-
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「高次脳機能障害と認知症はどう違うのか」 「高次脳機能障害と認知症は併発するのか」 高次脳機能障害と認知症は、どちらも記憶や判断力に影響を及ぼすため混同されやすいものの、実際には原因や進行、症状に明確な違いがあります。本記事では、両者の違いや併発の可能性、それぞれの症状や治療法についてわかりやすく解説します。 また、記事の最後には、高次脳機能障害と認知症に関する質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 高次脳機能障害と認知症の違い 項目 高次脳機能障害 認知症 原因 脳外傷、脳卒中、脳腫瘍など突然の脳損傷 アルツハイマー病など進行性の脳疾患 発症の経過 急性(原因となる出来事の直後) 徐々に発症し進行する 症状 記憶障害、注意障害、感情コントロールの低下、遂行機能障害など 記憶障害、見当識障害、判断力低下、徘徊・妄想など 症状の進行 基本的には進行しない(リハビリで回復可能性あり) 徐々に進行する(根本的な治療は困難) 意識レベル 通常はっきりしている 初期ははっきりしているが、進行で低下する場合も 支援の方向性 機能の回復と代償を目指すリハビリ中心 進行を遅らせ、生活支援を重視 その他の特徴 症状は損傷部位により多様 記憶障害が中核症状となることが多い 高次脳機能障害と認知症は、記憶力や判断力に影響を及ぼす点では共通しているものの、発症の経緯や進行、支援の方法には大きな違いがあります。 高次脳機能障害は、脳卒中や事故など外的な要因によって突然起こるのに対し、認知症は加齢や神経変性によって徐々に進行するのが特徴です。症状の内容や治療法も異なるため、正しく区別して対応することが重要です。 高次脳機能障害の症状 症状カテゴリ 内容 記憶障害 新しいことが覚えられない、過去の出来事を思い出せない、体で覚えた動作の記憶の障害 注意障害 集中力の低下、注意の持続・切り替え・分配の困難 遂行機能障害 計画立案・実行・自己評価の困難、柔軟な対応の低下 社会的行動障害 感情コントロールの難しさ、意欲低下、対人トラブル、依存傾向 失語症 話す・聞く・読む・書く・名前をいうことの困難 失行症 動作の指示や模倣ができない、物の使い方の混乱、衣服の着脱の困難 失認症 見る・聞く・触る情報の認識障害、自分の病気への無自覚、片側への注意欠如 (文献1) 高次脳機能障害の症状は、損傷を受けた脳の部位や程度によって多岐にわたります。記憶障害、注意力の低下、遂行機能障害、失語、失認、行為障害、感情や行動の変化などが症状として現れます。 高次脳機能障害の症状の現れ方には大きな個人差があり、単一の症状だけでなく複数が同時に見られることもあります。 以下の記事では、高次脳機能障害の症状について詳しく解説しております。 認知症の症状 症状カテゴリ 内容 記憶障害 新しい情報の保持の困難、物の置き場所の忘却、同じ質問の繰り返し 見当識障害 日付や場所の混乱、家族や知人の認識困難 実行機能障害 手順や計画の立案の困難、複数作業の同時実行の困難 言語障害(失語) 適切な言葉が出てこない状態、会話や内容理解の困難 行動・心理症状(BPSD) 妄想や幻覚、徘徊・暴言・暴力、抑うつや不安の出現 (文献2) 認知症の主な症状は、記憶障害、見当識障害、理解力や判断力の低下、実行機能障害などが挙げられます。 発症初期には物忘れが目立つことが多く、進行するにつれて日常生活を送る上でのさまざまな能力が低下していきます。また、抑うつや不安、妄想などの精神症状や行動の変化が伴うのも特徴です。 以下の記事では、認知症について詳しく解説しております。 高次脳機能障害と認知症は併発する可能性がある 観点 内容 高次脳機能障害がある場合 脳の損傷により将来的に認知症の発症リスクが高まる可能性あり(再発・加齢・刺激不足が影響) 認知症が高次脳機能障害を起こすか 認知症が直接の原因となって高次脳機能障害を起こすことは基本的にない 症状の似ている点 記憶障害・判断力の低下・感情の不安定さなどが共通し、初期は区別が難しいこともある 両者の本質的な違い 高次脳機能障害は非進行性(改善が見込める)認知症は進行性(徐々に悪化) 正確な診断のために必要なこと 医師による問診、画像検査、神経心理検査などでの専門的な鑑別 (文献3) 高次脳機能障害と認知症は異なる病気です。しかし、症状が似ているため混同されやすく、併発するケースもあります。とくに高次脳機能障害のある方は、脳の脆弱性により将来的に認知症を発症しやすくなる可能性があります。 一方で、認知症が直接的に高次脳機能障害を引き起こすことは稀です。両者には明確な因果関係はありません。症状が重なる場合もあるため、診断後も経過観察が必要です。 併発が疑われる際は、それぞれに適した治療や支援を組み合わせ、医師による診断と対応が必要になります。 高次脳機能障害になったときの対処法 対処法 内容 リハビリテーション 作業療法・理学療法・言語療法・心理療法などを組み合わせ、機能の回復・改善を目指す訓練 薬物療法(症状のコントロール) 抑うつ、不眠、易怒性などの症状に対し、必要に応じて薬を用いてコントロールする治療法 再生医療(損傷神経の修復) 損傷した脳神経の修復や機能回復を目指す新たな治療法 高次脳機能障害と診断された場合は、早期の対応が大切です。治療の中心はリハビリテーションで、必要に応じて薬物療法も併用されます。 さらに近年では、損傷した神経の修復を目指す再生医療も注目されており、新たな治療の選択肢として期待されています。 リハビリテーション 訓練対象 内容 目的・背景 記憶障害 カードや絵の記憶、聴覚的記憶、日付や時間の確認、メモやアラームの活用 残された脳機能を活用し、記憶力の再学習と代償手段の習得を図る 注意障害 間違い探しや時間内課題、ラジオを聞きながら作業、集中できる環境調整 注意力を高める訓練と、日常生活での適応力の回復を促す 遂行機能障害 料理や買い物の段取り、問題解決、時間管理の練習 計画立案や柔軟な思考を再習得し、日常生活の自立を支援 言語障害 発語・理解・読み書きの練習、ジェスチャーや絵カードの活用 言語能力の再構築と、代替的なコミュニケーション手段の習得 視空間認知障害 図形模写、地図や迷路の把握、着替え・食事などの動作訓練 空間認識力の再学習と、日常動作の確保 心理的サポート カウンセリング、家族への支援と相談 抑うつや意欲低下など二次的問題の予防と精神面の安定 総合的な目標 各機能訓練を個別に組み合わせて実施 脳の可塑性を活かし、生活の質の向上と自立を目指す リハビリテーションは、高次脳機能障害からの回復において重要な役割を果たします。 作業療法士や言語聴覚士の指導のもと、記憶力や注意力、行動面の改善を目指した訓練を行い、日常生活に即した動作を段階的に練習しながら、低下した機能の補完や再習得を図ります。 少しずつリハビリを積み重ね、生活の自立や社会復帰を前向きに目指していくことが大切です。 以下の記事では、高次脳機能障害のリハビリについて詳しく解説しています。 【関連記事】 高次脳機能障害への対応の仕方は?介護疲れを軽減するコツを解説 高次脳機能障害のリハビリ効果とは?方法や内容をあわせて紹介 薬物療法(症状のコントロール) 項目 内容 目的 症状のコントロールと生活の質(QOL)の向上 脳機能の調整 神経伝達物質のバランス調整による注意力・記憶力・感情コントロールの改善 精神症状への対応 抑うつ・不安・興奮・攻撃性の緩和による情緒の安定と行動の安定化 主な使用薬剤 認知機能に作用するドネペジル、不安や抑うつに用いる抗うつ薬(SSRIなど) 治療上の注意点 副作用への配慮と、症状に応じた個別の薬剤調整 治療の進め方 リハビリテーションや心理的支援との併用による相乗的な治療効果 (文献4) 高次脳機能障害に対して、根本的な治療薬はありませんが、抑うつや不安、興奮といった精神的な症状には薬物療法が行われます。このような症状を和らげることで、情緒が安定し、生活しやすくなることがあります。 薬剤は症状や体調に応じて医師が判断し、リハビリや心理的支援と併用して生活の質の向上を目指すとともに、副作用への配慮や継続的な調整も大切です。 再生医療(損傷神経の修復) 高次脳機能障害に対する再生医療は、損傷した神経細胞の修復や再生を促す治療法で、記憶力・注意力・言語能力の改善が期待されています。 幹細胞には、炎症を抑制し神経ネットワークの再構築を促進する効果が期待されています。現在は一部の医療機関でのみ実施されており、適用には医師との事前相談が必要です。 以下の記事では、再生医療について詳しく解説しています。 認知症になったときの対処法 対処法 内容 薬物療法(進行抑制と症状緩和) 症状の進行を遅らせる、記憶障害や精神症状を一時的に改善する薬を使用 生活環境を整える 物の配置を工夫し、過ごしやすい環境をつくる 再生医療(脳の神経細胞を修復・保護) 神経細胞の修復や保護を目指す治療で、認知機能の維持・改善に期待 認知症と診断された場合も、進行を遅らせたり症状を和らげたりする方法があります。 薬物療法では記憶障害や精神症状の改善を目指し、再生医療も将来の治療法として注目されている治療法です。 薬物療法(進行抑制と症状緩和) 項目 内容 目的 認知機能の低下を遅らせ、行動・心理症状(BPSD)を緩和し、生活の質を保つ 主な薬の種類 アセチルコリンの働きを保つ薬や、神経の過剰な興奮を抑える薬が使われる 代表的な薬剤 ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン 作用のしくみ 記憶や学習に関わる神経伝達を助けたり、神経細胞の損傷を防いだりする 副作用の例 吐き気、下痢、食欲不振、めまい、頭痛、便秘など 治療の工夫 複数の薬を組み合わせることで、より高い効果が期待できることもある (文献5) 薬物療法で認知症の進行を根本から止めることは困難ですが、一部の薬剤は記憶障害や行動症状を軽減する効果があります。代表的な薬としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬があり、認知症の進行を遅らせ、自立した生活の維持に役立つとされています。 薬物療法では、自己判断で量を変えたり中断したりせず、医師の指示に従って継続的な服用が大切です。 生活環境を整える 項目 内容 目的 不安や混乱の軽減、自立支援、介護負担の軽減 認識のサポート 時計・カレンダーの設置、季節感や思い出の品の活用 残された力の活用 物の定位置化、ラベル表示、自分でできる環境の工夫 行動・心理症状の緩和 混乱や不安の軽減により、徘徊や興奮を予防 地域・社会との関わり 外出支援、地域活動への参加、近隣住民との協力体制 円滑なコミュニケーション ゆっくり話す、笑顔、ジェスチャーや絵の活用、否定しない姿勢 認知症のある方にとって、環境の変化は混乱や不安の原因になりやすいため、過ごしやすい生活環境を整えることが大切です。 たとえば、物にラベルを貼る、大きな時計を設置するなど、ちょっとした工夫が日常生活を支える助けになります。 このような環境づくりは、本人の残された力を引き出すだけでなく、徘徊や興奮などの症状を和らげ、介護する家族の負担も軽減します。家族が協力して環境を整えることは、生活を支え、症状の緩和にもつながる大切な取り組みです。 再生医療(脳の神経細胞を修復・保護) 再生医療は、認知症で失われた神経細胞を補ったり、傷んだ細胞を修復したりすることを目指す治療法です。たとえば、幹細胞を脳に移植し、それが神経細胞に成長することで、脳の機能回復が期待されています。 再生医療は受けられる医療機関が限られており、適用できるかどうかは事前に医師へ相談しましょう。 高次脳機能障害と認知症の違いを理解し適切な治療を受けよう 高次脳機能障害と認知症は、原因や進行の経過は異なるものの、似たような症状が見られることがあります。正しく見分けて適切な診断と治療を受けることは、生活の質を向上させる上で大切です。 当院リペアセルクリニックでは、症状に応じた治療をご提案しており、再生医療も選択肢のひとつとしてご利用になれます。 高次脳機能障害もしくは、認知症の症状でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 高次脳機能障害と認知症に関するよくある質問 高次脳機能障害と認知症どちらかわかりませんが病院を受診するときは何科に行けばいいですか? 高次脳機能障害や認知症が疑われる場合は、神経内科や脳神経外科の受診が基本です。 精神症状があれば精神科や心療内科、高齢者の場合は老年内科も適しています。診断後はリハビリ科の支援も有効です。迷ったときは、まずかかりつけ医に相談しましょう。 高次脳機能障害や認知症は遺伝しますか? 高次脳機能障害は脳の損傷によるもので、遺伝はしません。一方で、家族性アルツハイマー病など一部の認知症では遺伝的要因が強く関与するものもあります。心配な場合は医師に相談しましょう。 高次脳機能障害と認知症は支援制度や保険は適用できますか? 高次脳機能障害や認知症のある方は、症状や年齢、生活状況に応じてさまざまな支援制度や保険の適用を受けられます。高次脳機能障害では障害者手帳、自立支援医療、障害年金、福祉サービスなどが利用できます。 認知症では介護保険制度や高額療養費制度、精神障害者保健福祉手帳の取得などが対象です。制度の利用には、市区町村の福祉窓口での相談や申請が必要です。 参考資料 (文献1) 慶應義塾大学病院「病気を知る 高次脳機能障害のリハビリテーション」KOMPAS, 2018年12月5日 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000269/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月19日) (文献2) 内閣府大臣官房政府広報室「知っておきたい認知症の基本」あしたの暮らしをわかりやすく 政府広報オンライン, 2025年1月16日 https://www.gov-online.go.jp/article/202501/entry-7013.html(最終アクセス:2025年5月19日) (文献3) 宮永和夫.「高次脳機能障害者と認知症-鑑別診断と社会支援-」, pp.1-26 https://www.minamiuonumahp.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/2018.9.22.pdf(最終アクセス:2025年5月19日) (文献4) 溝神文博.「切れ目のないポリファーマシー対策を提供するための薬物療法情報提供書作成ガイド」, pp.1-76, 2025年 https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/news/documents/20250331guide.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月19日) (文献5) 一宮洋介.「アルツハイマー型認知症の新たな治療戦略」『順天堂東京江東高齢者医療センターメンタルクリニック』, pp.1-52 https://medical-society-production-tkypa.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/theme/pdf/479/20130309_003.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月19日)
2025.05.30 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 頭部
「突然、片側の手足に力が入らなくなった」 「最近呂律が回らず、うまく話せなくなった」 それらの症状は、心原性脳梗塞の可能性があります。心原性脳梗塞は、心臓内で生じた血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせることで発症します。本記事では、心原性脳梗塞について詳しく解説していきます。 心原性脳梗塞の症状 心原性脳梗塞の原因 心原性脳梗塞の治療法 異変を感じた段階で、早期に適切な治療を受けることが大切です。本記事の最後には、心原性脳梗塞に関するよくある質問もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 心原性脳梗塞の症状 症状 主な症状 特徴・解説 顔面麻痺・手足の痺れ 顔の片側が動かしにくい、手足の力が入らない、感覚が鈍い 片側に出やすく、日常生活への影響が大きい 構音障害 話しにくさ、言葉が出ない、相手の話が理解できない 言語機能の障害によるコミュニケーションの困難 視覚障害 視野が狭くなる、物が二重に見える、片目の視力が低下する 突然の視覚異常による事故や転倒の危険 高次機能障害 記憶力や判断力の低下、注意力の散漫、感情の不安定さ 脳の機能低下による日常動作や思考の変化 心原性脳梗塞は突然発症するケースが多く、本人や周囲が初期症状に気づきにくいこともあります。顔の片側が動かなくなる、手足の痺れ、言葉が出にくい、視界の異常などの症状が現れます。 心原性脳梗塞は、発見が遅れると後遺症のリスクが高まるため、異変を感じた段階で早めに医療機関を受診するのが大切です。 以下の記事では、脳梗塞の症状の対策について詳しく解説しています。 【関連記事】 脳梗塞は症状が軽いうちの治療が大切!原因と対策を解説【医師監修】 脳卒中と脳梗塞の違いは?前兆の症状や後遺症をわかりやすく解説 顔面麻痺・手足の痺れ 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、感覚を司る領域への血流が遮断される 障害部位 大脳半球の感覚野(頭頂葉) 痺れの仕組み 神経細胞が酸素不足になり、感覚の信号が伝わらなくなる 出方の特徴 顔・手・足の片側に痺れが出る(障害された脳の反対側に症状が現れる) 麻痺との関係 感覚野と運動野が近く、痺れと麻痺が同時に出ることが多い 重症化しやすい理由 心原性の血栓は大きく、広い範囲で痺れが強く出やすい よく詰まる血管 中大脳動脈(MCA) (文献1) 脳の一部に血流障害が起こると、身体の左右どちらかに麻痺や痺れが現れるケースがあります。とくに顔の片側がゆがんだり、腕や脚に力が入らないといった症状は、心原性脳梗塞を疑うべきサインです。 顔面麻痺や手足の痺れは前兆なく突然起こることも多く、日常動作に支障をきたすため、早期の診断と対応が必要です。 構音障害 項目 内容 原因 心臓の血栓が脳の太い血管を詰まらせ、言語や発声に関わる部位が障害される 障害される部位 ブローカ野、運動野(顔面領域)、延髄などの脳幹 症状の内容 発音が不明瞭になる、声が出しづらい、言葉が滑らかに出ない 失語症との違い 構音障害は発音の仕方に問題があるのに対し、失語症は言葉の意味を理解したり表現したりする能力に障害が出る状態 構音障害と失語症が併発する可能性 構音障害と失語症が同時に起こるケースもある よくある日常のサイン ろれつが回らない、電話で何を言っているか聞き返される、言葉がつっかえる (文献2) 構音障害とは、言葉を発する際にうまく発音できない状態です。舌や唇、口の動きがうまくいかず、音を正確に発音できなくなります。 心原性脳梗塞では、このような話しづらさは発症直後に現れることが多く、本人や周囲も異変に気づきやすいのが特徴です。発音に違和感を覚えたり、ろれつが回っていないと指摘されたりした場合は、ためらわず早めに医療機関を受診しましょう。 視覚障害 項目 内容 原因 心臓から飛んだ血栓が、視覚をつかさどる脳の血管を詰まらせる 障害される部位 後頭葉や視神経を支配する動脈(例:後大脳動脈) 代表的な症状 両目の片側の視野が見えない(同名半盲) 一時的な視力障害 数秒~数分間、片目が真っ暗になる感覚(過性黒内障) 物が二重に見える症状 脳幹や小脳が障害されることで起こる複視 空間感覚の異常 距離感がつかみにくくなり、物との位置関係がわかりにくくなる 心原性脳梗塞で視覚をつかさどる脳の部位が障害されると、視野が欠ける、物が二重に見えるなどの異常が突然現れることがあります。 本人が気づかないケースもありますが、まばたきや目の動きに違和感が出ることがあります。視野が狭まるなどの異常が続く場合は、脳の異常も考え、早めに医療機関を受診しましょう。 脳の高次機能障害 主な症状 特徴 記憶障害 新しい情報が覚えられない、過去の記憶を思い出しにくい状態 注意障害 集中力の低下、注意の持続が難しい、気が散りやすい状態 遂行機能障害 計画や段取りの困難、手順通りに行動できない状態 言語障害(失語症) 言葉が出ない、話す・聞く・読む・書くことの困難 社会的行動障害 感情のコントロールの難しさ、衝動的・不適切な行動 (文献3) 心原性脳梗塞では、心臓から流れた血栓が脳の太い血管を塞ぎ、広い範囲の脳組織がダメージを受けることがあります。とくに中大脳動脈が詰まると、記憶や判断、注意、言語、感情などをつかさどる領域が障害され、高次脳機能障害が現れることがあります。 物忘れや段取りの悪さといった症状は、加齢と勘違いされやすいため、見逃されやすいのが特徴です。認知機能の低下に気づいた際には、脳梗塞の可能性も考え、早急に医療機関を受診しましょう。 心原性脳梗塞の原因 原因 内容 心房細動 心臓が不規則に動き、血栓ができやすくなる不整脈 心臓弁膜症 弁の異常により血液の流れが乱れ、血栓ができやすくなる状態 心筋梗塞 心筋の壊死によって心臓の機能が低下し、血栓が発生しやすくなる状態 拡張型心筋症 心臓の筋肉が弱まり、血液が滞って血栓ができやすくなる病気 卵円孔開存 心房の間に残った穴を通して、血栓が脳に流れ込む状態 感染性心内膜炎 心内膜や弁にできた感染性の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせる状態 心原性脳梗塞は、心臓で生じた血栓が血流に乗って脳へ到達し、血管を詰まらせることで発症します。発症の背景には、心房細動や心筋梗塞、心臓弁膜症など、心臓の機能に関わる病気が関係しているケースが多く見られます。 とくに心臓に不整脈や異常を指摘されたことがある方は、脳梗塞のリスクが高まるため注意が必要です。 以下の記事では、脳梗塞になりやすい人の特徴をわかりやすく解説しています。 心房細動・弁膜症 項目 心房細動が原因となる理由 弁膜症が原因となる理由 主な特徴 心房が細かく震える不整脈 心臓の弁が狭くなる・閉じにくくなる病気 血液の流れへの影響 心房の収縮が弱くなり、血液が滞りやすくなる 弁の異常で血液の流れが乱れ、特定部位で血液がよどみやすくなる 血栓ができやすい理由 滞留した血液が固まり、心房内に血栓ができやすくなる 血流の乱れと心房の拡大が血栓形成を促進 とくに血栓ができやすい部位 左心耳(左心房の袋状の部分) 拡大した心房内や人工弁の周辺 脳梗塞が起きる仕組み 心房内の血栓が全身へ流れ、脳の血管を詰まらせる 弁膜症により生じた血栓が血流に乗って脳へ運ばれ、血管を詰まらせる 弁膜症との関連 弁膜症が原因で心房細動を引き起こすこともある 心房細動を合併することで、さらに脳梗塞リスクが高まる 治療や注意点 抗凝固薬の服用が必要になることが多い 人工弁使用時は生涯にわたる抗凝固療法が必要 (文献4)(文献5) 心房細動は心臓が不規則に動く不整脈で、心房内に血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こします。 高齢者に多い心房細動や弁膜症は自覚しにくく、いずれも脳梗塞のリスクが高いため、心電図や心エコーなどによる定期検査と、循環器内科での継続的な管理が欠かせません。 心筋梗塞・拡張型心筋症 項目 心筋梗塞が原因となる理由 拡張型心筋症が原因となる理由 主な特徴 冠動脈の詰まりによる心筋の壊死 心室の拡大と収縮力の低下 ポンプ機能への影響 心室の動きが悪くなり、血液が滞りやすくなる 心臓の収縮力が弱まり、血液が心室内に滞留しやすくなる 血栓ができやすい部位 壊死した心筋や心室瘤の部分に血液が淀みやすく、血栓が形成されやすい 拡張した心室内で血液がよどみ、血栓ができやすくなる 合併の多い不整脈 心房細動を伴うことがあり、さらに血栓リスクが上昇 心不全や不整脈を伴うことが多く、血栓形成の危険性が高い 脳梗塞が起きる仕組み 心室内の血栓が全身に流れ、脳の血管を詰まらせる 心臓内でできた血栓が脳に流れ込み、血管を詰まらせる (文献4)(文献6) 心筋梗塞や拡張型心筋症は、心臓の収縮力が低下し、血液が滞ることで血栓ができやすくなります。この血栓が脳に流れると心原性脳梗塞を引き起こす原因になります。 これらの心疾患は見逃されやすいため、心電図や心エコーなどの検査で異常を早期に見つけ、速やかな対処が大切です。心臓病のある方は、心原性脳梗塞など脳の異常にも注意が必要です。 卵円孔開存 卵円孔開存(PFO)は、胎児期に心房をつないでいた通路が出生後も閉じずに残っている状態です。多くは無症状ですが、まれに静脈の血栓がこの穴を通って脳に流れ、脳梗塞を引き起こすことがあります。(文献6) 「奇異性脳塞栓症」と呼ばれており、とくに若年者で原因不明の脳梗塞が起きた場合、PFOが関係している可能性があるため、心臓の検査が重要です。再発リスクが高い場合は、経過観察やカテーテルによる閉鎖術が検討されます。(文献7) 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内膜や弁に細菌が感染する病気です。細菌の塊(疣贅)が血流に乗って脳の血管を詰まらせ、心原性脳梗塞を引き起こすケースがあります。慶應義塾大学病院の報告では、患者の20〜40%に脳塞栓症が発生しています。(文献8) 人工弁や先天性心疾患がある方はリスクが高く、歯科治療や手術がきっかけになる場合もあるのが特徴です。発熱、倦怠感、心雑音が続く場合は早めに医療機関を受診する必要があります。(文献9) また、診断には血液検査や心エコー(とくに経食道エコー)が有効で、治療は抗菌薬が中心です。重症例では手術が必要になることもあります。 心原性脳梗塞の治療法 治療法の種類 内容 t-PA静注療法・血管内治療 発症早期に行う血栓溶解薬の投与やカテーテルによる血栓除去 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 血液を固まりにくくし、再発を防ぐための内服治療 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 心房細動や弁膜症などの心疾患に対する薬物治療や手術 リハビリテーション 麻痺や言語障害の回復を目指す理学療法・作業療法・言語療法 再生医療 神経機能の回復を目指した新しい治療法の研究・臨床応用 心原性脳梗塞の治療は、発症直後の血栓除去と再発予防を目的に行われます。 急性期にはt-PAや血管内治療を行い、以降は抗凝固薬で血栓の再発を防ぎます。脳の障害に応じたリハビリも不可欠です。脳と心臓の両面から総合的に治療を進めていきます。 以下の記事では、脳梗塞は治るのかについて詳しく解説しています。 t-PA静注療法・血管内治療 項目 t-PA静注療法 血管内治療 治療内容 血栓を溶かす薬(t-PA)を静脈から投与して血管の再開通を図る カテーテルを使って血栓を直接回収または吸引し、血流を再開させる 主な作用機序 プラスミノーゲンを活性化し、プラスミンが血栓を分解 機械的に血栓を取り除く(ステントリトリーバー・吸引カテーテルなど) 対象となる血栓 比較的小さめの血栓に有効 太く大きな血栓やt-PAが効きにくい血栓に有効 適応されるタイミング 発症から4.5時間以内が目安 発症から6時間以内(条件次第で24時間程度まで適応されることも) 心原性脳梗塞との相性 心臓由来の血栓が溶解できるケースでは有効 心臓由来の大きな血栓を直接除去できるため、心原性脳梗塞に適応しやすい 使用される場面 比較的早期で症状が中等度までの患者に多く使用 血栓が大きい、症状が重い、t-PA単独で効果が不十分な場合に使用 他の治療との併用の可能性 血管内治療と併用するケースあり 必要に応じて局所的にt-PAを併用も可能 治療の目的 脳への血流を早期に再開し、後遺症を軽減 血栓を確実に取り除き、血流を回復し重症化を防ぐ (文献10)(文献11)(文献12) t-PA静注療法は、血栓を溶かす薬剤(アルテプラーゼ)を点滴で投与し、閉塞した脳の血管を再開通させる治療です。発症から4.5時間以内の投与が目安であり、早期の対応が必要となります。(文献10) 血栓が大きい場合は、カテーテルで直接取り除く血管内治療が有効です。これらの治療は脳のダメージを抑えるために行われ、時間と症状の判断が回復を左右します。少しでも異変を感じた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど) 種類 薬剤 特徴 ワルファリン ワルファリン ビタミンKの働きを抑えて血液を固まりにくくする薬剤。効果の安定には定期的な血液検査(PT-INR)が必要。食事や他の薬との相互作用に注意が必要 直接経口抗凝固薬(DOAC) ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン 凝固因子を直接阻害する新しいタイプの薬剤。定期的な血液検査が原則不要。食事や薬の影響を受けにくく、服用の手軽さが特徴 (文献13)(文献14) 心原性脳梗塞は、心臓内でできた血栓が血流に乗って脳の血管を塞ぐことで発症します。とくに心房細動などの不整脈があると、心房内に血液が滞り、血栓ができやすくなるのが特徴です。 抗凝固薬は血液の固まりにくさを保つことで、こうした血栓の形成を防ぎ、脳梗塞の発症リスクを約3分の1に減らす効果があると報告されています。(文献15) 抗凝固薬には、ワルファリンと、近年使用が増えているDOAC(直接経口抗凝固薬)があります。DOACは定期的な血液検査が不要で、食事や他の薬の影響を受けにくく、一定の用量で効果が安定しているのが特徴です。このため、服薬の負担が少なく、継続しやすい薬とされています。(文献14) ただし、抗凝固薬は中断すると効果がなくなり、再発リスクが高まります。症状が落ち着いても自己判断で中止せず、医師の指示に従って服用を続けることが不可欠です。出血のリスクもあるため、異変を感じたら早急に医師へ相談しましょう。 原因疾患の治療(心房細動の管理など) 項目 内容 血栓形成の予防 心房細動を適切に管理すると心房内の血流が改善され、血栓の形成を防ぐ効果がある 抗凝固療法の適用 リスク評価(例:CHADS₂スコア)に基づき、ワルファリンやDOACを使用して血栓を予防する 心房細動の根治 カテーテルアブレーションにより、異常な電気信号の発生源を焼灼し、心房細動そのものを治療する 抗不整脈薬の使用 心房細動の発作を抑える薬剤により、発作の頻度や持続を減らす 脳梗塞の再発予防 血栓の原因となる心房細動を抑えることで、心原性脳梗塞の再発リスクを大きく減らせる (文献16) 心原性脳梗塞の予防や再発防止には、血栓をつくらせないための抗凝固療法だけでなく、根本原因となる心疾患の管理が不可欠です。 心房細動がある場合は、心拍を安定させる薬による治療が基本となり、症状が強い場合は、カテーテルアブレーションといった手術も検討されます。 心筋梗塞や弁膜症が原因であるときは、それぞれに合った専門的な治療が必要です。心臓と脳は深く関わっているため、心臓の病気をしっかり管理することが、脳梗塞の再発を防ぐポイントになります。 リハビリテーション リハビリの種類 対応する症状・目的 内容 理学療法(PT) 手足の麻痺や筋力低下などの運動機能障害 筋力や関節の動きを改善し、寝返り・立ち上がり・歩行など基本動作の回復を目指す訓練 作業療法(OT) 着替えや入浴などの日常生活動作や、記憶・注意力といった高次脳機能の障害 食事や更衣などの日常動作の訓練や、認知リハビリテーションを通じた生活機能の向上 言語療法(ST) 話す・理解する・飲み込むなどの言語障害・嚥下障害 発音・言語理解・読み書きなどの回復訓練により、コミュニケーション能力の改善を図る 心理・社会的支援 病気による不安・うつ・家族の精神的負担 心理士・ソーシャルワーカーによる心理サポートや、社会資源の活用支援 早期リハビリ介入 発症直後からのリハビリ開始による後遺症の軽減と回復促進 急性期からリハビリを始めることで、機能回復と社会復帰の可能性を高める包括的支援 (文献4) 心原性脳梗塞によって生じた後遺症を改善するには、発症後できるだけ早期にリハビリを開始するのが大切です。 手足の麻痺や言語障害、高次機能障害など、それぞれの症状に応じて、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)などを組み合わせて実施します。 リハビリは、脳の回復力が高い早期に始めることで効果が期待できます。再発を防ぎ、日常生活への復帰を目指すことが主な目的です。 再生医療 心原性脳梗塞による神経のダメージに対して、再生医療は有効な治療法のひとつとされています。 自分の身体から採取した幹細胞を使い、損傷を受けた脳の神経細胞の回復を促すことが目的です。治療を希望する場合は、再生医療を扱う医療機関で医師と十分に相談し、適切な判断のもとで進めていくことが大切です。 以下の記事ではリペアセルクリニックで取り扱っている再生医療についてわかりやすく解説しております。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞に対して手術を必要としない再生医療を提案しています。 心原性脳梗塞の症状が改善せずお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状を理解し適切な治療で回復を目指そう 心原性脳梗塞は、突然の麻痺や言語障害など、日常生活に大きな支障をもたらす病気です。症状を正しく理解し、早期に治療を受けることで後遺症の軽減や再発予防が期待できます。 手足の突然の麻痺や、ろれつが回らないといった症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。 リペアセルクリニックでは、心原性脳梗塞による症状や後遺症に対し、従来のリハビリや治療に加えて、幹細胞を用いた再生医療もひとつの選択肢としてご案内しています。患者様の状態やご希望に応じて、医師と相談の上で治療方法を検討していただけます。 心原性脳梗塞の症状にお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 心原性脳梗塞の症状に関するよくある質問 心原性脳梗塞の予兆としてどのようなものがありますか? 心原性脳梗塞は突然起こることが多いですが、前ぶれとして一過性脳虚血発作(TIA)が現れることがあります。顔や手足の痺れ、言葉のもつれ、一時的な視力障害などが特徴です。 見逃さないためには、FASTチェックが有効です。 F=顔のゆがみ A=両腕が上がるか S=言葉の異常 T=時間が勝負 1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼びましょう。 心原性脳梗塞は再発しますか? 心原性脳梗塞は再発のリスクが高く、心房細動の持続や自己判断による抗凝固薬の中断、生活習慣病の悪化が影響します。 再発を防ぐには、正しい薬の継続服用、定期検査、食事や運動など生活習慣の見直しが大切です。 以下の記事では脳梗塞の予防や再発防止について詳しく解説しています。 心原性脳梗塞の症状に対して家族ができるサポートはありますか? 心原性脳梗塞では、家族のサポートが回復と再発予防において大切です。 異変への早期対応、治療や服薬の支援、リハビリや生活習慣の見直しを共に行うことが求められます。また、不安や抑うつへの心のケアも大切です。 参考資料 (文献1) 公益財団法人 日本心臓財団「脳卒中の基礎知識と予防のコツ」公益財団法人 日本心臓財団 https://www.jhf.or.jp/topics/2017/004361/(最終アクセス:2025年5月18日) (文献2) 山本大介.「みんなの脳神経内科ver.2」『中外医学社』, pp.1-8 https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse4460.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献3) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会「高次脳機能障害」社会福祉法人 恩賜財団 済生会, 2022年09月21日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/higher_brain_dysfunction/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献4) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」 pp.開1-180, 2021年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献5) 岩﨑 雄樹ほか.「不整脈治療」『日本循環器学会 / 日本不整脈心電学会合同ガイドライン』, pp.1-80, 2024年 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/JCS2024_Iwasaki.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献6) Abbott「PFO(卵円孔開存)と脳梗塞」PFO閉鎖術 https://pfo-japan.com/what/index.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献7) 公益財団法人 日本心臓財団「卵円孔開存と脳梗塞との関係」公益財団法人 日本心臓財団, 2013年4月10日 https://www.jhf.or.jp/check/opinion/3-5/post_3.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献8) 慶應義塾大学「感染性心内膜炎」慶應義塾大学病院|KOMPAS, 2019年3月5日 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000197/?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献9) 河野憲司.「心疾患を有する患者の歯科処置後に発熱を生じたとき」『大分歯界月報』, pp.1-4, 2019年 https://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/sikaigeppou/2019/%E7%AC%AC%EF%BC%93%E5%9B%9E%E3%80%80%E5%BF%83%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%82%92%E6%9C%89%E3%81%99%E3%82%8B%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E6%AD%AF%E7%A7%91%E5%87%A6%E7%BD%AE%E5%BE%8C%E3%81%AB%E7%99%BA%E7%86%B1%E3%82%92%E7%94%9F%E3%81%98%E3%81%9F%E6%99%82.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献10) 平野照之ほか.「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023 年 9 月追補」『日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会』, pp.1-14, 2023年 https://www.jsts.gr.jp/img/rt-pa03_supple.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献11) 峰松一夫.「知っておきたい循環器病のあれこれ」『公益財団法人 循環器病研究振興財団』, pp.1-20 https://www.jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_166.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献12) 宮下明大.「Journal Club 脳梗塞発症後6-24時間における血栓除去術」, pp.1-55, 2018年 https://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20180116Fukuda.pdf(最終アクセス:2025年5月18日) (文献13) 平野照之.「日本血栓止血学会サイト お役立ちリンク集」『血戦止血誌』, pp.1-11, 2017年 https://www.jsth.org/publications/pdf/oyakudachi/6-3.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献14) 国立循環器病研究センター「抗血栓薬内服中の患者が脳出血を発症した場合の重症化リスクを解明」国立循環器病研究センター, 2024年10月25日 https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_44966/#:~:text=*3)%20%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E4%BD%9C%E7%94%A8%E5%9E%8B%E7%B5%8C%E5%8F%A3,%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス:2025年5月18日) (文献15) 最先端の医療をお伝えする活動推進委員会 「脳卒中の今」先進医療.net, 2022年3月25日 https://www.senshiniryo.net/stroke_c/13/index.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日) (文献16) 一般社団法人 日本循環器気学会「心房細動と心原性脳梗塞栓症」一般社団法人 日本循環器気学会 https://www.j-circ.or.jp/old/about/jcs_ps5th/index03.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月18日)
2025.05.30 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 頭部
「最近、物忘れが増えた気がする」 「身体のしびれ、力が入らないことが増えた」 このような悩みや違和感を覚えていませんか。これらは脳の異変、特にラクナ脳梗塞の可能性があります。自覚症状が出にくいため、異変に気づかないまま放置すると後遺症につながることがあります。 症状に気づかないまま重症化しないためにも、本記事ではラクナ脳梗塞について詳しく解説します。 ラクナ脳梗塞の症状 ラクナ脳梗塞の原因 ラクナ脳梗塞の治療法 ラクナ脳梗塞の再発予防策 記事の最後には、ラクナ脳梗塞に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 ラクナ脳梗塞とは 項目 ラクナ脳梗塞 他の脳梗塞(アテローム血栓性・心原性脳塞栓症など) 詰まる血管の太さ 細い血管(穿通枝) 太い血管(主幹動脈など) 詰まる場所 脳の深部(視床、内包、脳幹など) 大脳皮質や皮質下、広い範囲 梗塞の大きさ 小さい(直径15mm以下) 比較的大きい 症状の出方 軽度または限定的な症状、無症状もある 急激で広範囲な症状が出やすい 見つかり方 健康診断や画像検査で偶然見つかることもある 明らかな発症症状により医療機関を受診し発見されやすい (文献1) ラクナ脳梗塞は、脳の深い部分にある細い血管が詰まることで生じる、小さなタイプの脳梗塞です。とくに視床や内包、脳幹といった脳の中心部で起こりやすく、詰まる血管は穿通枝と呼ばれる細い血管で、その結果生じる梗塞巣は直径15mm以下の小さなものです。 高血圧や糖尿病などが長く続くと、脳の細い血管がもろくなり、血流が止まってラクナ脳梗塞が起こることがあります。これは脳の深い部分に小さな梗塞ができるタイプで、初期には症状が軽く、気づかれにくいことが多いのが特徴です。 一般的な脳梗塞(アテローム血栓性や心原性脳塞栓症など)は太い血管が詰まり、大脳の広い範囲に強い症状が現れますが、ラクナ脳梗塞では影響が小さく、言葉や動きなど特定の機能にだけ症状が出るケースもあります。 中にはまったく症状がなく、検査で偶然見つかることもあります。ただし、たとえ小さな梗塞でも、何度も繰り返すと認知機能の低下や歩きにくさなど、後遺症につながる可能性があるため、少しでも気になる症状があれば、早めに医師への相談が大切です。 以下の記事では、脳梗塞の前兆やサインについて詳しく解説しております。 【関連記事】 突然の肩こりは脳梗塞の前兆?受診すべき症状や予防法を医師が解説 こめかみの痛みは脳梗塞のサイン?頭痛の原因や受診すべき目安を医師が解説 ラクナ脳梗塞の症状 症状・状態 起こる場面や原因 考えられる影響 片側の運動麻痺 手足や顔の一部に力が入らなくなる 日常動作の不自由・麻痺の固定 片側の感覚障害 しびれ、触覚の鈍さ、ピリピリ感覚が起こる 感覚の鈍麻・身体の違和感 構音障害 舌や口の動きのぎこちなさによる言葉のもつれ 会話のしづらさ・伝達能力の低下 手足の不器用さ 動きの協調性の低下 細かい作業の困難・転倒リスクの増加 嚥下障害 のどや舌の動きの低下 誤嚥・食事中のむせ・栄養摂取の難しさ バランス障害 体の安定感の低下 歩行困難・転倒リスクの増大 無症候性脳梗塞 自覚症状なし。検査で偶然見つかる小さな梗塞 再発の前兆・脳機能への慢性ダメージ 再発の蓄積 高血圧・糖尿病など動脈硬化が進んだ状態 小さな梗塞の多発・症状の進行 認知機能障害 多発性ラクナ梗塞の影響 物忘れ・判断力の低下・血管性認知症の進行 意欲や感情の変化 前頭葉付近の血流障害 意欲の低下・感情の不安定化 脳卒中リスク増加 全身の動脈硬化が背景にある状態 広範囲の脳梗塞・脳出血など重篤な脳卒中の可能性 ラクナ脳梗塞の症状は、梗塞が起きた場所や範囲によって異なります。典型的には、手足の麻痺やしびれ、感覚の鈍さ、歩行のふらつき、ろれつが回らないといった症状が現れます。 症状は軽度で一時的な場合も多く、加齢による変化と誤解してしまうことも少なくありません。また、頭痛や吐き気、物忘れの増加、力が入りにくいといった症状として現れることもあります。これまでになかった身体の変化に気がついた場合は、脳梗塞の可能性を疑い、早めに医療機関を受診しましょう。 ラクナ脳梗塞の原因 原因の種類 身体への影響 ラクナ脳梗塞との関係 高血圧 血管に強い圧力がかかり、壁が傷つき硬くなる 細い血管の動脈硬化を引き起こす主要な原因 加齢 血管が自然に硬くなり、弾力を失う 詰まりやすくなり、血流障害を起こしやすくなる 糖尿病 高血糖により血管内壁が傷つきやすくなる 細い血管にも影響し、詰まりやすくなるリスク増加 喫煙 血管が収縮し、血流が悪くなる 動脈硬化を促進し、脳血管に悪影響を及ぼす 脂質異常症 血液中の脂質が増え、血管壁にプラークが沈着 血管が狭くなり、詰まりやすくなる原因となる (文献2)(文献3) ラクナ脳梗塞は、脳の細い血管が徐々に狭くなり、最終的に詰まってしまうことで発症するのが特徴です。 主に原因として、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病によって血管が傷み、発症します。また、喫煙や加齢による血管の変性もラクナ脳梗塞を引き起こすリスクがあります。 高血圧 仕組み・状態 身体への影響 推奨される対策 血管壁への強い圧力 細い血管の内側が傷つき、硬く狭くなる 血圧の安定管理・血管負担の軽減 血管の変性(リポヒアリノーシス、フィブリノイド壊死) 血管の弾力低下・閉塞の進行 食塩制限・適度な運動・医師の指導に基づく治療 自動調節機能の低下 血流の調整ができず、細い血管の詰まりが起こりやすくなる 血圧変動の抑制・日々の血圧チェック 無症候性ラクナ梗塞の蓄積 認知機能の低下・血管性認知症への進行 定期的な脳の検査・生活習慣病の早期対策 高血圧の放置 繰り返す脳梗塞・将来的な重い後遺症 医療機関の受診・薬の服用継続 (文献2)(文献3) 高血圧は、ラクナ脳梗塞の原因のひとつであり、血圧が常に高い状態が続くと、脳の細い血管に大きな負担がかかり、壁が傷つきやすくなります。この状態が長期化すると、血管が硬くもろくなり、やがて詰まりを起こす可能性があります。 自覚症状のないまま進行するサイレントキラーとも呼ばれる高血圧は、脳の深部の血流障害を引き起こす大きな要因です。日々の血圧管理は、ラクナ脳梗塞の予防に欠かせません。早朝や夜間の変動にも気を配り、医師の指導に従って治療を続けることが大切です。 加齢による血管の変化 原因の種類 説明 対策 血管の硬化・肥厚 加齢により動脈が硬く厚くなる自然な変化。血管の弾力低下や内腔の狭窄を引き起こす 食事の改善、適度な運動、定期的な血管年齢チェック 穿通枝の狭窄・もろさ 脳の深部にある細い血管が加齢で弱くなり、血流低下や閉塞を招く 血圧・血糖・脂質の管理、禁煙、ストレス軽減 高血圧・糖尿病の影響増大 加齢で弱った血管が生活習慣病の影響を受けやすくなる 早期の生活習慣病治療、定期検診 微小血管障害 加齢により修復力が低下し、微細な血管損傷が血栓や梗塞の原因になる 再発予防の薬物治療、日常的な血圧管理 心血管疾患リスクの増加 加齢とともに心筋梗塞や脳卒中のリスクが急増 高カカオチョコ・ナッツ・魚などを摂取(ポリフェノール・オメガ3) 食生活の偏り 高齢者で栄養が偏りやすく、血管の老化が進行 地中海食を導入する (文献1)(文献4) 加齢により血管は徐々に弾力を失い、硬く狭くなっていきます。とくに細い血管は影響を受けやすく、ラクナ脳梗塞は小さな血管が詰まることで発症します。 加齢は避けられませんが、運動・食事・禁煙など、生活習慣の見直しによって血管の劣化を遅らせることができます。年齢に応じた健康管理が、脳の血流を守るために大切です。 糖尿病 項目 内容 対策 高血糖による血管内皮の損傷 血糖値の上昇で血管の内皮細胞が傷つきやすくなり、動脈硬化が進行 血糖管理の徹底 糖化反応による血管の劣化 血中の余分な糖がタンパク質と結合し、血管が硬く厚くなる 糖質制限と食事改善 細小血管への特異的な障害(糖尿病性血管症) とくに脳の穿通枝のような細い血管で顕著な構造異常が起こる 血管内皮の保護 血流の悪化・血栓形成 内皮の損傷により血小板が集まりやすくなり、血管内が狭くなる 抗血栓対策と禁煙 ラクナ梗塞の発症 血管が閉塞し、脳深部の小さな領域に血液が届かなくなる 生活習慣病の包括的管理 (文献5) 糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気で、血管を徐々に傷つけます。とくに脳の細い血管はダメージを受けやすく、ラクナ脳梗塞のリスクを高める原因になります。 糖尿病とラクナ脳梗塞の合併症を引き起こさないためにも血糖だけでなく、血圧やコレステロールの管理も大切です。食事や運動、薬による血糖コントロールを続けることが、脳血管を守るためにも欠かせません。 以下の記事では、脳梗塞によって引き起こされる合併症について詳しく解説しています。 喫煙 喫煙による影響 血管への作用 ラクナ脳梗塞への関与 対策・予防策 血管内皮細胞の損傷 血管の炎症・硬化 動脈硬化を進行させ、穿通枝の狭窄を引き起こす 禁煙の実施、受動喫煙も回避 動脈硬化の促進 LDLコレステロールが血管に蓄積 脳の細い血管(穿通枝)の詰まりを助長 食生活改善(野菜・果物・魚を積極的に) 血栓形成の促進 血小板が活性化し血が固まりやすくなる 血管内で血栓が形成されやすくなる 禁煙+水分摂取・適度な運動 血管収縮作用 血圧上昇・血流悪化 一過性の血流低下がラクナ梗塞を誘発 ストレス管理・禁煙補助薬の活用 受動喫煙の影響 同様の血管損傷を引き起こす 非喫煙者にもリスクが波及 家庭・職場での禁煙環境整備 喫煙は、血管の健康に悪影響を与える生活習慣のひとつです。タバコに含まれる有害物質は、血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を進行させます。 喫煙は動脈硬化や一時的な血圧上昇を引き起こし、脳の細い血管が詰まりやすくなることでラクナ脳梗塞のリスクを高めます。発症予防や再発防止のためにも、禁煙の徹底が大切です。 脂質異常症(高脂血症) 項目 内容 解説 対策 血管内への脂質蓄積 LDLが内皮細胞に侵入 傷ついた血管ほど脂質がたまりやすい 動脈硬化の原因となるため、LDLを下げる生活習慣が大切 アテローム硬化の進行 血管内で脂質が粥状に蓄積し、血管が狭く硬くなる 内腔が狭まり、血流が悪化 HDLを増やす・抗炎症的な食生活 脳の細い血管(穿通枝)への影響 穿通枝の内腔狭小化、微小プラークの形成 動脈硬化が脳の深部血管でも起きやすくなり、血流がさらに悪化 血圧・血糖・脂質の総合的管理 血流の悪化と閉塞 プラーク破綻→血栓形成→血管閉塞 ラクナ脳梗塞の直接的原因 脂質異常の是正・抗血栓療法(医師指導のもと) 他リスク因子との相乗作用 高血圧・糖尿病・喫煙と重なるとリスクが跳ね上がる 血管へのダメージが加速 すべての生活習慣病リスクに目を向けた多角的対策 予防・対策 脂質管理の徹底が動脈硬化の進行を防ぐ ラクナ脳梗塞の予防・再発予防への取り組みが大切 食事(魚・ナッツ・野菜中心)、運動、医師の指導による薬物療法 脂質異常症とは、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多すぎる、または善玉(HDL)コレステロールが少ない状態です。 この状態が続くと血管内にプラークが蓄積し、動脈が狭くなって血流が悪化します。ラクナ脳梗塞は脳の深部で細い血管が詰まることで起こるため、脂質異常症はその大きな原因のひとつとされています。 脂質値の管理は、食事の改善や適度な運動、必要に応じた薬物療法を継続しつつ、定期的な血液検査で異常を把握し、血管を守る意識が大切です。 ラクナ脳梗塞の治療法 治療法 内容・目的 補足・特徴 急性期治療 血栓溶解薬(t-PA)や脳浮腫抑制薬を使用 発症から数時間以内の対応が大切。早期治療で後遺症を軽減できる可能性あり 栄養療法 食事指導により高血圧・糖尿病・脂質異常症などを管理 管理栄養士の助言を受け、減塩・低脂質・低糖質の食事が基本 リハビリテーション 理学療法・作業療法・言語療法により機能回復と生活自立を支援 後遺症の程度に応じて段階的に実施。長期継続で改善が期待される 心理的サポート カウンセリング・精神的ケアで患者や家族の不安・抑うつを軽減 発症後の喪失感や意欲低下への対処。医療ソーシャルワーカーの支援も活用可 再生医療 幹細胞などを用いた脳組織の修復を目指す 保険適用外であり、対応できる医療機関が限られている ラクナ脳梗塞の治療は、発症直後の急性期と、その後の回復・再発予防に分けて行われます。 いずれの治療法においても大切なのは、自己判断を避け、医師の指導のもとで早期に適切な対応を行うことです。早期の対応が、後遺症の軽減や再発予防につながります。 急性期治療(発症直後) 治療法 目的 内容・特徴 血栓溶解療法(t-PA療法) 詰まった血管の再開通 発症から4.5時間以内にt-PAを点滴投与し、血栓を溶かす。出血リスクあり 抗血栓療法 血栓の拡大や新たな血栓の予防 抗血小板薬(例:アスピリン)を使用する。ラクナ脳梗塞では主にこの治療が中心 抗凝固療法 血液が固まるのを防ぎ、新たな血栓を抑制 ヘパリンやアルガトロバンを点滴で使用する。出血のリスクを考慮して選択 脳保護療法 脳神経細胞の損傷の進行を防ぐ エダラボンの点滴で酸化ストレスを抑制し、脳のダメージを軽減 脳浮腫軽減療法 脳の腫れ(浮腫)を軽減し、圧迫を防ぐ グリセオールやマニトールを点滴で投与し、余分な水分を排出して脳圧を下げる 発症直後の急性期には、脳へのダメージを最小限に抑えるため、できるだけ早く治療を始めることが大切です。 ラクナ脳梗塞は小さな血管の詰まりによって起こり、放置すると症状が進行する恐れがあります。治療で使用される主な薬剤は、血栓を溶かして血流を回復させる薬(t-PA療法)や、血栓の拡大や新たな血栓を防ぐ薬(抗血小板薬・抗凝固薬)などです。 また、脳の腫れや細胞の損傷を防ぐための点滴治療(脳保護療法・脳浮腫軽減療法)も行われるケースもあります。 早期発見と治療は後遺症を軽くする鍵です。異変を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。 以下の記事では、脳梗塞の治療方法について詳しく解説しています。 栄養療法 項目 内容 目的・効果 高血圧対策 減塩(1日6g未満を目安) 血圧の安定化・血管への負担軽減 糖尿病対策 糖質の摂取量と時間を調整 血糖値の安定化・血管障害の抑制 脂質異常症対策 飽和脂肪酸を控え、魚やナッツでオメガ3を摂取 LDLコレステロールの低下・動脈硬化予防 動脈硬化予防 抗酸化食品(野菜・果物・魚)を積極的に摂取 血管の酸化防止・血流維持 体重管理 カロリー制限とバランス食の実践 肥満・高血圧・糖尿病のリスク低下 総合的な栄養管理 医師・栄養士の指導で継続的に実施 再発予防と生活の質(QOL)の向上 ラクナ脳梗塞の回復や再発予防には、毎日の食事の見直しが大切です。減塩は高血圧予防に効果的であり、糖質や脂質の管理も血糖やコレステロールの安定に役立ちます。 加工食品や外食を控え、栄養バランスの取れた食事を心がけることが、脳を守る基本的な対策となります。 リハビリテーション 項目 内容 効果 注意点 機能回復の促進 麻痺や言語障害などの改善を目指す訓練(運動・発声・作業など) 神経の可塑性を引き出し、機能の再獲得を促進 焦らず継続することが重要。効果が見えるまでに時間がかかる場合あり 日常生活動作(ADL)の向上 食事・着替え・歩行などを自立して行えるように支援 生活の自立度が上がり、介護負担の軽減にもつながる 過剰な無理は禁物。身体機能に合わせて段階的に進める必要がある 合併症の予防 廃用症候群、誤嚥性肺炎、血栓などの予防 体を動かすことで二次的な健康リスクを回避 早期開始が理想だが、体調の安定を見ながら進める必要がある 生活の質(QOL)の向上 社会参加・趣味活動の再開を目指す 心の回復と意欲向上に効果。再発予防にも寄与 患者本人の希望を尊重し、無理のない範囲での目標設定が大切 ラクナ脳梗塞によって運動機能や認知機能に障害が出た場合、医師の指導のもと行うリハビリが症状の回復において大切です。作業療法や理学療法を通じて、日常生活に必要な動作を取り戻すことを目指していきます。 とくに歩行や手の動作に影響がある場合は、早期からの訓練が不可欠です。また、リハビリは、患者の状態や生活習慣に合わせて個別に計画し、医師の指示のもと無理のないペースで進めることが大切です。 関連記事:ラクナ梗塞の後遺症とは?リハビリ方法や再発リスク・再生医療について 心理的サポート 目的 内容 有効な理由 病気への不安や衝撃の緩和 発症のショックや再発への恐怖を軽減 医師との対話で感情を整理し、冷静に治療に向き合えるようになる 後遺症や身体の変化への適応 目に見えにくい症状への戸惑いや落ち込みに対処 残された機能を活かす工夫や前向きな姿勢を引き出す支援ができる 精神症状への対応(うつ・不安) 血管性うつ病など、精神的合併症に対応 精神面の安定によりリハビリ意欲や生活の質が向上する 再発への不安の管理 高い再発率に対する過度な不安を軽減 予防行動への前向きな継続を支える心理的土台をつくる (文献6) ラクナ脳梗塞は身体だけでなく心にも影響を及ぼし、再発への不安や思うように動けないことから、うつや意欲低下が生じやすくなります。 そのため、治療と並行して心理的サポートが不可欠です。心理士のカウンセリングや家族との対話、同じ経験を持つ人との交流は、前向きなリハビリ継続に役立ちます。心のケアは回復を支える大切な要素です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症において患者様の家族が注意したいポイントを詳しく解説しています。 再生医療 項目 内容 期待される効果 神経細胞の修復 患者自身の幹細胞を使い、損傷した神経細胞の再生を促す 運動機能・感覚機能の改善 神経保護・抗炎症作用 幹細胞が神経栄養因子を分泌し、神経の保護や炎症の抑制に働く 脳内環境の安定、再発リスクの低下 血管新生と血流改善 損傷した脳内の微細血管の再生を促進 脳への酸素・栄養供給の改善 再生医療は、ラクナ脳梗塞に対する新たな治療選択肢のひとつです。自己由来の幹細胞を用いて、損傷した神経組織の再生を促し、他の治療法と併用することで後遺症の改善が期待されます。 ただし、再生医療を実施している医療機関は限られており、保険の適用外である点に注意が必要です。治療を検討する際は、事前に医療機関の情報を確認し、医師への相談が大切です。 以下の記事では、リペアセルクリニックで実施している再生医療についてわかりやすく解説しております。 ラクナ脳梗塞の再発予防策 予防策 内容 補足・ポイント 生活習慣病の管理 高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を継続 医師の指示に基づく食事・運動・薬物療法が基本 糖尿病・脂質異常症の管理 血糖・コレステロール・中性脂肪の数値をコントロール 血管保護に直結し、再発リスクを軽減 適度な運動習慣 ウォーキングなど、有酸素運動を継続 無理のない範囲で実施 抗血小板薬などの内服薬の継続 抗血小板薬や抗凝固薬の服用を継続 自己判断で中止せず、処方通りに継続 ストレス管理 リラックス法や趣味の時間を意識的に取り入れる ストレスによる血圧上昇を防ぎ、心身の安定を図る 禁煙の徹底 タバコは血管を傷つけ、動脈硬化を悪化させる 禁煙は最も効果的な再発予防策のひとつ ラクナ脳梗塞は、一度発症すると再発のリスクが高くなる傾向があります。再発を防ぐには、原因となる生活習慣病の管理や、毎日の過ごし方の見直しが不可欠です。 再発は日常生活に支障をきたすだけでなく、発見が遅れると重症化するリスクもあります。 生活習慣病の徹底的な管理 管理項目 具体的な対策内容 期待される効果 血圧管理 家庭で血圧を定期測定し、医師の指示に従って降圧薬を服用する 血管への負担を減らし、動脈硬化や血管破綻のリスクを軽減 血糖管理 血糖値を定期的に測定し、食事・運動療法や必要な薬で安定した血糖コントロールを行う 血管内皮の損傷を防ぎ、細い血管の血流維持に役立つ 脂質管理 定期的な血液検査と食事管理、必要に応じて薬を使用して脂質バランスを整える 動脈硬化の進行を抑え、血管閉塞や血栓形成のリスクを軽減 禁煙 受動喫煙も含めてタバコを完全にやめる 血管の炎症や収縮を防ぎ、血液の流れを保つことで再発を予防 適正体重の維持 バランスの取れた食事と継続的な運動で肥満を防ぎ、標準体重を維持する 高血圧・糖尿病・脂質異常のリスクを下げ、血管の健康を守る 高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病は、ラクナ脳梗塞の主な原因となるため、再発を防ぐにはこれらの改善が欠かせません。 とくに血圧は家庭で簡単に測定できるため、日々の変化を記録しながら管理するのが大切です。あわせて、定期的な通院と検査を続けることで、早期発見・早期対応につながります。 以下の記事では、脳梗塞の予防・再発防止のために食べてはいけないものについて詳しく解説しております。 糖尿病・脂質異常症の管理 管理法 糖尿病に対する対策 脂質異常症に対する対策 食事療法 炭水化物の摂取量を調整し、野菜や海藻、きのこなど食物繊維を積極的に摂取する 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を控え、不飽和脂肪酸や食物繊維を多く取り入れる 運動療法 有酸素運動を週3~5回・30分程度行い、血糖値のコントロールを図る 同様の運動で中性脂肪の減少やHDLコレステロールの増加を目指す 薬物療法 血糖降下薬(例:メトホルミンなど)を医師の指示に従って使用する スタチン系やフィブラート系薬剤でLDLコレステロールや中性脂肪を管理する 糖尿病・脂質異常症は血管にダメージを与える病気であり、放置すれば再発の恐れがあります。血糖やコレステロールの数値は、食事や運動、薬の服用によってある程度コントロールできます。 とくに糖尿病では、インスリン抵抗性の改善や血糖値の安定化が不可欠です。脂質異常症に対しては、動物性脂肪の摂取を控え、青魚や野菜を中心とした食事が効果的です。 糖尿病・脂質異常症の管理は自己流ではなく、医師の指導のもと行い、生活習慣を整えることで、再発防止につながります。 適度な運動習慣の継続 効果の分類 具体的な内容 生活習慣病の改善 血圧を安定させ高血圧を予防、血糖値を改善し糖尿病リスクを低下、脂質バランスを整え動脈硬化を抑制 肥満の予防・改善 消費エネルギーを増やし、適正体重を維持する 血管機能の維持・改善 血管の柔軟性を保ち、血液循環を良好に保つ 血栓の予防 血液を固まりにくくし、血管の詰まりを予防 (文献7)(文献8) ラクナ脳梗塞の再発予防には、継続的な運動が効果的です。軽いウォーキングや体操など、無理のない範囲で体を動かすことで、血圧や血糖値の改善、脳血流の促進、さらにはストレスの軽減にもつながります。 運動は気分の安定にも寄与し、心身の健康を支える習慣です。公益財団法人長寿科学振興財団の指針では、歩行と同等以上の身体活動を1日60分以上(週あたり23メッツ・時以上)行うことが推奨されています。(文献7) 対象 目安となる活動量 運動の強度・内容 全年齢共通 歩行と同等以上の身体活動を毎日60分以上(週に23メッツ・時以上) 日常的な歩行、家事、軽作業などを含む 65歳以上 内容を問わず身体活動を毎日40分以上(週に10メッツ・時以上) 散歩、体操、趣味の活動なども可 年齢問わず 息が弾み、汗ばむ程度の運動を週60分以上(4メッツ・時以上) 速歩、軽いジョギング、エクササイズなど ※メッツ(METs):身体活動の強さを表す単位(安静時を1とした相対値)(文献7) 65歳以上では、活動の種類にかかわらず1日40分以上(週あたり10メッツ・時以上)が目安です。また、息が弾み汗ばむ程度の運動(速歩、軽いジョギングなど)は週に60分以上(4メッツ・時以上)を目指しましょう。運動は無理のない範囲で始め、医師の指導のもと進めていくことが大切です。 抗血小板薬などの内服継続 項目 内容 補足情報・代表的な薬剤 再発予防効果の実証 抗血小板薬は、ラクナ脳梗塞の再発を有意に抑制することが研究で示されている アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど 併用療法の効果 アスピリン+クロピドグレルなどの併用療法(DAPT)は、単剤より高い再発予防効果が期待される 適応は医師が判断(出血リスクとのバランスを考慮) 生活習慣病管理との相乗効果 高血圧・糖尿病・脂質異常症といったリスク因子の管理と併用で、再発予防効果がさらに向上 抗血小板薬+生活習慣改善の組み合わせが推奨される (文献9)(文献10)(文献11)(文献12) ラクナ脳梗塞の再発防止策として、抗血小板薬の継続服用は有力です。アスピリンやクロピドグレル、シロスタゾールなどは血栓の再形成を防ぎ、再発リスクを下げる効果が証明されています。(文献11) 場合によっては、医師の判断で2剤併用(DAPT)が行われるケースもありますが、副作用や出血のリスクもあるため、自己判断で中断せず、医師の指示に従うことが大切です。 高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理をあわせて行うことで、薬の効果はさらに高まります。飲み忘れ防止にはカレンダーやアプリの活用が効果的です。薬の継続は治療の一環であり、副作用が気になる場合は早めに医師や薬剤師に相談しましょう。服薬が、再発予防と健康維持につながります。 ストレス管理 ストレスを和らげる方法 内容 適度な運動 ウォーキングやストレッチなど、軽い運動で心身の緊張をほぐす効果 十分な睡眠 規則正しい生活リズムを維持し、質の高い睡眠を確保 リラクゼーション法 深呼吸・瞑想・マインドフルネスなどを活用し、リラックス状態を促す 趣味や交流 趣味に没頭する時間や、家族・友人との交流を楽しみ、気持ちを安定させる ストレスは血圧や血糖の変動を引き起こし、間接的に脳梗塞の再発リスクを高める要因です。自覚がないままストレスが蓄積していることもあります。そのため、日常生活のなかで心身をリラックスさせる時間を持つことが大切です。 深呼吸や軽いストレッチ、趣味の時間などを意識的に取り入れるとストレスが緩和されます。また、家族や医師と定期的なコミュニケーションで悩みを共有することも精神状態の安定に役立ちます。 禁煙の徹底 禁煙は、ラクナ脳梗塞の再発予防において非常に大切です。喫煙は血管を収縮させ、血圧を上げるだけでなく、血管内皮を傷つけて動脈硬化を促進させる要因です。 JPHC研究によると、喫煙者は非喫煙者よりラクナ梗塞の発症リスクが約1.5倍高く、1日40本以上の喫煙では2倍以上に上がることが判明しております。また、禁煙によって男性では約17%、女性では5%の脳卒中が予防できるとの推計もあります。これは年間で約16万人の患者を救える可能性を意味し、禁煙が予防においてどれほど重要かを示したものです。(文献13) JPHC研究データからもわかるとおり、禁煙は比較的早期に血管の状態に現れるとされ、再発予防にも直結します。 ラクナ脳梗塞でお悩みの方は当院へご相談ください ラクナ脳梗塞は、症状が軽くても将来的に認知機能や運動機能に影響を及ぼすおそれがあります。違和感があれば、早めに検査を受けることをおすすめします。 当院リペアセルクリニックでは、ラクナ脳梗塞による後遺症に対して、患者様の状態に合わせた治療を提案しています。 リハビリや薬物療法に加え、必要に応じて再生医療も選択肢のひとつとしてご利用になれます。ラクナ脳梗塞の後遺症が改善せず、お悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 ラクナ脳梗塞に関するよくある質問 ラクナ脳梗塞を放置するとどうなりますか? ラクナ脳梗塞は症状が軽く見過ごされがちですが、放置すれば、再発や認知症、言語・嚥下障害といった後遺症を招くリスクがあります。早期受診と治療、生活習慣の見直しが再発予防も大切です。 以下の記事では、「症状が軽い脳梗塞」における治療の重要性を詳しく解説しております。 ラクナ脳梗塞が重症化するとどうなりますか? ラクナ脳梗塞が重症化すると、手足の麻痺やしびれ、言葉の出にくさ、物忘れなどの症状が進行し、日常生活に支障をきたすことがあります。生活の質が大きく低下する恐れがあるため、早期の対処が重要です。 ラクナ脳梗塞の後遺症がある場合に利用できる公的支援制度はありますか? ラクナ脳梗塞の後遺症がある方は、公的支援制度を利用することで医療費や介護の負担を軽くできる可能性があります。医療費には高額療養費制度や自立支援医療、介護には介護保険制度や障害者総合支援法があります。 身体障害者手帳や障害年金による支援も受けられます。詳しくは市区町村や医療機関で相談できます。 ラクナ脳梗塞の後遺症改善については、以下の記事で詳しく解説しています。公的支援制度を活用しながら、前向きに回復を目指しましょう。 参考記事 (文献1) 社会福祉法人 恩賜財団済生会「ラクナ梗塞」社会福祉法人 恩賜財団済生会, 2015年12月25日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/lacunar_infarction/(最終アクセス:2025年5月17日) (文献2) 甲斐 久史.「脳血管障害・心疾患を合併した 高血圧治療のポイント」『日本内科学会雑誌』104巻2(号), pp.1-8, https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/2/104_232/_pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献3) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」, pp.1-180, 2023年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf (最終アクセス:2025年5月17日) (文献4) 冨山 博史.「加齢と血管:血管の老化に向き合う」『東京医科大学病院』, pp.1-2, 2019年 https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/info/data/lecture_134.pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献5) JIHS「糖尿病の慢性合併症について知っておきましょう」国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター, 2015年10月27日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/020/02.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献6) 「地域のかかりつけ医のための心不全診療ガイドブック」『沖縄県・沖縄県医師会』, pp.1-42 https://www.okinawa.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/03-%E8%B3%87%E6%96%993%EF%BC%9A%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%A4%E3%81%91%E5%8C%BB%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E5%BF%83%E4%B8%8D%E5%85%A8%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF.pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献7) 公益財団法人長寿科学振興財団「生活習慣病予防に効果的な運動習慣」健康長寿ネット,2016年7月25日 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka-yobou/undou-shukan.html(最終アクセス:2025年5月17日) (文献8) 松元 秀次.「脳梗塞のリハビリテーション治療」, pp.1-9, 2019年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/15/4/15_201/_pdf(最終アクセス:2025年5月17日) (文献9) 「Ⅱ.脳梗塞・TIA」, pp.1-83 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_02.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献10) 内山真一郎.「脳血管障害と抗血栓療法」『21シリーズ特集Dr.内山.indd 3』, pp.1-5, 2008年 https://www.jsth.org/publications/pdf/tokusyu/19_1.003.2008.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献11) 国立循環器病研究センター「脳梗塞再発予防抗血小板薬併用療法の適切な切替時期を提案:国内多施設共同 CSPS.com試験サブ解析」国立循環器病研究センター, 2022年01月27日 https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31291/(最終アクセス:2025年5月17日) (文献12) 岩戸 英仁.「脳梗塞再発予防のための治療」, pp.1-24 https://www.onomichi-hospital.jp/upload/open-c/1438751314.pdf?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日) (文献13) 予防研究グループ(予防研究部・疫学研究部・コホート研究部)「多目的コホート研究(JPHC Study) 男女別、喫煙と脳卒中病型別発症との関係について」国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/267.html?utm_source=chatgpt.com(最終アクセス:2025年5月17日)
2025.05.30 -
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 頭部
「小脳梗塞と診断されたが、どんな後遺症が出るのか気になる」 「小脳梗塞の後遺症の治療法を知りたい」 小脳梗塞の後遺症に不安を抱えていませんか。小脳は体のバランスや動きを調整する役割を担っており、発症後はふらつきや手足の震えといった症状が現れるケースがあります。ただし、適切な治療によって後遺症が改善する可能性もあります。 小脳梗塞で起こりうる後遺症 小脳梗塞の後遺症の治る見込みと予後 小脳梗塞における後遺症の治療法 記事の最後には、小脳梗塞の後遺症に関するよくある質問をまとめておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 小脳梗塞で起こりうる後遺症一覧 後遺症の種類 主な症状 日常生活への影響 平衡障害 ふらつき、めまい、酔ったような歩行 階段昇降や人混みでの歩行困難、転倒リスク増加 構音障害 ろれつが回らない、発話の不明瞭さ 会話の不便さによるストレスや社会的孤立 運動失調・協調運動障害 手足や体幹の動作不良、ぎこちなさ 細かい作業や移動動作の困難、生活動作の支障 嚥下障害 飲み込みの難しさ、むせやすさ 誤嚥や栄養摂取の困難、食事内容の制限 目の動きの異常 眼振、複視(物が二重に見える) 視界の不安定による読書・作業の困難 頭痛や吐き気の持続 慢性的な頭痛、吐き気 集中力低下、日常生活の質の低下 小脳梗塞では、体のバランスを取る、スムーズに動かすといった小脳の機能が障害されることで、さまざまな後遺症が現れることがあります。後遺症の現れ方は個人差が大きく、症状の程度や組み合わせもさまざまです。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 平衡障害 症状の部類 具体的な症状 生活への影響 ふらつき・不安定感 まっすぐ立つ・歩くのが困難。左右や前後に体が揺れる感覚 移動や姿勢保持の困難 めまい 回転性や浮動性のめまい。耳の病気とは異なる出方 視覚の不快感や動作時の不安定感 歩行困難 歩幅の不安定さや開脚歩行。転倒リスクの増加 外出や移動の制限、転倒の恐れ 体幹失調 座位や立位での体幹の揺れや傾き 座っているだけでも不安定さを感じる 眼振(がんしん) 眼球が意図せず揺れ動く症状 視線の定まりにくさによる集中困難 協調運動障害 手足の動きのぎこちなさや目的部位への動作困難 日常動作のぎこちなさによる生活の不便 小脳は姿勢やバランスを保つ役割があり、障害されると平衡感覚が乱れ、まっすぐ歩けない・立っていられないといった症状が特徴です。 ふらつきや転倒のリスクが高まり、移動や入浴などの日常動作に支障をきたすこともあります。また、階段の上り下りや、人混みの中を歩くことが困難になる場合も少なくありません。症状の改善には、リハビリによる反復練習の継続が大切です。 構音障害 項目 内容 発症の原因 発話に関わる筋肉の動きを調整する小脳の機能障害 機能の役割 発音のタイミング・強さ・協調を整える中枢としての調整機能 症状の分類 運動失調性構音障害 呂律の障害 明瞭な発音の困難、言葉の不鮮明さ 発音の不明瞭さ 音の歪みや曖昧さによる聞き取りづらさ 音節の分断 単語や音が途切れ途切れになり、滑らかな会話が困難になる現象(断綴性言語) 声の震え 声の不安定さや震えによる発声の違和感 話す速度の変化 話し方の異常な遅さや急な加速によるリズムの乱れ 呼吸との協調困難 発声と呼吸のタイミング不一致による会話のしづらさ 生活への影響 意図の伝達困難、対人コミュニケーションの不安やストレスの増加 (文献1) 構音障害とは、言葉の発音が不明瞭になる症状です。小脳が障害されると舌や口の動きがうまく調整できず、ろれつが回らない、息が続かないといった話しづらさが現れます。 聴力には問題がないため、周囲の理解が必要です。また、構音障害は言語聴覚療法で改善が期待できます。 運動失調・協調運動障害 症状の分類 主な症状・特徴 解説 酩酊様歩行 千鳥足のような不安定な歩行 直進困難・ふらつきによる転倒リスクの増加 失調性歩行 足の動きの不規則さや開脚歩行 歩幅の変動によるバランス喪失 体幹失調 座位や立位での不安定さ 体幹バランスの低下による転倒傾向 測定異常(ジスメトリア) 手足が目標に届かない、あるいは通り過ぎる 物を取る動作の正確性の低下 運動分解 一連の動きが滑らかでなく、分割されたぎこちない動きになる 筋肉の協調動作の不良による動作のぎこちなさ 変換運動障害 手のひらと甲を交互に返すなどの動きがスムーズにできない 動きの切り替えの困難さ 企図振戦 手を伸ばすなど目的動作時に出現する震え 静止時には見られず、動作開始時に明瞭になる振戦 構音障害 呂律の回りにくさ、言葉の不明瞭さ、単語が途切れる断綴性言語など 発話に必要な筋肉の協調運動の障害 眼球運動障害 眼振(リズミカルな不随意眼球運動) 視線の安定性の喪失による目の揺れ (文献2)(文献3) 運動失調・協調運動障害は、手足や体幹の動きがぎこちなくなる、思うように手足を動かせなくなるといった症状が現れます。筋力は保たれていても、思いどおりに手足が動かせず、日常生活に大きな支障をきたします。 これらの症状に対しては、理学療法による筋力やバランス感覚の訓練、作業療法による日常動作の練習などが効果的であり、継続的なリハビリによって徐々に改善が期待できます。 嚥下障害 症状の分類 内容 飲み込みにくさ 飲食物を塊にまとめる動作や、のどへの送り込みの困難 むせ・せき込み 飲食中のむせや強いせき込み。とくに水分での頻発 湿った声・ガラガラ声 咽頭残留による声の湿りや濁り 食事の遅延 飲み込みの困難による食事時間の長期化 のどのつかえ感 飲食物がのどに引っかかるような不快感 体重減少 十分な栄養・水分摂取の困難による体重の低下 誤嚥性肺炎 誤嚥によって引き起こされる肺炎の発症リスク増加 嚥下障害は、食べ物や飲み物をスムーズに飲み込めなくなる症状です。むせやすくなったり、食事中に咳き込んだりすることが増えます。食事が楽しめなくなるだけでなく、重症化すると誤嚥性肺炎を引き起こすリスクもあるため、注意が必要です。 嚥下障害を改善するためには、食事の形態を工夫するとともに、医師の指示に従いながらリハビリテーションに取り組むことが重要です。 目の動きの異常 症状の部類 内容 眼振(がんしん) 眼球がリズミカル(不随意)に揺れ動く現象。視線の方向によって強まる(方向性眼振)の場合あり 協調運動障害に伴う眼球異常 動く物を追う動作や、視線を目標から目標へ素早く移す動作の障害 視線固定困難 見たい対象に視線を安定して向け続けることの困難 複視(ふくし) 両目の動きの不一致によって物が二重に見える状態 めまい・ふらつきに伴う眼球異常 平衡感覚の障害に伴って起こる反射的な眼球運動の異常 日常生活への影響 視覚の安定性の低下による読書や歩行、運転などに支障が出る 小脳は眼球の動きの調整にも関与しているため、視線がスムーズに移動しない、焦点が合いにくいといった症状が出やすくなります。視界が揺れる、まっすぐ見続けることが難しくなり、不快感やめまいを伴う可能性があります。 視覚の異常は平衡感覚にも影響するため、ふらつきや吐き気と複合的に現れることもあり、日常生活に影響を及ぼすため、注意が必要です。視界の異常が続く場合は、歩行中の転倒や事故を防ぐためにも、早めに医師へ相談しましょう。 頭痛や吐き気などの持続 分類 内容 原因 脳圧上昇、脳幹刺激、平衡感覚障害、炎症や神経過敏による頭痛・吐き気の誘発 頭痛の症状 締め付け感、拍動痛、重だるさ。後頭部や首の違和感。体位変化や咳で悪化 吐き気の症状 食事と無関係な持続的吐き気。嘔吐や乗り物酔いに似た不快感を伴う 生活への影響 読書・外出・睡眠・食事への支障。他の神経症状との併発による日常生活の負担増加 小脳梗塞の直後には、頭痛や吐き気といった症状が続くことがあります。脳内の圧力変化や血流障害に関連する反応と考えられており、これらの症状は、通常時間の経過とともに軽快しますが、なかには慢性的な違和感として残るケースもあります。 症状が長引く場合は、自己判断での無理は禁物です。重症化する前に医療機関を受診しましょう。 小脳梗塞の後遺症の治る見込みと予後 後遺症の種類 回復の見込み 影響する要因 平衡障害(歩行時のふらつき) リハビリによる改善可能。ただし慢性化の恐れあり 損傷部位の広さ、年齢、早期リハビリ開始 協調運動障害(四肢の動作のぎこちなさ) 手足の機能回復は可能。細かい動作の障害が残ることあり リハビリ継続の有無、身体機能の基礎体力 構音障害(ろれつの不明瞭さ) 発話の明瞭さ向上。流暢さの完全回復は難しい場合あり 言語療法の有無、脳の損傷範囲、発症前の会話能力 嚥下障害(飲み込みにくさ) 食事調整と訓練で改善可能。誤嚥予防が重要 医師の指導有無、嚥下筋の損傷度、誤嚥性肺炎の有無 高次脳機能障害(記憶力・注意力) 回復に個人差あり。支援環境で生活の自立維持が可能 年齢、合併症の有無、家族や社会的支援の体制 小脳梗塞の後遺症は、適切なリハビリと時間の経過によって改善が期待できます。とくに発症から3カ月ほどは、神経や身体機能が大きく回復する重要な時期とされています。 実際にデンマークで行われた急性期の脳卒中患者、合計1,197人を対象とした、大規模な研究では、脳卒中患者の約95%が発症後12.5週間以内に機能回復のピークを迎えており、とくに最初の6週間で最も大きな改善が見られました。(文献4) 項目 回復期間 全体傾向(全患者の95%) 約12.5週間(約3カ月)以内 早期回復(全体の80%) 約6週間(約1カ月半)以内 軽症の患者 約8.5週間(約2カ月)以内 中等度の患者 約13週間(約3カ月)以内 重症の患者 約17週間(約4カ月)以内 非常に重症の患者 約20週間(約5カ月)以内 (文献4) 回復の速度は発症時の重症度に大きく左右され、軽度な場合は2カ月前後、重度では4〜5カ月で回復が頭打ちになる傾向があると報告されています。 この結果からも、早期からの集中的なリハビリが重要であり、予後の見通しを立てる上でも発症から3カ月以内の経過がひとつの指標です。 以下の記事では、脳梗塞の後遺症について詳しく解説しています。 【関連記事】 BAD(脳梗塞)とは?症状や予後・他のタイプとの違いも解説 脳梗塞の合併症には何がある?起こる原因や対処法を現役医師が解説 小脳梗塞における後遺症の治療法 治療法 目的 主な内容 理学療法 歩行能力・筋力・バランス感覚の回復 歩行訓練、バランス訓練、筋力トレーニング 作業療法 日常生活動作の自立支援 食事・着替え・入浴などの練習。装具や自助具の活用方法の指導 言語聴覚療法 構音障害・嚥下障害への対応 発音訓練、嚥下訓練、コミュニケーション・食事改善の支援 薬物療法 めまい・頭痛・吐き気の緩和、再発予防 症状緩和薬、抗血栓薬や降圧薬などの内服管理 精神的ケア・カウンセリング 不安・抑うつなど精神的負担の軽減 心理士や医師による相談支援。前向きな気持ちでのリハビリへの誘導 小脳梗塞に伴う後遺症の治療は、多角的なリハビリと必要に応じた薬物療法を組み合わせて行われます。症状ごとに理学療法、作業療法、言語聴覚療法を用い、それぞれの機能回復を目指します。 治療を進める際は、必ず医師と方針を相談した上で、自己流ではなく医師の指導に基づいて継続的に取り組むことが大切です。 以下の記事では、脳梗塞のリハビリ方法について詳しく解説しています。 理学療法 理学療法の目的 内容 バランス機能の再獲得 平衡感覚や姿勢制御の改善。立位保持や歩行訓練による体幹・下肢の安定性の向上 転倒リスクの軽減 段差歩行やバランスマット、重心移動訓練による転倒予防の強化 協調運動の再学習 運動失調に対する視覚・触覚フィードバックを用いた動作精度の改善 日常生活動作(ADL)の向上 立ち上がり・着替え・歩行などの自立度向上。生活の質(QOL)の改善 (文献5) 理学療法は、立つ・歩く・バランスを保つといった基本的な身体機能を改善させるために行われる訓練です。平衡感覚の改善やふらつきの軽減、姿勢や歩行の練習が中心になります。 発症直後から始めることで回復の可能性が高まり、筋力や柔軟性の維持にもつながります。理学療法を行う場合、自己判断で行うのではなく、医師の指導のもと実施するようにしましょう。 作業療法 アプローチ分類 訓練内容 目的・特徴 ADL訓練(基本動作) 食事・着替え・排泄・入浴などの日常動作の練習 自立支援と生活の質(QOL)の向上 上肢機能訓練 手指の巧緻動作、物の把持・離脱練習、両手での動作練習 動作の正確性と日常動作能力の改善 バランス・体幹訓練 座位・立位でのバランス練習、体幹安定のための体操やストレッチ 姿勢保持力と転倒予防の強化 高次脳機能訓練 注意力、遂行機能、記憶力の訓練 認知機能の改善と日常生活への応用力の向上 趣味・レクリエーション活動 手芸、園芸、音楽、ゲームなどの活動 心のリフレッシュと動作応用の練習 応用生活訓練 家事動作訓練(掃除・洗濯・料理)、外出訓練(買い物・交通機関利用など) 実生活への復帰と社会参加に必要なスキルの習得 作業療法は、小脳梗塞の後遺症によって難しくなった着替えや食事、掃除などの日常動作を取り戻し、円滑に行えるよう支援するリハビリです。 小脳障害による運動失調や手先の不器用さには、協調運動の練習や動作の工夫で対応し、注意力や段取りの難しさなどの認知面は、実践的な作業を通じて改善を目指します。作業療法は、生活背景に合わせた支援で自立を促すリハビリです。 言語聴覚療法 対象領域 主な訓練内容 目的・特徴 構音障害の訓練 発音練習、呼吸訓練、口舌機能訓練、話すスピードの調整 発話の明瞭さと滑らかさの向上 嚥下障害の訓練 嚥下体操、姿勢調整、食物形態の調整、摂食訓練、間接訓練 食事動作と誤嚥予防の徹底 言語機能の訓練 話す練習、聞く練習、読む・書く練習、代替コミュニケーション手段(文字盤・ノートなど)の活用練習 表現力と理解力の向上、伝達手段の確保 高次脳機能の訓練 注意・記憶障害への対応、メモや環境調整などの代償手段の指導 コミュニケーション機能と日常生活適応力の改善 家庭・家族支援 自主訓練の方法、介助方法、日常会話での工夫の指導 家庭内でのリハビリ促進と家族のサポート力の向上 小脳梗塞による構音障害や嚥下障害がある場合は、言語聴覚士によるリハビリが必要です。発音の明瞭化や話すスピードの調整、誤嚥を防ぐための嚥下訓練などを通じて、日常生活の質の向上を目指します。 また、会話がしづらくなることで生じる孤立感や不安に対しても、言語聴覚士や周りの適切な支援が不可欠です。言語聴覚療法では、発話や飲み込みだけでなく、文字盤などを活用した代替手段の訓練や、家族への指導も行われます。 薬物療法 治療の目的 内容 主な薬剤例 再発予防 血栓形成の抑制による脳梗塞の再発防止 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)抗凝固薬(DOAC、ワルファリン) 動脈硬化・高血圧の進行抑制 高血圧・脂質異常・糖尿病の管理による血管障害の予防 降圧薬(ARB、Ca拮抗薬など)脂質異常治療薬(スタチンなど) 神経保護・浮腫軽減 脳浮腫や炎症の抑制による脳への圧迫軽減と回復促進 利尿薬・血管拡張薬(グリセオール、マンニトールなど) (文献6)(文献7) 小脳梗塞の後遺症には、再発予防や症状の緩和を目的とした薬物療法が行われます。抗血小板薬や抗凝固薬で血栓を防ぐほか、高血圧や高脂血症の管理も大切です。脳浮腫や炎症を抑える薬が使われることもあり、神経の保護や回復促進につながります。 頭痛や吐き気が強い場合には対症療法も行われます。薬の服用は医師の指示に従い、自己判断で中止や調整をしないことが大切です。 精神的ケアやカウンセリングを活用する 項目 内容 目的・効果 精神的ストレスの軽減 不安や抑うつの言語化、心理的受容のサポート 感情と整理と心の安定 リハビリ意欲の向上 前向きな気持ちの再構築、回復へのエンゲージメント支援 継続的なリハビリ参加の促進 家族の心理的サポート 介護疲れの予防、ストレス対処法の共有 家族の心身負担の軽減と対応力の強化 情緒変化への対応 涙もろさ、怒りっぽさ、感情爆発への理解と対処支援 高次脳機能障害への適応と生活の安定 小脳障害に伴う感情コントロールの不安定さ 本人・家族の戸惑いへの対応、変化への気づきと受容 社会的孤立や自己否定感の軽減、家庭内の理解の促進 (文献6)(文献8) 小脳梗塞の後遺症は、ふらつきや話しにくさ、体の動かしにくさだけでなく、心にも影響を及ぼすケースがあります。とくに若い方や元気に活動している方ほど、思うように動けなくなり、落ち込みや不安を感じやすくなります。 後遺症による不安や気持ちの整理が難しいと感じたときは、心理士や医師によるカウンセリングや認知行動療法などの心のケアが欠かせません。感情の変化があっても、適切な支援を受けることで、前向きに治療を続けることができます。 小脳梗塞の後遺症でお悩みなら再生医療もご検討ください 小脳梗塞の後遺症には長期的な治療が大切ですが、リハビリで十分な改善が見られない場合、再生医療も選択肢に入ります。 再生医療では、幹細胞を用いて神経機能の再生を促す治療が行われており、小脳の障害に対してもその研究が進められています。 小脳梗塞の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。また、電話相談も実施しております。 小脳梗塞の後遺症に関するよくある質問 小脳梗塞の後遺症で性格が変わることはありますか? 小脳は感情や性格を直接コントロールする部位ではありませんが、後遺症による不自由さや孤立から、気分の落ち込みや怒りっぽさが見られるケースがあります。 性格が変わったように見える場合も、環境や心理的影響が要因となることがあります。心のケアや家族の理解が大切です。 小脳梗塞の後遺症に対して慣れることはありますか? 小脳梗塞の後遺症が改善しない場合もありますが、少しずつ体と心が適応していくことがあります。 早く慣れようとすると、かえって精神的に負担になることがあります。焦らずに少しずつ適応していくことが大切です。 小脳梗塞の後遺症で介護が必要になったとき利用できる支援制度と申請方法は? 小脳梗塞の後遺症で介護が必要になった場合、公的支援制度として以下の制度が利用できる可能性があります。 介護保険制度 身体障害者手帳 障害年金 介護保険では訪問介護やデイサービス、施設入所などの支援を受けることができ、身体障害者手帳や障害年金は、麻痺や言語障害などの後遺症が一定基準を満たす場合に申請が可能です。 手続きは市区町村の窓口で行い、医師の診断書が必要となることが一般的です。 参考記事 (文献1) 生井友紀子.「小脳と構音障害」, pp.1-4, 2012年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052110997.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献2) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「協調運動障害」MSD マニュアル 家庭版, 2024年2月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%8D%94%E8%AA%BF%E9%81%8B%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3(最終アクセス:2025年5月15日) (文献3) 「事業場における治療と職業生活の両立支援のための ガイドライン 参考資料 脳卒中に関する留意事項」, pp.1-7 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000153518.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献4) NLMNIH(アメリカ国立衛生研究所)保健福祉省USA.gov「Outcome and time course of recovery in stroke. Part II: Time course of recovery. The Copenhagen Stroke Study」PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7741609/(最終アクセス:2025年5月15日) (文献5) 「Ⅶ.リハビリテーション」, pp.1-70 https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_07.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献6) 小笠原邦昭ほか.「脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂2023〕」, pp.1-180, 2023年 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf(最終アクセス:2025年5月15日) (文献7) Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA「脳卒中の概要」MSD マニュアル 家庭版, 2023年6月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD/%E8%84%B3%E5%8D%92%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(最終アクセス:2025年5月15日) (文献8) 佐伯覚「脳卒中の 治療と仕事の両立 お役立ちノート」, pp.1-76, 2020年11月19日 https://www.mhlw.go.jp/content/000750637.pdf(最終アクセス:2025年5月15日)
2025.05.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「脳膿瘍の手術で後遺症が出るかもしれない」 「脳膿瘍の術後のリハビリで後遺症を改善したい」 脳膿瘍の手術に対して、不安や戸惑いを抱えている方は少なくありません。脳膿瘍の手術は症状の改善が見込まれる一方で、後遺症が生じるリスクもあります。 本記事では、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症について解説します。記事の最後には、脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますのでぜひ最後までご覧ください。 脳膿瘍の手術で期待される効果 症状の軽減 圧迫による視野障害・麻痺・けいれん発作などの症状の改善 神経機能の回復 脳機能の回復や維持を目指す 病状進行の抑制 膿瘍の切除により再発や悪化のリスク軽減 将来的な機能障害の予防 適切な時期の手術が機能障害の発症を防ぐことにつながる (文献1) 脳膿瘍の手術は、脳内に膿がたまり圧迫で生じる頭痛や麻痺、意識障害などの症状を軽減するために実施されます。 膿瘍を外科的に取り除くことで、神経への負担が減り、症状の改善や回復が期待できます。また、膿を取り除くことで抗菌薬が患部に届きやすくなり、感染の再発や重症化を防ぐ効果も高まります。適切なタイミングで治療を行い、将来的な後遺症の予防も視野に入れることが大切です。 脳膿瘍の手術内容 項目 内容 膿瘍の摘出による症状の改善 膿の除去や感染源の除去 頭蓋内圧の正常化 頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害の改善 神経症状の改善 しびれ・運動障害・視覚や聴覚の異常の軽減 抗菌薬治療の効果を高める 膿瘍の縮小による薬剤効果向上 生活の質の向上 歩行や会話のしやすさ、社会復帰やコミュニケーションの円滑化 脳膿瘍の手術は、患者の全身状態や膿瘍の大きさ・部位を総合的に判断したうえで実施されます。 膿瘍の摘出による症状の改善 項目 内容 膿の除去 膿瘍によって生じる脳圧の上昇や周囲組織の圧迫が軽減される 頭痛や意識障害の改善 圧迫による神経症状(頭痛、吐き気、意識障害など)が軽減される可能性がある 神経機能の回復 膿瘍の位置によっては、言語障害や麻痺といった症状が手術後に改善する場合もある 感染源の除去 抗菌薬が届きやすくなり、全身状態の改善が促される (文献1) 脳膿瘍の手術では、膿を取り除くことで頭痛や吐き気、意識障害、手足の麻痺などの症状が改善することがあります。 膿の除去で脳の圧迫が和らぎ、抗菌薬が届きやすくなるため、全身の回復にもつながります。このような理由から、膿の除去は治療の重要な基盤です。 頭蓋内圧の正常化 項目 内容 頭蓋内圧が上がる原因 膿瘍の圧迫、脳の腫れ、脳脊髄液の流れの障害、出血によるスペースの圧迫 上昇による症状 頭痛、吐き気、意識障害、視覚異常、脈の乱れ、高血圧 手術による改善効果 膿瘍や出血の除去、脳の腫れの軽減、脳脊髄液の流れの回復 期待される結果 頭蓋内圧の正常化による症状の改善と脳機能の安定化 脳膿瘍が進行すると、膿の塊が脳を圧迫し、頭痛・吐き気・視覚異常・意識障害などの症状が起こるのが特徴です。 とくに、脳の腫れ(浮腫)や炎症により頭蓋内圧が上昇すると、命に関わるリスクも高まります。手術で膿瘍を除去し、脳の圧迫が軽減し、頭蓋内圧が正常に近づくことが期待されており、症状の改善と脳機能の安定化が見込まれます。 神経症状の改善 項目 内容 圧迫の解除 膿瘍による脳組織や神経への圧力の除去 脳脊髄液の流れの改善 膿瘍が脳脊髄液の通過路を圧迫している場合、摘出によりCSFの流れが正常化するケースがある 機能障害の原因除去 炎症や浮腫により障害されていた神経伝達機能の回復が期待される 薬剤効果の向上 抗菌薬治療の効果向上による間接的な症状の改善 改善が期待される主な症状 麻痺、感覚障害、言語障害、視力障害、頭痛、てんかんなど 膿瘍の場所や大きさによっては、運動麻痺や感覚障害、言語障害など、さまざまな神経症状が現れます。手術で膿瘍摘出を行うことで、運動麻痺などの症状が軽快する可能性があります。 ただし、神経細胞は一度損傷を受けると回復が難しい場合もあるため、早期の治療が大切です。 抗菌薬治療の効果を高める 要因 解説 膿瘍の除去 感染源である膿を取り除くことで、残った病巣に薬が届きやすくなる 脳圧の軽減 圧迫が減ると周囲組織の血流が改善し、薬剤が浸透しやすくなる 酸素環境の改善 酸素が届きやすくなることで、薬の効果が発揮されやすくなる (文献1)(文献2) 脳膿瘍では、抗菌薬による治療が実施されますが、膿が厚い膜に包まれているため、薬が届きにくいことがあります。手術で膿を取り除くと、薬が患部に届きやすくなり、治療効果の向上が望めます。そのため、手術は薬の効果を引き出す大切な治療法です。 生活の質の向上 項目 内容 症状の軽減・消失 頭痛・吐き気・麻痺・視力障害などの不快な症状の緩和 自立性の向上 着替え・移動・会話など日常動作の回復 精神的な安定 不安やストレスの軽減、前向きな気持ちの回復 社会生活への復帰 仕事や学校、家族・友人との交流の再開 将来への希望 手術を通じた治療効果の向上による予後改善への期待 注意点 QOLの感じ方には個人差があり、手術の効果にもばらつきがあるため注意が必要 膿瘍による症状が軽減されることで、日常生活における動作や思考の自由度が広がり、生活の質(QOL)が改善する可能性があります。 頭痛や麻痺などの症状がある程度改善されることで、家事や通勤に対する不安が軽減され、日常生活への自信が戻ってきます。その結果、社会復帰への意欲も高まりやすくなるでしょう。生活の質の向上は、身体機能だけでなく精神的な安定にもつながるため、術後の目標の一つといえます。 脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症 運動麻痺 手足の動かしにくさや筋力低下、歩行困難 感覚障害 手足のしびれや触覚の鈍さ、感覚の違和感 言語障害 言葉が出にくい、話すスピードの低下、語彙の思い出しづらさ 高次脳機能障害 記憶力・注意力・判断力の低下、段取りの悪さ、集中困難 てんかん 手術部位周囲の瘢痕や炎症によって、けいれん発作が新たに起きたり、術前にあった発作が再発したりする可能性がある 頭痛 圧力変化や術後の影響による一時的または慢性的な頭痛 脳膿瘍の手術は、症状の改善が期待される一方で、運動麻痺や感覚障害などの後遺症が出る可能性があります。以下で、脳膿瘍の手術で起こりうる後遺症を詳しく解説していきます。 運動麻痺 原因 内容 膿瘍の圧迫の影響 手術前に神経が長期間押しつぶされていたことによる機能の低下 手術操作による刺激や損傷 膿瘍除去時の操作による神経線維への負担 血管の損傷や血流の障害 手術中の出血や血流の一時的な停止による神経の栄養不足 術後の脳のむくみ(浮腫) 炎症によって運動に関わる部位が一時的に腫れることによる圧迫 神経線維の切断や妨害 手術時に神経の通り道が遮られたことによる指令の伝達障害 (文献3) 脳膿瘍が運動を司る脳領域に及ぶと、手足の動かしにくさや筋力低下といった運動麻痺が起こることがあります。この状態は、膿瘍の圧迫による神経機能の低下、手術時の操作による刺激、血流障害や脳の腫れ(浮腫)などが原因です。 また、術後に神経伝達経路が一時的に遮られることで、麻痺が現れるケースもあります。症状の程度には個人差があり、軽度であればリハビリにより改善が期待できるものの、重度の場合は回復に時間を要するケースもあります。 感覚障害 項目 内容 膿瘍の位置と手術操作 感覚をつかさどる脳の部位や神経経路への影響 術中・術後の脳の変化 血流の変化、腫れ、炎症による一時的または永続的な障害 術前からの神経圧迫 膿瘍による慢性的な圧迫や損傷の影響が持続し、血流の変化や脳が腫れる、炎症による一時的または永続的な障害 起こりうる感覚障害の例 触れた感覚の鈍さ、違和感や温度の異常な感じ方、しびれ、自身で感じる手足の位置感低下 (文献3) 脳膿瘍が感覚を司る脳の領域に及ぶと、手足のしびれや感覚の鈍さ、温度の感じ方の異常、位置感覚の低下などが現れることがあります。 膿瘍の圧迫や炎症、または手術操作の影響で神経が傷ついたり、血流が一時的に障害されたりするためです。膿瘍による感覚障害は術後にも残ることがありますが、リハビリや時間経過で改善する可能性もあります。 言語障害 項目 内容 手術による直接的な影響 言語をつかさどる脳の領域が手術中に傷つく可能性 手術による間接的な影響 脳の腫れ・血流の変化・脳圧の上昇による言語機能への影響 運動性失語 言葉が出にくくなり、話す速度が遅くなる状態 感覚性失語 話はできても意味が通じず、相手の言葉も理解しづらくなる状態 全失語 話す・聞く・読む・書く能力が全体的に障害される状態 健忘性失語 人や物の名前が思い出せなくなる状態 構音障害 舌や口の動きがうまくいかず、発音が不明瞭になる状態 嚥下障害(関連症状) 飲み込みが難しくなる障害(発声や会話と同じ筋肉の影響) (文献4) 脳膿瘍の手術後に言語障害を訴える方が一定数見られます。これは、脳膿瘍が言語中枢に近い場合や、手術による刺激・腫れ・血流の変化が原因と考えられます。また、日常会話に支障が出ると大きなストレス、周囲とのコミュニケーションが難しくなることがあります。 手術後にこうした言語障害が現れた場合には、言語聴覚士によるリハビリが有効です。症状の程度は人によって異なるため、焦らず少しずつ会話ができるように努めていくことが大切です。 高次脳機能障害 原因 内容 脳組織の損傷 記憶・判断・言語などを担う脳の部位への直接的な影響 血流の障害 手術中の血管損傷や血流不足による脳細胞のダメージ 圧力変化や脳の腫れ 術後の脳圧上昇や脳浮腫による周囲組織への機能障害 術後の合併症 感染症・出血などによる追加の脳ダメージ 神経ネットワークの損傷 複数の脳領域をつなぐ神経回路の分断による連携機能の低下 高次脳機能障害とは、記憶力・注意力・判断力などの認知機能が低下する状態を指します。脳膿瘍が記憶や判断などをつかさどる領域に及ぶ場合、術後に高次脳機能障害がみられることがあります。症状に対して、本人が気づきにくいこともあるのが特徴です。 症状は軽度から中等度まで幅広く、日常生活や仕事に支障をきたす場合もあります。神経心理リハビリなどで認知機能の回復を促す取り組みを実践し、医師だけでなく、家族や周囲の理解や支援が改善の手助けになります。 てんかん 項目 内容 脳組織への手術の影響 神経細胞の不安定化や過剰な電気活動の誘発 術後の瘢痕形成 傷跡による電気信号の異常伝播 化学物質のバランス変化 興奮性や抑制性の神経伝達物質の乱れ 残存するてんかんの焦点 手術前にあったてんかんの原因部位の持続的な活動 術後の合併症 出血や感染による新たな脳ダメージ 脳膿瘍の手術後は、膿瘍周囲の脳組織がダメージを受け、けいれん発作が生じやすくなるのが特徴です。 とくに、術後1週間以降に起こる晩期発作は、てんかんと診断される場合があります。膿瘍が存在していた部位の神経細胞が興奮しやすくなるリスクがあり、傷跡(瘢痕)や血流障害、神経伝達物質のアンバランスが発作の引き金となるケースもあります。抗てんかん薬による予防や生活環境の整備が、再発予防には大切です。 頭痛 項目 内容 手術による刺激 頭皮・筋肉・硬膜の切開や縫合による違和感の発生 脳の腫れ 手術後の炎症による一時的な脳の腫れ(脳浮腫) 髄液の変化 術後の髄液循環障害や低髄液圧状態が頭痛を誘発する場合もある 血流の乱れ 脳内の血管の拡張・収縮による違和感の発生 経過 多くは自然に軽快、まれに慢性頭痛として残ることもありうる (文献1) 脳膿瘍の手術後に、頭痛が生じることがあります。開頭手術での頭皮・硬膜切開や、術中操作による周辺組織への刺激や、脳の腫れ(脳浮腫)、髄液の流れの変化、血流の乱れなどが原因としてあげられます。 多くの場合は時間とともに軽快しますが、まれに慢性頭痛として続くケースもあります。後遺症による頭痛が日常生活に支障をきたす場合は、早めに医師へ相談が大切です。 脳膿瘍手術における後遺症のリハビリ方法 リハビリの種類 対象となる症状 目的 理学療法 麻痺・筋力低下・歩行障害 体力回復と動作の自立支援 作業療法 日常生活動作(食事・着替えなど)の困難 実生活に即した動作の訓練と自信回復 言語聴覚療法 発語障害・言語理解障害・嚥下障害 会話や飲み込みの改善を通じた生活の質の向上 神経心理リハビリ 記憶障害・注意力低下・思考力の低下 認知機能の回復と社会復帰に向けた段階的支援 脳膿瘍の手術後は、症状に合わせたリハビリが必要です。効果を高めるには早期に始め、自己判断せず医師の指導のもとで行うことが大切です。リハビリは中断せず継続することで、回復の可能性を最大限引き出せます。家族や医師による継続的な支援も大切です。 理学療法 項目 内容 目的 麻痺・筋力低下・歩行障害の改善、日常生活動作の自立支援 訓練方法 筋力訓練、関節の柔軟性保持、歩行・バランス訓練、起居動作の練習 有効性 運動機能の回復、転倒や合併症の予防、体力向上、違和感の軽減 サポート体制 医師や専門職による個別指導、家族支援、他職種との連携による総合的サポート (文献4) 理学療法は、手足の麻痺や筋力低下、バランス障害といった身体的な後遺症に対して行われます。医師の指導のもと歩行訓練や関節の動きを保つ運動を継続的に実施します。 脳膿瘍の手術後は、安静による筋力低下も起こりやすいため、体力低下による合併症予防や再感染リスク軽減にもつながる有効な治療法です。リハビリは早期の開始で、効果が高まりやすくなります。 作業療法 項目 内容 目的 食事・着替え・入浴などの日常動作の自立支援 練習内容 動作練習、家事訓練、補助具の使い方指導 環境調整 自宅内の物の配置などの改善 支援面 自信回復、家族への介助指導 作業療法は、食事や着替え、家事などの日常生活動作(ADL)を自立して行えるよう支援するリハビリです。 脳膿瘍の手術後、手先がうまく使えないケースもあるため、作業療法は症状の改善を目指して実施されます。症状の回復には、患者と医師だけでなく、家族や周囲のサポートも大切です。 言語聴覚療法 項目 内容 目的 話す・聞く・読む・書く・飲み込む機能の回復、コミュニケーションの再構築 訓練例 発声練習、言葉の理解訓練、注意力や記憶のトレーニング、補助手段の活用、嚥下訓練 有効性 言語機能や飲み込みの改善、意思疎通の支援、認知機能の補強、生活の質の向上 (文献5) 言語聴覚療法は、言葉が出にくい・聞き取れない・飲み込みにくいといった症状に対して行われる訓練です。脳膿瘍が言語や嚥下を司る部位に影響していた場合、術後に会話や食事が難しくなるケースがあります。 言語聴覚療法では、発声・発語・理解のトレーニングや、食べ物の誤嚥を防ぐための嚥下訓練を医師の指導のもと行います。また、家族の協力で、日常生活における不安の軽減にもつながるでしょう。 神経心理リハビリテーション 項目 内容 目的 記憶力・注意力・判断力など認知機能の改善と、社会復帰への支援 訓練例 課題遂行訓練、集中力訓練、記憶訓練、見当識訓練、心理的サポート 有効性 認知機能障害への直接的対応、日常生活への適応支援、感情コントロールの強化、自己理解の促進 (文献6)(文献7) 神経心理リハビリは、記憶力・注意力・思考力などの認知機能に障害が残った場合に行われます。具体的には、課題を使って集中力を高める訓練や、日常生活での物忘れを補う工夫を習得するなどが挙げられます。 高次脳機能障害は見た目ではわかりにくく、本人だけでなく家族にも負担がかかりやすいのが特徴です。神経心理リハビリでは、段階的に機能回復を目指しながら、社会復帰につなげていくことが大切です。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みなら再生医療も選択肢のひとつ 脳膿瘍の手術後、運動麻痺や認知機能の低下などが長期的に残る場合、再生医療を検討するのも選択肢のひとつです。 リハビリでは改善が難しかった後遺症に対し、有効なアプローチ方法として再生治療が注目されています。当院リペアセルクリニックでは、脳膿瘍手術の後遺症の悩みに丁寧に対応し、必要に応じて幹細胞を使った再生医療で治療をサポートしています。 脳膿瘍手術の後遺症でお悩みの方は「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 脳膿瘍の手術と後遺症に関するよくある質問 脳膿瘍の手術は必須ですか? 脳膿瘍の治療は薬物療法と手術が基本で、手術の必要性は膿瘍の大きさや症状の進行度などで判断されます。治療方針は自己判断せず、脳神経外科の医師の診断に従いましょう。 入院期間はどれくらいですか? 脳膿瘍の入院期間は、膿瘍の大きさ・部位・症状の程度や、治療に対する反応により異なります。 重症例や多発例、外科的な排膿処置が必要な場合は、抗菌薬治療の継続や合併症管理のために数週間から数カ月の入院が必要になるケースもあります。退院後も通院による経過観察や内服治療が必要になることが多いです。 脳膿瘍は再発しますか? 脳膿瘍は手術後に再発する可能性があります。原因菌の残存や感染源の治療不十分、免疫力の低下などが主な要因です。再発を防ぐには、適切な手術と抗菌薬治療、原因疾患の治療、定期的な経過観察、免疫力の維持が大切です。 脳膿瘍の手術に不安を感じていますが事前にできることはありますか? 脳膿瘍の手術を受ける前には、医師と話し合い、治療内容をきちんと理解しておくことが大切です。また、少しの悩みでも医師や家族に話しておくことで、不安を軽減できます。 手術に対して少しでも不安や迷いがある方は、どうか一人で抱え込まずにご相談ください。リペアセルクリニックでは、どんなに小さな悩みでも、丁寧に対応いたします。「メール相談」もしくは「オンラインカウンセリング」にて、当院へお気軽にご相談ください。 参考資料 (文献1) Robyn S. Klein「脳膿瘍」MSDマニュアル 家庭版, 2024年7月 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3-%E8%84%8A%E9%AB%84-%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E8%84%B3%E8%86%BF%E7%98%8D(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 川副雄史ほか.「地域医療支援病院における細菌性脳膿瘍の臨床的特徴と 転帰不良因子の検討」, pp.1-14, 2022年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsne/27/1/27_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 山根 清美ほか.「臨床クイズ解答 突然右麻痺を呈した 1症例」『日本内科学会雑誌』97(6),, pp.1-3, 2008年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/6/97_1395/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 白井 誠「随意運動改善のための運動療法」, pp.1-5, 2003年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/icpt/2/1/2_1_15/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 鶴川俊洋,生駒一憲.「脳腫瘍・頭頸部がんのリハビリテーション」『ガンのリハビリテーション エビセンス&プラクティス』, pp.1-6, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/2/53_124/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 温井 めぐみほか.「小児脳腫瘍治療後の神経心理学的合併症についての手引き」『JCCG』, pp.1-59 https://jccg.jp/wp-content/uploads/tebiki_ver1.2_2020.9.30.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 日本学術振興会「間脳・脳室内腫瘍患者の神経心理学的合併症および社会生活機能に関する調査研究」KAKEN, 2020年4月28日 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K19342/(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
- 頭部、その他疾患
- 頭部
「側頭葉てんかんの手術後の後遺症に強い不安を感じている」 「側頭葉てんかんの手術の内容が気になる」 側頭葉てんかんと診断され、手術を勧められているものの、術後の生活や後遺症に不安を抱えている方も多いでしょう。手術への不安を抱えたままでは、冷静な判断が難しくなります。 本記事では、側頭葉てんかん手術について解説します。 側頭葉てんかん手術の内容 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 記事の最後には、側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。 側頭葉てんかん手術の内容 区分 項目 内容 手術の基本 手術の対象 側頭葉が原因のてんかん発作 適応の目安 薬で発作が抑えられない場合 手術の目的 発作の軽減・消失、生活の質の向上 主な術式 選択的海馬扁桃体摘出術 海馬と扁桃体の摘出による発作源の除去 海馬多切術 海馬に小さな切れ目を入れて異常信号を遮断 前側頭葉切除術 側頭葉前部と海馬・扁桃体の広範囲な切除 手術後の効果と注意点 得られる効果 発作の回数や強さの軽減、薬の減量、精神的負担の軽減 手術後の注意点 記憶障害・視野障害などの後遺症の可能性 術後の評価 発作の変化と機能障害の有無を定期的に観察 (文献1) 側頭葉てんかんは、脳の側頭葉から発作が始まるタイプのてんかんです。薬だけでは発作を十分に抑えられない場合は手術が検討されます。手術の目的は、発作の原因となる異常な脳組織を切除し、発作の頻度や強さを減らすことです。 代表的な術式には前側頭葉切除術や選択的扁桃体海馬切除術があり、いずれも発作の原因部位に直接アプローチする手術です。 手術によって発作の改善が期待できる一方で、記憶障害や視野障害などの後遺症が生じるリスクもあります。また、まれに術後てんかんと呼ばれる新たな発作が起こることもあり、手術を受けるかどうかは、リスクや効果、今後の生活への影響について医師とよく相談し、納得した上での判断が大切です。 側頭葉のてんかん手術で期待される効果 効果 内容 発作の消失・軽減 発作の制御による生活の自由度の向上、転倒やけがの予防、運転・就労・学業への支障の軽減 高い発作抑制率 発作の軽減や消失が期待される 薬の減量・中止の可能性 長期服薬からの解放、副作用(眠気・集中力低下など)の軽減、薬剤数の減少 生活の快適さの向上 薬への依存度の低下による自立度や活動範囲の拡大 精神的負担の軽減 発作への不安や孤立感の緩和、気分の落ち込みや不安感の改善 社会生活への前向きさの回復 自己肯定感の向上、人間関係や仕事・学業への意欲の回復 生活の質(QOL)の向上 安定した日常の獲得 側頭葉てんかんに対する外科的治療は、発作のコントロールを目的とした有効な選択肢です。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 手術にはリスクも伴いますが、てんかんの発作を根本から改善する手段として、期待できるため、医師と相談した上で実施されます。 発作の消失・大幅な軽減が期待できる 項目 内容 発作の完全消失 発作の原因となる脳組織の切除による根本的な発作の消失 発作頻度の減少 発作の回数や強さの大幅な軽減による生活の安定 社会生活への前進 就労・運転・学業などへの制限の緩和 QOLの改善 発作の心配が減ることで得られる日常生活への不安解消 手術の主な目的は、発作の繰り返しを抑えることです。意識を失うような発作が続く場合は、運転や就労などに大きな支障が出るため、手術によって障壁を取り除ける可能性があります。 手術効果の程度には個人差があるものの、術前に発作の焦点が明確であるほど効果が期待できます。 抗てんかん薬の減量・服用から解放される可能性がある 項目 内容 薬の必要性の低下 発作の消失・軽減による服薬依存度の軽減 副作用からの解放 眠気・倦怠感・認知機能低下などからの回復 生活の質の向上 薬の影響を受けにくい、自由な日常生活の実現 活動範囲の拡大 集中力や意欲の改善による社会参加の促進 薬剤数の減少 多剤併用からの移行による身体への負担軽減 薬だけで発作を抑えきれない場合や副作用が日常生活に支障をきたす場合、手術は選択肢です。側頭葉てんかんの手術によって発作が十分に抑制されれば、薬の量を減らす、または中止できる可能性があります。 臨床報告でも、手術によって薬を減らせた実績が示されています。東京医科歯科大学のデータでは、発作が消失した患者の84%のうち、35%が抗てんかん薬の中止に成功しています。(参考:東京医科歯科大学脳神経機能外科) さらに、静岡てんかん・神経医療センターの調査では、術後2年で91%、15年以上経過しても85%の患者が発作のない、またはごく軽い状態を維持し、薬に頼らず安定した生活を送っていることが報告されています。(文献2) 精神的・心理的負担の軽減が期待できる 項目 内容 発作間欠期の精神症状の改善 発作がない時に生じる不安や抑うつ、感情の不安定さの軽減 感情コントロールの安定 脳の電気的な不安定さの改善による情緒の安定化 自己効力感の向上 発作への不安の軽減による自信と行動範囲の拡大 社会参加の再開 就労・学業・趣味・交流の再開による生活満足度の向上 生活の質の向上 精神的な充実感と生活全体の質の向上 薬の副作用の軽減 抗てんかん薬の減量・中止による眠気や気分変化の改善 精神的負担の軽減 薬や発作によるストレスの緩和と心理的な安定 (文献3) てんかん発作は、単なる身体症状にとどまらず、精神的なストレスや社会的な孤立感にもつながります。側頭葉てんかん手術によって発作が軽減されることで、精神的負担も軽減されます。 また、抗てんかん薬の副作用として見られる気分の落ち込みや集中力の低下も、服用量の減少によって改善する可能性があります。 手術の効果は、発作の抑制だけでなく、日常の不安解消や人間関係の改善といった心理的側面にも良い影響をもたらすことが期待されます。 側頭葉のてんかん手術で起こりうる後遺症 後遺症の種類 内容 認知機能の低下 記憶力・注意力・思考力の低下による日常動作の困難 視野障害 見える範囲が狭くなることによる歩行や運転時の支障 言語機能の低下 言葉の理解や表現の困難、会話時の不自由さ 感情の不安定さ 怒りや不安、落ち込みなど情緒の変動の起こりやすさ 運動麻痺・感覚障害 手足の動かしにくさや、しびれ・感覚の低下 側頭葉は、記憶や言語、感情などの重要な機能を担っています。そのため、手術によって発作が抑制される一方で、一定の後遺症が生じる可能性もあります。 手術の有効性だけでなく後遺症についても理解しておく必要があります。 認知機能の低下 障害の種類 症状 発症のメカニズム 記憶障害 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 新しい情報の記憶困難、過去の出来事の想起困難 側頭葉(とくに海馬)への影響による記銘力・想起力の低下。左右で記憶の種類に差異あり 言語機能の低下 単語が出てこない、話や文章の理解が難しくなる 左側頭葉の損傷による言語中枢への影響(ウェルニッケ野など) 注意・集中力の低下 情報処理速度の低下、同時処理の困難 側頭葉と前頭葉の連携低下による認知負荷の上昇 遂行機能の低下 計画性の低下、問題解決の困難、行動の抑制低下 前頭葉とのネットワーク機能の変化による高次認知機能の障害 感情・社会性の変化 感情の起伏の変化、他者理解の困難 扁桃体や前頭側頭ネットワークの影響による情動調整や社会的認知の変化 側頭葉は記憶や理解力に関わる重要な領域です。そのため、側頭葉てんかんの手術後には、記憶力や集中力といった認知機能の低下がまれに起こることがあります。 記憶障害や注意力の低下といった認知面の変化が生活に支障をきたす可能性があるため、手術を検討する際は、このようなリスクもしっかり理解した上で、医師と相談しながら判断するのが大切です。 視野障害 障害の種類 原因 特徴や補足 上方視野欠損(上方同名性四分盲) 手術中の視放線下位線維の損傷 上1/4の視野が見えにくくなる。本の上部が読みづらい、標識に気づきにくいなど 半盲などの広範な視野欠損 広範囲の視覚経路の損傷 左右どちらかの視野が半分見えない可能性 一時的な視野障害 術後の脳浮腫や出血による圧迫 一時的に視覚情報の伝達が障害されることがある (文献4) 後遺症として起こる視覚障害は、手術によって視覚情報を処理する神経の一部が影響を受けた場合に生じるものです。視覚障害の中でも上1/4の視野が見えにくくなる症状が報告されています。 1/4の視野が見えにくくなる症状は日常生活に支障をきたすこともありますが、失明ではないため、見えない範囲を他の視覚で補う動作が習慣化し、時間とともに生活の不便さは軽減されていく傾向があります。 言語機能の低下 障害の種類 特徴 聴覚性言語理解の低下(ウェルニッケ失語) 他人の話す内容の理解困難、返答の不自然さ、自身の発話の意味不明瞭化 語想起困難(健忘失語) 名前や言葉の思い出し困難、指示語の多用、会話中の言葉詰まり 構文理解の低下 複雑な文や受動表現の理解困難 発語の流暢性の低下(ブローカ失語) 単語の区切り話し、不自然な文法、話すスピードの低下 呼称の錯誤 物の名前の言い間違い(例:「りんご」を「みかん」と言う) 失読・失書 読む力・書く力の低下(失読・失書) 高次言語機能の障害 比喩や冗談、文脈の理解の困難、不適切な言葉の選択 (文献5)(文献6) 側頭葉の中でも、とくに左側にはウェルニッケ野や側頭回といった言語理解・記憶に関わる重要な領域が存在します。手術で影響を受けると、言語理解や発語の流暢性、記憶といった機能に障害(失語症)が生じる可能性があり、会話や業務に支障を及ぼしかねません。 対して、術後の言語リハビリで徐々に回復するケースも少なくありません。元の状態に戻るとは限りませんが、継続的なトレーニングで日常生活へ復帰は期待できます。 感情が不安定になる 側頭葉は感情のコントロールに関わる脳の重要な領域であり、内側には扁桃体や海馬など、感情処理を担う構造が含まれます。手術によってこれらの部位や、前頭葉との神経ネットワークに影響が及ぶことで、一時的に怒りっぽくなったり、涙もろくなったりするなど、感情の変化が生じることがあります。 感情の変化には個人差があるため、術後は医師やカウンセラー、家族と連携し、心のケアも含めたサポートを受けることが大切です。 運動麻痺や感覚障害 障害の種類 症状 片側の運動麻痺(不全麻痺を含む) 手足の力の入りにくさ、動作の鈍さ、細かい作業の困難 顔面神経麻痺(軽度なことが多い) 口角の下がり、まぶたの閉じにくさ 片側の感覚障害 手足のしびれ、ピリピリ感、鈍さ、ジンジンとした違和感 顔面の感覚障害 頬や唇などの感覚低下や違和感 側頭葉てんかんの手術は、通常、運動や感覚を司る領域からは離れていますが、まれに脳の深部にある神経経路(内包や視放線など)に近づくことで、影響が及ぶことがあります。その結果、手足の麻痺やしびれ、顔の感覚異常などが術後に現れる可能性があります。 万が一、術後に一時的な麻痺やしびれが現れた場合でも、早期からのリハビリによって改善が見込めるため、手や足の動き、顔や体の感覚に違和感を覚えた場合は、早急に医療機関を受診しましょう。 側頭葉てんかん手術で起こりうる後遺症の対策 対策 内容 手術前の準備を怠らない 精密検査によるリスクの把握と手術計画を立てる 手術後のリハビリテーション 運動・言語・感情面の機能回復を目指す継続的な訓練 メンタルケアを怠らない 感情の変化や不安への対応としてのカウンセリングや薬物療法 家族や職場への情報共有 周囲の理解とサポートを得るための適切な説明と連携 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症に備えるには、事前の対策と周囲の協力が大切です。 術後は、運動や言語機能、感情面のリハビリを継続的に行うことで、回復が期待できます。 手術前の準備を怠らない カテゴリー 項目 内容 術前評価と情報収集 神経学的検査 運動や感覚の異常の有無を確認 MRI・脳波検査 病巣や発作の場所の特定と切除範囲の計画 神経心理学的検査 記憶・言語・注意などの認知機能の評価 MEG・PET検査 脳の活動領域や血流の確認 医師とのコミュニケーション 手術内容・効果・リスクの十分な理解と納得 健康状態の管理 基礎疾患の管理 高血圧・糖尿病などの安定化 禁煙・禁酒 術後合併症リスクの低減 栄養改善・睡眠 体力と免疫力の維持、心身の安定 感染予防 手洗い・うがいの徹底 術後の生活準備 リハビリ計画 術後の身体・言語機能の回復支援 生活環境の整備 家の段差・手すり設置などへの対策 精神的サポート 家族・専門家との連携による心のケア (文献7) 側頭葉てんかん手術に備えるには、術前の精密検査と体調管理が重要です。MRIや脳波、心理検査で脳の状態を把握し、医師と手術計画を立てます。 高血圧や糖尿病の管理、禁煙・禁酒、栄養や睡眠の改善、感染予防も大切です。術後に向けては、リハビリや生活環境の準備、家族との連携を整えることで、スムーズな回復と社会復帰が目指せます。 手術後のリハビリテーション 項目 内容 リハビリの目的 機能回復、日常生活の自立支援、社会復帰の促進 開始時期 容体安定後、医師の許可を得て開始 リハビリ内容 筋力や動作の訓練、感覚刺激、記憶や注意のトレーニング、言語や嚥下の練習 実施場所と期間 病院内または外来・訪問、数週間〜数カ月以上の継続もあり (文献8) 側頭葉てんかんの手術後は、発作の軽減に加え、機能の回復を目的としたリハビリが大切です。術後に現れる可能性のある運動麻痺、感覚障害、言語障害、記憶や注意力の低下、感情の不安定さなどに対して、医師の指導のもと、リハビリが実施されます。 理学療法では筋力やバランスの回復を、作業療法では日常動作の改善を目指します。言語聴覚療法では、言葉の理解や発話、飲み込みの訓練を行い、心理的な不安にはカウンセリングが効果的です。リハビリは術後の安定を確認し、早期に始めるのが望ましく、脳の回復力を引き出す上でも重要です。 期間には個人差がありますが、数週間から数カ月以上に及ぶこともあります。リハビリの継続や家族や医師のサポートが社会復帰への大きな助けとなります。 メンタルケアを怠らない メンタルケアの工夫 内容 感情の変化を受け止めること 不安・落ち込み・イライラを否定せず、手術後の一時的な影響として受け入れる姿勢 誰かに悩みを話すこと 家族・友人・医療スタッフとの会話による気持ちの整理 リラックスできる時間を持つこと 趣味、音楽、散歩、入浴など、心地よく過ごせる時間の確保 質の高い睡眠と休息の確保 睡眠環境の整備と、日中の適切な休憩による心身の回復 適度な運動の継続 医師の指導のもとでの軽い運動による気分転換とストレス軽減 栄養バランスの取れた食事 規則正しい食生活による心身の安定 焦らず自分のペースで回復を目指すこと 比較を避け、少しずつの変化を前向きに捉える姿勢 サポートグループへの参加(可能な範囲で) 同じ経験を持つ人との交流による孤独感の緩和と情報共有 (文献9)(文献10) 側頭葉てんかんの手術後は、身体的な回復だけでなく、心のケアも欠かせません。一方で後遺症や再発、社会復帰などの不安を抱える方もいます。また、側頭葉は感情を司る脳領域と深く関係しているため、術後に気分の浮き沈みや情緒の不安定さが生じることもあります。 このような変化は一時的な場合もありますが、放置すれば生活や人間関係に悪影響を及ぼすことがあるため、早めの対処が大切です。 家族や職場への情報共有 共有のタイミング 内容 手術前 検査内容の説明や不安の共有を行う 手術直後 手術結果や一時的な症状の可能性を家族に伝えておku 入院中 リハビリの進み具合や接し方の注意点を家族に理解してもらう 退院時 自宅での注意点や服薬・体調管理について家族と連携する 職場・学校への伝達 復帰時期や配慮が必要な症状について職場や学校と相談する 長期的なサポート 院や体調変化への理解と協力を周囲に求めておく (文献9)(文献11) 側頭葉てんかんの手術後の生活を円滑に進めるには、家族や職場との情報共有が欠かせません。術後は一時的に認知機能や感情面に変化が現れることがあり、周囲の理解があるかどうかで支援の質や生活のしやすさが大きく変わります。 家族には、手術内容や後遺症の可能性、リハビリの方針、日常生活での注意点をわかりやすく伝えることが大切です。職場にも復職に向けて、通院リハビリの調整や業務内容の見直しなどを相談しましょう。 不安を一人で抱え込まず、周囲と協力しながら環境を整えることが、回復に役立ちます。 側頭葉てんかん手術後の後遺症でお悩みの方はご相談ください 側頭葉てんかんの手術後に現れる後遺症は、生活の質に影響しやすく、人には相談しづらい悩みも多くあります。リペアセルクリニックでは、そうした小さな不安にも丁寧に耳を傾け、再生医療を用いた治療で回復をサポートしています。 ひとりで抱え込まず、「メール相談」や「オンラインカウンセリング」を通じて、お気軽にご相談ください。 側頭葉のてんかん手術と後遺症に関するよくある質問 側頭葉てんかんの手術は誰でも受けられますか? 側頭葉てんかんの手術は、すべての方が受けられるわけではありません。薬で発作が十分に抑えられないことや、発作の原因となる部位が明確に特定できること、さらに手術による効果とリスクのバランスが取れていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。 手術を受けるタイミングはいつですか? 側頭葉てんかんの手術を受けるタイミングは一概に決まっておらず、病状や年齢、生活状況、治療への希望によって異なります。医療機関での診察結果に基づき、医師の指示に従いましょう。(文献12) 手術の後遺症は元に戻すことはできますか? 側頭葉てんかんの手術後に生じる後遺症の回復には個人差があり、軽度なものは自然回復やリハビリによる改善が期待できます。 一方で、脳の損傷が大きい場合は、回復が難しいこともあります。根本的な治療法は限られますが、環境整備やリハビリによって機能の維持や生活の質の向上を図ることは可能です。(文献13) 退院後すぐに元の生活に戻れますか? 側頭葉てんかんの手術後の生活復帰には個人差があり、回復状況や生活の内容によって大きく異なります。 一般的にはすぐに元の生活に戻るのは難しく、術後は安静を保ちながら段階的に復帰を目指します。復帰までには数週間から数カ月かかることが一般的です。 参考資料 (文献1) 奥村 修三.「頭蓋内手術後の突発性脳波異常の出現とてんかん性痙攣発作の危険性及び抗痙攣剤の使用について」35(6), pp.1-4, https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/35/6/35_6_527/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献2) 国立保険医療科学院「側頭葉てんかん外科手術後の記憶障害機構の解明」厚生労働科学研究成果データベース , 2015年5月21日 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/21416(最終アクセス:2025年5月12日) (文献3) 原 広一郎ほか.「てんかんとメンタルヘルスについて」『千葉県循環器病センター/てんかんセンター医療法人静和会 浅井病院』, pp.1-20, 2024年 https://www.pref.chiba.lg.jp/junkan/shinryoka/shinkate/documents/mentaruherusu.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献4) 岩崎 真樹.「てんかんの外科治療」『国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科』, pp.1-21, 2020年 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/200808_document_03.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献5) 益子沙緒里.「てんかんと高次脳機能障害」『令和4年度千葉県てんかん支援拠点病院Web研修会』, pp.1-18,2022年 https://www.pref.chiba.lg.jp/junkan/documents/05.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献6) 曽根大地ほか.「世界で初めて側頭葉てんかんの根治治療に最適な脳の切除範囲を同定〜術後の言語記憶障害のリスクを従来の 8 分の1に〜」『東京慈恵会医科大学』, pp.1-4, 2021年 https://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20211126.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献7) 三嶋健司.「てんかん外科に必要な看護」『国立精神・神経研究センター病看護部3階南病棟』, pp.1-15, https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/201219_document_07.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献8) 藤川真由.「てんかんリハビリテーションと社会制度の今」, pp.1-5, 2021年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/38/4/38_569/_pdf/-char/ja(最終アクセス:2025年5月12日) (文献9) 「てんかんとともに働き暮らすために」『社団法人日本てんかん協会』, pp.1-128 https://www.jea-net.jp/wp-content/uploads/2018/11/useful_pdf_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献10) 田中優.「てんかん患者さんの社会復帰支援・精神科デイケアについて」『NCNP病医院 国立精神・神経医療研究センター』, pp.1-12 https://epilepsy-center.ncnp.go.jp/pdf/240721_document1_08.pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献11) 福智 寿彦.「てんかん患者の自立と社会参加支援」, pp.1-7,2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/26/1/26_21/_pdf(最終アクセス:2025年5月12日) (文献12) 石下 洋平,川合 謙介.「てんかん外科治療の適切なタイミング」『脳と発達』, pp.1-7, 2020年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/52/4/52_223/_pdf/-char/en(最終アクセス:2025年5月12日) (文献13) 向野 隆彦.「側頭葉てんかんにおける記憶障害」『臨床神経学』34(7), pp.1-7, 2024年 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/064070453.pdf(最終アクセス:2025年5月12日)
2025.05.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「交通事故でけがをしてから、頭痛が続いている」 「首や目の奥が痛んだり、めまいを起こしたりしている」 このような症状でお悩みではありませんか? けがをしていないのにもかかわらず頭痛やめまいが急に現れて、辛い思いをされている方も多いでしょう。これらの症状は、低髄液圧症候群が原因の可能性があります。 本記事では低髄液圧症候群を発症する原因や診断基準、検査方法、治療方法などについて紹介します。 低髄液圧症候群を初めて知った方に役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。 低髄液圧症候群の原因は大きく2つに分けられる 低髄液圧症候群の原因は、大きく分けると以下の2つです。 外傷性の原因 外傷性以外の原因 外傷性の原因 文字どおり、なんらかの外傷により引き起こされるものです。主なものを以下に示しました。 交通事故による頭部打撲やむち打ち症 仕事中の事故 スポーツ時の外傷 階段昇降時の転倒 自転車運転中の転倒 低髄液圧症候群の大半は外傷によるものとされており、軽くしりもちをついただけで発症するケースもあります。 外傷性以外の原因 外傷性以外の原因としては、腰椎穿刺検査や腰椎麻酔、脳神経外科手術といった、医療行為によるものが考えられます。(文献1) 医療行為以外に原因としてあげられるものは、主に以下のとおりです。(文献2) 整体治療 出産 発熱による脱水症状 外傷性、外傷性以外にかかわらず、原因が特定できないケースもあります。 低髄液圧症候群とは 低髄液圧症候群とは、脳脊髄液の漏れにより髄液の圧力が低下して、頭痛やめまい、首や背中の痛みなどを引き起こす疾患です。しかし実際には、髄液の圧力低下が測定できないケースも存在するため、脳脊髄液減少症と呼ばれることもあります。 低髄液圧症候群と脳脊髄液減少症の違いは、診断方法確立の有無です。低髄液圧症候群はMRI画像や腰椎穿刺検査などで診断されますが、脳脊髄液減少症は明確な診断方法が確立されていません。 国際的には、低髄液圧症候群が病名として主に使用されています。 脳脊髄液減少症について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。 低髄液圧症候群の特徴的な症状は起立性頭痛です。(文献1)起立性頭痛の場合、立ったり座ったりすると痛みが強くなります。 その他の症状としては、以下のようなものがあげられます。 体のだるさ 不眠 食欲の低下 集中力の低下 記憶力の低下 低髄液圧症候群は、頭痛やめまいなどに加えて、精神・心理的症状が見られるため、片頭痛や緊張性頭痛、うつ病などと誤解されやすい疾患です。(文献3) 低髄液圧症候群の診断基準 低髄液圧症候群の診断基準は、前提基準と大基準の2種類です。(文献4) 前提基準は2項目、大基準は3項目存在しており、「前提基準1項目+大基準1項目以上」に該当した場合に低髄液圧症候群と診断されます。 前提基準 前提基準の1つ目は起立性頭痛、2つ目は体位による症状の変化です。両者を表で示しました。 前提条件 詳細 起立性頭痛 頭部全体が鈍く痛む 立ったり座ったりすると、痛みが強くなる 体位による症状の変化 項部硬直(こうぶこうちょく) 耳鳴り 聴力低下 光過敏 吐き気 項部硬直とは、首から後ろにかけての筋肉のこわばりを指します。光過敏とは、少しの光でもまぶしさや不快感を覚える症状です。 大基準 大基準は、以下に示した3点です。 造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強 腰椎穿刺にて髄液圧の低値(60mmH2O以下)の所見 髄液漏れを認める画像所見 びまん性の硬膜肥厚増強とは、脳内の硬膜が広い範囲で厚くなっている状態で、MRI検査で確認できます。 髄液圧の正常値は、健康な成人の場合70~200mmH2Oとされています。(文献4) 髄液漏れを認めるための画像検査については、確立された方法がありません。CTミエログラフィーやMRミエログラフィー、RI脳槽シンチグラムなどを組み合わせて行います。 低髄液圧症候群の検査方法 低髄液圧症候群の検査としては、MRI検査や腰椎穿刺検査、RI脳槽シンチグラムなどです。これらの検査で、髄液圧や髄液漏れについて詳しく調べます。患者からの病歴聴き取りも必要な情報です。 検査方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。 低髄液圧症候群の治療法 低髄液圧症候群の治療法は、主に以下の2種類です。 保存療法 ブラッドパッチ療法 保存療法 保存療法の基本は、安静と十分な水分補給です。 自宅での水分摂取とは別に、必要に応じて、生理食塩水の点滴を1~2週間程度行う場合もあります。点滴の量は、1日1,000~2000ml程度です。 髄液は1日につき約500ml作られます。脳や脊髄を守るために必要な髄液を作るには、十分な水分補給が欠かせません。 ブラッドパッチ療法 ブラッドパッチ療法は、自分の血液を硬膜外に注入して、髄液の漏れを塞ぐ治療法です。硬膜とは、脊髄を覆っている一番外側の膜です。硬膜外から注入された血液中の成分が、のりの役割を果たします。必要に応じて、X線により注入部の様子を観察しながら行う場合もあります。 ブラッドパッチ療法は、平成28年4月から保険適用されました。(文献5) 低髄液圧症候群の原因を把握し医療機関の受診を検討しよう 低髄液圧症候群の原因は、外傷性と非外傷性の2つに分けられます。非外傷性には、原因不明(特発性)のものも含まれます。 いずれの原因においても症状は共通しており、特徴的な症状は起立性頭痛です。それ以外にも、耳鳴りや吐き気、光過敏などの症状があれば、速やかに医療機関を受診しましょう。主な診療科は、脳神経外科です。 多くの都道府県ホームページでは、検査・治療ができる医療機関を紹介しています。医療機関の受診を検討している方は、検索してみると良いでしょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。低髄液圧症候群と思われる症状でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 低髄液圧症候群の原因に関するよくある質問 低髄液圧症候群を発症した芸能人は誰ですか? 俳優の米倉涼子さんが、低髄液圧症候群を発症しました。まっすぐに歩くことや立ち上がることが困難になり、一時は芸能界引退も覚悟したとテレビ番組で話しています。 脳脊髄液減少症を発症した芸能人については、以下の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。 低髄液圧症候群は慢性疲労症候群と関連していますか? 低髄液圧症候群と慢性疲労症候群との関連は不明です。 慢性疲労症候群とは、検査や診察で異常が認められないものの、日常生活を送ることが難しいほどの重度の疲労感が続く疾患です。症状としては、強い疲労感や頭痛、集中力低下、抑うつなどがみられます。低髄液圧症候群と似ている症状も少なくありません。 慢性疲労症候群は感染性疾患や免疫の異常、遺伝や環境要因に関連していると考えられますが、はっきりとした原因は解明されていません。 ベルギーの研究者によって執筆された論文では、脳脊髄液圧の上昇と慢性疲労症候群が関与している可能性が示されています。(文献6) 参考文献 (文献1) 戸田茂樹ほか.「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」『日本医科大学医学会雑誌』3(1), pp.44-45, 2007年 https://www.nms.ac.jp/sh/jmanms/pdf/003010044.pdf (最終アクセス:2025年4月23日) (文献2) 脳脊髄液減少症 石川・金沢 患者家族支援の会「脳脊髄液減少症を知っていますか?」 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/nanbyou/kanjakai/documents/r6no1.pdf (最終アクセス:2025年4月23日) (文献3) 社会福祉法人恩賜財団済生会「低髄液圧症候群」社会福祉法人恩賜財団済生会ホームページ, 2014年10月22日 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/intracranial_hypotension/# (最終アクセス:2025年4月23日) (文献4) 松本英之,宇川 義一.「脳脊髄液減少症」『日本内科学会雑誌』100(4), pp.1076-1083, 2011年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/4/100_1076/_pdf (最終アクセス:2025年4月23日) (文献5) 一般社団法人日本脳脊髄液漏出症学会「日本脳脊髄液漏出症学会公式診療マニュアル」一般社団法人日本脳脊髄液漏出症学会ホームページ https://js-csfl.main.jp/guideline.html (最終アクセス:2025年4月23日) (文献6) Mieke Hulens, et al.(2023).The Link Between Empty Sella Syndrome,Fibromyalgia, and Chronic Fatigue Syndrome: TheRole of Increased Cerebrospinal Fluid Pressure.Journal of Pain Research, 2023(16), pp.205-219. https://www.dovepress.com/article/download/81240 (最終アクセス:2025年4月23日)
2025.04.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「けがをしてから頭痛やめまいが続いている」 「ネットで検索してみたところ、脳脊髄液漏出症や脳脊髄液減少症といった病名が出てきた」 「この2つの違いは何だろう」 自分の症状を調べる中で、2つの疾患を見つけた方もいらっしゃるでしょう。 結論から申し上げますと、脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症はいくつか違いはあるものの、症状や治療法はほぼ同じです。 本記事では、脳脊髄液漏出症や脳脊髄液減少症の違いと共通点を中心に解説します。 異なる2つの病名が存在する理由がわかりますので、ぜひ最後までご覧ください。 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の違い 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の違いとして挙げられるのは、主に以下の2点です。 疾患名の違い 病態の違い 疾患名の違い 疾患名が異なる理由として、歴史的背景や診断基準の有無があります。両者を表にまとめました。 脳脊髄液漏出症 脳脊髄液減少症 歴史的背景 1938年、腰椎穿刺後の頭痛と似た症状を示す病気として初めて報告された。 報告者は、ドイツの神経内科医ゲオルク・シャルテンブランド氏。 脳脊髄液の漏れそのものに焦点を当てたものである。 2006年9月、第65回脳神経外科学会において発表された。 論文発表者は、国際医療福祉大学熱海病院の篠永正道教授。 脳脊髄液の漏れや生産量の低下などにより、「脳脊髄液が減少した状態」に着目したものである。 診断基準の有無 診断基準あり。 画像診断により髄液の漏出が確認できた症例である。(文献1) 診断基準なし。 存在する可能性はあるが、現段階では診断方法が未確立であると理解されている。(文献2) 脳脊髄液漏出症の方が、報告および診断基準の確立が早いことが見てとれます。 病態の違い 脳脊髄液漏出症は、ひとことでいうと、脳脊髄液が硬膜の外に漏れている状態です。 主な原因としては、交通事故やスポーツ時の外傷や、腰椎穿刺検査、整体治療などがあげられます。原因不明のケースも存在します。 脳脊髄液減少症は、脳脊髄液の漏れやそれ以外の原因で、脳脊髄液そのものが減ってしまう状態です。髄液漏れがないにもかかわらず、脳脊髄液が減少する原因としては、以下の2点が考えられます。 脱水状態 髄液が体内へ多量に吸収される状態 脳脊髄液減少症は、従来「低髄液圧症候群」と呼ばれていた疾患とほぼ同じものです。 低髄液圧症候群については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の共通点 この章では、脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の共通点を表形式で紹介します。 共通点 詳細 主な症状 起立性頭痛 ふわふわとしためまい 倦怠感 目の奥の痛み 首の痛み 検査方法 病歴の聴き取り 脳脊髄液の検査 頭部MRI検査 脳槽シンチグラフィー検査 治療方法 保存的治療 ブラッドパッチ 硬膜外生理食塩水注入療法 検査方法や治療方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 【関連記事】 脳脊髄液減少症のセルフチェック方法を紹介|治療方法もあわせて解説 脳脊髄液減少症の初期症状を紹介|早期発見の必要性もあわせて解説 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症が患者に与える影響 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症が患者に与える影響は、主に以下の2点です。 日常生活に支障を及ぼすことが多い 認知度が低く誤解されやすい 日常生活に支障を及ぼすことが多い 脳脊髄液漏出症や脳脊髄液減少症は、日常生活に影響を及ぼしやすい疾患です。主な症状としては、以下のようなものがあります。 起立性頭痛 ふわふわとしためまい 倦怠感 目の奥の痛み 首の痛み 起立性頭痛とは、起きたり立ち上がったりすると強くなる頭痛です。 これらの症状は天候や気圧に左右されやすく、雨が降る前や台風接近前に悪化する傾向があります。加えて、下痢や発熱、嘔吐などで脱水を起こしたときも悪化しやすいとされています。 発見や治療が遅いと慢性化しやすく、体調が不安定になりがちです。外出も難しく、ときには起き上がれなくなる場合もあります。 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症は、ともに慢性的な体調不良を引き起こし、日常生活に支障をきたしやすい疾患といえるでしょう。 認知度が低く誤解されやすい 脳脊髄液漏出症、脳脊髄液減少症ともに、認知度が低い疾患とされています。(文献3) また、他の疾患においても、頭痛やめまい、首の痛みといった症状が見られることがあります。同じような症状がある疾患は、主に以下のとおりです。 起立性調節障害 緊張型頭痛 片頭痛 うつ病 もしくは、検査で異常が見つからず「気のせい」と言われるケースもあります。原因がわかるまで病院受診を繰り返す、いわゆるドクターショッピング状態の方も少なくありません。 症状が強く、学校や職場を休みがちになると、「やる気がない」「甘えている」「怠けている」などと誤解される場合があります。(文献3) 頭痛を伴う疾患については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の違いと共通点を理解しよう 脳脊髄液漏出症と脳脊髄液減少症の違いは、歴史的背景や診断基準の有無、病態などです。しかし、症状や検査方法、治療法はほぼ同じと考えて差しつかえありません。 2つの病気に共通していえることは、医療面での認知度が低く他の病気と誤解されがちな点です。社会的認知度は高まりつつありますが、まだ十分とは言えません。気のせい、やる気がないなどと誤解されて、二重に苦しむ方もいます。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脳脊髄液漏出症や脳脊髄液減少症の症状でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1)日本脳脊髄液漏出症学会「診断基準」日本脳脊髄液漏出症学会ホームページ https://js-csfl.main.jp/guideline.html (最終アクセス:2025年4月21日) (文献2) 長野県「脳脊髄液減少症について」長野県ホームページ, 2024年3月25日https://www.pref.nagano.lg.jp/iryo/kenko/iryo/hoken/nosekizuieki.html (最終アクセス:2025年4月21日) (文献3) 脳脊髄液減少症 石川・金沢 患者家族支援の会「脳脊髄液減少症を知っていますか?」 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/nanbyou/kanjakai/documents/r6no1.pdf (最終アクセス:2025年4月21日)
2025.04.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「数日前に交通事故でけがをしてから、頭痛やめまいが続いている」 「寝ていると楽だけれど、座ったり起きたりすると頭痛が強くなる」 「頭痛やめまいは事故の後遺症なのだろうか」 外傷後にこのような症状が出た場合、多くの方が不安に感じるでしょう。これらの症状は、脳脊髄液減少症によるものかもしれません。 結論から申し上げますと、多くの場合、脳脊髄液減少症を発症するまでの期間は外傷後30分~数週間程度です。 本記事では脳脊髄液減少症を発症するまでの期間に加えて、発症のきっかけや、医療機関受診の必要性について解説します。 不安を感じている方の助けになりますので、ぜひ最後までご覧ください。 脳脊髄液減少症を発症するまでの期間 脳脊髄液減少症の症状は、外傷後30分から数週間程度で現れることが多いとされています。(文献1) 外傷直後ではなく少し遅れて発症する主な原因としては、以下の2つが考えられます。(文献2) 血栓の消失 脳浮腫の軽減 1つ目は、外傷後、一時的に発生した血栓が関係するケースです。血栓が脳脊髄液の漏れを塞いでいた場合、血栓が消失すると再び漏れ始めます。 2つ目は、外傷およびそれに伴う脳の浮腫と関連しているケースです。外傷により脳を包む硬膜やくも膜に傷ができたとしても、脳浮腫により一時的に傷が塞がれることがあります。しかし、脳浮腫が軽減されると傷が開き、そこから脳脊髄液が漏れ始めるメカニズムです。 脳脊髄液減少症を発症するきっかけとは? 脳脊髄液減少症を発症するきっかけは、主に以下の4つです。 外傷性(けがによるもの) 医原性(医療処置が原因のもの) 突発性(原因不明のもの) その他(出産、運動後の水分補給不足など) アメリカのクリーブランド・クリニックのサイトでは、脳脊髄液減少症の約90%は外傷性であり、残りの10%は原因不明で起こるとされています。(文献3) 脳脊髄液減少症を発症するきっかけについては、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液減少症発症後の死亡率 この章では、脳脊髄液減少症後の死亡率および、寝たきりになる確率について解説します。 死亡率 2025年4月現在、脳脊髄液減少症による死亡率のデータは示されていません。 台湾の学術論文において、頭部外傷者患者10,638人を調査した結果が記されています。この研究では、外傷後に髄液漏れがあった患者は、髄液漏れがなかった患者と比べて1年以内に死亡する確率が有意に高い結果が示されました。(文献4) また、髄液が漏れ続けることで髄膜炎や脳炎などの発症につながり、ときには死亡するケースもあります。(文献4) イギリスの慈善団体「The CSF Leak Association(脳脊髄液漏出協会)」のサイトでは、「髄液漏出による死亡は極めてまれであるが、重症の場合、脳ヘルニアなどの合併症により死亡するケースがある」と記載されています。(文献5) 寝たきりになる確率 2025年4月現在、脳脊髄液減少症により寝たきりになる確率を明確に示したデータは存在していません。 アメリカのメイヨー・クリニックのサイトでは、脳脊髄液減少症が未治療の場合、髄膜炎や緊張性気脳症、硬膜下血腫などの合併症を引き起こす可能性があると示されています。(文献6)緊張性気脳症とは、脳を取り囲む空間に空気が入り、頭の中の圧力が上昇する疾患です。 治療を受けても重度の症状が続く場合は、合併症がなくても寝たきりになるケースが考えられます。 以下の記事では、髄膜炎について紹介していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液減少症発症までの期間を理解して対処の遅れを防ごう 脳脊髄液減少症は、原因不明のものもありますが、多くは交通事故を含む外傷が原因です。 外傷性の場合、受傷後30分から数週間後の発症が多いとされています。明確なデータは存在しませんが、重症の場合、寝たきりになったり亡くなったりする可能性もあります。 外傷後に頭痛やめまい、倦怠感といった体調の異変が現れた場合は、脳脊髄液減少症を疑い脳神経外科や整形外科などを受診しましょう。 多くの都道府県公式ホームページでは、脳脊髄液減少症に関する情報が記載されているため、検索をおすすめします。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脳脊髄液減少症と思われる症状でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 脳脊髄液減少症発症までの期間に関するよくある質問 脳脊髄液減少症を発症するとどのような症状が現れますか? 脳脊髄液減少で特徴的な症状が、起立性頭痛です。起立性頭痛とは、起き上がったり座ったりすると発生、もしくは悪化する頭痛のことです。 その他の症状としては、首や目の奥の痛み、めまい、倦怠感などがあります。 脳脊髄液減少症は特徴的な症状が少なく病気の認知度も低いため、起立性調節障害や片頭痛、うつ病などと診断されるケースも少なくありません。 原因不明の脳脊髄液減少症は何歳ころに多く発症しますか? アメリカのクリーブランド・クリニックのサイトでは、原因不明の脳脊髄液減少症は30歳以上の方に多く、発症する平均年齢は42歳と示されています。(文献3) 男女で比較すると、女性の方が発症しやすい傾向にあります。 脳脊髄液減少症を発症してから診断されるまでの期間はどのくらいですか? 脳脊髄液減少症は診断が難しいため、診断されるまでに数年間かかる方も少なくありません。(文献5) 日本の新聞記事でも、発症から診断まで3年かかり、複数の医療機関を転々として苦しんだ方の記事が掲載されています。(文献7) 参考文献 (文献1)一般社団法人千葉市医師会「事故後に不調が続いたらすぐ病院へ「脳脊髄液減少症」」一般社団法人千葉市医師会ホームページ, 2023年4月10日 https://www.chiba-city-med.or.jp/column/152.html (最終アクセス:2025年4月20日) (文献2)Ji-Woong Oh, et al.(2017).Traumatic Cerebrospinal Fluid Leak: Diagnosis and Management.Korean J Neurotrauma, 13(2),pp.63-67. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5702760/pdf/kjn-13-63.pdf (最終アクセス:2025年4月20日) (文献3)Cleveland Clinic「Cerebrospinal Fluid (CSF) Leak」Cleveland Clinic,2022年4月26日 https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/16854-cerebrospinal-fluid-csf-leak (最終アクセス:2025年4月20日) (文献4)Kuo-Hsing Liao, et al.(2016).Risk of death in patients with post-traumatic cerebrospinal fluid leakagedAnalysis of 1773 cases.Journal of the Chinese Medical Association,79(2)pp.58-54 https://journals.lww.com/jcma/fulltext/2016/02000/risk_of_death_in_patients_with_post_traumatic.4.aspx (最終アクセス:2025年4月20日) (文献5)The CSF Leak Association「CSF Leak FAQs: Essential Information About Cerebrospinal Fluid Leaks」The CSF Leak Association https://csfleak.uk/resource/frequently-asked-questions-faqs (最終アクセス:2025年4月20日) (文献6)Mayo Clinic「CSF leak (Cerebrospinal fluid leak)」Mayo Clinic,2023年11月21日 https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/csf-leak/symptoms-causes/syc-20522246 (最終アクセス:2025年4月20日) (文献7)讀賣新聞「脳脊髄液減少症のいま<1>診断つかず医療機関転々」讀賣新聞オンライン,2022年11月19日 https://www.yomiuri.co.jp/medical/renaissance/20221118-OYT8T50024/ (最終アクセス:2025年4月20日)
2025.04.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「立ったり座ったりすると頭痛がする」 「ふわふわとしためまいが続く」 「いつも体がだるい」 このような症状でお悩みの方も多いでしょう。これらはいずれも、脳脊髄液減少症の初期症状の1つです。 脳脊髄液減少症は、原因不明のものもあれば、外傷や疾患が原因で発症するものもあります。 本記事では脳脊髄液減少症の初期症状や、放置するリスクなどを解説します。脳脊髄液減少症を発症した芸能人の体験談も紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 脳脊髄液減少症の初期症状 脳脊髄液減少症の初期症状で特徴的なものは、起立性頭痛です。(文献1)起立性頭痛とは、立ったり座ったりすると出現・悪化する頭痛のことです。 それ以外の初期症状としては、主に以下のようなものがあげられます。 首の痛み めまい 目の奥の痛み 耳鳴り 慢性的な症状としては、頭痛や疲れやすさ、注意力・思考力の低下、腰痛などがあげられます。 特徴的な症状が少ないため、片頭痛や頚椎椎間板ヘルニア、メニエール病、うつ病といった疾患と診断されるケースも少なくありません。 脳脊髄液減少症の概要・治療法、初期症状の1つ「目の奥の痛み」について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。 【関連記事】 脳脊髄液減少症のセルフチェック方法を紹介|治療方法もあわせて解説 目の奥が痛いのは脳梗塞の前兆?目の病気との見分け方や対処法を解説【医師監修】 脳脊髄液減少症の初期症状を放置するとどうなる? 脳脊髄液減少症は、初期段階であれば、充分な水分補給と安静といった保存的治療で回復する可能性が高い疾患です。(文献1)しかし、初期症状を放置すると、慢性化、もしくは重症化する可能性もあります。 重症化した場合、頭の中に血のかたまり(慢性硬膜下血腫)ができることもあります。脳脊髄液が減少すると、脳を包む硬膜と脳の間にあるすき間が広がり、そこに血液が溜まるためです。血のかたまりが大きくなると、脳が圧迫されるため、溜まった血液を取り除く手術が必要です。 初期症状に気づいた時点で医療機関にかかることが、重症化を防ぐ大事なポイントといえるでしょう。 脳脊髄液減少症の初期症状が見られたときの受診先については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液減少症の主な原因 この章では、脳脊髄液減少症発症の主な原因を表にまとめました。 原因 詳細・具体例 特発性 原因不明のもの 外傷性 なんらかの外傷によるもの (例) 交通事故 スポーツ中の転倒や打撲 階段からの転倒 医原性 なんらかの疾患や医療処置によるもの (例) 発熱による脱水 腰椎穿刺検査 整体治療 その他 外傷や疾患、医療処置以外によるもの (例) 出産 金管楽器を強く吹く スポーツ後の水分補給が不十分であったために、発症したケースもあります。 脳脊髄液減少症の検査方法 脳脊髄液減少症の検査方法は、主に以下の4つです。 病歴の聴き取り 脳脊髄液の検査 頭部MRI検査脳槽 シンチグラフィー検査 病歴の聴き取り 脳脊髄液減少症の検査および診断の第一歩は、病歴の聴き取りです。 もともと、片頭痛や緊張型頭痛、薬の飲み過ぎによる頭痛などがある方の場合、脳脊髄液減少症の症状と区別する必要があります。そのような頭痛がある方は、隠さずに医師へ伝えましょう。 めまいや体のだるさなど、頭痛以外の症状がある場合もていねいに伝える必要があります。 片頭痛や緊張型頭痛に関しては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 脳脊髄液の検査 腰椎(腰の背骨)に針を刺す腰椎穿刺により、脳脊髄液の圧力を調べる検査です。最初の検査結果で、圧力が6cm水柱以下のときは脳脊髄液減少症の可能性があります。ただし、正常値であっても、脳脊髄液減少症を完全に否定できない場合もあります。(文献2) なお、腰椎穿刺により脳脊髄液の漏れが悪化する可能性があるため、この検査は必須ではありません。 頭部MRI検査 頭部MRI検査で見られる主な所見を表でまとめました。 所見 詳細 脳の下方変位 脳と硬膜との間のすき間が広がる 小脳の一部が下がる脳幹が 平たく変形する 側脳室(脳脊髄液で満たされた空間)が狭くなる 血液量増加 硬膜が広範囲で厚くなる 頭の中の静脈が太くなる 脳下垂体が大きくなる ただし、慢性期には、このような所見が見られない場合もあります。MRI検査の結果は、あくまでも参考情報の1つです。 脳槽シンチグラフィー検査 脳槽シンチグラフィーとは、髄液の流れや漏れを調べる検査です。 腰椎穿刺で特殊な物質であるインジウムを注入し、30分~1時間後のインジウム量を100%として、24時間後に、再度インジウム量を測定します。 インジウム減少量や特定の場所への貯留状況などが、脳脊髄液の流れや漏れを調べる指標です。 胸椎や腰椎において、脳脊髄液がどこから漏れているかを調べるのに適した検査とされています。 脳脊髄液減少症を公表した芸能人 芸能人の中にも、脳脊髄液減少症を発症したことを公開している方がいます。 俳優の米倉涼子さんは2019年に脳脊髄液減少症を発症し、まっすぐ歩けない、身体がだるくて立ち上がれないといった症状に見舞われました。複数の医療機関を受診して、脳ドックや脳の検査を受けた結果、ようやく病名が判明しました。2023年8月に治療を受けて、翌年5月頃から重い症状が少し改善してきたとテレビ番組で語っています。 岐阜県を中心に活動しているタレントの塚本明里さんも、脳脊髄液減少症を発症した1人です。塚本さんは、発症してから病名がわかるまでに7年間かかりました。病名がわかるまでは、周りの人に説明できず辛い思いをしたそうです。長い時間頭を立てていると倒れることもあるため、外出時はリクライニング式の車椅子を使っていると語っています。 脳脊髄液減少症の初期症状がある場合は放置せずに医療機関を受診しよう 脳脊髄液減少症は、なんらかの原因によるものもあれば、原因不明のものもあります。 主な初期症状は起立性の頭痛ですが、それ以外にも、めまいや首の痛みなどさまざまな症状があります。 早期発見により早期回復が見込めるため、本記事で紹介したような症状がある場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう。多くの都道府県公式ホームページでは、検査・治療ができる医療機関を紹介しているため、症状がある方は検索してみると良いでしょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脳脊髄液減少症の初期症状が見られる方は、お気軽にお問い合わせください。 参考文献 (文献1) 松本英之,宇川 義一.「脳脊髄液減少症」『日本内科学会雑誌』100(4), pp.1076-1083, 2011年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/4/100_1076/_pdf (最終アクセス:2025年4月19日) (文献2) 脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会「脳脊髄液減少症ガイドライン2007」2007年 http://www.npo-aswp.org/data/2007-0330.pdf (最終アクセス:2025年4月18日)
2025.04.30 -
- 頭部
- 頭部、その他疾患
「めまいや頭痛が続いている」 「貧血が原因だと思っていたが、血液検査では異常なしだった」 「異常がないのに、なぜめまいや頭痛が続いているのだろう?」 このような不安や疑問をお持ちの方も多いでしょう。原因不明のめまいや頭痛などが続くときには、脳脊髄液減少症の可能性があります。 本記事では脳脊髄液減少症のセルフチェック項目や、病気の概要、治療法について解説します。 症状が続く不安を軽減するために、ぜひ最後までご覧ください。 脳脊髄液減少症のセルフチェック方法 この章では、脳脊髄液減少症のセルフチェック項目を表にまとめました。 セルフチェック項目 詳細 主な症状 頭痛(起立性頭痛) 首の痛み めまい 耳鳴り 見え方の異常 身体のだるさ 疲れやすさ その他の症状 顔の痛みやしびれ 意識障害 症状の現れ方 座ったり起き上がったりしてから3時間以内に症状が出現・悪化しやすい 起立性頭痛とは、立ち上がったときや座っているときなどに強くなる頭痛のことです。 当てはまる項目が多く、過去に病院で「異常なし」と診断された方は、脳脊髄液減少症を発症している可能性があります。 脳脊髄液減少症の症状について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご覧ください。 そもそも脳脊髄液減少症とは 脳脊髄液減少症とは、脳脊髄液が常に、もしくは断続的に漏れ出してしまう疾患です。(文献1)脳脊髄液の役割は、脳と脊髄を守ることです。 脳脊髄液が漏れ出て量が減ると、頭痛や首の痛み、めまい、耳鳴り、見え方の異常、体のだるさなど、さまざまな症状が現れます。 脳脊髄液減少症は、以下の2種類に分けられます。 症候性:病気やけがが原因で発症する 特発性:発症の原因が不明である 発症しやすい年齢は40歳前後であり、女性に多い疾患です。 脳脊髄液減少症は現在も研究が進められており、診断基準や治療法は確立されていません。(文献2) 脳脊髄液減少症に症状が似ている疾患 脳脊髄液減少症に症状が似ている疾患としては、以下のようなものがあげられます。(文献2) 慢性頭痛 頸椎症 頚椎椎間板ヘルニア むち打ち症 うつ病 脳脊髄液減少症は正確な診断基準が確立されていないため、別の疾患名で診断されてきたケースも少なくありません。もしくは、異常なしと診断された方も多い状況です。 原因がわからずに症状が続いたため、苦しんできた方も多いことが想定されます。 以下の記事では、脳脊髄液減少症と症状が似ている、むち打ち症について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。 脳脊髄液減少症の治療方法【セルフチェック該当者向け】 この章では、セルフチェックにおいて脳脊髄液減少症の可能性が高かった方に向けて、治療方法を詳しく解説します。 保存的治療 保存的治療では、水分補給と安静が必要です。1~2週間程度は、1日1000~2000mlの水分を摂り、安静にして過ごしましょう。(文献3)脳脊髄液の減少を止める効果が期待できます。 水分補給に関しては、入院やもしくは通院により、医療機関で点滴を受けるケースもあります。 水分補給時に経口補水液が効果的という説もありますが、科学的な根拠は提示されていません。 ブラッドパッチ ブラッドパッチとは、自分の血液を髄液が漏れ出ている部分に注入する治療法で、平成28年度から保険適用されました。 注入量は漏れ出ている部分によって異なります。腰椎(腰の背骨)で20〜40ml、胸椎(胸の背骨)で15~20ml、頚椎(首の背骨)で10~15mlです。 ブラッドパッチ治療後は1週間程度の安静が望ましく、同じ場所に再度治療する場合は、3か月以上の経過観察期間を設けることが望ましいとされています。(文献1) 硬膜外生理食塩水注入療法 腰椎からカテーテルを挿入して、生理食塩水を48~72時間持続的に注入する治療法で、注入のペースは1時間につき20ml程度です。(文献2) 生理食塩水のみ注入する方法に加えて、ブラッドパッチのときに、生理食塩水を35〜50ml程度注入する方法もあります。 セルフチェックで脳脊髄液減少症を疑う際は医療機関を受診しよう セルフチェックで当てはまる症状が多かった方や、症状があるにもかかわらず、異常なし、もしくは原因不明と診断された方は脳脊髄液減少症の可能性があります。 脳脊髄液減少症は、研究段階の疾患であるため、診断・治療できる医療機関が限られていますが、出来る限り早い受診をおすすめします。 お住まいの都道府県庁ホームページ内に、脳脊髄液減少症に関する情報が記載されていることも多いため、受診を検討される方は、検索してみましょう。 リペアセルクリニックでは、メール相談やオンラインカウンセリングを実施しています。脳脊髄液減少症と思われる症状でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。 \まずは当院にお問い合わせください/ 脳脊髄液減少症に関するよくある質問 脳脊髄液減少症は何科を受診すると良いでしょうか? 脳脊髄液減少症に対応している主な診療科は、以下のとおりです。 脳神経外科 脳神経内科 神経内科 整形外科 麻酔科 ただし、「治療まで可能」、「相談・検査のみ」など医療機関によって対応が異なります。治療においても、ブラッドパッチ対応可能なところと、不可能なところにわかれます。 多くの都道府県ホームページでは、脳脊髄液減少症の医療機関に関する情報を公開しているので、検索してみましょう。 脳脊髄液減少症と起立性調節障害の違いは何ですか? 起立性調節障害とは、交感神経や副交感神経のバランスの乱れによりさまざまな症状が起こる疾患で、小学校高学年から高校生の方に多く見られます。(文献4) めまいや頭痛、立ちくらみといった症状は脳脊髄液減少症と共通していますが、脳脊髄液減少症の原因は、文字どおり脳脊髄液の減少です。そのため両者は、原因や治療法に違いがあります。 脳脊髄液減少症は難病指定されていますか? 2025年(令和7年)4月1日の時点で、国の指定難病は348種類存在しますが、脳脊髄液減少症は含まれていません。(文献5) 脳脊髄液減少症に関しては、2007年度(平成19年度)から厚生労働科学研究費補助金、2015年度(平成27年度)からは日本医療研究開発機構(AMED)において、研究が実施されています。(文献6) 脳脊髄液減少症は、さらなる研究および難病指定が求められる疾患といえるでしょう。 参考文献 (文献1) 脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会「脳脊髄液減少症ガイドライン2007」2007年 http://www.npo-aswp.org/data/2007-0330.pdf (最終アクセス:2025年4月18日) (文献2) 松本英之,宇川 義一.「脳脊髄液減少症」『日本内科学会雑誌』100(4), pp.1076-1083, 2011年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/4/100_1076/_pdf (最終アクセス:2025年4月18日) (文献3) 兵庫県神河町「脳脊髄液減少症をご存知ですか?」https://www.town.kamikawa.hyogo.jp/cmsfiles/contents/0000000/507/nouekizui.pdf (最終アクセス:2025年4月18日) (文献4) 一般社団法人 起立性調節障害改善協会「脳脊髄液減少症と起立性調節障害の違いを解説-どちらに該当するかセルフチェック」一般社団法人 起立性調節障害改善協会ホームページ, 2024年2月25日 https://odod.or.jp/kiritsusei-tohaod-6279/ (最終アクセス:2025年4月18日) (文献5) 厚生労働省「指定難病の概要、診断基準等、臨床調査個人票(告示番号1~348)※令和7年4月1日より適用」厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53881.html (最終アクセス:2025年4月18日) (文献6) 厚生労働省「脳脊髄液減少症について」厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/nanbyo/100402-1.html (最終アクセス:2025年4月18日)
2025.04.30 -
- 頭部
- 脊椎
- 内科疾患
「足が思うように動かない」「以前より歩きづらくなった」と感じることはありませんか? 歩行は日常生活の基本であり、その障害は日々の行動や心の状態にも大きな影響を与えます。 突然の変化に戸惑い、原因が分からず不安を抱えている方も多いでしょう。 この記事では、痙性歩行やパーキンソン歩行など9つの主な歩行障害の種類と、それぞれの原因となる疾患について詳しく解説します。 原因を知ることは、回復の第一歩ですので、ぜひ最後までご覧ください。 主な歩行障害の種類と原因疾患 主な歩行障害としては、以下の9種類があげられます。 痙性歩行(けいせいほこう) はさみ足歩行 ぶん回し歩行 鶏歩(けいほ) 失調歩行 パーキンソン歩行 間欠性跛行 墜落性跛行 心因性歩行障害 歩行障害の状況と原因疾患について、それぞれ解説します。 痙性歩行(けいせいほこう) 痙性歩行とは、脚が伸び切った状態でつま先立ちの姿勢になり、つま先を引きずって歩く状態です。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 脳血管疾患 多発性硬化症 脊髄損傷 頚椎症性脊髄症(頚髄症) つま先を引きずって歩く関係で、靴の前側部分がすり減りやすい特徴があります。(文献1) はさみ足歩行 はさみ足歩行とは、両足ともつま先立ちで床をこすりながら、両足をはさみのように交差させて歩く状態です。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 脳血管疾患 多発性硬化症 脊髄損傷 X脚のため、膝をすり合わせるような歩き方も、はさみ足歩行と呼ばれるケースがあります。 ぶん回し歩行 ぶん回し歩行とは、弧を描くように足を動かして歩く状態です。 ぶん回し歩行の主な原因を、以下に示しました。 脳血管疾患による片麻痺 下肢の筋力低下 膝関節や足関節の柔軟性低下 歩幅は正常ですが、つま先を上げる動作が難しいため、少しの段差にもつま先が引っかかり、転倒の可能性があります。 鶏歩(けいほ) 鶏歩とは、足首が下がったまま歩いている状態です。つま先を引きずりながらぱたぱたと歩きます。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 腓骨神経麻痺(腓骨:ふくらはぎにある細い骨) 筋萎縮性側索硬化症 ポリオ 鶏歩の特徴は、つまずき防止のため、歩くときに股関節を強く曲げて、膝を高く上げることです。 失調歩行 失調歩行とは、麻痺や筋力低下がないにもかかわらず、バランスが悪くスムーズに歩けない状態です。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 脊髄小脳変性症 脊髄腫瘍 脳腫瘍 失調歩行の具体例は、よろめきながらの歩行や開脚した状態での歩行などです。 パーキンソン歩行 パーキンソン歩行とは、名前のとおりパーキンソン病特有の歩行障害です。 パーキンソン病以外の原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 パーキンソン症候群 レビー小体型認知症 前かがみの姿勢、狭い歩幅、最初の一歩が出ないすくみ足、徐々に早足になる突進歩行などが特徴としてあげられます。方向転換時にバランスが取りにくいため、転倒の危険性が高い状況です。 間欠性跛行 間欠性跛行とは、しばらく歩いていると、手足のしびれや痛みといった症状が出現し、休憩すると症状が緩和する状態です。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 脊柱管狭窄症 閉塞性動脈硬化症 歩くと痛み、休むと治まる。再び歩くと痛む。この状況を繰り返す歩行障害です。 以下の記事で、脊柱管狭窄症について解説していますので、あわせてご覧ください。 墜落性跛行 墜落性跛行とは、左右の足の長さが異なるため、歩く際に片方の足が地面に墜落するように落下する動きになる歩行障害です。 原因疾患としては、以下のようなものがあげられます。 変形性股関節症 先天性股関節脱臼 足の長さが異なる場合、片足立ちのときに、反対側の骨盤が下降しています。 以下の記事で、股関節の病気を詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 心因性歩行障害 心因性歩行障害とは、身体機能や運動機能に異常がないにもかかわらず、歩けなくなる状態です。ただし、介助により歩行可能です。 強い不安や心理的ストレスが身体症状に現れる、転換性障害(機能性神経症状症)のひとつとされています。 発症年齢は10代から30代前半までがほとんどと言われており、男性より女性に多く見られる症状です。 歩行障害の治療・リハビリテーション この章では、歩行障害に対する治療およびリハビリテーションについて詳しく解説します。 原因疾患の治療 ほとんどの歩行障害には原因となる疾患があるため、その治療が必要です。 治療方法としては、薬物療法やブロック注射、手術療法、再生医療などがあります。 再生医療は、脳血管疾患やパーキンソン病、脊髄損傷などさまざまな疾患に対して効果を示しています。 筋力トレーニング 筋力トレーニングの種類としては、以下のようなものがあげられます。 椅子に座って膝の曲げ伸ばし かかとの上げ下ろし 踏み台昇降 スクワット リハビリ専門職の指導により、トレッドミルやレッグプレスといった専用のマシーンで行う筋力トレーニングもあります。 バランストレーニング 代表的なバランストレーニングは、以下のとおりです。 ゆっくりとした片足立ち 横歩き 後ろ歩き 歩いている途中の方向転換 つま先上げ 障害物を乗り越えながら歩くことも、バランストレーニングのひとつです。(文献2) ご自宅でバランストレーニングを行うときは、転倒しないように壁やいす、手すりなどにつかまりましょう。 歩行補助器具の選定・指導 歩行障害は治療によって軽減するものもありますが、原因疾患によっては回復に時間がかかり、障害が固定される場合もあります。 移動能力や生活の質向上のために、歩行補助器具を使うこともリハビリのひとつです。歩行補助器具には、杖(一点杖、多点杖)や歩行器、シルバーカーなどの種類があります。 まとめ|歩行障害の種類を知り、適切な治療を受けよう 歩行障害にはさまざまな種類があり、原因もそれぞれ異なります。歩行障害は転倒のリスクを高め、閉じこもりや、さらなる身体機能低下につながるものです。 自分の歩きにくさはどのようなものかを理解した上で、状況に合った医療機関を受診し、適切な治療やリハビリを受けましょう。 歩行障害の種類に関するよくある質問 ここでは、歩行障害の種類に関するよくある質問を3つ紹介します。 歩行困難になったら何科を受診すれば良いですか? 歩行困難の種類と原因疾患別に、受診する診療科を表にまとめましたので、ご覧ください。 歩行障害の種類 疾患 受診する診療科 痙性歩行 はさみ足歩行 ぶん回し歩行 失調歩行など 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 脳腫瘍など 脳神経外科 パーキンソン歩行 失調歩行 鶏歩(けいほ)など パーキンソン病 脊髄小脳変性症 筋萎縮性側索硬化症など 神経内科 間欠性跛行 痙性歩行 墜落性跛行など 椎間板ヘルニア 脊柱管狭窄症 変形性関節症 頚髄症など 整形外科 心因性歩行障害 強い不安や心理的ストレスによる不調 (転換性障害も含まれる) 精神神経科 間欠性跛行 閉塞性動脈硬化症 内科 どの診療科を受診すると良いのか不明な場合は、かかりつけ医への相談をおすすめします。 歩行障害は若い人にも起こりますか? 若い人にも歩行障害は起こりえます。 若年者の歩行障害の原因としては、多発性硬化症、脊髄損傷、脳性麻痺、先天性疾患、あるいは外傷後の後遺症などがあります。若年性パーキンソン病も原因のひとつです。 パーキンソン病を40歳以下で発症した場合に、若年性パーキンソン病と呼ばれます。若年性パーキンソン病の特徴は、病気の進行がゆるやかであることや、薬の効きが良いことなどです。 ペンギンみたいな歩き方は病気の症状ですか? 正常圧水頭症やパーキンソン病、シャルコー・マリー・トゥース病といった病気の症状であると考えられます。 足の筋力や足首の柔軟性が低下して、歩くときに足を上げられないため、すり足や小さい歩幅での歩行になります。 正常圧水頭症については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。 参考文献 (文献1) 和田直樹「歩行障害の種類と原因疾患」55(9), pp.730-734, 2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/55/9/55_55.730/_pdf (最終アクセス:2025年3月21日) (文献2) Dotdash Meredith「Boost Your Mobility With These Gait Training Exercises」Verywell Health, 2025年1月28日 https://www.verywellhealth.com/gait-training-in-physical-therapy-5069884 (最終アクセス:2025年3月21日)
2025.03.31