腱板損傷|リハビリで症状の改善を期待するために
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腱板損傷|リハビリで症状の改善を期待するために
腱板とは肩に付いている筋肉(腱)のことで「棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋」の4つからなります。腱板損傷では、これらの筋肉のいずれかが損傷し、あるいは複数の筋肉が断裂している状態です。
損傷の程度は筋肉の一部分が損傷している部分断裂と、完全に切れてしまった完全断裂とに分けられます。腱板が完全に断裂したり、損傷が広範囲に及ぶと、自分の力では腕が挙げられなくなる場合もあります。
そうなると日常生活や仕事に支障をきたし、痛みもなかなか軽減しないことが多くあります。
腱板の損傷は、断裂の範囲が小さいと修復も期待できますが、完全断裂や広範囲の断裂の場合は、時間の経過とともに断裂の範囲が広がることがありますので、手術が適応となります。
しかし、その反面、部分断裂で損傷の範囲が狭ければ、リハビリで症状の改善を期待することも可能になります。
腱板損傷の状態をMRI検査で確認する
腱板損傷に限らず、リハビリで効果を発揮させるためには、まず治療前の状態を把握する必要があり、そのためには、どこの腱板が損傷しているのかを判断する必要があります。
確実に損傷部分を判断するには、M R I検査による画像診断が最も優れています。M R I検査では、損傷の部位や範囲を確認することができるため、手術の適応判断にも役立ちます。
ところが、M R I検査は大掛かりな装置が必要であり、また検査にはある程度の時間も必要です。そこで素早く簡易に腱板損傷を評価する方法として、徒手検査法というものがあります。
この方法は、それぞれの筋肉が作用する方向に関節を動かしたり、抵抗運動を加えることで損傷している腱板をチェックするテスト法です。
このテスト法には棘上筋(外転)テスト、棘下筋・小円筋(外旋)テスト、肩甲下筋(内旋)テスト、ドロップアームサイン(Drop arm sign)などがあります。
リハビリ前には可動域を評価する
リハビリを始める前には、可動域の評価をしておく必要があります。肩関節は球関節であり多方向に動くため、可動域の評価はそれぞれのポジションで計測する必要があります。
特に内外旋は下垂位(腕を下に下ろした位置からの評価)だけでなく、外転(側方挙上)90°と屈曲(前方挙上)90°の位置による計測を加えると、より詳細な評価ができます。
ただし、可動域の評価をする上で注意しなければならないのが、※代償動作による「見かけ上」の角度に惑わされないということです。急性期の腱板損傷では疼痛性の、慢性期では筋性の可動域制限が発生することがあります。
その際、可動域制限以上に腕を動かそうとして、体幹を傾ける代償動作がよく見られます。
体幹を後ろに反らせたり側方に傾けると、「見かけ上」では、よく動かせているように見えても、正確な関節可動域の評価ができませんので、可動域を評価する際は代償動作に注意をして計測を行うことが必要です。
また可動域の評価は、リハビリの進捗状況を客観的に把握することができるため、定期的に計測するようにすべきです。
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腱板損傷|治療プログラムの考え方
治療は、診断によっては手術をせずに行うことが可能です。また、患者本人が手術を拒否した場合は、保存療法(手術をしない治療法)を行うことになります。
腱板損傷における保存療法の目的は、疼痛の除去や、損傷していない肩関節の機能を引き出して、挙上運動(肩甲上腕リズム)を再建することです。ただし、リハビリは病態に合わせて進める必要があります。
受傷直後は可動域制限や筋力低下が認められても、関節内での炎症が強く関節運動をおこなうと疼痛を助長させることがありますので、三角巾などを用いて患部の安静がとれるように固定します。
また、筋緊張が強いと断裂した腱板を牽引してしまい、疼痛を誘発することがあります。このような時は筋緊張を和らげるためのリラクセーションを実施すると効果的です。
しかし、筋緊張を強くすることで患部を固定している状態の場合もあります。その状態で患部をリラクセーションさせると、反対に疼痛を増悪してしまう可能性があります。
そのような時は、アライメントを評価した上で自然に筋緊張が緩和されるポジションを探し、リハビリでは無理せず他の部位の機能改善に取り組みましょう。
急性期以降は積極的な自動運動の可動域を獲得しましょう
急性期以降の時期では、肩甲骨に対して上腕骨頭を引きつけるポジションを保持するために、肩甲上腕関節(肩甲骨と上腕骨からなる肩関節の1つ)の可動域獲得と筋機能の改善を中心におこないます。
腱板は隣り合っている腱との組織的なつながりがあるため、損傷した腱以外の腱板筋により代償することが可能です。最初は自動介助運動(患者自身が力を入れ、セラピストが補助をする運動)から開始し、徐々に自動運動へと移行します。
自動運動でも痛みを感じることなく運動することができるようになれば、抵抗運動のように腱板筋に負荷をかけていきます。腱板損傷をした肩関節の挙上動作の獲得は、スポーツに例えると一度覚えたフォームを改善するのと同じように時間を要することがあります。
ただ、このリハビリを焦っておこなうと肩甲骨の過剰な上方回旋のみの運動(肩甲骨の運動だけで挙上する代償動作)となってしまい、肩甲上腕関節の運動を得られるのに非常に時間がかかることがあります。
受傷後、長期間が経過してしまっていたら
受傷後、長期間が経過している場合は、関節包が硬くなることによる伸張性の低下や、疼痛によって動かさない状態が続き拘縮が存在することが多いです。
基本的には五十肩といわれる肩関節周囲炎の症状と同様に、まずは関節拘縮の除去をおこない、可動域が広がった部分の腱板機能を改善します。
代償動作による挙上
肩関節を動かすために重要な働きをする腱板が障害を受けると、肩甲骨に骨頭を引きつける機能が損なわれた状態のままで上肢の運動ができるようにしなければなりません。
そこでリハビリでは肩関節の求心性(肩甲骨に骨頭を引きつける力)を補償する機能を獲得し、その機能を維持する必要があります。
腱板断裂の症例の多くは肩峰下を上腕骨の大結節が通過するときに疼痛を訴えることが多いので、どのようにして大結節を肩峰下へ通過させるかがリハビリをおこなう上でのポイントとなります。
- 方法1
- ⚪️ 肩甲骨の関節窩に対して上腕骨頭が上昇して肩峰下で接触する
- ⚪️ 接触した点を支点として、肩甲骨に対して上腕骨を動かす
- 方法2
- ⚪️ 上腕骨の運動よりも先に肩甲骨の下方回旋をさせ、ある程度、肩甲上腕関節の角度を作る
- ⚪️ 肩甲上腕関節の角度を保ったまま固定した後、肩甲骨の上方回旋をさせる
- ⚪️ 関節窩が上方を向いてから肩甲骨に対して上腕骨を動かす
いずれの方法も代償運動により、日常生活レベルでは挙上が可能となります。
腱板損傷は、再生医療により手術せずに症状を改善できます
可動域制限に対するリハビリ(運動療法)
腱板が断裂した症例では、肩甲上腕関節に著明な可動域制限をきたすことは少なく、代償動作の反復による筋性の制限や疼痛逃避による制限を認めることが多いです。
痛みを伴うような過剰なストレッチは、病態の悪化や筋の防御性収縮を招き逆効果となりますので、深呼吸とあわせて実施するなどリラックスをしながら無理のなくストレッチをおこないましょう。
腱板筋のトレーニング(リハビリ)
疼痛誘発テストをおこない、機能低下が認められた腱板に対しては、リハビリとして積極的なトレーニングを指導します。
ただし、腱板に収縮時痛(力を入れた時の痛み)や、伸張痛(ストレッチのように筋肉が伸ばされた時の痛み)が出現し、断裂が疑われる腱板に対しては積極的なトレーニングはおこなわず、他の腱板に対する運動をおこなうようにします。
運動をする際は腱板のどの筋を働かせるかを考えて、目的に合ったトレーニングの方法を選択する必要があります。
ただし、腱板筋のトレーニングは筋の収縮再学習としておこないますので、肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭からなる肩関節の1つ)の運動が起こらない範囲で、なおかつアウター筋が優位に働かないよう低負荷で実践しなければなりません。
また筋肉によっては内外旋のトレ-ニングとして運動をすることがありますが、あらゆる挙上角度での肩甲上腕関節の求心位を保つために、いろいろな角度での内外旋運動をおこなう必要があります。
まとめ・腱板損傷|リハビリで症状の改善を期待するために
腱板損傷では受症してからの経過により症状が異なるため、病態に合わせたリハビリが必要です。そして腱板損傷に対するリハビリでは、いかに残存している機能を引き出すか、また残存している機能で日常生活動作を獲得させるかがポイントとなってきます。
リハビリのプログラムを作成する時は、一つの機能にこだわらず、残存している色々な機能を活用しましょう。肩の痛み、腱板損傷でリハビリは非常に大切です。
リハビリ、ストレッチ、トレーニングなどは、すべて無理のないプログラムを専門医の指導の下、行っていただくのが理想です。
ただ手術を勧められ迷われていたり、前向きな治療をお考えなら最新の「再生医療」という選択肢もございます。こちらで動画を含めた詳しいご説明もございますのでご参考になさって下さい。。
No.0014
監修:院長 坂本貞範