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視床出血のリハビリ|急性期からの流れと後遺症別の方法を医師が解説

視床出血 リハビリ
公開日: 2023.01.30 更新日: 2026.07.31

視床出血(ししょうしゅっけつ)は脳出血の一種で、脳の深部にある「視床」で出血が起こる病気です。多くの場合、高血圧を背景に発症し、体の片側の麻痺や感覚障害などの後遺症を残す場合があります。

ご家族が視床出血を発症し、「これからどこまで回復するのか」「今できるリハビリは何か」と、見通しの立たない不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、急性期・回復期・生活期のリハビリの流れから、後遺症別のリハビリ方法、回復期間と予後の考え方までを、医師の視点で解説します。

リハビリは長期にわたることもありますが、時期や症状に合わせた継続で、改善が期待できる場合があります。焦らず取り組むための参考にしてください。

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視床出血の後遺症とリハビリ

視床出血では、出血した側と反対側の体に症状が現れやすいのが特徴です。つまり、右の視床で出血が起こると左半身、左の視床では右半身に症状が出やすくなります。ただし、実際の症状は出血の大きさや広がり方によって変わってくる点に注意が必要です。

視床出血の主な後遺症は、以下の表のとおりです。

主な後遺症 生活上の困りごと
視床痛 ・手足のジンジン、ピリピリとした痛み
・痛みへの不安で動きが減る
感覚障害 ・しびれや温度の感じにくさ
・手足の位置がわかりにくい
感覚障害を伴う半身麻痺 ・手先の細かい動作がしにくい
・立つ、歩くときの姿勢が不安定
運動失調 ・動きがぎこちなく狙いが定まらない
・字を書く、物を取る動作が乱れる
嚥下・構音障害(声量低下) ・むせやすく食事に時間がかかる
・声が小さく、話が伝わりにくい
高次脳機能障害 ・記憶や注意が続きにくい
・段取りを立てにくい
眼球運動障害 ・物が二重に見える
・視線を上下に動かしにくい

なお、各後遺症に対応するリハビリでは、低下した機能を回復させる訓練だけでなく、残っている機能や補助具を活かして、歩行・着替え・食事といった日常生活動作をしやすくすることを目指します。

ただし、同じ後遺症でも、リハビリの内容や組み合わせは一人ひとり異なります。どのリハビリをどの程度行うかは、医師とリハビリ専門職が状態を評価しながら個別に検討します。

視床出血のリハビリの流れ|急性期・回復期・生活期

視床出血のリハビリは、右視床出血では左半身、左視床出血では右半身のように、出血した側と反対側に現れる症状へ働きかけていきます。その上で、症状や全身状態、発症後の時期に合わせて段階的に進めるのが基本です。

時期ごとの大まかな流れは、以下のとおりです。

ここでは、リハビリの大まかな流れや全体像を解説します。

急性期のリハビリ(発症〜約2週間)

急性期のリハビリは、安全管理と合併症の予防を最優先に、全身状態に応じてできる範囲から始めます。この時期は、再出血や血腫の増大、脳浮腫(のうふしゅ:脳に水分がたまり、脳が腫れた状態)などが起こる可能性があります。そのため、状態の変化を早期に見つけて対応することが重要です。

医療者は、バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸数など)や意識レベル、瞳孔の変化などを観察し、再出血を防ぐために定められた範囲で血圧を管理します。

一方で、安静のために長く寝たきりが続くと、褥瘡(じょくそう:床ずれ)や関節の拘縮(こうしゅく:関節や筋肉が硬くなり、動かしにくくなった状態)につながります。そのため、皮膚の観察やこまめな体位変換、適切なポジショニングを行いながら、状態に応じて少しずつ体を動かしていきます。

回復期のリハビリ(発症〜約3〜6カ月)

急性期を過ぎた回復期は、機能の回復と日常生活動作の再獲得を目指す時期です。症状に応じて、理学療法・作業療法・言語聴覚療法などを組み合わせて進めます。

また、回復期は褥瘡を防ぐ皮膚の観察や関節拘縮を防ぐ体位調整に加え、栄養状態や運動機能、精神状態にも目を配ります。嚥下機能(えんげきのう:食べ物や飲み物を安全に飲み込む働き)が低下している場合は、誤嚥性肺炎を防ぐために食事時の姿勢と口腔ケアが大切です。

さらに、感覚障害や視床痛がある場合は、体に触れる前に声をかけるなど感覚障害への配慮を行い、心理面も支えます。

なお、回復期の「約3〜6カ月」はあくまで一般的な目安です。回復の速さや到達度には個人差があります。

生活期(維持期)のリハビリ(発症〜約6カ月以降)

生活期は、回復期までに獲得した機能を維持しながら、状態に応じて目標を見直す時期です。機能訓練や日常生活動作の練習に加え、社会参加、再発予防、心理的な支援を続けることが重要です。

なお、視床出血の予後は、血腫の大きさや部位、年齢、発症時の意識状態などに左右されます。そのため、回復までの期間や到達できる状態を一律に示すことはできません。

一例として、左視床出血を発症した37歳女性を7年間追跡した報告では、食事や着替え、移動などの身体動作を評価する点数が48点から80点(91点満点)へ、理解や記憶、問題解決などの認知面を評価する点数が10点から20点(35点満点)へ改善しました。(文献1)7年後には、家庭内の動作がおおむね自立したと報告されています。

また、思うように体を動かせないストレスや家族への罪悪感から、気分の落ち込みやうつ症状が現れる場合もあります。不安が強い場合は、心理カウンセラーへの相談や当事者同士の交流も選択肢です。

【後遺症別】視床出血のリハビリ方法

ここからは、後遺症ごとのリハビリの方向性を紹介します。おおまかには、次のような後遺症に対して訓練を行います。

なお、同じ訓練がすべての方に適しているわけではありません。症状の内容と安全性を評価した上で、一人ひとりに合ったリハビリ内容を選ぶ必要があります。

感覚障害へのリハビリ

視床出血のあとには、以下のような感覚障害が生じる場合があります。

  • 感覚が鈍くなる
  • しびれる
  • 異常な痛みを感じる
  • 温度がわかりにくい
  • 手足の位置や動きがつかみにくい(深部感覚の低下)

感覚障害に対しては、感覚を再び使いやすくする「感覚再教育」が行われます

具体的には、以下のような方法が代表的です。

  • 目で見ずに材質の異なる物を触って当てる
  • 米などを入れた容器の中から目的の物を探す
  • 温かい物と冷たい物の違いを確かめる

また、着替えのときに肌触りの違う衣服に触れる、入浴や食事の中で触覚や温度を意識するなど、日常生活に取り入れる工夫も役立ちます。

ただし、感覚が低下していると、熱さや傷に気づきにくくなります。とくに温かい物と冷たい物を使う訓練はやけどの危険もあるため、必ず専門職の指導のもとで行いましょう。

視床痛へのリハビリ

視床痛は、手足にジンジン、ピリピリとした痛みやしびれが続く後遺症で、鎮痛薬が効きにくいことも少なくありません。視床痛へのリハビリの一つに、痛みに対する考え方と行動を整理する「認知行動療法」があります

視床痛があると、「動くと痛みが悪化するのではないか」などの不安や自信の低下から、活動量が減り、引きこもりにつながることがあります。そこで、どの動作で痛みが強まり、何をすると和らぐのかを整理し、無理のない範囲から少しずつ活動量を増やす取り組みを行います。

こうした経験を積み重ねることで、痛みに対する不安を和らげ、活動量を保ちながら生活への影響を減らすことを目指します。

なお、認知行動療法だけで視床痛が治るわけではありません。薬物療法なども含め、医療機関で相談しながら進めることが大切です。

歩行・バランス・運動失調へのリハビリ

出血の広がりによっては、運動麻痺に加えて、動きを滑らかに調整しにくい「運動失調」が生じる場合があります。手足の動かしにくさや歩行の不安定さに対しては、部位や症状に応じて訓練を組み合わせるのが基本です。

歩行やバランス、運動失調に対するリハビリでは、症状や身体機能に応じて、次のような練習を行います。

対象部位 主な練習内容
上肢 ・手の開閉
・指を1本ずつ動かす
・小物をつまむ
・コインを拾う
・箸やスプーンを使う
下肢 ・筋力強化や片脚立ち
・スクワット
・座った姿勢での膝の伸展や脚上げ
・歩幅を意識した歩行
・鏡で姿勢を確かめる練習

上記の他に、運動失調に対しては、リズムに合わせた運動やボールキャッチなど、目と手の協調を促す訓練も行われます。

さらに、ボタンやファスナーの開け閉め、歯磨き、食事、補助具の使い方など、日常生活の動作に直結した練習も行います。

なお、片脚立ちや歩行の練習は転倒の危険を伴います。自己判断で行わず、必ず理学療法士などの評価と付き添いのもとで進めましょう。

運動失調の起こる仕組みや特徴は、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

嚥下・構音障害(声量低下)へのリハビリ

視床出血では、視床の周囲に広がった影響などにより、飲み込みにくさ(嚥下障害)や、発音のしにくさ・声の小ささ(構音障害・声量低下)が起こる場合があります。これらに対しては、言語聴覚士を中心に、飲み込みや発声、口の動きの訓練を段階的に進めます

左視床出血後に失語症と嚥下障害が現れた70歳代男性の症例では、発声や唇・舌の運動、口腔ケアなどを行い、状態に合わせて食事の形やとろみを調整しながら、口から食べる練習を進めました。その結果、最終的には3食とも口から食べられるようになったと報告されています。(文献2

ただし、回復の経過には個人差があります。また、誤嚥(ごえん)の危険があるため、食事の形やとろみの調整、飲み込みの訓練は、医師や言語聴覚士などの評価にもとづいて行いましょう。

眼球運動障害へのリハビリ

視床出血では、血腫が下方へ進展し、眼の動きに関わる領域へ影響すると、垂直方向の眼球運動障害が生じる場合があります。上下方向の視線を動かしにくくなったり、物が二重に見える複視が現れたりすると、歩行や読み書き、食事といった日常生活に影響しやすくなるのが特徴です。

リハビリでは、指などを目で追う、目標を見つめる、別の場所へすばやく視線を移す、両目を内側に寄せるといった練習を行います。過去には、このようなリハビリによって眼球の動きが改善した症例も報告されています。(文献3

見えにくさが強い場合は、以下のような方法で日常生活を補います。

  • 片方の眼を覆う
  • 頭の向きを調整する
  • プリズム眼鏡(物が二重に見える症状を軽減する眼鏡)を使う

ただし、適した方法は症状によって異なるため、眼科医や視能訓練士、作業療法士などが状態を確認しながら進めます。また、研究はまだ限られており、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。

視床出血のリハビリと再生医療という選択肢

リハビリと併せて検討できる選択肢の一つに、幹細胞を用いる再生医療があります

当院「リペアセルクリニック」で行っている再生医療では、患者様自身から採取した幹細胞を培養し、点滴で投与します。脂肪由来の幹細胞には、損傷した神経や血管が修復されやすい環境を促す働きがあるとされており、この性質を活用した治療法です。

ただし、再生医療だけで機能が完全に回復するわけではありません。リハビリと組み合わせて取り組む考え方が基本であり、適応には個人差があります。また、期待できる効果やリスクは、患者様ごとに異なるため、必ず医師に確認した上で検討しましょう。

なお、実際の症例については、以下の記事もご覧ください。

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視床出血のリハビリでお悩みの方は当院へご相談ください

視床出血のリハビリは、急性期・回復期・生活期、そして後遺症の種類に合わせて、無理のない範囲で継続していくことが大切です。回復に必要な期間や到達度には個人差があり、長い経過の中で少しずつ改善がみられる場合もあります。

また、適応がある場合は、リハビリと再生医療を組み合わせる方法も検討できます。

回復の見通しが立たず不安を感じている患者様やそのご家族は、どうか一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。

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視床出血のリハビリに関するよくある質問

視床出血のリハビリ期間はどのくらいかかりますか?

回復までに必要な期間を一律に示すことはできません。血腫の大きさや部位、症状、年齢、合併症、リハビリを始めた時期などによって、経過は大きく変わります。

大切なのは、急性期・回復期・生活期を通じて、目標を見直しながらリハビリを継続することです。長期の経過で改善がみられた症例もありますが、すべての方が同じように改善するとは限りません。

焦らず、専門職と相談しながらリハビリを継続しましょう。

視床出血で記憶障害が出た場合はリハビリできますか?

記憶障害や注意障害がある場合も、状態に合わせてリハビリを行えます。課題を簡単にする、繰り返し練習する、手順や予定を文字や図で示すなどの工夫が有効です。

実際に、左視床出血後に注意力や記憶力が低下した60歳代女性の症例では、取り組みやすい難易度に課題を調整し、反復練習や予定の見える化、生活環境の調整を行いました。その結果、認知機能や記憶力、日常生活の自立度に改善がみられています。(文献4

ただし、単一の症例であり、回復の程度や経過には個人差があります。

参考文献

(文献1)
脳室穿破を伴った左視床出血の長期経過|認知リハビリテーション

(文献2)
左視床出血で失語症と嚥下機能低下を認めた症例へのアプローチ|脳血管研究所 美原記念病院

(文献3)
脳損傷者における眼球運動障害改善のためのリハビリテーション|日本作業療法士協会

(文献4)
重度上肢麻痺と注意・記憶障害を呈した視床出血症例で集中的上肢機能訓練による機能回復と難易度設定による行動変容が奏功した一例|日本作業療法士協会