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「視界にギザギザが突然現れて不安で仕方ない」 「視界のギザギザした見え方は治るのか知りたい」 閃輝暗点は片頭痛や眼精疲労の一種と誤解されがちですが、脳や眼の重大な疾患の前触れの場合もあります。したがって、原因を特定し、早期に適切な治療を受けることが重要です。 本記事では、閃輝暗点の治し方を現役医師が解説します。記事の最後には、閃輝暗点の治し方についてよくある質問をまとめています。ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 閃輝暗点の治し方について気になる方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 閃輝暗点の治し方 治し方 詳細 眼に対しての過度な刺激を避ける 明るい画面や強い光を避け静かな暗所で安静に休憩 原因・根本疾患の治療を行う 脳神経外科や眼科での検査・診断による根本疾患の特定と治療 生活習慣の見直しとバランスの良い食事 十分な睡眠・規則的な生活・ストレス軽減・ビタミンやミネラルを含む食事 閃輝暗点に対する薬や手術による根本的な治療法は、現代医学では確立されていません。多くは数分から30分ほどで自然に治まりますが、脳梗塞や脳血管系疾患、片頭痛などの重大な病気が原因となる場合があります。 症状を繰り返す、または長引く場合は、早期に脳神経外科や眼科で検査を受け、根本疾患を特定し治療することが重要です。 予防のためには、強い光や長時間の画面注視を避け、十分な睡眠、規則正しい生活、ストレスの軽減を心がけます。加えて、ビタミンやミネラルを含む栄養バランスの良い食事を取り、不摂生を避けることが有効です。生活習慣の改善は、閃輝暗点の軽減だけでなく、背景疾患の予防にもつながります。 閃輝暗点の見え方や初期症状・治療法についての詳細は、以下の記事をご覧ください。 【関連記事】 【医師監修】閃輝暗点の見え方について解説|片目だけ・初めての症状は危険? 【医師監修】閃輝暗点とは|放置によるリスクから初期症状・治療法まで詳しく解説 眼に対しての過度な刺激を避ける 項目 詳細 発症直後の対応 明るい光や画面の刺激を避け、暗く静かな場所で安静 作業・運転中の対応 静かで刺激の少ない場所に移動し、視界が回復するまで再開を控える行動 水分補給 脱水防止のための十分な水分摂取 予防策 長時間の画面作業や強い光の回避、規則正しい生活、栄養バランスの整った食事 閃輝暗点が現れたら、強い光やスマートフォン・パソコンの画面から目を離し、暗く静かな場所で安静にしましょう。回復するまで作業や運転を控えることが重要です。 また、脱水は血流の悪化を招き、視覚異常を引き起こすことがあるため、こまめな水分補給が重要です。予防のためには、長時間の画面作業や強い光への曝露を控えるとともに、十分な睡眠、規則正しい生活、ビタミン・ミネラルを含むバランスの良い食事を心がけましょう。 原因・根本疾患の治療を行う 閃輝暗点を根本的に治す医学的治療法は確立されていません。再発予防の基本は、ストレスや睡眠不足、喫煙、アルコール、過剰なカフェイン摂取などの誘因を避けることです。多くは自然に消失しますが、適切な管理と予防が欠かせません。 片頭痛の前兆として多く見られますが、脳梗塞やTIA、脳腫瘍などの重大疾患が原因のこともあります。とくに頭痛を伴わない初発例、頻発・長時間持続、片眼のみの発症では、早期に脳神経内科または外科で精密検査を受ける必要があります。 原因が片頭痛の場合、β遮断薬やCGRP阻害薬などの予防薬で再発を減らせることがあります。 以下の記事では、閃輝暗点の根本疾患の治療にアプローチできる可能性のある再生医療について詳しく解説しています。 生活習慣の見直しとバランスの良い食事 項目 内容 睡眠リズムの整備 毎日同じ時間に起床・就寝し、6〜8時間の安定した睡眠時間の確保 ストレス軽減 入浴、軽い運動、深呼吸、ストレッチによる自律神経バランスの調整 水分補給 脱水予防のため、こまめな水分摂取 推奨栄養素(マグネシウム) 海藻類、大豆製品、玄米、ナッツ類の摂取 推奨栄養素(ビタミンB₂) レバー、青魚、卵、緑黄色野菜、乳製品の摂取 推奨献立例 玄米ご飯、納豆、みそ汁(海藻入り)、サバのみそ煮による栄養バランス実現 補助的栄養素 オーツ麦、濃色葉野菜、脂肪魚、ベリーの積極摂取 避けたい食品・食習慣 チョコレート、ピーナッツ、赤ワイン、カフェインの摂り過ぎ回避 空腹状態の回避 ナッツやヨーグルトで血糖値低下を防ぐ 規則正しい生活習慣と食事管理は、閃輝暗点の再発予防に重要です。毎日決まった時間に睡眠をとり、ストレスを溜め込まない工夫やこまめな水分摂取を日常に取り入れましょう。食事ではマグネシウムやビタミンB₂を意識し、和食中心の献立を心がけます。 オーツ麦や脂肪魚、ベリーなどもおすすめです。一方で、チョコレートやアルコール、カフェインの過剰摂取は誘因となることがあり、空腹の放置も避けましょう。症状が続く場合や頻発する際は、医療機関での相談が大切です。 以下の記事では、生活習慣の見直しについて詳しく解説しています。 閃輝暗点における即効性のある治し方は存在しない 現在の医学では、閃輝暗点そのものを即効で治す薬や特定の治療法は確立されていません。多くの場合、閃輝暗点は脳血管の一時的な変化により発生し、片頭痛の前兆として現れる視覚症状です。 症状は通常数分で自然に消失しますが、発症時は無理をせず、暗く静かな環境で安静にし、強い光やスマートフォンなどの画面から目を休ませることが大切です。 初めて起こった場合や頻繁に繰り返す場合は、重大な疾患が隠れている可能性もあるため、早期に医療機関を受診し、原因を明らかにすることが重要です。 閃輝暗点が治るツボはない 現在の医学では、閃輝暗点を即効で治す方法も、治るツボも存在しません。片頭痛の前兆として起こる視覚症状で、根本的な治療法も未確立です。 百会や風池、合谷などのツボ刺激による閃輝暗点への効果は、現在のところ医学的根拠はなく、症状が繰り返す場合や初発時は早期受診が重要です。 閃輝暗点が根本的に治る食べ物はないが予防にはなる 現時点では、閃輝暗点を即効で治す食べ物は確認されていません。マグネシウムやビタミンB₂を含む玄米、大豆製品、海藻、アーモンド、緑黄色野菜、乳製品などを日常的に摂取することで予防につながる可能性があります。 これらは発症時に症状を即座に改善するものではなく、バランスの良い食事と規則正しい生活習慣を組み合わせることが再発予防の基本です。 閃輝暗点が現れる重大な疾患 重大な疾患 詳細 脳血管疾患(脳梗塞・TIA・脳出血) 脳の血流障害による症状で、麻痺やしびれ、言語障害を伴うこともある。CTやMRIによる精密検査が必要。早期受診と治療が重大な後遺症防止につながる 眼由来の血管障害(網膜動脈閉塞・網膜症) 網膜の血管が閉塞・障害されることで、片眼の視野欠損や視力低下が起こる。眼科での検査と治療が必須。糖尿病など基礎疾患管理も重要 神経炎・視神経疾患(視神経炎・MS・腫瘍圧迫など) 視神経の炎症や脳の腫瘍圧迫が視野異常を引き起こす。神経内科や脳神経外科での診断と治療、場合によってはMRI検査が必要。症状によっては緊急対応が求められる 脳血管疾患(脳梗塞・TIA・脳出血)は脳の血流障害が原因で、麻痺やしびれ、言語障害を伴うことがあり、CTやMRIによる精密検査が不可欠です。早期の診断と治療が後遺症防止に直結します。 網膜動脈閉塞や網膜症などの眼由来の血管障害は、片眼の視野欠損や視力低下を招き、眼科での迅速な検査と治療、基礎疾患の管理が重要です。また、視神経炎や多発性硬化症、腫瘍圧迫などの神経疾患は視野異常を引き起こし、神経内科や脳神経外科での診断と必要に応じたMRI検査、緊急対応が求められます。 脳血管疾患(脳梗塞・TIA・脳出血) 閃輝暗点は、脳の血管が一時的に収縮・拡張して血流が低下することが原因です。とくに後頭部の視覚野の血流障害で、視界にギザギザやチカチカとした模様が現れます。これらの血管変化は、ストレスや疲労、睡眠不足、飲酒、喫煙、特定の食品などの生活習慣が影響します。 また、脳梗塞やTIA、脳出血などが原因で手足のしびれや麻痺、言語・意識障害を伴う場合があり、初発・頻発・長時間持続や他の神経症状を伴う際は早急な精密検査が必要です。 以下の記事では、脳疾患について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 【医師監修】脳出血とは|症状・種類・原因を詳しく解説 閃輝暗点が脳梗塞の前兆になる確率は?症状や治療を解説 眼由来の血管障害(網膜動脈閉塞・網膜症) 網膜は眼の奥にあり、光を感知する精密な組織です。血流が障害されると視覚情報が正しく伝わらず、視野の欠損や光のちらつきなどが生じます。 網膜中心動脈閉塞では、血栓や塞栓により酸素供給が途絶え、突然の重い視力低下や視野暗黒化が起こります。一過性網膜虚血(アマウロシス・フガックス)では、数分間の血流途絶で一時的な視野欠損や光視症状が出現し、その後自然に回復します。糖尿病性網膜症や炎症性網膜血管障害でも、虚血や出血により視野異常が生じ、閃輝暗点に似た症状として現れることがあります。 これらの障害は片眼のみに症状が出やすく、脳由来の閃輝暗点とは区別が必要です。症状が疑われる場合は、眼底検査や視野検査を含む眼科的評価を早急に受けましょう。 以下の記事では、糖尿病網膜症について詳しく解説しています。 神経炎・視神経疾患(視神経炎・MS・腫瘍圧迫など) 視神経は網膜で受け取った光刺激を脳へ伝える重要な経路です。炎症・圧迫・脱髄などで障害されると、光のちらつきや視野異常など閃輝暗点に似た症状が生じます。視神経炎は代表的な原因です。 脳腫瘍や動脈瘤が視神経を圧迫すると同様の症状が生じ、前交通動脈瘤による圧迫が解除された後に症状が改善した報告もあります。これらは片頭痛による閃輝暗点とは異なり、器質的障害が原因となるため、眼科・神経内科での精密検査が必要です。 閃輝暗点を治すには原因の特定と受診が必須 閃輝暗点は症状だけで軽視すると、命に関わる病気を見逃す危険があります。発症が初めての場合、頻繁に起こる場合、または症状が長引く場合は、速やかに医療機関を受診し、必要に応じて脳MRIや眼底検査を受けましょう。早期診断が、根本的な治療と再発防止につながります。 閃輝暗点の治療についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、閃輝暗点が重篤な脳疾患の兆候である場合も考えられるため、症状や進行度によっては低侵襲な再生医療を提案いたします。初発・頻発・長期化する場合は早急な受診が必要です。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 閃輝暗点の治し方に関するよくある質問 閃輝暗点が頻繁に起こる場合はどうすれば良いですか? 初回発症、頻発、症状の持続時間が長い、頭痛を伴わないなど、通常と異なるパターンの場合は、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの重大な疾患を除外するために、MRIやCT検査が可能な医療機関を受診することが推奨されます。 原因となる疾患が進行している可能性もあるため、放置せず、早期に受診して精密検査を受けることが重要です。 以下の記事では、閃輝暗点について詳しく解説しています。 【関連記事】 【医師監修】閃輝暗点とは|放置によるリスクから初期症状・治療法まで詳しく解説 閃輝暗点を繰り返すのは病気の前兆?頻発する原因と放置するリスクを紹介 閃輝暗点のセルフチェック方法はありますか? 閃輝暗点とは、視野に光のジグザグ模様や欠損が出現し、通常は数分で自然に消失する一過性の症状です。 症状の経過を記録することがセルフチェックの基本ですが、視野が大きく欠ける、長時間続くなど通常と異なる場合は、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの重篤な疾患が隠れている可能性があります。確定診断は医師の検査が必要なため、不安があれば早めに受診しましょう。 閃輝暗点が片目だけに現れた場合の対処法はありますか? 片眼にのみ閃輝暗点が現れる場合は、網膜血管障害(網膜裂孔・虚血など)や脳血管障害が原因となる可能性があり、緊急性を伴います。放置せず、直ちに眼科または脳神経科を受診し、眼底検査などの精密検査を受けることが重要です。 閃輝暗点は何科を受診すれば良いですか? 閃輝暗点は脳の血流変化に関連することが多く、精密検査のため脳神経内科・脳神経外科(頭痛外来を含む)の受診が推奨されます。 初発、頭痛を伴わない、頻発、しびれや言語障害を伴う場合は脳疾患の除外が重要です。片眼のみの症状は眼疾患の可能性があるため眼科での眼底検査が適しています。受診先に迷う場合は総合診療科でも構いません。
2025.08.31 -
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「視界にギザギザやチカチカしたものが見える」 「網膜や脳の疾患ではないかと心配」 視界に異常が現れる閃輝暗点は、片頭痛の前兆として生じることが多い一方で、眼科的疾患や脳の疾患に伴って現れる場合もあります。放置すると重大な疾患の発見が遅れ、深刻な症状を招く恐れがあるため、速やかな受診が必要です。 本記事では、閃輝暗点の見え方や片目だけに現れる症状について現役医師が詳しく解説します。 閃輝暗点の原因が脳疾患で、その症状によっては、再生医療も治療の選択肢のひとつです。 閃輝暗点の症状に関するお悩みを今すぐ解消したい・再生医療に興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」の電話相談までお問い合わせください。 閃輝暗点の見え方 見え方 詳細 ギザギザ・光の波動(点やジグザグ模様) 稲妻状やジグザグ模様がキラキラ輝きながら広がる視覚変化 モヤ・暗点(スコトーマ) 視野の一部がかすみ、文字や物の一部が欠けて見える状態 動き・揺れ・揺らぎ 光や模様が波打つように動き、視界全体に広がる現象 形やサイズの異常(歪み) 物の輪郭や文字が波打ち形や大きさが不自然に変わる視界異常 閃輝暗点では、視界にギザギザや光の波動、モヤや暗点、像の揺れ、形の歪みなどが現れることがあります。これらは片頭痛の前兆としてよくみられますが、眼や脳の疾患に伴う場合もあります。 片頭痛の前兆としての閃輝暗点は、多くの場合5分から60分ほど続き、その後に頭痛が始まります。(文献1) 時間の経過とともに閃輝暗点の症状が消えた場合も、繰り返す場合や初めて起こった場合は、早めに眼科や神経内科を受診することが大切です。 閃輝暗点の初期症状や治療法など、包括的な内容に関しては「【医師監修】閃輝暗点とは|放置によるリスクから初期症状・治療法まで詳しく解説」をご覧ください。 ギザギザ・光の波動(点やジグザグ模様) 閃輝暗点でよくみられる典型的な症状は、視界の片隅に現れるギザギザした光の線や、チカチカと輝くジグザグ模様です。 白や銀色、虹色に見えることもあり、万華鏡のような複雑な模様を描きながら数分かけてゆっくりと広がり、やがて自然に消失します。脳の視覚野の神経細胞が一時的に過剰興奮することが原因と考えられています。 モヤ・暗点(スコトーマ) モヤ・暗点(スコトーマ)は、脳の視覚中枢である後頭葉(視覚野)の一部に一時的な血流低下が起こり、その領域の神経活動が低下することで生じます。これにより視野の一部がぼやける、または暗く欠けて見える状態になります。 原因は眼の異常ではなく脳の血流変化です。多くは数分かけて光の模様から暗点へ移行し、その後自然に回復します。ただし、症状が1時間以上続く場合、片目のみに生じる場合、強い頭痛、手足のしびれ、言語の障害、意識の低下を伴う場合は、脳梗塞や一過性脳虚血発作、網膜疾患などの可能性があり、速やかな受診が必要です。 動き・揺れ・揺らぎ 閃輝暗点でみられる動き・揺れ・揺らぎは、脳の後頭葉(視覚野)における神経活動が、血流の変動に伴って波のように広がる皮質拡散抑制により生じます。神経の興奮と抑制がゆっくりと伝わることで、視界の光や模様が揺れたり、動いたりして見えます。 血管の収縮と拡張により視覚情報が乱れ、波打つ感覚が生じます。初発時は軽症であっても、脳や眼科的疾患を除外するための受診が必要です。発症時の時間、片目のみか両目か、頭痛やしびれの有無などを記録しておくと診断に役立ちます。 形やサイズの異常(歪み) 閃輝暗点による形やサイズの異常(歪み)は、後頭葉の視覚野での一時的な血流低下が形や大きさの認識を乱すことで生じます。まっすぐな線が波打って見える、人の顔が変形して見えるといった現象も報告されています。 多くは10〜30分で自然に回復しますが、初発や強い症状、長引く場合、頭痛や手足のしびれを伴う場合は眼科または神経内科を受診し、他の脳や眼疾患の可能性にも注意が必要です。 片目だけに現れる閃輝暗点は危険? 状況 詳細 片目だけに症状が出る場合 網膜剥離、眼底出血、硝子体剥離、眼圧異常など眼科疾患の可能性 放置した場合のリスク 視力低下や失明に至る危険 通常の閃輝暗点の作用部位 脳の視覚野の血流変動による両目同時の視覚異常 受診の目安 片目だけの症状は速やかな眼科受診 神経症状を伴う場合 脳梗塞や一過性脳虚血発作など脳血管障害の可能性 緊急時対応 直ちに救急車を要請し、救急医療機関を受診 閃輝暗点は通常、脳の視覚野の血流変動により両目に同じ像が見えますが、片目だけの場合は網膜剥離や眼底出血などの眼科疾患が疑われます。 放置すると視力低下や失明の危険があるため、速やかな眼科受診が必要です。視力低下や視野欠損、激しい頭痛、しびれ、言語障害を伴う場合は脳血管障害の可能性があり、直ちに救急要請が必要です。 閃輝暗点が現れる原因 原因 詳細 血管変動・圧の刺激(脳・眼) 脳や眼の血管の一時的な収縮・拡張による血流の変化 神経伝達物質・自律系の反応 セロトニンなど神経伝達物質の急激な増減と自律神経の影響 生活習慣・嗜好品の影響 ストレス、睡眠不足、カフェインやアルコールの摂取、喫煙などの誘因 脳の構造異常・基礎疾患 脳腫瘍、脳梗塞、一過性脳虚血発作などの重大な脳疾患の可能性 閃輝暗点は片頭痛の前兆として知られていますが、原因は複数あります。代表的なのは、脳や眼の血管が一時的に収縮・拡張して血流が変化し、視覚情報を処理する神経の働きに影響を及ぼす場合です。 セロトニンなどの神経伝達物質の急激な増減や自律神経の反応も関与します。さらに、ストレス、睡眠不足、カフェインやアルコールの摂取、喫煙などの生活習慣や嗜好品が誘因となることもあります。まれに脳腫瘍や脳梗塞など重大な疾患が原因となる場合もあり、注意が必要です。 以下の記事では、閃輝暗点の原因を詳しく解説しています。 【関連記事】 更年期と閃輝暗点の関係性|原因・症状・予防法を解説 閃輝暗点を繰り返すのは病気の前兆?頻発する原因と放置するリスクを紹介 血管変動・圧の刺激(脳・眼) 閃輝暗点は、脳の血管が一時的に収縮と拡張を繰り返し、その結果、血流が変化することで起こると考えられています。 とくに視覚情報を処理する後頭葉の血管が影響を受けやすく、収縮により血流が減少すると神経細胞の働きが低下し、続く拡張で血流が急増すると過剰な興奮が生じます。この神経活動の変化が視覚異常として現れます。気圧の変化や疲労、ストレスなどが発症の引き金になる場合もあります。 以下の記事では、閃輝暗点と関係する脳梗塞について詳しく解説しています。 【関連記事】 閃輝暗点が脳梗塞の前兆になる確率は?症状や治療を解説 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 神経伝達物質・自律系の反応 原因 詳細 神経伝達物質の変動 セロトニンの急激な増減による脳血管の収縮・拡張 自律神経のバランス乱れ ストレスや疲労、睡眠不足が引き起こす自律神経の機能不全と血管反応の過敏化 脳視覚野への影響 血流変化と神経活動変動による視界のキラキラ・揺らぎ、閃輝暗点の出現 生活習慣の影響 体調管理不良が神経伝達物質や自律神経の乱れを悪化させる要因 注意点 健康な人にも起こる生理的反応であり、症状の強さや片目だけの場合に注意が必要 閃輝暗点は、脳内の神経伝達物質の変動が原因のひとつです。とくにセロトニンが急激に増減すると脳血管が一時的に収縮・拡張し、血流変化が視覚野の神経活動に影響して光や模様が見えます。 自律神経もストレスや疲労、睡眠不足でバランスを崩すと血管反応が過敏になり、症状を悪化させます。健康な人にも起こりますが、初発時や片目だけの症状、強い症状時は受診が必要です。また、生活習慣の改善が再発予防に有効とされています。 生活習慣・嗜好品の影響 原因 詳細 睡眠不足・不規則な生活 自律神経の乱れによる脳血管の過剰な収縮・拡張 過度なストレス・疲労 神経や血管反応の不安定化 嗜好品(カフェイン・アルコール) 血管刺激による収縮・拡張の誘発 食品成分(チラミン) 脳血管収縮を促すアミノ酸由来成分の作用 過度なデジタル機器使用 眼精疲労と自律神経負荷による血流変化 予防のための生活習慣 規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事、水分摂取 閃輝暗点は、睡眠不足や生活リズムの乱れ、ストレスや疲労により自律神経が乱れ、脳や眼の血管反応と視覚野の血流が不安定になることで生じます。 チョコレートやチーズ、赤ワイン、コーヒーなどの成分や長時間のデジタル機器使用は血管や自律神経に影響し、発症を促す可能性があります。そのため、規則正しい生活習慣の維持が重要です。 以下の記事では、閃輝暗点とカフェインの関係性について詳しく解説しています。 脳の構造異常・基礎疾患 原因・疾患名 詳細 脳腫瘍(例:星細胞腫) 後頭葉への腫瘍による神経圧迫や刺激による視覚前兆の発生 脳血管奇形(例:AVM) 異常血管構造による血流異常と神経刺激による繰り返す視覚前兆やけいれん 脳梗塞・一過性脳虚血発作 脳血管の閉塞や血流障害による視覚野の虚血状態と神経機能障害 視覚野の血流障害(圧迫・浮腫) 腫瘍や血管異常による血流障害(虚血)による視覚情報の伝達異常 てんかん発作 後頭部の神経異常興奮による視覚発作と閃輝暗点類似の症状 閃輝暗点は多くの場合、片頭痛の前兆として一時的な血流変化で起こりますが、脳の構造異常や基礎疾患が原因となることもあります。後頭葉の腫瘍は異常な血流により、視覚前兆やけいれんを引き起こします。 腫瘍による圧迫や浮腫は一時的な虚血状態を引き起こし、後頭部のてんかん発作も類似の視覚症状を示します。これらは重大な脳疾患の兆候であり、症状が持続・悪化する場合や頭痛・麻痺を伴う場合は、早急な検査が必要です。 脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症について、詳しく解説している以下の記事もあわせてお読みください。 閃輝暗点の症状が初めて現れた際の対処法 対処法 詳細 静かな暗所で安静にする 明かりや音を避け、刺激の少ない場所で横になる状態 症状の持続時間と変化を観察する 発症時刻、症状の変化、関連する随伴症状の記録 重症兆候があればすぐに医療機関へ 視力低下、視野欠損、強い頭痛、めまいなどの出現 運動・言語障害が出たら緊急対応 手足のしびれや麻痺、言葉が出にくい、ろれつの回らない状態 閃輝暗点が初めて現れた場合、その多くは片頭痛の前兆として一過性に生じますが、まれに脳や眼の重大な疾患が原因となることがあります。そのため、症状が出た際には落ち着いて行動することが重要です。 まずは静かな暗所で安静にし、光や音などの刺激を避けます。同時に、発症時刻や症状の変化、頭痛やしびれなどの随伴症状を記録しておくことが、診断の大きな手がかりになります。 視力低下や強い頭痛、視野欠損、めまいがあれば速やかに受診し、手足の麻痺や言語障害を伴う場合は脳血管障害の可能性があるため、直ちに救急要請が必要です。 以下の記事では、閃輝暗点の内容について詳しく解説しています。 静かな暗所で安静にする 閃輝暗点は脳の視覚野や眼の血流変化で起こり、発症直後は暗く静かな場所で安静にすることが有効です。刺激を避けて休むことで症状が落ち着きやすく、この方法は初期対応として推奨されています。 初めての発症や片目のみ、視野欠損やしびれを伴う場合は速やかに受診し、改善後も眼科または神経内科で原因の確認が必要です。 症状の持続時間と変化を観察する 閃輝暗点は通常、数分で自然に消失します。持続時間や症状の変化を観察することは診断に重要です。症状が長引く場合や暗点が明瞭で、かつ視野欠損が強い場合は、脳梗塞など重大な疾患の可能性があるため速やかに受診します。 発症頻度の増加や症状の性質の変化も精密検査の対象となります。持続時間や変化を正確に記録し医師に伝えることで、原因特定と適切な治療につながります。 重症兆候があればすぐに医療機関へ 内容 詳細 視界異常が長時間続く 視野欠損や暗点が1時間以上持続する状態 片目だけに症状が出る場合 網膜剥離・眼底出血など眼科疾患の可能性 神経症状の出現 手足のしびれや麻痺、言語障害、意識低下 激しい頭痛や吐き気を伴う 脳出血・脳梗塞・くも膜下出血の可能性 初めての強い症状 既往のない重度発作や症状の急激な進行 閃輝暗点は多くは片頭痛の前兆として一過性に現れますが、脳梗塞、脳腫瘍、一過性脳虚血発作(TIA)、網膜剥離など命に関わる疾患の前触れとなることもあります。 視野欠損が続く場合や片目だけの症状、激しい頭痛や吐き気、麻痺、言語・意識障害を伴う場合は危険性が高く、速やかな受診が必要です。 運動・言語障害が出たら緊急対応 閃輝暗点は多くの場合、片頭痛の前兆として現れる視覚症状ですが、同時に手足のしびれや麻痺などの運動障害や、ろれつの回らない、言葉が出にくいといった言語障害を伴う場合は、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの命に関わる疾患が疑われます。 これらは脳の血流が著しく低下しているサインであり、一刻を争う事態です。放置すると脳の損傷が進行し、後遺症が出る危険が高まります。症状が出た際は自己判断せず、直ちに救急車を呼び医療機関を受診する必要があります。 閃輝暗点の見え方が現れた場合はただちに医療機関を受診しよう 閃輝暗点が初めて現れた場合や片目のみ、通常と異なる症状を伴う場合は重大な病気の可能性があり、自己判断せず直ちに受診してください。早期診断により原因を特定し、必要に応じて適切な治療を開始できます。 閃輝暗点の見え方についてお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、閃輝暗点の原因となる脳疾患の症状によっては、手術や薬物療法より低リスクな再生医療を提案できる場合があります。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 閃輝暗点の見え方に関するよくある質問 閃輝暗点が現れたものの頭痛がないのですが大丈夫? 頭痛を伴わない閃輝暗点は、必ずしも片頭痛の前兆とは限らず、まれに脳梗塞、脳腫瘍、一過性脳虚血発作など他の脳疾患が原因となることがあります。 頭痛がない場合でも、脳の異常サインの疑いがあります。そのため、早期の受診が重要です。 閃輝暗点に効く即効薬はありますか? 閃輝暗点に即効で効果を示す薬剤は現時点ではありません。多くの場合、症状は数分程度で自然に消失するため、特別な薬剤で速やかに治すことはできません。 片頭痛を伴う場合には、頭痛発作に対してトリプタンなどの治療薬が使用されることがありますが、閃輝暗点そのものを即座に消失させる薬剤はありません。 閃輝暗点は何科を受診すれば良いですか? 閃輝暗点が初めて出た場合は、脳の血流変化による視覚症状の可能性が高いため、脳神経外科または脳神経内科の受診が適切です。これらの診療科では脳の状態を詳しく評価できます。 視覚異常が片目のみに出る場合は眼科的疾患の可能性があるため眼科の受診も検討します。両目に同時に症状が出る場合は脳の異常が疑われるため、脳神経外科や脳神経内科を受診することが推奨されます。 参考文献 (文献1) 片頭痛/片頭痛の治療|一般社団法人 日本頭痛学会
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「突然、視界にキラキラやギザギザした光が見えるようになった」 「視界がおかしい?重い病気の前兆?」 閃輝暗点と呼ばれるこの症状は、片頭痛を伴わないこともあり、不安を抱える方が少なくありません。突然視界に不自然なジグザグ模様やぼやけが現れるのが閃輝暗点の特徴です。 閃輝暗点は重大な疾患の前兆の可能性があります。そのため、原因の早期発見が不可欠です。本記事では現役医師が閃輝暗点について詳しく解説します。 頭痛のない閃輝暗点は危険である理由 閃輝暗点の初期症状 閃輝暗点の原因 閃輝暗点を放置するリスク 閃輝暗点の治療法 記事の最後には、閃輝暗点についてよくある質問をまとめています。ぜひ最後までご覧いただき、症状についての理解を深めましょう。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 閃輝暗点について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 閃輝暗点とは 項目 説明 原因 後頭葉の一時的な血流変化とセロトニンの影響 症状の特徴 視界に光の輪やジグザグ模様が現れて消える 発症のきっかけ ストレス・睡眠不足・特定食品や気圧変化 片頭痛との関係 多くは片頭痛の前兆だが頭痛がない場合もある 注意が必要な場合 発症頻度が多い・症状が長引く場合 閃輝暗点は、視界に突然ギザギザした光の波やチカチカした輝きが現れる症状です。片頭痛の前兆として現れることが多く、5分から60分ほど続いた後に頭痛が始まります。(文献1) 原因は、脳の視覚野(後頭葉)における一時的な血流低下と回復で、神経伝達物質セロトニンの変動も関与します。光の模様は万華鏡や稲妻のように見え、視野の一部が欠けることもあります。 誘因として、ストレス、睡眠不足、疲労、特定食品、カフェイン、アルコール、女性ホルモン変動、気圧変化などが知られています。頻発や長引く症状は脳梗塞など重篤疾患の可能性があり、早期の受診が必要です。 閃輝暗点の見え方については、以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。 頭痛のない閃輝暗点は危険 項目 説明 特徴 視界にキラキラ・ギザギザの光が出るが頭痛はない 多くのケース 脳に異常がなく経過観察で済む場合が多い 注意すべき場合 初めて起きた・40歳以上・頻繁に出る場合 考えられる原因 脳梗塞・一過性脳虚血発作・脳腫瘍・てんかんなど 危険性 脳血管や脳の異常が隠れている可能性 検査の必要性 MRIや脳波検査などで原因を特定 とくに注意するべき人 高血圧・糖尿病など生活習慣病がある方 受診のタイミング 初発・繰り返す・症状が長引く場合は早急に受診 閃輝暗点は片頭痛の前兆としてよく見られる症状ですが、頭痛を伴わない「孤発性閃輝暗点」が現れることもあり、注意が必要です。とくに片頭痛の既往がない方で初めて発症した場合や、症状が長く続く、あるいは頻繁に繰り返す場合には、脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳腫瘍、てんかんなどの脳疾患が原因となっている可能性があります。 中高年や高血圧・糖尿病といった生活習慣病をお持ちの方ではリスクがさらに高まるため、放置や自己判断は避け、できるだけ早く神経内科や脳神経外科を受診し、原因の特定が重要です。 閃輝暗点の初期症状 初期症状 詳細 光・模様・ゆらぎ キラキラやギザギザの光の輪や波模様の出現・徐々に広がる・ゆらめき・数分から20分程度の持続 視野欠損・ぼやけ・狭窄 視界の一部が見えにくくなる・暗くなる・ぼやけや狭まる感じ・視野の部分欠損や狭窄の発生 閃輝暗点は、突然視界中央付近に小さな光やチカチカとした輝きが出現することで発症します。光は徐々に拡大し、ギザギザした幾何学模様や波紋状の揺らぎとして知覚され、白色や銀色、時に多彩な色調を呈することもあります。 これらは視界内をゆっくりと移動しながら徐々に広がっていくのが特徴です。進行に伴い、光や模様が現れる部分が見えにくくなる視野欠損や、物の歪みやかすみといった視覚異常が出る場合があります。また、視野が狭くなる視野狭窄を伴うこともあり、重症の場合には一時的な視野欠損が生じます。多くは数分から30分以内に自然軽快しますが、初発や再発時は精密検査が望まれます。 光・模様・ゆらぎ 閃輝暗点の初期症状である、光・模様・ゆらぎは、脳の視覚野(後頭葉)での神経活動と血流変化によって起こります。神経細胞の急激な興奮と抑制の波(皮質拡延性抑制)が視覚野を通過すると、ギラギラやジグザグの光、波打つ模様が出現します。 脳血管の一時的な収縮と拡張による血流変化も関与します。これらは眼ではなく脳に由来し、多くは一過性ですが、初発、高頻度、長時間持続、頭痛を伴わない場合は脳梗塞などとの鑑別が必要です。自然に消えても受診による原因の確認が重要です。 以下の記事では、閃輝暗点を繰り返す原因について詳しく紹介しています。 視野欠損・ぼやけ・狭窄 閃輝暗点による視野欠損・ぼやけ・狭窄は、後頭葉の血流変化と神経活動異常で生じます。脳血管が一時的に収縮して視覚野の血流が低下し、その後の拡張で回復する過程で視野の欠けやかすみ、狭まりが発生します。 神経細胞の興奮と抑制の波(皮質拡延性抑制)が広がり、視覚情報処理が一時的に阻害されます。脳由来のため両眼に同じ異常が現れ、通常は数分から30分で回復しますが、初発や頻発時は精密検査が必要です。 閃輝暗点の原因 原因 詳細 脳血管・神経物質の急変 脳血管の一時的な収縮と拡張・セロトニン等の神経伝達物質変動 生活ホルモンなど内的リズム乱れ 睡眠不足やストレス・ホルモンバランスの乱れ 食品・気圧など外的トリガー カフェイン・アルコール・チョコレート・気圧変動 片頭痛前兆・稀な重大疾患 片頭痛の前兆・脳梗塞や脳腫瘍などの重大疾患の可能性 閃輝暗点は、脳血管の収縮・拡張や神経伝達物質の変動、睡眠不足やストレス、ホルモン変動など複数の要因で発症します。また、カフェイン・アルコール・チョコレートといった特定食品や気圧変動などの外的刺激も発症の原因です。 多くは片頭痛の前兆として現れますが、稀に脳梗塞や脳腫瘍など重大な疾患の初期症状として現れることがあります。そのため、重大な疾患の前兆と思われる症状や、これまでと異なる症状を感じた際には、自己判断せず速やかに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。 脳血管・神経物質の急変 要因 詳細 脳血管の収縮・拡張 後頭葉の血管が一時的に狭くなったり広がったりする血流変化 血流低下による神経影響 視覚野の神経細胞の活動低下や異常興奮 神経伝達物質の急変 セロトニンなどの急な増減による血管収縮・拡張の誘発 生活習慣の影響 ストレスや睡眠不足、疲労によって血管の反応性が変化 外的・内的トリガー 特定食品、女性ホルモン変動、気圧変化などによる血流・神経活動変化 閃輝暗点は、脳の視覚野(後頭葉)で起こる一時的な血流変化と神経活動異常によって発症します。後頭葉の血管が収縮して血流が減少し、その結果、視覚情報を処理する神経細胞の働きが低下または異常興奮します。 この血管変化にはセロトニンの急激な増減が関与し、結果として視界にキラキラやギザギザの光や模様が現れます。ストレス、睡眠不足、疲労、特定食品、女性ホルモン変動、気圧変化などが誘因となります。目ではなく脳由来の症状であり、生活習慣の改善やストレス管理が予防に有効です。 以下の記事では、重大な疾患のひとつである脳卒中・脳出血について詳しく解説しています。 【関連記事】 【医師監修】脳出血とは|症状・種類・原因を詳しく解説 脳卒中の前兆とは?見逃してはいけない5つのサインとチェックリストを紹介 生活ホルモンなど内的リズム乱れ 原因 詳細 女性ホルモンの変動 月経周期や更年期、妊娠・出産によるエストロゲン分泌の乱れ 脳血管の反応性の変化 ホルモン変動による血管の収縮・拡張しやすさ セロトニンの減少 ホルモンバランスの乱れで神経伝達物質セロトニンの低下 ストレスや睡眠リズムの乱れ 心理的・身体的ストレスや睡眠不足によるホルモンバランスの崩れ 生活習慣の影響 不規則な生活や疲労が内的リズムを乱し閃輝暗点の発症リスクを高める 閃輝暗点は、脳の血管の一時的な変動によって起こる視覚異常です。生活ホルモンの乱れ、とくに女性ホルモン(エストロゲン)の分泌バランスの変化が大きな要因です。月経周期や妊娠、更年期などでホルモンの変動が起こると、脳血管の柔軟性が低下し血管が収縮・拡張しやすい状態となります。 また、ホルモンの乱れは神経伝達物質セロトニンの減少を招き、血管の調整機能に影響を与える要因です。加えて、ストレスや睡眠不足、生活習慣の乱れがホルモンバランスに影響し、閃輝暗点の発生リスクをさらに高めます。これらのため、生活リズムの安定やストレス管理、十分な睡眠が予防に重要です。 以下の記事では、更年期と閃輝暗点の関係性について詳しく解説しています。 食品・気圧など外的トリガー 食品 詳細 チョコレート チラミン含有・脳血管の不安定な拡張誘発 チーズ 発酵食品でチラミン含有・血管拡張作用 ナッツ類 血管反応を促す成分含有 赤ワイン アルコール含有・血管拡張と神経刺激の誘因 カフェインを含む飲料(コーヒー、紅茶等) 血管収縮作用・過剰摂取は血管の不安定化を招く アルコール飲料 血管の収縮と拡張を繰り返し血管機能を乱す 閃輝暗点は、脳の視覚野(後頭葉)の血管が不安定に収縮・拡張することで発症します。特定の食品に含まれる成分はこの血管反応を変化させ、症状を誘発しやすくします。チョコレートやチーズなどの発酵食品に含まれるチラミンは血管拡張を促し、赤ワインやアルコール類は異常な収縮と拡張を繰り返す原因となります。 カフェインを多く含む飲料は血管収縮作用を持ち、過剰摂取で血管機能を不安定にする原因です。これらの食品は直接的に目の異常を起こすわけではありませんが、脳血管や神経活動に影響を与え、発症リスクを高めます。症状が出やすい方は摂取の制限や量の調整が予防につながり、生活習慣の見直しと併せた食事管理が重要です。 以下の記事では、閃輝暗点の原因のひとつであるコーヒーに含まれるカフェインの影響について詳しく解説しています。 片頭痛前兆・稀な重大疾患 分類 内容 片頭痛の前兆 脳血管の一時的な収縮と拡張による血流変動・視覚野の神経活動異常 片頭痛の特徴 視界のギラギラやギザギザの光、のちに脈打つ頭痛や吐き気などの症状 重大疾患の可能性 脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、脳腫瘍などが隠れている可能性 注意が必要なケース 初めての発症、繰り返す症状、頭痛を伴わない場合、生活習慣病や高齢者 推奨される対応 速やかな医療機関受診と精密検査(MRIや脳波検査など) 閃輝暗点は、多くの場合片頭痛の前兆として現れる視覚症状です。脳血管の一時的な収縮と拡張により視覚野の神経活動が乱れ、視界にギラギラやギザギザした光の模様が出現します。その後、拍動性頭痛や吐き気、光や音への過敏といった片頭痛特有の症状が続きます。 頭痛を伴わない場合、初発時、または症状が繰り返される場合は、脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳腫瘍など重大な脳疾患の可能性があるため、注意が必要です。とくに高齢者や高血圧・糖尿病など生活習慣病のある方はリスクが高く、自己判断せず速やかに神経内科や脳神経外科で精密検査を受ける必要があります。 以下の記事では、脳梗塞について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 閃輝暗点を放置するとどうなる? 放置するリスク 詳細 慢性片頭痛への移行リスク 片頭痛の頻度増加・症状悪化・慢性化の可能性 脳梗塞・一過性脳虚血発作の前兆としての可能性 脳血管障害の早期兆候・重大疾患のリスク 眼科的合併症や重大疾患の見逃しリスク 網膜剥離など眼疾患や他疾患の診断遅れ 日常生活への影響が出始める 視野障害による運転や仕事、日常動作の支障 閃輝暗点を放置すると、片頭痛の発作が増えて症状が悪化し、慢性化する恐れがあります。脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの前触れの場合は、治療が遅れ重症化する危険もあります。 さらに、網膜剥離などの眼科的疾患や脳腫瘍などの重い病気が原因でも、診断が遅れる可能性があります。視野障害によって運転や仕事、日常生活に支障をきたし、事故や生活の質の低下を招くこともあります。初めて症状が出た時や繰り返す場合は、早急に医療機関を受診することが大切です。 慢性片頭痛への移行リスク 放置することで生じるリスク 詳細 片頭痛発作の頻度増加 頭痛の回数や頻度が徐々に増加 慢性片頭痛への移行 頭痛が継続する慢性化 症状の重症化 頭痛の強さが増し、市販薬の効果減弱 薬物乱用頭痛の発症リスク 不適切な薬の多用による頭痛の悪化 生活・精神面への悪影響 QOLの低下・抑うつや不安の増加 閃輝暗点は片頭痛の前兆となる視覚症状で、放置すると片頭痛発作が繰り返され、慢性片頭痛へ進行するリスクが高まります。慢性片頭痛は3か月を超えて月15日以上頭痛が続く状態で、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。(文献2) 発作が増えると市販薬が効きにくくなり、薬の多用による薬物乱用頭痛を起こすケースもあります。慢性化は脳や神経の痛み感受性を変化させ、痛みのコントロールを難しくし、睡眠障害や抑うつ、不安など二次的被害も招きます。閃輝暗点を自覚したら早期に専門医へ相談し、適切な治療と予防を行うことが重要です。 脳梗塞・一過性脳虚血発作の前兆としての可能性 理由・状況 詳細 脳の血流が一時的に悪くなる症状 後頭葉の視覚野への血流低下と回復による視覚異常 頭痛を伴わない場合の危険性 脳梗塞・TIA・脳腫瘍など重大疾患の可能性の上昇 前兆症状としての視覚障害 脳梗塞やTIAで視覚野が障害される際に現れる初期症状 放置によるリスク 後遺症を伴う脳梗塞の発症・日常生活への重大な支障 早期受診の重要性 MRIなどによる精密検査と血管リスク評価・予防的治療の開始 閃輝暗点は多くが片頭痛の前兆ですが、頭痛を伴わない場合は脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の初期サインの可能性があります。脳の視覚野を栄養する血管が一時的に詰まるか血流が低下すると、脳梗塞と同じ仕組みで視覚異常が起こります。 TIAや脳梗塞は視覚障害や手足のしびれ、言語障害などを伴い、放置で後遺症の危険が高まるため、初発や頻発時は早期受診と検査・予防が不可欠です。 以下の記事では、閃輝暗点が脳梗塞の前兆になる確率について詳しく解説しています。 眼科的合併症や重大疾患の見逃しリスク 危険の種類 詳細 片目のみに出る症状の危険性 網膜剥離・眼底出血・緑内障・ぶどう膜炎・眼内出血・眼感染症など視力障害や失明の恐れ 重大脳疾患の可能性 脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)など命に関わる疾患の初期症状 頻発・症状変化の見逃し 発症パターンの変化や増加に伴う重篤疾患発見の遅れ 放置による結果 視力の恒久的低下・失明・脳の後遺症・生命の危険 必要な対応 眼科・神経内科・脳神経外科での精密検査 閃輝暗点は多くが脳由来ですが、片目のみの場合は網膜剥離、眼底出血、緑内障、ぶどう膜炎などの眼科疾患が疑われます。これらは治療の遅れが視力障害や失明につながる危険があります。 また、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の初期症状として現れることもあり、頭痛を伴わない場合や新たな症状を伴う場合は要注意です。症状の頻発や変化は病状進行や合併症の兆候であり、放置すると視力や生命に関わる重篤な結果を招く恐れがあります。初発、頻発、片目のみの異常時は眼科と脳神経領域での早期精密検査が不可欠です。 日常生活への影響が出始める 理由・状況 詳細 視覚異常による見えにくさ ギザギザ・キラキラした光の模様・視野の欠損やぼやけによる文字や物の識別困難 仕事や運転など日常動作の支障 視覚情報の乱れによる集中力低下・判断ミス・疲労感の増加 精神的負担とストレスの増大 不安やストレスの蓄積・生活リズムの乱れ・精神的負担の増大 頭痛発作との重複による体調不良 片頭痛の前兆として閃輝暗点が現れ、頭痛と吐き気などの体調不良が日常を妨げる 事故リスクの増加 視覚障害による運転や機械操作時の事故リスク上昇 症状の悪化や慢性化の危険性 症状が頻発・長時間続く場合は慢性片頭痛や脳血管疾患の可能性 閃輝暗点は視界にギザギザやキラキラした光、視野欠損が現れ、仕事や運転、家事などに支障をきたします。集中力低下や疲労感、不安やストレスの蓄積で生活の質が低下し、片頭痛発作が続けば影響はさらに大きくなります。 放置すれば慢性片頭痛や脳血管疾患、事故のリスクが高まるため、初発・頻発・症状変化時は早期受診と適切な対策が必要です。 閃輝暗点の治療法 治療法 詳細 過度なストレスや睡眠不足、飲酒、喫煙などを控える 精神的・身体的負担の軽減・自律神経の安定 バランスの取れた食事をする 栄養の補給・血管や神経機能の維持・誘因の回避 根本の疾患治療を行う 片頭痛や脳血管疾患に対する専門的な治療と管理 閃輝暗点に直接作用する特効薬はなく、現在の医学では確立した治療法はありません。これは閃輝暗点が症状であり、その背景にある原因疾患や誘因への対応が重要だからです。まず、脳梗塞や神経系疾患、片頭痛などの根本的な病気に対して医師による診断と治療が必要です。 同時に、発症の引き金となる過度なストレスや睡眠不足、飲酒、喫煙などを避け、自律神経や血管機能を安定させることが大切です。また、バランスの取れた食事による栄養管理は血管や神経の健康維持に有効です。生活習慣の改善と医療的フォローを組み合わせることで、症状の軽減や発症頻度の低下が期待されます。 過度なストレスや睡眠不足、飲酒、喫煙などを控える 閃輝暗点は、脳の視覚野を含む後頭葉の血管が一時的に収縮や拡張を起こし、血流が不安定になることで発症します。過度なストレスや睡眠不足、飲酒、喫煙は血管の調節機能を乱し、発症や悪化を招きます。 これらは自律神経や神経伝達物質のバランスを乱し、脳血流を不安定にして発作を繰り返しやすくするため、予防にはストレス管理や十分な睡眠、飲酒・喫煙の制限が重要です。 バランスの取れた食事をする 目的・効果 詳細 脳・血管の健康維持 マグネシウム(海藻・大豆・魚介類・玄米)やビタミンB2(卵・納豆・緑黄色野菜・乳製品)による血流改善・炎症予防 発症リスク低減 血管を不安定にする誘発食品(チョコレート・チーズ・ナッツ・カフェイン・アルコール)の過剰摂取回避 自律神経の安定 栄養バランス改善による睡眠質向上・ストレス耐性向上 栄養不足補完 マグネシウムやビタミンB2のサプリメント活用(過剰摂取は医師・薬剤師に相談) 閃輝暗点は多くの場合、片頭痛の前兆として起こり、脳血管の収縮・拡張や神経機能の異常が関係します。バランスの取れた食事は脳や血管の健康維持に役立ち、症状の予防や軽減に有効です。 とくにマグネシウム(海藻、大豆、魚介類、玄米など)やビタミンB2(卵、納豆、緑黄色野菜、乳製品など)は血管の安定化や炎症抑制に寄与します。一方、チョコレート、チーズ、ナッツ、カフェイン、アルコールは血管の動きを不安定にし症状を誘発する可能性があるため、控えることが望まれます。 栄養バランスの良い食事は睡眠やストレス耐性を高め、自律神経を整えて発症リスクを低下させます。栄養が不足する場合は、医師の指導のもとサプリメントで補うことも可能です。 以下の記事では、バランスの取れた食事について詳しく解説しています。 根本の疾患治療を行う 閃輝暗点は、脳の視覚野で血管の一時的な収縮・拡張や神経活動の異常が起きて生じ、多くは片頭痛の前兆として現れます。症状を直接的に治療する薬剤はないため、原因となる片頭痛や他の疾患を特定し適切に治療・管理することが重要です。 片頭痛が原因なら予防薬やトリプタン製剤で発作を抑えられますが、脳梗塞や一過性脳虚血発作、網膜疾患が原因の場合、精密検査と早期治療が不可欠です。根本疾患を放置すれば再発や重い後遺症の危険が高まるため、医師の診断と治療が必要です。 以下の記事では、原因となる疾患によっては有効なアプローチになり得る再生医療について詳しく解説しています。 閃輝暗点が出たら放置せず早急に医療機関の受診しよう 閃輝暗点は、脳梗塞などの重大な疾患の前兆の可能性があります。放置すると日常生活に支障をきたすだけでなく、後遺症を残す危険性があります。症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診し、原因を明らかにすることが重要です。 閃輝暗点の症状にお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、閃輝暗点が脳梗塞や脳腫瘍などによる組織障害の前兆の可能性を踏まえ、損傷組織の回復を促進する再生医療を治療選択肢のひとつとしてご提案しています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 閃輝暗点に関するよくある質問 他の眼の病気とどう見分ければ良いですか? 閃輝暗点は脳の視覚野の異常による一過性の視覚症状で、両眼に同時に光のギザギザや波状模様が現れ、数分から30分程度で自然に消失します。 片眼のみの持続する視野欠損や、一瞬の閃光(光視症)は網膜剥離や緑内障などの眼疾患の可能性があり自然には回復しません。また、飛蚊症は黒点や糸くずが常に見え、緑内障発作では痛みや充血、視界のかすみを伴います。症状が閃輝暗点の特徴と異なる場合は、早急な眼科受診が必要です。 以下の記事では、糖尿病と目の関係性について詳しく解説しています。 【関連記事】 糖尿病で失明する原因とは|治療法とあわせて現役医師が解説 糖尿病網膜症は治るのか|治療方法とあわせて現役医師が解説 初めて閃輝暗点の症状が出た場合どの科を受診すれば良いでしょうか? 閃輝暗点が初めて出現した場合は、脳の血流変化や神経活動の異常など中枢性の原因を評価できる脳神経外科または脳神経内科を受診しましょう。 両眼で同時に症状が現れる場合は脳由来の可能性が高く、これらの診療科が適しています。片眼のみの症状では網膜剥離など眼疾患の可能性があるため、眼科の受診も必要です。 以下の記事では、閃輝暗点の見え方について詳しく解説しています。 閃輝暗点がある場合の禁忌はありますか? 閃輝暗点を伴う片頭痛がある場合は、低用量ピル(経口避妊薬)の使用は禁忌です。これは、ピルに含まれるエストロゲンが血液を固まりやすくし、脳卒中や心筋梗塞などの血管障害リスクを高めるためです。 また、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ストレスは症状を悪化させる可能性があるため避けることが望ましく、基礎疾患の適切な治療と医師への相談が重要です。 参考文献 (文献1) 片頭痛/片頭痛の治療|一般社団法人 日本頭痛学会 (文献2) 緊張型頭痛|一般社団法人 日本頭痛学会
2025.08.31 -
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「最近、物覚えが悪くなった」 「言葉が上手く話せないと感じる」 高次脳機能障害は、脳卒中や交通事故などで脳が損傷し、記憶・言語・注意・思考・感情の調整など高度な脳機能に障害が生じる状態です。 本記事では、高次脳機能障害について現役医師が詳しく解説します。 高次脳機能障害の症状 高次脳機能障害の原因 高次脳機能障害の治療法 高次脳機能障害と似た症状 記事の最後には、高次脳機能障害についてよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 高次脳機能障害について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 高次脳機能障害とは 項目 内容 高次脳機能障害とは 脳の病気や外傷で記憶・注意・判断・言葉の働きが低下する状態 主な症状の例 記憶低下、言葉が出にくい、計画困難、感情制御の難しさ 特徴 身体ではなく認知機能や感情の働きに障害が出て外見からはわかりにくく 主な原因 脳梗塞や脳出血、交通事故による頭部外傷 経過と改善 個人差があり、リハビリや支援で改善の可能性がある 高次脳機能障害は、脳梗塞や脳出血、外傷などにより脳の一部が損傷し、記憶力・注意力・判断力・言語機能・感情の調整など、高度な脳の働きに障害が生じる状態です。 主な症状には、新しいことを覚えにくい、会話中に言葉が出にくい、計画的に行動することが難しい、感情のコントロールがしにくいなどが挙げられます。これらは手足の麻痺や感覚異常といった身体症状とは異なり、認知機能や感情の働きに影響が出る点が特徴です。 そのため、外見上は健康に見えても、本人や家族は日常生活で大きな困難を抱えることがあります。症状の現れ方や程度は個人差があり、リハビリテーションで徐々に改善する可能性があります。障害の特性を理解し、適切な対応を行うことが、生活の質の向上につながります。 高次脳機能障害の症状 症状 詳細 記憶障害(覚えられない・思い出せない) 新しい出来事を覚えられない状態や過去の記憶が抜け落ちる状態 言語障害(言葉が上手く話せない) 自分の思いや言葉を適切に表現できない状態 注意障害(集中できない・気が散りやすい) 作業や会話に集中し続けられない状態 遂行機能障害(計画を立てて行動できない) 物事の手順を考えて実行できない状態 社会的行動障害(感情コントロール・対人関係の変化) 感情の起伏や対人関係の維持が難しい状態 高次脳機能障害では、脳の損傷により記憶力・注意力・判断力・言語機能・感情の調整など、日常生活に欠かせない高度な脳機能にさまざまな影響が生じます。 新しい情報を覚えられない、言葉が思うように出てこない、作業に集中し続けられない、計画を立てて実行できない、感情や対人関係のコントロールが難しくなるなど、症状は多岐にわたります。 これらは外見からはわかりにくい場合も多く、本人や家族の生活に大きな負担となります。適切な理解と支援が、症状の改善や生活の質の向上に重要です。 以下の記事では、高次脳機能障害の症状と診断方法や対応の仕方について詳しく解説しています。 記憶障害(覚えられない・思い出せない) 新しい出来事を記憶するためには、情報を注意深く受け取り、脳内で整理し、必要時に呼び出すという一連の過程が必要です。この過程には、主に内側側頭葉の海馬と前頭葉が関与します。 海馬は、情報を覚える・整理する役割を担い、この部位が脳卒中や頭部外傷で損傷すると、新しい情報が正しく整理されず、記憶として定着しにくくなります。 前頭葉は覚える対象を意識し、整理された情報を呼び出す指令を出す働きを持ち、損傷すると注意力の低下や記憶の呼び出し困難を招きます。さらに、びまん性軸索損傷(DAI)などで脳内の神経回路が損なわれると、海馬や前頭葉が保たれていても情報伝達が障害され、記憶形成のネットワークが機能しなくなります。 これらの障害は単独または複合して生じ、覚えようとしても記憶に残らない、思い出そうとしても想起できないといった記憶障害を引き起こします。 言語障害(言葉が上手く話せない) 困りごと 詳細 言いたい単語が頭に浮かぶのに思い出せない(喚語困難) 言葉が口まで出かかっているのに言えない状態 発話がゆっくり・断続的で流暢さに欠ける(非流暢型) 話のテンポが遅く途切れがちな状態 何か言おうとするが違う単語が出てしまう(音韻性錯語) 意図とは異なる単語や音が出てしまう状態 相手の言葉を聞いても意味がつかみにくい(理解障害) 会話内容の理解が難しい状態 失語症に分類される症状 聞く・話す・読む・書くのすべてで障害がある状態 高次脳機能障害による言語障害は、ブローカ野やウェルニッケ野、またそれらをつなぐ神経回路の損傷で起こります。ブローカ野の損傷では言葉が出にくい非流暢型失語、ウェルニッケ野の損傷では意味が理解できない受容性失語、弓状束の損傷では言い間違いが続く伝導性失語が生じます。 これらは構音障害や声帯障害とは異なり、脳の情報処理機能の障害によるもので、多くは記憶や注意、思考の障害を伴うため、適切なリハビリと支援が改善に必要です。 注意障害(集中できない・気が散りやすい) 種類 特徴 容量性注意障害 一度に意識できる情報量が少なくなる状態 選択性注意障害 必要な情報に集中できず周囲の刺激に気を取られる状態 転換性注意障害 ひとつのことに固執して注意を切り替えられない状態 持続性注意障害 集中を長時間保てずすぐに途切れる状態 配分性注意障害 複数作業に注意を分けられずミスや抜けが出る状態 注意障害は高次脳機能障害のひとつで、集中力の維持や必要な情報への注意が難しくなる状態です。前頭葉やその神経回路の損傷が原因となり、情報の選択・切り替え・持続といった機能が低下します。 脳梗塞や頭部外傷でこの部位が損傷すると、集中力が低下し注意が逸れやすくなり、容量性・選択性・転換性・持続性・配分性の各注意障害が単独または複合して現れます。 仕事や学習、日常生活に大きく影響を及ぼしますが、適切なリハビリや生活環境の調整により改善が期待できます。 遂行機能障害(計画を立てて行動できない) 遂行機能障害は、高次脳機能障害のひとつで、目標の設定や計画の立案、行動の順序立てが困難になる状態です。主に前頭葉が関与し、この部位は思考、判断、計画などの機能を担います。 脳卒中や交通事故で前頭葉が損傷すると、段取りが立てられない、作業を途中でやめてしまう、優先順位を決められないといった症状が現れます。 注意力や記憶力の低下、神経伝達物質のバランス異常も影響します。日常生活では、仕事や家事の進行が滞る、約束や期限を守れない、やるべきことを忘れるといった例が見られます。 遂行機能障害は外見からわかりにくいため、適切な理解と周囲の支援、専門的なリハビリテーションが生活の質を保つ上で重要です。 社会的行動障害(感情コントロール・対人関係の変化) 社会的行動障害は、脳損傷によって感情や行動の調整が難しくなり、普段とは異なる言動が現れる状態です。 前頭葉の損傷や、記憶障害・注意障害・遂行機能障害などの影響により、衝動的な行動、場にそぐわない発言、相手の気持ちを理解しにくいなどの症状が生じ、対人関係に誤解やトラブルを招きます。 外見からはわかりにくく、周囲の理解が得られにくい点が特徴です。これは性格や意志の問題ではなく脳の損傷によるもので、周囲の理解と支援、専門的なリハビリが改善に重要です。 高次脳機能障害の原因 原因 詳細 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害 脳の血管が詰まったり破れたりして脳組織が損傷を受ける状態 交通事故などによる外傷性脳損傷 頭部への強い衝撃による脳の損傷で、見た目ではわかりにくい損傷も含む 低酸素脳症や感染症などその他の要因 脳への酸素不足や脳炎などの感染症による損傷や影響 高次脳機能障害は、脳の損傷によって記憶・言語・注意・行動などの高度な脳機能に障害が生じる状態で、原因は多岐にわたります。 主な原因には、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、交通事故による外傷性脳損傷、低酸素脳症や脳炎などの感染症があります。これらは脳の組織や神経回路に影響を与える可能性があります。 発症時には早期に医療機関を受診し、適切な診断・治療・リハビリテーションを受けることが、症状の軽減や回復に重要です。 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害 項目 詳細 高次脳機能の働き 記憶、言語、注意力、計画、判断をつかさどる脳の働き 高次脳機能障害が起こる仕組み 脳血管障害で脳の特定部位が損傷し、その働きが低下または消失する状態 脳血管障害の主な症状 記憶障害、言語障害、注意障害、遂行機能障害、感情コントロールの低下 脳梗塞の特徴 脳の血管が詰まり、詰まった先の組織が血液不足となり細胞が死ぬ状態 脳出血の特徴 脳の血管が破れて脳内に血が広がり、損傷部位や範囲によって症状が異なる状態 原因と結果 損傷部位が酸素と栄養を受けられず、高次脳機能に障害が生じる状態 脳は、記憶や言語、注意力、計画、判断、感情の制御など、日常生活に欠かせない高次脳機能を担っています。脳血管障害で脳の一部が損傷すると、その部位の機能が低下または失われ、高次脳機能障害が生じます。 脳血管障害による症状は多岐にわたり、損傷部位や範囲によって重症度が異なります。脳梗塞は血管の詰まり、脳出血は血管破裂で発生し、いずれも早期診断・治療と適切なリハビリが回復に重要です。 以下の記事では、脳梗塞と脳出血の症状について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説 【医師監修】脳出血とは|症状・種類・原因を詳しく解説 交通事故などによる外傷性脳損傷 外傷性脳損傷は、交通事故や転倒、スポーツ中の衝撃などで頭部に強い外力が加わり、脳に損傷が生じる状態です。衝撃によって脳組織が傷ついたり、脳内で出血が起きたりし、その結果、脳の機能に障害が生じます。 脳の損傷部位や範囲によって多様な高次脳機能障害が現れ、とくに交通事故では前頭葉を含む広範囲が損傷しやすく重い障害を招くことがあります。 脳挫傷・脳内出血・びまん性軸索損傷はいずれも高次脳機能を低下させるため、早期診断と適切な治療・リハビリが重要です。 以下の記事では、外傷性脳出血の症状について詳しく解説しています。 低酸素脳症や感染症などその他の要因 状態・要因 詳細 低酸素脳症 脳への酸素供給が不十分となり、脳細胞がダメージを受ける状態(溺水、窒息、心停止、一酸化炭素中毒などが原因) 低酸素脳症で高次脳機能障害が起こる理由 酸素不足により、記憶・注意・判断を担う脳細胞が損傷される状態 症状の特徴 記憶障害、注意障害、感情コントロールの障害などが現れやすい傾向 脳炎や感染症が高次脳機能障害を引き起こす理由 感染による脳の炎症で正常な脳機能が妨げられる状態(ヘルペス脳炎などでは認知や情緒面の障害が特徴) その他の要因 髄膜炎、脳腫瘍、てんかんなどによる脳細胞の損傷と高次脳機能障害発症の可能性 低酸素脳症は、溺水、窒息、心停止、一酸化炭素中毒などにより脳への酸素供給が不足し、脳細胞が損傷する病態です。 高次脳機能を担う部位が障害されると、記憶障害、注意障害、判断力低下、感情コントロールの困難など多様な症状が現れます。とくに記憶障害や注意障害が出やすい傾向があります。 脳炎や髄膜炎などの脳感染症も、脳組織に炎症や損傷を与え、認知機能や情緒面に影響を及ぼします。さらに、脳腫瘍やてんかん発作なども高次脳機能障害の原因となります。これらの障害は損傷部位や範囲によって症状が異なるため、適切なリハビリテーションが回復に不可欠です。 高次脳機能障害の治療法 治療法 詳細 リハビリテーション 記憶や言語、注意力、計画力など低下した機能の改善を目指す訓練や作業療法 薬物療法 集中力や意欲、感情の安定など症状に応じた薬剤を用いた治療 再生医療 幹細胞などを利用し損傷した脳組織の修復や機能回復を促す治療 高次脳機能障害の治療は、症状や原因、重症度に応じて複数の方法を組み合わせて行います。中心は記憶や言語、注意力などの回復を目指すリハビリテーションで、作業療法士や言語聴覚士が訓練を行います。 薬物療法は注意力や意欲低下、感情の不安定さに対して補助的に使用されます。再生医療は幹細胞や成長因子を用いて損傷した脳組織の修復や機能回復を促す新しい治療法です。 しかし、取り扱う医療機関が限られているため、実施には事前の問い合わせと医師による診察が不可欠です。再生医療は単独でなくリハビリなどと組み合わせて行われ、早期かつ継続的な介入により生活の質向上が重要視されます。 リハビリテーション リハビリ内容 有用性 言語療法(ST) 言葉の理解・表現力の改善、会話能力の向上、コミュニケーションの円滑化 作業療法(OT) 日常生活動作(食事、着替え、家事)の能力向上、手先の動作や計画力の改善 認知機能訓練 記憶力、注意力、判断力、遂行機能の強化による生活自立度の向上 理学療法(PT) 基本的な身体の動きやバランスの安定化による活動範囲の拡大 心理的支援・カウンセリング 自信回復、抑うつ・不安の軽減、社会参加意欲の向上 リハビリテーションは、高次脳機能障害の中心的な治療法です。記憶力、注意力、遂行機能、言語能力などを回復させ、日常生活の自立を支援します。 脳には損傷後に新しい神経回路を形成する可塑性があり、リハビリはこの能力を最大限に活用する治療法です。医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、ソーシャルワーカーなど多職種が連携し、症状や生活状況に応じたプログラムを提供します。 効果を高めるには発症早期から開始し、6カ月から1年程度継続することが推奨され、継続的な評価と調整によって機能改善、自信回復、抑うつや不安の軽減、社会復帰の促進が期待できます。 以下の記事では、高次脳機能障害のリハビリ効果について詳しく解説しています。 【関連記事】 高次脳機能障害のリハビリ効果とは?方法や内容をあわせて紹介 高次脳機能障害は回復する?事例やリハビリの重要性を現役医師が解説 薬物療法 理由・特徴 詳細 症状の軽減と生活の質向上 記憶障害・注意障害・感情や行動の問題を和らげる補助療法 神経伝達物質のバランス調整 セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンなどを整え脳機能をサポートする治療 行動・感情コントロールの支援 衝動性や攻撃性、うつ症状、不安を鎮め落ち着いた状態を保つ治療 リハビリの効果向上 薬物の作用で集中力や安定性を高め、リハビリ訓練への取り組みを後押しする効果 継続的な治療の重要性 症状や状態に合わせ、医師が薬剤を調整しながら数カ月以上継続する治療 薬物療法は、高次脳機能障害に対し脳損傷そのものを治すのではなく、症状を軽減し日常生活の質を高める補助的治療法です。記憶障害、注意障害、衝動性や攻撃性などの感情・行動の問題を緩和し、リハビリテーション効果を向上させます。 治療ではセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスを調整し、注意力や意欲の改善、感情の安定を図ります。たとえば、注意障害にはメチルフェニデートが用いられ、集中力や覚醒度を高めます。抗うつ薬や抗精神病薬は衝動性、不安、うつ症状の緩和に有効です。 薬物療法は認知リハビリや作業療法と併用することで効果が高まり、数カ月以上の継続が推奨されます。薬物療法では、必ず医師の指導のもと実施することが重要です。 以下の記事では、高次脳機能障害の薬物療法とリハビリでの治療法について詳しく解説しています。 再生医療 再生医療は、患者自身の幹細胞を用いて損傷した脳組織の修復や再生を促し、失われた機能の回復を目指す治療法です。 幹細胞は損傷部位で新しい神経細胞を作り、修復を支援します。これにより脳の自己治癒力が高まり、リハビリ効果も向上します。従来より短期間で症状改善が報告される例があり、幹細胞が分泌する物質は血管修復や保護にも働き、脳卒中再発予防の可能性があります。 ただし、再生医療は実施できる医療機関が限られているため、事前に対応可能かを確認し、適応の有無を診察で判断することが必要です。 脳卒中の後遺症である高次脳機能障害や再発予防に関してお悩みの方は、再生医療も治療の選択肢としてご検討ください。 当院「リペアセルクリニック」では、脳卒中に対する再生医療の症例を紹介しています。治療内容の参考にご覧ください。 高次脳機能障害と似た症状 似た症状 詳細 認知症(アルツハイマー型・血管性など) 進行性の認知機能低下と記憶障害が中心の状態 うつ病や統合失調症などの精神疾患 気分の落ち込みや思考・行動の障害を伴う精神状態 発達障害(自閉スペクトラム症・ADHDなど) 社会的コミュニケーションや注意集中の困難が持続する状態 脳腫瘍・正常圧水頭症などの脳疾患 脳の腫瘍や脳室の異常による認知や運動機能の障害 てんかん(とくに側頭葉てんかん) 発作やそれに伴う意識障害、記憶・行動の異常 高次脳機能障害と似た症状は、認知症、精神疾患、発達障害、脳疾患、てんかんなど多岐にわたります。認知症では記憶障害や判断力低下が進行し、うつ病や統合失調症などの精神疾患では意欲低下や感情の不安定さがみられます。 自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害では、社会的コミュニケーションや注意・行動の調整が困難です。脳腫瘍や正常圧水頭症では脳の構造変化や圧迫により記憶・歩行・判断力が障害されます。 側頭葉てんかんなどのてんかんでは、発作に伴い記憶や感情の変化、一時的な意識障害が生じます。これらは症状が似ていても原因や治療法が異なるため、正確な診断が不可欠です。 認知症(アルツハイマー型・血管性など) 項目 高次脳機能障害 認知症 主な原因 交通事故・脳卒中・外傷などによる急性の脳損傷 アルツハイマー病・血管性認知症などによる脳の変性や萎縮 発症の仕方 急に症状が現れる発症 徐々に症状が進行する発症 症状の進行 基本的に進行しにくい状態 時間とともに進行し悪化する状態 主な経過 リハビリによって改善が期待できる経過 根本的な治療は難しく進行を遅らせる支援が中心の経過 主な共通症状 記憶障害、遂行機能障害、注意障害、人格変化などの症状 高次脳機能障害と認知症は、どちらも記憶障害や注意障害、計画力の低下、人格変化など似た症状を伴いますが、原因と経過が異なります。高次脳機能障害は、交通事故や脳卒中などによる急な脳損傷が原因で、症状は突然現れます。基本的に進行せず、リハビリによって改善が見込めます。 一方、認知症はアルツハイマー病や血管性認知症などが原因で脳が徐々に変性・萎縮し、症状が進行していきます。根本的な治療は難しく、薬剤や生活支援で進行を遅らせることが治療の中心となります。 以下の記事では、高次脳機能障害と認知症の違いを詳しく解説しています。 うつ病や統合失調症などの精神疾患 項目 高次脳機能障害 うつ病や統合失調症などの精神疾患 主な原因 交通事故・脳卒中などによる器質的な脳損傷 心理的・社会的ストレス、神経伝達物質バランスの乱れ遺伝的素因など 発症の仕方 脳損傷後に突然症状が現れる発症 徐々に進行する場合や急性に悪化する場合がある発症 背景メカニズム 損傷部位の神経ネットワーク障害による症状発現 器質的損傷を伴わない脳機能異常や心理社会的要因による症状発現 治療の方向性 原因疾患の治療とリハビリによる機能回復支援 薬物療法や心理社会的支援による症状の安定化と再発予防 主な共通症状 注意障害、意欲低下、感情コントロールの不全、社会的行動の変化 高次脳機能障害は、交通事故や脳卒中などによる明確な脳損傷を原因として、認知機能や感情の制御が低下する病態です。これに対し、うつ病や統合失調症などの精神疾患は脳の構造的損傷を伴わず、心理社会的ストレス、神経伝達物質の異常、遺伝的要因などが主な背景と考えられます。 いずれも注意力や意欲の低下、感情の不安定さ、対人関係の変化といった共通症状を示し、日常生活や社会生活に大きな支障をきたしますが、その発症機序は異なります。高次脳機能障害は脳の器質的障害による直接的な機能低下であり、精神疾患は脳機能の異常や心理社会的要因による変化が中心です。 症状が類似するため誤診の恐れもあり、正確な診断には医師による詳細な問診、神経心理検査、画像検査が不可欠です。 発達障害(自閉スペクトラム症・ADHDなど) 項目 高次脳機能障害 発達障害(自閉スペクトラム症・ADHDなど) 主な原因 脳梗塞・交通事故・外傷などによる後天的な脳損傷 生まれつきの脳機能の特徴や発達の仕方の違い 発症の時期 成人期・小児期を問わず、脳損傷後に突然発症 幼少期から症状がみられる発達期発症 背景メカニズム 損傷部位の神経ネットワーク障害による情報処理の低下 先天的な脳情報処理の特性による行動や認知の違い 治療・支援 リハビリテーションや薬物療法で機能回復支援 療育・環境調整・必要に応じた薬物療法による適応支援 共通する症状 注意の持続困難、遂行機能障害、社会的行動の変化 高次脳機能障害と発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)は、注意が続かない、計画や段取りが苦手、感情や対人関係の調整が難しいといった共通の症状があります。これらは脳の情報処理や行動調整機能の障害で起こります。 発達障害は先天的で幼少期から症状があり、高次脳機能障害は脳梗塞や事故など後天的損傷が原因です。症状の時期や経過が診断の鍵であり、正確な鑑別には医師の評価が必要になります。 以下の記事では、ブレインフォッグとADHDについて詳しく解説しています。 脳腫瘍・正常圧水頭症などの脳疾患 項目 高次脳機能障害 脳腫瘍・正常圧水頭症 主な原因 交通事故・脳卒中・外傷などによる脳の損傷 脳内の腫瘍形成や脳脊髄液循環障害による脳圧迫 発症の仕方 脳損傷後に突然症状が現れる発症 腫瘍や液体貯留が進行して症状が徐々に出現する発症 症状発現の仕組み 損傷部位の神経細胞や神経回路の破壊による直接的障害 脳の圧迫や循環障害による二次的な機能障害 主な治療 リハビリテーションを中心とした機能回復支援 外科的治療(腫瘍摘出・シャント手術)による圧迫解除と症状改善 共通する症状 記憶障害、注意障害、感情のコントロール不全 脳腫瘍は脳内に発生する異常な腫瘤であり、正常圧水頭症は脳脊髄液の流れが障害されて脳室に液が過剰にたまる疾患です。いずれも脳を物理的に圧迫し、血液や脳脊髄液の循環を妨げることで、記憶障害、注意力低下、感情の不安定化など、高次脳機能障害に似た症状を引き起こします。 原因は脳細胞の直接的な損傷ではなく、圧迫や循環障害による二次的な機能低下です。治療は腫瘍摘出術やシャント手術などの外科的手段が中心で、圧迫を解除することで症状が改善する可能性があります。高次脳機能障害とは症状や原因が異なるため、医師の診断が不可欠です。 【関連記事】 【くも膜下出血の後遺症】水頭症は寿命がある?症状から治療法まで医師が解説 水頭症による高齢者の認知症は手術で治る?手術しないリスクとは【医師監修】 てんかん(とくに側頭葉てんかん) 項目 高次脳機能障害 てんかん(とくに側頭葉てんかん) 主な原因 脳梗塞・交通事故・外傷などによる器質的な脳損傷 脳内の異常な電気活動(発作)や潜在的なてんかん性放電 発症の仕方 脳損傷後に突然症状が現れる発症 発作の繰り返しに伴い徐々に症状が現れる場合もある発症 症状発現の仕組み 損傷部位の神経細胞や神経ネットワークの破壊による直接的障害 異常な電気活動やネットワークの乱れによる機能障害 主な治療 リハビリテーション中心の機能回復支援 抗てんかん薬や外科手術による発作コントロール 共通する症状 記憶障害、注意障害、感情のコントロール不全 てんかん、とくに側頭葉てんかんは、高次脳機能障害と同様に記憶障害・注意障害・感情変化を示します。記憶障害は発作時だけでなく非発作時にも現れ、新しい情報を覚えにくい、過去の出来事を忘れやすいなどの症状があります。 注意障害は集中力低下や気の散りやすさ、感情変化は怒りやすさや感情コントロール困難として表れます。これらは異常な電気活動や潜在的なてんかん性放電による脳ネットワークの乱れが原因です。 一方、脳腫瘍や正常圧水頭症では脳の圧迫や循環障害による二次的症状であり、外科手術で改善を図ります。てんかんは抗てんかん薬や手術で発作を抑えるなど治療法が異なるため、正確な鑑別診断が重要です。 以下の記事では、側頭葉てんかんの手術後に起こりうる後遺症について詳しく解説しています。 改善しない高次脳機能障害は当院へご相談ください 高次脳機能障害は、記憶力の低下や注意力の欠如などが現れ、日常生活に支障をきたします。早期発見と治療の継続で改善が見込めます。しかし、症状が進行している状態の場合、改善が困難になることがあります。 改善が見られない高次脳機能障害でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院は、損傷部位の修復にアプローチする再生医療を積極的に提案し、患者様の症状に合う治療方針を策定します。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 高次脳機能障害に関するよくある質問 高次脳機能障害の家族の向き合い方を教えてください 高次脳機能障害の患者さんは、日常生活や介護の多くを家族が担いますが、症状は外見からわかりにくく、性格や行動の変化も伴うため、家族の心理的負担は大きくなります。介護を続けるためには、病気の正しい理解が重要です。 症状や経過を知ることで患者さんの行動を病気の一部として受け入れやすくなり、家族会やセミナーの参加も有効です。また、家族自身の心身の健康維持も必要で、心理カウンセリングや相談窓口の活用、同じ立場の家族との交流がストレス軽減に役立ちます。 また、行政や福祉サービス、レスパイトケアを利用して介護負担を分散させることが、患者さんの生活の質向上にもつながります。 以下の記事では、高次脳機能障害の家族の向き合い方について詳しく解説しています。 【関連記事】 高次脳機能障害で怒りやすくなる?家族への適切な対応を紹介 高次脳機能障害への対応の仕方は?介護疲れを軽減するコツを解説 高次脳機能障害患者の家族が抱えるストレスは?対処法や支援制度を現役医師が解説 高次脳機能障害の平均余命はどのくらいですか? 高次脳機能障害の平均余命は、発症年齢や性別によって異なりますが、健常者より短くなる傾向があります。男性では、20歳発症の場合は平均余命が42.61年で、健常男性の61.45年より約18.8年短くなります。 年齢が上がるにつれて差は縮まり、50歳発症では約12.4年、80歳発症では約6.5年の差です。女性も同様で、20歳発症では約17.3年、50歳発症では約11.9年、80歳発症では約8.5年短くなります。 この余命短縮は、脳損傷による高次脳機能障害と、それに伴う身体機能低下や合併症リスクの増加が影響していると考えられます。ただし、適切な医療管理やリハビリテーション、生活習慣の改善によって健康状態を保ち、余命や生活の質(QOL)を高めることは可能です。 平均余命は統計上の目安であり、個々の生活環境や支援体制によって変わるため、医療機関と連携し、長期的な健康管理と社会参加を継続することが重要です。 以下の記事では、高次脳機能障害の平均余命について詳しく解説しています。
2025.08.31 -
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「ある日突然、激しい頭痛や吐き気に襲われた」 「片側が麻痺するような感覚や、言葉がうまく話せない」 これらは脳出血のサインの可能性が高く、脳の血管が破れて出血し、脳細胞を損傷・死滅させる疾患です。短時間で命や生活に重大な影響を及ぼします。 飲酒や喫煙、高血圧、糖尿病といった生活習慣や持病があれば、若年でも脳出血を発症する危険があります。脳出血は年齢を問わず起こるため、予防が欠かせません。 本記事では、脳出血について現役医師が詳しく解説します。 脳出血の症状 脳出血の種類 脳出血の原因 脳出血の治療法 脳出血の予防法 記事の最後には、脳出血についてよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脳出血について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脳出血とは 項目 内容 主な原因 長期間続く高血圧による血管の脆弱化。加齢による脳アミロイド血管症。脳動静脈奇形などの血管異常 他の脳卒中との違い 脳出血は脳卒中の一種で、脳実質内の出血を指し、くも膜下出血(脳表面の隙間の出血)や脳梗塞(血管の詰まり)とは異なる 出血で起きること 血腫形成による脳細胞の圧迫。麻痺・言語障害・意識障害の発症。部位と出血量による症状の違い。血腫吸収後も残る神経障害の可能性 早期治療の理由 発症後48時間以内に進行する脳浮腫。再出血や脳圧上昇による生命危機。血圧管理・外科的処置・全身管理の必要性 主な症状 片側の麻痺・しびれ。言語障害。意識障害。吐き気・嘔吐。激しい頭痛 対応の重要性 急性期の対応が予後を左右。再出血や浮腫悪化時は緊急処置の必要性 予防と再発防止 高血圧管理。生活習慣改善。血管異常の検査。医師による定期的なフォロー (文献1) 脳出血は、脳内の細い血管が破れて出血し、血液が脳組織を直接傷つけたり、血腫(けっしゅ)となって周囲を圧迫し、脳組織を損傷する疾患です。意識障害、手足の麻痺、言語障害などの重い症状が突然現れることがあります。 脳の血管は非常に細く、高血圧などで慢性的な負担がかかると血管壁が脆くなり、破れやすくなります。出血は脳全体の圧力を高めて血流を妨げ、生命に関わる危険な状態を引き起こし得ます。急な頭痛、意識の変化、麻痺などが現れた場合は、一刻を争うため直ちに救急要請が必要です。 以下の記事では、脳梗塞と脳出血の合併症について詳しく解説しています。 脳出血の症状 症状 詳細 片麻痺・顔面のゆがみ 手足の力が入らなくなる現象。顔半分の筋肉のゆがみ。片側だけ口角が下がる状態 言語障害(話す・理解) 思ったことを言葉にできない状態。会話や文字の理解困難。意思疎通の困難 視覚・平衡感覚の異常 視野が欠ける現象。一部が見えなくなる状態。物が二重に見える現象。ふらつきや歩行困難 頭痛・吐き気・意識障害 突然の激しい頭痛。吐き気や嘔吐の発現。意識がもうろうとする状態。反応が鈍くなる現象 脳出血では、出血の部位や程度により多様な症状が突然現れます。代表的なのは片麻痺や顔面のゆがみで、口角が片方だけ下がることもあります。 言葉が出にくい、相手の話や文字が理解しづらいといった言語障害に加え、視野の一部が欠ける、物が二重に見えるなどの視覚異常や、平衡感覚の異常によるふらつき・歩行困難も特徴です。 さらに、突然の激しい頭痛、吐き気や嘔吐、意識の混濁、反応の鈍化などが起こることもあり、これらの症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診する必要があります。 以下の記事では、脳出血の前兆を詳しく解説しています。 片麻痺・顔面のゆがみ 症状 詳細 片麻痺(かたまひ) 脳の片側が出血で障害されると、反対側の手足の動きが悪くなる現象。力が入らない、動かせない、物を落としやすくなる状態 顔面のゆがみ 顔の筋肉を動かす神経が障害され、片側の筋肉がうまく動かなくなる状態。笑ったときに口角が片側だけ下がる、まぶたが閉じにくい左右差 重要性 いずれも脳出血の可能性が高い危険なサインで、突然出た場合は直ちに救急車を呼び医療機関を受診する必要性 脳出血が運動をつかさどる脳の部分に起こると、身体の片側が急に動かしにくくなり、腕や足に力が入らず物を落とすこともあります。 顔面神経にも障害が及ぶと、笑ったときに口角が一方だけ下がる、まぶたが閉じにくいなどの左右差が出ます。発症した場合は直ちに救急車を呼ぶことが重要です。 以下の記事では、脳出血の前兆として現れる手足のしびれについて詳しく解説しています。 【関連記事】 手がしびれる病気は?前兆とチェックを医師が解説 手足のしびれの原因となる病気の症状や予防法を解説!前兆も紹介 言語障害(話す・理解) 項目 詳細 言葉が話せなくなる理由 脳の左側にある言語中枢の出血による機能障害 主な症状 思ったことを言葉にできない発語障害。相手の言葉の意味がわからない理解障害 危険なサインの理由 脳の重要領域の障害を示す重大な兆候で、早急な治療が必要 対応の必要性 突然の発語困難や理解困難が出た場合は、脳出血や脳梗塞の可能性があり直ちに受診が必要 脳の言語中枢が出血で損なわれると、言葉を話す・理解する機能に障害が生じ、言葉が出ない、入れ替わる、理解しづらいなどの症状が現れます。口や舌の動きが悪くなり発音が不明瞭になることもあり、失語症や構音障害と呼ばれます。 これらは本人が気づきにくく、周囲の早期発見が重要です。突然の発症は脳出血の可能性が高く、速やかに医療機関を受診する必要があります。 視覚・平衡感覚の異常 項目 詳細 視覚の異常 脳の後頭葉や視覚信号の経路への障害による視野狭窄や見えにくさ。目そのものの異常ではなく、脳の視覚処理の問題 平衡感覚の異常 小脳や脳幹の損傷による急なめまい、ふらつき、歩行時のバランス障害、方向感覚の喪失 重要性 突然の視覚や平衡感覚の異常は脳への深刻な障害のサインであり、緊急受診が必要 脳の視覚中枢や平衡感覚をつかさどる部位に出血が起こると、視界が欠ける、二重に見える、ふらつくなどの症状が現れます。歩行が不安定になり、立ち上がった際に倒れそうになることもあります。 視覚障害やめまいは一時的に治まる場合もありますが、脳出血は進行する恐れがあるため、軽視は禁物です。とくに、これまでにない視覚の異常やバランスの崩れは、早急な診断が必要な危険信号です。 頭痛・吐き気・意識障害 症状 詳細 激しい頭痛 脳の血管破裂による脳を覆う膜や血管への強い刺激。普段と異なる突然の強烈な痛み 吐き気・嘔吐 脳圧の上昇による脳幹の嘔吐中枢刺激。身体からの危険信号としての反応 意識障害 血液や腫れによる脳の重要部位圧迫、意識がぼんやりする状態、重症の場合は意識消失の可能性 脳出血によって脳内の出血が増えると、頭蓋内の圧力が急激に上昇し、強い頭痛・吐き気・嘔吐などが起こります。これは、硬い頭蓋骨の中で血液が増えて脳が圧迫されるためです。 出血範囲が広くなると脳幹や全体へのむくみ(脳浮腫)により、意識がもうろうとしたり呼びかけに反応できなくなることもあり、命に関わる緊急事態となります。このような症状が急に現れた場合には、一刻も早く救急車を呼び、迅速な治療を受けることが非常に重要です。 以下の記事では、吐き気を伴う頭痛について詳しく解説しています。 脳出血の種類 種類 詳細 被殻出血 大脳基底核の一部である被殻での出血。主に高血圧が原因。反対側の手足の麻痺や感覚障害、言語障害が起こることが多い 視床出血 感覚情報の中継を行う視床での出血。反対側の感覚障害や麻痺、意識障害を伴うことが多い 皮質下出血 脳の表面近く、皮質直下の白質での出血。一部運動障害や感覚障害、視覚や言語の障害が現れる場合がある 小脳出血 運動のバランスを司る小脳での出血。めまいや歩行困難、吐き気などが強く現れることが多い 橋出血 生命維持に重要な脳幹の一部である橋での出血。四肢麻痺や重度の意識障害、呼吸不全など重篤な症状が出やすい 脳出血は、出血する部位によって症状や重症度が異なります。被殻出血は、大脳深部の被殻に起こる脳出血で、高血圧が原因となることが多い病態です。視床出血は感覚の中継を行う視床で発生し、片側の感覚障害や麻痺、意識障害を伴うことが多くあります。 皮質下出血は脳の皮質下白質で起こり、運動・感覚・視覚・言語など多様な障害を引き起こす可能性があります。小脳出血はバランス機能を担う小脳で発生し、めまいや歩行困難、吐き気が顕著に現れることがあります。橋出血は脳幹の一部である橋で発症し、四肢麻痺や重度の意識障害、呼吸不全など重篤な症状を引き起こしやすく、とくに注意が必要です。 被殻出血 被殻出血は、脳の深部にある被殻で起こる脳出血で、手足の動きや感覚に関わる重要な部位が障害されます。脳出血のうち、約40~50%は被殻出血であり、脳出血全体の中で最も多くを占めています。被殻は脳の深部に位置し、手足の運動や感覚をつかさどる重要な部位です。 このため、被殻で出血が起こると、反対側の手足の麻痺やしびれが現れます。多くは高血圧が背景にあり、発症は急激です。言葉のもつれや視野の欠けを伴うこともあります。 さらに重症化すると意識障害に進行することがあるため、早期の診断と適切な血圧管理が不可欠です。日本国内の統計でも、視床出血(約30%)、小脳・脳幹・皮質下出血(いずれも約10%前後)と比べて圧倒的に頻度が高いことが示されています 視床出血 視床出血は、脳の深部にある視床で起こる出血です。視床は、手足や顔の感覚情報を脳の各部に中継し、意識の維持にも関わる重要な部位です。主な原因は長期の高血圧による細い血管(穿通枝)の破裂で、突然の頭痛、嘔吐、意識の低下、片側の手足のしびれや麻痺といった症状が急に現れます。 視床出血は感覚・運動・意識・眼球運動など多彩な症状を伴い、視覚異常や瞳孔反応の変化、言語障害、高次脳機能障害、慢性的な強い痛み(視床痛)が現れ、出血が大きい場合は運動障害が悪化します。 治療は血圧や脳の腫れを抑える保存療法が中心で、早期診断とリハビリが回復が重要です。 以下の記事では、視床出血について詳しく解説しています。 【関連記事】 手足のしびれの原因となる病気の症状や予防法を解説!前兆も紹介 【保存版】視床出血の主な症状はなに?原因や治療法・予後について現役医師が解説 皮質下出血 皮質下出血は、脳の表面に近い大脳皮質の直下で起こる脳出血です。高血圧が原因となることは少なく、若年者では脳動静脈奇形や海綿状血管腫、高齢者ではアミロイドアンギオパチーなどの血管異常が多くみられます。 症状は突然の激しい頭痛や吐き気、嘔吐に始まり、意識障害、片側の手足の麻痺、言語障害、てんかん発作などが出ます。数時間以内に症状が進行することもあり、予後は出血の大きさや原因に左右されます。 診断はCTなどで行い、大きな出血や重症例では手術が検討されますが、多くは薬物療法や経過観察が中心です。早期受診と原因に応じた治療が不可欠です。 小脳出血 小脳出血は、頭の後ろにある小脳で起こる脳出血です。小脳は体のバランスや運動の調整を担い、出血すると後頭部の激しい痛み、強いめまいやふらつき、吐き気、歩行障害、構音障害などが現れ、急速に悪化することがあります。 原因は高血圧が最も多く、血管奇形や頭部外傷も関与します。出血が大きいと脳幹を圧迫し命に関わるため、治療は血圧管理や脳浮腫の抑制が中心であり、必要に応じて手術が必要です。早期受診と適切な治療が予後を左右します。 橋出血 橋出血は、脳幹の一部である「橋」に発生する脳出血です。橋は呼吸や心拍の調整、感覚や運動の伝達など、生命維持に欠かせない機能を担っています。主な原因は長期の高血圧で、血管壁が弱くなり破れることで発症します。血管奇形や外傷、血液疾患が原因となるケースもあります。 症状は急速に進行し、激しい頭痛や嘔吐、意識障害、四肢麻痺、顔面のしびれや運動障害、呼吸困難、言語障害、めまい、眼球運動異常などが現れ、橋は重要な神経が集中する部位のため重症化しやすく、手術が困難な場合も多くあります。 治療は血圧や呼吸の管理が中心で、早期発見と迅速な対応が予後を左右するため、発症時は直ちに医療機関での治療が必要です。 以下の記事では、橋出血について詳しく解説しています。 【関連記事】 橋出血とは?症状・原因・治療法を現役医師がわかりやすく解説! 橋出血の初期症状は意外と身近な痛み?!死亡率や予防法も現役医師が解説 脳幹出血は回復の見込みある?治療や時期別のリハビリ内容も解説 脳幹出血の原因は?今からできる予防策も解説【医師監修】 脳出血の原因 原因 詳細 高血圧性出血 持続する高血圧による脳内小動脈の血管壁破綻。血圧の過度な上昇による血管の破裂 血管異常(奇形・アミロイド) 先天的な脳動静脈奇形や海綿状血管腫などの血管奇形。高齢者に多いアミロイド血管症による血管の脆弱化 薬剤・出血傾向を伴う血液の病気 抗凝固薬や抗血小板薬の服用による出血傾向。血液疾患による止血障害や血液成分異常 脳梗塞からの出血性転化 脳梗塞後に血管の浸食や血流再開で出血を伴うこと。脳組織の壊死に血管破綻が加わる状態 頭部の外傷 交通事故や転倒などの頭部への直接的な強い衝撃による脳内出血。とくに高齢者で転倒リスクが高い 脳出血の原因は多岐にわたります。中でも代表的なのは、持続する高血圧による脳内小動脈の破綻です。ほかにも、先天的な脳動静脈奇形や海綿状血管腫、高齢者に多いアミロイド血管症などの血管異常、抗凝固薬・抗血小板薬の服用や血液疾患による出血傾向、脳梗塞後の血管破綻による出血性転化、交通事故や転倒といった頭部外傷などがあります。 これらの要因は脳の重要な部位に急激な出血を引き起こし、命に関わる重篤な症状へとつながる可能性があります。突然の頭痛、麻痺、言語障害、意識の変化などの症状が出た場合は、脳出血の可能性があるため直ちに医療機関を受診することが重要です。 高血圧性出血 項目 詳細 血圧の慢性的上昇 小さな脳血管の壁への持続的な負担。血管壁の弾力低下と脆弱化 微小動脈瘤の形成 弱った血管にできる小さなコブ。血管の一部が膨らみ、破裂リスクの増加 急激な血圧上昇 強いストレスや激しい運動、寒冷刺激による急な負担。もろい血管の破裂誘発 高血圧症の頻度 多くの人が持つ慢性疾患。目立たないうちに脳血管障害の進行 脳出血の発症機序 血管壁の脆弱化と微小動脈瘤の破裂による脳出血 予防のポイント 血圧の治療・生活習慣改善による脳血管の保護。血圧管理の重要性 脳出血は、脳内の細い血管が破れて血液がたまり、脳を圧迫する病気です。そのうち約6割から9割は高血圧が原因とされています。 慢性的に高血圧が続くと脳の細い動脈が硬く脆くなり、血圧が急に上がったときに破れやすくなります。とくに寒暖差、過度の飲酒、強いストレスは発症のきっかけになります。高血圧性出血は脳出血全体の多くを占めるため、日頃から血圧を適切に管理することが最も重要な予防策です。 血管異常(奇形・アミロイド) 項目 詳細 血管奇形の種類 脳動静脈奇形や海綿状血管腫などの先天性または後天性の血管構造異常 アミロイド血管症 高齢者の脳血管壁にアミロイド蛋白が沈着し脆弱化する状態 出血のきっかけ 弱くなった血管の血圧変動や外的刺激による破裂 若年者での特徴 高血圧がなくても血管奇形が原因で発症する脳出血 高齢者での特徴 アミロイド血管症が原因となる脳出血 重要性 高血圧以外の独立した脳出血原因としての臨床的意義 血管異常には、若年層にも見られる脳動静脈奇形や海綿状血管腫などの血管奇形と、高齢者に多いアミロイド血管症があります。血管奇形は生まれつき構造が弱く、血圧の急変や軽い刺激でも破れやすく、若年層の脳出血の原因です。 アミロイド血管症は血管壁に異常なたんぱく質が沈着し、もろくなった血管から出血を招きます。これらは高血圧の有無に関係なく発症しやすく、とくに若年層と高齢者の脳出血で重要な原因です。 予防には、定期的な健康診断や脳ドックで早期発見し、生活習慣を改善することが重要です。海綿状血管腫は無症状のことも多いため、症状が現れたら速やかに受診することが、命を守り再出血や重症化を防ぎます。 異常血管と診断された場合は、専門医による経過観察や必要に応じた治療が推奨されます。脳出血は突然発症し、対応の遅れが命や後遺症に直結するため、少しでも異変を感じたら直ちに受診することが大切です。 薬剤・出血傾向を伴う血液の病気 項目 詳細 出血傾向の仕組み 血液凝固機能の低下による止血力の低下 薬剤による影響 抗凝固薬(ワルファリン・DOACなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)による血液凝固抑制 薬剤の目的 血栓予防のための血のかたまり形成抑制 薬剤の副作用 脳内の細い血管からの出血リスク上昇 血液の病気による影響 血小板減少や凝固異常による全身的な出血しやすさ 高血圧性出血との違い 血管壁の脆弱化ではなく、血液そのものの止血不全 注意点 定期的な検査と医師の指示遵守による出血リスク管理 抗凝固薬(ワルファリン・DOACなど)や抗血小板薬(アスピリンなど)は、血液の凝固を抑えることで血栓予防に有効です。しかし、これらの薬剤は脳内の細い血管からの出血リスクを高める可能性があります。 また、血友病や白血病などの血液疾患では、血小板減少や凝固機能の異常により全身で出血しやすくなります。これらのケースにおける脳出血は、血管壁の脆弱化ではなく、止血機能の低下によって発症する点が特徴です。服薬中または血液疾患の既往がある方は、定期的な血液検査や診察を受け、医師の指示を厳守することが重要です。 脳梗塞からの出血性転化 項目 詳細 出血性転化とは 脳梗塞で詰まった血管が再び開通した際、損傷した血管や脳組織から血液が漏れ出す状態 原因となる仕組み 血流遮断による血管壁・脳組織の脆弱化と、再開通による血流再流入 リスクを高める要因 広範囲の脳梗塞、高血糖、抗血栓薬の使用 起こりやすい時期 脳梗塞発症後の治療中や経過観察期間 主な影響 脳圧上昇や脳損傷の拡大による症状の急激な悪化 予防・対策の重要性 出血性転化リスクの管理、早期発見と適切な治療 出血性転化とは、脳梗塞で詰まった血管が再び開いた際に、損傷した血管や脳組織から血液が漏れ、脳出血を起こす状態です。脳梗塞では、血流が途絶えた部分の脳細胞が酸素や栄養を失い壊死します。 長時間の血流不足により血管壁や脳組織は脆くなり、治療や自然回復で血流が戻ると出血が発生しやすくなります。梗塞範囲が広い場合や高血糖、抗血栓薬の使用はリスクを高めます。出血が起こると脳の圧迫や損傷が加わり、症状が急激に悪化するため、治療中や経過観察中は早期発見と慎重な管理が欠かせません。 以下の記事では、脳梗塞の症状について詳しく解説しています。 頭部の外傷 項目 詳細 原因 交通事故、転倒、スポーツ中の衝突などによる頭部への強い衝撃 発症の仕組み 脳の内部や周囲の血管損傷による出血 主な種類 脳内出血、硬膜外血腫、硬膜下血腫 症状 意識障害、手足の麻痺、言語障害、激しい頭痛、嘔吐 症状発現の特徴 外傷直後または数時間〜数日後の症状悪化 検査方法 CTやMRIによる画像検査 治療方法 薬物療法、外科的血腫除去術 受診の重要性 頭部を強打した際の早期受診による重症化予防 頭部に強い衝撃が加わると、脳の血管が損傷し、脳内やその周囲で出血(外傷性脳出血)が起こることがあります。主な原因は交通事故、転倒、スポーツ中の衝突などです。出血部位によっては、脳内出血、硬膜外血腫、硬膜下血腫などに分類されます。 血液が脳を圧迫すると、意識障害、手足の麻痺、言語障害、激しい頭痛や嘔吐などの症状が現れます。発症は受傷直後とは限らず、数時間から数日後に出ることもあります。 とくに高齢者や抗凝固薬を服用している方は、軽い衝撃でも出血の危険があるため、頭を打った場合は症状がなくても早急に医療機関で検査を受けることが重要です。治療は血腫の大きさや症状に応じて薬物療法または手術が行われ、早期診断と治療が予後を左右します。 以下の記事では、頭部の外傷で発症する外傷性脳出血について詳しく解説します。 脳出血の治療法 治療法 詳細 保存療法 出血の広がり抑制と状態の安定化。血圧管理や脳圧コントロール 薬物療法 降圧剤による血圧低下。脳浮腫を軽減する薬剤の使用 リハビリテーション 運動機能や言語機能の回復訓練。日常生活動作(ADL)の自立支援 手術療法 血腫除去や圧迫軽減のための開頭手術、内視鏡下血腫除去術 再生医療 脳組織の再生促進を目指す先進治療。臨床応用段階の研究・実施 脳出血の治療は、出血の規模や症状、患者様の全身状態に応じて選択されます。軽症時は安静と血圧管理を行い、必要に応じて薬物で脳浮腫や血圧を調整します。麻痺や言語障害があれば早期にリハビリを開始します。 血腫が大きい場合や脳を強く圧迫している場合は、手術での除去が必要です。また、再生医療は損傷した脳組織の機能回復を目指す新しい選択肢です。ただし、治療法によっては合併症や再出血のリスクもあるため、必ず医師の判断のもと適切な方法を選ぶことが大切です。 保存療法 項目 詳細 血圧管理(降圧療法) 降圧薬による血圧コントロール。収縮期140mmHg未満または平均血圧130mmHg未満の維持 脳浮腫の抑制 浸透圧利尿薬(高張グリセロール・マンニトール)による脳圧の低下維持 全身管理と合併症予防 酸素投与や循環管理による低酸素・低血圧予防。感染対策や深部静脈血栓症予防 栄養・水分補給と休養確保 点滴や経管栄養による栄養・水分補給と十分な安静の確保 (文献2) 保存療法は、脳出血のうち出血量が少なく、脳や神経への圧迫が軽度な場合に選択される治療法です。全身状態が手術に耐えられない患者や高齢者、出血部位が深く手術が困難な症例にも適用されます。治療は安静を保ち、血圧を適切に管理することが基本です。 具体的には収縮期140mmHg未満、または平均血圧130mmHg未満を目標とします。(文献2) 降圧薬により再出血や細小血管への負担を軽減し、脳浮腫がみられる場合は高張グリセロールやマンニトールなどの浸透圧利尿薬を用いて脳圧を低下させます。点滴や経管栄養で水分・栄養を補給し、感染症や深部静脈血栓症の予防も並行して行います。 定期的な画像検査で経過を確認し、出血の自然吸収を促す、侵襲性が低くリスクの少ない治療法として、多くの患者にとって有力な選択肢です。 薬物療法 項目 詳細 血圧の管理 降圧剤(カルシウム拮抗薬・硝酸薬など)による血圧コントロール 止血剤の投与 トラネキサム酸等の止血剤による出血拡大の防止 脳浮腫の抑制 マンニトールや高張グリセロールによる脳内のむくみ軽減 抗凝固薬中和の対応 ワルファリンやDOACの効果を中和する薬剤の投与 合併症の予防 発作や感染症などの予防薬の使用 薬物療法は、脳出血治療において重要な役割を果たします。主な目的は、血圧の適切なコントロールと脳浮腫(脳の腫れ)の軽減です。降圧薬を用いて血圧を安定させることで再出血のリスクを低減し、さらにグリセロール(高張グリセロール液)などの脳圧降下薬で脳圧の上昇を抑えます。 また、けいれん発作の恐れがある場合には、抗てんかん薬を予防的に使用します。薬物療法は、手術が困難な症例や軽症例で有効です。症状の悪化防止と全身状態の安定化に寄与します。加えて、継続的な血圧管理や合併症予防の観点からも欠かせない治療手段です。 リハビリテーション 項目 詳細 理学療法 筋力回復、バランス改善、歩行訓練による身体機能の向上 作業療法 食事、着替え、排泄など日常生活動作の練習による生活自立支援 言語療法 発話・理解能力や嚥下機能の改善訓練によるコミュニケーション能力向上 認知療法 記憶力、注意力など脳の働きの改善訓練 脳出血の回復には、発症後できるだけ早い時期(通常24〜48時間以内)からのリハビリ開始が重要です。早期にリハビリを行うことで、運動機能や日常生活能力(ADL)の回復が促されます。 これは脳の神経可塑性を刺激し、新たな神経回路の再構築を助けるためです。リハビリは寝返りや起き上がり、座位保持などの基礎動作から始まり、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が連携して段階的に進めます。継続訓練により、運動機能、言語機能、嚥下機能を改善し、日常生活の自立と社会復帰を支援します。 手術療法 項目 詳細 手術の目的 血腫除去による脳圧の軽減と脳損傷の予防 有効な理由 脳の圧迫解消による症状の悪化防止 適応となる状況 大量出血、急激な脳圧上昇、小脳出血による脳幹圧迫、一定以上の血腫での意識障害 期待される効果 意識障害や麻痺の進行防止と生命予後の改善 重要性 早期血腫除去による生命救助と回復促進 脳出血の手術療法は、血腫が大きく脳を強く圧迫している場合や、意識障害を伴い生命に危険が及ぶ場合に行われます。目的は、血腫を除去して脳の圧迫を軽減し、脳損傷の進行を防ぐことです。 主な方法には、頭蓋骨を約10cm開けて直接血腫を取り除く開頭血腫除去術、頭蓋骨に約1.5cmの小孔を開けて内視鏡で吸引・除去する内視鏡的血腫除去術、髄液の流れが障害され水頭症を起こした場合に管で体外へ排出する脳室ドレナージがあります。 手術方法の選択は、出血部位や量、全身状態を基に脳神経外科医が慎重に判断します。血腫除去後も、再出血予防のための血圧管理、脳浮腫対策、リハビリテーションなどの継続的治療が不可欠です。 再生医療 再生医療は、脳出血で損傷した脳細胞や血管を幹細胞で修復し、後遺症の改善や再発予防を目指す治療法です。 患者自身の骨髄・脂肪・歯髄から採取した幹細胞を体外で増殖させ、注射などで損傷部位に戻すことで、神経や血管の再生や炎症の抑制が期待されます。これにより、麻痺・言語障害・しびれなどの症状軽減が見込まれます。 リハビリテーションと併用することで効果が高まる可能性があり、早期の開始が望ましいとされています。 当院「リペアセルクリニック」では脳出血に対する再生医療の症例を紹介しているので、ぜひご確認ください。 脳出血の予防法 予防法 詳細 血圧・生活・嗜好の改善 塩分控えめの食事、適度な運動、禁煙、節度ある飲酒、ストレス管理 慢性疾患・薬剤使用の見直し 高血圧や糖尿病、脂質異常症の適切な管理。医師による薬剤調整や定期検査 若年・再発時の血管精密検査 血管奇形やアミロイド血管症などの精密検査。再発リスクの評価と対策 脳出血の予防には、まず血圧管理を含めた生活習慣の改善が重要です。塩分を控えた食事、適度な運動、禁煙、節度ある飲酒、ストレスの軽減は血管への負担を減らします。高血圧、糖尿病、脂質異常症といった慢性疾患は、医師の指導のもと適切に管理し、薬剤の調整や定期検査を行います。 若年発症や再発例では、血管奇形やアミロイド血管症などを早期に発見するための精密検査を実施し、再発リスクを評価・対策します。こうした予防法を行っても改善が見られない場合や、体調に不安がある場合は、早めに医療機関を受診し、医師の診断と治療を受けることが大切です。 以下の記事では、脳出血の再発率と再発防止につながる行動を詳しく解説しています。 血圧・生活・嗜好の改善 項目 詳細 高血圧管理 定期的な血圧測定と医師の指示に従った治療。薬物療法と生活習慣管理の継続 減塩と食事の見直し 塩分摂取量の制限。バランスの良い食事内容への改善 適度な運動 毎日のウォーキングや週150分以上の有酸素運動の継続 禁煙・節酒 タバコ・過度な飲酒の制限。血管への負担軽 ストレス管理 十分な休養や趣味時間の確保。心身のリフレッシュ 体重管理・糖尿病コントロール 適正体重の維持と糖尿病・生活習慣病の管理 脳出血の最大の原因は高血圧であり、日頃からの血圧管理が不可欠です。塩分を控えたバランスの良い食事や適度な運動を心がけ、喫煙や過度な飲酒は避けましょう。これらの習慣は血管への負担を減らし、脳出血のリスク低下につながります。 規則正しい生活やストレスの軽減も血圧安定に有効です。とくに脳出血の既往がある方は、より厳格な血圧管理(130/80mmHg未満を目安)が推奨されます。継続した血圧管理と生活改善により、再発や新たな発症を防ぎやすくなります。 以下の記事では、高血圧の予防について詳しく解説しています。 慢性疾患・薬剤使用の見直し 脳出血のリスクは、高血圧に加え、糖尿病、脂質異常症、心疾患、腎疾患、血液疾患などの慢性疾患によっても高まります。これらは血管を脆弱にし、発症を招きやすくするため、継続的な管理が不可欠です。 抗凝固薬や抗血小板薬などの一部の治療薬は、管理が不十分だと出血リスクを増やす可能性があるため、定期的な診察や血液検査で病状と薬剤の効果・副作用を確認し、必要に応じて治療を見直すことが重要です。 薬剤の中止や変更は必ず医師・薬剤師と相談し、自己判断は避けましょう。生活習慣の改善と薬剤管理を含む慢性疾患の適切なコントロールが、脳血管の健康維持と脳出血予防につながります。 若年・再発時の血管精密検査 検査名 詳細 MRI/MRA(磁気共鳴画像検査・血管造影検査) 脳の組織や血管の状態確認。血管の狭窄、動脈瘤、血管奇形の有無を評価 頸動脈超音波検査(エコー) 首の動脈の血流測定と動脈硬化の評価。脳への血流状態の確認 血管造影検査(必要に応じて) カテーテルと造影剤による詳細な血管形状の評価。治療計画立案の補助 脳出血は高齢者に多く発症しますが、若年での発症や再発が疑われる場合には、脳動静脈奇形(AVM)や未破裂脳動脈瘤などの血管構造異常が隠れていることがあります。これらを放置すると再出血の危険性が高まるため、早期発見と症状の管理、必要に応じた外科的治療が重要です。 再発時には初回と異なる原因や血管の変化が生じている可能性があり、再評価としての精密検査が有効です。血管の詳細な状態を把握することで、発症リスクを正確に評価し、適切な治療や予防策を講じることができます。若年発症や再発例では、再発予防のため脳血管の精密検査が推奨されます。 脳出血が疑われる方は早急に医療機関を受診しよう 脳出血は時間の経過とともに脳への損傷が広がり、命や生活に深刻な影響を及ぼす危険性が高まります。 片側の手足が急に動かしにくい、言葉が出にくい、視界の一部が欠ける、強い頭の違和感や吐き気がある場合は、症状が軽くても急速に進行する可能性があるため、自己判断せずに迷わず救急要請してください。早期の診断と治療開始が後遺症を減らすために重要です。 脳出血の症状が改善しない、後遺症にお悩みの方は当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、脳出血による後遺症に直接アプローチできる再生医療を、治療の選択肢のひとつとしてご提案しています。 また当院では、現在も後遺症や症状でお困りの方の思いや生活上の不安に耳を傾けながら、状況に合わせた治療計画を一緒に考えてまいります。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 脳出血に関するよくある質問 脳出血の後遺症にはどのような症状があるのでしょうか? 脳出血後には、半身の麻痺や手足のしびれといった運動・感覚障害、言葉が出にくくなる失語や構音障害、記憶力や注意力の低下などの認知機能障害、嚥下障害、視野欠損や視力低下などの視覚障害がみられることがあります。 これらの症状は出血部位や範囲によって異なりますが、多くの場合、急性期から1年後もなんらかの後遺症が出るケースもあります。ただし、適切なリハビリテーションや継続的な医療支援によって、症状が改善する可能性も十分にあります。 以下の記事では、脳出血の後遺症について詳しく解説しています。 脳出血は若い人も発症する病気ですか? 若年層(18〜49歳)でも脳出血は発症する可能性があり、実際にこの年代が脳出血全体の約30%を占めるとの報告があります。(文献3) 日本における45歳未満の年間発症率は、平均で人口10万人あたり52.4人(95%信頼区間:35.7~69.2)とされ、高齢者に比べると頻度は低いものの、若年層でも発症が報告されています。(文献4) 発症の背景には、高血圧や血管異常、外傷、薬剤使用などがあり、とくに血管奇形や遺伝的要因は若年層における重要な原因とされています。 脳出血の入院期間はどのくらいですか? 一般的な入院期間の目安は以下のとおりですが、これはあくまで統計上の平均であり、実際の期間は年齢、症状の程度、合併症の有無、離床の進み具合などによって大きく異なります。厚生労働省の統計では、平均入院期間は77.4日と報告されています。(文献5) 以下の記事では、脳出血の入院期間について詳しく解説しています。 脳出血の退院後の生活は? 脳出血の再発予防には、毎日の血圧測定と降圧薬の適切な服用、減塩・栄養バランスの取れた食事、禁煙、節酒、適度な運動、規則正しい生活によるストレス軽減が重要です。 さらに、定期通院やリハビリを継続し、自宅でも訓練を行いながら症状の変化を医師に報告し、転倒防止のための住環境整備や介助者との連携を行うことで、再発リスクを減らし生活の質を保てます。 以下の記事では、脳出血の退院後の生活について詳しく解説しています。 脳出血の既往歴がありますが頭皮マッサージを受けても大丈夫でしょうか? 脳出血の既往がある方が頭皮マッサージを受ける際は、発症直後の急性期(24〜48時間以内)は再出血の危険が高いため、強い圧迫や刺激を避ける必要があります。 血圧が安定していても過度な力は脳や血管に負担をかけるため、優しい力加減で行うことが重要です。発熱、頭痛、めまいなど体調不良がある場合は施術を控え、施術前には医師に相談してください。 施術中に違和感や不調を感じたら直ちに中止し、医師の許可と適切な力加減のもとで強い刺激は避けましょう。 以下の記事では、頭皮マッサージと脳出血の関係性について詳しく解説しています。 家族が脳出血になってしまったときにできることはありますか? 脳出血からの回復には、ご家族の適切な支援が欠かせません。病気や治療内容、予想される後遺症を正しく理解し、リハビリ、日常生活の介助を行いましょう。精神的な寄り添いや励ましは、患者さんの意欲を高める重要な要素です。 介護保険や各種福祉サービスを活用して負担を軽減し、ご家族自身の健康管理にも配慮が必要です。医療スタッフと情報を共有しながら、患者さんとともに回復への道を歩んでいくことが大切です。 以下の記事では、脳出血後の介護ケアについて詳しく解説しています。 参考文献 (文献1) 脳卒中患者に対する発症後48 時間以内の起立と定義した早期離床導入の効果|J-STAGE (文献2) 脳卒中治療ガイドライン2009|Ⅲ.脳出血 (文献3) Spontaneous Intracerebral Hemorrhage in the Young: An Institutional Registry Analysis|PMC PubMed Central® (文献4) Epidemiology of intracerebral hemorrhage: A systematic review and meta-analysis|frontiers (文献5) 退院患者の平均在院日数等
2025.08.31 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 頭部
「突然、手足がしびれる、言葉が出にくい」 「最近、意識がもうろうとすることがある」 「もしかして脳梗塞かも」と不安を感じたことはありませんか。高血圧や糖尿病を抱え、脳梗塞のリスクを心配している方も多いでしょう。脳梗塞は年齢や性別に関係なく、誰にでも起こり得ます。 本記事では、現役医師が脳梗塞について詳しく解説します。 脳梗塞の種類 脳梗塞の一般的な症状 脳梗塞の初期症状 脳梗塞の原因 脳梗塞の治療法 脳梗塞の予防法 脳梗塞は、正しい知識を持ち早期発見に努めることが重要です。記事の最後には、脳梗塞に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脳梗塞について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脳梗塞とは 項目 内容 血管の詰まり 脳の血管内に血栓ができ、血流が止まる状態 酸素・栄養の不足 血液が届かず、脳細胞が酸素と栄養不足に陥る 脳細胞の壊死 酸素不足により神経細胞が死滅し、機能障害が生じる 後遺症の可能性 麻痺・言語障害・意識障害など、回復が難しい症状の発生 脳梗塞とは、脳の血管に血栓ができて血流が止まり、酸素や栄養が届かなくなる病気です。脳細胞が壊死し、手足の麻痺や言葉の障害、意識低下などの神経障害が引き起こされます。 症状は突然現れ、進行も速いため、早期の発見と治療が非常に重要です。 種類や原因によって症状や治療は異なります。脳梗塞の早期発見・治療には、正しい理解が不可欠です。異変を感じたら早めに医療機関を受診することで、後遺症の軽減および生活の質の維持に寄与します。 以下の記事では、脳梗塞のサインや後遺症について詳しく解説しています。 【関連記事】 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 脳梗塞になりやすい人の特徴は?前兆や後遺症も解説 脳梗塞の種類 種類 原因 特徴 BAD(脳梗塞) 太い血管にできたプラークが、小血管の入口をふさぐことで生じるタイプ 数時間以内の症状進行。TIA(一過性脳虚血発作)の前兆の反復。進行性麻痺の出現 ラクナ脳梗塞 細い脳血管が高血圧で詰まる。小さな梗塞が深部にできる 軽症のしびれや手足が動かしにくくなる。ときに無症状(無症候性脳梗塞)で進行することもある アテローム血栓性脳梗塞 太い血管の動脈硬化で狭くなり血栓ができる。高血圧・糖尿病など関係 徐々に症状が進行。前触れ症状が出ることもある 心原性脳梗塞 心房細動などで心臓内血栓が脳へ流れて詰まる 突然の激しい症状。意識障害や半身麻痺が多い 小脳梗塞 小脳の血流が遮断される めまい、吐き気、バランス障害など 脳梗塞は、血管の詰まり方や原因によっていくつかのタイプに分類されます。 種類は「BAD」「ラクナ脳梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳梗塞」「小脳梗塞」があり、それぞれのタイプによって症状や治療法、再発のリスクも異なるため、正確な診断と対処が求められます。 BAD(脳梗塞) 項目 内容 原因 太い動脈(中大脳動脈や脳底動脈)近くの小さな枝(穿通枝)の起始部にアテローム性プラークができる。高血圧・糖尿病・脂質異常症が関係。細い動脈自体ではなくそのすぐ近くに病変がある 症状の特徴 症状が徐々に悪化する傾向。発症後数時間以内に手足の麻痺や構音障害が進むことが多い 特徴的な現象 微細なTIA(一過性脳虚血発作)が繰り返される症状が起こることがある 梗塞巣の大きさ ラクナ脳梗塞より大きく(15mm以上)広がりやすい傾向がある BAD(Branch Atheromatous Disease)は、主に中大脳動脈や脳底動脈の分岐部にできたアテローム性プラークが、穿通枝の起始部を閉塞することで発症する脳梗塞です。 このため、細小動脈そのものの病変によるラクナ脳梗塞とは病態が異なります。梗塞病巣は直径15mmを超えることが多く、画像上では通常の穿通枝梗塞よりも広範囲に広がりやすい傾向があります。 症状の特徴は、発症後数時間以内に局所麻痺や構音障害が徐々に悪化する進行性経過をたどることです。脳梗塞に進行することがあります。BADの発症には、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が関与しています。 以下の記事では、BADについて詳しく解説しています。 ラクナ脳梗塞 項目 内容 原因 脳の奥にある細い血管(穿通枝)が高血圧などで閉塞 梗塞の大きさ 小さく、直径1.5cm以下の深部にできる梗塞 症状 軽い手足のしびれや麻痺。無症状(無症候性脳梗塞)もある 予防 血圧管理が重要で、再発リスクが高い 注意点 軽度のため発見されにくいが、放置すると重篤な脳梗塞につながる ラクナ脳梗塞とは、脳の奥にある細い血管が詰まって起こる小さな脳梗塞です。主な原因は高血圧で、脳の深部に直径1.5cm以下の梗塞ができることが特徴です。 症状は軽く、手足のしびれや軽い麻痺などが中心で、無症状のまま気づかれないこともあります。そのため無症候性脳梗塞とも呼ばれており、再発率が高いのが特徴です。 放置すると重い脳梗塞につながります。重篤化する前に早期発見と血圧管理、生活習慣の見直しが重要です。 以下の記事では、ラクナ脳梗塞について詳しく解説しています。 アテローム血栓性脳梗塞 項目 内容 原因 脳の太い血管(中大脳動脈など)が動脈硬化で狭窄。狭くなった部分に血栓(かたまり)が形成。高血圧・糖尿病・脂質異常症が関係 症状の特徴 症状が徐々に進行するケースが多い。手足の動きづらさや言語障害が代表的。発症前に軽い違和感や前兆が現れることも 進行の速度 比較的ゆっくり進行し、数日かけて症状が悪化しやすい 予防と管理 生活習慣の見直しによる動脈硬化の予防、定期的な血圧や血糖値の管理が重要 アテローム血栓性脳梗塞は、脳の太い動脈が動脈硬化で狭くなり、その部分に血栓ができて血管が詰まることで発生します。主な原因は高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病であり、これらの管理が予防の基本となります。 症状は突然ではなく、数日かけて徐々に手足の動かしにくさや言葉が出にくくなるなどの言語障害が進行することが多いのが特徴です。 発症前に軽い違和感や前兆が現れることもあるため、異変を感じた際には早急に医療機関への受診が重要です。適切な治療と生活習慣の改善によって動脈硬化の進行を抑え、再発を予防することが不可欠です。 以下の記事では、アテローム血栓性脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 心原性脳梗塞 項目 内容 原因 心房細動などの心臓の不整脈による心臓内の血栓が脳まで流れ詰まる 詰まる血管 脳の太い血管が突然詰まる 症状の特徴 激しい頭痛、意識障害、半身麻痺、言語障害などが急激に現れる 重症度 重症化しやすく、迅速な救急対応が必要 注意点 心疾患を持つ方は脳梗塞リスクが高く、日頃から注意が必要 心原性脳梗塞は、心房細動などの不整脈で心臓内にできた血栓が血流に乗り、脳の太い血管を塞ぐことで発症します。突然、激しい頭痛や意識障害、片側の麻痺、言語障害などの重症症状が現れ、急速に進行するのが特徴です。 症状に気づいた場合は、迷わず救急車を呼び、一刻も早く治療を受ける必要があります。心臓に病気を抱えている方は、血栓ができないように抗凝固薬を服用し、定期的に心臓の状態を管理するのが重要です。日常生活での自己管理と医療機関との連携が、脳梗塞の予防と命を守るために不可欠です。 以下の記事では、心原性脳梗塞の症状について詳しく解説しています。 小脳梗塞 項目 内容 原因 小脳の血流が途絶えること 主な症状 ふらつき、めまい、バランス障害 その他の症状 手足の震え、歩行の不安定さ、吐き気 注意点 症状が脳梗塞と気づきにくいことが多い。脳幹に近く、放置すると命に関わる場合がある 受診のタイミング 急なふらつきや歩行障害が現れたら速やかな受診が必要 小脳梗塞は、バランスや運動の調整を担う小脳への血流が止まることで起こる脳梗塞の一種です。主な症状には、突然のふらつき、めまい、手足の震え、歩行の不安定さなどがあります。これらの症状は、脳梗塞と気づかれにくいことがあるため注意が必要です。 とくに、小脳は脳幹に近いため、放置すると命にかかわる危険性があります。症状が軽く見えても、急に悪化するおそれがあるため、急なバランスの乱れや歩行障害が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。早期に診断と治療を行うことで、重い合併症を防ぐことが期待できます。 以下の記事では、小脳梗塞で起こりうる後遺症について詳しく解説しています。 脳梗塞の一般的な症状 脳梗塞の一般的な症状 詳細 片側の麻痺・しびれ(顔・手足) 脳の片側血流障害による反対側の顔や手足の動きにくさ、感覚障害、部分的または全身的な麻痺 言語障害(ろれつが回らない・言葉が出にくい) 発語困難、発音の不明瞭さ、言葉を選ぶのが困難な状態、口や舌の動きの制限 視覚・平衡感覚の異常(視野・視力・めまい・バランス障害) 視野欠損、視力低下、めまい、ふらつき、平衡感覚の乱れによる歩行不安定や転倒の危険性 意識障害・混乱・突然の激しい頭痛 意識の鈍麻や消失、思考混乱、急激な強い頭痛、脳機能の急激な低下、緊急対応を要する状態 脳梗塞は脳の血流が突然止まることで起こり、その影響で手足の片側に麻痺やしびれ、言葉が出にくくなる言語障害、視野や視力の異常、めまいやバランスの乱れなどの症状が現れます。これらの症状は脳のどの部分に障害が起きたかによって異なります。とくに早朝や起床直後に起こることが多いのが特徴です。 症状に気づくのが遅れると後遺症のリスクが高まるため、少しでもおかしいと感じた場合は迷わず速やかに医療機関を受診しましょう。早期の対応が命を守り、後遺症を減らすことにつながります。 片側の麻痺・しびれ(顔・手足) 脳梗塞の初期症状としてよく見られるのが、顔や腕など身体の片側に起こる麻痺です。麻痺は脳の血流が悪くなり、運動機能をつかさどる神経の働きが妨げられるために起こります。 顔の場合、大脳から顔の筋肉を動かす神経への伝達がうまくいかなくなり、口角が下がる、目が閉じにくいといった左右差が表れます。 腕の麻痺は、脳の運動野の損傷によって起こり、脳の片側が障害されると反対側の手足に症状が現れるのが特徴です。これらは脳梗塞のサインとして非常に重要で、少しの変化でも見逃さないことが大切です。 以下の記事では、手足のしびれとして現れるアッヘンバッハ症候群と脳梗塞の関係性について詳しく解説しています。 言語障害(ろれつが回らない・言葉が出にくい) 項目 内容 脳の言語中枢の障害 脳の左側大脳半球にある「ブローカ野」(言葉を作る)と「ウェルニッケ野」(言葉を理解・選ぶ)への血流不足や細胞損傷 ブローカ失語 話の理解は可能だが、言葉が出にくく短くぎこちない話し方になる ウェルニッケ失語 流暢に話すが言葉のつながりが悪く意味不明、時に自分の異変に気づかない 構音障害 脳幹や神経線維路の障害により舌や口の筋肉の動きが鈍り、「ぱ・た・か」が言いにくい、かすれ声や鼻声などになる アノミア 言葉を思い出せず探す時間がかかる状態で、軽度から重度まで幅広い言語困難 言語障害は、脳梗塞によって脳の言語機能を司る部分が障害されることで起こります。とくに左脳のブローカ野やウェルニッケ野が損傷を受けると、言葉を作ったり理解したりする力に支障ができるのが特徴です。 ブローカ失語では言葉が出にくくぎこちない話し方になり、ウェルニッケ失語では流暢に話せても内容が伝わりにくくなります。構音障害は、話すための筋肉の動きがうまくいかなくなり「ぱ・た・か」が言いづらくなったり、かすれ声や鼻声が出る状態です。 言いたい言葉が思い出せず、言葉を探すのに時間がかかるアノミアも見られます。これらの症状は突然現れることが多く、早期の治療とリハビリが重要です。 視覚・平衡感覚の異常(視野・視力・めまい・バランス障害) 日常で気づきやすいサイン 内容 片方の視野が見えにくくなる・ぼやける・二重に見える 突然の視野の欠損や視覚障害。脳の視覚中枢の異常の可能性 ぐるぐる回るめまい・ふわふわ感覚・バランス崩し 回転性めまいやふらつき。脳の平衡感覚を司る部分の障害のサイン 立っているだけでのふらつきや倒れそうな感覚 バランス調整障害による重度の不安定さ。転倒や事故のリスク上昇 早期受診の重要性 これらの症状があれば、迅速に医療機関に相談・受診が不可欠 脳梗塞は、脳の一部に血液が届かなくなることで発症します。視覚をつかさどる後頭葉や視覚野、視神経が障害されると、片側の視野が欠けたり、視界がぼやける、ものが二重に見えたりする症状が現れます。 小脳や脳幹が障害されると、めまいやふらつき、立てなくなることがあり、転倒のリスクが高い状態です。小脳は姿勢や歩行、脳幹は眼球や頭の位置の調整に関わっています。視覚と平衡感覚は連携して働いており、脳梗塞によって情報の統合がうまくいかなくなると、バランスが崩れやすくなります。 「突然片方の視野が見えにくくなる」「視界がぼやける・二重に見える」「めまいやふわふわした感覚」「立っているだけでもふらつく」などの症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。 視野の一部がかすむ症状が気になる方は、視覚に異常が起きる閃輝暗点の見え方について解説している以下の記事もあわせてご覧ください。 意識障害・混乱・突然の激しい頭痛 項目 内容 意識障害・混乱の原因 脳の特定部分への血流不足による酸素・栄養不足。意識や思考を司る部分の機能低下による反応の鈍化や混乱状態 意識障害の重篤さ 10秒以上の血流停止で意識消失の可能性。脳全体の機能低下による重篤な状態 突然の激しい頭痛の原因 血管破裂や血液漏出による頭蓋内圧の急上昇。雷鳴頭痛(サンダークラップ頭痛)と呼ばれる瞬間的な強烈な違和感 症状が突然起こる理由 血管の閉塞や破裂という急激な出来事が一瞬で発生するため。予兆なしに症状が始まる特徴 緊急対応の重要性 脳細胞は酸素をすぐに必要とし、放置で脳細胞の死滅と後遺症リスクが増加。即時の救急医療搬送が必要 意識障害や混乱は、脳の特定部位に血液が届かなくなり、酸素や栄養が不足することで起こります。とくに意識や思考を司る領域が影響を受けると、反応が鈍くなったり、ぼんやりしたりする混乱状態になることがあります。 血流が一時的に止まり10秒以上続くと意識を失うこともあり、これは脳全体の機能が急激に低下するためです。(文献1) 突然の激しい頭痛は、脳の血管が破れて血液が漏れ出し、頭蓋内の圧力が急上昇することで生じ、雷鳴頭痛と呼ばれる非常に強い違和感として現れます。 これらの症状が突然起こるのは、血管の詰まりや破裂が急に発生するためであり、予兆なく始まるのが特徴です。脳は常に酸素を必要とするため、症状が現れたら直ちに医療機関を受診しましょう。 脳梗塞の初期症状(早期のサインに注意) 脳梗塞の初期症状 詳細 表情・上肢の麻痺 顔の片側の動きにくさや歪み、片方の腕や手の力が入らない状態 言語サイン ろれつが回らない、言葉がスムーズに出ない、話しにくさや発音の異常 覚醒・自律系の前兆サイン(目・平衡・あくび・耳鳴り・いびき) 目のかすみや視野異常、めまいやバランスの乱れ、頻繁なあくび、耳鳴り、いびきの変化などの自律神経や覚醒状態の乱れ 脳梗塞は一刻を争う疾患であり、発症から治療までの時間が短いほど、後遺症を軽減できる可能性が高くなります。初期症状を見逃さず、迅速に対応することが重要です。 顔のゆがみ、腕の脱力、言葉のもつれは脳梗塞を疑う代表的なサインです。さらに、脳の深部や後方が障害されると、視覚や平衡感覚、自律神経にも異常が現れることがあります。視野のかすみ、めまい、ふらつき、頻繁なあくび、耳鳴り、大きないびきの変化なども注意が必要な前兆です。 以下の記事では、脳梗塞の危険なサインを詳しく解説しています。 表情・上肢の麻痺 脳梗塞の初期症状として、表情や上肢の麻痺が現れるのは、脳の血流不足により運動機能をつかさどる神経が障害されるためです。顔の表情筋は大脳皮質から顔面神経核を経て動かされますが、この経路が遮断されると、顔の片側に麻痺が生じ、笑顔が左右非対称になったり口角が上がらないなどの変化が見られます。 また、脳の運動野の損傷により、反対側の腕や手に力が入らなくなる上肢麻痺も起こります。これらの症状は脳梗塞の代表的なサインであり、顔と腕の麻痺が同時に見られた場合はとくに注意が必要です。本人が異変に気づかないこともあるため、周囲が早期に異変を察知し、受診を促すことが重要です。 言語サイン 項目 内容 言語機能を担う部位 脳のブローカ野(言葉を作る場所)とウェルニッケ野(言葉を理解する場所) 失語症 言葉の理解や表現が難しくなる状態 構音障害 発声器官の動きが悪くなり、言葉がはっきり話せなくなる状態 発症の特徴 血流不足で言語を司る部分が急に働かなくなり、言葉が出にくくなったりろれつが回らなくなる 重要性 急に起こるため初期サインとして早期発見・治療が脳の回復に重要。本人や周囲が気づきやすく、脳梗塞の疑いを持つ大切なサイン 「話しかけても返事が変」「言葉がはっきりしない」「言っていることが理解できない」といった言語の異常は、脳梗塞の典型的なサインです。とくに左脳に障害が起きた場合、言葉を話す・理解する力に影響が出ます。 「名前が出てこない」「簡単な文章が言えない」など、わずかな違和感でも見逃さないことが大切です。ろれつが回らないときは、無理をせずに医療機関を受診しましょう。 覚醒・自律系の前兆サイン(目・平衡・あくび・耳鳴り・いびき) 覚醒・自律系の前兆サイン 内容 目・視野の異常 後頭葉・視覚路の血流不足による視野の一部欠損(半盲)や物が二重に見える(複視)状態 平衡感覚の異常 小脳や脳幹の循環障害による立ち上がり時のめまい・ふらつき、歩行困難や転倒の危険性 耳鳴り・聴覚異常 延髄や聴橋の血流不足で起こる突発性のザー音の耳鳴りや耳詰まり、時に片側の難聴。めまいやふらつきと併発しやすい 頻回・異常なあくび 脳の血流不足による自律神経の乱れで突然起こる異常なあくび 急に始まったいびき・睡眠呼吸の変化 延髄や橋の虚血で気道を開く筋肉が一時的に働かず呼吸が不安定に。初めてのいびきや呼吸音の変化は脳卒中の前兆の可能性 脳梗塞の前兆として、覚醒や自律神経に関わるさまざまな症状が現れることがあります。視野の一部が見えにくい(半盲)や物が二重に見える(複視)は、後頭葉の血流不足によるものです。ふらつきや歩行困難は小脳や脳幹の障害によって起こり、突然の耳鳴りや耳の詰まり感にも注意が必要です。 また、頻繁なあくびや急に始まったいびきも脳の異常を示す場合があります。これらの症状は脳梗塞の可能性があるため、すぐに医療機関を受診する必要があります。 以下の記事では、脳梗塞の前兆を詳しく解説しています。 【関連記事】 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 耳鳴りは脳梗塞の前兆?耳鳴りを伴う脳や耳の病気も解説 生あくびは脳梗塞の前兆?病的な生あくびであるかの見分け方も解説 脳梗塞といびきは関係がある!危険ないびきの見分け方 脳梗塞の原因 原因 詳細 生活習慣病・動脈硬化(高血圧・糖尿病・脂質異常症) 高血圧による血管への強い圧力、糖尿病による血管の傷害、脂質異常症による動脈硬化の進行。これらが血管を狭くし脳梗塞のリスク増加 心房細動などの心疾患(心臓由来の血栓) 心房細動などの不整脈で心臓内に血栓ができ、それが脳に飛んで大きな血管を詰まらせる。突然の重症発症の原因 血液・血管の固有要因(加齢・もやもや病・脱水など) 加齢による血管の劣化やもやもや病による血流障害、脱水による血液の粘度上昇などが血管詰まりの要因となる 生活習慣・環境因子(喫煙・過度飲酒・ストレス・脱水) 喫煙による血管収縮や動脈硬化促進、過度の飲酒による血圧上昇、ストレスによる血管への悪影響、脱水による血液粘度増加が脳梗塞リスクを高める 脳梗塞は、動脈硬化や心臓病などで血管が詰まって起こります。高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が血管を狭くし血栓ができやすくなるのが特徴です。 心房細動など心臓の不整脈も血のかたまりを作りやすく、脳の血管を塞ぐことがあります。また、加齢や脱水で血液が濃くなったり血管が弱ったりすることも要因です。喫煙や飲酒、ストレスなどの生活習慣もリスクを高めるため、生活の見直しが予防につながります。 生活習慣病・動脈硬化(高血圧・糖尿病・脂質異常症) 項目 内容 生活習慣病とは 食事・運動・喫煙・飲酒などの習慣が原因で起こる病気。高血圧・糖尿病・脂質異常症などを含む 動脈硬化との関係 生活習慣病の進行で血管壁に脂肪やコレステロールがたまり血管が硬く狭くなる状態 脳梗塞とのつながり 動脈硬化による血管の狭窄や血栓形成が脳血流を妨げ、脳梗塞の主な原因となる 高血圧の危険因子 血管に強い負担がかかり動脈硬化を進める要因 糖尿病の危険因子 血管内皮の傷害促進による血栓形成のしやすさ 脂質異常症の危険因子 悪玉コレステロール(LDL)の増加による血管壁への脂肪沈着と動脈硬化の促進 対策の重要性 塩分控えめの食事、適度な運動、禁煙など生活習慣の改善による動脈硬化進行抑制と脳梗塞リスク軽減 高血圧、糖尿病、脂質異常症は、血管に負担をかけて動脈硬化を進める病気です。血管が狭くなると血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。これが脳の血管で起こると脳梗塞につながります。 脳梗塞を防ぐには、血圧・血糖・コレステロールをしっかり管理し、薬や食事療法を継続することが大切です。 以下の記事では、生活習慣病について詳しく解説しています。 【関連記事】 糖尿病の初期症状とは?合併症の特徴やセルフチェックリストを紹介 【なぜ治らない?】糖尿病が完治しない理由やなってしまったらどうするべきか医師が解説 心房細動などの心疾患(心臓由来の血栓) 心房細動とは、心臓の上部にある心房が電気信号の乱れで細かく震え、不規則かつ速く動く不整脈です。そのため心房が十分に収縮できず、血液の流れが悪くなります。とくに心房の左心耳部分に血液がたまりやすくなり、よどみができて血液が固まり血栓が形成されやすくなります。 できた血栓は心臓から血流に乗って脳へ運ばれ、脳の太い血管を詰まらせることで酸素や栄養の供給が遮断され、脳梗塞を引き起こします。この現象を心原性脳梗塞と呼び、範囲が広く重症化しやすい特徴があります。 心房細動による血栓は比較的大きく、脳の重要な血管を塞ぎやすいため、命に関わる重篤な状態になりやすく、後遺症のリスクも高い状態です。自覚症状がない無症候性の場合でも脳梗塞の危険があり、症状の有無に関わらず予防治療が非常に重要となります。抗凝固薬の服用や定期的な心電図検査による管理が推奨されます。 以下の記事では、心房細動になりやすい人の特徴を詳しく解説しています。 血液・血管の固有要因(加齢・もやもや病・脱水など) 原因 内容 とくに注意が必要な点 加齢 細い血管がもろくなり、詰まりやすくなる 高齢者では血管の弾力低下により、リスク増加 遺伝的要因(もやもや病など) 脳の血管が狭くなり、異常な細い血管ができる 若年層でも発症しやすく、出血や血流不足を起こしやすい 脱水・血液の濃さ 脱水や赤血球の増加で血液がドロドロになる 暑さや下痢・嘔吐時にリスク上昇、小さな血管が詰まりやすくなる 加齢に伴い、血管は徐々に弾力を失い、狭くなり詰まりやすくなります。こうした変化は、脳梗塞のリスクを高める大きな要因のひとつです。 また、先天的な血管異常であるもやもや病にも注意が必要です。脳の血流が不安定になり、わずかな刺激で脳梗塞を起こすことがあります。若年層にも発症し、進行すると重い症状を引き起こすことがあります。 加えて、脱水も見過ごせないリスクです。とくに夏場の水分不足や、下痢・嘔吐が続くと、血液が濃くなり、血流が滞りやすくなります。これが小さな血管の閉塞を招き、脳梗塞につながることがあります。 血管や血液の状態は脳梗塞の発症に深く関係しています。日常的な体調管理に加え、こまめな水分補給や定期的な健康チェックが予防には欠かせません。 以下の記事では、もやもや病について詳しく解説しています。 【関連記事】 もやもや病とは指定難病の一つ|症状や治療法を解説【医師監修】 もやもや病がまねく脳梗塞のリスク要因と予防策について 生活習慣・環境因子(喫煙・過度飲酒・ストレス・脱水) 項目 内容 喫煙 血管内皮の損傷による動脈硬化の促進。血液の凝固能力向上による血栓形成の増加。悪玉コレステロール増加、善玉減少。血圧上昇と心拍数増加による血管ストレス 過度な飲酒 高血圧誘発による動脈硬化リスク増加。心房細動など不整脈の誘発と血栓形成。脂質異常症の悪化。利尿作用による脱水状態の促進 ストレス 自律神経の乱れによる血圧上昇。ストレスホルモンによる血糖・コレステロールの一時的上昇。生活習慣の乱れ(喫煙増加や過食、過飲酒)によるリスク複合化 脱水 体内水分減少による血液粘度上昇と血栓形成の促進。重度脱水による血圧低下と脳血流の滞り。夏場の熱中症時に悪化しやすく、高齢者はとくに水分補給の注意が必要 喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を進める大きなリスクです。過度な飲酒も心臓に負担をかけ、不整脈の原因になります。加えて、強いストレスや不規則な生活は自律神経を乱し、血圧の急激な変動を引き起こす要因です。 環境要因が重なることで、脳梗塞の発症リスクは高くなります。生活習慣の改善は、今からでも始められる大切な予防策です。 以下の記事では、生活習慣について詳しく解説しています。 【関連記事】 尿酸値と痛風の関係性|8.0mg/dLはやばい?高い原因と治療法を解説 女性の尿酸値が高い原因は?生活習慣やホルモン・食べ物についても解説 脳梗塞の治療法 治療法 詳細 再開通療法 血栓を溶かす薬剤(アルテプラーゼなど)の静脈注射。発症後できるだけ早く、4.5時間以内の使用が効果的。 薬剤が使えない場合は、血管内カテーテル治療で血栓を直接除去 薬物療法 抗血小板薬や抗凝固薬の使用。血小板の働きを抑え血栓形成を防ぐ薬や、血液の凝固を抑制する薬剤を用いて脳梗塞の再発や進行を抑制。副作用や投与量管理が必要 リハビリテーション 麻痺や言語障害などの機能回復を目的とした理学療法・作業療法・言語療法の開始。できるだけ早く取り組むことが望ましい 再生医療 脳細胞の損傷修復を目指し、幹細胞などを用いた先進的な治療法。まだ研究段階であるが将来の治療法として期待されている 脳梗塞の治療では、詰まった血管をできるだけ早く再び開通させることが最も重要です。発症後すぐに対応することで、後遺症や死亡リスクが大きく左右されます。 治療方法には、血栓を溶かす薬剤(アルテプラーゼなど)の静脈注射があり、薬剤が使用できない場合は血管内カテーテルによる血栓の除去を行います。再発を防ぐためには抗血小板薬や抗凝固薬を用います。 発症後は麻痺や言語障害の回復を目指して、リハビリテーションを早期に開始することが重要です。さらに、幹細胞を用いた再生医療も将来の治療法として期待されています。患者様の状態に応じて、これらの治療法が適切に選択されます。 以下の記事では、脳梗塞の治療方法や入院期間について詳しく解説しています。 再開通療法 項目 内容 脳細胞の壊死防止 血管の詰まりを早期に解消し、壊死の進行を止めることで脳機能のダメージを最小限に抑制。回復しやすいペナンブラ領域の血流再開 治療開始までの時間の重要性 発症後時間が短いほど救える脳細胞が多く、回復の可能性が高まる 後遺症の重篤化防止 血流回復で麻痺・言語障害・意識障害など重篤な後遺症を防ぐか軽減し、日常生活への影響を小さくする可能性 t-PA静脈内投与療法(点滴) 血栓を溶かす薬剤を点滴投与。発症から4.5時間以内の治療が効果的 血栓回収療法(カテーテル治療) カテーテルで直接血栓を取り除く治療。t-PAが使えない場合や大きな血管閉塞に対応。発症から6時間以内(一部24時間まで)に実施が有効 (文献2)(文献3) 再開通療法は、脳の詰まった血管の血流を回復させるための重要な治療です。 発症から4.5時間以内であれば、血栓を溶かす薬剤「t-PA」を点滴で投与するt-PA静脈内投与療法が有効です。4.5時間を過ぎた場合や血管が太い血管が詰まった場合は、足の付け根などからカテーテルを入れて直接血栓を取り除く血栓回収療法が行われます。(文献4) こちらは発症から6時間以内、場合によっては24時間以内まで有効です。(文献5) いずれの治療も早期発見・早期対応が命と後遺症の軽減に直結し、症状に気づいたら迷わず救急要請を行うことが大切です。 薬物療法 分類 内容 急性期の治療 血栓を溶かす薬(t-PA)による再開通の促進。脳浮腫や脳圧上昇を抑える薬剤の使用 再発予防の治療 抗血小板薬・抗凝固薬による血栓形成の抑制。降圧薬・血糖降下薬・脂質異常症治療薬による基礎疾患の管理 補助的な薬物療法 メコバラミンによる神経回復の補助と後遺症軽減のサポート 薬物療法は、脳梗塞の治療において重要な役割を果たします。発症直後は、血栓を溶かす薬(t-PA)で血流を再開させ、脳の腫れを抑える薬でダメージを最小限に抑えます。 また、脳細胞を保護する薬剤も使用されます。回復期には再発防止のため抗血小板薬や抗凝固薬を使用し、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患の管理も重要です。さらに、神経の修復を補助する目的でメコバラミンが使われることもあり、薬物療法は段階ごとに多面的な役割を担います。 以下の記事では、脳梗塞に対する薬物療法について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞に使われるメコバラミン(メチコバール)とは?副作用と有用性を解説 【医師監修】メチコバールの効果が出るまでの期間は?効かないと感じたときの対処法も解説 脳梗塞の痙縮・麻痺に対するボトックスの効果や影響について現役医師が解説 リハビリテーション リハビリの種類 目的・内容 理学療法 歩行・筋力・バランス機能の回復、拘縮予防、廃用症候群の防止 作業療法 着替え・食事・入浴など日常生活動作(ADL)の練習、自立支援 言語療法 言語の理解・発話機能や、飲み込み(嚥下)機能の回復 認知リハビリ 注意力・記憶・判断力などの回復、身体と認知を組み合わせた訓練の実施 脳梗塞の発症後は、麻痺や言語障害などの後遺症が出ることがあります。機能障害がある場合、できるだけ早期にリハビリを開始することが重要です。 とくに脳の可塑性(回復力)が高まるのは発症後数カ月以内、なかでも最初の3カ月が最も効果的とされています。この時期に集中的にリハビリを行うことで、機能回復が大きく促進されることがわかっています。(文献6) リハビリでは、歩行訓練や作業療法、言語療法などを、患者様の状態に合わせて段階的に進めていきます。退院後もリハビリを継続することで、再発予防や生活の質(QOL)の維持にもつながります。 再生医療 項目 内容 損傷した脳組織の修復・再生 患者様自身や他者の幹細胞を使い、神経細胞の新生・神経回路の再構築・脳内の血管新生を促進。脳機能の回復が期待される 脳の保護作用と炎症抑制 幹細胞が神経を保護し、過剰な炎症を抑制することで、さらなる脳細胞の損傷防止と脳の環境改善を促す効果 リハビリテーション効果の増強 再生医療による脳機能改善がリハビリの効果を高め、神経ネットワークの回復で機能改善や学習効果の向上につながる可能性 再生医療は、損傷した脳細胞や神経の機能回復を目指す先進的な治療法です。幹細胞などを用いて神経の再生を促す方法で、脳梗塞の後遺症への新たなアプローチとして注目されています。 再生医療は、症状の程度や発症からの時期によって適応が異なるため、希望する場合は対応している医療機関で診察を受け、医師と相談することが必要です。 脳梗塞の後遺症に対する再生医療の症例を以下の記事で紹介しています。再生医療について知りたい方は、ぜひ一度ご覧ください。 脳梗塞の予防法 予防法 詳細 血圧・血糖・コレステロールの管理 高血圧や糖尿病、脂質異常症の適切なコントロール。薬物療法や生活習慣の改善による動脈硬化予防と血管負担の軽減 規則正しい生活習慣と食事の工夫 バランスの良い食事(野菜中心、塩分・脂肪の制限)。適度な運動、禁煙、適量の飲酒、ストレス管理による生活習慣の改善 定期的な検診と医師の指導に基づいた継続的なケア 定期的な検査と医師の指導に基づく継続的な健康管理の実践 脳梗塞の予防には日々の生活習慣の見直しが欠かせません。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患がある方は、症状が安定していても油断せず、日々の血圧や血糖値などの数値を管理し、定期的に通院しましょう。 食事は野菜を中心に、塩分や脂肪を控え、適度な運動、禁煙、適量の飲酒、ストレス管理を心がけることが大切です。定期的な検診を受け、医師の指導に基づいた健康管理を継続することで、脳梗塞の発症や再発のリスクを大きく減らせます。日々の生活習慣を見直し、脳の健康を守ることが重要です。 血圧・血糖・コレステロールの管理 項目 内容 血圧の管理 高血圧による血管壁への負担軽減。動脈硬化の進行抑制。脳梗塞や脳出血の発症・再発リスクの大幅な減少。目標血圧140/90mmHg未満、リスク高い人は130/80mmHg未満。生活習慣改善と薬物療法の併用 血糖値の管理 高血糖による血管壁の傷害防止。動脈硬化の進行抑制。血管狭窄や血流障害を防ぎ、脳梗塞リスクを下げる コレステロールの管理 悪玉コレステロール(LDL)の抑制によるプラーク形成防止。動脈硬化や血栓形成の予防。血管の健康維持による脳血管障害リスクの減少 高血圧・高血糖・脂質異常は、脳梗塞の三大リスク要因です。これらを放置すると、血管の壁に負担がかかり、動脈硬化や血栓ができやすい状態になります。 毎日の食事や運動、薬の服用に加えて、家庭用の血圧計や血糖値測定器を活用することで、日常的な数値管理がしやすくなります。異常な数値が続く場合は、早めに医師に相談することが大切です。 以下の記事では、生活習慣病改善について詳しく解説しています。 【関連記事】 脂質異常症改善のための正しい運動とお茶の選び方|生活習慣の見直しポイントを医師が解説 血圧の正常値とは?内科医師が詳しく解説! 規則正しい生活習慣と食事の工夫 項目 内容 塩分・脂肪の摂取制限 塩分過剰は高血圧の原因。飽和脂肪酸や悪玉コレステロール(LDL)が動脈硬化を促進し血管詰まりを引き起こす バランスの良い食事 野菜、果物、青魚(EPA・DHA)、大豆製品、食物繊維の摂取による血圧低下と血管の健康維持。動脈硬化の進行抑制 規則正しい食事のリズムと食べ方 早食いやながら食いを避け、よく噛んでゆっくり食べることによる過食防止と血糖値の急上昇抑制。肥満や糖尿病の予防 適度な運動の習慣化 週150分程度のウォーキング、水泳、ヨガなど有酸素運動による血流改善。高血圧、糖尿病、肥満の改善。血管の健康維持とリスク低減 十分な水分摂取 脱水による血液の粘度上昇と血栓形成リスクの軽減。とくに起床時や就寝前にコップ1杯の水の摂取推奨 ストレス管理と睡眠促進 慢性ストレスによる血圧上昇と自律神経バランス崩れの予防。ストレス発散法の実践と良質な睡眠の確保 睡眠不足や不規則な生活は、血圧や自律神経に悪影響を及ぼします。できるだけ毎日同じ時間に起き、バランスの取れた食事を意識しましょう。 とくに減塩・低脂質・高カリウムの食事は、脳梗塞予防に効果的です。また、喫煙や過度な飲酒は血管へのダメージを加速させるため、禁煙・節酒にも取り組みましょう。健康維持は日々の積み重ねが大切です。 以下の記事では、脳梗塞の予防・再発防止のために食べてはいけないものを解説しています。 定期的な検診と医師の指導に基づいた継続的なケア 項目 内容 生活習慣病の早期発見と管理 血圧・血糖・コレステロールなどの数値の継続的モニタリング。異常発見時の早期治療や生活習慣改善の開始。動脈硬化・血栓形成の進行防止 無症候性の脳梗塞や血管異常の早期発見 MRIや頸動脈エコーによる画像検査で自覚症状のない脳梗塞や血管狭窄、動脈瘤などの異常を把握。適切な治療・生活指導による重症化予防 医師の指導に基づく継続的なケアと生活習慣改善 検査結果に基づく専門医の生活指導と薬物療法。自己管理意識の向上と持続的な血圧測定・食事・運動の改善。再発防止のためのリハビリやフォローアップの実施 再発リスクの定期評価と予防対策の更新 定期的評価による治療方針の見直し。個別的かつ効果的な予防策の継続的実施 不安の軽減と健康意識の向上 健康状態の把握。医師のサポートで予防意識・生活管理意識の向上。モチベーション維持の促進 自覚症状がなくても、脳梗塞のリスクが徐々に進行していることがあります。年に1〜2回は定期健診を受け、血圧・血糖・脂質の数値を確認しましょう。 医師から生活指導を受けている場合は、自己判断で中断せず、継続的な管理が重要です。検診結果をもとに、将来のリスクを見据えた予防計画を立てることが、脳梗塞予防の第一歩となります。 以下の記事では、脳梗塞の患者様の家族が看護する際に注意すべきポイントを詳しく解説しています。 脳梗塞でお悩みの方は当院へご相談ください 脳梗塞は、脳の血管が詰まり血流が途絶えることで、脳細胞が壊死してしまう病気であり、発症後の早期対応が重要です。治療だけでなく、再発予防やリハビリも継続的に行うことが不可欠です。 脳梗塞でお悩みの方は、当院「リペアセルクリニック」へご相談ください。当院では、脳梗塞の治療において、有効な選択肢のひとつとして再生医療を提案しています。 再生医療は、幹細胞の投与によって脳細胞の再生を促し、後遺症の改善や身体機能の回復を目指す治療法であり、リハビリとの併用による相乗効果が期待されています。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 脳梗塞に関するよくある質問 脳梗塞が進行して手遅れになるとどうなりますか? 脳梗塞は発症後すぐの治療が重要です。治療が遅れると脳の損傷が進み、半身麻痺、言語や発音の障害、嚥下障害、記憶・判断力の低下などの重い後遺症が出ることがあります。 重症では寝たきりや意識障害、命の危険も伴います。こうなると回復は限られ、長期介護が必要になることも多くなります。早期受診と治療が何より大切です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症と手遅れにならないための治療法について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞後遺症で性格が変わる?主な変化と原因を解説 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 脳梗塞は20代でも発症する可能性はありますか? 脳梗塞は高齢者に多い病気とイメージされていますが、若い世代でも珍しくありません。 若年成人(18〜50歳)の脳梗塞は全体の約10〜15%を占め、20〜30代でも1%程度の発症が確認されています。若年性脳梗塞は加齢以外の原因によることが多く、脳動脈解離、もやもや病、オーラを伴う片頭痛や卵円孔開存などが原因です。 近年、米国では20〜44歳の脳卒中発症率が1993年の10万人あたり17件から2015年には28件へ増加しています。(文献5) CDCの報告では、2020〜22年に18〜44歳の脳卒中が14.6%増加しており、生活習慣の乱れ、ストレス、肥満などの影響が指摘されています。(文献6) 年齢に関係なく、異変を感じたら早急に受診することが重要です。 以下の記事では脳梗塞と年齢との関係性について詳しく解説しています。 【関連記事】 【医師監修】脳梗塞になりやすい年齢は?女性と男性の発症確率も紹介 20代でも脳梗塞になる!確率と原因を詳しく解説【医師監修】 脳梗塞の後遺症で補助金などは受けられますか? 脳梗塞により後遺症が残った場合、公的な支援を受けられる場合があります。身体障害者手帳の交付や、障害年金、介護保険サービスの利用などが該当します。 以下に、利用可能な支援制度の一覧を記載しています。 支援制度の種類 詳細 障害年金 麻痺や言語障害などの後遺症がある場合に受給対象。障害基礎年金・障害厚生年金の支給 障害手当金 障害年金に該当しない軽度の障害にも一時金(約100万円前後)の受給可能性 高額療養費制度 医療費自己負担が一定額超過時の払い戻しによる経済的負担の軽減 傷病手当金 働けなくなった会社員等への健康保険からの収入補填。給与約2/3相当の給付 介護保険・自治体手当 要介護認定で訪問介護やリハビリサービスの利用可。自治体による追加支援金の活用 身体障害者手帳 麻痺や言語障害など後遺症がある場合の取得可。医療費助成・税金軽減・公共交通割引などの支援適用 申請には医師による診断書などの必要書類が求められるため、まずは主治医や自治体の窓口にご相談ください。 参考文献 (文献1) ヒト被験者における脳血流の実験的停止|PMC (文献2) 『発症 3 時間超 4.5 時間以内の虚血性脳血管障害患者に対する rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の適正な施行に関する緊急声明』 (文献3) 慈恵ICU勉強会2015年3月31日石垣 昌志|脳梗塞䛾血管内治療 (文献4) A critical time window for recovery extends beyond one-year post-stroke|JNP (文献5) Stroke in young adults: Current trends, opportunities for prevention and pathways forward|ScienceDirect (文献6) Why so many people are having strokes in their 20s, 30s and 40s: ‘We’ve never had patients so young’|NEWYORKPOST
2025.08.31 -
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脳梗塞の後遺症で性格が変わることは、よく知られている症状の一つです。(文献1) 脳梗塞を発症をする前は穏やかで几帳面な性格だった方が、後遺症で怒りっぽくなったり、だらしなくなったりするケースが散見されます。 脳梗塞の後遺症のわかりやすい症例は麻痺です。一方、外見からは分からない症状もあります。これが高次脳機能障害です。 高次脳機能障害を発症すると性格が変わるだけでなく、記憶に問題が生じたり言語を適切に発せなくなったりとさまざまな症状があらわれます。 本記事では脳梗塞の後遺症が原因で起こる性格の変化や治療法について解説します。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脳梗塞の後遺症や再発予防に関する再生医療について、詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脳梗塞の後遺症によって変化する性格の主な具体例 脳梗塞の後遺症によって変化する性格の主な具体例は以下のとおりです。 易怒性・攻撃性 意欲低下・無関心(アパシー) 感情の不安定さ(感情失禁) 衝動性・自制の欠如 固執性・融通のなさ それぞれについて解説します。 脳梗塞の症状や原因など、包括的な解説は「脳梗塞とは|症状・原因・治療法を現役医師が解説」をご覧ください。 易怒性・攻撃性 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格変化の一つが易怒性(いどせい:怒りっぽくなること)・攻撃性です。 脳梗塞により感情のコントロールを司る脳の前頭前野が損傷されると、感情の抑制が困難となり易怒性・攻撃性が見られる傾向にあります。(文献2) 発症前には気にならなかった些細な出来事が原因でイライラしたり、怒声を発したりするのが特徴です。 脳梗塞を発症した事実を知らない周囲の人からは「単に怒りっぽい人」と認識されて敬遠されるなど、社会生活が困難になるケースもあります。 易怒性・攻撃性がどのような場面で見られるのか原因を特定し、家族やパートナーなどの協力を得て対処する必要があります。 意欲低下・無関心(アパシー) 意欲低下や無関心(アパシー)も、脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化の一つです。 脳梗塞が原因で脳の前頭葉や大脳辺縁系の機能が低下すると、脳内の神経伝達物質の働きが妨げられます。その結果、意欲の低下や無関心状態を引き起こすと考えられています。(文献3) 脳梗塞後に高次脳機能障害と診断された方のおよそ71%に、意欲発動性の低下・アパシーが見られるとの報告も見られます。(文献4) 意欲が低下して何事にも関心を持てなくなると、脳梗塞後のリハビリテーションにも非協力的になり、麻痺やADL(日常生活動作:食事、入浴、着替えなど基本的な生活行為)からの回復が遅延しがちです。 感情の不安定さ(感情失禁) 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化としては、感情の不安定さ(感情失禁)も挙げられます。 感情失禁は、感情の表出が適切にコントロールできない状態です。過剰に泣いたり突然笑いだしたりするケースも少なくありません。(文献5) 脳の前頭葉のなかでも眼窩面の障害により感情失禁を来すと、児戯性や多幸感により些細なことで泣いたり、面白くもないことで笑いだしたりします。 感情失禁は他者とのコミュニケーションを困難にさせるだけでなく、食事中の誤嚥や吹きこぼしのリスクも高めるため早期の対処が求められます。(文献6) 衝動性・自制の欠如 脳梗塞の後遺症として多く見られる性格の変化としては、衝動性および自制の欠如もよく知られています。 衝動性・自制の欠如も感情のコントロールが困難になる高次脳機能障害の一種で、とくに前頭葉の障害により発症しやすい傾向にあります。 もともと穏やかだった方が急に怒りっぽくなるなどの変化が見られる場合、脳梗塞の後遺症の高次脳機能障害を疑う必要があるでしょう。 衝動性や自制の欠如も他者とのコミュニケーションを阻害する原因の一つで、社会生活を営む上で重大な障壁となりかねません。 本人は自分の性格が変わったことに気付いていないケースが多いため、専門家のアドバイスを得て柔軟に対処する必要があります。 固執性・融通のなさ 固執性や融通のなさも、脳梗塞後の後遺症として多く見られる性格変化の一つです。 脳梗塞の後遺症により固執性や融通のなさを発症すると、一つのことにこだわって他に目が向かず、いつまでたっても同じことを繰り返すのが特徴です。(文献7) 行動だけでなく考え方に関しても固執が見られるようになり、多様な選択肢から適切な解を導き出せなくなります。 環境や状況の変化に対して柔軟に対処できないため、初対面の方とのコミュニケーションもうまく取れません。 固執性や融通のなさを改善していくためにはリハビリテーションはもちろん、安定した環境を整えることも重要です。 脳梗塞の後遺症における性格変化は損傷部位によって異なる 脳梗塞の後遺症によりあらわれる性格の変化や運動機能の低下、言語障害などを総称して高次脳機能障害と呼びます。 どのような変化があらわれるかは脳の損傷部位により異なります。 高次脳機能障害に伴う症状、および脳の損傷部位は以下のとおりです。(文献8) 損傷部位 認知ドメイン 具体的な症状 前頭葉 計画立案・行動・注意力など 注意障害・失行・遂行機能障害・社会的行動障害など 頭頂葉 空間認知・触覚など 半側空間無視・失認など 側頭葉 言語理解・聴覚・記憶など 失語症・記憶障害など 後頭葉 視覚 視野狭窄・視覚失認など 右脳と左脳のどちらに障害を起こしたかによって、あらわれる症状も異なります。 たとえば左脳に障害を起こすと失語症などの言語障害が見られ、右脳の障害を起こすと半側空間無視などの空間認知障害が見られます。 脳梗塞の後遺症に伴う高次脳機能障害において、性格の変化をもたらすのは主に前頭葉の障害です。 前頭葉のなかでも、内側の穹窿面(きゅうりゅうめん)を損傷すると無関心や無感情が見られやすく、下側の眼窩面(がんかめん)を損傷すると感情の不安定さが生じやすくなります。 脳梗塞の後遺症で家族の性格が変わったらどうすべき? 脳梗塞の後遺症で家族の性格が変わった場合、まずは原因を突き止める必要があります。 性格の変化は主に以下2つの原因によりもたらされることを理解しておいてください。 前頭葉の損傷により感情がコントロールできなくなって起こる 注意障害や遂行機能障害に伴い二次的に起こる 感情がコントロールできない方に対しては、本人の意思を尊重し感情の変化が起こりにくい環境を整える必要があります。 注意障害や遂行機能障害が見られる場合は、気が散る原因を取り除いたり、根気強くリハビリテーションに取り組んだりするのが大切なポイントです。 感情がコントロールできない社会的行動障害は、本人も無自覚なケースがほとんどのため、家族やパートナーの方は感情に任せず冷静に対処する必要があります。(文献9) 脳梗塞の後遺症に対する治療法 脳梗塞の後遺症に対する主な治療法は以下のとおりです。 高次脳機能障害に対するリハビリテーション 薬物療法 再生医療 それぞれ解説します。 高次脳機能障害に対するリハビリテーション 脳梗塞の後遺症として多く見られる高次脳機能障害に対しては、以下のリハビリテーションやカウンセリングが行われます。 認知リハビリテーション 認知行動療法(CBT) 行動変容療法 社会技能訓練 心理カウンセリング 認知リハビリテーションは、脳梗塞に伴う高次脳機能障害や認知症を改善する目的で行われます。 記憶力や判断力、注意力などの認知機能を向上させる目的で行われ、ADL(日常生活動作)の向上を目指すのが特徴です。 認知行動療法(CBT)は考え方や行動パターンを変化させる心理療法の一種で、感情のコントロールに役立ちます。 行動変容療法も心理療法の一種で、問題行動の原因となる行動を抑制し、より適切な行動を習得するのが目的です。 社会技能訓練ではコミュニケーション能力を高め、自信をもって生活を送るためのサポートを行います。 心理カウンセリングは高次脳機能障害患者を支援するだけでなく、家族へのサポートも行う点が特徴です。 症状の回復度合いを大きく左右するため、高次脳機能障害に対するリハビリテーションは発症から6カ月以内に開始することが推奨されます。 薬物療法 脳梗塞の後遺症を治療する際に行われる治療の一つが薬物療法です。 高次脳機能障害に伴う感情のコントロールや、うつ病・不安症などの精神症状を軽減し、日常生活の質を向上させる目的で行われます。 用いられる主な医薬品および期待できる効果は以下のとおりです。(文献10) 主な医薬品 期待できる効果 メチルフェニデート・アマンタジン 注意障害・意欲低下を改善する リスぺリドン・ハロペリドール 不安や興奮を抑制する ミルナシプラン・トラゾドン 意欲を向上させる ブロマゼパム・ロラゼパム 不安や緊張、抑うつ状態を緩和する ゾピクロン・ニトラゼパム 睡眠障害を改善する カルバマゼピン・バルプロ酸 易怒性・攻撃性を緩和する 高次脳機能障害に伴う症状を抑制する医薬品だけでなく、脳の神経伝達物質のバランスを整えるために抗うつ薬や抗精神病薬なども用いられます。 再生医療 脳梗塞の後遺症に対する治療法の一つが再生医療です。 再生医療では患者自身の脂肪細胞から抽出した幹細胞を分離して培養し、増殖させたうえで点滴を用いて静脈内に注入します。 患者自身の細胞を用いた治療法のため拒絶反応が起こりにくく、副作用のリスクも低い点が特徴の一つです。 日帰りでも治療が受けられるため、手術を避けたい方にとって適した選択肢となっています。 脳梗塞の後遺症や予防についてお悩みの方は、再生医療に関する以下の記事もご覧ください。 脳梗塞の後遺症による性格変化が気になる方は当院へご相談ください 脳梗塞の後遺症によるご家族やパートナーの性格の変化が気になる方は、当院「リペアセルクリニック」までお気軽にご相談ください。 脳梗塞の発症に伴い前頭葉が損傷されると易怒性や攻撃性、意欲の低下、感情の不安定など社会的行動障害を起こしがちです。 社会的行動障害はご家族やパートナーの方に大きな負担となる上、患者本人が社会生活に復帰する際に障害となります。 脳梗塞の後遺症に対する治療法の一つが再生医療です。再生医療では患者の脂肪細胞から採取した幹細胞を培養・増殖させ、点滴を用いて損傷部位に注入します。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療に関してLINEでの簡易オンライン診断を実施しています。再生医療に興味がある方は、ぜひ一度お試しください。 脳梗塞の後遺症に関してよくある質問 脳梗塞になると顔つきは変わる? 脳梗塞を発症すると顔つきが変わることがあります。 たとえば写真を撮る際に笑顔を作ると片方の口角や頬しか上がらず、顔つきが左右でゆがんで見えるケースがあります。 笑顔を作った際に顔つきが左右で違って見えるのは、脳梗塞を発症する前兆の可能性もあるため注意が必要です。 脳梗塞の後遺症で片麻痺を発症すると、左右いずれかの表情筋がはたらかず、表情を作った際に顔がゆがんで見えやすくなります。 また、脳梗塞の後遺症で意欲低下や無関心(アパシー)状態に陥ると、表情の変化に乏しくなるケースがあります。 脳梗塞後の麻痺が左右どちらかで症状は変わる? 脳梗塞後の麻痺が左右いずれにあらわれるかによって、症状にも変化が見られます。 脳梗塞に伴う麻痺は、損傷した脳と反対側にあらわれます。たとえば脳梗塞に伴い左脳を損傷すれば、麻痺は右半身にあらわれやすいです。 右脳には運動だけでなく空間認知や感情を司る機能があるため、右脳を損傷すると運動機能障害や社会的行動障害(感情のコントロールが難しくなるなど)が見られます。 左脳には言語や論理的思考を司る機能があるため、左脳を損傷すると言語障害や思考能力の低下が起こります。 脳梗塞の後遺症はもやもや病とどう違う? 脳梗塞の後遺症ともやもや病はいずれも脳の血管障害が原因で起こりますが、主に以下の違いがあります。 疾患 原因 症状 治療法 もやもや病 脳血管の狭窄 虚血症状・脳出血 バイパス手術など 脳梗塞 脳血管の閉塞 言語障害・麻痺など 血管拡張術・薬物療法など もやもや病はなんらかの原因により脳の血管が狭くなって(狭窄)血流不足を起こし、細い血管が煙のようなもやもやした見た目に発達する病気です。(文献11) 発症原因や症状、治療法は脳梗塞と異なりますが、脳梗塞の前兆のケースもあるため、頻繁に症状が見られる場合は速やかに医療機関を受診してください。 (文献1) 作業療法士Q&A|一般社団法人日本作業療法士協会 (文献2) 感情はどこから?実は生存をかけて脳が下した判断|日本経済新聞 (文献3) 脳卒中後遺症としての意欲低下について|社会福祉法人さわらび会 (文献4) 社会的行動障害への対応と支援|国立障害者リハビリテーションセンター (文献5) 脳卒中で笑い止まらぬ感情失禁の原因と対処法|ニューロテックメディカル (文献6) 不安な表情の多い高齢者への介護福祉士の関わり|高田短期大学 (文献7) よくある質問|国立障害者リハビリテーションセンター (文献8) 高次脳機能障害のリハビリテーション|慶應義塾大学病院 (文献9) 社会的行動障害とは?行動や感情への影響とリハビリ方法|御所南リハビリテーションクリニック (文献10) 高次脳機能障害とは|沖縄県医師会 (文献11) もやもや病|国立循環器病研究センター
2025.07.31 -
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「メチコバールを服用しているのに、効果を感じない」 「効かないと感じたときの対処法を知りたい」 メチコバールを服用し始めたものの、効果を実感できずに不安を感じている方は少なくありません。とくに末梢神経の異常やしびれに悩んでいる方にとって、回復の兆しが見えない日々はつらいものです。 メチコバールは即効性のある薬ではなく、効果が現れるまでには一定の期間が必要です。本記事では、メチコバールの作用機序や効果が出るまでの期間、効かないと感じたときの対処法を現役医師が詳しく解説します。 なお、当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 メチコバールの効果が出るまでの期間 期間 効果の感じ方 注意点 1〜2週間 効果を強く実感できないケースが多い 継続して様子を見る 2〜4週間 徐々に変化を感じ始める方が多い 効果が少し現れ始める場合も 2〜3カ月 慢性症状の場合は改善までこの期間 継続的な服用が重要 4週間以上続けて変化がない場合 医師に相談 服用を自己判断で中断しない メチコバールは末梢神経障害や脳梗塞後遺症のしびれ、坐骨神経痛などでよく処方されるビタミンB12製剤です。傷ついた神経の修復を助ける作用により、症状の改善が期待できますが、服用後すぐに効果を実感できるとは限りません。 多くの場合、数週間から1カ月程度で徐々に変化を感じ始めることが一般的です。ただし、神経の回復は時間を要し、重症例や慢性症状では2〜3カ月かかるケースもあります。 焦らず継続することが重要です。1〜2週間の服用では効果を実感しづらいこともありますが、自己判断で中止せず、経過を観察することが推奨されます。 以下の記事では、メコバラミン(メチコバール)について詳しく解説しています。 メチコバールが効かないと感じる原因 効かないと感じる原因 詳細 効果が現れるまでに時間がかかる薬であるため 神経修復に数週間〜数カ月かかる特徴 症状や病気の性質により効果が出にくいケースもある 損傷範囲の広さや慢性化、基礎疾患による個人差 併用薬や持病などが効果に影響することも 他の薬剤との相互作用や消化・吸収機能の低下 メチコバールは神経の修復を助ける薬ですが、効果が現れるまでに数週間から数カ月かかることがあります。そのため、すぐに効かないと感じる方も少なくありません。 また、神経の損傷範囲が広い場合や症状が慢性化している場合には、効果が出にくい傾向があります。さらに、糖尿病などの基礎疾患があると、改善が遅れることもあります。くわえて、他の薬との併用や消化・吸収機能の低下によっても、メチコバールの効果が弱まることがあります。 効果が現れるまでに時間がかかる薬であるため メチコバールは、神経の修復を助けるビタミンB12製剤で、効果が現れるまでにある程度時間がかかります。神経の再生は細胞レベルでゆっくり進むため、メチコバールには即効性が期待できません。 また、体内で作用するまでに一定期間を要することも覚えておく必要があります。たとえば、成人が1,500μgを服用した場合、血中濃度のピークは約3時間後に現れ、12週間の継続服用でビタミンB12の濃度が約2〜2.8倍に上昇するとされています。(文献1) さらに、臨床試験でも、1日1,500μgを12週間継続して服用した結果、4週後に血中濃度が約2倍、12週後には約2.8倍に達し、服用中止後も効果が持続したとする報告もあります。また、帯状疱疹後神経痛の研究でも、4週間ほどで違和感やしびれの軽減がみられた例があります。(文献2) したがって、効果が現れなくても、焦らず数週間〜数カ月は続けることが改善への近道です。 症状や病気の性質により効果が出にくいケースもある 症状や病気の性質によって効果が出にくいケース 詳細 関節や筋肉の不調が原因の場合 筋肉や関節の炎症・こわばりによる神経圧迫 中枢神経(脳・脊髄)の障害が原因の場合 脳梗塞や脊髄疾患などによる感覚異常 血流障害や代謝異常による症状の場合 糖尿病・血管障害・ホルモン異常による神経障害 神経の傷が重度の場合 強い損傷・慢性的な神経のダメージ 神経の障害期間が長期に及ぶ場合 長期間にわたり改善しづらくなった神経細胞 メチコバールは末梢神経の修復を助けてしびれや感覚異常を改善する薬剤ですが、すべての神経症状に効果が出るわけではありません。 たとえば、しびれの原因が関節や筋肉の不調、脳や脊髄の障害、血流や代謝の異常など神経以外にある場合は、薬の作用が直接的に効きづらいことがあります。また、神経の損傷が重度であったり、長期間にわたって慢性的なダメージを受けていた場合は、回復が難しく、効果を感じにくくなることがあります。 こうした場合、メチコバールだけで十分な改善が得られないこともあるため、症状が続く場合は自己判断せず、他の原因が隠れていないか医師に相談することが大切です。 併用薬や持病などが効果に影響することも 影響する要因 詳細 一部の併用薬・サプリメント 葉酸やビタミンCの高用量、抗がん剤・抗てんかん薬の一部によるビタミンB12吸収や代謝の低下 ビタミンB12製剤・サプリメント重複 成分摂取過剰による身体への負担 肝臓や腎臓の機能低下 吸収・代謝・排泄の遅延による薬効の低下 その他の持病 体質や疾患による薬の作用変化 メチコバールは多くの薬剤と併用可能ですが、一部の薬剤やサプリメントとの組み合わせでは効果に影響するケースがあります。 高用量の葉酸やビタミンC、抗がん剤や一部の抗てんかん薬は、ビタミンB12の吸収や代謝を妨げる可能性があります。また、市販のビタミンB12製剤やサプリメントと重複して摂取すると、成分が過剰になることがあるため注意が必要です。 さらに、肝臓や腎臓などの持病がある場合、薬の吸収・代謝・排泄に影響が出ることがあり、十分な効果が得られにくくなることもあります。薬の効きが悪いと感じた場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。 メチコバールが効かないと感じたときの対処法 対処法 詳細 服用方法や期間を見直し継続して様子を見る 用法・用量の再確認と1〜2カ月の継続的な服用 医師に相談し症状や経過を具体的に伝える 詳細な症状・経過・服用状況の報告 他の疾患や要因の可能性を評価してもらう 神経障害以外の疾患や合併症の再評価 メチコバールの効果を実感できない場合は、まず服用方法に誤りがないかを確認し、用量や服用期間が適切かを見直すことが重要です。 神経の修復には時間を要するため、自己判断で中止せず、通常は1〜2カ月程度継続して経過を観察することが推奨されます。それでも効果が不十分な場合は、医師に症状や経過を詳しく伝え、薬の見直しや必要な検査について相談しましょう。 また、しびれや感覚異常の原因が他の疾患や合併症に起因している可能性もあるため、総合的な再評価を受け、より適切な治療方針を検討することが推奨されます。 服用方法や期間を見直し継続して様子を見る メチコバールは、傷ついた神経を修復する作用を持つ薬であり、神経のミエリン鞘(神経を覆う膜)や軸索(神経細胞から伸びる突起)の再生を助ける働きがあります。しかしその効果はゆっくりと現れるため、服用初期に目立った変化を感じにくいこともあります。とくに、神経修復には時間がかかるため、効かないと感じても自己判断で中止せず、正しい方法で継続することが大切です。 臨床試験によると、糖尿病性末梢神経障害の患者に対し、メチコバールを1日1500μg、24週間継続投与した研究では、しびれや振動覚、神経伝導速度の有意な改善が確認されています。(文献3) このように、初期に効果が出なくても、継続がその後の改善につながることが報告されています。中断すると蓄積された効果がリセットされる可能性もあるため、医師の指示のもと、根気よく服用を続けることが治療を進める上で重要です。 医師に相談し症状や経過を具体的に伝える メチコバールの効果を感じにくいときは、医師に症状や経過を具体的に伝えることが非常に重要です。しびれがいつから始まったのか、どのように変化しているか、薬剤の服用量や回数、併用薬や持病の有無などを詳しく伝えることで、原因の特定や治療方針の見直しに役立ちます。 とくに、吸収障害や他の医薬品の影響が疑われる場合は、正確な情報が必要です。また、飲み忘れや服用中断の有無を確認することで、不適切な薬剤変更を避けられます。 さらに、貧血や糖尿病、腎機能低下、甲状腺疾患など他の病気が原因の可能性もあるため、検査のきっかけにもなります。医師としっかり話し合うことで信頼関係が深まり、注射への切り替えや用量調整など柔軟な対応も受けやすくなります。 他の疾患や要因の可能性を評価してもらう 対処法の目的 詳細 B12不足の根本原因の確認 悪性貧血、胃切除後、吸収障害、腸疾患などの除外 隠れた慢性疾患の発見 糖尿病、甲状腺異常、自己免疫疾患による神経症状の見極め 他の疾患による神経障害の可能性 腫瘍、神経の圧迫、炎症性疾患などの鑑別 不要な治療の回避と的確な処方判断 原因不明のまま服用を続けるリスクの軽減 メチコバールを服用しても効果が感じられない場合は、神経障害の原因が他にある可能性を考慮することが大切です。ビタミンB12不足の背景には、悪性貧血や胃の手術後の吸収障害、腸疾患などが関係することがあり、薬剤が効かない原因として、体内で十分に吸収されていない可能性があります。 また、糖尿病や甲状腺疾患、自己免疫性疾患など、別の慢性疾患が神経症状の原因のケースもあり、その際は根本的な治療が必要です。さらに、腫瘍や神経圧迫など他の病態が隠れていることもあるため、血液検査や画像検査を通じた評価が重要です。 的確な診断により無駄な服用を避け、より効果的な治療に進むことができます。不安を感じたときは、医師に相談して、必要な検査や再評価を受けましょう。 メチコバールの効果が出るまでの期間を理解して適切な治療を受けよう メチコバールは即効性のある薬ではなく、継続的に神経の再生を促すことで症状の改善を目指す薬です。服用開始から効果を実感するまでの期間は、症状や重症度によって異なります。焦らずに服用を継続し、変化がない場合には医師と相談しながら治療を進めることが重要です。 メチコバールを服用しても効果が感じられない等のお悩みは、当院「リペアセルクリニック」までご相談ください。メチコバールの服用で十分な効果が得られなかった神経症状に対しても、幹細胞などを用いた再生医療によって、損傷した神経の再生や修復を促し、根本的な改善が期待できる可能性があります。 ご質問やご相談は、「メール」もしくは「オンラインカウンセリング」で受け付けておりますので、お気軽にお申し付けください。 メチコバールの効果に関するよくある質問 メチコバールの飲み合わせに禁忌はありますか? メチコバールに明確な併用禁忌薬はありません。併用注意とされる薬も報告されていませんが、他の薬やサプリを使用中の方、アレルギー歴のある方は医師・薬剤師に相談が必要です。 葉酸製剤や高用量ビタミンC、一部の抗がん剤・抗てんかん薬はB12の作用に影響する可能性があります。 メチコバールの長期投与は危険でしょうか? メチコバールは副作用が少ない薬剤ですが、効果が実感できないまま長期間服用するのは避けましょう。1カ月続けても効果がなければ医師への相談が必要です。ごく稀に消化器症状や発疹、肝機能異常が出ることもあるため、長期使用時は定期的な検査が重要です。 食事やサプリメントでビタミンB12を摂れば薬は不要ですか? ビタミンB12は通常、肉や魚、卵、乳製品などの食品から十分に摂取できますが、胃の手術後や高齢の方、吸収障害がある方は注意が必要です。 症状がある場合、サプリメントではなく、治療薬であるメチコバールなどが必要になることもあります。自己判断せず、医師に相談しましょう。 子どもや妊娠中でも使えますか? メチコバール(ビタミンB12製剤)は、小児や妊娠・授乳中の方にも医師の判断で処方されることがあります。神経の不調や貧血などに使われ、有効性も比較的高いとされています。(文献3) ただし、自己判断での使用や中止は避け、医師の指示に従う必要があります。ビタミンB12不足が気になる場合は、健診時に相談しましょう。 参考文献 (文献1) 日本薬局方 メコバラミン錠|キョーリンメディオ株式会社 (文献2) 医療用医薬品 : メチコバール|エーザイ株式会社 (文献3) 「妊娠・授乳と薬」|愛知県薬剤師会「妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班」
2025.07.31 -
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「最近、首がドクドク脈打つような気がする」「家事をしているときふと首が重だるい」 このような首の違和感に、不安を抱えていませんか。とはいえ、症状が軽いと「病院に行くほどではないかも」と受診をためらう方も中にはいるでしょう。 実は、首の血管(頸動脈)に動脈硬化が生じていても、多くは自覚症状がないまま進行します。 とくに、めまいや片側のしびれといった症状があらわれている場合、脳梗塞や動脈硬化などのリスクが高まっている可能性もあり、注意が必要です。 早期に医療機関を受診し、検査を受けることで、動脈硬化の進行を防げる可能性が高まります。 本記事では首の動脈硬化によって起こる症状やチェック方法について詳しく解説します。首の違和感に不安を抱える方は、ぜひご自身の健康チェックにお役立てください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 首の動脈硬化について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 首の動脈硬化の疑いがある症状 首の動脈硬化は、初期には自覚症状が出にくく、多くの場合ゆっくりと進行します。気がつかないうちに重症化しているケースも少なくありません。 そのため、年齢や不規則な生活リズム、脂質の多い食事など生活習慣にリスクがある方は、症状がなくても一度検査を受けておくと良いでしょう。 ここでは、頸動脈の動脈硬化によって起こりやすい代表的な症状を紹介します。 片側の手足にしびれや脱力感が出る 言葉が出づらくなる ふらつきやめまいが頻繁に起こる 少しでも気になる症状がある方は、ご自身が当てはまっていないかを本章でチェックしてみてください。 片側の手足にしびれや脱力感が出る 首の血管が動脈硬化によって狭くなると、脳に十分な血流が届かなくなり、片側の手足にしびれや脱力感があらわれることがあります。これらの症状は、脳梗塞の前触れ症状として見られる代表的な症状です。 脳神経は体の左右を交差してコントロールしているため、異常がある脳の部位とは反対側の手足に症状が出やすくなります。 また、一時的にしびれや脱力感が消えた場合でも、脳梗塞の前触れと言われている「一過性脳虚血発作(TIA)」の可能性があるため注意が必要です。放置すると本格的な脳梗塞に進行するリスクがあるため、症状が一度おさまっても、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。 言葉が出づらくなる 首の血管が動脈硬化によって狭くなると、脳への血流が一時的に低下し「ろれつが回らない」「言葉がうまく出てこない」といった症状があらわれることがあります。 さらに、脳の言語中枢やその周辺に十分な血液が届かなくなると、発声や会話に異常が生じやすくなります。(文献1) たとえば、次のような兆候が見られる場合は注意が必要です。 会話中に突然「言葉が詰まる」「人に言葉をうまく伝えられなくなる」 「ありがとう」といったような、簡単な言葉が急に出てこなくなる 電話中、突然言葉が出なくなる こうした症状は一時的におさまることもありますが、一過性脳虚血発作(TIA)の可能性もあるため、注意が必要です。少しでも異変を感じたら単なる疲労と軽視せず、早めに専門医を受診しましょう。 ふらつきやめまいが頻繁に起こる 頻繁にふらつきやめまいが起こる場合、首の動脈硬化による血流障害が関係している可能性があります。 とくに以下のような症状が繰り返しあらわれる場合は、注意が必要です。 立ち上がった際にふらつく 歩いている途中にクラッとする 目の前が急に暗くなる これらの症状が目立つ場合は、バランス感覚をつかさどる脳の部分に十分な酸素が届かず、平衡感覚に支障をきたしているおそれがあります。(文献2) めまいやふらつきが頻繁に続くようであれば、早めに専門の医療機関を受診して検査を受けましょう。 首の動脈硬化の症状をセルフチェックする方法 首の動脈硬化は無症状で進行するケースが多いため、セルフチェックでは早期に気が付くのは難しいのが実情です。 しかし、首の血管に違和感がある場合、首の血管が細くなっている、動脈硬化が関わる脳梗塞の初期症状であるなどの可能性もあります。次のような症状が出ていないか、自宅のような落ち着いた場所で確認してみましょう。 頸動脈がポコっと浮き出て見える 拍動が左右で異なる 顔のゆがみがあり、あからさまに左右非対称である ただし、これらの症状があるからといって、必ずしも動脈硬化が原因とは限りません。症状が長引く場合は、別の病気の可能性もあるため、早めに専門医へ相談しましょう。 首の動脈硬化症状が起こる原因 首にある「頸動脈」は、脳へ血液を送る主要な血管です。途中で枝分かれしている部分は、血液の乱流が起こりやすく、コレステロールや脂質の蓄積でできる「プラーク」が形成されやすい構造です。 プラークが血管の分岐部に蓄積すると、血流が妨げられ、動脈硬化が進行しやすくなります。(文献3) さらに放置すると、プラークが大きくなって血管を狭めたり、剥がれたプラークが血流に乗って脳の血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こす可能性があるため注意が必要です。こうしたリスクを防ぐためには、原因を知り、早期に検査や治療を行うことが大切です。 首の動脈硬化が起こる原因として、主に以下の3つが挙げられます。 生活習慣病 喫煙 加齢 これらの要因によって、プラークの肥大化や血管を狭めるリスクが高まります。首の動脈硬化を正しく理解し、日々の生活習慣を見直すきっかけにしてみてください。 生活習慣病 現代でも問題視されている「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」などの生活習慣病は、いずれも自覚症状が出にくく、気づかないうちに動脈硬化へと進行するリスクがあります。 これらの疾患は、血管に負担やダメージを与えるだけでなく、血中のコレステロール値を上昇させる原因にもなります。その結果、プラークができやすくなり、動脈硬化の発症リスクを高めてしまうのです。 そのため、すでに生活習慣病の診断を受けている方は、専門医のもと、原疾患を適切に治療することが大切です。 なかでも糖尿病は、放置すると腎臓病や緑内障などの合併症を引き起こすおそれがあります。初期段階では症状に気づきにくいケースも多いため、血糖値に不安がある方は早めの対策を心がけましょう。 糖尿病の初期症状や予防法について詳しく知りたい方は、以下のコラムもぜひご覧ください。 喫煙 喫煙は、動脈硬化を進行させる大きなリスク要因です。 タバコに含まれるニコチンやタールなどの有害物質は、血管の内壁を傷つけ、血管を収縮させる作用があります。これにより血流が悪化し、動脈硬化が促進されやすくなるのです。(文献4) 実際に、喫煙者は非喫煙者と比べて動脈硬化の進行が早く、脳梗塞のリスクが高いことも研究で明らかになっています。(文献5) そのため、動脈硬化の予防には禁煙が有効です。 しかしながら、意思があってもなかなか禁煙ができない方も多くいます。その場合は禁煙外来を利用し、医師のサポートを受けながら禁煙を目指すことをおすすめします。 加齢 年齢もまた、動脈硬化のリスクを高める避けられない要因です。 加齢とともに、コラーゲンやエラスチンといった血管の壁を構成する成分が変化し、弾力性が徐々に失われることで血管が固くなります。(文献6) 加齢による変化は避けられないものの、生活習慣の改善により動脈硬化のリスク予防に取り組むことは可能です。前述のような生活習慣病リスクをできるだけ抑えることで、加齢による血管の老化スピードを緩やかにできます。 今から健康的な生活を心がけ、血管の健康を保つ生活習慣を取り入れましょう。 首の動脈硬化を予防する方法 首の動脈硬化を予防するには、日々の生活習慣を見直すことが大切です。なかでも、今日から意識できる具体的な対策として、次の2つが挙げられます。 運動習慣をつける 血管プラークを減らす食事を心がける 本章では、これらの習慣を無理なく取り入れるためのポイントをご紹介します。ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。 運動習慣をつける 運動は、血圧やコレステロール値、血糖値などの動脈硬化に関わるさまざまなリスク要因に働きかける効果があります。これらを総合的に改善することで、血管への負担が軽減され、動脈硬化の進行を抑えることが期待できます。 日常生活に取り入れやすい有酸素運動としては、次のようなものがおすすめです。 ウォーキング ジョギング ラジオ体操 階段の上り下り これらを週2〜3回を目安に行うのが理想です。(文献7) また、運動する時間を設けられない場合は「1駅分歩く」「外出の際に少し遠回りする」「歩くスピードを少し上げる」など、普段の動作にひと工夫いれるだけでも効果があります。 無理のない範囲で気持ちよく続けられる方法を見つけて、運動習慣を生活の中に取り入れていきましょう。 血管プラークを減らす食事を心がける 動脈硬化は、血管内にプラーク(脂質の塊)がたまることが原因のひとつとされています。 これを防ぐためには、油分の多い食品を控え、野菜を積極的にとるなど「プラークの蓄積を抑える」食生活を意識することが大切です。 動脈硬化予防に効果的な食生活の例として、以下のような点が挙げられます。 【積極的にとりたい食事の工夫】 食事の工夫 期待される効果 主な食品例 食物繊維を多くとる コレステロールを吸着し、体外へ排出する ごぼう、わかめ、キャベツ 青魚を積極的にとる DHA・EPAが血液をサラサラにし、プラークの蓄積を抑える サバ、イワシ、サンマ 【避けたい食品・控えたい習慣】 食事の工夫 期待される効果 主な食品例 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を控える 悪玉コレステロール(LDL)の増加を防ぐ 肉の脂身、バター、マーガリン 塩分・糖分を控える 血圧上昇や血管ダメージのリスクを軽減する 加工肉、インスタント食品、菓子パン これらの食生活を意識すると、血管プラークの蓄積を抑えて動脈硬化のリスクを軽減できます。ぜひ本記事を参考に、毎日の食事を見直してみてください。 また、脳梗塞の再発予防においても、適切な食事管理が大切です。詳しくは、以下の記事で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。 首の動脈硬化の症状を見逃さず早期に対策をしよう 首の動脈硬化は、初期には自覚症状が少ないものの、進行すると片側の手足のしびれや脱力感、言葉が出づらくなるなどの症状があらわれることがあります。これらの症状は、脳梗塞の前兆である可能性も考えられるため、決して見過ごしてはいけません。 「なんとなく首がドクドクする」「最近よくふらつく」といった軽微な変化も、放置せずセルフチェックを習慣にし、早期に受診するようにしましょう。 脳梗塞は一度発症すると再発リスクが高く、その後は予防的なケアが欠かせません。 当院「リペアセルクリニック」では、再生医療による脳梗塞の再発予防を提供しています。メール相談またはオンラインカウンセリングにて、無料相談を受付中です。気になる方はぜひ、当院までご連絡ください。 首の動脈硬化の症状に関してよくある質問 首の動脈硬化の症状が出たら何科を受診すべき? 首の動脈硬化の症状があらわれたら、以下の診療科が適しています。 循環器内科 脳神経外科 脳神経内科 現在通院している病院がある場合は、診療科に関わらず、まずはかかりつけ医に相談するのも良いでしょう。また、近隣にこれらの診療科がない場合は、総合病院を受診し、適切な診療科を紹介してもらう方法もあります。 めまい・視力低下・手足のしびれなどの神経症状がある場合は、とくに注意が必要です。症状を放置せず、できるだけ早く受診しましょう。 動脈硬化の初期症状は? 動脈硬化は首だけでなく、全身の血管に影響を及ぼす病気です。しかし、動脈硬化そのものには自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行しているケースが多くみられます。 動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気を引き起こすおそれがあるため注意が必要です。 脳梗塞や心筋梗塞などの前触れとして、以下のような症状があらわれることがあります。 軽いふらつき 耳鳴り 集中力の低下 ただし、これらの症状は動脈硬化に特有のものではなく、他の原因でも起こりうるため、気になる場合は、医療機関の受診を検討しましょう。 また、血管の状態を調べる検査や、生活習慣病を発見する定期的な健康診断を受けておくことも大切です。自覚症状が少ないからこそ、日ごろの生活習慣を見直しながら、早期発見・早期対策に取り組みましょう。 脳梗塞の前兆についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。 参考文献 文献1 言語機能の局在地図|高次脳機能研究 文献2 脳における平衡機能の統合メカニズム|理学療法学 文献3 頸部血管超音波検査ガイドライン|日本脳神経超音波学会ほか 文献4 喫煙と循環器疾患|厚生労働省 文献5 喫煙本数による脳卒中リスク|ファルマシア 文献6 3.加齢による動脈硬化の分子機序|日本老年医学会雑誌 文献7 《健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023 推奨事項一覧》|厚生労働省
2025.07.31 -
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「筋肉がやせてきた」「歩き方が変わってきた」 そんな変化をきっかけに「脊髄性筋萎縮症(SMA)」や「筋ジストロフィー」という病名を初めて目にした人も多いのではないでしょうか。 両者は似たような病名ですが、原因も治療法も異なります。 この記事では、脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーの違いや、見分け方のポイントを解説します。 不安な気持ちが少しでも和らぎ「今できること」が見つかるきっかけとなれば幸いです。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーについて気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの原因の違い 脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、どちらも遺伝子の異常によって筋力が低下していく病気ですが「どこに異常があるか」が大きく異なります。 両者の違いは、以下のとおりです。 病名 異常が起こる場所 脊髄性筋萎縮症(SMA) 筋肉を動かすための神経 筋ジストロフィー 筋肉細胞そのもの 本章をもとに、両者の原因の違いを理解しておきましょう。 脊髄性筋萎縮症は神経の障害によって起こる 脊髄性筋萎縮症(SMA)は、遺伝子の異常により筋肉を動かす指令を出す神経に障害が起こり、発症します。 具体的には、脊髄にある「運動神経細胞(脊髄前角細胞)」がうまく働かなくなり、筋肉が使われにくくなってやせていく病気です。 使われない筋肉は少しずつ力を失い、筋力の低下や筋肉の萎縮(やせ細り)を引き起こします。(文献1) 筋ジストロフィーは筋肉そのものが壊れやすくなる 筋ジストロフィーは、遺伝子の異常によって筋肉の細胞が壊れやすくなり、再生が上手くいかなくなる病気です。 その結果、筋肉の変性や壊死が進み、やせて力を失っていきます。 進行すると、筋力の低下や運動機能の障害だけでなく、呼吸や心臓、消化などの内臓機能に影響が及ぶこともあります。(文献2) 脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの症状の違い 脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、出やすい症状にも違いがあります。 脊髄性筋萎縮症は体幹や手足の筋力低下から始まる 脊髄性筋萎縮症(SMA)はおもに体幹や四肢の筋力低下から始まり、発症時期や進行の速さ、症状の程度はタイプによって異なります。 代表的なタイプは、以下の4種類です。(文献1) 型 発症時期 主な特徴 I型 生後6か月まで 体幹を自力で動かせず、 支えなしに座るのがむずかしい II型 生後7か月~1歳半 座れるが立てない、歩けない III型 幼児期、小児期 歩行できるが筋力低下が進む IV型 成人以降 ゆっくりと筋力が落ちる これらすべてのタイプで共通する症状は、以下の通りです。 筋力低下 筋萎縮(やせ細り) 深部腱反射の減弱や消失 深部腱反射とは、膝の下をゴムハンマーで叩いたときに足がポンと前に出るような、体に備わった自然な反応のことです。 脊髄性筋萎縮症(SMA)は、このような通常みられる反応が出にくくなる症状がみられます。(文献1) 筋ジストロフィーは転びやすさや歩行困難から気づかれる 筋ジストロフィーは、筋肉のはたらきが弱くなり、日常動作に支障が出る病気です。 筋力の低下や歩きにくさ、姿勢の変化などが徐々に現れ、生活の中で気づかれます。(文献2)(文献3) タイプによって進行の速さや現れ方は異なりますが、以下のような症状が見られることがあります。 転びやすくなる 疲れやすくなる 関節がかたくなる 腕を上げづらくなる 心臓の機能に問題が出る 階段の上り下りが難しくなる 背中や腰が曲がりやすくなる 歩いたり走ったりするのが遅くなる 食べ物の飲み込み(嚥下)に問題が出る また、病型によっては、知的障害や発達の遅れ、目・耳の症状など、筋力以外の不調が先に現れることもあります。 代表的な病型は、以下の通りです。 ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型/ベッカー型) 肢帯型筋ジストロフィー 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー 眼咽頭筋型筋ジストロフィー 福山型先天性筋ジストロフィー 筋強直性ジストロフィー それぞれ症状や発症年齢、遺伝のされ方などが異なります。(文献2) 脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの診断方法の違い 脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーの症状で気になることがあれば、医療機関での検査が必要です。 それぞれの病気に応じた診断方法があります。 脊髄性筋萎縮症の診断方法 脊髄性筋萎縮症(SMA)の診断では、まず症状や筋力の状態などを医師が確認します。 今出ている症状が、他の病気ではないことを確認するためです。 その上で、SMN1という遺伝子に異常があるかどうかを調べる遺伝子検査が行われます。 また、必要に応じて、筋電図検査や血液検査も実施されます。(文献1) 筋ジストロフィーの診断方法 筋ジストロフィーの診断では、進行する筋力の低下や、病気特有の症状・合併症の有無の確認が必要です。 家族の中に同じような病気の人がいないかも確認します。 検査としては、血液検査や筋電図検査、確定診断のために遺伝子検査をします。(文献2) 筋ジストロフィーは、症状の進行具合や治療法などが病型ごとに変わってくるため、早い段階で正確にタイプを見きわめることが重要です。 脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーの治療法 どちらの病気も根本的な治療はまだ確立されていません。そのため、症状の進行を抑えるための治療が行われています。 おもな治療法の違いを、以下にまとめました。 脊髄性筋萎縮症(SMA) 筋ジストロフィー 基本的な治療方針 進行を抑える薬の使用とリハビリ 進行を緩やかにするケアとリハビリ 薬による進行抑制 可能なケースが増えている 一部の型のみに限られる それぞれの病気の治療法について、順番に見ていきましょう。 脊髄性筋萎縮症の基本的な治療法 脊髄性筋萎縮症(SMA)では、進行を抑える薬の使用や、生活の質を保つためのリハビリが中心となります。 とくにI型では人工呼吸器が必要になることもあり、呼吸の管理が重要です。 また、栄養面のサポートとして、経管栄養が行われるケースもあります。 いずれの場合でも、現在の機能を長く維持できるよう、医師やリハビリテーションスタッフなどさまざまな専門家との連携が大切です。 近年、脊髄性筋萎縮症に対して世界的に治療薬の研究や臨床試験が進められており、日本国内でも3種類の疾患修飾薬(病気の進行を遅らせたり抑えたりする効果が期待できる薬)が承認されています。 今後も治療の選択肢が広がっていくことが期待されます。(文献1) 筋ジストロフィーの基本的な治療法 筋ジストロフィーでは、呼吸機能や体の機能維持のためのリハビリテーションが基本です。 デュシェンヌ型においては、症状の進行をゆるやかにするステロイド治療が行われています。 また、病気のタイプによっては、心臓のペースメーカーや人工呼吸器を使うこともあります。 在宅での療養生活が長くなるケースも多く、定期的な検査や日々のリハビリが大切です。(文献2) 筋ジストロフィーについては、以下の記事でも詳しく解説しています。 合わせてご覧ください。 再生医療という選択肢もある 近年では、失われた機能の回復を目指す「再生医療」にも注目が集まっています。 幹細胞を使って傷んだ筋肉や神経を修復する研究が進んでおり、今後の新しい治療法として期待されています。 リペアセルクリニックでは、脳梗塞や脊髄損傷などさまざまな疾患の再生医療を提供しています。 気になることがあれば、お気軽にお問い合わせください。 再生医療については、こちらの記事も合わせてご覧ください。 脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーの違いを理解して適切な治療を受けよう 脊髄性筋萎縮症(SMA)と筋ジストロフィーは、どちらも筋力が低下していく病気ですが、原因や症状、進み方、治療法に違いがあります。 それぞれに合った適切な治療や支援を受けるためには、まず正確な診断が欠かせません。 「筋肉がやせてきた」「最近ふらつく」「家族の病気が気になる」など、小さな変化でも気になることがあれば、ひとりで抱え込まず、できるだけ早く医療機関に相談しましょう。 診断がつくことで、進行を抑える治療や生活のサポートにつながる可能性があります。 当院リペアセルクリニックでは、電話相談やオンラインカウンセリングにも対応しています。 受診を迷っている段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。 脊髄性筋萎縮症と筋ジストロフィーに関するよくある質問 脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーは大人になってから発症することもありますか? どちらの病気にも「成人型」があり、大人になってから発症するケースがあります。 脊髄性筋萎縮症(SMA)の場合は「IV型」が該当し、成人期以降にゆっくりと筋力の低下が進みます。 症状の進行は比較的緩やかで、日常生活に大きな支障が出にくいことも特徴です。(文献1) 筋ジストロフィーでは「筋強直性ジストロフィー」や「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)」などが成人期に発症しやすいタイプとして知られています。(文献4)(文献5) これらは、歩行や筋力だけでなく、全身のさまざまな機能に影響を及ぼすこともあります。 大人の筋ジストロフィーについては、こちらの記事でも詳しく解説しているため、ぜひご覧ください。 子どもの場合、筋ジストロフィーの初期症状はどのようなものですか? 筋ジストロフィーの中でも、デュシェンヌ型や顔面肩甲上腕型など一部の病型では、子どものころから以下のような動きの変化がみられることがあります。(文献6)(文献7) 転びやすい 走るのが苦手 ふくらはぎが異常に太く見える 床から立ち上がるとき、一度四つん這いになり、手で太ももを押して立ち上がる 目がしっかり閉じられない 腕を上げるのが難しい 日常の中で「あれ?」と思うような動きがあれば、早めに小児科や神経内科で相談してみましょう。 参考文献 (文献1) 脊髄性筋萎縮症(指定難病3)|難病情報センター (文献2) 筋ジストロフィー(指定難病113):病気の解説|難病情報センター (文献3) 筋ジストロフィー(指定難病113):概要診断基準等|難病情報センター (文献4) 筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成22年度)|難病情報センター (文献5) FSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー|神経筋疾患ポータルサイト (文献6) 筋ジストロフィーの症状とリハビリテーションについて|独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院 (文献7) 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー|MSDマニュアル家庭版
2025.07.31 -
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「失調性歩行って何?」「ふらつく歩き方は治るの?」「どんな病気が関係しているの?」 このような疑問をお持ちではありませんか。 医師から「失調性歩行」と言われたものの、詳しい説明がなく不安を感じている方もいるかもしれません。 失調性歩行とは、バランスがとりにくく、まっすぐ歩けなくなる歩行障害のひとつです。 本記事では、失調性歩行の症状や原因、リハビリによる改善の可能性について解説します。 診断後の不安を少しでも和らげるヒントとして、参考にしていただけたら幸いです。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 失調性歩行について気になる症状がある方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 失調性歩行の特徴は「歩くときのふらつき」 失調性歩行とは、体のバランスをうまく保てず、ふらつきながら歩く状態を指します。 症状のあらわれ方にはいくつかのタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。 ふらふら揺れながら歩く 体のバランスを保つのが難しくなり、左右にふらふらと揺れながら歩くのが特徴です。(文献1) 一見すると酔っているように見えるため、「酩酊歩行」とも呼ばれます。 歩いている途中で急に向きを変えようとすると、動きがぎこちなくなり、強くふらつくこともあります。(文献2) 足を大きく広げて歩く 歩くときに足を大きく開いて進むのも、失調性歩行の典型的なパターンです。(文献1) 重心を安定させようとする無意識の反応で、転ばないように下半身を広く使って支えようとするのです。 このとき、ひざを伸ばしたまま大きく踏み出すような歩き方になりやすく、本来のように膝を柔らかく曲げて歩く動きが見られなくなります。 階段の上り下りが難しくなるのも、このようなバランスの崩れが関係しています。(文献2) 失調性歩行を引き起こす主な原因 失調性歩行にはいくつかのタイプがあり、それぞれ背景にある病気や障害が異なります。 歩行障害の詳しい種類や原因は、こちらの記事でも詳しく紹介しているため、合わせてご覧ください。 小脳の障害|脊髄小脳変性症・小脳出血など 小脳は体の動きをスムーズにし、バランスをとる役割をもっています。 ここに障害があると、歩くときに体が左右に揺れ、足がもつれるなどの症状が現れます。 代表的な病気は、脊髄小脳変性症、小脳出血、多発性硬化症などです。(文献3) 脊髄の障害|脊髄腫瘍・脊髄空洞症など 脊髄は背骨の中を通る神経の束で、脳からの指令を体に伝える通り道です。 この部分に異常があると、足の動きや位置の感覚がうまく伝わらなくなり、歩き方がぎこちなくなります。 脊髄腫瘍や脊髄空洞症などが関係していることがあります。(文献4) 前庭の障害|メニエール病・前庭神経炎など 前庭とは、耳の奥にあるバランスを感じ取る器官です。 ここがうまく働かなくなると、立っているときや歩いているときにぐらぐらする感覚が続きます。 メニエール病、前庭神経炎、感染性髄膜炎などが代表的です。(文献4) 大脳の障害|多発性脳梗塞など 大脳は、動きの「司令塔」として働く部分です。 脳内の前頭葉、頭頂葉といった部位に異常があると、筋力に問題がなくても体のバランスが崩れたような歩き方になることがあります。(文献4) 小脳の障害に似た症状が見られることがあり、原因の特定が難しいケースがあることも大脳の障害の特徴です。 また、明らかな麻痺がなくても歩行が不安定になることもあるため、脳全体の状態を丁寧に確認する必要があります。(文献4) これらの病気は、早めに気づいて対応することが大切です。 失調性歩行には専門的なリハビリが効果的 失調性歩行の症状がみられた場合、原因となる障害に合わせたリハビリをすることで、歩行の安定を目指せます。 協調運動を助ける「フレンケル体操」 フレンケル体操は、目で見ながらゆっくりと体を動かすリハビリ方法です。 手足を「どう動かすか」を意識しながら反復練習をして、バランス感覚や動きの調整力を取り戻す目的があります。 たとえば、以下のような動作をします。 椅子に座って床に置いた目印をなぞるように足を動かす 仰向けになり、片脚のかかとを床につけたまま、かかとをゆっくり滑らせるようにしながら膝を曲げ伸ばす 床に平行線を引き、その上を歩く シンプルな動作を自分の目で確認しながら繰り返します。 特別な器具は不要で、ベッドや椅子があれば始められるため、自宅でも取り入れやすい訓練のひとつです。 感覚のずれを補う「重りや包帯」 失調性歩行では、手足の動きと感覚がうまく一致しないことがあります。 自分では足をまっすぐ出したつもりでも、実際にはずれていたり、力を入れすぎてしまったりするのです。 こうした「感覚のずれ」を補う方法として、手足に軽い重りや包帯をつけるリハビリがあります。 重さや圧迫感があることで、手足の位置や動きを意識しやすくなり、「動きすぎ」「力の入れすぎ」といったミスを防ぎやすくなるのです。 重りや包帯の量は状態に合わせて調整でき、歩く・立つ・座るなど、基本動作の安定にもつながります。 体幹の安定性を高める「筋力トレーニング」 筋力や体力が落ちていると、バランスをとる力も弱くなり、ふらつきや転倒のリスクが高まります。 そのため、失調性歩行のリハビリでは筋力をつけることも大切です。 筋力トレーニングには、筋力向上に加えて筋肉の協調性やリズミカルな動作を改善する効果も期待できます。 また、柔軟体操を取り入れて、関節のこわばりを防ぐことも行います。 無理なく体を支える力をつけていくことで、転倒予防や日常生活の自立にもつながるため、継続がカギになるでしょう。 失調性歩行の改善を目指すなら医療機関を受診しよう 失調性歩行には、小脳や脊髄、大脳、耳のバランス器官など、さまざまな原因が関係しています。 原因によって対処法も異なるため、医療機関での検査やリハビリが大切です。 歩き方に違和感があるときや、家族に「おかしい」と言われたときは、迷わず専門の医師に相談してください。 リペアセルクリニックでは「メール相談」や「オンラインカウンセリング」も行っています。 失調性歩行でお悩みの方は当院へお気軽にご相談ください。 失調性歩行に関するよくある質問 失調性歩行はリハビリで改善しますか? 失調性歩行の改善は、原因となる病気や障害によって異なります。 ただし、フレンケル体操や筋トレなどのリハビリを継続することで、歩行が安定し、日常生活の質も向上する可能性があります。 専門の病院を受診し、医師やリハビリスタッフの指導を受けながら継続していきましょう。 小脳が原因の失調性歩行は治りますか? 小脳性の失調は、根本的な治療が難しいこともありますが、リハビリや再生医療などによって歩行の質が改善する可能性があります。 早めに医療機関で相談し、状態に合った対応を始めることが大切です。 小脳梗塞の後遺症の治療や予後については、こちらの記事で詳しく紹介しているため、合わせてご覧ください。 参考文献 (文献1) 歩行障害の種類と原因疾患|Jpn J Rehabil Med (文献2) 失調症のリハビリテーション|リハビリテーション医学 (文献3) 3.小脳失調症の病態と治療―最近の進歩―|日本内科学会雑誌 (文献4) 運動失調に対するアプローチ|関西理学
2025.07.31 -
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「ウェルニッケ脳症の治療をしているのに、歩きにくさの症状が出ている」 「ウェルニッケ脳症を発症した親に記憶障害がある気がする」 このような不安を抱えている方もいるでしょう。 ウェルニッケ脳症は、治療後も運動性失調や眼球運動障害、記憶障害などの後遺症が出ることがあります。とくに、治療の開始が遅れたり、治療が不十分だったりした場合に後遺症が残りやすい傾向です。本人も記憶障害によって混乱している場合があるため、周囲のサポートが欠かせません。 本記事では、ウェルニッケ脳症の後遺症として現れる症状や原因を詳しく解説します。ご家族にできるサポート方法もあわせて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。 当院「リペアセルクリニック」の公式LINEでは、再生医療の情報提供と簡易オンライン診断を実施しております。 気になる症状や再生医療について詳しく知りたい方は、ぜひ一度公式LINEにご登録ください。 ウェルニッケ脳症の後遺症における主な症状 ウェルニッケ脳症の後遺症には、さまざまな症状が見られます。代表的な症状は以下の3つです。 運動性失調 眼球運動障害 記憶障害・作話 1つずつ詳しく見ていきましょう。 運動性失調|ふらつきやまっすぐ歩けない 運動性失調は、ウェルニッケ脳症の原因であるビタミンB1の欠乏によって、小脳や前庭核といった体のバランスを保つ部位が障害されることで現れます。 主な症状は、お酒に酔ったときのようなふらつきや、まっすぐな線をたどって歩くのが難しいといった体幹の失調です。 体幹の失調は、数日から数カ月にわたって続く場合があります。ある報告によると、運動性失調が改善したのは全体の40%であり、残りの60%の方には症状が残ったとされています。(文献1) そのため、長期的なケアやリハビリが必要になるケースも少なくありません。体幹の失調については以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。 眼球運動障害|目の動きに異常が出る ウェルニッケ脳症の急性期に見られる目の動きの異常が、後遺症として残ることがあります。具体的には以下の症状です。 眼振:自分の意思とは関係なく目が動く 麻痺:目の筋肉が部分的に動かなくなる 眼振があると、景色が揺れて見えたり、一点を見つめるのが難しくなったりします。また、眼筋麻痺によって物が二重に見える複視が起き、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。 適切な治療により一部の患者で回復へ向かうとされる眼球運動障害ですが、目の麻痺は改善したものの、約60%の症例で水平方向への眼振が後遺症として残ったとの報告も存在します。(文献1) 回復の程度には個人差があるため、症状が続く場合は主治医や眼科医へ相談しましょう。 記憶障害・作話|物忘れや作り話をする ウェルニッケ脳症の後遺症として、新しいことを覚える機能や過去の出来事を思い出す機能に障害が残る場合があります。ある報告によれば、記憶障害が完全に回復したのは20%にとどまるとの結果でした。(文献1) 数分前の会話を忘れる、新しいことを覚えられないといった「記銘力障害」が慢性化し、「コルサコフ症候群」へと移行する場合があります。 コルサコフ症候群の特徴的な症状の1つが、記憶の空白を埋めるために無意識に創作した話をしてしまう「作話」です。本人は嘘をついている自覚がないため、周囲は戸惑うかもしれません。 また、時間や場所がわからなくなる見当識障害も現れます。これらの症状は本人の混乱や不安を招くため、家族の理解と適切な対応が求められます。 ウェルニッケ脳症で後遺症が出る原因 ウェルニッケ脳症で後遺症が出る主な原因は、治療開始の遅れや、適切な治療を受けられなかった点にあります。そのため、後遺症を残さない、あるいは症状を軽くするためには、早期の診断と治療が重要です。 しかし、たとえ早期に治療を始めても、ビタミンB1の補充が不十分といった適切な治療がおこなわれないと、完全な回復は難しくなります。その結果、認知機能の障害を主症状とするコルサコフ症候群に移行するケースも少なくありません。(文献2) ウェルニッケ脳症を未治療のまま放置した場合、約80%がコルサコフ症候群へ移行するとされています。また、治療をおこなった場合でも、アルコール摂取が原因のウェルニッケ脳症では、16.9%の確率でコルサコフ症候群を発症するとのデータもあります。(文献3) アルコールを多量に摂取する方は、ウェルニッケ脳症だけでなく、肝臓疾患のリスクも高くなります。肝臓疾患については以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。 【関連記事】 アルコール性肝炎の初期症状|進行サインや放置するリスク【医師が解説】 肝硬変で腹水が溜まっているときの余命はどれくらい?予後や治療方法を解説 肝臓疾患の治療方法として再生医療が選択肢の1つです。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症の後遺症に対する治療法 ウェルニッケ脳症の後遺症が残った場合、症状の安定や生活の質の維持を目指した治療が必要です。主な治療法は以下の通りです。 食事療法 薬物療法 リハビリ 1つずつ詳しく見ていきます。 食事療法 ウェルニッケ脳症の根本的な原因は、ビタミンB1(チアミン)の不足です。チアミンは体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。体内に貯蔵できる量も、主に骨格筋や心臓、脳、肝臓、腎臓を合わせても約30mgとごくわずかしかありません。 アメリカの国立衛生研究所によると、成人が1日に必要とするチアミンの量は1.1〜1.2mgとされています。もし、食事からまったく摂取しない場合は2〜3週間で枯渇するとの報告があります。(文献1) そのため、後遺症の治療においても継続的なチアミンの摂取が重要です。チアミンは以下の食材に多く含まれます。 豚肉 うなぎ 玄米 全粒穀物 豆類 ウェルニッケ脳症の後遺症の治療では、これらの食品を意識して食事に取り入れましょう。 薬物療法 ウェルニッケ脳症の後遺症がある場合、食事だけでは十分な量のビタミンB1補給が難しいケースも少なくありません。また、アルコールの多飲などで消化管の吸収能力が低下している可能性も考えられるでしょう。 そのため、食事療法と並行してビタミンB1製剤を内服する薬物療法がおこなわれます。医師の指導のもと、1日に100mg程度のビタミンB1製剤の継続的な服用が推奨されています。(文献1) 薬の服用により期待できる効果は以下の通りです。 体内のビタミンB1濃度を安定させる 症状の悪化を防ぐ 残された神経機能の回復をサポートする 治療効果を高めるには、医師の指示に従い、適切な量を服用し続ける必要があります。 リハビリ 運動性失調によるふらつきや歩行の不安定さが残った場合には、継続的なリハビリテーションが必要です。失調に対するリハビリには、以下のような種類があります。 フレンケル体操:正確な動きを反復練習して運動コントロールの改善を目指す 重錘負荷運動:手足に重りをつけて運動の制御能力向上を目指す また、本人が記憶障害を合併している可能性も考慮する必要があります。リハビリの前後で「前回はここまでできた」「今日はこれができるようになった」といった具体的なフィードバックや記録の比較をおこなうと良いでしょう。 これにより自身の状態を客観的に把握できるため、リハビリを続けるモチベーションの維持につながります。 運動性失調に対するリハビリの具体的な方法については、以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。 ウェルニッケ脳症の後遺症患者に対するサポート方法 ウェルニッケ脳症の後遺症とともに生活していく上で、本人の努力はもちろんですが、家族をはじめとする周囲の方々のサポートも必要です。 具体的なサポートのポイントとしては、以下の点が挙げられます。 コミュニケーションを工夫する 安全な生活環境を整える まずはできるところから1つずつ始めていきましょう。 コミュニケーションを工夫する コルサコフ症候群の症状は認知症と似ている点が多いため、認知症の方への接し方が参考になります。大切なのは、作り話などを頭ごなしに否定するのではなく、まずは本人の話に耳を傾けて安心感を与える姿勢です。 たとえば、「はい」か「いいえ」で答えられる短い質問をしたり、選択肢を示したりすると良いでしょう。また、話の内容を一度受け止めた上で「カレンダーを見てみましょうか」と、穏やかに現実の情報を補う対応も役立ちます。 頭ごなしに否定すると本人のストレスが溜まり、不安から再び飲酒に頼るリスクを高めてしまいかねません。 安全な生活環境を整える ウェルニッケ脳症の後遺症である運動性失調や眼振は、体のバランスを崩しやすく、転倒のリスクを高めます。思わぬ事故を防ぐには、本人が安全に過ごせる生活環境を整える必要があります。 たとえば、廊下や階段に手すりを設置したり、屋内の小さな段差をスロープで解消したりする対策が有効です。また、電気の配線コードやティッシュ箱など、つまずきの原因になりそうな物は床に置かないようにしましょう。 本人の自室をトイレや浴室の近くに移動させて、家の中の動線を短くするのも1つの方法です。さらに、転倒時に机の角などで頭を打たないように、クッション性のカバーを取り付けるといった配慮も怪我の防止につながります。 ウェルニッケ脳症の後遺症を理解して献身的なサポートを心がけよう ウェルニッケ脳症の後遺症としては、以下の症状が挙げられます。 運動性失調 眼球運動障害 記憶障害 運動性失調と水平方向の眼振が残存する確率は、それぞれ約60%です。(文献1)また、記憶障害を主症状とするコルサコフ症候群へ移行する可能性は、未治療の場合で約80%、治療後もアルコールが原因であれば約17%にのぼると報告されています。(文献3) 後遺症が残った場合、本人が不安や怪我なく暮らせるように、食事管理やコミュニケーションの工夫、安全な生活環境の整備といった周囲のサポートが必要です。 なお、同じくアルコールが原因となりうる疾患に肝硬変などの肝臓疾患があり、その治療法の1つとして再生医療といった選択肢もあります。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症や後遺症に対するよくある質問 ウェルニッケ脳症及び後遺症の予後・死亡率は? ウェルニッケ脳症は、早期に適切な治療がおこなわれれば、症状が改善する可能性のある疾患です。しかし、治療が遅れたり、コルサコフ症候群に移行したりした場合は、予後が良いとはいえません。 ある研究で、ウェルニッケ・コルサコフ症候群の患者様を対象に調査したところ、5年後・10年後の生存率は以下の通りでした。 5年後の生存率 10年後の生存率 男性 67.7% 48.3% 女性 79.0% 62.9% また、同研究では死因の32.6%がアルコール関連だったと報告されています。(文献4) これらの結果から、断酒の継続とアルコールでダメージを受けた他の臓器(とくに肝臓)の治療は、ウェルニッケ脳症の予後に少なくない影響を与えます。 アルコールの多量摂取による肝臓疾患治療の選択肢の1つが再生医療です。 再生医療を提供する当院では、メール相談、オンラインカウンセリングを承っておりますので、ぜひご活用ください。 ウェルニッケ脳症は難病指定されていますか? 現在、ウェルニッケ脳症は国の難病には指定されていません。難病指定とは、以下のような疾患を対象とする制度です。 原因が不明 治療法が確立していない 長期の療養が必要 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏といった原因が明確であり、ビタミンB1の補充のような治療法も確立しているため、この要件には当てはまりません。 ただし、以下のような症状が出ている場合は、同じく目の動きや筋力に異常をきたす難病指定の「重症筋無力症」との鑑別が必要になるケースがあります。(文献5) 眼筋の麻痺 手足の筋力低下 飲み込みにくさ(嚥下障害) 呼吸のしづらさ 主治医の指示のもと適切な検査を受けましょう。 参考文献 (文献1) Wernicke脳症の診断と治療|愛仁会高槻病院 総合内科 (文献2) Wernicke’s Encephalopathyの治療法|日本ビタミン学会学術誌「ビタミン」 (文献3) Hospital Outcomes in Medical Patients With Alcohol-Related and Non-Alcohol-Related Wernicke Encephalopathy|Mayo Clin Proc. (文献4) Incidence and mortality of alcohol‐related dementia and Wernicke‐Korsakoff syndrome: A nationwide register study|Int J Geriatr Psychiatry. (文献5) 指定難病とすべき疾病の支給認定にかかる基準|厚生労働省
2025.07.31