。 【腱板損傷の症状】 ・就寝時に痛みが出る(夜間痛) ・腕を挙げる際、挙げ始めや途中で痛みが出る ・髪を洗う時に痛みが出る ・腕を前に伸ばすと痛む(前の物を取ろうとしたときなど) ・エプロンの紐を後ろで結ぶ時に痛む 腱板損傷の原因 腱板損傷は50代の男性に多くみられる疾患です。中年以降の腱板は、組織に変性(老化のようなもの)がみられることが多く、損傷や断裂が起こりやすい状態になっています。 肩の変性に加えて、仕事や日常生活などで重いものを無理に持ったり、肩を捻るような動きをしたり、転んで肩をぶつけたりなどの負荷がかかることで損傷を起こします。 多くはないですが、若い世代でも、肩に負担がかかるスポーツや強い衝撃が加わる事故などにより損傷を起こすこともあります。 腱板損傷と腱板断裂の違いと共通点 明確な違いはない?? 実は、損傷と断裂に明確な違いはありません損傷とは、組織の一部が傷んでいる状態と述べましたが、 「傷んでいる状態=一部切れている状態」と言い換えることもできます。 つまり、腱板損傷と呼ばれるものは腱板部分断裂と同義と捉えていいでしょう。医師によっては、分かりやすく患者さんに伝えるために、腱板損傷と腱板断裂を使い分けているケースも多くあります。 腱板断裂は、部分断裂と完全断裂に分けられる 腱板断裂は大きく2つに分けられます。 その2つとは、腱板部分断裂(不全断裂)と腱板完全断裂です。 【腱板部分断裂】 ・関節面に近いところで起こる関節面断裂 ・腱板の表層を覆う滑液包に近いところで起こる滑液包面断裂 ・腱板の腱内部で起こる腱内断裂 【腱板完全断裂】 ・腱が深く切れており、腱板を上から見た際に中の関節が見えてしまっている状態 出典『肩関節インピンジメント症候群』臨床スポーツ医学.30(5).2013より引用 腱板断裂には、上記のような違いがあります。 さらに、断裂の幅が狭い、広いなどの範囲の違いも分類されることがありますが、ここでは割愛させていただきます。 腱板損傷から腱板断裂へと進行する? ここでは腱板部分断裂から完全断裂へと移行するのかどうかで話を進めていきます。結論から言いますと、腱板断裂は進行します。 例えば、下の写真のようなペーパー状の1枚のゴムがあります。 これを腱板と見立てましょう。 ゴムは劣化するとすぐ切れてしまいますよね?最初は小さな穴だったものが、引っ張る力が繰り返しかかるとどんどん広がっていきます。このゴムのように簡単には広がりませんが、イメージはそのような感じです。 つまり、小さな穴(=腱板損傷、腱板部分断裂)が無理に動かし続けることで大きな穴(=腱板完全断裂、広範囲断裂)へと広がってしまいます。 腱板完全断裂でしかも広範囲となると、リハビリだけではなかなか症状の改善が難しいのが正直なところです。いかに進行を抑えるかが、腱板断裂の重症化予防のカギとなります。 腱板損傷と腱板断裂の治療方法 腱板損傷・断裂の治療法は、大きく保存療法と手術療法の2つに分けられます。 保存療法では以下のような治療法があります。 保存療法 リハビリテーション ・関節の動く範囲を広げる可動域訓練 ・損傷している筋・腱をカバーするための筋力訓練 ・肩の正常な動きを促す機能訓練 ・痛みを和らげるための物理療法(電気治療や温熱治療) ・テーピング処置(スポーツを行う人など) ・日常生活の動作指導 寝方指導 ・腱板損傷では夜間の就寝時に痛みが増強することが多いため、肩にかかる負担を極力減らした寝方を指導 薬物療法 ・痛みが強い時期には炎症を抑えるための消炎鎮痛薬を処方 ・関節内や関節外の軟部組織に対しての注射 いずれも軽度〜中等度の腱板損傷に有効です。 手術療法では以下のようなものがあります。 手術療法 関節鏡視下手術 関節鏡視下手術は、現在の肩腱板損傷の手術の多くを占めている手術方法です。傷口が小さくすみ、手術後の経過が早いのが特徴です。 方法は、肩に穴を空け、一方にカメラを、他方に操作する器具を入れて行います。そして、切れた腱をもともとついている上腕骨に打ち込んで止めます。 手術後は、安静期間を経た後に、徐々に関節を動かしていきます。術後、3ヶ月程度で日常生活はほぼ問題なく行えます。 仕事で重労働が必要な方は、おおよそ6ヶ月必要となりますのでご注意ください。 人工肩関節置換術 広範囲な腱板断裂や関節に変形がみられるケースでは、人工関節を入れる場合があります。人工関節といえば、股関節や膝関節がメジャーですが、肩にもあるのです。 関節の状態や、どのくらい動かせるかなどによって種類も様々ですが、ある程度は痛みなく動かせるようになります。重いものを持つ、スポーツで激しい運動をする場合は、医師と話し合って勝手にやらないことをおすすめします。 まとめ・腱板損傷と腱板断裂の違いをご存知ですか?分かりやすく解説 今回は、腱板損傷と腱板断裂の違いと共通点についてお話しました。 結局のところ明確な違いはないとお伝えしましたが、医師によって使い分けていることがありますので、どのくらい切れているのか、どのような治療が望ましいのか確認した方がいいでしょう。 五十肩だと思って放っておくと、広範囲の腱板断裂を引き起こしかねませんので、痛みや動きづらさでお悩みの際は、専門の医師にご相談ください。 ご参考になれば幸いです。 No.090 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療で腱板損傷・腱板断裂を治療する 腱板損傷・腱板断裂は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます
2022.10.17 -
- 腱板損傷
- 肩
肩の腱板損傷を患った人がやるべきこと 肩の痛みに悩まされる人が多いですが、その症状、『腱板損傷』かも知れません。 あなたが五十肩だと思っているその痛みも、放っておくとどんどん上がらなくなる・・・かも?! 今回は、腱板損傷の保存的治療方法を中心に解説していきます。 腱板損傷の症状 腱板損傷の症状で多くみられるのが、夜間痛です。 その名の通り、夜寝ている時に痛みがひどくなり眠れない、という声がよく聞かれます。 他にも以下のような症状がみられます。 【腱板損傷の症状】 ・夜眠れないほどの痛みが出る ・手を上げる時、ある一定の範囲だけ痛みや引っかかり感が出る ・手を水平の位置に保てない ・手を上げる時に肩全体が上がってしまう(腕の上げ方が左右で違う) ・肩の筋肉(特に棘下筋)の萎縮が進み、見た目でわかる 腱板損傷とは 腱板って、どこのこと? 腱板とは、肩甲骨と上腕骨をつなぐ肩の奥の筋肉です。正式名称は、回旋筋腱板(ローテーターカフ)であり、以下の4つの筋肉からなります。 【腱板】 ・棘上筋 ・棘下筋 ・小円筋 ・肩甲下筋 肩の上腕骨の骨頭と呼ばれる部分を包み込むように付着し、一枚の板のように並んでいるため腱板と言われています。 腱板の役割 この4つの筋肉は、肩を動かす上で非常に重要な役割を担います。肩にはアウターマッスルとインナーマッスルとがあり、腱板はインナーマッスルに属します。 肩の筋肉 役割 筋肉の位置 アウターマッスル 棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋 関節を安定させてアウターマッスルを働きやすくする より関節に近いところに位置する インナーマッスル 三角筋、上腕二頭筋など 速くて強い力を生み出す 体の表層 腱板損傷とはどのような状態なのか 腱板の基本的な役割について説明しました。小さい筋肉ですが、非常に重要な働きをしてくれます。そんな腱板が損傷した状態とはどのようなものなのでしょうか。 腱板は筋肉や腱のことであり、他の筋肉、腱と同じで線維状になっています。その線維が部分的に傷んでいる、切れている状態が腱板損傷です。損傷がひどく、一部または大部分に断裂がみられるものは腱板断裂と呼ばれています。 腱板損傷、腱板断裂は、筋肉や腱の変性が起きやすい50代以降の男性に多くみられます。発症のピークは60歳代です。 若い世代でも、肩を酷使するスポーツ選手などにもみられることもあるため、医療機関できちんと検査をすることをおすすめします。 腱板損傷の原因 前述したように、中年以降に多くみられることから、筋肉や腱などの加齢による変性が大きく関わってきます。また、肩に負担のかかる動作を繰り返すと発症しやすくなります。 例えば、重いものを抱える配送の仕事や、肩に強い負荷がかかる野球のピッチャーなどです。他にも様々な原因で腱板損傷が起こります。 【腱板損傷の原因の例】 ・筋肉や腱などの軟部組織の変性が起こりやすい中年男性 ・重い荷物を持ち運ぶ ・野球など投げる動作を繰り返すスポーツ ・後ろのものを取ろうとして不自然な肩の動きをしてしまう ・転んだ拍子に手をつく、もしくは肩を打つ 腱板損傷の診断 腱板損傷はレントゲンでは分かりにくく、よく五十肩と勘違いされます。そのため、正確な診断にはMRIやエコー検査などが用いられます。 他にも、前述した腱板損傷の所見を、視診や触診で確認することも重要です。他の肩関節疾患との鑑別を正確にすることで、今後の治療方針を早期に決めることができるため、気になる症状がありましたら早期に医療機関へ受診することをオススメします。 腱板損傷の保存的治療方法 腱板損傷の治療法には外科的な処置を施す手術療法と、注射やリハビリなどで機能の改善を図る保存療法とに分けられます。 ここでは、保存療法を中心に紹介します。腱板が傷んでしまうと、その性質から腱板自体が自然に修復するのは難しいのです。 そのため、腱板損傷を発症してしまったら以下のことに留意し、リハビリ等の治療にあたります。 ・痛みを減らし、悪循環を断つ ・腱板への負荷をできる限り減らす ・肩周囲の動きを良くする ・仕事、生活の動作習慣を見直す 痛みによる負のスパイラルから抜け出そう まず一番に対処すべき症状は痛みです。痛みが残っていると脳がその痛みを覚えてしまい、長引くことがあります。 さらに、痛みが続くと無意識に患部を動かさなくなってしまいます。そうなると関節の動きが悪くなり、結果的に肩関節に機能低下が生じてしまうのです。 痛み → 動かさない → 肩関節の機能低下 → 痛み ではどのように対処していけばいいのでしょうか。 医療機関を受診すると、痛み止めの注射やお薬を処方されることがあります。原因を根本的に治す治療ではないのですが、痛みを一時的にでも抑えることは大切なことです。それに加えて、生活の中でできることを紹介します。 前述したように、腱板損傷の方は夜間痛を訴えるケースが多くみられます。そんな人の寝方をみてみると、痛みのせいで悪い姿勢になっている人もしばしば見受けられます。 そこで試して欲しいのが、寝る姿勢の調節です。具体的には以下の通りです。 ・上半身を少し高くして寝る ・寝る時に痛い方の腕の下にバスタオルを敷き、リラックスした姿勢を保つ ・抱き枕で横向きに寝る 〔寝方の一例〕肘の下にバスタオル、腹部に小さめのクッションを置くことで、肩が正常な位置に保たれる。 しっかり睡眠をとることは、脳や体に良い休息を与え、自律神経の改善につながります。そうすると余分な筋肉の緊張も抜け、痛みが軽くなることがあります。 傷んだ腱板への負担をできる限り減らそう 先ほども言いましたが、一度傷んでしまった腱板は自然修復が難しく、より重度の損傷が起きてしまうと手術が必要なケースもあります。そのため、余計なストレスをかけず重症化を防ぐことが大切です。 ・重いものを持たない →どうしても持たなければならない場合は、以下のことに注意しましょう。 ・小分けにする ・腰をしっかり落として体の近くで持つ ・急に持ち上げない ・無理な体勢で物を取ろうとしない ・痛みが出ている肩を下向きにして寝ない 以上のことに気をつけて過ごしましょう。 肩は“肩”だけじゃない?! 肩と聞くと、腕の付け根のことをイメージするかと思います。実は、皆さんが思っている肩と医学的に言われている肩は少し違います。 医学的に言われている肩は、胸の中心にある胸骨、鎖骨、肩甲骨、肋骨など周辺にある様々な骨や関節を総合して『肩』と言います。 つまり、肩を効率的に動かすためには、これらの部位もしっかり動かせることが重要です。特に鎖骨周りや肩甲骨などは動きが悪くなることが多いので、意識的に動かしましょう。 写真①(鎖骨周りのセルフマッサージ) 写真②(肩甲骨を意識した肩回し) スポーツを行う人はトレーニングの他にテーピングも有効 スポーツ中のケガで腱板損傷を発症する方もいらっしゃいます。もちろんリハビリやトレーニング等で機能を戻すことが大前提ですが、場合によってはテーピングで腱板の機能の補助をすることも可能です。 今回は例として、棘上筋、棘下筋、小円筋をサポートするテーピングを巻いています。テーピングをすることで動きに違和感を覚えるかもしれませんが、安定性が増し、より安全にスポーツを行うことができます。 しかし、テーピングにも限界があります。痛みが強く出てしまう時は、無理せず患部の鎮痛および機能回復を待ちましょう。 まとめ・肩の腱板損傷を患った人がやるべきこと 今回は、腱板損傷の病態と保存的治療法について紹介しました。 腱板損傷は、他の肩の疾患と見分けがつきにくく、医療機関に受診しても見落とされることがあります。しかし、ほとんどの場合は詳しい検査で分かります。 自分で五十肩と決めつけず、痛みがあったり長引いたりする時は迷わず医療機関にご相談を。そして適切な治療を受け、快適な日常を少しでも早く取り戻しましょう。 No.S088 監修:医師 加藤 秀一
2022.10.08 -
- 肩
- スポーツ医療
ゴルフ肩(スイングショルダー)とは?その原因と治療法について はじめに 競技や趣味にかかわらずゴルフを行っていればゴルフ肩(スイングショルダー)という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。また実際にゴルフ肩で悩んでいる方もおられるのではないでしょうか。 この記事ではゴルフ肩(スイングショルダー)について、その症状や原因と治療法について、医師が解説させて頂きます。なお本記事では一般的な注意点などについて解説しておりますので、個別の症状などについては各自で判断することなく医療機関にてご相談されることをお勧めします。。 ゴルフ肩(スイングショルダー)とは ゴルフ肩(スイングショルダー)は特定の病名ではなく、日常的にゴルフを行うことにより引き起こされる「肩関節周囲組織の損傷」による症状をいいます。症状は傷害される部位によって異なりますが、肩関節から肩甲骨周囲の痛みや腕にかけての痺れなどが一般的です。 多くの場合スイングの際に前方に位置する肩に傷害が起きやすく、特に右利きのゴルファーの左肩が怪我をしやすいと言われています。ゴルフ肩(スイングショルダー)に含まれる具体的な疾患名(または症候名)としては「腱板損傷」、「腱板断裂」、「上腕二頭筋腱損傷」、「肩峰下インピンジメント」、「変形性関節症」、「肩関節の不安定性」などがあります。 ゴルフ肩(スイングショルダー)に含まれる病名 ・腱板損傷 ・腱板断裂 ・上腕二頭筋腱損傷 ・肩峰下インピンジメント ・変形性関節症 ・肩関節の不安定性 ゴルフ肩(スイングショルダー)の原因 ゴルフは、クラブをスイングする際の非常に特殊な肩の動きを必要とするスポーツです。左右の肩が全く逆の動作をしなければならず、前方の肩はバックスイングの頂点で極端な内転姿勢になり、後方の肩は外転姿勢になるように伸ばされます。 この特殊な動作に加え、非常に重量のあるクラブを振り回し、地面の抵抗なども加わり、肩の障害を引き起こしかねません。 さらにゴルフでは、スイングを行う際にしばしば90°以上の水平および垂直の肩関節の運動を必要とします。 特にラウンドだけでなく練習中なども含めて、複雑な動きの組みあわされたスイング動作を繰り返し行うことによって、このような複数の動きの組み合わさることで肩の傷害の原因となることが指摘されています。頻繁にゴルフを行うことや長時間ゴルフをプレーすることも肩関節の障害のリスクと考えられています。 前後いずれの肩においても、「肩峰下インピンジメント」と呼ばれる病態が多くのゴルフ肩の原因となります。 ゴルフ肩(スイングショルダー)の検査 ゴルフ肩(スイングショルダー)は病名ではなく、一連の状況が起こす症状の総称であるため、その診断は主に症状が発生するに至った経緯と症状の部位によりなされることが一般的です。 しかし、肩関節には骨や筋肉だけでなく、神経や靭帯などさまざまな組織が存在するため、これらの傷害を詳細に検討するために関節のMRIを施行することがあります。 より高齢のゴルファーの場合には、インピンジメントなどの徴候や関節内組織の傷害だけでなく、肩甲骨と鎖骨のつなぎ目である肩鎖関節の位置関係や形態の変化を調べるためにレントゲンによる画像検査を施行することもあります。 また、関節超音波(エコー)検査はさまざまな体勢で施行することができるだけでなく、関節注射などの処置のガイドにもなるため施行されることがあります。 ゴルフ肩(スイングショルダー)の治療法 ゴルフ肩(スイングショルダー)は病名ではなく、一連の状況が起こす症状の総称であるため、傷害部位に応じた治療が必要になります。一般的には専門家によるリハビリテーションが主な治療となることが多く、提供されるリハビリプログラムは専門家によって違います。 リハビリは、肩関節に負担をかけない肩甲骨の運動矯正、肩関節の内外転・内外旋のバランス調整、およびスイングの矯正などゴルフに特化したリハビリテーションが含まれます。 特にゴルフでは、体幹を安定させることとスイング動作における全身運動の改善が不可欠です。一方で、関節唇損傷など、手術による治療などの特殊な治療を要する場合もありますので、まずは専門家に相談しましょう。 ゴルフ肩(スイングショルダー)のリハビリから競技への復帰 ゴルフ肩(スイングショルダー)の治療から競技への復帰は一般的に以下のようなプロセスを必要とします。 |症状の改善: 運動負荷を減らす、状況に応じて消炎・鎮痛を行うなどして症状の改善に努めます。症状が強いと協調運動に制限が出たり、リハビリテーションがうまく進まなかったりする可能性があります。 → そのため、まずは運動負荷を減らして症状の改善に努めることが多いです。 |筋力と柔軟性の強化: とくに肩関節周囲の筋力と柔軟性を強化することで、症状の改善だけでなく再発の予防や競技能力の向上が見込める場合があります。 → 競技前にウォームアップの習慣をつけることも効果的と考えられています。 |軽負荷による競技再開: ゴルフ肩(スイングショルダー)の治療と並行してゴルフの動作に特化したゴルフ復帰のためのリハビリを行うことが一般的です。手術などの体の負担の大きな治療を要した場合でも、3~4週間以内には患部の腕を使った片手のパッティングを始めることができ、ゴルフに特化したリハビリを進めることができます。 ・症状やリハビリの進行状況に応じてスイングを模した簡単な体のひねり運動を行い、体幹と全身の強調運動の強化を徐々に再開します。 ・専門家の指導のもと段階的に競技負荷を強くしていき、2ヶ月目か3ヶ月目には徐々に競技に復帰することができることが多いです。 最後に・ゴルフ肩(スイングショルダー)とは?その原因と治療法について 今回の記事では、ゴルフ肩(スイングショルダー)の原因や治療について解説しました。ゴルフのスイングによる肩関節周囲組織の傷害はこのスポーツ競技特有のものです。 リハビリテーションを含む治療には医師や理学療法士などのさまざまな職種の連携が不可欠となりますので、治療にあたっては、なるべく早期に整形外科等、専門診療科に相談するようにしましょう。 手術を避ける再生医療という先端治療もあり、選択の幅も広がってまいりました。以上、参考になれば幸いです。 No.083 監修:医師 坂本貞範 ▼ スポーツ外傷(筋・腱・靭帯損傷)に対する再生医療 当院の再生医療は、スポーツ選手のパフォーマンス(QOL)を維持する治療を推進しています ▼ 再生医療で腱板損傷を治療する 腱板損傷は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます
2022.08.15 -
- 関節リウマチ
- ひざ
- 股関節
- 肩
- 肘
- 腰
- 首
関節症に喫煙や電子タバコが良くないというのは本当か? 喫煙することと関節症の間には、一見何も関係がないようにみえます。 しかし最近いくつかの研究の結果から、タバコが関節症の経過によくない影響を与えていることが明らかになってきました。そこで今回の記事では、喫煙と関節症の関係についてご説明します。さらに電子タバコによる影響についても、解説いたします。 喫煙が関節症に与える影響 喫煙そのものは、肺がんや肺疾患、また動脈硬化や脳血管障害など、わたしたちの体のあらゆるところによくない影響を与えることは、よく知られていることかと思います。 ここでは特に、関節症の方に対して喫煙が与える影響についてご紹介します。 死亡リスクの増加 関節リウマチと診断されている方が喫煙を続けていると、非喫煙者に比べて死亡率が増加することがわかっています。 121,700人の女性が参加する追跡調査で、追跡中に関節リウマチと診断された923名を分析しました。このうち36%は関節リウマチと診断される前に一度も喫煙したことがなく、43%が過去に喫煙しており、21%が現在も喫煙者でした。 この調査によると、関節リウマチと診断された後も年間5パック以上の喫煙を続けていた女性は、診断前から喫煙をしていなかった人や関節リウマチと診断された後に禁煙した人たちと比べても、死亡リスクが2~4倍も高くなっていました。 診断後に禁煙することで、喫煙を継続するよりも死亡リスクは低くなっていましたので、早めに禁煙することは有効だと言えるでしょう。 (参考文献:https://acrabstracts.org/abstract/smoking-behavior-changes-after-rheumatoid-arthritis-diagnosis-and-risk-of-mortality-during-36-years-of-prospective-follow-up/) また5,677人の関節リウマチの方を平均して約5年間追跡調査した研究では、喫煙者の心血管障害や呼吸器疾患による入院率は、非喫煙者の2倍になっていました。 入院するリスクは、禁煙1年後に著しく低下していましたので、こちらも早めに禁煙することが予後を改善することにつながります。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5623338/) 手術の合併症の増加 喫煙者と非喫煙者における、膝関節置換術の経過を比較した研究があります。 合計で8,776人の膝関節再置換術を受けた方を対象に実施した研究です。このうち、11.6%が現在も喫煙者でした。再置換人工膝関節置換術を受けた喫煙者は、非喫煙者と比較して、あらゆる創傷合併症、肺炎、および再手術の割合が高くなっていました。 (参考文献:https://www.arthroplastyjournal.org/article/S0883-5403(18)30282-1/fulltext) タバコを吸うと、一酸化炭素が赤血球内に取り込まれ、その結果、全身の組織に運ばれる酸素が少なくなります。手術部位が適切に治るためには、酸素を十分に含んだ血液が必要です。 タバコを吸うと、この治癒プロセスの重要な部分が滞り、治癒に時間がかかるようになると考えられています。 病状の悪化 159人の変形性膝関節症の男性を最長30ヶ月間追跡調査したところ、喫煙者は非喫煙者に比べて関節症による膝の痛みが強く、軟骨が著しく失われる可能性が2倍以上であることがわかりました。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1798417/) X線写真の撮影が可能であった311人の初期リウマチ性関節炎の方をフォローした調査では、1年後にX線写真の進行がみられる独立した予測因子は、喫煙でした。つまりX線写真上で悪化する危険因子に喫煙があることがわかりました。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4515990/) タバコに含まれる有害物質が軟骨の減少に寄与している可能性や、血中の一酸化炭素濃度が高いことが、軟骨の修復を妨げている可能性があると推測されています。 電子タバコの関節症に与える影響 電子タバコ(e-cigarettes)の使用率が急速に高まっていますが、電子タバコの使用が関節症状に対して与える影響について、まだ詳細はわかっていません。そこで行われたので、米国で924,882人の成人を対象に実施された、最大規模の全国電話調査です。 この調査では、電子タバコの使用歴と炎症性関節炎に関する情報を入手し、解析しています。 その結果、電子タバコ使用者と電子タバコ未使用者を比較したところ、電子タバコ使用者の方が炎症性関節炎により罹りやすいことが確認されました。この傾向は、電子タバコ使用者でも電子タバコと通常のタバコを併用する使用者でも同様であることがわかりました。(参考文献:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphar.2022.883550/full) まとめ・関節症に喫煙や電子タバコが良くないというのは本当か? 喫煙と関節症の関係、また電子タバコと関節症の関係についてご説明しました。 いずれにしても喫煙は関節症に対し、良い作用は何もないと言えるでしょう。ただ禁煙することで、予後や合併症の改善がみられることも事実です。まだ電子タバコを含め喫煙しておられる方がおられるようであれば、できる限り早く禁煙に取り組むことをお勧めいたします。 No.082 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療に関する詳細は以下をご覧下さい 自分自身の自ら再生しようとする力、自然治癒力を活かした最先端の医療です
2022.08.09 -
- 肩
肩の腱板断裂は放置しても治らない!早めに医療機関を受診して! 肩の腱板断裂(けんばん・だんれつ)って、どんな症状? どんな年齢層で多く起きるのか? 看板断裂を分かりやすく症状で表すと、「肩上がらない」、「肩が痛い」、「夜寝ていると、肩が痛くて眠れない」、「腕を上げようとしても力が入らない」、「腕を上げるときに肩の前の方で変な音がする」、などといったものになります。 年利的には、40歳以上の男性に、特に60歳代の方に多くみられる病気になります。 ところが肩が痛くて、40歳以上で・・・というと、「四十肩?、五十肩!?」と思われる方が多いのではないでしょうか?では、「五十肩」とはどう違うのでしょう? 「五十肩」は別名「凍結肩」とも呼ばれているように、関節の動きが固まってしまうものです。これに対して、「腱板断裂」では、痛みはあっても反対側の手を添えたりすると肩を動かすことができるので方が動くか、動かないかが大きな違いになります。 肩の腱板って何ですか? 肩の腱板とは、肩関節の中にあり、いわゆる「腱」が筋肉とつながっているために板のようにみえるグループ構造のことで、肩関節の動きを支えています。 肩関節とは、鎖骨(身体の正面、首のしたで中心から左右に伸びる骨)、肩甲骨(肩の後ろの翼のような形の骨)、上腕骨(いわゆる腕の骨)に囲まれた部分です。 肩関節の動きはとても複雑なことができます。例えば、肩をぐるぐる回したり、手(腕)を上に挙げたり、手を後ろに回したり、肘は体につけて「小さく前にならえ」のような動きをしたり、様々な動きができます。 以下のような動きに関係しているのが肩の腱板です。 ・手を横に広げて上げてくる時(鳥が翼を大きく広げるような動作)には「棘上筋」 ・小さく前にならえの姿勢から手を外側に広げる時の動きは「棘下筋」「小円筋」 ・手を体の後ろで組んで少し体から離すような動きの時は「肩甲下筋」 腱板断裂のタイプには、「完全断裂」と「不全断裂」があります。これは、治療方針を決める上で大事になります。 腱板断裂はどんな時に起きるのか? 腱板断裂は、大きく分けて3つあります。 また、スポーツ選手などの活動性の高い人たちの肩の使いすぎで腱板断裂が起きることもあります。野球選手のシーズンオフのニュースなどでも時々耳にすることがあるので、「腱板断裂」という言葉は結構身近に耳にする言葉かもしれません。 (1)転んでしまった時などの怪我を原因とするもの (2)スポーツが原因となるもの (3)主に年齢が上がるにつれて腱板が徐々にすり減っていくことを原因とするもも 明らかに転んでしまった、などの怪我が原因の場合は、多くの方が整形外科を早めに受診されるので、その際にレントゲン撮影、超音波検査、MRI検査などをして診断されることが多いので、適切な治療を早めに開始することができます。 一方で、徐々に腱板がすり減っていって腱板断裂を起こしてしまった場合は、整形外科受診のタイミングを逃してしまう方も多く、「なんとなく肩が痛かったけど、騙しだまし、やってきた・・・、日常生活に不足なかったから」などの理由で放置されることが多く、それも障害がある限りは限界がきます。 そういえば、いつだったか、ずいぶん前にちょっと転んだけど、しばらくしたら痛くなくなって、病院では診てもらわずに放っておいたというのは、よく聞く話です。 こういう方々は、実際に整形外科の受診時に 「ひどい痛みで肩が動かない、、、。日常生活に支障が出てきて困っている!なんとかしてほしい!!」となることがあります。 また、スポーツで断裂が起こる場合は大きく次の3つのタイプに分かれます。 1)慢性障害 野球や、バレーボール、水泳など、肩を大きく回す動作を日常的に繰り返すことで起こります。筋肉の疲労を伴うもので完全に断裂することはあまりなく、多くは部分断裂です。 2)急性障害 急激に大きな力が掛かり急性に完全断裂が起こることがあります。ジムでの筋力トレーニングや、体操、テニス等で見られます。 3)外傷型障害 衝突や転倒により生じる症状です。スキーやスノーボード、ラグビーやサッカーなどで多く見られます。 腱板断裂は放置しないで肩に違和感があれば医療機関を受診する 腱板断裂は放っておけば断裂してしまった部分が自然に修復されるなどということは期待できません。つまり、なんらかの対策、治療や、リハビリテーションが必要となります。 痛みが無くて、日常生活に不便がなう場合でも、放置した場合は、肩の機能は低下していきます。また別の病気に移行する危険性があります。 転倒や、スポーツなどの急な怪我で腱板断裂が起きてしまった場合、または方に違和感がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。三角巾などで1−2週間安静にしていただき、強い痛みが強ある場合は炎症を抑えるための鎮痛剤の内服あるいは、ステロイド注射などの「薬物療法」、湿布、テーピングなども使いつつ、残った部分の腱板や肩回りの筋肉の増強に向けたリハビリテーションを行います。 これで約70%の方が状態は良くなります。しかし、肩の痛みが続き、肩の動きも思うようにままならない場合は、手術(断裂部の修復手術など)も検討しなかればなりません。 まとめ・肩の腱板断裂は放置しても治らない!早めに医療機関を受診して! 腱板断裂の症状は、全ての人に痛みが強く出るものではありません。腱板断裂ではあるが痛みがなく、肩が動いて日常生活に不便がない無症候性腱板断裂という肩もおられます。また、無症状ではないものの日常の生活には支障がない方もおられます。 そのような方々が腱板断裂を放置する選択を選ばれ(痛くない、支障がない)ますが、肩の機能は低下していくため、最終的に困った状態になってから医療機関を受診されるということになります。 そうなった場合の問題は、症状が進行してしまい極点な場合は、手術による修復が難しく、太ももの筋膜の移植、人工関節手術を検討する羽目になりかねません。まだ、大丈夫と自分で判断するのは重症化のリスクをはらんでいることをご理解ください。 ここまで肩の腱板断裂と放置による危険性を記してまいりました。明らかな痛みや、症状がある場合に病院等、医療機関を受診された方は、スムーズに治療に入れるために放置にはなりません。 肩に軽い痛みや違和感があるだけでは、つい病院等に行きそびれてしまったり、あまり痛まない、肩が上がるから大丈夫などと自己判断で腱板断裂を放置すると症状が悪化することがあります。 日常生活に支障がいないからと放置するのではなく、肩に痛み、違和感を感じたら整形外科等、医療機関を受診し、治療は勿論、現状の把握と万一、放置した場合のリスクについて説明を受け、ぜひ前向きに治療を開始されることをお勧めいたします。 No.S082 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 肩の再生医療 肩の違和感、痛み、再生医療による治療が可能な場合があります
2022.07.05 -
- 肩
- 腱板損傷
腱板断裂と四十肩(五十肩)はどう違うのか はじめに 肩が痛む時に診断される病気として、四十肩と腱板断裂とがあります。『なんだか最近肩が痛いな、年齢のせいかな』『最近肩を動かし過ぎたせいかな』『時間が経てばそのうち治るかな、様子をみよう』などと考えて、四十肩と思って放置していると、実は腱板断裂で治療が必要な状態ということもあります。 そこで、腱板断裂と四十肩はどう違うのかについて比較していこうと思います。ちなみに四十肩も五十肩も基本的に同じものです。この名称は、40代〜50代で発症することが多いため、四十肩または、五十肩という名称で呼ばれています。 四十肩(五十肩)とは 年齢を重ねると肩の動きが悪くなって、手をあげる時や、髪の毛を洗う時などに肩が痛みを感じたり、肩の動きが悪くなったり、肩が強張ることがあります。これを世間では四十肩・五十肩と言いますが、『肩関節周囲炎』という診断名が正式名称です。 原因は、『四十』『五十』と言う文字の通り、加齢による影響と、過度に肩を使ったりした際の過労と言われています。それらの原因が、肩関節を構成している骨や軟骨、靭帯、腱などを痛めて肩関節の周りの組織に炎症を起こすことが原因と言われています。 四十肩で動きが悪くなる原因としては、肩関節の動きをよくするための袋(肩峰下滑液包)や関節を包み込んでいる袋(関節包)が、『くっつくこと』と言われています。 四十肩は、世間でも『そのままにしておいても時が来れば治る』と考えられているように、自然に治ることもあります。しかし放置しておくと、先ほど述べたような関節の周りにある『袋のくっつき』が強くなって余計に動かしにくくなることもあるのです。 そのため、症状の進行に合わせて様々な治療を用いることがあります。三角巾などで安静を保つことも治療法の一つです。また、炎症をおさえる薬を使用することもあります。 炎症をおさえる薬は内服をしたり、肩に注射をしたりします。その他には、温めたり、入浴などといった温熱療法を行ったり、関節がかたくなるのを予防したり、筋肉をつけたりといったリハビリが治療のために必要なこともあります。しかし、これらの治療でよくならない時は手術が必要なこともあります。 腱板断裂とは 腱板断裂も中年以降の肩の病気として有名です。腱板断裂はその診断名が表しているように『腱板』が『断裂する=切れて裂ける』病気です。 四十肩と異なり肩の関節の動きが悪くなることは少なく、肩をあげることは可能であることが多いですが、肩の運動痛、肩の夜間痛といった症状は多いと言われています。 腱板断裂で病院に来る患者さんの理由としては、夜も肩に痛みがあり眠れないというのが、いちばん多いようです。また、肩をあげる時に肩の前で『ジョリジョリ』という音が聞こえるという症状がみられることもあります。 腱板断裂の原因としては外傷のことは少なく、はっきり原因がないのに、日常生活の中で少しずつ断裂が起きていくと言われています。利き腕に多いと言われているので、肩を過度に使い過ぎることも原因の一つなのではないかと言われています。 腱板断裂の治療については、三角巾を用いて安静を保つことが大事です。1週間から2週間を安静で保つことで70%は改善するとも言われています。また、肩にヒアルロン酸や副腎皮質ホルモンの注射を打ったりすることもあります。それらの症状で改善しない時は手術が適応となることもあります。 手術では関節鏡という機械を使用して行うものと、直接切って開いて行うものとあります。関節鏡を用いる手術の方が、傷口は小さく、手術の後の痛みも少ないです。しかし、断裂が大きくなると、縫うことが、関節鏡による手術では難しくなり、直接切り開く方法を取られることが多いです。 腱板断裂と四十肩(五十肩)の違い 腱板断裂と四十肩は非常に似ています。症状も似ていますし、発症する年齢もどちらも四十代〜五十代の中年世代が多いです。腱板断裂と四十肩では何が違うのか、自分でわかる範囲内の症状としては、先ほど触れたように『腱板断裂は四十肩に比べて、肩の動きが悪くなることが少ない』『腱板断裂は四十肩に比べて夜間の痛みが多い』『腱板断裂ではジョリジョリという音が聞こえる』と言った程度でかなり似ています。 診断の場面でも、身体診察だけではどちらの疾患かわからないことが多いのです。そこで実際の診療では、腱板断裂、四十肩どちらも、レントゲンやM R Iを行って診断していきます。 腱板断裂ではレントゲンを撮影して、肩峰という骨と骨頭の間が狭くなっていたりします。また腱板断裂ではM R Iを撮影すると骨頭の上が白く光ったりします。一方で、四十肩を診断する時は、レントゲンやM R Iなどで、このような所見がないことを確認することが大事と言われています。 まとめ・腱板断裂と四十肩はどう違うのか 何度も述べているように、自分でわかる症状では腱板断裂と四十肩はかなり似ています。『四十肩と思って放置していたら、実は腱板断裂だった』『症状がどんどん悪くなっていってしまい治療が遅れた』『治療が遅れたため、なかなか良くならずに手術が必要になってしまった』などのことはよく耳にします。 腱板断裂と四十肩は症状が似ていても、別々の病気です。自分の判断でどちらかと決めずに、手遅れになる前に、症状が出た際は早めに専門科に相談するのが良いでしょう。 以上、腱板断裂と四十肩はどう違うのかについてご説明させて頂きました。参考になれば幸いです。 No.064 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療で腱板損傷を治療する 腱板損傷は、再生医療により手術せずに症状を改善することができます
2022.06.10 -
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腱板損傷(腱板断裂)でやってはいけない動作や運動 肩に激しい痛みを起こす腱板損傷(腱板断裂)は、日常生活の動作を繰り返すことでも発症することがあります。 発症初期は安静を保つことが重要ですが、日常生活の動作が原因となることもあるため、どのような動作が原因となるのかを知り、そしてどのような動作を避けることが安静を保つことになるのか、知っておくことが重要です。 この記事では、腱板損傷を発症したときにやってはいけない、避けるべき動作にどのようなものがあるのか、ご説明いたします。 腱板損傷とは? 腱板は、実はわたしたちの肩のなかで最もよく損傷を受ける部位です。 肩甲骨と上腕骨をつないでいる筋肉の腱からなる腱板は、腕をあげる動作によって肩甲骨の一部である肩峰と上腕骨頭の間に挟まれてしまうという、解剖学的特徴があります。そのため、外傷だけでなく使いすぎることで磨耗を起こし、損傷されることがあります。 腱板が損傷されると、通常腕の力が入らなくなり、特に腕を上げようとしたときに痛みを引き起こします。また夜に激しく痛み、痛みのために眠れなくなってしまうこともあります。 急性期は肩や腕を使わないように安静にすることが最善です。なお併発する炎症を抑えるために、ステロイド薬を注射することもあります。 ただし、外傷によって腱板損傷を起こした場合や保存的な治療でなかなか改善しない場合は、受傷してから6週間以内を目処に、手術で修復することを考慮することがあります。 腱板損傷後にやってはいけないこと 基本的に損傷直後は肩周囲の安静を保つべきです。通常は三角巾を用い、腕の動きそのものを最小限にするように配慮します。安静は急性期における対処法ですが、急性期が過ぎた後も、できる限り避けた方が良い動作があります。そこで次に、腱板損傷後に避けるべき動作をご紹介します。 頭上で重りを持ち上げる 腱板損傷を発症した後、特に発症初期は、頭上に手を持っていく動作、また頭上で重りを持ち上げる動作(重い荷物を上げたり、高所から下すような動作)を伴う運動や動作は控えた方が良いでしょう。 ボールを投げるような動きや、ジムでバーベルを頭の上に持ち上げるなどのウェイトトレーニングは、しばらく行わないようにすることです。これらの動きは、肩に過度のストレスを与えるだけでなく、損傷した部位にさらなる傷害と痛みを引き起こす可能性があります。 したがって、腱板損傷後はオーバーヘッドでボールを投げること、特に重いボールを上半身の力に頼って投げることや、水泳、特にクロールや背泳のように、頭上に右手を持ってきて力を入れて引き下げるようなストロークを避ける必要があります。 首の後ろで腕を動かす動作 バーベルやバーなどを、頭や首の後ろで上下させる運動も避けるべき動作のひとつです。この運動は、腱板に過度の負担をかけ、さらなる肩の問題や慢性的な痛みを引き起こす危険性があります。 この動作の問題は、肩の「外旋」にあります。 頭や首の後ろで上下させる運動では、肩をしっかりと外旋させる必要がありますが、これは肩にとって非常に負担のかかるポジションです。この動きをすると、関節を構成する組織をさらに損傷してしまい、治癒までの時間が非常に長くなってしまうことにもつながります。 上半身の力を使って重いものを持ち上げること 別名アップライトローと呼ばれる動作のことです。 アップライトローはジムでよく見かけるエクササイズのひとつですが、このエクササイズのメカニズムを見れば、なぜこの動作が腱板損傷後に避けるべき動作であるか、理解できるでしょう。 アップライトローは、上半身を起こした状態で肩を開き、両手に持ったバーベルなどの重りを首元まで引き上げ、持ち上げる動作です。 このエクササイズの問題は、腕を置かなければならない位置にあります。この位置は、「内旋」と呼ばれます。アップライトローをするために腕を挙上させると、腱板が肩の骨に挟まれます。これは腱板損傷を引き起こす原因となる動作そのものでもあります。 肩を後方に回した位置で行う上腕に負荷のかかる運動 ベンチディップスとも呼ばれるエクササイズが該当します。 具体的には、椅子などに両手をついた状態で腰を座面よりも低い位置まで落とし、肩を後方に回した状態で、主に二の腕に相当する上腕三頭筋に負荷をかける運動です。 ベンチディップスは、腰を落としすぎて上腕が肩と平行な位置になる以上になってしまうと、肩関節に過度に負荷がかかります。肘を開きすぎても閉じすぎても、上腕三頭筋に負荷がかかるため、腱板損傷後には避けるべき動作のひとつです。 まとめ・腱板損傷(腱板断裂)でやってはいけない動作や運動 腱板損傷について簡単にご説明し、さらに腱板損傷後に避けるべき動作、やってはいけないことをご説明しました。 腱板損傷後は、時間が経てば肩の炎症は徐々に落ち着いていきます。外傷後や症状がなかなか改善しない場合は、どうしても手術が必要となる場合もありますが、しっかりと安静を保つことができ、保存的治療に反応すれば、完治も期待できます。 術後も含め、治療の一貫でリハビリを行うこともありますので、もし避けるべき動作について詳しく知りたい場合は、リハビリの機会などを活用して相談してみることをお勧めいたします。 No.S080 監修:医師 加藤 秀一 ▼ 再生医療で腱板断裂・損傷を治療する 腱板断裂・損傷を再生医療により症状を改善することができます
2022.06.09 -
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石灰沈着性腱板炎とは、その原因と症状、治療法について 石灰沈着性腱炎という症状をご存知でしょうか。 これは筋肉や腱にカルシウムが沈着することで起こる病です。部位的には体のどこにでも起こる可能性がありますが、通常は「肩の腱板」で起こることが多くり、そのために石灰沈着性腱板炎と呼ばれます。 腱板は、上腕を肩につなぐ筋肉と腱の集まりです。この部分にカルシウムが蓄積すると、腕の可動域が制限されるだけでなく、激しい痛みも生じるようになります。 石灰沈着性腱板炎の原因や危険因子 石灰沈着性腱板炎は、肩が痛む場合の最も一般的な原因のひとつです。 石灰沈着性腱板炎が発症する原因は、腱板へのカルシウムの沈着ですが、このカルシウムとはリン酸カルシウムであり、リン酸カルシウムが結晶化することで、症状が発現します。ただ、なぜリン酸カルシウムの沈着が起こるかは、実のところ、まだよく分かっていません。 リン酸カルシウムの結晶は、初めはどろっとしたミルク状なのですが、次第に固まりだして歯磨き粉状になり、最終的には硬く、そして大きくなっていきます。 なお、リン酸カルシウムの沈着は、遺伝的素因や糖尿病などの代謝性疾患などに伴うことが知られています。またバスケットボールやテニスのようなスポーツをする人や、日常的に腕を上げ下げして重いもの持ち上げる仕事をする人に多く見られる病気です。 発症年齢は、一般的に40~60歳の成人に見られ、男性よりも女性の方が罹患しやすいと言われています。 石灰沈着性腱板炎の症状 石灰沈着性腱板炎になると肩の痛みがひどいために腕を動かせなかったり、眠れないという人もいます。その反面、約3分の1の方で、目立った症状を感じなていないという場合があります。 痛みを感じる場合は、夜間突然に激しい肩の痛みを感じることが多いと言われています。肩の前面または背面から腕にかけて痛みを感じることが多く、痛みは突然やってくることもあれば、徐々に増していくこともあります。 悪化すると痛みで腕を動かせない、髪をとかすとか、洗濯物を干すなどの腕を上げる動作で痛みを伴うこともあります。なお、発症後4週間程度強烈な痛みが続く急性型、運動時痛が6か月以上続く慢性型などがあります。 ・急性型 ・慢性型 石灰沈着性腱板炎の診断 異常な肩の痛みや持続的な肩の痛みを自覚した場合に、疑われます。 診察では、腕を上げたり、腕を回したりして、可動域の制限を確認します。診察の後、カルシウムの沈着やその他の異常がないか調べるために、画像検査を行います。 通常は肩のX線検査により、石灰化した沈着物を明らかにすることができます。最近は、超音波検査を利用することもあり、X線検査では見逃された小さな沈着物を見つけ出すこともあります。 石灰化した沈着物の大きさや場所を正確に評価するためにCT検査をすることもありますし、腱板断裂が合併していないか確認するためにMRI検査をすることもあります。 診断ではいずれか或いは複合的に行われる ・レントゲン検査 ・超音波エコー ・CT検査 ・MRI検査 石灰沈着性腱板炎の治療法 多くの場合、石灰沈着性腱板炎は手術をせずに治療することができます。軽度の場合、薬物療法と理学療法を組み合わせたり、非外科的処置な処置を行ったりします。 薬物療法 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、治療の第一選択薬と考えられています。また痛みや、腫れを和らげるために、肩にステロイドと局所麻酔薬の注射を行うこともあります。 非外科的処置 急性期に、ミルク状のリン酸カルシウムを吸引することもあります。 肩に局所麻酔を施した後に腱板まで針を刺し、固まる前のリン酸カルシウムを手動で吸引し、除去することができます。針を正しい位置に誘導するために、超音波で確認しながら行うこともあります。 手術 約10%の人が、リン酸カルシウムの沈着物を除去するために手術を受けます。特に慢性型で日常生活に支障をきたすほどの痛みが続いている方は、手術が必要となります。 手術では、関節鏡手術が好んで使われています。術後は1週間以内に通常の機能に戻る人もいれば、痛みが続いて活動が制限される場合もあります。 理学療法 痛みに十分対処したのち、中等度または重度の症例では、可動域を回復させるために理学療法が必要となります。 手術をしない場合は、肩の動きを回復するために穏やかなリハビリテーションを行うことになります。振り子のように腕をわずかに振るリハビリがよく行われます。時間をかけて、アイソメトリック運動や軽い負荷をかけた運動などを行うこともあります。 なお手術後の回復には、個人差があります。場合によっては、完全な回復に3ヶ月以上かかることもあります。そこで手術後のリハビリテーションが必要となります。 石灰沈着性腱板炎の予後 石灰沈着性腱板炎は、痛みを伴うこともありますが、早期に治癒する可能性が高いです。最終的には自然消滅しますが、治療せずに放置すると、合併症を引き起こす可能性があります。この合併症には、腱板断裂や四十肩などを含みます。 まとめ・石灰沈着性腱板炎とは、その原因と症状、治療法について 以上、石灰沈着性腱板炎の原因や危険因子、症状や治療法などについて説明をいたしました。 腱板断裂や四十肩とも症状が似ているため、十分に認識されていないこともあります。もし、肩の痛みがなかなか治らない、肩の痛みの原因を知りたいなど、肩の痛みにお悩みの方は、ぜひ医療機関を受診されることをお勧めします。 No.058 監修:医師 坂本貞範 ▼ 再生医療で肩の痛みを治療する 肩に起こる痛みや病気を再生医療により改善することができます
2022.06.06