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脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説

最近ニュースでも大きく取り上げられている“脊髄梗塞”ですが、稀な疾患で原因が不明なものも多く、現状では明確な治療方針が定められていません。

後遺症に対してはリハビリテーションを行いますが、最近では再生医療が新たな治療法として注目されています。

本記事では、

  • 脊髄梗塞の発生率や好発年齢
  • 脊髄梗塞は治るのか?後遺症や予後
  • 脊髄梗塞の治療やリハビリ
  • 後遺症に対する最新の治療法「再生医療」

について解説していきます。

脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説

 

脊髄梗塞の症状や原因についての詳細は以下の記事で紹介していますので、そちらをご参照ください。

脊髄梗塞の発生率や好発年齢、性差は?

ある研究においては、年齢や性差を調整した脊髄梗塞の発生率は年間10万人中3.1人と報告されています。

脳卒中などの脳血管疾患と比較し、脊髄梗塞の患者数はとても少ないです。

また、脊髄梗塞の患者さんのデータを集めた研究では、平均年齢は64歳で6割以上は男性だったと報告されています。

しかし、若年者の発症例もあり、若年者の非外傷性脊髄梗塞の発生には遺伝子変異が関係していると示唆されています。

脊髄梗塞の診断は時間を要する?

そもそも脊髄梗塞は明確な診断基準がありません。

発症率が低い脊髄梗塞は最初から強く疑われず、急速な神経脱落症状(四肢のしびれや運動障害、感覚障害など)に加えてMRIでの病巣確認、さらに他の疾患を除外してから診断することが多いのが現状です。

また、MRIを施行しても初回の検査ではまだ変化がみられず、複数回の検査でようやく診断に至った症例が少なくありません。

ある病院の報告では、発症から診断に要した日数の中央値は10日となっており、最短で1日、最長で85日となっていました。

脊髄梗塞は治るのか?後遺症や予後について

脊髄梗塞の発症直後には急激な背部痛を生じることが多く、その後の後遺症として四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)や感覚障害(主に温痛覚低下)、膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など)がみられます。

  • ・四肢の運動障害(麻痺や筋力低下など)
  • ・感覚障害(主に温痛覚低下)
  • ・膀胱直腸障害(尿失禁や残尿、便秘、便失禁など)

これらの症状に関しては、入院治療やリハビリテーションの施行で改善することもあります。しかし、残念ながら麻痺などの後遺症として残ることもあります。

歩行障害の予後に関して、115人の脊髄梗塞患者の長期予後を調査した研究報告では、全患者のうち80.9%は退院時に車椅子を必要としていましたが、半年以内の中間調査で51%、半年以降の長期調査では35.2%と車椅子利用者の減少がみられました。

同じ研究における排尿カテーテル留置(膀胱にチューブを挿入して排尿をさせる方法)の予後報告ですが、退院時には79.8%だったのが中間調査では58.6%、長期調査では45.1%へと減少がみられました。

症状が重度である場合では、予後はあまり良くはありません。 しかし、発症してから早い時期(1〜2日以内)に症状が改善することも多く、そう言った場合では予後が比較的良好となることが多いとされています。

脊髄梗塞に対する治療法

比較的稀な病気である脊髄梗塞は、いまだに明確な治療法は確立されていません。

脊髄梗塞の発生した原因が明らかな場合にはその治療を行うことから始めます。例えば、大動脈解離や結節性多発動脈炎など、脊髄へと血液を運ぶ大血管から中血管の病態に起因して脊髄の梗塞が生じた場合にはその原因に対する治療がメインとなります。

一方で、原因となる病態がない場合には、リハビリテーションで症状の改善を目指します。

下記が代表的な原因とそれぞれへの対処例の一覧となります。

脊髄梗塞の治療方法

脊髄梗塞に対する原因別の治療

  • ①大動脈解離 : 手術、脳脊髄液ドレナージ*、ステロイド投与、ナロキソン投与**
  • ②結節性多発大動脈炎 : ステロイド投与
  • ③外傷 : 手術
  • ④動脈硬化・血栓 : 抗凝固薬/抗血小板薬***
  • ⑤医原性(手術の合併症) : 脳脊髄液ドレナージ、ステロイド投与、ナロキソン投与
  • *背中から脊髄腔へチューブを挿入し、脊髄液を排出する方法
  • **脊髄の血流改善を認める麻酔拮抗薬
  • ***血を固まりにくくする薬剤

上記以外にも原因は存在しますし、病態や医療施設、医師の判断によってどんな対処を行うかは異なってきます。

また、実際には原因がはっきりしない症例も多く、その場合には薬物投与などの治療を行わず、脱水予防に点滴など補液を行いながらリハビリテーションに移行します。

脊髄梗塞に対するリハビリテーション

脊髄梗塞で神経が大きなダメージを受けてしまうと、その神経を完全に元に戻す根本的治療を行うのは難しいため、一般的には支持療法が中心となります。

支持療法は根本的な治療ではなく、症状や病状の緩和と日常生活の改善を目的としたもので、リハビリテーションも含まれます。

リハビリテーションとは、一人一人の状態に合わせて運動療法や物理療法、補助装具などを用いながら身体機能を回復させ、日常生活における自立や介助の軽減、さらには自分らしい生活を目指すことです。

リハビリテーションは病院やリハビリテーション専門の施設で行うほか、専門家に訪問してもらい自宅で行えるものもあります。

リハビリテーションの一連の流れ

  • ①リハビリテーションでまず行うのは、何ができて何ができないのか評価してもらうことです。
  • ②次に作業療法士による日常生活動作練習や、理学療法士による筋力トレーニング・歩行練習などを状態に合わせて行なっていきます。

日常生活を念頭において必要な動作ができるように訓練メニューを考えてくれますし、自主練習用のトレーニングも教えてくれます。

脊髄梗塞の患者さん10人の検討を行なった報告によると、脊髄梗塞発症後にベッド上あるいは車椅子移動だった患者さん7人中、リハビリテーションで自立歩行可能(歩行器や杖使用も含まれます)となった方が5人もいました。

時間はかかりますし、病気以前の状態まで完全に戻すのは難しいかもしれません。しかし、リハビリテーションは機能改善に有効であり、脊髄梗塞の予後を決定する因子としてとても重要なのです。

再生医療が脊髄梗塞に有用!

このように、脊髄梗塞ではゴールドスタンダードと呼べる治療法がなく、場合によっては対症療法を中心に治療法自体を模索することも少なくありません。そのような中、近年では再生医療という新たな分野が、脊髄梗塞を含めた神経障害に対して特異的な効果を発揮しています。

再生医療では、これまで回復が困難と言われてきた神経の障害に対しても常識を覆す効果を発揮し、これまでも脊髄梗塞におけるリハビリテーションの効果を向上させるとの報告や、脊髄損傷の重症度を改善したと報告がされており、これからの医療にとって新しい希望の光となっています。

再生医療とは、失われた身体の組織を修復する能力、つまり自然治癒力を利用した最先端医療です。

当院で行なっている再生医療は“自己脂肪由来幹細胞治療”というものです。患者さんから採取した幹細胞を培養して増殖し、その後身体に戻すという治療法です。

幹細胞とは、いろいろな姿に変化できる細胞で、失われた細胞を再度生み出して補充する機能を持つ細胞のことをいいます。自分自身の細胞から作り出すので、アレルギーや免疫拒絶反応がなく、安全な治療法といえます。

日本における幹細胞治療では、一般的に点滴による幹細胞注入を行なっておりますが、それでは目的の神経に辿り着く幹細胞数が減ってしまうことが懸念されます。

そこで、当院では損傷した神経部位に直接幹細胞を注入する“脊髄腔内ダイレクト注入療法”という、注射によって脊髄のすぐ外側にある脊髄くも膜下腔に幹細胞を投与する方法を採用しています。点滴治療と組み合わせることによって、より大きな効果を期待できます。この治療は数分のみの簡単な処置で済み、入院も不要です。

実際に当院では術後や外傷、脊髄梗塞、頚椎症などの神経損傷に由来する麻痺や痺れ、疼痛などの後遺症に対して再生療法を施し、症状が大きく改善した例を経験しています。

▼詳しくは当院の“脊髄損傷の再生医療”に関する動画をご覧ください。

まとめ・脊髄梗塞は治るのか?治療法や後遺症のリハビリについて解説

脊髄梗塞は稀な疾患ゆえ、治療ガイドラインが確立されていません。

原因が明らかな場合にはその治療を行ない、原因が不明な場合には脱水予防の補液のみで、以降は後遺症を改善するべくリハビリテーションに努めるのがこれまでの一般的な治療でした。

しかし、2024年現在は再生医療に手が届く時代となり、今まで回復に難渋していた脊髄損傷も改善が見込めるようになりました。

脊髄損傷による後遺症に再生医療が適応する可能性があります。気になる方はぜひ当院に一度ご相談ください。

 

脊髄の損傷は手術しなくても治療できる時代です。

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No.13
監修:医師 渡久地 政尚

参考文献一覧

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  • Maria Khoueiry, Hussein Moussa, et al. Spinal cord infarction in a young adult: What is the culprit? J Spinal Cord Med. 2021;44:1015-1018.
  • 熊谷文宏, 加藤諒大ほか. 脳梗塞・脊髄梗塞を発症後、再生医療を実施し集中的リハビリテーションを実施した1例. 第53回日本理学療法学術大会 抄録集.O-S-1-4.
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