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肝硬変の治療法を合併症別に現役医師が解説|治る時代がやってくる!?
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「肝硬変の疑いがあって、今後の治療が気になる」
「改善させるには肝移植しかないの?」などと、悩んでいませんか。
肝臓の慢性的な炎症により、肝臓が線維化して硬くなる疾患である肝硬変は、代謝や血液の循環動態に大きな影響を及ぼします。
症状の進行だけでなく、合併症のリスクも見逃せないポイントです。そこで肝移植を検討している方もいるのではないでしょうか。しかし、肝硬変の方で移植が受けられるのはごく一部です。
本記事では、肝硬変と診断されたときに知っておきたい治療法や合併症について解説します。
「肝硬変が治る可能性がある」とも言われている再生医療についても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
【基礎知識】肝硬変の概要
肝硬変とは肝臓の慢性的な疾患であり、肝細胞が破壊され、線維組織が増えた結果、肝臓が硬くなった状態です。
肝硬変は、肝臓の組織が徐々に硬化するため、肝臓の機能を果たすのが難しくなるだけでなく、生命に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ここからは肝硬変の症状と発症の原因について詳しく解説していきます。
肝硬変の症状
肝硬変の症状は、主に黄疸、腹水、倦怠感、むくみ、さらには精神的な混乱などの症状があります。
ただし肝硬変は、初期段階では無症状であるケースが多く、セルフチェックで異変に気付ける方は少ないのが実情です。
患者様によっては食欲不振や疲労感などがあらわれますが、多くの場合で症状を感じる中期・末期まで進行してからの発見になってしまいます。
そもそも肝硬変の症状は、肝臓の機能低下に伴う体内の代謝異常や血流の変化によって引き起こされます。
肝硬変が進行して肝性脳症を発症した場合、命に危険を及ぼす可能性があります。腹部の張りや頻尿など、少しでも違和感があれば早めに医師に相談しましょう。
肝硬変が発症する原因
肝硬変が発症する原因は、慢性肝炎ウイルス感染(とくにB型およびC型肝炎)、アルコールの過剰摂取、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、および自己免疫性肝疾患などです。
これらの要因が長期間にわたり肝臓に負担をかけた結果、肝臓の構造が変化し、肝硬変へと進行するのです。
肝硬変が発症するリスクは、上記の要因が組み合わさると、さらに発症する可能性を高めてしまいます。
たとえば、アルコールの摂取量が多い方が慢性肝炎ウイルス感染に発症した場合、肝硬変発症のリスクを高める結果になります。
免疫力も関係するため、50代以降の方は定期的な受診をしておくのがおすすめです。
なお、以下の記事でも肝硬変について触れております。
肝硬変の症状や原因を、より詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
肝硬変の治療法
肝硬変の治療法は主に、薬物療法や食事療法、肝移植があげられます。
ここからはそれぞれの治療法と肝移植の種類、リスクについて解説していきます。
薬物療法
肝硬変の薬物療法は肝硬変の症状や合併症を管理するために用いられます。
主に以下の症状に対して治療をおこないます。
症状 |
治療法(使用する薬の種類) |
---|---|
皮膚のかゆみ |
ナルフラフィン塩酸塩 |
こむら返り |
芍薬甘草湯、カルニチン |
血小板減少 |
ルストロンボパグ |
ただし薬物療法は、肝硬変の進行を遅らせて症状を緩和させるのが主な治療の目的です。
肝硬変で腹水が溜まっている方は、以下の記事も参考にしてください。
食事療法を含めた生活習慣の改善
肝硬変の方は、日頃の食事や生活習慣を改善するのも、おすすめの治療法です。
たとえば、以下のような食生活を心がけてみてください。
症状 |
食生活の改善ポイント |
---|---|
腹水・むくみ |
塩分を控え、適度な水分制限が必要。水分不足や脱水に注意。 |
食道静脈瘤 |
刺激物、硬い食物を避け、よく咀嚼する。 |
糖尿病 |
一度に大量に食べない。砂糖や果物を控える。炭水化物の多い食事に注意。 |
肝性脳症 |
たんぱく質を控え、食物繊維を摂る。 |
上記の食生活へと改善しつつ、適度な運動習慣を取り入れて改善していきましょう。
肝硬変の食事療法については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
肝移植
肝硬変が進行し、多くの合併症が起こり他の治療法が効果を示さない場合、肝移植を検討し始めます。
ダメージを受けた肝臓を取り除き、健康な肝臓に置き換え、機能を回復させるための治療法です。ただし、肝移植を受けられるかどうかは、患者様の健康状態や肝硬変の原因などの要因に依存します。
ここからは肝移植の種類やリスクについて深掘りしていきます。
移植の種類
肝硬変の治療で肝移植には「生体肝移植」と「脳死肝移植」の2種類あります。
それぞれ移植の特徴や注意点などは以下の通りです。
移植の種類 |
概要 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|---|
生体肝移植 |
健康なドナー(主に配偶者や家族など)の肝臓の一部を患者様に移植する方法 |
移植までの待機時間が少ない |
ドナーの体にもメスをいれる必要がある |
脳死肝移植 |
脳死状態となり臓器提供の意思を示した方から肝臓を提供してもらう方法 |
肝臓全体を移植できる |
待機時間が長くなる可能性があり、病状が進行するリスクがある |
いずれの肝移植にも手術が必要であり、危険性が伴うのは忘れないようにしましょう。
肝移植のリスク
肝移植では、全身麻酔による合併症の可能性や肝臓を取り除く際に周囲の臓器を損傷するリスクがあります。
また、移植後は拒絶反応を防ぐために、免疫抑制剤を服用し続ける必要があります。
さらに肝移植は、すべての肝硬変の患者様が受けられるわけではありません。肝硬変の原因や患者様の全体的な健康状態などに基づいて、適応が判断されます。適応基準を満たさない場合は、症状を緩和する治療を続けます。
肝移植は最終的な治療手段として、肝硬変の患者様の命を救う可能性があるため、適応の有無は慎重な判断が必要です。
合併症別に見る肝硬変の治療法
肝臓は解毒・代謝など体にとって重要な役割を果たしていますが、肝硬変になるとその働きが落ちます。
肝硬変が進行すると肝臓に流れ込む「門脈」と呼ばれる血管の圧が上がるため、血流に大きな変化を及ぼします。
ここからは肝硬変に起こりやすい合併症とその治療法について、それぞれ解説していきます。
肝性脳症
肝性脳症とは、肝硬変により代謝できなくなったアンモニアなどの毒素による脳の機能障害です。
肝性脳症による症状は異常行動や意識障害などがあります。なかでも特徴的な症状のひとつに「羽ばたき振戦」があります。その検査方法は以下の通りです。
|
羽ばたき振戦があると、手のひらを正面にしたままキープできず、羽ばたいているように手が細かく震えるのです。
肝性脳症には便秘・脱水・体内のアミノ酸バランスの異常・栄養素の不足などが影響していると考えられます。これらの誘因を除去し、不足している栄養素を補うのが治療で重要なポイントです。
患者様の栄養状態を把握し、適切な栄養管理をしつつ、以下の薬物療法をおこないます。
種類 |
概要 |
---|---|
非吸収性合成二糖類 |
便秘を改善したり、腸内のpHを調整したりする効果がある。 |
分子鎖アミノ酸製剤(BCAA) |
アミノ酸バランスを整え、肝性脳症を改善させる。 |
腸管非吸収性抗菌薬 |
腸内でアンモニアを産生する菌の増殖を抑制する。 |
亜鉛製剤 |
不足している亜鉛を補うことで症状を改善させる。 |
カルニチン製剤 |
肝硬変の方が不足しがちなカルニチンを補充して効果を発揮させる。 |
食道胃静脈瘤
食道胃静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)は血液を肝臓に流す「門脈」の血圧が肝硬変により、上昇し、発生する合併症です。
門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしんしょう)により門脈を介した血流が滞ると、相対的に他への血流を増やさなければなりません。
その結果、食道や胃などの静脈に血流が増えて血管は拡張し、瘤(こぶ)のようになります。
基本的には無症状でも胃カメラをしなければ発見できません。しかし、とても破れやすく、消化管出血をきたします。
以下で治療の種類と具体的な内容を解説するので、参考にしてください。
治療の種類 |
治療内容 |
---|---|
EIS(内視鏡的硬化療法) |
内視鏡下に静脈瘤に硬化剤を注入する。 |
EVL(内視鏡的食道静脈瘤結紮術) |
内視鏡に専用の輪ゴムを装着して静脈瘤を結紮(血管をしばって血行をとめる方法)。 |
CA法(内視鏡的シアノアクリレート系組織接着剤注入法) |
X線透視装置と内視鏡を用いて、造影剤と組織接着剤を混ぜ、静脈瘤に注入し硬化させる。 |
SB-tube |
鼻からチューブを挿入し、2つのバルーンを膨らませ、圧迫止血をおこなう。 |
BRTO(バルーン下逆行性経静脈的塞栓術) |
足の付け根の静脈からカテーテルを進め、硬化剤とバルーンで静脈瘤の血流を遮断して硬化させる。 |
静脈瘤の形や場所・患者様の状態・肝機能の程度・医療機関の状況などにより選択されます。
肝腎症候群
肝硬変により体をめぐる血液のボリュームが低下し、腎臓への血流が悪くなり腎機能障害が起こった状態が「肝腎症候群」です。
腹水を伴う、進行した肝硬変に起こります。腎機能は血液検査の「クレアチニン」と呼ばれる項目で判断します。
クレアチニンが1.5mg/dL以上を超えるのが診断条件の1つです。
脱水やショック、薬剤による腎障害や腎臓そのものの異常がないなど、いくつかの項目をみたすと診断が確定します。
急速に進む1型と緩徐に進行する2型に分類され、1型はとくに病気のその後の状態が悪くなることが多いです。
治療では、血液内に水分を引き寄せるアルブミンと呼ばれる血液製剤を投与したり、血圧を上げる薬を一時的に使用したりします。
肝肺症候群
肝肺症候群とは、肝硬変が原因で肺のガス交換に異常をきたし、血中の酸素濃度が低くなった状態です。
肝硬変により血管拡張物質が代謝されなくなった結果、肺の血管が拡張します。
肺の血液量が増え、酸素の供給が間に合わなくなるだけでなく、動脈と静脈にシャントと呼ばれる異常な交通ができます。
シャントでは動脈血と静脈血が混じり合い、血中の酸素濃度が低くなるので注意が必要です。
肝肺症候群の特徴的な症状は、座ったり立ったりしたとき、息苦しさを感じる症状が出ます。診断は特殊な心エコーなどの画像検査で肺のシャントを証明します。
肺高血圧症
肝硬変による門脈圧亢進症に伴う血流の変化は肺の動脈にも影響を及ぼします。心臓から肺へ伸びる肺動脈圧が上昇した状態が「肺高血圧」です。
肺へ血液を送る心臓の右側の部屋(右心系)に負担がかかり、やがて心不全へと至ります。息苦しさ、足のむくみ、動悸、失神などが主な症状です。
レントゲンや心電図、心エコーなどで右心系の負荷がかかっていないかを確認します。治療は肺動脈を拡張させる薬剤を使用します。
肝硬変が進行し、肝臓の機能が保てなくなる「肝不全」では、これらの合併症により他の臓器にも影響を及ぼすだけではありません。
連鎖的に他の臓器への機能不全が起こると、命への影響もあるため注意が必要です。
肝がん
肝硬変と診断された方は、定期的な腹部エコーなどの画像検査をおこない、がんではないか、経過観察をおこなうのが重要です。
がんがあるときに高値になりやすい血液検査の「腫瘍マーカー」も参考になります。最終的な診断は生検と呼ばれる組織を針などで取り、顕微鏡で観察する必要があります。
肝がんの主な治療法は、以下の通りです。
- 手術や一般的な抗がん剤を使用する
- 体表から特殊な針をがんに刺して焼く
- がんの近くまで直接的に抗がん剤を注入する
- がんの栄養血管を詰める
がんの治療は、その大きさ・数・肝硬変の程度や患者様の状態によりさまざまです。
肝硬変は治る時代!?再生医療の可能性について
肝硬変になると、従来の治療法では線維化した肝臓が元に戻ることは難しいとされてきました。しかし、再生医療の進展により、この常識が変わりつつあります。
肝硬変に対する再生医療では「幹細胞」を活用する方法が注目されています。幹細胞は、多様な細胞に分化する能力を持つ細胞であり、これを培養して点滴で投与することにより、肝細胞の修復および再生を促進することができます。
幹細胞は、損傷した肝組織に作用し、肝細胞の再生と修復をサポートします。肝硬変に対する再生医療により、従来は肝移植しか選択肢がなかった肝臓の線維化が改善する可能性が期待されています。
なお、現時点では肝臓に対する再生医療は医療保険の適用外ですが、その治療法は新しい選択肢として注目されています。
当院「リペアセルクリニック」では、患者様の脂肪細胞から幹細胞を採取し、培養後に点滴による治療を行っています。
また、当院独自の細胞培養技術により、冷凍保存を経ずに幹細胞の輸送・保存が可能であり、フレッシュな幹細胞を使用した治療を実現しています。
▼こちらの動画で当院の幹細胞治療について詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。
肝硬変の治療でお悩みの方は当院へ気軽にご相談ください
本記事では、肝硬変の治療法について解説しました。
全身に起こる多様な合併症や肝がんは、命にかかわる合併症です。肝硬変そのものの治療としては薬物療法や食事治療に加え、症状の緩和が必要になります。
しかし、薬物療法では線維化の進行を止められません。
肝移植も検討されますが、可能な方は限られます。肝硬変に対する再生医療では線維化が進んでしまった肝臓を回復させる可能性のある治療です。
当院「リペアセルクリニック」では、メール相談やオンラインカウンセリングも受け付けています。
再生医療を含め、肝硬変の治療法が気になる方は気軽にご連絡ください。
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監修者
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渡久地 政尚 医師 (医療法人美喜有会)
Masanao Toguchi
日本再生医療学会 所属
日本内科学会 所属
再生医療の可能性を追求しながら、体への負担が少なく効果的な治療を提供し、患者様が早期に活動的な生活に戻れるよう、丁寧な診療を心がけてまいります。
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